少女「あぺるー!」 男「?」(110)

公園――夜――

男(こんなところに……女の子?)

男(おいおい、親どこだよ。危ないだろ。)

少女「あぺるー! あぺるー!」

男(あぺる?)

少女「どこー?」

男(ペットか。)

少女「あぺるー……」


男(……)

男(ほっとけないよなぁ……)

男「ねぇねぇ君。お母さん、お父さんは?」

少女「!」

男(……声のかけかたが不審者っぽいな。)

少女「……あぺる探してるのー!」

男「あぺる?」

少女「私のお友達ー!」


男(本当に親は何してるんだっつの。)

男「……わんちゃん? ねこちゃん?」

少女「とりさんー!」

男「とり? とりさんなら木の上を……」

少女「ううん、怪我してるの!」

男「? 怪我してるのに逃げちゃったの?」

少女「落ちたの!」

男「……落ちた?」


少女「お兄ちゃんも探すの手伝ってくれるー?」

男「うーん……」

男「わかった。手伝ってあげる。」

少女「やった!」

男「でも! 今日はもう遅いから家に帰ろう?」

少女「えー!」

男「ほらほら、お母さんとお父さんはどこ?」

少女「おうちだよ!」


男(おいおいおい、まじかよ。)

男「一人?」

少女「うん! あぺる探しにきたから!」

男「おうちは近く?」

少女「うーん……ちょっと遠い!」

男(……はぁ。)

男「家まで送るよ。危ないからね。」

少女「はーい!」


男「おうちはどこー?」

少女「あっちー!」

男(団地の方か……)

少女「高いよー!」

男「そうなの? 何階?」

少女「んー?」

少女「わかんない!」

夜道――

少女「あぺるー♪」

男「あ、そうだ。あぺるは何色?」

少女「白!」

男(白の鳥……? 白鳥……とか? いや、あれって日本にいるのか?)

少女「ここに乗せていーっつも一緒なんだよ!」

男(肩に乗るくらい小さい……)

男(うーん、鳥はわかんねぇなぁ……)

少女「あぺるとーっても、可愛いんだよー!」


男(……)

男(自分で首突っ込んであれだけど、やっかいなことになったなぁ……)

男(でも見過ごすわけにも……)

ピリリ…

男「?」

少女「お電話鳴ってるー!」

男「俺のか。」


From: 後輩
Re:

先輩、夜遅くにすみません。
今大丈夫ですか?


少女「誰ー?」

男「友達だよ。君とあぺるみたいな感じ。」

少女「あぺるかー! そのお友達、可愛いのー?」

男「うーん……、可愛いよ。俺と違って愛想の良い女の子だからね。」

少女「そっかそっかー♪」トテテ

男「おーい。あんまり離れないで。」

男(後輩には適当に返すか……)

団地――

男「ここであってる? 大丈夫?」

少女「これだよー!」

男「あっちのおうちとか、あっちのおうちとかと間違えてない?」

少女「大丈夫!」

男「そっか。じゃあ……」

少女「お兄ちゃんありがとー! あぺる探してねー!」トテテ

男「あ、ちょっと! 俺も……」


男(……いや。)

男(親に注意するべきかもだけど。)

男(最近は声かけただけでも通報されるらしいし。)

ピリリ…

From: 妹
Re: どこにいるんですか!

男(帰るか。)


コンビニ

イラッシャッセー

男(からあげサマとレッドブルー……と、妹の機嫌取りにダッツ買うか……)

ピリリ…

男(ん……)

From: 妹
Re: 大丈夫ですか……?

