寂海王「君を必ず宮守女子に連れて帰るッッッ」 豊音「えっ?」 (909)


豊音「わわわっ、寂さんだよー!」

おばあちゃん「じゃく……?」

豊音「うん、寂海王さん!」

豊音「空拳道の使い手で、なんと日本人で唯一海王の称号を持つ人なんだよー!」

豊音「雑誌でしか見られない人にお会い出来るなんて光栄だよー!!」

寂海王「わたしは幸運だ」

豊音「え?」

寂海王「ツキノワグマと戦ってみようと山に入るも、ツキノワグマとは逢えなかった……」

寂海王「だがしかしッ! もっと素晴らしい出会いがあるとはッッッ」

寂海王「トヨネ君ッ!」

寂海王「君の体格と特殊な力は、日本の格闘技界のために使われるべきだッッッ!!」

豊音「え……」

豊音「えええええ~~~~~ッ!?」

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寂海王「君の才能はこんな山奥で眠らせていいものではない」

寂海王「その才能は日本の宝だ」

寂海王「君には日本の格闘技界を導くに足る才能があるッッッ」

豊音「で、でも……」

豊音「私、格闘技なんてやったこと……」

寂海王「知っている」

豊音「えっ」

寂海王「むしろ、それがいい」

寂海王「格闘技をしたことがない……」

寂海王「己の肉体を、人体を打つべく鍛えたわけじゃない……」

寂海王「だからこそ、君なのだ」

寂海王「経験による驕りもなく、過剰なまでの自負もない」

寂海王「しかし、鍛えてなくともこれほどまでにバランスの優れた肉体という、素晴らしい資質がある」

寂海王「君こそ、相応しい」

寂海王「若い君だからこそ、日本の若者を導くに相応しい」

寂海王「若く、そして格闘技に慣れ親しんでいない者を導くのに、誰よりも相応しいッ」


豊音「で、でも……」

豊音「私は、村にいないと……」

寂海王「問題はない」

寂海王「全てわたしに任せておきたまえ」

寂海王「たかだか村の因習くらい倒せずして、一体何が格闘技かッッッ」

豊音(その理屈はどうなんだろう……)


豊音「それに……」

豊音「私は、怖いの、苦手だし……」

寂海王「大丈夫だ」

寂海王「格闘技とは、本来守るための手段」

寂海王「強き心を持てぬ者が、一縷の勇気を振り絞って振るうもの」

寂海王「猛る心など必要がない」

寂海王「むしろ無闇に力に溺れぬ心こそが、未来ある若者を導くには不可欠ッッッ」

寂海王「わたしと組もうッッッ」

寂海王「ともに日本の格闘技界を導こうじゃないかッ!!」


豊音「その……」

豊音「私は、麻雀が大好きだから……」

豊音「テレビの中のプロ雀士の人達に、ずっと憧れてたから……」

寂海王「君の体格があれば、すぐにでも有段者としてテレビにだって出られるッッッ」

豊音「そうじゃなくて、その……」

豊音「お会いするときは、ただの木っ端ファンだとしても、まともな相手と戦ったことがないとしても」

豊音「同じ雀士として、お会いしたいから……」

豊音「ごめんなさい、雀士以外にはなれません」 ペッコリン


寂海王「……トヨネ君」

豊音「はい」

寂海王「君は、格闘技の定義を何だと思うかね」

豊音「へ???」

寂海王「空手は格闘技――そうだろう」

寂海王「ボクシングも、柔道も、ムエタイも、大半の者が格闘技だと言うだろう」

豊音「はあ……」

寂海王「格闘技とは徒手空拳で戦うスポーツを意味するようなものだと、思っているものは多い」

寂海王「では、剣道はどうだ?」

寂海王「薙刀は? 弓道は?」

寂海王「広義には、白兵戦ですら格闘技に含むとされている」

豊音「ええと……」

寂海王「私も、Bakipediaに記述された広義における格闘技の定義――」

寂海王「即ち、格闘技とは、スポーツ化された武道を指すと思っている」


寂海王「先にも言ったが……武道とは、元来身を守るために身につけるもの」

寂海王「護身のためにあると考えています」

寂海王「拳という武器」

寂海王「技術という武器」

寂海王「そして時には木刀や竹刀といった武器――」

寂海王「それらを己が力とし、自己を守る」

寂海王「それこそが武術ッ」

寂海王「その普及、護身の普及こそが格闘技ッッッ」

豊音(話が見えないよー……)


寂海王「死なぬため」

寂海王「少しでも傷つかぬため」

寂海王「血を流さぬため」

寂海王「己の得意とする何かを極め、護身を完成させることにこそ、格闘技の本質はあると言えます」

寂海王「その手段が、薙刀だとして」

寂海王「竹刀を使う剣道だとして」

寂海王「それこそ、スナイパーライフルを用いたクレー射撃だとして」

豊音(それはさすがに格闘技じゃない気がするよー……)

寂海王「そして、牌を用いた麻雀であったとして」

寂海王「どうしてそれが格闘技でないと言えようッッッ」

豊音(ツッコミにきておばあちゃん……!!)


寂海王「事実、暴力団のシノギや抗争も、バイオレンス溢れるものから、巨額を賭けた麻雀勝負へと移ろいつつある」

豊音「竹書房の読み過ぎだよー……」

寂海王「それもまた、格闘技」

寂海王「無益な抗争により命を落とさぬべく編み出された、護身の一種たる競技」

寂海王「即ちッッ」

寂海王「麻雀とは格闘技であるッッッ」

豊音「だ、断言したーーーっ!?」 ガビーン

寂海王「即ち、格闘技のリングに立つことと、君が雀士に集中することは、決して矛盾しないッッ」


寂海王「瞬間的に思考し戦略を立てる技術」

寂海王「そして、第六感や感性、危険への嗅覚」

寂海王「それらを格闘技で鍛えることは、麻雀の技量にも繋がるはず」

豊音「いや、でも……」

寂海王「現に、君と同い年くらいの雀士達は、皆格闘技術に優れているのではないかね?」

寂海王「調べたところによると、居合の達人や、コークスクリューパンチで氷解を砕く者らが上位陣だそうじゃないか」

寂海王「プロ雀士にも、鉄扇を華麗に操るものや、マーシャルアーツを駆使するイタコもいると聞く」

豊音「た、確かに……」

寂海王「それに、雀士が格闘技に向いているということは即ち――」

寂海王「格闘者は、麻雀力に優れているということッッッ」

寂海王「私と来たら、君に最高の麻雀仲間を用意することを約束しようッッッ!!!」


寂海王「一週間後、またここに来てほしい」

豊音「えっ」

豊音(私の家の玄関なんだけど……)

寂海王「その時は、最高の舞台への切符をお見せしよう」

寂海王「来る・来ないは、それから決めてもらって構わない」

寂海王「必ずや、来たくなるような環境を用意しておくと約束するッッッ」

寂海王「そしてッ! 日本の格闘技界のためッ」

寂海王「君を必ず宮守女子に連れて帰るッッッ」

豊音「えっ?」

寂海王「そこで君は、雀士としても、闘士としても、一流となるのだ」

豊音「……」

豊音(あれ……なんだろう、少しドキドキしてるよー……)


【一週間後、宮守】

胡桃「塞!」

胡桃「何見てんの」 サクサク

塞「胡桃……」

胡桃「カサ」

塞「ありが……うわぁ編笠」

塞「傘は有難いし雪を直接かぶるよりいいけど、編笠て……」

塞「これ用意するようビニール傘用意する方が絶対ラクじゃ……」

胡桃「で、何見てたの?」

塞「今は編笠にばっか気を取られてるけど、さっきまでは電車見てたのよ」

胡桃「へえ、鉄オタだったんだ」

塞「そーじゃなくて」


塞「ほら、新しい体育の先生が来るって話」

塞「校長の昔なじみだかなんだか」

胡桃「え、初耳」

塞「ていうかこの編笠網目大きすぎて雪普通に頭にかかってくるんだけど」

胡桃「今頃……?」

塞「編笠取るといい感じの白と黒とのチェック模様が頭部で形成されるんだけど」

胡桃「いやいや……気のせいでしょ」

塞「傘入れてよ」

胡桃「相合傘は恋人とって決めてるから」

塞「冷血漢」

胡桃「漢じゃないしー」


胡桃「で、その先生がどうしたの?」

塞「ああ、その人たぶんさっき通った電車に乗ってた」

塞「……腰痛くなるから傘持つわよ」

胡桃「身長差あるってわかってるなら入ってこなければいいのに!」

塞「まぁそう言わず」

胡桃「っていうか、電車にいたとか、それ単なる気のせいでしょ」

塞「だとしても」

塞「悪い気のせいじゃな……」

塞「……」

塞「いや、やっぱ何かロクでもない予感してきたわ……」 ゲンナリ

胡桃「やめてよね、塞のそういうカンだけは当たるんだから……」


【部室】

寂海王「自己紹介できるかい?」

豊音「はい」

豊音「岩手から来ました、姉帯豊音です」 ペッコリン

塞「ここも岩手だよ……って、でかっ!」

胡桃「大丈夫、お尻は塞の方が大きいよ」

白望「胸も……多分、ぎりぎり」

塞「え、何!? 何で私が意味分かんないフォローされてるの!?」

胡桃「あと、頭の3Dスティックも塞の方が大きいよ!」

塞「張り倒すわよ」

寂海王「あのボンバーマンみたいな髪型をしているのが臼沢塞」

寂海王「この麻雀部の部長だ」

塞「寂さんまで!?」


寂海王「そしてあの子供の姿を取ることで大方の敵からお目こぼしを受けられる護身体型をしているのが鹿倉胡桃」

胡桃「よくわからないけどすごく失礼なこと言ってない?」

寂海王「そしてあの今にも溶けてそこの排水口から流れていきそうなのが巨瀬川白望だ」

白望「そのまま家まで流れて行きたい」

寂海王「彼女――トヨネ君は君達と同じ高2だ」

寂海王「ここに来る前にあちこち見てまわっていた際見つけた逸材だ」

寂海王「とりあえず打ってみるといい」

白望「よろしくお願いします」

胡桃「よろしくー」

豊音「よろしくねーお願いします!」

エイスリン(放置サレトル……)


寂海王「この子の住んでた村も哺乳類が少なくてね」

塞「え、何類で溢れてるのその村。こわっ」

胡桃「どこも少子化なんだねー」

塞「人類単位で減ってるっぽい口ぶりだったけど」

寂海王「パソコンも法律もなくて一人で護身を完成しつつ牌を並べたり」

寂海王「テレビで試合を見たりして麻雀を覚えたらしい」

塞「しれっととんでもないこと言ってませんか」

胡桃「じゃああんまり人と打ったことはない?」

豊音「うん」

豊音「精々ギギネブラ相手だよー」

塞「ギギネ……なんだって?」

寂海王「でもわたしのお墨付きだ」

寂海王「あの環境でここまでの雀力を蓄えた彼女には、類稀な才能がある」

塞「それはそれは……怖いですなあ……」

塞(もうホントいろんな意味で……)


寂海王「ところで、その子は?」

エイスリン(ヨカッタ、無視ジャナカッタ……)

白望「留学生のエイスリンさん」

エイスリン「ヨロシクデス」

寂海王「……君は麻雀が出来るのかい?」

エイスリン「……」 フルフル

寂海王「それは残念だ」

寂海王「それではテコンドーは?」

寂海王「アマレスや、ブラジリアン柔術はどうだ?」

エイスリン「……」 フルフルフルフルフルフル

塞「凄い勢いで否定しとる」

寂海王「それは残念だな……」

白望「凄い落ち込みよう……」

胡桃「あの人絶対麻雀興味ないよね……」

塞「何で顧問引き受けたんだろうね……」


胡桃「ではでは始めますかー?」

豊音「はいー」

寂海王「では、とりあえず赤口で……」 ヒソ

白望「……?」

エイスリン(絵面、スゴイ)

エイスリン(好色ッポイ中年男性ガ、女子高生ニ耳打デ何カ言ッテル……)

エイスリン(コワッ)


胡桃「あ~~~~」

塞「ぬぎゃー」

塞「勝てないわー」

胡桃「くっ」

豊音「わーい」

豊音「……」

豊音「あっ……」

ポタ……

塞「え……」


姉帯豊音、対人戦デビューを目撃していた後のチームメイト、エイスリン・ウィッシュアートは後に語る。

エイスリン「ええ、驚きましたよ(※日本語吹き替えでお送りしています)」

エイスリン「何せ、いきなり涙を零すんですから(※日本語吹き替えでお送りしています)」

エイスリン「え? 負けたら誰でも泣くだろうって?(※日本語吹き替えでお送りしています)」

エイスリン「はは、違いますよ(※日本語吹き替えでお送りしています)」

エイスリン「彼女は圧勝していました(※日本語吹き替えでお送りしています)」

エイスリン「それこそ、不甲斐ない勝ち方に涙することすらおかしいくらい、完璧な勝ち方でね(※日本語吹き替えでお送りしています)」

エイスリン「じゃあ何で泣いたのかって?(※日本語吹き替えでお送りしています)」

エイスリン「勿論、誰もが気になったことですからね、本人に尋ねましたよ(※日本語吹き替えでお送りしています)」

エイスリン「まとめ役である、塞が代表してね――(※日本語吹き替えでお送りしています)」


塞「何で泣いてるの!?」

豊音「せっかく楽しかったのに、もう帰らなきゃ」 グシュ

豊音「次の電車に乗らないと、最後のバスに間に合わないんだー」 シクシク

塞「そうなんだ、残念」

エイスリン「歩イタラ」

胡桃「勝てなかったけどおもしろかったよ!」

豊音「(´;ω;`)」 シューン

白望「……それで」

白望「いつ転校してくるの?」

豊音「え……」


塞「うちらの仲間候補として海王先生が連れてきたんだと思ってたけど」

胡桃「違う?」

豊音「えっ、いやっ……聞いてないっ……」

寂海王「まずは外堀が埋まったようだね」

寂海王「勿論、君を宮守に入れるために埋めた外堀だ」

寂海王「しかしまだ、堀を完全に埋めることは出来ていない」

寂海王「トヨネ君、君が拒絶すれば、外堀も掘り返され、完全に勧誘の目は絶たれる」

寂海王「遠慮はいらない」

寂海王「本音をぶつけるといい」

塞(こう言えば断りにくくなるって打算だな……)

胡桃(先生時折タチ悪いよねえ……)


豊音「私なんかが皆さんのお仲間にとか……」

豊音「ありえないかなー……」

豊音「とかとか……」

胡桃(本命謙遜、対抗オブラートに包んだ拒絶、大穴コミュ障特有の疑心暗鬼)

白望「こっちはいつでも」

塞「うん」

寂海王「各方面の許可はもう取ってあって、手続きの準備もできている」

寂海王「言ったろう、君を必ず宮守女子に連れて帰ると……」

寂海王「後は、皆が合うかどうかだったんだ」

寂海王「そして――今となっては、君が、どうしたいかだけだ」

豊音「……」

豊音「……」 ストン

豊音「ちょーうれしーよー」 グジュッ


寂海王「書類上だけなら、もう転校済みになっている」

塞「え……」

寂海王「わたしとトヨネ君が初めて会った去年の秋にね」

塞「ってことはトヨネ一年不登校だった扱いなんだ……」

胡桃「ていうか、1年近く在籍してないガッコに通わせてたんだ……」

白望「……断られたらどうするつもりだったんだろ……」

寂海王「……」

寂海王「結果オーライだ」

塞(ほんっとーに麻雀部の全権このおっさんに渡したままで大丈夫かな……)


豊音「あれ編入試験だったんだ……」

寂海王「ああ」

寂海王「ちなみに、我が流派の検定試験も兼ねていた」

寂海王「とりあえず、君は現状茶帯だ」

豊音「え……」

寂海王「土地のしばりでなかなか出てこれそうになかったが……」

寂海王「ようやくだな」 フフ

塞「なんでそんな……」

胡桃「!」

白望「そっか……」

塞「インターハイ!」

寂海王「」 ニヤリ


塞「でも団体戦は5人必要でしょ?」

塞「後一人……」

寂海王「なに、何の問題もない」

寂海王「折角待望の才能を連れ帰れたのだ」

寂海王「不戦敗などという屈辱は味わわせれまい」

胡桃「その制服は」

塞「どこの世界にそんなひげ面のJKがおる」

寂海王「組まないか、私と」

塞「お断りします」

胡桃「先生に女装させるくらいならペコちゃん人形座らせた方がなんぼかマシだよ」


エイスリン「ハイ!」

白望「エイスリンさん……?」

胡桃「何か描き始めた……!?」

塞「何その絵!?」

胡桃「悪魔が雀牌で女子高生を惨殺してる……」

塞「こういうのを芸術扱いしてる雑誌紀伊國屋書店で見たわ」

白望「……」

白望「みんなで地区大会に出て入賞しよう」

塞「わかるの!?」

エイスリン「Yeah」 ピシガシグッグッ

胡桃「合ってるんだ!?」

塞「エイスリンさん麻雀が何かマジで何一つわかってないよね!?」

エイスリン「genocide」

塞「とりあえずルール叩き込もうか……」

胡桃「何かホワイトボードぶん回してるし、麻雀はそういうものじゃないことから教えなきゃだね……」

寂海王「じゃあルールの前にとりあえず席についてもらおうか」


【某月某日、某所】

光成「ふむ……」

光成「なるほど……」

光成「……」

光成「よかろう」

光成「面白い」

光成「その大会、我が地下闘技場で仕切らせてもらおうッ」

???「……ありがとうございます」

光成「このルールならば、チャンピオンも納得するじゃろうて」

???「有難きお言葉……」

???(これで……)

???(悲願が、ようやく達成される……)


【宮守女子高校麻雀部部室】

寂海王「さて……」

寂海王「君達に朗報だ」

塞「?」

寂海王「全国行きを決め、浮かれているだろうが……」

寂海王「勿論、全国の猛者は甘くない」

寂海王「特別な特訓が必要だろう」

塞「覚悟はありますっ」

胡桃「うん!」

豊音「……!」

寂海王「その言葉が聞きたかった」

豊音「まさか……」

寂海王「喜び給え、その特別な特訓の場が用意されることになった」

寂海王「場所は東京。ドーム地下」

寂海王「地上最強の女子高生を決める場だッッッ」


塞「え?」

胡桃「最強決めるインハイ前に、また最強決めるの???」

豊音「……多分、それ……」

寂海王「その通り」

寂海王「バーリ・トゥードだ」

胡桃「ばり……?」

エイスリン「……Vale tudo……」

塞「え?」

胡桃「知ってるのエイちゃん?」

エイスリン「Yes」

エイスリン「Portugalノ言葉デ、ナンデモアリ――」

寂海王「そう」

寂海王「ルール無用の、格闘技女子高生王者決定戦だ」

塞「ええええええええええええええええええええ!?」

ニュージーランド出身だし、多分マーク・ハントとかレイ・セフォーの親戚じゃね


塞「何でそんなものに……」

寂海王「もうエントリーは済ませてある」

胡桃「えっ」

寂海王「それにバーリ・トゥードとは名ばかりで、きちんとルールが設けられている」

寂海王「本来は戦う男の場だったのだが……」

寂海王「厳しいルールを設けることにより、女子の立ち入りが許されることになった」

寂海王「5人ずつの団体戦」

寂海王「勝者5人は、現行チャンピオンに挑める」

白望「……」

白望「それをするメリットは……」

寂海王「無論、ある」

寂海王「格闘技の技術と、格闘技の一種である麻雀には、密接な関係がある」

寂海王「特にオカルトと呼ばれる技量は武術に転用出来るものが非常に多い」

寂海王「現に――すでに君達には、武術家としての特訓を済ませてある」

塞「!?」

寂海王「君の場合は、そのモノクルを使った特訓を」

塞「こ、これ、単なる麻雀におけるアンチオカルトなんじゃ……」

寂海王「全ては武術の応用だ」

寂海王「大会までに、近接格闘における使用方法も身につけてもらう」

胡桃「私そんなことした記憶ないんだけど」

寂海王「君の場合は小柄すぎるため、大怪我を負わぬための体づくりをさせていた」

寂海王「ダイエットプログラムと称し渡したアレが」

胡桃「わーーーっ! わーーーっ!」

白望「ダイエットしてたんだ……」

胡桃「べ、べべべべべつにそんなことっ」

塞「アンタはそのままで十分だって」 ポンポン

胡桃「か、からかってるよねそれっ!」

ベスト・キッドかよwwwwww


寂海王「それに……」

寂海王「同じようなことを考える者は多々いるようだぞ」

塞「え?」

寂海王「インハイ出場校からも、大会の参加が確認されているッ」

塞「ええええええええ!?」

寂海王「何かしら得ることが出来るとは思うが、どうかな?」

塞「いや、でも、ねえ……」

白望「……」


白望「先生は――」

白望「元々、格闘技をやらせたかったんですよね」

塞「え!?」

寂海王「ああ」

寂海王「鍛えていて、思った」

寂海王「トヨネ君だけじゃない」

寂海王「君達全員を、将来的に我が流派に連れて帰るとッッッ!!!」

寂海王「強いだけでは虚しいぞッ」

寂海王「麻雀は運の要素も強く、また初心者にも優しくはない」

寂海王「指導者になるなら、格闘技だッ」

寂海王「君達には、才覚ある若者を指導する力があるッ」


寂海王「どうだ、まずはこの大会で――」

白望「いいですよ」

塞「え!?」

胡桃「うっそ!?」

白望「……だるいけど、その大会からずっと東京行ってた方がラクかもだし」

白望「……」

白望「ここまで来たら、勝ってずっと東京でだらけてたいから」

白望「やれることなら、仕方ないし、やる」

塞「……」

胡桃「……うん、そーだね」

塞「胡桃!?」

胡桃「これでも、先生には恩義があるっちゃーあるしね!」

胡桃「しょうがない、恩返しだ!」


エイスリン「皆ガ、ヤルナラ、私モ!」

塞「……」

塞「あああああああ、もう!」

塞「しょうがないわね!」

塞「トヨネ、どーする?」

豊音「……」

豊音「未だに、何か、麻雀が格闘技って話は信じられないけど……」

豊音「信じられる仲間をくれたのは、寂さんだから……」

豊音「寂さんのことは信じたいし、恩も返さないとと思ってるよー」

豊音「……やろう」

豊音「これも、大切な皆との思い出になるから……!」

塞「……ん!」

胡桃「決まりだね」

白望「……やるからには、優勝」

エイスリン「宮守女子~~~~」

全員「「「「「ファイ、オーーーーーーッ!」」」」」


【某高校麻雀部部室】

???「女子高生最強トーナメントぉ?」

???「なぁに考えとるんじゃ、おぬし」

???「あら、おもしろそうじゃない?」

???「それに、インハイ前の特訓になるでしょ」

???「どう考えても普通に麻雀打ったほうがエエ気がするけどのう」

???「しかも格闘大会ってこと、知らせずに東京入りさせる気とは……」

???「いくらなんでもギャンブルにも程があろうて」

???「あら、大丈夫よ、意外と皆、肉弾戦強いみたいだし」

???「それに――知ってるでしょ?」

???「ここぞって時に、私は悪い待ちにして、そして尽く勝ってきたって」 クスッ

???「まったく……」 ハァ

???「ま、何にせよ――教えてあげようじゃない」

???「私達が、どの高校より強いってことを」


【女子高生最強決定トーナメント当日】

胡桃「ついに、この日がやってきたね……」

塞「東京ドームの地下にこんな施設があるなんて、ビックリだわ」

エイスリン「緊張シテキタ」 ドキドキ

豊音「有名な高校生雀士の人、いっぱいだよー……」 ワァ

白望「だる……」

寂海王「あまりうろついてはぐれないように」

塞「一番不安なの海王先生だけどね」

胡桃「やたら滅多に勧誘しないでよ」

寂海王「大丈夫、試合が始まるまでは我慢するさ」

塞「試合中も我慢しましょうよそこは」


胡桃「うう、トイレもっかい行ってくる!」

塞「あ、私も……」 ソソクサ

豊音「ちょーキンチョーしてるねー」 フフ

豊音「私も連れションしてこようかなー♪」

塞「トヨネ、そーいうのすきだよねー」

豊音「村に居た頃は、ポチとくらいしかそーいうのできなかったから」

白望「私はだるいから待ってる」

エイスリン「~♪」 カキカキ

胡桃「ん、エイちゃんも留守番よろしくっ!」

寂海王「もう入場が始まる、急ぐといい」

寂海王「後半とはいえ、あまりバタつくものではないからね」

胡桃「はーい」 トテトテ


???「あかんあかん、遅刻しそうやんけ!」 ドタドタ

胡桃「う~トイレトイレ」

???「何で充電切れとんねん、そら目覚ましも鳴らな――」

ドン!

胡桃「あいたっ」 シリモチッ

塞「大丈夫?」

洋榎「おっとと!」

洋榎「見えんかったわ」

絹恵「ちょ、おねーちゃん!」

胡桃「……!」

胡桃「ねえ」

胡桃「切符買っておきなよ」

洋榎「?」

洋榎「切符?」

胡桃「明日帰るんでしょ」

洋榎「ドチビが……!!」


絹恵「もう、おねーちゃん!」

洋榎「ちぇー」

洋榎「すまんすまん、マジで見えとらんかったわ」

絹恵「あの、ごめんなさい」

絹恵「お姉ちゃんデリカシーないけど、悪気はないんです」

洋榎「マジでよう見とらんかったんやからしゃーないやろ」

絹恵「しゃーなくないやん、ちゃんと前見んと」

豊音「あ、あああああのっ!」

洋榎「?」

豊音「姫松の、愛宕洋榎選手ですよねっ!?」

洋榎「せやで?」

豊音「さ、ササササインを……!」

洋榎「あ、すまん、してやりたいねんけど、ウチ入場迫っとんねん」

豊音「あ、そうですか……ごめんなさいっ」

洋榎「いやいやこっちこそすまんな」

洋榎「オチビも悪かったな」

胡桃「チビじゃないっ!」

塞「それより……入場が迫ってるってことは……」

洋榎「ああ、せやで」

洋榎「ウチら、姫松高校麻雀部、最強トーナメント殴り込みしとんねん」


豊音「ええ!?」

豊音「やっぱり麻雀の特訓でですか?」

洋榎「なんでやねん」 ケラケラ

洋榎「麻雀と格闘技って、関係なさすぎるやろー」 ゲラゲラ

胡桃(否定出来ない……)

塞(その正論は半月早く聞きたかった……)

洋榎「おもろいなー自分」

豊音「じゃあ、なぜ……」

洋榎「いやな、セーラのやつと、どっちが決勝で稼ぐか勝負しててん」

絹恵「それで、お姉ちゃん負けてもーて、罰ゲームでこんなことに……」

洋榎「くっそーーー! 西成のクソがなぁぁぁぁぁぁ!!」

絹恵「もう、末原先輩達に後日ちゃんと謝らなあかんで」

洋榎「ちぇー、わかっとるって」

洋榎「でもまあ、格闘技経験者が部におって助かったわ」

洋榎「さすがに、セーラの手ぇ借りたら意味ないからな」


豊音「その、私達も参加してるんですっ」

洋榎「あ、ほんま」

絹恵「当たったらよろしくねー」

豊音「はいっ!」

洋榎「っとと、そろそろウチラ呼ばれる番やんけ!」

絹恵「ちょ、急がな!」

塞「……」

塞「姫松がもうすぐってことは、私達ももうすぐじゃん!」

塞「トイレ中止~! 戻るわよ!」

胡桃「ええ!?」

塞「ちょっとくらい我慢できるでしょ?」

塞「抽選の後で行って来なさい」

胡桃「う~……」


【数十分後、女子トイレ】

ジャーーーー

ゴボゴボゴボ

胡桃「ふう……」

胡桃「危なかった……」

豊音「私も密かに危なかったよー」 フフ

豊音「愛宕選手にあった緊張で尿意忘れてたけど、今度は試合への緊張でおトイレ近くなっちゃってて困るよー」

胡桃「ねー」

胡桃「っていうか、1チームごとに長い口上いらなかったよね……」

豊音「あははー」

ギィ

胡桃「……っとと」

胡桃(さすがに人が入ってきて喋り続けるのはアレだよね)


???「ほんっっっっと、おかしな運を持っちょるのう……」

???「いやー、和も咲も面食らってたわねー」

???「まず肉弾バトルさせられることに驚いとったぞ」

???「いやー、私は珍妙な巫女集団に驚いたんだと思うけどね」

???「それが麻雀だと全国4指と知った時の和や咲の顔ったらもう」 プププ

???「いつか刺されるぞ、おんし……」

???「しっかしまあ、これがインハイじゃのうてよかったわ」

???「初戦から永水に姫松とか、麻雀だったらやっとれんわ」

???「もう一校色物がいるけど……格闘ならここが要注意かしらね」

???「どこも色物に見えるがのう」

???「違いないわwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

胡桃「……」

胡桃(姫松に、永水の話?)

胡桃(確か、おしっこ我慢でまともに聞いてなかったけど、私達の初戦の相手も……)


???「おんしはいいのう」

???「オーダー見たが、中堅、どの高校からも弱そうなのしかおらんけぇ」

???「まぁねw」

???「永水の子は一番おとなしそうな子だし、岩手のとこはちびっ子だし」

???「姫松がワンチャン強いかもくらいねー」

???「余裕じゃのー」

???「ま、可哀想だし、彼女らの攻撃は5発以内で終わらせてあげるわ」

???「通らない攻撃させ続けるのも酷だしね」 キリッ

???「wwwwwwwwwwwwwwwww」

???「さ、戻って対策しましょwwwwwww」

ギィ

バタン

胡桃「……」

豊音「……」


胡桃「今のって、多分――」

豊音「うん」

豊音「清澄高校」

豊音「一回戦の、私達の相手だよー」

豊音「あの宮永照選手と同じ名字の大将さんとか」

豊音「ちょー有名人の原村選手とかを擁してる強豪だよ」

胡桃「……」

胡桃「でもそれは麻雀での話でしょ」

胡桃「格闘技では――粉微塵になるまで叩き潰す」 ゴッ

豊音(あ、火がついた……)


【宮守高校控室】

胡桃「……ってなことがあったから!!」

胡桃「何が何でも叩き潰すよっ!!」

塞「長いトイレだと思ったらそんなことが……」

寂海王「やる気があるのはいいことだ」

寂海王「勿論、視野を狭くするのは問題だがね」

胡桃「大丈夫、問題ない」

寂海王「怒りに我を忘れるようじゃまだまだだ」

寂海王「むしろ相手を上手く乗せるくらいじゃあないとな」

寂海王「……とりあえず尿意に夢中で君達はまともに大会ルールも聞いていなかったろう」

寂海王「ここでおさらいをしておくぞ」


【姫松高校控室】

恭子「ルールは簡単」

恭子「4チームがそれぞれ先鋒・次鋒・中堅・副将・大将を出し――」

恭子「そして順番にバトルロイヤルをするだけです」

洋榎「その辺はインハイと同じなんやな」

恭子「そうですね」

恭子「ただ違うのは、点棒引き継ぎ製のインハイとは違って……」

洋榎「今回は、各試合毎に順位をつける、か」

恭子「ええ」

恭子「毎回1位のチームにのみ、1ポイントが加算されます」

恭子「大将戦終了時、他のチームよりポイントが多い上位2チームが勝ち上がります」

由子「上位2チーム勝ち上がりって点は、インハイと同じなのよー」

漫「なんだか変わったルールですよね……」

恭子「何でこないなルールなのかは、正直謎やな」


絹恵「5戦で上位2校って、そないすんなり決まるもんですかね……?」

恭子「まず決まらんやろ」

恭子「とりあえず2位が複数おった場合、そのチームの『勝利した選手』全員でのバトルロイヤルになります」

洋榎「それまでは敵3人とのバトルロイヤルやけど、その場合は2VS2ってこともあるわけやな」

恭子「ないです」

絹恵「計算できへんのお姉ちゃん」

洋榎「……」

絹恵「あーもういじけんと!」

恭子「2ポイントのチームが2つなら、他のチームは1ポイントと0ポイントですからね」

漫「2ポイント取れば進出決定ってことですか」

恭子「正解」

恭子「あるとしたら、1ポイントVS1ポイントのタイマンか、3チームの代表同士のバトルロイヤルやな」


洋榎「つまりどこで勝ちを拾うかが重要になるわけやな」

恭子「まあ、そんなわけなので、オーダーは団体戦と同じにしてあります」

洋榎「え」

恭子「漫ちゃんが爆発して勝利をもぎ取れば御の字」

恭子「2勝して通過確定させないため狙われるでしょうが、受けの得意な由子ならなんとかしてくれるでしょう」

恭子「漫ちゃんが不発、由子がアカンとなっても、中堅戦は山場です」

恭子「1勝取った2チームが、最悪自分が負けても他チームが通過確定しないよう互いに潰し合うことが想定されます」

恭子「視野が広い主将が、上手くハイエナしてください」

恭子「で、副将戦は、2勝のチームが出ている場合は、実質1勝してるところ同士のタイマン」

恭子「2勝チームがいない場合は、特定のターゲットが作られない感じの乱戦」

恭子「もし3勝のチームが出てる場合も、とりあえずの1勝を目指してほぼ平らな乱戦です」

恭子「ここに、当然一番の戦力である絹ちゃんを投入します」

恭子「露骨な共闘やタイマン状況が生まれにくい場だからこそ、平の戦闘力がモノを言うはずです」

洋榎「はー、意外と考えとるんやな」

恭子「結果だけ見たら、団体戦と同じオーダーですけどね」

恭子「他のチームがどう考えてきてるかにもよりますが……」

恭子「少なくとも、私達にはこれがベストオーダーです」

洋榎「……ええやんええやん」

洋榎「さっすが知将やで」

洋榎「このままサクッと優勝して、世界最強の称号を手にインハイ乗り込んだろうやないか!」


【清澄高校控室】

久「と、いうわけで、面倒だからオーダーはインハイの時と同じになってるから」

優希「テキトーだじぇ」

和「信じられません」

咲「なんでこんな……」

久「まぁまぁ、硬いこと言わないの」

久「和だって、一応武術経験者なんでしょ?」

和「お父さんが護身用にと習わせてくれただけですっ……」

優希「でも、のどちゃんの型、すごく綺麗なんだじぇ」

咲「うん、私も河原で本を読んでる時に見かけたけど、すっごく綺麗だったよ……!」

和「綺麗だなんてそんな……///」 テレテレ

久「和の同時なさに型が組み合わされば、殴り合いの恐怖になんて打ち勝って演舞通りキレイに決められるわよ」

久「だいじょーぶだいじょーぶ、いけるいける」

まこ「適当じゃのー……」


和「それにしても、何故団体戦なんでしょうか……」

久「ああ、そのこと……」

咲「何か知ってるんですか?」

久「まぁね」

久「美穂子の読心術で、結構裏の話聞いちゃったからねー」

優希「なにそれすげー」

久「……団体戦で、上位2校勝ち抜けなんてぬるいルールなのは、全ては現行チャンピオンが挑戦を受けるための条件なのよ」

和「現行チャンピオン……?」

久「ええ」

久「男子高校生らしいんだけど、全ての格闘家で最強って話よ」

久「そして、最強ゆえ、ただの女の子相手には戦ってくれない」

久「じゃあ、どうするか」

久「どうしたら、受けてくれるのか」

久「……その条件が、団体戦なのよ」

和「話が見えませんが……」

久「優勝チームには、チャンピオンへの挑戦権が得られるわけだけど……」

久「チャンピオンは、別にチームは組んでないのよ」

優希「えっ」

久「女子高生最強の5人組VSチャンピオン1人――」

久「それでようやく、対等だって思われてる」

久「ナメられてるのよ、私達は」


久「いや――ナメてすらもらえてないわ」

久「私達が食卓に並ぶ魚や牛をナメてないように」

久「ペットの犬をナメないように、チャンピオンを私達をナメてすらいない」

久「むしろいたわり、傷つけないようしようとしている」

久「……その驕りを打ち砕きたいっていう女子高生サイドの願望の現れが、上位2校の勝ち抜けルール」

和「?」

久「ただ勝ち上がっただけだと、ラッキーだと思われるかもしれない」

久「普通に勝つだけだと、個の力は認めてもらえないかもしれない」

久「だからこそ、勝つハードルを低くした」

久「低くしたうえで、全勝を約束してる人がいるのよ」

久「同じ敵が対策を打ってきても遅れなんて取らない」

久「救済システムがあってもそれには一切頼らない」

久「そうやって強さを見せつけたら――自分のチームが優勝後のバトルでは、自分とタイマンをしろ、と」

久「5VS1の形式はとっても、仲間4人には静観をさせる、と」

久「そう言っている、馬鹿と勇者の狭間の少女がいるのよ」


咲「一体誰がそんな……」

久「……」

久「貴女もよくしている人よ、咲」

咲「え?」

久「人間とは思えない実力を持つ高校生最強雀士」

久「――宮永照」

久「貴女のお姉さんが、世界最強に挑むべく仕組まれたのが、この大会よ」

咲「ええええええええええええええええええ!?」


【永水女子控室】

巴「運良く白糸台とは逆ブロックになれましたね」

初美「インハイ以上に当たるとやばそうですからねー」

春「……?」

初美「ああ、ハルルは知らないんでしたね」

霞「白糸台の人達はね、“私達と同じ”なのよ」

春「???」

霞「彼女達は、“麻雀以外の何か”のスペシャリストなの」

初美「私達が降霊等の巫女技術のスペシャリストで、その技術を麻雀に利用していたように」

巴「この大会に参加する雀士達が麻雀技術を格闘技に転用したのと逆」

巴「即ち元々格闘技のプロだった人達が、その力を麻雀に使ってたって形ね」

初美「超強力なコークスクリューパンチとか、射撃とか、触手攻撃とか、釣り糸攻撃とか、栽培とか……」

初美「今回はあちらのホームグラウンドですからねー」

初美「巫女パワーでどこまで対抗できるか、日頃の成果の見せ所なのですよー」

霞「少しでも経験を積むためにも、決勝まで当たらないのは好都合ね」

春「なるほど……」

春「……」

春(栽培って格闘技なの……?)


春「それにしても……姫様が先鋒とは……」

霞「小蒔ちゃん、後ろの方だと変に気負っちゃいそうだから……」

初美「私までで2勝しておけば気負わずに済むとはいえ……」

霞「不安定な状態を長続きさせておきたくないものねぇ」

霞「試合直前に無理矢理眠らせるより、リラックスして自然に眠れた状態のまま送り出したいし……」

巴「そうなると、先鋒しかないんですよねぇ」

初美「ルールも、姫様の味方ですし、姫様の修行と思うしかないですよー」

霞「そうねぇ」

霞「幸い、勝利の基準は『他の全員が倒れ伏し戦闘不能になった状態で勝ち名乗りを上げること』だものね」

霞「最初にダウンしても、意識を手放しても、他の人達の乱戦中に起き上がれたら戦線復帰が可能……」

巴「二度寝も出来るかもしれないってことですね」

霞「ええ」

霞「……倒した相手をしばらく起き上がれないよう追い打ちかけれる性格じゃないから、このルールが裏目に出ないとも限らないけどね」


初美「っとと、そろそろ出番ですねー」

霞「前の試合、盛り上がってるみたいねー」

霞「データは十曽ちゃん達がとってるし、勝ち上がったら、対策も練らないとね」

小蒔「はい」

小蒔「……きっと、皆さん、油断できない相手です」

小蒔「全身全霊、敬意を持って当たりましょう」

四人「「「「……はい!」」」」


【廊下】

優希「……」

優希(聞こえてたじぇ、陰口)

優希(全部、ちゃんと、聞こえちゃってたじぇ)

優希「……」

優希(私が言われるのはわかるじょ、小柄だし、きっと無能に見えてるんだ)

優希(でも……)

優希(有力なのに出なかったりゅーもんぶちの皆や、長野の皆が馬鹿にされるのは、腹立たしいじぇ……)

優希(だから――――)


【会場】

恒子「さぁぁぁぁぁ! お次の試合はァァァァァァッ!」

恒子「インハイでは大注目、人気の2校が登場だァァァァァァッッッッ!!」

恒子「会場一番入りは、こちらぁぁぁッ!」

恒子「麻雀の名門姫松高校から、新進気鋭の2年生、上重漫ッッッ!!」

恒子「白虎の方角より登場だァァァァァァッ!!」

恒子「続くは青龍の方角ッッ」

恒子「麻雀でも格闘技においても無名ッ」

恒子「しかし少なくとも麻雀では風越龍門渕を破ったダークホースッッッ」

恒子「賭けるならここッッッ!!」

恒子「清澄高校片岡優希、マントをなびかせ今、入・場・どぅわああああああああああああッッ!!」

優希(私が勝って、長野のレベルが低いかどうか、思い知らせてやるじぇ――――ッ!)


恒子「続くは朱雀の方向より、永水女子神代小蒔の入場ッッッ!!!」

恒子「凛としながらも胸に宿した熱き炎が少女を不死鳥へと変えるのかァァァァァァッ!?」

恒子「そして残るはあと一名ッッッ!!」

恒子「余裕なのか、侮ってるのかッ!」

恒子「強者の証か愚者の証明かッ!」

恒子「宮守女子から小瀬川白望、今、玄武の方向より、面倒臭そうに入場だァァァァァァッッ!!!」

白望「……だる」

白望「……」

白望「でも……」

白望「負けてあげない」 ユラァ


恒子「それでは先鋒戦ッッッ」

恒子「ロボロルゥゥ~~~~~……」

健夜「ロボの要素何ひとつないよ!?」 ガビーン

恒子「ファイトオオオオオオオオオオ!」

健夜「そのまま始めちゃうんだ!?」

恒子「始まったからなー!」

健夜「バ、バトル開始ですっ」

さすがに眠たいし、キリがいいので寝ます。

ロン(物理)が実践されてしまうのか

あんま引っ張るネタではないし、ちょこちょこでも投下していきます


白望「……」

白望(寂先生が用意してくれた、対戦闘士のデータ……)

白望(警戒すべk――――)

パカン

白望「――――!?」

漫「ッ!」

漫(末原先輩の言うてた通りや……!)

漫(意味の分からん神代も不気味やけど、この場合、一番ヤバイのは――)

優希「お前ら全員、冥王星までぶっ飛ばしてやるじぇ!」

漫(様子見すらせず、手数で押してく清澄のこいつ――――ッ!!)


優希「誰がヤバいとか、囲まれたらヤバいとか……」

優希「そんなことは関係ないじぇっ!」

優希「タコスパワーが尽きる前に、手数で全員ぶっ倒すッ!!」 ガッガッ

漫「ぐっ……」

漫(今度は私っ……こいつ、節操なくやたら繰り広げてくるッ!)

漫(一発一発が的確でもないから堪えられはするけど、こうも数を出されちゃあっ……!)

恒子「おーーーーっと、ここで清澄片岡選手の……」

恒子「えーっと、これはなんですかね、小鍛治プロ」

健夜「知らないよ!?」

健夜「私格闘技とか別に詳しくないからね!?」

恒子「なるほど、小鍛治プロは我流デコピンで世界を取れるからそんな技術は必要ないと」

健夜「言ってないからね!?」


優希「じぇじぇじぇじぇじぇじぇーーーーーッ!!」

恒子「おーーーーーっと、激しいラッシュだーー!」

恒子「何かよく分かんないけどすごいぞーーーーーっ!」

本部「あれはカポエイラの一種だな……」

恒子「カポエラー……?」

本部「平たく言うなら、ダンスを取り入れた格闘技みてぇなもんだ」

本部「とにかくリズムに乗って連撃を繰り出し、動きを止めねぇ」

本部「慣れてねえと、反撃のタイミングが掴めないかもな」

恒子「っていうか、誰」


優希「ッッしゃ!」

ゴガッ

小蒔「……!」 バタ

漫(ぐっ、今度は突然の神代攻め……)

漫(さっぱりタイミング掴めへんっ)

漫(いっそタイマンに持ち込んだ方がラクなんとちゃうかこれっ!?)

漫(あっちへフラフラ、こっちへフラフラされたら堪らんで!)

優希「次ぃ!」 バッ

白望「ちょいタンm――」

優希「だじぇだじぇだじぇだじぇだじぇ」 ドゴドゴドゴドゴドゴ

優希「だっじぇァォラァァァァッッ」 ギャオン

ズガーーーン

恒子「すっげーーーー!」

恒子「何か人間がすごい勢いで吹っ飛んだーーーーー!!」


漫(いや、違う……!)

漫(ちょいタンマが入ってた……)

漫(ああなった時の小瀬川白望は――)

優希「――――!?」

白望「だる……」

漫(攻撃を受け付けないッッッ)

優希(確かに私の攻撃は威力より手数だけど……)

優希(こうまで効いてないとさすがにショックだじぇ……) ゴクリ


本部「消力(シャオリー)……か」

恒子「シャオリン……?」

本部「自己の体重すら消す極度のリラックス状態より生み出される柔の奥義……」

本部「本来あらゆる生物は危険を前にすると筋肉が硬直し、衝撃に備えてしまう……」

本部「しかしその反射にすら屈すること無く、脱力し続ける老練の技……」

本部「よもやあの若さで使いこなす者がいるとはな……」

恒子「はぁ……」

健夜「なるほど……」

健夜「力に逆らわず、衝撃を吸収することで、ダメージを限りなく0にした、と……」

本部「あそこまで激しく壁に叩きつけられても、おそらく骨にはヒビ一つないだろう」

恒子「???」

恒子「ええっと、小瀬川選手のシャオリンによる衝撃をさぁ吸い込んでくれ的な技が決まりましたーーーー!!」


恭子『永水の神代の厄介なところは、気絶した後、バトルスタイルを変えて復活してくる点』

恭子『もし早々に倒されていた場合、今回のルールだと復活前に残り2人を倒さないと……』

漫(清澄の片岡はチンパン)

漫(攻撃が通じなくても、ムキになってゴリゴリ手数で攻めていくッ)

漫(視野も広くないから、しばらくは宮守の小瀬川に押し付けられるッッ)

漫(なら私は今のうちに神代に追撃をしておいて、二人を横合いから殴りつけ――)

優希「おおっと、油断してたら駄目だじぇ」 シュバッ

漫「えっ、速――――」

優希「ケイシャーだじぇッッ!」

漫「タコスッッ!!」 ゴガッ

漫(は、話がちゃいますやん末原先輩……!)

恭子『しらんがな』


本部「ケイシャーダ……」

本部「オーソドックスな顎への蹴りだ」

健夜「結構、良い角度で入りましたね……」

恒子「何だかんだで格闘技に馴染んできてますね小鍛治プロ」

健夜「何にせよ、上重選手、苦しいですね……」

健夜「あの一撃は貰うべきではありませんでした」

漫「ぐっ……」

本部「ほう、まだ立つか」

健夜「動きも鈍っているでしょうし、ここからどうするのか見ものですね」

恒子「最後に意地の一撃を届かせられるかーーーーッ!?」

本部「まだ、終わっていない」

恒子「え?」

本部「あの構え……」

本部「他の二人を、一撃で沈めることすら可能ッッッ」

健夜「……長期戦では不利、手数で押されても捌ききれそうにない」

健夜「一撃で相手を連続で落とせるかが鍵ですね……」


漫(私の仕事は、爆発して勝つことッ)

漫(それが無理の場合でも、最低限の仕事はあるッ)

漫(2位争奪戦になった時を考えて、勝ち残る奴に痛手を負わせること……)

漫(勝者同士の戦いまでのインターバルが一番長いこの試合だからこそ、大ダメージを与えておかんとあかんッ)

漫(手数馬鹿でスタミナがない片岡ならええ)

漫(問題は、あの謎の防御を発揮する宮守と――) チラッ

小蒔「っと、少々眠ってしまっていました」

小蒔「ここからは――全力以上であたらせてもらいます!」 パァァァ

優希(あ……やば、起きてきちゃった……)

優希(この流れはヤバいじぇ……狙われるかも……!)

漫(意味のわからん永水ッ!)

漫「ここだけは、無傷で済ますわけにはいかんねんッ」

優希「ありゃ?」

優希(私を無視して永水のおっぱいおねーさんに行った……?)


小蒔「えええええい!」 トテトテ

漫「!?」

漫(何やあのフッツーのすっとろい歩きは!?)

漫(酔拳か何かか!?)

初美「あらー」

初美「姫様は完全にお目覚めのようですねー」

巴「早いね今回……」

霞「起きた小蒔ちゃんはフツウの頑張り屋さんだものね」

巴「今回は二度寝なさそうだし、包帯の準備と本家からお叱りの言葉受ける準備をしておいたほうがいいかもですね」

初美「もし惨敗しても私がなんとかしてしまいますよー」

霞「流動食レベルの敗北をしたら今日のおやつは抜きにしましょうか」

春「殺されなければなんでもいい……」 ポリポリ

初美「それもそうですねー」

霞「皆でのんびりと見守りましょう」


漫「コォォォォ……」

恒子「何かすげー呼吸してますね」

健夜「あの呼吸は……」

本部「あの構えといい、間違いない……」

漫「何か分からんけど、喰らってッ!!」

恭子「ぶちかましてや、漫ちゃん――――!!」

本部「彼女のスタイルは、八極拳――」

小蒔「!?」

漫「鉄山靠ッッ」

ドゴッ

恒子「と……飛んだああああああああああああ!!」

恒子「今度は神代選手がえげつない感じで壁に飛んでいったああああああああああああッッッ!!」

本部「八極拳士は一撃で相手を倒す……」

本部「"八極"とは"大爆発"のことだッッッ」


優希「うりゃりゃりゃりゃりゃぁ!」

漫「ぐっ……」

漫(小瀬川から先に、威力最大の技を叩き込んで沈めたいんに、邪魔しおって……!)

漫(小瀬川は、攻められるまでは常に見に徹しとるッ)

漫(休ませたらアカンっちゅーに!)

漫「ええい、もうッ!」

漫「八極拳に二の撃は要らんッ」

漫「あんたもぶっ飛ばしてから、タイマンで小瀬川を沈めるッッ」

優希「やってみろい!」


漫「うおおおおおおおおおッ」 コォォォォォ

優希「じぇじぇじぇじぇじぇじぇッ」 ガガガガガガガ

恭子「いけっ、漫ちゃんッッ!!」

漫「冲捶ッッッ!!!」

優希「タコスピニングバードキーーーーーック!!」

ドゴォォッ

恒子「何か肘と足とが激突したァァァ~~~~~ッ!!」

本部「その肘に頸を込めた冲捶と」

本部「カポエイラの花型であるエリコーピテロの激突……」

本部「一撃の威力は圧倒的に冲捶が上ッッ」

本部「だが――――」

漫「……」 シロメ

本部「手数で押して上手く頸を使わせなかったな……」

健夜「上重選手の経験不足も仇になった形ですかね……」

恭子「また不発やった……!!」 チッ


優希「ふ~~~~……」

優希「大分目も回ったけど……」

優希「よーーーーーーーーーーーーやく、タイマンだじぇ」

白望「……」

白望(いや……)

本部「……上重の発勁は不十分なものだった」

本部「そして、神代の動きにあまりにも基礎が無さすぎた」

恒子「へ?」

本部「鉄山靠は、本来防御を無視し相手の体勢を崩す技……」

本部「しかし、防御どころか本体ごと遠くに飛ばした」

健夜「とはいえ、その一撃で倒せるほどの頸は出来ていなかった、と……」

本部「うむ……」

白望(さっき、何かが雲散霧消した感じだったけど……)

白望(これは……なんだ……?)

小蒔「……」 ズズズ・・・

優希(巫女さん復活!?)

優希(しかもまた怖い感じになったじぇ……)


霞「あらあら」

霞「追撃も貰わず吹っ飛んだのが功を奏したのかしら」

巴「順番的に、次ってなんだっけ」

初美「ええっと、確か――」



小蒔「……」 スッ

白望(この距離から動作を――?)

小蒔「……」 スッシュッ

優希「この動き……」



初美「戦いと踊りの神――シヴァ、ですねー」


白望「……」

白望(清澄の人とは、また違う……)

白望(清澄の人はリズムに合わせてひたすら近くの人を攻め続けていた)

白望(でも永水の巫女さんは、こちらに強行してくる様子はない)

白望(ひたすらエンジンを温めるようにして、マイペースに舞っている……)

白望(放っておく方がまずいのか、それともカウンター待ちだから攻めない方がいいのか……) ダル・・・

白望(……ま)

優希「何かわかんないけど、ダンスなら負けないじぇーーーーッ!」 ダッ

白望(放っておいても清澄の人が突っ込んでみてくれるからいいか)


小蒔「……」

ヒュパッ

優希「じぇ……!?」

白望(清澄の人に反応したッ)

白望(でも、怯まない……)

健夜「上重選手は手数に動揺したり、衝撃を受けて頸を上手く込めれなかったりしていましたが、これは……」

本部「意に介していない、か――」

優希(これ、知ってるじぇ……)

優希(のどちゃんと同じッ!)

優希(格闘ゲームでいうアーマーみたいに、こっちの攻撃を受けてもまるで動揺したり――)

優希(動きが鈍ることがないじぇっ……)

優希(まるで周りが何であろうと、演舞を完遂するようにッ)

優希(お手本のような型での一撃が、来r――――)

ドッゴォ

白望「……飛んだなあ」

白望「……こっちから攻めるのだるいから嫌だし、あの人とタイマンしたくないんだけどなあ」


白望「……」

白望(あの演舞は脅威)

白望(止める気配もないし、型を崩すことも無理)

白望(消力でダメージをなくしても、あの完璧な舞を前に決定打をどう入れるか……)

白望「だるいなぁ……」 ユラァ

優希「おねーさん……」 ヨロ

白望「!?」

優希「そんなにだるいなら……変わってあげるじぇ……」 フラ・・・



まこ「まだ立てるとのう……」

和「あの巫女さん、私と似たようなスタイルですね……」

咲「とにかく綺麗な型で決して崩れないんだよね」

久「うーん、残った二人を戦わせて、決着つきそうな時まで寝て体力を回復してた方がよかったんじゃないかしら」

まこ「確かにそうじゃのう」

和「……」

和「優希は、ああ見えて見栄っ張りですから」

久「?」

和「ダンスと格闘技を融合させた、自分以上に戦士がいるのに――」



優希「黙って寝てらんないからなッッッ」


寂海王「ふむ……ここが正念場だな」

塞「え?」

寂海王「あの少女から、“スポーツ”の気配が消えた」

寂海王「スポーツとしてKOしようとしていた片岡君や上重君とは違う」

寂海王「淡々と、相手の肉体を壊す獣の匂い」

塞「ちょ」

寂海王「あの少女のように、シロ君が、どんな自体でも冷静沈着でいられるか――」

寂海王「動揺し、乱れた方が敗北する」

寂海王「片岡君がどれだけひどい壊され方をしても、動揺してはいけない」

寂海王「それが、できるかどうか」

塞「シロ……」


優希「うっ」 ゲッロ

ボタボタボタ

咲「血!?」

和「優希っ……!」

優希「おげぇ……タコス出ちゃったじぇ……」

優希(きっつー)

優希(趣味の延長のカポエイラじゃそりゃ勝てないじぇ)

優希(本職麻雀だし、別に負けても問題ないんだけどなー)

小蒔「……」

優希(……)

優希(でも……)

優希(のどちゃんと同じタイプ、なんだよな……)

優希(のどちゃんと……)

優希(ちっちゃい頃から、護身用にって、ずーっと真面目に続けてたのどちゃんと)

優希(……さっきまでそんな様子もなかったのに、突然何の苦もなく使いこなしてて……)

優希「……」

優希「まあ……黙って負けてはあげられないじぇ」


和「優希!」

久「インハイ出られなくなられても困るし、ヤバかったら言いなさいよ」

優希「……だいじょーぶ」

優希「やれる」

優希「いや……やりたいんだじぇ」

優希(……のどちゃん……) チラッ

優希(のどちゃんは凄いやつだじぇ)

優希(麻雀でも、格闘技でも、常に私より遥か前にいる……)

優希(それに美人だし、頭いいし……京太郎が惚れてるのも納得だじぇ)

優希(なのに決して驕らないし、私みたいな奴だって、笑って待っていてくれる……)

優希(共に、歩んでくれる)

優希(でも……)

優希(咲ちゃんのおかげで、わかったじぇ)

優希(私だけが弱いってこと)

優希(このままだと、二人で先に言っちゃうかもってこと)

優希(でも……不満だけ述べて、待ってもらってどうするんだ私ッ)

優希「ちょっとでも、のどちゃん達の背中に追いつく……」

優希「ここで、巫女のおねーさんぶっ倒せたら、胸張ってしばらくは横に並べるはずだじぇ……!」 グッ


優希(淡々と、何でもないように、のどちゃんみたいなことして……)

優希(ただ、変な能力のおかげで冷静なだけで……)

小蒔「……」 ヒュンヒュン

優希(……まあ、私のスタイルと、のどちゃんのスタイルの、融合体みたいなスタイルにはまァ……)

優希(負けられないわな)

優希「言いたいことは……いくつかあるじぇ……」 スタスタ

優希「ま、一言で言うなら……」 ザッ

白望(空気が変わった――!)

優希「本気にさせたな」


優希(タコスも全部吐き出したし体バキバキ、長くは持たないじぇ)

優希(だからこそッ!)

優希「肋くらい、くれてやるじぇ」

ボゴッ

優希「うぎっ……!」

優希(やっぱりのどちゃんすげーじょ)

優希(こーいう打撃受けても……)

優希「構わず……最後まで殴りぬくッ!!」 バコン

小蒔「……っ!」


本部「あの少女……“知って”いたな……」

恒子「え?」

本部「打撃を与えようと、何が当たろうと、あの巫女は“連撃の流れ”を決して乱さない」

本部「それを逆手にとり、どの攻撃を体で受け止めれば、次に何が来るのかを“知った”ッ」

健夜「それで、顎への一撃を通せる道を切り開いた、と……」

加藤「な・る・ほ・どぉぉ~~~……」

本部「口で言うのは簡単だが、実際にやってのけるとはな……」

恒子「ていうか知らない人が解説席に増えてる……」

恒子「……まあいいか」


優希「ふぅぅぅ……」

小蒔「……」 グッタリ

優希「今度こそ、ホントのホントにタイマン、だじぇ」 フラ・・・

白望「……そうだね」

寂海王「片岡優希……」

寂海王「是非欲しい才能だ……」

寂海王「片岡くんッッ」

寂海王「是非ともそのカポエイラの技術で日本の」

塞「やめてください試合中です」

エイスリン「シロ、ガンバレ!」


優希「強かったじぇ……」

優希(でも、足りない)

優希(のどちゃんにはあったけど、お姉さんにはなかったもの……)

白望「そんなボロボロでも、まだ勝つ気でいるんだね、やっぱ」

優希「当然」 フラァ

優希「逃げるわけ、ないじぇ」

優希「今の私は、のどちゃんの親友であるためだけに立ってるんだからな」

優希「今ならヒグマとだって戦れるじぇ……」 ザッ

白望「そう……」

優希「安いプライドだけどなっ」

優希「私はこいつにしがみついてるし……このためだけに、戦えるんだじぇ」

白望「うん……」

白望「……消力で逃げ続けてればその内倒れてくれるんだろうし、それが一番楽だけど……」 ユラァ

白望「ちょっとだけ、そのプライドに敬意を払って――」

塞「動いたッッあのシロがッッッ」

白望「私からも、迎撃しよう」

優希「上……等だじぇッッ」 グッ


観客である福路美穂子氏は後にこう語る。

美穂子「決着は一瞬でした」

美穂子「片岡さんが、持てる全ての力を持って突っ込んでいって――」

美穂子「対する小瀬川さんは、ゆっくりと、力を決して込めぬように右手を持ち上げていました」

美穂子「……ええ、そうです」

美穂子「フルパワーの片岡さんの蹴りと、撫でるように振られた手の甲とが交差したんです」

美穂子「そして、一方が観客席まで吹き飛ばされた――」

美穂子「……」

美穂子「ふふ……」

美穂子「あ、ごめんなさい」

美穂子「おかしくて、つい」

美穂子「確かに……普通にいけば、吹き飛ばされるのは小瀬川さんの方ですよね」

美穂子「消力でダメージを殺したとしても、飛ばされるのは小瀬川さん」

美穂子「誰もがそう思ったと思います」

美穂子「実際、真横に着弾された上埜さ――いえ、久も驚いてました」

美穂子「あ、久というのは、私の連れで、その、恋人かって言われると……///」 テレテレ

美穂子「え? 興味ない?」

美穂子「失礼しました……試合の話に戻ります……」


美穂子「私の“目”は確かに捉えました」

美穂子「交差するほんの一瞬だけ、小瀬川さんが力を入れたのを……」

美穂子「破壊力とは、力を入れた時の“振れ幅”ですから」

美穂子「そのスタート地点を限界まで下げた小瀬川さんの人無では、見た目の数百倍の威力を有しているのです」

美穂子「それこそ、体重の軽い片岡さんを観客席まで吹き飛ばすくらいに……」


久「…………ッ!!」

和「優希ッ」

和「優希ッッ!!」

白望「……だる」

恒子「け……決着ゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

恒子「なんとッ一無でッッッ」

恒子「強豪永水と姫松を抜いての先鋒戦ラストバトルは、一撫でで岩手の新星宮守女子が制したァァァ~~~~~ッッッ!!!」






【先鋒戦】
勝者 小瀬川白望(宮守女子)

末原さんがムエタイの達人()なのは間違いない


優希「…………はっ」 ガバッ

和「優希ッッッ!!」 ギュッ

優希「のどちゃん……?」

和「よかった……」 ギュウ

優希「……」 ポカーン

優希「……」

優希「……そっか……」

優希「私……負けたんだ……」

久「……ええ」

優希「はは……結局、役に立てなかったじぇ……」

咲「そんなことない」

優希「え?」

咲「ゆーきちゃんの戦い、ムダなんかじゃないよ」

咲「少なくとも――私は、ゆーきちゃんの頑張りを見て、勝たなきゃって思うようになったよ」

まこ「……じゃな」

まこ「わしらは麻雀部。肉弾戦で負けてもどうでもよかったんじゃが……」

まこ「よう見ちょれ」

まこ「今度こそ、仇、取っちゃるけぇ」


漫「…………」 ソー

恭子「何こそこそしとんねん」

漫「!!」ビクッ

漫「わ……わっ、うわー」 アタフタ

漫「え、えと、あの、その……」

漫「すんませんでしたっ!!!」 ガバッ

洋榎「いやー、ええよええよ。そういうもんやし」

由子「気にせんでええよー」

恭子「あっれー、書くもん持ってくんの忘れとったわー」

恭子「しゃあないなー、次回も駄目だったらそん時にまとめてってことにしとこかー」

漫「!」

漫「ほんまですか?」

郁乃「あら~末原ちゃん、文字書くモンいるの?」

恭子「代行!?」

洋榎「何でここに……」

郁乃「私、焼きごてなら持ってきてたよ~な気がする~~~」

漫「はい!?」


由子「さて私の出番よー」

洋榎「がんばれー」

恭子「ゆーこ……」

由子「岩手の留学生やね、わかってる」

恭子「外国人の身体能力は、侮れへんからな……」

由子「キーウィ対策はばっちりおまかせよー」


巴「じゃ、行ってくる」

初美「ファイトですよー」

巴「やっぱり宮守が一番“ヤバ”かったわけだけど……」

霞「普通に行けば、外国人や恵まれた体格の娘を有した宮守の通過はほぼ確定」

霞「宮守は無視して、他のチームを勝たせないのが得策だけど……」

巴「私達の目的は、あくまで修行」

巴「逃げていたら修行にならない……」

巴「真正面から、宮守女子、倒しにいきます」 フッ


エイスリン「~~~♪」 トテトテ

エイスリン「シロ!」 ポン

白望「……」

エイスリン「コータイ!」

白望「あー……」

白望「おんぶして」

エイスリン「……」 カキカキ

エイスリン「♪」 スッ

白望「その絵……」

白望「ふざけんなってこと?」

白望「すごい勢いで蹴られすぎてて絵の中でやられてる側首もげてるんだけど」

エイスリン「~~~♪」 シュッシュッ

白望「素振りやめて、歩くから……」 ダル


郁乃「フィッシャーマンちゃんやったっけ~?」

郁乃「ちょっと不思議なオーラがあるなぁ」

洋榎「過去の格闘歴を見た限り、おかしなところはなかったけどな……」

恭子「主将の目はフシアナですか」

絹恵「おねえちゃんの目はフシアナだしフシダラですよね」

洋榎「え、絹うちを何やと思ってるん」

恭子「確かに、おかしな戦闘スタイルではない……」

恭子「せやけど、彼女の経歴は――――」


胡桃「エイちゃんがんばー」

白望「もう帰っていいかな……」

塞「ダメでしょそれ……」

白望「どうせエイスリンが勝つしなぁ……」

寂海王「油断はいけない」

寂海王「自信を持ち、己や仲間を信じることは大切です」

寂海王「しかし、過剰な自信からくる油断は、大切な目を曇らせる」

白望「……すみません」

白望(でも……さっきすれ違った三人からは、神代のような異常さは感じなかった)

白望(あの3人じゃエイスリンに勝てないよなあ)


エイスリン「~~~♪」

白望(エイスリンは、試合巧者)

白望(望んだ“絵”をリング上で描ける)

白望(それに必要な実力もある)

白望(……しかも、今、ベストコンディションだ)

エイスリン(今日、先生ニ報イル……!)

エイスリン(師ハ、超エルコトコソ、最大ノ恩返シ……)

エイスリン(今ノ私ナラ、コノ場ノ4人ドコロカ、先生ニダッテ――――)

エイスリン(否ッッッ)

エイスリン(カツテ、先生スラ圧倒シタトイウ、烈海王ッッッ)

エイスリン「現在ノワタシハ烈海王ニダッテ勝テル!!!」


塞「でも……期待せずにはいられないよねー」

胡桃「だねー」

白望「才能は豊音にも引けをとらない……」

寂海王「ええ」

寂海王「私は幸運だった」

寂海王「何せあんなにも強く優しい娘を指導できたのだから……」

塞「はは、でも気持ちはわかるなー」

胡桃「先生が言ってた格闘技は知らなかったのに、まさかニュージーランドで格闘技はやってたなんてねー」

塞「国技となってる格闘技がないから、テキトーに選んだらしいけどねー」


寂海王「そこも実に僥倖だ」

寂海王「まさか彼女が“あの”格闘技を選んでくれているとは……」

胡桃「何って名前だっけ」

塞「正式名称で呼ばないとちょっとムッとされるからねー」 フフ

胡桃「えーっと、ムエ……」



寂海王「ムエカッチュアー」



寂海王「最強の立ち技格闘技であるムエタイの一種です」

もうこんな時間だし、最強の格闘技ムエタイ使いエイスリンの出番の直前ですが、キリがいいので今回の投下は以上とさせて頂きます

ちょろっと投下します


巴(我々女はナメられている……)

巴(体格や筋力……男には決してかなわないと……)

巴(故に我々の女子大会のみ、殺傷力のない武器の使用を禁じられていない)

巴(剣道三倍段という言葉があるにも関わらずッ)

巴(そうでもしないとチャンピオンはアクビ一つ我慢できない実力差があると言いたいらしい……)

巴(宮永照なんかは、それにも腹を立てたと聞くけど……)

巴(私は違うッ)

巴(単なる武器への依存でなく、武器と一体と化した武術は正当なる技術ッ)

巴(性別差にあぐらをかくチャンピオンに、容赦なく得物の強さを魅せつけるッ)

巴「ふぅぅぅぅ……」 ザッ

由子(あの娘だけ武器持ち……厄介なのよー)

エイスリン(アノWEAPONハ……確カ……)


まこ「ふうん……」

まこ(あのリーチ、ちょいとばかし厄介じゃのう)

まこ(じゃが――)



霞「巴流薙刀術……」

霞「彼女は、降霊に依存しない……」

霞「護身のための基礎格闘術でもない……」

霞「趣味と実益を兼ねて技を磨いてきた彼女に、果たして勝てるかしらね……?」 フフ



まこ(定番の型しか出来んようなら、わしの相手じゃあないわ) ニタァ


エイスリン「Come on……」 クイックイッ

エイスリン(WEAPON 必要ナシッ)

エイスリン(ムエカッチュアーis無敵ッッッ)

エイスリン(最強ノ格闘術デアルコトヲ、証明スルッッッ)

エイスリン「キャオラッッッ」 ゴッ



加藤「速いッッ」

本部「ムエカッチュアーは実践武術ッ」

本部「隙と予備動作の少なさが強みッッ」

本部「仮にパワーで劣る女子供であろうとも、隙をなくし絶え間なく攻撃を続ければ負けぬッ!」


エイスリン「!?」 グラッ・・・



健夜「いや……これは……」

加藤「カウンター……ッ!」



巴「……」 コォォォォォ・・・

巴(あの留学生の子は、強い)

巴(でもそれゆえに、とても“読み”やすい)

巴(圧倒的な力を持っていて、理想の絵図を描けてしまうから)

巴(狙いを隠す努力もしないし、得物持ちの私から派手に潰して主導権を握ろうとしてくる)

エイスリン「……!?」

巴(下段……狙うは足……)

巴(キックへの対応もだし、突きが来るにしても軸足を積極的に狙った方がいい)

巴(それでKOは厳しいけど、相手を気軽に動けなくする方が大事ッ)

巴(機動力を封じられて、なおかつ全員から狙われる勝ち星状況……)

巴(さあ、貴女の有利はなくなったわよ)

巴(メンタル的にも、ね……!)


エイスリン「グウ……」

エイスリン(近付キニク――)

ゴッ

エイスリン「アグッ……」

由子「うーん、やっぱり殴って昏倒させる程のパワーはないのよー」

エイスリン「SHIiiiiiiiiiiiiiiiiiiT!!」

由子「とりあえずの目的は、貴女を勝ち上がらせないこと」

由子「横槍バンバン入れるのよー」

エイスリン「……ッ」 ギリィ


洋榎「頼むでーゆーこー!」

絹恵「真瀬先輩って、格闘技も上手いんですか?」

恭子「相手を倒す身体能力があるか、と問われたらNOやね」

絹恵「え?」

洋榎「アイツは一応格闘技を習っちゃおるねんけどな」

洋榎「元々の性格的に、殴り合い自体向いとらんねん」

恭子「それでも過保護な父親によって、最低限の護身術を習わされた」

洋榎「ゆーこも父親のこと、めっちゃ好いとるからな」

洋榎「親が身を案じて習わせてくれたモンを、愚直なまでに練習した」

洋榎「由子は、派手な攻撃技を持たん」

洋榎「せやけど……」

洋榎「アホほど練習した廻し受けと、隙が少なく相手の攻撃を妨害する小技に長けとる」

恭子「勝てないとしても、そう簡単には負けない……」

恭子「少なくとも、勝ち上がる相手を選び、そして体力を大幅に削ってくれることでしょう」


エイスリン「グウウウウウ……!!」

エイスリン(何故ナンデWhy!?)

エイスリン(何故、通ラナイ!?)

エイスリン(私ノ……攻撃ッ……!)

由子「ふっ!」 マワシウケッ

エイスリン「……ッ!」

巴(ムキになって視野が狭くなってきてる……)

巴(可哀想に、才能に溢れすぎて、こんな目にあうのは始めてなのかな)

巴(今は、それより……)

まこ「ふーむ」

まこ「なるほど、全員の流派、なんとなーく把握できたわ」

まこ(あの頭にロケットエンジンみたいなの2つ乗せとる奴だけは、攻撃手段がたまに素人めいとるせいでちと厄介じゃが……)

まこ(他の奴のは見慣れとるわ)

巴(清澄……何故、壁に持たれて呑気に観戦しているッッッ!?)


由子(よし、防げてるのよー)

由子(清澄の眼鏡さんはずーっと休んでこっちに丸投げしてるけど……)

由子(永水の眼鏡さんは協力的)

由子(このままならキーウィがバテて脱落してくれるのy――――)



ドサッ



加藤「なッ……」

恒子「何だァァァァ~~~~~~ッ!?」

恒子「真瀬選手、突然のダーーーーーーーーウン!!」


エイスリン「フ……」

エイスリン「フフフ……」

エイスリン「ノォホホノォホヘラヘラアヘアヘ」

エイスリン「ヤッタッ!」

エイスリン「地道ナ蹴リガッッ」

エイスリン「実ヲ結ンダッッッ!!」



胡桃「やった、さすがエイちゃん!」

白望「……いや……」

豊音「これって……」

寂海王「エイスリン君の力ではない、な」

胡桃「え?」


本部「清澄、だな……」

加藤「え?」

本部「お前ではない」

健夜「今、清澄の染谷選手が、真瀬選手に攻撃を加えましたね……」

本部「廻し受けを妨害され、見事にプンホーをもらったな……」

健夜「腐っても立ち技最強の格闘技……」

健夜「真瀬選手は何が起こったかもわからぬ眠りに落ちたことでしょう……」

恒子「すこやん……格闘技実は好きなの?」

恒子「馴染むの早くない?」


エイスリン「NEXT!!」 ギャッ

まこ「ふう……」

まこ(先にわし、か)

まこ(手こずった武器持ちをタイマンできっちり倒して雪辱を果たそう、っちゅーところか)

まこ「じゃけんども――――」

ボッ

エイスリン「……」

エイスリン「!?」

エイスリン(倒レテル!?)

エイスリン(私!? イツノマニ!?)

まこ「ちーっとばかし、そいつぁ甘い考えじゃ」


巴(まさか、あの技――)



巴「――はっ!」 パチッ

巴(倒れてた!?)

巴(いつの間に!?)

巴(負け――)

巴(いや、まだ!)

巴(あの留学生の子が立ち上がってくれてたおかげで助かった……!)


白望「……」

白望「セーラーの学校はなんて言ったっけ……」

豊音「清澄!」

豊音「原村さんのいる学校だよー」

白望「清澄かぁ……」

寂海王「実に手練だ」

寂海王「是非とも連れて帰りたい」

胡桃「……でも、何が起きてるの?」

寂海王「ふむ、あの技は――――」


春「縮地法……」

霞「それもかなりの練度の……」

初美「武術としての縮地法でもありますけど、あれ……」

霞「そうね、私達のオカルトと同じ……」

霞「仙術としての縮地法も、ちょっとだけ混ざってそうね」

春「そして、あの花のなさ……」 ポリポリ

霞「陰の薄さ、戦闘力を感じないオーラ……」

霞「戦闘に頭を切り替えた状態では、意識をあまり向けられない存在」

霞「それが急に、射程まで飛び込んでくる――」

初美「何が起きたかもよくわからないまま、顎を揺らされて昏倒するわけですかー」

霞「超スピードで飛んできて脳を揺らされるのだもの」

霞「それこそ、時間がすっ飛びいつの間にか地面に寝ていた、くらいに感じているのかもね」


まこ(こいつらも、まともにやったらやられとったんかのぅ……)

まこ(……うん)

まこ(そりゃあもう気付いとった)



久(まこは全ての武術を覚えるのでなく、人の顔のように大まかなイメージの組み合わせとして)

久(あらゆる武術家の試合を覚えている……)



回想久『顔?』

回想まこ『そう……動きっちゅーか試合全体を人の顔じゃと思うんじゃ』

回想まこ『その顔が嫌いな顔……』

回想まこ『つまり不利な状況なら、好きな顔に歪ませりゃあいい……』

回想久『なるほど……』

回想久『一理あるし、私も整形しようかしら』

回想久『もうちょっとこう、ロリな感じに』

回想まこ『真面目に話聞いとった?』


まこ「まっ……」

まこ「超スピードで揺さぶれればええんじゃ」

まこ「これで十分じゃろ」

エイスリン「???」



加藤「え……」

観客「「「「「えええええ~~~~~~~!?」」」」」

恒子「で、デコピン?」



エイスリン「……ッ」 ムッカ

エイスリン「Fuckin Jap!」 ダッ

まこ「そっちから怒りに任せて突っ込んできてくれるんなら――」 スゥ

まこ「カウンターで揺らしやすいわ」 ピィィィン

エイスリン「……」 グラァ

ドシャッ


まこ「さ、あとはお前さんだけじゃ」 ザッ

巴「ぐ……」



久「外人にしろ武器持ちにしろ」

久「相手がまこの見知った顔しか作れないのなら――」



エイスリン「マ……ダ……」

まこ「おっと……」

まこ「眼鏡外すの忘れとったわ」 ニタァ

まこ「それと――とどめも」

エイスリン「グァ……」



久「まこは、そう簡単に負けないのよね」

まこ「おつかれ!!wwww」 メガネスチャー






【次鋒戦】
勝者 染谷まこ(清澄高校)

切りもいいし、今日の分は投下終了です。
エイちゃんも含め宮守の子はみんなだいすきです。

雑談スレにも捕捉されてたし、あんまり引き伸ばす内容でもないのでポツポツ投下していきます


恒子「次鋒戦大決着ーーーーー!!」

恒子「昼休みなんてねーぞお前らァ!」

恒子「中堅戦のためにも売り子さんの弁当食べとけーーー!」

健夜「宣伝が露骨だよ!?」

健夜「……それにしても、少々意外でしたね」

恒子「と、言うと?」

健夜「麻雀の腕と格闘技の技術は必ずしも比例するものではありませんが……」

健夜「よもや麻雀強豪校の2校がここまで遅れを取るとは……」

加藤「確かに残り2校は厳しいな……」

本部「確定で通過するには連勝が必須条件……」

本部「2位争奪延長戦に入れば、休める時間が少ない分不利なのは明白」

健夜「ましてや宮守高校の小瀬川選手や清澄高校染谷選手に目立ったダメージはありません」

健夜「残りの2校は予想以上に苦しいと思います」

恒子「はー」

恒子「麻雀では強豪のくせに格闘技ではドカスということでしたッ!」

健夜「そんな嫌な言い方してないよ!?!?」


エイスリン「――――――――ハッ」 ガバッ

エイスリン「夢オチ……夢オチデスノ?」

寂海王「現実だ」

エイスリン「……」

寂海王「認めねばなるまい」

寂海王「清澄高校の染谷まこ――彼女は強かった」

エイスリン「……」

エイスリン「ゴメンナサイデシタ……ッ」


寂海王「少々想定外の相手だった……」

寂海王「侮っていい相手ではなかった」

エイスリン「……ハイ……」

寂海王「隠せるものではないので正直に言おう」

寂海王「この一敗、決して痛くないわけじゃない」

寂海王「意地でも勝たねばならなかった」

寂海王「ムエカッチュアーが通じないのなら、画板で殴打するくらいすべきだった」

エイスリン「……」

寂海王「それが出来なかった」

寂海王「勝利より、己のムエカッチュアーへの自負が勝った」

寂海王「何としてでも、ムエカッチュアーで勝利する、という想いが」

エイスリン「……ハイ……」

寂海王「それでいい」

エイスリン「エッ」

寂海王「エイスリン君、君はまだ若い」

寂海王「公正なるリングの上で、勝利よりも拘りを優先できるのは、失うものが少ない若者の特権だ」

寂海王「……そうやって拘り敗北したことで、多くを得る」

寂海王「代償は安くない……しかし、その安くないということも含めて」

寂海王「様々なものを学習したはずだ」

エイスリン「……」

寂海王「才能溢れ、挫折もなく、今まで来られてしまったせいで、とても悲しいかもしれない」

寂海王「だがしかし――負けたことがある、というのは、いつか大きな財産がある」

寂海王「無敵なだけでは虚しいぞ」

寂海王「今は、とりあえず飽くまで泣いて、そして引きずらず、しかし忘れぬようにしなさい」

エイスリン「ハイ……」 


胡桃「私とトヨネがなんとかするからエイちゃん大丈夫!」

塞「私は!?」

胡桃「土でも食べて休んでていいよ」

塞「戦う方が何倍も気がラクなんだけどソレ」

豊音「今までエイスリンさんにだいぶ助けられてきたんだから」

豊音「1回や100回どってことないよー」

豊音「むしろまだまだプラスすぎ!」

胡桃「そうだよ」

胡桃「塞に怪しいマルチ商法食品売りつけたとしてもお釣りくるレベルの貢献度なんだから」

白望「泣かれるとダルいからあんまり泣かないで」

エイスリン「……」 ポロポロ


久「バナナよし」

久「トイレよし」

久「生命保険よし」

久「鉄パイプよし」

まこ「何しに行く気じゃ」

久「さーて、そろそろかな」 ビュンビュン

和「ちょっ、室内で鉄パイプを振り回さないでくださいっ」 アワワ

久「あ、スッポ抜けた」 スポーン

ガイーン

咲「きょ、きょうちゃーーーーーーん!」

優希「バカ犬ーーーーーー!!」

久「……セコンドの怪我って保険の対象だったかしら……」 アチャー


久「……そろそろかな!!」

まこ「もう行くんか」

和「まだインターバル余裕ありますよ……?」

咲「っていうか京ちゃんが! 京ちゃんが!」

久「早く人を打ちたくて気が急くのよ……!」

まこ「そのフレーズやばい」

久「あと須賀くん目をさましたら何か気まずいから……」

まこ「そこはちゃんと目ぇ見て謝っとけ」

久「はい」

久「ま、まあ、とりあえず、行ってくる!!」

咲「何だか部長……変な感じだったよ……」

まこ「……」


恒子「青龍の方角から、早くも竹井久の登場だァァァーーーーーーッッ」

久「うっわ、ひっろ……」

ワァァァァァァァァァァ

久「~~~~~~ッ!?」



久( うわっ    やばっ   なにこれっ

        人   広ッ  つか多ッ

 えっ   うひゃー   声援すごっ

    やべ~~~っ  人

  すごっ   うわっ     え~~~~っ!?)



久「……ハッ!」

久(ヤバい――――)

恒子「各選手、出揃ったァァァーーーーーーッッ」

ワァァァァァァァァァァッッ

久(私、今――ここに何分突っ立ってた――――!?)


久(まこと、あとついでに優希のおかげで、今ここにこれだけのアドバンテージがある――……)

久(大事にしなきゃ……)

久(麻雀で繋がった皆もきっと見に来てる)

久(勝たなきゃ――……)

久「……」 ゴクリ

久(なんでだろう)

久(今ここに居て寂しいと感じる)

恒子「中堅戦開始ィィィィィ!!」

久(なんで……!)


久「……」 ジリ……

健夜「少しずつ、それぞれが距離を縮めていますね……」

本部「この試合、各々が少々特殊な構えをとっている」

本部「それ故に、間合いを測りかねているのだろう」

久「……」

洋榎「……」

洋榎「おい」

洋榎「なァ、清澄はん!」

洋榎「見えてんで……」

久「え」

洋榎「パイパンチェックや」

久「あ」

久(うわ~~~~~~っ!!)

久(こんなっ……)

久(トイレの後にタイツでスカート巻き込んじゃうなんて、小学生以来だわ……!!)


洋榎(これがあの龍門渕を倒した清澄の最多得点プレイヤー……?)

洋榎(緊張してんのか~)

洋榎(格闘技は素人なんか、観客に囲まれるのに慣れとらんのか……)

久「ちょいたんま!」

久「スカートだけ出すから、攻撃なしね! ね!」

洋榎(それとも単にアホなんか……)

洋榎(少し残念やわ……)

胡桃「そんな隙だらけのとこ……」

胡桃「狙わないわけないじゃんッ!」 ダッ

胡桃「身長の恨みィ!!」

洋榎「じゃーいっちょ景気付けいっとこか!」

洋榎「出鼻くじきキーーーーック!!」

胡桃「うぎゃ!?」

久「あら」

洋榎「さっさとスカート直し」

洋榎「そない情けないカッコの奴倒したっておもんないからな」


洋榎「と、いうわけで、お色直しの間、うちの相手してもらおうか~」

洋榎「先んずれば人を制す、や!」

洋榎「まあワンパンでのしてもあれやから、手は抜いてある」

洋榎「かかってこい」

洋榎「相手したるで」

胡桃(バカみたい!!)

春「……」

洋榎「いくでー?」

洋榎「一発いくでー!」

胡桃「くっ……」

胡桃(ゆっくりと歩いて……)

胡桃(バカにされてるッ!?)


洋榎「どりゃー!」

胡桃「わっわわっ!」



加藤「……」 ポカーン

恒子「あの、あれは……」

本部「……テレフォンパンチだな」

恒子「てれ……?」

恒子「ええっと、愛宕選手の必殺テレフォンパンチが決まったァァァーーーーーーッッ」

本部「……必殺などではない」

本部「多少キレはいいが、素人丸出し……」

加藤「ってぇことは……」

本部「ああ、間違いあるまい」

本部「殴った方も、そしてそれすらまともに受けれなかった方も、共に素人ッッ」

恒子「えええええ~~~~~~~!?」


春「……」

春(あの二人は素人……)

春(丸見えタイツの人は……?)

春(……)

春(いずれにせよ、素人が相手なら、負けるわけには……)

春(……)

春(とはいえ、あまり乱戦には向いていない……)

春(適度に強者を落とすのに協力しながら、ヒットアンドアウェイでいく……!)


洋榎「喰らえッ!」

洋榎「小学生時代、休み時間にずーっと鍛えた必殺技ッ」

胡桃「ぐっ……」

胡桃(別にすごい動きとかじゃないのに、全然振り払えないッ)

胡桃(これが……これが体格差ッ……!?)

洋榎「パロ・スペシャルーーーーーーーーーーーーッッ!!」

胡桃「ッッッッ!!!」 ビキビキビキィ

洋榎「どや」

洋榎「姫松のファイティングコンピュータとはうちのことやで!」

胡桃「ぐっ……」

洋榎「どやー参ったかー?」

洋榎「素直にギブアップするなら、大人しく開放したるで」 ギッシギッシ

胡桃「……ッ」


胡桃(痛い……苦しい……)

胡桃(ばっかみたい……格闘技なんて……)


エイスリン『ゴメンナサイデシタ……ッ』


胡桃(……多分、負けても、皆、何も言わないんだろうけど……)

胡桃(エイちゃんだって、ボロボロになるまで戦ってた……)


寂海王『君の場合は小柄すぎるため、大怪我を負わぬための体づくりをさせていた』


胡桃(期待されてないのはわかってる……)

胡桃(でも……出るな、とは言わなかった……邪魔者扱いはされなかった……)

胡桃(数合わせでも、必要とされてるんだ……)

胡桃(ばかみたいだけど……)

胡桃(ちょっとくらいッ……気持ちには応えたいッ……) ギリィ


塞「胡桃ッッ」

塞「意地はらなくていいから!」

胡桃「塞……」

塞「ヤバかったらギブアップして!」

胡桃(……塞……)

胡桃(そんなこと言ってるくせに……)

胡桃(どうせ塞は、限界くるまで頑張っちゃうんでしょ)

胡桃(……知ってるよ)

胡桃(塞は、そういう奴だって)

胡桃(麻雀でも、格闘技でも、自分をすり減らしてでも、皆のこと考えて、頑張っちゃうんだもんね)

胡桃(……だからこそ……)

胡桃(あっさりと、負けてあげるわけにはいかないよ……!)

胡桃(もう、塞には苦労をかけたくないッ)

胡桃(塞に、命を磨り減らせたくない……ッッ!)

胡桃(やらなきゃ、ダメなんだッ)

胡桃(塞を楽させるためにもッ!)

胡桃(私がエイちゃんの分を取り戻して、豊音が決めないとダメなんだ……ッ!)


