モバP「新人研修が終わった」(638)

・台詞系ですが結構長くなる予定
・投下間隔がまちまち
・キャラの立場などにオリジナル要素が入るかも

よろしくお願いします

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1371562306

P(アイドルプロダクションに入社してもうすぐ1カ月。今日で新人研修が終わった)

P(研修は朝8時から夜は日付が変わるあたりまでみっちりと。毎日ぐったりだったな)

P(何人かいた同期入社はみんないつの間にかいなくなってて……)

P(今日まで残ったのは俺一人らしい。俺意外に根性あったのかな)

P(おかげで業界のあんなことやこんなことはそれなりに身についたとは思うけど……)


P「それでもこれは厳しすぎやしませんかね……」

ちひろ「? 何のことですかPさん」

P「いや、研修終わったすぐ次の日に「じゃあお前が担当するアイドルを街でスカウトして来い」だなんて……」

ちひろ「厳しいですか?」

P「……厳しくないですか?」

ちひろ「うーん、社長的にはきっと「1カ月ちゃんと研修やったしだいじょぶだろ♪」くらいのノリなんですよね」

P「」

ちひろ「社長は一人でこのプロを立ち上げて、自力で今の規模まで成長させた剛腕さんなんですけど」

ちひろ「初期の頃はノウハウもないままひたすらスカウトして回ったらしいですからね」

P「その時のノウハウ、研修では特に落としこまれてないんですけど」

ちひろ「ええそれが。社長、スカウトに失敗したことないらしくて」

P「は?」

ちひろ「百発百中なんです。狙った獲物は逃がさないんです。エッグハントのエキスパート、それがうちの社長です」

P「それは正しい手段での話ですかね……なんて、野暮ですね。社長、確かにオーラを持ってる気がしますから」

ちひろ「ですね。社長は素敵な人ですから」

P「……そんなすごい人から、俺はこの1カ月みっちりと薫陶を授けられたんですよね」

ちひろ「はい」

P「……」

ちひろ「できる気がしてきました?」

P「……いえあんまり。でもできる限りやってきます。今日からはちゃんと給料も頂く身ですし」

ちひろ「煮え切らないヘタレた感じ、私は嫌いじゃないです。じゃとりあえずスタドリでも飲んで……」

ちひろ「行ってらっしゃいPさん!」

P(そんなわけで、不安7割期待2割その他1割で街へと繰り出したけど)

P(結果は散々だった。まず知らない女性に声をかけるという時点でハードルが高くて)

P(ひきつり笑顔に裏返った声で話しかけてくる男にいい反応してくれる女性なんているはずもなく)

P(何の成果も得られないまま1週間が過ぎてしまった……)

P(危うく警察呼ばれかけたこともあったっけ。はあ……)


P「そもそも俺、ひどい勘違いをしてた気がするんです」

ちひろ「ほう、どんな?」

P「俺はこの1週間、平日の昼間から夕方まで街をぶらぶらしてたわけですが」

ちひろ「ぶらぶらしてたんですか。はい」

P「平日の昼間から街をうろついてる、アイドル最適齢期の若い女性って……」

ちひろ「はい」

P「むしろ何か問題がある子ですよね?」

ちひろ「その言い方にも問題がある気はしますが……間違ってはないです」

P「女子高生とか女子中生の群れに凸る勇気はなかったから避けてたんですが……」

ちひろ「ふむ」

P「やっぱり、スカウト活動ってそういう子たちがフリーになる夕方以降に注力すべきなのかなって……」

ちひろ「……やっと気がつきましたか」

P「あれ? 遅いですか」

ちひろ「水曜日くらいで気づいてほしかったですね……社長も言ってました。「まだかなまだかな♪」って」

P「うぐ。面目ないです……ちょっとおかしいなとは思ってたんですけど……」

ちひろ「ま、気づけたのならいいと思いますよ。でもまだ足りません。60点です」

P「何!? まだ60点ですか!?」

ちひろ「はい。ほら、もっと一日中若いおなごがフリーに活動する日があるじゃないですか」

P「? …………あ。週末か……」

ちひろ「大正解ッ! というわけでPさん、この週末は街でスカウト活動です!」

P「んな!? 休みは!?」

ちひろ「なし!」

P「!?」

ちひろ「本当はね、水曜日にPさんが気づく予定でした。そしたら木金休みにして、週末仕事にして」

ちひろ「でもPさんが思いのほかのんびりしてましたから……」

P「……自業自得だと?」

ちひろ「ま悪く言うとそれですね」ホジホジ

P「あっさりだ! まあでも仕方ないかな」

ちひろ(聞きわけいいなーこの人)

P「ここ最近で多少は度胸もついた気がするし、まあがんばってみます」

ちひろ「その意気です! じゃあPさん、明日と明後日の分のスタドリサービスです!」

P(来たよ週末。まあ一日経っただけだけど)

P(地方から出てきた俺にとって、東京の週末は未だに異世界だ)

P(どこにこんなに人がいたんだよってくらいに人だらけで……)

P(お目当ての若い女の子たちも今日はわんさかといる)

P(……すごく犯罪者予備軍のようなことを呟いてしまったな)

P(一人問答してても仕方ない。早速行動だ)


P「あの、すいません……」

女性「……」スルー

P「ダメか……あ、あのコいいかも」

P「すいません、アイドルに興味ありませんか?」

女性「ああ間に合ってるんで」

P「あ、いえキャッチとかじゃなくてですね」

女性「しつこいの嫌いなんで」

P「あ……ああ行っちゃった……うーん。いや、次だ次」

P「あ、すいません。アイドルプロダクションの者なんですが」

女性「……はあ」

P(お、これは聞いてくれそう)

P「うちのプロダクションでアイドルになりませんか?」

女性「アイドルかあ……暇つぶしに話聞いてあげてもいいけど……あ」

P「ほ、ほんとに? よかった! じゃああそこのカフェにでも……」

男「よお。ナンパか? ちなみにそれ、俺の彼女な」

P「」

女性「あ、ごめーん。彼氏くるまでの暇つぶしと思ったけど、彼氏来ちゃったーん」

男「なあ、ナンパか? 人の女ナンパしてたんか?」

P「い、いえいえそんな滅相もない! 彼氏のいらっしゃる女性をナンパなんてするわけがございません!」

男「だよな」

P「それでは私めはこれにて! どうも失礼しましたー!」

P「もうやだ。心が折れますけど」

P「つーかもう夕方かよ……今日もなんもできてないってのに」

P「……何やってんだろうな俺。入りたくて入ったわけでもない会社で、やりたくもないことやって」

P「一日中汗かいて。しんどい思いして。それで何の成果も上げられなくて」

P「今日はもう、帰ろうかな……ん? ここ……」

P「ああ、美術館か」

P「懐かしいな。昔はちょくちょくいろんなとこ行ったっけな」

P「擦れた心を慰めに、ちょっと入ってみるか」

とある美術館内

P「入館料、経費で落ちるかな……いや落ちるわけないか」

P「はあ、こういうとこ入るの久しぶりだよな。ちょっと張り詰めた感じのこの空気が好き」

P「……♪」

P「…………!?」

P「………………///」

P「……………………」
 
P「あ、このへんはモネか」

P(西洋美術にさほど興味ない人でも名前くらいは知ってたりする著名な画家)

P(俺も大して造詣深いなんてわけじゃないけど、見ていて不思議と心が落ち着く感じがして好きだ)

P「死んだ後も、描いた絵はこうして世界中の人に見られて語り継がれて生きていくんだ。すごいよなほんと……」

??「ええ……すごいですよね。本当に……」

P「え?」

??「モネの絵と言えば……最もポピュラーなのは『睡蓮』なのですが……私はこの絵も好きなんです」

P「あー、この絵……『印象・日の出』でしたっけ」

??「ええ…印象派の名称の……起源となった絵です」

P「あ、そうだったんですか。知らなかったな。にわかなもので」

??「そんなこと……知識なんて持たなくても、芸術は楽しめますから……」

P「……あの、失礼を承知で伺いますが、貴女は……?」

??「……っ! ご、ごめんなさい。突然……話しかけたりしてしまって……あ、もう……行きますね」スタスタスタ

P「え、あ、いやちょっと!」

P「ああ、早いな行っちゃったか……何だったんだろうあの女性」

P「謎だけど……すごくきれいな人だったな。ちょっと猫背で俯き気味だったけど」

P「……とりあえず、今日はもう少し芸術を堪能していこうかな」

ちひろ「結局この週末は収穫なしでしたか……」

P「面目次第もない」

ちひろ「まあ、事務所にいる他のプロデューサーさんがたも最初はそんな感じでしたから。焦らずにいきましょう」

P「はい……」

ちひろ「Pさんの今週の業務は朝から夕方は社長のお仕事の補佐、夕方からは今まで通りのスカウト活動になってます」

P「社長の補佐!? 聞いてません!」

ちひろ「はい、今日の朝決まって今言いましたから。決まりたてほやほやです」

ちひろ「まあ社長の補佐といっても、ようは社長の仕事を見てなんか学べってことですよ」

P「あ、なんだそういうことかあ……このペーペーに何をやらすつもr」

ガチャ

??「おはようございまーすっ」

P「お?」

ちひろ「あら? ずいぶん早いご到着」

??「あ、おはようございますっちひろさん! いつもより早く起きたからいつもより早く来ちゃいました」

ちひろ「おはようございます愛梨ちゃん。健康的ですねー相変わらず」

愛梨「えへへ…あれ? ちひろさん、この人は…?」

ちひろ「そっか、アイドルのみんなはまだ知らないですよね。最近入社した新しいプロデューサーさんで」

P「お、おはようございます! Pと申します!」

愛梨「あー、そういえば社長が言ってたっけ…れすとらんがどうこうって…あなたのことだったんですねっ」

P「れすとらん、って……?」

愛梨「えへへっ、よろしくお願いしますね! あっ、私は十時愛梨って言います!」

P「あ、はい。そりゃもちろん知ってます」

愛梨「えぇっ!? どうして!? 初めて会った人なのにっ」

P「いや、最近テレビ見てれば誰でも知ってるよきっと……」

ちひろ「愛梨ちゃんいい加減自覚持ってください……あなたは初代シンデレラガールなのよ……」

愛梨「えっ? ん? ……あ、そういうことかぁ。あは、も、もちろんわかってましたよっ。ボケてみたんです!」

ちひろ「まあそういうことにしておきましょうか」

P「バ、バラエティ向きですね十時さんは」

愛梨「ううー……お、お仕事の用意してきますっ」タタタ

P「いやーいきなりすごい人に遭遇してしまいました」

ちひろ「あんなんですが文句なしにうちのトップアイドルですからね愛梨ちゃんは。業界全体でもトップレベルですし」

P「しかしなんつーか……すごいコですね」

ちひろ「やる時はやるコだからまたすごいんですよ。「出番!?」とか言ってギリギリまで抜けてるんですが」

ガチャ

??「おはようございます!」

P「おお?」

ちひろ「あら続々と」

??「あ、ちひろさんおはようございます。今日も頑張りましょうねっ!」

ちひろ「はいおはようございます美波ちゃん。今日も爽やかですね。心が洗われますよ」

美波「えぇ? ふふっ、ありがとうございますっ。あれ? ちひろさんこちらの方は?」

ちひろ「はいお決まりですね。ほら」クイックイッ

P「あ、顎で……扱い悪いですね……。いいけど。どうもおはようございます! Pと申します!」

美波「……ああっ、社長がおっしゃってた「最後の男」の方ですね! 最近入社されたプロデューサーさん!」

P「「最後の男」……? あ、れすとらんってまさか……ラストマン」

美波「研修、とても大変だったみたいですね。お疲れ様でした! これからよろしくお願いしますねっ」

美波「あ、自己紹介が遅れてしまって。新田美波ですっ」

P「ご、ご丁寧にどうも。もちろん存じてます。こちらこそよろしくお願いします」

ちひろ「美波ちゃん、愛梨ちゃんが先に来て準備してますよ。行ってきたら?」

美波「え、本当ですか? 愛梨ちゃんたら張りきってるなぁ。じゃあ私も行きますね。失礼しますっ」ペコリッタタタ

P「いやードキドキしました」

ちひろ「うちのナンバー2アイドルですよ美波ちゃんは。CDも出て、ますます露出も増えてます」

P「清楚で爽やかですよねー」

ちひろ「……そう見えます?」

P「え?」

ちひろ「……というわけでPさん、今週は社長が直々にプロデュースしてるあの2人と同行することになります」

P「あ、なるほど。そういうことになるんですね」

ちひろ「アイドルの仕事とプロデューサーの仕事両方をじかに見られるいい機会です。しっかり学んできてください」

P(そんなわけで、今週は社長プロデュースのアイドルの仕事について回った)

P(十時さんと新田さんの仕事は幅広く、ラジオの収録からテレビ出演、それから雑誌グラビアなど)

P(分単位の過密なスケを、二人は終始まぶしい笑顔でこなしていった)

P(その二人の傍らに、いつも守るように控えていたナイスミドルがうちの社長)

P(舘ひろしのようだと言うと言いすぎかもしれないが、社長自身特別なオーラを持っていて、存在感は抜群)

P(二人も社長のことを強く信頼しているらしいことが、移動時の会話などから感じられた)

P(参考になったかと言われれば微妙だ。あんな風には俺にはできそうにない)

P(それでも、少しでも社長に近付ければ。そう思う)

P(……結局、この平日もスカウトは上手くいかなかった)

書き溜め分ひとまず終わり。書き溜めに戻ります

P(研修後2回目の週末。めげずに朝からスカウト活動を続けたけど、やっぱり成果のないままもう昼も過ぎた)

P(先週から数えてもうどれくらいの女性に声をかけたんだろうなあ……声かけるだけならそこそこ慣れてきたけど)

P(そこから先に進まないんだよな)

P(何がよくないんだろう……いやそもそもスカウトなんて成功するものなのか……? 都市伝説かなんかじゃないか……?)

P(下手な鉄砲も数撃ちゃ、と思ってやってきたけど、そうじゃないのかな)

ポツ…ポツン…

P「……ん?」

ポツポツ…ポツポツ

P「げ。雨かよ! 天気予報は快晴つってたのに!」

ザ……ザ…ザザー

P「うわあっという間に本降り! ゲリラ豪雨ってやつか! とりあえずどっか……あ、本屋あった! 避難だ!」

本屋内

ドッシャアアアアアア

P「はははすっげー土砂降り。早めに避難できてよかった」

P「ゲリラ豪雨なら、まあしばらく待ってれば上がるだろう。ちょっと息抜きに本見ていくかな」

P「この本屋初めて入ったけど、でかいんだなあ」

P「……どこに行こう」

P「……えーと」

P「……ふらふらと写真集コーナーに来てしまった」

P「十時さんの写真集はあるのかなー……と?」

P(今なんか、棚の向こう側に見覚えある人が見えたような……)

P(そーっと覗いて見てごらん……?)

??「うん……この本、いい…かも」

P(!?)

??「あ…でも……ちょっと高い、かな」

P(はっきりとは見えないけど間違いない! 先週美術館にいた猫背の女性だ!)

??「うん、ちょっと……無理ね…残念」

P(声かけなきゃ! え、いやかけてどうする? 名前だって知らないんだぞ!? 向こうだって覚えてるかどうか)

P「いやいやとりあえず行かなきゃ!」タッタッタッ

P「ちょ、棚長い! すっげー遠回りしてる!」タッタッタッ

P「えっと確かこのへんだけど、いないな……何の本見てたんだろう。こっちの棚は……『西洋の歴史』?」

P「また美術とかそういうのを見てたのかな」

P「ひとまず探してみよう。広い本屋だし、まだ中にいるかもしれない」

P(……なんで俺、こんなに必死になってるんだろう。名前も知らない、二言三言喋っただけの人に)

P(そうして、広い本屋の中をかけずり回った)

P(馬鹿なことに俺は、運命というやつを感じてしまっていたらしい)

P(この人だらけの東京で、二週続けて、違う場所で、同じ人に出会うことなんてそうそうはないはずだと)

P(主に美術関連の書籍コーナーを回った後、文庫や専門書も回ってみたけど、彼女はどこにもいなかった)

P「上がったり降りたり右に行ったり左に行ったり……ぐったりだよ」

P「結局見つからないし……帰ったのかな」

P「だいぶ時間も経ってるし、これ以上はムダか……雨も上がってるだろうし、帰るか……」

ズバッシャアアアアアアアアアア

P「嘘ー……強くなってるし。天気予報ちゃんと仕事してくださいよ」

P「もう今日はとことん立ち読みするかな……あ」

??「……まだ、やんでないのね……はあ」

P(い、いた! 猫背の女性! こんな近くに!)

??「もう……濡れて帰ろう、かしら」

P「い、いやいや、それはさすがにやめたほうが」

??「……?」

P「ど、どうも」

??「……っ」

P「そんな驚いた顔しなくても……あ、もしかして。覚えてない、かな」

??「いえ……つい先週のこと…ですから」

P「そ、そっか、よかった。僕の独り相撲だったらどうしようかと」

??「先日は…すいませんでした。突然……話しかけてしまって…静かに見たかった、ですよね」

P「そんな、気にしないでください! どんな場所でも、女性から話しかけられて嫌な気のする男はいません」

??「そう、でしょうか……それなら…よかったです」ニコ

P(!? 笑ってる! 笑ってるのか笑ってないのかわからないくらいに……)

P(俯き気味だからアレだけど……やっぱりきれいだ。本当に)

P「あの、今日はどうしてここに?」

??「突然、大雨が降ってきて……傘を持ってこなかったから……とりあえず雨宿りをしようと思って」

P「あ。じゃあ僕と同じですね。天気予報大外れで困ったものです」

??「ええ…本当に」クス

P(また笑った!)

P(……俺、自分でもよくわからないままこの人を追いかけてたけど)

P(なんだ。こんなに簡単なことだったんだ)

P(俺はまた、大きな勘違いをしてたのかもしれない)

P(下手な鉄砲じゃ当たらないんだ)

P「雨、まだやみそうにないですね」

??「ええ、困りました…興味のある棚は、だいたい見てしまいましたし……」

P「……だったら、少し僕とお話しませんか?」

??「…え?」

P「この本屋、上の方にカフェがありましたよね。そこでお話を」

??「お話…って?」

P「どうしても貴女に聞いてほしい話があるんです。お願いします」

P「ごめんなさい。無理に誘ってしまって」

??「いえ……どうせ、雨もやみそうにないですし…お話していれば、時間も早く過ぎる…でしょうから」

P「ですね。と、そういえば、僕たちまだ互いに名前も知りませんね。僕はPと申します」

??「P…さん」

P「はい。そう呼んでください。貴女の名前、教えてもらえますか」

頼子「…古澤、頼子…です。よろしく…お願いします」

P「古澤さん。よろしくお願いします」

頼子「…ええ。それで、Pさん。お話って……?」

P(俯き気味なおかげで基本が上目遣い……これはクる……)

頼子「あの…Pさん?」

P「あ、ああ。とりあえず、頼んだ飲み物を待ちましょう。一服してからゆっくりと。ね?」

頼子「え…ええ」

店員「お待たせしましたぁ。ホットコーヒーとホットキャラメルラテになりまーす」

P「どうもー。あ、僕がホットコーヒーです」

P「うんいい香り」ズビビ

頼子「……」ズズ

P(大して大きくないカップ両手で持ってる……! これはかわいい)

頼子「…甘……」

P「キャラメルラテなんだから甘くて普通じゃないですか?」

頼子「ちょっと…思っていた以上に甘かった……」

P(文句言ってるように見えてちょっと嬉しそうなのは気のせいかな)

頼子「それで…Pさん」

P「あ、はい。そうですね。お話」

頼子「…ええ」

P「単刀直入に言いますね」

頼子「は、はい」

P「古澤さん。アイドルになりませんか」

頼子「…え?」

P「アイドルになりませんか」

頼子「…あ、いえ」

P「アイドルになりませんか」

頼子「き、聞こえていますから…」

P「大切なことなので、何回でも言います」

頼子「…その、おっしゃってる意味が…よく」

P「僕はあるアイドルプロダクションでプロデューサーをやっています。古澤さん、貴女をプロデュースしたいんです」

頼子「ど、ドッキリか……何かですか?」

P「違います。名刺もちゃんとあります。ほら」サッ

頼子「CGプロダクション……」

P「そこそこの規模のプロダクションです。設備もちゃんとしているし、環境はいいと思います」

頼子「でも、どうして……私なんですか」

頼子「私は…アイドルなんて柄では…」

頼子「きれいな女性も、かわいい女性も…いくらでもいるのに……」

P「……確かにその通りです。僕は先週から今日まで、街でいろんな女性に声をかけました」

P「でもその数え切れないほどの女性たちと今目の前にいる古澤さん。決定的に違うところがあるんです」

頼子「違う、ところ…?」

P「この人をプロデュースしたい、一緒にがんばっていきたいという熱意。今古澤さんに抱いている僕の気持ちです」

頼子「っ! ど、どうして……そんなに…」

P「わかりません。でも貴女をプロデュースできればわかるかもしれません」

頼子「私なんて…猫背だし…容姿だって別に……」

P「そんなことはない!」

頼子「!?」

P「あ、た、確かに猫背は猫背だと思うけど! でも貴女はきれいです! 僕が保証します!」

頼子「あ、え…? その…えっと……その……」

P「う。す、すいません。なんか熱くなってしまって」

頼子「い、いえ…」

P「僕、突っ走り過ぎてますかね……」

頼子「いえ…」

P「……」グビグビ

P「ぷは。……ふう。実は僕はまだ、新人なんです。初めての担当アイドルをスカウトしようとしてるところで」

頼子「初めての……? そう、なんですか」

P「ええ。この一週間、漫然と機械のように女性に声をかけてましたけど……」

P「それじゃダメだったんです。貴女と話をしてやっと気づきました」

頼子「熱意、ですか…」

P「古澤さん。僕は真剣です。古澤さんも、真剣に考えてみてくれませんか」

頼子「……」

P「すぐに返事をしろなんて言いません。人生に関わることですから」

頼子「…………」

P「あ、雨上がってますね。出ましょうか。あまり遅くならないうちに」

頼子「…あ…ええ……」

今回はここまでです

頼子さんがユニットで登場して歓喜してる中投下します。
しかし今回頼子さんは出ません。

P(この週末のスカウト活動は、古澤さんに声をかけて、話を聞いてもらっただけで終わった)

P(古澤さんに話を聞いてもらえたから満足したってわけじゃない)

P(古澤さんに抱いたあの感覚。湧き立つようなよくわからない感覚。それを信じようと思ったんだ)

P(一目見てあの感覚を覚えるような女性。そういう人にだけ声をかけようって)

P(そう考えて道行く人を見続けてたら、結局日曜日は誰にも声をかけないまま日が暮れていた)

P(ちひろさんには「給料泥棒」って罵られるかもしれないけど……)

P(不思議と先週より充実感がある)

P(……見た目が魅力的な女性くらい、この大都市東京にはいくらでもいるのはわかってる)

P(でもあんな感覚を覚える女性となると、やっぱりそうそういるもんじゃないらしいな)

P(……古澤さん、いい返事を待ってます。まだペーペーだけど、貴女とならがんばっていける。そう思いますから)

ちひろ「給料泥棒」

P「」

ちひろ「週末分の業務報告メール! 『日曜日:成果0。声をかけた人数自体0』。なんですかこのザマは」

P「い、いえいえ続きも読んでください」

ちひろ「『湧きあがる何かを感じる女性に出会うことができなかったので、声をかけませんでした』」

P「そういうことです」キリッ

ちひろ「……ちょっとその場に正座しましょうか」ニッコリ

P「固く冷たい床なんですけど」

ちひろ「あら、聞こえませんでしたか? せ・い・ざ」

P「」

ちひろ「……はあぁもう。冗談です冗談。そんな泣きそうな顔しないでください気持ち悪い」

P「なんで泣きそうで止まってる人を泣かすようなこと言うんですか……」

ちひろ「Pさん。この報告書はかなり感心しませんね。研修で学びませんでしたか?」

P「うぐ。すいません……確かに研修で報告書の書き方はレクチャーされた気がします……」

ちひろ「仕事内容だけじゃなく、その日仕事をして何か気づいたり学んだり。そういうのも盛り込んでください」

ちひろ「新米のうちはそういうの、特に大事ですからね」フンス

P「はい……ほんとにすいません」

ちひろ「まあ、日曜日はともかく、土曜日はよくできてると思います。収穫があったみたいですね」

P「あ、ええまあ。初めてちゃんと話を聞いてもらうことができたんです」

ちひろ「手応えは?」

P「んー……正直、何とも言えません。でも伝えるべきことは伝えたので、後はもう」

ちひろ「待つしかない、ですか」

P「はい」

ちひろ「わかりました。ちょっと進展しましたね。でも、スカウトはこのまま続けてくださいね」

P「はい。……ところでちひろさん。今週の僕の業務は……?」

ちひろ「あ、そうそうそれですね。えーっと、今週はPさんには、ちょっと面倒くさい仕事に行ってもらいます」

P「すいません、モチベーションを下げる前置きやめてもらっていいですか」

ちひろ「Pさんの「面倒くさい」のハードルを下げておこうと思ったんですけど」

P「残念でしたね。モチベーションが下がってしまいましたよ」

ちひろ「まあ何事も経験ということで。じゃあ業務の説明しますね」

P「クールな人だなあ」

ちひろ「先週、Pさんには社長の仕事について行ってもらいましたけど」

P「そんなこともありましたね」

ちひろ「今週はあれの社長いないバージョンです」

P「はいぃ?」

ちひろ「Pさん。『プロダクションIceBlue』は勿論知ってますよね」

P「え? ええそれはまあ。現代日本のアイドルプロダクション三強の一社ですよね」

ちひろ「模範解答ですね。所属アイドルは?」

P「ええと……渋谷凛、北条加蓮、神谷奈緒、神崎蘭子、高垣楓、黒川千秋、多田李衣菜……などなど」

ちひろ「もう少し言えてほしいですが、まあいいでしょう」

ちひろ「このIceBlueですが、月イチのペースで自社のアイドルを集合させてライブを開いているんですよ」

P「ああ、研修で聞きました。毎回盛況なんですってね」

ちひろ「で、このライブなんですが。毎回何人か他社のアイドルも招かれることになっているんです」

P「へえ―……あ、もしかして。わかっちゃった気がします」

ちひろ「お、わかっちゃいました?」

P「うちからも招かれたアイドルがいるんですね。そしてそのアイドルに同行して僕も行けと」

ちひろ「ご名答ッ! いやー話が早くて助かりますよ」

P「でも、なるほど確かに面倒ですね。他社との絡みってなると、色々気を使わないとってことですよね」

ちひろ「そうなんです。正直、向こうさん的にも何かこちらがボロを出してくれないかって思惑が絶対ありますし」

P「大丈夫なんですかね、そんな仕事に僕みたいなペーペー行かせて」

ちひろ「他のプロデューサーさんがたは誰もスケが合わなくて。それに」

ちひろ「社長がご指名でしたから。「Pくんに行かせようよ♪」って」

P「いらんことしてくれるなあ……」

ちひろ「期待してるみたいですね社長」

P「期待されるとつぶれるタイプなんですよね……」

ちひろ「ま、この仕事自体はもう決定事項です。がんばってください」

P「クールな人だなあ。ところで、うちから参加するアイドルって誰なんですか?」

ちひろ「ああそうそう。それは心配ないですよ。Pさんもう知ってるコですから」

ガチャ

??「おはようございます!」

ちひろ「あ、噂をすれば来ましたね」

美波「ちひろさんおはようございます。あ、Pさんもおはようございます!」

P「に、新田さんですか!?」

美波「えっ? はい、新田美波ですけど……」

P「あ、ごめんなさい新田さん。今のはこの緑の人に、ね」

ちひろ「そんな味気ない呼び方されたのは初めてですね……美波ちゃん、今週はゲストライブですね」

美波「あ、はいっ。とっても楽しみで、ワクワクしてますっ」

美波「でもそういえば、社長は来られないっておっしゃってましたけど……」

ちひろ「ええ。ですから、この男が代わりに」

P「そんな味気ない呼び方されたのは初めてです……新田さん、そういうわけみたいです」

美波「Pさんが一緒に来てくれるんですか? はあ、よかったぁ……一人だったらどうしようかって思っていて……」

ちひろ「美波ちゃん、最近はしょっちゅう一人でお仕事行ってませんでした?」

美波「あのゲストライブはやっぱり……一人は不安で……」ウルッ

P(……こないだちひろさんが変に含みのあること言ったから、あの後ネットで調べてみた)

P(新田さんのネットでの評価。実にゲスいし誇張もされていたけど)

P(確かになんかいちいち色気があるな)

P「新田さん。僕では社長の代わりは務まらないけど、精いっぱいできることはしますから」

美波「Pさん……ありがとうございますっ。同じプロの人がいてくれるだけで、安心できます」ニコッ

P(やばいやばい。逆に直視に耐えない)

ちひろ「美波ちゃん、この男は社長のご指名で代役に選ばれてるんです。期待していいですよ」

P「すいません、余計なプレッシャーかけるのやめてもらっていいですか」

P(めまぐるしい一週間がまた始まった)

P(IceBlueのライブは金曜の夜。それまで新田さんは最後のレッスンをしたり)

P(と思いきや、別の仕事に行ったり。売れてるアイドルってのは本当に忙しいみたいだ)

P(ちひろさんが言っていた通り、基本新田さんはもう一人でも難なく仕事をこなせるようで)

P(一応の体で新田さんについて行ってはいたものの、俺は特に大したことはできていなかった)

P(新田さんの中には、社長が持っている彼女のプロデュースのビジョンがもうしっかりとインプットされているんだろう)

P(せめて今回はちゃんとした業務報告書を書けるよう、彼女の仕事ぶりをきちんとメモしておいた)

P(……今度新田さんの写真集探しに行こうかな)

P「もう木曜か。一週間が早いよ」

P「今日はIceBlueのイベント責任者に挨拶に行かなきゃいけないんだったな」

P「なぜか俺一人で。新田さんも一緒ならまだ気が楽だったけど」

P「ほんとに忙しいもんなあのコ。今日は最後の調整レッスンらしいし」

P「休みあるのかな……」

P「おっと、人の心配してる暇ないな。そろそろ行かないと」

ライブ会場

ザワザワ

P「うわ、思ってたよりでっけえ……」

P「これが満員になるのか。やっぱり三強は別格なのかな」

バタバタ…バタバタ…オイソレハヤクモッテコーイ

P「設営最後の追い込みやってるところか。あわただしいな」

P「しかし、一応ここで待ってろって言われたんだけど……誰も来ないな」

タッタッタッタッ

??「すいません! お待たせしました!」

P「え? 僕?」

??「あの、CGプロの方ですよね? 予定の時間を過ぎてしまって申し訳ありません」

P「あ、いえ。お気になさらず。こちらこそ、本来は社長が出向くのが筋でしたが」

P「なにぶん多忙で。代わりに私のような平が参りました。私Pと申します」

CoP「わざわざ来ていただけるだけでありがたいです。私はCoPと申します。今後ともよろしく」

P「こちらこそよろしくお願いします」

CoP「……さてと、堅苦しいのはこれくらいにして、まあ奥へどうぞ。待たせてしまいましたし、まず一服しましょう」

ライブ会場・事務所内

CoP「正直言うと、少しホッとしてしまいましたよ」

P「ホッと?」

CoP「そちらのあの社長さんが来られると思ってましたから。だいぶ年も上ですし、オーラが違いますからねあの方」

P「面識があるんですか?」

CoP「それはもちろん。現場でよく会いますよ」

CoP「私もプロデューサーのはしくれですからね」

P(この人、俺より少し年上くらいだろうけど……イベント責任者だもんな。誰のプロデューサーなんだろう)

ガチャ

??「ただいま」

P(お。誰か来t)

P(!?)

