まどか「世界を縮めたい」【スクライド×まどか☆マギカ】 (616)

【スクライド】と【魔法少女まどか☆マギカ】のクロスssです。

基本は台本形式ですが、キツイ時は地の文入ります。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1394385158


QB「―――これで、契約は完了だ」

織莉子「ぅあ、あ、ああ......」

QB「どうかしたのかい?」

織莉子(いけない、彼らを解き放ってはいけない。彼らはこの世界を崩壊へと導く!)

QB「顔が真っ青だよ。具合でも悪いのかい?」

織莉子(どうすれば阻止できる!?)



織莉子(最強の魔女と...サングラスの男...!)

―――――――――――――――

第一話『邂逅』


ほむら「こんな時に使い魔が出るなんて...」

ほむら「とにかく、まどかを守らないと」タタタッ



使い魔「キャッキャッ」ワラワラワラ

さやか「じょ冗談よね、コレ!」

まどか「」

ほむら(いた!ひとまず時を止めて...)

「衝撃のォォォーーーファーストブリットォォォォォ!」ズガァァァン

ほむら(え?)


クーガー「お怪我はありませんでしたか、お嬢さん方!
このような気味の悪い空間に迷いこんでしまうなんてさぞかし恐ろしい体験だったでしょう。
しかしもう大丈夫です。最速を信条としているこの私、ストレイト・クーガーにかかればこの程度の障害など、即急即時即座即納排除してご覧にいれましょう!ハハハッ、いくぞ!」

ほむら(な、なんなの、あの男...早口・髪型・猫背・黒サングラス...怪しすぎる!)

クーガー「ハッハッハ、遅い!遅すぎる!俺の前ではなにもかもがスロウリイィィィィィ!!」ドカッ!バキィ!

まどか「す、すごい...」

さやか「あの変なヒゲ達を蹴りだけで...」

クーガー「あぁ...また世界を縮めてしまったぁ...」

まどか「あ、また景色が...」




マミ「な、なにが起こってるの...?」

マミ「えっと...あなた達、けがは無い?」

まどか「え?あ、は、はい...」

クーガー「ハハッ、心配せずとも、俺に追いつける者など存在しませんよ」

マミ「そ、そうですか。あなた達がキュゥべえを助けてくれたのね」

まどか「あの、あなたは...?」

クーガー「私の名は、ストレイト・クーガー。なによりも速さを求める男です。年齢は...」

まどか「いえ、あなたじゃなくて...」

クーガー「あぁ、すみません」

マミ「私は巴マミ。あなた達と同じ見滝原中の3年生。そして、キュゥべえと契約した魔法少女よ」

さやか「魔法少女?」

マミ「色々と聞きたいことはあるかもしれないけれど...その前に」



ほむら「......」

クーガー「彼女は?」

まどか「えっと、暁美ほむらちゃんって名前で、私のクラスの転校生なんですけど...」

さやか「コスプレして、この生き物とまどかを襲ってたんですよ!」

クーガー「...なるほどねえ」

マミ「魔女は逃げたわ。仕留めたいのなら、今すぐ追いかけなさい」

ほむら「...私が用があるのは」

マミ「消えろと言っているの。キュゥべえを傷付けられたとあっては、いくら穏やかさを信条としている私でも、いささか語気が荒くなるわ」

ほむら「......」クルッ

クーガー「ちょっと待った、転校生さん」

ほむら「...何かしら」

クーガー「用事があったのでしょう?この中の4人...いや、そこのピンクのお嬢さんか猫に」

マミ「ちょ、ちょっとあなた、何を...」

クーガー「転校生さんが用があるのは、あなたではなく、彼女たちだ。ならば、彼女が拒否さえしなければ、用件を伝える権利くらいある筈です」

マミ「得体のしれない上に、キュゥべえを傷付けた人の言うことに耳を貸せと?」

クーガー「そういった先入観で、得られる情報を減らしてしまうのは勿体ないと思いませんか?情報の真偽は聞いた後で決めればいい」

マミ「......」

クーガー「なあに、会話するだけならこの位置でも出来ます。危害を加えそうになったら、その時に止めればいい。それで構いませんか、お嬢さん?」

まどか「え?あ、あの...どうして、この子を傷付けてたのかは教えてほしいかな...」

クーガー「だ、そうですよ」

ほむら「...鹿目まどか。それに、美樹さやか」

さやか「...なんだよ」

ほむら「そいつと契約だけは絶対にしないで。さもなくば、全てを失うことになる...」

まどか「!」

まどか(今日言ってた言葉...)

さやか「どういうことよ、それ」

ほむら「......」

タッ

さやか「あっ!...行っちゃった。答えになってないし」



ほむら(キュゥべぇが見える上に、使い魔をモノともしないあの強さ...あの男、ただのイレギュラーでは無さそうね)

ほむら(少し、様子を見ておくべきね。イレギュラーが必ずしも私の利になるとは限らないし)

―――――――――――――――――

マミホーム


マミ「キュウべえに選ばれた以上、あなた達も無関係じゃないものね。ある程度の説明は必要かと思って」

さやか「うんうん、何でも聞いてくれたまえ~」

まどか「さやかちゃん、それ逆...」

マミ「フフッ」

クーガー「しかし、俺もお邪魔してよかったんですか?」

マミ「この子たちを助けてくれた上、キュウべえが見えるのなら、無関係じゃありませんから」

マミ「これがソウルジェム」

まどか「うわぁ~綺麗...」

マミ「キュウべえに選ばれた女の子が、契約によって生み出す宝石よ。魔力の源であり、魔法少女の証でもあるの」

さやか「契約って?」

QB「僕は、君たちの願い事を何でも一つ叶えてあげる」

さやか「えっ、ホント!?」

まどか「願い事って...」

QB「なんだって構わない。どんな奇跡だって起こしてあげられるよ」

クーガー「奇跡...ねえ...」

マミ「どうかしました?」

クーガー「いやあ、願い事を叶えてくれるなんて、中々太っ腹な奴だと思いまして」

QB「もちろん、ただというワケではないんだけどね。契約と引き換えにできあがるのがソウルジェム。この石を手にした者は、魔女と戦う使命を課されるんだ」

まどか「魔女...?」

さやか「魔女ってなんなの?魔法少女とは違うの?」

QB「願いから産まれるのは魔法少女だとしたら、魔女は呪いから産まれた存在なんだ。魔法少女が希望を振り撒くように、魔女は絶望をまき散らす。
しかも、その姿は普通の人間には見えないからタチが悪い。不安や猜疑心、過剰な怒りや憎しみ...そういう災いのタネを世界にもたらしているんだ」

マミ「理由がハッキリしない自殺や殺人事件は、かなりの確率で魔女の呪いが原因なの。形のない悪意となって、人間を内側から蝕んでいくの」

QB「普段は結界に隠れ潜み、人前には姿を現さないから、誰も気づくことができない。さっき君たちが迷いこんだ、迷路のような場所がそうだよ」

クーガー「キュゥべえ、俺は見えてたんだが、そこのところはどうなんだ?」

QB「君はまた特別だね。何故か僕を知覚でき、使い魔たちにも触れることができる...君は、一体何者なんだい?」

クーガー「なぁに、ただの速さを求める文化人さ」

QB「わけがわからないよ」

さやか「そういえば、なんでクーガーさんはあたしたちを助けてくれたの?」

クーガー「実は俺、こう見えても人と違うことをするのが大好きで!愛車に乗って気ままに一人旅をしたいなぁ~とか思って初めて来たこの町をぶらついてたら、何やら不穏な気配がしたのでそちらに向かったところ、
変なひび割れみたいなところからあ~れ~な悲鳴が聞こえたので、これは事件に違いないと予感した俺は即座にひび割れの中へダイブしたところ、いかにもヤラレ役な奴らに襲われているあなた方を発見したので、
俺の中の正義感がフツフツと湧いてきたし、か弱い女性を助けることは精神的にも他のことでもお礼があるかなと思った俺は最速であなた方のもとへと参上したというわけです!おわかり頂けましたか、あやかさん?」

さやか「え、えっと...一応わかったかな...あと、あやかじゃなくてさやかね」

クーガー「ああっと、すみませぇん。人の名前を覚えるのが苦手で」

まどか(やっぱり...変な人なのかな)

マミ「...とにかく、キュゥべえに選ばれたあなた達には、どんな願いでも叶えられるチャンスがある。でもそれは、死と隣り合わせなの」

さやか「悩むなぁ...」

まどか「うぅ...」

クーガー「ためらっているうちは、ならない方がいい。ですよね、マキさん」

マミ「マミです。そうね、強制ではないから、生半可な覚悟では契約しないほうがいいわ」

まどか「...そういわれても、まだ魔法少女がどんなものなのか、よくわかってなくて...」

マミ「...なら、二人ともしばらく、私の魔女退治に付き合ってみない?」

まどさや「えっ?」

マミ「魔女との戦いがどのようなものなのか、その目で確かめてみればいいわ」

――――――――――――――


さやか「願い事か...まどか、何か見つかった?」

まどか「ううん。いざ探してみると全然見つからなくて」

さやか「だよねぇ。中々、命と釣り合う願いなんてねぇ?...でも、正義の味方、かぁ...」

クーガー「俺は、あまりオススメしませんがねえ」

まどか「クーガーさん?」

クーガー「こんな可愛らしいお嬢さんを危険な戦場に送り込むなんて、俺には考えられませんから」

まどか「か、可愛らしい!?///」

さやか「おっ、このさやかちゃんの嫁の愛くるしさが分かるとは、見どころあるねぇクーガーさん!」

クーガー「ハハッ。当然の事を言っただけさ、あやか」

さやか「さやかね」

クーガー「スマンスマン」

まどか「クーガーさんは、どこに住んでるんですか?」

クーガー「実は、こちらには来たばかりでね。まだ、この町のことを把握しきれてないんですよ」

さやか「来たばかりって...引っ越してきたの?」

クーガー「いや、この町に長居する予定はないな。用事が済んだら、引き上げるつもりさ」

さやか「用事って?」

クーガー「まあ...派遣社員みたいなものだからな。仕事の一つだよ」

さやか「ふーん...なんだか、大変そうだね。おっと、あたしたちはこっちだけど...クーガーさんは?」

クーガー「この辺りだな」つ地図

さやか「逆方向だね。ちょっと遠いし...」

クーガー「なぁに、この程度の距離、俺にかかれば大したものじゃあないさ。なんたって、俺は最速の男だからな!」

まどか「あ、あはは...」

クーガー「さて、俺としては、お二方とも安全安心最速確実にご自宅に送り届けたいのですが、実は大切な用事をまだ済ましていないんです。
あまり時間がないので、名残惜しいですがここでお別れです」

さやか「うん、また会おうね、クーガーさん」

まどか「さようなら、クーガーさん」

クーガー「それではごきげんようっ!のどかさん、それとあやか!」タタタッ

さやか「さ・や・か!...何遍言ったらいいんだろ」

まどか「ウェヒヒ。でも、キュウべえの名前だけは一回も間違えてないよね」

さやか「そういやそうだったね。って、もうこんな時間!?よし、急ぐぞまどかぁ~!」タタタッ

まどか「い、いきなり走らないでよぉ~!」タタタッ

>>16
×キュウべえ→○キュゥべえ

ビルの屋上

ほむら(多少は流れが変わったようだけれども...マミの魔女退治を見学するという本筋は変わらなかった)

ほむら(キュゥべえと会わせてしまった時点で手遅れなのかもしれないけれど...どうしたものかしら)

「オー!ジャマジャマ!」

ほむら「!?」クルッ 

クーガー「これ今度流行らそうと思うんですよ。つまらないですか寒いですか引きましたか痛かったですか?」

ほむら(なぜここにこの男が!?今まどか達と別れたばかりの筈!いや、それより)

ほむら「なぜここが分かったの!?」ジャキッ

クーガー「やだなぁ、そんなに身構えないで下さいよぉ。いえね、俺達がマキさんの家へお邪魔してから妙に熱い視線を感じていたものですから、
ひょっとして俺のファンでもいるのかなと思って、ここに最速で参上したわけです。暁美のむらさん」

ほむら「...のむらじゃなくてほむらよ」

クーガー「おっと、失礼」

ほむら「それで、用件は?それが終わったら今すぐ消えなさい」

クーガー「こいつぁ手厳しい。俺はただ、あの二人の言う謎の転校生がどういう人物かを見に来ただけです。あなたに危害を加えようなんて考えはこれっぽっちもありませんから」

ほむら「......」

クーガー「ん~。どうすれば信用してくれますかねぇ」

ほむら「...まずはあなたが何者かを教えなさい。話はそれからよ」

クーガー「先程の説明では物足りなかったですか?ああ、あの盗聴器なら気付かれないよう回収しておきましたから」

ほむら(盗聴器も見抜かれていた...!?)

ほむら「ええ。あなたが隠していることを全て話しなさい」

クーガー「構いませんよ。今ならキュゥべえの奴もいませんし」

ほむら「キュゥべえ?」

クーガー「あなたはキュゥべえを敵視しているようですから。それに、俺も奴はなんとなく気に入らないんでね」

マミホーム

マミ「お父さん、お母さん。今日ね、二人も後輩ができたの」

マミ「それでね、私のことを話しても、怖がったりしなかったの。...とっても嬉しかった」

マミ「...もし、魔法少女になりたくないって思っても、一緒にいてくれるかな?」

QB「あまり他人を信用しすぎない方がいいんじゃないかな。佐倉杏子のことを忘れたわけじゃないだろう?」

QB「それに、ストレイト・クーガーや、暁美ほむらのようなイレギュラーはどんな行動をとるかは分からない」

マミ「クーガーさん、か...」

マミ(正直、彼が一番得体のしれない人なのよね。あんな身体能力、普通では有り得ないわ)

―――――――――――――


クーガー「以上が、俺の身の上話です」

ほむら「...その話自体は信用するわ」

クーガー「おや、以外ですね。てっきり笑われるものかと」

ほむら「でも、あなたが敵ではない証拠にはならない」

クーガー「まあ、そうでしょうなあ。信頼なんてものは、一朝一夕で得られるものじゃあない」

ほむら「そうよ。だから、今後魔法少女には関わらない方がいいわ。...あなた自身のためにも」

クーガー「?それはどういう」

カチッ

クーガー「ことで...って、あらら?」キョロキョロ

クーガー「消えた?...俺が遅い?俺がスロウリィ!?」

クーガー(...いや、違うな。俺は瞬きすらしていない。だが、音もなく視界から消えたんだ。数コンマの間も無く)

クーガー(仮に速さだってんなら、移動する際に風や音は必ず生じる。ましてや、こんな狭い屋上でまともに動けるわけがない...おそらく、彼女の魔法ってやつだな)

クーガー「魔法少女...か。マミさんといいほむらさんといい、ガードのお堅い人達だ」

ほむら(あの男、隙だらけに見えて全く隙がない。...おかげで時間停止を使わざるを得なかった)

ほむら(それにしても、『アルター能力』に、『ロストグラウンド』や『大隆起現象』...どれも、聞いたことのない単語ばかり)

ほむら(住んでる世界が違うとしか思えない。イレギュラーにしても程があるわ)

ほむら(でも、簡単に信用はできない...安易に信用すれば、後の憂いに繋がる)

ほむら「...今度こそ、まどかを救ってみせる...!」

次回予告

第2話『巴マミ』

魔法少女 その甘美な響きとは裏腹に、情念渦巻く戦場の徒

切り開かれるのは希望か絶望か、巴マミの弾丸が、今放たれる

人は、運命には抗えないのか

今日はこれで終わりです。

第二話
『巴マミ』

**********************

クーガー「精製...ですか」

ジグマール「ああ。君は能力不足だと判定された。そのため、その能力不足を補うために一度本土に行ってもらう」

クーガー「成る程、俺達ネイティブアルターは実験台というわけですか」

ジグマール「...すまない。だが、こうでもしなければ...」

クーガー「『本土の奴らにアルター使いを根こそぎ狩られてしまう』、でしょう。なあに、俺は本土に行くことをちっとも気にしちゃいませんよ。
なにより、【向こう側の世界】とやらにも個人的な興味がありますしね」

ジグマール「どこでその言葉を...!?」

クーガー「この前、ネイティブ狩りに来てた本土のアルター使いと遭遇しましてね。その時に聞き出しました」

ジグマール「本土のアルター使いを倒しただと!?...では、能力検査で君はわざわざ力を抑えていたというのか?」

クーガー「ありゃ、失言だったかなあ...ま、そういうことになりますね」

ジグマール(何故ネイティブでも有名な男が能力検査にかかるか疑問に思っていたが...全てを知ったうえでの行動か。全く、この男は...)

クーガー「それじゃ、行ってきます。俺自身の文化の真髄を見つけにね」

**********************

学校

さやか「ねー、まどかぁ。...願い事、何か考えた?」

まどか「ううん、さやかちゃんは?」

さやか「あたしも全然。なんだかなぁ...いくらでも思いつくと思ったんだけどなぁ...。欲しいものもやりたいこともいっぱいあるけどさ」

さやか「命懸けってところでやっぱ引っかかっちゃうよね。そうまでする程のもんじゃねえよなぁーって」

まどか「うん...」

QB「意外だなぁ。大抵の子は、二つ返事なんだけど」

さやか「マミさんやクーガーさんにも、よく考えろって言われてるのもあるけど...きっと、あたし達がバカだからだよね」

まどか「え~...そうかなぁ?」

さやか「そう、幸せバカ。別に珍しくなんかない筈だよ。命と引き換えにしてでも叶えたい望みって」

さやか「そういうの抱えてる人は、世の中に大勢いるんじゃないのかな」

さやか「願いが思いつかないってことは、その程度の不幸しかしらないってことじゃん。恵まれすぎてバカになっちゃってるんだよ」

まどか「......」

さやか「...なんで、あたし達なのかな?こういうチャンスが欲しいと思っている人は、他にもっといる筈なのに...」

まどか「さやかちゃん...」

コツコツ

ほむら「......」

まどか「あっ...!」

さやか「き、昨日の続きかよ...!?」

ほむら「いいえ、そのつもりはないわ」

ほむら「そいつが、鹿目まどかと接触する前にケリをつけたかったけれど...今さら、それも手遅れだし」

まどか「......」

ほむら「で、どうするの?あなた達も、魔法少女になるつもり?」

さやか「あんたにとやかく言われる筋合いはないわよ!」

ほむら「昨日の話...憶えてる?」

まどか「うん...」

ほむら「なら、いいわ。忠告が無駄にならないよう、祈ってる...」

まどか「待ってほむらちゃん!」

ほむら「......?」

まどか「ほむらちゃんはその...どんな願い事をして魔法少女になったの?」

ほむら「......っ!」

タッ

さやか「行っちゃった...なんなんだろう、あいつ」

――――――――――――――――――

マミ「それじゃあ、魔法少女体験コース第一弾いってみましょうか」

さやか「へっへへ、あたしは準備万端ですよ」ゴソゴソ

さやか「じゃん!伝家の宝刀金属バット!倉庫から引っ張り出してきた!」

マミ「い、意気込みはいいわね...鹿目さんは?」

まどか「えっと、わたしはこんなの考えてみました」

マミ「これは...魔法少女の衣装かしら?」

まどか「はい!」

さやか「...プッ!あははは!あんたには敵わないや!」ゲラゲラ

マミ「そっ...それじゃ行きましょうか」クスクス

まどか「そ、そんなに笑わないでよぉ!」

―――――――――
結界の奥

マミ「あれがこの結界の魔女ね」

さやか「うわあ、グロ...」

マミ「二人とも、危ないからここで見ててね」

クーガー「ご安心下さい、彼女たちは俺がお守りしますから!」

一同「!?」

クーガー「どうも、お嬢さん方。まさか、またお会いすることができるとは」

マミ「...どうしてあなたがここに?」

クーガー「いえね、たまたまこの辺りをうろついていたら、
道中なにやら不穏な気配がしたのでそちらに向かってみたらなんとそこには変な空間ができていて!
事前にあなたの話を聞いていてコイツは危険だと即座に理解した俺だが、もし誰かが巻き込まれていたりしたら大変だと思い
最速で確認しに来たところ、偶然にもあなた達を発見したというわけです」

マミ「...本当かしら?」

クーガー「おや、信用できませんか?なら、あの魔女とは俺が闘いましょうか?」

マミ「い、一般人にそんなことをさせるわけにはいかないわ!...この子達をお願いします」

QB(......)

―――――――――――

マミ「ティロ・フィナーレ!」カッ

魔女「」シュウウウ

さやか「マミさんカッコイー!」

マミ「もう、見世物じゃないのよ。ちゃんと今後の参考にしてくれてる?」

さやか「い、一応は...」

マミ「困った後輩ね」

まどか「でも...やっぱり迷っちゃいますよね。中々願いなんて思いつきませんし」

クーガー「無いなら、無理に作る必要なんてありません。ですよね、マキさん」

マミ「マミです。...ええ、そんな願いで契約したら絶対後悔するから、焦る必要は無いわ」

まどか「マミさんはどんな願いを...?」

マミ「私は...生きること、かしらね」

マミ「数年前になるわ。家族でドライブに行った時、大規模な交通事故に巻き込まれてね。そこでキュゥべえと出会って...考える余裕もなかったってだけ」

まどか「......」

マミ「あなた達には選択肢がある。だから、きちんと考えてほしいの。それは、私にはできなかったことだから」

さやか「...あのさ、マミさん。願い事って、自分のことじゃないと駄目なのかな?」

マミ「というと?」

さやか「例えば、あたしなんかよりずっと困ってる人がいて、その人のために願い事をするとかできるのかなって...」

QB「前例が無いわけではないよ。珍しくはあるけれどね」

マミ「あまり関心はしないわ。...あなたは、その人の夢を叶えたいの?それともその人の夢を叶えた恩人になりたいの?」

さやか「!」

マミ「他人の願いを叶えるのなら、なおのこと自分の望みをはっきりさせておくべきだわ。同じようでも、全然違うことよ、これ」

マミ「...キツイ言い方でごめんね。でもそこをはき違えたまま進んだら、きっとあなた後悔することになるから」

さやか「...うん、そうだね。あたしの考えが甘かった。ごめん」

マミ「それと、クーガーさん」

クーガー「はい?」

マミ「あなたは、無闇に魔女の結界に入らないでください。あなたには、契約する選択肢すらないんですから」

クーガー「俺は邪魔者ってわけですか?」

マミ「そういうわけじゃありません!ただ、危ないから...!」

クーガー「わかってます。あなたのアドバイス、肝に銘じておきますよ」

マミ「......」

―――――――――――――
翌日、病院外

まどか「上条君のお見舞いに行ってたの?」

さやか「ん、まあね。なんか今日は会えなかったけど」

QB「二人とも、随分迷っているようだね」

まどか「ごめんね、QB。マミさんが言ってたように、ちゃんと考えて決めたいんだ。
それに、クーガーさんみたいに心配してくれる人もいるし...」

QB「そうかい。まあ、出来るだけ早い方が僕としては助かるんだけどね」

さやか「あんまり女の子を急かすもんじゃ...あれ?」

まどか「どうしたの?さやかちゃん」

さやか「あそこの壁に刺さってるのって、魔女の出てくる卵じゃ...!」

まどか「!」

QB「危険だ!早く逃げないと!」

さやか「...マミさんの携番知ってる!?」

まどか「き、聞くの忘れてた...」

さやか「...なら、マミさんを呼んできて。私はこれを見張ってる!」

まどか「そんな!無茶だよ!」

さやか「もしこれが魔女になったら大変なことになる...そんなの見過ごせない!」

さやか(それに...この病院には恭介が...)

QB「...なら、僕も残るよ。最悪の事態が起きたら、さやかを魔法少女にしてあげられる」

まどか「キュゥべえ...」

さやか「...できればそうなって欲しくないけどね」

QB「さあ、早く行くんだ!」

まどか「う、うん!気をつけてねさやかちゃん!」ダッ

―――――――――
数分後

マミ「あの子ったら無茶して...キュゥべえ、状況は?」

QB『大丈夫、まだ羽化する気配はないよ』

QB『ただ、あまり刺激するのはよくないから、魔力は極力抑えて来てくれ』

マミ『了解、ありがとうね』

まどか「さやかちゃん達...大丈夫かな」

マミ「今のところ大丈夫みたいよ。さあ、行きましょ」

―――――――

まどか「うぅ......」

マミ「大丈夫?鹿目さん」

まどか「ごめんなさい...やっぱり、この空間に慣れなくて...」

マミ「怖くて当然よ。...むしろ、この空間に全く怖気づかないクーガーさんのような人の方が特殊なのよ。でも、大丈夫。私がついているから」

ほむら「待って」

まどか「ほむら...ちゃん?」

マミ「何の用かしら。言った筈よね、姿を現すなって」

ほむら「今回の魔女は私が仕留める。あなた達は下がっていて」

マミ「そうもいかないわ。美樹さんとキュウべえが待ってるもの」

ほむら「彼女達の安全なら保障するわ」

マミ「信用すると思って?」シュルル

ほむら(しまっ...!)

マミが手をかざすと共に、抵抗する間もなくほむらはリボンにより縛りあげられた

マミ「ちゃんと帰りに解いてあげるから、心配しないで」

マミ「行きましょう、鹿目さん」

まどか「は、はい...」

ほむら「待って...ぐっ...」ギチリ

まどか「ほむらちゃん、私達を心配してくれたんじゃ...」

マミ「そうかもしれない。でも、万が一のこともあるわ」

マミ「...彼女は信用できない」

まどか「で、でも...」

マミ「あなたは、私が負けると思う?」クスッ

まどか「い、いえ...そういうわけじゃ...」

マミ(...大丈夫よ。一人でも、ちゃんと戦える...)

まどか「...マミさん、なんだか無理してませんか?」

マミ「え...?」

まどか「あの...マミさんが望むなら、私、いつでも契約しますからね」

マミ「で、でもあなたは願いがまだ無いんじゃ...」

まどか「私、ずっと自分が嫌いだったんです。気が弱くて何にもできない自分が...
でも、そんな私を変えることのできるチャンスがあることをマミさんは教えてくれた...
だから、そんなマミさんの手助けが出来たら、凄く嬉しいなって...」

マミ「...私と一緒に戦ってくれるって言うの?」

まどか「はい!」

マミ「...ありがとう。その気持ちはとっても嬉しいわ。でも、願い事はちゃんと決めなきゃ駄目よ?」

―――――――――

マミ「お待たせ、美樹さん」

まどか「大丈夫だった!?」

さやか「平気平気。なんの変化もなかったからね」

QB「気をつけて、出てくるよ!」

シャルロッテ(人形)「......」

マミ「せっかくのところ悪いけど...一気に決めさせて貰うわよ!」

――――――――――

ほむら(まずい...早く解かないと、巴マミが...)

クーガー「どうしたんですかぁ?こんなところで」

ほむら「ストレイト・クーガー...!?」

ほむら(何故ここに...?)

クーガー「そういうプレイも文化的でそそられますが、何もこんな所でやらなくても...」

ほむら「じょ、冗談言ってないで、早く解いて...お願い...」

クーガー「分かりました。...このリボンはどうすれば?」

ほむら「好きにしていいから...早く...」

バァンバァンバァン

ほむら「...え?」トスッ

クーガー「どうやら、人為的なもののようでしたが...この先に彼女達が?」

ほむら「え、ええ...」

ほむら(リボンが粒子状に分解されて、脚にブーツのような物が...?これが、アルター能力...)

クーガー「では、道案内をお願いしますよ、のむらさん!」ヨイショ

ほむら「ほ、ほむらよ。というより、なんでお姫様抱っこ?」ワタワタ

クーガー「彼女達に最速で追いつくためですよ!では、とくとご堪能下さい、のむらさん!私の能力、ラディカル・グッドスピードをぉぉぉぉ!!」

ほむら「だ、だから、私はほむ...らぁぁぁぁ~~!!?」

――――――――――

マミ「ティロ・フィナーレ!」

さやか「やったあ、決まったぁ!」

シャルロッテ(恵方巻き)「―――――――――」ニュルン

マミ「!?」

マミの全身は死による恐怖に支配された。

眼前にまで迫りくる魔女の牙に、身動き一つとれない。

食べられる―――そう脳裏によぎった。






――――――――――瞬間、一陣の風が吹いた、気がした

シャルロッテ「~♪」モグモグ

さやか「マミさん...?」

まどか「うそ...そんな...」

QB「...まどか、さやか、今すぐ僕と契約を!」

「その必要はないわ」

さやか「っ...転校せ...!?」クルッ

ほむら「......ぅぷっ...」フラフラ

まどか「ほ、ほむらちゃん......?」

さやか「...なんで、そんなにフラついてるの?ってそんなことより、マミさん!」

ほむら「心配しないで...」ウプッ

シャルロッテ「???」ポカン




マミ「...え?」

クーガー「40秒ジャスト...また世界を縮めてしまった...」

さやか「ク、クーガーさん!?」

まどか「ほむらちゃん、どういう事なの!?」

ほむら「そんなの...私に聞かれても...困るわよ...あぁ、気持ち悪い」フラフラ

まどか「...ほむらちゃん、本当にどうしたの?」

ほむら「ただ言えることは...あの男が速すぎたってことよ...」

****************************
回想

クーガー「この世の理はすなわち速さだと思いませんか?物事を早く成し遂げればその分時間が有効に使えます。
遅いことなら誰でもできる20年かければバカでも傑作小説が書ける。有能なのは月刊より週刊、週刊よりも日刊です。
そう、速さこそ有能なのが文化の基本法則、そして俺の持論です!聞いてますかのむらさぁ~~ん!!」

ほむら「あ...余り跳び回らないで...」グッタリ

クーガー「おおっと、マキさんがピンチのようだ!これからあなたをのどかさん達の元へ無事着地させ
そのまま俺は地面を蹴り最速で彼女を助けだします。準備はよろしいですね!?」

ほむら(早く...降ろして...)
*****************************

ほむら(今思い返すだけでも、また酔いが...)ウッ

さやか「ギャー!こんなとこで吐くなぁ!」

まどか「ふ、袋、袋...そうだキュゥべえ、背中の丸いやつ開けて!」

QB「ちょっ」

ほむら「...だ、大丈夫...大分マシになったから、吐きはしないわ...」フゥー

クーガー「お怪我はありませんか?マキさん」

マミ「マ、マミです...あ、あの...」

クーガー「聞きたいことは色々あるかもしれませんが、一先ずあれを倒してからにしましょう」

シャルロッテ「」ガパァ

マミ「ひっ...!」ビクッ

フッ ガチン

シャルロッテ「?」キョロキョロ

クーガー「マキさんをお願いします」

さやか「い、いつの間に!?」

マミ「あ...あ...」ガタガタ

まどか「マ、マミさん、大丈夫ですから、落ち着いてください...」ギュッ

ほむら「あなたはどうするつもりなの?」

クーガー「奴の相手をします。この中で一番動けるのは俺のようですから。あなたはここで彼女達を守ってあげて下さい」

ほむら「...分かったわ。あの魔女は手強い。決して油断しないことね」

クーガー「了解しました。それでは行ってきます」タッ

さやか「あんたは行かなくていいの?」

ほむら「私はこっちを任されたから。それに...ね?」フラフラ

さやか「ご、ゴメン。...ホントに何があったのさ?」

ほむら(それに、あの男の実力を測るのにいい機会だものね)

QB(...これで少しは分かるかな、あの男が何なのか...)

クーガー「よう、恵方巻き。次の相手は俺だ」

シャルロッテ「」ガパァ

クーガー「確かに、パワーは中々のもんだ。噛みつかれたらひとたまりもないくらいにな。だが!」

ドゴォ

シャルロッテ「!!?」

さやか「たった一蹴りで魔女の顎をカチ上げた!?」

クーガー「俺を喰うにはまだまだ足りない!足ぁりないぞぉ!」

クーガー「お前に足りないものは...それは!」

そのままクーガーは、魔女の背中へと跳び移り、目にも止まらぬ速さで駆け抜ける

クーガー「情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ!そして何よりもぉぉぉ―――!」

それだけに留まらず、高台にある人形の形をした魔女を踏みつけ、クーガーは空高くへと跳び、天井に足をつける。

魔女がクーガーを喰らいつこうとするがもう遅い。

クーガー「速さが足りない!」

足のギミックが展開し、足裏からパイルが打ちだされる。

更に、パイルのピストン運動により天井を蹴り、口を開けた魔女の中へと向かって足を突き出した格好そのままに高速で突き進む!

クーガー「衝撃の...ファーストブリットォォォ!!」

研ぎ澄まされたその速さは、魔女の体内においても失われることなく突き進み続け、ついには魔女の身体を貫いた


―――――――
病院外

マミ「ごめんなさい...暁美さん...クーガーさん...」ポロポロ

クーガー「いえいえ、命があってなによりです」

ほむら「わかったかしら、鹿目まどか、美樹さやか。一瞬でも気を緩めれば死ぬことになる...
これが魔法少女になるということよ」

さやか「転校生...」

ほむら「魔法少女になんて、絶対にならない事ね。それと、ストレイト・クーガー」

クーガー「はい?」

ほむら「明日、改めて会えるかしら」

クーガー「構いませんが...もしかして、デートのお誘いですか?」

ほむら「あなたには色々と聞きたいことがあるだけよ。学校が終わってからでお願いするわ」

クーガー「あらら...相変わらずツレないお人だ」

QB(やれやれ、この分じゃ契約はさらに難しくなっただろうね。マミのストレイト・クーガーと暁美ほむらに対する認識も随分変わるだろうし)

QB(...ただ、あの男の能力がどうやって発生しているかはなんとなくわかったかな)

QB(もし、僕の仮説通りならその時は...)

QB(まぁ、もう少し様子を見させてもらうよ、ストレイト・クーガー...)

―――――――――――――

グチャ グチャ

「パパ...ママ...?」

魔女「foaff@flfpふぉぱ」ガパァ

「いや...いやぁ...!」

ガガガ

魔女「!?」

「え...?」

織莉子「危なかったわね。でも、もう大丈夫よ」

「おねえちゃんは、だれ?」

織莉子「私の名は、美国織莉子。世界を救う魔法少女よ」

第3話 『スーパーピンチ』

窮地!追い詰められたものはみな、生き延びたいと強く願う。生を渇望する。
崖っぷちに追い込まれた者の救いを求める声が響く時、天空から来訪するは、神か悪魔か、スーパーピンチか

今日はここまでです。
しばらくはイージーモードで進みます

マミホーム

マミ「ごめんなさい、家まで送ってもらっちゃって...」

さやか「あ、あの、マミさん。よかったら今晩は一緒に」

マミ「...ありがとう、私なんかのために気を使ってくれて。でも、今日は一人にしてほしいの...」

まどか「...わかりました」

パタン

さやか「...ねえ、キュゥべえ。マミさんはさ、今まで何度もあんな目に遭ってきたの?」

QB「そうだね。あそこまで、とは言わないけど、命の危険には晒されてきているね」

さやか「...戦える人が増えれば、少しはマミさんの助けになるよね?」

QB「そうだね。一人では苦戦する魔女も、二人で戦えば簡単に倒せると思うよ」

さやか「だったら...!」

クーガー「契約して、魔法少女になる...か?」

クーガー「以前も言ったが...俺はオススメはしないな。特に、何不自由なく暮らせるお前たちが自ら平穏を捨てる必要なんてない。手助けしたければ、何か他の方法を探せばいい。契約が全てじゃないんだからな」

まどか「クーガーさん...」

さやか「......」

クーガー「それに、彼女も言っていただろう?他人のために願いを使うのはあまり関心しないって」

さやか「...クーガーさんはいいよね、力があってさ」ボソ

まどか「さやかちゃん...?」

さやか「だってそうじゃんか!クーガーさんは強いからそんなことが言えるんだ!
あたしには何もないんだよ、なにも!」

まどか「さ、さやかちゃん...」

さやか「...ゴメン。こんなの、八つ当たりだってわかってる。筋違いだってことも。でも...あたしにはもうどうしたらいいかわからないんだよ...!」

クーガー「......」

第三話『スーパーピンチ』

放課後 校門

ほむら(今回は、巴マミを救出できた。...その要因となったのは、ストレイト・クーガー。...彼は私の味方?それとも...)

ザワザワ

「おい誰だよ、あのちょっと世紀末っぽい服装の黒サングラス」

「見ろよあの車...すげえピンク色だ」

「ここで待ってるってことは、誰かの知り合いかな?」

和子(あら、ちょっと好みかも)

クーガー「おっ、いたいた。どうものむらさぁん!待ちきれなくて迎えに来てしまいましたよ」

ほむら「」

病院付近の建物


ほむら「昨日は助かったわ。ただ...学校にまで来るのは止めて。あなたは目立つのよ」

クーガー「すみません。どうにも俺の地元とは勝手が違って。それより、なぜ質問するだけでわざわざ今日に?」

ほむら「キュゥべえもいたからよ。それに、まだ巴マミが私を警戒していないとも限らなかったから、あなた達には巴マミを頼みたかった。...私の質問をしてもいいかしら」

クーガー「ええ、どうぞ」

ほむら「なぜ、あなたは魔女の結界の位置が分かるの?」

クーガー「なぜって...なんとなく、ですかね」

ほむら「真面目に答えて」

クーガー「ふざけてなんかいませんよ。育ち柄、危険な場所というのに鼻が利きまして」

ほむら「証拠は?」

クーガー「これからの俺の行動を見てってことでお願いします」

ほむら「...そうさせてもらうわ。次の質問、いいかしら」

クーガー「その前にこちらからも一ついいですか?」

ほむら「...なに?」

クーガー「あなたの本当の目的ですよ」

ほむら「!」

クーガー「始めは単にキュゥべえが嫌いだとか、魔法少女を増やしたくないからだとか思っていたが...どうも行動が噛み合っていない。不自然です」

ほむら「......」

クーガー「のどかさんから聞いたのですが」

ほむら「まどかよ」

クーガー「おっと、すみません。昨日の結界での件、わざわざマキさんに忠告しにいったらしいですね。放っておけば、図らずとも一人の魔法少女が消えたってのに」

ほむら「...それは、あの魔女のグリーフシードを」

クーガー「だったら、もっと方法はあったでしょう。例えば...そう、声をかけることもなく彼女を闇討ちするとかね。それをしなかったのは、彼女を味方に引き入れたかったから...ってところでしょうか」

ほむら「......」

クーガー「あそこまで敵対していた相手の手を借りてまでしたいこととは」

ほむら「随分とよくまわる口ね」

空気が変わる。

ほむらは、既に変身できる準備を終えていた。

―――これ以上、余計なことを口にすれば容赦はしない。

ほむらの目は、静かにクーガーに告げていた。

クーガー「やだなぁ、そんなに怖い顔しないで。気に障ったのなら謝ります」

そんな彼女の視線を知ってか知らずか、クーガーの調子は変わらない。

そんな彼の態度に、ふぅと一息つく。

ほむら「いずれ話すわ。でも、今は駄目。これでいい?」

クーガー「...わかりました。今はこれ以上追及はしません。ですが、一つだけ」

クーガー「相手からの信用を得たいのなら、自分のことを早めに知ってもらうことが大切ですよ」

ほむら「......」

クーガー「さて、それでは次の質問を...おや?」

ほむら「どうしたの?」

クーガー「いえ、今病院にあやからしき人影が」

ほむら「さやかよ。...ちょっと待って。今、美樹さやかが病院に?」

クーガー「青い髪の中学生でしたから、そうではないかと」

ほむら「...悪いけれどクーガー。話は後にしてもらえるかしら」

クーガー「ええ。構いませんよ」

――――――――――――――

上条の病室

さやか(やっぱり心配だな、マミさん...どうにかして力になってあげたいよ...)

恭介「...ねえ、さやか」

さやか「な、なに?」

恭介「さやかはさぁ...僕を苛めてるのかい?」

さやか「え...?」

恭介「なんで今でもまだ僕に音楽なんて聞かせるんだ。嫌がらせのつもりなのか?」

さやか「だ、だって恭介、音楽すきだから」

恭介「もう聞きたくなんかないんだよ!自分で弾けもしない曲、ただ聞いてるだけなんて!」

さやか「だ、大丈夫だよ、諦めなければそのうち」

恭介「諦めろって言われたんだよ!もう指なんて動かないんだ...!」

さやか「!」

恭介「もう治らないんだよ...奇跡か魔法でもない限り...」

さやか「...あるよ」

恭介「......?」

さやか「奇跡も魔法も、あ」

ガララ

クーガー「オー!ジャマジャマ!」

恭介「」

さやか「」

クーガー「...ん~、どうにもイマイチ受けが悪いみたいだな。これも文化の違いってやつか」

恭介「あ...あなたは...?」

さやか「え、えっと...」

クーガー「彼女のちょっとした知り合いだよ」

さやか「...うん、あたしの知り合い。悪い人じゃないから大丈夫だよ」

恭介「はあ...」

さやか「クーガーさん、なんでここに?」

クーガー「病院に入っていくお前がちょっと気になってな。そしたらなにやら修羅場に遭遇しちまったわけさ」

恭介「......」

さやか「しゅ、修羅場っていうかその...」

クーガー「俺の名前はストレイト・クーガーだ。坊主、名前は?」

恭介「...上条恭介です」

クーガー「恭介か。...あやか、悪いがちょっと席を外してくれないか?」

さやか「えっ?」

クーガー「頼む」

さやか「...わかった」

ガララ

クーガー「そういうわけですから、二人で時間でも潰していてくださいのむらさん」

ほむら「......」

さやか「......」

さやほむ「「えっ」」

クーガー「さて、ここで会ったのもなにかの縁だ。男同士、腹割って話そうじゃねえか」

恭介「...あなたに話すことなんて」

クーガー「別に説教しようってわけじゃない。不満も本音も、全てぶちまければいい」

恭介「で、でも...」

クーガー「心配すんな。ここで聞いたことは誰にも言わないさ」

恭介「......」

―――――――――――――
マミホーム

まどか「あの、マミさん。体調は...?」

マミ「大分よくなったわ。...と、いいたいところだけど...」ブルブル

まどか「......」

マミ「...ごめんなさい。こんな情けない姿を見せちゃって」

まどか「...マミさん。ごめんなさい」

マミ「鹿目さん?」

まどか「わたし、まだ願い事が決まってなくて...魔法少女にはなれなくて...」

マミ「...そう。でも、良かったわ。これであなた達を危険な目に...」

まどか「だから、マミさんの傍に居させてください」

マミ「え?」

まどか「魔法少女にはなれなくても、マミさんの力になりたいんです」

マミ「...いいの?私、あなたたちを守れなかったのよ?」

まどか「いいんです。わたし、マミさんともっと関わりたいんです。守られるとか守るじゃなくて、一人の人間として関わりたいんです。だから、その...迷惑じゃなかったら...」

マミ「迷惑なんて...とんでもないわ。ありがとう、鹿目さん...」ニコリ

まどか(笑ってくれた...!)

**********************************


まどか「あの...前から思ってたんですけど...」

クーガー「?」

まどか「なんで、クーガーさんはそんなに契約に否定的なんですか...?」

クーガー「以前に言った通りです。こんな可愛らしいお嬢さん達を戦場に送り込むなんて考えられないからですよ」チラッ

QB「僕は無理に送り込んでいるわけではないんだけど」

クーガー「そこのところは分かってる。
...選ぶのはあなた達自身だ。だからこそ、今の生活を大切にして欲しいんです。魔法にも戦場にも能力にも縛られない、普通の人間としての日常をね」

まどか「で、でも...さやかちゃんが言ったみたいに、特別な力がないとできないことも...」

クーガー「彼女の戦闘のフォローには俺が入ります。なんなら、のむらさんもいますしね。これでは、あなた方が契約しなくてもいい理由にはなりませんか?」

まどか「ほむらちゃんです。...でも、わたしもさやかちゃんも、マミさんの力になりたいんです」

クーガー「...たしかにその気持ちは素晴らしい。しかし、あなた方の言う特別な力が無い人にしかできないこともあると思いませんか?」

まどか「えっ...?」

クーガー「魔法少女は魔法少女としか関わりあえない、助け合えない...そんなの、寂しいでしょう?」



**********************************

確かに、誰かのために戦えるマミさんは凄くかっこよくて素敵だって思っていました。

でも、もしこのまま戦えなくなっても、マミさんを嫌いになるなんてことはありえません。

だって...

マミ「ご、ごめんなさい...なんだか、安心したら気がぬけちゃって...やっぱり私、ダメな子だ」グスッ

まどか「ダメなんかじゃないですよ」

マミさんは、優しくて、でも少し寂しがりな普通の女の子なんですから。

そんなマミさんとこれからも一緒にいられたら、それはとっても嬉しいなって思ってしまうのでした。

―――――――――――――――――

クーガー「...そうか。辛かったな」

恭介「......」

クーガー「...なあ、これからどうしたい?」

恭介「?」

クーガー「音楽のことだよ」

恭介「...僕の腕は治らないんですよ?」

クーガー「治る治らないの問題じゃない。お前がやりたいかどうかさ」

恭介「諦めきれるわけ...ないじゃないですか」

恭介「他の人から見たらちっぽけでも、僕にとってはやっと手に入れたものなんだ!それをこんな形で諦めるなんて...!」

クーガー「ならそうすればいい。諦めたくないなら、その道を突っ走ればいいのさ」

恭介「...でも、医者からは諦めろって...」

クーガー「それはあくまでも選択肢の一つさ。どの道を選ぼうが恥ずかしいことじゃない。大切なのはお前の人生をお前の意思で決めることだ」

恭介「......」

恭介「...本当に、僕の腕は治らないんでしょうか?」

クーガー「さあな...そこまではわからん。ただ、気休め程度にしかならんと思うが、お前の腕が治る可能性もゼロじゃないんだ」

恭介「え...?」

クーガー「医療ってのは『知る』ことから発展してきたんだ。お前の腕のような壁にぶち当たった時、それを乗り越えるために進化していく...それが医療、すなわち文化ってやつさ」

クーガー「勿論、そんな可能性を信じて頑張り続けるなんざ馬鹿に見えるだろうな。その過程には、他人からの嘲笑や侮辱もあるだろう。だが、男が譲れない道を駆け抜ける時は、どんなに醜く映ろうが、自分にできることを見つけ出し徹底的にもがいてみせる。...そういうのもありだと、俺は思う」

恭介「......」

クーガー「俺だってそうだ。俺が見つけた、速さという文化を極めるためなら、どれだけ馬鹿にされようとも笑われようとも構わねえ。お前と同じで、自分の道を追い求めなきゃ生きていけない男さ」

―――――――――――――――

病院 屋上

さやか「......」

ほむら「......」

さやか(き、気まずい...)

さやか「あっ、あのさ、昨日はクーガーさんを連れてマミさんを救けにきてくれたんでしょ?その、ありがとうね!」

ほむら「......」

さやか(...なんか反応してよ)

ほむら「...美樹さやか」

さやか「なっ、なに?」ビクッ

ほむら「契約しようだなんて、決して思わないで」

さやか「...やっと口開いたと思ったらそれかよ」

ほむら「契約なんてしても、彼は振り向いてくれないわよ」

さやか「...なんだよ、それ。まるであたしが見返りを求めてるみたいじゃんか」

ほむら「ええ、そうよ」

さやか「ふざけんな!あんたに、なにが」

ほむら「巴マミの言っていたこと、覚えてる?」

さやか「マミさんの言ったこと...?」

ほむら「『あなたは、その人の夢を叶えたいの?それとも、その人の夢を叶えた恩人になりたいの?』」

さやか「......!」

ほむら「あなたは、自分が彼にとってどうなることを望んでいるか、はっきりとわかっているの?」

さやか「それは...」

ほむら「...言いよどむくらいなら、契約してはいけない。彼女もそのつもりで言ったのだと思うわ。それに、そんな状態で彼女と組んだところで足を引っ張るだけよ」

さやか「......」

>>87 訂正
さやか「...やっと口開いたと思ったらそれかよ」

ほむら「契約なんてしても、彼は振り向いてくれないわよ」

さやか「...なんだよ、それ。まるであたしが見返りを求めてるみたいじゃんか」

ほむら「ええ、そうよ」

さやか「ふざけんな!あんたに、なにが」

ほむら「巴マミの言っていたこと、覚えてる?」

さやか「マミさんの言ったこと...?」

ほむら「『あなたは、その人の夢を叶えたいの?それとも、その人の夢を叶えた恩人になりたいの?』」

さやか「......!」

ほむら「あなたは、自分が彼にとってどうなることを望んでいるか、はっきりとわかっているの?」

さやか「それは...」

ほむら「...言いよどむくらいなら、契約してはいけない。そう、彼女も言っていたでしょう?それに、そんな状態で彼女と組んだところで足を引っ張るだけよ」

さやか「......」

ほむら「もう、契約のことなんて忘れて、普通に彼を助けてあげなさい。巴マミが心配なら、私が彼女に協力するから」

さやか「...転校生、その、ごめん」

ほむら「...?」

さやか「あたしさ、正直自分でいっぱいいっぱいになっちゃってて...あたしが契約すれば恭介もマミさんも喜んでくれると思ってた」

さやか「でも、違うんだよね。もしこんな中途半端な気持ちで契約しても、きっとマミさんは喜ばない」

ほむら「......」

さやか「それでも、恭介やマミさんの力になりたいのは本心だと思う。だから、契約のことはもっと考えることにする」

ほむら「っ...!」

さやか「わ、わかってるって。できれば契約はしないし、するとしても絶対皆に相談するから!」

ほむら「...そう」

―――――――――――――――

まどか(マミさん...少しでも元気になってくれてよかったな...)

「~♪」

まどか「あれ...あそこにいるのは仁美ちゃん?」

まどか(今は習い事の時間じゃ...?」

まどか「仁美ちゃんどうしたの?こんなところで...」

仁美「あら、まどかさんごきげんよう...私...これから素敵なところへまいりますの~」

まどか「す、素敵なところ?」

仁美「鹿目さんも行きますか~?」

まどか「!」

まどか(仁美ちゃんの首に魔女の口付けが!?)

仁美「行きましょうよ~」グイグイ

まどか(ど、どうしよう...誰かに連絡しなくちゃ...)

まどか「あの、ほむらちゃんも呼んでいいかな?」

仁美「駄目ですわ~彼女は特別な人ですもの~私たちには似つかわしくありませんわ~」

まどか「と、特別...?」

まどか(それって、魔法少女のことなのかな?でも、なんで仁美ちゃんが...)

まどか「じゃあ、さやかちゃんは?」

仁美「美樹さんもいらっしゃるのですか~?嬉しいですわ楽しみですわ~♪」

まどか(さやかちゃんはいいんだ...)

プルルル

さやか「どうしたの、まどか?」

まどか『えっとね、仁美ちゃんがこれから楽しいところに行くみたいなんだけど、さやかちゃんも来る?』

さやか「へっ?仁美は今は習い事じゃ...」

まどか『で、できれば、クーガーさんたちも一緒ならいいかなぁ~って』

仁美『もうよろしいですか~?』

まどか『じゃ、じゃあよろしくね!場所はこうじょ』

ピッ

さやか「......?」

ほむら「どうしたの?」

さやか「いや、なんかまどかがさ、仁美と楽しいところに行くから、クーガーさんたち...多分、あんたかマミさんのことだと思うけど、工場にきてって...」

―――キィン

ほむら(!魔力の反応...!)

QB「どうやら、近くに魔女か使い魔がいるみたいだね」ヒョコッ

さやか「のわっ!?急に出てこないでよ、ビックリするじゃん」

QB「ごめんね、驚かすつもりはなかったんだけど...」

ほむら(理由はわからないけれど、まどかからの遠回しな呼びかけと、魔力の反応...志筑仁美が魔女にやられている可能性は高い)

ほむら(でも、工場は二つある。もしこれがまどかたちを襲っている魔女の反応ではなかったら?)

ほむら「......」

――――――――――――――――


クーガー「...とはいえ、だ。彼女に当たっちまったのはマズかったな。男としてはナンセンスだ」

恭介「...わかっています。さやかには後で謝らないと」

クーガー「なに言ってんだ。謝罪もお礼も、今すぐに決まってんだろ」

恭介「い、いまですか!?」

クーガー「そうだ。人に何かをしでかしたなら謝り何かをしてもらったらお礼を言うのは至極当然であり文化の基本法則だ。ごめんなさいありがとう助かりました等の言葉だけで済ませていい問題じゃない。一方的なしこりを残しておくと相手に言葉をかける機会を逃してしまう。そう謝罪もお礼もすぐに済ませることが重要なのだ!遅いことなら誰でもできる猫でもできる。金メシ愛なんでもいいから最速で行動することこそ人間関係を物理的に円滑にする有効な手段であり俺の信条でもあるんだ!故にだな!」

ほむら『ストレイト・クーガー、今すぐ屋上に来なさい!』

クーガー「っとと...今いいところだったんだけどなぁ...」

恭介「?」

クーガー「こっちの話だ、気にするな」

クーガー「どうしたんです?なにやら慌ててる様でしたが」

ほむら「まどかとクラスメイトが魔女に目を付けられたわ。急いで向かうわよ」

クーガー「場所は?」

ほむら「工場よ。でも、ここから東と西に一つずつあるから...二手に別れるわ。クーガー、あなたは西に向かって」

クーガー「それは構いませんが...いくら俺の勘が冴えているとはいえ、正確性には欠けますよ」

ほむら「それなら問題ないわ。多分、魔女がいたら他にも大勢人がいると思うから」

クーガー「わかりました。最速で終わらせてきますよ」ダッ

ほむら(私も急がないと...)タッ

さやか「あっ、待ってよ!...行っちゃった。どうしよう...」

ピロン

さやか「恭介から...?」



『さやか、今は時間あるかい?』



さやか「......」



『ごめん、今はちょっと忙しい。明日でいいかな?』



さやか「...まどかを放っておくわけにはいかないからね」

―――――――――――――――――――

「...現実の女なんて大嫌いだ...今行くよ...僕の理想の女の子たち...」ブツブツ

「所詮私の脚本など誰も評価してくれんのだ...才能がないんだ」

「細いんだよ...ヤワいんだよ...縮こまりっぱなしなんだよ...」

「もう崖っぷちは嫌だ...早く楽にさせて...」

「なんだよ、絶対無敵破壊光線って...適当な上にかませ以下って救いようがねえよ...」

ガスマスク×20「シュコー、シュコー」

まどか(...どうしよう、変な人達ばっかり集まってるよ...)

仁美「さあ...儀式を始めましょう...」

―――――――――――――――――
結界内


杏子「マミの奴がヘタこいたって聞いたから来たが...」

魔女「...」ノソノソ

杏子「へへっ、いたいた!それじゃあ早速「見つけたァ!!」」


キキィ ブロロロロ

クーガー「大は小を兼ねるのか?速さは質量に勝てないのか?いやいやそんなことはない速さを一点に集中させて突破すればどんな分厚い塊であろうと砕け散る!ハッハッハッハッ、ハー!」

ズガァァァァン


クーガー「ドラマチーック!エステティーック!ファンタスティーック、ラーンディーング! 」

魔女「」シュウウウ

クーガー「5分ジャスト...また世界を縮めてしまったぁ...」

杏子「な、なんだあんた...」

クーガー「ん?その恰好...そこのお嬢ちゃん、ひょっとして魔法少女なのか?」

杏子「魔法少女のこと知ってんのか!?あんた一体何者だ!?」

クーガー「なぁに、通りすがりの文化人さ」

杏子「わけわかんねえよ」

クーガー「時にお嬢ちゃん。ここらでのどかさんを見なかったか?ピンク色の髪をした可愛らしい娘なんだが」

杏子「...いや、あたしも来たばっかだから...」

クーガー「そうか...なら、のむらさんの方が当たりってことか。情報提供感謝するぜ、お嬢ちゃん。こいつは情報料だ」ヒュッ

杏子「っと...まあ、こいつを倒す手間が省けたのはいいとしてだ...あんたにはまだ聞きたいことが」

クーガー「悪いがこっちにゃ時間がないんでな!質問はまた会えた時にいくらでも聞いてやるさ!」バァン バァン

杏子「車!?一体どこから...」

クーガー「ラディカル・グッドスピィィィド!待っててくださいのどかさん、のむらさぁぁぁ~ん!」

ギュワン


杏子「...なんなんだ、ありゃあ」

――――――――――――――


ドボドボ

まどか(あ、あれ...確か、混ぜたら危ないやつじゃ!止めないと!)ダッ

仁美「どうしたのですか~?」ガシッ

まどか「どいて仁美ちゃん!あれ止めないと!」

仁美「いけませんわ~これは神聖な儀式ですのよ~。肉体から魂を解き放つのです~」

まどか(駄目だ...話しも通じなくなってる...早く...誰か...!)

ガシャァァァン!

ほむら「どうやらこっちが当たりだったようね。間に合ってよかったわ」

まどか「あ、ありがとうほむらちゃん」

「よくも僕達の神聖なる儀式を!これだから現実の女は嫌いなんだ!」

「ときめいて死ね!」

「俺様のマグナムをじっくりたっぷり味わわせてやらぁ!」

まどか「わわっ、いっぱい来た!」

ほむら「まどか、さがってて」

まどか「う、うん」

ほむら(ひとまず、彼らを気絶させて...)

―――カチリ

バタッ

バタバタッ

まどか「あ、あれ...?みんな、倒れちゃった...」

ほむら「大丈夫。気絶させただけよ」

―――キィン

ほむら「あの扉の奥に魔女が潜んでいる...まどか、あそこに隠れていて」

まどか「う、うん!」

――――――――――――――

結界内

ほむら(この魔女は...!)

ハコの魔女「」フワフワ

ほむら(この魔女と私は相性が悪いから、できれば、クーガーが来るまで待っておきたいのだけれど...)

クーガーの速さを持ってしても、魔女の結界が広がりきる前に間に合うかは分からない。

ならば、とる手段は一つ。

ほむら(魔力の温存なんて言ってられないわ。速攻でケリをつける...!)

―――カチリ

――――――――――――――

まどか「ほ、ほむらちゃん大丈夫!?」

ほむら「ええ。怪我はしてないわ。魔女は倒したから、彼女たちの魔女の口付けも消えている筈よ」

まどか「よかった...」ホッ

ほむら「とりあえず、救急車でも...」

「うぅ...」

まどか「誰か目を覚ますよ」

「こ、ここは一体...?」キョロキョロ

ほむら「...面倒なことになりそうね。もう一度気絶させておきましょう」

まどか「だ、ダメだよほむらちゃん!」

「ひいっ!?」ビクッ

「あ、あわわわわわわ...またイジメられる...崖っぷちだ...が、がけがきぐげ、がけ、がけ」

まどか「へ?」

「アドレナリンが交感神経から噴出してどうにも止まりそうにもない!あぁ~イク~逝ってしまうぅ―!」

まどか「こ、これも魔女の口付けのせいなの?」

ほむら「そんな筈は...」

ほむら「!...微かだけど、さっきの魔女とは違う魔力を感じる...!」

まどか「えっ!?」

「誰か助けて...誰かぁぁぁ!!」

まどか「な、なにもしませんから、落ち着いてください!」

「助けて僕のピンチクラッシャーぁぁぁ!!」

カッ

まどか「えっ!?」

―――――――――――――
結界


【逆転の魔女】

その性質は救出。ピンチな場面に現れる魔女。常日頃ピンチを感じている人間に魔女の口付けを憑りつけ、宿主がピンチに陥ると、結界と共に天空より来訪する。
かつて憧れていたアニメのスーパーロボットのように、ピンチな人間を救っているが、救出が終わるころには、生気を吸われ続けた宿主が力尽きていることには気付かない。
アニメの影響が強く、自分のシナリオを完全に再現するため、一対一のシナリオ上では無敵。逆に、イレギュラーには弱く、脆い。また、宿主の意識が途絶えると、その存在意義を見失い、自問自答の時間に陥ってしまう。



まどか「ま...じょ...?」

まどか(なんだか、前にタツヤが見てたロボットアニメに似ているような...)

「た、助けに来てくれた!僕のスーパーピンチクラッシャー!」

逆転「」ウイイィィン

「お願いピンチクラッシャー!僕をイジめようとする奴をやっつけて!」

ほむら「どんな魔女かは分からないけれど...」



―――カチリ

時が止まる。

ほむら(あれほど巨大だと、拳銃では効果が薄そうね。なら...)

バズーカ砲を構え、魔女へ放つ。

それを5回程行い、加えて爆弾も投げつける。

その全てが、魔女の眼前で静止し

―――カチリ

時が動きだす。

ドゴオオォォン

まどか「わわっ!?」

ほむら「これなら、倒せるはず...」

「知らないのですか?ピンチクラッシャーは、危機に陥れば陥るほど強くなると!」

―――キラッ

ほむら「!?」

「きたっ、大いなる翼、ピンチバードだ!」

まどか「姿が変形していく...!」

「超!ピンチ合体!」

翼が、魔女よりも二回りは巨大な巨体に変形する。

魔女が、その巨体の胸部の空洞にスッポリと納まり、開いていた部分が全て塞がった

魔女は、まさしく『合体』に相応しい姿となって降臨した。

「グレートピンチ...クラッシャァァァ――!」

ほむら(破損していた部分が修復して...!)

「今度はきみの反撃だよ、ピンチクラッシャー」

逆転「」キュイイィィン

ほむら(マズイ...時間停s)

「いけえ、デンジャーハザード!」


ドドドドド

ほむら「くっ...!」

結界の外

さやか(とりあえずついてきちゃったけど...大丈夫かな、まどかたち)

QB「気になるかい?」

さやか「そりゃあね。つい昨日にあんなことがあったばかりだし」

QB「...ちなみに、今、暁美ほむらは危険な状態だ」

さやか「えっ!?」

QB「ほむらの魔力が弱まっているのがわかる。僕は彼女の能力が分からないけれど、どうやら相性が悪かったみたいだね」

さやか「な、ならキュゥべえ!」



ほむら『契約しようだなんて、決して思わないで』



さやか「!」


マミ『あなたは、その人の夢を叶えたいの?それとも、その人の夢を叶えた恩人になりたいの?』


QB「どうしたんだい?」

さやか「あ...あたし...は...」

―――――――――――――

ほむら「うああっ!」

まどか「ほむらちゃん!」

「やったぁ、悪の怪人は弱ってるよ!今がチャンスだ!」

魔女が上空に飛び、大剣を構える。

対するほむらは、右腕と両脚に酷い火傷を負っている。

まどか(こ、このままじゃほむらちゃんが!どうすれば...)

QB「契約するしか手段はないよまどか!」

まどか「キュ、キュゥべえ!?」

QB「魔法少女でしか魔女は倒せない!あ、ストレイト・クーガーみたいなのは別だけどね。でも、彼はおそらく間に合わない...だから僕と契約するんだ!」

まどか(...私が契約しないとほむらちゃんが...)

「逆転閃光カットォォ―――!!」

大剣がほむらに振り下ろされる。

マミの時とは事情が違う。今必要なのは...単純に『力』だ。それが、まどかの心を揺さぶった

まどか「私...魔法少女に」

「その必要はないよ」

まどか「え...?」

まどかは己の目を疑った

大剣からほむらを救ったのは、マミでもなく、クーガーでもなく、

――――魔法少女の姿をした美樹さやかだったから

さやか「......」ニッ

ほむら「美樹...さやか...?」

「そ、そんな...逆転閃光カットが外れたなんて...」

さやか「...色々と言いたいことはあると思うけど、先にあれをなんとかしちゃおうか」

「ももももう駄目だ崖っぷちだ。助けてファイナルピンチクラッシャー!!」

逆転「」シュイイイン

さやか「いっ!?」

ほむら「ま...まだ強くなるの...!?」

「あぁ~とうとう達してしまう!私のピンチの極限へ~!!」

クーガー「ふんっ!」ドゴォ

「あふんっ!」

まどか「く、クーガーさん!?」

逆転「」ブルブル

男が気絶すると共に、魔女がブルブルと震えだす。そして、地に膝をつけ、そのまま動かなくなってしまった。

さやか「あ、あれ...?」

ほむら「いったいどういうことかしら...」

クーガー(エマージーの能力に似ていたからもしやと思って試してみたが...予想通りだったらしい)

クーガー「早いとこ倒してしまおう。また動きだされたら厄介だしな」

さやか「じゃ、じゃあ...えいっ」

さやかが斬りつけると、魔女はあっけなく四散し、グリーフシードを残して消え去った。

さやか「はぁ...助かったぁ。いやぁ~危機一髪ってやつだったかな?」

ほむら「あなた...どうして...!?」

さやか「死にかけてる奴を放っておけるほど、あたしは薄情なやつじゃないっての」

まどか「さやかちゃん...わたしの所為で...」

さやか「なんで謝る必要があるのさ。あんたが仁美を追いかけてったから、仁美もその他大勢の人も助けられたんだし」

まどか「でも...」

さやか「大丈夫。ちゃんと、悩んで出した答えなんだ。後悔なんてないよ。...そういえばキュゥべえ!」グイッ

QB「なんだい?耳を掴まないでくれないかな」

さやか「あんた、まどかと契約しようとしたでしょ!?あたしと契約したばっかなのに!」

QB「保険のつもりだったんだよ。さやかは初めてだからどうなるかわからなかったからね」

さやか「そんなにあたしは信用なかったか」ポイッ

クーガー「契約...したんだな」

さやか「...ごめんね、クーガーさん。転校生も...」

クーガー「謝る必要なんてないさ。それが、お前の選んだ道なんだろう?」

さやか「うん。友達を助けれたんだ。後悔なんてない...あるもんか」

ほむら「......」

――――――――――――――――

恭介「どの道を選ぶ、か...」

恭介(...僕にできることって、なんなのかな)

恭介(この役立たずな腕でも、諦めなければなにかを掴めるのかな...?)

ピク

恭介「あれ...?」

恭介「腕が...動く...?」




???「くふふっ...わざわざ魔女を操って投入した甲斐がありました」

???「これで、準備は整った...後は、機を待つのみです」

???「くふっ、クフフっ...!」


次回予告

第4話 『魔法少女』


契約した美樹さやかの前に現れる魔法少女、佐倉杏子。

他者のために闘うさやかと、それを否定する杏子

互いに譲れぬ戦いに、ほくそ笑むのはキュゥべえか

全ての真実は、己の宝石の中に

今回はここまでです。
???の人は、ゲスさと小物さに定評があり、能力がチート級なのにかませな、笑顔がステキなあいつです。

――――――――――――――――
第4話『魔法少女』



恭介「さやか...この前はゴメンよ。僕はどうかしてたようだった」

さやか「気にしてないよ。人間、誰でもイラつく時はあるからさ。それより恭介、腕の具合はどう?」

恭介「...動くようになったよ。何事もなかったかのようにね」

さやか「そうなの!?よかったじゃん!」

恭介「そうだね...うん」

さやか「?なんでそんなに元気がないの?」

恭介「...昨日さ、クーガーさんと色々話し合ったんだ」

恭介「それで、この先どうしたいかは自分でよく考えろって言われた。それで、もう一度頑張ってみようかなって思った。...でも、その矢先にあっさりと治ったものだからさ」

さやか「きょ、恭介...その...ごめん、何も考えずに喜んじゃって...」

恭介「い、いや、違うんだ。嬉しいんだけど、実感が沸いてないだけなんだ。だから謝らないでよ。むしろ僕はお礼が言いたいんだからさ」

さやか「え?」

恭介「今までありがとう、さやか。こんな僕を見捨てないでいてくれて」

さやか「な、なんか改まって言われると照れるな...///」

恭介「だから...これからも今まで通りに付き合ってくれるかい?」

さやか「もちろんだよ!なんたってあたしの大切な幼馴染だからね」

喫茶店

ほむら「...話って?」

まどか「あのね、ちょっと気になったんだけど...」

ほむら「?」

まどか「ほむらちゃんは、誰かに魔法少女のことを話したことがある?」

ほむら「いいえ、ないわ。知っているのはあなたたちとクーガーだけよ」

まどか「そうだよね...じゃあ、アレはなんだったのかなぁ?」

ほむら「アレ?」

まどか「うん。昨日、さやかちゃんに電話をかける前に、ほむらちゃんにかけようとしたの。そしたら、仁美ちゃんが『ほむらちゃんは特別な人』だから駄目だって...」

ほむら「あの遠回しな呼び出しは、そういう事情だったのね」

まどか「うん...」

ほむら(志筑仁美を操っていたのは魔女...でも、私のことを魔法少女だと魔女が知っているのは解せない)

ほむら(なら、志筑仁美が知っていた可能性は?私が認識している内では、知っているのはまどかと美樹さやか。それにクーガーに、巴マミとキュゥべえだけ...)

ほむら(前者二人は論外。巴マミも、素質がないものには魔法少女のことは話さない筈。キュゥべえも、素質がない志筑仁美と関わる可能性は極めて低いし、そもそも彼女から認識されることもない。となると、クーガーが一番可能性が高い...)

ほむら(...でも、仮にも信頼を得たいと言っている男がこんな消去法で特定できるような手段を選ぶかしら?...もし、クーガーでもなければ...)

まどか「...らちゃん?」

ほむら(まだ、私が知らない敵がいる...?)

まどか「ほむらちゃん?」

ほむら「な、なんでもないわ。...それより、話はそれだけじゃないでしょう?」

まどか「う、うん。さやかちゃんのことなんだけど...」

ほむら「...彼女が契約してしまったのは、私の責任。だから、出来る限りは手助けするわ」

まどか「じゃ、じゃあ!」

ほむら「でも、あくまでも彼女は自分で道を選んだだけ。だから、あなたまで背負おうとはしないで」

まどか「...うん」

――――――――
展望台

QB「...本当に彼女達と事を構える気かい?」

杏子「何度も言わせんなっての。あんな奴らには負けねえよ」

QB「全てが君の思い通りにいくとは限らないよ。この町には、まだ二人もイレギュラーがいるからね」

杏子「イレギュラー?」

QB「僕と契約した覚えのない魔法少女が一人と、ストレイト・クーガーという男がいるよ」

杏子「男?...そのクーガーってのは、やたら速くて、車とか出せる奴か?」

QB「知っているのかい?」

杏子「まぁ...一回会っただけだけどね。忘れようと思っても無理だろあんなの。何者なんだあいつ」

QB「僕にも分からない」

杏子「まあいいさ。要はぶっ潰しちゃえばいいんでしょ?そいつら全員」

―――――――――――――――

クーガー「よう、上条。なにやら腕が治ったらしいな」

恭介「クーガーさん!...はい。何故だかわからないけど...」

クーガー「その割には浮かない顔だが」

恭介「あまり実感が湧かなくて」

クーガー「こういう時はな、素直に喜んでおけばいいのさ」

恭介「いや、わかってはいるんですけど、どうにも...」

クーガー「そうか...だったら、今までできなかったことをしてみたらどうだ?」

恭介「できなかったこと、ですか?」

クーガー「ああ、そうだ。その治った腕でできることをやり続ければ嫌でも実感できるだろ」

恭介「できなかったこと、かぁ...」

――――――――――――――――

ほむら(美樹さやかが契約してしまった...もう、彼女を止めることはできない。彼女が絶望すれば、まどかの契約する確率も格段に上がってしまう)

ほむら(かといって、彼女たちに時間を割きすぎて準備を怠れば、ワルプルギスの夜に間に合わなくなる)

ほむら(でも、私の身体は一つ...どちらかに絞らなければならない)

マミ「あ、暁美さん」

ほむら「巴さん...?もう、身体は大丈夫なの?」

マミ「ええ。その、この前のこと謝ろうと思って...ごめんなさい、暁美さん」

ほむら「謝る必要なんてないわ」

マミ「でも、あなたたちがいなかったら、私は死んでいたんだもの。あんなことをした人を信用できないかもしれないけれど、なにか力になれることがあったら、なんでも言って」

ほむら(...これまでの統計上、このような状況で巴マミがまどかを勧誘する確率は低い。だったら...)

ほむら「ありがとう。なら、早速ひとつ頼まれてくれるかしら?」


――――――――――――――


さやか宅 

さやか「よっし...これで準備OK」

QB「緊張してるのかい?」

さやか「そりゃあね...正直言うと怖いよ。でも、マミさんばっかりに任せるわけにもいかないし、転校生とクーガーさんの忠告も無視しちゃったし...
だから、その分あたしが頑張らなきゃね」



さやか宅 玄関前

さやか「あれ、まどか...?」

まどか「あ、あの...私も付いて行っていいかな?じゃ、邪魔にならないようにはするから...」

さやか「...邪魔になんてならないよ。ありがと、まどか。すごく心強いよ」

QB『危険を承知の上なんだね?』

まどか『キュゥべえ...』

QB『君にも君の考えがあるのだろう。僕は口出しなんてしないさ』

まどか『うん...ありがとう』

―――――――――――――

マミ「クーガーさんと美樹さんを見張ってほしい?」

ほむら「ええ。私はやらなければならないことがあるから、お願いしてもいいかしら」

マミ「構わないけど...でも、いいの?」

ほむら「...戦闘力を考慮した時に、あの二人と戦えるのはあなただと思うから」

マミ「そうじゃなくて、その...クーガーさんよりも、私なんかを信頼するようなことをして」

ほむら「あの結界でのことなら気にしないで。得体のしれない相手なら、警戒するのは当然のことだもの。むしろ、殺されなかっただけでも感謝したいわ。ストレイト・クーガーに関しては、保険よ」

マミ「保険...かぁ。私が言うのもなんだけど、もう少し信用してもいいんじゃないかしら」

ほむら「?」

マミ「彼、あなたに害のある行動をしているわけじゃないんでしょう?」

ほむら「...でも、人がいつ裏切るかなんてわからない」

マミ「...まあいいわ。頑張ってみる。でも、そのクーガーさんはどこにいるのか...」

ほむら「ちょっと待ってて」

ピッ

クーガー『どうも、のむらさん!今日はまた一段といい天気ですねぇ!それにしてもこの携帯電話というやつは随分と文化的だと思いませんか!?屋内でしか使用できなかった電話ですが、今こうして俺たちが話しているようにいつでも電話をかけることができる。しかし使い方を誤れば己の脚で相手のもとへと赴くという文化を失いがちになってしまいます。故に俺は長電話という行為を好まな』

ほむら「今すぐ巴マミの家に来て」

ピッ

マミ「信用していない、ねぇ...」

ほむら「?」

マミ「なんでもないわよ、なんでも」

―――――――――――

某所

さやか「ここだね...行くよ、まどか!」

さやかが幾多も剣を生成し、それを使い魔に投げつける

マミのように、小技で牽制し、動きを封じる戦法だ

何本かを放ったところで、しかしそれを何者かの武器により阻まれた

さやか「!?」

杏子「ちょっとちょっと、なにやってんのさ。あれ使い魔だよ?倒してもなんの得もないって」

さやか「でも、あれほっとくと誰かが襲われるんだよ!?」

杏子「だからさあ、あと四、五人食って魔女になるまでほっとけって。そうすりゃグリーフシードを孕むんだからさあ」ギロッ

さやか「ッ!」

杏子「まさかとは思うけどさぁ、人助けだの正義のためだとかのおちゃらけた冗談かますために、あいつと契約したんじゃないだろうねえ?」

さやか「だったら...なんだっていうのよ!」

さやかが眼の前の敵に向かって切りかかる

いくらさやかが素人とはいえ、それは常人では反応できない程の速さだ

しかし、それは手に持つ槍で防がれてしまった

さやか「なっ...!」

さやか(こいつ...あっさりと躱しやがった...あっさりと...!)

杏子「...ぬるいなあ、甘くてぬるい...そんなんじゃあこのあたしは倒せねえなあ!」

杏子の言葉と共に、槍によって剣ごとさやかの身体が弾かれる。

そして、隙だらけのさやかの腹に、杏子の槍の柄がめり込んだ。

さやか「がっ...はぁっ...!」

まどか「さやかちゃん!」

杏子「ふん。トーシロが。ちったぁ頭冷やせっての」

さやか「げほっ...あんたなんかに...」

杏子「あぁ?」

さやか「あんたなんかに負けてたまるかぁ――!!」


―――――――――――――――

クーガー「こんにちわマキさん!もうお身体の方は大丈夫ですか?」

マミ「ま、マミです。その説はお世話になりました」

クーガー「いえいえ。それに、あの時お代代わりに目の保養をさせていただきましたから」

マミ「目の保養って...まさか!?」

クーガー「それくらいの役得があってもいいでしょう?」

マミ「は、はやく美樹さんを探しにいきますよ!」

クーガー「携帯電話で居場所を聞けばいいのでは?」

マミ「それが、美樹さんも鹿目さんも電波が繋がらないんです。まだ学校が終わってそんなに時間がたってないし、山になんて行くことはないと思いますから...」

クーガー「二人揃って電源を切っている可能性は低い...と、なると、もしかして魔女の結界に...」

マミ「いるかもしれませんね。もし戦っているのなら、魔力の波動でわかると思います」

クーガー「わかりました、それではお送りしますよ。もちろん、最速でね」

――――――――――――――

眼前で繰り広げられる魔法少女同士の戦い

まどかにはそれをどうすることもできなかった

まどか「さやかちゃん、やめて!こんなのおかしいよ!」

QB「だめだ、さやかも彼女...佐倉杏子も闘いに集中しすぎて、君の声が届いていない」

まどか「キュゥべえ、なんとかしてよ!」

QB「親友である君の声が届いていないなら...僕には到底無理だ」

まどか(どうして...?どうして魔法少女同士で戦わなきゃいけないの?)

QB「今の二人に割って入れるのは、同じ魔法少女だけだ」

まどか(そうだ...私が契約すれば...)

まどか(―――ダメッ!力が全てじゃないってクーガーさんは教えてくれた!なんとか二人を止め―――)

QB「本当に止められるのかい?」

始めは杏子が有利に戦いをすすめていたが、さやかが慣れてきたのか、徐々に戦況は拮抗しはじめる

QB「本当にストレイト・クーガーの言っていたことは正しいのかい?」

すると杏子は加減をやめ、さやかもそれに対抗しようと食らいつく

二人の闘いはもはやケンカなどではなく、殺し合いに変わりつつあった。

QB「本当は...彼の言葉を理由にして、自分が闘うのを避けてるだけなんじゃないのかい?」

まどか「!?」

まどか(私は...ただ、怯えてただけなの?)

杏子の槍とさやかの剣が打ちあう音が鳴り響く

まどか(自分が傷つくのが怖いから...クーガーさんの言葉を都合のいいように捉えていただけなの...!?)

QB「まどか...君の望みは、『何もできない自分を変える』ことだったよね」

杏子の槍がさやかの身体に巻きつき、さやかはそのまま投げ飛ばされ、あまりの衝撃に剣も手放してしまった

QB「ここで、君がほんの少しだけ勇気を出せばその望みは叶えられるんだ。
その少しの勇気を持つことができなかったら、さやかは取り返しのつかないことになる。
君はそれでいいのかい?」

まどか「キュゥべえ...」

QB「それに、クーガーはいつも言っているだろう?行動は素早く的確にしろって」

まどか「素早く...的確に...」

杏子がさやかにトドメをささんと駆けだす

まどか「さやかちゃん!」

QB「答えてごらん、まどか。君の下すべき判断を」

まどか「―――私、魔法少女に」


――パァン

まどかの意志を、一発の銃声が遮った

――――――――――――
軍事基地

ほむら(とりあえずは、武器を調達しないと...)

???「おや、誰かいるのですか?」

ほむら「ッ!」

ほむら(しまった...見つかった...)

???「こんなところになんの御用で?」

ほむら「......」

???「そんなに固くならなくてもいいですよ。迷いこんでしまったと、私から説明して」

――――カチリ

???「おきま...!?消えた...?」

???「......」

???「なるほど...彼女が例の、『イレギュラー』ですか...」

???「まぁ、精々頑張ってください。私の渇きを埋めるためにねェ」ンフッ

―――――――――――

クーガー「よう。中々面白いことやってるなぁ、あやか」

マミ「......」

さやか「く、クーガーさん...それにマミさんも!?」

杏子「...また会ったね、ストレイト・クーガー。それに...マミ」

マミ「......」

まどか「ま、マミさんの知り合いなの?」

QB「...彼女は以前マミと組んでいた魔法少女なのさ。意見の衝突により、解消したけれどね」


杏子「キュゥべえから聞いたけど、あんたヘマこいてから、ビビって魔女と戦えてないんだってなぁ」

マミ「......」

杏子「そんなヘタレがあたしの闘いを邪魔するなんて、どういうつもりだ?」

マミ「......」

杏子「それとも、何も言えない程腑抜けになっちまったのか?答えろよ、マミ!」

さやか「あんた、いい加減に」

マミ「...ぅぷっ」

まどさや杏「「「!?」」」


~~~しばらくお待ちください~~~





まどか「マミさん、大丈夫ですか?」サスリサスリ

クーガー「そんなに体調が優れなかったのなら、無理しなくてもよかったのに」

マミ「あ、あなたのせいでしょ...うっ」

杏子「ほんと、なにしに来たんだよあんたら...」

クーガー「なんだ、もうケンカは終わったのか?」

さや杏「「えっ」」

クーガー「俺はこのことで彼女が契約するのを防ぎたかっただけであって、お前さんたちがいくら闘おうが知ったこっちゃないんでな。別に、止めようとは思わんさ」

まどか「く、クーガーさん...?」

クーガー「ほら、はやく続けろよ。やるんなら思いっきりやれ。そっちの方がスッキリするしな」

さやか「......」

杏子「......」

まどか(あ、あれ?二人とも、黙ったまま動かなくなっちゃった...)

クーガー「今なら、マキさんは動けないし、のどかさんには俺が契約させない。誰も邪魔する奴はいないんだぞ?」

まどか「まどかです」

マミ「マミです...」

クーガー「あぁっと、すみませえん」

さやか「え、えっと...」

杏子「...興ざめだ。帰る」

まどか「えっ」

杏子「あんだけ言われて、戦う気が起きるかっつーの。もう今日はいいや」

マミ「ま、待ちなさい佐倉さ...うぷっ!」

杏子「あんたはまず吐くのを止めろ」

杏子「この件に関してはあたしはグチグチと言わねーよ。精々死なねーよう頑張りな」

さやか「ま、待てっ!」

杏子「なんだよ、まだやるつもりか?あんたが死にたいんなら別に構わないんだぜ」

さやか「くっ...」

杏子「じゃーな、ボンクラ共。あんたらはバカみてえに使い魔狩ってな。
そうすりゃあんたらの考えがどんだけ甘いか身にしみてわかるからよ」ザッ

さやか「くそっ!」ダンッ

マミ「落ち着きなさい、美樹さん。あぁ...やっと治まってきたわ」

さやか「でも、マミさんもあんなに言われてたでしょ!?」

マミ「あなたに何を言ったのかは知らないけれど...彼女が私に言ったことは間違っていないわ」

さやか「な、なにを...」

マミ「ううん。本当は、最初から怖かったのよ。魔女...いいえ、戦いそのものが」

マミ「ずっと怯えながら戦ってた。後どれくらい生きられるんだろう。明日は生きていられるのかな。今日は生きていられるのかなって」

マミ「それをずっとごまかしていた。私の闘いは、誰かを救っているんだって。そうすれば、少しは怖いのも和らぐから...」

マミ「私なんてそんなものなのよ。...失望したかしら、美樹さん」

さやか「...そんなことないよ。むしろ、怖くても立ち向かえるのは、凄いことだと思う」

マミ「...ありがとう、美樹さん」

まどか「......」

クーガー「どうしました?」

まどか「...クーガーさん。本当に、わたしが契約しないことは正しいんですか?」

クーガー「と、いうと?」

まどか「わたしは、さやかちゃん達の戦いを止めることができなかった。でも、クーガーさんとマミさんは止めることができた。やっぱり、こういうことは、魔法少女でしか出来ないことなんじゃないかなって...」

クーガー「まあ、一理はありますね。もし、俺たちがここに来なかったとして、あいつらのケンカを止める手っ取り早い方法ではある」

まどか「なら、やっぱり契約しなくちゃ...」

クーガー「ですが、その後はどうするんです?」

まどか「その後...?」

クーガー「あなたが、力で無理矢理あの二人を抑え込んだとしましょう。確かにその場は治まる。けれど、その後はどうなるか...。簡単なことです。あいつらの標的があなたに変わり、結局争いは止まらない。むしろ火種は増えるだけ。あなたはあの二人を敵にまわす覚悟がありますか?」

まどか「そ、それは...」

クーガー「俺たちだって止めきれたわけじゃない。ただあいつらの衝突を先送りにしただけですよ」

まどか「......」

クーガー「あなたの気持ちは間違っていません。大切な人に傷ついてほしくないのは当然です。しかし...」

クーガー「ぶつかりあったからには、なにかしらの形で決着を着けなければならない。人間とはそういうものですよ」

――――――――――――――――――

ほむら「...それで、どうだった?」

マミ「ええ。一悶着はあったけれど、なんとか収まったわ」

ほむら「一悶着?」

マミ「それは後で話すけど...でも、その前に一ついいかしら?」

ほむら「なに?」

マミ「クーガーさんについては、一言くらい欲しかったわ...」

ほむら「...ごめんなさい」

今回はここまでです。4話はまだ途中です。

夕方

教会

杏子(ここに帰って来るのは、いつぶりだっけ...)

杏子「ほんとは、あまり来たくはないんだけどな...」

杏子(かといって、あいつらと決着着けるのにいちいち風見野に戻るわけにもいかねえし...)

杏子(それに、あたしがしでかしたことを忘れるわけにはいかないんだ...)

ギイイイィィィ

クーガー「ん?」

杏子「」

クーガー「おお、奇遇だなぁお嬢ちゃ」

杏子「なにしてやがるてめえ!」ブンッ

クーガー「のわっ!?馬鹿な、俺が挨拶をする暇もなく槍を抜かせることになるとは...この俺がスロウリイだと!?」

杏子「人様の家を荒らしやがって...容赦しねえからな!」

クーガー「ここはお嬢ちゃんの家なのか?」

杏子「そうだよ、文句あるのか!?」

クーガー「すまなかった」

杏子「えっ...う、うん...」


杏子「ふーん、あまり金持ってねえから、ここを宿代わりにしてたんだ」モグモグ

クーガー「まあな。それにこういうところは慣れているからな」

杏子「...でもさ、いいのかよ」

クーガー「?」

杏子「あんたはあいつらの仲間だろ?だったら、こうしてあたしの家なんかに居ていいのかって聞いてんの」

クーガー「別に問題ないだろう?」

杏子「言っておくが、あたしはあいつらと仲良くやろうなんざ思ってないからね」

クーガー「んー、それでいいんじゃないか?」

杏子「はぁ?」

クーガー「誰とツルむかどうかなんて、人の勝手だろ。だから自分のやりたいようにやればいいさ」

杏子「へえ、甘ちゃんの集まりだと思ってたけど、あんたは違うみたいだねえ」

クーガー「...まあ、育ち柄な」

杏子「...?まあ、いいさ。さっきはああ言ったけどさ、ここは教会だ。来る者拒まずってのを忘れて襲いかかったのはあたしが悪かったよ」

クーガー「気にするな。勝手に使ってた俺にも非はあるんだ。あんこ...だったか?」

杏子「杏子だ。この前のグリーフシードのこともあるし、こうしてメシも奢って貰えたんだ。派手に荒らさなければ、追い出しはしないよ」

クーガー「ほう、中々太っ腹じゃないか!礼を言うぞ、あんこ!」

杏子「杏子だっつってんだろ!?...そういえばさ、あんたこの前言ってたよな、聞きたいことがあればいくらでも答えるって」

クーガー「確かに言ったなぁ」

杏子「なら、聞かせてもらおうじゃねえか。あんたのこと、それにあいつらのこともな」

――――――――――――――――――
翌日 ゲームセンター


ほむら「...佐倉杏子」

杏子「誰だあんた?...ああ、そうか。あんたがイレギュラーってやつだな?」

ほむら「私のことを知っているの?」

杏子「キュゥべえが言ってたぜ。一人わけがわらない魔法少女がいるってな」

ほむら「...知っているのなら、話が早いわ」

杏子「んで、そのイレギュラー様がなんの用だよ?」

ほむら「...私たちに、協力してほしい」

杏子「協力だぁ?」

ほむら「ええ。二週間後、この街にワルプルギスの夜がやってくる」

杏子「根拠は?」

ほむら「秘密。でも、報酬はちゃんと用意するわ」

杏子「言ってみろ」

ほむら「この街の縄張りをあなたに渡す。グリーフシードも提供するわ」

杏子「へえ。中々いい案じゃん」

ほむら「二人には、私から納得するように話をつける。どうかしら?」

杏子「お断りだね。あいつらと馴れ合うのなんざ、ごめんだ」

ほむら「......」

杏子「でも、まあ...そうだな。あいつらを二度とあたしに逆らわないようにしてくれたら、考えてやるよ」

ほむら「...わかったわ」

杏子「おいおい、意外にあっさりと決めるんだな」

ほむら「私は、ワルプルギスの夜さえ超えられれば、後はどうでもいいのよ」

杏子「...あっそ」

――――――――――――――――――

翌日 恭介の家の前

さやか(恭介...退院したなら、連絡くらいくれてもいいのに。でも...)

~♪

さやか(早速練習してる...これで、いいんだよね。あたしの願いは、間違ってないんだよね)

さやか「さぁて、練習の邪魔しちゃ悪いし、あたしはもう帰らなくっちゃ」

杏子「おいおい、それでいいのか」

さやか「!?」

杏子「ここまで来といて、会いもしないで帰るのかよ?」

さやか「あんた...!」

杏子「......」

**************************

杏子「はぁ?美樹さやかは、他人のために願いを使ったってのか!?」

クーガー「そういうことになるな」

杏子「チッ...あの馬鹿ヤロウが...!」

クーガー「...まあ、そう頭ごなしに否定してやるな」

クーガー「言い方を変えれば、ダチと自分の人生を天秤にかけた時、あいつはダチを選んだってことだからな」

杏子「...ますます気に入らねえ」

クーガー「そうか。...喧嘩するなとは言わないが、あんまり無茶しないでくれよ?」

杏子「ケッ、なんであんたの言うことを聞かなきゃいけないんだ」

クーガー「知り合いだから、お願いしてるんだよ」

杏子「...ふんッ」


***************************

杏子(とは、言われたものの...)

杏子は、今さら素直になることなんてできなかった。素直になるには、一人で戦ってきた年月が経ちすぎていた。

杏子「あんた、他人のために祈ったクチなんだってな?」

さやか「...だからなによ」

だから、自分と同じ間違いをしそうな彼女に、どうしてもイラついてしまう。

杏子「ったく、たった一度の奇跡をくだらねえことに使いやがって。魔法ってのは、自分だけの望みを叶えるためのもんだ。巴マミはそんなことも教えてくれなかったのかい?」

さやか「......!」

杏子「惚れた男モノにするんなら、もっと冴えた手があんじゃん?せっかく魔法を手に入れたんだ。だったら、やることは一つだろ?」

さやか「...?」

杏子「今すぐ家に乗り込んで、坊やの手足潰してやんな。もう一度あんた無しでは何もできない身体にしてやるんだ」

さやか「!」

杏子「なんだったら、あたしが代わりに...」

もちろん、そんな杏子の態度の果てには

さやか「...許さない」

杏子「?」

さやか「あんただけは絶対に許さない...!」

杏子「へえ、やるってのかい...場所、変えるよ」

さやか「好きにしなよ」

鉄橋の上

杏子「ここなら遠慮はいらないよね。いっちょ派手にいこうじゃない」

さやか「......」

魔法少女に変身する両者。

杏子「さぁて、アレの続きをやろうぜ、アレの続きを...!」

再び、戦いの火蓋は切って落とされた。

―――――――――――――――


マミ(美樹さん...遅いなぁ。この時間に待ち合わせたはずなのに...)

キキィ

クーガー「こんにちわ、マキさん!」

マミ「マミです」

クーガー「あぁ、すみません」

マミ「どうしたんですか?こんな時間に」

クーガー「いえね、貴女とドライブでもしながら色々と語り尽くしたいと思いまして!よかったら行きませんか?」

マミ「ご、ごめんなさい。これから美樹さんと一緒にリハビリを兼ねた特訓をするつもりなので...」

クーガー「そうですかぁ。残念ですが、ドライブはまたの機会に...」

マミ(助かった...)ホッ

プルルル

クーガー「はい、クーガーです...了解しました」ピッ

マミ「どうしたんですか?」

クーガー「のむらさんから連絡がありました。あやかとあんこがまたケンカをおっ始めるようです」

マミ「そんな!...早く向かわないと!」

マミ(...というか、あんこってだれ?もしかして佐倉さん?)

―――――――――――――――――

ゆま「さやかとキョーコっていうおねえちゃん達が戦うみたいだよ」

キリカ「確認ご苦労さん。偉いなぁ、ゆまは」ナデナデ

ゆま「エヘヘ、オリコとキリカのためならなんでもやるよ!ゆまは、オリコたちが大好きだから!」

キリカ「私もゆまは大好きだぞ。まあ、愛してるのは織莉子だけだけどね」

ゆま「好きと愛してるは違うの?」

キリカ「全然違う!いいかい?そもそも好意と愛をゴッチャにしていること自体、愛の本質を侮辱しているんだ。好きには大好きなどの単位が存在しているが愛にはそれがない。なぜなら愛はすべて、即ちゼロかイチしかないものだからさ。そう、つまり愛は無限に有限なんだ!」

ゆま「???」

織莉子「キリカ、あまり難しいこと言わないの。ゆまちゃんが困ってるでしょう」

キリカ「おっとごめんよ、ゆま。お子様には早かったかな?」

ゆま「ゆまはお子様じゃないよ!キリカの言ってることはわからないけど...」

キリカ「それはそうと、織莉子...本当にあいつと手を組むつもりなの?」

織莉子「あら、不安かしら?」

キリカ「うーん...織莉子には悪いけどさ、私はアイツが気に入らないんだよね。だったら、あんなの放っておいて...」

織莉子「私の予知はそんなに信用できないかしら」

キリカ「ち、違うよ!?織莉子を疑ってるわけじゃないからね!」

織莉子「ううん、いいのよ。それだけあなたは私を心配してくれているのだから。ごめんなさいね、不安にさせちゃって」

キリカ「不安なんかじゃない!どんな道でも、私は織莉子についていくよ!」

織莉子「ありがとう。私の味方は、あなただけだわ」

ゆま「ゆまもいるよ!」ピョン ピョン

織莉子「そうね。あなたたち二人よね」クスッ

織莉子(そう...破滅と滅びしかない運命はわずかに。でも、確実に変わってきている。だから、機を見誤ってはいけない。今は、まだ...)

―――――――――――――

さやか「がっ...!」

吹き飛ばされ、手すりに叩き付けられるさやか。

既に、服はボロボロになり、痛々しい切り傷もつけられている。

対する杏子は、ほぼ無傷。せいぜい、かすり傷がある程度だ。

杏子「はんっ、やっぱり弱いじゃねえか。もうさ、止めといた方がいいんじゃない?」

さやか「...何言ってんのよ。まだ、でしょ」ハァ ハァ

杏子「そうかい。だったら、ここらでスッパリ終わらせちまうとするか!」

杏子の突撃の構えに対して、さやかも剣の切っ先を向ける。

杏子「へえ、同じ土俵でやろうってわけ?」

さやか「......」

杏子が一気に駆けるが、さやかは微動だにしない。

杏子「ハッ!もう反応もできねえか!」

だが、杏子はさやかの異変に気付いた。

満身創痍のはずのさやかには、笑みが浮かんでいた。

カチッ

それに気づくのとほぼ同時に、刀身が杏子目掛けて放たれた。

違和感に気付いたのが功を制し、剣は顔の横ギリギリを通過していった。

だが、次に迫るさやかの頭突きを躱す術はなく

ガンッ

杏子「ぐっ...!」

倒れはしなかったものの、衝撃により杏子はのけ反り、その隙に槍を叩き落とされた。

さやか「...卑怯かな?」

杏子「へっ、底が見えるね!」

互いの距離は、一歩踏み出せば手が届くほど近い。

この距離では、武器を作る暇もない。

故に、二人は拳を固め、睨み合う。

だが、戦いは再び幕を下ろす。

ほむら「佐倉杏子...あなた...!」

杏子「うわっ!?いきなり出てくるなよ。心臓に悪い」

ほむら「...どうして、あなたは彼女と戦っているの?」

杏子「別に。戦わねーとは言ってないだろ」

まどか「止めてさやかちゃん!もうボロボロだよ!」

さやか「まどか...わるいけど、邪魔しないで」

まどか「駄目だよ。こんなの、絶対おかしいよ!」

杏子「チッ、ぞろぞろうっとうしいのが来やがって...」

ほむら(もう少し待てば、クーガーと巴マミもやって来る。だから...この場は、私が...!)

ほむら「ふたりとも。今すぐ戦いを止めなさい!」チャキッ

さや杏「!」

まどか「ほ、ほむらちゃん...」

杏子「てめえ...」

ほむら「...戦力が二つ減るくらいなら、私は一つを消すわよ」

さやか「くっ...」

杏子(チッ。このぶんだと、どうせマミやクーガーまで来るんだろうな...ああ、うざってぇ...)

何度も戦いを止められた上、命をも握られている現状。

加えて、ほむらの冷めた目は、杏子を苛立たせるには十分すぎた。

それこそ、杏子に魔法少女同士の戦いでのタブーを犯させるほどに。

杏子「わかった。こいつとは戦わねえよ。だから、あんたらも変身を解きな」シュイン

ほむら「......」シュイン

さやか「...ふんっ」シュイン

杏子「...美樹さやか、この決着はまた今度だ」

さやか「......」

杏子「今日はもう帰るとするよ。腹も減ってきたし。...最後にやること済ませてからなぁ!」バッ

ほむら「ッ!?」

パシッ

杏子「へっ。イレギュラーだかなんだか知らねえが、こいつさえなけりゃあんたはただの女だ」

ほむら(しまった...ソウルジェムを!)

杏子「温い馴れ合いもそうだが、あんたみてえな人を駒としか考えてねえ奴も信用できねえんだ。そんなのに後ろに立たれちゃ安心して寝ることもできやしねえ」

ほむら「止めなさい!」

杏子「ハッ!あんたは、ワルプルギスさえ倒せればいいんだろ!?心配すんな、あたしがキッチリ片しておくから、よ!」ブンッ

まどか「ほむらちゃんのソウルジェムを、橋の下に...!」

ポスッ

杏子「トラックの上に落ちたか...でも、あれなら追いつけやしないな」

ほむら「......」

ドサッ

まどか「ほむらちゃん...?」

さやか「転校生...?」

杏子「な、なんだよ...なんの冗談だ?...どういうことだ、おい。こいつ、死んでんじゃねーかよ!」

まどか「...えっ?」

タタタ

クーガー「のむらさん!こいつはいったい...!?」

まどか「クーガーさん...ほむらちゃんが!」

杏子「あ、あたしは、ソウルジェムを投げただけなんだ。そしたら、こいつが...」

キュゥべえ「いやはや、思い切った手を使ったものだね杏子。でも、安心して。ほむらの本体は無事だから」

杏子「なにを...言ってやがる?」

クーガー「本体...ソウルジェム...!」

クーガー(そういうことか、チクショウ!)

クーガー「あんこ!のむらさんのソウルジェムはどこへ投げた!?」

杏子「杏子だ!...トラックの上だ。でも...」

クーガー「そいつさえわかりゃあ十分だ!ラディカル・グッドスピード脚部限定!風力・温度・湿度一気に確認、GO!!」バァン バァン ダッ

さやか「...どういうことなのよ、キュゥべえ!」

QB「仕方ないね」

~QB。ソウルジェムについて説明中~

杏子「てめえ...それじゃアタシ達、ゾンビにされたようなものじゃないか!」

QB「むしろ便利だろう?心臓が破れても血をありったけ抜かれても、魔力で修復すればまた動くようになるんだから。ソウルジェムさえ無事であれば君たちは無敵だよ。弱点だらけの人体よりはよっぽど有利じゃないか」

さやか「......!」

まどか「...ひどすぎるよ!」

QB「君たちはいつもそうだね。事実をありのままに話すと決まって同じ反応をする。どうして魂の在り処なんかに拘るんだい?」

QB「わけがわからないよ」

クーガー「『魂の宝石』...随分と安直な名前をつけたもんだな」ハァ ハァ

まどか「クーガーさん!ほ、ほむらちゃんのソウルジェムは...!?」

クーガー「ええ、この通り。...キュゥべえ。どうすれば彼女は息を吹き返す?」

QB「大丈夫。ソウルジェムさえ無事なら、手に握らせれば肉体とのリンクは復活するよ」

さやか「...クーガーさん。ちょっとそれ貸して」

クーガー「何故だ?」

さやか「...もしなにか傷でもあったら、困るでしょ?これが壊れたら、あたしたち死ぬんだし...」

「......」





マミ「あ、あと少し...待ってて佐倉さん、美樹さん」フラフラ

マミ「うぷっ!?」

第5話 『美樹さやか』

真実を知ることが悲しみであれば、騙されていることが幸せなときもある。

真実を知った彼女の魂が黒に染まる時、雷鳴が見滝原の大気を震わす。

嗚呼、さやかよ。その虚ろな目は、どこへ向かう?

今回はここまでです。今回スクライド成分が空気だったので、次回からはもう少し出てきます

第5話 『美樹さやか』


さやか「...騙してたんだね、あたしたちのこと」

QB「騙していたなんて人聞きの悪いね。聞かれなかったから答えなかっただけなのに」

QB「それに、僕はちゃんとお願いした筈だよね?『魔法少女になってくれ』って。実際の姿がどんなものかは省略したけれど」

さやか「あんた...なにが目的なんだよ。なにがしたくて、あたし達をこんなのにしたのさ!?」

QB「やれやれ。何が不満なんだい?戦いの運命を受け入れてまで叶えたい望みがあったんだろう?それは間違いなく実現したじゃないか」

――――――――――――――――
翌朝

杏子「100メートルっていってたか...もう少し...もう少しくらいなら...」ソロソロ

マミ「なにしてるの、佐倉さん?」

杏子「...マミか。あたしの本体がコレってあまり実感ができないからさ、色々試してみてんだ」

マミ「思ったより余裕があるのね、あなた」

杏子「...なんだかんだで、魔法で好き勝手やらせてもらってるしね。それに、人様に胸張れないなんてのは今更だし。それより、あたしにとって一番意外だったのはあんただけどな」

マミ「別に、ショックを受けてないわけじゃないのよ。ただ、契約してなくても私は死んでいたのだし、それ以上にキュゥべえに裏切られたショックの方が大きすぎるってだけ」

マミ「...でも、美樹さんは違う。契約しなければ友達を失い、契約すれば自分を殺すことになる...どっちを選んでも、後悔のない道は存在しなかった。こんなの...酷過ぎるわ」

杏子「......」

―――――――――――――――――


クーガー「あなたは、知っていたので?」

ほむら「...ええ」

クーガー「どうりで、投げられた本人の割りには動揺しなかったわけだ」

ほむら「『何故話さなかった』...とでもいいたいの?」

クーガー「まあ、そういう気持ちがないとは言い切れませんねえ。俺だって赤裸々に語ったんです。せめて俺くらいには教えてくれてもよかったんじゃないですかね」

ほむら「いきなりソウルジェムが本体だと告げて信用するの?仮に信用してもこの有り様よ。こうなる確率は、少しでも減らしたかったの」

まどか「もしかして、ほむらちゃんは何度も...?」

ほむら「...ええ。何度か伝えたけれど、その度に罵られ、傷つけられてきたわ」

ほむら「これでわかったでしょう?魔法少女が、どれほど残酷で愚かなものかを」

まどか「ほむらちゃん...」

ほむら「クーガー。もうすぐ学校に着くから、この辺りで別れましょう」

クーガー「わかりました。では、また放課後に」

教室

和子「あら、今日は美樹さんはお休みかしら?連絡は入ってなかったけど...」

まどか(さやかちゃん、やっぱり...)

仁美「珍しいですわね、さやかさんが無断欠席だなんて...なにかあったんでしょうか?」

まどか「そ、そういえば昨日風邪ひいたかもしれないって言ってたよ!」

仁美「まあ...早く良くなってくれるといいのですけど...」

ほむら「......」

――――――――――――

さやかの家

さやか(これが...あたしの魂)

ついこの間までは確かに自分の中にあったはずなのに、今ではこんな石ころになってしまった。

...どうして、こんなことになってしまったんだろう。

あたしは、ただ恭介や友達を助けたいだけだった。その代償がこれだ。

こんなことなら、契約なんて―――

さやか「...なに考えてんのよ、あたし」

杏子『いつまでもショボくれてんじゃねーぞ、ボンクラ』

さやか「!?」

杏子『外だよ、外』

シャッ

さやか「あ...」

杏子『ちょいと面貸しな。話がある』

杏子「あんたさ、後悔してるの?こんな身体にされちゃったこと」

さやか「......」

杏子「あたしはね、まーいいかって思ってるんだ。なんだかんだでこの力で好き勝手できてるわけだしね」

さやか「...自業自得でしょ、あんたのは」

杏子「そうさ、自業自得にしちゃえばいいんだよ。自分の為だけに生きてれば、全部自分のせいだ。他人を恨むこともないし後悔することもない。そう思えば大抵のことは背負えるもんさ」

さやか「あんた...?」

杏子「着いたぞ。あいつは...いねえな」キョロキョロ

さやか「あいつ...?」

杏子「なんでもねえよ。...ここはね、あたしの親父の教会だった」

さやか「え...」

杏子「ちょっとばかり長い話になるが...付き合ってくれるかい?」

さやか「......」コクリ

―――――――――――――――

マミ「そう...やっぱり、美樹さんは休んだのね」

ほむら「ええ。でも、あなたが登校してきたのは意外だったわ」

マミ「佐倉さんにも似たようなことを言われたわ」

ほむら「それで、その佐倉杏子は?」

マミ「美樹さんのところ」

まどか「そんな!それじゃあ、また...!」

マミ「大丈夫よ。彼女、ああ見えて根は優しい子だから。それに、暁美さんを殺しかけたこと、まだ気にしているみたいだし」

まどか「でも...」

QB「そんなに彼女たちが心配かい?」

マミ「キュゥべえ!...何しにきたのかしら?」

QB「なぜそんなに怒っているんだい?」

マミ「当たり前でしょう。今までよくも騙してくれたわね」

QB「騙していたわけじゃないよ。ただ、君たちが聞かないから答えなかっただけさ。それに、知らなくても何も問題はないだろう?」

QB「仮にこの事実を伝えたとして、君は契約をしなかったかい?あの場で自らの運命を受け入れて死ぬことができたかい?」

マミ「そ、それは...」

QB「仮にも人智を超えた奇跡を起こそうというんだ。それ相応の対価があるに決まっているじゃないか。ストレイト・クーガー...君のアルター能力もそうだろう?」

クーガー「...まあな。アルター能力は、物質を再構成する能力だ。分解した物は、どうやったって元には戻らない」

QB「それと同様に、僕たちも君たちの起こした奇跡を無かったことになんてできない。理解したかい?」

まどか「でも、こんなの酷過ぎるよ!」

QB「可哀想だと思うかい?でも大丈夫。確かに僕にはどうすることもできないけど、戻す方法が無いワケじゃないんだよ」

まどか「ほ、本当!?」

QB「簡単なことさ。僕と契約しt」

ヒュッ グシャッ

QB「ブフゥ!」

クーガー「......」

ほむら「まどか、コイツの言うことに耳を貸しては駄目よ。...いいわね?」

まどか「でも、でも...!」

クーガー「のどかさん。あなたの気持ちは分かります。...しかし、皆それなりの覚悟をして契約したんです。その辺りも、ちゃんと考えてやってください」

まどか「じゃあ、どうすればいいんですか!?皆辛い目にあってるのに、私だけ...!」

マミ「...鹿目さん。あなたがお見舞いに来てくれた時のこと、憶えてる?」

まどか「...はい」

マミ「あの時ね、凄く勇気を貰えたの。魔法少女だとか関係無しに私と関わっていきたいって言ってくれたあなたの言葉にね」

マミ「その時にね、思ったの。例え自分とは違う人でも、自分の存在を認めてくれる人がいることがどれほど素晴らしいことかってね」

マミ「だから、もし本当に美樹さんたちの力になりたいのなら、できれば契約じゃなくて...もっと近くにいてあげて。他でもない、魔法少女じゃないあなたが」

マミ「...少なくとも、私は、戦闘よりもそっちの方が救われた気持ちになるわ」

まどか「......」

―――――――――――――――――――――

杏子「―――って話だ。まあ、だからなんだって思うかもしれないけどさ」

さやか「...どうして、あたしに?」

杏子「...なんでかな。ただ、見てられなかったんだよ。あんたもあたしも同じ間違いから始まった。もう、後悔を重ねるような生き方はするべきじゃない。対価としては高すぎるモノ支払っちまったんだから、これからはつり銭を取り戻すことを考えなよ」

さやか「...あたし、あんたについては色々と誤解してた。その事はごめん。謝るよ」

さやか「...でもね、あたしは高すぎるものを支払ったとは思ってない。この力は使い方次第でいくらでも素晴らしいものになるはずだから」

杏子「...なんで、あんたは...!」

さやか「これだけは譲れないよ。でないと、あたし...ううん、なんでもない」

さやか「あたしは自分のやり方で戦い続けるよ。それがあんたの邪魔になるなら、また殺しに来ればいい。あたしは負けないし、恨んだりもしないよ」

そう告げて、さやかは教会から去っていく。

その真っ直ぐにあろうとする背中を睨みつけながら

杏子「バカ野郎が...無理してんの、丸わかりだっつの」

杏子は、盗んできた林檎に噛り付いた。

――――――――――――――――

翌日

さやか「おはよー、まどか、仁美!」

まどか「おはよう」

仁美「もう体調はよろしいのですか?」

さやか「へっ?」

まどか「え、えっと...」

さやか「...ああ、うん!心配かけてごめんね。でもこの通りピンピンしてるから!」

まどか(よかった...さやかちゃん、元気を取り戻してくれたみたい)

仁美「あら?上条くん...もう退院なさったんですの?」

さやか「!」

まどか「あっ、本当だ。さやかちゃんも行ってきなよ。まだ声かけてないんでしょ?」

さやか「あたしは...いいよ」

仁美「......」

放課後

さやか「よーし、終わり!それじゃあさっさと帰って...」

仁美「さやかさん。少し時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

さやか「へっ?」

仁美「お願いします」

さやか「別にいいけど...」

まどか「どうしたの、仁美ちゃん?相談なら、私もなにか...」

仁美「すみません、まどかさん。今回はさやかさんとだけでお願いします」

さやか「じゃあ、先に帰っててまどか」

まどか「う、うん...」

――――――――――――――――



さやか「......」

重い足取りで、魔女退治へと向かう。

初めての魔女退治の時は、単に怖いだけだった。先輩の姿を直に見て、死と隣り合わせの世界へ足を踏み入れてしまったことを怖がっていた。

だが、今は違う。そんなことはどうでもよくなっている。

そんなつい数日前のことと現在を比べて、苦笑する。

随分と変わり果てたものだと、自分を卑下してしまう。

それでも...

まどか「さやかちゃん...魔女退治、ついていってもいいかな?」

彼女は、変わらず傍にいてくれた。

さやか「まどか...」

まどか「さやかちゃんに一人ぼっちになってほしくなくて、だから...」

さやか「...なんであんたはそんなに優しいのかなぁ...」

まどかに遅れて、車のクラクションの音がした。

クーガー「乗ってくか?安くて速い」

さやか「クーガーさん...」

その言葉が何を意味するか...それを汲み取ったさやかは、首を横に振った。

さやか「ありがとう...でも、いいよ。あたしには、それに乗る資格なんてないから...」

クーガー「人間...いや、生物の恋は先手必勝。資格や権利なんざ存在しないさ。それを、志筑お嬢さんは譲ってくれたんだろ?」

さやか「...それでも、だよ」

さやか「あたしね...後悔しそうになっちゃったんだ。あの時仁美を助けなければ...ううん、契約なんてしなければって一瞬だけ思っちゃったんだ」

さやか「だから、まどかとクーガーさんもあたしなんて―――」

『放っておけばいい』。そう言葉を紡ぐよりも先に、まどかに身体を抱きしめられた。

そのまどかの優しさに、温もりに、今まで溜め込んでいたものがポロポロと溢れだしてきた。

さやか「...仁美に、恭介取られちゃうよ...」

さやか「でも、あたしはなんにもできない!だってもう死んでるんだもん。ゾンビなんだもん...」

さやか「こんな身体で抱きしめてなんて言えない。キスしてなんて言えないよ...」

そのさやかの告白も、まどかはただ黙って聞いていた。

ただ、さやかを抱きしめていた。

さやか「...ありがとう。もう大丈夫」

無理に作った笑顔でそう言って、涙を拭き、さやかはまどかから離れた。

さやか「それじゃ、いこっか」

クーガー「おいおい、俺を忘れるなよ」

クーガーは、アルター能力を解除し、車を消し去った。

クーガー「こんな夜道だ。女の子二人じゃ色々と危ないからな」

さやか「...ありがとう、まどか。クーガーさん。それじゃあ、行こっか」

――――――――――――――

マミ「はっ!」パァン

魔女「ぎっ...」シュウウ

ほむら「駄目ね、また外れよ」

マミ「...グリーフシードのことよりも、美樹さんの方はいいの?」

ほむら「...私が行ったところで、なにもできないわ。だったら、なるべく彼女の分までグリーフシードを補充しておいたほうがいい」

マミ「...ねえ、あまり考えたくないのだけれど...ソウルジェムは私たちの魂よね?なら、これが濁りきったら...」

ほむら「...ええ。死ぬわ」

マミ「だから、美樹さんよりもグリーフシードを優先してるわけね」

ほむら「そう考えてもらって構わないわ」

ほむら(でも、このぶんだと私たちだけでも危ないかもしれない...もし、美樹さやかが絶望に負けるのなら、その時は...)

――――――――――――――

杏子「なにやってんだか、あのバカは...」

魔女の結界の中で、さやかが戦っている。

戦況は一方的。近づいては魔女が発する影に押し返され、近づいては全身を切り付けられ、さやかは未だに一太刀も浴びせれていない。

杏子(けど、なんか妙だ...)

さやかと戦った時のことを思い出す。

最初こそは、あの魔女と同じように手も足も出せなかったものの、さやかは次第にあたしの動きについてこれていた。

だが、今はそんな面影などなく、単調な攻撃に単調な反応で戦っているだけだ。

杏子(あいつ、まさか...)

躱す気配もない。かといって、作戦を立てているわけでもない。

だとすれば、答えは一つ。

杏子「避ける気がねえのか...?」

結界内

魔女が、影を手の形に変える。

さやかは、それに構わず魔女へ向かって駆けるが、しかし影にとらわれてしまった。

まどか「さやかちゃん!」

ギシギシと、骨がきしむ音がする。このまま影にとらわれていれば、間違いなく身体が潰されてしまう。

だというのに、さやかは悲鳴をあげない。声すらあげない。

それが、よりまどかとクーガーを不安にさせた。

クーガー「...のどかさん。少し、あけます」

クーガーは、使い魔を蹴散らしながら、まどかを守ることに専念していた。

それがさやかの意思であり、クーガーはそれを尊重したからだ。

だが、ここまできてしまっては、話は別。さやかが死んでしまえば元も子もない。

クーガーがアルター能力を発動させようとするが、しかし直前でさやかを包んでいた影が切り裂かれた。

杏子「...ったく、見てらんないっつーの」

さやか「......」

杏子「もう引っ込んでおきなよ。手本見せてやるからさ」

さやか「...邪魔しないで。一人でやれる」

言うが早いか、さやかは一直線に魔女へと突撃する。

地面から生えた蛇の形をした影が、無防備なさやかの腹部を貫く。

杏子「あのバカッ!」

杏子が駆け寄ろうとするが、しかしさやかは止まらない。

そのまま魔女にとびかかり、魔女の首を切り裂いた。

魔女の首から血のようなものが噴き出るが、切り口は浅く、さやかは魔女の反撃をその身に受ける。

腕、脚、肩、胸部...身体の至るところを貫かれる。

それでも、さやかは止まらない。ただ、魔女へと剣を降りおろし、ただ切り裂いていく。

さやか「...ふふっ」

さやかは笑っていた。

さやか「あははははは!!」

狂ったように笑っていた。

さやか「あいつの言った通りだ。痛みなんて、簡単に消せちゃうんだ!!」

壊れた玩具のように、剣を打ちおろしていた。

まどか「さやかちゃん...もうやめて...!」

まどかが悲痛な声をあげるが、さやかには届かない。

さやかと同じ魔法少女にも、さやかの親友にも、彼女の凶行を止めることができなかった。

クーガー「...そこまでだ」

クーガーが、さやかの腕を掴む。

魔女は、既に原型を留めないほどに破壊されつくしていた。

そこには、彼女が抱いていた『正義』も『守るための力』も見られない。ただ破壊があるだけだった。

クーガー「これが、お前の選んだ道なのか?」

さやか「......」

さやか「もう、やりなおすことなんてできないよ...」

結界が崩壊していく。

白と黒の世界が一変し、元の街並みの風景へと変わる。

さやかは、魔女が落としたグリーフシードを拾い、杏子に投げ渡した。

さやか「あげるよ、それが目当てなんでしょ」

杏子「おい...」

杏子が呼び止めようとするが、さやかはそれに構わずふらふらと暗闇の中へと去っていった。

まどか「待ってさやかちゃん!」

クーガー「おっと」

クーガー「...たまには、一人にさせてやったらどうです?あいつも混乱している。確かに、側にいてやるのも大切ですが、あいつにだって、そっとしておいてほしい時も...」

まどか「でも...わたし、さやかちゃんを放っておけない!」タッ

クーガー「......」

杏子「...いいのかよ?行っちまったぞ」

クーガー「のどかさんが選んだんだ。俺には、それを止めることなんてできやしない」

杏子「...あいつはどうするんだ?」

クーガー「いざとなったら止めるさ。力づくでもな」

クーガーは、さやかとまどかが消えていった暗闇をただジッと見詰めていた。

暗闇の先は、何も見えない。

―――――――――――――

雨が降っている。

まどかは、濡れるのも構わずふらふらと歩き続けるさやかを引っ張るようにバス停へ連れ込んだ。

まどか「さやかちゃん...あんな戦い方ないよ...」

まどかの声は、雨音にさえかき消されそうなほどか細かった。

まどか「痛みを感じないから傷ついていいなんて、そんなの駄目だよ...さやかちゃん、いつか本当に壊れちゃうよ」

さやか「...仕方ないでしょ。ああでもしなきゃ勝てないんだもん。あたし、才能無いから」

まどか「あんなやり方、勝ててもさやかちゃんのためにならないよ」

さやか「...あたしのためってなによ」

さやか「こんな姿にされた後で、なにがあたしのためになるっていうのよ!?」

まどか「......!」

さやか「今のあたしはね、魔女を殺すためだけの石ころなの。死んだ身体を動かして、生きているふりをしてるだけ。そんなあたしなんかに誰がなにをしてくれるっていうの?考えるだけ無駄じゃない」

まどか「...わ、わたしは、どうすればさやかちゃんが幸せになれるかって...」

さやか「...だったら、あんたが戦ってよ」

まどか「えっ...」

さやか「...キュゥべえから聞いたよ。あんた、誰よりも才能があるんでしょ?」

さやかの言葉が、まどかの心を抉るように突き刺さる。

さやか「あたしのために何かしようって言うなら、まずあたしと同じ立場になってみなさいよ!」

さやかが一言叫ぶ度に、ソウルジェムが濁りを見せる。

さやか「無理でしょ?当然だよね!同情なんかで人間やめられるわけないもんね!」

さやか「なんでもできるくせになにもしようとしないあんたの代わりにあたしがこんな目に遭ってるの!あの時仁美たちを守ろうとしなかったあんたが、それを棚にあげて知ったようなこと言わないで!」

さやかのドス黒い感情の嵐に、まどかはどうすることもできなかった。

さやかは、未だにふらつく足取りで、雨の中へと歩みを進める。

待って、と言いかけるまどかを、さやかは冷たい視線で睨みつけた。

さやか「ついてこないで」

その一言は、まどかを動けなくするのには十分だった。

冷たい雨の中を駆けていく友を、まどかは追うことができなかった。

まどかの胸中で、様々な感情が渦巻く。

魔法少女になるなと忠告してくれたほむら。

そばにいてくれるだけでいいと諭してくれたマミ。

契約だけが全てじゃないと教えてくれたクーガー。

...でも、それらが全て正しいこととは誰も証明できない。

だって、現実には親友一人の力にさえなれていないのだから。

『本当に止められるのかい?』

いつかのキュゥべえの声がまどかの中で木霊する

『本当にストレイト・クーガーの言っていたことは正しいのかい?』

これは、クーガーのことだけではない。

ほむらの忠告だって

マミの言葉だって

『本当は...彼の言葉を理由にして、自分が闘うのを避けてるだけなんじゃないのかい?』

自分に都合の良いように解釈しているだけかもしれないのだから

なにもできないまどかには、さやかの後を追うことすら許されていなかった。

雨の中をさやかが駆ける。

さやか「バカだよあたし...なんてこと言ってんの...!」

何度も忠告をしてくれたほむらとマミ。

こんな身体になっても心配してくれたまどかとクーガー。

そして、あれだけ敵対していたにも関わらず、不器用ながらも手を差し伸べてくれた杏子。

その全てを振り払ってまで真っ直ぐにあろうとしたのに。

その結果がこのザマだ。

自分勝手に憧れて、自分勝手に嫉妬して、自分勝手に親友を傷付けた。

さやか「もう救いようがないよ...!」

そんな醜い自分を、さやかはただただ許せなかった。

――――――――――――――――

翌日

さやかは、家にも帰らず、学校にも行かなかった。

さやか「......」

公園のベンチに、少年と少女が並んで座っている。

二人とも、さやかにとってかけがえのない大切な者たちだ。

それなのに、恨めしくて仕方ない。胸の中にドス黒い感情が芽生えてくる。

自身のそれに気づいたさやかは、二人に気付かれる前に立ち去った。

二人は、さやかに気付くこともなく、互いに笑い合っていた。

恭介「おっと...そろそろ行かなくちゃ」

仁美「バイオリンのお稽古ですの?」

恭介「うん。やっと調子が戻ってきた気がするんだ。これなら、あの曲も弾けると思う」

仁美「...その曲は、私には教えていただけないのですね」

恭介「ごめんよ。なるべく、誰にも知られたくない曲だからさ」

仁美「構いませんわ。それほど大切な曲なのでしょう?」

恭介「うん。この曲ならきっと...」

まどか「上条くん!」

恭介「鹿目さん?どうしたんだい」

まどか「お願いがあるの...!」

数日後 学校

さやかはこの数日間行方をくらましていた。

さやかの両親や警察も動いているが、未だに探し出せていなかった。

まどか(さやかちゃん...)

仁美「......」

ほむら(...そろそろ決断すべきね)

さやかのことをクーガーやまどかに任せ、ほむらとマミはグリーフシードの補充に努めた。

だが、結果としてさやかを引き留めることには失敗してしまった。

グリーフシードも、ほむらたちの成果に見合わず、杏子の持っている分を合わせても余裕があるわけではない。

四人で使えば、すぐに無くなってしまうだろう。

ほむら(もう、美樹さやかを連れ戻すことは不可能に近い。なら、面倒なことになる前に...)

――――――――――――――――――――


ほむら(...いた)

魔力の乱れを感じ取り、向かった先は廃墟。そこには、消耗しきった美樹さやかがいた。

これが、最後のチャンスだ。

おそらく、今日中にはソウルジェムが濁りきってしまうだろう。

もし、ほむらが手にしているグリーフシードを受け取らなければ、もう彼女を殺すしかない。

それがこれからの、ひいてはまどかのためになるのだから。

ほむら「......」

グリーフシードをギュッと握り絞める。

痛みも裏切りも、何度も通ってきた道だ。覚悟を決めなさい、暁美ほむら。

そう自分に言い聞かせて、微かな震えをごまかす。

ほむらが、さやかに歩みよった時だった。





ソウルジェムが、カタカタと震え、虹色に発光し始めた。

―――――――――――――――
ロストグラウンド HOLY本部

ジグマール「本土からクーガーが消えたとの報告を受けてからしばらく経つ...あれから何も音沙汰が無いが...」

ジグマール(精製は失敗したのか?いや、失敗だとしても、本人が消え失せるなどという事例は無い筈...だとしたら、いったい...)

ジジジ

ジグマール「イーリャンか。何があった?」

イーリャン『アルターの森付近に、突如落雷が発生。それに、【向こう側】への扉がかすかに...』

ジグマール「なんだと!?」

ジグマール(雷に、【向こう側】への扉...まさか!)


――――――――――――――――――

さやかの周りの壁がじわじわと削り取られ、虹色の粒子に変わっていく。

ほむら(これは...クーガーのアルター能力...?)

周りを見回しても、彼はいない。

この場にいるのは、ほむらとさやかだけだ。

やがて、漂っていた粒子が一箇所に集束していく。

粒子が集まった先には、一つの巨大な影。二人が気づかぬ内に現れていた巨大な影。

その影は、人のようで人ではない、異質なものだった。

やがて、影がゆっくりと両腕を掲げる。

そして、それはあまりにも突然で、ほむらとさやかにはどうすることもできなかった。



廃墟が、落雷と共に消え去った。

――――――――――――――――

ゆま「か、かみなり~!」ブルブル

キリカ「なんだい、ゆまは雷が苦手なのか?」

ゆま「こ、こわくなんてないよ!ただ、おへそをとられたくないから...」

キリカ「そうかそうか。...わるいけど、ちょっと静かにしててくれないか」

ゆま「どうしたの?」

キリカ「ねえ、織莉子。この反応って、まさか...!」

織莉子「いいえ、違うわ。反応こそは異質だけど、ワルプルギスの夜じゃない」

織莉子(だとしたら...これはなに!?まさか、あの時私が予知した...!?)

ほむら「うっ...」

ほむらは、数十秒ほど気を失っていた。

数十秒。ただそれだけで、状況は一変していた。

廃墟は綺麗さっぱり消え去り、代わりにできた巨大なクレーター。

さやかは、その中心を睨みつけたまま動かない。

さやかの視線の先には、あの巨大な影。

やがて、その影はその姿を露わにした。

それは、正に異質だった。

燃え盛る炎のように揺れる頭部。

鎧のようなラインをところどころに見せる黒い体。

白の装甲に包まれた左腕と、黒の装甲に包まれた右腕。

そして、人の形でありながら人ではない顔。

"それ"は、確かにここに存在していた。

さやか「なんなのよ...あんたはなんなのよ!?」

さやかの問いに、"それ"は答えない。

"それ"は、ただそこに存在しているだけだ。

さやか(なに...?毛穴って毛穴が開いちゃってる...この感覚はなんなの...!?なんにせよわかってるのは、この状況がとてつもなくヤバイってことだ!)

だが、決して目を逸らすことのできない"それ"の存在に、彼女の本能は恐怖していた。

さやか「...いいさ、こんなにソウルジェムが反応してるんだ。魔女は...」

さやかは、それを誤魔化すように吼え、"それ"に向かって一気に駆け出した。

さやか「あたしがぶった切る!」

さやかの剣が、"それ"に振り下ろされる。

"それ"は微塵も動かない。ただ立っているだけだ。

だが、さやかの剣は、"それ"を切り裂くことはなかった。

さやかの剣は、"それ"に触れた瞬間、跡形もなく消え去ってしまった。

さやか「手応えが...ない!?」

"それ"は、さやかの頭を掴み、そのまま投げ捨て、追い打ちをかけるように、五指から光弾を放った。

さやか(痛い...!?)

意識がとびかけるほどの激痛が、さやかの意識を支配する。

感覚を遮断しているにも関わらずだ。

それでも、さやかは"それ"に向かって駆けだした。

魔女を殺すことでしか己を保つことができなかった彼女には、それが一番の原動力となる。

だが、そんなさやかの意思などお構いなしに、"それ"は左腕でさやかの顔を掴み上げた。


"それ"の左腕に電流が走り、先程の光弾とは比較にならない程の激痛がさやかを襲う。

さやか「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛―――――――――――――!!」

さやかの悲鳴が響き渡る。

やがて、さやかの意識は完全に途絶えた。

それでも、"それ"は電流を流すのを止めない。

さやかを助けたいという僅かな良心からか、無感情に、機械的に行われるその行為からの恐怖のためかは分からないが、ほむらは拳銃を抜き、放つ。

弾は、"それ"の右腕に被弾するが、しかし"それ"はなにも変わらない。

やがて、"それ"は顔をほむらに向け、右の五指に光弾を溜め込む。

さやかと違い、ほむらとの距離は遠い。避けることは難しくはないだろう。

だが、動けなかった。"それ"に抗ってはいけないと、細胞という細胞から訴えかけられているかのようだった。

"それ"の光弾は、身動きのとれないほむらへと放たれ


"それ"の左腕に電流が走り、先程の光弾とは比較にならない程の激痛がさやかを襲う。

さやか「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛―――――――――――――!!」

さやかの悲鳴が響き渡る。

やがて、さやかの意識は完全に途絶えた。

それでも、"それ"は電流を流すのを止めない。

さやかを助けたいという僅かな良心からか、無感情に、機械的に行われるその行為からの恐怖のためかは分からないが、ほむらは拳銃を抜き、放つ。

弾は、"それ"の右腕に被弾するが、しかし"それ"はなにも変わらない。

やがて、"それ"は顔をほむらに向け、右の五指に光弾を溜め込む。

さやかと違い、ほむらとの距離は遠い。避けることは難しくはないだろう。

だが、動けなかった。"それ"に抗ってはいけないと、細胞という細胞から訴えかけられているかのようだった。

"それ"の光弾は、身動きのとれないほむらへと放たれ

>>219誤爆

「衝撃の―――」

風と共に声が響き渡る。

クーガー「ファーストブリットォォォ―――!!」

風は、疾風へと変わり、質量を伴ってさやかを掴む左腕に襲いかかる。

―――が

クーガー(手応えがない...!?)

"それ"は、さやかに流していた電流を止め、クーガーを振り払うと共に、さやかを投げつけた。

弾かれたクーガーは、巧な足さばきで受け身をとり、ほむらの隣に着地。そして、投げられたさやかを優しく受け止めた。

クーガー「お怪我はありませんか?のむらさん」

ほむら「...ほむらよ」

クーガー「あぁ、すみません。でも、それは些細なことです。特に今はね」

"それ"と向き合う二人。

"それ"はただただ二人を見つめていた。

"それ"からは、一切の感情が感じ取れず、一切の意味すら感じ取れなかった。

やがて、"それ"は何もすることなく、何も発することもなく、粒子となって消え去った。

クーガー「...ひとまずは落ち着いたか。いったいあれはなんなんです?」

ほむら「...私にもわからないわ。突如現れたと思ったら、雷で廃墟を壊して...」

クーガー「雷...」

クーガー「...まあ、過ぎたことは後で考えましょう。グリーフシードは持ってますか?」

ほむら「ええ。ここに」スッ

クーガー「では、早速あやかのソウルジェムを...おや?」

ほむら「どうしたの?」

クーガー「いえ、あれだけ無茶な戦いを続けていた割りには、あまり濁っていない気がしまして...」

ほむら「...本当ね」

クーガー「ひょっとして、さっき浄化したばかりなんでしょうかねえ?」

ほむら「そう...なのかしら?」

ほむら(それにしては、彼女は消耗しきっていたような...)

クーガー(雷に、白の左腕と黒の右腕...まさか、な...)

―――――――――――――――

キリカ「おさまった...どうする?反応のあった場所へ向かうかい?」

織莉子「いいえ。今は、暁美ほむら達がいる。彼女と今遭遇するわけにはいかないわ」

キリカ「ワルプルギスでもなければ、織莉子が予知した魔女ってわけでもないんだよね?」

織莉子「ええ。あの魔女は、姿を現した瞬間全てを壊してしまった。さっきのとは規模が違いすぎる」

織莉子(...それだけに恐ろしい。そもそも、ソウルジェムが反応したとはいえ、魔女だとすら限定はできない。もし、あれが完全なるイレギュラーなら、私に対抗する術なんて...)

ゆま「オリコ、悩み過ぎちゃ駄目だよ。オリコは独りじゃないから...ね?」

織莉子「...ありがとう、ゆまちゃん」

織莉子(そうだ...今は、不安に思っていても仕方ない。とにかく、進もう。私には、それだけしかできないから)

今回はここまでです。そろそろ書き溜めのストックがヤバイ。

クーガーSSなら更新スピードも速く……つまり、>>1は更新スピードでクーガーのように世界を縮めるつもりか!?

―――――――――――――――

静かな演奏会場で、バイオリンの音が流れている。

いるのは、幼いさやかとその幼馴染の少年だけ。

少年が奏でる音色が、さやかは大好きだった。

今まで音楽に興味なんてほとんどなかったのに、不思議とあの音色には心が惹かれた。

言葉に表せないし、理由なんてわからない。とにかく大好きだった。

演奏が終わり、静寂が会場を包む。

さやかが拍手をすると、彼は困ったように微笑みながら礼儀正しくお辞儀をした。

照明が落ちると、周りは暗闇に包まれ、彼の姿どころか自分の姿さえ見えなくなった。

それでも、さやかは待ち続けた。

次にどんな曲を弾くか、もう一度聞けるかすら分からなくても、いくらでも待つことができた。

やがて、照明がステ-ジに当たり、待ち望んでいたコンサートが始まろうとする。

―――そして、幕が上がると共に彼女の目は覚める。

さやか「あれ...?」

さやか(さっきまで、あたし...恭介のバイオリンを聞いていたような...)

先程演奏を聴いていた会場に似ているが、照明なんて当たってないし、恭介もいない。

それを把握して、やっとあれが夢だったことを自覚する。

「目が覚めたか?ボンクラ」

不意に隣からかけられる声。そこには、かつて敵対した魔法少女が座っていた。


さやか「杏子...?なんであんたが...?」

杏子「...あの時言っただろ、放っておけねえってさ」

さやか「...でも、あたしはあんたの力は...」

杏子「そんなことはどうでもいいんだよ。んなことよりさ―――」スッ

杏子が指さした先に、照明が当たる。

照らし出されたのは、正装に身を包み、愛用のバイオリンを手にした上条恭介。

さやか「き、恭介...!?なんで恭介が!?まさか...!」

杏子「あたしは何にも知らねーよ。あいつと会ったの、今日が初めてだし」

さやか「じゃあ、なんで...」

杏子は、さやかの問いに答えない。

代わりにさやかに届くのは、バイオリンの音色。

杏子「ちゃんと向き合いな。お前が願った奇跡って奴とさ」


恭介の奏でる音色がさやかの身体に染みわたる。

どの曲も、さやかがお見舞いに持っていったCDのものだった。

杏子がそっと席を離れるが、さやかは気づかない。

それほどまでに、彼女は演奏に聞き入っていた。

さやか「あっ...」

さやか(この曲...)

やがて、奏でられるのは、アヴェ・マリア。

それは、恭介が最も得意とする曲だった。

演奏が終わり、会場が静寂に包まれると、さやかは自然と拍手をしていた。

だが、恭介の演奏はこれで終わりではなかった。

恭介「どうだったかい、さやか?」

さやか「前と同じ...ううん、もっと良くなってる」

恭介「よかった。久しぶりに二人きりの時に弾くから、緊張してたんだ」

さやか「...あの、恭介」

恭介「それじゃあ、最後に一曲だけ」

さやか「えっ?」

恭介「さやか、昔僕が適当に作って弾いてた曲、憶えてる?」

さやか「...うん。なんでか知らないけど、あたしその曲が大好きだった」

恭介「あれさ、僕も気に入ってたんだけど...いつからか、弾かなくなっちゃって。それで、思い出すのに苦労したんだ」

さやか「...?」

恭介「アヴェ・マリアみたいないい曲じゃないけど...聞いてくれるかい?」

恭介が弾いた曲。

それは、名前もなく、プロを目指す少年が弾くにしては何もかもが大雑把な曲だった。

それでも、さやかはあの夢の中ですら待ち望んでいた。

誰にも評価なんてされなくても、二人にとって大切な曲だった。







そうだった。

いつから忘れてたんだろう。

魔法少女になってから?ううん、きっと、もっと前から...

あたしは、恭介の演奏を聴きたかっただけなんだ。

命を賭けてもいいくらい好きなだけだったんだ。




この演奏の前では、魔法少女も何も関係ない。

かつての、上条恭介の演奏が大好きだった『美樹さやか』がそこにはいた。

―――――――――――――――
会場外


仁美「これでよろしかったのですか?」

まどか「...うん、ありがとう仁美ちゃん」

仁美「...私には、これくらいしかできませんから」

まどか「今まで、隠しててごめん」

仁美「仕方ありませんわ。私も、逆の立場なら同じことをするでしょうから」

ほむら「まどか、何故彼にあんな頼みごとを?」

まどか「わたしじゃ、さやかちゃんを止めることはできなくて...でも、さやかちゃんの祈りが間違ってるだなんて思いたくなくて、それで...」

ほむら「......」

ほむら(...私では、彼を信用することなんてできなかった。美樹さやかが魔法少女であることがバレた時、いつだってロクな結果にならなかった)

ほむら(杏子や巴マミでもそう。魔法少女のことを知らない者を信用することなんてできない筈)

ほむら(でも、まどかは...さやかのために演奏をしてほしいと上条恭介に頼んだ。魔法少女であることを話さずに、だ。彼がさやかのために動いてくれることを信じ、実際に彼は動いた。さやかと向き合うことから逃げなかった。でも、そんな時間軸は一度も...)

ほむら「そういえばクーガー...あなた、何度も上条恭介に会いにいっていたそうね。もしかしてこうなることを見越して...」

クーガー「考えすぎですよ。彼女があいつにきちんと言葉で伝えた。ただそれだけのことです」

マミ「...羨ましいんじゃないかしら?」

杏子「...別に」

マミ「そう。私は羨ましいわ。嬉しくて、羨ましい」

杏子「......」

マミ「契約してよかった...とまでは言えなくても、契約したことが、全部が全部間違いじゃなかったって思えるんだもの。それって素敵なことじゃない」

杏子「...ロマンチストが」

マミ「昔はそうだったでしょ?あなたも」

杏子「...ふんっ」プイッ

クーガー「照れるなって。人はロマンを抱えて生きる生物だからな、あんこ」

杏子「杏子だ!...おっと、出てきた」

さやか「......」

杏子「よう、どうだったよ。あんたの願った奇跡は」

さやか「...うん。聞けてよかった。思い出せたんだ、あたしの最初の気持ち...」

杏子「へっ、そいつはよかったな」

さやか「ありがとうね、杏子。ここまでしてくれて...」

杏子「あたしは何にもしてねーよ。坊やに演奏頼んだのも、あんたを一番心配してたのもあいつだ」クイッ

さやか「ま、まどか...?あんたなんで...」

まどか「......」

さやか「あ...あたし...その...」

ギュッ

さやか「!」

まどか「お帰り、さやかちゃん」

さやか「ただいま...」グスッ

それから、美樹さやかは全員に何度も謝っていた。

上条恭介にも事情を話していたが、意外にもあっさり受け入れられていた。むしろ、不気味なくらいテンションが上がっていて、話した本人がひきぎみだった。

まどかは契約していなくて、巴マミも美樹さやかも佐倉杏子も生存...加えて、ストレイト・クーガーという強力なイレギュラーもいる。

まだ、不安要素は多い。ワルプルギスの夜に、あの謎の魔女...

それでも、今度こそいけるのではないかという希望が、私の中に芽生えつつあった。

――――――――――――――――――

???「―――以上が、現在報告です」

???「ご苦労様です。『友情』『絆』...全くもって下らない。こんなものでは私の渇きは癒えませんねえ」

織莉子「......」

???「まあいいです。とにかく、これで準備は整ったのでしょう?」

織莉子「はい。『向こう側』への鍵はこれで揃いました」

???「にわかには信じがたいが...私を見つけたあなたが言うのなら、間違いではないでしょう」

???「では、計画を始めますか?」

???「はい。ようやく訪れました。私が全てを手に入れる時が...」

無常「無常矜持の渇きを埋める時がねえ!」

第6話 『無常矜持』

欲望が不和を呼び、不和が戦いを呼び、戦いが悲しみを呼ぶ。

その中で芽生えた友情も、希望も、絶望の中に溶け込むしかないのか。

行くは破壊。来るは破壊。全て、破壊!

今回はここまでです。

やっと本題に入れそう

―――――――――――――――
ロストグラウンド

イーリャン『向こう側への扉が消えていく...どうやら、一時的なものだったみたい』

ジグマール「そうか...」

イーリャン『一応、ダース部隊だけでも手配しておく?』

ジグマール「いや、いい...余計な混乱は避けたい。このことは、私と君の胸中に留めておいてくれ。特に、劉鳳には知られないようにな」

イーリャン『了解』

プツン

ジグマール(片鱗とはいえ、あの市街での惨劇以降、何年も開かなかった【向こう側】への扉がなぜ...姿を消したクーガーに関係があるのか?)

ジグマール「ストレイト・クーガー...きみは今、いったい何をしている?」

第6話 『無常矜持』


さやか「行くよ...杏子」

杏子「きな」クイッ

さやか「そうやって余裕こいてられるのも、今の内だから...ねっ!」ダッ

杏子(こいつ、速くなってやがる...けど)

杏子「丸見えだよ!」

杏子に躱され、さやかの突撃は空を切る。

杏子「さあて、次はこっちの...ッ!」クルッ

杏子は目を疑った。

今しがた攻撃を躱した筈の相手が、既に自分の目の前まで迫っていた。

さやか「どりゃあ!」

杏子「っと!」サッ

さやか「まだまだぁ!」

杏子「!...なるほどね」

突撃するさやかの視線は、杏子ではなく、その後ろにある魔法陣。

杏子(プロレスのリングにあるゴムの反動みたいに、魔法陣を足場にして加速するってわけか)

さやか(あたしの動きについてこれないみたいだね、杏子...一度言ってみたかったんだよね、こういうの)

杏子(でも、それなら...)

さやか「あんたに足りないものは...それは!」

杏子(こうすりゃいい)

杏子が、魔法陣の下に槍を伸ばす。

さやか「情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ!そして何よりもぉぉぉ―――!」

高速で動くさやかはそれに気付けず、躱す術もない。

ガッ

さやか「速さが足りなばぶぅ!!」ズザザザ

杏子「あたしになにが足りねえって?」

杏子「お前なあ、いくら速く動けたって、制御できなきゃ意味ないだろ。動きも直線的で丸見えだしな」

さやか「くそ~、なかなか良いアイディアだと思ったんだけどなぁ」

クーガー「まあ、アイディア自体は悪くはないが...まだまだ経験不足ってことだな」

クーガー「攻撃する時に、躱されることを前提として相手を見てなかっただろ?今回は練習だからいいが、本番ではそいつが命取りになる」

クーガー「勝負は一撃で決めるつもりで挑む。それがスピーディに勝利を収めるコツだ」

さやか「なるほど...」

杏子「さあて、腹も減ってきたことだし、マミの家にいこーぜ」

さやか「そうじゃないでしょ。今日はほむらの家に集まる約束があるでしょうが」

――――――――――――――――
ほむホーム

仁美「お茶ですわ」

さやか「あ、ありがとう」

仁美「こちらは巴さんの分で、こちらは...」

まどか『な、なんで仁美ちゃんもいるの?』

ほむら『ごめんなさい。どこからか、私の家に集まることが漏れてたみたいで...「また私だけ除け者にするのですか!?」ってキレられて...』

杏子「まあいいよ。一応、魔法少女のことは知ってるんだろ?だったら、完全に無関係ってわけじゃないし」

ほむら「...そうね。なら、本題に入りましょう」

ほむら「もうすぐ、この街にワルプルギスの夜がやってくるわ」

マミ「...!」

さやか「ピルプル...なにそれ?皆知ってるの?」

ほむら「『ワルプルギスの夜』...巴さんと杏子以外は知らないと思うけれど、最大にして最強の魔女よ。大規模な自然災害は、こいつが原因とまで言われているわ」

まどか「そ、そんなのがやって来るの...!?」

ほむら「ええ。私は、そいつを倒すためにここまで準備してきた...」

杏子「ちょっと待て。前からきになってたんだが、あたしとマミだって噂でしか聞いたことがない奴だぞ?そんなやつが来ることを、あんたは何故知ってる?」

ほむら「それは...」

ほむら(言うべきかしら...?でも、信じてくれるわけが...)

クーガー「深く考えすぎですよ、のむらさん」

ほむら「ほむらよ」

クーガー「ああ、すみません。...俺がここにいるんです。だったら、どんなことであろうと不思議ではないでしょう?」

ほむら「......」

ほむら(確かに、この男は私以上のイレギュラー。普通では存在し得ない彼がいるのだから...)

ほむら「わかった、話すわ。私が戦う理由を」

ほむら(全てを話すことはできないけれど...可能な範囲で伝えよう。そうしなければ、先には進めないから)

私は話した。まどかとの出逢いから今までを。

―――勿論、ソウルジェムの最後の真実は隠して

まどか「ほむらちゃん...わたしのせいで...」ポロポロ

ほむら「...泣かないで、まどか」

まどか「わたし、何も知らなかった...ほむらちゃんがずっと苦しんでいたのに...!」

ほむら「これは、私が望んで始めた戦い。だから、あなたは悪くなんてない」

まどか「でも...!」

マミ「はい、そこまでよ」


ほむら「巴さん...」

マミ「要は、鹿目さんとこの街を守るために協力してほしいってことでしょ?」

ほむら「...ええ」

マミ「それならそうと最初から言ってくれればいいじゃない」

ほむら「じゃあ...!」

マミ「可愛い後輩と、私が育ってきた街だもの。協力するに決まってるじゃない」

さやか「あたしもだよ。...色々迷惑かけちゃったけどさ、やっぱり、あたしはみんなが大好きだから...戦うよ。ねえ、杏子」

杏子「まあ、このまま風見野に帰ってもつまんないし、せっかく伝説の魔女を拝めるんだ。こんなチャンス逃すのは勿体ないよな」

さやか「素直に協力するって言えばいいのに。杏子ちゃんは照れ屋さんだなあ」

杏子「喧嘩売ってんのかてめえ」

オラァァ! ジョウトウダコノヤロー! ヤ、ヤメテフタリトモー!

ほむら「それで、クーガー。あなたはどうするの?」

クーガー「はい?」

シカタアリマセンワネ ココハワタクシガ ヒトミチャン、ナニヲ!?

ほむら「あなたの目的は、ここには無い筈...なら、私たちに付き合う必要なんて...」

クーガー「そいつは愚問ですよ、のむらさん」

ハッ! グハァ! ミ、ミキサントサクラサンガイチゲキデ... シリアイノダイガクキョウジュカラオソワッタツウシンカラテノタマモノデスワ

クーガー「ここまで首突っ込んできたんです。今更帰れなんて言われても、気になって読書もできやしない」

ほむら「...ありがとう。あと、ほむらよ」

クーガー「ああ、すみません」

クーガー(それに、個人的に気になることもできたしね)

ほむら「では、ここにいる者は全て、ワルプルギスとの戦いに協力するという提で話を進めるわ」

マミ「ええ」

ほむら「決戦は2週間後...それまでに備えてほしいことがあるの。まずはこれ」

杏子「...グリーフシードか」

ほむら「ええ。どういうわけか、今回のこの街には、グリーフシードを落とす魔女があまりいない。そのため、現在の数では心もとないわ」

杏子「っつーことは、風見野に帰れってか?」

ほむら「いいえ。そもそも、あなたは風見野に魔女が少ないからこの街を狙っていたのでしょう?」

杏子「それもそうだな...じゃあ、他のところから探してこいって?」

ほむら「本来なら、相当な時間を要してしまうことだけど...幸いにも、その問題は」

クーガー「俺の出番ということですね!?」

ほむら「ええ。杏子とクーガー。あなたたちを中心に、別の街からグリーフシードを集めてほしい」

さやか「あたしたちは?」

ほむら「あなたは駄目よ。行方不明になっていたこと、忘れていないでしょう?」

さやか「そ、そうでした...」

ほむら「それに、私と巴さんにしたって、いきなり2週間も学校を休めば、必ず不審に思われる。...だから、授業には出るしかない」

ほむら「あなたは、この2週間で徹底的に叩きあげるわ。覚悟しておきなさい」

さやか「オッケー!」

仁美「私とまどかさんはどうすれば...」

ほむら「あなたたちは、あまり動じず、いつも通りにしていてちょうだい。下手に気を張ると、ボロがでそうだから」

ほむら「特にあなたには、まどかを守ってほしい。ワルプルギスの夜と戦っている時に、インキュベーターがまどかになにを吹き込むかもわからない」ボソッ

仁美「!...わかりました」

杏子「これで話は終わりか?」

ほむら「いいえ。...むしろ、こっちが本命だと思うわ」

さやか「...アレだよね」

クーガー「......」

ほむら「もし、ソウルジェムが異様な反応をしたら、すぐにその場から離れてちょうだい」

マミ「なぜ?ソウルジェムが反応するなら、魔女じゃ...」

さやか「ただの強い魔女ならどれだけよかったか...」

ほむら「アレには絶対に勝てないわ。強さとかの次元じゃなかった...」

杏子「...よくわかんねーな。特徴とかはねえのかよ?」

ほむら「特徴は、雷を纏い、左腕が白く、右腕が黒い"モノ"よ。それ以外は何もわからないわ。...とにかく、そいつとは戦ってはだめ。いいわね?」

マミ「...わかった。あなた達がそこまで念を押すんだもの。それほどの相手なのでしょうね」

ほむら「わかってくれて嬉しいわ。何か質問は?」

ほむら「...ないわね。じゃあ、明日からお願いするわ」





QB「......」

スウッ

――――――――――――――――――

それから、私たちは出来得る限りの備えをした。



ブロロロ

クーガー「俺はこう思うんだ。旅は素晴らしいものだと!その土地にある遺跡、名産、暮らしている人々との触れ合い!新しい体験が人生の経験になり、得がたい知識へと昇華する!しかし目的地までの移動時間は正直面倒だ。その行程を俺なら破壊的なまでに短縮できる!だからオレは旅が大好きだ!聞いてるかあんこぉ!?」

杏子「ぅぷ...」

杏子とクーガーは、私たちが授業に出ている間にグリーフシードを探しまわり





シュルルル

さやか「ぬわー!」

マミ「反応が遅い!」

ほむら(そういえば、彼女、戦いに関しては超スパルタだったわね)

まどか「頑張って、さやかちゃん!」

マミとさやかは授業が終わればすぐに特訓をして



仁美「信頼できる情報ですと、おそらく...この辺りが穴場かと」

ほむら「こんなところに...盲点だったわね」

私は...武器の調達を主に行った。

その過程では、色々なことがあった。



杏子「だーかーら、今のはあんたが邪魔になったんだっての!」

さやか「あたしの方が先に動いてたじゃんか!あんたがどうにかしなさいよ!」

マミ「まだ戦いは終わってないでしょうが!」ドンッ

使い魔「キャウ!」シュウウ

ちょっとしたことで言い合いになったり




ブロロロ

クーガー「俺はこう思うんですよ運転するなら助手席に女性を乗せるべきだと。密閉された空間、物理的に近づく距離、美しく流れるBGM。体だけでなく二人の心の距離まで縮まっていくナイスなドライブ!早く目的地に行きたい、でもずっとこうしていたいこの甘美なる矛盾、簡単には答えは出てこない、しかしそれにうもれていたいと思う自分がいるのもまた事実!」

ほむら(か、感覚を消せば...いや、我慢する力も無くなって、むしろ逆効果...!)

マミ(何度も乗ったから、少しは...あ、やっぱだめ)ウプ

ガタン

マミ「きゃあ!」

クーガー「ウヒョーーー!ファンタスティーーーーック!!」

休日に遠征の役を変わったら、これまでにない吐き気に襲われたり






更には、こんなこともあった

ほむら「お泊り会?私の家で?」

さやか「うん。もうすぐ決戦だし、作戦会議の復習ついでに結束を固めようかなぁ、と」

仁美「決戦への準備は整っているのでしょう?」

ほむら「それはそうだけど...」

さやか「それじゃあ、マミさんと杏子とクーガーさんと...恭介も呼ぶか」

ほむら「そんな勝手に進められても...」

まどか「ごめんね、ほむらちゃん。実はわたしもしたいかなって...」

ほむら「し、仕方ないわね...」

さやか(やっぱまどかには弱いなー)

台所

ジュウウ

マミ「クーガーさん、料理ができたんですね」

クーガー「料理は文化の一つですから、少しかじってみたんですよ。よかったら、後で美味い紅茶の淹れ方を教えてくれませんか?」

マミ「ええ。喜んで」ニコッ


居間

さやか「本当に意外だよねえ。てっきり、クーガーさんのことだから『飯を調理する時間すら惜しい!』ってな感じでレトルト系ばっかだと思ってたんだけど」

杏子「なんでも、食事に関してはポリシーがある見たいだぜ。確か...」

クーガー『食事は人の心を豊かにし、エネルギーと明日への活力を生み出してくれます。ここに速さは必要ありません。味を堪能しながら歯で噛み砕いて食べ物を胃へと流し込むそして―――』

杏子「途中までしか覚えてないけど、確かこんなこと言ってた。そんで、作っている時間も文化の一つなんだとさ」

仁美「でも、確かに一理ありますね。料理は作ること自体にも意味はありますし、よく噛めば消化にもいいですから、ちょっとの量で満腹感を得られます」

杏子「ああ、道理で最近あまり多くは食ってねえわけだ」

まどか「料理かぁ...やっぱり、出来る人ってカッコイイよね」

ほむら「大丈夫よ、まどか。私も出来ないから」

就寝前

ほむら「女6人に男2人...結構ギリギリね」

さやか「恭介、いくら美少女揃いだからって寝込みを襲っちゃ駄目だぞ~!」

恭介「しないよ、そんなこと」

さやか「あらら...全く動じずにこの男は...たまには音楽以外のことにも興味を持ちなさいよ」

杏子「何でもいいから早くねよーぜ。今日は色々やって疲れたんだ」

マミ「あらあら、相変わらず寝るのが早いわね」

仁美「でしたら、その前に」ゴソゴソ

パシャッ

まどか「カメラ?」

仁美「携帯より雰囲気が出ると思いまして」

クーガー「写真ですか、そいつはいい!そもそも写真に限らず記録に残すということは記憶のみで構成される思い出をより鮮明に」

仁美「さあさ、ほむらさんはこちらの椅子に」

ほむら「あ、ありがとう」

クーガー「ああ、ちょっと!?」

仁美「では、押してから3秒後に撮りますよ」

さやか「ほらほら、二人はもっと詰めて」グイグイ

ほむら「こ、これはちょっと...」

まどか「近すぎない?」

マミ「いいのいいの。こうしないと皆が写らないでしょう?」ウフフ

杏子(マミの奴、楽しんでるなぁ...)

恭介「僕は志筑さんのスペースを空けて、と」

クーガー「準備オーケーです、ひろみさん!」



仁美「仁美ですわ。ではいきますよ」

ジー

パシャリ

――――――――――――――

グーグー

クーガー「......」パラリ

QB「こんな暗いところで読書をしていると、視力が悪くなるよ」

クーガー「悪くなる前に読み終える...俺は最速で走る男だ。...というより、そんなことを言うために来たわけじゃないだろう?」

QB「まあね。ストレイト・クーガー、君はあのイレギュラー..."なにかの結晶体"とでもいうべきアレについて知っているかい?」

クーガー「何故俺に聞く?」

QB「時間遡航者である暁美ほむらも、アレのことについては知らないようだからね。一番有り得ない存在である君に関係がある可能性が一番高いからだよ」

クーガー「知ってるといえば知っているが、噂だけだ。アレがそうだとも限らないし、俺も直に見たのはあの時が初めてだ」

QB「それは本当かい?」

クーガー「嘘をついてどうなる」

QB「...そうかい。だとすれば、僕の考えは外れではないかもしれないね」

クーガー「...どういう意味だ?」

QB「知りたいかい?」

クーガー「ああ、知りたい」

QB「それなら、暁美ほむらが君たちに隠していることから話さないとね」

クーガー「だったら話さなくていい。その仮説とやらも、彼女が隠していることもな」

QB「興味はないのかい?」

クーガー「興味はある...が、聞きたくはない。彼女がここまで隠し通してきたんだ。だったら彼女が話してくれるまで待つさ」

QB「そうかい...まあいいさ。どうあがこうとも、ワルプルギスの夜はやってくる。君たちがどう立ち向かうのか、それを見届けるのも僕の役目だ」

クーガー「俺たちが倒しちまったとしてもか?」

QB「僕は君たちと敵対してるわけではないからね。どのような結果になろうともそれを受け入れるだけだ」

クーガー「意外だな。てっきり、お前さんのことだから、『君たちが勝てる確率はゼロだ』とかいって気持ちを萎えさせてくると思ったんだがな」

QB「仮にそう言ったとして、君たちは戦うのを止めるかい?」

クーガー「止めないな」

QB「だろうね。それくらいは僕にもわかるよ。でも、一つだけ不可解だね。君はなぜそこまで彼女の肩を持つんだい?ワルプルギスの討伐なんて、君の目的にはなんら関係ないじゃないか」

クーガー「いずれ分かるとは言わん。俺とお前じゃ文化が違うからな」

QB「やれやれ、本当に君たち人間は理解に苦しむね」

今回はここまでです。

――――――――――

ワルプルギスの夜襲来3日前


まどか「もうすぐ...だね」

ほむら「...ええ」

まどか「やっぱり、怖いよね」

ほむら「怖くないと言えば、嘘になるわ。でも大丈夫。私たちが、あなたとこの街を守る」

まどか「!...えへへ」

ほむら「どうしたの?」

まどか「ほむらちゃん、ちょっと変わったね」

ほむら「え?...あっ」

まどか「前までのほむらちゃんなら、『私たち』なんて言わなかったもん」

さやか「うんうん、ようやくほむらもあたし達のことを認められるようになったか」

まどか「さ、さやかちゃんいつの間に...」

さやか「最初から。一緒に帰ってるのに、惚気話に夢中であたしに全然構ってくれないんだもん」

ほむら「惚気話って...」

まどか「じゃあね、ほむらちゃん、さやかちゃん」

さやか「じゃーね!」

ほむら「ええ。また明日」

パタン

さやか「また明日、か...不思議だよね。あと三日後にはどうなってるかわからないっていうのに、妙に落ち着いて、いつも通りに過ごして...」

ほむら「......」

さやか「...ねえ、あたしたちがクーガーさんに2人きりにされた時のこと、憶えてる?」

ほむら「...ええ」

さやか「あの時のあたしたちさ、お互い黙っちゃって、凄く気まずかったよね」

ほむら「...そうね」

さやか「その時と比べたら、あたしたちも随分と変わったよね。特にあんたは」

ほむら「そうかしら?」

さやか「うん。少なくとも、会話してない時でも気まずさはあまりないかな」

ほむら「...そう」


――――キィン

さやか「おっと...この反応は普通の魔女だね」

ほむら「ええ。すぐ近くのようだし...向かいましょう」


結界

鉄槌の魔女
その性質は粉砕。ただ壊すことだけに執念を抱いたその力はかなり強力。その反面、攻撃を受けるのは苦手である。



鉄槌「ハーンマァァァァァ!!」

さやか「ノロそうなやつ」

ほむら「大した魔力もない見たいだし...見かけ倒しの魔女ね。早く倒しましょう」

さやか「オーケー!それじゃ、あたしが引き付けて...っ!」

ゆま「オリコ~キリカ~、どこぉ?」キョロキョロ

鉄槌「ハンマ」ギョロッ

ゆま「ふえっ!?」ビクッ

さやか「ヤバイ!」ダッ

ほむら「さやか!?」

鉄槌「ハンマァァァ!!」グワッ

ゆま「えっ?」

さやか「ぬおりゃあああ!」ガシッ

ゆま「わっ」

ドゴォォン

ほむら「さやか!」

ほむら(私が時間停止を使うよりも早く、あの子のもとへ...!)

さやか「...大丈夫、破片が当たっただけ。怪我はない?お嬢さん」

ゆま「う、うん。お姉ちゃんは...?」

さやか「へーきへーき。こう見えても、結構頑丈だからさ」

鉄槌「ウウゥゥゥ...!」

さやか「やいこらデカブツ。この子に手を出したいってんなら、まずはあたしからやってみな」

鉄槌「ハーーンマァァァァァ!!」グワッ

さやか「遅い!」ヒラリ

鉄槌「ハンマ!?」

さやか「ほら、こっちこっち!」

鉄槌「ハンマ!」クルッ

ほむら『さやか、私が合図したら跳びなさい』

さやか『OK!』

さやか「せやあっ!」ガキン

鉄槌「ハン...マ...!」グググ

ほむら(魔女の動きは止まった。距離は...この位置なら)

ほむら『さやか、行くわよ!』ジャキン

さやか「おうっ!」バッ

ほむら「全弾持っていきなさい...!」

ガルルル

鉄槌「ハン!?」

さやか「貰ったぁ!スパークエッジ!!」ザシュ

鉄槌「マアアアアァァァァ―――!!」

シュウウウ

さやか「よっしゃあ、決まった!近距離のあたしが相手を釘づけにしておいて、遠距離のほむらが射撃。そんで最後のダメ押しにあたしの新技...これぞ作戦名『ガン×ソード』!」

ほむら「...もう少し、いい名前はないのかしら」

さやか「言いやすいじゃん。覚えやすいし」

ほむら「...そうかしら」

さやか「そうだよ。それより、大丈夫だった?」

ゆま「う、うん。ありがとうおねえちゃん達」

さやか「いいのいいの。もうすぐこの怖いところも消えるから、おとなしくしててね」

ほむら「......」




さやか『あたしこの子と組むの反対だわ。目の前で爆発とか、たまったもんじゃないんだよね』




ほむら(なんてこともあったけど...)

さやか「あっ、ついでにほむら。あんたも怪我とか...」

ほむら(あの時、クーガーが言った通りだった。まずは自分のことをよく知って貰う事から始めるべきだったのね)




さやか「ほむら、上!」



ザシュッ

ほむら「...えっ?」

左腕が宙を舞う。

目の前に黒衣の魔法少女が降り立ち、遅れて左腕が少女の手中に収まる。

さやか「あ、あんた...!?」

キリカ「フリーズ(動くな)!!」

さやか「」ビクッ

キリカ「動けばどうなるか...わかるだろう?」

黒衣の魔法少女が、掴んだ左腕のソウルジェムに舌を這わせる。

やがて、じわじわと湧き上がってくる激痛を通じて、切り落とされたのが自分の腕であることを理解した。

それは、あまりにも唐突で、理不尽な奇襲だった。

ゆま「き、キリカ...?」

さやか(あいつ...この子の知り合い?じゃあ、まさか―――)

トンッ

ゆま「うっ...」ドサッ

織莉子「...この子は無関係よ。ただ、私たちが利用しただけ。あなた達に隙を作るためにね」

さやか(新手!?...しかも、いつ現れたのかわからなかった...どうすれば...!?)

ほむら「さやか、私に構わず逃げなさい!クーガーの次に速いあなたなら逃げきれる筈!」

さやか「で、でも...」

ほむら「私がいなくてもワルプルギスの夜は倒せる!だから、このことをみんなに伝えて!」

キリカ「イレギュラー。おまえの判断は間違ってないよ。私と織莉子の二人を相手にできるわけなんてないからね。でも、おまえは一つ間違っている。それは...」トントン

クラウチングスタートの構えをとって、キリカが駆け出す。

さやかが反射的に剣を振り下ろすが、しかし、剣は空を切った。

キリカ「私、この子より速いよ」

キリカが通り過ぎた後に、さやかの背から鮮血が舞った。

さやか「がっ...!」

とびそうな意識をどうにか保ち、背中の傷を即座に治し、さやかはキリカから距離をとった。

キリカ「凄い回復力だね。今の、気絶くらいはいってもおかしくなかったんだけど...なるほど、確かに私一人じゃ逃げられるかもしれない」

さやか「くっ...!」

ほむらは魔法を使えない。どころか、その命を相手に握られている。

敵は二人。しかも、どちらにも、まだまだ新米の自分では勝てそうにない。

キリカ「さあ、どうする?どうする?どうする?君ならどうする!?」

さやかの心を読みとったかのように挑発をするキリカ。

その問いに、さやかは

さやか「......」グッ

キリカのように、クラウチングスタートの姿勢をとる。

キリカ「最速でイレギュラーのソウルジェムを取りにくる...まあ、それしかないだろうね」

キリカが爪を構え、さやかが足に力と魔力を込める。

そして、空間が静寂に包まれると同時に、彼女たちが衝突



ドスッ

ほむら「あっ...」

することはなかった。

ほむらの胸部から、刃が生える。

???「遊びすぎですよ、呉キリカ」

キリカ「...邪魔しないでよね、異納サン」

異納と呼ばれた男が、刀を引き抜くと共に、ほむらが前のめりに倒れていく。

しかし、さやかには何もできない。ゆっくりと倒れていくほむらを、見ていることしかできなかった。

異納「失敬。ですが、これ以上は時間の無駄ですので...」

さやかの手が震える。歯がガチガチと鳴る。

それは、恐怖や悲しみではない。言うまでも無く、怒りだ。

その感情の赴くままに、さやかは叫んだ。

異納のアルター『ブレードダンス』の刃と、さやかの刃が交錯した。

―――――――――――――

まどか宅 夕方

まどか「あと三日...」

あと三日で全てが終わる。

まどか(マミさん...杏子ちゃん...さやかちゃん...クーガーさん...ほむらちゃん)

彼らが負けるとは思っていない。

それでも、嫌な予感がまどかの胸中から消えなかった。

ワルプルギスの夜とはまた別の胸騒ぎが...

まどか(...テレビでも見て、気を紛らわそう)

ピッ



『本日未明、見滝原市××通りで、身元不明の左腕と見滝原中学の学生一人が意識不明の重態で発見されました。発見された被害者は美樹さやかさん。現場の状況から、警察は傷害及び殺人事件の可能性が高いとみて捜査を続けています』

今回はここまでです。ガンソ目当てでそれ以外に期待せずに買ったスパロボKが意外に面白かった。

病院

タタタ

まどか「マミさん...さやかちゃんは...?」ハァ ハァ

マミ「大丈夫よ。確かに、傷は酷かったけど、ソウルジェムも浄化したし、命に別状はないわ。でも...」

まどか「でも?」

マミ「しばらく意識は戻りそうにないわ。戻ったとしても、当分は動くことすら...」

仁美「どうして...どうしてこんな...」

恭介「さやか...」

杏子「...腕の方はどうなんだ」

クーガー「のむらさんだろうな。ソウルジェムは無かったが、一向に連絡がつかないところを見ると...」

マミ「誰がこんなことを...」

QB「魔法少女さ。それ以外は考えにくい」

まどか「キュゥべえ...あなた、何か知ってるの...!?」

QB「いいや、何も知らないよ。ただ、僕の知る限りでは、魔法少女が一番確率が高いんだ」

マミ「どういうこと?」

QB「魔法少女である二人を倒せる可能性があるのは、魔女か魔法少女だけ。だが、魔女がトドメも刺さずに彼女を逃がすとは考えづらいし、ほむらがさやかを逃がしたという考えもあるけれど、さやかがソウルジェムのないほむらの左腕を持ち帰る理由も少ない。まあ、クーガーのようなイレギュラーがまだいれば話は別だけど」

杏子「...おい、キュゥべえ。教えろ、誰がさやか達をやったかを」

QB「それは無理だ」

杏子「このごに及んでまだ僕は中立ですとか言うのか、おい!?」

QB「そうじゃない。わからないんだ」

杏子「てめえ、ふざけるのもいい加減に...!」

クーガー「落ち着け、あんこ。こいつは嘘はつかない。それだけは確かだろ」

杏子「杏子だ!」

QB「確かに、僕らは無限の個体を持っている。でも、常に全ての情報を管理しているわけじゃない」

QB「例えば、どこか別の場所で魔法少女が死に、それを別の個体が確認したとしよう。それを知ることができるのは、その個体から直接聞くか、その個体が潰された時だけだ」

クーガー「なら、のむらさんたちをやった奴は、その個体を殺しも逃がしもしていない...ってことだな」

杏子「...チッ」クルッ

まどか「杏子ちゃん...?」

杏子「便所だよ」

クーガー「......」

――――――――――――――

織莉子「はい...あなたは、そこで準備していてください。彼女たちの相手は私がしますので。では...」ピッ

キリカ「もういいかい?」

織莉子「ええ。待たせたわね。では、始めましょう」

織莉子の手に握られているのは、紫色のソウルジェム。

床に転がっている暁美ほむらは、死んでいるかのように動かない。

路地裏

ザッザッ

杏子「......」

クーガー「敵が誰かもわからないってのに、どこに行こうってんだ」

杏子「決まってんだろ。どうせこの街のどっかにいるんだ。片っ端から探し出して...」

そのままクーガーの前を通りすぎようとする杏子だが、彼の伸ばした足に引っかかり、あえなく転倒してしまった。

クーガー「少しは落ち着けって」

杏子「この野郎、なにしやがる...!」

クーガー「お前がちゃんと俺の話を聞かないからだろ。一人になれば敵の思うツボだろうが」

杏子「それであたしを狙ってくるなら好都合じゃねえか!それに、どの道時間もねーんだ!作戦なんざ考えてる余裕もねえだろうが!...もう行くぞ」

クーガー「人の話を聞けぇ!」

杏子「聞けねーなぁ。どうしても止めるつもりなら、いくらあんたでも...」

クーガー「ちっ」

杏子「ぶっ潰してやる!」

クーガー「上等ォ!」

―――――――――――――――

無常「中々の手際でしたよ、異納くん」

異納「光栄です、無常様」

無常「向こう側への扉、その奥に在るもの...期待と興奮で胸が張り裂けそうです!」

異納「...お言葉ですが、無常様。私はあの魔法少女...美国織莉子の語る言葉が全て真実とは思えないのですが」

無常「ええ。わかっています。彼女は私に忠誠など誓ってはいないでしょう」

異納「ならば、なぜ...?」

無常「放っておけばいいのですよ。自分の思い通りに人を動かせると信じている者ほど、扱いには困りませんからねえ。さあ、君も行ってあげなさい」

異納「...かしこまりました」

無常「...ですが、その前に」ギョロッ

QB「!」

無常「あなたに恨みがあるわけではありませんが...彼らに余計なことを吹き込まれたくはないですからねえ」ガシッ

QB「きゅ...」

無常「ついでにあなたの知識も頂きます。『アブソープション』」

――――――――――――――――――
教会

ギリリリ

クーガー「ええ。こいつを落ち着かせたら向かいますから、あなた達はそこにいてください。流石に病院では手を出さないでしょうから」ピッ

クーガー「ったく、ここに来れば少しは落ち着くと思って連れてきたが...目を覚ました途端にこれか」ギリギリ

杏子「うぎぎ...てめえ、放せ、この...!」

クーガー「放したらどうする」

杏子「決まってんだろ...ぐあっ!」

クーガー「バカが...」

カタン

クーガー「うん?」

クーガー(ポストに何か入れた音...妙だな、新聞も出前もとった覚えは無いが...)

マミ「...やっぱり、佐倉さんは一人で探しにいこうとしてたみたい」

まどか「......」

マミ「...ええ、わかってるわ。私だって、今すぐにでも暁美さんと美樹さんを倒した相手を探し出したい。でも、私たちがバラバラになってしまってはそれこそ敵の思うツボ。今は耐えるのよ」

まどか「...はい」

ガララ

クーガー「どうやら、その必要はないようです」

マミ「クーガーさん、佐倉さん...どういう意味ですか、それは?」

杏子「...置手紙だ。3時にマミの家のパソコン立ち上げろってな」

マミ宅

杏子「...時間だ」

マミ「わかってるわ」

ポチッ

『初めまして、皆さん。私の名は美国織莉子』

まどか「う、映った...!」

仁美「いったいどうやって...?」

『ちょっとした知識と魔法があれば簡単ですよ』

杏子「そんなことはどうでもいい!てめえがさやかたちをやったんだな!?」

『ええ。全ては世界を救うために...』

マミ「世界を救うため...?それが二人を傷付けたことになんの関係があるの!?」

『話したところで、あなたたちには理解できないでしょう。それに...救世はまだ終わっていませんよ』

クーガー「なに...?」

『あなた達がいるじゃないですか。巴マミ、佐倉杏子、ストレイト・クーガー...そして、鹿目まどか』

まどか「!」

『あなた達がいる限り、真の平和は訪れません。だから...今日で全てを終わらせます』

『今から5時間後...つまり20時に、××通りの廃工場で待っています。あなたたちの大切なお友達はお預かりしていますから...』スッ

まどか「ほむらちゃんのソウルジェム...!」

『もしこの時間キッカリに来なければ...彼女がどうなるかわかりますね?』

杏子「...ハッ、上等だ。その喧嘩、買ってやるよ」

『...では、ごきげんよう』

プツン

杏子「...ぶっ潰してやる」

病室

恭介「...なんだか、大変なことになったね」

恭介「みんな行っちゃったよ。僕以外はね」

恭介「クーガーさん達だけじゃない。志筑さんすら、鹿目さんを守るって行っちゃったよ」

恭介「...男として、情けないよね」

いくら語りかけても、さやかの目は覚めない。

恭介「...先生に無理言って、持って来たんだ。僕にはこれしかできないから...」

持ち込んだバイオリンを弾いてみせる。

彼女が命を賭けて手にした奇跡。

それを聞いても、さやかの目は覚めない。

静かな病室で、バイオリンの音色がただただ寂しく奏でられていた。

今回はここまでで。読んでくれた方はありがとうございます

おつ
知らんキャラが出てきてるからググったらオルタレイションの方がベースなのか?

もっと拳で語り合って貰いたい
もしくは肉体言語で

>>301
基本はアニメ版ですが、ちょくちょく漫画版だったりオルタレイションだったりします
>>302
そろそろそんな感じになると思います

杏子「...で、本当に付いてくるのかよ?」

仁美「あなた達が戦っている間、まどかさんは私がお守りしますわ」

杏子「つってもなぁ...」

仁美「心配いりません。足手まといになるようでしたら、放っておいて構いませんから」

クーガー「こりゃ、俺たちが折れるしかないな。どの道、のどかさんを守る役は必要だからな」

杏子「...わかったよ」

マミ「みんな、そろそろ向かうわよ。準備はいい?」

廃工場

杏子「さあ、来てやったぞ。でてきやがれぇ!」

マミ「鹿目さん、志筑さん。絶対に私から離れないでね」

まどか「は、はい」

クーガー「......」

仁美「どうしたのですか?」

クーガー「...いえ、嫌な気配が妙に多い気がして」

マミ「魔女の反応はありませんよ」

杏子「そんなことはどうでもいいだろ。あいつを潰すのが先だ」

織莉子「ようこそいらっしゃいました」

マミ「美国織莉子...!」

織莉子「あら...そちらの緑髪のお嬢さんは?」

仁美「...さやかさんの友達ですわ」

織莉子「そうですか...残念です。大人しくしていれば命を散らすことは無かったというのに...」

マミ「用件を言いなさい。わざわざこんな回りくどい真似をして、いったい何が目的なの?」

織莉子「言った筈ですよ、世界を救うと」

杏子「...マミ、クーガー。こいつと話し合うだけ無駄みてえだ。さっさと潰して、ほむら探しにいくぞ」

織莉子「ええ、どうぞ」

まどか「えっ...!?」

織莉子「でも、今は駄目です。私にはやらなければならないことがある。その使命を果たすまでは、死ぬわけにはいきませんから」

杏子「そーかい...だったら、力づくで押し通る!」

マミ「多勢に無勢になるかもしれないけど...卑怯だとは思わないでね」

織莉子「ええ、思いませんよ。戦いに卑怯もなにもありませんから。もっとも...」スッ

織莉子が取り出したのは、無数のグリーフシード。

織莉子「その『多勢』は私の方になりますが」

グリーフシードが、織莉子のソウルジェムの濁りを吸収し、その穢れを溜める。

そして、穢れが溜まりきったグリーフシードは

―――パリン

結界内

クーガー「...まあ、単独犯じゃないとは思っていたが、こいつは予想外だったな」

5人の前に立ちはだかるのは、10体の魔女。

それぞれの結界が混ざり合って、不可思議な空間を形成している。

クーガー「のむらさんが、いつもより魔女が少ないと言っていたが...こういうことか」

織莉子「ええ。あなたたちにグリーフシードが渡らぬよう、片っ端から狩っていました」

マミ「でも、こんなことをすれば、あなたも危ないはず...!」

織莉子「かもしれませんね。しかし、先に狙われるのは、未契約者が二人もいるあなた達でしょうから。それよりも...ほら」

織莉子が、ソウルジェムの濁りを吸わせ、また魔女が一体呼び出される。

織莉子「呆けていると取り返しがつかなくなりますよ」

クーガー「...どうやら、迷っている暇はないようだな。行くぞ!」

マミ「はい!」

杏子「おう!」

―――――――――――――――――――――

病院

排泄行為。

それは魔法少女にも、天才バイオリニストにも起こる生理的現象だ。

生物である以上、排泄行為は防げないし、防ぐ必要もない。

そして、公共施設でそれをするためには必ずトイレへ行くのがマナーだ。

ある文化人曰く、トイレとは排泄行為をするだけでなく、物事をゆっくりと考えられる偉大なる個室空間であり、友達のようなものだ。

だが、この非常事態で上条恭介は、隣の個室を覗きたいというサディスティックな要求も誰かから覗かれているかもしれないというマゾヒスティックな要求も一切考慮せず、即座に用をたし、即座に病室へと戻った。

この時間、わずか5分。

病室からトイレまでの距離と、治りきっていない彼の足を考慮すれば十分な速さだろう。

恭介「あれ...さやか...?」

だが、それだけでも、彼女が病室から姿を消すには十分すぎる時間だった。

―――――――――――――――

結界内

杏子「どんだけいるんだよ、こいつらは!?」ザシュッ

クーガー「文句を垂れる暇があるなら足を動かせ!手を動かせ!」

マミ「...そこっ!」パァン

織莉子「当たりませんよ」ヒラリ

近接型の杏子とクーガーは直接魔女の相手を、遠距離型のマミは、まどか達を守りつつクーガー達の援護と織莉子への攻撃をこなしていた。

まどか「えいっ、えいっ!」ポコッ

仁美「危ない、まどかさん!」ゴシャッ

まどかと仁美は、マミの魔法で強化されたバットで使い魔を殴り、その身を守っていた。

杏子「クソッ...マジでキリないっての!」

片や、歴戦の魔法少女とアルター使い。片や、何十体もの魔女と魔法少女。

戦況は変わらず、一進一退の攻防が続いていた。

織莉子(そろそろね...)

だが、その膠着状態は一瞬にして崩壊する。

最初に気付いたのは、援護に徹していたマミ。

上空からの魔力の乱れを察知し、空へと目を向ける。

が、時既に遅し。

鉄槌「ハンマァァァァァァ!!」

魔女の雄叫びと共に、床に鉄槌が打ちこまれ、崩れ落ちていく。

マミがリボンを張り巡らせ、まどかと仁美の落下を防ぎ、自身もリボンに掴まり落下を防ぐ。

クーガーも、杏子を担ぎ上げリボンの上へと着地する。

魔女たちは、リボンに掴まることもできず、床と共に下層へと吞み込まれていった。

だが、ホッと一息を着くのも束の間。



ザンッ

何者かがリボンが切り裂いていく。

ザンッ ザンッ

マミが修復するよりも早く、目にも止まらぬ速さでリボンを切り裂いていく。

ザンッ

そして、マミが掴まっていたリボンが切り裂かれると同時に、他のリボンも一斉に解けてしまった。

杏子「チッ!」ジャララ

クーガー「マキさん!」タッ

杏子が、槍をまどかと仁美に絡ませて二人を支え、クーガーは即座に地を蹴り、マミのもとへと飛び込んだ。

落下するクーガーが手を伸ばし、マミがそれに応えて伸ばし返す。

そして、クーガーの胸にとびこんでくるのは、引き寄せられたマミの身体

―――ではなく

クーガー「がっ...!」

後数センチといったところで割ってはいるのは、先程リボンを切り裂いた黒い影。

黒い影は、マミとクーガーを引きはがし、その身と共にクーガーを壁に叩き付けた。

杏子「マミ、クーガー!」

杏子が落ちていく二人のもとへと駆けつけようとする。

キリカ「―――行かせないよ」

しかし、それを阻むのは、先程クーガーに攻撃をした黒衣の魔法少女。

不意をつかれ、迫る爪を避けきれなかった杏子の頬に爪痕が残される。

杏子「邪魔するんじゃねえ...!」

キリカ「それはできない相談だ」

杏子「いいからどきy「この俺を止めさせたなぁぁぁ!?」

雄叫びをあげながら這い上がってきたクーガーの蹴りとキリカの爪が交叉する。

キリカ「おかしいな...それなりに効いてると思ったんだけど」

クーガー「いかなるダメージからも最速で復活する。それが俺だ!」

マミ『聞こえる!?佐倉さん!』

杏子『ああ!あんたは大丈夫か!?』

マミ『ええ。私のことはいいから、あなたは二人を守ってあげて!』

杏子『...わかった』

杏子「おい、今すぐ結界からでるぞ」

狼狽えるまどかと仁美を抱え、杏子は出口を探して駆け出そうとする。

その背後から迫るキリカの爪。

その爪を、クーガーが蹴りあげくいとめる。

杏子「クーガー...!」

クーガー「彼女の相手は俺がする。お前はお前のやるべきことをやれ」

杏子「...頼んだぞ」タッ

キリカ「......」

クーガー「追いかけないのか?」

キリカ「アンタは私と戦いたいんだろう?」

クーガー「ほう、俺の希望を聞きいれてくれるとはなかなかどうして気前のいいお嬢さんじゃあないか!」

キリカ「よく言うよ。追いかけたところで私を逃がすつもりなんかないくせに」

クーガー「まあ、そうなんだがな」

結界内 深層

マミ「ふっ...と」シュルル

マミ(リボンを敷いたから助かったけど...だいぶ落ちたものね)

異納「お待ちしておりました」

マミ「...誰?」

異納「私の名は異納泰介。ストレイト・クーガーと同じアルター使いです」

マミ「アルター使い...!」

異納「私怨はありませんが...我が主のために、死んでもらいます」

マミ「......」

今回はここまでで。

――――――――――――――――


ほむら「うっ...」

ほむら(ここは...?)

辺りを見まわして、状況を確認してみる。

ほむら(確か、私は...)

立ち上がろうとするが、しかし手足が縛られていて、動くことすらままならない。

左腕に至ってはソウルジェムごと無くなっていた。

ほむら(...落ち着かないと)

あの後、さやかがどうなったか、敵はどこへ行ったのか、皆はどうなったかなど、気になることは多い。

だが、今わかることは、あの黒衣の魔法少女たちに捕まっているという事実だけだ。

無常「目が覚めましたか。暁美ほむらさん」

ほむら「あなたは...?」

無常「以前一度お会いしたのですが...まあ、互いに名前も知らぬ仲でしたから仕方ありませんねぇ」

無常「私の名は無常矜持。ストレイト・クーガーと同じく精製を受けたアルター使いです」

ほむら「......!」

ほむら(クーガーと同じイレギュラー...!)

ほむら「...そのアルター使いが私をどうするつもり?」キッ

無常「おお、怖い。私の地元の連中にも劣らない良い目ですねえ」

無常「ご心配なく。用済みとはいえ、今すぐあなたを殺そうなどとは思っていませんから」

ほむら「用済み...?」

無常「そうそう、実はあなたに見て貰いたいものあるのを忘れていました。...準備を」パチン

少年「......」コクリ

無常「彼の名はイーリャン。精製における、とある研究の過程で産まれた失敗作のアルター使いでしてねぇ。成功体もいるいま、本来なら破棄されるところですが、もったいないのでコッソリ連れてきたのです」

イーリャン1「......」

無常「意思ももたず、自分では判断もできない、ダース以下のクズですが...存外、これはこれで使えまして」

イーリャン1「......」ピッ ピッ

ブゥン

ほむら「モニター...?」

ほむら「なっ...!」

モニターに移しだされたのは、皆の姿。

まどかと仁美を抱えて逃げる杏子。

異納泰介と対峙するマミ。

呉キリカと戦うクーガー。

ほむら「これは...いったい...!?」

無常「あなたの存在が、彼らをここにおびき寄せた。そして、私たちの狙いは、あなた達の戦力を分散させること...つまり、あなたはもう用済みということです」

ほむら「...っ!」ギリ

無常「その憤怒なる眼差し...なんと心地いい。私の渇きがまた一つ埋まりました」

モニターに映し出された姿を見て、一人足りないことに気付く。

ほむら「...さやかは?何故さやかは映っていないの!?」

ほむらの問いに、無常は答えない。

ただ、その顔に、嫌らしい笑みを浮かべているだけだ。

ほむら「まさか...!」

無常「心配いりませんよ。直にわかります、直にねえ」

無常のほくそ笑みは、深まった。

―――――――――――
結界内

魔女「毛毛毛毛毛毛毛毛――――ッ!」ブワッ

杏子「邪魔だっ!」ズバッ

魔女「毛ゃアアアアッ!!」

杏子「ちっ、まだこんなにいるのか...!」

まどか「...ごめん、杏子ちゃん」

杏子「なんであんたが謝るんだよ」

まどか「わたし、いつもみんなに闘わせてばかりで、今回も...」

杏子「なんだ...このごに及んでまだ契約した方がいいかもーとか思ってるのか?」

まどか「...わからない」

杏子「まあ、あたしは他の奴らほどあんたを引き留めるようなことはしないよ。契約するのが本当に必要な時もあるかもしれないからな」

杏子「けど、忘れるなよ。マミが立ち直れたのも、さやかが願いを思い出せたのも、あたしじゃできなかったことだってな」

まどか「......」

仁美「杏子さん、前!」

西瓜の魔女


その性質は、栽培。西瓜を誰よりも知りつくし、誰よりも愛した者の末路。結界に迷い込んだ人間を、栽培する西瓜の養分として吸い取ってしまう。
この魔女から逃げるには、彼女の西瓜に触れないように、西瓜について語りあって機嫌を取るのが手っ取り早い。


魔女「」ウネウネ

杏子「ウラァ!」ザシュッ

バサッ

杏子「なんだ、まるっきり手応えが...!?」

魔女の身体が、二つに裂け、杏子たちの身体を包み込む。

杏子(しまった...せめて、こいつら守らねえと!)

杏子「お前ら、絶対にあたしから離れるなよ!」

まどか「う、うん!」ギュッ

――――――――――――――

結界


ガキィィン

甲高い衝突音が響き、両者が弾き飛ばされる。

キリカ「流石に速いね。でも、私の方が速い!」

着地したクーガーの体勢が整う前にキリカはその爪で斬りかかる。

クーガー「そうかい!」

だが、爪は空を切り、クーガーはキリカの背後から蹴りを繰り出した。

キリカ「そうだよ!」

その蹴りもまた空を切り、キリカとクーガーは再び体面した。

キリカ「凄いね、一人でここまでやれるなんて」

クーガー「そいつはどうも」

キリカ「でも、なぜ一人で戦うんだい?佐倉杏子と一緒ならずっと楽に戦えたのに」

クーガー「なぜ俺だけ残ったか...か。簡単なことさ」

クーガー「この危険な場所ではいつどこでのどかさんが襲われるかわかったもんじゃないし、マキさんも迎えに行かなきゃならん。更にあいつらを安全に逃がしたいという気持ちもあるがそれだけじゃない」

クーガー「俺は一度止められた...即ち、俺がお前よりスロウリイだったということだ。だから俺はお前という壁を越えなければならない!誰でもない、俺自身のためにだ!」

キリカ「...なるほど、ね!」ダッ

結界 深層部

パァン

マミ「......」

異納(速い...が、反応できない程ではない)

マミ「...今のは警告。退くなら今の内よ」

異納「......?」

マミ「私もね、そろそろ我慢の限界なのよ。これ以上は、例え生身の人間でも加減できそうにないから...」

異納「ほぉう...!」

―――――――――――――――


視界が暗転する。

まどかと仁美は目を瞑っているが、杏子はなにが起きてもいいように目を見開いていた。

杏子(来るなら来い...返り討ちにしてやる)

だが、杏子の警戒とは裏腹に、魔女からの攻撃は何もない。

やがて、視界は晴れ、杏子は無傷のまま着地する。

杏子「まどか...仁美...?」

だが、彼女の背負っていた者たちの姿は見当たらなかった。

杏子(手を離しやがったか...?いや...あいつらはしっかりあたしを掴んでた筈だ。それに、この場所...)

伸び放題の草木。

手入れがされていない廃屋。

そして、廃屋の屋根に刺さる巨大な十字架。

杏子(間違えるはずがない...これは、あたしの家だ)

木々を、家を触り、幻覚でないかを確かめる。

杏子(こいつは...本物だ。間違いない。結界からここまでとばされたってことか?)

わけがわからなかったが、ここが本物で、結界の外だというのならやることは一つ。

まどか達とすぐに合流し、ほむらを見つけ次第クーガーたちの援護へと向かう。

そう決めて歩を進めた、その時。




―――ガサッ

杏子「誰だ!?」バッ

杏子が振り返った先にいたのは、彼女がよく知る人物で

さやか「......」

杏子「さやか!?お前、なんで...そういえば、あんた回復力だけは半端なかったっけ」

だからか、油断してしまったのかもしれない。

杏子「ったく...そんな息まで切らしてきやがって。怪我人は大人しく寝てろっての」

さやか「......」

杏子「まあ、怪我人でもいないよりはマシって状況だからな。今回ばかりは助かるよ」クルッ

さやかが剣を握ったままでいる意味にも気付かず、杏子は背を向けた。


杏子は気付けなかった。

さやかの様子が明らかにおかしいことに。


杏子「早く、まどか達を探してやらねーとな。クーガーたちもどうなってるかわからないし」

杏子は気付けなかった。

さやかが杏子に向け剣を振り上げていることに。


杏子「それじゃ、サクッとあいつらブッ倒して...」

杏子は気付けなかった。

己に振り下ろされる刃の切っ先に。

結界外

ズズズッ

まどか「わぶっ!」ドサッ

仁美「ここは...最初の工場でしょうか」

まどか「たぶん...」

仁美「杏子さんともはぐれてしまったようですし、さてどうしましょうか...」、


カツ

まどか(い、いま足音が...!)

カツ カツ

仁美「誰ですの!?」バッ

???「ヒッ!」ビクッ

――――――――――――――――――――
教会前

杏子「がっ...!」

杏子の背に、一閃の太刀筋が刻まれる。

さやか「......」

さやかが再び剣を振りかざすが、杏子は間一髪で回避した。

杏子「なんだってんだよ...」

さやかは無言のまま杏子に切っ先を向ける。

杏子「なんだってんだよ、おい!」

迫りくる刃に、杏子はうろたえるしかなかった。

――――――――――――――――――――



ほむら「洗脳...!?」

無常「ええ。あなたが気絶している間に、少しばかり細工をさせていただきました」

ほむら「そんなことが出来るはずが」

無常「なら、何故彼女は佐倉杏子と戦っているのでしょうかねえ」

ほむら「ッ...どうやって彼女を!?」

無常「教えてあげません」

無常「まあ、簡単なことではありませんでしたがねぇ。彼女、私の部下がいくら痛めつけても中々折れてくれなくて。もっとも、ソウルジェムの真実について教えてあげたらあっさりと隙ができましたが」

ほむら「!」

無常「では、そろそろ時間ですので」パチン

イーリャン1「......」コクン

ほむら「待って...」

無常「はいぃ?」

ほむら「あなたの目的は...!?」

無常「全てを手に入れること」

――――――――――――――――――
教会

さやかの剣と杏子の槍が打ちあう音が鳴り響く。

杏子(なんでだよ...)

杏子は迷っていた。

突如、刃を向けてきたさやかに。



―――いや、それはまだいい。

自分や、自分の父のように、人の心など変わりやすいことは百も承知だ。

だから、これもそういうことなのだろうと納得はできないが理解はできる。

杏子(なあ、さやか...)

だが、それ以上に杏子を迷わせていたのは



杏子(あんた、なんでそんなに遅いんだ?)

迷いは迷いを生み、全ての行動を鈍らせる。

だが、そんな迷いを募らせ、更に傷を庇いながら戦っている杏子ですらこうして反応できるほど、さやかの剣は遅かった。

杏子「てめえ...ナメてんのかよッ!」

杏子が力任せに槍を振るうと、さやかはあっけなく弾かれ、大きく後退した。

だが、さやかの眼は何も変わらない。

何も写さず、ただただ虚ろなだけだった。

だが、杏子はそんな目をどこかで知っていた。

杏子「――――!」

杏子のその疑念を確信へと変えたのは



さやか「......」ツーッ

杏子(女泣き――――!!)

さやかの頬を伝う、一滴の涙だった。

杏子「...ハハッ、そういうことかよチクショウ。どうりで見覚えがあるわけだ」

そうだ。あの眼は、そうだった。

杏子「いいよ、さやか。それがあんたの本音だっていうなら仕方ねえ」

あの眼は、壊れた父さんや、父さんの言うことを鵜呑みにさせられていた奴らと同じだ。

杏子「後でぐちぐち言うのは構わねえが、今は恨むなよ」

あたしが作っちまった眼と同じなんだ。




あの時、あたしは逃げてしまった。

ちょっと拒絶されたからって、父さんたちの目を覚ますことから逃げてしまった。

だから―――




杏子「しこたまブン殴ってさっさと目を覚ましてやるよ、さやか!」

今度は、もう逃げない。

第7話 佐倉杏子

馬鹿な女と吐き捨てて、屑な女と揶揄される。

己の生き方否定され、道化は笑いに包まれた。

しかし見ろ!あれを見ろ!あれが佐倉杏子だ、美樹さやかだ!

その屑、その馬鹿、他にはいない。

今回はここまでで。
どーでもいい豆知識。
ロストグラウンドでHOLYに所属しているのは、イーリャン2であり、1は既に死亡という扱いになっている。
このssの無常の仲間のイーリャンは1の方です。

>>340
「という扱いになっている」より前が公式の設定で以後がssの設定?
豆知識なのか創作なのかよくわからん

>>342

「扱いになっている」までが公式の設定で、その後はssの設定です。
ややこしい書き方してすいませんでした。

ヒョコ

QB(暁美ほむらの居場所は掴めたけれど...彼女を助けたところで事態が好転するわけじゃないんだよね)

QB(彼女が生きていれば、まどかが契約する機会は来ないと考えていいだろう。それに比べて、今のこの状況はとてもいい)

QB(このまま暁美ほむらが助からなければ、いや、自分以外の者たちの誰かが助からなければ、まどかはそれだけで契約を望むかもしれない。反面、まどか自身を失ってしまう可能性もあるけどね)

QB「さて、どうしたものかな...)

―――――キィン

QB「...おや?」

―――――――――――

ほむら「くっ...」

ほむら(駄目...どうやっても動くことすらできない。早くここから抜け出さないと―――)

仁美が

さやかが

マミが

杏子が

クーガーが

―――まどかが

ほむら「なんで...こうなっちゃったのかな」

ほむら(決まっている...私が弱いからだ)

まどかを失ったあの日、強くなると決めたのに。

今度は私が守るんだって決めたのに。

皆が揃えば、こうやって足を引っ張ることしかできていない。

結局、ただイタズラにまどかを死なせて、みんなを苦しませただけだ。

ほむら「ごめんなさい...」

私は何も変わってなんかない。

ほむら「ごめんなさい...」

あの時と同じ、ただの足手まといで

ほむら「ごめん...なさい...!」

何にもできない愚図のままだ。

ほむら「あっ―――」

どこにあるか分からないが、ソウルジェムが濁っていくのがわかる。

一度認めてしまえば、もう止めることはできない。

もう、このまま穢れを溜めこみ、魔女となることだろう。

ほむら(...私の命、か...)

きっと、私の魔女はそんなに強くないから、彼女たちならあっさり倒せるはずだ。

そうすれば、こんな私でも、彼女たちがワルプルギスの夜を倒す糧になれるかもしれない。

少なくとも、こんなところで動けずにいるよりはよっぽど役に立つだろう。

ほむら(これほどちっぽけなもので守れるなら...それもいいかもしれないわね)

そうして、眠りにつくように目蓋を閉じようとするが、しかし

ほむら「え...?」

視界の端に、あの黒い影が映り込んだ。

私のソウルジェムを手にした影に掴まれ、私は

第7話 佐倉杏子


ゆま「あ、あの...」

まどか「子供...?」

仁美「どうしたのですか、こんなところで」

ゆま「おねえちゃんたち、ほむらって人の知り合いだよね?」

まどか「ほむらちゃんを知ってるの!?」

ゆま「うん。お願い...わたしが案内するから、ほむらって人を助けてあげて!」

まどか「わかってる。じゃあ、さっそく...」

仁美「離れてくださいまどかさん、その子は敵ですわ!」

まどか「え...?」

仁美「おかしくありませんか?キュゥべえさんすら見つけられなかった彼女の居場所をこの子が知っているなんて。しかも、こうも都合よく私たちの前に現れるなんて」

ゆま「そ、それは...」

仁美「おおかた、この子に連れてこさせて私たちを一網打尽にするつもりだったのでしょう。あの外道たちならやりかねませんわ!」

ゆま「お、織莉子たちを悪く言わないで!」

ゆま「織莉子たちがおねえちゃん達に悪いことをしてるのは知ってる。でも、織莉子たちはゆまを助けてくれた!織莉子たちは悪者なんかじゃない!」

仁美「...なら、なぜ彼女たちを敵にまわすようなことを?」

ゆま「...さやかお姉ちゃんとほむらお姉ちゃんもゆまを助けてくれたの。でも、二人を傷付けた織莉子たちを見てたら、どうすればいいかわからなくなって...」

ゆま「そうしたら、織莉子は言ってくれたの。自分の信じるものを信じなさいって。だから、ゆまは信じてるから止めたいの」

ゆま「きっと、織莉子は勘違いしてるだけなの!だから...」グスッ

仁美(この子の言ってることは本当?それとも...)

まどか「...ほむらちゃんのところまで案内して」

仁美「まどかさん!?」

まどか「大丈夫。この子は多分嘘をついてない。それに、どの道このままじゃ何も進まないよ」

仁美「それは...そうですが...」

ゆま「ゆまについてきて。今ならキョージもいないと思うから」

まどか「キョージ...?」

―――――――――――――
結界内

ガガガガガ

キリカ「すごいね、この速さに追いつけるなんて!でも次もあるよ、次次次次!!」

クーガー「くっ...!」

クーガー(このお嬢ちゃんの速さの肝は魔力だ。おそらく、持続力でいえば俺の方が上...幸い、彼女の攻撃はそこまで重くないから、持久戦ってのがベターな回答だな)

クーガー「―――だが、そいつはノゥだ!」

キリカから距離をとり、アルターブーツの爪先でコツコツと地面を叩く。

クーガー「いいか、お嬢ちゃん。さっき言った通り、俺はお前を超えて俺の速さを証明しなければならん!故に持久戦などに持ち込もうとは思わない!だから...よぉく見ておけ、俺の速さを!」

そして、右脚から放たれるのは、彼の最速の蹴りであり弾丸の一つ。

クーガー「衝撃のォォォ―――ファーストブリットォォォ―――!!」

キリカが爪を振りかぶる。

しかし、その弾丸の前では何もかもがスロウリィ。

爪は彼の頬を掠るだけで、威力を殺すことなどできない。

キリカ「がっ...!」

クーガーの右足の弾丸は、キリカの腹部にめり込んだ。

キリカは、その衝撃により、何度も地面をバウンドし、壁に叩き付けられ、砂埃を巻き上げることによってようやく停止した。

クーガー「さて...次の相手はあんたか?」

織莉子「......」

クーガー「正直、俺としてはすぐにでもマキさんを迎えに行きたいところだが...」

織莉子「それはできません」

クーガー「そうだろうなぁ」

織莉子「勘違いしないでください。勝負はまだ終わっていない、ということですよ」

ガラガラと壁が崩れ、砂埃が晴れ渡る。

キリカ「......」ニィィ

服の袖はボロボロになり、多少出血はしていたものの、キリカは確かに立っていた。

キリカ「織莉子...凄いよ、こいつ。私の魔法にかかったままで、私より速く動いたよ」

クーガー「魔法にかかったまま?」

キリカ「教えてあげるよ。私の魔法は、速度を落とす魔法。あんたのアルターとは真逆の能力だね」

クーガー「なるほど。道理で、お嬢ちゃんの攻撃が軽かったわけだ。ついでに、まともにはいったわりにはピンピンしてるのもそれが理由か」

クーガーの技は、速さに依存したもの。

その速さ自体が抑えられていたために、本来の威力を発揮できなかったのだ。

キリカ「あんたの速さを舐めてた...だから、もう遠慮はしない!」バッ

取り出したグリーフシードに、ソウルジェムの穢れを吸わせる。

キリカの服が直り、出血も収まった。

クーガーがわかったのはそこまで。

気が付けば、キリカは己の目前にまで迫っていた。

クーガー「ッ!」ガキン

キリカ「さっきまでは、あんたの速さを7割くらいにしていた。今のは半分くらい。あんたはどこまでついてこられるかな?」

クーガー「上等ォ!」



結界内 深層部

マミ「はっ!」パァン

マスケット銃を異納に向けてうつが、弾丸はことごとく斬られてしまう。

マミ「ならこれなら...ティロ・フィナーレ!」

異納「無駄だ...私のアルター、ブレード・ダンスに斬れぬものなどない!」スパッ

マミ「なっ...!?」

異納「それで終りですか?」

マミ「くっ...パロットラ・マギカ・エドゥインフィニータ!」

無数の魔弾が異納目掛けて放たれ、爆風が巻き上がる。

マミのソウルジェムが黄色く光り、その直後に爆風をも切り裂き、ブレード・ダンスの刃がマミの眼前にまで迫る。

マミはその刃の腹を右手で払い、空いた左手でマスケット銃を突き出すが、銃はもう一振りの刃にあっさりと切られてしまった。

今度こそマミを斬らんと刃を振り上げるが、マミは胴体部分に蹴りを入れ、ブレード・ダンスから距離をとった。

異納「見事な反応ですが...どうやらここまでのようですね」

マミ「......」

異納「あなたの魔法と私のアルターは相性が悪く、大技も通用しない...つまり、あなたには勝機がないということです」

マミ「...確かに、ここまでみたい。あなたがね」

異納「この期に及んでまだ強がりですか?」

マミ「私がただ闇雲に攻撃していると思った?」

異納「なに...?」

マミ「教えてあげる、あなたの弱点」

マミ「弱点その1。あなたのアルターは、一度に操れるのは一体だけ。もし複数体できるのなら、私はとっくに斬られているもの」

異納「......」

マミ「弱点その2。私の魔法とは違い、アルターへのダメージは大なり小なり自分も受けてしまう。右腕を抑えているのは、さっきの弾幕で無傷では済まなかったから。違って?」

異納「......」

マミ「弱点その3。あなたのアルターは、クーガーさんと違って己の身体能力を上げるものじゃない...つまり、本体であるあなたは私より劣っている」

異納「...流石は、歴戦の魔法少女。追い詰められながらもそこまで冷静に相手を分析できるとは。しかし、あなたの挙げた弱点は全て私自身も知っていること。即ち、これが勝負を決める糸口とはなりません」

マミ「わからないかしら?弱点を見つけたということは、私はいつでもそこをつけるということ。簡単にやられると思ったら大間違いよ」

異納「...なるほど。手強い」

マミが巨大な大筒を両腕に装着する。

マミ「ティロ・ボレー!」ドドドドン

異納「大口を叩いたわりにはワンパターンですね!」

迫りくる4つの弾丸をわけもなく切り裂き、ブレード・ダンスはマミの目前にまで肉薄した。

異納(殺った!)

先程とは違い、弾丸を放った直後では身動きはとれない。

ブレード・ダンスの刃は、たやすくマミの首を切りさいた。

マミの首が地に落ち、ソウルジェムを踏み砕こうとブレード・ダンスが足をあげた。

―――が


「そうそう、言い忘れてたわ」

マミの首が、身体が全てリボンに変わり、ブレード・ダンスを縛り上げる。

と、同時に異納の両脚に走る激痛。

異納「がっ...!?」

「弱点その4。あなたの剣は切れすぎる」

声が聞こえたのは、異納の背後。そこに立っていたのは、紛れもなく傷一つない巴マミだった。

異納「いつの間に...すり替わっていた...!?」

マミ「さっきの弾幕の時。それだけじゃないわ。周りを見てみなさい」

異納とブレード・ダンスを取り囲んでいるのは、無数のマスケット銃。

マミ「私の軸の魔法はリボン。あなたが普通の弾だと思って切ってくれたお蔭で、銃をセットする手間が省けたわ」

アルターでリボンを切るのは可能。だが、この無数の銃より早くマミを切り裂くのは不可能だ。

少しでも動けば、銃は全て異納とブレード・ダンスを撃ちぬくだろう。

異納泰介には、もはや打つ手はなかった。

マミ「チェックメイトよ」ガチャ

―――――――――――――――――
教会前

ガキン

杏子「ハッ、やっぱ遅いなぁ。いまのあんたは!目ェ瞑っててもかわせらぁ!」

さやか「......」

さやかが、杏子から距離をとる。

さやかが逃げ込んだ先は、杏子の教会。

杏子「てめえ...正気じゃねえからって調子に乗るんじゃねえぞ!」ダッ

さやか「......」

杏子「人ん家にあがり込んでどうするつもりだ?」

さやかが魔法陣を足場にし、一気に跳躍する。

そして上空にも魔法陣を作り、一気に杏子のもとへと跳びこんだ。

杏子「...おい、舐めてるのか?そいつは効かねえって知ってるだろ」

身を屈めてさやかの剣を躱し、次にくる背後からの突進も身体を捻り回避する。

杏子(こいつを足元にうちこめば...!)ジャララ

杏子の槍が、さやかの足元のあるべき場所に絡みつく。

しかし、さやかは剣を床に突き立て、自身の代わりに巻きつけた。

更に、左手に持つ刃の柄を引き、杏子の肩に刀身を撃ちこんだ。

杏子「ぐっ...!」

さやか「...!」ドサッ

勿論、無茶な動きな上、受け身もとれないため、さやかは頭から床に落ちた。

杏子「...違うだろ、さやか」

さやか「......」

杏子「狙うならこっちだろうが」トントン

杏子が指さしたのは、己の胸元のソウルジェム。

さやかは、そこをめがけて再び突撃した。

まだ粗削りとはいえ、確かに速さと鋭さを持った攻撃。

速さで劣る杏子では避けるしか手はない。だが、杏子は逆に―――

ドスッ

その身で受け止めた。

ソウルジェムをそれて、右胸に突き刺さる剣。

さやかは引き抜こうとするが、しかし動かない。

杏子「...掴まえた!」

さやかの両腕を掴み、思い切り頭をのけ反らせ、さやかの顔へ頭突きをする。

さやか「......!」フラフラ

杏子は胸に刺さっている剣を抜き、グリーフシードをソウルジェムに当てて魔力を回復した。

杏子(回復は得意じゃねえが...応急処置くらいなら...)シュウウ

杏子「...お互い、こんだけ近いと武器も出せないな」

さやか「......」

杏子「そういえば、前はここでほむらに止められたんだっけな」

さやか「......」

杏子「続きをやろうぜ、あの時の続きを」

―――――――――――――――――――――

コソコソ

ゆま「...こっちだよ」

仁美「...誰もいませんわね」

ゆま「キョージのところにいたのは、異納っていう変な頭の人とイーリャンっていう人だけだったよ」

まどか「...この扉の向こうにほむらちゃんが?」

ゆま「うん...ゆまが見た時は眠ってたけど、多分今はおきてると思う」

仁美「...私が先行しますわ。まどかさんは後から付いてきてください」

まどか(ほむらちゃん...いま、助けるからね!)

仁美「...開けますよ」

ギイイィィィ





まどか「...え?」





燃え盛る炎のように揺れる頭部。

鎧のようなラインをところどころに見せる黒い体。

白の装甲に包まれた左腕と、黒の装甲に包まれた右腕。

そして、人の形でありながら人ではない顔。

扉をあけた先に"それ"はいた。

今回はここまでです。あかん、ペースが遅くなってる...

――――――――――――――
結界内

―――キィン

織莉子「―――!」

織莉子(またあのイレギュラーの反応...!)


クーガー「壊滅の...セカンドブリットォォォ!!」ズガァ

キリカ「ガアアァァ...!アハハッ、凄いや、まだそんなに速く動けるなんて!」

クーガー(遅い...!俺にしては致命的に遅い!)

キリカ「次はどうするの!?次は次は次は次は次は次は次は次は!」

クーガー「決まっている!正面から速さでねじ伏せるだけだ!」

キリカ「いいね!じゃあ次は4割に...」

織莉子「キリカ!早く決着を着けなさい!」

キリカ「なんで...ッ!?」

キリカ(またあいつか...なんでこうも突然出てくるんだよ!)

クーガー「どうした?俺の速さはこんなもんじゃあないぞ!?」ブンッ

キリカ「ちっ...」

キリカ「...悪いけど、あんたとはこれまでだ。全力全開の魔法でいかせてもらうよ」

クーガー「ほぉう、やっと俺の速さを証明できるのか」

クーガー(なんだ、この胸騒ぎは...こりゃ、マジでチンタラしてられないな)

キリカ「くらいな、ストレイト・クーガー」

クーガー「受けろよ、俺の速さを!」



キリカ「速度7割減...」

クーガー「瞬殺の...」

キリカ「ヴァンパイアファング!!」

クーガー「ファイナルブリットォォォ―――!!」

結界深層部

マミ「さあ、どうするの!?」

異納「......」

マミ(この妙な気配...まさか、これが暁美さんの言っていた...?)

異納「...ふっ」

マミ「なにがおかしいのかしら?」

異納「魔女には...様々な特徴がある」

マミ「...?」

異納「空を飛ぶことができるものもいるし、異常に身体が硬いものもいる...そんな魔女が、落ちただけで全て死ぬと思いますか?」

マミ「......」

異納「おかしいと思いませんか?あなたと一緒に落ちてきた魔女たちが姿を現さないことが...」

マミ「なにを...」





鉄槌「ハーンマアアァァァ―――!!」

ドゴォォン

マミ「なっ...!?」

鉄槌「ハンマ!」ギョロ

異納「ブレード・ダンス!」

シュパッ

マミ「しまった!」

異納「...このままもう一度戦うこともできるが、この足であなたと戦うのはリスクが高い。この場は退却させてもらいます」

マミ「待ちなさい!」

追いかけようとするマミの行く手を、大量の魔女が遮る。

異納「私には、我が神の作り上げる世界を守る義務がある...縁があればまた会いましょう」スゥ

魔女「グルアアアァァァ!!」

マミ「邪魔を...しないでっ!」ジャキッ

――――――――――――――――
「......」

"それ"は、まどか達を見つめていた。

いや、眼球はないのだから、顔にあたる部分が向いていたと表現した方が正しいだろう。

"それ"は、何をするでもなく、まどか達に歩みよる。

ただそれだけのことだが、三人を震えあがらせるには十分だった。

仁美(わ、私が...まどかさんを...!)

先に動いたのは、習い事とはいえ護身術を身につけている仁美。

震える身体に無理やり鞭を入れて、"それ"の腹部にあたる部分に拳を打ちこむ。

だが、仁美は知らなかった。

それが勇気ではなく、恐怖による行動であり

仁美「―――え?」

彼女の本能は、決して間違っていなかったことを。

まどか「仁美ちゃん!」

仁美「あれ...私の手...あれ?」

仁美の打ちこんだ拳から先が、綺麗な円形の切り口を残して消え去っていた。

微力ながらも魔力が通っていたさやかの剣ですら、"それ"は消し去ってしまった。

クーガーのような装甲を纏っておらず、魔力も何もない仁美の右拳が耐えられる筈もなかった。

右手を失った仁美に、"それ"が手を伸ばす。

だが、目前の恐怖に仁美は動くことすらできなかった。

仁美「ひっ...!」

仁美(お、恐ろしい...なにが恐ろしいかって、こんな目にあっているのに、痛みも苦しみも感じない...こんなにも死の間際にいるのに、なぜか安らいでしまう...!)

まどか「だめぇ!」

まどかが両手を広げ、"それ"に立ちふさがる。

だが、"それ"はまどかの願いに応えず、代わりにまどかの首を締め上げる。

まどか「ぁぐ...!」

ゆま「まどかお姉ちゃんを放せ、お化け!」

ゆまが駆け寄るが、ピシャリと振り払われ、地面を転がった。

仁美「ま、まどかさん!」

まどかから手を放させようと"それ"の腕を掴もうとするが、膝が笑って動くことすらできなかった。

早口でまくし立てながら、右腕を変化させた少年と共に、敵を蹴散らしていく最速の男。

狂ったように笑いながら剣を振りかざす親友。

魔女に何かを呼びかけ続ける自分と赤毛の少女。

涙を流しながら、仲間にマスケット銃を向ける先輩。

そして




まどか(...ほむらちゃん)

まどかの涙が、"それ"の手にポタリと落ちた。

>>375 修正

まどか(力がなくなっていく...)

まどかの身体が粒子状に欠け始め、衣服の一部ごと吸い取られていく。

まどか(......?)

薄れゆく意識の中、様々なヴィジョンがまどかの脳裏をよぎる。



早口でまくし立てながら、右腕を変化させた少年と共に、敵を蹴散らしていく最速の男

狂ったように笑いながら剣を振りかざす親友

魔女に何かを呼びかけ続ける自分と赤毛の少女

涙を流しながら、仲間にマスケット銃を向ける先輩。

そして




まどか(...ほむらちゃん)

まどかの涙が、"それ"の手にポタリと落ちた。

今回はここまでです。

************************************

仁美「ふ~れ~た~心は輝いた、鮮やかな色になって♪」

「やあ、そこの道行くお嬢さん」

仁美「はいぃ?」クルッ

ナイトメア「私はナイトメア軍団の団長!設定年齢19歳、蟹座のB型!」

仁美「び、美形ですわ!」

ナイトメア「さっそくだが、きみには私のカキタレとなってもらう!」

仁美「カキタレ...?」

ナイトメア「とにかく来るんだ!」グイッ

仁美「いや~、だれか~!」

「待ちなさい!」







マミ「キラキラ輝く、未来への輝き!マギサニー!」

杏子「燃える闘魂、悪は絶対許さない!炎の化身、マギクリムゾン!」

さやか「勇気リンリン、直球勝負!マギマーメイド!」

メガほむ「キラリンニコニコジャンケンポン!マギジョーカー!」

まどか「皆に笑顔を、幸せを!マギピーチ!」

5人「愛と平和は私たちが守る!ピュエラ・マギ・HOLY・クインテット!」





ナイトメア「ぬぬ...現れたな、ピュエラ・マギ・HOLY・クインテット!だが、私は今までのナイトメアのようにはいかんぞ!なぜなら彼らの団長だからだ!」

杏子「面白いじゃん...いくぞ、さやか!」

さやか「おう!」

ナイトメア「ゆるゆるだっ!」ドグォン

「「うわあああああ!!」

マミ「強い...!でも...!」

ほむら「退くわけには」

まどか「いきません!」

ナイトメア「だから無理だって!」ドバァァァン

「「「きゃあああああ!」」」

ナイトメア「これで...理解してもらえたかな?」

メガほむ「うう...私たちが負けたら未来が...!」

ナイトメア「では、トドメと行こう!」

「待てぇ!」

ナイトメア「ぬうっ!?」

クーガー「か弱きレディたちの声を聞きつけ、最速の俺、参上!」

メガほむ「く...クーガーさん...」

クーガー「愛車に乗って気ままに一人旅をしていたら道中か弱い少女たちのあ~れ~な悲鳴が聞こえたからこいつはピンチに違いないと即座に判断して駆けつけてみれば俺の顔なじみたちが中々にデンジャラスなことになっているじゃあないか!」

クーガー「そこで、だ...俺はお前たちにとっておきを伝授しにきた...そう、合体だ」

5人「合体!?」

クーガー「そうだ...5人揃ってソウルジェムを掲げ、『ホムマドマミアンサヤエントロピー』と叫べば、強力な合体技が使えるんだ」

まどか「そんな技が...」

クーガー「ああ。もちろん、皆の気持ちを一つにする必要があるが...その時間は俺が稼いでやる」

ナイトメア「ふふん、『人間ワープ』の使い手であるこの私に...」

クーガー「遅いっ!」ガスッ

ナイトメア「なにぃ~!?」

マミ「クーガーさんが足止めしてくれている内に...それじゃあ...いくわよ!」

4人「はいっ!」

『ホムマドマミアンサヤエントロピー!』カッ

クーガー「どうやら成功したようだな...」

ナイトメア「ば、バカな...なんだあのパワーは!?」

さやか「後は頼んだよ、まどか、ほむら...」ゼェゼェ

まどか「うん、いこうほむらちゃん」

メガほむ「うん!」

クーガー「やっちまえ、まどか、ほむら」

『届け私たちの愛と勇気の結晶!スターライトシューター!!』

ナイトメア「そんな...そんなぁぁぁ~!」ドコォォン

今日も見滝原市の平和は守られた!ありがとうピュエラ・マギ・HOLY・クインテット!

さやか「やったぁ!なんとか倒せたぞ~!」

杏子「はふぅ~疲れちまったぜ」

マミ「なら、私の家でお茶会をしましょうか」

クーガー「いいねえ、それじゃあ俺もお呼ばれしていいかマキ!」

マミ「マミです!」

クーガー「ああ、スマンスマン」

まどか「ウェヒヒ、私たちもいこっかほむらちゃん!」

メガほむ「は、はい!」

時には辛いこともあるけれど、その分楽しいことが待っている。

これが、私たちの戦い。

これが私たちの守るべき...








―――ほむらちゃん

メガほむ「っ!」

メガほむ(まどか...?)

脳裏に様々なヴィジョンが、絶え間なく浮かんでくる。

巨大な化け物に、一人で立ち向かうまどか。

メガほむ(...ああ、そうだ)

共に戦い、力つき、魔女と成り果てたまどか。

ほむら(...なぜ忘れていた)

最後に私に希望を託し、私にその命を奪われたまどか。

ほむら(...なぜ考えなかった)

見ず知らずの筈の私を助けるために、契約をしたまどか。

ほむら「これは...」

あの悲しみも、怒りも、己の無力も。

何一つ忘れていない。忘れる筈などない。

地面に、まどかを殺した拳銃を構える。

ほむら「嘘だっ!!」




銃の引き金と共に、私の理想とした世界は砕け散った。

*****************************

上も下もわからない、虹色に包まれた空間。

ほむら(いいものを見せてもらった...)

ここがどこか...そんなことはどうでもいい。

ほむら(でも、あれは夢...ただの夢なのよ)

私は、まどかを守る...ただそれだけだ。





カッ

光が差し込む。

光と共に、幾つものシャボン玉が溢れ、私の周りを漂っている。

シャボン玉には、私がこれまでに経験・体験してきた全てが詰まっていた。


―――寄こせ、力を

誰に言われるでもなく、そう思った。

―――私はどうなってもいい。だから、全てを変えるほどの力を

漂っていた全てのシャボン玉が、私の身体に染み渡る。

光へと手を伸ばす。光は、私の全身を包みこんだ。






―――運命を覆すほどの力を!

――――――――――――――

ボコォ

仁美「...え?」

"それ"の腹部から、手が生える。

その手は、"それ"の肋骨のような部分を力強く掴んだ。

「......」

"それ"からは痛みも苦しみも感じられない。

"それ"は己の腹部から生える腕をただじっと見つめていた。

メキメキと音を立て、"それ"の肋骨が軋み始める。

まどか「...ちゃん」

まどかはわかっていた。

まどか「...むらちゃん」

それが彼女であることを。自分の友であることを

まどか「ほむらちゃん!」

"それ"の肋骨を引き裂き、腹をぶち破り、暁美ほむらはこの世界へと舞い戻った。

ほむらが"それ"の腕からまどかを奪いとり、抱きかかえ"それ"から距離をとった。

まどか「よかった...無事で...!」ギュゥ

ほむら「...心配かけて、ごめんね」

仁美「ほむらさん...ごめんなさい、私...!」

ほむら「よく頑張ってくれたわ。後は私に任せて」

「......」

ほむら「さあ、早くこのバカ騒ぎを終わらせましょう」

ほむら(こいつだけじゃない。美国織莉子、無常矜持、そしてワルプルギスの夜...対処すべき問題は多い。それが、どうした)

ほむら(...ああ、そうだ。私はあの夢を否定した。ここで戦うと決めた。だったら、出来る出来ないじゃない...やるかどうか、ただそれだけよ)





キュイイイン

ほむら「なっ...!?」

左手に持つ肋骨が、突如輝き始める。

仁美「こ、これは...!?」

ほむら「う...うああっ...!」

肋骨が、虹色の光と共にほむらのソウルジェムに同化していく。

ほむら「うあああああああ!!」

光は、眩いほどの輝きを放ち、柱となってほむらを呑み込んだ。











―――――『s.CRY.ed』









――――――――――――――――――

結界内

ゴゴゴゴゴ

キリカ「......」

前のめりに倒れ、血だまりに沈んでいるクーガー。

キリカ「あんたと戦えてよかった...」

彼を見下ろし、キリカは微笑みと共に告げた。

キリカ「楽しかったよ、ストレイト・クーガー」

そうして、キリカもまた前のめりに地に伏した。

クーガー「ぐっ...」

傷は浅くはないが、命に別状はない。

だが、クーガーを動けなくするには十分すぎる傷であった。

クーガー「さぁて、と...次はあんたか?」ハァ ハァ

織莉子「いいえ。...私たちの役目は終わりましたから」

クーガー「そいつはどういう...っ!?」

織莉子「......!」

何かが変わった。

それが、なにを表すのかは分からない。

だが、彼らは一様に動きを止めた。




異納「こ、これは...!?」

アルター使いも




マミ「な、なに...!?」

魔法少女も




鉄槌「ハンマ...!?」

魔女も




QB「......」

インキュベーターも






その大きな"なにか"の変化を、確かに感じ取った。


―――――――――――――

光の中から姿を現したほむらの背にあるのは、禍々しく巨大な黒翼。

ほむら「.......」

何度も拳を握り直し、その力を確かめる。

ほむら「......」グッ

脚に力を入れ、"それ"にむかって一気に駆け出す。

「......」

"それ"がかざした掌と、ほむらの拳が衝突する。

まどか「わっ...!」

衝突の衝撃が、大気を震わせ、地を揺らした。

ほむらの身体が弾かれ、ゴロゴロと地面を転がる。

"それ"は、虹色の光の柱に呑まれ、その姿を消し去った。

まどか「ほむらちゃん!」

まどかと仁美が倒れたまま動かないほむらに駆け寄り、仰向けにして抱きかかえる。

ほむら「っ..ふふっ...」

まどか「えっ...?」

ほむら「...に...れた...」

ほむらは、その左拳を握りしめ、笑みを浮かべた。

ほむら「手に...入れた...!」

今回はここまでで。ほむらの左腕については後々書きます。

今更ながら誤字訂正
×無常矜持→○無常矜侍

織莉子(今の感覚...あのイレギュラーが関わっているとみて間違いない。...あれは本当に"イレギュラー"なの?それとも...)

織莉子「...ストレイト・クーガー。私はあなたとは戦いません。後は好きにしてください」

クーガー「...どういう風の吹き回しだ?」

織莉子「言ったでしょう。私たちの役目は終わったと」

クーガー「...時間稼ぎ、か」

織莉子「...一つ、忠告させていただきます」

織莉子「人間には出来ることの限界がある。ストレイト・クーガー...それはあなたの速さも同じことですよ」

織莉子は、気絶したキリカを背負い、結界の何処へと消えていった。

結界が歪み始める。

鉄槌「ハン...マァ...」シュウウ

マミ「はぁ...はぁっ...!」

マミは、襲いくる魔女を全て倒し、最後の一体にもトドメを刺した。

だが、マミの胸中から不安は消えない。

マミ(さっきの感覚...それに、嫌な予感が消えない...)

マミ「はやく...いかないと...」

傷ついた手足を引きずり、少しでも前へ向かおうとする。

だが、そこまで。

魔力を使い過ぎたせいか、マミの両脚から、力という力が一気に抜け落ちた。

マミ「みん...な...」

―――――――――――――――――
教会内

杏子「おりゃああああ!!」

さやか「......!」

杏子の拳が、さやかの拳が、互いに相手の顔面を捉える。

杏子「き・く・か...よぉ!」

だが、己の意思で繰り出す拳と、意思のない拳。どちらが押し勝るかは明白だった。

杏子「まだだぁ!」

杏子の拳が、さやかの腹部、肩、顔面...至るところに繰り出される。

さやか「かっ...!」

その全てが、面白いほどにヒットし、さやかの身体は後方へ吹き飛んだ。

杏子(いける...!)

杏子には確かな確信があった。

今の今まで無反応だったさやかだが、徐々に反応を見せている。

杏子(今度こそ...今度こそ、失くしてたまるかよ!)



無常「チッ、思ったよりマズいな...」

イーリャン1のアルターで、杏子とさやかを知覚している無常が露骨に舌打ちをした。

戦況は杏子が優勢。その現状が、無常を苛立たせた。

無常「このままでは奴の方が持たないな...仕方ない」

無常の右手が、黒く蠢く。

無常「頼みますよぉ、私に『向こう側』の世界を見せてくださいねぇ!」

―――――――――――――――――

まどか「ほむらちゃん、ほむらちゃん!」ユサユサ

仁美「...気を失ったみたいですね」

まどか「どうしよう...」

仁美「...下手に動くと危険ですわ。ひとまずここで待っていましょう」



ォォォォ


まどか「ね、ねえ、なにか音が...」

仁美「これは...」



ゴオオオオォォォォ


ズシャアアア



クーガー「......」


まどか「クーガーさん、それにマミさんも!」

クーガー「...あんこのやつは...?」

まどか「わかりません。気が付いたら...」

クーガー「...マキさんをお願いします」

気絶したマミをまどか達に託すと、クーガーは止める間もなく走り去っていった。

その跡に、大量の血を残して。

―――――――――――――――
教会内


杏子の蹴りが、さやかの腹部にめり込む。

さやか「がっ...はっ...!」

杏子(もうひと押し...!)

さやかの目線が、僅かだが杏子から逸れる。

その視線の先にあるのは、さやかの刀剣。

杏子「武器に目がくらんだな...?」

僅かな隙をみせたさやかの懐に、杏子が入り込む。

剣を握り絞めるがもう遅い。

杏子(いま目を覚ましてやるよ、さやか!)

杏子の拳がさやかの顎を捉え、さやかの目は覚める。





――――筈だった。

杏子とさやかの間に割って入ってきたのは、小型の錆の塊のような使い魔。

杏子はそれに気づくことなく、拳を振り抜く。

だが、拳が使い魔に当たった瞬間、使い魔が破裂。

結果、杏子の拳が当たることはなく、さやかは尻もちをついただけだった。

杏子(目つぶしか...!?)

だが、さやかが剣を握りなおしているのはハッキリと見える。

まだ自分の方が早い。杏子は拳を振りかぶろうとするが

杏子(なんだよ、おい)

身体が動かない。いや、動きが遅くなっているのだ。

杏子(どうなってんだ)

さやかが剣を握りしめ、杏子の首目掛けて振り抜かれる。

だが、杏子にはなにもできない。

首に刃が食い込むのを感じ取るが、避けようとする動作すら鈍くなっていた。

杏子(冗談じゃねえぞ、こんな...!)





振り抜かれた刃は、杏子の首を斬り落とし、力なく倒れた杏子の身体からソウルジェムが外れ





さやか「え...?」

さやかの目は、覚めた。

無常「お見事でしたねえ」

杏子の身体を抱いているさやかに、無常が称賛の拍手をおくる。

背中を向けているため表情が見えないが、さやかの心情を想像すると、無常の渇きはまた一つ埋まった。

無常「どうでしたか?魔女ではなく、仲間を斬るという感覚は」

さやかは何も答えない。ただ、その身体を震わせているだけだ。

その表情を直に拝見しようと無常があと一歩というところまで歩みよった時だった。

さやかの剣が、一文字に振り抜かれた。

無常「おっと、怖い怖い」

だが、剣は無常の喉を掠らないギリギリの距離で躱された。

さやか「おまえが...おまえがぁぁぁ!!」

無常「威勢だけはいいですねぇ。しかし...」

さやかの剣は、無常の掌に触れた瞬間、その魔力と共に消え去ってしまった。

無常「残念ながら、『鍵』はあなたではないようですねえ」

さやか「ぐっ...!」

魔力が尽きたさやかは、その場に跪くことしかできなかった。

無常「放っておいても魔女になるが、屑とはいえここまで働いてくれたのです。せめて、最後くらいは華を持たせてあげましょう」

さやか「なにを...!」

無常「少しでも私の渇きを埋めてくださいよぉ。『アブソープション』」

さやかの身体を駆け巡る激痛。

堪らず悲鳴をあげるさやかを、無常は愉しそうに眺めている。

無常「そうだ。最後に一ついいことを教えてあげましょう。あなたが契約した時に初めて戦った魔女...あれは私が用意してあげたんですよ。あなたが契約しやすいようにねえ!」

さやか「......!」

無常「その悔しさに歪む顔...やはり心地いいものです」

ソウルジェムが濁りきる寸前に、激痛は止み、さやかの身体が地に伏せる。

さやか(...ごめん、みんな)

薄れゆく意識の中でさやかが想うのは、家族のこと、仲間のこと。親友のこと。

そしてなによりさやかの心を支配したのは

さやか(...くやしいなぁ)

恭介の演奏を望み、契約したことも。

心が折れかけ、それでもみんなの助けで立ち直れたことも。

杏子を斬ったことも。こうして魔女になってしまうことも。

今までの希望と後悔の全てがこの男の掌の上だったかと思うと悔しかった。

涙が出るほど悔しくて仕方なかった。




涙がソウルジェムに落ちた時、男は笑い、グリーフシードが一つ誕生した。

ズズズ

無常「ふむ、それなりには楽しめましたが...こんなものでは足りない」

無常「私の渇きは、反骨心は、埋めることなどできません」

無常「佐倉杏子のソウルジェム。どこかに落ちている筈ですが...」

さやかの亡骸に背を向け、歩き出した時だった。

「馬鹿ヤロウ...」

声がした。

無常が振り返ると共に、横っ面に拳を叩き込まれた。

無常「ぐあっ...!」

無常(馬鹿な、なぜ...!?)

首を切り落とされた筈の佐倉杏子が、確かに五体満足で立っていた。

無常(美樹さやか...なけなしの魔力を振り絞り、佐倉杏子の身体を修復していたか)

無常(ですが好都合。どの道ソウルジェムを持ち帰り、修復させるつもりでしたから、手間が省けました)

無常の顔に下卑た笑みが浮かぶ。

だが、杏子は無常のことなど見てはいなかった。

杏子「...さやか」

ああ、まただ。また失ってしまった。

こいつの冷たさが、重さが、嫌というほどに実感させる。

もう逃げないと決めたのに。

もう無くしたくなんかないのに。

結局は同じことの繰り返しだ。

怒りが、悲しみが、無力さがあたしの身体を駆け巡る。

抑えきれないモノとなって吐き出してしまう。

所詮、あたしにはなにも―――




杏子の慟哭が、教会中に響き渡った。

―――――――――――――――


雨が降り始めた。

クーガーは走っている。

思い当たる場所を片っ端から探し回り、雨に濡れようが、泥が掛かろうが、構わず走り続けている。

腹部から流れる血も、軋む骨も、全身に痛みを訴える激痛も、何もかもを無視してただただ走り続けていた。

その様は、酷く焦っているようで、とても文化人を自称とする男とは思えないほど不様な姿だった。

それでも、クーガーは走るのを止めなかった。

雨は、まだ止みそうにない。

―――――――――――――――


無常「彼女...とても弱かったですねえ」

無常の言葉に、杏子の身体がピクリと震える。

無常「彼女がもっと強ければ、こんなことにはならなかったかもしれませんねぇ」

杏子は、無常がどうやってさやかの正気を無くしたのかも知らない。

だが、わかった。

目の前のほくそ笑んでいるこの男は、敵だ。

それだけで十分だった。もう抑える必要もない。

杏子は荒ぶる感情のままに、無常矜侍にとびかかった。

杏子の槍が、無常の掌の薄い障壁と衝突する。

杏子「てめえ、一体なにものだぁ!?」

無常「アルター使いの無常矜侍です」

杏子「てめえがさやかを!」

無常「はい。私がやりましたぁ」

杏子「ふざけんなぁぁぁ!」

無常「真剣ですよぉ」

杏子「っ...ヤロォォォ!!」

無常の障壁に、ピシリとヒビが入る。

無常「おぉ...その怒りです。その悲しみです!」

だが、無常は笑みを絶やさない。どころか、余裕の態度で杏子を見下している。

無常「さあ、向こう側への扉を開きましょう。でないと彼女の死は...無駄になってしまいますよぉ?」

杏子「!...ああああぁぁぁぁ!!」

咆哮と共に、魔力を槍に更に込め、無常の障壁を砕きにかかる。

だが、その槍も魔力に耐え切れず、障壁と共に弾けとんでしまった。

無常「まだ足りませんねえ。『鍵』はあなたでもないのでしょうか」

杏子「はぁ...はぁ...!」

まだ怒り足りない。だというのに、思うように身体が動いてくれない。

いくら治療の魔法を施しても、血が、魔力が戻るわけではない。

それでも、杏子はなけなしの意地で無理矢理身体を奮い立たせていた。

無常「そうだ、やはり魔法少女の相手は...彼女たちの方がいいでしょうねえ」

無常の右腕が黒く蠢く。

無常「さあ、存分に暴れなさい。私の忠実な魔女たちよ」

結界

人魚の魔女(オクタヴィア)。
その性質は執着。在りし日の感動を夢見ながらコンサートホールごと移動する魔女。回る運命は思い出だけを乗せてもう未来へは転がらない。

銀の魔女(ギーゼラ)。
その性質は自由。高速で移動する結界の中に潜んでいるが魔女自身は非常に愚鈍。

芸術家の魔女(イザベル)。
その性質は虚栄。自らを選ばれた存在であると疑わぬ魔女。

犬の魔女
その性質は渇望。誰からも誰よりも愛されたくてしょうがない犬の姿をした魔女。

暗闇の魔女
その性質は妄想。闇が深ければ深いほどその力は増す。



無常「彼女にはまだ可能性がある。なるべく殺さないように限界まで追いつめてください」パチン

無常の合図と共に、魔女たちが杏子に襲いかかる。

魔女の剣が、錆が、絵画の使い魔が、爪が、光が杏子をじわじわといたぶるように攻めたてる。

杏子が傷ついていく様を、無常は愉しげに眺めていた。

ああ、駄目だな、こりゃ。

このままあたしはあんなクソヤロウに言いようにされて終わっちまうみたいだ。

散々周りの人間不幸にしてきた屑にはふさわしい最後ってか?

なあ、神様。

...頼むよ。

こんな人生だったんだ。

せめて、意地くらいは貫かせてよ。

ねえ、神様―――







『なにボサッとしてんのよ。らしくないぞ、杏子』

杏子「え...?」

無常「バカな...!?」

杏子も無常も、己の目を疑った。

人魚の魔女が、その剣で杏子を守っていたからだ。

杏子「あんた...?」

オクタヴィア『ウアアアアァァァ!!』

咆哮と共に、周りの魔女を薙ぎ払い、無常には車輪を投げつける。

無常「どういうことだ、私の支配が効いていない...!?」

いまにも倒れそうな杏子を淡い光が包み、僅かではあるが傷を癒す。

杏子「そうかい...あんたもそうなんだな?」

オクタヴィア『......』

杏子「あんなのにやられっぱなしなんて、ムカツクよな」

杏子は、オクタヴィアの腕に乗り、折れかけた槍を修復した。

杏子「ブッ倒すぞ、あいつを」

迫りくる魔女や使い魔を、オクタヴィアが薙ぎ払い、杏子が突き刺す。

杏子「なんでかな...」

互いの背中を庇い合うように、敵をなぎ倒していく。

杏子「こんなにヤバイ状況だってのによ」

それでも状況は圧倒的に不利。有利な要素など欠片もない。だが、それでも

杏子「あんたと一緒だと...負ける気がしない!」

魔女と使い魔に囲まれながらも、着実に無常のもとへと近づいていた。

無常「あ...有り得ない...」

あの魔女にだけ洗脳が効いていないこともそうだが、それ以上に。

無常「なぜ奴らは倒れない!?」

身体はボロボロ。既に魔力も尽きかけているはずだ。なのに、何故...



「...倒す」

声が聞こえた。

『...そうだ』

最初の声に呼応するように、声がもう一つ。

「『てめえ(あんた)を倒す!』」

おそらくそれは幻聴で、現実の声ではない。

「『ただそれだけだ!!』」

だが、無常は聞いた。

己への敵意が込められた佐倉杏子と美樹さやかの叫びを確かに聞いた。

杏子「へへっ...やっとこさここまでこれた...」

無常まであとひとっとびという距離。

杏子は、祈るような体勢をとり、巨大な槍を足元から召喚した。

杏子(そういや、クーガーとマミはともかくまどかたちは大丈夫かな...早くこいつをブッ倒して迎えに行ってやらねえと)

オクタヴィア『......』

オクタヴィアが、杏子が召喚した巨大な槍を掴む。

杏子「あんた...」

オクタヴィア『......』コクリ

杏子「...ありがとな、ここまで付き合ってくれて」

杏子の槍が輝き始める。

無常「このクソカスどもがあああぁぁぁ!!」

無常のアルターが、槍を分解しようとする。が、

無常「す、吸いきれない...!?」

杏子の槍から発される熱が、彼女の身を焦がしていく。

だが、彼女の不敵な笑みが崩れることはなかった。

隣には、頼れる『相棒』がいたからだ。

杏子「さあ、いこうぜさやかあああぁぁぁ!!」





―――こいつは、この光は

爆発が、杏子を、オクタヴィアを、無常を、結界を全てを呑み込んだ。

結界を貫き、外の杏子の教会までもを貫く光の柱が、高く高くそびえ立った。





―――あたしと、あんたの輝きだ。

***************************

さやか「ったく、無茶しすぎだってーの」

杏子「あんたに言われたくねえよ」

さやか「そりゃそうだけどさ...あ~、もうさやかちゃんは疲れました。杏子ちゃん、おんぶプリーズ」

杏子「...今日だけだからな」

さやか「うわっ、杏子が素直に優しい!?気持ち悪っ!」

杏子「置いてくぞ」

さやか「冗談だって、冗談!」

杏子「ったく...」

さやか「あ~楽ちん楽ちん」

杏子「そーかよ」

さやか「...ねえ、杏子」

杏子「なんだよ」

さやか「ごめんね、面倒かけちゃって」

杏子「大したことじゃないって」

杏子「...あたしだって、あんたには色々と救われてるんだしさ」ボソッ

さやか「えっ?」

杏子「なんでもない」

さやか「そっか...ありがとね、杏子」

杏子「...おう」

まどか「杏子ちゃん!」

杏子「よー、お前ら無事だったか」

仁美「まったくもう、心配かけて...」

さやか「いや~、ごめんごめん」

ほむら「でも、よく無事だったわね二人とも」

杏子「お互い様だろ」

ほむら「そうね...ともかく、助けにきてくれたことは礼を言うわ」

マミ「なにはともあれ、こうしてまたみんな揃えたんだもの。上条くんも呼んでお茶会をしましょうか」

さやか「やったぁ!ちょうどお腹ペコペコだったんだ!」

クーガー「なら、その後は再会を祝して深夜の夜景を楽しみながら素敵なドライブにでも行こうじゃないか!」

杏子「止めろ、天国から地獄に突き落とすな!」

クーガー「どういう意味だあんこぉ!?」

杏子「杏子だ!」

クーガー「なら、皆さんはどう思いますか?...あらら、皆さん?みなさ~ん!?」

杏子「満場一致ってやつだな、クーガー」

クーガー「オ~ブストラクション!」ダッ

まどか「クーガーさんが逃げちゃった!」

マミ「一応、謝りに行ってきなさい佐倉さん」

杏子「わかったよ...あー、腹減ったなぁ」

****************************

無常「......」

全身を焼かれ。右目を失って。腹部もぶち破られた。

それでもなお、無常矜侍は生きていた。

無常「...クッ」

ここは『向こう側』の世界。

ここは、ただでさえ人の形を保つことのできない領域。

無常が負った傷は、この世界で構築された金属のようなもので塞がれており、それが彼の死を防いだ。

無常「アハハハハハハッ!!」

無常矜侍の邪悪で無邪気な笑い声が響き渡る。

彼の視線の先にあるのは、史上最強の魔女。




舞台装置の魔女。通称『ワルプルギスの夜』

無常矜侍のいる領域よりも更に奥。

"それ"は、漂う二つの塊を見つめている。

一つは、音符の紋様が刻まれたグリーフシードだったもの。

もう一つは、灼熱のように赤いソウルジェムだったもの。

彼女たちの魂は、もはや修復などできないほどに砕け散っていた。

"それ"が、彼女たちの魂の欠片をそっと両手で包み込む。

二人の欠片が、分解され、"それ"の身体に取り込まれていく。

グリーフシードは下腹の辺りに、ソウルジェムは胸の辺りに。かつての持ち主たちと同じ箇所に再構成された。

「――――――」

"それ"の哭き声が響き渡る。




怒りか、悲しみか、喜びか。

その声が何を意味するのかは、誰にもわからない。

―――――――――――――

立ち上った光の柱を見つけ、駆けつけたクーガーが、彼女たちを発見した時には、全てが終わっていた。

全壊した教会。

傷だらけで倒れている二人の少女。

そこにはもう、彼女たちの魂は存在しない。

クーガー「......」

雨にうたれるのにも構わず、男はただ立ち尽くしていた。



クーガーの判断は正しかったのだろうか。間違っていたのか。

どこかで失敗したのだろうか。最善は尽くしたのだろうか。

彼がこの場にいれば何かが変わっただろうか。それとも変わらなかったのだろうか。

その答えは誰にもわからない。

ただ、わかっていることは一つ。





ストレイト・クーガーには速さが足りなかった。

第8話『美国織莉子』

美国織莉子。予知を操る、気高き魔法少女。
彼女の中にある真実が、運命に従って白日にさらされる。迸るは、慟哭。流れ出づるは、血涙。

今回はここまでです。読んでくださった方はありがとうございます

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ほむら「なんで...」

ほむら(もう少しでワルプルギスの夜を倒せたのに...なんでこんなことに...!)

突如現れた男、無常矜侍が、ワルプルギスの夜を吸収し、クーガーを、織莉子を、キリカを、マミを、さやかを、杏子を殺害した。

無常「さて...残るは、あなた一人ですねえ」

時間停止も使えず、残り少ない銃器で抵抗するが、まるで歯が立たない。

だが、歩み寄る無常の身体を、一つの閃光が貫き、彼の息の音を止める。

ほむら「まどか...?」

まどか「...ごめん。ほむらちゃん」

彼女が契約したことを責めることはできない。

そうするしか、手段は残されていなかったからだ。

それでも、私は納得することなんてできない。立ち止まることはできない。

だから私は...

―――カシャン

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ワルプルギスの夜は倒した。

共闘した者たちも無事生き残った。

...なのに

ほむら「...まどか」

倒壊した建物に押しつぶされた彼女に触れる。

そこには、もはや温もりはなく、彼女の死を確かに告げていた。

ほむら「...ごめんなさい」

いくら涙を流しても、いくら謝っても、返って来る言葉は無い。

...もう、この世界にいる意味は無い。

生き残った仲間たちを残して、私は...


―――カシャン

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

魔法少女たちとアルター使いが、ワルプルギスの夜に立ち向かっている。

暁美ほむらという経験者と、鹿目まどかという最強の素質を持つ少女はいなかったが、それでもほぼ互角の戦いを演じていた。

彼らは強かった。しかし、その強さが仇となった。

逆さになっていたワルプルギスの夜が反転し、正常位となったのだ。

もはや誰にも彼女を止めることはできず、全てが破壊しつくされ、世界から文明という文明が消え去った。

――――――――――――――――――

最強の素質を持ち、最強の魔女となる鹿目まどか。

何度も時間を繰り返し、幾つもの世界を滅ぼし続ける暁美ほむら。

そして、誰よりも欲望のままにその力を振るう無常矜侍。

今まであの夜の経験を積んできた暁美ほむらがいなければ、ワルプルギスの夜は倒せない。

無常矜侍がいなければ、鹿目まどかは死に、暁美ほむらはまた時間を繰り返す。

鹿目まどかがいなくなれば、暁美ほむらもまたいなくなり、ワルプルギスの夜を倒すことはできなくなる。

だから、私は何度も繰り返しあれを見ては、世界を救う方法を探した。

でも、どれだけ条件を変えて予知をしようが、世界が終わる結末が変わることはなかった。

QB「『向こう側』の世界...佐倉杏子と美樹さやかがその命を燃やしてゲートを開いた。そこに無常矜侍を送り込むことがきみの目的だったのかい?」

織莉子「...ええ」

QB「なるほど。だから、きみはこんな回りくどい真似をしたわけだ」

QB「完全に想定外とされていたきみなら出来たはずだ。彼女たちと戦うことも接触することもなく、まどかだけを殺して、この世界を守ることがね」

織莉子「......」

QB「過程はどうあれ、きみの狙った結果にはなった。でも、この後はどうするんだい?」

織莉子「...私は、破滅しかない世界を救う。それだけよ」

第8話『美国織莉子』

キリカ「確か、この辺りにあいつの車があった筈...おっと、織莉子、こっちだよ!」

イーリャン1「......」

キリカ「悪いね、ちょっと車を調べさせてもらうよ」ゴソゴソ

織莉子「キリカ...最後に確認させてもらうわ。あなたは、本当にこれでいいの?」

キリカ「何遍も言わせないでよ、織莉子。私はいつだって織莉子の味方だ」

織莉子「ゆまちゃんは...」

キリカ「あの子は大丈夫。私よりしっかりした奴だからね。...それに、優しいあの子には重すぎる」

織莉子「...わかった。もう、私は何も言わないわ。ありがとう、キリカ」

キリカ「どういたしまして。...あったよ、織莉子」

織莉子「これで揃ったわね。世界を救う...そのために、あなたにも協力してもらうわよ、『優木沙々』」

向こう側の世界

ワルプルギス「......」

無常「...アブソープション」

ズズズ

無常「ッ...!」

無常(わずかに吸っただけで、力が増大して...なるほど、これが織莉子が言っていた、強大な力ですか)

無常「その禍々しく、大いなる力...全て頂きます!私のアルター『アブソープション』と、彼女から奪った、全てを操る力で!」

――――――――――――――――――――

沙々「う...ん...」

沙々(あれ...私、今までなにを...確か、ヘビみたいな奴に絡まれて、それで...)

織莉子「おはようございます。優木沙々」

沙々「ッ!?だ、誰ですか!?」バッ

キリカ「おっと、動くなよ。こちとら穏便に済ませたいんだ」

沙々「くっ...」

沙々(チクショー、なんなんだよ。あの蛇兄ちゃんといいこいつらといい、今年の沙々は厄年か!?)

織莉子「落ち着いてきいてほしいの。あなたの現状とソウルジェムについて...ね」

***************************

沙々「おっと、中々イカス魔女じゃないですか~!」

魔女「......」

沙々「それじゃあ早速...ゲェ~ット!...って」サッ

沙々(よく見たら一般人もいるじゃんか...見られるとマズイし、仕方ないから魔女があいつらを喰うまで...)

異納「...『ブレード・ダンス』」

シュピン

沙々(!?いま、あの紫髪の男から剣を持った何かが出てきて...魔女を一瞬で切り裂いた...!?)

異納「今のは何でしょうか。アルターではないとは思いますが...」

無常「そうですねぇ...そこに隠れてる、小さなプリンセスに聞いてみましょうか」ギョロ

沙々「!」

沙々(バレてた...!?)

沙々「...くふふっ、私がいることがよくわかりましたねぇ~。でも、知らない方がいいこともあるってお母さんに習いませんでしたかぁ?」

無常「つまり、あなたはあの怪物について知っていると」

沙々「ええ、知ってますよぉ。でも、安心してください。ここで見たことは何もかも忘れさせてあげますからぁ」

無常「それは楽しみですねぇ」

沙々「さぁ、出番ですよ。私のかわいい魔女さん達」ズズズ

無常「これはこれは...」

沙々(で、こいつらが気をとられてる隙に...逃げる!)ダッ

沙々(冗談じゃねー!あんなワケのわからない奴ら相手になんかしてられるかっつーの!)

無常「おやおや、随分と冷たいですねえ」

沙々「げっ!」

沙々(もう追いついてきやがった...魔女はもう一人が相手をしてるみたいだし...仕方ない)

沙々「喰らいなさい...私の魔法!」キィィ

無常「!」

カッ

沙々(ざまあみやがれ!何者かは知らないけど、操っちゃえばこっちのモンさ!長くは続かないだろうから、今の内に逃げて...)

無常「『そこから動くな』...と、頭の中に響いてくる...なるほど、あなたの能力はそれですか」

沙々「き、効いてない...!?」

無常「実にいい...私好みの力です。その力、いただきます。『アブソープション』」


******************************


織莉子「...そして、あなたの能力が奪われた後、私は彼らと接触し、一時的に同盟を組んだのです」

沙々「その辺りはあんまり興味がありませんが...それより、私の本体はこのソウルジェムで、濁りきったら魔女になってしまう...と?」

織莉子「理解してもらえたかしら」

沙々「でたらめにも程がありますよ。...といいたいですが、証拠が揃い過ぎてますしねえ」

織莉子「意外に冷静なのね」

沙々「あんな目に遭いましたからねえ。大抵のことは、死ぬよりマシって思えますよ」

織莉子「...それで、私たちに協力するつもりは?」

沙々(あんなのには金輪際関わりたくないですからね...絶対にノゥ!と、言いたいところですが...)

沙々「もし、あなた達が失敗したら、私は...」

キリカ「消されるか...よくて、あいつのペットだろうね」

織莉子「約束するわ。この戦いの後、私たちは絶対にあなたに手を出さない」

沙々(胡散臭いことこの上ないですがねぇ...こいつらと蛇男、どっちの方がマシかっていったら...ねえ...)

沙々「はぁ...わかりましたよ。やります。やらせていただきます」

――――――――――――――――

さやかちゃんと杏子ちゃんが死んだ。

傷だらけのクーガーさんが二人を連れて帰ってきて、初めて知った。

それは、あまりにも突然すぎて。

わたしは、受け入れて前を向くことなんてできなくて。

ただただ、泣くことしかできなかった。

ホムホーム

ワルプルギスの夜 襲来予定の数時間前

まどか「......」

ほむらちゃんとクーガーさんは、病院ではなくこの家で療養させていた。

病院では異常事態が起こった時にどうしようもないという、上条くんからの提案だった。

彼もまた、さやかちゃんから少しでも目を離した自分を酷く責めていた。

未だに目覚めないほむらちゃんの左腕に触れてみる。

失くした筈の左腕は、内側が金属のようなものに変わっていて、皮膚のところどころにヒビが入っていた。

きっと、ほむらちゃんはあの子の中で戦ったのだろう。

クーガーさんも、未だに目を覚まさない。

傷ついた身体で、それでもさやかちゃん達を探し出してくれた。

さやかちゃんもマミさんも杏子ちゃんも仁美ちゃんも。

あの場にいたみんながみんなボロボロになって、精一杯に戦ったのに...

わたしだけは、嫌なくらいにピンピンしてて、なにもできなかった。

ほむら「...まどか」

まどか「ッ...!ほむらちゃん!」バッ

ほむら「わっ!?」

まどか「よかった...ほむらちゃん...」

ほむら(私は...たしか、無常矜侍に捕まって、それで...)

ほむら「他のみんなは...?」

QB「それについては僕が教えてあげるよ」

ほむら「キュゥべえ...?」

QB「クーガーはご覧のとおり、そこで眠っている。命に別状はないけれど、いつ目覚めるかはわからない。志筑仁美も、片腕は失ったけれど命に別状はない。マミは、少しでもグリーフシードを集めにいっているよ」

ほむら「......」

QB「ただ、さやかと杏子は死んでしまったけどね」

ほむら「!」

QB「まさか、僕もあんな形で脱落するとは思わなかったよ。でも、きみにとっては良い結果をもたらしたんだ」

まどか「え...?」

QB「おめでとう、暁美ほむら。きみは、苛酷な戦いの末に、ようやく目的を果たすことができたんだ」

ほむら「どういうこと...!?」




QB「ワルプルギスの夜は、消滅した」

今回はここまでです。

****************************

織莉子「...もうすぐよ。覚悟はいい?」

キリカ「私はいつでも大丈夫だよ」

沙々「さっさと終わらせちゃいましょう」

織莉子「沙々さん、準備を」

沙々(あいつに能力を奪われたとはいえ、意思のない人間一人を操るくらいならなんとか...)カッ

イーリャン1「......!」ビクン

沙々「成功しましたよ、織莉子さん」

織莉子「沙々さん、絶対知覚を!」

沙々「頼みますよ、お坊ちゃん」

イーリャン1「......」ピピピッ

織莉子(もうすぐ...もうすぐで、全てが終わる...)

キリカ「織莉子、危ない!」

ザシュッ

異納「...外したか」

織莉子「くっ...」

キリカ「こ、のぉ!」ブンッ

ガキィン

異納「やはり危惧した通りだった...あなた達は危険すぎる。無常様のため、抹消させていただきます」

キリカ「お、織莉子!」

織莉子「大丈夫よ、キリカ。ここまでは、予知で見た光景通り...後は、私たちが何秒もつかで全てが決まるわ」

沙々(...ちょぉ~っとヤバイんじゃないですかねえ。美国織莉子はともかく、呉キリカの方はだいぶ動きが鈍ってるし...)

イーリャン1「......」

沙々「早くしてくださいよ...このままじゃ私の命があぶないんですからねえ」

イーリャン1「......」ピリッ

沙々「お?」

沙々(何か黒いモヤみたいなのが映って...!)

沙々「織莉子さぁん、出ましたよ!」

織莉子「...キリカ」

キリカ「おっけー!速度5割減!」

異納「むっ!?」

異納(魔力を振り絞って...だが、こんなことをすればすぐさま魔女に...)

織莉子「異納泰介...あなたが無常矜侍ときてくれて、本当によかったわ。これで、世界は救われる」

キリカ「悪いけど...あんたの命、使わせてもらうよ」ズッ

異納「なに...!?」

キリカ「ストレイト・クーガーと戦っておいてよかったよ。おかげで、こうして『向こう側』へと繋がりやすくなった」

キリカ「織莉子...後は頼んだよ」ニッ

織莉子「...ええ」

キリカ「最大出力...ヴァンパイア・ファング!!」

向こう側の世界


ワルプルギスの夜が、一欠片も残さず、無常に吸い尽くされた。

無常「あはははは!素晴らしい!力が溢れてたまりません!!」

渇きは埋まった。最早、誰にも負ける気がしない。

魔法少女たちもマーティン・ジグマール率いるHOLY部隊も劉鳳も本土の連中も。

誰一人としてこの力の前ではごみ屑同然!

無常「私が世界を制する者であり頂点だ!」

誰も私を止めることなどできはしない!

無常「私が...神だ!」




「―――オラクルレイ」

幾千もの光線が、無常の身体を貫く。

無常「は...?」ガフッ

貫いたのは、織莉子。衣服も身体もボロボロになりながら、それでも眼光は鋭さを失ってはいなかった。

織莉子「...ワルプルギスの夜の最大の脅威は、その巨大さ。単純なことだけど。それ故に強い。だから、いくら攻撃しようとも怯まない...」

織莉子「でも、あなたは違う...どれほど強大な力を持とうが、所詮は人間。心臓を撃ちぬかれればそれで終わり...あなたの力が現世に具現化する前のここでなら、被害もなく全てを終わらせることができる...」

無常「ぁ...」

無常が何かもごもごと言いながら、手を伸ばす。

しかし、織莉子はそれすら許さない。

その手の甲を撃ちぬくと、無常の身体は粒子状に溶けだしていった。

決着は、あまりにも呆気なく着いた。


織莉子(これで...終わった...)

幾人もの人を傷付け、犠牲にして、相棒すら失って。

その果ての終着地点を織莉子は掴みとった。

自分の行いが正義だとは思わない。もしも、あの世なんてものがあるのなら、間違いなく地獄行きだろう。

今まで犠牲にしてきた者たちへの謝罪を想いながら、目を瞑る。

最後に彼女の目蓋の裏に映るのは―――

***************************

―――――――――――――――――

QB「織莉子の目的は、君たちの抹消ではなかった。彼女たちの狙いは三つ。一つは、ワルプルギスの夜を倒すこと。二つ目は、まどかを契約させないこと」

QB「そして最後に...ほむらにこれ以上時間を巻き戻させないことだ」

ほむら「え...?」

QB「彼女は、君たちがどうあがこうとも敵わないことを予知していた。だから、これ以上君に世界をやり直させないために、この時間軸で全てを終わらせようとしたのさ」

QB「彼女は、無常矜侍とワルプルギスの夜を排除すべき対象とみなした。その双方を消し去るには、どうしても『向こう側』の世界を利用する必要があった」

QB「『向こう側』の世界へ無常矜侍を送り込み、ワルプルギスの夜とともに消滅させる...それが、彼女の狙いだったのさ」

まどか「じゃあ...なんでさやかちゃんと杏子ちゃんを殺したの!?二人は関係ないじゃない!」

QB「『向こう側』への扉を開くには、昂った感情と膨大な魔力が必要なんだ。それこそ、己の身も持たないほどのね」

QB「そして選ばれたのが、感情が昂ぶりやすい二人だったというわけさ。まあ、アルター使いの無常がいたから、繋がりやすかったというのもあるけどね」

まどか「そんな勝手な理由で...!」

QB「でも、その勝手な理由のおかげで、君たちはこうして生きていられる。違うかい?」

まどか「......!」

QB「でも、きみが納得できないというのなら、願えばいい。そのための僕だ」

ほむら「!」

チャキッ

ほむら「お前は...まだそんなことを...!」

QB「...まどか。きみは知りたくないかい?なぜ、織莉子があんな真似をしてまできみを契約させたくなかったか」

まどか「...うん」

ほむら「まどか!」

まどか「...大丈夫。わたしは、大丈夫だから...」

QB「ならば教えよう。正確に言うと、彼女が防ぎたかったのは『まどかが契約すること』ではなく、『まどかがこの一か月の間に契約すること』だ」

QB「話せば長くなるけど...そうだね、まずはソウルジェムのことから話そうか」

~QB、ソウルジェムの魔女化について説明中~

まどか「魔法少女がいずれ...魔女になる...!?」

QB「そう。ほむらや織莉子がどうしてもきみを契約させたくなかったのは、それが理由さ」

クーガー「なるほどな...のむらさんが言いたくなかったわけだ」

ほむら「クーガー...あなたもう...」

クーガー「ええ、ご覧のとおり。キュゥべえ、魔女の強さは元の魔法少女の強さと比例するってことか?」

QB「正確には素質だけどね」

まどか「どうしてそんなことを!?」

QB「宇宙のためさ。勘違いしないで欲しいけど、僕らはなにも君たちに敵意があるわけじゃない。全ては宇宙の寿命を延ばすためなんだよ」

~まどマギ本編とほぼ同じ説明なので略します~

QB「...そして、最高の素質を持つまどかが契約し、魔女となれば無尽蔵のエネルギーを生みだすはずだった」

クーガー「はずだった?」

QB「織莉子たちが、まどかの因果線を断ち切ってしまったんだ」

QB「暁美ほむら。さっきも言った通り、きみが何度も時間を巻き戻してきたために、幾つものへ移行世界のまどかの因果を束ねていた。その過程で、『まどかが無事では、具現化したワルプルギスの夜を倒せない』という運命は固定されてしまった」

QB「だが、織莉子がワルプルギスの夜を消滅させてしまった。その所為で、まどかに絡みついていた因果線は解けてしまったんだ」

クーガー「つまり...」

QB「今のまどかに大した素質はない。だから、契約しても世界を滅ぼすことはないということさ。もっとも、素質自体はまだ残ってるから僕がいなくなることはないけど...それより暁美ほむら」

ほむら「?」

QB「きみは嬉しくないのかい?なにはともあれ、きみの願いは果たせたんだ。こういった時、人間は喜ぶものじゃないのかい?」

ほむら「......」

ほむら(そう...ワルプルギスの夜がいない以上、まどかが契約することはないし、私が戦う理由も消える。なら、どうして...)

ほむら(どうして、こんなに苦しいの?)

QB「やはり、人間の感情というものはよくわからないや。だからこそ、凄まじいエネルギーを生みだすんだろうけどね」

************************

彼が手に入れた力が、空間中に散らばっていく。

無常矜侍は、間もなく手に入れた力と共に消滅する。

それは覆せない筈の運命だった。

無常(いやだ...)

だが、ここは『向こう側』の世界。

人間の欲望を色濃く反映する世界。

それは、無常矜侍も例外ではない。

無常(嫌だぁぁ~~死にたくないィィィ~~!!)

彼の手に入れた力が、生への渇望が、欲望が、反骨心がこの世界と呼応し、一つの奇跡を起こした。


*********************

―――キィン

QB「!」ビクゥ

まどか「キュゥべえ...?」

QB「...先の言葉は訂正するよ。ほむら、きみの目的は確かに果たされた。でも、きみの戦いはまだ終わってはいない」

ほむら「え...?」




QB「無常矜侍はまだ消滅していない。どうやら、織莉子は失敗していたみたいだ」

****************************

「どうしたの、こんなところに座り込んで」

織莉子「...人を殺したの」

織莉子「みんなを助けたくて、そのために何人も犠牲にして...でも、その人達の死も無駄にしてしまって...残った人に全てを押し付けてしまって...」

「それで立てないんだね」

織莉子「......」コクリ

「...同じだね」

織莉子「え...?」

「わたしもそう。大好きなみんなと一緒にいたかっただけなのに、結局どうすることもできなくて...全部あの子に任せる形になっちゃったの」

織莉子「あなた...?」

「一緒にいこう。あなたの大切な人も待ってるよ」

織莉子「大切な...っ!」

「これからは、ずっと一緒にいられるよ。だから、もう苦しまなくていいんだよ」

*****************************

向こう側の世界

織莉子の身体が、魂が、粒子状に分解され、吸いこまれていく。

それを吸い込んだ手の平を、"それ"はじっと見つめていた。

その視線に込められた意味はなんなのか、それは誰にもわからない。

"それ"は何も発することなく、感情を見せることもなく、向こう側の世界への深淵へと姿を消した。



『ウフフ...ウヘハハハハハハハ!!』

"それ"が立ち去った後の空間に、狂人のような笑い声が木霊していた。

第9話『暁美ほむら』

遠い日の約束 すれ違ってきた身体 すれ違ってきた心

絶望が支配する螺旋の中で彼女は誓った

あなたを救うと 必ず救うと

だから戦う その運命に、反逆する

今回はここまでです。

「ししょー!」

「なんじゃ騒々しいのお、ジグマール」

「女の人が、ししょうに会わせてって...」

「なに?女?」

ズルッ ズルッ

「...なにか引きずっておるのか?」

「は、はい。ぐったりした女の人を連れて...」

「バカモン!男だったら、手伝いの一つくらいしてやらんか!」

「す、すいません!」ダッ

「まったく、相変わらずどこか抜けておるのぉ」

ガチャリ

「ありがと、ジグマールくん...」

「あ~お嬢ちゃん。ワシに何か用かのう?」

「あんたが、アルター仙人...?」

「いかにもそうじゃが...どこでその名を聞いたんじゃ?」

「お願い...この子を助けて...あたしの友達なんだ!」

***********************

劉鳳「―――長。隊長!」

ジグマール「―――ハッ!」

瓜核「随分うなされてましたが、悪い夢でも見てたんッスか?」

ジグマール「すまない...何か用があったかな?」

劉鳳「いえ、もうすぐHOLY部隊の集会の時間ですので...」

ジグマール「わかった。すぐに向かおう」

瓜核「珍しいな、隊長が居眠りなんざ...」コソコソ

劉鳳「ああ...ストレイト・クーガーの行方も知れず、アルター犯罪者も増え続けているからな...」

瓜核「こりゃ、俺たちがしっかり支えてやんねーとな」

ジグマール「劉鳳、瓜核」

劉鳳「はい」

ジグマール「君たちは、青い髪の少女と桃色の髪の少女に心当たりはないか?」

劉鳳「いえ...瓜核、お前は?」

瓜核「俺もありませんぜ。その子達が、どうかしたんで?」

ジグマール「いや、いい。気にしないでくれ」

ジグマール(...私におぼろげに残っている記憶...何故、今さらこんな夢を...)

第九話『暁美ほむら』


私たちの色んなものを壊していった無常矜侍が生きている。

キュゥべえがそう告げた時、わたしは震えあがった。

顔も知らない相手だけれど、また奪われるのが、怖くてたまらなかった。

いつも自信満々なクーガーさんでさえ、顔を引き締めていた。

なのに、なぜかほむらちゃんは...笑っているように見えた。

―――――――――

QB「どうするんだい?僕としては無常矜侍と戦うことはオススメしない。なんせ、君たちの戦力はガタ落ち、まどかももはやただの一般魔法少女とほとんど大差なくなってしまった。勝てる保証はないよ」

マミ「私は逃げないわ。逃げる意味が無いもの」

クーガー「俺も同じ意見です。なにより、あいつには借りがありますから」

ほむら「逃げたところで、あいつがまどかに危害を加えないわけがない。ここで終わらせるわ」

QB「そうかい...ほむら、この先のことはきみにもわからないのだろう?なら、これまでと変わらず僕は見届けるまでだ」

QB「ただ、気をつけてくれ。彼は己の欲望で未来を変えるほどの化け物だ。準備と警戒はし過ぎるということはないからね」

ほむら「今回はやけに私たちの肩を持つわね。何を企んでいるの?」

QB「僕としても、無常矜持にきみが殺されてもらっては困るからね。きみから感じ取れるようになった力は凄まじいものだ。まどかほどではないにしろ、僕の知る中でもまどかの次に凄いものだ」

クーガー「長い目でみれば彼女が生き残った方が得ってことか?」

QB「そうだね。ほむらが魔女になった時、きっと素晴らしいエネルギーを生みだしてくれるだろう」

クーガー「...ったく、少しはいいところあると思ったら、ブレないな、お前さんは」

まどか「...今日、なんだね」

ほむら「ええ。うまく言えないけど、感覚でわかるの..."あいつ"に取り込まれてたからかな?」

まどか「...勝てるかな」

ほむら「...わからない。でも、あなたは必ず守る。それだけは約束するわ」

まどか「......」

ほむら「...じゃあ、行ってくるね」

まどか「待って。もう一つ...約束して」

まどか「ほむらちゃんだけじゃない...クーガーさんもマミさんも、誰も死なないで」

ほむら「...ええ。約束するわ。私たちは、もう一度あなたのもとへ帰って来る」

―――――――――――――――――

クーガー「あれから一週間ですよ、一週間。一週間あればなにが出来ると思いますか?週刊誌ならもう次の号が発売されている。日刊新聞なら7部も読めることになる。カップラーメンなら3360個も作れる。そして、俺たちなら充分に準備ができる時間でもある」

マミ「...ほんと、あなたは変わりませんね」

ほむら「クーガー、巴さん。手筈通りに頼むわよ」

クーガー「わかってますよ、のむらさん」

ほむら「ほむらよ」

クーガー「あぁっと、すみません」

ワルプルギスの夜が訪れる筈だった日付を、もう一週間も過ぎている。

たった一週間。だが、さやか達が作ってくれたこの一週間を無駄にすることはできない。

クーガーの言った通り、準備は出来ている。

マミ「...ソウルジェムの反応が強くなってきたわね」

ほむら「―――くるっ!」

ウフフ...ウヘハハハハハ!』

向こう側の世界からやってきたもの。

ワルプルギスの夜と同等かそれ以上の灰色の巨体。何本も生えた手足。

身体の至る所に空いた大穴、背中から生えた突起。

その姿は、アルター使いでも魔女でもなく、正に怪物。

クーガー「...こいつはまた、スゴイのがきたもんだ」

マミ「あれが...無常矜侍」ギリ

ほむら「...私としては、あなたが世界を征服しようが何をしようが興味はない。でも、あなたは私の壁。まどかに害を為す存在。だから...」

ほむらが、魔法少女の衣装に包まれる。

本来なら左腕に現れる盾はなく、代わりに禍々しく、ドス黒い翼が背中から湧き出した。

ほむら「殺してあげるわ、無常矜侍」

翼が、三人と怪物を呑み込んだ

避難所

『見滝原市で発生していたスーパーセルが突如消失しました。現在原因を調査中ですが、避難所の方々は今しばらくその場で待機していてください』

まどか「ほむらちゃんたちは、勝てるの...?」

QB「さあね。無常矜侍も暁美ほむらも、底のしれない力があるからね。どっちに転ぶかは僕もわからない」

まどか「...そう」

QB「まったく、ここまで予想がつかない事態は初めてだよ。厄介というべきなのかな」

QB「どの道、並み程度の素質しかなくなってしまったきみは、大人しくここで待つべきだと思うよ」

まどか「......」ギュッ

QB「どうしたんだい?」

まどか「...ごめん、落ち着けないの」

まどか(ほむらちゃん、マミさん、クーガーさん...)

―――――――――――――――――――――

無常『ケヒャヒャヒャヒャヒャ!!』

クーガー「どうも、正気を失ってるみたいだな」

ほむら「巴さん、クーガー。援護を頼むわよ」

マミ「...ええ」

ほむらが翼を広げ、無常のもとまで飛んでいく。

無常の背中の突起から、幾千もの光線が放たれる。

光線がほむらを貫くが、しかし彼女の姿は、まるで幻覚であったかのように掻き消えた。

ほむら「喰らいなさい」

ほむらが手にするのは朱色の槍。無常の幾多もある腕のうちの一本を突き刺し、引き裂いた。

使い魔『キャハハハ!!』

ほむら「『アレグロ』」

手に持つ槍が剣に変わる。

ほむらの足元に浮かび上がる音符の紋様が刻まれた魔法陣。

それを踏みしめたほむらは、目にも止まらぬ速さで使い魔たちの合間を駆け抜け、無常の腹を切り裂いた。

だが、そこからは大した血が出ることもなく、僅かな切り傷しか残せなかった。

ほむら(ッ...!思ったより固いわね...)

無常『ケハハハハハ!!』

無常の腕が振るわれる。

ほむらが咄嗟に右腕で庇うが、耐え切れず、ミシミシと音を立てて吹きとばされる。

追い打ちをかけるように光線が放たれ、ほむらに直撃する。

ほむら「...『影の魔女』」

しかし、ほむらにダメージはない。

幾多もの影が、光線からほむらの身を守ったのだ。

時間停止の代わりに得た、ほむらの新しい力は記憶。

飛行能力だけではなく、翼の範囲内に、魔女に類似した結界を創りだすことが可能。

更に、結界の中では、ほむらが体験してきた戦いの記憶を己の力にすることができる。

即ち、今のほむらは、今まで戦ってきた全ての魔女の力を手に入れたに等しい!

だが、欠点はその持続時間。

10分もしない内にこの結界は崩れ去り、ほむらは何も使えない無力な魔法少女へとなるだろう。

全てを捨ててでもこいつを倒す。それが、『進化』を得るためのほむらの覚悟だった!

ほむらの背後から、大量の車輪が現れる。

放たれる車輪が、次々に使い魔を蹴散らし、無常本体にも被弾する。

やはりというか、無常には大した傷はつかない。精々、注意を引き付ける程度だった。

しかし、ほむらの狙いはそれで十分だった。

いくら強化されたとはいえ、元が貧弱の彼女である。最初から、無常の厚い壁を突破できるとは思っていなかった。

それは、ほむらの役目ではない。

クーガー「ラディカル・グッドスピイイィィィド!!」

それは、彼らの役目だ。

タンクローリーの上に片膝をついているクーガー。

アルター能力で、タンクローリーのフォルムを分解・再構成。

速度が何倍にも増したタンクローリーが、切り立った橋から無常へと飛んでいく。

そして、クーガーが跳び下りるのとほぼ同時に、タンクローリーが無常の横っ面へと衝突し、爆発した。

さしもの無常も耐え切れなかったのか、ブルブルと顔を何度も振るう。

そして、目を開いた先に映るのは、突き付けられた巨大な銃口。

マミ「ティロ・フィナーレ!!」

銃身を文字通り、無常の右目に突き刺し、躊躇いなく引き金を引いた。

無常『ウギャアアアアアァァァ!!』

痛みを感じたのか、絶叫をあげもがき苦しむ。

マミが無常から振り落とされるが、地面に叩き付けられる寸前でほむらが受け止めた。

マミ「ありがとう」

ほむら「...少しは効いてくれたみたいね。それがわかるぶん、ワルプルギスの夜よりはマシかもしれないわね」

クーガー「だといいんですがねえ。ただ、奴もこのままやられっ放しでいてくれないのは確かです」

ほむら「だからこそ、あいつの自我がない今がチャンスよ」

クーガー「わかってますよ。勝負ってのは最速で決めるに限りますから。それじゃ、第二ラウンドといきますか」

無常『ゲヒャハハハハ!』

ほむらが注意を引き付け、クーガーが車やミサイルをアルターで加速させてぶつけ、マミが的確に急所を撃ちぬいていく。

三人の連携は、確実に無常へダメージを蓄積していった。

しかし、連携というものは、イレギュラーが起こればたやすく崩れ去るもの。

マミが、無常の額の孔に撃ちこんだ時だった。

無常『アアアアァァアァアアアア!!』

突如、苦しみ方が変わり、光線をやたらめったらに撃ちだした。

命中率の低い攻撃ではある。しかし、不幸なことに、無常の身体に繋いでいたマミのリボンが焼かれ、マミの身体は落ちていく。

勿論、マミもリボンが解かれた時のことを考慮していないわけではない。また、地面もそう遠くないため、ダメージを受けることもない。だが、マミの不運は続く。

無常は、落ちていくマミを見つけ、額の孔に光を溜めていた。

マミ(...!)

だが、光線が放たれる直前、マミは見た。見ることができた。

額の孔の奥に、核のような球体にヒビが入っていたことを。

次の瞬間、マミは光線にのまれてしまった。

クーガー「マキさん!」

『クー...ガー...さん、暁美...さん...』

ほむら「!」

『額の...孔の...核を!』

それきり、テレパシーは途絶えてしまった。

ほむら「ッ...クーガー!」

クーガー「了解!」

無常の額に再び光が収束する。

本来ならば、じっくりと反撃のチャンスを伺いたいが、ほむらの翼も長持ちはしない。

次に巨大な光線を放つのに要する時間は10秒ほどといったところだろうか。その時間は彼の前では十分すぎる時間だった。

―――10秒


クーガーがほむらを背負い、ラディカル・グッドスピードで駆けていく。


―――9秒

またもや、光線がまばらに放たれるが、所詮は命中率の低い攻撃であり、ましてや彼の速さに付いてこられるはずもなかった。


―――8秒

無常の足元にまでたどり着くと、そこから一気に跳躍。あっという間に額の高さまで到達し、右足に乗せたほむらを、オーバーヘッドキックの要領で発射する。

―――7秒

スキだらけになったクーガーに、無常の腕が振るわれる。

メキメキと音を立てて地面に叩き付けられ、砂埃が巻き上がる。それと同時に、ほむらは額へと到達。

ほむらは振り返らなかった。振り返れば、その分だけ彼らの意思が無駄になるからだ。

使い魔たちが群がり、ほむらの身体を傷付け、削っていく。

だが、相手をすることもなくほむらは突き進む。

―――2秒

孔との距離は目と鼻の先。手を伸ばせば、十分に球体にとどく距離だ。

ほむらの指先が、孔の奥の球体に触れ、そして


―――1秒

ほむら「...え?」



ほむらの翼が消え去った。

ほむら(うそよ...なんで...私は、まだやれ―――)









―――0秒

――――――――――――――――――――――

QB「...これはマズイ。三人とも、かなり危ない状況だ」

まどか「え...?」

QB「今はかろうじて息があるみたいだけれど、時間の問題だろう」

まどか「......!」

反射的に駆け出すまどか。

自分に何が出来るかなんてわからない。

ただ、このまま何もせずにいられるほど、まどかは大人ではなかった。

――――――――――――――――

無常『クッ...ハハハ...!素晴らしい...なんという力...あの程度で満足しかけていた私が恥ずかしい...』

ほむらの翼は、まだ制限時間を過ぎてはいなかった。それにも関わらず、彼女の作った結界が崩壊していく。

無常『美国織莉子...感謝しますよぉ。あなたのお蔭で、私は更なる高みへと上り詰めたのですから』

彼女の翼を消したのは、無常のアルター『アブソープション』。

本来なら、ほむらの力を吸収できるほどの力はない。

だが、皮肉にもダメージを蓄積させてしまったがゆえに自我を取り戻させてしまい、尚且つ絶大な力を得た無常のアルターは、ほむらの進化さえも吸収できるほどのものとなっていた。

無常『さて...敵はいなくなったことですし、手始めにこの見滝原を...おや?』

ほむらの前方で、ロボットのような魔女が佇んでいる。

ほむら「うぅっ...」

全身を焼かれ、右足がへし折れているものの、ほむらはかろうじて生きていた。

光線が放たれる直前、死を直感したほむらは、無意識の内に残された力で能力を発動させていた。

発動した『逆転の魔女』がほむらを庇い、即死を防いだのだった。

しかし、許容量を超え、逆転の魔女は塵となり消え去った。

ほむら(私は...まだ...戦え...)

左手を前方へと伸ばすが、やがて力失く地に落ちる。

無常『しぶといですねえ...一思いに楽にしてあげましょう』

無常が掌を振りかぶり、ほむらに振り下ろした。

クーガー「衝撃の...ファーストブリットォォォ!!」

無常の腕に、高速の蹴りが食い込み、ほむらに振り下ろされていた腕の軌道が剃れた。

無常『ぐあぁ...!』

衣服は赤く染まり、息も絶え絶えに。しかし、片目が壊れた黒サングラスから覗く眼光だけは鋭いままだった。

ほむら「クーガー...」

無常『五月蠅い羽虫だ...そんな身体のあなただけで何ができますかねぇ?たかが一アルター使いのあなたに!』

クーガー「そいつはお互い様だ」

無常『なにを...ぐぅっ!?』

クーガー「どうやら、さっきまでの俺たちの行動も無駄じゃなかったみたいだな。それに、それだけの力さ。何のリスクもないわけがない」

無常『リスク...いいでしょう。あなたたちを消滅させてから、ゆっくりと克服することにしましょう...ぐああっ!...アヒャハヒャヒャ』

ほむら「...逃げて、クーガー。速さだけなら、あいつなんかに負けないでしょう」

クーガー「......」

ほむら「私はもう駄目。あなただけでも、まどかのところに...」

クーガー「...悪いが、そいつは聞けません」

言うが早いか、クーガーはほむらを両手で抱きかかえた。

ほむら「なっ...」

クーガー「必ず帰ると約束したのでしょう?なら、あなたに諦めている暇はない筈だ」

ほむら「は、離して!死にたいの!?」

クーガー「ご心配なく。俺は手より足を使うタイプですから」

ほむら「...バカ」

クーガー「一途な男は、バカに見えるものですよ

今回はここまでです。
無常の姿は、スクライド24話の最終形態のイメージです

「な、なにあれ...?」

「怪獣...!?」

「逃げろォォォ!!」

魔女と違い、無常の身体はあくまでも物質。魔力のない人間でも触れるし、見ることもできる。

ほむらの結界が解かれ、姿を現した無常の異形さに、避難所中は混乱に陥っていた。

ゆま「あれ...?」

仁美「まどかさん...?」

一緒に避難していた筈のまどかがどこにも見当たらない。

仁美「まさか...!」

失くした右腕が、チリチリと痛む。

嫌な予感がした。

仁美とゆまは、人混みの流れに逆らい、避難所の出口へと向かった。

クーガー「遅い!そんな攻撃では俺は捉えられない!」

無常の腕を、光線を、紙一重で躱し、ケリを入れる。

動きは単純。それ以外に彼のうつ手段はない。

無常(馬鹿な...)

だが、無常はクーガーを捉えきれない。既に瀕死な上、人一人を抱えた、生身の人間であるクーガーをだ。

無常(何故一アルター使いのこの男に...全てを超越した私が翻弄されている!?)

クーガーは一度敗北した。

だからこそ、乗り越えるために速くなる。

実にシンプルな思想。しかし、それこそがこの男の全てであり生き様。そんな彼のエゴが、アルターの能力を限界まで引き出すのだ。

クーガー「壊滅のセカンドブリットォォォ―――!!」

無常『ぐぅ...調子に乗るなァ!』

しかし、それでもまだ足りない。

捉えられない無常。決定打にかけるクーガー。

戦況は膠着していた。

無常『ええい、チョコマカと...ぐああっ!』

またもや、突如苦しみ始める無常。

無常『...エヘヘヘハヘヘ』

クーガー「成る程。少しは馴染んできたみたいだが、安定には程遠いってわけか」

また自我を失ったようだ。

希望は見えてきた。

その筈なのに、ほむらはよぎる不安を隠せなかった。

クーガーは強い。あの無常を相手に一歩もひけをとらない。

だがしかし、何かを見落としている気がする。

その答えが出る頃には、全てが手遅れだった。

使い魔「キャハッ!」

どこからか現れた使い魔が、クーガーの足を縫い付ける。

クーガー「なっ!?」

一瞬だった。

音もなく、使い魔は、突然現れたのだ。

使い魔「キャハハハハハ!!」

別の使い魔の笑い声が響き渡る

使い魔が、ほむら目掛けて槍型の影を放った。

クーガーはほむらを手放し、影に心臓部を貫かれた。

クーガーは残る力を振り絞り、足を縫い付けていた影をアルターで分解し、使い魔を蹴りでかき消す。

クーガー「...俺としたことが、迂闊、だったな」

無常の自我が途切れた時にだけ、性質が魔女に近づき、使い魔が現れる。

本人すら知らなかったその事実に気が付いた時にはもう遅い。

クーガーは、自嘲的な笑みを浮かべ、膝から地に崩れ落ちた。

ほむら「...ぁ」

クーガーの身体が、ほむらに重なるように倒れていく。

ほむらの身体に、クーガーの血が纏わりつく。

彼を嘲笑うかのように無常とその使い魔たちの笑い声が重なり響いている

ほむら「う...うあああああ!」

襲いくる使い魔を、渾身の力で殴りつける。

だが、悲しいかな。ただでさえ死にかけで、素質としては最弱の魔法少女では、使い魔にすら歯が立たなかった。

逆に使い魔に殴り飛ばされ、ビルの壁面に叩き付けられる。

無防備な彼女に建物の残骸が投げつけられ、そして




グ シ ャ リ

まどか「はぁっ...はあっ...!」

まどかが辿りついた時には、もう手遅れだった。

高笑いをあげる無常と使い魔たち。

まどか「やだ...」

その傍らで、ぐしゃぐしゃになっている大切な人。

駆けより、抱きかかえ、何度も名前を呼ぶが返事はない。

まどか「やだよ....」

彼女を抱きかかえた両手が、血で真っ赤に染まる。

まどか「イヤああああぁぁぁぁ―――!!」

まどかの悲鳴が、瓦礫だらけの街に響き渡った。

ほむら「うっ...」

どれほど経っただろうか。

朦朧とする意識と、全身を走る激痛に、自分が生きていることを実感する。

響く笑い声に、現実を突きつけられる。

ほむら(...ここまで、か...)

もう、時は巻き戻せない。

仮に巻き戻せたとしても、またまどかの因果が増えるだけ。

苦しさが、悔しさが、怒りが、ほむらの胸中を渦巻き、涙へと変わる。

黒ずんだソウルジェムに、涙が流れ落ちた。





瞬間、ほむらの左手を温もりが包んだ。

強大な敵と対峙するまどか。

それは、何度も見てきた、絶対に見たくなかった光景。

ほむら「そんな...どうして...」

それは、破滅しかない道。

もう、やり直しがきかないこの時間軸で、それでも彼女は選んでしまった。

まどか「...ごめんね、ほむらちゃん」






魔法少女の衣装に身を包んだ彼女は、寂しげに微笑んだ。

第10話『鹿目まどか』

クーガーが、背負ったものを解き放つ ほむらが、求め続けてきたもののために立ち上がる

その果てに何があるというのか 何もありはしない

ないからこそ求める 人は、求め続ける

今回はここまでです。

****************************

マミ「...そう、それが真実なのね」

遅れて合流したマミさんに、わたしたちはソウルジェムの真実を語った。

ほむら「...意外に動揺しないのね」

マミ「ええ。...そんなこと、もうどうでもいいもの」

その時のマミさんの目が、濁りかけたように見えて。

―――それが、あの時見せられた、泣きながら銃を構えたマミさんの姿と重なって。

まどか「だ、だめっ!」

たまらず、わたしはマミさんにとびついていた。

マミ「か、鹿目さん?」

まどか「いつか魔女になるとか、そんなの関係ない!マミさんはマミさんだよ!」

みんなが呆気にとられたようにわたしを見ている。

やがて、マミさんがわたしの頭をなでてくれた。

マミ「大丈夫よ。私は生きることからも戦うことからも逃げない。絶対にね。暁美さん、クーガーさん、作戦をたてましょう」

マミさんは、いつものように温かく微笑んでくれた。言葉にも嘘はなかった。

でも、わたしは気づいていた。

マミさんの目からは、濁りが消え去っていなかったことに。

―――――――――――――――――――


まただ。また失ってしまった。

いつもそうだ。

お父さんもお母さんも犠牲にして、私だけが生き残った。

佐倉さんの家族もそうだ。

私が気付かない内に、大切な人の大好きな家族は崩壊し、この世を去っていった。

...そして、佐倉さんと美樹さん。

あの時、私は異納泰介を撃つのをためらってしまった。

人間だから?敵ではあるけど、命をとる必要はないから?

違う。私は、臆病だっただけだ。

彼を殺した時に、仲間から向けられる視線が怖かっただけなんだ。

もし、あの時躊躇わず撃って、二人のもとに少しでも早く駆けつけていれば、こんなことにはならなかったかもしれないのに。

後悔ばかりが湧き上がってくる。

いつだって私は、間違ってばかりなんだ。

...私はもう迷わない。

私はどうなってもいい。この手が汚れてもいい。だから...

*******************************


私は、全身をリボンで包み、なんとか光線を退けた。

しかし、その衝撃は到底殺しきれるものではなく、身体の至るところに深手を負い、少しの間気を失っていた。

その少しの間に戦況は変わり果てていたようで。

左足を引きずり、暁美さんとクーガーさんを探し回る。

マミ「...ッ!」

そうして見つけたのは、胸を貫かれるクーガーさんと、暁美さんに迫る巨大なビル。

私はすぐさま暁美さんの足にリボンを巻きつけ、引っ張り上げた。

間一髪直撃は免れたものの、破片を防ぎきることはできず、私と暁美さんの身体に破片が幾つも刺さってしまった。

マミ「うぐっ!」

私のお腹に激痛が走る。

血は流れているけれど、幸いにも深手ではない。

問題は、暁美さんとクーガーさん。

暁美さんは、ソウルジェムは無事であるものの、肉体の損傷が激しすぎる。

このままでは、濁りきるのも時間の問題だろう。

そしてクーガーさん。

彼が貫かれたのは間違いなく心臓。これが破壊されれば間違いなく人間は死ぬ。

マミ(お願い...間に合って!)

暁美さんとクーガーさんに、治癒の魔法をかける。

私の魔法は繋ぎ合わせる魔法。

クーガーさんが心臓を貫かれたのは今さっきのこと。

間に合えば、クーガーさんの心臓を治せるかもしれない。

...可能性は限りなく低い。

私の魔力は残り少なく、心臓を治しても蘇るとは限らない。

なにより、人を蘇らせるなんてことは奇跡そのもの。

それこそ、キュゥべえと契約でもしない限りできないほどのだ。

でも、そんなことはどうでもいい。

私は、二人にひたすらに魔力を注ぎ続けた。


使い魔「キャハハハハ!!」

複数の使い魔が、いつの間にか私の背後に迫っていた。

マミ「―――!」

彼らに放たれる影を、打撃を、全て代わりに受け止める。

痛い、苦しい、倒れてしまいたい。

だが、反撃にも、自分の治療にも、痛覚を失くすことにも魔力を割く余裕はない。

それを知ってか知らずか、使い魔たちは攻撃の手を休めなかった。

私にできるのは、彼らに魔力を流し、耐えるだけ。





ドスドスドスッ

腹部を何度も殴打される。大丈夫、これくらいなら立っていられる。

ゴッ ドシュッ

頭を殴られ、続けて肩を貫かれた。まだ大丈夫。

バキリ

左足が折れた。まだ立っていられる。

ズバッ

右腕がきられた。まだだいじょうぶ。

ヒュッ

のどにあなを空けられた。まだ、だいじょう、ぶ。

ゴキリ

くびのほねがおられた。わたし、は、まほう、しょうじょ、だから、だい、じょう、ぶ。

ゴッ バチッ ブチリ バキバキバキ ドシュッ

まだ、まもれ、る

おおきなうでがふりおろされる

ま、だ、まも、れ


グ シャ リ


まどか「はぁっ...はあっ...!」

まどかが辿りついた時には、もう手遅れだった。

高笑いをあげる無常と使い魔たち。

まどか「やだ...」

その傍らで、ぐしゃぐしゃになっている大切な人。

駆けより、抱きかかえ、何度も名前を呼ぶが返事はない。

まどか「やだよ....」

彼女...巴マミを抱きかかえた両手が、血で真っ赤に染まる。

まどか「イヤああああぁぁぁぁ―――!!」

まどかの悲鳴が、瓦礫だらけの街に響き渡った。

...かなめさんのこえがきこえる。

だめじゃない、こんなあぶないところまできちゃ。

うっすらとしかみえないけれど、やつらがせまってきているのがわかる。

にげて、とさけびたい。でも、のどがこわれていてさけべない。

じゅうでおいはらいたい。でも、まりょくもじゅうをにぎるちからもなんにもない。

...ああ、どうかおねがいします。

せめていちどくらい、わたしのだいすきなひとたちをまもらせて。

**********************

クーガー「なんだって?」

カズマ「俺は強くなりてえ。メソメソして生きたくねえんだ」

クーガー「強くなる方法でも知りたいのか?」

カズマ「あるのか!?」

クーガー「ハハッ、あるわけないだろそんなもん」

クーガー「ただ...そうだな。強くなるためには、弱い考え方をすることだ」

カズマ「弱い考え方?」

クーガー「そうだ。例えば、お前のダチが不良に襲われてるところを見たとする。一番弱い考え方はなんだ?」

カズマ「ダチを見捨てて逃げることだ」

クーガー「そうだ。その弱い考え方に反逆するんだよ」

クーガー「弱い自分自身に反逆し続けていれば自然に強くなる...強くなるのさ。わかったか?カズヤ」

カズマ「カズマだ!」

クーガー「あぁ~、スマンスマン」

****************************


手足が凍りついたように動かない。身体はダルイし、非常に眠い。気を抜けばすぐにでも逝ってしまいそうだ。

もう休め。十分だ。おまえはよくやった。

そんな考えが頭によぎる。

だからこそ。ああ、だからこそだ。


ドクン


俺はその考え方に反逆する。


ドクン


それが俺の生き方だ。信念だ。


ドクン


誰にも邪魔はさせない。たとえそれが俺自身だとしても!



―――ドクン


―――――――――――――――――――

風を切る音がした。

まどかが振り返ると、そこにあるのは、使い魔の残骸と最速の男の背中。

彼は、まどかと傷ついた二人を抱え、無常から距離をとった。





―――少女の希望と男の反逆は、確かに繋がった。

QB「残念だけれど、彼女たちはここまでだ」

まどかの肩にしがみついていたキュゥべえが告げる。

QB「でも、きみが願えばマミかほむら、どちらかは助けられる。ひょっとしたら、無常を倒せるかもしれない」

それは、確かに残された希望で。

QB「どの道、このままではみんな死んでしまう。なら、僅かにでも希望のある方に賭けるべきじゃないのかな」

それは、どうしようもない事実で。

QB「さあ。僕と契約して、魔法少女になろうよ!」

この上なく甘い誘惑だった。


「か...なめ...さん」

まどかの袖を引っ張るマミ。

マミ「私は...いいわ...」

かろうじて聞き取れるほどのか細い声と残された指で、震えながらほむらを指す。

マミ「彼女を...おねがい」

まどか「マミさん...」

マミ「あの子は最後の希望...だから...私はこれでいいの」

まどか「いやだ...いやだよ。絶対にマミさんを見捨てたりなんかしない!わたしは...わたし...は」グスッ

言いながら、まどかは気付いていた。

彼女の状態、魔力を使い果たしドス黒く濁りきったソウルジェム。

彼女の容態を治せる者などいないし、魔力を回復させるグリーフシードもない。

ほむらもまた、肉体こそは治りつつあるものの、ソウルジェムの濁りは限界寸前だ。

...つまり、本当にどちらを助けるか選ばなければならないのだ。

マミ「かなめさん...私ね、いまとっても嬉しいの」

まどか「え...?」

マミ「お父さんやお母さんだけじゃない...今まで、私は、護れる立場にいながら何も護れなかった」

マミ「でも、やっと護れたの。大好きなあなたたちを護れて、とても嬉しいの」

マミ「だから、私に後悔なんてないわ」

そして、彼女自身がそれを望んでいるのなら...

マミ「泣かないで、かなめさん...」

まどか「...はい」

マミ「みんなのこと、よろしくね」

まどか「はい...!」


マミ「ぁぐ...!」

ソウルジェムにヒビが入る。

とうとう、彼女にも限界が来たのだ。

まどか「マミさん!」

マミ「クーガーさん...最後に...お願い...」

クーガー「......」

マミ「魔女になる前に...私も...一緒に...」

クーガー「...わかりました」

クーガー(ああ、わかっている。これは俺が招いたことさ)

彼女が傷つき、魔女と成り果てようとしているのは、己の速さが足りなかったからだ。

クーガー(足りないもんばっかりだ。全くもって情けない)

だからこそ、クーガーは謝らない。心の中で詫びようが、それを口に出すことは彼女の行為を卑下することになるからだ。

クーガー「...ありがとうございます。あなたのおかげで、俺はまた走ることができる」

努めて微笑みを湛え、しかし爪が肉に食い込むほど拳を握りしめる。

マミ「どういたしまして」

マミはクーガーのお礼に、精一杯の笑顔で応えた。




―――パリン



ソウルジェムが分解され、クーガーの脚に再構成される。

クーガーの脚に纏われるのは、いつもの桃色ではなく、ところどころに黄色が混じった装甲。

巴マミは死んだ。

しかし、彼女の魂はクーガーと共にある。

彼の装甲は、彼女の生きた証を確かに刻んでいた。


まどか「...キュゥべえ。わたし、契約する」

クーガー「......」

まどか「...ごめんなさい、クーガーさん。ずっと止めてくれたのに、結局こうなっちゃって...」

クーガー「謝る必要なんてありません。あなたが決めたことでしょう?なら、思い切って進めばいい」

まどか「ありがとうございます」

QB「さあ、鹿目まどか。きみはその魂を代価にして、何を願う?」

まどか「わたしの願いは―――」クラッ

突如、激しい眩暈に襲われる。

まどかは、自分の発した言葉すら聞き取れず、意識を手放した。

*************************

上も下も色も、何もない真っ白な空間。

その中心に映る一つの影。

まどか(あれは...わたし...?)

顔こそは見えないが、姿かたちといい、どこか面影があるような気がした。

影がわたしとコツンと額同士を合わせる。

すると、流れてくるのは以前もみたあの像。

しかし、一つ違うのは―――

まどか『ほむらちゃん...過去に戻れるって言ってたよね。こんな終わり方にならないように歴史を変えられるって...』

―――違うよ。そうじゃない

まどか『だからね、お願いがあるの』

―――無理はしなくていい。逃げ出してもいい。だから...

まどか『キュゥべえに騙される前の...馬鹿なわたしを、助けてあげてくれないかな』

―――生きて、ほむらちゃん。




わたしが見たもの。それは誰にも、幾度となく時間を繰り返してきたほむらちゃんにも知ることが出来ない真実。

まどか(そっか...そういうことだったんだ)

影が、どこか寂しげに微笑んだ気がした。

「......」

影がわたしに手を伸ばし、わたしもつい手のひら同士を合わせてしまう。

手のひらの隙間から桃色の光が溢れ、私たちを包み込んだ。

光の中で、手を繋いだまま、渦を巻くようにぐるぐると回りだす。

ポンッと何かが弾ける感覚と共に、腕、足、体の順に、私は魔法少女の衣装になっていった。

そして、最後に私の額に軽くキスをして、彼女はわたしに溶け込んだ。

*********************

QB「...契約は成立だ。これできみも魔法少女だ」

まどか「......」

QB「どうかしたのかい?」

まどか「...ううん、なんでもない」

先程見たのはほんの一瞬の出来事だったようで。

キュゥべえとクーガーの様子がそのことを表していた。

まどか「いこう、クーガーさん。決着を着けよう」

深呼吸とともに、改めて決意を固める。




―――この戦いの、これまでの全てに!

今回はここまでです。

第10話『鹿目まどか』


ほむら「まどか...どうして」

ほむら(どうしてかですって?...聞くまでもない。全部、私のせいじゃない。私に力が足りなかったから、私が約束を果たせなかったから...)

まどか「違うよ、ほむらちゃん」

まるで、心を読み取ったかのようなまどかに、驚きの表情を見せる。

まどか「わたしね、ずっと考えてた。どうして、ほむらちゃんがこんなに苦しまなくちゃいけなかったのか。あの時、あの子はどうして見せてくれたのか。...その答えが、やっとわかったの」

ほむら「まどか...?」

まどかは語った。

私と約束した時の彼女の真意を。

そして、謝った。

自分の身勝手な約束が、私を苦しめ続けていたと。

まどか「本当は、ほむらちゃんに生きていてほしかった。理由なんてどうでもいい。ただ、ほむらちゃんに生きていてほしかった...それだけだった」

ほむら「そんな...それじゃあ、私が今までしてきたことは...なに...?」

何度も何度も時間を繰り返してきた。

その過程で、恩人であり師匠でもあった先輩を救えなかったこともあった。

その過程で、魔女となったまどかの親友を殺したこともあった。

その過程で、何度も協力を持ち掛けた少女を見殺しにしたこともあった。

それになんとか耐えてこられたのも、まどかとの約束があったからこそ。

でも、その約束自体を彼女自身に否定されたら。

彼女自身が最初から守る気がなかったとしたら。

ほむら(もう、私は...)

まどか「...大丈夫。後は任せて」

ほむら「え...?」

まどか「ほむらちゃんのこれまでも、みんなの想いも、無駄になんてしない」

そう言い切った彼女の目には、確かな意志と決意が宿っていて

まどか「わたしが、決着をつける」

それは、かつての彼女と同じだった。

かつてのまどかは、私を助けるために散っていった。

かつてのまどかは、嘘の約束をしてまで私を生かそうとした。

いまのまどかは、己の身を投げ打ってでも無常を倒そうとしている。

ならば、生き残ることこそがまどかに報いる唯一の道ではないのか?

今までの罪も何もかもを背負ってでも生きるべきではないのだろうか?

例え、戦う理由がなくなったとしても...







ほむら(...違うでしょ)

そんなものは言い訳だ。

このままなんの証も立てずに、まどかを死なせるつもりか?

『どうして...死んじゃうってわかってたのに...』

あの時、私はなにもできなかった。

『私なんかを助けるよりも...あなたに生きてほしかったのに...』

彼女に守られるだけの弱い存在だった。

『さあ、聞かせてごらん。きみはどんな祈りでソウルジェムを輝かせるんだい?』

『私は...』

最初は私のエゴからだった。ああそうだ、何もできない自分が許せなかった。

『鹿目さんとの出会いをやり直したい』

だから私は強くなりたかった。

彼女と対等になれるように。本当の友達になれるように。

『彼女に守られる私じゃなくて、彼女を守る私になりたい!』

だというのに、結局守られてばかりだった。

さやかに、杏子に、マミさんに、クーガーに。そしてまどかに。






ほむら「まって...まどか」

だから...まどかの意志に背くことになっても、このままでは終われない。

無常『ンフ...!』

まどかの背後で、振りかぶられる巨大な腕。

それを防ぐようにクーガーが腕に蹴りをいれる。

クーガー「レディが大事なお話をしてるんだ。せっかく意識を取り戻したところ悪いが、ここは空気を読んでもらおうか」

無常『全く、トコトンイラつかせてくれる羽虫ですねぇ。いいでしょう、お望み通りあなたから消し去ってあげます』

その言葉を合図に、あっという間に使い魔がクーガーを取り囲む。

無常『おかげさまで随分と慣れてきましてねえ。もう意識がとぶこともなさそうです。それに、こんなこともできるようになったんですよぉ』

クーガー「そうかい。なら、俺も見せつけてやるよ」

無常『ハッ、死にかけの身体で強がりを。...ならばみせてもらいましょうかねぇ!』

使い魔がクーガーに一斉にとびかかる。

180°全てが包囲されたこの状況。例え万全の状態のクーガーでも、為す術がなかっただろう。

そう、今までの彼ならば。

クーガー「ああ、見せてやる!俺たちの速さをなぁ!」

ヒュッ

それは一瞬だった。

無常『え...!?』

瞬きするよりも速く使い魔は消滅し、知覚も痛覚すらも置き去りにして無常の腕の一本が地に落ちた。

無常『......!!』

無常は背後のクーガーへと光線を放つ。

しかし当たらない。

避けようとする暇さえ与えず、クーガーの第二撃は無常の腕をまた一本破壊した。

無常『...ンフッ』

だというのに、無常は笑みを深めた。

無常『どうやらその力...制御できていないようですねぇ』

クーガー「......」

無常『まあ仕方ないでしょう。なんせそのちっぽけな生身で進化をしようというのですから。おまけに傷ついたその身体...精々あと一発が限界といったところでしょう』

クーガー「...ああ、そうだ。だが、それで十分さ」

無常『なに?』

ほむら「待たせたわね」

クーガー「ええ。待ちました」

まどか「...無常矜侍。わたし達はあなたを許さない」

無常『許さない?許さないですって?そんなカスのような魔力で私を倒せると!?』

ほむら「倒せるかじゃない。倒すのよ」

無常『...いいでしょう。速さも進化も意味のないほどの力で、全て消し去ってあげますよぉ!』

クーガー「...奴は、全ての力を込めて攻撃してきます。逃げ場なんてないくらいの特大のをね」

ほむら「あの吸収能力は?」

クーガー「おそらく使いません。さっきのやりとりで、奴の能力より俺の方が速いことは証明しましたから」

まどか「...なら、やることは一つだね」

クーガー「ええ。正面から切り開く。それができなければおしまいです」

ほむら「...わかった。頼んだわよ、クーガー」

クーガー「任せてください、ほむらさん」

ほむら「ほむらよ」

クーガー「あってるでしょう?」

ほむら「!...ふふっ」

ほむら(私の能力は...まだ完全には死んでいない)

指先に魔力が集中し、紫色の弓が模られる。

ほむらは、先の無常との戦いで、一度も弓を使っていない。

ほむら(心のどこかでまどかには絶対に並べないと...そう思っていたのかもしれないわね)

初めてだからか、思ったように弓の形を維持できない。

まどか「ほむらちゃん」

まどかがほむらに手を重ね、共に弓を模る。

桃と紫の混じった弓と矢がつくられる。

これが、私たちの全力全開。

勝っても負けてもこれで終わり。

―――もちろん勝つ。勝ってみせる!

暁美ほむらの結界が崩壊してから、まだほんの数百数十秒ほどしかたっていない。

しかし、あとその一握りにも満たない時間でこの戦いの決着はつくであろう。




『消えてなくなれェェェ―――!!』



「瞬殺の...ファイナルブリットォォォ―――!!」



「「貫け―――!!」」




どんな『魔法』でも『進化』でも

彼らを包む運命を止めることだけはできないのだ

無常の超高圧の光線に、クーガーの脚とほむらたちの矢が衝突し、爆風が巻き起こる。

拮抗したかのように見えたのは一瞬だけ。

瞬く間にクーガーたちが押され始める。

ほむら「まだよ...意識を保って!」

まどか「う、うん!」

限界まで魔力を捻りだす二人。

しかし、それでもなお光線を押し返すことはできない。

無常『キャハハハハ!!死ね、シネ、しね―――!!』




クーガー「...まだだ」

光熱により溶けていく両脚の装甲。

クーガー「まだ足りない」

彼の言葉に、欲望に呼応するかのように、装甲が輝きだす。

光は、ほむらたちの矢をじわじわと分解していき、クーガーの身体を包んでいく。





クーガー「だから...よこせ、速さを!」

その言葉と共に、クーガーの全身は、全て分解された。

***********************

上も下もわからない、虹色に包まれた空間。

その中心に映る一つの人影。

クーガー「...なんだ、こんなところにいたのか」

"それ"の胸元にそっと触れる。

理屈はわからない。だが、確かに彼女たちがここにいることは感じ取れた。

クーガー「悔しいよな、あんなやつの踏み台になって終わるなんて」

"それ"の胸元の赤の宝玉と、腹部の青の宝玉が輝きを帯びる。

光が、伸ばした手を伝って、身体に溶け込んでくる。





クーガー「いくか、一緒に」

*************************

光の中で、クーガーの身体が再構性される。


―――もっとだ...


彼の姿は無常とは違った意味で異形。


―――もっと


爪先から髪の毛の先まで、全てが桃・黒・黄・青・赤が混じった装甲に包まれる。


―――もっと!


空気抵抗を極限まで抑えた流線型。

これが、速さを求めたクーガーのアルターの到達点。


『もっと輝けぇぇぇ―――――!!』


ようやく知ることができた、文化の神髄

巴マミの魔法は、繋げる魔法。

『向こう側の世界』へとその身を投じ、アルター使いと魔女のハイブリットとなった無常。

そして、ほむらもまた、『向こう側』の世界を垣間見た者。

なによりクーガー自身が、『向こう側』から力を引き出すアルター使い。

それらの要因が全て絡まった必然か、それとも命を燃やし起こした奇跡か。

それは誰にもわからない。

だが、確かに。ああ、確かに。

クーガーのアルターは進化を果たしたのだ。

それでもなお、全体的に見れば、無常の方が圧倒的である。

―――ただひとつ、速さを除けば。




速さを一点に集中させれば、どんな分厚い塊であろうと砕け散る。

馬鹿な、と思う暇すらなく、光線が四散していく。

無常が認識できたのは、一本の矢と化した男と、その背後に浮かぶ少女たちの幻影。

『アブソープション』を発動させる間もなく、貫かれたと認識する暇もなく。

無常の額は、光速の矢に貫かれ、絶叫とともに無常の身体が発光と共に消失した。

ゆま「あ...あれ...?」

仁美「皆さんは...?」

無常は消え去り、嵐も止んだ。

だが、二人が駆け付けた時には、まどかもほむらもマミもクーガーも。

誰一人としてこの場にいなかった。

*************************

方向感覚もないように思える光の中。

どこか安らぎさえおぼえるこの中で、疲れ切った身体を支えあうように、三人は背中合わせで座り込んでいた。



まどか「終わった...ね」

ほむら「...そうね」

...これで、今までの戦いは終わった。

まどかは全てを知った上で納得して契約をした。約束を守る必要もなくなった。世界を滅ぼすこともなくなった

これまでの全てに決着はついた。だからこそ...





ほむら「ごめんね、まどか...私、もう行くね」

まどか「......」

私の戦いは、これからだ。

クーガー「それが、あなたの選んだ道ですか」

ほむら「ええ。やっぱり、自分の気持ちは裏切れそうにない」

これは、私の我儘。

どうしようもないくらい小さくて、欲深いこと。

でも、やっと思いだせた最初の願い。

きっと、どう進んでも後悔しかないのだろう。それでも...

ほむら「私は、諦めたくない。私の願いを、無意味なもので終わらせたくない」

まどか「...ほむらちゃん。手、貸して」

ほむらの左手をそっと握りしめる。

すると、カシャンという音ともにほむらの盾が復元された。

まどか「...ほむらちゃん。わたし、あなたにずっと約束を押し付けてきた。だから、今度はわたしが約束する」

髪を結んでいたリボンを外し、ほむらの手に握らせる。

まどか「わたしは、絶対に絶望に負けない。みんなのぶんも背負って生きていくって。...これはその証」

ほむら「...あなたが生きている時間軸もある。それだけで、私は前へ進める。だから...私より先に死んだりしたら、許さないんだから」

まどか「...うん、約束」

そうして、子供のように互いの小指を絡め、微笑みを交わしあった。

ほむら「世話になったわね、クーガー」

クーガー「...いいえ。礼を言うのは俺の方ですよ」

ほむら「?」

クーガー「なんたって、あのとき十分に目の保養をさせていただきましたから!」

ほむら「っ...!ど、どうやらあなたは殺しても死にそうにないわね」プイッ

クーガー「そんなに怒らないでくださいよ、ほむらさん」

クーガー(...あなたたちには、学ばせて貰いましたから)

ほむら「...まどか、クーガー。本当にありがとう...元気でね」




―――カシャン

光の中から、ところどころに見滝原の街並みが覗き始めた。

クーガー(そろそろ、帰り道も消えちまう、か...)

まどか「...クーガーさん」

クーガー「心配いりませんよ。俺はここに...」

まどか「...無理しないでください。身体のこと、わかってますから」

クーガー「......」

まどか「クーガーさんには、クーガーさんのやることがあるでしょう?だったら、こんなところで止まっちゃ駄目です」

まどか「...だから、ここでお別れです」

クーガー(...俺としたことが、らしくなく過保護になってたようだな)

カズマと別れる時、俺は何も言わずに立ち去った。

あいつは強い。そしてまだ強くなれる。その強さは、俺とツルんでいたところで先には進めない。あいつに俺はもう必要なかった。だから別れた。

彼女もそうだ。優しく、強い人間だ。伸びしろもある。だったら、これ以上はただの必要のないお節介だ。

クーガー「...わかりました。このストレイト・クーガー、お言葉に甘えて治療に専念させていただきます」

まどか「あっ...待ってください」

クーガーのボロボロの黒サングラスを手にとり、リボンと同様に手に包む。

すると、たちまちにレンズもなにもかもが復元された。

ただ違うのは、黒ではなくピンクになっている点。

クーガー「こいつを、俺に?」

まどか「えへへ、今までのお礼ってわけじゃないけれど...どうですか?」

クーガー「こいつはいい。素敵なプレゼントをありがとうございます」

クーガー「さて...もう時間もないようだ」

見れば、光は既に輝きを失いかけており、うっすらと見滝原が見え始めている。

クーガー「それでは、お元気で。鹿目...まどかさん」

まどか「はいっ!」

固く握手を握り交わし、クーガーは背を向ける。

彼は跳びたち、光の中に一瞬で消え去った。

*************************

ヒョコッ

QB「ほむらとクーガーはこの世界から去ったようだね」

「......」

QB「ストレイト・クーガーの開いた"向こう側への扉"を辿り、過去へと遡ったきみの徒労は無駄に終わったようだ」

QB「微かにきみの力に触れたさやかは無常の支配へ抗えた。同じくまどかは、きみが見てきたことに触れることができた。ほむらもまた新たな力を手に入れることができた。でも、それだけだ」

QB「結論からいえば、あの三人は死に、まどかは契約をし、ほむらも戦いを終わらせることはできなかった」

QB「まあ、あの暁美ほむらからエネルギーを採集できなかったのは誤算だったが...それも宇宙の視点で見ればマイナスでしかない」

QB「一番のイレギュラーであるきみが関与したところでどうにもならないんだ。それでもきみは、幾多の時間軸の狭間で彷徨い続けるつもりかい?」

「......」

QB「...聞いたところで無駄か。今までの行為は、いまここにいるのは、魔女と同じくいわば性質での行動に等しい。彼女たちが"向こう側"への領域に触れることができたのは彼女たち自身によるもので、そこにきみの意志なんてものは存在しないのだろう」

QB「そんな姿に成り果ててまでも救いたいというのなら...僕はなにも言わないよ」

QB「...いまは帰るといい。ここにきみの護りたいと思ったものはもうないんだから」

「......」

スゥ




QB「...じゃあね、元"救済の魔女"」

どこかの川岸

ザパァ

無常「ぷはぁ!...はぁ、はぁ...」

無常(死ぬ...このままでは...死んでしま...う...)ガクッ




QB「これは驚いた。まだ生きていたんだ。まったく、僕に感情があれば呆れるほどのしぶとさだ」

QB「...あのまどかのエネルギーが手に入らなかったのは、きみが原因ともいえるよね」

QB(この男は生かしておけば僕たちの障害にしか成り得そうにない。だったら...)

QB「...ルール違反かもしれないけど、この場で処分してしまおうかな」


ズパァ

QB「」ドサッ



異納「無常様...!」

異納(まだ息はある...光が消え去るその前に!)タッ

...呉キリカ 美国織莉子 佐倉杏子 美樹さやか 巴マミ 暁美ほむら 鹿目まどか

彼女たちがいたから私は力を手に入れた。

だが、彼女たちのせいで全てを失った。

この借りは...いずれ返させてもらいますよぉ

そして...ストレイト・クーガー

あなたは特に許せません。

あなたにはこの手で、最も屈辱的な死を送ってさしあげましょう



んふ...ンフフフフフ...




――――――――――――――

ゆま「まどかおねえちゃん!」

まどか「......」

仁美「これは...いったい...?」

まどか「...ぜんぶ話すよ」

わたしは挫けない。絶対に弱音なんて吐かない。前だけを向き続ける。

でも...





『まどかはあたしの嫁になるのだぁ~!あははは!』

もう戻らない

『佐倉杏子だ。よろしくね』

わたしが大好きだったあの人たちは

『あんまりかっこ悪いところ、見せられないものね』

わたしが愛したあの日々は

『速さとは文化の象徴であり万物の基本的行動理念!すなわちそれは何者にも勝る速さは最高に有能なものだという証拠になるはずだ!そう思いませんかのどかさん!?』

奇跡や魔法が叶ったとしても

『―――まどか』

決して戻ることは無い





まどか「ごめん...いまだけは...」

いまだけは、泣いてもいいよね


―――――――――――


ほむら「......」

視界に入るのは、いつもの病院の天井。

変身して、身体を確かめてみる。

黒の翼はどこにもなく、左腕にはやはりいつもの盾がついていた。

盾の中身を探ってみる。

当然ながら、何も入っていない。

使えなかった武器も、最後にまどかから受け取ったリボンもだ。

ほむら「夢...だったのかな」

思えば、自分に都合がいいことが多すぎた気がする。

魔法少女を普通に受け入れてくれた仁美たち一般人も。

仲たがいしないどころか、最後まで信頼してくれたマミさんやさやかも。

いつも以上に協力的だった杏子も。

頼れる伊達男、クーガーも。

私を理解し、隣に立ってくれたまどかも。

全て、私が作りだした夢だったのだろうか。



ガララ

ナース「おはようほむらちゃん」

ほむら「...おはようございます」

ナース「それじゃあ、お熱から...あら?」

ほむら「あっ...」

テーブル台に置いてあるリボンと写真。

ナース「素敵なリボンね。それに、この写真...」

なぜここにあるのか。そんなことはどうでもよかった。

ナース「ほむらちゃん、とても楽しそうね。お友達かしら?」クスッ

ほむら「...はい。私の、最高のともだちです」

彼らが、あの時間が幻想などではない確かな証であるのだから。

――――――――――――


ジグマール「目が覚めたかね?ストレイト・クーガー」

クーガー「ここは...」

ジグマール「心配するな。ここはHOLY部隊の特別治療室だ。本土は非道徳的な精製のことは隠し通したいらしく、きみの処分については何も言及はなかった」

クーガー「......」

ジグマール「イーリャンの発見があと10秒遅ければ死んでいたそうだ。後遺症も残るだろう。皆には凶暴なアルター使いと遭遇したことにしてあるが...きみほどの男が、なぜそんな事態にまで陥った?」

クーガー「それが、何も覚えていなくてね」

ジグマール「隊長である私にすら言えないほどのことかな?」フッ

クーガー「たーいちょーう。俺は事実を言ってるだけですって」

ジグマール「...いいだろう。憶えていないのなら仕方ないな。この件はこれで終わりだ。きみには、一日でも早い復帰を期待する」

クーガー「了解です」


ジグマール「ところで、ずっと気になっていたのだが...」

クーガー「はい?」





ジグマール「サングラス、変えたのか?」

クーガー「ええ。文化的でしょう?」


――――――――――――――――――


私は戦う。運命に抗い続ける。



和子「今日はみなさんに転校生を紹介しまーす」

さやか「そっちが後回しかよ」ガクッ


誰に否定されようとも構わない。それが私の選んだ道だから。


和子「それじゃあ暁美さん、いらっしゃーい」


まどかのためだけじゃない。

私は、私のために進み続ける。




ガララ

ほむら「オー、ジャマジャマ」

最終話『ストレイト・クーガー』

ああ、もはやなにも言うまい

語るべき言葉、ここにあらず 話すべき相手、ここにおらず

男、ただ前を向き、ただ進み続ける

ただ前を向き、ただ進み続ける

今回はここまでです。今週中には終わる...はず



ゴオオォォォ

「...なるほど、確かにあれには誰も敵いそうにないわい」

「そうだよ。...だから、あたしは、あいつを止められる可能性を持つ人を探して欲しいと願ったんだ」

「カーッ、随分と一方的じゃのお。しかし...おそかれ早かれ、彼女はワシらのところへきた。不意打ちでやられるよりはマシじゃわい」

「ししょう...」

「なぁに、成功しても失敗してもワシは死ぬんじゃ。そんなに心配せんでもええぞ」

「諦めろってことじゃないですか」

「そりゃ違う。ジグマールよ、お主は死にたいか?」

「いいえ」

「ならば、もがけ。いくら追い詰められようとも、傷つこうとも必死に抗え。そうすれば...なにかが掴めるかもしれん」

「...ごめん、あたしの勝手な願いに巻き込んじゃって」

「気にしなさんな。このチカラ...『ALTERATION』を封印するには持ってこいの相手じゃろうて」

オオオォォォ

「...さて、随分待たせたのぉ。それじゃあ、いっちょ逝くとするか」

QB「...凄かったね、彼の『ALTERATION』というものは。ただの人間が、僕たちしか認識できていなかった『向こう側の世界』へとアクセスできるとは、君たちの認識を変えるべきかもしれないね」

「......」

QB「とはいえ、彼女を消し去るにはパワー不足だったようだ。きっと、彼女は不定期にゲートを開き現れ、その度に命を吸っていく。そうやって永久の時を孤独に過ごしていくのだろう」

QB「ああ、僕は嘘はついていないよ。彼はちゃんと、その命を賭して、彼女が【この世界で】命を吸い続けることを止めてくれたじゃないか」

「......」

QB「...でも、無駄だったとは思わないよ。被害はこの大地だけで済んだし、取り込まれた人間も全員ではないが、それなりには戻ってきた。そのことを彼らは憶えていないだろうが、それを生かすも殺すも彼ら次第さ」

「...ねえ、もうここには魔女はいないんだよね」

QB「彼女が吸い上げてしまったからね。使い魔一匹も残っちゃいない」

「そう...なら、あたしが最後ってわけね」

QB「きみはそれでいいのかい?」

「魔女がいなければ、魔法少女もここには来ない。あんたたちもこの星から引き上げるから、魔法少女が産まれることもない。もう、ここには魔法少女はいらないんだ」

「もとの原因作ったあんたに言うのもおかしいけど...最後に、あたしの我儘聞いてくれてありがと」

(...ごめん、まどか。あたし、あんたになにもできなかった...)

QB「...じゃあね、美樹さやか」



パリン

十数年後



劉鳳「うぅっ...母さま...母さま...?」

「......」

劉鳳「っ!あ、アルター使い...!?」

絶影「ワンッ、ワンッ!」

「......」

カッ

ズドン

絶影「キャィン!」ドサッ




「......」

スゥッ


劉鳳「絶影...!母さま...!うっ...うあああああ!!」


QB「どんな感じだい?」

QB2「ふむ...あまりあてにはならないかな」

QB「というと?」

QB2「彼女が『向こう側』から姿を現すことができるのは、この世界と向こう側との狭間が薄くなった時。つまり、魔法少女が魔女へと変わるときくらいしかないんだよ。しかも、確実じゃないときた」

QB2「例外として、アルター能力の素質が高い者に引き付けられる場合もあるけれど、それもそうそうあるものじゃない」

QB「つまり、効率が悪いと」

QB2「そういうことだね。そもそも、彼女がゲートを開いたところで、得られるエネルギーも多いわけじゃない。なまじ強いから制御も難しいしね」

QB「わかったよ。それでは、予定通り地球からは手を退く方針でいくとしよう。僕らのノルマは達成されているからね」

ある日、自然現象では有り得ない程のエネルギーが放出し、半径約20km、高さ約240mにも及ぶ大隆起現象が発生した。

その原因は今もなお不明とされているが、首都圏全域の機能は失われ、政治や経済も長期に亘り停滞した。

結果として、5年間放置されたこの大地は、何かを失ってしまった大地『ロスト・グラウンド』と呼ばれることになる。

また、この大地では、新生児の数%に先天的に備わっている精神感応性物質変換能力が確認されるようになり、その数は年々上昇しつつある。

この大地で最初に発見された、少年マーティン・ジグマールはじめ、多くのこの能力者を実験体として調査・研究しているが、その全貌は未だ解明されていない。

いつからか、この能力は、進化を意味する『アルター能力』と呼ばれるようになった。

最終話 『ストレイト・クーガー』


杏子「ソウルジェムがやたらと疼くな...」

マミ「暁美さん、あなた本当にこんなモノと何度も?」

ほむら「ええ。...とは言っても、こんなにベストな状態は初めてだけど」

マミ「緊張してるみたいね。そういう時はこれ!」

ほむら「ボイスレコーダー...?」

ザザッ

キリカ『こちらキリカ!私たちがいる限りまどかにはあの獣を近づかせない!だから愛のもとに安心して戦いな!はい次!』

織莉子『こちら織莉子。ほむらさん。あなたには言いたいことが山ほどありますが...いまはこれだけ。必ず勝ってください。どうぞ』

まどか『...ほむらちゃん、昨日約束してくれたよね。わたし、信じてるから...だから、負けないで!』

ザザッ

マミ「どう?少しは気分がほぐれたかしら」

ほむら「...あまり、もと心臓病をイジめないでほしいのだけれど。まあ...やる気は出てきたわね。特に最後で」

マミ「それはよかったわ」

杏子「しっかし、よくもまあ契約する前に仲間にしちまおうとか思えたな。前は殺しあった仲なんだろ?」

ほむら「...いまの私と彼女の願いの利益は一致していたもの。なら、早急に契約のリスクと結果を教えれば...」

杏子「あいつらが契約する必要もなくなるし、説得もしやすくなるってか」

ほむら「まあ...教えた上でもなお契約するバカもいるけれど」

さやか「なんですと!?それはいったい誰のことかな!?」

杏子「お前以外に誰がいるよ」

ほむら「でも、あなたが筋金入りのバカでよかったわ。まだ許容範囲だもの」

さやか「なんか褒められてる気がしないんだけど」

ほむら「褒めてないもの」

QB「まあ、きみも大概だと思うけどね。せっかくの戦いを終えるチャンスを、自分が納得できないからって逃す行為を、人はバカとよぶんじゃないかな」

グシャッ

QB「げふっ」

ほむら「...まあ、否定はしないわ」

QB「ならばなぜ踏みつけたんだい?わけがわからないよ...」

マミ「はいはい、お喋りはそこまで。そろそろ来るわよ」

ワルプルギス『ウフフ...アーハハハッ!!』

杏子「うるせーなぁ...耳がおかしくなりそうだ」

ほむら「最後のリベンジマッチといくとしましょうか」

バサァ

さやか「うおっと!...相変わらずビックリするねその翼は」

ほむら(ワルプルギスの夜...今日こそあなたを倒し、まどかを救う。そして、私のこれまでを証明してみせる!)


************************************

マミ「...それが、どんなに恐ろしいことかわかっているの?」トポトポ

カチャリ

マミ「そうなればあなたは、あなたという個体を保てなくなる。死ぬなんて生易しいものじゃない。魂すらすり減って、その果てにあるのは...喜びも悲しみも感じられない、完全な無よ」

クーガー「ええ。わかってます。それに、誰もそんなこと俺に望んじゃいないってこともね」

マミ「......」

クーガー「ほむらさんは、自分が納得するために立ち上がった。イレギュラーな事態のおかげではなく、自分で勝ち取った証を立てるために」

クーガー「まどかさんは強い人だ。あの街を守るために、自分の意志で戦っている。だったら...いまさら俺にできることはなにもありません」

マミ「なら...」

クーガー「でも、この目で彼女たちの姿を確かめたい...理由としてはそれだけで充分です」

クーガー「それに、どうせ少ない命だ。だったら、少しでも多くの事を見るために使い切らなきゃ勿体ない。そう思いませんか?」

さやか「いいんじゃない?自分で決めた道を最速で突っ走る。それがクーガーさんでしょ」

杏子「つーか、うじうじ悩んで止まってるクーガーなんてウザイだけだって」ケラケラ

クーガー「嬉しいこと言ってくれるじゃねえか、あやか、あんこ」

「「さやか(杏子)だ!」」

クーガー「スマンスマン」



クーガー「さて、随分と休んだことだし...それじゃあ、いきますか」

**************************

無常要塞


ガラガラ

瓜核「急げ!上が激しく始めたらしい!」

水守「出口はこっちに!?」

イーリャン「うん...このまままっすぐいけば...」

ガッ

水守(しまっ...床がずれて瓦礫に足を!)

水守「あうっ!」ドサッ

瓜核「どわっ!」イーリャン「あっ」ドササッ

グラッ

イーリャン「柱が倒れてくる!」

瓜核(やべえ!アルターで分解する暇も...)

水守「きゃああああ!」

瓜核「うわああああ!」




ガコォォン

イーリャン「え...?」

水守「この車...クーガーさん?」

運転席のドアが開く。

水守「...?」

しかし、そこにいつもの伊達男の姿はなく、二つの空席が水守たちを待っていた。


カズマ「無常矜侍ィィィィ――――!!」

無常「私の...私の向こう側の力が...!?この男はなんなんですか!?」

無常(こうなれば、あの娘を...!)

「カズヤだよ」

無常「っ!?」

クーガー「シェルブリットのカズヤだ」

無常「貴様...いつの間に」

無常(奴は確かにこの手で全てを吸いつくし、殺したはず...!)

クーガー「愚問だなぁ。俺は誰よりも速く走れる男だぜ。カズヤ、俺はこの子たちを連れてでる。後は頼んだぞ」

カズマ「いきなり現れて、勝手なことをぬかすな!」

クーガー「最後の頼みくらいきけよ」

カズマ「!あんた...」

クーガー「じゃあな、カズヤ」

カズマ「...最後の最後まで名前間違えやがって...じゃあな、兄貴」

カズマ「―――さあ、ケンカだケンカァ!トコトンやるぞ!!」

無常はカズマがケリをつける。

あの調子なら劉鳳も負けないだろう。なにより手出しなんざあいつ自身が許さない。

なら、俺の役目はここで終わりだ。

...学習しない奴だな、無常。

お前の敗因はいつだって同じだ。たった一つのシンプルな答えさ。





『お前はあいつらを怒らせた』

劉鳳「......」

母の、愛犬絶影の仇は討った。不思議と、目の前のものに憎しみはなくなっていた。

結晶体の身体に触れ、そっと光の中へと押し込む。"それ"はまるでその行為を望むかのように、一切抵抗をしなかった。

劉鳳「帰れ、向こう側へ...永久に」

結晶体の額から、縦に裂けた光球が劉鳳の手のひらへふわりと落ちた。


『―――ありがとう』


劉鳳「!」


『―――ごめんなさい』


劉鳳「......」

現実かそれとも幻聴か。それはわからなかったが、しかし彼は心のどこかで納得できていた。

劉鳳「...これでいい。やつもまたさまよっていた。これでいいと...俺は思う」

結晶体は光の中へ消え、手のひらの光球もまた、大気へと溶け込んだ。

かなみ「うっ...」

クーガー「ここで待ってな。直に迎えが来る」

かなみ「あなた...だれですか...?」

クーガー「......」

かなみとクーガーは、交わした言葉も少なければ一緒にいた時間も少ない。そのため、クーガーについてはほとんどなにも知らない。

だが、アルターによって無意識に感じ取れた心が、いまと自分の知る彼とでは別物であることだけはわかった。

その違和感を口にする前に、無常に酷使され続けた疲労感により、かなみは意識を手放してしまった。










クーガー「風力温度湿度、一気に確認。ならまぁ、やってやりますか」







☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



ワルプルギスの夜『あは...はァ...』

杏子「ワルプルギスの夜が消えていく...」

さやか「勝った...の?」

マミ「...そのようね」

さやか「は...はは...喜びたいけどしばらく動けそうにないや」

まどか「みんな!」

杏子「よう、無事だったか」

まどか「みんなが避難所を護ってくれたから...それよりほむらちゃんは!?」

マミ「心配しないで。ちょっと離れたところにいるだけだから」

まどか「よ、よかった...みんな、ここで少し待ってて!すぐにほむらちゃんも連れてくるから!」

さやか「おーはやいはやい。こりゃ、あたしの嫁ポジションはとられちゃったかな」

ワルプルギス「」シュウウ

ほむら「はぁ...はぁ...お、終わった...」

ほむら(思えば、あなたとも長い付き合いになるわね。今まで一度も勝ったことはなかったけれど...)

まどか「ほむらちゃん!」

ほむら「まどか...」

まどか「待っててね、すぐにみんなのところへ連れて行くから...」

ワルプルギス「」グルン

まどか「え...?」

ゴオオオォォォ




さやか「ヤバイ、あいつまだ動くみたいだよ!」

マミ「いいえ、おそらくいまビルに放ったあれが最後の一撃...でも...!」

杏子「くそっ、ここからじゃ間に合わね...!」





ヒュン

杏子「?」

杏子(いま...なにかが通り過ぎた...?)

ほむら(ビルが倒れて...まずい、これは躱せそうにない!)

ほむら「まどか、離れないで!」

まどか「う、うん!」

ほむら(どうやら、タダでは終わらせてくれないようね...でも、残りの魔力で致命傷だけはなんとか...!)

ビル「」ズオッ

ほむら(きたっ!)


ヒュッ

ほむら「え...?」

さやか「ほむら、まどか―――!」

マミ「大丈夫よ。魔力が減った反応もない...けれど、ここからじゃ見えにくいわね」

さやか「ええい、あたしはもう我慢できん!這ってでもいくよ!」

マミ「こら、待ちなさい!あの子ってば...後で更にヒドくなっても知らないわよ」

杏子「......」

マミ「どうしたの?」

杏子「いや、なんでもない」

杏子(さっきのは気のせい...だったのかな)




ほむら「いったいなにが...?」

まどか「あ、ありがとうほむらちゃん」

ほむら「私はなにも...」

ほむら(そう...風が吹いたと思ったら、ビルがそれて...風...まさか!?)

辺りを見渡すが、やはり誰もいない。

だが、代わりに地面にあったのは、一つの欠片。

ほむら「...ほんと、お節介焼きな男ね」

まどか「ほむらちゃん?」

ほむら「...なんでもないわ」

ほむらは、桃色の欠片をそっと握りしめた。



ほむら(でも...ありがとう、クーガー)

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆




結界


魔法少女「くうぅ...」

使い魔「キキーッ」

魔法少女「や...いやぁ...!」

魔女「ぶわああぁぁ」

魔法少女「いやぁぁぁぁ!!」



ズドドド

魔女「!?」

「そこまでだよ」

魔法少女「あ...あなたは!」





                                                       l:::/  jYヽミ彡=イ
                                                      '/  て,ゞ_〉三彳
                                 __ _                   /    .7/zニニノ
                             _ _ l;;;;;;;;;;;;ヽ_ ___ _          /   ,//
              ___      , . . : :': : : : : : : : : : : :':_:ー'ミ<;;;;;;;;;;;;;ヽ,         /   .,//
              l;;;;;;;;;;;\__/.:γ: : : : :γー-: : : : : :_: : : : : ヽ;;;;;;;;;;;;;/:\      /  .,.//
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           /; : : : : : : :/;;;;;\;;;;;;;〉: : :l::l: : : /: : :l: : : : : :ト;::: : : l;::::l;. : :l: : l:ヽ;;;;\_,./ ,' .//

           ノ/: : : : i: :/\;;;;;;;;;/: : : l::l: : :/:/: :/l: : : : :l. ヽ; : l;ll'l::;l: : l: : :l: : ヽ;;;;〉/i,' .//    ,..   _
            l: : :/.: :i.:/;;;;;;;;;;;ト一;;l: : : :l:::l: :/l/l: / l: : : :l.   l.: :l ll冫l: :l: : : l>ミ, /i' .//    l:::〉':::::/
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              l.:/l: : :i;;;;;;;;;;;;;;;;;;l;;;;;;;;;;;l.: : :l:/l: / _lz=z l: :/   t==z,_ l/:: :l: l::l /' /i'//     ./
          l/ .l: : :i.;l: : :::: て;;;;;;;;;;ノ; : :l/ レ,γい  l:/      {//l  ' l::: :l.:l::l l:::/ノ//     /
            l; : i:::l;: :::::::::::l:::::i( l: : :l  / i//:j          乂ノ   l;:: :l:/~ ^i '/.//    ./
             l; :i:::l.l: ::::::::::l;.::::ト.;l: : l   乂ノ      ,   ....:::::l i:: l'   l_///   /
             l.:i:::l l: :::::::::l l;:::l.  l: ト  :::::::::::....           l_l: /   ///   ';j/
               l;i::l l::::::::/ l;:l.   l.:l \      ー- '      人レ''''',,, .///  ./
               l;:l  l::::/  'l  r,llー-┤≧  ,    ,  ≦  /     ;;;///  /
               '  l/      〉;l;;;;;;;ノ、    T 'ヾ 、  l 〈 〈    ///  / 
                       l;;;;;;/ '又ニニ彡。  ヾ 、l .し’〉ノノ/ /   /
                        ∠__       γY   ヾ.l.  ,'’/' //  /_
                     ,.- '~  ヾ 、     弋リ    ,~ゝ,'/ .//  ./::::::ノ
                      /   \  ヾ 、      O //~' ,'}  .//  / ̄
                      l     \ ヾ.ニニニニニニニノ  ,' .} .//  /


ズン!!

魔法少女「まどかさん!!!」



まどか「大丈夫だった?」

魔法少女「あなたが現在見滝原で大活躍中の...」

まどか「そんな大層なものじゃないよ...後は任せて」

魔法少女「だ、ダメです!そいつかなりの強さなんです!いくらまどかさんとはいえ...」

「心配しなくてもいいですよぉ。...まどかさーん、ちゃっちゃと終わらせてくださいよ」

魔法少女「あ...あなたは沙々さん!?それより、心配いらないって...」

沙々「くふふっ、よく見ておいてください。本当の魔法少女ってやつをね」

まどか(相手には必ず弱点がある。あの魔女の弱点は...)

魔女「エイイイィィィメェン!!」

まどか「ここだっ!」シュッ

カッ

魔法少女「すごい...たった一撃であの魔女を...いったいどんな奇跡を願えばあれほどの...」

沙々「そんな大した願いじゃないですよ」

魔法少女「え?」

沙々「彼女が願ったのは、大切な人たちの力になる権利を得ること。つまり、奇跡とか無しに魔法少女になった感じですね」

魔法少女「それじゃあ...本来は戦闘向きでなく、あの強さも己の努力で培ったものだと?」

沙々「そういうことになりますね。魔力自体もそこまであるわけじゃありませんし...ま、伊達にあの巴マミや佐倉杏子の戦いを見てきたわけじゃないってことですよ」

魔法少女「あ、あの、これから時間はありますか!?よかったらお礼をさせてください!」

まどか「ごめんね、これからよらなくちゃいけないところがあるの」

魔法少女「そ、そうですか...これ私のメルアドです!なにかあったらいつでも呼んでください!」

まどか「ありがとう」ニコッ

魔法少女「~///それでは失礼します!」ダッ

沙々「相変わらずおモテになることで」

まどか「そういうのじゃないってば。はい、グリーフシード」

沙々「助かります。残りは半分くらいですか...こいつはあなたが使ってください。それじゃ、またヤバそうなところを見つけたら連絡します」

まどか「じゃあね、沙々ちゃん」

まどか(さて、と...)

霊園


まどか「...久しぶり、みんな」

さやかちゃん、マミさん、杏子ちゃんのお墓に花を添える。

以前は毎日来ていたけれど、徐々に訪れる回数も減っていき、今回は3か月ぶりとなる。

本当は、毎日でも来たいけど、あんまりみんなに頼ってばかりもいられない。

まどか「なんだか、時間が流れるのって早いなぁ...」

あの騒動からもうすぐ二年になる。

わたしは高校生になり、仁美ちゃんたちとも違う学校になってしまった。

仁美ちゃんは、まだ右手の義手が上手く馴染めていないみたい。『まどかさんだけに背負わせませんわ!』と息巻いて、いつかは、魔女にも負けない義手を作りたいらしい。...仁美ちゃんはどこへ向かっているのだろう?

上条くんは、相変わらずバイオリンの練習に勤しんでいる。この前のコンクールは、残念ながら賞は貰えなかったけれど、これからあがっていくためには必要なことだと彼は言っていた。

ゆまちゃんは、感情を失った少年、イーリャンくんを連れて孤児院へ入った。ゆまちゃんは、最初は織莉子さんのことでふさぎ込んでいたけれど、イーリャンくんの手前、いつまでも泣いていられないと決め、今ではだいぶ笑うようになった。

それに影響されたのか、イーリャンくんも『自分で考える』ことが出来るようになりつつあるそうで、最近ではひらがなを勉強しているそうだ。

キュゥべえは相変わらず。ただ、無常矜侍の件で、無闇に人間の感情を刺激するのはリスクが高いかもしれないとのことで、代用できるエネルギーを研究中らしい。

最後に...優木沙々ちゃん。正直、わたしはこの子が無常矜侍に少し似ていて苦手だったけれど...いまではそれなりに協力して活動している。イーリャンくんをゆまちゃんに紹介(?)したのも彼女だ。

彼女曰く『あんな目に遭ったうえに、魔法も上手く使えなくなりましたからねぇ。とりあえず生きれればそれでいいですよ私は』とのことだ。

まどか「あれからも色々とあったけれど...今もわたしは元気です」

それから、色々と報告をしてここでの時間を過ごした。

まどか「...じゃあね、みんな。また来るよ」

きっとわたしは、ここを訪れる度にしつこく後悔するだろう。

でも、わたしは挫けるわけにはいかない。

みんなのぶんまで背負って生きると決めたし、なにより、闘い、生きると約束したのだから。

あの人たちにまた会えた時に、笑われないように。

ずっと戦い続けてきた、ほむらちゃんとクーガーさんに再会したとき、しっかりと胸を張れるように。

まどか「...さて、行こっかな」






―――ズドン

まどか「!?」

突如、後ろの空き地に響いた音。

まるで隕石でも落下したかのようにもうもうと煙が立ち昇っている。

「イカンイカン...世界を縮めすぎてしまった...」

その中心から聞こえてくるのは男の人の声。

まどか「......!」

そうだった。最初の出会いもそうだった。

この人はいつだってマイペースのハイペースで、前触れもなく訪れた。

ピンクのサングラスを人差し指であげ、いつもの不適な笑みで煙から姿を現した。






クーガー「こんにちわぁ、のどかさん」


服装以外、あの時と何も変わらない彼。

言いたいことは山ほどある。

聞きたいことも山ほどある。

でも、わたしの最初の台詞はやっぱりこれだった。






まどか「まどかですよ、クーガーさん」

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

カズマ「劉鳳ォォォ―――!!」

男が闘っている。

劉鳳「カズマァァァ―――!!」

二人の男が闘っている。

理由なんて立派なものはない。強いてあげるとするならば、意地の張り合い。

ガキ大将同士が無邪気に殴り合っているような、愚かな戦い。

だが、それでも。この大地に住む人々はこの壮大な喧嘩から目を離すことができなかった。

子供A「スッゲー!」

子供B「アルター使いって、あんなこともできるんだ!」

「おーい、そこの坊主ども!」

子供達「?」

クーガー「あそこで闘ってるのな、一人は俺の元同僚で、一人は俺の弟分だ。へっ...まあ、よく頑張っちゃいるが、俺よりは下だな」

子供B[お兄さん、そんなに強いの!?」

子供A「ウッソだー!」

クーガー「嘘じゃねえよ。俺は世界を縮める男だからな...」

子供B「だったら、上手にアルターを使う方法を教えてよ!」

子供A「おい、すげえよ!」

子供「わぁー!」

スタタタ

クーガー「ふふっ...ふふふっ」

見たいものは全部見れた。彼女たちの力を借りたとはいえ、命を払って走った甲斐があったもんだ。

クーガー(カズマ...お前は限界を超えちまったんだな...だったら進め、徹底的にな...)

心残りがあるとすれば...本をまだ読み終えていないことと、せっかく淹れ方を教えてもらった紅茶が冷めちまったことくらいか。

クーガー(劉鳳...少しくらい時間ができたら戻ってやれよ...水守さんのところ...へ...)

目蓋がとても重い。だが、悪い感じはしなかった。

あれだけ傷みきっていた身体が、フワリと軽くなった気がした。

これなら、心地よく眠れそうだ。

さて...夢でも...見るか...







『お疲れ様、クーガーさん』



パラソルの下で、無人の椅子がポツンとたたずんでいる。

一陣の風が、椅子を軽く揺らす。

ギシリと哭くと、それきり椅子は動かなかった。

冷めきった紅茶と、栞が挟まれた読みかけの本だけが、誰かがそこにいた痕跡を残していた。







まどか「世界を縮めたい」【スクライド×まどか☆マギカ】


おまけ 一発ネタ 新編『反逆の物語』~ピュエラとマギはラテン語で、ホーリーは英語だ!~



ナイトメア「」フワフワ



まどか「おまたせ!」

マミ「これで全員揃ったわね」

マミ「―――それじゃあ、いくわよ!」

「「「「「はいっ!」」」」」



キュイィィィン

バァン バァン シュピン



ほむまどマミあんさや劉鳳「「「「「「ピュエラ・マギ・HOLY・セクステット!!」」」」」」

ナイトメア「!?」

マミ「鹿目さん!」

まどか「はいっ!」

まどマミ「「ティロ・デュエット!」」ドウッ

ナイトメア「!」ワタワタ

劉鳳「逃がすか!剛なる拳伏龍、臥龍!!」ドドウッ

ナイトメア「!!」サッ

さやか「ナイス三人とも!...気持ちは分かるけど、ちょっと落ち着きなよ仁美!ゴメイサマ・リリアン!」シャッ

ナイトメア「」アセアセ

さやか「杏子!」

杏子「おうよ!アミコミ・ケッカイ!」ジャララ

劉鳳「加えて、柔らかなる拳、烈迅!」シュルル

ナイトメア「」グルグル

ほむら「動きが止まりました!」

マミ「お見事!さあみんな、仕上げよ!」


パン パン パン

ケーキ、ケーキ。まぁるいケーキ!

べべ『ケーキハサヤカ?』

さやか「ちーがーう。私はラズベリー!まぁるいケーキはあ・か・い。ケーキは杏子?」

杏子「ちーがーう。あーたーしーはり・ん・ご。まぁるいケーキはほろ苦い。ケーキは劉鳳?」

劉鳳「ちーがーう。俺はプリン。まぁるいケーキはベベが好き。ケーキは巴さん?」

マミ「ちーがーう。私はチーズ。まぁるいケーキはこーろがる。ケーキは暁美さん?」

ほむら「ちが、います!わた、わたしはかぼちゃ。まぁるいケーキは甘い、です。ケーキはまどか?」

まどか「ちーがーう。わたしはメロン!メロンが割れたら甘い夢」

今夜のお夢は苦い夢 お皿の上には猫の夢

まるまる太って召し上がれー!

ベベ『むじゅむべー!!』ドボァ


さやか「っはー!終わったぁ!」

杏子「じゃ、マミ。今日もよろしくー!」

マミ「はいはい」フフッ

ほむら「......」

まどか「どうしたの、ほむらちゃん?」

ほむら「...ううん、なんでもない」

ほむら(私たちの戦いって...これでよかったんだっけ...?)

ほむら(ただ言えることは...)チラッ




劉鳳「プリンはありますか?」

マミ「ええ。昨日みつけたとっておきのがあるわよ」

劉鳳「やったぁ!」

ほむら(あの人だけは絶対に違う気がする...!)



終わり

終わりです。
結晶体の赤玉と青玉の位置って杏子とさやかと同じじゃね?という思いつきと『叛逆』『悪魔』という地味にスクライドっぽいキーワードから始めたこのss。
最初は>>225のように更新スピードでいこうと思ったのに...やっぱり書き溜めは最低でも8割は必要だと思いました。

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