タマ「だから犬だって言ってるじゃないですか」 (27)

オリジナルSS。

擬人化、になるのかな。猫と犬が人間の姿で喋ってる話なので、
そういうのが苦手なひとは、ごめん。

ちょっと書き溜めてるけど、完結してない。
書き溜め投下し終わったら、書きながら上げてく。
たぶん、そんなに長編ではない。

付き合ってくれるひとがいたら嬉しい。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1397220035


犬受付「はい、おつかれさまでしたーつぎのかたー」


行列。行列。行列。


魂は、意外と事務的に処理される。




処理の便宜上、死ぬと、魂は一定のルールの中で、同じようなサイズ、形に統一される。

一番便利なのは、喋ることができて、自分で歩けて、危ない牙や爪を持っていないこと。




そんなわけで、つまるところ、僕は今、「ひと」の姿になっている。

そして、この、僕より20センチ以上おおきなめんどうくさいやつも、元々「ひと」ではなかったらしい。

ポチ「ふーん」

タマ「なんですか」

ポチ「まあ、なんとでも言えるしね、死んだあとはね」

タマ「はあ、めんどくさい」

ポチ「じゃあ種類は」

タマ「イングリッシュ・フォクス・ハウンド」

ポチ「うそつけ、シーズーのくせに」

タマ「え」

ポチ「さっきカルテみたぞ」

タマ「おい、っていうかじゃあなんで聞いたんですか」

ポチ「確認だ、くだらない嘘つきやがって」

タマ「ああーもー」

ポチ「だいたい、お前みたいなちびっこが、大型犬のわけないだろ」

タマ「そういうあんたはなんだったんですか」

ポチ「ラグドール」

タマ「そんな犬いましたっけ」

ポチ「馬鹿、猫だよ」

タマ「だってポチでしょ」

ポチ「お前だってタマだろ」

タマ「大体、そんなでかい猫がいてたまるものか」

猫受付「ラグドールのポチさーん、受付までどうぞー」

ポチ「はあーい」

タマ「なんてこった」

犬受付「アメリカン・コッカー・スパニエルのライナスさーん。
    はい。検診、問題なかったので、おきがえですね」

ライナス「はい、どうもね」

タマ「…」





魂の処理は、手順がいろいろある。

まずは状態を魂ドクターにチェックしてもらい、
人に見える状態(ひとは、これをオバケなんて呼んだりする)じゃないか、
どこか欠けてたり、傷があったり、濁ったりしてないか一通りチェックされて、
問題なければハンコをもらえる。


まあ、よっぽどでなければ、ハンコはもらえるらしい。

そのハンコをもらったら、着替え。死んだときと同じ毛皮で戻ると、びっくりされるから、らしい。

たまに焦って、そのまま行っちゃうひともいるらしいけど。



とにかくこの、ハンコをもらうのが大変だ。

いつもここは混み合ってるから、ひたすら待たされる。


真っ白なカーペット、真っ白なソファ。

適度に風が抜けて、白いおひさまは傾くけど沈まない。

居心地はわるくないけど、流石に、飽きてきた。

そのハンコをもらったら、着替え。死んだときと同じ毛皮で戻ると、びっくりされるから、らしい。

たまに焦って、そのまま行っちゃうひともいるらしいけど。



とにかくこの、ハンコをもらうのが大変だ。

いつもここは混み合ってるから、ひたすら待たされる。


真っ白なカーペット、真っ白なソファ。

適度に風が抜けて、白いおひさまは傾くけど沈まない。

居心地はわるくないけど、流石に、飽きてきた。

だからまあ、あんな変なのに絡まれても、暇つぶしくらいには、なる。

それに僕は、「変なやつ」っていうものに、よく慣れているから。







――私、昔から猫飼うのが夢だったんだあ。だから、お前の名前は、タマ!