CoP「ああ、凛お帰り。……へえ、順調そうだな」

凛「ん。まあまあかな」

P「」

CoP「悪いな、あんまり見てやれなくて」

凛「いいよ。プロデューサー、やらなきゃいけないことたくさんあるんだから……プロデューサー誰この人」

P「し」

凛「し?」

P「しぶ」

CoP「しぶ?」

P「し、しぶ、渋谷凛ッ!?!?!?」

凛「……プロデューサー何この人」

CoP「半分物のように言うのはやめような」

P「はあっはっはふっ、す、すいませんちょっとばかり動揺してしまって」

凛「呼吸がおかしいけど大丈夫かな」

P「ふうう。失礼しました。渋谷凛さんを生で見たのが初めてだったもので」

CoP「おや、そうだったんですね。凛は私のアイドルなんですよ」

凛(……! 私の、アイドル……って)

CoP「凛、明日来てくださるCGプロの方だ。ちゃんと挨拶を」

凛「あ、うん。初めまして。プロダクションIceBlueの渋谷凛です。明日はよろしくお願いします」ペコ

P(これが三強の一角……なんつーか、圧倒されるな。十歳くらい年下なのに)

P「CGプロから来ました、Pと申します。ご活躍、いつも拝見しています」

凛「……なんか、いきなり雰囲気変わるね」

CoP「凛。他社の方には敬語で話せって言ったよな」

凛「あ……すみませんでした」

P「はは、私は別にいいですよ。業界歴で言えば渋谷さんの方が長いですしね」

P(不意打ちでビッグネームが現れて動揺したけど)

P(こういう時の気の落ち着け方は研修でもみっちりやったからな)

P(俺は実際に平でペーペーだ。ミスはあって仕方ない。かと言って舐められるのはダメだ)

P(俺は社を代表してここに来たんだからな)

凛「CGプロってあの社長さんのイメージが強いから……違う人が来て、少し気が抜けたみたい。ごめんなさい」ペコ

P「ほんとにいいですから。気楽に話してください(渋谷凛に頭下げられてる俺……)」

CoP「凛、まあ座れ。疲れたろ」

凛「まだまだだよ。でも、ちょっと休憩していく」

CoP「ではPさん、ぼちぼち明日のお話を詰めましょうか」

P「そうですね」

CoP「まず、あまり言いたくないことから……いいですかね」

P「え、なんでしょう」

CoP「そちらから参加されるアイドルの人選ですが……新田美波さんでしたね」

P「ええ」

CoP「それを決められたのは?」

P「もちろんうちの社長です。社長は新田の担当プロデューサーでもありますから」

CoP「それですが、こちらは直接アイドルを指定してオファーを出したんです。今井加奈さんでね」

P「そうでしたか。申し訳ないですがそれは私は聞いてませんね(マジで聞いてないわ)」

CoP「強制しているわけではもちろんないんですが、あえて意向を外した理由を知りたくて」

P(今井加奈ちゃんか。社長プロデュースのアイドルの一人だけど、まだ直接会ったことないんだよな)

CoP「Pさんはご存知ないですか?」

P(ハッタリかましておくしかないか)

P「どちらかと言うと、IceBlueさんからのオファーで今井を指定していることの方が不可解です」

CoP「とおっしゃいますと?」

P「イメージに合いません。今井は子リスのような愛くるしさが売りです(写真でしか見たことないけど)」

P「IceBlueさん所属のアイドルはそちらの渋谷さんを筆頭に」

凛「……」

P「クールで洗練されたかっこよさ、都会的なスタイリッシュさを感じさせる方ばかり」

凛「……そんな褒めてもなんにも出ないよ」テレ

P「今井が浮いてしまうことを危惧したのではないでしょうかね」

CoP「なるほど。無難な方を選ばれた、ということですか」

P「CoPさん、これはあくまで共同ライブですよね。勝負ではないはずです」

P「ゲストとして招かれた共同ライブで、あえてその和を乱すような真似ができるほど」

P「うちはまだ大きくないし、社長もそこまでチャレンジャーではない。そういうことです」

CoP「……」

凛「……プロデューサー」

CoP「……」

凛「論破されちゃったね。平の人に」

CoP「いやまあ、一番まっとうで想定できる返しではあるんだよ」

CoP「Pさん、謙遜する割には随分落ち着いてるなと思ってさ。ここアウェイだし、凛もいるわけだし」

P「はは、そんなことはありません。ビクビクしてます(ing形で寿命縮んでる気がする)」

CoP「すいません。本当は私としても、もとから新田さんにオファーを出そうと思っていたんです」

P「え」

CoP「まあ、うちはうちで……大きくなると、いろいろと面倒なこともあるんです」タメイキ

凛「もう。プロデューサー、ただでさえ大変なのに」

凛「これ以上余計な仕事とか心配事増やすようなことしないでほしいよ」

P(渋谷さんの目が優しい……ほんとに心配してるんだな)

P「渋谷さん。貴女のプロデューサーはそれだけデキる人だってことだと思いますよ」

凛「プロデューサーがデキる人なのはわかってるよ」

凛「でも限界はあるでしょ?」

CoP「まあ、まだ大丈夫だよ。それにどんだけ忙しくても、お前たちのプロデュースは一番だから」

凛「プロデューサーはいつもそう言うね……」

CoP「当然だろ。オレはプロデューサーだからな」

凛「かっこつけてもかっこよくないからね」

CoP「そうか。ま、心配してくれてありがとうな」ナデナデ

凛「……いつもごまかす」テレテレ

P「仲いいですね。うらやましい」

CoP「Pさんご担当アイドルは?」ナデナデ

P「恥ずかしながらまだいないんです。探しているところで」

CoP「あれ、そうなんですか。じゃあフェスには出ない?」ナデナデ

P「……ふぇす? なんですか?」

CoP「あ、いえ。こちらの話です。お気になさらず」ナデナデ

凛「い、いつまでこうしてるの?」テレテレ

P(照れる渋谷凛か……永久保存版だな。死んでも忘れないぞ)

P(しかし、ふぇすってなんだ?)

CoP「今日はご足労いただきありがとうございました。また明日お待ちしています」

P「はい。IceBlueさんのみなさんのライブ楽しみにしています」

凛「私も出るから。ちゃんと見ていってね」

P「それはもう。目を皿にして見ます。渋谷さんのライブを生で見るのは初めてですし。瞬きとかしません」

凛「そ、そこまでしなくていいけど。目は大切にしよう。それと」

P「?」

凛「凛でいいよ。苗字で呼ばれることあんまりないから落ち着かないし。それと敬語も嫌」

P「あらまあ」

CoP「こいつなりの「仲良くしましょう」の言い方です」

凛「な、何勝手に解釈してんの。とにかくそういうことだから」

P「そういうことなんだ。わかr……わかった。それじゃあお二人、また明日」

P(こうして、プロデューサーになって初めての「外交」は、一応無難にこなすことができた)

P(最大手プロのプロデューサーとも顔見知りになれたし)

P(あの渋谷凛とも話すことができた。ぺーぺープロデューサーとしては大きな収穫だったと思う)

P(明日もうまくいきそうだ。がんばらなきゃ)

P(昨日の帰り道、俺は前向きに翌日、つまり今日のライブ本番のことを考えることができていた)

P(……まだ本決まりじゃないが、どうも俺は今日のライブには行けないんじゃないかと思う)

P(出社してドアを開けた瞬間、ちひろさんにこう言われたんだ)

ちひろ「Pさん大変です! スカウトの返事待ちになってた方から連絡がありました!」

今回はここまでです

投下します

P(古澤さんからは、昨日の夜に事務所に電話があったらしい)

P(ちひろさんはその日のうちに俺の携帯に連絡してくれていたみたいだけど)

P(疲れきっていた俺は風呂から上がるなりころんと寝付いてしまった上)

P(今日は寝坊して携帯を見てる暇もなく家を飛び出してきたから)

P(結果としてこんな予期せぬサプライズ的展開になってしまった)

P(古澤さんは「ちゃんと会って返事をしたい」と言ってくれたそうで)

P(今日の夕方、またあの本屋のカフェで会うことになった)

P(……ライブの仕事には行けなくなってしまったけど)

P(そこにいきなり社長が現れて「ボクに任せてくれ♪」なんて言っていたので)

P(きっと大丈夫だろうと思う。新田さんも、俺より社長のほうが安心できるだろう)

P(夕方までは一応ちゃんと仕事をしたつもりだけど……正直、何も手についていなかった)

本屋・カフェ

P「……」ズビビ

頼子「……」ズズ

P(また小さいカップ両手で持ってる……何回見てもかわいい)

頼子「……にが…」

P「はは、抹茶ラテは意外に苦いですよね。まあ抹茶なんだから苦いのが正しいのかもしれないけど」

P(苦くても表情はあんまり変わらないんだ)

頼子「…他のお店で飲んだものは……甘かったんですけど…」シュン

P(あ、残念そう……女の子だし、やっぱり甘いもの好きなのかな)

頼子「……お砂糖入れよう…」サラサラ

P「……」ズビビ

頼子「……」マゼマゼ

P「…………」ズビビ

頼子「……」ズズズ

頼子「…………♪」

P(ちょうどよくなったみたいだ……ポーカーフェイスに見えるけど、ちゃんと表情が動いてる)

P「満足したところで、古澤さん。今日の本題に入りましょう」

頼子「…え? あ……はい」

P「貴女の返事を聞かせてもらえますか」

頼子「…はい……えと…その……」

P「……」

頼子「あの……ごめんなさい」

P「……え」

頼子「…Pさんのお話を聞いてから、一週間……真剣に考えたんです…」

P「」

頼子「アイドル…きっと、華やかな世界なんだろうな…って……」

P「」

頼子「楽しそうだな…って……」

頼子「でもやっぱり…決心がつかなくて……」

頼子「まだ…迷っているんです…」

P「」

頼子「だから、もう一度……Pさんに会えたらって…」

P「……?」

頼子「Pさんに会って話せれば…決心がつくかな、って……退くにしても、進むにしても…」

P「……あ、あれ?」

頼子「…? どうかしましたか…?」

P「いえ、始めの「ごめんなさい」でもう断られたものと思って放心してたんですが……」

頼子「…え? いえ、あの「ごめんなさい」は、そういう意味ではなく……」

頼子「「わざわざ呼び出したのに、まだ迷っている」ということに対しての「ごめんなさい」、ですよ…」

頼子「あ、紛らわしかったですか…すみません……」モジモジ

P(かわいい。許します。だいぶ寿命は縮んだけど)

P「つまり、まだ結論は出ていない、と」

頼子「…ごめんなさい」

P「古澤さん。僕はすごく嬉しいです。貴女がそんなに真剣に考えてくれていることが」

頼子「Pさん…」

頼子「…私は……」

P「はい」

頼子「恥ずかしながら…「アイドル」というのがどういうものなのか、まずそこからわからなくて……」

P「うん」

頼子「歌って、踊って…かわいい笑顔を振りまいて…みんなに愛される」

頼子「それが、世間の言う「アイドル」なら…私にはできっこないんじゃないかって…」

P「……」

頼子「…表情も薄いし、姿勢もよくないし……やっぱり、柄じゃないって」

P「『歌って踊って、いつもニコニコ』……それが世間の言う「アイドル」だとしたら」

P「そんな世間は、とりあえず置いておきましょう」

頼子「…え?」

P「もっと広く考えてみましょう」

頼子「…広く……」

P「見てる人を楽しませる。わくわくドキドキさせる。落ち込んでる人も元気にさせる」

P「アイドルってようはそういう存在だと思うんです。そういう存在であるべきだと思います」

頼子「……ええ」

P「歌も踊りもはじける笑顔も、そのための手段のひとつにすぎないんじゃないかな」

頼子「……また別の手段がある、ということ…?」

P「きっとあると思います。歌・踊り・笑顔を極めるのが一番鉄板だというだけで」

頼子「……Pさんには、何か見えているものがあるの…?」

P「あ、いえ……残念ながらそこまでは。まだ経験もないですから」

P(そう、偉そうなこと言っておいて、結局そうなんだ)

P(彼女を標準的なアイドルの型にはめたくはない。かと言って今ちゃんとビジョンがあるわけでもない)

P(古澤さんは今日、俺の言動行動でアイドルになるかならないか決めようとしてるのに)

P(理想を語るだけなら中学生でもできるんだよな……)

P「すいません。頼りないですね。人生を預けることになる相手としては」

頼子「……」

P「歌と踊りと笑顔で魅せるアイドル。それ以外、今の僕には何の構想もありません」

頼子「…………」

P「ただそれ以外の、それ以上の何かをウリにできるアイドルを育てたいって」

頼子「………………」

P「古澤さんと一緒に、そういうアイドル像を作っていきたい。そう思って……」

頼子「……っ」

P「いい年こいて、青くさいですよね」

頼子「……」

頼子「…………生きるとは、行動すること……か…」ボソボソ

P「え?」

頼子「…Pさん。女は男よりも、はるかに現実的な生き物…なんだそうです」

P「え、ええ。そうでしょうね。肩身が狭いです」

頼子「Pさんはまだ新人さんで…プロデュースの方針も固まっていなくて…不安があるんですよね」

P「……ええ」

頼子「ただ、「熱い気持ち」があるだけ……」

P「手厳しいですね……」

頼子「……でも」

頼子「Pさんのその気持ち…私は本当に…」

頼子「その気持ちだけで本当に…嬉しいです」ニコ

P「古澤さん……(今日初めて笑ってくれた……)」

頼子「先週、ここでお話を聞いた時も…」

頼子「ずっと胸がドキドキしていて……」

頼子「…夢でも見ているんじゃないか、って」

P「す、すごく落ち着いてるように見えましたが」

頼子「あまり、表情がありませんから…」

P「そんなことはないと思いますが……」

頼子「……あの日のPさんの話、本当に嬉しかった…でも、やっぱりそれだけで決めることはできなくて」

頼子「冷静になれ、こんな私がアイドルなんて、って……現実を見ろ、って」

P「……」

頼子「…今日、またPさんの気持ちを聞けて…白紙の構想を聞いて……」

頼子「やっと…結論が出せました」

P「!」

頼子「…女は現実的な生き物らしい……私自身もそうだと思っていました…」

頼子「でも、私はまだまだ…夢見る女の子、だったみたいです」クス

P「古澤、さん……」

頼子「Pさん。スカウトのお話、お受けします。私を……その…」

頼子「……こういう時は、何て言えばいいんでしょう…?」

P「」

頼子「…私を…アイドルにしてください…でしょうか」

P「」

頼子「私のプロデューサーに…なってください…かな」

頼子「…なんだか、少し照れます……」テレ

P「」

頼子「……Pさん…?」

P「ふ、古澤さん。本当にいいんですか? 僕はまだこんなに頼りないただのペーペーなのに……」

頼子「……私だって、際立って取り柄のない目立たない女の子…」

頼子「そんな私に、なぜかPさんは惹かれるものを感じてくれた」

頼子「だからPさんも…「こんな」なんて言わないでください」

P(……これが女神か)

P「古澤さん。本当にありがとう。めちゃくちゃ嬉しくて」

P「小学生並みで情けないけど、嬉しい以外の言葉が出てこないくらい嬉しいよ」

P「……ちょっと、このカフェの中走り回ってきてもいいかな」

頼子「…そ、それは……警察を呼ばれてしまうかも…」アセアセ

P「ですよね。我慢します」

頼子「ええ…」ホッ

頼子「それで、Pさん」

P「はい」

頼子「スカウトをお受けして…これからのことは?」

P「ああ、そうですね。本当はすぐにでも事務所に報告するところですが、今日はもう遅いし」

P「わけあって今日は事務所に人もいないから……古澤さんは明日空いてますか?」

頼子「…はい」

P「なら、明日事務所に来てもらって、正式に報告をしようかと思います。いいですかね」

頼子「…はい。大丈夫、だと思います」

P「うちには恐い人とかいないから、緊張しなくて大丈夫ですからね」

頼子「……はい」クス

P「じゃあ明日朝、迎えに行きますね。またここで待ち合わせにしましょうか」

P(この日古澤さんと別れてからの俺は、それはもう締まらない顔をしてたと思う)

P(一応直接報告にと事務所に顔を出したが、やっぱり誰もいなかった)

P(俺が行けなくなった仕事の埋め合わせに、社長自らとついでにちひろさんまで出ていったから)

P(とりあえず、業務報告メールだけ送っておくことにした)

P(……今日の報告書、主観と感情てんこ盛りになっちゃいそうだな)

今回分ここまでです

担当アイドルは増えちゃう予定
でも特にイチャコラを書きたいわけじゃないし、みんな割とストイックに
仕事頑張る予定

ということで投下します。今回で一区切りつけます

P(一夜明けて土曜日。古澤さんを事務所に連れていくことになってる)

P(そこで古澤さんは正式にうちに所属して、俺が初めて担当するアイドルになる)

P(待ち合わせたカフェに着いたらすでに古澤さんがいて)

P(紅茶かなんかを飲みながら本を読んでるところだった。それがすごく絵になっていて……)

P(しばらく物陰から眺めていようかと思った。店員さんに不審がられて諦めたけど)

P(声をかけると、古澤さんはほんのりと笑って応えてくれた)

P(確かに華やかではないかもしれない。でも文句なしに綺麗な笑顔だ。貴女はちゃんと笑えてる)

P(その笑顔が自然にできれば、きっと大丈夫)

事務所

頼子「古澤頼子、と申します…その……Pさんにスカウトされて…参りました」

頼子「こちらで、アイドルとして…よろしくお願いします……」ペコ

ちひろ「ふむふむ、古澤、頼子さん、と」メモメモ

ちひろ「と、失礼しました。私はこのCGプロで事務員をしています、千川ちひろといいます」ペコ

頼子「千川、さん…よろしくお願いします」

ちひろ「うちの者のスカウトを承諾していただき、本当にありがとうございます」

ちひろ「新人ですし、失礼もあったかと思いますが……」

頼子「失礼なんて…そんなこと全然…」

P「古澤さん、ちひろさんはこのプロのあらゆる雑務を一手に担うスーパー事務員さんなんです」

P「困った時はとりあえずちひろさんに言っておけばなんとかなりますよ」

頼子「そんな…すごい方なんですか」

ちひろ「Pさん、新人アイドルにデマ吹き込むのはやめましょうか」

P「でも実際事務員一人だし……」

ちひろ「あ、でも勿論困った時はいつでも相談してください。プロデューサーがセクハラしてくるとか」

P「しませんよ!!」

頼子「…千川さん、ありがとうございます」クス

ちひろ「当然ですよ。もう古澤さんはうちのアイドルですから。あ、私のことはちひろでいいですよ」

P「緑の人でもいいですよ」

ちひろ「それは許しません」

P「そんな色のジャケット着てるから……」

P「ちひろさん、今日は社長は?」

ちひろ「まあ例によっていませんよ。今日は一日愛梨ちゃんにつきっきりの予定です」

P「そっか……古澤さんの顔合わせとか、昨日のこととか話したかったんだけど」

ちひろ「あ、それは社長の方も言ってましたね。「Pくんと話したいなあ♪」って」

P「つーかいつも楽しそうですよねあの人……」

頼子「あの、Pさん…あいりちゃん、って……」

P「あ、古澤さん知らない? 十時愛梨ちゃん。このプロ所属なんですよ」

頼子「し、初代シンデレラガールの…十時愛梨さん、ですか……?」

P「あ、そうそうそうです」

頼子「……なんだか私…すごく場違いなところに来てしまった気がします……」シュン

P「どどうして!?」

頼子「十時愛梨さん、って……何もかも、私とは違いすぎる……」

P「ま、待って古澤さん。まだ落ち込むには早すぎます」

P「今比べたら勝てなくて当然です。彼女はもう歴が長い。貴女はこれからなんですよ」

P「だいたい比べることに意味がありません。もともとベクトルが違うんです」

頼子「Pさん…」

P「十時さんと同じような売り方はしないから。だから後ろ向きにならないで」

ちひろ(ふーむ)

頼子「……っ。…Pさん、ありがとう……ごめんなさい、変なことを言って」

ちひろ(すでに信頼関係は十分かな。それにPさん、それなりのビジョンはあるみたいね)

ちひろ「さてと、じゃあ契約関係の説明とか固いことさらっとやっちゃって」

ちひろ「それからプロフィールの作成をしましょう」

頼子「プロフィール、ですか…」

ちひろ「はい。これをもとにプロデュース方針とかレッスン計画を立てる、とても重要なものです」

頼子「…なるほど」

ちひろ「といっても大したものじゃないです。あ、契約書類の用意は時間がかかるので」

ちひろ「先にこのプロフィールを記入しておいてもらえますか」

頼子「…わかりました」

頼子「……」カキカキ

P「……(そういえば)」

頼子「……」カキカキ

P「……(古澤さんのパーソナルデータって何も聞かずにスカウトしちゃったな……)」

頼子「……好きな食べ物…えと……」ムー

P「……(出会いからして、美術とか好きなのかなって思うけど)」

頼子「……メロン漬物」カキカキ

P「め、メロン漬物?」

頼子「…出身が、茨城なので」

P「それで、メロン漬物……?」

頼子「…あ、マイナーなんでしょうか……茨城は日本で有数の、メロンの産地なんです」

P「へえ、そうなんだ! 知らなかった(でもメロンの漬物って……?)」

頼子「……趣味…は……」

P(美術館巡り)

頼子「……美術展・博物展観覧」カキカキ

P「やっぱりそういうのが好きなんですね(ちょっと違った)」

頼子「……そうじゃなかったら、Pさんにも会えなかった…そう思うと不思議ですね」クス

P(あ、そういえば)

P(いくつなんだろ……ぶっちゃけ一番しちゃいけない質問だからな。どれ、ちょっと覗いて……)

P「……えっ」

頼子「……え?」

P「じ、17歳?」

頼子「…え? ええ…17歳、高校生です、けど…」

P「……」

頼子「これ、生徒証です…」スッ

P「……」

頼子「…あ、あの……何か、まずかったですか……」

P「まずいなんてもんじゃありませんよ……」

頼子「あ、えと……」

P「古澤さんいいッ! すごくいいですッ!」

頼子「…あの、え?」

P「いや、ごめんなさい。あまりに落ち着いてるから、二十歳は越えてるだろうとずっと思ってて」

頼子「そ、そうでしょうか…きっと、地味な格好をしてるから、ですね……」

P「まあ確かに服装のおかげもあるかもしれないけど、古澤さんの持つ雰囲気なんでしょうね」

P「それは十分強みになりますよ」

頼子「そうでしょうか……」

P「かわいい17歳なら探せば結構いるだろうけど、きれいな17歳はそうそう見つかりませんから」

頼子「……Pさん…///」

P「ほ、ほらほら古澤さん。書く手が止まってますよ(自信を持ってもらうためとはいえ、俺も恥ずかしいよ)」

頼子「……///」カキカキ

頼子「…でも、ひとつ謎が解けました」

P「謎?」

頼子「Pさん、どうして私みたいな小娘にそんなに丁寧に話すのかな、って…思っていたんですが」

頼子「私が大人びて見えていたから、だったんですね…」

P「ええ、まあそんな感じです」

頼子「だったらPさん…もう、いいんじゃないですか……?」

P「もういい?」

頼子「私はまだ17歳のただの小娘…丁寧な言葉で話す必要なんてないと思いますよ」

P「ああ、そうか……そうかも」

頼子「……ええ。私も、そのほうが気が楽ですから」

P「わかった。じゃあ君が俺の担当アイドルになった今日からは、普通に話すよ」

頼子「……はいっ」ニコ

P(ただこれだけのことで、こんな笑顔されちゃあな……)

P(その後、プロフィールを全部書き終えてから契約関係のことをちひろさんから説明してもらった)

P(大人びているとは言っても結局は未成年。契約には親御さんの介入を必要とするわけで)

P(善は急げということで、その日のうちに古澤家のご両親に挨拶に伺った)

P(いかにも古澤さんの両親だなという感じの、素敵なご両親だった)

P(古澤さんは一人で悩んだわけではなく、両親にもちゃんと相談して決めたようで)

P(契約はスムーズに進んだ)

P(密かに嬉しかったのはそのことだ)

P(悩みを親に相談できる。これくらいの年の女の子だと、それが素直にできない子も少なくないはず)

P(もう何でも自分でできる。そう勘違いしてしまいがちな年頃だ)

P(古澤さんはそうじゃない。そうじゃないからこそ、ご両親も全力で彼女を応援してくれるだろう)

P(やっぱり俺は、いい女性にめぐり会えた。そう思う)

P(契約手続を終えて、俺たちはまた事務所に戻った)

P「ふう。どっと疲れました……」

ちひろ「親御さんへの挨拶は避けて通れませんからね。慣れるしかないですよ。毎回私がついてくわけじゃないですから」

P「マジですか」

ちひろ「マジです」

頼子「うちの両親、楽しそうでした…」

P「ん、ああ確かに。古澤さんがアイドルになるの、喜んでくれてる感じだったね」

頼子「あれでも、最初は反対してたんです…特に母は……」

P「お母さんが? そんな感じじゃなかったけど」

頼子「女は、現実的な生き物ですから…」

ちひろ「実は結構多いんですよ、お父さんのほうが味方になってくれるご家庭」

P「そうなんだ。父親は「うちのかわいい娘を見世物にするなど言語道断!」的なノリになる方が多いと思ってました」

ちひろ「なくはないですけどね。やっぱりかわいい娘のかわいさが認められるみたいで嬉しいんでしょうね」

ちひろ「逆に男性アイドルの場合はお母さんが盛り上がっちゃってる場合が多いですけど」

P「それはすごくわかる気がする」

ちひろ「と無駄話はこれぐらいにして」

ちひろ「契約書も交わしましたから、これで古澤さんは名実ともにCGプロ所属のアイドルになりました」

頼子「…はい」

ちひろ「そうなると早速、いろいろと決めていかにゃなりません」

P「なんでいきなりおっさん化したんですか」

ちひろ「Pさん。わかっていますよね。もうあなたの仕事は始まっています」

P「……もちろんです」

P「両親にもお会いして、ますます思いました。僕は古澤さんの人生を預かったも同然だって」

頼子「……っ。…Pさん……」

ちひろ「そうですね。何をおいても、それだけは忘れずにいてください」

P「……はい」

ちひろ「本当は私なんかじゃなく、社長が言うべき言葉なんですけどね」

ちひろ「ま、今はそんなに深く考えなくて大丈夫です」

ちひろ「最初のうちは基礎的なダンス・ボーカルレッスンと体力づくりに専念してもらうことになりますから」

頼子「体力、づくり…」

頼子「体力には…自信がありません……」シュン

P「はは、だろうね。古澤さんいかにも文化系だから」

頼子「はい…」

P「でも、アイドルって何をおいてもまずは体力なんだ」

P「歌と踊りだけどんだけ極めても、それを体現する体が貧弱だと意味がなくなってしまう」

頼子「…なるほど」

P「学業との兼ね合いもあるし、始めはゆっくりやっていくつもりだから」

頼子「…わかりました」

P「古澤さん。ちゃんと言ってなかった気がするけど」

頼子「……?」

P「俺のアイドルになってくれて本当にありがとう」

P「不安いっぱいだろうけど、精いっぱいプロデュースするから」

頼子「…! Pさん……」

頼子「こちらこそ……」

頼子「Pさんの思いに応えられるように…私、一生懸命、がんばります……」

頼子「よろしく、お願いします……!」

ちひろ(Pさんも古澤さんも、初々しいわー)

ちひろ(心配はいりません。うちは売れないまま引退したアイドルは一人もいませんから)

ちひろ(超強力にヒットしてるコはまだ多くはないけど……)

ちひろ(そういう存在になってくれること、期待してますからね。社長もきっとそうです)

ちひろ(そうでなければ社長は、あなたにこんな試練は与えないでしょうから)

ちひろ「はいはいきれいにまとまったところで、Pさんにちょっとお話があります」

P「あ、ちひろさんまだいたんですね」

ちひろ「時々酷いですよね……先輩ですよ」

P「で、なんですか話って」

ちひろ「Pさん、フェスってご存知ですか?」

P「ふぇす? なんですか……いや待って、どっかで聞いたような気も」

ちひろ「社長からのお達しです。Pさん、次回開催のフェスに出場することが決まりました!」

P「え」

今回分終了。ここまで読んでくれた方ありがとうです。
これにて『モバP「新人研修が終わった」』はひとまず終了にし、
続きのようなものをまた別のスレを立てて投下させてもらおうと思っています。

最終的にはフェスに行きつくっていうもう何番煎じかわかりませんが、書きたく
なってしまったんで、ちゃんと完結までいけたらと思います。

再開しますー

P(古澤さんが俺の担当アイドルになって、早いものでもう3週間ほどが経った)

P(3週間、特に目立ってアイドルらしい活動はさせていない)

P(まずは基礎固めからということで、発声とダンスのレッスンをほぼ毎日積んでいるところだ)

P(俺のほうに焦りがないと言えば、正直嘘だけど……)

P(アイドルのプロデュースってのはそういうもんだと、研修で散々叩き込まれたし)

P(こうしてアイドルが最低限の基礎レッスンをしていられるうちに)

P(プロデューサーはそのアイドルをどう育てていくか、ビジョンを明確に定める)

P(そのための期間なんだと社長には教え込まれた)

P(……まだはっきりしたものは出せずにいる)

