ルパン三世「狙うは武器商人の懐」 (82)

―某国 市街地―

銭形「待て待てぇい!!! ルパーン!!」

ルパン「相も変わらずとっつぁんは仕事熱心だねぇ」

銭形「貴様を逮捕することこそ、ワシの悲願だぁ!!!」

ルパン「そうか。じゃ、勤勉なとっつぁんに慰労の品をプレゼントしちゃう」ポイッ

銭形「なにぃ!? これは……」パシッ

ルパン「グッバイ、とっつぁん。またどこかの空の下で会おうぜぇ」

銭形「おぉぉ!? 爆だ――」

ドォォォォン!!!

ルパン「なっはっはっはっはっは!! 長生きしろよー!! とっつぁーん!!」

銭形「お、おのれぇぇ……!! にがさん……ぞぉ……!!」

ルパン「さっすが、とっつぁんだぁ。丈夫だねぇ」

チナツ「――世界中から金やお宝を盗む男。いつかは殺されると分かっているのに」グイッ

ルパン「なに!?」

チナツ「なんで? 教えてよ」チャカ

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ルパン「誰だ?」

チナツ「ねえ、答えてよ」

ルパン「ベッドの上でなら答えてやってもいい。と言いたいところだが、お嬢ちゃんはあと5年ぐらいは寝かせないとダメだな」

チナツ「……そう。なら、いいや」

ルパン「よっと!」バッ

チナツ「あ!? こら!! 逃げるな!!」

ルパン「お嬢さんみたいな子には気をつけろって家訓があるのよ。残念だけど、もう少し女を磨いてから――」

師匠「退席する気か? オーバーチュアすらも始まってねえのによぉ!!」

ルパン「男連れなら逆ナンなんてすんなよなぁ!!」

師匠「いい音聞かせてくれよぉ!!」

チナツ「師匠、やるのだ」

ルパン「ちっ」

次元「――ルパン!! こっちだ!!」ドォン!!!

師匠「へぇ。いい楽器もってるじゃねえかぁ」

ルパン「じげぇーん!! 頼りになるぅ!!」

次元「なにもんだ、あの客人はよ」

ルパン「知るかよ。俺様の大ファンだろ」

師匠「いくぞ!!!」ズガガガガガ!!!

次元「お前のファンは血の気が多いな」

ルパン「ぬふふ。でも、もう一人はいい感じだろ?」

チナツ「さてと」ガチャン

次元「グレネード持ち出すような嬢ちゃんがか? 付き合いきれねえな」

チナツ「チナツキャノンスペシャルで仕留めてやるのだ」

ルパン「最近の女の子もああいうの持たないと外も歩けないんだろうなぁ」

次元「軽口もその辺にしとけよ」

チナツ「えいっ」パンッ

ルパン「次元」

次元「はいよ、相棒」バァン!!

ドォォォン!!!

チナツ「撃ち落された……! ウザ。ひげ、ウザっ」カシャン

ルパン「五ェ門はどうした?」

次元「待ち合わせ場所にはいるんじゃねえか。真面目な奴だしな」

ルパン「急ぐか。あのしつこさは殺し屋だろうし」

次元「クライアントはどこのどいつだろうな」

ルパン「心当たりが多すぎてよくわかんねぇな」

次元「ちげぇねぇ」

チナツ「もう一発」パンッ

次元「無駄だ」バァン!!

ドォォォン!!!

チナツ「むぅ」

師匠「中々の演奏してくれんじゃねえか。チナツ、こっちにこい」

チナツ「うん」

ルパン「諦めてくれたか?」

次元「だといいが、経験上ああいう輩が諦めることはまずありえない」

ルパン「だよなぁ。スーパースターも考えものだな」

次元「乗り込め!」

ルパン「おうよ」

師匠「――ここから第二楽章だぁ!!!」ズガガガガガ!!!!

チナツ「やっほー」

ルパン「イィ!?」

次元「さっさと車出せ、ルパン!!」

ルパン「わぁーてるよぉ!!」

師匠「まだ演奏の途中だぜ? どこにいくってんだぁ!?」

次元「何が演奏だ。ふざけんな」バァン!!

師匠「いい狙いだ!! だが!!!」ズガガガガガ!!!!

次元「おぉお!? あのやろう!! 顔に似合わず正確に撃ってきやがる!!」

ルパン「次元、トリガーハッピー野郎ばかりに気をかけるなよ。女ってのは見つめてあげないとすぐに拗ねちまう生き物だかんな」

チナツ「ふふんっ」カシャン

次元「ちぃ!! こんな道路の真ん中でぶっぱなす気か!?」

チナツ「フィナーレ」パンッ

ドォォォォォン!!!!

チナツ「師匠、やったのだ」

師匠「今日の音楽会はここまでか。まぁ、合格点か」

チナツ「それじゃ、かえろ」

師匠「まだだ。死体を確認してねぇ」

チナツ「するまでもないと思うけど」

師匠「さーて――」

次元「よう、旦那。アンコールには応えてくれねえのか?」グイッ

師匠「な……!?」

チナツ「師匠!!」

ルパン「やめな。綺麗な肌が真っ赤に染まるぜ?」チャカ

チナツ「……」

次元「なにもんだ、お前ら?」

師匠「オーケストラ」

ルパン「オーケストラ? たった二人でオーケストラか。ぬふふふ。大層な名前じゃないの」

次元「そうか。お前らが」

師匠「次元大介。お前のことはよぉーく知ってるぜ。有名人だからなぁ」

次元「そりゃどうも」

ルパン「俺のことも勿論、知ってんだろ?」

師匠「当然だ。ルパン三世」

ルパン「誰に依頼された?」

師匠「早くやれよ」

ルパン「最後に答えてくれてもいいでないかい?」

師匠「あーあ。折角、幕を下ろしたのによぉ……」

次元「なに……」

チナツ「……」

師匠「――アンコールに応えちまうだろうがぁ!!!」

チナツ「……っ」バッ!!

ルパン「なにぃ……!?」

次元「ルパン!!」

チナツ「えいっ」パンッ

ルパン「あわわわわぁ!!!」

ドォォォォン!!!!

師匠「あーっはっはっはっは!!! アンコールナンバーはカプリッチョだ!!!!」ズガガガガガ

次元「バカ野郎!! 何してんだ!!」

ルパン「聞いてくれ、次元」

次元「どした?」

ルパン「あの子、パンツはいてなかった」

次元「ほう?」

ルパン「なんでだろうな?」

次元「しらねえよ」

チナツ「あ、弾切れ」

ルパン「なぁ、お嬢ちゃん? もう一回、スカートの中、みせてくんない? にゅふふふ」

チナツ「イヤなのだ」パンッ

ルパン「あらぁ!?」

次元「――くっ。このままこの道を抜けるぞ」ドォン!!!