ねこがほしかったなら、ねこを選べばよかったのに。
ほんと、変な子だった。





犬受付「…マさーん、ターマーさーん、いらっしゃいませんか?シーズーのタマさーん」

タマ「…。!?」ダッシュ

犬受付「ああ、やっといらっしゃったあ」

タマ「…すみません」

犬受付「検診の結果、ちょっとハンコだせないことになりましてねー」

タマ「え」

犬受付「特別窓口の方で、おくすり処方してもらってくださいな。はい、これ処方箋」

タマ「おくすりって」

犬受付「あ、だいじょうぶですよ!へんな病気じゃないですから!たまーに、いるやつですから」

タマ「いや、あの」

犬受付「はい、おつかれさまでしたーつぎのかたー」

期待

タマ「…ええー」

ポチ「よう!シーズー!」

タマ「まだ何か用ですか」

ポチ「それ処方箋じゃん、特別窓口行き?ついてねーの」

タマ「どうでもいいですよ、遅かれ早かれ、行く場所は同じだし」

ポチ「まあ、そうなー。じゃあ行くか」

タマ「行くってどこへ」

ポチ「特別窓口」

タマ「なんであんたまで」

ポチ「道分かんねーもんよ、連れてってよ」

タマ「まさか」

ポチ「たまーにいるやつらしい」ペラリ


こうして僕は、なんだかよくわからないまま、このおおきいめんどくさいやつと連れ立って、
特別窓口に向かい始めた。

窓口嬢「はーい、シーズーのタマさんと、ラグドールのポチさんですね。
    お掛けになって少々おまちください」

ポチ「はーい」

タマ「…はい」

ポチ「こっちは随分すいてるのなー。座り放題じゃん」ボスンッ

タマ「そうだね」

ポチ「お、かつぶし食べ放題かい。サービスいいねえ」モグモグ

タマ「そう」ポスン

ポチ「ほねっこもあるぜ、食う?」

タマ「いらない」

ポチ「そうか?」クッチャクッチャ

タマ「口閉じて食べなよ…」

ポチ「無茶いうな、そこは犬も猫も一緒だろ」クッチャクッチャ

タマ「じゃあせめてあっちで、向こう向いて食べてよ」

ポチ「仕方ねえな」フイッ ペタペタペタ ボスンッ

クッチャクッチャクッチャクッチャ ボトッ クッチャクッチャ

タマ「一回口から出したの食べるのやめなよ」

ポチ「地獄耳め」

ポチ「なー」クッチャクッチャ

タマ「何」

ポチ「ここに来るまえのこと、覚えてるか」

タマ「たとえば」

ポチ「住んでたとことか、景色とか」クッチャクッチャ

タマ「ああ」

ポチ「飼われてたんなら、飼い主のこととか」クッチャクッチャ

タマ「…覚えてる」

ポチ「そっか」クッチャクッチャ

タマ「そっちは」

ポチ「よく覚えてる」クッチャクッチャ

タマ「そっか」

ポチ「覚えすぎてると、だめなんだと」クッチャクッチャ

タマ「だめ?」

ポチ「虹の橋を渡ってる間に、忘れきれないんだとさ」クッチャクッチャ

タマ「そうなんだ」

ポチ「だから、おくすり、ってわけだ」クッチャクッチャ

タマ「ふうん」

ポチ「なんか、しかたないんだろうけどさ」クッチャクッチャ

タマ「うん」

ポチ「いやだな」クッチャクッチャ

タマ「そうかな」

ポチ「だって、楽しかっただろ」クッチャクッチャ

タマ「まあ」

ポチ「ぜんぶクッチャクッチャわすれてクッチャクッチャとか言われてもさ」

タマ「ごめん、全然話に集中できない」

ポチ ゴッキュ「どんな“ひと”だった」

タマ「え」

ポチ「かいぬし」

タマ「んーと、変なひとだった」


――あ、やったあ!みてみてタマ、よっちゃんいか、当たり!

――タマのここ、この、もさっとしたとこ、好き

――タマ?たまー。たーま。…タマ?寝てるの?





ああ。そういや、泣いたのは、最後だけだったなあ。










タマ「そんで、強いひとだったよ。たぶん。」

1は英語で?