CG社レッスンスタジオ

ルキ「はい、今日のレッスンはここまでですね。古澤さんお疲れ様でした」

頼子「…はあ、はあ……お疲れ様、でした……」イキギレ

ガチャッ

P「失礼しまーす。お、ちょうど終わったところだったか」

ルキ「あ、Pさん。こんにちはっ!」

P「お疲れ様ですルキトレさん。いつもお世話になってます」

P「あ、古澤さんお疲れ様! はいこれ、アクエリ」サッ

頼子「Pさん…ありがとう、ございます……」

頼子「グビグビグビグビ」

P「はは、レッスンだいぶ堪えてるみたいだね古澤さん。ゆっくり飲みなよ」

頼子「っ……///」コクコク

ルキ「少しずつですけど、ハードなものにしていってますからね」

ルキ「でも古澤さん、しっかりついてこれてますから」

P「そっか」

ルキ「ダンスの方も、普段運動「してない」だけで、「できない」わけじゃないみたいで」

ルキ「本人はまだ過小評価してるところありますけどね」

頼子「体を動かす手順さえ覚えれば…後はそれを実践するだけですから……」

P「ははは、あくまでまず「頭」を使うんだね。ダンスは体で覚えるとかいうもんだけど」

ルキ「その辺って結構人それぞれですよ」

ルキ「運動神経イマイチでも踊りの上手い人ってたまにいるんです」

ルキ「そういう人って、大体極端に記憶力が高かったりするんですって」

P「へえ。ダンスって運動神経と繋がってるもんだと思ってたけど、そうでもないってことか」

ルキ「なんて、実は姉からの受け売りですけどね。興味があったら姉に話を聞いたらいいですよ」

ルキ「でも、そういう持って生まれたものより何より」ジッ

頼子「……?」

ルキ「同じことをひたすら反復練習できる根気強さと努力。基礎作りに一番大切なのはそれなので」

ルキ「だから古澤さんは、十分に優れたアイドルの素質を持ってるとわたしは思ってるんです」

頼子「ルキトレさん…」

ルキ「古澤さん。まだ始まったばかりだけど、これからもっと一緒にがんばりましょうね!」

頼子「…はい。ありがとうございます、ルキトレさん」ペコ

P「ルキトレさん、ありがとう。これからもこの子をよろしくね」

P(ルキトレさんの褒め言葉は決して本人が目の前にいるから出た世辞ではなく)

P(プロデューサーの俺だけが目を通す報告書にも概ね同じようなことが書かれている)

P(今のところ、古澤さんのレッスンは順調だと言いきって問題はない)

P(発声やダンスなど、本人は多くの面で不安を抱えていたようだけど)

P(もともと彼女はかなり頭がいいらしく、知識としての吸収が早いようだ)

P(ただやっぱり、すぐにはどうにもならない部分もあるみたいで……)

帰路・社用車内

頼子「……」ウトウト

P「ん? 古澤さん、眠いの? でももうすぐ家着くよ」

頼子「…ん……はい」

P「……やっぱり放課後毎日はきついよな。無理させてるのはわかってるんだ」

頼子「…そんな、こと……ない」ウトウト

P「今週の土曜は一日オフにしようか。もともと日曜休みだし、連休ってことで」

頼子「…ん、でも……」

P「古澤さん」

頼子「……はい」

P「今は大事な時期だけど、無理をするべき時期でもないんだ」

頼子「……」

P「いつか古澤さんには、どうしても無理をしてもらわなきゃいけない時が来るかもしれない」

P「でも言ったよね。ゆっくりやっていくつもりだって。今はまだ、ね」

頼子「……はい」

P「君が焦ることはないんだ。焦るのは俺、プロデューサーの仕事だよ。仕事取っちゃダメだよ」

頼子「…Pさん……」

頼子「ありがとう、ございます…」クス

頼子「土曜日は、お休みをいただきます…」

P「うん、それでいい。ゆっくり休むなり出かけるなり、しっかりリフレッシュしておいで」

頼子「…はいっ」

P「しかしあれだね。歌と踊りはクリアできても、やっぱり体力はすぐにどうとはいかないよね」

頼子「ええ……なので」

頼子「……最近、早朝のジョギングを始めました」

P「おお、そうなんだ。あ、でも早朝ランニングって、結構危ないって聞くんだけど……」

頼子「危ない…?」

P「その、ほらあれ。変態さんが出没したりとか……あ、信号赤」キッ

頼子「っ……そう、なんですか…それは知りませんでした」

P「そういう地域もあるってだけだろうけどね……ここの信号なげえんだよな」

頼子「でも…一人ではないので、大丈夫だと思います…」

P「あ、そうなんだ。学校の友達?」

頼子「いえ…ランニング仲間、というか…ランニングしていたら応援されたというか……」

P「応援された?」

頼子「…ええ。ちょっと、変わった子なんですけど」

P「だろうね…」

頼子「私よりずっと体力があるみたいで…毎日私を引っ張ってくれるんです。応援しながら…」

P「応援しながら……」

頼子「でも不思議でね…その子の応援、とても力強くて……本当に力が湧いてくる気がするんです」

P「へえ……」

P「……それで毎朝、限界以上に頑張っちゃって」

頼子「……はい。ヘトヘトになってしまって…その上にレッスンもありますから」

頼子「…あ、でもその子のせいじゃないですからね…? あの子のおかげでランニングは楽しいんです」

P「はは、わかってるよ。ランニングもやめろなんて言わないから」

P「体力づくりがたぶん一番の課題だし、そこは地道にやるしかないところだし。お、信号変わった」

P「でも、学校で寝たりしちゃダメだからな? そこは学校とも話し合ってるところだから」

頼子「……ごめんなさい」

P「……まさか」

頼子「……寝ちゃいました…」シュン

P「お、怒られなかった?」

頼子「…目が覚めたら毛布がかけられていて」

P「あったかい学校だな! 挨拶に行った時には結構厳しい感じだったけど」

P「まあ、古澤さんが怒られてないなら全然いいや」

頼子「…ごめんなさい」シュン

P「まあ、学業にできるだけ支障を出さないようにって今は考えてるし、ご両親にも学校にもそう説明した手前」

P「早速毛布をかけられるほど爆睡するのはちょっとね……」

頼子「はい……」

P「ランニング、ほどほどにしようか」

頼子「……はい。明日からは少し軽めにしてみます」

P「うん、そうしよう。さ、ちょうど家に着いたよ」キッ

頼子「…あ……Pさん、毎日ありがとうございます」

P「いいんだよそんなの。じゃあ、また明日ね」

P(古澤さんを家まで送った後、事務所で報告書を書く。ここ最近このパターンが定着した)

P(報告書を書くのは割とおろそかなのは秘密だ)

P(彼女の方向性をどう打ち出すか。主にそのシンキングタイムにしてる)

P(今のまま行けば、彼女は歌って踊れるアイドルを無難にこなせる気はする)

P(……でも)

P(埋もれてしまう。そんな気もする)

P(今の彼女には、相手に強烈なインパクトを与える何かが薄い)

P(日蔭に咲いているきれいな花、みたいなものだろうか)

P(きれいなことに違いはない。でも日向に咲く花とはやっぱり何か違う)

P(美術が好きで、博識で、頭がいい……きれいでどこかミステリアス)

P(考えれば考えるほどわからん。そして頭痛の種はそれだけでもなくて)

ちひろ「Pさん。今日もスカウトには行かなかったんですか?」

P「あ、ちひろさん。お疲れ様です。どうしても古澤さんの様子が気になって」

ちひろ「ルキトレちゃんがきちんと報告してくれてるでしょうが。心配しすぎです」

P「だって、初担当アイドルですから。気にもなりますよ」

ちひろ「まあ気持ちはわかりますけど。でもほら、忘れたわけじゃないでしょう」

P「わかってますって。フェスですよね」

P(古澤さんがアイドルになった日に告げられた社長からのお達し)

P(フェスに参加せよ!)

P(フェスっていうのは、「プロダクションマッチフェスティバル」というイベントのことで)

P(現代日本のアイドル界を賑わす大イベントらしい)

P(実は俺は知らなかったんだけどね……)

P「しかし、なんで僕みたいなペーペーがそんな大舞台に出るんでしょうか」

ちひろ「フェスはね、出場するユニットが多いほうが多少有利なんですよ。そういうイベントなんです」

ちひろ「あ、でもね。数合わせだとは思わないでくださいね」

P「というのは?」

ちひろ「これは一大イベントなんです。参加するプロはみんな本気。アイドルも本気です」

ちひろ「今回からはテレビ放送もされますし」

P「……」

ちひろ「そんなところに数合わせとして出ようもんなら」

P「大恥をかいてしまう。そういうことですか」

ちひろ「そう。だからね、出る以上本気になるしかないんですよ」

P「……厳しすぎる。いくらなんでも」

ちひろ「そうですね。私もさすがにそう思います」

ちひろ「……辞退するのもありですよ。社長はきっと笑って「そっか♪」って言うと思います」

P「ちひろさん……」

ちひろ「でもね。社長って適当に見えて実は、不可能だと思うことは言わない人でもあるんです」

P「っ」

ちひろ「Pさんの先輩プロデューサーたちもみんな、社長にかなりの無理難題を吹っ掛けられてましたけど」

ちひろ「不思議とみんなそれを乗り越えてこなしてきました」

ちひろ「社長はPさんならできると思ってるんですね」

P「……なんでちょっと前までただの素人だった人間をそんなに信じられるんでしょうか」

ちひろ「さあねぇ。社長の考えは社長にしかわかりません」

ちひろ「ただ私は、社長を信じていますから。社長が信じるものは信じられると思っていますよ」

ちひろ「ふふ、なんかの宗教みたいですね」クス

P「……古澤さん以外にあと4人、ですよね」

ちひろ「はい、そうです」

P「なんか……そのイベントのためにアイドルを集めるみたいで、すごく本末転倒な気がするんです」

ちひろ「それは違いますね。遅かれ早かれPさんは、複数のアイドルを担当することになるんです」

ちひろ「初めて担当する古澤さんを大切にする気持ちはわかります」

ちひろ「でもそれを続けたら、Pさんにとって古澤さんはいつまでも特別な存在になってしまいます」

P「それは……確かに」

ちひろ「それにね」

ちひろ「古澤さん、少し寂しそうじゃないですか?」

P「!」

ちひろ「うち、しばらく新人アイドルが入ってなかったから、そこそこキャリアある子ばかりで」

ちひろ「同期って言える存在がいないですよね」

P「それは……僕も感じていました」

P「一緒にがんばれる。成長していける。何をするにもそういう存在はいたほうがいいって」

P(俺も、たくさんいた同期は研修の過程で一人もいなくなってしまったけど)

P(こうして最後の一人になるまでは、その同期たちと励ましあってやってきた)

P(はじめから一人だったら、俺は絶対この場にはいない)

P(俺は所詮古澤さんの「プロデューサー」で、その時点で彼女と同じ立場の存在じゃない)

P(この先彼女が辛いと感じることがあった時、同じ立場で相談ができる相手)

P(……やっぱり、必要だよな。仲間って)

P「……またスカウト、がんばってみます」

ちひろ「やる気出ましたか」

P「ええまあ……」

ちひろ「扱いやすいですねぇPさんは」ニヤ

P「なんですかその邪悪な笑顔は」

今回分はここまで

ごめんね、元気なあの子はあの子とは違うあの子なんだ…
というわけで投下します

P(フェスってイベントは、大体今から半年くらい後)

P(いわゆる年末のイベントラッシュに乗っかって行われるらしい)

P(年々注目度が高まって、ついに今年は全国ネットでTV放送されるなんて話だ)

P(半年と言えば結構猶予があるように見えるけど)

P(ゼロからのスタートの俺にとってはそうでもない)

P(アイドル候補の発掘も、あまり悠長にやってはいられない。それに)

P(古澤さんが少し寂しそうだ。ちひろさんはそう言っていた)

P(そこまで気が回ってなかった自分が悔しい。古澤さんは一人が好きそうな雰囲気があるし……でもやっぱり)

P(誰だって、新しい環境で一人じゃ寂しいもんだよな)

-事務所-

頼子「アイドルに興味がありそうな友達、ですか…」

P「うん。古澤さんの学校にいないかな」

頼子「……」ムー

P「……」ムー

頼子「…うちは、それなりの進学校ですから……」

P「ああ、そうだよね」

頼子「国立に進むような人も結構多くて…割とわき目もふらずに勉強してるような人が多いんです……」

P「なるほどね……」

頼子「興味がある人、まったくいないことはないと思う…でも……」

頼子「…あんまり、期待は持てないんじゃないかな、って……」

P「うん、そうだよね。有数の進学校からわざわざアイドルになるなんて」

P「すごく勇気のいることだと思うから。その勇気ある子を目の前にして言うけどね」

頼子「……」クス

頼子「…でも……Pさん」

P「うん?」

頼子「どうして…またアイドル探しを?」

P「?」

頼子「私のプロデュースも、まだ始まったばかりなのに……」

P「あ、ああ……(やっぱりそう思うよね……)」

P「ごめんね、古澤さん」

頼子「…え」

P「実はね……」

P(古澤さんの不信感はもっともすぎて、俺自身こう言われることは想定していた)

P(当然だろう。あれだけ熱い気持ちをぶつけてきた相手が、すぐまた別のアイドルを探しているわけだ)

P(いい気分でいられるわけはない。大人びた子とは言っても人間なんだから)

P(俺にできることは、事情を全部きちんと話してわかってもらうことだけだ)

P(まずはフェスというイベントのこと。これは単なる説明に終始した)

P(それと……)

P「ちひろさんから言われたんだけど……」

頼子「…?」

P「古澤さん、一人で少し寂しいんじゃないかって」

頼子「っ」

P「俺はそこまで気が回らなくて。古澤さんは一人でも黙々とこなすタイプだって決めつけてたし……」

頼子「……」

P「実際そうなのかもしれない。だからお節介なのかもしれないな。でもやっぱり」

P「一緒に努力できる仲間がいるってのは心強いと思うんだ」

頼子「…Pさん」

P「得意な勉強なら一人で大丈夫かもしれない。けど古澤さんは全然未知のことに挑戦しようとしてる」

P「きっとつまづくことだってあるんだ。だかr」

頼子「Pさん」

P「あ……(被せてきた……)」

頼子「Pさんは本当に…熱い人なんですね」

P「そ、そうかな」

頼子「Pさんが…私のことをちゃんと考えてくれているのは、もちろんわかっています……」

頼子「担当されるアイドルだって、いつかは増えるって…それもわかっていました…」

P「古澤さん……」

頼子「でも、思っていたよりずっと早くて……ちょっと動揺してしまいました」

P「いや、まっとうな反応だよ」

頼子「困らせるようなことを言って、すいません…」ペコ

P「いや、俺が先にちゃんと話すべきだったんだよ。不安にさせて悪かった」ペコ

頼子「……じゃあ、おあいこということで…」ニコ

P(! ……やっぱりいい笑顔だよ)

P「でも、少し安心したよ」

頼子「安心…?」

P「古澤さん、そういう自己主張はしてこない子かと思ってたから」

頼子「…嫌味なんです」

P「いいよ。嫌味でもわがままでも……度を越せば鬱陶しいけど、自己主張はしてほしいんだ」

P「これからもね」

P(聡明。古澤さんはこの2文字が実に似合う女の子だと再認識した出来事だ)

P(そうでありつつ、自己主張を抑えることもしないという、結構年相応の女の子らしい面も持ち合わせていて)

P(意外な二面性を垣間見た気がして、妙に嬉しくなった)

P(アイドル候補については、まあ古澤さんの学校からもう一人、っていうのは)

P(諸々の理由でそもそも現実的ではないと踏んでいたから、特に落胆とかはない)

P(あまり気は進まないけど、また街頭に出るしかないのかな……)

P(ま、ちょうど明日明後日週末だ。明日からだな)

――週末

P「で、午前中からはりきって街に出たはいいものの」

P「……あつ」ダラー

P「……」パタパタ

P「……あっつ」ダッラー

P「もう夏なんだね。一年が早いなあ」

P「なんて言ってる間に午後とか……」

P「しかしあっついわ」ダラダラ

P「収穫があったらまだ気も晴れるけど……空振りだし」

P「とりあえずちょっと休憩しよう。熱中症怖いし」

P「確か近くに都会のオアシス的公園があったはずだよな。昼飯も食ってないし、なんか買っていくか」

-都会のオアシス的公園(P談)-


P「はあよかった。まだ日陰は涼しいや」パタパタ

P「ネクタイしてないからまだマシだけど、やっぱスーツは暑いって……」

P「なんでこんなの着なきゃいけないのかね……」

P「……そろそろ1着くらい買い足したほうがいいかもな」

P「とりあえず飯。カツサンドカツサンド♪」ガサガサ

P「ングング」

P「うま!」

P「疲れてるからかな、余計にうまく感じるな」モグモグ

P「……」モグモグ

P「ごっそうさま」

P「……さて、どうしたもんかな」

P(俺なりに考えたことがある。最初にちひろさんから聞いた話について)

P(社長はスカウトに失敗したことはないというあれ)

P(社長はきっと、俺と違って始めからわかっていたんだろう)

P(下手な鉄砲ではダメだってことを。熱意を持てなければいけないことを)

P(その熱意を正面からぶつければ、人はきっと応えてくれることも)

P(だからやっぱり俺は、その感覚を大切にするべきなんだと思う。でもな……)

P「そうそういるもんじゃないんだよな」

P「いや、熱意を伝えれば人の気持ちを動かせるかもしれないのは確かにわかる」

P「それなら、熱意を作ってしまえばいいって……思わなくはないけど」

P(自分の熱意を捏造する、ってことだ)

P(研修の中で、プロデューサーも演技者になる必要がある、という教えは受けている)

P(でもそれは、こういう場面で発揮するべきスキルだろうか)

P(きっと違う。それをやったら俺は……)

男の子「ほっ……えいっ」タンッタンッ

P「?」

男の子「えいっ…やっ…このっ!」タンッタンッタンッ

P「はは、逆上がりの練習か。できない子は結構できないもんなああれ」

男の子「とりゃ! えい! この!」タンッタンッタンッ

P「がんb」…………ドドドドドドド
ドドドドド┣¨┣¨┣¨┣¨ドド┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

??「がんばれーーーーーーーーっ☆ 男の子ーーーーーーーーっ☆」┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

P「!?!?!?!?(何かが猛然と!?)」

??「やっほーう☆」ピョーイ

シュタッ

??「逆上がり! 絶対できるよ! ファイトだファイトだオー☆ オー☆」

男の子「……」ポカーン

P「狐につままれたような顔ってああいう顔だろうな」

??「ん、どうした男の子! さあもう1回やってみよう☆」

男の子「お、お姉ちゃん、なに?」

??「ん? アタシのことなんて気にするなっ☆ アタシはただの――」

??「通りすがりの、チアリーダーだよっ☆(ぶいっ)」キラーン

男の子「……」キョトーン

P「うわあ……」

男の子「……かっけえ!」パアア

P「え」

??「アタシがここで応援するから☆ だからがんばろう!」

男の子「うん! おれ、がんばる!」グッ

P「……」

??「その意気だっ☆ いけいけゴーゴーファイト! オー☆」シュバッシュバッ

??「おせおせドンドンビート! YO☆」シュバシュババッ

P(すげえ体のキレ……本格的だな)

男の子「……」ムー

P(……でもあれ気が散ってんじゃないのか?)

??「ひいてー……ゴー☆ ためてー……ジャーンプ☆」ピョーン

男の子「…………」ムー

??「グーっとひいてー……ゴーッ☆ ぎゅーっとためてー……ジャーンプッ☆」ピョーンッ

P(いや、違う……)

P(逆上がりができない原因はもちろんひとつじゃないけど)

P(大抵フォームがよくなくて蹴りだしが弱いっていうのがよくあるらしい。俺もそうだった)

P(闇雲にどれだけ回数を重ねてもできないのはそのせいで)

P(あの通りすがりのチアリーダーはエールのリズムで溜めを意識させようとしてるんだ)

男の子「……えいっ」ダンッ

ガクンッ

P(ああ、ダメか。それでも……)

??「よし☆ さっきより全然上がってるよ! いける! できる! もう1回☆」

男の子「……」グッ

P(確かに。目に見えてよくなった。あの子自身も感じてるだろう)

P(小さい子に溜めだどうだなんて言葉で言ったってよくわからないだろうけど)

??「声出していこう☆ 大きい声で、ほらっ」

??「ひいてー……ゴー☆ ためてー……ジャーンプ☆」ピョーン

P(ああいうリズムで無意識に刷り込むことはできる)

男の子「ひいてー……」

??「……」

??「……できるよ、絶対」

男の子「……ゴー!」ダンッ

P「!(いける!)」

クルッ

男の子「で、できた……できた!」パアア

??「やったー! できたねおめでとーっ☆ 完璧だったよ!」パアア

男の子「お姉ちゃんが応えんしてくれたから!」

??「違うよっ。キミの力だよ☆ でもアタシの応援がキミの力になったなら、アタシも嬉しい!」

??「あ! いけないアタシはもう行かなくちゃ!」

男の子「え」

P「え」

??「じゃあね男の子! アタシがいなくてもできるようになるんだぞ☆」┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ド゙ドドド…………

男の子「あ、ありがとー! 通りすがりのチアリーダーのお姉ちゃーん!」

P「来た時と同じく猛然とどこかへ……」

P「嵐のような子だったな。なんかおかしな夢でも見た気分」

P「……ほっこりする一幕だったけど」

P(結局この日は完全に空振った)

P(というよりこの通りすがりのチアリーダー事件でいろいろ吹っ飛んでしまって)

P(その後はほぼ何もせずに日が暮れていた)

P(古澤さんの時に抱いたあの感覚。あれと似た何かが湧きおこるのを感じた)

P(俺はその後ろ姿しか見えなかったんだけど)

P(跳ねるたびに大きく揺れるポニーテールが、くっきりとした像を残していた)

今回分はここまで

┣¨┣¨┣¨┣¨が一部おかしくなってたw
ちょっとショック

なるほどsagaなんてのがあるのね。教えてくれてありがとです
そして投下します

P(日曜も空振りだった)

P(古澤さんに出会って、また事務所で十時さんや新田さんを見ていて)

P(自分の中のハードルが上がってしまっているような気もする)

P(それ自体は悪いことじゃないんだろうけど……このままじゃあな)

――月曜

-事務所-

頼子「あの、Pさん…ちょっといいでしょうか」

P「ん、どうしたの改まって」

頼子「ちょっと、お話がしたくて……お時間いいですか?」

P「古澤さんを家まで送る仕事が残ってるだけだから、全然大丈夫だよ」

頼子「よかった…」

P「じゃあ会議室を取ってくるから」

頼子「あ…別に、Pさんのデスクでいいですよ」

頼子「大した話じゃありませんから…」

P「そう? じゃあここで。冷たいお茶でも取ってくるね」

頼子「……」ゴクゴク

P「……」ゴク

頼子「……ふぅ」

P「……」ゴク

頼子「……」ゴクゴク

P「あの、古澤さん。レッスン後で喉渇いてるのわかるんだけど、話って……?」

頼子「……!」

頼子「///……ごめんなさい。寛いでしまいました」

P「レッスン大変だもんな。もちろん寛いでいいよ。寛ぎながら話もしてくれるかな」

頼子「はい…///」

頼子「先週のあのお話なんですが…」

P「あの?」

頼子「Pさんの新しいアイドル候補の…」

P「あああれか」

頼子「週末スカウトに出られたって聞きました…」

P「うん、久しぶりに出てみたよ。まったく空振りに終わったけどな」ポリポリ

頼子「……」

P「でも、それがどうかしたの?」

頼子「……一人」

頼子「一人、心当たりがあるんです…」

P「え?」

P「ア、アイドルになりたいって子?」

頼子「あ、いえ…正確に言うなら、むしろ…アイドルになれそうな子、なのかもしれませんが……」

P「アイドルになれそう……?」

頼子「……Pさんはこう言いました」

頼子「人を楽しませる。ワクワクドキドキさせる。落ち込んでいる人も元気にさせる」

頼子「突き詰めればアイドルとはそういうものだと。そうであるべきだと」

P「言ったね」

頼子「私の周りに一人、そういう子がいます…」

P「……」

頼子「……」ゴク

頼子「すごく、こう……パワーを持っている、そんな子なんです…」

P「ランニングの子?」

頼子「…はい」

P「気に入ったんだね、その子のこと」

頼子「……私自身とも、今まで私の周りにいた子たちとも全然違っていて…」

P「その子にアイドルの話をしたことってある?」

頼子「いえ、それはまだ…」

P「そっか……」

頼子「……」ゴク

頼子「…少し、怖くて」

P「怖い?」

頼子「私はまだまだ下積みの段階で…半アイドルみたいな状態です……」

頼子「そんな私が誘っても、本気にしてもらえないかもしれないし…」

頼子「人の説得は、あまり得意ではないし……」

P「俺が古澤さんに声をかけた時も、だいたい同じ状態だったよ」

頼子「……!」

P「今でもそうだけど、新米だし、喋りだって別に上手くない」

P「それでも古澤さんはここに来てくれたよね」

P「結構、なんとかなるもんみたいだよ」

頼子「Pさん…」

P「ま、でもね」

P「そういう心当たりを教えてくれただけで十分助かるよ」

P「シビアなようだけど、最終的に判断するのは俺だしね」

頼子「……ええ」

P「明日の朝もランニング行くよね?」

頼子「…ええ」

P「そこに俺も混ざるよ」

頼子「…混ざるんですか」

P「いや、正確にはストーキングさせてもらう」

頼子「……犯罪です」

P「いや、そこはほら、ね?」

頼子「…冗談です」クス

P(かわいい)

P「古澤さんを見つけた時に反応した俺のアイドルセンサーが反応するようなら」

P「本気でその子の説得にかかる」

頼子「……きっと反応すると思います」

P「よっぽど好きなんだね、その子が」

頼子「とてもかわいらしくて、元気で明るくて…素敵な子なんです」

P「ハードル上げるね」

頼子「ええ…大丈夫ですよ。絶対…」

P(いつものように古澤さんを車で送り届けた後は、いつものようにデスクで考慮タイムだ)

P(この前はどんなことを考えたっけ?)

P(歌って踊れるだけでは埋もれてしまう、とかだったか)

P(それは古澤さんのキャラがどうこうってだけの問題じゃないんだよな)

P(今はアイドル乱立の時代だ。どんな子でも歌って踊れるだけではなかなか大成しないもんだ)

P(ただもともと古澤さんは動的なタイプじゃない。もちろんそれができるようにレッスンしているし)

P(ものになってきてもいるけど……)

P(静かに紅茶を飲んでいる、そういう姿だけで絵になる。あえてアクティブにしなくても……)

P(……待てよ)

P「……」カチカチ

??「……」ヒョコ

P「……」カチカチ

??「だーれだ?」ソッ

P「おわああ!?」ガタッ

??「きゃあっ」コテッ

P「何よ!? 誰なの!?」

??「いたた……」

P「と、十時さん!?」

愛梨「はいぃ正解……十時でしたーいたたた……お尻思いっきり打っちゃった……」サスサス

P「すいません十時さん! だーれだなんて久しぶりすぎて激しく動揺しちゃって!」

愛梨「ほんとびっくりしすぎですよ~。私の方がびっくりしちゃって転んじゃいました」プク

P「ほんとすいません……」

愛梨「うう、お尻腫れそう……Pさんちょっと痛いの痛いの飛んでけしてもらえませんか」

P「え、どこを?」

愛梨「お尻」

P「誰の?」

愛梨「私」

P「さってと仕事に戻るかー」カチカチ

愛梨「あっ! なんで無視するんですかー!」

P「無視する以外ないでしょうが!」

愛梨「私のお尻が腫れちゃってもいいんですかっ」

P「す、好きに腫れればいいですよ」

愛梨「Pさんのせいで転んだのにー」

P「十時さんのせいでびっくりしたのにー」カチカチ

愛梨「ふん。いいですよー。自分でやりますからっ」プンスカ

P(プンスカじゃねえよかわいいけどさ……)

イタイノイタイノトンデケー…ウーントンデカナイ…トンデケ!トンデケー!

P(この子は大丈夫なんだろうか……余計なお世話だろうけどすごく心配だ)

P(社長がじかについてる以上、芸能界で悪い虫に食われることはないだろうけど)

P「十時さん、今日は大学の帰りですか?」

愛梨「飛んでk……え? はいっ。ちょっと久しぶりに大学に行けましたっ」

P「大学でもその、そんな感じなんですか?」

愛梨「? そんな感じ?」

P「おバkじゃなかった、その、天然というか」

愛梨「なんか酷いこと言いかけてましたよね? まあいいやっ。あっ、ていうか私、天然でもありません!」

P「天然の人はだいたいそう言うんですよね」カチカチ

愛梨「ぐぬぬ……」

P「まあでも今はもう、普通の大学生活は送れていませんよね。シンデレラまで上り詰めたアイドルですから」

愛梨「……うん。そうなんです。今日も本当に久しぶりで……」

愛梨「ちょっと、キャンパスの配置も忘れかけちゃってました……はあ……」タメイキ

P「……すいません。あまり聞かないほうがよかったですか」

愛梨「あっ、いえっ、別にそんなことはないんですけどっ」

P(やっぱりただの天然さんってわけじゃないんだろうな)

P(トップアイドルでも悩みはある。当たり前なんだけどやっぱり女の子だもんな)

P「あまり聞くと社長にも怒られそうですし。ところで……」

愛梨「?」

P「なんで十時さんは僕の横ですっかり寛いでいるんですか? 脚をブラブラさせて」

愛梨「えっ? んーと、暇つぶし、かな?」

P(発言内容はむかつくけど小首かしげる動作がかわいすぎる。だが俺は騙されない)

P「気が散るので向こうに行ってもらってもいいですか? TVもありますし」

愛梨「うー冷たい……冷たすぎます……」

P「これでも今結構がんばって仕事中なので」

愛梨「……だからですよ」

P「?」

愛梨「社長もだし、他のプロデューサーさん方も、それにPさんも」

愛梨「一生懸命仕事してる人の横顔を見るのが好きなんです」エヘ

P「!」

愛梨「アイドルになる前は、人が仕事をしてる姿なんて気にも留めてなかったんです」

愛梨「でも自分がこうして仕事をするようになって、働いてお金をもらう大変さを知って……」

愛梨「働く人の姿に自然に目が行くようになったんです」

P「……」

愛梨「真剣に仕事に打ち込んでる人の横顔は、みんなとってもかっこいいですからっ」グッ

P(ブッ! やっぱりこの子は根っからステ振り攻1択・防御力0のド天然なんだな……)

愛梨「それにねっ」ズイッ

愛梨「プロデューサーさんたちはいつもアイドルの仕事見てるんですからっ」ズズイッ

愛梨「たまに私たちアイドルがプロデューサーさんの仕事眺めてたって何もおかしいことありませんっ」ズイズイッ

P「熱いって! 近いって! もう! わかったって!」

愛梨「えへへーロンパロンパー」

P「もう好きにしてよ……」

愛梨「はーい」

P「……」カチカチ

愛梨「♪」

P「……」カチカチ

愛梨「……」

P「……」カチカチカチ

愛梨「……Pさん、ずっとパソコン眺めてるだけでつまらないです……」ショボン

P「おいそりゃあんまりじゃないか……調べ物してるんだよ」

愛梨「何調べてるんですか?」

P「僕の担当アイドルにマッチしそうな仕事、最近どっかで見たような気がしてね」

愛梨「あっ、会いましたよ! 頼子ちゃん! すごくきれいな子ですよね!」

P「頼子ちゃん? ああそうか、十時さんのほうが年上なのか。一応」

愛梨「一応が強調されてた気がしますっ。なんででしょう」

P「気のせいですよ」

愛梨「頼子ちゃん、もうお仕事させるんですか?」

P「いや、歌とか踊りが必要ない仕事を選ぼうと思って」

愛梨「グラビア、とか?」

P「うーん、古澤さんは――」

愛梨「待ったっ」

P「え」

愛梨「なんで苗字呼びなんですかっ」

P「え? いや、仕事だしね」

愛梨「社長は担当アイドルみんな名前で呼んでますよ!」

P「あ……そうだっけ」

愛梨「そんな他人行儀じゃだめですよ。他人じゃないんですからっ」

P(名前で呼ぶとか考えたこともなかった……)

愛梨「はい、やり直し!」

P「よ、頼子……は」

愛梨「ばっちりー! じゃあ私はっ」

P「十時さん」

愛梨「違うでしょ! 十時十時じゃないです私っ」

P「だって担当アイドルじゃないし……(ツッコミもできるんだねこの子)」

愛梨「んぶぅー」プックー

P「膨れてなさい……ん?」カチ

P「これかな」

愛梨「どれどれ?」

P「黙って膨れてなさいって……」

愛梨「ってこれ、TVのお仕事じゃないですかっ」

P「うん。『美の超人たち』」

P「秋期の番組改編の時期に合わせて、ナビゲーター役を変更するつもりらしくて」

愛梨「それを狙うってことですか?」

P「そう」

愛梨「……」

P「いや、いきなりTVは無謀だってことくらいわかっt」

愛梨「社長に言ったら、きっと大笑いしますよ」

P「そ、そんなにかな。結構真剣なんだけど」

愛梨「はいっ。大笑いして「それアツいね♪」って言ってくれますね」

P「へ?」

愛梨「私の初めてのお仕事もテレビだったんですよ。秋田のいいところを巡るみたいな感じの」

愛梨「もちろん社長が取って来てくれたお仕事で」

P「そうなんだ」

愛梨「はいっ。だからテレビの仕事だからって社長がダメ出しすることは絶対ないです」

P「そう……」

愛梨「……あ」

愛梨「もうこんな時間。それじゃあPさん、私はそろそろ帰りますっ。明日はまたお仕事あるし」

P「あ、ああそう。気をつけて帰ってくださいね」

愛梨「はーい。Pさんもあんまり遅くまで仕事してちゃダメですよっ」バイバイ

P「気遣いどうも」ペコ

P「……そうもいかないかな」

P「確か例の番組の詳しい資料がどっかにあったはず……」

P「ちひろさんならすぐにわかるかな……」

P「うん、とりあえず今日はここで切るか。明日朝早いしな」

今回はここまで

投下するよ

P(起きられるかちょっと心配だったけど、ちゃんと目が覚めた)

P(5時半。こんなに早起きするのは研修期間中以来だろう)

P(今日は朝から担当アイドルのランニングをストーキングしに行かないといけない)

P(プロデューサーってのはほんとに大変な仕事だなって思う)

-都内・ランニングに適したとある公園-

P「この公園で合ってるはずだよな……」

P「頼子はどこだろ……」

P「……」

P「自然に「頼子」って言ってしまったけど」

P「ほ、本人にも言って大丈夫だろうか」ドキドキ

頼子『気持ち悪いので、やめてください…』

P「なんて言われた日にはもう……」

P「と、とりあえず探さないと! ……ん?」

P「いた! 頼子に、もう一人…………!?」

P「あ、あ、ああ……あの子は!」

頼子(Pさん、どこにいるのかな…)キョロキョロ

??「頼子ちゃん☆ どうかしたのかな? キョロキョロして」

頼子「あ…ううん、別になんでも……」

??「そうなの? じゃあ今日も張りきって走ろっか☆」

頼子「ええ…」

…………ドドドドドドドド

頼・??「?」

P「ちょっと待ったー!」ドドドドドド

頼・??「ひっ!?」

??「こ、こんな朝早くからピシッとスーツ着た人が叫びながら猛然とこっちに!」

頼子(……え? Pさん!? どうしてスーツなの!?)