師匠「まだ終わってないぜぇ!!!」

ルパン「そうだな。相手が殺し屋なら、また拝めるだろうし」

次元「何をだ?」

ルパン「きまってんだろぉ? 女の縮図だ」

次元「はんっ。言ってろ」

チナツ「すばしっこい。むかつくのだ」

師匠「チナツ、あの楽器出せ。対ルパン用に買って来ただろう」

チナツ「了解! ――はい、師匠!!」

次元「ん!? お、おい!! ルパン!!」

ルパン「なんだよぉ? んげぇ!?」

師匠「これで……」ガチャン

次元「M90ロケットランチャーだぁ!? 熱烈すぎるぜ、お前のファンはよぉ!! 命をいくつ用意したらいいのか今度から事前に言ってくれ!!!」

ルパン「そうしまぁーす!!!」

師匠「終曲だ!」ガチンッ

五ェ門「――きぇぇぇい!!!!」ザンッ!!!!

チナツ「な……!?」

ドォォォォン!!!!!

五ェ門「……」キィン

ルパン「ナイスタイミングぅ!」

次元「ふぅー。助かったぜ」

五ェ門「こんなところで何を遊んでいる?」

師匠「なんだぁ。打楽器かよ。おもしれぇ」

五ェ門「……去れ」

師匠「なんだと?」

チナツ「師匠、これ以上は無理」

師匠「ちぃ……」

ルパン「なに?」

師匠「運がよかったな。今日は閉会だ。だが、近いうちに再演するからよ。そのときを待ってろ」

チナツ「じゃね」

次元「諦めたのか」

ルパン「再演か……」

五ェ門「何者だ?」

ルパン「オーケストラ、だとよ」

五ェ門「殺し屋か。お前も相変わらずだな」

ルパン「るせぇ。モテる男の宿命よ」

次元「出待ちの女が花束かサイン色紙をもってればいいんだがな」

ルパン「ま、そういうなよ。ところで次元はあの二人のことよく知ってるみたいだったな」

次元「オーケストラっていう殺し屋グループがいたことを知っていただけだ。仕事柄、嫌でもそういうのは耳に入ってくる」

ルパン「そうか。んで、あの子がなんでパンツはいてないのかも知ってんの?」

次元「しらねえよ。女の趣味だろ」

ルパン「いい趣味してるぜぇ。ぬふふふ」

五ェ門「しかし、あっさりと退いたな。何か思惑でもあるのか」

ルパン「さぁな……。五ェ門の登場で分が悪いと思ったんじゃねえの?」

次元「いくぞ。銭形に追いつかれる」

―数ヵ月後 日本都内 ルパンアジト―

ルパン「すぅー……ぱぁー……」

ルパン(アレから音沙汰はなしか。再演は諸事情により延期でもしてんのか)

次元「――ルパン」

ルパン「おー。次元。どうした?」

次元「オーケストラの二人は殺されたらしいぜ」

ルパン「なにぃ? 俺たちに挨拶も無しでか?」

次元「ああ。先日、ドバイの街中でな」

ルパン「マジかぁ。んじゃ、もう桃源郷は見れないわけね」

次元「そうなるな。タバコ、貰うぞ」

ルパン「はいよ」

次元「ふぃー……。これからどうする?」

ルパン「次元はどう思うよ。今回の一件、これでお終いと思うか?」

次元「それはお前次第だな。一応、調べてきたぜ。オーケストラを殺した奴らのことはよ」

ルパン「一応、聞いておこうかな。誰だ?」

―ドバイ ホテル―

ココ「あと何日?」

レーム「あと2日。ちなみに今ので5回目」

ココ「何の回数?」

ルツ「お嬢が同じ質問した回数、だろ?」

レーム「正解」

ヨナ「違う。昨日、寝る前にも質問したから6回だ」

レーム「あぁ、そうか。んじゃ、7回でもいいか、すぐ口にしちまうだろうし」

ココ「すぐに拘束なんて解けるかと思ってたけど、ここまで長い拘束とは聞いてない!!! 聞いてない!! きいてなぁーい!!!!」

レーム「オフでよかったじゃん。急ぎの仕事は入ってないんだろ?」

ココ「それでも仕事は恙無く遅延していく。一日狂うだけでも取り戻すのが大変だっていうのに」

レーム「時は金なりか」

ココ「その通りだ、レーム。まぁ、今回ばかりはこのペナルティーを甘んじて受けなくちゃいけないわけだけど……。あと何日?」

レーム「なぁ? 7回でよかっただろ? ヘッヘヘ」

ヨナ「……」

ココ「ベッドの上で出来ることはもう殆どないし。さっさと海の上に行きたいんだけどなぁ」

レーム「あと48時間待てば晴れて出国できるんだ。暇なら散歩でもしてきたらどうだ?」

ココ「ヨナぁー? 一緒にどう?」

ヨナ「別にいいけど」

ココ「やっりぃー。じゃ、準備して。さぁ、出発だぁー!」ギュッ

ヨナ「抱きつかれたままじゃ、準備できない」

ココ「おぉ。そっかそっか。ほら、ヨナ隊員。ビシっといこ! ビシっと!!」

ルツ「ヨナ坊。頼むぞ」

ヨナ「うん」

レーム「いらねえ、心配だな」

ルツ「つっても、アネゴが喚きだしそうな気もするけど」

レーム「ヨナ君相手でも本気になっちまうからなぁ、バルメは」

ルツ「聞かれるまで答えないようにしないと」

レーム「ま、バルメがココに付いて行く理由はもうないしなぁ」

ルツ「……そうだな」

―市街地―

ココ「どこ見ようか?」

ヨナ「僕は海を眺めてるだけでも楽しい」

ココ「んー。ヨナならそういうと思っていた。だからこそ、私は君に対する答えもホテルを出る前から用意してる」

ヨナ「……」

ココ「聞きたい?」

ヨナ「別に」

ココ「それじゃぁ張り合いがなぁい。こういうときは興味がなくても「聞きたい!」って目を輝かせて乞うべきだ」

ヨナ「そうなの?」

ココ「そう。相手は喋りたくて、説明したくてウズウズしている。そのときに拒絶してしまうと後に得られるはずだったものまで逃すことになるかもしれない」

ココ「興味のない、無駄にしかならない、ゴミクズ以下の話も時として耳を傾ける。これは大事なことだ。覚えておいたほうがいい」

ヨナ「分かった」

ココ「では繰り返そう。――私は君に対する答えもホテルを出る前から用意してる。聞きたい?」

ヨナ「聞きたい」

ココ「うむ! そうかそうか! よぉーし。では、私のショッピングに付き合ってもらおうか。買いたいものがあるんだ。フフーフ」

ココ「これこれぇ。この前は襲撃があったせいで、買えなかったんだぁ」

ヨナ「時計か」

ココ「さぁー!! 買うぞー!!」

ヨナ「ここで待ってる」

ココ「オッケー。じゃ、待ってて。ふふふーん」

ヨナ「……」

ヨナ(ココ、楽しそうだ)