>>10
ありがと。ゆっくりだけど、よかったら最後までどうぞ。

>>16 
わん。でも猫派だわん。

ポチ「ふうん。いいな」

タマ「なにが」

ポチ「まあ、犬飼うやつは、気持ちがつよいのが多いよな」

タマ「そうかな」

ポチ「猫の飼い主なんて、よわっちいもんでさ。しょっちゅう泣いてたよ」

タマ「ふうん」

ポチ「その度に背中の毛で顔拭くもんだから、毛並乱れまくりよ。参るね、あれは」

タマ「へえ」

ポチ「こっちくる間際も、大変だったよ。俺だって生きてんだから、いつかは死ぬだろ、普通に考えて」

タマ「まあね」

ポチ「いかないでええ、なんでもするからああ、って、鼻水たらしまくってんの」

タマ「いいね」

ポチ「まあな、愛されてたからな、俺は」

タマ「うん」

ポチ「もうちょっと一緒にいてやりたかったけど」

タマ「うん」

ポチ「こればっかりはなあ」

タマ「そうだね」

ポチのきっ、と上がった眉尻が、ふっと下がったのを見て、
なんだか少し、心がスースーした。

窓口嬢「タマさーん、ポチさーん。おまたせしました。
    こちらおくすりになります」


窓口のお姉さんは、小さなトレーのうえに、白と青のつぶつぶがはいったビンと、
目薬を、ひとつずつ出してきた。

窓口嬢「こっちのつぶつぶは、ちょっとずつ飲んでくださいね。
    こっちのめぐすりは、つぶつぶをぜんぶ飲み終えたら、使ってください」

ポチ「このつぶつぶ、なんのくすりなんですかねえ?」

窓口嬢「青いつぶつぶは、素敵な思い出を思い出すくすり、
    白いつぶつぶは、一度思い出したことを、
    二度とは思い出せなくなる、忘れぐすりです」

ポチ「な、言ったろ」ボソッ

タマ「…目薬は?」

窓口嬢「このつぶつぶを飲むと、沢山涙がでますので、
    最後に目をすっきりぱっちりさせるために、
    お渡ししています。特にとくべつな効果はありません」

タマ「そうですか」

窓口嬢「おだいじに」


そういって、おねえさんは胸に手をあてて、にこっとした。

思い出を、大事に。そう言ったようにもきこえた。

お姉さんはくすりをふたつの紙袋にわけて、僕とポチに渡してくれた。


窓口嬢「よい旅を」






しゃん。しゃん。

ポチがビンを宙に放る。

こういう楽器があったな、と、僕はぼんやりと考えながら、
しましまの影のおちた長いろうかを歩いていた。




ポチ「あのさあ」

タマ「なに」

ポチ「これ、俺今から飲むけどさ」

タマ「うん」

ポチ「聞いてくんないかな」

タマ「なにを?」

ポチ「俺が、思い出したこと」

ポチ「いや、まとめて飲むとさ、白いのさきに全部飲んでも、
   青いの先に全部飲んでも、
   なんか、つらいなって」

タマ「つらいかな」

ポチ「白いの先にのんだら、青いの飲んで、思い出した瞬間に、もう忘れちゃうだろ。
   自動的に」

タマ「まあ、そうだね」

ポチ「そんでさ、青いの先に全部のんだら、忘れたくなくなると思うんだよ、俺。
   だって、思い出す前から、こんなに覚えてて、こんなに忘れたくない」

タマ「…」

ポチ「だからさ、思い出して、それ、お前に話して、気が済んだら、忘れて、って。
   少しずつにするから。聞いてくんないかな」

タマ「わかった。いいよ」

ポチ「さんきゅう」


ポチの声は、少し震えていた。

けれど、その手はまよわず、くすりを口へ運んだ。


猫はこんなにも勇敢ないきものだったのかと、僕はそっと、息を呑んだ。

ごくん、と、ポチの喉が鳴る。




大きな目をしばたたいて、そして笑った。




ポチ「うっ、ひゃ、ひゃひゃひゃひゃ」

タマ「ちょっと、何」

ポチ「いや、それが、うはひゃひゃひゃ」

タマ「なんだよ、こわいよ」

ポチ「思い出しちまったんだよ、大雨の日にさ」

タマ「うん」

ポチ「あいつ帰ってきたらズブ濡れでさ」

タマ「ええ?」

ポチ「雨に降られた―、彼氏に振られた―って、大騒ぎで。
   そいつは難儀だったなあと思って、尻尾ぱたぱたして聞いてやってたんだよ」

タマ「付き合いいいね」

ポチ「そしたらあいつ、「ポチが尻尾振ってる!かわいー!よーし、今日はもうフリフリ記念日だ!」なんて
   言いだしてさ」

タマ「それは、なんというか」

ポチ「センスなさすぎだろ?でもなんか、あいつのハナタレ馬鹿面思い出したら、すげえ、笑える」

タマ「そっか」

ポチ「彼氏ってのに合わせて、やたら顔にいろいろ塗りたくってたから、
   全部舐めて落としてやった。
   あいつ、なんにも塗ってない顔が一番マシだったから」

タマ「うん」

ポチ「うん。そうだ」

タマ「ポチ」

ポチ「そうだよなあ。あの顔も、わすれなきゃ、しかたねえんだなあ」







ポチは、何度か深呼吸してから、白いつぶつぶをいくつかごくんと飲み込んだ。

それから、ぽろぽろ泣いた。


「この白、薄荷だ。辛くて仕方ねえや」

ポチは、つらつらと喋った。白いつぶつぶを飲み込むたびに、
からい、からい、とぽろぽろ泣いた。

そして、青いつぶつぶを呑むと、ぴたりと泣き止んだ。

青いつぶつぶは甘い味なのだそうだ。



でも、もう何個めだかわからなくなった白いつぶつぶを、
口に含む前に、ポチの手が止まった。

ポチ「…いやだ」


そうして、急に、大声で泣きはじめた。

そこではじめて、「からい」なんて、嘘だったんだと気付いた。




ポチはわんわん泣きながら、名前を呼んだ。

いつかの、だれかの名前を呼んだ。

ポチ「これ飲んだら、名前、忘れちまうよ、忘れたら俺、
   もうあいつに会えないよ」

タマ「ポチ」

ポチ「もう撫でてもらえないのに、猫缶も減らないのに。
   けど、おもちゃも何もかも、きっとあいつは捨てない。
   あいつは俺を忘れないのに、俺は忘れちゃうんだ、ぜんぶ」

タマ「…ポチ」

ポチ「何で、ひとって、あんなに長生きなんだよう」


猫のくせに、ポチはいつまでも、わんわん泣いた。



あの子は本当に泣かない子だったから、こんなときどうしたらいいか、僕は知らない。

だから、ただ、そっと傍に座ってみた。


ポチはそれからしばらく泣いて、やがて、白いつぶつぶを飲み込んだ。


それで、ポチのビンは空っぽになった。

今日はここまでにします。
明日は書けたらぽろぽろっと投下しにくる。けど、がっつり書けるのは日曜かな。
日曜には終わると思う。

読んでくれたひと、どうもありがとう。
また、続き読みに来てくれたら、それはそれは、嬉しい。


では、また。

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