塞「胡桃!」

胡桃(じゃないと……)

胡桃(胸張って塞の横を歩めないッ……!) グググッ

洋榎「!」

洋榎「やめとけ、無理に外そうとすると辛いだけや」

洋榎「さっさとギブアップせぇ」

洋榎「痛い目見ることもないやろ」

胡桃「……から」

洋榎「?」

胡桃「……そーゆーのいーから、かかってくる!」

洋榎「……阿呆が」


洋榎「ほんまにこの腕へし折るで!?」

胡桃「……やってみなよ」

洋榎「この……アホチビ!」

胡桃「アホなのは……お互い様……!」

ドガッ

洋榎「ぐえっ!?」

春「隙だらけ……」

胡桃「背後には気をつけた方がいいよ」

胡桃「バトルロイヤルなんだから……!」

春(……この小さい子はいつでも倒せそう)

春(無勝の姫松から潰すのも何だけど、一方的に宮守だけを落とす理由もな――)

ガィィィィィン

春「……!?」 ガクッ

久「いやはやまったくその通りだわ」

久「これはバトルロイヤル」

久「背後には気をつけなさいな」 クックック

春(鉄……パイプ……!) ギリッ


久「さあ、残るはオチビさんだk――――」

ドゴッ

久「あたっ!?」



恒子「おおっとー!」

恒子「立ち上がった愛宕選手による、強烈なタックルだーーー!」



久「!」

洋榎「なんやそのツラ……」

洋榎「復帰気配を微塵も感じ取れへんかったんか……?」

洋榎「あんまりデクすぎるとつまらんなぁ」

久「……!」


恒子「何か地味な技が決まったァァァーーーーーーッッ」

本部「テキサスクローバーホールドか……」



久「ぐうっ……」 ギリギリ

久(まずいわ……)

久(いくら和と咲でも全国の相手は厳しいと思う)

久(だからこそこの中堅戦で勝利を決めておきたい)

久(それが今どうなってる……!?)

久(圧勝どころか逆に惨敗、いいとこなし……)

久(これ……このままじゃ……)

久(敗退……!?)


洋榎「あんたら全員、本職は麻雀や」

洋榎「こんなことで怪我してインハイ棒に振りたないやろ」

洋榎「さっさとギブアップせぇ」

洋榎「一人だけ武術経験者っぽいのがまともに動けん間にギブアップしてもらえると助かるしな」 ギリギリ

洋榎「勝てへんことは、わかっとるやろ」

胡桃「ぐっ……」

胡桃「なめないで!」

胡桃「ヤる前から諦めるわけないじゃん!」 ザッ

洋榎「まだ体バッキバキやろ、大人しくしとれ」

洋榎「大体この体格差で勝てるわけあらへんやろ」

胡桃「うるさいそこっ!」

洋榎「」

胡桃「チビチビチビチビ言ってくれちゃって!」

胡桃「ナメられっぱなしで終われるわけないでしょ!」


久「いや……多分、ナメてすらいない」

久「ガチの善意から忠告だわこれ」

洋榎「おっ、よー分かっとるやん」

久「こんだけ綺麗に極められてたら、そりゃあね」

洋榎「うちは素人」

洋榎「とは言え姉妹でようプロレスごっこはしたからな」

洋榎「簡単には負けへんつもりや」

久「ええ……実際私じゃまともにやって勝てそうにはないわ……」

胡桃「だとしても……」

久「多分、私らじゃ、ナメてもらってすらいないのよねぇ……」

胡桃「?」

久「私達が魚や牛をナメていないように……」

久「私達は、ナメてすらもらえていない」

久「いたわられてすらいるのよ……」

胡桃「それをッ……」

久「?」

胡桃「そーゆーのを、ナメてるって言うんだよッ……!」


胡桃「確かに私はチビだし、無能かもしれない」

胡桃「麻雀だって上手くない」

胡桃「でも……一緒に戦いたい友達がいるんだ……」

胡桃「胸張って、並び歩かなきゃダメだから……」

洋榎「……まだ来る、か」

洋榎「チビのくせに、ようやるやんけ」

胡桃「クソチビ、か……」

胡桃「否定はしないよ」

胡桃「でも……」

胡桃「この世に生をうけて、アンタのようなやつらになめられっぱなしじゃ、生きてる甲斐がないんだよ――――っ!!」

恒子「いった! いった! 鹿倉選手がいったー!!」


久(そうか……)

久(この子は……本職じゃない格闘技でも、譲れない何かがあるんだ)

久(それを譲って、つまらない人間に成り下がってまで五体満足でいたくはないんだ……)

胡桃「やあ!」

洋榎「ちぃっ!」

久(……拘束がとけた……)

久(そういえば、つまらないって、さっき誰かが言ってたな……)

洋榎『あんまりデクすぎるとつまらんなぁ』

久(あの娘も……楽しもうとしてるんだ……)

久(……私、勘違いしてたかもね……)

久(信州の皆とか……応援してくれる皆とか……チームメイトとか……)

久(大事は大事だけど、そうじゃない)

久(本職じゃないからとか、怪我を避けなきゃとか、そんなんでもない……!) ググッ

洋榎「!」 ゾクッ

胡桃「くっ……」

胡桃(まだ立つんだ、さっき心折れかけてたのにっ)

久(この場はまず自分……!!)

久(私自身が楽しめなきゃ――始まらないわ……!!)

きりは悪いですが、一旦投下を終了します

ちょっとだけスローペースで更新します


久「私自身が楽しむッ」

久「ヒャッハー! 汚物は消毒よーーーー!!」



恒子「げーーーーっ! 炎を吹いたーーーー!!」

健夜「いつの間にか口内にアルコールを含んでいたようですね……」




洋榎「おわっ!」

胡桃「ちょお!?」

久「派手にやるわよーーー!」

春「させ……ない!」

ドガッ

久「!」


洋榎「ほう、もう立ち上がるんか」

久「意外と頑張るじゃない」

久「味があるのにしつこすぎない……いい感じの対戦相手だわ」

春「それが自慢……」

洋榎「せやけど……」

洋榎「あいにくすぐさま退場やで!」

洋榎「一番格闘技の心得あるっちゅーのは構えでわかるからなあ!」

春「……」

ヒュバッ

洋榎「!」

久(この子、また……)

胡桃(やっぱり、狙って相手の動きの起点になる場所を抑えてる……!)

洋榎「そうやって、膝やらを封殺して攻撃を凌いで軽く殴るんやったか」

洋榎「清澄には通用したみたいやけど」

洋榎「一緒にしてもろたら困る」

洋榎「格が違うわァ!!」 バッ

胡桃(力で弾き飛ばした!?)

春(いや、これは――――)


健夜「一見すると力任せのようですが……」

本部「上手く力を逸らしているな……」

本部「元よりか細い女の足」

本部「少々軸をずらしてやるだけで、足は滑り力はそれる」

本部「それたのを見てから、力任せに足を上げるだけで、相手の封殺をかいくぐるのは格段に楽となる……」

健夜「ああ見えて、意外と考えているようですね……」


春「くっ……」 ズザッ

洋榎「深追いせず、か」

洋榎「いっちゃん格闘技の心得あるのにそんな慎重でおもろいんか自分」

洋榎「かかってこいやー」 ホレホレ

久(お望み通り背後から殴ってあげよっと) コソコソ

春「……」


回想初美『うっきゃー!』

回想初美『地道に降ろして溜めたゲージ技をそんな小キックで潰されるなんてー!!』

回想春『……』 ドヤァ

回想初美『もう! そんなプレイして楽しいですかー!?』

回想春『……うん』

回想春『楽しい』

回想初美『……むー』

回想霞『楽しいなら、それでいいのかもね』 フフ

回想春『……うん』



春「……うん、楽しい」 ヒュバッ

久「!?」

久「とと……ここは大阪をまず潰す流れじゃないの?」

春「……大阪はまだ一勝もしていないし、武器を平気で使う人は残すのが怖い」

久「言ってくれるわァ」


初美「出ましたねー、はるるの必殺技!」

霞「ああしてジワリジワリとダメージを与えるヒットアンドアウェイこそが魅力だものねー」

巴「それをコツコツ鍛え続けて、今や免許皆伝ですからね」



春「スナイパー空手皆伝・滝見春――――参る」 ザッ


久「上等ォォォ~~~……」

久「相手は武術の免許皆伝ッ」

久「こういう逆境でこそ、私は燃える女なのよねえ!」 バッ




洋榎「……さーて、あっちはタイマン」

洋榎「ウチはタイマン邪魔するような無粋はあんまりせーへん派やねん」

洋榎「ちゅーわけで、悪いね」

洋榎「アンタが不利だろうが、付き合うてもらうで、タイマンッ」


洋榎「必殺・たこ焼キーーーーック!!」

胡桃「あぶぁっ!」

洋榎「ふっふーん」

洋榎「こんな力に全振りした隙デカイ蹴りもさけられんか」

洋榎「ギブアップならまだギリギリ受け付けとるでぇ?」

胡桃「冗談……ッ」

洋榎「クソチビが、さっさとギブアップしてくれたらウチも嫌な思いして人破壊せずに済むっちゅーのに」

胡桃「誰が……クソチビだっ……!」


胡桃「言ってるでしょっ……!」

胡桃「なめないでよ!」

ドガッ

胡桃「私はっ……」

胡桃「単なる数合わせじゃないっ……!」

ドゴッ

胡桃「わた……しだって……!」

胡桃「宮守女子のメンバーなんだっ……!」

スカッ

洋榎「!」

恒子「避けたッ!」

健夜「動き自体は単調ですからね」

本部「小回りがきく体格なのも功を奏したな……」


胡桃「……ッ」

胡桃(よろけた……いや、でも、倒れないッ)

胡桃(回転は力ッ)

胡桃(このまま一回転して――)



健夜「漫画とかではたまにありますが……」

健夜「避けた勢いで回転しての攻撃、意味があるのでしょうか」

本部「ベテランの闘士がやるならともかく……」

本部「あの程度の速度と力ではさほど効果は見込めまい」

本部「避けるのも容易い」

本部「だが――」



洋榎「くっ……」

洋榎(避ける?)

洋榎(……避けられるかいッ!!)

洋榎(ここまで綺麗に回避されて、渾身の一撃を繰り出してきたなら――)

洋榎(真正面から、受けきるッ!)


胡桃「っああああああああ!」

洋榎「こいやああああああああああああああ!!」

バッチーーーーーーーーーーーン

洋榎「……」

洋榎「~~~~~~~~ッッッ…………!」



恒子「こ、これは~~~~!?」

恒子「ッッッ効いてます!!」

恒子「なんてこと無い一撃が、愛宕選手に効いていますッッッ!!!」

本部「鞭打、か……」

健夜「鞭打……?」

本部「人間が鍛えられない皮への打撃……」

本部「その効果は体格差や筋力に影響を受けにくい、所謂女子供の攻撃ッッ」

加藤「事実女子供であるあのちびっ子のたかが鞭打でもあの痛がりよう……」

加藤「真っ向から思いっきり受けたのが裏目に出たか……?」


胡桃「っっっりゃあッッ」

バシィィィーーーーーーーーーーーン

洋榎「ぐうっ……!」

洋榎「鬱陶しいわッ」 ドガッ



恒子「前蹴りィィィーーーーーッ!」

恒子「シンプル! そして単純ッ!」

恒子「だがしかし、体格差のせいで結構なダメージに見えるぞォォォーーーーーーッ」



胡桃「ま……だまだァ!!」 ガバッ

洋榎「来いやオラァ!」


塞「……胡桃……」 ギュッ

寂海王「……彼女は、確かに体格的に恵まれていない」

寂海王「だが――彼女には、戦士として最も大切な精神がある……」

白望「……」

寂海王「タオルはしまいなさい」

寂海王「我々は見守るしかあるまい」

寂海王「彼女が諦めない限り、我々が彼女を敗北に追いやるわけにはいくまい」

塞「……はい……」

塞「……胡桃……」


回想胡桃『ふうん、塞も大変なんだね』

回想塞『まーね』

回想塞『自分で言い出したことだし、大変なのはしょうがないけどさ』

回想胡桃『……しんどくなったら辞めても大丈夫だからね?』

回想胡桃『頼ってくれたっていいしね!』 フンス

回想塞『……頼りに、ねえ』

回想胡桃『うわ、なにその目』

回想塞『べーつにぃ』

回想胡桃『大体塞は真面目すぎるんだよ』

回想胡桃『馬鹿正直に真っ向から問題に挑んで潰れてたら元も子もないよ?』

回想胡桃『逃げたら終わりってわけじゃないし、真っ向からじゃなくても解決はできるかもしれないんだし』

回想塞『……ん』

塞「……」

塞(馬鹿みたい)

塞(ちょっと冷静なフリしておいて、あんたが一番ムキになるし、真っ向から勝ちたがってるじゃん……)

塞(そんなことしなくても、私も皆もあんたを認めてるってのにさ)


胡桃(負けられない、負けたくないッ) ドガッベシッ

胡桃(例え恵まれない体でも!)

胡桃(ナメられるような能力でも!)

胡桃(女子供と侮られようと!!)

塞(……それでも、アンタがやりたいなら)

塞(譲れないもののために、逃げないことを選んだならッ)

塞(私も、止めたいのを我慢するから!)

塞「――やっちゃえ」

胡桃「やっちゃえ女の子ォ!」

恒子「いったーー!! まだ粘るゥゥーーーーー!!」


春(向こうは意外に小さい子が粘ってくれてる)

春(こっちは確実なスナイパー空手が効いてるおかげで五体満足)

春(愛宕洋榎にはスナイパー空手をかわされたけど、疲労の差で押しきれるッ)

久「っしゃあ!」

春「ヒュッ!」 スナイプッ

久「ぐっ……」

久「ちょこまかちょこまか細かいことをォ!!」

春「それが自慢……」


久「まだるっこしいのって、嫌いなのよねえ……」

久「そんなに、私の膝にジワジワダメージ与えなくても――――」

ドガァッッ

春「!?」

恒子「な、なァァァァ~~~~~~~ッッ!?」

恒子「なんとォォォォッ! 竹井選手ッ!!」

恒子「自らの足をッッ!!」

恒子「スナイパー空手で散々踏まれた己の足をッッッッ」

恒子「自ら鉄パイプでめった打ちにし始めましたッッッッッ!!!」

久「……ほーら、もう足ボロボロよ」

久「手間、はぶけたでしょう?」 ニタァ

春「……!」 ゾゾゾッ


久「さああああ……スナイプする対象がなくなったけど、どーするのかしらぁ?」

春「そ、そんな自らダメージを負ってどういうッ……」

久「あら、知らなかったのかしら」

久「私、ここぞってときこそ、こーいう不利な状況でこそ燃えちゃうのよねぇ~~~~……」

久「やっぱり圧勝ばかりより、こういう勝負が燃えるわぁ」 ククク

久「足ばかり狙われたことに意味があると考えさせてもらったわぁ」 フラァ

春「……ッ!!」



初美「うわ……はるるが動揺してる……」

巴「黒糖を盗み食いされた時とか鬼界を寝ぼけて召喚した時くらいしか動揺しないのに……」

巴「珍しい……」

霞「不味いわね……」

霞(スナイパーに求められるのは、冷静沈着さと、正確な射撃)

霞(動揺によって2つを奪われたとなると――――)


久「ほ~ら、ゆっくり近づいてるわよぉ」

久「間合いに入っちゃうわねえ」 ユラァ

春(ど、どうすれば……)

春(やって大丈夫?)

春(いや、でも、鉄パイプ振り上げ――)

春(仕方ないッッッッ)

春「スナイプッ!!」 ギャッ



加藤「甘いッッッッ!!」

本部「骨折者相手という負い目が技を鈍らせたな……」


久「いッッッッッッッッッッ……」

久「たいわねコノヤロウッッッッ!!!」

ズガァッッ!!

春(ぐ……あ……)

春(姫様……師匠……)

春(申し訳……) ドサッ



恒子「な、ななななんとォォーーーーッ!!」

恒子「唯一の武道経験者を、骨折後の竹井久選手がK・Oーーーーーーッッッ!!」

本部「……躊躇をしなかったのが大きかったな」

加藤「しかし……」

加藤「あの怪我で、残った一人とやれるんですかね」

本部「さぁな……」


久「っちち……」

久「あっちも、もう終わるみたいね」

久「その前に……と」

恒子「?」

久「ちょーっとすみませーん」

恒子「はい?」

久「いや、殴りすぎて鉄パイプ歪んじゃったんでぇ」

久「ついでに足の怪我のせいでこの鉄パイプは杖にしたいというかなんというかぁ」

久「……ソレ、借りてもいいかしら」

恒子「えっ」


胡桃「くっ……!」

胡桃(体が……さすがに……)

洋榎「なんぼなんでももう動かれへんやろ、粘りおって……」

洋榎「なかなかやるやんけーー」

洋榎「鹿倉胡桃、やったか」

胡桃「…………!」

洋榎「お前はムカつくクソチビや」

洋榎「せやけど……認めたる」

洋榎「お前は、戦士や」

洋榎「うちの前に立ちはだかった、立派な“ぶっ飛ばすべき敵”や」

洋榎「その名前、しっかり胸に刻んどいたるわ」

洋榎「あと、あんたの墓石にものな」

胡桃「余計なお世話ッ……!」 グググッ

洋榎「まだ立つ気か……さすがやな」


洋榎「終わりにしたる」

洋榎「情けはかけん」

洋榎「お前がどんだけクソチビやろうとな」

洋榎「んな余裕はないと判断させてもらうで」 ヨッコイショ

胡桃「!?」

胡桃「くっ……下ろして……!」 ジタバタ


恒子「あーーーーーっと、愛宕選手、鹿倉選手を担ぎ上げたーーーーッッッ!!!」

健夜「あの技は……?」

本部「……あれは既存の技ではない」

恒子「つまり、所謂オリジナルフェイバリットと?」

本部「そういうわけでもあるまい……」

本部「あの構えから如何に繋げようと、効率的にダメージを与えられるとは思えぬ」

本部「……先ほどまでが小学生のわんぱく小僧が見様見真似で休み時間に挑戦するプロレス技だったとしたら」

本部「今度のこれは、効果などまるで考慮されていない小学生の考えたオリジナル必殺技……」

健夜「素人が適当にリフトアップしてるだけ、と……」

本部「そういうことだ」

恒子「はぁ……」

恒子「愛宕選手はプロレス技使いでもなければプロレスラーですらなかったんですねー」

恒子「あんなに派手なプロレス技を使ってたのに」

本部「…………」


本部「そもそもに……」

恒子「?」

本部「プロレスの定義自体が非常に曖昧ッ」

本部「試合形式が定義されてはいるが、格闘スタイルにおけるプロレスに明確な基準はないッ」

恒子「それは、プロレスがショーだからってことで?」

本部「勿論ショーではある」

本部「しかし、だからと言ってプロレスラーはファイターではないなどというのは暴論ッッッ」

本部「プロレスラーが格闘においても強きことは既に先の最強トーナメントにおいて猪狩完至も証明済ッッッ」

健夜「しかし……プロレスラーも戦い方は千差万別……」

健夜「プロレスといえばこれ、というのはありませんよね」

加藤「……共通スタイルがないわけじゃあない」



恒子「と、いうと?」

本部「猪狩のように、己の描いた絵図通り試合を運ぶのには圧倒的な実力が必要……」

本部「逆に言えば、脚本(ブック)を書くには実力と、そしてその実力への圧倒的な盲信が必要」

本部「そして、あの攻撃を全て喰らうというプロレスラー独特の立ち回り……」

本部「そこにも、己の肉体への圧倒的信頼が必要ッッッ!!」

本部「身を守るがためのッ! 護身かために在る武術とは対極に位置するスタイルッッッ!!」

加藤「それだけじゃねぇ……」

加藤「己への圧倒的自信だけなら、トーナメントに出るような奴なら誰でも持ってらァ」

加藤「アイツラは……レスラーってのは、戦う相手にも圧倒的な信頼を寄せているッッ」

加藤「裏社会じゃあねンだ……殺せるような威力の技を避けぬ守らぬと分かった相手にぶつけるなんて、相手のタフネスを信じてなくちゃ出来ねェ」

本部「プロレスにおけるやりとりは、全てが相対する者への信頼抜きには成り立たない……」

本部「凶器攻撃も、相手ならば死なす受け止めてくれると信頼しているから」

本部「負ける側だろうが、まだ勝つタイミングでなかろうが、いつだって渾身の技を放つのだってそう……」

本部「言ってしまえば、場外での暴言一つ取っても、この相手ならばその発言でさらに盛り上げてくれると思えればこそ」

本部「プロレスラーに共通するスタイルとはッッッその自他共への圧倒的信頼の姿勢にあるッッッ!!」


本部「故にッ」

本部「如何に今から使われる技が歪な素人芸だとしてもッッ!」

本部「例えあのか細き少女がレスラーとして何の特訓もしてないとしてとッッッ!!」

本部「その精神ある限り、あの愛宕洋榎という少女はーーーー」



洋榎「カーネルサンダース落としーーーーッッッ!!!」 ズドガーーーーン



本部「ーーーー間違いなく、プロレスラーであるッッッ」

恒子「き……」

恒子「決ィまったァァァーーーーッッッ!!!」

恒子「愛宕選手のよくわからない投げ技? 叩きつけ技? とにかく必殺技でッ!」

恒子「鹿倉選手ダーーーーーーーウンッ!!」

恒子「ぴくりともしてませんッッ」

恒子「まさに容赦のない冷酷無比な一撃だァァァーーーーッッッ!!!」


塞「胡桃…………」

塞(よく、やったよ……)

塞(お疲れ様……)




恒子「さぁッ! これで残るは各タイマンを勝ち残った2名ッッッ」

恒子「共に素人ッッッ」

恒子「しかしながらそのスピリットはただの女子高生に非ずッッ!!!」

恒子「気合と根性で勝利をもぎ取った二人のタイマンだァァァーーーーッッッ!!!」

恒子「両者疲れの色が濃いがどう出る!?」

恒子「のんびりしてると倒したはずの相手も復活してしまうぞォォォーーーー!?」


洋榎「……ちったぁマシな顔するようになっとるやんけ」

洋榎「デクに命が宿ったか、このピノキオめ」

久「貴女も血濡れでイイ女になったわよ」 クスクス

洋榎「じゃかあし、うちは元からええ女や」

久「生憎鼻が伸びちゃうから、私嘘がつけないのよね?」

洋榎「にゃろ……」

久「だから、まぁ、隠さず見せるわ」

久「借りてきたのよね、こ・れ」 はぁと

洋榎「???????ッッッ」

洋榎「ぱ、パイプ椅子……ッッッ」


Boooooo!!

まこ「ありゃありゃ、ひどいブーイングじゃのう」

久「ふふ……」

久「このくらいアウェイの逆境が私には丁度いいわ」

洋榎「なーにが逆境やねん」

洋榎「武器持ちとかアホほどお前に有利やんけ」

久「まぁまぁ、こっちは怪我人なんだし」

洋榎「自分でやったんやろ」

久「あら見てたの?」

洋榎「視界の隅にバッチリ捉えとったわ」

久「意外ねぇ、視野狭そうな目をしてるのに」

洋榎「やかましいわ」


久「それに、不意打ちや横槍をしなかったことを感謝してもらってもいいと思うけど」 ブンブン

久「私のあふれる優しさよ?」 ブンッ

洋榎「パイプ椅子素振りしながら言うセリフとちゃうんちゃう」

久「……意味を考えたわ」

洋榎「?」

久「鉄パイプが歪んで振りにくくなった意味」

久「怪我をしたのが足だった意味」

洋榎「足を選んだの自分やんけ」

久「そして私が先に敵を倒し、実況を聞きながら貴女のファイトスタイルを見ることが出来た意味……」 ジリッ



恒子「おおっと! 先に動き距離を詰めるのは骨折をしてる竹井選手の方だーーーーッ!」



久「そして、手に入りそうな凶器がパイプ椅子だけだった意味とーー」ジリッ

久「頭弱そうなアナウンサーが躊躇いなく隣に座る道着のおじさんを立たせすんなりパイプ椅子をくれた意味」 ザッ



加藤「入ったッッッ! 射程だッッッ!」

本部「双方の射程での睨み合い、か……」

健夜「どちらが先に仕掛けるのか……」


寂海王「誘導してるな……」

塞「え?」

寂海王「話しかけながらゆっくりと歩み寄り、手出し出来ない流れを作っている」

寂海王「弱者が戦いの流れをコントロールし強者に隙を作らせることができる……」

寂海王「が、容易いことではない」

寂海王「しかし彼女は、あの齢にして相手を自身の空間に引き摺り込む術を持っている……」

寂海王「実に素晴らしい才能だッッッ」

寂海王「竹井君ッッッ試合が終わったら怪我を治しうちに来ないかッッッ!」

塞「ちょっ、一応敵なんですから露骨に声援送ったりしないてくださいよ!?」


洋榎「なんやモテとるやんけ」

久「嬉しいことだわ」

久「……でもやっぱり、私はアウェイでこそって気がするからさ」

久「こうしてガンを飛ばした後ーー」

久「貴女の好きなプロレスで勝負してあげようってね」 グワッ



恒子「竹井選手だァァァーーーーッ」

恒子「動いたのはまたも竹井選手ッッッ」

恒子「しかしあまりに隙だらけだしのろっちいけどそんな振りかぶっても大丈夫なのかァァァ?????ッ!?」

加藤「……そう判断したんだろうよ」

加藤「あの竹井って女、アホな戦い方に見えて、意外とキレるぜ……ッ」

加藤「俺と同じ、危険な世界の香りがするッッッ!」

恒子「それってつまりダメダメなんじゃあ」

健夜「こ、こーこちゃんっ」 アセアセ


久「さっ、命中精度度外視のフルスイングパイプ椅子行くわよ???ッ」

洋榎「いやいややばいやろ、さすがにこれは」

ワァォォァァ アタゴォォォォォ!!

久「これだけの声援の中、ヒールのパイプ椅子如きから無様に尻尾巻いて逃げられるのかしら?」 クスッ

久「ベビーフェイスの愛宕さんッッッ!」 ギュアッ

洋榎「にゃろッ……」



恒子「振り下ろしたァァァーーーーッッッ」



洋榎「ぐおっぎぃッ……」バキャッ



恒子「そんでもって避けなァァァーーーーいッッッ!!!」

恒子「そして倒れないッ!」

恒子「これが気合で戦う素人殺法なのかァァァーーーーッ!?」



久「私は貴女の土俵に上がってあげたけど……」

久「貴女に私の土俵で戦う勇気はあるかしら?」 ニッコリ

洋榎(またふりかぶッ……)

バッキャァァッ

洋榎「ぐッ……」 フミトドマリッ

洋榎「上ッ等!!」 キッ

洋榎「あんたの書いた脚本(ブック)のうえで、その脚本とあんたの想像力を越えたるッ!」

洋榎「アンタのリングとうちのリングの重なる世界で真正面からぶちのめしたるわッッッ!」


絹恵「あ、あかんッ!」

絹恵「止めて下さいッッお姉ちゃんが死んでまうッッッ!」

恭子「絹ちゃん……」

絹恵「お姉ちゃんが再起不能になってまうくらいならッッ」

絹恵「勝利なんていらんッッッ!」

絹恵「お願いします、止めて下さいッ!」

絹恵「お姉ちゃんが死んでまう前にッッッ」

恭子「……死んでまう、か」

由子「確かに、あんな風に殴られたら、普通はもうダメなのよータオル投入なのよー」

絹恵「だったらッッッ!」

由子「……何も出来ぬまま、死んじゃうやろうね」

由子「これが、路上なら、だけど」

絹恵「……え?」


恭子「主将は……常に自信に溢れとる……」

恭子「せやけど、己を過信し無謀で無策なことに溺れる阿呆とは違う」

恭子「自身を持つ己の力を最大限に引き出し、勝利するための最適解を得るためにちゃんと頭も回せる人や」

恭子「危険を嗅ぎ分ける才もあるし、引くことだってよう分かっとる」

由子「でも……」

由子「そんな洋榎が、逃げるべきだと分かっていても、決して逃げない場面がある」

由子「……貴女が、見てるときよー」

絹恵「…………え?」

恭子「……主将、カッコつけしいやからな」

由子「常に余裕ぶろうとするし、明るく面白い奴になろうとしてるけど……」

由子「絹ちゃんが関わると、そこに『カッコイイお姉ちゃんぶる』が加わるのよー」

恭子「大切な妹の憧れであろうとする時ーー」

恭子「絹ちゃんのヒーローであろうとしとるとき、主将はテコでも動かせへん」

恭子「……そんでもって、サブマシンガンでも殺せん」

由子「更に言うと、誰かが見てる時は無敵」

由子「インハイ以上に絹ちゃんや皆の視線を感じるこの大会ならーー」



洋榎「ッッッしゃオラァもっと来いやぁ!!」 ブシャッ

久「ははっ!」

久「そんだけ血ィ流してなおもソレ言えるとか……やっぱりすごいわ!」 ガゴッッ



恭子「ーー間違いなく、主将が最強やろな」


絹恵「お姉ちゃん……!」

洋榎(絹……)

洋榎(心配かけてもーたな……)

洋榎(あれでいて甘えん坊やからなぁ……)

洋榎(ここで倒れたら、泣いてまうやろ……) ザッの

久(まだ……粘るかッ!) ガギィッッ

洋榎(恭子達は……まぁ、心配はしてへんやろなぁ……)

洋榎(アホみたいなウチの罰ゲームに付き合わせてもーとるのに、文句一つ言わんと……)

洋榎(アホ代行が団体戦なの隠して「罰ゲームにぴったりの申し込んどいたで?」とか抜かしていつの間にかエントリーしとったけど……)

洋榎(ほんまやったら、皆をこんなんに巻き込むつもりなかってんで……)

洋榎(ぶっちゃけ、皆が怪我する前に負けてええとすら思っとる)

洋榎(せやけどな……ッ)

漫「主将!」

恭子「大丈夫、ああ見えてしっかり理にかなった行動取れる奴や、算段は持っとる……!」

由子「インパクトの瞬間僅かに膝を曲げたりして力を逃してるのよー」

絹恵「いけ……」

絹恵「行けぇぇぇぇぇ、お姉ちゃんッッッ!」

洋榎「あんな風に応援されて、無傷の負け抜け狙えるほど、オトナになんてなれとらんねんッッッ!」 バキャァッ


久「はっ……!?」

恒子「なッ……」

恒子「なんとォォォーーーー!? パイプ椅子がッ」

恒子「愛宕選手より先にッ!!」

恒子「パイプ椅子がお釈迦になったァァァーーーーッッッ!!!」

久「化物ねっ……!」

洋榎「今更分かったかバーカ」

洋榎「まっ、偶然やが……そーゆーのを“持っとる”のも才能やからな、恨むなや」 ザッ

恒子「今度は愛宕選手が仕掛けに行くゥゥゥーーーーッ!!」

洋榎「さぁ、どないする?」

洋榎「お前のターンはおしまいや」

洋榎「次はウチのターン」

洋榎「素人まる出しのフェイバリットから、尻尾巻いて逃げ出すか?」 ニタァ

久「冗……談ッ!!」


恒子「リフトアーーーーーーップ!!」

恒子「竹井選手、足の怪我のせいか抵抗が出来なァァーーーいッッ!!」

本部「いや……」

健夜「おそらく、抵抗出来ないのでなくーー」



まこ「意図的に抵抗やめおったのう」

和「ありえません、非効率的ですッッッ」

和「あれだけの大振り動作、基本の型に忠実に捌けば圧倒できるじゃないですかッッッ」

咲「でも……さっきまで部長らしくないからハラハラしたよぉ」

和「確かに、体格差的に有利な相手を殴ったり武器というアドバンテージを活かしてる時よりも、ピンチの今の方が部長らし……」

和「って、ハラハラが逆じゃないですかッ!!」

優希「ノリツッコミだじぇ」

まこ「鉄パイプでちびっ子殴打とか司法的な意味でハラハラするのが当たり前ではあるしのぅ」


絹恵「やっちゃえ、お姉ちゃァァァんッ!!」

塞「いけッ! 胡桃をぶっ倒しておいて、そんな半死人に負けんなッ!!」

洋榎「必殺ーーーー」

洋榎「通天閣落としーーーーッッッ!!!」

ズガァッ

久「きッ……くゥ!!」

洋榎「かーらーのー!」

久「!?」

恒子「なんとお!? 連続技だァァァーーーーッッッ!!!」

本部「素人故の自由な発想の賜物か……」

洋榎「たこ焼きボンバーーーーーッッッ!!!」

ドッゴォォォッッ!!

恒子「あ……」

恒子「頭からイッたァァァーーーーッッッ!!!」


久「…………ッ!」

久(意識トんでた!?)

久(どれだけ!? 一瞬!? 試合は!?)

久「…………」

久(悪い状況こそ燃えるんだけど……)

久(一瞬でも意識がトんでた意味と、そして謎の満足感に何か意味があると考えましょう)



ワァァァァァァァァ!!

アーターゴ!! アーターゴ!!

洋榎「っしゃァオラァァァァァッッッ!」 ガッツポ

ワァァァァァァァァ!!



久(今回は……このまま、眠っといてあげるわ……)

久(さすがにここから起きてなんとかできる気はしないし……)

久(あとは……咲と和に任せましょ…) グタァ



洋榎「そーら! ひーろーえッッッ! ひーろーえッッッ!」

ワァァァァァァァァ!!

恒子「お聞きください、会場は洋榎コールで満たされていますッ!」

恒子「それでは皆さんご一緒にィッ!!」

恒子「ひーろーえ! ひーろーえッ!」

洋榎「見たか、コラァァァーーーーッッッ!!!」

ワァァァァァァァァ!!






【中堅戦】
勝者 愛宕洋榎(姫松高校)

中堅戦投下終了です。
あんまり纏まった時間が取れない……

今回みたいに隙を見てダラリダラリと投下していくスタイルと、書き溜めて一気投下なら、どっちの方がいいんですかね。
意見頂ければ幸いです。

出来らあっ!!
三日以内で仕上げることが出来るって言ったんだよ!!!


久「ふぅ……」 ヨロ

久(うん……) ヒーローエ! ヒーローエ!

久(ラス間近はわりと思っていた通りの試合ができた……) ヒーローエ! アソレヒーローエッ!

久(最初からこの感じをつかめていれば――――) ヒーローエ! ヒーローエ!

久(……って、悔やんでもしょうがないか) ヒーローエ! ヒーローエ!

久(このリング……最初は近付くだけでも抵抗) ヒーローエ! ヒーローエ!

久「黄昏れるのに邪魔だからそろそろこのコールやめにしない?」

洋榎「あんたの子やなし孫やなし~いらんお世話やほっちっち~」

洋榎「もうちょいこうしてコールを受けたい気分なんや」

久「いや鬱陶しいって言ってるんだけど」


洋榎「ちぇー」

久「ほらほら、健闘した私らも讃えて!」

ワーワー

ブーブー

久「何かちょこちょこブーイング聞こえるんだけど!?」

洋榎「ヒールっちゅーのはそういうもんや」

胡桃「……」 ヨロ

胡桃(きもちわるい……!)


咲「部長……戻ってこないね……」

和「待っててもしょうがないのでもう行きます……」

まこ「しっかりのう」

咲「がんばって!!」

優希「ぶちかましだじぇ!!」

和「私のファイトスタイルは相撲ではないのですが……」

優希「比喩だじぇ比喩」

優希「のどちゃんなら、行けるはずだじぇ!」


末堂「来たぞッッ」

末堂「原村和だッッッ」

末堂「その正確無比な演舞は外国でもバカ受けッッ」

末堂「彼女がニコニコ生放送でラスを引いた罰ゲームで披露した型は芸術と言われるッ」

克己「今や彼女はインターネットにおける美しい型を披露する女子の代名詞……」

克己「間違いなくこの副将の注目株だッッ!!」

末堂「でもアイドル的に騒がれる選手って惨敗しがちですよね……」

末堂「広島のヤンキー連合に何故か混ざってた客寄せパンダの佐々野とか……」

克己「アレほんと可哀想だったな……」

末堂「何も知らされてなかったっぽいのが……」

克己「腰抜かして漏らしてたからなァ……」

克己「あのお嬢ちゃんはどうなるやら」


由子「原村大人気なのねー」

恭子「注目せなあかんのは原村より永水の薄墨なんやけどな……」

恭子「麻雀での勝ちパターンは神代と薄墨で稼いで石戸でシャットアウトちゅう感じやった……」

恭子「神代はまるで複数のスタイルを模索してるかのようなブレがあるんやけど……」

恭子「薄墨はブレなく強いッッ」 キリッ

恭子「多分格闘技でもや」

漫「……滝見と狩宿は?」

恭子「……」

恭子「まぁその二人は置いておいて」

漫(この人ほんまに知将なんかな)

誤爆で弱いメンタルがボロボロなので中断で

持ち直してまたちょっとボチボチ更新していきますはい


郁乃「絹恵ちゃんには頑張ってもらわんとねー」

恭子「なんとかしてくれると信じます」

恭子「元サッカー部なだけに、身体能力はうちらで一番ですからね」

洋榎「そのっとーり!」

洋榎「絹なら出来るッ」

洋榎「何せこの愛宕洋榎の妹なんやからな!」 ビシィ

洋榎「姉妹の連勝で勝ち抜け確定や!」

漫「思ったより元気ですね……」

由子「ホントは泣きたいほど痛いのに、見栄はってるだけなのよー」

恭子「残念ながら入れ違いになっとりますよ」

洋榎「……」

恭子「まあ、大丈夫そうなので、怪我の治療は一人でしといてくださいね」

洋榎「……」

洋榎「痛い」

恭子「知ってます」

洋榎「めっちゃ痛い」

恭子「泣かんでも」

洋榎「優しく消毒してやー! 勝者を甘やかしてーやー!!」

恭子「ああもう、自分で無駄に増やしたんでしょうに」

郁乃「楽しそうやなぁ……」


寂海王「んむむ」 サトウスイズズー

豊音「原村さんだー」

寂海王「恵まれた大胸筋だ……」

胡桃「ちょっと違う気がするけど」 イチチ

豊音「あ、起きた?」

胡桃「うー。こてんぱんにやられた……」

豊音「ううん、でも、カッコ良かったよー」

豊音「それに……」

豊音「豊音の頑張りを見て、塞もやる気十分になってたしね……!」

胡桃「……ん」


寂海王「それにしてもついている……」

寂海王「神代小蒔は他者に潰してもらい――」

寂海王「薄墨初美は副将ときている」

寂海王「彼女のデータは、とりやすかった……」

寂海王「更に言うと、他の他校」

寂海王「中学時代サッカーでいいところまでいった少女」

寂海王「そして有名な型アーティスト……」

寂海王「どちらもデータの入手が容易だった……」

豊音「……うん」

豊音「塞の相手にはちょうどいいよー」


和「部長」

和「お疲れ様です」

久「あぁ、ごめん」

久「あとはまかせた」 トントン

和「はい」

ゴォッ

久「!?」

久(え、何、嘘、瞬間移動!?)

久(今どこから――)

久(何者!?)


和「きゃああああああああああ!!」 ダキッ

久「……」

久「あー……」

久(自分を遥かに超えるオーバーリアクションで驚いてる人見ると冷静になるっていうね)

久「永水の副将の子よ……知らないの?」

和「知りませんよ……ッ!!」

久「相手が誰であろうと興味ありません(キリッ」

久「相手が誰であろうとベストをうんぬんかんぬんですッッ(キリリリッ」

久「なーんてこと言ってるからこんなことに」 アーハッハッハ

和「ひいいいいい……」

ボン ドサ コロコロ・・・

絹恵「?」

絹恵「……」

久「あ……」

和「えっ!?」

絹恵「キャオラッッ」

ドガァァッ


久「あ~あ」

咲「ぅわ……」

優希「散ったじぇ……」

和「エトペーーーーーーーーーーーーーーンッッ!!!」

絹恵「それ私物やったん……」

久「私物じゃなきゃ何なのかしら」

絹恵「なんや不気味やさかいに思わず……」

久「不気味で今までモニタに映ってなかったものが施設の設備なわけないんだけどねぇ」

久「私物じゃなきゃ一体何だと思ってたのかしら」

絹恵「堪忍な……」

久「私物と分かってわざt」

絹恵「ホン……ッマに!」

絹恵「すいませんっした……ッッ!!」


塞「えげつない飛び方してたわね……」

初美「蹴られた顔面部位が窪んでるのは勿論のこと……」

初美「背中部分の刺繍が敗れて中身がぶちまけられてますよー」 ゾゾゾ

塞「どーいう威力してんのよ……」 ゾッ



透華「……」

透華「ハギヨシ!」

ハギヨシ「はっ」



初美「何か知らないおじさんがいきなり!?」

塞「お兄さんってトシじゃないかな」

初美「おおっ、なんか凄い手さばきですよー」

ハギヨシ「……修繕完了」

初美「おおっ、すごいですよー」

初美「これなら試合中にぬいぐるみをうっかり攻撃しちゃっても直してもらえそうですし、罪悪感抱かなくても大丈夫ですねー」

塞「私らが同じ状況になることを考えたら大丈夫もクソもないけどね……」


絹恵「ホンマに申し訳ない!!」

絹恵「許して下さい、何でもしますから!!」

和「いや……あの……」

和「いちおう無事でしたし……」

絹恵「無事とかそーいう問題やないんです」

久「まあ、無事だからって謝らなきゃただの屑だしねえ」

和「何でそろばん弾いているんですか部長」


洋榎「絹は中学でサッカー部のキーパーやっとったしな!」 フフ

漫「そんなんで蹴られたらたまりませんよ……」

洋榎「しかし、あの反応は才能や」

洋榎「射程に“何か怪しいもん”があったら、反射的に強力な蹴りを見舞う」

洋榎「少なくとも、格闘技において、コレほど強力な力もないで」

漫「確かに……」

由子「期待大、なのよー」


久「あ、そうだ、和」

和「はい?」

久「私もごめんね……」

久「結局負けたうえに、相手を勢いづかせちゃって」

和「いえ……」

和「本職じゃないんですから、そういうこともあって然るべきです」

和「そうでなくとも、格闘技というスポーツは、拮抗した者同士の戦いだとあまり結果が読めないものですから」

和「別に……」

久「ん……」

和「?」

久「うん、ありがとう」

久(和――……)

久(期待しているわ……)

久(その考えが、悪い方にブレないことを!)


恒子「さぁッッッまもなく副将戦ッッッッ!!!」

恒子「永水女子は三年の薄墨初美ッ!!」

初美「よろしくですよー」

恒子「麻雀スタイルは圧倒的火力ッ」

恒子「その火力に比例するように、格闘スタイルも高火力なのかッ!?」

恒子「そして姫松高校は愛宕姉妹の妹、愛宕絹恵が姉からバトンを受け取ったーーー!!」

絹恵「よろしくお願いします!」

恒子「宮守女子の臼沢塞は、片眼鏡をかけていますッ」

塞「よろしくお願いします!」

恒子「これは眼鏡を外すのを忘れるという、清澄への報復ブラックジョークかーーーー!?」

塞「いや、違いますからね!?」


恒子「そして清澄高校――」

加藤「何度聞いても慣れない名だな……」

恒子「原村和ッッッ」

和「よろしくお願いします……」

恒子「上級生を相手に、一体どう戦うのかァァァァァ!?」

和「……」 キッ

恒子「さぁ勝負は佳境ッ!」

恒子「注目の副将戦――――」

恒子「レディィィィィ……ゴゥ!」

健夜「開始の合図は統一してあげようよ!?」


和「……」

和(高校生としては、初の『全国大会』ですね……)

和(去年のインターミドルと違うのは、相手が上級生だということ……)

初美「フフ……」 ジリ・・・

塞「……」 ギッ

絹恵「……っ」 ザッ

オオォオオォォォ……

和(そして――)



咲「がんばって……ッ!」



和(宮永さんが見ているということッッ)


和「失礼……」 スゥ

和(悩んでも仕方がありません……)

和(今の私の選択肢――)

和(いつも通りのことを、いつも通りに) ヒュン

初美(羽ッ!?)

