ジャブローで撃ち落とされた女ジオン兵が… (514)

もうずいぶん久しいが、なんとなく立ててみることにした。
ガンダムオンラインやってたら思いついた。

完結するか不明。

需要あれば支援よろ。

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喉はカラカラだし、お腹も空いたし、全身はまだひどく痛む。昼はじっとりと張り付くような湿り気を帯びた暑さに襲われ、闇夜には響き渡る得体のしれない獣の声におびえながら、私はもう2日、このどこだかもわからない、熱帯雨林の中をさ迷い歩いている。出征前に気候やなんかについては、もちろん一通り教育は受けてきたけど、聞くのと体験するのとでは、こんなにも違うなんて。
———それにしても
 私はそう思い直して空を見上げた。これでも、パイロット。幸い、脱出する機体から装備品一式は取り出すことができた。その中のコンパスと航法の学科でならった星の読み方を頼りに、とにかく北へ進んでいく。まぁ、コンパスなんて、コロニーや宇宙では、使ったことないから、初めてだけど。

ギャーッギャーッ!

び、びっくりした…今の、何?鳥かな?すごい近かった…は、離れた方が、良いかな…
急に動物の大きな鳴き声が近くで聞こえたものだから、心臓が止まった。それから、暗闇の森の中から得体のしれない恐怖感が私を襲って背中を伝っていく。
 拳銃を引き抜いて、携帯ライトとコンパスを頼りに、夜営ができそうな場所を探す。
 無謀だったんだ、こんな作戦。第一、空挺降下するのに、対空砲の位置や数をきちんと把握していないなんておかしいにもほどがある。それでは、撃墜してくれと言っているようなものじゃないか。連邦はこのジャングルの中に、どれほどの規模の兵器と兵員を持っているのか、事前に調査したんだろうか。仮に、50機のモビルスーツを投入して勝てる計算だったとしても、降下に使われたガウ攻撃空母はたったの18機。護衛の戦闘機はもっとたくさん張り付いていたけれど、対空砲火を浴びてはひとたまりもない。敵にしてみれば、50機のモビルスーツと戦う以前に、18機のガウを撃墜すればそれだけで勝ててしまうのだ。事実、私の搭乗したザクを搭載していたガウも降下が始まる前に敵の対空砲の直撃弾を受けて炎上。動力をやられてコースを外れ滑空をし始めていた空母から無我夢中で飛び降りたけれど、そんな状態で訓練のように落下速度をバーニアでうまく調整できるはずもなく、挙句には敵戦闘機に撃たれまくり対空砲火を浴びまくり、降下中に撃っていたマシンガンはとんでっちゃうし、半分衝突みたいに地面に降り立った時には、機体はもう使い物にならなくなっていた。訓練では、鹵獲されないようにと自爆させる手順も教わったけど、自爆に必要なモビルスーツの動力部すら機能していなかった。幸い落ちたのが沼地で、機体自体は、沈んでしまったから良かったけど。この作戦を立案したなんとかって将校、兵隊を駒くらいにしか思ってない士官学校出のボンボンなんだろう。
 木々の間を抜けると、開けた場所に出た。川だ。このあたりなら、夜営できそうな場所もあるかもしれない。そう思って、拳銃を仕舞い、あたりをライトで照らそうとしていたら、何かが匂った。なんだろう、これ…煙…何かが燃えているにおい…
 次の瞬間、何か固いものが背中にゴリッと押し付けられた。

「ひぃっ!」
 思わず声が出てしまう。
「静かにしろ」
 しまった、敵!?そう悟ったときには、背後から相手の腕が伸びてきて、私の口元を覆った。
「騒ぐな、動くな!死にたいのか!」
 敵は、小さな声で、私の耳元でささやくように言うとその手を離し、私の持っていたライトで5メートルくらい先を照らした。
 そこには、何かがいた。なんだ、これ?ごつごつしてて、黒っぽくて…大きい…息、してる。生き物だ。こんな大きな…そうこれは確か、動物園で見たことがある、ワニだ!
「このままゆっくり下がるぞ…」
 声の主はそう言って私の腕をつかむと、一歩、また一歩とワニから遠ざかる。しばらくそのまま後ろ向きで歩くと今度は
「足元、気をつけろ」
と言い添えて、いつのまにか背後にあった、2メートルもない崖の上へ私を引っ張り上げた。
「ふぅービビったぁ」
 声の主、それは女性だった。彼女は、そう大きな安堵の声を上げてその場に座り込む。
 手には拳銃、タンクトップ姿だが、腰から下の恰好は、汚れているけれど、何度か見た、地球連邦軍の軍服…っ!
 私はとっさに腰に差していた拳銃を引き抜こうとした…が、ない!まさか、落として!?
「あぁ、これは預かってるよ」
すぐに彼女の声がした。見ると彼女の腰のベルトに、私の拳銃が差さっていた。あのとき、奪われてしまったんだ…
 まずい、非常にまずい。どうする、逃げる?戦う?相手は同じ女性。取っ組み合いなら勝てるかもしれない。勝てはしなくても、彼女の拳銃を奪うことができれば…
 決心して、飛びかかろうとした瞬間、彼女はベルトから私の拳銃を引き抜いた。とっさに、足が止まる。彼女は、私の方を見るでもなく、拳銃をしげしげと眺めて
「へぇ、写真でしか見たことないけど、ジオンってこんなん使ってるんだね」
と物珍しそうに言い、それから
「握った感じは、ジオン製の方が好きだなぁ」
と笑いながら弾倉を引き抜いて、そこから一発だけ取り出すと、機関部に装てんして弾を全部抜き取った弾倉を戻して私に投げてよこした。
「この森、あんまり安全じゃなんだ。持っときな。あ、自殺とか、アタシを撃とうとかは、なしにしてくれよ。生身の死体見るのイヤだし、アタシはまだ死にたくはないんでね」
 彼女はそう告げるとたき火とそばまで歩いていき、木の枝のようなものを一本手に取って、その場に座り込んだ。
「あー、ちっと焦げちゃった。あんたのせいだぞ?」
 不満なのかどうなのか、そう言った彼女は笑っていた。
 彼女が手にしたのは、魚だった。この川で取ったのだろうか?いや、ダメだ、そんなことを考えている場合じゃない。こいつは敵だ!
 私は、彼女が寄越した拳銃の銃口を、彼女に向けた。
 沈黙が、あたりを包む。
「一発で、頭当たる?」
彼女は、まるでとぼけた様子で私に尋ねる。
「この距離なら、外さない」
ひるんでは、ダメだ。
私が答えると彼女は困ったような表情を見せて
「そっかぁ。んー、こんなナマズが最後の晩餐になっちまうのか…悪くはないけど、もうちょっとうまいのが良かったなぁ」
とつぶやいた。なぜ?銃弾入りの拳銃を渡せば、こうなることくらいわかるでしょ?なんで、そんなに困った顔をするの!?
「まぁ、でも、空からおっこって死んじまってたかもしれないんだからなぁ、食えるだけ、ありがたいと思っとくか」
 彼女はなおもそう言って、焼けた魚に食らいついた。香ばしいにおいが私の鼻とお腹をくすぐる。
「頼むよ。せめてこれ食い終わって、満腹になってからにしてくんないか?」
 口をもごもごと動かしながら、行儀悪く私に頼んでくる。
 おいしそう…すなおに、そう思ってしまった。だって二日も食べてない。食べれるものなら、なんだっておいしいだろうに、目の前にはあんなにおいしそうに焼けた魚がある…私も、食べたい。いや、そうじゃなくって。こいつも、お腹が空いたまま死ぬのは、ちょっとかわいそうだ。お腹が減るってのが、こんなにつらいとはおもわなかったから。今すぐこちらをどうしようと思っているわけでもないようだし、食べ終わるまで待ってやっても…
 グゥ〜
 そんなことを考えていたら、匂いにほだされた私のお腹が派手に鳴った。また一瞬沈黙が流れて、彼女が笑った。
「半分食べるか?ちょっと泥くさいけど、味はそんなに悪くない」
 彼女はそう言って、魚を指した枝を私に突き出してきた。
 良いの?いや、待って、何かのワナかもしれない…でも、でも、食べたい…
 私は考えて、拳銃を彼女に向けたまま、おずおずとそれを手にとって、半分をむしり取るように手を引っ込めた。すると彼女は満足そうな表情をして、また自分に残された分の魚を食べ始めた。
 彼女の様子を観察しながら、私も魚を口に運ぶ。パサパサとしていて、独特のにおいがする。けど、なんだろう、これ。鶏肉?うん、鶏肉に近いかもしれない…ささみとか、そういう部位だ。薄味だけど、おいしい、おいしいよ、これ。
 私は気が付いたら、無我夢中で魚にかぶりついていた。ぼろぼろと崩れやすくなっているから、両手でちゃんと持たないと…ん、おいしい。
 あれ、両手で?…あ!拳銃を!
 私はあわててあたりを手探った。手の甲に固いものがはじけた感覚があって、かつん、かつん、と音がする。そして最後にトポンと言う音も。
 私は思わず、彼女を見た。すると彼女も私の方を見ていた。
 知られた。拳銃を落としたことを…すると彼女はすぐさま自分の拳銃を引き抜くと、立ち上がった。
 殺される…っ

魚を取り落として、私は尻もちをついてしまった。に、に、逃げなきゃ…そうは思っても、とっさのことで足が動かない。そんな私に彼女は手を伸ばし、私の口を覆った。そして耳元でまた、囁くように
「静かに」
と言って、あたりを見回した。それから
「立って!」
とまた小声で言うと、私をたき火の方まで引きずっていく。彼女は息を殺して
「あいつら、水音には敏感なんだ。あたり、気を付けて…」
と緊張した様子で言う。
「あ、あいつら?」
私は思わず聞いた。
「クロコダイルだ。さっきみただろ!?」
「あ、ワ、ワニ!?」
「そうだよ!しゃべんな!警戒しろ!」
彼女は私を叱りつけるように言った。
どれくらいの時間がたったかわからない。その間、動物の鳴き声はしても、何かが近づいてくる気配はなかった。
「ふぅ、大丈夫そうだ」
彼女は改めてそう言うと、どっかりその場に腰を下ろした。私も、なんだかよくわからず、ペタンと座り込んでしまった。なんだかまだ、脚に力が入らない。
「あーあ、びっくりして魚ほうりだしちまったじゃんか、もったいない」
彼女はそう言って、自分が取り落とした魚を拾い上げ、まだ汚れていない部分を探して口に運んでいる。
「こ、殺さないの?」
「あ?」
わけがわからず、彼女に尋ねてしまう。
「あークロコダイル?」
「わ、たし、を」
「あぁ、そっちか」
彼女は少し考えるように宙を見つめてから
「あんたを殺して戦争が終わるんなら、喜んで[ピーーー]よ…あ、でもそしたら死体を引っ張ってかなきゃまずいか?証明できねえもんな。それは嫌だな。死体運ぶのなんかまっぴらだ。死体じゃなくたって、こんな森ん中、人ひとり運んで歩くなんて、ごめんだな。うん、じゃぁ、殺さない」
と割と真剣な表情で私に告げた。理解できない。私は敵なのよ?あなたを殺そうとした人間なんだよ?!
「どうして!?私は、敵!殺せばいいでしょ!」
私は、なぜだか、彼女に強い口調で言っていた。
「騒ぐなって、あいつら耳だけは良いんだよ!…、と、で、なんだ、あんた死にたいの?」
「そ、そうじゃなくて…」
「あー敵兵だから?ジオンが悪で、コロニー落っことしてきて、人がいっぱい死んだから、とか、そういう話?」
「そ、そうよ」
「別にあたしには関係ないしなぁ。どっちが良くてどっちが悪いかなんて考えて戦争やってないし」
「なによ、それ」
「うん?金がほしくって、さ」
「お金?」
「そう!あたしさ、小さいころに親死んじゃってね。で、いろんなとこをたらいまわしにされて生きてきて、で、学校卒業してからは行くトコないから、軍に入ったんだ。身元引き受けてくれるし、戦えば金くれるしさ!」
「傭兵、ってこと?」
「そうじゃないよ、ちゃんと正規軍人さ。なんつうか、さ。ほら、あんだろ、わかれよ」
「わかんないよ」
「あーもうっ!あー、あれだ、やりたいことがあるんだ」
彼女は、なんだかじれったそうな、恥ずかしそうな表情で言った。
「なにを?」
「ここより、ずっと北にいったところに、セブ島て島があってさ!海がすげーきれいなんだよ!あたし昔っから海が好きでね、そういうところで暮らしてみたいなーってずっと思ってたんだ!だから、働いて金をためて、家と船でも買ってさ。魚とって売ったり、ダイビングのンストラクターしたりして生活できたら楽しいだろうなって!」
最初はあんなに恥ずかしがっていたくせに、いざ話し始めたら、なんだか子供みたいにはしゃぎ始めた。なんだろう、この子は。これまで、何人もの連邦の軍人にあってきたけど、こんなに無邪気で、とっぽい人は始めてだ。
「あんたは?」
「へ?」
急に質問してくるものだから、私は変な声を上げてしまった。
「だから、あんたの話。スペースノイドなのか?」
私は、ジオン公国軍の地球方面軍のパイロット。サイド3で生まれ育った。軍人の家系で、父も母も兄も軍人だった。そう、「だった」。父はルウム戦役で巡洋艦と一緒に宇宙の塵に。母と兄は、最近、ラサから転戦した先のオデッサで戦死した。聞いたときはとても悲しかったけれど、軍人だし、覚悟はしていた。だから別に落ち込んでなんかいない。落ち込んで、こんな無茶な任務を受けたわけでもない。単純に、命令が下りてきたから、参加しただけ。
「そっか、あんたも天涯孤独の身か」
私の話を聞くと彼女はそう言ってすこしだけ、さみしそうな顔をした。それから
「家族のことは、残念だったね…あたしが悪いわけじゃないんだけど、一応、殺したのはこっちの身内だ。謝っとく」
と、遠くに視線を投げながら言った。
「うん、仕方ない、戦争だし…」
なんだか、言葉が継げなかった。たぶん、彼女の「残念だった」と言う言葉と、謝罪が、本心からのものだったからだろう。なんだか、気持ちがストンと落ち込んでしまった。

 そんな私を気遣ってなのか、彼女はいろいろと話しかけてくれた。
 私がモビルスーツのパイロットであることや、少尉であると階級を教えると、彼女もまた、戦闘機のパイロットで階級も同じ。被弾した機体をなんとか不時着させてみたものの、基地までの距離が遠く、簡単に帰れないことなどを教えてくれる。それから、彼女は魚取りが好きで、釣り以外にもいろんな方法を知っているんだと話すので、私が趣味は読書だと話すと、「暗いなぁ」なんて悪びれもせずに言った。年齢は22歳だそうだ。私の方が1歳下だ。なんだか、本当に普通の会話で、今が戦争中で、相手が敵軍の兵士だということすら、信じられないくらいだった。でもなんだかくすぐったいのと、なれ合っちゃいけないという変な意識で、名前は聞けなかった。
 ずいぶんと長い間話をしていた気持ちになっていた。不意に彼女があくびをして同時に大きく伸びをした。
「さて、寝るかなぁ。あんたはまた明日、味方探しに行くんだろ?あたしは、戦闘機に積んであったビーコンが直れば救助をひたすら待ってみるけど」
「うん」
そう言われると、なんだかさみしい気もした。でもまぁ、少なくとも、連邦にはこういう人もいるんだというのを知ることができただけでも良いことだろう。
「だったら、ちゃんと休んだ方がいい」
彼女はそう言って、ポンポンとお尻をはたきながら立ち上がった。
「そこに不時着させた機体があるんだ。コクピットの中なら、ゆっくり休めんだろ」
「いいの?」
だって、敵軍に自軍の兵器を見せるなんてことは、機密が漏れてしまう危険性を十分に孕んでいるじゃないか。そんなことまでしてくれるのか、この子は…。
「何日か歩いたんだろ?だったら、こんなジャングルでも、夜中にはひどく寒くなることは知ってるよな。それに、ワニもいるし、ヘビもサソリも出る。最近じゃ数も少なくなっちまったみたいだけど、ジャガーってでかいネコみたいのもいないこともないしな」
確かにその通り。昼間はあれだけ暑いのに、いざ日が沈むとどんどん寒くなっていく。昨日の晩は、墜落のショックと痛みと恐怖と寒さで、寝るになれなかった。
「じゃぁ、お言葉に甘えようかな」
たぶん、この子には機密とかそういうことも関係ないのだろう。私も、これから彼女が案内してくれる先に何があっても他言しないと、内心固く誓った。
 彼女が案内してくれた先には、木々を何本かなぎ倒して止ったと見える戦闘機らしき残骸が横たわっていた。戦闘でも、軍の資料でも良く見る、汎用的な機体だ。ボロボロになった尾翼に「Ω」のマークが描かれている。
「あれ、あのマークは?」
「あぁ、私の部隊名。オメガ隊っつって。まぁ、あたしは中隊の7番機だから、おまけみたいなもんだけどね」
彼女はそう言いながら、コクピットのキャノピーを外付けのハンドルをグルグルまわして開いた。
「そっちは、あの緑のトゲツキに乗ってたんだろう?あたしも最近モビルスーツの訓練受けてたんだけど、あたしの隊には配備が間に合わなかったんだよ。あ、今のは機密だったかな…ま、いいや、忘れてー」
連邦がモビルスーツの量産をしているという情報は手にしていたが、そうか、連邦軍の本拠地ジャブローへの配備が間に合っていないところを見ると、まだ数が多いというわけではないのだろう。でも…そのことは、聞かなかったことにする。
「うん、忘れとく」
「悪りーな」
「ううん」
「悪いついでに、もう一つ謝っとく。この戦闘機、単座なんだ。複座のタイプもあるんだけどさ。だからちょっと狭い」
「いいよ。ワニが来ないだけ、ゆっくりできそうだし」
彼女は、私がそう言ったのを聞いていたのかどうなのか、コックピットの中をごそごそといじりながら
「あーおっかしいな、このシート外れんだけど…くっそ、工具ないとダメか、やっぱ?イジェクトのこと考えりゃ、もっと簡単に外れてもよさそうなんだけど…いっそイジェクションレバー引いちまうか…いや、そんなことしたらあたし黒焦げだしキャノピーもとんでっちまうしなぁ…」
とぶつぶつ言っている。
私は、コックピットの縁に手をかけて中をのぞかせてもらう。
「そんなに狭いの?」
「あぁ、シート目いっぱい後ろに下げてもこの程度」
彼女が中を見せてくれる。足元は広々してはいるが、確かに二人が収まるにはちょっと狭い気がする。
「お、待ってくれ、このレバーか?うしょっと」
彼女がシートの脇に腕を差し込んで何かを操作すると、シートがゴトっと動いた。
「おー、やった!ちょっと手伝ってくれよ。これ、外に放り出す」
彼女の言葉に従って、コクピットに収まっていたシートを二人掛かりで機体の外へと運び出す。すると機内には、なんとか足を延ばすことくらいは出来そうな空間が現れた。
「それにしたって、まだ狭いけど…ま、さっきよりはマシか」
彼女はそう言って、私を、いや、正確に言うと、私の体を見やって、
「どっちかっていうと、あんたが上だな」
とつぶやいた。
「上?」
私が聞くのも構わず彼女は
「ほら、上がれ」
と手を差し伸べてきた。私はその手をつかんで、コクピットの中に上げてもらう。すると彼女が先に床に座って、ブーツを脱いでキャノピーの支柱に結び付けると外に垂れ下げて、体をコクピットの後ろの壁にもたせ掛ける。それから
「キャノピー、閉めるぞ」
と言ってきた。私は仕方なく、彼女の上に折り重なるようにして寝転ぶ。私はブーツを外には干さずに、足元に置いておくことにした。コクピットの内側にもあった手動のハンドルを回して、キャノピーを閉めた。私は、彼女の体にもたれる様な格好だ。
「あの、重くない?」
私が聞くと彼女は相変わらずなにかをごそごそとやりながら
「ああ。へーきへーき」
となんでもない風に答えて、どこからか大きな厚手の毛布を取り出した。
「寒いからちゃんとかけてくれよ。あたしまでかぜ引いちまう」
彼女は、私の後ろでカラカラと笑いながら言った。
 私は一度体を起こして、軍服の上を脱いで足元に畳んでから、彼女と一緒に毛布をかぶった。
「あーなんか、あれだな」
「ん?」
彼女が何か言いかけるので聞く。
「一人で寝るより、安心する」
そうだね…私もそう思うよ。たとえそれが敵であるあなたでも。
「うん」
そうとだけ返事をして、私は目を閉じる。
「アヤ・ミナト」
「え?」
「私の名前、アヤ・ミナト。あんたは?」
「えと、レナ・リケ・ヘスラー」
「そか、んじゃぁ、おやすみ、ヘスラー少尉」
「うん、おやすみ、ミナト少尉」

構成が読みづらくてすまん。

とりあえず、反応あるまで出し惜しむ。

ジオンが「優等生」で連邦が「元気」辺り?

ほう、女ジオン兵×女連邦兵ですか

>>7
ジオン娘のキャラ付けに悩んでいるww

>>8
濡れ場必要?ww

読みづらい
もうちょっと改行頼む

コツコツ…

コツコツコツ…

何かが当たる音がする。それが何度も鳴るものだから、私は目を覚ました。キャノピーの向こうには青空が見える。朝だ…。

コツコツ。

 ふと音のする方を見ると、そこには人がいた。小銃を抱え、連邦の軍服に身を包んだ男が。

 私はすぐさま事態を理解した。それと同時に

「こりゃぁ、まずいな」

と彼女の声もする。

「すまん、まさかビーコンなしに見つけられるとは思ってなかった」

毛布の中から彼女の顔を見上げると、苦渋にゆがんでいた。

「このままじゃ、捕虜か、もしかしたら、この場で…」

「あぁ、いや、それはアタシが絶対させない…けど、捕まったら、遅かれ早かれ、その可能性は出てくるよなぁ…」

彼女は、毛布の中で私の体を抱きしめた。

「何があっても、私に話を合わせろ、良いな?」

彼女は、力強い口調でそう言い、それから

「足元に、私のパイロットスーツがある。それを着ろ。あんたは私の飛行隊の編隊員。脱出したところを合流して、救助を待っていた。名前はカレン・ハガード」

と言ってくる。

私は彼女の言うとおり、足元にあった飛行服に、毛布をかぶりながら足を通す。

「ちゃんと、裾でブーツ隠せよ。それ、中に置いといて正解だったな、外に干してたんじゃぁ、一発でバレてた」

彼女はかかっていた毛布を抑えながら言う。まったく、彼女の言うとおりだ。私は飛行服を着込んで念のために認識票も外してポケットに入れ、彼女に合図をした。

「よし、キャノピー開けるぞ」

彼女がハンドルを回してキャノピーを開ける。体を起こすと、外には数人の連邦軍兵士がいて、機体を取り囲んでいた。

「うっく、やっぱ体ちょっと痛いわ」

彼女が大きく伸びをして言う。

「ごめん、乗ってたから…」

「あぁ、いや、この床のせいだ」

彼女はホントにそう思っているのか、と言うような、気の使い方をしながら、私にそっと拳銃を渡してきた。

「持ってろ。無茶はすんなよ。でも、やばくなったら、アタシなんかほっといて逃げろ」

そう言って私の体を後ろから押して、立ち上がらせた。

私がジオン兵だということがバレて逃げだしたら、彼女がたちまち疑われてしまう。下手をすれば、スパイ容疑で銃殺なんてことにもなりかねない…そんなのは、ダメだ。

「救助に来てくれたのか?ありがたい、ビーコンが壊れちまって、途方にくれてたんだ!」

彼女が連邦の兵士たちに言う。

「あんた、オメガ隊か?」
「あぁ、オメガ隊のアヤ・ミナト少尉だ。こっちは、カレン・ハガード少尉。あんたたちは?」
「第7歩兵大隊だ。この周辺の戦況調査を任されてる」
「そうか、ご苦労なことだ」
「それにしても、あんたらオメガ隊の生存率は神懸っているな!」
「他の編隊員で、生き残った者は?」
「全機撃墜されたって話だが、パイロットたちは全員脱出して無事だったって話だ。あんたら二人で最後だよ」

兵士はそう言って笑った。

「ね、カレンって人、バレないの?」

私は小声で彼女に聞いた。

「面識があるやつでなければ大丈夫だ。カレン本人は撃墜されて死んでる…確認したから」

アヤも小声で答える。

 私たちは揃ってコクピットから降り立った。兵士は全部で5人。どれも男。近くにはジープも止めてある。揃いも揃って、小銃を携行している。撃ちあったって、特殊部隊員でもないただのパイロットの私に勝算はない。

「まぁ、とにかく乗れよ。本部には連れてってやれねぇが、ちょっと行ったところに、シェルターへの入り口がある。市街地区だが…情報部隊

と輸送隊が出張ってきているはずだ。本部なり基地なり、そこからトラックの荷台にでも積んでってもらうと良い」

「あぁ、助かるよ!恩に着る!」

アヤはそう言うって大仰に礼を言った。

「シェルター?」

「ああ。ジャブローのほとんどの施設は、安全のために地下に造られてるんだ。軍人やその家族なんかが居住してる地区ってのもあって、どうやらここはその近くらしい。好都合だ。軍人も一般人もいる場所なら、まぎれやすい」
私たちは小声で話をしながら車に乗り込んだ。

 荒れ道に揺られて1時間ほど。時折、車を止めて、兵士たちがあたりを見回り、戻ってきては発車するのを繰り返しながら、シェルターの入り口、と言うところにたどり着いた。もっとこじんまりしたものを想像していたのだけれど、山をくりぬいたようなところに大きなコンクリート製の門のようなものがあって、そこから伸びる幹線道路のような坑道が奥へ奥へと続いていた。

 「おお、バーンズじゃないか!どうした、もうパトロールは終わりか?」

コンクリートの門の脇にあった軍の検問兵が車を呼び止めた。

「いやぁ、途中で撃墜されたパイロットさんを見つけてな!オメガ隊の連中だ!」
「あぁ、あの、不死身の飛行隊か。噂通り、強運の持ち主だったんだな」
「ははは、どいつもこいつも、臆病なだけさ!危なくなったら逃げる!ただそれだけだよ!」

アヤがそう言って笑う。

「だはは!違いない!」
「中まで案内した方がいいと思うんだが、構わないかな?」
「あぁ、ちょうど2時間もすれば、司令部からの補給隊が来るはずだ。それまで、どこかで休んでいると良い」
「ありがたい」

そう話があった、車は坑道の中へと進んでいった。外から入った瞬間は薄暗く感じたが、すぐに、天井の照明が煌々と灯り、あたりを明るく照らし出した。そこから30分も走ると、目の前には大きく開いた空間が現れ、その中には大きなビルがいくつも洞窟の天井に向かって伸びている。

 ビルの間を通る道には人々があふれ、お店やなんかもたくさんあるようだった。

 あまりの光景に私が呆けて見回していると、アヤがぺしっと私の膝をはたいた。

「あんま、きょろきょろすんな。怪しいぞ」

「あ、ご、ごめん」

アヤに言われて一度は視線を足元に戻すも、やはりどうしたって周囲の光景に目が行ってしまう。

 やがて車がゆっくりと停車した。そこは、公民館のようなところで、中からは軍人たちがひっきりなしに出たり入ったりしている。

「ここがこの地区の軍の連絡所だ。中に、配給を手配してる担当の士官がいるからよ。そいつに言って、司令部まで連れてってもらってくれ」

「ありがとう、ほんとうに」

アヤはそう返事をして、私に車を降りるよう促した。

「良いってことよ!」
「あんたらはこれからまた巡回なんだろ?気をつけろよ!」
「あぁ、わかってるって!」
「危なくなったら」
「逃げるんだろ?ははは、オメガ隊のパイロットさまの言うことじゃぁ、聞かないわけにはいかねえからな!」
「そうだぞ。命は大事につかえ」
「そうするよ。じゃぁ、またどこかでな!」

彼らは口々にそう言うと、車をUターンさせて元来た道へと帰っていった。
私とアヤは、その姿が見えなくなるまで手を振っていたが、姿が消えたとたんにアヤが私の手を取って歩き出した。

「ここから離れよう。補給部隊は、顔の効く連中が多い。カレンの顔も多分知られてる。言い訳ができない」
「どうするの?」
「幸いここは、軍人の家族や、生活に必要な店や施設の従業員も住んでる都市だ。服屋もある。あんた、そこで服買って、着替えろ。そうすりゃ、今よりずっと怪しまれずに済む」

確かに、顔を知られているかもしれない人に成りすますよりは、市民Aになったほうが、安全なのは確かだろう。

「ほら、あそこなんかどうかな…ってか、アタシがたまに使う店なんだけど…趣味に合わないとか、そういうことは言わないでくれよ」

アヤが指差した先には、こじんまりとした構えの店があった。ジーンズやパーカー、Tシャツといった具合に、ごくごく素朴な品ぞろえだ。確かに、こんな感じの服装はアヤには似合いそうだ。

「私も似たような感じだから、大丈夫」

私はそう言って笑ってあげた。私も、義務教育を卒業してからはすぐにジオンの士官学校に入った。もっとも、エリート養成のための特別なコースじゃなくて、もっと下っ端の、技術職やパイロット、砲兵とか、その道の分野に特化した教育を施してるコースではあったけど。そこでは四六時中、制服で、休日に着る普段着なんて、ほとんど持っていなかった。わずかに自分で買ったのが、ここにあるようなごくごくありふれた感じのラフなものだったから、まぁ、抵抗があるというよりはむしろ、懐かしい感じの方が強い。

「ほら、これ金な」

そう言って彼女が私の手に紙幣を何枚か握らせた。

「持ち合わせこれしかないから悪いけど、とりあえず今着るものだけ買ってきて。あぁ、それと、カバンな。バックパックみたいんがいいだろ。いつまでも、ジオンの軍服を毛布にくるんで小脇に抱えとくのも怖いしな」

 悪いよ…と言おうと思ったが、私は連邦の紙幣なんて持ってないから、ここは甘えるより仕方ない。

「ありがとう」

礼を言うと、彼女はすこし照れたような、恥ずかしそうな顔をして私から目をそむけ、

「あ、アタシはここで見張ってるから、ちゃっちゃと済ませてきて!あぁ、それと、このビルの3階にクアハウスがあっから、買ったらそこで汗流そう」

クアハウス、と言うのは聞いたことがなかったけど、汗を流せるところ、と言うからには、まぁ、公衆浴場みたいなものなんだろう。とにかくここでは、私は彼女の指示に従うほかに、できることはない。まだ、この不思議な敵兵を全面的に信頼しているわけではないけれど…でも、アヤはそんなに、悪い人、と言うか、これが嘘で罠で…と言うような回りくどいことをするような性格ではないだろうということだけは、確信をもてていたから、安心はしていた。

 私はお店に入って、下着とゆったり目のジーンズにダークブルーのパーカーに、白い半そでの無地のTシャツを選んだ。それから、アヤに言われたとおり、少し大きめのバックパックを選んで買い込んだ。お店の人にお願いしてタグを取ってもらい、フィッティングルームで着替えを済ませて店の外に出た。

 アヤは退屈そうに、でもちゃんと店の前で待ってくれていた。

「お待たせ」

私が言うと、彼女は

「はやかったな」

とニコッと笑って言った。

「悪いんだけど、アタシ、今の金が手持ち最後でさ。ちょっと銀行行こう」

アヤは、道の向こう側にあった銀行を指差して言った。道を渡って、銀行に入ろうとして、私は足を止めた。

「どした?」

「いや、私はここで待ってるよ。防犯カメラくらいあるでしょう?さすがに顔が映っちゃうのはマズイと思うし」

さっきの洋服店には、防犯カメラらしきものはなかったが、銀行ともなれば話は変わってくるだろう。私だけが映る分には問題ないのかもしれないが、アヤと一緒にいるところを撮られたら、アヤにまで迷惑をかけてしまう。

「そっか…まぁ、じゃぁ、すぐ終わらせるから、そこで待ってて」

アヤはそう言い残して銀行へと入っていった。

 さて、私はこれからどうするか。アヤと汗を流しに行って、今夜はこの街で休めるだろうか。それから、北米に戻るべきだろう。ジオンは、オデッサに続いてジャブローでも相当な兵力を失った。一人でも多くの兵員が必要なはずだ。連邦の反抗に備えるためにも、一刻も早く帰還する必要がある…

 「もし、そこのご婦人?」

そんなことを考えていた私に、誰かがそう声をかけてきた。振り返ると、そこには連邦の軍服を着た兵士たちが数人立っていた。その腕には「MP」と書かれた腕章がついている。

「はい、なんでしょう?」

内心の驚きを何とかかくして、平静に対応する。しかし、MPは穏やかな口調とは裏腹に、確信に満ちた鋭さで私の足元を見た。

「ご婦人がはいている、そのブーツは、市販のものではなさそうですね?」

しまった!服屋には靴が売っていなかったら、ジーンズで隠していた。ほどんど見えない状態だったから、多少ならごまかせると思ったのだが…うかつだ。

「こ、これは、その、譲り受けたものでして。どこから出た物かは…存じません」

「ほう、さようですか。それでは、その譲り手の方について教えていただけませんか?あ、いや、その前に、そのお荷物の検閲をさせていただけると幸いです」

「みせろ!」

私の返事を聞かず、他のMPが私のバックパックを引っ掴む。

「やめてください!」

見られるわけにはいかない!抵抗するが、私も軍人とは言え、同じ軍人の男数人に力でかなうはずがない。私の荷物はたちまち奪い取られ、中を見られてしまった。

「これは…ジオンの軍服!?」

「認識票があります…!」

兵士の一人が、認識票をバックから出して、上官と思しき私に話しかけてきたMPに手渡す。

「さて、レナ・リケ・ヘスラー少尉。何用でジオン兵がこのようなところにいるのか、説明していただこう。ご同行願えるかな?」
上官MPが手をかざすと、部下たちが私に小銃を突きつけた。

——ここまで、か。

私は観念して、両手をかざした。

 その場には、すぐに車がやってきて、私は手錠を掛けられてそれに押し込まれる。私を見つめる民衆の中に、アヤの姿があった。彼女は、もの悲しげな表情で、私を見つめていた。

 少尉とはいえ、士官だ。しかも、戦場で捕虜になったのではなく、連邦の機能中枢に入り込んだいわばスパイ容疑。恐らく、私は拷問されるのだろう。情報を引き出すために。一般兵の私が知る情報なんてたかが知れているが、それでも搾り取れるだけ搾り取ろうとするだろう。そして、情報を引き出すだけ引き出したら…その、あとは…銃殺か、いや、拷問中に死んでしまうか…。それならば、自ら命を絶つことも考えた方が。でもそれは怖いな…なら、このまま逃亡を図って、射殺された方がいいのかもしれない。
 ふと、亡くなった両親や兄のことが、頭に浮かんできていた。

とりあえずここいらで一区切り。

続きはまた明日!たぶん!

>>10
序盤はすまぬ。
これくらいなら大丈夫だろうか?

。付けるごとに改行してくれよなー、頼むよー。
あと投稿規制あんまりないんだから1レスにあんまり詰め込む必要ないと思う(コナミ)

ガンオンは将官小隊蹂躙糞すぎてやめたがこれは期待支援

>>17
正直ワードでベタ打ちだから、改行大変だが頑張る。

>>18
支援感謝
いかに将官どもを禿げさせるかが生きがいであります。

スレタイでエロを想像した俺は間違いなく心が汚れてますね

>>20
スレタイはそういうの意識してつけた。
とりあえず釣れてくれてありがとう。

「痛たた…」

数時間後、私は地下にある独房にいた。

幸い、まだ生きていた。

暗くて冷たくて、それにジメジメした空間だったけど、あの取調室に比べたらマシだった。

体中が痛む。

十何発か、男たちに拳や金属棒をたたきつけられたけど、私は自分の所属と、今回の作戦のことしか話さなかった。

と言うより、話せることなんてなかった。

キャリフォルニア基地でモビルスーツを作っていることとか、宇宙への行き来を行っていることなんか、連邦だってすでに知っている事実。

でも、それで納得できないのが彼らだ。

他の諜報員はどこか、とか、名はとか。あと、次回の作戦を吐け、とか。そんなの知るわけない。

でも、きっと彼らにとって、私はなんにもしゃべらないひどく優秀なスパイだと思われているのだろう。

殴られている間は、感情と言う感情を殺して、ただ時間だけが過ぎ去るのを待った。

そうでもしないと、恐怖で壊れてしまいそうだったから。

今だってそうだ。今日は殴られるだけで済んだ。

でも、明日になればきっともっと厳しくなる。

針とか釘とか電気とか、得体のしれない金属器具とか、そんなものが登場してくるだろう。

そうなったら…ダメ、考えちゃいけない。

だけど、考えなくたって明日はやってくる。

そして、私がそれらから解放されるには、彼らの望む「情報」を喋るしかない。

でも、私はそれを知らない。

適当に嘘をついたって、すぐに調べられてバレてしまうだろう。

そしたら、もっと追究は厳しくなる。

もう、どうしようもない。


ぐう、とお腹が鳴った。

そう言えば、ジャブローに降り立ってから満足に食べ物を口にしていない。

携行していたブロックみたいなおいしくない携帯食料を一つと、アヤにもらった魚半分。

あの魚は、本当においしかったな。あれが最後の食事になっちゃうのかな…。

もう少し、食べたかった。

もう少し、アヤともいろんな話をしたかった…。

「おい、ここに、レナ・リケ・ヘスラーって捕虜が捕まってるはずだ」

不意に、どこかでそう声がした。

「はっ!確かに、ここですが」

「会わせろ」

「は、いえ、しかし…」

「いいから、会わせろって言ってんだ」

「で、できません」

「あぁ?あんた、私の階級章が見えないわけじゃないよな、伍長?」

「ですが、少尉殿…ここは…」

「上官命令だ。すぐに会わせろ。責任は私がとる」

「う…」

「別に何するわけでもない。ちょっと知り合いかもしれなくてね。

 知り合いだったら、最後の晩餐くらい振る舞ってやったって、バチはあたらないだろう?

 ほら、お前にも、これ、小瓶で悪いが酒だ。

 さすがにあんたの上官に見つかるとやばいから、アタシが出てくるまでに飲んでおけよ。おら、さっさと鍵寄越して」

ガチャリ…ギイッ…カツカツカツカツ

足音が、私の独房の前で止まった。

ベッドに座っていた私が目を向けると、そこには、連邦の制服に身を包んだアヤの姿があった。

「大丈夫か?」

アヤは、心配そうに私を見た。

「うん」

私は返事をする。

「ほら、こっち来いよ。飯にしよう」

そう言ったアヤの手には、ファーストフードの紙袋があった。

「冷めちゃってるけど…ま、あの魚よりは旨い」

彼女はそう言って廊下に腰を下ろす。私も、鉄格子の前に座り込んだ。

廊下にある明かりが私の顔を照らし出したのだろう。私の顔を見るなり、アヤの表情が変わった。

最初は、悲しげに、そしてついで、怒気を秘めた険しいものに。

「ひどくやられたんだな」

「これくらいは、平気」

そうは言ってみるものの、顔も体も痛くって仕方ない。

 あれから自分で鏡は見られていないけど、たぶん、形がゆがむほどに腫れ上がっているのだろう。

アヤが紙袋からハンバーガーとフライドポテト、紙のコップに入ったジュースを取り出して、鉄格子の間から私にくれた。

それから、自分の分を取り出して、何も言わすにかぶりついた。私も、包み紙を開いて口をつける。

…おいしい。

 口の中も血だらけで、そもそも満足に口も開かない始末だから、ちょびちょび食べることしかできないけど、

小さくちぎったハンバーガーを舌の上で転がすだけで、凍りつかせた心が解けていくような感じがする。

なんだか、一気にいろんなものが湧き上がってきて、ぽろぽろと涙がこぼれだした。

 アヤは、そんな私を見て、一瞬動きを止めたが、すぐにまた、一心不乱に自分のハンバーガーに食らいつく。

食べ終わってから、彼女がポツリと口を開いた。

「ごめん、アタシのせいだ」

アヤは顔を伏せて言った。

「アタシが、もうちょっと警戒してたら、こんなことには…」

「ううん」

私は首を振った。彼女のせいであるはずがない。

安心して油断していたのは私の方だ。スパイを警戒している者がいることくらい、想像しておくべきだったし、

何より、気を緩めて、いつまでもジオン軍のブーツなんてはいていたから。彼女になんの責任もない。

「だけど、こんなにされて!」

アヤはそうって、鉄格子の隙間から手を入れ、おずおずと私の顔に触れた。

でも、腫れ上がった私の顔の皮膚はその温度を感じることはできなかった。

「私が油断していたのがいけなかった。気にやまないで。あなたは私に、とてもとても良くしてくれた。それだけで十分」

私は、泣きながら彼女の手を握って、そっと鉄格子の向こう側に押し戻した。

これ以上、彼女に迷惑をかけるわけにはいかない。下手をすれば、彼女だって私の二の舞だ。

彼女がいなかったら、私は今ごろワニのお腹の中か、ジャングルの中で行き倒れか、

女性兵士らしく、連邦兵に玩弄されてから殺されていただろう。

なんとか私を助けようと嘘までついてくれた彼女を、これ以上巻き込むわけにはいかなかった。

「だから、もう行って。あなたまで危険になる」

私はそう言った。でも、それを聞いた彼女は、いっそう表情を険しくした。

それから、ふっと顔から力を抜くと、苦笑いを浮かべて

「実は、もう手遅れだったりするんだけど…ね」

とつぶやくように言った。


ドサッ


遠くでかすかに、何か重いものが地面に落ちる音がする。

「さって、行こうか。歩ける?」

彼女はさっと立ち上がると、持っていた鍵で、私の鉄格子を開けた。

まさか…私を脱走させる気!?そ、そんなことしたら…

「そんなことしたら、あなたが…」

「あーだからもう手遅れなんだって。警備兵に記憶飛ぶくらいの量の睡眠薬飲ませちゃったし。

監視カメラも、逃走ルート用のは回線いじって、ダミーの映像流すシステム組んできちゃったし、警報装置も細工済み。

巡回の兵士のルートも抑えてあるし、あとは、監視センサーなんかも、あらかた潰してきちゃったしな」

アヤはそう言うと私の手を取った。

「行くぞ」

私の返事を聞かずに、そう言って走り出した。

地面に崩れ落ちるようにして眠っている警備の兵士の脇を抜け、階段を上がり、狭い廊下を走り抜けて、さらに登りの階段。

そこから、また狭い廊下に出て、端にある小部屋に入り、食糧庫らしいその部屋の、物資搬入のための通用路へ出る。

そこには、一台の車がとまっていた。軍用車ではなく、自家用のSUVだ。

「後ろに乗って」

アヤはそう言うと素早く運転席に乗り込んだ。

私は後部座席に乗り込む。それを確認すると、アヤは車を急発進させた。

「そこに青いバッグがあるだろう?着替えが入ってる。とりえず、着替えちゃって。

この先に検問があるんだ。そこばっかりは騒ぎを起こさずに通過するっきゃない」

「大丈夫なの?」

「あんたの顔はまだ割れてない。脱走がバレれば話は別だが、しばらくは大丈夫だろう」

私は言われたとおりにバッグの中に入っていたラフな服装に着替え、

それから彼女の指示で助手席に移動して、「ぐったりした様子」で座り込んだ。


目の前に検問が見えてくる。兵士が私たちの車を止める。

「こんばんは、少尉殿。こんな時間に、どちらへ?」

「すまない、連れが階段から落ちてけがをしたんだ。軍医殿が、今は負傷兵の手当てに回ってて戻らないそうなんで、街の総合病院へ行きたいんだ」

「なんですって?」

兵士が私の顔を懐中電灯で照らした。そして息をのみ

「こ、これは…す、すぐに通します。あ、いや、軍用車で先導しましょうか?」

とあわてた様子でアヤに言う。

「いや、それには及ばない。連なって走るより、一台の方がずっと早い」

「そうですか…おい!すぐに開けろ!」

兵士がそう言うと、道路をふさいでいた金網が開いた。アヤは敬礼をしながら車を走らせその門を通過する。

サイドミラーで検問が見えなくなると、アヤがふぅーと、大きなため息をついた。それから途端に

「あー緊張したぁ!」

とはしゃいだ子どものように体をムズムズと動かす。


「どうして、どうしてこんなことを?」

私は聞かずにはいられなかった。こんなことをすれば、軍規違反だ。

捕まれば裁判にかけられ禁固刑か、悪くすれば銃殺ものだ。

アヤは、どうしてここまで、私を助けてくれようとするのだろう…。

「あんたは、悪い奴じゃない」

アヤはまるで決まったことのように言った。

「なんで、そんなことがわかるの?」

「最初にあったとき、あんたは、飯を食わせてほしいって言った私を撃たなかった。

 あの魚を食べ終わるまでは、待つつもりだった。だから、だ」

「そ、そんなのって…」

「だってアタシもあの時、銃を持ってたんだよ?普通なら、あんたは撃ってる。

 間違いなく。だって、そうでもしなきゃ、自分が撃たれるって思う」

確かに、あのとき私は、アヤから拳銃を奪わなかった。

いや、あの状況で、下手に奪おうとすれば抵抗される可能性があったから、と言うのもあったのだけれど、

彼女に私へ危害を加えようという意思がなかったのは感じられていた。

「それは、あなたが、なにもしなさそうだったから」

「じゃぁ、それはさ、アタシのことを信用してくれたってことだろう?」

アヤはこちらをチラっと見やっていった。

確かに…アヤが、隙を見て私を撃つ、なんてことをしないというのは、私がただ感じただけで、何の根拠も理論的な裏付けもない。

信用、と言う言葉が当てはまるのかわからないけど、確かに、私は、彼女の言葉を信じたのだ。

「…うん」

「戦場でさ、味方すら、自分を置いて逃げ出すかもわからないあの場所で、アタシの言葉を信じてくれた。

 それはすごく大切なものだと思うんだ。

 敵と味方に別れちゃってるけど、あんたが味方なら、きっとこんなに信頼で来て頼りになる人はいないだろうって思った。

 あのときは敵と味方だから、それは出来ないって思ってたけど、あんたがMPの連中に連れてかれるのを見てて、気が付いた。

 敵と味方に分かれてるんなら、まずはあんたの味方になればいいって」

「でも、それじゃぁ、あなたが連邦の敵になっちゃう」

「あー、だから、そこのところで相談なんだ。アタシは、別に連邦が好きで軍にいたわけじゃないし、

 いくらでも逃げ切る自信はあるから、構わないんだけど、問題は、あんたの方だ」

「私?」

「うん。アタシと一緒にいるってことは、アタシが連邦の敵になるのと同じで、

 あんたもジオンの敵になるかもしれないってことだと思うんだ。あんたは、それでも良いか?」

「…」

私は返事ができなかった。

ジオンを裏切るなんてことは、考えもしなかった。

家族はみんな、ジオンのために尽くして、命を落としていった。

それが、誇らしいことだと思えていたから。

だから、ジオンを捨てることは、私の家族や私自身の信念を捨てる様な気がした。

「ごめん、それは、すぐには答えられない」

「あーまぁ、そうだろうな。軍人の家系って言ってたし」

私の答えに、アヤはすこし残念そうな顔をして返事をした。でも、すぐに笑顔で

「でも、とりあえず、アタシは、あんたのためにアタシのできることをするよ。
 
 その途中か、それが終わってからか、アタシといることで、ジオンを裏切るような事態になりそうだったら言ってくれ」

なんてことを、こうも簡単に言うんだろう、彼女は。

私は、最初の疑問に立ち戻ってしまった。彼女の胸の内に頭を走らせる。

彼女は、ずっと一人だったのだろうか?友達に恵まれなかった?だから、あんな場面の私の気まぐれを気に入ってくれたの?

それとももっと違うこと?違うこと…たとえば、ス、ストレートじゃない、とか?

「ね、ねぇ、聞いていい?」

「あん?」

私は彼女の言葉よりも、まず、自分の質問をぶつけてみたかった。

何しろ、彼女の行動に、いまだに納得がいっていない。

「あの、その、あなたって、同性愛者?」

それを聞くなり、彼女は吹き出して大声で笑いだした。

「ぶっあははははは!あー、ごめん、違うよ、違う、そういう意味で言ってるんじゃないんだ。

 まぁ、その点は、男とか女とか、割とどっちでも良いタイプではあるけどね。そうじゃなくてさ」

彼女は、何とか笑いを収めて、語りだした。

「あの日の、戦闘でさ。アタシは、僚機の、あぁ、例の、カレンてやつなんだけど、こいつがまた性格悪くてさぁ…

 あ、まぁ、その話は別にして…うん、あの日、隊長たちはあの太っちょの空母を狙って上昇していった。

 アタシとカレンとそれから他の何機かは、そのちょっと下の空域で降下してきたモビルスーツを狙えって言われてた。

  でもね、その指示は、隊長にしちゃぁ珍しく、間違ってたんだ。

 や、悪かったのは、隊長よりもむしろ地上の対空砲部隊のやつらなんだけど。

 あいつら、味方機がいるっつうのに、むちゃくちゃに撃ちやがって。

  結局、アタシ達は、モビルスーツが降りてくるのと同時に穴だらけ。

 『ヤバくなったら逃げろ』が合言葉のオメガ隊だけど、逃げる暇もスペースもなかった。

  ガンガンガンってさ、弾が機体に穴を開けてく音が聞こえるんだ。

 アタシの機体は、最初の掃射くらって、左右のラダーがやられた。

 もう、戦闘機としては致命的で、機体の左右のコントロールがほとんどできなくなった。

 あげくにゃ、降りてきたトゲツキとニアミスして、なんとかかわそうと思ってロールしたら、

 今度は垂直尾翼を半分持ってかれた。

  エンジンが火を噴いたからエンジン止めて、燃料を投棄しながら、消火装置を動かして火を消して、

 エンジン再起動しようと思ったけど、言うこと聞かなくて、それからはもうほとんどコントロール不能。

  ぐんぐん地面が迫ってきて、怖かった。

 すごく、怖かった。あぁ、もうこれで死ぬのかな、って、何度も思った。

  死にたくないって、その一心で、操縦桿を引っ張って、動くかわからないフラップのレバーをガンガン動かして、

 機体を立て直そうとして、滑空させて、ドーンて、あそこに落ちたんだ。

  落ちてからは、動けなかった。

 放心状態っていうんだろうね、ああいうの。

 気が付いたら、夜になってて、星がきれいに出てた。

 コックピットの中から、星を眺めてたんだ、ずっと。

  で、思った。あーアタシ、生きてるんだな、って。

 死んだら、なんにも楽しいことなんかできなくなっちゃってたんだなって。

  そしたら、はは、笑ってくれていいよ?怖くなったんだ。戦争で死ぬのも、誰かを[ピーーー]のも。

 今まで、良く自分が、コクピットの中で、敵機に照準合わせてトリガーなんか引けてたなって。

 なんにも考えないで、誰かの人生を奪ってたんだ、って思ったら、すげーことしちゃったんだなって思った」

「それで、罪滅ぼしのために?」

「いや、そんなんじゃないけどさ。戦争だったんだ、仕方ない。でも、もう戦争はしたくないって思った。

 殺したり、殺されたり、そんなことしかできないわけじゃないだろう、人間って、きっと。

 もし、同じ命を懸けるんでも、誰かの人生を奪うより、誰かの人生を助けるために命を懸ける方がよっぽどいい。

 そんなことを、ビーコンをいじりながら考えてたんだ。その夜に、あんたのライトの明かりが見えた。

 昼間のうちに、一通り見て回ってて、あのあたりにワニが多いことはわかってたから行ってみたら、案の定、気づかないで近づいていったからさ、焦ったよ」

彼女はそう話してクスクスと笑った。

 そうか。

なんとなく、合点がいった。彼女は、敵と味方、と言う関係に嫌気がさしたんだ。

[ピーーー]か殺されるか、と言う関係を憎んだ。そしてそこへ現れたのが私で、その私は彼女のことをちょっとだけ信じた。

きっと、そんな私に、敵でも味方でも、[ピーーー]でも殺されるでもない関係を見つけた。

もっと言えば、敵と味方がそうでない関係に変わるための「何か」をみつけたんだ。

普通に困っている人を助ける、と言うのとは違う、もっと大事ななにかを、「敵であった」私との関係の中でやり遂げようとしているんだ。

「あなたの考えてることは、わかった」

「そっか」

「でも、ごめん。今すぐジオンを捨てるって決断をすることはできない。

 だけど、勝手かもしれないけど、私は、あなたの助けなしでは、どこへも行けない。

 だから、お願い。私をキャリフォルニアの基地まで連れて行って。

 そこで、ジオンがあなたにひどい扱いをしそうになったら、今度は私が必ずあなたを助ける。

 もし連邦が追ってくるなら、ジオンに迎え入れてもらえるようにお願いもでもなんでもする」

「あはは、もう軍に入る気はないよ。

 でも、ま、もしものとき、あんたが助けてくれるっていうんなら、アタシも安心だ。

 旅には目的地があったほうが頑張れるもんだしな。良いよ、行こう、キャリフォルニア!」

彼女は、そう言ってくれた。

車はいつの間にか、地下から外に出ていて、空には満点の星空が輝いていた。

あ、伏字…orz

きりがいいので、ここまででチャプター1ってことで。

続きはまた夜にでも。


なかなか激動の展開だな

この板はメール欄に「saga」と入れないと、
殺す→[ピーーー] になったり他にも色々と自動変換されちゃうので
常にsaga入れといた方が無難

続き投下していこうと思います

>>32
ずいぶん昔によく読みに来てたんだけど、投下は初めてなんで…勉強になります。

ジャブローから、夜通し車で走って到着したのは、寂れた港町だった。

夜通し、と言っても、運転していたのはアヤで、私はもう何日もまともに眠れていなかったからか、

車のシートはとても居心地が良いように感じられて、いつの間にか眠ってしまっていた。

だから、私が港町だと知ったのは、今朝、目が覚めてからのことだった。


 アヤは私が目覚めると、苦笑いをして

「腫れ、あんま引かないな」

と私の顔を見て言った。

「早いとこ病院に連れてってやりたいんだけど…物事には順番があってややこしいな」

「順番?」

私が聞くとアヤは眠そうにあくびをしてから

「ああ。病院にかかるって言ったって、身分証と保険証がないとダメなんだよ。

 要するに、連邦の人間だってのを証明できないことには、病院はおろか航空機に乗るのもちょっと厄介なんだ」

と眠たそうに言う。

 それは、困る。特に、キャリフォルニアへは、なるべく急ぎたい。飛行機に乗るのが一番手っ取り早いけど…。

「じゃぁ、どうするの?」

「ん?ああ、今、身分証とドライブライセンスを作ってもらってる」

「?」

「古い知り合いがいるんだ。何年か前まではここらで知らない人がいないくらいの不良だったんだけど、

 今は連邦の移民局の小役人やってるやつでね。まぁ、アタシが世話してやった仕事なんだけどさ。

 そいつに頼んで、アタシらは、サイド7からの移民っつうことで新しく戸籍を作ってもらうよう頼んだんだ」

ハンドルに体をもたせ掛けていたアヤは遠くの方に何かを見つけたのか体を起こして

「ほら、噂をすれば、だ」

私がアヤの視線を追うと、そこには一人の浅黒い日に焼けた肌をした恰幅の良い青年が手を振っていた。

彼は、車のすぐ脇まで来ると

「はい、姐さん、頼まれてたもん」

と小さな箱をアヤに手渡した。

「悪いな、迷惑かけて」

「なに、姐さんの頼みとあっちゃ、断るわけにもいきませんし」

青年は、そう人懐っこい笑顔で笑った。

「そっちが、お連れさんで?」

彼は、私の方を見て聞く。

「あぁ、そうなんだ」

「まぁ、訳は聞きませんけどね。無茶はほどほどにしといてくださいよ」

「わかってるよ。これでも昔に比べたらおとなしくなってんだ」

「どうだか」

アヤと青年は、親しげに言葉を交わしている。しかし、私のことや、アヤ自身が逃げてきた話をするそぶりはない。

アヤの方も黙っているし、たぶん、青年もうすうす感づいてはいるのだろうけれど、あえて触れないようにしている感じだ。

「お連れさん、俺は、アントニオ・カルロス・アルベルト。昔っから姐さんにあれこれと世話になってるモンです。

 お連れさんは、アンナ・フェルザーさんですよ」

「?」

「ああ、これだ」

私が意味が分からず首をかしげていると、アヤが小さなカードのようなものを手渡してくれた。

そこには、私の顔写真とともに、アンナ・フェルザーと言う聞きなれない名前が書かれている。

「そっちが、居住IDで、写真のない方が、医療証です。もう一枚、写真の入ってるのが、ドライブライセンスですよ」

青年が言うのに合わせて、アヤがそれぞれのカードを私に渡してくる。

「どうしても、写真を入れなきゃいけなくてね。

 申し訳なかったんだけど、あんたの軍のIDカードの写真、勝手に使わせてもらったよ」

そう言えば、車に乗ってから聞かされたのだけど、

私の身に着けていた軍服やIDなどは脱走に先だってアヤが軍の保管庫から回収してきてくれていたらしい。

確かに、顔写真には見覚えがあるが…あれは確か、軍服で撮った写真だったはず。

「体はアタシなんだ、それ」

アヤがそう言って笑う。見ると確かに。私の顔だが、首から下は、今、アヤが着ているのと同じ服装だ。

写真の偽造までしてしまったのだ。

「これ、大丈夫なの?セニョール・アルベルト、あなた、捕まったりしない?」

私はまた、少し心配になって尋ねると、彼は笑って

「セニョールだなんてよしてください。大丈夫ですよ、この程度。別に汚職やって大金巻き上げてるわけでもないんでね」

「連邦の役人は多いからなぁ」

アルベルトとアヤはわざとらしく困った風な表情をして私を見つめた。なんだかそれがおかしくて笑ってしまった。

「あ、いけね、金で思い出した」

アヤはそう言ってダッシュボードからきれいな封筒を取り出してアルベルトに渡した。

「これ、手間賃な」

「え、いいすよ、必要ないっす」

アルベルトは、あからさまに恐縮してそれを突き返そうとする。

「もらっとけって。ID関係はまぁ、良いんだろうけど、こいつには多少足が出てんだろ?」

見ると、箱の中には小型の拳銃が二挺収まっていた。

「…すんません、気ぃ遣わせて」

彼は、そんなことでもないだろうに、ひどく申し訳なさそうにその封筒を受け取った。

「そうだ、北米へ行きたいって言ってましたよね?」

アルベルトも、思い出したようにアヤに聞き返す。

「ああ、なにか情報が?」

「ええ、北米は、ジオン勢力の統治下になってるとこが広い関係で、ここいらから行こうとすると軍のセキュリティが厳しいんですよ。

 もし、どうしても北米へ行かなきゃいけないってんなら、西回りにオセアニア、アジアへ出て、

 シベリアからアラスカにわたるルートの方が、安全だと思います。

 オーストラリアもこの間っからなんだかきな臭くなってきてますが…だからこそ、突ける隙もあると思います。

 戦闘の危機がせまってりゃ、少なくとも、ジャブローからの移動に目を光らせてる場合じゃないでしょうし。

 時間は、多少かかっちゃいますけど」

「アジア回りか…」

それを聞いたアヤは、腕を組んでぐっと考え込んだ。

 このあたりから北米へ行くとなれば、単純に飛行機で北上するだけだからいいけれど、

アジアを回っていくとなると、相当な遠回りになるだろうことは、地球に住んでいない私でもわかる。

でも、危険を冒してまで急いだところで、捕まってしまっては意味がない。

ここは安全なルートを行くべきだろう。

私が考えていると、アヤはふっと息を吐いて。

「貴重な情報だ。感謝する。うし、それじゃぁ、そろそろ行くよ。しばらくこの街には姿見せられないと思うけど。

 落ち着いたら、手紙でも書くよ」

「あはは、手紙ですか。柄でもない。また会いに来てください。待ってますから」

アヤは車のエンジンをかける。

「ああ、わかったよ。気を付けてな」

「ええ、姐さんも!」

手を振るアルベルトに、私も手を振って返して、アヤは車を走らせた。

 アルベルトの姿見えなくなってすぐに、アヤは

「なぁ、さっきの、アジアまわりって話だけど…」

と聞いて来た。

アヤのことだ。私のために、何とか急ごうと思うのと、リスクとを測りにかけていたに違いない。

そんな彼女を安心させてあげたくて

「うん、安全な道を行こう!急いで行って、たどり着けなかったら、それじゃ、意味ないし」

と言ってあげた。アヤはニッコリと笑って

「そっか。うん、そうだな」

と返事をしてくれた。

 それから私は、アヤに連れられて病院へ行った。

幸い、骨に異常はないとのことだったが、腫れやアザは二週間は消えないかもしれないと医者の仰せだった。

その時になって、私はようやく自分の顔を鏡で見たが、思ったほどでもなくてほっとした。

いや、痛々しいことには違いはないが、それでもまぁ、お化けみたいな顔になっていたらどうしようと思っていたくらいだったから、

まだ人間の顔をしていたし、大丈夫そうだ。

 病院を出てから、旅行代理店に赴いて、飛行機のチケットを取ろうと思ったが、ここで誤算が生じた。

先のジャブローでの戦闘の影響で、連邦軍は付近の地域の飛行禁止令を発していて、航空機が発着できない状況だというのだ。

アジア方面に行くには、オーストラリアを経由して行く船のルートが一番早いという。

 客室付きの大型の高速フェリーで、一週間。アジアから先で飛行機に乗れる保証はないけれど、

まぁ、キャリフォルニアに着くこと自体は、そんなに急ぐ必要もないのではないかと思うようになっていた。

と言うのも、私が焦っていたのは、やはりこの南米大陸だから、と言うのが大いにあったようだった。

 明日、なにかしらの方法でこの地を離れることができる、そう考えただけで、なんだか気持ちがすっと楽になった気がした。

私たちはそこで、翌朝一番早くに出るというフェリーのチケットを買って、港近くのホテルへと向かった。

空いてる部屋がそこしかない、と言う理由で、私たちはダブルルームへ通された。

食事をして、シャワーを浴びて、私は何日かぶりにちゃんとしたベッドに体を横たえる。

同じダブルベッドにもぐりこんでいるアヤの気配に、そこはかとない安心感を覚えながら、

私は、泥のような睡魔に身を任せて、本当に久しぶりの、深い眠りに落ちることができた。

つづきをば。


「大丈夫?」

アヤが傍らで、そう言いながら私の背をさすってくれている。

「うん、平気」

そうは言いつつも、まだ、胃のあたりが酸っぱい。
南米を出てから一週間。船は予定通りに、オーストラリア大陸へ到着した。

私は、いい加減船酔いに負けて甲板で新鮮な空気を吸おうと思っていたのだけど…。

甲板から見えた景色に気付いて、アヤに話を聞いた途端、いっそう気分が悪くなってしまった。

このシドニー湾は、あのコロニーの破片の落下でできたとアヤが話してくれた。

コロニーが落ちる前、ここは何千万人もの人が住む大都市だったという。

ジャブローに落下させるはずだったコロニーは、連邦軍の抵抗に合い、コースを逸れて大気圏内で3つの大きな破片に分解した。

その一つが、ここに落下したというのだ。

大気圏を抜けてから地上に到達するまでには、ものの数分もかからないだろう。

そんなわずかな時間で、大都市の全民間人が避難できるはずなどない。

ここでは、それだけの数の人間が、一瞬で死んだんだ。

これまで、ジオンの戦果報告で、コロニーをはじめとするさまざまな場所で多くの民間人の犠牲者がでたことは知っている。

でも、ジオンはそのたびに追悼式を開いていたし、なにより、私にとってはどこか遠くのことのように感じられていたから、

ほとんど感慨を覚えなかったのだけど…この場所に来て、それが唐突にリアルに感じられてしまった。

まるで、ここで亡くなった人たちの怨嗟が、聞こえてくるように…。

「スペースノイドは感受性が強いって話は聞いたことあるけど、こいつはちょっとひどいなぁ」

アヤは心配そうに私の顔を覗き込む。

ごめんね、と言おうとしてアヤの方を見ようと首を傾けた途端ぐらりと脳の中が揺れて、また強烈な吐き気が胸を突いた。

胃が収縮して、酸味が一気にこみあがってくる。私は、何度目かわからない胃液を、海へ吐き戻した。

 「大丈夫ですか、お客様?」

乗ってきた船の船員が話しかけてくる。

「あぁ、うん。悪いんだけど、どこかに水売ってないかな?このままだと脱水になっちゃいそうなんだ」

「あぁ、お待ちください。すぐにお持ちしますよ」

アヤの言葉を聞いて、船員が駆け出す。

 情けない。また、アヤの世話になってしまっている…。

私は、どれだけ彼女に迷惑をかけてしまうのだろう。

「酔い止めも効かないしなぁ…吐き気止めかなにかの方がいいんだけど…」

アヤはあたりを見渡す。

「つったって、薬局なんてあるわけないしなぁ…病院ないかなぁ。港だし、診療所程度ならあってもよさそうなんだけど…」

ここは、コロニー落下のあと、連邦軍が作った仮設の港。船舶の往来のための施設以外は、まだ何もないらしい。

 とにかく、なんとかしないと…体の調子も悪いけど、それ以上に頭の中に得体の知れない混乱が起こっていて、

それが体調を一層悪くさせている。頭を、カラッポにしないと…

「ふぅ…」

と深く深呼吸をして、揺れる水面を見つめる。太陽が反射して、キラキラと輝いている。

私は頭の中身を吐き出すように、それを無心で見つめ続けた。

 「お待たせしました!」

船員が戻ってきた。手にはミネラルウォーターのボトルを持っている。

「あぁ、悪い、助かるよ」

アヤがそう言いながら、彼に紙幣を一枚握らせてボトルを受け取った。

「港湾事務所に伺ったら、診療所があるそうです。地図を描いてもらいました。

 こちらの方が、すこしゆっくり休めるかと思います」

「あーあるんだ、診療所!良かった」

「ご一緒しましょうか?」

船員の言葉に、アヤが私の顔を見る。

「大丈夫、一人で歩けるよ」

私は、何とか笑顔でアヤにそう告げた。

「親切に、ありがとう。そんなに遠くもなさそだし、二人で行くよ。そっちも仕事があるだろう」

「そうですか…では、お大事に」

船員は返事をして一礼すると、乗ってきた船の方へ、小走りで駆けて行った。

「行ける?」

「うん」

アヤに促されて私は立ち上がった。グラッと、頭の中と視界が揺れる。

思わずバランスを崩して、アヤにしがみついた。

「重症だな…ゆっくりでいいよ。支えるから、ちょっとだけがんばれ」

アヤは私の体を力強く支えてくれた。

不意に、最初に会った日の夜のコックピットの中で過ごしたことが脳裏によみがえってきた。

この不思議な安心感…こんな状態だからだろうか、一週間、同じ部屋で過ごしたからだろうか、

身も心も、彼女にゆだねてしまいたい気持ちだった。

 診療所は、私がうずくまっていた桟橋のすぐそばにあった。

見るからに仮設である、と言わんばかりの、薄い樹脂ボードで作られた他の建物に比べると、

きちんとしたコンクリートか何かで整えられた建物だった。

 「お邪魔しまーす、すみません、ちょっと連れが具合悪くなっちゃって…」

アヤそう言いながら、ドアを開けて中に入る。

そこは待合室のようになっていて、日に焼けた船乗りらしい人たちが数人、長椅子に腰かけてぐったりとしていた。

 「はいはい、ただいまー」

パタパタと足音をさせて、奥からTシャツにハーフパンツ、その上にだらしなく白衣を羽織った女性が姿を現した。

「あの、すいません。嘔吐がとまらなくって…船酔いみたいなんですけど…」

アヤが説明すると、女性は私の顔を見て、目にライトを当てて見せてから

「下痢なんかはされてませんか?あるいはひどい頭痛はありませんか?」

と聞いて来た。そんな症状はないので、わたしは力なく首を横に振る。

「そうですか…とりあえず、奥の処置室へ。輸液しましょう」

女性の案内で、アヤに支えられたまま待合室の奥の部屋へと通された。

消毒用のアルコールのにおいがする部屋だった。

そこには狭い簡易のベッドがあって、そこに横になるように促される。

倒れこむようにして、私はそこに体を横たえた。見上げる天井が、ゆらゆらと動いている感じがする。

気持ちが悪い。

「それじゃぁ、準備してきますんで、お待ちくださいね」

医師らしい女性は、そう言ってまたパタパタと足音をさせながら部屋から出て行った。

「アタシもちょっとトイレ行ってくるよ。一人で大丈夫?」

アヤが心配そうに私に行ってくる。

「うん、大丈夫。ありがとう」

私はそうとだけ答えて、ふぅ、と息を吐く。

外でうずくまっているより、多少は気分が楽だ。

「じゃぁ、すぐ戻ってくるから」

アヤは再度、私に断って部屋から出て行った。

 アヤは船の中でもあんな感じだった。私を気遣ってくれる、優しい人。

でも、いつもそうなわけではなくて、そのタイミングを心得ている、と言うか。

無駄にこちらを心配しているわけじゃない。私の状態や、周りの状況、いろんな情報を収集して、

助けが必要なときに一番欲しい形の助け舟をくれる。

彼女は優しいだけじゃなくて、状況判断にも情報分析にも長けている。

そしてあのフランクな性格…

 たった一週間かもしれない。

一週間あれば十分だったのかもしれない。

とにかく私は、いつの間にか、そんなアヤにすっかり安心してしまっていた。

いや、そればかりか、信頼と言うか、彼女がかけがえのない友達であるかのように感じていた。

 それほどまでに、彼女は魅力的で、フレンドリーで、何より、優しかった。


パタンとドアの閉まる音がした。見るとアヤが戻ってきていた。

「ふぅ、すっきりした」

彼女はそんなことを言いながら、にっこりと笑っている。

それに続くようにして、今度はさっきの女医が部屋に入ってきた。

手には点滴のパックが握られている。

「それじゃぁ、点滴しますねー」

女医はそう言って、無造作に私の腕を消毒用のアルコールでふき取ってから、

まるで正反対と思えるほどの丁寧さで私の腕に針を刺し、手早く点滴のパックと管でつないでテープで固定し、

パックを傍らにあったポールにひっかけた。

「じゃ、二時間くらいしたら終わると思うので、終わったら呼んでくださいねー」

そして、そうとだけ告げるとまた、忙しそうにパタパタと足音をさせて部屋から出て行った。

 トクトクと、点滴の針から体に、少し冷たいものが流れてきているのが感じられる。

途端に、体がだるくなってくる。気分も徐々に落ち着いてくる。いや、なんだろう、これ、頭が、ぼんやり…

「落ち着いた?」

アヤがベッドに腰掛けて、私の頭を撫でた。

「なに、これ」

自分の体に、これまでとは違う何かが起こっていることに気づいて、私はアヤに聞いた。

「生理食塩水に、すこし精神安定剤を混ぜてもらった。普通の自家中毒なら、輸液だけで収まるけど…

 たぶん、レナのはちょっと違うだろ?」

そうだ。私は口にしなかったけど、アヤにはきっとわかっていたんだろう。

何しろ、私がこんなになったのは、アヤからここにあった都市の話を聞いた直後だ。

私が何を思ってしまったか、なんて、きっとアヤにとっては手に取るように感じられているはずだった。

「気にすんなよ、あんたなんかがさ。

 もし、作戦が決まる前にレナが止めようとしてたって止められるもんなんかじゃないだろうし。

 なんにも気にすることなんてないんだ…レナや、アタシみたいな下っ端はさ、そんなでかいこと、気にしなくていいんだよ…」

アヤはそう言って私の頭を撫でてくれる。私はコクッとうなずいた。

幸い、薬のおかげで頭がぼんやりしてきて、難しいことは考えられなくなっていた。

ただ、全身を襲う脱力感に身を預けて、私は目を閉じた。

 一週間前の私なら、目を覚ました時には、手錠を掛けられて、連邦の施設に監禁されるかもしれない、

なんてことが頭をよぎっていただろう。

でも今は、目が覚めたときにも、アヤがこうして私が横になっているベッドに腰掛けて見守ってくれているか、

うたた寝しているかのどちらかだろうと素直に思える。

 私は、体のだるさとアヤの体温に身も心も任せて微睡に落ちて行った。


 目が覚めた。

 消毒液のにおいが鼻をつく。目を開けると、そこにはアヤの姿があった。

彼女は、私が眠りに落ち始める前のまま、ベッドに腰掛けていて、壁に体をもたせ掛けて寝息を立てていた。

処置室の窓からは、オレンジ色の光が差し込んでいる。もう夕方の様だった。

 腕についていた点滴はすでに外されていて、小さな絆創膏が貼ってある。

私は、慎重に体を起こしてみた。

まだ少し、全身に力が入らないが、気分の方はすっかり軽快している。頭の中を渦巻く、妙な気持ち悪さもない。

 私が起き上がった気配に気づいたのか、アヤが目を覚ました。

「あぁ、起きた?おはよ」

彼女はまるでとぼけた様子で、あくび交じりに私に言った。

「もう夕方…どれくらい寝てた?」

「んー、3,4時間、ってとこかな」

アヤは腕時計に目をやって答える。ずいぶん経ってしまったようだ。

「ちょうどよかったよ。もうすぐ診療所もしまっちまうし、東南アジア行きの船が出る時間ももう直なんだ」

「船?」

私が尋ねると、アヤはチケットを二枚取り出して見せて

「寝てる間に買ってきた」

と言って笑った。それから少し、その笑みを苦笑いに変えつつ

「あんまり、長居しないほうがよさそうだし、な」

とも付け加える。

「うん…」

アヤの言葉にはなんだか心当たりがあった。

ここに長く居ては、またあの止めどない思考の渦にのまれて気分を崩してしまうような気がする。

「どこまでいけるの?」

「あぁ、ニホンってとこだ。まぁー元を辿れば、アタシの故郷だったはず、の場所だな。アタシの名前は、その地方のものなんだ」

「ふぅん、地球は場所によって名前が変わるの?」

「まぁ、そうだな。宇宙では違うのか?」

「うーん、そうだな…コロニーによって違うかも。

 ほら、移住の選定のときに、民族とか文化圏でくくる、なんてことをしてたこともあったっていうじゃない?

 そう言う物の名残はまだあるかも」

サイド3は特にその傾向が強い。

私の名もそうだし、現公王もその前のジオン・ズム・ダイクンって名前も、他のコロニーにはない音感がある。

「どれくらいかかるんだろう、そのニホンまで?」

それよりも、今後のことが知りたい。

「予定では、6日だって話だ。ニホンからはキャリフォルニアまでは、どうだろうな…

 キャリフォルニアがジオンの支配地域である以上、民間の船や飛行機は使えない可能性が高い」

「どうするつもりなの?」

「まぁ、まだいくつかの候補を検討中だ。向こうの状況次第かな」

アヤはにんまりと笑ってそう言った。その点の心配をしても仕方がない。

彼女の状況判断や分析能力のことは良くわかっている。私を連邦の基地から脱出させてくれた彼女だ。

きっとなにかうまい手を考えているんだろう。

「わかった。そこは、お願い」

「うん、任せとけ」

私が何も問わずにそう答えると、アヤはうれしそうに笑って言った。それから

「立てるか?」

と言いながら、まずは自分が立ち上がって私の手を引いてくれる。

 ベッドから足を下ろして立ち上がる。

薬のせいだろう、脚に力が入りにくいが、立ったり歩いたりができないほどではない…アヤにつかまっていれば。

 私たちはそのまま、処置室を出た。するとすぐに私に点滴を施した女医がパタパタと駆け寄ってくる。

「あら、やっと起きたね。大丈夫そう?」

「はい、ありがとうございました」

私は頭を下げる。彼女は私の表情をうかがうようにしながら

「薬の処方もしておきましたよ。お連れ様に渡してありますので、大事になすってね」

と言い残し、またパタパタと奥へ消えて行った。

 その姿を見送ってからアヤが

「荷物はもう船に運んであるんだ。まぁ、今度はちょっと居心地悪いかもしんないけど、個室押さえたし、部屋の中でじっとしてよう」

と苦笑いで言う。

「どういうこと?」

彼女の言葉の真意が理解できなくて、私は首をかしげた。すると彼女は、私を出口まで案内しながらそっと耳打ちしてきた。

「次の船は、民間船なんだけど、軍事徴用されてて、乗客の半分以上が連邦軍人なんだ」

続きはまた後程…。



乗客の半分以上が連邦軍人って、危ない橋を渡るなあ


 潮風がゆっくりとたなびいている。私は、開けたデッキの二階から、海を眺めていた。

 以前、アヤが話してくれたような、エメラルドブルーに透き通った海が、そこには広がっていた。

無限に広がる宇宙空間の星の「海」は、眺めていると空恐ろしくなってしまうのだけれど、地球のこの海は違う。

青く澄んだ空に、海。こんなきれいな景色が、自然が、これほどまぶしくて目が離せないものだなんて思ってもみなかった。

アヤがこんな海の見える場所で暮らしたいと思うのも、無理はない。こんな景色を見ながら、毎日をのんびり過ごすことができたら…

それはもしかしたら、一番幸福な生活の一つの可能性なんじゃないかと思える。

 そんな話をしようとして振り返った先のデッキベッドに腰掛けているアヤの、サングラスの奥の目は、

決してこの海にも空にも、雲にも太陽にも向けられてはいなかった。

彼女の眼は鋭く、全身から警戒感をほとばしらせている。

 それもそのはず。この船は民間船なのだけれど、軍事徴用もされていて、乗客の半分以上が連邦の軍人なのだという。

確かに、そこかしこにいる乗客のうちには連邦の軍服を着ている連中もいるし、

私服を着ている者の中にも相当数の連邦軍人がいるようで、こんなに素晴らしい景色だというのに、

どこか陰鬱で、物影でコソコソと身内の陰口をたたいている姿を見かける。

もちろん、私のようにデッキに出て空を見たり海を見たり、

陽気に飲んだくれて倒れ、豪快ないびきをかいている兵士もいる。

一口に連邦軍と言ったっていろいろだ。アヤもその一人だったように。

そして、その逆に、私のような隠れたジオン軍人を摘発する任務を受けた者や、

アヤのように脱走軍人をとらえる役割の者も当然存在するだろう。

そういう兵士や軍人たちがこの船に乗っているかどうかは定かではないから、アヤの警戒はもっともだ。

でも、今回ばかりはちょっと警戒しすぎなんじゃないかと思うところがある。

 この船に乗って、もう5日無事に過ごしている。3日目までは、ずっと部屋にいたけれど、

昨日と今日はアヤを引っ張って、こうしてデッキに出たり、船内の売店を回ったりもしてみた。

もちろん、最初のうちは警戒していたけど、まさかオーストラリアから出た船に、

ジオン兵が紛れ込んでいるなんて思ってもみないだろう、普通なら。

 3時間ほど前、船は東南アジアの民間港に入り、そこで降りる乗客と、新たに乗る乗客の乗り降りが行われた。

新しい乗客にも、とりたてて警戒が必要な感覚を受ける者はいない気がしていた。


「なぁ、レナ。そろそろ戻らないか?」

アヤが私に言ってきた。

「うん、そうだね」

とはいえ、アヤにこんな状態を強いるのは酷だし、警戒はするに越したことはない。

 私はアヤに連れられてデッキを降り、客室へ続く廊下を歩いた。

「アヤ」

「ん?」

「海、きれいだね」

「あぁ、うん」

「あなたが言ってた、セブ島の海、っていうのも、こんなにきれいなの?」

「ああ、そりゃきれいに決まってる!この海よりももっときれいなんだ!」

答えたアヤの顔はキラキラと輝いている。アヤにはこういう表情が似合う。

「前にさ、船の話しただろ?客を乗せたり、魚取ったりって両方するにはさ、やっぱちょっと改造するしかないと思うんだよ。

 漁船を客船に作り替えるには手間がかかりそうだから、いっそレジャー用の小型のクルーザみたいなのを買ってさ、

 そいつのデッキの一部を改造していけすを作ろうかなって思ってんだ。あ、いけすって知ってるか?」

アヤが堰を切ったように話し始める。本当に楽しそうな笑顔で。

彼女のこういう表情を見ているだけで、私まで楽しくなってくるから不思議だ。

まぁ、言ってることは、あんまり良くわからないんだけど…それは、おいおい、ゆっくり話を聞けるときでいいかな…


 不意に、背中に悪寒が走った。とっさにアヤのシャツの袖口をつかんで歩みを止めさせる。

「なんだよ?…ん?」

アヤの反応に答えずに、私は彼女を欄干のそばまで引っ張って行って、海の遠くの方を指差した。

「あ、あそこ、見た?」

「…ん?あ、あぁ、何かいたか?見えなかった」

私が言わんとしたことを、彼女も理解してくれたようだった。

 私たちが歩いていた廊下の先から、小ざっぱりしたリゾート風のいでたちの女性がいたからだ。

彼女は両手に売店の買い物袋を提げている。食料の様だ。一人分の量ではない。

「イルカかな?何か大きいのがはねたんだよ!」

私は、そんなもの見つけてもいないのに言った。

「えぇ?どこだよ?」

アヤも私の演技に乗ってくる。

「ホラ、あそこ!」

私が虚空をもう一度指差すと、隣に立っていたアヤが、私の指先を追うように私のすぐ後ろに立って、体を押し付けてきた。

———まさか!

アヤはその瞬間、確かに私の盾になろうとしていた。違う、そんなことしたら!

そう思ってアヤを別の方向に誘導しようとするが、アヤが脚を踏ん張って身じろぎ一つしない。

私は、アヤの手首を握って渾身の力を込めて引っ張った。彼女は少しよろけて欄干に手を付く。

私はそのままアヤの体に肩をぶつけて、女性から遠ざけようと試みる。

廊下を歩いてきた女性は、ペタペタとサンダルの足音をさせて、そんな私たちの後ろを通り過ぎて行った。

 全身を緊張させ、全部の神経をその女の方に向けつつ、なおも私はアヤが無茶をしないように捕まえながら

「ほら!またはねた!」

と芝居を続ける。

「見えないよ。気のせいじゃないのか?」

そう言うアヤは、なおも女性と私の間に入ろうと私の体を自分の方に引っ張ったり体制を動かそうとしたりしている。

もう、なんでそうなの!

「上から見てみよう!」

私はとっさにそう言って、そのままアヤの手を引いて、女が歩いてきた方向へと駆け出して、

先ほどいた前部甲板とは反対方向の、後部甲板へ続く通路へ入った。


通路に入ってすぐに、アヤは私を奥へ押し込んで、壁際から歩き去った女の後姿を確認する。

 しばらく動きをみせなかったアヤが、大きなため息をついてその場にへたり込んだ。

「はぁ…ビビった…」

そうつぶやいて、彼女は大きくため息をついた。

「部屋に、戻ろう」

私がそう言うと、アヤもコクッとうなずいて立ち上がり、女が向かった方とは別の通路から自分たちの客室へと歩いた。

 その間、私には怒りが込み上げていた。同時に少しの悲しさも。その理由は明白だった。

 部屋に着いた私は、ドアを閉めて施錠を確認してから、アヤの胸ぐらを捕まえておもいっきり引き寄せた。

「あんなこと、もう二度としないで!」

そう告げるとアヤの表情にも怒りがこもった。

「あんたを死なせるわけにはいかない!だいたい、あんなにのんびりしてるから!」

そう言うだろうと、そう思ってくれているだろうと、私は知っていた。でも、だからこそ言わなければとも思った。

 ここに歩いてくるまでに、いつの間にか感情は最高潮までヒートアップしていた。

私はそのまま彼女の胸ぐらをぐいぐい押して壁際まで行って押さえつけてから、

今感じているありったけの怒りと悲しみをぶちまけてやった。

「油断してたのは私が悪かった!でも!かばわれて、あなたが死んじゃったら、私は生きてたって、これっぽちもうれしくない!」

そして私は、アヤの目をじっと見つめた。いや、睨み付けていただろう。

 アヤは、私の言葉を聞くなり抵抗をやめた。私も彼女の胸ぐらを離す。

すると彼女は、フラフラと部屋の中を歩きながら、やがて海が見える窓のすぐそばまで行くとギュっと固く拳を握り、

それを壁にたたきつけた。

 ドカン!とまるで壁が割れてしまうんじゃかいとと言うくらいの音をさせたアヤは、

ふっと全身から脱力したように肩を落とすと私の方を向き直って

「すまん…」

と、まるで消え入りそうな声で言った。

「私のことを心配して、守ってくれるのはすごくうれしい。

 だけど、あなたが私を守りたいのと同じくらい、私はあなたを守らなきゃいけないと思ってる。

 もちろん、あなたがいなければこの地球でどう目的地へたどり着けばいいのかわからないからっていうこともある。

 でも、そんなことよりも、私は、あなたを失いたくない。対等の関係の友達でいたい。

 だから私のためだけに命なんてかけないで。私たちは、『私たち』のために、命をかける関係でいたい。

 二人でいること、二人で生き残ることに、すべてを掛けようよ」

アヤは私の言葉を黙って聞いてくれていた。しかし少しして

「そうだな…アタシが間違ってた」

とつぶやくようにして言った。それから、備え付けのソファーにどっと腰を下ろすと

「すこし、話をしてもいいかな」

と同じように静かな声で言った。

「話?」

「うん、アタシの居た隊の話だ。アタシが信頼してて、誰よりも尊敬していて、一番大好きな、隊長の話」

私は、うなずいて彼女の隣に腰を下ろした。

「隊長はね、いっつも隊のみんなを気にかけていた。

 ほら、前に言ったことあるけど、うちの隊の規則は『やばくなったら逃げろ』なんだ。

 それってのは、単純にあきらめて逃げて帰ることじゃない。

 次のチャンスを逃がさないために無理をせず、何度だって体制を立て直せ、ってことなんだ」

「戦略的撤退ってことね」

「うん、そうだ。戦闘の中では、無理に突っ込まず隙を伺えって意味だし、大きく解釈をすれば、今の戦闘でやばくなったら、

 即戦域を離脱しろ、離脱ができなきゃ、戦闘機を捨てて、脱出してでも生き残れ、ってことだ。

 そうすれば必ず、再出撃のチャンスがある。アタシたちは隊長の言いつけを守って、無理はしなかった。

 いや、無理するやつもたまにいたけど、それを続けてるような奴は大抵死んじまった。

 まぁ、そんなアタシたちの隊だったけど、隊長だけは違った。あの人は、いつも私たちの頭の上にいて、私たちを見てた。

 ヤバい時には助けてくれた。

 あのジャブローへの降下作戦の何日か前に、ジオンの、ほら、あの爪付いた青いカニみたいなモビルスーツいるだろ?」

「あぁ、うん、ズゴックね」

「そいつと、あと、あの茶色い熊みたいなのが2機、合計3機の偵察隊と、パトロール中に出くわしたんだ。

 あのツメツキ…ズゴック?て言うのか。あれは初めて見たけど、隊のみんながわかった。

 『あぁ、新型だ。しかもいつものトゲツキやらムチツキ以上にヤバイやつだ』ってね。

 隊長はすぐに撤退するように言った。その一瞬で、あのツメツキが撃ってきた。ビームをね。

 一瞬で、2機が落とされた。もちろん、すぐに脱出したさ。でも、隊長はそれだけでわかったんだろうな、逃げ切れないって。

 射程と、連射速度を一瞬で計算したんだ。ケツを見せて逃げれば、確実に撃ち落される。

 撃たれる前なら安全に脱出もできるだろうけど、ケツを向けたら、それも保証できない。

 でも、仲間の支援が来るまでの間に、そいつらを見逃すわけにもいかない。

 だから、隊長はやつらに機首を向けたんだ」

「たった一機の戦闘機で、ズゴックにむかっていったの?」

「うん、そうなんだ。隊長は初撃をかわして、敵の上空をフライパスした。もちろん、敵はそれを追った。

 でも、モビルスーツって、背中側に抜かれたら向き直る動作が必要だろう?

 隊長は、それを読んで、フライパスしながら上昇して、ツメツキの真上に位置取った。

 それから、腹に爆弾抱えた機体を、ツメツキにぶつけた」

「まさか、体当たりで!?」

「いやぁ、それがうちの隊長のすごいところさ。

 隊長は、高高度から急降下しつつ、ツメツキに向きを合わせて、高度500メートルのところで脱出した。

 機体は、ツメツキの肩のあたりにぶつかって、爆発。片腕をもぎ取った。

 茶色の水中型の熊みたいなやつらはそれを見て泡食ったみたいになって、損傷したツメツキを誘導しながら撤退してった」

「そんなことがあったの…」

「アタシは、そうやって身を盾にして仲間を守ってくれる隊長が好きだった。

 そうありたいと思ってた。でも、違うんだな、違ったんだ」


「どういうこと?」

「アタシたちは何も、隊長に守られてばかり、じゃなかったんだ。

 隊長が、いつも身を犠牲にしてアタシたちを守ってくれてたんだったら、いくらなんでもあの人は死んでる。

 死んでなくても、無茶はやめろと私たちは隊長を叱ったと思う。でも、そうじゃなかった。

 アタシたちは、みんな隊長が好きだったから、隊長を死なせないようにって思ってた。

 自分たちを守ってくれる隊長を、守らないとって思ってた。あのときだってそうだった。

 隊長が撤退をあきらめて、あのツメツキに向かって瞬間、みんなとっさに抱えてた爆弾とミサイルを浴びせてた、アタシもね。

 きっと隊長はそれがわかってたんだ。援護を期待してたんじゃない。援護すると知ってて、信じてくれたんだ。

 『ヤバくなったら逃げろ』を守ってたアタシ達だからこそ、できる最大限の、でも最大限に安全な方法で援護するってことを」

「…」

「隊長は、アタシたちに命を預けてたんだね。それで、アタシたちも隊長に命を預けてたんだ。

 だからこそ、アタシたちはそうやってお互いに守りながら、この戦いで生きて来れた。

 生き残った。それこそ、『不死身のオメガ隊』なんてあだ名が付くくらいにね」

「アヤ…」

「だから、アタシも、身を犠牲にしてあんたを生かそうなんてマネはもうしない。それは間違ってる。

 でも、アタシは、レナ、あんたのために戦うことはやめない。あんたが危険なときは必ずアタシが守る。

 だから、そんときにはあんたも私を守ってくれ。

 いや、何かあったら、アタシがあんたを守るように行動するんだってのを、覚えといてくれ。

 言ってる意味、分かるか?」

「うん、たぶん…。つまり…アヤが危険な場面になるときは、アヤが私の危険を振り払おうとしているとき。

 だから、私は私とアヤのために、私にとって何が危険なのかを常に考えてなきゃいけない」

「ああ。そんなトコだ」

「だとしたら、ごめん。やっぱり、私が甲板に出てたことは、危険だった。

 アヤは警告してくれてたのに、結果的には、さっきのアヤの行動はわたしのせいだ」

「まぁ、理屈で言えばそうなる、か…うん。なんも考えずに危ない橋渡るのは、これっきりにしよう」

「うん、ごめん。じゃぁ、それなら、アヤ」

「うん?」

「アヤも同じだよ。アヤは、アヤと私のために、自分にとって何が危険か、常に気を付けておいて」

「アタシはそんなヘマはやらかさないさ」

「そうじゃなくて!アヤのことは私が守るんだってことを、忘れないで。

 さっきのは私が悪かったけど…でも、それでアヤがあんな危険な行動をしたら、今度はアヤを守る私が危険になる。

 どっちかがバカやって危険な場面を作ったら、もう片方が『ヤバイから逃げよう』って言わないと、

 結局二人とも守り合った挙句に死んじゃうかもしれない」

「そうだな…それは、ごめんて」

アヤはそう言ってぽりぽりと頭を掻いた。それから、ちょっと言いにくそうに

「その、さ。だから、もう、仲直り、ってことでいいよな?」

と口にした。それを聞いて、なんだかすごく申し訳ない気持ちになってしまった。


もとはと言えば不用心な私のせいで、しかも、守ろうとしてくれたアヤに一方的に怒りをぶつけてしまった…

「うん…バカやった上にあんなに怒っちゃって、ごめんね」

「いいよ」

「仲直りでいいかな」

「うん、もうケンカはおしまいにしよう」

アヤはそう言ってそっぽを向いた。顔がちょっと赤い。目もなんだか潤んでいる。

なんだかその様子がおかしくて、思わず笑ってしまった。

その時になって初めて、私自身は目を潤ませるどころか、ボロボロと涙を流していたことに気が付いたのだった。


 「だとしても、だ」

アヤが一息ついていった。

「うん、そうだね」

そう、アヤの言うとおりだ。

 さっきの女性。明らかに、普通じゃなかった。ぱっと見はただの観光客だったけれど、そうではなかった。

全身からほとばしる緊張感と警戒感。あれは確かに、すべての感覚を総動員して何かを察知しようというという雰囲気そのものだった。

それこそ、廊下の角の向こう側、姿を見せる前から感じるほどに…

 「あいつは、スペースノイドだったなぁ」

アヤが言った。それには少し驚いた。

「どうしてわかるの?」

「ん、いや、違うかもしれないけど。昔から、あぁ、こいつはスペースノイドだなってわかる雰囲気があるんだ。

全部のやつがそうってわけじゃなかったし、なんとなく、だったんだけど。

レナと一緒に過ごしているうちに、なんかその辺の感覚が研ぎ澄まされてるのか、

地球の人間と、スペースノイドの差を明確に感じてきているのかもしれない。間違いなく、あいつはスペースノイドだ」

私はそんな雰囲気のことは良くわからないが、少なくともあの女が、普通の観光客の雰囲気ではないことは感じられていたから、

アヤの言葉にもなんだか納得がいく。

「スペースノイド、ってことは、ジオンの?」

私が尋ねるとアヤはポリポリと頭を掻いて

「可能性はあるよな。でも、だからこそ、ことさら連邦の人間かもしれない。

スパイ狩りをしたいんなら、地球人よりもスペースノイド同士の方が警戒感を持たれずに済むだろう?」

と考えを聞かせてくれた。

「確かに…」

私は息をのんだ。


「私たちのこと、気づかれたかな?」

そのことが気がかりだった。気づかれていたら、もう一刻の猶予もない。

すぐにこの船から脱出する方法を探さなきゃいけない。

「どうだろうなぁ、もしスパイ狩りならあんな下手な芝居でごまかされるようなマヌケではないだろうし」

「へ、下手だったかなぁ?!」

「え、なに、そこ気になるところ?」

私のリアクションにアヤはそう言って笑った。むぅ、うまくやったつもりなのに。

「逆に、本物のジオンのスパイかもしれない。そうだとして、もし私たちに『気づかれた』と感じたとしたら、

攻撃を仕掛けてくるかもしれない…私たちの素性が割れていなければ、ね」

「ジオン側のスパイ狩りってことは?」

「それはないだろう。ここは連邦の勢力範囲内だ、また混沌とした部分はあるけれど。

スパイってのはもっと情報の集まりやすいところでやるもんだろう?