ヨナ(ココはあの殺し屋のこと、どう思っていたんだろう……。よく分からない)

ココ「ヨナヨナ!」

ヨナ「なに?」

ココ「どう、似合う? きまってるぅ?」

ヨナ「……」

ココ「……」

ヨナ「聞きたい」

ココ「違う」

―警察署内―

銭形「なんですとぉ!? それはおかしい!!! ちゃんと調べてくれぇ!!!」

「ですから、銃撃戦などなかったんだ。お帰りください」

銭形「そんなわけあるかぁ!! こっちはこの女と男の行方をだなぁ!!!」

「お帰りください!!」

銭形「うぬぬ……」

銭形(何がどうなっている。アレだけの爪痕を放置しておいて、知らぬ存ぜぬで通すつもりか)

スケアクロウ「だからよぉ!!! あるんだろう!? 出せっていってんだよぉ!!! ココ・ヘクマティアルが動けない間によぉ!!!」

銭形「ん? あれは……」

「映像も何も残っていない!! しつこいぞ!!!」

スケアクロウ「あぁ!! おめえ、痛い目みないとわかんねえのかぁ!?」

銭形「待て」

スケアクロウ「誰だ、テメぇ?」

銭形「ICPOの銭形だ。警察署内で暴力沙汰は控えたほうがいいぞ」

スケアクロウ「あいしぃーぴおー、だと?」

―カフェテリア―

スケアクロウ「何で野郎こんなところで茶を飲まなきゃいけないんだよ」

銭形「そういうな。この写真を見てくれ」

スケアクロウ「……こいつは」

銭形「CIAなら知っているだろう。国際指名手配犯のことぐらいはな」

スケアクロウ(ルパン三世。色んなとこのブラックリストに載ってたな。あと莫大な懸賞金も……)

銭形「ワシはルパン捜査を任されている者だ」

スケアクロウ「ククク……。それでぇ? 俺たちが持っている情報をよこせってか?」

銭形「お前たちが持っている情報などワシから言わせれば古いものだ。必要ない」

スケアクロウ「……なんだと?」

銭形「今、ワシが探しているのはこの二人だ」

スケアクロウ「……」

スケアクロウ(武器商人共がバラした奴らか)

銭形「知っているか?」

スケアクロウ(金のニオイが、してきたな)

スケアクロウ「で? この二人とルパン三世はどう繋がるんだ?」

銭形「それは分からん。だが、最後にルパンと接触したのはこの二人だ」

スケアクロウ「会えば何かわかるかもしれねえ。そういうことか」

銭形「ああ」

スケアクロウ「残念だったな、おっさん。この二人はもうこの世にはいないぜ」

銭形「そうか」

スケアクロウ「驚かねえのかよ。情報が途絶えたのに」

銭形「では、この二人を殺害したのは誰だ?」

スケアクロウ「それを聞いてどうするってゆー。ルパン三世とはまるで関係のないことだぜ?」

銭形「それはワシが判断することだ」

スケアクロウ(このオヤジのこと、調べてみるか……。それからでも遅くないだろ)

銭形「なんだ?」

スケアクロウ「いやぁ。教えたいのは山々だけどなぁ、ショーコがねえんだよ。ショーコが」

銭形「それで先ほど揉めていたのか」

スケアクロウ「そーゆーこと。俺もそれ以上のことはわかねえんだよ」

銭形「では、次へ行くとしようか」

スケアクロウ「……どこへ?」

銭形「ココ・ヘクマティアルのところだ。何か掴めるかもしれん」

スケアクロウ「それは……」

銭形「何か不都合でもあるのか?」

スケアクロウ「ご自由にどうぞ」

銭形「失礼する。ここはワシが奢ろう」

スケアクロウ「おめえらに借りなんてゴメンだ。自分のコーヒー代置いていけ」

銭形「そうか? ワシが誘ったからこれぐらいは」

スケアクロウ「いいから、失せろ」

銭形「わかった」

スケアクロウ(ルパン捜査のためとはいえ、何されるかわからねえな)

スケアクロウ「……」ピッ

スケアクロウ「――俺だ。調べて欲しい奴がいる。10分、いや、5分以内に調べろ」

スケアクロウ「名前は銭形幸一。ICPOの銭形だ」

―海岸―

ココ「あと何日?」

ヨナ「返ってくる答えは一緒なのに、どうしてそれを訊くんだ?」

ココ「訊いておかないと、時間が止まっていたら困るから」

ヨナ「時間は止まっていない。空を見ていれば分かる」

ココ「それは違う」

ヨナ「どういうこと?」

ココ「雲は流れ、太陽は沈み、星が姿を晒す。それはただ星が動いているだけで、人間の時間とは別物だ」

ヨナ「……意味がわからない」

ココ「星はただ愚直に回る。人間はその回る星の中で時を刻む。ほら、違うでしょ」

ヨナ「ココの言いたいことはなに?」

ココ「人間が時を進めようが止めようが、朝がきて、昼がきて、夜がくる。絶対に。人間の世界がどうなろうと関係は、ない」

ココ「だから、確かめる。私の世界は正常に動いているのか。それとも故障しているのかを。あと何日?」

ヨナ「あと2日」

ココ「そう。2日か。長いなぁ」

ヨナ(ココが本当は何を言いたいのかはわからないけど……)

ココ「ひまじゃー」

ヨナ(とても、退屈していることは分かる)