男(これはやべーわ。)

自宅――

男「ただいまー」

妹「兄さん! どこ行ってたんですか!」

男「うっせぇな。ロースンだよロースン。」

妹「なんでこんなに遅くに行くんですか!?」

男「だってからあげサマ食べたかったし。」

妹「食べたかったしって……明日でいいじゃないですか!」

男「まぁ……そうですけどー……」


妹「私凄い心配したんですからね!」

男「うん。メールでわかった。」

妹「見たならなんで返事しないんですか!」

男「うるさいなー……お前は嫁か。嫁なのか。」

妹「よっ、め、ですか。」

妹「それは……あの」///

男「!」

男「……」


母「妹。」

妹「…!」ビクッ

母「兄と話しちゃ駄目って言ってるでしょ。」

妹「で、でも。」

母「部屋に行きなさい。」

妹「……兄さん。」

男「気にすんな。行けよ。」


妹「……」

男「あ、ほれ。」

妹「!」

男「ダッツ。溶けてたらごめんな。」

妹「兄さん……ありがとうございますっ……」

母「……妹。」

妹「……」タタッ


男「あ゛っ。」

男「スプーン渡してねぇや。」

母「……」

母「妹に……」

母「妹に関わらないでって言ったはずよね?」

男「いや。あっちからだな?」

母「貴方みたいな、出来損ないとは違うの。」

男「……」


母「妹に関わらない約束で、お金に関しては面倒を見てるの。」

母「学校にも行かない。勉強もできない。何の才能もない。」

母「それでも世話をしてあげてるの。わかるわよね。」

男「……うん。わかるよ。」

母「確か……あと半年で二十歳超えるわよね?」

男「……」

母「超えたら出てって頂戴。それまではちゃんと面倒は見てあげるわ。」

母「妹に関わらなければ、ね。」

男部屋――

男(……)

男(……)

ピリリ…

From: 妹
Re:

ごめんなさい、兄さん。
私のせいで……


男(……はぁ。)

妹部屋――

妹「私のせいで兄さんが虐められた……」

妹「私のせいで……私のせいで……私のせいで……」

妹「……殺したい……あの女……殺す!」グッ…

妹「あぁ、兄さん……顔が、顔が見たいです。」

ピリリ……

妹「!」バッ


From: 兄さん
Re:Re: ダッツ。

はよ食え、溶ける。
もう溶けてるだろうけどさ。

スプーン? リビングにあります(笑)


妹「……」

妹「兄さんはなんでそんなに優しくいられるの……?」

妹「……兄さん」

妹「はぁ……兄さん、はぁ、はぁ……」クチュ…

妹「大好きです……もっと。」クチュクチュ

男部屋――

男「……あいつすげぇもんな。」

男「東大だもん。本当に凄い。」

男「俺なんて傍から見ればただの……」

男「ただの……」

男(まぁ、誰も俺のこと見てくれてる奴なんて家族に……)

男「……」

男「あー、寝よ寝よ。疲れた。」

翌日――朝――リビング――

テレビ「――県――市で首を絞められ殺害されたと見られる少女の死体が発見されました。」
    警察は埋められていた少女の死体の身元確認を急いでいます。」

テレビ「今回で三件目となる、絞殺された少女の死体に警察は警戒を強め、また注意を呼びかけています。」


母「あら、妹。お早う。」

妹「……おはようございます。」

妹(兄さん、部屋にもいないし、今日もいないんだ。)

父「妹、勉強はどう? 大丈夫?」

妹「大丈夫ですよ。」

父「そうか。よく頑張ってるね。」

父「兄も……頭は悪くないんだし……やる気出して合うものとか見つければ……」

母「お父さん。」


父「……」

母「私、仕事に行きますね。今日は、晩御飯はいらないですから。」

父「あぁ……わかったよ。気をつけて。」

母「妹も学校遅れないように。」

妹「……」

母「あと。誰かみたいに、もう落ちることはないけど、気を抜かないように。」

妹「……」グググッ…

バタンッ


父「……」

妹「……」

父「ごめんな。お父さん何も……」

妹「いえ。」

妹「良いんです。兄さんは。」

妹「私が救いますから。」

公園――

男「あー、疲れた。」

男「……そうだ、鳥、探してみるか。」

男(でもどう考えても、怪我してて飛べないんじゃあ、もう。)

