遊び人「画期的な戦闘方を考える」(787)

初めてSS書くけど、頑張ってみる

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 "伯爵が事件の調査中に、[ごうけつ熊]に襲われて死んだ"


この訃報は帰還した私と遊び人のナジミさんが街の兵士長に伝えました
 森の中ではぐれた伯爵を見つけた時、伯爵は既に[ごうけつ熊]に襲われたと思われる状態だ発見されたと私は証言しました
ちらっと隣で気の抜けた口調で詳しい詳細を説明する人を見ます、ナジミさん曰く、「伯爵はクマちゃんに殺された、嘘は言ってない」とのことです
…まぁ、嘘ではないでしょうけど

兵士長はそれを聴かされ、ぎょっとした顔で私達を一瞥し、「日が昇ったら、森の中へ遺体の確認を取り、その後で町民に事を伝える」と言いました、大慌てで兵舎へと戻っていく彼をナジミさんは何処か冷やかな目で見ていました

「兵士長のおっさん、驚いただろうよ、本来なら事件とは何ら関係も無い[ごうけつ熊]に本当に殺害されたって聴かされたんだからねぇ」

「…あの人も、そうなんですか?」

街を守る立場でありながら、殺人の助長、偽装に手を貸していたのかと私は尋ねました

「だな、…流石のクマちゃん達も骨や衣服、装飾品等は食わねぇだろうから、遺骨はすぐに見つかる、その際、衣服に不自然な火傷があるとか言われそうだが、あえて誰も触れようとはしねぇだろうな」

ナジミさんが歩き出し、私も後に続きます

「クマちゃんに襲われる前に誰かと何かあったってのが嫌でも分かる、そうなりゃ第一発見者の俺や嬢ちゃんに事情を訊こうとするさぁ、そうなっちまえば、芋蔓式に正当防衛で爆破した事、あのカス野郎の悪行の数々が明るみに出る、…兵士長のお偉いさんも含め多くの兵隊さんが無職になる程度じゃ済まなくなるだろうよ」

それに、あくまで殺害したのはクマちゃんであって、俺ぁ直接的に手ぇ下してねぇしなとナジミさんが言います、そんなやり取りを交わしている間に彼の泊まる宿に着きました

「さて、カス野郎の死が正式発表されたら嬢ちゃんは奴の遺産を孤児院に渡す手続きをしてやってくれよ、んじゃ」

「あの」

昼間、この人に言われもしたが私は好奇心が強い方かもしれません、あの時の爆発とか色々と訊いてみたいことがありました

「ん~?なんだい、そろそろ、俺ぁ寝てぇんだがなぁ、夜更かしは肌にわりぃし」

「貴方は魔法使いか何かですか?」

「……はっ?」

…何を言ってるんだコイツ、そんな顔で見てきますね

 旅の宝石商かと思ったら、[べギラマ]を使える自称遊び人の魔法使い…本当にワケのわからない人です

「いや、だから俺ぁ単なる遊び人だと」

「ただの遊び人が[べギラマ]なんてレベルの高い呪文使える訳がありません、本当は高名な魔法使いか何かなのでしょう?」


ぽりぽり、頭を掻きながらナジミさんは「おーけー、ちょいとだけお話しますか」と私の方に近づきます


「はぁ、何から話すかねぇ…まず、言っとくが嬢ちゃん、俺ぁあの時、呪文なんざ使ってねぇ、確かに魔法の素質はあっけどよぉ、それは雀の涙程度だ、しかも昔っから修行サボってたからな、…そんな俺が真面目に修行して覚えたのが[トラマナ]っていう攻撃でもなんでもねぇ呪文だぜ」


何で[メラ]とかじゃなくて、そんな使いどころに困りそうな呪文なのかとか色々言いたいことはありますが、私は尋ねます、あの時の爆発は何なのかと?


「…嬢ちゃん、普通、人間は魔物と対峙する時どのような"戦闘方"を取る?」


質問に対して、質問で返されました…わけがわかりません

「まぁ、嫌な顔しないで答えておくれよ、こいつぁ嬢ちゃんの質問にふかーく関わる内容なんだぜ?」

「…普通に武器で"たたかう"、"呪文"で攻撃して倒すですか?」

「うん、人間が魔物に対してやることはそれだけだなぁ」

ナジミさんは目を細め、語り始めました

「人間…いや、人類が誕生して何千年とたったさぁ、対して魔物って奴ぁ人がまだ毛むくじゃらな生物だった頃よりも前から存在していた、…遅ぇんだよ」

彼は握り拳を作った左手を私の前に差し出します

「刃物でチャンバラ、呪文でドンパチ…人が魔物と戦うようになって途方も無い時間が流れた、そいつぁ歴史の教科書を見りゃあ分かるこった…にも関わらず、未だに"それ以外の抵抗手段を考えない"と来たもんだぜ……いつになりゃ人間は発展するんだい?」

ぱっ 握り拳を開くとそこには伯爵に投げたあの"玉"がありました




「"剣で切るでも、魔法使いが呪文を使うでもない"…画期的な戦闘方って奴を俺ぁ世界に広めたい、そう考えてんだよ」


「画期的な戦闘法?」

「今、この天才が持ってるこの"玉"こいつぁ、その戦闘法のさきがけになる存在さぁ」

左手で持っていた"玉"をポケットに仕舞い、話を続けます

「ウチの先祖は、代々ある"技術"を受け継がせてきてんだよ、物に"込める技術"って奴をさ」

「"込める技術"?」

「ああ、一族が代々受け継ぐ"技術"、嬢ちゃんがあの時見た爆発…ありゃあ"玉"の中に[ギラ]が"込められ"ていたのさ」

「ちょ、ちょっと、待ってください」

いきなり、技術だの、[ギラ]が"込められ"ているのだ、話に理解が追いつきません

「ああ、分からねぇ所は質問してくれていいぜ」



「…まず、その技術というのは具体的にどのようなモノですか?"込める"っていうのはどのうように?」

「嬢ちゃんは魔方陣って奴について知識はあるかい?」

伯爵の館でよく本を読んでいた、私は自分で言うのも変かもしれませんが博識な方だと思う、多少はその手の話にも教養はあるつもりです

「少しくらいでしたら…」

「なら、話は早いか…地面に魔力の篭ったルーンを書いて、効果を発動させる、もしくは書いた後で、別の誰かに文字に魔力を込めてもらう、そうすることで魔方陣って奴は使えるようになる」

ナジミさんは「"込める技術"ってのはその応用みたいなモンと考えてくれりゃあ良い、地面じゃなく、特定の物質に魔力等を込める技術さ」と言い例題を述べた

「例えば、あのカス野郎が着けていた[力の指輪][ごうけつの腕輪]あれも"込める技術"による産物さぁ、もっとも世に出回るようになってまだ
2、3年くらいかな?世間でもまだそんな噂にゃあなってねぇ品だっただろう」

この世には不思議な力の宿った装飾品がある、そんな噂はたしかにありました、ですが実物を見たのは初めてでした、ナジミさんが言うに世界でも名が知れ渡るようになるまで後30年近く掛かるとのことです

「さて、話を戻すが、俺の持っているこの"玉"こいつぁさっきも言ったが[ギラ]の呪文が"込められ"ている、俺が込めたんじゃあねぇ、俺の知り合いが込めたもので、チェーンの部分を強く引き抜いて一定時間過ぎりゃあ ボンッッ!!ってなる仕組みなのさぁ」

それで、伯爵に投げた後、爆発したと?…でもあの爆発は[ギラ]とは――

「嬢ちゃん、今『でもあの爆発は[ギラ]とは思えません』とでも考えてんだろう?たしかに[ギラ]にしちゃあ火力がデケェ、あの玉には[ギラ]とは別に"火薬"が入ってるのさ」


…? "火薬"?  聴いた事のない単語ですね


「…ああ、何か厳しい顔してんなぁ、まぁ簡単に説明しよう、この超天才の俺が独自の理論で作り上げた火炎系呪文を強化する技術だ、そう覚えておけば良い」

「はぁ…」

よく分からない私はなんとなく返事をしました

「この"玉"は…[魔法の玉]は、まだ火炎系の呪文を込めなきゃ使えねぇけど、いつかは魔力に一切頼らねぇで、…火薬の力だけであの爆発を再現できるよう研究していきたいと思ってるんだ」



そういって、遊び人のナジミは[魔法の玉]を仕舞う




「質問は終わりかい?なら俺ぁ帰ってお休みタイムだ」

「伯爵は最後[ごうけつ熊]に襲われて命を落としました、アレはどのような仕組みだったんですか?」

これが一番分からない、 あの時、伯爵の遺産の手続きの話をしようとしたり
 『この戦い、俺の勝ちだ』と始めから[ごうけつ熊]が襲うことが確定的だと言うような素振り

この人は魔物でも操れるというのでしょうか?

「そいつも"込める技術"の賜物なのさぁ」

そういうとナジミさんは左手をポケットに突っ込みます、そして…

「嬢ちゃん、香水とか化粧品には興味があるんだよなぁ」

ポケットから手を出すと、そこには紙袋がありました


私はその紙袋に見覚えがあった、縛られて茂みに転がっていた時に見た、伯爵に投げつけた紙袋です

「こいつも"火薬"に続く俺の研究の成果の一つ、俺ぁ、ある"特殊な匂いを込めた"こいつを[匂い袋]と呼ぶ事にしている」

[匂い袋]、名前からして何かの匂いがするものだとは思いますが…

「匂い…なんてしませんね」

ナジミさんが少しだけ袋を開け匂いを嗅がせてくれますが、コレが全くの無臭です

「そりゃあそうだぜ、人間の鼻じゃ分からねぇさぁ」

ラベンダーの香水とかなら分かるが、この匂いは人の鼻じゃあ嗅げねぇ匂いだと言い、詳しく説明してくれる

「俺ぁ、込める技術を有効に活用する上で魔物の生態系についても研究している身なんだよ、連中の牙や鱗に技術に活用できそうな素材もあるしよぉ」

魔物の生態系の研究…コレを聞いて当時の私は驚きました、この時代ではそんな事をする人間はいませんでしたから

「魔物をおとなしさせる、集める、そういう目的で魔物を引き寄せるモンを俺ぁ造っていた、まぁ、この天才に不可能はねぇからな、すぐに完璧な理論を立て、全ての魔物の味覚、嗅覚の共通点を利用して[まもののエサ]を造ったわけだ、その過程で出来た産物が[匂い袋]さぁ」



この人、さらっと凄い事言ってますね


「…ええっと?本当に貴方は天才なんですか?」

「あぁん?だから最初っからそう言ってるだろうが」


…ま、まぁ、それはいいとしましょう

「人間が他の生き物より優れているのは好奇心があるからだ、好奇心があるから人は研究、発見、そこからの開発、技術のさらなる発展に繋がるのさ…

 …初めて牛乳を研究した人間と同じだ、一つの食材からチーズやクリーム、バター、加工しだいで多くのモノに変換できる、ジパングの民がダイズを研究したように、…研究の過程で思わぬ産物を作り上げたり、俺ぁ人間のそういう所がとてつもなく好きなんだよ」

ふふっと嬉しそうに笑うナジミさんの顔を見て、ふっとあることに気がついた

「あの、最後に良いですか?」

「おう、ラストクエスチョンって奴だな」

「どうして、旅人のあなたがこの町の事件を調べたんですか?」

「昼間も訊いたねぇ~、単なる好奇心さぁ「本当の所は?」


「…はぁ、降参、俺の家系かその弟子かどうか知らねぇけど、そいつが文字通り、丹精"込めて"作った魂の逸品をよぉ、糞にみてぇな悪事に使われんのが気に入らなかったのさ」


やっぱり


「そうでなくても、あのカス野郎…女に対してヒデェことしやがった、俺ぁなぁ、道端に唾を吐き捨てる奴や盗みを働く奴は許したとしてもだ"女を大切にしねぇ糞以下の男"って奴が一番許せねぇのさ、指輪の件がなくても、俺がじきじきに叩きのめしただろうよ」


この人は、軽い感じで人をぶっ飛ばしたりもするし、口調も荒いし


「まぁ、そんな所だよ…他の奴にゃあ言うなよ?恥ずかしいしよぉ」


変な人だけど、いい人でしたね



「中々、熱い人なんですね

                       ナジミお姉さんは」


ぴしっ そんな音が聞こえたような気がした、見ると硬い表情でギギギと壊れた人形みたいに首をこちらに向けているナジミさんが

「…えっ?…えっ?、マジ…?なんで?」

「貴女はそんな顔もするんですね…」

カマかけで言ってみたつもりでした、そのサイズの合わないブカブカのロングコート、厚底の靴、さっきの嬉しそうな笑いが何処と無く女性のように見えたから…違ってたら冗談で済ませれば良いと、なんとなく言ってみたんですが、当たっていたようです


カラン

中身が無くなったグラスの中で氷が音を立てた

「あんたぁアレか、俺等に盗賊紛いな事をして欲しいってか?」

「盗むのは俺だ、アンタには注意を引き付けて欲しいんスよ」

「まず、何を盗むつもりか教えてくれねぇか?ブツが分からねぇ以上、俺も協力すべきか判らないんでねぇ」

「ナ、ナジミさん…」

黒い奴の隣でケーキを口に運ぼうとしていた小娘が戸惑うように黒いのを見ていた

「俺が盗みたいのは物じゃない、女だ」

わーお!!っと馬鹿にしてるのかよく分からないリアクションを返してくる黒いのに事の本末を話す事にした


 今から2ヶ月前の事、俺は元々金目のモンに目が無いケチなこそ泥だ
目当てで雑用として奴の住居に飛び込んだんだ、村を救った英雄って大義名分で
村民から色々と巻き上げ放題だったからな、それなりに羽振りも良かったのさ
 アイツは村の廃坑だった所を村民と他所から来たアイツの門弟を名乗る連中に住めるようにさせたんだ


「今から2ヶ月前…、ナジミさんと出会う1ヶ月前ですね」
「う~ん、時の流れは早いねぇ、俺ぁつい昨日の事のように思うぜ」

「話しを戻してもいいっスか?」


ごほん、とにかく俺は雑用としての仕事を1週間ばかしやってて、妙な仕事を回されるようになった
 一番奥の鋼鉄製の扉、そこに腕が僅かに入るか入らないかの隙間がついた扉だ
トレイに乗った食料を隙間から入れるだけの簡単な仕事だった
 当然、中に人がいるってことは分かるだろう?
どんな奴が入ってるのか、そんな事は気にも留めてなかった、けど、ある日…
 扉の向こう側にいた"娘"に声を掛けられた

「娘?女の子が監禁されてたんですか?」

声からしてかなり若い、いや、むしろ幼いというくらいかもしれない
 その娘と何となしに話してて、ほぼ毎日のように会話して何ていうかさ…会ってみたくなったんだ
いつも南京錠付きの鉄の扉越し、互いにどんな顔かも分からないけど、"ただ会ってみたい"
そんな風に思えてさ、もう始めみたいに金目のモンとかどうでも良くなった
 ただ会ってみたくなったんだ

「ふぅん、純愛って奴かい?」

「な、ば、そ、そいい言うわかじゃな…」

「噛んでますよ」

うぉっほん、話を戻すぞ!!
彼女が監禁されている理由は分からない、けど連中に酷い目に遭わされてるらしくて
 村の連中に話しても、誰一人として立ち上がろうとしなかった、無理も無かった
相手は"呪文が使える"それに対して此方はあまりにも非力な一般人だ
俺はたった一人で彼女を助けようとして、見事にこの様さ

「うん、ヒデェ顔だな、まるでトマトのような腫れ方だ」

「ハッキリと入ってくれるっスね」

ボコられて、アイツの住居から追い出されて、それでも諦めが付かなかった
 村人の皆は俺に何も言わなかったし言えなかった
皆だって本当は嫌なんだよアイツが我が物顔で村を歩いてんのが

「大体の理由は分かったさぁ」

「じゃ、じゃあ「一つだけ言っとくけど、俺は正義の味方じゃねぇ」

「ロハじゃあ動かねぇよ、それなりの給金がなきゃねぇ」

指で輪を作って黒い奴が言う、俺は今ほとんど無一文の状態だ払えるものなんて

「……あぁ、そういやこの街にゃあシードルが無かったなぁ」

「…?」

「俺ぁどっちかってぇとワインよりもシードルの方が好みなんだよ、林檎特有の味わいがあってさぁ、西の村なら有っかねぇ?」


「シードルを1本、これで手を貸してやるさぁ」

黒い奴が笑いながら言った、「ナジミさん、素直じゃありませんね」隣の小娘はつられて微笑した

「ア、アンタ…」

「…最初よぉ、あの牛野郎がウエイトレスの姉ちゃんに手ぇあげた時、兄ちゃんは知らん顔してたなぁ、俺ぁ女を大切にしない糞以下の男が大っ嫌いでさぁ、当然、兄ちゃんの話しも訊くだけ聴いて、「ハイ、さよなら」ってするつもりだったんだぜ、…けどよぉ聴いてみるとどうだい?ヘタレじゃああるが、一人の女の為に戦う漢じゃあねぇか?」

黒い奴は中身の無くなったグラスの氷を口に入れ、ガリガリと砕く

「大の男が土下座までしてよぉ、女の為に悩んでんだぜ、こんな良い男を放っておくわけにゃあいかねぇよ」

「ふふ、ナジミさんらしいですね」

「さて、坊主頭の兄ちゃんや、自己紹介が遅くなっちまったなぁ、そこの嬢ちゃんが何度も俺の名前を言ってるだろうから分かると思うが俺ぁ旅の遊び人、ナジミってモンだ」

「私は、ジョセフィーヌ・イーオーです」

隣に座っていた小娘も自分の名前を言ってくれた、俺も名乗らねば!!

「バコタ、俺は盗賊のバコタって言うんだ」

「バコタか、そいじゃあバコタ君や、君に幾つか言っとく事と訊きたいことがあるんだがよぉ」

「…何っスか?」

「まず、凄腕の魔法使いとやらに俺が対抗できると踏んで俺に声をかけた…つまり俺が魔法使いか何かだと思ってるだろう?それは勘違いだぜ、俺ぁ魔法使いでも何でもない」

俺は口を開いた、何を言ってるんだこの黒コート、あれはどう見たって呪文か何かを使ったんじゃないのか?

「大体、その顔で何を言いてぇのか判るさぁ、…仮に呪文を使ったとして何の呪文を使ったんだ?」

ナイフの方が避けたような…[ピオラ]は違うだろうし、狙いを外させる呪文?

「[マヌーサ]…とか?」

「ふむ、まぁ今、俺が持ってる"技術"の中にもソレと同じモンはあるが違うねぇ、俺が使ったのは別モンだ」

「……?、"技術"?」

「そこは村へ行く道中で説明してやるさ、俺からの質問タイムだ、その魔法使いってのはどんな奴だい?」

「…一言で言えばデブ、美食家気取りで村中の食料を集めてる、そういう奴」

「ふぅん、美食家気取りねぇ、名前とかソイツの使う呪文は?」

「アイツは[バギマ]を使って村を襲う魔物の群れを蹴散らしてた、逆にそれ以外の呪文は見てない…それでアイツの名前なんだけど、アイツは自分の事を"メディルの使い"って名乗ってる」



ぴくっ、 俺は気付かなかったがジョセフィーヌは気付いたらしい、ナジミが何かに反応したのを


「ふざけた、名前だねぇ、本名じゃねぇんだろソイツ」

「ああ」

「おい、嬢ちゃん、ケーキを食い終わったら早速、西の村に行ってみようぜ、…ちょいと興味が湧いたわ」

「…ええ」

ジョセフィーヌはナジミの顔を見て頷いた
俺はこの二人と会ってまだ日も浅かった、だから"頷いた理由"が判らなかったし
 この時のナジミが真剣な顔をしていたのも判らなかった

俺が事の理由を知ることになるのは三日後の事だった

乙!!
壁に消え去り草とはえげつねぇこと考えるなww


「さぁて、次の地点に行きますかねぇ」

ナジミがある程度、アジト内に火を放ち奥のフロアへと向かう
そして、[消え去り草]の効果が切れかけた場合
 すぐさま人通りの少なそうな区画、見通しの良い通路へ行ってストックの粉を使用
大体の流れはこんな感じだが、ここまで来るのに大分[消え去り草]を使用したッス
 壁の設置やら放火やらで縦横無尽に動き回るモンだから身体から粉がすぐに落ちる
…帰りの分が残ってるか怪しくなってきたし、本当に一分一秒も無駄にできない

「んん?」

そんな事を考えながら奥へと続く通路に足を踏み入れた時だった




「どうなっておる!!」

「メディルの旦那!!ご無事で」

「おい、説明しろ、一体何が起こっておるのじゃ!?」

「そ、それが俺達にもサッパリなんです、突然アジトのあちこちから火の手が…」

「ええい、使えん奴等じゃ」

「す、すんません」




糞ったれのデブの声が聞こえてきやがった…ッ!!

「…ちぃ、俺の予想よりも早ぇじゃあねぇかよオイ」

互いに[消え去り草]を被っている為、表情こそは判らないがナジミが明らかに
不満気な声をあげた
 当然だが俺はコイツじゃない、ナジミの脳内にどんなプランがあったのかは不明だ
ただ、悪態をつくところを見るにコイツにとって望ましい展開じゃないんだろうな

「あぁ、嬢ちゃんや、本当にちょびっとで構わねぇから
 連中の注意を惹きつけといてくれねぇかい?」

「注意をですか?」

通路に入りすぐの地点、置き場の無い荷物を詰めた木箱が山積みになった所に俺等はいる
[消え去り草]の再使用も然ることながら、互いに姿が見えないのだ
先述で述べた区画や通路の目印となる場所での点呼確認ができるようにと
突入前に事前に打ち合わせをしておいたからだ

「プラン変更さぁ奥の部屋で連中をぶちのめす、その準備は1分も掛かりゃあしねぇよ」

「お、おい、ちょっと待てよ」

奥の部屋って、捕まってるあの娘がいる部屋じゃないッスか!!

「安心しろよ、姫ちゃんの安全は絶対だからよぉ」

「…言うからには根拠があるんスよね?」

「あるとも」

何も無い空間から突然筒状の物体が現れた、そして"筒"はそのまま宙に浮いている
 言わずとも分かるだろうがナジミが袋から取り出し掌の上にでも乗せているのだろう

「それは入り口で私たちに見せたモノですよね?」

葉巻サイズのソレは見事な黄金で出来ていて真ん中には綺麗な石がはめ込まれていた

「これは[おおきなふくろ]の…まぁプロトタイプ的な代物だ
 俺がガキだった頃、俺のセンコーが"込める"を追究して改良してたモンさ」

今となっちゃ破損やら、経年劣化でコイツ自体が
歴史から消え去るのも時間の問題だがなぁとどこか悲しそうに語る

「…さてと、やる事の簡単な手順を説明するぜ」


―――
――

「な、なんじゃこれは!?」

デブが4人の取巻き共と室内に入ろうとしたのだろう
糞忌々しい声が聞こえてくるッス

「へ、部屋がレンガで埋め尽くされてやがる!?」

入り口から今しがたナジミが走っていった通路までの道を残りの壁と柱で塞いだ
これに至っては[消え去り草]を使用していない
 理由は単純に帰りの分がヤバイし、これは単なる足止め…そして

「…貴様等、どいておれ」

壁越しで此方からは一向に様子を窺うことはできないが声の内容から
デブが4人の取巻き共を押し退けて前に出たのだろう

「ぬぅ…ッ!!」

奴が低い声で呻り声を上げる、すると"室内の大気が変わった"
ゴツゴツとした石造りの室内、地層を削って出来ただけの空間に"風が生まれたのだ"


「[バギマ]ッッ!!」


ゴガガガガガガガガアアアァァァァーーーー――ーッッ

刹那、奴に集まった風が真空の刃と化し、目の前のレンガを粉々に粉砕していくッ
壁は2秒と掛からず原型を留めぬ形となり、配備したレンガの柱も捻り雑巾のように
削り取られていく、後に残ったのはレンガが削れて出来た大量の削り粉が舞う


「ぶへ、ぶへ、口の中に砂埃が…」

「さ、流石メディルの旦那
 あれだけあった壁を壊すのに5分も掛かりませんでしたぜ」

「ふん、ワシの魔力をもってすれば当然の事じゃ」

ドヤ顔で取巻きを引き連れ通路の奥へと進んでいく連中を眼で追っていく
その際、よく飛び出して奴の顔面に一発食らわせなかったりしなかったなと
褒めて欲しいもんッスよ

「…行ったようですね」

「…みたいッスね」

俺とジョセフィーヌは通路の少し先でずっと見ていた
少し大きめの木箱を被り、隙間からその様子を見ていた
(ちなみ、箱の中身は邪魔だったから袋に収納済みである)

「あとはナジミさんに言われた通り少ししてから筒を回収に行けば良いんでしたよね」

「ああ、けど、一人で大丈夫ッスか?」

さっきの[バギマ]の威力は相当なモノだ[消え去り草]を使おうが使うまいが
レンガのバリケードが短時間で突破されるのは判っていた、けどここまで高威力とは

「…それは、私にも判りません、ですが今はただ信じるしかないでしょう?」

俺がジョセフィーヌにそう言われていたころ、ナジミはというと…












「…なんじゃ、貴様は?」

「いや、何、大したモンじゃあありません、単なる遊び人でさぁ」ニタァ


「遊び人じゃと?貴様は先日の商人ではな…いや、そんなことはどうでもよい
 ここで何をしている?この騒動は貴様が起こしたのかえ?」

「んっんー、質問は一度に一つにしちゃあもらえませんかねぇ?」

「ふむ、では一つだけ質問してやろう、"此処にいた奴はどうした"?」

「あぁ、彼女でしたら此処とは別の場所に居ますねぇ~」

「答えになっておらんぞ!それに"彼女"じゃと?アレを"彼女"というのか」

「性別上は"彼女"であってんだろうがボケナス」

「…まぁ、よかろう、アレは代わりを見つければ良い
 まずは貴様をどうにかせねばならんな」


「…わーお、4対1ですか、そうですか」

「悪いな兄ちゃん」
「俺等もお仕事なんでね」
「殴らせてもらおうか」

「やーれやれ、……殴れんならやってみろよ、"殴れるなら"よぉ」

 タッ   タタタタッ  タッタッ タッ

「あ、あ?なんだコイツ」
「まるで踊ってるみてぇな足さばきを始めた?」
「なんだか分かんねぇが、食らえやッ」ブン


       スカッ


「!?避けられ「オラァ!」ぐげぇ!?」


「…おいおい、腹パン一発だぜ、もうノックアウトかよ」


「ッんの野郎」ブン   スカッ  ゴッ 「げがッ!?」

「本気で俺をヤりてぇならよぉ、全員同時に掛かって来いや」


「「「うおおおおおぉぉ」」」


スカッ  スカッ   ブン「へぶ!?」 スカ  スカ ゴス「おごぁッ」




「ぐ、よ、4人を同時に相手取って一発も貰っていないじゃと!!」


「ぐぶっ――ッつぁらあァァ!!」ブン  

  スカッ

(いや、違う、"当たっている"!?当たっているが攻撃が"逸れる"だと!?
 まるでボールの上に垂らした水のように拳が奴の身体から逸れるッ!!

                              …ならば)

「ぜぇぜぇ、畜生がぁ、どうなってやがんだッ」
「メディルの旦那、一体どうすりゃ――っな!?」



    「[バギマ]」


「だっ旦那!!まだ俺達がァ」

ゴガガガガガガガガアアアァァァァーーーー――ーッッ




ゴガガガガガガガガアアアァァァァーーーー――ーッッ


「な、なんだ」

この音は…あのデブがまた[バギマ]を使ったのか

「バコタさん!少し急ぎますよ」

「お、おう」

残り僅かな[消え去り草]を身体に被り、俺はジョセフィーヌと長い通路を進んだ
あの娘が閉じ込められていた部屋まであと少しだ





「ッ~やってくれんじゃねぇかよ」

「ほう、生きとったか」

「子分共を巻き添えにするたぁ下衆いねぇ、ったくコートが少し切れちまったぜ」

「…咄嗟にそやつ等を盾にした奴には言われとおう無いわ」



「ナジミさん!!」


「!?なんじゃ、まだ仲間がおったんかい?」

俺たちが部屋へたどり着いた時、立っていたのは杖を構えナジミに対峙するデブ
そして全身に切り傷があり、地面に突っ伏しているが
辛うじて生きているのが確認できる4人の取巻きだ

「ええい、何処じゃ!!何処におる!!」

ジョセフィーヌの声は聞き取れるが[消え去り草]の効力で俺達の姿は奴の視界に
入りはしない、奴はナジミへの警戒をしつつも辺りを見渡す

「嬢ちゃん!!さっき説明した通りにやりなァ!!」

少し前にされた簡単な説明はこうだった
俺達が壁で連中の足止めをする間にナジミが監禁された娘の部屋へ突入
その後、ある方法で(俺等には言わなかったが)娘をこの部屋から出す
後は、間を置いてから[消え去り草]で姿を消した俺達が筒の回収をして
アジトから逃げ出せとの事だったッス

見取り図を広げ、入り口から遠くない位置に隠すように置いておくから
手にしたら、自分を置いて逃げろとだけ言っていた
 ただジョセフィーヌにだけ小声で何か付け足していたが、それは判らなかった

「な、なにかよくわからんが[バギ「ふんッ」

デブが此方に杖を向けて振りかざそうとした時だった
壁や柱の一部だったのかナジミはレンガを取り出しソレを奴目掛けて
ブン投げたッ!!

「うぉ!?」

惜しいッ、奴は体を大きく仰け反らせて避けやがった!!
ったく、あの体型でよく避けたッスね


「バコタさん!回収が終わりました」

「おう」

俺とジョセフィーヌは来た道を全力で走り去る
去り際にデブを見やるが奴は俺達には目もくれず
ナジミが続けざまに投げるレンガを避けていた
最も姿が見えなければ、俺たちの作戦内容も知らないアイツは俺達が逃げた事も
判らないだろうけど


部屋から遠ざかり5分経つか経たないかの地点
長い通路を抜けて、[バギマ]でズタズタになった部屋を通り抜け
火の手がそこらじゅうに回ったエリアまで戻って来た
アジトのあちらこちらから聞こえてきた悲鳴は今、聞こえず
また、火達磨になっていた連中はいない
 壁や柱は[消え去り草]の効力が消え、俺たちの肉眼でも認識できるように
なっていたことから恐らく他の奴等は外へ脱出したのかもしれない…

一見、ただ迷路のように配備されただけの壁達が防火壁としての役目も果たしたため
火の手が回ったとはいえ、脱出不可能なモノではない
 ただ、後に残してきたナジミが問題だ

「くそッ、これじゃナジミが出れないんじゃないか!」

「いえ、その心配はいりませんよ」

平然とした顔で言ってのける隣の小娘を見てあることに気付いた
今、ジョセフィーヌが持っているモノは……


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====
===
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「わーお、肥満体型にしちゃあ、よく避けるじゃあねぇか」

「ぜぇぜぇ、貴様ぁ」

「ま、息切れも激しいみてぇだがよぉ」


「貴様、さっきから"この杖"を狙っているなッ!」


「あぁ、狙ってるさぁ、狙っちゃマズイってのかい?


                 その[てんばつの杖]を狙っちゃあさぁ」


[てんばつの杖] 彼女がメディルの持つ杖の名称を言い当てた時
 彼の顔から色が消え失せた、その様をみたナジミはさらに追い討ちをかける様に

「生憎だがよぉ、知ってんだぜソレの事
 てめぇが何処でソレを手に入れたかぁ知らねぇよ
 分かってんのはてめぇが[メラ]も使えねぇエセ魔法使いのペテン野郎だって事だ」

と、吐き捨てたのだ
彼女は離れた位置からレンガを投げつけて杖をへし折る事を優先としている
最も本体に投げつけて再起不能にしても構わんのだが

「ぐっ、このッ」

ゴガガガガガガガガアアアァァァァーーーー――ーッッ

「ったく面倒くせぇ」ッチ

見た目に反した敏捷性でソレをかわし、反撃の[てんばつの杖]を使用する
この杖はただ対象物に対して振りかざすだけで[バギマ]の効果を発揮させる
今まで彼は自分を"高名な魔法使いである"と思わせるために杖をかざす度に
使えもしない呪文の名を口に出していた、しかし

「そらそらそらァ!!」

ゴガガガガガガガガアアアァァァァーーーー――ーッッ

相手も事情通であるならば話は別だ
そして先程の戦いを見る事でメディルはある事に感づいた

(こやつ、どういう理屈かは知らんが)

ゴガガガガガガガガアアアァァァァーーーー――ーッッ

("物理的な攻撃を逸らす事ができる"
 だが、しかし、呪文による攻撃は逸らす事ができんとみたわいッッ!!)

 メディルの考察は的を得ていた
何故、彼女に物理的な攻撃が通じないかは後々語ることになるが
此処はナジミの心情について語ろう
 ただでさえ、狭い空間での戦闘、それも相手が使っているモノが"技術"という状況が
彼女を追い詰めていた

さて、此処で勘違いしないでいただきたい事は、追い詰めるというのが先人達の技術を
使われているといった感じの心理的な追い詰めるではないということだ
 基本、通常の魔法使い、僧侶等と対峙した時に注意すべきは呪文による攻撃だ
しかし、人は魔物と違い魔力にも限度というものがある
早い話が"弾切れ"というヤツだ、しかし…

「くそったれ、これじゃあ埒が明かきゃしない」

"込める技術"によって作られた武器は一部例外を除き
永久的に呪文が使用可能なのだ、従って一切"弾切れ"はなく
かといって、この状態をいつまでも続けていても何か進展があるわけでもない
展開が変わるならばソレは彼女が真空の刃に裂かれるか、メディルがレンガによって
杖か骨体を粉砕された時であった

一向に終わる気配が見えない戦い、終わりの無いのが終わり
そう、この状態はまさしくイタチごっごッ!!

相手の手の甲に自分の手を乗せ、その上に相手が乗せる、延々とそれを繰りかえす様に
この戦いも延々と続くかに思えた



しかし、ここで展開は動き出したッッ!!



「そこじゃああぁぁぁァァ!!」

ゴガガガガガガガガアアアァァァァーーーー――ーッッ

「!?ッぐ、ぐああぁぁぁッ」

メディルは見た
レンガを投げてすぐ、その場を移動しつつ次の攻撃に移る為に右手でレンガを
取り出したナジミが身体のバランスを崩す瞬間を
コレを逃せば、再びイタチごっこへと逆戻りになると
考えるより先に彼は杖を振りかざした、自分から富と地位を取り上げんとする者へ
天罰を下す為に

結果は上記に書き込んだ通り

ナジミは…杖の魔力が作り出した大気の渦中へと飲み込まれたのだッ

その様子を見てメディルは勝利の予感に口角が上がらせた
 もしも、この場に逃げ出したジョセフィーヌお嬢、盗賊のバコタがいたならば
[てんばつの杖]の巻き添えを受けた取巻き達が意識を取り戻していたならば
三者三様の反応を示したことだろう

取巻き達が意識を取り戻していたならば、メディルに対しての怒り
そして自分達の今後の生活を脅かす存在が排除された事への安心感を覚えただろう

バコタがいたならば、最後の望みが絶たれたという絶望感、そしてナジミを屠った
人為的自然現象が自分に牙を向くという恐怖に顔を引き攣らせることだろう

そしてジョセフィーヌがこの光景を見ていたならばッ
……クスリと笑みを浮かべた事だろう


「食らいやがれえぇぇぇぇ!!」


ナジミをよく見ていた彼女は知っている、いつも彼女が何かを取り出す時は
決まって左手であるということを…

敢えて右手から取り出し、バランスを"崩したかの様に"見せた彼女は渦中の中で
ダメージを最大限に抑える体勢を取りつつ"左手"でレンガを持ち狙いを定めた
結果、見事にメディルにそれは直撃する事になるのだが

「!!…な、お、お、"おなご"じゃとおおおぉぉぉぉぉ!?!?!?」

最後の叫びだった、飛び出したナジミ…体格に合わない、あのブカブカコートが破け
今まで分からなかったモノがハッキリと見える姿ッッ!!!!

一瞬ッッ!この一瞬が避けられた筈だったレンガで頭部を打ちのめされた瞬間だったッ

豚 「こ、これも計算の内か?」
ナジミ「当たり前だぜ、このナジミ、何から何まで計算づくだぜ!!」


っと、悪ノリはこの位にして、西の村編も終わりそうです
遅篳で申し訳ありません

>>121
いやいや、まだマシな考えですよ(多分

乙!!やっとスッキリしたぞい♪





ところでナジミさん僕も踏んづけてぐださい

まだかな(´・ω・`)


 先程ナジミは横たわる取巻き達の傍らで何かをしていたが
それは[消え去り草]でいまだ視えなかった太いワイヤロープを
彼等の体に巻きつけていたのだ

「オ…オサラバって」

その後の言葉がメディルは出せなかった
ロープで体を縛られた取巻き達、そして穴の開いたコートに通したナジミ等の体が
宙に浮き上がったのだ



あの時、姿を消していたジョセフィーヌ嬢達が部屋の入り口へたどり着いた時だ…
筒を回収させると同時に彼女には筒に巻きつけたワイヤーロープのもう一方の先端を
持って行かせた、今頃、外に脱出している頃だろう

ここで唐突だが昨日の出来事を思い出してみよう
ジョセフィーヌは宿で自分の[おおきなふくろ]から間違って出した本達をバコタと
片付けた…その時の様子をバコタこう語っていた

 "まるで1本のスパゲッティがしゅるしゅると口の中に吸い込まれるようにだ"と


どれ程の大きさ、長さであれ、いかなる重さであっても[おおきなふくろ]はソレを収納
することができて、しかも、本棚に納めた本や箱に入れた本を一冊も落とさず、また
収納の最中に対象物を傷つける事も決して無いのだッッ!!


ナジミがバコタには言わず、ジョセフィーヌにだけ耳元で指示した内容は簡単だ
『爆発音を合図に筒に巻きつけているものを[おおきなふくろ]で収納しろ』
大雑把に言えばこんな所である

そして今…

「あばよ糞野郎」

「ま、待て、ワシを置いてかないでくれええぇぇぇ!!」

メディルは叫んだ、二本の足で走る事のできない彼では当然だが全壊するアジトから
逃げ出すなど到底無理だ、脱出不可能よ

仮に両足が健在だったとして、ながーい通路を抜けれるか?
完璧に崩れるまではどう見積もっても3分あるかどうかである

目尻に涙を浮かべ懇願する彼を見る事も無くナジミ等は見えない何かに引かれるように
外へとスッ飛んでいく……




         その速さ、数値にして"時速120キロ"ッッ!!



アジトの外まで逃げ切ったジョセフィーヌの[おおきなふくろ]を目指すロープは
"必ず収納中、傷つく事も中に入っている、又は付いている備品を落とす事なく"袋へ
込められるというルールに従うよう落盤、壁、燃えさかる火炎を巧みに避けて進み
その上、アジトの全壊が本格的になってくると更に加速していき…





    シュンッッ!! シュタッ

「おわ!?」
「わっ!?」

「…ふぅ、ただいま嬢ちゃん」

ジョセフィーヌの袋に収納される寸での所でコートを完全に脱ぎ捨てたナジミ

こうしてナジミ、ジョセフィーヌ等、袋にスポンッっと収納された取巻き達は生きて
日の光を浴びることができたというわけだ


   ・・・ただしメディルは除く

―――
――



「おかえりなさいナジミさん」

「おう、嬢ちゃんや筒は持ってるかい」

「はい、こちらに」


「」


「よぉし…これで囚われのお姫様も助け出したな」

「あのぉ、その筒ってどういうモノなんですか?」

「ああ…こいつかい」


「」


「これは簡単に言うと"生き物を一つだけ込める"ことができる代物でな袋と違う点は
 込める時と出す時にちょっとした合言葉がいるのさ」

「合言葉ですか?」

「ああ」


「」


「…なぁ嬢ちゃん、さっきからバコタ兄ちゃんはどうしたんだい?
 なんか口をあんぐり開けて固まってんだが」ヒソヒソ

「……まぁ、最初は誰だって驚くんじゃないですか?」ヒソヒソ



「……………エエット、アナタ、ドチラサマ、デスカ?」


ウン、オチツコウ、おちつこう、アレだ、まず状況の整理だ
ジョセフィーヌが筒と一緒に持っていたワイヤーを収納すればナジミは帰ってくるって
話だったから収納した

ナジミが戻ったと思ったら顔がナジミでボロボロのコートを着用のおねいさんが現れた
何を言っているのか分からないだろうけど、俺もすごく分からない
えっ?えっ?えっ?

「おう、兄ちゃんや、あんたぁアレか?脱出の時に落盤か何か脳天に食らったか」

「ナジミさん、格好、格好」

「ん?…ああ、そういうことかい」

「えっ?はっ?お、おんなああぁぁぁ!?!?!?」


「ああ、俺ぁ見たとおり女でさぁ」

「」

驚いた、白シャツの上にある男にはまずありえない胸の丸み…はははアレだろ詰め物だ
そうだろ……何のために?
いやいや、サプライズだろ、きっと俺を驚かせるためにジョセフィーヌとグルなんだろ
そうと分かれば話は早い、さぁドッキリ大成功って看板を出せよオオオオォォォォ!!



「おーい」ブンブン

「バコタさん、頭から白い煙出てますね、まぁ情報の処理が追いつかないんでしょうね」


二人曰く、俺がまともに会話ができるようになるまでに10分程費やしたらしい

―――
――

「落ち着いたか?」

「ああ、はい、そッスね」

落ち着いた俺はナジミに向き返った、ちなみ、彼女は[おおきなふくろ]から
新しいコートを取り出し、羽織っている、相変わらず真っ黒で体格が分からなくなる位
ダボダボでブカブカな黒コートだ

「…それで、その、あの娘は」

「ああ"此処に"いるよ」

そう言ってナジミは筒を前に差し出し…

「ただし、覚悟しろよ…」

「は?」

覚悟?一体何に覚悟するっていうんだよ

「兄ちゃんや、これからあんたをお姫さんと会わせてやるさぁ
 ただし、これだけは約束できるか?」

「…なんだよ、変にもったいぶって」

「兄ちゃんに会わせてやる前に兄ちゃんに訊かなくちゃ
 いけねぇことがあんだよ」

どこか歯切れの悪そうなナジミに少し苛立ちを覚える、このやろ…じゃなかった
このアマ一体何が言いたいんだ?

「…はぁ、単刀直入に言うぜ、まず姫ちゃんは"人間"じゃねぇ」

「なんだよ、そんなことかよ…ってえ?」

「ナジミさん、それってどういうことですか?」

「バコタ、あんたぁ姫ちゃんについて何処まで知ってんだ?」

「何処まで知ってて「彼女の名前は?出身は?家族は?何をもって彼女を理解している
 って言えんだい?ん?」

俺の言葉を遮ってナジミが言葉を飛ばす、ここまで聴いて思った、確かに俺はあの娘を
何一つ理解なんかしていなかった
あんだけ、一緒にいて、会話をして笑って、それで相手の名前すら知らなかった…

「ま、姫さんが話したくねぇってのが大きかっただろうさぁ、言っちまえばよぉ
 あんたぁ姫さんを拒絶しちまうかもしれねぇ、きっと姫さんはそう思った
 それを恐れて自分の事を一切語らなかった…じゃあねーのか?
 俺の勝手な推論に過ぎねぇがな」

「…ッお、俺は」

「さて、そこで俺からのお約束だぜ」

人差し指を立てて、ナジミは口を開く

「ここで誓いな…例え、彼女が人間とは違う種族の生き物でも、どんな容姿をしてたと
 してもだ、お前は逃げたりせず正面から彼女と向き合う会話をするってよぉ」

「…」

目を閉じて、深く深呼吸をする、俺は彼女をただ助けたい一心だった、今更…
迷ったりなんかしないッス

「誓うよ」

「おーけぃ」

ナジミは例の"筒"を天高く投げた、名前も知らないソレを投げ合言葉を発したのだ






               「  [デルパ]  」          


今回はここまでです、例の"筒"は分かる人は分かると思う

>>139 ナジミ「シードル奢るなら検討はしてやらんでもない」

>>140 遅筆で申し訳ありません…

乙!!

藤原啓治→水樹奈々
誤爆じゃないよ


 ナジミの発声に反応でもしたのか"筒"に埋め込まれた宝石が輝いたようにも見えた
するとどうだろう、そこから一筋の光が飛び出してきたんだ

「…な!?」

光の筋が地面に降り立ち土煙を上げたッス
俺の左後ろにいたジョセフィーヌは…顔は見てないけど
声からしてきっと驚いてるんだろうなって思う、俺だって驚いてるんスから


土煙が晴れて目の前に現れた彼女の姿に…


ずっと一目で良いから見てみたい、顔を合わせて話してみたいとも考えたことがあった
その彼女の素顔を初めて見たんだ

「…さっきも言ったがよぉ、姫ちゃんがどんなナリをしてようが逃げんなよ」

それは分かってるさ…けど、こう、なんだ
俺の予測を斜め45度逸れてたっつーかな
俺と会話ができてたしさ、うん

人語が話せんだから種族が違うとか人間じゃないとか言ってもエルフとかホビットとか
まぁ、そう思うじゃん…









誰が予測できんだよ…俺が人間の女の子だと思ってた娘が[ホイミスライム]だなんて








「…え、ええっとナジミさん、これは?」

「見ての通りでさぁ、こちらの"お嬢さん"が兄ちゃんの恋焦がれた姫ちゃんだ」


『…ごめんね、君を騙すつもりはなかったの』

「!?」

この声……、俺の耳に飛び込んでくるこの声は紛れもなくあの娘のモノだった
周りを見渡しても今、この場にいるのは三人と一匹、そして声の発生源は…

どう考えても目の前にいる[ホイミスライム]だった

「アジト突入の前に人質を助ける際、私達に待機を命じたのは
 こういう理由だったからですか?」

「まぁ、そういうこった」

後ろで二人のやり取りが耳に入ってきて新たな疑問が浮かび上がった、それは…

「どうして人質が[ホイミスライム]だと気付かれたのでしょうか?」

俺が口に出すよりも早くジョセフィーヌが尋ねた

「ん?そりゃあアレだ、バコタが初めて会った時に言ったじゃあねぇか
 西の村が魔物の大群に襲われているってくだりをよぉ…その辺りでピンときたぜ」





……は?


いやいや、訳わかんねぇッスよ
その話しの何処に人質は[ホイミスライム]ですって要素があんだよ!?

俺に限らず、この意味不明な返答にはジョセフィーヌも頭に疑問符を浮かべる
そんな俺等を見てか、ナジミは解説を始めた

「嬢ちゃんや、これ何だか分かるかい?」

ナジミが取り出したのは一つの紙袋だった、ソレを見てジョセフィーヌは言った

「それって[匂い袋]ですよね?」

「前にも言ったがなぁ、"込める技術"を研究する為に
 この天才が魔物を集める研究をしたって言っただろう?だから、ある程度
 俺ぁ魔物の習性なんかも熟知してんのさぁ」

ジョセフィーヌは何かを考え込むような仕草をして黙り込み、考えが纏まったのか
意見を述べたッス

「…確か村を襲撃したのは[さまようよろい][ホイミスライム]
 そして[スライムつむり]でしたよね?
群れの中に[ホイミスライム]がいるのは分かります
 ですがソレと人質の正体の関連性がいまひとつ見えてこないのですが?」

「そ、そうッスよ何で人質の女の子イコール[ホイミスライム]の方式になるんスか?」

『あの人達が皆を呼びたかったからなの…』

「!?」

振り返れば[ホイミスライム]…いや、あの娘がこちらをじっと見据えて語りかけていた

「…?、どうしたんですかバコタさん」

「え、あ、いや、今、この娘が『皆を呼びたかったから』って…」

ジョセフィーヌは怪訝そうな顔で言葉を返してきた

「何を言っているんですか?、そこの[ホイミスライム]は"何も喋っていいません"よ」


「へ?」


い、いや、今、確かにこの娘が喋って…

「鳴き声でしたらあげていましたが、何をどう聴いても人語には聴こえませんよ」

「ど、どういう事ッスか?」


「多分、そいつぁ兄ちゃんにしか聴こえてねぇんじゃあないか?」


ナジミがそんな事を言って「まぁ、それも含めて俺が解説してやるさぁ」と
肩をすくめながら言葉を続ける

「俺がまず思ったところっつーのは"動機"だぜ」

「動機?」

「この村が魔物の群れに襲われています…、うん、そいつぁ分かった
 けどよ、どんな"理由"があって魔物の群れが村を襲うのかが解らねぇんだよ」

俺は頭の良い方じゃないからイマイチ何を言いたいのかが理解できなかった

「…もし、もしだぞ、獰猛な野獣の巣、例えば人食い狼がわんさか居るような穴倉に
 自分から飛び込むような真似をする人間がいるかい?」

いや、いないな、そんな人間いたら自殺願望者か何かだ

「[スライム]やら[いっかくうさぎ]とか動物に近い魔物でも多少の知性ってモンは
 持ち合わせてるし、それに加え人間以上に"生物としての本能"ってやつが強い
  だから、村だの集落だの危険な敵対生物がいる所には余程の事がなきゃ
 普通は近寄らない、特にそれなりに知性を持つ[ホイミスライム]なら尚更だぜ」

…要するに人間が沢山いるような環境に魔物は入って来ないってことか?

「仮に大勢の群れで攻め込むとする、人間だって馬鹿じゃねぇさ、曲りなりでも生物だ
 当然、死にたくないって抵抗するし、そうなれば双方に多くの死者が出る
 上級の魔族とかが大群率いて人間の城攻めっつーならまだ理解できるが…
 そこらのちっぽけな魔物達がそんなリスクを犯してまで
 わざわざ大群で小さな村を襲う"動機"ってのはよぉ、一体なんなんだい?」

言われて見れば奇妙な事件だ…
俺や村民達は攻め込んでくる魔物達にいっぱいいっぱいでそこまで考えた事無かった

「あの詐欺師共は[てんばつの杖]で高名な魔法使いを騙って魔物を蹴散らしていた
 それで恩着せがましく村に滞在し、村民から金品やら何やらを徴収していた
 …こいつぁ"村が魔物の群れに襲われている"ってーのが
 前提じゃなけりゃあ成り立たねぇんだよ、その辺の三流小説じゃぁあるまい
 こんな都合良く条件揃ってる村がある方が驚きだね」

ポンと黒コートのポケットからミネラルウォーターと専用グラスを取り出しながら言う

「つまり、メディル達が何らかの方法で村を魔物に襲わせ、そこを自分が救う
 所謂、自作自演というモノをやったと言いたいのですか」

「ん~、良いねぇ嬢ちゃん、頭が柔軟な子は将来、馬鹿な男共を尻に敷けるさぁ」

満面の笑みで喉の渇きを潤しながら冗談をほのめかす…アレ?冗談なんスよね?