ココ「ねぇ、ヨナぁ」

ヨナ「そろそろ戻ろう」

ココ「えぇ!? もう!?」

ヨナ「そろそろレームと交代する時間だし」

ココ「はぁー……。仕方ないか。ヨナには算数の勉強もしてもらわないといけないしね」

ヨナ「……」

ココ「このオフは私が付き添ってあげるからぁ」ギュッ

ヨナ「いいよ」

ココ「だったらきちんと勉強した暁には一緒にお風呂はいってあげる。どう?」

ピリリリ……

ココ「おっと。電話か。――はい。ココ・ヘクマティアル。アールか。どうかしたー? え、客? 名前は?」

ヨナ(仕事か)

―ホテル―

ココ「ただいま」

バルメ「ココぉ!! 私に内緒でどこにいっていたんですかぁ!!! 他の連中に聞いても口を閉ざしたままだし……!!」

ココ「別に緘口令を敷いたつもりはないけど」

ヨナ「……」

バルメ「ヨナ……!! あなたが……!! あなたがぁ……!!!」

ココ「バルメ、客人は」

バルメ「あちらに」

ココ「ほう……。よし、バルメ。一緒にきて。ヨナは戻ってよし」

ヨナ「分かった」

ココ「――お待たせして申し訳ありません。私がHCLI社のココ・ヘクマティアルです」

不二子「いえ。お気になさらず。ミス・ヘクマティアル。わたくし、峰不二子と申します」

ココ「ええと……」

不二子「ショットシェル社の峰不二子ですわ」

ココ「ああ、ショットシェルですね。どうも初めまして」

不二子(この小娘が……)

ココ(うわー。聞いたことないの会社。さっさと帰ってもらおー)

不二子「若くてお綺麗ですのね」

ココ「世辞はいりません、ミス・不二子。私も忙しい身でして」

不二子「あらぁ、ごめんなさい。でも、世辞は挨拶みたいなものでしょう?」

ココ「確かに。今の発言は取り下げます」

不二子「いえいえ」

バルメ(護衛もつけられない零細企業にしては肝が据わっていますね)

ココ「ご用件は?」

不二子「貴方に頼みたいことがありまして」

ココ(来たか。財あるところに集る金食い虫が)

バルメ「……」

不二子「今、私たちはアジアを中心に商売のほうをしているのですが、どうにも調子がよくなくて」

ココ「それはそうでしょう。HCLI社も携わっていますから。新規が参入する余地などないはずです」

不二子「うふふ。ええ。ですから、助けて欲しいんです。我が社を。無駄に幅を利かせている貴方たちにね」

ココ「……言葉には気をつけたほうがいいですよ。諍いの種になる」

不二子「ごめんなさい。育ちがよくないもので」

ココ(この女。ビジネスではなく戦争でもしたいのか)

不二子「どうでしょう。我が社のホワイトナイトになっていただけると」

ココ「ホワイトナイト? アハハハハ。意味を知って、使っていますか?」

不二子「勿論」

ココ「アジアの担当はキャスパー・ヘクマティアルです。そちらに相談されてみては? 私のほうから話を通しておけば会談の場ぐらいは用意してくれますよ、きっと」

不二子「そちらには既に社長が向かっています」

ココ「なるほど」

ココ(つまり私には子どもの使いで十分だと……?)

不二子「……」

ココ「我が社が貴方たちをサポートすることでメリットは?」

不二子「それはこの書類にまとめてあります」

ココ「拝見します」

ココ(狙いがわからないな……。私を敵に回したいというのはよくわかるが……)

ルツ「客人みたか?」

アール「見た見た。ありゃアネゴレベルだったぜ」

レーム「へぇ。そんなにすごかったのか」

トージョ「それは一見の価値ありといったところか」

レーム「ワイリはどーよ?」

ワイリ「私はさっき見ましたから。確かに素晴らしい肉体を持っていた」

レーム「俺も拝んどくか」

アール「ヨナ坊も見たのか?」

ヨナ「見た」

マオ「感想は?」

ヨナ「……」

レーム「どうした?」

ヨナ「バルメがいるから問題ない」

ルツ「はぁ?」

ウゴ「車のキー、持っておいたほうがいいか」

ココ「なるほど。なるほど。なるほど。……なるほど」

バルメ「ココ?」

不二子「ご納得いただけましたか。あーよかったぁ。では、こちらの書類にサインを――」

ココ「……」

バルメ「ココ、どうしたのですか?」

ココ「ふざけるな」バンッ!!!

不二子「あら? 何かご不満な点でも?」

ココ「不満点を挙げると私のディナーの時間がなくなるので、最も腹立たしい点だけを言おう」

バルメ「……読ませて戴きます」ペラッ

不二子「どうぞ」

ココ「貴方は我が社にホワイトナイトになってほしいと言ったな」

不二子「ええ。言いました」

ココ「ホワイトナイトは弱者の養分になることではない。意味を調べて来い」

不二子「あら、そうでしたの? 無知でごめんなさいねぇ」

バルメ(これは……。事業の凍結及び資産、負債、人材、技術の譲渡……。ココに吸収合併を持ちかけたのか……!?)

ココ「バルメ。もういい、戻ろう」

バルメ「ええ」

不二子「交渉決裂、ですか?」

ココ「当たり前です。どこの世界に零細企業に対して無条件降伏をする者がいると思うのですか」

不二子「本当にいいの?」

ココ「……どういう意味でしょうか?」

バルメ「……」ジリッ

不二子「きっと、後悔することになりますよ。小娘」

ココ「武力行使もあり得ると?」

不二子「うふ。それでは失礼しますわ。今日はありがとうございました」

ココ「……待て」

不二子「はい?」

ココ「もう一度、聞いておきましょうか。貴方の名前を」

不二子「峰不二子。ショットシェル社の峰不二子ですわ。ミス・ヘクマティアル」

ココ「ありがとうございます。それではお気をつけてお帰りください」

ココ「なんだぁー!!! あの女はぁー!!!! がおー!!!」

ルツ「どうしたんだ? メチャクチャ荒れてるぞ」

レーム「バルメ、何があった?」

バルメ「これを読めば分かります」

レーム「んー、こりゃなんだ?」

バルメ「客が持ちかけてきた業務提携の契約書類ですかね」

レーム「おかしいなぁ。普通に読んでも縦読みしても斜め読みしてもお前の会社のもの全部盗むぞって書いてねぇ?」

アール「こりゃ、吸収合併同意書だな」

ワイリ「何故、こんなものを」

ココ「腹立たしい……実に腹立たしい……!!」

ヨナ「何が目的だったの?」

マオ「ココさんをからかうために来ただけか……?」

レーム「だとするなら相当なイカレ女だな。まわされて殺されても文句一ついえねえな」

トージョ「俺たちが紳士の集まりでよかったよかった」

ウゴ「だが、いつでも紳士でいられるわけじゃない」

ココ「その通りだ、ウゴ。舐められたままでいいのか?」

レーム「それはよくねぇ」

ルツ「やるか?」

ココ「いや。彼女が何のために私を敵に回そうとしたかは分からない以上、水に流そう」

ルツ「おー。いいのか?」

ココ「よくはない!! だが、私の勘が告げている。ここで奴を尾行したり、素性なりを調べたりするのは危険だと」

アール「情報ぐらいは持っておくべきじゃないか? 悪戯目的で命を削るような馬鹿がお嬢に近づけるわけがない」

バルメ「それは言えていますね。そもそも、ココがこのホテルにいることを知っていた。それだけで暇つぶしの児戯とは考えにくいです」

ヨナ「……」

ココ「言いたいことがあるのなら言いたまえ、ヨナ隊員」

ヨナ「聞きたい?」

ココ「聞きたい!!」

ヨナ「敵であることを宣言しに来たんだ」

ルツ「宣戦布告ってことか?」

レーム「自社を売りにきたわけじゃなくて、ケンカを売りにきたわけか。ま、やっぱりそれしかないか。この乱文を見る限りじゃ」

バルメ「ココ。やはり……」

ココ「いや。ノータッチを貫く。みんな、忘れるように!!」

アール「おいおい。いいのか? 会社員じゃなけりゃ殺し屋だぜ、こりゃ」

ココ「構うことはない。どうせ、あと1日と10時間後には海の上だ。どうすることもできはしないよ」

マオ「ココさん。警護の面でも相手のことは知っておかないと」

バルメ「……ヒットマンリストにはあのような女は載っていませんでしたね」

ココ「……そうだ」

レーム「どちらにしても生まれたてのヒヨッコかよ」

ココ「だからこそ、面倒だ」

ワイリ「情報がないのか」

ヨナ「あ、そうか。追いたくても追えないんだ」

ココ「こら! ヨナ!! 余計なことはいうな!! 士気に関わる!!」

レーム「尾行しようにも得体が知れないから、追うのにはそれなりのリスクがある。斥候を出そうにもなぁ」

バルメ「もしかしてショットシェル社というのも……」

ココ「真っ先に調べた。そんな会社、存在しない。ペーパーカンパニーとしてもね。ハリボテも立てていない。峰不二子も恐らく、偽名。とっかかりがなさ過ぎる。これは困ったよ」

アール「……」

ウゴ「何か心当たりが?」

アール「いや」

アール(ソウは知ってるのか……)

ココ「はいはいはーい!! ともかく!! ヨナの言う通り、これは宣戦布告と見て間違いはない!! だが、相手のことは何も分からない!!」

ココ「だから、忘れろ!! 以上!!!」

トージョ「……」

レーム「じゃ、忘れるか」

ルツ「そうだな」

バルメ「いいんですか?」

レーム「いいんじゃねえの?」

バルメ「ココに万が一のことがあったら……!!」

レーム「はいはい。全員、首を切る。物理的になぁ。それでいいだろ?」

ルツ「マジかよ!?」

ココ(さて。無事、海へ出るためにやれることはやっておくか……)

―市街地―

不二子「……」

不二子(尾行ぐらいすると思ったけど、用心深いのか、それとも……)

不二子「……」ピッ

『――はいはぁい。こちら、愛しの王子ことルパン三世だよぉーん』

不二子「ルパン。随分とお気楽ね」

『よぉ、不二子。悪かったなぁ。ガキの使いなんてさせてよぉ』

不二子「ホント、死ぬかと思ったわ。ココ・ヘクマティアルの隣に怖そうな女もいたし」

『そうか。追っ手はいるのか?』

不二子「いいえ。尾行はされていないみたいね。それが不気味だけど」

『心配すんなって。不二子が死ぬようなことにはなんねえよ』

不二子「信じてるわね、ルパぁン?」

『ああ。任せろ』

不二子「それじゃ、明日ね。愛してるわ、ルパン」

『俺もさ、不二子』

―アジト―

ルパン「あぁ、悪かったな。で、どうだい。条件は呑んでくれるかな?」

『フフーフ。実に面白い条件ですね』

ルパン「でっしょぉ? これは契約しとくべきだと思うんだけども」

『何が目的なんですか?』

ルパン「送った書類に全部書いてる」

『うーん。分からない。このような条件で首を縦に振る人っているのか興味があるぐらいで。首肯する人間の心理状態は是非とも研究してみたい』

ルパン「いるんじゃねえの?」

『どんなに好意的な解釈をしてもこの条件だと吸収合併だ。僕の一存では決められない』

ルパン「そう。なら、キャスパー・ヘクマティアル。あんたは俺を敵に回すってことでいいのかな?」

『敵、か。僕としては貴方を敵にしたくはないですね』

ルパン「あーら、どうしてぇ?」

『この電話番号を知っているからですよ』

ルパン「ぬふふふふ。弱気だなぁ。天下の武器商人様がよぉ。零細企業の影に怯えちゃうのか?」

『貴方が用意したリングの上には立ちませんよ。絶対に』

ルパン「……あーらら。切られちゃった」

次元「キャスパーは乗ってこなかったか」

ルパン「これは挨拶よ。キャスパーなんざ関係ない。本命はこっちだ」

次元「ココ・ヘクマティアル……。やり手の女だ。こっちの浅はかな考えぐらいは読んでるのかもな」

ルパン「読まれて結構。ザルを相手にしてもおもしろくねえしなぁ」

五ェ門「逆上させて冷静な判断をさせないようにするのはいいが、畳み掛けないと意味がないようにも思えるが」

ルパン「分かってるよ。情報によればココ・ヘクマティアルはあと1日とちょっとで海へ出る。それまでに一度接触しておきたい」

次元「奇妙な敵がうろついている事を更に印象付けるのか」

ルパン「そういうこと。キャスパーとも話したのも不二子がただの道楽女だと思われないようにするためだ。明確に正体不明の敵が周囲にいることを知ってもらわねえとなぁ」

次元「明確に正体不明の敵か。さぞ気持ち悪がってるだろうな」

ルパン「相手はとんでもない怪物なんだ。正面からじゃ良い餌になるだけ。こうしてじっくり時間をかけてやらねえとなぁ。そして怪物もいつかは疲れて眠る。そのときを待つ」

次元「ルパン。お前の狙いは……」

ルパン「決まってんだろ。狙いはココ・ヘクマティアルの懐だ。あいつの懐には巨万の富がある」

次元「あのオーケストラに感謝しねえとな」

ルパン「そうだな。あいつらが教えてくれたようなもんだからなぁ。ココ・ヘクマティアルのことを」

―ドバイ ホテル―

ココ「……」カタカタ

ココ(今のところ、資産等に不自然な動きはない。といっても、私のソレを動かしてくれたほうが分かりやすい。見ざる敵はマネーゲームを仕掛けていることになるし)

ココ(しかし、動きがない以上それが狙いではないことは明白だ。では、商品の強奪? いや、それなら宣戦布告なんてするわけがない)

ココ(取引先の奪取? それも違う。私の前に姿を見せる意味がない。ショットシェル社も虚構だった。嘘を吐くために会いにくるなんて馬鹿げている)

ココ(他社の牽制も同じ理由で却下)

ヨナ「……」

ココ「うぅぅぅん……!!! だめだぁぁ……!!! わかんなぁぁぁい……!!!」

ヨナ「分からないなら、考えたって無駄だ」

ココ「……そっか。確かにね。じゃ、やーめたっと」

ヨナ「そのまま寝てしまえばいい。すぐ朝になる」

ココ「……」

ヨナ「ココ?」

ココ「……そうか。これは私を困らせる作戦か」

ヨナ「え?」

ココ「フフーフ。わかっちゃったぁ。相手の狙いが。ありがと、ヨナぁ」スリスリ

ヨナ「そうなの?」

ココ「そうなのだよ、ヨナ。これは撹乱だ。私をただ混乱させて様子を見ている。そして精神的に疲弊したときに敵は来る。これしかない」ギュッ

ヨナ「よかったじゃないか」

ココ「例えば、可能性として考えられる相手の狙いが5つあるとしよう」

ヨナ「算数は嫌だ」

ココ「だいじょーぶ。算数じゃないよ。勿論のこと正解はその5通りのうちの1つだけ。さて、ヨナならどうする?」

ヨナ「相手の狙いを絞って、守りを固める」

ココ「そうだな。5つ全てに気を回すと必ず綻びが生まれる。守る数は少なければ少ないほどいい。5よりも4、4よりも3。ベストなのは……」

ヨナ「1つに絞ること」

ココ「ああ。でも、それだけでは完璧じゃないよ、ヨナ」

ヨナ「どうして?」

ココ「どうしても奪われる可能性が残ってしまう。たとえ1%でも0.1%でも残ってしまう。決して0%じゃないんだ。それは完璧とは言えない」

ヨナ「当然だ。完璧なんて無理だ」

ココ「だが、できる。フフーフ。相手の狙いが分からないなら、こっちから照準を操作してやればいい。そしてその照準の先にあるのは、爆弾だけだ」

ヨナ「宝箱を置いてそのすぐそばに落とし穴を作るのか」

ココ「釣りと言えば一番いいかな」

ヨナ「その餌に食いつくかは分からない」

ココ「いーや。必ず食いつく」

ヨナ「その自信はどこから」

ココ「何故なら、資産、商品、取引先、HCLI社の機密情報、そして私の命。全てを針につけて垂らすからだ」

ヨナ「危険だ。ココはこの前も……」

ココ「これは釣りだ。何も心配はいらない。釣った魚に引っ張られるようなマヌケじゃない。釣り上げればバルメが刺身にしてくれる。私が料理してもいいけどね」

ヨナ「……」

ココ「信じてないなぁー!?」

ヨナ「違うよ。ココはそんなことにはならない。僕がいるから」

ココ「うーん……!! ヨナぁー!!!」ギュッ

ヨナ「だけど、ココの言う完璧にはならない。ココが想像もできなかったところから襲ってくるかもしれない」

ココ「……相手が想定外のものに狙いをつけている場合は私の負けだよ。潔く、頭と膝をついてやる」

ヨナ(そんな気、ないくせに)

―市街地―

銭形「……ワシだ。ココ・ヘクマティアルについては分かったか?」

銭形「……そうか。わかった」ピッ

銭形(あそこに見えるホテルにいるのか。良いホテルに泊まってるじゃないかぁ)

スケアクロウ「待ちな」

銭形「何か用か?」

スケアクロウ「アンタのこと調べさせてもらったぜ」

銭形「そうか。それで、お前にとって何か不都合がワシの経歴にはあったか?」

スケアクロウ「いーやぁ。特に困ることぁねえよ。ただなぁ」

銭形「なんだぁ」

スケアクロウ「あんたと武器商人を会わせたくはねえ」

銭形「……」

スケアクロウ「大人ならわかるよなぁ? その理由がよぉ」

銭形「ココ・ヘクマティアルがどういう存在なのかは、今知った」

スケアクロウ「そりゃ良かった。話が早いってゆー。じゃあ、ルパンのことは俺が聞いて来てやるよ。ヘクマティアルとはちょっとした顔なじみなんでなぁ。任せろ」

銭形「何故、お前が協力する?」

スケアクロウ「あぁ?」

銭形「ワシもお前さんに貸しなど作りたくはないのでなぁ。自分の手でやらせてもらう」

スケアクロウ「ヘクマティアルのことぉ、どう思ってんだぁ?」

銭形「……」

スケアクロウ「返答次第では、あんたを消しても問題ないってよぉ。俺がやるわけじゃないけどな」

銭形「ココ・ヘクマティアルはそれほどの力を持っているのか」

スケアクロウ「チンピラに手錠かけるのとはわけが違うんだぜ? わかってんのかぁ?」

銭形「ワシの仕事は悪人に手錠をかけることだ」

スケアクロウ「てめぇ……」

銭形「ココ・ヘクマティアルは善人か悪人か。考えるまでもない」

スケアクロウ「分かってねえなぁ、おっさん。それじゃ誰も得しねえんだよ。あんただって見てきただろうが、汚れた金ぐらいな」

銭形「若造、教えておいてやろう」

スケアクロウ「なんだ、こらぁ?」

銭形「汚れた金に触れた者を捕らえるのもワシの仕事だ」

>>49
ココ「フフーフ。わかっちゃったぁ。相手の狙いが。ありがと、ヨナぁ」スリスリ

ココ「フフーフ。わかっちゃったぁ。相手の作戦が。ありがと、ヨナぁ」スリスリ

スケアクロウ(ちっ。七面倒なおっさんだ。だが、こいつを利用すればルパンを捕らえられる。そして怪盗の首に掛かっている懸賞金も……)

銭形「何か言うことはあるか」

スケアクロウ「いやぁ。噂通りの男で感心してるところだよ、銭形警部」

銭形「それは光栄だぁ。では、ワシは行く」

スケアクロウ「待ちなぁ。共同戦線と行こうじゃねえか」

銭形「必要はない。お前たちとワシとでは価値観が違う」

スケアクロウ「悪者に正義の鉄槌を下す立場であることは変わりないだろう?」

銭形「ほう……」

スケアクロウ「アンタは俺を利用する。俺はアンタを利用する。これでどうだ?」

銭形「利用か」

スケアクロウ「悪くない条件だろぉ? こっちだってよ、世界の癌細胞はさっさと治療したいんだ」

銭形「それはココ・ヘクマティアルのことか?」

スケアクロウ「どっちもだ」

銭形「ふむ」

スケアクロウ「だが、どちらも一筋縄じゃいかない相手。だからよ、ここは手を組もうっていってんだ」

―ホテル―

レーム「ご苦労さん。交代だ」

アール「ふわぁ……。よろしく」

レーム「アール。君はどう思う?」

アール「お嬢を敵にすることでどんなメリットがあるかって話か?」

レーム「果たし状を叩きつけにきたにしては無防備だったんでね。殺し屋にしても会社員にしても今までにないタイプだろ、ありゃ」

アール「お嬢の命かそれとも資産か。そこを不透明にすることが目的じゃないのか。こっちは嫌でも勘繰るからな」

レーム「それってさぁ、俺たちの予想を裏切る自信があるからやってることになるよな。本性を晒すとき、つまりは最も効果的な場面でココを動揺させようって魂胆なんだから」

アール「だが、無理だ。お嬢の命は俺たちが、資産ならお嬢自身が守る。そこを出し抜けると思うか」

レーム「思わねえよ。塵ほどもなぁ」

アール「ほら、心配いらないだろ」

レーム「でもなぁ、俺たちがそこを守ろうとすることは分かった上で姿を見せたと考えたほうがよくねえか?」

アール「レームのおっさんが悲観的になりすぎてるんじゃないか」

レーム「そうかねぇ。この業界、正々堂々と正面から戦いを挑んでくる奴は底なしのアホか、尾を隠すのが上手な狸野郎だからな」

アール「前者のほうが圧倒的に多いのも事実だろ?」

レーム「ま、いいか。気にするだけ無駄だな。情報ないし」

アール「そうそう。んじゃ、おやすみ」

レーム「おお」

レーム「ふぅー……」

レーム(ココはどこまで掴んでるのか。俺たちに情報を渡さないところを見るに、何もわかっちゃいないんだろうが)

レーム「やっぱり、尾行しておいたほうが良かったか」

バルメ「レームもそう思いますか」

レーム「……よう」

バルメ「もしあの女がココに害を及ぼす存在なら、私が八つ裂きに……」

レーム「おう。やれやれ」

バルメ「私の勘では明日、敵は襲ってくると思います」

レーム「なんで?」

バルメ「下調べせずにここへたどり着けるわけがないからです」

レーム「俺たちが海のエキスパートであることは、ちょっと調べればわかるしなぁ」

バルメ「ええ。ですから、あの女とその仲間は必ず私たちが海へ出る前に仕掛けてくる。そう考えています。無論、ココも」

ココ「んー……」カタカタ

ココ(兄さんから連絡はない。こちらに確認するまでもないということか。一応、メールは送っておくけど……)

ココ「よしっ」

ヨナ「終わった?」

ココ「終わったよ。これで敵が私の資産を分捕りに来ても、何もできない。私という個人を強奪しない限りね」

ヨナ「そうか」

ココ「ヨナが守ってくれるから、安心だよー」ギュッ

ヨナ「釣り場は?」

ココ「私がいるところが釣り場だ」

ヨナ「明日、外に出る気か」

ココ「また、デートする?」

ヨナ「いや、どうしてそうなるんだ」

ルツ「――お嬢」

ココ「どうした?」

ルツ「客だとよ。今、フロントにいるってさ。二人いて片方はICPOだってよ」

ココ「今日は奇妙な客人が多い日だ。疲れる」

ルツ「帰ってもらうか? ウゴとマオなら暇してるけど」

ココ「……ICPOか。このタイミングだ。繋がっている可能性もあるな」

ヨナ「繋がっている?」

ココ「そうだ」

ルツ「お嬢のことを根掘り葉掘り聞きに来たのかも知れないぜ?」

ココ「おいおい。それなら私は年間何百回とICPOの詰問を受けていることになる」

ルツ「まぁ、そうか」

ココ「私の商いとは別件。或いは……そうだな、知り合いについて訊きたいとか」

ヨナ「正体不明の女のことか」

ココ「そうだ、ヨナ。他の人物かもしれないけどね」

ルツ「まさか、ワイリとか」

ココ「フフーフ。ルツ、君をヘッドハンティングしにきたのかもしれない」

ルツ「やめてくれよ。俺はお嬢んとこ以外にいく気はないぜ?」

ココ「ともかく会ってみよう。ヨナ、ルツ、一緒に来てくれ。それから暇ならマオも連れていこうか」

―フロント―

ココ「さて、客人とやらは……」

スケアクロウ「コーコぉ!! ヘクマティアルぅ!! ここだぁ!!!」

ルツ「あいつは……」

ヨナ「チンピラだ」

マオ「チンピラって」

スケアクロウ「誰のこといってんだ、こらぁ!!!」

ココ「お前以外に誰がいる」

スケアクロウ「一々癪に障る女だ」

ココ「お前はCIAだろう。ICPOは隣に男性かな?」

銭形「君がココ・ヘクマティアルか。ワシは……」

スケアクロウ「銭形警部だ。日本からとある事情で出向中なんだよ」

ココ「とある事情?」

スケアクロウ「ルパン三世の捜査だよ。お前だって名前ぐらいはきいたことあんだろ?」

ココ(ルパン三世……か。意外な大人物が出てきたな)

銭形「少し黙っていろ」

スケアクロウ「けっ」

銭形「失礼。君に聞きたいことがあってな」

ココ「守秘義務と黙秘権があることをお忘れなく」

銭形「君のやっていることに今は口を出そうとは思っておらん」

マオ「(随分、挑発的だな)」

ルツ「(今は。なんて言うか、フツー)」

ヨナ「……」

銭形「最近の私設軍隊は少年も雇うのかね」

ココ「能力があれば」

銭形「……世も末だな」

スケアクロウ「そんなつまんねぇ世間話しにきたんじゃねえだろ? 目下の問題はルパンだろ、ルパン」

銭形「わかっとる!」

ココ「……ここでは他の客にも迷惑になります。向こうに行きましょうか、ミスター・銭形」

銭形「そうだな」

ココ「何かお飲みになりますか?」

銭形「結構だ。それよりも君の後ろにいる3人はどうにかならんか?」

マオ「……」

ルツ「あぁ?」

ココ「こら、二人とも。ミスター・銭形に敵意はないんだから、そんな怖い顔しない」

スケアクロウ「あんまり睨むと逮捕しちまうぞ?」

銭形「お前も余計なことを言うな」

ココ「では、本題に入りましょう。ルパン三世の捜査をしている貴方が何故、私の下へ来たのか。想像はできますが」

銭形「この四枚の写真を見てくれ。知っている顔はあるか?」

ココ「……」

ルツ「お」

マオ「(用件が分かるまで反応するな)」

スケアクロウ「知ってますって顔してんなぁ」

ココ「どうして私が知っているとお思いに?」

銭形「君たちは先日、オーケストラという殺し屋に襲われ、それを撃退したからだ」

ルツ「ちっ……」

ココ「さぁ。なんのことでしょう?」

スケアクロウ「てめぇ!!! 調子にのんなよぉ!!! バッチリ、みてんだよぉ!!! こっちはよぉ!!!!」

ココ「何を見ているんだ? 私たちはオーケストラなどという殺し屋は知らないし、当然ながら襲われてもいない。何も知らん」

スケアクロウ「ざっけんじゃねえ!!!! てめぇとボケ警察どもが化かしてるだけだろうがぁ!!!」

銭形「記録上ではそうなっているな。ワシがここへ来たときには全てが揉み消されたあとだった。父親が海運の巨人だけに隠れることのできる陰が大きいようだな」

ココ「下手な挑発は寿命を縮ませることになりますよ」

ヨナ「……」

銭形「小僧に殺されるほど柔ではない」

ルツ「いってくれんじゃねえか」

スケアクロウ「やめとけ。てめぇみたいなザコじゃかなわねえよ」

ルツ「んだと……」

マオ「やめろ」

ココ「お前は虎の後ろで吠えるだけの狐か。お似合いだな」

スケアクロウ「いい加減にしろよ、武器商人風情がぁ」

銭形「故にだ。ココ・ヘクマティアルに対してワシもCIAも手出しはできん」

ココ(この男が常日頃からどういう取調べをしているのか目に浮かんでくる)

銭形「写真の人物を知っているかどうかだけ答えてくれればいい」

ココ「ミスター・銭形。私はこの写真の人物は……知りません」

ルツ「……!」

ヨナ「……」

銭形「見かけたこともないのかね?」

ココ「ありません」

銭形「そうか」

スケアクロウ「おいおいおい。おっさん。誰がどうみても……」

銭形「知らないと言っている以上、追及はできん」

スアケクロウ「だからってなぁ」

ココ「もういいでしょうか?」

銭形「もう一つ。君は何かもっとるかね? ルパンが狙ってもおかしくないほどのものを」

ココ「職業柄、国債や株はそれなりに保有しています。自分でいうのも恥ずかしいですが、ルパン三世という泥棒が狙いをつけてもおかしくないでしょう」

銭形「……他には?」

ココ「……」

銭形「……」

ヨナ(ココ……?)

スケアクロウ(なんだぁ? このおっさん、何を見てやがる……)

ココ「兵器のことですか? とっても素敵な戦闘機や自走砲をルパン三世が狙っているなら、是非とも商談の席を設けたいものです」

銭形「そうか。時間を取らせて申し訳なかったな」

ココ「いえ。こちらこそ大した情報提供もできず、恐縮です」

銭形「ふんっ」

スケアクロウ「武器商人。大人しくしてるんだな。また暴れたら出国が遅れるぜぇ?」

ココ「私たちはオフを楽しんでいるだけだ」

銭形「出国できんのか? 何かしたのか」

ココ「貴方には関係のないことです」

銭形「そうか。悪かった」

ココ「それでは、お気をつけて」

ヨナ「ココ。大丈夫?」

ココ「ん? どうして?」

ヨナ「疲れてる」

ココ「ホント、疲れたよ。ああいう輩を相手にすると肩がこってしかたない」

マオ「ココさん、良かったんですか? 正体不明の敵を知ることができたのかもしれないのに」

ココ「今私たちの周りにいるのがルパン三世とその一味であることは分かった。それで十分。あの男にこちらの情報を渡す必要はない」

ルツ「だからお嬢は何も言わなかったのか」

ココ「こちらが情報を出してから、あの男は写真の人物について詳細に語るつもりだったんだろうからね。対策と共に」

ヨナ「ルパン三世って?」

マオ「世界を股にかける大泥棒としか。その正体を知っている人間もこの世にはいないって聞いたこともあるぐらい謎に包まれている」

ココ「ルツは知っているんじゃないか?」

ルツ「噂程度だ。対テロ部隊にルパンの情報なんざ降りてはこねえしな」

ココ「なら、ルパン三世の情報を今からかき集めるまで。行くぞ!!」

マオ「ルパン三世なんて伝説みたいなもんだと思ってたけど、いるんだなぁ」

ヨナ(ルパン三世……どんな奴なんだろう……)

―市街地―

銭形「……」

スケアクロウ「これからどうするつもりだよ。ルパンのことは諦めんのか?」

銭形「……」

スケアクロウ「おい」

銭形「協力、感謝する」

スケアクロウ「なに?」

銭形「お前はもう巣に戻れ。ここからはワシの仕事だ」

スケアクロウ「そういうわけにはいかねえよ、おっさん。ルパン逮捕は各国、各機関の願いでもあるんだからよ」

スケアクロウ(俺の見立てでは数日以内、いや、ヘクマティアルが海に出るまでの間にまたドンパチがあるはずだ。そこに居合わせることができれば……)

銭形「ルパンはお前が考えているほど甘い男ではないぞ」

スケアクロウ「わかってるよ。だからアンタだって何度も何度も取り逃がしてんだろ?」

銭形「そうだ。お前では奴の背すら見ることはできん」

スケアクロウ「おっさんはどうなんだよ?」

銭形「ワシなら届く。奴の懐までな」

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