男(……俺もなんでこんなことしてるのかね。)

「先輩。」

男「んー、後輩か。どうした?」

後輩「どうしたって……はぁ。なんで来ないんですか。」

男「どこに。」


後輩「大学に決まってるでしょう!」

男「行きたくないし……」

後輩「子供じゃないんですから。単位落としちゃいますよ?」

男「昨日もメールで言ったけど、別に……構わないからさ。」

後輩「私が嫌です。」

男「後輩が? どうして?」

後輩「それは。」

後輩「先輩が……その、す……、寂しいじゃないですか。」


男「まぁ、寂しいな。お前といる時間は凄い、楽だし。」

後輩「えっ……その……」///

後輩「わ、わたしも――」

男「でもごめんな。色々と、その、大変でさ。」

後輩「そんな。何かあるのなら私が。」

男「……いや、どうにもならないよ。」

後輩「そんなこと!」

男「でも。手伝って欲しいことがあるんだ。」


後輩「!」

後輩「私、先輩のためならなんでも!」

男「そうか。」

男「なら。」

後輩「……」ドキドキ

男「鳥、探してるんだよね!」

後輩「は?」


男「いや、大学サボってまで手伝ってくれるなんて悪いな。」

後輩「いや、別に……その……予想外でしたけど、先輩のためですし。」

男「本当お前優しいよ。俺なんかと全然違う。」

後輩「やさっ……別に、普通です。その、先輩も優しいと思います、よ?」ドキドキ

男「そうかー?」

後輩「えぇ、でも恥ずかしいですからあんまり、そういうお世辞は。」

男「お世辞じゃないんだけ――」

男「!」


男「……」ニヤリ

男「いや? お世辞を言ったつもりはないぞ? 実際優しいし。」

後輩「!?」

男「それに、可愛いし、愛想だって良い。」

後輩「!?」///

男「しかも、今時珍しい清楚な文学少女ときた。」

後輩「わーわー! 何も聞えませんー!!」///


男「やっぱ、からかうの楽しいわ……」

後輩「から、からかわれたんですか!」

男「聞えてるじゃん。」

後輩「もう! 先輩のあほ!」

男「いてて、叩くな叩くな。」

後輩「許しません! おこです!」

男「激おこか。」

後輩「そうです!」


ピリリ…ピリリ…

男「ん。」

後輩「私じゃないですよ。」

男「俺か、――もしもし。」

妹『もしもし、兄さん? お父さんがお母さんいないからご飯食べに戻ってこいって。』

男「あー……」チラッ

後輩「白い鳥、白い鳥、小さい白い鳥。…カワイイ…フフ…オセジデモウレシイデス」ブツブツ

男(なんか怖いな……どうした……)


男「うーん、わかったって言っておいて。」

妹『はい。じゃあ私は学校行きますから。』

男「おう。気をつけてな。」

妹『……あの!』

男「お?」

妹『わ、私は兄さんのこと全部、全部見て、わかってますから! あ、あ、あいひ、てまひゅかりゃ!』

男「お、おぉ? おぉ、まぁ、ありがとうな?」

妹『そりぇ、それじゃ!』///


プー…プー…

男(あいつなりに気を使ってくれてるのか。俺のせいなのにな……後半意味不明だけど。)

後輩「妹さんですか?」

男「ん。そうだよ。」

後輩「心配してるんですよね。先輩、最近公園にいつもいますし。」

男「あぁ、そうだなぁ。どうにかしないと。」

後輩「どうにかって、甘えればいいじゃないですか!」

後輩(私に。)