「それで、どうやって彼等は村に魔物を攻め込ませたんですか?」

「…兄ちゃんや、今さっき、俺等にゃあ聴こえんが姫ちゃんは
 『皆を呼びたかったから』、そう言ったんだよな?」

「あ、ああ、確かにそう言ったッスよ」

「ならこれで、推論は確信に変わったな…連中も単なる馬鹿じゃあ無かったみたいだ」

喉を潤したナジミが再びグラスと水のボトルをポケットに仕舞い"込む"そして言う






          「[仲間を呼ぶ]」






「へ?」

「大事な事なのでもう一度言うぜ、俺は魔物の習性を研究したり、魔物を惹きつける
 研究もそれなりにしている、今回の事件で挙がった魔物には共通の点があんのさ」

「…"全員、[ホイミスライム]を呼び出せる"?」

ジョセフィーヌが口を開いた

「正確には[さまようよろい][スライムつむり]だな、こいつ等は人間との交戦中に
 [ホイミスライム]を呼び寄せる習性がある、生物学的な関連性は未だ不明さぁ
 でも、ジンベエザメにくっ付いて食べ残しを貰うコパンザメみてぇに
 何らかの友好関係があって呼び出せるとも言われている、[ホイミスライム]は…
 まぁ、単純に同族どうしだから呼び声に反応できるかもしれないな
 戦闘中に同族を呼び出す所は見たことねぇけど…」

「[ホイミスライム]…[仲間を呼ぶ]」チラ

俺は助けた彼女の方を見た、良く見れば所々、身体に傷跡があった

「蝙蝠とかイルカだの動物図鑑を見るのが好きな奴なら小耳に挟んだことはあるかもな
 これらの生物は人間には認識できない、"音"で物体、または生き物の位置を知る
 さっき挙げた2種類の魔物が[ホイミスライム]を呼び出せるのも似たようなモンだと
 考えられる、山岳地帯だろうが鬱蒼とした森ん中でも、暗い洞窟でも
 かなりの広範囲に渡って音を飛ばせる、だから来るんだろうよ」

どういう理屈で"音"を出しているのかってのは、この天才が解析中だがなっと付け加え

「詐欺師のデブ共はどういう経緯か知らんが、"音"で魔物が集まるという習性に気付く
 そこから先は簡単、適当に[ホイミスライム]拉致する…運悪くデブに捕まった彼女が
 汗臭い豚共に集団で暴行を受け、悲鳴をあげ、ソレを同族の悲鳴を聞きつけたモンが
 盟友の[スライムつむり][さまようよろい]等と手を取り合い
 共に[ロリミスライムちゃん(推定7歳)]救出作戦を開始…

 こうして、メディルが魔物の襲撃から村民を守る偉大な魔術師に見える舞台を作った

 …実際は囚われた幼女を救う為に悪の巣くう村に聖戦を挑む魔物VS幼女を人質に
 助けに来た軍を無慈悲に蹴散らす巨悪の人間っつー色々ヒデェ構図だがなぁ」
   

ツッコミ所しかないような喩えを出した後でナジミは手を叩き
「さて、襲撃事件の真相は大体、こんなモンでさぁ、次は兄ちゃんがどうして
 魔物の声が理解できるか話すかねぇ」と俺の話題に切り替えた

「…なんで俺はこの娘の声が理解できるんスか?」

「簡単に、一言で片付けちまうなら"才能"でさぁ」

「才能ですか?」

「ああ、嬢ちゃん達…[ダーマ神殿]って聴いたことあるかい?」

…?、いや聴いた事ないな、ジョセフィーヌを見ると多少、小耳に挟んだことはあると
返答が帰ってきた

「戦士の才やら魔法の素質やらを掘り起こしたり、刷り込む場所とでも言っとくかね
 そこは人間の才やら可能性を見つけられる場所でな、俺も前にちと小耳に挟んだんだ
 世の中にゃあ、魔物の言葉を理解し、共存を可能とできる才能もあるんだとよ」

未だに信じられない、鏡を見たら俺はそんな顔でもしてるんだろうな
 そんな才能聴いた事なかったし、しかもそれが自分にあるなんて尚更のことだった

「それにバコタに才能が無かったとしても、[スライム]達は人語を話したかもしねぇ」

「え?」

「俺の悪友…、"込める技術"を一緒に研究してる奴だが、そいつが言うのさ
 『進化するのは何も人間だけに限らない、魔物だって進化するのだ』ってな
 アイツはこれを…確か、"進化の秘法"?だったかな、頑張れば魔物も人になれると」

「そ、そんな馬鹿な、魔物が人になるですって!?」

ジョセフィーヌが声を上げ、「そもそも、魔物は人語も話す事すら無理なんですよ」と
続ける、流石にこれは信じきれないようだ
 俺だってさっきから怒涛の展開ラッシュで頭がついていかない

ナジミが女とか、彼女が[ホイミスライム]とか、俺に特別な才能だとか、魔物が人とか

「まぁ、落ち着こうぜ嬢ちゃん…んでバコタの兄ちゃんや、あんたぁこれから
 どうすんだい?当初の目的通り、姫ちゃんの救出は完了…
 ここで俺達のお仕事もお終いよ
 後の問題までは契約も何もしてねぇし、俺ぁ面倒見切れねぇぜ」

俺は正義の味方でもなんでもねぇからよぉ、先の事は自分でなんとかしなとナジミは
言ってくるッス

俺は"彼女"を見る、表情は…人間と違うから理解はできないけど…

「…俺は……一旦、故郷にでも帰って実家の鍵屋にでもなるかなって思うんだ…」

「盗賊から足を洗うか…、姫ちゃんはどうすんだい?連れてくのか?」

『君が嫌なら、私は家族の所に帰るよ…』

「…?、姫ちゃんは何て言ってんだい?」

「俺が嫌なら家族の所に帰るって言ってるッス、けど…俺は嫌なんかじゃない!!」

おどけた口調で「わーお、アツいねぇ」とナジミは茶化しながら袋から何かを出す

「ほらよ、選別だくれてやるよ」ブン

「?、なんだこれ"杖"」

「使い方は後で教えてやるよ、そして、姫ちゃんはまず安否を知らせた方が
 良いんじゃねぇか?」

言われて、ハッと思った、確かにこのままじゃ村がまた襲撃されるかもしれないと
俺は彼女に説得を頼むように言って駆け出して行った








「…ナジミさん、アレって[変化の杖]っていう貴重なモノなんじゃ…」

「良いんだよ、アイツなら技術を悪用しねぇだろうし」


>>145 やっぱり見てくれる人がいると安心しますね

>>146 間違っていたら申し訳ありませんが
    ナジミのイメージだったという解釈で宜しいでしょうか?



>>ジョセ嬢「そ、そんな馬鹿な、魔物が人になるですって!?」
     「そもそも、魔物は人語も話す事すら無理なんですよ」

           ↓

 つ ホイミン「ぷるぷる、僕、わるいスライムじゃないよ」




少し、最後の方で雑になったかもしれませんが西の村編はここまでです

次はオマケとしてジョセフィーヌの本とメディルの最期をお送りします

おつ


― メディルの最期 ―


『ま、待て、ワシを置いてかないでくれええぇぇぇ!!』
















「っぁ!?」

メディルは目を覚ました

柔らかいベッドから跳ね起きる様に部屋の片隅に置いてあった姿見を見る
顔は汗でびっしょりと濡れ、その顔は蒼白としていた

「…ふぅ」

ため息を吐き、そのままベッドの傍に置いてあった桶に近づき
濡れタオルで顔を拭く…

そして拭きながら彼は思い出す、あれは時を遡る事―――


*********************************
= 一日目 =

「ぅ、ぅぁ?」

メディルは目を覚ました

硬く無機質な石畳からゆっくりと起き上がろうとして脚に痛みを感じた
顔から汗が噴出し、折られた脚を動かそうとした痛みから顔を赤くした



「い"、いだい"」

痛みから半強制的に脳を覚醒させた彼は自分の状況を確認しようと必死で
思考を張り巡らせた、まず自分の状態だ…

脚、 片方は使うこともできない、両腕にはこれと言って異常なし
頭部はレンガを投げつけられた事で額から出血、ほぼ奇跡的な事に
見当識障害、錯乱等の症状が見られる脳震盪などには陥らなかった
(この時のメディルは知らないが後日、医師の診断でそう判定された)

自分の身を確認した後、彼は辺りを見渡す、生き埋めなった彼が初めに
探したのは光源だ、地震災害等による建物の倒壊、落盤で生き埋めなど
 この場合は視界が良し悪しもあるが水や食料の確保よりも
優先する場合があるのだ、何か事を起こそうにも目が満足に使えぬ環境は
何をやっても失敗に終わる(または重大な見落としに繋がる)
カンテラの灯は完全に消え、それでも何故自分が
周囲を見渡せたのか?その謎はすぐに解けた

「…これは?」

匍匐前進の様に片足を引きずりながらも唯一の光源へと近づくメディル
それは"瓶"であったただ中に入っていたのは"光るコケ"である
何故コケが光っているのかは知らないし、そもそも
こんなものがある事自体が不思議(むしろ怪しいほど)でもあった
 しかし、この状態で生きる為には光源を確保する事は必要不可欠だった


― メディルの最期 ―


『ま、待て、ワシを置いてかないでくれええぇぇぇ!!』
















「っぁ!?」

メディルは目を覚ました

柔らかいベッドから跳ね起きる様に部屋の片隅に置いてあった姿見を見る
顔は汗でびっしょりと濡れ、その顔は蒼白としていた

「…ふぅ」

ため息を吐き、そのままベッドの傍に置いてあった桶に近づき
濡れタオルで顔を拭く…

そして拭きながら彼は思い出す、あれは時を遡る事―――


*********************************
= 一日目 =

「ぅ、ぅぁ?」

メディルは目を覚ました

硬く無機質な石畳からゆっくりと起き上がろうとして脚に痛みを感じた
顔から汗が噴出し、折られた脚を動かそうとした痛みから顔を赤くした



「い"、いだい"」

痛みから半強制的に脳を覚醒させた彼は自分の状況を確認しようと必死で
思考を張り巡らせた、まず自分の状態だ…

脚、 片方は使うこともできない、両腕にはこれと言って異常なし
頭部はレンガを投げつけられた事で額から出血、ほぼ奇跡的な事に
見当識障害、錯乱等の症状が見られる脳震盪などには陥らなかった
(この時のメディルは知らないが後日、医師の診断でそう判定された)

自分の身を確認した後、彼は辺りを見渡す、生き埋めなった彼が初めに
探したのは光源だ、地震災害等による建物の倒壊、落盤で生き埋めなど
 この場合は視界が良し悪しもあるが水や食料の確保よりも
優先する場合があるのだ、何か事を起こそうにも目が満足に使えぬ環境は
何をやっても失敗に終わる(または重大な見落としに繋がる)
カンテラの灯は完全に消え、それでも何故自分が
周囲を見渡せたのか?その謎はすぐに解けた

「…これは?」

匍匐前進の様に片足を引きずりながらも唯一の光源へと近づくメディル
それは"瓶"であったただ中に入っていたのは"光るコケ"である
何故コケが光っているのかは知らないし、そもそも
こんなものがある事自体が不思議(むしろ怪しいほど)でもあった
 しかし、この状態で生きる為には光源を確保する事は必要不可欠だった


= 二日目 =

ここに時計なんてものは無い

本当に一日も経過したか定かではない、ただ真っ暗な空間で僅かな光源を
頼りに過ごし、"商売道具"でもあった[ホイミスライム]の食べ残しで
飢えを凌いでいた

「…」ボリボリ

昨日(?)の段階で得た事といえば唯一の出入り口は完全に塞がった事と
この部屋の天井近くにある通気口は無事だが当然自分では通れない事が
判ったくらい、手持ちの道具は光源である"コケ"と食べ残してあった
食いかけのパン少し、コップに数滴あるかないかの水、衣服
黒コートの女にへし折られた"商売道具その2"である


「…うっぐっ…っず」


ほんの数日前まで彼はまともな食事を口にしていた
そして彼は常に自分だけの"食の概念"を持っていた、これはナジミ等にも
言ったことだ

『ワシにとって"食事"とは"人間の地位を示すモノ"であると考えておる』

人の地位を指し示すというがこれについても貴族の食卓に質素なモノが
出されるか? また社会的に最低位に位置する奴隷、囚人に豪勢な食が
あるのだろうかと?

今、彼はたった一切れのパンを貪っている

それもただの一切れではない他人…いや魔物の食いかけを口にして
喉の渇きを硝子のコップのそこにある数滴の水で潤しているのだ

人間の屑はまともな食事にありつけない

彼がナジミ等に言い放った言葉はそっくりそのまま帰ってきたのだ
ひどく惨めだ、どれほど心の中でこの言葉を呟いたことか
 これには彼も泣かずにはいられなかった、貴重な水分を浪費してでも
胸の内に溜まったモノを流したかった…



= 三日め =

いつ助けがくるかも判らない、そもそも来てくれるのかさえ判らない
だからこそ水と食料は本当に貴重であった
 余計なカロリー消費を抑えるために極力動かず、この悪夢から覚める為
彼は眠気が無くとも無理でも眠ろうとしていた

だが、それでも3日間(?)ずっと眠り続けるのは不可能であった
いやでも瞼が落ちず、泥の様に深く沈んでいた思考も時間経過とともに
ハッキりとして自分がどれほど絶望的な状態かを思い出させる


        食料のパンが尽きた


元々たった一切れ、厚さ5cmのパン(それも食いかけである)で三日も
持たせた事じたいが奇跡にもちかい

ただでさえ絶望的だった彼はさらにそのしたへ突き飛ばされたきぶんだ
 されど、人間とは最期まで…たとえ根拠の無いモノだとしても
縋りたい生き物、藁だろうが蜘蛛の糸だろうが掴めるならつかもうとする
かれは必死に目を閉じて闇に光が射す事をまつ



= よっ日め =

一度いやなことが起こるとそれは立て続けにおこるモノだ
コップの水滴がなくなったのはしかたない、いくら逆さにしてももう
何も垂れてこない、問題はそこではなく"こけ"の光がよわくなっている事
あきらかに最初に比べひかりが弱っている

それはじぶんの心の支えさえもきえそうな気がした

= いつかめ =







きえた


ついにきえた ひかりがきえてしまった
いま じぶんはかんぜんにまっくらやみのなかにいる なんどもねむり
たいないどけいがくるっている じぶんでは いまが いつなのか
まるで わからない 

「わしは しぬのか?」

ことばをはっした だから どうだというわけ でもないのだが
かれは きえいりそうなこえでも なにか こえをださずには いられな





= むいか =



あしがおれてみうごきがとれずめでぃるはなにもできなかったくらやみの
なかでなにもみえないくうかんきがくるいそうになった
じぶんはいまどんなすがたなのかここはどういうところだったっけ




=     =


   ま




            か


        ゆ



==

























= ?日目 = ~軟らかいベッドの上~

「気がつきましたか?」


「…ぁぁ?」

目が覚めて彼は首を動かさず眼だけを動かし辺りを見渡した
軟らかい感触…久しく忘れていたベッドの感触だった
窓から吹き抜けてくる風、揺れる純白のカーテン、規則的なリズムで時を
刻む柱時計は午前8時を告げ、その近くにあるカレンダーは自分の記憶が
確かならばアレから…丁度一週間になる、いや、この際そんなことは
どうだっていい

 光だ、光がある 何度も見たがった太陽の輝きが視界に満ちていた

次第に冷静になっていく頭で考える
"ここは極楽浄土か?自分はついに天に召されたか?"と
しかし、その疑問は一旦ここで中断させられる何故なら


コト


彼は自分の前にトレイごと置かれモノを見て眼を見開いた

「余りモノで悪いけど、食べなよ」

一瞬、目の前に置かれたのがなんだったのか認識できなかった
だが脳が徐々になんであるか分かった

思わずてを伸ばし触れていたこの触感、かつての自分がよく手にして
千切っては遊んでいた白パン、陽気と共に鼻腔を突き抜けるのは
ニンニクの風味を目一杯きかせたベーコン入りのオニオンスープだ

「あんたは病人だからね、あんまり重いものは食べさせられないからね」

そういって彼女は皮をむいた林檎をトレイ上の献立に追加させる
ここでメディルはようやく声を掛けている人物に気がついた
衰弱しきっていた彼は目前の御馳走
地獄から一転して天国に来たかのような環境の変化に我を忘れ
丸っきり、彼女の事を考えれなかった

「…たしか、宿を経営していた…それに隣にいるのは」

喉から声を絞り出すように問う

「娘さ、出稼ぎに行ってたウチの子が帰ってきたのさ」

もう、出稼ぎする必要もないからねと彼女は付け加え、一つ一つ丁重に
メディルへと説明をしていく、彼が宿のベッド寝かせられている理由
出稼ぎをする必要がないといった理由もだ

…事の巻頭は今から一週間前、そうメディルが落盤で閉じ込められた
初めの日まで遡る



―――
――



「さぁて、そいつの使い方はあらかた教えたさぁ」

「恩に着るッス」

「良いってことよ、たださっきも言ったがそいつぁ[変化の杖]の模造品
 オリジナルとは違うから10年もすりゃあただの棒っきれだぜ」

黒コートの男装麗人ことナジミは盗賊家業から足を洗うバコタにやった
餞別の使い道を教える、彼女は一通り教え終わると連れの少女と共に
宿を後にしようとする

「おい、ナジミ」

「んあ?なんでい」

「本当に言いに行くのか?」

「行くさ」

振り向きもせずに答える


ナジミはこれから落盤でメディルが生き埋めになっていることを村中に
伝えようとしているのだ
 ナジミが最も忌み嫌う事は女性に対して敬意を払わない事
そして先人の想いを踏みにじるかの如く"込める技術"を悪用することだ

メディルは後者に当てはまることをした
自分の才でもないソレをさも自分の力であるとでも言わんがばかりに
振るい村民から略奪行為を繰り返していた、故にそれ相応の報いを与えた

死刑囚のもっとも苦しい殺し方

・窒息死(溺死、笑死等)
・餓死
・(遅効性の毒による)毒殺

異論はあるがこれらがワーストに挙げられるらしい

他の例も挙げれば焼殺もだがそれは一旦置いておこう
 刺殺や撲殺とは違う、一瞬で命を奪われるのではなく
"じわじわと長い時間をかけて苦しめる事"にスポットを当てているのが
特徴といえよう、ナジミが魔法使いを騙る詐欺師に科した罰がコレに
該当するが一つ矛盾が生まれる

わざわざ、ナジミがメディルが生き埋めにされていることを知らせる事だ

ちょっと前に"女性の肉をやたら斬りたがる異常性癖の伯爵"がいた
そいつも技術の悪用をしたためナジミの顰蹙を買い
クマちゃんに晩餐をご馳走するというオシオキを執行された

彼とメディルでは聊か相違点がある


些細な、されどナジミに"情状酌量の余地を与えさせる"決定的な違いッ!


それは"死人が出ていないという事"
厳密に言えば奴は[ホイミスライム]を助けに来た魔物を[てんばつの杖]で
一網打尽にしており、魔物とはいえ生命を奪ったという事実は変わらない
 そこの所は非常に判断に困った
村民は飢餓の苦しみを多くの者が味わいこそすれど実質的な死者はいない

人の法に当てはめるならば傷害と詐欺に入るのだろう
 命を奪われた魔物側、被害に遭った人間側、全てをひっくるめて出した
結論がこれだ


「俺ぁ、村民全員に生き埋めになったメディルの事を知らせる
 あの糞デブを許す気なんざぁ、さらっさらに無いがね」

じゃあ何で、とバコタの声に彼女は答えた

「兄ちゃん…俺とあんたの契約内容は覚えてっか?
 『村を守っている凄腕の魔法使いから盗みたいモンがある』だったよな
 俺ぁ姫ちゃんを盗み出した、"詐欺師共を皆殺しにしろ"なんて契約内容
 じゃあなかった筈さぁ」

そう言われて、むっ、と口を閉じるバコタ

「…俺、個人としちゃあぶっ殺してやりてぇんだが
 自演とはいえ村民を傷つけないように守ったのも事実
 あれでも村民に被害の無い戦い方をしていたと証言する村民もいた」

まぁ憂鬱そうな顔で言ってたけどなとの言葉に対し
そりゃ、貢いでくれる奴が怪我しちゃ堪らないもんなとバコタは返す

「最低限だ
 慈悲深ーい、この俺からの最低限のお慈悲ってやつだ
 俺ぁ許さねぇ、だが村民の全員が少しでも、少しでもだぞ
 ……暗い空間で誰にも看取られる事無く、世界一苦しい死に方をする

 それをちょっとでも"可哀想だ"とか"哀れに想ったなら"だ
  誰か一人でも助ける事に異を唱えなければ…罪を"赦すなら"だ
 "赦された"なら…! 奴は"救われても"良いさ!」


ナジミとしては「有罪、死刑判決」という方針で決めているらしい
 だが、最終的な判断は被害を受けた人間側に委ねるということらしい

 あくまでもナジミは"理不尽な理由で虐殺された魔物側"に立つ、言葉も
話せず、また人の法が適用されない彼等の代弁者として
 同じ人間のよしみとか、人としての同情心を抜きにして有罪判決らしい

くどいようだが、メディルを哀れに想った彼等が赦すならナジミは何も
文句は言わない、つるはし片手に彼等が救助しようが邪魔するつもりは
毛等も無いのだ

口に出すことは決してないがナジミは思うのだ
 これを機にあの詐欺師が更正するかもしれないと

少なくとも、この村、命の恩人達に手をあげることはない
それでもあげるならば…本当に救いようの無い屑


―仏の顔を拝む事もないという事を分からせてやるだけ―


ポケットの中の[魔法の玉]を強く握り締めナジミは想う
仏は三度まで赦すが、彼女に至っては二度目は無い
顔面にぶち当てて爆散させてやるだけだと誓う

(…ナジミさん?)

気付いていたのはジョセフィーヌだけだろうナジミが"らしくないことに"
顔を強張らせていたことを

「さて、嬢ちゃんや早いトコ行こうぜ」

ハッとしたジョセフィーヌは急ぎ足で後を追う


その日は村の男達は最初こそ戸惑いはあったものの人間として助けようと
言う事になったのだ、そして意外にも最初に立ち上がったのは
メディルを大いに毛嫌いしていた大工の親方であった
 彼を筆頭に村の男は入り口の塞がったアジトへ駆け出し
救出を始めたのだ、風車小屋のおじさんも慣れない手付きでつるはしを
振るい、時にはうっかり親方の頭をかち割りそうになったり
まぁ、なんやかんやで皆メディルを救おうとしたのだ

 かくしてメディルは村民の…いや、"人間の優しさ"に救われたのだ

ちなみ誰も語りはしないがメディルが見つけた光源[ひかりゴケ]は
ナジミがフック付きロープで脱出前に落としておいたモノだ
[消え去り草]が切れて初めてその存在に気付ける
 彼女なりの最低限の慈悲であった


―――
――


メディルは泣いた

自分がしてきた事、飢餓の苦しみ自分がよく知った
だからこそ、村民の苦しみが理解できる、あの地獄に突き落としたのは
他ならぬ自分だというのうに彼等は自分を助けた事…それに涙した

彼はこれから真っ当に生きていくだろう 無機質な石畳の上ではなく
ベッドの上で誰かに看取られて去る…それがメディルの"最期"なのだ

ちなみ、自分の取巻き達や部下は誰一人死ぬことなく診療所のベッドを
全て占領しており、それで自分だけ、宿屋に担ぎこまれたらしい

そして出稼ぎに行ってた女将さんの娘が稼ぐ必要性のなくなった理由

救出作業が開始された翌朝
いつまでも起きて食堂に来ないナジミを見に部屋へ向かったバコタは
真夜中に村を出て行った宿泊者の部屋に入ることとなった

「兄ちゃんへ、俺ぁ"代金のシードル"を確かにいただいた  こいつぁ
 "いらねぇモン"だ 好きにしな」とテーブルの上の置手紙を見た

そこには[黒こしょう]を売ってメディル達から支払われた村民達のモノ
全額とは言えなくとも相当な額になる金銀財宝が朝日に照らされていた
                         ~fin~

>>159 『おつ』と言ってくれる事に敬意を表するッ
   …いえ、本当こういう励ましがモチベーションに繋がりますから
   冗談抜きで嬉しいですよ

>>161 ERRORがでた思ってもう一回投下したらコレだよッ!!
    無視してください


    なんかちょっと良い話っぽくしようとしたけど
    失敗だったかもしれない…

乙である!
ナジミの些細な変化に気づけるジョセフィーヌとの百合はまだですか需要なしですかそうですか
ナジミもやはり人の子ね慈悲をかけるなんて

おつ

おつおつ
酒場で白目剥く3人目に期待

                   ※


                   ※


                   ※


陽はゆるやかに落ちて、昇る月と地表を照らす役割を交代してゆくモノ

アタシは思う、それを例えるなら"舞台"と同じなんじゃないかってね

幕裏で役者と裏方が代わるのだってそう、その逆も然りだし
今を輝く名優が老いて新しい世代へと交代するのだってそう…

眩しい舞台の上で舞うことが出来なくなる
一週間も経たずに過去の人になって二度と舞うことができないなんてのも
この街じゃ然程、珍しくもなんともない

そして、舞台上で舞うことすらできない卵も珍しくない

「はぁ…」

嫌んなっちゃうよね、どんなに頑張っても芽が出ないってさ
…まだ、星の見えない曇り空、晴れてたら綺麗、夕焼け空なんだろうなぁ
今のアタシの心像を表してるみたいだって思った

今週の雑誌の占いコーナーも恋愛運は最悪
恋をするのは止めましょうだってさ
歩き読みしていた雑誌のページを破り捨てて、近場のゴミ箱に
ダンクシュートを決めてやりましたとも
破り捨てたページが小馬鹿にするように風に舞う、思わずため息が出る


そんな鬱蒼とした気分で歩いてた時だったかしらね


ドンッ


「あっ、すいません」

下を見ながら歩いていたから人にぶつかった、単純にそれだけの事だった

「…!」

相手は一瞬、驚いたような顔をしてアタシをじっと見ていた、それから…

「いやいや、俺も前を見てなかったからねぇ、ところで綺麗な姉ちゃん
 一人かい?、良かったらディナーでもいかがかな?」

「は?」



…なんだコイツ、ナンパか?


第一印象はソレだった
…まぁ悪くない顔立ち、真っ黒な靴、ダボダボの黒いロングコート
服の色と同じなショートカットの黒髪と目元のクローバマークが印象的
 …そして、星、そう…夜空に輝く星を模した耳飾の男だ

「ごめんなさい、そういうの間に合ってるんで」

「わーお…冷たい反応」

目に見えて落ち込んだフリをするナンパ師
彼氏いない暦19年のアタシは自分の男運の無さに嫌気が差したわね…


こういう日は行き付けの店で外食をするに限る
お気に入りのメニューの金額と今月の生活費の計算を始めながら進む
 後ろから着いてくる奴は完全に無視だ、アタシの経験上これがベストね

―――
――


この時間帯にしては客は少ない店…一見、流行ってないように見えるけど
 そうじゃない、所謂"穴場"って所ね、頼めばメニューにも無い料理を
お客に振舞ってくれたりでサービスの充実している

「…しつこいとお役人に突き出すわよ」

「そうツンツンしなくても良いんじゃあねぇの?」

さて、アタシの前にはストーカーの容疑でいつでも役所に突き出せそうな
奴が一人っと、今日って厄日かしら?

「まぁまぁ、一回だけで良いのでやってみませんかねぇ?俺の占い」

コイツは店に入ってから「姉ちゃん、あんたぁ凶相が出てるぜ」と
聞き捨てなら無いような事を言いやがったわ

 …別に占いなんて、信じてないんだから凶相なんて言われても
どうってことないわよ、そもそも凶相なんて顔を見ただけで
アナタ不幸になりますよ~とか馬鹿なんじゃない?そんなの出鱈目に
決まってんじゃん、非現実的なのよ馬鹿馬鹿しいにも程があるってカンジ
だから、見ず知らずの男にそんな事を言われても特にこれといって思う事
ないし、まぁ突然そんな事を言う理由くらいは訊いてやらなくもないか…

「もしも~し、姉ちゃん、おーい?聴いてんの?」

「…言っとくけどアタシはオカルトは信じないタチよ
 従って占いなんて迷信も信じてないし、まぁ暇つぶし程度には
 訊いてやらなくもないわ」

「おお!!占っちゃって良いですかい?」

「お金は払わないわよ」

「ええ、かまいませんですとも(にわか占いですから)」

コイツはポケットから"いかにも"ってカンジの硝子球を取り出して
呻り始めた、むむむっと馬鹿みたいな声を出している
…アホらし、これなら爪の手入れでもしている方が有意義な時間ね

そう思いながら運ばれてきた料理に目をやる

アタシのチキンライスの上にとろとろの半熟卵を乗せたモノ
 うん、オムライスね、ピーマンとパラパラして少し焦げ目のあるご飯
甘みのあるコーン、何よりふわっとした卵が口の中でとろける…
ちなみ上にはちょこんっと手製の旗が付いているわ

「おお!!出ましたねぇ」

ナンパ師で胡散臭い旅の占い師が結果を言おうとするけど
アタシのスプーンは止まらない
 今は目の前の絶品を口に運ぶ事を全てに優先するわッ!!


「さてさて、お楽しみの結果ですが…」

思えば、アタシも疲れているのよね
上手くいかない日常…嫌な気分とか、それを紛わす為とはいえ
みょうちくりんな奴の話に耳を傾けるなんて、気の迷いも良いトコよ

帰ったら早く寝よう、うん、そうしよう!!

そんな事を考えていた矢先だった




「あんたぁ、日常で"上手くいかないこと"や"おかしなこと"が頻繁に
 起きたりしませんかねぇ?」

カラン

アタシは目を見開いて手に持っていたスプーンを落とした

「…っ…!」

化粧で使う手鏡で顔を見れば金魚みたいに口をパクパクさせているかもね
 そんな事を冷静に考えながらアタシは相手の顔を見る

「おやぁ?反応からしてこいつぁ当たってますかねぇ?」

「ふ、ふん馬鹿言ってんじゃないわよ、大体何よ!
 日常で"上手くいかないこと"とか、この不景気ならそんなの当たり前よ
 ただ、それっぽく言ってるだけだし、出鱈目よインチキよッ!!」

…そこまで言って、少しハッとする、少しムキになりすぎたわ
 この店を切り盛りしている娘さんも大声出したせいでビクッとしてる…

「…こほん、あー、つまりアタシが言いたいのはアンタが一体何を
 どう"上手くいかない"のか"具体的に"説明していただけないかしら?」

少し丁重気味に聞いてみる、これでボロが出る事、間違い無しよ!!

「"具体的"!!ほう、こいつぁ弱りましたなぁ~
 そう言われちゃあ説明が難しい」

フン、ほら見なさいよ、やっぱり占いなんて迷信なのよ!

「例えば"手足が痺れるような感覚"ですかねぇ?

 上手くモノを掴めなくて落としてしまったり、階段を下りる事も難しい
 まるで"時々半身不全になっている"かのように思えるほど生活が困難…
   …っとまぁこんなカンジかと思うんでさぁ」

「…アンタ、何者よ」



「俺ですか?            ただの遊び人でさぁ」



はぁ?遊び人って…アンタ占い師じゃないの?
 …ああ、女好きってカンジのチャラそうな奴だしね、うん、"遊び人"だ


アタシが脳内でそう結論付けた時、店の扉を力強く開ける音が聞こえた

「おうおう、団体様の入店だ!!席へ案内しな!!」
「ヒャッハー!!飯だ飯だ!」
「うめぇモンたらふく持って来いやあぁぁぁ!!」

…見るからに頭の悪そうな連中が入ってきた
 そして、あの連中はこの街の住人なら誰もが知っている集団だわ
名前は忘れたけど"女にモテナイ男の会"ってカンジの集まりだったわ
よく、公園でイチャついてる男女に喧嘩を吹っかけることで有名な連中

団員は全員、頭を"モヒカンヘアー"で統一してるのが特徴的ね

「あぁん?何だ、あの外見的にも内面的にも頭の悪そうな野郎共は?」

「気にしないで頂戴、この街の恥部よ」

昔、来たときはあんなん、いなかったが…時代は変わったなぁと
星の耳飾を付けた占い師(?)が言う

「おう、この店の店主は女なのかよ!ええ!!」

無視を決め込もうとした矢先、無視できないような悲鳴が聴こえてきた
 余程の女に飢えてるのか団長らしき人物がオーナーの少女に掴みかかる

「…っ、アイツ等」

同じ女として流石にこんな光景は見過ごせない、そう思って
アタシは席を立とうとしていた、でも先に動いた奴がいたわ

「うげっ!?」ドス

「この糞野郎、ニワトリのトサカみてぇな頭しやがって
 女、口説くならもちっとスマートにやれやボケ」ゲシゲシ

「っ!!、て、てめぇ!!今、俺の髪型がニワトリみてぇだとぉ!?」

いつ背後に回ったのか、あのチャラ男は厚底靴で背中を踏みつけていた

>>168 ナジミさんはノンケだから(小声)

>>169 『おつ』してくれる事に対して乙と言おうッ!!

>>170 リクエストにお答えしてお約束のシーンです
   今回は鳥野郎ですね、豚、牛、鶏と順調に家畜シリーズです


というわけで『少女と星 編』です…
そろそろナジミの目的や話しの中核も語れそうです

おつ
百合需要はそこそこあるのよ

は、はよ


「もういっぺん言ってみろッ!!
 俺の命の次に大事なヘアースタイルを貶しやがって…
 タダじゃあおかねぇぞ!」

「もっぺん言えだぁ?
 どうタダじゃあおかねぇんだい、"ニワトリヘアー"さんよぉ?」

…売り言葉に買い言葉でいいのかしら?

席を立とうとして出鼻をくじかれたアタシは中腰の体勢で
いい歳した連中の子供っぽいやり取りを見ていた

「――ッ!んにゃろおぉぉぉ!!」

逆上したモヒカンはテーブルへと駆け出す…!
アイツは手を伸ばす、既に帰った客達の食べ残し、重ねられた食器
 そう、厳つい手が目指すのは皿の上の"銀のナイフ"ッ!!

その事実は現場にいた誰の目にも明らかで、何をするつもりかも
すぐに予測できたわ、客のほとんどは予測した光景を見ないよう目を瞑り
店の娘さんは数分…いえ、数秒後には自分の店が紅く染まる事を思い
甲高い悲鳴をあげてしまう!!




そして、奴がナイフを掴んだ!   掴んでしまった!





「これで、てめぇの顔の肉を剥いでやぶあらぁ!?」ゴッ ガシャーン





勢い良く吹っ飛ばされたモヒカン、辺りに散らばる硝子の破片

占い師がさっき占いに使っていた硝子球を相手の頭部目掛けて投げたのだ


     硝子球の先制攻撃だわッ!!



「あんたぁ頭脳がマヌケか?
 わざわざ背を向けて無防備な状態でナイフ取りに駆け出すなんてよぉ
 …至近距離なんだからそのまま取っ組み合いやりゃあ良いのに」

…まぁ、ナイフに目を付けたのはいいけど
 アタシ等の席から五つ以上離れた席に駆け出すのは…ねぇ?

「そ、そんな、総長ぉぉぉ!?」
「ナイフより近場の椅子持ち上げて殴りかかれば勝てたのに総長ぉ!!」
「しっかりしてくだせぇ総長!!!」
「そんなだから近所のガキに鳥頭とか言われるんッスよ総長!?」
「そこの黒コートッ!よくも面倒見がいいけど馬鹿の総長をッ!!」

他のモヒカン共が喚いているけど喚いてるだけで
一歩もこっちに突っ込んでくる気配が無い……
 つーか、良く見たら後ずさってるし

「さてと、…ちょっちコレ拝借ね」

スタスタとテーブルの上にあった小瓶を二三本取って
ジャグラーのように回しながら頭を抑えるモヒカンの総長(笑)に近づく

「っいっつぅ~……ん?」
「うりゃ」グサ

星の耳飾をつけたチャラ男はしゃがみ込み、総長と同じ目線になる
そして、持ってた小瓶…"唐辛子"等の香辛料を指先にドバドバかけて
相手の両目にジャンケン・チョキを食らわせる…目潰しね、うん

「あぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!」

えげつないわねぇ…


「目があぁぁぁ!!目ぎゃああああぁぁぁ!!!」

必死に目を押さえて床にのた打ち回るモヒカン頭
…多分、仲間の名前だと思うけど、途中で助けを求めて声をあげてたわ
店内はモヒカンの叫びで正に"阿鼻叫喚"
ソレを見るお客は"呆然と静観"
出入り口は既に"もぬけの殻"

やっぱ烏合の衆は烏合の衆なのね…

転げ回ってテーブルに激突、そこから落下物の食器で気絶というコンボの
一連の流れはそりゃあ、もうね、鮮やかとしか言いようがないわね
これが舞台の上だったら拍手喝采は間違いなし
喜劇王としてノミネートされることは確実ね、おめでとう!!

「あ、あわわわ、え、ええっと、この人はどうすれば…」

店の娘さんが白目で…いや、充血しまくった目で倒れてるモヒカンを見て
オロオロしている……可愛いわぁ



……こほん、ま、まぁ、娘さんの話はともかく、店内の騒ぎも落ち着き
星飾りのチャラ男が迷惑料を払った辺りから話すわ

結局、伸びてから目を覚まさないモヒカンを娘さんが
「その…ほっとけませんから」と看病するらしく店は臨時休業という形で
アタシは全部食べ切れなかったオムライスに泣く泣く別れを告げた

でも、すぐに気持ちを切り替える

何故なら、今は真っ先に確認することが出来たからだ
 娘さんの所に親切心で残ってくれるお客がいるとは言え鳥頭がいる不安
 やっぱり食べれなかったオムライスへの未練とかもまだあるけど

それ以上に優先すること…
 それはちょっと前にチャラ男が言った占いの事よ

「アンタ!待ちなさいよ!!」

「ん~?なんだい姉ちゃん」

「さっきの占い…あれってどういう事よ!!」

「どう?どうってのは一体全体どういうことだい?」

子供じみた言葉遊びに軽くイラッと来るけど華麗にスルーするわ
ええ、ここは冷静に大人な対応って奴だわ

「…"手足が痺れる"だの"半身不全"とかのことよ

               なんで分かるのよ…」


アタシは"星"になりたかった煌びやかな舞台で輝く"星"…
誰もを魅了するようなスーパースター、アイドル、歌手
 なんだって良いから誰かの目標になれる、注目の的になれる存在
それを目指していた…

でも、目指せない

舞台の上で動こうとすれば"身体が思うように動かない"
歌おうとして喉を動かせば"声がでなくなる"

それは緊張だとか武者震いだとかそんなチャチなモンじゃないッ
日常生活でもだ…!手にしたスプーンが震えて落とすなんてことも
よくある、医者に見てもらっても身体に異常無し
精神科のカウンセラーにだって行った、精神的ストレスでも無い

他の同期が練習が終わった後だって猛練習…でも芽が出ない
やり方が変だとか、動きがぎこちないとか言われる

理由は判ってるわよ、たまに動かない身体、そのせいで覚える
間違ったレッスン法…矯正しようにもソレが満足にできやしない
 何の変哲も無い"平穏な日常すらも脅かす"そんな謎の症状…


「アタシは…、知りたいのよ!
    自分の身体に…アタシの日常を脅かす症状の正体をッ!!」

模擬刀の先制攻撃だべ!

「…ふむ、知りたいねぇ?」

顎に手を当てて、いかにも悩ましげな表情を作る星飾りの男
アタシは…内心では焦っていたのかもしれないわね

 …怖かったわ
さっきも言ったわ、何もこの症状はアタシの夢を邪魔するだけじゃない
たまにスプーンを落とすし、脚が震えてちゃってさ
いつもなら楽に降りれるような階段、ちょっとした段差も大きな障害に
変わちゃうんのよ? 考えられる?

 今までどうってことも無いモノがどうってことあるモノに変わる事
80歳を過ぎた老人みたいに手があがらなくなっていって
満足な食事もできなくなること、車椅子の男性の様に生涯、二本の脚で
大地を踏みしめる感覚が味わえ無い事
 そして、歌や発声練習の時に声が出なくなるように
いつかは声帯から音を発する事ができなくなるかもしれない事

それを夜、寝る前に考えるのよ、だから怖い
明日が来ることも怖い
眠りから覚めた時、私の身体が動かなくなっている事が途方も無く怖い

「…っ、アンタなんなのよ、そのポーズ
 ふざけてんの!?、アタシは凄くの真剣なのよ!!」

相手の作り物の悩ましげな態度、喋り方、どうでも良いような事なのに
感情に任せてソレに食って掛かった…

今でも悪いとは思う…

「…いや、悪ぃ、今のは俺に非があるな」

星飾りの男は深々と頭を下げた、舞台で色んな表情を見るアタシには
判る、今のコイツの顔は作りモノでも何でもないマジの謝罪の色だった


「…いや、アタシこそ、その怒鳴っちゃってごめん」

「いや、気にすんな、それより姉ちゃんが言った症状なんだが
 俺にちょいと心当たりがあんのさぁ」

出会った時からの特徴的な訛り方で話す自称遊び人の占い師
コレばかりはアタシも怒らない、どこの生まれか知らないけど
訛りは治しようがない…アタシの知人もそうだったし

「心当たりっていうのは…」

「そいつぁ……」


ごくっ

アタシは唾を飲んだ、長年に渡って苦しめられてきた症状の正体が
明かされるそれに、胸の高鳴りを感じた

心臓の動悸が早まる…ッ! アタシの中で規則的なリズムだった音がッ!


胸の高まりが自分でも解る!!!!



早まる

早まる

早まる…!



「…ん? 姉ちゃん?」

早まって

はや…ま…っ…て




「!?…おい!!、おい姉ちゃん!しっかりしろ!おいッ!」

>>175 百合ですか… 正直、どのように書けば良いのか分かりません
  でも『需要はそこそこある』とアドバイスもいただきましたし無碍に
  するのも失礼かと 努力はしますがあまり期待なさらないでください

>>176 『はよ』…だと?
    そう言われちゃあド根性を出すっきゃねーなァ~

>>179 一億円のガラス玉だべ!


高く高鳴ったんだな!
動悸息切れ気付に

ひゃっほーい更新きてたべ!

胸が苦しいんだな!!
俺に任せろ!!

―――
――



「―――ぁ、ここは?」

目を覚ましたアタシは此処が何処か? ということよりも
身体が動くかどうかを確認する為に手足を動かす
声は出る、両腕は動かせるし指もグーからパーにできる
脚は……うん、動くわね

自分の身体に異常が無い事に安堵して、それからだわ
自分が見慣れた部屋、子供の頃から使っていたベッドの上にいるのだと
認識できたのは…

誕生日に親に買ってもらった時計は朝の九時ちょっと過ぎを知らせる
使い慣れた化粧台の鏡の方を見やる、ベッドに横たわるアタシは
少し大き目のパジャマ姿、昨日から着けていた服、アクセサリーの類は
丁重に畳まれて、テーブルの上に置かれていた
更に付け加えるならテーブルの上には手作りサンドイッチが置いてあって


「……ッハ!!」


ここでアタシはある事に気付く
昨晩、意識が飛んでから、"誰が"アタシを介抱したか?
状況的に考えて星飾りを付けたチャラ男が
ご近所にアタシの住所を訊いて運んだって考えられる、するとアレよね?




あの男、 ア、アタシを、その…パジャマに"着替えさせた"って事よね?



鏡に映った顔が紅くなった
 …よし、お役人に通報しよう

布団を蹴飛ばして跳ね起きるも床に乱雑に散らばっている雑誌
『週刊 らっくのたね』を踏んづけて脚を滑らせる
その衝撃でテーブルから衣服やらアクセサリーが落ちてくる

…なぁにコレ? モヒカンに対抗してお笑い芸人を目指せってお告げか?

落ちてきたアクセサリー、路地裏で買った『幸運の出会いを呼ぶ指輪』
『恋愛運が上がる付け爪ネイルアート』だの
『幸せヘアピン』とかが頭に降り注ぐ

 ……アタシは占いとか信じないわ、うん
変な通販とか開運の道具とかも二度と頼らないと心に決め、出かける為に
着替えを始める、アタシは一人暮らしだし仕事の内容とか特売情報とかも
カレンダーに書いている

『朝10時 劇場の裏方手伝い』

時計横のカレンダーに書かれたスケジュールと今の時間を見て準備を急ぐ

「アイツを役所に突き出すのは仕事が終わってからね…」

お気に入りの黒ワンピに赤カーデ、それから
『幸せヘアピン』とか…別に開運目的じゃないわよ
ファッションとしても普通にイケてる代物だからよ

そんなこんなで、商店街で買ったビーズのブレスレット
友達から贈られたリボンの似合う靴、母親譲りのルビーのブローチ
シルバーの小さなイヤリング、最期に鏡の前で服の汚れ、髪の乱れを確認

「よし、完璧ね」

いつもの手提げのバッグを持つ、中身は昨日から入っている簡単な化粧品
財布、幸運のお守りらしい変な指人形、仕事の台本等

…一応、アイツが何か盗んだとかは無いみたいね
 ふっと唯一落ちてこなかった誰かの手作りサンドイッチが目に入る
十中八九、昨日の男が作ったモノだろう、良く見ると置手紙らしきモノが
あるし、さらっと通しで読んで見て、推測は確信に変わった


昨日、倒れたアタシを介抱したのは推測通り、黒コートの占い師
 ただ、見当違いな事があったとすればアタシを着替えさせたのは
ウチの大家さんってことね、家の鍵はポストの中に隠してある
天井にテープで貼り付けてある仕組みね、財布の中やバッグには入れない
スリなんかに遭った日は路上で寝てなきゃいけなくなるからね

ちょっと話が逸れたけど、多分アイツはウチの鍵が見つからなかった
単純にそれもあるけど、一人で看病できるかって事もあって
マスターキー持ちの大家さんに頼んだのかもね、こういう時だけは
一軒家じゃなくて良かったと思うわ

仕事場へ向かう前に大家のおばちゃんに確認も取ったし嘘ではない
通報は必要無し…かな?



「おーい、このセット早く、運んどくれよ!!」

「あっ、今、持ってきますんで」


午前十時十五分、この街の名物とも言える"モンバーラ劇場"は活気に
満ちていた、普通の劇場としては少し特殊かもしれない
 此処は金額さえ払ってくれれば、ソレに見合ったセット、衣装
舞台での時間を設けてくれる、付け加えると音楽の演奏会から
学校の学生による学芸会、本格派演劇タ団の公演、奇術師のショー
なんでもござれのトンデモ経営だからね
人が集まるのは確かだわ


ちゃーん ちゃーら ちゃーん

『わたしは べら おねがい フルートをとりもどすのを
  てつだって!!』

『うん! いっしょに わるい ふゆの おうじょをやっつけよう
  いこう げれげれ!!』

今日、この時間帯、舞台は学校の先生方が貸切中
スポットライトは小さな役者様方が独占中
 2時間分のピアノとステージ貸し出し料を「ひい、ふう、みい」と
勘定している団長を尻目にアタシ等は重たいセットを運び出しっと…


「はぁ~、アタシ等ってさ、何やってんだろうね?」

「仕方ないわよビビアン、これもお仕事の一環だしさ」

「そうだね、舞台を知るもの、セットを知る事さ」

友人二人と愚痴りながら裏でせっせっと動くアタシ
 給料も貰えて、タダで舞台を練習に使わせてもらえる
そりゃ…嬉しいんだけどさ


「…それより、ビビアン、貴女は大丈夫なの」

「へ?何が?」

「昨日、倒れたって小耳に挟んだんだよボク達も心配してたんだよ」

「あ、あー、それなら大丈夫よ、…今日は何か調子良いし」

「本当かい、それなら良いんだけど」


何かあったらすぐに言っておくれよと友人二人は言ってくれた
持つべきものは友、ん~、名言よね
 気の合う二人の少女と別々の持ち場に別れ、次の公演の準備を
始める、一人は衣装確認、もう一人は楽屋で待機中の人にお茶やら
握り飯を運びに、んでアタシは今の内に交換用の照明を持って…

「…ッ!? アイツ、何で此処にいんのよ!?」



梯子を昇ってなんとなしに観客席を見てみた、したらどうよ
あの全身黒尽くめがいるじゃないの!!


アタシは表面上は平然を装って仕事を黙々とこなした
でもね、やっぱ気になるじゃん?
 アイツ、アタシを苦しめる病気の正体を知ってんのよ?

たまたま、ちみっこ共の舞台を見に来たのか、それとも
アタシが此処で働いてんのを知って、昨日言おうとした事を
伝えに来たか、どっちにしろアタシは気が気でなかった
可能なら、今すぐにでも手に持ってるバケツとモップをブン投げて
観客席に飛んで行きたい、頭の中のモヤモヤをどうにかしたい

でも、ここはぐっと堪える

アタシは…腐っても舞台を夢見る人間だから

そんなアタシが同じ舞台に立つ人間の…その晴れ舞台的な準備つーか
 なんかさ、ホラ、そういうの疎かにしちゃ申し訳が立たないじゃんか!!



「アタシ、今、良いこと言ったわね」ドヤ



「ビビアン、やっぱり調子が悪いの」ヒソヒソ
「独り言とか大丈夫かな?」ヒソヒソ


ある程度の区切りが付き、丁度お昼タイムに入った所で
アタシは走る、いつもなら幼馴染の友人二人とランチタイムだけど
 今日ばっかりは譲れない事がある、はしたない事は分かるけど
片手に持ったサンドイッチを頬張りながら廊下を走る
 大家さん曰く、「あたしが看病してる間にイケメンの兄さんが
台所を借りて作った」というアイツのお手製だ
 まぁ、ありがたく貰ったわ

別に、アレよ、捨てちゃうのが勿体無いからだし、弁当作る時間も
無かったから、だからバッグに入れてきただけ、他意はないわよ

「んぐ、ちょっと、…ぐ、アンタ!!昨日のはな…ゴホゴホッ」

「おお、姉ちゃんじゃないですかい!!昨日ぶりですねぇ!!」

水飲むかい?っと紙コップ一杯の水を渡され、ぐいっと喉へ流し込む
 …危うくサンドイッチで死ぬトコだったわ

「わーお!良い飲みっぷりだぁ、でも乙女のすることじゃあないねぇ…」

「ぜぇ、ぜぇ、うっさいバカ!」

呼吸を整えてからアタシはコイツに訊きたかった事を訊く

「昨日…アンタは言おうとしたわねアタシの症状に心当たりがあるって」

「…」

「答えてよ!これは何なの!?アタシはどうなるの!?」

「…なぁ、姉ちゃんよぉ」

ふと、いつからだろうか?この男は左手に液体の注がれたワイングラスを
持っていて、ソレを傾けながら言うのだ

「姉ちゃんは今日、痺れを感じるかい?」

「…今日は調子が良い方だわ」




「そっか、なら良かった
            もしかしたら今日は一度も痺れが無いかもよ?」




「…どういうことよ」

男は笑ったわ、昨日のヘラヘラした笑とは違った笑い方だった
そして席を立ち、つま先を出口へと向けた


「もったいぶるみたいで悪いんだけどさ、まず俺の話を聴いてほしい」

アタシは口を閉じて聞き入る事にした

「まず、単刀直入に言うんだけどさ俺ぁ姉ちゃんの病が何か知ってる
 んで、治療方法も知ってる」

曇り空に光が射した 今のアタシの心像を喩えればそうだ

「それなら――」
「おおっと最期まで聴いてほしいんだよね、治してやれっけど
 こっちにも色々と事情があんのよ」


「…治療費でも欲しいのかしら?
    ならいくらだって払ってやるわ!!何Gなのよ!?」

星飾りの男はポリポリと頭を掻き「…ああ、どうすっかなぁ」とぼやく
なんなのよ、一体なんだってのよ!!

「落ち着けってのはよぉ、難しいかもしれねぇけど
  この話はさ、姉ちゃんの仕事が全部終わってからにしよう」


「…ッ、アンタねぇ、おちょくってんの!!もし症状が出でもしたら―」
「今日は恐らく、大丈夫だぜ、それに今の段階じゃあ
 そして、姉ちゃんが恐れるような事、…生涯、半身不全や声が出ない
 なんてこたぁ無いね!」

アタシの声を遮り、矢継ぎ早に言う星飾り

「何で言い切れんのよ…」

「もう一回言う、俺は"この症状の治療法を知ってる"」

「…」

 症状の治療法を知っている、つまり、何が原因で患ってしまうか
進行具合がどのようなモノかも理解していると言いたいのかしら?

アタシはそう訊いた、答えはYES

少なくとも今日中に長い一生を身体障害者として暮らすってことには
ならないと熟知してるらしい人間からのお墨付きを貰ったわ

昼休みも残り僅か、渋々とアタシは楽屋裏に戻る
ただし、途中で消えるな、ちゃんと仕事が終わるまで待てと釘を刺して…


―――
――



「来たかい…」

レンガの塀に座ったままの大勢でサンドイッチを食べる黒コート

「話してくれないかしら?条件は何?
 どうすればアタシを治療してくれるのかしら?」

伊達に舞台に立つ練習はしてない、顔は平然、内心は焦り…
ただ、昨日の焦りとは違うタイプの焦りだわ

一体、どれ程の金額を要求されるのか

この街の医者は皆、原因不明と匙を投げるほどなのだから… きっと…


「条件それは…」

「それはッ!!」






「俺と今日から、"三日間だけ"同棲してもらう」


…………

…は?



