【安価】男「魔法学園の一年」 (140)

##0 チュートリアル

このSSは魔法学園に入学した一人の男(主人公、名称未定)の一年間を追っていくお話になります。
彼は生来の不幸体質、巻き込まれ気質であり、往く先々には様々なトラブルや厄介事が待っていることでしょう。
皆様の安価によって、その困難は一通りも二通りも変化します。
彼が無事に一年の終わりを迎えられるようご協力願います。
例によって、余りにも常軌を逸した安価は無効になります。ご容赦ください。

それでは初期設定を行います。
>>2 主人公について(名前、使用する魔法属性)
>>3 主人公のルームメイトについて(名前、性別、性格、魔法属性など。その他諸々があれば多すぎない程度に)
>>4 学園の名前

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1389194836

ヨシュ

名前:サーシャ・ブランマシュ
性別:女
性格:明るく温和で癒し系。ただしボケボケと言うわけでなく、頭は切れる。根っからのお人よしで努力家。
魔法属性:光
その他:栗毛のサイドポニー。平均的な身長。可愛い顔立ち。

ペスタ

猪突猛進バカ

主人公
【名前】ヨシュ
【属性】愛

ルームメイト
【名前】サーシャ
【性別】女
【属性】光
【性格】明るく温和で癒し系。ただしボケボケと言うわけでなく、頭は切れる。根っからのお人よしで努力家。
【容姿】栗毛のサイドポニー。平均的な身長。可愛い顔立ち。

学園名
「ラヴィンニュー学園」

ご協力ありがとうございます。以上を初期設定として、物語は始まります。
チュートリアル係はまた後ほど。

##1 魔法使いの朝は早い

ヨシュ「おはようございます」

寮長「おはよう。悪いね、こんな朝早くから」

ヨシュ「いえ、慣れてますから。それで、用件ってなんですか?」

寮長「いや、なに……君は確か204号室を借りていたよな」

ヨシュ「はい、そうですね」

寮長「突然のことで悪いんだが……部屋替えをしてほしいんだ」

ヨシュ「部屋替え、ですか? 構いませんが、なにかあったんですか?」

寮長「205号室で爆発事故が起きたのは知ってるね」

ヨシュ「え、ああ……数日前の? あれのせいですか?」

寮長「うむ。どうも有害な魔翌力が散布されてしまったようでね……それも厄介な類だ。除去にはかなりの時間がかかる」

ヨシュ「はぁ」

寮長「調べによると、君の部屋にも影響が発生する可能性がある」

ヨシュ「そりゃ大変だ。だから移動する必要があると」

寮長「ああ、それでなんだがな……」

ヨシュ「はい?」

――401号室前

ヨシュ「……ここ、女子部屋ですよね?」

寮長「そうなんだ。他に部屋が空いてなくてな、君の受け入れ先を募ったところ……」

ヨシュ「はぁ、ここが。……え、ほんとに?」

寮長「本当だ。サーシャさん――ああ、この部屋に住んでる学生なんだが、彼女が認めてくれたんだ」

ヨシュ「……そうですか。びっくりです」

寮長「我が校は男女のルームシェアは禁止ではない……分かっているだろうが」

ヨシュ「ええ、ええ、分かってますとも。203号室はカップルが使ってますよね。どうでもいいですけど、はい」

寮長「では、移る前にサーシャさんと挨拶しておきなさい。私は仕事があるから、このへんで」スタスタ

ヨシュ「ちょっとちょっと!?」

ヨシュ「行ってしまった……」ハァ

ヨシュ「入学早々……いや、この一ヶ月平穏だっただけでもマシなのか……」

ヨシュ「……」コンコン

「はーい!」

ヨシュ「あの、すみません――」

ガチャッ!

ヨシュ「……あ、どうも」

「どーもー。あ、えーと……君がヨシュくん?」

ヨシュ「あ、はい。サーシャさん、で、あってますよね。」

サーシャ「合ってるよー。今回は災難だったねぇ」

ヨシュ「僕自身も何が何だかって感じですが……と言うか、いいんですか? ルームシェアって……」

サーシャ「いいのいいの! 困ってる人がいたらほっとけない性分だからね。気にしないで!」

ヨシュ「はぁ……ありがとうございます」ペコリ

サーシャ「そんな丁寧じゃなくてもいいのにー。そだ、引っ越しの準備ってしてある?」

ヨシュ「いえ、まだです。挨拶だけでもと思って」

サーシャ「そうなんだ! よかったら準備手伝おうか? 一人じゃ大変じゃない?」

ヨシュ「いやいや、大丈夫です! それより、いつ頃荷物を持ってくればいいですかね?」

サーシャ「いつでもいいよ。今日は授業もないからね、ずっと部屋にいるつもり」

ヨシュ「分かりました。では、また」

サーシャ「はーい。待ってるね!」

バタン

ヨシュ「……ふー。緊張した」

“本日、休日。魔法使い休息の日”