塞(これは――)

絹恵(末原先輩が言うてたよりえらい早いやん!)



衣「とーか! ノノカが!」

透華「ええ……早くもお目覚めのようですわ」

透華「おはようのどっちッッッ」



塞(なるほど噂に違わず……)

初美(うっつくしくて隙のない型ですねー……)

絹恵(間違いなく厄介やな……)


絹恵(けったいやなあ……顔赤いし、めちゃ揺れとるし)

絹恵(風邪でもひいとるんやろか……)

塞(体温上昇……?)

塞(何……?) ジッ

塞(……特に異常はない……か……)

初美(さっき一瞬何かをまとってるように感じたんですけどねー)



恒子「何か全然動きがないぞーーーー!」

恒子「原村選手の牽制にビビったかーーーー!?」

加藤「いや……」

本部「ここまでくると、誰から落とすか、という戦略も重要になる」

本部「各々が、立ち回りを見極めようとしているのさ……」


絹恵(ずっと夢やった……)

絹恵(お姉ちゃんの、隣に並ぶの――)

絹恵(お姉ちゃんは、いつまでもスーパースターや)

絹恵(だから、並べるなんて考えるのもおこがましいのかもわからん)

絹恵(でも……)

絹恵(麻雀でも、格闘技でも、同じチームに入ることは出来た)

絹恵(麻雀の春大会は全然ってくらい活躍できんかったけど……)

絹恵(脚力活かせるコレやったらッ)

絹恵(一瞬くらい、お姉ちゃんに並べるかもしれへんッ)

絹恵(少しくらい、隣に立てるかもしれへんッ)

絹恵(お姉ちゃんと同じ一勝、絶対上げたる……!)

絹恵(ここは必ず貢献してみせんで……!!)


絹恵「っし!」 ヒュッ

塞「っと」

初美「うわわ」

絹恵(まあ、あたらんわな)

絹恵(所詮私のテレフォンパンチ……いや、テレフォンキックか?)

絹恵(ともかく格闘技として鍛えたわけちゃうキックでは、普通に放てばバレバレや)

絹恵(しかもコントロールと威力高めるフォームが染み付いとるから、外れたら隙だらけ――)

絹恵(決めに行くときは、考えなアカン)

絹恵(せやからまずは主導権を握る)

絹恵(蹴り上げの威力を警戒してくれとるんや、足が長いのも活かして、牽制混ぜて支配したるッ)


和「……」 パシッ

絹恵「げっ!?」

絹恵(っとと、原村和、こいつ蹴りの威力を恐れとらん!?)

絹恵(綺麗な廻し受け決めおってからに……!)

和「……」 ヒュッ

初美「……」 ニッ

塞(!?)

塞(馬鹿、清澄……!)

塞(確かに、この中で一番落としたいのは永水ッ)

塞(武器を持ってるし、何よりここを落としておけば、どこか1校が勝ち抜けッ)

塞(確定でサドンデスに入る心配はなくなるッ)

塞(でも、その方向に薄墨を追い詰めるのは――!)

絹恵(アカンッ、動きに隙が無さすぎて下手な横槍入れられへんッ!)


塞(不味い、鬼門の方向に薄墨を逃したら――――)

初美「ふふふー」

初美「警戒されるかもと思ってましたけど……」

初美「鬼門、簡単に来ることができちゃいましたねー」 ゴッ

絹恵(こ、この寒気……あ、あかんっ)

塞(清澄は何も感じてないのか!?)



久「あー、和、、わざと隙を見せた薄墨狙っちゃってるわねー」

まこ「まずいのう」

まこ「確か永水の薄墨は、鬼門に入ると、何かオカルト使うんじゃなかったか?」

久「ええ」

久「ほら、出るわよ……彼女の武器が!」


和「……ッ」 ビクッ



恒子「おおっと、ここで冷静沈着な原村選手に僅かな違和感がッ!」

健夜「単純に、怖がってるだけに見えますね」

恒子「まあ、怖いですもんねえ、あのお面」

本部「面というより、ボゼだな」

本部「そして手にした、祈祷に使う棒……」

健夜(それの名前は知らないんだ……)

本部「そして出身地が南九州……」

本部「あのスタイルから見ても、彼女のスタイルは間違いなく――――」


和(ひっ、オカルトとかはありえませんけど、実在する怖いお面のアップはさすがに――)

ドスッ・・・

和「……え?」



恒子「ああーーーーっと!」

恒子「最初にまともに被弾したのは、あの原村選手だァァァァーーーーーーッ!!」

健夜「ボゼで完全に視界を覆われたところに、棒による足への打撃ですか……」

加藤「しかし……ボゼで相手の視界を塞ぐと、自分の視界も塞がっちまうんじゃあ……」

健夜「そこがあの薄墨選手の恐ろしいところ……」

健夜「鬼門に立つ薄墨選手は、霊の声でも聞いているのか、視力に頼らず相手の動きを察知する……」

本部「ティンベー(楯)とローチン(矛)により基本戦術ッッ」

本部「シンプル、しかし故に強大な琉球古武道だッッッ」


初美(ふっふっふ)

初美(オカルトの練習にもなるし、ボゼはこんな使い方も出来るんですよー!)

和「せいッッ」 キャオラッッ

初美「えい」

和「!」

和(お面で正拳を弾いた!?)

初美「とうっ」 ドスッ

和「くっ……」

和(見えないはずの足を的確に……)

和「……」

和(偶然極まりないですね……)


塞(仕方ない……)

塞(私一人じゃあの楯塞ぐのしんどいし……)

塞(ここで塞いで援護するッ) キッ

初美「!?」 ビクッ



健夜「今……薄墨選手の動きが一瞬止まりましたね」

加藤「目で殺す……って奴だな」

本部「強者ほど、相手の一挙一動に中止し、その僅かな動きから次の一手を予想する」

本部「そして、危機察知能力も優れている……」

本部「それを逆手にとり、視線移動と殺気のみで、防御のための硬直反応を無理矢理に引き出したか」

恒子「???」



塞(このモノクルは力を倍増させてくれるッ)

塞(シロの消力ですら、硬直によって一瞬キャンセルできるくらいになったんだ)

塞(塞ぎ殺されろ、薄墨初美ッッッ)


初美(やばっ……うまくボゼで弾けな――――)

和「ふっ」

バキャァァツ

初美「ッッッ!!」




恒子「おーーーーっと、何か不気味な仮面が宙を舞ったァァァーーーッ!!」



絹恵「……」

コロコロ……



恒子「そして吹き飛ばされた仮面は愛宕選手の足元へ……」

恒子「ま、まさかァァァァ~~~~~~……」




絹恵「ホヮッチャオッ」 バキョベキャァツ




恒子「割ったァァァーーーーーーーーーーーッッッ!!!」

恒子「躊躇なく踵落しで持ち込みの仮面を叩き割りましたァァァーーーーーーー!!」


和「ふっ!」

恒子「そして追げーーーー…………ッッッ???」

恒子「い、いないッ!?」

恒子「仮面の向こうに薄墨選手がいないそォォォーーーー!?」

恒子「こ、これはまたしても薄墨選手の瞬間移動が炸裂かァァァーーーーッ!?」

和(消える?)

和「そんなオカルトありえまーーーー」

ハッ!!

和「!?」

和(なっ……)

絹恵「うっそ……」

塞(出たッ……これが薄墨初美の真のプレイスタイルッッッ!)

塞(修行を兼ねた茶番のようなスタイルとは全く異なる、薄墨初美のヤバイ所以ッッッ)

恒子「う、浮いているーーーーッッッ!!!」

恒子「い、いや、とんでいるのかァァァーーーーッッッ!!?」

塞(空中殺法ッ!)

塞(奴はポンポン自由に鬼門の空を跳ぶッッッ)


和「……!」

和「どんなスタイルであろうとーー」

和「私は咲さんが信じてくれた己のスタイルを貫くだけです」 ギャッ



末堂「上手いッ!」

末堂「きちんと飛び蹴りを考慮し、カウンターを喰らわぬよう速度と隙の少なさを重視……」

末堂「空中の相手にバランスを崩させれば、後は地上で一撃だッッッ!」

克己「いやぁ……どうかな」



和「……?」

和(落ちてこなーー)

初美「行きます……よぉッ!」 ギュアッ



加藤「ば、馬鹿な……」

本部「確かに……タイミングは完璧だった……」

本部「ただし、普通の奴がただ跳んだだけなら、な……」


胡桃「なんて滞空時間!」

寂海王「コンクリの床を踏み抜く脚力をもって初めて可能な跳躍法だ」

寂海王「小さな体からは想像もつかないパワーだ」

寂海王「何らかのオカルトが働いているのかもしれないな……」

寂海王「あの小柄で軽量な体だからこそ、あのパワーであそこまでの滞空が可能となっているッ!」

白望「つまり……それって……」

寂海王「ああ……」

寂海王「彼女の蹴り技もまた、絶対的な破壊力をも持つということだッッッ!」

胡桃「塞ッ……!!」


胡桃「なんて滞空時間!」

寂海王「コンクリの床を踏み抜く脚力をもって初めて可能な跳躍法だ」

寂海王「小さな体からは想像もつかないパワーだ」

寂海王「何らかのオカルトが働いているのかもしれないな……」

寂海王「あの小柄で軽量な体だからこそ、あのパワーであそこまでの滞空が可能となっているッ!」

白望「つまり……それって……」

寂海王「ああ……」

寂海王「彼女の蹴り技もまた、絶対的な破壊力をも持つということだッッッ!」

胡桃「塞ッ……!!」


和「くっ……」

和(どこに……)

初美「ふふふ」

初美「私こそが風なのですよーー!!」 ドガガガガ

和「ッッッ!」



久「まずいわね……」

久「あの子、ボディバランスも優れてるのか、蹴った反動でバランスを崩すどころか、反動で更に飛び上がってる……」

まこ「あれでは消えたと錯覚するかもしれんのう……」

まこ「鶴賀のステルス娘とちごうて、わしの瞬動みたいな物理じゃけえ」

まこ「和でも見失っとるかもしれん……」



ビシビシビシビシ



加藤「くッ……空中で蹴り続けているッ」

本部「考えたな……」

本部「あの巨乳の少女もそろそろ気付き始めたろう」

恒子「姫松高校の愛宕選手もなかなかに巨乳ですけど、多分……」

健夜「清澄のことでしょう……」

加藤「えっ?」

健夜「貴方ではなく」

恒子「でもなかなかになかなかな胸板お持ちですよね」

恒子「私ケッコー厚い胸板好きですよ」

健夜「えっ!? そ、そうなの!?」


和「くっ……」

和(どこに……)

初美「ふふふ」

初美「私こそが風なのですよーー!!」 ドガガガガ

和「ッッッ!」



久「まずいわね……」

久「あの子、ボディバランスも優れてるのか、蹴った反動でバランスを崩すどころか、反動で更に飛び上がってる……」

まこ「あれでは消えたと錯覚するかもしれんのう……」

まこ「鶴賀のステルス娘とちごうて、わしの瞬動みたいな物理じゃけえ」

まこ「和でも見失っとるかもしれん……」



ビシビシビシビシ



加藤「くッ……空中で蹴り続けているッ」

本部「考えたな……」

本部「あの巨乳の少女もそろそろ気付き始めたろう」

恒子「姫松高校の愛宕選手もなかなかに巨乳ですけど、多分……」

健夜「清澄のことでしょう……」

加藤「えっ?」

健夜「貴方ではなく」

恒子「でもなかなかになかなかな胸板お持ちですよね」

恒子「私ケッコー厚い胸板好きですよ」

健夜「えっ!? そ、そうなの!?」


和「これは……」

和(防御は可能……ですが……)



加藤「は……反撃ができてない……」

健夜「あのバランスのいい原村選手がッッ……」

本部「宙空からの敵には反撃できねェ」

加藤「え……えげつねェ??????……」


健夜「……このままだと、なすすべもなくやられてしまいますね」

本部「ああ」

本部「その通りだ」

本部「“このままなら”ーーーーな」



初美「ッ!」 ゾクッ

初美「しゃっ!」 バキャァッ



まこ「むっ、勝負をはやったんかいのう?」

まこ「今の蹴りで和から遠ざかーー」



バッコォォォン



恒子「なんとォ!?」

恒子「先程まで薄墨選手がいた宙空を通過して、何かが壁に激突したァァァーーーーッッッ!!!」

加藤「あれは……仮面の破片か!?」

本部「くく……そりゃそうだ」

本部「タイマンでは為すすべがないと見せつけておいて、“このまま”なんてわけにゃいくめぇ」

本部「何せこれはーーバトルロイヤルなんだからよォ」



絹恵「外れてもーたか……」

絹恵「キックの精度には自信あったんやけどな……」

初美「なかなか……やりますねー……」

初美「まぁ私ほどじゃないですけどねっ」



健夜「……このままだと、なすすべもなくやられてしまいますね」

本部「ああ」

本部「その通りだ」

本部「“このままなら”ーーーーな」



初美「ッ!」 ゾクッ

初美「しゃっ!」 バキャァッ



まこ「むっ、勝負をはやったんかいのう?」

まこ「今の蹴りで和から遠ざかーー」



バッコォォォン



恒子「なんとォ!?」

恒子「先程まで薄墨選手がいた宙空を通過して、何かが壁に激突したァァァーーーーッッッ!!!」

加藤「あれは……仮面の破片か!?」

本部「くく……そりゃそうだ」

本部「タイマンでは為すすべがないと見せつけておいて、“このまま”なんてわけにゃいくめぇ」

本部「何せこれはーーバトルロイヤルなんだからよォ」



絹恵「外れてもーたか……」

絹恵「キックの精度には自信あったんやけどな……」

初美「なかなか……やりますねー……」

初美「まぁ私ほどじゃないですけどねっ」



恭子「これはバトルロイヤル……」

恭子「“紛れ”が起こりやすいし、問われるのは戦闘力より立ち回りの技術ッ!」

恭子「原村を助け、永水潰しに行くのがどうでるか……」

洋榎「そのへんは大人数バトルゲーと同じやな」

洋榎「駆け引きや盤外での敵の有無、立ち回り次第で大物食いも出来る……」

洋榎「まぁ、ゲームとちごうて、ライフを削りきっても最後の一人になる前に復帰することもあるんやけどな」

恭子「だからこそ、駆け引きが難しい……」

恭子「薄墨とのタイマンを避けるため最初に落とした結果、他の二人に手こずって最終的に蘇った薄墨とタイマンなんてこともありうる……」

由子「だからって倒れた相手がなかなか起きぬよう追い打ちの様に殴る蹴るが出来るかというと……」

漫「確かに、そー考えるとなかなかに厳しいですね……」

恭子「清澄も宮守も、何故か副将には結構な手練を送ってきとるしな」


恭子「そしてーー」

恭子「バトルロイヤルだからこその立ち回りというものもある……」



恒子「睨み合いィィィーーーーーッ!!」

恒子「どうした、怖気づいたのかァァァーーーーッッッ!?!?」



洋榎「ガン待ち……」

洋榎「得意エリアに陣取って迎撃する気の薄墨は勿論、他の連中も迂闊に動けん」

洋榎「もし薄墨潰しが共通認識の場合、薄墨とのタイマンを避けるためにも、薄墨の永久空中コンボ決まったら止めに入らなあかん」

洋榎「そのためには、他の連中と潰し合っとる余裕もない」

洋榎「かといって、薄墨に果敢に攻めるのもなかなか厳しい」

恭子「薄墨から落とした場合、残りの三人から一抜けが出るわけですからね」

恭子「薄墨を引き受けて一人ボロボロになるのは避けたいところ……」

洋榎「そのあたりもゲームと同じやな」

洋榎「PSオールスターとかバウンサーとかでも、上手いやつ倒せても、そのために自分のライフなくなったらしゃーなしやろ」

洋榎「如何に他の奴に厄介なのを押し付けるかが鍵や」

漫「なんでそんなわかりにくいゲームを例えに……」

恭子「スマブラとかゴールデンアイとかあるでしょうに」

洋榎「いやうち若いからやったことないねん64」

由子「Wiiでもバリバリ出てるのよー」

洋榎「ほら、うちの家系は任天堂派やないから……」

恭子「そういやセガとか好きでしたね」

由子「それどころかこの前遊びに行ったらネオジオが現役稼働してたのよー……」

漫「そういや私も絹ちゃんにサイバーボッツとかウォーザードとかをゴリゴリ推された記憶が……」

郁乃「愛宕家ってマイナーゲー博物館かなにか?」


塞(清澄はもう頼りにならない)

塞(アイツはアイツでマイペースにテリトリーおかす奴を迎撃する構えをとっている)

塞(下手したら薄墨のコンボの妨害や鬼門からの追い出しにも手を貸さない……)

塞(姫松と組むしかないけど……)

塞(私の特性的に、自分から突っ込むのはあまりに愚策)

塞(破壊力のある姫松を防塞で援護が一番)

塞(ただ……)

塞(この能力を隠して、どうそれを打診する!?)

絹恵「……」

絹恵(まぁ……宮守は突っ込まんやろな……)

絹恵(末原先輩を信じるなら、宮守は見るだけで相手の得意動作を封じれる)

絹恵(後方支援を任せるのがベストやろな……)

絹恵(まぁ、ここまで結構末原先輩のアドバイス外れとるし、宮守に梯子外されたら終わりやけど……)

絹恵(信じたるッ!)

絹恵(どの道一人じゃ力足りんのや、足りない分は信じる気持ちで補うッ!)

絹恵(少なくとも、お姉ちゃんならそうするッ!)

絹恵(観客も味方につけて、カッコつけながら、薄い勝ち筋を自分のモノにするはずやッ!)


加藤「動いたッッッ」

恒子「動きを見せたのは、姫松高校愛宕選手だァァァーーーーッッッ!!!」

恒子「全速力で薄墨選手に駆けていくゥゥゥーーーーッ!!」



初美「残念ながら……」 フワァ

初美「私の方が1手早いですよー」



恒子「う、浮いたァァァーーーーッッッ!!!」

恒子「ノーモーションだけあって、薄墨選手が浮き上がる方が早ァァァーーーーいッッッ」



絹恵(信じるんや……) ダダ

絹恵(宮守を、そして私自身の脚力をッ!) ダッ



加藤「と、跳んだッ!」

健夜「なかなか高い……ですが、薄墨選手の高さには届かなーー」

本部「いや……」

本部「あれは“飛び蹴り”じゃあねェ……」



塞(落ちろッ!) サイッ

初美「!?」

初美(なんッ……バランスが……!?)

絹恵「はァァァーーーーッッッ!!!」 ギュルッ

初美「ぐぎッ……」 メキョッ



恒子「どッ……」

恒子「胴回しィィィーーーーーッ!!」

本部「足の長さを綺麗に活かしたな……」

健夜「薄墨選手、小柄なのが災いしましたね……モロにボディに受けてしまいました」


初美「ぎ……ッ!」



漫「立て直したッ!」

洋榎「絹の蹴りを受けて意識あるだけ大したもんやで」



初美「……ッけないですよーー!!」 ガッ




優希「じぇ!?」

咲「壁まで吹き飛ばされたのに、宙空て態勢を整え、逆に壁を蹴ったッ!」

久「三角飛び……とはまた呼び方が違うかしら」

まこ「しかし……大胆じゃのう」

まこ「ああまで派手に跳んでいくと、破壊力は増すが……」

久「鬼門は盗られる、か……」

久「それでも、姫松相手なら相対的に鬼門位置」

久「それに和は鬼門に割って入ることをしないでしょうからね」

久「姫松を撃破してから、宮守と鬼門争奪でもする気かしら」

咲「……巫女さん達は、連勝しない限り、2位の座を賭けた試合に出ざるを獲ませんもんね」

まこ「出来れば傷ついた姫松にはそこまで残っとってもらいたい……」

久「万が一通過確定チームが出来るなら、姫松意外とでも思ってるんでしょう」

久「いやーー」

久「最悪鬼門を気にせぬ和を潰して、最悪負けるなら恵まれた体格の厄介そうな大将が控えた宮守に、とまで思ってるのかも」

優希「ナメられてるじぇ」

久「ええ」

久「和、教えてやりなさい」

久「私達は、そんな理屈で甘く見ていい相手じゃないってことを!」

優希「……どちらかというと、のどちゃんも理詰めで将来見据える巫女のおねーさん達みたいなスタイルだじぇ」 ヒソヒソ

咲「そーいう風にカッコつけるなら部長本人の試合の時だったよね」 ヒソヒソ

久「バッチリ聞こえてるわよそこ」


霞(ーーなんてこと、思ってるのかもしれないわねぇ)

霞(でも、そうじゃない)



健夜「なんとオォォーーーーッ!!」

健夜「ここにきて薄墨選手、まさかのフライングクロスチョーップ!!」

健夜「姫松高校の愛宕絹恵選手を警戒してのことでしょうか」

本部「足を当てるため進行の向きを無理に変えるとどうしても減速はする……」

本部「速度を重視し、立ち上がらせぬよう腕から突っ込んだな」

恒子「そして衝突の反動でそのまま空中で大勢を変えたァァァーーーーッッッ!!!」

本部「一度の着地も挟まぬとは……あくまで空中殺法に拘るか……ッッ!」



霞(ただ、あの娘は負けず嫌いなだけ……)

霞(そして、己の空中殺法に絶対の自信を持っているだけ!)

霞(だこらこそ拘るし……同じ足技の娘を真っ向から潰そうとする)

霞(それは愚直なだけなのかもしれないけど……)

霞(それでも、だからこそあの娘は強いッッッ)


恭子「さすがに手強いですね、永水の薄墨……」

恭子「宮守がなんかしたんか、動きにぶったはずやのに……」

洋榎「またそれされるの警戒してのフライングクロスチョップなのかもなぁ」

由子「でも、ちょっと不味いのよー」

由子「絹ちゃんはまだ転倒」

由子「宮守が動きを妨害してくれても、反撃は難しいのよー」

漫「た、確かに、向こうからしたら無防備な背中にとりあえず力を加えて立つのを妨害すれば五分五分……」

漫「自分から宙空の有利状況で仕切り直せる」

由子「清澄はマイペースに構えたまま動かないし、宮守が割って入ってくれるかだけど……」

恭子「入るとしても、そこそこダメージ受けてからやろな……」

洋榎「いやー、それは絹をナメすぎなんとちゃうかなぁ」 ニヤ

漫「えっ!?」

洋榎「確かに、バランスは崩され無理な態勢や」

洋榎「せやけどなーー」



塞(姫松にもダメージは与えたいけど、一撃で決めさせるわけにはいかないッ) サイッ

初美「くっ……」

初美(例え一撃必殺を防がれても、地道に蹴ってまた跳んでやりますよー……!) ギュァッ

バシィッ!!



洋榎「キーパーっちゅーのは、いっぺん飛びついてすっ転んだみたいになってもーー」

洋榎「直後のシュートを防ぎに飛びかかれるんやで」

洋榎「ただでさえ方角縛りがあるっちゅーのに、フライングクロスチョップのおかげで位置は完璧に分かっとったんや」

洋榎「残念やったな薄墨」

洋榎「絹を殺るなら、フライングクロスチョップに逃げず、あそこでぶち込むべきだったんや」



恒子「パッ……」

恒子「パンチングゥゥゥーーーーッ!!」

恒子「愛宕選手、パンチングで薄墨選手の足を払って軌道をそらしたァァァーーーーッッッ!!!」


初美「ぐっ……!」

初美(なんとか立て直――)

塞(まだ跳ぶ気か!?)

塞(ボロボロになるぞ!) サイッ



洋榎「アイツらはわかっとらんのー」 ヘラヘラ

恭子「はあ……」

洋榎「確かに絹の本領は蹴り技にある」

洋榎「この大会出るってわかって、キックボクシングもセーラの奴に軽く習った」

洋榎「せやけど――あいつに格闘スタイルを求めるなら、それは『サッカー』や」

洋榎「格闘技の基準で考えとると怪我するで」 ニィ


初美「ぐ……」

初美(やっぱり宮守の人がおかしいっ……)

初美(うまく攻撃に移れないッ……)

初美(でも! 空中殺法は無敵ッ!)

初美(中空への確固たる攻撃方法なんてないですよー!)

初美(多少のダメージ蓄積くらいなんてことはっ……!)



塞(くそっ、面倒だな……)

塞(薄墨にある程度ダメージを蓄積させても、こっちにも疲労がたまる……)

塞(どのタイミングで塞ぐのやめて姫松にもダメージをいかせるかが重要ッ)



洋榎「――なんてこと、考えとるんやろうなあ」


絹恵(さっきのパンチングで、ヤツの方向は分かった)

絹恵(ウチは『キーパー』なんや)

絹恵(ターゲットの『位置』さえ分かれば――――)

絹恵「問題無くッ打ち落とせるッ!!」

ギャオッ

恒子「さ……」

恒子「サマーソルトキーーーーーーック!!」

恒子「しゃがみ込んで防戦一方に思われた愛宕選手、まさかの待ちガーーーーーーイル!!」

健夜「……と、いうよりも……」

健夜「愛宕選手の特性を考えると、アレはむしろオーバーヘッドキックでしょうか」

加藤「……まさかああも見事に宙空の相手に反応するとは……」

本部「サッカーは宙空を飛び交うボールを足技とトラップでやりとりすることが多いスポーツ」

本部「宙空対策は万全、ということだろうよ」


この試合を見学していた岩館揺杏(17)はこう語る。

揺杏「いや、飛んだんだってマジ!」

揺杏「……ああ、いや、そうじゃなくて」

揺杏「確かに、サマソであのおっぱいちゃんも跳び上がってたけど……」

揺杏「とんだのはチミっ子の方!」

揺杏「……いやいや空中殺法の話でなく!」

揺杏「ジャンプでなく、むしろフライ的な意味で」


揺杏「バランスを崩した体にサマーソルト……」

揺杏「まぁ、まさかあんなデカイのを喰らうたァ思ってなかったんだろうねぇ」

揺杏「飛んだのさ」

揺杏「顎に一撃、いいのを貰って」

揺杏「軽すぎたのが災いしたのか、あのおっぱいちゃんの蹴りがしなやかすぎたのか」

揺杏「グルグル立て回転しながら天井まで吹き飛んでったよ」

揺杏「ハイパーヨーヨーにあったよあんな技」

揺杏「風車とか、セルなんとかってブラジリアン柔術のおっさんみたいに回転しやがんの」

揺杏「それで思ったね」

揺杏「私みたいなただのはねっかえりじゃ、一生あそこにゃ立てねえなってさ」


塞「ばっ……」

塞(馬鹿なッ!!)

塞(確かに、小パンを蓄積させ潰されちゃえ空のチャンピオンとか思ってたッ)

塞(でもこれは想定外ッ!)

塞(なんなのあの威力ッ!)

塞(身体能力は頭に入ってるし、キックを活かした格闘技もあらかた寂先生に教わった……)

塞(でもあんなのはデータにないッ!)

塞(あんなことができると分かってたら塞いだりはしなかったッッ)

初美「……」 シロメグルン

どさぁ……

塞(天井に当たり跳ね返る威力の蹴りが顎にッッ)

塞(しかもあの高さからの落下ッ!)

塞(再復帰は難しいほどの致命的破壊力ッ!)

塞(このままならッ……)

塞(本命のオカルト集団である永水を差し置いてッ!)

塞(出るッ……)

塞(残り三校から……)

塞(2勝先取し勝ち抜け確定するとこがッッッ)


塞(姫松は“ヤバ”い……)

塞(いやーー)

塞(何の因果か、副将戦の連中は全員がヤバイッ!)

塞(本来これだけヤバイ連中が集まれば、同盟なりの戦略性が発生するのに、原村のせいでそれもないッ!)

塞(あるとすれば、私と姫松が手を結ぶケースのみッ)

塞(永水にしたようにッッ!)

絹恵「…………ふぅ」

絹恵「悪く……思わんといて下さい」 ザッ

塞「ハン」

塞「ナメられたもんだわ」

塞「先に私とタイマン、ね……」 スッ

絹恵「……なめとるわけやないですよ」

絹恵「ただこれがーー少ない勝ち筋で一番現実味があったってだけです」 ザッ


塞(まぁ、でもこれは……)

塞(考え方によっては好都合)

塞(予想を遥かに超えてくるあの蹴りは、一発足りとも貰えない……)

塞(裏切りで一撃入れられるだけで不味い)

塞(邪魔が入らず真っ向からいけるなら、これほど助かるものはないわ)

塞(いろいろ不確定要素があるけれど、オカルトじみてる破壊力はなんとか塞げる……)

塞(逆に清澄の原村なんかは自分の世界みたいなのに篭って愚直なまでに基本に忠実なせいで、恐らく防塞は効かない)

塞(でも基本に忠実だから、知識と経験で対処はできる)

塞(私にはみっちり鍛えられた自負があるッ!)

塞(真っ向勝負のタイマンならば遅れは取らないッ!)


塞(それに……多分防塞が清澄には使えないことはバレてない)

塞(清澄を倒せるだけの体力は残さないとだけど……)

塞(防塞自体の使用回数は気にしなくても使えるッ!)

塞(その認識の差をつきたいッ)

塞(最悪、動けなくなっても姫松は塞ぐッ!)

塞(サドンデスに出るメンバーが唯一大怪我追ってくれてる姫松だけは勝たせちゃいけないッ!)






本部「……動くッッッ」


塞「はぁぁぁぁぁぉぁッ」 ガガガ

絹恵「うッわ……!」



恒子「お????っ!」

恒子「流れるような連打連打連打ァァァーーーーッッッ!!!」

本部「例え不利な体勢でも、キーパーとしての本能が獲物を捉えた……」

本部「しかし、それはあくまで追撃を受けていないシチュエーションでのみッ」

本部「手数で何度も体を狙われるシチュエーション、サッカーにはない」

本部「流れるような連撃こそ、サッカー選手に対する最高の防御ッッッ」

加藤「な・る・ほ・どォ?????……」

加藤「しかし……」

加藤「なんだ、あの打撃スタイルは?」


絹恵(くっ、なんやこいつ!)

絹恵(薄墨ほど手が出んわけやないのにッ!)

絹恵(一撃もそない重いわけやないのに、まるでこっちの攻撃が当たる気がせえへんッ!)

絹恵(大振りの蹴りはヤバイッッッ)

絹恵(せやけどキーパー特有のキャッチングすらできへんなんてッッ!)






霞「あらあら……」

巴「やりますね、彼女」

霞「はっちゃんや、あの姫松の娘は、言うならば圧倒的な『邪道』の持ち主」

霞「初見の相手を翻弄し、奇襲めいた技を打てる……」

春「対して原村和は『王道』の中の『王道』……」 ポリポリ

霞「ええ……」

霞「一つの『王道』を極めて、強力な武器にしてるわ」

巴「でも、あの宮守のモノクルさんはーー」

霞「ええ」

霞「そのどちらでもない」

春「……かといって、私や姫さまともまた違う」

霞「そうね」

霞「『王道』と『邪道』をブレンドしたスナイパー空手とは違う」

霞「オカルトも持っているようだけど、今の格闘スタイルに組み込まれているわけではないし、小蒔ちゃんのようにオカルトに支えられているわけではない……」

霞「言うならば、『王道』に『王道』を混ぜ合わせたハイブリッドッッ!」

霞「彼女は、複数の『王道』を会得しているッッッ!!!」


寂海王「彼女には……」

胡桃「?」

寂海王「しなやかな腰があった」

寂海王「しかしそれだけだ」

寂海王「それだけでは、いきなり強き格闘家にはなれない」

胡桃「……」

寂海王「だがしかしーー」

寂海王「彼女には、真面目さがあった」

寂海王「そして何より、彼女には広い視野と観察眼があった」

エイスリン「サエ メヂカラ!」

白望「それ違くない……?」

寂海王「よく動く胡桃君と動かないシロ君を同時に面倒見ていたからか……」

寂海王「彼女は常に広い視野を持つ」

胡桃「キーパー特有の視野の広さに勝てるくらい……?」

寂海王「動体視力も関わってくるし、死角からの素早い動きへの対応は劣るだろう」

寂海王「しかし、逆に『何もない状況』でちらりと視線を送り、一瞬で様々なこと思慮できるのは塞君だ」

寂海王「例えばキーパーの彼女は『原村和が仕掛けてこない』のをちらりと確認するのが得意だし、攻撃に転じられすかさず対応できるのは彼女」

寂海王「しかし塞君は、ちらりと観察し原村和の『様子』をしっかり窺えるッ!」

寂海王「常に気を配り、人の心を推察してきたら彼女ならではの観察眼だッ!」

胡桃「結構気ぃ使いだもんね、塞……」

白望「その観察眼と心情察知の力を買われてモノクル託されたんだっけ……」

寂海王「そしてその観察眼に真面目さが加わり、彼女は自主的に稽古を始めた」

寂海王「私が豊音君に様々な武道を教えていたのを見て」

寂海王「そのひたむきさにやられたからこそ、彼女には私の技術を叩き込んだッ!」

寂海王「豊音君は生来のスペックとオカルトがあり、オンリーワンの闘士に育った……」

寂海王「故にッ!」

寂海王「ある意味では塞君こそがッ!」

寂海王「誰よりもこの寂海王の技術を受け継ぐ正統後継者と言えようッッッ!!!」


刃牙「なるほどね……」

加藤「ばッ……」

本部「刃牙ッッッ」

刃牙「実況席でそんな叫んじゃダメだって、邪魔になるだろ」

加藤「それより……『なるほど』ってなんだよッ」

刃牙「なに……」

刃牙「俺は知ってるんですよ」

加藤「知ってるッ……?」

刃牙「あの娘の師匠」

刃牙「噂を聞いてわざわざ初戦を見に来て正解だったかな」

本部「誰なんだ、そいつは」

恒子「ていうかそもそもこの人が誰」

健夜「最後にトーナメントの優勝チームが戦うチャンピオンだよ!?」

健夜「そのくらい覚えておこうよ!」

恒子「さすが小鍛冶プロ!」

健夜「このくらい普通だよ!?」

恒子「若い子でも男の子には詳しい」

健夜「嫌な言い方しないで!?」


刃牙「寂さん……」

刃牙「言葉の通り、きちんと若者を指導していて、やはり凄い人だ……」

本部「その寂ってェのが、奴の師匠」

刃牙「ええ」

刃牙「彼の名は、寂海王」

本部「ッッ!!」

加藤「か、海王ってことは……」

本部「あの烈海王と並ぶ猛者、ということか……」

刃牙「ええ……」

刃牙「直接対決では、烈さんに敗れてこそいますが……」

刃牙「その強さは烈さんの折り紙つき……」

刃牙「こと指導というフィールドならば、烈さんすら上回っているかもしれない……」

加藤「なるほどやべえ集団なわけだ」

加藤「ま……俺なら負ける気がしないがな」


刃牙「……」

加藤「ンだよその目は」

加藤「まさか『アンタじゃ無理だ』とか言うんじゃあねェだろうな」

刃牙「……まさか」

刃牙「アンタなら、勝てるだろうよ」

刃牙「相手はちょっと強いだけの女学生だしな」

刃牙「……」

刃牙(ただし……) チラ

豊音「いっけー、さえーー!」

咲「…………」

刃牙(あの『ヤバイ』感じの二人は除くが、ね)


加藤「それで、結局あのスタイルは何なんだ?」

加藤「そのナントカって海王のスタイルなんだろ?」

刃牙「……空拳道」

刃牙「そこに中国拳法をミックスしたようなのが、寂さんのスタイル」

本部「しかし、ありゃあ……」

刃牙「ええ……」

刃牙「それだけじゃあない……」

刃牙「寂さんも……あの時急成長していたんだ」

加藤「?」

刃牙「様々な武道を使う海王達を間近で見て」

刃牙「貪欲に数多の武道を取り入れて若者達の未来に貢献しようとするその姿勢が花開いた……」

刃牙「彼女には、寂さんが齧ったあらゆる格闘スタイルが詰まっているッ」

刃牙「それも寂さんが噛み砕き、うまく“繋いだ”多種格闘スタイル連撃を会得している」

刃牙「対処は少しばかり骨だ」

加藤「それでも負ける気はしないんだろう?」

刃牙「まァね」

刃牙「だが……あの路線、極められたら宇宙最強かもしれない」

加藤「何ィ?」

刃牙「あらゆる海王の力を取り込んで昇華する独自の拳法ーー」

刃牙「言うならば、彼女の格闘スタイルは『海王拳』ってとこだ」

本部「トリケラトプス拳みたいな形意拳に行き着けるかもしれないな」

加藤「海王の形意拳ってか?」

加藤「ケッ、海王だろうがなんだろうが、最強は空手だってこと、いつか教え込んでやるぜッ」


塞「ふっ! ハァッ!」

塞(仕方がないから、リスクを犯すッ)

塞「キエェーエ!」

絹恵「!?」

ズガッ



胡桃「あの技は……」

寂海王「翻身双肘」

寂海王「彼女オリジナルの技ーー」

寂海王「海王拳の数を増やせないが、今のままではジリ貧」

寂海王「そう判断した際に、一旦流れを切り海王拳を解除しながらも主導権を渡さない」

寂海王「そのために編み出した、背を向け両肘から突進する技……」



絹恵「ぐっ……」

絹恵(バランスを崩されたッ!)

絹恵(せやけど、普通の格闘スタイルを予測して不意を打たれた訳とは違う)

絹恵(バランスを崩されてても、私ならーー!!)



寂海王「背中を向ける意味はある」

寂海王「どこより頑丈で、護身の真髄でもある背中」

寂海王「更に彼女なら、背中越しでーー」




塞(威力は下がるが、喰らえっ) サイッ

絹恵「ッ!」

絹恵(なんや、体のバランスがーー)




寂海王「防塞により下がった威力ならば」

寂海王「背中という最強の防御部位でなら」

寂海王「あの蹴りですら、受け止めることが可能だッッッ!!」


塞「はぁぁぁぁッ!」

塞(ここッ!)

塞(海王拳の数を増やすのが厳しいのなら、この隙に『使う海王拳』を変えるッッ)



ガキャァァァッ



胡桃「と、止めた!?」

胡桃「あの狂った威力の足技をッ!?」

寂海王「なるほど……護身の最終形態だ……」

エイスリン「エ……?」

白望「切り替えたんだ……何だか体が硬い海王に……」

胡桃「そうか!」

胡桃「背中なのに加え、劣化版とはいえ頑丈海王の流木くらいならノーダメージ拳を使えば!」

白望「うん……ダメージを限りなくゼロにすることができる……」

寂海王「……楊海王の金剛拳な」


塞(金剛拳は長いこと使えるほど極めちゃいない)

塞(今この一回こっきり!)

塞「キャオラッ!!」 ギュアッ



恒子「鉄山こーーーーーう!!」

恒子「これは決まったかァ!?」

本部「いや……」

健夜「あれは恐らく距離を取るため……」



塞(相手は格闘技未経験、予想通り受け身自体は下手くそ!)

塞(そしてあの位置なら、顔面に叩き込む方が速いッ!!) ダッ



恒子「なんとォォォ!?」

恒子「今度は臼沢選手が跳んだァァァァーーーーーーッッ!!!!」

健夜「薄墨選手のソレと違った“横”への跳躍……」

本部「回転しながら突っ込む技、か……」


塞には勝算があった。

気配りにより養われた類まれな観察眼ーーそれで、キッチリと見極めていた。



本部「制空権に入る……ッ!」



闇雲にボールに飛び付くだけではキーパーなど出来ない。

反射反応だけでボールに飛び付くのは、絹恵の『制空権』に入った時のみ。

事実、制空権の外を飛んでいる時の薄墨初美は蹴り堕とされなかった。

不完全な形での着地のせいで、絹恵が反応できるエリアは狭まった。

対して塞の制空権は広い。

この飛び蹴りは鍛えられた太腿と尻の筋肉によりある程度の速度と距離を飛ぶことが出来る。

途中墜落の可能性はなく、また『防塞』が有効な姿勢も維持。

こちらの制空権に入り次第防塞をかけ、確実に敵の顔面を打つッ!

例え一撃で昏倒まではさせれずとも、視界を眩ませ、ふらつかせることに意味はある。

ここで畳み掛け、姫松とのケリをつけるーーーー



恒子「なッ…………」



制空権が、交差した。


恒子「なんとォォォォォォーーーーッ!?」

完全に、油断していた。

塞も、絹恵も、おそらくは和ですら意識を外していた。

いやーーきっと本人もだろう。

おそらく未だにマトモに意識は働いていない。

ただ、制空権に触れた者の気配を感じ、飛び上がったまで。

塞(馬鹿なッ……ここでそんなッ……!)

白目を向き、口からは泡を吹いている。

全身の骨が軋んでおり、血にも濡れているというのに、音も無く素早く飛び掛かってきた。

執念を顔に貼り付け、塞に恐怖すら植えつけたのはーー

恒子「ここでまさかの薄墨選手だァァァァーーーーーーッッ!!!!」


塞「うッ……」

塞「おぉぉぉおあァァァァーーーーーーッッ!!!!」 サイッ

塞の行動は、ほとんど反射に近かった。

危機を察知し咄嗟の防塞。

過信していたわけでも、頼り切っていたわけでもない。

それでも、窮地で咄嗟に頼ったものは、麻雀でも決め技にした防塞だった。

胡桃「やった、間に合った!」

エイスリン「サエ、NICE!!」

白望「いや……」

寂海王「不味いな……」

胡桃「へ?」

その“眼”によって、薄墨初美はバランスを崩す。

塞は無防備なジャンプ蹴りを降ってしまった以上、対空を貰うわけにはいかない。

仮に防御に切り替えて被ダメージを減らせたとしても、愛宕絹恵を仕留める好機を逃す結果に終わってしまう。

故に、行動に防塞を選んだことは、決して失策ではなかった。

防塞で不発にさせれば、仮に軸を外しまくった打撃を受けても墜落は避けられる。

塞の不運はたった一つ。

薄墨初美が繰り出したのが、塞いで崩せば撃墜を回避できる今まで通りの『対空蹴り』でなくーー

恒子「な、なんとォォォォォォーーーーッ!?」

恒子「薄墨選手、“しがみつい”たァァァァーーーーーーッッ!!!!」

ーーズラしても密着をされる、『空中投げ』だったことだ。


塞「なッ……!」

もう一点挙げるとすればーー薄墨初美の意識がなかったことも、塞の不幸だと言えるだろう。

格闘技における塞の防塞は、フェイントやメンチといった視覚的要素を主に使って相手の動きを封殺する技である。

無意識化の攻撃には、どうしても効果が薄れる。

エイスリン「ソンナ……」

胡桃「これが麻雀なら見つめるだけめ無条件完封なのにッッ」

寂海王「いや……」

胡桃「え?」

寂海王「そうではない」

エイスリン「What?」

寂海王「塞くんの防塞は、麻雀においても無条件封殺能力ではないよ」

胡桃「???」

寂海王「確かに、防塞をした瞬間、相手の“オカルト”は消し飛ぶ」

寂海王「だがしかし、それだけだ。相手の攻撃を無条件で不発にさせるわけではない」

寂海王「オカルトを消し飛ばすだけで、他には何も影響がない」

エイスリン「???」

胡桃「どーいうこと?」

寂海王「麻雀で言うなら、防塞は『普通の麻雀を強いる』能力だ……」

寂海王「間違っても、『どんな相手も必ず屈服させる能力』ではない」

寂海王「例えば豊音クンの先負を塞いでも、追いかけられた者が一発で振り込むのを防げるだけだ」

寂海王「間違っても豊音クンに掴ませたりする技ではないし、また一発以外のツモやロンは防げない」

寂海王「危険牌をバスバス切ったら当然当たりもするだろう」

寂海王「……塞がねばならない強力なオカルトほど、希少な現象にオカルトが関わりすぎているため塞げば完封出来ていたのだがね」

白望「それこそ、薄墨初美も麻雀でなら……」

寂海王「ああ」

寂海王「塞がれたら普通に『ただの字牌二鳴き』になるし、そこからオカルトのない普通のツモで役満成立する可能性が薄いから塞ぐだけで完封できたかもしれないな」


寂海王「ま、勿論そうして防がれても、薄墨初美にはホンイツが残されてはいるのだがね」

白望「でも、塞には驕りがない……」

寂海王「ああ」

寂海王「オカルトを塞いでも、彼女は決して慢心しないし油断もしない」

寂海王「二鳴きの後の残り少ない相手の手配をキッチリ読み、ホンイツに走った際の不要牌を隙あらば狙い撃つーー」

寂海王「彼女の強さはまさにそれだ」

寂海王「オカルト封じに満足せず、常に考え、観察し、『普通の土俵』でも上回りに行く真面目さが、あの強さを支えている」

エイスリン「Oh……Sasuga」

寂海王「格闘技はオカルトの割合が麻雀よりも遥かに低い」

寂海王「だからこそ、観察眼と気配りを活かし、常に相手に警戒させる行動を示唆し動きを鈍らせる技を会得させたのだ……」

寂海王「大物手に見せかけて相手を下ろすという形で麻雀でも活きるから」

白望「でも、気を失った薄墨初美に、その力は使えない……」

胡桃「塞ッ……!!」


巴「そんな……」

霞「まさかはっちゃんの奥義すら塞ぐなんて……」

春「折角教えたのに……」 ポリポリ

霞「エアカットターミネーター……」

霞「スナイパー空手の技術を教わり会得した、はっちゃんのスペシャルフェイバリットホールド……」

巴「それを防ぐ人が、女子高生にいるなんて……」

霞「まぁ……それでも、おやつ抜きはやめておいてあげましょうか」

霞「なにせーーーーーー」



塞「ッ!?」

恒子「おーーーーっとォ!? この技はァ????!?」



霞「エアカットターミネーターが不発になった時点で、不完全ながら他の技に切り替えることができたんですもの」

春「エアスピンドライバー……」

巴「いけっ、はっちゃん!!」




ズガーーーーーーーーーーーンッッッ!!!