男「それは。」

男「……?」

男「後輩、頭に、なんか。」

後輩「へ? ちょ、ちょっと!」///

男「羽?」

後輩「……」ドキドキ

男「これもしかして……あぺる? の?」

高等学校――(妹在学)――

妹友「え? お兄さんに告白した?」

妹「そ、そうなんです! ありがとうって!!」

妹「これはオーケーってことですね!? そうですよね!?」

妹友「ちょ、ちょ、妹ちゃん苦しいよ!」

妹「うふふ……これで相思相愛です……あとはあの女を殺せば。」

妹友「こ、え? 殺す、え?」

妹「冗談ですよー。えへ。」


妹友「……あんたの冗談、冗談に聞えないから。」

妹「そうですか?」

妹友「それよりも、お兄さんに告白してオーケーって本当?」

妹「本当です!」

妹「私が兄さんのことを全部知っていて、あ、愛しているってことを伝えましたから!」///

妹友(これは絶対的な思い違いの予感……)

妹「あぁ、愛しの兄さん今どこで何をして――」

妹友「駄目だなーこいつ。」


妹友「あ。」

妹「挙式はヨーロッパが良いです! 私、海外での結婚憧れなんですよ!」

妹友「妹ちゃん。」

妹「でも兄さんと結婚できるなら、どこでも。私は……! 子供は二――」

妹友「妹ちゃん!!」

妹「わっ! びっくりさせないでください。」

妹友「チャイムなった。授業始まるよ。」

妹「え、全然気づかなかったです……」

自宅――

父「あ、男。」

男「よう。」

父「お帰り、ご飯、机に置いてあるから。」

男「うん。」

父「あっ、と。洗濯終わらせるまで食べ終わってもどこにも行かないでね。」

男「……あんまり長居はしたくないなぁ。なんて。」

父「はは、そういうなよ。」


男「そうじゃなくてもさ。後輩待たせてるから、弁当箱借りて良い?」

父「あ、そうなの?」

父「もしかし……」

男「もしかしない。」

父「ちぇ。」

父「……ごめんな。」

男「父さんは悪くない。なんて思ってないけど、仕方ないよ。男は弱いもんだよ。父さんは得に。」

父「不甲斐ない……」


リビング――

男(……)

男(出来立てじゃねぇか……ふっざけんな……)

男「……っ。」

男(息子泣かせて何が楽しいんだ……)

男「うっ……ぐすっ……」

男「くそっ……」

男「ちくしょう……父さん……」



男「母さん……」


後輩「あ、先輩。」

男「悪い、ちょっと遅くなった。」

後輩「いえいえ全然。それはそうと、何しに帰ったんです?」

男「いや、父さんが弁当作ってくれて。」

後輩「お弁当? お父さん?」

男「あー……食費は別に貰ってるんだけど、たまには手作りもさ、恋しくて。」

後輩「しょ、食費を別に? え?」

男「き、気にすんなって、はは。それより、公園で一緒に食べよう。」


公園――

男「……」モグモグ

後輩「……」モグモグ

男「父さんいつも作り過ぎ感あるんだよなぁ。」

後輩「あ、お父さんがご飯、いつも作ってくれてるんですか?」

男「うん。主夫でさ。」

後輩「主夫です、か。じゃあ、お母さんが働いてるんですか?」

男「……社長。」


後輩「社長?」

男「あぁ、詳しくは知らないからなんとも。仕事のことあんま話さないし。」

後輩「へー、それでも凄いですね! 女社長なんて憧れます!」

男「そうかー? 俺は料理ができて暖かく出迎えてくれる母さんが良かったかな。」

男「ほら、お袋の味って奴。母さんの料理なんて食ったことないし。」

後輩「ぁ……そうだ、せ、先輩。」

男「ん?」


後輩「わ、私のお弁当なら、毎日! つ、作ってきますよっ!」ドキドキ

男「え? でも、後輩学食。」

後輩「お、お弁当に変えようと思ってたんです!」

男「そうなのか……じゃあ。」

後輩「!」パァッ

男「って言いたいけど、良いや。悪いし。」

後輩「全然、悪くな――」

男「さ、食べ終わったし飲み物でも買ってくるよ。何が良い?」


男「コーラとオレンジジュースっと。」

男(……父さんの弁当食べて気づいたけど。)

男(つらいな。)

「お兄ちゃん!」

男「ん?」

少女「にへー!」

男「あ、昨日の。」

少女「あぺるー!」


男「あ、見つかったの?」

少女「うん! 自分で帰ってきた!」

男「? 怪我してたのに?」

男(って見たところ怪我はしてなさそうな……)

男(それよりもこんな小さいのに自分で飛べるのか?)