ヨシュ「……これは、いる。これはいらない……」ポイポイ

ヨシュ「うーん、一ヶ月でこんなに不要なものが出てくるとは……明らかに入学時に持ってきたものばっか……」

精霊「マスター、衣服の箱詰めが完了しました」

ヨシュ「ありがとうございます。そこにおいといてください」

精霊「承知しました。愛にすべてを」

ヨシュ「はいはい、愛にすべてを。……あ、これはいる、これもいる……」ポイポイ

――二時間後

ヨシュ「こんなもんですかね。さて……」

精霊「不必要とされた家具、その他粗大ごみは学園の使い魔が運んでくれるとのこと」

ヨシュ「便利でいいですね。じゃあ、僕たちはこのダンボールを運ぼう」

精霊「承知しました」

トントン

ヨシュ「誰でしょう。……はーい?」ガチャリ

サーシャ「やっほ。きちゃった!」ニコニコ

ヨシュ「さ、サーシャさん。きちゃったって」

サーシャ「どのくらい進んでるか気になっちゃって。ごめんね、迷惑だったかな」

ヨシュ「いえいえ、そんなこと。丁度今終わったところです」

サーシャ「そなんだ! じゃあ運ぶの手伝って……」

ヨシュ「大丈夫ですって。――精霊!」

精霊「愛にすべてを」ダンボールグワシ

サーシャ「お、おおー!」

サーシャ「すごいすごい! 精霊さんかっこいい!」

ヨシュ「頼りになるやつですよ。僕はこの一箱を運びますね」

精霊「承知しました。先行してください」

ヨシュ「サーシャさん、今から部屋に行っても大丈夫ですか?」

サーシャ「うん、大丈夫! ついてきて!」

ヨシュ「分かりました」テクテク

――401号室

サーシャ「お疲れ様! ここらへんに置いといて!」

ヨシュ「よっと。道案内ありがとうございます」

サーシャ「そんな、このくらいしか手伝えないのが恥ずかしいよ。精霊さん、ご苦労様!」

精霊「有難きお言葉。マスター、お疲れではないですか」

ヨシュ「大丈夫です。さて、他の家具は……」

使い魔ども「オ荷物運ビニ来マシター」ドコドコドコ

ヨシュ「……仕事が速いですね」

――なんやかんやあって

ヨシュ「荷造りが終わりました」

サーシャ「おつかれさまー」パチパチ

ヨシュ「えっと……こっちが僕の部屋でいいんですね?」

サーシャ「うん、狭くてごめんね。で、あっちが洗面所とお風呂。その隣が私の私室」

ヨシュ「……広いですね」

サーシャ「え、そうかな?」

ヨシュ「僕の部屋より……いや、なんでもないです」

サーシャ「たまたまそういう部屋が選ばれたのかな? あ、不自由だったらなんでも言ってね! どうにかするから!」フンス

ヨシュ「どうにか? ……あ、はい、分かりました」

サーシャ「あ、自己紹介がまだだったね」

ヨシュ「そうですね。大丈夫ですけど……」

サーシャ「だめだよー、今日から一緒に暮らすんだから!」

ヨシュ「……では、そちらからお願いします」

サーシャ「うん。私はサーシャって言います。君と同じ一年生、クラスは1-Bだから違うクラスだね。光属性の魔法を専攻してるよ」

サーシャ「あんまし頭良くないし、迷惑かけるかもしれないけど、頑張るから! これからよろしく」ニッコリ

ヨシュ「は、はい。よろしくお願いします」

サーシャ「次はヨシュくんの番!」

ヨシュ「あ、はい。えーと、ヨシュです。ご存知だとは思いますが、一年生です。クラスは1-C。愛属性の魔法を専攻してます」

ヨシュ「それと……僕も成績は良くないです。お互い協力しましょう」

サーシャ「おお! 仲間だね~」

ヨシュ「……これからよろしくお願いします」

サーシャ「よろしく、ヨシュくん!」

シークエンス1 終了。2に続く。

今回はここまでです。また次回。
見切り発車でなにかと不慣れでは有りますが、今後お付き合いしていただければ幸いかと思います。

##2 魔法使いの友人たち

サーシャ「ふぁあ……あれ、ヨシュくん?」

ヨシュ「おはようございます。サーシャさん」

サーシャ「おはよー……料理してるの?」

ヨシュ「勝手ながら朝食を作らせてもらってます。少し待っててくださいね」

サーシャ「ごめんねぇー……」

ヨシュ「いえいえ。寝癖ついてますよ」

サーシャ「なおしてくるー……」トテトテ

ヨシュ「……こんなもんですかね」

サーシャ「……おいしー! これほんとにヨシュくんが作ったの!?」

ヨシュ(地味に失礼なことを言われた)

ヨシュ「はい、腕には自身がありまして得意でして。このくらいはさせてもらわないとなと」

サーシャ「すごいー、嬉しいよぉー……ごめんね、私料理とかはさっぱりで……」

ヨシュ「よければこれから飯作りますよ?」

サーシャ「いいの!? あ、でも……そんな迷惑ばっかりかけるのも……」モグモグ

ヨシュ「迷惑なんてとんでもないです。料理は好きですから」

サーシャ「じゃあ……ええと、そんないつもじゃなくていいから! お願いしても……いいですか?」

ヨシュ「喜んで」

サーシャ「ありがとう、ヨシュくん!」

ヨシュ「いえいえ」

ヨシュ(出来ることと言ったら、これくらいしかありませんしね)

――

ヨシュ「――サーシャさん、先に学校行ってますね」

サーシャ「あ、はーい! 行ってらっしゃい! またあとでね!」

ヨシュ「はい、では」

精霊「マスター、お早いですね」

ヨシュ「たまには。サーシャさんと一緒に登校は、出来る限り控えたいですからね」

精霊「そういうものですか」

ヨシュ「そういうものです」

*通学路

ヨシュ「この時間だと、他に登校している生徒も疎らですね」

ヨシュ「穏やかな気温、麗らかな風、豊かな自然……はぁ、癒される……」

ヨシュ「……ん。あれは……」

>>25 主人公の友人
【名前】
【性別】
【性格】
【属性】
【容姿】
【備考】(経歴や種族、キャラクターに関する設定が何かしらあれば)

ついでに>>28 ヨシュが使役する愛の精霊の名前

【名前】天
【性別】男
【性格】気さく
【属性】規格外属性・札(カード)
【容姿】茶短髪(他は>>1にお任せ)
【備考】学園モノに必須な友人の立ち位置。札の力を応用し、ある程度、種族を任意変更出来る

アガーペー

ヨシュ「――天くん。おはようございます」

天「おっ? ヨッシュ! おはよーさん、早いな」

ヨシュ「たまにはと早く出るのもいいですね」

天「珍しいもんだなぁー、そうだお前さん、準備してきたか? 今日の実習訓練の」

ヨシュ「実習? ……あ……」

天「すっかり忘れてたって顔だな」

ヨシュ「……ええ、まさに」

ヨシュ(引っ越しだのなんだので……忘れてました)

天「まぁ初めてだし? なんとかなるんじゃねーかな、お前さんは魔法上手いしな!」バシバシ

ヨシュ「……そうだといいんですが」

天「昨日一応準備しといたんだけどさー、まだ札の制御が完璧じゃなくてなぁ」

ヨシュ「へぇ。その、札を使って攻撃も出来るんですか?」

天「もちよ。あ、でも状況によるかなぁ。ノームに変化しても攻撃はお察しだしな」

ヨシュ「なるほど」

天「お前さんはどうなん? 愛属性なんてそうそう聞かねぇけど」

ヨシュ「出来ますよ。主戦力には成り得ないですが、応用次第では」

天「意外だな。愛の力パンチか」

ヨシュ「いえそれは、無いですが……要するに、想像力次第なんです。
    魔力って言う上限はありますが、その限度値に収まる中でどのように自分なりに活用するか」

天「よー分からん」

ヨシュ「ですよね」

ヨシュ「まぁ、言うほど攻撃手段は多くありません。ほとんどが補助ですね」

天「ふん、ふん。実習で使えるといいな!」

ヨシュ「怪我人は出てほしくないですけどね……校門ですね」

天「ラヴィンニュー学園ってさ。やっぱラブとかけてんのかな?」

ヨシュ「知りませんよ」

天「そーな」テクテク

唐突ですが安価

>>35 主人公たちのクラスの学級長

【名前】
【性別】
【性格】
【属性】
【容姿】
【備考】

話の途中に所々登場人物に関する安価を挟むのはテンポが悪いでしょうか?

【名前】ヴォックス
【性別】男
【属性】闇
【性格】高慢で偉そう。野心家。
【容姿】やたら背の高い黒髪の長髪。

*1-C教室

天「おいっすー」ガラララ

ヴォックス「……」ジロ

天「おっ、早いねぇ学級長」

ヨシュ「おはようございます、ヴォックスくん」

ヴォックス「……ヨシュか。随分珍しい、普段は遅刻ギリギリにやってくるばかりだというのに」

ヨシュ「たまには、と思いましてね。これ説明するの三回目ですよ」

ヴォックス「ふん、まあいい。今日の実習、当たったとしても足だけは引っ張るなよ」

天「どーせお前さんとは当たんねぇっての。安心しろよ」

ヨシュ「……当たった時は、ぜひ。お手柔らかに」

ヴォックス「……ふん!」

ヨシュ(ヴォックスくんはなんというか面白い人です)

ヨシュ(裏で色々考えてるのが丸分かりなところが特に)

ヨシュ(ヴぉっくんって呼びたいんですけど、流石に怒られますかね)

天「よーしゅー。購買行かね? 腹減っちゃったよ」

ヨシュ「……朝ご飯はどうしたんです」

天「作ろうと思ったんだけど、起きるのが遅くて学校行く時間になっちまった」

ヨシュ「まだ始業まで二十分はあるんですが……」

ヨシュ(天くんは入学して初めて出来た友人です)

ヨシュ(変わったところはありますが、楽しい頼れる人です。成績悪いところも似ています)

ヨシュ(実習の時は、ぜひ彼とペアを組みたいですね)

ヨシュ(それから天くんの購買に付き合って戻ってくる頃には、クラスメイトの数も増えていました)

天「おっ。みんなやる気だな」

ヨシュ「実習の? そんな楽しみにしてたんですかね」

天「そらぁよぉ、初めての実習訓練なわけだし! 張り切るのも当然ってわけだぜ!」

ヨシュ「……まぁ確かに」

ヨシュ(成績に影響するとなると、張り切るのも当然か)

ヨシュ「……頑張らないとですね」

天「おうよ!」

ヨシュ(その後担任がやってきて、ホームルームの後、実習訓練のために運動場まで移動しました)