??「に、逃げよう頼子ちゃん! 絶対変な人だよっ!」ガシッ

頼子「あ、ちょっ(なんて力…!)」

??「走るよーっ☆ がんばれがんばれアタシ!」ドドドドドドドドドド

頼子(……あ、私今、浮いてる…)フワフワ

P(ちょ、なんで逃げるんだ!?)

P(しかもめちゃくちゃ速いし! 頼子引っ張ってんのになんて速さだ!)

P(……もしかして俺、変な奴と勘違いされたんじゃ)

P(なんでだよ……そうならないようにピシッとスーツで決めてきたってのに)

P(くそっ、革靴が余計に辛い)

P(つか差が開く一方だぞ! 通りすがりのチアリーダーは伊達じゃねえ!)

P(こうなったら……)

P「頼子ォー! 待ってくれー! 止まってくれー!」ドドドドドドド

頼子(Pさん!?)フワフワ

??「ん? 今あの変な人、頼子ちゃんの名前呼んでた?」ドドドドドドドドドド

頼子「そうみたい…」フワフワ

??「……お知り合い?」ドドド

頼子「そう、かも……」ズルズルズルズル

??「なんだぁもう早く言ってよ☆ よっ」キキーッ

頼子「……(30メートルくらい…引きずられてしまった……)」ボロ

P「や、やっと……やっとゲホッ……止まっゲホッ……くれたか……」タッタッタッタッ

P「ゼエゼエゼエゼエゼエゼエゼエ」

??「……」

P「ハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァ」

??「頼子ちゃん」

頼子「…何?」

??「やっぱり変な人かもしれないっ」

頼子「あれだけ走れば、息切れくらいすると思うわ……」

??「アタシはなんともないよ☆」

頼子「あなたは特殊…」

P「通りすがりの……チアリーダー」ゼエハアゼエハア

??「!」

P「やっぱり……見間違いじゃない……君だ」ゼエハアゼエハア

??「どうしてそれを」

P「やっぱり、運命ってのはあるのかもしれない」ゼエハアゼエハア

??「よ、頼子ちゃんっ。なんか怖いよっ」

頼子「え、ええ…(せめて、ゼエハアしてなければ…Pさん……)」

P「通りすがりのチアリーダーさんに……お話があります……」ゼエハアゼエハア

??「え」

P「アイドルにゲホッ……なりませんか」ゼエハアゼエハア

――同日、午後

P「そういうわけなので、今から行ってきます」

ちひろ「がんばれP! 負けるなP! 必ず勧誘成功させてくるんだP!」

P「誰なんですか」

ちひろ「ちょっと久しぶりの出番なので、目立っておこうかと」

P「事務員は目立っちゃダメでしょう」

ちひろ「まあでも、すごい偶然じゃないですか」

ちひろ「Pさんが目を付けた相手と古澤さんが目を付けた相手が同じだったってことでしょう」

P「まあそうなります」

ちひろ「それならものにしないと。古澤さんのためにもなりますし」

ガチャ

頼子「おはようございます…」

ちひろ「あ、噂をすれば。古澤さんおはようございます!」

P「おはよう頼子」

頼子「…! お二人とも、おはようございます……」

頼子「……Pさん…」

P「朝の続き、今から行ってくる。悪いんだけど、今日はレッスンのあと家に送るのは……」

頼子「…いえ。それは別に……」

ちひろ「その役目は私が引き継ぎます」

P「ちひろさん?」

ちひろ「暇ですし」

P「だってさ頼子。じゃあちひろさんに送ってもらって」

頼子「…ええ」

P「おっと。そろそろ出なきゃ遅れるな。じゃ、ちょっと行ってきますよ」ゴソゴソ

ちひろ「ご武運を」ビシッ

頼子「あの…Pさん」

P「うん?」

頼子「……名前」

P(き、きちゃった!『気持ち悪いので、やめてください……』きちゃった!)

頼子「ちょっと、びっくりしたんですけど…」

頼子「別に、悪い気はしませんから……///」

P「へ」

頼子「い、行ってらっしゃい…がんばって……」

P(通りすがりのチアリーダーさん)

P(お名前は、若林智香さんと言うそうだ)

P(彼女の勧誘は、結局朝だけでは納得のいく話ができず)

P(なので、若林さんの学校が終わってから改めて、ということになった)

P(……ちひろさんにも頼子にも、特にそんな素振りは見せずにきたけど)

P(彼女は少し手強い。そんな予感がしていた)

-街の定食屋さん-

智香「朝お話を聞いてから、学校でずーっと考えたんですけど」

P「うん」

智香「ごめんなさい! アタシ、やっぱりアイドルにはなれませんっ」

P「!」

智香「もちろん、とっても嬉しいんですけどっ」

P「……じゃあ、どうして?」

智香「アタシには、チアがあるからっ」

P「……」

智香「アタシ、がんばってる人の姿を見るのが好きで。応援せずにはいられなくなっちゃうんです」

智香「生きがいとかそんなかっこいいものじゃないけど……」

智香「チアリーダーとして、いろんな人を元気にしてあげられたらなって☆」

P「通りすがりのチアリーダー活動も、それが理由なんだ」

智香「はい☆ 球根運動ってやつです!」

P「たぶん、草の根かな……」

智香「それです☆」エヘ

智香「だからアタシはアイドルにはなれませんっ。ごめんなさい」ペコ

P「……そう」

P(予感は外れなかった)

P(この子はあまりにストイックなんだ。チアリーダーである自分自身に)

P(ストイシズムを否定する気はない。俺だってそういうのはかっこいいって思う)

P(でもそれはたびたび、人の視野を狭くする元にもなるんじゃないか。そうも思う)

智香「アタシね、鹿児島出身なんですよっ」

P「へえ、それはまた遠いね」

智香「東京の、チアリーディングの有名な高校に行きたくて☆ 一人で出てきたんです」

P「!(これは……)」

P「……本当に好きなんだね、チアが(無理かも)」

智香「はい☆ 今はすっかり」

P「今は?」

智香「子どもの時から、人を笑わせたり、元気にしたり☆ そういうのが好きだったみたいです」

智香「みんなが元気ならアタシも元気☆ みんなが楽しければアタシも楽しい☆ そういう子で」

P「……」

智香「そんなアタシに、故郷の学校のセンセイがチアを勧めてくれて☆」

P「ドハマリしたんだ」

智香「はい☆」

P「……若林さん」

智香「智香でいいですよっ」

P「と、智香ちゃん」

智香「はい!」

P「君は、アイドルってどんなものだと思ってる?」

智香「え」

P「……」

智香「……実は、よくわかりませんっ。アタシ、もともとあんまり興味がないから……」

P(彼女のストイシズムに、ほんの少しの隙が見えてしまった)

P(その隙間を広げる行為は、大人としては実に卑怯なのかもしれなかった)

P(でも彼女は知らないようだ。アイドルというのがどういうものなのか)

P(知らないのに「なれません」と言われたって、俺は素直に引きさがるわけにはいかない)

P「智香ちゃん。君のチアリーディングの力は、この前公園で見てたよ。朝も話した通り」

智香「見られてたなんて。ちょっと恥ずかしいです……」テレ

P「頼子も言ってた。力が湧いてくる気がするって」

智香「頼子ちゃんが……」

P「それでも、いやだからこそ俺は、君にアイドルになってもらいたい。君にはパワーがあるって思う」

智香「ぱわー?」

P「一度チャンスをくれないかな」

智香「チャンス、ですか?」

P「見せたいものがあるんだ」

今回ここまで。この時間は軽くていいな

みなさんバリツアーお疲れでした。そして投下します

P(智香ちゃんはチアリーダーとして、非凡な何かを持っているのだと思う)

P(彼女自身、ストイックにその道を追求する気でいる)

P(だから俺のすることは、おそらく完全にただのお節介でしかない)

P(でも彼女の根底にあるものは、間違いなくアイドルの道にもつながるはずだ)

P(故郷で恩師が示した道が「アイドル」だったら)

P(彼女はきっと今、アイドルの道をストイックに追求してたんじゃないか。そんな風に思う)

P(だから俺は道を見せたい。こういう方法もあるんだって)

P(それでも彼女がチアを選ぶなら、その時こそきっぱりと諦めよう)

――金曜

-事務所-

P「ちひろさん、今回はありがとうございます。無理を聞いてもらって」

ちひろ「お礼なら社長に言ってください。最終的に決めたのは社長ですからね」

P「最近全然社長に会わないんですよね……」

ちひろ「いつ寝てるのかわからないくらい忙しい人ですから。それより……」

ちひろ「行くからには、社長の代役、ちゃんと果たしてきてくださいね」

P「ですよね」

ちひろ「あの子は愛梨ちゃんや美波ちゃんと違って、まだそこまで経験ありませんから」

ガチャ

??「おはよーございますー!」

ちひろ「おや来ましたね」

??「あっちひろさん! おはよーございます!」

ちひろ「おはようございます加奈ちゃん。今日もいい感じでげっ歯類ですね」

加奈「えぇー? もぉちひろさんっ! いきなり何言ってるんですかぁ!」プンスカ

ちひろ「かわいいですねえ」キュン

P「かわいいけどそりゃ怒るでしょ挨拶からげっ歯類扱いされちゃ」

加奈「げっしるいってなんですかぁ!」プンスカ

P「あ、そこからか」

ちひろ「加奈ちゃん。LIVEバトル、がんばってくださいね」

加奈「あ、そうでした! 社長の代わりに別のプロデューサーさんがついて来てくれるって……」

ちひろ「はい。この男です」クイックイッ

P「Pです。よろしくお願いします」

加奈「わ! はじめましての人かなっ。今井加奈です! よろしくです!」

P「まだ新米でして。今井さんとは何度かすれ違ってはいたんですが、挨拶できてなかったですね」

加奈「そうだったんですか? こちらこそ挨拶できてなくてごめんなさいです」ショボ

P(十時さんや新田さんとはまた全然違うタイプだ……ストレートにかわいい)

P「僕なんかが100%社長の代わりとはいかないけど、できる限りのフォローはします」

P「よろしくね、今井さん」

加奈「はいっ!」パアア

P(ま、眩しいっ)

加奈「あ、加奈でいいですよっ。みんなそう呼ぶから」

P「じゃあ、加奈ちゃん」

加奈「はいっ!」パアアア

ちひろ「危うくキュン死しかけるPなのであった」

P「やめて!」

ちひろ「それじゃ、一応明日の仕事の説明をしますね」

加奈「よろしくお願いします!」

P「します!」

ちひろ「……」

ちひろ「明日加奈ちゃんが行く現場は、エネーチケーで放送されるTV番組の収録で」

ちひろ「『爆熱! LIVEバトル』ってタイトルです」

P「熱いな!」

加奈「わたしこの名前好きです! 「ぶゎくねつ!」って発音するんですよ!」

ちひろ「まあ、加奈ちゃんはもちろん、Pさんももう内容知ってると思うんですが」

P「ええまあ。勉強してますから。でも一応説明してください」

加奈「くださーい!」

ちひろ「タイトルのとおり、アイドルたちがLIVEで声援ptを稼いで勝敗を競う番組で」

ちひろ「15分の短い構成なんですが、昨今のアイドルブームと相まって、毎回なかなかの高視聴率を得てます」

加奈「なるほどっ」

ちひろ「加奈ちゃん絶対知ってるでしょう」

加奈「えへ。盛り上がるかと思って♪」

P「加奈ちゃんいい子だなあ」シミジミ

加奈「えへへ」

ちひろ「最近では、たまに枠を拡大してのトーナメント戦やリーグ戦をやったりもしてますが」

ちひろ「今回はいつも通り、1対1のタイマンガチバトルです」

加奈「前回はわたし、負けちゃったんですよ……」ショボン

P「そ、そうなんだ」

ちひろ「加奈ちゃん、前回初出場だったんですけど、ちょっと相手が悪かったんですよ……」

P「ほう」

加奈「本田未央ちゃん……」

P「本田未央……って」

ちひろ「ええ。現代日本のアイドルプロダクション3強の1社、プロダクションOrangeの」

ちひろ「さてPさん、所属アイドルを片っ端から挙げなさい」

P「いいきなり? えーと本田未央、日野茜、城ヶ崎美嘉・莉嘉、諸星きらり、高森藍子、向井拓海、赤城みりあ……など」

ちひろ「まずまずです。本田未央ちゃんはそのエース。さすがにデビュー戦の相手としては最悪でした」

加奈「失敗しちゃって……散々だった……」グス

ちひろ「社長も「あれは仕方ないね♪」って言ってたわ」

ちひろ「まあ、未央ちゃんとのバトルをセッティングしたのもあの人なんですけど」

加奈「社長、期待してくれてたんだ……でも、応えられなくて……」

ちひろ「結構いろんな人に無茶ぶりするから社長。気にしちゃダメです」

P「明日の相手は誰なんですか? あれのルール上、また本田未央じゃないでしょ?」

ちひろ「ええ。明日の相手は」

ちひろ「同じOrangeの、城ヶ崎美嘉ちゃんです」

加奈「えぇっ!?」

P「……きっつ」

ちひろ「そうですか?」

P「人気実力ともに、あまり差がついてないと思うんですけど」

加奈「美嘉ちゃん、かわいいけどちょっと怖い……」

P「見るからに今時のギャルだからな……小動物を怯えさせる何かを持ってるよな」

ちひろ「ファンにひねり潰されますよ」

ちひろ「というか、ぶっちゃけますけど」

ちひろ「別に勝敗はどっちでもいいんですよ」

加奈「ちひろさん……?」

ちひろ「ね、Pさん?」

P「え、俺? ここで?」

加奈「Pさん……」ジッ

P「あーその……確かに、勝負するなら勝ちたいって思うのが普通だけど」

P「別に加奈ちゃんは、この番組で勝つためだけにアイドルになったんじゃないよね」

加奈「あ……」

P「負けて悔しいのは当たり前。勝って嬉しいのも当たり前だ。でもそれは結局それだけのものだから」

P「社長があえて厳しいバトルを連続で組んだのも、そういう意味があるのかもしれないよ」

加奈「……」

P「難しく考えなくていいんだと思うよ」

加奈「……はいっ」

P(まだ煮え切らない感じだ……まあ当然だよな。俺の言葉は咄嗟の思いつきだ。そこそこ上出来だと思うけど)

P「ところで加奈ちゃん」

加奈「はいっ!?」

P「明日の現場、俺の知り合いを一人連れて行こうと思ってるんだ。いいかな?」

加奈「Pさんのお知り合い?」

P「うん。アイドル候補なんだ。その子にアイドルの仕事ってやつを見せてあげてほしい」

加奈「わ、わたしがですかっ?」

P「そう。アイドルってこんなにすごいんだぞってところ、見せてあげてよ」

加奈「わ、わかりましたっ! がんばりますっ」

――土曜

-エネーチケースタジオ・CGプロ楽屋-

智香「加奈ちゃん☆ がんばって!」

加奈「智香ちゃんありがとうっ! わたしがんばるよ!」

P「……すっかり仲良しだね」

P(一緒に連れてきたのは、もちろん智香ちゃん)

P(行きの車中から、すでに2人のテンションはMAXだった)

P(年が近いこともあってすぐに仲良くなったみたいだ)

P(加奈ちゃんはなかなか緊張しいらしいけど、智香ちゃんのおかげで緊張も適度にほぐれたようだ)

智香「ふれっふれっ加奈ちゃん☆ がんばれがんばれ加奈ちゃん☆」シュバッシュバッ

加奈「智香ちゃんダンス上手っ。かっこいい!」

智・加「キャッキャッ」

P(俺いらん気がしてきた。いや冗談抜きで)

P「しばらく空き時間になるから、俺はちょっとOrangeの人に挨拶に行ってくるね」

智・加「はーい☆」

-エネーチケースタジオ・Orange楽屋-

P「ここかな」

??「あっれ? 誰さん?」

P「?」

P「!? うおお!」

??「は?」

P(俺またやってる! めっちゃ動揺しちゃってる!)

P「うおっほん!」

??「……?」

P「はじめまして! 今回対戦させていただく今井加奈のプロデューサー「代理」のPと申します」

??「あ、ああCGのね。そっか、今日はいつもの渋いオジさんじゃないんだね……」

P「社長は別の仕事が外せなくて。私のような平が参りました」

??「ふーん、挨拶に来てくれたってわけ? 謙虚だねー。あ、アタシは城ヶ崎美嘉ね。よろしくー★」

P「今回はひとつお手柔らかにお願いしますね」

美嘉「えー、どうかなー。マジでやるつもりだけど?」

P「はは、ですよねえ」

美嘉「当然っしょ。ま、入んなよ。中にうちのプロデューサーもいるからさ★」

ガチャ

美嘉「戻ったよー」

??「おう、おせーよ。どこほっつき歩いて……あ?」

P「……(なんだこの……チンピラみたいな男は)」

??「おう美嘉。待ち時間で男ひっかけてくるとか、オマエも少しはヤるようになったな」

美嘉「な、何言ってんの!? 違うし! ちょ、あんた! つっ立ってないでなんか言いなよ!」

P「あ、ああ失礼。今回対戦させていただく今井加奈のプロデューサー「代理」のPと申します」

P「対戦前に一目挨拶をと思いまして」

??「へえー。そお。今日はオヤジさん来ないんだ。まあ前回負けちゃったし? 顔合わせたくないのかねえ」フン

美嘉「ちょっと! そんな言い方ないっしょ!」

P「私は名乗りましたので、失礼ですがお名前を聞かせていただけませんか」

美嘉(え、アタシのフォローは無視!?)

??「ああこりゃ失礼。プロダクションOrangeのプロデューサー、PaPだ。よろしくな。名刺交換いっとくか?」

P「ええ是非に」スッ

PaP「あいよ」スッ

PaP「まあ座りな。ほら美嘉も」

P「では失礼して」

美嘉「う、うん」

PaP「あんた新人か? 初めて見る顔だけど」

P「ええ。ちょっと前に研修が終わったばかりです」

PaP「あそう。にしちゃ落ち着いてるね」

P「そうでもないですよ。今も敏腕プロデューサーと売れっ子アイドルの城ヶ崎さんを前にしてプルプルしてます」

美嘉「初対面の人はまずうちのプロデューサーの見た目でヒくからね……」

P(金髪ボウズに軟骨ピアス。凄まじいチンピラ臭。でもいかにも業界人って感じもする)

P「まあもちろん私もヒいてます。どこかのヤンキーが潜り込んだのかと思いました」

美嘉「ははーだよねー★」

PaP「はっきり言うねえ。いいよそういうの」

PaP「でも見た目ほど悪い奴じゃないって自負してるぜ? たまーにさっきみたいな失礼発言するけどさ」

美嘉「あそうだ! あれ! ちゃんと謝んなよ! Pさんはスルーしてるけどさ」

P「社長は社長自身が悪く言われることは何とも思わない人ですから」

P「なので、その代理である私も気にしません」

PaP「……」

P「負けたアイドル本人をディスるようなことがあれば、話は別ですけど」

PaP「……へへっ。平のくせになかなかかっこいいじゃん。オヤジさんの精神はちゃんと受け継がれてんだね」

美嘉「……」ポー

PaP「ん? おいこら美嘉。ポーッとなってんじゃねえよ。ったくオマエはほんとにおとm」

美嘉「んなっ!? なってないし! なるわけないし! バッカじゃないの!?」カアア

PaP「何赤くなってんだオマエ。ったくオマエはそんなだからしょj」

美嘉「だからなってないし! こういうメイクだし!」カアアア

P(チンピラ風プロデューサーとカリスマギャルアイドルか……なんつーかお似合いだな)

P「なんかお二人、プロデューサーとアイドルっていうより、カップルみたいですよね」

PaP「あ! おいこらあんた! トドメさすようなことを!」

P「え」

美嘉「か、かっぷる……?」カアアアア

美嘉「…………」ボフン

P「ボフン?」

PaP「おい。美嘉? 美嘉さーん? 城ヶ崎さん家のお姉さーん?」

美嘉「キュウ」

P「キュウ?」

PaP「……Pさんよ」タメイキ

P「あ、はい?」

PaP「今日のLIVEバトルは、おたくの勝ちだな。たぶん」ヤレヤレ

-エネーチケースタジオ・CGプロ楽屋-

P「いよいよだね、加奈ちゃん」

加奈「……よく考えたら」

P「うん?」

加奈「お仕事に社長が一緒じゃないのって、今日が初めてでした……」

P「そうだったの……」

加奈「智香ちゃんのおかげで、忘れられてたんですけど……うう」

P「……」

P「俺は、普段の加奈ちゃんのレッスンとか、他の仕事とか見てないから」

P「いつも頑張ってるんだから大丈夫! なんて無責任に言えない。それは社長じゃないとね」

加奈「……」

P「だから俺は、すごく楽しみにしてる。加奈ちゃんのLIVE」

加奈「楽しみに?」

P「ここにいる人たちみんなそうだ。ここに敵はいない。みんな加奈ちゃんの味方だよ」

智香「アタシもとっても楽しみ☆ ここで応援してるよっ」

加奈「智香ちゃん!」

P「失敗してもいい。それも含めて今日の今井加奈のパフォーマンスだってことにしちゃえばいい」

智香「アタシも振り付けよく忘れるけど、アドリブでカバーしてたり☆」

イマイカナサーン!ジュンビオネガイシマース!

P「時間だね」

加奈「……行ってきます!」キリッ

智香「加奈ちゃんいい顔!」

P「うん。勝つ奴の顔になってたね」

智香「うーん。応援したいっ」

P「待って智香ちゃん。今回はしっかり見ていてあげてくれるかな」

智香「あ、加奈ちゃんをですね! もちろんです☆」

P「いや加奈ちゃんだけじゃない。相手の城ヶ崎さんも、観客たちも、スタッフも……みんなをね」

智香「……? わかりましたっ」

ソレデハコウコウ! ファンシーガール! イノセントスマイルッ! イマイカナチャンイッテミマショウ!

P(先攻の城ヶ崎美嘉は、本来の売りであるセクシーさを前面に出したパフォーマンスを展開し)

P(世辞抜きでパーフェクトな出来に見えた。番組常連の貫録さえ感じる)

P(……今度城ヶ崎さんの写真集を探しに行こう)

ブワクネツライブバトル! レディィィィゴォォォォッ!

P(対して加奈ちゃんは、ちひろさんが言っていたように子リスのような愛くるしさが武器)

P(か弱い小動物のように庇護欲をかきたてる。色気はかけらも見当たらない)

P(訴求する層はまるで違う。それでも観客たちは)

ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!

P(どちらのパフォーマンスにも同じ盛り上がりを見せる)

カーナ!カーナ!カーナ!カーナ!カーナ!カーナ!カーナ!

P(俺も同じだ。城ヶ崎さんと加奈ちゃん。どちらの演技にもキュンとくるものがある)

P(ここにいる誰もが同じ気持ち。アイドルの演技に心躍って、楽しくなって、夢中になる)

P(君もそうだといいな)

智香「……」ポー

P(智香ちゃん)

P(その日のLIVEバトルは、見事に加奈ちゃんの勝利で終わった)

P(城ヶ崎さんのパーフェクトの演技に、加奈ちゃんもパーフェクトで返し)

P(PaPさんも「完敗だわ」と認めていたくらいだ)

P(獲得ptは大差なかったし、接戦だったと思うけど)

P(……一緒に来たのが俺ってのがな)

P(社長だったら、加奈ちゃんを思いっきり褒めてあげるんだろう)

P(加奈ちゃんも思いっきり喜べるだろう)

P(帰りの車中、疲れ切ったのか、加奈ちゃんはすぅすぅと気持ちよさそうに寝てた)

P(もう一人、智香ちゃんは……)

P(いつもの元気はどこへやら。ずっと窓の外を眺めて、一言もしゃべらなかった)

今回分終わり。そして次で智香ちゃん編終わり

CoPは変態、CuPはホモ、PaPはハゲっていうのの発祥をよく知らないからあんまり
安易に使いたくなかった。一見ハゲっぽいけどかっこいいかなってことで金髪ボウズにした
で投下

P(LIVEバトルの収録から数日)

P(俺の業務はまた頼子メインのペースに戻っている)

P(智香ちゃんのことを忘れたわけじゃない)

P(急いては事をし損じる、というのか、果報は寝て待て、というのか)

P(慌てない慌てない。一休み一休み)

P(だらだら考えながら、ああもうすぐ頼子が来る時間だな)

P(なんて思った時のこと)

バタンッドスンッ

??「お邪魔しまーすっ」

ちひろ「うわわわわ! ちょ、ドアがっ」アセアセ

??「あ、Pさーん☆」フリフリ

P「なにごtと、智香ちゃん!」

智香「やっほー☆」ドドドドド

P「ばっ、事務所で全力疾走するな!」

智香「よっ」キキ-ッ

P「ケホケホ……すっげえほこりたってるケホッ」

智香「Pさん、しょっちゅうむせてません?」

P「主に君のせいでねケホッ」

P「で、智香ちゃん。今日はどうしたの?」

智香「はいっ。聞いてくださいPさん」

P「聞くよ、もちろん」

智香「はいっ。Pさんアタシ」

P「うん」

智香「アイドルになることに決めました!」

P「……そっか」

智香「あれ? ドライだっ」

P「とりあえず、座って。ゆっくり話を聞かせて」

P(智香ちゃんは語ってくれた。どうしてアイドルになろうと変心したか)

P(アイドルという仕事は、一度の演技で数え切れないほど多くの人々を楽しませ)

P(湧かせ、心躍らせ、わくわくさせ、元気づけられる)

P(そういう存在なんだって、あのLIVEバトルを見てそれがわかったと)

P(また、そういう存在になろうとする頼子をもっと近くで応援したいとも言ってくれた)

P(アイドルになれば、自分が見えないところでがんばってる人たちにもエールを届けられる)

P(そうも言っていた)

P(俺が期待した通りのことを、彼女はあのLIVEバトルで読み取ってくれて)

P(俺が期待した通り、こうしてここに来てくれた。喜んでいいことだ)

P(だからここから先は、ただの俺の自己満足だ)

P「智香ちゃん。ひとつ確認しておくよ」

智香「はいっ。なんでしょ?」

P「チアはもういいの?」

智香「っ」

P「好きなんだよね?」

智香「……はい」

P「さすがに、放課後チアの活動をしながらアイドルも、ってのは難しい。俺はそう思う」

智香「……はい」

P「でもね。それをもし両立できたら、すごいことになるんじゃないか。そうも思う」

智香「すごいこと?」

P「どうすごいかはあえて言わないよ。それと俺は「難しい」って言っただけで、無理とは言ってない」

P「智香ちゃんがチアを続けたいなら、そうできるようにこっちも努力するから」

智香「Pさん……ほんとに?」

P「やってみて、やっぱ無理ってなるかもしれないけど……」

P「通りすがりのチアリーダーを、続けてほしいなって」

P(そのためには、彼女自身が相当な苦労をしなきゃいけない)

P(そして俺はいろんなところに頭を下げに回らなきゃいけない)

P(どうせ惜しむような頭じゃない。いくらでも下げてやる)

P(それぐらいの責任背負えなきゃ、プロデューサーなんてやってられない)

ガチャッドスン

頼子「おは……」

頼子「……」サーッ

ちひろ「あ、頼子ちゃんおはようございます」

頼子「……ごめんなさい。なぜかドアを壊してしまったみたい……」シュン

ちひろ「あ、これは違うんですよ」

智香「頼子ちゃーん☆」ドドドドド

頼子「と、智香さん…?」

ちひろ「走るなー!」

智香「やっほー☆」ピョーイ

頼子「ひっ!?」

智香「へへー」ダキッ

頼子「と、智香さん……ちょっと暑い…」ギュウッ

智香「えへ☆ これからよろしくね頼子ちゃん!」

頼子「え…」

P「おはよう頼子」

頼子「あ、Pさん…おはようございます」ペコ

ちひろ「話し合いはまとまりましたか」

P「ええ」

頼子「あの…」

P「聞いてくれ頼子」

頼子「……」

P「智香ちゃんはアイドルになるそうだ」

頼子「……!」

智香「決めたんだ」

頼子「…そう。よかった……」ニコ

智香「頼子ちゃんもドライだっ」

頼子「そんなことない…すごく嬉しいよ……」

智香「むー。じゃあもっと気持ち出してこっ」

頼子「これが精いっぱい…」

P「水を差して悪いんだけど。頼子、少しいいかな」

頼子「…あ、はい。何でしょうか……」

P「そろそろ頼子、仕事したくないか?」

頼子「仕事、ですか…? アイドルの……?」

P「そう」

頼子「……」ムー

P「頼子」

P「オーディション、受けてみようか」

これで智香ちゃん編終わり。もともと考えてた展開に手を加えようと思っており
ちょっと時間がかかりそうなんで、しばらく止まります。待ってくれている方
いたらすいません。ここまで読んでくれた方ありがとうでした。

結局3時間張り付いてしまった。みなさんフェスお疲れさまでした。
再開します。

P(夏が盛ってきた。毎日脳が溶けそうな暑さだ)

P(そんな中でも、頼子と智香ちゃん。俺の2人の担当アイドルは)

P(体調を崩すこともなく着々とレッスンをこなしている。2人とも夏休みで、ほぼ一日中レッスン漬けだけど)

P(……そろそろ仕事を取りに行かないとな、と思いつつ)

P(まだアイドルを獲得しなきゃいけないことも忘れちゃいけない)

――夏が盛ってきたころ

-事務所-

P「オーディションの審査役、ですか?」

ちひろ「ええ」

P「オーディション開くんですか?」

ちひろ「いえ、正確にはすでに開いてます。書類選考は終了していて、最終選考が残ってる感じです」

P「え、いつの間に?」

ちひろ「募集自体はPさんがまさに研修を受けていた頃にされていました」

ちひろ「ちょうどこないだ智香ちゃんがうちに所属した直後くらいに、書類選考が終わったんです」

ちひろ「書類選考は全て社長が行ったので」

ちひろ「なんか秘密裏にやっちゃってるみたいな感じになってますけど」

ちひろ「実はそこのホワイトボードにちゃんと書いてるんですよ」ホレホレ

P「……ほんとだ」

ちひろ「基本的に事務所全体のスケとかあそこに書いてますから、ちゃんとチェックしてくださいね」

P「すいません……オーディションって文字は見えてたんですけど、あまり自分に関係してる実感がなくて」

ちひろ「まあ無理ないですけどね。急なことですし」

ちひろ「今回のオーディションは、もとは社長と先輩プロデューサーさんの新アイドル発掘のためでしたし」

P「あれ、じゃあどうして僕が?」

ちひろ「まだメンバーが必要でしょう?」

P「あ、ええ……」

ちひろ「でも、いくらなんでもあと3人スカウトで連れてくるのはキツいはずだって」

ちひろ「先輩プロデューサーさんが社長に進言してくれたんですよ」

P「え……」

ちひろ「社長も「だよね、わかってた♪」って。それで急きょ、Pさんの新アイドル発掘オーディションになったわけです」

P「そうだったんですか……」

ちひろ「というわけで! はいこれ!」ドスン

P「のわ! なんですかこれ!?」

ちひろ「書類選考を通ったアイドルの卵たちのプロフィール集です。まずはこれにしっかり目を通してください」

P「多い!」

ちひろ「地味にうちが開いたオーディションで一番の応募者数です。愛梨ちゃんや美波ちゃんが売れてきましたからね」

P「……」パラパラ

ちひろ「最終的にこの中から2人に絞ってもらいます」

P「2人か……」パラパラ

ちひろ「最終選考自体は来週です。それまでにある程度は絞っておいたほうがいいでしょうね」

P「……これ、僕一人でやるんですか?」

ちひろ「最終選考の日には社長が隣に座ります」

P「安心するけど緊張するなそれは」

ちひろ「ま、このクソ暑い中スカウトに出なくてすんだんだしいいでしょう。がんばってくださいね」スタスタ

P「クールな人だ」

P「……」パラパラ

P「富山、鳥取、北海道……いろんな地方の子がいるんだな」パラパラ

P「この最終選考のためにわざわざ地方から出てきて……」パラパラ

P「ん? この子……」

??「Pさん」

P「うん? お、頼子か」

頼子「…お疲れさまです」ニコ

P「お疲れさま。あ、もうレッスン終わり? もうそんな時間か」

頼子「…新しいお仕事、ですか…?」ジー

P「ん? ああこれ? うん。オーディションの審査役をやることになってね」

頼子「オーディション…? 新しいアイドルの、ですか?」

P「うん。まだメンバーが足りないからね。その、フェスに向けて」

頼子「…ああ。なるほど」

P「頼子、座ったら? ほら椅子」ポンポン

頼子「…失礼します」チョコン

頼子「……そういえば、Pさん…」

P「うん?」

頼子「私の…オーディションのお話」

P「あそうだ! あれ、昨日見切り発車で応募しておいた」

頼子「……え」

P「頼子、ずっと迷ってるし……このままだと期限が過ぎちゃうから」

頼子「…Pさん。私、まだ……」

P「頼子」

頼子「…はい」

P「やってみよう」

頼子「……」

P「いつまでもレッスンばっかじゃ、つまらないでしょ?」

頼子「……」ムー

P「ルキトレさんの報告だ。『ダンスボーカル演技全て、基礎は十分に固まりつつある』」

頼子「…あ……」

P「胆力をつけるトレーニングもちょくちょくやってきた。あとは本番だよ」

頼子「……はい」コク

頼子「でも、いきなりテレビ番組って…挑戦的すぎるんじゃないか、って……」

P「あの番組、俺たまに見てるけど」

P「あの案内役は、頼子にぴったりだと思う。身内のひいき抜きで」

頼子「…『美の超人たち』、私もたまに見ます……」

頼子「今の案内役は、元アナウンサーの方がやってますよね……」

P「うん。秋の番組改編で、スタッフ全体的に若返りを企画してるんだって」

P「もともとは、若い世代にも芸術に関心を持ってもらうって意図の番組らしいから」

P「ついでに製作費が減らされるらしくて、出演者にお金をかけられなくなったって事情もあるらしい」

頼子「だから、私のような無名のアイドルでも…チャンスがある……」

P「俺はそう思ってる。頼子はどうかな」

頼子「……私は…」

頼子「……」ムー

頼子「チャンスがあるのかどうか、については…よくわかりません……でも」

頼子「歌って踊る自分よりも、想像はしやすいですね…」クス

P「そうだろ? できそうな気がしてきただろ?」

頼子「そこまでは……でも、やろうという気はしてきました…」

P「うん、よく言ってくれた。がんばろうね」

智香「がんばろー☆」ピョーイ

頼子「ひゃっ!?」ビックゥ

P「智香ちゃん!? いきなりどっから現れたっ」

智香「事務所のドアからですっ」

P「そうじゃない……まあいいか。いるなら声かけてくれよ……いきなりでかい声出されたら寿命が縮む」

智香「真剣に話してたから、邪魔しちゃいけないかと思って☆」

P「でも結局邪魔したんだ」

智香「うぐ。が、がんばるって言葉が聞こえたからついっ」テヘ

P(てへぺろはやめてくれ。かわいすぎるから)キュン

P「そうだ智香ちゃん、頼子を応援してあげてくれ」

智香「おうえん? もちろんいいですけどっ」

頼子「オーディションを受けることになったの……」

智香「オーディション? わーそうなんだっ。そりゃもう! 全力で応援するよ頼子ちゃん☆」

頼子「…ありがとう」ニコ

智香「でも、Pさん?」

P「うん?」

智香「アタシも早くお仕事したいです☆」

P「お。熱心だな智香ちゃんは」

智香「もちろんっ」

P「よし。じゃあ考えてみるよ」

智香「やったー☆」

P(新人アイドルオーディションと、頼子のオーディション)

P(審査する立場とされる立場。2つのオーディションが同時進行することになった)

P(やる気満々の智香ちゃんの仕事も考えないと)

P(当分寝不足な日々が続きそうだな……)

今回ここまでです。

八神さんにかつてないレベルのときめきを感じて悶々としてる
諜報活動でポカやらかして酷い目にあわされるSS誰か書いてくれないかなー
ということで投下しますー

P(新人アイドルオーディションは来週日曜で)

P(頼子の『美の超人たち』のオーディションがその次の日曜。まだ先のようであっという間だ)

P(まあ頼子のオーディションで大変なのは頼子自身で、俺はその日はただついていくことしかできないけど)

P(事前情報を得ておくのは大事だってことで、フライングで番組の撮影現場にお邪魔してきた)

P(このオーディションは素人も参加できるものじゃなく)

P(アイドルや女優など、ある程度のスキルをすでに持っている人が対象だ)

P(当然ながら全体的なレベルは上がる。楽に通れるもんじゃない)

-事務所-

P「頼子。少しいいかな」

頼子「あ、はい…なんでしょうか」

P「これ。届いたよ」スッ

頼子「…? これは……?」

P「オーディションの資料。というか課題みたいだ。一応先に目を通させてもらった」

頼子「課題…?」

P「まあ見てごらん」

頼子「……」ペラ

頼子「……これは」

P「正直なところ、俺にはお手上げな課題だな」フゥ

P「この前現場に行って聞いたことだけど。あの番組の案内役には、正式な台本があるわけじゃないんだって」

頼子「……では…」

P「案内役の人が、その時のテーマに対して自分で考えてたらしい。それをベースにライターが手を加える」

頼子「…なるほど」

頼子「この課題は、まず私の感性と詩的表現力を試している、と……」

P「そういうことだろうね」

頼子「……芸術に対する感じ方に、いいも悪いもないと思うのですが」

P「それはそうだな」

頼子「…明らかに的外れな論評や感想があるのも、確かですけど」

P「……そういうのも含めて、頼子の意見にしてしまえばいいんじゃないかな」

頼子「…え?」

P「頼子は熟考するタイプだから。アウトプットする前に頭の中でどっぷり考えちゃうだろ?」

頼子「…はい」

P「深みにはまる前に、感じたことを素直に文章にしてみたらいいんじゃないか」

頼子「素直に……」

P「うん。あまり相手の裏を読んだりしないほうがいいのかも」

頼子「私…普段からそんなことしてるわけじゃないです…」プク

P(!! ムクれた……頼子が……)

P「わ、わかってるよ。そういう意味じゃなくて」

頼子「…冗談です」クス

P(ムクれからの笑顔はズルいだろ……)

P「そ、そうか。ならいい」

P「もし詰まるようなら、俺にそうd」

頼子「いえ……」

頼子「私の言葉で書かないといけませんから…一人でがんばってみます……」

P「頼子……そうだよな。時間的に大変そうなら言ってくれ。スケジュール調整するよ」

頼子「はい。ありがとう、Pさん」ニコ

P(オーディション、こんな形式だとは思わなかった)

P(番組から出た課題は、ピカソの超有名な絵『ゲルニカ』について)

P(どんな感想を持つか。これを番組で取り上げるとして、自分ならどうイントロデュースするか)

P(文章に起こし、それをベースに自由演技を行うまでが審査)

P(美術観賞が趣味の頼子だから有利、とは言えないだろう)

P(目が肥えているからこそ、新鮮な意見が出づらいかもしれない)

P(でもここはもう、俺があーだこーだと言ってもしかたがない)

P(俺には俺で、考えなきゃいけないことがあるんだった)

P「アイドルの卵たちのプロフィール、とりあえず一通りは目を通せたな」

P「ある程度ここで絞った方がいいって話だったけど」

P「難しいな……」

P「……スカウトとは逆なんだな」

P「みんな「アイドルになりたい」って熱意を持ってる子たちで。俺はそれを受け止める側なんだ」

P「……みんな夢を持って受けに来るんだよな」

P「でも2人だけを通して、その他の子たちの夢を蹴らないといけない」

P「……結構ヘビーな仕事だな、これも」フゥ

P「あ、この子。こないだちょっと気になった子だ」

P「写真写りがよくない子なのかな。なんか怒ってるような……」

P「なんでこの写真で応募したんだろう」

P「ん、社長コメントがある。『笑顔を出し惜しんだ原石。直接笑顔を見てみたい』。かっこいいなあの人は……」

P「とりあえずこの子、少し注目しとこう」

P「他には……」ペラ

ガチャドドドドド

智香「Pさーん☆」ドドドドド

P「あっまたこのパターンか! 走るなー! 埃が立つから!」

智香「よっ」キキーッ

P「ケホッケホ」

智香「むー、Pさんまたまたむせてる。Pさんの体が心配ですっ」

P「ちゃんと掃除しなきゃなケホ」

P「とりあえず、お疲れ様智香ちゃん。レッスンあがりだね」

智香「はいっ、お疲れさまです! 今日もいい汗かきましたーっ☆」パアア

P「毎日暑いから、水分と塩分はちゃんと補給してね。もし倒れたりしたら俺もう」

智香「へへ、そのへんは大丈夫ですよーっ。ルキトレさんにも厳しく言われてますし」

P「うん、そうだろうけど、念には念をね」

智香「心配してくれてありがとうございますっ」

P「いやいや」

智香「……」ジー

P「……? どうかした?」

智香「あの、Pさん……」モジモジ

智香「お、お願いがあるんですけどっ」ズイッ

P「近っ! お、おう、何かな? 遠慮せずに言ってごらん」

智香「はいっ。アタシ、夏休みがほしいんです!」

P「夏休み?」

智香「はいっ! 甲子園に行きたいんですっ」

P「ああ、高校野球か」

智香「そうっ! 鹿児島代表を応援しに行きたくて」

P「なるほどね……」

智香「レッスンが大切だってことは、もちろんわかってるんですけど」

P「いや、俺が迂闊だったよ」

P「頼子にも智香ちゃんにも、夏休みらしい休みをまったく設定してなかった。ずっとレッスンで」

智香「あ、べべ別にPさんに怒ってるわけでも、責めてるわけでもないですからっ」アセアセ

智香「毎日楽しいですもんっ。頼子ちゃんもそうですよ☆」エヘ

智香「ただ、少しだけ休みが欲しいなって……」

P「いつがいいの?」

智香「え?」

P「休み。どの日がいい?」

智香「あ、えーっとね……」

P(智香ちゃんのちょっとしたお願いは、俺の小さくはない失敗を明らかにしてくれた)

P(17歳の女の子2人の夏休みを、アイドルのレッスンに明けくれる日々だけで終わらせるところだった)

P(智香ちゃんには希望の日に休みをあげた。甲子園に行きたいってのがいかにもあの子らしいよな)

P(頼子には、オーディションが終わってから少し休みをあげようと思う)

P(これもひとつのスケ調整ミスだ。場合によっては大事にもなる)

P(スケは全てちひろさんが目を通してくれているとはいっても、いつも不備を指摘してもらえるわけでもない)

P(頼子や智香ちゃんが成長していくように、俺も成長しないとな……)

今回分おしまい
期待が膨らむと申し訳ないからネタバレしとくと元アナウンサーは
ほんとにただの元アナウンサーです。
さてと八神さんprprに戻るか……

八神さんSSもっと! もっと来い!
はい投下しますー

P(暑い、暑い。ああ暑い。臓物がとろけそうな暑さだ)

P(毎日そんな恨み言を言ってるだけで、一週間がどんどん過ぎていく)

P(新人アイドルオーディション当日の朝だ。すごく早く目が覚めてしまった)

P(まったく俺が緊張してどうするんだか)

P(……せっかくの早起きだ。最後にもう一度みんなの資料に目を通しておこう)

-オーディション会場-

??「あ、ありがとうございました!」

ガチャッ バタン

P「ふーっ……これでようやく半分が終わったくらいか」

P「なんかすごく気持ちのよくない疲労感だな……」

P(オーディションを受ける子たちの緊張感に当てられてるってせいもあるんだろうけど)

P「……」チラッ

社長「♪」ニコニコ

P(社長、朝「おはようさん♪」っつったっきり一言も発してない……)

P(無言だけどずっと笑顔で隣に座ってる……すげえ圧力だよ)

P(いや、まだまだ疲れたなんて言ってられないし。次の子に行こう)

P「次! №27の方、どうぞ入ってください!」

ガチャッ バタン

??「……失礼します」

P(お、そうか。№27はこの子だったか)

社長「……」

??「……」カチンコチン

P「こんにちは。どうぞ座ってください」

??「は、はい」ギクシャク

??「失礼s痛っ!」ガツン

P「だ、大丈夫?(椅子に思いっきり脚ぶつけて。相当緊張してるねこれは……)」

??「だ、大丈夫ですっ……」ナミダメ

P「ちょっと深呼吸をしましょうか。吸ってー」

??「す、すぅーー」

P「吐いてー」

??「はぁーー」

P「よし、じゃあ改めて。まずは自己紹介から。お名前をお願いします」

??「せ、関……裕美、です」

P「関さんですね。出身は……」

裕美「えと、富山です」

P「富山ですか。なかなか遠いですね。じゃあ今日はこのオーディションのために富山から?」

裕美「そっ、そうです」

P「遠くから来てくれてありがとう。暑かったでしょう」

裕美「別に、そうでも」ツン

P(ふむ、写真で見る印象と同じだな。緊張のせいだろうけど、むしろ余計怒ってるように見える)

P(早めに核心をついたほうがいいのかもな)

P「関さんは、今回どうしてこのオーディションに応募してくれたんですか?」

裕美「……それは」

裕美「……」グッ

裕美「友達に「一緒に応募しよう」って誘われたから。それでです」ムス

P「なるほどお友達と。よくありますね」

裕美「私はただのおまけだったのに……友達のほうが落ちて、私が残ったの」

裕美「私なんかよりずっとかわいくて、元気で、みんなに好かれてて……いい子なのに」ムス

P「……」チラッ

社長「……」

P(笑顔が消えてる……いつもニコニコあなたの隣にを地で行く社長が……)

P「関さん。あなたは「自分よりその子が残るべきだった」って言いたいのかな」

裕美「……」

P「でも、今日あなたはここに来た。辞退することもできたのに、どうして?」

裕美「……その友達が」

裕美「その友達が、すごく喜んでくれた」

裕美「自分は落ちちゃったのに。私だけが通ったのに」

裕美「私にはマネできないとびきりの笑顔で、「裕美ちゃんすごいよ!」って」

裕美「絶対悔しいはずなのに。いつもと同じ笑顔で言ってくれて」

社長「……」

P「……」

裕美「その笑顔を見てたら、やっぱりこの子が通ればよかったのにって思ったけど」

裕美「応援してくれて、それで私、やっぱり……ああーもう、何言ってるんだろ」ワタワタ

社長「裕美ちゃん」

P(しゃべった!?)ギョ

裕美「は、はい」ビク

社長「君はアイドルになりたいか?」

裕美「……え?」

社長「経緯はわかった。がここで問うのは君の意思だ」

社長「友達と受けたら通っちゃっただけでアイドルに興味はない、というなら、これ以上ここにいてもらう意味はない」

P「!」

裕美「……!」

P「関さん。あなたのプロフィールの中にこうある」

P「『最近よく聞く歌:Naked Romance』。これはうちのアイドルが少し前に出した歌だよね」

裕美「こ、ここの人なの!? 知らなかった……」

P「ああ、そうなんだ。まあどこの人かは今はどうでもいい」

P「こうして最近のアイドルの歌をちゃんと書けるんだ。アイドルに興味ないなんてことないよね」

裕美「……私なんかがなれるわけないもん」

裕美「小学生の時から目つきがきついって言われて」

裕美「いつも怒ってるって思われてるし。別に可愛くもないし」ショボン

裕美「そんなのがアイドルなんて、ありえないよ……」フン

P「……それがありえないかどうかは、今あなたが一人で決めることじゃないんだよ。関さん」

裕美「え?」

P「関さん。あなたはアイドルになりたいですか?」

裕美「え、え?」

P「……」

社長「……」

裕美「あ、わ、私は――」

P「……」ムー

社長「……」ニコニコ

社長「さっきのは感心しないよ♪」ニコニコ

P「……」

社長「書類から注目してたのかもしれないけど、少し肩入れし過ぎだな♪」ニコニコ

P「先に肩入れしたのは社t……いえ、なんでもありません」

社長「……」

社長「ちゅっちゅっちゅっちゅわ♪」ノリノリ

P「!?」

社長「……」ニコニコ

社長「歌上手かったな、裕美ちゃん♪」ニコニコ

P「ええ。好きなんでしょうねあの歌。じゃなかったら、フリまでマスターしません」

P(俺の問いに、関さんは緊張に目を潤ませながら、でもはっきり答えてくれた)

P(「アイドルになりたい」って。それはここに来る女の子たちなら当然みんな持っている気持ち)

P(その中で彼女のそれに少し強い力を感じたのは)

P(自分は容姿に劣る、と自身に不当なレッテルを貼ってしまっている彼女が)

P(それでも今日ここに来て、緊張に震えながらレベルの高い演技を披露して帰っていった)

P(想像にすぎないが、落ちてしまった友達の分も、という気持ちもあったかもしれない)

P(自分は絶対届かないと思うから、余計に憧れる。自信のなさゆえの強さをあの子は持っているような)

P(そんなふうに思ったからだ)

今回分ここまでです

久しぶりにコラなんて作ってたら一日が終わった。

つか裕美ちゃんの髪の毛ってパーマかなんかかけてるのかな。くるくるの自毛?
台詞で言及されてたっけ?

ひとまず投下しますー。

P(ふぃー。さて、次の子で最後か)

P(すんごい疲労感。まだだけどもうやりきった感)

P(今日は布団入って3秒で寝られるなきっと)

P(よし、油断せず気を抜かず、最後の一人。行きますか)

P「お待たせしました! №52の方、どうぞ入ってください!」

ガチャッ バタン

??「失礼します!」ツカツカ

P(お。元気いいな)

??「よろしくお願いしますっ」フンス

P(気合入ってる)

P「こんにちは。どうぞ座ってください」

??「……眼鏡かけてない」ショボン

P「は?」

??「あ、なんでもないんです! 失礼しまーす」チョコン

P「あ、はい。どうぞー」

P(この子……えーと、どれどれ……18歳。で、この服のセンスは……?)

P(書類選考の写真はかなりかわいらしい服なんだけどな……)

??「あのー」クイッ

P「おっと失礼。ちょっと考え事をね。それじゃ、まずは自己紹介から。お名前をお願いします」

??「はいっ。上条春菜、18歳! 静岡から来ました!」クイッ

P「はい、上条さんね。静岡かあ、そこそこ遠いね。ここまで来ていただきありがとうございます」

春菜「何も問題ありません! 暇ですから」クイッ

P(……今まで忘れてた)

P(いろんな子のプロフィールを見ていて、一人すごく強烈な子がいたのを)

P(この子だ。最後に残ってたとは)

P「上条さん、まずいくつか質問してもいいですか?」

春菜「はい、何なりとどうぞ!」クイッ

P(いちいち眼鏡クイッてするんだよな……)

P「すごく失礼な質問かもしれないですが……」

春菜「失礼な男の人は好きじゃないですけど、何なりとどうぞ!」クイッ

P(この度胸には感服するな……うらやましいよ)

P「じゃあ遠慮なく。今日のあなたの服装ですが……」

春菜「……」キラーン

P(……やっぱり聞いちゃいけなかったかなー)

春菜「おっしゃりたいことはわかります。他の子たちみんなおしゃれな格好をしてましたし」

春菜「大事なオーディションに着てくる服として。いやそもそも18歳女子が着る服として」

春菜「猫ちゃんのプリントTシャツってどうなのよ」

春菜「そういうことですよね?」クイッ

P「あ、うん。はっきり言えばそうかな(全部自分で言いおった)」

春菜「……」キラーン

P(どうなってんだあの眼鏡……まばゆすぎるだろいちいち)

春菜「おしゃれな格好なんてしたら、霞んでしまうかもって思って」クイッ

P「はい?」

春菜「私の一番のアピールポイントが霞むようなことは避けるべき。そう思いまして」クイッ

P「……(落ち着け俺。よく考えろ)」

P「プロフィールからもわかります。上条さんが考えるアピールポイントというのは」

P「眼鏡のことですよね」

春菜「その通りです」クイッ

P「その、眼鏡がアピールポイントというのはどういう」

春菜「……疑問に思っていることがあるんですよ」クイッ

P「疑問?」

春菜「どうして眼鏡のアイドルはいないんだろうなって」

春菜「たまに眼鏡をかける人は見かけます。でもたまにです。腰掛けです」

P「腰掛けて」

春菜「バラエティに出ても、ドラマに出ても、そしてステージで歌を歌う時でも。いつも眼鏡と一緒」

春菜「そんなアイドルっていないのかなって」

春菜「どうしていないのかなって」

P「……」

春菜「だから私、思いました」クイッ

P「ほう」

春菜「誰もいないなら、私がなればいいんじゃないかって」キラーン

P「……」

社長 パチパチパチパチ

P(社長!?)

社長「面白いねえ♪」ニコニコ

春菜「ほ、本気なんですからね!」

社長「ひとつ聞きたい」キリッ

春菜「!? は、はい」ビク

P(真顔になった社長の迫力はなあ……)

社長「伊達眼鏡は許容できるクチかな?」キリッ

春・P「……え?」

社長「君の眼鏡はもちろん度入りだね。生粋の眼鏡ストには、伊達眼鏡は邪道だと言う人もいる」

社長「眼鏡は元来医療器具でありオサレアイテムではないという、原理主義的な考え方だね」

社長「君はどう?」

春菜「……正直に言えば、その思想に与していた時期もありました」

P「思想て」

春菜「まだ青い子どもだった頃の、まあ若気の至りってやつです」フッ

P「今も若い!」

春菜「でも」

春菜「今の私の夢は、一人でも多くの人に眼鏡のいいところを知ってもらって」

春菜「ゆくゆくは、国民一人一本は眼鏡を持っている。日本をそんな国にすることです!」ズイッ

社長「……」

P「」

春菜「だから伊達でもいいんです。いえむしろ……」

春菜「許容だとか「でもいい」だとか、そんな上から目線な言い方はしたくなくて、うーん」ムー

春菜「そうだ! どんと来い! って感じですかね!」ピコーン

社長「喜んで! とかかな♪」

春菜「あっそれもいい! いただきです!」パアア

P「」

春菜「医療器具としてでも、ただのおしゃれアイテムとしてでもなんでも」

春菜「眼鏡を愛してくれる人を私の力で増やしたい。それこそが私の目標ですから!」キリッ

社長「……」

P「」

春菜「……」キリッ

P「」

社長「P、何を呆けてるんだ?」ニコニコ

P「え!」

社長「これは君のオーディションだろ? なら君がまとめないとね♪」ニコニコ

P「あ……」

P(この子の提出書類には、眼鏡への溢れんばかりの愛が綴られている)

P(自身のアピールというより、眼鏡の素晴らしさをアピールするような内容だ)

P(見る人によっては、ふざけていると思われても仕方なかったかもしれない)

P(でもそうじゃないかもしれない。そうじゃないならこの偏愛は逆に、強力な動機に変わるかもしれない)

P(社長はそれをじかに見極めたくてこの子を通したのか……?)

P「上条春菜さん」

春菜「あ、はい!」

P「……」ジー

春菜「……え、え?」

P「眼鏡をクイッてするのは、古い癖なのかな」

春菜「え!?」ギク

P「はは、まあそれはいいんだけど」

春菜「は、はあ」

P「あなたの言うとおり、確かにいつも眼鏡のアイドルはいないですね」

P「それがどうしてなのか、私もまだ業界歴が浅いので知りませんが」

春菜「……」

P「ひとまず、あなたの気持ちはよくわかりました。じゃあ次、演技審査に行きましょうか」

P「……」ムー

社長「♪」ニコニコ

社長「どう思った?」ニコニコ

P「……書類だけを見てたら、ちょっとこう、変わった子だなと」

社長「うん♪」ニコニコ

P「でも今は……ああ、ちょっと不器用な子なだけなのかもしれないなと」

社長「ふむ♪」ニコニコ

P「全員の審査を終えて思ったんですけど」

社長「……」

P「ただ「アイドルになりたい。いろんな人に自分を見て欲しい」。そういう子が多いと思うんです」

P「もちろんそういう自己顕示欲がなければできない仕事ではあるんですけど……」

社長「そうだな♪」

P「その先まですでにはっきりと描いてる子って、新鮮だなって」

P(上条さんは、一見バカみたいな夢を、俺たち審査員2人を前に臆することなく語ってみせた)

P(アイドルになるということを、彼女はそのための「手段」と考えたのだ)

P(正直俺には、眼鏡の何が彼女をそこまで衝き動かすのかはわからない)

P(どこまでが今日のために準備した演技で、どこからが本心なのか)

P(正確に見極められた自信はない)

P(でも、あの眼鏡の奥に光る目の輝きは、間違いなく本物だった)

P「……人に壮大な夢を語る、か。俺にはそんなこと、できなかったな」

P「まして見知らぬ大人2人の前でなんてな。度胸は演技じゃなく本物だったってことか」

P「馬鹿馬鹿しいほどでかくて子どもっぽいあの夢の先、ちょっと見てみたいよな」

今回分おしまい。リアル都合で次の投下は早くても火曜日になります

投下します

P(新人アイドルオーディションはひとまず、無難?に幕を下ろし)

P(数日の考慮期間の後、結果は郵送通知という流れになった)

P(実際のところ、終了直後の時点で俺の腹は決まっていて)

P(社長の反論もなく、一人はすぐに決まった。関さんだ)

P(もう一人については)

P(「本当にいいのかな♪」なんて煽ってくる社長に翻弄されて)

P(最終決定を出せずにいた)

-事務所-

P「……」ムー

頼子「Pさん」ヒョコ

P「……」ムーン

頼子「Pさん…?」

P「…………」ムムー

頼子(全然気づかない…すごく集中しているみたい…)

P「…………」ムムー

頼子(!)ピコーン

頼子(ちょっと…悪戯しちゃおうかな……)フフ

P「…………」ムムー

頼子「……」ソローリ

頼子「ふぅー」

P「ひゃん!?」ガタガタッ

頼子「!?」

P「よ、頼子!? 今耳に息吹きかけたのまさか頼子!?」

頼子「す、すいません…! そんなに驚かれると思わなくて……」アセアセ

P「いやいやいいんだけどさ! いやよくないか。そういうのいきなりやっちゃダメだぞ!」

頼子「…ごめんなさい。すごく集中してらっしゃったみたいで、呼んでも気づいてもらえなかったから……」シュン

P「いやいいんだけど! でもすごくびっくりするしドキドキするからさ」

頼子「どきどき…?」

P「いや、忘れて。ていうか、呼んでたのか。気づかなくてごめん」

頼子「いえ…」

P「何か相談? あ、座って」ポンポン

頼子「はい、失礼します…」チョコン

頼子「……」フゥ

P「……いよいよだね、オーディション」

頼子「……」コク

P「不安かな」

頼子「……これで、いいのかなって」

頼子「私が書いた台本みたいなものと…それを基にした演技のようなもの」

頼子「それで本当に、大丈夫かな、って……」

P「……」

頼子「Pさんの期待に応えられないかもしれない…そう思ったら、すごく怖くて……」

頼子「書きなおして、また一からやった方がいいんじゃないかって…思ったり」

P「怖いのは俺だって一緒だよ」

頼子「…え」

P「落ちたら頼子に辛い思いをさせるし。それはオーディションを受けさせた俺のせいでもある」

頼子「そんなことは」

P「そうなんだよ。力量を見極められなかったってことだからね。だからその時は」

P「一緒に泣こうか」

頼子「Pさん…」

頼子「ここで、私の演技…見てもらってもいいですか? あ、お仕事……」

P「おう、いいよ」

頼子「お仕事は…」

P「先のアイドルより、今目の前にいるアイドルだ」

頼子「…Pさん……ありがとう」

P「いいんだ」

頼子「じゃあ…始めます」キリッ

P(ピカソの『ゲルニカ』という絵について、俺は一般人以上の知識を持っていない)

P(だから頼子の書いたそれについての意見が的を射たものなのか)

P(そのイントロデュースが正道なのか邪道なのか。そこを判断することはできない)

P(でもそれをもとに演技をする頼子は、さっきのような弱気は少しも見せず)

P(自信を持って演じているように見えた)

P(……相変わらず少し猫背なんだけど)

P(ミステリアスな雰囲気と溢れるような知性をまとって)

P(少し前に見学に行った、あの番組の撮影風景が重なって見えるほどに)

P(何も心配はいらないよ、頼子)

頼子「あの、Pさん」

P「?」

頼子「お仕事、詰まってるんですか…?」

P「え?」

頼子「その、さっきとても集中して…悩んでらっしゃったみたいだから」

P「ん、ああこれね」

頼子「新人アイドルの、オーディションの……?」

P「そうなんだ。2人のうち1人は決まったけど、もう1人がね」フゥ

頼子「何か、お手伝いできることは…」

P「え?」

頼子「忙しいのに時間を割いてもらいましたから…何かできないかな、って……」

P「いや、いいんだよ。今のも仕事のうちだし」

頼子「でも…」

P「頼子に選んでもらうわけにもいかないからね。この資料は見せられないし」

頼子「そうですか…」シュン

P「頼子は今は、自分のことを一番に考えよう」

頼子「ええ…」

頼子「……あ」

P「?」

頼子「そうだ…あの本」ゴソゴソ

P「本?」

頼子「…これ、よければ」ソッ

P「なになに……『声に出して読むといい名言』」

頼子「何かに詰まったり迷ったりしたら、ぱらぱらとめくってみたりするんです……」

P「なるほど。頼子の支えなんだね」

頼子「そんなたいそうなものでは……所詮はただの、見知らぬ他人の言葉ですから」

頼子「でも、やっぱり響くものはあると思うんです…」

P「借りていいの?」

頼子「はい、どうぞ…」ニコ

P「ありがとう。ぱらぱらめくってみるよ」

頼子「ええ…あ、では私はそろそろ…」

P「ああ、うん。お疲れ様」

頼子「はい、お疲れさまです」

P「あ、頼子」

頼子「…?」

P「最近送ってあげれてないな。悪い」

頼子「……この暑さの中、歩いて帰るのって結構大変なんですよ…」プク

P「!?」

P「いやその、どうしても忙しくてさ!」

頼子「……冗談です」フフ

P「頼子ぉ」

頼子「ごめんなさい…ちょっと困らせてみたくて……」フフ

頼子「今までが過保護だっただけですよ…これでいいんです、きっと」

P「そうかなあ」

頼子「…少し、寂しいですけど」

P「ん?」

頼子「…独り言です。それではPさん、お仕事がんばってください」ペコ

P「詰まったり迷ったりしたら、ぱらぱらと見る、か」

P「詰まってるし迷ってるし、早速見てみるか」

P「適当にパッて開いてみよう」

P「……」

パッ

本『やり方は3つしかない。正しいやり方。間違ったやり方。"俺の"やり方だ byカジノ』

P「かっこええ」

P「……」

P「俺のやり方なんて、まだ新人にやっと毛が生えてきた程度の俺が言うのもおこがましいけど」

P「頼子や智香ちゃんも、自分の直感を頼りにつれてきた子たちだ」

P「やっぱり、信じて押し通すか。自分の意思で」

投下でしたー。

投下しますー

P(オーディション会場に行くなら車よりも電車を乗り継ぐほうが早い)

P(その時の判断は間違ってはいなかった。と思う)

P(通勤途中でふっと死にたくなる人が現れる平日早朝ならまだしも)

P(日曜に飛びこみ人身事故……)

P(ただの日曜ならあーあで済む話だけど、今日はそうも行かない)

P(なんだってこんな日にこんなことに……)

P(大人しくタクシーでも使えばよかった)

P(……やっぱり間違ってたんだ。俺の判断が)

P(誰を責めても、自分を責めても。時間だけは淡々と過ぎていく)

-○○線電車内-

頼子「…動きませんね、一向に」フゥ

P「……」

頼子「…もう30分近く、立ち往生してます」

P「……」

頼子「…時間、厳しいですね」

P「ごめん」

頼子「Pさん……」

P「社用車の空きはなかったし、車より電車のほうが早いと思ったから……」

頼子「…ええ」

P「まさか事故るなんて……こんなに止まるなんて……」

頼子「ええ…誰も予測なんてできませんよ…」

頼子「Pさんのせいなんかじゃ…ありません」

P「こんな時に、飛びこむなよな……」ボソ

頼子「Pさん…!」キッ

P「!」

頼子「そんなこと、言っちゃいけません……!」キッ

P「……そうだよな。わかってる。酷いこと言ってることくらい。最低だよ」

P「でもこのままじゃ、頼子ががんばってきたことがムダになる」

頼子「……」

P「オーディションを受けて落ちたならそれは仕方ない。良くも悪くも評価はされるんだから」

P「でもこれはなんだよ? 評価を受ける機会さえ与えられないのか」

P「頼子は今日のためにがんばってきたのに」

P「こんなの、あんまりだ……」

頼子「Pさん…」

P「……」

頼子「……」ジー

P「……え」

頼子「……」ニコ

P「よ、頼子?」

頼子「今回がダメでも、まだ…次だってあります…」

頼子「Pさんがついていてくれれば…私はまだまだがんばれますから…」

P「頼子……」

頼子「それに…」

頼子「まだ、諦めるには早いと思うし…」ゴソゴソ

P「?」

頼子「これ…さっき届きました」ソッ

P「メール? 見ていいのか」

頼子「…ええ」

FROM:智香さん

件名:ひゃっほーぅ☆決勝だよー!

本文:頼子ちゃんおっはよー☆鹿児島代表、ついに決勝まで進んだよー!
アタシの応援パワーが届いたのかな☆だったら嬉しいなっ。

あ、頼子ちゃん今日オーディションだよねっ。甲子園から頼子ちゃんのことも
ばっちり応援するからね☆絶対大丈夫だよ!
ほんとは近くで応援したかったんだよ……ごめんね。
だけどっ!その分っ!頼子ちゃんにも届いちゃうくらい元気に応援

P「智香ちゃん……途中送信してるな。慌てんぼめ」

頼子「きっと今、はるか西の方で元気に応援してくれています…」クス

頼子「だから私は、まだ…諦めません」キリッ

P「……」

ガタッ

P「お!?」

頼子「動いた…」

車掌『大変お待たせいたしました。当列車は次の駅から先には参りません。振替輸送のご案内を――』

プシュー……バタバタバタ

P「時間は……きっついなこれは」

頼子「Pさん! タクシーは?」

P「いや、無理だろう。こういう時はタクシーは大人気になるからな」

頼子「あ…そうですね……」シュン

頼子「でも、歩いては絶対間に合わないし……」

P「……」

P「チャリで行くか」

頼子「え……」

P「この駅、レンタサイクルがあったはずだ。急ごう」ドドドドドド

頼子「Pさん! 待ってください……!」タタタタタタタ

P「急げ頼子! 上品に走ってる余裕はない!」ドドドドドドド

頼子「わ、わかりました……!」ドドドドドドド

P「よかった、残ってる!」ハァハァ

頼子「……汗かきました」フキフキ

P「余裕だな」ハァハァ

頼子「毎日のランニング、ちゃんと成果が出ているみたいです…」クス

P「よし借りてきた! 頼子! 後ろに乗れ!」ジャキン!

頼子「は、早い…! ……私も別に1台借りればいいのでは…」

P「こっからは全力で漕いで間にあうかどうかだ! 着くころには汗だくだろう」

P「汗だくでオーディションは受けさせない。頼子にはいつも涼しい顔しててほしいんだ」

頼子「Pさん……」

P「早く!」

頼子「……失礼、します」チョコン

P「警察に見つかったら怒られそうなくらいとばすからな。しっかり掴まってろ!」

頼子「……はい」キュッ

P「……」

P(スレンダーに見えて、意外にあるんだな頼子……)

頼子「……Pさん?」

P「……何でもないッ! 行くぞッ!」

P(事前に少しだけ、一応のつもりで見ておいた地図を頼りに)

P(がむしゃらにチャリのペダルを回した)

P(信号は全部無視した。昼間から爆音鳴らして走る柄の悪そうなスポーツカーとデッドヒートしたりした)

P(風が気持ちいい!)サワヤカ

P(なんて言ってられなかった。ちゃんとネクタイまで締めたフル装備だった俺には、チャリンコ爆走運動は激しすぎて)

P(サドルに湿り気を感じるほど汗だくだった)

P(どれぐらいの距離。どれくらいの時間。チャリをこぎ続けたか)

P(そのへんのことは意識が混濁してきてわからなかったけど。はっきりわかったことは)

P(俺は頼子のためにできることをちゃんとやり遂げたらしい、ということだ)

-オーディション会場のビル-

P「つ、着いた……! 頼子、着いた!」ゼエハァゼエハァ

頼子「…時間、ちょうどくらいです……」ササッ

P「……よかった」ゼエハァゼエハァ

頼子「はい…間に合いました……!」パァァ

P「ああ……」ゼエハァゼエハァ

頼子「Pさん、行きましょう…」

P「ああ、うん。いや……」ゼエハァゼエハァ

頼子「…Pさん?」

P「悪い……先に行っててくれないか。別に俺はただの付き添いだから、いなきゃダメってわけじゃないし」ゼエハァゼエハァ

P「ちょっと、疲れたよ」ゼエハァゼエハァ

頼子「Pさん…そうですよね……あれだけ一生懸命自転車漕いだら……」

頼子「わかりました…私、行ってきますね…」

P「うん」

頼子「……」ジー

P「……どうかした?」

頼子「……いえ。行ってきます…」クルッ

P「……頼子」

頼子「……え?」クルッ

P「ずっと見てきたから。大丈夫だ」

頼子「……はい!」キリッ

頼子「行ってきます…!」クルッ

ツカツカツカツカ……

P「……」ゼエハァゼエハァ

P「やりきった感……」ゼエハァゼエハァ

P「……なんか、建物が二重に見える」ゼエハァゼエハァ

P「う、うっぷ」ゼエハァゼエハァ

P「頭痛てえ……」ゼエハァゼエハァ

P「は、はぁ……なんだ……? 世界が明るくなって――」ゼエハァゼエ……

バタリ……ピーポーピーポー……

-どっか近くの病院-

P「……」パチッ

医師「あ、目が覚めましたか」

P「……あれ? ここは?」キョロキョロ

P「……病院?」

医師「はい」

P「なんで病院に?」

医師「……」

P「確かオーディション会場のビルの前で……頭痛くなって、世界が急に明るくなって……」

医師「はい。典型的な熱中症ですね」

P「これが? 今はやりの?」

医師「笑いごとじゃありません。なかなか危ないところでしたよ」

医師「この炎天下の中、スーツにネクタイまで締めて自転車で疾走してはいけませんね」

P「うぐ。って、お医者さんなんでそんなこと……」

ガチャ

頼子「……」トボトボ

医師「お、ちょうどいいところに。この女性から伺いました」

P「頼子!」

頼子「…え? P、さん……? 目が覚めて……?」

医師「あとはもうちょっと休んでればよくなります。じゃ私はこれで」トコトコ

P「よ、頼子! オーディションは」

頼子「……」グス

P「!」

頼子「……っ(いつだって、涼しい顔をしていてほしい、って……)」フキフキ

頼子「もう…心配、したんですから……」

P「いや、悪い悪い。俺だって、まさか自分が熱中症になるなんて思わなかったよ」タハ

P「ま、座ったら? ほら」

頼子「……」チョコン

頼子「Pさん」

P「アイドルのために汗かいて働くのがプロデューサーの仕事だ。そうやって俺は給料をもらってる」

P「そういう仕事なんだ。まあ今回はちょっと必死すぎたけど」

頼子「…そうですよ。こんなの、今回限りにしてください。お願いですから……」

P「俺も今回限りにしたいよ。ところで頼子、オーディションはどうだった?」

P「……あ、まさか! 俺の病院送りにショックを受けてそれどころじゃなかったとか……!」

頼子「……実は」ショボン

P「そんな……」

頼子「全然、そんなことはなくて……」

P「そんなのって……え?」

頼子「Pさんが救急車で運ばれたのを知ったのは、オーディションが終わった後でしたから……」

P「あ、そうだったのか。じゃあ、オーディションは……」

頼子「…今の私にできることは、全部出し切ったと思います……」

頼子「これで落ちたら、仕方ないなって思うくらいには……」

P「そうか」

頼子「ええ…」

P「結果、楽しみか?」

頼子「楽しみと、怖いのが…半々くらいです…」クス

P「そうか」

P「頼子」

頼子「はい…?」

P「明日からしばらく、夏休みだ」

頼子「え…?」

P「智香ちゃんにあげたように、頼子にも夏休みをあげなきゃって思ってた」

P「オーディションが終わったらって」

頼子「Pさん……」

P「しばらく大変だったろ」

P「少し遅いし期間も短いけど、高校生らしい夏休み。過ごしておいで」

頼子「…はい……!」ニコ

P(この日最後の頼子の笑顔は、いつも見せる綺麗で慎ましい笑顔とは少し違って見えた)

P(重圧からの解放感と、やりきったという充実感)

P(それが滲み出たような、子どもっぽい笑顔だった)

P(ああ、長い休みへの期待感も追加か)

P(……俺も夏休み、欲しいな)

投下でしたー
月末&週末で忙しいので次の投下は早くて月曜になります

頼子新カードが来たので、その情報次第で主にしゃべり方とか人の呼び方とか変えるかも。
なのでいきなり呼び方変わったりしてるかもですがそういうことねと納得してもらえれば。

実際お月見頼子は「晶葉さん」て呼んでたのに今回劇場あっさり「晶葉ちゃん」になってるし
つかCoのカードてなんでこういちいち高いんだろ……

投下します

P(頼子のオーディション後、10日間)

P(それは頼子にあげた休みの日数でもあり、オーディションの結果通知までの期間でもある)

P(その間も変わらず事務所は絶賛フル稼働中。もちろん俺もだ)

P(まず智香ちゃんが大阪から帰ってきた。こんがり日焼けしてしまっていた)

P(日焼け跡は眩しかったけど、さすがに叱った。アイドルなのでそこらへんは大切にしてほしい)

P(これからは智香ちゃんの仕事も考えていくことになるしな)

P(そしてもう一つ、大イベントがあった)

P(富山と静岡への出張。目的は……言うまでもないか)

P(そんな慌ただしい毎日を過ごしていたら、10日なんてあっと言う間に過ぎてしまって)

-事務所-

P「……」ウロウロ

頼子「……」ソワソワ

智香「わくわく☆」ワクワク

P「…………」ウロウロウロ

頼子「…………」ソワソワソワ

智香「わくわくわく☆」ワクワクワク

P「…………」ウロウロウロウロ

頼子「…………」ソワソワソワソワ

智香「んーおっそーーーーーーーいっ!」ドカーン!

P・頼「ひっ!?」ビックゥ

智香「遅いっ! いつになったら届くんですかっ。頼子ちゃんの合格通知はっ」フンッ

P「なんで智香ちゃんが真っ先に限界に達するんだよ……」

智香「だってー! もう夕方じゃないですかっ」

頼子「智香さん、まだ合格って決まったわけじゃ……」

智香「頼子ちゃん! 弱気はダメだよっ。いつでも前向き元気でいなくちゃ☆」

P「でも確かにちょっと遅いよな。いつまでこうしてデスクの周りをウロウロしてりゃいいんだか」

智香「Pさん、今日一日で何万歩歩いたのかな☆」

P「ほんとにな。歩数計付けときゃよかった」

頼子「郵送通知じゃなかった、とか……」

P「郵送で通知って書いてたけどな」

バタバタバタ

ちひろ「Pさん!」

P「ちひろさん!? その慌てようもしかして! 結果が届きましたか!?」

ちひろ「電話です!」

P「え」

ちひろ「TV局の方から!」

P「え、僕にですか?」

ちひろ「そう!」

頼子「……」ゴク

智香「わー☆」ピョンピョン

P(案の定というか、電話の相手は頼子の受けたオーディションの番組関係者の方だった)

P(結果の通知が届いていないことへのお詫びとその事情を説明してくれたんだけど)

P(それは俺や頼子にとって、決して残念な内容のものじゃなかった)

P(できれば早いうちに一度局で話をしたいとおっしゃったから)

P(電話を切ったそばから、早速向かうことにした)

P(頼子も智香ちゃんもついてきたそうな顔でこっちを見てたけど)

P(どうも大人の話になりそうな感じもあったから、とりあえず置いていく)

P(……何があるんだろうな)

-テレビ○京-

P「でかいなー」

P「こういうでかいとこ来るのまだ慣れてないんだよな。受付の人に許可証とかもらわなきゃなんだっけ」

??「あれ?」

P「えーっと、受付どこだ?」キョロキョロ

??「ああやっぱり。Pさんだ」

P「え?」クル

??「どうも、お久しぶりです」ペコ

P「あ、あれ? CoPさん?」

CoP「あ、覚えていてくれましたか」

P「いや、それは私の台詞というか。どうもお久しぶりです!」

P「あ! 前回のLIVEイベントの時は本当にすいません! どうしても抜けられない用が入って……」

CoP「ああ、いや。私たちの仕事じゃよくあることですよ」

CoP「私も久しぶりにそちらの社長さんとお話ができて、楽しかったですから」

P「そうですか……ならよかったですけど」

CoP「ま、凛は少々ご立腹でしたけどね。「瞬きせずに見るとか言ってたのに(プンプン」なんて」フフ

P「え」

CoP「次に会ったら小言を聞いてやってください。そういうとこもかわいい奴ですから」

P「それはもう、小言でも罵詈雑言でもなんでも……ん?」

??「……」ジー

P(CoPさんの背中に隠れるように小動物的な女の子が……)

CoP「うん? ああ、この子ですか?」

P「その子もCoPさんの?」

CoP「ええまあ。凛たちと違って、まだこれから推していこうって子で」

CoP「ほら、他社の方だ。ちゃんと挨拶しようか」

??「はっ、はい」ビクッ

P(聞き慣れない電子音に驚くリスみたいだな……)

??「え、えと」オズオズ

??「こ、こんにちは……あ。もう、こんばん、は……?」オドオド

CoP「違う。いつでも「おはようございます」だよ」

??「ひう。ご、ごめんなさい」シュン

P(なんだこの超絶かわいい生物は)

??「お、おはようございます……その、な、成宮由愛、ですっ」オドオド

P「お、おはようございます。CGプロのプロデューサーのPと申します」

由愛「よ、よろしくお願いします」ペコリ

CoP「由愛、プロダクションIceBlue所属ってのもアピールしていこうな」

由愛「あ! 忘れてました……ごめんなさいCoPさん……」シュン

CoP「ま、次からは言えるようにしような」ナデナデ

由愛「ふぁ……えへへ」ホワホワ

P(CoPさん、厳しいようで結構甘い人なのかもな……しっかしこれ)

P「人材豊富ですね。さすが現代アイドルプロダクション3強だけあって」

CoP「あはは、まあちょっとうちのプロらしくないコではあるんですがね。でも……」

由愛「……♪」ギュッ

CoP「なんだか気に入られているみたいでね。ありがたい限りです」ナデナデ

由愛「……ふあ」ホワホワ

P「うらやましすぎる」チッ

CoP「え、何ですって」

P「あ、ところでCoPさんはどうしてここに? TVのお仕事ですか?」

CoP「ああいえ。今日は収録とかではなく……オーディションの結果を伺いに、ね」

P「!?」

CoP「結果は郵送されるものと思っていたんですが、届かなくてね」

P「!!?」

CoP「手違いでもあったかと思っていたところに電話がかかってきて……Pさん? どうかされましたか」

P「そのオーディションって」

P「『美の超人たち』の案内人オーディション……だったりして」

CoP「あ、そうです。由愛が受けたんですよ……え?」

P「……『審査員の意見が真っ二つに割れてて決めかねている』。その電話、私あてにも来たんです」

CoP「え? ちょっと待ってください。それって」

由愛「……?」キョドキョド

P「いやーまさか真っ二つの相手がCoPさんだったなんて。参ったな」タハハ

CoP「それは私も同じ気持ちです……あ、そのご本人はどこに? 是非挨拶したいのですが」

P「いや、なんかアレな話になるかもなんて邪推して、置いて来たんです」

P「でも由愛ちゃんがいるなら、私も連れてきたらよかったですね」

CoP「ま、できるだけいろんなことをアイドル自身に見聞きさせるのが、プロとしての方針でしてね」

P「なるほど。あ、私のアイドル、名前は古澤頼子っていいます」

CoP「古澤さん」

由愛「!」ピコ

CoP「お、由愛が露骨に反応してますね」

P(怪しい物音に反応するうさぎみたいだな……)

由愛「その、オーディションで見ました……覚えてます」

由愛「すごくきれいな人だなって、思いました……」

由愛「……」

P「……」

CoP「……」

由愛「……?」キョトン

CoP「あ、終わりか」

P「だいぶ簡潔な感想でしたね……」

由愛「ひう。ごめんなさい……」ショボン

CoP「いやいや。きれいさが強く印象に残るくらいきれいだったということだよな? 由愛」ナデナデ

由愛「ふあ」ホワホワ

P「まあ、他人の演技を自由に見られるわけじゃないですしね。見た目のことしか言いようもないか」

CoP「局の人を交えて話し合い、ってことでしたけど」

P「ええ……」

CoP「和やかな話し合いになれば、いいんですけどね」

P(CoPさんと俺の危惧は杞憂に終わった)

P(結論から言うと、頼子と由愛ちゃんがダブルで通過という形になった)

P(番組側ではこの2人のどちらを通すか、本当に真っ二つに分かれていたらしいが)

P(美術に興味を持ち始めた女の子とその子に美術のなんたるかを説く謎の女性、みたいな関係を作って)

P(2人一緒に通したらいんじゃね的な発想で行くことにしたそうだ)

P(プロデューサーの俺たちが呼ばれたのは、ギャラとかの話をしたかったかららしい)

P(ギャラが半々になるとか取り分がどうとか、そういった話だ)

P(まあそんな生々しい話は今は置いておこう)

P(完全勝利じゃないかもしれないけど、頼子の努力がひとつ、報われたんだから!)

-事務所-

頼子「……」ソワソワ

智香「わくわく☆」ワクワク

頼子「……」ソワソワソワ

智香「わくわくわく☆」ワクワクワク

頼子「…………」ソワソワソワソワ

智香「んーおっそーーーーーーーーいっ!」ドカーン!

頼子「智香さん、落ち着いて……」ソワソワ

智香「頼子ちゃんもずっとソワソワしてるぞっ☆」ビシッ

頼子「そ、それは……」ソワソワ

ちひろ「まあまあ2人とも。ほらお菓子でも食べながら、ゆっくり待ちましょう」スッ

智香「あ、わーい☆」

頼子「ありがとう、ございます……」

ちひろ「……」

ちひろ「Pさんが出ていく時の様子だと、悪い知らせじゃなかったと思いますよ」

ちひろ「とはいっても、Pさんはもう少し説明して出ていくべきでしたねえ」ヤレヤレ

頼子「…いえ」

智香「頼子ちゃん! おせんべおいしいよ☆ ほら食べよっ」パリパリ

頼子「…ええ」パリパリ

ガチャ

頼子「!」ピク

智香「ングッ!」

P「ふぃー。戻りましたー」ツカツカ

頼子「…Pさん!」

P「おう、ただいま」

頼子「あ、お帰りなさい…」

智香「ンググ」トントン

P「智香ちゃん? 青い顔してどうしたの」

智香「ンググ……ゴックン」トントントン

P「ん?」

智香「ぷはっ! へへーちょっと危ないところだったかも☆」テヘ

P「は?」

智香「あ! アタシのことよりPさん! もっと大事なことあるでしょっ」ビシィ

ちひろ「そ、そうですPさん! 何いつもと変わらない空気を演出してるんですか!」

頼子「……」

P「あ、いや。別にそんなつもりはなかったんですけどね」

頼子「……」ゴク

P「……」

ちひろ「……まさか」

智香「だ、ダメだったなんて……言わせませんよっ」

P「……言わないよ」

智香「えっ」

ちひろ「じゃあ……」

P「おめでとう。頼子」ニコ

頼子「…!」

P「ちゃんと書面でもらってきた。今回のオーディション、通ったよ」

頼子「ほ……本当、に……?」

P「こんなタチの悪い嘘なんかつかない」

頼子「……わたs」

智香「ひゃっほーーーーーーーーーぃっ☆☆!!」ピョーンピョーンシュバシュババッ

ちひろ「ひゃっほーーーーーーーーーーぃっ痛っ!!!」グキッ!

智香「やったね頼子ちゃん☆ すごいすごい!」キャッキャッギュギュッ

頼子「あ、ありがとう智香さ、ん……く、くるし……」ギュー

P「頼子」

頼子「は、はい……」

P「本当によくがんばったよ。おめでとう」

P「でも大切なのはこれからだからな。これからもっと大変になる」

頼子「……はい。わかっています」

P「俺も今まで以上にがんばるから。頼子と一緒にな」

頼子「……はい!」ニコ

今回分ここまで。次もまた少しとんで8月に入ってからになります

少し久しぶりな気がする投下をば

P(枠1人、という前提は変わっちゃったけど、頼子は無事オーディションを通過した)

P(といっても頼子にはまだまだ磨いていくべきスキルもある)

P(そのためのレッスンもしつつ、仕事もこなしていかなきゃいけなくなるわけだ)

P(今までよりずっと大変になる。それでも頼子はがんばると言ってくれた)

P(だから俺ももっとがんばっていこうと決めた)

P(そして今日。俺たちは新たに2人の仲間を迎え入れる)

――8月下旬あたり

-事務所-2人は留守番


頼子「……」ソワソワ

智香「わくわく☆」ワクワク

頼子「……」ソワソワソワ

智香「わくわくわく☆」ワクワクワク

頼子(…あ、このパターンって……)

智香「……」ワク

頼子(…? 来ないの…? 智香さん)

智香「んんーおっそーーーーーーーーーいっ!」ドカーン!

頼子「…少し、我慢したのね……」クス

智香「クス、じゃないよ頼子ちゃん! Pさん遅すぎるよー!」プリプリ

頼子「プリプリしないの、智香さん…」クス

智香「3時くらいに戻るって言ってたのに、もう4時なんだもん」プク

頼子「確かに、誤差にしては遅いけど……」

智香「アタシなんかもう! ずっとトイレも我慢して待ってるんだから☆」モジモジ

頼子「本当に、楽しみなのね…でも我慢は体によくない……」クス

智香「も、もしかして! なんかあったのかなっ」ハッ

頼子「…何か、って?」ピク

智香「……じ、事故とかっ」

頼子「……まさか」

智香「Pさん、いつも遅くまでお仕事してるみたいだし……疲れ溜まってるだろうし」ムム

頼子「…それで?」

智香「アクセルとブレーキを踏み間違えたりとかっ」

頼子「Pさんに限って……」

智香「右と左を間違えてハンドル切っちゃったりとかっ」

頼子「……」

智香「冷房入れたつもりで暖房入れちゃってたりとかっ」

頼子「…それで熱中症になってたり、とか……」ボソ

智香「Pさん熱中症事件再び!?」ゾゾゾ

prrrrrr……prrrrrr……

頼・智「!?」

智香「でんわだね……」

頼子「あの電話、アイドルは取らなくていいって…言われてるわ……ちひろさんも、夏休みでいないし……」

智香「うん。でも……Pさんかもしれないよっ?」

頼子「それは……」

prrrrrr……prrrrrr……

智香「それか……」

頼子「……?」

智香「事故って搬送された先の病院からとか! け、警察とか!」オロオロ

頼子「……!」

智香「で、出てみよっ頼子ちゃん! さあ!」グッ

頼子「と、智香さんが出て……」

智香「アタシこわいっ」

頼子「わ、私だって怖い……」

prrrrrr……prrrrrr……

智香「なかなか切れないね……やっぱり何か大事な電話なんだっ。さあさあ頼子ちゃん! ファイトー☆」ブルブル

頼子「……いつになくかぼそい応援……でも……出てみる」グッ

智香「お、おー☆ さすが頼子ちゃん名前の通り頼りになる子だっ」

prrrカチャ

頼子「…もしもし?」

電話「……」

頼子「もしもし……? どちら様でしょうか……」

電話「ハァハァハァハァハァハァハァハァ」

頼子「!」カチャンッ

智香「頼子ちゃん!? どうしたの!?」

頼子「…ず、ずっと……ハァハァ言ってたわ……」ブルブル

頼子「いたずら電話……みたい」ブルブル

智香「よ、頼子ちゃん……ごめんね、気持ち悪い電話に出させちゃって」

頼子「だ、大丈夫……智香さんが言ってたような電話じゃなくてよk」

prrrrrr……prrrrrr……

頼・智「ひっ」

智香「ま、まただぁ」

頼子「どうせまたいたずらでしょう……もう、ほっときましょう……」プイ

智香「いーや! 今度はアタシが出るよ―!」フンス

頼子「智香さん……?」

智香「頼子ちゃんをいやな気持ちにさせた罰! ガツンて言ってやるんだからね!」フンスフンス

頼子「智香さん……」

prrrカチャ

智香「もしもし!」

電話「ジュルリ」

智香「ひぃ!」ビクッ

電話「ハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァ」

智香「」

頼子「智香さん…!」カチャンッ

智香「……」

頼子「大丈夫……?」

智香「うんっ。思ってたよりはるかに気持ち悪かった☆(ぶいっ)」

頼子「…強がりなんだから……」クス

ガチャッバタン

頼・智「ひぃっ」

智香「ま、まさか電話の変な人、じゃないよね頼子ちゃんっ」ブルブル

頼子「そ、それはないと思う…けど……」ブルブル

ズル…ズル…

智香「な、なんか変な音がするよ頼子ちゃん!」

頼子「なにか、引きずってる音…?」

智香「まさか……事故って体がズルズルになったPさんが……這いずりながら……」ガタガタ

頼子「ま、まだPさん事故説を推すの智香さん……そんなことあるわけ……」ガタガタ

ノソッ

P「うう~……暑い~……筋肉が溶けるぅ~」ヨレヨレクタクタダラダラ

頼・智「ひゃあああああああっ」

P「うわあああああああなんだあああっ!? どうした2人とも!?」

智香「Pさーん! 生きてるよねっ!? 暑さでしなびてるだけだよねっ!?」アワアワ

P「こら失礼だな君は。死にそうなくらい暑いけど、ちゃんと生きてるよ。あー疲れた」

頼子「な、何か引きずっているような音が…していましたけど……」

P「あ、あれはね。新しい仲間たちの荷物。女の子だからか、荷物多くてね。俺が持ったんだ」ホレホレ

頼・智「」

P「ふぅーまずは水分補給すr」

prrrrrr……prrrrrr……

P「ん、電話?」

智香「あ! Pさんその電話わっ!」

カチャ

P「おでn」

電話「ハァハァハァハァハァハァハァハァハァハァ」

P「?」

電話「今どんなパンツ履いてるのハァハァハァハァハァ」

P「……」

電話「ジュルリ」

P「ユニ○ロで売ってるス○ーピーの柄のやつ」

電話「ジュr……へ?」

P「ユ○クロで売ってるスヌー○ーの柄のやつ」

電話「……」プツッツーツーツー……

P「……切れた? なんだおかしな電話だな。まいいわ。水飲まないとほんとに死ぬ」スタスタ

頼・智「……」

智香「頼子ちゃん」

頼子「……どうしたの?」

智香「すごくムダに汗かいちゃった気がする☆」テヘ

頼子「…ええ、ほんとに……それでもさわやかね。智香さんは…」クス

P「つーわけで」

P「この子たちが新しく俺が担当するアイドルの子たちだよ」

智香「わー☆」パチパチパチ

裕美「……」カチコチ

春菜「……」キラキラ

P「関さん、上条さん。こっちの2人は今俺が担当してる子たちだ。わずかではあるけど先輩になる」

P「でもそこはあまり考えなくていいよ。まだまだキャリア浅い子たちだから」

P「じゃ、頼子。智香ちゃん。挨拶から始めようか」

頼子「古澤頼子、といいます…その、何を言えばいいのかわからないけど……がんばりましょう。一緒に」ニコ

裕美「……きれい」

春菜「眼鏡っ」キラーン

智香「チアリーダー若林智香っ、がんばる人の姿を見るのが大好きなアイドルですっ! 2人ともよろしくね☆」ピョーイ

裕美「素敵な笑顔……輝いてる。でも、チアリーダーなのかな? アイドルなのかな?」

春菜「眼鏡をかければもっと輝きそうっ」

P「さ、次は君たち。まずは関さんから」

裕美「は、はい」カチコチ

裕美「せ、関裕美です。なぜだかオーディションに合格して、ここに来ちゃいました。よ、よろしくお願いしますっ」ペコ

智香「「なぜだか」なんてことないよ☆ Pさんのお眼鏡にかなって選ばれたからだよっ」<眼鏡!?

裕美「その。どうしてお眼鏡にかなったのかが、わからなくて」

智香「Pさん! 裕美ちゃん、自分に自信が持てないタイプの子みたいっ」

P「うん、知ってる」

智香「じゃあ応援しちゃいます☆」

P「そうだね」

裕美「お、おうえんって?」

智香「がんばれがんばれ裕美☆ ファイトだファイトだ裕美☆」シュバッシュバッ

裕美「す、すごい体の動き」ポカーン

智香「さあ裕美ちゃんも一緒に☆」

裕美「む、無理ですそんな……」ヒキッ

P「さて盛り上がってるとこあれだけど。次は上条さん」

春菜「はいっ。上条春菜です! 目標は眼鏡の魅力を日本中に遍く知らしめることです! よろしくお願いしまーす!」ペコ

頼子「……」

智香「おお☆」

P「ま、ちょっと変わった子なんだ。でも情熱は本物だ」

春菜「もちろんっ」

春菜「……」チラッ

頼子「……?」

春菜「古澤さん! 眼鏡素敵ですね! とっても似合ってます!」ズイッ

頼子「あ、ありがとう、ございます…」ヒキッ

春菜「私と一緒に眼鏡の魅力を喧伝していきましょう!」ズイッ

頼子「わ、私はそこまで…眼鏡にこだわりは……」ヒキッ

P(ま、こうなるわな……)

P「はいみんなそこまで」

P「関さんと上条さn」

春菜「はい! Pさん!」ズビシィ!

智香「お☆ 元気な挙手! いいよー!」

P「なんだろう上条さん」

春菜「私と裕美ちゃんも名前で呼ぶべきだと思います! すごく不自然です!」

裕美「わ、私は別にどっちでもいいけど……」

P「……」

P「確かに」

P「裕美ちゃんと春菜ちゃんは、新学期が始まってから正式にうちの所属になることになってる」

P「さすがに夏休みの間に転校は寂しすぎるからね」

頼子「2人とも、地方の人なの……?」

春菜「私は静岡ですよ」

裕美「私は……富山」

智香「アタシは鹿児島☆」

P「急な転校は辛いだろうけど、そこはどうか割り切ってほしい」

春菜「私は……大丈夫ですっ」フンッ

裕美「私も……」

智香「アタsムグッもがもが」<頼子「智香さんちょっと静かに……」

P「今日は少し早いけど、2人の歓迎会をしようと思う」

P「頼子の合格祝いも兼ねてな」

頼子「……え」

P「そういうのまだやってなかったろ? 初オーディションで合格だ。誇っていいことだよ」

春菜「なになに? なんのオーディションですか!? 眼鏡○場のCMとかですか!?」ワクワク

裕美「すごいです……!」

智香「わー☆ 焼き肉だー☆ Pさんのおごりだー☆」ピョーイピョーイ

これにてWオーディション編終わり。
今月投下のペースが少し落ちると思います。
読んでくれてる方気長に見てもらえればありがたいです。

ネタバレを避けるほどの内容のSSでもないから言っちゃうと、怪盗にはもちろんなる
ということで投下。

-事務所・社長室-

社長「論外だ。これを受理するわけにはいかないね」ビリッ!

?「……」

社長「お前に辞められたらうちは大変に困る。自分の存在の重さくらいわかってくれ」

?「ですが社長。私はもう……」

社長「……「もう」か」

社長「やっぱり担当アイドルはプロデューサーに似るものなのかな。一度の失敗でもう無理だと言いだす」

?「! 何ですって……!」キッ

社長「……」

社長「僕は今でも期待している。お前にも、お前のアイドルにもね」ニコッ

社長「でもお前たちは少し近すぎたのかもしれないな」

?「……」

社長「……一度、離れてみようか。お互いのために」

P(学生の夏休みは終わり、俺の担当アイドルは正式に4人体制になった)

P(新たに加入した春菜ちゃんと裕美ちゃんには、当分の間基礎レッスンを仕込んでいくことになる)

P(この2人はオーディションの時点である程度の方針を決めておいた)

P(理由は単純で、オーディションでの完成度にそれぞれ高い部分があったからだ)

P(彼女たちの売り出し方を考えるのと同時に)

P(そろそろフェスというイベントについての情報集めなんかもやっていかなきゃならず)

P(またもちろん、あと1人。メンバーを集めないといけない)

-事務所-

ちひろ「Pさん、ありましたよ去年のフェスのDVD。はいこれです」スッ

P「なんだ、すぐに出ましたね。ありがとうございます」

ちひろ「それにしてもPさん、随分世相に疎いですね。フェスってイベントを全然知らなかったなんて」

ちひろ「いまや日本の年末の風物詩と呼べるくらいの一大イベントなのに」

P「いや、名前くらいは知ってましたけどね。どんなもんかってのはあまり。とりあえず見てみますか」カシャ

ガヤガヤワーワーワーワー……

ちひろ「これは去年のファイナルマッチですね。プロダクションIceBlueとPinkyプロダクションの対戦です」

P「IceBlueとPinkyプロ……3強同士の順当な決勝だったわけですか」

ちひろ「ええ。フェス始まって以来、3強以外がファイナルマッチに進んだことはないんですよ」

ちひろ「ちょっと出来レース気味なんですよね。それでも盛り上がるから全然いいんですけど」

P「……? なんか映像おかしくないですか? DVDだけこんな加工してるんですか?」

ちひろ「はい?」

P「これ神崎蘭子ちゃんですよね? なんかこの子の周囲に火炎旋風みたいなエフェクト出てますけど。ゲームで見るような」

ちひろ「……DVDだから、ではないです」

P「え? いやCGでしょう?」

ちひろ「後のほうでもっとすごいのありますよ。ちょっと飛ばしますね」ピッ

P「?」

ちひろ「あ、このあたり。ほらこの子。IceBlueの望月聖ちゃん。よく見てください」

P「……かわいい」キュン

ちひろ「そうではなくて。確かにかわいいですけどよく見なくてもわかるでしょそれは」

P「……!?」

P「……この子、浮いてません?」

ちひろ「気がつきましたか」

P「何かで吊っている感じでもない……浮いてるとしか言いようがない」

ちひろ「Pinkyプロも見てみましょうか。あ、このあたりいいですね」

P「お。島村卯月ちゃんですね」

ちひろ「彼女の挙動に注目です。Wピースで笑顔を決めるたびに……」

P「おお! ハートが散ってる! ついでに「ドヤッ」って文字まで! ワ○ャンランドみたい!」

ちひろ「あ、このへんもなかなか乙です。ほらほら」

P「!? なんですかこの未確認飛行物体は!」

ちひろ「ウサミン星から来たUFOという設定の飛行物体です」

P「す、すごい……! どうやって飛んでるんだ……あっ墜落した!」

ちひろ「演出ですよ」

P「あ、中からウサミン星のエイリアンが……全然ケロッとしてる」

ちひろ「いかがでしたかPさん。フェスってこういうイベントです」

P「何が起こっているんだ……」

ちひろ「さっきも言いましたが、昨今のアイドルブームも相まってフェスの注目度は年々上昇しています」

ちひろ「スポンサーもたくさんついていますし、協賛企業も回を重ねるごとに増えてます」

ちひろ「このイベントで使われる舞台装置やギミック、小道具などは」

ちひろ「世界に誇る日本の技術の、そのまた最高峰のものが使われていると言って言い過ぎじゃないんです」

P「……」

ちひろ「どうしましたPさん黙っちゃって」

P「いや、楽しそうだなって思って」

ちひろ「ええ、それはもちろん! 見るだけでも楽しいですけど、Pさんは見せる側ですからね」

P「でもこれ、資金力でものすごい差が出るんじゃ?」

ちひろ「PMF実行委員会が結構バックアップしてくれるんですよ。だからそれほど露骨な有利不利はないですね」

P「そりゃまた……太っ腹ですね」

ちひろ「実行委員会お金持ってるんですよ。さっきも言ったでしょスポンサーがどんどこ増えてるって」

ちひろ「まあ、裏側では結構生々しい取引とかあるみたいですけど……」

ちひろ「そういうのは社長の仕事ですから」

ツカツカツカ

??「お、フェスの研究か? 熱心だね。結構結構♪」ニコニコ

P・ち「? 社長!?」

社長「おはようさん♪ Pちょっと話があるんだ。会議室まで来てくれ」ニコニコ

P「え」

社長「5分後に。待ってるよ♪ じゃね」ツカツカ

P「……ちひろさん」

ちひろ「はい」

P「僕最近何かやらかしましたっけ……」

ちひろ「さあ?」

P「うう」

-事務所・会議室-

ガチャ

P「失礼します」

社長「おお。悪いねいきなり呼びだして♪ 予定だいじょぶだった?」ニコニコ

P「問題ありません(予定確認せずに呼びだしたんだ……)」

??「……」

P(あれ? この子確か……)

社長「ま、座りなさいよさあさあ♪」

P「失礼します」ストッ

社長「みんなそれぞれ時間もないから、早速本題に入るぞ」

社長「P。この子誰かわかるな?」

??「……」

P「それはもちろん。小日向美穂さんです」

社長「そうだな。P。彼女の担当プロデューサーになってくれ」

P「……は?」

美穂「っ!」

社長「なんだ不服か?」

P「不服というか……意味がわかりません。彼女には先Pさんというプロデューサーがちゃんといるはずです」

社長「人事異動だよ。先Pくんは担当を外れた。それだけのことだ」

美穂「そ、んな……」ボソ

P「それだけって……でもそれでどうして私が? 彼女の人気実力に到底見合いません」

社長「売れっ子のプロデュースを今のうちに経験しておくのもいい勉強だ」

P「……私はいいとしましょう。でも彼女まで初耳だって顔をしています」

P「彼女の意思は無視ですか」

社長「……ふむ。こっひー?」

美穂「……は、はい」ビク

P(今すっごい変な呼び方しなかったか?

社長「ダメかな?」ニコニコ

美穂「わ、わたしは……」

美穂「い、いいと思いますっ」ニコ

社長「だとさ。決まりだな」ニコニコ

P「……」

社長「すぐにとは言わない。お前にも自分のペースがあるだろうからね」

社長「少しずつ先Pくんから引き継いでいってくれ。それじゃ、僕はこれから出るから」ツカツカ

社長「二人とも急に時間を取らせてすまなかったな♪」バイバイ

P「……」ハァ

美穂「あのっ」

P「え? ああ」

美穂「なんだか急なお話でびっくりしたんですけど、その……よろしくお願いしますっ」ペコッ

P「あ、こちらこそ! 俺みたいな経験の浅い奴が小日向さんの担当なんて恐れ多いけど……」

P「できる限り、がんばるよ」

美穂「はいっ。がんばりましょう!」ニコ

P("アイドル小日向美穂"はもう、笑うことに疲れてしまったのだろうか)

P(その名前の通り、ひだまりのように朗らかで、見ていて暖かい気持ちになれる笑顔と)

P(故郷熊本の超人気ゆるキャラにも匹敵する愛嬌を兼ね備え)

P(うちのプロで十時さんや新田さん同様CDデビューまで果たしたアイドル)

P(裕美ちゃんが密かに憧れる存在でもある彼女が)

P(どうしてこんな造り物のような笑顔を浮かべないといけないのだろう)

投下終わり。
余計な補足だと思うけど先Pは先輩Pの略です。

言われて読み直したら確かに秘書和久井さんが社長に三行半つきつけるシーンに見えなくもないかも
和久井さんはたぶん出ないかなあ
じゃあ投下しますわ

P(俺の仕事の中に、小日向さんという売れっ子のプロデュースが加わった)

P(小日向さんは十時さんや新田さんと同じく、1人でも仕事に回れるくらいキャリアのある子だけど)

P(俺が慣れるためってことで、しばらくはついていくことにした)

P(CMの撮影にラジオの収録、故郷のゆるキャラと共演しての熊本PRなど)

P(まだまだ暑さも残る中、翳りのない笑顔でこなしていく)

P(……あの時見たあの笑顔はなんだったんだろうか)

P(それはそれとして、時間の捌き方や移動のコツなど、勉強になることも多かった)

-事務所-

P「……」ウツラウツラ

??「Pくん。少しいいかな」

P「……はっ!?」ビクッ

??「おお!?」ビクッ

P「ね、寝てませんよ! 決して」

??「あは、疲れてんだね。わかるわかる。激務だもんなー」

P「あ、先Pさん……」

先P「よう。顔合わすのは久しぶりかなー」

P「はい」

先P「順調?」

P「……まずまずです。たぶん」

先P「あは、そういう時は嘘でも順調って言っとくんだよ。ところで」

先P「……少し話できる?」

P「僕も話したいと思ってました」

先P「あ、そう? まあ俺からは、渡したいものがあるだけだけどね」

P「?」

先P「これ」スッ

P「? 『小日向ノート』?」

先P「……俺にはもう必要なくなったから」

P「……」

先P「中読んで笑ったりヒいたりしないでくれよ?」

先P「あいつの世話するのの助けになると思うし、Pくんの仕事の参考にもなるかもしれない」

先P「まあ、上手いこと使ってやってくれ」クルッ

P「先Pさん」

先P「うんー? あそうか、Pくんも話があるんだったか」

P「どうしてなんですか」

先P「どうして?」

P「小日向さんは先Pさんの……初担当アイドルだと聞きました。離れるの、嫌じゃないんですか」

先P「……俺にはもうどうしようもないよ。信頼を失くしちゃったからなー」

P「そんな」

先P「美穂のこと、頼むわ」ニカ

P(担当アイドルはプロデューサーに似るんだろうか)

P(俺より少し年上だけど笑顔が子どものような先Pさん)

P(いつもチャーミングな笑顔はこの時、随分無理をしているように見えた)

P(『小日向ノート』。表紙にマジックで書かれたこのタイトルだけで、どんな中身か想像がつく)

P(これはきっと読むべきじゃないのだろう。「読め」と言って渡されたものでも)

P(そんな大切なものを俺みたいな半人前に託したことで、わかってしまった)

P(小日向さんが先Pさんにとってどういう存在なのかということが)

P「ということで」

P「急な話で連絡が遅れてたけど、小日向さんが俺の担当になった」

P「みんなにとっちゃ大先輩だ。いろいろ教えてもらうといいよ」

美穂「Pさん、そのフリは困りますっ。わたしなんて全然大したことないです!」

頼子「小日向さん、よろしくお願いします…そのかわいらしい振る舞いとか、いろいろ教えてください……」

美穂「えぇっ!?」

智香「わー☆ 美穂ちゃん、よろしくお願いしますっ☆」

美穂「げ、元気だね智香ちゃんは……」

智香「それしか取り柄がないもんっ☆」

美穂「そそそんなことないよ! そんな明るく寂しいこと言っちゃダメっ!」

P「そうだぞ智香ちゃん。あ、こっちの2人は初めてかな?」

美穂「あ、そうですね。えっと……」

春菜「眼鏡の魅力を喧伝すべく毎日眼鏡の猛特訓中! 上条春菜です! よろしくお願いしまーす!」ペコッ

美穂「あ、えっと……よっよろしくお願いします! 眼鏡の特訓がんばって!」ペコッ

P(間違いなく良い子だよな……)

P「じゃ次、裕美ちゃん」

裕美「……」カチコチ

P「……」

美穂「あ、あれ?」

P「ごめんね小日向さん。この子、オーディションの時小日向さんの歌歌ってね。好きみたいなんだ」

P「関裕美ちゃんていうんだ。この中じゃ一番年下だし、いろいろ教えてあげて」

美穂「はっはい! 裕美ちゃん、よろしくお願いします」ニコ

裕美「ははははい! よよろよろろしくお願いしましゅ!」ペコペコ

美穂「裕美ちゃん、昔のわたしみたい」クス

裕美「TVで小日向さんを見て……すごく、好きで……大好きなんです、あの歌も」

美穂「……そっか。ありがとう裕美ちゃん」フッ

P(……?)

頼子(……)

P「TVの撮影がある頼子以外は、今後ちょくちょく小日向さんの仕事に一緒に連れていこうと思う」

P「先輩の仕事をじかに見るのもいい勉強になると思うから」

美穂「Pさん、わたしほんとに大したことないですからっ。みんながっかりしちゃいますよ」

P「そうかな。俺が見た感じはさすがの仕事ぶりだったけど」

智香「……」

智香「はいっ! Pさんっ!」ズビシィ!

P「お。活きのいい挙手。どうしたの智香ちゃん(めっちゃ腋見えてる)」

智香「そろそろアタシにも仕事をください☆」フンス

P「おう、それね。今ちょっと調整中なんだ。近々ちゃんと話ができるかも」

智香「わ、ほんとですかっ。やったー☆」バンザーイ

P「まだ本決まりじゃないからね(めっちゃ両腋見えてる)」

春菜「Pさん私はっ」

P「春菜ちゃんはまだ基礎固め」

春菜「眼鏡なら今でも十分通用する自信あるのに……」シュン

P(眼鏡オンリーのクイズ番組とかないか調べとくか……)

美穂「あ、あの」

P「ん、どうしたの小日向さん」

美穂「眼鏡のアイドルって、水着グラビアとかだと使ってもらいやすいって聞きましたよ」

P・春「何ぃ!?」ズイッ

美穂「ひっ」ビクッ

頼子(目の色が違う……)

美穂「えっとその、水着とかし、下着とかに眼鏡をかけてるっていうシチュエーションがどうとかって……///」

P「……だってさ春菜ちゃん」

春菜「……私は」

春菜「ゲージツのためならいつでも眼鏡以外は脱ぐ覚悟はっ」クワッ

P「ほんとに?」

春菜「うぐ。あんまり、眼鏡ならともかく、ボディラインに自信はないので……その///」モジモジ

P「まあ春菜ちゃんのボディラインはおいといて、俺も今のとこその方向はあまり考えてないからな」

美穂「ごめんなさい。余計なこと言っちゃいましたね」

P「ううん。俺よりもキャリア長いから言えることもあるよ。ありがとう小日向さん」

智香「あのっ。Pさん!」ズビシィ!

P「お。また元気な挙手。今度はどうしたの(また豪快に腋見えてるなあしかし)」

智香「美穂ちゃんのことも「美穂ちゃん」でいいんじゃないですかっ?」

P「うん? ああ、うん。いや……」チラッ

美穂「……」

P「いや、いいんだ。小日向さんは「小日向さん」だよ」

智香「ええーっ」

美穂「わ、わたしも、それがいいです……うん」

智香「ええーっ!」

頼子「智香さん…あまり困らせちゃだめ……」

智香「頼子ちゃん……むむむぅ」

智香「じゃあせめて! 頼子ちゃん!」メラッ

頼子「な、何…? 私……?」

智香「智香「ちゃん」って呼ぼうよ☆」ズイッ

頼子「…ど、どうしてそうなるの……」ヒキッ

P「ほんとにな」

裕美「とばっちり……?」

智香「だって同い年だし☆ 仲良しでしょっ?」

頼子「そ、それはそうだけど……」

P「ま、確かにな」

頼子「Pさんまで……」

頼子「……」

頼子「と、智香、ちゃん……」ボソッ

智香「ん? 何かなっ。よく聞こえないぞっ☆」

春菜「あ~ん? 聞こえんなあ? ってやつですね!」

裕美「い、いぢめ?」オロオロ

P「頼子がんばれ」

頼子「……」

頼子「と、智香ちゃん……! これからも、よろしく……///」

智香「よし来たっ☆ こちらこそよろしく頼子ちゃん!」ギュッ

頼子「うぐ。く、くるし……」

P「よかったなー智香ちゃん」

美穂「ふふっ。仲良し、いいですね」

投下おわりー

投下いきまーす

P(学生の新学期は始まっているけど、小日向さんは平日の朝から仕事が詰まっている)

P(売れっ子になるとだいたいこういうものらしい。前に十時さんもそんなことを言ってた気がする)

P(おかげでというか、朝から夕方まで小日向さんについて回り)

P(夕方からは頼子たち4人の調整タイムという循環ができつつある)

P(今日の仕事はまたまた他のプロと合同)

P(現代アイドルプロ3強最後の一角、Pinkyプロダクションを訪ねることになっている)

-Pinky社-

P「うお、立派なビルだな……」

美穂「えへへ、びっくりですよね! わたしもはじめて来た時はびっくりしちゃって」

美穂「中にちょっとしたLIVEスタジオとか、撮影用セットまであるんです」

美穂「TV局を使わずこの中で撮影したりも結構してるんですよっ」

P「へえ……」

美穂「さ、Pさん! 入りましょっ」

P「あ、うん」

P「えーと受付は」

美穂「Pさんこっちこっち」テマネキ

P「はは、勝手知ったるって感じだな。俺はもうついてくだけでいいや」

美穂「はい! 入館きょきゃ、にゅうきゃ、入館きょきょ……」カミッカミ

P「入館許可証もらっといてくれたんだね。ありがとう」プフ

美穂「うぅー」ショボン

P「せっかくだしちょっと見学して回りたい気もするけど、先方来るまで待つかな」

??「んー? ああっ! 美穂ちゃんだー! おーい!」タッタッタッ

P「? うお! あれは!」

美穂「わー! 卯月ちゃんだ!」

卯月「へへーみーほちゃーん!」キュッ

美穂「わ! も、もー卯月ちゃんてば……」

P(遭遇するなりのスキンシップ……若い子たちには欧米化がどんどん進んでいるんだろうか)

卯月「美穂ちゃんちょっと久しぶりな気がします! 相変わらずほっぺぷにぷにー♪」ウリウリ

美穂「あ、ちょっと……もうっ、卯月ちゃんだってお肌つるつるでしょっ」ウリウリ

卯月「わあっくすぐったいよー美穂ちゃん!」キャッキャッ

P(……頼子や智香ちゃんも同い年なんだけど……こんなノリにはならないよな)

卯月「ふぅ~堪能しましたー! 熊本成分補給完了です!」グッ

美穂「わ、わたしそんなに熊本らしさ出てるかな……」

卯月「熊本が世界に誇るもの! 1にくま○ン! 2に小日向美穂!」ババーン

美穂「く○モンに負けてるんだわたし……」ズーン

P(対抗意識持ってたのか……? 仲良くやりなよ)

卯月「えへへ冗談! 美穂ちゃんが一番だよ!」

卯月「ところで美穂ちゃん」

卯月「こっちのお兄さんは?」

P「!(お兄さんだって)」

美穂「あ、そうだった! 初めて会うよね! えっと」

P「島村卯月さん、初めまして。CGプロのプロデューサー、Pと申します」ペコ

P「ご活躍はいつも拝見しています」

卯月「わっご丁寧にどうもっ。島村卯月です!」ペコッ

卯月「……あれ? 美穂ちゃんのプロデューサーさんって、先Pさんじゃなかったっけ?」

美穂「……」

P「いえ、今は私が担当を務めています。経験を積むためということで」

卯月「ふーん……?」クビカシゲ

??「ああ卯月。どこ行ったのかと思ったら先に来てたんだね」

P(お。お迎えかな)

卯月「あ、プロデューサーさん忘れてましたぁ! ごめんなさい♪」テヘ

??「ちょっと探したんだからね。おかげで遅刻しちゃったじゃないか」

P(!?)

??「美穂ちゃん久しぶり! いつ見てもかわいいね」

美穂「そ、そんなことないです///」

??「照れるところもまたかわいいんだよね」フフ

P(ぱっと見で年齢はおろか、性別も不詳だなこの人……服装からすれば男性、か?)

??「と……」チラ

P「!」

??「初めまして、ですね。Pinkyプロ所属、CuPといいます。今後ともよろしくお願いしますね」

P「CGプロのPと申します。どうぞよろしくお願いします! あ、これ名刺です」スッ

CuP「あ、じゃあ僕からも。どうぞ」スッ

P「ありがとうございます」

CuP「……担当変わったんだ」ボソ

P「? 何か?」

CuP「ああいえ。あ、お待たせしてすいませんでした。卯月においてけぼりにされちゃって」

卯月「人のせいにするのはよくないと思います!」ビシッ

CuP「はいはいそうだよね。じゃ、打ち合わせに向かいましょう。案内しますね」

P「よろしくお願いします」

卯月「美穂ちゃんは私が案内します!」

美穂「わ、わたしはもうわかるから! たぶん」

-Pinky社・Mtgルーム-

ウイーン

卯月「島村卯月、到着でーす!」

美穂「こ、小日向美穂も到着ですっ」

P(この社屋ほとんどが自動ドア……金かかりすぎじゃないか、ってあれ? 誰かいる)

??「お帰りなさい卯月ちゃん! CuPさん! 美穂ちゃん!」

CuP「あら、もうスタンバってたの」

??「はい! 資料まとめておきました! それと軽くお掃除を……」

卯月「むむ。さすが未来の良妻……見習いたいです!」

CuP「ほんとにね。今年もお嫁さんにしたいアイドル№1の座は揺るがないよこれは」

??「そ、そんなこと……///」

P(ああ、そうか。この子)

美穂「響子ちゃん、久しぶりですっ」

響子「ですねっ。会いたかったです美穂ちゃん!」

美穂「わたしもっ」キュッ

響子「えへへっ」キュッ

卯月「私も混ざっちゃいます!」キュッ

P(女の子だからなのか、世代間ギャップなのか……)

CuP「……Pさん」

P「え、はい何でしょう」

CuP「女の子同士がああやって手をつないだりしてるのは「微笑ましい」で済まされるのに」

CuP「男同士だとどうしてああも気味悪がられるんでしょうかね」

CuP「ちょっと不公平だと思うんですよね」ヤレヤレ

P「あ、はあ……」

CuP「さてみんな! 再会のキャッキャはそれくらいにして! 響子はまずこちらの方に挨拶して」

響子「あ! ご、ごめんなさい! 美穂ちゃんがいて嬉しくて……」

CuP「まあわかるよ。仲良しだもんね。ほらご挨拶」

響子「Pinkyプロの五十嵐響子です! よろしくお願いします!」ペコッ

P「CGプロのPと申します。よろしくお願いします」ペコ

響子「……」ジー

P「? 何か?」

響子「いえっなんでも! あ、お暑くないですか? 上着かけておきます!」

P「は? い、いえいえいいです! 自分で脱ぐし椅子にでもかけとけば」

響子「そんなことしたら型崩れしちゃいます! ちゃんとハンガーにかけて大切にしないとっ」フンス

CuP「Pさん、諦めてください。響子は意外に姉さん気質ですから」フフ

響子「CuPさんが教えてくれました。スーツはプロデューサーにとっての戦闘服だって」

響子「だったら大切にしないといけないと思うんです」フンス

P「まあ、それはそうかな……人気アイドルにしてもらうのは気が引けるけど」

響子「いいんです。好きでやってることですよ」ニコ

CuP「もちろん僕も、響子はそんなことしなくていいって言ってきたんですけど」

CuP「好意でしてることだし。それに結局、まんざらじゃないでしょう?」

P「まあ、正直に言えば……ちょっと嬉しいですよね」

CuP「本人も満足して、相手も迷惑に思わないなら、まあいいかってね」

P(今回はTV番組の打ち合わせだった)

P(社は違うけど島村さん、五十嵐さんと小日向さんは以前から仲が良くて)

P(一緒にTVに出ることもたびたびあるらしい)

P(打ち合わせは和やかかつ円滑だった)

P(パンやらドーナツやらケーキやらで次々ともてなされて)

P(終わるころには腹いっぱいになっていた)

CuP「うん、だいたいこんなところかな。あとは本人たちがなんとかするでしょう」

P「アバウトですね……私はほとんど何か食べてただけだった気がします」

CuP「パンもお菓子もおいしかったでしょ?」フフ

CuP「あまり台本とか規定の演出にこだわらないのが、この企画の方向性ですから」

CuP「この3人ははしゃぎすぎず、適度なさじ加減をわかってる子たちだし、大丈夫です」

CuP「さてと。卯月。響子と美穂ちゃんと一緒に、スタジオに行ってくれる? 3人でイメトレでもしてて」

卯月「え? 私たちだけでですか?」

CuP「……」

卯月「あ、わかりました! イメトレ大事です! よし響子ちゃん美穂ちゃん! Let'sスタジオ!」ガタッ

響子「あ、卯月ちゃん! 待ってください!」ガタッ

美穂「あわわっ待ってー!」ガタッ

ウイーンバタバタバタ……

P「……」

CuP「……」

P「私にお話が?」

CuP「……美穂ちゃんの担当、変わったんですね」

P「ええ」

CuP「先Pくん、自分から降りたんでしょうか」

P「……」

P「詳しくはわかりません。でもたぶん、違うと思います」

CuP「そうなんだ……」

P「CuPさんは、何があったのかご存知なんですか?」

CuP「……」

CuP「失敗をしたんです。あの2人はお互いに」

CuP「別に失敗は誰だってします。でもタイミングがまずかった。それにあの2人の性格が重なって……」

P(担当アイドル同士が仲良しなら、そのプロデューサー同士も良きビジネスパートナーだったんだろう)

P(CuPさんはうちの先Pさんと小日向さんのことを案じているようだった)

P(……こればかりは俺にはどうしようもない)

P(失敗と向き合え! 逃げるな! なんて青青しいこと、白々しすぎて到底言えない)

P(社長は俺が小日向さんを立ち直らせることを期待して? いやそうじゃないだろう)

P(それはたぶんただの出しゃばり。大きなお世話。ポッと出の俺に、そんなキャパはないのだから)

今回分終わり
暑すぎて書き溜めも満足に進んでないのでこっからスローペースになります

長いし、どうぞゆっくり読んでくだせー
1000までに終わらないようなそんな予感もしてきたし

智香ちゃん新SRかと思ってノリノリで書いてたらSRではなかったね
美世SRきたし頼子も来ないかな
つーわけで久しぶりの投下いきまーす

P(小日向さんのことについては、当面深く考えるのはやめることにした)

P(小日向さんと先Pさんの二人がどんな失敗をしたのかということは)

P(俺自身が同じ失敗をしないためにも、知っておく必要がある。それはわかっている)

P(社長かちひろさんにでも聞けばすぐにわかるかもだけど……どうも気は進まないし)

P(とりあえず今日は気持ちを切り替えなきゃ)

P(今日は待ちに待った頼子の撮影初日! ……ではなく)

P(智香ちゃんの初仕事の日なのだ)

-都内・どこぞの撮影スタジオCGプロ控室-

P「智香ちゃん、はい水。撮影前にちゃんと飲んでおきなよ」スッ

智香「は、はいっ」

P「……」

智香「あ、あれっ? ふたがっ、固くてっ、開かないぃっ」ギリギリ

P「……智香ちゃん」

智香「ふんぬー」ギリギリ

P「それ、締めるほうに回してるよ?」

智香「え? あっ……あ、あはは。ちょ、ちょっとPさんを試してみたんですよ☆」

智香「こっち回しで……ぐぬぬ、すっかり締まりきっちゃってるうぅ」ギリギリ

P「貸して?」

智香「あ、は、はい」スッ

P「んしょ!」グイッ

P「はい、開いたよ」スッ

智香「わ! あっさり開いたっ。ありがとうございますPさん☆」ゴクゴク

P「ううん」

智香「ぷはあっ」

P「……智香ちゃん」

智香「はい☆ なんですかっ?」

P「緊張してるんだね」

智香「えっ」ギク

P「車の中でもいつもより静かだったし」

P「お弁当の梅干し、種までバリバリ噛み砕いちゃうし」

智香「ふぐ。あれは事故ですっ。……でも」

智香「緊張してるのは本当です……」

P「うん」

智香「へへ……あれだけお仕事お仕事って楽しみにしてたのに。情けない子ですねアタシって」シュン

P「……」

P「ふれっふれっ智香! がんばれがんばれ智香!」ヨタヨタ

智香「!?」

P「ゴーゴー智香! ファイトだファイトだ智香!」ノタノタ

智香「Pさん!? どうしたんですか!?」アワアワ

P「智香は強い子! 智香はできる子! 自信を持て!」ヨタヨタ

智香「Pさん……ぷっ。全然動けてませんっ。ヨレヨレのクタクタじゃないですかっ」

P「はぁ、はぁ……じゃあ見本見せてよ」

智香「お、いーでしょう☆ カツモクせよっ」フンス

智香「ふれっふれっみんな! がんばれがんばれみんな!」シュバッシュバッ

智香「イケイケゴーゴー☆ファイトー! オー!」シュバシュババッ

P「……」

智香「どーだっ。応援ってのはこうやるもんですよ☆」フンス

P「うん、やっと元気になった。いつもの智香ちゃんだね」

智香「え?」

P「さてと、そろそろ準備しとかないと。衣装に着替えてね。俺はちょっと挨拶に行かなきゃいけないから」スタスタ

ガチャバタン

智香「Pさん……ありがとうございます」

P(普段明るく弾けてる子でも意外にナイーブだったりする。智香ちゃんもそういうタイプなのかもしれない)

P(みんなを応援し、元気にしてあげる。それが智香ちゃんの喜びでありアイドルとしての意義)

P(ならその智香ちゃんを応援し元気づけてあげるのが、担当プロデューサーの存在意義だ)

P(多少かっこ悪くたって、泥かぶったっていい。もともと見栄えを顧みるほどの見た目はしていない)

P(……俺はプロデューサーって仕事を重く見過ぎだろうか)

P(もう少し気楽に考えた方がいいんだろうか)

-都内・どこぞの撮影スタジオOrangeプロ控室-

??「難しい顔して。どうしたよ」

P「え?」ハッ

??「そんな顔してノソッと入ってこられたら、不審者が来たかと身構えるよ。ドア開けっぱのうちも悪いけどよ」

P「す、すいません! 考え事しながら歩いてたもので。どうもお久しぶりですPaPさん」

PaP「よっ。また挨拶に来てくれたのか。悪いなわざわざ。ま、座んなよ」

P「失礼します」ストッ

PaP「前に会ったのは……」

P「『爆熱! LIVEバトル』の時です」

PaP「ああそうだった。あん時はしてやられたね。まあありゃ仕方ねえ。あの日の加奈ちゃん完璧だった」

P「ええ。がんばってくれましたね」

PaP「まあ次は美嘉がリベンジするさ。楽しみにしてな」

P「お手柔らかに……と言っても、次はたぶん僕はいませんよ」

PaP「そいつは残念」

P「……」

PaP「……どうかしたかい」

P「え」

PaP「悩んでるんですって顔してるよ」

P「……」

PaP「業界のセンパイとして、聞いてあげないこともないぜ」

P「……」

P「PaPさんは、どうしてこの仕事についたんですか」

PaP「あ、重い話だな。藪蛇だったわ」

PaP「まあそりゃもちろん、かわいい女の子に囲まれて仕事ができるから、かね」

P「え」

PaP「そんな顔するなって。冗談だよ。まだこんな話するほどの仲じゃないだろ?」

P「そうでしたね。すいません」

PaP「……」

PaP「プロデューサーができる仕事ってのは思ってるほど多くない」

PaP「TVとか雑誌の撮影、LIVE、小さなイベントやら握手会から何から、実際にやるのは全部アイドルなわけだ」

P「ええ」

PaP「オレたちができるのはそういった仕事を取ってきたり、スケ調整したり、最適なレッスンを考えたりして」

PaP「アイドルがいつでも万全の状態で輝ける支援をすること。結局はそれに尽きるわけよ」

PaP「やるだけやって、いざ行って来いって仕事に送り出したら後はもう、オレたちにできることなんて」

PaP「エナドリキンキンに冷やして待っててやることぐらいのもんさ」ニカ

P「……!」

PaP「とことん責任重くもなるし、逆にとことん無責任でも務まる。変な仕事だ。だから面白い。オレはそう思うよ」

P「……」

PaP「感動して言葉もないかい?」

P「ええ……」

PaP「そこは流してくれよ……調子狂うな」ポリポリ

シャアッ!

??「PaPさん! 着がえ終わりました!!」デデン

P「!?」

PaP「おう、随分時間かかってたな」

P「ええ!? アイドルがカーテン一枚隔てた向こうで着がえてたんですか!?」

PaP「うちのプロじゃよくあるよ。あ、茜こっち来い」

茜「ただいまっ!!!」ドスドス

PaP「茜、挨拶しな」

茜「日野茜です!! 好きな食べ物はお茶です!!! 今後ともよろしくお願いします!!!」

P「」キーン

PaP「大丈夫か?」

P(体ちっちゃいのになんて声量だよ……)

P「す、すいません。あまりの元気さに耳がキーンとなってしまって」

PaP「悪いなあ、こいついい加減って言葉知らないから」

茜「いい加減に生きるな!! 熱く生き!!! そして熱く死ぬ!!! そうありたいと思っています!!!」

PaP「そのいい加減じゃないんだよ」

P「まだ最期まで考えなくていいです。し、CGプロのPと申します。よろしくお願いします」

PaP「しかし、あんたのアイドルにも会っておきたかったんだけど」

茜「はい!!! 是非挨拶したいです!!!!」

P「すいません。なにぶん初仕事で緊張していて。終わってから連れてこれればと……」

茜「初仕事!!!! それなら仕方ありませんね!!! 初めては緊張します!!!!」

PaP「そうか、しゃあねえな。しかし結構あんたも順調なんだな」

P「いえ、いっぱいいっぱいですよ。特に最近は。フェスのこともあるし……」

PaP「お? フェスっつったか。あんたも出るのか」

P「一応そういうことに」

茜「あ!!!!!!」

P「」キーン

PaP「どうした茜」

茜「楽しく談笑していたら、時間が大変です!!!! これはもう全力で走るしかありませんね!!!!」

PaP「茜はいつでも全力だろうが」

茜「あ、そうでしたね!!!! ではPaPさん!!!! 行ってきます!!!!!!!」ドドドドドドド

PaP「おーう行ってら。オレも後から……聞こえてねえよな」

P(智香ちゃん、気が合いそうだな……)

P「あの、PaPさん」

PaP「おう、どした」

P「うちのアイドル、若林智香っていうんですけど」

P「日野さんと仲良くなれそうな子なんです。波長が合いそうというか……」

PaP「ふん?」

P「今回の雑誌グラビア、あくまで若林と日野さんの撮影は別々の予定ですけど」

P「一緒の写真も撮ってもらえませんか?」

PaP「またいきなりだな」

P「今思いつきましたから」

PaP「……へへ、図太いね。まあいいんじゃないか? 雑誌側がいいって言えばな」

PaP「面白そうだし、オレも一緒に頼みに行くわ」

P(智香ちゃんの初仕事は、少年雑誌グラビアの撮影だった)

P(『フレッシュで元気なアイドル』特集と聞いて、迷わず売り込みにいったんだ)

P(Orangeプロの日野さんも一緒に、すごくいい絵が撮れたんじゃないかと思う)

P(静止画で智香ちゃんの魅力が伝え切れるかどうかは不安だったし)

P(彼女向きの仕事じゃなかったかもしれないけど)

P(緊張もちゃんとほぐれて、南国の果実のような笑顔と惜しげもなくさらす腋)

P(智香ちゃんのビジュアル的な魅力は、ちゃんと表現されていたかな)

-帰路・社用車内-

智香「スゥ、スゥ……」

P「寝ちゃったか。疲れたよね」

智香「スゥ、スゥ……」

P「今日はがんばったね」

智香「ムニャムニャ」

P「智香ちゃんに合った仕事だったかは、自信ないけど」

智香「……がんばろー……」

P「!?」

智香「ムニャムニャ」

P「……」

P「うん、がんばろうね。これからも」フフ

今回投下終わり。
以前ほどのペースにはまだ戻らないけど、今回ほど空かないようにしていきたい
SRだろうがRだろうが智香ちゃんのかわいさには少しの揺らぎもないよね

フィクションの中にくらいは悪い子がいない世界があってもいい、とか思ってる奴が書いてるからね
展開は平坦になるけど今はこれでいいと思ってる
じゃあ投下

P(今日は小日向さんが一日オフ。びっちり詰まってるスケジュールの穴の日だ)

P(他のみんなも夕方からのレッスンのみ。俺も少し久しぶりに自席でのんびりデスクワークができる)

P(出版社から届いた智香ちゃんのグラビアのサンプルを眺めたり、フェスのDVDを研究と称して観賞したり)

P(グラビアは上出来だと思う。あえて水着NGにしておいたのは我ながら正解だった)

P(全カットでこぼれる腋の存在感は、水着を着ていたのでは半減する。智香ちゃんは普通にスタイルいいからな)

P(隠すところと見せるところの緩急? 意外性? そういうのを――)

??「ねー、Pさん」

P「!!?」

-事務所-

??「どうもー」

P「?!」

??「あ、このイス座っていい? いいよね。しょっと」トス

P「えーっと……?」

??「あ、そういやおしゃべりすんの初めてかなあ。ってかその不審げな顔、もしかしてあたしのこと知らない?」

P「あ、いえ。それはさすがに」

??「ほんとにー? じゃあほら、あたしの名前言ってみてよ」

P「塩見周子さん」

周子「お、ぴんぽんぴんぽーん。よかったー、同じ事務所の人にも知られてないのかと思ったよー」

P「いや、うちの準エース格ですし……知名度は相当でしょう」

周子「ふふん、まーね。最近はちょっとがんばってるよ。変に忙しくなってきてちょい疲れ気味」

P「でしょうね。そんなお疲れな塩見さんが僕に何か?」

周子「あー、うん。ちょっとした野暮用っていうやつ」

P「何でしょうね」

周子「……こっひー、調子どう?」

P「こっひー……小日向さんですか?」

周子「そ」

P「……そうか。塩見さんの担当プロデューサーって」

周子「うん。先Pさんね」

周子「こっひーはあたしよりちょっとだけ先輩なんだけどさ」

周子「年は下だし、どうも危なっかしかったり。ほっとけないコだったんだよね」

P「……」

P「僕が見ている分には、何も問題なく仕事をこなしています」

P「一人で現場に行くのも平気だし、ミスもしない。……たまに笑顔に翳りが見られるような気もしますが」

P「ただの気のせいなのかもしれません」

周子「そ。……歌の仕事は?」

P「歌?」

周子「そ、歌」

P「いえ、歌の仕事は……そういえば、俺が受け取った小日向さんのスケジュール」

P「びっしり埋まってたけど、歌の仕事はひとつもなかったな……」

周子「……ま、そりゃね」

P「……」

P「塩見さん」

周子「……その呼びかたさ、なんかくすぐったいんだよねー。背中がかゆくなる感じ。ちょっと掻いてくれる?」ズイッ

P「はい!?」

周子「へへじょーだんじょーだん。とりあえず、塩見さんは背中かゆくなるからやめね。シューコでいいよ」

P「はあ、わかりました。じゃあシューコさん」

周子「なに?」

P「シューコさんに聞くのは卑怯なのかもしれないけど」

P「何があったんですか?」

周子「やーだ言わない。本人から直接聞きなよー」

P「僕もできればそうしたい。でもとてもじゃないけど、先Pさんにも小日向さんにも直接聞く勇気が出ない」

周子「根性ないね」

P「……返す言葉もないよ」

周子「……」

周子「へへ、ごめんごめん。ちょっといじめ過ぎたかなー」ペロ

周子「そりゃキツいよね。失敗した張本人に「どんな失敗したんですかねえねえ!」なんて、普通聞けないよ」

周子「それが平気でできる人ようなだったら、あたし口利かないからね」

P「シューコさん……」

周子「……」

周子「そんなノリノリで話すようなことじゃないから、要点だけでいいよね」

P「ええ、もちろん」

周子「こっひーのデビューシングルは知ってるよね」

P「『Naked Romance』ですよね」

周子「そ。あれ出してから、こっひーはもんの凄く忙しくなったの」

P「でしょうね」

周子「で、ある日どっかのテレビ局の歌番組に出ることがあったんだけど」

周子「こっひー、風邪引いちゃって熱出してさ」

P「キャンセルしたんですか?」

周子「……それなら今みたいなことにはなってないよ。キャンセルしなかったの」

P「強行させたってことですか?」

周子「違う違う。こっひー、先Pさんに熱あること黙ってたみたい」

P「え……」

周子「知ってるかもしれないけど、ステージってすごくあっついんだよね」

周子「熱で湯だった頭で立ってられるとこじゃないんだ、とてもじゃないけど」

P「……小日向さんの失敗っていうのは」

周子「……ぶっ倒れちゃったんだよね。仕事中に」

P「」

周子「それだけならまだよかったけど、次に先Pさんだよ」

周子「アイドルに届いたファンレターの選り分けっていうのも、プロデューサーの仕事のひとつらしいけどさ」

P「それは僕はまだやってないな」

周子「みんなまだこれからでしょ。これから嫌でもやることになるって」

周子「話戻すねー。こっひーのその出来事のあと、先Pさんも結構参っちゃっててさ」

P「そりゃね……」

周子「いろんなことおろそかになっちゃって。それで先Pさんもやっちゃったんだ」

P「やっちゃった?」

周子「ふるいわけで弾くべきだったファンレタースルーしちゃって。こっひーが読んじゃって」

P「今の僕には実感がわかない話だな……」

周子「もちろんあたしも読んだわけじゃないし、変なのは先Pさんが弾いてくれてるから中身は想像でしかないけど」

周子「ファンレターくれるのってファンだけじゃないじゃん? アンチが出した手紙だってファンレターとして届くでしょ」

P「ああ……」

周子「それが決定的。それからこっひー、あの歌歌うの嫌になっちゃって」

P(『タイミングが悪かった』。CuPさんもそう言ってたけど)

P(悪いなんてもんじゃないな。最悪といってもまだヌルい)

周子「……」

周子「CD出してからのこっひーは忙しすぎたんだよね。当然先Pさんも忙しくなって」

周子「二人で仲良く疲れ切っちゃって。二人で仲良く……ずっこけちゃってさ」ハァ

P「……」

周子「ほんと、真面目すぎるのも考えものだよね。もっと気楽に、適当にさ。できないのかなあ」

P「……」

P「今、小日向さんの担当プロデューサーは僕です。でも僕は小日向さんのために何もしてあげられない」

周子「……何もしなくていいんだって。たぶん」

P「え」

周子「肩の力抜いて、気楽にやる。こっひーにとって今はそういう時期なんだよきっと」

周子「だからPさんもさ。何かしてあげようとか考えなくていいの」

P「そうなのかな」

周子「そ。ずっと一緒にいたこのシューコが言うんだから間違いないって」

P「そっか……」

周子「さってと、言うことは言ったし、あたしはそろそろおいとまするね」スク

P「あ、シューコさん」

周子「ん、なに?」

P「先Pさんによろしくね」

周子「ん、わかった。『美穂はもう俺のもんだグヘヘ』って言ってたって伝えとくねー」

P「とんだデマだ!」

周子「へへじょーだん。大丈夫だ、問題ないって伝えとくよ」

P(思いがけない来客から、思いがけない事実を聞けた)

P(当時の二人の心情なんて、簡単に推しはかれるようなものでもないけど)

P(それでも今またああやって笑っていられる)

P(強いんだなあ、女の子って)

P(それにしても、塩見周子さんか。初めて話したけど、不思議な目をした女の子だな。黒い宝石みたいだった)

P(掴みどころがなくて適当そうに見えるけど)

P(心配なんだろうな。小日向さんのことも、先Pさんのことも)

P(……何もしなくて、いいんだろうか)

P「はぁぁぁぁぁぁぁ……」

??「……」ヒョコ

P「どうしたもんかなぁ……」

??「……」ジー

P「うーん……うん?」

??「!」ギク

P「裕美ちゃん。どうしたのそんなとこでつっ立って」

裕美「お、お疲れさまですPさん」ペコ

P「うんお疲れ様。どうしたの? 何か話があるのかな」

裕美「べ、別に。レッスン終わったから、あいさつしに来ただけ」ツン

P「そっか。でもせっかくだからそんなつれないこと言わずに、少し話しようよ。ほらおいで」

裕美「う、うん」ムス

P「ここ座って」

裕美「はい」トス

P「レッスンどう? 裕美ちゃん的には順調?」

裕美「……全然」

P「ほう。どこがダメだと思う?」

裕美「たくさんありすぎて……トレーナーさんにも怒られてばっかり」

P「トレーナーさんは今はいいよ。裕美ちゃん的には?」

裕美「……ダンスって思ってたより難しいなって思う。でもやっぱり一番は」

裕美「表情……かな」

P「なるほどね」

裕美「美穂さんとか智香さんみたいな笑顔、どうしたらできるのかわからないもん……」シュン

裕美「もともとこんな目つきだし。どうにもならないのかなって」ハァ

P「……」

P「裕美ちゃんは目つきが悪いんじゃないんだよ。目もとに力が入ってるだけで」

裕美「……屁理屈っぽい」

P「もう、厳しいなあ。でもね裕美ちゃん、仮に君の言うとおり目つきや人相が悪かったとしても」

P「それは別にマイナスのことではないからね」

裕美「どうして……?」

P「そういう人がたまに見せてくれるとびきりの笑顔って、大きなカタルシスを持つからだよ」

P「王道的、悪く言えばベッタベタのギャップってやつだ」

裕美「かたるしす? ……よくわからないけど」

裕美「どっちにしても、うまく笑えてないから……意味ないと思う。それ以前の問題」

P「みんなと話してる時は普通に笑ってるのになあ。笑顔ほんとにかわいいのに。もったいないよなあ」

裕美「か、かかかわいいわけないよ//// 何言ってるのPさん////」

P「いや何言ってるんだってこっちが言いたいよ」

P「そうだなあ、楽しいこと思い浮かべれば笑えるとかよく言うけど」

裕美「それはしょっちゅうやってるけど……浮かばないの」

裕美「一生懸命何か思いだそうとして、うーんうーんってなって」

裕美「結局眉間にしわ寄っちゃって……怒られて」ショボン

P「ああ、目に浮かぶな」フフ

裕美「笑いごとじゃない……」

P「話変わるけどさ」

P「生で接する小日向さんはどう?」

裕美「!」

裕美「……やっぱり、すごくかわいいなって思う」

P「うん」

裕美「女の子って、アイドルって感じで」

P「ああ、そうだね。じゃあ裕美ちゃんから見て、小日向さんは今も輝いてるんだ」

裕美「はい!」ニコ

P(! いい笑顔だ)

P「あの歌、今も練習してたりする?」

裕美「あ、『Naked Romance』ですか? その……はい。こっそり練習してたり」

裕美「いつか、美穂さんと一緒に歌えたらなって、思ってたり……」

P「!」

P「なるほど……それは面白いかもしれないな」

裕美「じょ、冗談だよ。そんなの恐れ多くて……できないよ」

P「今はまだ、ね」

裕美「え?」

P「裕美ちゃん。こっそり練習続けてね」

裕美「え?」

P「もちろん小日向さんにも秘密でね」

P(裕美ちゃんが帰った後、頼子が貸してくれた名言の本をパッと開いてみた)

P(『包帯を巻いてやれないのなら、他人の傷に触れてはならない』という言葉をいただいた)

P(塩見さんにも言われた。「何もするな」と)

P(それが本当に正しいかどうかは誰にもわからない)

P(ただひとつ。憧れを抱くかわいい後輩の眼差しが、何か)

P(何か作用を与えてくれることを密かに期待している。そういう気持ちがあるのも確かだった)

今回ここまで。シューコ→美穂の呼び方違和感あるかな
みぽりんかこっひーの二択だったけど

たびたび長く空いて申し訳ない
他のSS読んだりしてたらいろいろ考えることがあってちょっと手が止まってた
息抜きに短いやつちょいちょい書いたりしてるんだけど、これ自体は必ず最後まで
書くから期待してくれてる人は最後まで付き合ってくれれば嬉しい

じゃあ投下ね。書き忘れてたけど前回ので美穂ちゃんひと区切り。あまり触らない方向

――10月中旬くらい

-CG社会議室-

社長「ってことみたい」

P「」

ちひろ「」

先P「……早い話が、ルールが変更されたということなんですか?」

社長「ってことみたい。まあね、今回から全国ネットでTV放送なんてバカ騒ぎにしちゃったもんだから」

社長「それに合わせた変更ってことなんじゃない? 改善か改悪かはわかんないね」

P「……あの」

P「そのルールだったら、私は出なくていいんじゃ……」

社長「ダメ♪」

P「先輩プロデューサーさんは他にもいるのに?」

社長「もうエントリーしちゃったもーん。ボクと、先Pくんと、Pくんで」

P「は」

社長「別にいいんじゃん? ルールがちょいとくらい変わってもやるこた同じでしょ」

社長「つまりそういうこと。じゃあ今回の緊急会議お開きね。みんな忙しいとこ時間ありがとう♪」

ちひろ「えらい急な話でしたね」

P「まあ、元のルールを知らない僕にはピンと来ない話なんですけど……」

ちひろ「とりあえず、変わってしまった以上はちゃんと確認しておきましょうね」ペラ

《Production Match Festival2013》概要

・各プロダクションから3ユニット選出 ←New!
・1ユニットvs1ユニットのLIVEバトルを3回行い、先に2勝したプロの勝利 ←New!
・勝敗は会場内の観客による声援pt投票で決する
・同点の場合は先にそのptに達したユニットの勝利
・1LIVEバトルの制限時間は5分

ちひろ「出場ユニットが3ユニットになるなんてね。前はもっと多かったんですけど」

P「社長も言ってたように、TV放送に合わせたってことなんですかね」

ちひろ「でしょうね。良くも悪くもスピード感命ですからTVは」

P「しかし、そんな貴重な3枠に一番キャリア浅いコたちを入れるなんて」

ちひろ「実際のところ、フェスのバカ騒ぎっぷりが好きじゃないってプロデューサーさんもいますから」

ちひろ「Pさんが出てくれてありがたがってる先輩さんもいると思いますよ」

P「それはそれでまた……」

ちひろ「まあつべこべ言わずやってみなさいな。せっかくのお祭りですからね」

ちひろ「ああそれと」

P「はい?」

ちひろ「衣装のこととかステージギミックのこととかも考えておいたほうがいいです」

P「というと?」

ちひろ「前に見たでしょ。フェスの演出に使われる特殊技術」

P「ああ、そういや……」

ちひろ「もちろん、Pさんのアイドルたちにもああいうのできますから。お望みとあらば」

P「なるほど……」

ちひろ「うちは、社長も先Pさんも、どちらかいうとアイドルの地力で勝負させる人ですから」

ちひろ「たぶん予算は結構ありますよ。金に飽かせちゃってオッケーです♪」

P「やな言い方」

ちひろ「ぶっちゃけた話、Pさんのアイドルたちはまだまだ知名度では負けますから」

ちひろ「そういう演出に凝ってみせていくやり方もありですからね」

P「……ですね。しっかり考えてみます」

TV『獄より湧き出でし黒き炎よ! 薙げ! 焦がせ! この穢れた大地を!(ほんとに火に囲まれてるみたいで怖いよう……)』ゴオオォォォォォォ

P「かっこいいなー火炎旋風……」

TV『島村卯月は負けないです! がんばります!! えへっ』ドヤ!ドヤ!

P「ドヤ顔かわいいなー……しかしこんなのがCGじゃないとか。技術の進歩ってすごい」

P「衣装に演出、ね……難しいな」

頼子「Pさん」ヒョコ

P「うお! おう頼子か。びっくりしたよ」

頼子「お疲れさまです…」

P「お疲れ様。今日は……あ、明日の打ち合わせか」

頼子「…はい。少し、早く来すぎました…」テヘ

P「座って待とうか。ほら」

頼子「はい。失礼します…」トス

頼子「…これは? DVDですか…?」

P「ああうん。前のフェスのDVD」

頼子「フェスって…なんだか、すごいイベントみたいですね」

P「すごい?」

頼子「演出とかが…すごく凝ってる、って」

P「ああ、知ってたのか」

頼子「ええ…小日向さんから聞いたんです…」

P「そっか。彼女は前回出てたんだ」

頼子「楽しかったって、言ってました…」クス

P「……頼子はさ」

頼子「は、はい…」

P「俺の熱苦しい説得にほだされてアイドルになったわけだけど」

頼子「い、いえ…」

P「地道にレッスン重ねたり、最近やっとTVに出るようになったりして……何か思うことはあった?」

頼子「思うこと…ですか?」

P「自分にはこれができてこれができないとか、こうなりたいこうしたいとか」

頼子「ああ……」

P「アイドルになる前となった後で、何か気持ちに変化はあったかな、って」

頼子「……」

頼子「…レッスンのおかげで…歌もダンスも、できるようになりました…」

頼子「でも、それはアイドルならできて当然のこと……武器にできるようなレベルでは…ありません」

P「……うん」

頼子「……」

頼子「私には……智香ちゃんみたいな天性の明るさはないし…春菜さんみたいに、一つのことにかける激しい情熱もない」

頼子「裕美ちゃんみたいに、アイドルへの強い憧れがあるわけでもなく…小日向さんみたいな、女の子らしい愛嬌もない」

P「あの、頼子?」

頼子「みんながとても、魅力的に見えて…私自身はどうなんだろう、って……」

P「よ、頼子。もしかして……辛いのか?」

頼子「…いいえ」

P「あれっ?」

頼子「…どうして私は、アイドルになろうと決めたのか……考えたんです」

頼子「縁遠いと思っていた…華やかな世界。私はきっと…変われると思った」

頼子「違う私に変われる…変わりたい、って」

P「変わる……」

頼子「ただの一般人からアイドルになる、という意味の変わるではなく…うん、うまく言えませんね…」ムム

P「裕美ちゃんのようなのとも違うの?」

頼子「裕美ちゃんは、もともと結構ちゃんと笑っていますから…」クス

P「うん、そうだよな」

頼子「それとも違って…そうですね……役を演じる、ということに近いかもしれません」

P「全然別の誰かになるような?」

頼子「その意味に近い…かな…うーん……」

P「難しいなあ……頼子らしいけど」

頼子「す、すみません……」モジモジ

P「いいよ。頼子は自己分析もちゃんとできる子なんだってわかったし」

P「頼子は17歳とは思えないほど落ち着いてるしきれいだし品もあるし、そこはじゅうぶん売りなんだけど」

頼子「い、いきなり……////」

P「アイドルとしてはインパクトに欠けるのは否めない。それは前から思ってたことなんだ」

頼子「…ええ」

P「変わりたい。そう言ったね。それは今も思ってるの?」

頼子「ええ」

P「そう……」

頼子「あ、でも……」ハッ

P「ん?」

頼子「愛梨さんとか、美波さんみたいな…セクシーなのは……////」

P「……ダメか」

頼子「ちょ、ちょっと、シュンとしてませんか…?」

P「気のせいだよ。それに頼子が言ってるのはそういう路線変更的なことじゃないんだろ」

頼子「…だと思うんですけど……Pさんと話していたら、わからなくなってきました……」

頼子「でも……」

P「うん?」

頼子「Pさんももともと、同じように考えていたなら…」

頼子「Pさんが示してくれるものを…望む形を……見せてほしい」ニコ

P「頼子……」

頼子「私はそれに応えられるように…精いっぱいがんばります」

今回投下以上です

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom