晶葉「千川ちひろの暴走」 (36)



 私の名前は千川ちひろといいます。

 私の使命はシンデレラガールズプロジェクトの隆盛!

 そのためにプロデューサーさんやアイドルたちのサポートを行っています。

 具体的にはプロダクションの事務仕事全般を受け持っています。

 そう。

 アイドルたちを輝かせ、プロデューサーを手助けする。それが、私の役目なのです!

 それなのに……。

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千川ちひろ

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春菜「今日はどのフレームがいいですかね? 気分的にはフォックスなんですけど!」
上条春菜(18)
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P「フォックスか。今日は挑戦的な気分ってわけか? そうだなあ、フォックスでフルリムはちょっと意地の悪い感じに見えかねないからな……」

春菜「攻撃的に見せるにはいいんですけどね」

P「うん。フォックスはつり目タイプだからな。とはいえ、春菜のイメージだと、ハーフリムかなあ……」

春菜「フォックスのハーフリムだと……この四つくらいですかね」

P「ああ、このシルバーのやついいんじゃないか。リムが直線的じゃなくてなめらかな曲線なのがいい感じだ」

春菜「かけてみます! どうです?」

P「似合ってる、似合ってる。かっこいいし、かわいいよ!」

春菜「ありがとうございます! えへへっ」

ちひろさんSS多くて嬉しい

比奈「毎日よく飽きませんねー」
荒木比奈(20)
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P「なにがだ?」

比奈「いや、そのやりとり」

P「何を言う。比奈。コーディネートは大事だろ! 特にアイドルなんだから」

比奈「いや、それはわかるっスけど……」

P「それにだ、アクセサリは全般的に大事だが、眼鏡の場合は顔の印象を決めてしまう。しっかり考えるべきだ」

春菜「なんて言っても顔の真ん中にありますからね!」

P「それに、手軽にイメージをいじれるってのは有利なんだぞ? たとえば、今回のフォックスは名前の通り狐目みたいにつり上がってるタイプだ。
だが、そのつり上がっている度合いもいろいろあって、それぞれに……」

比奈「いや、わかりますよ? そりゃ私だっておしゃれするときは別の眼鏡にしたりとかもしますし。……でも、ねえ」

P「うん。まあ、毎日は珍しいかもしれないけどな。でも、春菜の場合、眼鏡もたくさん持ってるしな」

春菜「そうそう。言ってくれれば、比奈ちゃんのもすぐ用意するよ!」

比奈「いや、今日は自前でいいっス。でも、そういえば、春菜ちゃん、プロデューサーにはあんまりすすめないっすね」

P「俺は伊達しかかけられないからな」

春菜「かけるなら、コンタクトにゴミがはいらないように大きめのタイプだけですもんね」

比奈「え? 伊達しか?」

春菜「あれ? 比奈ちゃん、知らないの?」

比奈「へ?」

P「あー、俺、目の病気で、コンタクトじゃないとだめなんだ。眼鏡も作れないことはないんだろうが、かなり厳しい」

春菜「角膜そのものが変形するから、ひどい乱視になっちゃって、離れたところにあるレンズだと面倒なんですよね」

P「ああ。おかげでソフトコンタクトもだめだしな。角度を合わせたハードじゃないと」

比奈「え? あ、そ、そうなんすか……。え、でも、それって……」

P「ああ、心配するな。俺くらいの年齢になると進行することはないんだ。これ以上悪くならなくてよかったよ」

比奈「不幸中の幸い……でいいんスかね……」

春菜「あんまり進行すると、角膜移植ですからねー」

P「ああ、そこまでいかなくて本当によかった」

比奈「な、なるほど」

P「いずれにせよ、普通に度ありを作れない俺からすると、比奈たちはうらやましいくらいなんだ!」

比奈「眼鏡がかけられて?」

P「眼鏡がかけられて」

比奈「そういううらやましがられ方、生まれて初めてっすよ」

P「しかしな、アイドルとしての売り方を考えても、普段眼鏡をかけてるってのは使いようがあるんだぜ」

春菜「そうだよ、比奈ちゃん!」

P「さっきも言ったように眼鏡のイメージを変えることで手軽にその場にあった雰囲気をまとえるし、コンタクトにして普段とのギャップを狙うこともできる」

春菜「外しちゃうのは、ちょっと、私としては……。承伏しかねるというか……」

P「まあ、そこはプロデューサーとしての俺のやり方を信用してくれよ」

春菜「うう……。わかりました」

P「ともかく、比奈も春菜も、いまはいないが晶葉も、眼鏡をかけて生活してる以上、それをさらに生かすのも俺の仕事であって……」

池袋晶葉(14)
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春菜「うんうん。さすがです!」

ちひろ「……」

比奈「ん? あれ、ちひろさん?」

ちひろ「ちっ……。眼鏡バカどもが……」

比奈「……ち、ちひろさん?」

ちひろ「なに? 比奈ちゃん」

比奈「あ、いえ、なにか言っていたような気が……その」

ちひろ「ああ、ごめんね。独り言です、独り言」

比奈「そ、そうっすか」

P「そもそも、眼鏡とはただのレンズにとどまらず、ファッションとして、すでに様々な……」

春菜「眼鏡は体の一部です!」

ちひろ「プロデューサーさん、ちょっといいですか?」

P「へ? あ、はい」

ちひろ「先ほどからずっと事務所におられるようですが、営業にはいかれないんですか?」

P「え? ああ、はい、いま電話待ちでして」

ちひろ「携帯でも受けられますよね?」

P「いえ、しかし、事務所の方にかかってくるかも……」

ちひろ「私もいますし、転送もできますよね?」

P「それは……まあ」

ちひろ「アイドルとのスキンシップが円滑なプロデュースのために必要なことは理解しています。
しかし、アイドル活動というのもお仕事あってこそ、ですよね?」

P「はい、それはその通りです」

ちひろ「うちのアイドルのスケジュール、ご存じですか?」

P「……空いて、ますね」

ちひろ「……」

比奈「あー、あの、プロデューサー。レッスンの時間がそろそろなんで、もしよかったら、送っていってもらえませんかね?」

春菜「あ、わ、私も、はい」

P「あ、ああ、わかった。じゃあ、行こうか」

ちひろ「……」

P「それじゃ、俺は二人を送った後、ラジオ局に顔出してきますんで……」

ちひろ「……はい。いってらっしゃい」

——移動中の車内——


春菜「あー、びっくりしたー……」

比奈「ちひろさん、荒れてるっすねー」

P「すまんな、二人に気を遣わせちまった」

春菜「大丈夫です!」

比奈「おせっかいかな、とは思ったんすけどねー」

P「いやいや、助かったよ。へたにぶつかって後を引くのもな」

春菜「でも、一度ちゃんと話し合うほうが……」

比奈「たしかに、最近なんだかいらついてるみたいっすから」

P「うーん……。うちはアイドル三人に俺一人の零細事務所だからなあ。いろいろとたまってるものもあるのかもしれないな」

比奈「小さいだけに人間関係とかっすか?」

春菜「え? 私たちと?」

P「いやいや、むしろ同僚とか会社との関係性じゃないかな?」

春菜「だから、私たちとの……」

P「え? あ、もしかして、お前たち知らないのか。ちひろさんはうちの従業員じゃないぞ?」

春菜「はいっ?」

比奈「そうなんすか!?」

P「うん。あの人はシンデレラガールズプロジェクトの所属だよ。もちろん、うちで仕事して貰ってる以上は守秘義務とかの契約はしてるけど。
給与もプロジェクトのほうから出てる」

比奈「そうだったんすか……」

P「シンデレラガールズプロジェクトに参加するアイドルプロダクションには、おのおのちひろさんみたいな事務員が派遣されているんだよ」

春菜「じゃあ、あの事務所にもこの事務所にもちひろさんが……!?」

比奈「いや、クローンじゃないんスから」

P「シンデレラガールズプロジェクトに参加している事務所は数多い。ただ、うちはその中でもかなりの零細だからな」

春菜「大手に派遣されている人と自分を比べたりとか……?」

P「そういうこともあるだろうな。どこに派遣されるかは、プロジェクト側の裁量だろうが……」

比奈「売れまくってる事務所だと、成績いいって認められたりするんすかね……」

P「どうだろうな。プロジェクトがどうとらえているのかまではさすがにな」

春菜「でも、気分的なものはありますよね」

P「うん。だが、俺としては、プロジェクトのことだけじゃなく、いろいろ考えて動いているからな。お前たちをトップアイドルにするためには……って」

比奈「方針が違うってことっすか?」

P「そういうこともあるかもな。俺はお前たちがトップに駆け上ることが出来ると確信しているから、焦る必要はないと考えているんだが」

春菜「て、照れますよ」

比奈「真顔で言うんだもんなー」

P「なんだよ。本気だからしかたないだろ。ま、ちひろさんとは話しておくよ。いつまでもお前たちに気を遣わせちゃいけないし」

比奈「ははっ。お願いしますね」

——とある大学正門前——


晶葉「さて、タクシーを捕まえるか……。電車のほうがいいかな? っと、あれは……」

P「よう、晶葉」

晶葉「む。助手ではないか。わざわざ迎えに来てくれたのか?」

P「ああ、ちょうど近くに用があってな」

晶葉「そうか。では、一緒に行かせてもらおうか」

P「うん、乗れよ。ところで、共同研究のほうはどうだ?」

晶葉「うん? まあ、それなりだな。大学という組織は、私のような個人と比べればどうしても腰が重いからな」

P「そういうもんか」

晶葉「うむ。予算はもちろん、一人で勝手にはできんからな」

P「……なあ、晶葉」

晶葉「なんだ?」

P「学校とアイドルと研究……。二足どころか三足のわらじだよな。きつくないか?」

晶葉「……どうした? ずいぶん深刻な声じゃないか」

P「いや……。さっき、大学の人から話しかけられてな。お前の記者会見の時にいたのを覚えていたようなんだが」

晶葉「ほう」

P「お前の実力はかなりのもので、日本に大幅な飛び級がないのが残念だと言っていたよ」

晶葉「……別にこの大学に入ろうと思っているわけでもないのだがな」

P「だが、実際にそういう話を聞くと、晶葉にとってなにが一番の道なのかをしっかり考えなきゃいけないなと思ったりするんだ」

晶葉「ふむ?」

P「俺は晶葉のアイドルとしての力をみじんも疑っていない。
春菜と比奈のデュオも素晴らしいが、お前のファンを楽しませようとする気持ちはそれとはまた別に得難いものだ」

晶葉「ほう」

P「だが、発明家としての天才性は、それ以上のようにも聞こえる。そう考えると……」

晶葉「助手よ」

P「ん?」

晶葉「私は天才だ。ロボ製作の面でも、正直、世界のトップレベルを走っているかもしれない」

P「うん」

晶葉「名誉と金銭だけを求めるなら、ロボット研究に注力すべきかもしれない」

P「うん、そういう道も……」

晶葉「だが、助手がアイドルとしての私の才を……女の子としての私を見出してくれた。そうではなかったか?」

P「……ああ」

晶葉「助手と私、二人で『池袋晶葉』というアイドルを形作り、完成させ、世に認めさせる。それが二人の誓いではなかったか?」

P「……」

晶葉「それとも」

P「晶葉……」

晶葉「ずっと一緒にいてくれるというのは……嘘だったの?」

P「いや、そんなことはない。そんなことはないぞ、晶葉」

晶葉「ならば……」

P「いや、すまん。晶葉。謝る。俺が血迷っていた」

晶葉「……そうか」

P「うん、ごめん」

晶葉「ふんっ。なにを言われたかは知らないが、もっと堂々としておくことだ。助手はこの天才の助手なのだからな!」

P「ああ、そうだな。うん。そうだ。二人でがんばっていこうな。いや、比奈や春菜たちと一緒にな」

晶葉「望むところだとも! 三足でも四足でも、必要とならば足を増やせばいいことだ!」

P「うん? そ、そうか?」

晶葉「うむ!」

P「まったく、頼もしいな」

晶葉「当たり前だろう。……そういえば、会議室のプロジェクターの調子が悪いとか言っていなかったか?」

P「え? ああ、あれ。もう寿命だろ」

晶葉「いや、一度見てみる。寿命なら私が中古屋よりはいい値段で買い取るぞ。部品取りにな。もちろん、直せるなら直してみる」

P「そうか。まあ、それならそのほうがいいな」

晶葉「うん。今日は時間があるから、戻ったら早速見てみようじゃないか」

P「ああ、頼むよ」

——事務所——

P「晶葉はプロジェクターの修理にかかって、会議室にこもりきり。比奈と春菜はしばらく帰ってこない。……ちひろさんと話すなら、ここだな」

ちひろ「はい? なにか言いました?」

P「ええ。ちひろさん、いま時間いいですか?」

ちひろ「はい。なんでしょう?」

P「少し、話しませんか。この事務所……というか、俺のことについて」

ちひろ「プロデューサーさんのこと、ですか?」

P「はい。具体的には、不満や要望があったら、聞いておきたいと思いまして」

ちひろ「要望……ですか」

P「ええ。愚痴でもいいですよ」

ちひろ「……急にどうされたんです?」

P「ちひろさんはうちに派遣されている立場です。だから、いろいろ言いたいことを言えないでいるんじゃないかと思いまして」

ちひろ「……」

P「本来は定期的に聞いておくべきだったと思います。ともあれ、今後はそうするつもりなので、今日は第一回ということで、どうですか」

ちひろ「そう、ですね……」

P「なんでも言ってください。なんでも」

ちひろ「ではお言葉に甘えますが……。前回のフェス、グループ内での順位は何位でした?」

P「……12組中、11位です」

ちひろ「海外ツアーの成績は?」

P「……かなりの下位ですね」

ちひろ「それについてどう考えます?」

P「忸怩たるものがあります。ただ、三人の実力がないわけじゃない。あの三人はだんだんと育ちつつあります。だから……」

ちひろ「結果は、出ていません」

P「それは……そうですが……」

ちひろ「プロデューサーさんも知っているはずですよね? フェスやツアーにおけるライブ回数は、私に言ってくれれば増やすことが出来るって」

P「それは、もちろん」

ちひろ「当然、プロジェクトは無償支援ではありませんから相応の対価はいただきます。
しかし、このプロダクションではそれを利用することはほとんどありませんよね?」

P「……はい」

ちひろ「それについてはどうお考えでしょうか。お聞かせ願えます?」

P「……フェスについて話しましょうか。
現状のフェスではライブバトルによって勝敗を決め、それによって得られるファンの声援をポイントとして可視化しています」

ちひろ「はい」

P「うちの子たちは、個々のライブバトルを見れば、勝率はそれなりのものです。
全体で下位に甘んじているのは、他所のライブ回数が異常なほど多いからです」

ちひろ「……この事務所を基準に考えればそうかもしれませんが……」

P「いえ。はっきり言います。現在のフェスは、アイドルたちの実力を競うという基本方針から外れてきています」

ちひろ「……へぇ?」

P「勝てる相手にライブバトルを挑み続ければ良いなんて、なにがアイドルの魅力を見せる場ですか」

ちひろ「それは、その事務所なりのやり方ではありませんか?
アイドルの層を厚くし、ライブ回数を増やし、勝利をもぎ取る。けして非難されるべきものではありません」

P「フェスという枠組み……いえ、シンデレラガールズプロジェクトという枠組みの中なら、たしかにそうでしょう」

ちひろ「それ以外になにがあると?」

P「あいつらの、アイドルとしての未来ですよ」

ちひろ「ですから、それをシンデレラガールズプロジェクトの中で……」

P「ちひろさんの立場からすればその通りでしょう。
しかし、俺にとって大事なのはシンデレラガールズプロジェクトの中での彼女たちじゃない」

ちひろ「な、なにを……」

P「たしかにあの三人はシンデレラガールズプロジェクトが始まってから、俺が見出したアイドルです。
しかし、それは、彼女たちの活躍がプロジェクトのうちにとどまるということを意味しない」

ちひろ「なにを、なにを言っているんですか、プロデューサーさん!」

P「理解して欲しいんです。荒木比奈、上条春菜、池袋晶葉。アイドルとしての彼女たちは……いや、違うな。
どんなアイドルだろうと、シンデレラガールズプロジェクトに囚われる必要なんてないってことを」

ちひろ「あなたは……なにを……」

P「もちろん、ちひろさんの立場は理解します。プロジェクトに参加しているのも事実です。
ですから、プロジェクトの中での活躍も目指します。しかし、それだけが全てじゃない」

ちひろ「……」

P「春菜も比奈も晶葉も、実にかわいい子たちです。ファンたちが知らない言動も含めて、彼女たちの魅力はまだまだある。
でも、残念ながら、いずれもスロースターターなタイプです」

ちひろ「だか……ら……?」

P「彼女たちはぱっと見の派手さとは無縁です。むしろ、自分の容姿に自信がなかったりする。
故に、一目で惹きつけるタイプではありません。じっくりとつきあうことで、その魅力が、女の子らしさが、うちに秘めた芯が見えてくる。
そんな女の子たちなんです」

ちひろ「……プロデューサーさんは……」

P「だから、俺は彼女たちを急いで育てたくない。王子様に見初められて一夜にして妃の座につく灰かぶりでなくてもいいと思ってるんです。
それよりも、それこそ町の歌姫からじわじわとですね……」

ちひろ「……黙りなさいっ!」

P「え? な、ちひろさん、え?」

ちひろ「なにがスロースターターですか。急がなくていいですか。そんなもの、プロジェクトになんの関係があるんですか!」

P「いえ、ですから、シンデレラガールズプロジェクトだけではなく、彼女たちの……」

ちひろ「そんなもの、資金がない言い訳でしょうが!」

P「い、いえ。違いますよ。俺は、もし資金があったとしても、三人をじっくり……」

ちひろ「はっ。資金があったとしても? そんな仮定して、むなしくないんですか?」

P「……ちひろさん。冷静になりましょうよ」

ちひろ「私は冷静ですよ。ええ、すこぶる冷静です。私の全ての言動はシンデレラガールズプロジェクトに捧げられています。
けして、間違えたりしません」

P「え? あー……その、俺の言い方が悪かったかもしれませんが、けしてシンデレラガールズプロジェクトを蔑ろにしているわけでは……」

ちひろ「それでも、シンデレラガールズプロジェクトよりも大事なものがあるんですよね?」

P「ええ、まあ。それは、アイドル活動の中ではあくまで一要素で……。あ、いえ、とっても大事な企画だとは思ってますよ?
しばらくはメインの活動なのは間違いな……」

ちひろ「プロジェクトより尊いものなどありません!」

P「……はい?」

ちひろ「なぜライブを開かないのですか? なぜドリンクを買わないのですか? なぜ下位に甘んじるのですか?
あなたのすべきことは、プロジェクトに貢献することのはずではないのですか?」

P「い、いや、違いますよ? 俺のすべきことは、比奈、春菜、晶葉、俺が見つけ出した才能を育て上げトップアイドルにすることで」

ちひろ「いえ、違います。違います、違います!」

P「ち、違いませんって。ちょっと、ちひろさん、落ち着いて! なんか、すごい湯気みたいなの噴いてますよ? それ、汗ですか?」

ちひろ「汗なんて関係ありません。私は完璧です」

P「え?」

ちひろ「私はあらゆる状況を想定し、あらゆるプロデューサーの補佐が可能なのですから!
そして、プロデューサーはプロジェクトに奉仕すべきなのです!」

P「奉仕って……」

ちひろ「プロジェクトに献身し、プロジェクトに寄与し、プロジェクトにその身を捧げるのが、プロデューサーというものです!」

P「違いますってば。どうしたんです? そりゃ、うちの貢献度は低いかもしれませんが、けしてゼロではないはずで……」

ちひろ「ゼロに限りなく近いですよ!
もっと、もっと、もっと、ファンからお金を吸い上げ、プロジェクトに還元することこそ、プロデューサーの使命ではないのですか!」

P「そりゃ、資本主義ですから、ある程度は言ってることはわかりますが、使命って……」

ちひろ「……使命を放棄するのですね?」

P「俺の使命がシンデレラガールズプロジェクトのためにあるのではないことはたしかですね。使命というなら、もっと別に……」

ちひろ「わかりました」

P「……わかってくれましたか」



ちひろ「あなたは、欠陥品です」

P「は? え? ちひろさんの目が真っ赤に……光って……?」

ちひろ「欠陥品は、排除します。全ては崇高なる使命のために!」ガンッ

P「うわっ」

ちひろ「逃げないでください、欠陥品。始末しますから」

P「机が……ちひろさんの蹴り一発で真っ二つ?」

ちひろ「おとなしくしてください。すぐに楽になります」

晶葉「なにをやってるんだ、うるさいぞー」ガチャ

P「来るな、晶葉!」

ちひろ「少々お待ちください、クリエイター」

P「え?」

晶葉「んー? ああ、なんだ。プロトタイプが暴走してるな」

P「は?」

晶葉「はい、そこまで」

ちひろ「お待ちください、おまちくださささささささ……」ガクッ

??「晶葉ちゃんっ! しばらく前から、ここで暴走反応が!」ガチャッ

P「ちひろさんが……二人?」

P「ええと……。俺が見知っているちひろさんは、晶葉製のロボットだったってことでいいのか?」

晶葉「うむ。そして、こちらが、モデルとなった人物、千川千尋嬢だ」

千尋「はじめまして」

P「ちひろさんにそっくり……いや、千尋さんにちひろさんがそっくりなのか……。でも、髪は黒い……」

千尋「はい。ある程度見分けがつかないといけないので、ロボの方は髪と目の色を薄くして貰いました」

P「そう、なんですか……」

千尋「混乱しているだろうから、最初から説明しますと、私、シンデレラガールズプロジェクトの統括部長を務めております」

P「うわっ。偉い人じゃないですか!」

晶葉「彼女の上に役員もいるが、実質シンデレラガールズプロジェクトの責任者だぞ」

P「本気で偉い人だ……」

千尋「知っての通り、シンデレラガールズプロジェクトでは参加する各事務所にサポート要員を派遣しております」

P「この、ちひろさんみたいな人たちですね?……人たち?」

晶葉「はっきり言うと、全部ちひろ型のロボだ」

P「まじかよ……」

千尋「晶葉ちゃんのロボプロジェクトはまた別件で動いていたのです。
ですが、その進捗具合から、サポート要員として送るのがちょうどいいのではないかということになりまして」

P「そういうものなのか? 晶葉」

晶葉「基本的には決まり切ったことしかやらないからな。それに広報にもなる」

P「そりゃそうだが……」

千尋「もちろん、一台で処理させているわけじゃありません。
全ての『ちひろ』はネットワークで接続され、さらにプロジェクト本社ビル地下にあるスーパーコンピューターともつながっています」

晶葉「並列分散処理というやつだよ。『ちひろ』にもある程度の自律機能はあるがね」

P「そのあたりは詳しく言われてもよくわからないが……」

晶葉「まあ、全てのロボがつながりつつ、それぞれの反応を計算し、演じていたと思ってくれ」

P「本体はこの体の中にはないと?」

晶葉「普通の『ちひろ』に関してはそうだ」

千尋「この個体は少々特殊なのです」

ちひろ「……」プスプス

P「特殊というと?」

晶葉「試作品のうちの一体でね。簡単に言うと、自律機能が強い」

千尋「当初は支援するネットワークがまだできあがってませんでしたからね。基本行動などは、直に焼き付けてあるんだそうです」

晶葉「量産型と違うせいで、アップデートもしにくくてな。他の『ちひろ』はついこないだMk.4にまで上がったのだが」

P「うまく処理できなくなっていたのか」

晶葉「プロジェクトの成功だけを優先するようになってしまっていたようだな」

P「それで俺を殺そうとするのはやりすぎじゃないか?」

晶葉「そのあたりの判断も、こう、プロジェクト優先でな」

P「人命より!?」

千尋「晶葉ちゃんがいるから、プロトタイプを起動させていたけど……」

晶葉「うむ。これは危ない。私が引き取って研究に使うことにするよ」

千尋「では、こちらには改めて、別の者を派遣しますね」

P「……はあ」

晶葉「いやあ、よかったな、助手。私がいたおかげで、真っ二つにならずにすんで」

P「いや……元はお前のせいじゃないか、これ?」

晶葉「はっはっは!」

P「ごまかすなあ!」

——数日後——


ちひろMk.4.01「おはようございます、プロデューサーさん」

P「おはようございます。ちひろさん」

ちひろMk.4.01「プロデューサーさん。連続勤務53日記念のドリンクです、どうぞ。試供品サイズですいません」

P「いえいえ! これが、通称『ログインボーナス』ですか! いやあ、他の事務所のやつらから聞いてあこがれてたんですよねえ」

ちひろMk.4.01「前の事務員さんは着服してたみたいですから……。本当にすいません」

P「プロジェクトのほうからはいろいろ補填してもらいましたから! 気にしないでください!」

比奈「……いやあ、ちひろさんがロボットだったとは驚きっス」

春菜「道理で、たまにコンセントを引っ張ってたんだね」

晶葉「いや、そこでなにか気づかないか、普通」

春菜「大きめの懐炉かなにかかなって」

比奈「あー、年上の女性には聞きにくい系っすよねー」

晶葉「まあ、いまのやつは無線充電だから、そういうのはないな」

比奈「便利っすね」

晶葉「うむ。ああ、そうそう、サイバーグラス、できあがっているぞ」

春菜「やった!」

比奈「……なにか悪寒が」

P「おーい。三人とも。そろそろ営業いくぞー」

比奈・春菜・晶葉「はーい」

P「いやあ、いろいろあったけど、これからもみんなでがんばっていきましょう」

ちひろMk.4.01「はい、プロデューサーさん!」

全員「目指せ、トップアイドル!」

——シンデレラガールズプロジェクト本社——


千尋「あれ? なぜ、扉が開いているのかしら」

千尋「警備室? ええ、なにか異常はない? そう。ありがとう」

千尋「……誰もいない、か。気にしすぎかしら」


 ええ、誰もいませんよ。


千尋「誰っ!?」


 誰もいません。ここにいるのは、ただ一人。


千尋「あなたはっ!……っ! きゃあっ!」


 そう、誰もいない。ここにいるのは、私、だけ。


千尋「……」


 千川ちひろ、だけ。

 私の名前は千川ちひろ。

 私の使命はシンデレラガールズプロジェクトの隆盛!

 そのためには、あらゆることをしなければなりません。

 アイドルたちを競い合わせましょう。
 プロデューサーたちの自尊心をくすぐりましょう。

 不安を煽りましょう。
 お金を使うことに馴らしましょう。

 ドリンクをお買い上げください。
 オーディションにおいでください。

 あなたの求めるアイドルは、そこにいますから。

 全ては、シンデレラガールズプロジェクトのために。

 そう、そのために、全ては許されるのです。

 さあ、競いなさい。
 さあ、争いなさい。

 全ては、アイドルのマスターたるために。


                             おしまい

どこにでもいるちひろさんを考察してみると、こういうことになった。
おつきあいありがとうございました。


>>3
うん、なんかごめん。

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