ヨシュ(実習訓練は、どうやら1年ABC組合同で行われるようです)

ヨシュ(その内容は、別領域に用意された訓練用フィールドを探索し、合格の印である鍵を持ち帰ると言うもの)

ヨシュ(訓練は単独ではなく、ランダムに選出されたもう一人とペアになって行動するとのこと)

ヨシュ(さて、そんなこんなで選ばれた僕のペアは……)

>>41

1)天
2)ヴォックス
3)サーシャ
4)その他(詳細を書く場合はこれまでの安価テンプレを使ってください)

サーシャ「ヨシュくん! ヨシュくーん!」ニコニコ

ヨシュ「さ、サーシャさん……約一時間ぶりで……」

サーシャ「一時間ぶり! びっくりしたよぉ、まさか当たるなんてねー」ニコニコ

ヨシュ「なんとなくそんな気はしてましたよ……」

サーシャ「そーなの? まま、よろしくね! 私頑張るから!」

ヨシュ「はい、よろしくお願いします」

――

天「おーヴォックス! 奇遇だな! よろしく頼むぜー」

ヴォックス「貴様か……仕方がない。足だけは引っ張るなよ!」

天「それはさっき聞いたっての。仲良くやろうぜ」ナハハ

シークエンス2終了。3に続く。
ということでまた。このPT攻撃出来るのか。次回もよろしくお願いします。

##3 魔法使いの実習訓練

ヨシュ「……到着したようです」

サーシャ「おお、おー。森の中かな?」

ヨシュ「そのようです。太陽が出ていますね」

サーシャ「あ、助かるー。光魔法の本領発揮だよー」

ヨシュ「頼りにしてますよ」

サーシャ「えへへ、頑張るよ!」ニコー

ヨシュ「さて、貰った印石によると……」ポイ

 宙に軽く投げた石がゆっくりと浮かび上がり、北の方角を示して淡く発光する。

ヨシュ「北ですね。行きましょう」

サーシャ「はーい!」

サーシャ「鍵って、本当に鍵の形をしてるのかな?」

ヨシュ「どうでしょう。そうだといいですね」

サーシャ「分かりにくいとねー。フェイクとかあったら、私だったら騙されちゃうよ」

ヨシュ「流石にそこまで手のこんだことはしないでしょう」

サーシャ「だといいけどー」

ヨシュ「……サーシャさん、ストップ」

サーシャ「……何かいる?」

ヨシュ「ええ、あれは……コボルト」

サーシャ「コボルトかぁ……」

コボルトA「こぼこぼ」

コボルトB「こぼぼ! こぼ!」

ヨシュ「二匹ですか」

サーシャ「どーしよう? こっちの方向なんだよね。避けて通れないかな」

ヨシュ「避けるべきだと思いますか?」

サーシャ「できたらね? コボルトの習性って、ほら、群れを作るって聞くから」

ヨシュ「……成程。大きな音を立てて戦闘すると、他のコボルトに見つかってしまうかも」

サーシャ「うん。お互い生命感知は使えない領域だし、余り動きまわるのも得策じゃないけど……」

サーシャ「……よーし」フンス

ヨシュ「サーシャさん?」

サーシャ「私に任せて、ヨシュくんっ」

ヨシュ「はぁ」

 サーシャさんはゆっくりと茂みから立ち上り、前方のコボルトたちに向けて右の手の平を向けました。
 小声で魔法の詠唱が始まっています。まさか、一発おっ始めるつもりなんでしょうか?

サーシャ「……コールライト」

 その言葉に反応して、コボルトたちの周囲を照らす太陽の光が、少しだけ強くなったのが見えました。
 しばらくすると、暇そうにぶらぶらとしていたコボルトたちが、一匹、そして二匹と、その場に横になっていきます。
 どうやら眠りについたようです。

サーシャ「……オッケーかな」

 ぱん、ぱん。お終いと言うように、サーシャさんは軽く両手の手の平を叩きました。

サーシャ「コボルトの昼寝好きに救われたね。少しあったかくしただけで、すぐ眠ってくれたよ」

 そう言って、サーシャさんは僕を仰いでにっこりと笑います。

 その笑顔を見て僕は確信しました。
 この人の成績が良くないという言葉は、信用出来ないと。

少しだけ更新。また次回。
人物安価だけではなく、行動安価の方も機を見て出していけたらなぁと思います……。

乙でした。

この主人公、同性に対しては大抵好意的だけど、異性に対しては厳しい、珍しいタイプですね。

サーシャ……向こうは好意的なのに、この人の言葉は信用ならないと思っている。できれば一緒に行動は避けたい。

ヴォックス……向こうは敵意向けているのに、面白い人。できればあだ名で呼びたい。

なにかあるのかな?

>>52
ちょっと書き方が悪かったかもしれません。
ヨシュはサーシャに対しては概ね好意的な印象を抱いています。
今のところ。

>>52
ちょっと書き方が悪かったかもしれません。
ヨシュはサーシャに対しては概ね好意的な印象を抱いています。
今のところ。

二匹のコボルトを上手くやり過ごした僕達ですが、依然として周囲の警戒は怠りません。
この実習訓練で試されているのは、「魔法による純粋な破壊」ではなく、「状況に適した行動判断」なのでしょう。
ペアでの実習となったのはその為。戦場では時として、チームワークによって死地を切り抜ける必要が出てくるのです。
ですよね、サーシャさん。

サーシャ「んー? なに?」

サーシャさんはきょとんとした顔で口の中のおにぎりを飲み込みました。
……このような訓練に食料の持ち込みが許可されていたとは驚きです。

サーシャ「腹が減っては戦は出来ぬ、ってね」

だから戦う訓練じゃないですよねこれ? 僕の話聞いてました?

サーシャ「ごめん聞いてなかった」

無駄に素直です。

ヨシュ「……印石の反応が近くなってきました」

サーシャ「あ、ほんとだ。いよいよかな」

ヨシュ「いよいよと言うほど、危機的状況は乗り越えてませんけどね……」

まだ訓練が始まって一時間も経っていませんし。他のペアはどうなっているのでしょうか。

ヨシュ「あ、サーシャさん。少し待ってください」

サーシャ「はーい?」

ヨシュ「アガーペーを呼びます」

サーシャ「あがーぺ?」

僕は懐から一つ、淡い赤色に発光する魂石を取り出し、指の腹でそれを砕きました。
かきん、と言う小気味いい音が響きます。
魂石に込められた魔力が、砕かれると同時に発動された術式によってうねり、僕の目の前に渦となって視覚化されます。
魔力を込めた魂石によって発動する即席の転移門【ゲート】。
魔力の渦の中から、アガーペーがのっそりと姿を現しました。

アガーペー「お呼びでしょうか、マスター」

ヨシュ「はい。僕達を護衛してくれますか? 周囲の警戒もお願いします」

アガーペー「承知しました。愛にすべてを」

ヨシュ「愛にすべてを」

サーシャ「アガーペーって言うんだー」

ヨシュ「僕の相棒みたいなものですよ。それより、サーシャさん」

サーシャ「あ。なんか見えてきた」

ヨシュ「はい。あれは……」

森の小径を抜けた先の広場に、広がっていたのは。

>>59
1)コボルト族の集落
2)大きな滝
3)洞窟

眼前に滝が見えます。その勢いは瀑布のごとく。怒涛の白い奔流が、足元の崖下に向かって落ちていっています。
訓練で来るには些か壮大過ぎるロケーションの気がします。ぜひ一枚に収めたい光景です。