こんなとこに、ジオンの情報を欲しがってる連邦スパイなんて居やしないよ。だから狩る必要もない」

「そっか…じゃぁ、可能性としては、連邦のスパイ狩りか…」

「もしくは、ジオン側のスパイだろう」

私は腕を組んで考え込んだ。

 連邦のスパイ狩りだったとしたら、やはりこの船から逃げ出す算段を練らなきゃいけない。

救命ボートの一艘くらいあるだろう。それを使って、脱出するか…

でももしジオン側のスパイなら、このまま目的地にまで一緒に乗って行ったりしても大丈夫なはずだ。

問題は、あの人がどちらであるか…。

 しばらく沈黙が続いた。しかし、不意に、アヤがポンと膝をたたいた。

「こうなりゃ、威力偵察だ」

「えぇ?!」

「だってそうだろう?あいつのとこに行って、制圧する。それから相手の所属を聞き出すのが一番だ。

 連邦のスパイ狩りならふん縛っておけばいいし、ジオンのスパイなら協力できるかもしれない。

 制圧しちまえば、どっちかはっきりする」

「でも、それじゃぁリスクが…」

「もちろん下準備はしておくよ。あいつの部屋から一番近い救命艇をすぐに切り離せるようにしておく。

 こいつで退路を確保しておけば、万が一の時も逃げ出せる」

「うん…」

「あとは、さっき話した通りだ。あんたは、アタシが守れなくなるほど自分の身が危険になるようなことはしない。

 アタシもあんたが守れなくなるほど自分の身が危険になるようなことはしない、どうだ?」

「…わかった。やるしか、ないんだよね」

「うん。まぁ、任せとけって」

アヤはそう言ってニコッと笑った。それは、あの日、私が捕まった牢で見せた、明るくて、ちょっと不敵な笑みだった。

今日はここで打ち止め。

今後の展開について、書き終わっているけれど正直、これでいいのかと思う部分あり…
もしかしたら書き直すかもです。その際にはちょい時間がほしいので、そうなったらお知らせします。

アヤさんは放っておくと長い語りを始めてしまいます…変な子。
レナさんのキャラは相変わらずいまいちわかりません。もっと頑張れレナさん。

お読みいただき感謝です。
感想・展開・思うところあったらレス残してくれると頑張れます。
よろしくです。


相思相愛パートナーじゃないですか素晴らしい。

ジオンルートになるのか民間人ルートになるのかはたまた……

。毎に改行は会話文だとどうなんだろ?

みなさまこんにちは。
GWですね。いかがおすごしですか?
予定のない私がGWをいかに過ごすかというと、たぶん、ちまちまここのアップをしていくだけになりそうです。
お付き合いいただいている皆様には感謝です。

さて、問題の回です。いろいろ悩みましたが(めんどくさいので)そのままあげてみようと思います。
ご意見くだされば幸いです。

>>56
二人がどんな人生を歩いていくのか…このお話の主題かと思います。

>>57
いろいろと考えたのですが、アヤ嬢がとにかくおしゃべり好きで、
ほっといたら今後の展開上でワードデフォの設定で1ページ半にわたる語りを見せております。
行間の関係でやはり詰め込むと醜いので、なるだけ改行していくほうが無難かと思っております。
この点の読みにくさ、どう改善したら良いものか…


では、行きます〜


「あいつの部屋、あそこだな?」

「うん、確か、そう」

私とアヤは、廊下で海を眺めるふりをながら先ほどの女の部屋の位置を確認していた。

羽織ったパーカーの内側には、消音装置を取り付けた拳銃を隠してある。

使いたくはないが…こればかりは、仕方ない瞬間が来てしまうかもしれない。

 アヤはあたりに人がいないことを確認すると、近くに吊り下げてあった救命艇の固定具を一本だけ残して全部取り払った。

それから、救命艇を海面に降ろすレールとワイヤーを確認する。


「いいか、万が一の時には、アタシが先に乗り込む。レナは、この最後の固定具を外してから飛び乗ってきてくれ。

 その間の援護はアタシの仕事だ。飛び乗ってきたのを確認したら、すぐに中でこの射出装置を操作する。

 そうすりゃ、すぐにでも海へ降りれる」


「うん、了解」

それを確認して、私たちは救命艇の中に自分たちの荷物を投げ入れておいた。

「ふぅ、よし、じゃぁ、行くか」

「うん」

アヤはそう言ってパーカーの下から消音器付きの拳銃を取り出してスライドを引き、腰に戻す。

私は、スライドを引いて小脇に抱える。

 息が詰まりそうな緊張が胸を襲う。ふぅと息を吐いてみる。

ダメだ、こんなに緊張していたら、いざと言うときに判断が鈍る、反射が鈍る。

落ち着け、私…。そうは言っても心臓の高鳴りは抑えられない。

 あの女の部屋の前に立った。コンコン、とレナがドアをノックする。

「あーすみません、さっき廊下で落し物したの見かけて届けに来たんですけど…なんだろう、これ、何かのIDかと思うですが…」

うまい言い方だ。ID関係と言われたら、もし軍属の人間でしかも機密任務に就いている人間なら、確認せざるを得ない。

「はい…」

カチャっと控え目にドアが開いて中から女が顔を出した。ドアチェーンは、されていない!

私はとっさにそのドアに足を挟み込んだ。次の瞬間、アヤがそのドアをバンと押し込んで部屋の中へ突入する。

私もそのあとに続く。

「くっ!」

後ろにのけぞった女はすぐに体制を立て直し、アヤに飛びかかったが、

アヤはまるで手品か何かのように女の腕を絡め捕ると、滑らかな動きで肩の関節をきめ、

後ろを向いた女の顔の前に拳銃を突きつけて動きを封じた。


 私はドアをしめて施錠をする。先ほどこの女は二人分の食事を持っていた。まだ中に誰かがいる可能性がある。

「何者ですか!?あなたたちは!?」

女がそう怒鳴った。

「それはこっちも聞きたいんだよ。なんなんだ、あんたら?」

アヤと女が話している最中、部屋の奥で物音がした。

心臓の音がさらに大きくなりつつある私は拳銃を抜いてアヤの左後ろからその音の方に狙いをつける。

「あーっと、アンナ。アタシらの前に出るなよ」

アヤが、私の偽名を呼んで言った。人質を盾にするつもりだろう。

位置を変えずに、そのままアヤの傍らから少し後ろで銃を構えている。

「シロー!逃げて!」

女が叫んだ。次の瞬間、部屋の奥から誰かが転がり出てきて、こちらに銃を向けた。

しまった!胸が押しつぶされそうな緊張がピークに達する。心臓が口から飛び出そうだ。

「アイナ!」

男は叫んだ。手には拳銃が握られている。私は震えそうになる手をなんとか収めてその男に照準を合わせる。

男は、地面に転がったまま、身動きしない。

男を観察すると、彼は左足が、ない。

負傷兵?負傷兵がスパイかスパイ狩りなんてことがあるの?

逃亡兵かもしれないけど、あの傷じゃあ別に逃亡ではなくて、除隊でいいのではないか?

「どっちの側の人間かしらないが、俺たちはもう、新しい人生を生きていくっ!邪魔をするな!」

男は怒鳴った。

 おかしい、なにかがおかしいぞ?これは、スパイでもスパイ狩りでもない…

まるで逃亡兵の様だけど、でも、逃亡する理由は怪我なわけでもない。なんなんだ、この人たちは…。

 「あーそうだな…すまん、その可能性は考慮してなかった」

不意に、アヤが言った。

「なんだ!?」

「待て、落ち着こう、お互いに。な?これ多分、不幸な行き違いだ」

「そっちから仕掛けてきて、ふざけたことを言うな!」

男は怒鳴る。怒鳴ってばっかりの男だ。


「そうだろうけど、すまん、こっちもいっぱいいっぱいでな。とりあえず、話し合おう。

 それにあたる段階的な武装解除を提案するが、どうだ?」


「なに!?」

男がうめく。なんだか、頭悪そうな男だな…


「武装解除と言うのは、私たちが一方的に解除しろ、と言うことですか?」

アヤにつかまっている女が口を開いた。こちらの女性の方がやや冷静な印象を受けた。

「いや、お互いに、だ。よし、こうしよう。アンナ、あの男から銃口外すなよ」

アヤはそう言いながら、自分が女に突きつけていた銃を天井に向け、かつて私にしたように弾倉を抜いて、

機関部に入っていた銃弾を抜き取り、それを自分が捕まえている女性に握らせた。


「さて、アタシとこの女の人はこれでトントンだ。危害を加えるつもりはない。

 話をしよう。次は、そうだな、アンナ。私の後ろに隠れろ。

 隠れたら、アタシがしたみたいに、撃てないようにして、あの男の目の前に投げてやれ」


「うん」

私はアヤと女の影に入り、弾倉と銃弾を抜くと、銃本隊を男に投げて渡した。


「さて、私たちには今は武力はない。でも、こうして人質を盾に取っている。

 次はあんたたちだ。その銃を捨ててほしい。捨ててくれたらこの子は離す。

 引っ込めるだけでも良いけど、その時は、この子を離す前に、持たせてる銃はこちらで回収させてもらう。どうだ?」


アヤの言葉に、男は考え込んだ。確かに、アヤの交渉はうまい。

人質がいる以上、相手はこっちを撃てないだろう。

撃てないアドバンテージを生かしながら、こちらの武装解除を見せつけた。

もちろん、私たちが武器を隠し持っている可能性も考えるかもしれないが、

たとえそうであっても、安心感を与えることにはつながっている。

「後ろに隠れた女、前に出てこい。話はそれからだ」

「それは受け入れられない。アンナ、両手両足を見えるように広げてやれ」

これもうまい。隠れながら、私が武器を手にしていないことを証明できる。私は言葉の通りにした。

「くっ」

男のうめく声が聞こえる。それから男は

「わかった。俺は銃を下げる。だからアイナを離せ」

と抑え込んだ声で言った。

「それなら、アタシがこの子の銃をもらうってことで良いんだな?」

「ああ、ただし、俺は銃を向けない。あんたも、ひっこめろ」

「了解、交渉成立だな。ほら、それ寄越して」

アヤはそう言って、女に握らせた拳銃を受け取ると女を解放し、弾倉を銃に戻して腰のベルトに差した。

「シロー!」

女はそう叫んで、男のもとに駆け寄って支え起こす。


「さって…どうしたもんか…二人は、なにもんだ?えっと、シローとアイナ、って言ったか。

 アイナってほうのあんたは…スペースノイドだな?いや、そっちのシローさんも、か」


———アイナ?

どこかで聞いた名だ。先ほどすれ違った、アヤがスペースノイドだと言った女。

こんなところでコソコソするってことはジオン兵?ただ、同僚や部隊の誰か、と言うわけではない。

でも私はその名を知っている。昔の友達…いいえ、もっと違う。なにか、こう、他人から聞きづてで知ったような…

「あ!」

私は思わず叫んでしまった。

「なっ、なんだよ、アンナ。びっくりするだろ!」

「あなたは、サハリン家の…アイナ様ですか!?」

私は知っていた。アイナ・サハリンだ。母がオデッサに向かう前、技術士官としてテストパイロットである彼女をサポートしていた。

兄は、サハリン家と言うジオンの中でも名家の彼女の一族を地球で警護する部隊に所属していた。

サラ基地所属だったから…。

「わ、私は!」

興奮していた。うれしさとも違ったが、私は言わずにはいられなかった。

「レナ・リケ・ヘスラー少尉です!母はエレナ・ラム・ヘスラー技術大佐、兄はケリー・ズ・ヘスラー大尉…」

「そんな、まさか!では、あなたは、エレナさんの娘さん!?」

アイナさんは、驚いたの表情をみせた。私のことを知っていてくれた。

まるで、死んだ家族にまた会えたような感情が胸の内に湧き上がってきた。

「はい…はい!私は!エレナの、娘です…!」

「そんな…そんなことが…」

アイナさんは目に涙を浮かべながら私のところにおずおずと歩いてきて、私の手を握った。

そしてその場に崩れるようにしてへたり込んだ。

「申し訳ありません…お母様と、お兄様をオデッサに送ったのは私の兄です。

 オデッサのマクベ大佐からの支援要請に、鉱物・技術物資の提供を条件に、増援として派兵を…」

アイナさんは力なくそう言って私の手をぎゅっと握った。

「あーなんだレナ、知り合い?」

アヤがぽかんとした表情で聞いてくる。

「うん。母さんと一緒に仕事をしていたジオンの中でも名家のパイロットさん…」

「そっか…そいで、そいつは?シローっつったか」

「俺は、なんでもない。ちょっとした知り合いだ」

「ふうん…」

アイナさんは、私の手を握り、まるで祈るようにして泣いている。

「レナ、その人は信用できるのか?」

「…うん、母から手紙でなんどか聞いたことがあるの。大丈夫だと思う」

「そっか、なら、全部話そう。あんたにとっても、大事な人みたいだしな」

「ありがとう」


 アヤがそう言ってくれたので、私はアイナさんにこれまでの出来事をすべて話した。

アイナさんも、これまで何があったか、そしてどうしてこんなところにいるのかを話してくれた。

 ラサ基地は連邦軍の猛攻で壊滅。アイナさんは、乗っていたモビルアーマーが大破して、

シローと呼んでいた連邦のパイロットとともに墜落したそうだ。

シローの脚はその時に失ったんだ、と。

それからミャンマーにわたり、シローの傷がふさがるまで、軌道上から脱出してきたジオンの研究所の子供たちと生活をし、

今は北に向かって旅をしている最中なんだという。二人は、まるで私たちと同じような境遇にいた。

 「なるほど。そりゃぁ、お互いがお互いをスパイ狩りだと勘違いするわけだ」

アヤは一部始終を聞いてそう言い、大げさに笑った。

「あんたも、すまなかったな。あー、シロー・アマダって言ったか」

「いや、こっちも追手かと思っていた。すまない」

「その脚、平気なのか?」

「傷は一応塞がっている。問題ない」

「なら良かった」

「お二人は、キャリフォルニアベースに行かれるんですか?」

アイナさんが私たちに聞いて来た。

「あぁ、うん、そうなんだ」

「この船の行く先のニホンから、あちらへ渡る手だては?」

「それは…」

私はアヤの顔を見る。すると、アヤはすこし気まずそうな顔をした。なんだというのだろう。


「実は、ニホンからチャイナに渡って、陸路を列車で北へ行く計画だったんだ。

 シベリア地方からアラスカへのルートは民間の漁船に金を払えばもぐりこませてもらえるアテがあったんだけど…」


「先日の、報道ですか?」

「そうなんだ」

「報道?何かあったの?」

聞きなれない話題で戸惑ってしまう。私はアヤにそうたずねる。


「うん…いや、先に謝っとくよ。これも、たぶん、気の使い過ぎと言うか、余計なことだったかもしれないんだけど…

 一昨日、アフリカと北米大陸で連邦が反攻作戦を開始したらしい。

 それにともなって、ジオンは北米の主だった拠点の放棄と撤退を始めている、って話だ。その…黙ってて、すまなかった」


「撤退て、宇宙へ?」

「おそらく、な」

北米から撤退ということになれば、HLVでの打ち上げも行われるだろうが、数も限られている。

多くはキャリフォルニアの打ち上げ基地に招集されるだろう。

だから、キャリフォルニア基地自体はおそらく最後まで地球上の拠点にはなるだろうけど、

それが明日までか、一週間後か、わからない。連邦だって、あそこが宇宙への架け橋のある場所であることはわかっているはずだ。

一網打尽にするには、集合してきた北米部隊を各個撃破するか、集まったところをまとめてたたくつもりか…

いずれにしても、もうどれほども時間に猶予があるとは思えない。


「アヤ、何か代替えの策があるんでしょう!?」

私は、アヤに掴み掛りそうになりながら聞いた。


「まぁ、ないわけじゃ、ない。船がダメなら、空路で行くっきゃないんだが…

 残念ながら、キャリフォルニア行きの航空機なんて出ちゃいないんだ」

「じゃぁ、どうするの?」

「そこは、奥の手を打ってある。ジャブローに、頼れる人がいるんだ。あんまり巻き込みたくはなかったんだけど」

アヤは、すこし渋い表情だった。頼れる人。アヤの言葉を聞いて思い当たる人物はただ一人。

彼女の尊敬する、大好きな、『隊長』のことだ。

でも、大丈夫なのだろうか…アヤは軍を逃亡してきた身。そんな彼女が、元隊長に連絡を取ったというのだろうか?

それは…やはり危険な行為なんじゃないか?

「ん…?」

不意に、アヤが小さく声を上げて、虚空を見つめた。

いや、窓の外を。外?海…?何か、来る…!

「アヤ、アイナさんと一緒にシロー抱えて救命艇まで走れ!」

「うん!」

アヤと私はほとんど同時に気が付いた。

「アイナさん、早く!」

私はアイナさんを急かして、シロー・アマダを支える。

「どうしたんですか?!」

アイナさんが戸惑った様子で聞いてくる。

「攻撃が来ます!」

「急げ!」

アヤはそう言って部屋から飛び出していった。それをシロ—・アマダを担いだ私とアイナさんが追う。

アヤは先ほど固定具を外した救命艇に取りつくと、残していた最後の固定具を取り外す準備をしていた。

私たちも間もなくアヤのところにたどり着く。

「乗って!」

私はシローを中に投げこみ、次いでアイナさんも中に突き飛ばすようにして押し込んだ。

 次の瞬間、轟音と共に船全体に衝撃が走った。甲板が揺さぶられ、体が欄干に激突する。

「つっ!」

「レナ、大丈夫か!?」

「うん!」

「固定具引き抜け!」

アヤの声を聴いて、私は力いっぱい、固定具のピンを引き抜いた。それから、欄干に足を掛けて救命艇へ身を投げる。

中ではアヤが私を受け止めながら、船の天井部にあったレバーを操作する。

すると、救命艇を支えていた支柱が機械音とともに傾き、鈍い衝撃とともに着水した。


「レナ、操縦できるか?!」

アヤの声が聞こえる。私は、その小さな救命艇の操舵部に駆け込んだ。

「Ignition」と書かれたボタンと、二本の操縦桿が突き出ている。

ボタンを押すと、機械音を吐き出しながらエンジンが動き出した。私は一心不乱で操縦桿の両方を前に倒す。

やり方を知っていたわけではないが、おそらく、二か所の排水ノズルからそれぞれの水流を吐き出して推進するのだろう。

勘でやった行動だった。幸い、それは正しかったらしく、ガクンと言うショックとともに、救命艇は加速を始めた。

「急げ、沈没に巻き込まれるぞ!」

「これ以上は急げない!アヤも中入って!落ちるよ!」

私はアヤに怒鳴り返して、操縦桿を握りなおした。

客船は左舷。左の操縦桿を右に倒して、船の進行方向を変え、客船から逃げる進路を確保して、再び操縦桿を前に倒して加速する。

後ろでは、半分に折れた客船が水しぶきを上げながら海中に沈んで行っている。

「ジオンか?軍事徴用されてるとはいえ、民間船だぞ!?なんでこんなことを…!」

シローがそううめいている。

「あれだよ」

そんなシローにアヤが顎をしゃくって言った。

私も操縦桿を握りながらアヤの示した方向を見る。

そこには、真っ青の何かがいた。あれは…モビルスーツ?

「ジャブローで試作型を一度見たことがある。エース専用機だ、水中型の」

「ガンダムタイプの水中機…!」


「躯体はジムベースだって話だけどな。あんなもんを民間船の船底にかくして運んでたのか。

 いやな予感がしてたのは、あいつのせいだったみたいだな」


青いモビルスーツは、沈んでいく船から顔をのぞかせると、一度だけメインカメラを光らせ、水中に沈んでいった。

「ジオンの潜水艦かモビルスーツがいるんだろうな…水中戦になりそうだ。離れよう」

でも—と言いかけて、周囲を見渡した私は、その言葉を飲み込んだ。

あまりに急な襲撃で、海に投げ出された人なんていなかった。

沈んでいく船の渦に巻き込まれたのかどうか、海面には、人の姿なんて見えなかった。

頭の中に、また何かが響いてくる。ガクガクと膝の日からが抜けていくような感じがする。

「レナ、落ち着け。大丈夫だ。海が落ち着いたら、捜索に戻ってこよう。今はここを離れないと、海戦に巻き込まれる」

アヤが私のそばに来て、そう言って肩を抱いてくれた。

「うん」

私は、そうとだけ返事をして唇をかみしめ、こみ上がってくる得体の知れない不快感に耐えながら操縦桿を握りしめた。

とちあえず夕飯なのでここまでで。

とんだ人達が出てきちゃいましたww

まさかのシローとアイナにガンダイバー……だと……

SSならではって感じで良いね〜

外見はガンオンでのどういうキャラメイクかっていうイメージはあるの?

まさかの08

>>67
いろいろと調べて、なんとか時間軸を合わせておりますww

>>68
あざーす!よそのキャラを出すのってちょっと抵抗あったんで、絡みは最小限になってはいるんですが…

とは言いつつ、明日以降のアップにはオジさんにしかわからないかもしれないあんな人もお出まし願ってます^^;

ガンオンのキャラメイクですか!特に意識して考えてはいませんが…

アヤさん→茶か赤っぽいベリショ、Tシャツが似合う
レナさん→正直わかりませんが…長めの黒髪ボブ、制服以外の服ってスーツしか持ってないです…みたいな感じ?

絵師さん頼むww

>>69
シローがどうがんばってもバカっぽくしか表現できず、レナさんにバカ呼ばわりさせてしまいました。


遅くなってますが、続き投げて寝ます〜


「くはっー参ったな、こりゃぁ」

アヤが救命艇のハッチを出て、天井に上って声を上げている。

 あたりはすっかり夜だ。救命艇の中には、煌々と電池式のランプがともっている。

私たちはあれから時間を置いて一度、船が沈んだ地点に戻ってみた。

しかし、そこには生きている人影はなく、ただ無数のがれきと動かなくなった体が浮いているだけだった。

アヤの指示でその場所からすぐに離れた。海戦で連邦かジオンか、どちらが勝ったのかは知らない。

けれど、船が沈んだともなれば連邦の軍艦が来ることは明らかで、

アヤも私も、アイナさんもシローも、それと接触することは避けるべきだったから。

それから半日、ジャイロを頼りに救命艇を走らせていたけれど、夕方ごろに動力がとまった。

バッテリー切れの様だった。幸い、船内には数日分の食料と水がある。

簡易のトイレも付いているし、すぐにどうこうなる状況ではないと思うのだけれど、

連邦の救助を待つわけにはいかない私たちにとって、今の状況は決して芳しくはない。

 「星がきれいだなぁ…」

アヤの声が聞こえる。のんきなものだが、アヤのことだ。

何か策でも巡らしているのかもしれない。

「レナも来いよ!キレーだぞ!」

アヤがそう呼ぶので、私もハッチから顔を出した。

星なんて、宇宙でいやと言うほど見慣れていたけれど、地球から見るそれは、宇宙で見るのとは別物だった。

宇宙で見る星は、果てがなくてなんだか怖い感じがするけれど、

地球にいると、「自分がここにいるんだ」と実感できる、不思議な感覚があった。

「ホント…」

アヤは救助船の天井に寝転んでいた。私も天井にあがり、アヤの隣に腰を下ろす。

そうして一緒に、しばらく星を眺めてから、少しして、アヤに聞いてみた。

「ね、次のプランは?」

するとアヤは笑って言った。


「今のトコ、お手上げ。夜だからな。日が昇ったら、何か考えよう。

 救難信号発信用のビーコンは切っちまったけど、ジャイロと地図でだいたいの位置は把握してる。

 近くに島がいくつかあると思うから、そのどれかに行こう。これ、わかる?」


アヤがコンコンと、天井をたたいた。見ると、天井には奇妙な幾何学模様が走っている。これは…ソーラーパネル!


「そう言うこと。明日の昼にでもなれば、多少は船も動くだろ。

 とにかく、人の居る島を見つけて、船でも飛行機でも乗れれば良いんだけどなぁ」



「そう言えば、客船で話してた、キャリフォルニアへ行く策って、具体的に聞かせてくれる?」

これも、実は聞いてみたかったことだ。

「あぁ、うん。隊長にね、連絡を取ったんだ」

彼女は静かに言った。


「いや、本当はとるつもりはなかったんだけどね。ジャブローを出たときにIDもらったろ?

 シドニーでさ、銀行に行って、あのIDで口座作って、アタシの給金用の口座から金を移し替えようと思ったら、

 なんか増えてたんだよ、貯蓄が。で、調べてみたら、『退役金の振込』ってなっててさ」


「退役?」

「そ。負傷による退役だって。はは。アタシ休暇届は出したけど、退役届なんて出した記憶ないんだ」

「まさか、それって…」



「うん、隊長が手を回してくれたらしい。休暇を終えても帰らないアタシのことと、それから独房からいなくなった捕虜。

 まぁ、他にもいくつか残してきちゃった足跡あるけど。バレてたんだなぁ、かなわないわ、隊長には。ははは。

 隊長が、ジオン降下作戦防衛時の負傷による退役、で処理してくれたらしい。

 だからシドニーから、あんな連邦軍人ばっかりの船にも乗ろうって思った。

 アタシが大丈夫なら、レナ、あんただけ部屋に閉じ込めとけばほとんどリスクなかったからな」


「そうだったんだ…でも、あたなたの隊長はどうしてそんなことを?裏切り者じゃない…」


「あぁ、そりゃぁ、決まってるだろ。『ヤバくなったら逃げろ』が合言葉のアタシらだ。

 でもって、逃げる仲間を助けんのが、アタシらだ。軍の外だなんだと、細かいこと気にするやつはいないってことだな」


アヤはそう言ってにっこりとほほ笑んでいた。それはなぜか、どこかさみしそうにも誇らしげにも見えた。


「で、それに気づいたから連絡を取ったわけだ。シドニーで。事情と計画を話したら、連邦の反抗作戦の話を聞いてさ。

 それで困ってたら、そっちも手を回してくれるって」


「どんな?」

「極東第13支部基地へ、工作員協力の要請」

「え?」

「まぁ、平たく言えば、偽の指令書だな。それをニホンのホテルに送ってもらう約束をしてた。

 工作員のふりをしてその指令書を持って第13支部へ行って、小型機を徴用することになっててね。

 隊長の案だけど。工作員ってのは、実際良い案だ。あんたの顔は割れてるだろう?そこを利用すんのさ。

 逃亡したと言われてる捕虜に顔を変えた工作員が、これからジオン拠点に潜入し、情報を探る。

 しかも、連邦軍本部からの指令書付きだ」


「うまくいくのかな?」


「まぁ、大丈夫だとは思う。言っちゃえば、どこの軍も諜報部は汚いやり口と機密がつきものだからな。

 捕虜逃亡自体が、今回の『工作活動』を支援するためにあえて公表したブラフである、とでも言っておけば問題はないだろ」


「そっか、本物の私が、偽物に成りすますわけね」


「そう言うこと。本部に確認とか言い出したら、こう言ってやれば良い。

 『貴官らは諜報員たる我々の行動およびその情報を、漏えいの危険がある軍の汎用電波に乗せるつもりか!

 そのような漏えいを避けてこその指令書であるぞ!』ってな」


「確かに…良く考えられている、ような気がする」

「だろう?まぁ、それもこれも、無事に指令書を受け取って、13支部へいければ、の話だけど…」

アヤは、珍しくそんな弱気なことを言ってため息をついた。この事態は、アヤにとっては予想外だったのだろう。

私は、何か声をかけた方がいいのか、一瞬悩んでしまった。言葉を探していたら

「ん、お!」

と急にアヤが飛び起きた。

「な、なに!?」

「来った来た!」

嬉しそうにそう叫びながらアヤは、暗闇で何かを手繰り寄せる様な動きを始めた。

「ひゃー、こいつ良い引きしてんな!ちょ、レナ!そこのライトで海面照らして!」

私はアヤに言われるがまま、そばに置いてあったライトで海の上を照らした。何か白いものが反射してキラッと光る。

「やばいかなぁ、ライン切られそう〜!」

アヤはなおも楽しそうに一人で何かをやっている。

「いけっかな…おいせっ!」

そう掛け声とともに、アヤはひときわ大きくその腕を上に振り上げた。

すると、海面から何かが跳ね上がってきて、ハッチの脇にドサッと落ちた。

それは手のひら二つを並べたくらいの、ピンクの肌をした魚だった。

「うおぉ!鯛じゃんか!」

アヤはそれこそ飛び上がりそうなくらいに喜び始めた。

すぐさま魚をつかむと、口から、いつどこで手に入れたのか知らない釣り針を外して、

魚を救命艇の脇から海面につるされた網に投げ込んだ。

あぁ、そうか。そう言えば、アヤがさっき、自分の荷物をごそごそとやっていたのは、この釣り針と網を出していたのだ。

「すっげーよ、なぁ、レナ、鯛だぞ、鯛!あ、鯛って知ってるか?前に食わしたナマズなんか比べものになんないんだからな!」

アヤはまるで子どもみたいに喜んでいる。私もなんだかおかしくって、声を上げて笑ってしまった。

なんとか笑いを収めてから

「聞いたことないけど、おいしいの?」

と聞いてみる。

「うまいさ!天然ものだしな!刺身か…あーいや、ちょっと炙って…塩とレモンかなんかで食うのもいいかも!

 そうだ、あっついお湯かけてギュッとなったところをさっぱり系のドレッシングに和えてもうまそうだなぁ!」

可笑しい。本当に、まるで子どもだ。

「お、お、お!」

また不意にアヤが声を上げる。

「左足にも来たぁ!」

暗がりでわからなかったが、ライトを当てると、アヤの脚には何やら輪っかが付いていて、それに釣り糸を結び付けているらしかった。

まさか、自分の脚を釣竿の代わりにしているなんて。


「こっちもなかなか良い引きしてるな。あ、そうだ!レナ!あんたこれ引っ張れ!」

「え?えぇ!?」

アヤは私の返事も聞かず、手にした釣り糸を握らせた。途端に、グイっと海の方に引っ張られて天井から落ちそうになってしまう。

「ちゃんと踏ん張れ!」

そんな私をアヤは捕まえてくれて、片腕で体を支えながら、もう片方の手で、糸を半分引っ張ってくれる。

 細い糸がぐいぐいと引っ張られ、手のひらに食い込む。


「あ、待て待て、強く引っ張られてるときは無理しちゃダメだ。タイミングを見て。

 海の中であっちこっちに向かって泳いでるからな、引っ張りやすいところで引っ張って、

 逆に引っ張られるときは糸に加わる力を逃がしながらじっと我慢だ」


「う、うん!」

私はいつの間にか、アヤの指導に従って、一生懸命になって糸を引っ張っていた。

糸はブルブルといって震えたり、急に軽くなったりを繰り返す。

「ちょちょ、アヤ、アヤ!すごい引っ張られてる!!」

私が悲鳴を上げるとアヤは、海面を覗き込み

「いるいる!すぐ浅いとこまで来てんだ!あれ、ライト!ライトは?ライトどこやった!?」

とあわてだす。

「ここ、ポケット!私のポケット!!」

私も必死になって、ライトの入っているズボンのポケットをアヤに押し付ける。

アヤがポケットをまさぐってライトを取り出して海面を照らす。さっきみたいに、また何かが光っている。


「よし、ここが勝負だぞ!良いか、一瞬でも軽くなったらその瞬間に一気に手繰り寄せるんだ!

 無理に引っ張ると糸切れちゃうからな!集中しろよ!」

「うん!」

アヤに言われるがまま、私は手のひらの感覚に集中する。グイグイと引っ張って、少し弱まって、またグイっと引っ張る。

よし、いまだ!

 私はそのタイミングで、一気に糸を手繰り寄せた。アヤも手伝ってくれる。

ブルブルと強い振動が伝わってきて、次の瞬間には、すぐ目の前に銀色の細長い魚が姿を現した。

「お、サバ?や、アジか!おい、アジだぞ!」

「うん、わからない!どうなの?食べれる?」

「もちろん!こいつこそ、さっと湯引きしてマリネが良いかなぁ…

 って、アタシさっきからそんなことばっか言ってるけど、調味料なんて一切ないんだよな!悔しいなぁ!」

アヤはニコニコしながらそう「悔しがって」、魚を網に放り込んだ。それから

「今日はこんなもんにしといてやるか!大漁だ!」

と言いながら、脚に付けた輪っかを外して、それに糸を巻いて片付け始めた。

私は、と言えば、なんだか無性にドキドキしていた。

コロニーで魚なんて釣れるはずもないし、そもそもコロニーで魚と言えば、だいたいは生鮮食品売り場で見かけるだけだ。

養殖していないコロニーもある。


いきなり魚釣りの初体験をさせられ、しかも収穫があったなんて…なんだか妙に感動してしまっている。

「ん、レナ、どうした?」

糸を巻きながら、私の様子に気づいたらしいアヤが聞いてくる。

「あはは、うん、なんだか初めての釣りで、その…どきどきした!」

私が感じたままのことを言うとアヤは満面の笑みを見せ

「そっか!初めてだったのか!」

と言うなり大声で笑いだした。

 あまりに派手に笑うから、なんだか気恥ずかしくなって、

コロニーには海なんてないし、川や池があっても人口で、そこにいる魚は勝手にとっちゃまずいし、なんて話をしたら、

糸を巻き終わったアヤがにんまりと笑った。

 一瞬、背中がゾクッとした。

「ちょ、な、なに!?」

そう言ってアヤから離れようと思った次の瞬間、彼女は糸を巻き終わった輪っか二つをハッチから救命艇の中に投げこむと、

そのまま私に飛びついて来た。いや、これは!そんな程度のことではなくて!!

身の危険を感じたときにはすでに遅かった。

私はアヤに抱きかかえられたまま、救命艇の天井から宙を舞っていた。

「息だけ止めろ!」

アヤの声が聞こえたので必死になってそうした。体が、冷たい水の中に突っ込んだ。

ポコポコと耳の中で音がする。訳も分からず、苦しくなって私はアヤの首元にしがみついた。

「ぶはっちょ、レナ、待って」

アヤの黄色い悲鳴が聞こえたかと思うと、唐突にアヤの体が腕の中からスルッと抜けて行った。

でも、恐い、と思う間もなく、後ろから腕が伸びてきて私の体を支え、次いで

「もう息していいぞ?」

と言う声が聞こえてきた。その声を聴いて初めて、私は口ところか目もつぶっていたことに気が付いた。

ぷはっと息を吸い込むと同時に目を開けると、私は水面にうつぶせに浮いていて、

その私が沈まないように、アヤが背中側から抱えるようにして支えてくれていた。

「海水浴も初めて?」

後ろから私の顔を覗き込むようにしてアヤが聞いてくる。その表情は、ニヤニヤと、私を海に突き落としたときのまんま。

なんだか悔しくなったので、なんにも答えずに水をぱっと顔にかけてやった。

「ぷぁっ、何すんだよ!もう知らねっ」

アヤはそう言うが早いか、私からぱっと体を離した。

待って待って待って待って!それはまずいんだって、ダメダメダメ!!!

 私は慌てて向き直るとアヤの腕を捕まえた。

「ダメ、捕まえてて!」

いつの間にか私は彼女にすがっていた。

よっぽど必死な顔をしていたんだろう。そう言った途端にアヤがまた大声で笑い始めた。

「なんだ、レナ、あんた泳げないの?!」

だだだだ、だってコロニーで泳ぐ必要なんてこれっぽっちもないし?!

そりゃぁ、士官学校の選択に水泳の授業もあったけど、べ、別にパイロット養成にはこれっぽっちも関係ない分野だし!?

そもそも、ちょっと練習すれば泳ぐのなんて簡単だし!?

てなことを言ってやろうと思ったけど、結局は図星を付かれて、私は口をパクパクさせているだけで精いっぱいだった。

 「大丈夫ですか!?何かあったんですか!?」

船の方からアイナさんの声が聞こえる。

「あー、や、ごめん、ただの悪ふざけ!」

アヤはそう言ってまた笑う。それから

「アイナさんもどう?気持ちいいよ!」

と誘っている。

「ふふふ!いいえ、遠慮しておきます。この緯度では、この時期に水に入るにはちょっと寒いですもの」

「この辺りは南からの海流だから、暖かいんだけどなぁ」

アヤは残念そうに言っている。確かに、水温はさほど低いとは感じない。

肌に触れる温度自体はアヤが言うように心地よいほどだ。いや、そうじゃなくって!

「そうじゃなくて!私たち一応、遭難してるんだからね!?」

私が訴えるとアヤはすました様子で

「太陽電池とジャイロと食料と地図がある遭難なんてあるわけないだろ!

 今のアタシらにないのは、時間と元気!時間の方は待つしかないけど、ほら、元気の方は出ただろ?」

と言ってきた。

うん…確かに、なんだかんだで沈みそうになっていた気分をアヤは持ち直させてくれた。

まさか、私を元気づけようとしてわざわざこんなことを急に…する、必要、は、ない。

「それって、今思いついたでしょ」

「だっはは、ばれた?」

「ほらぁ!危うくだまされるとこだった!」

もう一度顔に水をかけてやろうかとも思ったけど、たぶん、いや絶対にまた私を放り出すに決まっているので我慢した。

「さーて、ま、そうは言ってもお遊びはほどほどにして…さっきの魚食べようか」

アヤの言葉にハッとした。アヤのを引き受けただけだけど、初めて自分が釣った魚だ。食べてみたい!

「うん、食べる!」

「あはは、なんだ、子どもみたいだな」

アヤに言われるとは思わなかった。と、反論しようとした矢先に

「さ、上がろう」

と言ってアヤは片腕だけで巧みに泳いで救命艇に取り付くと、私をラダーのところまで押し上げてくれた。

二人で船の上に上がって、体を拭いてから、携帯式のバーナーでお湯を沸かし、

アヤが捌いた二匹の魚をそれぞれ半分ずつ湯引きしたり、そのまま生で「刺身」と言われて食べさせられたり、

火であぶってみたり、残りの半分は「干してみようか」と言うアヤの言葉に従って、釣り糸を使って救命艇の外に干した。

アヤの言った通り、あの日に食べた魚とは比べものにならないくらいおいしかった。

でも、なぜだか不思議と、あの日に食べた魚の味も思い出されて、お腹どころか心まで満ち足りた気分になってしまった。

食べ終わったのがどれくらいの時刻だったかはわからないけど、そんな私はすぐに眠くなっていた。

いつのまにか、心地よいとさえ思い始めてしまった波の揺れを体に感じながら、私は、呑まれるように眠りに落ちて行った。

以上でございます。

イチャイチャ回、あるいはキマシタワー。

続きは明日の夜にあげられればいいなぁ。

これはいいの見つけたわ


たまにゲストがいると盛り上がるよね
オッサンはドアンさんを所望するよね

二人の逃避行が良い結末になりますように

>>78
ありがとう。
ちょいちょいレスくれるうれしいんだぜ。

>>79
なん…だと…!?
オッサン、ニュータイプか!?

続き投下しますー


「レナさん!アヤさん!起きてください!」

翌朝、私はアイナさんのそう叫ぶ声で目を覚ました。

救命艇の窓からはまぶしい光が差し込んでいる。

「どうしたんだよ、アイナさん」

アヤが眠そうな目をこすりながら聞いている。

「どうやら、どこかの島に流れ着いたみたいなんですが…」

島に?私も体を起こして窓の外を見やる。確かに、窓の外には岩陰が見えた。

アイナさんは天井のハッチを開けて外を見ているようだった。

「なにかあった?」

アイナさんの様子を見たアヤが尋ねる。

「それが…」

口ごもるアイナさんを見て私も起き上がる。

アイナさんが表に出て場所を開けてくれたので、ハッチへ続く梯子を上って表に出ると、すぐそこに陸があり、

そこから数人の子どもたちが私たちを見つめていた。

「人…」

「人だって?」

アヤも梯子を上って表に出てくる。

「ドアン!早く!こっちだよ!」

どこからか子どもの叫ぶ声が聞こえた。その声がした方を見やると、別の子ども達数人が、一人の男を先導して走ってきていた。

 男は、たくましい体つきをした、年頃20代半ばだろうか。農作業用の鍬を担いで、ボロボロになったランニング姿だった。

「救命船か?近海で沈没事故でも?」

男が私たちに尋ねてくる。

次の瞬間、アヤが腰に差していた拳銃を抜いた。

子ども達から悲鳴が漏れ、正直私も驚いた。

「あんた、軍人だな!?こんなところで何してる!?」

アヤの言葉に、私は男を見やった。ボロボロのランニングに、下には長ズボンに、ブーツ。

あのブーツ、あのズボン…あれは、ジオンの軍服?

「お、お前もドアンをいじめに来たのか!?」

「どっか行っちまえ!ドアンはなんにも悪いことなんかしてないんだぞ!」

「そうだ!帰れ!」

「かーえーれ!かーえーれ!」

子ども達が口々にそう叫び始め、数人が石ころを拾ってこちらに投げてきた。


「おい、やめないか」

ドアン、と呼ばれたその男が子どもたちをいさめた。

「元軍人だ。わけあって、今はここで子どもたちの面倒を見ている。

 君たちに危害を加えるつもりはない。俺が気に入らないのなら船を出すんだな」

ドアンはそう言って私たちに背を向けた。

「待って!」

思わず私は呼び止めてしまった。

「私たち、ニホンへ向かいたいんです。その途中に船が沈んでしまって…

 良ければ、何か知っている情報をいただけませんか?私たちも危害は加えません!」

アヤが昨日話していた計画なら、ニホンへ渡る手だてがいる。

いくらなんでも、一日走ればバッテリーがなくなってしまうこの救命艇ではたどり着くのは難しい気がする。

私はアヤの銃を下ろさせた。

「…わかった。だが、この岩場では船が傷ついてしまうだろう。北へ回れば砂浜がある。

 先に向かっているから、そちらに船を回すんだ」

ドアンはそう言って子どもたちに何かを告げると、岩場から続く森の方へと歩いて行った。

船を北に走らせると、ほどなくして砂浜が見えてきた。私は操縦桿を微妙に操作しながら、その砂浜に乗り上げてモーターを止めた。

ハッチを開けて、アヤが一番に船から降りる。私はアイナさんと一緒にシローを支えながら、それに続いて地面に降り立った。

久しぶりに踏む地面は、船の揺れの影響でどこかふわふわする感じがする。

 砂浜にはすでにドアンと数人の子どもたちが来ていた。子どもたちは、松葉づえをついているシローをまじまじと見つめている。

「にーちゃん、脚、どうしたんだよ」

子ども達の一人が口を開いた。

「あぁ、戦争でな。爆発に巻き込まれてとんでっちまったんだ」

シローが言うと、子ども達から小さい悲鳴が漏れた。

「俺たちの母ちゃんも父ちゃんも、戦争で死んじゃったんだ」

「それで、悲しくて泣いてたら、ドアンが助けてくれたんだよ!」

戦争孤児なのか、この子たちは…それを、元ジオン軍人のこの人が?

「まぁ、そうだったんですか…」

アイナさんは子どもたちの言葉に、なにか感じ入ってしまったようだ。いや、アイナさんだけではない。

私もこの子たちと同じようなものだ。思えば、アイナさんだって、身内とは死に別れてしまっている…

ふと、そう言えばアヤも、と思って彼女の顔を見た。しかし、その表情はいまだにかすかな緊張を帯びている。

 どうしたというのだろう。いつものアヤなら、ひょうひょうと相手からいろんなことを引き出して手玉に取ってしまいそうなものだが、
このドアンと言う男に対しては違う。表面上は普通そうにしているが、心のどこかに一瞬の隙も許さないような、

そんな気配を感じ取れる。

 「さぁ、着いて来たまえ。この先に、子ども達と建てた小屋がある。話はそこでしよう。船を係留するのを忘れるなよ」

ドアンはそう言ってサクサクと砂浜を歩き始めた。


 私とアヤで、船からロープを引っ張って手ごろな岩に縛り付け、島の内側へと向かった。

 砂浜を抜け、木々の生い茂る森を切り開いたような上り坂の道を進むと急に目の前が開けた。

そこには、畑が広がっていて、その真ん中に木で作られた小屋があった。

 「すごい…これ、あんたたちで作ったのか?」

畑も小屋も、とても素人が手掛けたとは思えないものだった。それに感心したのかシローが聞いている。

「あぁ。子ども達のおかげだ」

ドアンはそう言って子どもたちに目配せをした。彼らはそれぞれ照れたり胸を張ったり、ドアンの言葉に喜んでいるようだ。

「よし、お前たちは畑の水まきと草引きを頼む。俺はこの人たちと話をしてから行くからな」

「大丈夫かよ、ドアン!」

「あいつ、銃持ってんだぜ!」

「危ないよドアン」

子ども達が口ぐちに言う。まぁ、そう言われても仕方ないだろう…アヤ、子どもにも好かれると思うんだけどなぁ、本来なら…

「大丈夫だ。悪い人じゃない。いろいろあって、ちょっと心配症なだけさ。お前たちも、最初のころはそうだっただろう?」

ドアンが言うと子どもたちは戸惑ったように黙った。

「ねえ、あなたたちの畑、私に案内してくれないかしら?どんなものを育てているの?」

見かねたのか、アイナさんがそう言って畑をみやった。

「いいよ!」

「えー、めんどくせえなぁ」

「なによー!じゃぁ、あたし達と行こう!お姉ちゃん!」

「あ、ちょ、ちょっと待てよー」

ワイワイと騒ぎ出した子どもたちに手を引かれて、アイナさんは畑の方へと歩いて行った。

 「すまないな」

ドアンが静かに言った。

「いや…こっちこそ。あんたがアタシらになにかしようって気がないのは、わかった。でも、用心だけはさせといてくれ」

アヤらしくもない。私はそう思ってしまった。

「わかった。だが、子ども達を怖がらせるようなことはしないでくれ」

「あぁ。そこは、十分に気を付ける」

アヤは顔色を変えずに答えた。変なの…。

 「それで、どうしてジオンの兵士が、子ども達を?」

シローが聞いた。うん、そこは大事なポイントだ。

「通りすがりの君たちに話すべきことか…判断できんな。事情があって、と言うことで納得してもらおう。

 君たちこそ、どういういきさつで?見たところ、ただ事故に巻き込まれた旅行者ってわけでもなさそうだ」

ドアンが私たちを見やって言う。私は、チラッとアヤに目をやった。アヤも私を見ていた。

私には、この人には別に、私たちの話をして良いのではないかと感じていたけれど…アヤの目は、どこか迷っているようだった。

「俺は、シロー・アマダ。元連邦のパイロットだ。子ども達と一緒にいるのは…アイナ。アイナ・サハリン」

「サハリン?まさか、ジオンのサハリン家か?」

ドアンが少し驚いている。当然だ。サハリン家と言えば、サイド3黎明期に栄えた名家。

今でこそ規模は小さくなってしまったが、それでも、立派な家柄には違いない。

サイド3に住んでいれば、一度くらいは誰だって耳にするだろう。

「有名なんだな。そうだ、間違いない」

「そんなお嬢さんが、どうしてこんなところに?」

ドアンが聞くと、シローは珍しく穏やかな笑顔で

「もうやめたんだ。俺も、アイナも、戦争を。軍人として、敵と戦うことも、もうやめた」

と言って、アイナさんの方へ視線を投げた。

「お姉さん、ほら、このイチゴ、食べていいよ!おいしいんだよ!」

「いいんですか?ホント、真っ赤ね、おいしそう」

「あ、あ、葉っぱのトコは食べれないよ!」

「バーカ、そんなこと、言わなくたって知ってるよ。お姉さん大人だぞ」

「ふふふ、ありがとう。食べないように気を付けるわ」

アイナさんが、子ども達たちと楽しげにしている。

その表情は、まるで今自分たちのことを話したシローの穏やかな顔つきにそっくりだ。

ふと、シローに視線を戻す。シローはまだ、穏やかな表情でアイナさんたちを見つめていた。

 そっか、そうなんだ。私は気が付いた。

この二人は、私たちと同じようなことを考えて、戦闘とか敵とか味方とか、そう言うしがらみから逃げてきた人たちなんだ。

すべてを捨てて。それは、私とアヤの関係に良く似ていたけど、実際は違った。

二人から、直接そう言う話は聞いたことはなかったけど、見ていればなんとなくわかる。

二人は互いに互いを必要としているんだ。依存心やなにかではなく、もっと健全で、もっと強いもの。

たぶん、愛し合っているんだろう。とても、強く、穏やかに。だから、確信を持てる。

あぁ、この二人はきっとどこまでも一緒に行くのだろうな、って。でも私とアヤは違う。

ずっと一緒に、なんてことはない。私は、キャリフォルニアに帰ろうとしている。

無事にたどり着いたところで、アヤは連邦軍には戻らない。ジオンに亡命もしないだろう。

私とアヤの関係は、私がキャリフルニアに到着するまでの約束で、契約みたいなものだ。

アヤはあの日、それでも良いといってくれた。でも…でも、肝心の私は、それで本当にいいのだろうか?

アヤにとって、私ってなんなのだろう?私にとって、アヤってなんなのだろう…?

「アタシらも似たようなもんだ。アタシは元連邦の軍人。こっちは、元捕虜」

「ははは、そうか。脱走兵ばかりが集まるとは、奇妙なものだ」

ドアンはすこし安心したのか、初めて笑顔を見せた。それからふぅと息をついて

「それなら、俺の話もしなければなるまい…。子どもたちには、黙っていておいてくれ」

とおもむろに小さな声で語りだした。


 ドアンの話では、子どもたちの親を殺したのは、彼自身だというのだ。

戦闘の流れ弾が民家に着弾し、殺してしまったのだという。

その報告を受けた彼の上官は、反ジオン的な思想が根付くことを恐れて、子ども達も殺害せよと彼に命じたのだそうだ。

急進派の指揮官のやりそうなことだ…私は、怒りを抑えきれなかった。

ドアンも同じだったらしい。彼はザクを無断で発進させ、それを使って子どもたちをこの島に保護したのだという。

ザクは、以前にこの島に来た連邦軍に処理をしてもらったようだ。

ザクに仕込まれていたビーコンか何かが、ジオンの追手にここの位置を特定させていたんだろう。

ザクを処理して以来、戦況のこともあってか、ジオンがこの島に来ることはなくなったという。

「聞くが」

ドアンの話が一区切りついたのを見計らっていたのか、アヤが口を開いた。

「なんだろう?」

「ジオンの軍人ってことは、スペースノイドなのか?」

「あぁ、そうだが?」

「そうか…」

ドアンが不思議そうな顔をしている。私も、何を聞いているんだろう、と首をかしげたが、

当のアヤ本人もなんだか微妙な顔つきをしている。

何か気になることでもあるんだろうか。

 「ドアーン!」

子ども達の声がする。

「ドアン!見てみて!スイカ、こんなに大きくなってた!

「みんなで食べていいだろ、な!な!」

「あんまり走ると転んで落としてしまいますよ」

見るとアイナさんが子どもたちと一緒に、大きなまん丸い果実を持って駆け寄ってきていた。

「ん、良く育ったな、食べごろだ。さっそく切って食べてみようじゃないか。お客さんにもちゃんと振る舞うんだぞ」

「うん!」

「お姉ちゃん!あたい、包丁つかえるんだよ!」

「これ固いから気をつけろよ!怪我しちゃうぞ!」

「そうですね。見せくれるのはうれしいのですけど、気を付けてやりましょうね」

子ども達の相手をしているアイナさんは、まるでお母さんみたいだな、なんて思いながら、

私もなんだか、穏やかな気持ちになって、その様子を見ていた。


「見えてきた。あの島だ」

ドアンが正面の窓に見えてきた島を指差した。

 私たちは、ドアンの住んでいた島から1時間ほど走ったくらいの海域にいた。

目の前に見える島から、アヤが「隊長」に手紙を送っても

らうことにしていたホテルがある港町までの定期便のフェリーが出ていると聞いたからだ。

「そうだ、引け!引けって!」

「うわぁぁ!すごい!釣れたよ!お魚連れた!」

「お姉ちゃん見てみて!」

「すごいですね!これからは、畑仕事だけではなくて、釣りでお魚をみんなに食べさせてあげられますね!」

船尾では、アヤがアイナさんと子どもたちと一緒に魚釣りに興じている。

なんでも、トローリング?とかルアー?とかって釣り方らしいんだけど、ちゃんと説明を聞いてなくて、ちんぷんかんぷんなんだけど。

「それにしても、この船をもらってしまって、本当にいいのか?」

ドアンが私に聞いてくる。

「ええ。私たちには必要ないですし…ただ、さっきアヤも言っていましたけど、救命艇ですからね。

 誰かが来て調べられないうちに、わからないように改造しておく方がいいかもしれません…できますか?」

「ああ。工具一式は小屋にあるしな。俺もコロニー生まれで心得はないが、子どもたちと一緒に釣りでもするのに使わせてもらうよ」

ドアンは船尾ではしゃいでいる子ども達を見て、かすかに笑みを浮かべながら言った。

 船が港に着く。私は、船をなるべく人目の少ないところに着岸させた。

「ついたみたいだな」

アヤが言った。

「えーもう行っちゃうのかよー」

「もっと遊びたかったな」

「あはは。まぁ、落ち着いたらまた来るかもしれないからな。その時までに、もっと釣り練習しとけよ」

「うん!」

アヤもすっかり子どもたちと仲良しだ。

 私たちは荷物を準備して、救命艇を降りた。中から子ども達とドアンが手を振っている。

「ばいばーい!」

「お元気でね!」

アイナさんが声を張って子どもたちに答えている。私も、彼らに手を振っていた。


「ドアン!」

不意に、アヤが叫んで、船に何かを投げ込んだ。ドアンが、それを拾って、広げてみせる。

それは、布袋で、中には大きめの7分丈のズボンと、マリンシューズが入っていた。

「今着てるそのズボンと、ブーツ、海になげちまえ。あんたはもう、軍人なんかじゃない。

 いつまでもそんなもん着てると、根暗になっちまうぞ!」

アヤが叫んだ。思いがけず、それを聞いたシローとアイナが笑った。

「あぁ、そうだぞ!ドアン!俺たちも軍服は山奥に埋めてきたんだ!」

「ええ!軍服なんて脱いで、子ども達を幸せにしてあげてください!」

二人も口ぐちに叫ぶ。なんだかよくわからなかったけど、ドアンはうれしそうに笑って、力いっぱい手を振ってきた。

それから、ゆっくりと、船を岸壁から離して、海の彼方へと戻っていった。

 それから私たち4人は、フェリーが出るという桟橋を目指して歩いた。

 歩きながら、島でのドアンに対する様子がおかしかったアヤにそのことを尋ねてみた。

するとアヤは、バツが悪そうにポリポリと顔をかきながら

「いや、さ。なんていうか、あいつ、戦ったら勝ち目ないなぁと思っちゃったからね。

 いつもなら、何かしら手を思いついて、どうにかなるプランが浮かぶんだけど、あいつは違った。

 何をしても、ダメな気がして、だから拳銃を手放せなかった。悪い奴じゃないとはわかってたんだけどね。なんていうか…」

と口ごもった。

「なに?」

私が促すと、アヤはちょっと怒ったみたいな口調で

「か、考えすぎちゃってたんだんよ!その、なんつうか、さ…」

と言って、また言いにくそうに黙った。

じっとアヤの顔をみて、続きを待っていると彼女は意を決したように口を真一文字にしてから

「け、ケンカしたろ。だ、だから、守るとか、守られるのとか、そう言うのってなんだろうって考えすぎてた。

 自分を危険にしない方法で、かつ、レナを安全に守る方法を考えすぎてた。

 相手が、何をやっても勝てそうにない、あいつだったから、余計にダメになっちゃたんだよ

 それにあいつ、スペースノイドか、アースノイドか、いまいち分からない感じでうまくつかめなくって、さ」

と言い切って、ふうとため息をついた。なんだか、そんなアヤがおかしかった。

あんなにいろんなことを起用にこなす彼女なのに、こと、私を守ろうとかと言うことになると、とたんに不器用になって、

勢いだけで動いてしまう。

そんなアヤを嫌いじゃなかったけど、なんとなく、そこで悩んでいるのは、かわいそうと言うか、申し訳ないというか、

そんな感じにも思ってしまった。

 フェリー乗り場に到着した私たちは、無事にフェリーに乗り込む。2時間もしないうちに、フェリーは大きな港に入った。

そこからはアヤの案内に従っていくと、すぐに目当てのホテルに到着した。

私たちとアイナさんたちはそれぞれ部屋をとって今日はそこで休むことにした。

アヤが頼んでいたという指令書も、ちゃんとホテルに届いていた。

あとは、明日、連邦軍の基地に行って、北米大陸へ渡ることになる。

 今日も一日、楽しかった。ドアンさんたちと別れた後も、アヤがシローを茶化すのを笑ったり、アイナさんとおしゃべりしたり、

夕飯で食べた魚料理について語るアヤに、ちょっとあきれたり。

たくさん笑って、たくさんしゃべって、たくさん食べて身も心も満ち足りていくような感覚だった。

でも、私の胸にはどこか引っ掛かるものもあった。それはドアンさんのところで感じた疑問。

 私は、これで良いのだろうか。私にとってアヤとはなんなのだろうか。

 アヤにとって私とは、なんなのだろうか。

これまでたくさん、私のために協力してくれたアヤに、私はどれほどのことができているのだろうか。

アヤはこの旅をどう感じているの?

アヤは、どうしてそんなに優しいの?

アヤは、この先のことを、どう考えているの?

 そんなことを聞きたいと思っていたけれど、結局聞けずじまいだった。

夜になって、私たちはベッドに入った。もちろん、今日はツインの部屋で別々のベッド。

一人で布団をかぶって天井を見つめながら、とりとめもなく自分のことを考えていたら、

隣で横になっていたアヤの寝息が聞こえて彼女の方を見た。

アヤは手を伸ばせば届きそうな距離にいるのに、なんだか、このわずかな距離感がとても広く離れているように感じられた。

なんだろう、この感じ…

 そんな感覚を胸に抱きながら、私は眠りに落ちて行った。

ここいらで一区切りで。

頭がいたいので、バファリンの優しさのほうだけ飲んだらガンオンします。

ガンオン終わって頭痛とれてたら、深夜に再投下する…やもww

お読みいただき、感謝です。



体調悪いなら寝ちまえよw
ガンオンしてる場合か

というかキマシタワ?

今連邦のボーナスタイムだからね、仕方無いね

ドアンの島って対馬あたりなはずだけど、オーストラリア→日本での漂流(?)で辿り着くには無理がないか?

>>91
結局寝ちまったww

>>92
ボーナスタイムだったのか!連邦左官のみの俺涙目ww

>>93
ドアンの島は長崎の五島列島とか対馬とかという話です。
今回は五島列島というほうの設定を拝借しています。
沈没した船は>>47でちらっと書いているのですが
オーストラリアー日本直通ではなく、東南アジア経由の福岡の門司港あたりへ向かう想定でした。
東南アジア(ベトナムを想定)に寄航してシローたちを乗せています。

現在、最後のあたりを執筆中。

この二人は結局キマシタワーなのかどうか悩み中。

現在、書き終えた終盤が2パターン。

でもって思いついちゃったもう1パターンなう。

どれがふさわしいのやら…

もういっそ全部書いちゃうとか

>>96
それはそれで、なんだか冷めちゃう気がしてねぇ。
まぁ、最後まで書ききって、希望があれば、かな。

とりま、続きいっきまーす


「じゃぁ、元気でな!」

アヤが、アイナさんとシローと、それぞれに握手をしながらそう言う。

「そっちもな」

「さみしくなりますわ。お二人も、どうかご無事で」

アイナさんとシローもそれぞれにアヤに言葉をかけている。

「あぁ、そうだ。居場所が決まったら、これを使ってくれよ」

アヤはそう言ってアイナさんに封筒を手渡した。

「なんです?」

「知り合いに、連邦の役人がいてさ。あぁ、大丈夫、融通の利くやつだから。

 アタシ達も世話になったんだけど、そいつ宛に手紙書いて入れてある。二人の居住IDやらを作るようにってな」

「新しい戸籍、ってことか?」

「うん。新しい名前やなんかは、自分らで考えてくれよな」

アヤは笑って言った。

「ありがとうございます」

アイナさんはアヤの手を改めて握ってそう礼を言った。


「いや、良いって。アタシ、落ち着いたら中米でリゾートペンションでもやろうかと思ってるんだ。

 その手紙のヤツ、アルベルトっていうんだけど、そいつ経由でお互いの連作先を確認できる。

 そっちも大変だろうけど、落ち着いたら遊びに来てくれよ」


「はい、必ず」

「あぁ。約束だ」

二人はそう言ってうなずいた。


 次は、私がアイナさんの手を握る。

「アイナさん、会えてよかったです。母や兄のこと、お話聞かせてくれてありがとうございました」

「いいえ…私は、ご家族を助けることができませんでした…お話をして差し上げることが、私に唯一できることなのではないかと」

「そんなこと…」

アイナさんの言葉に、私はなにも言えなかった。でも、一緒にいた短い間に、母の話や兄の様子を聞くことができた。

話を聞く限り、二人は最後まで、私の知っている母と兄のままだったのがわかった。

なんだかもう、それで胸がいっぱいで、それだけで十分だった。それなのにアイナさんは


「私も唯一の肉親を失いました…これも、お母様のお導きかもしれませんね。レナさん、いつかまた必ずお会いしましょう。

 私の勝手な思いで申し訳ありませんが…レナさん、私はあなたを姉妹のように想っています」


なんて言ってくれるのだ。正直、いっぱいだった胸がもう限界で、ボロボロと涙が零れ落ちてしまった。

「はいっ…はい!」

「気を付けてな。あっちはまだ戦場だ」

「はい!」

シローにも言葉を返して私は涙をぬぐった。そんな私の肩をアヤがポンッとたたいてくれる。

「なーに、またすぐ会えるさ!」

「ええ、きっと」

アイナさんの声がした。私も、自分のことが片付いたら、アイナさんのことを探そうと、心に決めてうなずいた。

「それじゃぁ、アタシらは行ってくる。そっちも、気をつけろよ」

「はい!お元気で!」

「シローはギャンギャンわめく前に、もっと考えろよ!バカっぽいぞ!」

「なっ…!余計なお世話だ!」

「ははは。じゃあな!」

私は、ただ手を振ることしかできなかった。もっとたくさん、伝えたいことがあるような気がしたけど、それも言葉にできないまま。

 私たちはホテルからタクシーに乗って、極東第13支部へと向かった。

タクシーの中ですすり泣く私の背中を、アヤはただ黙ってさすってくれていた。

本当に、本当にアヤは…。

ほどなくして、タクシーは基地のすぐ近くに付いた。アヤが車を止めさせ、料金を払って私たちは表に出た。

「ほーら、しっかりしろ!こっからが本番だぞ!」

アヤがバシッと私をひっぱたく。

「うん…うんっ!」

いつまでも泣いてる場合じゃない。ここからは一つのミスで全部がダメになるかもしれない。気を引き締めないと…

 パシパシっと私も自分の顔をはたいた。

「うっし、じゃあ行くぞ」

「うん」

私たちはそのまま、第13支部と書かれた門の方へとずんずん向かった。


「レナ、聞こえるか?」

「うん、感度良好」

アイナさんと別れてから2時間後、私たちは13支部の滑走路の上にいた。

乗っているのは連邦軍製の戦闘機。

ジャブローでアヤが一晩泊めてくれた機体と同型のロット違い?マイナーチェンジ?

とにかく、今度のは、複座、二人乗りだ。前席にアヤが座り操縦桿を握る。

私は、一応、レーダー員用の席なのだけれど、別にすぐさま戦闘区域に行くわけではないので、今のところやることはない。

 基地を尋ねた私たちを迎えたのは、基地司令だという大佐だった。

アヤが、以前に彼女から聞いていた通り

「工作員を現地に送るための協力を願いたい」

と命令書を見せて言ったところ、司令は特に疑う様子もなく

「貴重な任務にご協力できること、光栄に思います」

と、もともと尉官であるアヤに敬礼を返していた。アヤも調子に乗ったのか


「私たちの上官、名は機密で明かせませんが、大佐のことを良く存じ上げている方です。

 上官は大佐のことを高く評価されておりました。今回のこの任も、大佐であれば必ずや遺漏なく支援くださるだろう、と」

とおだてた。大佐も大佐でそれを聞くや否や

「はっ!必ずや!どうぞ、上官殿によろしくお伝えください!」

なんて言って、またもや背筋を伸ばして敬礼する始末である。

いよいよアヤも面白くなったようでにっこりと、いつもの不敵な笑みを浮かべて


「この作戦成功の暁には、上官の昇格も決定することと思います。

 そうなれば、大佐にも遠くない将来、本部より正式な辞令が届くことになるでしょう。

 あちらのオフィスでお会いできるのを、お待ちしております」


などと言うのだ。それを言われた大佐は目を丸くして

「わ、私が、本部付きに…!」

と絶句し、傍らにいた副官までが

「え、栄転ですよ、司令!もしその時はぜひ私もお供に…」

と耳打ちしていた。

「それでは、よろしく頼みます」

アヤがピッと敬礼したのを見た二人は、まるで定規みたいにぴんぴんに伸びて敬礼をした。

 アヤのそばでずっと黙ってそれを聞いていた私はもう、笑いをこらえるので精一杯だった。



「あれは、やりすぎだったんじゃないかぁ」

機内の有線マイクでアヤに言う。

「いいんだよ、あのくらいの方が!人間、びっくりするような事態が起こったほうが、返って信じちゃうもんなのさ」

アヤはそう言って笑った。

<こちら、管制塔、フェロー大佐です。滑走路、オールグリーン>

ヘルメットに内蔵されたスピーカーから大佐の声がする。

「こちら特殊作戦機。感度良好。これより、滑走路に進入する」

アヤが答えた。それから

「あー、大佐へ。さきほどもお願いしたとおり、本作戦は軍内外いかなる方面へも機密事項であります。

 本機は離陸の後、無線封鎖を行います。また、本作戦に関するいかなる問い合わせ、情報開示も行わぬようお願いします。

 本作戦の成否は、追って本部から機密文書、あるいは暗号での報告があるかと思います。

 上官の信に答え、何卒、他言されませんように」

と大佐に念を押した。

<は!了解しております!>

まるで敬礼姿が目に浮かんできそうな返事だ。思わず吹き出してしまう。

「これより離陸する」

<成功をお祈りいたしております!>

「感謝する」

そう返事をしてアヤは無線を切った。それから、有線に切り替えると

「レナ、出すよ。準備良い?」

と聞いて来た。私は顔のニヤニヤを引き締めてシートに座りなおしてベルトを確認した。

「オッケー、いつでもいいよ」

そう返事をするとアヤはすこし真剣な声で

「モビルスーツに乗ってたんなら平気かと思うけど、結構なGがかかるから、気を付けて」

と言ってきた。

「うん、了解」

私の返事を待っていたのか、それを言った途端、エンジン音がごうごうと大きくなっていく。

 ガクン、と言う衝撃の後、みるみる機体が加速していく。体がものすごい力でシートに押し付けられて、呼吸が苦しくなる。

私は、ぐっと顎を引いてそれに耐えた。

 ふわりと言う感覚があって顔を上げると、機体はもう空に舞い上がっていた。

高度300メートル、350、400…目の前にある電子機器の表示がぐんぐんと上がっていく。

 不意に足元の方から機械音が聞こえた。車輪が格納されたのだろう。と、思っていたら、機体が急にきりもみ回転を始めた。

「わぁっ!」

「いぃやっほーーーい!」

私が叫ぶのと同時に、アヤの雄叫びが聞こえた。どうやらアヤがやったらしい。

「急にやめてよ!」

本気で文句を言うと、彼女はちょっとだけ申し訳なさそうな声色で

「あ、悪い。つーい、気持ちよくなっちゃって」

と、戦闘機を水平飛行に戻した。


 計器はほどなく高度1万メートルを指した。

 「あぁ、そうだ、レナ」

「なに?」

「レーダーの脇にボタンがいくつかついてるだろう?」

アヤに言われて確認すると、レーダーのすぐ横にボタンが4つ並んでいる。

「うん」

「それのうち、えーと、1番上と、それから上から3番目かな?押してみてくれない?」

私はアヤに言われるがまま、ボタンを押す。すると、レーダーの右上に赤い表示が映った。SEWRactivating、とある。

「アヤ、これ、なに?」

「あぁ、隠密性の高い早期警戒レーダーのスイッチ入れたんだ。これで、もしレーダーになんか掛かれば警報で教えてくれる。

 この高度まで打ち上げてくるモビルスーツはまずいないから、まぁ、あるとしたら連邦かジオンの戦闘機だと思うけど。

 IFFってわかる?」

「敵味方識別装置、よね?」

「そうそう。北米につくまではそいつで連邦機からは味方だと思ってもらえる。

 危険になるのはあっちに近づいてからだから、まぁ今のうちは安心だけど」

「これって、こちらがロックされたときも警報なる?」

「もちろんだよ。じゃないと死んじまう」

アヤはそう言って笑った。

「あとは何か準備しておくことは?」

私はアヤに聞いた。

「んー、あとはない、かな。しばらくはのんびり空の旅だ。あの太っちょの空母はこんな高度飛べるのか?

 もし飛べないんだったら、外の景色、初めてだろう?」

アヤに言われて、思わずキャノピーから外を見た。雲が、あんなに下に見える。空には青空と、太陽しかない。

船の上から見上げる空とはまた違う、幻想的な景色だった。

「すごい…」

「怖くないか?」

思わず漏らした私の言葉に、アヤが聞き返してくる。

 アヤが操縦桿を握っているんだし、恐いことなんて一つもなかった。怖いどころか、この景色…なんて表現したらいいんだろう。

地球は、こんなにも美しいんだ…

「うん、すごい、きれい」

私が言うとアヤの笑い声が聞こえてきた。

「だろう?アタシもこの高さを飛ぶのが、きれいな海の上に居るときの次に好きなんだ…ほら、空、見てみなよ」

アヤが言うので、私は空を見あげた。

「なんだか低い感じがするだろう?もうちょっと高度を上げると、宇宙との境目まで行けるんだ。

 この機体じゃぁ、ちょっと無理なんだけどね」

「宇宙との、境目…」

「あの青い空の先に、レナの故郷があるのかぁ…」

アヤがポツリと言った。


 そう、この空のはるか向こう。あの星の世界に浮かぶ小さな箱庭私の故郷。私の「帰ろうとしている場所」。

一瞬、体から意識が抜け出て、宇宙に漂うような感覚に襲われた。とてもともて冷たくて、心細くて…。

「この空の、ずっと向こうが、私の故郷…」

なんだか、その言葉が、胸に突き刺さった。わからない。わからないけど、それは、なんだか…絶望的な感覚だった。

できることなら、今すぐにこのベルトを外して、アヤに飛びつきたかった。

あまりにも突然だったけど、それくらい、心が軋んで痛くて、たまらなく、切なくなる。

 そんな私の様子に、アヤは気づいたようだった。

「おい、どうした、大丈夫か?気分でも、悪くなった?」

「ううん…大丈夫…」

私は、声を振り絞って答えた。大丈夫には、聞こえなかったろうけど。

いけない、またアヤに変な心配をかけてしまう。気をしっかり持たなきゃ…私はそう思って、ふるふると頭を振った。

そうしたら、ふと、ドアンの島から、ずっと気にしていたことを思い出した。

なんだか、今なら聞けそうな気がした。いや、今だからこそ、聞いておきたい、そんな気持ちだった。

「ねぇ、アヤ」

「うん?」

とは言え、いざ聞こうと思うと、少し怖い。いや、何が怖いのかも、良くわからないけど…

でも、今聞かないと、この先聞くチャンスはもうないかもしれない。

「アヤは、私のこと、どう思ってる?」

「レナのこと?」

「そう…」

「どうって?」

「わかんない…ただ、どんな気持ちなのかな、って」

「うーん、難しいこと聞くなぁ…」

そう言うなり、アヤは黙り込んだ。私はただじっと、アヤの言葉を待つ。

思い切って聞いてしまったら、おかしなもので、今度は早く答えが聞きたくなっていたけれど、

とにかく、急かしてはいけない、と、そう思った。

「そうだなぁ」

アヤが口を開いた。

「説明が難しいんだけど…。アタシの小さいころの話って、あんまり話したことなかったよね?」

「うん」

「なら、そこから、だな」

アヤはそういって、ゆっくりとしゃべりだした。


「アタシは、親が死んじゃってから、親戚の家とかいろいろ回って、最終的には施設で生活することになったんだ。

 まだ10歳になったばっかりのころ。そっから8年間、軍に入るまでそこで過ごしたんだけど…

 その施設に入ったころにね、ひとり居たんだ、今のレナみたいに思ってる人が。

  男の子でね、とびきり優しくて、いいやつだった。施設にはさ、親が死んじゃった子どもだけじゃなくて、

 親に虐待されてたりする子どももいて、いろいろと難しいとこではあったんだけど、でも、寮母さん達も優しかったし。

 ほら、アタシ、家族ってよくわかんないけどね、みんな家族みたいだった。



  その中でも、その男の子は特別で、入ったばっかりのアタシを、いじめっ子みたいなのから守ってくれたり、

 施設のルールやなんかを教えてくれたりさ。あと、ほら、アルベルト!あいつと知り合ったのも、その彼のおかげなんだ。

  でも、彼は生まれつき体が弱くて、14の時に、持病が悪化して入院しちまった。

 アタシは暇さえあれば見舞いに行って、元気になってもらおうとしたけど、ダメだったんだ。

 日を追うごとにどんどん衰弱して行って、子どものアタシが見ても、『あぁ、もうダメなんだな』って感じちゃうくらいだった。

  でもそれでもアタシはお見舞いに行って、いろんな話をした。で、ある日ね。彼が、言うんだ。

 みんなとなかよくやれよ、って。そんなお別れみたいな言葉聞きたくない、ってアタシは言い返してそれから

『ほかのみんななんていらない。だから、あなたはどこにもいかないで』って。

 そしたらさ、はは。怒られちゃったんだ。『一人だけしか要らないなんて、さみしいことを言うなよ』って。

『誰かひとりしかいらない人生なんか、さみしいじゃんか』って。
 


 言われた時は、言葉の意味が良くわからなかったけどね。でも、彼が死んだあと、泣いているアタシをいろんな人が慰めてくれた。

 寮母さんも、同じ部屋で生活してた子も、さっき言った、最初はアタシをいじめてた子もさ。

  そのときにようやく意味が分かったんだ。彼はきっと、ちゃんとみんなと向き合わなきゃいけないって、そう言いたかったんだと思う。

 彼が死んじゃって、みんなが私を心配してくれて、それでアタシはみんなと向き合うことになった。

 向き合って、それでやっと大事なことが分かった。そうしていることで、孤独ではなくなれるんだって。

 それからは、出会う人すべてに、ちゃんと向き合って、言葉も気持ちも交わそうって思った。

  で、ずっとそうしてきた。それが今のアタシ。レナも、アイナさんも、シローも。

 アルベルトもそうだし、それから、隊長に、隊の連中に、ドアンやあの子ども達と、それから…そうだな、

 名前も良く知らない、連邦の気のいい軍人たちもそうだ。

  血のつながってない他の子たちと生活してたアタシだからそう思うのかもしれないって思ったこともあったけどさ、

 でも、とにかくアタシは、出会うすべての人と、言葉と心をやりとして、正直でありたいって思った。

 で、きっと、そうしていれば、誰とだって家族みたいになれるんだって、思った。

 ううん、今でも思ってる。それがアタシの生き方。それがアタシの生きてる世界だ。で、その世界をくれたのが、彼だった。

 彼は、アタシの人生の、灯台みたいなもんだ。今でもずっと、心の中で輝いてて、アタシ不安も、迷いも全部照らし出してくれる」


「その彼と私が、おんなじなの?」


「うん。アタシはずっと、信じて、正直にしていれば、どんな人とでも家族になれると思っていたけど、

 でも、そううまくいかない人ももちろんいた。人間、いろんな人がいるもんね。

 馬が合わない人もいれば、いがみ合っちゃう人だっている。

  正直言えばさ、たとえばシローとか、あいつ、昔のアタシだったら絶対に大ゲンカしてたと思うんだよ。

 でも、あのときにはもうレナがそばにいて、アタシの人生を照らしてくれてた。

  アタシはさ、人に正直なばっかりで、誰かを正直にすることなんて考えたこともなかった。

 誰かに信じてもらうことの大事さを全然わかってなかったんだ。それをレナは教えてくれた。

  だから、シローとも友達になれたし、隊長が私たちを信じてくれてたんだってことにも気が付けた。

  小さいころの彼は、アタシに、誰かを信じることの大切さを教えてくれた。

 レナ、あんたは、誰かに信じてもらえることの温もりを教えてくれた。今は、この二つの灯台が、アタシの人生を照らしてる。

 だからアタシは、迷いなく歩ける。たぶん、この先なにがあっても、ね」


「…」


「あー、で、なんだっけ、長くなって忘れちゃった。えーっと…あぁ、そうだ。レナのことをどう思ってるか、だったな。

うんと、まぁ、だから、そういう意味で、レナはアタシにとって、とても大事な人だよ、ってな感じで、答えになってるかな?」


 言葉が、継げなかった。

 私はずっとアヤに助けてもらってばかりで、何かをアヤに返せるかなんてことばかりを考えていたのに…

アヤは、しっかりと私を見ててくれていた。受け入れてくれていた。そんなに、大切に思ってくれるほどに。

アヤが、大好きなこの子が、そんなにも思ってくれているなんて、想像もしていなかった。だからこそ、私は胸が痛んだ。

「…アヤは、これでいいの?」

「何がだよ?」

「だって、だって、そんなに…そんなに大事に思ってくれてるのに…私、宇宙へ帰るって言ってるんだよ!?」

「はぁ!?」

「そんな風に思ってくれてるのに、それなのに、アヤはなんで怒らないの?なんで、送り出す手伝いなんかしてるの!?」

そう。わかった。ずっと私の中に引っ掛かっていたものの一つ。それは罪悪感だ。

私は、アヤを、大切だった隊長と部隊の仲間から引き離して、世話をさせて、撃沈されるような船に乗せて、

挙句、ジオンと連邦が生死をかけて争っている戦場に連れ出しているのだ。

そんな風に、大事に思ってくれているなら、私も同じくらい、アヤを大事にしなきゃいけないはずなのに、そう、したいのに。

私はアヤを振り回した挙句に、一人で宇宙へ帰ろうなんて思っている…

そんなひどいことを、身勝手なことを、どうして大切なアヤにしているんだろう。いっそ怒鳴ってほしかった。

もっとアタシを大事にしろよ、って。散々こき使った挙句に、結局はその『彼』と同じで、アヤを置き去りにしようとしているんだ。

「あーなんだろう…それは、まぁ、何つうか…難しいんだけどさ」

アヤはまた、すこし考えてからしゃべりだした。


「さっきのさ、『彼』は死んじゃったけど。でも、ちゃんとアタシの心には彼が残ってるんだよ。

 ロマンチックな意味じゃなくて。なんだろうな…彼がさ、生きて、で、守って、大事なことを教えてくれてできたのがアタシで、

 彼の灯してくれた灯台はちゃんと、胸の中であったかく燃えて光ってんだ。

  死んじゃった人と並べるのはちょっと申し訳ないけどさ、レナ。あんただっておんなじだよ。

 あんたがどこに居ようが、あんたがくれた灯台はアタシの中であったかく燃えて光ってる。

 あんたがどこに居ようが、アタシがアタシである以上、アタシはレナを感じて、そばにいられるんだ。

  まぁ、キャリフォルニアまで送っていくっていうのは、オマケみたいなもんかもね。

 彼には、何もできなかったからさ、アタシ。少なくともレナには、今やってあげられることがある。後悔はしたくないからな。

 寂しくないっていえば嘘になるし、一緒にいたいとも思う。でもそれはアタシの想いで、レナの気持ちとは無関係だろ?

 宇宙へ帰るのも、帰らないのも、レナの考え次第だ。

  アタシはただ、アタシの人生を照らしてくれる大切なあんたの役に立ちたいだけなんだ。悔いが残らないように。

 だから、まぁ、難しいことは考えんなって。任せとけよ」


アヤのカラカラと言う笑い声が聞こえた。

まるで、何かにはたかれたようだった。アヤの中に私の存在がどれほど深く刻み込まれていたのかを知った。

そんな私をアヤがこんなにも大きくて、暖かい、緩やかで、優しい気持ちで思ってくれていたなんて…

私は、そのことがたまらなくうれしかった。

「ありがとう…ありがとう、アヤ…」

「あはは、なんか恥ずかしいな。まぁ、まだ時間かかるし、のんびりしよう」

「うん…」

もう言葉なんてそれくらいしか出てこなかった。私はマイクを切ってしゃくりあげた。

きっとマイクなしではエンジン音でアヤには聞こえないだろう。泣いているのがわかってしまったら、またアヤに心配をかけてしまう。

アヤがどんなに言ってくれたって、私はまだなにもアヤには返せていないんだ。

アヤが私にしてくれたように、私ももっとちゃんと考えなきゃいけない。そして、伝えなきゃいけない。

私はアヤのことをどう思っているのか、アヤは私にとってどんな存在なのか。私はアヤに、何を返してあげたいのか。

 そんなことを考えながら、私は、胸の内に湧き上がってきた不思議な暖かさを抱きしめるように、身を丸くしてしばらく泣いていた。

ここでひと段落。

アヤさん、大いに語る。
レナさん、錯乱す。

次回、北米大陸決戦編!(?)

イイハナシダナー

>>108
お読みいただきあざっす!

続きいきます、レナさんの妄想爆走ショッピングデート回です。


 離陸してから、どれくらい経っただろうか。

これまで、南北への長距離移動の経験はあったけど、東西へ、経度から経度への移動は初めてだったから、

離陸してしばらくして訪れた夜が、もううっすらと明け始めている、不思議な現象に目を丸くしてしまった。

どうしてこんなことが起こるのか、理屈は知っていたけれど、実際に体験してみると不思議な感じがする。

それに…高度1万メートルから見る夜明けは、まるで心の中を洗い流すみたいな、美しい風景だった。

「アヤ、すごいね…」

呼びかけたアヤは、返事をしなかった。それもそのはず、彼女は戦闘機をオートパイロットにして寝こけていたらしかった。

何度か呼びかけたら起きてくれて、景色の話をした。アヤもこんな景色はそうそう見ないようで、

「あぁ、これはきれいだなぁ」

なんて、寝ぼけた声で言うので笑ってしまった。

 そんなのんびりした時間もつかの間、私の席についているレーダーに何かが映った。

機影ではない。何かモヤモヤとした霧みたいなもの…

「アヤ、レーダーが」

「うん?あぁ、ミノフスキー粒子だな…いよいよ、北米大陸だぞ」

アヤはそう言って大きくため息をついた。それから

「ベルト締め直して。こっからは何が起こるかわからない。無事に陸のあるところまで飛べりゃぁいいけど…」

そう言っていた矢先、ヘルメットの中に警報音が聞こえた。レーダーに目をやると、小さな光点が三つ、こちらに接近してきている。

「アヤ、何か来る!」

「確認した。さーて、どこのどいつだ、お前らは…っと」

アヤはそう言いながら戦闘機の高度を下げた。眼下に広がっていた雲の海すれすれのところに位置取る。

<こちら連邦軍北米攻略隊所属のAWACS、“イーグルアイ”。ポイント、セクター7から東へ飛行中の機体。貴機の所属を報告されたし>

不意に無線からそう聞こえてきた。

「早期警戒機か…やっかいなのに出くわしたな…」

「逃げるの?」

「いやぁ、まだ騒ぎを起こしたくはない。なるべく穏便に行くと良いけど…」

アヤはそう言って無線のスイッチを入れた。


「イーグルアイ、貴官のIFFを確認した。

 当機は連邦軍本部からの指令による極秘任務中のため、所属、およびコールサインを発信できない。

 こちらのIFF情報を開示するが、以後は隠匿の必要があるため、確認後は再び封鎖し、

 貴官の方でもデータマップ上からは抹消してほしい。IFFの情報を連携する」


<了解、確認する。IFF情報識別完了。こちらに貴機の作戦コードは伝わっていない。確認のため作戦コードを明らかにせよ>

「うーわ、こいつ作戦本部の司令付きかよ…いよいよヤバいぞ」

「どういうこと?」

「この警戒機、攻略作戦を指揮してる本部の直属だ。さすがにこいつには、『機密のため言えない』なんて通じないし、

 怪しいと思えばすぐに連邦軍本部へ確認できる」

「それなら…」

「うん、はは。わかってきてるじゃんか」

私の言葉を聞いてアヤは笑った。私はシートベルトを改めて確認して、気持ちを引き締めた。

そう、「ヤバくなったら、逃げろ」だ。


「こちら特殊作戦機!敵の攻撃を受けている!今の交信で察知された模様!レーダー上では確認不能!AWACS!

 そちらのレーダーではどうか!?」

アヤはそう叫びながら機体を降下させて雲の中へ突っ込ませた。

<特殊作戦機へ、これより貴機の仮称サインをアルファとする!アルファ、こちらのレーダーでも敵性反応を検出していない!>


「下から撃たれてる!洋上に敵艦隊の可能性あり!ミノフスキー粒子散布を行いつつ回避行動に入る!

 あぁ、クソ、被弾した!友軍機は!?」

<現在、貴機の空域へ飛行中。到着まで…あと5分!>

「無理だ、撤退を!こちらはもうコントロールが利かない!友軍機を危険にさらすな!繰り返す、援軍は間に合わない、脱出する!」

アヤはそう怒鳴って無線を切った。

<アルファ、応答せよ、アルファ!>

「さって、友軍機の様子はっと…」

アヤの声に、レーダーに目を落とすと、先ほどとは違う光点が3つ、急速に接近してきている。

「くはぁ、殊勝なやつらだ。来るなって言ってんのになぁ」

そう言いながらアヤはさらに機体の高度を下げて、雲から下を覗いた。気づけば、眼下には陸地が広がっている。

「やるっきゃねぇか。脱出するって言っちゃったしなぁ」

「脱出装置を使うの?」

「うん。もうちょっと高度さげるな」

ぐんぐんと機体の高度が下がる。計器の表示が、1000メートルに近づいたときにアヤの声が聞こえた。

「さて、行くぞ、準備良いか?」

私はもう何度目かわからないけどシートベルトを確認して

「うん」

と返事をした。

「荷物抱えて。胸の前にギュッとね。キャノピーぶっ飛ばすから、そうしたら足元の黄色いレバーを思いっきり引いて」

「わかった」

「よっし行くぞ!」

合図とともに爆発音がして、頭上を覆っていた風防が吹き飛んで行った。途端に強烈な風が吹き荒れ、身動きがうまくできなくなる。

私はそれでも足元のレバーに手を伸ばして思い切り引っ張った。

 強烈なGが体にかかって、気が付いたら、シートに座ったまま体が宙に浮いていた。

まるで宇宙空間にいるみたいで、一瞬、あの空恐ろしい恐怖が身を襲う。下を飛び去っていく戦闘機からアヤが脱出するのが見える。

グンっと何かが引っ掛かったような衝撃があったので見上げると、すでに真っ白いパラシュートが開いていた。

ふぅ…どうやら無事に脱出できたみたいだった。戦闘機はそのまま降下して行って、赤く焼けただれた大地に激突して炎上した。

 「ひゃははは!怖えぇ!!!」

ヘルメットからアヤの声が聞こえる。

「アタシ、これダメなんだよ!いやぁ、恐かったぁ!」

本当にそう思っているのか、アヤは楽しそうな声色で笑っていた。

 そのまましばらく、ふわふわと空中を漂ってから、私はシートごとパラシュートで地面に降り立った。

いや、降り立った、と言うより落っことされた、と言う方が正しいかもしれない。思いのほか、着陸の衝撃が強くて体がガクガクする。

 私がシートベルトを外しているとすぐにアヤも地面に降り立った。

アヤは慣れたもので、高さ1メートルくらいになったときにはすでにベルトを外して、私みたいにガンっと着陸しないためなのか、

身軽にシートから飛び降りていた。

 「ふぅー。とりあえず、飛行服脱ごう。ヘルメットは…いいや、ここいらにぶん投げておくか」

「うん」

アヤに言われて飛行服を脱ぎ、荷物の中にしまった。

それからアヤはシートの下から何やら小さな袋をとりだして中身をチェックしている。

「どうしたの?」

「あぁ、簡易の座標計算装置。位置的には…キャリフォルニア基地から、南に2、300キロってとこか」

「300キロ…歩きでは、無理だね」

「ははは、行けるかもしれないけど、楽しいハイキングってわけにはいかないだろうな。時間のこともあるし」

「こっからは、アタシのナビは役に立てない。レナ、あんたに頼む」

アヤはそう言って私の顔を見て、地図を開いた。

「今いる位置が、ここだ」

アヤが地図上をマークする。私はそれを覗き込む。確かにここはキャリフォルニアの中心部からは300キロほど南にある場所。

待って、だとすると…私は地図を東へたどる。すぐ近くに、街があったはずだ。

「あった、ここ!」

地図上で私は街を見つけた。距離にして、10キロほどだろうか。ベイカーズフィールドと言う街がある。

確かここには何度か、休日に連れ出されたことがあった。

「良かった。とりあえずそこへ行って情報を集めよう。ここが今、ジオンの制圧圏内なのか連邦の方なのかがわかんないと、正直不安だしな」

アヤはそう言って地図を仕舞い、座標の計算装置を握って荷物を背負った。

「おーし、西はこっちだ!道路でもありゃぁ、歩きやすいんだけどなぁ」

アヤはそんなことをつぶやいてから私を振り返って

「さぁて、もう一息だ。行こうぜ!」

なんて言って、にっこりと笑いかけてくれた。


 着陸した場所から30分も歩くと私たちの目の前には道路が現れた。その道路を歩くこと1時間ほどでベイカーズフィールドに到着した。

 ベイカーズフィールドは、かつてはジオン軍の統治下にあり、休暇中のジオン兵が訪れることも珍しくない街だった。

私も何度かここへ来たことがある。

軍事拠点はさらに南の大都市に置かれたため、この街は戦火には飲まれず、一見すれば平和なところではあった。

しかし、着いてみるとそこにはすでに連邦軍の姿があり、軍事車両の数々とともに複数機のモビルスーツが街の外側に置かれていた。

 「んー、あまり長居したくない場所だな…」

アヤはその景色を見るなりそうつぶやいた。

「情報を集めるにも危険そうだ…とりあえず、車の確保と…変装でもするか」

アヤの提案で、私たちはまず、中古車の販売店に向かった。そこで、現金で買えてすぐにでも乗り回せる、

もうだいぶくたびれた小型車を買った。もちろん、アヤのお金だ。

それからその車で、街で一番大きいショッピングモールへ向かう。

 「まずは…セルかな」

「セル?」

モールに入った途端、アヤがそうつぶやいた。セル…何かの略語だろうか?

「あれ、知らない?ジオンにはないのかな…」

アヤは小首をかしげた。正直、思い当たることはない。

「うーんと、なんだろう、個人無線機っていうか、携帯式の電話なんだけど…」

「あぁ!PDAのこと!」

「PDA…は、また別じゃないのか?」

「違うの??」

「PDAってのは、ほら、電話もできるコンピュータだろう?セルは、簡単なメッセージ送信くらいはできるけど、それ以外は電話くらいしかできないんだよ」

「そうなんだ…地球ではセルの方が良いの?」

「いやぁ、ま、手軽なのはセルの方だけど。レナがPDAの方が良ければ、そっちにしよう」

アヤがそう言ってくれた。種類はともかく、少なくともここから先は何が起こるかわからない。

すぐに連絡が付く手段は持っておいて損はないだろう。

 私たちはモール内の家電量販店へ行き、そこで2台のPDAを契約した。もちろん、アルベルトに作ってもらった戸籍で、だ。

それからアヤは同じ店で、何を考えているのか、アヤはそこでカメラの機材一式と、別のお店では化粧品を買い込んだ。

私が不思議がっていると

「まぁ、あとでな」

となにか企んでいるときのあのニヤニヤ顔で笑った。

そのあと、洋服店に行って、特に変装する必要がある私にあれこれと服を着せては

「あーこれは違う」

「おぉ、これかわいいな!」

「これは…うん、なんか、ごめん」

などなど…正直、この段階ではいつものおふざけだったみたいだが。私が着せ替え人形じゃないよ!と怒ってみたら、

ケタケタ笑いながら謝って、結局、これまでの地域では必要なかった冬物の服をそれぞれ一式購入して店を出た。


 車にもどった私たちは、そそくさと着替えを済ませる。

「レナ、あんたはちょっとお化粧して」

アヤはそう言って、買ったばかりの化粧品を私に渡してきた。

「えっと…うん…あんまりしたことないんだけど…」

正直、あんまり化粧の習慣がない私にとってはちょっと戸惑うことだった。

それをきいたアヤは、カメラ機材一式を箱から出してはセッティングしつつ、

「あー適当でいいから。目はサングラスで隠すし。ファンデーションだけぬっといて」

と言う。私は、アヤに言われるがままに、ファンデーションを塗る。

その間に彼女はカメラのセッティングを終え、入っていた箱をつぶして袋にまとめていた。

 「終わったよ」

私はアヤに声をかけた。アヤが私の方を見るなりにっこり笑って

「化粧映えする顔だな。似合うよ」

なんてことを言ってきた。なんだか気恥ずかしくなってしまう。

そんな私の気持ちを知ってから知らずか、彼女はいきなりグッと私に顔を近づけてきた。

「な、何!?」

ドキッとした。な、何する気…?!と身構えていたら、アヤは両腕を私の頭の後ろに伸ばしてくる。

その手が私の髪を梳いていく。

「ちょ…アヤ!?」

そ、そう言えば、最初のころに言ってたよね。同性愛者かって聞いたら…わ、割と、どっちでも良いって…

え、ちょ、なんで!?なんで今急にそんな感じになってるの!?


「あー、やっぱ髪は結っといた方がいいな」

私の顔から20センチもないところで私を見つめていたアヤがそう言った。アヤは私の肩までの髪を後ろで束ねていただけだった。

「もう!」

思わず、アヤを突き飛ばした。

「な、なんだよ!?」

アヤはわけがわからない、と言う風な感じで私に文句を言ってきた。

私は、自分がそんなことを考えてしまった気恥ずかしさでいっぱいでアヤのことを見れなかった。

「そ、それくらい自分でできるから!」

と言うと、アヤは

「んー」

と鼻を鳴らして

「なるべくアップにしてほしいんだ」

なんてことを言ってきた。髪型にまで注文を?なんで?アヤの…好み?

「ど、どうして?」

「うなじ出しておきたいんだよ」

私が聞くと、アヤは答えた。

「そ、その方が、良い?」

「あぁ、うん。顔じゃなくて、別のとこに視線を誘導したいんだ。男ってな、うなじだの胸だのに視線が行く生き物らしいからな。」

だ、だよね、そうだよね。変装のために、だよね…なんだか、内心ちょっとがっかりしている自分がいた。

そう言えば、服屋で選んだ私の服は、確かにちょっと胸のあたりが頼りない感じのものだった。

それを思い出して、思わず自分の胸に手を当てる。サイズは…あんまり自信ないな…。

それに比べてアヤは。そう言えば、そんなことを考えてアヤを見たことはなかったけど、その、む、胸は大きいっていうんじゃないけど、

しっかりと主張しているというか、キュッとしまってる感じと言うか…なんというか、その、う、うらやましい、と言うか…。

 そんな私を見たアヤが、ははは、と笑った。

「アヤのもそれなりに見栄えするから大丈夫だよ」

「わ、私まだなにも言ってないでしょ!」

「あはは。まぁまぁ。ほら、これで髪止めて」

アヤはまるで気にしてないみたいにそう言ってヘアゴムを渡してきた。なんだかその何でもない感じに腹を立てながら、私はゴムで髪を結った。

「オッケ、じゃ、仕上げだ」

アヤはそう言って、アイライナーを取り出した。そしてまたさっきみたいに私ににじり寄ってくる。

「動くなよー」

アヤは、この子絶対半分以上楽しんでるでしょ!?と確信を得られるぐらいの笑顔で、アイライナーを使って私の口元に何かを描いている。

終わると、さっき私が使ったファンデーションをそのあたりに少し塗って

「完成!」

と楽しそうに言って鏡を私に向けてきた。見ると、唇のすぐわきにホクロがある。

「どうだ!?セクシーだろ!」

そんなことを言いながら今度は、サングラスと、いつの間に買ったのかテンガロンハットを取り出して私にセッティングした。

するとアヤはお腹を抱えて笑い転げながら

「ほーら、もう別人!」

と言って、また大声で笑った。


「フリーのジャーナリストって設定な。アタシは記事担当で撮影はレナ…じゃない、アンナの役。

 あんたはとりあえず、そのカメラを大事そうに抱えてれば大丈夫だ」

「う、うん」

「とりあえず街に出て、情報を集めよう。夕方過ぎには街を出る。寝泊まりは…この車だな、狭いけど」

アヤはそう言ってポンポンと車のシートをたたいた。

 そう言われて、思わず私も笑みがこぼれてしまった。こんな車でも、あの時の戦闘機のコクピットに比べたらまだ広いし。

それに、アヤと一緒なら、どこで寝るにしても、私は安心していられる。

 気が付けば私はそんなことを考えていた。

キマシタワー建設がレナさんの中で始まっているのかどうなのか!

こんなgdgdな展開に君は生き延びることができたのか?!

次回アップは深夜か明日の予定。
ついにあの人が登場?!

ガンオンのアプデ、ソロモンつまんねww

ソロモンレースwww

>>118
禿げすぎて降格しちまった…

続き投下します!
物語もボチボチ大詰めですー


 街には、想像していたほどの混乱はなかった。

連邦軍が来て解放されたとよろこぶ街の人も少なく、ただ淡々と、日々の生活を営んでいるように見える。

 私たちは街の目抜き通りを歩いていた。

 一般の住民に紛れて、時折連邦軍人が目につく。警戒を緩めてはいけない。私は気を引き締めてあたりを観察していた。

 アヤは、と言えば、すれ違う軍人に目を光らせたりしながら、何かを探しているようだった。

「ア…レベッカ。どこか目的地があるの?」

私は、アルベルトが作ってくれた彼女の偽名を呼んで尋ねる。

「あぁ、うん。バーか何かが一番いいんだけど…さすがにこの時間じゃぁ、開いているところは少ないなぁ」

以前に来た際に、何度か行ったお店…名前なんだっけな、確か、ちょっと小道に入ったところだったと思うけど…

でも、まだお昼すぎ。とてもじゃないけど、酒場がやっているような時間じゃない。

とはいえ、そんなところが営業を始める時間までこの街にいるのは危険なように感じる。それはアヤも同じなようで、

「バーじゃなけりゃぁ、あとはどこがいいかな…」

とつぶやいていた。

 不意に、重いエンジン音が聞こえた。街の人たちの様子も途端にざわつき始める。

見ると、目抜き通りの向こうから大きな車両がこちらに向かって走ってくる。あれは…

「モビルスーツの運搬車だ」

アヤが言った。

 トラックの様でその後ろに、シートがかけられているが、巨大な何かが乗った荷台をけん引している。

車は私たちのすぐ前で停車した。運転席から軍人が数人降りてきて、伸びをしたり、近くにあった売店に駆けて行く姿もある。

 アヤが私に向かって人差し指を立てた。

———離れよう

事前に決めた合図だった。

 私たちは足早にそこを離れようと歩き始めた。そんなとき、どこからか声がかかった。

「おーい、そこの、テンガロンハットの」

ギクッとした。あたりを見渡すが、そんなものかぶっているのは私くらいしかいない。

アヤと目があった。彼女が小さく舌打ちするのが聞こえる。私は声のする方を振り返った。

そこには連邦の軍人がいた。トラックから降りてきた中の一人らしい。初老の、くたびれて汚れた軍服をだらしなく来ている男だ。

「そうそう、あんただ」

目が合うと男はそう言って私に向かって手招きした。

「なんでしょう?」

ここで逃げ出すのもおかしい。私は返事をして、だが近づきはせずに彼を見つめる。アヤがすぐ隣に立った。

「記者さんか何かだろ?この街は長いのか?」

男はそう聞いて来た。

「いや、一昨日ついたばかりなんだ。良く記者だってのがわかったな」

アヤが言う。

「そんなカメラ持ってりゃぁ、そうじゃないかって思うだろ」

男はそう言って笑う。それから

「それにしても、そうか、まだ日が浅いんだな。このあたりで良い飲み屋知ってりゃぁと思ったんだが」

と肩をすくめた。

「飲み屋ねぇ、悪いな、良くは知らないが…」

アヤはそう返事をしながら、男に近づいて行った。私も慌てて後を追う。

 男は近づいてくるアヤを迎え入れるようにトラックに寄りかかった。男のすぐそばまで行くとアヤは小さな声で

「あそこに見える、ダイニングバーだけはやめといた方がいい。飯がひどかった」

と通りの向こう側に見える店を指差して囁いた。

「あー、ホントかよ。そりゃぁ…なんだ、気を付けるよ」

男は残念そうにしながら、タバコに火をつけた。

 まぁ、さっき着いたばかりの私たちもそのお店に行ったことはないのだけど…アヤのこの感じも、もう慣れたものだ。

 「あんたたちはどこから来たんだ?」

アヤが尋ねた。きっと、この兵士から情報を引き出すつもりなんだろう。

「あぁ、俺たちはヨーロッパ戦線からこっちへな。ベルファストから東海岸の侵攻で北米大陸に来て、あとはこっちで旅暮らしさ」

「そうか…故郷が恋しいだろうな…」

「そうさなぁ。まぁ、キャリフォルニアが片付けば、休暇で家にも帰れんだろうよ」

男は少しさみしそうにしたが、最後にはそう言って笑い飛ばした。

「戦況はどうなんだ?」

「こっちのか?なんでも、打ち上げ基地は、さすがに激しい抵抗だって話だ。

 今は先導部隊が牽制をかけているらしいが、それだけじゃ数不足らしくてな。こっちの本隊が防衛線を破るまでは、終わらんだろう」

「そうか、それならまだアタシらの飯のタネは転がってそうだな」


「ははは!違げえねぇ!そうさな、ひどい飯屋を教えてくれた礼になるようなことと言えば…

 一番の激戦になりそうなのはここより北西のモントレーってとこだっつうことくらいか。

 なんでもジオンの潜水艦隊の駐留基地があるらしくてな。ちょっとした海戦になるかもしれん」


 モンテレー。確かにそこには、キャリフォルニアの打ち上げ基地と連携できる潜水艦隊のドックがあった。

そこを放棄していないのであれば、激しい戦いになるだろう。

「ここから北はどうなんだ?」

アヤがさらに尋ねる。

「こっから北は、ほとんど荒野だ。ちょっと前に、ストックトンとかって拠点を奪回したし、めぼしい敵拠点はもうないはずだ。

 ぼちぼち、味方の陸戦艇が到着するから、戦闘隊の連中は今夜にはそいつに乗って…おっと、こいつはまだしゃべっちゃまずいんだった」

男はそう言いつつ、ニヤリと笑った。


「なんのことか良くわからなかったな」

アヤもそう言うと、ニコッと笑った。それから

「話を聞かせてくれて助かったよ。気を付けて」

と言って男と握手を交わした。男の手には紙幣が握られている。

「あぁ、良いってことよ。さて、俺もあいつら戻ったら、本部様に報告にいかねぇとな」

男はアヤから渡された紙幣をそっとポケットにしまいながら、けだるそうに言った。

「あ」

思わず声を上げてしまった。

「な、なんだよ」

アヤがすこし戸惑った様子で聞いてくる。

「そっちの道を入っていったところにある、ソードってお店は、お酒も料理もおいしい…って噂、だった、よ」

さっきアヤとバーを探していた時に思い出せなかった店の名前を思い出した。

「へぇ、ありがてぇ。今夜はそこで決定だな」

男はそう言って笑った。

 私たちは彼に手を振って、その場を後にした。

 目抜き通りを、車を止めた駐車場の方へと歩く。

「ビッグトレーが来る、か…」

アヤがつぶやくように言った。

「陸戦艇ね」

「あぁ。今夜出るという話だったから、おそらく明日の朝には総攻撃をかける準備が整っちまう。

 さっき聞いた、モントレーって言ったか?そこの攻略にどれほどの時間がかかるかにも依るだろうけど…」

アヤの言葉に、私は思考を走らせた。モントレーには確かに、潜水艦のドックはあったけど、果たしてあそこで戦闘が起こるのだろうか?
今、ジオン軍は、味方を次々と宇宙へ打ち上げているはずだ。そうなれば、当然戦線は縮小していく。

防衛線も狭まっているだろう。南はモントレー、東へはサクラメントとストックトン、北はサンタ・ローザ。

この点を結んだラインが最終防衛線になるはずだ。でも、さっきの兵士の話では、ストックトンはすでに陥落している。

だとすれば、防衛線はほとんど機能していないと考えるべきだ。そんな段階で、モントレーのあの位置に潜水艦隊を置いておくだろうか?
打ち上げ基地はサンフランシスコの湾内にある。

もしギリギリまで基地を維持するつもりなら、潜水艦隊は基地で水際防衛にあたらせる方がいい。


「モントレーは、もう撤退しているかもしれない」

「そうなのか?」

「うん。ストックトンが連邦側に落ちたということは、防衛線の維持は出来ていないと思う。

 防衛線にいた戦力は全部、基地周辺に配置されてる可能性が高い…」

「なるほど…だとしたらマズイな。いくらなんでも、そんな局地点への総攻撃となったら、そいつはもう飽和攻撃だ。

 物量で押し込まれる」

「うん」

「時間ないな、急ごう」

そう言って、駐車場へ続く細い路地へ曲がった。


 私とアヤは細い路地を早足で歩く。

10メートルも進んだところで、目の前に突然3人の男がのそりと姿を現し、道をふさいだ。連邦の軍服を着ている。

若い男が両側に、そして真ん中には30代後半くらいの男。   

彼らは私たちを見ていた。確信のこもった目で。

———しまった!

考え事に夢中で、気配を感じられなかった。

「アヤ!」

私は彼女の名を呼んできた道を引き返そうとした。

しかし、振り返った先にも連邦の軍服を着た男が4人、道をふさぐようにして立っていた。

 囲まれた!どうして!?ずっとつけられていたの!?

私はとっさに隠し持っていた拳銃を引き抜いた。なんとかして、切り抜けないと…アヤが!

そう思っていた次の瞬間、アヤが目の前の男たちに駆けだした。

「アヤ!ダメ!」

途端、胸が切り裂かれるように痛んだ。あんなに言ったのに、アヤ!なんとか二人で生き残ろうって言ったのに!

危険なことはするなって、あれほど言ったのに!

 でも、私の想いは、彼女には届かなかった。

アヤは3人のうちの真ん中に立っていた男に思い切り突っ込んだ。

「バカ!」

私もアヤのすぐ後に続くが、男はアヤの体当たりをまるでなんでもないかのようにこらえる。

私は足を止めて、男に拳銃を向けた。

「彼女を離しなさい!」

声の限りに叫んだ。


 男は、アヤの体を捕まえている…捕まえ、て?…良く見ると、アヤは男にしがみつくようにしている。

 何か変だ。アヤのあれは体当たりでも体術でもない。男も、捕まえているというより…アヤを抱きしめているようだ。

なんだ、いったい、何が起こってるの!?

頭の中の整理がつかないまま、私が後ろの男たちと前の男たちに交互に銃を向けて威嚇していると、アヤが叫んだ。

「たいっちょぉぉ!」

たいっちょう?たいちょう…隊長!?まさか!

「お、おぉい、アヤ、この子なんとかしろよ!」

後ろにいた男たちから声が上がった。

それに気づいたアヤが、隊長に抱き着いたまま私を振り返る。

「あ、あ、レナ!大丈夫、この人たちは、大丈夫!」

アヤは慌てたようにそう言いながら私のもとに戻ってきて、混乱している私の手に握られた拳銃を、ジャケットの下にしまわせた。

それから、私の肩を抱いて、

「レナ、紹介するよ。あれが、あたしの隊長と、あとアタシの隊の仲間、家族」

とアヤは今抱き着いていた男と他の男たちを指して言った。

それから、男たちに、

「みんな。アタシの…相棒?ジオン兵のレナだ」

と所属まで紹介した。

 唖然としてしまった。どうして?どうしてアヤの部隊の人たちがこんなところに?

頭の整理と言うより、一瞬で吹き出した緊張状態が抜けずに、頭の中が高速で空回りしているような感じだ。

アヤの言っている言葉の意味すら良くわからない。

 でも…でも。そう、大丈夫、大丈夫なんだよね…

 そう思った瞬間、膝がガクガクと震えて力が抜けて立てなくなった。

まるで背骨がなくなってしまったみたいに私は膝から崩れ落ちそうになる。

それをまた、アヤがガシッと掴まえて支えてくれる。

「アヤ、ここでは話しづらい。着いてこい」

隊長はそうとだけ言うと、私たちに背を向けて細い路地を進んでいった。

私はまだ、安心感でも危機感でもない、ガクガクと震えて真っ白なまま、

ただ、アヤの体にしがみついて、崩れ落ちそうになるのをこらえていた。

午前の部はここまでです。

夜にまた投下します。

待っとります

>>126
おまたせいたしました

続きます


私とアヤは、彼らに連れられて車で街のはずれにある建物の地下のバーに連れて来られていた。

お客は私たち以外はいない。アヤの隊の人数は、ここに着くまでにもう1人合流して、合計8名になった。

「人払い頼んでおいた。まぁ、こんな時間だし、客はそもそもいなかったけどな」

隊長が言った。それから私の顔をじっと見ると申し訳なさそうに

「びっくりさせてすまなかったな。ブラついてたら思いがけず見つけちまったもんで、

 あのタイミングであの場所でくらいでしか呼び止めらんなかったんだ。街中じゃぁ、目立っちまうし」

と謝った。

「こいつから聞いていると思うが、俺はレオニード・ユディスキン大尉。こいつらの世話をしてる」

「わ、私は…その、ジオン地球方面軍、レナ・リケ・ヘスラー…少尉です」

私も戸惑いながら自己紹介をする。すると別の男が

「なーんだよ、アヤ!こんなかわいい子と一緒なんだったら言えよな!」

と声を上げた。

「うっさい!あんたは黙ってろよ、ヴァレリオ!」

アヤが楽しそうに男に怒鳴り返す。

「僕はハロルド。以後よろしく」

別の男が丁寧にあいさつをしてきたと思えば

「ベルント・アクスだ」

と簡潔に話す無口な男もいる。

「おい、アヤ、俺たちもちゃんと紹介してくれよ」

また別の男が声を上げる。

「わーったよ!順番な!」

アヤはわざとらしく煙たそうな表情をしてそう言ってから、私を見やった。

それはまるで、私に『大丈夫?』と私に聞いているような感じだった。

私は、出されたお水を一杯、一気に飲み干してため息をついてから、アヤに向かってうなずいて見せた。

すると、アヤはニッコリとほほ笑んでくれる。


「じゃぁ、紹介するよ。隊長は、もう済んだね。じゃぁ、まずはこいつだ」

アヤはそう言って、一人の男を指した。彼は精悍な顔立ちで、まだ若いのだろうけど、

そんな外見とは裏腹に落ち着いた雰囲気が伝わってくる。

「こいつは、ハロルド・シンプソン中尉。うちの2番機で、副隊長だ」

「はじめまして。隊長を通じて話は聞いていたよ。大変だったね」

彼は落ち着いた声色でそう言った。アヤに似た、なんだか安心できる感じがする。

「それからこっちが、3番機のダリル。ダリル・マクレガー少尉だ。アタシとつるんで問題起こすのがだいたコイツだったんだよ」

次の男は、人懐っこそうな表情をする人で、体は大きいけど、愉快そうな感じがする。

「ダリルだ。あー、まぁ問題起こしてたのはアヤだけで、俺はだいたいフォローしてただけってのが、真実なんだけどな」


「だー、お前、ここへきて裏切るのか!もういいよ!で、次が、4番機のベルント・アクス少尉。

 真面目でつまんないヤツなんだけど、腕は確かなんだ」

「よろしく」

彼は口数も少ないようだ。表情もなんだか、味気ない。

「で、次が5番機、我らがエースのフレート・レングナー少尉。

 うちの隊で一番撃墜数が多いんだけど、撃墜されてる回数も一番多い、いろんな意味でのエース」

「おいおい、落とされた回数のことは言うなって。恥ずかしいだろ!」

そう不満を上げた彼だが、どことなく、自信にあふれているような雰囲気がある。自信だけではなくて、男気、みたいなものも。

きっと被撃墜数が多いのも、誰かを守ったり囮になったりすることが多いんじゃないかなと感じる。

「で、次は6番なんだけど、こいつは紹介しないで良くって…」

「ちょっと待て!お嬢さん!俺はヴァレリオ!ヴァレリオ・ペッローネだ!よろしくな!」

どことなくひょろっと細長い印象のこの人は、なんだか軽薄そうだ。

「入隊したてのころ、延々3か月くらいアタシを口説き続けてたんだ、こいつ。レナはこいつとは口きかない方がいいぞ。

 てか、だいたいヴァレリオ!お前曹長だろ!レナはアタシと同じ少尉だぞ!敬意を払え、敬意を!

 って、あんたそういやアタシにも敬意を払えよ!上官だぞ!」

確かにそんな軽薄な感じがする。そう思ったら少し笑ってしまった。

「えぇと、次は、7番!アタシ!」

「それは、うん、知ってる」

「じゃぁ、次は、8番機…は、あれだ、うん」

「カレンさんね」

「あぁ。まぁ、残念だった…」

「うん…」

「で、次が、9番機、アタシの妹分のマライヤ・アトウッド曹長」

「こんにちは、レナさん!」

彼女が、途中で合流てきた子で、この店での密会の手筈を整えてくれていたとのことだった。

かわいい感じのする、妹分、と言うのがぴったりの感じがする。

「そして最後が…えーと、お前、名前なんだけ?」

と最後に一人残された男に、アヤが聞き返した。

「ちょ!アヤさーん!それはひどいっすよ!」

彼はアヤにそう悲鳴を上げてから私の方を見やって、

「自分は、デリク・ブラックウッド曹長です。アヤさんの下で、操縦を学んでました」

と言った。

「若いんだけど、スジがいいんだよ」

アヤはフォローのつもりなのかそう言ってまた、幸せそうな笑顔を見せた。

 正直、全部の人の名前と顔のすべてを覚えようとするのは難しそうだ。

 でも、みんながみんな、とても暖かい人だっていうのは感じられる。この中にいて、アヤはこの人たちを家族だ、と言った。

その気持ちはなんとなく理解できるような気がしている。

 「それで、隊長。話ってのは?」

不意に、アヤが会話の流れを本題に戻した。

「おう、そうだったな」

隊長はそう言って腕組みをした。

「恐らく、今夜中にはビッグトレーが出発する。明日の朝にはサンフランシスコ周辺に展開して、総攻撃になる予定だ。

 モンテレーに敵艦隊が残ってるって話もあるが…俺はそれはないと踏んでいる。

 味方機がさっき、モンテレー上空で被弾して不時着したって情報も届いているんだが…

 対空砲程度があったとしても、主力はサンフランシスコの拠点に集結していると考えるのが自然だ」


味方機が被弾して不時着って…それってもしかして

そう思って私はアヤの方を見るとアヤも私を見つめていた。

「あー、たぶん、その不時着機ってのはアタシらが乗ってきた戦闘機だ。正確に言えば、墜落させちまったけど…」

「お、ってことは、あの指令書の作戦はうまくやったんだな?」

隊長がそう聞いたのでアヤよりも先に私が

「その件では本当にお世話になりました。なんてお礼をいったらいいか…」

とお礼を言う。すると隊長は


「だはは、まぁ、うまく運んだんなら何よりだ。気にしなさんな。アヤの頼みとあっちゃ、断るわけにもいかなかったしな。

 それよりも、今日こうしてあんたに会えて、アヤがどうしてこんなに肩入れしてんのかってのがわかったよ。

 うちのかわいい妹分とその大事な人を助けるのに、あの程度の骨身を惜しむようなヘタレたオメガ隊じゃぁねえさ」


と言ってくれた。


「それよりも、聞け、アヤ。明日には総攻撃になる。だから、今日中にお前たちはサンフランシスコに入っておかなきゃならない。

 でなければ、お前の宝物をシャトルに乗せることができなくなる。俺たちも作戦がある以上、サポートできることは限られてる」


「わかってるよ、隊長。しかもビッグトレーが今夜出る、ってことは、少なくともそれより先に出発して、

 追いつかれないアシで走って、なんとかジオンの勢力内に飛び込む必要がある」


「ああ、そう言うことだ」

「あのポンコツで…4時間ってとこかな」

アヤは表に止めておいた車のことを指して言う。

「いや、道路も各地で寸断されていて、まともには走れない」

「なんだって?」

「車は走れねぇんだ。だからま、こいつを見ろ」

隊長は、机の上に手書きの地図を広げて見せた。

「この街から北へ15キロも進むと道の脇に崖が出る。

 その崖の横穴に、何日か前に俺らが鹵獲した武装ホバートラックが一台隠してある。それをつかえ」

「隊長、なんだってそんなものを?アタシらがここに来ることがわかってたってのかよ?」

確かに、アヤの指摘はもっともだ。この広い北米大陸のどこにたどり着くかなんてわかるはずがない。

しかも、隊長は、基地から戦闘機を借りて無事に出撃してきたことも知らなかったようだし…



「備えあればって言うだろう。ここのほかにもいくつか、同じようにして隠した移動手段を用意してた。

 正直言うと、あの戦闘機で基地へそのまま着陸する方法を選べればとは思ったんだが、

 さすがに警戒網が厳しかったようだしな。ニホンからまっすぐキャリフォルニアを目指すのなら、

 北へ接近するより、このあたりへ出た方が航路の計算がしやすいだろう?」


「そ、それはそうだけど…」

「まぁ、だが、こればっかりは偶然だな。俺たちもこの街へ来たのは3日前なんだ。

 だはは!オメガ隊の悪運ってやつはまだまだ健在らしい」

「はは、そうかも、な」


「まぁ、あれっきりお前からの連絡は一切ないし、こっちは情報がなかった分、対応が限られちまってすなまいと思ってる。

 今回はほんとに運が良かった。できたら、もういくつかやってやれそうな案もあったんだが、任務こなしがらだと、なかなか難しいな」

「いや、隊長、感謝してるよ」

アヤは感激したのか目を潤ませている。この隊長は、確かにすごい。

数少ない情報と状況を頼りに、不測の事態まで想定したプランを複数準備してくれていた。

これは天性のものなのか、それとも、彼からにじみ出ている数々の戦闘を切り抜けてきただろう経験からきているものなのか…

「だが、できるのはここまでだ。あとはアヤ、お前が頼りだぞ。無茶はすんな」

「あぁ、わかってるよ」

隊長はそう言って笑った。アヤのことを見ていて、すごく機転が利いて、

選択も判断も早くて自信をもってそれらを実行していくさまはすごいと思っていたけれど、

この隊長はアヤのそれをはるかに上に行っている。本当に、すごい人だ。

 「話が分かったら、飯を食おう。ささっと準備して向かってやらないと、レナさんが乗り遅れちまうんだろ?」

「うん、そうなんだ。それには何とか間に合わせるよ」

アヤは力強くそう言ってくれた。

 でも。

 当の私は、と言えば、まだその言葉を素直に聞けるような気持には、なれていなかった。


ちょいと短いですが、今後の展開上、中途半端になっちゃうので今回はここまでです。

読んでくれてる方に感謝ー!

乙。面白いSSに会えて嬉しいよ。ガンオンは色々問題もあるけど面白いよな、ところで>>1はガンオンではどちらの陣営でプレイすることが多いの?

>>134
レス感謝!

ガンオンは連邦オンリーかな。
Robinという左官がいたらたぶんわたくしでありますww
指揮なんかを良くしてるから、連邦でやるなら見かけられているやも。

いやー面白いわ
こんなSSにリアルタイムで出会えたことに感謝

>>136
そういってもらえると立ててよかったと思えるわー感謝。
良かったら最後までお読みくださいまし!

乙乙
続き期待ー。無理せず頑張って!


1はS鯖F鯖どっちでやってるの??

>>138
感謝ー!もう書きあがってるから、あとは投下するのみであります!

ガンオンはチキンな連邦と呼び声の高いFサバであります!


それでは、投下行きます!


 「へぇ、なんだこいつは?」

武装ホバーを見てアヤが言った。

ホバー自体はごく普通の軍事車両だったけれど、屋根の部分には大きな可動式の砲塔が付いている。


「詳しくは知らんが、ダリルが言うには現地改修車じゃねぇかって話だ。くっついてんのは連邦軍の対戦戦艦用の120mm実弾砲。

 モビルスーツなんかでも、狙撃翌用ライフルとして装備してるやつがいるが、まぁ、その銃身を徹底的に切り詰めたもんのようだ。

 そんなんだから、遠距離での命中精度は当てにならんが…ないよりましだろう」

隊長が言った。

 私たちは、隊長に連れられて街から北に少し走ったところにあった崖の横穴に来ていた。

あたりはすっかり真っ暗で、人気は一切ない。こんなうまい隠し場所もそうそうないだろう感じがする。

アヤは隊長と一緒に、トラックの荷台に、私たちが使っていたオンボロ小型車を積み込み終えていた。

「燃料の方は十分だ。だがそれだけに、」

「撃たれたら、火だるま、か」

「そういうことだ。見て分かる通り、小銃を防ぐ程度の装甲しかない。モビルスーツやら戦車を相手にするのはもっての外だ。

 ランチャー持った歩兵にだって吹っ飛ばされかねん。極力、交戦は避けるべきだな」

「なぁに、そんなのは得意分野だろ」

隊長とアヤが話をしている。

 「アヤさん、レナさん、どうか気を付けて」

ここまでついてくる、と言って聞かず、先導する隊長の車ではなく、

私たちのオンボロ車に無理やり乗りこんできたマライアが私たちを心配してくれる。

「あぁ、わかってるよ。ここまで来てヘマしてたまるかってんだ」

アヤはそう言って笑い、それから

「お前も死ぬなよ、マライア。この作戦が終われば、戦場は宇宙になる。

 アタシら地上部隊はお役御免で、あとはのんびりジャングル警備生活だ」

「はい!」

マライアは元気よく返事をした。なんだろう、まるで子犬みたいな子だな。

 「よっし、レナ、行こうか」

アヤの声がかかった。

「あ、うん!」

私はそう返事をして、隊長の方へ向き直った。

「何から何まで…なんてお礼を言ったらいいか」

すると隊長は、豪快に笑って

「まぁ、気にすんなって。今度会うときゃ戦場で睨み合ってるかもしれん。

 礼をしたいってんなら、そんときに俺たちを見逃してくれりゃぁ、それでいい」

と言った。

 そう、そうなんだ。私が宇宙へ、ジオンへ帰るというのは、そう言うことなんだ…。

「まぁ、達者でな。うちのアヤを、頼むよ」

隊長はそう言って手を出してきた。私も手を伸ばして彼の手をギュッと握った。

 アヤがホバーのエンジンをかける。私は隊長とマライアに手を振って、ホバーに乗り込んだ。

 モーターのような音が高まって、ホバーは滑るように動き出すと、洞窟を出て、荒野の中を走り出す。

操縦席の中にあった後方を映すモニターの中で街の灯とうっすら見える洞窟が、どんどん小さくなっていった。

 「良い人だったね、隊長」

私はアヤに言った。

「だろう?頼りになるな、やっぱり」

アヤは胸を張って答え、笑った。

 この先を行けば、ジオンの拠点だ。そこにはきっとHLVかマスドライバーに戦艦でも来ているかもしれない。

それに乗って私は宇宙へ帰る。アヤとも、もう少しでお別れだ。正直、船の上ではそんなこと思っても一切実感がなかった。

でも、今は違う。基地について、シャトルに乗って宇宙に飛び立つとき、私は何を思っているだろう、

そして、きっとどこかでそれを眺めているだろうアヤは、どんな気持ちで私を見送っているのだろう。

そんなことを考えてしまっていた。

 そもそも、私はどうして宇宙へ帰りたいのかな?もう、あそこには誰もいない。

そりゃぁ、友達くらいはいるけれど、家族はみんな死んでしまった。私の帰る場所、私の家は、もうただのもぬけの殻だ。

でも、でも。ジオンを裏切るというのは、ジオンのために尽くしてきた、死んでしまった家族を裏切ることになる。

そんなことはしたくない。

———家族

 ふと、アヤの声が聞こえてきたような気がした。アヤは、隊のみんなを家族だと言った。

いや、前の話なら、彼女は自分が知り合った人、出会った人すべてと家族なんだと、そうなりたいんだと言った。

だとしたら、アヤにとっては、私も家族だってことなのかな?血は繋がってないけど、それでも。

私にとって、アヤは…確かに、家族みたいに近くて、頼もしくて、安心できて、甘えられて、言いたいことを言えて、ケンカもできる、

そんな相手だ。


「なぁ、レナ」

急にアヤが話しかけてきた。

「な、なに?」

慌てて返事をする。

「あんたさ、宇宙に帰ったら…いや、すぐじゃなくてもいいんだけどな。戦争が終わって、落ち着いたらで良いんだけどさ。

 また、アタシに会いに来てくれるよな?」

「え?」

な、なんだって、急にそんな話をするの?

「いや、ほら、前に話したろ?船買って、ペンションでもやりたいなって、さ。もし形になったら、遊びに来てくれるだろ?」

「う、うん!もちろん!」

私は答えた。答えたけど、ザワザワと胸の中が沸き立っていた。だって、だって…こんなのはまるで…

「約束だぞ?ホントはお客第一号で来てほしいんだけど、まぁ、どんなタイミングになるかわからないから、そんな贅沢は言わないよ。

 でも、来てくれたら、また釣りしような。あと泳ぎも教えてやる。ダイビングも楽しいんだぞ?あのあたりは熱帯の魚が多くて、

 黄色とかグリーンとか、ピンクとか、きれいな魚がたくさんいるんだ。そう言うのも、レナに見せてやりたいんだ」

「アヤ…」

「だからさ、あんた、宇宙に帰っても、絶対に死んじゃだめだぞ。ヤバくなったら逃げるんだからな。

 戦争が終わるまで、絶対に生き残れよ」

「うん…うん…」

 アヤは前に言った。宇宙へ帰るのも、帰らないのも、私の気持ち次第だって。

アヤはただ、私が望むように在れるために手を貸したいだけなんだって。

でも、じゃぁ、私は今、何を望んでいるんだろう?

「寂しいよなぁ」

アヤがぽつりと言った。

「え?」

「寂しいよ、やっぱさ、別れは」

何かが、私の胸に突き刺さった。得体の知れない感情が胸の内にこみ上がってくる。

何か、何かを言わなきゃ…そう思ってアヤの顔を見て、口を動かそうと思ったけど、何も、何も出て来なくて、

パクパク口を動かすので精一杯だった。

 アヤが私を見た。彼女は、半分泣きそうな、でもいつもみたいに明るい笑顔で

「なんだよ、その顔。マヌケに見えるぞ」

と言って私を片腕で抱き寄せた。私もアヤにすがりついた。

 暖かい。最初に会ったときもそうだった。思えば、コクピットで眠る前、

ワニが来るから騒ぐなと言って圧し掛かってきて私を黙らせたアヤも、暖かかった。

旅の最中は、体調を崩したり、ヘナヘナ力が抜けたりして、アヤに抱えられてばかりだったな。

迷惑かけてばっかりだな、って思っていたけど、でも本当はそうしてもらえるたびに、うれしかった。

味方なんて近くにはどこにもいないこの地球で、家族の居ないこの世界で、アヤだけはずっとそばにいてくれた。

こうやって抱きしめて、支えてくれた。それがどんなに私を助けてくれたか。どんなに、幸せだったか…。

 気が付けば、私はアヤに何も言えず、ただこみ上がってくる感情を抑えきれずにしゃくりあげて泣いていた。

そんな私を、アヤは腕でしっかりと抱きかかえて、優しく髪を撫でてくれていた。これまでと変わらない、優しいぬくもりだった。

「レナ、約束だぞ」

うん

「約束だからな」

うん

私はアヤの言葉に、しゃくりあげながら、何度もうなずくことしかできなかった。



 「おい…あれ…」

どれくらい時間がたったのだろうか。私は、ずいぶんと長い間、アヤに抱きかかえられたまま泣いていたけれど、

彼女のそう言う声に顔を上げた。

 アヤが見つめる、フロントガラスのその先には、夜の暗闇にぼうっと浮かぶ奇妙な明かりが見えた。

まるで、夜空が、何か強い光に照らされているようだ。時折パパパッと閃光のようなものが走る。あれは…

「あれは…」

アヤが息をのんだ。私にも、わかった。

「あれは、戦闘だ」

アヤが言った。

つづく!

続きは今夜です。
最終アップになるかと思います。

最後まで、どうぞよしなにm(_ _)m

こんばんわー

9時くらいにラストパート投下予定です。
よろしくです。

遅くなりました。
投下、いっきまーす


 「おい…あれ…」

どれくらい時間がたったのだろうか。

私は、ずいぶんと長い間、アヤに抱きかかえられたまま泣いていたけれど、彼女のそう言う声に顔を上げた。

 アヤが見つめる、フロントガラスのその先には、夜の暗闇にぼうっと浮かぶ奇妙な明かりが見えた。

「街…?」

私は、涙で滲んだ目をこする。

 いや、街の灯ではない。まるで、夜空が、何か強い光に照らされているようだ。

時折パパパッと閃光のようなものが走る。あれは…

「あれは戦闘だ」

アヤが言った。

 そうだ、あれは戦闘の光だ。

「くっそ、なんだってこんなとこでドンパチやってやがんだよ!」

アヤがそう怒鳴りながら、計器のパネルをいじって、いくつかのスイッチを入れた。

フロントガラスに防弾壁が降りてきて、代わりにガラスへ外部にあるカメラが映し出した映像が投影される。

「暗視モニターのスイッチどれだ?」

「たぶん、これ!」

私はアヤに抱えられたまま、計器のスイッチを押した。画面が緑がかり、暗闇が明るく映し出される。

 そこには、煌々と燃える火と、崩壊した小さな町のような建物の影。そしてその中で戦闘を行うモビルスーツの機影…

「ムチツキが1機に…連邦はジム1個小隊…あのムチツキ、たった1機でなにしてんだ?」

私はアヤの体から離れて助手席側にあるスコープを引っ張り出して覗いた。倍率を上げていく。

町の建物の陰に見覚えのあるシルエットが見えた。

 あれは輸送機?ファットアンクルだ。

「輸送機を守ってるんだ」

「輸送機?見えるのか?」

「うん、建物の陰になってちゃんとは見えないけど、でも、確かにあれはジオンの輸送機」

「あの小さい太っちょだな、見たことあるぞ…ちきしょう、あの連邦、送り狼ってワケか」

「迂回しよう!このままだと感づかれちゃう!」

「あれを黙って見逃せってのかよ!」

私の言葉にアヤは声を上げた。グフだけじゃない、輸送機がいるということは撤退する兵士たちが乗っているに違いない。

そんなこと!

「わかってる!悔しいけど、でも!」

「あんなのは、戦争ですらない…!あんなもん見逃したら、アタシは絶対に後悔する。

 そんなことしたら、アタシは明日魚食べてもうまく感じないし、

 あのきれいな海と空を見ても、きれいだって感じられなくなっちまう。そんなのは、ごめんだ」

「アヤ…」

「レナ、あんたは降りろ。ここからなら、道がなくたって後ろに積んでるオンボロで2時間も走れば基地に着ける。

 アタシの荷物もってけ、ジャイロが入ってるから、それを使えよ」

「アヤ、こんなトラックで突っ込んでも勝ち目なんかない!」

「策はある!時間がないんだよ!

 戦闘終わったときにホバーもオンボロも走れなくなってたら連邦本隊に追いつかれて終わりだぞ!わかれよ!バカ!」

バカはアヤの方だ!こんなときに、こんなトラックなんかでモビルスーツ3機とやり合うなんて正気じゃない…

でも、策はある、今、アヤはそう言った。

「本当に、策はあるのね」

「あぁ?あるよ!無駄死にはごめんだ」

私は、覚悟を決めた。

「なら、私も行く。私も、手伝う」

「レナ!あんた、何言ってんだ!」

アヤは驚いていた。私はそんなアヤに構わずに、なるだけ心を落ち着けてアヤの目を見た。


「策があって、確実に勝てる方法があるんなら、私もやる。約束だから。アヤのことは私が守る。

 だから、アヤ、あなたも私を死なせないように、私を守るために、うまくやって。

 このホバー、一発でももらったら二人とも死んじゃうからね。あなたがバカやるときは、私が止める、そう言う約束。

 でも、その責任は、ちゃんと取ってよ。戦闘が終わったらまた、シャトルに間に合う策を立てて」


私はアヤにそう言いきって、席についてシートベルトを締めた。ここまで来て、アヤを一人にしてたまるものか。

アヤに投げ出されてたまるものか。


「レナ…」

「何か文句ある?」

「…いや、ない」

「よろしい」

「なら、レナ!射撃翌頼む!」

「了解!」

私はスコープを引き寄せて、それから手元にあった、砲台操作のために後付けされたと見えるレバーを握った。

「安全装置、解除。いつでも撃てる!」


「よぉし、レナ!あいつら機体の構造上、ひねりに弱い!旋回を続けてればそうそう照準には捕まらない!

 連邦機の背後に回るぞ!背中のバーニアか、股関節部分の装甲の隙間を狙え!」

「オッケー!」

ホバートラックが速度を上げた。前方の戦場を右に迂回していく。

 モビルスーツがぐんぐん近寄ってくる。すでに、肩に入っているエンブムが肉眼でも確認できる距離だ。

 「ちっ!」

アヤが舌打ちした。それと同時に、モビルスーツの一機がこちらを向く。

———撃たれる、ビーム兵器だ…!

直観だった。モビルスーツが手に持ったビーム兵器を振り上げてこちらに照準を付ける動きがイメージに入り込んでくる。

私はほとんど無意識に照準を合わせてトリガーを引いた。

 バガァァン

激しい砲撃音とともに車体が大きく揺れた。

次の瞬間、照準をつけようとして振り上げた携帯用のビーム兵器が爆発し、その腕ごと吹き飛んだ。

「まず1機!」

アヤがグンっと操縦桿を回して、ホバーはモビルスーツから離れるように旋回を始める。

連邦のモビルスーツの爆発に好機を見つけたのかグフが持っていたヒートソードを光らせた。

「グフが出る!アヤ、援護!」

「ムチツキ、そんな名前だったんだ!言いにくい!」

「いいから!」

「左へ切るぞ!足元狙え!」

またグイっとホバーが向きを変える。私は、横に流れていく連邦のモビルスーツの足元に狙いを定めた。

 バガァァン

再びの砲声。弾はモビルスーツの足元に着弾した…いや、当たったはず!

 着弾に気付いたモビルスーツがこちらを振り向こうと一歩足を引いた。しかし、その足は半分が破損している。

引いた足を地面に着いてからそのことに気付いたようで、その場でバランスを崩したモビルスーツにグフがヒートソードで斬りかかった。
左肩から右わき腹までを袈裟懸けに切り捨てられる。


「レナ!」

「うん!」

バランスを崩したモビルスーツの脚の付け根に照準を合わせて三度目のトリガーを引いた。

 砲撃音とともに、連邦のモビルスーツの片脚がもげて、上体から地面に崩れ落ちた。

 私とアヤは、瞬く間に、グフ1機とともに3機のモビルスーツを撃破していた。

「ひゃっはー!レナ!すげー腕してんな!」

「はぁ、はぁ、はぁ…」

はしゃぐアヤをよそに、私は荒くなった呼吸を整えていた。

そのわずかな時間の間、今起こった戦闘がまるでフラッシュバックのように脳裏によみがえってくる。自分でも信じられなかった。

いや、射撃には自信があったし、この距離だ、当てるだけならどうとでもなる。

でも今のはそうではない。腕と足元と、そして股関節。どれもパイロットへの致命傷を避ける位置だ。狙った通り、に。

グフに斬られた一機以外は融合炉に損傷の可能性はないはず。

私は、自分自身がこんな戦いをすることは初めてだったし、まさかできるとも思っていなかった。

でも、戦闘のさなか、まるで敵の動きが頭に入ってくるような妙な感覚があった。きっと、その感覚が今の戦いを可能にしたんだ。

そう、そういえばその感覚はシドニーや船の沈没に遭遇したときと、同じ感覚だった。

 アヤがホバーをすこし走らせて建物の陰に止めた。すぐ近くに補給機が見える。

急いで降りると、グフが、腕を爆破されたモビルスーツの頭部を破壊しており、それが終わると動きを止めた。

斬られたモビルスーツも爆発する様子はないようだ。

 「レナ、行こう!」

アヤの呼びかけで、私たちは補給機に走った。

 補給機は、弾痕が無数に残り、形こそとどめていたが無残な状態だった。とても飛行ができる様な感じではない。

 ズシン、ズシンと足音を立てて、グフが近づいてくる。

その時になって私は、そのグフに見覚えのあるマーキングが施されているのに気づいた。

 あれは、フェンリル隊のエンブレム!


「どこの隊の方ですか?援護に感謝します、助かりました!」

グフのスピーカーからそう言う女性の声が聞こえる。まさかとは思ったが、その声の主を私は知っていた。

 「シャルロッテ!」

私は大声でさけんで、その場で飛び跳ねながら手を振った。

「ヘスラー少尉ですか!?」

スピーカーからそう聞こえたかと思うと、グフのコクピットが開いて、ノーマルスーツに身を包んだ人影が姿を現した。

跪いたグフのコクピットからリフトでその人物が降りてくる。リフトの上で、彼女はヘルメットを脱いだ。

間違いない、シャルロッテだ!

「少尉!」

シャルロッテはリフトの途中から飛び降りてきて、私に駆け寄ってきた。

「無事だったんですね、少尉!」

「シャルロッテこそ、よくジャブローから無事に!」

「ええ、我が隊はみんな無事です!」

シャルロッテは笑ってそう言い、私の後ろにいたアヤに気付いた。

「そちらは?」

「あ、えーっと」

「あぁ、流れ者の元軍人。ま、アタシのことは気にしないで」

アヤもニコッと笑顔を返しながら言った。

「ア…えーと、レベッカ、こちら、シャルロッテ・ヘープナー少尉。

 特殊部隊所属なんだけど、ジャブロー降下作戦の前に仲良くなったんだ」

「へぇ、若いのに少尉だなんて、すごいんだな」

「とんでもないです」

シャルロッテはうれしそうにそう言う。

「で、シャルロッテ。こちらは、レベッカ・エイズンワース。元連邦軍人なんだけど、今は退役してジャーナリストやってるんだ。

 戦線を取材させてあげる代わりに、ここまでの道案内を頼んだの」

「そうだったんですか…また会えてうれしいです!それにしても、助かりました。

 援護が来るまで持たないかもって思ってたところで…」

シャルロッテは胸をなでおろす。

「戦況はどうなの?」

アヤがシャルロッテに聞いた。

「はい。明日の朝にHLVを打ち上げを行います。それを最後に、基地は完全に放棄、撤退の予定です」

「撤退…って、どうやって?」

「ほとんどはHLVに搭乗予定ですが…複数の部隊は、その…」

「打ち上げを見届けるまで残るつもりか」

「…はい」

アヤがうめいた。


「フェンリル隊はどうするつもりなの?」

「私たちも残ります…HLV打ち上げ後は、ここから西へ少し行ったところにある旧軍工廠の地下にガウを待たせてあるので、

 それを使ってアフリカへ渡る予定です。旧軍工廠までの退路は地下道で確保できているので、ガウが無事なら、まだ活路はあります」

「そう…」

そんな話をしていたら、上空からエンジン音が聞こえてきた。見上げると、機影が確認できる。ファットアンクルだった。

「あ、来た!」

シャルロッテの言う、援軍のようだ。

 輸送機は私たちからすこし離れたところに着陸して、格納ベイからトラックとザクが二機降りてきた。

他にも、ジオンの軍服を着た人たちが何人も降りてくる。

それを待っていたかのように、ボロボロになった輸送機と

それから、どこに隠れていたかはわからないジオン兵がたくさん湧いて出てきた。

お互いに生還を喜んで抱き合ったり手をたたいたりしている。

 「シャルロッテは、どうするの?」

私は彼女に聞いてみた。

「私はこれから打ち上げ基地に戻ります。おそらく、厳しい戦闘になるでしょうし…少尉も基地へお願いします。

 HLVは私たちが必ず守りますから、先に宇宙へ帰っていてください」

シャルロッテは言った。

 そうか…

 私は気が付いた。

 目の前に降りてきた輸送機。あれに乗れば、基地について、それで、シャトルに乗って、宇宙へ出られる。地球ともお別れだ。

そう、アヤとも、お別れ…

———アヤ…アヤは?

ふと気が付いてあたりを見回した。

「うそ…」




そこにアヤの姿はなかった。







———そんな…行っちゃった、なんてこと、ないよね…

 思わず私は駆け出した。あたりを走って見て回るけど、その気配がない。止めてあったホバートラックの中に駆け込んで中を見る。

でも、そこにも、誰もいない。外に出てまたあたりを探し回る、でも、どこにも、どこにもアヤの姿がない。

 うそでしょ…まさか、さよならも言わずに…?

 胸の内に得体の知れない焦燥感がこみ上がっていた。走り回って息が切れてきている。

でもこんなに胸が熱くて痛いのは、走り回ったせいなんかじゃなかった。

探せば、まだきっとどこかにいる…まだ、追いつく。待って、待ってアヤ!

 だけど、あたりにはジオン兵ばかりがいて、けが人を運んだりと忙しそうに動き回っているだけ。

あたりのどこを見渡しても、周囲の建物のどこを覗いても、どこを探しても、アヤの姿はない。

町のはずれまで走って、荒野に残っているかも知れない足跡すら探した。だけど、どこにも、アヤの痕跡すら残っていない。

補給機のところまで戻ってみるけど、軍服を着た周囲のジオン兵たちの中に、まるで取り残されたような私がいた。


 私は、ようやく自分がしてしまったことに気が付いて、愕然としてその場にへたり込んでしまった。

アヤのことだ。もしかしたら私が迷っていたことを感じていたのかもしれない。宇宙へ帰るべきかどうかを。

いや、あのアヤなら、気づかないはずがない。

そうだ…だから、さっきホバートラックの中であんな話をしたんだ。

私をこれ以上迷わせないように、いつでも姿を消せるように、あのタイミングで、二人きりの、

たぶん一緒に過ごせる最後の時間だったから…でも、そんな、そんなのって…。

 だってあのときだって、私ただ泣いていただけじゃない…まだ、私アヤに何も伝えてないよ?

アヤのことをどんなに大事に想っていたかって。アヤのことをどんなに好きだったかって。

助けてくれてありがとうって。支えてくれてうれしかったって。まだ、私まだ、あなたに何も伝えてないのに…

 なんで?なんでよ!なんであなたは、いつもそうやって…自分のことより、アタシのことばっかりを…アヤ、アヤ…アヤ…!

「アヤーーーー!」

私は彼女の名を叫んだ。そうせずにいられなかった。胸の奥から、ただただひたすらに悲しさと寂しさと後悔が湧き出していた。

私はバカだ。あんなに好きだったのに、あんなにやさしくしてくれたのに…

私のために、自分の身を犠牲にして、危険な目にあって、こんなところまで私のために来てくれたのに…どうして…

どうして、心からのありがとうの一言すらいえなかったんだろう…宇宙に帰るとか、家族のことだとか、そんなことばかりを気にして、

どうして私は、一番大事な人に、一番大事な、こんなに簡単なことを伝えてあげられなかったんだろう…

あんなに時間がたくさんあったのに。どうして、間に合わなくなる今の今まで、一言も口に出せなかったんだ、私は…。

もう、もうアヤは私の声のとどくところにからいなくなってしまったというのに。

———約束だぞ

 アヤ…ごめん、ごめんなさい。私きっとまた会いに来るから。生き延びて、必ずあなたのお客さんとして地球に戻ってくるから。

きっとその時には戦争は終わってるだろうから、必ずあなたを探し出して、私の気持ちも感謝も、全部あなたに伝えるよ。

ありがとうって、好きだよって。それで、それからは今度は、私があなたの夢を手伝うよ。

お客さんじゃなくなっちゃうけど、ずっと手伝わせてよ。ずっとずっとそばに居させてよ。

もう、二度とあなたにこんなお別れさせないから。二度と寂しいなんて言わせないから。

悲しい思いもつらい思いもさせないから…ね、アヤ。

 ごめんね、アヤ。ありがとう、アヤ。また必ずあなたに会いに行くからね…約束する、約束するよ。

 私は、大声で泣き叫んでいた。地面を握りしめていた。でも…でも、これはアヤが作ってくれた道だ。

泣いている場合じゃない。私はアヤの想いを受け止めなきゃいけない。補給機に乗って基地へ行き、宇宙へ帰るんだ。

そして、きっと生きて地球にもどって、彼女との約束を果たそう。


私は、そう固く、心に誓った—



「おーい、レナぁー」


———のに、すぐそばからそんな、とっぽい声で私を呼ぶ誰かがいた。

「ちょっと、そんな所ですくんでないで手を貸せよ!こっちまだケガ人、山ほどいんだぞ!」

私が声のした方に目を向けると、なんてことはない。

アヤは攻撃されていた方の輸送機に乗り込んで、他のジオン兵と一緒にけが人を運び出していたのだ。

いや、居なくなっちゃっと思ったから、確かに補給機の中は探してなかったけどもさ…

 ホントに、この子は…もう…。安心したら、もっと涙が出てきてしまった。

 けが人の人には申し訳なかったけど、アヤのところに駆けて行った私が、

彼女に飛びついて涙と鼻水でくしゃくしゃになった顔を彼女のシャツで拭きながらもうひとしきり泣いてしまったのは言うまでもない。


Epilogue


「おー見ろよ、上がったぞ」

「うん、3つだね」

「ちゃんと全機だ。やるなぁ、フェンリル隊っつたっけ?」

「そう」

「無事だといいなぁ、あいつらも」

私とアヤはまた、あの赤茶けた大地にいた。もうすっかり夜は明けて、真っ青な青空に白煙の軌跡を描きながらHLVが上昇していく。

もう成層圏を越えただろう。あとは、宇宙空間に出たところで連邦の艦隊に狙われないのを祈るばかりだ。

 すこし冷たい風が、ひゅるると吹き抜けた。

私たちはあれから、武装ホバーを乗り捨てて、荷台に積んでおいたオンボロでマーセッドと言う小さな町にたどり着いて、

そこで明け方までサンフランシスコへ侵攻していく連邦軍をやりすごした。今はマーセッドから南へ向かうハイウェイに車を止めている。

シャルロッテから聞いた、シャトルの打ち上げ時刻だったから。

 「なぁ、良かったのかよ」

アヤが私に聞いて来た。

「うん?」

さも、わからないふりをして聞き返す。

「あれに乗っていかなくて」

「うん」

私は答えた。

「なんでだよ」

「アヤのそばにいたいと思ったから」

私は伝えた。

「そう言ってもらえるのはうれしいけどさ。でも、家族のこととか、あと、シャルロッテって言ったっけ?友達だったんだろ」

「うん、良いんだ。シャルロッテはああ見えて、責任感強いからね。私がどうとかこうとか関係なしだよ。

 それに家族は…あなたの幸せなようにしなさい、って」

「え?」

「そう、言ってくれてるような気がするんだ」

私は感じたことを、そのまま話した。

「あぁ、そっか…スペースノイドだもんなぁ」

アヤは、なんだか合点が言ったようにそうつぶやいた。なんだかそれが奇妙で訳を聞いてみる。すると

「ニュータイプ、って言葉を知ってる?」

とアヤが逆に聞き返してきた。なんとなく聞いたことはあるけど、いったいそれがどう言う物なのかは良く知らなかった。

たしか、感覚が優れている、とか、そういうことのようなはずだったけど…


「アイナさんとね、チラッと話をしたんだ。ほら、宇宙から逃げてきた子どもたちと生活してたって言ってたろ?」

私が悩むとアヤは話をつづけ始めた。

「うん」

「会ったときにね、その子たちの一人が死んじゃってたんだってさ。で、残った子が丁寧にその子を埋葬してたらしいんだ。

 でも、誰一人悲しい顔してなかったんだと」

「どうして?」

「彼らは、ジオンの、そのニュータイプ研究所で良い結果を出せなくて殺されそうなところを、

 見かねた別口のジオンの軍人たちに助け出されたんだそうだ。

 大気圏突入のギリギリまでモビルスーツの護衛が付いて、そいつらは摩擦で吹っ飛んじまったらしい。

 でも、そうやって守られた子ども達だったんだな。

  あー、で、そう、その子ども達は、やっぱり多かれ少なかれニュータイプの素質があったらしくて、アイナさんに言ったらしいんだ。
『自分たちは、心も意識も一つだから、体が死んでしまっても、心の中でちゃんと生きてる』ってね」

「なにそれ、オカルトっぽい」

「よし、もう話すことは何もない!」

私は特にふざけて言ったつもりはなくて、ぽろっと出てしまった。今のは、失言。

「ごめん!それで?」

「うん…つまり、レナにもあるんじゃないかなって思うんだよ。そう言うの。

 なんていうか、どんだけ離れていてもさ、たとえ、生きてようが、死んでようが、心は繋がってるんだ、って感じること、かな?」

「あれ、それ私アヤから聞いたことある」

私はふと、戦闘機の中で、アヤが私やかつて特別な存在だった男の子との話をしていたことを思い出した。

確かあの時のアヤも同じように、「心の中に、ずっと一緒にいる」なんて話をしていた。

「あー、はは。そうだ、な…。うん、レナになら、もう隠しておくことはないな。実はさ、アタシもスペースノイドなんだ」

「え?」

驚いた。アヤは、地球のことは詳しいし、何より釣りが好きで海が好きで…

そんな子だったから、てっきり地球の生まれだとばかり思っていたけど…確かに彼女からは、親が亡くなってしまった話は聞いても、

どこで生まれたかなんてことは初めて聞くような気がする。


「生まれは宇宙。親が死んじゃって、地球に降りてきたんだ。これは、悪い、ずっと隠してた。

 地球じゃ、スペースノイドって知られると、いろいろと立場が悪くてね。

 あんまり大きい声じゃ言えないけど、連邦軍じゃ、前線に出るのはスペースノイドが多いんだよ。

 もちろん、そうじゃない場合もあるけど。でも、連邦の高官連中はみんな地球生まれで、ジャブローの連邦軍のお偉方の大半もそう。

 アタシも隊長からずいぶんとスペースノイドだってことは隠すようにって言われてた。ジャブロー防衛ってのは意外に安全なんだよ。

 でも、スペースノイドだってのが知れたら、隊から引っこ抜かれて前線に転戦、なんてこともあり得たからな。

 別にレナのことを信じてなかったわけじゃなくて、これはまぁ、ちょっとしたクセみたいなもんだから、悪く思わないでくれよな」


「そんなこと思わないよ。むしろ、話してくれてうれしいけど…

 でも、それってつまり、アヤにも、この声みたいのが聞こえてる、ってこと?」

「うん。すげぇヤツは、相手の動きとか考えてることが手に取るみたいにわかるのもいるらしいけど、アタシはなんとなくって感じだ」

そうだったんだ…じゃぁ、私が感じていたあの戦闘での敵の動きを、アヤも感じていたってことだよね?

いや、もっと言えば、海の上やあの港で感じたのも…

「じゃ、じゃぁ、もしかして、シドニーや、あの船が沈没したときのイヤな感じって、アヤも感じていたの?」

「あぁ、うん。あれはたぶん、死んじゃった人の感情。死にゆく人の恐怖。多分、そう言う類のものだよ」

やっぱりそうだったんだ…私は驚きを隠せなかった。でも、同時にすこし合点がいった。

あの時に苦しむ私を、アヤはこれ以上ないくらいに理解してくれていた。アヤは、私がそうなっていることに気が付いていたんだ。

「よく平気でいられたね…あれが聞こえていたのに、気分が悪くなるどころか、

 私を元気けられるくらいには大丈夫だったってことだよね…?」

「それは慣れかなぁ。この感覚を体験し始めて、実はけっこう長いんだ。

 だから、まぁ、聞きたくない声を聴かないようにする、ってことは、なんとなくできるようになった」

「そうだったの…」

「だからさぁ」

「うん?」

そこまで話した、アヤの顔色が変わった。赤くなったというか…これは、照れてる?

「レナがアタシに感じてることとかも、感情が高ぶったりしてるときは、なんとなく感じるんだよ」

ちょ、え、えぇ!?それって…つまり…えぇ!?

私は狼狽した…顔が熱くなって、火が吹き出るんじゃないかと思うくらいだ。

「でもさ、なんていうか。やっぱり、そう言う大事なことってさ。

 気持ちはわかってても、言葉でちゃんと聞いておきたいって思うのが人情だと思うんだよ、うん」

アヤは続けた。うん、確かに、確かにそうだよ。今、この時間の中で、ちゃんと伝えようとしてたよ、アヤ。

でも待って、急にそんな話の振り方されたらかえって緊張するでしょ!

「いつもさ、話してるとアタシばっかりしゃべっちゃって、レナの気持ちとかちゃんと聞かなかったのがいけないんだけどさ…

 うん、だから、その、今から黙るから、あの…聞かせて、ほしい」

アヤはそう言って、顔を真っ赤にしながら、でもいつもならそんな時は目をそらすのに、今は潤んだ瞳で私をじっと見据えた。

私はもう覚悟は決まってはいた。あ、あ、あ、あとは、口がうまく言葉としての意味を成したその…言葉を発してくれれば、

きっと伝わるはずだ。うん、大丈夫だ。だから落ち着け私。大丈夫だ、大丈夫…

私は大きく深呼吸した。それから、今のアヤの話に返事をする。

「うん…」

それから、アヤの名を呼んだ。

「アヤ」

「うん」

アヤも深呼吸をして私を受け止める準備をしてくれているようだった。


「アヤ、今日までずっと、そばにいてくれて、助けてくれてありがとう。私にとって、アヤは誰よりも、何よりも大切な人。

 私は…私はアヤが好き。大好き。戦争も、宇宙も、もう気にしない。家族はきっと応援してくれる。

 だからアヤ。アヤが嫌じゃなければ、ずっとずっと、ずっと一緒にいた。どこまでもあなたと一緒に…一緒に居させてほしい」


私の言葉を聞いて、アヤは、今までに見せたことないハッとした表情とともに、まるで太陽みたいに明るい笑顔を浮かべてくれた。


「うん。ありがとう、レナ。アタシにとってもあんたは誰よりも大事で特別な人だ。だから、そう言ってもらえてすごくうれしい。

 あんたと一緒に入れるのなら、アタシも幸せだ。これからはずっと一緒だ。

 今までよりも、もっとずっと楽しことをたくさんしよう!」


「うん…うん!」

私は、目一杯に明るい笑顔で返事をして、アヤに飛びついた。いつものようにアヤは私をしっかり支えてくれて、抱きとめてくれる。

彼女の暖かいぬくもりが伝わってくる。

彼女の温度、彼女の匂い、彼女の声、彼女の瞳、彼女の心…すべてが私を優しく、大事に、包み込んでくれているような気さえする。

なんだか、胸の奥が暖かくて、とても暖かくて、はらはらと勝手に涙がこぼれだした。


 くっと顔を上げると、私よりちょっと背の高いアヤが、ウルウルした瞳で、笑顔で私を見ていてくれた。

「なんか、愛の告白とか、プロポーズみたいだね」

「ははは。おんなじようなもんかもしれないな」

なんだか、溶けてしまいそうな心持ちで、無性にアヤに甘えてしまいたくなって、そんなことを言ってみた。

「じゃ、キスとか、する感じ?」

「え?これってそこまでの雰囲気のやつ?」

気恥ずかしさも忘れて、そんな冗談を言ってみたら、アヤはニコッと笑ってそうはぐらかした。

「レナにそう言う気があったなんてなぁ」

「わかんないけどね。私、女の人としたことないし。アヤの方が詳しいんじゃないの、そう言うの?」

「してほしけりゃぁ、してやるよ?まぁ、アタシも経験ないけどな」

「そうなの?でも、どっちでも良いタイプって言ってたよね?」


「それはそうだけど…実際、性別とか気にしないタイプだってだけで、女の相手なんてしたことないし…

 その、男の方も、その、あの…ひ、ひとりくらいしか、知らないし…」


え、そうなの?想像していなかった。私はてっきりあの隊長とか、他の隊員とか軍人とかと数々経験済みだったのかと思っていたけど…

いや、私だって、士官学校出てからすぐ軍に入っちゃったからそういうチャンスは多くはなかったけど、

まったくないわけじゃなかったし…そりゃぁ人並みにそんなことを経験したこともないこともない。

 でも、いつもはどんなことでも何でもないみたいな顔をするアヤがこうして困っている姿ってのも、なかなか面白い。

「ホントに!?うそ、もっとこう、オープンな性生活してる人かと思ってた!」

私が言ってやるとアヤは顔を真っ赤にして

「う、うるさいなぁ!だいたいそれ、どういうイメージなんだよ?!」

と反論してきた。

「ふふふ、アヤにはいろんなとこ負けっぱなしだけど、もしそう言う関係になったらその時は、私が調教してあげられそう」

私がってやると、アヤは手のひらをぱたぱたさせて

「ちょ、調教ってなんだよ!」

と悲鳴みたいな声を上げた。

「へへへー」

なんだかその姿がおもしろくて、あと、なんだかとても幸せで、変な笑みが出てしまった。

「もう、ほら、乗れ!おいてくぞ!あんまりのんびりして連邦のヤツらにでも出くわしたらたまんない!」

アヤはいきり立ってそう言った。あんまりいじめるのもかわいそうだから、今日はこれくらいで勘弁して上げることにした。

「うん!」

アヤが運転席に乗って、私も助手席に乗り込む。

ハンドルを握ってエンジンをかけたアヤの横顔を見ていたら、また幸せな気持ちになって

「ふふ」

と思わず変な笑い方が漏れてしまった。

「あーもう、調子狂う!行くぞ!」

「うん!」

赤くなってプリプリしたアヤが言うので、私も元気よく返事をした。アヤがアクセルを踏んで車がどんどん加速していく。


 そう言えば。

「どこ行くの?」

「ん、ここからずっと南のフロリダってとこだ。昔から海のレジャーが盛んなところで、

 下調べしてみたら、船の中古屋がいくつかあったからさ。まずはそこで船を仕入れて、その船で島まで行くのが楽しいかなって」

「うん、それ楽しそう!」

「だよなぁ!」

「ね、釣りと泳ぎ教えてよ!」

「あぁ、任せとけって」

「あと、なんだっけ?ダイビング?」

「そう!海の中に潜るんだ!耳抜きってのがあってな、最初慣れないとは思うけどでも——


 アヤがアクセルを踏んで車のスピードが上がる。

 赤茶けた大地に、道路がまっすぐに伸びている。

この道路の先には海があるのかな?山があるのかな?きれいな川かもしれないし、

もしかしたら、戦争の被害にあっていない、大きな街があるかもしれない。

 何が待っているかはわからないけど、いや、うん、もうそんなことはどうでもよかった。

 だってアヤと二人でいるんだ。どんなところだって、私たちならやっていける。

どんなつらいこと、大変なことも、楽しく乗り切ってやるんだ!

 どこまでも続いていくこの青空と、この赤茶けた大地と、それから道路のように、

まるで私たち自身が本当の意味で何物からも解き放たれたような気がしていた。

 もう、できるだけ大きな声で叫びたいくらいだ。

 いや、もう、いっそそうしよう!

私は車の窓を開けて叫んでやった!

「待ってろー!フロリダ!」

するとアヤも大声で笑って、窓を開けて叫んだ。

「待ってろ!アタシらの船と家と…楽しい未来!」

 アヤの叫びを聞いて、私はうれしくってアヤの方を見た。アヤも私を見ていた。

なんだかやっぱり幸せな気持ちになってお互いに、自然と笑いあっていた。





———to be continued



以上です!

読了感謝!!

感想おまちしております!!!

乙、心情描写が丁寧で面白かった!to be continued ってことは期待していいんだよな!

ここにキマシタワーを建てよう

乙!
最近読んだ中じゃ出色の出来だわ。
面白かった。別の作品も読んでみたい。

しかしなんて清々しいキマシタワー
リア充もげろ……って二人ともついてなかったw

フェンリル隊時代のシャルロッテはオペレーターしてた気が

>>165
感謝!
彼女たちの旅はまだまだ続きます…物語としては、ここで打ち止め?

>>164
あっさり風味のキマシタワーにしてみました!

>>165
感謝!
別作品はSSって言うか完全オリジナルで未完のものがいくつか。
実は、これとは別に、激甘キマシタワーエンドがありますww

>>166
シャルロッテさんはゲームだとMSに乗っけてやることも出来るらしいです。
当初はマットさんでしが、隊長以下、マットさんみたいなおっさんがいっぱいになってしまったので
ゲーム設定を持ってきてシャル嬢になった次第。

皆さん、感想感謝。

待ってる間におまけエピソードを書いてみた。

蛇足だけども、ウザくなければ投下しまする。

ばっちこい

>>169
レス感謝。

ちょっと長いけど、読みきりなんでまとめて投下して置きまする。

Extra.

 「ん〜ふふ〜ん〜♪」

隣で、レナが鼻歌を歌っている。連邦の軍ラジオで情報を聞こうと思ってかけていたんだけど、

そこで流れていた曲を気に入ったようで、おんなじフレーズを何度も何度も繰り返している。ご機嫌のようだ。

アタシだってなんとなくワクワクしてるんだ。

「ねぇ、まだかな、フロリダ!」

「昨日走り出したばっかだぞ?夜通し走ったって、あと1日か2日はかかる」

「そうなんだー」

興味があるのかないのか、レナはそう返事をした。まぁ、楽しそうだからいいんだけど、さ。

 「それにしても」

「お腹すいたねー」

まるであたしの心を見透かしたように言うので、ちょっと驚いた。

「だよな。どこかに町でもあれば、飯にしたいんだけど…」

「川ないかなぁ、また釣りでも良いよ?」

レナはいたってお気楽なようだ。いくらアタシだって、そうそう都合よく釣りあげられるわけでもないし、あれは基本的に緊急手段だ。

できれば、ちゃんと調味料使った食事がしたい。

「地図見てくれよ」

アタシが言うと、レナは、何がそんなにうれしいんだか、喜び勇んで地図を開いた。

「待ってね、えーと今は…この辺りか、な」

レナは位置計算機と地図を照らし合わせてつぶやく。それからあっと声を上げて

「町あるよ!アルバカーキ…って読むのかな?」

レナが地図をこっちに見せてくるので、アタシもそれを確認する。Albuquerque。たぶん、そう読むんだろう。

「あぁ、たぶんな。デカイ街だと良いなぁ」

「どうして?」

レナが不思議そうに聞いてくる。

 ここから先は、中西部。しばらくは大きな街はないだろう。しばらくは西に走り続けるしかないし、食料や燃料を買い込んでおいた方がいい。

連邦軍が怖くて、ベイカーズフィールドじゃぁ給油しかできなかったし。

 「買い物しておきたいんだ。この先は、下手をすると一日走っても町がないかも知れなくてな。水と食料と、あとは、燃料」

「そうなんだ…それはちょっと心細いね。お腹すくのは、イヤだし」

まったくだ。この時期だから、気温も低いしタイヤがバーストしたりすることは…さすがにこの車、オンボロだけど、タイヤは替えてあったし、ないとは思う。

もちろん、熱中症で死ぬようなこともない。問題は、やっぱり食料!

「あ、ね、アルバカーキのそばに川があるよ」

「まーだそれ言ってんのかよ!どんだけ釣りしたいんだよ、レナは!」

あんまりにもこだわるのでそう言って笑ってしまった。

まったく、興味を持ってくれるのはうれしいけど、そんなにワクワクした顔で言われるとちょっと困っちゃうじゃんか。

「えーだって…」

レナはそう言ってぶすくれる。だって、のあとは何を言うのかな、と思ったら

「だって、楽しかったんだもん、あのとき」

なんていうのだ。あーもう、この子は、どうしてこうもかわいいんだろう。

「まぁ、そんな小さい川には小さい魚しかいないだろうしさ。釣りなら、海に出たらイヤってほどできるから、今はまだ我慢しておけよ」

アタシがそうなだめてやると、レナはまるで子どもみたいに

「うん!絶対ね!」

と目をキラキラさせながら言った。その笑顔を見られるのが、今のアタシには何よりもうれしいんだ。

 そんなことを30分ばかりしている間に、車はアルバカーキに差し掛かった。

 お、これは思ってたより…

「大きい町だ!」

「あぁ、良かったよ。これならいろいろそろえられそうだ」

 とりあえず、町の入り口にあった給油所で燃料を入れて、予備の燃料も1缶だけ、買い込んでおいた。

 それから、食料を仕入れるために町を走る。走るって言っても、ほんのちょっとの距離しかないところにショッピングモールがあったし、小さい商店なんかもそこかしこにある。

それに、幸い、連邦軍の姿はどこにもなかった。アタシは良いが、レナがまだ脱走捕虜として手配されていることを忘れちゃいけない。

 とりあえず、ショッピングモールに車を止めた。レナが勇んで車から降りたので、テンガロンハットとサングラスをつけさせた。

うん、やっぱこの姿は何度見てもおかしい。

 笑っていたら肩口をひっぱたかれたけど、でも、やっぱりおかしいもんはおかしいんだ。

 そう言えば、ちょっと驚いたのが、ベイカーズフィールドで買ったカメラをレナが大事そうに抱えていたことだ。聞いたら

「アヤの写真を撮るんだ!」

とか胸を張って言った。

 なんでも、これまでのこともカメラを持っていれば写真に残しておきたかったらしい。だから、今はカメラもあることだしこれからはたくさん撮るんだ、だと。

なんだよ、それ、かわいいじゃんかよ、もう。

だからまぁ、買い物だけだし、そんなタイミングたぶんないぞ?なんてことは、言わないで置いた。

 アタシ達はモールで水とインスタント食品なんかを大量に買い込んだ。生鮮食品なんかもほしかったけど、日持ちしないし、今回はあきらめた。

あと、忘れちゃいけないのが調味料だ。これさえあれば、最悪、レナの大好きな釣りになるようなことになっても、多少はうまいモンに化けさせられるだろう。

 車に戻って走り出してから、買ったファーストフードのハンバーガーを二人で楽しんだ。レナは、

「牢屋で食べたときは泣けたなぁ」

なんて、かわいいことを言ってアタシを困らせた。

食事を終えてからレナが妙に静かになった。見やると、真剣なまなざしでPDAをいじっている。

「なにしてんだ、レナ?」

「ひゃ!ななななんでもないよ?」

声をかけた瞬間の反応を見る限り、なんでもないこともなさそうだ。

「アタシに隠しごとか?」

ちょっと意地が悪いかな、と思ったが、まぁ、この手の質問がレナになにかを白状させるには一番な気がする。

「う、うーん…」

レナは唸った。

「別に言いたくなけりゃぁ、無理して聞かないけど」

なんていえば、言いたくなるのが、レナだ。

「あのね」

ほらな。

「株やってるの」

「株ぅ!?」

これは思わぬ答えだった。てっきり、釣りのハウツー情報でも検索しているのだと思っていたけど…

「うん」

レナはなんだか気恥ずかしそうにそう言った。なにをそんなに照れてるんだ?

「もともと、そう言うことしてたの?」

「ううん、つい昨日、始めたの。もうやめるけど」

「どういうことだよ?」

いまいち要点がつかめない。

「実はね、さっきのモールにあった銀行で、偽名の方で連邦の口座作ったの」

なんだろう、アタシが派手に買い物するから、心配になったのか?

まぁ、船と家買うのにそれなりに溜めてたからすぐに困るってことはないけど、そもそも収入ないのに口座作ってどうするつもりだ?

…良く分からないけど、レナのことだ。何か気にしているに違いない。

「あはは、金の心配なら大丈夫。当面はやっていけるくらいの貯めはあるんだ。家は買えなくても、最悪、船の方だけなんとかなれば、生活はできるし」

アタシが言ってやるとレナは一層、顔を赤くした。

「そのことなんだけどね…私だって軍人で、それなりに稼いでたし、使う道も暇もそんなになかったから、それなりに貯まってたし。

 それにね、家族の…その、見舞金とかそう言うのもほら、あったし」

なんだか言いにくそうだなぁ。

「レナ、ホント、言いたくなければいいんだぞ?」

「ううん、そうじゃないから、黙って聞いてて!私のペースで説明させて!」

レナはなんだか必死に頑張っているようだ。じれったいがしょうがない、黙って聞いてやろう。

「悪い、わかった。それで?」

「うん、で、ね。ジオンのお金は、連邦では取り扱ってないし、一般では換金もできないみたいだったから、貯金の全額でアナハイムエレクトロニクスの株を買ったの。

 これが、昨日の朝の話」

「全額!?」

さすがにびっくりした。いや、待て、全額、という言葉に騙されてはいけない。もしかしたら、一か月分の家賃程度の全額、だったかもしれない。

レナに限ってそんなことないとは思うが、でも、ジオンの貨幣価値がどんなものかもわからないし…

「うん、で、その株を、ポイント12倍になってたから、全部売ってみた。連邦貨幣で、今作った新しい口座に払い込んでもらうように」

なるほど、ジオンの通貨を連邦の通貨に両替するためだったのか。でも、株なんてちょっと怖いよな。金あたりならそうそう急に値崩れすることもないだろうけど。

それにしても、ポイント12倍ってことは、0.12倍プラスってことだろ?1割増で売り抜けるなんて、やるじゃないか、レナ。

「やり手だなぁ。勝算があったのか?」

「うん、ちょっとだけ。ほら、アナハイムエレクトロニクスの本社って、キャリフォルニアにあるでしょ?

 キャリフォルニア奪回で北米全体が安定して、戦場が宇宙に移るんなら、地球は情勢が安定するし伸びるかなと思って。案の定、ぐーんと伸びてた」

「ははは。レナは経済には強いんだな。アタシは自分の小遣い計算するのでいっぱいいっぱいだってのに」

金の難しい話は正直わからない。まぁ、レナが得をしたんなら、良かったんだろう。

「で、これ、株を売って入金された連邦貨幣の額なんだけど、どうかな?」

レナがPDAを見せてきた。うん、おぉ、これは…アタシの貯金額に迫る勢い…あれ、アタシの貯金よりも多くないか?!

「すげーな、レナ!アタシより持ってんぞ!稼いでたんだなぁ!」

なんだかおかしくって笑ってしまった。いや、何がおかしかったのかわからなかったけど、本当になんだか笑えた。

「そ、そうなんだ…良かった」

レナはそう言って笑う。それからそのままPDAを私に押し付けてきた。

「じゃぁ、それあげるね」

「…は?」

え?PDAをくれるってこと?いや、そうじゃないだろ、これ。この金を、アタシに譲るってのか?なんでだ?

「レナ、別にアタシ金が欲しくてあんた助けたわけじゃないし、今までにかかった金だって大したことはないし、

 その、なんていうか、気を遣う必要もなけりゃ、なにも払うこともないし、まして…どんな理由があっても、こんな金額受け取れるわけないだろ!」

アタシはそう言ってPDAを突き返した。

「ダメ、受け取って」

「なんでだよ!」

なんかハーフトラック以降、度胸が据わってきたのかなんなのか、口答えするな、レナめ。

まぁ、マライアみたいになんでも「はい!」「はい!」って聞き分けてくれちゃうよりもよっぽど頼りになるし、

対等に思ってくれてるってのがわかるからうれしいんだけどさ。

そうは言ったって、今までのことを考えても、こんなものを貰うわけにはいかない。

だけど、そんなアタシの考えとか思いなんかより、レナは、もっと嬉しいことを考えてくれてたみたいだった。


「だって、私、船の価値とか、地球の家のこととか、わかんないから…

 その、船も、家も、アヤの夢だけど、その、だからね、それは、もう、その…わ、私の夢でもあるわけで…

 船とか家のために、それがわかるアヤに判断して、使ってほしいなぁ、とか、ね、思ってるんだ…

 あ、やっぱ船くらいは自分専用がいい?て言うか、あれだよね、図々しすぎるかな?そうだよね、アヤの夢に乗っかって、みたいな感じかもだけど…

 でも、ごめん、私そうしたいんだ。えへへ、だから、ね、わ、私たちの船と、家、買うのに、使って。あ、あげるのがダメなら、預けておくのでもいいから!」


なんだこいつ。

なんなんだ、こいつ。

なんでこんなに、健気で、素直で、かわいくなっちゃってんだよ!

ほんとやめてくれよ…そんな風な言い方されたら、こっちが照れんだろうがっ!

「私たちの夢」って、それ恥ずかしいだろ!うれしいけど、そう思ってくれんのはすっげぇうれしいけど!

そんなん、言うの恥ずかしいだろ!うれしくておかしくなりそうだけど!聞くだけでも恥ずかしいだろ!

 アタシは、事故るといけないのでとりあえず車を止めた。

「え?」

一瞬、レナが不安げな面持ちになる。怒るとか、そんなん想像してんのかな?いいや、この際どうでも。すぐに分かんだろ。

 そんなレナのリアクションを無視して、アタシはシートベルトを外し、レナに飛びかかった。

こいつはもう!ぎゅうぎゅうに抱きしめてぐちゃぐちゃに頭撫でないと、気が済まない!

「ア、 アヤ、なに?怒ってんの?喜んでんの?」

「喜んでるに決まってんだろ!バカ!大お喜びだ!バカ!」

バカは言い過ぎたかな、と思ったけど、ま、どうでもいいか。

 レナをひとしきりかわいがったあと、なぜか息が切れていたけど、私は車を走らせた。

「だ、抱きしめ殺されるかと思ったよ…」

レナが言うので

「アタシはプロレスラーか!そんな殺害方法、世界に存在しないよ!」

と文句を言っておいた。

それから、足元に転がってしまったレナPDAを、改めてレナに返す。

ただ、突き返しても受け取らないだろうから、ちゃんとアタシの気持ちも言ってやらないと。

「レナ、その…アタシたちの夢、はうれしい。すごくうれしい。そう言ってもらえるんなら、必要な分は受け取るよ。

 でも、それは船と家を買うときに相談させてくれればいい。あとは、とっておけ」

「なんでよ」

「その中にはレナの家族が『遺してくれた』お金も入ってんだろう?

 それはアタシとあんたのためじゃない、あんたとあんたの家族のために使うべきだ」

「アヤ…」

そう言ったレナは涙目になった。ホントにもう、泣き虫なやつだなぁ。

 アタシはそんなレナの頭をガシガシ撫でてやった。

「二人の船、か。良いな、それ!じゃぁ、名前も二人で考えないとな!船には名前がいるんだ!」

「名前かぁ…へへへ。なんかうれしいな、それ」

あぁ、泣き顔の次はその照れ顔かよ…やめてくれよホント。その顔はさぁ。こっちの心臓が落ち着かないだろうが。

 なんてことを考えながら、アタシは西へのハイウェイをひた走った。私たちの夢の船、は、もうすぐそこだ。


 青い海と青い空。海岸線に何本も突き出たセーリングマスト。

ウミネコの鳴く声に、鼻をくすぐる潮風!12月だってのに温かいし!やっぱ良いよな!こういう感じ!

 ワクワクするアタシとおんなじように、助手席のレナも目をキラキラさせながらあたりの景色を眺めている。

 キャリフォルニアを出てから2日。レナと交代で運転をしながらの昼夜を問わない激走で、待ちに待ったフロリダにあとちょっとだ!

 ん!

「おい!レナ!みろよ!」

「なに?!」

アタシははるか前方に発見した。あれはフロリダ州のカントリーサイン。

「あそこからフロリダだ!」

「おおおぉぉ!来た!!!」

もう、大興奮しながら、アタシ達はフロリダへの州境を越えた。

「ひゃっほぉぉー!つーいだぞぉぉ!」

「ひゃっほー!」

レナがアタシのマネをして叫んだ。もう、かわいいんだからやめろよな。

「それで、船はどこで買うの?」

レナが、それはもうキラキラとまぶしい笑顔で聞いてくる。

それについては、いくつか候補があったんだけど、もう我慢もできないし行く先は決定した。

「ペンサコーラって街だ!軍港なんかもあるデカい港町なんだ!」

「え…大丈夫かなぁ?軍がいるなら、心配じゃない」

アタシの話を聞くなり、レナは急に不安顔をみせた。

「大丈夫だって!心配ならまたテンガロンハットとサングラスかけてろ!」

アタシはアヤに笑って言ってやった。

連邦がここを奪回してもう一週間はたつ。目立つことをしなけりゃぁ問題はない、たぶん!

 それから、とりあえずペンサコーラの街に向かった。

ちょっと前まではジオンの制圧下にあった街だが、別段戦闘の形跡もなく、市民も普通に生活しているようだった。

 街をぐるっと車で見て回り、手ごろそうなホテルを選んで部屋を取った。時間はまだお昼すぎ。

ちょっと昼飯でも食べながら、レナを連れて船屋さがしだ。

 ホテルの部屋に荷物を運んで、ロビーに降りる。地元のことは、ホテルのフロントに聞くのが一番手っ取り早い。

アタシは、レナの手を引っ張って、フロントに向かい、暇そうなスタッフを捕まえて聞くと、

すぐそこにヨットハーバーがあるというので、そこに向かった。

 こうして、太陽の下で、連邦軍の目を気にしないで歩いていると、なんだかとてもすがすがしい気分になる。

軍港が近いこともあって、軍人らしい姿を目にすることはあるけれど、キャリフォルニアを制圧して北米大陸も安定してきているのか、

ここはあそこからずいぶん距離もあるし、ずいぶんとのんびりした軍人が多いように感じられた。

それもあって、なんか妙にノビノビした気分になってくる。

レナは、部屋を出るときにアタシがあんなに進めたのに、テンガロンハットはかぶってくれなかった。

代わりに、サングラスをかけて髪を結っている。あれ、おもしろいんだけどなぁ。

それにあの時は変装のためと思って進めたけど、

正直、レナに髪を結わかれると、ちょっとなんか、くすぐったいからなんかやめてほしいんだ、本当は。

 少し歩くと、すぐに海岸線に出た。道路の向こう側には、ハーバーらしい港が見える。

 道路を小走りで渡って向かってみると、確かにクルーザーやらヨットがたくさん係留してある。

あたりの船に目をやる。確かにSALEと札のかかっている船は多い。思った通りだ。

この辺りは、アフリカと海を挟んで隣同士。南にはジャブローを中心とした南米大陸がある。中米と同じく、摩擦が懸念されていた地域だ。

実際は、こんな地方都市を気にするほどの余力はジオンにも連邦にもなかったんだろうし、連邦の攻勢はヨーロッパが中心だった。

ジャブローは、ただひたすらに籠っていただけで、形勢が良くなるまでは部隊を外だしにすらしなかった。

さすが、モグラと揶揄されるだけのことはある。

でも、それが今のアタシには幸運で、結局、戦争を恐れて逃げ出したり、

あるいは、海での安全が確保できないからという理由で船を手放す人がいると踏んでいて間違いはなかった。

 物も悪くないし、値もそこそこだ。

「お嬢さん、船をお探しかな?」

不意に中年の男が話しかけてきた。

「あぁ、そうなんだ。あるかな、アタシみたいな薄給でも買えそうなやつ」

どうやら業者らしい。ここからは交渉だ、気を付けて行かないとな。

「どんなタイプをお探しで?」

どんな反応するか、試してみようか。


「40フィートくらいのクルーザーかな。ハイブリッド式のエンジンと、あと別にバッテリー式のスラスター付きだと安心する。

 メインエンジンの方で、45キロノット以上出るとありがたい。それから、客商売するんで、船腹広めで、中に15名くらい入ると嬉しいかな。

 もちろん、ギャレー、トイレ、シャワー必須。操舵はなるべくなら油圧が良い、慣れてるから。贅沢言えば、空調なんかがあると上等かな」


さぁ、どうだ?アタシがそれだけ並べてみると、男の顔は少し引き締まった。

「でしたら、こちらに係留してあるものよりも、向こうの管理用倉庫に入れてあるのをご覧いただいた方がいいかと思いますが、いらっしゃいますか?」

ふーん、なるほど、良い物はそっちにしまってあるんだな。ま、商品管理としちゃぁ、上出来だ。それなりの業者らしい。


「あぁ、頼むよ。でも、せっかくこっちにも来たんだ。

 ここにあるので、おすすめをいくつか見せてもらえると、連れにもイメージが湧いて良いだろうと思うし」

アタシは、さっきからもう、目をキラキラキラキラさせているレナにとりあえず船を見させてやろうと思った。

とりあえず船に慣れてもらわないと。交渉はアタシの仕事だけど、どうやら金関係はレナの方が強そうだしな。

「えぇ、それでは…あちらなどいかがでしょう?」

案内する業者の後ろをアタシとスキップするレナでついて行った。

 2日後、アタシ達はハーバーの隅っこにいた。

 と言っても、船を買ったバーバーじゃない。もっと南。

フロリダ半島の先にある、セントピーターズバーグという大きな港町にあるアタシらみたいな流れ者や、個人旅行者なんかが船を短期間止めておくためのものだ。

 アタシとレナはこの街で食糧なんかを買い込んで、もっと南へ向かうための準備をしていた。

目指すはカリブ海の南岸に浮かぶアルバ島。

 フロリダでの進水式は興奮した。業者数人とアタシとレナしかいなかったけど、シャンパンのボトルをたたきつけて二人で盛大に騒いだ。

もちろん、レナの新しい趣味になりつつあった写真もいっぱい撮った。良い船を、格安で手に入れることができたのもあって、アタシも大満足だ。

あの日、ハーバーの船を見た後で向かった業者の持っている倉庫の中で、アタシ達はとびっきりに気に入った船を見つけた。

価格の方は、とびっきり、っていうんでもなかったけど、それでもできるだけ残額を残したいアタシらとしては、二人掛かりで相当値切った。

結局、キャッシュですぐに払える、というところが最大の武器になって、最終的にはこっちの提示額で業者は首を縦に振った。

ちょっと青い顔をしていたけど、まぁ、それは気にしない。 

 エンジンはハイブリッドだから燃費は良いし、ソーラーもついてるから、なおのこと。

40フィートの船なのに珍しく補助用のバウスラスターなんかが付いてるのも気に入っていた。

最高速度は50キロノット。時速にすると90キロくらいか。巡航はちょっと控えめに45キロノットくらいにしたって80キロ。相当なもんだ。

内装も外装もレストアされてピカピカ。計器の類は最新じゃないけど、でも古いってほどでもない。広めの船腹で、中も広々。

トイレはもちろん、シャワーなんてバスタブ付きだ。客室って言えるほどの数には別れてないけど、広めの船室が一つに折り畳み式のベッドが4床。

ギャレーも完備。これなら5,6人の団体客でも泊められそうだし、もちろん、アタシらが生活するだけなら十分すぎるほどだ。

 名前も船首にちゃんと入っている。「フルクトライゼ号」。なんでも、ジオンの地方言葉で、逃避行、という意味なんだとか。アタシ達の船にぴったりだ。

 「もう12月29日なんだなぁ」

「うん、そうだね」

食料品を買い込んだショッピングモールを思い出してアタシは口にしてた。あと3日で新年だ。新しい年を、レナと祝うのは楽しいだろうな。

「ジオンでは、騒いだりするの?」

「うん!パーティーなんかはあるよね。もっとも、去年は戦争のこともあって、大きなことは出来なかったけど…」

「まぁ、そうだよなぁ。こっちは、はは、能天気だったなぁ」

確か、去年、アタシはジャブローの基地で前の日の晩から隊の連中とバカ騒ぎして、ひどいことになってた。

あれは、ダリルが焚き付けてあんなに飲ますからいけないんだっ。あの野郎!

 「今年は二人でお祝いだね!」

だーかーら!そう言うのはもう、ホント、やめてくださいお願いします!

「あ、あぁ、うん、そうだな!」

なんとか返事は出来たけど、顔は真っ赤だったに違いない。

 相変わらず浮かれ気分のレナと一緒に、荷物を船に積み込んだ。二人掛かりでもこれだけの荷物は骨が折れる。

こんな時は、あのオンボロがあればいいのにとも思うんだけどさすがにこの船に積むことはできない。

アタシは、船を仕入れた日に売ろうと思ったんだけど、レナが「思い出の車だから!」と言って聞かず、結局、後日船便でアルバ島に送ってもらう手筈を整えた。

 大事にしてもらえるのはありがたいが、「思い出の」とか言われるのはやっぱりどうにも恥ずかしい。

 そんなことを考えながら、なんとか荷物は積み終えた。

ふぅ、と一息。船に乗る前に、また1日か2日は踏めない陸を楽しんでおこうと思って、ハーバーの桟橋に座っていたら、ふらっと人影がハーバーに現れた。

 髪の長い長身の女で、片腕に怪我をしているのか三角巾で首から吊り下げている。

無事な方の腕でトランクをガラガラと転がして、アタシが座っているのとは向こう側。外海に面している方の岸壁に立ち止った。

連邦軍の制服を着ているが、配色が違う。あれは、どこぞの特務隊だろう。遠目で良くは見えないが、見覚えのないエンブレムではある。

感触的には、スペースノイドみたいだけど…

 「なんだろう、あの人…あれって連邦の軍服だよね?」

レナも女の存在に気付いたらしい。アタシにそう確認してくる。

「あぁ。でも前線の兵士じゃない。何か特殊な任務に就いているやつだ。教導隊か…いや、悪い、具体的には分からないな」

「そっかぁ。なんだろう、悲しいよね」

不意にレナがそう言うので、思わず顔を見てしまった。悲しい…悲しいのか、これ?悲しいっていうよりも、むしろ…

「…後悔?」

口をついて出た。アタシの言葉に、レナがハッとした表情をする。

「そうだ、後悔だ…」

レナの言葉を聞いて、アタシは女の方に視線を戻した。そう、あの女から感じられるこれは、後悔の「感触」だ。

漠然としているし、悲しさとか寂しさも相まっているけど、その中心にあるのは、後悔…。

 「ねぇ、アヤ」

「あぁ…うん」

レナが言わんとしていることは分かった。ったく、自分も追われる身だってのに、レナもああいうのは放っておけないんだろうな。

ま、アタシもどっちかっていうと、そうなんだけどさ。

 「おーい、そこの軍人さん」

アタシは女に声をかけた。

 彼女はアタシ達の方を振り向く。

「飛び込み自殺は、苦しいらしいぞ!」

なるだけ明るく笑って言ってやった。

「ああ、そんなんじゃないですよ!」

女は答えた。声色は、まぁ、明るいっちゃぁ、明るいな。

 アタシは、レナを連れて船に飛び乗り、スラスターで船を彼女の居る方の桟橋に移動させた。

「お二人の船なんですか?」

「そうさ!中古だけど!」

「良い船ですね」

女はそう言ってニコッと笑った。ふーん、近くで見るとけっこうな美人だな。

 「退役された、とかですか?」

レナが聞いた。

「あぁ、いえ。傷病休暇、ってやつ」

「あーなるほど…でも、なにか目的があってここにきてる、ってわけでもなさそうだな」

アタシは女がトランクを引きずっているのを見てそう思っていたので聞いてみた。ここへ滞在するつもりならホテルに預けてもいいだろう。

あの怪我だ、歩き回るにしたって、できるだけ身軽になりたいと思うのが普通だろう。

それをしないってことは、この街に腰を据えることを考えているわけでもない———


「ええ。ジャクソンビルに降下してきて…どこかいいところはないかって聞いたら、こっちの方は海がきれいだって聞いたから」

「あー海を見に来たのか」

海が見たくなる気持ちは、良くわかる。けど。この女の場合は、アタシとはちょっと理由が違いそうだ。

 「私たち、ここからもっと南へ行くんですけど、よかったら一緒にいかがですか?」

な、なんだって?レナ、それはいくらなんでも大胆すぎじゃないか?あんたは逃走中の捕虜で、こいつは連邦の軍人だぞ?

いくらけが人だからっつったって…いや、けが人ってのはフェイクで、スパイ狩りの連中ってこともないかもしれないだろう?

「南へ?」

「はい!ここよりもっときれいな海なんですよ!気持ちも晴れますよ、きっと!」

女は、うつむいて、少し迷っているようだった。あれは…フェイクなんかではないだろうな。

危害を与えてくるタイプでは、ない、か。まぁ、万が一のときは、怪我をしてなくても多分勝てるだろう。

「でも…良いんですか?」

女はそう言ってアタシの顔を見た。

「…あぁ!アタシらこれから南へ行って、この船とペンションで客商売しようと思ってんだ!

 良かったらお客第一号になってくんないかな?まだ向こうのこと良くわかってないし、うまい案内できるかは分かんねえけど、

 第一号記念ってことで、フリーで良いからよ!」

アタシは言ってやった。女はまたうつむいて少し考えてそれから、ぱっと笑顔を見せて

「じゃぁ、お願いするわ!」

と返事をしてきた。

 あーあ、ったく、大丈夫かなぁ…

 まだ、内心のちょっとした不安をぬぐえなかったけど、まぁ、レナがそうしたいって言ってんだ。やってやろう、うん。

 レナが船から降りて、女の荷物を受け取る。アタシもついて行って、彼女を船に乗せるのを手伝った。

 「クリスティーナ・マッケンジーです。よろしく」

「アタシは、アヤ・ミナト」

名乗ってからしまった、と思ったが、まぁ今更遅い。

「私は、レナ・リケ・ヘスラーです、よろしく!」

アタシ達のあいさつを聞くと、クリスティーナはニコッと笑った。

 「きれい…」

クリスがそう口にした。

アタシ達は、目的地であるアルバ島の北およそ500キロ。バラホナという街にいた。

でかい街なのにハーバーがなかったんで、仕方なく漁船用の港の隅を間借りして、燃料だけを調達している最中だ。

 今日は12月31日。標準時間じゃぁ、日付変更線のあたりではもう年は明けてる計算だ。

本当はこの島に腰を据えて、新年を祝うつもりだったんだけど、どうにもここに停泊ってワケにはいきそうにない。

燃料を入れたら、もうちょっと東のサントドミンゴまで出張らなきゃならないだろ。

100キロちょっとありそうだから、まぁ、2時間見ておけば釣りがくる。

 クリスは、船に乗ってからはずっと、2階のデッキで海を眺めている。

アタシも船室の中での操縦よりはこっちが好きだから、そこにレナもやってきて、3人でなんとなく話をしていた。

だけど、クリスに関することはまだなんにも知らない。特に隠している、というわけではないみたいだけど、アタシらの方が、聞いていいのか迷っているところがあった。

 なんだか、こんなアタシですら、不用意に聞いてしまっていいんだろうか、と悩んでしまうような雰囲気が、彼女にはある。

もちろん、それはアタシが感じているだけであって、クリス本人はそうでもないのかもしれないが。

 クリスティーナと呼んでいたアタシとレナに、「クリスでいいよ」なんて言うようなやつだ。

フランクなやつには違いないと思うのだけど…

 「アヤ!給油完了ー!」

漁港の係員が給油してくれているのに立ち会っていたレナの声がした。

「おーう、了解!おっちゃん、悪かったなぁ、漁船でもないのに!」

アタシはデッキから係員に礼を言う。

「なーに、ここいらのはバイオ燃料だからな。特に量に困るこたぁないから気にすんな!」

「レナ、支払い頼むよ!おっちゃんに今日の酒代もつけてやってくれな!」

アタシはレナに頼んだ。こういうとこじゃぁ、いかにコネを作っておくかが大事だ。特にこれからこの海域で仕事をしようってアタシらだ。

まぁ、目的地はまだ先だけど、フロリダみたいに連邦の基地があるデカイ街へ出るための航路にあるこの町の人間に顔を売っておいて損はない。

「ははは、そいつぁありがてえな、ねーちゃんがた。ありがたくもらっとくよ!」

「なぁ、おっちゃん、このあたりって、どんな漁をするんだ?」

「この辺は、沖に出ちまうと深いからなぁ。近海で網を投げとくのが主流だよ」

「そっか、ありがとな!」

レナと料金のやり取りをしているおっちゃんにアタシは聞いておいた。網か。毎朝毎晩投げてると、船の仕事の方がおろそかになっちまうな。

まあ、アルバに着いてから考えてみるか。向こうの状況もわかんねえし…

 「アヤ!ロープ解くよ!」

「おう!落ちんなよ!」

レナがもやい結びでくくりつけたロープをほどいて船に飛び乗った。アタシはそれを確認してエンジンを回し、船を岸壁から離す。

 湾を出る航路に船首を回している間に、レナが2階のデッキに戻ってきた。

「ごめんね、クリスさん、待たせちゃって」

「あぁ、ううん、全然。景色、見てたから」

クリスはかすかに笑って言った。それから

「今日の目的地は?」

と聞いて来た。

「ここから2時間くらい走ったところにあるサントドミンゴ、かな。新年だし、パーッとやりたいなと思ってんだ」

「そうね。楽しそう」

アタシが言うとクリスはまた笑った。

やっぱ、なんか気になるな。いろいろぐるぐると考えそうになってアタシはやめた。

これはヤバい感じじゃない。いや、踏み込んだらヤバくなっちまうかもしれないが、そこらへんは一歩を小さく進んでいきゃぁ、避けられる。

なにより、せっかくのお客だ。いや、客っていうか、もう友達になっちゃってんだけど。このまま、妙な気分で帰らせるわけには、いかないだろう。

「な、クリス、あんた、スペースノイドだよな。どこ出身なんだ?そっちにも新年のお祝いとかあったりするのか?」

アタシは意を決して聞いた。すると、クリスは思いのほか気楽に

「あー、私はサイド6出身。リボーコロニーって知ってる?」

と教えてくれた。なんだ、話せば案外と、フランクなやつなのかも。

「なんとなく、だな」

「ふふ、そっか。サイド6でもお祭りになるわよ、新年は」

「そうなんだな。良いのかよ、故郷に帰らなくて?」

「うん。今は、離れたい気分なんだ…この怪我もね、故郷で負ったの」

「サイド6で?」

「そう…あぁ、これ、機密なんだ。だから、ここだけの話にしといてね」

クリスはそうアタシ達に断った。

「そりゃぁ、約束するよ。アタシらも、人に言えないことばっかだしな」

レナの方を見ると、彼女も笑ってクリスにうなずいた。

「ありがとう。こんな話、誰にもできなくってね」

クリスは初めて、さみしそうな表情で、でも笑った。

 「私ね、テストパイロットなの。試作機の中でも…エースに配備される、特殊機体の調整が私の任務」

「あぁ、シューフィッター、か」

思い出した。劇的な戦果を挙げるエースに配備される機体を任され、そのエースのデータや実績をもとに、微調整を行い、カスタム機を完成させる特務隊だ。

噂で聞いたことがある。

「そう。でね、サイド6にその試験場があるの」

「中立宣言してるサイド6に?」

なるほど、それは機密事項だな。サイド6も、戦争の機運が連邦にあるとみて、一部で協力的に動いているんだろう。

戦争開始直後にその経済的な力を背景に中立を宣言したやり手だ。

どっちかに付いて得がある、とわかりゃぁ、こっそり協力するくらいのことはやるだろう。

そいつは、アタシから言わせればずるいんでも小賢しいんでもなく、堂々とした戦術だ。

「うん。そこに、ジオンのモビルスーツが奇襲をかけてきた。私がテストしてたモビルスーツを探知されて、ね」

「そんな…中立都市に奇襲をかけるなんて…」

レナが言う。でも、それはサイド6が連邦の試験場なんて受け入れるからだろう。戦争に関わればそう言うことだって起こる。仕方ないさ。


「それは、連邦だって、そんなところに試験場をつくるくらいだから、同じよ。私は、そのモビルスーツを撃破した。

 コロニーは、多少被害が出たけど、無事だったから良かったんだけどね」

良かったんだけど、という表情ではなかった。

 「どうしたんだよ。知り合いが巻き込まれでもしたのか?」

アタシは聞いた。戦うべきではなかったのかもしれない、彼女からは、そう感じられていた。



「正直ね。わからないんだ。あのね、私には、アルっていう幼馴染がいたの。ずっと年下だけど。

 そのアルが、連れてきてくれた友達っていう人と私も友達になったの…名をバーニィ、って言った。

 バーニィはね、記者だって言ってて、連邦の私に、新型機のことをいろいろ聞こうとしてたみたい。

 でも、仲良くなって、私、彼に恋をした。好きだったのよ、彼のことが。でもね、あの日。

 モビルスーツがコロニーに現れて、戦闘になった。

 敵の、ザクだったけど、こっちの動きを良く知っていて、相当に準備したんでしょうね。

 かなりの数のブービートラップまで仕掛けていたわ。

 私のテスト機はボロボロ。でもなんとか、そのモビルスーツは撃破できた。

 でもね、あのモビルスーツのコクピットを貫くときに、聞こえたような気がしたの。

 クリス、さようなら、アル、ごめんな、って」

「まさか…」

「うん…私の気のせいかもしれないんだけどね…それこそ、本当に、耳で聞こえたわけじゃないの。頭に響いてきた、っていうか。

 でも、それからバーニィは姿を見せなくなった。毎日みたいに会っていたのに、急に、連絡もとれなくなっちゃってね…

 もしかしたら、って思って。

 それで、なんだかつらくなって、飛び出してきちゃったの」


 自分が大切に思っていた人を、自分が知らぬ間に殺してしまう…なんて、そんなこと…どれほどのことか…アタシはハッとしてレナを見た。

レナはすでにポロポロと涙をこぼしていた。レナだけじゃない。アイナさんとシローのことも頭に浮かんできていた。

あいつらが、もし、シローがアイナさんを殺してしまっていたら…

あいつは、あのバカは、酒にでもおぼれた挙句に自分で頭を吹き飛ばしかねないだろうな…。

 アタシ自身にしても、他の誰かにしても、そんなこと、想像するだけで怖い。

だって、そうなっていたかもしれない可能性はじゅうぶんにあるんだ。

あの日、アタシが味方の対空砲に撃ち抜かれてなかったら、

もしかしたら、降下中のレナのトゲツキのランドセル狙って、ミサイルを撃ち込んでいたかもしれない。

レナが撃った弾がアタシの機体を直撃してたかもしれない。そうなっていたら、レナは、この子は、何を思って死んでいったんだろう。

家族をなくして、一人きりだったこの子が。アタシは何を思って死んでいったんだろう。

 背筋が震えた。言葉が、出なかった。

「その、ザクに乗っていたパイロットは、死んじゃったの?」

レナが口を開いた。おま…ずいぶんと直接的だな…

「わからないわ。戦闘の直後に私は気絶しちゃっていて、気が付いたときは病院だったの。

それからは、確認するのが怖くて、情報は聞いていないし、調べてもいないの。

バーニィじゃないかもしれないけど、でもほんとにバーニィだったら…って思うと、どうしても、恐くなっちゃって。

ただ、ビームサーベルで、コクピットを貫いた。誰であろうと、生きてはいないと思う」

クリスもいつの間にか、涙をこぼしていた。

 レナが、クリスの隣に寄り添うようにして座り、肩を抱いて背中をさすった。

船の操縦してなかったら、アタシも行ってやりたい気持ちだ。

「つらかったね…そんな気持ちを、ずっと抱えてたんだ…」

レナは静かに言った。

「話してくれてありがとう。いっぱい泣いて、吐き出して行ってよ。私たち、そう言う話ならいっぱい聞くしさ」

レナ、あんた優しいな。アタシはこんなとき、なんて言ったらいいかわかんなくて、すぐ黙っちまうから…いてくれて、助かるよ。

「ありがとう…」

クリスは涙をぬぐって顔を上げた。強い子だ、彼女は。シローだったら、こうは行かない。

なんて思ったら、げっそりしたシローの顔が浮かんできてちょっとだけ和んだ。

 クリスは、しばらく黙って気持ちを落ち着けていたが、しばらくして改めて礼を言った。それからアタシ達に

 「二人は、どんな関係なの?」

と聞いて来た。

 アタシは、今のクリスには、ちょっとつらいかな、と思ったけど、

でも、こんなにいろんなことを話してくれた彼女に、素性を隠しているのもなんだか居心地が悪い気がして、

「アタシは、元連邦軍で、正確に言うと脱走兵。捕虜を連れて逃げ出してきたんだ」

となるだけ明るく言ってやった。すると、アタシに続いてレナも

「で、その捕虜が私。元ジオンのパイロットだったんだ」

と笑顔で言った。

 それを聞いたクリスは、一瞬呆然としたが、しばらくしてクスッと笑った。

「そっか、なんだか、面白いな。でも、そういう選択を思いつけたんだなって思うと、少しうらやましい気がする…」

クリスはそう言って、やっぱり、すこし悲しそうに笑った。


 サントドミンゴにはちゃんとハーバーがあった。これだけのデカイ街だ。ないわけはないと思っていた。

今日はここで新年を祝うパーティーをしようという話は、レナもクリスも賛成してくれた。

ただ驚いたのは、パーティーというのがコロニー生活をしていた二人と、アタシとでこうも違うのか、ということを知ったことだ。

 コロニーなんかじゃ、パーティーと言えば、ピザやケータリングの食事なんかでやるらしい。

地球でも、そんなことをやるやつもいるが、アタシとしてはもっぱらのジャングル生活。

パーティーと言えばバーベキューだと言ったら、それはアタシだけだろとかぬかしやがった。まったく、失礼なやつらだ。

でも、コロニー組はバーベキューなんてしたことがない、っていうから、アタシは街に着いてからすぐに近場で炭とバーベキュー用のコンロと肉を買ってきた。

もちろん、酒もたんまりだ。1階のデッキにテーブルとイスを出して、コンロを固定して準備万端。野菜はレナに切ってもらう。

そう言えば、料理の方はどうなんだろうと思っていたけど、レナは意外なほど手際が良くて頼もしい。

アタシはこういうバーベキューとか魚の丸焼きとか、おおざっぱな料理は得意だけど、魚料理以外の手の込んだものは作れないから。

 クリスも何か手伝う、と言ってくれた。友達になっちゃったとは言え、一応お客なのでゆっくりしてくれていても良かったのだけど、

せっかくだから、と思ってアタシの釣竿をセッティングして、魚部門を任せたと言って船の上から釣りをさせてやった。

これなら、アタシも準備しながら一緒にやれるし、ちょうどいいだろう。クリスも釣りが初めてなようで、妙に興奮していた。

興味を持って楽しんでくれるのはうれしいけど、スペースノイドの釣好きは共通なんだろうか?

アタシがそうなのも、生まれがスペースノイドだからなのか?

 日が暮れてきたので、バッテリーに灯光器を繋いだ。クリスの方はパームヘッドっていう鯛の仲間を2匹と、良くわからん蛍光色の魚の3匹を釣り上げていた。

なかなかセンスあるな。蛍光色の方はちょっと遠慮して、パームヘッドはアタシが捌いて一匹は塩をまぶして網に乗せた。

もう一匹はホイルで包んで、中にハーブと胡椒とバターと、あと野菜なんかを入れて蒸し焼きにする。あとはもう、焼いて食って飲むだけだ。

 ラジオで音楽を掛けながら、アタシ達は乾杯した。

 肉も魚も野菜もうまいし、何より久しぶりの酒だ。うまくないはずがない。

クリスも、怪我に触るといけないから、ちょっとだけ、なんて言いながら、結構な量を飲んでいる。

レナに至っては、もうはしゃぎまくりで、1時間もしたらもうへべれけだ。

 そんな感じで楽しんでいたら、不意にラジオの音楽がとまった。


<臨時ニュースをお伝えします。連邦政府によりますと、標準時間、1月1日の正午ごろ、

月面都市グラナダにて、ジオン公国との終戦協定の調印式が行われ、両国の首脳間で戦争の終結が確認されました。

これにより、多大な犠牲を払った戦争に終止符が打たれることになりました。

それでは、両国首脳による記者会見の音声が届いておりますので、そちらをお聞きください—>


 おい…おい、今なんて言った?

 戦争が、終わった?終戦…?

アタシは思わずクリスの顔を見た。彼女も、呆然としていた。

「終戦…?終わったの?戦争が?」

クリスが口にする。

 その言葉が頭の中を駆け巡る。駆け巡るけど、うまく状況が理解できない。信じられない、と言った方が正しいのか。

 いきなりレナが飛びついて来た。びっくりして抱きとめてから顔を覗いこむと、ボロボロと大粒の涙をこぼしている。

「アヤ…アヤ…もう、もう私…」

そうだ。戦争が終われば、レナはもう連邦に追われることもない。

アンナなんて偽名じゃなく、レナ・リケ・ヘスラーとして、アタシのそばにいてくれる。

アタシもいろいろとこみ上がってきているけど、レナにとっては、きっともっと、衝撃的なニュースだろうな。

 アタシはレナを優しく抱きしめてやった。持っていたグラスもおいて頭を撫でてやる。

「がんばったな、アタシら」

声をかけてやると、レナは黙ってうなずいた。

 だけど、無抵抗にアタシにしなだれかかってくるレナをさすっていたら、ムクムクと変な気持ちが湧いていた。

酒が入ってて、おかしかったんだろうな、うん。まぁ、酒が入ってなくてもしてたかもしれないけど。

いや、でも新年だし、終戦なんて、なんにしても良かったじゃないか、うん。

こんな時はさ、目一杯、弾けといた方が、良いってもんだ。

 アタシはレナを起こして、両頬に手を添えた。涙目のレナはなにごとかと言わんばかりにアタシを見つめてくる。

アタシは、レナの顔にそっと顔を近づけていく。

レナも受け入れ態勢万全で、案の定、目をつぶった。


 バカめ!


 アタシはすかさず、レナの脇に手を入れて抱きかかえると、そのまんまデッキから海へ身を投げてやった。

「へ?ぎゃぁぁぁぁ!」

「終戦ばんざーーーい!」

そう叫ぶアタシと、今まで聞いたこともないような悲鳴を上げたレナとで、海へ落ちて行った。

 酒とレナで火照った体に、海の水はひんやりしてて気持ちいい。

「げぇっ!げほっ!げほげほ!」

水を吸いこんじまったらしいレナがむせこんでいる。あちゃ、息止めさせるの忘れた。

「大丈夫か!レナ!?」

「アヤがやっといて『大丈夫か?』じゃないでしょ!?…っ、げほげほっ!この鬼!悪魔!」

そんなアタシらを見て、クリスも大爆笑している。そして、あろうことかクリスまでデッキのふちに足をかけた。

 ちょ、待て、けが人!こら、スペースノイド!あんた、そんなんで泳げ…

「ひゃぁぁーー!」

クリスが奇声をあげて海に飛び込んできた。

 待て待て、ちょっと待ってって!クリスが泳げなかったら、さすがのアタシでも二人抱えて浮いてるなんてできないぞ!?

 「クリス!あんた泳げんの?!」

「ううん、泳げない!助けて!」

 着水したクリスは、そう言って笑いながら、すぐさまアタシのところまでもがくようにしてやってくると、

レナ同様にアタシにしがみついていた。

 だから言わんこっちゃないっ!!ヤベっ、沈むっ…死ぬ、死ぬ!!!

 必死の思いでデッキに泳ぎ着いたアタシが自分の行いに後悔したのは言うまでもなかった。

 ったく、死ぬかと思ったよ、ほんと。


 「シャワーありがとう」

クリスが船室から出てきてアタシに声をかけてくれた。

「ああ、うん」

アタシはデッキの片づけをあらかた終えて、残ったビールをあおりながら星を見ていた。

傍らには、はしゃぎ疲れたのか、すっかり寝こけているレナがいる。

「あなたは良いの?」

「アタシはあんたが入ってる間にここで水浴びしたから大丈夫」

「寒そう」

「まぁ、ちょっとな。でも気持ちいいぜ?」

アタシが言うと、クリスは笑った。

 「腕、大丈夫なのかよ?」

「わからない。でも、痛くはしなかったし、平気だと思うわ」

そのことだけが気にかかっていたから、まぁ、良かった。

 あれから、アタシが謀ったことに怒ったレナが何度もアタシを巻き添えにして海に飛び込んでは、自分は泳げないという自爆を繰り返し、

それにクリスも便乗する、という自殺行的な遊びが続いた。

アタシも命の危険を感じて、途中でウェットスーツに着替えて対応した。

生地が厚めのやつで浮翌力も十分だから、それからは死にそうになることはなかったけども、それでもレナとクリスがなんども飛び込むもんだから参った。

悪いことはするもんじゃないな。


 「ふぅ」

とクリスがアタシの隣に腰を下ろした。ビールを差し出すと笑顔で受け取って栓を開ける。

「ありがとうね」

クリスはなんだかしみじみ言った。ちらっと彼女の横顔を見やる。

「ずいぶん久しぶり。あんなに笑って、あんなに楽しかったのは。まるで子どものころに戻ったみたいだった」

「はは、そう言ってもらえると嬉しいよ」

アタシはなんだか照れくさくってそうとしか答えらんなかった。

それから、しばらくクリスは黙って、また、口を開いた。


「今、軍から連絡があって、休暇を切り上げて帰ってこい、っていわれちゃったの」

それは———

「終戦の影響か?」

「ええ。体制を整理するらしいわ。いつでも移動できるように、待機せよ、だって」

「そうか…せっかくの休暇だってのに、残念だな」

「うん。でも、あなたたちといられたから、良かったわ」

「そっか」

「私ね、サイド6に帰ったら、戦ったザクのパイロットのこと、調べてみようと思うの」

アタシはハッとしてクリスを見た。星空を見上げる彼女の顔は、以前にもまして力強く、きれいに見えた。あの悲しさをたたえた表情はない。

「あなた達と会って、話を聞いてもらえて、こうして子どもみたいにはしゃいで…なんだか、弱ってた部分が癒された感じがするの。

 怖いことから逃げ出してきてここに来たけど、おかげでやっと、向き合っていくことができそうな気がする」

クリスはそう言ってビールに口をつけると、空を見上げた。

「生きてるといいな、その、バーニィっての」

「ふふ。ありがとう。でも、あんまり期待はしていないの」

「いや、期待しとけよ。奇跡、ってやつに」

「奇跡、ね」


「うちの隊長が言ってた。『これから起こることに奇跡を期待すんじゃねぇ。

 奇跡、ってのは終わった後のことにだけ向けられるもんなんだ』ってな」

「そうかもね。願う分には、タダだものね」

「そう言うこと」

アタシはビールをあおった。クリスは、これから大変なことに向き合っていくんだろう。

それはアタシがレナを失ったり、シローがアイナさんを失ったりしたら、って想像にまとわりつくあの絶望感だ。

それはきっと、考えるよりもきついことだ。こいつは、それに向かっていくと決めた。アタシらはもう友達だ。

だとしたら、こいつがまた逃げたくなった時に、援護してやるのがアタシとレナの役目だ。

な、そうだよな、レナ…って、寝てんだった。

「まぁ、どうあれ、結果がわかったら、また会いに来いよ。悪い方に出たら、また一緒に泣いてやる。

 良い方に出たら、また一緒にこうやって騒いでやる。待ってるからな」

「うん!ありがとう。必ずまた会いに来るわ」

アタシが言ってやると、クリスは満面の笑みで笑って返事をした。

 その笑顔を見て、なんだかほっとした。そうしたら、でっかい欠伸が出ちまった。

「ふわぁぁぁ。ふぅ、寝るかな」

「そうね」

「おーい、レナ。部屋行くぞ、歩けるか?」

「むぅぅりぃぃ」

ったく、こいつは!あきれて笑ってしまった。

仕方ないから抱きかかえて船室に連れて行こうと思ったら、途端に飛び起きて叫んだ。

「ちょ!もう海は!飛び込むのはもうやめよう!」

寝起きとは思えない俊敏さに、アタシもクリスも思わず声をあげて笑ってしまった。


 翌日、アタシらは進路を変えて、クリスを最寄りの空港まで送っていった。

レナは相変わらず泣き虫で、クリスに抱き着いて「また来てね、絶対ね!」と繰り返し言い続けた。

最後の方にはアタシもクリスもちょっと引くくらいだったってのは、内緒にしておこう。


 それから2週間もしないうちに、クリスから連絡があった。なんでも地球への赴任が決まったそうだ。

アタシらは、手に入れたペンションの準備も終わって、本格的に客の受け入れを始めようとしていた時期だった。

 なんとなく、だが。クリスの声は弾んでいるように、アタシには聞こえていた。

赴任先での仕事が落ち着いたら、会いに行く、と言ってくれた。

まぁ、例のパイロットがどうだったかは、そのときにじっくり聞いてやるとしよう。

ただやっぱり、クリスの声を聴いていたら、

あの明るくてきれいなクリスが、とびきりの笑顔で笑ってアタシらに会いに来てくれるような、

そんなイメージが脳裏に浮かんできていた。






「バーニィにも挨拶をしておきたかったんだけど…アルから伝えてくれる?私が『よろしく』って言ってたって」


おまけ編1、以上です。
お読みいただき感謝&蛇足だったら失礼しました。

クリスさん、シリーズの中でも一番幸せにしてやりたくなってしまう…
アルに向けた別れの言葉、こんな解釈があっても良いのかなぁ、と、ね。

ちなみに、クリスの次に幸せになって欲しいのはシーマ姉さんですww

おつおつ!
心理描写が丁寧だったからとても受け入れやすい文章で読んでて気持ちがよかった

シャルロッテはゲーム中だとザク�FとJにしか乗れなくて、ドムとは言わないからせめてグフでも使えればと思ってたから、ちょっと胸がスッとしたね

そして、キャリフォルニアベースのHLV護衛任務がめっちゃつらかったことを思い出したww

おまけも良いね〜
終わると寂しいからもっとつづけてほしいです

乙。
きちんと書かれた小説形式はやっぱり読みやすいよね。

クリスは性格上、幸せになり難いとは思うが癒やされるべきではあるよね。

さて、二人のペンションの次の客は誰でしょうかね(チラッ

乙。1のガンダムSSがもっと見たいな。

>>193
読んでいただき感謝!
フェンリル隊員きた!
火力が心もとないと評判のシャルさんをグフに乗せてあげたのは全く同じ理由ですww
あんなに出撃させてくれってブリーフィングで言ってたしね!ww

>>194
クリスさんは苦労性ですからね…
とりあえず、バーニィ生存フラグくらい立ててあげないと可哀そうですww

>>196
感謝!


続編・別作について。。。
考えていますが、正直ネタがないですww

今、イメージとしてあるのは…

1.アヤ視点で全部書き直す。←個人的にチャレンジしたい気持ちあり

2.>>194さんのレスにあるように、一話完結の人情ペンション日記的な感じ←ネタに詰まりそう&gdらないか心配

3.がんばれマライア!オメガ隊密着最戦線!←ノリだけww

そのほか、ご要望リクエスト、ネタなどあったらお聞かせ願いたいです。
よろしく!

全部やれ全部

>>197
俺、軟弱ものだからなぁ…(´・ω・`)

>>198
セイラ「頬をはたけば良いのかしら?」

ペンション物だってドアン、アイナ&アホ男、クリス、オメガの連中……
ほら本編絡みだけでもこれだけ書けるw

セイラ「南国リゾートといえば誰か忘れていません?」

自分もシーマ様には幸せになって貰いたいからシーマ様が登場する話を希望w

まあ、やるとしたら某ゲームにあるシーマが生き残ったEDの後でティターンズから行方を眩ましたその後の話になるかな

>>199
たたいてください、なるべく強く!(
そうかぁ、じゃぁ、ちょっと読みきりでペンション日記を考えてみますわ。
セイラさんもZのときに南国リゾートにいたよね…あれ、どこなんだろう…

>>200
シーマ姐さんは書きたいんだけど時系列的にもうちょっとあとだから、すこし時間を置かせてください。
何本かペンション日記を書いてからで!ww

シャルロッテはどのミッションでもすっごいアピールしてくるもんねww
サポート装備枠は部隊内で一番多かった記憶

1の後に2をやってくれるととっても嬉しいなって

>>202
漫画だとオペ専門って話だし、もうね、乗せてあげようよ、とww

1やって2かぁ…1は下地あるから、割と早くは書けそうだけど…
ちょっと1を頑張りながら2を書き溜めていくとします。

とりあえず、なんとなく思いついたので投下。


 「アヤ、アーヤ!ね、アヤ!こっち向いて!」

私は脚立の上に登って、ペンションの玄関の上に看板を取り付けようとしているアヤをファインダーに抑えながら叫んだ。

「あのな!アタシ今何やってるか、そのカメラどかしてよーっく見てみてろ!」

「どかさなくても分かるよ?看板つけてんでしょ?」

私が言ってやるとアヤはいきり立った。

「だから!看板つけてるアタシが、どうやってあんたのカメラ向けっていうんだよ!」

アヤは私を見てそう言った。てか、見れるじゃん、こっち。

「怒った顔も凛々しいですねー」

私はふざけてシャッターを切った。

「ちょ、あんたもう許さん!おとなしくしぃっ…」

アヤはちょっと本気で怒ったのか、ペンションの入り口に突っ立てた脚立の上で立ち上がった…

「いぃ!!!」

けど、バランスを崩した。

あ、これヤバイ。

 脚立の上でバランスを崩したアヤが私の上に降ってきた。どうする?!避ける!?受け止める!?

避けたらもっと怒りそうだな、アヤ。避けちゃおうか?

あーでも、それで怪我でもされたらそれはイヤだな。受け止めようか。

でも、アヤの体支えきれるかな?身長はちょっとしか違わないけど、アヤ、私なんかと体のつくりが違うんだよな。

肩幅広いし、筋肉質だし。締まってはいるんだけど、その分重いんだよね。どうしようかな…

 なんてお気楽なことを考えていた私に、避ける間も、受け止める準備もできるはずがなく。

「うわぁぁ!」

「ひゃぁぁ!」

アヤは無情にも私の上にのしかかってきた。辛うじてカメラだけは守れたけど、ひどい衝撃だ。

こんなの、ジャブローで墜落したとき以来じゃないだろうか。

「いつつ…悪い、大丈夫か?おい、レナ、怪我ないか?」

私のせいなのに、こういう時に謝って私を心配しちゃうアヤなんだ。相変わらず、優しいな。

「うん、平気。アヤも大丈夫?」

「あぁ、受け身はとれた」

アヤ、それは受け身じゃなくて私がクッションになったからだと思うよ…。

なんて言おうとしたら。私に圧し掛かっていたアヤの肩の向こう側。

入り口のドアの上に設置しようとした看板がゆらっと傾いた。

 あぁ、これさっきよりヤバイ。


 私はとっさにアヤの頭に腕を回して胸元に引き寄せた。

「ぶほっ!?レ、レナ!?」

看板は完全に私たちめがけて落ちてくる。体を起こして逃げるのは、間に合わなそうだ。これは痛そうっ!

私は思わず目をつぶった。

ガンッ!

あれ?なんの衝撃も痛みもない…私は恐る恐る目を開けると、

看板はペンションの玄関の両側から出ている手すりに乗っかる形で、

まるで私たちの上に屋根のように引っ掛かっていた。

間一髪だった…

「あの…レナ?」

胸元で…というか、アヤがその…わ、私の胸にうずもれながらうめいている。

 私はぱっと手を離した。と、とっさとは言え、じ、自分でこんなことをしちゃうなんて…か、顔が熱いっ。

 私から解放されたアヤは私の上から降りる様子もなく、落ちてきたときのまま、

私に圧し掛かりながら私の両腕をつかんで、寝転んでいるデッキに押し付けた。

「今のは、誘惑してるって、解釈して良いんだよな?」

アヤが、真剣な表情で私を見下ろしてくる。

い、いや、そ、そう言うつもりじゃないんだけどっ…

別に、イヤってわけじゃないけど、急にそんなっ…て言うか、まだ昼間だし、そ、外だし?!

それに好きって言っても、そ、そう言う感じで好きかどうかってまだはっきりしてないし、

あ、で、でも、もしアヤがそうしたいっていうなら、わ、私は全然イヤじゃないけど、

その、や、やっぱり、い、勢いとかでも、初めてそう言う感じになるときくらい、場所を選び…た…


い…

………待てよ?

 これは、違う。いつものやつだ。この雰囲気に押されて動揺して隙を作ると、

また、海に投げ込まれたり、目をつぶった瞬間に顔にいたずらされたりするあれだ。

危ない危ない。そう何度も、同じ術中にはまる私じゃないぞ!

 私は、そう思ってアヤの手を振り払うと、思いっきり脇腹をくすぐってやった。

「ちょっ…やめっ…」

アヤは抵抗する暇もなく私の攻撃を食らい、ビクンとなって上体を起こした。

ガコッ!

上体を起こしたアヤは…もちろん、屋根になっていた看板にしたたかに頭をぶつけた。

私の上からもんどりうってアヤが崩れ落ちる。

「いっっってぇぇぇ!!!」

デッキの上を、頭を押さえて転げまわるアヤを、私は写真に収めた。

 うん!よし!今日も平和で楽しいな!


続…か?く?かも?

こんな感じのショートショートっていうか激甘1コマ小説だったら乱射できるんだけどなぁww

なんだよこのやろ激甘じゃねーかこんちくしょう
ガンダム世界関係なくなってますがなw

>>207
激甘ですよ、はいww
きっとここから、ペンション立ち上げにあたって誰かと触れ合ったり、
ジオン残党のズゴックが島に来ちゃったりするんだと思うんですよ、はい。

甘々で素晴らしいです、はい
ポケ戦勢はあれだよ、きっと小説版の方だったに違いない

>>209
ありがとーん!
ポケ戦小説は、バーニィ九死に一生らしいですね。
読んだことないですけど…。
アヤさんが言うように、奇跡が起こったんだといいんですけどね…*^^*

激甘もいいっすねー
続いてほしーなー

ホント面白いこのスレ。読みやすいし

まとめから来たけど、本当にいいものを読ませてもらいました。ありがとう。
引き続き、2人のこれからに期待。

>>211
読了感謝!

>>212
あざっす!

>>213
レスみてあわててまとめ見てきました。
感想いっぱいもらってましてうれしかったです。
本当に感謝!


あと、お知らせというか愚痴というか。

アヤさん視点の話を書いてたら、アヤさん大暴走で大変ですよ、おっさん。
どうしてこの子はこんなに語るんだろう。そしてアヤさん出すと必然的に増えるオメガさんたち…。
投下遅くなりそうかもなのでご了承ください。その間に甘々投げれたら行きますww

>>214
そんな愚痴を聞かされてしまったら期待せざるをえない

>>215
がんばりましたww

以前書いた、激甘の続きを投下します。
短いですが、前回の激甘と合わせてオマケ2とさせてください。

よろしくどうぞ!


 私はそれからアヤにひとしきり怒られたあと、看板の取り付けを手伝ってから、アヤと一緒に街に買い物に出た。

今日はこれからアイナさんとシローが来てくれるんだ!

なんでも、アルベルトに新しい戸籍を作ってもらったらしくて、住む家とドアンを見習って畑なんかも作っているらしい。

会うのは2か月ぶりくらいかな!今からすごくたのしみで、うきうきしてしまう。

 ペンションは、クリスを送ってから2日後、この島にたどり着いて訪れた不動産屋に紹介してもらった。

3件目だったのだけど、なんでも、元連邦高官の別荘だったらしい。

戦闘での損害を恐れて、ジオンの地球降下作戦が始まった際に売り払ったのだという。

結局、この辺りには戦闘の被害も、その…コロニー落としの被害もなかったから、

もとのきれいなまま、買い戻されずに残っていたらしい。

白くて2階建てのその建物は、船を止めるハーバーから一本道を上った小高い丘の上にあった。

部屋数は全部で8室。バスルームが2つあって、トイレなんか、大きいホテルのロビーにあるような公衆用が2か所と、

各部屋にそれぞれついている。キッチンも広いし、みんなで食事ができるダイニングもある。

アタシ達が気に入ったのは、もともとホールだったというところで、大きな窓から太陽の光がいっぱい入ってくる広めのヘヤだった。

私たちはそこに、古家具のお店で買いたたいたソファーとテーブルを2セット入れた。

食事の後や、夜な夜な、ここでおしゃべりしたり、カードなんかをやったら楽しいだろうな、というアヤの発案だった。

もちろん、私たちの部屋もある。二階の一番奥の角部屋で、日当たりが良くて良い部屋なんだ。

お金の方は私とアヤでお金を出し合って、残りはローンを組んだ。頑張って働かないと!

 食材とお酒をたっぷり買い込んで、先日届いたばかりのポンコツに乗りこもうとしていたとき、アタシたちは妙な人を見かけた。

 年頃、10代後半だろうか。男の子で、街角にたたずんで、ぼっと空を見上げていた。

「ね、なんかあの子、変じゃない?」

私がアヤに言うとアヤは

「ああ?…あぁ、何だあいつ?」

と遠くにいる男の子を見て言った。

「なんか、変な肌触りのするやつだな…」

「ね、私もなんか感じる…なんだろう?」

私は首をかしげる。明らかに普通じゃない。彼との距離は20メートル以上ある。

でもそんなに距離があっても、なんだか周りの人間とは明らかに違う違和感を感じる。

 服装が変とか、妙な行動をとっているわけでもない。でも、なんだか、変なんだ。

「なんだかわからんけど、根暗そうなやつだな」

アヤが言った。うん、確かにそれは、私も思うよ。


 私たちはなんだか気になって、しばらく彼を観察していると、そこへ別の人物が現れた。

彼と同じくらいの身長で、彼よりは少し年齢は上だろうか。私たちと同じくらいか、ちょっと下かも知れない。

どこか、しとやかな雰囲気をまとった女性だ。

彼女が来ると少年は何かを話し出した。それに女性が答えている。

すると、少年の方がちょっとハッスルした感じで女性に詰め寄った。女性も負けじと少年に食いつく。

「——————!」

「————!」

「—————!」

「おい、なんだケンカしてるぞ」

「大変、ヒートアップしていらっしゃいますなぁ」

私たちはすっかり覗き魔と化している。

 会話の内容までは聞こえないけど、かなりの興奮度合いだ。少年が女性に一歩詰め寄った。

次の瞬間、女性が少年の頬を張った。

「うわっ!今のは痛てぇ!」

アヤが、なぜか小声になって悲鳴を上げている。

しかし、次の瞬間、女性は少年の胸ぐらをつかむと引き寄せて、乱暴に…キスをした。

「え?え?えぇぇぇ?!」

「なんで!?どうしてそうなった!?」

私もアヤも、やっぱり小声で悲鳴を上げる。少年からヘナヘナと力が抜けるのがわかる。

女性は彼から唇を離すと、彼の手を引いて、通りをズンズン歩いていく。

 やがて女性は、その肩までの美しい金髪をなびかせながら、

栗色の髪の少年を引っ張ってこの街で一番大きなホテルのエントランスの中に消えて行った。

「…」

「…」

私もアヤもしばらく言葉を失っていたけれど、少したってどちらからともなく

「か、帰ろうか」

「う、うん」

なんて言いあって、ペンションに車に戻って、ペンションへの道を走った。

 ペンションに戻ってきた。荷物を運び入れ終わって、私がホールのソファーでくつろいでいると、アヤが入ってきた。

「なぁ、レナ。電球どこ行ったっけ?ほら、一昨日買ったやつ」

アヤがそうたずねてくる。あれは確か…階段下の物置に入れたような…

「階段のとこの物置じゃない?」

「それがなかったんだよ」

「えぇ?」

アヤが言うので、私は一緒に倉庫へと向かった。ゴソゴソと倉庫の中を探していると不意にアヤが

「さっきのヤツ、なんだったんだろうな」

とつぶやいた。

「んー、世の中にはいろんな性癖持っている方もいるからねぇ。あれはきっと、ああいうプレイなんじゃないかな?」

私が適当に答えていると、アヤは

「いや、そうじゃなくって」

と少し真剣そうな表情で言ってきた。

「あいつ、変な感じがした。あれは普通の人間じゃない。まるで、こっちが巻き込まれそうな感覚だった」

アヤが言う。

 アヤの言いたいことは、私にもなんとなくわかった。それはいつもとは全く逆の感覚だった。

 いつも私はまるで、声が聞こえてくるというか、頭の中に入ってくるみたいな感じを覚えるのだけど、

彼は、まるで私の頭の中から、声が抜けて行ってしまう感じだった。

いや、正確に言うと、いったん抜けて行った声が、彼を通してまた戻ってくる感じ、とでもいうのか…

ちょっと言葉では形容しずらいけど。


 私がそのことを言うと、アヤもそうだよな、同意してくれる。

結局のところ、彼が何者であの感覚が何であるか、なんて全く見当は付かないわけだけれども、私にはすこし心当たりがあった。

以前アヤが話してくれたニュータイプというやつだ。しかも、それの相当に強力なやつ。

もしかしたら、彼は、アヤが前に言っていたように、こちらの考えや感情が手に取るようにわかるくらいの能力を持っていたのかもしれない。

だから、まるで、こちらの声…というか、感覚が出て行って、彼を通して帰ってくるような錯覚に陥ったんじゃないか。

そんなことを考えていた。

でも結局、答えなんて出すことはできないんだけど…あ、電球あった!

「発見!窓ふき剤と一緒になってた!」

「あーその袋か、探してなかった。すまん」

「どこに使うの?」

「あぁ、玄関ホールのトコ。あそこ、切れちゃってたわ」

「あーそっか、替えてないもんね、あそこ」

私とアヤはそう言いあって、脚立を持って玄関ホールに向かった。もちろんアヤが上に登って電球を変え始める。

これはまた、さっきと同じシチュエーションだな…

なんて私が思っていたら、アヤがギャッと悲鳴を上げた。

 見ると、古い電球を外した陰から、大きめの蜘蛛が一匹、アヤの目の前に垂れ下がってきたのだ。

あ、これヤバイ。

案の上、アヤは脚立の上でバランスを崩した。

 これは!今度こそ受け止めねば!

私はアヤが落ちそうな方に上体を運んで、アヤをキャッチした

——が、想像していたよりもずっと、アヤは…たくましい肉体をしておられて。

い、いや、この場合、私が貧弱なのかもしれないけど、とにかく、私は今日二度目の、アヤのクッションと化した。

ドシーーーン!

うぐぅ…痛い…

しかも今度は額にアヤの肘がめり込んだ。

「レ、レナ!だだ大丈夫か!?」

アヤが私の上で心配してくれる。

「オデコ痛い…」

私は思わず手で額を抑えた。

「ちょ、見せてみろ」

アヤが私の手をどかして、額を見てくれる。


 ガチャッ





「おーい!レナ!アヤ!遊びに来たぞ!」

「レナさん!アヤさん!おじゃまし…」


突然ドアが開いて、シローとアイナさんが入ってきた。


いや、その、私はアヤの下敷きになっていて、両腕を捕まえたアヤが、

その私の顔…というか、額を見るのに顔を近づけていて…いや、その、あの…これはね…

「あ…そ、その、わ、悪かったな、邪魔した」

「は、はは、す、すみません…」

シローとアイナさんは微妙な表情のまま、ゆっくりと後ずさってドアから出て行った。

「ちょ!アイナさん!シロー!違う!これは誤解だ!」

「待って!大丈夫だから!変なことしてたわけじゃないから!!」

私とアヤが二人を、追って、必死になって誤解を解いたのは言うまでもない。



うん…まぁ、よし、今日も平和だ!…のはずだ!

えーと、はい、以上です、すみませんorz

次回から、アヤ視点で物語を振り返ります。

ですが、物語の中でアヤさん自身が言っていたように、レナさんをキャリフォルニアに連れて行くのは、

アヤさんにとってはあくまでオマケでした。

大事なのは、レナさんに出会ったアヤさんが、何を考え、何を感じてレナさんを助けようと思ったかということでした。

つまり、アヤさん自身がそれに気づいた時点で、展開という点でみたときに物語が進まなくなりました。

ですので、そのは潔くバサっと切ってます。

レナさんに出会ったアヤさんの語りを聞いてあげてください。


なお、今回のおまけ2は次回アヤさん視点の伏線…というほどのものでもないですが、

組立上、おまけ2を書ききってからだと書きやすかったという事情がありましたので、

とりあえずで書いたおまけ2の手抜き感についてはなにとぞご勘弁をww

では、引き続き、アヤさん視点編、投下してきますー


「以上、ブリーフィングを終了する」

副隊長のハロルドが言った。

「ふぃー敵さん、明日は気合い入れてくるのかよー」

お調子者の軽薄男、ヴァレリオが座った椅子にのけぞって言う。

「まぁ、そうは言ったって、所詮あの[ピザ]空母だろ?足はこっちが早い。

 隊長の言うように、一撃翌離脱で先制攻撃を仕掛けちまえば、モビルスーツ降ろされる前に方が付くんじゃないか?」

隊のムードメーカーでエース、フレートが言う。

「とか言って、まっさきに落ちんのがお前だったりするんだよなぁ、フレート」

アタシと同期のダリルがフレートを茶化す。

「お、言うねぇ、ダリル!だが、タダでは落ちねーよ?俺が落ちるときゃデカブツ二機ほど道連れにしてやらぁ」

「ホントにやっちゃうからすごいんですよねーフレートさん」

フレートの言葉に、デリクが食いつく。

「おだてんなって!調子に乗らせると、それこそ真っ先に弾幕に飛び込んでイジェクトする奴だぞ?」

ダリルが笑いながらそう言って釘をさす。

「まぁ、せいぜい派手に動き回って敵を引きつけてくれよ。その隙にアタシがスコア稼ぐからさぁ」

カレンが言った。

「あんたな、そんなことばっか言ってっから結局アタシが尻拭いすることになんだろうが!」

アタシはカレンの言い草に突っかかった。

「はいはい、隊長さんは大変ですねー。なんだったら交替しましょうかアヤ・ミナト小隊長ー?」

「てめぇっ!」

「ア、アヤさん!カレンさん、やめましょうよー!」

イラっと来てカレンに掴み掛りそうになったアタシをマライアが止めてくれた。

もう、マライアに止められたら、暴れらんないじゃないか。

 「まぁ、とにかくだ、お前ら」

隊長が口を開いた。


「明日の空模様は相当な混戦になると思っておいた方がいい。わかってんな?危険を感じたら撃たれる前に逃げろ。

 場合によっちゃ、被弾してなくたってイジェクトして構わん。戦域から離脱するときゃ、高度をギリギリまで下げるんだ。

 俺とハロルドの隊でデカブツは叩く。第2小隊と第3小隊は、降下してきたモビルスーツだ。

 長く空域にとどまるな。一撃翌離脱を心掛けろ」


「うーい」

隊の面々から声が上がる。

「よーし、じゃぁ、はじめちゃいますか!」

フレートが声を上げた

「よ!宴会帝王!」

アタシは野次を飛ばしてフレートを盛り上げる。

 ブリーフィングをしていた隊のオフィスのテーブルには、たくさんの料理と酒が並んでいる。明日の出撃に備えての、景気づけだ!

「それではぁー!僭越ながら、私、オメガ隊エース、フレート・レングナー少尉がぁ!」

「いよ!待ってたぜ!逆エース!」

「うるせー!早く飲ませろ!」

ダリルがわめき、隊長もやじった。

「もう、せっかちなんだから、隊長ってば!」

「気色悪い!」

「うせろー!」

ダリルが叫び、ハロルド副隊長も言う。

「宴会帝王ー!ヴァレリオさんがセクハラしまーーす!」

そんな中でアライアが訴える。

「何!?よーし、野郎ども!作戦命令を伝達する!我らがマライアの周囲2メートル以内にヴァレリオを近づけるな!

 一部の隙もなく、鉄壁に死守せよ!」

「うぉぉ!」

声を上げてむさくるしい男どもがマライアを守るために鉄壁の肉の壁となって…なぜかマライアに迫る。

マライアがアタシの方に逃げてきた。

「おねーちゃーーーん!こわいおじさんたちがいじめるよう!」

ったく、しょうがねえなぁ!

「うらぁ!うちの妹泣かしたんはどいつだ!」

アタシは大声でわめきながらビール瓶を振り上げた。

「ぎゃー!鬼だ!鬼が出た!」

と隊長。

「悪魔だ!撤退しろ!あの瓶をケツにつっこまれるぞ!」

とハロルド副隊長も。

「ひぃー!食われる!」

デリクまで。

「いや、食うっていうか、殴るんだぞあいつ!しかもけっこう本気で!」

あぁ、ダリル、その節は本当にすまなかった。

「俺、股間蹴られた!」

「それは自業自得だヴァレリオ!て言うかもっと蹴られろお前!」

ホントだよヴァレリオ、お前はもう4、5発蹴っておいた方が良いと思うんだ、アタシも。

にしたって、ったく、どいつもこいつも、アタシをなんだと思ってんだ!おかしくって涙が出てくる。

「おーい、楽しいのは分かるが、早く飲ませろーい!」

隊長がいよいよ茶番に酒にもしびれを切らしたのか訴え出た。

「はいはい、分かりました!じゃぁ行きますよ!明日の勝利と全員無事帰還の祈願をこめて!乾杯!!!」

「かんぱーい!」


 なーんて、やってたのになぁ…あーあ、まったく、きれいな空だよ、ほんと。

 アタシは、すっかりよれよれになっちまった戦闘機の主翼の上に寝転んで空を見上げていた。

昨日の戦闘なんて嘘みたいに、何もなくて、飛んでるものと言ったら、鳥くらいなもんだ。

空を埋めるようだった弾幕も敵の航空空母も味方機も敵機もモビルスーツも、なぁーんもいない。

 味方機くらいは飛んでてくれてもよさそうなもんなんだけどなぁ…

アタシ、滑空しながらよっぽど変な方へそれてきちゃったんだろうか…。

 不時着の衝撃で、機体についていた救難信号発信用のビーコンは半分つぶれちまった。

今朝から直そうと思ってバラしてみたけど、ありゃダメだ。基盤がアイスクリームみたいになっちゃってる。

残るはイジェクションシートの下のビーコンだけだけど、あいつをどうにかするとなると、違う意味で命が危ないしなぁ…

あとで外せるかどうか調べてみっか。

 それにしても…カレンは、なんであいつ言うこと聞かないんだよ…小隊長やりたかったってのは知ってけどさ。

だからって、戦功焦って突出して、死んじゃぁなんにも意味ないじゃんよ…

バカだよ、お前…なんで死んじゃうんだよ。もうケンカできないじゃんかよ。ホントにもう…。

隊長、ダリル、マライア、デリク、副隊長もフレートもヴァレリオもベルントもみんな無事かよ?

死んでたらアタシ…許さないからな。

 チャポン、と水音が聞こえた。腰の拳銃に手を当てて、耳を澄ます。

…大丈夫、か?…ふぅ。

だいたい、なんだってここ、こんなにクロコダイルがいるんだよ。ジャングル生活が長いあたしもびっくりだ。

これだけ群生している地帯があるなんてなぁ。地球が汚されている、なんて誰がいったんだよ。

自然の宝庫じゃないか。命の危険を感じるくらいの宝庫じゃないか。

なんて。誰にでもない文句を言ったって、状況が変わるわけでもない。

アタシは、600 万平方キロだかって広いジャングルのどこかで、いつ来るかもわからん救助を待っている。

まったく、色気のないってのはこんなことを言うんだろうなぁ。

ふいに、ビビビと脚が震えた。ふぅ、やっと来た。

アタシは起き上がると、脚に括り付けておいた、機体から引っ張り出した配線を慎重に引っ張った。

その先には縞模様のナマズがこれまた機体の破片で丁稚上げたルアーに引っ掛かっていた。

「タイガーショベルか…ま、上等かな。お前さんもご愁傷様だ、こんなマヌケな仕掛けで釣れちまうなんて。

 悪いが、弱肉強食だと思って、勘弁してくれ」

アタシはそう言って釣り上げたタイガーショベルというナマズのエラに、脚に括っていた配線を通した。

「さて…ここで火をたくわけにはいかない、か。降りたくねぇなぁ、クロコがなぁ」

生き物が苦手ってわけでもないんだけど、爬虫類だけは、何考えてんのかわかんなくてどうにも怖い。

所属基地でも、年に何人かは巡回中の陸戦隊がワニに脚食いちぎられたりするし、

毒ヘビにやられて軍医に担ぎ込まれるやつらも少なくない。あぁ、ヘビもいるなぁ…

ダリルのやつにタバコ一本もらっとくんだった。ヘビってのは、ニコチンのにおいを嫌うんだ、とダリルは言っていた。

タバコを浸した水を撒いておくと寄り付かないんだそうだ。

アタシはタバコ吸わないから、今持ってないし…気を付けるしかできない。

 アタシはあたりを見渡して、戦闘機の主翼から手を伸ばしたところから登れそうなちょっとした高台に目を付けた。

あそこなら、まぁ、クロコダイルは好き好んでは登ってこないだろ。ヘビはわかんないけど。ナマズを持って、その高台に上る。

あぁ、割と良いじゃんか。見晴らしも良いし、敵でも味方でもクロコダイルでも、近くを通りゃぁ、すぐに見つけられそうだ。

 アタシはそこに座り込んで、あたりにあった枯れ落ちた葉っぱや木の小枝を拾い集めた。

幸い、キュッと川がカーブしているところで、流れ着いた木々は高台から下へ手を伸ばしたところにいくらでもあった。

さて、生だったり湿ってたりするが、燃料は整った。あとは…火種、か。

 普段なら、戦闘機のバッテリーあたりで火をつけられそうなんだけど、残念ながら。

バッテリーはビーコンと一緒にアイスクリームになってた。

ていうかビーコンの基盤がアイスクリームになっちゃったのはこのバッテリー液をかぶったせいみたいなんだけど。

まったく、生きてただけでも感謝だね、ホント。アタシはなるべく乾いてそうな、太めの木の枝を二本、手に取った。

 ライターでもありゃぁ楽だったんだけどなぁ…

ヘビ避けと言い、火と言い、案外、ジャングルじゃタバコって吸ってた方が長生きすんじゃねぇ?

 そんなことを考えながらアタシは、この宇宙世紀に、人類史上もっとも原始的な方法での着火を試み始めた。

 あーあ、ほんと、楽しいよーだ。


今回はここまで!

次回はレナさんと遭遇!

投下はきっと夜になると思います、なるはやでがんばります。

[ピザ]空母wwwwwwww

いわかんどこ行ったwwwwww

あとひとつお願いがあります。

読者さまの中にお絵師さまはいらっしゃいませんかーー?!
自分でいうのもあれだけど、絵で見たいす、この2人ww

まとめサイトから探してたどり着いたぜ。
面白いSSをほんとありがとう。

絵を描く能力はないんだが、アヤはモバマスの木村夏樹、レナは宇宙のイシュタムのエリザで再生してた。

まとめから来たら続編来てたww

>>1 メ欄にsaga入れると[ピーー]とか[ピザ]とか無くなるよー

>>230
まとめ民を叩くつもりはないけど、?で再生したっていう発言はあまり好まれないのは覚えておいてくれよ
それで荒れたりするから

>>230
来てくれて感謝。
再生してくれたキャラはどっちもわからないんだぜww

まとめでは削られてたけど、

レナさん→黒髪眺めのボブ
アヤさん→茶色か赤っぽいベリショ

のイメージなんだぜww


>>231
来てくれて感謝。
sage忘れてたぜ、でもピザ空母はそのままでも構わないと思うんだぜww

>>232
そんなケースを見たこともあるにはあるな。
ここは作者としてキャラ設定をちゃんと同定しておく必要がありそうだ。

ちうことで、絵師さま早うww

こんばんはー。

アヤサイドの続き、投下していきます。

よろしくお願いします。

釣りばかりでは飽きるから、明日は果物でも探してみるか。甘いのが成ってると良いんだけど…

 …?

一瞬、何かが肌に触れる様な気配がしてハッとした。直接触れたわけではない。これは…人の気配?

 この感覚には、慣れたものだ。

 高台から見渡すと、川のそばにライトの明かりらしきものが見える。

敵か、味方か…暗がりにあんなちっぽけなライトじゃ、相手がどっちかなんてわかりゃしない…

が、おい、待て、お前、そこでとまれ。それ以上行くとまずいぞ。

 ライトの持ち主は、周囲の状況に気付いていない。

気づいていないが、アタシからは見える。4メートル級のが一匹と、そのちょっと離れたところに2メートルクラスのもいる。

もちろん、クロコダイルだ。オリノコワニって種類のはずだ、確か。

もともと、ここいらにはいないはずの種だったらしいけど、環境の変化なのかなんなのか、

ん十年前くらいからどんどん数が増えて、それに伴ってこんなトコにまで増えてきたんだとか。

 なんて考えてる場合じゃねぇ。行かないとまずいかな…止めないと、あいつ食われるかもな。

敵ならまぁ、ほっといても良いけど…味方だと後味悪いよな…あーくそ!しょうがないなぁ!

 アタシは意を決して高台から降りた。気配を殺し、足音をけし、そっとライトの持ち主に近づいて行く。

暗がりだが、そいつのことがうっすら見えてくる。

 …あれは、ジオンの制服か。

アタシは拳銃を抜いた。どうする、撃つか?

 そう思って引き金に指をかけたが、ふと、墜落のときの恐怖が、頭をよぎった。

別に情けを掛ける気持ちではなかったけど…せっかくあんなに必死になって生きたいと思って、

結果、生き残った自分が、誰かの命を簡単に取っちまうのは、なんだか滑稽に思えた。

 そういや、昼間もそんなこと考えてたな。自分が撃った敵機のパイロットが、どんな風に思って地上に落ちてったのか、

なんて考えた。あいつらも、恐かったんだろうな…あいつも、撃っちゃったら、そんな風に感じて死んでくのかな。

そんなことを思っちまったからか、なんだか、あいつが敵だとかそう言うのはどうでも良いような気がしてきた。

とりあえず、助けてやろう。で、抵抗するなら、またそん時に考えりゃいい。拳銃だけは、取っておくか、一応。


 アタシは、そう決めてライトの人物に背後から忍び寄った。そっと近づいて、静かに拳銃を背中に押し付ける。

「ひぃっ!」

 ジオン兵の声が漏れた。バ、バカ!でかい声を出すなよ!

「静かにしろ」

アタシはとっさにそう言って後ろから口をふさぎにかかる。でも、ばたつきやがってなかなか抑えられない。

抵抗されると、厄介だ。アタシは口をふさごうとしながら、自分の拳銃をしまって、ジオン兵の腰に差さっていた銃を抜き取った。

そうこうしていたら、肘がなんだかやわらかい物に当る。

あ?これなんだ?む、胸か?女兵士、なのか?

ちょ、あんまり暴れると、む、胸がまたっ…じゃないっ、クロコダイルが気が付いちゃうだろうが!

「騒ぐな、動くな!死にたいのか!」

アタシはもう一度、ジオン兵の耳元で、今度はちょっと脅かすつもりで言ってみた。

するとようやくちょっとおとなしくなったので、

口をふさぐことはせずに、持っていたライトを誘導して、目の前にいるヤツを照らさせてやった。

 ジオン兵は、最初それが何か、わからなかったようで、ちょっとの間マジマジと見つめていたけど、

すぐにそれが、巨大な肉食生物だとわかったんだろう。ハッとして息を飲むのが感じられた。

よし、分かりゃぁ、良いんだ。

「このままゆっくり下がるぞ…」

アタシはまた耳元でそう言ってジオン兵の腕をつかむと、ゆっくりと高台の方へ後退していく。

左手にも、あの2メートルくらいのやつがいるはずだ。

そいつにも注意を払いつつ、アタシはジオン兵を連れて、なんとか高台までたどり着いた。

アタシはすぐに高台への小さな崖を上って、

「足元、気をつけろ」

と注意をして、手を取った。ジオン兵は割と素直に、アタシに促されて高台に上がってきた。

 「ふぅービビったぁ」

高台の上にもどったアタシは、緊張感から解放されて思わずそう口にしていた。

まったく、敵ながら世話を掛けさせてくれる。

 アタシは、ちょっと離れたところにいるジオン兵を見やった。

 歳は、アタシとおんなじくらいか。ジオンの軍服を着ている。肌触りとしては、スペースノイドのようだ。

まぁ、ジオン軍人だから当然か。ノーマルスーツや飛行服は着てないけど…こんなところで迷子になってるような奴だ。

おおかた、あの降下作戦に参加したパイロットだろう。泥だらけの疲れた顔して、呆然とアタシを見つめている。


 ジオン兵は、そうやってしばらく突っ立っていたけど、急にビクッとなって動いて、腰から何かを出そうとして、固まった。

あぁ、拳銃か。連邦兵だっての、今頃気づいたんだな。

「あぁ、これは預かってるよ」

アタシは、腰に差していたジオンの拳銃を引っこ抜いた。グリップが細くて手になじむ。

口径は小さそうだが、そんなもん、拳銃同士の打ち合いするようなときにはむしろ小さい方がぶれなくっていいってもんだ。

「へぇ、写真でしか見たことないけど、ジオンってこんなん使ってるんだね。握った感じは、ジオン製の方が好きだなぁ」

そう言ってチラッとジオン兵の反応を見る。相変わらず固まって、身動き一つしない。

どころか、なんだかおびえた表情をしてる。

あぁ、そっか。アタシが撃ち[ピーーー]とでも思ってんのかもしれないな。アタシはそう感じた。

いや、[ピーーー]つもりなら、さっきやってたし、そうでないってことくらいわかりそうなもんだけど…

でも、あの表情を見てたら、なんだかかわいそうになってくる。

なんだって、そんな泥だらけの顔で、今にも泣きそうにしてんだよ。

 アタシは、銃から弾倉を引っこ抜いて、一発だけ機関部に戻してやると、あとの弾は全部抜き取って、彼女に投げて返してやった。

一発くらいなら、打ち合いになったってアタシの勝ちだ。

だって、どんなに腕が良くったって、撃たれるのがわかったら、アタシ避けるし。

「この森、あんまり安全じゃなんだ。持っときな。あ、自殺とか、アタシを撃とうとかは、なしにしてくれよ。

 生身の死体見るのイヤだし、アタシはまだ死にたくはないんでよ」

ワニのこともあるし、そう言ってやった。もちろん、自殺なんて目の前でみたいもんじゃない。

死にたくないのも本当だけど、それはまずありえない。そこのところは、まぁ、駆け引き、ってやつだ。

 不意に、パチッとたき火がはじける音がした。ハッとして、魚を焼いていたことを思い出した。

あわててそばに行って、焼け具合を確かめる。う、ちょっと焼き過ぎたか?

「あー、ちっと焦げちゃった。あんたのせいだぞ?」

とりあえず、ジオン兵に文句を言ってやる。まぁ、殺菌殺虫の意味で、このくらい焼けてた方が良いってもんだ。

うん、そういうことにしとこう。

 アタシは、ペリペリっと焦げた皮をはいでみる。中からは、しっとり焼けた白身が姿を現した。

うん、まぁ、上等だな。それにかぶりついて、二口、三口と食べていると、ジオン兵は突然にアタシに銃を向けてきた。

 ちょっとびっくりした。お互いに黙って、見つめ合う。

ピリピリとした緊張感が肌に伝わってくる、けど、こいつ、本当に撃てるのか?

「一発で、頭当たる?」

アタシは聞いてみた。銃口が小刻みに震えているのがわかる。

「この距離なら、外さない」

ジオン兵は言った。でも、とてもじゃないが、当てられるようには見えなかった。それにこの状況だ。

まずはアタシが銃を持ってるかどうか確認するのがふつう、先だろう。こいつ、交渉慣れはしていないんだな。

「そっかぁ。んー、こんなナマズが最後の晩餐になっちまうのか…悪くはないけど、もうちょっとうまいのが良かったなぁ」

アタシはなるべく気にしてないふうに言ってやった。別にこいつを殺したいわけじゃない。

銃を抜きにすれば、殴り合いで負けそうな相手でもない。でも、できるなら、お互い穏便に済ませたかった。


「まぁ、でも、空からおっこって死んじまってたかもしれないんだからなぁ、食えるだけ、ありがたいと思っとくか…

 頼むよ。せめてこれ食い終わって、満腹になってからにしてくんないか?」

アタシはもう一度ジオン兵に言った。とりあえず、時間を稼いでおこう。

そうすりゃ、こいつの緊張も多少は緩むだろう。

 アタシは、横目でジオン兵の様子を見ながら魚に食らいつく。不意に、どこからか

グゥ〜

と奇妙な音がした。

なんだ、いまの?アタシが顔を上げると、ジオン兵はなんだかバツの悪そうな顔をしてアタシを見ていた。

 今の、腹の音か。なんだよ、こいつも腹ペコか。

腹が減ってちゃ、緊張もするわな。しゃあない。

「半分食べるか?ちょっと泥くさいけど、味はそんなに悪くない」

アタシがそう言って魚を差し出してやると、ジオン兵は戸惑いながら、半分を引きちぎるようにして手を引っ込めて食べ始めた。

 一心不乱に、魚に食いついている。まるで、一生懸命トウモロコシを食べている子どもみたいだな。

少しだけ、ジオン兵の緊張感が緩むのを感じたので、アタシもちょっとだけ安心して魚の続きを口に運ぶ。

 カツン、カツン、カツン…トポンッ

アタシはハッとしてまた顔を上げた。ジオン兵もこっちを見ている。

 今の音は…マズイな!

アタシは魚を放り出して拳銃を抜いた。ジオン兵はそんなアタシにびっくりしたようで、またおびえた表情をする。

マズイ、こいつ今にも叫びだしそうだ…

 アタシは慌てて駆け寄ると、今度はあんまり怖がらせないように、そっと口をふさいだ。それからなるだけ穏やかに

「静かに」

と伝える。

 それからあたりの物音に耳を澄ます。高台と言ったって、ほんの1メートル程度。

断崖の絶壁ってわけでもなくて、あの足の短いクロコダイルだろうが、その気になれば登ってこれる。

息を殺して、さらに耳を澄ます。ザリザリと重いものが擦れて動く音が聞こえた。

「立って!」

アタシはジオン兵にそう言うが、こいつ、腰が抜けてんのか立ちやしない。

仕方がないので腕を回して、ずりずりとたき火の方へ引っ張る。明かりを頼りに、周囲を警戒する。

「あいつら、水音には敏感なんだ。辺り、気を付けて…」

目は一人分より二人分の方が良いに決まってる。アタシはジオン兵にそう言う。

「あ、あいつら?」

状況把握が遅い!

「クロコダイルだ。さっきみただろ!?」

「あ、ワ、ワニ!?」

「そうだよ!しゃべんな!警戒しろ!」

アタシは声を抑えてだけど、思いっきりしかりつけてやった。

 しばらく、目と耳を凝らしてあたりの様子をうかがう。

ズリズリという音は次第に聞こえなくなり、この高台へ上がってくる気配も感じられなかった。


「ふぅ、大丈夫そうだ」

アタシは、緊張感を解いてその場にへたりこんだ。ジオン兵の女も、ペタンと地面に尻を付けて呆然としている。

 まったく、飯の途中だったってのに、迷惑な話だ…あ、そう言えば、魚!アタシのナマズ!

そうだ、さっき驚いて投げちゃったんだった。

「あーあ、びっくりして魚ほうりだしちまったじゃんか、もったいない」

これも文句言っとかないと。でもま、食えないこともなさそうだ。

ちょっと泥になっちゃったけど、反対側はまだ皮とってなかったし、そっち側なら食べれんこともない。

そうやって残りを食んでいたら、急にジオン兵が声を上げた。

「こ、殺さないの?」

「あ?」

何を?

「あークロコダイル?」

思いついたところで聞いてみた。

「わ、たし、を」

「あぁ、そっちか」

なんだか、そんなことを敵に聞くなんて、変なやつだな。そう思ったらかおかしくなって笑いが込み上げてきた。

さっきはアタシを撃たなかったし、まぁ、いっぱいいっぱいになってて判断つかないってこともあるんだろうけど、

でも、いいやつっぽいな、こいつ。あんまり心配しなくてもよさそうだ。

「あんたを殺して戦争が終わるんなら、喜んで殺すよ…あ、でもそしたら死体を引っ張ってかなきゃまずいか?証明できねえもんな。

 それは嫌だな。死体運ぶのなんかまっぴらだ。死体じゃなくたって、こんな森ん中、人ひとり運んで歩くなんて、ごめんだな。

 うん、じゃぁ、殺さない」

こんなんでいいかな?緊張させっぱなしは、この状況ではあんまり良くないしなぁ。

「どうして!?私は、敵!殺せばいいでしょ!」

ダメか。いや、そんなことより、声デカイって。

「騒ぐなって、あいつら耳だけは良いんだよ!」


とりあえずそこを注意してから、今の彼女の言葉を考えた。

そりゃぁ、まぁ、アタシを殺すつもりなら、戦うけどな。

でも、別にこいつからは、そう言う感じはしないし、敵だからって理由でいちいち殺してたら、さすがに気分良くないだろうしな。

それに…それに、昼間っからずっと考えてたこと。

相手を撃ったとき、そいつが、どんな風に感じて死んでいくか…そんなことを思ったら、引き金なんて引けないだろふつう。

 それにそもそも、ジオンが悪いとか、連邦が正義だとかって道義心で戦争やってたつもりもない。

アタシはそんな大したタマじゃない。だた、軍に入ったから、それをやっているだけ。軍に入ったのだって、ちゃんと理由があるんだ。

 そんなことを考えながらのらりくらり返事をしてたら、思わぬところに食いついて来た。

「金がほしくって、さ」

「お金?」

アタシが言ったら、そんな反応だ。なんだよ、こいつ。

さっきまで敵だの味方だの言ってたのに、ずいぶんとアタシに興味深々じゃんか。



「そう!あたしさ、小さいころに親死んじゃってね。で、いろんなとこをたらいまわしにされて生きてきて、

 で、学校卒業してからは行くトコないから、軍に入ったんだ。身元引き受けてくれるし、戦えば金くれるしさ!」

「傭兵、ってこと?」

「そうじゃないよ、ちゃんと正規軍人さ。なんつうか、さ。ほら、あんだろ、わかれよ」

「わかんないよ」

そこまで言ってしまって、急に恥ずかしさが込み上げてきた。

アタシ、なんでこんな知らないやつに楽しそうに自分の話してるんだろう…アタシも緊張で変になってるのか?

…いや、そう言う感じじゃないな。たぶん、こいつのせいだ。変な奴だ。

さっきまであんなにキーキーこっちをにらんで騒いでたってのに、すっかり慣れてきちまって…

しょうがない。話のついでだ。どうせ、明日にゃバイバイだし、世間話のつもりで教えてやろう…

ちょっと恥ずかしいんだけどな。笑われないよな。な?この話をすると、いつも隊長たちは笑うんだよ。

あいつら、ほんと、一発ずつ殴ってやればよかった。


「ここより、ずっと北にいったところに、アルバ島て島があってさ!海がすげーきれいなんだよ!

 あたし昔っから海が好きでね、そういうところで暮らしてみたいなーってずっと思ってたんだ!

 だから、働いて金をためて、家と船でも買ってさ。魚とって売って生活とかできたら楽しいだろうなって!」


アルバ島は、昔、なんかの雑誌の記事で見て、それから頭から離れないんだ。

カリブ海の南にあるリゾート地。そんなとこでのんびり暮らせたら、楽しいだろうな。

 って、せっかく話してやったのに、なんだよこいつ、こんな呆けた顔しやがって。

なんだか浮かれて話した自分が恥ずかしかったのと、こいつに腹がたったので、聞き返してみた。

「あんたは?」

「へ?」

おい、さっきまでの話聞いてたよな?なんだよその気の抜けた返事は!

「だから、あんたの話。スペースノイドなのか?」

もう一度丁寧に聞いてやると、彼女は

「あー、うん」

と小さく返事をして話を始めた。

「私は、サイド3生まれ。スペースノイドよ。あとは、家族のことは…軍人の家系の二人目で、兄さんと両親も軍人だった。

 でも、父さんはルウム戦役で死んで、母さんと兄さんは、最近、ラサからオデッサに転戦になって、そこで戦死…」

…あぁ、そうか…。アタシは理解した。こいつから感じる変な感触。それは、アタシが良く知っている、あの感触だ。

心の真ん中に穴が開いたみたいに、なんにも感じなくなってしまう、

でも、なんにも感じないはずなのに胸をかきむしりたくなるほど、キリキリ痛めつける思いだ。

一人ぼっち。

寂しくて心が壊れそうで、誰かと一緒に居たいと思う、あの気持ちだ。

それを、こいつは、戦争で家族を失って感じちゃってるんだな…それって、なんか…アタシもつらい。

「そっか、あんたも天涯孤独の身か…家族のことは、残念だったね…

 あたしが悪いわけじゃないんだけど、一応、殺したのはこっちの身内だ。謝っとく」

「うん、仕方ない、戦争だし…」

そんなこと、謝ったって仕方ないだろうけど、口に出てしまった。そうなんだよな…人を殺すって、そう言うことなんだよな…

でも、彼女は言った。仕方ない、そう言っていいんだろうか?

そう言って、受け入れていいもんなのか?戦争って、こういうことって。

戦争です、じゃぁ、仕方ないねって受け入れていいもんなんだろうか?

一人の兵士として、肉親を失って、悲しい別ればっかを経験してきた人間として、受け入れていいもんなんだろうか?

兵士として、アタシが繰り返して良いもんなんだろうか?

 二人とも黙ってしまった。

 アタシは、胸が痛かった。この子の父親は、どういう気持ちで宇宙で死んでいったんだろう。

この子の母親は、死ぬときに何を思ったんだろう。

この子の兄は、もしできたのなら、この子に何を伝えたかったのだろう。

 そんなことをグルグル考え始めてしまったアタシは、なんとなく居心地の悪さを感じてしまって、無理矢理に話題を変えてみた。

どうしてこんなとこをほっつき歩いてたのか聞くと、なんでもあのトゲツキのパイロットだったらしい。

階級はアタシと同じ少尉。アタシも、自分が撃墜されて帰れない話をした。

食べた魚はどうしたのか聞いてきたんで魚釣りや海の話をしてみせたら、愛想笑いしやがったから、

この子の趣味が読書だと話したときには「暗いな」って笑ってやった。

あとは、年齢が一つ違いだとか、好きな食べ物は何か、とか、酒は飲むのか、強いのか、なんて話もした。

 なんだか、不思議とウマがあった。考えてみればそうだろう。たぶん、アタシらは似たもの同士だ。

まぁ、アタシはずいぶん昔の話だし、いろんな人に出会って、支えられて、なんとか今までやってきてるし、

そこそこ楽しいなと思って生活してる。けど、昔の寂しさを忘れてるわけじゃない。

とらわれてしまうことは、もうないけど、あのつらさ、悲しさ、切なさは、どうしたってぬぐえないものだ。

 この子も、きっとこれからそう言う物と向き合ってかなきゃならないんだろう。

ここで出会ったのも、何かの縁だ。少なくとも、広い世界にはアタシみたいな理解者もいるってことくらいわかってもらえば、

多少は楽に生きれるかな…。「彼」みたいに、この子の灯台にはなれなくっても。


 どれくらい話をしてただろうか。なんだかすっかり和んじまった。ふわぁぁと、あくびが漏れてくる。

ちょっと名残惜しいけど、寝た方がよさそうだ。

アタシは明日もここで待ちぼうけだろうけど、この子はそうもいかないだろうし。


「さて、寝るかなぁ。あんたはまた明日、味方探しに行くんだろ?

 あたしは、戦闘機に積んであったビーコンが直れば救助をひたすら待ってみるけど」

「うん」

「だったら、ちゃんと休んだ方がいい」

彼女の返事は穏やかだった。アタシもなるだけやわらかくそう言ってやる。それから不時着した機体に案内した。

このジャングルで野宿なんて、正直ぞっとしない。

 閉じといたキャノピーをハンドルで開いてイジェクションシートを外にほっぽりだす。

これなら、まぁ、二人で入れんだろ。問題は…

 アタシは彼女の体を見た。アタシより線が細いしな…

身長はそんなに変わんないけど、アタシが上ってわけにはいかなそうだ。

 彼女をコクピットの引っ張り上げて、キャノピーを閉める。彼女をアタシに寄りかからせて…

ちょっと、きついけど、まぁ、この際だ。文句はよそう。

「あの、重くない?」

そう聞いて来たので、とりあえず何ともない風に答えて

昨日の夜にイジェクションシートの下から引っ張り出しておいた毛布をかぶった。

 なんだか、ふぅとため息が出てしまう。

変な感じだな、なんか。ふれあっているお腹と腕のあたりから彼女の体温が伝わってくる。

これなら、夜に冷えるジャングルでも大丈夫そうだな、なんて思いながら、でも、たぶん、そう言うことではなくって。

「あーなんか、あれだな」

「ん?」

気持ちが、なんだか溶けていくような感じがする。あぁ、そうか———

「一人で寝るより、安心する」

———そうだ、これは安心だ。

「うん」

彼女の声が聞こえた。アタシは、ちょっと気を遣いながら彼女の頭に、自分の頭をもたせ掛けた。

おやすみ、を言おうとして、そう言えば名前を聞いてなかったなってことに気が付いた。

「アヤ・ミナト」

「え?」

「私の名前、アヤ・ミナト。あんたは?」

「えと、レナ・リケ・ヘスラー」

「そか、んじゃぁ、おやすみ、ヘスラー少尉」

「うん、おやすみ、ミナト少尉」


とりあえずここまで!

お読みいただき感謝!

あと、sageじゃなくてsagaだったのね…すっとsageだとおもてた俺涙目orz
またピー入っちゃったけど、

ピー=殺す

で、よろです。


絵師さん求むw

乙!
今日ほど自分が絵が書けないことを呪ったことはない
ガンダムで百合とか俺得すぎるのに……


別視点もいいねww

>>244
感謝!
絵師さんを誘導してくれてもいいんだぜ?ww

>>245
感謝!
アヤさんはキャラ立ってるからいじりやすいですww

俺も絵は書けないが、イメージとしてはアヤは褐色肌の黒髪ポニーテール、
レナはウェービーな金髪ショートのウクライナ人っぽい顔立ちだな。

こばわー!

>>247
アヤさんは茶髪のベリショ以外みとめない!w
レナさんは黒髪長めのボブのイメージなんだけど、あんまり押さないw
ヘービーな金髪ショートも良いなぁ…

続き投下しますー!


 翌朝、

「ひゃっ!」

という小さな悲鳴で、アタシは目を覚ました。

 目を開けてみると、キャノピーの向こうに連邦軍のヘルメットをかぶった男の顔がある。

 毛布の中には、昨日一緒になったジオン兵、レナがいる。

「こりゃぁ、まずいな」

一瞬で状況が理解できて、思わず、言葉に出てしまった。これって、レナにとってはけっこうヤバイよな…

「すまん、まさかビーコンなしに見つけられるとは思ってなかった」

アタシが言うと、レナが毛布の中からアタシを見上げてくる。さて、どうする?

レナを逃がすか…逃がすなら…?考えろ…何が最善だ?

「このままじゃ、捕虜か、もしかしたら、この場で…」

レナが、不意にそんなことを口走った。ハッとしてアタシはレナを見る。

彼女の顔は、不安におののいていた。

「あぁ、いや、それはアタシが絶対させない…けど、捕まったら、遅かれ早かれ、その可能性は出てくるよなぁ…」

そう、そうなんだ。ここで下手に逃がそうとすれば、捕まるか、それこそマシンガンで一掃射されて終わっちまうかもしれない。

だが、投降させるなんてのは悪手だ。正直、身の安全なんて保障できない。

実際に身近で起こったことはないけど、慰み者にされてから殺される、なんて話、聞かないこともないからだ。

でも、だとしたら…だとしたら、どうする…?


 レナが毛布の中でかすかにもぞっと動いた。彼女の体温を感じていたことを不意に思い出す。

そう、そうだ。この子を、死なせちゃダメだ。家族を失った孤独の中で死なせるわけにはいかない。

腐った輩の手に触れさせてもいけない。だって、だって、そんなのはつらいじゃないか。

昔のアタシがあのまま死んでたら…いやだ、そんなこと想像すらしたくない。

一人ぼっちのこの子に、そんな思いをさちゃいけない…この子は、アタシが守ってあげないと…


 アタシは、毛布の中でレナの体を抱きしめた。レナを安心させてやりたかったのと、アタシ自身が、ちょっとだけ決意するため。

もしかしたら、下手をしたら、アタシはこれで、何もかも失うかもしれない。

アタシの居場所も、夢のために蓄えてたお金も、家族同然の隊のみんなも、全部、失う覚悟が、アタシにはあるか?

…クソっ、そんなこと考えたって、覚悟するしかないじゃないか…

だってこの子は、今ここにいるんだ。アタシを信じて、一緒に魚を食って、ここで一緒に寝てくれたんだ。

つらい孤独の中で、アタシにこころを許してくれたんだ。

そんなこの子をここで裏切ったら、見捨てる様なマネしたら、また孤独の中に突き落としちまうだけじゃないか…


 そうだ、そんなことできるわけない。

そんなことしちまったら、アタシはもう、誰といたって、何をしたって、楽しくなんかない。

アタシを信じてくれたこの子を見捨てて、のうのうと生きるなんてマネ、アタシにはできない。

それはアタシの中の灯台の火を自分で消しちまうのとおんなじだ。

 そうだ、覚悟しろ、アヤ・ミナト。

隊長がやってくれてるように、この子は、すべてを犠牲にしたって、アンタが守るんだ。

自分にそう言い聞かせて、アタシはレナを抱く腕にぎゅっと力を込めた。


「何があっても、私に話を合わせろ、良いな?」

アタシはそう言ってから、レナに足元にあるアタシのパイロットスーツを着るように言った。

レナは、アタシの僚機のふりをさせる。カレンだ。あいつは…死んじまったから、鉢合わせになることはない。

こいつらは陸戦隊のはずだ。

所属エリアが違うし、エリア自体だいぶ離れているし、2か月前に転属してきたカレンの顔は知らないはず。

こいつらはそれでごまかせる。

基地に連れてかれるようなら、名前を変えよう。誰か手ごろなヤツはいないか…いや、それは今は重要じゃない。

とにかく、ここはレナをカレンだと信じ込ませることだ。それにしくじれば、すべてここで終わっちまう。

 レナが着替え終わったという合図を出してきたのでキャノピーを開けた。

レナがおずおずと立ち上がり、アタシもそれに続く。

「うっく、やっぱ体ちょっと痛いわ」

ミシミシと体が鳴った。こんなんじゃ、いざって時に動けねえぞ?アタシはそんなことを思って伸びをする。

そうしながら、外の連中の顔を見た。知り合いはいない。行けそう、だな。

「ごめん、乗ってたから…」

レナが心配そうに言ってくる。

「あぁ、いや、この床のせいだ」

まぁ、本当はどっちのせいでもあるんだけど。そんなことよりも、と。

アタシはこっそり腰の拳銃を抜いて、レナに手渡した。

「持ってろ。無茶はすんなよ。でも、やばくなったら、アタシなんかほっといて逃げろ」

そう囁いてから、アタシは白々しく下の連中を見てやった。男が5人。小銃を下げている。

見ない隊章だな…外から呼ばれた部隊か?だとしたら、もっとやりやすくて良いんだけどなぁ…


ふぅ、まぁ、さて。ここからは隊長譲りだ。かましてやる。

「救助に来てくれたのか?ありがたい、ビーコンが壊れちまって、途方にくれてたんだ!」

「あんた、オメガ隊か?」

「あぁ、オメガ隊のアヤ・ミナト少尉だ。こっちは、カレン・ハガード少尉。あんたたちは?」

「第7歩兵大隊だ。この周辺の戦況調査を任されてる」

「そうか、ご苦労なことだ」

「それにしても、あんたらオメガ隊の生存率は神懸っているな!」

「他の編隊員で、生き残った者は?」

「全機撃墜されたって話だが、パイロットたちは全員脱出して無事だったって話だ。あんたら二人で最後だよ」

そうか、他の連中は無事か…良かった。アタシは内心、胸をなでおろした。


 アタシとレナは、兵士たちの車に乗せてもらって、シェルターまで連れて行ってもらうことになった。

幸運なことに市街地らしい。あそこなら、レナを着替えさせれば一般人に紛れされることができる。

 レナはその間、アタシに小声でカレンのことやシャルターのことを尋ねてきた。

いや、今聞くんじゃない!バレんだろうが!

 シェルターに続く門での検問もなにごともなく突破した。町にさえ着けば…。

そんなアタシの心配をよそに、レナはまるで物珍しそうに、洞窟の中にそそり立ったビル群をきょろきょろと見上げていた。

あんまりにも丸出しなんで、ペシッと膝を叩いてしまった。

でも、アタシらを見つけてくれた軍人たちはマヌケなのか気が良いのか、そんなの全然気にせずに談笑しながら車を走らせている。

 やがて車は市街地に入り、公民会館の前で停車した。

「ここがこの地区の軍の連絡所だ。中に、配給を手配してる担当の士官がいるからよ。

 そいつに言って、司令部まで連れてってもらってくれ」

「ありがとう、ほんとうに」

アタシは礼を言ってレナとともに車を降りた。

 それからもう一度軽口をたたきながら礼と別れを言うと、車はUターンして元来た道を戻っていった。

アタシはその姿が見えなくなるまで待って、すぐにレナの手を引いて公民会館とは反対方向に歩き出す。

「ここから離れよう。補給部隊は、顔の効く連中が多い。カレンの顔も多分知られてる。言い訳ができない」

アタシが言うとレナはうなずいて、それから

「どうするの?」

と聞いて来た。

「幸いここは、軍人の家族や、生活に必要な店や施設の従業員も住んでる都市だ。服屋もある。

 あんた、そこで服買って、着替えろ。そうすりゃ、今よりずっと怪しまれずに済む」

公民会館から一本裏の通りに出た。

「ほら、あそこなんかどうかな…ってか、アタシがたまに使う店なんだけど…趣味に合わないとか、そういうことは言わないでくれよ」

ここの服屋は常連で、割といつも使っている。ここまでくれば、安心だ。

アタシはアヤに手持ちの金を全部握らせて、着替えと背負えるバッグを買ってくるように指示した。

アヤのやつ、いつまでもジオンの上着を毛布にくるんでるもんだから、もうヒヤヒヤだ。

 店に入ろうとして、ふっとレナが足を止めた。

「ありがとう」

その彼女の笑顔は、泥が付いているのになんだかとてもまぶしくって、照れくさくなってしまった。

「あ、アタシはここで見張ってるから、ちゃっちゃと済ませてきて!

 あぁ、それと、このビルの3階にクアハウスがあっから、買ったらそこで汗流そう」

顔に着いている泥も、できたら落とした方が良い。拭いちまえば目立たないだろうけど、2日もジャングルの中にいたんだ。

お互い、シャワーくらい浴びたいだろう。

「うん」

レナはまた、明るい笑顔を見せると店の中に消えっていった。


 20分もすると、レナは店から出てきた。ちゃっかり着替えも済ませている。

ホントは、シャワー浴びさせてから着替えさせてやりたかったんだけど…まぁ、こっちの方が安心するだろうし、良いか。

「おまたせ」

レナが言うので

「はやかったな」

と笑って言ってやった。

 それから、そう言えば持ってた金を全部着替えにまわさせちゃったもんだから、

クアハウスに入る料金が払えないことに、レナが買い物中に気が付いた。

「悪いんだけど、アタシ、今の金が手持ち最後でさ。ちょっと銀行行こう」

アタシは、道の向こう側にあった銀行を指差して言った。

「うん」

レナは素直に返事をしてくれる。

道を渡って、銀行に入ろうとしたら、レナはふっと足を止めた。

「どした?」

「いや、私はここで待ってるよ。防犯カメラくらいあるでしょう?さすがに顔が映っちゃうのはマズイと思うし」

アタシが聞くと、レナはそう言った。確かに、レナの顔をカメラに映されるのは避けておきたいな。

なんかあったときに、面が割れやすくなっちまう。

「そっか…まぁ、じゃぁ、すぐ終わらせるから、そこで待ってて」

アタシはレナにそう告げて、銀行へと入った。


 ジオンの降下からもう2日経っている。街はすっかり平静を取り戻していて、銀行の方も普通に営業しているようだ。

アタシはATMに行って口座からとりあえずの逃走資金を引き出した。

どうしたって、レナをここから逃がすには手助けがいる。

休暇願いだして、ジオンの拠点のありそうな場所へ送ってやれると良いんだけど…


 「—————!」


なんだ?

わめき声…外か?

アタシは出てきた金をポケットに突っこんで銀行を出た。

そこには人だかりができていて、その真ん中に、手錠を掛けられ跪かされているレナの姿がった。

レナの周囲には軍服の男たち。腕にはMPの腕章がつけられている。


———まずった!くそ、どうしてレナを一人にしちまったんだ!どうしてバレた!?どうする?助けるか?

MPは3人、その気になれば一思いに片付けられない数じゃないが…

だけど、こんな街中で乱闘騒ぎ起こした挙句にジオン兵連れ出したら、それこそ緊急手配だ。

出られるもんも出られなくなる。


———ここは…黙って見過ごすしか、ないのか…

アタシはギュッと拳を握った。

 ほどなくしてMPの車が到着し、レナは後部座席に押し込まれる。MPがレナの背中を警棒で殴った。

 全身が震えた。あの野郎…!

殴りかかりそうになるのを必死にこらえた。

ダメだ、今行ってもどうにもできない!ダメだ、今だけはダメだ!

 やがて、車はエンジン音を響かせて走り出した。

 まずい、まずいぞ…レナは士官だ。しかも、こんなとこに潜り込んでた…普通の捕虜の扱いなんて受けない。

これはスパイ容疑だ。厳しい詰問にあっちまう。

下手したら、拷問だ。あの、クソいまいましいMP共と、根暗の諜報部の連中が変わり順番に質問攻めだ。

何をされるか…どうする!?どうすんだよ!!!

 アタシは思わず走り出していた。捕虜やスパイを閉じ込める独房の場所は分かってる。

まずは、車だ。アシがいる。アタシの車を取りに行こう。それから、金はある。

あと———あとは、なんだ!くそ!落ち着け、考えろ!銃、銃だ、銃がいる。

できるだけ強力な…いや、ダメだ、こっちは一人だ、撃ちあいになったら勝てっこない!

なら、脱走か。監視カメラに警報装置、それから警備の兵士と、巡回のルート…監視センサーもある…どうすんだよ!


隊長、あんたなら、あんたならこんなときどうすんだよ!

 アタシは焦る思いを必死にこらえて、とにかく自宅のアパートまで全力で走った。


今日のところは以上です!

次回、レナさんが捕まった裏で、アヤさんがどんなことをしてたのか!?


今回もお読みいただきあざっした!

>>59
ここまで読んだ乙
二人がMSに乗るのか気になるところ
また読みにもどります

>>255
読んでもらって感謝!
読み終わったら感想お聞かせくださいまし!

ツイッターはじめてみました。
アップしたらつぶやきマッスル。
べ、別にフォローしてほしいなんて思ってないんだからねっ///

@Catapira_SS


ではでは、投下いきますー


 3時間後、アタシは隊のオフィスにいた。そこには軍内部の情報にアクセスするためのネットワークがある。

帰還のあいさつもそこそこに、アタシはケーブルを自前のポータブルコンピュータに差し込んで、情報をあさっていた。

 アタシはあれから家に飛び込んで、頭から水をかぶって、3分だけ考えた。やっぱり、脱走させるしかない。

アタシが手引きして、ジオンの勢力圏内まで届けるっきゃない。

 独房は管理棟の地下4階にある。管理棟から抜けるには、地下1階の物資搬入口が良いだろう。夜間なら人目のない場所だ。

まずは独房からそこに行きつくための警備装置一式を無力化しなきゃならない。

監視カメラは映像をループで流せばいい。監視装置も、ここからの細工でなんとかなる。

ただ、警報装置は直接配線をぶった切りにいかないとどうしようもない。

これは後で考えるとして…まずはカメラと監視装置を済ませよう。警備兵の巡回ルートと時間はもう抑えた。

独房の前に常に一人、付きっきりで監視してるのがいるが、こいつには睡眠薬だ。

うまくいかなきゃ、最悪は実力行使。拳銃の消音装置は配給部隊の倉庫からくすねた。使いたくはないけど、いざってときには…。

「おぉーい、ミナト少尉殿、あんた無事だったんだな!うれしいぜ〜良かったら帰還の祝いにメシでもどうよ?」

「黙ってろ、ヴァレリオ」

ヴァレリオが話しかけてきた。うっとおしい。今はお前の相手してる暇なんてないんだよ。

「つれないなぁ、行こうぜ〜俺、今日暇だしよぅ」

「っせーーんだよ!あっち行ってろ!」

思わず怒鳴りつけてしまった。ヴァレリオは、戸惑った顔をして

「お、わ、悪い」

とだけ言い残してオフィスから出て行った。

 ほかの連中がアタシを見ている。でも、構ってなんかいられない。時間がないんだ!

 コトっと音がした。見ると、コーヒー入ったカップが机に置いてある。

「それ、そこのコード違うぞ」

コーヒーを置いてそう言ってきた声の主は、アタシの同期のダリルだった。

———み、見られた

アタシはとっさにパソコンの画面を遮る。

「別に隠すことなんてねぇだろ。何しようとしてんのか知らねえが、別にしゃべらねえよ」

ダリルは言った。

 監視カメラや監視装置の偽装工作は、全部このダリルに教えてもらったものだ。

ダリルとは、待機命令が出ている兵舎から抜け出すのにこうしてコードをいじったり、

倉庫にある酒を頂戴しに行ったりしていたから…

「悪い…」

アタシは謝って、ダリルに指摘された部分を直す。

「そこの温感センサーの試験モードのコードはA−258だ、次の施錠センサーのコードがA−220…」

「うん…」

アタシは黙ってダリルの言葉を聞く。

「隊長に休暇願い出したんだってな」

ダリルは聞いて来た。さっき隊長に提出してきた。時間稼ぎのためだ。

アタシとレナが一緒だって情報がすこしでも隠れれば、それだけレナの足取りを追われなくて済む。

手引きしてる人間がどこの誰か、までバレちまうと手配の抜け道が狭くなる。

「うん、一週間、休みをもらう」

「帰ってくんだろうな?」

「そのつもりでいる」

「そうか」

「あぁ」

アタシは返事をしてコードの変更を続ける。ダリルもそれ以上は聞いてこない。

 でも不意にダリルが言った。

「隊長から、伝言を預かっててな」

「隊長から?」

アタシは手を止める。

「あぁ。『合言葉を忘れんな』、だと」

合言葉。アタシの隊の規則だ。「ヤバくなったら逃げろ」。隊長は、もしかしたら、気づいているのか?

「ヤバいのかよ?」

「だから逃げる算段たててんだろ」

ダリルが聞いて来たのでアタシは答えた。ダリルはもう気づいているだろう。

アタシが打ち直している監視装置のコードを見れば、それがどこの物かなんて、こいつには一目瞭然だ。

どこから、どこへ抜けたいのか…。だとすれば、アタシが何をしたいかくらい、検討は付くはずだ。

アタシの言葉にダリルはため息をついた。

「作業が終わったらそのPCはおいてけ。アシが付くかも知らん。俺がぶっ壊しておいてやるよ」

他の隊員も信用できないわけじゃない。でも、ダリルだけは特別だ。

何しろ、アタシと同期のこいつはこの隊の「問題児」。調子に乗ってどれだけの「知られざる」悪行を働いて来たかわからない仲だ。

こいつには、こんなことを頼んでも大丈夫だ。


 作業が終わった。

アタシは席を立つ。

「隊長には」

「黙っとくよ」

アタシの言葉を、ダリルはそう遮った。

「すまん、迷惑かけることになるかもしれない」

「なーに、平気だろ。隊長にしてみりゃ、今に始まったことじゃねえと思うしな」

ダリルはそう言って笑ってくれた。

「ありがとう。じゃぁ、行く」

「おう、気を付けてな」

「うん。PC、頼む」

アタシはそうとだけ言い残して、ダリルの淹れてくれたコーヒーを飲み干してから、オフィスを出た。

 正直、つらかった。何も話してはいけないことが。本当は泣いて助けを求めたかった。

でも、それは出来ない。アタシがこれからすることは、必ず隊のみんなに迷惑をかける。

事情を知らせてしまったら、みんなにも責任が生じてしまう。だから、何も知らせない方が良いんだ。

隊のみんなはアタシにずっと良くしてくれた。軍に入ってすぐに、隊長に拾われてあの隊に入った。

ずっとずっと一緒だった。血のつながってない、家族みたいなみんなだった。

ケンカもしたし悪いこともしたし、一緒に仲間の死を見て泣いたし、最近じゃ、アマンダとデリクっていう、見習いも入ったんだ。

素直でかわいくて、良い奴らなんだ。

副隊長も、無口なベルントも、ムードメーカーのフレートも、いちいち生意気なヴァレリオも、みんなみんな大好きだった。

 みんな、アタシの大事な仲間で家族で、宝物なんだ。だから、離れるのはすげー寂しいよ。

でも、でもそれよりもアタシは、今、レナを助けなきゃなんないんだ。

そうじゃないと、あいつらと一緒にいることすら、楽しくなくなってしまいそうだから。

助けないと、そう言う宝物がアタシの心から全部零れ落ちそうな気がするから。

 隊長、迷惑かけてごめん。

 ヴァレリオ、怒鳴ってすまん。

 ダリル、話聞いてくれてありがとう。

 マライア、デリク、隊長の言うことちゃんと聞けよ…

 副隊長も、他のみんなも…迷惑かける、ごめんっ…。
 
アタシはいつのまにか涙を流してた。でも、立ち止まってはいられなかった。

今、こうしている間にも、レナがどんな目に遭っているかってことを考えたら、すこしも躊躇してる暇なんてあるはずなかった。

「おい、お前は何発だ?」

「自分は2,3発ですかね」

「少ないな、新入り。俺なんか10発はぶん殴ってやったのに。しかしなかなか強情なスパイだ。あれは、上級だな」

「なーに、週明けには殴るなんて手荒なマネはよして、もっと違うもんをぶち込んでやりゃぁいいのさ」

「はは!違いねぇ」

「今日中にヤッちまえばよかったじゃないっすか、良い顔してたから楽しみにしてたのに。

 明日オフで、次の聴取は明後日すよ?」

「ったく、テメーは。楽しみはあとに取っておいた方が良いってのがわかんねぇようだな。

 まだ諜報部のほうにゃ連絡入れてねぇ。向こうに引き渡すのは、明日一日おいてビビらせて、

 明後日に楽しませてもらってから、ってことにしとこうや」

 下品な笑い声が聞こえる。クソ…あんのMPども。


こんな状況でもなけりゃぁ一人ずつ這いつくばらせて急所を蹴りつぶしてやるのに…

 アタシは管理棟の地下3階にいた。

さっき、レナの差し入れのために買っておいたファーストフードのセットの紙袋と、

睡眠薬入りのビールを隠しておいたこの資料室に取りに来ていた。

レナの荷物はすでに回収して車に積んである。警報装置は地下1階のトイレの排水管の点検口から天井裏に入って、

配線を片っ端からぶった切ってきた。まったく、数が多くて骨が折れたけど…漏れはないはずだ。

 資料室の中で、MPの連中が過ぎ去るのを待つ。あいつらさえいなくなれば、あと1時間は巡回が来ない。

独房の前にいる警備兵にはこのビールを飲んでもらうつもりだ。医務室からかっぱらってきた強烈な睡眠薬をたっぷり入れてある。

死にはしないだろうが…丸1日は起きないだろう。これを渡したアタシの顔の記憶もすっとぶはずだ。

 さて、行くか。漏れはないよな?大丈夫、もう再三チェックした。

 アタシは資料室を出た。階段を降りて、地下4階へと行く。他の階とは違って、コンクリートむき出しで陰鬱とした雰囲気だ。

あのMPどもの言い草だと、これまでにもここでどんなひどいことがされてきたか…考えただけで吐きそうだ。


 独房への入り口が見えた。警備兵が暇そうに突っ立っている。

「おい、ここに、レナ・リケ・ヘスラーって捕虜が捕まってるはずだ」

アタシはそいつに声をかけた。

「はっ!確かに、ここですが」

警備兵はアタシの襟の階級章を見るなり背筋を立たしてそう返事をする。まだ若い。

こんなとこの警備にまわされるだなんて…志願してきたのなら最悪なヤツだが…

ヘマやらかして任されてるんだとしたら、かわいそうだな。

「会わせろ」

とはいえ、そんな悠長に同情してる暇はない。アタシはなるべく偉そうに言った。

「は、いえ、しかし…」

「いいから、会わせろって言ってんだ」

「で、できません」

真面目だな。そういうの嫌いじゃないんだけど…今は困るんだよ。

「あぁ?あんた、私の階級章が見えないわけじゃないよな、伍長?」

アタシは警備兵の胸ぐらをつかんでそう凄んでやった。彼は、一瞬ビクっとして体を硬直させる。

「ですが、少尉殿…ここは…」

強情なヤツだな。でも、今の感じだと、抵抗はしないだろう…押しとおろう。

「上官命令だ。すぐに会わせろ。責任は私がとる」

「う…」

「別に何するわけでもない。ちょっと知り合いかもしれなくてね。

 知り合いだったら、最後の晩餐くらい振る舞ってやったって、バチはあたらないだろう?

 ほら、お前にも、これ、小瓶で悪いが酒だ。

 さすがにあんたの上官に見つかるとやばいから、アタシが出てくるまでに飲んでおけよ。おら、さっさと鍵寄越して」

アタシは無理矢理にビールの瓶を押し付けると、彼の腰のベルトから鍵の束をむしり取った。

案の定、彼は抵抗することなくビールを受けとり体を緊張させたまま、アタシが独房の中へと続く外側の鉄格子を開けるのを見送った。

 中には、いくつかの部屋に分かれていた。ひとつひとつ中を確認するが、他の捕虜が捕まっている様子はない。

ふっと一番奥の独房に人影があったので、アタシは足を止めた。

「大丈夫か?」

そう声をかけると

「うん」

と返事をした。良かった、生きてるな、とりあえず。レナは、暗がりの部屋の奥にあるベッドに座っているようだ。

ここからじゃ暗くて良く見えないけど。

「ほら、こっち来いよ。飯にしよう。冷めちゃってるけど…ま、あの魚よりは旨い」

アタシはそう言って地面に座り込んだ。あの警備兵がビールを飲んでくれりゃぁ、こいつを食い終わるくらいには、昏倒するだろう。

逃げ出したら飯を食う時間もないし、レナには申し訳ないけど、ここで食べるのが時間の節約になっていい。

それに、きっとなんにも食わしてもらえてないだろうし、な。


 レナが、よたよたっと立ち上がって、こちらに歩いて来た。廊下の明かりに、レナの顔が照らされて、アタシは息を飲んだ。

アザだらけだ…昼間は、あんなに明るく笑ってくれてたのに、そんな面影どこにもない。

真っ青になって、右側の目の上なんかぷっくり腫れ上がっている…

「ひどくやられたんだな」

「これくらいは、平気」

 レナは答えた。平気なもんか…でも、何か言ってやろうとしたけど、こんな時に限って、なんて声かけたらいいのかわかんなくなる。

と、とにかく、飯は食っておかないと…

アタシは紙袋からハンバーガーとフライドポテト、紙のコップに入ったジュースを取り出して、鉄格子の間からレナに渡した。

それから、自分の分を取り出して、かぶりついた。

そうしてから、チラっとレナをみやる。レナもハンバーガーの包装を外して、一口食べようとして、顔をゆがめた。

顔を腫らしているせいか、口が開かないんだ。レナは、かぶりつくのをあきらめて、ハンバーガーをちぎっては口に運んだ。

まるで小さな動物みたいに、チビチビとちょっとずつ。

 不意に、レナがボロボロと涙をこぼし始めた。アタシは、身動きすら一瞬、できなくなった。

あぁ…だよな、そうだよな…怖かったろう…すげえ怖かっただろうな…ごめんな…。

 「ごめん、アタシのせいだ」

飯を食べ終わってから、居たたまれなくなって、たまらなくて、アタシはレナに謝った。

「アタシが、もうちょっと警戒してたら、こんなことには…」

そうだ、あのとき、レナが着替えて、もうぱっと見はそこいらの人と変わらないように見えたから、安心しちまったせいなんだ。

あんなとこにほっぽりだして…こんな目に。

「ううん」

「だけど、こんなにされて!」

レナはそう言ったけど、でも、街へレナを連れて行ったのも、アタシの判断だ。そして、アタシが油断した結果がこれだ。

こんな…こんなに腫れて…アタシは思わず、鉄格子の隙間から手を入れ、レナの顔に触れた。

腫れ上がった皮膚はかすかに熱を持っている。

「私が油断していたのがいけなかった。気にやまないで。あなたは私に、とてもとても良くしてくれた。それだけで十分」

レナは、泣きながらアタシの手を握って、そっと押し戻した。

それから、グスッと鼻をすすってから、顔を上げて、涙で顔を濡らしながら、ニッコリと笑った。

「だから、もう行って。あなたまで危険になる」

なんで…なんだって、そんな顔で笑うんだよ。なんだって、アタシの心配なんかしてんだよ。

だって、つらいのも、恐いのも、痛いのも、苦しいのも、全部あんたじゃないか!


カツン、カラカラララ…

固い物が落ちて、転がる音。睡眠薬、飲んでくれたみたいだ。良かった。手荒なマネをしなくて済みそうだ。

もう、あとには引けない。いや、引くつもりなんてないけど。

こんな状況でアタシの心配して、あんな顔で笑ってくれるこの子を、こんなとこで苦しみと痛みの中に置いといちゃいけない。

そんなことはアタシが許さん。

「実は、もう手遅れだったりするんだけど…ね」

アタシがヘラッと笑って言うのと同時に

ドサっ

遠くでかすかに、何か重いものが地面に落ちる音がする。寝こけたな。よし、今なら行ける。

「さって、行こうか。歩ける?」

アタシはすばやく立ち上がると、持っていた鍵で、鉄格子の施錠を外した。警報もセンサーも動かない。大丈夫だ。

「そんなことしたら、あなたが…」

ここへきて、まだアタシの心配なんてする。

出会ってまだ二日目のあんたを脱走させようっていうアタシが言うのもなんだけど、変な奴だよ、やっぱ。


「だからもう手遅れなんだって。警備兵に睡眠薬飲ませちゃったし、監視カメラも、逃走ルート用のは回線いじって、

 ダミーの映像流すシステム組んできちゃったし、警報装置も細工済み。

 巡回の兵士のルートも抑えてあるし、あとは、監視センサーなんかも、あらかた潰してきちゃったしな」


それからアタシも、レナを元気づけてやろうと思って、出来る限りの笑顔を作って言ってやった。

「行くぞ」


ちょいと中途半端ですが、こっから先のアヤさんの語りが長いのと、演出上の都合で
ここいらで切らさせていただきます。

続きは明日の夜に投下します。
アヤ編、最終回です。

今日も目を通してくれた方に感謝!

乙!

おつおつ

>>266>>267
レス感謝!

訂正のお詫びです。
今回アップ分の中に、「アマンダ」という謎の人物が出てます。
ただしくは「マライアちゃん」です。
オメガの妹分です。
なぜ書き手の頭のなかで入れ替わったのは不明です。

謹んでお詫び申し上げますm(_ _)m

こんばんはー。

アヤ編最終回あげていきます!
ちょっと長いかもです…ご了承を!


アタシはレナの手を取った。

「行くぞ」

警備兵の脇を抜け、階段を上がり、狭い廊下を走り抜けて、さらに登りの階段。

そこから、また狭い廊下に出て、端にある食糧を主においている物資倉庫の搬入のための通用路へ出る。

前もって止めといた、隊長が格安で譲ってくれたSUVはちゃんとアタシを待っててくれた。

「後ろに乗って」

 レナを後ろの座席に押し込んで運転席に飛び乗ったアタシはエンジンをかけて車を走らせる。

管理棟の敷地を出て、軍施設中央を貫く道路に出る。アタシは周囲を警戒する。

大丈夫だ、まだ、気づかれている気配はない。あとは…この先にある営門だけ。

そこでは、アタシが直接話をしなきゃならない。

バレていないこの段階で無理矢理突破するのは逆効果だし、騒ぎを起こさずに通過したい…。

 アタシはレナ急いでカバンからアタシの服を取り出して着替えるように言った。

この先に営門があって、そこで検問されるだろうことも。

「大丈夫なの?」

レナが聞いてくる。

「あんたの顔はまだ割れてない。脱走がバレれば話は別だが、しばらくは大丈夫だろう」

そう、そのはずだ。何も落ち度はなかったはず。隊の奴らが、アタシの行動を見て不審がって通報さえしてなければ…

いや、みんなはそんなこと、しない、はず。

 やげて、目の前に金網の張られた門が見えてきた。この時間だ。すでに閉じていて、数人の兵士が警備をしている。これが最後だ。

ここを抜ければ、あとはいくらでも逃げようがある。ここさえ、越えれば…。

 アタシは大きく深呼吸をして、心を静めた。微かに、手が震えているのがわかった。

ビビってんのか…武者震いか?いや、こりゃどっちもだな…くそっ、落ち着けよ…。

 自分に言い聞かせながら、アタシは車を営門の前に止めた。

「こんばんは、少尉殿。こんな時間に、どちらへ?」

警備をしていた兵士がアタシの顔を覗く。階級章が見えたのか、格下の彼は丁寧な対応だ。


「すまない、連れが階段から落ちてけがをしたんだ。

 軍医殿が、今は負傷兵の手当てに回ってて戻らないそうなんで、街の総合病院へ行きたいんだ」


「なんですって?」

彼がレナの顔を懐中電灯で照らした。そして息をのみ

「こ、これは…す、すぐに通します。あ、いや、軍用車で先導しましょうか?」

とあわてた様子で言った。

「いや、それには及ばない。連なって走るより、一台の方がずっと早い」

「そうですか…おい!すぐに開けろ!」

兵士がそう言うと、道路をふさいでいた金網が開いた。アタシは敬礼をしながら車を走らせその門を通過する。

 車を、不自然に思われないように加速させる。ルームミラーの中で、ゆっくりと営門が小さくなっていく。

追手は…大丈夫、まだ来てない。まだ…まだ、だ。何度も何度もルームミラーで後方を確認する。車がトンネルを抜けた。

この先の街へ続く幹線道路に乗っちまえば、あとはこっちのもんだ!

 そこまで来て、ようやくふぅーーと息を抜けた。やったぞ、やってやった!隊長!


「あー緊張したぁ!」

そんな気持ちとともに、そう言葉が漏れた。

体中が固くなっちゃったみたいで、シートに座りながらモゾモゾと体を動かしてほぐしてみる。

 レナはそんなアタシを「信じられない」というような表情で見つめている。まぁ、そうだろうな。

アタシだって、半分くらい信じらんないと思ってるよ。いや、3分の1くらい?

「どうして、どうしてこんなことを?」

はは、そうだろうな、普通、聞くよな、うん。どうしてだろうな、どうしてアタシはこんなことをしたんだろう?

 アタシはレナの言葉を聞いて改めてそれを考えた。

 もしかしたら、アタシ死んじゃってたかもしれないんだよな。でも運よく生きてて、で、運よく生きてたレナと出会った。

敵同士だったけど、アタシは自分が、もう殺したくないって思えてて、レナを撃たなかった。

そんなアタシを、レナも撃たなかった。ちっぽけなことに思えるけど、あれってすごくデカイことだったんだよな。

だってそうでなかったら、アタシはレナの家族の話なんか聞けなかったし、そうしたら、一晩一緒に過ごすなんてことはなかった。

アタシとレナは敵同士だったけど、そうやってお互いの人生を「生かす」ことができたんだ。

それはアタシがレナを信じたからで、それで、レナもアタシを信じてくれたから、だ。

 そう、こいつは、レナは、アタシを信じてくれたんだ。初めて会ったアタシを。敵だったアタシを、信じてくれた。

その信頼のベースになってたのが、アタシが孤独のつらさを知ってたから、ってことなんだろうけど、

それを知ってたから、アタシはこいつを助けたいって思った。

あの気の良い陸戦隊に見つかる前の晩、アタシは、いっときでもいい、

彼のように、レナの心を照らして温める存在になりたいって思った。

もしかしたらそれが、レナに、アタシを信じても良いって、思わせたのかもしれない。そうなのかな?

そうだったら、いいな。

 こうやって、信じてもらる、なんてこと、今まで考えたことなかった気がする。

そりゃぁ、隊長やほかの隊のみんなだって、アタシのこと疑っちゃいないだろうけど。

でも、なんだろう、やっぱりこいつは特別だ。

隊の連中は、ずっと一緒にいる味方だったから、そんなこと気にしたこともなかったし。

レナは、それをアタシに教えてくれたんだ。

アタシを信じてくれたこと、たぶん、誰かに信じてもらえるってことを、このあったかい、まるで彼にもらった灯台みたいな、

明るくて暖かい、この感じを…。だから、アタシは、レナを守ってやりたいってそう思うんだ。


 アタシはこの漠然とした気持ちをレナに話した。

でもうまく入っていかなかったのか、

「あなたって、同性愛者?」

なんて、言いにくそうに聞いてくるから笑ってしまった。

 まぁ、あんまり人をそう言う目で見たことないからわからないけど、たぶんどっちでも良いんじゃないかな、なんて答えながら、

不時着したときのことなんかを交えながら、どうしてそう思うようになったか、も話した。

今度はちょっとわかってくれたみたいだった。

 でも、別のところで少し心配があった。アタシはレナを守りたいって思うけど、レナはどうなんだろう?

脱走してきたとはいえ、元連邦のアタシだ。一緒にいたら、レナに迷惑が掛かっちまうかもしれない。

アタシと一緒に行くってことは、もしかしたらジオンと敵対することになるかもしれない、と伝えた。

そしたらレナは


「勝手かもしれないけど、私は、あなたの助けなしでは、どこへも行けない。だから、お願い。

 私をキャリフォルニアの基地まで連れて行って。

 そこで、ジオンがあなたにひどい扱いをしそうになったら、今度は私が必ずあなたを助ける。

 もし連邦が追ってくるなら、ジオンに迎え入れてもらえるようにお願いもでもなんでもする」

なんて言ってくれた。レナもアタシを守ってくれる、ってのか。へへ、うれしいじゃんか、それ。

なんだか、本当にうれしかったので、アタシは珍しく照れずに胸を張って答えてた。


「もしものとき、あんたが助けてくれるっていうんなら、どこへだって行くさ!

 旅には目的地があったほうが頑張れるもんだしな。良いよ、行こう、キャリフォルニア!」


このときはまだ、胸の内にある変なあったかさに、なんとなくしか気が付いてなかったけど。

でも、しばらくして、それは、アタシのかけがえのない灯台になってくれることになる。

レナに出会えたことが、どんなにか幸運だったかってことを、あとでいやっていうほど思い知らされることになるんだ。



「ってな、ことがさ、あったワケよ」

「ふふ。改めて聞くとそのころからアヤさんは、レナさんに何かを感じてらしたんですね」

酒のせいで、すっかり長話になってしまったのだけど、アイナさんはいつものとおりの穏やかな笑顔を浮かべながら、

ちゃんと最後まで話をきいてくれた。


「そうなんだよなぁ、考えてみればあの頃から、へんなところで意地っ張りで、

 そのくせヘタレで泣き虫で、妙に気ぃ遣いなんだよな。な?」

アタシは座っているソファーの隣ですっかり寝入ってしまったレナの頭をペシペシひっぱたいた。

「ふふふ」

っとアイナさんは笑った。

「でも、アヤさんもレナさんも、お互いにしっかり愛し合っていますよね」

「それがさ、良くわからないんだよ」

「そうなんですか?」

アイナさんはキョトンとした顔をした。


「うん。ほら、愛ってさ、たとえば親子愛だったり、兄弟愛だったり、隣人愛だったり、

 それこそ男女とか恋人同士の愛とかっていろいろあるだろ?それってのは相手との関係によって形を変えるもんだと思うんだけど…

 正直、アタシにとってレナって、何なんだろうって思うんだよ。

 だってさ、たとえば恋人だと思うんなら、くっついてたいとか、キスしたいとか、その…ほら、夜のこととかさ、

 相手の子どもが欲しいとか、あれこれ思うもんなんだろうけどさ。

 でも、アタシ別にレナとどうしてもそういう恋人っぽいことしたいって思わないし、

 あぁ、いや、レナがしたいって言うんなら断ることもないんだろうけどさ。

 でもレナもおんなじなのかわかんないけど、そういうこと言ってくるわけでもないしさ」


アタシが言うと、アイナさんは少し考える様子を見せてから

「女性は自分からは言いにくいですからね。もしかしたら、

 アヤさんが言ってくれるのを待ってるのかも知れないですよ」

と割と真剣な表情で言った。


「そっかぁーそう言うもんかなぁ。レナに限ってそんなことはないような気がするんだけど…

 って、あれ?アイナさん、今サラッとアタシに暴言吐かなかった?」

「そうですか?」

アイナさんは珍しくしれっとした顔でまた、ふふふっと笑った。それからさらに

「レナさんだってもしかたら、アヤさんの子どもが欲しいって思ってるかもしれないですし」

と言って笑う。

「いや、アイナさん、もう完璧それアタシをいじってるよね?真剣に話する気ないよね?」

アタシが追及すると、アイナさんはまたまたふふふと笑って回答を濁した。もう、ずるいよ、それ。

「でも、そうですね、まじめに感じることを言わせてもらうと…」

あ、いま、まじめにって言ったよね?てことはやっぱ直前まではふざけてたってことだよね?ちょ、アイナさーん?

「どういう存在か、なんて、ゆっくり見定めていけば良いんじゃないでしょうか。

 だって、お二人でいて、楽しくて、これからもそうしていきたいって思われるんでしょう?

 だったら、そんなに焦ることもないと思いますよ」


「うん、そっか…そうだな…。アイナさんとシローはどうなんだよ?」

「えぇ、うまくやってますよ」

そう言ったアイナさんは、腕を組みかえて、隣のソファーでだらしなく伸びて寝ているシローを見た。

 ふと、アタシは気が付いた。アイナさんの手が、自分のお腹にそっとあてられていた。

———あ、まさか、アイナさん…

「アイナさん、子どもが?」

アタシが聞くとアイナさんは顔を少し赤らめてニコッと笑い

「えぇ、おそらく」

と言った。

 シロー、バカだけど、子どもの作り方知ってたんだな…

あぁ、いや、シローのバカさはどっちかっていうと、どうしたら子どもが出来ちゃうかを知らない類のバカさかもしれないけど…

って、そんなことをアイナさんの前で言ったらさすがに怒られるだろうから黙っとくけど。

「そっか…じゃぁ、安静にしてないとな」

だからアイナさん、今日は一滴も飲まないんだな。納得がいった。

「はい」

アイナさんは笑って言った。

 それからまーた思い出したように

「アヤさんは、お子さんほしいって思わないんですか?」

なんて聞いて来た。

 まぁ、ほしいような気もするけどさ…ドアンなんかを見てたら、大変だろうけど、楽しそうだし…なんて言ったら

「良かったらうちのシローをお貸ししますよ?」

なんて言うんだ。アイナさん、ごめん、シローはアタシ向きじゃないわ。っていうか、シローはごめん。

アタシが全力で断ると、

「ふふふ、冗談です」

だって。さすがにそこは、本気でたまるか。


 それからアタシはまたアイナさんと取り留めもなくいろんな話をした。

なんだか楽しくて、すごい遅くまで話し込んでしまったけど、

アイナさんが話しながら眠ってしまったもんだから、ソファーに横にして、毛布を掛けてやった。

体冷やしちゃダメだからな。

 そうしてからアタシは、ふらっと夜風にあたりに行った。ペンションから坂を下って、港にでる。

街灯のない港から見上げる夜空には満点の星。桟橋から足を投げ出してごろっと寝転ぶ。


 あれから半年もたってない。なのに、ずいぶん長い時間、遠いところまで旅をしてきた気がする。

振り返ると懐かしいことばかりで、そのひとつひとつが胸に温もりをくれる。

シローやアイナさん、ドアンや子どもたちに、クリス。

それから、隊のみんなにそしてレナ。

たくさんの出会いがあって別れがあって、寂しい思いをしたり、立ち止まりそうになったこともあったけど。

でも、ここまで来てよかったなって、心から思える。

 変わってしまったものは元には戻らないかもしれないけど、それはなくなってしまったわけじゃなくて、

形を変えて手の届くところにある。心の中にしずかに漂っている。

そんなことが、なんだかとてもうれしいんだ。

 なぁ、アタシ頑張ったろ?今日まで。これからも、まだ頑張るんだぜ。

だから、見ててくれよな。あんたが好きって言ってくれた、アタシの笑顔、まだまだいっぱい、見せてやれそうだからさ。

ありがとうな、ユベール。アタシは幸せもんだ。



 そんなことを思いながら、アタシは大好きな波の音と、潮の香りとを感じながら、

胸の中に灯った炎の温もりをひとつ、またひとつ、数えなおした。

以上です〜

おまけ2を先に終わらせて、アイナさんたちが来てる風に落としたかったのでした。

読んでいただきありがとうございました!


まとめサイトで、作者絵をクレクレしすぎてちょっと…といわれてしまったw
確かに、ちょっと欲張りすぎて反省。
でも、見たい気持ちは変わらないんだぜっw


感想、苦情などなど、お待ちしております。

20歳児シローくんだからなぁ


同じ事の繰り返しか?と思ってたらそういう仕組みか。
アイナが幸せそうなのがやたら嬉しいな

今回も安定の面白さ!
レナとアヤどちらも良いキャラで感情移入しまくりですよ

>>278
なんかシローってこんな感じしますよねw

>>279
全部の焼き直しはグダるだろうなっていうのはあって、
しかも最初に書いた通り、アヤさん的には助けるという決断するこの場面が一番のヤマだろうと。
アイナさんてどんな冗談いうんだろう、ってのが一番悩みましたw

>>280
あさっす!
キャラ作りって大切だなぁ、と書いてて実感しましたw

実は、すでに新作?書いてて、一応アヤレナの関連作なのだけれど、新スレにしたほうがいいんでしょうか?
このままここに書いてっておk?

どんな内容かによるが…
ガラッと代わるのか、この流れで行くのか

俺的には新たにスレ立ててもいい気がするけど

>>283
いちおう、内容としては

「頑張れ!マライア!密着オメガ隊最前線!」

ですw

ただ、アヤレナの話ありき、というか、スピンオフ的な話で、この物語単体だけでは意味を成さないかもしれず。
そう思うとこのまま続きで書いていくのもありかなぁと思いつつ、どうしようかなぁと。

まだ300行ってないんだからここで良くね?
アヤレナさんの世界観で継続するならこのままで良いと思うな。

>>285
怖いのは、なんかこう雑多にいろんな話を詰め込みすぎてゴチャゴチャしないかなぁってとこなんだが…
問題ないようならこのままいかせてもらおうと思いまする

関連作だし、このまま行こうじゃないか。待ってる

>>287
ご意見感謝ー

じゃぁ、ちょっとスレにいろんな話投げててごちゃっとしてしまっているが、勘弁してもらってここでやります><
今夜遅くに、第一回の投下できたらと思います。
よろしくです。

こんばんわー!

予告通り、新らしく投下しまするは、オメガ隊とへっぽこ隊員マライアの話です。
これも、アヤレナとリンクしているというか、アヤレナが逃避行している最中にオメガさん達がなにをしてたか
がメインのお話になります。

アヤレナのようなほっこりはありませんが、オメガ隊の男節とマライアの成長が描ければと思います。


なお、今作は、前回と違って皆さんの股間がはち切れそうなイベントをご用意しました。
以下の投下分に含まれますので、どうぞ最後までお付き合いよろしくお願いいたします。

それでは、投下行きますー


「隊長!もう3日!3日ですよ!」

フレートさんが柄にもなく大声で吠えている。相手は隊長。

「だーからフレート。お前は何が言いてえんだよ?」

隊長は煙たそうにしている。

「アヤのことです!休暇届けじゃぁ、もうとっくの一昨日に帰ってきてるはずじゃないすか!」

いつもは陽気な人なのに、今回ばかりはなんだかちょっと怖いな。

「だからよう、それがなんだってんだって聞いてんだよ。言ってることが良くわからねぇ」

「はぐらかさないでくさい!」

フレートさんが隊長のデスクをドンと殴った。

あたしは、今朝の偵察のレポートまとめないとオフィスから出れない。正直、恐い。

 話題になっているアヤというのは、あたしの所属するオメガ戦闘飛行隊の7番機、アヤ・ミナト少尉のことだ。

あれは1週間ほど前、ジャブロー防衛線があってから2日後のことだった。

アヤさんは、撃墜された場所から奇跡的に無傷で、陸戦隊に発見されて基地に帰還してきた。

でも突然その日に、一度に取れる最大日数の5日間の休暇届けを出して隊を出て行った。

最初は、怪我でもしたのか、それとも、恐い体験をしたから、すこし休みたいのか、なんて思っていたのだけれど。

でも、アヤさんは5日経っても帰ってこず、一昨日も、昨日も、そして今日も姿を見せない。

みんな心配してかわるがわる隊長にそう問い詰めるけれど、隊長は見ての通り、のらりくらり、躱すだけ。

でも躱すってことは何か知っているんだってのはみんなわかってる。

知ってても話さないってことは、話せないことなんだ、ってのも、きっとみんなわかってる。

でも、それでもみんなアヤさんのことが心配だし、何かヒントでも良いから聞きたがっている。

あたしだってそうだ。アヤさんは、あたしと同期のダリルにずっと操縦を指導してくれていた先輩で、

小隊長で、それで、戦闘や訓練以外でもあたしの面倒をみてくれる、良いお姉さんなんだ。

あたしもダリルもアヤさんのことが大好きだったし、隊の他のみんなも、アヤさんのことはいつも気にかけてた。

そんなアヤさんが、帰ってこないなんて、心配でしょうがない。


アヤさんのことでなくても、あたし自身のことは、まぁ、あれだけど、でも一人のために全員が心配する思いやりのある隊なんだ。

でも、今回はそれがすごく怖い。


 バン!とオフィスのドアがけたたましく開いて、第2小隊のヴァレリオさんが入ってきた。

いつもはヘラヘラしてて軽薄であたしやアヤさんや…先日の戦闘で死んじゃったカレンさんに

セクハラ攻撃をしてくる人だったんだけど、今日は厳しい顔つきをしている。

ヴァレリオさんは、ドンっと隊長のデスクに一枚の紙切れをたたきつけた。

「隊長が話してくれないんで、自分で調べました。アヤの除隊申請を受理したってどういうことですか!」

 除隊!?あたしはその言葉を聞いて、思わず椅子から立ち上がってしまった。

 隊長の言葉を待っているヴァレリオさんとフレートさんと、その様子をうかがっている他の隊員たちが一斉に沈黙する。

そんなとき、あたしが立ち上がったときに思いっきり下げた椅子がガタン!と音を立てて倒れた。

 あたしだけ、ビクッとなった。

「あー…ったく、余計なことしやがって、ヴァレリオ…」

隊長は渋い顔をしてそう言い、口元を撫でた。

みんな何か言うのかと待っているけれど、たぶん、そのままだんまり決め込むつもりだな、あれ。

 不意に、オフィスにつながっていた外線の電話が鳴った。またちょっとビクッとしてしまう。

「あぁ、マライア、悪い、ちょっと出てくれ」

隊長が言った。あたしは慌てて電話の方に駆けて行って、受話器を上げる。

「も、もしもし、こちら第27航空師団101戦闘飛行隊オフィスです」

あたしは、なるべくなるべく小さい声でそう伝える。

<あー!マライアか?元気そうだなぁ!>

え…?こ、この声って…

「ア、 アヤさん!?」

わたしは、思わず大声で叫んでしまった。オフィスのみんながあたしの方を見る。

<おう、そうだぞー。な、今隊長いるかな?ちょっと聞きたいことあるんだ。いたら変わってくれよ!>

アヤさんは、アヤさんは、いつもとなんにも変らないみたいな明るい声であたしにそう頼んだ。

アヤさん!良かった、無事なんだね…元気そう!ホントに、心配してたんだから…うれしくてちょっと涙ぐんでしまった。

「待ってて、今、代わります!」

あたしはそう言って、受話器を電話機の横に置いて

「隊長!アヤさんが、話がしたいって!」

と伝えた。

 すると隊長は口元だけでニヤっと笑って、自分のデスクから立ち上がると、電話に出た。



「おう、俺だ。どうだ、元気にやってっか?そうか、連れの方も、問題ねえか?…そりゃぁな、お前、俺を誰だと思ってんだよ———


みんなが隊長の電話に注目している。もちろんあたしも、注目してる。


「あぁ、あぁ、そりゃわかるがよ。あぁ?そいつはちょっとうまくねぇな。

  実は何日か前に、北米とアフリカで反攻作戦が開始されるって話を聞いた。あぁ、たぶんな———


い、いったい、何の話をしているんだろう?


「あぁ。あぁ、あーそうだな。そっちは手を打ってやる。ダリルに言って、指令書を作らせる。

 そいつを持って…そうだな、極東の第13支部あたりが良いだろう。基地近くのホテルに届くように手配するからそいつを受け取れ。

 ははは、冴えてるじゃないか、そう言うことだ————


隊長、笑ってる。



「ははは。相変わらずだな。まぁ、無理せずにやれや。あぁ、分かってるよ。そっちも規則は忘れんじゃねぇぞ。

 あぁ、そうだ。じゃぁな。またなんかあったら連絡寄越せ。

 あぁ、ちょっと待て。俺のPDAの連作先はーあぁ、そうか、ならいい。んじゃぁな」



隊長は電話を切った。それから、視線を向けているあたし達みんなの顔を一人ずつ見て口を開いた。

「お前ら、アヤが、よろしくってよ」

いや、もっと他に言うことあるよね!?


 隊長の招集で、隊員たちが全員、オフィスに集まった。もちろん、内容はアヤさんについて。

アヤさんのことを心配しているみんなにとって、こんな大事な話し合いはない。

「つまり、あいつはその…ピーを?」

「あぁ、そうだ。ピーをピーさして、んでピーなんだ」

「で、そのピーの目的は?」

「そりゃぁお前、ピーが来たピーにピーすることだろう」

「なるほど…それで合点がいく…まさか、ピーとは…」

こんな大事な…話し合いは…ない…はず、なんだけど…

「ちょ、隊長、それピーばっかで何言ってんのかわかんないです。

 副隊長もみんなも、なんでそんなピーばっかの会話に対応できんすか?」

良く言った、デリク!もっと言ってあげて!

「あぁ?雰囲気でわかれよ、雰囲気で」

「そうだぞ、デリク。もっとこう、言語的な感覚神経を研ぎ澄ませろ」

「そんなむちゃくちゃな…」

何で負けてんのよデリク!

「んで、隊長は気づいてたんすね?」


「まぁ、な。実は、あの日の夕方、パトロールを終えた陸戦隊に声かけられたんだ。

 今日、アヤってのと、カレンってのを保護したんだが、帰ってるか、ってな。

 カレンが戦死だったてことは、マライアに聞いてたから、カレンは戦死だぞ、って言ったら陸戦隊が青い顔するんで、

 冗談だと笑っておいたが、そのカレンが要するにピーで、なにがあったかは知らんが、ピーに肩入れする気になったんだろう。

 黙ってて悪かったとは思うが、状況がはっきりしなかったもんでな」


「でも、その、隊長?やっぱこのピーってやめません?もうなんか全然話わかんなくなってんすけど」

「バカ野郎!根暗の諜報部の連中がどこに盗聴器仕掛けてるかわかんねえんだぞ?

 ここでピーだのピーだのピーがピーしてピーなんつう話を俺たちがしてると筒抜けてみろ。仲良く銃殺刑だぞ」

「そうっすけど…もうちょっとマトモな隠語思いつかないんすか…」


…ふざけてるのか真面目に話してるのかは一切わからないけど、要するにこうだ。

 8日前、ジオン兵の捕虜がこの基地の独房から姿を消した。アヤさんが休暇届を出したのはその同じ日。

他部隊からの情報を聞いてた隊長は、アヤさんが撃墜されて救助を待っている間にそのジオン兵と出会い、

何らかの関係を持ち、そして脱走に協力したと読んだ。

どうやらそれが当たっていて、アヤさんは今も捕虜と一緒にいるんだ、というのだ。

そして、アヤさんはその捕虜を連れて、連邦軍の追跡を逃れるためにあえて西回りでオーストラリア、東南アジア、極東へと向かい、

そこから北米を目指しているらしい。

アヤさんが捕虜と一緒にいるだろうと気が付いた隊長は、アヤさんの疑いを消すために、アヤさんがいないにも関わらず、

本人が退職届けを出してきて、受理した、という事実を書類で残すことでアリバイを作るとともに、

捕虜の逃亡に協力しやすい状況を作った。

 アヤさん、どうしてそんなことを?あたし達から離れて、いったい何をしようとしているの…?

「なるほどな…まぁ、とりあえず無事なら良かったよ。俺はってきり、休暇中に事故にでもあってんじゃないかと思って、

 気が気じゃなくてさぁ」

フレートさんが言った。

「ホント。まぁ、殺しても死なないような人だけどな」

ヴァレリオさんも言う。

「み、みんなはそれでいいんですか!?」

わたしは、柄にもなく声を張り上げてしまった。

普段は、こんな話し合いの場でものを言うタイプじゃないし、こんなに大声をあげることだってない。

でも、今の不真面目な会話と言い、フレートさんやヴァレリオさんの言葉と言い、

アヤさんが連邦を、あたし達を裏切ろうとしてるかもしれないんだ。

なんでそんなに平然とふざけてられるんだ。あのアヤさんがそんなことするはずはない。

するはずはないけど、でも、そう思うからこそ、もしそうだったとしたら、って考えないんだろうか。

「おい、マライア」

「は、はい」

隊長が静かにあたしの名を呼んだので、戸惑って返事をする。

「アヤは俺たちを裏切っていくようなやつか?この隊を、嫌って出て行ったんだと思うか?」

そ、そんなことは

「そんなことは思わないです!でも、もし——

「だったらよ、信じてやれよ、あいつのことを」

「え?」

隊長は、確信を持った様子で言った。


「あいつはよ、俺たちのことを家族だ、なんていうんだ。

 あいつが俺たちのことをどんだけ信用してるか、どんだけこの隊が好きか、なんてみんな知ってるはずだぜ。

 マライア、お前もそうだろう?」

「は、はい」

「だったらよ、俺たちもあいつを信じるんだ。俺たちだってあいつが好きだし、ははは、

 家族なんだとかっていうあいつを良く笑うけどよ。

 悪く思ってるやつなんか一人だっていやしねえよ。そんなあいつが、嘘をついてまでやろうとしてることがあるんだ。

 だったら俺たちは、あいつが悪者になんねえように、あいつが白いものを黒だと言い切ったら、

 こっそりその白を黒に塗り替えてやろうや」

「で、でも、アヤさんは軍をやめて…」

「マライア、お前、家族と離れて暮らしてんだろう?」

「はい…」

「同じだよ。あいつにとっちゃ俺たちは『家族』なんだ。

 ジャブローにいようがいまいが、軍に所属してようがいまいが、関係ねえ。違うか?」

「…いいえ」

「わかったか?」

「はい…はい!」

あたしは返事をした。

 そうだ、そうだよね。あたしもアヤさんのことは大好きだけど、みんなはあたしなんかよりもっとずっとアヤさんと一緒にいるんだ。

あたしなんかより、ずっとアヤさんのことを知っているし、ずっとアヤさんのことが好きなはずだ。

そんなみんながこう言っている。だから、あたしも信じなきゃ…!

 それから、話し合いはアヤさんへの支援をどう行うかについてになった。

やり手の隊長があれこれ案をだし、それを他の隊員が補強する作業が続く。

なんだかみるみるうちに、いくつかの方法が決まって、話し合いは解散になった。

 あたしは、と言えば、ただひたすら、アヤさんの無事を祈っていた。


 あれから数日たった。でもアヤさんからの連絡はあれっきりない。

逃げ出した捕虜の手配情報はまだ出ているから、きっと無事でどこかに潜伏しているのだろうけれど…。

 「おい、マライア。なにぼーっとしてんだ?」

不意にそう声を掛けられてあたしはビクっとなった。声をかけてきたのはダリル少尉だ。

ダリルさんは、アヤさんと同期で、アヤさんが隊にいたころは、

頻繁に一緒になって何か問題を起こしては隊長にこっぴどく怒られていた。

あたしが知っている限りでも軍の備品をちょろまかしたり、格納庫に黙って入って試験前のモビルスーツに乗り込んだり、

自分たちで組み上げたバイクで夜な夜な基地内を爆走してみたり、乱闘騒ぎ起こしたり、数え上げたらきりがない。

でも、不思議とそれのほとんどが外部に漏れないのは隊長がうまく処理しているのか、

本人たちが隠ぺいしているからなのかはわからない。

仕事をしているときはすごくまじめで、できる二人なんだけど、いざオフになると子供みたいにはしゃぎまわるところがある。

それにケンカは二人とも相当強くて、アヤさんとダリルさんのたった2人で、8人からなる陸戦隊と乱闘になった末に、

全員ボコボコにして勝利宣言をしていたのは記憶に新しい。

 あたしは今、そんなダリルさんと一緒になって、戦闘機の整備の手伝いに来ていた。

ダリルさんがコクピットに乗り込んで、メインコンピュータのシステムをチェックしている。

あたしは雑用みたいなもので、メモリーディスク取ってくれだの、解析用のコンピュータを取ってくれだの、まぁ、そんな仕事だ。

「ご、ごめんなさい。ちょっと考え事を…」

「そうか?それならいいんだが…。あぁ、そうだ、データ通信用のケーブルないか?飛行データのバックアップしておきたいんだ」

「は、はい!」

あたしはそう返事をして工具箱を探した。でも、それらしいものが見当たらない。

「あの、ないです」

「あれ、俺忘れてきたか…悪いんだが、取ってきてもらえるか?」

ダリルさんはあたしにそう頼んできた。

「えっと、はい、了解です!」

あたしは返事をしてたっと格納庫から駆け出した。

 こういう工具とか部品類は、管理棟の地下3階の倉庫にある。管理棟は格納庫からちょっと離れたところにあるので、車で移動だ。

まぁ、車なら3分もかからないけれど。

 管理棟に着いて、中に入る。管理棟にはこのエリアの偉い将校がいて、だいたい階級が高い人ほど上の階にいる。

1階はこのエリアを管轄する部隊や物資の管理部門が置かれていた。あたしは階段を降りて地下へ向かう。

 ここの地下は陰鬱としていてあまり好きではないんだ。

倉庫のある地下3階には、取調室があって、だいたいはドアが閉まっているのだけど、

そのドアの向こうから怒鳴り声や人を殴る音なんかが聞こえてくるともう、逃げ出したくなってしまう。

それに4階には仮設の捕虜収容のための独房がある。ここに拘留して、諜報部の車が迎えに来るのを待たせておくためのところだ。

当然そこも、あまり好きじゃない。

 コツコツと階段を降りていく。

地下だから、というか、ジャブロー自体が基本的に地下施設だからこんなふうな言い方をするのは違うかもしれないけど、

でも、上の階に比べると妙に湿気っぽくなって肌にべたべたとへばりついてくるみたいで、それもいやだ。

まぁ、ジャブローってもともとそんなものだけど。


 あたしは地下3階にたどり着く。この廊下の奥が、備品の倉庫だ。

———と、あたしは足を止めた。

取調室のドアが開いていて、なにやら声がするからだった。いやだな、怪我してる人とかがいなければいいけど…

 そんな心配をしながら、あたしは足早にその前を通り過ぎようとした。

 でも、いやだな、こわいなって思うことにほど、視線は行ってしまう。

見ないように、と思っていたのに、通過するその瞬間に、中を見てしまった。

 そこには、一人の女性がいた。すらっとした体格に短い髪、上には、ジオンの制服を着ている。

口には猿ぐつわがしてあって、両手首に手錠を掛けられている。

女性は、取調室のデスクに、上半身を押さえつけられていて、下半身は、裸だった。

数人の、連邦の軍服を着た男たちがあたりを取り囲んでいる。

そして、その中の一人は、女性のお尻あたりに下腹部を当てて、打ちつけるように何度も動かしながら恍惚とした表情で笑っている。

デスクに押し付けられている女性があたしを見た。

目が、合った。

その表情は、苦痛と、憎悪と、恐怖にゆがんでいた。

彼女は、その絶望に満ちた瞳で、あたしを見つめた。その眼は、はっきりとあたしに、「助けて」と伝えてきた。

ハッとして息をのんで、視線を逸らせたら、今度は、腰を動かしていた男と目が合ってしまった。

 怖い。瞬間的に、全身に恐怖が走った。あたしだって、バカじゃない。あれがなんなのか、見ればすぐにわかる。

あたしは、とっさに駆けだそうと身をひるがえしたが、うしろで声が聞こえた。

 次の瞬間、強い力で髪の毛を引っ張られた。

「うぅっ」

「あーあー見られちまいましたよ、せんぱーい」

あたしの髪をつかんでいた男が言った。

「てめーがとっととドア閉めないからだろうが、新人」

「どうします?」

男たちは全部で3人。新人と言われた男と、先輩と言う男と、捕虜を犯していた男…。

 全身が震えていた。声を上げることすらできなかった。怖い、怖い…逃げたい。

でも、体震えて力が入らなくて、髪の毛をつかんでいる手を振りほどくことすらできない。

 先輩、と呼ばれた男があたしに近寄ってきた。ドン、とあたしを壁に押し付けると、顔を近づけてくる。

「曹長殿、曹長殿もご一緒しますか?」

カタカタと奥歯が震えて止らない。あたしは必死になって首を横に振った。

「そうですか、残念ですね…」

男は、あたしの胸を揉みしだくと、制服の襟元から中に手を入れてきた。怖くて、本当に怖くて、体が固まってしまう。

———アヤさん、アヤさん、助けて…助けて…助けて…

男は制服の中の下着の中まで手を入れてきてひとしきりあたしの胸を触ってから、首からかかっている認識票を引っ張り出して確認した。

「マライヤ・アトウッド曹長殿ですね、お顔も、お名前も記憶いたしました。どうか、他言なされぬよう、お願いしますよ。

 もし、他言されるようなことがあれば、どうなるかお分かりですよね?」

男はそう言って、制服の上からあたしの股を一撫ですると、道を開け、無言でここから出て行くように促した。

 あたしは…怖くて、怖くて…どうしたら良いかわからなくて、とにかく走った。

廊下を走って、階段を駆け上がって、管理棟から出た。どこに向かっていいかわからずに、とにかく走った。

走って、走って、走って、どこか安全なところに、どこか、身を守れるところに…


 気が付いたら私は、ダリルさんのいる格納庫に駆け込んでいた。

「おぉ、マライア。見つかったか、ケーブル?」

ダリルさんが、何か言っている。でも、意味が良くわからない。

 体が震えて、嗚咽が漏れる。怖い、怖い、怖い…。

その思いだけで、あたしは戦闘機のそばにあったカーゴに壁に隠れるようにして座り込み身を丸めた。

いつの間にか、自分でも気が付かないうちに顔をくしゃくしゃにして泣いていた。

「おい、どうした、マライア」

「なんかあったのか?」

フレートさんも来ていたようだった。

二人があたしのところに駆けつけてくれる。

 あたしは、もうワケがわからなくて、立ち上がってよたよた歩きながらダリルさんに手を伸ばしていた。

 ダリルさんが、その手を握ってくれる。

 その手の暖かさが、あたしの震えた体を少し緩めてくれる。

「おい、マライア、どうした?」

ダリルさんが、もう一度、優しく聞いてくれる。

———もし、他言されるようなことがあれば、どうなるかお分かりですよね?

脳裏に男の言葉が響いて来た。あの手の感触も、あの目つきも…まるでまとわりつくように鮮明に思い出される。

「や…いやーーーーーーーー!」

あたしはそのときになって初めて、声の限りに絶叫した。


 しばらくして、格納庫にはフレートさんに呼ばれた隊長と副隊長ハロルドさん、

そして、たまたま隣の格納庫にいた、よく作戦で一緒になるレイピア隊の女性パイロット、キーラ少尉が来てくれた。

 あたしは、キーラさんに肩を抱かれて、やっとすこしだけ落ち着きを取り戻していた。

隊長たちは黙ってあたしを見守ってくれていた。

 もう少しして、あたしは体の震えが止まった。

フレートさんが持って来たミネラルウォーターを、手にかけろと言うのでそれで少し手を濡らしてから、口に含んだ。

 ぐちゃぐちゃになった頭がもとに戻ってくる。

「マライア。しゃべれるか?」

隊長が落ち着いた声で言ってきた。あたしは、ゆっくりとうなずいた。

「なにがあった?」

———もし、他言されるようなことがあれば、どうなるかお分かりですよね?

また、声が聞こえたような気がして、一瞬体が震えた。でも…でも、し、心配してくれているし、は、話さないわけには…

 あたしは、キーラさんの手をギュッと握った。それから、お腹に目一杯の力を入れて声を出した。


「あ…あ、あたし、3階で…倉庫に行く廊下で…捕虜が、レ、レイプを…」

顎が震えて、喉がこわばって、声がうまく出ない。

「捕虜が、レイプされてるところを見たんだな?」

あたしはうなずく。

「そ、それで…胸と、とか、触られて…だ、誰かに言ったら、捕虜とお、同じこと…するぞ…って…」

そこまで言うと、隊長は座っていた機材から立ち上がってそばにあったバケツを思い切り蹴りつけた。

 ビクッと、体が震えてしまう。

 その衝撃で、脳裏に、あの捕虜の姿が浮かんできた。あんなところで、あんなやつらに、無理矢理…あんなことされて…

あの表情、あの目…助けてって…あたしに…でも、あんなのって…あんなのって…

 また体がガタガタ震えだした。

 そうだ、こ、怖かったんだ。し、仕方ない、仕方ないよね。

あれは間違ったことだけど、でも、力では勝てないし…逃げても良かったんだよね…あの子を残して…逃げてきても…

「た、隊長…」

あたしはそれも伝えなきゃと思った。隊長に伝えて、逃げてきて良かったんだって、言ってほしかった。



「あ、あたし、逃げてきたんですよ…怖くて、どうしようもなく怖くて…どうしていいかわからなくて…震えちゃってて…

あの子、あたしを見てたんですよ…隊長。助けてほしそうに…でも怖くて…

本当に怖くて、助けてあげられれば良かったですけど…あたし、逃げてきて良かったんですよね…

あの子、見捨ててきちゃったけど、よ、よかったですよね…?」

隊長は押し黙った。

 どれくらいの間だったろう。その間、隊長は何もしゃべらなかった。

でも、しばらくしてあたしのそばに来ると、しゃがみこんであたしの頭をくしゃくしゃっと撫でてくれた。



「ああ、逃げてきて良かったんだ。いつも言ってるだろう?ヤバくなったら、逃げるに限るんだよ。

だが、ただ逃げるだけじゃぁ臆病者だ。誰も何も守れやしねえ。一人で勝てないと思や、いったん逃げて援軍を呼びに行けばいい。

あるいは、逃げて隠れて、援軍を呼ぶ方法を考えりゃいい。俺たちはそれでいいんだ。だから、良く頑張った、マライア。

さすがはアヤの妹分、さすが俺たちの仲間だ。お前は今、必死で逃げてきて、俺たちへの援軍要請に成功したんだからな」


隊長は言った。それからギュッと力強い目をして立ち上がった。


「ハロルド、野郎どもを集めろ。銃を携帯させとけ。暗視装置も必要だ。それから車も。

ダリル!管理棟の電源に細工して、合図でいつでも照明落とせるようにセットだ。急げよ。

フレート!お前はすぐに管理棟へ向かって人間の出入りをチェックしろ。可能なら、目標の位置を確認しろ。

ダリルとフレートは無線をもってけ。MPの連中が出てきたら俺に連絡をよこせ。いいな!」

「了解」

副隊長に、フレートさんに、ダリルさんはそれぞれ険しい顔をしてそう返事をした。

それから隊長は気が付いたように、あたしの傍らにいるキーラさんを見て

「あー、カッとなって忘れてた」

とつぶやいた。

「私は何も聞いてませんよ、ユディスキン大尉」

キーラさんは、そう言って、悲しそうな顔を無理矢理に笑顔に変えた。


「フレート、そっちはどうだ?」

「出入りは確認できません。やつらのシフトだと、おそらくはあと1時間程度は中にいると思います。

ダリルとの連携で、監視カメラを見てましたが、地下3階から上にあがっても来ていません。おそらく、まだ取調室にいるかと」

「わかった。俺たちはすぐに向かう。そこで待て。ダリル、準備はどうだ?」

「電源の準備完了。システムじゃなく、周辺1区画分の幹配電盤に細工しました。漏電事故に見せかけられます。

管理棟の入り口から地下階への監視カメラは、フレートへの映像連携の際にすでにダミーの映像に切り替えてます」

「よし、フレートと合流して待機」

「了解」

隊長は顔を上げた。オフィスには、フレートさんとダリルさんを除く全員が集められていた。腰には拳銃。

首に暗視装置をかけ、頭には無線用のヘッドセットを付けている。

あたし達はこれから大変なことをしようといている。

「お前ら、今説明したとおりだ。覚悟はいいな!?」

全員、無言でうなずいた。

「ようし、アヤばっかりにいいとこ持っていかせるなよ!行くぞ!」

隊長の号令で、全員がオフィスを飛び出して、3台の車に分乗した。

あたしは隊長に、着いてくるな、と言われたけど、何とか呼吸を整えて「行く」と言い張った。

隊長はあたしの目をじっと見て、それから、許可してくれた。

 車は、5分もしないうちに管理棟のそばに着いた。3台を別々の場所に止めて、目立たないようにする。

管理棟に入るのも、表口と、裏口とに分かれた。地下へ続く階段は二か所あり、それぞれ建物の両端に位置している。

隊長の側にはあたしとダリルさん。向こう側の副隊長の方には、フレートさんとヴァレリオさんとがチームになっていた。

デリクとベルントさんは、外で車の警備と脱出時の回収役だ。

 「こちらA班、配置完了」

隊長が階段の途中まで降りて無線機にそう言う。

「こちらB班。こちらも準備完了だ」

ハロルド副隊長の声が聞こえた。

「時計合わせる。マークから10秒後に消灯する。5、4、3、2、1、マーク」

チッ、チッ、チッ、チッ、チッ、腕時計の針がの音が、シンとした階段ホールに響く。

チッ、チッ、チッ、チッ、チッ、隊長がダリルさんに合図した。


ダリルさんが発信機を操作するとすぐにヒューンと言う音がして、次の瞬間にはバツン、とあたりが真っ暗になった。

「行くぞ」

暗視装置を付けて、一気に階段を駆け下りる。

 地下3階も真っ暗。暗視装置の中は、緑の光で良く見えている。

 廊下に出ると、あわてた様子のあのMPの姿が見えた。何も見えていないようで手探りで廊下を進もうとしている。

隊長が走っていって、先頭にいた男を蹴り飛ばした。

「動くな!床に伏せてじっとしていろ!動くと発砲するぞ!」

廊下の向こう側からハロルド副隊長たちも到着している。

隊長の声を聴いて逃げ出そうと、反対側に走り出した男はハロルド副隊長に殴り倒された。

「9番、目標確保急げ」

隊長から指示が来た。

 9番は、あたしの隊の中での番号。あたしは、床に倒れた男を踏みつけて、取調室に侵入した。

中には、さっきの女性捕虜が、部屋の隅でうずくまっている。

「だっ、だれ!」

あたしの気配に気づいたのか、彼女はそう叫んだ。

「安心してください。助けに来ました」

あたしはそう言った。あたしの女の声に、すこし安心したのか、捕虜は手錠につながれた手を伸ばしてくる。

あたしはその手を取って彼女を立たせると、肩を抱いて支えた。それから

「こちら9番。目標確保」

と報告する。

「了解。3番、5番、6番は対象を拘束、連行せよ。B階段より裏口に抜ける。C班、裏口へ配車要請」

「こちらC班、了解」

隊長が、暗視装置の中で親指を立てた。撤退の合図だ。ハロルド副隊長が先頭に立って、小走りで廊下を掛ける。

ダリルさん、ヴァレリオさん、フレートさんが、手錠と猿ぐつわをつけさせた男を連行し、

最後にあたしと隊長で、捕虜の女性を連れて行く。

 階段を駆け上がって、裏口に出た。そこにはすでに3台の車がとまっている。

最初に決めておいた車にそれぞれ乗り込むと同時に、車は急発進した。


 あたしの乗る車は、隊長とあたしと女性捕虜に。あたしたちの車が先頭を走って、基地の外へ行くための営門に差し掛かる。

 警備兵が、車を止めた。

「大尉、外出ですか?」

警備兵はのんきに聞いて来た。

「あぁ。たまには隊の連中と外に食いに行こうと思ってな。うしろに続いてるのがそうだ」

隊長は後ろの2台を指差して言う。

「うらやましいですなぁー大尉のような人の下で働けるのは」

「よせやい」

「ははは。すぐ開けますんで、待ってくださいね」

衛兵が門を開けた。

「そう言えば、第4エリアで停電ですってね」

「らしいな。どうせまたネズミでも出たんだろう。ったく、こないだのジオンと言い、珍入者には困ったもんだ」

「ははは、違いないですね。お気をつけて!」

衛兵はそうって敬礼をする。隊長も敬礼を返して、車を出した。

 それからまたしばらく走って、車は洞窟の奥へと進んだ。

その方向には、先日ジオン軍が攻撃してきた際に、水中から侵入してきた別働隊が破壊した施設の跡地があった。

今は、立ち入り禁止になっている。隊長はそこで車を止めた。

 後続の2台も到着して、車から手錠で拘束されたMPたちが蹴りだされるようにして転がり出る。

MPたちは地面に固まって座り込むように集まったので、あたしたちは、MP3人を取り囲むようにして立って、見下ろした。

 うーうーうめく男がいたので、ダリルさんが猿ぐつわを外す。

「き、貴官らはなにをしているのかわかっているのか!?」

男が怒鳴ると、ダリルさんが男の顔面を真横に蹴りぬいた。

「ぐっ」

男がどさっと地面に倒れる。

 あたしは、小さく悲鳴を上げてしまった。体がこわばる。こういうのは正直怖い。見ていたくもなかった。

だけど、これは逃げてはいけない。助けだけ呼んでおいて、すべての責任を押し付けて逃げるようなことは、

とてもじゃないけど、できない。そんな思いだけが、あたしの脚の震えを止めて、その場に立たせていた。

 ふと気が付くと、あたしが肩を抱いていた捕虜の女性がふるふると震えていた。その瞳は怒りにみちている。

 それを見た隊長が、フレートさんにかぶりを振った。フレートさんは彼女に近づくと拳銃を差し出した。

女性捕虜は、フレートさんと隊長の顔を見比べている。それを見た隊長は、MPたちの方に手のひらをかざして促した。

「お好きなように。あんたがやらないんなら、俺たちでカタを付ける」

 そんな…いや、うすうす、分かってはいたけど…やっぱり、やるの?

 女性捕虜は、拳銃を受け取るとキッとMPに向けた。

「あーっと、待った」

それをダリルさんが止めた。やめさせようとしてくれるのか、と思ったら

「騒がれると、不快になる」

そう言って、自分が取った猿ぐつわを、もう一度MPに付け直した。

「邪魔したな。構わねえよ」

ダリルさんが言った。

 女性は、引き金を引いた。消音装置のつけられた拳銃が、バスっと鈍い音を立てる。

MP一人の脚に穴が開いて、血が噴き出した。

「んーーーー!」

MPはそううめいて、地面に転がった。

 やだ…あの人、死んじゃうよ…殺してやりたいヤツだけど、でも、こ、こんな、目の前で、こんな、無抵抗なのに…

でも、彼女はやめなかった。転がった男を踏みつけると、今度は反対の脚を打ち抜く。

次は両肩。

そして、股間を打ち抜いた。

猿ぐつわで悲鳴にはならないが、MPは絶叫していた。

 彼女は、撃ち抜いた股間を蹴りつけた。

両足を動かすこともできず、両肩を撃たれて腕を動かすこともできないはずなのに、彼女が蹴りつけるたびに、

傷口から血を噴出させながら体を丸めてうめいている。彼女の軍靴は血で汚れている。

 それでも、彼女は執拗に、銃弾で撃ちぬいたMPの股倉を蹴った。

蹴りつける鈍い音に、血がぬめる水音も交じって、聞くに堪えない。

猿ぐつわをしたMPの口からはもう、嗚咽のようにしか聞こえない、苦しみの声が漏れていた。

 散々蹴りまくった挙句に、彼女はとどめを刺さなかった。

その代わりに、次のMPに標的を変えて、また同じように脚と肩をと急所を打ち抜いて何度も蹴りつけた。

最後のMPにも同じことをした彼女は、今度は腹を狙って引き金を引いた。また、血が吹き出る。

 あんなに血だらけで、噴出させて、声にならない声を発してる…MPたちはおびえてる、苦しんでいる…

怖い、怖いよ、隊長、あたしやっぱ、これ見てなきゃダメかな…く、車に戻ってても…いいかなぁ…

正直、もう耐えられない状況だった。さっきまで何とか奮い立たせていた脚が、膝がガクガクと震える。


 彼女は、胸や頭を絶対に撃たなかった。腹や、脚や、肩や、股間に次々と銃弾を浴びせた。

やがてカチン、カチンと金属音が響いた。弾を撃ちきったようだった。

ダリルさんが自分の拳銃を抜こうとしたけど、それは隊長が止めた。


 弾がなくなっても、彼女は止まらなかった。拳銃を投げ捨てて、傍らに落ちていた拳二つ分ほどの岩を手にすると、

何度も何度も、執拗にMPの顔面へたたきつけた。メキ、メキ、グチャ、グシャ…そんな音があたりに響く。

あたしはついにその場に膝から崩れ落ちた。ダメ、こんなの…ダメ…全身を襲う震えと戦いながら、あたしは這って車のそばに戻った。

耳もふさいだ。目もふさいだ。ダメだ、見れない、見れない…怖い、怖いよ、こんなの…

 どれくらい時間がたっただろうか。耳をふさいでいたけれど、笑い声が聞こえた。彼女の、捕虜の声だ。

 あたしは思わず振り返ってしまった。

 彼女は笑い声をあげていた。まるで、可笑しくて可笑しくて転げまわっていそうなくらいの笑い声をあげていた。

でも、彼女はそうしているわけでもなくその場に座り込んで、血に染まったその顔は、号泣していた。

そうしながら、彼女は、先ほど投げ捨てた、空になった拳銃の銃口を自分の頭に突きつけて、

カチン、カチン、カチンと引き金を何度も引いている。

「限界だ。フレート」

隊長がフレートさんに言った。フレートさんは彼女にそっと近づくと、顔にハンカチのようなものを近づけた。

途端に彼女はくたっと脱力する。

それから、今度は、注射器を取り出して、消毒液で血液を洗い流してから、彼女の腕に突き刺して、中に入っていた液体を注入した。

「ベルント、ヴァレリオ、死体を川へ投げとけ」

「はい」

二人は返事をしてMPの死体をすぐそばを流れていた地下水脈へ放り込んだ。くすんだ色の水の中に、死体は消えて行った。

ゴボゴボと嫌な音をさせながら。

 フレートさんが彼女に何を注射したのかは知らないけど、いっそのこと、あたしにもおんなじことをしてほしかった。


とりあえず、つかみなので長めになりました、すみません。
お読みいただきありがとうございます!

股間、無事ですか?w

次回投下は明日夜の予定です!
引き続きよろしくお願いします^^

そういう意味で股間がやばいとは思わなんだ
むしろ隊長に惚れた

乙でした。

ところでユベールって誰だっけ?

>>308
無事でよかったw
ちょっぴり男臭い話になりそうですw

>>309
感謝!
ユベールは名前は初めて出ます。
かつてアヤを助けてくれた彼女のもう一人の灯台の「彼」です。

こんばんはー。

続き投げていきます!


 それから、あたし達は基地近くのモーテルへと向かった。

血に汚れた彼女を車からそそくさとバスルームに運んで、すこし意識が混濁しているようだったので、

あたしが体をきれいにするように、と隊長は言った。

正直、嫌だったけど…彼女をこのままにしておくわけにはいかないし、男である他の隊員にやらせるわけにはいかない。

 「頭、お湯かけるよ?」

彼女の体にバスタオルを巻いたあたしはそう言って、シャワーで彼女の髪を濡らす。シャンプーは3回した。

それから、手やなんかもスポンジでこする。こべり着いたMPの血液は簡単に落ちず、落とすのに苦労した。

最初はホントにもうろうとしていた彼女も、途中から、意識が少しはっきりとしてきて、

この状況に戸惑いながらも、自分で血を洗い流した。

顔の血液を取るのには、スポンジでゴリゴリ削るようにしなければならなかった。

 あたしもそう感じていたが、彼女もまた、その血液を、まるでおぞましい何かを、洗い落とそうとしているかのようだった。

正直、胸にいやな感じが、ずっとこみ上がっていた。

洗い流した血が跳ねて着いてしまったような気がして、

すぐにでも制服を脱いで、あたしも同じくらいに体を洗いたかったけど、我慢した。

 なんとか彼女の体からは血のにおいが消え、あたしと一緒にバスルームを出た。

脱衣所には、どこで仕入れてきたのか、女性物の服が一式揃っていたので、

彼女にそれを着せて、あたし達は部屋へと出た。

 部屋にはすでに、隊長と、それからフレートさんしかいなかった。


「他のみんなは?」

あたしが聞くと、隊長は

「だいたい、帰した」

と肩をすくめて言った。それから

「まぁ、座れや。話をしよう」

とあたしと女性捕虜に腰掛けるよう、促した。

「あーお嬢さん、俺は、レオニード・ユディスキン。今日、君を助けに入った部隊の隊長をしている。

 こいつは隊員のフレート。そっちのはマライアだ」

隊長は、自己紹介をして、フレートさんとあたしも紹介する。

それから、意識してだろう、落ち着いた雰囲気で

「そっちは、名前は?」

と彼女に聞いた。

 彼女は、最初、パクパクと口を動かそうとして、戸惑って、ためらって、目をつぶって大きく深呼吸をしてから

「ソ…ソフィア・フォルツ」

と名乗った。力のない、消え入りそうに小さな声だった。

「そうか、ソフィアさんだな」

隊長はそう言って笑った。

 ソフィアは、体を小さく丸めてこわばらせ、警戒をしている。

隊長にそんなことする必要もないのに、なんて思ってしまう。




 コンコン、とドアをノックする音。

 ソフィアがビクッと体を震わせた。

ソフィアが急にビクッとなるのであたしもビクッとしてしまった。

お、驚かせないでよね…。

 フレートさんが玄関の方に行って、外を確認してからドアを開けた。入ってきたのはヴァレリオさんだった。

手には大きな紙袋を抱えている。よく見れば、それはファーストフード店の物だった。

「隊長、すません、こんなもんで良かったっすか?」

ヴァレリオさんは隊長を見やって言う。

「あぁ、上等だろ。だーれも高級ステーキ肉とか、シーフードのスパゲティなんて注文しちゃいねえよ」

隊長はそう言いながら袋を受け取った。

「ほいじゃぁ、ヴァレリオさんは早くここから出て行け、俺たちのお姫様を怖がらせちまうからな」

「んなっ!お、俺だって状況くらいわきまえます!」

「状況をわきまえられるやつが、アヤにそう何度もタマ蹴られるわきゃぁねえだろ」

隊長はそんなことを笑って言い、それから

「基地に戻れ。ハロルドに次の行動を指示してある」

と言ってヴァレリオさんを送り出した。

「飯にしよう。2、3日は、ロクに食ってないんじゃないか?」

隊長はそう言って、テーブルの上に袋の中身を開けると、テーブルごとこっちへズズズ、と押しやってきた。

 ソフィアは隊長の顔とあたしの顔を見る。あたしがうなずいてやると、おずおずと、ハンババーガーの包み紙に手を伸ばした。

「マライア、お前も食っとけ」

隊長がそう進めてくれる。

 でも、正直、さっきのあれを見て、こんな味の濃そうなのが喉を通っていくような気がしなかった。

「あぁ、えと、はい」

返事はしてみるものの、食欲なんて、起きてくるわけもない。

あたしは困って、とりあえずジュースの入っていた紙コップを手に取って、ストローでちゅーちゅーやっていることにした。

 ソフィアは、最初は戸惑いながら、ハンバーガーに口を付けた。

一口、二口…三口。すると、それまで色を失っていた彼女の目が、次第に生き返り始め、潤み、ぽろぽろと涙を流し始めた。

彼女はそれからも、無我夢中と言った様子でハンバーガーを口に運ぶ。その姿は、なんだか獣みたいだった。

 だけど、その様子が、かえってあたしの心を締め付けた。

あたしは、あれだけのことで、あいつらに脅されただけであんなに怯えてしまったんだ。

彼女は、実際にレイプされていた彼女は、いったい、どれだけ怖かったんだろう。どんなに苦痛だったんだろう。

ふと、あの場面が目に浮かんできた。彼女の表情が、浮かんできた。

 それを思えば、こんな獣みたいな雰囲気もまだマシに思えた。

あのときの彼女は死を懇願しているようにも見えたけど、今は、こうやって貪欲に生へしがみつこうとしているんだ。

 ハンバーガーを2つと半分、フライドポテトを1箱、それから、ちょっと温くなってしまったオレンジジュースを飲み干した彼女は、

手を止めて、急に泣き始めた。

 あたしがびっくりして背中に手を当てると、一瞬ビクッとなったけど、

でも、それからは体をもたせ掛けてきて、あたしの胸に顔をうずめてきた。

こうしていると、まだ、体が小刻みに震えているのが感じられた。


 それから彼女はしばらく泣き続け、やがて落ち着いて、ベッドに座りなおした。

「あの…感謝しています」

彼女はそう言って、頭を下げた。

 トーンの低い、芯の通った、きれいな声だった。

「ははは、まぁ、礼なら、そっちのマライアに言ってやってくれ。そいつが俺らに助けを求めたんだ」

隊長は言った。でも、隊長、あたしは…あたしはただ怖かっただけだよ。

隊長は、援護を呼びに来た、偉かった、って言ってくれたけど、でも、本当はそんなこと、これっぽっちも考えてなかったんだよ。

あたしはただ、この子のことより、自分が怖くてあそこから逃げてきただけなんだ…

自分が怖くて、あたし自身が助けてほしくて隊長たちにこの話をしただけなんだ。

 それなのに、ソフィアは

「うん、あなた、あの部屋の前を通った人よね。ありがとう、助けを呼んでくれて」

なんてあたしに言うのだ。

「う、ううん」

そう言うくらいしかあたしにはできなかった。

 「で、これからの話だ」

隊長が改まって言った。

「ソフィアさんとマライアはあと2日、このモーテルを一歩も出るな。

 食事やら、必要なもんはフレートかヴァレリオに届けさせるから連絡をしろ。2日後に迎えに来る」

2日後?2日後にどうするつもりなの、隊長は?

「2日後に何があるんですか?」

あたしは隊長に聞いた。

「んん?そりゃぁ、お前、このままソフィアさんかくまってるわけにはいかねえだろう?俺たちもやんだよ!」

「や、やるって…?」


「ボイル大佐に北米侵攻作戦への参戦に立候補するってのは伝えてあったが、昨日出立の日時が決まったんだ。

 あっちにゃぁ、アヤも向かってるだろうしな。どっかで落ち合えるかはわからんが…。

 だが、転戦にかこつけてなら、安全にソフィアさんを北米に送ってやれる」


隊長は言った。それは…それはもともと、アヤさんを支援するために大佐に上申したことだ。

あたし達は北米に向かって、アヤさんの支援するつもりだったけれど、これであたし達にもやらなきゃいけないことができた。

彼女を、ソフィアを無事にジオンのところまで送り届けないと、

もし一緒にいるところを見つかって、捕虜逃亡の手助けが発覚してしまえばどうなるかわからない。


「私を、北米に?」

「あぁ、ひどい目にあったんだ。帰りたいだろう?故郷に。せめて、味方のいるとこまででも、送ってやるよ」

隊長が言うと、ソフィアさんがまた頭を下げた。また、体が小刻みに震え始める。

あたしは彼女の背中を撫でながら、全く別のことを考えていた。

 こんなんで、良かったんだろうか。

これじゃぁ、これじゃぁまるであたしが…あそこで、一人で戦えなかったあたしが、

まるで、みんなを巻き込んでしまったみたいじゃないか。

 そうか、だからアヤさんは一人で、誰にも、何も言わずに行ったんだ。

こうなっちゃうことがわかっていたから、あたし達に迷惑を掛けないように、一人で全部こなしたんだ。

 それに比べて、あたしは…ひとりでそんなことをする度胸もない…頭も良くない…怖がってばかりだ、今だって怖い。

もしこのことが軍にバレたら、本当に裁判なんて待たずに処刑されてもおかしくはないんだ。

 自分が弱いばっかりに、自分が何もできないばっかりに、自分が怖さで動けなくなってしまったばっかりに、

みんなを、こんな目にあわせてしまった…あたしは…あたしは、この隊で何もできてないじゃないか。

みんなが守ってくれるのを待っているだけで、あたしが何かを誰かにしてあげられたことなんて一つもない。

そればかりか、迷惑を積み重ねてしまって…何をやっているんだろう、何をやっていたんだろう、今のいままで…

 あたしは、そんな自分が情けなくなって、悲しくなった。でも、そう感じているだけで、不思議と涙は出てこなかった。

そのことすら、まるで自分が半人前のように感じられて、悔しさがこみあげてきていた。


 その日は、あたしとソフィア、そしてフレートさんがモーテルに泊まった。

フレートさんはずっと起きていたようで、拳銃を片手に、ソファーに腰掛けてずっとあたし達を見守ってくれていた。

いつもダリルさんや副隊長とふざけまくっている人だけど、まるで戦闘の時以上に、凛々しくて、頼もしく思えた。

 ソフィアは、昨晩、話が終わった後、すぐにフレートさんにまた注射を打たれて、倒れるようにして眠った。

あたしも、散々な一日を忘れたい一心で、とにかく眠った。

 朝ごはんを食べ終わった頃、フレートさんの交替でダリルさんがやってきた。

フレートさんが出る間際、必要なものがないかを尋ねてくる。

 あたしは、数回分の食事の材料と、それから着替えを頼んだ。他に必要なものは…と考えていると、ソフィアが言った。

「あの、お酒、もらえませんか?」

彼女は、目覚めて、朝食を食べても、まだ憔悴しきった感じがある。

気付け程度に飲むにはいいだろうな、って、フレートさんは言って、モーテルの売店で缶ビールを数本買ってきた。

残りは、次の交替のベルントさんが持ってきてくれると言って、モーテルを出て行った。

 ソフィアさんが、缶ビールの栓を開けてあおる。その途端、ゲホゲホとむせ返り始めた。

「おいおい、そんなに慌てっからだ」

ダリルさんがそばに近づこうとすると、ソフィアはビクッと体を震わせて、壁を背にするようにして身を引く。

 その姿を見たダリルさんは、身動きを止めた。

「ご、ごめんなさい…わかってはいるんですが…ち、近づかないで、もらえますか?」

ソフィアは言った。ダリルさんは大きなため息をついて

「すまない。配慮が足りなかった」

と謝った。

 あんな体験をしたんだ。人が、特に男の人が怖くなっても当然だろう。

特に、ダリルさんのように体が大きい相手は、きっと怖いと感じてしまうはずだ。

頭ではわかっていても、心や体が、逃げ出してしまうような…

まるで、あたしが怖くなったとき、どうやっても、全身が震えだしてしまうのと同じように。

 ダリルさんは、フレートさんがしていたように、ソファーに座ってじっとしていた。

もしかしたら、フレートさんはこのことがわかっていて昨日の夜、そうしていたのかもしれない。

 ソフィアはビールの缶をつぎつぎ空にしていった。フレートさんは6本買ってきてくれたけど、もう30分の間に4本目に入っている。

 最初の2本までは普通に飲んでいたのに、3本目を数えるくらいから、まるで何かに憑りつかれたようにして缶をあおりだした。

 それは、まるで昨日、MP達を殺した後、高笑いしながら泣いて空の拳銃で自分の頭を撃っているときと同じように、

壊れてしまっているようだった。

 ど、どうしよう、と、止めた方が良いのかな…でも、なんか、触れちゃいけない感じがするし…

それに、どうやって声を掛けたらいいか。その、変に近づいたら、何かされちゃうんじゃないかって感じるくらいで、空恐ろしい。

 6本全部飲み終えても物足りないのか、空き缶の中に残っているわずかな量も飲み干そうと、缶に口をつけてズズズとすすっている。

常軌を逸していた。

 あたしは、そんな彼女が怖くなって、いつの間にか部屋の隅で自分の体を抱いて震えていた。


 お昼ごはんを食べ終えたころ、ベルントさんが来た。

食材とお酒を持ってきてくれた。ベルントさんが来てすぐに、ダリルさんはベルントさんを連れて外に出て行った。

たぶん、ソフィアが午前中どうだったのかを説明しに行ったのだと思う。

 ソフィアは、ベルントさんが持って来た荷物にお酒を見つけると、無我夢中でその栓を開けた。それは、ウィスキーの瓶だ。

いくらなんでも、あれを一本飲んだら、体までおかしくしてしましそうだ。

 と、とめないと、まずいよね。急性の中毒とかってのもあるし…でも怖い、けど…

だけど、ここで彼女に何かあったら、あたしの責任だ。

みんなが、命を懸けて助けた彼女をあたしはまた見殺しにしようとしているのかもしれない。

 勇気…勇気出さなきゃ…

 「ね、ねぇ、そ、そんなに飲んだら、体に毒だと思うな…」

あたしは声と勇気を振り絞って彼女に言った。すると彼女はあたしを見上げた。

「黙って。飲まないとやってられないんだ。ほっといて」

彼女は、座った目をして言った。ダメだ、怖気づくな…

「だ、だって、せっかくた、助かったのに、そんなんで体壊したら…」

「あぁん?」

あたしがそこまで言うと、彼女そう唸ってすくっと立ち上がった。ずんずんとあたしの方に詰め寄ってくる。

「誰が、助けてくれって、頼んだよ。ほっといてくれてよかったのに」

彼女はそう吐き捨てた。

 なに、それ。なによそれ。どういう意味?あなたのせいで、あたしがあんな怖い思いしたんじゃない。

あなたのせいで、今、あたしの、アヤさんの大事なこの隊が、どんな状態になってるのかあなたわかってるの?

隊長たちはこうなるってわかってた。みんな、逃亡生活を覚悟して、あなたを助けた…なのに、なによ、それ。

 許さない…取り消してよ。それは、そんなのを言うことだけは、あたし許さない!



 気が付いたら、あたしは、ソフィアの頬を力いっぱいひっぱたいていた。

「この!」

ソフィアが飛びかかってきた。あたしはそれに受けて立った。とにかく、あたしの中で何かがはじけとんで、怒りに我を忘れていた。

 ソフィアは全身であたしを床に押し倒した。倒れたあたしはソフィアのお腹に脚をかけて、思いっきり蹴り飛ばす。

ソフィアが体の上から飛んで行ったので今度はあたしがとびかかって彼女を押さえつけようとする。

彼女の平手が飛んでくる。左頬に痛みと熱感がほとばしる。

 この…!

あたしももう一発張り返してやった。今度は、ソフィアの拳が飛んできてあたしのこめかみをとらえる。

痛みと衝撃であたしは思わず頭を押さえた。ソフィアは私の下から這い出るようにして私の髪の毛を引っ掴んでくる。

もう、この女を許さない!

 あたしはそのままソフィアにタックルをしてまた床に倒しこんだ。

彼女の拳や平手が飛んでくる。飛んできた分、おんなじ物をソフィアに浴びせかける。

お互いに髪の毛を掴み合い、組み合ったまま、床をごろごろと転がりながら殴り合う。

 もはや、痛みすらなかった。感情がとめどなくあふれてきて、とにかく、こいつをめちゃくちゃにしてやりたかった。

 あたしが馬乗りになって、彼女の両腕を押さえつけた。ソフィアは脚をばたつかせて抵抗するが、逃がすもんか!

しかし、ソフィアはあたしの腕を押し上げるようにして体を起こしてくる。

あたしも上から圧し掛かって抑えようとするが、腕をぶんぶんと振られて思うように力が伝わらない。

ぎゅっとつかんでいた手が、腕から外れてしまった。今度は逆に彼女に手首をつかまれる。

 そして彼女は、あたしの手首を思い切り引っ張って、


あたしの手を、彼女は自分自身の首にあてた。



「殺してよ!」



彼女は叫んだ。

———え…なにを…

「ねぇ、殺して!…お願い…殺して…殺して…!」

 あたしは思わず腕を引こうとした。でも、彼女はあたしの腕を離してはくれない。



「ねぇ、お願いだから…もう、もう、生きてられないよ、私。あの人に薬打ってもらって、

 寝ていてもあいつらの顔が浮かんじゃうんだよ…あなたの作ってくれたごはん食べてても、昼間テレビを見てても、

 忘れられないんだよ私。一日に何度も何度も、あの場面が頭の中で繰り返されるんだよ…

 もう、ダメだよ。ねぇ、お願いだから!」


グッとソフィアの手に力がこもり、手が首に押し付けられる。

 あたしは、半分怖くてとにかく手を引っ込めようと引っ張り返す。


「お腹の中が気持ち悪いんだよ…ウジが湧いて体食い破って出てくる夢見るんだよ!

 殺したあいつらが、それでも迫ってきて、動けない私を犯すんだよ!頭んなかでさぁ!!

 もう無理だよこんなの…体も心も汚されて壊れちゃったんだよ…生きていたくないんだよ…もう…。

 どうにもなんないよ…ジオンに戻っても、どこへ逃げても、この心と体は治んないよ…だから、だからさぁ…」


彼女は全身を激しく震わせ始めた。手の力が抜けてきて、引いていた腕がするっと抜ける。

 彼女は顔を覆って泣き始めた。

 あたしは、彼女に馬乗りになったまま、まるで胸の真ん中に刃物でも突き立てられたような気分だった。

 あたしには彼女を慰めることができなかった。彼女を撫でてあげることも、抱きしめてあげることも、手を握ってあげることも、

大丈夫だと囁いてあげることさえも。

 ただただ、あたしは彼女に馬乗りになりながら呆然とするしかなった。自分の無力さを、ひたすらに呪いながら。



今回は以上です!

全体的に話がちょっぴりハードですね…
アヤレナみたいなのを期待してくださってた方、申し訳ない。

次回アップは明日の夜にあげられればいいな、と思います。

今日もお読みいただきありあがとうございました。

あ!それと、twitterフォローも感謝です!

乙!
ハンババーガーのインパクト強すぎてもうダメだ

>>322
大事なシーンでなんて誤字をwwwwww

やばい、ハンババーガー見直したらコーラ噴いたwwwwwwww

重さとかどっかいっちゃったwwwwwwww

>>324
見直さないで///

>>325
ス、スルーしてっ!おまいらのスルースキルならできるはずだ!///

こんばんはー!

続きアップしていきます。
誤字脱字はチェックしてないんでスルーで!www


翌日、あたし達はジャブローから北に100キロほど行ったところにある空港にいた。

朝早くに隊長の車が迎えに来た。隊長はソフィアに、大きな段ボール箱を用意していた。

こんなので大丈夫なのかと心配したが、

隊長の私物だ、と言ってダリルさんとフレートさんが移送用の飛行機の機内に運び込んでも誰も何も言わなかった。

それもそのはず、兵員輸送のためだけの小型飛行機。定員は30名程度。

そのうちの8名はあたし達オメガ隊、10名がキーラさん達のレイピア隊、

あとの残りは個人単位で志願した顔も良く知らない兵士たちだ。

ジャブローの将校たちは、自分たちの守りを手薄にしたくないようで、ジャブローからの派遣はほとんどないのだという。

でもたとえばオメガ隊やレイピア隊の直接の上官であるボイル大佐のように、

旗下の部隊を前線に派遣して功と実績を作ろうと考える者もいる。それで、この程度の増援だ。

オメガ隊とレイピア隊で座席を固まって占拠して、その隅の方にダンボールを置いた。

隅、と言っても、あたしとキーラさんの間の席にドカンとおいて、

挙句には隊長が「息苦しいだろ」と封を開けてしまったりしていたのだけど。もう、我がもの顔だ。

隊長はどうやら、今回のことをレイピア隊の女隊長、ユージェニー・ブライトマン少佐にも話していたようだ。

ユージェニー少佐は、うちの隊長とずいぶん古い仲らしく、それこそ、色っぽい噂があったりなかったり…いや、確実にあったりする。

 それから、大事な情報として、日ごろモビルスーツの操縦訓練を受けていたオメガ隊とレイピア隊に、

北米ではモビルスーツが配備されるらしい。正直、あたしは飛行機よりも苦手で、あまり乗りたくはないのだけど。

 ソフィアは隊長に箱の封を開けてもらってからは、ぼーっと虚空を眺めていた。

 昨日はあれから、フレントさんとダリルさんが部屋に戻ってきて見たあたし達の状態に驚いて、急きょ隊長が呼ばれた。

あたしもソフィアも顔はアザだらけ。

ソフィアは延々と泣いているし、あたしは放心しているし、で、相当難儀したようだったが、

その時にやってきたのがキーラさんともう一人、レイピア隊のリン・シャオエン少尉だった。

あたしはそのときには、ソフィアのガードができないと判断されて降板。自宅で出撃の準備をさせられた。

 特に悔しいとも思わなかった。いや、無力だな、とは感じていたけれど、それ以上にソフィアのあの様子が頭から離れなかったからだ。

あたしには何ができるのだろう、何をするべきだったのだろう、これからどうしていくべきなのだろう、

そんなことをとりとめもなく考えていた。

 そんなときに浮かんだのが、やっぱりアヤさんの顔だった。

アヤさんなら、どうするかな、アヤさんだったら、こんな状態のソフィアにどんな声をかけてあげるんだろう、

何をしてあげるんだろう、そんなことを考えていた。

時々、その思考から逸れて、アヤさんが助けてくれたのが、今一緒にいる人ではなくて、ソフィアだったらよかったのに、

なんてことも考えてしまって、あたしはそこに行きついてしまうたびに頭を振って、それを追い出した。

だってそれは、一緒にいる自分が何もできないから、全部をアヤさんに任せてしまいたいと思うあたしの甘えでしかないんだから。

 「あのーフレート?」

そんなことを考えていたら、周りの隊員たちと談笑していたキーラさんがフレートさんの名を呼んだ。

「なんだよ、キーラ?」

「あのね、さっきからヴァレリオ曹長が後ろの席から口説いてくるんだけど…」

「えぇぇ?!」

キーラさんの言葉に、後ろに座っていたヴァレリオさんが絶叫した。

「なんだと!ヴァレリオ!お前いい加減にしろ!」

フレートさんが声を上げる。

「い、いや!お、俺何も…!」

「あとね、ちょいちょいボディタッチしてくるんだよ。なんとかしてくれないかなぁ?」

「な…お、お前!麗しのキーラ少尉に触ったのか!?」

フレートさんが大げさに言う。あぁ、始まったな…あたしはそこまでのやり取りだけで苦笑いが漏れた。

段ボールの中でソフィアはきょとんとした顔をしてそのやり取りを聞いている。

「俺なにもしてないぞ!?」

「む?ヴァレリオ被告は容疑を否認するというのか?!おい、被告弁護人!どうなっている!?」

フレートさんがそう言ってデリクを指差した。なるほど、今日はそんな感じの茶番ですか。


「えーおほん。確かに被告は、常習的に異性に対する過度な接近をする部分があることは認めますが…

 今回の事案については、弁護の余地がありません。ただ、極刑はあまりにも厳しい!

 せめて裸踊りの刑が妥当ではないでしょうか!?」

デリクが真剣な顔つきで訴えた。

「てめぇ!デリク!」

「ふむ、では、ダリル裁判長。検察側の質問は以上です」

フレートさんは今度はダリルさんに話を投げた。ダリルさんも大げさに厳粛な雰囲気で

「よろしいでしょう。それでは、これより判決を…」

「おかしいだろ!俺はまだなんもしてないぞ!」

ダリルさんの言葉を遮ってヴァレリオさんが悲鳴を上げた。いや、「まだ」ってどういうことよヴァレリオさん。

「被告は不服があるようですね。それでは、ここは客観的立場にある陪審員からの意見を拝聴することとしましょう」

ダリルさんはそう言って立ち上がると、あろうことか段ボールの中のソフィアさんの顔を見つめた。

「陪審員の判断をお聞かせ願えませんかな?」

ダリルさんは言った。

 ソフィアは、それはもちろん、きょとんとしてあたしとキーラさんの顔を交互に見つめる。

て言うか、そういう性的な事件の陪審員にこの子を使わないであげてよ…

「え、えと、前科はどれくらい?」

ソフィアはあたしに聞いた。

「まぁ、分かっているだけで10件以上のナンパは確実だよ」

あたしが仕方なく答えてあげると、ソフィアは厳しい顔をして

「極刑がふさわしいと思います」

と小声で言った。

「なにぃぃ!?」

ヴァレリオさんが悲鳴を上げる。


「では、判決を言い渡します。被告を、飛行機からパラシュートなしのスカイダイビングの刑に処す!

 カンカン!これにて閉廷します!」

カンカンて、口で言ったよダリルさん。

 判決を聞くや否や、オメガ隊の隊員と、レイピア隊の男性隊員たちが一斉に立ち上がってヴァレリオさんを頭上高く持ち上げた。

「お、俺はやってないぃぃ!言いがかりだ!じょ、上告する!」

「む、被告は上告するとおっしゃっていますが…どうですか?」

フレートさんがダリルさんに言う。

「ふむ、では最高裁判所の判事殿に判断をゆだねましょう。最高裁判事、判決をお願いします」

そう言ってダリルさんが頭を下げたのは、もちろん隊長だ。

「被告の上告を棄却。ダリル裁判官の判決通りに刑を執行せよ」

隊長もノリノリで答えた。

「そ!そんな!」

「うおーい!野郎ども!やっちまえー!」

フレートさんがそう言って隊員たちをけしかける。

「うぉー!」

隊員たちもノリノリでヴァレリオさんを運び出そうとする。て言うか、どこに連れてくつもりよ、こんな狭い機内で…。


 それにしたって。あたしは、こんな状況でもこんなおふざけをしているみんなに半ばあきれてしまっていた。

目立ってしまったら危ないし、ソフィアに喋らせるなんてもっての外だ。もう、苦笑いも漏れない。

「こらこら、ボクちゃんたち、他の隊から来てる連中もいるんだ。おふざけも大概になさい」

不意に、ユージェニー少佐が無表情でそう言った。

 全員の動きがとまる。

「お、おい、レイピアの。マダム・ユージェニーがやめろとおっしゃっているぞ」

「そ、そうだな、おい、マズイぞ。な、オメガの野郎ども、やめよう。早くやめて席に座った方が良い」

「え、少佐ってそんな感じなんすか?怖いんすか?」

「バッカ、お前!少佐は師団の中でも、怒らせたらアヤの次くらいに怖いんだぞ!」

「え…アヤさんの次って…ヤバいじゃないすか」

「よ、よーし、野郎ども!おふざけは終わりだ!席について…カ、カードでもしようじゃないか!ポ、ポーカーなんかどうだ!」

「お、おう!」

隊員たちは一斉に返事をして、ヴァレリオさんを床に投げ落とすとゾロゾロと席に戻っていった。

 床に転げたヴァレリオさんを、ソフィアが見ている。それに気づいたのか、ヴァレリオさんはまるで泣きそうな顔で

「お、俺はやってないんだ…」

とだけ言い残して床に突っ伏し、その…なぜか息絶えた。

 「ふふっ」

———え?

 笑う声がしたので、ソフィアを見やると、彼女は、笑っていた。正直、おどろいた。

一昨日はボロボロに壊れていて、昨日は、あんなに錯乱していたのに…こんな危険な、緊張しっぱなしでもおかしくない状況なのに…

いや、こんな状況でのおふざけだったからなのか、わからないけど、でも…。

少なくとも、助け出してから、初めて、ソフィアの笑顔を見た。

まさか、ソフィアを和ませるために、なんてことは思わないし、たぶん、ただ単にふざけたいだけだったんだろうけど…

でももしかしたら…もしかしたら、みんなは、やっぱりソフィアのことを?

 それから半日ほどのフライトで、飛行機は北米大陸の南、テキサスにあるヒューストンという街に着いた。

軍港もあって、連邦軍の軍艦が何隻も停泊していた。

おそらくあの軍艦で、あたし達の隊に配備されるモビルスーツも運ばれてきているのだろう。

 ここから先は、連邦からソフィアをかくまいながら、ジオンと戦わなきゃいけない。

レイピア隊が協力してくれるにしても、厳しい生活になるだろう。

正直、隊の誰かが死んでしまうようなことになりはしないかと思い、恐怖を感じていた。


 澄み渡る空、輝く海、遠くに広がる白い砂浜に、潮の香りのする風。どれもジャブローにはないさわやかさがある。

ここはヒューストンにあるヨットバーバーのはずれ。

道路の向こう側にはオメガ・レイピア両隊の野戦キャンプ地が設営されていた。

 昨日北米についたあたし達は、現地の士官に戦況説明を受けた。

なんでも、ジオンの撤退活動は極めて早く、重要拠点を除いた地域からの撤退はほぼ完了しているとのことだった。

つまりは、北米大陸において、現在戦闘が行われているのはキャリフォルニア周辺のみ。

東海岸はヨーロッパ戦線からの連邦部隊によってそのほとんどが制圧されているらしい。

でも、北米攻略の最初の攻撃目標となったキャリフォルニアベースが、この戦況になってもまだ持ちこたえているということは、

やはりジオンの底力は侮れない。

 隊長はその士官に前線への出撃を上申したけど、受け入れてもらえなかったようだった。なにしろあたし達はここでは外様。

これまでこの戦線で戦い抜いてきた部隊にキャリフォルニアベース奪回の功をこんな段階でやってきたあたし達に任せるわけもないし、

なによりあたし達は地球連邦軍本部、ジャブロー防衛軍お抱えの部隊だ。

前線に投入して消耗させてしまえば、本部への聞こえが悪いというのも事実だろう。

 そんなわけで、幸いあたし達に与えられた任務は目下、西海岸へ向かう道中にある街でのジオン兵残党捜索および逮捕という、

前線の危険とはくらべものにならないような任務だった。

 事前情報通り、モビルスーツは配置されたが、それもオメガ・レイピア各隊に3機ずつの量産機。

そのほかには、輸送用のホバートラックが3台。本当に前線で戦闘をさせる気はないようだ。

 あたしは安心していたけど、でも、隊長は違った。

今は、ソフィアのこともあるし、何よりアヤさんは必ず徹底抗戦をつづけているキャリフォルニアベースに飛び込もうとするはずだ。

こんなところで敵兵探しをしていてはソフィアをジオンに引き渡したり、アヤさんを支援するどころの話ではない。

 そんなことで、今日はそろそろ西海岸に向けて進む。敵兵捜索をしながら、一刻も早く、西海岸周辺にたどり着かなきゃいけない。

そう言った隊長の表情は、珍しく焦燥感が見て取れた。

 不意に足音が聞こえて振り返ると、ソフィアがいた。彼女は黙ってあたしの隣に立つと、しばらくしておもむろに腰を下ろした。

 ソフィアとは、飛行機の中でヴァレリオさんの「前科」の話を除いて、一昨日の殴り合いの後から一切口をきいていない。

あたしとしては怒っているとかそう言うのでは、何を話すべきなのかわからないというのが本音だった。

何を話したって、彼女を救うことはできない…あたしには、そんな確信があった。

 「あのさ」

ソフィアが口を開く。チラッと彼女の方を見た。

「殴って、ごめん。痛かった?」

彼女はそう聞いて来た。

「まぁ…そりゃぁ痛いよ。でも、痛かった、ただそれだけ。大したことじゃないよ」

あたしは答えた。そりゃぁそうだろう。ソフィアがあいつらにされたことに比べたら、あんな殴り合いなんてただのケンカだ。

ただ、痛いだけで、大事な何かが傷ついたわけでもない。

「こっちも、ごめん。けっこう思いっきりやった」

あたしも謝った。でも、ソフィアは

「ううん。あんまり効かなかったし、大丈夫」

え、なにそれ、ここへきてまた挑発?またケンカ売ってんの、この子は?

 そう思ってぱっと見つめた彼女は、驚いたことに笑っていた。そんなあたしを見るや彼女は

「ウソよ」

と言って、また、笑った。


それから彼女はふっと海の方へと視線を投げた。

 「私ね。ジオンへは戻らない」

ソフィアは不意に口にした。

「え…?」

「もう、ジオンへ戻っても、なにもできないなって、そう思う。知っている人たちがいるところに戻っても、

 たぶん私は、自分が汚れているのを自覚してしまうだけ。それはきっと苦しいだろうから、もう戻りたくないんだ」

そんな…だって、隊長は、あなたをジオンへ送り返すためにここへ来ることを選んだのに。隊のみんなだってそうだ。

もちろんアヤさんのともあるけど、だけど、あなたは、みんなが危険を冒してまで助け出したんだよ?

 あたしはまたカッとなりそうだった。でもソフィアは続ける。


「助けてもらったことは、本当に感謝している。

 あいつらに、私っていう存在の価値は壊されてしまったけど、あなた達が助けてくれて、私は人間としての価値は壊されないですんだ。
 それはそれで苦しいんだけどね。人間として生きようと思う、でも、じゃぁ、自分がどんな人間かって考えたら、

 そこにいるのは、バラバラに壊されて汚された私の残骸が転がっているだけだから。そしてそれは多分、二度と元には戻らない。

 だから、どこか、私のことを誰も知らない場所で、静かに隠れていたいと思う。

 そうすれば、私は私がどんな存在かなんて考えなくて済む。

 もしかしたら、この汚れて砕かれたバラバラの私の上に、新しい私を作ることができるかもしれない。

 まぁ、今はそんな気、全然しないけどね。先のことなんてわからないし…。だから、今日中にこの隊からも出ていくよ。

 私がいたら、皆さんに迷惑を掛けちゃうから」
 
 まさか…ひとりで逃げるっていうの?連邦軍から、あたし達に迷惑をかけないために?

昨日お酒を飲んであんなに錯乱していた彼女が、一人でやっていけるの?も、もしかして、やっぱり死ぬ気なのかな…?

それは、ダメ、ダメだけど…でも、か、彼女がい、いなくなれば、私たちは…

いや、そんなこと、考えてはダメ。あたしは頭を振ってその思考を吹き飛ばした。違う、そうじゃない、止めなきゃダメだ!




「ひとりで行くなんて危険だよ。この大陸は今は連邦軍ばかりなんだよ?あなたの顔は手配されてる。

 今は、隊長たちが目を光らせてて、諜報部みたいに危険な軍人はキャンプ内に入る前に対応してシャットアウト出来てるし、

 顔なじみしかキャンプの中にはいないし、入れないから、なんとかなってるけど…」


「でも、もし万が一、誰かが通報したり、なにかの拍子に見られたりしたら、皆さんにまで迷惑を掛けちゃう。

 そんなことを私は望まない。だから、やっぱり私はここにはいない方が良いの」

そうだよ、そうかもしれないけど…でも、一人で行って、もし何かあったらどうするの?

そりゃ、私たちを離れて、一人で…なんていうのなら、もしかしたらあたしが心配するなんてお門違いかもしれないし、

あたしが何をできるわけでもないし、止める手立てなんてないけど…そうだ、隊長なら、きっと隊長なら、なんとか説得をして…


「黙って出ては行かないよ。ちゃんと隊長さんにもみんなにもお礼をして、説明をしていくから」

ソフィアはそう言った。そう言われてしまってあたしは、彼女になにも声をかけてあげることができなかった。


「あなたにだけは、さきに伝えておきたかった。私を助けてくれたあなたには。

 あの日、真っ暗なあの取調室であなたの声を聴いたとき、とてもホッとしたの…。

 あぁ、もう終わるんだな、助かったんだなって、そう思えた。

  昨日の夜は星を見てて、今日もこうして晴れた空と海を見ていたりするとね、感じるんだ。

 『あぁ、生きてるんだな』って。追われる身だし、イヤな記憶は…今でもぐるぐる頭を駆け巡るけど、でも、

 生きてるんだなって思う。一昨日は殺してなんて言っちゃったけど、たしかにつらいけど、だけど、幸せにはなれなくても、

 ほら、昨日の飛行機の中みたいに、楽しいなって思えることにはきっと出会えるだろうし、ここでこうしているみたいに、

 きれいな景色を見て、穏やかになることもできる。

  そう考えれば、あのまま暗い地下室で、心も体も汚されたまま死んでしまってたよりずいぶんマシだと思える。

 あのまま死んでいたら、きっと苦痛と絶望しかなかっただろうけど、もしこれから先、なにかあっても、少なくともそのときは、

 少しは『がんばったな』って思って死んでいけるような気がする。

 あなたが隊長たちを呼んでくれたから、そんなチャンスを、私は与えてもらえた。だからね、ちゃんとお礼を言いたくて。

 本当に感謝してるんだ。ありがとう」



 彼女はあたしを見て言った。あたしは、彼女のその眼を見ていることができなかった。

だって、あたしは逃げたんだ。彼女を助けようだなんてこれっぽっちも思わなかったんだ。

あたしは彼女を見捨てて、自分が、怖い、ただ怖い、そう思って、必死に走って、必死に隊長に、怖かったって伝えただけなんだ。

あたしは彼女に礼をされるようなことなんてしてない。あたしは、なにも、なにもできなかったんだ。それなのに、それなのに…

 あたしは込み上がってくる気持ちを抑えきれずに、涙を流していた。

彼女の話に、何も言葉を伝えられずに、ただただしゃくりあげていた。そんなあたしの頭を彼女は優しく撫でてくれた。

 心も体も傷だらけのはずなのに、どうして、そんなことまでしてくれるの?

あたしなんかより、あなたのほうが何倍も何十倍もつらくてくるしいはずなのに、

どうしてこんなあたしを慰めようなんてことができるのよ…

あなたに比べれば、なんにも起こってないくらいの苦しさしか味わってないのに、どうしてあたしは、なにも、何一つできないんだろう…


隊長、隊長ならこんなときどうするの?アヤさん、アヤさんならこんなときどうするの?

ソフィアに頭を撫でられながら、あふれ出てくる感情を抑えきれずに泣くあたしは、まだ、そんなことばかりを考えていた。

その日の午後、ソフィアはオメガ隊、レイピア隊のみんなの前で同じ話をした。

隊長は、最初はいろいろと説得をしようとしたけれど、ソフィアの目に迷いがないのを見て、あきらめたようだった。

苦渋に満ちた表情の隊長だったけど、せめて車を手配するから、と言って、1時間後に古ぼけた自動車を一台、運んできた。

ソフィアはそれに乗って、北へ続くハイウェイの彼方に消えて行った。

 あたしは、その車が見えなくなってからも、道路の先を見つめていた。呆然と、本当にただ、呆然として。


今回はここまでです!
アライヤがどんどんダメっ子になっていきます…
書いててちょっとイラっとしますw

読んでいただき感謝!

おいまた謎の人物

マラリアさん…

おまえらエロイカさんの名前間違えるなよ!

>>337>>338>>339
ちょっと吊ってくるorz

狙ってなくても毎度ちゃんとオチを付けられるってのも一種の才能だよな

おもしろいからがんばってくれ

>>341
しかし、毎度同じことをしていると恥ずかしいです、はい。

>>342
誤字がか?誤字がおもしろいのか??(卑屈

ア ラ イ ヤ だ わ 〜

>>344
悔しい…悔しいけど、吹いたww
落ちてて時間差レスになりすまそんm(_ _)m

こんばんは!
昨日は落ちてましたね…><。

つづきあげます!


「おい!ダリル!右だ、右!」

「うおぉっ!ヤベ!」

「ダリル!どいてろ!」

「おぉい!フレートぉ!おめぇ機体壊すんじゃねぇぞ!戦闘機と違って替えなんかすぐにこねぇんだからな!」

「わかってますって!」

前方300メートルで、隊長たちA分隊が、近距離でモビルスーツと遭遇戦を繰り広げている。

「マライア、デリク!右翼に展開して隊長たちを援護するぞ!ついてこい!」

あたし達B分隊を指揮している、副隊長、ハロルド中尉の無線が聞こえた。

「はい!」

「了解!」

あーもう!緊張するな、あたし!大丈夫!大丈夫だから!

「マライア!左後方に敵戦車!」

 へぇ!?

ゴォォン!!

 ひぃぃぃ!

「マライア、ひるむな!デリク!マライアを援護!ベルント、制圧射撃!」

「了解」

「マライア、下がって!いや、それよか、シールド上げて!」

「う、うん!」

 あたしは必死になって、操縦桿を引いて盾を構える。

再びの轟音と衝撃。これ、完璧あたし狙われてない!?

「敵戦車撃破」

「ベルント、良くやった。急げ、隊長たちの援護に行くぞ」

「りょ、りょうかい!」

あたし達は、隊長たちから見て右側。敵部隊のモビルスーツ3機を挟む形で陣形を張った。

「隊長、射撃開始します!退避を!」

「よーし、お前ら!かくれんぼだ!」

モニターの中で、隊長たちの機体が物影に隠れた。いまだ!あたしはトリガーを引いた。

 轟音と共に、モビルスーツに装備してあるマシンガンが唸る。背後から射撃を加えられた敵が、こちらを向いた。

「今だ!たたっきれ!」

「射撃中止!さらに右翼へ移動!」

隊長と副隊長の合図が聞こえる。

 次の瞬間、物影に隠れていた隊長たちが飛ぶように出てきて、背中から抜いたビームサーベルで敵部隊に斬りかかる。

あたし達に銃口を向けようとしたモビルスーツ3機は、背後から襲いかかる形になった隊長隊に、腕や足を斬られ、制圧された。

「ふぃー!一丁上がりっと!」

ヴァレリオさんの声が聞こえた。


 「おい、ジオン兵!抵抗するな!こっちは命まで取りたかねぇんだ!」

地面でもんどりをうつモビルスーツに銃口を向けて隊長がスピーカーで怒鳴った。抵抗をやめた彼らを見るとさらに隊長は

「おーし、意思疎通が取れて助かるよ。ついでにコクピットから出てきてもらえるか?」

と告げた。銃口を向けられ、抵抗すらできないジオン兵たちが、モビルスーツから這い出てくる。

3機すべてから這い出たのを確認すると、隊長は自分もコクピットを開けた。そして怒鳴った。

「おーい!そっちの建物の陰にトラックが何台かある。それに乗って基地へ帰れ!モビルスーツはこっちでぶっ壊しといてやっからよ!」

うっ!隊長!怒鳴るのは良いけど、無線切ってからにしてよ!耳痛ぁー!

 ジオン兵たちは、モビルスーツから離れて、駆け出した。

隊長はトラックが出るのを確認すると、ダリルさんたちにグレネードを投げさせた。

「おぉし、離れるぞ」

隊長の指示で、あたし達はその場を離れた。

 ソフィアが離れた日の昼過ぎ、あたし達は西へ向けて、敵を捜索しながら進軍を始めた。

ところどころに敵の姿があったりもしたけど、あたし達はそのほとんどを見逃して、キャリフォルニアベースへ向かわせた。

そして、今回のように敵モビルスーツと接触しても、なるだけ人的被害を出さないように、隊長は心掛けていた。

アヤさんのことと、ソフィアのことがあって、隊長の中で何かが変わったんだろう。

隊のみんなもそれがなんとなく伝わっているようで、同じように、なるべく敵に被害をださない方法で戦闘を続けている。

さっきの戦車みたいに、どうしても撃破しなきゃいけない場合もあるんだけど…。隊長の中で、なにがあったのかはわからない。

でも、気まぐれでそんなことをする人ではないってのはみんなわかってる。あたしだってわかってる。

だから、あたし達はその指示に従うだけだ。だって、それが一番、あたし達が安全な方法に決まっているから。

 転戦した翌日に到着した町で、オメガ・レイピア両隊に新たに3機ずつモビルスーツが配備された。

新品じゃなくて、レストアされた中古品。両隊に合計12機にモビルスーツが配備された。

数だけで言えば、両隊合わせれば、やっと中隊規模になってきた。

それに合わせて隊長はユージェニー少佐と話し合い、任務ごとにモビルスーツを貸し借りし、

どちらかの部隊が総員モビルスーツに乗れる状況を作って作戦に臨んだ。

その方が指揮系統や作戦運用のことを考えても適切だと考えたのだろう。

確かに、二つの部隊、二つの指揮系統で一つの作戦をこなすよりは、数が同じなら、同一部隊がこなした方が連携は密に取れる。

隊長の判断は、いつだって正しくて、あたし達を守ってくれるんだ。

 でも、あたしまで苦手なモビルスーツに乗らなきゃいけなくなって正直戸惑っている。

 それに…ソフィアのことが、まだ気になっている。

無事にいるだろうか、どこでなにをしているだろうか、なにを思っているんだろうか…とりとめもなく、そんなことを考えていた。


 そんなことを考えながらの戦闘だったものだから、

その日にたどり着いたシウダー・フアレスという小さな町で、あたしは隊長に呼び出された。

「あんな乗り方してたら死ぬぞ」

隊長は端的に言った。

「すみません…」

あたしはしょんぼりして謝った。

「いいか、おめえがボッとしてて死ぬのはなにもおめえ自身だけじゃねえんだ。

 戦闘中におめえを見てるハロルドやダリル、デリクあたりが、おめえをかばって真っ先に死んじまうかもしれねえんだぞ」

「はい…」

「それにな、今日の被弾であいつは駆動系のチェックが終わる明日の夕方までは動かせねえ。

 ただでさえ予備機なんかなくって2隊で機体分け合ってる状態なんだぞ。

 チンタラやってたら、味方の支援どころか、アヤにだってなんにもしてやれなくなっちまう」

「ごめんなさい」

もう、返す言葉もない。隊長の言うとおりだ。ここは戦場なんだ。ボーっとしてれば、死んでしまう。

そうでなくたって、モビルスーツには戦闘機と違って脱出装置がない。致命弾を貰ったら、機体と一緒に爆発するしかない。

装甲も厚いし、機動力も火力もあるけれど、戦闘機のように3次元軌道で回避することはできないし、

一撃離脱ができるほどのスピードもない。戦闘機なんかよりもよっぽど敵に近いところまで行って戦わなければならない兵器だ。

いや、そもそもそのために作られた兵器なんだ。それだけに危険は大きい。

あたしは、それを認識していながら、まるで危機感を感じてはいなかった。

「はぁ」

隊長が大きなため息をついた。

「マライア。おめえ、明日からしばらく休め」

「え…そ、そんな!」

あたしは、それを言われて悲しくなった。確かに足手まといかもしれない。今日は危なかったのは確かだ。

だけど…だけど、隊のみんなとは一緒にいたい。みんなが戦闘に出るなら、そのなかにあたしも居場所が欲しい。

だって…だって、そうじゃないとあたし、何のためにみんなと一緒にいるのか…

一緒にいられれば、足手まといでも、もしかしたら役に立てるかもしれない。役に立ちたい。

だって、そうじゃないと、あたし、あたし、何にもなくなっちゃう。

「お願いです、隊長、あたし、一緒に戦いたい!」

「ダメだ」

隊長はたんぱくにそう言った。

「隊へ同行するかどうかの判断は勝手にしろ。ただし、戦闘へは出さない。明日からはレイピアに一人借りることにする。

 まぁ、ペルランかソコルだろうな」

そんな…

 ショックだった。ショックだったけど、あたしにはなんにも言う資格はないんだ。だって、あたしのせいなんだから。

隊長は、あたしが戦場に出たら、あたしも隊も危険だって思っているからこんなことを言ってくれてるんだ。

それは、分かってる。だけど、でも…これじゃぁあたしまるで何の役にもたたないただのお荷物みたいじゃない…

「わかったら下がれ。俺はこれから本部へ報告に行く」

隊長はそう言って、あたしを部隊のあおぞらオフィスからあたしを追い出した。


 このあたりの大地は赤茶けていて、今までいたような海岸線のきれいな景色はない。

ザクザクと地面を、力なく踏み鳴らして歩く、あたしの心とおんなじように、きれいな色も輝きもない。

 「うーい、お疲れ」

不意に声がかかった。見ると、ダリルさんがいた。

「あ…」

そうとしか声が出なかった。ダリルさんはそんなあたしを知ってか知らずか、配給の缶ジュースを一本放り投げてきた。

あたしがそれをキャッチするのを確認したダリルさんは

「ちょっと着いてこい」

と顎をしゃくってあたしに言った。

 ダリルさんと一緒に、町のはずれの人気のない荒野まで歩いて来た。

「あーぁ、どっこいせっと」

大げさにそんなことを言いながら、ダリルさんは地面から突き出ていた岩に腰掛けて缶ジュースを開ける。

 なんだって言うんだろう、こんなあたしに何を話すつもりなのかな?ダリルさんにも怒られちゃうのかな…

 そんなことを思って不安を感じていたら、ダリルさんがあたしを見た。

「隊長にはちゃんと怒られてきたか?」

「はい」

その言葉に、あたしはうなずいた。やっぱり、その話だよね…

「で、どうするつもりだよ?」

ダリルさんは聞いて来た。

 どうするって?どうするもこうするも、こんなところで休めって言われたって、なにもすることはない。

このまま、戦闘に参加できなくても、隊にくっついて行って、出撃するみんなを見送って、帰ってきたら出迎える。

つらいかもしれないけど、それくらいしかできることもなさそうだし…。

「おとなしく…してます」

あたしが言うとダリルさんの顔がちょっとこわばった。あれ、なんかまずいこと言った?

でも…結構へこんでるし…反省もしている。おとなしく、自分の身を振り返ってみるほかはないんじゃないかな、とそう思っていた。

「はぁ…なぁ、マライア」

「はい」

ダリルさんは大きなため息をついてから、あたしに語りかけてきた。

「俺は、今のお前は、まったくって言っていいほど、信用できねえ」

な…なんで…なんで急にそんなこというの?そんな突き放した言い方…

あ、あたし、やっぱりダメなのかな…この隊にいちゃ、ダメなのかなぁ…

 なんだか胸が締め付けられて苦しくなる。目頭が、じわっと熱くなってくる。

「お前はどうだよ?」

ダリルさんが続けたけど、意味が良くわからなかった。

「どういう、意味ですか?」

「だから、お前は今、自分自身のことを信用できるのかよ?」

ダリルさんは、改めてあたしに聞いた。


 自分を、信用?こんなあたしを?…そうか、そうだよね…アヤさんや隊長みたいに、誰かを助けられるわけでもない。

フレートさんやヴァレリオさんみたいにソフィアを楽しませることも、ダリルさんのように隊のみんなをそっと見守ることも、

副隊長みたいにみんなを支えることもできない。

デリクやベルントさんみたいに、縁の下の力持ちで、気が付かない細かいところをサポートできるわけでもない…

なにもできないこんなあたしを、誰が信用してくれるというのだろう?

そう、ダリルさんの言うように、あたし自身でさえ、何ができるんだろう、なんて思ってしまっているんだ。

「できて、ません。できません…あたし、ダメなんです…」

言葉にしたら、なぜだか急に胸の苦しいのが強くなって抑えきれなくて、目から涙があふれ出した。


「だって…あたし、弱虫で、すぐ怖がって…誰とも戦えないし、なにも助けられない!

 アヤさんみたいに、ケンカが強くて勇気も度胸もあって、みんなを照らすみたいに明るくもない!

 隊長みたいに優しくもなれないし、冷静に一生懸命考えたって、すごいアイデアを思いつくわけでもない…

 他のみんなと比べたってそうです…同期のデリクでさえ、もう、隊の中で役割を見つけているのに…

 あたし…あたしは、この隊では何の役にも立たないんですよ!何もできない、誰も助けられない!

 迷惑ばかりかけて、足ばっかり引っ張って、その挙句に、みんなを危険にさらして…

 あの日、ジャブローでだってそうでした!あたしをかばってくれて、アヤさんは味方の対空砲を浴びたんですよ…?

 あたしがいると、みんなが危ないんですよ、ダリルさん…あたし、あたし、この隊にいらないんですかね…?」

そう、そうなんだ。あたしは、それを認めるのが一番怖かったんだ。

なんの役にも立たない、ただ守られているだけの自分が、みんなを危険にさらすような自分が、

この隊に必要がないんじゃないかってことを…。

だって、あたしはこの隊が好きなんだ。隊長も、副隊長も、ダリルさんもフレートさんも、ヴァレリオさんだって、ベルントさんだって、

デリクだって…死んじゃったカレンさんだって好きだった。

口は悪かったけど、でも、アヤさんの代わりに小隊長をやって、アヤさんには、隊長のそばで飛んでてほしいんだって言ってたんだ。

優しい人だったんだ。アヤさんなんかその中でも一番好きだった。

みんなと別れたくない、追い出されたくなくて、ずっとずっと頑張ってきた。

アヤさんみたいに強くなりたいって、隊長みたいに優しくなりたいって、フレートさんみたいに明るくなりたいって、

いろんなことを考えて、いっぱいいっぱいやってきた。でも…でも結局なにもやれなかった。

なにもできなかった、できるようにならなかった。隊に入ったころからあたしは何も変わってない。

何一つ、みんなのためになるようなことなんてできてない。

だから、きっとあたしは、隊にはいらないんだ…みんなは絶対にそんなことは言わないってわかってる。

でも、あたし自身が感じてたんだ。あぁ、自分は別に、この隊にいてもいなくても一緒だな…って。


 ダリルさんがまた、大きなため息をついた。それから、

「あのな…根本的な間違えを一つ指摘してやる」

とあたしを見た。怖かった。正直、今度は何を突きつけられるんだろうか…そんな恐怖があたしを襲う。

でも、そんなのに構わず、ダリルさんは続けた。

「お前はアヤでもなけりゃぁ、まして隊長でもない。お前は、マライア・アトウッド以上でも以下でもないんだよ。

 わかるか、この意味?」

…どういうこと?だって、そのマライア・アトウッドは、何もできないだたの弱虫で…

だから、みんなみたいに、なにかできるようになりたいって…

 あたしは首を横に振った。するとダリルさんはちょっと困った顔を見せて


「そうかい…はぁ、そうだな。まぁ、要するに、お前は、お前にできることを探せばいいんだ。

 誰かのマネなんてする必要もない。隊長やアヤのようになる必要もない。やらなきゃいけないことなんかこれっぽっちもない。

 お前ができると思ったことを、やりたいと思ったことをやりゃぁいいんだ。

 いいか、お前がいくら頑張ったって、結局お前は隊長にはなれねえし、アヤにもなれん。

 それは能力がどうとかこうとかの話じゃない。『アヤさんなら』、『隊長なら』なんて考えてたって、答えは出やしないんだ、マライア。

 いや、出たように感じるかもしれないが、それは隊長の考えでもなけりゃぁ、アヤの考えでもない。まぎれもない、お前の考えだ。

 いくらうまくマネしようが、いくら難しく考えようが、お前の考えしか出てこないんだよ。

  だからそれを誇れ。

 隊長と比べて、とかアヤと比べて、なんて考えて、卑屈になる必要なんかない。確かに、アヤは一人で行った。

 俺たちに迷惑を掛けないように、な。だが、アヤがそう考えたって、俺たちはアヤの行動がわかった時点で、

 そんなことは気にせずにアヤを助けると決めたろう?同じことなんだ。誰が何と言ったって、このことでアヤが怒ろうが関係ない。

 俺たちは俺たちの守りたいもんを、守りたいようにして守るんだよ」

「あたし達の守りたいもの…あたしの守りたいもの…」

「そうだ。まぁ、確かに、あのソフィアって子は、アヤに助けてもらってたら、もっと違ったかもしれない。

 アヤは、あいつは、なんだか太陽みたいなやつだからな。

 人間の陰気な部分をむさくるしいくらいに照らしてきて、明るくするようなヤツだ。でも、同じことをお前にはできない。

 だから、お前しかできないことを探せ」

ダリルさんは言った。

 あたしにしか、できないこと…。それって一体、どんなことだろう…たとえば、ソフィアにあたしは何ができたんだろう?

いや、まだできることがあるのかな?ソフィアだけじゃない。あたしが、隊のみんなのためにできることって?

アヤさんなら…そう、アヤさんなら、きっと隊のみんなも、ソフィアも明るく照らすはずだ。

隊長なら、ソフィアさんも、隊のみんなのことも守ろうとするはずだ。そうだ、それなら、あたしは…

 「ダリルさん」

あたしは、いつの間にか泣き止んでいた。そうか、あたしは迷子だったんだな。

いろんなことができる隊のみんなに囲まれて、あこがれて、みんなのようになりたい、ってそう思ってた。

でも、それを強く思いすぎてたんだ。結局あたしは、みんなのことばかりをずっと見ていて、自分のことなんて見ていなかった。

みんなのようになりたい、そう願うばかりで、自分はどんな人間なのか、どんな姿かたちをしているのか、全然わかってなかった。

アヤさんがそうであるように、隊長や、ダリルさんや、フレートさんや、みんながそうであるように、

あたしも、あたしにしかできないことを見つけなきゃいけないんだ!



「あたし、ソフィアのところに行きたい。彼女を追って、彼女を助けたい。あたしに何ができるかわからない。

 わからないから、試してみたい。死の物狂いで、あの子を何とかしてあげたいんです。

 そうしたら、もしかしたら、見つかるかもって思うんですよ。あたしが何者なのか、何ができるのか、何をしたいのかが…。

 だから、ダリルさん、お願いします。あたしに、手を貸してください」

気が付けばあたしはそう言って、ダリルさんに頭を下げていた。

「はははは。そうかそうか…まぁ、俺は正解とは思わねえが、はずれってわけでもないしな」

ダリルさんはそう言って笑っていた。あたしが顔を上げると、ダリルさんはあたしに何かを投げてよこした。

PDAサイズの、モニターの着いた機械だった。

「これは?」

「ソフィアの車と腕時計に、発信機をしかけてある。

 腕時計の方は、まぁ、ジャブローにいるときに万が一逃げちまったときのための保険だったんだが、

 車の方は、さっき、隊長に言われてな」

「どうして、そんなものを?」

「隊長、言ってなかったか?『隊へ同行するかどうかの判断は勝手にしろ』って」

あたしは息を飲んだ。まさか、隊長…

「追えよ。まだそう遠くへは行ってないはずだ。んで、見つけてこい。お前ができることってやつを、だ」

「ダリルさん…」

「ああ、それと、側面にあるスイッチは緊急用だ。半径は15キロから20キロってとこだが、救難信号が届く。

 こっちで随時モニターできるシステム組んであるから、もしものときはオンにしろ。なるだけ急いで駆け付けてやるよ」

「はい!」

隊長は、やっぱりすごい…いくら頑張ったって、あたしにはこんなことできないよ。

でも、そう、でも!あたしにはきっと、あたしにしかできないことがある。隊長の想いもダリルさんの想いも、ちゃんと受け取った。

あたし、行かなきゃ!


「移動は、そこの古い倉庫の中に、ジオンのホバートラックを見つけたからそいつを使え。

 現地改修されてて、天井に砲台が付いてるが…下手に撃つなよ。装甲は紙っぺらだ。

 戦闘じゃ、相当にうまい運用でもしねえと、歩兵にすら爆破される。

 戦車やモビルスーツ相手なんかしようもんなら、たちまち諸共に鉄クズだ」

「気を付けます」

「よし。あぁ、そうだ、隊長から伝言を預かっててな」

伝言?隊長、まだあたしのために?

「『合言葉を忘れんな』、だと」

そうだ、あたし達の合言葉、たった一つ、絶対に守らなきゃいけない規則。

「『ヤバくなったら逃げろ』!」

「おう、わかってるな。なら、行って来い!」

「はい!」


本日はここまで!
マライアさんがついにデレ(?)ましたw

乙!

デレたのかこれwwww



あ〜ヤキモキした!
やっといっちょまえになるんだなマラなんとかさん

>>356
あり!

>>357
デレたと思っておこうwww

>>358
感謝!
マラなんとかwwww
ヤキモキしてもらえてよかった!w

乙 デレ…たのか?ww

ヤバイ、人物がこんがらがってきた。
まとめはよ

>>360
頑なな態度、思い込みから軟化したという意味でデレたんです、たぶんw

>>361
オメガ隊はダリルとフレートだけ覚えといてくれれば問題はないと思いますが…w
登場人物全部を以下にまとめてみます。

アヤ・ミナト・・・・・・オメガ戦闘飛行隊7番機兼同第3小隊隊長。少尉。
   度胸と頭脳の切れ味がすごい。明るい。キレるとアブない。NT?

レナ・リケ・ヘスラー・・ジオン地球方面軍キャリフォルニア基地所属のMSパイロット。少尉。
            連邦の捕虜となっていた。気遣いの人だけど実はS寄り。NT?



【オメガ戦闘飛行隊(第27航空師団101戦闘飛行隊)】

レオニード・ユディスキン:オメガ隊隊長。1番機。みんなの父ちゃん的存在。大尉。

ハロルド・シンプソン・・:オメガ隊副長。2番機。同隊第1小隊長。冷静沈着、隊長の右腕。たぶんイケメン。中尉。

ダリル・マクレガー・・・:オメガ隊の3番機で同隊第2小隊長。アヤと同期。メカニック関係に精通。デカイ。強い。少尉。

ベルント・アクス—・・・:オメガ隊4番機。とにかくしゃべらない、存在感0。腕は立つ、らしい。少尉。

フレート・レングナー・・:5番機。隊内で撃墜数、被撃墜数ともにNo1。エース/逆エースと呼ばれる。
 お調子者ですぐふざける。宴会帝王。こいつもイケメンぽい。少尉。

ヴァレリオ・ペッローネ・:6番機。セクハラ・ネタ要員。曹長。

カレン・ハガード・・・・:8番機。アヤのケンカ相手。独自の戦術論を持っていて、戦績は良いが
    戦術の点で所属小隊の隊長であるアヤとたびたび言い合いになる。
    ただお互いに実力は認めていた。ジャブロー防衛戦時に死亡。少尉。

マライヤ・アトウッド—・:9番機。ヘタれ。現在鋭意、奮闘中。曹長。

デリク・ブラックウッド・:10番機。マライアと同期でアヤに腕を買われている次期エース。
    ベルントとともにサポート任務に回ることが多い。
    フレートとも仲が良く、ふざけるときは率先してフレートに乗っかる。曹長。



【レイピア戦闘飛行隊(第27航空師団100戦闘飛行隊)】

ユージェニー・ブライトマン:レイピア隊の女隊長。怒らせると怖い。オメガ隊隊長とは古い仲で、いやらしい関係。
  少佐。

キーラ・ブリッジス・・・・:レイピア隊の5番機。同隊第2小隊隊長。美人。フレートと男女関係が噂されている。
  少尉。

リン・シャオエン・・・・・:レイピア隊の6番機。アジアンビューティ。きれいな黒髪。無口でしとやか。少尉。



  
【そのほか】

ソフィア・フォルツ・・・・:ジオン兵で連邦軍に逮捕、捕虜とされた。連邦側MPにレイプされ、いろいろ壊れ気味。
 壊れる前は明るくておふざけが好きなタイプだったのかも。「ふふ、ウソよ」が口癖。
 階級、軍内の職務についてはまだ未登場。

アヤ・ミナト
 オメガ戦闘飛行隊7番機兼同第3小隊隊長。少尉。
 度胸と頭脳の切れ味がすごい。明るい。キレるとアブない。NT?

レナ・リケ・ヘスラー
 ジオン地球方面軍キャリフォルニア基地所属のMSパイロット。少尉。
 連邦の捕虜となっていた。気遣いの人だけど実はS寄り。NT?



【オメガ戦闘飛行隊(第27航空師団101戦闘飛行隊)】

レオニード・ユディスキン
 オメガ隊隊長。1番機。みんなの父ちゃん的存在。大尉。

ハロルド・シンプソン
 オメガ隊副長。2番機。同隊第1小隊長。冷静沈着、隊長の右腕。たぶんイケメン。中尉。

ダリル・マクレガー
 オメガ隊の3番機で同隊第2小隊長。アヤと同期。メカニック関係に精通。デカイ。強い。少尉。

ベルント・アクス
 オメガ隊4番機。とにかくしゃべらない、存在感0。腕は立つ、らしい。少尉。

フレート・レングナー
 5番機。隊内で撃墜数、被撃墜数ともにNo1。エース/逆エースと呼ばれる。
 お調子者ですぐふざける。宴会帝王。こいつもイケメンぽい。少尉。

ヴァレリオ・ペッローネ
 6番機。セクハラ・ネタ要員。曹長。

カレン・ハガード
 8番機。アヤのケンカ相手。独自の戦術論を持っていて、戦績は良いが
 戦術の点で所属小隊の隊長であるアヤとたびたび言い合いになる。
 ただお互いに実力は認めていた。ジャブロー防衛戦時に死亡。少尉。

マライヤ・アトウッド
 9番機。ヘタれ。現在鋭意、奮闘中。曹長。

デリク・ブラックウッド
 10番機。マライアと同期でアヤに腕を買われている次期エース。
 ベルントとともにサポート任務に回ることが多い。
 フレートとも仲が良く、ふざけるときは率先してフレートに乗っかる。曹長。



【レイピア戦闘飛行隊(第27航空師団100戦闘飛行隊)】

ユージェニー・ブライトマン
 レイピア隊の女隊長。怒らせると怖い。オメガ隊隊長とは古い仲で、いやらしい関係。少佐。

キーラ・ブリッジス
 レイピア隊の5番機。同隊第2小隊隊長。美人。フレートと男女関係が噂されている。少尉。

リン・シャオエン
 レイピア隊の6番機。アジアンビューティ。きれいな黒髪。無口でしとやか。少尉。



【そのほか】

ソフィア・フォルツ
 ジオン兵で連邦軍に逮捕、捕虜とされた。連邦側MPにレイプされ、いろいろ壊れ気味。
 壊れる前は明るくておふざけが好きなタイプだったのかも。「ふふ、ウソよ」が口癖。
 階級、軍内の職務についてはまだ未登場。

タブ使ったら変になったので構成変えてみた。
連投すまそ

大事な事だしいいだろ

オメガ隊の11番はよくイジェクトする裏設定あったりしない?ww

ばんわー!

続きあげまっする。

>>366
フォロレス感謝

>>367
オメガ隊は総じてジェクトするんだ!w


 あたしは、この赤茶けた荒野を、ほとんど寝ずに、このホバーを走らせている。

睡眠と言えば、半日以上前に、1時間弱の仮眠を取ったっきりだ。

ダリルさんがくれた発信機の追跡装置上の座標と地図を照らし合わせながら慎重に進路を決めている。

 1時間ほど前から、光点は地図上ではバーストーという街にとどまっている。ここにソフィアはいるのだろうか?

もう、あたりは夕方だ。今日はこのバーストーで休まなければ、さすがに体に来てしまいそうだ。

そのまえにソフィアを見つけられれば良いのだけど…。

 そんなことを考えているうちに、前方の道の彼方に街らしき影が見えてきた。良かった、日がくれる前に到着できた。

しかし、そんなあたしの安心もつかの間。

 あたしの目には、なにやら黒い筋が何本も見えた。街から立ち上って、空に伸びている。

 あれって…煙?まさか…戦闘?あたしは街の陰影に目を凝らした。小さなものが飛び交い、のそのそと動くものもいる。

 あれは…モビルスーツ?あの点は…戦闘機?いや、違う、あれは戦闘機の機動じゃない。

攻撃ヘリだ。マズイ。

戦車やモビルスーツなら逃げる隙もあるかもしれないけど、攻撃ヘリなんていう、空対地専門の兵器に空から狙われたら、

このホバーは一巻の終わりだ。

 どうする…!?

 あたしは一瞬、迷った。でも…あたしは、もう逃げない…行かなきゃ!

 そう決心をして、あたしはアクセルを前回に踏んだ。ぐんぐんと街が近づいてきている。到着まで、あと20分くらいだろうか。

 徐々に街の様子が克明に見えてきた。あれは…ジオンのトゲツキだ。3機もいる。

ということは、周囲のヘリは連邦軍…とにかく、このまま街に突っ込むのはマズイ。すこし迂回して、側面から近づくべきだ。

 あたしはそう決断して西進していたホバーを街の北側に向けた。もう、街にある看板の文字が見えるほどの距離だ。

戦闘ヘリのローター音にミサイルの発射音に爆裂音、機関銃の絶え間ない発砲音がしたかと思えば、

爆発音がして、炎に包まれたヘリが地上に落ちる。

幸い、攻撃ヘリはトゲツキに無我夢中に食らいついていて、あたしのホバーの存在には気づいていないか、気づいていても、

手が回らないのだろう。フロントガラス越しに、攻撃ヘリの数を数える。まだ10機近い数が空を舞っている。

トゲツキは、その機動に若干翻弄されているようで、撃ち続けているマシンガンが、有効打を与えられていない。

いや、それだけじゃない、このヘリ部隊、相当に戦い慣れている。

きっと、ヨーロッパから転戦してきた部隊だ。もし、こちらに注意を向けられたら、危険だ。

 あたしはそう思いながら、追跡装置のパネルを見た。近い…街の中にいる…!

あたしはそう確信して、北側から一気に街へ進路を取った。

爆炎と砂塵とがれきの中を抜けて、街へ突入する。

どこ…?!ソフィア…!

パネルを頼りに、街の中の細い路地を行く。激しいローター音と爆撃音は鳴りやむことをしらない。

自分でも、なんだってこんなところに一人で突っ込んでいるのか不思議でたまらなかった。

あたしらしくもない。いつもなら、街に入る前に震えてうごけなくなっていそうなものなのに。

怖くないと言えば、嘘になる。実際、手だって脚だって震えているのを感じている。

でも、不思議と体はちゃんと動いた。それどころか、集中力が冴えわたっているように感じさえする。

 ショッピングモールのような大きな建物の脇を大通り側へ折れる。


———あった!

あたしはその先で、ソフィアが乗っていった車を見つけた。

路肩に止められ、小さながれきをかぶっているが、まだ原型はとどめている。が、次の瞬間、空がぱっとオレンジに光った。

見上げると、炎を噴きながら攻撃ヘリが落下してくる。

あぁ、マズイ!

あたしはブレーキを掛けながら思いっきりハンドルを切った。ホバーは止まったが、落ちてきたヘリが車の列を直撃した。

ソフィアの車も、潰されている。

 あの中に…いない、よね…あたしはホバーを動かして、すれ違いざまに中を確認する。

つぶれているが、中は見えた。大丈夫、誰も乗ってない…

 そう安心して視線を前に戻した瞬間、20mくらい先に人影があった。まるであたしの進行方向を遮るように両手を広げている。

 「いぃぃ!!!」

もう一度、今度は思わず両脚でブレーキを踏みつける。でも、ホバーなんて機構はそうそうすぐに止れるものでもない。

あたしはハンドルを切って、車体を横に滑らせる。

 ホバーは辛うじて、人影の数m手前で動きを止めた。

 バタン!とホバーのドアが開く音がした。

 ビクッと体を震わせながら、とっさに拳銃を抜いてそっちを見る。

 そこにいたのは、ソフィアだった。

黒くすす汚れた顔で、ボロボロの服で、息を荒げているけれど、彼女は、生きていた!

「マ、マライア!どうしてこんなところに!?」

「ソフィア、良かった、無事だった!迎えに来たよ!」

あたしは言った。

 ほっとした、というよりも、正直うれしい気持ちでいっぱいだった。

「座って!ヘリに囲まれてて無事なホバーなんて、奇跡みたいなもんだから!逃げないと!」

そう、ヤバくなったら、逃げろ、だ。

「あの建物へ向かって!」

ソフィアは助手席に座ると、フロントガラスの先に見える、目立つとがった塔のようなものが突き出た建物を指差した。

「どうして!?」

「ジオン兵が避難しているの!このヘリ部隊に追いかけられて、危ないところでこのザクの部隊が来てくれて、守ってもらってる。

 連邦の増援が来る前にこの街を出ないと!」

「なんだかわかんないけど、あそこにまわせばいいんだね!」

あたしはとにかく無我夢中でそれだけを理解し、ホバーを駆った。

 もう一度目抜き通りに出て、すぐの交差点を曲がり、別の通りに出た。その瞬間、目の前に攻撃ヘリが姿を現した。


「み、見つかった!」

———!

 ほとんど、反射だった。瞬間的に火を噴いた攻撃ヘリの機銃掃射をハンドルを切って躱して、

そのヘリのすぐ真下にホバーをすべり込ませて潜り抜ける。

「ソフィア、天井の砲台で反撃できそう!?」

あたしが怒鳴ると、ソフィアはスコープを引っ張り出して覗いた。それから

「撃つことは撃てると思うけど、こんな動き回ってたら当てるのは無理よ!」

と怒鳴り返してくる。そうは言ったって、止るわけにはいかない。後方カメラの映像が映るモニターの中でヘリがこちらに向きを変えた。

あのタイプのヘリが積んでるのは装甲貫通用の徹甲弾を使った30mmのガトリング砲だ。

本来は戦車やなんかを狙う物で、当たり所によってはモビルスーツだってただじゃすまない。

こんなホバーの装甲くらい本当に紙っぺらみたいに簡単に撃ちぬいてくる。直線位置に居たら、一掃射で火だるまだ。

 ソフィアがいった塔のある建物とは逆方向の、すぐ近くの路地へホバーを滑らせる。

ヘリが、建物の合間を縫うようにして追いかけてくる。照準をつけられたら逃げようがない。

 「ソフィア、当てなくてもいいから撃って!威嚇して照準を取られないようにしないと、逃げ切れない!」

「わ、わかった」

ソフィアはそう返事をしてスコープを覗き、手元に引き寄せたトリガー付きのレバーを動かした。

「撃つよ!」

「いっけぇ!」

バガァァァン!

 飛び上がりそうなくらいの砲撃音。

「外れた!」

「構わない、撃ちまくって!」

あたしはそう指示してすぐにまた路地を曲がる。もう!なんだってこんな大砲くっつけたの!

これだったら、大砲じゃなくて対空機銃かなんかのほうがまだマシよ!

 今度は別の路地へ逆方向にハンドルを切って入り込む。それでもヘリはまだついてくる。

もう!しつこい!こいつ!!あーー!なんで地面しか走れないの!?

「くぅ!インメルマンターンしたい!クルビットとは言わないから!でなきゃスライスバックかスプリットォォ!!」

「何言ってるの!?」

「二次元機動は慣れないんだよ!シザーズしかできないでしょぉぉ!もう!!!」

なんだか無性に腹が立ってきた。空からバンバン撃ってきて!こっちが逃げられないのをいいことに!

あんたなんかあたしが戦闘機に乗ってたら3秒で撃ち落としてやるのに!!

あぁ、もう!じれったい!じれったい!!じれったい!!!

もっと速度!速度が欲しい!急降下してスピード稼いで距離開けたい…!

なんだったら降下して地下にでももぐりたいよ…!

潜る…そうだ!

「ソフィア!照準前へ!正面のビルの壁打ち抜いて!」

あたしはまた路地を曲がって正面に出たビルを指して言った。

「———わかった!」

ソフィアにも伝わったようだった。


 バガァァァン!バガァァァン!!バガァァァン!!あぁぁ、もうこの砲撃音!どうにかなんないの!耳が壊れる!

 ソフィアの撃った砲は確実に正面のビルの壁を捕えて破壊した。大きな穴が開いてみえる。

ヘリがまだ路地を曲がって着いてくる。

「ソフィア!もう一回後ろ!」

「オッケー!」

バガァァン!バガァァァン!!

そうしている間にもビルはぐんぐん迫ってくる。

「捕まって!」

あたしは怒鳴った。

 車体を左右に振って、照準を避けながら、全速力でビルの外壁の割れ目にホバーを突っ込ませた。

次の瞬間、ヘリのローター音が急激に高くなったかと思ったら、ものすごい近くで爆発音がした。

振り返ると、上から炎に包まれた塊が落下してくる。

———やった!やってやった!

 「マライア!急いで建物へ!」

ソフィアがあたしに掴み掛って来るんじゃないかっていうぐらいの勢いでそう言ってきた。いや、うん、正直忘れてたけどさ。

「う、うん、急ごう!」

ビルの反対側の外壁に開いた穴からホバーを外に出して、建物へ向かった。

 トゲツキとヘリの戦闘は続いている。でも、ヘリの数は幾分か減ったようだ。

相手がバカじゃなければ、全滅する前に撤退すると思うのだけど…

そう思いながら、大通りは避け、裏の道を隠れるように進んで塔のある建物に到着した。それは、教会の様だった。

「待ってて!」

ソフィアがホバーから飛び出して協会に駆け込む。ほどなくして、ソフィアがまた姿を現した。

彼女は10人ほどのジオン兵を連れている。どれも負傷していて、痛々しい包帯を巻いている。

 「乗ってください!早く!」

ソフィアが指示を出している。そんなことをしていたら、すぐ近くにモビルスーツが降ってきた。

いや、地響きこそしたけど、スラスターで軟着陸をした感じだ。相当にやさしい、技術のいる操縦のはずだ。

 それはさっきの3機のトゲツキの1機の様で、あたし達を援護に来たつもりらしかった。

トゲツキは、群がるヘリの銃撃の盾になってくれている。しかし、今度は撃っていたヘリの方が、曳光弾の軌跡と交わって爆発した。

別のトゲツキの援護射撃だ。

「マライア、全員乗った!出して!」

ソフィアの声が聞こえる。

「出すって、いったいどこ向かうの!?」

あたしが怒鳴り返すとソフィアがまた叫ぶ。

「西へ!ここから西にベイカーズフィールドって街がある!そこへ向かって!そこがジオン兵の南側からの最後の退路なの!」


ここまでです〜
マライアソフィア奮戦す!

そしていよいよ出てきたベイカーズフィールド!

こんばんわーおそくなりました!
投下いきます!


 「あれがそう?」

辺りはすっかり夜。前方に明るい街が見えてきた。

「ええ、地図通り来られているなら」

ソフィアが言った。ホバーを減速させて近づく。

街の入り口には、衛兵と、警備のためだろう、ムチツキが仁王立ちしている。

 あたしは、その前でホバーを止めた。

 ソフィアがホバーから降りていき、衛兵に何かを話している。

衛兵が大きく手を振ると、向こうの方から別のジオン兵が数人走ってきた。ソフィアがホバーに戻ってくる。

「けが人を運んでもらうわ」

そう言うと同時に、ジオン兵たちがホバーに乗り込んできた。

「大丈夫か?」

「もう安心だぞ!怪我の手当てをしよう!」

「気を付けろ!」

「おーい、担架だ!担架もってこい!」

兵士たちが口々に叫んでいる。

 あたしも、ようやく一息つけた。

なんでこんなことになったのかはさっぱりわからないけど、どうやらここでは戦闘が近くには迫っていないらしい。

ジオン兵たちもあわただしそうにしているが、取り立てて殺気立ったり、緊張感があったりはしていないようにみえる。

 「お、おい、貴様!そ、そこで何をやっている!?」

不意にそう叫ぶ声がした。振り返ると、一人のジオン兵があたしに小銃を突きつけていた。

———え?なんで…どうして?あたし、なにかした???

「どうした!?」

別の兵士が駆け込んでくる。

「れ、連邦兵が、う、運転を…!」

あ。

しまった。

あたし基地から出てきたまんまで、軍服姿だった。

あたしはソフィアを見やった。

「これ、まずいかな…」

「捕虜になっちゃうかも…下手したら、レイプされたりとか…」

あたしは戦慄した。けど、そんな顔を見てソフィアは笑った。

「ふふ、ウソよ」

いや、ソフィア、それ全然笑えないから。

「この人は大丈夫よ。私が保証するわ。それよりも早くけが人の搬送を。重症者が3人ほどいた筈です」

「は、はっ!中尉殿!」

え?中尉?

「ソ、ソフィア、ちゅ、中尉だったの!?」

そう言えば、話す時間もなくてソフィアのことってあんまり聞けていなかった。

軍務に関することも、年齢とか階級とかそう言うのもろもろ全部。


「あぁ、話したことなかったわね。私は中尉よ。情報将校。スパイなんていうのじゃなくて、専門は情報分析だったけれどね」

そ、そうなんだ…聞いたことなかったから当然だけど…し、知らなかった。

「だから、ちゃんと敬語使ってね、マライア・アトウッド曹長?」

「え、あ!は、はい!」

思わず返事をしたあたしに、ソフィアは

「ふふ、ウソ」

と言ってまた笑った。なんか、ずいぶんと元気になってるじゃない…心配して、ちょっと損した。

 「お!帰ってきたぞ!」

「離れろー!邪魔だぞー!」

不意に外から叫び声が聞こえた。見てみると、大きな輸送機が垂直着陸してくるのが見える。あの小さい太っちょだ。

「あぁ、良かった、無事だったみたい」

ソフィアが言うので首をかしげると

「あぁ、さっきのモビルスーツ隊よ」

と教えてくれた。

 ホバーから降りてみると、輸送機はすでに着陸して、中からボロボロのモビルスーツが降りてきているところだった。

 モビルスーツは街の外側のふちに跪くと、コクピットを開けた。中からリフトでパイロットが降りてくる。

その中の一人が、こちらに走ってきた。

「フォルツ中尉!」

パイロットは女性だった。彼女はあたし達のすぐ前に来て敬礼をしてくる。ソフィアが敬礼を返した。

あたしも、慌てて敬礼をしてから、あれ、なんか違う気がするよ、これ、なんて思った。

「ヘープナー少尉。無事で良かったです」

「中尉こそ!」

ソフィアが言うと、彼女も満面の笑みで返答する。それから、あたしを見て

「あの、こ、こちらの方は…?」

とソフィアに聞く。

「連邦の兵士さんよ」

ソフィアは包み隠さずに言った。

 ヘープナーと呼ばれた女性パイロットは驚いていた。もちろんあたしも驚いた。

いや、こんなジオンばかりのところで、連邦の制服を着たあたしが今更驚くのもどうかと思うけれど。

「マライア、こちらシャルロット・ヘープナー少尉よ。ヘープナー少尉、彼女は、マライア。例の隊に所属しているの」

ソフィアが言った。

例の隊?なんのことだろう?

 そんな風に思っていたら、ヘープナーさんの顔がぱぁっと明るくなった。

「で、では!あの鳥のエンブレムの?!」

「え、え、なに?ソフィア、どういうこと?」

あまりにもわけがわからず、ソフィアに聞いた。なんでジオン兵があたし達の隊のエンブレムのことを知っているの?

確かに、オメガ隊のエンブレムは「Ω」の文字を抱きかかえるようにした不死鳥がモチーフになっているけれど…

どうしてそんなことをジオン兵が知ってるのだろう?

「隊長さんよ」

ソフィアは笑った。


「あなた達、戦いながらジオン兵を逃がそうとしていたって聞いたわ。

 ここにいる100人近い兵士が、あなた達と遭遇したことで、この街に流れ着くことができているの。

 他の部隊だったら攻撃を受けて撃破されて死んでいたかもしれない兵士もきっといたはずよ。

 今、ジオンの間では、鳥のエンブレムの機体は攻撃対象じゃないのよ。攻撃したら、隊長さん達も反撃せざるを得ないでしょう?

 でも、攻撃さえしなければ、退避させてくれる…いえ、攻撃したって、できる限り死者を出さずに戦ってくれる。

 この辺りではもっぱらそんな噂で、『連邦にも話の分かるやつらがいるんだ』なんてみんな言ってるわ」

「そんな…隊長のあれが…」

何かある、そうは思っていたけれど、まさか隊長はこれを予測していたの?

戦場の中で、地道に敵軍に死者を出さない方法で敵兵器だけを破壊して行ったことがジオン兵に伝わって、

命を助けてくれる、守ってくれる存在として浸透して、結果、ジオンがあたし達を敵と認識しなくなること、

味方に近いくらいの意識になって、攻撃対象から外すことを、狙わなくなることを、予測していたの?

そんなこと、嘘みたいだし、いや、普通に考えればあり得ないけど…

 でも、でも。いまこうして聞いた話が、結果が、まるで隊長が予期していたかのように思わせた。

だって、それはこの戦場の中で「もっとも安全にいられる方法」なんだ。

隊を守るために、敵からの攻撃を遠ざけるために隊長は、敵兵を殺さずに逃がしていたっていうの?こうなることがわかっていて…?


「皆さんの噂を聞いて、戦争というものの中にも人間性を持ち続けることの大切さを実感しました。

 私たちは、憎しみや憎悪で戦ってはいけないんだ、それは一時の行き違いかもしれない、

 考え方や方向性の違いで争うことになってしまったとしても、戦っているのは人と人。

 命も、心もあるもの同士なんだってことを忘れてはいけないんだと気付かせてくれました」

ヘープナー少尉はあたしの手を強引に握ってきた。

 いや、まぁ…そんな風に言われてうれしくないこともないんだけれど…たぶん、それは考え過ぎっていうかなんて言うか…

ただの隊長の気まぐれの結果だと思うんだよね、うん。そうだよね、隊長…?狙ってやってたわけじゃない…よね?

「まぁ、そうは言っても、この街をその服で歩き回るのはまずいわ。私の上着貸すから、着替えて。すこし話もしたいし…ね」

 ソフィアがまた笑って言う。そうだ、きっと、お互いに話さなきゃいけないことがいっぱいあるはずだ。

「うん」

あたしもソフィアのその言葉に、笑顔で返した。


 あたしはソフィアに街はずれにある地下のバーに案内された。

なんでもここはジオン兵の御用達で、それというのも、開戦時、この街を根城にしていたタチの悪い連邦軍に絡まれていた店主の娘を、

ジオン兵が助けて以来、店主がジオン贔屓なんだとか。

正直、ソフィアのことと言い、同じ連邦の軍人として恥ずかしい。

 「それで、どうしてホバーなんかで?」

ソフィアが聞いて来た。そうだよね、まず、説明しないとね…なにから話せばいいだろう?

隊長のことかな、それから、あたしがどう思ったかも、ソフィアには聞いてほしいかもしれない。


「あのね、隊長たちが、行け、って。隊長はあたしをちゃんと見ててくれたんだ。

 きっと、隊のみんなも。あたし、自信がなかった。何をやってもダメだろうって。

 戦うことも、何かを守ることも、できやしないって、そう思ってた。だけど、それはあたしの勝手な思い込みだったのかもしれない。

 本当は出来るかもしれないのに、できない自分を見るのが怖くてなにもしなかっただけのような気がする。

  隊長にはそれがわかっていたんだと思う。あたしが臆病なワケも、すぐに逃げちゃう理由も。

 うちの隊のルールでね、ヤバいときは逃げろ、って決まってるんだけど、それは、必ず次の手を考えて、

 いったん引いて体制を整えろって意味なの。でも、あたしのは違った。ただ、逃げるだけ、ただ臆病なだけだった。

 でもね、それじゃぁ、いけないってわかった。それじゃぁ、自分を守れないばっかりか、そばにいる誰かすら危険にさらしちゃう。

  だから隊長は、ソフィアからあたしを離したんだと思う。ソフィアにも、自分にも向き合わないあたしが、危うかったから。

 それに気が付いて、だから、あたし、今度は、ちゃんと向き合わなきゃいけないって思った。そうしたいって思った。

 自分の始めたことを、隊のみんなや、誰かに押し付けないで最後までやり通そうって、ちゃんと向き合って、

 うまくはやれないかもしれない。でも、そこから逃げてたら、何の意味もない。

 怯えてる暇なんて、もうないんだよね。そう思ったから、ソフィアを探しに来た。

  自分で始めたことを、なんとか自分でやり通そうって。あたしに何ができるかは、まだわからないけど…でも。

 もしかしたら、あなたと一緒にいたら、それが見つかるかもしれないって、そう思って」



あたしは自分の気持ちをソフィアに伝えた。ソフィアはあたしの言葉を黙って聞いていてくれていた。

それから、ふふふっと笑って

「そう、隊長さんたちが、ね…」

と遠い目をするのだ。その表情は、なんだか、懐かしいものでお思い出すような感じだった。

それ以上、彼女は何も言わなかった。

 あたしもソフィアに聞いてみる。

「ソフィアは軍にもどったの?」


「いいえ。私はもう戦いはやめるわ。

 でも、隊長さんたちが私を助けてくれたように、私もできる限りのジオン兵を助けて宇宙に上げる手伝いをしようって思ったの」


ソフィアは店主のおじさんが持ってきてくれたバーボンのグラスを傾けて言った。


「私ね、まだ、あの時のことは思い出すよ。怖いし気持ち悪いし、もう最悪。

 でもね、汚されて、壊されちゃった私だけど、助けられる人がいることに気が付いた…

 ううん、もしかしたら、私は私を救いたいのかもしれない。少しでも捕虜や殺される人を減らしたい、助けたい。

 そう思った。私のような目に遭わなくていいように。それをして、私の壊れた心がもとに戻るなんてこれっぽっちも思えないし、

 本当に全然そんな風には思えないから…だから、あの日私は、あそこで死んだんだな、って思うようになった。

  今、こうして元気にしていられるのは、あなた達のおかげ。だから、これは、いわばおまけね、エクストラ。

 そのおまけをどう使おうかな、って思ったときに、私はやっぱり誰かを助けたいって思った。

 心は壊されてしまったけど、まだ生きてる。

  だからせめて、私に唯一残されたこの命の火を燃やして、誰かの命を、誰かの心を救いたい、守りたいって思ったんだ。

 最期の、悪あがき、って言うのかな!」


なんだか、その言葉は悲しかった。

だって、ソフィアは結局、誰かを助けたって、あの傷つきを癒すことなんてできない、そう実感しているんだ。

一見明るく見えるけど、あの日、あたしに殺して、と叫んだソフィアと何も変わってなんかいなかった。

やっぱり彼女は、死を求めている。自分を壊してしまいたいって、そう思っている。

でも、ただ壊れるよりも、誰かのために働いて壊れたい、つまりはそう言うことなんだと思う。無為に壊れてしまうのではなくて。

その方が、きっと自分の命に意味を感じられるから…せっかく助けられた命を粗末にするんじゃなくて、意味のある形で失いたい、

彼女は、そう言っているような気がした。だけど、結局のところ、彼女の中に確かに存在しているのは、死への衝動だ。

そんなことで、いいんだろうか。あたしは自分に聞いた。あたしには、何ができるだろう?ソフィアを止めるべきだろうか?

でも、今の彼女を止めてしまったら、そこに残るのは死への想いだけ。

彼女にとっての意味あるものが失われるだけなんじゃないかと感じられた。

だとしたら、取り除かなきゃいけないのは、死を求める気持ちの方。

でもそれって、ソフィアの言う、「壊れたもの」を直さなきゃいけないような気がする…そんなことって、できるんだろうか…

ううん、できるのかもしれない。でも、そう簡単に行くような話では、きっとないだろう。



 カラン、とあたしのグラスの氷が音を立てた。なんだか、それが喉をそそってあたしもグラスに口をつける。

濃厚なアルコールの香りが口の中いっぱいに広がって…舌に熱い感覚が走って、喉が焼けた。

「ぶはぁっ!げほ!えほえほえほ!」

そして、盛大に吹いてむせた。そんなあたしを見てソフィアは声を上げて笑った。

ソフィアって、楽しいときはこんな顔して笑うんだな…そう言えば、声を出して笑っているのなんて初めて見た…

いや、それよりも———

「なにこのお酒!?」

「ん、スピリッツよ。一番強いヤツ。なんて言ったっけな、スピリタス?」

「そんなもの頼んだ覚えない!」

「えぇ?だって、なんでも良いって言ったから…」

ソフィアはニヤニヤと笑っている。た、確かに何でもいいとは言ったけど、これってストレートとかロックってレベルじゃないよ!?

もう…原液って感じだよ!?アルコール度数100%越えてるんじゃないの!?

 あたしが慌てて店主にお水を貰って飲んでいる様子を見て、ソフィアはニヤニヤと笑っている。もう、腹立つなぁ。

「あたしもそれ、バーボンが良い」

「へぇ、大人」

「そう言えば、ソフィアっていくつなの?」

「私?19よ。マライアもそうでしょ?ダリルさんに聞いたわ」

「19!?同い年!?」

それもびっくりした。だって、こう、元気になったソフィアはどこか大人の余裕すら感じる雰囲気を醸し出しているのに…

「そ、そうなんだ…と、年上かと思ってた、ご、ごめんね」

「良いのよ。マライアは子どもっぽいから、仕方ないわ」

ま、また…!

「ふん、またどうせあたしが怒ったら『ウソよ』とか言うんでしょう?」

「いいえ、今のは素直な感想よ」

なっ…なんだ…と…

 あたしがなにか言い返してやろうと思っていたら、ソフィアは思い出したように口を開いた。

「そう言えば。ね、蒼いモビルスーツって、知ってる?」

「蒼い?」

「そう、連邦の蒼いモビルスーツ」

ソフィアは聞いて来た。

 蒼いモビルスーツ…そんなの、見たことないな…あれ、でも待って。

前に、アヤさんとダリルさんがこっそり入った格納庫で遊んだって言う水中型のモビルスーツって、

確か青いやつだったって言ってた気がする…

「水中型の奴かな?」

聞いてみるとソフィアは首を振った。

「ううん。陸戦型よ」

そんなのは聞いたことない。

「うーん、聞いたことないよ。指揮官機で特殊なカラーリングとか、そう言うことかな?」

「いいえ、違うらしいの。確かに、パッと見た見た目は、ほら、連邦の陸戦型の廉価版あるじゃない?

 あれに似てたって聞いたけど、でも、きっと中身は別物」


「それが、どうしたっていうの?」

「うん、私たちが北米大陸に付く前に、連邦軍は、キャリフォルニアベースに総攻撃をかけたらしいの。

 でも、さすがにジオンだって黙って攻撃されていたわけじゃない。

 北米中から集めた戦力で強固な防衛線を張って、それを迎え撃ったって話だわ。

 けが人やなんかを優先的に宇宙に打ち上げる間、ね。でも、その強固な防衛線を、たった1機で突破してきたモビルスーツがいたらしいの」

「たった1機で?」

「ええ。そのモビルスーツは北から、基地北部にある防衛線を突破して、単機でミサイル基地を攻撃し、わずか数分でこれを壊滅。

 さらにそのまま南下して基地周辺で、ジオンの新型モビルスーツと会戦して、両者ともに撃破。12月の、15日の話らしいわ」

「すごいね…そんなのは聞いたことないよ」

「その蒼いモビルスーツに受けたジオン側の被害は、モビルスーツ17機に、ミサイルサイロ5基、防衛拠点の砲台10か所」

「たった1機で17機も!?」

「ええ。想像を絶することよ」

確かに…そんなモビルスーツがあるなんて聞いたことないけど…でも、それが本当なら、と思うと、怖いと思わざるを得ない。

連邦はそんな機体を開発していたって言うの?

「見た人の話だとね、あれは人間が乗ってできる動きじゃない、だって」

「どういうこと?」

「わからないわ。聞いた言葉をそのまま使うなら、『まるで、すべてを破壊することをプログラミングされた精密機械』みたいな感じ」

「そんなことって、あるのかなぁ?」

「ないこともないとは思うけど…どうなのかしらね。でも、今私たちが一番警戒しているのは、そいつなの。

 あのモビルスーツが、1機だけなら良いんだけど…

 一般兵のあなたが知らないとなれば、そんなに多くは生産されてるとは思えないけど、1機だけ、なんて保証はどこにもない。

 新鋭機ってのは、だいたいまとめて何台か、似たようなものをつくってテストするものだからね」

「うん…」

あたしは息を飲んだ。そんなのが、もう一度この戦場に投入されたら…と思うと、いや、想像すら、したくない。

「明日には連邦軍が南からこの街に進軍してくるわ」

「え!?」

その言葉にあたしは驚いた。ずいぶん急いでここには来たから、距離は開けていると思ったのだけど…

「南の、ロサンゼルスを制圧した部隊が北上してくるって情報が入ってるの。

 ここから北にあるストックトンっていう、最終防衛ラインの一つを攻略するつもりなんでしょう。

 その中に、蒼いのがいなければいいなって思ったのよ。

 そこを突破されたら、サンフランシスコのキャリフォルニアベースはまる裸になる。

 そうなったら時間の猶予はほとんどなくなってしまう。明日の朝には、ここの兵士たちも基地へ向かうはずよ」

そうなんだ…北米のジオンは、そこまで追い込まれて…

「ソフィアはどうするの?」

「あたしは、ここに残るわ」

え、ちょっと…だって…

「ここには連邦が来るんでしょ?!ソフィア、手配されてるし、こんなところに居たら、危ないよ!」

あたしは言った。言ってから、あぁ、そうだった、と思った。そうだ。彼女は死を望んでるんだ。



「少しくらい、平気よ。このバーの店主さんは、ジオンに協力してくれると言ってくれてる。

 まだ、誰かが大陸のどこかに残っているかもしれない。もしたら、連邦に紛れている可能性だってある。

 この街の、路地裏なんかにここの広告のチラシを貼ってあるらしいの。隠語を使って、このお店がジオンに協力していることを、

 ジオン兵に教えて、助けになるつもりらしいわ。だから、私もそれを手伝うつもり」

「やっぱり、帰る気はないんだね…」


「それは、前に言った通りよ…国へ帰っても、普通の生活ができるとは思えない…

 私は、戦場で誰かのために命を尽くして、きっと戦場で消えていくんだよ。

 ふふ、できれば、そのときに、つらくも苦しくもなければ良いかなって、それなら幸せかなって」

ソフィアは、なんでかわからないけど、なんでそんななのか、全く理解できなかったけど、

でも、本当にすっきりとした表情で、笑いながら言った。あたしは、あたしは、それが悲しくてしかたなかった。

 翌朝、ジオン軍は大挙して街から出て行った。

最期まで残っていた、ヘープナー少尉は、見送りのあたし達のところにやってきてあいさつをした。

 なんでも、このシャルロット・ヘープナー少尉は、所属のフェンリル隊とともに、最後のシャトルの打ち上げを見届けるまで、

この北米を離れるつもりはないらしい。シャトル打ち上げ後は、あの太った空母でアフリカに渡るんだ、と言っていた。

 言っていることは、ソフィアと同じなのに、シャルロッテには仲間を守るんだという固い意志と決意を感じたけれど…

やはり、ソフィアからは、どこか死を意識させる感じを覚えずにいられなかった。

 そして、その日の夕方には連邦の部隊が街へ押し寄せた。

とくに大きな混乱はなく、街の人たちはごく普通に軍人たちを受け入れ、軍人たちもそれを享受していた。

 それから、驚いたことに、その軍人の群れの中に、みんながいた。

オメガもレイピアも誰一人かけることなく、この街にたどりついていた。

あたしとソフィアはみんなをバーに案内し、店の主人にも紹介した。それからその日は、そこで酒盛りをした。

 相変わらず、フレートさんとダリルさんがヴァレリオさんをいじって、ヴァレリオさんが怒ったり、

それに乗っかってレイピアの女性パイロットたちが騒いだり、もうしっちゃかめっちゃかだ。

 でも、そんな中でもあたしは考えていた。ソフィアを、あの、死へ向かおうとする、傷つき感を、どうやって取り去るのかを。

きっと、それをあたしがやるってことは、それこそ死に物狂いで方法を探さないといけないだろう。

ソフィアと向き合って、自分と向き合っていかなきゃいけないだろう。

そうしていくことで、もしかしたら、あたしは、あたしの中にかけがえのない何かを見つけられるかもしれない。

 そんなことを、お酒で火照る体と頭に、心地良い微睡を感じながら、考えていた。

17日投下分は以上ですーおそくなってすみませぬ。

次回は18日夜に投下できたらいいな…

お読みいただき、感謝です!

乙!

戦慄のブルーか



ソフィアさん情報士官かよ。
敵に捕まったらレ○プはともかく拷問は覚悟しなきゃいかん立場だよな。
捕虜に関する協定なんてしばしば無視されるし、情報系の人間なら尚更だな。

EXAM始動!

>>385
感謝!

>>386
キャリフォルニアといえばこの機体、らしいのでww

>>387
そうだったんです、レナさんよりも厳しい詰問を受けざるをえない立場の人でした。
まぁ、レ○プに関しては、クソMPさんたちの趣味だったんでしょうが・・・

しかし19で中尉か……

この世界ではありがちですよねぇ
某真っ赤な人は19で少佐、20で大佐になりましたw

ちなみにシャルロッテは19で少尉、クリスも20で中尉だったと思います。
あと、ノエルアンダーソンが当時17歳伍長で、終戦後に18で少尉になってますw

士官学校卒業した軍人は卒業時が18歳として、
そのまま入隊して18-19で少尉任官される設定なのかと思います。

こんばわ!
つづき投下しますー!

 それから、何日がたった。相変わらず街には連邦軍が詰めている。先日、北のストックトンという街が連邦によって攻略された。

ソフィアによれば、これでジオンのキャリフォルニアベースの最終防衛ラインは崩壊するだろうとのことだった。

そのあたりの高度な戦術的なことは正直わからないけど、とにかく、ジオン兵を逃がすのなら時間がない、ということは分かった。

 あたし達の隊は、この街に駐留することが決まった。

主に補給路の防衛が主任務。任務の合間、隊長たちは車でどこかに出かけて行ってはしばらくは帰らない、なんてことが続いた。

なんでも、あたしとソフィアのために、街の周囲に万が一の逃走用の仕掛けを施してくれているって話だ。

あたしたちの乗ってきたホバーもどこかに隠した、と言っていた。素直に、それはありがたいと思う。

だって、あたしにはできない芸当だし、それに、放っておいたら、ソフィアは確実に死ぬつもりだ。

 ジオンが撤退してからも、合計で3、4人くらいの私服のジオン兵が、こっそりバーにやってきて、助けを求めてきた。

あたしとソフィアはそのたびにアシを用意したり、夜な夜なジオンの勢力範囲内に送って行ったりする活動をしていた。

 そんな日のお昼過ぎだった。あたしは、店主のおじちゃんに頼み込んで、ソフィアとこのバーで働かせてもらっていた。

隊長たちのこともジオンびいきなおじちゃんに紹介して、協力してくれるようにお願いした。

おじちゃんもあの「鳥のマーク」の連邦軍だというと喜んで快諾してくれた。


 「マライアー。空ビン、外に出してきてくれる?」

「あぁ、うん」

ソフィアが言うので、空の瓶が詰まった木箱を地下から持ってあがって、ごみ置き場へとおいて戻る。

「ありがとう。ごめん、悪いんだけど、そっちのモップも片付けといて」

ソフィアが言うので、モップを店の隅においてあるロッカーに戻す。

「あと、買い物行って来てほしいんだ。塩がなくなっちゃいそうで。できれば大きい袋でお願い」

ソフィアが言うので、あたしはお店の財布を持って…て、ソフィア、人使い荒くない?!

「ね、あたしはソフィアの召使いじゃないんだよ?」

あたしが文句を言うとソフィアはまぁたニヤニヤ笑って

「だってー昼間外うろつくと、私、連邦軍に見つかって危ないって言ってくれたのは、マライアでしょ?

 それにほら、あたし、夜の下ごしらえしなきゃいけないし」

そう言いながらソフィアはおじちゃんが書き残しておいてあるという、レシピノートをテーブルに座って、

コーヒーをすすりながらめくっている。

 このぉぉぉ!最近なんかますます元気になってきてない、こいつ!?腹が立つ!腹が立つけど…買い物は、あたしがいかなきゃ…

 そのことに自分で気づいてしまった、あたしは肩を落とした。

「わかったわよ。行ってくる!」

それから、ちょっと不機嫌なふりをしてお店を出た。


 街は、いつもと変わらず落ち着いている。人々は普通の暮らしをして、何気なく過ごしている。

もちろん、街の中の通りには軍用車が走っているし、軍人もときおり街角をふらついている。

モビルスーツはたえず、街の外側に陣取って警戒を崩していないし、戦時だという雰囲気ではあるのだけど、

この街は、南にロサンゼルスという大きな拠点があった街での戦闘が主体になっていたため、ほとんど被害を受けずに済んでいる。

だから、こんな穏やかな雰囲気なのだろう。

 あたしは食料品店に行って、業務用の塩を2袋買って店を出た。

おもいビニールバッグを下げて歩いていたら、ゴゴゴゴゴと地鳴りのような音が聞こえる。

見ると、大通りをおきなトラックが走ってきていた。巨大な荷台。あれは、モビルスーツの運搬車だ。

運搬車は、大通りの真ん中で停車する。シートから、軍人が数人降りてきた。

それぞれ、伸びをしたり、近くのお店に駆け込んだりしている。

 あれはおそらく、キャリフォルニアベース攻略のための本隊の一部。

情報では、今夜にはこの街にビッグトレーが到着して、明日にはキャリフォルニアベースに総攻撃をかけるとのことだ。

周辺の街から、そのビッグトレーに搭載されるための戦力が、ここに集結しているのだ。

 ふと、運転席から降りてきた男が、誰かと話しているのが目に入った。

テンガロンハットにサングラス、手にカメラを大事そうに抱えた、ジャーナリスト風の女と、

体躯の良い、日に焼けて浅黒くなった肌の、女性…

 あれ…?

 あたしは、ハッとした。急に胸がキュンキュンと苦しくなる。

まさか、そんなこと、ね…そうは思いつつ、あたしは目を凝らす。

 いや、うん、そうだよ。間違いない…あの顔、あの、明るい笑顔…間違いないよ!


———アヤさん!!


あたしは大声で叫んでしまいそうになったところをこらえた。アヤさんと一緒にいる女性は捕虜のはずだ。

ソフィアと同じ。

だとしたら、こんなところで大声で呼びかけて注目されるのは避けるべきだ。

あたしは慌てて、震える手で自分のPDAを取り出して隊長のナンバーにコールした。

 呼び出し音が鳴る…今日は、レイピア隊の出撃の順番のはず。隊長は街のどこかか、

街の周辺にはいるはず…呼び出し音が鳴る…もう!隊長!早く出———

「おーう、マライア。なんだよ、急に電話かけてきて」

出た!

「隊長!隊長、大変!アヤさん!アヤさんが!」

「なんだよ、アヤがどうした?なにか情報入ったのか?」

「ううん、違うよ!いるの!すぐそこに!この街に来てるんだよ!」

「なんだと!?場所は?」

「えぇと…ほら、あのダイニングバーの前!あの、料理まずかったところ!」


「あぁ、あの角か。俺たちもすぐ近くにいるが、待てよ、大通り沿いだな…よし、アヤのことは任せろ。

 マライア。お前、店に行ってオヤジさんに場所貸してくれと頼んどいてくれ。こんな街中で立ち話は、さすがに怖ええからな」

「うん、了解!」

あたしはそうとだけ返事をして、お店への道のりを走った。

あたしはお店に駆け込んで、おじちゃんとソフィアに隊で使わせてほしいってことを伝えようと思った…

けど、息が切れてて、声が出ない。

キッチンで食事の下ごしらえをしていたおじちゃんとソフィアが、そんなあたしの様子を見て、呆然としている。

あたしはお水を一杯貰って、息を整えてから事情を説明した。おじちゃんは快くお店を使って良いって言ってくれた。

ソフィアは、なんだか不思議そうな顔をしていたけど、とにかく!行かないと!アヤさんのところ!

今頃、隊長たちがアヤさんと会っているはずだ!あたしも早くアヤさんと話したい!

 「じゃぁ、ちょっともう一回行ってきます!」

あたしはそう言ってお店を出ようとしてソフィアに呼び止められた。

「あーマライア!塩!塩は持っていかなくていいから!」

忘れてた。塩の袋もったままだった!あたしは、それをソフィアに渡して、また走ってお店を出て行った。


 「へいよ、お待ちどう!」

おじちゃんが、料理を持ってきてくれる。

「悪かったなぁ、オヤジさん!急にこんなこと頼んじまって」

隊長が言うと親父さんは笑って


「なーに、お前さんらの頼みじゃことわれねえよ!それに、そっちの嬢ちゃんもジオン軍人を助けたっていうじゃないか!

 俺は今まで、連邦なんて、って思ってたが、やっぱり捨てたもんでもねぇよな。

 大事なのは、どっち側かなんてことじゃく、ひとりひとりの心がけだよな!」

おじちゃんはそう言って豪快に笑う。

 おじちゃんに次いで、ソフィアも料理を持ってきてくれた。あたしはチラっとソフィアを見る。

彼女は無言で「なぁに?」とでも言いたげな目。あたしは、ソフィアに、アヤさんと話をしてほしかった。

あたしには、ソフィアの傷をどうにかすることはできないかもしれない。

でも、アヤさんならもしかしたらそれを明るく照らし出す方法を知っているかもしれない。

あたしにはできないけど、でも、だから、あたしは、アヤさんとソフィアを近づけてあげたいって、そう思った。

「んおぉ!おっちゃん!このマリネにかかってるタレ、これなんだ?」

アヤさんが運ばれてきた料理を口にしておじちゃんに聞いている。

「あぁ、俺特製のドレッシングさ。オリーブオイルと、酢と、レモンに、隠し味にちょいとばかし蜂蜜を加えてる」

「この甘味は蜂蜜か!おっちゃん、これはうまいよ!」

「そうかい?そう言ってもらえると作った甲斐があるってもんだ!こっちの男どもは料理の感想なんて一言も漏らしやがらないからな!」

「あーおっちゃん、こいつらには生ごみでも食わしときゃいいんだよ!

 ちょいと味付けしてやればうまそうに食うからさ!ごみ捨ての手間が省けていいぜ?」

アヤさんはそんなことを言いながら、まるで10年来の知り合いみたいにおじちゃんと話している。

そうなんだよ。アヤさんは、いつだってみんなの心を明るくする太陽みたいな人なんだ。

ソフィアだって、きっと、アヤさんと話せば、もっと明るい希望をもってくれるはず。

 それにしても…

アヤさんだ!無事で良かった!

アヤさんだアヤさんだアヤさんだ!!

またアヤさんに会えるなんて!

 しかも、こんなにげんきそうでいてくれて…もうっ!こんなにうれしいことってない!


 「しかし、良くもまぁ、西回りでこんなとこまでたどり着いたぜ」

フレートさんが言う。

「そうですよー!船だったんですってね?」

デリクが聞いた。

「船と言や、レナさん、こいつうるさかったろ?やれ魚がどうのーとか、船の馬力がどうのーとか?」

ダリルさんがそう言って、アヤさんの連れていた捕虜、レナ・ヘスラーに話しかける。

「あはは。もうね、すごいんですよ!魚と海と船と釣りの話になると、もう、止らなくって!」

レナさんも、笑っている。

「あーレナ!あんたやっぱそんな風に思ってたのかよ!」

「あはは!だって、アヤ、そう言う話になると子どもみたいにワクワクした顔してて面白いんだもん!

 あ、でも、釣り!私、アヤに初めて釣りやらせてもらったんですよ!一匹釣れてそれを食べたんですけど、楽しかったですよ!」

「なんだ、逃亡生活で食う物も食えないようなことになってんじゃねえかと思って料理頼んだが、

 そうだったな、アヤには自給自足生活のすべがあったな。オヤジさん、こいつらには食わさんでいいわ!」

「ちょ!隊長!食べるよ!」

「そうですよ!食べますよ!アヤのおごりで食べますよ!」

「え、ちょ!レナ!レナさん!あんた、なにサラッととんでもないこと言ってんだ!?」

「なんだ、アヤのおごりか!おーい、オヤっさん!俺ビール!」

「俺バーボン!あのうまいヤツ、ボトルで入れてくれ!おごりらしいから!」

「じゃー俺、ワインで!アヤさん、ごちになりまーす!」

「お前ら!まだ昼間だぞ!?ってか、アタシらこれからまた北の激戦地に行くから飲めないし!お前らだけ飲ませるわけに行くか!」

「おじさーん!私も何か甘いお酒くださーい!」

「あれ!レナ!レナさん!まだアタシらこれからやることあるんだぞ!」

「えー?でも、運転は結局アヤでしょ?基地に着いたら起こしてよ!」

「あんたってやつは!」

「わーー!暴力反対!」

アヤさんがレナさんの首に腕をかけてぎゅうぎゅうと遊んでいる。二人とも、すごく楽しそうに笑ってる。

仲良さそうで、楽しそうで、元気そうで、良かった。


 「ん…?」

 「あ…」

そんな楽しそうにしてた二人が不意にそう声をあげた。ちょうど、ソフィアが料理を運んできてくれたところで、二人は、彼女を見ていた。

ソフィアはやっぱり、そんな二人を見てキョトンとしている。

「アヤさん!その子、ソフィアっていうの、実はね、あたし達、アヤさんと同じことしちゃったの」

あたしが言うと、アヤさんは一瞬、ぽかんとした表情をした。それから、すぐさま何かを考える様な顔つきになって

「ま、さか…捕虜だったとかじゃないよな?」

と眉をヒクつかせながら確認してきた。

「ご名答」

隊長がそう答えて笑った。それから

「まったく。こいつらときたら、いったい誰に影響されたのやら…困ったもんだぜ、本当によう」

とまるで渋々、と言った感じで言うのだ。自分で言い出したことなのに、隊長らしい言い方だ。


 「ソフィア。この人は、アヤさん。あたしの…」

目標、あこがれ、そんなことを言おうとして、言葉を引っ込めた。

今まではそう言う存在だったように感じていたけれど、今は、それとは少し違うように感じていた。

もちろん、隊の中では今でもやっぱり一番大好きだし、頼れるし、優しいし。

でも、それはあこがれや目標なんかじゃなくて、単純な好意のように感じられていた。

「お姉さん!」

そう言うと、アヤさんはちょっと恥ずかしそうな、うれしそうな笑い声をあげた。

「それから、こっちは、えと、ジオンのレナ…リ…ケ…?」

「レナ・リケ・ヘスラー少尉です。地球方面軍、北米隊のキャリフォルニアベースに所属していました」

あたしが戸惑っていたら、レナさんはそう言って自己紹介をしてくれた。それを聞いたソフィアも笑顔を返して

「そうでしたか。私は、ソフィア・フォルツ情報中尉。

 所属はもともとオデッサ基地でしたが、任務の特性上、ヨーロッパ全域で情報分析活動をしていました。

 連邦のヨーロッパ攻勢で逮捕されて、ジャブローへ…」

そこまで言って、ソフィアは言葉を濁した。

「ソフィア」

あたしは彼女の名を呼んだ。それから、すこし迷ったけど、必要だと思ったから、思っていたことを口にした。

「ごめん、つらいかもしれないけど、話してあげてほしい。アヤさんは、この人は、とても頭が良くて、優しくて、太陽みたいな人なんだ。

 あたし達はあなたのことを理解はできても、あなたの気持ちの全部を了解は出来ない。でも、この人は違う。

 きっと、あなたを助けられる…」

「…おい、マライア、買いかぶりすぎ」

アヤさんはそう言って笑いながら、でも

「良かったら聞かせてくれないかな」

とソフィアに言う。傍らにいたレナさんも

「うん。できたら、聞かせてほしいです、中尉。私も同じような身。何か力になれることがあるかもしれません」

と言ってくれた。

 ソフィアは黙っていた。その表情には明らかに戸惑いが見て取れる。わかるよ、ソフィア。怖いの、分かる。

今は遠くに放ってある傷を、もう一回触ることになるかもしれないんだもんね…でも、大丈夫。

アヤさん達なら、きっと大丈夫だから…お願い、頑張って…。

 あたしは気が付いたら、ソフィアの顔をじっと見つめていた。ソフィアがチラっとあたしを見やった。

すると、なにか確信を持った顔つきで

「はい…」

と返事をして、うなずいた。

「でも、その前に…」

と、レナさんの方を見てソフィアが改まって口を開く。

「ヘスラー少尉。私は、軍から身を引いています。歳も、私の方が下ですし、私も気にせずにお話します。

 だから、少尉も、できたら気楽に相手をしてくれると、うれしいです」

ソフィアはそう言って、レナさんに笑いかけた。

「うん、分かった」

レナさんもそう言って笑顔を返した。

 ソフィアはそれを確認すると、ふぅとひとつ大きなため息をついて語り始めた。


「私は、オデッサ作戦でジオン本隊が撃破されてから、アフリカの小さな町に潜伏していたところを連邦兵に逮捕されました。

 11月の末でした。おそらく、ジャブロー降下作戦の前日だったかと思います。

 情報士官だったということだからでしょう、そのまま身柄はジャブローへと送られて、そこで取り調べを受けてもらう、

 と言われていました」


「拷問ね…」

レナさんがそう言って身を震わせた。


「はい。ジャブローへ着いた初日は、これでもかと言うくらいに殴られました。拳や警棒で。

 正直に言えば、私は、アフリカに潜伏しているジオン残党の情報をある程度把握していたので、それを詰問されました。

 もちろん、しゃべりませんでした。なにがあっても、同胞を売るようなマネはしたくなかった。

 でも、そんな強がりを言っていられたのも、その日まで。翌日、私は独房から取調室に引きずられて行って…その…」


ソフィアはそこまで話して、突然に両腕で自分の体を抱いて震え始めた。

あたしは、いてもたってもいられなくなって、彼女の隣へ行き、肩を抱いた。

それでも、ソフィアの震えは収まらない。

 すると、アヤさんがそっと手を伸ばしてきた。

アヤさんは、ソフィアの手を握ると、その眼をじっと見て


「無理はしなくていいよ。でも…しゃべりたい、と思うのなら、ちゃんと聞く。安心して。

 ここは取調室じゃない。ここにいるアタシらは、みんな味方だ。大丈夫だよ、大丈夫…」


アヤさんの言葉は穏やかだった。不意にソフィアの体の震えが止まった。

微かに、吐息が乱れて、ヒューヒューと音を立てているのが聞こえる。

でも、ソフィアは、一度つばを飲み込むと、テーブルの上にあったお酒のグラスに手をかけて、それを離して、

隣に置いてあった水の入ったグラスをつかんで一口飲むと、息をついた。それから、クッと力を込めて


「ごめんなさい…私は、あの日、あそこで…取り調べをする、と言って私を引きずって行ったMP3人に、代わる代わる…犯されました」


と掠れそうな声を、なるべく響かせるようにして言った。

「そっか…」

アヤさんの顔に、一瞬だけ、力がこもる。レナさんは、口に手を当てて、息を飲んだ。


「何時間くらい、続いたか、正直わかりません…30分くらいだったような気もしますし、

 もしかたら、1時間か2時間以上だったかもしれません…」


ソフィアはそう言って口をつぐんだ。ソフィアの手を握るアヤさんの手に、きゅっと力が入るのがわかった。

それから、アヤさんは、今度はすっと息を吸った。そして、さっきソフィアがしたようにクッと力を込めて

「怖かったろう」

と掠れた声で言った。

「はい…」

上ずった声でそう返事をした途端、ソフィアの目から、ボロボロと大きな涙がこぼれ出した。


「私っ…きっとそう言うことされるだろうって、覚悟はしてました…もし、そうなったら、舌を噛んで死ぬか、

 そいつらに殺されるまで抵抗してやろうって、そう思ってました。でも、いざそうなってみたら、私、怖くて、怖くて…

 なにも、なにもできなくて…動けなくなって…震えちゃって…脱がされて、あちこち触られてから、それから…

 なんども、なんども…。逃げたいのに、逃げられなくて、怖いのに、気持ち悪いのに、汚されていくのに、

 私、自分で死ぬこともできなくて…ワケわからなくて、頭が、おかしくなっちゃったみたいで…

 バラバラになっちゃんたんです、私っ…命はあるのに、心が死んじゃったんですよ…

 ばらばらに、ぐしゃぐしゃに、壊されて、荒らされて、汚されて…!もう、そこからは、なんだかもう、ただ悲しくて…

 なんで生きてるんだろうって、どうして、こんなところにいるんだろうって、そんなことばっかりが頭をぐるぐると回るだけで…!」


ソフィアがあの時、何を感じていたかなんて、初めて聞いた。ううん、あたし達は聞かなかったし、聞けなかったんだ。

だって、それがどんなにか辛くて苦しいことだったか、想像できないことが、分かってしまっていたから。

想像しようとすれば、あたし達の何かが、ソフィアによって壊されてしまいそうに感じていたから、

確信があったから、誰も、誰ひとりそんなことは聞けなかった。

 アヤさんも、辛そうだった。その表情は、まるですべてに絶望しているようだった。

悲しみと、怒りとがぐしゃぐしゃになったような顔をしている。レナさんはより一層、悲しい表情をしていた。

気が付けば、話を聞いていた二人は、寄り添うようにして、アヤさんの開いている方の手を、レナさんが両手でギュッと握りしめていた。

 あぁ、この二人は…あたしは気が付いた。

 この二人の絆は、とっても強いんだ。きっと、もしかしたら、ひとりずつでは、ソフィアの話を十分に聞くことができなかったかもしれない。

二人は今、お互いに何かを確認し合いながらソフィアの話に耳を傾けているんだ。

「そうだろうね…ソフィア…辛かったよね…良く頑張ったよ…良く、生きててくれたね…!」

レナさんもいつのまにか泣いていて、大粒の涙をこぼしながらソフィアに声をかけている。

ソフィアは、レナさんの言葉を聞いて、大きく、何度もうなずいた。


「3人が一通り、私の相手をして、二週目に差し掛かった時にマライアが来てくれたんです。

 部屋の前を通りかかって、そいつらに、脅されて、でも逃げることが出来ましたそれから、次の男が終わる直前に…急に電気が消えたんです」

「電気が?」

アヤさんが聞くと



「はい。ダリルさんが、工作活動をしてくださったらしくて、暗闇の中、隊の皆さんがと突入してきてくれて、

 私は、あの取調室から逃げ出すことができました。そう言えば、あの狭い独房と、あの狭い取調室以外の世界の外には、

 ちゃんといろんな場所が広がっていたんだってことと、外に出て感じました。

 それから、隊長たちに連れて行かれて、地下水脈のあるエリアで…」


「殺したんだな…」

アヤさんが低い声で聴くと、ソフィアは

「はい」

と声に出して返事をした。


「銃で、脚と肩を撃ってから、股の、その、急所に、銃口を押し付けて、引き金を引きました。

 それから、何度も何度も、私、そいつらの股を蹴りました。

 血を噴きださせてて、口も塞がれてたから、大声が上げてませんでしたけど、苦しんでました。

 殺してやろうと思ったわけではないんです、正直。

 でも、もうその時には正しい判断もできなくなっていいて、そんな壊れた心が訴えかけてくるのは、

 目の前の男どもを、全部、ひとり残らず、恐怖と痛みと後悔と絶望に陥れてから殺そうって、そんな感じで…

 銃が撃てなくなってからは、岩出顔面を何度も殴って、それこそ、顔が陥没据えるほどに殴って、ひとり残らず、殺しました」


「そうか…それで、多少は気が晴れた?」

アヤさんが聞くと、ソフィアはうつむいた。


「いいえ。正直、まともに物を考えていることもできない状態で…

 そのときはとにかくその気持ちで、あとは実は、細かい記憶はあまり残ってなくて、

 あいつらのうめく声と、銃の反動と、血が吹き出るようすと、蹴ったり、殴ったりした感覚だけが、妙に鮮明に残っているくらいで…」


「まぁ、そんなもんだろうな…気休めにはなるが、根本の解決にはならないし…

 まぁ、今後のことを考えても、どこかでなんらかの形で潰しておかなきゃいけないヤツらだった。

 多分そいつら、レナを殴ったのとおなじMPだ。

 あの時は、状況的に不利だったから放っておいて、レナの逃亡のことを最優先にしていたけど、

 やっぱり、あの場でアタシが潰しとくべきだったのかもしれない…ひどい役回りをやらせちまって、悪かったな」


アヤさんはそう言ってソフィアに謝った。ソフィアは首をぶんぶんと横に振った。

 それからアヤさんはチラッとレナさんを見やった。レナさんは、力強い目で、コクリとうなずいた。

まるで、無言で何かを確認しているようだった。

 それから、アヤさんはしばらく虚空を見つめていたかと思ったらふっと口を開いた。

「話してくれて、ありがとう。つらいことを思い出させちゃって、ごめんな…」

「もしかしたら、たぶんアヤが助けに来てくれなかったら、私もソフィアと同じ目にあっていたと思う。

 そう考えたら、私もさんざんに殴られたけど、それも、心を仮死状態にまで閉じ込めたって怖かったけど、

 それ以上のことがこんな身近であったなんて…あなたの言う、心がバラバラにされて、砕かれてしまった、っていう気持ち。

 想像できるよ…まるで、底の無い、ぽっかりとした真っ黒な穴が開いてしまったみたいな…

 それが、そうなってしまう経験て言うのが、どんなに辛くて、どんなに怖くて、どんなに不快で、どんなに悲しいことだったか…って」

レナさんもハラハラと涙をこぼしていた。相変わらず、レナさんはアヤさんのそばに寄り添って、手を固く握っていた。

それから、不意にアヤさんが、何かを決心したように話を始めた。


「あのさ、実は…知り合いってか、んまぁ、ちょっと面倒見てた子がね、おんなじ目にあったことがあるんだよ。

 戦争が始まった直後くらいに。

 それこそ、この北米戦線でジオンに追われて、ジャブローに撤退してきた部隊がさ、街で、そのアタシの知り合いにそう言うことしてね。

 まぁ、そいつらは、アタシが再起不能にしてやったんだけど…と、で、アタシ、それから、その子と一緒に、なんて言ったっけな、

 サイコセラピー?みたいなのに何度か着いて行ってたんだけど、その時の先生がさ、言ってたよ。

 『心の中の傷は、膿を出さないと治らないもの。だからいっぱい吐き出して。全部吐き出したころには、不思議と傷も塞がっているもの』

 だって。だからまぁ、あんたもいろいろあるんだとは思うけどさ…

  そうでもしないと、新しいこと生活つくろうったって、そんな気も起らないと思うし。

 いや、知り合いがそうだったから、ね。だから、まぁ、ほら!こいつらバカだけど、気のいい奴らだしさ!

  いっぱい吐き出して良いんだぜ!バカはバカなりに、黙って話聞いて、なんにも言ってやれない代わりに、

 あんたから離れずにそばにいてくれるからさ!ちょっとずつでいい。

 こいつらを、信じれるようになってくれれば、かならず、なんとかしてくれるよ」


アヤさんがそう言うと、レナさんも明るく笑って


「うん!私もそう思う。私もアヤに助けられた。アヤも黙ってそばにいてくれて、明るく楽しくしてくれた!

 だから、きっと皆さんを信頼していいと思うよ!あとね、なるべく太陽に当たること!元気になるし!」

とソフィアに言った。

 ソフィアは…まるで急に明るい光に照らされたみたいに、ハッとなって、そして、それからテーブルに突っ伏して

「ありがとう…ありがとう…」

と何度もつぶやきながら、泣き崩れてしまった。

 あんな気持ちを、ずっと胸の中に抱えていたんだね。ごめんねソフィア。

あたし達には、どうすることもできなかったことだったと思う。ずっと一人で抱えさせて、ごめんね。

今ので、ソフィアのすべてが変わったなんて思わない。でも、でも。

あのアヤさんが、ううん、レナさんも、二人で、ソフィアに何かを与えてくれたような感じがした。

泣いているソフィアを見ても、彼女は、何かを受け取ったんじゃないかって、思えるような気がした。

 そうだ、あたしには、こんなことはできなかった。だから、アヤさんに話してほしかった。

それが、今、あたしができた一つのこと、だ。

「あぁ、そんなことあったなぁ…ありゃぁ、ヤバかったよなぁ」

不意に隊長が言った。

「あぁ、そうっすねえ。さすがに俺も止めましたからね」

フレートさんが言う。

「お、おい!その話は…やめろ!」

アヤさんが急に顔を青くして動揺し始める。


「なにかあったんですか?」

レナさんが隊長に聞く。

「あー!レナ聞くな!隊長も…黙れこの野郎!」

「うわぁぁ!アヤが暴れ出したぞ!」

「や、野郎ども!アヤを止めろ!」

「無理です」

「いや、怖いです」

「痛いのイヤなんで俺は知りません」

「ちょ!私聞きたい!アヤ、お座り!」

いつの間にか泣き止んでいて、でも涙目だったレナさんがアヤさんを押さえつけて、イスに押し戻すと、

まるで後ろから抱き着くみたいにしてアヤさんを拘束した。いや、そんなので捕まるアヤさんじゃないと思うのだけれど…

 あれ、おとなしくなった…?


「ようし!ナイスだレナさん!じゃぁ行くぞ!」

「やめろー!」

アヤさんがジタバタと脚を踏み鳴らす。


「あれは、たしかパトロールのあとだったなぁ。アヤの知り合いってのから、そんなことがあったって連絡があって、

 アヤがその子たちのところに話を聞きに行ったんだ。それまでは良かったんだが…

 帰ってきたアヤはもう、目の色が変わってた。

 で、その子たちから聞いた、その連邦軍の部隊の隊章だけを頼りに、その部隊を特定したんだ」


「あーもうホントやめてくれ!その話!」

アヤさんはそう怒鳴る、けど、レナさんが押さえつけているからか、抵抗はしていない。

「それで!それで!?」

レナさんはすっかり興味深々そうだ。あたしも、それはまだ配属される前の話で聞いたことがない。

この様子だと、まだあたしの知らないアヤ・ミナトの武勇伝があるようだ。


「うん。で、こいつは、ある朝、基地内で、その部隊と出くわした。もちろん、俺たちも一緒で、話は聞いてたからよ。

 アヤがそいつらに突っかかっていくのを別に止めたりはしなかったんだが…それがそもそも間違ってたんだ。

 突っかかっていく、なんてぇレベルじゃなかった」


隊長はそこまで話して、わざとらしく身を震わせた。



「相手は、北米からジャブローに来た陸戦隊の1個小隊、40人。

 アヤは…そもそも全員をぶちのめすつもりだったんだろうな。

 それこそ、こっちの声なんか聞こえない様子でそいつらに殴りかかった…それから、ほんの10分もなかったと思うが…

 こいつ、ホントにそいつら全員をぶちのめしたんだ…」

 「よ…40人を…?」

「そうだ。しかも、事が終わったあと、その一人を締め上げて主犯を聞き出したアヤは…

 それこそ、本当にそいつらのナニを全部蹴り潰して『再起不能』にした…」

隊長はまるで怖い話でもするように言った。隊のみんなも、黙って、わざとらしく身を震わせている。

「アヤ、本当!?」

「…おおむね事実…」

レナさんが驚いている。


「あの時のアヤはバケモンみたいだったな」

フレートさんが言った。

「いや、悪魔だ」

ハロルド副隊長が言う。

「そんな生易しいもんじゃない」

ヴェレリオさんも口をはさむ。

「ああいうのはな、鬼神っていうんだよ」

ダリルさんが言った。

「鬼神…なんかそれってちょっとかっこいいな!」

フレートさんが唐突にそう言って笑いだした。

 何事かと思ってみたら、アヤさんが真っ赤な顔をしてフルフルと震えている。

「おい鬼神!お前、あんな無茶はもうすんなよ!事後処理大変だったんだからな!」

隊長も、笑いをこらえながら言っている。

「アヤ・鬼神・ミナト少尉に、敬礼!」

ダリルさんがそう言うと、みんながビシッとそろって敬礼してから大爆笑した。

あたしには何が面白いのかはさっぱりわからなかったけど…その場面を見たことのある人には、きっとそうとう可笑しいんだろう。

 それから夜になるまで、あたし達はみんなでアヤさんとの時間を楽しんだ。

あたしも、久しぶりのアヤさんと、もっともっと話をしたいって思った。この時間を楽しみたいって、そう思った。

今は、この幸せを感じていたい。ただ、ただ、そう思っていた。明日はきっと、激しい戦いになる。

あたしとソフィアには、行かなきゃいけないところがあるんだ。


本日は以上です!
お読みいただき感謝!

アヤセンパイ、マジパネッス!ww

そろそろストックが怪しいですが…とりあえず次回は明日!



アヤさん、ガンダムの主人公らしい無双っぷりだね@肉弾戦

13機のドムが全滅だと!?3分ももたずにか……
コンスコンさんの絶望の再現かw

おつー

ダイニングバー、ホントに不味かったんだな…ww

>>406
感謝!
コンスコンさん参考にしてますwwww
BDのすごさがイマイチ表現できなかったので
とりあえずコンスコンさんのとこ以上に落としとこうと思ってww

>>407
かんしゃー!
マジで不味かったぽいですww
てか、こんな小さなネタを拾ってくれてうれしすww

ガンダムはよくわからんけど好き
これを気に見てみようかな

>>409
そういってもらえるとうれしいです!
登場したキャラ探しとかしてみてください!ww

こんばわー!
続き投下いたします!


 食事を終えて、アヤさん達がみんなに別れを告げて店を出た。

隊長が、あたし達の乗ってきたホバーに二人を案内するとのことだった。隊長は、軍のジープに乗る。

あたしは、あたしの都合もあって、アヤさん達を追って店を出た。

「ね!アヤさん!あたしも最後まで見送らせて!」

あたしは、アヤさん達の乗った車の前に出て、道をふさぎながら言った。

「悪いよ!あんたらもまた明日任務があるんだろう?早く休んだ方が良い」

アヤさんはそう言ってくれたけど、あたしは止まった車の後部座席に無理やりに乗り込んだ。

小さい車で、後部座席は二人の荷物置き場になっていたけれど、かまってなんかいられない。

「おいおい、なんだよ?」

乗り込んだあたしにアヤさんがいぶかしげに聞いてくる。

「いいでしょ!お願い!」

あたしは頼んだ。もちろん、街の外へ行くには隊長の車に乗って行けば済む話だけど、あたしはアヤさん達と一緒に居たかった。

アヤさんとレナさんを見ていたかった。ふたりがここにたどり着くまでにどんなことを経験してきたかは、話で聞いた。

でも、経験だけじゃない。二人には、特別な絆が出来上がっていることに、あたしは気が付いていた。

あたしは、その絆のことをもっと知りたかった。あたしとソフィアが、こんな関係になりたいから、と言うわけじゃない。

でも、ここまで強く結びついている二人が、お互いのことをどう感じているのかを知りたかった。

だって、それは、あたしがいままでしてきたことのない、誰かと向き合った結果に違いないんだ。

あたしは、あたしのために、ソフィアのために、ふたりが何を思ってこうして一緒にいるのかを知りたかった。

「ったく、見ない間に、ちょっと凛々しい顔つきになってたかと思ったら、そう言うところは変わってないな!」

アヤさんはそう言って笑った。ちょっぴり、うれしかった。

やる気を出したからって、あたしがあたし以外の何かになることなんてありえない。

アヤさんの言葉はそのまま、今までのあたしが、ちょっと凛々しくなったんだと言ってくれているのとおんなじだった。

 アヤさんが車を走らせる。

「ね、アヤさんはどうしてレナさんを助けようと思ったの?」

あたしは早速アヤさんに聞いてみた。

「なんだよ、藪から棒に?」

そりゃぁ、そう思うだろうけど、でも、街の外までなんてすぐだ。時間がないんだ。

「いいでしょ!教えてよ!」

あたしが言うとアヤさんはえーと不満そうな声を上げながらすこし黙って

「そりゃぁ、あんた…レナがアタシを信じてくれたからだよ」

と言った。


「信じてくれた?」

あたしが聞くと、アヤさんは胸を張って

「そうさ!レナは、初めて会ったときに、アタシを信じて、一緒に過ごしてくれた。

 それに、アタシを守ってくれるって言った。敵だったのに!アタシはそれがうれしかったんだ。ただ、それだけだ…な?」

と言い、レナさんに同意を求めた。

「え?うん、そう、だね」

レナさんはちょっとびっくりしていたけど、そう返事をして笑った。

「じゃぁ、レナさんは、どうしてアヤさんと一緒に行こうって思ったの?」

あたしは今度はレナさんに聞いてみた。節操がないな、なんて思われているかもしれないけど…

「私?私は…うん、地球じゃ、アヤの力を借りないと、どこにも行けないだろうっていうのも正直あったんだけど…

 でも、私も同じ。アヤが、私を守ってくれる、っていうから。それなら、私もアヤを守らなきゃ、守りたい、そう思ったの」

レナさんは、すこし照れた様子だった。

 守る、守られる…確かに、それは固い絆なのかもしれない。アヤさんが隊で、あたし達を守ってくれたのと同じ。

アヤさんにとって、レナさんはきっと家族なんだ。でも、それだけじゃない気がする…

だって、アヤさんのレナさんへの感じは、隊の外の誰かとも全然違う。もっと特別な家族なんだって思える。

それは…夫婦っていうか、恋人同士に似ているけど…でも、二人は女同士だし。

そういうことでもないんだろうな。

だけど…うん。わかった。守る、なんて、口で言うのは簡単。でも、実際やるとなったら難しいことだ。

それを、二人はまるでこともなげに口にした。それは、口から出まかせでも適当でもない。

二人は本気で、心からそうしたいと思っているから、こんなことを簡単そうに口にできるんだ。

そう、本気、だ。きっと、この絆は、二人のそう言う気持ちが作ったものなんだろう。

 「なんなんだよ、マライア。そんなこと聞いて?」

アヤさんがあたしに聞いて来た。あたしは、なんだか笑ってしまった。

でも、今の二人に、これからのあたし達のことを話すわけにはいかなかった。

だって、もし知ったら、この二人はもしかしたら、すべてを投げ打って手伝おうとしてくれてしまうかもしれない。

そんなこと、正直あんまりしてほしくなかった。二人には、目的があって、それを達成してほしいと思うし。

なにより、今回あたしは、できることは全部、できないこともできるだけやろうって決めたんだ。

隊長の手も、アヤさんやダリルさんの手も借りないで、あたしがどこまでやれるのか、誰の手も借りないで、

どこまで戦えるかやってみたいんだ。命がけで。


「えへへ!ナイショ!」

あたしはアヤさんに言ってやった。

「あぁ?なんだよ、それ!」

アヤさんはさも不機嫌そうにあたしに言ったけど、そんなこと全然気にしない!

 車は、街のはずれの洞穴に到着した。昨日の夜に隊長にはここへ案内してもらった。

本当は、あたしとソフィアがまた使うはずだったホバー。

でも、アヤさん達には、これは必要だ。隊長は他にもいくつか手段を隠してくれていると言った。

手を借りない、なんて言いながら、そこはちょっと情けないけど、まぁ、細かいことはいいんだ!

 「へぇ、なんだこいつは?」

洞窟に着いたアヤさんが、車をホバーの荷台に積み込みながら隊長に聞いている。

「詳しくは知らんが、ダリルが言うには現地改修車じゃねぇかって話だ。くっついてんのは連邦軍の対戦戦艦用の120mm実弾砲。

 モビルスーツなんかでも、狙撃翌用ライフルとして装備してるやつがいるが、まぁ、その銃身を徹底的に切り詰めたもんのようだ。

 そんなんだから、遠距離での命中精度は当てにならんが…ないよりましだろう」

隊長が説明した。うん、その大砲、うるさいし、全然当たらないから、頼りにしない方がいいよ、アヤさん。

 あたしは心の中でそんなことを思いながら、隠れて、自分の指にキスをして、その指をホバーにギュッと押し付けた。

ジャブロー防衛軍が良くやる「おまじない」だ。

パイロットや整備員たちが、自分や乗り込んでいく人たちを無事に返してくれるように、ってそうして機体にお願いする。

人によっては直接機体にキスする人もいる。誰が始めたかわからないけど、とにかく、あたし達を守ってくれたホバーだ。

お願いだから、アヤさんとレナさんを、どうか無事に目的地まで届けて…あたしは、そんな願いを込めていた。それから、

「アヤさん、レナさん、どうか気を付けて」

と声をかけた。

「あぁ、わかってるよ。ここまで来てヘマしてたまるかってんだ」

アヤさんはそう言って笑い、それから

「お前も死ぬなよ、マライア。この作戦が終われば、戦場は宇宙になる。

 アタシら地上部隊はお役御免で、あとはのんびりジャングル警備生活だ」

なんて言ってくれた。うん、あたし頑張るよ!だからまた、生きて会おうね、アヤさん…

「はい!」

あたしは出来る限る元気よく返事をした。

 それから、隊長にお礼を言うレナさんにアヤさんが声をかけて、二人はホバーに乗って洞窟を後にした。夜の暗闇の中に、ホバーは消えていく。

「無事だと、いいな…」

あたしがポロッとつぶやくと、隊長がドンっとあたしの背中をはたいた。

「あいつは、お前に心配されるほどのヘタレじゃねえよ。あいつは、やると言ったらやるやつだ。信じろ」

隊長はそう言った。

なら…

「なら、隊長。あたしのことも、信じてくださいね」

隊長にそう言ってやった。すると、隊長は意外そうな顔をして、それから大声をあげて笑った。

「だはははは!なんだ、一丁前に!実績のねえやつなんか信用できねえよ!」

「ど、どうしてそんなこと言うんですか!」

「信用できねえから、勝手にやりやがれ。無事に戻ってきたら、そんときには信用してやる」

隊長は言った。もう…この人には絶対にかなわない自信があるよ、本当に。


 ザクザクという足音がした。見るとソフィアの姿あった。

「見送りはすんだ?」

「うん」

「良かった」

ソフィアはそう返事をして笑った。それから、隊長に深々と頭を下げた。

「最後まで、ご迷惑をかけてすみません」

「なに。あんたを助けたのは俺たちだ。最期まで面倒見れて良かったよ」

隊長はまたガハハと笑った。それからあたしの頭をポンッとたたき、それから、ソフィアの肩もポンっとはたいて

「やるだけやってこい。俺たちは、明日は補給隊の護衛でなにしてやれるかわからん」

と申し訳なさそうに言った。

「いえ、ここから先は、私情です。マライアに着いてきてもらうことすら、申し訳ないんですよ」

ソフィアが言うので

「もう!行くって言ったら、行くんだ、あたしは!」

と言ってやった。

「そうか。まぁ、とにかく、死ぬんじゃないぞ、二人とも。最期に、俺から手向けの言葉だ。
 
 しっかり頭の隅にメモっとけ。『ヤバくなったら逃げろ』それから、『考えるのをやめるな』。以上だ!」

「うん!」

「はい!」

隊長の言葉に、あたし達はそう返事をして、ソフィアの乗ってきた車に乗り込んだ。

 これからあたし達は、キャリフォルニアベースのあるサンフランシスコから南へ十数キロのところにある、連邦の旧軍工廠へ向かう。

そこの地下に、キャリフォルニアベースの最後のHLV打ち上げの護衛をする部隊が撤退するのに使うガウ攻撃空母が隠してある。

あたし達は、フェンリル隊をはじめとするジオンの最後の防衛隊に先だってそこへ入り、空母発進の準備と、

連邦軍の接近に備えての防衛線構築をする。連邦に嗅ぎ付けられれば、厳しい包囲戦になるだろう。

でも、ソフィアがやると言った。それなら、あたしもそれを支援する。それがあたしの決めたことだ。

 「マライア。ありがとうね」

車の中でソフィアが急にそんなことを言いだした。

「別に。あたしは、あたしがしたいことをするだけ。お礼なんていらないよ」

あたしが言うと、ソフィアはふふっと笑った。


「そう言うと思った。でもね、聞いて。あたしは、前にも言った通り、多分、無茶をする。

 なにかあったときには、自分がどうなっても、最優先で防衛隊の離脱を助けるつもり。

 だから、マライア。その時は、私に構わず、逃げて」

またそんなことを言っている。あたしは、なぜか、悲しいとは思わなかった。むしろ、なんだか腹が立った。

あたしが言うのもなんだけど、いつまでウジウジ言ってるんだ、っていう感じ。

「ヤダ!」

そうとだけ言ってやった。あたしは、死ぬつもりはない。

でも、ソフィアを見捨てるつもりも、死なせるつもりもない。

「マライア!」

ソフィアは悲鳴に近い声を上げであたしの名前を呼んだ。でも、あたしは動じなかった。


「あたしはね、ソフィア。あなたを死なせないと誓った。誓ったからには絶対に死なせない。

 正直、フェンリル隊や他の防衛の部隊がダメなら、仕方ないと思ってる。

 あなたがそう思うあたしをどう感じようが、そんなことも知らない。勝手に思ってくれていい。

 ひどいと思うのならそれでもいい。でも、あなただけは意地でも死なせない。

 もし『そのとき』抵抗するんなら、拳銃突きつけてでも、ぶん殴って引きずってでもあなたを危険から引き離す」

「マライア…」

彼女は、悲しそうな顔をした。うん、これがソフィアを苦しめることだってのは、分かってる。

でも、ソフィアには生きていてほしい。死を望む彼女を、あたしはそれでも生かしたい。

単なる同情かもしれない。もしかしたら、あたしのただのエゴかもしれない。だけど、誓ったし…罪滅ぼしだと思うところもある。

だって、あたしには、彼女を「見捨てた」罪がある。それに、同じ連邦軍が壊した彼女の心と体を救うすべはみつからない、

だけど、彼女の命だけは、せめて同じ連邦軍であるあたしが守らなきゃいけない。

あと、もっと言えば、このまま彼女を死なせてしまったら、あたしはきっと、ずっと彼女を救えなかったことを後悔する。

ホントは、あたしだってなんとかしてあげたいんだ、彼女の心を。

でも、あたしにはたぶん、それができない。

だからせめて、彼女の命はあたしが守って、いずれ彼女の心を救ってくれるなにかに、彼女が出会えるチャンスを紡ぎたい。

こんなところで死なせるわけにはいかないんだ。


「だから、いい?あたしを無事に隊長たちのところに帰したいんだったら、ソフィアも無茶はしないで。

 あたしは絶対にあなたを置いて逃げたりしない。あなたを死なせたりしない。

 あたしは、あなたが無事に、戦場を離れるまで付きまとう。どんな場所でも、あたしはあなたのそばであなたを守る」

あたしは言ってやった。ソフィアは、うるうると目を潤ませていた。

「ありがとう…ありがとう…」

ソフィアはハンドルを握って前を向きながら、なんどもそう言った。彼女の頬には涙が伝っていた。

その涙の理由はあたしにはちょっと良くわからないけど、きっとあたしの気持ちはソフィアに届いたはずだ。

 あたしにできることと言ったら、あなたの手伝いをすることと、そして、万が一の時にあなたの盾になることくらい。

だから、ソフィア。無茶だけはしないでね。もしもの時は、あたしだって命をはる覚悟はできてるけど、でも。

まだあたし、死んでやるつもりなんかないんだからね。ね、ソフィア。無茶は、本当に絶対にダメだからね。

 あたしは、心の中でそう思いながら、黙って、真っ暗な夜に伸びる道路を眺めていた。

以上です!
いつの間にか大詰め!しかし続きはまだ執筆中!ww
とりあえず、月曜日はお休みで良いよね?ね?ww

お読みいただき感謝!

書き込みしぱいしたふぃんきなので再投。
連投なったらめんご。

ピクセル数とか色塗りとか適当。
画力にも期待をしてはいけないww

ayarena
http://uproda.2ch-library.com/6656717tS/lib665671.jpg


マライアがアヤさんと段々似てきたなww俺だけかな?ww

>>419
絵師さん来たーーー!
アヤさんかな?イメージ近いw
なんかレトロなタッチでガンダムぽいしwww

>>420
感謝!
似て来てますね弾けっぷりがw
でもマライアさんはテンパり屋さんでアヤさんよりも頑固なイメージ!


本日は投稿ちょいタンマですみませんorz
日付変わる頃に投下出来たらしたいと思います。

いつも読んでたくれてあざっす!
マライア編そろそろクライマックスです!
最後までどうかよろしくです!

1乙!
無理せずゆっくりで良いのよー

ところで1さん、ガンオンのフレ申請とか受け付けてたりしません?

>>422
レス感謝!
昨晩頑張って書きこんだぜい!
今夜にはラストパート投下できやす!

フレ登録、申請してもらって全然構わないですよー!
探してみてくださいまし!

>>422です。
レスありです!

相変わらずの執筆速度に脱帽。

土日にインする予定なのでその際に申請させて頂きます!
あまり書き込むのも申し訳ないのでROMに戻りますー ノシ

こんばんわー!
昨日は申し訳ないです。

マライア編、ラストパート投下していきます!


 明け方近く。あたし達の車は旧軍工廠に着いた。

戦闘の跡なのだろう。ぼろぼろに焼け落ちたコンテナや機材なんかがあちこちに散乱していた。

組み上げられた土台に乗ったクレーンも折れ曲がり、倉庫や工場設備と思われる建物も穴だらけのススだらけ。

半壊しているものがほとんどで、瓦礫しか残っていない場所もある。

 朝焼けに照らされるその場所は、そんな荒れ果てた場所なのに、不思議ときれいに見えた。

 敷地の中央には太い大きな道路のようなものが伸びていて、それは大きな格納庫へと続いている。

大型の航空機用の格納庫だ。あれの地下に、ガウを隠しているのだろう。と言うことは、この道路は滑走路…。

その周りにはいくつもの堀のようなものが、何重にもわたって掘られている。

おそらく、ジオン降下の際に、連邦軍がここで戦ったんだ。この堀はきっと塹壕。

一部は崩されているが、おおむねしっかり形を残している。万が一の時には、これを使って時間を稼げるかもしれない。

 あたしがそんなことを考えていると、ソフィアは地図を広げて歩き出した。

「あの格納庫の地下に入る入り口があるはず…」

彼女はそう言いながら地図とあたりを見比べる。そして、一棟の小さな建物を指し示した。

「きっと、あれ」

「オッケイ、調べてみようか」

あたしは懐中電灯を取り出して、建物のドアを蹴り破った。他の建物同様、傷んではいるが、構造自体はしっかりしている。

中もひどいありさまだった。そこは、倉庫か何かだったのか、コンテナがいくつも並んでいる。

建物の中は下り坂になっていて、その奥に2メートルほどの大きさの扉があった。たぶん、この建物は地下への物資搬入口。

だとしたら、この扉が地下へと続いているはずだ。

「ソフィア、どこかに発電機のスイッチがあると思う。あの扉開けるには、人の力じゃ、ちょっと厳しいよ」

あたしは言った。分厚い鉄製の横開きのドアは、あたしたち二人で引っ張ったとしても、簡単に開きそうではない。

「うん、それも、聞いてる」

ソフィアはそう返事をして、確信を持って倉庫の中を歩いていく。そして、壁から飛び出た配電盤を見つけた。

 二人で配電盤を開けて、とりあえず中にあったスイッチを適当にいじってみると、

不意にブウウンと言う音がして、倉庫の中に明かりが灯った。そのほかにも、何かの機器が起動する音があちこちから聞こえる。

「よかった、電源は生きてるね」

「ええ。奥へ行きましょう」

あたし達はそう言って、地下へ続くと思われる扉のスイッチを操作した。

 ゴゴゴゴと言う重い音とともに、扉がゆっくりと開く。

そこには、照明に照らし出された紫色の巨大な物体——ガウ攻撃空母が静かにたたずんでいた。


 この地下格納庫は、全体がエレベータになっているようだ。

おそらく、天井はハッチになっていて、エレベータ起動と同時に開いて地上の格納庫内に運ぶのだろう。

ソフィアの話では、ガウは下方へのエンジン噴射によってSTOL——超短距離離陸が可能とのことだが、

離陸時を狙われればたちまち撃墜されてしまう。万が一、敵の前に無造作に姿をさらすのは、危険は大きい。

 あたしは地下格納庫の中を見渡す。整備用のモビルワーカー数機に…あれは、投下式の爆弾…でも、信管は抜かれているみたい。

設置型の機銃に、戦闘機やモビルスーツに搭載される兵器用の弾丸…これは連邦のものの様だ。燃料に、爆薬。導線に、コンピュータ機材…

 「出撃の準備をしなくちゃ…マライア、手伝ってくれる?」

ソフィアは聞いて来た。

でも、あたしは全然違うことを考えていた。

空母の発進準備が整っていても、離脱時に連邦に見つかっていたら、とてもじゃないが飛び立てない。

進路を確保しておく必要がある…

「ごめん、ソフィア。そっちはあなたに任せる」

「えぇ!?」

あたしがそう言うと、ソフィアは声を上げた。ごめんね、でも、急がなきゃいけないのは、むしろ「こっち」の方なんだ。

「あたしは、ここの兵器を使って防衛線を作ってくる。

 ガウが離陸するときに敵が迫ってきていたらとてもじゃないけど、飛び立てないし…」

それに。そうしておくことで、無事飛び立てたあと、ううん、離陸に失敗したとしても、

あたしとソフィアが逃げるための時間や隙を作ることもできるはずだ。

退路の考えられていない作戦なんて、無謀も良いとこ、まともな指揮官は許可しない。それは命を無駄にするようなものだからだ。

ここには指揮官はいない。命を守れるのは、自分たちだけだ。でも、そのうちの一人は死にたがり、と来ている。

ここはあたしがその役を買って出なきゃいけないんだ。

「それに、ソフィアの命を守るには絶対必要だもん!」

あたしは笑顔で、ソフィアにそう言ってやった。

 朝日が昇った。

 ジオンが処理したんだろう、連邦軍用の信管を抜かれた砲弾に配線をつないで、

この格納庫を囲むように作られている塹壕のあちこちに埋めた。配線は全部、格納庫の中に用意した電源装置とつないである。

電源装置には無線機をつけて、手元のコンピュータで入力した番号の砲弾に電気を流して起爆させるシステムを組んだ。

砲弾を埋めた場所は全部数字と一緒にマーキングしてある。ジオンのコンピュータへ連携すればマップ上に表示される…と、思う。
これに関しては、ジオンのモビルスーツのコンピュータがどんなOSを採用しているかわからなかったから、

なるべく互換性の高いロジックで組んでみたけど、正直、正しく表示されるかは保証の限りじゃない。

それから、格納庫の周りにある防衛用の砲台も、損傷の程度が軽いものは修理した。

あいにく、自動で敵を感知して迎撃してくれるセンサーの修理までは手が回らなかったから、

格納庫に転がっていたカメラを取り付けて、これも手元のコンピュータにリンクさせた。

このコンピュータ一台でどこまで対応できるかはわからないけど、送られてくる映像をもとに、

ここからリモート操縦で砲台を発射できる。

幸い、砲台に使われる60mmの徹甲弾は、地下に入ってくるときに通った倉庫に山ほどあった。秒間6発連射のタイプだと思う。
この掃射は、いくらモビルスーツといえども、ちょっとは堪えるはずだ。

これがあたしの頼みの綱、と言いたいところだけど、固定砲台なんて、防御力も機動力も皆無。

ジムの100mmマシンガンなんかが当たれば、1発で機能停止だ。

当てにはできないけど、合計5門のこの砲台がどこまで持つかが、カギになるかも知れない。

地雷原はこの砲台の外側と内側に設置した。砲台を破壊しに来た敵を狙う用と、砲台が突破された時の最後の砦となる用とだ。

最期に、格納庫周辺と、工廠内の地下区画のあちこちに音紋分析用の指向性センサーを取り付けてきた。

ガウの出発するにあたって、一体にミノフスキー粒子を大量に散布してある。

レーダーが効かないから、敵の接近を探知するにはこの方法が一番だ。

このセンサーは同じく倉庫の中に残っていた、連邦の音紋分析専用のホバーに搭載されているやつで、

構造を知ったので扱いやすかった。このデータも逐一コンピュータに送られてくるようにしてある。

 それから、無線機も準備した。基盤を少しいじって、あたしの無線機にはジオンとソフィアとの連携の目的の他に、

連邦の軍事無線もキャッチできるようにしておいた。相手の作戦を聞いてやろうって寸法だ。

もちろん、こちらからの発信なんて考えてないのでそこまではいじらなかった。

ソフィアと、ジオンのモビルスーツ隊と話ができればことたりるはず。


 わずか二時間しかなかったから、これっぽっちしかできなかったけど、まぁ、あたし一人でやったと思えば上等だろう。

 あたしが地下の格納庫に戻ると、ソフィアはモビルワーカーでガウの武装をチェックしていた。

「ソフィア、こっちはオッケー。そっちはどう?」

あたしが声をかけると、ソフィアはコクピットから

「こっちも、だいたい済んだわ。あとは、この対地機関砲の弾込めが終われば」

と格納庫いっぱいに響く大きな声で言って、モビルワーカーで何かを操作すると、ゴォォォと言う大きな音とともに、

傍らにあったコンテナから人の二の腕ほどもありそうな弾丸がまとめられた弾帯がガウの機体の中に、

まるで自動販売機に吸い込まれるお札みたいに巻き取られていく。

 あたしは、腕時計を見やった。そろそろ、HLV発射の時刻のはずだ。

あと30分もすれば、生き残っていれば、発射を防衛していた部隊がここへやってくる。

たぶん、それは連邦の音紋分析に引っ掛かる。ここはキャリフォルニアベースの目と鼻の先だ。

前線支援部隊が、きっとすぐ近くにいるはずだ。地下なんて、音の良く響く通路を通ってきて、そばにいるだろう偵察車両が、

それを聞き逃してくれる保証なんてどこにもない。

 できうる準備は、した。あとは、覚悟を決めるだけだ。

「そっちは、何してきたの?」

ガウへの給弾作業が終わったソフィアが、モビルワーカーを降りて、

コンピュータでシステムをチェックしていたあたしのところにやってきた。

「ああ、うん。塹壕に、遠隔操作の地雷原を設置してきたのと、固定砲台5門の修理と給弾に、音紋センサーの設置。

 あんまり時間も技術もないからさ、これくらいしかできなかったよ」

あたしが言うと、ソフィアは驚いていた。

「そ、そんなにいろんなことをしてきたの?」

ソフィアの言葉に、今度はあたしが驚いた。いや、これくらい、大したことはないと思うのだけど…


「大したことはないよ。ダリルさんとかアヤさんなら、砲台と音紋センサー組み合わせて自動化したり、

 手動じゃない方式のブービートラップ作ったりしただろうし。

 なんとか、地雷原の情報をジオンのモビルスーツに連携できるシステムが機能すればいいんだけどね。

 ガウのコンピュータのOS見てそれを基準にでっち上げてみたけど…スペックも違うだろうし、

 正直、あんまり自信ない。まぁ、でもできる限りはやってきた。あたしも、基本的なことはダリルさんには習ってて良かったよ」


あたしがそう返すと、ソフィアは引くついた笑顔を見せて

「き、基本的なこと…ね」

とつぶやくように言った。そんなソフィアの様子にあたしは首をかしげてしまった。なんか変かな、あたし?


 不意に、ピピピっと音が鳴った。ソフィアが腕時計に目をやる。

「HLVの、打ち上げ時刻…」

———来た…

あたしは、ソフィアの目を見て、お互いにうなずきあって、格納庫の階段を上って地上に出た。

 薄暗い格納庫の中にいたせいで、いつの間にかさっきよりもずいぶん高くなっている太陽に目がくらむ。

 あたしは、目をしょぼしょぼさせながら、大空を仰いだ。そこには。

 まっすぐな白煙をたなびかせて、青い空へと登っていく三つの光があった。

「やった…!」

ソフィアが口にした。彼女の顔を見ると、うれしそうに笑っていた。でも。あたしは、息を飲んでいた。

正直に言えば、あれの打ち上げが確認できなかったら、その場でソフィアを縛り付けてでも、ここを離れようと思っていた。

シャトルの打ち上げに失敗したとなれば、防衛隊も、生きてここへはたどり着けないだろうと思っていたから。

でも、シャトルは上がった。防衛隊は、きっとここまで生き延びていてここに来る。

ソフィアはこうなったら、なんと言おうがここに残るだろう。

フェンリル隊のみんなには申し訳ないけど、打ち上げ成功の事実は、

あたしとソフィアにとっては、危険度が一層増したことを意味していた。

「ソフィア、戻ろう。防衛隊を受け入れて、すぐにガウを出せるようにしないと。連邦はきっとここを嗅ぎ付ける。

 もし後方の支援隊じゃなくて、前線の戦闘隊に向かってこられたら、こんな場所、集中砲火で跡形もなく吹き飛ばされる」

あたしが言うと、ソフィアは顔を引き締めてうなずいた。あたし達は格納庫に戻った。

コンピュータの画面を確認する。大丈夫、全部の機器への接続には問題ない。音紋センサーに反応があったら、砲台で迎撃して…

砲台を撃破しに近づいて来たモビルスーツを地雷原にはめる。

万が一砲台が撃破されても、その内側にもう一円分の地雷原を設置してある。

最悪でも、そこまでは粘れる。

「マライア!ガウを上にあげるね!」

ソフィアが言った。

 地下にあるこのガウは、地上階へエレベータで上げなけきゃならない。しかも、この大きさだ。どうあっても30分はかかる。

防衛隊到着と同時に地上へ出して、すぐにでも発進させられる計算だけど…

 あたしは、少しだけ気がかりだった。このエレベータの音を、連邦の偵察車が聞きつけないとも限らないんだ。

それはモビルスーツの接近音がすれば同じことだけど…

でも、モビルスーツの到着を待ってからなら、一緒に戦うことができるかもしれない。

今、あたし達だけのこの状態で、連邦が寄ってきたら…はたして、どれだけ持ちこたえられるだろうか?

———でも、やるしか、ない

「うん!あたしは、センサーの様子見てる。ソフィアは防衛隊に無線で呼びかけ続けて!」

「了解!」

ソフィアはそう返事をして、エレベータの操作パネルをタップした。

地鳴りのような轟音と警報音とともに、エレレータが起動して、巨大なガウ攻撃空母が上がっていく。

見上げた天井がゆっくりと割れるように開き始めた。

 あー、警報だけでも切っておけばよかった…

そんなことを思いながら、あたしはセンサーから送られてくる情報を見つめている。

今のところは、このエレベータの起動音以外を検知している様子はない。

 コンピュータのモニタに集中していたら、突然に耳障りなノイズが響いた。


「ガ…ザザザ…ちら、リル…隊!……い、…とうせよ!」

男の人の声だ。

「こちら、ガウ格納庫のフォルツです!少佐!?シュマイザー少佐ですか?!」

ソフィアは無線機に声を上げた。

「ザ…フォルツ中尉、…ちら、フェンリル隊、シュマイザーだ!そちらの様子はどうか!?」

声が、はっきりと聞こえた。フェンリル隊の人らしい。ソフィアがチラッとあたしの方を見た。センサーには異常はない。

あたしは指でオッケーサインを作ってソフィアに合図する。

「こちらは、まだ、敵に発見された様子はありません。現在、ガウを地上階へ上げています」


「了解した。こちらは、あと10分ほどで、私と先導隊とでそちらへ到着できる。負傷者の受け入れは可能か?

 こちらは、医官を帯同してはいるが、物資が一切手元にない」

負傷者…やっぱり、タダで済むはずはなかったんだろう…

 確か、医療品一式がガウの機内の医務室にあったはずだ。

「ガウ内のメディカルセンクションに機材と医薬品はあります!」

ソフィアもそれを確認していたようで、返事をする。

「了解した」

男の声はそう言って途切れた。

 でも、ガウの中って言ったって、今エレベータを起動させたばかり…止めて、戻す?

いや、ダメだ、なんとしてもガウはすぐに発進できるようにしておかなきゃいけない。作業員用の小さなエレベータがある。

それで、先に地上へ出てもらって、ガウが上がり次第、乗り込んでもらうほかにない。

「ソフィア、ケガ人が来たら、すぐにあっちのエレベータで地上へ」

あたしは、格納庫の隅にあった、人間用のエレベータを指して言った。

ソフィアは黙ってうなずきながら、あたりを見回し、弾薬を梱包していた布を見つけると、それを引き裂き始めた。

なんで急に…?あ、そうか、包帯と止血帯だ…

「あたしにも貸して!」

あたしも布を受け取って、コンピュータのモニタを見ながらタオル程度の大きさになるように引き裂いていく。

いったい、どれほどの数の、どの程度の負傷者なんだろう…こんな布きれだけじゃ、ほんの気休めの応急手当にしかならない…

重症者は、持たないかもしれない…

 あたしは、そんなことを考えながら、自分でも驚くほど冷静だった。

ほんの何日か前のアタシだったら、ケガ人が来る、なんて言われたら、血を見るのが怖いとか、

そんなことでおろおろしていたかもしれないのに…

なんだか、そう思ったら、今の自分が逆におかしくなってしまっているように思えて、不謹慎だったけど、

なんだか笑みが漏れてしまった。ソフィアに見せちゃいけないな、と思って、モニタを食い入るように見つめる。

 そんなとき、音紋センサーのデータを示すグラフの一つがビンと上がってすぐに折れた。

———まさか

そう思って改めて確認すると、またビンと上がって下がる。1秒もない間隔で、グラフが大きく上下している。

これは…モビルスーツの、足音?


 センサーの位置は、ここから一番南に設置してある物。もし、逃げてきた防衛隊のモビルスーツだったら、

北側のセンサーから検知されるはずだ。でも、今反応しているのは、まるで真逆の方角…

 連邦に、気づかれた…かも?そうだ、まだバレたときまったわけじゃない。偶然近くを通過しているだけかもしれない。

とにかく、確認しなきゃ!

「ソフィア、連邦のモビルスーツらしい足音キャッチ。フェンリル隊に報告して。あたしは監視を続ける」

あたしはとにかく用件だけをソフィアに伝えた。

「りょ、了解」

ソフィアの方が動じていた感じだったけど、今は気にしている暇はない。

 あたしは、一番南側にある砲台のカメラの映像を開いた。音紋センサーの最大効果範囲は良くて5キロ。

今、このエレベータの音が鳴り響いてるから、精度は相当落ちてると思った方が良い。

だとすると、もう1、2キロの距離まで近づかれている可能性もある。

 映像には、外の様子が映し出される。キーボードと接続させたコントローラとで砲台ごと括り付けてあるカメラを旋回させる。

…いた!

 映像には、砂煙の中を前進してくる、白と赤のモビルスーツが複数映っている。

まっすぐに、こちらへ向かってきているようなコースだ。数は…3?いや、5機…そんな半端な数字のわけはない。

一個小隊は3機だ。5機の姿があるなら6機、二個小隊はいるはず。でも、二個小隊での行動なんて、そうあるもんじゃない。

二個小隊でまとまっているのなら、それはもしかしたら10機から12機で構成されている中隊かもしれない。

だとしたら…いくら5門の砲台と地雷原を使ったって、分が悪いにもほどがある。

 とにかく、問題は、あいつらが、ここに気付いているかどうか、だ。

気づいてないのに下手に仕掛けるなんてマヌケだし、気づいているのなら、こちらから先制して出足を遅らせたい。

なにか、ヒントになりそうな物は…

 あたしはそう思って、他のカメラの映像と、音紋センサーのデータを見る。すると、西側のセンサーにも妙な波形が現れていた。

いや、波形と言うよりは、他のセンサーに比べてグラフの推移が高いような感じ。なんだろう、感度の問題?

でも、さっきはそれほど差があるようには感じなかった。

今のこれは、エレベータの起動音の分を差し引いても、明らかに一回りレベルの高い反応を示している。

 あたしは、西側にある砲台のカメラ映像を開いた。

崩れた建物が死角になっていて見えにくいがそれでも、南側と違ってモビルスーツらしき姿は見えない。

 じゃぁ、この反応はいったい…?

 マライア、考えろ。隊長も言ってたじゃない!考えることをやめちゃいけないんだ。これはなに?センサーの異常?

それともなにかが接近してきている?カメラで見えない何か?航空機?いや、それならカメラでも見えるはず。

それに、航空機なら指向性のセンサーに引っ掛かるかどうかが怪しい。

このセンサーの反応は確かに、地面を伝わってくる振動のはずだ。じゃぁ、他に地面を走る物。車?戦車?それともホバー?

…ホバー……音紋分析専用のホバーの音!?

 あたしはもう一度カメラを確認した。

画質が荒くて良くは確認できないけど、何か小さなものが地平線のあたりにいるようにも見える。

音紋分析用のホバーは、センサーを地面に打ち込んで敵を探知するシステムのはずだ。それが、今は探知せずに動いている。

まっすぐこちらに?モビルスーツ隊とは別方向から…あれは…

そうか、こっちの動きを把握するために、安全な位置取りで接近しようとしているんだ。

 だとすれば、もう、バレてる…!

「ソフィア!あたしたち、もう見つかってる!迎撃態勢に入る!」

ラストパート前編ここまでで!
明日の夜、後編投下します。

気合い入れて書いたせいか、ただダラダラしちゃっているのか不明ですが、このラストだけで
全体の1/3を占めているというアンバランス具合w
後半は特にスピード感を重視したので、サクッと読んでもらえるといいな、と思いまする。

本日もお読みいただき感謝でした!

乙乙

ソフィアも言ってたけど、二時間でアレだけやるとかマライア優秀過ぎw

しかもそれ以上に出来るダリルとアヤ…
オメガ隊優秀過ぎぃ!


マライアは優秀だたww

これは隊長補正ですねわかります

絶体絶命でワクワクするな

>>434
アヤさんとダリルさんはたぶん、特殊部隊レベルのスキルを持ってるんじゃないでしょうかw

>>435
マライアさん、優秀なのに実践では実力を発揮できないタイプなんです、たぶんw

>>436
ワクワクしてもらえてよかった!
テンポと展開重視なので、文や構成、設定が荒れてないか心配です。

文章の荒れは脳内補正するから安心してラスト書いてくれ

ハラハラ・ドキドキの連続ですごく楽しい!
誤字脱字なんかはあっても気にならないですよ

気になるのはフェンリル隊の脱出方法が今のところガウなことですね
ゲラート少佐曰く、脱出の際は潜水艦隊の一部と合流しているみたいです

だからこそ、ここからのガウの運命がどうなるかが気になります!

MS1個中隊に対して砲台5門か…
もうすでにヤバイけど生きて逃げ切って欲しいな!
マライアさらに覚醒するかな?

今仕事終わりなう。
投下ちょい遅れます。
ごめんなさいでござるm(_ _)m

>>438-440
レス感謝!


ラストパート投下します!

すみません、書き忘れました。
話の展開上、切りどころがなく、前代未聞の長さでの投下になります。
こころして読んでください!w


「ソフィア!あたしたち、もう見つかってる!迎撃態勢に入る!」

あたしはそう怒鳴って、南側の映像をだし、コントローラを握った。

表の砲台、距離だけならもう十分届くけど、有効打撃を加えたいなら、もっとひきつけなきゃダメ。

砲台で威嚇しながら、地雷原に誘導して爆破するか…あぁ、でも地雷原はギリギリまで使いたくない!

砲台と違って、一度使ったらそこは防衛の穴になっちゃう。

そこを狙うのが砲台の役目なんだけど、こんなカメラと操作でどれだけそれに対応できるか…

 ってか、そもそも、砲台は砲台同士で守り合うように配備されてるのに!修理が出来なくてその構造がつかえないんだよ!

もう!最初にあの砲台壊したの、どこのどいつよ!許さない!

 なんだか、考えていたら腹が立ってきた。うだうだ考えたってしょうがない。やるっきゃないんだ。

砲台を破壊されないように、引き寄せてから撃ちまくって、地雷原に入ったら爆破する。爆破したところを砲台で撃ち続ける。

砲台を破壊しにきたら、また地雷原爆破。こっちが対応できなくなるくらいまで穴が増えるのが先か、敵を全滅させるのが先か…

全滅?できるの?こんな砲台とバズーカの弾で作った地雷原で?

 一瞬、頭の中にそんな不安がよぎった。なにか、なにか見落としてないか?どこかで、楽観的な予測だけを頼りにしてないか?

どこかで、計算が間違っているような…あーーーーもう!だからどうだってのよ!やんなきゃどうしようもないでしょうが!

このヘタレ!

 あたしはこんな時にまた微かにぶり返したビビリ症の自分に腹が立って、そばにあったコンテナを手の甲でぶん殴った。

気合いだ、気合い!負けんな、マライア!

 そう自分に言い聞かせて、あたしは接近してくるモビルスーツの先頭に照準を合わせて、コントローラの引き金を引いた。

カメラの映像が小刻みに震え、曳光弾の軌跡が伸びていく。

その軌跡が、モビルスーツと交差し、次の瞬間、持っていた赤いシールドが吹き飛んだ。モビルスーツは体勢を崩している。

 追い打ち!

 あたしは、さらに引き金を引き続ける。弾はモビルスーツの装甲をたたき、はじけ飛んでいる。

さらにバランスを崩したモビルスーツの頭部のメインカメラが小さな爆発を起こした。

 やった、次!

 あたしは砲台を回して次の目標を探す。しかし、次の瞬間、カメラの映像が途絶えた。

「うそ!?」

思わず、声が出てしまった。

 機材の故障!?ケーブルが断線した!?こんな時に、何だって言うのよ!

 あたしはそれでもひるまないように気持ちを奮い立たせながら、南に近い砲台の映像を開く。

 そこには、もうもうと煙を上げる砲台と、その傍らに立っているモビルスーツの姿があった。

あれは、普通の量産機じゃない!ホバー移動機構の付いた、前線仕様の装甲強化タイプ…ホバー移動?

待って、じゃぁ、さっきの西側から接近してきていたのは、ホバートラックだけじゃなかったってこと!?

いや、それにしても、マズい、もう最初の砲台がやれるなんて…!


あたしは、とっさに破壊された砲台に一番近い場所に配置した砲弾の番号をキードードで入力しエンターを叩いた。

画面の中で爆発が起こって、連邦の装甲強化タイプのモビルスーツが黒煙に消える。

あたしは、ためらわずに、その黒煙の中に砲台を発射した。

別に恨みがあるわけでもない。そもそも味方のはずだけど、でも、ごめん。死なせたら、ごめん。悪く思わないでね…

そんなことを考えながら、トリガーを引き続ける。

やがて黒煙が薄らいでくると、モビルスーツは、脚部を吹き飛ばされて、その場で身動きが取れず、

盾を構えてあたしの砲撃をなんとか耐えしのいでいた。

 殺さずに、機能を奪えた!

ほっと胸をなでおろす自分がいた。もうこの大陸にいるあたし達にとっては敵も味方もない。

最優先はソフィアだけど、本当は、できるなら無事で済ませたい。

不意に大きなエンジン音とともに何かが格納庫に飛び込んできた。

「来た!」

ソフィアの声が聞こえる。見るとそこには地下道へ続くトンネルからホバートラックが飛び込んできたところだった。

その後ろから、トゲツキにムチツキとスカートツキ、それから水中型のツメツキも足音とともに姿を現す。

 ホバーから誰かが降りてきた。中年の男性だ。

「シュマイザー少佐!」

ソフィアが叫んだ。あれが、フェンリル隊の隊長か…うちの隊長より歳はちょっと上かな?

隊長みたいな横柄さはなさそうだけど、でも鬼気迫る厳しい顔は、隊長とおんなじ、戦う男の表情をしていた。

「フォルツ中尉、ガウは?」

「今、上階へ移動させています」

ソフィアはエレベータで上昇していくガウを指した。

「時間がない、マット、ニッキ!ホバーをガウのところへ上げろ!」

シュマイザー隊長はそう言ってホバーに乗り込んだ。ソフィアがそれもそれに付き従う。

あたしも、ケガ人のことは気になったけど、今は、防衛が大事だ。

こちらの砲台と地雷原を警戒して、モビルスーツ隊は接近を躊躇している。最初の砲の撃破は驚いたけど、いい感じだ。

時間を稼げば…なんとかなる。


「おい、お嬢さん!」

不意に、スピーカーから荒っぽい声が聞こえた。振り返ると、旧式のトゲツキ…ヒトツメ、って言ったっけ?

そいつがあたしにニュッとそのマニピュレーターを突きつけてきた。突然で、潰されるんじゃないかと思ってびっくりした。

「中尉やシャルロッテから聞いてるぜ。噂の鳥の隊だってな」

そう言う声とともに、コクピットが開いた。

「このまま俺たちもあの上に登る!一緒に来るか!?」

もう片方の、ムチツキがホバーをエレベータの上に持ち上げて乗せていた。

ソフィアが上に行ったのなら、あたしも行かなきゃ。あの子、どこで何するかわかったもんじゃない。

「お願い!」

あたしも大声で叫んで、マニピュレータに飛び乗った。するとヒトツメのパイロットはあたしをコクピットの前まで引き寄せる。

「乗んな!飛ぶからな、そこじゃあ危ない!」

パイロットがそう言うので、あたしはコンピュータを抱えて、マニピュレータからコクピットへジャンプした。

パイトッロが、シートから立ち上がっていてあたしを受け止めてくれる。

「俺はマット・オースティン軍曹。よろしくな」

パイロットの男は、横柄にそう言った。なんだか、まるで隊長やダリルさんの様で、ちょっぴり安心して笑顔になってしまった。

「あたしは、連邦のマライア・アトウッド曹長。よろしくお願いします」

あたしが返事を返したら、マットさんもノーマルスーツのヘルメットの中でニヤっと笑った。

 あたしは、コクピットのシートの後ろに回って、衝撃に備えて体を踏ん張りながらコンピュータのモニタに目を戻す。

大丈夫、まだ、こちらの状態を伺っているだけだ。

「飛ぶぜ!」

マットさんが言った。あたしは、グッと顎を引いて、シートの背もたれにつかまる。

 ギュンと、肩からものすごい力で押さえつけてくるようなGが襲ったかと思ったら、モビルスーツはすでに、エレベータの昇降台の上に居た。


モビルスーツはさらにジャンプして、地上階へ着地した。

「お嬢さん、敵が来てるって聞いたが、情報はあるのかい?」

マットさんはそう聞いて来た。そうだ、センサーの情報と、地雷原の位置を連携しないと!

「はい!これを見て!」

あたしは各カメラの映像を並べたコンピュータのモニタをマットさんに見せる。


「敵は少なくとも1個中隊、10機以上。量産機と装甲強化型をそれぞれ1機ずつ、2機は先制して撃破したけど、

 それでも10機は下回ってないと思う」

あたしが報告すると、マットさんは渋い顔をした。それから、

「敵の数や位置は、このカメラだけで把握したのかい?」

と聞いてくる。

センサーもあることを教えると、マットさんはすぐにガウを呼び出した。


「こちらマット軍曹!隊長、鳥のお嬢さんが、センサーを仕掛けてくれてるそうです。

 ガウのメインコンピュータに情報をリンクして、各機へ配信してください。情報だと、敵は1個中隊以上。

 この上、またエース機でも出られたら厄介です。とっとと切り抜けましょうや!」


「了解。マット、お前の機体にそいつのコンピュータを繋いで情報をリンクしろ。

 各隊へ。異存なくば、これより私が臨時で指揮を執る」

「了解、狼の大将!」

「頼みます、少佐!」

他のジオン機からの無線が入ってくる。

「各隊の現在の状況を知らせよ」


「こちら、グリフォン隊。現在、ザク3機。損傷度は中程度。機動力には問題なし。エネルギーもまだ十分です。

 バズーカ弾4発に、マシンガンマガジンが各機に4本ずつ。近接戦闘装備は、破棄しました」

「こちらセイレーン隊、ズゴック2機残存。損傷度は軽微なれど、ミサイルの残弾ゼロ。メガ粒子砲のエネルギーも底を尽きかけてます」

「フェンリル隊は、俺のザクと、ニッキのグフは残弾はすでになし。ヒートソードとヒートホークのみです。ソフィ少尉のドムはどうだ?」

「こちらはバズーカの残弾に余裕があります。ヒートロッドも健在」

「各機、報告に感謝する。マット機より情報を取れ次第、編隊を組みなおす。それまで、地上階にて待機」

あたしは、聞きながらコンピュータをケーブルでコクピットのコンピュータにつないだ。こちらのモビルスーツは、8機。

数だけならそこそこだけど、弾もないし、損傷もひどい。連邦の数がわからないし、状況はまだ明るくなんかない。


「よし、データを受け取った。こちらの分析では、敵の数は12。フェンリル隊の殿が到着できれば、押し返せる数だ。

 各機、それまで持ちこたえよ!セイレーン隊のズゴックとニッキのグフで前衛を、グリフォン隊とソフィのドムで中距離支援を行え!

 突出しすぎるな、時間稼ぎで良い!」

「了解!」

それぞれの機体から声が聞こえた。それからまた隊長の無線が聞こえる。


「マット、お前はそのまま鳥の…」

隊長が言いよどんだので思わず

「マライア・アトウッド曹長です、シュマイザー少佐!」

と名乗る。

「了解、アトウッド曹長。マットはそのままアトウッド少尉を乗せて敵の情報収集にあたれ…

 曹長、こちらのマップに数字の打ち込まれたマーキングが表示されているが、これは?」

「それは、事前に仕掛けた有線式の爆雷です。バズーカの弾程度の破壊力ですが、足止めには使えると思います。

 起爆は、全部手動で、こちらのコンピュータから行えるようになってます」

あたしは報告した。

「なるほど、助かる。曹長は、マット機のデータマップを頼りに、適宜起爆させて支援を願いたい。それから、こちらの映像の方は?」

さらに隊長が聞いてくる。

「映像は、格納庫周辺にある砲台に取り付けた監視カメラのものです。

 砲台の自立制御システムは使えなかったので、こちらの操作も手動で行ってます!」

「…よし、砲台の操作はこちらで受け持とう。軽傷者へ任せる。

 曹長は、マットとともに、敵の情報収集と地雷爆破での支援を頼む」

「了解しました!」

的確な指示だ。しかも、良く考えられている。この指揮官は頼れる!

 「ガ…ザザザ…こちら、隊長機。無線封鎖を解除する。さきほどの攻撃は敵の抵抗と確認。これより、臨時戦闘に入る」

不意にそう無線機からそう聞こえた。これは…連邦の無線!?

さっきまで無音だったのは、封鎖していたからだったんだ…こちらの状況は確認されてしまったみたい。

連邦も、出てくる…

 気が付けば、あたしの手のひらは、汗でじっとりと濡れていた。指先が、小刻みに震えている。

———怖い…

 頭を、あの感覚がよぎった。

ダメだよ、マライア…落ち着いて…自分にそう言い聞かせるけど、うまく収められない。

もう、こんな土壇場で、なにをやってるんだあたしは…そうは思ってみたって、怖いものは怖いんだ…あぁ、もう!

アヤさん…アヤさんは無事だよね…?レナさんを、ちゃんとさっきのシャトルに乗せてあげたんだよね?そうだよね…

あたしも、あたしも頑張らないと…信じてもらうために、ソフィアのために!

あたしは震える両手をギュっと握りしめて、それから思いっきり両側の頬をひっぱたいた。

 大丈夫だ、やれる、やるんだ、あたし!

「ははは、お嬢さんは気合い入ってんな」

そんなあたしを見たマットさんが笑った。それからまたヘルメットの中でニコっと笑って

「大丈夫だ。俺たちはこんなとこで死んでらんねぇし、これまでだって誰一人死んじゃいねえ。

 あんたのことも、俺たちがしっかり守ってやっからよ。支援、頼むぜ」

とあたしの肩をポンっとたたいてくれた。


 「よぉ、鳥の部隊の姫様はいるかい?」

トゲツキの部隊の人の声だ。

「は、はい!」

「あんたらのあのエンブレム、あの鳥はなんだい?」

「あれは、不死鳥です。あたし達の、縁起担ぎで」

「ははは!なるほど、不死鳥ね!フェンリルにグリフォンにセイレーンにフェニックスってわけだ。ははは!バケモノ揃いだな!」

「違いない!こんな敵の砲弾飛び交ってる地獄で生き残ってんだ!バケモノじゃなくてなんなんだって話だ!」

「なら、バケモノはバケモノらしく、首一つになっても敵に食らいついてやらぁな!親鳥だけでも、空へあげてやるんだ!」

この人たちは…ついさっきまで、シャトル打ち上げの防衛をしていたんじゃないの?北米の連邦軍が総力を挙げて攻撃したんだ。

そこでの戦闘は厳しいなんてものじゃなかったはずなのに…まだ、まだ笑っていられるなんて…なんて精神力なの。

あたしも、怖いなんて震えてられない…!

 「各機へ。あたしは…連邦の、マライア・アトウッド曹長です!こちらで、連邦機の動きと無線を監視しています。

  情報は適宜連携します。それから、ガウから送られてくるマップ上の数字のマーキングはこちらが仕掛けたトラップです。

  手動で爆破しますので、必要な隊は要請をお願いします!」

「おぉ、さすが頼りになるな!」

「よろしく頼みます。そこに引き込んで爆破してもらうのが簡単ですかね?」

「最初の数機は、それでも行けるだろうが、なんども効く手ではねえわな。まぁそこらへんは戦いながらやっていくしかあるまい」

「なぁに、あとちょっと持ちこたえれば、フェンリル隊の残りも来てくれるはずだ。そうなりゃぁ、こっちものんよ!」

「セイレーン隊、出ます。グリフォン隊、援護頼みます」

「おおし、任せとけ!」

 そう無線が聞こえて、モビルスーツの群れが、格納庫の裏手のゲートから出て行った。

「セイレーン隊の2機の援護はこっちが受け持つ。フェンリル隊の若いのの援護は、そっちのドムに任せてもいいか?」

「了解です。ニッキ、私が援護に着きます。無理はしないで」

「了解。頼みますよ!」

各機が、声を掛け合っている。励まし合っている。生きるんだ、死ぬもんかって、奮起しようとしている。

隊長…確かに、あたし、こんなときに泣き言ばっかり言ってたね。

ダリルさん、こんなときに及び腰になるあたしを信用できなくて当然だよね。

そうだ、このジオン兵たちと一緒にいても、オメガ隊といるときと同じであたしは引かずに支援することが必要なんだ。

 「格納庫右翼側へ攻撃をかける。第一小隊、砲台を押さえろ。第二、第三小隊で格納庫へ接近する」

連邦の無線!

「か、各機!連邦は倉庫正面の左翼より接近してきます!東です!」

「了解しました。セイレーン隊1番機、オリガ・スパーク中尉です。左翼、最東へ展開します」

「了解、オリガ中尉殿!こちらグリフォン隊の3番手、マティアス・タッペル少尉が援護しますよ!」

「こっちはグリフォン隊の4番機パトリック・ゼマン軍曹と6番機ドニ・ルー軍曹!セイレーンの2番機さんはどこへ行くよ?」

「エドワード・ウォルチ軍曹だ。同じ軍曹同士、仲良くやろう!俺は中央へ行く。フェンリル隊には西側を任せた!」

「こ、こちら第1小隊!ジオンモビルスーツを視認!ツメツキ2!トゲツキ3!ムチツキ1!スカートツキ1!」

「こちら隊長機!第2小隊援護へ回れ!第3小隊は、そのまま格納庫への距離を詰めろ!

 格納庫内に何かがかくれんぼしてんのは明白だ!あのデカイ扉にバズーカぶち込んでやれ!」

両軍の無線があたしのヘッドセットの中で混線する。


「鳥のお嬢さん!しっかりと見張っててくれよ!」

マットさんがあたしの肩をポンとたたいた。言われなくても、大丈夫!

 モニタ上の敵の光点が一気に散開する。一方はまっすぐにこちらへ向かってくる。もう一方は、モビルスーツ隊の方へ…!

 「こちらシュマイザー!モビルスーツ隊は、敵の向かってくるモビルスーツを足止めしろ!

 格納庫を狙っている方の部隊は、砲台とアトウッド曹長で防ぐ!」

「りょ、了解!」

あたしは返事をした。ってことは、東への展開を諦めてまっすぐ突っ込んでくるこっちが相手だね。

見てろ!ダリルさん直伝の仕掛けだ!またひっくり返してやる!

 光点3つが地雷原に近づいてくる。まだだ、まだ早い…もうちょっと、あと、あと少し…

 格納庫に直進してくる3機のうちの先頭が地雷原のマークと重なった。

 いまだ!

 あたしは、マップ上に書いてある番号を入力してエンターキーを叩いた。ズン、と鈍い爆発音がする。

「地中機雷の爆発を確認!」

今まで聞いたことのない声。きっと、ガウから砲台を動かしている人の声だろう。すぐに、その声がもう一度叫んだ。

「敵モビルスーツ1機、行動不能を確認!」

やった!3機目!

 「くそっ!こいつら…!」

「ウェルチ軍曹!出すぎだ!」

「ニッキも、突出している!下がって!」

一方で、モビルスーツ隊の悲鳴が聞こえる。

「こちらモビルスーツ隊!敵部隊はこちらをあぶりだそうとしてます!時間を掛けるつもりです!」

ニッキ少尉の声が聞こえてくる。それはまずい。でも、連邦にしてみたら当然だ。

ミノフスキー粒子が濃いから、増援の要請はしばらくは出来ないにしても、

この戦闘音に気付いて近くの隊が集合してこないとも限らない。こんな場所で時間を掛ければ、こっちが不利だ。連中、それをわかって…

「倉庫強襲隊、接近再開します!」

———まだ来る気?!

あたしはまたモニタに目を戻す。光点の2つが移動して、今しがた爆発させた地雷のあった個所へ固まった。

 そうだよね、やっぱり、同じところに来るよね…だって、そこには、もう爆発させられる物なんてないんだから…

「砲台、撃ち方はじめ!近づけるな!」

シュマイザー隊長がそう叫ぶと同時に、別の声が悲鳴を上げた。

「格納庫前砲台、敵弾命中で沈黙!」

「くそっ!」

マットさんが声を上げた。格納庫前にはもう最後の地雷原が残っているだけ2機まとめて撃破しないと、またその後ろを取られる…

でも、2機はそんなこと、相手だってわかっている。

固まって最初の地雷があったところを抜けた連邦機は、片方が先頭に立って、もう片方がそのすこし後ろをついてきている。

これじゃぁ、2機まとめての爆破は無理だ。

「後ろの部隊は、まだなのか?!」

マットさんは焦れた様子でいきり立っている。無理もない。あたしだってさっきからドキドキしっぱなしで手はもう汗でぐっちょりだ。

「まだ連絡はない!」

隊長の苦しそうな声も聞こえる。


「左翼!敵モビルスーツ増援!」

不意に、セイレーンの1番機が叫ぶ声が聞こえた。

ウソでしょ!?もう嗅ぎ付けられたの!?

「こちら第1、第2支援小隊。攻撃位置に到達。座標位置、特定。側面より、格納庫への砲撃を開始する」

———支援小隊って言った?!だとしたら、こいつら中隊規模じゃないの!?

しかも、今、砲撃って言った…砲撃ができるモビルスーツがいる中隊以上の部隊…

混成機械化部隊?それなら、少なくても20機以上は…

 ズズズン、と言う地鳴り。砲撃が着弾したんだ…近い…!

「くそ!このままじゃ釘付けで砲撃の的だぞ!」

 ダメ。ダメだ、このままじゃダメだ!圧倒的に劣勢だ…どうしよう…なにか、なにか援護の策を考えないと…

 あたしは、格納庫の中にあった物資に頭を走らせた。残っていたのは、信管を抜かれて通電させないと起爆しない弾薬に、通常爆薬。

配線のあまりに、電源装置に…えーっと、あと、あとは何があった!?

 「隊長!砲撃隊を叩かないと、どうにもなりません!」

ニッキの叫び声。

「くっ…ニッキ、ソフィ!グリフォン隊1機と一緒に、砲撃隊を狙え。砲撃を妨害するだけでいい!」

「敵の規模も、護衛の有無も不明、ときたもんだ。しゃあない、俺がお供しますよ、フェンリル隊のお二方!」

「了解!すぐに向かいます!」

 これじゃぁ、こっちの直援が手薄になる…なにか、なにか手を打たなきゃ…!

 焦れば焦るほど、考えがまとまらなくなる。頭の中がゴチャゴチャでいらいらする。それに胸が焼けるように熱い。

もう!もう!なんであたしはこんななの!バカ!役立たず!

 「おい、鳥のお嬢ちゃん!なんか策はないのか?!」

マットさんもそう言ってくる。わかってる、分かってるよ!そんなこと言ったって…

あたしはコクピットの中から外を見渡す。なにか、使えるものはないの!?


「隊長!後続隊、到着しました!」

 不意に、無線から聞こえた。

 知らない、男性の声。

「少尉!」

マットさんが叫んだ。

「敵に発見されてるようだな…さすがに、連邦もしつこい…」

声の主は言った。

 きっと、フェンリル隊の後続部隊だ!良かった、間に合った!

「ル・アーロ!そちらの状況は!?」

シュマイザー隊長の声が聞こえる。


「スワガー、マニング、レンチェフが撃破されましたが、無事です。ホバーに救助させて帯同しています。

 自分と、シャルロッテ機、サンドラ機のほか、殿に残ったキャリフォルニアベース防衛隊のザクが2機おります。

 損傷程度は、どれも中破未満。残弾はわずかです」

 そんな…正直、戦えるほどの戦力に思えなかった。5機のモビルスーツが到着しても、弾もない、ボロボロの機体…

そんな状況で戦うなんて…

「うわぁぁ!」

「セイレーン隊2番機に直撃弾!」

「エドワード!」

無線が鳴り響いた。

 ツメツキのパイロットのはずだ!マズイ!あたしはモニタに目を向けた。地雷原の手前で、友軍機らしき光点が消えた。

「体は無事だが、機体大破!脚を持って行かれた!」

「敵モビルスーツが向かってる!脱出を!」

とっさだった。

「地雷原を爆破して足止めします!その隙に、パイロットの回収を!」

あたしは叫んだ。

「よし、俺が行く!パトリック、援護を頼むぞ!」

「任せな!」

それを聞いてから、あたしはツメツキがいたあたりの地雷を番号を入力して起爆させた。ズズズンと鈍い振動音が響く。

「よし、よし、回収した!だが、戻ってる余裕はない!コクピットに収納して、このまま戦闘を続ける!」

「良くやった!これより、フェンリル隊の増援もそちらに向かう!足止め、頼む!」

「敵砲撃部隊の撃破成功!」

不意に今度は、勝鬨みたいな叫び声が聞こえてくる。

「こちらソフィです。敵の量産型キャタピラタイプを6機撃破」

「よし…よし!あとは目の前の敵だけだ!」

マットさんが喜んでいる…でも、そうだろうか?砲撃隊6機、と言うことは、今、格納庫周辺にいる部隊と撃破した機体の数と合わせても20機未満。

まだ増援があるかもしれない。そして、こちらはすでに、1機やられている。

到着したフェンリル隊とトゲツキ2機が参加しても、それでも、包囲部隊の数よりも少ない。

加えて、弾もわずか、機体も損傷している…

 そう、これが、今あたしたちが持てる全部の勢力…でも、連邦はまだ余力も弾も残している…それも、圧倒的に…


———勝てない。


あたしはそう直感していた。


これまで、戦闘を経験してきた数はそんなに少なくはない。

いつだって大した役には立ててなかったけど、でも、勝てるときと、勝てないときの雰囲気の違いっていうのは分かる。

勝てないときは、いつだってこうだ。

何をやっても、それを妨害され、止められ、踏みにじられて、胸が苦しくなるみたいに締め上げられて、

視界が狭くなってくるような感覚に襲われる。

 「よし、我々も迎撃に向かうぞ!」

ル・アーロと呼ばれた男の声がした。それを聞くや、マットさんがあたしを向き直る。

「すまん、鳥のお嬢さん。俺も出る。降りてくれるか?」

マットさんはあたしの肩をつかんで、そう言ってきた。ここに居ても、邪魔なだけだ。あたしはそう感じてうなずいた。

 すぐに、マットさんの操縦で、マニピュレータから地上に降りる。マットさんの機体は、格納庫の裏扉の方へとズシズシ歩いいていく。

 それとほぼ同時に、ガウが地下から地上階に到着した。

だけど、こんな状態で離陸なんて自殺行為だ。離陸できるとしたら、モビルスーツ隊を置いていくしかない…

でも、ここまで来てそんな選択、ありえるわけがないんだ。だとしたら、もし、モビルスーツ隊が負ければ、みんなは…

「こちらグリフォン6番機!残弾を撃ち尽くした!」

「俺のグレネードを使え!狙って投げろ!」

「セイレーン隊のスパークです!左腕、敵弾で破損!いったん引きます!」

「グリフォン隊の6番の方!私のヒートホークを使って!」

「スパーク中尉、こっちへ!援護しますよ!」

「右翼に回り込まれてる!」

「こっちで対応する!ニッキは前の奴らに集中を!」

 あたしは、グッと拳を握った。

外では、みんな戦っているのに、それなのに、あたしはこんなところで、モニタを見ていることしかできない。

戦術のことは頭に入っている、モビルスーツの操縦だって訓練した。

だけど、あたしはこれっぽっちも実践でまともに戦ったことなんてないんだ。

いつも逃げてばっかりで…本当の意味でまともに敵と向かい合った経験なんてないも同然。

そんなあたしがこんなところで何ができるっていうの?

 湧き上がってくるのは、今まで逃げ続けてきた自分への怒りだった。

もっとちゃんと、戦うことの意味を考えていたら、

もっとちゃんと、戦う方法を知ろうとしていれば、

もっとちゃんと、冷静に考えることに慣れていたなら…

こんな、こんなことにはならなかったかもしれないのに!


 「マライア!」

ソフィアの声だ。見ると、ソフィアがガウから降りてきてあたしの方にかけてきていた。

「今到着したホバーにもケガ人が大勢いるの!手を貸して!」

ソフィアは、服や体を、血で汚していた。まるで、あの日、MPたちを殺したときのようだった。

でも、彼女の眼には、意思があった。まだ、あきらめていない。

「うん!」

あたしはそう返事をして、ソフィアと一緒にホバーへと走った。中は、十数人のけが人がうずくまっている。


「歩ける人は、自分でガウまでお願いします!他の負傷者に肩を貸せる人がいたら、協力してください!

 歩けない方は担架で運びますから、すこし我慢していてくださいね!」

ソフィアはケガ人たちにそう指示をしてから、一番近くにいた、全身が火傷のようになっている兵士に目を向けた。

「この人を!」

「オッケー!」

あたしは返事をして、その人を担架に乗せた。ガウの方へ運びながら無線に呼びかける。

「こちら、アトウッド!ケガ人搬送のため、しばらく戦場のモニタができません!地雷の爆破も、空母の方でお願いできますか?!」

「了解した、曹長。負傷者を頼む」

隊長はそう言ってくれた。

 ソフィア、ごめんね。

あたし、自分でソフィアだけは守るなんて言いながら結局は、あなたにもあなたの仲間にも励まされてばっかりだ。

守るなんて大きなことを言っておいて、結局あたしはここへきても守られてばかり。

隊にいたころと、なにも変わってなかった。

ううん、変わっていたのかもしれない、変わり始めていたのかもしれない。

でも、タイミングが遅すぎた。

今まで逃げ回ってきた人間が、こんな土壇場で急に変わろうだなんて思って、変わることが出来るほど、甘くなんてなかったんだ。

今までのツケを全部ここで払わされているようなもの。結局、今まで逃げてきた報いなんだ。

 ケガ人を運びながらあたしはそんなことを考えていた。ここはきっと、もうダメだろう。

フェンリル隊が奮戦してくれれば、何人かが命を賭して連邦を撃破してくれれば、あるいは…

いや、そう思うことが、もう逃げなんだ。自分ができないから、誰かが、なんて思うことこそが、そもそも間違ってるんだ。


 ソフィアはケガ人を必死になって運んでいる。ソフィアは言った。

自分は、戦場で散っていくんだ、って。今のこの人生は、オマケみたいなものだって。

車の中では、腹がたっただけだけど、今もう一度思い返したら、やっぱりその言葉は、悲しいな。

ガウを無事に飛び立たせることが出来なくても、ソフィアだけは、なんとしても、そんな思いのまま死なせたくない…

だって、あんなに苦しくてつらい目にあったんだもん。

死んじゃうよりも、そう言う、つらいことを帳消しにできる様な楽しくて幸せなことを経験してほしい。

そのためにも、こんなところで、死なせちゃ、ダメ。

 ケガ人を大方運び終わって、あたし達はホバーを確認していた。

他にはもう誰も乗っていない。



そう、あたし達二人以外は誰も…



あたしは、腰に差しておいた拳銃に手を掛けた。




「待って」

そんなあたしを見たソフィアが言った。

「まだ…まだやれる!まだ、なんとかなる!だから、そんなことやめて!」

まるで、叫ぶように言ったソフィアの目には、いっぱいに涙がたまっていた。

「ごめん、ソフィア。でも、もう、ここは危険だよ。お願い、あたしと一緒に逃げて」

あたしは、拳銃を抜いてソフィアに突きつけた。撃つつもりはない。それはお互いにわかっている。

でも、これはあたしの意思表示だ。ソフィアはあたしの両肩に手を置いた。

「ダメ、まだ、ダメだよ…みんな、みんな戦ってる。私、彼らを捨てていけない…」

捨てる、と言う言葉があたしの胸に刺さった。ソフィアを一度は見捨てた、あたしの胸に。


「お願い、マライア。もうちょっとだけ手を貸して!それがダメなら、私を置いて先に逃げて。

 あなたはここで死ぬ必要はない…死ぬのは、私だけでいい…」

また、それを言うんだね、ソフィア。何度も、何度も、同じことを繰り返して。

あたしがここにどんな気持ちで来たかなんてわかってるはずだよ。

オメガ隊のみんなが、何を思ってあなたを助けたかも、分かってるでしょう?!

どうしてそんなことが言えるのよ!

どうしてそんな、悲しいことを口にできるの!?

 あたしはソフィアの胸ぐらをつかんで、拳を振り上げた。


 その瞬間に、何か得体の知れない騒音が響き渡った。まるで、金属同士がこすれるような…

「に、西側の砲台、失陥!敵モビルスーツが格納庫前扉に張り付きました!」

無線が鳴った。次の瞬間、前扉からピンク色の光が漏れて分厚い鋼鉄製の扉が引き裂かれ、ジムのメインカメラが中を覗いた。

「格納庫内に、敵攻撃空母を視認!繰り返す、格納庫の中にいるのは、あの紫のデブ空母!」

「くそっ…まだあんなものを隠していたか!各機!モビルスーツは無視して、格納庫に集中砲火!空母を撃破しろ!」

連邦が無線でそう怒鳴っている。

 見つかった。ダメだ…もう、空母は助からない…

 あたしは、ソフィアから手を離して、拳銃を腰に戻した。

「ソフィア。もう限界だよ。ガウが見つかった。敵は全部ここを目指してくる。

 フェンリル隊がいくら精鋭でも、あんなボロボロの機体で、弾もなくて、

 のこり15機以上もいるかもしれない連邦のモビルスーツを全部撃破できるとは思えない。

 お願い、ソフィア。言うことを聞いて…」
 
 そう言っている間にも、格納庫に連邦の攻撃が来ているのがわかる。

爆発音と地鳴り、そして振動で格納庫全体がミシミシと軋んでいる。

 まだ、持つかな?このホバーならアシは速い。モビルスーツに追われても、逃げ切れる。

退路は…一度西へ向かって、それから南だ。その方角には隊長たちがいるはずだ。そこまでたどり着ければ、まだ安全でいられる。

隊長のところへ戻ったら、あたしも、アヤさんのようにソフィアを連れて逃げよう。

それなら少なくとも、隊のみんなには迷惑はかけないし、ソフィアを死なせることもない。

もう、それが最後の手段…

 そう考えていた一瞬の間に、ソフィアは身をひるがえした。あたしは、しまった、と思ったけど、拳銃は抜かなかった。

これは、ソフィアに納得してもらわなきゃいけないことだ。

拳銃で脅したり、ケガをさせたり、殴って気絶させたところを引きずっていくのじゃダメなんだ、きっと。

「前扉に直撃弾!前扉、崩れます!」

そう言う無線を横耳で聞きながら、あたしはソフィアを追ってホバーから出た。

ズズズズン!

ホバーの外に出た瞬間、重い音とともに、格納庫の正面扉がレールごと破壊されて、外側につんのめるようにして倒れこんだ。

ガウが外から丸見えの状態になった。

 ソフィアは、ホバーの外で、呆然としていた。彼女の見つめる先には、ガウにバズーカ砲を向けたジムが一機。

ジムは確実に、カウの操縦席付近に照準を定めている。

 「くそ!空母を守れ!」

誰か、誰だかを判断することもできなくなっていたあたしの耳に、そう叫ぶ無線が聞こえた。次の瞬間、ジムに銃撃が始まり。

ジムはそれ旋回をしながら躱すと同時に、バズーカ砲を発射した。


 バズーカの砲弾は、ガウから逸れた。そして、目にも留まらぬ速さで、今まで乗っていたホバーの方へと直進してくる。

「マライア!」

ソフィアの叫び声が聞こえたと思ったら、次の瞬間には何か強い力で体がはじかれた。

耳をつんざき、全身を打ちのめすような轟音と衝撃とに体が弾かれてすっとんだ。

 耳がキーンと鳴っている。体のあちこちがミシミシと痛む…ここは、あたしは…どうなった?

 痛む体をこらえて上半身を起き上がらせる。幸い、致命傷はなさそうだ。

———ソフィアは?

 そう言えば、爆発前の衝撃。あれはソフィアがあたしを突き飛ばしたんだ。

ソフィアも近くにいるはず…そう思って見渡すと、そこにあったのは、燃えてバラバラになっているホバー車両だった。

あぁ、あれに命中したんだ…思考に靄がかかってみたになっていて現実がうまく認識できない。

 さらにソフィアを探すと、彼女は燃えているホバーのすぐそばにうつぶせに倒れこんでいた。

あれだ…ソフィア、行かなくちゃ、彼女のところへ…!

 そう思って立ちあがった瞬間、右足に激痛が走った。

みれば、大きな鉄の破片がふくらはぎの皮膚を貫いての筋肉の奥深くまで突き刺さっている。

あたしは、歯を食いしばって、それを抜いた。

吐き気がするほどの猛烈な痛み。

でも、でも…ソフィアだ、あの子のところに、行かなきゃ…すぐに着ていたシャツの片腕を破って、止血をして、

脚をかばいながらソフィアのもとへびっこを引いて歩く。

 近づいたソフィアの体は…血だらけだった。それにあちこちの火傷も。ソフィアはピクリとも動かない。

———まさか…そ、そんなこと、ないよね…

あたしはさらに近づいて、膝から崩れ落ちそうになった。


 ソフィアの体にあるはずの部分、腕が、左の腕が、なかった。左の脚も、明らかに、おかしな角度に…スネから下が、真逆を、上を、体の方を向いている。


あたしは、震える体になんとか言うことを利かせて、ソフィアの体を抱き起して、膝の上に支えた

「…うぅっ…くっ!」

良かった、まだ、生きてる…

 あたしは、意識が混濁しているソフィアの体を観察する。左腕は吹き飛んだのだろう、傷口は引きちぎられたようになっている。

同じく左足もひどい状態で、半分肉と骨が削げ落ちて、いつポロッと取れてしまってもおかしくないような有様だった。

 「ソフィア、ソフィア、起きてよ!」

あたしが軽く、彼女の頬を叩くと、すぐに意識を取り戻した。そして意識を取り戻してすぐに、自分の体の状況を理解した。

 「すぐに、すぐに止血するからね…待ってて!」

あたしは、残っていた方のシャツの袖をやぶいて、それで無くなった腕の上側を止血のために縛り上げ、

脚の方はソフィアが着けていたベルトを使った。

 なぜだか、ふっと、あのモーテルの時に、一緒にシャワーでソフィアの体を洗ったときのことが、脳裏に浮かんできた。

お互いに目を見つめあう。不思議な沈黙があたし達を包んだ。


 なんて言おう、謝らなくちゃ。怪我させちゃったよ…ダメだな、本当に。弱気になったとたんにこれだもん。

守る、なんて言ってたあたしが、一番の危険な隙を作っちゃったじゃないか…

 そんなことを考えていたら、ソフィアが震える唇を動かした。

「ご、めんね、マライア」

ソフィアが悪いことなんて一個もない。謝る必要もない。

あたしは膝に寄りかかっているソファアの髪を撫でて、なるべく穏やかに笑ってあげた。


「ごめんね、マライア。死にたい、なんて言って。殺して、なんて言って、あなた達をたくさん悲しませた…

 でもね。本当に、ごめんね。私、今、怖いよ。死ぬのが。死にたくない…生きていたい…」

「ソフィア…?」

あたしは、彼女の口から洩れてきた言葉に、思わず彼女の名前を呼んでいた。


「怖いよ、マライア。なんにもできずに死んでいくのが怖いよ。グルグルとMPたちのことを考えたまま死んでいくの、イヤだよ…

 マライア…私、死ぬのなら、隊長たちにありがとうを言ってから死にたかったよう…

 もっとたくさん、楽しいことして笑っていたかったのに…やだよ…私、私、まだ、死にたくない…生きてたい…」


あたしはソフィアの体を抱きしめてあげた。臓器への致命傷はない。でも出血は続いている。

わかってるんだ、ソフィアにも。自分に時間が残されてないってことが。

ジオンのモビルスーツがガウの発進を援護すれば、ガウが味方のモビルスーツを無視すれば発進できるかもしれないけど、

絶対にそれをしないだろうということ。モビルスーツが勝たないと、ガウは出ない。

もし、モビルスーツが負ければ重症のソフィアをガウに乗せたところで、満足な治療なんてできない。すぐに爆破されてしまうだろう。

 でも、かといって、車でここを離れても、近くに連邦の野戦病院でもなければ間に合わない。

そう、ソフィアの怪我は致命傷じゃないけれど、長くこのままの状態を保っていられるような軽いものでもない。

なるべく早くに完璧な止血をして、輸血をしないと、助からない。

連邦のモビルスーツを、ソフィアをこのまま放っておける時間内に排除できる可能性は、もうほとんどない。

でも、もし、現状、どっちか、と言われたら後者だ。

 車で病院を探すでも良い。隊長達を探すでも良い。そっちのほうが、ソフィアを助けられる可能性が高い。

何をためらうことがあるのだろう…そうだ、初めてソフィアは生きたいって言ったんだ。

死にたくないって、口にしたんだ。

 ソフィアだけは死なせないんじゃなかったのかよ!このヘタレ!チキン!マヌケ!!!

あたしはそう思って、渾身の力を込めて自分の顔面をぶん殴った。気合入れだ。それから、あたしはソフィアの体を抱いた。


 「大丈夫だよ、ソフィア。あなたは、あなただけは必ず助ける!」

あたしは渾身の力を振り絞って、ソフィアを担ぎ上げた。

金属片が刺さっていた場所から血が噴き出して痛くて痛くて、脚から力が抜けて行きそうなのを必死でこらえる。

それから、一歩ずつなんとか、格納庫の前扉の方にまで歩いていく。あの外に、乗ってきた車がある。

それが、最後の頼みの綱だ。

格納庫を出て、車があったほうを見やる。



そこには、攻撃で崩れた格納庫の外壁に押しつぶされている、あたし達の車があった。



———あぁぁ、ダメだ…

あたしは、心の中で、ついにそれを認めてしまった。もう、逃げることもできない。ダメだ…どうしよう…?

 その場にあたしはへたり込んだ。ソフィアをまた、胸の上に抱いて支えるようにして、空を見上げた。

「車、だめだね…」

ソフィアがつぶやいた。

「うん…」

あたしが返事をすると、ソフィアはかすかに笑った。それから

「空、きれいだね…」

と震える唇で言った。

「うん…」

あたしも答える。

 確かに空は澄み渡って行って、どもまでも、深く、青く広がっている。

「ニッキ少尉のグフが!」

「大丈夫、腕をやられただけです…下がります!」

「こちらセイレーン1番機!敵のサーベルで、右腕をやられた!もう武器がない、戦闘の継続できません!」

「敵が一気に押してきた…!あぁ!アルヴィン機、被弾!大破!」

「グリフォン隊、パトリック・ゼマン軍曹です。残弾、ゼロ。底を付いた。これよりヒートホークで特攻をかけます。

 2,3機と一緒に相打ちにでもなりゃ、あとの皆さんの役に立てるかとおもいますんで、ね」

「待て、グリフォン、まだあきらめるな!こちらに引き込めば機雷地帯へ誘導できる…まだ我慢だ!」

「こちらシャルロッテ!撤退を援護します!戦線を下げましょう!」

「俺がひきつける!フェンリル隊!損傷機の援護頼むぞ!」

戦っているみんなの声が聞こえる。みんな必死だよ、ソフィア。みんなを守ろうとして、必死に戦っているよ。

すごいね、勇敢だよ。それに強いよ。あれだけ圧されているのに、絶対にひるまない。絶対に心が折れないよ。

もうダメかもしれないっていうのに…ね。


「マライア…」

ソフィアの声だ。

「ん、どうしたの?」

「あたし…ありがとう…」

「ソフィア…」

「あなたに会えて、助けてくれて、本当に良かった…」

「まだ、お別れじゃないよ。負けないで。今、何か考えるから、だから、気持ちだけはしっかり持って。あたしが着いてるから」

そう言ってソフィアを励ます。

でも、戦場のど真ん中で座り込んだあたし達にできることなんて何もなくて、血が止まらないこの脚でもうこれ以上、ソフィアを運ぶ気力も体力もない。

 「ごめんね、ソフィア。せっかく生きたいって言ってくれたのに…あたし、あなたを助けられないかもしれない」

「ううん、あなたは、助けてくれた。ここに、私に最後の仕事を、させにしてきてくれたよ…」

あたしもソフィアもいつの間にか泣いていた。

 ダメだ、頭が、気持ちが負けている。もう何を考えたってソフィアをここから連れ出す方法が浮かばない。

浮かばないどころか、まるで頭が真っ白のすかすかになってしまっているみたいだ。

どうにかしなきゃ、頭ではそう思うのに、気持ちがもう、奮い立たない。

「くそ!ジオンめ、しぶとい!」

「砲撃隊は全滅、こちらもすでに8機もやられてます、隊長!増援はないんですか?!」

「ミノフスキー粒子が濃すぎて、味方に届いているか確認できん。慎重に無理せず行け。

 向こうは体も心も機体も疲労はピークだ。つけ入る隙は、必ずある」

連邦の指揮を執っている人の声。

 あぁ、これが隊長だったらな…隊長があたし達の相手でここにきてくれたら、こんな苦労なんてせずに、

ソフィアを、生きたいって言ってくれた彼女を助けられたかも知れないのに。

 いろんなことが頭を巡って、あたしはソフィアを抱きしめる腕に力を込めた。


「ソフィア、いっぱい考えてるけど、逃げる手立て浮かばないや。

 ごめんね…でも、大丈夫だよ。あなたが動けなくても、死にそうでも、たとえ敵の砲弾がここに降ってきても、一緒にいてあげる。

 それしかあたしには出来そうもないや。許してね」

あたしが言うと、ソフィアも力なく笑いながら

「ううん…ありがとう、マライア。本当にありがとう…」

あたしもマライアも、もう涙が止まらなかった。


 「上空に機影!」

不意に、無線からそう聞こえた。あたしは、ハッとして空を見上げた。

 そこには、四角い何かが飛んでいた。

———あれは…ミデア輸送機

「連邦の輸送機か!」

「くそ…もう機体も限界だってのに!」

「ははは!手柄を分けて欲しいってか?」

「まったく、援軍ならもっと早く来いよ!おい、どこの隊だ?」

ここへ来て連邦の増援だなんて…もうフェンリル隊でもささえるのでやっと…これ以上敵が増えたら、ガウを守りきれない…

「こちら輸送機隊ファントム。ファントムリーダーから、ファントム2へ。ペイロード開放、モビルスーツ隊、降下せよ」

見上げていた輸送機の後部がキラリと光った。

 太陽の光に反射されたのはモビルスーツだ。



そして、あたしは戦慄した。

太陽を反射させていたそのモビルスーツは、真っ蒼に輝いたからだった。


「蒼い、モビルスーツ…?!」

シャルロッテの絶望に満ちた声が聞こえてくる。

「まさか…!ミサイル基地をやったあいつか!?」

マットさんも絶句している。

「全機迎撃体制を取れ!いいか、こんなところで死ぬな!最後まで戦い抜くんだ!」

シュマイザー隊長がほえている。

 ソフィアの話なら、あの蒼いジムは、本当にバケモノだ。

いくらフェンリル隊が精鋭だからといって、ミサイル基地を単機で壊滅させるような機体とやりあって無事でいられる保証はない。

それでなくても、彼らのモビルスーツは損傷も消耗も激しい。

10機以上の量産型ジムに囲まれて、なんとか足止めをすることで精一杯だったと言うのに…


 「もう、ダメ、なんだね…」

ソフィアがそういってからうめいた。

 あたしはソフィアをもっと強く抱きしめる。助けなきゃ、あたし、この子だけは、助けてあげたいんだ…

その思いだけで、あたしは、もう一度だけ、なんとか頭を回転させる。

あれが降りてくる前に逃げないと…そうだよ、ヤバいんだ、逃げよう…撤退して、隠れて、次のチャンスを…

でも、どこへ?地下道へ戻ったって、そこには連邦に制圧されたキュリフォルニアベースがあるだけ。

ましてや、あの蒼いモビルスーツが加わりでもしてら、この包囲網の突破なんてできるはずもない…


…ダメだ、もう、何をどう考えても、勝ち目はない、逃げられない…どうしよう…死んじゃうよ…。

ソフィアが死んじゃう…フェンリル隊のみんなも死んじゃう…どうしよう、隊長…アヤさん…!

これじゃぁ、みんな死んじゃうよ…!

隊長…アヤさん!近くにいるなら…助けてよ…お願い…っ


「助けてよ!隊長ぉ!!!」


「いや…」

無線から声が聞こえる。

「違う」

「お、おい、どうなってんだ!?」

な、なに?どうしたって言うの?

 無線から口々に戸惑う声が聞こえてくる。あたしはもう一度空を見上げた。

 空から降下してくる蒼いモビルスーツ。でも…あれはジムタイプじゃない。あんなモビルスーツ…連邦にはない…


あれは…蒼いモビルスーツだけど、でも、あれは…ジムなんかじゃなくて…


———ジオンの、ムチツキ!?
 
ムチツキは空から降下しつつ背中に背負っていた剣を手にすると、突出していたジムに降りかかりながら斬りつけた。

 ズズン、と言う轟音とともにジムが倒れこむ。誰もが、あっけに取られていた。

 無線がガリガリと言う音とともに鳴り響いた。


「おい!マライア!いるか?!無事だろうな!」


 いつもの、懐かしい、乱暴な口調のだみ声が響いた。

うそ…嘘でしょ?!なんで?!隊長…隊長なの?!

「隊長…隊長!!!」

あたしは無線機に声の限りに叫んだ。

「あぁ、なんだ、無事だな。間に合ってよかったよ」

隊長だ…本当に、隊長が?来てくれたの?でも…なんで?どうして、隊長がトゲツキに?

だって、補給部隊の護衛の任務が…なんでここがわかったの?

「ど、どうしてここが…?あ、あの輸送機は?!なんでムチツキなんかに!?」

「あの輸送機は、今日の任務の護衛対象だ。ちょっくら借りてきた。

 このジオンのモビルスーツどもは、戦闘のあとに無事なものを隠しておいた。

 俺がホバートラックごときしか鹵獲してないと思ったら大間違いだぞ!

 ここへたどり着いたのは、ミノフスキー粒子撒く前に、ソフィアさんの腕時計で大まかな位置は把握してたからだ。

 びっくりしたか?ははは!まぁ、遅くなってすまなかったな。補給隊からあの輸送機借りるのに手間取っちまってよ」

隊長が笑ってる。正直、顔を見るまで信じられないくらいだけど、あの声、あの態度、隊長だ。

本当に、隊長だ!来てくれたんだ、あたしを、ソフィアを守りに、ここまで!

 輸送機からはまだモビルスーツが降って来る。どれも、ムチツキやトゲツキ…ジオンのモビルスーツだ。



「ははは!さっすが隊長!手が早いなぁ!」

フレートさんの声がする。

「バカ野郎、俺をヴァレリオみたいな言い方すんじゃねえよ!」

「聞いてますよ!人聞きの悪い!」

ヴァレリオさんだ。

「おい、フレート!お前、気をつけていけよ!」

ダリルさんの声も。

「わぁかってるって!」

「各機、手筈通りにな。デリク、ベルント、上からの支援は頼むよ!」

「了解です、空なら任せてください!」

「了解している」

ハロルド副隊長…輸送機にはデリクとベルントさんが?

その会話を縫ってフレートさんが叫んぶ。

「おい、そっちは大丈夫かよ、ブランクあんだろ?!」

それにこたえるつもりがあるのかないのか、別の声が無線に響いた。

「やい隊長!隊長この野郎!レナのことが終わってんならパァッとやろうっていうから、わざわざ遠回りしてきたってのに!どういうことだよ!」

ア・・・アヤさんの声!?アヤさんまで来てくれてるの!?

「アヤさん!」

「おー、マライア!生きてるかぁ?!今こいつら片付けるからな、待ってろぉ!」

「アヤ、気をつけてよ!あなたモビルスーツ慣れてないんでしょ!?」

レナさんの声まで?

だ、だってレナさんはさっきのシャトルに乗っていったはずじゃないの?!なのにどうして?!

「大丈夫だって!守ってくれんだろ!?」

「そりゃぁ、私の方がモビルスーツは長いからね!」

「だはは!良いじゃねえか、パァッとやろうぜ!お客さん含めて久しぶりにオメガ隊勢ぞろいだ!

 相手は違うが、ひと暴れしてカレンの弔いでもしてやろう!」

「味方か!?どこの隊だ!?今まで、どこで何してた!?あの輸送機はどうしたんだ!?」

「あれは…あのマーク!」

シャルロッテの声がした。

ミデアから降って来たモビルスーツには、「Ω」の文字こそ入ってないけど、

すべてにオメガ隊のエンブレムに使われている不死鳥の絵柄が描き込まれていた。

「こいつらまさか、連邦の鳥の部隊なのか?!」

「例の噂の!?ここまで来て俺たちの支援を?!」

「おう、おたくらか、フェンリル隊ってのは!

 そんなボロボロの機体でここまで持ちこたえてるたぁ、レナさんから聞いたとおり精鋭だな!

 あとは任せろ!あんたらはその空母で逃げな!」

隊長が無線で怒鳴った。


「シャルロッテ!ここは私たちに任せて!」

レナさんがシャルロッテにそう叫んだ。

「少尉!それでは、少尉たちが!」

「大丈夫、準備はしっかりしてきたから!このあとの展開も全部手を打ってあるし!あなたたちは行って!」

レナさんとシャルロッテ少尉は知り合いなの?

待って、一体何!?何がどうなっているの!?

ワケが分からないけど…でも、でも…隊長たちがここを支えてくれるなら、援護してくれるなら、ガウを発進させられる…

ソフィアの治療も、ガウの中で出来るはず…!ソフィアを、助けられる…!

 それが確信できた瞬間、目から大粒の涙がこぼれてきた。

安心と、喜びと、うれしさと希望となんか明るい感情が壊れそうなくらいにいっぺんに噴出してきてとまらない。

 隊長、アヤさん、みんな…!

 あたしはソフィアを見た。彼女もなんだか呆然としてたけれど、あたしは彼女をもっともっと強く抱きしめてやった。


「ソフィア、隊長が助けに来てくれた!ジオンのモビルスーツ使って、あなたを頼りに来てくれたんだよ!

 もう、もう大丈夫だから!大丈夫、こうなったらもう、誰一人だって、あたしは死なせない!」

「うん…うん…うぅっ…」

返事をして、またソフィアがうめいた。

「マライア!すぐに中尉を空母に運びます!担いでもらえますか!?」

シャルロッテの機体が近寄ってきてグッとマニピュレータを差し出してくる。あたしは渾身の力をこめてソフィアを担ぎ上げる。

足に激痛が走る。力が抜ける…でも、がんばらなきゃ!ソフィアを死なせない!助けるんだ!

 あたしはトゲツキのマニピュレーターの上にソフィアと倒れこんだ。

すぐにソフィアの体を捕まえて、もう一方の手で指の関節をつかむ。

 「鳥の部隊!恩に着る!」

「なぁに、良いってことよ!礼をしたいってんなら、うちの妹分の面倒をみてやってくれ!」

隊長の声がした。

「分かった!武運を祈る!」

「ははは!ジオンにそれを言われるとこっちもやる気が出てくるよ!よぉし、野郎共!デブ空母を空に上げるぞ!俺に続け!」

「おぉぉ!!」

「いいな、大事な妹分を死なせんじゃねぇぞ!

 いや、連邦もジオンも、誰一人死なすんじゃねえ!ここは今から!俺たち、オメガ隊の戦場だ!」



Epilogue


「ダリル、空母の様子はどうだ?」

アヤがダリルさんに尋ねている。

「あぁ、こっちの防衛ラインは無事に躱したみてえだが、ついさっき、洋上に不時着したようだ」

「不時着?やられたのか?」

「いや、その後もソフィアの発信機の反応はある。速度は落ちたが、移動していた」

「どういうことだ?」

「潜水艦だ」

隊長さんが言った。

「どういうことだよ、隊長?」

アヤが不思議そうに聞いている。

「洋上に不時着して潜水艦に乗り換えたんだろうよ。空母が飛んだと言われりゃ、連邦は必至こいて空を探すだろう。

 見つかっても不思議じゃねえ。そこで、こっちの防衛ラインを突破した段階で、潜水艦に乗り換えたんだ。

 こっちの防衛を飛び越えて、なおかつ消息をくらませられる。空じゃ隠れる場所もねえが、

 海中なら、息を潜めていりゃぁそう簡単に見つかるもんでもない。なかなかに良い手だ。あのフェンリルって部隊の隊長、やるな」

隊長は、憎らしげな表情でニヤついている。さすが隊長。私も、その読みは鋭いなと感じた。

沿岸部には封鎖のために連邦の潜水艦や戦艦がひしめき合っている。

いくらなんでも、そんなところにジオンの潜水艦が紛れ込めるはずがない。

だけど、空母より潜水艦の方が逃げるのは安全だ。

ガウに乗っている反応が洋上に停止して、それから速度を遅めて移動した、と言うことになれば、

海上で潜水艦隊と合流した可能性は高い。いや、シュマイザー少佐のことだ。きっと、それくらいのことは考え付く。

「なるほど…で、今はどの辺りなんだ?」

「もう探知はできないな。潜航でもしたのか…そもそも、小型に小型を重ねた発信機だ。

計算じゃ、昨日バッテリーが切れても良いくらいだったからな。ボチボチ、寿命だろう」

ダリルさんはそう言って、持っていたコンピュータの画面を閉じた。


「無事だといいですね、マライアちゃんと、ソフィア…」

「大丈夫だよ。なんやかんやで、あいつもアヤ似だし…って痛って!キ、キーラもうちょい丁寧に…ぃ痛てててて!」

「あぁ、もう、ちょっと!動かないでよフレート!」

私は、あとからやってきた、レイピアと言う部隊の女性隊員、キーラと一緒に、

連邦モビルスーツにめった撃ちされて転倒し、怪我をしたフレートさんの手当てをしている。

「おぉい、フレート!だから無茶すんなって、あれほどいったろう!?」

隊長さんがニヤニヤしながらフレートさんに言う。

「えぇ!?連邦機を、パイロット死なせずに5機もぶっ壊したんすよ?お褒めの言葉を聞きたいっすね!」

フレートさんも負けていない。

 あれから、私たちは、ガウが離陸するのを援護した。

ガウは何発か被弾していたけど、あの程度で飛べなくなるほど、やわな作りはしていない。

今の話を聞く限りでは、きっと無事だろう。

 ガウが飛び去ってから、別の連邦輸送機がやってきてそこから連邦のモビルスーツが降りてきた。

あたし達はその部隊に追われて地下格納庫まで下がって、乗ってきていたジオンのモビルスーツを全部自爆させた。

あとから降りてきた連邦のモビルスーツ部隊っていうのが、このレイピア隊。

要するに、援護に駆けつけたジオン側も連邦側も、実は私たちの作戦のうち。

そう、全部隊長さんが仕掛けた大芝居だ。

アヤに輪をかけて、とんでもないことを平気な顔して考え付いて、実行する人なんだ、あの隊長さんは。

 「よし、もういいでしょ。あとは基地に帰ってからかな」

キーラさんが言ったので私もうなずく。キーラさんはそれから、私を見てニコッと笑うと

「ありがとうね、レナさん」

なんて言った。きれいな人だな。


 「よーし、レナ!アタシらもそろそろ行かないと、今度は本当に連邦の援軍が来ちまうぞ!」

アヤの声が聞こえる。

「あ!うん!」

私は走って行って、彼女に飛びつく。

「お、おい、やめろって!」

「やだ!」

私は言ってやった。普段なら人前で、しかも、知ってる人がこんなに大勢いるっていうのに、

こんな甘えた子どもみたいなことはしないんだけど…私自身は、もうなんかいろんなタガが外れてしまったのかもしれない。

 みんなが声を上げて笑って、冷かしている。別に、悪い気はしない。

 「お前ら、これからどこへ向かうんだ?」

隊長が聞いてくる。

「えと、ル…じゃなくてラリ…?あー、どこだっけ?」

「あぁ、フロリダ!船を買いに行くんだ!」

アヤが顔を赤くしながら、満面の笑みで言う。すると隊長は意外にも、へぇと感嘆するような表情を見せて

「なるほど、そいつは、確かに良いかもしれねえな。陸地にいるより、海の上を逃げ回ってた方がはるかに安全だ」

と言った。そう言われてみればそうかもしれない。でもアヤは単純に船が欲しいだけだと思うな。

こればっかりは、そんな深い思慮があるとは思えない。

そう思って、チラっとアヤの顔を見ると案の定、アヤもハッとした顔をしていて

「あぁ、そう言う利点もあったなあ」

なんていうもんだから、笑ってしまった。

 それからまた、少しだけとぼけた話をして、アヤが笑った。私も笑った。隊のみんなも、今日初めて会った、このレイピア隊のみんなも。

楽しい、優しい仲間たちだ。

 「よし、じゃぁ本当にいかないとな」

アヤはそう言って、レイピア隊が乗ってきた輸送機に積んでおいてもらったポンコツに乗り込んだ。私も助手席に飛び乗る。

「居場所が座ったら連絡するよ!みんな遊びに来てくれよな!」

「うん!待ってますよ!」

私たちが言うと、みんなも口々に励ましを言ってくれて、笑って手を振ってくれる。

「さぁって、逃げるぞ!レナ!」

「うん!全速力で駆け抜けちゃって!」

あたしの声を聴いて、アヤはブンブンとエンジンを空回りさせると

「じゃぁなぁ!」

と窓から大声で怒鳴って、車を走らせた。


 これでもかっていうくらいのスピードで、土の道から、舗装された道路に入る。

「ひゃっほーーー!」

「あはは!元気だな、レナ」

私が叫んだら、アヤがそんなことを言った。なんでよ?アヤは疲れたの?

「アヤは元気ないの?」

「いや、そう言うわけじゃないさ、元気だよ!でも今日と明日は寝ずに走って連邦の勢力圏から抜けるからな。

 地獄の耐久ドライブだ。体力は取っておかないと!」

「そっか、じゃあ私寝ておくね!おやすみアヤ!」

「お、ちょ、レナぁ!」

ふざけてそう言ってやるとアヤは不満いっぱいの声を上げた。

「なに?」

チラッとアヤの顔を見たら、まだなんにも言ってないのに真っ赤になっていたから、聞いてやった。

また何か、破廉恥なことを言うつもりなんだろう。

「その、ね、眠たきゃ、寝ても良いけどさ。あの、ひ、暇だったら、話し相手にはなってくれよな!」

あはは、なんでそんなこと言うのが恥ずかしいの?アヤはやっぱり、こういうのは弱いんだなぁ。

「うん!じゃぁ、もう、黙れって言われてもしゃべり続けてあげる!」

「あはは!頼むよ!」

でも、一緒にいて、こうして話したり、よろこんでくれるアヤと一緒にいるのは、やっぱり楽しいし、心が満たされる気がするんだ。

恋人っていうのとはちょっと違う。私そっちの方の趣味はないからね。

でも、それ以上に一緒に居たいと思うんだ。アヤは、いつだって私を包み込んでくれる。

私もどんなときだって、アヤを信じてあげよう。それがきっと、私たちの二人の絆なんだ。

私たち二人が旅で見つけた、何にも代えがたくて、どんなものよりも幸福な、一番の宝物だ。



「マライアちゃん、無事だと良いね」

「んあーまぁ、大丈夫だと思うけどな。あいつ、ビビリさえ治れば、優秀なんだし」

「そうなの?」

「そりゃぁそうだよ!隊長にアタシに、ダリルにカレンの肝煎りだ!操縦の腕はデリクには負けるけど、その他の部分じゃ、優等生」

「へえ、そうなんだ…子犬みたいなのにね」

「ははは、言われてみれば、確かに小さい犬みたいだよな」

「あはは、やっぱり似てるよね。あ、ねぇ、話変わるけど、フロリダってどこにあるの?」

「ここから南東に1000キロくらいかなぁ」

「けっこうあるね」

「まぁな。すげえ頑張って、2日半くらいかな。

 あ、でも途中にさ、ホットスプリングスっていう温泉街があってさ。あ、レナ、温泉って知ってるか————


————to be continued


以上です!
アヤレナに引き続き、原稿用紙換算300枚でした!
長い作品になってしまいましたが、読了感謝!

おつおつ!


隊長のかっこよさに濡れた

おつおつ!

Ω隊かっこよすぎー!
そしてル・ローア、お前は泣いていいんだよ

>>471
あざっす!

>>472
あざっす!!
最後の最後まで、マライアではなくて隊長を愛でる物語でしたw

>>473
あざっす!!!
ル・ローア、二回しか名前が出てないのに、二回とも同じミスタイプをwwww




アヤレナ篇より熱い展開だったな
脱出劇のお手本みたい

それよりもオメガ隊はなんなん?
ただの航空機中隊じゃなかったんかw
連邦軍はもっとこいつらの給料上げるべき!

>>475
あざっす!!!!

アヤレナ編の最初にアヤがチラっと言っているのですが、
オメガ隊とレイピア隊は、戦闘機隊からモビルスーツ隊へ転換予定でした。
そのための訓練も豊富に行っていると考えています。
ですが、この隊、機体の消耗率が高い(主にフレートのせい)ので、配備が後回しになり、
そこへジャブロー攻撃があって
フェンリル隊に電源壊されたり、赤い鼻とか赤い服の人に工場爆破されそうになったりして
さらに配備が遅れに遅れ…とご理解くださいw

隊長とアヤとダリルのオーバースペックは才能ですw

熱い展開乙。

マライア達のその後、みたいなのあるのかな?

おつー!
面白かった!

300枚×2とか!!すごいわー
リゾートペンション編で1000枚達成か

キードードでちょっと吹いた

>>477
あざっす!
to be continuedです!ww

>>478
あざっす!!
文庫ならすでに2冊分くらいでもいいみたいなのでちょっと驚いてますww
1000枚いくかも・・・ww

>>479
誤字ww
まぁ、このラストパートは本当に勢いで打って投下しただけなので///
探さないで!流しといてっ!ww

皆さん、おはようです。

たくさん感想をありがとうございます。
次回アップ、土曜日の夜にやれたらいいなと思ってます。

また、マライア編の感想を聞かせてくれると励みになるので、どんどんレスしちゃってくださいまし!
よろしくです!



その日、あたし達はジャブローの空にいた————



「おい、敵さん見えるかぁ?!」

フレートさんの声が聞こえてくる。

「団体様でお着きだ…すげー数だな…護衛の戦闘機か」

「ははは!そんなもん、ムシムシ!狙うはあのデカブツだ!」

「おい、フレートォ!お前、今日弾幕に突っ込んだら予備機手配しねえからな!」

「わかってますって、隊長!」

そう言いながら、隊長とフレートさん、ベルントさん、そしてダリルさんが高高度へ上昇していく。

「こちら、オメガリーダー。オメガブラヴォーへ。お前らはそこで降下してきた敵モビルスーツを狙え。

上で煽ってやりゃぁ、焦って降りてくるだろう。なるべく体制を崩させるから、そこを狙え。

おい、対モビルスーツ攻略の基本、その1、デリク、言ってみろ!」

「はい!装甲の弱い部分を狙う!」

「おーし、マライア!その2!」

「えーっと、バーニア、スラスターなど誘爆要因となる個所を狙う!」

「ははは!おい、教育係!しつけは順調だな!」

隊長のうれしそうな声が聞こえる。

「バーカ言うなって!アタシはなんもしてない!これはカレンとヴァレリオのお陰だ!」

アヤさんもそう言って笑う。

「そりゃぁ、ね。小隊長が不甲斐ないから、手を貸してやったのさ」

カレンさんが口をはさんだ。

「てめぇ、カレン!」

アヤさんがそう言って声を荒げるけど、そこから先は、落ち着かせて

「…感謝してる。今日も、頼むぞ」

なんていうのだ。

カレンさんもカレンさんでそれを聞くや

「わ、わかってるよ。ちびちゃん達は任せな。そっちは…上のバカ共が無茶しないように見ててくれよ」

なんて言うのだ。この二人、なんだかんだケンカばっかりだけど、いいコンビなんだ。

 最近じゃ、カレンさんがあたし達のことを見ていてくれて、

アヤさんは、隊長たちとあたし達、両方の支援を臨機応変にしていく体制を取ることが多い。

カレンさんは、アヤさんほど回転が速いわけでもないし、視野がとてつもなく広いわけでもないけれど、

独自の戦術論と経験があって、あたし達を引っ張ってくれる。

アヤさんとは違う頼もしさがあって、あたしもデリクも、いつも勉強させてもらってばかりだ。


 「おぉっと、おいでなすったぞ!露払いだ!」

ヴァレリオさんが言った。正面に何かがキラリと光る。敵航空空母の護衛の戦闘機だ。

「オメガアルファ、現在の高度を維持せよ。敵戦闘機は引き離せ。オメガブラヴォー、アルファの援護を頼む」

「こちらブラヴォーリーダー、援護了解。各機、小隊分散してアルファを援護せよ!」

「了解、ブラヴォーリーダー!こっちはブラヴォー2だ。カレン、マライア!遅れんなよ!」

2つの班に分かれたオメガ隊の、ブラヴォー、B班のリーダー、ハロルド副隊長の声にアヤさんが答えた。

あたしとカレンさんは、ブラヴォー班の2番隊となる。1番隊は、ハロルド隊長に、ヴァレリオさんに、デリクだ。

「ちょっと、ミナト班長さん?!敵さん、もう『粉』撒いてきてるよ!さっさと、指示!」

カレンさんが言った。みると、コクピットのレーダーがホワイトアウトしていく。敵の散布したミノフスキー粒子だ。

「ったく、手が早いやつはきらわれっぞ?各機、ミサイルは使えない。機銃掃射で弾幕はって避けつけるな!

 アタシとマライアでアルファの援護!カレンは、ブラヴォーを見ててやってくれ!」

「あいよ!」

「了解!」

「こちらブラヴォー1。こちらは、俺がアルファの援護に着く。デリクとヴァレリオにそっちの護衛を任せる!」

「了解です!」

あたし達はそれぞれ配置に着く。お互いを守り合う、サッチやロッテ、シュヴァルムの合わせ技の戦法なんだけれど、

正直、理解するまでにはそうとう苦労した。だって、基本戦術をごった煮にしたような動き方をするから。

でも、慣れてしまえばこれほど心強い配置はない。簡単に言えば、ロッテを3隊に分かれてやると言う感じだ。

隊長が名づけて、グルグル戦法!ふざけたネーミングなんだけど、これが結構侮れないんだ。

 敵機があたし達めがけて群がってくる。落ち着け、慌てるな!

正面の敵と、味方を狙っている敵だけを注意して…あとは、みんながきっと守ってくれる…!

「マライア!正面から来るやつに気をつけろ!ヘッドオンしたら機銃掃射しながら上方に回避!」

「りょ、了解!」

正面から敵が突っ込んでくる。あたしはアヤさんに言われたとおりに夢中でトリガーを引く。

曳光弾の破線が伸びて行って、敵がそれを回避してちりぢりに分かれる。

 その敵を、さらにあたし達の後方から狙っていたデリクとヴァレリオさんの機銃が襲って、複数の爆発が見えた。

「後ろに着いてるぞ!アヤ、いるんだろうな!?」

フレートさんの声だ。

「いるぞ!マライア、アルファの援護だ!」

「は、はい!」

あたしは操縦桿を引いて、機体を上昇させる。アルファ隊の後ろに迫っている敵機に向かってトリガーを引いた。

敵がそれをかわそうとしてまた回避行動に出る。

それを、さらにアヤさんとハロルド副隊長の銃撃が襲って、また数機が爆発した。

「敵空母接近!アルファ隊、上から攻撃をかけるぞ!高度を300上げろ!」

隊長の声が聞こえて、アルファが高度を上げていく。

「マライア!アタシらはこの高度を維持!カレン、そっちは?!」

「こっちは平気よ!上を頼むわ…っ!?」

返事をしたあと、カレンさんの苦しげな声が聞こえた。地上から味方の対空機銃が撃ちあげている。

無数の曳光弾の軌跡が、空に立ち上ってくる。あんなに…あんなにたくさん!?

「こ、こいつら!味方がいるの見えてないわけ!?」

「カレンさん、大丈夫ですか?被弾してますよ?」

デリクの心配そうな声が聞こえる。

「あぁ、大丈夫、飛ぶのに支障はないよ…でも、この対空砲は…!デリク、あんたも気をつけな!」

ガウがさらに接近してくる。襲いかかってくる敵機の位置を頭に入れながら、

目の前の、護衛対象のアルファに迫る敵機を追い払い続ける。この無数に、不規則に飛び交う対空砲をかわしながら…

 ガガガンと言う音とともに、衝撃が走った。

———当てられた!?

 すぐにコンピュータで機体の状況をチェックする。右翼に異常信号…!燃料タンクがやられた…

す、すぐに封鎖を…!あたしはコンピュータを操作して、燃料の流出を止める。


「デリクが被弾!おい!火吹いてるぞ!」

「くそぉ!地上の奴ら、見境なしですよ!すみません、先に出ます!」

デリクの声が聞こえた。

「了解、デリク!気を付けろ!」

「役に立てなくてすみません!みんなも気を付けて!」

そう言う声とともに、左の後方にいたデリク機からイジェクションシートが飛び出て、パラシュートが開いた。

「こちら、上空のオメガ航空隊!地上の対空砲部隊へ!射線を一定に取ってくれ!空が混乱する!」

隊長の怒鳴る声が聞こえるけど、対空砲の打ち上げが変わる様子はない。

「マライア!食いつかれてる!右旋回!」

今度はヴァレリオさんの声!

あたしはすぐに操縦桿を倒して右へ旋回する。

「マライア!低空へ逃げろ!上で回避してると味方の対空砲につっこんじまう!」

「はい!」

そう言いながら、操縦桿をさらに前に倒して高度を下げる。

強烈なGが体にかかって顎が上がってしまいそうになるのをこらえながら、必死に旋回する。

「マライア!そのまま5時方向まで旋回しな!そうすりゃこっちの正面に出る!あたしがたたいてやる!」

カレンさんがそう言ってくれている。

「了解!」

あたしはさらにGに耐えながら高速での旋回を続ける。カレンさんの機体が脇をすれ違って、あたしの機体の後方についた。

「よし!排除したよ!」

「あ、ありがとうございます!」

ガガガン!と再び鈍い音!

 もう!なんでこっちを撃つのよ!敵機には一度も撃たれてないのに!コンピュータで機体をチェックする。

また、右翼!大丈夫、そっちは燃料を止めているから、すぐに支障は出ないはず…

「くっそ!こっちも下から食らった!」

「ヴァレリオ!無理しないで、あたしの後ろへ!着いてきな!」

「了解!頼むぜ!」

「アヤ!下はダメだ!バカ対空砲部隊のやつら、敵も味方もあったもんじゃない!」

「了解、カレン!隊長!低層も中層域も対空砲の密度が濃すぎて危険だ!高度を上げる!」

アヤさんが怒鳴る。

「了解した!すぐに退避しろ!気を付けて来い!」

隊長の声も聞こえる。

「カレン!マライア!あと、ヴァレリオも!着いてこい!上にあがるぞ!」

「だぁぁ!くっそ、悪い、エンジンにもらった!」

ハロルド副隊長の声だ。まさか、ハロルドさんも?!

「アヤ、ブラヴォーの指揮を頼む!隊長、すんません!先に脱出します!」

ハロルドさんは返事を待たずに機体から飛び出た。次の瞬間、ハロルドさんの乗っていた機体が爆発して空中に散る。

 もう!もう!!もう!!!なんで味方に、2機も撃墜されないといけないのよ!ちゃんと狙って撃ってよ!へたくそ!

 「上空からモビルスーツ!撃ってくるぞ!」

「マライア、右上方へ回避!」

アヤさんとカレンさんの声が錯綜した。

ハッとして上を見上げると、トゲツキがマシンガンを撃ちながら落ちてきていた。

———あぁ、ダメだっ

操縦桿を目一杯引いて機体を起こす。モビルスーツの機銃弾があたりを飛んでいくのが見える。

まずいよ、狙われてる!落ちる…やられちゃう!

「くそ!マライア、もっとパワー上げろ!」

アヤさんの無線が聞こえてくる。

「あたしが行く!マライア!そのまま逃げな!」

カレンさんの声だ。

「待て、カレン!そのコースはダメだ!」

「マライアがヤバいのわかってんでしょうが!」

アヤさんがあたし目がけて急降下してくるのが見えた。

次いで、カレンさんがあたしを狙っているトゲツキに機銃弾をばら撒きながら上昇していく。

 二人の機体が、高速ですれ違う。アヤさんの機体は、あたしの下に取り付くように位置取り、

カレンさんはモビルスーツへの掃射を終えてあたしの後ろを目がけて急旋回を始める。

「あぁ、くそ!」

そのときカレンさんがそう吐き捨てた。次の瞬間、旋回したカレンさんの目の前に別のトゲツキが降下してきた。

 声を上げる暇さえなかった。カレンさんはそのまま、トゲツキへ背後から突っ込んで爆発した。

「カレン!」

アヤさんの叫び声が聞こえる。

 そんな…カレンさんが…カレンさんが…死んじゃった…!?

「マアイア!昇れ!とにかく昇るんだ!隊長!カレンが降下してきたモビルスーツに突っ込んだ!脱出、確認できず!」

「なんだと!?くそったれ!おい!対空砲部隊共!てめえら、俺たちを殺す気か!?」

アヤさんの言葉に隊長が怒鳴った。

 あたしはもう、なにがなんだかわけがわからず、とにかく機体を上へ上へと上昇させる。

「また来た!マライア、左へ…っだぁぁ!もう!」

アヤさんの言葉に、あたしは今度は左へ操縦桿を切る。すると、曳光弾がすぐ横をかすめ飛んでいくのが見えた。

待って、今、アヤさんの声が…

「アヤさん!?」

「悪い、アタシももらっちまった!マライア!ヴァレリオ!とにかく昇って、隊長のそばにくっつけ!もう戦おうなんて思うな!

 これは逃げないとヤバいやつだ!隊長、ブラヴォーはこれ以上維持できない!マライアとヴァレリオ、そっちで引き取ってくれ!」

「アヤさんは!?」

「まだ火は吹いてない!ギリギリまで粘って不時着させる!マライア!あんたは速く行け!」

眼下に、煙を噴きながらコースを逸れていくアヤさんの機体が見えた。

「くそ!全機、高度を取れ!これ以上、やられるな!安全な高度で体制を立て直すぞ!」

隊長が怒鳴っている。

ガンッ

また、着弾音…同時に、コンピュータが警報音を発し始めた。あぁ、エンジンが…!

「マライア!エンジン出火してるぞ!出ろ!脱出しろ!…っ!?くっ!こちらヴァレリオ機!被弾した!尾翼大破!」

ヴァレリオさんの声が聞こえる。

「隊長!ごめん、脱出します!」

あたしは無線にそうとだけ怒鳴って、イジェクションレバーを引っ張った。

 体が強烈なGで押さえつけられて、外に飛び出る。バンっとパラシュートが開いて、ガツンと衝撃が走る。

機体は、地上に落ちる前に空中で爆発を起こした。

 あたしはそれを確認してから、上空を見上げる。

まるで、対空機銃とガウが撃ちおろしてくる機銃にメガ粒子砲が網の目みたいに不規則に交差している。隊長達の機体が見えた。

でも、もう編隊の形をなしてない。みんなバラバラ、回避するので精一杯のようだ。

そして、あたしがゆらゆらパラシュートで揺れている間にも、一機、また一機と撃ち落されていく。

脱出したフレートさんの機体が、ガウに突っ込んで爆発した。ガウはバランスを崩してゆっくりと編隊から離れていく。

ダリルさんも、ベルントさんも、隊長も…最後には、誰も空からいなくなった。

 ガウが来てから、たった数分。いったい、何が起こったの?いったい、今のはなんだったの?

みんなが次々と撃墜されていって、カレンさんが…敵のモビルスーツに突っ込んで…みんな、無事なの?

ねえ、誰か、教えてよ…今、あたし達は、なんで空を飛んでいたの?

誰と、何と戦っていたの?どうして?なんのために?

 あたしは、カラッポの頭の中に、そんな疑問を巡らせながら、地面に降り立った。

シートのベルトが外れない。手が、手が震えている。

カタカタとベルトを鳴らしながら、なんとか取り外してジャングルを見渡す。何もない。誰もいない。

遠くから砲声と爆発音だけが響き渡っている。

 帰らなきゃ…基地へ。みんなの、ところへ。

 歩き出そうとしたあたしは、また、その場に倒れこんだ。

 あれ…おかしいな…立てない、脚に力が入らないや…何かが変だと思って自分の脚を見た。

あたしの脚は、自分で意識は出来ないのに、目で見て異常だと思えるくらいに震えていた。

 あはは…なによ、これ。なんなのよ、なんだったのよ、さっきの。

 胸に、得体の知れない感情がこみ上がってきた。それは本当に、爆発するくらいに膨れ上がってきて、

涙と、声になってあたしの体から吹き出た。森の中で、絶叫しながら大泣きして、あたしはその場にへたり込んでいた。

身動きすらできなかった。空で起こった出来事が、怖かったのかどうかすら、わからなかった。


本当に、ただ、ただ、あたしは、その場で我を忘れて、泣きまくった———

ふと思いついたので書いてみました。

あの日のジャブローでの出来事です。
走り書きなんで、展開もなんもない、チラ裏レベルでもうしわけないですが…w

相変わらず表記の安定しないマックイーンさんェ…
安定と信頼のキャタピラさんクオリティだった(褒め言葉)

>>489
え、俺またやらかした?どこだろ…?
マライアさんの名前は鬼門ですw
誤字脱字のクオリティのことかな?w

カレンさんが死んじゃった辺りのアヤさんの台詞ですw
もう既にネタとして定着しちゃった感があるのでマードックさんの名前の誤字は見逃してあげて欲しいなぁとか(殴


チラ裏とは思えない完成度
カレンは無茶しやがって…

>>491
oh...
いっそ改名しようかな…w

>>492
あざっすw
カレンさん、最初名前だけだったんですが、キャラ付けしたら愛着がわきまして、登場させてみましたw

こんばんわー!
ちょろっと書いたオマケを投下します!

オマケにしてはやや長めで続き物ですが。

とりあえず、前半部!



Extra3



「嵐のー中でかがやいーてっそっのー夢をーんふふふふふーん♪」

「なんだよ、レナ、今日はいやにご機嫌じゃないか」

ワクワクしてしまって鼻歌なんか歌っていたものだから、アヤに見つかってしまった。

「そ、そうかなぁ?私、アヤと一緒にいるから毎日楽しいし、今日が特別ってわけじゃないよ?」

ニッコリ笑顔でそう言うとアヤは相変わらず顔を真っ赤にして私から目をそむけた。

「そ、そういうの、やめろって!返事に困るだろ!」

「えへへ!照れ屋なんだから!」

私はそう言って、洗濯機から出したシーツを表に干しに行く。

 危ない危ない。浮かれすぎてて、危うく問い詰められるところだった。変に誤魔化しても追及されたら私の負けだからね…

そんなときは、ああしてちょっと恥ずかしいことを言ってあげれば、アヤの方から話題をそらしてくれる。

私もだいぶ、アヤの操縦がうまくなってきたかも。まぁ、その分、私もことあるごとに操縦されまくっているのも事実なんだけど。

 シーツを物干しにピンピンに伸ばして洗濯ばさみでとめる。今日も天気が良いなぁ!

「おーい、レナ!アムロさんたち、送って来るな!」

アヤが玄関から出てきて声をかけてくれた。

「はーい!」

 このペンションは、なぜだか退役軍人や地球に赴任して来たり、休暇でやってくる軍人が良く利用する。

連邦だけじゃなくて、最近ではジオン共和国からの観光客とか、元ジオン兵なんかもやってくる。

たまに、元ジオン軍の兵士と連邦の現役の兵士なんかが一緒になると、一瞬、怖い空気になることがあるんだけど、

そこは私とアヤの得意分野だ。間に割って入って行って、

一緒にお酒でも飲みながらカードしたり釣りをしたりクルージングをすればたちまち友達にしてあげられる。

 なんで軍人ばっかりたくさんくるのか、と言ったら、まぁ連邦の方は誰が言いふらして…

じゃない、宣伝してくれているのかはだいたい想像はつくけれど…ジオンの方は、正直見当がついていない。

もしかしたら、シャルロッテかもしれないかな。

 3日前から来ていたのは、アムロさんとセイラさんっていう、連邦の軍人さんのカップル。

なんだかちょっぴり秘密の関係みたいで、あんまり直接は深い話は聞けなかった。

聞きたいような、聞いたらすごくどろどろしてて怖そうな、妙な気配がしていたので、積極的にやめておいたんだけど。

 アヤはこれから、その二人を海を渡った南側にある大きな街の空港に連れて行く。

いつものことだけれど、今日ばかりは願ってもないチャンス。実は、今日はアヤの誕生日。

これは一週間前に、マライアちゃんからこっそり連絡があって知ったことなのだけど、

予定を合わせて隊のみんなが来てくれるのだという。

アヤがお客さんを空港まで往復3時間かけて送ってくれるのは毎度のことなので、

送りに行ったすきに、隊のみんなをペンションに迎えいれて、サプライズパーティーの準備をしようと言うことになった。

 私は、ポンコツに乗って敷地を出て、港の方に行くアヤを見送ってすぐにPDAを取り出して電話を掛けた。

「もしもーし!マライアです!レナさん!?」

マライアちゃんが電話に出た。相変わらず、子犬ちゃんだな、この子は。

「うん、私。アヤ、今出て行ったよ。来るなら、このタイミング!」

「おー!了解しました!これからすぐに行きますね!」

私が言うと、マライアちゃんはそう明るく返事をして電話を切った。

 実を言うと、彼らは昨日のお昼には、通常のフェリーを使って島へ渡ってきて、島の観光用のホテルに宿泊していた。

企画はきっと隊長なんだろう。だとしたら、アヤでも察知することは困難であると言わざるを得ない。

これはどんなリアクションするか、楽しみだ。

 私はそんなことをニヤニヤ考えつつ、今日はここの宿泊する隊のみんな分の部屋の準備をする。参加者は20名と言う話だ。

オメガ隊が8人とレイピア隊が10人…あとの二人は誰だかわからないけど、

もしかしたら、隊の他にもアヤの友達がいるのかもしれない。あ、もしかしら、アルベルトあたりかな?

 「レーナさーん!」

そんな声が聞こえたので、私は慌てて下の階に降りて玄関を開けた。

ぞろぞろと20人、ペンションの前に、今や遅しと詰めかけていた。

「皆さん!お久しぶりです!いらっしゃいませ!」

一応、ペンションのオーナーBとして、丁寧にあいさつだけしておく。

「悪いな、こんな人数で押しかけちまってよ」

隊長が言った。

「いえ、良いんです。お客さん、今日から3日は予約入ってなかったので。使っていただければ、それだけ潤いますしっ!」

「おい、隊長、大丈夫か?!レナさんぼったくろうとしてないか、これ!?」

フレートさんが楽しそうに悲鳴を上げている。

「そう言えば、20名、って聞いてたんですけど…オメガ隊と、レイピア隊と他にどなたが?」

私が聞くと、みんなが一斉に笑顔になった。なんだろう、とびっきりのゲストってことなの?

 その表情を見て、私もワクワクがさらに盛り上がってしまう。

「それじゃぁ、ご紹介!まず、ゲスト一人目はこちら!」

マライアちゃんがそう言って前に押してきたのは、車イスに乗った、ソフィアだった。

「ソフィア!」

私は思わず声を上げていた。あれから、ずっと会ってなかった。

腕と脚を爆破でやられた、ってのはあの作戦の直後に聞いていて、ちょっと気にかかっていた。

「レナさん、お久しぶりです!」

ソフィアは笑顔で言った。でも、その瞳の中には、まだかすかに、悲しみが浮かんでいるのを私は見逃さなかった。

 大丈夫、ここで過ごしてもらえればきっと元気になってもらえるはず!

 そんなことを考えていたらこんどはダリルさんが

「で、第二の特別ゲストが、俺たちも驚いた、こいつだ」

そう言ってダリルさんが紹介したのは、私は見たことのない女性だった。

ぽかーんとしてしまって、首をかしげる私に、ダリルさんは笑って

「知らないよな。まぁ、無理もないか。そこんとこも含めて説明と準備をしたいからよ。できたら中を見させてくれよ!」

と言った。いけない!うれしくってたくさん話をしたくって、こんなところに立たせっぱなしだった。

今日の誕生日会の会場はホールにすることになっている。

とりあえずみんなをそこに通して、それからそれぞれにこの島の特産のお茶をキンキンに冷やして振る舞った。

それから私は、その女性について話を聞いて驚いた。まさか、そんなこと、ないと思ってたのに…でも、きっとアヤも喜ぶはず!

私のウキウキ気分はもう、はち切れ寸前だ!

お茶を終えてから私たちはいそいそとホールに飾りつけをした。

さすがに料理の準備をしていたらアヤにバレてしまうから、ケータリング少しを頼んで、

それから、庭でバーベキューだ!お酒もいっぱい買い込んだし、あと、なぜかフレートさんが絶対必要と言っていたので、

安物のバケツを3,4個買って、庭においてある。

何に使うのだろう?

それにしても。ホールに飾りつけをして、マイクとスピーカーをつけて、一番あたしが楽しみにしている、

「アヤ・ミナト、入隊から除隊までの軌跡」と言う自分がやられたら絶対にただの嫌がらせでしかないだろう、

恥ずかしい過去を暴露するというダリルさんが作ったVTRを流す準備もできた。

そうこうしている間にケーキも届いて、準備は万端になった。おっと。忘れるところだった。

部屋でカメラのバッテリーを充電していたんだ!これだけはいつでも手元に持っておかないと、

シャッターチャンスがいつ来るかわからないしね。写真だけじゃなくて、動画も撮れる高機能のカメラだから、

いっぱい撮って、で、次の誕生会まで何度も見てアヤと楽しんで…と言うか、アヤを笑ってやるんだ!

ちょっと性格悪いかな?良いよね、いつもおんなじようなことされてるし!

楽しみながらやっていれば3時間なんてすぐに経ってしまう。不意にPDAから音楽が鳴り始めた。

「もしもーし?」

「あぁ、レナ。戻ってきたよ。何か必要なものあるかな?出かけついでだし、何かあれば仕入れていくけど」

優しいんだから。でも、今日はもう、とっとと帰っておいで!

「ううん、今日は大丈夫。ちょっと早いんだけど、今日の団体のお客さんがもう到着しちゃってるからさ、

 チェックインまでの間、海とか見せてあげてほしいんだ!」

私はそう言っておいた。これならアヤは飛んで帰ってくるだろう。

「あぁ、そなんだ!わかった、すぐ帰るよ!」

アヤの明るい返事が聞こえて、電話が切れた。

「みなさん!アヤ、帰ってきます!」

私が大声でそれを伝達すると、場の空気が一瞬にして変わった。

「よし、お前ら!今日はこれより、オメガ隊隊長であるレオニード・ユディスキン少佐が全面的に指揮を執る!

 ユージェニー少佐には補佐をお願いする!では各自、所属の持ち場へつけ!作戦開始だ!遺漏は許さんぞ!」

隊長はいつになく、と言うか、いつもはしない感じの指揮を始めて、隊員たちもいつもはしなさそうな、

限りなく無駄に迅速な配置確認を行っていく。

「こちら扉前クラッカー班長!扉左手、配置完了!右手側、状況を知らせよ!」
「右手側の準備も完了だ!発射のタイミングは、班長へ一任する、オーバー!」
「中央クラッカー部隊も配置完了。目標が射程圏内に入り次第、全火力を持って迎撃する!」
「えー、こちら紙ふぶき班。もう一度確認する。紙ふぶきはクラッカーの直後で了解か?」
「その通りだ!」
「了解、では配置は完了だ」
「こちらゲスト紹介班!最初にソフィア、次に超ビックリゲストの順番で問題は?!」

「順番の件は了解だが、タイミングが命だ。クラッカーと紙ふぶきでビックリしている間に、

 立て続けに突撃して紹介せよ!目標に考える暇を与えるな!隙を与えればヤツは必ず反撃に転じるはずだ!」

「了解しました!全力で当たります!」

本当に、この人たちは…もう、笑うしかない。

「隊長!車のエンジン音を確認しました!」

「よし、誘導班!ただちに行動に移れ!」

誘導班とは、私のことだ。その任務は、帰ってきたアヤをこの部屋に誘導するだけ。

でもまぁ、ここは乗っておいた方が楽しいことくらい私だってわかるんだ。

「了解、隊長!これより目標と接触します!イレギュラー発生の場合には、非常サインを発報するので、支援願います!」

と仰々しく行って私はみんなに敬礼をしてから、ホールを出た。

アヤはすでに玄関を入ってきていて、給水器で水をコップに注いで飲んでいた。

「あーお帰り!お疲れ様!」

私の顔を見るなりアヤは首をかしげて

「なに?ニコニコして。なんか楽しいことでもあったの?」

と聞いてくる。

「うん!今来たお客さん、なんか変な人たちなんだけど、すごい面白いんだ!アヤも会って話してみてよ!笑っちゃうんだから!」

と言って私は、アヤの背中を押してドアの前に誘導する。

「そうなのか?んじゃぁ、海のリクエストもついでに聞いておくかな」

アヤは、全く疑いもしないで、ドアに手をかけてギイッと開けた。

 途端。まるでアヤが機関銃で撃たれたんじゃないかって思うくらいのクラッカーの音とともに、野太い声が中心になって

「アヤミナト元少尉!ハッピーハースデーイ!!!」

と言う合言葉が響いた。

「あ、あ、あ、あんた達、こ、ここで何してんだ!?」

戸惑うのも無理もないだろう。私はささっとアヤの横を抜けてホールに入ると、カメラを持ってアヤに向かってシャッターを切る。

 そこへ、ソフィアを連れたキーラさんがやってきた。

「あ!ソフィアじゃないか!なんだよ、怪我、大丈夫なのか!?」

アヤの顔がぱぁっと明るくなる。

「おめでとうございます!マライアから話を聞いて、ぜひお祝いしたいなと思って来てみました!」

そう言うソフィアを抱きしめるんじゃないかっていう勢いでアヤは

「ありがとう!すげーうれしいよ!」

とはしゃいでいる。そしてソフィアが退いた。立て続けにリンさんがアヤの前に立って、ふいっと横にそれた。

そこから姿を現した女性を見てアヤはもう、まるでこの世のものとは思えない、幽霊でも見たような、愕然とも呆然とも取れない、すごい顔をした。

もちろんシャッターは切った。

 いつも私に言うから、反撃だけど、本当に口をパクパク、パクパク、まるで釣り上げられた魚みたいにマヌケ顔をしてから、

ゆっくりと女性の頬に触れて、それが幻やなんかじゃないってのを確かめたのか、彼女の名前を叫んで、飛びついた。

「…カレン…カレン!カレン!!あんた!生きてたんだな!!」

そう叫ぶアヤは、本当に、本当に、子どもみたいにはしゃいで、うれしそうだ。

そんな笑顔を見ているだけで、私も気持ちが暖まる。今日はいっぱい楽しませてあげるんだからね!もう、忘れられないくらいに!

 私は、誰にも悟られてはいないだろうけど、こっそり、そう心に決めていた。


「んで、なんで生きてんだよ、あんた?」

「えぇ?なに、死んでればよかったみたいな言い方に聞こえますけど?元少尉?」

「連絡も寄越さないで!こっちの気持ちにもなれよ、バカ!」

アヤは、照れくさそうにしてプリプリ怒っている。

「仕方ないだろ、あたしだって、死んだと思ったんだよ、実際。

 旋回して銃撃避けたら上からトゲツキが降ってきて、よけきれなくてね。

 でも、なんの因果かね、機首だけが、ちょうどわきの下すり抜けたみたいで無事でさ。そのまま機首ごと地面にまっさかさま。

 そんな状態じゃ脱出したって、パラシュートに巻かれて助からないと思ったからね。

 何とか地面に激突する衝撃だけでも和らげようと思って、激突ギリギリでイジェクションレバーを引いたんだよ。

 下はジャングルで、木に引っ掛かりながら落っこちてね。重傷だったけど、一命は取り留めてた」

「へぇ、悪運強いな」

「まぁ、伝統だね」

二人はそうして笑い合う。

「そこから、救助を身動きできないまま救助を待つこと、4日。それが一番つらかったよ。

 結局意識ももうろうとしているところに来たのは民間の漁船でね。そのまま街の病院へ連れて行かれて、そこから2週間昏睡。

 で、連絡できるようになったころには、お揃いで北米に出立してて、誰もいなかったってわけさ」

「そっかそっか…大変だったんだなぁ、あんたも。

 まぁ、生きてて良かったよ。日頃の行いが悪いから、そういう目に遭うんだろうけどな」

「ばか言わないで。日頃の行いが良いから助かったんでしょう?」

「はいはい、言ってろよ」


そう言いあってからまた二人は笑う。なんだろう、変な関係だな、この二人は。他の隊員たちとはまた別だ。

お互いに「絶対に合わない」って思いながら、でも、お互いのことを尊敬していて、買っている。

憎まれ口をたたきながら、でも、心のどこかではちゃんと厚く信用している。

アヤもそうだけど、カレンさんも素直になれないタイプみたいだし、

やりとりを聞いているとなんだかおかしいけど、でも、見ているとなんだかほほえましい。

 「しっかし、ここは住むにはいいところすね」

「ああ、気候も良いし、物価も安い。おう、ジェニー、どうだ、軍をやめてここに隠居でもしないか?

 道路の向こう側の屋敷買い上げて、ペンションでも開こう」

「なんだい、そのプロポーズ?もうちょっとまじめにやってくんないと蹴っ飛ばすよ?」

隊長さんがレイピア隊の隊長、ユージェニーさんにそう言われている。え、なに、二人ってそう言う関係だったの?

って言うか、待ってそんなことされたら…

「ちょ!やめてくださいよ!それ確実にウチをつぶす魂胆じゃないですか!」

「だははは!いいじぇねえか、競争社会の方がいろいろと発展して良いってもんだ!」

「そんなのいりません!ウチは競争とは無縁のノンビリペースでやっていくのがモットーなんです!」

私が反論すると、隊長さんはまた笑った。

もし、こんな人に近くに同業なんてやられたら、策略にハメられてどうにかなってしまいそうだ。

まぁ、本気でそんなことをしてくるなんてこれっぽっちも思わないけれどね。

「でもなぁ、俺は北欧あたりの方が好きっすよ」

「まぁー確かにあっちも良いけどな、だが、物価は高いし、俺たちみたいなバカにはああいう清楚な街並みは似合わねえよ」

ヴァレリオさんとダリルさんが話している。

「そうかね?ブロンド美女も多いしさ。やっぱ引退して住むなら北欧だろ?」

「ちょ!フレートぉぉ!ヴァレリオが北欧のブロンド美女を毒牙にかけようとしてる!いたいけな少女たちの危機よ!」

不意にキーラさんがそう叫んだ。

「なんだと!貴様ヴァレリオ!まだ懲りていないのか!」

どこからともなくフレートさんが現れてヴァレリオさんに掴み掛る。

「あぁ!そうだ!アタシ、ヴァレリオのタマ潰さなきゃいけなかったんだ!」

アヤがとんでもないことを言いだした。

 あぁ、そっか、これはこういう儀式なんだな、お約束と言うか。

きっとやられるヴァレリオさんも、彼を押さえつけるみんなも、アヤも、楽しんでいるんだ。

そう思ったら、意外にも私も笑えてしまった。

 みんなの掛け声に合わせて、アヤが脚をしならせてヴァレリオさんの股の間を蹴りつけた。

ヴァレリオさんはその瞬間に飛び上がって、うまく衝撃を逃がしている。

アヤも思いっきり蹴るポーズは見せていたけど、寸止めで脚を振りぬいていないのがわかった。


 けど。


 会場が一瞬凍りついた。

「ぁぁぁ…っ!」

ヴァレリオさんが悶絶して床に転がった。

「だぁ!すまん!ヴァレリオ!久しぶりで加減を間違えた!」

アヤが床に転がるヴァレリオさんを心配して駆け寄りオロオロしている。

本気で痛がるヴァレリオさんには申し訳ないけれど、私としてはそれはそれで、

お腹がよじれそうになるほど声を上げて笑ってしまった。

 それからまたたくさん大騒ぎして、夕方には庭でバーベキュー。で、夜になるころにはホールに戻って、また騒いだ。

昼間から騒ぎ通しだったから、夜もまだ浅いうちに、ひとり倒れ、ふたり倒れ、8時にはそれぞれが部屋に入ったり、

ホールのソファーでグロッキーになってしまっていた。

 私は、外のバーベキューの片づけだけはしておこうと思って、フワフワとおぼつかない足取りではあったけど、ホールから表に出た。

 少し冷たい夜風がさらさらと私の肌を撫でていく。心地良い。

 バーベキューのコンロの炭は、もうほぼ焼け落ちている。網と鉄板だけでも洗っておこう。

ゴミ拾いは暗くなる前に済ませたから、最低限、それだけやっておけば、あとは明日でも問題はない。

 鉄板と網がちゃんと冷えているか確認して、外の散水のための水道に持っていこうとしていると、フラリと人影が見えた。

 人影は、よたよたとおぼつかない足取りで歩いたかと思ったら、急にバランスを崩したようにその場に倒れこんだ。

 「ちょ、大丈夫?」

私が網と鉄板を置いてそばに駆け寄ると、暗がりに倒れていたのは、ソフィアだった。

「レナさん…」

彼女は、私を見上げた。

 ソフィアは義足をつけていた。あの日の戦闘で吹き飛ばされた腕とともに、治療不可能なほどに損傷した彼女の左脚は、

ガウに搭乗した段階ですぐに切り落としてしまったのだという。

そうしなければ、止血がうまくできずに返って命が危険だったからなんだそうだ。

 そうは言っても…

 今の彼女を見る限り、彼女にとってそれが簡単な決断ではなかったんだろうことがうかがえる。


だって、彼女は、今、泣いているんだから…



 「大丈夫?」

私はソフィアの隣に座り込んだ。

「はい…」

彼女も、そう返事をして、立ち上がろうとするのをやめた。

 さわさわと、風が吹き抜けていく。なにを話そうかな。なにを聞こうかな。

そんなことを、煌々と輝く月を眺めながら、なんとなく考えていた。

まぁ、きっと、何も話す必要も聞く必要も、絶対にそうしなきゃいけないってことはないのだろうけど。

でも、なんとなく、ソフィアにはそうしてあげたかった。

 「あの…」

考えていたら、ソフィアの方が口を開いた。

「ん?」

「なにも、聞かないんですか?」

やっぱり、そう思う?そうだよね、まぁ、普通なら、何か言ったり聞いたりするよね。でも…

「うん」

と答えておいた。だって、私にはアヤみたいに、何かを聞き出せるような雰囲気も話術があるわけじゃない。

でも、こうやってのんびりした空気を作るのは、アヤよりも得意だ。

なぁんにもする必要のない、なぁんにも考える必要のない、体も心も、ぐったりとするくらい力を抜いてもらうこと。

とりあえずそれが、ウチのペンションのウリその1、だ。

「そう…ですか…」

ソフィアはそう言って、ゴロっと地面に寝転んだ。それからしばらくだまって、不意に

「じゃぁ、聞いても良いですか?」

と尋ねてきた。

「うん」

私もソフィアの隣にゴロっと寝転んで答える。

「レナさんは、この先のこととかって、考えること、ありますか?」

「この先のこと?」

「はい…5年先、10年先のこと…」

ソフィアは、なんだか真剣な様子だった。

 5年先、10年先、か…32歳の私、何してるかな…


「どうだろうね。あんまり、考えたことないけど…でも、ここにいると思うよ。アヤと一緒に、ここを切り盛りしていると思う。

 もしかしたら、子どもでもできて、お母さんしながら、とか、そんなのも楽しいと思うな。

 子どもの成長を見ながら、ここでお客さんを迎え入れて、料理作って、アヤと海に出たりして…

 うん、できたら、そうありたいって思ってるよ」

「子ども、ですか」

ソフィアはポツリと言って私の顔を見やった。それから少し言いにくそうに、

「あの、だって、レナさんは、その…アヤさんと…アヤさんのことが…好きと言うか、そう言う関係じゃぁ、ないんですか?」

なんて聞いて来た。思わず、笑ってしまった。

「あははは!どうだろうね、分からないかな、それ。アヤのことは好きだし、ずっと一緒に居たいって思うけどね。

 でも、じゃぁ、恋人なのかって言われたら、違うかもしれない。

 あ、でも、何に近いかって言われたら、夫婦みたいだなって思うけど。

 でも、私はたぶん、一生ここを離れないよ。あ、ここじゃなくて、アヤのそばを、かな。

 そうだね、そう考えると、たとえば他に好きな男の人が出来て、その人の子どもを産むっていうのは、

 ちょっとイメージできないかなぁ。でも、子どもは欲しいなって思うから、そりゃぁ、アヤとの子どもが出来たら、

 そんな幸せなことはないのかもしれないけど…さすがに無理だからさ。

 でも、まぁ、子どもを作るって言うのはさ、他にいろいろ方法があるじゃない?」


そこまで言って、私ははたと気が付いた。アヤとの子どもがいたら…幸せ?そりゃぁ、幸せだよ。

だって、大好きなアヤと…あれ?私今、なんかすごい大変なことに気付いたんじゃないの?!

「そっか、そうですよね…」

ソフィアは私のそんな様子に気付いていないのかどうなのか、そうつぶやくように言って黙った。

ちょっと待って、今は自分のことじゃなくて、ソフィアとの話をちゃんとしなきゃ。そう思い直す。

「どうしてそんなこと聞くの?」

「え、だって、レナさんとアヤさんを見てると、そう言う感じなんじゃないかって思ってたから…」

「あぁ、そこじゃなくて、その前。5年先、10年先のことの話」

「あ、はい…なんだか、私、なんにもイメージできなくて。こうやって、脚も腕もない自分が、何ができるのかなとか、

 誰の役に立てるのかなとか、そんなことばかり考えちゃうんですよね。

 生きてくには働いてお金を稼がなきゃいけないけど、それができるかどうかも怪しいですし…

 いっそ、ジオンに戻れば戦時負傷の保障が受けられるんでしょうけど…まだ、どうしても帰れる気分では、ないですし…」


そっか…ソフィアは、まだあのときの捕虜の傷がうまく癒えていないんだな。

それに加えて、脚と腕をなくして、どうしていいかわからなくなっちゃってるんだ。なんだか、苦しいな。

「それで、歩く練習を?」


「そう言うわけでもないんです。でも、なにかをしていないと、気がおかしくなりそうなくらい不安になることがあるんですよ。

 何やってるんだ、自分、て。毎日、寝て起きて、食べて、何もせずに、病院のベッドで寝ていましたし、

 退院してからは、今は、マライアの家に居候なんですけどね。一日ぼっと過ごしたり、そんな感じで。

 脚と同じ方の腕がないから、松葉杖もうまく使えないですし、できることって言ったら、歩く練習をすることくらいで…」

「そっか。苦しいんだね…」

「はい…」

そう言う、ソフィアのことを考えてみる。彼女は、5年後に何をしているだろう?10年後はどうだろう…?

そうしたら、今の話を聞いていたにも関わらず、私には不思議と明るい未来のイメージしか湧いてこなかった。

「私は、ソフィアは、5年後には、ニコニコ笑って生活していると思うな。

 ちょうど、今の私とアヤと同じくらいの年齢になるだろうし。

 10年後は、どうだろう?勝手な印象でちょっと申し訳ないけど…

 でも、いい人と結婚して、子どもでもできてるんじゃないかなって思う。うん、きっとそうだ!」

私は言ってやった。まぁ、脚がない、と言うところで、ちょっぴりシローとアイナさんの夫婦の印象と重なった、

と言うのもあるんだけどね。

「そうですか…なんだか、そう言ってもらえると、ちょっぴり元気が出ます。ありがとうございます」

ソフィアは、あんな勝手なことを言った私に、そう礼を言ってきた。なんだか、こそばゆいな。でも、それからため息をついて


「でも、私もそうであったら良いな、とは思いますけど…正直、1年後のイメージも付かないんですよね。

 できないことの方が多くて、それで、いろんな幅が狭まっているように感じられて。

 ほら、ジャブローでのことも、正直、まだ全然克服で来てなくて、たまに夢に出てきてうなされて、

 マライアに起こされたりするんですよ。今は、生きたい、なんとか、今の自分から脱したい、って思って、

 真剣に考えるんですけど、もしかしたら、この先、

 またあの時のように『死にたい』なんて思い始めるんじゃないかって考えてしまうことすらあって…」

「そうなんだ…」

そうなんだよね…ソフィアは、彼女の言葉を借りれば、彼女の心は一度死んでしまったんだよね…

アヤは、その心の傷の膿を出すべきだ、なんて言ってた。それも、ソフィアの言葉を借りれば、

壊れた心の破片を取り除かないとダメなんだよね…それと同時に、脚と腕を失ったショックから立ち直って、

さらには出来ることを探してそれにトライして自信を取り戻していかなきゃいけないんだね。

それでやっと、ソフィアの心に、新しいソフィアが生まれるんだ。じゃぁ、5年とか10年とか先のことじゃないよね。

今ソフィアが言っていたように、1年とか、2年とか先のことを考えてみた方が…1年先の、ソフィア、か…

 そんなときに私のイメージに浮かんできたのは、自分でも、ちょっとびっくりするような姿だった。

「ね!ソフィア!あなた、うちで働かない!?」

「え…?」

「だって、今はマライアのところにいて、なんにもしてないんでしょ?

 だったらさ、うちに来て、港からここまでの車の運転とか、あとほら、ベッドメークとかさ、シーツの洗濯とか、

 そう言うことやってくれないかな!?いいじゃない、それ!歩く練習にもなるかもしれないし!」

「で、でも…そんなこと急に…」


「なんでよー?楽しいと思うよ!朝起きてさ、アヤは船の準備で私は朝食の準備するからさ、

 ソフィアには私を手伝ってもらって、それが終わったら、アヤ達とお客さんを港に送って行ってさ、なんだったら、

 一緒に船に乗って行って、アヤの手伝いしても良いし、戻ってきて、お客さんの部屋のベッドシーツを取り換えて洗濯して、

 で、時間があったら全体のお掃除!それをやってくれるとすごい助かる!

 今は私とアヤでなんとか分担してやってるけど、正直、お客さんが増えると手が回らなくなることもあってね、困ってたんだよ!
 
 ソフィアがそっちをやってくれれば、私も料理とか楽になるし、宣伝とか備品のやりくりとか、あとお金の管理よね!

 このまま良いペースでお客さんが増えてくれたら、建て増しとかも考えられるし、

 そのための資金調達なんかも私の仕事になると思うんだ!うん!それが楽しい!ね、ソフィア、そうしようよ!」


私はいつのまにか楽しくなって、はっするしてしまってソフィアを抱き起して体をふんふんゆすっていた。

「あ、で、で、も。それって、アヤさんと相談しなきゃいけないことなんじゃないですか?」

「アヤだって絶対賛成するよ!本当はアヤも、時間があったら魚とか貝とか取って、食卓に並べたいって言ってたし、

 海に長く出られるんだったら、ずっとお客さんに勧めたがってたダイビングの体験もやってもらえるしさ!

 うん、いいことづくめ!」

「でも…私、こんなのですよ?こんな体で、良いんですか?」

「歩く練習と、義手の方もあったらいいよね!普通に歩ければ、片腕あれば洗濯も掃除も、ちょっと不便かもしれないけど、

 できないこともないと思うんだ!ね!どう!?そうしない?!そうしようよ!」

我ながら、かなり強引な勧誘だな、とは思いながら、でも、そうだ。それってなんか、楽しいじゃん!

それに、しばらく働いてもらえば、きっと動けるようになるし、自信もついてくるだろうし、

ここで1年も2年も過ごせば、心の傷だって、きっとなんとかなる気がするんだ!

「あの、じゃぁ考えて、見ます」

ソフィアはすこし戸惑った様子で言った。彼女の顔は、でも、ちょっぴり喜んでいるようにも見えた。

「絶対だよ!約束だからね!」

私は、ソフィアの手をギュッと握って、一方的にそう言い放っていた。

「あーいいなぁ、それ」

翌朝、起きてきて一緒に朝食の準備をしていたアヤに、昨晩の話をしたら、そう言ってくれた。良かった!

「でしょ?部屋の掃除とか、洗濯とかやってもらうだけでも、結構私たちの仕事も楽になると思うし、

 そうしたら、やりたかったこと、もっと出来る様になるでしょ!」

「うん!そうだなぁ!ダイビングも企画に入れられるかもしれないしな!でかしたぞ、レナ!」

アヤはそう言って私の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわしてきた。そんなとき、昨日の自分の言葉を思い出した。

———アヤとの子どもがいたら…とても、幸せ…

いやいやいやいや、落ち着け、私。アヤとの子どもは無理だから、どう考えても無理だから…いや、そこじゃなくって!

そう思う、私の気持ちだ。私にとって、アヤってなんなんだろう。今までは気持ちだけで繋がっていただけだけれど…

でも、もっとちゃんと、形式的に、なにか、二人を繋ぎとめるようなことができるのなら…

それって、すごく嬉しいこと、だよね…だから、そう言う気持ちって、その、あの…つまり…

「ん、どうした、レナ?」

考え込んでしまっていた私にアヤがそう声をかけてきた。

「い、いや、なんでもないんだ!ちょっと考え事を、ね」

そう返事はしてみたけど、たぶん、すでに顔は真っ赤だ。


「なーんかまた変なこと考えてたんだろう?まぁ、いいや、あとでじっくり聞かせてくれよ。

 ほら、スクランブルエッグと魚のマリネ上がったぞ」

「あ、オッケー。じゃぁ、私配膳の準備しちゃうね。あ、先にみんな起こしにいった方がいいかな?」

「あ、おはようございます…」

声が聞こえたので厨房からホールの方を見ると、そこにはソフィアの姿があった。

なんだか、ぎこちない笑顔を浮かべてこちらを見ている。

「お、働き手発見!」

アヤが言った。それから

「ソフィア、悪いんだけど、上に行ってあいつらに飯だって言ってきてくんないか?

 昨日結構飲んでたし、起きてくるのに時間かかりそうだからさ。頼むよ!」

「うん、おねがい!」

私たち二人に頼まれて、ソフィアは最初困惑していたが、やがてさっきのとは違う、明るい笑顔で

「はい!じゃぁ、行ってきます!」

と返事をした。

「あー階段気をつけろよ!」

アヤがそう言ってあげているのを聞きながら、私はダイニングに食事を並べ始めていた。

 それから、みんなで食事をとって、食事を終えてからは、アヤの提案で島から少し離れたところにある小さな孤島に向かった。

本当はもっと沖に出たかったのだけれど、さすがに20人も載せてしまうと、

船が定員オーバーでとてもじゃないけど長い距離を走るには不安だったし、まぁ、仕方ないところだろう。

 その島は、潮が満ちると海中にすっぽり隠れてしまうほどの本当に小さな島で、観光に来る人はめったにいないし、

地元の人にしてみれば、特段、来る目的もない島なので、のんびり過ごすには絶好の場所だ。

食料と、またバーベキューセットも持ち出して、その島でもどんちゃん騒ぎ。

 アヤは船の操縦があるからお酒は飲んでいなかったけれど、楽しかったんだろうな。

ボーっと砂浜に座って海を眺めていたソフィアに後ろから襲いかかると、そのまんま海へ飛び込んで、どんどん沖へと泳いで行った。

まぁ、いつものことだよね。

 でも、驚いたのは、アヤが調子に乗って沖で手を離したのに、

ソフィアは別になんのこともないような顔でプカプカと浮いていたことだ。片脚と片腕しかないのに!

聞けば、コロニーにいる頃から水泳が好きで、ジムのプールに行ってはよく泳いでいたのだという。

片腕片脚がなくても、浮いていたり、多少の移動をするくらい、お手の物なんだそうだ。

クリスに私のこともあってすっかりスペースノイドは泳げない!と決めつけていたアヤが一番びっくりしていた。

私もびっくりしたけれど、それ以上に、ショックを受けた。

だって、私、ここにきてもう半年以上経つのに、これっぽっちも泳げるようになってないんだ。

もっとアヤに教えてもらう時間増やしたいな…あ、ソフィアが手伝ってくれたら、そう言うことをする時間もできるかもしれない!

 私はそんなことを考えながら、仲良くなったキーラさんと一緒に、ヴァレリオさんを砂浜で引きずり回すみんなを笑っていた。

「えぇ!?ソフィアが、ここで!?」

翌朝、ペンションを出ていく見送りの際に、ソフィアのことを私からみんなに話すと、マライアちゃんが声を上げた。

「うん、レナさんとアヤさんが勧めてくれて、お願いしようかなって思って」

ソフィアはマライアちゃんにそう言った。マライアちゃんは、ちょっと複雑そうな顔をした。

「それって、あたしが、あの話をしたから?」

マライアちゃんはポツリと言った。あの話?

「なんだよ、マライア。ソフィアとなんかあったのか?」

アヤが聞くと、マライアちゃんはすこし言いにくそうにしながら

「あのね…あたし、宇宙に行こうかなって、ちょっとだけ考えてたんです」

と口にした。

「あぁ、例の、機動艦隊再建の話か」

隊長さんが思い出したように言った。

「なんだよ、それ?」

「あぁ。先の戦争で損失した艦隊を再建しようって話だ。もっとも、お偉方は軍全体のテコ入れを考えてるようだが…

 そいつは政府の承認が必要だからな。手の付けやすい宇宙艦隊の再建を先にチマチマやって行こうって魂胆らしい。

 で、最近、そっちへ回る人員を募集するってな“お触れ”が出ててな」

「それに、マライアが?」

「うん、ちょっと悩んでて、だからソフィアにも相談したんです。あたしの部屋はそのままにしておくから、ちょこっとだけ、

 宇宙見てきても良いかな?って」

「そうだったのか」

アヤが唸る。

「あーでも、たぶん、それとこれとは別のことだと思うけど」

私が言うと、アヤも気を取り直して

「まぁ、そうだな。これはアタシらから言い出したことだし。

 マライアのその話が、多少はソフィアの判断に影響してるのかも知んないけど、気にすんな」

とフォローしてくれる。

「うん。私もね、マライアと同じように、自分で決めたことをやっていきたいなって思った。

 レナさん達が働いてって言ってくれたからさ。やってみたいって、そう思っただけだよ」

ソフィアも笑顔で言う。

「でも…でもさ…」

マライアちゃんはうっすら目に涙を浮かべる。そんな彼女の頬をアヤがべしっとひっぱたいた。

「おい!マライア・アトウッド少尉!あんたはいつまでもウダウダ言ってんじゃない!」

「…はい!」

マライアちゃんは、アヤにはたかれて、半べそをかきながら、それでも口をへの字にしてそう返事をした。

アヤなりの気合入れなのかな。


 「じゃぁ、世話になったな!」

「ああ。またいつでも来てくれよ!」

「ははは!そうだな。ジャブローからもそんなに遠くねえ。まとまった休みが取れたら、また押しかけるぜ。

 そうだな、次はレナさんの誕生日だな!」

え、私の誕生日もあんな感じになるの?

いや、祝ってくれるのはうれしいけど、私はもうちょっと質素と言うか、小さい感じで良いんだけどなぁ…

私が戸惑っているのを見たみんなはドッと笑いだした。そんな私の方をアヤがポンポンと叩いてくれる。

あれ、からかわれた?今の?

「あたしは、また近いうちにくるからね」

笑い声を収めて、カレンさんが言ってきた。

「仕事は良いのかよ?」

「もう戦場を飛ぶのはこりごりさ。でも、空は好きだからね。アヤ、あんたが海ならあたしは空だ。

 この島に来る客を運んで金でもとることにするよ。そっちへも客を回してやるからね」

「そしたらウチが繁盛するだろうが!そんな頼んでもいないことされっと、どう礼を言って良いかわかんねえだろうが!」

「あぁん?別に礼が欲しくてやるわけじゃないから関係ないでしょうが!」

「関係ねえってどういうことだよ!?んだ、やんのか?!」

「良いわよ、受けて立ってあげるよ?!」

うわわっなんか急に険悪になったよ!?ていうかこれ、なんでケンカになってんの!?

繁盛して良いじゃん!?お礼くらい普通に言えばいいじゃん!?

「はいはい、お二人さん、仲良しもそれくらいにして。船の時間もあるんだ。ぼちぼち行くよ」

キーラさんがなんとなく間にはいって二人をなだめてくれる。いったい、なんだ、今の会話は…

「また来てくださいね!」

私は気を取り直してみんなに言う。

「あぁ、そうだな!待ってるからな!」

アヤもまるでスイッチを切り替えたみたいに笑顔になって言った。

 みんなもまた、口々におかしなことを言いながら、手を振って港の方へと歩いて行った。

「ふぅ」

アヤのため息が聞こえる。チラッと見ると、アヤも私を見ていた。

「楽しかったね!」

私が言うとアヤも満面の笑みで

「あぁ、うん!」

と返事をした。それからアヤは大きく伸びをして

「さーて、そいじゃあ仕事だぞ!今日は午後に別のお客だ!ソフィアにもきっちり働いてもらうからな!」

「はい!おねがいします!」

「あはは。じゃぁ、まずはアヤの手伝いしてあげて!船の準備あるんでしょう?」

「あぁ、そうだな!ソフィア、あんた運転は出来るか?」

 また、今日も忙しい一日が始まる。ソフィアが手伝ってくれれば、仕事も楽になるし、きっとまた楽しくなるかもしれないな。

それに、アヤと私と、それからこの海と空にかかればきっとソフィアの心の暗いところなんて照らしてあげられる。

だから、ソフィア。毎日はちょっと忙しいかもしれないけれど、心だけは、ここですこしゆっくり休めて行ってね。

そうしたら、きっと、あなたにも見つかると思うんだ。


 楽しい明日も、幸せかもしれない未来も!

「よーし!私、シーツ干しちゃうね!今日も天気良いし!」

私も大きく伸びをして、心も体も、準備万端。今日もいっぱい楽しむんだ!



UC0083.11.12

———イア…マライア!

「ん!あ、ごめん、ぼっとしてた」

暗い宇宙に浮かんだ戦艦のデッキで、あたしは地球を眺めていた。もうこっちに来てずいぶん経つな。

アヤさんの誕生会、懐かしいな。隊長たちもみんな元気かな、

なんてことを考えていたせいで、なんか話しかけられていたみたいだったけど、全然聞こえてなかった。

「ふざけているのか、こんなときに!死にたいとしか思えないよ」

「ごめんって、ライラ。ちょっとさ、地球を眺めてて」

「まったく。そんなのんきで、私と並ぶくらいやれちゃうんだからさ。頭に来るよ」

「戦闘が始まったら、あたしだって必死だよ!」

「良く言うよ、戦闘が始まったっておしゃべりお嬢さんじゃないのさ」

「ライラだって、いつもツンツンお嬢さんじゃない」

 緊急出撃命令が出たのは3時間前。

なんでも、デラーズ・フリートと言うジオン残党の艦隊が移送中のコロニーを奪取して

それを地球に落下させようとしているのだという。

月面基地にいたあたしとライラ中尉、それからあたし達の後輩、ルーカス・マッキンリー少尉からなる

地球圏防衛隊の第12MS小隊と他の数部隊は、月軌道上にやってきた連邦艦隊と合流して、

このテロを阻止せよとの命令が下っていた。


まったく!あんなもの落とそうとして、アヤさんやレナさんやソフィアや、隊長達にもしものことがあったらどうすんのさ!

デラーズってのがどんなのか知らないけど、見つけたらあたしがまっさきにぶん殴ってやる…

のは出来ないから、死なせちゃうかもしれないけど、ビームライフルで反省してもらうことにしよう。


<各機、出撃スタンバイ!目標、軌道上のコロニーおよび、デラーズ・フリート所属MS部隊。

 なお、敵識別については、IFFに注意せよ>


そう、戦艦のブリッジから無線が入ってくる。

さらにちょっと面倒なのが、どうやらジオン残党のなかでも内部分裂があるらしく、情報によれば、

1個艦隊はすでに連邦軍と内通し、このテロの情報を漏らしていたらしいのだ。

今のIFFに注意しろ、とはつまり、“こちら側”のジオン機は撃つな、と言う警告だ。

まぁ、そんなの戦闘中にそうそう識別できるものではないけれど、気を付けていた上でやっちゃったのなら、

それは事故で責任はパイロット個人にある、と言う、まぁ、上の言い訳なんだろう。

「いいかい、あんた達!気をぬくんじゃないよ!」

「ライラもね!」

「あぁ、分かってるよ!12小隊、発進する!」


以上、とりあえずここまでです。


次回投下から、基本設定を順守することで世界観を守ってきたキャタピラ的にちょっぴり好きではない、

ちょっとしたif展開に発展します。


ご存じのとおり、UC0083.11.12とは、あの日のことですが。

個人的には、ガンダムシリーズは1年戦争以降については、ZとZZと逆シャアしか基本として認めないもんね、

あ、でもUCは良いよ、だってミネバさまもマリーダも好きだからね、派ですw

要するに、0083存在はそのまま受け止めてしまうと、その後のつじつま合わなくなっちゃうあれで。

可能な限り、0083の世界観を壊さずに、しかし、Zへ続くために自然なように、物語をとらえようという試みです。


SSだからいいじゃーん、てなことも言われそうですが、これまで基本設定遵守でやってきていたので、

読者の方々への裏切りというか、拒否反応出る方いるだろなぁーと思いつつ、でも書きます。

ですので、これまで読んでくれた方で期待を裏切るようなことになったらすみませぬ。


今まで説得力のある設定でおはなしが進んでいたから素直に面白いと思ってた。
だからそのこだわりは持ち続けて欲しいな。

なので、第一級の監視対象であるところのアムロとセイラが二人でリゾートってのに違和感。
性格上、二人で連絡取り合う事すらしないと思う。ブライト、カイ経由でなら可能か?

あと、オメガの連中は恐らくティターンズには入らないんだろうなあ

>>513
レス感謝です。

これまでの世界観について評価してもらって大変うれしいです。
今後も、パラレルワールドのような世界設定をするつもりはありませんし、今までのスタンスでやっていきたいです。
ただ、ご存じのように公式作品上に矛盾も多く、一方を立てるともう一方が立たない、ということも起こります。
なので、そうした場合、旧作品(ファースト、Z、ZZ、逆シャア)を優先したいな、というのが自分の考えです。

アムロとセイラについてはご指摘の通りです。性格的にこの密会は違和感を感じていただいたほうがよいかと思います。
アムロが監視対象に指定されたのは0082年、北米シャイアン基地に配属になる前くらいからと考えていますので、
この時期はまだそれほどきつい監視体制になかっただろうと想定していることは付け加えておきます…
ちなみに、この時期、セイラさんがどこで何をしていたのか不明です。その後は南欧だという設定みたいですが。

このあとの展開については…言及しかねますが、たぶんオメガはティターンズには入らんでしょうw

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