「ん?聞こえなかったか、俺と三日だけ生活してもらうって話」

「…は?
 …
 …

 ……はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「うおっ!?なんだい吃驚するねぇ…」

「な、ア、アンタ、…ッ、この変態!」


コイツ、なんてこと言ってんだッ!
 言うに事かいて、ど、どどどど同棲ですってえぇ!?!?

そっちかッ! そうなのかッ!
 金銭的な要求じゃなくて、そ、その、"そういう要求"なのか!?


「…あー、悪ぃ、言い方が悪かったわ、同棲ってもだな
 一つ屋根の下って訳じゃあないぜ、今から言うルールに則っての生活を
 してほしいんだ、ルールってのはだな

 ・朝食 昼食 夜食 を"決められた時間に必ず共にする" (厳守)
 ・寝る時は"姉ちゃんは自分の自宅" "俺ぁ自分の宿泊先の宿"
 ・自分が買いたいと思うモノは互いに自分の金で買う
 ・"俺にできる命令は一日三つまで"

         …とまぁ以上だ、理解したか?」


「…」

ぜんッぜん理解できない、理解不能
 ってーか何よ、最期の命令って…ん?


「寝る時は帰る? アンタ、アタシの家に転がり込む訳じゃないの?」

「まぁ、そうだわな」

「…命令ってのは?」

「ん?言葉通りさぁ、『俺にくたばれ』とか無理すぎる命令でないなら
 なんでもおーけぃだ、…アレだな子供向けの絵本でよくあるだろ
 "願いを叶えるランプの魔人"ってーの?」

…同棲っていうから、アタシは、そ、"そういう事"を考えてた
 けど、このルールって……

「先に質問、アタシが『今日一日、アタシに触れるな』って
 命令したら?」

「仰せのままに、お美しいおねいさん」

おどけた様に両手を広げる星飾り、…コイツの意図がまるで理解できない

「…アンタの条件を飲めば治療してくれるのね?」

「もっちろん、21歳独身 ウソ ツカイヨ」

「何で片言…、ああ、いいわ、もう突っ込むのも面倒…」

どのみち、アタシには道が無い、藁にも縋るようにコイツに頼るしかない
…たとえ、騙されていたとしても

「アタシはビビアン…アンタ、名前は?」


「俺ですかい?  俺ぁ、ナジミ、ただの一人旅の遊び人でさぁ」

かくして三日に渡るアタシの"奇妙な生活"が始まった…!

>>182 胸が高まってますね!(意味深)

>>183 まさかの連日更新です

>>184 よし!さっそく心臓マッサージda☆




>>ナジミ 『でも乙女のすることじゃあないねぇ』
    つ「お前が言うな」


焦らすようで申し訳ありませんが症状が何かはまだ明かしません
勘の良い方は原因に気付けるかもしれません、もうしばし、お付き合いを

おつ
探し物で遊びか…ナニすんだろ?


「…まったく」

星飾りが持ってきた弁当で朝食を済ませ、職場へ向かう準備を済ます

うん、ある程度は目元のクマも隠せてるわね!


「なぁ、姉ちゃんや、そんな怒んなって」

「怒ってないわよ!」

アタシのすぐ横に並んでダボダボの黒コートをはためかせながら歩く男に
言った、「怒ってないけど、訊かれてないから答えないってのが癪よ」と
 「怒ってんじゃん…」と小さく呟いたのは聴かないことにした


「…」ジッ

「…何よ?」

「いや、そのアクセサリーお気に入りなのかい?」

話題を変えるためにでも訊いてきたのかしらね?
今日のアタシは藍色のチェックシャツと対になる暖色系の飾り付けだ
その中の一つ、昨日も付けていた母親譲りのブローチを指していた

肌身離さず持ってるなんて、大切な人からの送りモンかい?と訊かれた
それには「まぁ、そんなとこよ」とだけ答えておく



…父さんと違って小さい頃からあまり構ってくれなかった母親
"直に譲り受けたわけでもない"、亡くなってから遺品としてアタシが
綺麗だったから引き取った、たったそれだけ
 碌に誕生プレゼントもくれない人だったしね、これぐらいは貰ったって
罰は当たらないわよ



まぁ、親だからね"一応"は大切な人ではあるわね



「それよりも、アンタ…このまま劇場までついて来る気?」

「ああ、そのつもりだねぇ」

……正直に言おう困る、昨日だって友人二人にどう説明するか迷った挙句
レッスンや喫茶店でのお喋りを断ったんだ
 「ビビアンが男を侍らせてる」とか変な噂が流れたらどうすんのよ!?

「…ごほん、あー、あー、ナジミ?」

「なんだい?」

「アンタさ、ルール上"必ずアタシに引っ付いてなきゃいけない"ってワケ
 でもないわよね?」

「まぁ、俺も人間だし、プライベートな時間は欲しいわなぁ」

「じゃ、じゃあさ、自由時間って事で"昼食"の時まで別行動にしない?」
「えー、やだー」


こ の 即 答 だ よ !!

ってかなによ!? 何が 『えー、やだー』よッ!!
 子供か!! アンタは子供か何かかッ!!

…ああ、もう!! 頭痛くなってきたわ!!


「…! なら"命令2" "昼食"の時までアタシの傍に近づくな」

「むっ」

「これならどうよ? まさか、これも出来ないなんて言わないでしょ」

アタシの問いに渋々といった顔でOKサインを出すナジミ、やったね!

―――
――

ナジミを追っ払う事に成功したアタシは仕事に熱心に従事していた

「やぁ、ビビアン、今日は機嫌が良さそうだね」

親友二人がアタシに話しかけてくれる
うん、その通りだわ、今日はまだ一回もあの症状が出ていないし
黒いストーカーもどき追い払えたからね、最高にハイな気分だわ!

「それにしても今日の公演は珍しい催しだよね、魔物の曲芸だなんて」

以前この劇場で芸を披露したサーカス団は揃ってヘボばかりだった
今、舞台に立つ主人公達は人間にあらず…まぁ、鞭を振るう人間が主役と
解釈することもできなくはないけど

そんな色物舞台だからか今日は空席を探す方が難しい状況だったわ

「あ、団長」

「うおっ!?なんだねビビアン」

時間経過と共に舞台も終盤へと近づく、アタシは何処に運べば良いのか
よく分からない荷物の事を訊くため団長に声を掛けた
 後ろから声を掛けた為かビクリと肩を震わせた団長が答えた

「ああ、それは私が持っていこう」

珍しい事もあるものね…いつも金の勘定以外は興味無しのがめつい団長が
自ら雑用をやるなんて?


ワァー   ワァー    パチパチ パチパチ


観客席からの歓声

現在、時刻は十一時、"[スライム]の火の輪くぐり"はその愛らしさと
本来なら人に牙を向ける魔物が人間に懐柔されているという光景が好いと
されている、観客の顔色もまた十人十色と言ったところかしら?

愛くるしい姿に微笑む人、物珍しさに関心を示す人
魔物に恨みからこそ、人に従わされるのを見て喜笑を浮かべる人

「魔物を操るってすごい魔術だよね、どんな魔法使いなんだろう?」

「ええ、[メダパニ]…かしらね?」

舞台で鞭を振るうシルクハットの女性はあれだけの歓声を浴びているのに
その表情はどこか物悲しげだった、アタシなら大喜びなんだけどね…


シルクハットか、なんかナジミに似合いそうね…


「ビビアン、ボーっとしてるけど大丈夫?」

「…ッハ! い、いや、なんでも無いわよ」

アタシ、なんでアイツの事を考えてんだろう

「…はは~ん、さては彼氏でもできたんでしょ?」

ガシャーンッ!!

………持っていた水入りの花瓶を落としたわ、いらん出費を出したわね
今月の家賃大丈夫かしら?

「うあっ!?大丈夫ビビアン!!…っていうか、えっ、マジ?」

「ちょっ、はっ、ば、違うってのおおぉ!?」

「おお落ち着いてってば」

表舞台では煌びやかな歓声、裏舞台はアタシ等、雑用さんのミニコント…
あがってるのは仕事仲間達の微笑ましい笑い声
アタシは顔を真っ赤にして友人二人を連れて倉庫の方へ向かう

これはもう怒るしかないわよね!


「ちょ、ビビアンってば怒ってるの?」

「いたた、痛いってば」

「いいから歩くッ!!」

二人を半ば引きずる様に引っ張っていく、全く彼氏いない暦19年とはいえ
こうやってお笑いのネタにされるのは怒るわよと二人に言う
…まぁ、この二人にはよく喫茶店でからかわれるし慣れてはいるけどさ

倉庫に行くのはアタシからのお説教と水浸しにした床を拭く為にモップを
持ってくる為だ、最近、あそこはモノが増えすぎて何処に何があるか
分かりにくい、お説教を口実に友人二人にも付き合って貰おうというのが
アタシの魂胆だ

「うへぇー、あそこって碌に掃除しないから蜘蛛の巣とかが
 たくさんあるんだよね…ボク、蜘蛛とか苦手なのに」

「私も毎度毎度、劇場としてその有様はどうかと疑問に想ってるよ」

「はいはい、いいから、早いトコ探し…?…ドアが開いてる?」

二人を連れて倉庫前に来たアタシはドアが開いてる事に疑問を持つ
普段、掃除用具とかは全ての公演が終わった後か
舞台が小道具で汚れる演出があった後で休憩を兼ねて行われる

魔物の曲芸は今も続いているし、掃除用具を持ち出す必要性は無い
 舞台セットを取り出すってワケでもないし…
誰が何の用で入ったのかしら?


この時のアタシは、まぁそんな事はどうでもいいし、早く床を拭く事を
考えようと思っていた


ギイィ…

木製の扉を軽く押して埃っぽい倉庫にアタシ達三人は入っていく
そして、その奥で


「誰だ!!」

「うわぁって団長じゃないですか」

さっき吃驚させた団長に今度はアタシが吃驚させられた

「お、お前達、どうして此処へ?」

「…ボク達ですか?、ちょっと床を汚してしまっ――」


彼女の声は最後まで続かないなぜなら…







   グルルルルルルウウゥゥゥ…




"声"に遮られたからだ…


団長を除いたアタシ達三人の視線は彼の後ろへ向かう

真っ白な毛皮、鋭い爪

蝙蝠の様な翼に長い尻尾

鉄檻越しに睨みを利かす"猿"の様な顔

薄く開いた口から見える鋭利な牙からはポタポタと唾液が垂れる

その姿は言葉で言い表せば正に"白銀の悪魔"と呼べた…!

「う、うわあああぁぁぁ!!!」

「な、なななんなのコレ!?」

「魔物!?」

見たことの無い魔物だった"猿"のような顔、[あばれザル]とも違う…
いや、そんなことはどうだっていいわッ!

今日は確かに魔物の曲芸なんて色物公演があるけどリストにこんなヤツは
いなかった、[スライム]とか[いっかくうさぎ]みたいな小動物っぽいの
ばっかりの筈よ!

「…目、目を覚ましただと!?さ、騒ぎ過ぎたせいかッ!」

ふとアタシは団長の近くにあった木箱の上に置いてある包みを見た
それは少し前にアタシが何処に運ぶか分からなかったモノだった
 包みは開封されていて、何かの液体が入った注射器が三本ほど見えた

「団長、これは一体!!」

「こ、これは、そのだな…」


ガンッ   ガンッ ガシャッ  キシャアアアアァァァァァァァァ!


アタシ達が質問をぶつけている最中で、"猿"が檻を壊そうと暴れだす
軋み始める鋼鉄製の鉄柵、歪な形へと変形し始める南京錠…

ソレを見て、アタシに限らず場に居た全員が本能的に"ヤバイ"と感じた筈
団長はアタシと傍に居た友人一人を押し退け一目散に部屋の出口へ走った
 団長に掻き分けられる様に押し飛ばされたアタシは尻餅をついて
そして起き上がろうとした直後の事だった…



ガシャッ!   ガシャッ!   ガシャッ!



ガシャ 





ガンッ!! ガンッ!! ガンッ!! ガンッ!! ガンッ!!
ガンッ!! ガンッ!! ガンッ!! ガンッ!! ガンッ!!
ガンッ!! ガンッ!! ガンッ!! ガンッ!! ガンッ!!
ガンッ!! ガンッ!! ガンッ!! ガンッ!! ガンッ!!




ガツンッ!!   ガシャンッ


…カランカラン




…昔、ジパングの演劇の台本に今みたいな状況が載っていた

それは言葉でこう表せる "絶体絶命"ってね…


「っあ、あ、あぁぁぁ」

何の役にも立たない鉄塊と化した南京錠が乾いた音を足元に転がる
埃とかび臭さのある薄暗い倉庫の中を"猿"は二本の脚で踏みしめる
 つま先は光射す出口へ、しかし、その眼差しの先は…
腰を抜かしたアタシへ向けていた

一瞬の静寂、そして…



地獄から響いてきたかのような咆哮が耳に飛び込む…!

>>204 もう少し先で明確にできそうです

>>205 『乙』してやがるっ…!あ・ありがてぇっ…涙が出るっ…


申し訳ありませんが明日に備えてお菓子買い込んできます

おつ

面白いからさっさと書いてください

おつ
エルフにバナナと短剣か…ゴクリ

克服前の猿か
乙!

そろそろ続きが読みたいです


―――
――



「―――っという訳で俺ぁ見事に窮地を脱したワケでさぁ」

「すごいですよナジミさん!!」

「……はぁ」


今、アタシはいつも親友二人と駄弁ってる喫茶店にいる
三人で何処か適当な席に着いて割勘で食べたい物とかを注文して話し込む
そんないつもと変わらない光景の筈なんだけど…ねぇ?

「あん時もやばかったけど[スクルト]が掛かった[じごくのハサミ]に
 囲まれた時なんか慌てたモンさぁ」

「…いつまでコイツの武勇伝を聴いてなきゃいけないのかしらね?」




あの後…

 どんな手を使ったのかこの星飾りは"筒"の中に
化け物を閉じ"込めた"のだ


魔物を操る魔法使い…いえ、"魔物使い"の少女イナッツの公演は問題無く
行われた、劇場は今だかつて無い程の歓声が響いた
 そして誰もが羨む脚光を浴びた当の本人はといえば…


「…」オドオド


…私の隣でチビチビとメロンソーダを飲んでいた

「アンタも会話の輪の中に混ざってきたら?」

「あ、いや、私があの人を連れて来たからこんな事になった訳ですから
 そんな私が会話に入るというのは…」

「…はぁ、良いのよ、結果的にあの真っ黒くろすけのおかげで怪我人も
 死人も出てないんだし


 ………恋する乙女の目で黒コートの武勇伝を聴いてる彼女も
 脚が治ったからそれで水に流そうとか爽やかに言い切ったしね」ボソ



エルフ少女ことイナッツの謝罪に対して親友は迫害とかそういう理由で
やむを得なかったなら仕方ないとか酌量の余地があっても良いと言った

「そ、そうですか」

「ええ、そうよ」

「……あの人はこれから大丈夫なんでしょうか?」

アタシ等に迷惑を掛けたことに対して十二分に反省していて、それとは
別であの化け物の事を心から心配するイナッツ
 星飾りの推測らしいけど、あの後、化け物はどっかの外国に高値で
売り飛ばされる予定だったらしい

「"絶滅危惧種"故にその毛皮や骨、牙で作った工芸品を欲しがる
 悪趣味な貴族には腐るほど心当たりがある」とナジミは言った

…あのがめつい団長は劇場裏で何度も"そういう生き物"とか"薬"とか
やばいモンで金を稼いでいたんじゃないかっていう推論だった

後日、「二度と小遣い稼ぎができねぇようにしてやるさぁ」ニタァって
にやけながらナジミが団長の自宅を訪問したらしい…

何があったか知らないし知りたくないけど全治八ヶ月の重症を負った
団長は真面目に仕事に取り組むようになった…何があったか知らないけど


「アイツは、何処か人目に付かない場所、化け物が暮らしやすい自然環境
 の土地に返すとか言ったわね」

少なくとも誰かに売り飛ばされる訳じゃないから安心なさいと伝えると
イナッツは安堵の表情でほっと一息をついたわ

「それにアンタも安住の地が手に入るかも知れないんでしょ?」

「ええ、ナジミさんが私や魔物達でも受け入れてくれる場所を知っている
 人宛てに紹介状を書いてくれましたからね」

「[グリンラッド]だったかしら?そこに一人暮らしでいる老人がなんとか
 してくれるって?」

正直、今ならアイツが何を言おうと驚かない、"込める技術"だとか
猿の化け物を手早く退治できた事とか魔物を連れたエルフを受け入れて
くれそうな人物を知っていたり、何から何まで予測不能だもの



「…っとまぁ、そんな訳で俺ぁ[レイアムランド]横断を無事果たした訳だ
 あん時、祠の巫女さんが助けてくれなきゃ危うく凍死しちまってたわ」

ある程度、武勇伝を語り終えたナジミはそろそろ御開きにしようぜと
時計を見てから言った、もうすぐ夕飯の時間だ

「あのナジミさん!」

「なんだいダンサー志望の姉ちゃん」

「この街にそんなに長く滞在しないのでしょう?また来てくれますか?」

「ああ、いつかは立ち寄るさぁ」

いつ来るかなんて言ってないのにそれだけで頬を染めて微笑む友人を見る
あっ、こりゃ駄目だ、所謂"恋は盲目"って奴だわ

ちょっとしたやり取りが行われた後で皆がそれぞれ帰るべき場所に帰った
アタシと星飾りの男を除いてね

「さてと、今日は悪かったね、俺が目ぇ離したのが悪かったわ」

「いや、アタシが離れてろって命令したのが悪いし…」

「わーお!寛大な精神に感服でさぁ」

おどける黒コートの後を追って本日三度目の命令を行使するためアタシは
再び此処へ来た

料亭 サンチョの看板の下、拘りの扉を開けて店内に入るアタシ達

「今日はパスタにでもするかね、あっ姉ちゃん、今日も俺が奢りね
 姉ちゃんの命令の内容を考えたらその方が良いと思うし」

「はいはい」

本日のお勧めメニューは南瓜のホワイトクリームスパゲティ…

牛乳と南瓜をよく煮込んだ甘みのあるとろとろクリームを使用した
スープスパゲティ、身体の芯まで暖かくなるような暖かさは
よく冷え込むような夜には最適といえるわね

「うん、おいしい」

「そいつぁ良かった、美人さんに喜んでもらえれば店長も料理人冥利に
 尽きるってモンでさぁ」

黒コートのお世辞を軽く流して本題に入る

「じゃあ三つ目の命令なんだけど、今日もアタシと話し合うことよ」

最初、こう言った時は目を丸くして「え、そんなんで良いのかい?」って
驚いてたけど、逆にどんなモノなら無理じゃないのか分からないしね
まぁ、それ抜きにしても今日の行動とかでコイツに興味が出たってのも
事実ではあった、純粋にコイツの事を理解してやろうと思った訳よ
 気になることも多いし…


「会話のキャッチボールを始めましょうか」


「良いですねぇ、やっぱ親睦を深めるならディナーが最適って話だねぇ」

グラスにシードルを注ぎながらナジミが言う、水の入ったコップを持って
アタシは乾杯を交わした

「じゃあ気になることがあったんだけどさ、…あの時の"液体"
 あの子の脚を治したアレね、アレってなんなの?」

「あぁ、アレかぁ、あいつぁ[世界樹の雫]って奴でね"込める技術"を生成
 するのに使う道具の一種さ、効果は見たとおりのモンだよ」

「[世界樹]…」

台本やら旅芸人の話でソレは小耳に挟んだ事はあるけど

「それって凄く貴重なモンだって聴いたけど?」

「ん~?まぁ、年間でも限られた数量しか取れねぇし、確かにお高くは
 あるな」

「…どうしてそんな貴重なモンを躊躇い無く使ったの?」

…なんとなく、なんとなくだけど答えは分かりきってる気がした
まだ出会って一週間も経っていない奴なのに

「…」コト

一口シードルを口に含みグラスをテーブルの上に置く、先程までの
おちゃらけた笑いとは違う真剣な眼差しを見た

「昨日、来たときに姉ちゃんと一緒に三人で裏方やってるのをチラッと
 見てな、劇場で働くとなれば舞台に夢でも持ってるんだろうと思ったさ
 …そんな女の子がよぉ、脚を使い物にならなくされたんじゃあ
 泣くに泣けない、俺ぁそんなん見たくねぇんだよ」

「女の子の夢を守りたかった訳…ね、でも単に彼女がお金稼ぎでバイト
 してただけだったら?全部アンタの勘違いだったのかもよ?」

ダンサー志望なのは親友であるアタシも知ってるし、数時間前に喫茶店で
ナジミも聴いたからそれは無いけどね

「例えそうだったとしてもだぜ、夢だのなんだの関係なくだ
 脚が使えねぇ、長い不自由な一生を泣いて過ごさなきゃならねぇ

   …さっきも言ったが[世界樹の雫]は年間でも数量しか取れしねぇが
 ぶっちゃけそれが何だってんだい?
  少し待てばまた幾らでも採取できるモン、方やもう一方は
 たった一度きりしかない人間の一生だぜ?
 人生にゃリセットボタンなんざ付いちゃいねぇんだ…
 取り返しの付かないモンなんだぜ?双方を天秤に掛けりゃあ
 どっちが大事なんか分かりきってるじゃねーか」

「まぁ、バイト中に舞台をキラキラな瞳で見つめてたしな
 舞台に憧れれんのは確定よ、あ、姉ちゃん夢見る乙女の顔だったぜ」と
柔らかい笑みで 軽口を叩く…

ああ、やっぱりコイツはそういう奴なんだなと思った
よく人を観察してるってのもあるけど何より金銭的な価値より別の価値を
大事にするタイプだ

「舞台に憧れるかぁ、そういやぁ、俺も昔は舞台の奴に憧れを持つことも
 あったなぁ、子供の頃はバレエやりてえとかのた打ち回ったっけ?」

そういえばコイツ昔、この街に留学してたんだっけ?男性バレエダンサー
に憧れたのね…

「アンタさ、子供の頃の夢ってバレエダンサーだったの?」

「いんや違うね、ただやって見たいとは思ったけど夢とまではいかない
 それとは別に夢があったからな」

「どんな奴?」


「…まぁ、"絶対叶わない夢"ですわ」


「なにそれ気になるじゃん」


「……笑わねぇかい?」

「どんな夢かによるけどね」

「なら言うのは「命令3はアタシと話し合いをすることよ親睦を深める
 為に話しなさい、これも無理なのかしら?」

「…はぁ、今の俺の夢は"込める技術"を世界中に広める事と
 故郷に"俺の名前が付いた塔"をおっ建てる事だ
  …昔の夢は…その、なんだ、子供の頃の夢だからよぉ」

歯切れが悪いわね、言いなさいよ

「…ンタ」

「っは?」

「…サンタだよ、サンタ、真っ赤なお鼻のトナカイと一緒にやって来る
 あのサンタクロースさんだよ」

………





っぷ!!


「ああーっ!!笑ったろ!今、姉ちゃんぜってー笑っただろ!」

「馬鹿ね笑ってないわよ!」

心の中でしか笑ってないわよ!

「ああ、いいよ、いいよ、全く……けどガキん時はクソ真面目にサンタの
 存在信じてたんだよ、んで大人になったら将来サンタクロースに
 なるんだって意気込んで、サンタの弟子になるためにーってソリ滑りを
 しまくったりしてたのさぁ」

「まぁ、わかんなくもないけどね」

子供の時は皆信じるしね

「背が伸びてくに連れて世の中の色んなモン見てく内に気付きたくない
 モンにも気付いちまってよぉ、俺ぁサンタさんにゃあなれないって
 思っちまったのさぁ…」

がっくりと肩を落とすコイツは…うん、少し可愛く見えた

「……なぁ、もしも本当にサンタが実在する人物でなれるとしたら
 目指せる人はいるのかねぇ?」

「…うん?」

今の言い方に少しだけ違和感を感じたわ
…"目指せる"人?   …"目指す"じゃなくて?
…その言い方だとサンタを目指すのに資格か何かでも必要みたいじゃない

「さぁ?目指そうと思う人は目指すんじゃないかしら?」

「…そうかい、"目指せる"奴はきっとすげぇ奴だろうな
             …俺ぁソイツを心から尊敬するよ」

おちゃらけた言い方でもなければ落ち込んでるってワケでも無い
ナジミはそんな態度だったわ

雪原を歩くための底が厚い靴、寒さに向けたブカブカの服

空を飛び、たった一夜にして世界中に"笑顔"を届けるために

無限に玩具がでる真っ白な"おおきな袋"を持った老人、そんな架空の人物

強い思い入れでもあるのか、この数日間で初めて見せるそんな顔で言う


「目指せる奴と目指せない奴がいるなら俺ぁ…後者だろうなぁ」

>>233 申し訳ありません、すぐには書けませんでした…

>>234 な、ナニをかんがえているだぁー!(棒)

>>235 克服したらしたでバナナが無いと禁断症状になるかも

>>236 大変長らくお待たせしました僅か4レスですがどうぞ…

さて、『少女と星 編』ですが間も無くクライマックスです
ビビアンの症状の正体に迫ります




           【お詫びと謝罪】


よく >>"バナナの付いた短剣" 分かる人には分かる とか言いますが

元ネタが【トルネコ一家の冒険記】のアイテムとか
 
ネタが分かる人はよろしいのですが分からない人には本当に分からず結果


・話に置いてけぼりにされてしまう
・なんだか分からなくて後味の悪いモヤモヤ感を覚えてしまう 等

 
貴重な時間を割いて読んで頂いた方に不快な思いをさせてしまうのでは?

今更ながらその事実に気付きました、そこで話を投下し終えた後で

"筒"やジョセフィーヌが読んでいた[少年と竜と海老]の人物など

差し支えないようでしたら分かり辛いネタのちょっとした解説を交えたい

自分はそのように考えています

この度は読む側の気持ちを考慮せずに書き続けた事をお詫び申し上げます

              最後に長文でのお目汚しをお許しください

乙!
解説するのもしないのも自由だとおもうぞ
知らないなら調べるなりすればよくないかしら

おつ
知らない俺にはうれしいけどね
まぁそれで本編が遅れなければいいと思う

それよりナジミさんいつ性別ばらすんだろ


「何で"目指せない奴"なの?」

「…サンタさんって奴ぁ一夜にして多くの人をお幸せにすんのが商売だ
 間違っても"一夜にして不幸にする奴"じゃあ駄目だね」

…まただ、また昨夜と同じ葬式みたいな重っ苦しい空気だったわ
数十秒にも満たない沈黙が続く、でも昨日と違う事があるとすれば
ナジミが途中で話を切り上げて帰らなかったことかしらね?

沈黙に耐えかねたのか向こうが口を開いた

「昔…な、俺がまだ技術屋さんとして青二才だった頃だ
 そん時によぉ、一つ"失敗"をしたんだよ…」

「…話の流れからしてその"失敗"っていうのが
 サンタを目指せない理由って事で良いのかしら?」

「そゆこと」

肩を竦めて軽く一言だった、その後でコイツは言った




「『………技術の躍進が必ずしも"人"にとってプラスには働かない』」



「へ?」

「こいつぁ…その、俺のセンコーが俺に対して言った言葉さぁ」

「センコー?…"込める技術"に先生とか居んの?」

「ああ、俺が言っちゃあなんだけどさ、かなりの変人だったね
 主に格好とかが」

この男に言われる程とは…余程奇抜なファッションセンスの人だったのね

「ちょびヒゲにバーテンのオッサンみてーなリーゼントまるで冴えない顔
 自らを"遊び人"と名乗る奇人で、その癖、掴みどころが全く無ぇ…
 雲みたいな存在でな …糞ガキだった俺がマジに憧れた存在だよ」ボソ

最後だけ小声、ほぼ聞き取れないような小声だったわね

「さっきも言ったが俺ぁ本当に何もわかっちゃあいねぇ青二才だった
 だから『技術の躍進が必ずしも"人"にとってプラスには働かない』って
 言葉の意味もよく知りもしなかった
  だから、やらかしちまったのさ…この天才ナジミ様の生涯、絶対に
 忘れないようなミスって奴をよぉ」

アタシは口を出さない、ここまで話すナジミを見てふっと思った
これは…なんていうかアレに似てるなって

教会で神父様相手にやる、"懺悔"とかにすごく似ているって…

「…親を、…親を失望させたかもしれねぇ
 悪友を…俺のダチ公にも今だって迷惑かけてるさ
 ダチ公の弟にも無理難題だって押し付けちまってるし
 もう一人のダチにも取り返しがつかねぇことだってしちまった…!」

ここ数日で誰にも見せないような(少なくともアタシは見たことない)顔
険しい顔つきで次第にナジミの語りは吐き捨てるような口調になっていた
 いつも、おちゃらけていた人間とは思えないような一面
誰にでもある後悔とか秘めておきたい事柄…
ナジミの人間らしい部分を垣間見た気がした

「俺ぁぜってーサンタさんにゃあなれねぇ、やっちゃあいけないことを
 やらかしちまったからだ」

「…あのさ、アタシさ、例の症状で色んな医者に見てもらったのよね
 それで精神科のカウンセラーとかに会って、こう言われたのよ
 "時には誰かに悩みを打ち明ける事も必要です"って、アタシでよければ」

打ち明けてみない? そう訊ねてみた
化け物から助けてくれた恩人でもあった、そうでなくても純粋に助けたい
そんな感情を抱いていたのかもね

「………俺の失敗」



















  「画期的な戦闘方を考えた…」








ここでスレタイか!!



「は?」

「…」


画期的な戦闘法を考えた? コイツは今そう言ったのかしら?

「えっとさ、よく聞こえなかったけど"画期的な戦闘法を考えた"って
 言ったのよね?」

「ああ、画期的な戦闘方を考えた、ソレが俺の人生最大のミスよ」

あー、それのどの辺りが失敗なのかイマイチ解らないんだけど

「俺ぁな技術って奴は人を幸せにするモンだと考えてんのさ、けどな
 俺の開発したモンは結果的に人に悪用されるようなモンだった
 ……まだ誰にも悪用はされちゃあいない
 その件だけなら取り返しはつく、ソレを片付ける為なら
 俺ぁ何だってやってのけるさ」

「まとめると…アンタの作った技術が人に悪用されそうな代物で
 自分がそんなモノを作ったから極悪人だから人を幸せにできないって
 カンジでいいのかしら?」

「うん?まぁ、平たく言えばそうだが」



「馬鹿じゃないの?」



「へっ?」

「今のアンタの話ならその"技術"は悪用されていないってことじゃん?」

「あ、ああ、現段階じゃあな」

「自分でも言ったじゃんその件だけなら取り返しがつくって」

それ以前の親や友達(多分、昨日話してた三人の事かもしれない)に
迷惑掛けたって点はアタシは解らないから何とも言えないけど…

「これだけは言えるわ、取り返しつくなら取り返せば良いじゃないの
 どんな理由かと思ったらそんな事?
 責任感じちゃって『私は極悪人です』ってアピール?馬鹿じゃないの
 アンタ中二病か何かなの?」

「…ぅ、けどよぉ、俺ぁ、親やダチ公共に」って言おうとしたナジミに
言ってやったわよ
「何したかしらないけどさ、悪いことしたなら赦されるような事をしろ」
ってね

「…あー、赦してもらえるようなことじゃあ…」ポリポリ

困ったような表情で頭を掻いた後、ふっと笑みを零して

「でも、まぁ、そうだな、そんな風に考えりゃあ、少しは気が楽かも
 しんねぇ…かな?」

険しい顔でもないヘラヘラとした笑いを浮かべるナジミ
やっとコイツらしくなったって気がするわ



―――
――


「姉ちゃん、今日はありがとな!」

「良いわ、付き合ってもらったのはアタシの方だし(奢って貰ったし)」

「約束する明日にはちゃんと姉ちゃんの問題を解決してやるよ」

最後にそう言ったナジミとアタシはそれぞれの帰路に着いた

>>242 するのもしないのも自由ですか、そう言われるとありがたいです

>>243 性別ばらせば、失恋的な意味で心に傷を負う人が出ますよね!!
    すごく…絶望的ですね、いやっほぉぉ!!!!

>>246 スレタイの『方』と『法』は敢えて違う字にしています
    べ、別にうっかり間違えたとかじゃないんだからねっ!

今回は実質上2レス分程度で申し訳ない…

*********************************
              【解説】
*********************************

今回より、解り辛いと思われるネタの解説を加えていきたいと思います

あまり堅苦しい語りというのも味気なく思うので所々ユーモアを交えた

解説となるかもしれませんが何卒、御了承くださいませ

最後に言い訳がましいですが自分はあまり説明が得意な人間では無い為

解説が全く意味を成さないと場合もありえます…

もし改善の意見があればあげて頂きたいと考えています




>>バコタ 【ドラゴンクエストⅢ・Ⅳ】より
Ⅲにおいて[盗賊の鍵]を作った人物であり
Ⅳにおいてはある国で発生するイベントで勇者一向に罪を擦り付ける盗賊
無論ですが魔物使いの才能があるわけではありません、あしからず

>>メディル 【ドラゴンクエストⅦ】より
正式な名称は[メディルの使い]、その辺の雑魚と違ってボス格の魔物
こちらはちゃんとした魔術師であり[てんばつの杖]なんぞに頼らずとも
[バギクロス]や[マホトーン]などの呪文を使用する【ピザ】じゃないッ!
原作と違い、此方では単なる詐欺師でレンガを脳天に食らった程度で
倒れますね、…アレ?それで生きてるって地味にすごくね?

>>"筒" 【ダイの大冒険】より
序盤で偽勇者一向を懲らしめるために使用し、又、ある誇り高き軍団長が
一時の気の迷いとはいえ、人質を取るために使用してしまった…
後に彼は最初から正々堂々と戦った上で負けたかったと悔いていた…

>>"進化の秘宝論" 【ドラゴンクエストⅣ】より
そのまんま進化の秘宝である



>>[少年と竜と海老] 登場人物一覧

>>木こり
ただの原住民であるッッ!!

>>青い帽子の少年 【テリーのワンダーランド】
引き換えけ…ごほん、DQⅥの蒼き閃光テリーの幼少期の姿だ
ある日タンスの中から現れた南国の精霊を名乗る毛玉に姉を拉致された為
後を追って毛玉(亜種)について行き魔物使いとなる
一時は姉と再会するも元いた世界で再び姉と別れてしまう
その後、姉を命がけの旅をするというが…
 ぶっちゃけ本気で姉を探そうとしたのか怪しい所である
少なくとも命がけで探している人物と三回すれ違って気付かないし
旅の最中で美しさコンテストに来てたりする
やっとの思いで再開した姉とのやり取り↓
「テリーの攻撃! ミレーユは*のダメージを受けた!死んでしまった」

>>戦斧を持った"竜" 【DQⅥ テリーのワンダーランド】
Ⅲの世界には登場しない[バトルレックス]通称ドランゴである
テリーの嫁…おのれテリー!そこ代われッ!!
自分を倒した強い男に惚れてしまうちょっぴりMな恋する乙女
愛する男の為に自力で生き返り、一切暴れる事無く
牢屋で健気に待つドランゴちゃんマジ乙女!
どうでもいいけど>>1は必ずゲームで仲間モンスターにしてました

>>"海老" 【テリーのワンダーランド】
真実の扉に出現するボス、Ⅲの世界に繋がっており泉の精との会話後
[ダンジョン海老]を差し上げましょう…ただし倒せたらと
プレゼント(襲わせる)してくれる

>>スカイドラゴン
[スカイドラゴン]ダーマ地方に現れる魔物、DQⅢをプレイして
初めて見た見るからに強そうな姿に『おお!』って気分になった

>>ビビアン 【ドラゴンクエストⅣ】
彼女に関してはⅢにも登場するのだが個人的にはⅣの方が印象的だ
戦ったからかもしれないが

>>シルバーデビル 【DQⅡ DQⅤ トルネコの大冒険】
Ⅲの世界にいないけど、Ⅲから遠い未来設定のⅡにはいる
絶滅寸前の[シルバーデビル]が長い歳月を掛けてⅡの世代で繁殖した
脳内でそんな風に補完してますね

>>"バナナの付いた短剣" 【トルネコ一家の冒険記】
時系列的にⅣ終了後から不思議なダンジョンへ繋がる物語で登場
大魔王の命を受けてトルネコ一家の目的を妨げる為
部下の[ギガンテス][ガーゴイル]共に[シルバーデビル]が立ちはだかるも
"嗅覚を刺激する兵器"や[封印の杖]等に幾度と無く敗北してしまう
そんな彼等がついにトルネコ一家を倒せる機会を手にし向かうも
[デビルキラー]という武器のおかげで[シルバーデビル]は更なる痴態を
晒すこととなるッ!
 その姿に部下二人は涙を流さずにはいられなかったという…

余談だが、[デビルキラー]のバナナを首飾りにして[シルバーデビル]が
装備すると[ボミオス]の効果が現れるらしいが
 ナジミはこの機能まで再現しなかった…



今回の解説はここまでですが 如何でしょうか?
修正…
 ↓

>>その後、姉を命がけの旅をするというが…
>>その後、姉を求めて命がけの旅をするというが…

乙!
ナジミは中二病だったわけね!

>>250 中二病ッッ…それは人類誰しもが必ず患う事が運命として―(以下略


まず一言 『メリークリスマス』 と言わせていただきます
可能ならば早朝7時に投下させていただきます


昨夜はあんなに眠れなかったのに、今日は打って変わってすぐに眠りに
就くことができた、最後に時計を見た時の時刻はまだ午後九時だった
寝不足だったからなのか、あまりにも濃厚な一日だったからかは知らない
 兎にも角にもアタシのお目覚めはお日様も昇らないような時刻だったわ

「…早起きは三文の得っていうけど、正直使い道に困るわね」

お目々はパッチリ、眠気はすっかりすっ飛んで行った
 午前四時三十分前のことだわ
三文の得ってのは昨夜のナジミとの会話の延長線で聴いた諺だ
…三文ってGに換算したら3Gあるか無いかなのよね

「使い道に困るような金額ね、…今、この瞬間と同じで」

早起きし過ぎなのも大概問題モンだわ、24時間営業の店なんて無いし
こんな時間から何をすれば良いのかも分からないし

折角だし今日のコーディネートでも決めておこうかしらね?
 目に付いた服とアクセサリーを持って姿見の前に立つ
劇場が急遽、休みになって従業員達は暇を持て余すことになった
理由は、うん…あの化け物が暴れまわった後は流石に誤魔化せないからね

「…やっぱりアタシにはコレが一番かしらね」

自分が一番と思う服装の上にお気に入りのアクセサリーを着ける
死んだ母親が持ってたブローチだ

 何だかんだでいつも、身に着けている気がする
碌に家に居なくて、何をやっていたのかも分からない母親だったけど
唯一の遺品だからかもしれない

早すぎる身支度も終わって特にできることも無い、カーテンの隙間から
窓を見れば空はまだ薄暗く、星も見える
いつもなら眠気覚ましにジョギングの一つや二つでもする所だけど

「そうね、散歩でもしてみようかしら」

眠気がすっ飛んではいるもののする事が無い
ならば街中を歩いてみようではないか、何時もと違う時間帯だからこそ
新しい発見があるかもしれないし

そんな思いで朝霧の立つ街中へと繰り出した



―――
――



「あっ」
「あら」

風景に発見こそは無かったけど、知り合いには出会えた

「えっと、ビビアンさん?でしたね」

耳が隠れるほどの長いロングヘアー、シルクハットが無いせいか
少し違和感を覚えるが、昨日の舞台の主役イナッツがそこに居た

ここで出会えたのも何かの縁ってことでアタシは彼女と
近場の公園のベンチに並んで座っていた

「そうですか、その時から舞台に立つ事を夢見ていたんですか」
「ええ、きっかけなんて以外にも些細なモンなのよ」

以外にも彼女とアタシは気が合うみたいで、気付けば話しこんでいた
小さい頃は何に憧れたか、何をしたかったか
 そんな齢相応の女同士の会話だ、こうしてみれば彼女も唯の人間と
なんら変わらなく思える

「…あの、ビビアンさん?」

不意にビビアンが怪訝そうな顔で訊ねてきたのだ

「何かしら?」

「そのブローチって貴女のモノですか?」

更新きたー


「ええ、どうかしたのかしら?」

「いえ、…そのブローチ、何処かで見たような気がして」

紅く光るルビーを見つめるイナッツ、この時のアタシはこの街には
人が多く集まるから、旅の宝石商か何かが似たようなモノを持っていた
 そんな考えを持っていた

「あっ、もうこんな時間じゃないの」

公園の時計を見ればどうだ、短針は間も無く"六"の数字にたどり着こう
としていた、楽しい時間は早く過ぎるとはよく言ったものだ
 昨晩ナジミに六時に来いと伝えてあるのだ
いつ来るか分からないのでは困るし、アイツが朝食を作ってくれると
言っていた(材料費等はアイツの自費で)、この厚意に甘えない訳にも
いかないと考えて、頼んでおいた

「ねぇ、イナッツ、アンタが良ければだけどさ
 アタシん家に来ない?朝ごはん食べてきなよ」

「ええっ!?」

友人を家に招くのは結構嫌いじゃない、めんどい朝食作りはナジミが
やってくれる訳だしね

「良いんですか?」

「良いって、良いって家に遊びに来なよ」

陽も昇り始め辺りが明るくなり始めた頃、アタシは友人と家に向かう
ここ最近、アタシは充実しているように感じる…
 一番の原因は、多分"例の症状が治る"可能性があるからだと思う

手足が動かなくなる恐怖、声すら出なくなる恐れ
常に誰かが居て、誰かに助けられなければ生きていけない
自分の力で未来を掴めず、誰かの人生を縛らなきゃ先にいけない一生

まるで絶望しか視えてこない生涯
 そんな運命にもようやく光が射したんだ
まるで三流脚本家が書いたような内容、突然の奇跡…
不運に見舞われた主人公に魔法をかけてくれる魔法使い
子供向け絵本なんかじゃ手垢が付くほど使い古されたような展開だわ

でも、それが良い、それこそがベストなのよ…!


アタシん家の方角、丁度、昇る朝日を受けながらの帰路
目を細めながら、アタシ達は進む、あぁ、世界が輝いて見えるッ!



(今、アタシは、本当に幸せだ…!人生に流れがあるなら
 間違いなく、アタシに"流れ"が来ている…!)



アタシの人生に栄光がありますように…!
そんな想いを持ち、家の前の曲がり角を曲がると




        ボスッ!!



「へぶっっ!?」




「ビ、ビビアンさぁん!?!?」

「あっ、姉ちゃん!?わ、わりぃ」


曲がり角を曲がって出迎えてくれたのは
顔面目掛けて飛んできたボールだった…


「…」サクサク


「わ、悪かったってば」

なんとも気まずい雰囲気の空気が流れるアタシん家
何で空気が悪いかって?

順を追って説明するなら…そうね
 ナジミは今日、早起きしてアタシの為にわざわざ宿の主人に了承を得て
クッキーを焼いてきてくれたらしい、そのクッキーってのが
シンプルなバタークッキーなんだけど、これがまた美味しいのよね
 昨日、南蛮風ハンバーグとやらを作ってきたり、クッキーを焼いたり
男の癖に地味に女子力が高いと思ったわね…
 で、その地味に女子力が高い男がアタシん家に来たわ良いけど
肝心のアタシがイナッツと公園で駄弁ってたから
外で律儀に待ちぼうけていたってわけなのよね

「…」サクサク・・・ゴクッ

可愛らしいラッピングのクッキーを少し目を放した隙に子猫に取られて
さぁ大変!ナジミさんは大慌てでポケットに左手を突っ込み
"込めていた"ボール(ドッチボールとかに使うサイズの奴)を取り出し
ブン投げます!

かえってきた ビビアンちゃんに クリティカル です!

 やったね! このやろう!

「…別に、顔に跡が残った訳じゃないし、美味しいクッキーに免じて
 許してやるわよ」

「そ、そか、まぁ、そのなんだ、マジでごめん」

目に見えて狼狽えていたナジミにお客様も居るんだから
美味いモン作りなさいよね、そんでチャラよと言ってやったわ
そそくさと台所へ逃げるように入っていくナジミを尻目にアタシは
本日お越しのお客様のお相手をする事にした

「ごめんなさいねイナッツ」

「あ、いえ…所で、気になることがあるんですが」

「うん?何かしら?」

お茶請けのお菓子と紅茶の入ったカップを差し出しながらイナッツを見る

「あの、その…」

「ハッキリ言って構わないわよ、アタシ等、友達じゃないの」

何かを言いたそうな友達に遠慮はしなくても良いと言う主旨を伝えると
彼女は口を開いて訊ねてきた

「じゃ、じゃあお聞きしますが、…ビビアンさんってナジミさんと
 お付き合いしているんですか?」


        ぶぶーっ


噴いた、紅茶噴いた

いやいや、君、なにいっちゃってんのわけがわからないからね
あの怪人黒コートとあたしがおつきあいってなんじゃそりゃ

「あ、いえ、そのこうしてご自宅に、異性を呼ぶというのは、その…」

「ああ、うん、まぁ普通はそう思っちゃうわよね、うん」

アタシはアイツとは別にそういう関係じゃないって事を伝えた
ただ、故あって一定期間アイツと行動を共にしなきゃいけないんだと

………確かに冷静に考えると平然と男を家に呼び込んでるわね、アタシ
 常識が通用しない奴と一緒だったからか、何か感覚が麻痺してたわ・・・

「"故あって"ですか?」


「アタシは、小さい頃から身体がたまに動かなくなる病気を患っててね
 どんな医者も『本当に病気なのか』とか『手に負えない』だの
 『こんな症状は例が無い』って匙を投げるくらいのモンを患ってるわ
 ・・・ひょんなことから知り合ったアイツはこの病の謎を知ってるらしく
 現にアイツと出会ってから今日まで"身体が動かなくなる痺れ"が無い」

「…"身体が痺れる"?」

首を傾げて、何かを考え込むイナッツ
何を考え込んでいるのかは知らないけど、ナジミに治療してもらう事を
条件に共に過ごしているという事を説明した
 間違っても彼氏なんかじゃない(此処、重要)

「おーい、姉ちゃん!食器棚の皿ってどれを使っても良いのかい?」

「ええ、どれ使っても良いわよ!」

ナジミの質問に大きく声を出して答える
…イナッツ、何よその顔は? 微笑ましいモノでも見るような顔して

「あー、あー、そうね、劇場で公演予定の台本とかあるんだけど
 どう、暇つぶしに見てみない?」

とりあえず、話題を逸らそう、そうしよう
思い立って席を立ち、劇場で渡された公演予定の台本を幾つか持ってくる

イナッツの公演の後も、劇場を利用する予定の客は大勢いる
これはその中でも約一月先までに行われるモノの台本だ

基本的に裏方のアタシ等には縁が無い様に見えるけど、○○のシーンで
この舞台セットとか、○○で特殊な演出をかけるとか裏方もそういった
意味で台本を読んどく必要があるのよね

そこでアタシが持ってきた台本をテーブルの上に乗せる


・『トロイの木馬』


「これは…"トロイの木馬"ですよね?」

「ええ、有名な話よね」

今しがた言ったように有名な話だから大雑把な説明しかしないけど
"トロイの木馬"ってのは簡単に言えば
戦争で勝利したA国がB国から戦利品として持ち帰った木馬の中から
潜んでいた敵兵の奇襲を受ける話ね
 …持ち帰った宝は実は恐ろしい罠でしたって話

彼女と気が合うのはイナッツ自身が芝居好きで話題について来れるから
かもしれない、そこで次にアタシが持ってきた台本

これは間違いなく彼女の御眼鏡に適うわね、なんせ実話を元に作られた
お芝居なんだしね



・『リュウキュウ 物語』


「…これは!」

「ふっふっふ、知る人ぞ知る劇、"リュウキュウ 物語"よ!」

この話が本になって出回るようになったのは何でも二十年近く前らしい
どマイナーな話であまり知ってる人もいない
だからこそ、芝居にして一儲けしようなんて考えた役者がいるのね

「…世界中を魔物の友達と一緒に回ったけど、この話だけは
 手に入りませんでした」

目を見開いて、台本を手に取るイナッツ
うん、うん、その気持ち分かるわ
アタシも原作を知ろうとして古本屋や旅の商人と色んなトコ
探し回ったし


"リュウキュウ 物語"

"トロイの木馬"と違って有名でもなんでもない話(個人的に好きだけど)

あの大国[エジンベア]の貴族の女性が世界を見て回る為に船旅に出た所
 船が予期せぬ事故で座礁、転覆した船から半ば投げ出されるように
海へ落ちたお嬢様が東洋の神秘[ジパング]に流れ着く話

そこで何でも"匠"というモノをやっている男に拾われ次第に心が惹かれ
恋に落ちるという話だ
 その時の男性が[ジパング]のその地方"リュウキュウ"という名前だから
そんなタイトルだったような気がする

「へぇ・・・随分と変わった話じゃあねぇかい?」

「あっナジミ」

ふと顔を上げれば黒コートの上にエプロンという画期的なファッションの
ナジミが居た、・・・・・・どうでもいいが、この男、室内でもコートなのか?

「さぁて、お美しいお嬢様方、本日の朝食でさぁ」カタ

食卓に並ぶのは簡単なモノだった、大根をおろし金で擦ったモノを乗せた
焼き魚に、豆腐を特製だし汁で茹でたモノだったり、同じくナジミ作の
自家製ドレッシングを使ったサラダ
ツナの入った[ジパング]風のオムレツね

「一風変わった料理ね?」

「昔、教えてもらったモンでさぁ、味は保障する」

世界を旅した星飾りが言う、   …言うだけの事はあるわね
味は悪くないわ

「アンタさ、この話知ってんの?」

世界を旅したコイツなら知ってても不思議は無さそうだから話題を振った

「応、知ってるも何も原作持ってるしな」
「「マジで(すか)!?」」

「…世界各地で本とか集めたりしてるからな
 二人ともそんな身を乗り出さんでくれ、落ち着けって、な?」

若干引き気味のナジミに色々と質問してみたいと思ったのはイナッツも
同じだったらしく、二人で質問の雨荒らしをぶつけてやったわ
―――
――


「それじゃ、お嬢様は[エジンベア]の政治が嫌で家出したってこと?」

「ああ、余りにも腐りきった裁判制度を導入してたからな
 裁判長の娘って立場でしか見られないお嬢さんは国のお偉いさん方に
 愛想尽かしちまったてぇ訳さぁ」

「でも一度は故郷に帰ろうとしたんですよね?」

「うん?まぁ、出会った人との婚姻を認めて欲しかったからだ
 さっき読み聞かせたようにご両親はカンカンに怒っちまってんで
 二人で何処か、誰にも見つからない場所へと駆け落ちって訳だわな
 いやぁ、ロマンチックだねぇ」

原作片手に大きく手を振って表現するナジミ
コイツ紙芝居とか劇団の語り手とか勤めれば良いんじゃないかしら?
割と様になってるし

「所で姉ちゃん、あんたぁ職場に行かねぇで良いのかい?」

「何言ってんのよ、アタシの今日の出勤は午前十一時、まだ余裕が」チラ


『十時 五十三分』


「…」

話に熱中し過ぎて気付けば遅刻寸前になってたアタシの叫びがあがった

>>253 早朝7時に投下とか言っときながらこんな時間まで遅れてました
   ・・・できもしない宣言はするべきではありませんね


おつ
夢見るルビーだったか…

>>146
高山みなみに1票


「食事ですって?」

「そー、そー、食事よ食事、分かるかい?鍵はあそこに有りってね」

…この三日間の食事

アタシとナジミが共に過ごした間での朝食、昼食、夜食
少し考えてから、ふっとアタシは共通点がある事に気付いた
 昨日会ったばかりのイナッツは当然ながらその共通点には気付けない

「あのさ…間違ってたら悪いんだけど良いかしらね?」

「何事も言わなきゃ始まらんさ、言ってみな」

あまり自身は無かったけど言ってみた


「朝食、必ず朝食は"アンタが用意したモノ"だった」


アタシは探偵なんかじゃない

推理小説なんて読まないし、先だって読めやしない
けど、それくらいしか共通して分かるモンなんてないのよね

「一応、聴いとこうかな、その結論に至った理由って奴をよォ」

「…アンタが三日間アタシと生活を共にするって宣言した時から振り返る
 まず、アンタと出会って酒場でモヒカン共と乱闘した日ね
 その日はまだ同棲宣言はしてないからカウントしない
 アタシが倒れた次の日、そこで初めてナジミは
 『俺と今日から、"三日間だけ"同棲してもらう』って言った…!」

「そだね、姉ちゃんの言うとおりでさぁ
 ・"モヒカン共の日はカウントされない"な三日間に入るのは

 ・【一日目】"その翌日の宣言した日"
 ・【二日目】"[シルバーデビル]の事件があった日"
 ・【三日目】"そして今、この瞬間"

 が範囲に入っている、…うん、特に訂正するような内容じゃあないね」


「続けるわよ?
 二日目、三日目はアンタが直接アタシん家に来て朝食を作りに来た」

「あれ?、…おかしくないですか?」

ここでイナッツが発言した

「二日目、三日目"は"ってことは初日は違うってことですよね?」

「ああ、うん、一日目はナジミはアタシん家で朝食を作ってはいないわ
 ただ、"昼食用のサンドイッチ"を作っていったのよ」

あの日はサンドイッチを喉に詰まらせて危うく死に掛けたわね…
ナジミが水入りの紙コップを渡してくれたけど

「"アンタは自分の作ったモンをアタシに食わせる"ことが重要だった
 アンタの作ったルールにあるわ

 『朝食 昼食 夜食 を決められた時間に必ず共にする(厳守)』

  "決められた時間"に"必ず共にする"これを一番大事にしていた理由
 多分、食事の中に治療する為の何かを入れて食べさせたってとこよね」

アタシは思う…
劇場内で会った時、アタシが紙コップの水を飲み干してからナジミは

"今日は痺れがあるか体調を訊ねた"その後で"今日はないかもしれない"と
言い切った、あの時に…

"サンドイッチを食べたのを確認できた時"にナジミは"言い切った"んだ


「違うかしら?」


「わーお、中々面白いねぇ」


「夕食は一日目、二日目と外食だし、チャンスがあるなら朝か昼
 それに必ずアンタは家に来て、食事を作りに来る
 二日目にアタシは眠れなくて街中を走ってた、その時の時刻は六時半
 朝食を取るには少し早すぎる時刻…
 そしてアタシが帰ってきたのは七時前、その時点でナジミ、アンタは
 アタシん家に来ていた…!」

おそらくアタシが適当なモノで朝食を済ませる前に…
確実にアタシに食わせる為だけに
早朝からアタシの自宅付近で待機でもしていた…ッ!

「今日だってそうだ、朝霧が出るような時刻から家を飛び出して
 イナッツと家に帰ればアンタは待っていたんだ」


パチパチ!


室内に拍手が鳴り響く

「大体合ってるねぇ」

口角を上げてナジミが語る

「その考え方で大体当たりさぁ、単純に"居もしない何者か"の毒殺を
 防ぎたいのもあったし、今、言ったとおり"特効薬"を飲ませるって
 理由もちゃーんとあんのよ」

ナジミがポケットに左手を突っ込んで何かを取り出す


ゴトッ!!


「…相変わらずどうゆう構造してんのよソレ?」

「"込める技術"は偉大ですってね」

取り出したのは[スライム]並みの大きさの"釜"だった
どう考えてもポケットに入るわけがない

「ジパングの諺にこんなモンがある"餅は餅屋に任せろ"ってな
 姉ちゃんのソレは"込める技術"が原因でなった症状だ
 なら目には目を、歯には歯を技術には技術の専門家で対抗しろってな」

ふっと気付いた、この"釜"は似ているのだ
この部屋に置かれている"壷"と少し似ている

「こいつぁ俺の悪友に作ってもらったモンでな
 技術屋なら一台は持っておきたい仕事道具の一つ
  [錬金釜]ってモンだ」

「「 [錬金釜]? 」」

イナッツと声がダブったわ、それがどんなモノか説明を求めると
よく分からない理論を説明された
中に入れたモノが魔方陣による融合がどうたらとか、まぁ簡単に言えば
中にモノを入れて、何かを作るって話だった

「"込める技術"なら現代医学じゃ無理な薬品もある程度は作れる
 これを手製の料理に混ぜたのさ」

サンドイッチのタルタルソース風味の味付け
南蛮風ハンバーグの味付け
お手製サラダの自家製ドレッシング

ああ、振り返れば分かる
料理全部にコイツの"特製のタレ"とやらが使われてた

「[まんげつ草]を複数、それに[げっけいじゅ]をベースに普通の食材と
 煮詰めて作ってある、あれで姉ちゃんの症状を徐々に弱めていった」

ナジミはアタシのブローチをじっと見つめる

「今日で特効薬を投薬し続けて三日間だ、ソレを外して触れることなく
 日々を過ごしてれば完治したも同然よ」

縺翫b縺励m縺?〒縺吶?


完治したも同然、その言葉を聴いて心が震えた

ずっと悩まされてきた症状が消える、どれ程…どれ程、夢見ていたことか

「姉ちゃんに相談があるんだがいいかい?」

ナジミから声が掛かり浮かれ気味だったアタシは我に返る

「にぁ、…なにかしら?」

思わず噛んでしまう程の浮かれっぷりだったわね、今、思い返せば
あれは笑えてしまうわね

「こほん…大変嬉しいお気持ちは分かるんですがねぇ、俺ぁこの先が
 不安なんですよねぇ」

チラッとナジミはイナッツの方を見やり、続ける

「姉ちゃん、俺ぁなんでエルフの姉ちゃんを立会人としてご招待したか
 分かるかい?」

「…?、そういえば、何で?」

「そのブローチは姉ちゃんの母親が遺した、まぁ言っちまえば遺品だなぁ

 
     姉ちゃん、その遺品を俺に手渡す気はあるかい?」


真剣に問いかけてくるナジミに理由を訊いてみた

「手渡すってなんでまた?」

「あー、まずだな、さっき俺ぁ言ったが俺、さ
 世界中を飛び回ってんじゃん?」

「…例の[青い石]ってのを探す為でしょ」

「それもあるし、俺ぁ世界中に"込める技術"を普及させたいって夢がある
 技術は人を幸せにするモンだからな…
   けどよぉ、中には"人を不幸にさせちまう込める技術"もある」

沈んだ顔、俯きながら話すナジミ
この男は語ってくれた


かつて、自分が世界各地を旅し"込める技術"が多くの人を幸福にした事

だけど、その反面で同じくらい"込める技術"が人を不幸にしてしまった事


旅人のナジミはとある街に立ち寄った
…街を治めていた人間が"技術"を使い、女性連続殺人を引き起こした

だから、その人物をナジミは"消した"


旅人のナジミはとある村に立ち寄った
…一人の野盗が"杖"を使い、非力な村民達から財を奪うという暴挙を見た

だから、その"杖"をナジミはへし折った


そして旅人のナジミはかつて暮らした街へ来た

一人の女性が"明らかに人に害しか与えない技術"で苦しめられるのを見た



失望した


絶望した


だが何よりも絶望したことがあった


自分が作った技術で人を苦しめた事だとナジミは語ってくれた


昨日も話してくれた事
"画期的な戦闘法"とやらを考えたこともそうだが

それとは別に自分が作ったモノで人を後悔させた事があるらしい

だからこそナジミは…

そういうモノは放っておくことが出来ない

技術が悪用される事が…  技術が人を苦しめる事が我慢ならないのだと

「俺ぁなんつったて天才だからな、人に恨まれるより感謝される事の方が
 圧倒的に多かったしな…
 各地歩いてて、技術のおかげで助かったって奴を見たりしてさ
 失望とかより、喜びの方がでけぇさ
 この仕事やってて良かったって思えるんだ」ハハハ

手を広げて首を振りながら笑う星飾り、ため息交じりの笑い声だったけど
喜びの方が大きいって言葉に嘘は無さそうに思えたわね

「目的達成とは別で、姉ちゃんのブローチとか、他にも
 悪用されてるモンがあるなら、そいつぁ即座に回収
 そっからブッ壊すなり、なんなりすんのも一人の技術屋として
 責任持ってやるべきことなんじゃね?って俺ぁ思うわけなのよ」

「それでアタシのブローチを譲ってくれないかって事?」

「ああ、姉ちゃんの症状は回復に向かってるが、もしもだぞ?
 なんらかの事情で再びそいつを長い間、身に着ける事になるとか
 事情を知らない第三者、姉ちゃん家に空き巣か何かが入って
 運悪く[夢見るルビー]を手にしちまうって事もありえる」

ナジミは母親の遺品を取り上げるってのは、ちと忍びない
厳重に管理、誰の手にも渡らないというのならアタシに託すと言った

「ちなみ、受け取った後、アンタはどうすんの?」

「こいつぁアホみたいに魔力をバカスカ注ぎ込まれて出来た
 結晶みてーなモンだからな、半径数キロに渡って生物の居ない場所で
 爆破処理したい、昔は船の上から不法投棄が流行ったが
 それで海の生態系が狂うこともあったんでな…」

「昔の時代って怖いわね…」

「早いトコ街の外に持ち出してぇんだが…
 流石の俺もンな危険物持ち歩きたくなくてな」チラ

「そこで私の出番なんですね!」

平らな胸を張って自己主張するイナッツ

「人間には有害な魔力でもエルフなら問題ない、エルフの姉ちゃんは
 幸いにも[グリーンラッド]に行く、その道中なら目的の地域にも着ける
 そんな理由でエルフの姉ちゃんを立会人に抜擢したのさ」

で? どうすんだい? 姉ちゃんの意思にお任せしちゃうぜ?と来たわ

アタシの意思…か


「初め、アタシは母さんが嫌いだった
 家にはいつも居なくて、家族をほっぽりだすような女だと思ったから
 でも…違ってた、アタシ達を真剣に考えていてくれていたんだ」

母さんの日記をアタシは無意識に強く抱きしめてた

「今のアタシにはこの日記がある、だからさ
 その遺品は、それよりも大切なモノがあるから…!」

本音の書かれた本より大切なモノはないから、ね

「…おーけぃ、決まりだな」

三日間に渡るアタシの奇妙な生活
長年苦しめてきた"謎の症状"との闘いは、こうして幕を閉じた

*********************************
******************
*********


「本当に行くの?」

「ああ、俺も[青い石]を見つけなきゃならねぇんでねぇ」
「ビビアンさん、…私、絶対に手紙とか書きますからね!」

あれから一週間か…
長いようで短い、そんな日々だった

団長の家がナジミに襲撃されたり、イナッツがキッチンで鍋を爆破したり
モヒカンの総長が店の娘さんと恋仲になったり
親友がナジミに告白して玉砕されたり…

毎日が濃いモノだったからかもしれなかった

それも今日で終わると思えば、寂しく思えた

「ねぇ、ナジミ…」

「ん?なんでい?」

「…ッ、や、やっぱり何でもないわよ」

引き止められないわよ

今、引き止めたら…引きとめようとしてしまえば、きっと…
駄々こねて泣いちゃうかもしれなかった

「あーあ、騒がしい居候が居なくなって清々するわね」

背を向けて皮肉の一つや二つ言ってやるわよ、半分は事実だわ

「最近、やっと表舞台の方に出られそうな程、腕が上がったのに
 厄介なのも居なくなるし、やったわね!」

「ケッ、素直じゃねぇなぁ」

見なくとも分かる、悪態を付く黒コートの男、コイツは笑ってるんだろう



「じゃあなビビアン」


「…!じゃあね、ナジミ」


さようなら、ビビアンさん、後からイナッツの声も聞こえて
二人が遠ざかっていく



………

きっともう、遠くにいるんだろうな

本当に遠くに







「ナジミィ―ー!! イナッツ―ー!!また、またこの街に来なさい!」


気付けばアタシは叫んでた、早朝六時、街の門から叫ぶ




































「わたしも必ず、この街に遊びに来ますからね―ーーー!!!!」


「当たり前さあぁぁあ!!楽しみにまっていやがれよおおおぉぉぉ!!」


















「…ぷ、  ぷくく、あはははは」

笑いが出た、思わず笑った、もう姿だって見えないのに


遠くから真面目に叫ぶ親友の声と
遠くから馬鹿高いテンションで叫ぶ大馬鹿野郎の声に噴出さずには
いられなかった

「全く…、ふふ、あんな大声で近所迷惑だと思わないのかしら?」

街の住人はまだ寝てるに違いない
大声出した自分がとやかくは言えないわね



「…また来なさいよ、来なかったら、承知しないからねっ」


アタシは身を翻して街中へ戻っていく、舞台が…アタシの夢がある場所へ







『陽はゆるやかに落ちて、昇る月と地表を照らす役割を交代してゆくモノ

 アタシは思う、それを例えるなら"舞台"と同じなんじゃないかってね

 幕裏で役者と裏方が代わるのだってそう、その逆も然りだし 』


           "星"


陽が落ちて、月と一緒に地表を照らしてゆくモノ

人よりも高い所で輝いて、夜という僅かな間、多くの人を魅了していく

アイツは…ナジミは、   そう…、ね

本当に"星"みたいな奴だったわね

たった数日間の僅かな間だったけど
多くの人間を魅了した、まるで舞台だ暴れる物語の主人公みたいに…

一躍、時の人になった、多くの人間の注目を集める輝かしい奴だった

きっとアイツは、この先も何処かで
 夜空の"星"のように人に"魅せる"のだろうな



時刻は間も無く七時になる

アタシはそんな事を考えながら帰っていくナジミが去った街へ

星が落ちて、陽が昇り、朝日に照らされていく街へと…




*********************************

カラン、カラン

「ビビアンさん、いらっしゃい」

「どうも、店長」

あれから二年…アタシはオムライスを食べに行きつけの店に来ていた
ナジミと初めて出会った日に来た店だ

「繁盛してるわねっ!店長さん!」


「ええ、お客さんも今では倍以上になりましたっ!」

「ふふ、良かったわね」

自分でも驚いている、柔らかい微笑みを出せる自分自身に…
二年前のアタシにはできたか怪しい表情だった

(よくカリカリして、ナジミに怒鳴ったり、ヒステリックに叫んだわね)

最近、可愛くなった? 劇場の仲間達にも言われるようになって舞台に
出る機会が出始めたのもその頃かしらね?

「おーい、おまえ~、この食材は倉庫で良いのかい~」

「あ、アナタ…///」

「いやぁ、新しいメニューの材料だからつい、何処か分からなくなって」

「んもぅ、そんな事でどうするんですか?」

「ははははは」
「うふふふふ」

「…」…ゴク

うん、アタシは成長した目の前でバカップルがイチャイチャしてようと
笑顔は絶やさない、彼氏いない暦21年、舐めんなよ

ア・ナ・タ///
オ・マ・エ///

「クソッ、リア充めぇ!」バクバク
「裏切り者がぁ!」ガツガツ
「総長の野郎!!、ヘアースタイルもモヒカンからスキンにして!」ゴク
「我々を裏切りやがって!!」ムシャムシャ

「「「「心から祝ってやるッッッ!!!」」」」おかわり

「…」…ゴク

なんか変なのが店の常連として来ているけど、恒例の光景だからね
連中曰く、「モテナイ男も頑張ればモテル」「希望の象徴」とか
崇め祭ってるんだってさ、まぁ、店の売り上げに貢献してるから
誰も何も言わない


「アタシは"星"になれたのかしらね?」

「…?"星"ですか?」

「ええ、少し前に…憧れた人がいたのよ、その人みたいに魅力ある
 人間になれたのかな?っ思ってね」

アタシはそう言って、店長にお酒…シードルを注文する、彼が飲んでた

「未来の大女優に乾杯ですね」
「まだまだ駆け出しの女ですけどね」クスクス

笑みを零しながら、グラスを持つ
・・・貴方は今も何処かで人を魅了してるのかしらね?

「ナジミは・・・今のアタシを見たら驚くかしらね?可愛くなったって…」

香りを楽しみながらアタシはグラスの液体を喉に流し込む













「わーお!驚いたねぇ!!一瞬誰だかわかんなかったぜ!」

ぶふーーーーーーーーっ!!

吹いた

シードル吹いた

隣に、さも当然と言った顔で座ってた奴の顔面に吹いた

「・・・わーお、こいつぁアレだな、くれいじーな歓迎だぜぇ…」ポタポタ


「ナジミさぁーーーん!?!?」

パタパタと店内を走ってくる少女がいる可愛らしいエプロンドレスの子だ
齢は…十代半ばといった所かしら?

「おう、嬢ちゃん、悪ぃんだけどハンカチ取り出してくんない?」ポタポタ

「え、え、え? ナ、ナジミよね?」

「いやいや、俺ぁナジミさんじゃなけりゃ何さんだよオイ」

小柄な少女から渡されたハンカチで顔を拭くナジミ、
二年前より少し背が伸びたかしら?

「ええっとナジミさんのお知り合いの方ですか?」

ナジミの知り合いらしき少女が声を掛けた事で我に返る
綺麗な瞳の少女はドレスの裾をつまんでお上品にご挨拶をする

「ジョセフィーヌ・イーオーと申します、以後お見知りおきを」

礼儀正しい子だった為、やや気後れしてしまったけど
アタシも自己紹介をする

「私はビビアン、この街で女優をやっている女よ」

「いやぁ、姉ちゃんも別嬪さんになったなぁ二年の歳月ってすごいね!」

「どういう意味よナジミ?」

おっと失礼と手を広げておどけるナジミ、このやり取りも久しぶりねっ!
なんでもナジミは旅先でひょんな事から出会った少女と
行動を共にするようになったらしく
今は、"ナジミの故郷"へ向かう最中でこの街に立ち寄ったらしい

「ねぇ、ナジミ」ボソ

「なんでい?」

「アンタ、例の[青い石]は見つかったの?」

「…いや、まださぁ、ただ有力は情報を悪友が見つけたらしくてな
 それと、消耗した"技術"の補充に一度、里帰りすんのさ」

アタシはそれに、そう、大変かもしんないけど頑張ってよと伝えた
それから滞在中のナジミとは色んな話をした
旅先で色んなモノを見た事、アタシがイナッツと文通してる事
・・・旅先でかつて見たように、やっぱり"杖"や"指輪"で悪事働く人も居て
ナジミが少しガッカリしたこと、久しぶりに心躍る冒険譚を聴けて
満足だったわねっ!

「ねえ、ジョセフィーヌちゃん」ボソボソ
「はい?」ボソボソ
「貴女、あの男に変な事されてない?」ボソボソ
「へ?」

ナジミの奴…まさか童女趣味だったなんてね
まぁ可愛い子だから分からなくないけど、そんなアタシの囁きを聴いて
ジョセフィーヌちゃんは「ああ・・・まだ知らないんですね?」と
そんな顔をしていたわ、・・・? アタシ何か変な事言ったかしら?

結局ジョセフィーヌちゃんは何の事かは話してくれなかったわ

さて・・・と
・・・アタシが出会った奇妙な人物の物語、後日談も含めて知ってるのは
ここまでだわね

…ここから先は次の語り手の出番、願わくばアナタが"星"を見れるように
                ~fin~

>>271 [夢見るルビー]は俺のトラウマ!・・・うん、本当にね

>>272 おう!?一瞬何の話か分からず驚きました・・・

>>275 よ、読めませんでした、申し訳ありません・・・


たまにはナジミさんが性別バレしない回があっても良いじゃないか!
という精神でジョセフィーヌを最後にねじ込む形にしました…
すっかり空気ヒロインにして御免なさい

まぁ、今回は伏線だらけのナジミをちょっとでも説明出来れば良いと
作った話ですし(震え声)

そして、空気にしたジョセフィーヌ嬢に報告があります・・・



【 こ の 先 も 出 番 が 少 な い ! 】

メインヒロインなのにこの扱いッッ!!起訴も辞さないッッ!!

ジョセフィーヌ怒りの声が聞こえそうですね

次回はオマケ?として

・ある少女のクリスマス

・ある没落貴族の兄弟の話

   をお送りします

おつ
ジョセさん出ないって思ったら過去編だったのね

おつ

乙!
フィーヌはナジミの秘密独り占めかわいい


                ※

           -ある少女のクリスマス-

そこは名も無い土地だった

正確に言えば"誰も名前を呼ばない土地"であった
世界地図を広げれば、紙面上には沢山の地名が記されている

大海の上にインクを数滴垂らしたような、目を凝らさねば染みと見間違う
そんな、ちっぽけな諸島・・・

誰が第一発見者で、どんな意図で名づけたのかも知れぬ大地

世界は広い、旅行者や探検家が揃えて口にする月並みな言葉だが
言い得て妙である、人の歴史が始まって以来
今日に至るまで解明されぬ物事、存在すら確認されていない場所もある


此処に語るは、人々に忘れられた土地である


事の始まりは一隻の船であった

山岳に囲まれた国家[サマンオサ]より南西へ航路を執った船乗りが発見
[ポルトガ]と[エジンベア]、[サマンオサ]の三国が貿易船で海原を征く
俗に言う"大航海時代"の話であった

この時代では三国は協定を結び、互いの国家の貿易船を然るべき航路で
魔物達から守りつつ、利益を上げていった

当時は"海図"こそ在れど"世界地図"は無い時代であり

一隻の商船が不運な事故で漂流した事が切欠であった
船員は見知らぬ地に到達、星座の位置や季節風でどのように動いたか?
それらを元に[ランシール]大陸にたどり着いたのだと"勘違い"していた

いつも遠目にしか見なかったからこそ気付かない
"必ず国家の間で決められた航路しか征かぬからこそ"気付けない

こんなにも近くにあったにも関わらず、その大陸に気付いたのは
大航海時代の末期であったという・・・


舞台はその[ランシール]大陸だと勘違いされていた土地である

"ほぼ"未開の地であり、住民の殆どは[ランシール]から資源目当ての者…
故あって国を追われる人物、数少ない原住民の子孫達である



国と呼べるモノなんて無い、あって小屋や、集落だろう

港なんて無い、貿易船も来る筈も無く、あってボートが良いところ

学校などの教育機関だってありはしない、学びたければ留学でもすること

何かをしたいと思っても出来る事は・・・たかが知れており
何かを学ぼうと思っても何一つとて・・・分かりはしないのだ
ちっぽけで、どうしようも無く"狭い世界" 

井の中の蛙大海を知らず
知りたくも知る術は無し、狭き井の中で何ができると言えようか



まるで牢屋だよ、ろーや



さて、長い前置きは一先ず置いておくとして

そんな土地だが一軒だけ
一軒だけ、ひどく場違いな建築物があった

土地の中部に建てられた立派な館

そこに住む家族の会話、何の変哲も無い会話であった


「雪が綺麗だねぇ!」

「ええ、そうね」

屋敷には使用人達が居て、彼等は皆
パーティーに向けて、忙しなく動き回っていた

そんな中、玄関に近い窓の外を眺める女性が二人
一人は柔らかな笑みを浮かべる何処と無く気品のある女性
もう一人は年相応にはしゃぐ長い黒髪の少女で、齢は五つであった

「ねー、母さんや、もうクッキー食べていいかい?」

「お父さんが帰ってくるまで待ちましょうね」

「ちぇー・・・」

母親と二人で作ったクッキーは父親が帰宅するまで御預け
そんな状態に少女は頬を風船のように膨らませて窓から離れる

母親はずっと窓越しに夫の帰りを待っていた

大人の気持ちを察する事のできない小さな子供だった少女には
それが酷く退屈な時間であり、一人でテーブルの上にあるパズルを
組み立てていた

ガチャ

「アナタ、お帰りなさいませ」
「ああ、帰ったさ」


「・・・うん?父さん帰ってきたかぁ」カタカタ

尊敬する父、最愛の母は玄関でなにやら話し合っていた
正直な話、彼女はすぐにでも手作りのクッキーやご馳走の席につきたいが
両親の話が終わるまで待つことにした

大人の話は長いから好きじゃあないんだけどなぁっと考え
以前、買ってもらったジグソーパズルに挑戦する
両親の会話を背景に黙々と思考を目先の玩具に集中させる

「…やはり、[--ンベア]の方でし-か」

「ああ、お前を連れ戻--いと」

「・・・私は遺産は--くないですし、裁判-の地位など-みません」

「分か--おる、俺かてお前を手放-気なぞ、さらさらに無いわ」

「---先生にもご連絡すべ-なのではないでしょ--?」

「・・・師には迷惑--けとるな
 俺も職人として・・・、"-める-術"の匠などと
 呼ばれとろうに、たかがこれ-きの事も解決できなんだ
 実に滑稽--ろうて」

両親が何かを話しているが少女は何処吹く風と言った顔です
大人の小難しい話になど興味ありません、あるのは目先のパズルと御馳走
二人の会話内容など流し程度にしか聴き取らないし、そもそも距離的に
うまく聴き取れない

「待たせてすまなんだ」
「さぁ、夕飯にしましょうか?」

「ん?話は終わったのかい?」

ええ、と母親が少女の問いに答える
ほとんど完成に近いパズルを置いて両親の背中に付いて行く少女

「久しぶりの家族水入らずですものね今日という日を楽しみましょう」

「いつも家を空けてすまんな…」

妻子に謝罪の一つを告げる父の姿を少女は見ていた
頭を垂れるわけでもない、目線はしっかりと前へ向ける堂々とした態度だ
自分ではまだまだ届きそうにない背丈・・・
無愛想に見えて、実は誰よりも家族を大事にする父の背中を
少女はいつも追いかけていた


「はいよ父さん」

「ん、ありがとう」

少女は父の席を引き座るように催す、そんな父娘のやり取りを見て
クスリと笑う母親、あたたかい家庭であった

それは暖炉の熱で"暖かい"とは別な"温かい"空間が形成されていた

「今年も向こうへ行くがお前は大丈夫か?」

「うん?あぁ、平気さぁ、そりゃあ友達と数ヶ月お別れってのは
 寂しいけど、帰ってくれば会えるし、向こうにも友達いるしねぇ」

父親が娘に話しかける
この地では成人した子供は大抵、ボートに乗って漁師をしたり
森林で薬草を採り、野を耕して、生計を立てることが多い

海の向こうへ留学しようと思う者、出来る者は本当に希少な人間と呼べる

両親は別に娘には偉い人間になって欲しいとは思わない
ただ、全ての人間に共通する一度限りの人生である、願わくば我子に
悔いの無い生涯、本人が望むままの一生を過ごして欲しいと考えていた

「勉強は簡単過ぎでちょっちつまんないけどさぁ、でも面白いモンも
 あるし、父さんは心配しなくても大丈夫でさぁ」

同年代の子供達の中でも彼女は学習能力が高く
また突飛な発想を思いつける子供だった、故に人一倍に探究心が強い

狭き井の中で腐らせるのは惜しい人間

そして、本人も此処で何も見ず、ただ空を見上げて朽ちていくのは
性に合わないと考えるだろう


「そうか」


一言
ただ一言だけ言って目を閉じる、父が何を想い、何を考えるのか
娘にはたまに理解できぬ所があるが長年連れ添った母には分かるらしい


「あなたがそう想うのでしたら、私も賛成です」


今のやり取りでどう理解できたのか、娘は首を傾げるだけである
時たま窓の外の雪を見ながら、ご馳走を口に運びながら二日早い宴は続く
娘共々に海の向こうへ暫く滞在する事になるから
 今の内に馴染み親しんだ地で少し早いクリスマスを楽しんでいる
…"サンタさん"は二日後にちゃんと娘の枕元に贈り物を置いていくのだが

「ごちそう様」

手を揃え、生を分けてくれた食材に感謝の意を表し
母の手伝いで食器を片付ける娘

使用人達は「これは私共の仕事です」と言うが、そんな事はお構いなしに
家事をする母が娘に何となしに尋ねてみた


「貴女は将来、何になりたいのですか?」

「んー?将来なりたいモノ?」


少しの間、迷って少女が答えを出した

「そだね!やっぱりワタシぁサンタさんになりたいや!」

子供なら誰しもが一度は会いたいと思う架空の偉人を例に出す少女

「そうですか、サンタさんになりたいのですね?」

「もちろん!」


自身たっぷり胸を張って言う少女に母は少々困ったような顔で言う

「素敵な夢ですけど、サンタさんは"男の子"にしかなれないのですよ?」

「な、なんだってーっ!?」

両手で頬を押さえて、叫ぶ少女、まるでムンクの叫びを沸騰させるポーズ
そして唐突に娘は言うのです



「なら、ワタシぁ……男の子になるッ!!」



なんとも子供らしい単純な発言です

"女が駄目" だったら "男になれば良い"

そんな考え方に母は「ふふふ、"男の子"は私なんて言いませんよ」と
言うのであった

「ぐっ!…ぐぬぬぬ、ならワタ、お、俺ぁ男の子になるぜぇッ!
 これでどうだぁー!!」

今更、一人称を変えたところでどうともならないのは分かっている
それでも意地を張る我子を愛おしく思う母である

「ええ・・・!それなら可愛らしい男の子ですね、きっとサンタさんも
 弟子にしてくれるかもしれませんよ」


それにしてもこの母親、お茶目である



この頃からなのかもしれない

少しでも理想とする"強い男"に憧れ
少しでも近づこうと背伸びして
少しでもと涙ぐましい努力をしたのは


サンタさん

積雪で深く雪に埋もれた道も歩ける"厚底の靴"長靴を履き
東西南北、どのような地でも寒さに負けない"ブカブカな厚着"
夜空の星の如し、無限の贈り物を"収納できる おおきなふくろ"を持ち
目印となるクリスマスツリー頂上"星飾り"の上を飛んで、世界を飛び回る




思えば、ソレは象徴だったのかもしれない…

大人になって気付く


過ちを犯して気付く

決して自分では"なることの出来ない憧れの対象"


ソレ等は・・・きっと、そう、憧れた人を"象徴するモノ"なんだろう

厚底靴に身体を覆おうブカブカの服、モミの木にも飾られる星飾り
子供の望み、誰もが"こんな物が欲しい" "これさえあれば"と思うモノを
無限に取り出せる"真っ白な大きな袋"


きっと彼女は "星" になりたかったのだ

子供なら誰しもが憧れた、 誰しもが夢に見た偉人

多くの人の注目となる "星"のような存在に・・・



『少女と星 編』番外編1 ある少女のクリスマス ~ fin ~

この少女抱きしめたい!
おつ!

>>284 『西の村 編』でナジミが女将に23歳って言ったのに
    料亭サンチョで21歳と発言してる辺りで
    気付かれるかとハラハラしてましたが、杞憂のようでした

>>285 『乙』ッ!?感謝せずにはいられないッ!

>>286  その言い方だとジョセフィーヌがナジミさんに対して
    ヤンデレっぽい! ふしぎ ですね!!

サンタになるべく、少しでも強く憧れた大人の男に近づこうと
厚底を履いて背を高く見せたり、お父さんのブカブカの黒コートを着たり
裾から手が出せない腕をぶんぶん振り回す幼女(5歳)の話である


…一体誰何でしょうね?

*********************************

>>[破壊のつるぎ] 【ドラゴンクエストⅡ】より
高い攻撃力を誇るが戦闘中たまに動けなくなるらしい
漫画【ドラゴンクエスト 幻の大地】ではテリーがある人物から渡される

>>[破滅の盾] 【ドラゴンクエストⅤ】より
装備すると呪文等のダメージが増加する呪われた盾
Ⅶのある街で普通にカジノで貰える…何を思って景品にしたのだろうか?

>>[みなごろしの剣] 【ドラゴンクエストⅣ】より
道具としてしようすれば
戦闘時[ルカナン]が発動する…・・・"込める技術"ですね!わかります
Ⅴだと備すれば攻撃力が0になる呪われた剣

>>[錬金釜] 【ドラゴンクエストⅧ】より
トロデ王が持ってたもので馬車の中に置かれている
これでアイテム合成リストを埋めようと躍起になるプレイヤーは多い筈だ

>>[まんげつ草]三つ
※[まんげつ草]三つだと[月のめぐみ]が完成します
味方単体のHP回復と麻痺の治療、解説メモ曰く
【まんげつ草に含まれる成分を抽出して作った薬】だそうです
多分、ただの[まんげつ草]より痺れを取る成分が高いんだろうな

>>[げっけいじゅ] 【テリーのワンダーランド】より
味方の呪いを解く事ができるアイテム
何気に呪い解きのアイテムってこれだけじゃね?

おつ


                ※

          -ある没落貴族の兄弟の話-



彼は父親を誰よりも嫌った




外を出歩く人間は皆、外套に身を包んで日々を暮らすために動き回る
どこの家庭にも生活はある
どこの家だって"暖かい"暖炉がある
どこの子だって"温かい"家族が出迎えてくれる


だが、この家は例外である


街の中心街から少し離れた郊外、一軒の館がある
ただ、年季の入った木造建築のそれは酷くボロボロで嵐が来たときに
屋根の一部が吹き飛び、本の虫食い穴が如く壁に幾つもの穴が空いていた
窓は窓枠そのものが拉げていた

穴から少しだけ館の内装が窺える

荒れ果てた内装、いつ掃除をしたのか分からない程に埃が積もっている
外の積雪より深いのではないか?
時折、鼠が走っては蜘蛛の巣に当たり、振り払う為に身体を震わせる
そんな光景が目に飛び込んでくる

さて、これだけ言えば、無人の廃館とでも思う事だろう、しかし
内装を見ればその考えは否定される

よく子供の頃、親に買ってもらった新品の長靴で誰一人足跡を付けてない
銀世界に初めの一歩を付けたがる、そんな経験が無いだろうか?

積雪の様に積もった埃の上には確かに"足跡が残っている"それも
つい最近のモノである

サイズからして、大人の足跡、小さな子供の足跡が灰色の床を踏み歩く
辛うじて絨毯と分かる布切れの上、鼠やら蜘蛛やら何かよく分からない
昆虫の死骸が散乱するテーブルの上には無数の酒瓶が転がっていた

「…」


そして、先ほどから玄関前に立つ"少年"


少年と言ったが、彼はとても背の低い子だった
身体は非常に細く、それこそ折れてしまう程に
まだ幼さが残り、男性というよりもその顔立ちは
可愛らしい少女を連想させる


・・・いっそ、少年というより少女と言った方がしっくり来る


そんな少年の手はこの寒空の下、水仕事によるモノなのか皸ており
靴はボロボロで底には穴だって空いている
水溜りを踏まなくとも、ただ雪の上を歩くだけで少年の足は・・・

「・・・あっ!お兄ちゃん」

「・・・ッ!お、お前、何故外になど出てている!」

少年は寒空の下でずっと兄の帰りを待っていた
息を切らし包みを抱えて走る兄の姿を目を輝かせながら待っていた

「何故だ!どうして外なんかに…ッ!まさかクソ親父の事か!?」

「ち、ちがうよ!ただ、僕は・・・お兄ちゃんが心配で・・・」

「・・・お前は病人なんだ
 何も心配なんかしなくて良いし、井戸汲みだって俺がやる
 だから休んでいろ!」


「う、うん」

兄の力強い言葉に押し切られ身を引く少年
生まれつき身体が病弱だった弟、そのせいか言動も女々しく
それが何よりもコンプレックスだった

「ホラ、今日の飯だ」

「…ありがとう」

「ここは冷える、家に入るぞ」

「あ、あのねお兄ちゃん「俺なら問題ない」


自分がもっと強ければ、女々しくなんか無ければ「無理はするな」と
兄に言えた、きっと自分は負担になんてならなかった

そんな後悔ばかりが弟の中にあった



煤まみれの暖炉に拾い集めた枯れ木を放り込み、マッチを擦る
弟が取っ手の取れたバケツに汲んできた水を入れて暖炉に近づける

「いや、お前は布団に入って眠れ」

「で、でも「良いから!」


弟が布団に入り、自分が湯の沸くまで火の番をする
隙間風でいつ火が消えるかも分からぬのだ、穴を塞ぐように家具を
置いているとはいえ、やはり外気は防ぎきれない


「……クソがッ」

兄は軽く舌打ちして吐き捨てる
無性に酒の空瓶でも蹴り飛ばしたい衝動に駆られるが
そんな事をした所で、貧困から抜け出せる訳も無く
眠ろうとする弟をかえって不安にさせるだけ、体力の無駄遣いだと判断し
やがて考える事を止めた

「…」

パチパチと火の粉を吹き上げながら燃える木を見つめ彼は思う

何処でこうなっちまったんだ?っと




俺は父親が嫌いだ

誰よりも父親を嫌った


妻に先立たれて"事業"にも失敗して、裕福から貧しい階級に堕ちた男

俺はまだ良い、だが生まれつき不治の病を煩わせた弟に医者どころか
薬すらださない、自分の酒代は出し惜しみなく使う癖にだッッ!

我子が苦しんでいようと酒を飲まずにはいられないッ

そんなゲロ以下のクズ親父が心底嫌いだった!


「…何が巨万の富を築く"事業"だ、その結果がこれではないか」


兄は父が自暴自棄になる前に"事業"の事を詳しく聴かされた
幸いにも兄には弟と違い"ソレ"ができる"才能があった"からだ
だからこそ、やり方を学ばされた




「巨万の富を築く事業・・・
             "込める技術"…か、フン馬鹿馬鹿しい」




時は数週間前に遡る

その日も兄は教会へ向かっていた、この街は他所と比べれば大きい方に
部類されるひとえにソレは"モンバーラ劇場"があるからというのが大きい
この劇場では、金さえ払えば誰にでも貸し出しされる施設であり
旅のサーカスから金持ちのボンボン小僧による大して面白くも無い手品が
ご披露される、故に自然と人が集まりやすく移民や街の発展も大きい

街が大きくなることは何も良い事だらけではない

職にあぶれる者
移住区の少なさから路上生活を強いられる者
そして・・・

「…ぜぇ、ぜぇ、クソっ今日もこんなに並んでやがる」

教会前に長蛇の列を作る飢えた市民

国からの一応の保障だろう、教会で簡単な炊き出しが行われており
主にホームレスが対象となるが彼のような人間も対象に含まれる

ただ厄介なのは安定した収入、住居持ちの癖にタダ飯を食っていく連中だ

国の保障といえど限りがあり、ひとり一つが義務付けられている


必然、兄は"一人分"しか食料を得る事ができない


それも"残っていれば"の話である
まれに多く残る事があり、どうにか"二人分"を配給される事もある
…滅多にない事例だが


「ああ、君君ィ」

「…なんだ?」

「ここは教会なのよ分かるかねぇ?」

頬が弛んだ中年が兄に話しかける、青い僧衣からして神官か何かだろう

「分かってるから並んでるんだろう、そんな事も分からんのか?
 このマヌケがァ!」とでも怒鳴ってやりたいところだが兄はぐっと
言葉を飲み込んだ
この手の輩には何度も絡まれているからこそ分かる、コイツの次の台詞も

「ここはだねぇ、教会なんだよ教会、神聖なる神様のお膝元なのよ
 分かるぅ~?」

「なにが仰りたいのか理解しかねますね」

クイっと目線を兄の足元、・・・穴だらけのボロボロの靴へ向ける

「はぁ~、良いかい、神様のお膝元にそんな薄汚れたばっちぃ靴で
 来るとか君、ココ大丈夫、湧いちゃってるのぅ~?」

コンコンっと兄の額を指で小突く神官、見覚えの無い事から新しく
派遣されてきのだろう

…もう慣れた、だが虫唾が走るッ!そんな想いを持ちつつもあくまで
兄は冷静に対応する
ここで騒ぎを起こせば、食にありつけない事など過去の経験上理解してる

「申し訳ありません、私の家はこのみずぼらしい身形を見て分かる通り
 貧しいものでしてね靴もこれが最高のモノなんですよ」

最大限の皮肉を交えた声色で駄肉の多い神官に言ってやった

「はぁ?仕方ないなぁ、やれやれ、だから私はこんな所に派遣されたく
 ないんだよなぁ、いつ逆上したホームレスに襲われるかも分からんし」
 
そう言うとご丁寧に兄の足を高そうな靴で踏みつけて神官は去っていった


「…ッ!」


元々、プライドの高い少年だった
故にストレスは酷く溜まっていく一方である

「はい、次の人どうぞ」

彼の番が回ってきて配給を受け取る、どうにか一人分は確保できた
手にした包みを抱えて彼は弟の待つボロボロの館へ走る
…妙な連中に目を付けられる前にである

―――
――


「ごほごほ、ありがとうお兄ちゃん」

「フン、気にする事はない俺は外で飯を済ませているからな」

嘘だ

弟には既に分かっていたことだ、本当なら自分の分こそ兄にあげたい
ガリガリに痩せ細っていく兄を見て思う、病弱で将来なんの役に立てる?
自分のような人間より"魔法使いの才"がある兄こそ生かすべきではないか
以前は魔法使いとして高名であった父も認める才
…彼こそ世の為に生きるべきなのだと、いつも弟は思う

「なぁ、弟よ」

「…?、どうしたの?」

「今日はだな、いつもより日差しが強い、風もそんなに強くない
 たまには二人で出かけるか?」

「…! うん!」

弟の返答を聴いて、外套を取り出す為二つ隣の部屋へ向かう
アルコール中毒で死んだ父親の隣の部屋である

(…爺さん達の遺産、食い潰して酒なんぞの為に借金まで負って
 俺達を何処まで苦しめりゃ良いんだよ)

父親の事でたまにガラの悪い連中が屋敷で目ぼしいモノを漁っていく

先日も「またクソ親父の事か!?」と無断で家捜しをしてる連中を
追い払った

(…くだらねぇ事に[メラミ]なんぞ使ったモンだな)

タンスからなるべく綺麗な外套を取り出す、他の衣類は先日に限らず
随分前に持ち去られてしまった

「ん?」

ふっとあるモノが兄の目に止まった

それは彼の父がやろうとした"事業"ではなく、彼の祖父が
遠い祖先の時代から研究していたモノを纏めた手帳であった
父親はこんな完成するかどうかも判らんモノに財と時間を使いたくないと
この部屋に置いていたモノだった

中には小難しい用語や"込める技術"を知る者でなければ理解不能な内容だ
だが、兄は父から"込める技術"に関してある程度の知恵を叩き込まれた
"魔法使いの才"もあり、手帳のルーン文字の意味、配列も少しだが
理解できる… 伊達に八歳の若さで[メラミ]が使えるワケでも無い


「なんだ?これは…」

なんとなく彼はその手帳を手に取り、読んでみた途切れ途切れだが分かる


「老いる事も、病で朽ちる事もない生命、究極生命体の研究?

          …"進化の秘宝" 理論?」

パラパラと流し程度に読み、彼はポケットに手帳を入れた
魔力を感じる手帳、もしかしたら売れば生活費程度にはなるか
そんな考えを持ちながら彼は弟の元へ戻っていった…


「ほらよ」

「ありがとう!」

兄は弟に外套を着せてやる
その際に首元に見えた痣や煙草の火を押し付けられた跡が痛々しかった

「…おい、これも着けとけよ」

「え!?これお兄ちゃんのマフラー」

「いいから着けてろ!」

半ば強引に首元にマフラーを巻いてやる
弟の手を引いて公園に行こうと考えた、本当なら"モンバーラ劇場"にでも
行きたいところだ、今日は劇場でバレエの一座が来ていて
美しい舞いを披露しているそうだったから

「たまにはお外の空気を吸うのもいいよね」

「ああ、全くだ」

周りに人の影は無い…

両親がいない状態、そんな中でコイツを守れるのは他でもない俺だけだ
周りが過保護だ何だ騒ぐ事はあった

じゃあお前等は俺達を助けるのかッ!

同情して金でも恵むのかッ!


違うだろう、誰からも助けて貰えない、親族だって居やしない
だから俺しかいないのだろうが、勝手な事を抜かすなと言いたかった

「…いかんな、どうも暗い事ばかり考えちまう――」


ふっと思考の海から上がってみれば…








「……」
「え、ええっと…」

「…うめぇなぁ」モグモグ

俯いた状態から顔を上げれば、目の前に見知らぬ女が居た

齢は…弟より年上?か? 大体5~6歳ぐらいだな
長い黒髪に大人のモノなのか厚底の長靴
どうみても裾から手が出ないダボダボの黒コート
"星"を模ったペンダントをぶら下げた女だった

厚底靴のせいか知らないが、女にしては長身だ…単に自分達が栄養失調で
背が低いせいかもしれないが

「…なんだ貴様は?」

「あぁん?あんたぁ頭が馬鹿なのか?人に名を訊く前には
 名乗るのが、れーぎなんだぜぇ?」

イラっと来たが相手は自分より2、3歳年下の少女です
大人の対応をしようと…

「これは失礼、俺達はこの付近に住む町人Aだ、そしてコイツは弟だ
 分かったか?生意気な小娘」

訂正…最近ストレスが溜まり過ぎていた、故に八つ当たりと分かっても
目の前の年下相手に憂さ晴らしを兼ねてデカイ態度を取ったようです

「弟!?わーお!これはビックリだねぇ、妹さんじゃないのかい!」

少女は心底、驚いたようです

>>291 うぇっ!?マジですかい旦那!この少女はあの人ですぜ!

>>293 『乙』は、乙は力なんだ!乙は、この>>1を支えているものなんだ


番外編2ある没落貴族の兄弟の話ですが長くなりそうなため分けます
可能なら今夜少しだけ続きは書きたい所です

ちょっとZガンダム見てくる


少女は手を広げて、自分は吃驚しましたよとワザとらしいアピールをする
兄はそんな少女は軽く一瞥した

整った顔立ち、長い黒髪に傷一つない新品同然の長靴
親のモノなのか綺麗な、そして大きな黒コート
右手には蒸気を発する饅頭が大量に入った紙袋
左手に食いかけの饅頭
首からぶら下げてるペンダントは日光に照らされて光沢を放つ純金製

なんだ、金持ちのお嬢様か…

「…ッチ」

兄は舌打ちをした、この少女はきっと家に帰れば
暖かい料理や暖炉が待っているのだろう
温かい両親が笑顔で出迎えてくれるだろう

…まさしく自分達とは対極に位置する人種だ

「あ、てめー舌打ちしただろう!」モゴモゴ

少女は口に食いかけの饅頭を放り込み、モゴモゴ言いながら
兄に人差し指を向けて言い放つ

それにしてもこの少女、作法がなってない

「黙れ、口にモノ入れて喋るな、そして人に指を射すな」

「お、お兄ちゃん!あ、あの、ごめんなさい!」

「わーお!兄貴は礼儀知らずのバカチンなのに弟ちゃんは何と良い子だ
 うし、そんな君にコイツをプレゼントだ!」

強引に持ってた紙袋を弟に手渡す少女、弟は押し付けられた紙袋に
思わず困惑してしまう

「え?えぇ!?」

「おい!貴様ァ!何を勝手なこモガァ!?」

口の中に何かを突っ込まれた
口いっぱいに広がる陽気、モチモチとした食感と久しく忘れていた
肉の味わい、しょっぱいとも甘辛いとも言いがたく
つい、次の一口を誘う味付け
饅頭を突っ込まれた事に兄が気付いたのはすぐである

「…」モグモグ

つい食べてしまった

「どうだい、旅の商人が開いてた出店で買ったんだがうめぇだろう!!」

にやりと笑って言う少女に兄は何を言うべきか迷った
まず、お前は一体何なんだとか、何故饅頭を寄越すとか
いきなり人様の口の中にモノを突っ込むなんぞ親はどんな教育をしてる
後、淑女たるもの"バカチン"などと言うな恥を知れッ!

…言いたい事が多すぎるし、饅頭が入ってるしで口が開けない

「あ、あのお姉さんは誰ですか?どうして僕達にお饅頭を?」

「あぁん?俺?まぁ、そこの兄貴を見習って留学生Aとでも
 名乗ってやろう、饅頭をやったのはだ…あー、気分?」

弟が疑問に思ったことを問いかけてくれた、帰ってきた答えはどれも
ふざけた回答であったが


「何のつもりだ?金持ちのお嬢様が施しのつもりか…一応、礼はするが」

「あ? んだ、てめーはいちいち態度がでけぇなぁ?」

食べ終えた後で、兄はようやく口を開く、ここは礼の一つでも述べるのが
筋なのだろうと兄自身理解はしている為、礼を述べた

だが、ちょっとした人間不信に陥っていた兄はどうにも心から
人を信用するという行為ができなかった

おつ
腹減ってきた
にくまん買ってくる

乙!
こういう展開大好きだから凄くわくわくするぞ


自分が目を通した内容は勿論の事、読むことのできなかった部分までも
すらすらと読み始め、終いには未完成の理論に関して考察、感想文まで
言い始めた少女に兄は驚きを隠せない

「へっ!これくらい読むことなんざぁ、どうってこたぁねぇのよ!」

ちっとは見直したか!っと威張る少女にやや気後れ気味に兄は答える

「フン、貴様は単なるバカだと思ったが…喜べ、認識を改めてやる
 貴様は学あるバカだ」

「はっはっは、雪玉作って口ん中にぶち込むぞこの野郎」

「二人とも!」

犬猿の中、水と油、二人を喩えるならばソレに近いモノである


 兄から見れば、突然現れて、意図の読めぬ行動をする変人

 少女から見れば高慢な態度が一々鼻につく男として見えただろう


兄が人間不信でなければ、純粋に人の好意を信用できれば
少女がもう少し穏便な態度ならば
互いに第一印象は変わったかもしれないが…過ぎた話である

「どうやら、俺は貴様とはソリが合わんらしいな」

「ケッ、こっちの台詞だぜ」


ぷいっと互いに顔を見ないようにあらぬ方向へ顔を向ける少女と兄
…あまりにも気まずい沈黙が漂う

「えっと、その…僕、トイレに行って来るね!」

空気に耐えられなかったのか逃げるように公衆トイレの方へ駆けていく弟
それを見て、しまった…!と顔を顰める兄
病弱な弟のメンタルケアも兼ねて出かけたというのにこれでは台無しだ

「…っ」

「…」

弟が見えなくなった途端にさっきまでの威勢は何処へ行ったのやら
項垂れて地面を見つめる兄、伸びきった髪のせいか顔は陰に隠れて見えず
ただ、僅かに唇を噛み締めているのを少女は横目に見ていた

「…あんたぁ、弟ちゃんが大事なんだなぁ」

「…当たり前だ、ただ一人の家族なのだからな」

「ふぅん…」

深くは追求しない、さっきの件(手帳の内容が読める事、内容の感想)で
ある程度判ったが少女は10代にも満たぬ齢の癖に何処か達観した面が
あった、"一人の家族"という所に敢えて追究しないのはそれ故か
単に興味を持たなかっただけかは知らない

「なぁ、訊いていいか?」

「あぁん?なんだよ」

「結局、お前は何で俺達に絡んできたのだ?何が目的だ?」

「…強いて言やぁ、ほっとけなかったんでな
 お前の格好見て尚更思った」

「俺の格好だと?」

「だな」

ガサガサと紙袋を左手で漁る少女、一口サイズの饅頭が大量に
入っていたが、そろそろ袋の底が見え始める程に減っていた


「このクソ寒ぃ中、そんなボロボロの格好でよく外にいる
 弟には外套とマフラーを渡して自分は薄着だぜ?」

せめてマフラーくらい弟から借りりゃあいいじゃあないかと少女は言う

「だが、借りようとしない
 というより借りたくないんじゃあないか?」

「フン、根拠はあ「ああ、言い忘れてたんだが、実は少し前から物陰で
 あんた等を見てたのよね俺」

「…バカなだけでなくストーカーとはな、つくづく救えんな貴様」

「何とでも言えボケ、…んで弟ちゃんは必死にマフラーを渡そうとするが
 頑なに拒むんでねぇ、どういう"理由"かちっと気になったのさ」

「それで?」

「俺さ、留学生なのよね」

「それはさっき聴いたぞ、貴様、その齢で認知症か?」

「んで、この街でも短い間だけど友達を沢山作ろうとすんのよ
 目指せ友達100人できるかな?って奴?」

「…」

突っ込むだけ無駄な気がしてきた為
兄は聴くだけに徹しようとした時であった

「色んな奴と会って友達になったりしてな、んで親に虐待されてる奴とも
 知り合いになった」

ほらよ、紙袋から取り出した饅頭を兄に手渡す少女、相変わらず顔は
あらぬ方向を向いたままだが


「あのマフラー…首元でも隠してんじゃねーのか?」


「…なんだお前、将来探偵にでもなるつもりか?」

饅頭を受け取り、ソレを口に運ぶ兄、相変わらず少女の顔を見はしない

「いや、俺ぁサンタさんになるんだよ」

「サンタさんねぇ」

「俺の直感みたいなモンでさぁ、なんとなくお前等兄弟が
 "そういう感じ"に思えたんでな、近場の出店で饅頭買ってきた」

「そこで饅頭を買うという結論に至るのが解らん」

「言ったじゃん、饅頭をやったのは気分だって」

少女が純粋な好意からあの行動に出たとようやく兄も信じた
このアホ娘は変に打算的な事を考えてやったのではなく
感情論で動いたのだと

「…俺は見て分かる通りの貧乏人なんでな、貴様が何を望もうと
 大した見返りは出来んぞ」

「かぁーっ、嫌だねぇ!俺ぁ見返り求めてなんかやるような卑しい奴に
 見えんのかい?」

三人で食べていたからか、紙袋の中身は間も無く底に尽きそうであった

すぐそこの出店で作られたからホカホカの蒸気を出していて
三人で食べてもすぐには無くならない…
決して女の子一人では消費しきれない数の饅頭が入っていた紙袋がである

「なぁ、あんたぁ」

「ん?」

「あんたぁ、あの手帳の内容をどう思う?」


手帳の内容

老いる事も"病で死ぬも事"もない究極の生命物 究極生命体の創り方

"進化の秘宝"に関して

少女が尋ねてきた、最初に手帳を開いた時は考えもしなかった
少女が詳しい詳細を読み始めた所でふっと"考え"が浮かんだ

いや、"魔が差した"


『ゴホゴホ、お兄ちゃん…』

まず、頭に浮かんだのが不治の病に苦しめられる弟
そして…


「あー、言っとけどよぉ、変な気は起こすなよ」

「貴様に言われるまでも無いわ」

「この"進化の秘宝"とやらは理論が未完成だし、仮にやるにしても
 準備しなければならねぇブツが判明してるだけでもかなりある
 …なにより
   "人間やめるようなモノ"だぜ、こいつぁ…」

「そんな得たいの知れんモノなど身内には使えんよ
 アイツには幸せになって欲しいからな」

「ん、聴いて安心した」


その後も少女が何故、手帳の文字が読めるのか等、到底、5~8歳とは
言えない者同士の会話が続いた

一般人から見れば実に異様な光景だろう
方や『魔術師の天才』、後に『"技術"の神童』と呼ばれる子供同士の会話

「って訳でセンコーに教えられたのさ」

「ふむ、その教師、さぞや名高い魔法使いなのかもしれんな」

まさか、目の前の少女も"込める技術"の関係者だとは思わなかった兄は
心底驚いた、世界に数えられる程しかいない"技術屋"の関係者と
こうも簡単に巡りあう、世の中、狭いものである


 最初こそ、喧嘩ばかりの二人だったが、奇妙な共通点があった…!


互いに技術屋である事、少女は無論だが
兄は酒に溺れて自暴自棄になる前は親を技術屋として尊敬していた
…事業と妻を失って荒れた事から大いに嫌ったが

なにより、共通の話題ができる、"込める技術"の論文や仕様は
唯の魔法使いや学校の教員…一般人の大人では高度過ぎ
着いてはいけない、トンチンカンチンである

そういう意味で、互いに議論できる相手、自分達の理論や疑問点に
賛同、論破できる同年代の人間というのは実に貴重である

「それは一理あるな、…だが何故バナナなんだ?」

「わーお…そいつぁ俺も悩んだんだが
 単にお猿さんが好きそうだからなんじゃね?」

話題は気付けばヒートアップしていた、兄も少女も学者気質だからか
めり込むと周りが見えない所があった、弟がトイレから帰って物陰で
見ているのにも気付いていなかった

(…どうしよう、タイミングを見て帰ってくる筈だったけど
 今行ったら、迷惑かなぁ)

空気を読んで気を使う弟であった…


実に天使だなッッッッ!!!!!


「黄金製のバナナに麻薬成分でも入ってるのかねぇ?」
「単に[メダパニ]が"込め"られているのではないのか」
「じゃあ、この部分はどうなんだよ?[メダパニ]以外にも何らかの効力が
 あるっぽいけどよぉ」
「鎖部分か…これは解らんな」


「っくちゅん」


「「あっ」」

ある"込める技術"の設計図に関して議論に没頭し過ぎていた二人は
木陰でくしゃみをした弟に気が付いた


―――
――


気が付けば高かった日は沈み始めカラスが鳴いている
子供はカラスが鳴いたら帰る時間だ

「…もう、こんな時刻か」

「んあ?マジで?まだ3時間くらいしか経ってないかと思ったんだがなぁ」

「楽しい時間はすぐに終わっちゃうって言うもんね!」

「フッ、たまにはバカと会話するのも良い物だな」

「あっ?てめー、雪玉食わせんぞコラ」

「お姉さん、もう帰っちゃうの?」

「んー?もうちょい兄貴と話してぇのは山々なんだがなぁ、そろそろ
 センコーが俺を探しにくんじゃねぇかなって」

「名残惜しいが、お別れと言うわけか」

「だな」

「ねぇねぇ、お姉さん」

「なんだい弟ちゃん」

「うう、弟ちゃんって呼ぶのは…ううん、それより訊いても良い?」

「何をだい?」


「お姉さんの名前!」


「俺の名前だぁ?」

「うん!」

長い間一緒に居て、長い間遊んでいた、少年少女達
しかし、いまだ互いの名前を知らなかった…

兄は「生意気な小娘」「留学生A」としか呼ばないし
少女も売り言葉に買い言葉で「町人A」だの「クソ兄貴」としか言わない
弟はそもそも少女の名を知らぬ為「お姉さん」兄は「お兄ちゃん」と呼ぶ

見事に三人共、互いの名前を知る機会が無かった訳であった


「俺の名前ねぇ、良いよ!教えてやんよ」

「ありがとう!」
「…まぁ一応、覚えておいてだけはやろう」

「一度しか言わねぇぜ!良いか?俺の名はナジ「見つけましたよ…!」

少女が兄弟に名を告げようとした所で別の声に遮られた少女が振り向くと
あからさまにバツの悪そうな顔でゲッっと言うのであった


「ゲェっ!センコー!?」

おほんっと咳払いを一つして中年の男性がそこには立っていた
リーゼントの様に整えた髪、ちょび髭にメガネで何処か冴えない顔立ちの
バーテンダー風の格好をした男である

「いけませんねぇ、レディーはそんな言葉遣いはしませんよ?」

人差し指を天に向け、チッチッチっと指を振るセンコーと呼ばれる男
先ほど少女が話していた教師なのだろうと兄は考える



だが、これはどういうことだ?








この男、"いつ現れた"のだ?




少女の背後に現れ、声を掛けた
それは分かった、だが、彼女の背後にはコレといって物は何もなかった
ブランコも滑り台も公園の木々も無い
あって、少女の後ろの砂場くらいだが砂の山すらない

まるで近づいてきた気配が無いのだ…っ!


「時に、そちらの方々はお友達ですか?」

「応!生意気な町人Aと可愛い弟ちゃんだぜ!」

男は少女の横を通り兄弟に近づき言う

「どうも、私の生徒がご迷惑をお掛けしたようで申し訳ありません」

眉を八の字にし困ったような顔で謝罪の言葉を述べる教師
冴えない顔という事もあり、何故だか謝られているのだが
こちらが悪い事をしたような何ともいえない感覚を兄は覚える

「あ、いえ、どうもこちらこそ…」

彼は基本的に大人は信用しない、大人は汚い生き物だというのが
彼の経験上、基本的な見方である(今日、足を踏みつけた神官然り)

だが、不思議とこの男には然程、嫌悪感を感じない

物腰が低いからなのか何なのかは知らない

ただ安心できる

安心感を覚える

そんな不思議な…"人を惹き付ける"ような魅力が声にあった


「あのう、おじさんはお姉さんの先生なんですか?」

「ええ、彼女から私の話を聴いたのですか?」

「はい!世界一、尊敬してる人だって言ってました!」
「わあああぁぁぁぁ!?馬鹿馬鹿、それは言わんでくれえぇいい!!」

慌てる少女におやおや、と微笑む教師

「これはこれは、リュウキュウに怒られてしまいますねぇ」

「~っ!世界一っつってもセンコーより父さんの方が一番だかんな!」

「はいはい」


少女と教師のショートコントがしばらく続いた後
教師が兄を見て両手を差し出した

「彼女の面倒を見ていただいたお詫びと言ってはなんですが
 これをどうぞ」

彼の両手には白い大きな布があった、それを広げ、兄弟によく見せる
まるで"種も仕掛けもありません"とでも言わんがばかりに…

「はい!」

ポン!

「うおっ!」
「うわぁ…!」

白い大きな布から出てきたのは真っ赤な薔薇の花束であった
それを手渡された兄は正直、花など貰った所で嬉しくも無かったが
流石に、要らないと返すのは失礼にあたる為、とりあえず受け取った

「すごい!すごい!」

手品を前にしてぴょんぴょん飛び跳ねて拍手する弟

「喜んでいただけたようで何よりです!」

屈んで弟と同じ目線になった教師はにっこりと笑って手を差し出す
手品を魅せてくれたおじさんとはしゃぐ少年が握手をした瞬間である

「さて、もう夜も遅いですし、お二人はもうお帰りなさいな
 そして、こっそり逃げようとしないでくださいね」

「うげぇ…!」

兄弟に別れの挨拶を言っている隙に抜け足差し足で逃げようとする
少女に教師は釘を刺します

「勝手にいなくなったりして駄目でしょう、リュウキュウも心配してます
 "ご両親を哀しませるような子はサンタさんになれませんよ"!」

めっ! っとあまり怒ってるように見えない顔で少女を叱り
教師は手を引いて帰ろうとする

「それでは、お騒がせしました」ペコペコ

「じゃあな!町人Aとその弟よぉ!」


ぽかーん

嵐の様に現れて、去っていた二人を見て兄は呆気に取られていた

「お兄ちゃん!僕達も帰ろう!」

「え?あ、ああ、そうだな」

兄弟も帰路に着く
そんな中、しかし兄の足取りは重たい
家に帰っても夕飯はないし、もしかしたら又、父親の借金関係で人が
勝手に入っているかもしれないと


「こんな薔薇をもらったところで何にな――」

帰る最中、渡された薔薇の花束を何気なく見る

すると…どういうことだ?





薔薇が全て"石"に変わっていたではないか


「な、なんだ、コレは…!」

全く気が付かなかった、いや、重みが変わった事さえ、分からなかった


「お兄ちゃん?どうしたの?」

「い、いや、何でも…ハッ!」

弟の首元…マフラーが少しずれた事で見えた首元から



煙草の火傷や痣が消えているではないか…ッ!



「…馬鹿な、一体なんだというのだ?」

「?」

弟は首を傾げて兄の顔を覗き込む

やがて考えたところで答えなど出る筈も無いと兄は再び歩み始める


「お、坊ちゃん達が帰ってきたぞ」

「…」
「あぅ…」

案の定、ガラの悪い連中が家の前で仁王立ちであった

「なぁ、お兄ちゃん、君は頭イイから分かるよね?
 借りたものは必ず返す、これ、人間の常識、ね?」

「…それは俺達の借金じゃあないだろう、くたばった親父のモンだろう」

「あー駄目駄目、わかってないねぇ、いいかお兄ちゃん
 親父のモンは息子のモン、親父の借金は子の借金よ、分かるぅ~?」

本日何度目か分からない舌打ちをする兄
この輩には[メラミ]などと言わず[メラゾーマ]でもお見舞いすべきかと
真剣に考える

「ねぇ~弟くぅん、君は借りたものを返さないのは悪い事だと思うよね」

「おい!貴様等、その豚みたいな顔を弟に向けるな!」

最悪、殺人を起こす覚悟で兄は手に魔力を込める
今まで、自分が投獄された後、弟はどうなるか?
弟の目に焼死体を焼き付ける訳にはいくまいと今日まで意識してきたが…

「君は本当に可愛いな、まるで女の子みたいだよ、もう幼女っていても
 誰も疑わないくらいだね!」

じり…っ

弟を庇うように前に出る兄

「お兄ちゃんと助けたいと思わないか?おじさん達についていけば
 お兄ちゃんを助けてあげられるよ?」

煙草のヤニ臭い両手で揉み手しながら近づく風俗店を受け持つ男
[メラゾーマ]を確実にぶち込む射程内まであと少し…

「お兄ちゃんも、そんな反抗的な目で…てええぇぇぇ!?」

兄を見て、男は奇声をあげる

正確には兄の右手を見てである


(…?、なんだ?)

まだ[メラゾーマ]は出していない、手を見て何に驚いた?


「な、ななななん、なんだそりゃあ!?」

ここで兄は男が自分が持っていた"石で出来た薔薇"を見ていると気が付く

「これは、[さばくのばら]じゃねぇか!?」

兄の持っていた"石で出来た薔薇"を見て叫ぶ

「[さばくのばら]?」

「……は、ははぁ~、そういうことかい」

何か一人で勝手に納得したような顔をするガラの悪い男

「大昔は[イシス]の近くで採れたが今じゃ滅多に手に入らない
 だからコレクターが喉から手が出るほど欲しがるお宝…
 あの酒飲み親父、こんな高価なモンを隠し持ってたわけか」

どうやらこの男は、この"石で出来た薔薇"…[さばくのばら]とやらを
兄弟達の私物と勘違いしているらしい

「生活苦から逃れる為にソレを質屋にでも持っていこうって考えたんだな
 兄ちゃんよ!そういうモンがあるならおじさん達に渡してもらおうか」

よく分からないが、この男はこのガラクタをえらく欲しがっているようだ
正直、兄にはコレの価値が分からない
男の様子から察して、値の張る逸品らしいが、兄は…

「フン、これが欲しいのか?ならばくれたやろう!」ブン

「うおぁっ!この糞餓鬼、投げるな、割れたらどうする気だ!」

貧困から脱却することも可能だったかもしれないが
金を持ったところで、この連中が二度と来ないわけではない
むしろ、持つ事で執拗に追い回されかねない

「それをくれてやったのだ、二度と俺達の前に現れるんじゃあないッ!」

「ちっ、まぁいいさ、半年はその家の家賃はチャラにしてやる」

ガラの悪い男は帰っていく

「ふぅー」

息を吐いて、その場に膝をつく兄

「お兄ちゃん!!…怖かった、怖かったよ!!」

「あぁ、大丈夫だ…っ!、俺達は大丈夫なんだ…っ!」

今にも泣きそうな弟の頭を撫で、落ち着かせる兄
自分一人なら路上生活もまぁ、悪くは無いが病人を冬の路上に寝かす訳に
いくまい、そのまま、永遠の眠りにつきかねないからだ


「それにしても…」


弟の身体から火傷や痣が消えた

ちゃんと"本物の薔薇"の花束だったものが"石の薔薇"に変わった


どうもこれらはあの教師とやらが関わっているような気がしてならない

「…興味が湧いた」
「え?」

「なんでもない、家に入るぞ」

また、あの少女に会えれば、あの男に会えるか?
奇跡を起こした人間に会えば、また奇跡に縋りつけるのではないか
そんな、根拠の無い何かが兄の中に生まれ始めていた
―――
――


「ふむ、"進化の秘宝"…ですか?」

「あぁ、俺でもあんまり解んなかったんだせ!
 センコーにだって解んねぇだろう」ニタァ

少女は挑発するように教師に言う


「ふむ、確かに難しいですねぇ」

「へっへっへ~、だろだろ!?」

自分より物知りな男にも知らない事がある、それを確信して
ケタケタ笑う少女

「ま、物知りセンコーでも知らない事を知ってる俺ぁセンコーより
 すっげぇって事だな!」

数刻前に「俺でもあんまり解んなかったんだぜ!」と言った少女
相手も知らないが自分もよくは知らないという事実は何一つとして
変わっていないのだが…それはどうなのだろうか?

「おっと、勘違いなさらないでくださいよ」

「へ?」

「私は"難しいですねぇ"と言っただけで"聞いた事も無いですねぇ"とは
 一言も言ってませんよ」

負けず嫌いなのか、変な所で子供っぽい中年の男は少女に言う

「う!うぐぐぐ、
 う、嘘こけぇー、あんなワケ解んないようなモン誰も見た事ねぇよ!」


「ええ、確かに誰も見たことがないかもしれませんねぇ」

穏やかに教師は言うが矛盾している
それに対して少女がハァ?と顔を顰めたのは言うまでもない

「私も、理論は見た事がないのですよ
 ただ、アレと全く同じようなモノが"私の地元"にありましてね」

それで知っているのです と舌をちろっと出して少女に言う教師

「むー、なんだよソレ」

「ふっふっふ、教えてあげません!」

子供っぽく言う中年男性はメガネをクイっとあげて目線を逸らす
その先には

「おお!何やら美味しそうな匂いがしますねぇ!」

「話題を逸らすなよー」

ぶーぶー、ブーイングの嵐を飛ばす少女はなんのその
「まぁまぁ、私が何か美味しいモノでも買いますから」とご機嫌取り
少女は2秒で先ほどまでの怒りを忘れ、万歳である

「あ、ですが食べすぎはいけませんよ
 お母さんのご飯が食べれなくなっちゃいますからね」

「応ともよ!でも覚悟しとけよ、財布の中スッカラカンにしてやるぜ!」

「おぉ、それは怖いですねぇ、カジノのスロット並みに恐ろしいですね」

「…? カ、カ、カジ? 家事のキャロット?」

聴いた事の無い単語に戸惑う少女

「おっと!私としたことが…、今のは、"私の地元"の娯楽です
 まぁ、聞き流してください」

「…?、よく分かんねぇけど分かった」

その後、二人は繁華街でホカホカの饅頭を大量に買い過ぎて

少女の両親にこっぴどく叱られて

教師、少女共に小一時間、正座してたそうな…

>>305 冬の寒い日、特にお腹が空く夜中の奴等は恐ろしいッ!
    あの味ッ あの食感ッ 誰もが奴等には勝てないッ!

>>306 わくわくする展開を創れたのなら嬉しい限りです






兄「あ、ありのままに起こった事を話すぜ
  俺は、薔薇の花束を渡されたと思ったら、薔薇の花が
  石の花束に変わっていたッッ!!超スピードとか催眠術とか
  そんなチャチなモンじゃあ 断じてねぇッ!!」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨



思った以上にオマケが長くてヤバイ…

そろそろ終わりにした方がいいですよね






********************************

>>[さばくのばら] 【ドラゴンクエストⅤ DS】より
[テルパドール]の南西にある名産品、無限に手に入る

>>カジノのスロット 【ドラゴンクエストⅣ】より
スロット…以前にカジノ自体の登場はⅣから
4コマでも占い師がよくスッカラカンになる







『[進化の秘宝]同様に "Ⅲ の世界には存在しない" ……』


おつです
この兄弟の成長記もじっくり読んでみたくなりました


「要はお前の友達とやらは何事に対しても諦めるなと言っていた
 そういう解釈で良いのだな?」

「うん!…だと思うよ?」

何故そこで疑問系になると思っても声には出さない
頭の弱い少女と一時間弱、途切れ途切れな会話をして少女が

「あ!後、なんで助けようとしたってさっき訊いたよね?」

「ん?ああ」

「あれからずっと、どうして助けたかったから助けたのかの理由を
 考えたんだけどね」

お前、今までずっと考えてたのかよ

「多分、後悔したくないからだと思うよ?
 私、もうすぐ遠い所にお引越しするんだ」

またしても話の前後が繋がっていない内容

引越しするから後悔したくなくて助けました…

この小娘は本当に説明が下手だ

「すまん、もう少し分かり易い説明で頼む」

「…? ええっとね、少し前に教会に知らないおじさんが来て私の新しい
 お父さんになってくれることになったの
 私の友達と一緒に居られてすごく嬉しいけど
 この街とさよならするから、遣り残した事やしたいと思った事を
 やっておきなさいって言われたの
 私がいなくなったら、あのおじさんが皆を虐めるから今の内に助けたい
 そう、思ったかな?」

教会で国語の授業…あ、いや、それ以前に彼女は
人とのコミュニケーションを学ばせたほうが良いなと兄は思った

「…やっぱり、私の言う事って変なのかな?」

しょんぼりとした顔で少女は言った

「私はお話がうまくなくて人と仲良くなれないの、私の友達が人間の
 初めてのお友達で、だから嬉しかったんだ…
 あなたも私の事が変だと思うよね?」

何が言いたいのか分かり辛いというのは確かにある、だが兄はある事に
気付いた

「お前の言い方では"諦めない事"を説いた友人が人間の初めての友達だと
 言っているようだが…他に友達はいないのか?」

「ううん!…"スラりん"とか"ロッキー"や"メッキー"他にも"ジュエル"
 私、友達たくさんいるの!
 でも私がお外から友達連れてくると、皆が怒るの…
 神父様もあの虐めるおじさんも
 でも!でも!私のお父さんになるおじさんは「すごいですねぇ」って
 褒めてくれたの!」

両手をパタパタ振ってボッチじゃないと主張する少女
…なんだか変な名前の友達だなと兄は不思議に思いましたが
この娘は説明が下手なんだと、それで片付ける事にしました

「とりあえず、言いたい事は分かったよ
 …お前はそろそろ、帰らないといけないんじゃあないのか?」

あれから大分時が経った、教会で働く子ならそろそろ休憩も終わりだろう

いい加減、この少女との会話に疲れた兄は
「じゃあな、それなりに気分転換にはなった、ありがとうよ」と告げ
公園を去っていった

(結局、あの生意気な小娘と教師の手がかりは今日も掴めそうにないか)

貴重な時間を妙な小娘と話す事で浪費した…そう思い兄は帰路に着いた


雪道を歩き、街の中心から離れて歩きなれた道を進む
道行く人の声も足跡も聞こえない郊外
街道には今朝自分が出て行った後の足跡がまだ、くっきりと残っていた

(日が沈んだら…そうだな、貴族があつまりそうな歓楽街でも探すか)

手に炊き出しの包みを抱えて兄はボロボロの館へと戻ってきた

ギィ…

建てつけの悪い扉を押して帰宅する兄

外の雪道より真っ白な埃だらけの床を進み軋む階段を昇る

「いま帰ったぞ」

暖炉のある部屋、自分と弟がいつも居る部屋に戻る

「…ん?」

もっと早く気がつくべきだったな

いつもならば階段が軋む音で兄の帰りに気がついた

「………おい?」

いの一番に「おかえりなさい!」と笑顔で迎えてくれていた


「…………おい!」


今朝、起きた時と何も変わらない部屋
自分が寝てから起きて、そのまんまのぐしゃぐしゃな布団

すっかり燃え尽きたのか暖炉の焚き木は既に無く、火も消えていた

継ぎ足しようの焚き木はそのまま

誰も触った形跡が無い


今朝、起きた状態と何も変わらない



「…………………………ぁ」



弟も"ベッドの上から一歩も動いていない"






















「……ぁ、…ぅぁ」



弟は…ベッドの上に居た、吐血と痙攣を起こしながら

>>318 この兄弟の成長ですか…納得できる内容に書ければ良いのですが


  兄弟にとって"人生最大の転機"が来ましたね!

このまま一気に書きたい所ですが眠気に勝てそうに無いので仮眠を取って
お昼ぐらいにラストまで書きたい所です…





※ 既に訂正しましたが前回、カジノでスッカラカンになるのは占い師と
書きましたがアレは踊り子の方です


ええいっ!私としたことが嫁と愛人を間違えるとは何たる不覚ッッッッ!





 「という訳で ちょっと己を戒める為にも 【裏切りの洞窟】で
        嫁もどき達と きゃっきゃ うふふ してくる!」キリ




雪道を兄は走った

弟を担いだ状態で以前世話になった医者の元へ駆けた、だが…


「何故だ!? 何故診れんというのだッ!?」

「診療代を払える見込みがない以上、ウチでは面倒みれないんだよ」

「貴様ァ!人命より金を優先するというのか!?それでも医者かァ!」

「人の命を救うのにも金がいるんだよ!!
  確かに君のお父さんがあんな事になる前は当院でもよく診療したがね
 それは払うモンを持っていたからだ!
 …冷たいようだが、これはどうしようもない」

「―ッ」


頭では分かっている、人を治すのだってタダじゃない
タダで治せるなら世界中から病人けが人なんてモノは一人もいなくなるし
たった一人を贔屓すればソレは他の患者に対する不敬ともなる
それでも、それでもだ…





「…お願いします、どうか、どうか弟を助けてください

       たった一人、血を分けた、俺の最後の家族なんです…!」






「…くどいようだが、金が無い以上、我々は何もしてやれない
       …だが、ウチには空き部屋と予備のベッドがある
 そこに寝かせてやりなさい」

「…心遣い、感謝いたします」


医者にできた唯一の慈悲である

(金…っ! 金さえあれば…!)

兄は思い出したようにポケットの中を探る
あの時、偶然見つけた手帳、あの"進化の秘宝"とやらが書かれた手帳なら
金になるのではないか?

いくらになるかは知らないし、そもそも売れるかも分からない

兄は最後の希望を手帳に託す事にした


しかし






「…ない…手帳が無いだと」





彼は少女と教師を探す為、四六時中街の中を駆け回った


希望を… 最後の希望を何処かに落としてしまったのだ


(ふざけるな!こんな、こんな馬鹿なことがあってたまるものか!)

唇を強く噛み締め、涙を堪えた
なんだこれは? 俺達兄弟が何をしたというのだ
神の恨みを買うようなことでもしたというのか?
神の気紛れだとでも言うなら、神様なんてクソ食らえだ
 兄は叫びたかった



「…ぅぉぉぉおお、っくそおおぉぉぉ!」

項垂れて壁に手をついて、嗚咽する…だせるのは金ではなくそんなモノだ

そんな彼の後姿を医者や来ていた客達は
気の毒そうに眺めてやるしかできなかった
 やがて、兄は肩を落として出入り口へ歩いていく
ベッドに寝かされたまま、未だに病に苦しめられている弟を残して


空を見れば雪が降っていた

灰色の曇り空で雪だけが真っ白、陽は既に落ちていて月明かりも輝く星も
雲に隠れて見えやしない

辺り一面が銀世界だった

行く当ても無く歩みを進め、気がつけば彼は…

(…ああ、また此処に来たのか)

例の公園に来ていた

(思えば俺も馬鹿だったかもしれんな、たかが一人の男だぞ?
 なぜあの教師とやらに出会えれば、全てが上手くいくと思い込んだんだ
 藁にも縋るか…、こんな事になるなら
 闇雲に探すなんて馬鹿やんじゃなかった

 もっとアイツの傍に居てやれば良かったんだ…)


後悔、元から病弱で余命も長くないと言われた弟
最後までアイツを幸せにできなかったと悔やむ兄であった

("後悔"…か、昼間知り合った小娘とは真逆だな
 アイツは後悔しないような行動を心がけ
 俺は大切なモノに気付けなくて後悔して…)


そこまで考えて、昼間の少女との会話が脳内で再び再生される




『頑張る事や、見つけたいって意思を失くすのが一番、駄目だと思うよ』
『何事に対しても諦めるなと言っていた そういう解釈で良いのだな?』




(………"意思を失くすな"  "諦めるな"か)

諦めかけていた兄の中でその内容がリピートされる

「…"諦めたくなんてない"、だがどうすれば良いのだッ!
    以前通院した時だってかなりの費用が掛かった、あんな金額…」


ここで兄は思い出した

彼は本当に弟を大事にしていた、だから"その意思"があった事を


偶然、たまたま、あの少女との会話で"諦めるな"と教えられたからか
あの時の会話は再び兄に決意をさせた…!







守るためならば"どんな事でも"必ず成し遂げようとした"意思"




『な、ななななん、なんだそりゃあ!?』




あれから数週間とは言えかなりの金額になるのならまだ使い切ってない筈
心の中で思ったとき、既に兄は立ち上がっていた








『これは、[さばくのばら]じゃねぇか!?』




兄には"その意思"が確かにあったッッ!!


大切なモノを守るためならば…
その為ならば"どんな事でも"必ず成し遂げようとする"意思"があったッ!



















       "殺人"を犯すことを…!

      …守るためならば"犯罪"をも厭わないッッ!!


     そんな "漆黒の意思" が兄には確かにあったのだッッ!!








"頑張る意思を失くすこと"   "諦めないこと"


少女との会話が再び…! 再び、兄に"決意"をさせたッ!


兄は走り出していた、もう人の目など一切、気にしない

 夜の歓楽街へただひたすら走り続けたのだ


ガヤガヤ ガヤガヤ

街の中心寄りのこの通りは今日も賑わっていた
多くの人の声が行き交う中、一人の少年が走り抜ける

彼は唯一人の家族のために"あの男"を探す

少し前に我が家に来て"石で出来た薔薇"を持って行った男だ

肩を組んで善いながら歌う仕事帰りの大人達
相手の胸倉を掴んで罵り合う男
道行く人に甘ったるい声を掛ける娼婦
誰からも気にかけてさえ貰えないホームレスの死体

人…

人、人、人、人、人、人

人 人 人 人 人

見渡す限り人の山

人混みを掻き分けてついに兄はお目当ての人物を見つけ出す

「それで、この間のオヤジを蹴り飛ばしてやったのさ!」
「きゃ~ん、おじさまカッコいい」

夜のカフェテラスで椅子の背もたれに身を預け
両脇に女を侍らせるガラの悪い男
ガーデンパラソル付きのテーブルの上にはビールのジョッキ
香ばしい焼き鳥や豆といった定番メニューが乗っていて
そして…

「うぅ~ん?おい!酒がねぇぞ、ウェイター、おいウェイター!」

「はい、お客様」

「酒だ!酒!ビールを大でもう一杯だ!」
「ねぇ、おじさまぁ、私達にもいただけないかしらぁ?」
「私も喉が渇いちゃったなぁ、苦味の強いのが飲みたいの」

「でへへへ、おい!後二杯追加な!心配すんな、ホラ、金なら
 たーんとあるからよ!」

テーブルの上に置かれているのは料理やジョッキだけではない
白いスーツケースが一つ
ガラの悪い男はスーツケースを開けるとその中から適当に札束を取り出し

「ペロ…ええっと、ひい、ふう、みい、っとホレ勘定だ釣りはいらねぇぞ
 チップとしてもらっときな!」


物陰からその様子を覗く兄
彼は"犯罪"を…そう"盗みを働く"気でいた

漆黒の意思はあるが彼とて可能ならば殺生の無いように済ませたい
だから"犯罪"であってもギリギリ
そう、強盗殺人ではなく、"盗む"で手を打つ…!

自分一人が投獄されれば、それで良い
無期懲役だろうが何だって構わない、それで弟が助かるならば
喜んで豚小屋にぶち込まれてやろうではないかッ!

ゴミ捨て場から拾ってきたボロを纏い、顔も隠す
体格であの男に気付かれてしまうのかもしれないが…
廃棄された古い香辛料入りの瓶、穴が空いて捨てられたボールを持ち

(…アレを利用させてもらおう)

目に付いたモノを見て彼は思った


兄は物陰から一歩前に出て辺り見渡す、周りの大人達は
自分を見向きもしない…死んでも気に留めないホームレスと同じように
思っているのかもしれない

「…行くぜ、[メラ]ッ!」


―――
――



「イッキ、イッキ!」

「だはは、もっお持っえこ~い」


「…? 何か焦げ臭くないかしら」

「あぁ?何いっれんらぁ?へんあ匂いなんぁ…あれ?」

グデングデンに酔った男が女に訊かれ鼻をヒクつかせる
確かに焦げ臭い匂いがする、しかし、周りを見ても火の気はまるで無い

「…気のせぃでないの?だっはははははは」グビ

手拍子を止めた女達に笑いかけ男は再びジョッキを口に運ぶ
近場の店で料理でも焦がしたのだろうと女達も考え手拍子を再開する


この時、男は腰に手を当て、上を見上げるようにして酒を飲んだ
そして、大いに噴出した


「な、な、はああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」



「きゃあああああああぁぁぁぁっ!?」
「か、か、火事だああああぁァーーー!!」
「うわあああああああぁぁぁぁ」


ガラの悪い男達が座っていた席
そう、カフェテラスのテーブルにはよく備え付けられている
"ガーデンパラソルが勢いよく燃えていた"のだッ!!


火災が発生した経緯はこうだ

まず兄が[メラ]を唱える
ただし!その[メラ]は極限まで火力を抑えたモノで
マッチ棒の火となんら変わらない程のモノである
[メラ]に限らず、呪文の調整は難しく、小さくしようものなら
火花すら発生しないし、逆に料理用に高い火力でやろうとすれば
鍋ごと消し炭にするなど
 常人では困難な事である

"天才的な魔法使いの才能"があった兄だからこそできる芸当

マッチ棒並みの火力にした火球を穴の空いたボールに入れる
キャッチボール用の小さなボールに入った火球は内部から徐々に燃え
次第にボールの表面からも火を噴出すようになる

完全にボールが燃え始める前に、火を入れてすぐ、燻り始めている間に
コレをガーデンパラソルの上に投げる

彼はどこぞの男っぽい少女と違い、根っからのスポーツマンじゃない
当然、コントロールを外すこともありえた
だから、更にもう一発最小の[メラ]をボールの中に入れる
 魔力調整ですぐに爆発しないタイプの火球だ

それでボールを着弾地点(パラソル)まで
"ボールの内部から[メラ]で押し出す"ような形で誘導した

店の明かりである程度は明るくとも夜間だ上空に火の玉が飛んだら
怪しまれる、だから敢えてボールの中に[メラ]を隠すような形にして
パラソルの上まで飛ばした、あとはタイミングよく発火させれば良いのだ


「うわああぁぁぁ!?」

燃えるパラソルに驚く通行人、突然の火災に混乱するガラの悪い男達
チャンスは今しかないッ!


逃げ惑う通行人と逆に見物人のつもりか
火の粉が飛ばぬ位置まで寄る野次馬の群れを掻き分けて兄は進む
目指すは燃えるパラソルの下…白いスーツケースだッ!

「店員!何あっえんだ、早く火を消せぇ!」

酔いが抜けず今だ、呂律の回らない口調で怒鳴る男
大慌てでテーブルから一度は離れたが金の入ったスーツケースを
置いてきた事に気が付き、燃えては困ると慌てて今も勢い良く燃える
火災の発生源へ向かう

「お客さん!危ないですよ離れてください!」

「るっせぇ!、離せ!」ガッ

男は自分を引き止めようとしたウェイターを突き飛ばし走り出した

「お、お客さああぁん!って、お、おい、き、君!」

地面に転がったウェイターが男に呼びかけた直後、自分の脇を小さな影が
通り過ぎる、そう、この件の放火犯だ!

「うおぉぉぉぉ!!」
「んあ!?だ、誰だお前!?」

顔を隠した兄はすぐに未開封だった香辛料の瓶を空け
男の顔にぶちまけた

「あだあぁぁぁぁぁぁ!!」

目を押さえコンクリートの地面に転げる男を追い抜き彼は…


ガッ!


(取ったッ! 取ったぞッ!!)


ペキペキッ

(!?)

火はパラソルの中棒部分にも既に燃え移っており
上部の傘布部分がそのまま落ちて来る

「…ッチィ!」

重たいケースを持ってその場からすぐに離れようとするものの
燃える傘布はテーブルの上に…
アルコールが大量に置かれている卓上に落下した


       ゴオオオオォォォォー――!

「あぐっ!」

アルコールに勢いよく引火し、暴発するジョッキ
更に煙と熱気を広げる火元
弾け飛ぶ大皿やグラス等の陶器の破片を背中越しに受ける兄

「おい!バケツはまだか!子供が飛び込んでいったんだぞ!」
「今、持ってきたぞ!」

数人の大人と店員達が消化作業を試みる

地べたを転げまわったガラの悪い男は酒で勢い良く燃えた火元から
膝を突きながら離れた、流石に命あっての物種である
熱気と黒煙で近づけない、兄の姿も確認できない
それでも大人達はとりあえず、火元をどうにかする事に必死だった


そして…程なくして火災は無事に鎮火されたのだが

「こりゃあ、ひでぇ、真っ黒焦げだ」

消火に当たった通行人が黒焦げの焼死体を見て嘆いた


テーブルの付近にあったのは小さな子供の焼死体であった
全身が炭化していたため顔はまるで分からないだが齢はおよそ八歳ほどだ
ウェイターもこれには「自分が止めなかったせいで…」と嘆いた

なお、現場に焼けたスーツケースが落ちており、中に入っていた紙幣は
殆どが燃えカスとなっていた

何故、火災が起きたのか店側は検討が付かないが分かっていることは
明日の朝刊にこのボヤ騒ぎが載るかもしれないということだけであった



























「…ぁ、…はぁ、ゲホゲホ」ドサ

肩を抑えながら彼は地面に倒れた

「へ、へへへへ、ざ、ざまぁみやがれ盗ってやったぜ…」

歓楽街から遠く離れた裏路地で彼は…!


兄は笑った…っ!

あの時、傘布が落ちる時だ、咄嗟の判断だった
二頭を追うもの一頭も得ずとはよく言ったもの

兄はスーツケースの中身を根扱ぎ頂くのではく、ケースを開けて
ポケットに入れられるだけ入れて逃げたのだ

あの重さのモノを持って離れようと思っても逃げ切れない
あそこで焼かれてお陀仏だったのは間違いない事であった

スーツケースは開きっぱなしだったから、余りは燃えカスになっただろう

それを思えば、少し、惜しい気もするが命には代えられない

「ッ~、肩が痛いな、早く行かねばッ…」

最後に彼はもう一度だけ、後ろを、歓楽街を振り返り


「…ありがとう、そして、すまなかった」とだけ言ったのだった


あの時、兄は
『(…アレを利用させてもらおう)』"目に付いたモノ"を見て思った

飲んだくれていた男達の更に奥の路地からチラッと見えた…"アレ"


死んでいても『誰からも気にかけてさえ貰えないホームレスの死体』だ



火の手から持てるだけの金を持って逃げる
燃えさかる火炎と黒煙で兄が奥へ向かった事は誰の目にも見えない
そして、ホームレスの死体に[モシャス]を使ったのだ

死体は見事に兄ソックリの姿となった、後はソレを焼ける所まで運び
自分はそのまま逃走すればいい


…この街は大きく発展している街と呼べる
その分、問題視されるモノも多いのだ

もしかしたら、あの死体は自分達だったのかもしれない

あの館を追い出されて、弟と二人で路頭に迷って
やがては誰にも気付かれずに死んでいた…

誰にも見向きもされない、居てもいなくてもいいようなゴミのような人間

道端の石ころや雑草と同じように、自分達も扱われたかもしれないのだ
国の人間が遺体を片付けるまで、ああして野晒しにされる

その可能性は自分達兄弟にも大いにありえたのだ



そんな自分達のもう一つの可能性とも言える人の死体をぞんざいに扱った
 決して罪悪感が無い訳ではない…

むしろ、泣きたかった…


"殺人"だろうと…"犯罪"であろうと"道徳に反する事"でも

"どんな事でも" 成し遂げる"漆黒の意思"が兄に会った…

だが実際に死体に対してした事に心を痛め、礼と謝罪の意を敬した




かくして、彼は弟を救う事ができたのだ…

*********************************
*******************
********



パチィッ


「ハッ…!」

兄は眼を覚ました

どうやら火の番をしたまま、うたた寝していたようだ

煤だらけの暖炉の中でパチパチと火の粉を吹き上げる焚き木
弟が取っての取れたバケツで汲んできた水はお湯に変わっていて
弟は規則正しい寝息でベッドに眠っている

(この寒空の下、井戸の水汲みなんぞしやがって…馬鹿者め)

手も皸ていただろうに、そこまで思い兄はここ数日で何度目になるか
分からぬため息を吐く

「弟よ、それだけ俺は頼りにならんというのか…」

まだ痛む肩を抑えて考える

(あれから丁度一日、[モシャス]が掛かった死体はそろそろ、元に戻る
 その前に国の共同墓地に埋葬でもされたなら良いが
 そうでなければ、俺が生きてる事があの男にバレちまう…
 隠し通せてるなら、今後は街中で二度と会わない事を祈るしかないか)




「ごめんくださぁい!何方かいらっしゃいませんか?」


ビクっ

誰かが我が家の前で声を上げた
つい前日、命がけのギャンブルをやった兄だ挙動不審になっていた

(だ、誰だ、こんな時間に!
 い、いや、そもそも、ウチを訪ねてくる奴など…)



「くぉらぁ、町人A!てめーが此処に住んでんの分かってんだぞ
 観念して出てこやぁ!」


「…」


気が動転してて気がつかなかった、そういえば今の男の声は…
 そして、今叫んだ、馬鹿みたいな女の声は…

窓から外を覗き見る、其処には確かに居たのだ

自分が求めて止まなかった人物が…!


「よかった、やっぱりここだったんだ!」
「おや、見えたのですか?」
「応、ソイツの言うとおりだぜ、町人Aはあそこの窓から見てるぜ」

饅頭の小娘、教師、そして何故か昨日会ったパンの小娘が居た
これは夢か?まだ夢でも見ているのかと頬を抓るが
現実的な痛みからこれは本当なのだと兄は知った


彼は慌てて、玄関へ向かう

何故、此処に居るのか、何の用で来たのか?

「どうも、お久しぶりですね、まずは突然の訪問で失礼致します」

頭を下げる教師、そして

「あのね、あのね、あなた公園でコレ落として行ったでしょう?」

パンの少女は手帳を持って兄に問いかける

「いつも教会にご飯を貰いに来てるよね?私の新しいお父さんに相談して
 探してたの」

「ごほん…、此方は故あって養子として引き取った子です、彼女の話と
 いつも教会に来る人の証言から失礼ながら
 貴方の住所を調べさせて貰いました
 …実は今日は貴方に折り入ってご相談があるのですが
 お時間宜しいですか?」

兄は三人を家の中に通した

「さて、どこからお話すべきですかねぇ?」

少し顎に手を当てて考える素振りを見せ教師は答えた

「私は現在、特別な才能のある子を訳有りで探していましてね
 この子もそういった理由、"形式上"は養子として引き取りました
 そこで、本題なのですがどうでしょうか?
 私の元で助手兼弟子として働いてみませんか?」

突然の勧誘であった

「いくつか質問をしても?」

「ええ、どうぞ!」



「まず、どう言った理由で雇うと?」

「貴方から素晴らしい"魔法使いの才"を感じましてね
 あ、私も一応は魔法使いの真似事ができるだけの才がありましてね
 貴方の素晴らしい才を感じ取れるのですよ」

「それだけですか?」

「うーん、それだけでも合格点なのですが
 もう一つ、どうしても気になる事がありましてねぇ」

教師が手帳を指差し言う

「その手帳に書かれている内容が個人的に気になるのですよ
 そこで所有者である貴方とビジネスがしたいのです」

ポンっと手を打ち教師は言う

「私の元で助手として働いて頂きたい、当然ですがお給料は
 お支払い致しますし、貴方と弟さんの生活も保障致します
 私の自宅で宜しいければ空き部屋を使っていただいて構いません
 お食事も三食、あ、三時のおやつもありますよ」

今の自分達の状況を考えれば天国と地獄の差がある程…だからこそ

「どうにも納得いきませんね、何故そこまでの優遇なのですか?」

「そこは今、ご説明致します
 先も言いましたがその手帳に書かれている内容が個人的に気になります
 ソレに記された内容は"私の地元"にあった"あるモノ"と非常に
 似通っていましてね…どうにも放っておけないのです」

「…つまり」

「ええ、今、お考えの事で合っています
 私にそちらの手帳をお譲りください…それが駄目だというなら
 読ませていただくだけで構いません
    私はその手帳にそれだけの価値があると睨んでいるのです」


「…」


兄は悩む

本当にコレを読ませていいものかと…
結局、自分にも読む事ができないし持っていても変わらない
ならば…


「問題があるとすれば、この街から出て行く訳でして
 遠い海の向こうへ移る為「良いでしょう」思い出の品など…へ?」

「構いません、ただし、俺と弟の生活を保障してくれるのは本当ですか」

「え、ええ、即決ですが良いのですか?」

白いハンカチを取り出し、汗を拭く男

「ええ」


どうせこの館に居ても、どうにもならない
子供だから働き口も無く弟の今後の診療代が払えるとは思えない
この街で暮らしていくのはもはや困難な状況なら
最後の大博打に乗ってやろうじゃないか

兄は自分の直感に従う事にした


「…では、たった今より貴方を助手として雇用しましょう
 貴方のお名前を御聞かせ願えますか?」

「俺ですか?…俺の名前は―――」



『少女と星 編』番外編2 ある没落貴族の兄弟の話 ~ fin ~   

*********************************

もはやオマケじゃない程度の長さになってしまいましたね…

さて、此処で一つすごいネタバレをします

実は…










このオマケ編に出た口の悪い少女は何と


   『幼少期のナジミ』   だったんだァー!
クリスマスの少女と没落貴族の方の少女も同一人物(ナジミ)です

いやーまさか誰もナジミだとは気付けなかったでしょうねー

以前ナジミが 悪友 悪友の弟 もう一人 と[青い石]を探してるって
発言したので今の内にチラッと語れたらと思って今回のオマケを作った
すごく脇道に逸れたましたが…

何はともあれこれで次章に行ける
ジョセフィーヌの出番が(ちょっと)増える!
どうぞご期待を…

おつ

チビナジミダッタノカー
所で「ッ!」ってなってると某荒野のRPGを思い出すわ

ナ、ナンダッテー!

全然気付かなかったわ・・・

乙!
ゼンゼンワカラナカッタワー

                   ※


                   ※


                   ※




 ‐ ねぇ、お母さん

 ― なぁに? 

 ‐ どうして、私はお家に帰れないの?

 ― それはね、私達はお引越しをしたからよ ここが新しいお家よ

 ‐ そうなんだ

 ― そうなのよ

 ‐ ねぇ、お母さん

 ― なぁに?

 - 私…まだ眠れないよ

 ― どうして?

 ‐ だって夜はお外も真っ暗でお化けが出そうで怖いから

 ― なら、お母さんがついててあげる そうだ 子守唄を歌いましょう

 - お歌を歌ってくれるの!

 ― ええ、私も子供の頃 怖いときは歌ってもらったのよ


   ずっと此処にいるから、傍で歌ってるから、安心してね
















                パチリ


「…夢かぁ」

目が覚めての第一声はおはようじゃない
欠伸から始まるスタート

今は朝でも昼でもなくて真夜中なんだけどね

「お目覚めですか」ペラペラ

「…アンタ、まだ読んでたわけ?」

「ええ、ただ何もせず無駄に時間を浪費するのは性に合いませんので」

寝起き一発で不愉快なモノを見たわね、顔色一つ変えずに本を読む女
…"こんな事態"なのによくもまぁ、落ち着いて読書が出来るわね

「ねぇ、"彼女"は何時頃帰ってくると思うジョセフィーヌ」

「さぁ?目当てのモノを採取するのにどれ程掛かるか分かりませんので」


素っ気無い返事ね

声にこそ出さないけど、視線で訴える
だけど、このクールぶって本の虫になってる小娘は此方を見ようとも
いえ…気付いてるけど無視の方向性なのかもしれない
そう考えたら私が今やってることが無性に馬鹿馬鹿しく思えた

「…やっぱり私はアンタが苦手かもしれない」ボソ

肌寒い空気、洞穴を暖める唯一の熱源は枝を拾い集めて作った焚き火
白い煙が夜空へと昇ってやがては消えていった
何となしに煙の行方を目で追えば視線の先にはお月様

まんまるなんかじゃない、笑ったような三日月だ



今、私はこの無愛想な読書家と二人っきりである女性の帰りを待っている

なんでこんな事になったかって言えば、そうね…

あれは今から遡って―――















「わーお…そりゃあマジですかい」

その日、読書家少女の旅の連れはいつものように酒場で大暴れしたらしい
いつも暴れるっていうのは一体どういう事なのか疑問に残るけど
詳しくは訊かない事にした

「あぁ、嬢ちゃん? ちょいと予定変更したいんだけどさ良いかい?」

「何かあったんですか?」

「予定なら、このまんま俺達ぁ船に乗って南下して
 俺の故郷まで行く予定だが途中で拾ってかなきゃいかん奴が居てな
 北上して[ムオル]地方へ向かう」

「拾ってかなきゃならない?」

「ずいぶん前に嬢ちゃんには話したっけ俺にゃあ悪友達がいる事」

「ええ」

「本来なら故郷の拠点で待ってたりすんだがな
 その内の一人がそっち側にいるらしい
 …どうせ帰るなら、せっかくだしソイツを連れてこうと思ってなぁ」

「さっき酒場前で人と話してましたがその人から聴いたんですか」

「ん、まぁな
 ソイツはこの街の奴に俺と思わしき人物が来たらそこへ向かうと
 メッセンジャーボーイに金を支払っていたらしい」

「? 私達がこの村に立ち寄るのをその人は分かってたんですか?」

「…あー、アイツはちょっと特殊な奴でな
 まぁ、その説明はアイツと会ったら教えてやるよ」

「…ちなみに『俺と思わしき人物が来たら』と言いましたが
 どういう人が来たら、メッセージが届くようになってたんですか?」

「…酒場で野郎をぶっ飛ばす奴、もしくはシードルを延々と飲む奴が
 目当ての人物だと伝えられてたらしい」


    実に的確な表現ですね!   う、うるせーやい!
などとそんな会話が繰り広げられたらしい

どっちみち彼女達の目的地行きの船は人気の無い場所で
限られた回数しか出航しない
 だから、港に到着した後も長く待ち惚けを食らう事になるらしい

それで二日掛けて(道中[ムオル]に立ち寄り宿を取り)件の人物に会う為
[ムオル]から更に北西を目指そうとした


そこが問題だった


ばきぃっ


川を渡ろうとつり橋を進む二人
そこでこれまたベタな展開と呼べるわ

見事に橋板が壊れて、読書家は真っ逆さま

そして…水しぶきを上げてどぼん!

連れの黒コートは丁度、渡りきっていた為、落ちなかったらしいわ

多分、今頃は大急ぎで目的地の村に行って救助でも呼びに行ったかもね
流石に、ほぼ絶壁と呼べる渓谷の上から準備も無く降りるアホはいない




「う、うーん」
「いったぁ…なんなのよ一体?」

私はカヤックで川を超えようとしていた
そりゃ驚いたわよ
空から女の子が降ってくるんだもん
落ちてきた衝撃でアタシのカヤックは見事に転覆、沈没
二人揃って下流までどんぶらこっこよ

「…?ここは」

「ん、アンタ誰よ」

互いに目を覚まして見ず知らずの人間がいるのを確認する



これがアタシと無愛想でクールぶった読書家の出会いだった


―――
――



「…で、アンタはつり橋から落っこちて近くを漕いでいた私を
 巻添えにしてくれたわけね!」

「その事については大変申し訳なく思っています」

「…はぁ、いいわ、ここでぎゃーぎゃー言っても拉致が明かないし
 今はここから出る事を考えましょう」

まずはお互いの持ち物、装備の確認をしようという形で話はついた
私の持ち物、ナイフが二本にコンパス、地図…は濡れてびしゃびしゃ
おまけに食料と着替えも川の向こう…今頃海かもしれない
マッチは…これ使えるかしら?

それと……うん、防水加工の筒に入れてたから"これ"は濡れずに済んだ

「…アンタは、殆ど流されたみたいね丸腰じゃないの」

「いえ、私は大丈夫です"コレ"があるので」

そう言うと彼女は真っ白な[おおきなふくろ]を掲げる
…? いやいや、何も入ってないようなペラペラの袋一枚じゃないの!?

*********************************

>>337 スレを建ててより30年…『乙』されることは、私にとって最大の
    願いでした。今ここに『乙』を迎え、悲願は達成されました…。

>>338 村長の家とはッ!
    それ即ち爆破すべきものであるッ!


>>339 >>340 >>341
 や、やったぞー みんなをだますことに せいこうしたぞー(かんき)


さて、前回とオマケでメインヒロインの出番を大幅にカットし
尚且つ、今後ものすごく出番が少ないと宣言しました
その為…

今回はジョセフィーヌと巻添えで溺れた人にスポットを当てます
※ナジミさんはしばらく控えてもらいます

「なに?メインヒロインの出番が少なくて困る?
 ジョジョ、逆に考えるんだ…
 主役を空気化させて調整を取ればいいさと考えるんだ」

という逆転の発想を徹夜明けに思いつきました

『ジョセフィーヌの小さな冒険 編』開始です


*********************************

>>"ボールの内部から[メラ]で押し出す"ような形で誘導した

兄が使った[メラ]に関して分かりやすい補足

分かりやすく言えばアレはヤムチャの繰気弾と同じです
穴の空いたボールの中に繰気弾を入れて傘布まで内部から押して飛ばす
これで運動神経の無い魔法使いでも百発百中という訳ですね

乙。


「うん、そうだよ」

彼女は質問に対して肯定で返した
強靭な二本足が生えた魔物の背の上、乗り心地は大変よろしくないわね
 大荒れの船上みたいに視界がブレまくる揺れの中でサイドテールの女は
不思議そうな顔で私達に問いかける


「…? えーと、もしかして二人とも気分が悪い?」


「あ、ああ、あ、ああた、当た、り前でしょおおおおおぉぉぉ!?」
「…うっ、ごめんなさい、できれ、ば、速度を落とし、てくれますか?」


船酔い…もとい魔物酔いしそうな感覚だわぁ

これ時速何キロよ?
耳に入るのは私とジョセフィーヌの声、心配そうに声を掛ける女
目に映るのはぐわんぐわんと上下にブレまくる景色
 緑、碧、翠…色の濃い葉、垂れ下がる薄い色の蔦、生い茂る草木
目に映る色が景色が…矢の如し速さで私達の後ろにすっ飛んで行くようだ

「あ、あの、えっと、…ごめんなさい
 安全な所まで二分くらいだから頑張れる?」


「い、いやああああぁぁぁぁぁぁ!?」


―――
――


日光が殆ど遮断された鬱蒼とした樹海
そんな樹海にも光が射すところがあるようで

良く澄んだ綺麗な湖

木々の隙間から射す木漏れ日に照らされた湖
上流から流れてくる天然水の川、こんな至近距離に人間がいるのに
鹿だって水をちろちろと飲んでいる
 まるで童話のワンシーンを切り抜いたような幻想的な光景

「やっ、と、止まりまし、たね」クラ
「そ、その、ようね…うっ」グラ

「あ、あの、お水飲む?」オロオロ

「ぎゃぁー」バサバサ


よろよろと鳥頭から下乗する私と読書家の少女
 そんな私達をすごく心配そうに見ながらうろたえるサイドテールの女
……何言ってるか解んないけど「やれやれだぜ」って感じで
羽をバサバサさせる[レッドペッカー]

「貴女には、色々と、お尋ねした、いのですが…今は、休んでからに…」

ジョセフィーヌがサイドテールの女に言う
私も色々訊きたいけどさ(魔物の仲間なのかとか)今は無理だわ

私達はしばらく湖で休息を取ることにした…

十分くらい経ってからかしらね、ようやく息も整い始めた
サイドテールの女を見ると彼女は"筒のようなモノ"を手に持っていて

「お疲れ様、ゲレゲレ」

「ぎゃぁ!」

筒を鳥頭に向けて言ったのだ

「 "イルイル" 」

ギュンッ!   シュポンっ!

"イルイル"と言った途端、鳥頭は光になって筒に吸い込まれていった…


「な!、な、なな」
「"込める技術"ですよ、ヴァージニアさん」

魔物が光になって消えた、その光景に驚いていたら
隣に来たジョセフィーヌに言われた

「[おおきなふくろ]と同じです…少し前に私はアレと同じモノを
 見た事があります」

「…」


空から女の子が降ってきたり、底なし沼で死に掛けたり、魔物酔いしたり
…誰も見た事も聞いた事も無い"技術"とやらを見たり
今日は本当に忙しい日ね

「それで?あれってどういうモノなの」

「簡単に説明してしまえば
 "一体だけ魔物を中に込められる"そういう筒ですね」

「あの女が今"イルイル"って言ったけど、使うには呪文みたいなモノが
 いるって訳? ヒラケゴマーみたいな?」

「ええ…千夜一夜物語ですか」

「詳しいわね」

その本持ってますからねと彼女は言う
ここで話の軸がずれそうになったから話を戻す事にした

「じゃあさ、…その、さ
 あの女、魔物に乗ってたし、休憩中に魔物と会話?してたじゃない
  …あれって人間なの?」


魔物と人間


普通に考えて相容れぬ仲…

草食動物が草花を愛でるだろうか?
果たして肉食獣や鹿や山羊と睦ましい関係となれるか?

答えはNOよ

それが世間一般での認識で常識なのだ、だとしたらあの女は人間じゃない
魔物が人間の皮を被っているだけの化け物なんじゃないのかと
小声で彼女に尋ねた


「ヴァージニアさん…
       それは違いますよ」


私の当然の疑問は次のように反論される

「では逆にお尋ねしますが
  魔物と人間が必ずしも相容れないと断言できる証拠はありますか?
 ある街で読んだ文献ですが過去に"魔物を操り曲芸をさせる人間"がいた
 そんな記録があります」

「…うっ」

[おおきなふくろ]から一冊の本を取り出しページを開くジョセフィーヌ
確かに、[スライム]の火の輪潜りや[いっかくうさぎ]の綱渡りなど
変わったサーカスがあると記されている

「ちなみにこの本もちゃんとフィクションではないと手に入れた店の店主
 実際に公演されたという街に立ち寄る機会があった為に当時を知る人に
 本の内容について関して訊ねて、真偽の裏づけも取ってあります」

本が間違っている場合もあるし、何より真実を探求するのが趣味ですし
彼女はそう言った

「もちろん、ヴァージニアさんのお気持ちも確かに解ります
  …人間が魔物と分かり合える筈がない
 少し前の私もそう考えてましたし」


「アンタもそう考えてた?」

「ええ、まだ少し視野が狭かったんですよ私は
 『そもそも、魔物は人語も話す事すら無理なんですよ』と
 一緒に旅をしていた人に突っ掛かったこともあります
 あの人は『頑張れば魔物も人になれる』とすら言ってのけましたが」

「魔物が人になる!?」

それこそ「そんな馬鹿な」反論したい

「私も色んなモノを見てきましたし
  実際に"[ホイミスライム]と恋仲になった男性"も見た事ありますし」


「えっ?」


   [ホイミスライム]

クラゲみたいにふよふよして[ホイミ]使えるあの[ホイミスライム]?

人間の男性がそれと恋仲になった?



えっ?




えっ?





「えっ? なにそれこわい」

「…うん、まぁ一般的な人間の反応ですよね」


「アンタ…底なし沼で死に掛けた時も妙に冷静だったけど
   なんとなくアンタが冷静な理由が解ったような気がする」

アレだわ
あまりにも非常識な光景の見すぎで
ちょっと悟り開いちゃった的なアレなんじゃない?

「アンタって命の危険にあったことが何度もあったりする?」

「…さぁ?一番の危険といえば自分が長年使えていた主が殺人鬼で
 ふとしたことから秘密を知って危うく殺されそうになった事かと?」

「予想以上にハードな人生送ってたァー!?」

冗談半分で訊いたつもりだったけど
この読書家少女の人生内容…色々と濃すぎでしょ!

 殺人鬼の使用人だったり、 "技術"という未知の存在を知ったり
人外カップル誕生に立ち会ったり、つり橋から落ちても生存してたり

うん、達観するのも頷けるわね!


「二人とも、もう大丈夫?」

首を傾げて訊ねるサイドテール、長い髪も同じように傾く
その「大丈夫?」という台詞は二人というよりも
突然叫びだした私宛のように思えた

「ええ、私もヴァージニアさんも落ち着きましたので大丈夫です」
「私は…色々突っ込みたいけど、大丈夫よ」

「良かったぁ」

本当に嬉しそうにぱぁっと微笑むサイドテール
悔しいけど可愛いと思った…私も顔には自身あるんだけどね

*********************************
>>354 『乙』だ乙の数を数えるんだッ
    乙は孤独な>>1に気力を与えてくれるッ 2…3…5…7ッ!

>>354 うろたえるんじゃあないッ!ジョセはテンパらないッ(経験的に)


3レス分で申し訳ありません、夜勤帰りなモノで睡魔に負けそうです
可能なら今夜…できるなら投下したいとは思います
*********************************


無理せず頑張ってくれ!

乙。
改めて考えてみるとジョセフィーヌの人生は壮絶だなwwwwww

おつ
だってジョセさんですから


―――
――


時計なんてモノは無い

くどいようだけど此処は樹海だ
見渡す限りの自然、天然の景色がそこにある
カッチカッチっと規則的な音を立てる歯車仕掛けの人工物は無いのだ

比較的に日が射すため明るい湖周辺だが薄暗いことに変わりはなく
今が昼間なのか、はたまた既に陽は傾いているのか、時刻は不明だ

夜は魔物の世界である

底なし沼の出来事は確かに悪かったとは思ってるわ、でもね?
それ抜きにしても急いで樹海から抜け出すべきだってのは変わらないし
[聖水]を見事に全部無くした(ついでに私のコンパス…)なら尚更
夜になっちゃう前に急ぎで脱出すべきだと思うのよ…私はね

つまり何が言いたいかって言うと









「こんな所で暢気に
       おやつタイムなんかしてる場合じゃないでしょおぉ!?」


「ヴァージニアさん、騒がしいですよ」


底なし沼に浸かって泥だらけになった私とジョセフィーヌは
[おおきなふくろ]から出した新しい服に着替えた
そして、サイドテールの女はピクニックなんかで使うレジャーシートを
地面に敷いて、更にその上に彼女のお手製のおやつなんかを並べた

ついでにジョセフィーヌが自分の袋からティーセットを取り出した

そして現在に至る……

…いやいや、おかしいでしょ

「ジョセフィーヌ…アンタだって一刻も早く樹海から出るべきって
 考えないわけ?」

「いえ、考えてますよ、あっ、ダージリンとアールグレイどちらで?」

「だったら尚更、こんな所でゆっくりしてらんないんじゃ」

「…ええっと?ヴァージニアちゃん?」

「…何よ」

サイドテールの女が声を掛ける

「あのね、此処ならそんなに急がなくても大丈夫だと思うの」

「いや、魔物がわんさか住んでる樹海だから危ないんじゃないの」

「えっと、そうじゃなくてね、"この湖"のことを言っているの」

「…?どうゆうことよ」

「ここは皆があまり近づきたくない場所だから」

この女はあまり説明が得意な女じゃなかった
だから、初めは何を伝えたいのかがサッパリだったけど
あることに気付いて解った


「その人の言うとおりですよ…私達がこれだけ騒いでいるのに
         "さっきから一向に魔物が現れない"じゃないですか


「はい、どうぞ」

「あー、ありがとう」

いい加減に観念した私はサイドテー…セルミィから渡されたクッキーを
口に含んだ

さくっ

…ココアパウダー使用の簡単なクッキー
甘さは強すぎ、されど薄すぎない、それでいてしっとりとしたモノで
口の中に解けていく感じ、悪くないわね


 チー   チー


…ん?

「チー」

動物の鳴き声、よく見るとセルミィの肩に真っ白で小さな鼠が乗っていた
それを見て、彼女はポケットから一口サイズのチーズを取り出して手渡す
ペットか何かかしらね

「"チロル"チーズだよ」
「チー」

「その子ってペットなの?」

興味本位で彼女に訊くと「ペットじゃないよ、友達だよ」と返される
…この人はひょっとして人間の友達がいないんじゃないだろうか?

そんなこんなで休息を二時間
私も歩みを再開できる程の元気を取り戻した
立ち上がって、大きく背伸びをする
読書家とサイドテールは自分の荷物を袋に収納し出発の準備を始めた

「それでどうするのかしら道案内さん?」

セルミィ訊ねてみた所、彼女はポケットから三つあるモノを取り出す
それは先ほど見た"あの筒"であった
彼女はソレを上に放り投げて言う

「 "デルパ" 」

ぽんっ ぽんっ ぽんっ

煙と共に現れるのは先ほど見た"ゲレゲレ"…そして
残り二つから飛び出したモノは…

煙の中からでも分かる、特徴的なフォルム
大きなくちばしに鳥頭に二本の鶏足、そう[レッドペッカー]とまるで同じ
ただ違いがあるとすれば体色の違いだ

赤紫色の羽に覆われた"ゲレゲレ"と違い、その二体は橙色の羽である
[レッドペッカー]の下位互換[おおくちばし]であった

「"プックル"、"ポロンゴ"その人達を乗せてあげて」

「い"!?」

その言葉を聴いて、私は察した、詰まるところ彼女は私達に再び
あの乗り心地最悪な乗馬…もとい乗鳥をさせようというのだ

「あ、大丈夫だよ、この子達はあまりスピードを出さないでって言うし
 初めての人だから優しい走りでお願いするから」

「そ、そういう問題じゃ―」ポンッ
「乗りますよヴァージニアさん」

肩に手を乗せてジョセフィーヌが言う…くっ
ここは私の味方をしてくれてもいいじゃないの

「…あのさ、湖の[聖水]を瓶に詰めて運ばないの?」

私は疑問に思った事を訊ねる、長持ちしなくても
少しは持った方が良いのではと


「えっと、ね…"ゲレゲレ"は大丈夫でも、"プックル"達は弱い[聖水]でも
 駄目なの、だから瓶に詰めて運ぶのもちょっと無理かなって思うよ?」

「あっ、そうなの…でもさ、[聖水]を持ってれば少しとはいえ魔物に
 襲われないし、そのリスクを考えれば、多少歩きでも…」

「ごめんなさい…次に安全そうな場所まではこの子達に頼らないと
 二時間くらい掛かるから、人の足じゃ辿り着く前に無くなるの」

「夜になれば魔物の活動も活発になります
   先ほどヴァージニアさんが仰ったように一分一秒も惜しくなります
 …私も気は進みませんが、[聖水]の効力、夜時間の魔物等
 冷静に後のメリットを考えるならセルミィさんの言うとおりにするのが
 最も効率的と言えます、気は進みませんが」

大事な事だから二回言ったのね


気は進まないけど、あくまで現実的に考えるジョセフィーヌ
私は覚悟を決めて乗鳥することにしたわ




―――
――



「ぎゃあぎゃあぎゃあ」ドドド

「きゃきゃきゃ」ドッドッド
「きゃきゃきゃ」ドッドッド


「…なんていうか」

「意外と辛くありませんでしたね…」


「うん!、安全運転を心がけてるもの!」

馬につけてる馬具のようなモノを取り付け私達三人は鳥頭に跨る
先導をセルミィがその後ろを私達二人がついていく形だ
乗馬体験は生まれて此の方、経験は無い
けどこの鳥頭、えっと…こっちが"ポロンゴ"だっけ?

「そっちは"プックル"ですよ」

「うっ…同じような見た目なんだもの分からないわよ!」

ともかく"プックル"の乗り心地は正直悪くなかった
風を切る感じや後ろに矢のように吹っ飛ぶ景色は変わらないけど
乗り物酔いの嫌な感覚はない、むしろ楽しい?

隣を平行して走るジョセフィーヌは以前使えていた主人(例の殺人鬼)の
馬車の御者台から馬に鞭を振るったり、乗馬経験はあったらしく
当然の如く乗りこなしている

未経験故にジョセフィーヌから出発前に色々教えられた
同い年とは言え、そこの読書家少女から
乗馬の基本姿勢をレクチャーされるのは少し悔しかったりもしたわね
いや、同世代だからこそ、相手が出来て自分が出来ないのが嫌なのかも

…いっそ、これを機に乗馬をマスターでもしてみようかしらね

「ぐえー」ドドッピタッ

「くえー」ピタ
「くえー」ピタ

「…?どうしたの「しー、静かにしてて…」

突然動きを止めたセルミィ、その視線の先には・・・"ソレ"はいた
全長約4~5m、平均的な"ソレ"よりも大きいソイツは威風を感じさせる
長く伸びきった毛皮、立派な二本の角を頭部に生やし歩いていた

「[マッドオックス]…それも普通のより大きい、此処のヌシかな?」

*********************************
>>360 あ、ありがてぇ、こんな奴さ心配してくれるなんてっ
    涙が出るっ

>>361 ナジミさんとか人外カップルとかビビアンの話とかで

    空気になりがちだけどジョセフィーヌは
    本来なら主役も張れるキャラ

>>362 うん、ジョセフィーヌなら ちかたないね!




以外にもジョセフィーヌが人気で驚いてます

ナジミの技術に関心を持ったり、生き方に共感して世界を知ろうとしたり
本の内容がノンフィクションか調べたり誰よりも探究心に溢れています

何気に、所見でナジミの性別も見抜いたし、[探偵]とか[冒険家]気質です
今回の話でも受け売りだけど底なし沼の危惧をしたり、反論したりもした
ぶっちゃけ彼女単体で話が出来そうな気もするという…



どうでもいい内容↓

※ >>363で泥だらけになった為、着替えたとあります
せっかく湖あるんだし、乙女三人で水浴びして泥を落としてから着替え
というのを詳しく書こうと思いました


が、


ぶっちゃけ話の進行上、関係ないし話が展開するのを待ってる人を
これ以上待たせるのは失礼と判断し[水浴びシーン]は省きました

*********************************

水浴びシーン
今から詳しくかいても
いいんだぜぇ

> これ以上待たせるのは失礼と判断し
ダウト

貴重なサービスシーンががががが

それを はぶくなんて とんでもない!


セルミィは魔物の目と鼻の先まで歩みを続けた、私は魔物の言葉なんて
理解できない、でも相手は鼻息も荒く、酷く興奮した状態だったと思う

「"チロル"!」

「チー」

彼女の肩にはあの時の白い小さな鼠が乗っていた
セルミィは自分のポケットから一つまみの小さなチーズを取り出して
それを鼠にあげていた、すると…


「あっ!」
「これは…」


チーズを食べた鼠が口から光を発した

白い輝きは巨獣の左前足を瞬く間に包み、そして

「…ンモ?」

「これで痛みも消えたと思うよ」ニコ

鼻息の荒かった魔物は落ち着きを取り戻して
左前足を何度も上げ下げしていた

「今のは一体…?」

隣に居たジョセフィーヌに解説を求める

「…"込める技術"は物体の中に力を"込める"モノ…例えば
 卵サイズの球に[ギラ]を"込めたり"
 杖の先端部の装飾に[バギマ]や[モシャス]を"込め"ていたり

  あのチーズは…[ホイミ]系の呪文を"込めた"[いやしのチーズ]です」

「[いやしのチーズ]って…"込める技術"は食べ物にも
 呪文を入れられる訳?」

「条件を満たした物質、物体ならば食料でも何でも可能だと
 聴いています」

それってかなり怖いわね
使い方一つで嫌いな奴の胃袋に爆弾投下って訳じゃないの

「氷や液体に火炎系の呪文を"込め"、その逆で
 熱源体に[ヒャド]を"込める"なんてことも可能ではあります
 ただし、開発の過程が複雑で、出来ても制限が掛かるデメリットがあり
 薦められない…あのチーズも"特定の生物が口に含む"という条件で
 成り立ちますから、人が食べても唯のチーズと変わりませんよ」


口には出さなかったけど顔に出てたみたいね
追加で説明を加えたジョセフィーヌは此方に帰ってくるセルミィを見る

「ただいま!
 此処を通りたいから道を空けてって頼んだら退いてくれたの」

地響きを鳴らしながら重い腰を上げて私達が通れるスペースを作る魔物

「話の解る人で助かりましたね!」

「えっ!? 人!? 魔物じゃない!?」

私のツッコミは虚しく樹海に響くだけ、私は二人の後を追うように
[おおくちばし]を走らせる

(…魔物って言うのは今の今まで凶暴なだけの存在だと思ってたけど)

「ぐえー」ドドドド

「くえー」ドドド
「くえー」ドドド

「…少しは認識を変えるべきかしらね
 (こいつ等も何か可愛く思えてきたし)」


―――
――


走り続けること早…何時間かしら?
懐中時計なんて無いし、空を見上げても鬱蒼とした木々によって
構成された天然モノの屋根で空の色は判らない
唯、さっきより薄暗いし陽も落ちてきてる事は確かだった


「ぎゃっぎゃっぎゃー」

「きゃっきゃっきゃー」
「きゃっきゃっきゃー」


「…はぁ」

道中、セルミィが底なし沼、地盤が不安定な地域を迂回するように進ませ
時折、魔物群れ、縄張りを確認しながら進む

最初こそ、風を切る感覚や超スピードで変わる景色を楽しんだものの
いい加減に飽き飽きしてきていた

「ねぇセルミィ」

「…?どうしたの」

「さっきの[マッドオックス]ってさ、縄張り争いでケガしたみたいな事を
 言ってたわよね?」

「うん」

あまりにも暇だったから暇つぶしを兼ねてセルミィに疑問をぶつけてみた


「あんな大きい奴でも傷を負わせられる奴がこの樹海にいるの?」


「此処は、癖の強い子達が沢山いるからね…あの爪跡は[グリズリー]
 だと思うよ」

「[グリズリー]…ですか?」

ここでジョセフィーヌが口を開く

「うん、見た事あるの?」

「いえ、ただ[ごうけつ熊]の上位種だなぁと思いまして」

「?、アンタそれがどうかしたの?」

「熊系のモンスターは個人的に感慨深いモノがありまして」

何かを懐かしむように言う読書家の少女

「この樹海の事は僅かばかりですが書物で読んだことがあります
 …たしか[ごくらくちょう]や[ばくだんいわ]が出ると」

「うぇっ!?」

乙女が出すべきでない声を思わず出したわね…
でも、[ばくだんいわ]なんて物騒な単語聴いたら、ね?

[ばくだんいわ]…子供でもその凶悪さは知っている
ある意味タチの悪さではどんな大悪魔よりも上だもの

「大丈夫だよ、ついさっき[ばくだんいわ]の群れを通り過ぎたから」


「えっ」


「…?、気付かなかった? さっきゴツゴツした道を通ったけど
 あそこ[ばくだんいわ]の巣だよ」


「なにそれ、めっちゃ怖い」

*********************************
>>368 >>369 >>370

 oh…まさか、ここまで水浴びシーンを望まれるなんて、そんな…そんな













 ここで書かなきゃ『漢』が廃るなッッ!
 いいぜッ!お前等が望むなら
 その幻想(女の子の水浴びシーン)を書いてやるッッ!


>>371 「なんと このシーン は のろわれていた >>1は何が何でも
    かかなければ ならない」 だと…!?



随分遅れましたが復旧祝いに来ました!

そして水浴びシーンですが、この章が終わったらオマケとして書くことが
確定しましたァ!

※ただし、過度な期待はしないでください
*********************************

>>ゲレゲレ、プックル、チロル、ポロンゴ
 【ドラゴンクエストⅤ】より
もはや説明不要のあの仲間モンスターの名前ですね

鳥頭三体と鼠の名前…なんだか某破壊神暗黒四天王みたいなポジションだ

>>[いやしのチーズ] 【ドラゴンクエストⅧ】より
主人公のちt…げふんげふん、ペットの鼠に食べさせると仲間の傷を
癒してくれる、[ふつうのチーズ]と[アモールの水]で出来る

よっしぁぁぁぁぁぁ!!!!!
みぃぃぃぃずあびぃぃだぜぇぇぇぇぇ!!!!!!!!

出来る>>1が居ると聞いて全裸待機して待ってるぜ


「うーん、そうかなぁ? 良く見れば愛嬌のある子達だよ」

すごく不思議そうな顔で言うサイドテール
根本的に私達とは価値観が違うのだろうか?

命からがら[ばくだんいわ]から逃げ延びた者達は皆、口を揃えて
厳つい顔をしてると言うが…


「着いたよ」


「わぁ…」
「此処は、遺跡ですか?」

少し拓けた場所だった

草木は当然のように生い茂る、枝から蔦も垂れ下がってる
 けれどその場所は他とは違って人の手が入っていた

…手入れされたのは古い大昔の事なんだろうけどね

「ゲレゲレ、見てきて」

「ぐえー」

入り口前で下鳥して辺りを見渡した後
彼女は乗っていた[レッドペッカー]を遺跡内部へ進ませる

「セルミィさん、ここは?」

「昔は人が住んでたとこ、でも今は誰もいなくなった所」

読書家の質問に答えるサイドテール、訊きたいところはそこじゃないわ

「いや、そうじゃなくてジョセフィーヌが訊きたいのはこの遺跡が
 どんな用途で使われてたか、とかじゃないの?」

「うーん、本当に今は"誰もいなくなった所"としか言えないの」


「ぎゃぎゃぎゃー」

そうこうしてる間に[レッドペッカー]が帰ってきて
セルミィに何かを伝えた

「中には魔物はいないんだって、今日は此処で休んで出発は明日だね」

そういって中に入っていくセルミィ

「あっ、ちょっと待ちなさいよ、説明がまだ終わって無いじゃん」

私も彼女の後を追うように、更に後からジョセフィーヌ
さっきまで乗っていた[おおくちばし]は入ってこない

良く見るとくちばしで地面を突いてる…ていうか雑草食べてる



セルミィの『誰もいなくなった所』という単語から薄暗く
人の死骸が転がっている内装を私はイメージしていた

そんなトコで一晩明かすなんて祟られるんじゃないかと考えたが


「…綺麗だ」
「ふむ、[ひかりゴケ]ですね」

石戸を開くと待っていたのは闇ではなく光だった

「松明を袋から取り出していましたが、必要なさそうですね」

読書家曰く石造りの天井から垂れ下がる植物の根に生えたコケが光るのだ
それは昔、母様から聴いた"天の川"という光景に近いものだった
 私はひたすらその光景に心を奪われていた、その間、読書家は遺跡内を
ぐるりと一回りしたらしく

「…確かに『誰も"いなくなった"場所』ですね」


サイドテールと同じような事を言う読書家

「そりゃ、"遺跡"って言うんだから誰もいなくて当たり前じゃないの」

本当に二人揃って、何を当たり前の事を言っているのか?

「…あー、今の説明は少々言葉が足りませんでしたね
 ヴァージニアさん、一度この遺跡を見てみましょう」

百聞は一見にしかずですよと私はジョセフィーヌに誘われるまま
 遺跡内部を探索してみた、幾つかの小部屋
ひび割れた天井から光が差す通路
 昔の人が描いたのか壁画の間…壊れた石像のようなモノが散らばる場所
地下への階段を降りれば地下水が湧き出ている間へ来る
そこにも[ひかりゴケ]がありセルミィが水汲みをしていた

「あっ、二人ともご飯の準備はすぐに終わるからそれまでもう少し
 探検しててもいいよ」

「ねぇ、聴きそびれたけどさっきのってどういう意味なの?」

「?」

きょとんとした顔で此方を見るセルミィ

「だから、此処がどんな遺跡かとか…」

「えっと、壁に描かれてる絵とか文字っぽいモノとかは読めないし
 あまり、詳しくは知らないけど
 随分昔に人が"此処から"いなくなったのは判るよ」

頭の上に疑問符を浮かべていると読書家が口を挟む

「遺跡を一周してどうでした?」

「どうも何も変わった事なんて無かったわよ」

「ええ、本当に"何も"ありませんでしたね」

その辺の石に腰を下ろし、ジョセフィーヌは続ける




「この遺跡には"人の遺骨が全く見当たりません"ね」


「あっ」




ここでようやく二人が何を言いたいのか解った


遺跡…つまり此処は人の手で創られた建造物だ
昔は人が住んでいた、なら通路なり広場なり人骨の一つや二つあっても
何らおかしな事はない

「うん、だから昔の人は何処かに"お引越し"したんじゃないかと思うの
 それで"此処は"誰もいなくなった場所なんだ」

「どのような理由で廃棄されたかは判りかねますが」

「外の魔物達が入ってきて遺骨を食べたとかは?」


「それはないよ、あの子達は骨が食べられない子だもの」

魔物の専門家が私の意見を否定する

「一応、この辺に住んでる子達、お祖父ちゃんやお祖母ちゃんの魔物から
 住んでた人達の事を訊いてみた事はあるよ」

魔物は人と違って長生きなのもいる
言葉通り、歴史の生き証人と言う訳だったわ

「どんな人が住んでたんですか?」


好奇心からジョセフィーヌがソレを訊ねる

「それが皆、よく判らないんだって、"究極の生物"を作ろうとしたとか
 その為の"石"が手に入らなかったとか人間のやることは分からないって
 皆が首を傾げてたよ」

人間達はその後も訳の分からない事を続けてある日、とうとう諦めた顔で
荷物まとめて何処かへ去っていったらしい

 結局、何も判らなかった、ジョセフィーヌはペンとメモ紙を取り出して
遺跡の建築年数や当時の人の暮らしなんかを可能な限りセルミィから
聞き出そうとしていた

魔物の声が理解できる才能…ある意味、考古学者が羨みそうな才能だ
人間なんかより歴史の深い原住民に貴重な話を訊けるのだから…

私は最初こそ、興味本位で訊いてたが…如何せん歴史のお勉強は苦手だ
教科書を読むより、フィールドワークで覚える派だからね

二人を置いてさっきの星空の部屋に戻ってきていた
 体育座りで天井を見上げながら独りごちる



「昔住んでた人は"お引越し"した、か…」


"お引越し"…か







『ねぇ、お母さん』

『なぁに?』 

『どうして、私はお家に帰れないの?』

『それはね、私達はお引越しをしたからよ ここが新しいお家よ』

『そうなんだ』



母様…


私は気付けば貰った宝の地図入りの筒を握り締めてた


「ヴァージニアちゃん?」

「うあっ!?」

不意に声がして振り返れば、心配そうに此方を見るセルミィが居た

「ごめんなさい、驚いた?」

「え、ええ、まぁ」

きょどって変に敬語を使っている自分がなんだかおかしくて

「そ、それはそうと、な、何の用よ!」

とりあえず立ち上がって人差し指を刺して強気に言ってみた

なにやってんだ…私


「ご飯ができたから呼びに来たんだよ?」

「そ、そう、なら行きましょう」



「ジョセフィーヌは来てないの?」

食堂(?)のような小部屋に私とセルミィは来ていた
聴けば私は二時間近くあの部屋で呆けていたようだ

時計が無いからね、時間間隔がどうも分からない

「遺跡の事を話したら、もうすこし探検したいって言い出して
 ゲレゲレに呼びに行ってもらったからすぐに来ると思うよ?」

クールぶってるけど、そういう所はやっぱり齢相応な子供ね!


なーんて考えたけど

そうやって相手を子供扱いする事で自分の方がお姉さんぶってる自分こそ
お子様なんじゃないかと後々になって思うようになった

やばい、私の黒歴史だ…



「簡単なモノだけど、はい!」

「ありがと」

美味しそうな匂いと共に渡されたモノを見る

目玉焼きが乗っただけの食パンと焼きたての南瓜パイだった
パイの方は表面に可愛らしいお魚の模様があって愛らしい

「よくパイなんて焼けたわね」

昔の人が使ってたらしい竈があったらしくソレを使ったそうね
通りで来る途中、良い匂いがすると思った…


「遅くなって申し訳ありません」
「ぎゃあー」


切り分けられた南瓜のパイを渡された所でジョセフィーヌも入ってきた

「はい、ジョセフィーヌちゃんの分」

「すいません、こういうのは私がやるべきなのに」

「ううん、良いの!」


三人と一匹が揃った所で床に敷いたレジャーシートの上に腰を下ろす



「それじゃあ皆、揃ったことだし、いただきます」

両手を揃えて、ご飯の前にお辞儀するセルミィ、真似るように私達も


「いただきます!」
「頂きます」
「くえー」


―――
――


「そういえばさ?」

目玉焼きの乗っかったパンを頬張りながらセルミィに訊く

「あの湖みたいにこの遺跡も魔物が寄って来ない訳?」

パンと卵はどうしてこうも相性が良いのか、そんな事を考えながら訊く



「この遺跡の地下に湧き水があったよね、アレもほんの少しだけど
 [聖水]の成分が含まれてるの」

「だから"ゲレゲレ"は入れて、あの二匹は外で待機してたのですか?」

今、この場に[レッドペッカー]が居る、でも私たち二人が乗ってた
[おおくちばし]は遺跡の外で雑草を突いてた
 あれは単に外で見張ってるとか、餌を食べてたとかじゃなくて
入ってこれなかったのね…

「ぎゃー」

「[聖水]の成分が僅かなら[レッドペッカー]の様な魔物も
 多少無理をすれば遺跡に侵入可能、だからセルミィさんは初めに
 "ゲレゲレ"に遺跡内部を探索させた、と言ったところでしょうか?」

「うん!それでも殆どの子は[聖水]が無くても
 この遺跡には近づきたくないの…」

「?、なんでよ」

南瓜のパイに手を出しながら、私は尋ねた…クリーミーでおいしい

…なんだろう、母様の味を思い出す…ちょっと泣けてきた

「えっと、ね」

私はセルミィが近場に落ちてる小石を拾うのを見る
 そして真ん中に丸い小石、それを囲む様に
砂利のような石をばら撒くよう置く


「この真ん中の石が遺跡だとするよ?」

砂利で囲んだ円の中心を指差しセルミィは説明する

「遺跡を中心に[聖水]の力が広がっていて、遠ければ遠いほど皆は
 近づきたくなくなるの」

「この砂利が[聖水]の効力が届かなくなる
 言わば境界線と言ったところですか?」

「ううん、それもあるけどこれは違うの
          これ[ばくだんいわ]の巣だよ」


「!?、げほ、ごほ!?」

咽た、すんごく咽た

えっ? 何、[ばくだんいわ]の巣?
この砂利が?

「ちょい待ち!それってアレじゃん!
 この遺跡[ばくだんいわ]に包囲されてんじゃん!?」

「うん!」

笑顔で元気良く答えてくれたわね!!

「…なるほど、[聖水]の効果で[ばくだんいわ]は遺跡内部には来ない
 そして、他の魔物達は[聖水]より[ばくだんいわ]の巣に踏み込むのを
 恐れて来ないという訳ですね!」

「この辺りは[聖水]の成分が流れる地下水とは別に色んな水源があるから
 ここら辺一帯の土は美味しい成分に溢れてるって
 [ばくだんいわ]の皆に好評なの」

「"[聖水]"と"[ばくだんいわ]の巣"
 …正に大自然が生んだ鉄壁の防壁ですね!」

「ア、アンタ今の聴いてよく平気でいられるわね…」

一応、安全な理由は解ったけど、釈然としない中
私達の食事会は続いた…


遺跡内部は[ひかりゴケ]のおかげで外以上に明るかった
 おかげで窓がある食堂(?)の方が少し薄暗いという話

途中、セルミィが[おおくちばし]達の餌を用意すると再び竈のある間へ
行ったり、その隙に白い鼠が南瓜のパイを狙おうとしたり
[レッドペッカー]が羽をバッサバッサやって私がくしゃみをしたり
それでジョセフィーヌに笑われたり
 久しぶりに楽しい食事だった気がした


母様が亡くなって
食事なんて何時も独りだったからかもしれない…


「香ばしい匂いがしますね」

隣で笑ってたジョセフィーヌが言う
匂いの元を探してみると皿にトウモロコシを乗せたセルミィが戻ってきた

「くりぇー」バッサバッサ

"ゲレゲレ"が我先にとセルミィに向かっていく…どうやら彼女が言ってた
彼等の餌らしい

「トウモロコシを醤油で焼いたものですね」

「ショウユ?ショウユって[ジパング]の食材だっけ?」

「調味料ですね、それにしても食べたばかりだというのに
 食欲をそそられる香り…」

「うっ」

確かに美味しそうだけど、太りたくは無いわ…

「"ゲレゲレ"!」

ポイッ

「くりぇー」

ピョン  パク

 トウモロコシが宙を舞う、一つ、また一つと…
黄色の表面にショウユとやらの焦げ色がよく映えて、地を蹴り
飛翔する鳥頭が大口を開いてソレを食べる

「次は"ポロンゴ"達だね」

セルミィは少し席を外すねと私達に一言だけ述べて部屋を出て行った

「…本当に不思議な奴」

長いサイドテールを揺らして出て行った女の後ろ姿を見ながら私は呟く

「ねぇ、ジョセフィーヌ、魔物の言葉が解る人間ってセルミィの他にも
 会った事があるのよね?」

「ええ」

「どんな奴が多かったの?…やっぱり変わり者ばっかり?」

「そうですねぇ、……あー」

少しの間、考え込んでバツの悪そうな顔をする

「…あくまで私が会った事のある人であって
 全ての人がそうではありませんよ?」

「もったいぶらないで言いなさいよ」

「…味ですね」

「…?、なに聴こえない」

「童女趣味ですね…」

「えっ?」


「…」
「…」

「ま、まぁ、今のはともかく他の人とか」

「すいません、実際に会ったのはその人だけです」

「ふ、ふーん」

もしかして、その人って例の[ホイミスライム]と恋仲になった人かと
訊ねたら、そうだと帰ってきた

あの女だけが格別変って訳じゃないのかもしれない

「実際に私はお会いした事はありませんが
 ナジミさんが"イナッツ"という女性に会った事があるそうです」

「へぇ、どんな人?」

「その方は放浪のエルフでして、路銀を稼ぐ事と安住の地を求めて
 サーカス団を営んでいたと」

「サーカスか…」

私はサーカスを見た事がないから、その手の話には興味があった

「サーカスと言っても実質上、その方お一人でシルクハットを被り
 お供の魔物達に曲芸をしてもらっているといったものです
 以前、立ち寄ったある街で彼女と親しい関係にあった女優から
  今では安住の地を見つけられて、魔物達と共に生きていると
 お聴きしましたが」

「へぇ」
「くえー」

餌を食べ終えた"ゲレゲレ"が相槌を打つように鳴く
そういえば彼等は人間の言葉を理解できるのだろうか?

「魔物ってさ、私達の言葉を理解できるのかしら?
 私達は彼等が何を言ってるのか分からないけれど…」

「…さぁ?としか言えませんね」

「そもそも、魔物の声が解る人ってどうやって識別できるのかしら?」

「…周波数でしょうか?」
「周波数?」

「蝙蝠やイルカにしか聴こえない音と同じように特殊な音で魔物は
 [仲間を呼ぶ]ことができます、それと同じで特定の生物にしか解らない
 音域で音を出してるとか?」

「仮にそうとして何でその人達は分かるのよ?」

「さぁ?生命の神秘としか言いようが無いですね
 普通の人には無いけど、"絶対音感"を持った人間もいれば
 "1/fゆらぎ"…所謂、川のせせらぎ等の自然現象に含まれる
 癒しの周波数fを声にして発せられる人間もいますし…
 人外と対話できる人もいるにはいるのでしょう」


セルミィとの会話を思い出す

言われて見れば、何処となく不思議な感覚を感じはした…

二人で話し合った結果、解ったこと




「結局何も解んないってことじゃん…」




自分達じゃいくら考えても何一つ理解できない事が解ったわね

*********************************
>>376 ※オマケで申し訳程度のモノです

>>377 まだ寒いぞ、せめてネクタイは忘れるなよ!
 



>>パンの上に目玉焼き 魚模様のパイ
ジブリ飯には夢が詰まっている!異論は認めん
あとパイは魔女の宅急便祝いです…はい



もしかしたら明日か明後日ぐらいに続きを書けるかもしれませんね
ロリコン扱いされたバコタェ…
*********************************

おつ

たまにはロリもいいよね!


その後、帰ってきたセルミィ…と鳥頭を含め
三人と一匹で一晩を過ごした





夜は怖い





遠くから聴こえてくるよく解らない生き物の鳴き声、風で揺れる木の陰
子供の頃から夜という存在はどうにも苦手だった

そして時は進み


「…眠い」

まだ重い瞼を擦りながら私は起き上がる
目を覚ますとセルミィは既にお供の餌やり
ジョセフィーヌは石畳に敷いた布団を袋に仕舞い込んでいた

なんだ…私が一番の寝坊助か

「おはようございます、気分は…あまり宜しくない様で」

読書家は私の顔を見るなり、そう言った

「まぁ…、ね」


欠伸をしながらジョセフィーヌと共に食堂に向かい、そこで戻ってきた
セルミィのお手製朝ごはんを頂いた

「今日中に樹海から抜け出せたりってしないかしら?」

人の足で二日、昨日セルミィはそう言った…なら鳥頭に乗って移動した
状態ならもう少し早く人里まで行ける筈だと私は思う

何より、樹海に長く居たいとは思わないからこそ期待を込めて訊いた

「えっと、ちょっと待ってね」

そういうとセルミィは食堂の窓の一つから顔を出し空を…
目を細めて、ほとんど木々に覆われ僅かな隙間しかない空を見る

「……」

沈黙

私達はただ、その後ろ姿を見ていただけだった

「…うん、ありがと」


「?、今、誰にお礼を言ったのよ?」
「いえ、私にも判りませんでした」

窓の外には魔物はいない、ぽけーっと空を眺めてたようにしか
見えなかったのだけど

「今日中は難しいかもしれない、丁度、行き先付近で
 ハ…ハバツコーソウ? …とにかく喧嘩してるんだってさ」

「あー、うん、縄張り争いをしてるのね、分かった」

「どうやって知ったんですか?」

「え、えっと大地の人に教えて貰ったからかな?」

説明下手な彼女との会話は朝の気だるさに拍車を掛けるようだった
結局、昨日のジョセフィーヌとの議論同様、謎というモヤモヤをまた一つ

増やしただけだった… 
 

―――
――


「ぎゃあぎゃあ」ドドド

「きゃあきゃあ」トトト
「きゃあきゃあ」トトト

初日に比べれば鳥頭に乗るのにも大分慣れたと自分でも思う

「ヴァージニアさん…」

ほーら、こんなゴツゴツした道を走行してても酔いは感じないし…

「ヴァージニアさん!」

目隠し走行だってお手のモノよ!!


「…いい加減に目を開けてくれませんか?」
「もう突破した!?突破したよね!?」

「ええ、[ばくだんいわ]の巣は(たぶん)通り抜けました
 ちゃんと目を開けてください…危ないですし」

「本当に本当よね!?まだ道がゴツゴツしてるけど実は[ばくだんいわ]の
 上を歩いてますとかじゃないわよね!?」


「くぇー…」トトト

私が乗る[おおくちばし]…"プックル"が小さく鳴く
目は瞑ってても良いからせめて手綱はもう少し強く握って欲しいと
私に訴えてるように聴こえた


「うぅ…」

丁度目を開けたとき、ゴツゴツした道から比較的に平たい道に出る
そこでようやく安堵した

「生きた心地しないわよ」

「ふふ、そうですか」

「…何がおかしいのよ?」

隣でクスクス笑うジョセフィーヌを見て少しムッとした

「いえ、なんでもありませんよ」

目は口ほどに物を言う
単なる被害妄想かもしれないけど、「怖がりなのですね」と笑われてる
そんな気がした

「はぁ…私、アンタの事苦手かもしんない」

「ふふ、そうですか」

先頭をセルミィ、後ろに並んで私とジョセフィーヌ、昨日と同じ並びで
走り、一つの川に出た、水面に顔を出す岩の上を三頭の鳥頭が
ぴょんぴょんと飛び乗って向こう岸へ渡ろうとする…

昨日の底なし沼を思い出すけど、ここは沼じゃなく川だから大丈夫よね?

向こう岸に着いた所で小休止を取る事になった
ここは[聖水]の成分があるわけでも
魔物が近づきたくない理由があるわけでもないけど
見渡しが良いため、向こうから魔物が来れば、十分に分かるという事だ

川自体も浅いから川から魔物が来る事もあまり無いらしい

「流石にずっと同じ体勢は疲れるわね」

ここを逃すと次の休憩は3時間後、プロのジョッキーでもない私達に
長時間あの姿勢は辛いモノがある


河原の適当な石に座り、ぼんやりと空を見る

「…川かぁ」

最後に地図で見た地形を思い出す、樹海の東南部、北[ムオル]海域へ
流れる川があった筈だけど、此処なのか?

樹海なんて人が全く踏み入れない土地だし
もしかしたら地図にも載ってない未登録の河流か何かかもしれない

周りを見渡す…

チチチっと鳥のさえずりが耳に入ってくる

人にとって未開拓の地にいることすら忘れそうになる穏やかさ

ゆったりと流れる雲

ぴちゃっと水しぶきを上げて飛び跳ねる小魚

風に揺れる枝の音

地面をついばむ"ゲレゲレ"達

涼しい顔で本を読むジョセフィーヌ

甲羅を指でつんつんと、突っつくセルミィ

平和なモノね…










…ん?




「ちょっと待ったアァーーーーーー!?」


「わっ!何ですか!?」バサッ

「ひゃ!吃驚したよ…?」ナデナデ

「ぎゃあ!?」
「きゃあ!?」
「きゃあ!?」

「チー!」

「バゥ!?」

私の叫びに全員が驚いたように此方を見る

「いきなりどうしたんですか?…本を落としてしまったじゃないですか」

「…? どうしたの、もしかして遺跡に忘れ物しちゃったの?」ナデナデ

「ぎゃー」
「きゃー」
「きゃー」

「チー…」

「パウパウ」

「いやいや、驚こうよ!?何かナチュラルに増えてる事に驚こうよ!?」

私はセルミィがさっきから突いたり
撫でたりしてる亀のような甲羅を指差し叫んだ


「バゥ?」

「…?ゴンさんがどうかしたの?」

「ゴンさん!?」

「…ふむ、[ガメゴン]ですか、珍しい魔物ですね
 確か[サマンオサ]地方にいる魔物の筈ですが?」

「この子、迷子なの」

「迷子!?いやいや、[サマンオサ]は海の向こうだからね!?」

本来の生息地は此処からずっと遠い地である
海の向こうの大陸だもの、ていうか国境を越えた迷子ってすごいわね!?

「この子、船に乗ってたけど、船が座礁して泳いでたら迷って
 此処に来たって言ってるよ」

船? 座礁? …ま、まぁいいでしょう

「そ、そう、それで、ゴンさん?…は人を襲わないのね?」

「うん!昔は人に飼われてたんだってさ」

言いながら小魚を[ガメゴン]…もとい"ゴンさん"にあげるセルミィ

「パゥ!パウ」

「…うん!」

何か私達の知らない所で勝手に話が進んでいくのは分かった
現にセルミィは今、例の"筒"を[ガメゴン]に向けて…


「"イルイル"」


「どういうお話をしたのですか?」

「迷子みたいだったからせめて、分かる所まで連れてってあげるって」

「そ、そうなんだ…」

こうして訳の解らない同行人が増えましたってね…
*********************************
**************
*******

   とある村の酒場にその人は来ていた

「マスター、シードルもう一本頂戴!」

「お客さん飲みすぎじゃないですか」


床に転がる無数の酒瓶
これら全て、一人の人間が全て飲み干しただなどと誰が信じようか?

「だぁいじょうぶ!だぁいじょうぶ、俺ぁ酒に強いんでさぁ」

辺境の地であり、男達は皆、明日の生活の為に野良仕事へ駆り出す
必然、店内で飲んだくれるような人間は観光目当ての人間だ

「しかし、お客さんも災難ですね…橋が壊れてお連れの方が落ちたと」

「あぁ、そのことだが問題無さそうでねぇ、俺の連れぁ無事みたいで」

でなければ、此処で安心して酒も飲めやしねぇんでね、と
黒コートの旅人は小さくウインクする

「何故、お分かりで?」

「…知らせが来たんでさぁ」

「はぁ」


まるでそんな素振りは見せないが、この全身黒ずくめ連れとはぐれた際に
普段は決して見せないようないような慌てぶりで
単身で樹海に行こうとして村の男達に止められたりもした

事情を知らぬ者が見ればヤケ酒でもしてるように見えるのだろう

当然、店主もこの客が酒に溺れて現実逃避を図っているのではと考えた


「知らせとは?」

「んー、そだなぁ、まぁ"妖精さん"が知らせに来たとでも言おうかね」


やっぱり逃避かな? いや、酒が回りすぎて支離滅裂な事を言ってるのか

「お客さん、やはり、お酒はもう止めた方が…」

「問題無いさぁ、まだ二、三十本くらいしか飲んでねぇから
 それより俺の話に付き合ってくれや、飲みながらのお喋りは
 極上の酒の肴なんでね」

それは問題ないのだろうか?

「はぁ…わかりました」

「ん!ありがとよ」キュポンッ

酒を専用グラスに注ぎながら語る黒コート

「まぁ、さっきも言ったが連れは大丈夫さぁ、知らせを送った奴と一緒
 なんでねぇ」

「その人と一緒なら大丈夫なんですか?」

「おう、安心安全だぜ、この"樹海でなら"アイツぁ…セルミィなら

             俺なんぞより圧倒的に強いからな」


「お客さんがどれ程お強いのかは分かりませんが樹海の魔物達は…」


「いや、良いんだよ、"相手が魔物だから、なお良い"
   此処の魔物が全員束ンなっても勝てやしねぇなガチに」

「ご冗談を」
「いや、これはマジだぜ」

グラスを傾けながら黒コートは目を細める


「アイツぁ…まぁ、"怒る"なんこたぁ天地がひっくり返ってもねぇけど
  本当にンな事が起きちまえば洒落にならんからなぁ」

それだけ言って黒コートの飲んだくれはグラスの酒を煽るのだった

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*******************
**********


「セルミィ、次の休憩地点は遠いの?」

「えっと、遠いかもよ?」

「いや、なんで疑問系なのよ」

仮にも樹海に詳しい人間がそれじゃ問題でしょうに…

このサイドテールの女は頼りになるのかならないのか…
いや、ならないかもしれない

私の不安は募っていく一方だったわ

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>>386 ヒャッハー『乙』だー!ありがたく頂戴するぜェ~!

>>387 <●>「このロリコンどもめ!」



アイエエエエ!ゴン=サン!?ゴン=サンナンデ!?

※[ガメゴン]は通常サマンオサ地方、もしくはネクロゴンド海域に出現し
 間違っても樹海(世界樹付近)ではエンカウントしません
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次回も高機動戦士セルミィをお楽しみに
外野がのほほんとしてるな安心しすぎだッッ!

おつ

乙乙
セルミィさんマジ超人過ぎ怖い。


「君は退いてくれないのかな?」

セルミィが最終警告を出す、だが[ダースリカント]は

「コトワル、シネ」



ただそれだけだった…



 対峙するは人間の雌と樹海に君臨する猛者…っ!

人間は…杖"二刀流"のセルミィは静かに佇み
対照的に黒き獣は唸り声をあげる


  そして、刹那の瞬間ッ!



「はぁっ!」


先手を打ったのはセルミィだッ!
セルミィは右手の[ほほえみの杖]を大地に突き刺し
そのまま杖に力を掛けて棒高跳びの要領で蹴り上げる

「ウオオオ!」

猛者は身体を大きく仰け反らせ、下顎を狙ったセルミィの蹴りを
大きく躱す、勢いを殺さぬセルミィの蹴りはただ虚しく空を裂き
 彼女の身体は宙に舞うッッ!


「ダアァッ!」


[ダースリカント]はそのまま己の頭上に跳んだ彼女の背を
目掛け突きを放つ、そして見るのだ!


背を見せた状態のセルミィがいつの間にか"筒"を持っていた事をッ!


           「[デルパ]!」


 セルミィが叫ぶ!"筒"からは光が放たれる!

それは吸い込みではなく放出の輝きッ!

この戦闘を傍観する三人と闘う一頭は見るッ!

"筒"から解き放たれた大きなシルエット

我々は知っているッ!この"魔物"をッ!セルミィが連れて来た彼をッ!





            「パウ?」



セルミィが出したのは[ガメゴン]のゴンさんだァ―ッ!

宙で召還された[ガメゴン]は重力と引力に従い頑丈な甲羅から落下するッ

そう[ダースリカント]の頭蓋骨目掛けてだッ!


「ヌオオオオッ!?」

突如現れた、見知らぬ魔物…っ!

彼は知らないが[ガメゴン]の甲羅はこの世界において屈指の堅さを誇る
手馴れの冒険者とて、まともに[ガメゴン]の甲羅を攻撃しようと思う者は
一人も居らず、闘う際は手足、頭部を狙うのが基本中の基本である

命知らずな挑戦者が幾度となく甲羅を狙ったかは分からないだが
どの冒険者も自慢の鋼の刃をへし折る形で終わってしまう…ッ!

[鋼の剣]と[ガメゴン]の甲羅ッ!

もはや、丸めた新聞紙で金属の塊を切るかのような愚行であった…っ!

如何に[ダースリカント]の強靭な爪と筋力を以ってしても甲羅は砕けない
それは自明の理と言えよう、魔物の生態系を知るセルミィだからこそ
実行に移せるのであった!


重力のままに母なる大地に落下した"ゴンさん"
寸での所で身の危険を感じ攻撃から回避へ移った[ダースリカント]
華麗に着地し、すぐさま"筒"に"ゴンさん"を収納するセルミィ

[キメラ]や[ごくらくちょう]の様に翼を持たない人間が…
 宙を舞い、身動きの取れない人間風情がこうも反撃してくるとは…っ!


猛者は内心で焦った!

[ガメゴン]の甲羅を自身が打ち破れない事を知っていた訳では無い
 ただ野生の直感が"これは不味い"と告げたのだ!
彼の第六感がッ! 生命の大車輪がッ! 避けろと叫んだのだッ!

…仮に避けていなければ、腕は骨に皹が入るどころかひしゃげてたし
頭蓋骨にいたっては陥没はおろか…脳が飛び散っている所である


"身動きできない人間を腕でぶち抜く"たったそれだけで
 彼の勝利は約束されたも同然!

だが、セルミィはそんな彼を一瞬とはいえ逆に死の淵へ追い詰めたッ!

確信した勝利に傷がついたという訳だ

彼は焦りと樹海において絶対であった自分の地位を脅かしたこの人間に
酷く激昂した


「イマノハ シヌカトオモッタゾ…



   シヌカトオモッタゾオオオオ オ ォ ォ ォ ォ ッ !!!」




  半狂乱に叫び、目にも留まらぬ速さで突きを繰り出す猛者

            セルミィは・・・っ!





「…綺麗」
「わぁ…」



 ジョセフィーヌもヴァージニアも酒場の照明に
照らされた踊り子を見た事があった



  幻想的な月光に照らされる中…セルミィはその場で"舞って"いた



 誰が言ったか"蝶のように舞う"という言葉がある

それは喩えるならば今のセルミィにしっくり来る言葉であった

ステップ、ターン、またステップ…

踊るような脚裁きで次々と地を蹴っていくセルミィ、そして
その動きに翻弄されるように尽く全ての攻撃を回避され
時には両腕の杖で反撃を受ける猛者

その動きは見る者全てを惹き付ける力強い意志を持ちつつ
どこか吹けば飛ぶような儚さすら見出せる…
今が命を賭した"闘い"だということすら忘れさせる程の動き…っ!

そして、ここでジョセフィーヌは気がつく


「この動きはナジミさんの…っ!」


いつも間近でナジミの闘いぶりを見ていたからこそ気付ける
 ナジミがよく相手の攻撃を逸らすフットワークに酷似していたのだ


「よく気がついたな嬢ちゃん
   あれも俺が教えた動き…[身かわしきゃく]だぜ」


セルミィとは幼少からの付き合いがあるナジミ
 何時頃からかは当の本人達でさえ覚えていないが気がつけば
ナジミはセルミィに多くの"技"を伝授していた


もっとも争い自体を好まない彼女はあくまで
 護身用の術しか学び取らなかったが

そして、護身用の術しか学ぼうとしないセルミィはやはり防戦に徹する
[グリズリー]達とは身体能力に雲泥の差がある[ダースリカント]だ
あっさり倒した3頭のように容易く倒す事はできないでいた…



だが、どれ程強かろうと生物は生物
身体を動かすエネルギーは決して無尽蔵ではないのだ
傍観する三人には分からない
 だが、魔物の思考が読めるセルミィには解る
相手の突きの速度は次第に減速するとッッ!


「チクショオオオオオォォ」ブンッ


「あっ!」

自棄になって"何も考えずに"振るった拳はセルミィの持ってた
[ほほえみの杖]弾き飛ばす、此処で[ダースリカント]は目を見開く





   好 機 ッ ッ ッ ッ ッ ッ  ッ ! ! ! ! !


「ッゥアアアアラララララアアアァァァァァ――ーッ!」

腕を振り上げ、セルミィ目掛けての唐竹割ッ!
咄嗟にもう片方の杖で頭部を守るセルミィ…ッ!


   ベシイィィ――z___ィッ!!


頭部こそ守れたがセルミィは持っていた二本目の杖をへし折られた…ッ!


ゴンさんのことかーーーっ!!


「セルミィ!」
「ナジミさんッ!」

「座りなッ!…黙ってこの戦闘を見てなって」

親友が命を落とすかもしれない状況においてナジミは二人に言う
長い間一緒だったジョセフィーヌはともかく、ナジミという人間を知らぬ
ヴァージニアは言わずにはいられなかった

「ッ!アンタねぇっ!セルミィの親友なんでしょ!
 なんで助けないのよ!まさか、黒い[グリズリー]が怖いって言うの!?
 アンタそれでも男なの!?」


ヴァージニアの発言は二重の意味で間違っている


ナジミは決して[ダースリカント]を恐れてはいない…
むしろ、一度「ぶっ殺す」と心の名で決めたなら
セルミィ並みの"優しさ"も"慈悲"も"躊躇い"も無く、"瞬殺"する程だ

では、何故ナジミは動かないか…それは


「グオオオオオオオ!」


「あぁ!?」
「セルミィさん!」


[ダースリカント]が動くッ!

セルミィは後退し距離を取ろうとする、だが…!


「ノガスモノカアアァァァ!」


「たぁっ!」


後退しようと後方へ飛び去るセルミィ、後を追おうと前方へ飛び掛る猛者
跳躍中にセルミィはへし折られた杖の[ダースリカント]に投げつけたッ!



   「これほどまでに相手を滑稽と思った事は無いっ!」

猛者はッ!苦し紛れの行動で折れた杖を投げつけてきたセルミィを見て
そう思ったのだッ!

先程までの余裕は無く、己の武器を投げつける愚かなる人間ッ!


     これを笑わずして何を笑えと言うッッッ!

   この愚行を滑稽と呼ばずして何と呼ぶかッッッ!


最早セルミィは"ただの女"!否ッ!弱肉強食の世で負けた"被食者"よッ!

[ダースリカント]は口中に唾液が溢れかえる感触を覚える…っ!
自分が獲物を狩った時の感覚、それも人間の雌ッ!
今より噛み締めるであろう、柔らかな…極上の歯応えを思い出すッ!

  今、此処にッ! 捕食者と被食者の構図は完成するッ!


      目前には苦し紛れで投げたであろう
    当たった所でどうという事の無い"折れた杖"
  ここまでする必要は無いが、念押しも含めこの女の目の前で
  最後の希望をッ!投げ飛ばした杖を打ち砕いてやろうではないか

  (サラナル ゼツボウヲ アジアワセテヤルタメニナァ!)


 [ダースリカント]は腕を振り下ろし飛んできた杖を叩き潰したッ!

















         ド───z___ォン!
















「…ッ…ゴフッ!」









  ふっと気がつけば彼は…今度こそ絶対の勝利を確信した猛者は
       天に浮かぶ月を見上げていた…












全身の骨が粉々に粉砕された状態で大地に仰向けに倒れたままの姿勢で…









あの瞬間に起こった事はこうだった…

彼は確かにセルミィが"投げた杖"を叩き潰した





そう、
        "投げた杖"に彼は手を"触れた"のだ…っ!




ナジミの作った武器に…っ!


   "投げられた[ボミオスの杖]"に手を触れてしまったのだッッ!




杖の先端部に付いていた宝玉が砕け、中に"込め"られたいた[ボミオス]は
瞬く間に[ダースリカント]の身体を包み込む

 彼の動きは一変した、その歩みは亀の如しッ!
  振り下ろす腕は蚊の止まるような速度へッ!

ヴァージニアどころか戦闘能力皆無のジョセフィーヌですら
躱す事は容易な程だった…


さて、話は変わるが[ボミオスの杖]の製作秘話を語ろうッ!

[メラ]を初め、攻撃の呪文が一切使えないナジミは当然
[きめんどうし]や[まほうおばば]といった遠距離攻撃を得意とする者に
遅れを取る、そこで自分の特技を生かし、"投げて"闘う事を考案する

結果できたモノは諸君も知っての通りッ![魔法の玉]である!

本来ならばコレには火炎系の呪文とナジミが開発した"火薬"なるモノを
入れるのだが、それに留まらずナジミは他の呪文を
"込め"られないかと考える

そこで試作品として珠の中に[ボミオス]を"込めた"ッッ!

ピンを抜いて敵に投げつける…それ自体は[魔法の玉]と然して変わらない
だが、技術屋として…研究家としてそれで納得しないのがナジミだッ!

珠ならば…一回投げてブチ当てればそれっきり、だが…

 コレを"杖"に"加工"するのはどうだと考えた…!

杖ならば、振るうだけで、先端に取り付けた宝玉から魔力を飛ばすだけ
近距離格闘戦を主体とするナジミ自身も扱いやすい

そして、"使用回数"だ

杖に加工することで魔法使いの才能の無い者でも気軽に[ボミオス]を
相手にブチ当てられるが、何かと制限は付く

今回に至っては"使用回数"であった

最高で5~6発打てば、魔力切れ…だが最後に杖そのものを相手に当てる
これで僅かに残った魔力の残り火が相手を包み込むというギミックが
仕込まれているのだッ!


     "投げて"発動させるッ!

これほどまでに製作者<ナジミ>の設計思想を継いだ武器があるだろうかッ!


兎にも角にも、[ダースリカント]は杖を叩き潰すことで…
 杖に仕"込まれて"いた魔力を至近距離から大量に浴びてしまったのだ

その結果がこの通常の[ボミオス]受けた以上の状態である



     そして…ついに戦闘は終結するッ!




鈍足化した猛者と距離を取ったセルミィは[おおきなふくろ]から"3本目"

そうだ"3本目"を取り出す…っ!

正真正銘セルミィの持つ最後の"杖"

無論、これが特注製のナジミブランドなのは言うまでもない

やはりその杖の先端部にも(恐らくナジミが作ったであろう)宝玉が
取り付けられていて、それは翼を広げる鳥の様にも見える

"両手杖"…二刀流のセルミィが一刀流に持ち替えて使う巨大な杖

             その名も…





         「   [ピオラ]!   」



彼女は、セルミィ・グランパニアは杖を振りかざし
杖に"込め"られた呪文を…っ!  杖に刻まれたその名を口にしたッ!




            風が吹いた…



ヴァージニアとジョセフィーヌは一瞬、そう感じた
そう思った次の瞬間には何もかもが終わっていたのだ…!


 音の嵐…ッ!  圧倒的な…音の嵐が…ッ! 樹海に木霊したのだ

次々と聴こえる打撃音、骨が砕ける鈍い音、ぐしゃりと何かが潰れた音

   音という音の大洪水が夜の闇を騒がせる…ッッッッ!



「やぁ~れやれ、セルミィが退けっつった時に退きゃあ良かったのによォ

                  この戦い…セルミィの勝ちだぜ」



恐らく、まともにセルミィの動きを捉えたのはナジミくらいだろう…

顔面への3~4回に渡る強打、下顎や頬骨を砕く杖によるビンタが2発
下から上へと殴りぬけるフルスイングで両腕の指先をへし折り
それぞれ右肩、左肩の間接を振り下ろされた一撃で外され(砕かれ)
…当たり前だが、この時点で鋭利な爪も鋭い牙も使い物にならない状態
その後、突きのラッシュで丁重に肋骨を一本一本的確に打ち抜いた後
膝とつま先も使えなくしたという…

この間、僅か9秒…
[ボミオス]が掛かっている猛者の視点では時でも止まったかのような衝撃

ナジミが酒場で飲んだくれながら本気で怒らせたくないと言うだけはある

かくして今宵の戦闘は終結したッッ!

ふるぼっこぇ…

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>>458 抱きしめたいなぁ!ガンダm…セルミィ!

>>459 常に>>1してきたのは、一握りの『乙』だ!

>>460 セルミィさんはナジミさんとほぼ同レベルの人です

    ただ[ほしふる腕輪][みかわしの服]など安心と信頼の品質を誇る
    ナジミブランド着てたからブースト掛かってたんですよ


>>465 いいだろう!地面に落下させてやる!
    あの[ガメゴン]のように!!(CVばいきんまん)



  今回はここまで、ジョセフィーヌ回だというのに影の薄い
 ジョセフィーヌェ…、仕方ない、また新しいジョセ嬢回を予定しよう

>>460さんへの返答で少し触れましたが、ナジミもセルミィも同レベルです
装備さえ整ってればナジミも同じことできますが、手加減しない分
セルミィより凶悪だと思う

何だかんだでセルミィは殺しまはでしない(再起不能だけど)

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      【ナジミとセルミィで少し比較】

それぞれの戦闘終了後の相手の状態

・猟奇殺人の伯爵【死亡】

 ナジミに全身焼け爛れさせられた上で[においぶくろ]を使われ
 強制的にクマちゃんの晩餐にさせられる
 (つまり、生きたまま、脳やら内臓やらを食い千切らせた)

・メディル【更生中】

 ナジミに頭部へレンガを投げられた後、生き埋めにされる
 この世で最も苦しい死に方ワースト3に乗る"餓死"で死に掛けた
 (最終的に村人が助けたが、ナジミ本人は助ける気は無し)

・シルバーデビル【リハビリ中】

 絶滅危惧種の天然記念物の為、流石にナジミも殺そうとはせず
 "筒"に入れて捕獲、その際"黄金のバナナ"で擬似的な麻薬中毒に
 してしまったが現在イナッツの元でリハビリ中




・三匹のグリズリー【気絶中】

 セルミィにそれぞれ一発殴られて気絶した
 (後に怪我は"チロル"に治させるつもり
     ヴァージニアの刺したナイフ込みで)


・ダースリカント【再起不能】

 セルミィにまともに描写すれば2レスに渡る杖のラッシュを受けて
 再起不能…
 (後に怪我は"チロル"に以下略)



 …今回の戦闘はナジミとセルミィ、どっちが戦えば穏便だったのか?
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ごめんなさい

>>465 いいだろう!地面に落下させてやる!
    あの[ガメゴン]のように!!(CVばいきんまん)


↑これは>>464です

朝の投下に敬意を!

安心(?)と信頼のナジミブランド!

まだかな
間開けてもいいけど生存報告してほしい

まだ焦ることもないさ

よし、何も焦る必要はないからはよ。


-ねぇねぇ、お母さん

―何かしら?

-私のお父さんって何処なの?皆が話してくるの

―…遠いところにいるわ

-そーなんだ!

―ええ…



―お父さんに会ってみたい?

-うん? ううん! 私にはお母さんがいるもん!


―ふふ、嬉しいわね…


―もしも、お父さんの事、知りたいと思ったら…


-?


―宝物を探してみてね















チュンチュン…



「…ん」パチリ



「お目覚めですか?」


早朝…

私はフカフカのベッドの上で目覚める
堅い洞穴の地べたに敷いた布団ではないわ、目が覚めて拝む物は
カーテンから差し込む光で
耳に入ってくるのは怪鳥や獣の鳴き声なんかじゃなくて
雀のさえずり、そして…マグカップに注がれる一杯の珈琲の音




そうだ、私は…


       私達は…"樹海から脱出したんだ!"






*********************************
********************
******


「さて、と…大体の事情はわぁーったがよ
       ちと、無謀過ぎだぜ?ヴァージニアさんとやら?」


「…」


「ナ、ナジミ…えっと、あんまり怒らないあげて?」オロオロ


サイドテールの女が[グリズリー]をぶっ飛ばしてから程無くして
黒コートの人物、ナジミさんと簡単な自己紹介
 そして何でこんな事になったのか、詳しい経緯を話す羽目になったわ…

「嬢ちゃんも、もちっと相手の事を見ときな」

「申し訳ありませんでした…」


ナジミさんの前に私達二人は並んで経っていた
 初めは何も言わないで無言を通すナジミさん…

3分…? 5分…?

ただ、何も言わず、険しい表情で見つめてくるだけだった
 その沈黙が下手なお叱りなんかよりも怖く感じた


「ナジミ…ジョセフィーヌちゃんも頑張ってたんだよ?
            ただ顔が合わせず辛くて、それで…」

「セルミィ!あんたぁ黙ってな…」


フォローを入れようとするセルミィ、だがナジミはあくまで妥協しない



「…ふぅ」



黒コートが息を吐き

そして言う…



「あのよ、結果的に俺やセルミィが来たから事なきを得た訳だが
  もし、俺達がこなけりゃあ、どうなってたと思うんだい?」


「…それは」


死んでました



到ってシンプル、単純明快な回答、一言で言い表せる結果

なのに、それが口から発せられない


「良いか?こいつぁ結果論だぜ?
     結果的に何も無かったから良かった…そうじゃあ無ぇのよ」

少しだけ柔らかい声色でナジミさんは話し始めてわ


「ヴァージニアのお嬢ちゃん、あんたぁお母さんの形見が大事ってのは
 よく理解できるさぁ、でもな、その形見の為に命張って
 おっ死んじまったんじゃあ笑い話にもなりゃあしねぇ…

 …御袋さんは娘がそうなる事を望むような人かい?…違げぇだろ?」


「・・・」


返す言葉も無い…


「そして嬢ちゃん」

「…はい」


次はジョセフィーヌが呼ばれた


「喧嘩しちまって、「あー、なんか顔合わせんの気まずいなー」って
 気分は誰だってある、俺だってそんな時ってのはあるさぁ
 だがよ、嬢ちゃんくらいのモンなら、ヴァージニア嬢の精神状態を
 察せられただろ?」

「…」コクッ

「ならよ、辛いだろうけど、そこは良く見てやんのがおめぇさんの仕事だ
 過ぎちまった事だろうが嬢ちゃんが事前に引き止められれば
 今回の過失は無かった訳だ」


頷いたジョセフィーヌにもナジミさんは言う

なんだかナジミさんの言い方は
悪い事をしてしまった生徒に優しく、だけど大切な事は厳しく諭す
教師のような言い方だと思った


「俺ぁ、プッツンしてる訳じゃあねぇ
     ただ、二人には理解して欲しいのよ、特に…」チラッ


チラリと私の顔を見て、黒コートが言う

「ヴァージニアの嬢ちゃん、あんたぁ聴けば[ガルナの塔]へお宝探しに
 行くそうだが、それは元から一人で行く予定だったんだろ?」

「そう、ね…もしも本当に財宝が会った時、複数人だとトラブルとかが
 ありそうですから」


「… "独り" を心がけるなら
    尚更だぜ? 軽率な行動、安直な判断は良かない
  常に命綱無しで綱渡りでもするようなモンでさぁ」   

「…ッ! はい…っ!」



「…親って奴ぁよォ」


最後にナジミさんは次のように述べる




「親って奴ぁ…世界中の誰よりもてめーのガキを愛してくれるモンさ」

 
稀に例外として親の資格がねぇクソ野郎もいるけどな、と付け加えて…

「愛してくれるなら、ガキもその愛に答えてやるってのが
 常識だと俺ぁ思うね! …んで、その答え方ってのは最も親が望む事を
 してやる事でさぁ」



「親が…望む事?」


「ああ、"てめーの親が本当に望む事"だ」


私は頭に疑問符を浮かべる…
親が望む事ですって? 母様はもう他界しているのよ?
今更、望んでる事も何も分かるわけないじゃないの…


「さて、その顔…
   なぁーんか"親の望む事"を難しく考えちゃってンじゃあねぇの?
  …本当に単純な事なんだぜ?」


「えっ…? 本当に単純な事?」


「応ともよ!
   マジに単純、そんでもって世界で一番難しい内容だろうよ」ニヤリ


ますます、分からない
私は、母様に何かを望まれた事なんて唯の一度きりも無いのよ!?

女手一つで毎日、働いて、養ってくれて
それで、日々窶れていって!!



…考えてみれば、私は母様の人生にとって枷でしかなかったわ

そんな私に何ができるのよ?

遺言でも何を望んでいるのか一切言わなかったのよッ!?



「分かるわけがないッ!
 母さんは死ぬ寸前まで私に何かして欲しいなんて言わなかった!
 身体に気をつけろだとか、哀しまないでだとか…そんなッ
  そんな…内容だけだったのよ…!」


目元が熱くっていた、気がつけば私は泣いていた










「なんだい…ちゃんと"して欲しい事"言われてんじゃあねーか」








「…えっ」






「気付いてねぇのかい?
  今、お嬢ちゃんが自身で言ったんだぜ?
              『哀しまないで』ってよォ…」




「それは…」


「もう一度言うぜ?
『親って奴ぁ…世界中の誰よりもてめーのガキを愛してくれるモンさ』
 子供がいつまでもメソメソしてて、前向いて歩かねぇ
 自分の幸せを追っかけようとしねぇ…ンなモンは無しだ

  親が子供に望む事ってのは"自分の子供が幸せであること"…だ!
 月並みな言葉って言われる程に単純で
   それでいて、世界で一番実現させんのが難しい内容だぜ!」






―今日は寒いから、風邪をひかないようにね?

―お母さんが絵本を読んであげるわ、一緒なら寂しくないでしょ?

―今日の夕飯は貴女の好きなクリームシチューよ、ちょっとだけ豪勢ね!




―お母さんはね、世界で一番、貴女が大好きよ…





       ぽたっ…!

              ぽた…っ!





「…ぁ、お母さ、ん」ポロポロ


「…お嬢ちゃんがお宝探ししようが何しようが俺ぁとやかく言わねぇよ
 お嬢ちゃんの人生だからな
 そんでも、これだけは胸に留めときな
          親御さんが何を想ってお嬢ちゃんを育てたのか?」


「その言葉を常に肝に銘じとけや」そう言われた所で私は膝を地に着けた

泣いた…  声出して大いに泣いたわ…



「嬢ちゃん」ボソッ
「ナジミさん…」

「同年代の子同士の方が何かと良い事もある…
   ヴァージニアお嬢の傍についていてやれ、これは命令だ」ボソ

「了解です、そして…ありがとうございます」ダッ


「さぁて、セルミィ!おめぇさんにも言いたい事あっからな?」

「うぇっ!? お、お手柔らかにね…?」


樹海に時計なんて存在しない

でも時刻はとっくに日付の変わる時間帯を過ぎていて
樹海での長い夜は明けていく、共に命の危機に瀕した"親友"は
私が泣き止むまで傍に居てくれた、泣き止んでからはお互いに謝ったり
此処を無事に出たら、彼女のとっておきの珈琲を
飲ませてもらう約束をしたり、本当に色んな事があったわ…


その後、私は無事に樹海を脱出した…

*********************************
>>470 恐ろしい事でなによりです(怯え)

>>473 敬意を払ってくれたことに僕は感謝するッッ!!

>>474 (着用者の)安心は保障するという
    安心と信頼のブランド品!(ただし相手は死ぬ)

>>475 >>476

申し訳ありませんでした…、ようやく続きを更新いたしました

>>478 そ、そういわれるととあ、あああ、焦っちゃうぜぜ…



  今回はここまでです、此方は久しぶりの更新でしたがどうでしたか?
 恐らく、この章は次の更新で終了となり、番外編に移りますが質問です


次の番外編はリクエストされた水浴びシーンと本来予定していた話の2つ

・『ある幼馴染は"ひーろー"に焦がれる』

・『乙女水浴び記』

   をお送りする予定です


 前者は 『ある少女のクリスマス 』(ロリだった頃のナジミ)
     『ある没落貴族の兄弟の話』(没落貴族の兄)
     に続いて、幼少期のナジミ達…所謂ナジミチルドレンsの話で
     今回はロリセルミィ…つまりロリミィさんの話を予定


 後者は 普通にリクエストされた水浴びシーン、ただし>>1の技量じゃ
     あんまり萌えは期待できない


  順番的に『ある○○シリーズ』『水浴び記』とやりたいんですが
  どうでしょうか?皆様の意見を尊重したいのですが…

*********************************

女の子たちがイチャコラしているやつください!
乙!

もうどんどん書いてください!

藻うどん丼に空目した

まだかな?

待ってる


正座で

待ってる

同時進行のスレについてkwsk

*********************************
【報告】
29~30日辺りに更新できるかも


>>487 す、すまない!コメ返しし忘れたてた!
    女の子同士のらーぶらーぶは苦手な>>1ですが最近練習中です

>>488 す、すまない!コメ(以下略
   どんどん書けなかったよ…

>>489 す(略
   (それって美味しいのかな…)

>>490 (略
    もう少しだけ待ってください






>>494 正座で待つ…だと!?
    何と礼儀正しい方だッ!和の心を心得ているッ!!

>>495 後4、5日待ってくれ!

>>496 自分で立てたモノでも別のスレタイ出すのは
    マナー違反かと思ってたけど、聴かれたなら良いと言われました


   此方が、現在同時進行中のモノとなります…



マリオ「最近、テニスやパーティーにゴルフばかりで…
                    何かを忘れているような」

マリオ「最近、テニスやパーティーにゴルフばかりで…何かを忘れているような」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1396172501/)

ノリと勢いで創りましたァ!







穂乃果「『れんあいげぇむ』」…?
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1400595708

ラブライブ詳しくないけどノリと勢いで始めましたァ!ラブライブ勉強中
※女の子同士のイチャコラの練習も兼ねています

*********************************

あんただったのかァ!

マリオの方も読んでましたぜ。

うわぁ!
マリオ読んでた!

お ま え だ っ た の か !



「お味の方はいかがで?」


「ん、悪くないかも…」


口の中に広がる程良い苦味…
それが目覚めたばかりの私の脳を覚醒させる


「ジョセフィーヌ」


「はい」



外からは雀の囀り、窓から差し込むのはお日様の光
聴覚が平穏の象徴を聴く、視覚が新しい日の始まりを見る


「私たちは…生きてるのよね」

「ええ、生きてます」


聴くのも馬鹿馬鹿しいような当たり前の事

死んでたら、こうして読書家の少女と会話することも舌がこの苦味を
感じ取る事も出来なかったんだろうな…って私は思う


普通に口から言葉を発して、目で物を見て、脳が思考する…
そんな当たり前の事さえ出来なくなる

それを考えたら…すごく怖くなった

そして今の状況に…すごく喜びを覚える




     "嗚呼、私たちは生きてるんだ…"






 バタン!



「ぐっどもぉ~にぃんぐ!起きてるかい嬢ちゃん達!」

やたらとテンションの高い黒コートの人物が入ってくる
この人…ナジミさんが扉を開けると仄かにアルコールの匂いが
鼻腔へと入り込む…


えっ、朝っぱらから酔ってんのこの人?



「ジョセフィーヌちゃん!ヴァージニアちゃん!おはようっ!」


テンションの高い酔っ払い(?)の後ろから長いサイドテールを揺らし
明るい笑顔でセルミィが入ってくる


(賑やかなモーニングコールね…)


私の新しい朝はこうして始まったのだ

―――
――


「えっと、えっと!これください!」


「はいよ!20Gだよっ!!」


「ぅ、結構高い…」


「おっちゃん、勘定は俺が持つぜ!」

「おっ!兄ちゃん太っ腹だね!
  彼女さんもこんな人が居て嬉しいだろうよ!」





出店でセルミィとナジミさんが"タコス"という食べ物を買っている
名物だか何か知らないが、ボッタクリじゃあないだろうか?


「それでヴァージニアさんは[ダーマ神殿]へ行こうとしてるんですよね」

「えっ、ああ、そうね…
   やっぱり、母様の遺した物だから…真実を知ってみたいと思う
 無論、一人で行って無駄に命を危険に晒そうとは思わないわ!」


樹海でも黒コートの人にお説教されたからねっ!


「母様から頂いた、大切な命だもの…絶対無駄にしない
  生きて、幸せになって、そして母様…母さんに
   笑ってみてくれるように頑張りたいと思うの」


[ダーマ神殿]…あそこなら熟練の冒険者達が自ずと集まる
一人くらいはあるかどうかも分からない宝物の為に…

もっと言えば、分け前だって無いかもしれない…
 そんな報酬ゼロのお仕事を引き受けてくれる
御人好しだっているかもしれないじゃない


「ねぇ…ジョセフィーヌ」

「はい」

「アンタは、ナジミさんの故郷とやらに行くんでしょ?」

「ナジミさんも[魔法の玉]のストックが大分減ったから補充しなきゃ
 いけないっと仰っていましたからね」

「あのさ、もし、もしも…3ヶ月以内に[ダーマ神殿]に
 アンタが来てくれたら」


少し恥ずかしかったけど、私は意を決して言ったわ


     「私と一緒に…宝物を探さない?」


"親友"


多分、生涯でそう呼べる人は居なかったと思う
家が貧乏だからって理由で虐めにも遭った…、友達と呼べる人は居たけど
それだって上辺だけだった

だからこそ、"親友"と呼べるかもしれない子…
ジョセフィーヌを誘いたくなった

「べ、別に無理にとは言わないけどね」


流石に前金も無しで動いてくれる冒険者なんていない
適当にバイトを探すなり、[ガルナの塔]の情報や宝探しの準備期間は必要

だからこその3ヶ月…その間に

その、来てくれるなら…嬉しい、かな?


「ど、…どうよ?」

「…」キョトン



目を丸くしてこっちを見てくる読書家の小娘
…なによ!言いたい事があるなら言いなさいよ!恥ずかしいじゃない!


「ふふ、そうですね…ナジミさんにお暇を頂けるか訊いてみますかね」


二つ返事で許可を出すでしょうけど、と彼女は付け加え空を見上げる

…私もそんな彼女につられて空を見上げるわ



空…、大空の向こうに天国があって死んだ人が生きてる人を見守っている
そう母様に聴かされた



必ず幸せになります…だから見ていてください

どうか、笑っていてください…







「わーお!嬢ちゃん達!黄昏てるねぇ!」ドッサリ


「…」
「…ナジミさん」


「あはは…!その皆で食べよう、ね?」



ナジミさんが両手で抱えているのはすっんごい量の"タコス"とやら
一つ20Gで買った後、「俺も買うぜ!」と言って
店主と壮絶な値下げ交渉が行われたらしい


12人前かしらね、量的に…



「ケチャップとヨーグルトソースどっちにするんだい?」


「? そんなの決まってるわ」
「では…」





「ケチャップよ!」
「ヨーグルトソースで」



「「えっ?」」


「定番といえばケチャップでしょ?」

「確かにそうですが、珍しいモノを試す事で発見もありえますので」



むぅ…どうやら、私はこの読書家とは気の合わない部分もあるようね

「喧嘩は駄目だよ?」

「沢山あんだし、色々試してみればいいさぁ」



「それもそうね…(ヨーグルトソースは認めないけど)」パクッ
「ええ(ケチャップでは定番すぎますけどね)」パクッ


…味の方は

…ヨーグルトソースは認めないって思った手前よ?
ええ、ただちょっと珍しいから、新しい味に惹かれただけ
断じて美味しいと思った訳じゃないからね?



昼食を食べ終えた私たちは旅の準備品を揃えたわ

…ちなみ私の買い揃えた荷物の金額は全額ナジミさんが負担してくれた
この人曰く「嬢ちゃんが原因で荷物を川に落としたらしいからな」との事


落ちてきたジョセフィーヌ…か


思えば、彼女がつり橋から落ちて、丁度真下に私が居たのが始まりだった



「此処でお別れですね…」

「ええ」


村の出入り口で私は三人を見送る

私はもうしばらくこの村に留まるけど三人はナジミさんの故郷へ行く為
船に乗らなければならない

それでもう出発してしまうらしい…



「また会えるわよね?」

「ええ、…その時は宝探しにお付き合いしますよ?」


「ふふっ、ありがとっ」

私は彼女を見送る

樹海という厳しい環境を共に生き抜いた"親友"の姿を…


殺人鬼の魔の手を逃れ、"技術"という道の力を目にし
人と魔物の共存を目の当たりにした少女

そして、今、彼女の冒険の書に新たに樹海から生還した子という
項が記されるのだ…

私の新しい一日は終らない、幸せを掴み取る為の冒険は終らない
同じように彼女の小さな冒険は終らないのだろう

彼女は次にどんな冒険をするのだろうか
どんな珍しいモノを発見をするのだろうか

      胸躍るような冒険は決して終らないのだ…!
          ~fin~

*********************************


 久しぶりに続き書いたけど…違和感がヤバイ

  ようやくジョセフィーヌの冒険編も終りましたが…

 名ばかりで出番が無かったジョセフィーヌェ…


 再び、ジョセフィーヌメインで何か話を練っておきます!


 次回は番外編1 幼少期の黒コート達
          所謂ナジミチルドレンシリーズですね!!


 可能なら次は一週間前後で更新いたします!


>>498 そうです! 私だったんだァー!!

>>499 >>500

  おお!マリオのSS見てくれてた人居たんだ!(歓喜)

>>501 そうだ、それも私だ。
*********************************

ほのぼの(大嘘)

酷いロリの押し売りをされた気分だ
乙!

やった! ロリミィだ! ブヒィブヒィ!

ナジミほんまかっけえ



 セルミィは困惑した

 目の前に現れた女の子は見ず知らずの自分を助けてくれた
 今まで、化け物の子供だと罵られてきたセルミィを…彼女を
 初めて救おうと言う人間が現れたのだ!



「お前・・・女の癖に生意気だぞ!」


「なぁにィ~?"女の癖"にだぁ~?」


不機嫌だった黒コートの少女の顔がますます歪みます


      "女の癖に"

この単語が更に彼女の怒りの炎に油を注いだようです…



「おい!皆で化け物の味方するコイツをやっつけようぜ!」
「そうだそうだ!」
「お前も魔物の手下だな!」
「ライアンマンみたいに正義の心で悪を倒すんだ!!」



「ケッ!!どいつもこいつも正義だ何だとアホくせぇなオイ!



   …俺のセンコーが言ってたぜ、本当の正義ってのはなァ
         正しく真実を見て行動できる奴なんだってよォ!」




セルミィは・・・人間だ

親から貰った二本の脚で立ち、左右に腕があり、自分等と同じように
人の言語で意思疎通が図れる


心臓だって動いてるし、呼吸だってしている








  …"化け物"なんかじゃない  れっきとした"人間"の女の子だ


ただ、人より能力が優れているだけで何ら変わらない子…それが真実だ



黒コートの女の子の目には今の光景がどう映る?


身体的に勝る男が数人がかりで何の罪もない少女に寄って集り
虐めを行っている


男勝りな少女が見る"正しい真実"であるッッ!!



5人…ざっと見て5人の少年が1人の少女に敵意を向けます


そんな中、黒コートの女の子は


「ほれほれ、どっからでも掛かってきなヒヨッ子共!」チョイチョイ

ご丁寧に手で挑発までかまします



「野郎!」

この辺りがやはりお子様です
 少女の絵に描いたような安い挑発に容易に乗せられてしまうのだから


少年が1人、コートの子に殴りかかろうと右腕を振り上げます


「あっ、危ない!」


思わずセルミィは叫びます…が





シュッ!



「うげっ!?」


先ほどの蹴り同様に鳩尾にキレのある右ストレートが入る
走りながら向かってくる相手にタイミングよく拳を繰り出すだけの作業

手を振り上げて振り下ろす動作よりも予め決まった位置に素早く手を出す
所謂"カウンター"という物です


「知ってるか?[ジパング]の古流剣術に"居合い切り"ってのがあんのよ」


"居合い切り"…抜刀の構えで相手が自分の攻撃の範囲内に入った瞬間に
素早く切り捨てる剣術



彼女の父親は"[ジパング]人"です、それゆえ
抜刀の心得という物に多少の理解がありました


腕を振り上げ、無防備にもまるでガードされてないお腹を曝け出しながら
自分の拳の射程範囲内に突っ込んでくる少年の姿は
さぞマヌケに見えた事でしょう



「次はどいつだい?え?どうなんだい?」


お腹を抱えて蹲る仲間を見て、4人の少年がたじろぎます

「お、おい!今、思い出したんだけど、アイツたまに海の向こうから
 やって来るガキ大将じゃねーか?」
「げっ!マジかよ、色んな地区で暴れてるって奴だろ」
「に、逃げようぜ…」


誰だって自分が痛い目に遭いたくない

人間の本能から少年達は蜘蛛の子が散るように一目散で逃げ出します


「行ったか…」


「あの、助けてくれてありがとうなの!」

「ん!どういたしまして」

「えっとね!私、セルミィって言うの!」


「わーお、ご丁重な自己紹介ありがとうごぜぇます!
                 俺ぁナジミってモンでさぁ」


独特な喋り方の少女が自己紹介をしてくれました

これが後の大親友ナジミとセルミィの出会いである


「…ぅっ」


「あっ!」ダッ

ナジミのカウンターパンチで未だ地に蹲っていた少年に
セルミィが駆け寄ります


「おいおい、ソイツの自業自得だぜ?ほっとけよ」


放っておけと言うナジミの言葉に逆らい
セルミィは少年に質問します

「君、お腹いたいの?」


「ぼ、僕に近づくな化け物め!」


「お願い…答えて、ね?」



「…………
    痛いに決まってるだろ」



それを聴くとセルミィは目を瞑り意識を集中させる


そして…







(!? んなぁ!? なんじゃあ…ありゃあ?)

ナジミが口を開き驚きます

目を瞑り意識を集中させたセルミィの周りに
光のようなモノが集まるではありませんか…!

その光は何かの生き物のような形を構築し、そして




     ― 『[べホイミ]』 ―



そう告げたのです


「ありがとう[タッツゥ]」

セルミィが光で出来た"何か"にそう告げると光は消えていきます




…昔から人には聴こえない"何か"の声が彼女には聴こえた

魔物の言葉は理解できる、人に聴こえない"何か"の声を感じ取れる
これこそが彼女が異端視される一因である



「い、痛くない…?」


「良かった」ニコッ


「…ゎ」



少年は微笑み掛ける女の子に消えそうな声で

「悪かったよ…」


謝ってくれた少年に「良いよ」と許してあげたセルミィを見て
少年は静かに去っていきます




「なぁなぁ!今のどうやったんだ!すげぇな!」


「えっと…お友達に手を貸してもらったの?」

"お友達"…先ほど口に出した[タッツゥ]というモノでしょうか?




(…ありゃあ一体なんだい?"呪文"じゃあ無さそうだったけど
  センコーなら分かるか…)




ナジミはセルミィを自分の家庭教師に逢わせてやりたくなりました

「おう!セルミィ!ちょいと俺に付き合ってくれよ?」

「? 良いよ」



ナジミはセルミィの手を引いて教師の元へ向かいます



そして彼女が行った事が"呪文"ではなく[精霊しょうかん]という物だと
知らされるのはすぐの事で、その才能を見込まれ
教師が彼女を養子として教会から引き取ろうとするのはすぐの事でした




そして…数年の月日が流れる

―――
――

~『 まるで牢屋だよ、ろーや 』~


誰も名前を呼ばない小さな大陸

ナジミの故郷であり
海に囲まれて外の世界も知れない土地である


ある年の事でした

その地でナジミと彼女の教師の養子となったセルミィ…そして
訳あって一緒にこの地へ連れてきた"没落貴族の兄弟"の4人が集まります


あの時よりも少し成長したナジミ達…齢は皆10歳程になった頃です


「今日も暑いね?」
「だなーっ」
「おいナジミ!貴様、何処まで俺達を歩かせる気だ!」
「お兄ちゃん、怒らないで?」


上からセルミィ、ナジミ、没落貴族の兄と病弱な弟が順に口を開きます


長い付き合いとなった4人はすっかり気心の知れた仲となり
いつも4人でつるんでは馬鹿やってふざけ合い遊んでいました


「うるせーぞ町人A、黙って荷物を運べや!」

「ぐっ…まだ町人Aとか言うか…」



かつて饅頭を口に突っ込んでやった兄弟の兄がナジミを忌々しげに見て
言います、確かにあの時に自分も名乗らなかったのは悪かったが…


力仕事は男の子のお仕事です


ナジミの用意した荷物を持ち歩く兄は
4人分の荷物を持っています(※病弱な弟に持たせる訳にも行かない為)


ジリジリとした日差しが照りつける日中、4人は列を創り先頭のナジミが
目指す地点へ歩きます


『※※※※※大陸』
この大陸には名前がある…しかし、これと言って国家も村も無く
集落があるか無いかと言った取るに足らない地

 この大陸では大昔に二つの民族が存在し、お互いに領土を巡り
争い合っていたらしく、その衝突から互いの民族は
滅び行く寸前まで人が亡くなったのだ

 僅かに生き残った者も戦いの傷痕から人が住めるように野を耕し
田を緑で溢れ返させるのは困難と考え、海の向こうへ渡った…

今、この地に住まうは古くからの原住民の子孫と海の向こうから静かに
暮らせる地を求めて来た人間達だけである



   "アリア族" と "ハン族" …この二つの民族が居た事が

   この名も呼ばれない大陸の名前の由来だとされている


  "アリア" "ハン"  …大きな国家も無ければ港も船も無い

 ナジミの生まれ育った牢屋のようなちっぽけな土地<セカイ>である

*********************************


           今回は此処まで!

 どうしよう水浴び回が夏終わる前にできるかわからなくなって来た…



そ、そそそ、それは、さておき!ようやく話が全て繋がり始めましたね!
  名前を公表されなかったナジミさんの故郷について
ナジミの"悪友"達…セルミィと『ある没落貴族の兄弟の話』に出た二人
  いやぁ…こうなればナジミが捜し求める[青い石]に関しても
 謎が解き明かされそうですよ!!!多分(話題逸らし)




>>520 ま、まだ、ほのぼのするかもしれないじゃないですか…(仮)

>>521 >酷いロリの押し売り
    人身売買かな?(すっとぼけ)

>>522 <●>「このロリコンめ!」

>>523 ナジミさんは胸のあるイケメンですからね仕方ないですね
*********************************



「てでーま」シャリシャリ

「先生、バカを連れて戻りました」



「はい、ルラフェン…お疲れさまでした」ニコッ




 こじんまりとした小さな建物、大陸の外で使われる名称で呼ぶのなら
丁度プレハブと呼ばれる物置小屋のような広さだ


ナジミの実家から徒歩で1時間、そこに建てられた簡素な白塗りの建物で
子供用の椅子と机がそれぞれ6脚だ

だが使われるのは4人分でそれ以外の物は壊れた時や清掃などの予備だ




この大陸には子供がいない



居るのはナジミと没落貴族の兄弟、そしてセルミィお嬢のみである




「ほれ!センコーに土産だ!」

「おっと!!!ほぉ…これは良い林檎ですね!ありがとうございます」


「先生…!貴方は甘すぎます!もっとこの馬鹿野郎にはガツンと!!」


「まぁまぁ…!ではこうしましょう
  私はナジミからこの上質な林檎を頂きました…
       つまりこの"賄賂"でおあいこということで」




「だとよルラフェン!」


「~っ!」ムスッ



ケラケラと笑う黒コートの少女とは対照的にしかめっ面の少年
そんな二人と教師のやり取りを見て笑うのが――



「今日も賑やかだね!」
「はいっ!…お兄ちゃんもあれで楽しんでますよ!」


そんじゃそこら少女よりも可愛らしい少年とサイドテールの少女である














「っしゃ!今日の授業は案外早く終わったな!!!遊びに行こうぜ!」

「貴様は途中からサボったからな、だから早く終わったように思うんだ」



「っせーなぁ、細けぇ事ぁいいじゃあねぇか」


「先生がよく言ってた『若い内の苦労は買ってでもしろ』とな
 色んな経験を積んで、挫折や苦悩を味わうから後の人生で役立つとな」


「わーお!なら安心だ!俺ぁ将来苦労しないかんな!」ハッハッハ!

「ガキかよ」

「ガキですぜ!」



齢相応の馬鹿馬鹿しい会話をしながらナジミ等4人の少年少女が
原っぱへと出向いていく



授業が終われば彼女等は決まってある"遊び"を楽しんでいた


これはナジミの母親が小さい頃よくやった遊びだそうだ…



ナジミの母親の生まれ故郷は…[エジンベア]という国だった
そこの貧民街で少年少女達の間で流行っている"ベースボール"と言う物だ


「お兄ちゃん!ナジミ師匠ー!セルミィさん!こっちは準備良いです!」



「おーう!ソウジはそのポジなー!」




「…ハァ」

「? どしたの?ルラフェン君、ため息ついて」


「…弟が…ナジミに強くなりたいと言い出して
  それで稽古着けてもらって…もうどれくらいか…アイツの事を
  師匠と呼んでそれなりに慕ってて…」ガクッ



「ナジミとソウジ君が仲良いのが気になるの?」


「当たり前だ、ウチの弟にまで馬鹿がうつったらどうする…」

「あはは…風邪じゃないんだし大丈夫じゃないかなー?」




ルラフェンとその弟の住まいは"センコー"の家のすぐ近くだった

いや…お向かいさんと言った方がしっくり来る




とある街で没落貴族の兄弟とセルミィを保護し、この大陸に連れてきた時
彼女等の住まいをどうするか?

 ルラフェン達は、"センコー"の助手兼弟子という形式で来た為
すぐに彼の研究や授業の荷物運びができる住まいという事で
一月近くで建てられた頑丈な家だった


ちなみに身寄りも無いセルミィは"センコー"養子として連れられた為
センコーの家に住み込みである


さて、そんな彼らと彼女の家にある共通の遊び道具…"野球セット"だ



ナジミにせよ、ルラフェン達にせよセルミィにせよ誰かが
忘れたなら、すぐに家に帰って持ってこれるようにである



小さなボールと[ひのきの棒]を加工したバット
そして"ホームベース"なるモノで準備は完了だ…




「おっしゃ!行くぜぇ…!」グッ!



投手<ピッチャー>ナジミ…そして!!




「うんっ!行くよ!!」ブンブン!!



打者<バッター>セルミィ…ッ!



このカードの場合は大抵の場合
 常にホームランか常に三振のどっちかである


「…で、また俺が玉拾い役か」ブツブツ

「お兄ちゃん!頑張って!」


セルミィに負けず劣らずの打者である弟に励まされる兄、男としては
一番弱いのが複雑な心境である


…周りの女子の強さが異常である





   「オラァァ!!!」ブンッッ!!   シュパンッ!!!

   「っ…えいっ」ブンッ! スカッ!

   「すとらいくー!師匠の勝ちだよー!」



 キャー! ワイワイ!  アハハッ!


「…暇だな」ポケー



ナジミとセルミィの一騎打ち、そしてキャッチャーを務める弟…

そんな3人を遠目に眺めながらも時折蒼空を見上げる…

ふと、顧みる…あの街で貧困に陥っていた時の自分を
こうして青空を見上げる余裕があっただろうかと…




「…暇であることもある種の"贅沢"なのかもな」


「お兄ちゃん!危ない!!」

「ん?―――ウゲェ!?」バキィ!!


「わーお…わりぃ、まさかそっち飛ぶとは思わなかったわ」

「な、ナジミ…し、ね…」ガクッ





「ほらよ!腫れてねーし、こんで良いだろ」ポン


「…気を付けろ馬鹿野郎」イライラ


「へーへー、気ぃつけますよ!」ペラッ





「…」


「…」ペラッ



「それ、まだ読んでるのか?」


「んあ?…ああ、この[進化の秘宝]についてって奴か」

「俺は…あの時と比べて学もそれなりにつけた
  だから…昔よりは本に書かれてる事も分かって来たつもりだった」


「…」



「だが、俺にはまるで一向に読み解けないんだ
  術式も何を媒介にするかさえも…

              …お前には理解できるのか?」





「…できるね」



「なら―――「だが断るッ!」



   ルラフェンが言うより先にナジミは口を挟む


「っ、まだ何も言ってないだろ!!!」

「ケッ!言わねぇでもわからぁ!!!…テメェよォ
   弟ちゃんに使いたいんだろ?この[進化の秘宝]て奴ぉよォ」





「………」




「…弟ちゃ――ソウジの野郎は身体が弱ぇさ
  俺のつけたニックネーム…[ジパング]の剣豪
  ソウジ・オキタみてーにマジで弱ぇよ…"皮肉"にも、だ」


「分かってるよ…アイツの病気を治せる薬草はもうこの世にはない
  だから完治もできない…」



「だから、お前はこの[進化の秘宝]って奴にある "究極生命体" を
 生み出す技術を応用して、ソウジの事を
    病にも負けねー強い身体にしてぇそうだろ?」



――ルラフェンは目の前に居る黒コートの少女に何も言えなかった




彼は…彼女、ナジミの事が嫌いだった




…いつもお茶らけていて
   馬鹿みたいな振る舞いで周囲を困らせるような奴なのに









  なのに…自分や周りの人間の本質や悩みを見抜いてるから――






     「わりぃ事ぁ言わねぇ…止めろ」





 いつもの馬鹿みたいに高いテンションでもない
自分より年下で…生意気で、人をイラつかせる天才だと思ってる奴なのに




     「…ルラフェン…‥頼む、止めてくれ」スッ






…なのに、こういう時だけ、この女は
            大人びた顔で諭すように優しく言い聞かせる



…だから嫌いなんだ、彼はそう心の中でつぶやいた



   「…止めろよ、土下座なんて私にするな
           …お前らしく、…ないじゃないか」


   「…やだね、お前が諦めるまで俺ぁお前の嫌がる事をし続ける」






そう言って"心の奥底では尊敬している悪友"はあっかんべーと
舌を出しながら、見たくも無い"尊敬する友人の土下座"という嫌がらせを
続けて来るのであった…


  「わぁってんだろ?術式だの媒介だのは読み解けなくとも
      アレは人間が使って良いもんじゃあない…
         アレを使ったら最後、人間を止めちまうさね」


  「…分かってるよ」

  「約束しな、…完治はできなくとも身体は良い方向に向かってんだ
    無理に訳わかんねぇモンに頼る必要はねぇだろ?」



「分かったよ…約束する、だから貴様もソレを止めろ…頼む
  男が女に土下座させるなど元貴族としてあってはならんからな」

「…へっ!嘘吐いたら、わさび丸ごと食わせっからな!」スッ



    「ふんっ!…ならんようにしてやろうじゃないか」ククッ

     「ハッ!!ったりめーだろボケ」ヒヒッ!



 セルミィやソウジも…そして彼女等の教師も大陸中の者が知っている
なんだかんだで口喧嘩の多いこの二人も
お互いをそれなりに認めているという事を…"固い絆のある悪友"なんだと





  「おやぁ?先生はこちらにいっらしゃいませんかぁ?」ギィ…!


           「「!!」」




 喧嘩友達が仲直りをした直後に一人の男が
二人しかいない個室に入って来た…


真っ白なローブに…蝙蝠のようなマーク、やせ細った頬と同じように
棒切れのような細い足腰で室内に一歩踏み出す

足腰が弱い為かその男性は一本の杖を突いていた、純金製の杖の先端に
翡翠をはめ込んだ杖





「ほぉ…!これはこれはナジミお嬢様じゃありませんかぁ…
   男を部屋に連れ込んで甲斐甲斐しく手当とは
           …いやはや!お邪魔でしたかなぁ?」ニヤニヤ




「…あぁん?んだよそのキモイ笑いは?」

「‥…俺はこのアホに野球の玉をぶつけられましてね
    それで正当な手当てを受けただけです
           用事が無いのでしたらお引き取りと」


ナジミは包み隠すことなくストレートに『キモイ』と

ルラフェンはこの薄気味悪い笑みを浮かべる男に"遠回しに『失せろ』"と
それぞれ言うのであった


「これは失礼!しかしナジミお嬢様も数年後が楽しみですなぁ!
   きっとお母様に似た凛々しい女性になられるのでしょうなぁ~」


「うわ、キモ」

「先生に用があるのならすぐに行かれたらどうですか?暇なんですか?」



この痩せこけた白ローブの男性…鋼のようなメンタルの持ち主である
14才の少女に2回『キモイ』と言われてもへこたれないあたり凄い



「ほっほっほっ!失礼!それでは…!」バタンッ!



「…マジできめぇなアイツ」


「言うな、…一応あの男は先生の連れだぞ?」

「一応、な…勝手についてきただけの」


没落貴族の兄弟とセルミィがこの大陸に暮らし始めてしばらくした後の事
家庭教師こと"センコー"はナジミ等の教材を買いに船に乗って
 大陸の外へと買い出しに出かけた…




そして、魔物の群れに襲われていたあの痩せこけた男を助けたらしい




以来、男はセンコー……いや、違う






センコーが助ける為に使った "込める技術" に惹かれたらしい

そして、しつこく弟子にしてくれとストーカー顔負けな程に言い寄り…
最終的にこの大陸までついてきたらしい、了承も無く勝手にである



彼は聞けば何処かの辺境の村で神官をしていたそうだが…

彼は…教会の教えに無い事を住民に言い初め
存在しない神について語るなど…




そう、つまり…その、彼は所謂 "新興宗教"を立ち上げようとしてる人だ



「…俺ぁアイツが気にいらねぇ」

「まぁ、な」


ナジミの母親に取り入ってどうにかこの屋敷のお手伝いさんとして
住み込みをさせてもらっている(無論、ナジミの母も内心良く想わない)


本当に神に使える神官なのかと疑うような性格だ…


まず、女性を見る目つきが嫌だ

ナジミの母親を見る目つきが完全に
変質者そのものであるし(だから嫌われてる)


それどころか娘であるナジミすら"そういう目"で見ている…


あの男が声を出さずに我慢してる事を良い事にセルミィの身体をやたらと
触っていた時は本気で石でも投げつけてやろうかと思った程だ



「つーか、アイツやべぇわ…俺やセルミィ所か弟ちゃんまで
  じろじろ見てんだぞ?大陸の外じゃよォ
        あーゆの"ペド野郎"ってんだろ?」

「…お前、本当そういう下らん知識だけは身に着けるの早いよな」


「褒めるな!照れるぜ!」ハッハッハ!

「褒め取らんわ!このマヌケがッ!」



「まっ…あの野郎ロリコンだかショタコンだかはどうだって良いんだわ
  ただキメェだけで何もしないなら無害だしよォ」



仮に手だしたらブチコロだけどな!とナジミは付け加えながら言う






「本当にやべぇのは…アイツが"込める"技術に興味持ってる事だわ」

「‥だな」




"込める"技術…まだ世界に多く広まってない力


火炎系の[呪文]を爪に込めた、[炎のつめ]や他にも[ふぶきの剣]など
一つあるだけで大きな影響力を及ぼすかもしれないモノだってある


"新興宗教"…強い力…



確かに惹かれるのだろう、な


 ナジミは地頭はかなり言い方だ…事実彼女は数百年来の天才
故にこの若さにして"込める技術の開発もそれなりに出来るだろうし
あの[進化の秘宝]について書かれた本の内容も解せる



だが…まだ子供だ


だから大人の悪意や考え方も…なんとなく本質とかは見えて居も
それをどうすれば良いとか、具体的な物までは完全に見抜けないのだ


 ナジミよりかは大陸の外で都会暮らしの歴が長いルラフェンなら
あの男が"込める"技術のどこに魅力を覚え、何に使いたがってるか分かる



「具体的に何がやべぇか分かんねぇけど…あの変態野郎にだけは…
   なんつーか、あんま技術はやりたくねぇわ」



「…それで良いさ」




あの痩せこけた男の目

隈ばかり張っていてまるで爬虫類のような…トカゲを思わせる
ギョロギョロした目つき…


それがナジミも…セルミィも…ルラフェンも、他人に優しいソウジでさえ
『嫌だ』と思わせた…


"センコー"の養子、助手、弟子…大金持ちのお嬢様

そういう表面ばかりを見て、"へーこら"する態度…


本質では子供達を見下してるような嫌な大人の心‥
それが時たま見えるのだ…

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******
***



「ふぅ…少し話過ぎて疲れちゃったかな…
     ごめんねジョセフィーヌちゃん、少しだけ休んでも良い?」


「ええ、構いませんよ、紅茶を淹れましょうか?」


お客様なのにごめんね?と両手を合わせてお願いするセルミィに
ジョセフィーヌはカモミールティーを淹れる…

「いえ、これくらい構いませんよ…9年も前のお話を語って
                  貰っているのですから」


「でも、お料理まで手伝ってもらって…」

「メイドの務めです」


少し教えただけで、初めてやってきた厨房の食器や調理器具etc…の配置
そして長年メイドとして培ってきた手際の良さでセルミィの思い出話を
聴きだしつつも、上手く仕事をこなしていく


経験だけでなく、彼女個人の要領が良いという事もあっての事だ



「あとは、キッシュが美味しく焼きあがるのを待つだけだねっ!」フフッ

「ええ……どうでしょうか?お味の方は?」


「うんっ!香りも味も…良いね、これ…どうやったの?
                 淹れ方とかも私と違うし」

「ええ、それはですね――――」」







「へぇ…勉強になるの!」

「恐縮です」



「…んー、一息つけたし、続き話そうか?」

カップを置いて彼女は話し出す

「…あんまり言いたくないけど私もその男の人好きじゃないの…
    好きじゃない人だったからその人の名前、よく覚えてる…」


 その人の名前は…と、どこか震える声でセルミィは告げる…











「…[ロンダルギア]…その爬虫類みたいな目をした男の人の名前
              [ロンダルギア・ハーゴン]っていうの…」


 [ロンダルギア・ハーゴン] ……

"新しい宗教"を立ち上げようとする元・神官の名は"[ハーゴン]"と言う

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          今回は此処まで!!







    ………【込める技術】ッッッ!!


    ………【ナジミの考える画期的な戦闘"方"】ッッッ!!


    ………【賢者の石】ッッッ!!!


    ………【進化の秘宝】ッッッ!!!


    ………【ハーゴン】ッッッ!!!


    ………【新しい宗教】ッッッ!!!


    ………【 "究極生命体" の創り方】ッッッ!!!!






     全ては…ッ!


     全ては………ッッ!!




     全ては…………『繋がっているッ』!!!



  ドドドドドドドドドドド…!


                To Be Continued⇒

▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽


「まぁまぁ…抑えて抑えて」

「…ったく」

「先生もお兄ちゃんもどうしてそう突っかかるのさ」

「知らね、なんかこいつたぁ知らない内に喧嘩になんだよ」

「私もだ」




 才能ある人間同士、方や"込める"技術の術式、方や魔法使いとしての才
双方とも"技術"を創る上で重要なモノ

構築するパーツこそ違えど最終的に創るモノ…行き着くモノが同じだから
似通った発想や物事の捉え方が同じ部分もある



 ナジミとルラフェン…これはある種の"同族嫌悪"なのかもしれない



いつも喧嘩してばかりなのに"込める"技術精製の際や偶に何気ない会話や
趣味なんかも妙に気があったり…


奇妙な友情を感じる事がある





「でも…サンタさんって男の人だよね?先生は…その」


「…あぁ、かなり小せぇ頃、母さんに言われたわ
  サンタさんは男の人じゃなきゃできないのよってな…」


しみじみと、いつかのクリスマス・イヴを思い出す
家族が揃っての団欒、自分はご馳走ができるまでの間
ジグソーパズルを解いて遊んでいた日の思い出…




  まだナジミが"ちゃんとした女の子らしい口調"で

 サンタさんになる為に"男らしくなろう"なんて考えてない頃だ



「俺の口調ぁ…まぁ、なんだその、なげぇ事ずっとコレだったからよォ
 今更、直そーとわよォ思わなんだ
 コレはコレで良いかなって思うようになったしなっ!」ニィ


「…それで良いのか?貴様」


「細けぇこたぁ良いんだよ!!こいつぁ喩えるならアレだ!アレ!
 『十年間ずっと使い続けてきた箸の持ち方を今更変えましょうね!』
  みてーなモンだぜ!野暮ったいし良いじゃあねぇか!」


「…まぁ、当人がそれで良いと言うなら良いがな」


[ジパング]の独特とした食器、"お箸"を喩えの引き合いに出して来た彼女
この場に居る4人…いや、屋敷の使用人たちも
ほとんどが"お箸"とやらを使える

ナジミの父親が[ジパング]人だから珍しい文化料理に触れる機会もあり
同様に風情を楽しむ為に教えて貰うこともあった
(強制はしない、できない者はできないでちゃんと銀食器を用意)

(箸か、…前に地底湖の秘密基地でやった土鍋パーティ楽しかったな)

「サンタさんがどういうのかは先生も知ってるんでしょ?なら…」


サンタさん、一夜にして世界各地を周り子供達に夢と希望を与える

   "架 空 の 存 在" で あ る


「ああ…、俺だっていつまでも無知のクソガキじゃあねぇよ」

「だったら…」


   「なぁ、弟ちゃん、セルミィ、そしてルラフェンよ…
     俺ぁ思うのよ…


     もしも、そんな架空の存在が実在するようになった
                  面白れぇと思わねぇかい?」ニヤリ





この少女は時々、突拍子もない発想を繰り出す

この悪戯っ子がとっておきの悪戯を思いついたような笑み


まさしく、それである




「…クリスマスの夜に空を見上げれば
 誰かさんの空想だと思ってた存在が居るッ!
 それを地上から見た奴らはどんな顔すると思う?
 間違い無く驚くねッ!幽霊に出会うよりも奇怪な遭遇ッッ!
 ポカンと口を半開きにして目ん玉おっぴろげる様が浮かぶぜェー!」



いつだって彼女の馬鹿馬鹿しい発想は変わらない


そうとも…っ! 例え10年の歳月が過ぎようとも童心を忘れない


元々『サンタさんは女の子ではなれない、なら男の子になれば良いッ!』
なんて発想に至るような人間なのだ

それが彼女、ナジミという人間だ



「ぐっふっふっ!んで俺ぁ空の上からポカーンとしてる連中の顔を
 眺めてやんのよ!いやぁ、きっとスカッと爽快な眺めだろうなァ~?」


「…で、本当の目的は?流石にお前もそんだけじゃないだろう?
 俺達の将来…真面目な話してんだぞ?」


「ふぅ…夢が無ぇなぁ、これだからリアリストって奴ぁよォ」


やれやれ、と肩を竦めてナジミは続ける

「ま、それは半分は本気なんだが、勿論それとは別で俺の中に一つ
  どうしてもやりたい事があんのさ」

「あっ、半分は"本気"なんだね」
「ナジミはいつだって本気なの!…変な方向に」


「俺さ……本当にサンタさん、って奴に"実在"して欲しいんだよ」

「だから、真面目に答えろと―――「違う」」






  「…ルラフェン、違う…違うんだよ…
           俺ぁ、真面目にそこんとこ思ってんだ」


一呼吸置いてから、黒コートの少女は目を瞑り語り出す

「俺がお前らとあったあの街…同年代の子供とか社交性だの
 大陸の外じゃなきゃ学べねぇ事もあっからあそこへ留学してたのは
 知ってるだろう?…いつも、外の世界に憧れてた」


「…話を続けろ」


「俺さ、サンタさんってすげーって思うのよ
 何がすげぇって一晩で世界中を飛び回れるんだせ?
  なぁんにも縛られねぇんだ、そんで皆に夢と希望を与えてく」


「夢と希望…子供達へ…」


ルラフェンはまだ没落貴族となる前…小さな子供の頃を思い出す
親が酒浸りになる前…雪降る夜には暖かい暖炉の前で目を輝かせて
プレゼントの包装を開いた事を…


「子供達が欲しい物を無償で届けるんだ
 学びたいって奴には本を…友達と遊びたい奴にはその為のおもちゃとか
  ボランティア団体も吃驚仰天だぜ?それは誰にだって平等の筈だ」



「友達と遊ぶ為…誰にでも平等…」


セルミィは食べる手を休めて過去を振り返る…
皆がプレゼントを貰える中、自分だけが一人取り残されたような
クリスマスを過ごした経験を…



「だから、まだ何も知らねぇクソガキだった頃は純粋に俺もサンタさんに
 なって手伝いてぇとか、それは純粋に思ってたさ
 んで、俺も歳取って、サンタさんの真相知ってさ……世の中には…

 "貧しい"とか、"親が平気で子供を虐待する家庭"とか…そういうので

 貰えない子供が居るって現実を
 その…段々知っちまったんだよ……誰にでも平等である筈なのに、だ」


「…貰えなかった子供」


ソウジは…病弱でベットに寝たきりの頃にサンタが空想絵本の人物だと
小さい時から知っていた、それでも兄が弟に『夢』や『希望』を
信じて欲しくて兄が半分だけの手袋や希望のある話をしてくれた事を
今でも覚えている…



「だから、"実在"して欲しい…

  俺ぁ……"込める"技術で一発"大儲け"できねぇかと考えてる
 "込める"技術は上手くいけば巨万の富ができるんだ
 そんで恵まれねぇ子供とかさ…貧困で苦しんでる奴を助けてぇ」



ナジミは…ゆっくりと…

"愛すべき悪友<ファミリー>"の顔を見た


血は繋がってない

本当の兄でも弟でも歳の近い妹でもない
けど…赤の他人とは思っちゃいない…


 貧困で苦しみ、もしかしたら寒空の下で飢えて死んだかもしれない兄弟
親の虐待で…この世に何一つ『夢』も『希望』も見いだせず
世の中を【恨み】ながらセルミィが死んでいった…そんな可能性だって
もしかしたら、そういう事だってあったかもしれない

現実問題、そういう苦しい人生を歩んだ子供が目の前に3人居るんだ…


「父さんがよ、[ジパング]の空想絵本で"鼠小僧"っつーコソ泥が
 主役の本を読んでくれてな、それ聴いた時ぁ、わーお!って驚いたぜ
 悪ぃ金持ちから財を盗んで、高い所からばら撒くんだぜ?
 で、腹空かしてる奴らはお腹パンパンでめでたしめでたし!って奴だ」



まるで、サンタさんが無償でプレゼントをばら撒くのに似てねーか?
ナジミはそう付け加えた


「無論、サンタさんは盗品じゃなく自前だし
  犯罪もなーんにもしちゃいねぇ、誰も損はしねぇのよ、得だけだ」



「…要は、お前は将来的に莫大な金を一人で稼いで
 貧しい人間、問題のある家庭を救うボランティア的な事がしたいと?」



「…ざっくり言えばそうなんのかねぇ、一応」ズズーッ


茶を一杯飲み、実現不可能な事を口に出す黒コート


「俺の夢ぁ、サンタさんだ…そこんとこはぜってー変わらねぇよ
 貰う側は施しなんか受けたくないだとか色々文句言いそうだが
 んな事ぁ知らねぇな、俺がやりたいからやるだけだ」


いらなきゃ捨てろっつーハナシだ、そうぶっきらぼうに言って
この大うつけ者は笑いだす



「技術でお金持ちかー、そんな事できるの?」

「セルミィの言う事は尤もだ、確かに技術は凄いが…
  そうそう富を生み出せる物は無いだろう、第一、金ができても
  どうやって世界中に届けるんだ?ええ?」



「あん?決まってんじゃあねーか、俺ぁ"サンタ"になるっつたろ?
  ならお届け方法も、それっぽくなけれりゃあなぁ」



ピタッ、空気が固まった気がした?

サンタクロースらしい届け方?




 「巨万の富を創る方法…そして、お届け方法で俺に良い案があんのさ」


 ナジミは…ポケットから小さな手帳を取り出す
ルラフェンはソレをよく見た事がある…ナジミは偶に思い付いた
"込める"技術のアイデアを書き溜める手帳だ





 「…サンタさんは空飛ぶソリに乗ってやってくんだぜ?
         ならよォ…俺も"空を飛ぶ"しかねぇよなァ?」ニタァ





 空…ッ! 天空…ッ!
 それは、生物界に置いて上位の存在たる鳥類の領域<テリトリー>ッッ!

未だかつて…ッ! あらゆる土地を開拓しつづけた人類でさえ
                     踏み込めぬ地であるッ!

 もしも!人類が鳥類と同じように大空とお友だちになれたならッ!

        世界は…その人間のモノッッッ!!!!



  ダンッ!!


「ありえんッ!人間が空を飛ぶだと!?非ィ科学的だッ!」


机を大きく叩いてルラフェンが立ち上がるッ!
揺れるティータイムのテーブル!ソウジは驚き!
セルミィは瞬時にタルトケーキと紅茶が零れないように確保したァ!!



「わーお!落ち着けって!頭に血ぃ昇って破裂すんぜ?」


「…むぅ、…貴様の言ってる事があまりにも馬鹿馬鹿しいからだろう!
  "人間が大空を飛ぶ"だと?ありえん!不可能だ!
  人間は人間だ、鳥ではないのだぞ!」


「うーん、私もちょっとそれはないと思うの…」

「先生…流石にそれは夢物語過ぎるのでは…」


「ケッ!なんでぃ!俺の考えた"理論"に不可能はねぇんだぜ!」


ペラペラと手帳を開き書き込んだページを捲ろうとするナジミ


「…何も、人間の身体から翼生やそうなんて考えちゃいねぇよ!
 "込める"技術の可能性は無限大だ
  技術の力で人間が大空を支配できるようにする」


ペラッ…


「っと、此処だな……俺の理論が正しいなら人間はな…

  大空どころか、空よりもずっと上の空、あのお月さんにすら手が届く

  そう考えてんのよ」


「月!?…あの夜に輝く月だと!?」


「おうともよ!!!…俺の考えたこの "画期的な技術"…そうだな
 仮の名称で…『航空技術』とでも呼ぼうッ!」




 ナジミが捲った手帳をほぼ奪い取るように
            彼は目を見開いてソレを見る



ナジミの考え方が…この世界のモノとはとても呼べなかった

もはや、別世界の技術と呼んで良いほどだ…

おそらくこの世界の文明技術を何世紀も飛び越してるかもしれない



  そこに掛かれていたのは… 絨毯、あの床に敷く絨毯が
  空を飛んでいたり

  巨大な岩の塊や城が空を飛ぶという現実未の無いモノばかりだった…


 それを構築するために必要な素材や魔力も用意できる訳の無い
希少な物ばかりだし…後にナジミも言うがこれは術式の構成も未完成で
ナジミ自身研究中だという…実にナンセンス、その一言に尽きる、筈なのだ


 だが…書かれている術式やルーン文字の配列
それらは全て未完成だというのに……"もしかしたら"と無限の可能性を
思わせるだけの精度が刻まれていた

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          今回はここまで!


 空を飛ぶ絨毯→ ドラクエ世界におけるあのアイテム(まんまですね)

 空飛ぶ岩の塊→ DQ7のアレ

 空飛ぶ城→   ボスだったり、乗り物だったりするアレ





   クリスマスですので、どうにか時間作って投下しました…

  ナジミの考えるサンタになる方法(込める技術)
  応用することでサンタらしく空飛ぶソリを作ろうなんて考え
  そしてこの『航空技術』は成功すれば間違いなく巨万の富を生む

 空飛ぶ技術はDQ世界的に不可能じゃないと思う…実際、城だって飛ぶし

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荒らしその1「ターキーは鶏肉の丸焼きじゃなくて七面鳥の肉なんだが・・・・」

信者(荒らしその2)「じゃあターキーは鳥じゃ無いのか?
ターキーは鳥なんだから鶏肉でいいんだよ
いちいちターキー肉って言うのか?
鳥なんだから鶏肉だろ?自分が世界共通のルールだとかでも勘違いしてんのかよ」

鶏肉(とりにく、けいにく)とは、キジ科のニワトリの食肉のこと。
Wikipedia「鶏肉」より一部抜粋

信者「 慌ててウィキペディア先生に頼る知的障害者ちゃんマジワンパターンw
んな明確な区別はねえよご苦労様。
とりあえず鏡見てから自分の書き込み声に出して読んでみな、それでも自分の言動の異常性と矛盾が分からないならママに聞いて来いよw」

>>1「 ターキー話についてはただ一言
どーーでもいいよ」
※このスレは料理上手なキャラが料理の解説をしながら作った料理を美味しくみんなで食べるssです
こんなバ可愛い信者と>>1が見れるのはこのスレだけ!
ハート「チェイス、そこのチキンを取ってくれ」  【仮面ライダードライブSS】
ハート「チェイス、そこのチキンを取ってくれ」  【仮面ライダードライブSS】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1450628050/)


>>1を守りたい信者君が取った行動
障害者は構って欲しいそうです
障害者は構って欲しいそうです - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1451265659/)


暗がりの洞窟内部を照らす光源は少女の手にある一本の松明

振り返ればそこには頬骨が浮き彫りに見える程に痩せこけた男が居た




 この【死】という概念が満ち溢れた忌むべき空間の創造主は
棒切れの様な両足と手に持った杖を地に着け、爬虫類を連想させる瞳で
少年少女の顔を見渡した


 「…ふふ、いかがですかぁ?ナジミお嬢様、ルラフェン坊ちゃん
   良い出来栄えだと思いませんかなぁ?」



 「0点、クソ悪趣味だわボケ」

 「…これはなんだ、…こんな光景っ!明らかに異常過ぎるぞッ!」




恍惚とした表情でさも"芸術家が自信作を披露するかのように"ハーゴンは
ナジミ等に両手を広げ感想を求めた





…異常だ


あまりにも異常過ぎた


人目につくまいと振る舞い、いざこの空間を見られたら見られたで
感想を求める有様、一見すれば開き直りのようにも見受けられる行動だが
如何せんソレとも違う…


それを比喩的に表現するならば…そう


まるで『幼い子供が親に内緒で作った手作りの誕生日プレゼントを見られ
創り途中だったが出来栄えはどうだ?』と尋ねているかのような…
そんな感じに近い



少女と少年は慄いた…ッ!


天才と称されるとはいえ彼等はまだ子供だ

この得体の知れなさにナジミは戦慄した…ッッ!
自身のペースを乱されまいといつも通りに悪態を吐き強きな姿勢を見せる


でもなくば"飲まれて"しまいそうだったからだ




ルラフェンは今にも逃げ出したい恐怖心に耐え、同時に何故こうも
命を軽んじるような暴挙に出たのか

それを目の前の狂人に問い質したかった



「…気に入っていただけませんでしたかぁ…
  いやはやご理解いただけませんとは悲しいなぁ」


「おいッ!答えろ!…貴様、事の次第では…いや
  聴くまでもないッ!即刻この大陸から出て行くように先生にも
  ナジミのご両親にもお伝えさせてもらおうッ!」

「だな、…てめぇみてーな薄っ気味のわりぃ奴ぁ置いとけねぇわ」



「あー、こほん、なにやらぁ、勘違いしてませんかねぇ…?」


「あんだぁ?勘違いだぁ?なにをだ?オイ、言ってみろや」


「大方、お二人は私の芸術が理解いただけないようですなぁ
                       …悲しいなぁ」



"悲しいなぁ"…そう嘆きの言葉を漏らす口角は新月の三日月よりも
薄い笑みを浮かべていて
その態度がナジミは気に入らなかった、ルラフェンも同じ気持ちだった


「時に…この世で何よりも尊く美しいモノとはなんでしょうかねぇ?
  思うにそれは"散り際"だと思うのですよ」



「散り際…」


「蜉蝣<カゲロウ>という昆虫をご存じですかなぁ?
  彼等は土の中を気が遠くなるほど過ごし成虫になって初めて
  自由な大空へと羽ばたけるようになりますなぁ~?
 しかし…悲しいなぁ、その自由な命も僅か一週間で尽きてしまうのです
 その限りない命が尽きた瞬間が美しく尊い…此処に居る死体のように」


恍惚として表情を崩すことなく何処か興奮気味に新興宗教家[ハーゴン]は
矢継ぎ早に語り出す


「命は尽きた後何処へ行くのは…人は死んだら何処へ行き
  生まれた時は何処から来るか…考えた事はございますかぁ~?
 私はあります、世に生まれた全ての生命は一度咎人として再びこの世に
 生を受けたのですよ…!そして地獄のような現世を辛くも生き抜き
 生を終えた瞬間、試練を克服したとして
  真の極楽浄土に導かれるのですよぉ~!」







……この男はイカレてる、人類の論点で会話ができない
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……この男はイカレてる、人類の論点で会話ができない


そのふざけた価値観で後ろの小動物達は無残に殺されたというのか?


「生き物が幸福へとたどり着くには試練を越えねばならない
  でも、それは必死に生きて、最後には散ることが条件なのです
  従って自害などといった試練から逃げるような手段を
  神はお認めにならない
  ですが!!救済の処置はあるのですッ!!
  生命が誰かその命を託し捧げ、その自己犠牲の精神を覚えることで
  免罪となるのですッッ!!」



[ハーゴン]の興奮は終わりを見せなかった
 大民衆の前で熱く演説する政治家の如く両手を広げ口から声を捻り出す
背を弓のように撓らせ大きく痩せ細った身を仰け反らせ目は白目を剥き
唇からは声と共に唾液を撒き散らす…







【悪】だ…自分こそが正しいと妄信しきっているこの男は
自分が最も"ドス黒い悪そのものだと気づいていない悪"だ


















「この場にいる194匹の尊い生贄達は自己犠牲の精神を以てして真の幸福を手にしたのだッッッ!!その血肉を偉大なる神に捧げその神はその尊い精神のすばらしさに打ち震えるッ!!!神は嘆き悲しんでおられます、こうして咎人として生を受けたすべての生命にっ!しかし!!血肉となって捧げられた生贄達の生命がやがて現世に降り立ち、われら咎人の罪の魂をすべて貪り食らい尽くしてくれるのですッッ!!そしてすべての悪しき者を破壊し尽くしその尊い生命は皆ッ!美しい散り際と共にッ!天へと上り真の極楽浄土へと導かれる!!腐りきった肉体を捨て崇高なる魂だけが救われるのですよぉぉおおぉぉぉ!!!!!」




















「…………お、おまえ、気持ち悪いよ…っ!……頭おかしいよ…」



それを先に口走ったのは恐怖に屈したナジミだったか…
それともあまりにも常軌を逸脱した危険思想に後ずさったルラフェンか…




「はぁ…はぁ…っ、あ、あははは・…すいませェん…
         どうにも興奮してしまいましてねぇ…」ジュルッ…


腕の裾で口元の泡だった唾液を拭う…狂人<ハーゴン>…後ずさる少年少女


出口を塞ぐように目の前には危険思想の宗教家
後ろは全部で194匹らしい多種多様な動物の死骸の山…

逃げるなら多少捕まるリスク覚悟で二手に分かれてハーゴンの左右を
潜り抜けるように突っ走るのが理想的なのだろうが…

心情的にこの男に近づきたいとは思えない



その場凌ぎでも何でも良いからこの男から離れたい一心だった…








「…これはこれは!ハーゴンさん!、おおっ!ナジミ!
     貴女ルラフェン君を見つけてくれたんですね!」パチパチ


「っ!せ、センコー!!!」


ハーゴンの背後から"センコー"…ナジミの家庭教師は拍手を鳴らしながら
歩いてくる…

いつもの人当たりのよさそうな笑みを浮かべて…



「いやぁ、ルラフェン君!珍しく授業に来ないから心配してナジミと
 一緒に貴方を探しに来たんですよ!! さっ!帰りましょう!」



「せ、先生!こ、こここ、此処を見て何とも思わないのですかッ!」

「ルラフェン君、今日の授業は自習です、ナジミと先に戻って
 勉学に励んでくださいね」ニコッ



「先生――「待ちなッ!」」

「…な、なんだ!ナジミ!!俺は――」


「センコー…今日の授業は自習なんだな?」

「はいそうですよ」

「…センコーは午後の授業にも来ないって事で良いんだな?」


「はい、少し"野暮用"ができましたので、なるべく穏便に済ませます」

「…わかった…おいブラコン…帰っぞ…」




生徒達に優しい優しい微笑みをセンコーは向け続ける

此処から先は大人の仕事だから
"子供は安全な所に帰ってね勉強でもしてろ"
遠回しにそう言ってるのだろうな

「…そういう事なら…」

「ハーゴンさん、お時間よろしいですか?
  手短にお済ませしますので少々お話にお付き合いください」ニコッ


「…ええ、構いませんよぉ…」


「…ふむ…しかし目に優しくない空間ですね…それに…これは何とも
  匂いも強烈ですね…子供達の教育上よろしくありません」

眉をハの字にして困りましたね、とでも言いたげな顔で
バーテンダー風の服装のリボンネクタイを直す…



「……貴方もご理解いただけませんかぁ」

「はい、理解できませんねぇ」



即答であった


「私はリュウキュウ達に娘の家庭教師になってくれと頼まれるまでは
  …まぁ"[旅の遊び人]"として世界中を渡り歩いた身でありましてね
 地域によって宗教の派生や捉え方の違いというモノも目にしております
 しかし、ハーゴンさん、貴方のソレは失礼ながら理解できませんな」


服装の乱れを直し、次に掛けていた眼鏡を取り外す
そしてポケットから安物の眼鏡拭きを取り出しレンズを磨く家庭教師


「…その中央に置かれた神像(?)…ですか?
 はっきり言ってそれもデザインが不愉快なのですよ…
  非常に言い辛いのですが…この大陸では貴方の独特過ぎる価値観は
 おそらく受け入れてくれる人は居ませんね
 他所へ行く事をおススメしますよ?」


「ふぅ~…貴方まで出て居てけと仰るのですか?」

「はい、そうです、もう回りくどいのも面倒なので言いますね、失せろ」



綺麗になった眼鏡をかけて一言、何の思い入れも無く淡々と"失せろ"と…


「…おお、なんと嘆かわしい事かぁ…![破壊神シドー]様を信じぬ
  不届きな方だったとは…!"込める技術"という未知なる力を持つ
  貴方方ならばと信じてくださったのにぃ」




「ん~、信じぬも何も、ソレはハーゴンさんの痛い妄想ですし…
  それに勘違いしてるようなので言いましょう

  神様は人に手を貸して幸福にしようなどとは思いません
  仮にその人が自身の首を絞める事をしようとしていても助けません
  ただ黙って見てるだけです

自ら過ちに気が付いて勝手に幸福になる事を信じて祈ってやるだけです」





「………」


「まぁ…神様というのは人が信じる事によって生まれるモノもありますし
 ハーゴンさんの想いが強ければ案外そんなモンも
 生まれるかもしれませんねぇ
 あっ、荷物は今日中にまとめて出てってくださいね?」


それだけ言うと、後の事はどうでもいい、っとでも言わんが如く
家庭教師は出口へと向かおうとする…














          「プサン先生」



           「…」ピタッ







 …ナジミの家庭教師は名前を呼ばれて立ち止まった




「プサン先生…今、貴方言いましたな

  "神様は自分から他者を幸福にしようとしない"
  "仮に人が何か過ちを起こしていても手を貸さない"
  "勝手に人が過ちに気が付いて、更生し勝手に幸福になるのを祈る"

 そのような事を今、言いましたなぁ?」



 「はい、言いましたよ、それが何か?」



 「…まるで"本物の神様"を知ってるみたいな口ぶりですなぁ?」



 「…さぁ?神様なんてモンは大体"傍観者"って奴なんですよ
  高い所から人間を見下ろして、どう成長していくのか見てる
   人間の子供が理科の授業で観察用の蟻の巣を眺めながら偶然
  目に止まった個体がどう育つかを観察する……大体そんなモンです」




 「…ほう」



 「以上が私の考える神様のイメージですね
   貴方のそのキモイデザインの神様は少なくとも
   私が知る神様では無いですね
   私の知人の考える神様像ともかけ離れてます、はい」






…リーゼントのような髪型
バーテンダー風の服装に冴えない顔と眼鏡…

かつて、[旅の"遊び人"]として世界各地を歩き回ったと称する男

それがナジミから"センコー"と呼ばれる家庭教師[プサン]という男だ



「…用事が無いなら私はこのまま帰らせて貰います
  子供達の成長を見届けたいので……
        さっさっと大陸から消え失せてくださいね」スタスタ…


*********************************

     一旦此処まで、続きは24時間以内に…





>[プサン]先生 …ナジミがセンコーと呼ぶ憧れの遊び人

 家庭教師として雇われる前は遊び人として世界中旅した

 サザエさんみてーな髪がt、コホン…リーゼントにバーテン風の服装



※どうでもいい補足

>>312>>314 [さばくのばら]という珍しいアイテムを持っていた



>>314 >>315 >>316
[進化の秘宝]という謎の論文に興味を示す+"地元に似た物がある"との
謎発言をする

>>315
"カジノ"という娯楽が"地元"とやらにはあるらしい…


*********************************


―――
――


 翌日、ハーゴンは[アリアハン]大陸から立ち去った

家庭教師が何をどうしてどのように話したのかを子供達は知らない、だが
不安の種は摘むがれたのだと、皆が去っていく一隻の小舟を眺めながら
そう信じたのであった


「ふぅ…本音を言えば昨夜の内に出て行って欲しかったのですが…
  やれやれ…最後まで渋りましたねぇ」

「…なぁ、センコー」

「はい、なんですか?」

「アンタぁ大丈夫だったか?その…あのペド野郎マジに頭イカレてじゃん
  話が通じねーって言うかよォ…どうやって説得したんだ?」


「…ちょっとだけ怖い顔をして言っただけです、はい」

「…ふぅん」



「…えっと…ハーゴンおじさんはもう帰ってこないの?」

「お兄ちゃん…」


「…ああ、怯えなくても良いぞ二人とも」


「本当なの!…あっ、人が出て行ったのに喜ぶなんて悪い子なの…」シュン
「あ、…その、えっと…」

「良いんだ、セルミィもお前もだ…アイツは居ない方が良いヤツなんだ」


ルラフェンは幼馴染の少女と弟を見て「何も悪くない」と言い聞かせる
最愛の弟と女性であるセルミィには昨日の洞穴で見た光景は言わない

虫一匹殺せないような弟と動物に優しいセルミィが聴いたら泣き出すから


…あの洞穴の惨状、山積みの死体達は今日にでも家庭教師が埋葬する
そう告げていた、ルラフェンも手伝うつもりでいた


「セルミィ…私は少しナジミとルラフェンにお話しがあります
 先に学び舎の方へお戻りなさい」


「あっ!はいなの!」

「お兄ちゃんとナジミ師匠だけですか?先生!僕は…?」

「…ふむ」



眼鏡をくいっと人差し指で上げて、ソウジの顔を見つめる…
あどけない顔、何も知らない少年


当事者でも無い子には別に話す必要性も無い、そう判断し彼は
「いえ、君もセルミィと戻っていなさい」と指示を出す




「…さて、お二人とも行きましたね…ナジミ、ルラフェン、君達には
  告げておかねばならない事があります…そうですね
  少し、お散歩でもしながら歩きましょうか?」


冴えない顔の男は波打ち際を背に緑溢、砂浜の向こう、方角にして
ナジミお嬢がいつも授業をサボりに行く果樹園地帯を指示す


 一人の中年男性の後ろを白ローブの少年、黒コートの少女が歩く
先頭を歩く一人は時折、天を仰ぐように眺め木々の隙間から射す朝日を
浴びるように進み、少年は小動物達の供養な今後に関する話題が
語り出されるのを今か今かと待ちわびるように真剣な面持ちでいた
最後尾を歩く少女は瑞々しい林檎を齧りながらぶっきらぼうに歩き続ける




「センコーよォ、どんだけ歩くんでい?」

「んー、もう少しだけ歩きましょう、この先にお茶会でもするに相応しい
 拓けた土地があるのですよ」


いつまでこうしてお散歩モードで居るんだ?と
耐えかねたナジミが口を挟む

 興味なさげに林檎を齧りながら歩いているようで、考えている事は
少年の方と同じだった、ただ表情に出していないだけなのだ





「さ!此処が良いでしょう、今[おおきなふくろ]からピクニックシートと
 お茶菓子を出しますので!」ポン!


人間が3人座り込んでもまだスペースのある大きな敷物の上に
次々と現れるティーカップと焼き菓子

プサン教師はカップに茶を注ぎ、その間にルラフェンはスッと正座を
ナジミはどさっと胡坐をかいて焼き菓子を摘まむ


「…貴様、淑女がはしたないと思わんのか」

「るっせーなぁ、固ぇ事言うなよ…」モグモグ


「まぁまぁ…!良いではありませんか?」


「わーお!さっすが!センコー!わかってんじゃあねぇか!」



顰めっ面の少年を無視し教師から受け取った茶を飲んで、ナジミは続ける





  「…で?本題はなんでい?
    ただ教え子とピクニックしてぇ訳でもねぇだろ?」


  「…そうですね、まず何から話すべきですかね…」



プサンは少しだけ悩み、まず最初に言うべき事を決めた








  「……私はそろそろ教師を止めようと思うのですよ」





…ピタッ

時が止まった気がした

何の脈絡も無く告げられた突然の退職宣言、一瞬理解が遅れた
少年は目を丸くし、少女は手に持ったティーカップを危うく落しかけた



「…はっ?…えっ?……はあああぁぁぁ!?」


「待て待て待て、マジに待て、何言ってんだセンコー!」






「色々と言いたいのは分かりますが、まず私の話を全て聴いてからで

 そもそも私は[旅の遊び人]として世界各地を旅していまいした
 長い年月を気ままに流離って見聞を広めていましてね…
 ひょんな事からリュウキュウ夫妻と出会い
 何かと深い縁を持つようになった…そして、旧知の間柄という事で
 ナジミの家庭教師を頼まれたのが切欠です、そこまでは良いですか?」



「お、おう……それは母さんと父さんから聴いたわ」


「…失礼な発言でしょうが、最初、私はこれを『単なる暇つぶし』と
 考えてました、怒りましたか?」



小さい頃から今に至るまで成長を見てくれた恩師

彼が自分を見てくれた理由は『暇つぶし』だったと言われたナジミは
どう返して良いのか返答に困った


「…続けてくれて」


「…先述した通り、私は"自分の脚で見て聴いて"それで見聞を広めたい
 そんな知的好奇心と同時に…そう、ですねちょっとした娯楽的な感覚も
 まぁ、無きにしも非ずでした…

 初めてオーロラというモノを凍った大地から間近で見ました

 グルメでも無い私にはかつて想像もできなかったサボテンの味を砂漠で
 調理し、堪能しました…

 何もかもが"知っている知識"なのに真新しい発見でした」


やはり知っているだけと"実際に体験する"では天と地の差もあった
そう目の前の"遊び人"は熱弁します



「私は…お家柄の関係で結婚というモノに無縁な男でしてね
  人様の子を授かり、ましてや育てるという事は生涯無いと思った
 だからこそ"好奇心と娯楽"が入り乱れた『暇つぶし』でした…」

「そ、そうか…」

(ナジミ…)

明らかに同様する少女を横目に少年は口を挟めないでいた


「…最初こそ淡々とした気持ちだったでしょう、私は道徳で言えば
  人の心を全く解さない、最低な人種だったでしょうね

 ですが、ナジミ、貴女の成長を見ていくうちに私の中にも温かいモノが
 生まれて行ったのです、俗に言う"父性"とでも言うのですかね…」




 「今なら…リュウキュウ、人間の父親の気持ちが分かる」とプサンは
何処か遠くを見つめるように告げた

…人間の父親の気持ちが分かる


まるで、プサン教師は父親以前に人間の気持ちを
      理解していなかったかのような口ぶりだった





「私は…遊び人になる前、実は…
       とある地を治める男だったのですよ?」


「えっ、なにそれ初耳なんだけど」

「せ、先生…?」



「ええ、でしょうね…話す必要性が無かったので
 今まで言いませんでしたから、ですが今回の話はソレが関わりますので
  話させて頂きます」


「…あー、そのなんだ、次から次へと驚きの新事実が発覚してばっかで
  頭が追い付かねーんだが」

「慣れてください」

無茶な即答です

「…そうですね、まぁ、王様みたいなモンですかね
 椅子の上に踏ん反り返ってただ自分の領地が平和ならそれだけでOKっと
 何の代わり映えもしないツマラナイ毎日でしたよ…今にして思えば」


「は、はぁ…そうですか」


「そこで私は遊び人になろうと思いました」


意味不明である

「おっと、話が飛びすぎましたね…"私の地元"の話になりますが…
  これでも少しばかり前は色々と面倒な事態がありましてね…
  まぁ、下衆な魔物の群れが暴れ回り色々と荒らされるという問題で
 頭を悩ませていました時期もありました、尤もその騒動も既に解決し
 平和になり私は治める地を退屈そうに眺めるだけの仕事に戻りました」


「さっきから聴いてればやたらと"退屈"って言葉連呼すんじゃあねぇか」

「はい、ただ椅子に踏ん反り返って年中居るだけというのは疲れます
 なので、信頼の置ける者に治世を任せ、私は身分を隠しお忍びで
 世界各地を遊び呆けようと思いました」



「…何と言いますか、その先生がそのような人物とは意外と言いますか」

「ハッ!センコーも結構な道楽主義者って訳じゃねーか、気に入った!」


「ふふっ!ルラフェン正直に俗物と罵っても構わないのですよ?」

「い、いえ!滅相もございません!先生は私と弟の恩人であり…
 例え如何様な人物であろうと…」


「…椅子に座るだけの毎日、私が一つ命令すれば周りの者は
 チェス盤の駒のようにテキパキと動き、ただそれだけ
 私はそんな生まれだったからやもしれません
 …人間というモノを何処かで"見下していた"かもしれない」



人の心を理解できない、その事柄から過去に自分は大罪を犯した
プサン教師はそう独白する…


「私は…思えば暴君君主だったでしょう、全知全能だなどと周りから
 持て囃されて、己惚れていた私の所為でかつて
  とある親子・夫婦の仲を裂き……いえ、止めましょう」
 
とにかく、と彼はため息を一つ吐き言葉をつづける…

「…ナジミ、貴女の成長を見て、子供を持つ親の目線になって見て
 自分の愚かしさもまた一段と学習したつもりでは居ます…」


「…なーんかよくわかんねぇけど、俺にとってのセンコーは
 "『今』ここにいるセンコー"だ
  昔はわりぃ事ばっかした悪モンだかなんだかしんねぇけど
  そこんとこはこのブラコン野郎と同じでさぁ」


「そ、そうですよッ!先生は先生です…例え過去に何らかの罪を
  起こしていようとも私の恩師であり恩人であることに
                  変わりありませんッッ!」




「…ありがとうございます………初めこそ単なる知的好奇心を満たす為
 身分を隠し俗世で娯楽を堪能しようとした身です
 そして…俗世を楽しむうちに貴方達のような人とも巡り合い
 己が"見下していた"人間へとの認識も次第に変えていきました…」




 プサンは「本当ならもっとここにいて成長を見たい」そう心から
残念そうに告げるのだが…



「ですが…いい加減私も長く部下に"地元"を任せ過ぎましてね
  …いい加減、故郷に帰り治世をせねばならない頃だと
  前々思っていました」


「…だから我々の教師を辞めて帰るというのですか?」


「リュウキュウ達にも言ってあります…
  本当なら半年前には帰っている予定でしたが何やかんやで
  結局、わが子のように思っていた貴方達4人が気がかりで
  私は帰るのを先延ばしにし続けていました、言い出すのも今日まで
  言えずにいました…」



「センコー…あんたぁ」


「…いけませんねぇ、自分の本来の立場を忘れて
  これでは治める者として失格ですね…ははは」


「ならよォ、んな仕事辞めちまえば良いじゃあねぇか!
  退屈なんだろ!椅子に座りっぱなしの仕事なんざよォ!」


「…大人はそうも言ってられない生き物なんですよ
  地元から遠く離れたこっちに来たのは見分云々もありますが
  知り合いに会いに来たついでで…気づけば10年近く居座り続けて」



「…どうしてもだめなのかよ」


「…仕事を終わらせれば私は帰ってきます、必ずです
  だから寂しそうな顔はしないでください…ほら、二人ともお茶でも」


「いらねぇよ!!!」

「…ナジミ、分かれ、先生だって本当なら大事な立場の人なんだ…」

「知らねぇよ!大人の都合なんざぁ!!」ダッ!

「あっ…!おい待てバカ!」



「…私はあと2週間は滞在を続けます、気がかりがあるとすれば
  私がいなくなった後の事です」

「ナジミの奴っ!勝手に走り去りやがっ――いなくなった後の事?」

「…あの男、[ハーゴン]ですが…私はどうにも彼が諦めたとは思えない」

冴えない顔の男は普段とは打って変わった神妙な顔つきで言い放つ

―――
――




「ナジミ」

「おう…じゃなかった、はい」


「今日はこの字に関してだな」スッ



[アリアハン]大陸に建てられた大きなお屋敷のとある一室は一言で言えば
異質というモノであった

 屋敷の主人とその娘が居る部屋は俗に言う"和室"と呼ばれる物だった
畳と呼ばれる[ジパング]ならではの床、座布団と呼ばれる敷物
 世界広しと言えどその独特な文化が敷き詰められた内装は一際目立つ



「んー…こいつぁ確か『方<ホウ>』って文字だな、じゃなかった、です」


「…ナジミ、俺はお前の言葉遣いはとやかく言わんさ
 今やってるのは礼儀作法の授業じゃない、語学の勉強だ自由にしろ」


「…ふぃー、1時間前にやったのが"茶道"とか"生け花"とかだかんなぁ
  俺の性にゃあキビシーぜぇ…」


「続きを始めても良いか?」

「おう、良いぜ父さん」


「この"方"という文字だが、[ジパング]の語源文化、漢字で様々な意味が
 できるようになる」


 達筆と呼ぶべきか、ゴツゴツとした大きな男の手は筆を動かし墨汁で
文字を書いてゆく


「方角、方法、方言…見方や地方など、場所や見解そういった物事を
 表す文字として使われている」


「物事の見方ねぇ…」


「そうだ、……ナジミ、これは俺の祖父のそのまた遠い祖先からの言葉だ
 戦闘"方"を制する者こそ"込める技術"を十二分に生かせる、とな」


「…戦闘法?」

「いや、違う…戦闘"方"だ」スッ


父親は声では伝わらない、ニュアンスを文字に書き出し娘へ見せる


「お前…いや、世間一般で言えば "せんとうほう" とは
 『戦闘法』と書くのだろう…だが我が一族はこのように書く」ピラッ


「…どう違うんでい?」


「そうだな…茶の心得で『和敬清寂』など
 全てを通して一つの言葉に纏めるモノがあるのを前に教えたな?」

「おう!なんか大昔のエライ人が考えたんだろう?」



「ああ、我が一族の戦闘法の理念も‥この戦闘"方"にある」



 彼はその手に一本の木の枝を持つ
故郷たる[ジパング]に咲く、桜なる樹の一枝だ


「此処に一本の木の枝があるとしよう、お前はこれを"どう使う"」

「えっ…どうって…」



どう使う? ナジミはそう問われた
そして考えようとしてまず、どのような状況下が前提か、それを考えた


「…戦闘"方"…なら当然、闘ってるっつーのが前提だろ
 なら、普通にそんで敵を――――」


そこまで言い掛けて気が付いた


敵を…"どうする"のかだ



「気が付いたか」

「……その棒切れは随分長いな」

「ああ、良い枝だろう?」



一種の芸術性さえ見いだせるような見事な桜の一枝…
この和室の雰囲気とよく合っていて、飾っておくに相応しい




「これだけ長ければ
 『叩く』ことも『薙ぎ払う』事も…『突く』ことさえも可能だな」





叩けば"棍棒"

薙ぎ払えば"剣"や"薙刀"

突けば"槍"



たった一本の棒切れが"三種の武器に変わる"



「なにも振り回すだけが全てではない
   これを"敵に投げつければ"どうだ?」


投げれば"投槍"…容<カタチ>こそ変わるが"矢"ともなる




「…んで、その棒切れで敵の攻撃を受け止めれば、そいつぁその瞬間に
 "盾"として起用できるっつーわけかい?」


「そうだ」


父親は娘の顔を見据えて真剣に語る


「お前も"込める技術"を創る者としてそれなりの腕を持つ
 だからこそこれは何としてでも教えておきたい」



古来[ジパング]の民は
"巫女"や"風水師"と呼ばれるモノの存在を尊重してきた


彼等は時として天候を操り、地震、火山の噴火さえも思いのままにした
そう言い伝えられている

実際の話はどうか分からないのだが





「船乗りが船の速度をあげたいと思えばまず何をすると思う?
 帆を揚げ、強風に背を押して貰おうとするだろう
 もしくは波、潮の流れはどうか、舵をどの向きにしておくか」


「追い風か向かい風か
 それによっては揚げちゃあいかん時もあるよわな」







「"戦争も同じだ"」




[ジパング]は古来より風水、気の流れといったものを大事にしてきた


[アリアハン]大陸がまだ西と東で二つの民族に別れ、争い合っていたのと
まるで同じように、多くの部族に別れ、一つの国として統一されるまでは
内部争い…俗に言う"センゴク時代"とやらがあったそうだ


その闘いの中でこのような伝承がある




    100の兵を用いて、2000の兵を討ち滅ぼす



単純に考えて1人が10の兵を打ち取った事になる

それも同じ国内で同じ武装をした人間同士が、である




父親は娘のナジミに語る

曰く、方や山岳地帯の高所から低所目掛けて

曰く、方や射る矢は全て追い風に乗り、敵の放つ矢は向かい風で遮られる





同じ武装、弓道の心得に差異はほぼ無し


同じ国の人間、使った武器は敵も味方も全く同じ





 だが、100の兵で2000の兵を葬った



相手と自分の距離は同じ、技量も同じ、使う武装も同じ

そう…条件が、平らな平地で風も何も無いなら全く同じだ


「先程、棒きれも使い方次第であらゆる武器として使えると話したな
 投げるにせよ、振るうにせよ、どう使うにしても
 ただ使う、それだけで終わらせて良いのではない」


「状況次第で臨機応変にやれ、つまり纏めっとそういうことかい?」






「ああ、『"方"角』『"方"法』『味"方"(仲間の状態)』…

    全ては状況の『見"方"』だ」






「…戦闘"方"」


「お前が今、開発を手掛けている"火薬"とやら…あれに限らず
  全ての"込める技術"…アレ等を全てただ一個の道具として使う
  それでは駄目なのだ」


父親は娘に言う



 「状況を見極め、それら技術の本来の性能の引き出し…否
      100%ではなく、101%の性能を常に出せる闘い"方"をする」




それこそが一族代々教えられて来た戦闘法であり【戦闘"方"】なのだ





「…簡単な話から始めれば刃物一つにしてもそうだな
 調理場にある包丁は食材を切る為にあるが、それで人を傷つける事も可
 つまり、すべては持つ者の用途次第でどんなモノだって"化ける"」


 木の棒切れも、振るえば接近戦専用武器、投げれば容<カタチ>も変わり
火を灯せば、暗がりでも敵味方の位置を把握するための道具と変わる

たくさん集めて、敵の侵攻を防ぐ柵とするも良し
落とし穴など罠を築く為の土台とするも可


全ては思いつける"方"次第なのだ




「…今日の学問はこれで良いだろう、ナジミ
 友達を家に連れて来ると良い、今日は俺も非番でな
 皆で食卓を囲むのも良いだろう」


「わーお!!マジか!」

「ああ、マジだ」ニィ


「へっへっへ~…なら3人とも呼ばねぇとなァ~」




そういって部屋を飛び出す直前にナジミは
まだ和室から出ようとしない父に振り返り尋ねる



 「…あと、三日でセンコーいなくなっちまうけど、どうすんだい」

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