少女「手伝ってくれてありがとねー!」

男「いやいや、何もしてないし。見つかってよかったね。」

少女「うん!」


男「今度はもう迷子にならないようにするんだぞー」

少女「えへへ、じゃ、お母さん心配してるから帰る!」

男(昨日心配しろよ。)

男「じゃあ、送っていこうか?」

少女「ううん! 大丈夫!」

男「そっか、じゃあ。君も迷子にならないように。」

少女「はーい! ばいばーい!」


後輩「……」

男「ふぅ。嵐みたいな子だったな。あ、後輩。」

後輩「……ロリコン。」

男「いや、違うけど。まぁ、後輩は小さいからロリに見えるよね。」

後輩「ちょ、ちょっと、何気に気にしてるんですからね!」

男「ふっ……」

後輩「もー! 嫌いです!!」

男(からかいがいのある……)


男「あの子が白い鳥探してたんだけど、見つかったみたい。」

後輩「あ、そうなんですか。てっきり誘拐するのかと。」

男「その減らない口を塞いで誘拐してやろうか。」

後輩「そっ……れは、な、気持ちの悪いこと言わないでください!」ドキドキ

男「酷い。」

男「……そうだ。暇だし、久しぶりに本屋にでも行かないか?」

後輩「え?」

駅前――本屋――

男「ここの本屋、品揃えは良いけど俺の家から遠いのがな。」

後輩「大学からは近いですから私はよくよります。」

男「大学終わりの本屋……」

後輩「これば良いんです。これば。そしたら、その、い、一緒に寄れますよ?」

男「くっ、それはとても魅力的な提案……!」

後輩「ぇ……」///

後輩「それ本当ですか……?」


男「え? そんなことなんかで嘘ついてもしょうがないだろ。」

後輩「ぁう……」

男「さ、そんなことより本見ようぜ。」

後輩「ぁうぁう。」///


本屋――

後輩「これ面白そうですよ。『失望と求愛』。」

男「どれ、って。これ読んだことある。多分家にある。」

後輩「えっ。じゃあ今度 大 学 に持ってきてください。」

男「さー! 面白そうな本はないかなー?」

後輩「……」ギュ

男「いてててっ!」


男「あー! これ新作出たのか。スピンオフになってからネタ尽き感半端ないけど。」

後輩「あ、それ、面白くないです。」

男「え?」

後輩「え?」

男「いや、このシリーズ面白くて好きなんだけど。」

後輩「『探偵助手ナナ』?」

男「うん。」

後輩「……よし、戦争ですね。」


男「ゲームの攻略本は持ってなくても欲しくなる。」

後輩「ゲームはまったくやらないからわかりません。」

男「そんな。もったいない。」

後輩「ゲームやるなら読書しますよ。まず暇潰しに電子機器なんて使う時点で負けです。」

男「……」

男「この間、「スマホで読書超捗ります! 見て見て先輩!」って言ってたのどこの誰だ?」

後輩「あ、あ、『Re:Blank』だー! これ、じ、実写化されたんですよねー!」

男「おい、こっち向け。」


男「……」

後輩「何見てるんですかー?」

男「いや、この本。」

後輩「あ、これ読みましたよ。親子の話でしたよね。」

男「そうそう。感動したの思い出して、泣きそうになっちゃった。」

後輩「先輩って柄にもなくセンチメンタリスト?」

男「ロマンチストかな。」

後輩「ぷっ。」


男「笑うなよ。」

後輩「……せ、先輩はどんなお嫁さんが良い! とかありますか?」ドキドキ

男「お嫁さん? 嫁かぁ。俺は……」

男「そうだな。俺のことわかってくれる、優しい女の子ならそれ以外は……」

男(……俺のことわかってくれる、か。)チラッ

後輩「そうですか……」ドキドキ

男「それに愛してもらえるだけで十分俺は嬉しい。」


後輩「先輩らしいです。」

男「馬鹿にしてる?」

後輩「いえいえ、そんなことは。」

男「なんか釈然としないけど。まぁ、よし、次の本見ようぜ。」

後輩「はい。」

後輩(先輩は私が……)