ヨシュ「滝だ……」

サーシャ「滝だねー……」

ヨシュ「……はっ。印石は……えーと……」テクテク

サーシャ「足元見ながら歩くのは危ないよー」

ヨシュ「……うん。この崖の真下を印石は指しています」

サーシャ「えー、ここから飛び降りろってこと? ジャンプして水たまりまで届くかなぁ……」

ヨシュ「飛び降りることに抵抗はないんですね。大丈夫ですよ。向こうに坂が見えます」

サーシャ「あそこから下れってことなんだ。そうと分かれば行こー」

ヨシュ「走ると危ないですよー」

サーシャ「ちゃんと崖の下まで続いてるかな?」

ヨシュ「大丈夫でしょう。アガーペー、後ろは任せました」

アガーペー「承知しました」

なだらかな勾配のついた斜面を、先頭に僕、サーシャさん、アガーペーの順番で下っていきます。
宙に浮遊する印石は未だ坂の下を示しており、その輝きは出発時と比べ格段に強くなっていました。

ヨシュ「この坂の下……崖の丁度真下に、鍵が……?」

サーシャ「案外、あっさりと来れたね。運が良かったのかな?」

ヨシュ「コボルトの群れに気付かれずに来れたのは幸いでした。そうじゃなかったら、今頃……」

アガーペー「マスター。坂の上に、複数のコボルト族が見えます」

ヨシュ「今頃……」

アガーペー「くだってきました。ざっと数は十匹。マスター、命令を」

サーシャ「わ、わ! 凄い勢いだね! どーしよっか!」

ヨシュ「……アガーペーはその場で食い止めてください。サーシャさん、走ってください!」

サーシャ「えー! 転んだら大変だよ!?」

ヨシュ「僕が受け止めます! とっとと鍵を手に入れて、脱出しましょう!」ダッ

魔法使いの最後の武器は自身の肉体だと言います。

コボルト「コボボボー!!」

滝の音すら掻き消すコボルト族の怒声を背中で聞きながら、僕達は坂を駆け下りていきました。
思えば、鍵を入手出来たら即離脱できるなんて、確証は全く無かったのですが。
……なんとかなると思います。きっと。

――それにしても、どうして群れに気付かれたのでしょうか?
先程の二匹の対処は、サーシャさんのおかげで全く問題なく成功したはず……。
いや、今は考えていても仕方がない。この場を切り抜ける対処法を見つけなければ。

サーシャ「つ、ついたっ。危なかったーっ」ハァハァ

ヨシュ「アガーペー……!」

坂の上を振り仰ぐと、アガーペーはコボルト族たちを相手にしっかり防衛を続けているようです。
それでも小柄なコボルト族の特性か。
大型の人間を形取るアガーペーの隙をついて、何匹かのコボルトが防壁を突破して坂をくだってきていました。
一、二、三。合計三匹。十分の七を対処できていれば、それだけでもお見事です。

サーシャ「感心してる場合じゃないよー! ヨシュくん!」

僕は周囲を見渡しました。鍵は。脱出の糸口はどこだ。

……切り立った崖の丁度真下に、ぽっかりと洞穴が口を開けていました。

今回はここまで。更新短くてスミマセン。
シークエンス3はもうちょっとだけ続きます。次回にはさくっと終わるといいな。

コボルト「コボボ! コボボボー!」ドドドド

サーシャ「ヨシュくん!」

ヨシュ(この洞窟の中か!?  入って鍵を手に入れるべきか、それとも……!)

>>66 洞窟の中へ
・入る
・この場で戦う

・入る

ヨシュ「サーシャさん! 中へ!」

サーシャ「うん! コールライト!」

ヨシュ(明かりがないことを見越した照明魔法……)

ヨシュ(やっぱり頭が切れる人です。この場合はありがたい)

ヨシュ「サーシャさん、振り返らないでください!」

サーシャ「え?」

僕は洞窟の中から一度振り返って、外へと印石を力の限り投げました。
そして印石に向かって、右手を突き出します。詠唱。

ヨシュ「“執着する炎”!」

印石が怪しく光ります。一定時間、対象となった物体を見た者を虜にする魔法。
我ながら地味な魔法です。
ともあれ、これで数分間はコボルトは大丈夫なはずです。僕は体を戻し、先導するサーシャさんの後を追いました。

サーシャ「ヨシュくん、分かってると思うけど」

ヨシュ「なんでしょう」

サーシャ「この洞窟の中じゃ、私の光魔法は使えないからね」

ヨシュ「そうでした」

光魔法は文字通り、光の力を借りて発動される魔法。
一切の光源が無いこの洞窟の中では、その力を行使することは出来ません。
迂闊でした。ランタンの一つでも持ってきていれば……。

ヨシュ「印石はありませんが、もうすぐです。この奥に鍵が……」

しゅぼぼぼぼぼ。

気の抜ける音と共に、洞窟の壁沿いに魔法の炎が宿ります。
らんらんと揺れる明かりに照らされ、目の前に広場が晒されました。

サーシャ「スクリプト魔法かな。あれは……」

広場の中央に置かれた石造の台座。その上に微弱な魔力を発する鍵が安置されています。
そのすぐ横に佇む、巨像。
即術式(スクリプト)によって生成されるは、コボルト族のリーダー、コボルトチーフそのものでした。

「ヨシュくん、横ッ!」

「ちっ……くそっ、これじゃあキリが無い……!」

「……仕方ないね。あれを使うしか……!」

「サーシャさん? 何を――」

「大丈夫、ヨシュくん。少し痛いだけだから!」

「だ、だめだ、サーシャさん――!」

―――

――

……そんなこんながありました。

サーシャ「これが鍵かー」

台座の上の鍵をひょいと拾い上げ、しげしげと観察するサーシャさん。
僕はその傍らで、黒焦げとなったチーフの屍体がデータ化して消えていく様を眺めています。
……天井を突き破って光を掃射するなんて、流石に反則が過ぎませんかね? 僕もちょっとだけ焦げましたよ?

サーシャ「奥義ってやつだよ。もう限界。打てないー」

あんなのを何本も打たれちゃかないません。

ヨシュ「アガーペー。お疲れ様でした」

アガーペー「勿体なきお言葉。数匹ほど逃してしまいました」

ヨシュ「大丈夫です。どうにかなりましたので」

アガーペー「それはよかった」

そこで黒焦げになってるのがその数匹です。

サーシャ「ヨシュくん、これー」

ヨシュ「はい? ああ、鍵ですか」

サーシャさんから鍵を手渡されます。
手の平に小さな重みを感じるのと、足元に青い魔法陣が浮かび上がるのはほぼ同時のことでした。

サーシャ「転移魔法! 成功ってことなのかなー」

ヨシュ「そうみたいです。目を瞑ってたほうがいいですよ」

サーシャ「うん。もう転移酔いはこりごりだからねー」

経験者でしたか。なんとなく親近感が湧きます。
目を瞑り、身を固くして衝撃へと備えます。
ふわっと体が浮くような感覚がして、周囲から音が消え去りました。

再び目を開くと、そこは学園の運動場でした。

「18班が帰還しました。お疲れ様です。こちらに並んで合格シートを貰ってください」

サーシャ「はーい。おつかれ、ヨシュくん」

ヨシュ「お疲れ様でした」

サーシャ「こっちの列かな? あ、友だちがいるー」

ヨシュ「もう帰ってきてる人たちがたくさんいますね……あれは天くんか」

サーシャ「私達は少し遅かったのかな?」

ヨシュ「そう手間取った気はしないんですけどね」

サーシャ「コボルトと戦ってたからかなー」

ヨシュ「ううむ」

ヨシュ「どうして群れに気付かれたんだろう」

サーシャ「何かに感付かちゃったのかな。嗅覚は敏感だって言うよね」

ヨシュ「嗅覚……」

サーシャ「……な、なにかな」

ヨシュ「……ひょっとして」

サーシャ「……? あ……お結び……」

ヨシュ「……」

サーシャ「……」

ヨシュ「そういうこともありますよね……」

サーシャ「……うん」

*解散後

サーシャ「疲れたねー」

ヨシュ「ええ。僕はこれからまっすぐ帰りますが」

サーシャ「私も帰ろっかな。一緒に帰ろー」

ヨシュ「ええ」

サーシャ「ところでヨシュ君。その鍵って、消えないの?」

ヨシュ「……これですか? いや、本当は転移魔法が発動した時に、消えるはずなんですが……」

サーシャ「……誤作動でも起きたのかな。返しに行く?」

ヨシュ「そうするべきだと思ったんですが……」

【ニア怪しい鍵を捨てる】

【呪われていて外すことが出来ない!】デレデレデレ

サーシャ「……」

ヨシュ「……」

サーシャ「ふ、不思議なことがあるものだねー……」

ヨシュ「そうですね……」

サーシャ「ま、まあ、教会に行けばいいんじゃないかな? 解呪も出来るんじゃない?」

ヨシュ「調べた感じ、かなり強度の強い呪いっぽいです」

サーシャ「ええええ。ヨシュくん、大丈夫? 混乱バステとかついたりしない?」

ヨシュ「しないですよ」

サーシャ「とにかく早めに教会行ったほうがいいよ! そんなの渡しちゃった私も駄目だったんだけど」

ヨシュ「と言うか、何故先に手にとったサーシャさんが呪われなかったのか疑問なんですが」

サーシャ「それは、うん。私は呪い無効のパッシブついてるから」

ヨシュ「……成程」


……後日教会に行ったところ、「あ、それはうちでは無理です」と断られてしまいました。
ろくに鑑定もされなかったのですが、教会が言うならどこも駄目なんでしょう。
今のところ特に危ない目には合っていないので、紐を付けて首にぶら下げています。
魔力あるアクセサリなのでしょう。きっと……。

シークエンス3終了。4に続く。

戦闘シーンは端折ったり端折らなかったりします。状況次第です。
それでは再度人物安価。

>>76 >>78 主人公のクラスメイト二名

【名前】
【性別】
【性格】
【属性】
【容姿】
【備考】

生徒の容姿なのですが、服装はローブで統一されている設定なので、顔立ちと髪型、髪色などをお願いします。

>>80 主人公のクラスの担任

【名前】
【性別】
【性格】
【属性】
【容姿】
【備考】

【名前】クロト
【性別】男
【性格】熱血、真面目で友達想い。たまに熱くなりすぎて暴走する(あくまで笑って済むレベル)
【属性】土
【容姿】長身で大柄。髪は黒の短髪。精悍な顔立ち。
【備考】実は読書家で知識は豊富。主人公とは幼い頃から親しいデコボココンビ。(もし、現段階で友達でないなら、そこだけ抜かしてください)

ksk

【名前】トリシア
【性別】女
【性格】活発、元気、社交的で友人が多い。よく食べ、よく喋り、よく動く。
【属性】風
【容姿】女性の平均よりやや高めの身長。金髪お下げ髪。スタイルがいい。
【備考】情報通。足が速い。成績は良い方。多趣味。口調は丁寧。

色々と入れ違いになったっぽいのでいっそ全員使いますがよろしいですねッ
アリサとトリシアの属性が被ってしまったのでそこだけ弄らせてください。

**4 魔法使いのクラスメイト

ラヴィンニュー学園に入学して早一ヶ月半。
この学園の指導方針は良く言って積極的、有り体に言えばとてもシビアです。
たとえ才能があったとしても、反りが合わずに退学する学生も少なくはないと聞きます。
それがまさかうちのクラスから出るとは思ってはいませんでしたが。

ヨシュ「退学届……ですか……」

受け取った白い封筒。小さく浮かぶ「退学届」の三文字が印象的です。

トリシア「代わりに届けに行ってもらっていいですかね?」

ヨシュ「何故僕が……?」

トリシア「課題で忙しいんですよ」

それは僕もですよ。

元クラスメイト(現退学者)とルームシェアをしていたトリシアさん。
成績が良く、明るく快活な性格で友人も多い方なのですが、どうも面倒事は僕に押し付ければいいと考えている節が有ります。

トリシア「失礼なこと言わないでくださいよ。分かりましたって。一緒に行きましょう」

ヨシュ「僕はいらないんじゃないですかね」

トリシア「旅は道連れと言いますよ?」

それは連れて行く側の理屈です。

トリシア「鍵。持ってますよね」

う。

トリシア「なんでもすっごい魔力を秘めてるそうじゃないですか。
     大学側に届け出れば一発でアウトレベルの」

ローブのポケットで真鍮の鍵が踊ります。何故それを……。

トリシア「教会のシスターは私の友人です。それで……ね? 分かりますよね?」

にっこりと僕に微笑みかけるトリシアさん。
サーシャさんの笑顔が天使に見えます。

ヨシュ「……分かりました。行きましょう」

トリシア「それでこそジョシュアくんです」

いつだって権力者には勝つことなんて出来ないんです。旅は道連れ、世は情け……。

退学届は、在籍していたクラスの担任に届け出るのが一般的です。
何故提出する前に退学してしまったのかは分かりませんが、四の五の言っていても仕方ありません。
僕とトリシアさんは貴重な昼休みを消費し、白昼堂々研究棟へと足を運びます。

我らが担任、リカルド・ヘッツェン教授の研究室は研究棟の4Fにあります。
本来ならば研究室の入室には専用のステータスパスが必要なのですが、
リカルド教授の研究室は常時ロックが掛かっていません。

泥棒にでも入られたらどうするのでしょうか?

トリシア「シルバーフィッシュの鱗。アイスエレメント溶液」

ヨシュ「……」

僕は聞こえないふりをしました。

トリシア「どうやら私があなたをパシリ扱いしていると、お考えのようですが……」

トリシア「それは誤解というものです。私は然るべき権利を有効に使っているだけなんですから」

ヨシュ「性質が悪いですよ……」

トリシア「そう思うなら日頃の行いから改めるべきでは?」

ヨシュ「僕が悪かったです」

研究棟の1Fに着きました。
フロント中央に置かれた“転移装置(バンパー)”を操作し、4Fにセットします。
少時間の浮遊体験の後、あっという間に4Fへ到着しました。

トリシア「リカルド教授。いらっしゃいますか?」

言うよりも先にドアに手をかけて開きながらトリシアさんはそう発します。流れるような動作です。

「なんだね」

部屋の奥から、気怠げな教授の声が返ってきました。
僕は部屋の外で待機して、事が終わるのを待ちます。

「そこにいるのはヨシュか? 今度は何を持ち込んできたんだ……」

人違いじゃないですかね。

天井から垂れた暗幕をのけ、リカルド教授はのろのろと姿を現します。
目元は黒々としていて、瞳に生気はありません。着ている白衣も皺だらけです。
いつも通りの教授がそこにいて、少しだけ安心しました。

トリシア「せんせー、私のことも忘れないで下さいよ?」

リカルド「トリシアか……すまんね、よく知った魔素が近付いていたものでな」

あなたは何を探知しているんですか。魔素は魔法を使わなければ発生しないはずです。

リカルド「気付いてないのか? いや、まあ、いい……二人して何の用だ?」

曖昧に言葉を濁されたのは気になりますが、今は目的を達成するのが優先です。
僕は目をトリシアさんに向け、事を進めるよう促しました。

トリシア「ヨシュくんのことを密告しに来ました」

絶句。

リカルド「錬金の材料を盗んだことか? それなら知っている。後で本人に通告する……」

トリシア「あ、知ってたんですね。それとこの間の実習訓練で……」

おおよそ当事者がいる場で行われるべきではない会話を聞きながら、僕は冷や汗を垂れ流します。
入学から一ヶ月半。口にできない悪事はそこそこしてきましたが、それこそ退学になるような真似はしていないはずです。
僕が後ろ手にバンパーを操作するよりも先に、リカルド教授の視線が僕を射止めました。

