まどか「あの子の名前を」 (488)

QB「――暁美ほむら」


ほむら「…」


QB「もし、もう一度君に祈ることが赦されたとしたら……君は何を願う?」




ほむら「……え?」

最近ここで ほむら「まどかを助けることができた世界」と まどか「すわんそんぐ」というスレを立てたものです
これはその続きでこれで最後になります
もう最後まで書き終えているので、厚かましいようですが、さるよけの支援を頂けるとありがたいです…

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――まどか。




ほむら「……ねぇ、まどか…」

まどか「…」


ほむら「…私、もう疲れちゃった…」


まどか「…」





まどかはただ私を見つめている。

ほむら「…私、もう耐えられないの…」


まどか「…」


ほむら「…あなたを見てるとね、すごく痛むの。いたたまれないの」


まどか「…」


ほむら「………まどかぁ…」


ほむら「…最後に…これで最後だから…」


ほむら「…あなたに、泣きついてもいいかな……」


まどか「…」




ギュッ…

ほむら「…」


まどか「…」


ほむら「…」


ほむら「…ねぇ、まどか…」

ほむら「…一緒に…死のう……?」



まどか「…」








――――
――――――――
――――――――――――――――――

ザシュ・・ザシュ・・・






ほむら「……」


まどか「…」





ガッ・・・ミチミチィ




ヌチャア・・・





グチャ・・・グチャ・・・

ほむら「……」


まどか「…」


ほむら「……」


ほむら「……なんで死んでくれないの」


まどか「…」


ほむら「……なんで何も言ってくれないの…」


まどか「…」


ほむら「私はあなたにここまで尽くして…」


ほむら「私は全てあなたのために…!」

ほむら「私は…」






ほむら「私は――」

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~~~~~~~~~~~~~~~~~
~~~~~~~~~~~






ほむら「――ッ!!」パチッ



魔女『アギャ!?』



ほむら「……」




私は…。

ほむら(……確か、この医者気取りの魔女からスプレーのようなものを吹きつけられて…)




ほむら「……幻覚ってわけね…」



魔女『アギャギャ! アギャギャギャギャ!』



使い魔『・・・! ・・・!』ワシャワシャ

ほむら「……嫌なものを見せてくれたわね…ッ」ギリッ・・・


魔女『ギャッ!? ギャギャギャギャ!』


使い魔『・・・! ・・・!』ワシャワシャ


ほむら「……ッ」



凄んではみせたけど、今のこの絶望的な状況は変わらない。

ほむら「……ッ」



私は今、手術台と思しき古めかしい木質の台座に寝かせられている。


いや……磔にされてると形容した方がいいのだろうか。


首、手首、足首のそれぞれが台に内蔵された錠で固められ、大の字…いや、どちらかといえば十の字の形にとらわれている。


まさに手も足も出ない状況。


絶体絶命だった。

魔女の風体から察するに。


当人にしてみれば、さしづめお医者さんごっこ……手術ごっこというつもりなのだろうけど。


私からしてみれば、狂った科学者のイカれた人体実験とか、拷問官による悪趣味な拷問としか思えない。


だとしたら私がいま寝かしつけられているこれは手術台なんかではなく、実験台とか拷問台ということになるのだろうけど。


……いずれにしてもぞっとしないことだ。

魔女『アギャ・・・』


ほむら「……」




魔女は私の様子を伺い何やら逡巡するような素振りを見せたが、ぶるりと大げさに身を震わせたあと、何か迷いを吹っ切ったような様子で、悠然とした足取りで近づいてくる。

魔女『…』


ほむら「……ッ」



魔女がすぐそばで立ち止まり、視診する風に、私を俯瞰する。


図体が大きく、この世のどの生物とも異質なその見た目は、それだけで威圧感があり。



原始的な恐怖感を、この上なく掻き立てる。

ほむら「…っ…っ…っ…」



心臓が早鐘のように脈を打つ。


頭に圧迫感を感じ、視界が揺らめく。


呼吸が、震える。

魔女『…アギャ』スッ・・・


使い魔『・・・』ヒョイ



魔女のいびつで細長い腕。


その手に握られているものは……。



メスだった。

ほむら「…はっ…はっ…はっ…」




無意識のうちに呼吸は苦しいほどに荒くなり。


体が緊張し、全身が粟立つ。


嫌な汗が吹き出る。

ほむら(早く……早く……何とかしないと……)



このまま――。




ほむら「はっ…はっ…はっ…」




思考が、まとまらない。

魔女『…』



魔女が、私の腹部に手をあてる。


魔女の手は、冷えた金属のように冷たく、無機質で。


その感触に、ぞっとした。


そして服を胸元までずり上げ、素肌をさらさせた。



ほむら「……ッ…」



その決して能率的とはいえず、確かな素養があるとも思えないその子供じみた拙い所作が、一層恐怖感を煽る。



気が狂いそうだった。

ほむら(……とりあえず…気を落ち着けないと……)



……とは思いつつも、目は魔女の片手に握られた鈍く光るメスを追ってしまい……。


そのメスが、患部と見定めたであろう私の腹部へ迫り――。




魔女『…』


ほむら(……ッッ!)




ガゴンッ

ほむら「――ッッ」



魔女『アギャッ!?』



私は僅かに動かせる首をできる限り持ち上げ、出せる限りの力で後頭部を台に打ち付けた。


頭を冷やし、思考を改めるために。



魔女『ア・・・アギャ?』



魔女は私の奇異な行動を不審に思い、手を止めているようだ。

ほむら(……)



私は、死ねない。



ほむら(まず冷静になって…この場を打開できるような策を…!)

この魔女は銃撃があまり有効ではない。


この魔女には自己再生能力があるらしく、銃撃に対して痛がる素振りは見せても、傷は瞬く間にふさがっていった。


だから私は再生が追いつかないほどの手傷を与えようと、いつも通り爆弾を用いての決着を試みた。


だけどこの魔女は思いの外すばしっこく、トリッキーというかコミカルというか、そんな動きでなかなか思い通りに動いてこない。


だから手榴弾、TNT、C4といった手持ちの爆弾類を使いあぐねていた。

そこで私は仕掛けて置くおくことが無理ならと、今度は仕向けてみる事にした。


ただ単に逃げ回るように見せかけ、その最中にわらわらと動き回る使い魔の一匹に、爆弾を貼り付けた。


其処彼処を自由に動き回る使い魔と魔女が交差する瞬間――。


後は期を待つのみだった。

私は焦点をこの魔女に定めつつ、その使い魔の動きも同一視できるようにして期を窺った。


そして私は魔女に追い詰められたように見せかけ、ジリジリと迫り来る魔女と、それを案じるかのように主人のもとへ駆け寄ってくる使い魔の双方に神経を尖らせた。


――後は起爆させるだけ。


その次の瞬間。


魔女に意表を突かれ、思いもよらなかった攻撃を食らった。


魔女は後ろに手を回し、どこからか取り出したスプレー缶のようなものを手にとり。


それを私に吹き付けた。



――そこで私は気を失い、今に至り、事ここに至るというわけだ。

ほむら(………もしかしたら……)


この魔女は、さっきメスを取り出すときに、何かから受け取るような素振りを見せた。


そして、台座が邪魔で見えないけど、何やら近くにわらわらと蠢くものの気配がする。



――あの時、爆弾を貼り付けた使い魔が近くにいるのかもしれない。

ほむら「……ッ」



――迷ってる暇はない。


躊躇ってる時間もない。



ほむら「……ッ!」



カチッ





――私は形骸化した盾と連動させた起爆装置を作動させた。

ドゴォ!!!



魔女『アギャアアア!!?』



使い魔『・・・!!?』



ほむら「……ぐッ…!」

ほむら「……ッッ」



――上手くいった。



…何とか絶体絶命の窮地を脱することができた。




ほむら「……」



台座が上手く爆発を緩和してくれたようで、私の損傷は爆砕した手術台の木端によるかすり傷と、片方の鼓膜を少々傷めたのみ。


想定よりも非常に軽微なものだった。


日頃の行いにも因果にも自信はないけれど、なんという僥倖だろう。


素早く体の具合を確かめてすぐさま立ち上がり、対敵である魔女を見据える。

魔女『アギャー!! アギャー!!』


ほむら「……」



この魔女にとっての肉体であろう手術衣が大きく裂け、そこから結構な量の血のようなものが吹き出している。



魔女『アギャギャ! アギャ!』


使い魔『・・・! ・・・!』ワサワサ



魔女が何かしらの指示を出したからか、使い魔たちが手負いの魔女に群がる。


――どうやら大きな傷を負った際は使い魔に治療させるらしい。

ほむら(今なら…!)



盾から手榴弾を取り出してピンを抜き、すぐさま魔女に投げつける。



魔女『ギャ!?』




――二度目の爆音が響く。

ほむら「……ッ」



……仕留め損なったか。




魔女『アギャギャ! アギャギャ!』




手榴弾はピンを抜いて爆発するまでラグがある。


その隙に――その短時間に治療を終え、見事に爆発を回避したようだ。

魔女『アギャー! アギャー!』



魔女は酷くご立腹なようで、先ほどのメスと、どこからか取り出したハサミを手に早くも臨戦態勢に入っていた。



ほむら「……」



爆撃は有効、か。


銃撃はいまいち。


――なら斬撃ならどうか。



ほむら(…備えあれば患いなし、ってとこかしら…)

――時間操作能力を喪失する前。


暴力団関係と思しき事務所から、どうにもきな臭い物品を拝借していたとき。


その際に見つけた、日本刀。


どんくさい私のことだからと使えないと思ったけど、後で何かの役に立つかとも思い、ついでにと取っておいたものだった。

ほむら「……」スッ



盾から日本刀を取り出し、鞘を抜く。


刀身は怪しく艷やかで、抜き身になった刀は空恐ろしく思えたけど、今はそれも頼もしく感じる。



ほむら(剣術の素養なんて持ち合わせていないけど……)


ほむら「………」



片手に持った鞘をどうするか考えていたら、どうやら痺れを切らしたらしい魔女が怒り心頭といった様子で駆け出してきた。

――来る。



魔女『アギャギャギャギャア!』




私は鞘を投げ捨て、柄を両手で持ち直し、縋るような気持ちで力を込めた。



ほむら「…ッッ!!」




―――――
―――――――――
―――――――――――――――

魔女『アギャアァ!』ブンブン


ほむら「……ッ…、………ッ!」カッ…キィン…



――攻撃が深く入らない。


さっきから斬り合っては離れ、斬り合っては離れといったことの繰り返し。


こっちの攻撃は魔女の手術衣を浅く裂くだけで、それも次の斬り合いでまみえる頃には跡形もなく再生してしまっている。


私は魔女の攻撃をかろうじて捌きつつも、並々ならぬ腕力に圧倒され、何度も突き飛ばされつつも何とか命からがら応戦しているといった感じだ。

もちろんこちらが無傷ということはない。


体には無数の細かな裂傷が刻まれている。


こちらが劣勢なのは一目瞭然だ。



ほむら「……ッッ」



……一撃だけでいい。


下準備はさっき終えた。


後は破れかぶれでも、こいつに一太刀浴びせることができたら。


先と同じように使い魔たちに治療させることができたら――。

刃を交える度に、冷や汗を伴った緊張が走る。


普段の、銃火器の使用を主として戦う時とはまた別種の命のやりとりに身が縮む。


さっきから細かな隙を見つけては目ざとく斬りかかっているが、どれも決定打には至らない。


ほむら(……隙を作る必要があるわね……)

ほむら(この魔女に銃撃はあまり効果がない。でも決して無効というわけでもない…)


ほむら(この魔女は自己修復能力があっても、痛みに対して鈍いということは無かった…)


ほむら(なら…!)スッ・・・



魔女『アギャアアアア!』ドタドタドタ



ほむら「…ッ!」チャキッ



パパンッ

魔女『アギャアア!?』




ほむら(今だ…ッ!)




脳天を打ち抜かれて悶絶する魔女に対して一気に詰め寄り――。



その胴体を、大きく切り裂いた。




魔女『アギャアアアアアアアアア!!!!』



今までよりも一際大きい、絹を割くような悲鳴が響き渡る。

魔女『アギャァ!! アギャー!!』



――この使い魔たちは、魔女が大きな傷を負った時に魔女に群がり、その傷口を治療している。



使い魔『・・・! ・・・!』ワラワラ・・・


ほむら「……」



魔女との鍔迫り合いの中、私はわざとこの使い魔の群れに突き飛ばされるように流れを誘導していた。



使い魔『・・・! ・・・!』アセアセ



そしてその使い魔たちの中に突き飛ばされたとき、どさくさに紛れて先と同じように数体に爆弾を貼り付けた。

ほむら「……」スッ



後はその使い魔の習性を利用するだけ……!



魔女『アギャギャ! アギャ!』


使い魔『・・・! ・・・!』ワサワサ

ほむら「…これで…終わりよ……!」カチッ




ピピ・・・゚ピピピピピ・・・




魔女『ア――』







―――――
―――――――――――
――――――――――――――――――――

――シュウウゥゥ・・・




キィン・・・



コロロロロ・・・




・・・ポトリ





ほむら「………やった…」



今回も……生き延びることができた。

ほむら「……」



張り詰めていた緊張の糸が切れ、思わずその場にへたりこんでしまう。




GS『 』コロコロ・・・



ほむら「……」



私の善戦を労うかのように、都合よくこちらにグリーフシードが転がってくる。

シュウゥゥゥ・・・



ほむら「……ふぅ……」


ほむら「……」



今回は肉体的なダメージよりも、精神的なダメージの方が大きかった。


麻酔なしで、必要としない手術を施される恐怖感。


しかも、それはどうにも子供が見よう見まねでやってみようといった風で……。


そんな風に遊び半分で体をいじくり回されたらたまったもんじゃない。

…思い出すだけで身が竦むようだ。



ほむら「……」



……それよりも――――。



ほむら「…っ」



いや、今しばらくはこの生き延びたという安堵感に浸っていよう。

ほむら「……」


ほむら(そういえば、さっきグリーフシードと一緒に何か落ちてきたような…)


ほむら「……」



あたりを見渡すと、確かにそれとめぼしいものがあった。



ほむら(……くまのぬいぐるみ……)

ちょっと先の方に、くまのぬいぐるみが私に背中を向けて横たわっていた。


この猥雑な落書きだらけの高架下には不似合いなものだ。



ほむら「……」



なんとなく近づいて見てみると、それは意外と新しいもので。


そのくまは、後生大事そうに小さな封筒を抱えていた。

ほむら「……」



私はその封筒に手を伸ばし……。



ほむら(……)



――途中で手を引いた。



ほむら「……」



……関係のないことを、わざわざ知る必要もないだろう……。

ほむら「……私には、関係ないわ…」


ほむら「…………関係ない……」



ほむら「……」

どこからか、電車が過ぎる音が聞こえる。


町はすっかり夕日の朱に染まっていて、どこか疲れたような、何か物憂いような。そんな様相を呈していた。


そんな気知らずとばかりに、どこからか子供が楽しそうな声を上げて、何処かへと走り去っていく。


子供たちの声が遠のき、やがて聞こえなくなると、寂寥感が辺りをゆっくりと浸していった。

――――――
――――――――――――
――――――――――――――――――――――




ほむら「……ただいま」



ほむら「……」



ほむら「……」

ほむら「……まどか?」



階段先に向けて声を投げる。


返事がないのはいつものことだ。



ほむら「……」



……だけど、家の中はいつもよりもやけにひっそりとしているような気がして……。

ほむら「…っ」



私は階段を駆け上がった。


あまりに慌ててたものだからか、途中で段を踏み外してしまい、馬鹿みたいにつんのめってしまう。



ほむら「……ッ」




――まどか。

……なんでだろう。


無性にまどかに会いたい気持ちと、よくわからない不安が私の中を駆け巡る。



――階段を上がって、二つ目の部屋。


私が帰ってくると、まどかはいつだってそこにいて。




――今となってはそれが当たり前のはずなのに。

ほむら「……っ…、……」



ドアの前で立ち止まり、荒んだ呼吸を整える。


……嫌な感じが、消えてくれない。



震える手で、ドアノブに手をかける。

ほむら「……まどか?」



ほむら「…」




そこにまどかはいなかった。

ほむら「……」



ほむら「……まどか…」



ほむら「……」



ほむら「……ッ」



―――
――――――
―――――――――

家中探してみても、まどかは見つからなかった。



ほむら「…………」




――まどか。

ほむら「……っ」



まどか、どこへ行ったの?




ほむら「……まどかぁ……」




涙が溢れて、景色が滲んだ。

外は既に日が落ちている。


街頭もろくにないこの辺り。


道として整えられていない林の中にでも迷い込んでしまったとしたら、見つけ出すのは難しい。



ほむら「…………」



私は懐中電灯を手に、庭先の林に駆け込んだ。

―――
――――――
――――――――――





ほむら「まどかぁーー!」



棘がついた雑草が足に絡まる。


不意に出てくる木の枝が、頬を掠める。



ほむら「……っ…、…まどかぁーー!」

――まどか。



私の、まどか。




私には…あなたがいないとだめなのに。

ほむら「……まどかぁ……」



声はいつの間にか涙声に変わっていて。



縋るような声音で。



迷子になった子供のようだった。

――――
―――――――
―――――――――――――




闇雲に、無我夢中に探し回り、泥やら雑草やらにまみれて林を遮二無二突き進んだ。


すると私はいつの間にか林を抜けて、あの時の砂浜に出ていた。


あの時、一度行ったきりの砂浜。



――そこに、まどかはいた。

まどか「…」



この寒空の下、まどかはいつもの寝巻き姿のままで。


前と同じように、波打ち際に立って。



澄み切った夜空を見上げていた。

ほむら「……」



町中のように余計な光源もなく、遮るものもない、この砂浜から見上げる星空は。



ほむら「…」



まるで海のように深く、大きく。


そこに浮かぶ星たちは彩り豊かな宝石のようで。


――それは誰も手が届かない秘境のように、雄大で、幻想的で。


その美しさに魅入られて、今にも空に落ちていってしまいそうだった。

ほむら「……」


まどか「…」



まどかはそんな空に手を伸ばし――。



ほむら「――っ」



まどか「……」




私はまどかに走り寄り、その体を抱き寄せた。

ほむら「……」



まどか「……」




まどかが落ちてしまわないように。




――まどかがどこにも行ってしまわないように。

ほむら「……」


まどか「…」

まどか「…」


ほむら「……」


まどか「…」


ほむら「……ねぇ…まどか……」


まどか「…」

ほむら「…どうすれば…ずっと私といてくれる…?」


まどか「…」


ほむら「…どうすれば…あなたのそばにいられるの……?」


まどか「…」

ほむら「…ねぇ…まどかぁ…」



……私には、あなたが必要で…。




ほむら「…っ…、…………」




――だから。





わたしをひとりにしないで。

ほむら「…………」


まどか「…」


ほむら「…っ………」


まどか「……」

まどか「……ねぇ…」


ほむら「…………」



まどか「……みんなは…どこなの……?」



ほむら「――――」



まどか「……」

……なんでだろう。


そう言うまどかの顔は、いつもと変わらず、感情に乏しいような顔なのに。


その瞳には、今にも零れそうなほど涙をたたえてて。


その顔は、私が見てきたどの表情よりも感情的で。


まどかの言葉は、失ったものを希い。


請い、願うようで。



――とても、哀しげだった。

ほむら「……」


まどか「……」


ほむら「…………」


ほむら「……………………」

そんなまどかを見ていると、どうしようもない痛みが私を苛み。



どうしようもないいたたまれなさに、身を焼かれる。

――それは私にとってこの上なく辛辣な問いで。


私は答えられない。


答えることが、できない。


だって。



ただでさえヒビだらけのこの世界が、それで決定的に壊れてしまいそうだから。

ほむら「………………」


まどか「…」

どうしてこの世界はこんなに無情なのだろう。


どうして思い通りになってくれないんだろう。



……どうしてこの世界には救いがないんだろう。



私は。



この子が笑っていられるような、そんな幸せな世界を望んだはずなのに。

――――
―――――――
――――――――――――





ほむら「…」


まどか「…」






どれくらいの時間が過ぎただろう。


気がつけば、二人ならんで空を見上げていた。

ほむら「…」


まどか「…」





私たちは寄り添いながら。



温めあうように。



この世界に確かにある互いを確かめ合うように。



空を見ていた。

ほむら「…」


まどか「…」





いっそ、このまま世界が終わってもいいと。


そう思えた。

―――
――――――
―――――――――









「やあ」



ほむら「……」


ほむら「…キュウベぇ」

QB「こんばんは、ほむら」


QB「ちょっといいかな」


ほむら「消えて」

QB「…ずいぶんな言い草だね」


ほむら「今の私にはあなたを相手にできる余裕がないの」


QB「…」


ほむら「…今は…ふたりきりにさせてよ…」


QB「…」


ほむら「…」

QB「…暁美ほむら」


ほむら「…」


QB「もし、もう一度君に祈ることが赦されたとしたら……君は何を願う?」



ほむら「……え?」

QB「暁美ほむら。君ならまどかの因果の新しい器になって、その因果を一身に受け入れることができる」


ほむら「…………」




何を……言って……。




QB「なに、そう難しく考えなくてもいい」


QB「君が時間軸を移動することによってまどかに巻き付いた因果の糸を、君が巻き取る…いや、巻き戻すとでも考えてくれればいい」

ほむら「……そんなこと……ここにきてそんな都合のいいこと……できるわけないでしょ……」


QB「出来るんだよ」


ほむら「……」

QB「偏見でものを言うのは頂けないないな」


QB「どんな都合のいい事実も、理不尽な現実も。全てはそうあるべくして在るものなんだから」


QB「そうあるなら甘んじてそう受け入れるしかない。違うかい?」


ほむら「……」

QB「とまあ最もらしいことは置いておいて。ちゃんと事を筋立て説明するとだね」


QB「この前は君に、ワルプルギスの夜との相似性から、ワルプルギスの夜は君が魔女になったものと提唱したね?」


ほむら「……えぇ……」


QB「何も話はあれで終わりというわけじゃないんだ」

QB「暁美ほむらはワルプルギスの夜と裏付けがとれたところで、稀有な例として、新たな発見としてはまあそれなりに有益だったとは言えるけどね」


QB「だけどそれはあくまでそれまででしかなくて、だからといって実際問題、宇宙全体のエネルギーとしての観点から見れば何の利益もないだろう?」


QB「本質はその先にあったのさ。君の魔法少女としての本来の、出せ得る限りのポテンシャルを量ることにね」


ほむら「……」

QB「ワルプルギスの夜は、様々な魔女の波動を集めてあそこまで強大な存在となった」


QB「その、他の力を取り込むことができる能力。そして底なしとさえ思える力の許容量」


QB「それが何より肝要で、魅力的で、この上なく理想的だったんだ」


QB「そして、極論のようだけど、それは当然君の中にも眠っているはずなんだ」


QB「できないとは言わせないよ。端的に言うなら、君は今までやらなかっただけ。そんな必要も機会もなかっただけなんだから」


QB「要は、君はその眠っている力を意識出来なかったわけで、その力が確かにあると裏が取れた今ならできるはずだ」



ほむら「…………」

QB「ましてやその対象がまどかなら。…僕が言うのもなんだけど、造作もないことさ」


QB「元は君が時間遡行を重ねることで生じたものなんだからね」


QB「イメージでいうなら、さっき言ったように、今度は逆に巻き取る…巻き戻すとでも考えてみるといい」


ほむら「……簡単に言ってくれるわね……」


QB「当事者じゃないからね。客観的に、できそうなことを有り体に言ってるだけだから」

ほむら「……」


QB「…」

QB「…僕たちは、まどかが魔法少女になれないと知ってから、今だ眠るその因果の力を引き出せないか研究してきたんだ」


ほむら「……」


QB「まどかは以前より確実に回復してきている」


QB「もしかしたら、また魔法少女に成りうる時が来るかもしれない――そう遠くない未来にでもね」


ほむら「…っ」


QB「でも、来ないかもしれない」


QB「実は因果なんて、その期を失えば、何事もなかったこのように消失してしまうほど儚いものなんだ」


QB「だから、元も子もなくなる前に、遅きに失する前に何とかしたいというのが本当のとこなんだ」


ほむら「……」

QB「君だって現状に満足していないんだろう?」


ほむら「……」


QB「まどかの因果を手中に収めることができたなら、君の望みはなんだって叶う」


QB「再び過去をやり直すことも」


QB「そうでなくとも、いまのこのまどかの感情を都合よく戻すことだってできる」


ほむら「……」


QB「ここにきて利害が一致するわけだ。だから…」



QB「どうかお願いするよ、ほむら」

ほむら「…………」


QB「…」

ほむら「……この前は散々生意気言っといて…利用できるとわかったら今度は頼み込んで…。都合がいいのよ…」


QB「僕としては事実をありのまま言ったまでで、そんなつもりはなかったんだけど。でもそれが君の癇に触ったというのなら謝らせてもらうよ」


ほむら「……まぁ…いいわ……」




――衣装を魔法少女のそれに切り替える。

まどか「…」


ほむら「…まどか」


まどか「…」

まどかはただ私を見つめている。


でもあまり穏やかではない空気を察してか、その顔はどこか不安げにも見える。



ほむら「……心配しないで。すぐに済むから…」


まどか「…」

QB「多分、別種の膨大な因果のエネルギーが君に流れ込む影響で、君は一度、本来の――といっても今はほぼ形骸化している、その魔法少女としての能力を喪失するだろう」


QB「要するに、君は人間に戻ってしまうわけだ」


QB「そして君はまどかの因果を受け継いだ少女として、新たに願うことを赦される」


QB「――さあ、ほむら。やってごらん」



ほむら「……言われなくても、やってやるわよ…」

左手を、そっとまどかの胸にあてる。


まどか「…」


ほむら「……ちょっと我慢してね…」




そして。



壊れた砂時計を反転させた。

>>240
修正




まどかはただ私を見つめている。


でもあまり穏やかではない空気を察してか、その顔はどこか不安げにも見える。



ほむら「……心配しないで。すぐに済むと思うから…」


まどか「…」

ほむら「――ッッ!!」




時間操作能力の形骸。


今や飾りどころかがらくた同然の割れた砂時計。


その砂時計の割れた部分を通して何かが流れ込んでくる。


あまりにも膨大な、何か。




ほむら「……ッ…!」

砂時計が砂ではない何かで満たされていく。


それがいっぱいになると、今度はそこを通して体に何かが流れ込んできて――。



ほむら「ッ!! ……かっ…は……」



意識が激しく揺さぶられて、視界が明滅する。


内側から何かが溢れてきて、はち切れそうになる。



ほむら「…ぁ………っ…」




やがて世界が眩むほどの白一色に染まって――。

ほむら「――…はっ……」



不意に、流れが弱まる。



ほむら「…………」



砂時計を見ると、割れた部分がみるみるうちに塞がっていく。



――そして、以前と同じような状態に戻ると、流れくる何かもそこで止んだ。


ほむら「…………」


そこから人心地つく前に、私の魔法少女の衣装があっけなく雲散霧消して、私は元の私服姿に戻った。

ほむら「……」



まどか「…」


ほむら「!」




まどかは気を失ったようで、その場にゆっくりと崩れ込んでいく。


私はそのまどかを支えて、その体を優しく横たえる。

QB「…うまくいったようだね」


ほむら「……お陰様でね」


QB「それはよかった。ところで、どうだい? 久しぶりに人間に戻った感想は?」


ほむら「…別に…大して変わらないわ…」



ただ、人間に戻っただけ。


そこに何の感慨もない。

QB「…」


ほむら「……」



キュウベぇは、何やら私を品評するかのように見ている。


言われるがままにやってやったというのに、何か不満でもあるのだろうか。

QB「…まぁ、こんなものだろう」


ほむら「……」


QB「でも、十分すぎるくらいだ」


ほむら「……」



何やら引っかかるようなことを口にする。


……どうせまたろくでもないことだろう。


でもここはあえて言及しないでおく。



それはもう私には関係のないことだから。



――願い事は既に決めてある。

QB「さて」


QB「じゃあ本題に移ろうか」


ほむら「……」

QB「暁美ほむら」


ほむら「……」


QB「数多の世界の運命を束ね、因果の特異点となった君なら、どんな途方もない望みだろうと叶えられるだろう」


ほむら「…そう」


QB「さあ、暁美ほむら――その魂を代価にして、君は何を願う?」



ほむら「……」



ほむら「……私は……」

ほむら「――――――」

QB「――なっ…」


ほむら「…」


QB「その祈りは……そんな祈りが叶うとすれば、それは時間干渉なんてレベルじゃない!」


QB「因果律そのものに対する反逆だ!」


QB「――君は、神にでもなるつもりかい!?」



ほむら「……神様でも何でもいいわ。この際願いが叶うのならば、悪魔だっていい」

――魔法少女が絶望とともに魔女になり果てるというのなら。


私が魔女になり、私という存在がまどかを不幸にしてしまうのなら。


そんなものが生まれないような世界に書き換えてしまえばいい。

――そして何より、魔法少女の最後を絶望なんかで終わらせたくない。



その身を捧げてまで願ったことを、祈ったことを、無駄になんてしたくない。



希望を持つのが間違いだなんて、そんなの私は認めない。

QB「……」


ほむら「……」


QB「君は…その願いがどんなものなのかわかっているのかい?」


ほむら「……どうかしらね…」

QB「君は、未来と過去と、全ての時間で永遠に魔女と戦い続けることになる」


QB「そうなれば、君は君というという個体を保てなくなる」


QB「未来永劫に終わりなく、魔女を滅ぼす概念として、この宇宙に固定されてしまうんだ」


QB「そうなれば、君がこの世界に生きた証も、その記憶も、もう何処にも残されない」


QB「もう誰も君を認識できないし、君もまた、誰にも干渉できない」



QB「――もうまどかに会えなくなってもいいのかい?」



ほむら「っ……」



QB「まどかに忘れられても、君はそれでいいのかい?」

ほむら「…………」




……私がいなくたって、あの子は幸せだった。



――まどかを不幸にしたのは、他でもない私だったのだから。

すいません>>1です…
さるくらってしまって今から再開します…
もうちょっと続くので申し訳ないですがさるよけ支援の方よろしくお願いします…

ほむら「……それでも、構わない」



QB「……」

QB「……君はそれでいいんだね」


ほむら「…この期に及んで私を案じてくれるのかしら? しばらく見ないうちにずいぶん人がましくなったものね」


QB「…」


ほむら「…これでいいのよ。これがまどかをこんな目にあわせてしまった私の贖罪…」


ほむら「今度こそ、あの子の為にしてあげられる最後の祈り…」

ほむら「…さぁ、叶えて頂戴…」



QB「……」









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――まどか。





今度こそは、まどかのために。




私という存在は、まどかのために。








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ほむら「…」


まどか「…」

この世界の最後の夜。



この世界には、いまや私たち二人しかいなかった。





ほむら「…」



まどか「…」

外はまたしても雪模様。



淡雪がひらひらと舞い降りては、積もることなく消えてゆく。



雲の切れ間からは大きな蒼い満月が顔を覗かせて、この世界の終わりを見届けているかのようだ。



最後の世界は、どこか現実味がなく、まるで夢のようで。



この上なく、綺麗だった。

まどか「…」


ほむら「…」





まどかは相変わらず外を眺めていて。



私もそばで外を眺めている。

ほむら「……」




まどかが幸せになれる未来に、私はいれない。




ほむら「…」




それでもいい。



それでまどかが幸せになれるなら――。

ほむら「……」




ただ、私のことを忘れられてしまうのは悲しい。




ほむら「……」




……そうだ。


ならせめて私からまどかに何かメッセージを残そう。


……確か机に、なんとなく買ってみたけど結局今まで何も書いてこなかったノートがあったはずだ。




ほむら「……あった…」

ほむら(さて…何を書こうかしら…)




私とまどかの出逢い。


まどかが私の名前を褒めてくれたこと。


私の命を助けてくれたこと。



――私と、友達になってくれたこと。




ほむら「……」



伝えたいことは、たくさんある。

ほむら「……」




伝えたいことはたくさんあって。


書き残したいことはたくさんあるのに。



私が存在したことを明示すると、お人好しなまどかなら何をしでかすかも分からない。

ほむら「…………」




私に許されることは――。




ほむら「……これくらいならいいんじゃないかしら…」




……たった一文ぽっちだけど。


この無味乾燥な一文が、私が存在した何よりの証明だ。




ほむら「――よし…」

まどか「…」


ほむら「…今まで私のふざけた一人芝居に付き合わせちゃってごめんね…」


ほむら「……まどか…」


まどか「……」

ほむら「……」


まどか「……」


ほむら「……」



まどか「……あなたも……いなくなっちゃうの…?」



ほむら「………………」



ほむら「……いいえ」

ほむら「そもそも私なんていなかったのよ」


まどか「……」


ほむら「…いい? まどか」


ほむら「これは夢」


ほむら「悪い夢だったのよ」


ほむら「…あなたは私という悪魔が魅せた悪夢にうなされているの」

まどか「……」


ほむら「――でも大丈夫。あなたはもうすぐ目が覚めるわ」


まどか「……」


ほむら「……目が覚めたら、いつもどおりの日常が待っている」


ほむら「学校があって家があって…。家族がいて……友達もいる…」


まどか「……」



ほむら「だから、何も心配することはないのよ…」

まどか「……」


ほむら「…だからね……」



ほむら「……もう……安心しておやすみ……」

まどか「……」


ほむら「……」


まどか「……ぎゅってして…」


ほむら「…………」

まどか「…ねむるまで…あたまをなでて……」


ほむら「……」


ほむら「……うん……」

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ほむら「……」



まどか「……」

ほむら「……」


まどか「……」


ほむら「……」


まどか「……」



まどか「……ほむら…ちゃん……」



ほむら「………………」




ほむら「……なぁに? まどか…」

まどか「……ほむらちゃんは……泣き虫だね…」



ほむら「……そうなの。私も一人の女の子だから……」



ほむら「…嬉しいことは嬉しいし…楽しいことは楽しいし……悲しいことはかなしくて…………」




ほむら「……それほどに…、あなたが大好きだから……」

まどか「……」


ほむら「……」


まどか「……」


ほむら「……」

まどか「……」


ほむら「……」


まどか「…」



ほむら「……」



まどか「…」



ほむら「……おやすみ…まどか」

――元気でね。




まどか。




どうか、幸せで。

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ジリリリリリィ・・・ン







ジリリリリリィ・・・ン

ジリリリリリィ・・・ン




まどか「……」




ジリリリリ・・・カチッ




まどか「……」

まどか「……朝ぁ……?」



まどか「……」




「まどかぁー!」




まどか「……」

まどか「……おはよう、タツヤ」


タツヤ「まどかぁ、おこしにきた!」


まどか「…そっか。ありがとね」







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まどか「…おはよう、パパ…」

知久「うん、おはよう」

知久「…まどか、すごい寝癖だぞ」

まどか「えっ…そう?」

知久「ああ。悪い夢でも見てうなされたのかい?」

まどか「…えーっと…」

まどか「…覚えてないや…」

知久「そうか」

知久「…とにかく、その『芸術は、爆発だ』とでも言わんばかりのアーティスティックな髪型をなんとかしたほうがいい」

まどか「そんなに!? あわわ…直さなきゃ…」

知久「あ、その前にママを起こしてくれないか」

まどか「さっきタツヤが向かったけど…」

知久「タツヤ一人じゃ苦戦するだろうからねぇ…」

まどか「…それもそうだね」






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詢子「……最近、どんなよ?」

まどか「…仁美ちゃんにまたラブレターが届いたよ。今月になってもう二通目」

詢子「ふん。直にコクるだけの根性もねぇ男はダメだ」

まどか「そうなの?」

詢子「そうさ。で、和子はどう?」

まどか「先生はまだ続いてるみたい。ホームルームでのろけまくりだよ。今週で三ヶ月目だから記録更新だよね」

詢子「さあ、どうだか。今が危なっかしい頃合だよ」

まどか「そうなの?」

詢子「あぁ。本物じゃなかったら大体このへんでボロが出るもんさ」

詢子「まあ乗り切ったら1年はもつだろうけど」

まどか「ふぅん」

詢子「――っし。完成~」

まどか「ん~…」

まどか「リボン、どっちかな?」

詢子「んっ」

まどか「え~…。派手過ぎない?」

詢子「それぐらいでいいのさ。女は外見でナメられたら終わりだよ」

詢子「~♪」

まどか「~~っ」

詢子「ん、いいじゃん」

まどか「そ、そうかな…」

詢子「ひひひ。これならまどかの隠れファンもメロメロだ」

まどか「い、いないよ! そんなの…」

詢子「いると思っておくんだよ~。それが、美人のヒ・ケ・ツ」

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まどか「――いってきまーす!」

知久「いってらっしゃい」

タツヤ「いってらっしゃい~」









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まどか「…」モグモグ

まどか「…」

まどか「…ふふ」








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まどか「おっはよー」


仁美「――おはようございます」


さやか「まどか、おっそーい」


さやか「お? 可愛いリボン」

まどか「そ…そうかな? …派手過ぎない?」

仁美「とても素敵ですわ」







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和子「――今日はみなさんに大事なお話があります。心して聞くように」

一同「……」

和子「……目玉焼きとは、固焼きですか? それとも半熟ですか?」

和子「はい、中沢君!」

中沢「えっ!? ええっと…。どっ、どっちでもいいんじゃないかと…」

和子「その通り! どっちでもよろしいッ!」

和子「たかが卵の焼き加減なんかで、女の魅力が決まると思ったら大間違いです!」

和子「女子のみなさんは、くれぐれも半熟じゃなきゃ食べられないとか抜かす男とは交際しないように!」

さやか「ダメだったか…」

まどか「ダメだったんだね」

和子「そして、男子のみなさんは、絶対に卵の焼き加減にケチをつけるような大人にならないこと! 以上!」

和子「――はい、じゃあ今日の時間割ですが、特にこれといった連絡事項もありません」


和子「いつも通りに、移動教室の際は時間に遅れることのないよう余裕をもって行動するように。以上です」

さやか「お、今回は珍しく長引かないね」

まどか「……」

さやか「ん? どうかした? まどか?」

まどか「いや…別に…」

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まどか「ん? …なんだろ、これ…」

さやか「な、まさかラブ――」

仁美「ノートですか?」

まどか「うん。…これ、私のじゃない…」

さやか「んー。じゃあ誰かのが紛れ込んだのかね?」

仁美「名前を見れば分かるのでは?」

まどか「そうだね。えっと……」

まどか「…んー…。どこにも書いてない…」

さやか「うーん…。じゃあ直接中を覗いちゃれ! 何か分かるかもしれないし」

仁美「そうですわね」

まどか「えっ……でも何か悪いような気も……」

さやか「しょうがないしょうがない。そうでもしなきゃ分からないし」

さやか「…まぁ、好きな人の名前や恥ずかし~ポエムが綴られていた、って場合は素直に謝んなきゃだけど…」

仁美「もしかしたら殺したい人の名前がつらつらと…」

さやか「…物騒なこというね…」

まどか「何だか中を見るのが怖くなっちゃったよ…」

仁美「うふふ。あくまで冗談ですわ。とにかく中を見てみましょう」

さやか「…なんかワクワクしてない?」

仁美「とんでもないですわ」

まどか「…私は普通に勉強用のノートだと思うけど…」

まどか「……じゃあ、開けるね…」

さやか「おう…」

仁美「どきどき」

まどか「…」

まどか「……何も書いてないや」

さやか「ずこーっ。まさかあんた…このノートやけに新しめだし、新調した自分のノートのこと忘れてただけじゃ…」

仁美「…なきにしもあらず、ですわ…」

まどか「ひどいよ! さすがの私でもそこまで抜けてないよ!」

さやか「あははー。そっかー」

仁美「でも本当に何も書いてないのかしら。…ちょっと失礼」ヒョイ

まどか「あ…」

仁美「…」ペラペラ・・・

さやか「む…ほうほう…。うひょー!」

まどか「えっ…何か書いてあったの!?」

さやか「いや、何も」

まどか「もー!」

仁美「……」ペラペラ・・・

仁美「……一応、念のため最後まで見ましたが…特になにもないようですわね」パタン

まどか「…そう…? どうしよう…このノート…」

さやか「…ちょい待って。今のノートの最後のページのほう…」ヒョイ

まどか「?」

仁美「……あ、何か書いてますわね。えっと…」

さやか「……うわ」

仁美「…なんでしょう、これは…」

まどか「えっ…なになに、見せて…」


まどか「……」


まどか「……」

『私のことを、忘れないで。』

まどか「……」


さやか「…なんか気味悪いね」

仁美「忘れないで、というわりには自身の名前も残してないですわね」

仁美「まぁこれがまどかさん宛てたものとも限らないのでしょうけど…」

さやか「…なにか意味があるのかね」


さやか「……どうした、まどか?」

まどか「……」


まどか「……わからない……」



まどか「…………わからない……けど…………」

……涙が。




まどか「………、………」







涙が、止まらないの。



まどか「――――」

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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・











ほむら「…」

――私のことなんて覚えてくれなくていい。




でも、私がいたことだけは。



私という誰かがいたということだけは、心の片隅にでもいいから、残しておいてほしい。

あなたにとって迷惑な話かもしれないけど。




――私にとって、あなたは最高の友達だから。




…これが私の、本当に最後のお願い。

ほむら「…」











・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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マミ「……いいの? 鹿目さん…」


まどか「…」

マミ「魔法少女は決して生易しいものじゃないのよ」


マミ「――魔獣との戦いは常に死と隣り合わせ。ただひとつの願いがために、あなたはそんな世界に身を投じることになるのよ」


まどか「……はい。わかってます」


まどか「でも……それでもいいんです。魔法少女になれば、いつか……」

まどか「いつの日か、大事な人に会えるような。そんな気がするんです」



マミ「……そう」


マミ「じゃあ私もこれ以上口を出すべきではないわね…」


まどか「……」

まどか「…キュウベぇ」


QB「…」


まどか「…お願い」

QB「――鹿目まどか」


QB「君の願いは、君の平穏な日常を代償にしてまで叶えるに値するものかい?」


まどか「…」


まどか「…うん」


QB「…分かった」


QB「じゃあ、言ってごらん。君のその願いを―ー」

まどか「…」


まどか「私の…」




まどか「私の願いは――――」

・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






「…」




「…」

私は戦い続ける。



いつか再び、あの子に会えることを信じて。











Fin

僕の稚拙で自慰に等しく見苦しいくっさい駄文にここまでお付き合い頂きありがとうございました…
途中の何言ってんだこいつみたいなところやトンデモご都合展開なところは所詮ssだからと割り切って頂ければ幸いです…
それとこんな時間まで保守や支援をさせてしまい、本当に申し訳ありません…

ここまでの保守支援本当にありがとうございました
それではまたどこかで

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年03月19日 (木) 02:03:28   ID: sqlBeO7i

みんな元に戻ったけど、やっぱりほむほむだけ救われねーorz

幾度とない時間遡行、時間停止を失ってからの血みどろの戦闘、全ての魔女を消し去るための概念化
ほんと「終わりの無い戦い」だな、昔キリストの磔像を見て「なんであがめながら2000年も磔てるんだろ?早く降ろしてやれよ」って思ったのを思い出した

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