男(後輩か……)

駅前――夕方――

男「……楽しかった。」

後輩「ふふっ、私もです。」

男「結局買ったのは『Re:Blank』だけだったけど。」

後輩「これは絶対面白いですって! 読み終わったら感想、交換しましょう!」

男「そうだなー、楽しみだ。って、もうこんな時間か。送るよ。」

後輩「いえ、一人でも大丈――」

「……兄さん?」


男「あ、妹。帰り?」

妹「……」

妹友「お兄さんこんに、ち……は。」

後輩「妹さんですか?」

男「うん、妹。それで、隣の子が妹の友達の妹友ちゃん。こっちは後輩。」

後輩「初めまして、妹ちゃんも妹友ちゃんよろしく!」

妹「……よろしくおねがいします。」ペコ

妹友「あ、あははは。よろしくです……」


男「じゃ、俺、遅くなる前に後輩、送ってくから。」

後輩「あ、先輩気にしなくても。」

男「気にするって、なんか隣の町らしいけど殺人事件もあったらしいし?」

妹友「あ! それ私もツイットーで見ました! 小さい女の子だけ狙ってるとか!」

後輩「確かに怖いですけど……でも私は大丈夫です! もう大学生ですよ!」フフン

男「いや……小さいし、間違われて……」

後輩「もう! 怒りますよ!」


妹友「それに、不審者情報もあるみたいですよ!」

男「! 本当?」

妹友「公園で夜に目撃されたらしいんです。背の高い男の人がうろうろしてたって!」

男(俺だ……)

妹友「きっとヘンタイですよ! ヘンタイ!!」

俺(酷い……)


妹「……まぁ、私たちは危ないかも知れないですね。早めに帰りましょう。」

妹友「あ、ちょ、妹ちゃん待ってよ。じゃ、お兄さんまた……」

男「あ、おい、妹!」

妹「電車降りてすぐに家だから大丈夫ですよー!」

男「あぁ、もう……気をつけろよー!」

妹「はーい!」


後輩「可愛い妹さんですね。」

男「……うん。俺より頭も良いし、性格も良いし、自慢の妹だよ。」

後輩「凄い礼儀正しかったですもん。凄いです。」

男(後輩も十分礼儀正しいと思うけど……)

後輩「?」

後輩宅――前――

後輩「じゃ、先輩。」

男「おう。お休み。」

後輩「明日は学校、来てくださいね?」

男「んー……それはまぁ、前向きに考えておくよ。」

後輩「こなかったら先輩がロリコンだって言いふらします。」

男「はは、それは困るな。」

男「……行こうかな。」


後輩「本当ですか!?」

男「うん。……本当。」

後輩「じゃ、じゃあ迎えに行きます!」

男「家、逆方向じゃん。」

後輩「電車を使います!」エッヘン

男「いや……お金もったいない……」

後輩「先輩は嘘つきかもしれないので!」

男「……」


後輩「何が何でも行きますから!」

男「はぁ……わかったよ。」

後輩「えへへ! 勝ちですね。『失望と求愛』も忘れないでくださいよ!」

男「うん、わかった。持って行くよ。」

後輩「じゃあ先輩!」


後輩「また明日!」

男部屋――朝――

ピピ…ピピ…

男「なんで目覚まし……」

男「あ……そうか……学校行くんだった……」

男「……後輩。」

男「よし、顔洗ってこよう。」


男「……おはよう。」

母「……」

父「お、おはよう。男。」

母「お父さ――」

男「……いいよ。朝ごはん食べないし、もう学校行くから。」


男(妹がいない? って言うかご飯もない?)

