モバP「コンビニでのちょっとした葛藤」 (31)


わたしは葛藤していた。

コンビニに行くことに、ではない。
いらっしゃいませ、という店員の元気な声が聞こえる。
事務所の近くに新設された、新しいコンビニに足を踏み入れていた。

入り口のすぐ右がレジ、そのまま直進すると飲み物コーナー。
入って左が雑誌や美容関係の陳列棚がある。
わたしはちらりと目をやった。

4列構成になっていて、奥から2列目は、パンや惣菜だ。
手前から2列目は、カップ麺、電池や雑貨が置いてあった。
レジの真向かいの最奥にはお弁当がたくさん陳列されている。

いつも通り、いくつかのおにぎりとお茶を手にとった。
どうにも、ここのレジの店員は笑顔が絶えない。
きちんと教育されているおかげだろうか。

レジを済ませ、数百円の小銭を受け取った。
きちんと手を握って渡してくれるあたりがいい。
大事なお金を、零すこと無く受け取れるのだから。

わたしは葛藤していた。

昼間から何を考えているのか、と思われてもおかしくはない。
けれど、読みたくて読みたくて、仕方が無いのだ。
ファッション雑誌の奥の…その棚を。

成年雑誌を。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1366690346


成年雑誌という言葉には、魅力が詰まっている。

子供には、読むことのできない雑誌なのだ。
大人だけが、成人だけが読むことのできる雑誌。

わたしはこの歳になっても、それを読んだことがなかった。

わたしは、少年漫画の熱い展開の方が好きだった。
努力、友情、絆。この歳になっても、それは忘れられない。
けれど…それに反して、少年漫画というものは、全く異なると聞いた。

昨今の、少女漫画のあまりに過激な表現に驚いた事がある。
これは本当に少女の為の漫画なのか、と。
エロ本ではないか。

エロ本。

思わず頭のなかで俗的なその単語を反芻していた。
なんと禁忌溢れる単語であろうか。
非常に読んでみたい。

その前に、昼休憩が終わってしまう。
事務所に戻らなければ。
エロ本。

読みたくてたまらない。


わたしは手早く昼食を済ませ、事務作業に戻った。

契約内容の確認を済ませなければ。
やはり紙の方がよい質感だ。
めくる楽しみがある。

めくる楽しみがあるのは、紙に限った話ではないのだが。

ああ、そうじゃない。今はそんな事を考えてはいけない。
今はアイドルを支えるものとして、適切な態度を。
そう思っていても彼女らの薄着には困る。

そろそろ5月を迎えようとしている今、衣替えがはじまる。

先取りしたような薄い服を身に纏い、彼女らはここへやってくる。
ボディライン…身体を強調するような服を、誰が開発したのだろうか。
是非、その調子で開発を進めて行ってほしいと思う。資金援助してもいい。

けれど、わたしは仕事の場では一切、そういうそぶりは見せない。
仕事は仕事。公私混同はしない。当然のこと。

それでも目線をやるくらいは許してほしい。人間の性なのだ。


レッスンを終えたアイドルたちが出てくる。

わたしは壁1枚隔てた部屋で仕事をしていたため、彼女らは気付かない。
相変わらず、コピー機は調子が悪いときは、とことん悪い。
そして、アイドルたちの会話が聞こえてきた。

「社長、今日もコンビニのおにぎりを食べてた」

「うん。あまり、健康にもよくないから、心配」

彼女らは何と優しい存在なのだろうか。
共に働けて、一緒にいられることですら幸せを感じる。

だからこそ、わたしは個人的な趣味に走っているのかもしれない。

アイドルを支えるものとして、彼女らに憧れを抱いている。
ああ、けれど、それは恋愛感情という類ではない。
そんなことは、決してあってはならない。

アイドルを支えるものとして、人として、常識として。

残りの仕事も済ませて、今日は帰ろう。
あまりに疲れてしまった。
ああ、とても。

成年雑誌が読みたい。


ならば買えばいいではないか、と思うが、その勇気がなかった。

プロデューサーの彼と酒の席でそういう話題になったが、難しい。
読んだことがないんですか。彼はそう言って、驚いた。
興味はある、ということを付け足しておいた。

そうすると彼は納得したように微笑み、笑った。

酒の席でもどこでも、こういうネタに話題は付きない。

付き合いで行った先の席では、女性のそれは酷いものだった。
なので、今のようなソフトなものの方が、話しやすい。
本日の会計はわたしが済ませ、店を後にした。

彼は申し訳なさそうにしていたが、気にしないでほしいと伝えた。
相談に乗ってくれた礼を含めて、だったのだから。

そこまでをベッドの上で思い出し、スーツを整え、わたしは眠りについた。


どうにも、スーツのサイズが合わない気がする。

その理由にも気がついている。わたしは太っているからだ。
ああ、新調しなければならないのだろうか。
違う。そう考えるべきではない。

わたしが痩せればいい話なのだが、それは難しい事だった。

社会人になってからというもの、何かとあると酒の席だ。
その付き合いでわたしの腹は少し出ているように思える。

だからこうしてスーツで隠しているが、もうそろそろ厳しい。

出社前、特に用事もないのにコンビニに寄った。
いつもの笑顔の眩しい店員が、なんだか赤面している。
雑誌の棚を横目に、決行は昼だと思い直し、お茶を手にとった。

いつも通りレシートを受け取り、小銭を…
なんだか、おかしい。1枚多い。

よくみると、レシートの裏にメールアドレスが記載されていた。


どういうことだろう。

わたしをからかっているのだろうか。
そのレシートの意図にはすぐに気付いた。
けれど…まさか、本当にそうだというのか?

相手はどうみても高校生くらいの子だ。

綺麗に髪を整え、目もぱっちりとしている。
童顔で、中学生に間違われてもおかしくはない。
そんな子が、わたしに…好意を、寄せるというのか。

太った人が好き、という趣味でもあるのだろうか。
店員の肩は、小刻みに震えていて、ああ。
それを受け取り、店を後にした。

どうするべきか。そうだ。彼を昼食に誘うことにしよう。

社長ェ…


「ええ。すごいじゃないですか」

昼食に彼を誘い、第一声がそれだった。
わたしは懸命に蕎麦を啜っていた。

「そ、それで…連絡、するつもりなんですか」

なんだか慌てているようだった。
確かにプラトニックな交際は難しいだろう。
けれど、わたしにそんなつもりは、毛頭なかった。

高校生に手を出して逮捕、なんてニュースになりたくはない。

「そ、そうですか」

これ以上事務所の人員が減ったら、誰がアイドルを支えられよう。
メールを待っているだろうけれど、連絡はしない。
きっと、恋に焦がれているのだろう。

せっかく新設されたコンビニだと言うのに、もう足を運べない。


あそこは、事務所のみなも知らぬ穴場だと言うのに。

わたしがのびのびと、成年雑誌を読める場所はどこにあるのか。
TSUTAYAのアダルトコーナーにも勇気がなく入れない。
そんなわたしが得たチャンスは消えた。

あの暖簾の奥には未知なる夢が詰まっているのだ。

そう思い返したわたしは、迷わずTSUTAYAに向かった。
無論、アダルトコーナーへ向かいたいからだ。
彼に少しオススメを教えてもらった。

そこから出てきたものは、大抵穏やかな顔をしている。
何をみれば、そこまでの顔ができるのか。
その片腕には、紗倉まな。

やはり人は胸で女性を判断するのだろうか。
何度か入ろうと試みはしたが、結局それはできなかった。

結局、コマンドーを借り、家に戻った。


アーノルド・シュワルツェネッガーはたくましかった。

感想としてはそれだけだった。来いよベネット。
わたしもロケットランチャーを打ちたい。
誰しもが抱く、暴力的な夢だった。

わたしは深夜のテンションのせいでおかしくなっていた。

そうだ。ネットの無料視聴のアダルトビデオを見ればいいではないか。
なぜ、こんな簡単なことを思いつかなかったのであろうか。
いつもは面倒で消してしまう広告が待ち遠しい。

素早く腰をふる男優はレイザーラモンを彷彿とさせた。
そして加藤鷹は喘ぎ声が耳障りだと覚えた。
背景はあのプールが映っていた。

けれど、彼のオススメのそれを発掘することはできなかった。
それを見なければ、意味がないと思った。
どうしようかと頭を抱えた。

髪が抜けた。

Pa長……

やはり貴様かァ!

お前ハゲ社長の葛藤書いてたやつだろwww


そうだ。彼のオススメを見なければ意味が無い。

思い直したわたしは、Googleのアダルトコンテンツ表示をONにした。
単刀直入に淫猥なワードを打ち込むことに抵抗を覚えた。
けれど、その結果手に入った戦果はめざましい。

ああ、なんといやらしいのか。こういうのが彼の趣味なのか。

どれもこれも、非常に胸が大きかった。
なるほど。彼の趣味は正直でよろしい。

彼の誠実さはここで発揮されなくとも良いとは思うのだが。

画面越しに映る、彼女らの胸に触れてみたいと考えた。
しかし、それは叶わない。悲しいことだ。
触れたい。ああ、そうだ。

自分の胸を揉めばいいではないか。


わたしの胸は、あまり大きいわけではない。

けれど、揉むことが可能なくらいには、それはあった。
言うなればBカップだろう。いいや、Bカップだ。
なんだか悔しさを覚え、わたしは思った。

わたしの胸をじっくりと観察してみる。

乳首の色は、綺麗なサーモンピンク。
美しい。他人に見せても恥はない。
恥じるとすれば今の現状だろう。

乳頭の周りにはうっすらと産毛が生えている。

さて、この場においてどうリアリティを捻出するかが問題だ。
直に揉んでも、感動は薄いのではないだろうか?
ならば、やることは1つだけだろう。

わたしは、先日買ったブラとショーツを取り出した。

またお前か
新機軸のssすぎて困る


うむ。やはりBカップで間違いはなかった。

成長しているのは腹なのだから、腹にカップを被せたい。
ゆっくりと躊躇う事無く慣れた動作で装着した。
うむ。うむ。やはり、ぴったりだ。

やはりBカップだ。

改めて動画に向き直る。そういえば、ヘッドフォンをしていない。
大音量で、鷹の喘ぎ声がお隣まで響いていることだろう。
レオパレスの恐ろしさには、頭が痛くなる。

ふむ。こういう手つきで揉むのか。なるほど。

けれど、どういうわけかいかがわしい気分にはならなかった。
自分がその立場でないからだろうか。
きっとそうだ。

それでも乳首は屹立していた。困った。

一見シリアスなのに中身はただのシュールギャグとか質が悪いww


ひと通り自らの胸を揉んでも、成果をあげられなかった。

淫猥なる精神はわたしを救ってはくれなかった。
乳首の屹立を抑えられないまま、夕食を作った。

最近は料理を作れる人間がもてるのだそうだ。

テレビを見ていて、ああ、そうだ。確かに。そう思った。
わたしはパスタを作り終え、粉チーズをふりかけた。
太るとわかっていても、それはやめられない。

これでわたしの胸に栄養が行ってくれればいいのだが。
そうすれば、画面越しにではなく、満足に豊満な胸を揉めるのに。
ああ、この腹の肉を、全て胸に移し替えてはくれないだろうか。神に祈った。

また髪が抜けた。

抜けすぎやろww


わたしはシャワーを浴び、そっとベッドに潜り込んだ。

ああ、スーツがしわになっているではないか。
しっかりと装着されていたブラとショーツを脱ぎ捨てた。
深夜のテンションの延長線として、屹立した乳首に絆創膏を貼りつけた。

なんといやらしい光景なのだろう。

あまりの軽率な行動に恥を覚えると共に、新たなる興奮を手に入れた。
もしかしたら、わたしは変態という存在なのかもしれない。
わくわくが抑えきれない。ゴロリはいない。

言葉では到底形容し難い興奮に苛まれ、わたしはしばらく眠れなかった。
明日も仕事だと言うのに、何をしているんだろうか。
…本当に何をしているんだろうか。

乳首の屹立が収まったときには、わたしの意識はなかった。

この社長頭皮以外にも頭の中身までPaしてやがるwwww

ごく淡々と述べてるけどいい年したハゲのおっさんが
ブラつけて半裸で自分の胸いじってんだぞwwwww


朝の陽ざしと共に、わたしの枕元には絆創膏が落ちていた。

恐らく絆創膏が痒くて掻き毟ってしまったのだろう。
おかげで片方の乳首が寒いではないか。
もう片方は暖かそうだ。

わたしは寝間着からスーツに着替える際、絆創膏を剥がした。
若干跡になっていた。変わらず乳首はサーモンピンクだった。

そして迷わず女性用下着のブラとショーツを履き、呼吸を整えた。

今まではユニクロの女性用下着を履いていた。
だが、今は違う。この高級感。肌触り。素晴らしいものだ。
これが社会人としてのわたしの装備なのだ。これだけは譲れないことなのだ。

少しぴっちりとした感覚を臀部に覚えながらも、昼食を作り家を出た。


そして遠回りにはなったが、わたしは事務所の裏のコンビニへ寄った。

男性店員は、なんだか頬を赤らめていた。
前述のような趣味なのだろうか。
世の中は変わっている。

ファッション誌を読むふりをして、仕切りの限界までよりきった。
少し隣に目をやれば、淫猥な表紙がそこにはあった。

さて。

どうしてわたしが成年雑誌を立ち読みしたいか、について考えなおした。
まずは当然、読んでみたいからだ。読んだことがないからだ。
そして、理由はさらにもう1つあったのだが。

わたしは恋心を抱いている。

趣味を理解し、それが共有できるのならば、自然と好意を抱いてくれる。
恋愛経験のないわたしからすれば、それが精一杯の努力だった。
優しく微笑むその顔に、恋心を抱いてしまったからだ。

無論、彼のことである。


アイドルたちの姿に目をやるのも、わたしと比べていたからだ。

太ったわたしと、健康的なスタイルを保つ彼女らとはとても比べられない。
腹に一物抱えているわたしと、それは雲泥の差があると思っている。

けれど、彼女らを美しく見せられるのならば、資金援助は惜しまない。

やはり彼は、わたしよりも彼女らに目をやるだろう。
なんだか悲しいことだが、それも仕方がないと思っている。
若い女性の方が、圧倒的に魅力的であることは、明らかだからだ。

店員は、朝から成年雑誌の仕切りギリギリで泣きそうなわたしを見ていた。


わたしは葛藤していた。

こうなれば、わたしはもうやるしかない。

痩せようと決意し、健康的なメニューまで作ってきたのだ。
ひじきの煮物、ほうれん草のおひたし、玄米と。
髪も手入れをしなければならない。

彼の趣味を理解し、わたしに心を開いてもらえる為にも。

わたしは新たな一歩を踏み出した。そこに迷いはない。
男性店員は嬉々とした表情でわたしを見つめていた。
やはり、そこには…物珍しさが、あるからだろう。

成年雑誌を手にとった。そこに葛藤はなかった。

美麗な黒髪の女性が並んでいる。そのうちの1つを手にとった。
わたしの手は、やはり震えていた。無理もない。
手にとったことが一度もなかった。

意を決してわたしは手に力を込めた。

…おかしい。開かない。なぜ…だろう。
よくみると、そこには、封をされていた。
これでは開けられないではないか。まずい。

いらっしゃいませ、という店員の声が聞こえる。

振り向くと、入り口には彼がいた。気付かれてしまう。
慌てて視線を逸らしたが、もう、遅かった。
彼はわたしをみて、こちらに来た。

そして、彼は言った。

「…何を、やっているんですか?」









「ちひろさん」

                 おわり


ありがとうございました。以上です。
html化依頼を出させていただきます。

確かに以前に モバP「なにげなくなやむしゃちょうのいちにち」を書きました。

社長じゃなかった……やられた

だがちひろポンに抜け毛を出させるのはやめてあげてぇ!


あなたの髪に対する執念はなんなんだww

完全に騙されたwwwwww
読み直したら納得したwwwwww

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom