キョン「地獄少女」(205)

代行
ID:Tff+pB430

ありがとうございます。

じゃあ投下します

ハルヒ「ねぇキョン、地獄少女って知ってる?」

キョン「あぁ、あの都市伝説のか。怨みのある相手を地獄にながしてくれるとかゆー。」

ハルヒ「そうそれ! 本当にいるのなら会ってみたいわね。」

キョン「いるわけないだろ。ただの都市伝説、迷信、怪談、どうせそんな類だ。」

ハルヒ「全く...。アンタは本当にどうしようもないわね、そんなんだからキョンなのよ。」

キョン「どういう意味だ。」

ハルヒ「そのままの意味よ?、キョン=未知なる者への探究心を忘却した愚かな庶民って意味!」

別に。
俺は自分のあだ名が気に入っているわけではないが、ここまで言われると少し頭に血が昇り出すな、うん。

ハルヒ「ねぇ、古泉くんは地獄少女いると思うわよね!?」

古泉「ん、少し非現実的かと思いはしますが、怨んでいる相手を地獄に流す...、あまり関心しませんが興味深い存在かとは思いますね」

いつもの胡散臭い笑顔でかわしやがった

ハルヒ「みくるちゃんはどう!? もちろんいると思うわよね!?」

みくる「ふぇぇ、どうでしょうか? でも、いるとすると怖いです。地獄に流すなんて...」

ハルヒ「怖がらなくても大丈夫よ、虫も殺さないようなみくるちゃんを怨むヤツなんていないわっ!」

ハルヒ「あっ、でも...、あまりに可愛すぎるから同性の妬みを買って...うん、あるわねっ!」

みくる「ふぇぇぇぇ、でも私、可愛くなんてありませんし...」

オロオロと怯え出した朝比奈さんの前に立った俺は怒りの鉄拳(小)をハルヒの頭に落とした

ハルヒ「痛いわねっ!いきなり何すんのよっ!?」

キョン「アホかお前は、朝比奈さんを脅すな」

ハルヒ「むぅ...!」

キョン「お前からも言ってやれ長門、そんなもんは存在せんとな」

長門「そう」

キョン「ん? お前一体なに読んでんだ?」

真実の地獄少女...? 作:柴田一...?

キョン「お前、それ...」

長門「『真実の地獄少女』、『柴田一』という無名のライターが綴った本」

キョン「真実の...か。で、真実と題するくらいだ、地獄少女など存在せん、くだらない都市伝説の噂話だと、そう書かれているんだろ?」

長門「そうは書かれていない。著者の柴田一は地獄少女にあるきっかけを元に出会い、その際に知った地獄少女の生い立ちから、その裏にあった過去の話まで、克明に書かれている」

ハルヒ「ふむふむ、さっすがはSOS団きっての読書キャラの有希ねっ!ちょっと見せなさいそれ」

キョン「ストップだ長門、それはもうしまえ」

ハルヒ「なんでよ!?」

長門「......。」ガサガサ

ハルヒ「ちょっと有希...、本は苦手だけどそれは読んでみたいのにー!」

ハルヒの目が180%増しで輝いている
非現実的な存在を肯定する本が書いてあって、あろうことかそれを長門が興味深げに読んでいるんだからハルヒの目が輝くのも当然か

古泉「おやおや! もうこんな時間ですね」

ナイス古泉っ!

みくる「そっ! そうですね! 早く帰らないとっ!」

古泉が俺に近づき耳打ちする...「後で涼宮さんを除いた4人で打ち合わせをしましょう」...と

頷いた俺は、そのまま部室を出て解散するフリをした後、3人が待つ公園に向かった

古泉「厄介な事にならなければいいんですが...」

存在しない者が、ハタ迷惑な団長様の願望でその存在が現実となる...。もしくはもうなってしまっている...。それを俺達は危惧していた

キョン「長門、地獄少女ってのは実在するのか、それともしないのか、本当のところはどっちなんだ?」

長門は間を置かずに、『いる』...と、そう答えた

古泉が頭に手をやり、朝比奈さんは両の手を合わせ何かを祈っている

長門はというと目をパチクリさせ、不思議そうな表情で俺を見ている

ハルヒは最近地獄少女の噂を聞き興味を持った
もともと地獄少女なんて存在しない上での噂話だったものが、ハルヒが興味を持ちその存在が確たる物となったのか?それとも、ハルヒがその噂話を耳にする以前から存在していたのか...
俺は続けてその質問を長門になげかける

長門曰く。そいつは『もともと存在していた』...らしい
長門は続けた。 俺達にとってとんでもない話を...

地獄少女は普段はこの世ではないどこかを拠点に活動しており、最近、この世のどこかへ現れるはこの町の近辺が多い。 怨みを晴らす『地獄流し』とやらは、ある地域で起きてしまったソレを起点に特定の地域では連鎖しやすい傾向にあるらしい...。

淡々と語る長門に俺は聞いてみた、地獄少女とやらは今、どこにいるのかと。

返答、

長門「今日は私達が通う高校の中にいた。」

キョン「つっー事は...まさかハルヒが呼んじまったってのか...!」

長門「それはないと思われる。私が地獄少女について分かるのは、その存在が近くに現れたという事だけ。ここからは、本を読み知った知識。」
長門「その本の内容を信じるとするなら、最近、誰かが地獄少女から藁人形を受け取っており、その受け取った人間がその紐を解き、地獄少女と契約を結ぶ事を迷っている。」

やれやれ、面倒な事になったもんだ。古泉はさらに頭をかかえ、若干かきむしり気味だ

古泉「とりあえず、涼宮さんが呼んだわけではないという事は分かりました。ですが、危険を及ぼす可能性が校内に存在しているのは問題です。」

古泉「僕も可能な限り調べますので、誰が誰を地獄に流そうとしているのかを長門さんも調査して頂けないでしょうか?」

長門「了解した。」

かえりがけに俺は長門から例の本を借りた。
普段はこんな厚めな本にさらさら興味は惹かれないが、事情が事情だ。地獄少女があろう事か北高に出没しているのが分かった以上、他人事ではいられない。
怨みの形はひとそれぞれで、俺にとっては蚊に刺された程度のささいな事でも、誰かにとってはソレが心をえぐられる傷になり得る。結果、それが地獄少女に助けを求める『きっかけ』になりかねない。
いくらハルヒでも人に恨まれるような事決してしないが、お世辞にも周囲に気を配るとは言えない性格だ...可能性はゼロとは言えない。勿論。古泉、朝比奈さん、長門...俺を含めてだ。

本ってもんが苦手な俺が抱いたその懸念は、『真実の地獄少女』のページをめくる動機となるのに十分すぎる程だった

家に帰った俺はベッドに転がり、本を手に取る

『真実の地獄少女 著者 柴田一』

ん?、柴田一?...この名前確か俺が子供の頃...親父が言っていたような...。

気のせいだよな......?

1、はじめに

少女の名は閻魔あい。
私はその少女に確かに出会い、信じられない体験をした。
地獄通信、誰もが噂くらいなら聞いた事があるであろう都市伝説は。
冒頭から真実であると告げておく。
さて、この本を貴方はどんな思いで読んでいるのだろうか。
ただの興味本位?
それとも。
地獄に送りたい程に憎んでいる相手がいるのだろうか?

できれば前者である事を願いたい。

ただ。後者であったとしてもそれはそれで本望である。
私は貴方のためにこの本を書いたのだから。――――――

―――――――

それは誰かを地獄に送りたい程に憎しみを抱く人間のみが、深夜0時丁度にアクセスできるWEBサイトのことである。
そこに怨みの相手の名前を書き込むと、地獄少女、閻魔あいが現れ藁人形を、ひとつ、渡してくる。
その藁人形に結ばれている糸を解いた時、契約を結んだ証明となる。

『受け取りなさい。貴方が本当に怨みを晴らしたいと思うなら、その赤い糸を解けばいい。糸を解いたら怨みの相手は速やかに地獄へ流されるわ。』

その契約には代償が伴い、糸を解いた者は死後の地獄行きが確定する。

『ただし。怨みを晴らしたら貴方自身にも代償を支払ってもらう、人を呪わば穴二つ、計約を交わしたら貴方の魂も地獄に落ちる。』
『死んだ後の話だけどね...後は貴方が決める事よ。』

どんな理由があろうと人の生死を人間の身でありながら左右した。人を呪わば穴二つ。その言葉通り、誰かを呪い殺した者は、己もその相手からの呪いで殺される事となる。墓穴が二つ必要となる...。

それでも。

今まで私は怨みの念に囚われ。死んだ後の事などどうでもいいと、藁人形の糸を解いた人間を何人も見て来た。勿論、その代償は覚悟の上で自分を犠牲にしてでも...という人間もいた。
また、呪い殺された人間はというと、勿論殺されたのは当然の報いだと言えるケースもあれば、怨まれたのはしょうもない誤解がきっかけとなった...たとえば、愛情から来る厳しさ、をれを受け止めれなかった者から呪い殺された人間がいたのだ。

私はその一つ一つの物語の断片を、ある方法で知り、地獄送りを何度も止めようとした。
お前が流そうとしている人間は本当に悪人なのか?
仮にそうだとしても、お前が死後地獄に行く、その事実を受け入れていいのか?
どうしてもそれ許せなかった私は仕事を抜け出してでも、止めるために走り回った。

しかし、この本を書いている今は。

地獄通信の存在を必要悪とまでは言わないが、どうしようもない苦しみの中の現世でもがいている人間が使い、契約の結果救われるのならば、それはそれで良いのかもしれないと。そういう考えも一方ではある。

地獄少女に逢い、信じられない体験を己がした事で、私の考えは変わったのだ。――――


キョン「長門はこの本の内容に偽りはないと思うとか言ってたが、俺には頭のとち狂ったおっさんが妄想をたれ流しているようにしか見えんぞ...、本当にいるのか地獄少女なんて...。」

4、閻魔あいと出会って

第3の見開きの『私の娘について』で説明した通り、閻魔あいの行う地獄流しの経過が、極めて断片的にだが、リアルタイムに視える。

それはなぜだろうか?

閻魔あいに出会い、閻魔あいの生前、その過去を知った知った今では、閻魔あいを止めて欲しいと願う、ある人物の強い想いが、娘に地獄流しの経過を視せていたのではないかと、そう思えてしかたない。

閻魔あいがまだ人として生きていた時代、時は安土桃山時代に遡る。

当時七の歳になったばかりの閻魔あいは、奇妙な力を持つと気味悪がられ、村の子供達からいじめを受けていた。そんなあいの支えになっていたのは、従兄の仙太郎という少年だった。

村の子供達から仲間外れにされる事を恐れず、いつもあいを庇い。

いつもあいの傍に居続けた。

あの日が二人を別つまでは...。

その村にはこんな風習があった、村の繁栄、農作物の豊漁を祈願するための『七つ送り』という、俗に言う人柱である。
村の人間の大半から忌み嫌われていたあいは、その七つ送りの供え物に選ばれてしまう。

運命の日。どうしても許せなかった仙太郎は儀式の隙をつき。
あいを山深くにある祠にかくまう。

それから6年の間、ずっと。

村から消された存在となったあいの孤独を少しでも和らげようと、仙太郎は毎日のように山に入り、あいのいる祠へ食べ物を運んだ。

仙太郎は村の絶対的な規律に背いてでも、あいを見捨てなかった。先の見えない闇の中で、確実に愛を深めていく2人。

村を出ようと仙太郎があいに提案しようとしていた矢先の事――。

2人は村の人間に見つかってしまう。

仙太郎はあいを逃がそうと体を張って止めにかかるものの、むなしくあいは囚われの身となってしまう。

再び人柱とされ

仙太郎の目の前で農耕具で袋叩きにされるあい。

瀕死の重傷を負わされ、深く掘られた穴に放りこまれるあい。

止めろ!と声の限り叫び続ける仙太郎に村人は言った。「神を欺く手伝いをした事を清算しろ」と。村人達が仙太郎にあいが放られた穴に土をかける事を強要する。

勿論、仙太郎はそれを拒むが、周りを囲む狂気が意志を飲み込み、挫き、殺す。

「助けて...仙太郎」、そうあいが叫ぶ中。


仙太郎は土をかけた。


「お前達。ずっと怨んでやる...死んでも怨んでやる!」


あいのその声から...その現実から...逃げるように走り去る仙太郎。

その日の深夜、村の外れにある高台から、村を一人抜け出す覚悟をした仙太郎が見たのは。

燃え盛る生まれ育った村が炎に包まれていく光景。
火をお手玉のように投げながら、二人で歌った懐かしい歌を口ずさむ、あいの姿だった。

そののち、あいはその村人惨殺の代償をとる事を地獄の使いに命じられ。

地獄少女、閻魔あいとなった。

仙太郎は町で始めた飴屋が成功を治め、のちに隣の村に七宝寺という寺を建立する。
無論、あいが地獄少女となった事を知る術は無かったが、あいの悲しみが少しでも和らぐ事を願っての事だ。


妹「キョンくーーーん、起きてーーーー!」
キョン「んむ...、いかん、あの本読んでる途中で寝てしまってたみたいだ」

睡眠時間5時間、まだまだ寝ていたいところだったが、国語で寝ればいいから頑張るんだ俺、とそう言い聞かせ布団の上で飛び跳ねる妹をどかし、朝飯に箸を伸ばした
学校に着くと開口一番ハルヒがこう言った

ハルヒ「昨日、0時ちょうどに地獄通信とかいうサイトにアクセスしてみたけど、404エラーになるのよね、残念だけど嘘っぱちみたいね、アレ」

眠そうに大きな目をこするハルヒを見てこいつは何時まで起きていたのか気になったが、そんな事より地獄少女の存在の有無。地獄少女が嘘っぱちだという事については俺も同じ意見だが、昨日長門は確かに言っていた...。地獄少女がこの北高に来ていた...と

そして昼休み―――、『きっかけ』となる歯車が、回り出す

いつものように谷口、国木田と教室で昼飯をむさぼりながら、ふと、廊下を見ると
長門がテクテクと横切って行く

何かイヤな予感がした。動物的な直感か、いいや、これまでとんでも世他話に巻き込まれてきた俺に生まれた第六感だろう。俺は弁当を放りだし長門の後ろ姿を追った

廊下の途中で立ち止まったままの長門に声をかける

キョン「どうかしたのか?」

長門は俺の目をみた後、またすぐに元の場所に視線を戻す
何見ているのか聞くと、逆に長門が聞き返す

長門「視える?」

時折、長門の言動は理解不能な場合がある。頭にクエスチョンマークを5つ位つけたまま立ち尽くす俺に長門はようやく説明を加えた。

長門「地獄少女と思われる人物がそこにいる。彼女も今、ずっとこちらを見ている」

俺は一瞬気が動転する、しかし、視線を反らさずにたんたんとそう告げ、ポージングは変えないものの静かに敵対姿勢を見せる長門を見て、冷静さを取り戻した。

キョン「本当にいたんだな...俺には全く視えないが。」

そう答えた俺に、長門が聞きとれない速度で何かを詠唱する。

長門「これで視える?」

俺は目を見開く


キョン「視える...!」


視線の先、前方5m程の場所に立っていたのは、黒く長い髪と整った顔立ちが印象的なセーラー服を着た美少女で、とびっきり可愛い。しかし、どこか儚げで諦めのような表情を漂わせていた

その少女は首を少しかしげている。おそらく長門お得意の情報操作とやらが不思議だったのだろう

3者とも立ち尽くしまま1分程が経過したところで、首を縦に戻した少女がゆっくりと口を開く

あい「私が見えるの...あなた達は何?」

長門が表情一つ変えない少女に、軽い自己紹介をしたのち、事実を確かめる

長門「あなたが地獄少女で間違いない?」

あい「そう、私は閻魔あい...地獄少女よ」

瞬間、その姿が消失する

長門が即座にその身を半転し、俺の前に移動した

キョン「お前が閻魔あいって事は分かった。ひとつ聞くが、『真実の地獄少女』って本に書いてある内容は本当か?」

あい「それは何?」

どうやらコイツは本の事を知らないらしい

キョン「『柴田一』という人物が書いた本だ、お前に逢った事がある...そう書いてあった」

柴田一、そう言った瞬間、閻魔あいの大きな目がわずかに、そう、ほんのわずかに大きくなった。
そして優しく、まるで楽しく懐かしい出来事を思い出したかのような、そんな色が瞳に映った気がした

あい「......」

しばしの沈黙の後、

あい「......その本に書かれている事は知らない。でも、偽りはないと思うわ」

―――はっきとそう言った

あい「わたしを探していたようだけど、何か用?」

長門「ここに関わらないで、あなたがいると望ましくない事が起こる気がするから」

あい「それは出来ないわ。私は仕事でここにいるもの」

閻魔あいがそう言い終わると同時に、空間が変質する

キョン「長門...これはもしかして?」

長門「朝倉涼子があなたに行ったのと同様の空間封鎖を施した」

あい「今回、あなた達は怨みの対象にはなってないわ」

あい「どうしてこんな事をするの?」

長門「先程言った通り、あなたがいると望まくない事が起こる危険性がある」

キョン「長門の言う通り北高に関わらないでくれないか、それに、俺の知る人物が地獄に流されでもしたらたまらんしな」

あい「それはできない相談だわ。私はここに仕事で来ているもの」

あい「私に仕事を選ぶ決定権は与えられてないの、ただ...流すだけ」

長門「閻魔あいを敵性と判定、実力行使で排除したい...許可を」

キョン「駄目だ! なんとか穏便に事を進めたい、なんとかならないのか閻魔あい!?」

あい「ならないわ...。あなたが実力行使で仕事の遂行を妨害するのなら、私も同様の手段をとらざるを得なくなる...」

長門「これは最後通告...、これ以上ここに関わらないで」

キョン「おい、長門ッ!?」

あい「そう、なら仕方ないわね.......」

書き溜めてないのか?

>>33 書きためは使い果たしたw

閻魔あいの周囲の空間が歪み、黒い炎がその華奢な体から浮かび上がる

長門「危険、下がって」

長門がいつぞやの様に俺の襟を掴み、後方に放り投げた、1秒後

こちらに猛スピードで黒い炎が伸び

対し、長門が詠唱し、ソレをかき消す


あい「やはり効かないの...」

長門同様の無表情っぷりの閻魔あいだが、その顔に、多少ではあるが『信じられない』という驚嘆が浮かぶ

ふと気づくと長門の姿が無い

―――!

先程の閻魔あいが見せたばりの移動速度で、長門が閻魔あいと肉薄し、吹き飛ばす

長門「あなたでは私に勝てない、続ける?」

空間の壁面に派手な音を立て叩きつけらたはずの閻魔あいが、まるで何事もなかったかの様に立ち上がる...

あい「そうは思わないけど、あなた、不思議な人ね...まるで人ではないかのよう」

長門「私は対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイス」

あい「え?」

閻魔あいがスカートの埃を叩きながら、首をかしげる。

あい「わたしは外来語は良くわからない」

あい「もう行くわ、皆が心配するから...」

長門「ここは閉ざされた私の情報制御空間、出る事はできない」

長門の言う通り、この空間は宇宙人にしか許されていない空間崩壊プログラムとやらを駆使するか、無理だろうが長門を倒す事でしか、脱出の方法はない。
おそらくそれすら理解出来ていない、閻魔あいは空間の壁を小指でスッーとなぞっている。

あい「私、行くから」

キョン「...!?」

長門「......。」

あい「さよなら」

閻魔あいはそう告げ、俺達の前から『完全』に消失した...

長門の作った情報制御空間から出てきた俺達は部室へ移動し、携帯で朝比奈さんと古泉を呼び出した

古泉「そんな事があったのですか...」

みくる「どうしよう、本当に地獄少女がいて、北高に来ているなんて...」

キョン「閻魔あいを力づくで止めるのは難しい、とにかく、地獄流しを依頼しようとしている人物がいる、そいつを探し出して止めさせるんだ」

古泉「私もあなたと同意見です、先程の話を聞く限り、長門さんと闘える程の能力を備えた存在に直接手を出すのは得策ではないでしょう」

キョン「あぁ、で、一つ気になっているのだが閻魔あいは『皆が心配する』と言った、仲間が近くにいるんだろう」

古泉「仲間、ですか...」

キョン「あぁ、あの本にも仲間についての記述が少しあった、内容を全て信じているワケではないが」

古泉「その内容、少し話していただけますか?」

キョン「分かった」

閻魔あいには三人の従者がいる
一人は古ぼけた和装の渋い中年の男、もう一人は、色っぽい出で立ちの若い女、最後に今風な長髪の色男。容姿は人間でも、閻魔あいと同じく人ではない
三人の目的は、閻魔あいと同じく、積極的に地獄流しを手伝う様子ではなく、優しく見守っているように著者には見える、そう書かれていた

古泉「閻魔あいと同じく、地獄流しを優しく見守る...それだけでは理解に苦しみますね。閻魔あいとは自ら目的を持ってその行為を行っている訳ではないというのでしょうか?」

キョン「あぁ」

俺は本の内容を思い出し、『その全てを』古泉達に話した

古泉「過去の大罪の清算のために地獄流しを行っている...そういう事ですね?」

みくる「閻魔あいさん...正直可愛そうだと思います。私だって同じ立場ならそうしなかったとは言えません」 

みくる「それに、仙太郎という人は閻魔あいさんとお付き合いしていた人だったんですよね?どうして最後の最後で彼女を見捨てたんでしょうか」

キョン「朝比奈さん、その少年は見捨てたくてそうしたんじゃないと思いますよ、人柱にされかかっていた閻魔あいを一度は助け、6年の間守り続けたんです。最後は...そう、村人の狂気が彼をそうさせたんでしょう」

そう言い終わった所で昼休み終了を告げるチャイムが校内に鳴り響いた

それから、閻魔あいの姿を再び見る事はなく、誰が藁人形を持っているのかすら不明なまま、一日が明けた

――翌日 教室。朝のホームルームで担任から、耳を疑う報告を受ける。とあるクラスメートが忽然と姿を消した。親御さんの話によると失踪当日、特に変わった様子もなく、食事の後、そのまま部屋に戻り、朝になったら忽然といなくなっていた。との事だ

ハルヒ「聞いたキョン!? 事件よっ! 事件だわっ!」

キョン「ちょっと黙ってろハルヒ。」

俺は確信した
消えたのは、話した事はなかったが、特に素行が悪いところは見受けられないいたって普通の生徒だった
家出なんてするような人物ではないし、誰かに地獄に流されたんだろう
忽然と姿を消す、まさにあの本に書いてあった通りだ

ここからは推論になるが
おそらくその誰かとは、『このクラスの誰か』
失踪した人物は、たしか高校に入学する4月直前に引っ越してきたとかだったから、学校外の交友関係は少ないはず。どちらかと言えばイヤなヤツだと噂があったからか、クラスでも友人は一人しかいなかった
閻魔あいから藁人形を受け取り、地獄流しの契約を結んだ『このクラスの誰か』...おそらくソレはアイツに間違いないだろう

昼休み。俺は目をつけた人物を屋上に呼び出した

男子生徒「どうしたんだい、理由も話さず突然呼び出したりしてさ」

キョン「突然すまんが、シャツのボタンを上二つくらい、開けてくれないか?」

男子生徒「い、いきなり何言ってんだよキミは」

そのクラスメートは上手く隠しているつもりだろうが、俺の発言に対し明らかな動揺を見せる

古泉「僕からもお願いできますか?」

突然、横から古泉が割って入る

キョン「お前...どこから湧いて出やがった」

古泉「これはこれは、酷い言いようですね...、なぁに、あなたが特段親しくもない男子生徒と屋上に向かって行くのを拝見したもので、つい後をつけさせて貰いました。それと、僕だけではありませんよ?」

長門「独断専行は望ましくない」

キョン「長門まで...」

男子生徒「いきなりゾロゾロと現れやがって、いったい何なんだよ」

古泉「お静かに。実はですね...僕は昨日...、見てしまったんです」

古泉「あなたが鞄に藁人形をしまうところを」

男子生徒「......!」

古泉のホラに男子生徒は言葉を詰まらせる。それを確認した古泉はうすら笑いを浮かべたまま...たたみかける

古泉「別に、僕はあなたがした行いを叱責したりなどしません、ただ...確認させてくれませんか? 胸のところに刻まれた、地獄行き確定の刻印を...」

男子生徒「......」

男子生徒「......分かった」

うなだれ、崩れ落ちた様に座り込んだ男子生徒のネクタイに古泉が手をかける
胸に描かれた黒い丸いタトゥーのような刻印が視界に入る


古泉「やれやれ、何もかも、あの本の内容通りですね」

キョン「どうしてお前はこんな事をしたんだ?」

数秒の沈黙の後、男子生徒が重い口を開く。今までたまにイヤミを言われていた事、糸を解く引き金になった出来事、好意を寄せていた女子の話をした際、馬鹿にされ、笑われた事、ありのままを話した...

キョン「―――たったそれだけの理由で地獄に?」

心拍数が急激に上昇していく...

同時に、真実の地獄少女に書かれていた、閻魔あいの生い立ちがフラッシュバックする...

閻魔あいは過去の村人に対し行った『当然の復讐』を罪として背負い、地獄流しの任を遂行している

キョン「いいか、お前は人を殺したんだ...いや、殺しを強要させたんだよ...」

昨日の閻魔あいの言葉、『私に仕事を選ぶ権利は与えられていない,,,ただ、流すだけ。』それが頭の中で反響する

キョン「お前は己のしょうもない欲望で、閻魔あいに殺しをさせたんだ...」

キョン「理解できているか!? お前は最悪な事をしたという事に」
 
古泉「落ち着いて下さい」

そう横で声がし、右の拳を掴まれた。どうやら、俺は今にも殴りかかりそうな様子だったようだ

キョン「すまん...しかし、コイツは...」

古泉が俺の右手の自由を許した後、男子生徒に対しまるでゴミを見る様な目で放った

古泉「キミのような人間を世間では俗にゴミと形容するそうです。これからあなたが死ぬまで...そう、地獄に落ちるまで...残りの人生を最大限使って後悔するといいでしょう」

男子生徒「.........」

古泉「さて、僕達は行きましょうか」

屋上から降りる階段で、古泉にこんな事を言われた

『最初は貴方がしょうもない事を理由に彼が地獄流しを依頼した事に怒ったと、そう思いました...
しかし、本当は閻魔あいの地獄流しの裏にある、物語を本を通し知った事で、閻魔あいに感情移入してしまっている、
「閻魔あいが望んで行っている」わけではない地獄流し、言い方を変えれば「人殺しと相違ない行い」を彼女に対し依頼をした彼が許せなかった、違いますか?』

『なぜ分かるか? そんな表情ですね...なぜなら僕もあなたと同じ心境だからですよ、取るに足らない些細な怨みで、
人殺しを不遇な生い立ちの少女に強要した...それが僕も許せないでいる』

『しかし、僕達にはそれを止める事はできないでしょう。仮に。長門さんや涼宮さんの力を使ったとしてもこの世から逸脱した世界にまで介入できるとは到底思えません。
もう全てが終わった、そう納得してしまった方が無難です』

骨女「ねぇ、あいつらじゃないの? 昨日お嬢とケンカしたって人間ってのはさぁ」

一目連「あぁ、あいつらで間違いなさそうだな」

輪入道「全く...柴田一とのひと騒動から約20年か。もうお嬢は永遠と地獄少女をしねぇといけねぇってのに、邪魔はしねぇでもらいてぇなぁ」

一目連「あの色男は、もう介入しないみたいな事言ってたから大丈夫だろ。相変わらず心配性だな、輪入道は」

骨女「心配もするさ一目連。だって、最近毎晩地獄通信にアクセスしてきてて、名前を書いたり消したりして、依頼する事を悩んでいる人間がいるけど、その人間が書きこんでいる次の依頼のターゲットになりそうなコの名前は、
またこの高校の人間だよ? 厄介な事にならないといいけど...」

一目連「俺はそのターゲットになりそうなヤツに近づいてみる。骨女、お前は依頼してきそうなヤツの調査を頼む」

昼休み明けは体育の授業だった
例の男子生徒は体調不良を理由に早退を申し出たそうだ
俺はというと、ゴールなどさらさら守る気のないDFとして絶賛大活躍中だ
ふと、女子生徒の方を眺めているとある光景が目に入った
女好きと有名な色男の体育教師、ソイツがサッカーボールに腰かけ、何やら女子と話しこんでいる

谷口「ん、キョン、お前もアイツがムカつくか。 実は俺もだ。 あの野郎ちょっと顔がいいからって女子を口説いて遊びまわっているってもっぱらの噂だ。 ったくムカつくぜ」

谷口が嫉妬心全開で言う
別に俺はあの体育教師にしっとなんてしてないが、何故かその光景が気になっていた

骨女「じゃキミ、これ訳してみて?」

コンピ研部長「......」

骨女「ちょっとキミ、聞いてる?」

コンピ研部長「......」

骨女「ったく」

骨女「机に隠れて何を見てるのかしらっ?」

骨女「......」

コンピ研部長「わぁっ!」

骨女「ダメじゃない、授業中に携帯なんかに夢中になっちゃ」

コンピ研部長「す、すみません...」

骨女「とりあえず、これは預からせてもらうわね」

コンピ研部長「先生、それは困ります!」

骨女「だ~~め。 放課後に帰したげるから職員室に来なさい、いい?」

コンピ研部長「...わかりました」

コンピ研部長「中身は...見ないで貰えますか? お願いします!」

骨女「そんな悪趣味な事は先生はしないから安心しなさい」

クラスメイトA「あいつエロ画像にでも夢中になってたんじゃね?」
クラスメイトB「ありえるありえる。 あいつオタクだし、絶対ムッツリだぜ!」

骨女「そこっ! 授業中にくだらない事言わないのっ!」

クラスメイトA、B「すみませーーん!」


―――放課後

一目連「どうだ骨女、何か収穫はあったか?」

骨女「そういうアンタはどうなのよ?」

一目連「んー、女子から話を聞く限りじゃ、特に人から怨まれたりする人間ではなさそうだな。ってか、あまり聞いた全員がソイツの事は話したがらないんだよ」

骨女「そうかい。こっちは、依頼者になりそうな人間が授業中ずっと熱心に携帯見てたから、ちょっと覗いたんだよ...」

骨女「そしたらその待ち受け画面が、今日屋上で見たおとなしげな背の小さい小柄なあのコだったんだよ...たぶん、好きなんだろうね、あのコの事がさ...」

一目連「またこの一件には恋愛が絡むのかよ...しかし、因果なもんだな...お嬢と一悶着あった人間が絡んでるかもしれないなんてよ」

骨女「まったくだよ...、あ~なんか嫌な予感がすんだよね...この地獄流しはひと波乱起きそうなさ」

一目連「女のカン、ってやつか...特にお前のカンは当たるから気をつけねーとな」

骨女「めったな事言わないでくれるかい?」

一目連「なぁ、骨女。できるならアイツが依頼しないように、自然に相談に乗ってやってくれよな」

骨女「勿論...そのつもりさ」

放課後、俺はいつもの様に部室へ向かった

キョン「揃ってるな、そうだ、ハルヒは部の予算の件で生徒会室に行って来るそうだから遅れるぞ」

古泉「ハハ、僕が生徒会長に涼宮さんと朝比奈さんを呼んで可能な限り足止めして頂くよう頼みましたからね」

キョン「は?何のためにだ? まさかまた地獄少女絡みの話しじゃないだろうな?」

古泉「御明答。詳しくは長門さん、お願いできますか?」

長門「今から話す事は断定できる情報が揃っているわけではない。あくまで私が観測した不明瞭で断片的な情報を紡いだもの。
それを前提として聞いて欲しい。この校内において、これまで観測していた生体情報の数値と、今日の午後12時38分以降の生体情報の数値に齟齬が生じた。
その値は3。この事象に対しての周囲の不調和は見受けられない」

キョン「長門、すまんが意味が分からん」

古泉「確かな確信があるわけではないが、この北高において、12時38分以降、いるはずの無い人間が3名、忽然と現れごく自然に存在してしまっている...そういうわけです」

古泉「長門さん...続きを」

長門「分かった。その現れたと思われる生体を解析をするため、過去にいる私自身とリンクし、
過去の私の持つ情報との照合を試みたが不自然な不一致は見受けられなかった。おそらく、
その存在は周囲の状況にごく自然に調和する情報改竄能力を有している。すぐに現時点の生体情報数値を再度確認したが、
その時にはもう生体情報数値に齟齬は見られなかった」

キョン「古泉、頼む」

古泉「こういう事です...突然現れた不審人物が誰か、洗い出そうと過去の長門さん自身の持つ情報と照らし合わせたものの、
新しく出現した者が誰なのかは分からなかった。この事がその者自身が周囲の状況にまるで『はじめからそこに居たかのように溶け込む』という能力を有している事の証明です。
そして、再度突然現れた不審人物の数を測ろうと観測したが、その時にはもう何人増えたかすら分からなくなってしまった...。これでいいでしょうか長門さん?」

長門「多少意味合いが違う点があるが、大体はいい」

古泉「と、いうわけです」

古泉「さて、あなたは気になりませんか?突然と現れたいるはずの無い人間が...3人、思い出して下さい、先日あなたが僕達に話した内容を」

3人......まさか?

古泉「そうです。閻魔あいの従者の人数と一致しています。たしか本にはこう書いてあったそうですね...まるで閻魔あいを優しく見守っているようだった...と」

キョン「古泉、お前はこう言いたいんだな...。閻魔あいがまたこの近辺に出没している...、それを見守る従者が3人...この北高に潜入していると」

古泉「えぇ、そうです。この地獄流しの一連の流れが今、どこまで経過しているかは我々には推測する事すら出来ませんが、一つ確定しているのはまだ『途中である』という事です」

キョン「まだ止めれるかもしれない..」

古泉「ターゲットが誰かは分かりませんが、最悪...我々の交友関係の中にいる人間である可能性は捨てきれない...それは無いと信じたいですが」

キョン「それに、俺は閻魔あいにもう一度逢って直接聞きたい...お前はこのままでいいのか...って」

古泉「我々にはその従者の3人の風貌に心当たりがある。閻魔あいは『柴田一が書いた』真実の地獄少女に書かれている内容を否定しなかった...ならばそれを信じましょう」

―――そいつらは。

和装の渋い中年の男

色っぽい出で立ちの若い女

今風な長髪の色男

の三人...!

キョン「古泉、長門...ただの感でしかないが、俺はその今風な長髪の色男に心当たりがある...!」

キョン「急ごう、手遅れになる前に...!」


―――――視聴覚室

骨女「はい、携帯」

コンピ研部長「すみませんでした...。でも、なんで職員室からここへ移動したんですか?」

骨女「部室でキミが夢中で携帯見ている時、見ちゃったのよ。写メの女の子」

コンピ研部長「えっ!」

骨女「ゴメンね、悪気があったわけじゃないの。 それでそのコ、彼女かしら?」

コンピ研部長「そんなんじゃ...ありません...」

骨女「って事は片思いかしら? 相当惚れ込んでるのね、そのコに」

コンピ研部長「ううっ...」

骨女「フフフ、図星ね。 物静かな感じで、不思議な雰囲気の可愛いコじゃないの。男なら正面からドーンとアタックしちゃいなさい。恋愛に裏技なんて逆効果よ? 真っすぐな気持ちが一番心に響くわ」

コンピ研部長「そ、そのっ...」

骨女「なにかしら?」

コンピ研部長「誰にも言わないって...約束してくれますか?」

骨女「もちろんよ、約束するわ」

コンピ研部長「僕は...そのコにちゃんと告白するつもりです。でも...、それには障害があるんです」

骨女「障害?」

コンピ研部長「そうです...、彼女はSOS団とかいう変な部活に所属しているけど、パソコンが好きだからうちの部室に時々遊びに来てくれる」

骨女「ふむふむ」

コンピ研部長「本音を言うとパソコンが好きならそんなとこ辞めてうちに入部して欲しい...彼女もきっとそう思っているはずなんです」

骨女「は? それは気のせいjy

コンピ研部長「気のせいじゃないっ!SOS団なんてもんがあるから...彼女はそこに縛り付けられてしまう! それに...噂で聞いたけど団の方針とかで恋愛が禁止されてるんだ! SOS団、団長...あいつさえいなければ...!」

コンピ研部長「涼宮ハルヒさえいなければ、僕達はきっと結ばれるんだっ!!!」

骨女「キミ、間違ってるわ」

コンピ研部長「僕のどこが間違ってるんだ!?」

骨女「はっきり言うけど、キミの気持ちは真っすぐな気持ちではなく、ただの一方通行よ。相手の事なんかこれっぽちも考えれてないわ」

コンピ研部長「黙れっ! 僕が好きなら、彼女も僕を好きに決まってる!」

骨女「はぁ...、アンタね~」

コンピ研部長「先生に話したのが間違ってたよ!」 タッタッタッ...

バタン!

骨女「あらら...行っちゃった」

ガチャ...

骨女「アンタ...」

一目連「失敗だな、骨女」

骨女「ちょっとストレートに言いすぎたかしら...」

一目連「まさか、あれ位じゃあ足りないくらいだ。 まぁ、あの独りよがりっぷりじゃあ、遅かれ早かれ確実に依頼してくるぜアイツ...告白する前か、失敗した後にな。 止められねぇよ、ああいうヤツはさ」



俺達三人は例の色男の体育教師を探しにグラウンドに来ていた

古泉「その人物は体育教師として以前からここにいる。僕の記憶上ではそう認識しています」

長門「私も古泉一樹の発言と相違ない」

キョン「俺も二人と同じさ。ただ...なんとなくなんだよ。本に書いてあった長髪の色男...、それがあいつのような気がしてならないんだ」

古泉「長門さんがその三人について、周囲との空間調和能力を有していると仰っている以上。今はあなたのカンに頼るしかない。それに...僕もその体育教師について記憶を辿るとなぜか、クエスチョンマークが並ぶんですよ」

長門「それについて私も同じ意見。私が記憶している情報をアウトプットすると言語で説明できない齟齬が生じる」

キョン「とにかく...ここに居ないのなら職員室だ...。 行こう」

グラウンドを探しまわった俺達は職員室へ向かう

しかし

キョン「もう帰った...?」

教師「あぁ。 なんでも急用があるとかでついさっきね」

キョン「そ、そうですか...」

教師「やけに落胆してるが、どうかしたのか?」

キョン「い、いえ。 ただ今週末野球の大会に部の皆で出場するんで、バッティングのコツを教えて貰いたかっただけです」

教師「そんな事だったのか。 まぁ、また明日来るといい。 彼ならきっと親切に教えてくれるさ」

その日は接触できないまま一日が終わった
明日は金曜
明日までに地獄流しを止められなければ、再び接触可能な月曜まで2日空く。最悪、地獄流しが終わってしまいかねない...。俺達は明日中に、その体育教師の真偽を確かめるべく入念に段取りを協議し
金曜に臨む事にした―――

―――彼岸花が咲き誇る  この世ではないどこか―――

骨女「アンタ、またなんかヘマでもしたのかい?」

一目連「なんだ突然?」

骨女「ターゲットになりそうな人間の、同じ部のコらがアンタを探してたよ」

一目連「ふん、生憎完璧に仕事をこなすと評判の俺には、ヘマした心当たりはないな」

骨女「何言ってんだい。どこにここまであてにならない完璧な男がいるんだよ」

輪入道「一目連。 あのSOS団とかいうのに入ってる小柄な女の子はお嬢が曰く人間じゃない...何か不可思議な力を使って、お前をお嬢の仲間とつきとめたのかもしれない」

一目連「気にし過ぎだろ。俺達が人間じゃないとバレた事なんて、いままでただの一度も無いじゃねーか」

輪入道「それはまぁ、確かにそうだが...」

骨女「しかし、用心するにこした事はないって言うじゃないか、明日は気をつけなよ?」

一目連「あーはいはい。分かった分かった」

骨女「ったく...、お嬢も何か言っとくれよ」

あい「......。」 プス、プス

骨女「お嬢? 障子に穴なんて開けて遊んでどうかしたのかい?」

一目連「お嬢があーやって遊んでる時は、だいたいストレスが溜まってる時だ」

骨女「この前の地獄に流すには到底値しなかった仕事が堪えたのかい?」

あい「......。」 プス、プス

骨女「お嬢が気にする事じゃないよ...悪いのは全てあの人間だ」

あい「大丈夫。 私は平気」


輪入道 (いつまで地獄流しを続けなきゃならないんだろうな...お嬢は)

――――深夜0時 コンピ研部長、自宅

コンピ研部長「僕はもう決めた」

カタカタカタ...。

コンピ研部長「涼宮ハルヒを地獄に流すと」

タン......

あい「呼んだ?」

コンピ研部長「キミが地獄少女か、逢いたかったよ」

あい「輪入道」

輪入道「あいよ、お嬢」

コンピ研部長「おっさんが藁人形に変化した...?」

あい「...受け取りなさい。貴方が本当に怨みを晴らしたいと思うなら、その赤い糸を解けばいい。糸を解いたら怨みの相手は速やかに地獄へ流されるわ」

コンピ研部長「これで...やっと...!」

あい「ただし。怨みを晴らしたら貴方自身にも代償を支払ってもらう、人を呪わば穴二つ。その藁人形の糸を解き、契約を交わしたら貴方の魂も地獄に流される...死んだ後の話だけどね......

あい「後は、貴方が決める事よ」


コンピ研部長「ククク、構うもんか。 これで彼女と結ばれるのなら地獄行きなんて安いもんだ...!」



コンピ研部長「僕は地獄なんて怖くないぞ...! 明日...! 彼女に僕の気持ちを打ち明けた、その
後で、二人の愛の障害を消すために......この藁人形の糸を......!」

翌日、学校に着いた俺はちっとも頭に入って来ない授業を受けていた

そして―――

昼休み

この時間内で、職員室にいるはずの体育教師を捕まえ部室に連れて行き、洗いざらい吐かせる
俺は飯に誘ってくる谷口を無視し
職員室に走った


職員室の入口に着いた俺を、一足先に来ていた様子の古泉が出迎える

古泉「僕達の役目は、可能な限り自然に長門さんの待つ部室に誘い出す事です...」

キョン「,,,,,,」

古泉「準備はいいですね?」

キョン「あぁ」

部室―――――

ガチャ...

長門「......」

コンピ研部長「やっぱりここに居たんだね」

長門「......」

コンピ研部長「おや? 今日は本は読んでいないんだ」

長門「...私は今忙しい。コンピューター研究部の部室には来週の水曜に行く。今は帰って」

コンピ研部長「SOS団の活動があるから、か...やはりアイツが長門さんを縛り付けている」

長門「何を言ってるの? 先程言った通り私は今忙しい。 帰って」

コンピ研部長「長門さん。僕はキミを解放したい」

コンピ研部長「その前に、僕の長門さんへの真っすぐな気持を伝えるよ」

コンピ研部長「僕は長門さんを心から愛している。 僕と交際...してくれるよね」

長門「.........」

コンピ研部長「......どうしたんだい?」

長門「.........」

コンピ研部長「まぁ、返事は今すぐじゃなくていいよ。僕が長門さんが涼宮ハルヒの呪縛を解いてからでいいんだ」

長門「待たなくていい。 私はあなたの言葉に応える事はできないから」

コンピ研部長「えっ......?」

長門「...私の考えをそのまま伝えた。分かって欲しい」

コンピ「なぜだ!? 涼宮ハルヒが恋愛を禁止しているからか!? そうだろ長門さん!」

長門「涼宮ハルヒは関係ない、これは私の意志。 あなたの用事は済んだはず、早く出ていって欲しい」

コンピ研部長「ハハハ、涼宮ハルヒのせいだな...! あいつが...あいつさえいなくれなれば、長門さんも自分の気持ちに正直になれる」

コンピ研部長「最初から...、こうすれば良かったんだ......!!!」

俺達は職員室で体育教師にバッティングのフォームを教えてくれと頼み、体育教師を部室へ引き入れる了承をとった
英語の教師がついてきたのは想定外だったが、それは後でなんとでもなる

そして

部室の扉に手をかけ、開けた時
目に飛び込んできたのは―――

長門を背に立ち

藁人形を握りしめたコンピ研部長の姿だった―――

『地獄に堕ちろ涼宮ハルヒ...!』

はっきりとそう聞こえたのと同刻

藁人形の糸が解かれた


『恨み、聞き届けたり』


部室に不吉な声が響く

瞬間。 体育教師と英語の教師の姿が消失した

一方、笑みを浮かべたまま立ち尽くすコンピ研部長



キョン「おい、今ハルヒとか言ったよな」

キョン「地獄に落ちろとか言ったよな」

キョン「答えろ」

キョン「お前ハルヒに何をした?」

すみません、さるって寝てました。
保守さんくすです。

ハルヒ「あれ?」

ハルヒ「なんか変ね」

ハルヒ「さっき5組の前通ったばっかなのに、今私はまた5組の前を歩いてる」

ハルヒ「それに、廊下の突き当たり、階段までの距離がちっともちじまらない」

キョン「......」

ハルヒ「あ、あの冴えない後姿、キョンじゃないの」

ハルヒ「おーい! バカキョン!」

キョン「......」

ハルヒ「キョンのクセにこの私を無視するなんていい度胸だわ!」たったったっ

ハルヒ「ねぇ、聞こえてんでしょ!? だったら返事くらい」

キョン「 ん? 」くるり

ハルヒ「!!!」

キョン「 どうかしたか? 」

ハルヒ「顔中に目が...!」

キョン「 俺の顔がどうかしたか...? 」

ハルヒ「~~~!」

キョン「 なぁ、どうしたんだよ。 返事してくれよ」

ハルヒ「......うん」

キョン「 ん? 」

ハルヒ「これは夢ね!」

キョン「夢じゃな


ハルヒ「夢、ね!」


ズン―――...

ハルヒ「急に景色が暗く...」

コンピ研部長「涼宮に何をしたかって!?」

コンピ研部長「あいつは僕と長門さんの仲を引き裂いた! だから同じように引き裂いてやったのさ」

コンピ研部長「命をね!」

コンピ研部長はそう叫んだのち、高らかに笑った。

キョン「......」すたすた

己の心臓の音が鼓膜で響く。

この時、すでに俺に理性などなく。

拳と腐った笑みを浮かべた頬が密着、

―――ドゴォオッ!

その重みもろとも、全体重をかけて振りぬいた。

豪快に床に転がったソレは、顔面を抑え、もがく。

古泉「落ち着いてください。我々は今すべきことがある」

古泉「長門さん、涼宮さんの安否は掴めますか?」

長門「生体反応の確認ができない」

古泉「そんな......!」

長門「だけど、糸が解かれた瞬間、変質した空間が出現している」

古泉「そこで何かが起きていると...そう考えるのが自然ですね、向かいましょう。 まだ間に合うかもしれません」

キョン「......長門、案内を頼む」

長門「了解した。 ついてきて」

ハルヒ「あんたキョンじゃなかったのね」

一目連「あぁ、地獄に流されるヤツには御仕置きすんのが定例でな」

一目連「だが、お前に地獄に流されるだけの理由はない。 御仕置きタイムは割愛させてもらうよ」

ハルヒ「ふ~~ん。 で、突然現れたこいつらは何なの?」

骨女「私らはそのチャラ男の仲間さ」

輪入道「お前が流されるのは正直癪に障るが、これは止められないさだめだ」

ハルヒ「分かったわ、地獄通信の夢ね。 そういや肝心の地獄少女がいないじゃないの」

一目連(まだ夢だと思っているのか...なら、このまま逝くのが幸せかもな)

一目連「お嬢ならずっとそこにいるぜ」

ハルヒ「ええっ! どこどこ?」わくわくきょろきょろ

一目連「お嬢、頼む」

あい「......」

ハルヒ「あ、現れたわね地獄少女っ!」わくわく

あい「......」

キョン(はぁはぁ...た、頼む...!)

キョン(間に合ってくれ...!)

―――――――――――――――
――――――――――――
――――――――――

あい『闇に惑いし哀れな影よ』

あい『人を傷つけ貶めて』

あい『罪に惑いし業の魂』

...................。

長門「近い」

キョン「はぁ、はぁ...」

長門「私があの情報制御された空間に侵入するきっかけを作る...貴方達はそのまま駆け抜けて」

キョン「おぉ!」

古泉「超能力を有しているからでしょうか、あそこから閉鎖空間に似た圧力を感じます」

長門「空間への干渉を開始...」

キョン(ハルヒ...! 今行くぞ...!)

―――――――――――――――
――――――――――――
――――――――――


あい『いっぺん...』

あい『死んでみる?』

ダッ――――!

キョン「ハルヒ!」

一目連「ッ!? なんだお前ら、どうやってここへ!?」

輪入道「お嬢が言っていた、人間達か...!」

キョン「そんな...」

古泉「涼宮さんがいない」

キョン「おい、ハルヒはどこだ?」

輪入道「一足遅かったな...今しがたお嬢が地獄へと流したばかりだ」

輪入道「今頃、三途の川を渡っているころだろう」

キョン「そんな...」

眼前が暗く、同時に全身を強烈な脱力感が襲う。

まるで糸を切られた操り人形の様に、崩れ落ちる。

嘘だろ―――、

あいつが死ぬなんて。

長門がいる。

だからどうにでもなると、そう思っていた。

しかし、

現実は違った。

ハルヒは死んだ。


輪入道「あの女の事は諦めてくれ、俺がお嬢の...地獄少女の代わりに謝罪しよう」

輪入道「済まなかった、この通りだ」

キョン「......」

骨女「お嬢は地獄少女から逃れられないさだめ。許してやっておくれ...お嬢も好きでやってることじゃないんだよ」

キョン「......」

一目連「依頼主の意志は絶対で、俺達に抗うことは認められていないんだ」

一目連「今回の顛末は、ここにいる俺達、そしてお嬢も遺憾なはずだ...済まない」

謝罪なんて欲していない。

やめてくれ、余計に辛くなるだけだ。

と、そう言いたいが、言葉を発する気力する、今はもうない。

一目連「無力な俺達を許してくれ」

古泉「......」


古泉「...腑抜け」

一目連「......」

古泉「いや、腰抜けと言うべきでしょうか...貴方を形容できる言葉が見当たりません」

一目連「何とでも言え、それで少しでも気晴らしになるのなら...」

古泉「んっ、喜んで下さい...語彙の少ない僕にも、貴方にぴったり似合う言葉が見つかりました」

古泉「屑、これなら貴方に相応しい」

一目連「てめぇ...! 人が黙って聞いてりゃ」

古泉「おっと、勘違いはしないで頂きたい。 私は彼に言ってます」

古泉「貴方です、キョン君」

キョン「......」

古泉「涼宮さんは事実死にました」

古泉「だが、貴方はこれを結末として認めることができますか?」

古泉「貴方はいつまでそうしているつもりですか?」

うるさい。

人の気も知らないで好き勝手言いやがって」

古泉「崩れ、塞ぎこみ...屑となるのは万策尽きてからにして下さい」

黙れ。

古泉「貴方にとって涼宮さんが、この程度の事で諦めのつく存在だったとは思いませんでした」

キョン「.........黙れ」

古泉「おやおや、まだ話す気力が残っていたのですね、驚愕ですよ」

古泉「てっきり屑とばかり...」

キョン「黙れと言ってるだろーーが」

古泉「...!」

まだ立てる。

諦めるにはまだ早い。

地獄と死がたとえ近似値でも

地獄に行ったら終いってわけじゃねーだろ

良く胡散臭いテレビで言ってるだろ、三途の川を見てきたって。

あの規格外の女がそう簡単に死んだりするもんか。

それに俺達がいるじゃねーーーか。

キョン「好き勝手言いやがって...、ぶん殴りたいところだが、言葉には言葉で返す」

キョン「古泉...」


キョン「助かったよ」


古泉「礼に言われる筋合いはありません、ただ僕は、思いのまま言葉を並べただけです」

キョン「そうかい、でだ、もう少し力を貸してくれないか?」

キョン「ハルヒを地獄から連れ戻そうと思う」

古泉「あえて聞くことじゃありまえんよ、初めから意志はひとつ...おそらく長門さんも、ね」

長門「.........」

一目連「おいおい、それは絶対に不可能だぜ」

骨女「そもそもどうやって行くってだよ」

キョン「長門、できるか?」

長門「地獄と呼ばれる場所へ行く術を、私は持ち合わせていない」

キョン「......どうすれば...」

古泉「今、目の前にいる方々に頼むというのはどうでしょう」

キョン「その手があったか...」

輪入道「......」

キョン「連れて行け。 俺達を。 地獄に」

輪入道「人間達よ地獄をあまり甘くみるなよ」

キョン「ハルヒを助けるためならどんな災厄だって受け入れるさ...できるだろ、閻魔あいの付き人のお前らなら」

輪入道「できるとして、そうすると思うのか?」

キョン「......しないのなら、何をしてでも首を縦に振ってもらう」

輪入道「こいつ...!」

骨女「帰るわよ輪入道、一目連。 こいつらの相手はここまでにしましょう」

輪入道「そうだな...」

一目連「そうと決まれば、とっととここから

長門「情報制御空間構成物質、解析完了」

長門「離脱は私が許さない」

一目連「っ!? マジででれねぇ...!」

古泉「時間が惜しい...案内できぬと仰るのなら、不本意ですが叩き潰すまで」

一目連「叩き潰す?お前が、俺達を?」

古泉「えぇ。 長門さんほどではありませんが、特異な空間限定でのみ少々能力が使えるんです」

古泉の周囲に『紅』が浮遊する

一目連「おもしれぇじゃねか...! 来い」

輪入道「待て一目連。この人間達は何もわかっちゃいねぇ」

輪入道「いいか良く聞け。 たとえお前達が地獄へ行き、あの人間を見つけてお嬢から引き離したとしても」

輪入道「お嬢の監視をする地獄の化け物が黙っちゃいねぇぞ」

輪入道「絶命は免れない...どれほどお前達が強くてもな...。 それでも、行く事を望むのか?」

キョン「くだらん事を聞いてくるな。 このまま立ち止まる位なら、死んだがいくらかはマシってもんだ」

輪入道「......」

キョン「俺は今、16年の人生の中でかってないくらい頭にきてる」

輪入道「俺達にか?」

キョン「違う」

キョン「地獄通信にだ」

キョン「このシステムに救われた者もいるだろう...死んで当然ってヤツもいただろう...」

キョン「だがハルヒはどうだ? あいつが何かしたか?」

キョン「こんなもん無くなってしまえばいい...閻魔あいも地獄流しを望んで行なっているわけじゃあないんだろ?」

輪入道「あぁ、そうだ。 俺達もなんとかしてやりたいとは思っちゃあいるんだが...」

キョン「俺からひとつ提案がある」

輪入道「なんだ?」

キョン「この連鎖をやめさせる。それが俺達を地獄に連れて行く条件だ」

輪入道「無理だな...お前らにあの地獄の蜘蛛をどうにかできるワケがねぇ」

一目連「輪入道の言った通りだ。諦めろ。そして俺達を早くここから出せ」

キョン「諦めるか」

一目連「お前達にお嬢が救えるのなら、俺達がとっくにそうしている...!」

一目連「人間風情がさっきからうるせぇんだよ!

ゴォッツ!

長髪の男が力強く地を踏んだのち

まるで重量やら物理法則を無視したかのように、俺に向かって飛び進む

キョン「......なっ」


瞬きすら許されぬ状況の中、古泉が突如として俺の眼前に現れ

その紅をまとった拳が、長髪の顔面を捕え殴り飛ばす


キョン「お前...ここで使えるんだな」

古泉「えぇ。十分にとはいかないものの、この閉鎖された空間内であれば能力を行使できます」

骨女「一目連...!」

輪入道「......!」

一目連「こ、これが人間のパンチかよ...!」げほっ

骨女「ならまずは、私がこの人間達の動きを封じてやるさ」

女の足元から、十数本の腕がまるで触手のように生え、迫る

長門「させない」

小さな手のひらを掲げた長門...

原理の分からない斬撃が迫る腕をなぎはらう

一目連「な...」

輪入道「こいつぁ驚いた」



古泉「さすがは長門さんです」

一目連「よそ見すんじゃねぇよ」

ズギャッ!

長髪の男が古泉の隙をついた

一目連「あのタイミングで受けやがった...?」

古泉「自分で言うのもなんですが今の僕に隙などありませんよ...今までないほどに感覚が研ぎ澄まされているのを自身で感じますから...」

一目連「本当に人間かよこいつ...もうマジでいくぞ...!」

古泉「どうぞ」

一目連「へっ......、深手を負わせる気はねェが...覚悟しろ」

さきほどとは比較にならない程の速度

打撃が重なり重い低音が空間に連続する

古泉「―――――ッ」

一転して劣勢に転じる

一目連「これで少し」

一目連「寝てろ!」

相当の力を込めた一撃
そこに生じた一瞬の隙

古泉「んもっふ!」

一目連「!?」

悶絶必死の回し蹴りが長髪の側頭部に決まる

そのまま空間の壁面に背中を叩きつける

古泉「いやぁ、あと少しで僕があなたの一撃を喰らうところでした、危ない危ない」

一目連「ッッッ.....お前最初からカウンター狙ってやがっただろ..!」


長門「無駄、諦めて」

骨女「触れることすらできやしないじゃないか...」

女の攻撃を文字通り全て挫いた長門

絶対的な情報操作をもって相手を威圧、制圧する



状況が切迫し、閻魔あいの従者達が劣勢になっていくなか、和装の中年は最初から沈黙したまま手を出す様子はなかった

ただじっと様子を伺っていた和装の中年が...口を開く

輪入道「お前もしかして...」

輪入道「ただの人間か?」

キョン「あぁ、悪いか」

輪入道「さっきあの色男がお前を一目連から遠ざけたとこを見てから、もしかしてと思ってはいたが...」

キョン「俺はこんな場面じゃあ何もできやしない、ただの一般人だ...」

輪入道「そのクセさっきはお嬢を助けるだの、地獄へ連れていけなんざ言ってたのか」

キョン「俺だけじゃたぶん何もできない...だから俺達って言ったんだ...」

キョン「俺はこのくだらないSOS団に在籍しているこいつらを心底信用している」

キョン「今まで何でも頼りきってきたが...今回くらい自分で何かがしたい...お前に地獄へ連れていくことを納得させてやる」

輪入道「ふん...そうか」


一目連「骨女! 一対一でやればお互いもたねぇ! このカッコツケタ男はほっといて、この空間を掌握しているその女を一緒にたたくぞ!」

骨女「輪入道も見てないで手伝っておくれよ!」

輪入道「......」

キョン「おっさん、いかせねぇぞ」

輪入道「行く気はねぇよ」

キョン「ん?」



輪入道「もう喧嘩はやめだ!!!」

キョン「......!」

古泉「今なんと?」

骨女「どうしたんだい輪入道...」

一目連「おい、じゃあどうしようってんだ!」

輪入道「どうせ俺達じゃこいつらを負かすことなんてできそうにねぇ...」

輪入道「このままじゃここから出れそうにもねぇ...」

輪入道「ならばこいつらの提案要望通り、地獄へ連れて行こうじゃねぇか!」

一目連「正気かよ...」

輪入道「こいつらは三人とも強い...俺達にはできねぇことができるんじゃねぇかって...そう思うんだ」

骨女「それってお嬢を...まさか...そうなのかい輪入道」

輪入道「あぁ、お嬢を地獄通信から開放しようじゃねぇか。 これが俺達の最期の『仕事』だ」

輪入道「俺達はこいつらを信じる。だからおめぇらも信じてやってくれ...そして俺達は俺達にできる事をしようじゃねぇか」

一目連「......ばかばかしい、できるワケねぇじゃねぇか」ふっ

骨女「まったくだよ」くすっ

輪入道(ありがとなおめぇら)

輪入道の体が燃え盛る炎に包まれ、その体が人力車へと転じる―ー―


キョン「これで地獄へ...?」


輪入道「さぁ、俺達の気がかわらねぇうちに乗れ人間ども! 残された時間は少ねぇ...急げ!」



そして―――地獄。

炎をまき散らしながら滑走する荷車から下を見下ろすと、馬鹿でかい川が流れている。
どうやらこれが三途の川らしい。

骨女「いいかいアンタ達。 人間がここにいられる時間は3時間程度だ。 それを超えれば死んじまうからね!」

荷車が猛スピードで空を駆けるその先に、巨大な鳥居が視界に入る

鳥居の先にはおぞましい雰囲気漂わせる大陸が見える

一目連「いいか? こうなった以上全力でお前らをサポートする」

一目連「だから...死んでくれるなよ」

輪入道「骨女も気合い入れろー、失敗でもしようもんなら俺達三人は始末され、お嬢は何らかの叱責を受けるからな」

荷車が下降を始めた。どうやら目的地はこの大陸らしい

餓鬼「なんだありゃ?」

陸地に降り立った俺達を迎えたのは地獄の番人

骨女「こりゃ厄介なヤツに見つかっちまったもんだね」

一目連「4匹...! こりゃまずいな」

輪入道「ここは俺達に任せて先に行け、お嬢とあの人間はこの先にいるはずだ!」 

三人に任せて輪入道が指指した方角へ全力で駆ける

今度は間に合う

そう信じて

はるか先、ぼんやりと二人の姿が見える

吊りそうになっている足に、再度ムチを打ち、駆ける

後10メートル...!


キョン『ハルヒ―――ッ!!!』


声の限り叫ぶ


ハルヒ「キョン...!」

閻魔あい「どうして?」

キョン「良かった...今度こそ間に合った...!」

ハルヒ「節操変えてどうしたのよアンタ...今日はかなりスパイスの効いた夢を謳歌してるところなのに」

まさしく驚愕とはこのことだ

この馬鹿はこれが夢だと...そう思っているらしい

ハルヒ「それにここんとこ私の夢に現れて! 一体なんでなのよ!?」

キョン「知らん。そんな事俺に聞くな。」

古泉「おやおや、涼宮さんは夢の中でもあなたに夢中のようですよ...これはお二人の関係を見なおすチャンスなのでは?」

キョン「古泉、黙れ」

ハルヒ「ちょっと古泉君!? 今何か言った? 夢の中でもなんとかって聞こえたわよ!?」

キョン「気にすんなハルヒ。 今はそんな事より早いとこここから出ないといけねーんだ、こっちに来い」

ハルヒ「絶対に嫌よ!」

ハルヒ「こんなに楽しい夢は久しぶりだもの!」

バッサリ言いやがった

キョン「しかしだな...早く出ねーと俺達は死んじまうんだ、ハルヒ...俺達はお前を助けに来た、いいから来い」 

ハルヒ「ふ~~ん...そーゆー設定なのね...分かったわ」

ハルヒ「ならさっさと私を助けなさい!」

それが助けを求める女子の態度かと突っ込もうと思ったが、まぁいい

華麗にスルーだ

今はこいつよりも閻魔あいに話がある
直立不動のまま動かない閻魔あいの正面に、俺は移動した

閻魔あい「どうやってここへ?」

キョン「お前の仲間、輪入道達に連れて来てもらった。 あいつらは今、鳥居の近くにいた餓鬼共と戦ってる...じきにここへ追いつく」

閻魔あい「なぜあの三人があなた達に協力したか理解できない...それに、目的は何?」

キョン「目的は二つ」

キョン「一つ目はさっき言った通りハルヒを助ける事」

キョン「そして二つ目...」

キョン「それはお前を地獄流しから解放するためだ」

キョン「それを輪入道達も望んでいる...」

閻魔あい「意図が分からない...なぜあなた達が私を?」

キョン「この前会った時に言ったが、俺は柴田一の書いた真実の地獄少女を読んだ...そしてお前の真実を知った...」

キョン「俺はお前がたとえ拒否しようと、地獄の化けモンだがなんだかをぶっ飛ばしてお前を地獄流しから解放する」

閻魔あい「...無理よ。 私は過去、二度地獄通信の『禁』に触れている...私は永久にこの任を続けなければならないの」

キョン「そんなん知るか。 俺は、いいや俺達がお前を縛っているヤツをぶっ飛ばす」

閻魔あい「...そんな事できるわけないわ」
 
キョン「ごちゃごちゃ言うな閻魔あい」

キョン「いいか?」

キョン「俺が一つだけお前に質問する...お前は思ったまま、それに答えて欲しい」

キョン「お前は地獄流しを続けたいのか?」

閻魔あい「これは運命...逃れる事なんて出来ない...」

閻魔あいの瞳が儚げな色を映した

キョン「そのままでいい、だまって聞いてくれ」

「お前は過去に大罪をおかした...らしいな、しかしそれは罪と言えるのか?」

「村中から蔑まれた上、人柱にされ、助かったかと思ったら半殺しにされ...」

「埋められて」

「しまいにゃ、愛する誰かと引き離されでもしたら、村人全員を殺すくらい...俺だってする」

『人を呪わば穴二つ』

「そんなん知るか。地獄の都合なんざ知ったこっちゃない」

「俺はお前を救いにきた...俺についてこい―――、

キョン「閻魔あい!」

閻魔あい「私は...私は.........


閻魔あいはそう言うと沈黙のまま視線を落とす...



(願う事が許されるのなら...大罪を背負う私の願いが叶うのならば)


(地獄流しなんかもうしたくない)


(天国にいる仙太郎に逢いたい)


(そして怨んでなんてないって伝えたい)


(また......)


(2人であの歌を歌いたい)

沈黙したままの閻魔あいの大きな瞳から

大粒の涙が一つ

―――零れた

キョン「返事はそれで十分だ」

キョン「長門、古泉、ハルヒ...そして閻魔あい」

キョン「準備はいいな、暴れるぞ」

キョン「いつもこいつを監視してんのならそこに居るんだろ...!?」

キョン「出て来いよ...!」



 『.......』

中空に巨大な三つ目が現れ

その周囲から黒い瘴気が散出したと同時に

地響きが一面に響き、巨大な蜘蛛が姿を現した


***『なぜここに人間がいる...?』


キョン「...おい化け物、閻魔あいを開放してやってくれ...頼む」

***『それは出来ぬ相談だ...その者は大罪と二つの禁を犯した...もう地獄少女の任から逃れることはできない』

キョン「じゃあ、どうすれば見逃してくれる」

***『くどいぞ...できんと言ったのが分からんのか』

キョン「話しても無駄か...」

***『そうだ...閻魔あいには永遠に地獄少女をする責務がある...地獄の決定を覆すことなどできん相談だ』

キョン「ッ......」

***『それとだ...、人間が地獄のこの場所まで生身のまま侵入するなど言語道断』

***『手引きした者含めて、全て...喰い殺してやる』


古泉「出番でしょうか?」

キョン「今回は俺も戦うぞ」

長門「危険...あなたは下がってて」

キョン「おわっ、何しやがる!」

長門に襟を捕まれ俺は、無様にも遥か後方に転がった

ハルヒ「面白いじゃないの! さいっこうの夢だわっ!」

閻魔あい「.........」

***『また『禁』を犯すか閻魔あい...覚悟は出来てるな?』

閻魔あい「......」

閻魔あい「わ、私は...」

古泉「はっきり言ってしまえば楽ですよ」

閻魔あい「......」こくり

閻魔あい「私は」

閻魔あい「これ以上あなたに屈しない!!!」


***『ほう...』

蜘蛛を中心に空気が重く変質する


古泉「長門さん、お願いしたい事があります」

古泉「僕の閉鎖された空間内でしか使えない能力を今この時だけ...使えるよう出来ないでしょうか?」

古泉の問いに長門が高速詠唱で応える

長門「限定解除完了」

古泉が動く、

紅の闘気纏い、一歩、蜘蛛の方へ踏み込む

瞬間、古泉の姿が蜘蛛の背後へ移動する

***『消えた...だと』

おそらくは能力による肉体強化をもっての高速移動

放たれたのははっきりと視認する事すらままならない爆音を伴う連撃

それが断続的に奇襲

さきほどの色男への攻撃を遥かに超える攻撃

古泉「お味はどうでしょうか?」

不敵に笑みを浮かべたまま、古泉の攻めは続く

しかし、

古泉「しまった...!」

余裕かに見えた古泉の両足を糸が拘束する

古泉「っうあぁ......」

今度は手が止まった古泉の全身が糸が包む

姿を現した蜘蛛がゆっくりと

まるで餌を捕食するかの如く古泉に接近する...


キョン「古泉ッ!」

長門「私に任せて」

殺意を漂わせた無骨な槍が蜘蛛に向く

長門「貫く...!」

だが、蜘蛛の三つ目の内、一つがその槍を睨んだ瞬間、音を上げ消滅する

長門「なら、これなら?」

断続的に降り注ぐ槍の雨が蜘蛛いた場所に山を作る


***『貴様等...一体...!?』

古泉「ふふっ、流石のあなたでも、あれは逃げなかったらまずいみたいですね?」

蜘蛛の糸を力任せに引きちぎった古泉が、蜘蛛の行動の先を盗る

先刻を超える爆音を伴った拳の弾幕が蜘蛛の体に着弾する

***『   』

古泉「生憎、僕は礼はきちんと返すほうでしてね...!」

ほんの僅か、蜘蛛が口から紫の血液を吐き出す
たまらず古泉から距離を取る、しかし、古泉は逃がさない。

古泉「これをもって最期としましょう...!」

―――!

放たれた紅玉が蜘蛛の動きを上回るスピードで突き進み、起爆する

追撃、
長門の拘束詠唱とともに空気が変質する

長門「終わらせる」

長門の指先から放たれたか細い線が爆炎の中心点に向かう、
古泉の作った爆炎を超える半球体のサークルが一瞬の内に広がる

古泉「なんという威力...!これなら...!」


爆発で立ち込めていた煙が次第に静まっていく


***『私をみくびるな』

古泉「...馬鹿な!」

長門「今のは私の情報操作能力を限界まで行使した一撃」

長門「なのにほとんど外傷が見受けられない...!」 

長門「このままでは...」


***『もう、手詰まりか』

***『こちらから行くぞ』

吐出された巨大な黒炎が長門に接近する

長門「ッ―――!」

長門は回避するものの、

***『捕まえたぞ...まずは貴様からだ』

死角から伸びた蜘蛛の糸が長門を拘束する

長門「なんて強度...!」

***『それはさきほどあの男に吐いた糸とは別種の物だ』

***『抗うな。受け入れろ』

長門に近づく、

古泉(ずいですね...!先刻の一撃で殆どの力を放出してしまった...これが最期...!)

古泉(あれが効かぬのなら、急所に全てを打ち込むしかありません...!」

古泉(あの目を......!)

長門の正面に古泉がまわり込む
練り上げた紅の球体をふりかぶる

古泉「長門さん、ふせて下さい!」

起死回生の一撃が激しく起爆する、
しかし、

古泉「消えた!?」

***『ここだ』

古泉「ッ!?」

長門「上...!」

力を使い果たした古泉と拘束されたままの長門に対し、
蜘蛛が中空から迫る

***『このまま喰らってやろう』

ゴォオオッ!

紫の炎が蜘蛛に直撃する


***『ッッッ!』

山童「姫、ぼくらの出番はいつなんでしょうね」
きくり「わろわろ、頭出せ!」

古泉「効いた...!」

古泉「しかし今の攻撃は一体...!?」

閻魔あい「私もいる」


***『閻魔あい..!!』


閻魔あい「私は決めた...自分の運命に抗う」

閻魔あい「たとえ地獄を敵に回しても...!」


***『もういい』

***『地獄少女の代わりなどいくらでもいる』

***『ここでお前に審判を下そう』

閻魔あい「......」


***『判決』

蜘蛛の三つ目の内、二つが妖しく輝く...

―――ゴォォォオオオオオオオオオオオッ!

突如として強大な黒炎に包まれる閻魔あい

長門「......!」

古泉「長門さん、頼みがあります」

長門「何?」

古泉「その拘束された状態で攻撃は可能ですか?」

長門「できないことは...ない」

古泉「僕が蜘蛛の動きを封じます、それは一瞬かもしれません」

古泉「その僅かな好機で、あの蜘蛛の目に最大の情報操作でもって、一撃を...僕ごとで構いません」

古泉「お願いします」ダッ――

長門「古泉一樹止まるべき...!」

制止を無視し古泉が駆ける

古泉(もうこれしか手はない)

古泉(長門さんや閻魔あいですら歯がたたないのならば)


古泉(僕が全てを賭けるしか!)


***『果てる寸前の男がなんのつもりだ』


蜘蛛の糸を寸手で交わし、古泉が蜘蛛と肉薄する


古泉「...僕の命、無駄にしないで下さいよ...!」


―――――ズゴォォオオッッ!


***『ぬううううっ!』


古泉に意識を取られていた蜘蛛の顔面に紫の炎が直撃する


***『目が...目がッ...!!』


閻魔あい「あなたが死ぬ必要はない」

古泉「ッ! 長門さん! 今ですッ!!」

長門「.........................!」

高速詠唱―――、

その後長門が両腕を突き出す、

突き出した両腕から青白い光が伸び、光速とも比喩できる速度で蜘蛛に切迫する

しかし、

***『    』


突如声にならない金切り声を撒き散らす蜘蛛、

長門の攻撃ごと黒い炎が放射状に周囲を飲み込み、一帯を一瞬の内に覆う


閻魔あい「私の後ろに隠れていて」

黒炎に飲み込まれるかに見えたその刹那、紫色の透明な球体が俺達を包む

キョン「助かった...!」

キョン「だが、古泉と長門は!?」

閻魔あい「あの二人なら心配ない、ちゃんと生きている」

ハルヒ「ふーーー、危なかった! 夢の中で死んじゃうところだったわね」

ハルヒ「それにさ、こーゆー面白い時に限って目が覚めちゃうのよね、勿体ないわってわわっ!!」

突如、球体の中にいる俺達を強い衝撃が急襲、
俺達を守る生命線に蜘蛛が黒い牙を立て...亀裂が走る、

キョン「まずい...喰い破られるぞ...!」

キョン「ここまでか.........!」

閻魔あい「この人達を......」


   ピキッ...!


閻魔あい「死なせたくない...!」

球体に亀裂が縦横無尽に走る、もう終わりだと、覚悟を決めたその時だった...



輪入道「お嬢おおおおおおおーーー!!!」



閻魔あい「輪入道!」


一目連「乗れお嬢!!」

骨女「輪入道の荷車も長くはもたないよっ!!」


―――輪入道の荷車に乗った俺達は、防御壁で耐える長門と古泉を回収し、

―――蜘蛛から逃げるように黒炎の中を突き進む



一目連「ここはもう見渡す限り真っ黒い炎に覆われてやがる」

一目連「安全地帯なんてあんのかい?」

輪入道「とにかく進むしかねぇだろう!!!」

閻魔あい「来る......!」


   ***『         』


古泉「追いつかれる...!」

輪入道「速度を上げる! しっかり掴まってろよ!!」ググッ...!!

   ***『         』


キョン「駄目だ...速すぎる!」


輪入道「くそがあっ......!」

キョン「っ......」


ハルヒ「ところであんた、いつまでこうして突っ立ってるつもり?」

キョン「はぁ? この状況で何言ってやがる!?」

ハルヒ「今日はなんでも切れるあの剣、持ってないわけ?......いつもみたいに私を守りなさいよ!」

どうやら夢の中の俺はとんでもない剣を振り回して、こいつを守っているらしい...
ん、待て。
ここはハルヒにとっては夢の中...
それなら実世界じゃできない願いも頼めるじゃねぇか...! 

キョン「おいハルヒ! 今日はあの剣はどっかに忘れてきてるんだ!」

キョン「頼む! さっさと俺にその剣とやらを出してくれ!!」

ハルヒ「ったく...! 次から気をつけなさいよね!!」

球体に亀裂が縦横無尽に走る、おそらくもう長くは持たないと思われたその折、
突如、右手にずっしりとした重みを感じた

ハルヒ「はい! これでいい!?」

キョン「あぁ、十分だ!」

修正

キョン「っ......」


ハルヒ「ところであんた、いつまでこうして突っ立ってるつもり?」

キョン「はぁ? この状況で何言ってやがる!?」

ハルヒ「今日はなんでも切れるあの剣、持ってないわけ?......いつもみたいに私を守りなさいよ!」

どうやら夢の中の俺はとんでもない剣を振り回して、こいつを守っているらしい...
ん、待て。
ここはハルヒにとっては夢の中...
それなら実世界じゃできない願いも頼めるじゃねぇか...! 

キョン「おいハルヒ! 今日はあの剣はどっかに忘れてきてるんだ!」

キョン「頼む! さっさと俺にその剣とやらを出してくれ!!」

ハルヒ「ったく...! 次から気をつけなさいよね!!」

右手にずっしりとした重みを感じる

ハルヒ「はい! これでいい!?」

キョン「あぁ、十分だ!」

キョン「閻魔あい! 俺だけをあの球体で包め!」

閻魔あい「何をする気なの?」

キョン「いいから早くしろ!!!」


だっ...


周囲に黒炎が立ち込める中、俺は中空に飛び出した


キョン「おい蜘蛛!」


   ***『      』

キョン「ハルヒ特注の『SOS団の剣』だ......!」


『構え』

『垂直に振り下ろす―――!』


   ***『  !!!!!  』


まばゆい輝きが周囲をたちこめていた黒炎もろとも切り払い、まるでさっきまでの情景が嘘の様に消失
全ての元凶である巨大な蜘蛛も徐々にその姿崩していく 

古泉が半笑いでこちらに近づく...。

古泉「黒炎に飲まれた時は正直死ぬかと思いましたよ...しかし涼宮さんを守る騎士の登場
には助かりました」

キョン「斬るぞ」

古泉「フフ、これは恐ろしい...謝ります、冗談です」

長門「あなたの持っているその剣...。使い方を間違えば世界そのものを滅ぼしかねない...気をつけて」

キョン「これはそんなにとんでもないモンなのか...。 ハルヒ、これ返すな」

ハルヒ「もういいの?」

キョン「さっきので化物退治は終わりだ。これはもう必要ない」

ハルヒ「つまんないわね~」


輪入道「お前ら...本当にやっちまったんだな...!」

骨女「これで、お嬢は...」

一目連「俺は最初からお前らならやってくれると信じていたぜっ!」

閻魔あい「......輪入道、骨女、一目連......」

状況を把握した輪入道達がすぐに閻魔あいを囲む

骨女「お嬢...あっちでも元気でやるんだよ...」

閻魔あいの足から徐々に細かい粒子と変わっていく、その粒子が天へと還る

閻魔あい「あっちって?」

一目連「何言ってんだお嬢、極楽浄土に決まってんじゃねぇか」

胸から下にかけてが完全に消失する

輪入道「俺達の事は心配しないでくれよ、現世で好き勝手に生きていくからなっ」

閻魔あいは最後に一言、言い残し天に消えた

どこへ行ったのかなんて、確かな確証はないが...おそらく

俗に言う天国に行ったんだと俺は思う

輪入道が変化した荷車に乗り込んだ俺達は現世に戻る途中
骨女から嫌な話を聞かされた
もし、あと一分でも帰還が遅れていたら間違いなく肉体は消え、魂のみの存在となっていたらしい
一目連のはからいでハルヒは気絶させてもらい、とりあえず部室に寝かせ。
服についた地獄の泥を落とし、夢の中の事と現実の線引きをハルヒにさせるため、互いの姿を何度も確認した

ふと思い返すとここ数日の出来事が嘘だったかの様だ

キョン「......」

昇華する最中、閻魔あいが最後に行った言葉

『それ』が今頃遅れて、全身に響いた。

―――この世ではないどこか 色彩豊かな花々が咲き乱れる場所―――


仙太郎「待ってたよ、あい」

あい「仙太郎...?」

仙太郎「まず俺はあいに謝らないといけないことがある」

仙太郎「あの時、助ける事ができなくてごめん」

あい「......」

仙太郎「俺を怨んでるよな」

あい「......」

仙太郎「......」

あい「恨んだりしてない」

あい「だって仙太郎は七宝寺を残してくれてた」

あい「あなたの子孫の2人も教えてくれた」

あい「あなたの気持ちは現世で十分に伝わった」

仙太郎「...そっか」

あい「うん......」

仙太郎「てかさ、笑えるよな...人間って死んだら、本人の時間が止まった時の姿で魂になるんだ」

あい「だから子供のまま?」

仙太郎「あぁ」

あい「あの頃と同じだね...私達」

仙太郎「ははっ、そうだな」

仙太郎「なぁ、あい」

あい「なに?」 

仙太郎「ここなら誰も俺達の邪魔はしない...ここでもう一度やり直さないか?」

あい「やり直す...何を?」

仙太郎「あの頃をだよ、あい」

あい「えっ...?」

仙太郎「もう一度、お前の笑った顔が見たいんだ」

あい「......」

仙太郎「......?」

あい「......」

ポタッ...

仙太郎「あい...!」

あい「...なんでもない」

仙太郎「あい...」すっ

あい「ちょ、仙太郎...苦しい...」

仙太郎「もう、絶対にお前を離さないからな―――」


―――おわり

みくるは扱いづらいので出しませんでした。
見てくれたひと、どうもでしたwww

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