男「妹は?」

父「部活で早出なんだって。」

母「お父さん!」

父「良いだろこれぐらい。息子との対話だろ。」

母「こんな! こんな出来損ないが、息子ですって!?」

父「出来損ないじゃない! 立派な俺の――」

男「父さん、やめなよ。」

父「しかし……」

母「……」

男「借金、さ。ほら、わかってるから。俺、大丈夫だから。」

父「……」


ピリリ…ピリリ…

ピリリ…ピリリ…

男「ん――もしもし? 後輩?」


後輩『もしもし、先輩? 着きましたよ。』

男(あ、本当に来るんだ……)

男「うん。すぐ行くよ」

男「……じゃ、行ってくるよ。」

母「……」

父「男、ごめんな……本当にごめんな……」


後輩「先輩、おはようございます。」

男「あぁ、おはよう。」

後輩「元気ないですね? ちゃんと眠れました?」

男「そう見える? 大学が楽しみ過ぎて眠れなかったのかな。」

後輩「嘘つきですね!」

男「はは。」

通学路――


男「って言うか、本当に来たんだね。」

後輩「えぇ、先輩とは違いますから! ……迷惑でした?」

男「全然。そっちが迷惑じゃないならね。」

後輩「迷惑なわけないです! 寧ろ……」

男「寧ろ?」

後輩「先輩には言いませんー。」

男「えー。」

後輩(毎日来よう……)ドキドキ


後輩「あ。」

後輩「信号青ですよ! 早く渡りましょう、先輩!」タタ

男「あ、ちょっと。」

男「?」

男「靴紐が……切れ――」


自宅――

母「じゃあ、私も行くわ。」

父「行ってらっしゃい。」

母「兄にはもう妹のこと、話さないで。」

父「……」

母「それじゃ。」

父「あ……、お母さん。肩にごみ。」

母「ありがとう。……何の羽かしら?」


男「おい! 後輩しっかりしろ……!!」

後輩「せんぱ……は……」

ダレカハネラレタミタイ カシャッ ヤバクネー グロ…

男「くそ……救急車……」

男「後輩!」

男「なんっでだよ!」

後輩「せんぱ……ひ……やだ、やだよぅ……」

男「くそ……! くそ!!」

男「死なないでくれ!」


病院――

警察「大丈夫?」

男「……」

警察「ごめんね。でもお友達、きっと大丈夫だから。」

男「……」

警察「それじゃあ、何か車について思い出したら連絡よろしくね?」

男「……」

警察「……」


男「……後輩。」

男「……」

男「死なないでくれ……」

男「……頼むっ。」


ピリリ…ピリリ…

母「はい、もしもし?」

妹『……あ、お母さん?』

母「妹? どうしたの、学校は?」

妹『あのね? ちょっとお願いがあるんだけど。』

母「良いわよ。兄のこと以外のことなら、ね。」

母「あなた、優秀なんだから。」

妹『……』ギリッ


公園――

男「……」

「お兄ちゃんどうしたのー?」

男「……」

少女「泣いてるのー?」

男「うん。」

少女「悲しいのー?」

男「うん。とっても。」


男「後輩のお母さんに言われたんだ。」

男「なんで娘が逆方向なのにあの道を通ったのかって。」

男「あそこを俺と通らなければって。」

少女「なんの話ー?」

男「俺のせいなんだ。」

男「全部。」スッ

少女「もう行っちゃうの?」

男「うん。」


自宅――

男「ただいま。」

父「あ、お、男! 母さんが!」

男「……どうしたの、父さん。」

父「っか、母さんが!」

男「落ち着いて。」

父「母さんが刺されて倒れてたって!」

男「……そう。妹は?」

父「い、妹? へ、部屋にいるよ。それより、びょ、病院に行かないと……!」


男「……俺は。」

男「妹連れて病院に行くから。父さん先に行ってあげて。」

父「わ、わかった。宜しく頼むよ!」タタ

男「……」

男「母さん……」