リカルド「ヨシュ。話は終わってないぞ」

ヨシュ「自室で通告を待とうかと……」

リカルド「お前にしては殊勝な心がけだな。で、トリシア。本件はなんだ?」

トリシア「あら、お気づきで……これを提出しに来ました」

観念したように肩をすくめ、トリシアさんは胸ポケットから退学届を取り出します。
それを受け取ったリカルド教授は、全体にちら、と目を通し、

リカルド「そうか。ご苦労だったな」

ヨシュ「……それで終わりですか」

リカルド「茶でも飲んでいくか?」

トリシア「遠慮しておきます。それでは、これで」

用件はあっさりと終わりました。

トリシア「早くも一人減ってしまいましたねー」

場所は移って学生食堂。遅めの昼食をトリシアさんとご一緒していました。
旅は道連れ、世は情け。勿論実費です。

トリシア「残り九人ですか。クラスと呼ぶには少数精鋭が過ぎますね」

ヨシュ「元から班みたいなものでしたでしょう」

クラス、と便宜上そう呼称されてはいますが、1-Bに限らずどのクラスも人口は十人ぴったりです。
学園自体、元々の在籍人数が非常に少ないのも原因の一つです。

トリシア「班。そうですね。一年B班、とでも言えばいいのでしょうか」

ヨシュ「不満ですか」

トリシア「いーえ? その方が管轄しやすいですしね」

何を、とは聞きませんでした。
彼女が学級長でなくてよかった。ヴォックスくんでもどうかとは思いますが。

トリシア「まあ、お互い頑張りましょうよ。お手数かけましたね」

ヨシュ「いえ。課題はまだ手付かずですので」

トリシア「そうですか」

トリシアさんは空の食器を持って、立ち上がりました。
自然と彼女を見上げる形になります。

トリシア「困ってもサーシャの手を借りるのは、駄目ですよ? 張り切り過ぎちゃいますから」

ヨシュ「……善処します」

果たしてこの人はどこまで繋がっているのか。
それでは、と告げて去っていくトリシアさんの背中を見送りながら、僕は残りの味噌汁を啜るのでした。

次回へ続く。

サーシャも、トリシアも、安価通りの性格を再現出来ていない気がする……スミマセン。
クロトとアリサのお披露目は、次回。

現在確定している登場人物
1-B 【在籍人数9人】
担任 リカルド=ヘッツェン【空間】
・ヨシュ=アルデンホフ【愛】
・天【規格外・札】
・ヴォックス=ブランケ【闇】
・クロト=デーメル【土】
・トリシア=エグナー【水】
・アリサ=フレーベ【風】
・??
・??
・??

ルームメイト
・サーシャ=ブランマシュ【光】

今更ですが、ヨシュたちのクラスは1-Cでした……。
脳内で訂正お願いします。

**5 魔法使いのクラスメイト(2)

机の上に散らかった課題の数々を睥睨し、僕はふぅと息をつきます。

終わった……数日に及ぶ課題との戦いに、ついにエンドマークを打つことが出来ました。
具合は上々です。これならリカルド教授からお叱りを頂くこともないでしょう。
課題のスクロールをまとめ、インベントリにしっかりと収納してから、僕は席を立ちました。

ラヴィンニュー学園は魔法図書館。
この大陸に散らばるありとあらゆる魔法書、学術書、論文、果ては研究レシピなどを揃えた大陸一の図書館です。

先の大戦によって所在を首都から学園内部に移した結果、
一般の利用客は極端に減ってしまいましたが、それでも学園の生徒や教授たちが数多く利用する施設となっています。

課題に追われる学生たちが詰め込まれた自習室を辞して、僕は図書館の出口へ向かいました。

クロト「あ、ヨシュ。帰りか?」

一階へ降りる階段付近で、クラスメイトのクロトくんと遭遇しました。
クロト・デーメル。他の友人達には明かしていませんが、彼は同郷の仲です。

訳あって少年時代の大半を大陸のあちこちで過ごしていた僕を、数年越しに再会した彼は昔と変わらないように接してくれました。
人情に厚く義理堅い、男子生徒からの信頼も厚い人です。

ヨシュ「うん。君は?」

クロト「入用な本を探しに来たんだ。丁度これから借りに行くところ」

ヨシュ「付き合うよ」

一階の貸出フロアに移動します。
全ての学生、教職員はこのロビーで文献の貸出や返却を行うのですが、利用者の数もあって常時混雑しています。
クロトくんが貸出客の列に並んだので、僕はその隣につきました。

クロト「悪いな。帰ってていいんだぞ」

ヨシュ「気にするな。課題が早く終わって用もないんだ」

クロト「そりゃあ……嫌味ってやつか?」

ヨシュ「今回は何のトラブルも無かったって報告だよ」

クロト「なるほど」

僕の不幸体質は彼も認めています。
トリシアさんに付き合わされた件は、あのくらいならトラブルの範疇外です。

ヨシュ「何の本を借りるんだ?」

クロト「よく聞いてくれた。土魔法の運用と原則について、さ」

ヨシュ「魔法基礎学か?」

クロト「正解! 来週までにレポートを仕上げなくちゃならんくてな」

そのレポートなら、僕は先週のうちに済ませておきました。
各専攻ごとに分かれ「魔法とはなにか」を学ぶ基礎的な講義です。
それだけ重要なのですが、初等部中等部と上がってきた生徒にとっては少々退屈でしょう。
ヴォックスくんはどうもテスト期間が始まる数週間前には書き終えていたようです。トリシアさん情報。

クロト「お前も本当なら、初等部から入学しててもおかしくないのになー」

ヨシュ「……過ぎた話だろ。今の方が身に合ってる」

クロト「そうか? そう言うなら、そうなんだろうけどよ」

多くを望むべきではない、と言う話です。
それもずっと昔のことですし。

クロト「まぁなぁ」

クロトくんはどうも納得していないようでした。

列の進行はスムーズで、十分も待たずにクロトくんは目当ての本を借りることが出来ました。
二人で魔法図書館を後にします。外はいつの間にか夕焼け空でした。

クロト「付き合ってくれてサンキューな! また明日」

ヨシュ「ああ、また」

クロト「……なあ、もしよかったらなんだけど」

ヨシュ「どうした?」

クロト「テストが終わって、夏季休暇になったら……一度故郷に戻らないか?」

思ってもいない申し出でした。
実家に帰ることを……考えていなかったわけではありません。そう。いつかは帰るべきなのは分かっていた。
しかし、それが、今このタイミングでいいのか……?

クロト「無理そうだったらいいんだけどさ。考えといてくれよな!」

ヨシュ「……分かった。ありがとう」

頭の中に立ち込める暗雲を振り払うように、僕は笑いました。
まだ夏季休暇まで二ヶ月はあります。それまでに、じっくり答えを考えることにしましょう。

次は日付が変わった頃にでもアリサ編をば(たぶん)。
ゆっくりのんびり更新したいです。

いつの間にやら地の文形式主体になってしまっていますが、読みにくくはないでしょうか。

##6 魔法使いのクラスメイト(2)

リカルド「知ってると思うが来週テストだ。今日は自習。なんかあるか。無いよな。じゃ、好きにしろ」

ヨシュ「先生、質問が」

リカルド「面倒だから後で研究室に来い」

ヨシュ「……」


そんな気が滅入る午前授業を経て、研究棟に再びやって来ました。
日中に訪れるのは何回目になるでしょうか。夜更けに来るのは確か……げふんげふん。
今回同行人はいません。静寂の中、研究棟のぴりぴりした緊張感が肌を刺すようです。

「お、アルデンテじゃん」

ぶち壊しです。

背後から聞こえた声には聞き覚えが有りました。
振り返ると、予想していた通り、クラスメイトのアリサ=フレーベさんが立っています。

ヨシュ「アルデンホフ、です。いつになったら覚えてくれるんですか」

アリサ「そうだったかな。生憎、物忘れが酷いもんでね……トリシア知らないかな?」

ヨシュ「トリシアさんなら、別のクラスの子と昼食に行きましたよ」

わざわざ目の前にサーシャさんを連れてきましたので、よく覚えています。

アリサ「そうかい。そりゃ残念……」

ヨシュ「で、何の用です」

アリサさんの秀麗な眉がくしゃり、と歪みます。
彼女は口元に笑みを浮かべました。何か企んでいるような、そんな笑みを。

ポケットの中で、魂石を一つころころと弄ります。

アリサ「そんな怖い顔しないでよ。別に変なこと企んでないからさ」

ヨシュ「だと良いんですけどね」

アリサ「リカルド教授の所行くんだろ。私も連れてってよ」

ヨシュ「はぁ」

アリサ「あの人の研究室、どこにあるか知らないからさ」

ヨシュ「……ガイドラインに書いてあったと思いますけどね」

「無くしたんだ」アリサさんはからからと笑います。「物持ちが良くなくてね」

結局二人でリカルド教授の研究室に向かうことになりました。
バンパーに触れて、4Fをセットします。手慣れたものです。
隣でアリサさんがしきりに、へぇぇ、だの、ほぉ、だの呟いています。

……あなた、初等部からここにいますよね? 使ったことなかったんですか?

アリサ「無かったね。いやぁ、お恥ずかしいはなし」

ヨシュ「そうですか……それはそれで、珍しいと思いますよ」

アリサ「ここには用がなかったし、普段は魔法を使ってたからさ」

そうでした。アリサさんは風の魔法を行使する魔法使い。
普段から風を借りて浮遊する姿をちょくちょく見かけていました。

……浮遊魔法と言えば、風魔法領域の中でも上位クラスに位置する魔法です。
自身を丸ごと浮遊させるだけの魔力キャパシティは勿論、維持するための集中力や精密な魔力制御が求められることから、
風魔法を修めた学園の卒業生でも使いこなせる者は極わずかだとか。

それを日常的に、便利な移動手段の一つとして使ってみせるアリサさん。
流石は「フレーベ家」の血筋、と言うことなのでしょうか。

リカルド「ヨシュか。本当に来たのか……」

いきなりご挨拶ですね。

リカルド「それと、アリサも一緒か? どうした。珍しい取り合わせじゃないか」

アリサ「私は特に。場の流れでね」

リカルド「へぇ」

至極どうでもよさげな返答をしてから、リカルド教授は僕の方に向き直ります。

リカルド「質問があるって言ってたな。中、入るか」

ヨシュ「大丈夫ですか?」

リカルド「汚れてはいるが、人が座るスペースはある。アリサもどうだ」

アリサ「付き合うよ」

ヨシュ「また派手に散らかってますね……」

案の定、研究室の内部は凄惨たる有り様でした。
人が座れるスペースがあると言っていましたが、本当に数箇所床が見えている所があるだけです。
後はもう書類の山本の山。怪しげな紋様が描かれた分厚い本が足元に転がっています。
拾い上げてみると、それが首都から直々に禁書指定されている第一級危険物であることが分かりました。

リカルド「それか。その棚に詰め込んどいてくれ……そう、それでいい。すまんな」

ヨシュ「いえ……」

学園の教授の暗部を目の当たりにして、動揺を抑えきれません。

アリサ「これは、酷いな。全部吹き飛ばした方がいいんじゃないかな」

リカルド「そんなことしたら俺の首が飛ぶぞ」

アリサさんもこの状態を快く思っていなかったようです。
部屋をゆっくり見回した後、諦めたようにふわりと浮き上がりました。
彼女に座るスペースは必要ありませんでした。

リカルド「浮遊……か。あまり使わない方がいいぞ」

アリサ「そうかな。便利なんだけど」

リカルド「“役員”に目をつけられても厄介だろう」

アリサ「まあね。けど今更だよ」

僕の分からない単語を織り交ぜ会話するお二人。
“役員”とは? なんとなく思い当たる節があるのが、怖いところです……。

空いていた棚の上に着地、腰を下ろすアリサさん。
僕は持参した教科書を広げ、リカルド教授に差し出します。

リカルド「ここか。面倒だから一度しか言わんぞ。メモでも取っておけ」

ヨシュ「分かりました」

風貌や言動こそだらしのないリカルド教授ですが、魔法の腕前は本物です。
僕は会ったことありませんが、その実力は学長にも匹敵するレベルだとか。

アリサ「ルールオブロー……【法典】か。なんでこんなところにあるやら」

アリサ「うちにあったのとは編纂者が違う……数種類も存在してたっけな……?」

後ろでアリサさんが何やら呟いていますが、それどころではありません。

リカルド「以上。わかったよな。よし。二度目はない」

ヨシュ「ばっちりです。ありがとうございました」

疑問が解消されて満足しました。これでテストもバッチリでしょう。
打って変わってアリサさん、あまり顔色が優れません。
部屋の瘴気にでもやられましたか。

リカルド「失礼な。アリサ、トイレなら此処には無いぞ」

あなたのそれもどうかと思います。

アリサ「なんでもない。用は済んだみたいだし、帰ろうか」

ヨシュ「そうしますか」

リカルド教授に礼をして、僕たちは研究室を辞しました。

ヨシュ「結局どうして付いてきたんですか?」

研究棟から講義棟へと繋がる廊下を歩きながら、僕は隣にふわふわと浮かんでいるアリサさんに問いかけます。

アリサ「気まぐれだよ。なんとなく」

ヨシュ「トリシアさんと会いたかったのでは?」

アリサ「そうだけど……別に、会えなきゃそれでいいさ」

アリサさんはドライでした。掴みどころがありません。
それは仕方のないことなのかも、と僕は自分を納得させます。

風魔法の使い手は総じて飄々としていて、相手を選びます。
彼女の持つ独特な雰囲気は、フレーベ家だから、に起因するものだけではないのでしょう。

僕の心中を察したのか、アリサさんは軽く笑います。

アリサ「いい暇つぶしになったよ、アルデンテ」

ヨシュ「アルデンホフ」

アリサ「そうだったか」

ヨシュ「わざとやってますよね?」

彼女とのコミュニティレベルがいつ上がるのか、先が見えない今日この頃です。
……始業のベルが鳴りました。

続きへ続きます。
ぼちぼち人物安価も行っていきます。なにか要望でもあればご自由にどうぞ。

更新は日付が変わった頃にでも。

クラス内模擬戦、は考えていました。
そのうちやるかも…

あ、更新します。


##7 魔法使いの一つの鍵

天「で、これなんなのよ?」

僕が知りたいです。

僕を取り囲むように集まったクラスメイトたち。
注目を集めているのは僕ではなく、胸元にぶら下げた例の鍵です。

どうにも視線が集中して気恥ずかしいのですが、この鍵は呪われているため外そうにも外せません。
外そうとする度に静電気のような軽い痛みが指に走ります。

クロト「呪いの副作用とかあんのか?」

ヨシュ「特には……」

クロト「それって呪われてんのかなぁ……」

ううむ、と腕組みをするクロトくん。
首をひねりたいのは僕も同じです。

天「教会で駄目となると、後は聖堂かな」

ヨシュ「聖堂ですか……」

個人的にあまりいい思い出がありません。
聖堂騎士の連中は、どうしてこう……。

天「浮かない顔するなって。そりゃあ寄付金は高く付くだろうけどな」

クロト「聖堂も金を取るのか? 信仰者のくせに?」

天「あいつらの信仰してる主神はゼンリクだし。ローデュラス様はそのついでだろ」

クロト「お、おまえ場所が場所なら連中にしょっぴかれてるぞ……!」

級友が仲良く物騒なトークを繰り広げているところに、四限を告げるベルが鳴りました。
蜘蛛の子を散らすようにクラスメイトたちは自身の席に戻っていきます。律儀なことです。

ゼンリクとは、商売と金銭を司るローデュラス七柱が一体です。
この地に加護をもたらす七柱の中でも特に人間的な神として認知されており、
絵画に描かれる彼の姿はどこかずる賢い小男のような印象を受けます。

ローデュラス七柱、と名のつく通りローデュラス様を主神に置いたこの大陸で最もメジャーな信仰なのですが、
七柱の最後の一本は長年取り除かれたまま、今現在まで欠落しています。

さてその第七柱が欠番となった、理由はと言うと……。

……ふと、ヴォックスくんと目があいました。

「……」

どうも穏やかではない視線のように思えました。今度は何を考えているのでしょうか。

……まあいいや。

リカルド「テストすっぞー」

ゆるゆると空間を引き裂いて教壇に現れた教授の第一声がそれです。
先週テストは再来週と言っていたような気がしたのですが。

リカルド「テスト期間引き伸ばしてもなぁ、だるいだろ。やるぞテキストしまえ~」

阿鼻叫喚の巷と化した教室の中、僕は冷静に出してもいない教科書の内容を暗誦します。
大丈夫、もしもに備え数日前に準備はしておきました。こうなることは織り込み済み……。

胸元の鍵が淡く光りだしたのは、その時です。

鍵が光っている。そのことに気付いているのは僕だけのようです。
それは淡く微弱な光でしたが、しかし強い魔力を放っていました。
この教室全てに範囲が及ぶ程度には。

ヨシュ(誰も異常に目を向けない。教授の職務放棄のせいか?
    だが、この魔力を察知できないなんてことは……)

ヨシュ(これから何が起きる?
この鍵に秘められた魔力が、もしも巨大なスクリプトを走らせるためのものだったとしたら……?)

一人脳内で盛り上がる僕。
よく分かりませんが、途方も無い何かがこの鍵には秘められているようです。
ますます聖堂に行くわけにはいかなくなりました。

リカルド「おい、ヨシュ。それしまえ」

え。

教室は静かになっていました。クラスメイトの透明な視線がローブ越しに身を焼くようです。
鍵の発光もいつの間にか止まっています。あれあれ。

リカルド「神聖なテストの場に魔道具を持ち込むとはいい度胸だ。没収」

……。

……課題割増しで、許してもらえませんか……。

続きへ続きます。
おやすみなさい。

##魔法使いの同居人

401号室に居を越してきてから二ヶ月ちょっと。
最初はぎこちなかったサーシャさんとの共同生活も今では大分様になってきました。

早朝。

サーシャ「おはよー……」

ヨシュ「おはようございます。ご飯できてますよ。顔洗ってきてくださいね」

サーシャ「むにゃ……ありがと~……」

登校前。

ヨシュ「はい、お弁当です。今日はいつもよりおかずを増やしてみました」

サーシャ「ほんと? えへへ、楽しみだなー」

ヨシュ「保冷剤は捨てないでくださいね。僕より早く帰ってきたら冷凍庫に入れておいてください」

サーシャ「はーい」

夜。

サーシャ「ただいま~……」

ヨシュ「おかえりなさい。お疲れのようですね」

サーシャ「テストがねー……もうくたくたー……」

ヨシュ「もうすぐ夕食ができますよ。手洗いうがいしてきてください」

サーシャ「はーい……」

サーシャ「……これはとてもまずいことだと思うの」

ヨシュ「何がですか」

サーシャ「まるでヨシュくんに養ってもらってるみたい!」

ばん! と机に手を打ち付けそう主張するサーシャさん。
そうは言われても、生活費の方はお互いが共有して出しているわけですし……。

サーシャ「そーだけど、ねぇ? 私も何か一つくらい働かないと……」

ヨシュ「洗濯物とか、掃除とか。助かってますよ」

サーシャ「それはヨシュくんだってできるし……」

ヨシュ「それに僕は居候させてもらってる身なんですから。これくらいしないと平等じゃありませんよ」

サーシャ「でも……」

ヨシュ「僕はサーシャさんが健康でいてくれればそれで満足です」

サーシャ「……」

そこはなんか言ってくださいよ。

サーシャ「いや……ヨシュくんってさらっと凄いこと言うなぁと思って……」

昔の名残です。
思っていることは臆せず言わなければならない時期が僕にもありました。

サーシャ「とにかく、私も何かする。料理とか! 絵本の読み聞かせとか、朝の見送りとか!」

ヨシュ「それは間に合ってます」

僕もしていないことをやらなくていいですから。
ふんす、と鼻息荒くサーシャさんは立ち上がりました。そのままリビングの本棚から取り出したるは、僕が持ち込んだ料理本……。

ヨシュ「本気ですか?」

サーシャ「やると言ったらやる!」

ヨシュ「そうですか……」

どうやら火が付いてしまったようです。辞めろ、と言うのも無粋でしょう。
こうなれば僕に出来る事は、彼女の修行を陰ながら支援すること……。

かくして、サーシャさんの第一次料理特訓が幕を開けたのです。

元々サーシャさんは器用な方です。

部屋の掃除や洗濯は卒なくこなしますし、
洗い終えた衣服を畳む時は惚れ惚れする丁寧さを見せてくれます。
その要領の良さを活かすことができれば、上達は間違いなく早いと思います。

ヨシュ(だからっていきなり五つ星ランクの料理に挑戦する必要がありますか……!?)

現在地、サーシャさんの後方数十メートル、街路樹の影。
先行するサーシャさんは足取り軽く、首都南部に位置する一大デパートに向かっています。

買い出し、と言う奴です。
僕はその同伴です。
誰がなんと言おうと、同伴です。

トリシア「なにしてるんですー?」

……。

トリシア「おっと」

突如足元に発生した凍結床に足を滑らせ、僕は盛大にすっ転びました。
水属性魔法にこのような応用例があるとは驚きです。

トリシア「いやいやいや、逃げないでくださいよ。私が何をしたっていうんです?」

ヨシュ「何もしてないですけど……」

横たわったまま、前方のサーシャさんを確認します。
大丈夫、バレてはいないようです……。

トリシア「あれ、サーシャ。……もしかしてジョシュアくん……」

ヨシュ「ち、違うんです」

誤解です。そんな目で見ないでください。
僕はただ、彼女の成長の手助けをしようと……。

トリシア「怪しいです」

ヨシュ「全然信用されてませんね……」

この状況なら仕方ないかと思いますが。

それから切々と現状を説明、サーシャさんの動向を見守る僕の意志を訴えました。
多分ひどい顔をしていたと思います。必死だったのです。
同居人のストーキング、なんて理由で学園を退学させられちゃたまりません。

苦労の甲斐あって、なんとか誤解は解けたようです。
トリシアさんは不承不承、と言った様子で頷きました。

トリシア「私も付いていきますね!」

それは、勘弁願いたいのですが……。

ヨシュ「こちらA班。“マーク”のデパート侵入を確認。どうしますか?」

トリシア「もぐもぐ。こちらB班。追従を許可します。もぐもぐ。ごくん……三十以上の距離を保つように」

ヨシュ「了解です。これより追従を開始します。……何食べてるんですか?」

トリシア「そこのエクレアです。美味しいですよ」

ヨシュ「そうですか……」

隣から漂ってくる甘い匂いに食欲が刺激されます。何故このような妨害行為を……。

トリシア「デパート内部であれば多少追従もしやすくなるでしょう。問題は……」

ヨシュ「……サーシャさんにきちんと買い物ができるのでしょうか」

トリシア「酷いこと言いますね君」

彼女の選択した五つ星ランクの料理は、食材の調達から困難を極めます。
デパート内部の【ゲート】を用いて、複数の食材売り場を渡り歩く必要があります。
その上一つ食材を間違えただけで、地味に痛い出費……二人の生活にも影響が出かねません。
心配です。とにかく。

トリシア「過保護ですねぇ。もぐもぐ」

少し分けてくれませんか、それ。

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