絹恵「…………………………ッッ!!」

和「……」




ワァァァァァァァァァァーーーーーーッッ!!!!



恒子「す、すごい音と衝撃ィィィーーーーーッ!!」

恒子「土煙が立ち込めるゥゥゥーーーー!!」

恒子「薄墨選手は臼沢選手をKOしたのかァァァァーーーーーーッ!?」


塞「…………ッ!!」

塞「ぷはッ!」 ケホッ

塞(い、今のはやばかったッ!)

塞(運が良かった…)

塞(確証もない、ただの反射に近かったッ!)

塞(たまたま……たまたま『意識を失っても機敏に複雑高度な技を繰り出せる』なんてオカルトを塞げたから助かったッ!)

塞(けれども代償は大きい……)

塞(この試合で使える防塞全て使ったてしまったッ!)

塞「ここままは不味いッ!」



恒子「おーーーーっと、姫松高校愛宕絹恵選手、砂煙に突っ込んだァァァァーーーーーーッッ!!!!」



塞(そりゃそうなるッ!)

塞(アホなアナウンサーにバラされるまでもない!)

塞(姫松にしたら、ピンチが一転チャンスになった!)

塞(姫松にしたら“どっちでもいい”んだッ!)

塞(砂煙の中生き残っているのが私でも薄墨でも、煙に紛れてぶちのめすだけッ!)

塞(向こうがどこからどう仕掛けてくるのか私は分からないのに、向こうは落下地点を狙うだけでいいんだッッ)

塞(奇襲て安全に二人仕留められるチャンスなら、仕掛けないわけがないッ!)


塞「ぬわーーーーーっ!!」



絹恵「!?」

絹恵(悲鳴!?)

絹恵(薄墨にやられたか、それとも演技か……)

絹恵(後者なら罠がありそうやけど、今は自分を信じてGOやッッ)

絹恵(技術じゃ相手が上回っとる)

絹恵(ここで終わらせなアカンッ!)

絹恵(見ていてやお姉ちゃん!)

絹恵(お姉ちゃんのため、頑張るからっ……!!)


ドガッ!

絹恵(砂煙が揺らめいたッ!)

絹恵(まだ二人やり合うとる……?)

絹恵(いや関係ない!)

絹恵(そう思わせて様子を見させるブラフの可能性の方が高いッッ)

絹恵(これが罠で奇襲を受けても撃ち落とせるよう制空権を展開)

絹恵(隙のない飛び膝で突っ込んで、ガードされたら追撃、おらんかったら不意打ちに合わせて蹴りを入れるッッ)

絹恵(それが無理でもパンチングで五分までは戻したるッ!!)

絹恵(何があっても自分を信じて、このまま蹴り抜ーーーーーー)



洋榎「ッ!!」

洋榎「やるやんけェ!!」



絹恵「!?!?!?!?!?」

絹恵「お、お姉ちゃん!?」

絹恵(なんッ……で!?)

絹恵(何でお姉ちゃんが砂煙の中におるんやッッッ!!)


絹恵「!?!?!?!?!?」

絹恵の脳味噌が、処理能力の限界を超える。

顔芸のような驚愕の表情を浮かべ、容量不足で悲鳴を上げる思考回路が、とにかく蹴りを中止せよと命令を下す。

恒子「な、なんとォォォォォォーーーーッ!?」

恒子「いつの間にか愛宕選手の姉の方がァァァァーーーーーーッッ!!!!」

無理やりな体勢で蹴りの軌道を姉から外す。

何とか蹴りの軌道はずらせたが、そのために無理な体勢になったこともあり、突っ込むことは止められない。

せめて傷つけないようにと、胴体部に突っ込むように倒れ込む。

もしかしたら抱きとめられる形になるかもしれない。

もしかしたら胸が緩衝材となり姉の負担を減らしてくれるかもしれない。

あわよくば、もといもしかしたら、ラッキースケべのように、イヤーンな箇所に触れてしまうかもしれないが、これはもう仕方がない。

怪我を負わせるのを避けるので精一杯なのだから、怪我に繋がらないラッキースケべの回避が出来なくても仕方がない。仕方がない。

絹恵「お姉ちゃーーーーーーーー」

姉に倒れ込む。

姉の胸へと手を伸ばした手が、2つの山と表記するにはあまりに小振りな山の片方へと伸び、その先端にーー


ーーーー触れなかった。

絹恵「えっ……!?」

絹恵の手が、洋榎の身体を貫通した。

いやーー手応えのなさから言うなら、『すり抜けた』と言うべきか。

洋榎の身体は煙のように揺らめいて、絹恵体が貫通すると同時に消えた。

絹恵「えっ?」

両膝から倒れ込み、両手をつく。

今の絹恵を支配するのは疑問だけだった。

混乱しすぎた頭は、思考をどこか遠い世界へと持っていく。

キーパーとしての集中力は霧散して、制空権が解除された。

絹恵「えっ?」

もう、今の絹恵はSSGKと呼べるような猛者ではない。

ただの混乱した普通の姉に恋するどこにでもいる女子高生だ。

視界に映る相手ならともかく、死角からくる攻撃には対処できない。

晴れ行く砂煙の向こう、背後をつき臼沢塞が迫っていても気が付けないし、対処なんて出来なかった。


胡桃「……」 ポカーン

胡桃「なにあれ?」

寂海王「そうか、君は初めて見るか」

寂海王「……温存しておきたかった、塞クンの切り札だよ」

胡桃「???」

寂海王「塞クンの気配りで鍛えた類まれな観察眼で見極めた身体データに、事前に調べた相手のデータをブレンドする」

寂海王「そうして相手の『弱点』を知る」

エイスリン「ソノクライナラ、ミンナ、スル」

寂海王「そう」

寂海王「そしてその弱点をつくトレーニングをするわけだが……」

寂海王「彼女のソレは質が違う」

寂海王「都合の良い想像をしながら、ただ弱点を打ち続けるだけのイメージトレーニングなどではない」

寂海王「本物と寸部違わぬ仮想敵を相手にした、弱点をつけず殴り飛ばされることすらありえる真のイメージトレーニングッ!」

寂海王「言うならば、リアルシャドーッッッ!!」

寂海王「あまりにリアルなイメージは、肉体にすら影響を与えるッッッ」

胡桃「………………ッッ!」

エイスリン「ンナ、アホナ……」

白望「ありえる……」

白望「思い込みで、人は火傷も出来る……」

胡桃「確かに、実際にそういう実験記録があるってよく漫画にもあるけど……」

寂海王「事実、目の前で起きている」

寂海王「真にリアルシャドーを極めれば、対戦相手を第三者に見せることも可能」

寂海王「塞クンは、それをやってのけたのだ」


恒子「きッ……決まったァァァァーーーーーーッッ!!!!」

恒子「なにがなにやらわからないがッ」

恒子「しかし臼沢選手渾身の奇襲に愛宕選手ダーーーーーウン」

本部「先ほどの姉は……」

刃牙「ああ……リアルシャドーだね」

恒子「???」

恒子「とにかくリアル車道が決まりしたッ!」

恒子「その必殺の威力はまさにハイブリッドカーーーーッッッ!!」

健夜「意味わかんないよ!?」

本部「何にせよこれで……」

刃牙「ああ」

加藤「残った二人のタイマン、か……」


巴「!」

春「宮守の娘……」

霞「ええ」

霞「もう機敏な動きもできないみたいね……」

春「清澄が俄然有利……」 ポリポリ

霞「無理もないわ……」

霞「はっちゃんのエアスピンドライバーは本来なら一撃必殺」

巴「圧倒的タフネスが売りの鹿児島のライフセーバーですら一撃KOされるくらいですからね」

春「完璧には決まってなくても、肉体にダメージはある……」

霞「さあ、ここからどうするのか……」

霞「見せてもらうわ」


塞(まったく、ちょっとムカつく話だわ)

塞(結局最後までマイペースだった原村和が一番体力残してるわけだ……)



ザッ



加藤「動いたッッッ」

健夜「あの身体では、臼沢選手はそう簡単に動けない……」

健夜「罠がある可能性を考慮しても、こうなったらマイペースに待つよりも動くべきとの判断でしょう」

塞(元より効く気がしないとはいえ、防塞ゲージを吐ききったのは精神的にちょっと辛い)

塞(加えてこのコンディションッ)

塞(真っ向からは攻められないッ!)

塞(だけど、このコンディションだからこそ翻弄するような立ち回りも厳しい……)

塞「……」 スッ

塞(なら、覚悟を決めるッ!)

塞(私が一番得意とする戦法に殉じるッッッ!!)

塞(相手の攻撃をいなし、塞ぎ、必殺の一撃を叩き込むッッッ!!!!!)


塞「……」 ユラァ

塞(シミュレーションは出来ているッ!)

塞(運良く原村の個人サイトを見つけられたのが大きかったッッ)

塞(バレていないつもりかもしれないが、私にはもはや丸裸だッッッ!!)




ざわっ・・・



恒子「な、なんとォォォォォォーーーーッ!?」

恒子「今度は突如として、謎の少女が現れたァァァァーーーーーーッッ!!!!」

健夜「清澄高校の大将の娘だよ!?」

恒子「さすが小鍛冶プロ、詳しいですね」

健夜「むしろ何ですぐ忘れるの!?」


塞(ブログにあった『SM』はまず間違いなく『サキ・ミヤナガ』ッ!)

塞(惚気を見るのは辛かったけど、おかげで二人の関係性は完璧に抑えてあるッ)

塞(なーにがまさにソフトSM風の厳しい出会いに始まった今ではラブラブですだ!)

塞(面白くもない惚気ブログを延々読まされた逆恨み、ここで晴らすッッッ!!)

ユラァ……

塞(とにかくベタ惚れ、性格はやや引っ込み思案も時折大胆な行動に出る)

塞(最初真逆だったように、勝負には感情やら余分なものを持ち込むタイプッ)

塞(更に殴り合いがそれほど好きじゃないときたら……ッ) ゲボァッ



白望「喀血……」

エイスリン「ソンナ……」

胡桃「塞ッ!」

寂海王「いや……あれは……」

寂海王「あの喀血は意図的に吐き出したもの……」

胡桃「えっ?」

寂海王「望む相手とシャドーをし、ダメージを受けたわけじゃァないッッッ!!」

胡桃「じゃ、じゃあ一体……」

寂海王「あれを」 スッ


和(何をしているのかわかりませんが……)

和(私は私のできることをやるだけです)

和(相手が誰で何をしようと関係ない)

和(ただ効率よく、私にできる最高の突きをお見舞いするだけ……) キュッ

塞(やっぱり吐血を意に介さずとどめを刺す気か……)

塞(アンタはそれでよくっても……)

塞(拳を振るうことにトラウマがある娘は……)

塞(“アンタのハニー”はどうかしら!?) カッ

和(私だけのマッhーーーー)

咲『やめて和ちゃん!』

咲『もう勝負は付いてるよッ』 バッ

和「ッ!?!?!?」

和「咲さ……!?」


久「むぅ……あれは理二写道」

まこ「知っちょるんか部長!?」



理二写道(りあるしゃどう)ーー

その起源は中国元代に遡ると言われる。

当時貧困からくる反乱が多かったことは広く知られているが、その主戦法が殺人拳法であったことはあまり知られていない。

貧しい者が手に入れられる程度の武器では太刀打ちできないことを学習し、下準備が可能という自らの長所を活かすべく多くの者が反乱のために武を磨いた。

その期間の食べていく銭を稼ぐため、最も優れた資質を持つ者以外は皆労働に従事したことが、唯一人で己を鍛えた末に至る理二写道の始まりとされる。

ただ型を極めるだけの拳法では実践だの応用力に欠けるとして、次第に当時の訓練法は対人戦を想定してのものが主流となった。

その中において、単なる都合の良い動きをする傀儡ではなく、きちんと理に沿って現実的な動きを取る相手を想像できた者だけが、仮想敵を『創造』出来たのである。

戦う相手や地形及び人体の可動域など、あらゆる理(ことわり)を理解して初めて到れるその境地は、理を持った二人目の戦士ーーつまりは模擬戦の相手を映し出す事を可能にするのだ。

かの宮本武蔵が巌流島の決闘の際、佐々木小次郎が痺れを切らし勝機を生む絶妙なタイミングを図るためにこの理二写道を行ったことはあまりにも有名。

なお、余談ではあるが、この時初めて日本で理二写道を行った宮本武蔵が、中国から伝わった『りあるしゃどう』という言葉に対し、『理がある仮想敵を写す道』として『理有写道』と文字を当てたが、正式な表記は『理二写道』である。

しかし宮本武蔵への敬意を示す剣術家の中には、意図して理有写道という表記を使用する者も少なくない。

(民明書房刊 『武闘家の心理学』より)



優希「で、でも、それがなんなのか分からないけど、のどちゃんには通用しないじぇっ!」

まこ「ほ、ほうじゃ!」

まこ「あやつは究極のマイペースにして現実主義者」

まこ「そんなオカルトは通用せんわ!」

久「いえ……むしろ逆よ」

まこ「え?」

久「和だからこそ、不味いのよ」


まこ「ど、どういうことじゃ!?」

久「和の真骨頂は、対戦に必要な最低限の情報以外を遮断し、惑わされずに的確な判断をすることにある……」

久「それこそ、相手が消えても無効化できる」

優希「それなら今回も……」

久「でも和の力も完璧じゃない」

久「あくまでブレずに己を貫くための力で、宮守の娘みたいにオカルトすべてを塞ぐことが本領じゃないわ」

久「だから咲の嶺上開花や優希の東場パワーアップを防ぐことまではできない」

久「優希との試合の場合は、優希のパワーアップを意に介さずに己の最高率を目指した打ち回しをして、結果的に優希より早く上がれることもあっただけ……」

久「対非現実的事象に対する万能選手なんかじゃないわ……」

まこ「な、なるほどのう……」

まこ「言われてみれば、オカルトを食らっても動じないというだけで、オカルトを喰らい偶然扱いしとることも多いわい」

久「さらに麻雀ならば牌を見るだけで済むけど、格闘技においては相手の拳を、そして動きを見なくてはならない……」

久「ましてや肉体可動域や僅かな予備動作から確率的に高い攻撃への防御を行うための注視ともなれば」

まこ「な、なるほど、りあるしゃどうにかかりやすいというわけか……」

久「ええ」

久「咲の幻影は、避けることができないでしょうね……」


久「勿論打開の目はあるわ」

久「咲のシャドーを見ても、咲さんがここにいるなんてそんなオカルトありえません、なんて言って無視したらいい」

久「所詮は幻影」

久「それも宮守の娘の生み出したもの」

久「宮守の娘には触れられても、和に触れることは難しい」

咲「でも、それなら問題ないんじゃ……」

優希「……」

まこ「……」

咲「え? えっ?」

久「……そう、モンダイないでしょうね」

久「あの娘が、幻覚のとは言え、咲を無視できるなら、ね」 チラッ


和(咲さんッッッ!?!?)

和(紛れもないッッッ)

和(この目ッ艶ッ肌ッッッ!!)

和(紛うことなき純度100パーセントの咲さんッッッッッッ!!!!!)

和「いや……」

和(そんなことはありえません)

和(ですが……)

咲『もうやめて和ちゃんっ!』 ダキッ

咲『そんな和ちゃん見たくないよう』 ウルウル

和(私のことが大好きで……ボディスキンシップも過多で……)

咲『和ちゃんだって怪我してるかもしれないし……』

咲『医務室にいこ? ね?』

和(過剰に私を心配して……天然の上目遣いで……)

咲『私が包帯も巻いてあげるから、その……』

咲『二人で、ね』 サワッ

和(そしてセクシャルアグレッシブッッッ)

和「ありですねッッッ!!」 ブババーーー






優希「問題……ない……?」

咲「……ダメかもしれない……」

まこ「柴田亜美みたいな顔して鼻血吹いとる……」

久「ポーカーフェイスも崩れるレベルで滅茶苦茶幸せそうね」


塞(かかったッ!)

塞(年中発情するバカップルめ!)

塞(なんか全くモテないし想い人にも気付かれないしな女の怒りを思い知れッ!)





胡桃「出るッッッ」

胡桃「塞の謄空螺旋脚ッッッ!!」

白望「当たれば決まる……!」

胡桃「相手はリアルシャドーの術中ッ!」

胡桃「行けるよ塞ッ、決めちゃえッッッ」

エイスリン「GO! サエ、GO!」


咲『和ちゃん……』 チュッ

和(あっ……こんな場所でそこまで……)

咲『いつもみたいに、二人で……』 サワッ

和(………………ほほう……)

咲『ずっと一緒に……』 チュパ

和「……そんなの、アタリまえじゃないですか」

咲『嬉しい……』 クチュ…

和(……やっぱり……)

咲『和ちゃん……』 レロォ...

和(こういうことって……)

咲『私のも……触ってほしいな……』 シュル

和(たいていはそう……)


優希「目を覚ませのどちゃーーーん!!」

まこ「あかん完全に幻覚の咲と野外露出プレイに入ろうとしとるッ!」

咲「うわあ……」

久「おっ、胸に手を伸ばしたわね」

まこ「何でピンチなのに楽しそうなの」






和(たいていは……)

咲『えっ……?』 ズボッ

和(ーーーーーーーーーー夢)






優希「なッ!」

まこ「幻覚の咲を貫いたッ!」

咲「これはこれでいい気はしないかも……」

久「泣いてる……?」

咲「え?」

久「……汗かもしれない」

久「でも、確かに……」

久「彼女の心は、涙を流しているわ……」


塞(貫いてきたッ!)

塞(だけどまだ想定を越えはしないッッ!)

塞(幻覚と分かっていても、恋人の腹をぶち抜くことには抵抗がある)

塞(何とかぶち抜けた程度の正拳じゃあ、私の技まではぶち抜けないッ)

塞(無理やり幻影を振り払ってた場合もそう!)

塞(一度拳を引いて体勢を立て直す時間があるかしら!?)

塞(不完全な状態同士の激突ならば、私の謄空螺旋脚は負けないッッ!!)



ギュアッ



久「激突する……ッ!」

優希「のどちゃんッッ!!!!」



ズガァァァァァンッッ


恒子「?????ッッ!!」

恒子「こ、これはァァーーーーッ!?」

恒子「う、臼沢選手の顔面に、原村選手の正拳が突き刺さっているゥゥゥーーーー!!」

加藤「な、なんて威力だ……」

加藤「殴られた頭が地面にめり込み、硬直した体が真っ直ぐ天に伸びてやがる……」 ゴクリ

健夜「てっきり臼沢選手有利かと思いましたが……」

本部「……胸の差だな」

健夜「む!? うぇえ!?」

本部「低い姿勢から迎撃したのが仇となったな……」

本部「攻撃はまず巨大な胸に当たる」

本部「もちろん胸は揺れても脳震盪を起こしたりしない……」

本部「痛みさえ気にせずにいれば、位い具合に胸が衝撃を吸収し、また軌道もそらしてくれる……」

健夜「なるほど……」

健夜「多少のダメージは気にせずに己の打撃をマイペースに貫く原村選手の強みが出たわけですか……」

本部「うむ」

刃牙「いや……それだけじゃない」

健夜「え……?」

刃牙「あの轟音、そしてあの威力……」

刃牙「間違いなく、今の拳は……」

加藤「……」

刃牙「……マッハに、到達しようとしていた」


久「間違いないわ、あれは伝説のF・P・P……」

優希「えふぴぃぴぃ……?」

まこ「な、なんじゃあそれは!?」

久「F・P・P、正式名称フィストファック・ピストン・パンチ」

久「ボクシングにおける伝説の技よ」






【フィストファック・ピストン・パンチ】

その起源は清朝時代中国の覇羅範将軍とされる。

好色家として知られる羅範将軍による拷問術の一つが、拷問対象の下腹部に握った拳を捻り込み、胎内から破壊するというものだった。

次第に羅範将軍は腕を捩じ込む場所を傷付けた腹部や眼窪へと移し、これが現在のサディスト達が好む所謂『リョナ』の源流となったことはあまりにも有名。

余談だが初めてその拷問を受け生還し、その残虐な行為を世に知らしめた女性の名『梁那』が『リョナ』の語源となったことは、あまり知られていない。

羅範将軍の残虐な行為はほうぼうから非難され、中国武術会においてその存在は禁忌とされた。

しかし1989年、悪童の異名を持つアメリカのヒールボクサー『ジェイク・ハワード』が羅範将軍の拷問を参考にしたフィニッシュブローを開発。

フィストファック・ピストン・パンチという名前はこの時ジェイクが付けたものだが、長いためかこの技について記されている文献では表記をF・P・Pで統一している。

肉体を貫きなお内臓にダメージを与えるその威力は絶対的な破壊力を持っていたが、しかし腕にかかる負担も大きく、使用したジェイクの腕を引き裂き彼を引退へと追いやった。

しかしその威力と伝説に惹かれ、威力を落とし妥協するなりダメージを軽減する方法を模索したりし、オリジナルフィニッシュブローにF・P・Pを取り入れる者は現代でも少なくない。

その際は、二つのPの間に使用者の象徴となるアルファベットを挿入し、4文字で呼ぶのが通例。

その伝統を最初に始めた人物は未だ判明していないが、マスメディアに表記されたのは2000年にウェルター級チャンピオン『ジャック・ミレッジ』がその年代になぞらえて付けた『F・P・M・P(フィストファック・ピストン・ミレニアム・パンチ)』とされる。

その後はメディアが先行して選手に因んだ名前をつけ選手がそれを正式名称に採用するのが大多数のパターンとなるが、今でも選手自ら名付けるケースも稀だが存在する。


(民明書房刊 『ボクシングと中国拳法』より)






久「あの娘、この土壇場でF・P・Pを自分のものにしたんだわ……」

優希「のどちゃんは空手だけじゃなかったのかっ……!」

まこ「腹を貫き尚もダメージを与えるように動かす技だったからこそ、あれほどの威力が出せたって訳か……」

久「言うならば、ズボッとぶち抜くF・P・M・P(フィストファック・ピストン・まんこい・パンチ)ってとこかしら」


和(ア……リ……ガ……ト……)

和(臼沢さん、アリガトウ……) ナミダツー

和「臼沢さん……」

和「あなたに心から感謝したい」 ポツリ

和(自分が誰で……)

和(何の為にこの場にやってきて、そして何をしなければいけないかを――――――)

和(咲さんの素敵な笑顔を見て、改めて思い出しました……)

和「でも……だから……」

和(咲さんのために……)

和(少しでも、咲さんの力になり、そして捏造したあの日記を本当にするためにも……)

和(絶対に、負けるわけにはいかないんです)

和「…………咲さんが、ちょっとえっちで、大胆で……」

和「そして私を愛してるなんて、そんなオカルトありえません」

和「…………ありえないんですよ」






【副将戦】
勝者 原村和(清澄高校)


寂海王「……」

寂海王「悲しい背中だ」

白望「え……?」

寂海王「……勝者には、様々な種類がある」

寂海王「君のように、買って当然と言わんばかりに嬉しそうにもしない者」

白望「そんなつもりは……」

寂海王「なくてもそう見えるものさ」

寂海王「逆に中堅戦の姫松の選手のように、全身で勝利を喜ぶ者」

寂海王「敗者を煽る者もいる……」

寂海王「喜びのあまり涙する者や、気が抜けて倒れる者もいよう」

寂海王「だが彼女は、そのいずれでもない」

寂海王「あれほどまでに悲しい勝ち名乗りは知らない」

寂海王「……行こう」

白望「え……?」

寂海王「彼女の、そして日本の武道の未来のためにも、彼女を導いてあげなくてはなるまい」

寂海王「それに……塞クンも心配だろう?」

寂海王「皆で迎えに行こう」

胡桃「……塞ッ!」 ダッ


恒子「決着ゥゥゥーーーーッッ!!」

恒子「副将戦を制したのは、“バストも空手もワールド級”清澄高校原村和ァァァァーーーーーーッッ!!!!」

健夜「なにその勝手なキャッチコピー!?」

恒子「そしてこれにより、清澄高校の勝ち抜けが決定ッ!」

恒子「またも落とした永水女子は苦しいかァーーーーーッ!?」

健夜「でもまだ永水女子の大将が勝って、残りの一枠を賭けてのサドンデスになる可能性は残されています……」

健夜「大将戦までどうなるかわかりませんから、諦めないで頑張ってほしいものですね」

恒子「なるほど」

恒子「以上、テレビカメラも入ってないのに好感度をつい稼いでしまった小鍛冶麻雀プロの有り難いお言葉でした!」

健夜「そんないやらしい意図はないよ!?」


恒子「それではいつの間にか増えてる解説の人にも話を聞いていきましょー!」

恒子「まずは公園が似合う感じの!」

健夜「すっごく失礼だよ!?」

本部「見たところ、武道の心得ならば清澄か宮守といったところ……」

本部「この結果は妥当だろうな」

健夜「答えるんだ!?」

本部「マイクを向けられたからな」

本部「オーダーで清澄が宮守を上回ったといったところか」

本部「永水は武道以外のモンの心得があったようだが、そんなもんが通用するるほどこの闘技場は甘くはない」

本部「姫ま」

恒子「なるほどー、それじゃあそこの何だか噛ませっぽいお兄さん!」

刃牙「」 プッ

加藤「あぁ!?」

刃牙「いや……彼の名は加藤……通称デンジャラスライオン」

刃牙「心身会のエースだ」

刃牙「噛ませ犬なんかじゃないさ」

恒子「なるほど」

恒子「ではデンジャラス体温さん」

加藤「ライオンだ」

恒子「なんだか不戦敗にでもなりそうな異名ですね、高熱っぽいですし」

加藤「~~~~~~ッ!!」


恒子「それで、何かコメントは?」

加藤「……まァ、確かにまだあの巫女集団にもチャンスはあるが……」

加藤「キビシーだろーよ」

加藤「何せ、ここで勝ってもつれ込ませても、永水だけは連戦」

加藤「もっと言うなら、大怪我をした姫松と比べほぼ無傷な宮守有利」

加藤「宮守は姫松だけを倒せば勝ち抜けの目がでかい分、圧倒的に優位な立場ッ」

加藤「対立するだろう姫松と宮守に対し、永水はどちらに加担するのか」

加藤「ついでに清澄もどう出るのか」

加藤「それに全てがかかってるだろうな」

恒子「なるほど、ありがとうございました!」

恒子「以上、デンジャラスダイソンさんでした!」

恒子「さっすが全く変わらない解説力でしたね!」

健夜「意味分かんないし失礼だよ!?」


恒子「それでは、えーっと、チャンピオンさん?」

恒子「何かコメントをどーぞ!」

刃牙「………………」

恒子「あのー?」

刃牙「……………ッ!」

恒子「あれ? もしもーし」

恒子「どーしたんですかねー、さっきまでは普通だったのに」

恒子「中継カメラのラグでしょうか」

健夜「真横に座っているのに!?」


寂海王「~~~~~~~ッ……・」

白望「……先生?」 ピタ

寂海王「…………」 ダラダラ

白望「……?」

寂海王「不味いッッ」

寂海王「こ、この感じッ」

寂海王「全身の細胞が、前に進むことを拒むこの感じッッッ」

白望「……?」

白望「よくわからないけど、胡桃達行っちゃったし、先に――」

寂海王「……待ち給え」

寂海王「前言を撤回してよ」

白望「?」

寂海王「君はここで待っていなさい……」


胡桃「塞ッ!」 ダッ

ドン

胡桃「あたっ……」

胡桃「あ、ごめんなさ――」

咲「……いえ」

咲「こっちこそ、ごめんなさい」

エイスリン「――――ッ!」 ゾワッ

エイスリン(ファック!)

エイスリン(ワッツアファッキンクレイジーオーラ!!)

エイスリン(ゼンシンノ ケアナカラ ヘド ブチマケソウダッッ…・・・!!)

豊音「……塞」 ダッ

豊音「だいじょーぶ?」

塞「う……」

和「大丈夫でしょう、少しコンクリートに頭部がめり込んだだけです」

和「そんなに命の危険はありません」

咲「よかった……原村さんが手を汚さなくて」

和「咲さん!!!!!!!!!」 ダッ

和「きてくれたんですね……やりましたよ、私」 ダキー


洋榎「何や、大集合やな」

絹恵「あ……お姉ちゃん……」

洋榎「よ、絹」

洋榎「何か今回は清澄の以外ダメージやばそうやったから、みんな様子見来たようやな」

和「怪我してないのに迎えに来てくれる宮永さんに感動しました」

咲「そんな大げさな……」

絹恵「はは……ごめんなお姉ちゃん」

絹恵「お姉ちゃんくらい怪我しても気合で勝ててたら、原村さんみたいに抱きしめてもらえとったんやろうになあ」

洋榎「なんや、抱っこくらいいつでもしたるでー」 ケラケラ

絹恵「もう、子供扱いせんとってや」

恭子「永水の娘は救急車に乗せられたみたいですね」

漫「すごい音立てて落下して、その後もやられたわけですからねえ」

洋榎「付き添いで何人かついてったようやけど、もしかして全員ついてって棄権とかちゃうやろな」

霞「ご安心を」

霞「……付き添いたかったけど、私が付き添ってもはっちゃんは喜ばないし、残らせてもらいました」

洋榎「ほー、そらよかった」

洋榎「ついでにさっきのちまっこいのも危険じゃなきゃええねんけどな」

霞「……そうね」

塞「すみませんなんか」

霞「いいえ」

霞「真っ向勝負ですもの、貴女が気に病むことはないわ」


咲「……棄権、か」 ポソ

和「え?」

咲「……もう勝ち抜けは決まってるし、私は別に、戦わなくてもいいんだよね」

和「咲さん……」

久「おーっと、それはどうかしら」

咲「部長?」

久「この話を聞いてなお、貴女は棄権するなんてことが言えるかしら?」 フフ

和「……?」

和「一体何の話です?」

洋榎「家族を人質にでも取っとるんやろか」

漫「逃げたらいつの間にか埋め込まれてた爆弾が爆破されるとか……」

咲「……あー」

咲「でもさすがにそんな技量はないんじゃ……」

久「そこは人間性を根拠に即座の否定をしてほしかった」


久「優希がやられた直後はあんなにやる気満々だったのに、急に怖気づくなんてね」

咲「……」

久「……お姉さんと戦うことになりそうなのが、そんなに不安なのかしら?」

咲「ッ!」

久「貴女のお姉さん、無事に試合を突破してるわ」

久「チームメイトが足を引っ張ったおかげで、一人で2勝」

久「思惑通り自分の圧倒的強さをアピールして」

咲「……」

久「……そこまでしてお姉さんが試合に挑む理由、教えてあげましょうか」

咲「え?」

久「学生議会長の情報網にかかれば、そのくらい調べられちゃうのよねえ♪」


塞「……何か混みいった話なら、私達は邪魔かもね」 イテテ

胡桃「肩貸そうか? 病院行く?」

塞「だいじょーぶ」

塞「……豊音の試合、見届けたいしね」

塞「控室のソファまで、付き合ってもらっていいかな」

胡桃「ん、もちろん」

塞「……」

胡桃「……」

塞「身長差のせいで、肩を借りても全然楽にならな」

胡桃「ごめんって」


由子「肩貸すのよー」

由子「こっちは人手余ってるし、体格的にー」

塞「あ、どうも」

洋榎「ほな、大将戦の前に景気付けになんかやっとくか?」

恭子「余計なことせんでええですから」

ドン

洋榎「あたっ」

洋榎「あ、すんません、見えなかっt――――」

塞「……ッ!」 ゾッ

胡桃「~~~~~~~~~~ッ!」


???「ククク……」

???「アクビしてるのに顔も見せねェと思ったら……」

???「随分つまらねえことをしてるみてェじゃねぇか」

豊音「あ、あわわわわ……!」






豊音「は、範馬勇次郎さんッッッ……!!」






勇次郎「くく……」


その男の持つ雰囲気は、見る者すべてを圧倒していた。

例え彼を知らぬ者でも、萎縮せざるを得ない圧倒的なまでの野性。

歴戦の闘士である寂海王が――否、歴戦の闘士だからこそ、寂海王が溢れるオーラに当てられて歩みを止めてしまう程に。

男、範馬勇次郎の持つ雰囲気は常軌を遥かに逸していた。

洋榎「……すんません」

いつもなら、洋榎は口すら動かすことすら叶わなかっただろう。

しかし――今この場で、洋榎だけが、明確に勇次郎へと声をかけた。

洋榎「デカすぎて避けられんかった」

だって彼女は『お姉ちゃん』だから。

最愛の妹が、またも見てくれているのだ。

いつものような軽い口調で、道化めいたことを言う。

まるでそれこそが愛宕洋榎と言わんばかりに。

勇次郎「クク……」

そんな洋榎に、勇次郎は応える。

容赦や手加減なんてない。

勇次郎「面白い奴もいるじゃァねぇか」

あるのは唯、目の前に立ち塞がる勇気ある者に敬意と本気をもって応える男気だけだ。


豊音「あのッッッ」

胡桃「!?」

塞(トヨネ……一体何を……ッ!?)

豊音「さ、サインくださいッ!!」

勇次郎「……」

勇次郎「昔は俺を知らずとも、誰もが避けてきたというのに」

勇次郎「最近ではナメられているかのように、サインすら求められちまう」

豊音「……」

勇次郎「震える足をむりやり動かして邪魔しただけなら放置もしよう」

勇次郎「だが……」

豊音「ッッッ!!!」 ゾッ

勇次郎「友愛などという不純物のため、戦いの邪魔をしようとしてのことなら、捨て置けねえ……」

豊音「…………ッ!」 ガチガチ


洋榎「……」

洋榎(庇われた、か)

洋榎(情けない……)

洋榎「おい待てやデグっ……!!」

由子「!?」

絹恵「ちょ、おね……!?」

胡桃「ばっ……」

洋榎(うちを庇って大怪我なんてさせられんわっ!)

洋榎「間違えんなや!」

洋榎「お前の相手は、このわたs――――――――――





ズガンっ!!


一瞬の出来事だった。

範馬勇次郎の腕が振るわれたと思った時には激しい打撃音が響き、そして愛宕洋榎の姿は“消えた”いたッ!

誰一人庇うのが間に合わず、愛宕洋榎は吹き飛ばされる(間に入っても吹き飛ぶ人数が変わるだけだっただろうが)

恒子「ひっ!?」

廊下を一直線に吹き飛ばされた愛宕洋榎の体は、そのまま戦いの舞台へと突っ込んでいった。

ただの一度も地面に触れぬままリングの端まで到達。

木板に当たった体は観客席へと跳ねるようにして転がり込んだ。

揺杏「な、何……ッ!?」

どよめきが起こる。

あのこーこちゃんですら混乱のあまりまともに喋ることができないこの状況で。

本部「あっ、おい!」

予感がしていた少年だけが、弾かれたように飛び出した。

本部「刃牙ッッッ!!!」


久「さて……どこから話せばいいかしら」

久「貴女のお姉さん――宮永照が、この大会で地下トーナメントの王者・範馬刃牙を倒そうとしてるってことまでは、オーケーよね?」

咲「……はい」

咲「ただ、何でそんなことになってるのかまでは……」

久「……そうね」

久「まずは、ある一族の宿命から話さなければならないでしょうね」

咲「え?」

久「そこを語らざるを得ないのよ」

咲「からくりサーカスの回想ばりに長引きますか?」

久「大丈夫大丈夫めっちゃ端折るから」


久「範馬一族……まあ、ザックリ言うなら、どちゃくそ強いバーサーカーの一団だと思っていいわ」

咲「予想以上にザックリきましたね……」

久「現在地上最強とされる範馬一族の雄、範馬勇次郎……」

久「彼は対戦相手を渇望していたし、世界中に自分の“タネ”をばらまいたわ」

咲「たっ、たたたたタネって……///」

久「まあ、ザックリと言うと精s」

咲「つ、続けてくださいっ!!」

久「……まあ、その子供達が現チャンピオン範馬刃牙であり、準優勝者ジャック・ハンマーだったりしたの」

久「もはや範馬の子の目的は範馬勇次郎を倒すことにあると言って過言ではないわ」

咲「……」

久「でも……」

久「範馬勇次郎のタネにも、ハズレはある」

咲「え?」

久「戦闘力を受け継がなかった女児も中にはいたのよ」

久「その娘は範馬の血に見捨てられて、普通の少女として過ごし、普通に結婚をして――――」






久「姓を、宮永へと変えた」






咲「……………………え?」


久「早期に仕込まれた子種だったのが幸いしたわ」

久「早々に範馬勇次郎は興味をなくし、次の子種へと興味は移っていた」

久「もう存在も覚えていないでしょうね」

久「でも……」

久「体に流れる範馬の血は、決して宿命を忘れてくれはしなかった」

咲「……」

久「切っ掛けは、家族麻雀という闘争」

久「自分の娘が“鬼”の片鱗を見せて――哀れ範馬の娘は気が触れてしまったわ」

久「家族麻雀で鬼の片鱗を感じ取る度娘に暴力をふるい、別居させられるほどに」

咲「そんな……」

久「あそこまでバラバラなのに離婚して苗字を戻さないのは、きっと範馬の匂いを少しでも消したかったからでしょうね」

咲「……」

久「範馬勇次郎の血を受け継げなかった娘と、色濃く継いでしまった孫」

久「二人が引き離されることで、無事に“鬼”は姿を消した」

久「普通の文学少女として、普通の生を歩んでいた」

久「……須賀くんが、麻雀という闘争の世界に、再び引きずり込むまでは」

咲「入部については部長のウェイトも相当高いような……」

久「……」

咲「……」

久「とにかく、須賀くんによって“範馬の血”は再び目覚めつつあった」

咲(ごまかされた……)


久「……貴女のお姉さんも、範馬の血のことを聞いたんでしょうね」

久「貴女のお姉さんは、貴女ほど血が濃くなかった」

久「だけど、自ら自覚しトレーニングを積むことで、その範馬の血を覚醒させた」

久「……そして、範馬の宿命を背負うことにした」

久(妹との関係を絶ったのも、自分が一身に背負うためだと思うんだけど、これは……私自らいうことじゃないわよね)

久「そして、この大会」

久「貴女の覚醒を、そして範馬刃牙と範馬勇次郎によって範馬の宿命が終息するのを懸念して」

久「自らの家族を巻き込んだ範馬の宿命に自らの手で終止符を打つため、この大会を打診した……」

咲「……」

久「貴女が戦いたくない、というのなら、まあ止めはしないわ」

久「でも、この話を聞いて、己の内にある戦闘衝動が沸き上がっているなら」

久「その力を振るうことで、インターハイよりも先に、お姉さんと和解できるわよ?」

久「さあ、どうする、グラップラー咲――――!」


咲「……」

咲「にわかには、信じられません」

咲「……」

咲「けど……」

咲(家族麻雀で、私だけが勝つと怒られていた理由も)

咲(私が麻雀で“鬼”の血を垣間見せてしまったからだと考えれば説明がつく)

咲(お姉ちゃんをつれてお母さんがいなくなってのも)

咲(お父さんが、何で離れ離れになったか語りたがらないのも)

咲(麻雀から遠ざけるように、何も言わなくなったのも)

咲(……お姉ちゃんが、何も言ってくれなくなったのも)

咲「……信じるしか、ないんでしょうね」

咲「説明がつくことが、多すぎますから……」

久「わかってくれてよかったわ」

久「それで――どうするの?」

咲「……」

咲「お姉ちゃんと、また、話がしたい……」

咲「だから、範馬の血がその障害になるのなら――――」

咲「全部、ゴッ倒します」 ゴッ


バキャアッッッ

久「ッ!?」

咲「何!?」

絹恵「……」 グッタリ

咲「ひっ!?」

久「姫松の……」

久「何をどうすれば弾丸ライナーみたいな軌道でここまですっ飛んで……」

咲「……」 ゾッ

咲「い、行かなきゃ……」

久「?」

咲「……自覚して、ようやく気付きました」

咲「私の中の血が……あっちに向かえと囁いてきてる……っ!」


豊音「……ッ!」

豊音(愛宕選手の妹さんも手負いとはいえ一撃でッ……)

豊音(このままじゃ、超まずいよー!)

豊音「範馬勇次郎さんッ!」

豊音(自分の失態のツケは、自分で支払うッ!!)

豊音「その胸、借りますッ!」 ダッ

勇次郎「くく……」

勇次郎「筋はいい」

勇次郎「迷いもない」

勇次郎「だが――」

勇次郎「ハナから勝利を捨て、時間稼ぎのために胸を借りるなどというぬるい姿勢……」

勇次郎「上等な料理にシュールストレミングをぶちまけるが行いッッッ」

胡桃「と、とよねーーーーーーっ!!」

豊音(やばっ……これ、避けられな――――)


グイッ

豊音「ふぇ!?」

ブォンッッッ

由子「空振りッ!?」

霞「あの娘を引っ張って射程から出したあの人……」

胡桃「あ……ああっ……」

寂海王「か弱い女子供と闘るのが趣味なのかね」

胡桃「寂先生ッッッッ!!」


勇次郎「クク……」

勇次郎「当然……俺としちゃあ退屈な小蝿の相手より……」

勇次郎「腐っても海王を相手にする方がいいがな」 ニタァ

寂海王「……」

豊音「……せ、先生……」

寂海王「下がっていなさい」

豊音「でも……」

寂海王「……」 スッ

勇次郎「ほう……真っ向から構えるね」

勇次郎「この力量差で、柄にもなく素直なこった」

寂海王「今は擂台賽とは違う」

寂海王「私にとって、今の最高の名誉は、日本の格闘技界の未来を担う少女を育てていること」

寂海王「……」 スゥ

寂海王「教え子の前だ、あまり無様は晒せんよ」

寂海王「例え相手が鬼であろうと」

勇次郎「吠えるじゃねぇか」 ニィィィ


寂海王の手首が、腰が、関節が捻られる。

回転の力を正しく伝達された拳は、本来ならば絶対無比の一撃必殺である。

海王の称号を得た男の繰り出す一撃を、鬼は避けようともしない。

勇次郎「効かねえなァ」

鬼が嗤う。

そして振り上げた一撃必殺の鬼の拳を寂海王の顔面へと――――

寂海王「ッッッ!!!」

勇次郎「ほぉ……ちったぁやるようになったみてぇじゃねぇか」 ククク

寂海王「……以前までなら、さっきの拳すら避けられずに意識を持っていかれただろうが……」

寂海王「生憎、今は生徒が見ているものでね……」

寂海王「何もせずに負けられはしないさ」

勇次郎「ふん……くだらん感傷だ」

寂海王「オーガ範馬勇次郎……」

寂海王「君にも、この言葉を贈ろう」






寂海王「強いだけではつまらんぞ」






自分の強さの根底を鬼へと叩き込むべく、寂海王が再び一歩を踏み込んだ。


何万回も放ってきた自慢の一撃。

オーガと相対するのなら、それに頼らざるを得ないだろうとずっと思っていた。

たとえ通用しなくとも。

悔いなき結末を迎えるためにも、これ以外に放てる一撃などない。

対する鬼(オーガ)は余裕に満ちている。

しかしその顔はどこか楽しそうである。

無味だったよくわからない物体が、噛み尽くしたガム程度の味わいを得てくれた。

多少は楽しめるだろう。

胡桃「ッ!!」

例え寂海王の教え子が、得意のダマで接近しバランスを崩すべく体当たりをしてきたとしても、だ。

勇次郎「ぬりぃな」 ニタァ

むしろ丁度いいハンデであるし、何よりまだ向かってくると言う点だけは評価できた。

下品な顔を浮かべ、勇次郎がアッパーカットの要領で拳を放つ。

わざわざ、胡桃の体が軌道に入るように。

寂海王と共に、無謀な勇気を持った少女の体を破壊するために。


しかし、寂海王は意に介さない。

確かに視界には今にも屠られんとする胡桃の姿が映っている。

だが、それでも。

ピクリとすら、胡桃に反応しない。

白望「胡桃……!」

寂海王は、知っていたから。

鹿倉胡桃という少女が、手に余った末迷惑をかけるような無謀はしないことを。

小瀬川白望という少女は、きちんと周りを見てセーフティーネットのように一番大事な所でだけはきっちりフォローを入れることを。

白望「くっ……」

胡桃を庇い、白望の身体が勇次郎に吹き飛ばされる。

消力を使ってなおも、肉体がギリリと痛む。

突き飛ばされた胡桃は、地面をはね傷口をさらに傷めつけることになった。

――――だが、それだけだ。

二人とも、命に別状はない。

それが理解できていたから、寂海王は意図して二人を意識から放り出すのだ。


塞「おッ……ゔぇぇぇっ」 ビチャビチャ

臼沢塞が血の入り混じった反吐を吐く。

ゲージを吐き出しきった体で、なおも非現実極まるオーガの破壊力を塞ごうとした反動だ。

それでも視線はオーガを捉え、少しでもその威力を軽減させようとする。

エイスリン「…………ッッッ!!!」 ギャリギャリギャリギャリ

エイスリン・ウィッシュアートが壊れそうな腕でスケッチボードに理想を描く。

絵描きとしての限界を超え、それでもなお恩師が鬼退治を遂げる絵を超スピードで描いていた。

豊音「先生ッッ」

そこまでしても、勇次郎の拳は止まらない。

超威力を孕んだ拳は、威力を弱められ軌道を歪められながらも、寂海王へと突き刺さる。

豊音「がッ……!」

その威力は、人の身体をも突き抜ける。

まるで竜巻のようなエネルギーの塊が、寂海王の内蔵を掻き乱したのち、その体を真っ直ぐに通り抜けた。

そのまま寂海王の体を支えようとしていた姉帯豊音の身体にもエネルギーは突き刺さる。

寂海王に消費されたエネルギーの残り粕にも、豊音を壁まで吹き飛ばし、衣服をズタズタにする破壊力は残されていた。

勇次郎「!!」

しかし――豊音がその背を支えたから。

塞が、エイスリンが、胡桃と白望が、鬼の一撃を弱めていたから。

内蔵を破壊されようと、寂海王はよろめきもしない。

ただ、正確に――必殺の一撃を放った。


勇次郎「ククク……」

鬼が嗤う。歓喜を湛えて。

その頬には傷がつき、血を流していた。

勇次郎「久しぶりに……てめぇの血を見たぜ」 ククククク

寂海王「なにより困難で……教え子なくては近付けない道だった……」

喀血。

しかし眼はしっかりと鬼を見ている。

内蔵は血反吐はくほどグチャグチャだ。

しかしその体は決して崩れ落ちぬ。

胡桃「先生ッッッ!!!」

寂海王「愛など愚かと言うがな……い、いい……ものだぞ……」

再び拳を握る。

何度も振るった得意の拳を、再び放つために。

塞「先……生ッ……」 ゲロゲロゲロ

寂海王「先生、か……いい……響きだ……」

否――――――

何度も“教えてきた”得意の拳を、だ。

幾度も伝え、繋いで来た技だからこそ、オーガに届いた。

そして、だからこそ、また拳を握れるのだ。

寂海王「あれほど焦がれた海王の称号よりも……ずっとな……」

単なる寂という人間なら、ここまて食い下がれなかった。

寂海王だからこそ、ここまで範馬勇次郎に渡り合えた。

それでも単なる寂海王だったなら、先ほど一撃入れたあとは倒れ伏していただろう。

寂先生だから。

先生という称号があるから、立ち上がることが出来ているのだ。


勇次郎「そうかい」

鬼の表情に、歓喜はない。

満足半分、寂しさ半分といったような、不思議な表情だ。

勇次郎「それじゃ、ちいとくらい、その師弟愛とやらに感謝してやるぜ」

一体何年ぶりだろう。

鼻をわずかにとは言え、体をへし折られたのは。

勇次郎「あばよ」

それでも終わりはやってくる。

魂を込めた一撃を叩き込み、もはや魂の抜けた肉塊となった寂海王を仕留めるべく、鬼が拳を振るった。


刹那、寂海王の体が吹き飛ばされる。

勇次郎の拳より早く、勇次郎の拳より弱く。

勇次郎「ほお……」

勇次郎「風の拳たぁ、面白い曲芸だ」

???「曲芸かどうか……」

漫「あ……ああっ……」

照「貴様の体で試してみるか?」

漫「遅ェぞチャンピオンッッッッ!!!」


勇次郎「その目……その風格……」

勇次郎「なかなか面白いじゃねェか」

照「黙れ」

照「貴様の愉悦のために犠牲となった母のためにも」

照「その笑み、二度と浮かべられぬようにしてやる」 ザッ




塞(う、動けない……)

塞(体が軋むからじゃあないッ)

塞(二人の闘気に当てられて、寂先生にも豊音にも駆け寄ることができないッッ!!)

塞(これが……チャンピオンの持つオーラなの……!?)


咲「お姉ちゃんッッッ!!!」

照「ッ!?」

勇次郎「ほう……また増えるか」

咲「……貴方は……」 ゾッ

照「ッ……お前には関係がない」

咲「……そう」

咲「その人が、例の範馬勇次郎……」

咲「……」

咲「その人が、お姉ちゃんを隔てる壁になるというのなら――――」

咲「この場で、ゴッ倒す」 ヴォッ


豊音「ッッッッッ!」 ガバッ

塞「あ、豊音!」

豊音「……体が痛い……」

豊音「そうだ、寂先生はッ!」

塞「……大丈夫」

塞「死んではいないみたい」

豊音「よかった……」

塞「……チャンピオンが来てくれたからね」

豊音「え?」

豊音「み、宮永選手!?!?!?!?」


照「服を着ろ」

照「少女があまりみだりに肌を晒すものじゃない」

豊音「ありがとうございます!」

豊音「宮永選手の上着とかちょーうれしいよー!」

豊音「家宝にします!!」

照「いいから着ろ」

塞「背中側洋服吹き飛んでまる出しよ」

豊音「わわわっ、ほんとだ」

照「使わないなら帰して」

菫「いや使っても洗ってきっちり返させろよ甘すぎじゃないか?」

豊音「わわっ!」

豊音「弘瀬選手だァァァァ???ッ!!」

勇次郎「ククク……小娘共のスーパースターが立ちはだかる、か」

勇次郎「そしてようやく男共のスーパースターも立ちはだかります、ってか?」 ニタァ

勇次郎「なあ、刃牙」

刃牙「勇次郎ッッッ!!!!!!」


刃牙「誰に断って――」

照「五月蝿い黙れ」 ゴッ

刃牙「ッ!」 ドガァッ!!

照「邪魔をするな」

照「鬼退治は私の番だ」

咲「お姉ちゃん……」

勇次郎「ククク……」

塞(な、なんなのこの緊迫感はッッッ!!!)

塞(緊迫感だけで押しつぶされそうッ!)

霞(まぁ……これも修行かしら……)ゴゴゴゴゴ





三成「勇次郎ォオオッ」

塞(ま、まだ増えるのッ!?)


ダダダダ

ガッ

塞「どッッ……」

エイスリン(Japanese DOGEZA……!?)

三成「こッ……この………………ッッ」

三成「この大会もワシの悲願なんじゃッッ」

三成「か弱きだけの、食われるだけだと思うとった女子高生がッッ」

三成「自ら望んで最強を決めたいと言ったッッッ!!!」

三成「強気を求めるに性差はないと、証明せんとしておるんじゃ!!」

三成「それ児戯などではなく本格的な闘いでだッッッ!!!」

三成「壊さんでくれッッ」

三成「今日は黙って引き取ってくれ」

刃牙「……」

咲「おじいさん……」


勇次郎「……」

勇次郎「カン違いはよくねェな」 ニタァ

三成「……?」

勇次郎「クク……」 クルリ

勇次郎「俺ァ見学にきたんだぜ」

胡桃「よく言うよ……!」

霞「か弱い女の子やご老人をすでに何人もボコボコにしたのは誰ですか」 ゴゴゴゴゴ

塞「寂先生老人扱いなんだ……」

エイスリン「見タ目 ダケナラ アンタノ ホーガ」

霞「……」 ゴゴゴゴゴ

エイスリン「ナンデモナッシン」

エイスリン「ドーゾ ツヅケテ」

勇次郎「ありゃァ正当防衛さ」 ククククク

照「ぬけぬけと……」

勇次郎「ただよォ」 ツカツカ

勇次郎「女限定とはいえ、仮にも地上最強を銘打つ男に挑む権利を賭けた大会だ」

照「……」

照(誰も手を出せない……)

照(奴の風格や言葉には、そんな不思議なオカルトがあるッッッ!!!)

勇次郎「それなりのラインナップをーー」

恭子「ひッ!」

勇次郎「そろえにゃなッ」

恭子「わ……わ、私……?」 カタカタカタカタ


恭子「う……え……あっ……」 カタカタカタカタ

恭子の歯がカチカチと鳴る。

全身が倒壊間近の廃ビルのように軋んでいた。

ぶるぶる震える足にはもはや感覚がなく、立てているのが不思議なほどだった。

勇次郎「大将の二人は、無謀にも挑んでこようとした……」

勇次郎「挑もうと決意するに足る力があった……」

勇次郎の表情は伺い知れない。

恭子の瞳は溜まった涙で滲んでいたし、脳裏に映るは幼少期の思い出ばかりだ。

まったく馬鹿馬鹿しい話だが、オーガの敵意は、平凡な少女に走馬灯を見せるに値するものなのだ。

勇次郎「あの巫女も、迎撃の姿勢は取っているし、その力もある」

勇次郎「だが、お前はどうだ」

勇次郎「無様に震え、ただションベンを漏らすだけ」

もはや勇次郎の言葉も右から左である。

言葉が耳から流れるように、股間を上から下に流れる液体があることに、そこでようやく気が付いた。

視線を下ろすと、スパッツはべったりと湿っている。

その湿地帯は、まるで最初からその濃紺の色をしていたかのような面積だ。

いつしか恭子の太ももを伝った尿により、足元には水溜りができていた。

無理もあるまい、板垣時空において強者に睨まれた弱者はだいたいこうなる運命なのだ。

誰がおもらしを責めることができよう。

恭子「あっ……」 ベキッ


胡桃「き……聞こえた? 今の音……」

白望「うん……」

白望「姫松の人の……闘う心の折れる音が……」

鬼の威圧はそのまま尿圧へと変換される。

スパッツに吸収されて威力を弱めてなおも放出と形容してもおかしくのない勢いで尿が地面に向かい溢れ出していた。

しかし羞恥は感じないし、そんな心の余裕もない。

常時ならば失禁の失態への恥ずかしさで真っ赤になるであろう頬は、今ではすっかり真っ青である。

勇次郎「弱体選手には大会参加をご遠慮ねがおうか!!」 ニタァ

漫「な……何ィ!?」

その言葉に呼応するように、恭子が膝から崩れ落ちた。

水音を立て、自身の作った水たまりへと尻もちをつく。

なおも拡大されゆく水たまりに身をひたし、糸の切れた人形のように呆然とするしかできなかった。

漫「弱体選手やと、その言葉とりけせーーーっ!!」

霞「落ち着いて、試合後の体で挑めるような相手じゃないわ!」

和「あんな露骨な挑発、気にしなくていいです」

漫「はなしてください二人とも」

漫「これはわたしたちの姫松高校としての名誉の問題や!!」 ギリッ

勇次郎「カーッカッカ」 エフッエフッ

勇次郎「おまえたちに名誉なんてもんがあったのか!?」

漫「貴様ァァァァーーーーッ!!」 ダァッ


漫「くらえ、崩撃雲身双虎掌ッ!」

勇次郎「クク……」 ニタァ

ブゥンッッ

バチャァッッッ

塞「ッッッ!!!」

勇次郎「ククク……」

勇次郎「小娘の頭が爆発するはずだったが……」

勇次郎「この期に及んでまた邪魔をするか」 エフッエフッ

豊音「誰も……殺させはしないし……」

豊音「退場なんかさせないよー!」

照「……あいつ……」

咲「宮守の人……」

豊音「末原さんはすごい人なんだよー!」

豊音「姫松高校に欠かせないブレインだし、この場に居るに相応しい選手だよー!」

豊音「私はそんな末原さんと戦ってみたいし、戦って得られるものがあると信じてるから!」

照「……戦うことで成長する、か」

咲「この場でやりあうと誰があの範馬勇次郎と戦うかでもめますよね」

咲「……ルールは、守りますよ」

刃牙「……」

刃牙「ルールなんて知ったこっちゃない」

刃牙「だが――そのルールを通じて本当に強くなれるなら」

刃牙「餌を肥えさせない理由は特にない」

刃牙「そういう男さ、あの人は」


勇次郎「くく……」

勇次郎「詭弁だが――まあ、いいだろう」

勇次郎「爺の顔も立ててやる」

勇次郎「確かに食いがいのある奴もいるようだしな」 エフッエフッ

豊音「……」

勇次郎「ま、後輩の頭部が爆発しそうになってなおも立ち上がれないような奴に、餌としての価値があるかは疑問だがな」 クク

豊音「……」

恭子「……」

膀胱が爆発してた恭子も、さすがに尿の勢いが衰えた。

高笑いをし範馬勇次郎が消えていったのに合わせ、恭子の尿も勢いを失う。

やがて全て出し切ると、そこに残されたのは勇次郎との決意に燃える格闘家達とアンモニアの香りだけだった。


塞「トヨネ……」

豊音「塞、大丈夫?」

塞「なんとかね」

塞「それより……」

豊音「ん、私は大丈夫」

豊音「鬼退治は鬼退治で、夢にまで見た光景ではあるわけだからねー」

豊音「それに……」

豊音「今は宮永選手が鬼の血を継いでることに、感謝してるくらいだよー」

豊音「そんな宮永選手と、全力で戦いたい」

豊音「みんなのためにもだし、私のためにも」

塞「そっか……」

塞「がんばれ、とよねっ!」

豊音「うん!」

塞「っとと」

豊音「大丈夫!?」

塞「ああ、平気、パランス崩しただけだから」

胡桃「怪我が軽くないんだからそうなるって」

豊音「わわっ、寂先生と医務室行きなよー!」

豊音「私なら、大丈夫だかさー!」

塞「ん、ありがと」

塞「お言葉に甘えるわ」


塞「よっこいしょ……」 ジャクサンカツギー

胡桃「ばばくさっ」

塞「やかまし」

胡桃「ほら、肩貸すから」

塞「小さいんだから無理しなくても」

胡桃「いーから」

胡桃「それに気絶した先生と二人だけで医務室とか、塞も寂しいでしょ?」

塞「……」

塞「ま、まぁ、多少は、ね」 テレッ

胡桃「それにここの鎬先生って、腕はいいけど人格に問題あるって噂だし」

塞「うわぁ何それ救急車に乗ったら良かった」


塞「……」 チラッ

恭子「……」 チョロチョロ

塞(姫松の人……)

塞(鬼は去ったけど、まだ余韻で僅かに尿漏れをしている……)

塞(見ててちょっと痛々しいな……)

塞(……)

塞(でも……あの範馬勇次郎が本気で襲おうとしてたのだし、無理もない話)

塞(同情は、正直しちゃうな……)

胡桃「?」

胡桃「どうかした?」

塞「……ううん、何でもない」

塞(果たして……大将戦、出てくることが出来るのか……)

塞(あそこまで恐怖を与えた鬼の血を継ぐ者が相手だというのに……)

塞「……」

塞(もしも何とか出てきたとして……)

塞(神経をすり減らした彼女に、トヨネは攻撃することができるの……?)


漫「くっ……末原先輩!」

由子「あ、動いたらダメ!」

由子「いくら間に宮守の人が入ってくれていたとはいえ、オーガの拳圧を受けたのよー」

由子「ただでさえ、初戦のダメージが消えていないのに!」

漫「それでも、末原先輩の方が今絶対辛いやないですか!」

豊音「あの……」

豊音「何かお手伝いできることは……」

由子「……大丈夫なのよー」

由子「それと、さっきは助けてくれてありがとう」

由子「でも……ここからはもう大丈夫」

由子「恭子のことは、私達に任せてほしいのよー」

由子「それに……こんな姿、あんまり晒したくないだろうし……」

由子「今はそれぞれの控室に戻って、次の試合に備えてくれるのが一番有難いのよー」

豊音「……わかりましたっ」

豊音「あの、その……」

豊音「た、大将戦、楽しみにしてますっ」

豊音「それじゃ!」 タッタッタッタッ

由子「……」

由子「無邪気なんだか無神経なんだか」

由子「天使なのか天使のような悪魔なのか」

由子「なんだか不思議な娘なのよー……」


咲「おねえちゃんッッッ!!!」

照「……」

照「菫、妹なんていたんだ」

菫「お前だお前」

菫「この状況でよくボケれるな」

照「……」

照「……私に妹なんていない」

咲「お姉ちゃん……」

菫(空気重たい帰って麻雀の練習したい……)


咲「……私を、範馬の宿命から遠ざけようとしてくれてるの?」

照「……」

咲「そんなのちっとも嬉しくないよ……」

咲「そんなもののために、お姉ちゃんが遠ざかる方がよっぽど嫌だよ!!」

照「……」

咲「……お姉ちゃん……」

咲「見てて」

咲「私、勝つから」

照「……」

咲「勝って、範馬の血を証明するから」

咲「お姉ちゃんにも、さっきのチャンピオンにも勝って、お姉ちゃんが背負おうとしてる役目も全部果たすから」

咲「私を遠ざける理由を、全部なくしてみせるから」

照「……」

咲「だから、まずは――――」

咲「次の試合、全員まとめてゴっ倒す……ッッッ!!!」


漫「先輩……」

恭子「……」

由子「ほら、立つのよー」

由子「皆もう居なくなったかr――」

郁乃「あれ~~なんか臭くなぁい~~?」

漫「くっ……!」

漫(ここでくるんかクソ代行ッッッ!!!)

郁乃「あらぁ~~~~なぁに、末原ちゃんおもらし~~~~?」

恭子「…………っ!」

郁乃「あ~あ~駆け寄った皆、末原ちゃんのおしっこで制服汚してもうてるや~~ん」

郁乃「おしっこまみれの身体を見せられるこっちの身にもなってや~~」

郁乃「まさに尿体ウォッチやわぁ~~~」

漫「…………ッ!」 ギリッ

由子「気持ちはわかるけど、抑えるのよー……ッ!」


恭子「……」

恭子「なんの……用ですか……」

郁乃「んー……」

郁乃「とりあえず、末原ちゃんがトゲトゲしくでも喋れるかの確認とぉー」

恭子「……」

郁乃「救いの手をさしのべに?」 フフ

漫「何を……」

郁乃「これでも末原ちゃんのことは気に入っとるんやで~?」

郁乃「それこそ、おしっこの中で立膝くらいつけちゃうしぃ」

郁乃「何ならなめ取ることやって――」

漫「な、なんなんですか!」

漫「いくら代行でも、これ以上末原先輩を貶める言うなら――」

郁乃「……」

漫「ッ!」 ビクッ

由子(この目……)

由子(邪なことを考えてそうで、されど味方になると頼もしく感じてしまいそうな真面目さをたまに宿したこの瞳……)

由子(一体何をするつもりなのよー……!)

郁乃「末原ちゃん」

恭子「……」

郁乃「あの子達より強くなりたい?」


恭子「……」

恭子「強く……?」

郁乃「うん」

郁乃「オーガより強くなりたいんやろ?」

恭子「……」 ゴク

恭子「そ、そら……」

郁乃「じゃあ~」

郁乃「まずは~~~」


郁乃「見かけから~~~」

恭子「……は?」 リボンスカートー

恭子「まじめにお願いしますよ!」 バッ

郁乃「えぇ~~~~ん」

郁乃「大まじめやのにィ~~~~~~」

漫「す、末原先輩がスカート……」

郁乃「だいたいおしっこ染み付いたスパッツなんてはいとれんやん~~」

郁乃「気替えは必要やろ~~?」

恭子「ぐっ……」

郁乃「それにぃ……」

郁乃「見かけが変わると気分も変わって~~」

郁乃「ちゃう自分が出せるようになるかも~~」

郁乃「末原ちゃんは元々強いんやから~~~~」

恭子「そんな……」

恭子「わけわかんないんですけど!」

郁乃「まぁでも恐怖は乗り越えんとアカンしぃ~~」

郁乃「だからこその格好やねん」

恭子「……?」

郁乃「実は、この衣装はな――――――――」


恒子「CM明けたぞお前らーーーーっ!」

恒子「リングの周りに集合だァァァァーーーーッ!!」

健夜「CMなんてないよ!?」

恒子「いつの間にか解説席にいたチャンピオンがなんかどこかに行ったり……」

恒子「何故か愛宕選手が飛んできたり……」

恒子「すこやんがほじったハナクソを机の裏にくっつけたり……」

恒子「予期せぬ事態になってましたがッッッ!!!」

健夜「やってないからね!? そんな風に言われたことが何より予期せぬ事態どよ!?」

恒子「まぁそういうことにしてあげましょう」

健夜「なんでそうやってフォローするふりで嘘が広まること言うの!?」

恒子「なんにせよ、ボッコボコだわ血塗れだわの有り様だったステージは綺麗になりましたァァァァーーーーッ!!」

恒子「これで思う存分大将バトルをおっぱじめれるぞーーーーーーーーーツ!!!」

ワァァァァァァァ

健夜「すごい熱気……」

本部「無理もあるまい」

本部「先程までの死闘に続き、敏感なモノなら気がついて当然のレベルで垂れ流されている鬼のオーラ……」

本部「興奮もするだろうよ」

恒子「なるほど、はなくそほじって見てたすこやんとは違う!!」

健夜「ししししてないからッ!」


恒子「早速選手入場だァァァァーーーーッ!!」

恒子「まずは勝ち抜け決定で割りとどうでもいいこの人!」

健夜「その表現失礼だよ!?」

本部「むしろ……清澄がすべての鍵を握っている」

本部「今、ライオンじゃない方の清澄には共に勝ち抜く一校を選ぶ権利がある」

本部「清澄がどこにつくかで宣教は大きく左右されるぞ」

加藤「その点タレント揃いの宮守はやや不利だな」

健夜「大将の姉帯選手がその恵まれた体格でどこまで粘れるかですね……」

恒子「と、いうわけでっ!」

恒子「意外とキーマンだったこの人ッ!」

恒子「青龍の方角から、宮永咲の登場どぅわァァァァーーーーッ!!」

恒子「勝者の余裕か悠然と――――」

恒子「悠……ぜ……」


“それ”は異常な光景だった。

とても普通に、一人の少女が歩いている。

ただそれだけ。

別に肉塊を引きずるわけでも、血に濡れていたわけでもない。

ゆっくりと、スカートをあまり翻らさないように、俯き気味の少女が歩いているだけ。

そこだけを見れば、それは普通の光景だった。

しかしこれは、決して普通の光景ではない。

健夜「……ッ!」

本部「……」

野次を飛ばすのが楽しみと化した観客が、言葉をなくす。

騒がしいことで有名な福与恒子すら、ふざけることができなかった。

さらには並み居る強者が、皆一様に息を飲んでいる。

少女は何もしていないのに。

何もしていないというのに、異様なまでの威圧感を放っていた。



そこにいたのは、もはや一匹の鬼だった。



 


恒子「……ッッッ!!!」

恒子「少々飲まれておりましたァ!」

恒子「この威圧感は半端じゃないぞォォッ!」

恒子「だがしかーーーし!」

恒子「ハンパのなさでは引けを取らないッ!」

恒子「名門校からの刺客ッッ!!!」

恒子「デカァァァァァいッ」

恒子「説明不要!!」

恒子「超乳ッ! 巫女服ッッ!!!」

恒子「サドンデスへと望みをつなぐか、石戸霞ィィィィィィィッッ!!!」

加藤「こッッ……」

本部「これが、高校生のフィジカルだというのか……」

刃牙「なかなかどうして化物じみてる」


霞(状況は不利)

霞(勝ち上がるには、少しでもダメージを押さえて連勝しなくてはダメ)

霞(勝ち上がれても、待っているのは鬼退治)

霞(修行の範疇は超えているし、小蒔ちゃんを危険な目に合わせられない)

霞「……」

霞(でも……)

霞(皆の頑張り、見ちゃったものね……)

霞(例え鬼退治は辞退することになっても……)

霞「目を覚ました初美ちゃん達に、吉報の一つくらい届けてあげようかしら」




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                    { { . .: ..:.:.:{ x==ミ、:.:.{ x==ミ }イ:.:.:. |  ユラァ
                   乂从人代 辷リ `⌒  辷リ 刈:.:.:. |
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                     八:.:.:.:.:.:.j.:.:.:.:}≧=≦{:.:.:|:.:.:.:.: /:.:...\
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   ,, -=ニ二ニ==ニニ二三}}二ニ二彡ヘ    \/   j{:.:.{`¨ミメ、:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:「 }:.:.:.:.:.:.:.:.:.:..`ヽ
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   /ヽ }ニj   γ¨7 /  У       /    /        } ヽ  「ヽ   {ニj /ヽ
   /\У 廴__ノ / / /       /    /           `ヽ ‘, ヽ 廴_ノ し /ヽ
   V¨¨´  ,   ノ / /       /    /              :.ヽ {    、 し{_ノ}
    ’,     {  / / '       . '____.'                :.ハ \   }    ノ
    ゝ. __,__ イ/   {:. .       /    /                   . .:} \ ヽ __,__ イ
       |    |   j{:.:.:. . . .  /    / . ..: .:. :.. .           . . . .: .:.:}   ヽ |   │
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          オッパイオバケ
永水女子大将 “天児の巫女” 石戸霞


恒子「デカさならばこの人も外せないッッ!!!」

恒子「石戸霞が思わず見下ろすデカさなら、彼女は思わず見上げるデカさだ!!」

恒子「真の王者は相手を見下し見上げさせるのだというのを教えてやるッッ!!!」

健夜「こ、これ全部こーこちゃんが勢いで言ってるだけだか選手の子達が言ってるって思わないでね!?」 アセアセ

恒子「その姿、まさしく大型巨人ッ!」

恒子「おおきな身体に強大なパゥワァア!!」

加藤「ぱ、ぱぅわあ……」

恒子「玄武の方角より今ッ!」

恒子「姉帯豊音が故郷で鍛え宮守で進化を遂げたチカラを見せつけにきたァァァァーーーーッ!!」


ワァァァァァァァァッ

豊音「……」

白望「トヨネ……」

豊音「……大丈夫」

豊音「相手があの範馬勇次郎さんの血筋の人だろうと」

豊音「ううん」

豊音「誰であろうと、今の私は負けないよー!」

豊音「行ってくる」 ザッ

エイスリン「トヨネ……」

エイスリン「……」

エイスリン「ダイジョーブ、ダヨネ?」

白望「……」

白望「うん……」

白望「大丈夫だよ、トヨネなら……」

白望「……」

白望(……そうだよね、寂先生)


寂海王「うっ……」

寂海王「ここは……」

胡桃「先生ッ!」

塞「よかった……無事で……」

寂海王「……そうか……」

寂海王「私は、負けたのか……」

胡桃「……先生……」

塞「そんなことありません!」

塞「私も胡桃も他の皆も、無事でいます」

塞「先生が『守るため』に戦ってくれていたのなら――」

塞「私達を鬼から守り抜いてくれた寂先生は立派な勝者ですッ!」

胡桃「うん!」

胡桃「すごくかっこよかったし!」

寂海王「そうか……みんな無事か……」

寂海王「よかった……」

塞「先生……」

寂海王「そしてありがたい」

寂海王「そんな言葉をかけてくれる者がいるというのは」

寂海王「ありがとう」 フカブカー

塞「そ、そんな!」

塞「頭を上げてくださいよ!」

胡桃「どういたしまして、焼き肉でいいよ」 フンス

塞「あんたはもうちょい頭を下げて!」


寂海王「それで……試合は」

寂海王「試合はどうなった?」

塞「……まだ、これから始まるところです」

胡桃「寂先生、意外と早く起きてきたから……」

塞「……」

寂海王「その表情……心配かい?」

塞「……いえ」

塞「トヨネなら、勝てると思っています」

胡桃「姫松の人、もう戦えるような感じじゃなかったし……」

胡桃「永水の人さえ潰せれば、最悪負けてもシロがなんとかしてくれるだろうから……」

塞「……うん」

寂海王「……」

寂海王「それでも……心配そうな顔だ」

塞「……」

胡桃「……」

寂海王「……」

寂海王「そうか、君達は……」

塞「……」

胡桃「……」

寂海王「少し、話をしようか」


寂海王「彼女を村から連れ出すのに苦労したという話はしたかな」

塞「ええ……」

胡桃「何かの縛りだかが村にあったって……」

寂海王「その通りだ」

寂海王「だが――」

寂海王「村の因習は、“若者”を縛り付けているわけでも、“村の娘”を縛り付けているわけでもない」

胡桃「え……?」

塞「まさか……」

寂海王「ああ、そうだ」

寂海王「縛り付けていたのは、“姉帯豊音”ただ一人」

寂海王「姉帯豊音を封じるルールが村にあったのではない」

寂海王「彼女を村に封じるために、村のルールが作られていたのだッッ!!!」


胡桃「そんな……」

寂海王「……背向のトヨネ」

塞「え?」

寂海王「彼女の故郷でのあだ名だ」

胡桃「ああ、麻雀でも使う先負の……」

塞「追いかけるものを後ろから縊く――でしたっけ」

寂海王「ああ……」

寂海王「……おかしいと思わなかったのかね?」

胡桃「……へ?」

塞「まあ、確かに最初はよくわからないオカルトだったし、信じられませんでしたけど……」

寂海王「……」

寂海王「彼女の村は若者が少なく、麻雀は対人でしたことがなかった」

塞「え、ああ、そういえばそんなことを言ってましたね」

塞「確かテレビで見て覚えて、一人で牌を並べていたって……」

胡桃(ギギネブラしか覚えてない……)


寂海王「……その通り」

寂海王「おかしいとは思わないかね?」

寂海王「故郷では、後ろから縊くから背向のトヨネと呼ばれていたというのに」

塞「……あっ!」

胡桃「トヨネ……宮守に来る前、故郷じゃ麻雀打ったことがない……?」

寂海王「ああ……だが、彼女は故郷で背向のトヨネと呼ばれていた」

寂海王「つまりあのあだ名は、先負の能力故につけられたものではない」

寂海王「むしろ、逆」

寂海王「先負というオカルトが、アネタイトヨネという少女の持つ性質に引き寄せられて後天的に身についたのだ」

塞「それじゃ、まさか……!」

寂海王「ああ……」






寂海王「姉帯豊音という少女は、故郷の村で、物理的に多くの命を縊いていたのだ――――」






 


寂海王「最初に“壊した”のは、二宮金次郎だったそうだ」

寂海王「最初は古びた像を子供がじゃれついて壊した危ない事件として処理された」

寂海王「お咎めは、勿論子供にでなく像の管理をしている方にいったことだろう」

寂海王「だが……」

寂海王「少女の持つ圧倒的な力に大人が気付くのに、そう時間はかからなかった」

寂海王「少女を恐れた大人たちの手で、少女は村へと隔離されることになる」

胡桃「そんな……」

塞「ひどい……」

寂海王「だが、幸い少女は親の愛を受けていた」

寂海王「だから小さな村の中でせめて普通の子供らしく生きられるよう、様々な配慮をしてくれていたよ」

塞「……」

寂海王「村の因習も、トヨネくんを縛り付けるものというより、トヨネくんに手を汚させないためのものだった」

寂海王「あの村でなら、イノシシ等の動物を縊く仕事もあったことだしな」

胡桃「でも……そんなの普通じゃ……」

寂海王「そうだ、それは普通のことではない」

寂海王「それが分かっているからこそ――私がトヨネくんを街でもやっていけるような立派な“人”にすると言った時、村の人達は泣いて彼女を託してくれたのだ」

寂海王「自分達では、偽りの楽園しか提供できぬと」

寂海王「彼女のためにも、色々教えてやってくれと……」


寂海王「君達も、うっすらとだが彼女の危うさに気が付いた」

寂海王「だからこそ、心配をしている」

寂海王「勝利は疑っていないのに」

胡桃「……」

塞「……」

寂海王「心配かい?」

寂海王「彼女が道を誤らないか」

塞「その……さっき、見てしまったんです」

塞「背中が破れたトヨネが、最後に割って入った時……」



塞「トヨネの背中に、鬼がいるのを――――」



寂海王「……」

寂海王「そうだ」

寂海王「彼女もまた、範馬の血族」

寂海王「山の奥地に封じられていた一匹の鬼だ」


寂海王「だが、それでも信じている」

寂海王「彼女ならば、正しく力を使えることを」

寂海王「だから、彼女を連れ出したのだから」

塞「……」

寂海王「それに、君達が彼女の心に与えた影響も大きいしな」

胡桃「そう……だよね」

胡桃「トヨネなら、大丈夫だよ!」

塞「うん……」

寂海王「さ……応援してやろう」

寂海王「我々は、誰よりも応援の力というものを知っている」

寂海王「彼女に力をあげなくてはな」


豊音(予備の服持ってきてよかったよー)

豊音(人前で肌を晒すなんてちょーはずかしいし!)

豊音「……それにしても、衣服をあんなにされるなんてねー」 クス

豊音(みんなの為にも、そして私自身のためにも)

豊音「今日は初めて、人を本気で殴れるかもしれないよー」 フフ






                       _ ......... _
                    _ -二二二二- _
                 f⌒V二ニニニニニニ、
                (⌒r冫ニニ二二二二ニ}_

                   _-≧二二二二二二二二二ニ- _
              (ニ二二二l:::l:::::::::::::::::::::::::!::!二二二ニ)
                ̄-ニ二|:::i:::::::::::::::::::::::::l::i二ニ- ̄
                   ,'::::!:::::::::::::::::::::::::!:l

                  ./イ:リ:::::::::::::::::::::::::从

                       / /::::::::::::::::::::::::::::::::.',.\
                     ./ /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::',- _
                _..ィ/:::::::::::::::::::::::::::从:::::::::::'.,ニ≧ 、
               /ニ,イ:::;.l:::::::::::::::::::::::'二.'.;::::::::::'.,二二!
           _ .....ノ/:::/-!::::::::::::::::::::;'二二\::::::::\二l

      ,....':::::::::::::::::::::;ィ≦ニニ!::::::::::::::::::/二二二-\:::::: \!
    /:::; -っ:::::::::::/!二二ニニl::::::::::::::: /二二二二二≧、::::\

   //  /::::::::/  l二二-ハ.l::::::::::::::/二二二二ニ-ハニニ\:::::ヽ
   ((   .:::::::::::/    l二二-! リ::::::::::::/二二二二二-l ',二二ヽ:::::.、
    \ (:::::::::::::、   l二二-! ,'::::::::: /二二二二二二l  ',二ニニ.ハ::::i
      \::::::::::...  ノ二ニニj/::::::::::/二二二二二二-!  〉二二!.l::::l
        ヽ:::::::::ヽl二二-/::::::::::/二二二二二二二l  ヽ二二リ::;'
         .',::::::::::)二ニ/::::::::::/二二二二ニニニニ、  )ニフ∠!
         ノ::::::::/二-./::::::::::/ニ二二二二二二二ニ、  l/≦ニ!
       ./::::::::ノl二-/::::::::∠ニ二二二二二二二ニニ、 lニニニ!
     /:::::::/  lニ/:::::,.イ二二二二二二二二二二二、 l二二ニl
     ./:::::::/   !フ:::ィ-!/ニ二二二二二二二二二二二、.!二二ニ!






           ソガイノクロオニ
宮守女子大将 “八尺戦鬼” 姉帯豊音


恒子「ケンカとコロシは西の華ッッ」

恒子「本場大阪のケンカ見せたるッ!」

健夜「殺しちゃ駄目だよ!?」

恒子「西の名門南大阪より、戦う智将末原恭子の登場どぅわァァァァーーーーーーーッ!!!」

本部「体格的には圧倒的不利」

本部「対策を練るタイプということだが、それが如何に異種格闘技戦で役立つのかだな」

恒子「実際問題戦略って肉弾戦で役に立つものなんですか?」

刃牙「格闘スタイルごとの得意不得意を見極める行為のもたらす効果は大きい」

健夜「相撲取りの小指を取ってはいけないという知識を持っているかいないかで、柔術家が相撲取りに勝てるかどうかの可能性が大きく変わるようなものですね」

恒子「なるほど」

恒子「相撲取りの小指を取る柔道家はカスだと」

健夜「これっぽっちも言っていないよ!?」


恒子「しれっと全国の柔道家をすこやんが敵に回した所で、さくっと開戦の合図に……」

恒子「って、なんとォォォォーーーーーッ!?」

恒子「普段のスパッツはどうしたッッッ」

恒子「末原選手、リボンにスカートのおめかしルックで登場だァァァァーーーーーーーッ!!」

恒子「カメラはないし、カメラ撮影は禁止なのが残念ですね小鍛冶プロッ」

恒子「スカートとスパッツ、どっちも需要ありそうですしね!」

恒子「どちらの方が戦う少女としてマニア受けすると思いますか!?」

健夜「コメントにこまるような話題でこっちにばっかり振らないでよっ!?」






                 ___

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.          |:|: : 从 〈{㎡.:刈      ㎡.:刈}〉从/: :|/
          八|: : : :|:.  V__ツ      V__ツ .: : ::|: :|    (くう、ごっつ恥ずかしい……)
            |: : : :| :. .:::::.   '   .:::::.  .: : :.:.|:.リ
            |: : : :| : :. u     __       .:: : : :.l∧
            |: : : :|: : 个: .   ´--'    . イ|: : : : |: :.
            |: : :l |: : :.l_/: :_:i  --  i:_:l : l:|: : : : |: :.|
            |: : :l |: : : \/{_l      |ノ∨ |: : : : |: :.|
            |: : :l |:|: :_/  \___,/   Ⅵ: : : : |: /
            |: l :l |:「 { _  /~^~∨ ___|: : : :.Κ
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       /  ,/八:l |∨:::::::::::::::介介:::::::::::::::::|:|: : :.:|  l  ‘,






          トクニナシ
姫松高校大将 “大阪” 末原恭子


恒子「さあ、運命の大将戦ッッ」

咲(全員、潰す――)

恒子「果たして勝利は誰の手に!?」

恭子(やるしかないんや……震えんな、私……っ!)

恒子「それでは、大将戦ッッ」

霞(さあ、皆どう出るかしら?)

恒子「レディィィーーーーーッ」

豊音(わくわくするよー!)

恒子「ゴォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーゥ!!!」


誰がまず動くのか――

再三言うように、バトルロイヤルにおいて初動はとても大事である。

各々が読み合いを始めようとする中――



ザッ



本部「ッ!!」

加藤「う、動いたッッ!!!」




ただ一人、宮永咲だけが、何の躊躇いもなく真っ直ぐ歩き出した。


本部「先に言ったように、清澄が全てのカギを握っている……」

恒子「さあ、宮永選手はどうくるのかァァァァーーーーーーーッ!?」



咲が真っ直ぐに歩く。

ただ向かって来られた者だけが、「私?」などという言葉を小さく漏らした。



咲「策とか、狙いとか、企みとか……」

咲「そういうのじゃ、ありません」

咲「どうせ、お姉ちゃんと戦うなら、全員を倒さないといけませんから」




そう言うと、嶺上機械が淡々と告げる。

その目に殺意の炎を宿して。



咲「だけど、どうせなら、貴女とは一番最初に、互いに万全の状態で闘りたかったので」




その言葉を聞き、向かわれた者は笑みを漏らす。

「そう……」などと言いながら。

とても獰猛な、戦士の笑みを。



豊音「超光栄だよー」 ニタァ


ザッ

加藤「かッッ……」

本部「構えないッ……!?」

恒子「な、なんとォォォォーーーーー!?」

恒子「宮永選手、構えなーーーーーーーーーーいッッッ!!!」



豊音「~~~~~~~ッッッ」

咲「……」 ザッザッザッ

豊音(えっ……まだ構えなッ……!?)

咲「……」 ザッ

豊音「~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」



恒子「こ、これはァァァァーーーーーーーッ!!」

加藤「ぜ、ゼロ距離ッッ」

加藤「でっけえ方の胸に顔が今にも埋まりそうなゼロ距離ッッッ」

恒子「ど、どちらも動かないぞォォォォーーーーーッ!?」


豊音(えッ!?
             近ッ……
         何考ッ……       えええええ~~~~~ッ!?
                いい匂い……
               サブミッションハンター!?
           やばっ……     距離ッッ……
        下がらなッッ……           )
         





塞「下がったッッ」

寂海王「いや……下げられたんだ」

寂海王「そして、トヨネくんは追い込まれているッッ!!!」

胡桃「え?」

寂海王「ただ歩くだけで威圧する……」

寂海王「これが……宮永咲ッッ……」




豊音(まだッッ……歩いッッ!?) ドン




恒子「な、なんとォォォォーーーーーッ!!」

恒子「後ろへ下がった姉帯選手を歩いて追いかけただけなのにッッ」

恒子「姉帯選手、背中が壁についてしまったァァァァーーーーッ!!」

恒子「もはや逃げ場はなァァァァーーーーいッッ!!!!!」



豊音「ッッッ!!!」 ギュアッ



加藤「動いたッッ!!!」

本部「いや、動かされた……!」

恒子「姉帯選手の体格任せの十六文キーーーーック!」

恒子「早くてそして重いぞォッ!」




咲「……」 スッ

豊音「ッ!」

豊音(ガード……いやカウンター!?)

豊音(わからない……でも止まらなっ……)


フワッ……



豊音「~~~~~~~ッ!?」




恒子「とッッッ」

恒子「止まったァァァァーーーーーーッ!!」

恒子「寸止めどぅわァァァァーーーーーーッッッ!!!!」

恒子「一体何が起こっているんだァァァァーーーーーーッ!?」

健夜「あれ……まさか……」

加藤「……ありえねェだろがッッ」

本部「……」

本部「本来合気にしろ柔術にしろ、相手の力を利用し攻撃に転用する」

本部「もしくは、ガードを固めて衝撃を受け流す」

本部「だが、どう見ても、今のは――――」


久「ふふ……驚いてくれてるようね」

まこ「そりゃそうじゃ」

まこ「わしらにも、まだ完全な理屈はわかっとらんからのう」

久「力を分散させてるって点では、普通の防御とさほど変わらないんだろうけどねえ」

優希「でも咲ちゃんは、眉1つ動かさず、大きな動作もなくそれをやってのける」

久「どれだけ衝撃に慣れきっていればそれができるのかしら」

久「咲なら、相手が暴走トラックだろうと微動だにせず衝撃全てを分散させられる」

久「まるで最初からそこに攻撃エネルギーなどないかのように」

和「衝撃が消滅するなんて、そんなオカルトありえません」

まこ「さすが“ゼロ子”じゃのう……」

久「これを“さも当然のように”“呼吸でもするかのごとく自然に”行えちゃうのがあの子の魔人たる所以」

優希「ゼロを使う魔人、まさにゼロの使い魔だじぇ」


エイスリン「シャオリー……!?」

白望「違う……」

白望「あくまで消力は相手の力に逆らわず全ての力を無効化する術……」

白望「トヨネの破壊力を受け流しても、その運動エネルギーは消滅しない」

白望「だから吹き飛ばされはする」

白望「それでもノーダメージ、そして距離が取れて攻めやすくなるんだけど……」

白望「清澄の人は、ただの一歩も動いてはいない」

白望「まるでトヨネが自らの運動エネルギーをすべて捨てたかのようだ……」

エイスリン「ソンナコトガ……」

白望「普通は無理」

白望「アレはもはや格闘技術じゃあない……」

白望「単なる異常で強大すぎる、オカルトだよ」


智葉「まったくふざけた能力者だ」

智葉「伊達に鬼の血、そして宮永照の妹はしていない、、か」

ネリー「でも、守ってるだけじゃ勝てないよ?」

ダヴァン「確かニ。普通はカウンターとかを取るノでハ?」

智葉「そこが奴のふざけたところだ」

智葉「相手の破壊力から逃げるわけではない」

智葉「合気道やカウンターのように破壊力の即時還元をするわけではない」

智葉「最初は受けきり、そしてあたかも帳尻を合わせるように後にまとめて破壊力をお返しする」

智葉「圧倒的戦闘力と性格の悪さが合わさってないとできないようなスタイルだ」

ネリー「なるほど、ニビジムのジムリーダー的なアレだね」

ミョンファ「ああ、がまんとかいう」

ハオ「なら水とか汁とか液体が有効か」

ネリー「ダヴァンはどう思う?」

ダヴァン「ん?」 ズルズル

ハオ「話聞いてなかったな」

ダヴァン「あー……聞いていまシタよ?」

ダヴァン「たしか我慢汁の話でシタよネ?」

智葉「話しかけたこと謝るからお前らもう口を開くな。特にラーメン食ってる奴」

ダヴァン「Why!?」

ダヴァン「口を開かずどう食べロと!?」

ハオ「鼻から?」

ネリー「口は上だけじゃないよ?」

ミョンファ「上下のみならず前後も……」

智葉「口閉じ続けそのまま全員窒息しろ」


豊音(すッッ……ごいよー!)

豊音(あらゆる角度から殴ってるのに、全てに手応えがないッッッ!!!)

豊音(まるて幽霊でも相手にしてるみたいだよー!)




霞(戦い慣れていればいるほど、手応えのなさには違和感を抱いてしまう)

霞(むりやり手応えがある攻撃をしようとすると、思わぬバランスの崩壊を生む……)

霞(はるるの拳の重さでも、バランス破壊の直後なら絶大な威力を誇る)

霞(もしもそれを、清澄の娘がやったとしたら……)




咲「……」

咲(崩れた)

咲「……カン」 ギュオッ

豊音「」 ゴキャッ

豊音「……」

ドサァッ


恒子「たッッッ」

恒子「倒れたァァァァーーーーッ!!」

恒子「なんと巨漢の姉帯選手、真っ先にダァァァァーーーーウンッッッ!!!」

刃牙「貫手……」

刃牙「すばやい……そしてとても正確だ……」

刃牙「まるてタンポポでも摘み取るように、相手の意識を摘み取る」

健夜「そして真っ赤な血の花を咲かせる……」

刃牙「それでリンシャンマシーン、ね」

刃牙「なるほど、伊達に……」

刃牙「あの人の血は継いでないらしい」


霞(……)

霞(完全防御、ね)

霞(同じ防御型として、どう崩していくかだけど……)

咲「……」 ザッザッ

霞「あいにく……まだ私の番じゃないみたいね」

豊音「……」 ユラァ

咲「!?」 バッ




恒子「た、立ち上がったァァァァーーーーッ!!」

恒子「これが巨人のタフネスなのかァァァァーーーーッ!!」


寂海王「トヨネ君がじゃれ付き修行に使っていたのは猛獣達だ」

寂海王「勿論やられて意識を飛ばされたことくらい何度もあろう」

寂海王「しかし彼女は一度も食われずここまできた」

寂海王「復帰力にかけてなら、彼女に勝る者などいないッッッ!!!」






豊音「すごいよー、まさか一発で意識を持っていかれるなんて!」

豊音「でも助かったよ~、これが岩手なら足か腕はとうに食べられてたろうし」

豊音「宮永選手が鬼でも獣でもない“ただのヒト“でよかったよー」 ゴゴゴゴゴゴ

咲「……」 ギリッ


優希「こんなに早く復帰するなんて……」

まこ「ピンピンしちょるのう」

久「復帰の速さは確かに想定外だけど、ダメージ自体は想定内よ」

和「どういうことですか?」

久「咲のプラスマイナスゼロは負の力」

久「勝つことも負けることも拒否した少女の悲しい奥義」

久「嵐が過ぎるのを待つだけの力故に、後遺症を残さない」

久「暴行を働いた者が気付かぬよう場を支配するために、敢えて殴られ続けるよう」

久「気付かぬよう相手の意識を摘み取るように」

久「目覚めたあと、酔って眠って打撲したかなくらいの傷しか残せない」

久「それも、やつあたりには至らない程度のものよ」

和「そんなオカルト……」

久「あるのよ」

久「あの子の技は、あくまでゼロを司るだけ」

久「その技を使うだけだと、相手の完全撃破はできないわよ、咲……!」


豊音「傷を残さず一瞬で倒す……超すごいよー!」

豊音「それに何より優しい能力だよね!」

豊音「だから……」

豊音「これをやるの、ちょっと躊躇うんだけど……」 ゴゴゴゴゴ

咲「……」

豊音「チームのため……使わせてもらうよー」

豊音「ただの打撃じゃ活路は見い出せなさそうだしー」

豊音「……先勝」 ゴゴゴゴゴ


恒子「な、なんとォォォォーーーーーッ!?」

恒子「姉帯選手の太ももがスカート越しでもわかるほどバンプアップしているゥゥゥゥーーーーーーーーッ!?」

健夜「それを言うならパンプアップだよ!?」

健夜「いやそんな知識生涯お前は知らなくていいかもしれないけども!!」






塞「なに、あれ……」

寂海王「そうか、君達は見たことがなかったな」

寂海王「あれは故郷で彼女が得意としていた技の一つだ」

寂海王「対人間技ではない、しかも奇襲専用の隙だらけのフェイバリット」

寂海王「故に封印されていたが……」

胡桃「清澄の娘……トヨネのアレを見ても動く気配がない……!?」

寂海王「彼女になら、出せると判断したのだろう」

寂海王「一段階ギアを上げ、あの巨大な足から繰り出される殺人技を使っても、きっと死なぬと信じているのだ」


恒子「な、なんとォォォォーーーーーッ!?」

恒子「姉帯選手の太ももがスカート越しでもわかるほどバンプアップしているゥゥゥゥーーーーーーーーッ!?」

健夜「それを言うならパンプアップだよ!?」

健夜「いやそんな知識生涯お前は知らなくていいかもしれないけども!!」






塞「なに、あれ……」

寂海王「そうか、君達は見たことがなかったな」

寂海王「あれは故郷で彼女が得意としていた技の一つだ」

寂海王「対人間技ではない、しかも奇襲専用の隙だらけのフェイバリット」

寂海王「故に封印されていたが……」

胡桃「清澄の娘……トヨネのアレを見ても動く気配がない……!?」

寂海王「彼女になら、出せると判断したのだろう」

寂海王「一段階ギアを上げ、あの巨大な足から繰り出される殺人技を使っても、きっと死なぬと信じているのだ」


豊音「準備完了~~♪」

豊音「待っててくれてありがとうございましたっ」 ペッコリン

咲(……異常な足の太さ)

咲(メインは姫松のサッカーさんみたいな蹴り技?)

咲(それとも――)

豊音「じゃあいきます――」 ググッ

咲「ッ!」

咲(あの構え、もしや――――)

豊音「――――よっ!」 ギュアッッ

咲(ダッシュッッッ!!!)

咲(でも、避ければそのまま反動で――)

豊音「」 ニタァ

咲(避けられないッッッ!!!)



ゴギャッ




本部「速いッッッ!!!」

加藤「なんだあの加速力ッ!」

刃牙「超加速の黒ずくめ、ね」

刃牙「まるで“師匠”だな」 クク


久「咲のプラスマイナスゼロは呪い」

久「麻雀だと、それを発動させたら最後、自分でもどうすることもできない禁断の奥義」

久「でも格闘においては、そこまで絶対的な支配力を持つわけではない」

久「ただの文学少女の持つ筋力では、オカルトの絶大な威力に追いつけない」

まこ「どういうことじゃ」

久「本来必要な圧倒的戦力差を、咲は知識と読みで埋めてるのよ」

久「様々な本で得た知識で相手の動きを先読みしていたからこそ完全無効化ができていたのよ」

和「なんでそこまで詳しいんですか」

まこ「お、嫉妬か?」

和「ち、違いますっ!」

久「なんでもじゃないわ、知ってることだけ」

久「それに学生議会長なんだからこのくらいはね」


久「なんにせよ……」

久「あのノッポちゃんが咲の予想を超えてくるなら、咲はプラスマイナスゼロを使えなくなる」

優希「なんかしっくりこないじぇ」

優希「咲ちゃんのあの無敵の防御が意表つくだけで崩せるなんて……」

久「まぁ元は手の内を知り尽くした対身内のやり過ごし用オカルトだからね」

美穂子「多分、実際に戦った宮守の子と重ねているからしっくりこないんじゃないかしら?」

美穂子「あの子の技術――消力(シャオリー)とはまた別物なの」

優希「そーなのか?」

美穂子「宮守で例えるなら、どちらかというと、あの副将の子の方が近いんじゃないかしら」

美穂子「観察と、そして対個人のピンポイント対処が肝、という点で」

優希「な・る・ほ・どォ……」

まこ「おぬしも何でも知っとるのう」

華菜「キャプテンは博識だからな」

優希「部長の住所どころかタイツしまってある引き出しまで全部把握してそうだじぇ」

美穂子「ふふ……」

久「そこはなんらかのツッコミを入れて欲しかった」


咲「くっ……」

咲(タックルの衝撃は消したけど……)

咲(掴まれたッッ)

咲(完全にッッッ!!!) ギリッ

豊音「あははははははははぁ~~~~!!」 ズドドドド

咲(まさか、狙いは――)

恭子「ひいっ、こっちに来る……!」 カタカタ

恭子(あ、あああああかん、膝がわろうとる……!!)

咲(ぶつける気か、私を――ッ!)

豊音「せや~ッ!」

ズドォォォンッッ


恒子「な、なんとォォォォーーーーーッ!!」

恒子「たッ……」

恒子「叩き付けたァァァァーーーーッ!!」

健夜「末原選手や、硬い壁に激突させることもできたのでは……」

加藤「それだと読まれて受け身が取られると思ったのか……?」

本部「いや……」

本部「アレはハナからああいう技なのだろう」

本部「客観的立場から、足さばきをよく見ていればわかる」

本部「超スピードで相手を掴み移動する過程に隠れて入るが、この技の本質は“大外刈り”ッッッ!!!」

刃牙「あの速度による引きずり回しと叩き付け……」

刃牙「これが野山の戦いなら、今頃はへし折れた木々が全身に突き刺さっていたろう」

本部「彼女が通った後はまさに獣道だッッッ!!!」

刃牙「いや……それどころじゃあない……」

刃牙「まるで森林伐採のため機械が通ったあとのようになる」

刃牙「それこそ怪獣でも通ったあとみたいにね」

加藤「……跡ってえなら、電車だろうよ」

加藤「確か、相撲じゃあれを電車道っていうんだろ?」

刃牙「ああ」

刃牙「圧倒的体格差と、そして戦力差がなきゃ出来ない道さ」


恭子「はひっ……」

恭子(こっ……腰抜けたァ……!)

恭子(ていうかちょっとチビってもーたやないかッ!)

恭子(代行が用意してくれとったスカートの下履きがなきゃ今頃水たまりかできとるわ……)

恭子(これが……範馬同士の激突ッッッ!!!)

豊音「」 ニタァ

咲「ぐっ……」

咲(姫松の人か壁に叩きつけると思ったのに、よもやここにきて地面だなんてッ!)

咲(技を、殺しきれなかったッッッ!!!)

豊音「まだまだいくよぉ~~~」 ニイ

咲「…………ッッッ!!!」 ゾッ


恒子「姉帯選手、まだだと言わんばかりに宮永選手を掴み無理矢理立たせるゥゥゥゥーーーーーーーーッ!」

加藤「あの技はッ!」





寂海王「ベアバッグ……」

寂海王「森林伐採を腕力だけで行えた少女が本気をだした、な」

寂海王「隙はデカイが、ハナから覚悟していたわけでもない相手には、意表をつく技にもなる」

塞「まるで骨のきしむ音がここまで届いてきそう……」

寂海王「大木やツキノワグマすら悲鳴をあげるのだ、あの技の前では人間など……」


咲「くッ……」 ギリギリギリ

咲(この馬鹿力……振りほどけないッッッ!!!)

咲(でも技はシンプルだから無効化は出来――)

ゴッ

恒子「頭突きィィィーーーーーッ!!」

恒子「ベアバッグで締め付けながら、姉帯選手は打撃の手も緩めなァァァァーーーーいッ!!」

咲「くっ……!」

咲(なんなのッ……この人ッッッ!!!)


久「咲のプラスマイナスゼロにはまだ弱点がある」

久「それは麻雀からの派生技ゆえの同時攻撃への脆さ」

久「ターン制とも取れる麻雀にはない同時に複数から攻撃を受けると脆いのよ」

和「麻雀にもダブロンがありますが……」

久「大会でも、あの子のハウス麻雀でも、ダブロンルールは採用されていなかったからね」

久「ここで永水か姫松が咲の妥当に乗り出してくると不味い……」






霞(プラスマイナスゼロでダメージを減らしても、あのベアハッグからは逃れられない)

霞(どちらかを討つなら今)

霞(でも……どちらから?)

霞(まずどちらを討つのが正着打なのかしら?)


恭子「……」 アワワ

ベアハッグとプラスマイナスゼロの膠着状態。

豊音「宮永さんもすっごいタフだよー!」 アハハ

豊音が骨を締め上げる音と、たまに行う打撃音が響く会場で。

咲「ぐッ……」

咲(だめ……読み切れないし振りほどけないッッッ!!!)

プラスマイナスゼロで相手にきっちり返すことすら厳しく、このままではジリ貧となる状況。

霞(一番厄介なのは、やっぱりあののっぽの娘かしら……)

膠着状態を動かしたのは、一際大きく鳴り響いた破壊音だった。






ゴギンッッッ






恒子「………………ッッ!!」

福与恒子すら言葉をなくす、あまりに凄惨な音。


恭子「ひっ、ひぃっ……」 カタカタ

末原恭子は動けなかった。

ただ歯を鳴らし、涙と尿を垂れ流すしか出来なかった。

霞「そんな……」

石戸霞もまた、動けなかった。

動こうと決断したのが遅すぎた。

霞「この感じ……」 ゾゾゾゾゾ

決まり手は、木々をも抱き壊す姉帯豊音の熊式鯖折り(ベアハッグ)――


久「……プラスマイナスゼロでは……」

久「あの技からは抜けられない」

久「……もし、抜けようとするのなら」

久「私達の知る“プラスマイナスゼロの闘士”としてでかく、鬼の子として真っ向から相手を潰す覚悟を決めなくちゃならないわ……」






――――に、対する、

霞(目覚めさせてはいけなかった……)

霞(追い込んではいけなかったッ!)

霞(この射殺すような殺気……)

霞(間違いなく、鬼の一族ッッッ!!!)

頸椎への肘打ち下ろし。

咲「私……殴り合い、それほど好きじゃないんです」

咲「だから、プラスマイナスゼロでみんな無傷の終わり方をしたかったのに――」

プラスマイナスゼロでは済まぬ、破壊力の伴った一撃だった。

咲「本気で、摘み取らないといけなくなっちゃったじゃないですか……」 ギロッ






久「あの子がきちんと戦うことになるのなら……」

久「間違いなく、真っ赤な花が咲き乱れるわ……!」


グラッ……

豊音「……はレ……なな……」

咲「何!?」

咲(まだギリギリ意識が残ってたのか……)

豊音「ぼっちでは……死なないって……」

豊音「言ったんだよー……!」 ギロッ

咲「!」

咲(振りほどけな――――!)

グラァッッ

ズッドーーーーーーーーーーーーーーーン

恒子「な、なんと、姉帯選手ダイナミックダーーーーーーーウンッ!!」

恒子「宮永選手をがっちりホールドしたまま後方に倒れたァァァァーーーーーーッ!」

加藤「じゃ……」

刃牙「ジャーマンスープレックス……ッ!!」

健夜「み、宮永選手、顔面から地面に叩きつけられましたが、大丈夫でしょうか……」


霞「……」

霞(“いいの”が入った……恐らくしばらくまともに立ち上がってはこない……)

霞(勿論あのスープレックスで再起不能なんて思えないけど、今が好機なのは確実ッッ)

霞(あの二人が起き上がる前に姫松を倒せば、無傷でサドンデスに持ち込めるッッ)



恭子(なあんて思うとるんやろうなあ……)

恭子(正直まだ膝ガックガクやし、永水もすげー怖いけど……)

恭子「さっきまでの二人と比べたら、紙切れみたいなもんやァァァァァ!!!!」 ダッ



加藤「動いたッッ!!」

恒子「この機に勝ち上がりを狙うべく、先に動くは姫松高校末原選手ッッ!」

恒子「石戸選手は構えて迎撃の姿勢だァァァァーーーーーーッ!」


恭子(なッ……ッ!)

末原恭子は、大の字に寝そべったまま目を見開いた。

驚愕と言う他ない。

始動モーションを完全に潰された。

比較的トリッキーな動きであり、また相手の構えの隙を突いたというのに。



加藤「~~~~~~ッ!?」

恒子「……い、今のは……」

健夜「見間違いでなければ……胸、ですね……」

本部「敢えて作った隙というのは、本来、“気付いていれば対処できるようなものだか、それに気付いていないかのように振る舞う”といったもの」

本部「言うならば騙し討ち」

刃牙「だが今のは本質的に異なっている」

刃牙「本来なら肉体の可動域的にどうにもならない隙を見せた」

刃牙「罠の匂いを感じても、カウンターや防御や回避に転じようがなければ攻め入ってしまう」

本部「その不可能を可能にしたのが、あの常軌を逸した肉体ッッ」

本部「防御動作に附随する肉の塊のによるカウンターッッッ!!!」

本部「ソレに対する防御を想定する格闘技は地球上には存在しないッッッ!!!」

加藤「ハッ……超実践肉塊ってか」

本部「常識を覆す攻撃法を防ぐ術はない」

本部「目と体で覚えなくちゃならん」

本部「しかしあの巨大な質量を的確に顎に食らって、果たして立ち上がれるのか……」

恒子「つまりおっぱいすげえ、と」

健夜「やんわりぼかしてくれてたのに言っちゃうんだ!?」


赤坂郁乃は武道家ではない。

赤坂郁乃は、真っ当な教師ですらない。

まわりの評価を気にせず己というものを貫き通し、どこまでいっても己の気分だけを行動原理に置く――ただそれだけの存在である。

贔屓にしている末原恭子に肩入れするのは恭子の評価がほしいからであり、だからこそ恭子の評価と己の欲なら己の欲を優先できる。

郁乃「末原ちゃん、これですごさを理解してくれたやろか~」

漫「……」

蛇蝎の如く疎ましがられる郁乃であるが、ことパイプという点においてはトップクラスのものを持っていた。

自由奔放故に顔が広く、そして欲に忠実だからこそ、きちんと観察していれば衝突前に逃走はできる。

故にその人脈と天秤にかけて人がむらがり、どんどんと好感度に反して盤石の基盤を作り上げていた。

むしろ露骨に敵対する理由は生んでくれず、しかし面倒かつ郁乃を挟んで知り合った相手の顔を立てる必要もある。

そういう点をすべて引っくるめて、「面倒臭い人」であるのだ。

郁乃「戦いは、武力や知力だけやないねんで~」

そして、その力は地下闘技場を開くまでには至らずとも、かなりの影響を持っていた。

戦いの場に赴かず、それでも自分の望み通りに事を運ばせる、特殊な一人の戦士として。

――否、人形傀儡士として、か。


漫「こんなん、末原先輩やなくても……」

特殊繊維を編み込んだ制服は、打撃による衝撃を吸収する。

同様の生地のスカートの裏には暗器が仕込まれ、さらにスカートの奥の布地は卓越した吸水性を誇っている。

またリボンにはICチップが搭載され自動で顎を引き致命傷を回避する機能や、噛み合わせを整え力を引き出す機能もある。

まさに強く生まれ変わるための変身。

オーバーテクノロジーによる超強化ッッ!

郁乃「そうや?」

それがどうしたと言わんばかりに郁乃がキョトンと首を傾げる。

郁乃「だって、末原ちゃん弱いやん」 ニコリ

漫「なッ……!?」

郁乃「そんな末原ちゃんが強くなりたい言うんやから、こうなるのは必然やろ~?」

赤坂郁乃は贔屓をする。

しかし、贔屓目抜きでの妥当な評価くらいはできた。

郁乃「ええやん、末原ちゃんは望み通りに強うなって、そして強さを維持するために私のことを必要としてくれる……」

郁乃「誰も損しないウィンウィンやん?」 フフフ


一人を贔屓してもチームが崩壊していないのも。

恭子の贔屓目推薦である漫を入れてもバランスを保てているのも。

全ては赤坂郁乃の手腕。

漫「このッ……」

郁乃「ん~~?」

郁乃「なんか言いたげやな~?」

漫「……」

郁乃「悪魔とか、クズとか、外道とか、ち~っとでも口に出してくれとったら懲罰降格できたんに~~」 ザンネーン

漫「…………」

監督は軽視されがちである。

事実麻雀部においては選手の運と実力が勝負の大半を左右する。

仕事をしてもオーダーの決定や雑務くらいと観客には思われがちだし、軽視されすぎて監督などほとんど居ないに等しい学校も少なくない。

由子「そんなことはないのよー」 ズイッ

由子「きっと、こんな技術を試合までに間に合わせた手腕を賞賛しようとしたのよー」

郁乃「あら~よぉ分かっとるや~~ん」

だが、実際は違う。

監督とは、6人目の選手とすら呼べる存在。

一流の監督ともなれば、一人の戦士を生かすことも殺すことも可能になる。

郁乃「この特注セットを間に合わせたのは、我ながら凄いと思うし~」

郁乃「呼ぶなら悪魔とかそんなんやなく――」

そして郁乃は、その一流たる資格を有する。

郁乃「間に合った天才」

郁乃「そう呼んだってや~」 ニタァ


恭子(大丈夫……今の私にダメージは通らんッッ)

赤坂郁乃には人望がない。

教え子の性格を変えられるほどの思慕も無ければ指導力もない。

恭子(やれるかもしれんッ)

恭子(警戒心を抱かせる前にッッッ)

だからこその人脈。

だからこその技術を用いた実績。

それで無理矢理人を動かす。

本来と違うポテンシャルや戦術を引き出し、戦況を動かす。

恭子「他の二人が起きてくる前にッ」 ダッ

かくして恭子は動かされた。

無意識に、郁乃の望むバトルスタイルに書き換えられて。

本来ならば行わないような行動を、末原恭子の思考回路そのままでとらされた。

郁乃「心を壊したり、無理矢理動かすようでは三流以下……」

郁乃「上に立つ者なら、ちょっとのスパイスで普段のまま操らな」 フフフ

霞(やけ?)

霞(いいえ、そんなはずがない)

霞(おそらく何らかの策があってのこと)

霞(でも考えてる余裕はなさそうね)

霞(自分の普段のスタイルを信じて――)

霞「何か分からないけど、喰らいなさいッ」 オモチスウィングッッ

ドガァァッッッ

恒子「~~~~~~ッッッ!!!」


霞(そう……それが貴女の答えなのね……)

霞(それでも、私だって負けられないわ)

霞(小蒔ちゃん達を守る使命を持つ者として)

霞(そして何より、小蒔ちゃん達の友達として――!) クワッ

バルンバルンバルン

加藤「なんだあの動きはッッッ」

本部「まるで扇風機のように胸部を動かし、風を送る……」

刃牙「勿論それだけで相手に何かできるわけじゃあない」

刃牙「だが――」

恒子「なんとォォォーーーーッ、末原選手ふっとばされたーーーー!!」

刃牙「高速回転する胸部は、並の攻撃を受けただけではとまらない」

刃牙「慣性のままに回転を続け、追撃を阻む城門となる」


恭子「ぐっ……!」

恭子(腐っても防御の鬼、そう簡単には行かんか……)

恭子「おわっ!?」

ドテッ

恒子「あーーーっと、末原選手、すっ転んだァァーーーーッ!」

霞「……」

恒子「しかし石戸選手、これを追撃はせずッッッ」

加藤「罠かと思って警戒してんのか?」

健夜「何らかのダメージを回復しようとしている風にも見えますね」

霞(うん……後遺症はなさそうね)

霞(問題なく、降ろせるわ)


恭子「くっ……」

恭子(――――!)

恭子(そうか、ちょいと弾かれたくらいに思っとったのに、いつの間にか宮守のとこまで飛ばされとったんか)

恭子「……」

恭子(宮守の奴も清澄のやつも、また起き上がってこんとも限らん)

恭子(勿論追い打ちでトドメをさすなんて後味の悪いこと、普通はできへん)

恭子(せやけど……)

恭子(きっちりやるべきなんやないか?)

恭子(打てる手をすべて打ってこそ、凡人の私が生き残れるんとちゃうか?)

恭子(今なら……)

恭子(こっそりと電流を流せるし、それならばモーションいらずでバレへんのとちゃうか?)

恭子「……」

恭子「……すまんな」 ボソ

バチィッ


殺す気で放たれていた宮永咲の一撃は、姉帯豊音の意識を見事に刈り取っていた。

ただゆっくりと死んでいくだけとなっていた巨体は、しかし――

豊音「……」 バチィッ

――反射的にビクリと動くほどの電撃によって、大きく運命を変えられることになる。

恭子(うわっ……まともな最大出力やとこんな威力なんか……)

恭子(し、死んではないやろ……)

恭子(痙攣したり失禁したりはしとらんし……) カタカタ

――A.E.D(電気ショック除細動器)

その使用目的は不整脈(心室細動)を起こした心臓を『停止させる』ことにある。

一度完全に停止した人の心臓は、

魂が 生きる意志が、まだそこに在れば――

豊音「……」 ユラァ

恭子「!?」

――再び熱く、規しく鼓動を刻み始める。


豊音「……ポ」

だが――生きる意思は少女のモノなれど、少女はまだ目覚めない。

豊音「ポポポ」

今の少女の器を動かすは、圧倒的な生へのエネルギーを有する黒き鬼の血。

豊音「ポポポポポ」

感情の無い真っ赤な目で。

意味のない奇妙な呼吸音を発しながら。

不気味に少女は――否、漆黒の鬼は蘇った。


恭子「ッッ!!」

それは単なる『反応』に過ぎなかった。

圧倒的恐怖による、反射的な防衛行動。

そのタックルが、未だ焦点の定まらぬ目の鬼を地へと転げさせる。

恭子「う……おおおおおおおああああああああああッ!!」

恭子(あかんッッあかんでこれッッッッ!!)

恭子(ここで何とかせな殺られる……ッ!)

再び湧き出す圧倒的な恐怖に怯え、豊音にのしかかってしまった。

下手に密着したせいで、もはや距離をとることもできない。

恭子「え、永水の!」

恐怖に怯える恭子が取った手、それは――――


恒子「決ィまったァァァァーーーーーーーーーーーーッ!」

恒子「末原選手のエビ固めだァァーーーーーーーーーーーーッ!!!」

刃牙「正確には逆エビ固め……」

刃牙「リバース・ボストンクラブと呼ばれる技」

刃牙(だが……狙ってやったというよりは――)




恭子(お、思わずかけてもーたッッ)

恭子(大阪でプロレスごっこが流行った時にビデオで研究した逆エビッ)

恭子(でもこれじゃあ宮守の動きを封じられても仕留められる気がせーへんッ)

恭子(足をへし折ろうにも、ぶっとすぎるわッ!)

恭子「永水のッッ」

恭子「私がこいつの足を封じるッッッ!」

恭子「その間に、トドメをッッッッ!!!!!」


霞「……ッ!」

恭子「何ぼさっと見――――」

恭子「かはッ!?」

恭子(えっ、な、苦し――)

恭子(なんっ!?)

恭子(攻めとるのは私なのに!?)

恭子(こ、呼吸が……)

恭子(し、視界が、黒く……)

恭子(あ、がん――) メダマグルン

ドサァ


刃牙「まさに天賦」

刃牙「あのしなやかで細い長身あってのカウンター……」

恒子「カウンターっていうと、ボコーっと殴る技のイメージですけど」

刃牙「言葉の定義は様々」

刃牙「けど、あの攻撃を仕掛けた者の意識の隙を突いた一撃……俺にはカウンターに見える」

恒子「はー」

恒子「そんなものなんですかね、小鍛治プロ」

健夜「何で私に聞いたの!?」


加藤「ったくふざけてやがるぜ」

加藤「逆エビを決められたまま、背中を反って腕を相手のクビにかけて締め合いに出るなんてよ」

本部「彼女の長身と背筋力あっての技……」

刃牙「そして女性特有の柔軟性も生きている」

刃牙「同じ長身でも斗羽さんじゃこうはいかない」

刃牙「適度な細さも必要な技だ」

健夜「覚悟を決める時間が与えられた上に、素人特有の隙だらけの技を足にのみかけられた者」

健夜「圧倒的優位を感じている中突如首を決められた者」

健夜「やはりそれならば勝つのは後者、と……?」

刃牙「ああ……」

刃牙「とはいえそれを成し遂げるのも楽じゃあない」

刃牙「人体の可動域を超える体の反りを必要としているし、痛みも相当なものだろう」


寂海王「そがいの豊音……」

寂海王「そう呼ばれた彼女のフェイバリットが、あの先負だ」

胡桃「でも……」

塞「……なんかちょっと、らしくない、ね」

寂海王「本来、クマやイノシシといった凶獣相手に、追い込まれつつも披露してきた技だ」

寂海王「本能的に使用することが多く、彼女の優しさなどは反映されない」

寂海王「その長い体躯と柔軟性を活かし、どんな体勢からでも防御を捨てて攻撃に出る」

寂海王「攻撃体勢を取っていた相手は反応が遅れる上、すでに取っている姿勢・動きを認識されていることになる」

寂海王「そこを突いて縊くのが、先負……」

胡桃「あの体勢、大分きつそうだよね……」

寂海王「通常の可動域は超えている」

寂海王「痛みもあるだろう」

寂海王「それを踏み越えるほど追い込まれた時か――」

寂海王「もしくは鬼の血で痛みを感じないほどハイとなった時だけ出来る技だ」

胡桃「……トヨネ……」

塞「……」

寂海王「あの技は、確かに強い」

寂海王「だが――強いだけでは虚しいぞ」

寂海王「戻ってこい」

寂海王「鬼の血に飲まれるなッッ」


豊音「ぽぽぽぽぽぽぽぽ」



恒子「なんか不気味な呼吸音ですねー」

健夜「もうっ、あんまり選手にそういう表現使っちゃだめだよ!」

刃牙「……なるほど、大したクリーチャーだ」

健夜「ちょ!?」

刃牙「ああ、モンスターとでも言ったほうがよかったか」

健夜「そういうことじゃなくて!」

本部「残された少女も、あの異様な風体に威圧されている」

加藤「先ほどとは雰囲気が段違いだ……」

本部「ああ、故に見逃している」

本部「あの太もものパンプアップは、先程と同じだということを」




豊音「ヒャァァッッ」 ダッ

霞「ッ!?」

ドグチャァァッ


加藤「顔面からモロにッッッ!!」

本部「死んだぞ、ありゃあッ」

恒子「なっ!?」

恒子「なんとォォォーーー!?」

恒子「石戸選手を叩き伏せ、そのまま追撃で巨大な足を降らせ――――」



豊音「!?」

豊音「……ぽ?」

豊音「ぽぽぽ?」



恒子「~~~~~~ッ!?」

恒子「い、いなァァァァーーーーーーーい!」

恒子「なんとッッ石戸選手ッッ突如として姿を消したァァァァーーーーーーーッ!!」


ハオ「い、一体……!?」

烈「“上”だッッッ」

ハオ「!?」

ネリー「寝そべったまま飛び上がっているッッ!?」

ミョンファ「私や薄墨初美サンにも劣らぬ跳躍ッ無重力ッッッ」

烈「絶対防御であるところの胸の脂肪だからこその弾力性を活かした回避」

烈「叩きつけられた勢いが強ければ強いほど、潰れたゴムマリのように反動で高く飛び上がる」

烈「圧倒的防御力を誇る格闘家だとしても、あんな真似は出来ぬだろう」

烈「女性特有、あの者なればこその技……」

智葉「あれが、オカルトってーのか……狂ってやがるな……」

ダヴァン「しかし不思議デスね」

ダヴァン「こンな部位に、ソレほどまでノPOWERがアルなんて」

ネリー「ダヴァンには無いからね」

智葉「いや、いくら巨乳とはいえ、あの頑丈さはおかしいんじゃ……」

烈「そう思うのが素人の浅はかさ」

烈「仮に体を金剛石のようにしても、大きな力で容易く潰れる」

烈「だがッッしかしッッッ」

烈「柔らかいということはッッ!」

烈「ダイヤモンドより砕けないッッ!!」

ハオ「な・る・ほ・どォ~~~~~……」

智葉(言うほどか? 言うほどなるほどか……?)


霞(そう、柔らかいということはダイヤモンドより壊れない……)

霞(それが私の絶対的優位性)

霞(そして上空をとれた今が千載一遇の好機ッ)

霞(はっちゃんを見続けた私なら、上空での闘いも可能ッ)

霞(宮守の子はこちらを見ていない)

霞(この奇襲は成るッッ)

いけない、霞ちゃん――――

空耳だろうか、そんな声を聞いたような気がした時には、足蹴にしようとしたはずの少女が邪悪な笑みを浮かべ振り返っていた。

霞(しまったッ、陰――――)

豊音「ポッポポォーーー!」 ドゴォ


揺杏「……あんだけの異常防御、あんたもできんの?」

由暉子「……」

由暉子「普通、おっぱいというのは鎧には向きません」

誓子「そりゃそうよね」

由暉子「おっぱいの本来の専門分野は、揉まれること」

成香「!?」

由暉子「そして――――」



豊音「……」

豊音「ぽ?」

霞「…………」 ゴゴゴゴゴゴゴ



由暉子「――ナニかを、挟むこと」



恒子「な、なんとォォォーーーッ!」

恒子「石戸選手、紙一重で姉帯選手の鋭いアッパーを胸の城門で挟み込んでいるゥゥゥゥーーーー!!」

恒子「その長い手を持ってしても、巨乳の門に阻まれては顔面まで届かなーーーーいッッッ」


由暉子「……」

由暉子「そして、巫女もまた、殴る蹴るは本領じゃありません」

揺杏「そりゃな」

爽「バトル巫女さん、それはそれで私的にはありだけどなー」

揺杏「でもそれなら相応の衣装カスタムがいるだろ?」

誓子「ガン=カタとか竹刀とか薙刀とかならともかく、拳一つで勝負はねえ」

由暉子「キャラデザ的にも、殴り合いに向いていない感じですしね」

成香(キャラデザ……?)

由暉子「ただ――」



豊音「ぽ……!?」 グッ

霞「やれやれ……困ったわね」

霞「こうやって貴女の腕を抜けないよう押さえつけても、千日手になっちゃうのよねえ……」



加藤「胸を両腕で押さえつけ、相手の腕を捕らえているッッッ」

本部「あのサイズの胸はまさに堅牢ッッ」

本部「柔らかく可変性があるが故に、相手の腕にフィットして一部の空間すら生み出さぬ完璧な枷ッッッ」

健夜「だっちゅーのポーズによる腕の補完でその堅牢さは更にパワーアップ、ですね」

恒子「だっちゅーの……?」

刃牙「なんだい、そりゃあ」

恒子「さあ……」

健夜(ジェネレーションギャップッッッ) ズガーン


霞「守るのは得意なんだけど……」

霞「今回はそれではダメそうねぇ」

豊音「ぽぽぽーーーーっ」 ジタバタ






由暉子「ただ――相手が悪魔的な強さを持っていたら」

揺杏「は?」

由暉子「相手が人智を超えるのなら」

由暉子「それは、巫女さんにとって"ホームグラウンド"になりますッッ」

爽「え?」

由暉子「神を降ろすのがメインの巫女でも、聖なる力の転用をすれば悪魔祓いは可能」

由暉子「つまり異能バトルという点において神聖なる巫女というのは……」

揺杏「なんかスイッチ入ってんだけど」 ヒソヒソ

爽「そっとするのが一番だろ」 ヒソヒソ






霞「それじゃあ――」

霞「苦手分野、いかせてもらおうかしら」 フフフ


霞「神を下ろし、神を守る私だけど……」

霞「悪魔を降ろすことも可能ッ」

霞「一度下ろしたら祓ってもらうまで切り替えられないんだけど……」

霞「このまま攻撃モードでいっちゃおうかしらッッ」

バルルンッ

恒子「あーーーーーーっと、石戸選手、巨大な胸を大きく振るい、姉帯選手を放り投げたーーーっ!」

霞「カーッカッカーッ!」 ギュアッ

恒子「そしてすぐさま追って跳ぶーーーーーっ!」

霞「今までのディフェンシブな使い方とは違う」

霞「悪魔的な攻めの姿勢を見せてあげるわっ」

加藤「げえーーーーっ、量の胸がまるで手足のように動いて巨漢の体を拘束したーーーっ!」

本部「なんという胸筋ッッッ……!」


豊音「ぽ、ぽぽぽーーーっ!」 ジタバタ

霞「残念だけど、暴れても無駄よ」

霞「両腕、両胸、そして持ち前の柔軟性で両足をもクラッチに使っている……」

霞「六本の拘束からは、決して抜けられないわ」

加藤「なんてこった……」

加藤「今までのファイトスタイルは、謂わば攻めに対し反応する受けての胸術」

加藤「しかし今度のは自ら挟み動き逝かせるという、アグレッシブバスとスタイル……」

健夜「相反する力を駆使する――永水の選手の特徴でしょうか」

恒子「そ、そのまま相手を締めあげたまま落下するーーーっ!」

本部「衝撃であらゆる箇所を破壊する気かッッ」

刃牙「まさに阿修羅の如き乳の持ち主(ASYURA BUSTER)だな」


ズッガーーーーーーン

加藤「~~~~~~ッ!!」

本部「なんと……」

シュウウウウウ・・・

霞「地面に衝突する衝撃で、今度こそKOするつもりだったのだけれど……」

恒子「土煙から現れたのはァ、クラッチを決めたまま落下を果たした石戸選sy――」

霞「最後の抵抗……これを狙ったものだったのかしら……」

霞「落下地点を、"ここ”に誘導するために……」

健夜「そんな、あれ……!」

恒子「げえーーーーーっ、なんと落下地点には末原選手が~~~~~!!」

刃牙「落下地点を柔らかい人体にすることで、その衝撃を最小限に抑えたのか……」

加藤「え、えげつねえ……」


霞「悪いけど……この機を逃すわけにはいかないわ」 バルルルルルルッ

豊音「ぽぽっ……!」 ドガガガガ

恒子「なんとォォーーーーーッ!」

恒子「石戸選手、胸を織り交ぜた圧倒的ラーーーーーーッシュ!」

本部「単純計算で手数は二倍」

本部「胸には硬さが欠けているが、重みはある」

本部「異なる二者に同時に襲われているようなものだ」

刃牙「それだけじゃない」

刃牙「さっき守りの時にも一箇所絶対に突破されない箇所をつくり……」

刃牙「そして攻め入る箇所の選択肢を絞って迎撃していたように」

刃牙「今度もまた、圧倒的猛攻の中で相手の腕を一本釘付けにすることで」

刃牙「取れる選択肢を潰している」

加藤「胸を仕える分、その余裕があるってことか……」

健夜「攻撃の絶一門……」


霞(こうなったらもう止まれない)

霞(私ではこの魔を祓うことも、それにこの娘の魔を祓うこともできないから)

ドガガガガ

豊音「くっ……」

霞(だからせめて、気絶させてこの娘を救える人たちの元へ送り返してあげる)

バッ

加藤「でかいののガードが下がったッ」

霞「これで――終わりよっ!」

バィィィィィン

加藤「挟んだッッ」

本部「圧倒的パワー……そして正確性……」

刃牙「あのサイズにあのスピードで顔を挟まれちゃあ、ただじゃすまないな……」


霞「ぐっ……」 クラッ

加藤「ッ!?」

本部「あれは……」

豊音「……ふふふー」

加藤「げえーーーっ、帽子のつばが鋭利になって、ぱふぱふを防いでいるーーーっ!」

刃牙「だが受ける方もすごい」

刃牙「あの速度であの刃物なみの帽子に胸を叩きつけたのに、脂肪の厚みで軽く血を流すだけで済んでいる」

豊音「ぽぽぽぽぽー!」 ドガッ

霞「きゃっ……」

恒子「あーーーーっと、姉帯選手、石戸選手が怯んだ隙をついてオーバーヘッドキックー!」

恒子「思わず石戸選手後退ーーーーっ、再び両者に距離ができたーーーっ!」



久「むう……あれはまさか紫流空八闘!?」

まこ「知っとるんけ部長!?」






【紫流空八闘】

その期限は800年前のモンゴルにまで遡ると言われている。

かつてのモンゴル娯楽の最高峰と呼ばれた『紫四季武』――

その武術の祭典において、秋季王者・李房氏が初めて披露したとされる。

回転する刃を加えた立方体の物質を投げ、その回転で切り刻む技の本質は、その縦横無尽さにある。

材質を軽い布にし、また円柱でバランスを取ることで細かな操作が可能となった。

空を駆け周り周囲八方向全てをカバーするその技は当初単に『空八闘』と呼ばれていたが、

後に起源である紫四季武にちなみ『紫流空八闘』と呼ばれるようになる。

余談ではあるが、様々なものを投げる戦術が主流になったことで紫四季武は衰退し、

最終的には消滅に至るのだが、物を自在にコントロールする技術だけがモンゴルの外へと持ちだされた。

その中でも紫流空八闘は何十年と鍛えあげた才能溢れる武人の五十人に一人が会得できればいい方という難易度故に継承されなかったのだが、

しかしその武具のデザイン性が評価され、房氏の意図せぬ形で世界に広まることとなった。

それこそが現代で言うシルクハットの起源であるということは、あまりにも有名である。


(民明書房刊 『武術と衣服』より)






久「今じゃあほとんど絶滅したと聞いていたけど……」

美穂子「でも、噂ではかつて貧民街でその技を使うものはいたと……」

久「表舞台からは消え、ひっそりと受け継がれた技、か……」

久「これが、あのオーガストリートばりに未開と言われる岩手山奥で育った闘士、か……」 ゴクリ


豊音「ぽぽぽーーーっ!」

恒子「なんとぉ!!」

恒子「姉帯選手の帽子のつばが、更に高速回転を始めたァァァーーーーッ!?」

加藤「あんなもん食らったら一瞬でバラバラだぞッッ」

霞「なるほど……恐ろしい能力ね……」

霞「胸から血を流したのなんて、一体どれくらいぶりかしら……」

霞「でも――これで一つわかったわ」

豊音「……?」

霞「貴女はまだ、完全に鬼の血にやられたわけじゃない」

霞「さっきの時点で回転させていれば、胸を切断することすらできたかもしれないもの」

霞「でも、貴女はそれをしなかった」

霞「まだ人としての心が、理性が残っているのね……」

霞「……」 フウ

霞「おはらいは、得意じゃあないんだけど」

霞「例えもう一度突っ込んだら、今度はその高速回転する刃が躊躇なく向けられるとわかっても」

霞「そんな迷える少女を見捨てるわけにもいかないわよねえ」


霞「胸にはね、こういう使い方もあるのよ」


ガシャーン ガシャーン


恒子「な、なんとォォ~~~~!?」

恒子「石戸選手、その両の胸をいきなりぶつけあい出したァ~~~~!!」

刃牙「シンバル持った猿の玩具みたいだな」

加藤「さらにそれを擦りあげるッッ」

本部「アレを食らってまともでいられる男はおるまい」

恒子「なぜ男限定」

健夜「そ、それよりっ///」

恒子「何で赤面」

健夜「え!? あ、赤くなんてないよ///!?」


本部「いいや、真っ赤だな」

健夜「ええっ、そうかな……」

健夜「た、多分ちょっと暑いから火照ったのかも……」

加藤「暑い……?」

恒子「元からこんなもん暑かったような」

健夜「恒子ちゃんはずっと叫んでたからだよ!」

加藤「しかも立ち上がったり動きまくってたからな……」

刃牙「……」

刃牙(この気温、間違いない……)


恭子「……」 ハッ

恭子(暑い……寝苦し……)

恭子(体が重……) ノソッ

霞「」 バイーンバイーンバイィィィィィン

恭子「」

恭子(お、思い出したッッ)

恭子(今は試合中やッ)

恭子(意識刈り取られとったのに……この制服が守ってくれとったんか……?)

恭子(それにしても……思わず目覚めるこの暑さ……)

恭子(なんなんやこれは……)

恭子(……あれだけ漏れとった尿が全部蒸発しとる……) サワッ

恭子(宮守の……気付いとんのか? この異常事態)

恭子(こいつが永水で一番ヤバい……!!)


豊音「ぽぽーーーーっ!」

恒子「ああーーーっと!」

恒子「すこやんが暑いから冷房入れてとダダをこねてる間に、しびれを切らせて姉帯選手が突っ込んだーーーー!!」

健夜「そんなことまで言ってないよ!?」

霞(今のあの子は、闘いの鬼に囚われている)

霞(相手を殺すという欲求は、何とか理性で抑えているみたいだけど……)

霞(基本はカンペキな勝ち筋で勝利をもぎ取り圧勝する鬼の血に従っている)

霞(それを本来は天賦の才と呼ぶのかもしれないけれども――)

バインボイングシャアァァーーーーーーーーーーーーーーーン

恒子「は、挟んだァァァーーーーッ!?」

恒子「なんと石戸選手、姉帯選手の帽子の高速回転刃にも引くことなく、真っ向からぱふぱふにいったァァァーーーーーーッ!!」


霞「それだと、人智を――そして自分の知識を超える技には対応出来ないわ」

豊音「ぽ……」 グラッ






揺杏「何ィィィーーーッ、む、無傷だとォ!?」

爽「あっ、あれを見ろ!」

揺杏「ん?」

揺杏「げえーーーーーっ、帽子のつばが折れ曲がっているッッ」






智美「熱膨張性って知ってるかー?」 ワハハ

ゆみ「知らん」

智美「つまり今のは」

ゆみ「知ってはいるが、どうせ今の現象とは関係ないだろ」

智美「……」

智美「このくらいでは泣かないぞ」






恒子「今のは……」

刃牙「熱だ」

刃牙「鉄製の刃も、高温の前では無力」

刃牙「何度も胸を打ち鳴らし、擦り、その際に生じる摩擦熱で室温をあげ、帽子の刃を無効化したんだ」

恒子「はあ……」

加藤「なるほど、あんなことをされてアツくならないわけがねえもんな……」 ゴクリ

恒子「小鍛治プロも出来るんでしょうか」

健夜「私は無理……っていうか普通は無理!」

健夜「やろうとする方も、成立する現象の方も私の理解を超えているからっ!」

ぱふぱふ(凶器)
なんかおかしい
けど実際巨乳の人が胸で中身入った缶を
叩き潰したりしてたし、霞ちゃんの胸でしかも武術の心得があるっていうなら人の頭部ぐらい果物のように潰せる……のか?

ぱふぱふ(凶器)
なんかおかしい
けど実際巨乳の人が胸で中身入った缶を
叩き潰したりしてたし、霞ちゃんの胸でしかも武術の心得があるっていうなら人の頭部ぐらい果物のように潰せる……のか?


霞「貴女のソレは、ただ悪魔に、鬼に魂を売っているだけ」

霞「体を乗っ取られているだけ」

霞「それでは真の強さにはたどり着けないわっ!」 グワッ

豊音「ぽおっ!」 ドゴッ

恒子「おーーーっと、ここで豊満な胸を使っての何か派手な技ーーーっ」

本部「大雪山落としか……」

霞「私達巫女は、神や悪魔をおろしている」

霞「でもそれは決して体を乗っ取られているわけではない」

霞「そして、支配し使役しているわけでもないっ」

霞「互いの尊敬を忘れた一方的な乗っ取りは、もはや貴女の力なんかじゃないわ」

霞「その驕りごと、貴女の鬼の血を封じてあげるっ」 ドガッ


霞「化けの皮を、剥いであげるわ」

豊音「……ッ!」



恒子「うおおおおおお!」

恒子「次々と攻撃を仕掛けているぞーーーーーっ!」



霞「制・裁・霊・魂・滅・消・斬――」

豊音「ぽ……」

霞「斬」

豊音「ぽぽぉ……」



塞「崩れたッッ」

胡桃「トヨネッ……!」




霞「斬」

霞「斬」

霞「斬ッッ」 ギュオーーーン

恒子「あーーーーっと、再び姉帯選手を上空へと放り投げる~~~~~っ!」

霞「悪霊退散ッッ」

霞「地獄の乳頭台ーーーーーーーーっ!!」 ズッドォォォォォン


霞「私にはお祓いするチカラがない……」

霞「けれども私には、いつも祓ってくれる仲間がいる」

霞「本格的なものはできなくても、彼女たちを見て覚えた退魔の技くらいあるわ」

霞「そして――今の貴女には、それで十分」

豊音「ぽ……ぽ……」

霞「言葉にすれば同じ『オカルトに体を貸した雀士』かもしれないけど……」

霞「ただ乗っ取られてるだけのオカルト雀士と違い……」

霞「私達オカルトに精通した永水雀士は……」

霞「鍛え方が違う!」

霞「性根が違う!」

霞「理想が違う!」

霞「決意が違う!」

豊音「グ……ウウウ……」


霞「これで決着、ね」

豊音「ぽぽ~……」

霞「立てないはずよ、今のままでは」

霞「……でも……」 チラ

エイスリン「トヨーネ!」

エイスリン「Stand Up!!」

エイスリン「アキラメナイ!」

白望「エイスリン……」

エイスリン「Stand Up!!」

エイスリン「ソノ太クテ大キナbodyヲ、立チ上ガラセテ!!」

白望「エイスリン……」

恒子「ああ~~~っと、ここで同じ宮守女子のエールが入るーっ!」


エイスリン「トーヨーネ! トーヨーネ!」

豊音(エイスリンさん……?)

白望「トヨネっ……!」

豊音(あのシロまで、声を……)

胡桃「トヨネーっ!」

塞「今私達も行くからねっ!」

豊音(聞こえる……)

豊音(医務室にいるはずの、二人の声も……)

寂海王「確かに、鬼の血は、強い」

豊音(この言葉……そういえば、いつか、言われたっけ……)

寂海王「強いだけでは虚しいぞ」

豊音(……うん)

豊音(うん)

豊音(そうだね……)

豊音(それに――)

グググッ

霞「……立ち上がるのね」

霞「立ち上がれる痛みじゃないはずなのに」

豊音「立つよ……」

豊音「だってまだ……皆のエールを受けたのに、“私'はほとんど何もできてないもんっ」

霞「ふふ……いい顔で、泣くようになったわね」

霞「強いだけでは虚しい……その通り」

霞「誰かのために使い、誰かと支え合うからこそ、戦える、立ち上がれる――」


霞「とても大切なことを教えてあげるわ」

霞「私が、戦える理由」

霞「安いプライドよ」

豊音「安いプライド……」

霞「誰かのため、大切な人のため」

霞「そのためなら、なんだって出来る」

霞「人は、安いプライドのためならば、なんとでも戦えるのよ」

霞「心に巣食う魔物とだって」

豊音「……うん……」

豊音「私の安いプライド……」

豊音「今、見せてあげるよー……!」 フラッ

霞「ふふ、本当に、いい目――――」











          グチャッ









 


豊音「…………え?」

霞「」 グラァ

ドサッ

恒子「…………!」

本部「~~~~~~~ッッ」

健夜「い、一閃……」

健夜「積み上げたものも、育てたものも、お構いなしに摘み取る無慈悲な一閃……」

恒子「く、首がありえない方向に……」

健夜「決して自分では育てず、育ちきった花を容赦なく摘み取る……」

健夜「まさに、嶺上開花……」

咲「安いプライド……・? 仲間……?」

咲「関係、ないですよ」

咲「邪魔をするなら――全部、ゴッ[ピーーー]」 ギロリ

豊音「…………っ!」 ゾクッ


咲「お姉ちゃんと戦って……」

咲「顔も知らなかったお義兄ちゃんと戦って……」

咲「最後は鬼ぃちゃんを倒さなくちゃいけないから」

咲「あまりムダな体力を使う暇はないの」

咲「2校勝ち抜けなんてだるいルールはおしまい」

咲「ここで、他のチームが全員辞退するような結果にする」 ゴッ

豊音「……」

豊音「はは……ちょー怖いよ……」

豊音「すごいのに、ワクワクより、ガクガクしちゃう……」

豊音「でも……」

豊音「怖さを知らなかった今までより、多分、私は強い」

咲「……怖さを知って、それでもまだ、立ち向かうの?」

豊音「がんばれ――って、皆が言ってくれたからね」 フフ


咲「真っ赤な花を――」

シュバッ

咲「咲かせる」

ドシュウウウウウ

豊音「……」 グラァ

健夜「速いッ……」

加藤「肉をえぐり、真っ赤な花を咲かせている……ッ」

本部「いや……えぐるというより、詰み取る、か」

健夜「あれぞまさしく、ツモり動作……」

健夜「一体どれだけの時を、孤独なツモ切り動作で過ごせばあんな速度が……」


豊音「……」 ニタァ

シュバッ

咲「!?」

加藤「血の目潰しッッ」

豊音「――赤口」 グサァァァッ

恒子「あーーーーっと、既に固まっていた血を細かくまぶした拳で殴りつけるゥゥゥーーーーーッ!」



白望「……固まった血と固まってない血」

白望「その二つを使ったラフ・ファイト」

白望「……一見すると鬼に心を支配されてるみたいだけど……」

胡桃「今の豊音は違う……」

胡桃「だよね? シロ」

白望「胡桃……」

エイスリン「医務室 イナクテ イーノ?」

胡桃「うん」

胡桃「まあ、まだ走るのは無理だったから、塞に運んでもらったんだけど」

白望「ああ、だから塞、あっちでうずくまって肩で息してるんだ……」


ゴシュッ

豊音「ははっ、やっぱりすごいよー!」

豊音「ここまで正確に頸動脈を狙ってくるなんてー!」

ドゴッ

咲「かっ……」

咲(あれだけ肉を摘み取ってるのに、全然拳が鈍くならな……)

豊音「あはは、鬼も仏も滅ぼしちゃうよー!」 ドガガガガ

咲「このッ……!」 カン

豊音「はは……これが濃厚な鬼の血……」

豊音「怖いし、ちょー強いけど……」

豊音「それだけじゃ最強じゃないってこと、先生や霞さんに教えてもらったもんねっ!」


豊音「全てを終わらせるよー……」

豊音「持てるオカルトを全てぶつける」

豊音「宮永さんの心がざわついているなら!」

豊音「その心を、大いに休めてあげるよー……!」

寂海王「あの拳は……!」

胡桃「寂さんッッ」

寂海王「あの全身の筋肉とオカルトを込めた拳……」

寂海王「並みのものなら、心の臓を貫かれるだけに終わろう」

塞「ええ!?」

寂海王「だが、あの目……」

寂海王「彼女は、活人拳をしようとしているッッ」

寂海王「宮永咲クンの強さを、そしてゆらぎを信じ、相手の心のみを砕いて呪縛から解き放とうとしているッッ」


加藤「あ、あれは一体……」

本部「発勁の一種……か?」

本部「筋肉の鎧やオーラなど、全てを無視して直接心臓という臓器を壊しにいっている――」

刃牙「いや――」

刃牙「正確には、壊さない程度に、心臓を止めたんだ」

刃牙「そして、体内で反響したエネルギーが止まった心臓を再度動かす」

刃牙「殺害と蘇生を同時に行っているんだ」

加藤「な……なんのためにッ……?!」

刃牙「……さァ」

刃牙「今わの際の走馬灯でも見せたいんじゃないかな」

加藤「~~~~~~!?」

加藤「走馬灯なんて、狙って見せられるわけが……」

本部「無い」

本部「……少なくとも、無理だと思っている内はな」

刃牙「イメージは無限」

刃牙「心の臓を掴み、止め、動かし、そして相手の脳への電気信号すらコントロールするイメージができれば――」

加藤「…………ッッ」


咲「がッ……」

照『咲……』

咲(これは……)

照『そう。パンチは、こう、えぐりこむように』

咲(走馬灯……ッッッ!!?)

照『うん。そうやれば、相手の吐血で真っ赤な花が咲く』

咲(おねえちゃん……)

咲『わあ! 出来たよ、おねえちゃん!!』

咲(これは……・私……?)

咲『格闘技って、面白いね!』

咲(…………)

咲(笑顔、か……)


和『宮永さん』

咲(……)

和『一緒に、全国に生きましょうね』

咲(約束……したっけ……)

咲(麻雀も……格闘技も……)

京太郎『へえ、咲ってすごかったんだなあ』

咲(皆が……面白さを思い出させてくれた……)

優希『本気にさせたな』

まこ『仇、とっちゃるけえ』

咲(皆が必死に、バトンをつないでくれた……)

久「さあ、どうする、グラップラー咲――――」

咲(闘う場を、部長がくれた)

優希『安いプライドだじぇ』

霞『安いプライドよ』

豊音『私の安いプライド……今、見せてあげるよー……!』

咲(私の……立ち上がる理由は……)

咲(安い、プライドは――――――)


咲「――――――ッ!」 ハッ

豊音「あ、起きた」 ニパ

咲(気絶?)

咲(いや、相手の動作、私の姿勢からして、意識がトんでいたのは一瞬!)

咲(もっと寝かせていれば、勝っていたというのに――)

豊音「ねえ、宮永さん!」

咲「……!?」

豊音「殴り合いって、楽しいよね!!」 パァァ

咲「――――っ!」

豊音「一緒に、楽しもうよ!」

ドゴォォ


恒子「ダッッ…………」

恒子「ダァァァァァァァウンッッ!!」

恒子「必殺のカウンターで、姉帯選手が再び地に伏したァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

刃牙(あの一撃……)

咲「…………」 ハァ・・・ハァ・・・

咲(今の気迫……)

咲(思わず、本気で攻撃したのに……)

咲(首一つ、ねじ切れてない……)

咲(この人が頑丈っていうのもあるけど……)

咲(どうして……私……ッ)

刃牙(……鬼じゃなくなっちまった、か)

咲「どうして……あの殺意を思い出せないの……」


咲「…………」

咲「お願い、もう立ち上がらないでください」

咲「そのまま寝ていてくれたら……」

咲「互いに、無事終われるから」

咲「……」

咲「……貴女もです。末原さん」

恭子「…………っ」 ビクゥ

咲「そのまま、おとなしく死んだふりをしていてください」

咲「そうすれば――」

恭子「……まあ……」

恭子「そら、バレとるわな……」 ノソ


漫「末原先輩ッッッ!!」

恭子「……」

郁乃「やめときぃ、末原チャン」

郁乃「なんぼニュー末原チャンが強い言うても、正直あの娘には勝てへんわ」

恭子「……でしょうね」

恭子「分かってます」

恭子「分かってますよ」 スッ

漫「何で立ッ――」

恭子「闘うだけや」

恭子「勝てるとは……思ってへん」


恭子「……」

咲「……」 ギロリ

恭子(ああ~~~~怖っ)

恭子(おしっこ漏らしてめげそうになるわ)

恭子「……でも…・…」

恭子(無様を承知で、バケモンに立ち向かっていくのが……)

恭子(末原恭子の、安いプライドやもんな……)

恭子「これは、もういらんか……」 スッ

漫「す、すすす末原先輩ッ///!?」

郁乃「ええ~~、そのカッコかわええのに脱いじゃうん?」

恭子「……すんません」

恭子「ただの末原恭子として……」

恭子「意地だけ、張らせてください」 ヌギヌギ

恭子(例え無様に失禁してKOしようと……)

恭子(せめて、前のめりに……!)


咲(な、なんで突然脱ぎ――!?)

咲(まさか、私と同じで脱ぐほうが強い……?)

咲(いや、でも、さっきまでを見ると、戦闘スタイルはギミックだらけのあの衣装じゃ……)

咲「……」

咲(わからない)

咲(わからないから――放っておこう)

咲(罠かもしれないし、それに――)

咲(立ち上がってきた以上、攻めて来るのは間違いない)

咲(だったら、自信のあるカウンターで、迎え撃つだけ)

咲(それなら、何を企んでいようと、関係ないよね……!)

咲(それに……防衛反応での一撃なら、きっと、迷いも……)


恭子「…………ふぅ」

恭子(脱ぎきった……)

郁乃「あーあ」

郁乃「これでもう、ただのいつもの“凡人”末原恭子ちゃんや」

恭子「……」

恭子「ここまで立っていられるだけの防御力をくれたことは、感謝してます」

郁乃「お世辞はええよ~」

郁乃「攻撃面であまり役に立てへんかったのは事実やし」

恭子「はは……」

恭子「……」

恭子(そんで……あの装備なしで突っ込む、か……)

恭子(自分で決めたことなんに、足、めっちゃ震えるやんけ……)

恭子(どうした、私……)

恭子(私の中の“安いプライド”はどうしたっ……)


郁乃「結局、最終兵器も使わんかったようやしなあ」

恭子「……ああ、そういえば、そんなのも」

恭子「このリボン、でしたっけ」

郁乃「せやで~」

郁乃「まあ、気休めみたいなもんやけどな」 シュル

コロン・・・

恭子「…………ッ」

恭子「こ……れ……」

郁乃「いつもの、ペン」

郁乃「作戦会議のときも、漫ちゃんのおでこに何か書くときも」

郁乃「麻雀のときも、格闘の時も」

郁乃「いっつも肌身離さず持ってて使うてたペンや」

郁乃「まあ、お守りみたいなもんやな」


恭子「そ、それ……」

恭子「もろても……」

郁乃「?」

郁乃「ええけど……」

恭子「あ、ありがとう……ございます……」

恭子(その……瞬間……)

恭子(その瞬間やった……)

恭子(代行がまだ何か言うとるけど、もう何も聞こえとらんかった)

恭子(と……閉じ込められていたものが……吹き出すっ……!)


漫「末原先輩ッッ!!」

恭子(み……見える……)

洋榎『恭子があれこれ考えてくれるから、安心して好きにやれるわ』 ハハ

恭子(私の……プライド……)

由子『頼りにしてるのよー、作戦参謀さん』 フフ

恭子(見えるで……)

絹恵『あと、お願いしますっ!』

恭子(こ、これが……)

善野『ウチがおらん間……皆のことを、よろしくね……』

恭子「うっ……」

『『『『『『末原センパーーーーーーーーーーーーーーーーイッッッ!!!』』』』』』

恭子「うおおおおおおおおおおおおおおおおおッ」

郁乃「す、末原ちゃん!?」

恭子「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ」 カタカタカタカタ

恭子「おおおおおああああああああああああああああああああああああああああああッッッ」 カタカタカタカタ

恭子「漫ちゃんッッッッ!!」

漫「は、はいっ!」

恭子「姫松高校代表としてッッ」

恭子「漫ちゃんがその目で見届けェッ!」

漫「末原先輩ッッ」

漫「も……戻ったんですねッッ!!」

恭子(自分でも……今ッ……)

恭子(自分の中の……どこのどのスイッチが入ったのか……わからへんッ)

恭子(でも――――)

恭子「ああああああああああああッッッ」

恭子「止まらへんのやッッ」 カタカタカタカタ

恭子「心もッッッ! 頭もッッッッッ!!!!」

恭子「っらああああああああああああああああああああ!!」 ダッ


漫「行けッッ!」

漫「末原先輩ッッッッ!!!」

恭子「うおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!」

ドゴォッ

咲「…………ッ!」

恭子「っらあッ!」 キャオラッ

咲「なッ……」

咲(何……!?)

咲(何で……こんな……)

咲(さっきの二人より弱い、こんなパンチをまともに貰うの――!?)


健夜「すごい気迫……」

加藤「おいおい」

加藤「気迫でパワーアップしたとでも言うのか?」

本部「いや――違うな」

刃牙「あの気迫は、相手を圧倒するためのものじゃァない」

刃牙「むしろ、弱い己を奮い立たせるためのもの……」

本部「恐怖に屈することはなく、しかし恐怖を忘れるのではない」

本部「恐怖を受け入れ、そのうえでなお立ち向かう」

本部「まさにそれこそ、『武』の本懐ッッッ!!!」

刃牙「ただ無謀なように見えて、きちんと的確に攻めている……」

刃牙「思考を諦めず、きちんと“ビビっ”て戦っている」

健夜「……人間らしい、泥臭いスタイル、か……」

健夜「高く飛ぶための知力と気迫」

健夜「鬼のひしめく高さまで、果たしていけるのでしょうか……」

刃牙「さァ……」

刃牙「ただ――それが無理だとハナから断じれるような奴は、格闘技などしてないさ」

恒子「うおおおおおッッ! また入ったァァァァァッッッ!!!」

恒子「猛る凡人末原恭子ッッ」

恒子「片道切符でどこまで登っていけるのかァァァァァァッッッ!!」


咲「くっ……」

シャッッ

恭子「うッッわッッッ」




漫「か、掠ったッッ」

郁乃「ほんまに掠っただけやなあ」

漫「それでもあんなに弾かれ……ッ!」

郁乃「あちらさんが本調子なら今頃血を吹き出すか腕とれとるかのどっちかや」

郁乃「……それをわかっとるから、とことん弱点をついとるのに」

郁乃(そんなにビビっとるのに、真っ直ぐ前を見て、まだやる気なんやな、末原ちゃん……)


恭子(善野さんッッ……!)

恭子(きっとまだまだ実力不足のガキなんかもしれへんけどッ)

恭子(ビビるし、震えるし、なんならチビるくらいの雑魚なのかもしれへんけどッッ)

恭子(貴女の教え子ですって胸張れるようにッ)

恭子(最期の瞬間まで、ビビろうが漏らそうが勝利を求めてくらいつきますからッ!)

恭子「見とったってくださいッ」 ダッ




漫「看取……えっ!?」

郁乃「そーいう意味やないやろ、敬語やったし」

郁乃「……あーあ、結局末原ちゃんの心は奪えんかったかぁ」




咲「性懲りもなくッ……!」

恭子「何度でもッ!! 無様だろうと!」

恭子「意地があるやろ、女の子にはァ!!」


咲(これ以上はもらえないッ)

咲(死んでも死ななくても――次で終わらせ……)

ガシッ

咲「ッ!?」

咲「なっ……」

咲「不死身……!?」

豊音「え、へへ……」

豊音「つか、まえたよー」


咲「何ッ……でッッ」

豊音「わた、しも……」

豊音「本当なら、立ち上がるのが、精一杯だったよ―」 グググ

咲「…………ハッ!」

霞「……」 ゴゴゴゴゴゴゴゴ

咲「お、起きてるッ!?」

咲「そんな馬鹿な……」

咲「あの時は確かに、鬼の血で[ピーーー]つもりだったのにッ」





久「和と違って、胸を敢えてぶんぶん振り続けるスタイル」

久「あの超重量を振り回すと、遠心力で体は持って行かれそうになるはず」

久「にも関わらずあの安定を実現させたのは、ひとえに首から足までにかけるラインの安定度」

久「超重量を振り回す際の軸に慣れ鍛えられた首の筋肉が、ねじ切られるのをぎりぎりのところで防いでいたッッ」


塞「あれは……」

白望「……永水の人が、トヨネに気を送ってる」

胡桃「だから限界の力が……」

エイスリン「But, why?」

寂海王「救いたいのさ」

寂海王「彷徨える若い魂を」

寂海王「あの老練な巫女も、私と同じく未来を担う若者に賭けたくなったのだよ」

胡桃「あの人私と同い年じゃなかったっけ」

塞(見えない……)


豊音「私に出来るのは……あとは、これだけ……」

豊音「でも……」

豊音「これだけは絶対成し遂げるよー……」 ギリギリ

咲「くっ……離してよッ!」 ドガッ

豊音「死んでも……離さないよー……」

咲「そんなことをしたら、貴女だって末原さんの攻撃を――」

豊音「……だろうねー」

豊音「ふふ」

豊音「これが……ツープラトンってやつかなあ」

豊音「あの有名人さん相手に、有名人さんとツープラトンが出来るなんて幸せだなあ」

豊音「ついでに……そのツープラトンで、倒せたりなんかしたらサイコーだよね」 フフ

咲「くっ……!」 ドガガガガ

豊音「はは……」

豊音「動揺してても……やっぱり、一撃一撃が重たいよ……」

恭子「おおおおあああああああああああああああああああッッ」 ゴッ

咲「離――――」













 

















豊音「――――――――――ハッ」


塞「トヨネッ!!」 ギュウ

豊音「わわっ、塞///!?」

胡桃「もうっ、心配したんだからっ!」

エイスリン「クタバッタカト オモッタ!」 グスン

豊音「ふたりとも……」

白望「……3日」

白望「3日、寝てたんだよ」

豊音「……」

豊音「そっか……」

豊音「私――――負けたんだ……」


豊音「……宮永さんは?」

寂海王「敗れたよ」

寂海王「君と、末原クンの懇親のツープラトンで、完全に意識を手放した」

寂海王「目覚めたのも、全てが終わった翌日だと聞く」

豊音「……そっか」

寂海王「末原クンも未来の格闘技界を担う素晴らしい存在だった」

寂海王「しかし――それ以上に宮永咲クン」

寂海王「彼女は、類まれな戦士だ」

豊音「……うん」

豊音「結局、勝てなかったよー」

寂海王「……そうだな」

寂海王「だが――彼女を血も涙も無い殺戮マシーンから、人間宮永咲に戻したのは、紛れも無く君だ」

寂海王「未来を担うであろう素晴らしい格闘家・宮永咲を取り返したのは、姉帯豊音という闘士なのだよ」


白望「……病室、見に行ったけど」

白望「つきもの、落ちたみたいだったよ」

胡桃「うん」

胡桃「まだ迷ってはいるんだろーけど」

胡桃「多分、これからは清澄の人がなんとか支えてくれると思う」

寂海王「……私も、見舞いに行ってきた」

塞「え!?」

寂海王「スカウトをしようと思ってな」

胡桃「手ぇ早ッ!」

寂海王「もっとも、振られてしまったがね」

寂海王「その際、彼女から伝言を預かっている」

豊音「?」

寂海王「――格闘技って楽しいよね」

豊音「!」

寂海王「一緒に楽しもうよ――だそうだ」

豊音「……っ」 ウル

寂海王「彼女は、格闘技の楽しさを思い出したんだよ」

寂海王「君のおかげでね」


豊音「……よかった」

豊音「どうしても……宮永さんも、救ってあげたかったから……」

豊音「……」

豊音「でも……」

豊音「私のわがままのせいで、皆がすっごく頑張ってくれていたのに……」

豊音「勝て、なか……」 ポロッ

豊音「あ、あはは……」

豊音「だめ、だよね……」 ポロポロ

豊音「私が、勝ちだけを考えてたら、勝ててたのに……」

豊音「私に、泣く資格なんて……」


胡桃「確かに、勝てなかったのは悔しいね」

豊音「……」

胡桃「でも……」

胡桃「あそこでああいう行動に出ない豊音を見てたら、もっと悔しくて悲しかったと思う」

塞「うん」

塞「あのまま鬼になんてならなくてよかった」

塞「本当だよ」

エイスリン「ウン!」

エイスリン「トヨネガ、トヨネデ、ヨカッタ!」

白望「……悔しいよね」

白望「だから――”次”は勝とう」

白望「また、皆で」

白望「麻雀でも、格闘技でも」


寂海王「豊音クン」

寂海王「君は立派にやったのだよ」

寂海王「私が誇りに思うくらいに立派に、ね……」

豊音「先生……」 ポロポロ

寂海王「まさかベスト8にも残れないとは思わなかった」

寂海王「それは紛れもない本音だ」

寂海王「だが――まさか勝ち上がるより実りある敗北を早々に味わえると思っていなかったのも本当だ」

寂海王「この戦いに、意味はあった」

寂海王「……何度でも言おう」

寂海王「強いだけでは虚しいぞ」

寂海王「君は――もう、虚しくぼっちな闘士なんかではないよ」


寂海王「それでもまだ悔しいようなら――」

寂海王「俯かずに、前を見なさい」

寂海王「そうすれば、今日の涙が、明日を変える力になる」

豊音「……うん……」 グスン

寂海王「大丈夫」

寂海王「再戦の時は来るさ」

寂海王「そう遠くない内に、ね――」






【大将戦】
勝者 末原恭子(姫松高校)

【1回戦対戦結果】
清澄高校 勝ちあがり
姫松高校 敗退
永水女子 敗退
宮守女子 敗退

寝ぼけて間違えたぜ

【1回戦対戦結果】
清澄高校 勝ちあがり
姫松高校 勝ちあがり
永水女子 敗退
宮守女子 敗退



に訂正します。
なお姫松はメンバーが欠けまくったから多分普通に次は不戦敗する模様。







【半年後】






 


寂海王「強いだけでは虚しい」

寂海王「その思いだけで、君達を育てあげてきた」

寂海王「しかし――ソレ以外だけというのも虚しいだろう」

寂海王「時には多くのものを得た末に身につけた力を奮う場所がほしいはず」

寂海王「そして高みに登りたいはず」

寂海王「……それぞれに、倒したいライバルがいるはず」

寂海王「そう思って、コレをずうっと温めたのだ」

寂海王「燃え上がるようなトーナメントでは決してない」

寂海王「ただ各々がリビドーのままに戦えるような場が欲しかった」

寂海王「さあ、心の赴くままに研鑽しあおうじゃないか」

塞「あんなに少年みたいな目で企画進めてたんだから、自分の名前を看板にしてもよさそうなのに」

胡桃「そのへん、よくわからない意地だよね」

寂海王「私は何もしていないさ」

寂海王「したことは、未来を変える何かをする若者の背中を押しただけだ」

寂海王「だからこれは、かつて未来と鬼を変えたチャンプの名を冠させた」

寂海王「彼に追いつき、彼を超え、彼のような若者を数多生むようにと」

寂海王「――――これより、刃牙道ロワイアルを開催するッッッ」


塞「皆入ったーーーーー!?」

白望「見渡すかぎり、もう残ってないみたいだけど」

寂海王「……夢のようだ」

寂海王「男女の差も年齢の差も、流派の差もない」

寂海王「強弱ですら、今はまだ壁となりえない」

寂海王「ただ戦い相手に、己の全てをぶつけることができる場所」

寂海王「それを用意出来たのだ」

寂海王「狭苦しい廃墟ではあるがね」

塞「でも……それがちょっといい、みたいなところはあるかも」

寂海王「よかったのかい?」

寂海王「無理してこの場にいなくても、家にいることや、廃墟の中に入ることだって――」

エイスリン「ソコマデ!」

エイスリン「センセーノ ユメ、ミンナノ ユメ!」

塞「それに選手として、私はあの夏全部出して引退したしね」

白望「……うん」

白望「それに――」

白望「ここで待てば、戦えるんでしょ」

白望「あの範馬勇次郎と」


寂海王「……ああ」

寂海王「この手の祭を、あの男が見逃すわけがないからな」

塞「そうなると、勿論あのチャンピオンも来るわよね」

寂海王「ああ」

エイスリン「ラスボス!」

寂海王「このロワイアルの締めに相応しい二大ボスだ」

寂海王「しかし……勇者たちが傷ついているのに、ボスだけ無傷というのはね」

寂海王「それに中で戦いが続いているなら、その空間を邪魔させるわけにはいくまい」

塞「だから、私達もここで塞ぐんですよ」

白望「まあ、先生も、一人より生徒いる方が強くなるタイプの人だし」

白望「特に戦いたくもない人といちいち闘うのは怠いし」

エイスリン「イッショニ、タタカウ!」

寂海王「……そうか」

寂海王「いい顔を、するようになったな」

塞「先生の格闘技にかける信念と指導のおかげですよ」


寂海王「花火が合図だッッ」

寂海王「ルールはない」

寂海王「ただ己の信念のもと、最後の一人になるまで戦いたまえッッ」

エイスリン「フェイバリットアート」

白望「自作花火……」

塞「エイちゃんほんと多芸だよね」

エイスリン「ファイアーフラワー・オブ・シロ」

シュボッ

ヒュルルルルルルル

ドッパーーーーーーーーーーーーン

塞「うわっデフォルメシロ」

エイスリン「ニテル?」

塞「似てるだけに、一緒に浮かぶハートマークがなんていうかもう」

白望「恥ずかしい……」

寂海王「青春、いいじゃあないか」 ニッコリ


咲「開始の合図……」

葉子「オラッ」

葉子「最速のアタシが、誰より先に鬼の血脈を継ぐやつを――」

ドガッ

咲「その身長……」

咲「目立つから、助かりました」

咲「同じ血筋の者として」

咲「闘うために、同じ入口を選んでよかった……」

咲「……」

咲「今度は呪縛なんかじゃなく」

咲「ただ、格闘技って楽しいよねって伝えるために」

咲「私と、戦ってください」

ジャック・ハンマー「……」

咲「ジャックお義兄さん――!」


洋榎「ちまっこいのによー来るわ」

胡桃「そっちこそ」

胡桃「はっきり言って弱いのに」

洋榎「じゃっかーしい」

洋榎「まあ、絹や恭子にもやめとけ言われてもーたけどな」

洋榎「ちょーっくら、リベンジしときたいやつもおるし」

洋榎「あとはま、ストレス発散やな」

洋榎「そういうお前こそどーなん」

胡桃「私も似たような感じ」

胡桃「私のリベンジ相手は貴女だけどね」

洋榎「そら光栄で」

チンピラ「お前らが闘うことなんて出来ると思うなよーーーっ!」 ダッ

ヤンキー「お前らごとき、ここを切り抜けることなんて出来ねえんだよ!」 ドドドッ

洋榎「んなこと……」 ドガッ

胡桃「知ってるよ!」 バキッ

洋榎「はは、前より強くなっとるやんけ!」

胡桃「そっちこそ!」

洋榎「とりあえず――ここが落ち着くまでは背中預けとったるわ!」

胡桃「あとでボコボコにしてあげるから、そこまで粘ってよ!」


まこ「負けに――」 ドゴ

優希「来たんだじぇ!」 バキ

久「勿論、ただで負けて帰るつもりはないんだけどね」 ドカッ

久「得られるもんは全部得てくわよ~」

???「ソレは――」 ユラリ

まこ「げえっ! あれは!」

優希「あッ……」

???「ヘビー級チャンピオンとの本気の試合とかかい?」

優希「アイアンマイケルッッッ!!」

久「~~~~~ッッ」 ゾクゾクゾク

久「……ごめん」

久「たまには……部長特権で横暴なことしてもいいかしら」 ニタァ

まこ「どーぞ」

まこ「ちゅーか、そんな顔しとる部長を止められるなんてハナから思っちょらんわい」

優希「いっけー、部長!」

久「ん!」


泉「そ、そんなっ!」

泉「こ、攻撃が通らないなんてッッ」

泉「高1最強パンチィィッ」

グボッ

泉「~~~~~~ッ」 ジタバタ

ゆみ「……」

ゆみ「食われたな」

美穂子「食べられましたね……」

ゆみ「何なんだあのパックマンは」

美穂子「人間……でしょうか」

ゆみ「それにしては大きいし、倒せる気がしないな……」

美穂子「……そう言いながらも、足は前に進むんですね」

ゆみ「私は卑怯者だからな」

ゆみ「カッコつけたいのさ」

ゆみ「勝てない相手に挑むことでな」


ゆみ「そういうお前こそ、どうなんだ」

ゆみ「あまり腕力には自信はないのだろう?」

美穂子「ええ」

美穂子「でも……」

ゆみ「やる気なんだな」

ゆみ「最初から両目全開、か」

美穂子「ええ」

美穂子「普通にやったら勝てない相手ですもの」

ゆみ「だが――相手は無敵の化け物ではない」

美穂子「しっかりと思考を読み、裏をかき、弱点をつければ……」

ゆみ「幸い、相手は動かないしな」

美穂子「ええ」

美穂子「それでも一人で化け物退治は難しそうだから……」

ゆみ「皆まで言うな」

ゆみ「私は卑怯者だからな」

ゆみ「複数で袋叩きにした、なんてことはモモには絶対に言わないし……」

ゆみ「協力してくれとも頼まないよ」 ザッ

美穂子「ふふ……そうね」

美穂子「お願いなんて、らしくなかった」

美穂子「どうぞ、お好きに」

美穂子「その行動をも読みきって――この盤上を、制してみせる……!」 パカー

分かりにくくて申し訳ないがビスケット・オリバやで


ちゃちゃのん「はやりん……」

ちゃちゃのん「はやりんじゃ……」

ちゃちゃのん「ある意味……ちゃちゃのんの目指す世界の1位じゃな」

はやり「……」 ザッザッ

ちゃちゃのん「はやりんに聞きたい」

ちゃちゃのん「アイドルって……なんじゃ?」 キリッ

はやり「あと10メートルだけ好きなだけ喋っていいよ」

ちゃちゃのん「なんじゃとォ!?」

ちゃちゃのん「アっああっアイドルって!! なんじゃろうね!?」

ちゃちゃのん「夢を守ってっ……愛する皆を笑顔にしてっ……」

ちゃちゃのん「どうっ?」

ちゃちゃのん「それがアイドルッ!!」

ちゃちゃのん「どうっ!?」

ちゃちゃのん「笑顔のために身体を張って……みたいな……!」

はやり「10メートル」

ちゃちゃのん「あ、あのプライベートでもはやりんを貫くはやりんがこんな風になるなんて考慮しとら――」

ドガシャン

はやり「ここでは、そんなもの何の意味も持たない……」

はやり「今の私は、アイドルはやりんでなく、瑞原はやり――」

はやり「今こそ、“あの人”を超える」 ボッ


パチパチパチ

はやり「!?」

???「いい蹴りだ」

???「だが……ありゃいけねえ」

???「向こうが問答してきたら、相手はしなくちゃあな」

はやり「……猪狩さん」

猪狩「初めて見たぜ。アンタのそんな面ァ」

はやり「意外ですね」

はやり「猪狩さんは、来ないものかと」

猪狩「なァに、ここには目が肥えた観客兼対戦相手がゴロゴロいたもんでな」

はやり「……でも、もう二人しかいない」

猪狩「ああ」

猪狩「だが――見せてやろう」

猪狩「このブロック最後の観客であるアイドル瑞原はやりに、プロレスラー猪狩完至を」

はやり「……」

猪狩「無言で構える、か」

猪狩「なかなか無駄のない構えだが――教えてやろう」

猪狩「アイドルが、アイドルを捨てちゃあ勝てねえよってことをなッッ」 ダッ


ロブ・ロビンソン「やれやれ」

ロブ・ロビンソン「折角強そうな相手に巡り会えたんだ」

ロブ・ロビンソン「早速闘りたいんだがね」

絹恵「生憎あのガイアって人は、お姉ちゃんと宮守の人がやるらしいんで」

絹恵「おねーちゃんの邪魔、させられないんで」

絹恵「私で我慢してもらえますか」

ロブ・ロビンソン「ヒューッ」

ロブ・ロビンソン「鍛えぬかれた足、か」

ロブ・ロビンソン「いいね。同じキックの使い手として」

ロブ・ロビンソン「お相手させてもらうよ」

絹恵「ええ」

絹恵「でも生憎、お姉ちゃんの戦いじっくり観察したいんで」

絹恵「すぐに終わらせてもらいますよッッ」 シャッ


春「くっ……」

春「止まらなっ……!」 スナイプッ

金竜山「横綱の体重を止められると思うな」

春(やばい、張り手――っ!)

ドゴォ

春「……!?」

初美「ふっふっふー」

初美「助けにきましたよー!」

初美「この身軽な空中殺法なら、如何に横綱といえど……」

金竜山「……ッ」 ザンッ

初美「げっ、倒れないんですかー!?」

初美「完全に不意打ちで後頭部を蹴りまくったのに……!」

春「の、残った……ッッ」

金竜山「倒れないことにおいて……」

金竜山「横綱の横に出る者はいないッッ」

春「まずい、ぶちかましッ!」

初美「ええい、ダメ元です!」

初美「はるるは足元から! 私は頭上から攻撃して止めてみましょう!」

春「……うん」

春「スナイプッッ」


春「ぐっ……!」

初美「と、止まらりませんよー!」

初美「このままじゃ、ふたりともふっとばされ――――」

スッ

春「えっ……」

春「あ、貴方は……」

???「前をよくみろ!」

???「スナイパー空手とは!」

???「相手の膝の狙撃を目的とし!」 ヒュバッ

春「……っ!」 ヒュバッ

???「思わぬバランスの破壊」

金竜山(この俺が、バランスを崩され――――!?)

???「そこから派生する一撃必殺ッッ!」

初美「うおおおおおおおおお!」 ドゴドゴドゴドゴドゴドゴォォォ

???「これがスナイパー空手だッッ」

春「来ていたのですね……」

???「ちなみに私は巨乳メェーーーーーーニア!!」

春「師匠ッッ」

戸叶「ふっ……」

金竜山(危うく……倒されるところだった……)

初美「ゲェ、まだしぶとく残ってますよー!」

戸叶「動じるな」

戸叶「三本の矢という言葉がある」

戸叶「そう、我々は、三本の矢を射るスナイパーッッ」

戸叶「スナイパー空手創始者戸叶、参るッッ」

春「黒糖メェーニアのスナイパー、滝見春!」

初美「え!? 私は別にそんな変な流派に入るなんて一言も……!」

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