妹「うふふ。」

妹「あはは。」

妹「兄さんを虐めるごみは殺しました。」

妹「これで……これで! 私は兄さんと……」

妹「あぁ……兄さん……」

妹「?」

妹「……羽?」


コンコン

妹「!」ビクッ

男「妹ー?」

妹「兄さん! 今、開けますね。」

男「あぁ、悪いな。」

妹「……私の部屋に。私の部屋に来て大丈夫なんですか?」

男「母さんが病院に運ばれたらしくて。今回は例外だ。」

妹「ふ……そ、そうなんですか……。お母さんは……」


男「あぁ、だから、すぐに用意してくれないか。」

妹「はい。あの、お母さんはなんで病院に……」

男「……。」

男「わからない。」

妹「そうですか……」

兄「……。」

妹「兄さん?」


男「妹。」

妹「はい?」

男「俺、耐えられなかったんだ。」

妹「何にですか?」

男「お前が母さんに愛されてさ。」

妹「! 大丈夫です、兄さん。私が……」

男「いつも。」

男「平静を装ってたけど。」


男「二週間前にさ。」

男「お前にそっくりな女の子を殺したんだ。」

妹「に、兄さん?」

男「その日、母さんに酷く罵られて。」

男「夕方、公園に行ったら……女の子がいて。」

妹「……」

男「後姿が、妹にしか見えなくて。」

男「首絞めて殺したんだ。」

妹「私……」


男「そこで捕まればよかったんだけど。」

男「誰も居なくてさ。」

男「……お前は悪くないのはわかってる。」

妹「そんな、私が……」

男「でも。もうお前を殺さないと、駄目みたいだ。」


男「……ごめんな。」

妹「ぐっ!? 兄さん! やめ……!」

男「死んでくれ! もう……限界だ。」

男「母さんも、父さんも。」

男「お前が居るから!」

妹「……! 兄さ…ん……」


男「後輩も……もう……!」

男「あいつだけが……頼りだったのに!」

妹「兄さ……! こふっ!」

男「妹……」

妹(私のせいで兄さん……兄さんのために死ねるなら……)

妹(私は……)

妹「兄さ……泣かないでっ……!」

男「!」

妹(私、兄さんのこと。)


男「はぁ……はぁ……」

男「……妹?」


公園――

男「……」

男「……」

少女「お兄ちゃん?」

男「君は。」

男「君は何? 俺をつけてるの?」

少女「なんでスコップなんて持ってるのー?」

男「……埋めたから。」


少女「何を?」

男「人を。」

少女「何で?」

男「埋めたら少しの間ばれないから。」

少女「そうなの?」

男「そうだよ。」

男「……穴、掘っておいて良かったな。」


少女「わわっ、あぺる、落ちちゃうよ。」

男「あぺる、元気そうだね。」

少女「うん!」

男「そうか……元気か。」

少女「お兄ちゃんも元気出して!」

男「それは無理かな。」

ピリリ…ピリリ…

少女「お兄ちゃんだよー?」

男「……いいよ。きっと父さんだ。」


男「どうしてこんなことになったのかな。」

男「俺は。俺はただ。」

男「!」

少女「これはー? 本ー?」

男「……うん。俺の、友達が貸してって。」


少女「何って書いてあるの?」

男「失望と求愛。」

少女「こっちはー?」

男「英語だよ。Re:Blank」

男「……?」

男「あぺる?」

少女「あぺるだよー!」

男「そっか、Aperか。」

男「……そろそろ帰りな。遅いし。」

少女「えー!」


男「ほらほら。お母さん心配するよ。」

少女「うー……ばいばい、お兄ちゃん。」

男「君はさ。」

男「君は、あぺると、――――?」

少女「うん、そうだよー!」

男「そう。」

男「じゃあ、また後で。」


終わり――

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