吟遊詩人A『魔王の声を手に入れたseiで人と話せない』星妖精「代わりに話しましょう」 (166)


夜 山のふもと テント群



旅人A 「おい、あんた待ちなよ」


吟遊詩人A 「…………?」


旅人B 「山に入るつもりかい? だったらやめとけって」


吟遊詩人Aの声? 「なんでだよ……な、何故だい?」


旅人A (なんだ、落ち着いた雰囲気のくせに、やけに落ち着きのない声だな)

旅人A 「いや、こんな時間に山を越えようなんて危険だ。モンスターも出る」

旅人A 「その腰からぶら下げた細い剣じゃ無理だ。今夜はここで休んでいけよ」

旅人A 「他にもけっこう人がいるから、安心して休めるぞ」


旅人B 「そのフィドルを見たとこ、あんた詩人さんだろ」

旅人B 「ちょうど歌が欲しいと思っていたんだ。なあ、歌を聞かせてくれるならタダで俺たちのテントに……」


吟遊詩人Aの声? 「……あー、もう!」


モゾモゾ スポンッ


水妖精 「うるっせーってんだよヒゲども!」


旅人AB 「!?」





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短編
ほのぼの
スレ名 ×sei→○せい



旅人A 「し、詩人の服から」


旅人B 「妖精が飛び出してきた……」


水妖精 「アタシたちはさっさとこの山を越えて都に行くんだ!」

水妖精 「あんたらの心配なんかいらない。通しやがれ!」


旅人A 「うわあ、小さいのに何て口の悪さだ!」


水妖精 「あん?」

水妖精 「……何だあんた、やんのか? おーし、いいぜ、顔中の穴に水を注ぎ込んで溺れさせてや……」


吟遊詩人Aの声? 「……んもう、そんな乱暴なこと言っちゃだめですわ水妖精」


モゾモゾ スポンッ


火妖精 「私たちは野蛮な下級モンスターとは違うんだから」


旅人AB 「!?」

旅人AB 「また妖精!?」



火妖精 「ああ、ご心配ありがとう、旅の人間たち」

火妖精 「でも私達は……」


旅人A 「なんてこった、この詩人……」


旅人B 「あ、ああ。妖精にとりつかれた詩人は長生きできねえってのに、それが二匹も! くわばらくわばら……」


火妖精 「あの……」


旅人A 「ひいぃ! 引き止めて悪かった! さっさと行ってくれ!」


旅人B 「だから俺たちの寿命はとらないでくれえ!」


ダダダダダダッ





火妖精 「……あら、逃げちゃいました」


水妖精 「へへーんだ、最初からテントで震えてろってんだ!」


吟遊詩人Aの声? 「……こらこら二人とも、出てこない約束だろう」


水妖精 「助けてやったんじゃねーか。ガタガタ言うなよ」


吟遊詩人Aの声? 「助けてやった、じゃありません」


モゾモゾ スポンッ


星妖精 「どうしてもって言うから、吟遊詩人Aの声役をやらせてあげたのに」

星妖精 「吟遊詩人と妖精の評判を悪くするようなことしてどうするの」




水妖精 「けっ、人間どもからどう思われようが知ったことかよ」


火妖精 「まあ、またそんな乱暴なこと言って。でも確かにそうですわ」


星妖精 「まったく、困ったいたずら妖精ね」


吟遊詩人A (……賑やかになってしまった)

吟遊詩人A (人が寄ってきても面倒だから、さっさと山を越えよう)








ザッ ザッ


吟遊詩人A 「…………」


水妖精 「でもよー、人前でしゃべれないなんてなあ」


火妖精 「それでよく吟遊詩人なんてできますわね」


星妖精 「いいのよ、歌なしでもちゃんと稼げるんだし」

星妖精 「会話だって私が代わりにするから問題ないわ」




水妖精 「けっ、けっ、人間なんかにベッタリつきやがって」

水妖精 「これだから、歌の妖精は気持ち悪いんだ。何が詩人の恋人、だよ。胸焼けがしちまいそうだぜ」


火妖精 「もう、水妖精ったらはしたない」

火妖精 「でも、代わりに話すって言っても、その人間の考えていることなんて分かるのですか?」


星妖精 「もちろんよ。私たちは心が通い合っているから」

星妖精 「ねえ、吟遊詩人A」




吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「…………」


吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「ほら、ね」


火妖精 「さっぱり分かりませんわ」


水妖精 「……やっぱ、気持ち悪い」





水妖精 「あーあー、こんな奴についてこなけりゃ良かったぜ」


星妖精 「あら何よ。都のお城に連れて行ってくれとお願いしてきたのはそっちでしょう」


火妖精 「そうよ、言いすぎよ水妖精」


水妖精 「でもよー……」




星妖精 「そんなに言うなら、また瓶詰めにして森の泉の底に沈めてあげましょうか?」


水妖精 「う……」


火妖精 「星妖精さん、吟遊詩人Aさん、誤解しないでくださいね」

火妖精 「私達、助けてもらってとても感謝していますわ」

火妖精 「ね、水妖精」


水妖精 「…………」

水妖精 「ちぇっ。ああ、少しは感謝してやってるよ」




星妖精 「まあいいわ。瓶詰めにされるなんて、妖精にとっては死ぬより嫌なことだもの」

星妖精 「同じ妖精として、助けるのは当たり前のことだわ」


火妖精 「ありがとう、星妖精」


水妖精 「ったくよー、人間どもときたら。アタシたちを見るなり瓶に詰め込みやがって」

水妖精 「いたずらするのが妖精の仕事だってのに、自分達が迷惑だからって勝手によー」


火妖精 「しかたないですわ。自分達の価値観が世界の絶対だと思っているような」

火妖精 「ちっぽけで哀れな種族なのですから」


星妖精 「……人間の前でよくそこまで言えるわね、あなたたち」




ザッ……


吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「あら」


水妖精 「……おっ、どうしたんだ急に止まって」


火妖精 「もう水妖精ったら、分かってるくせに」

火妖精 「モンスターの気配がしますわ」




水妖精 「へへへ」

水妖精 「……どんどん近づいてきてるな」


火妖精 「私達の行く方から来てるみたい」


水妖精 「ああ。やい人間、アタシたちがお前を守ってやるから下がってな」


吟遊詩人A 「…………」





ノソ ノソ


魔物犬A 「グルルル……」


魔物犬B 「ガルルル……」


水妖精 「ウケケ、出やがったなモンスター。久しぶりに遊んでやるぜ」


火妖精 「やりすぎちゃ駄目よ、水妖精。魔法でちょっと驚かして追い払うだけなんだから」


水妖精 「へへ、分かってるって」




ノソ


魔物犬C 「グルルル……」


水妖精 「お?」


ノソ


魔物犬D 「ウ~……」


火妖精 「あらら?」


ノソ ノソ ノソ ノソ


魔物犬EFGHIJ 「ガルルル……」


水妖精 「お、おいおい、何かわらわら出てきちゃったぞ」





吟遊詩人A 「…………」


ザッ ザッ


火妖精 「あら、人間さん?」


水妖精 「おい、何してんだよ。その貧弱そうな剣さえ抜かずにモンスターと戦うつもりか」

水妖精 「お前が食われて死ぬのはいいけど、そしたらアタシたちを都に運ぶ奴がいなくなっちまうだろ」


星妖精 「二人とも、耳をふさぎなさい」


火水妖精 「?」




星妖精 「いいから早く。瓶詰めより痛い目見るわよ」


火妖精 「え、ええ……?」


水妖精 「何だってんだよまったく……」


吟遊詩人A 「…………」


魔物犬たち 「グルルルル……」


吟遊詩人A 「……おい」


魔物犬たち 「!?」


水妖精 「!?」


火妖精 「!?」




水妖精 「な、何だ、腹の底から凍りつくようなこの声……!」


火妖精 「恐ろしいですわ。耳をふさいでいるのに、体中に響く……!」


魔物犬たち 「…………ッ」


水妖精 「モンスターたちが、みんな怯えてやがる……」




吟遊詩人A 「ここを通りたいだけなんだ。頼む、道をあけてくれないか」


魔物犬たち 「!?」

魔物犬たち 「く、クゥ~ン……!」


ダダダダダッ


火妖精 「……あっという間にみんな逃げ出しましたわ」





吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「二人とも、もう大丈夫よ」


火妖精 「……な、何ですか今の!」


水妖精 「それにその人間、話せるんじゃねえか!」


星妖精 「ええ、まあね」




星妖精 「でも、話せないのと一緒よ」

星妖精 「声を聞いたら、人間も魔物も、みんな怖がって逃げていくんだもの」


水妖精 「……なんであんたはケロッとしてんだよ。耳もふさいでなかったのに」


星妖精 「当たり前よ」

星妖精 「何せ私たちは、心が通じ合っているんですもの」

星妖精 「ねえ」


吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「ほら、ね」


火妖精 「そ、そうですか……」


水妖精 「気持ち悪い……」





都 芸人広場



ガヤガヤ ワイワイ 


船乗りA 「お、すごい人だかりだな」


船乗りB 「面白い芸人でも来てんのかな」


パチパチパチパチ


星妖精 「ありがとうございます、ありがとうございます」

星妖精 「では続きまして、日傘の魔王の恋」


吟遊詩人A 「…………」


ジャラン ポロロン ディロロロ…… 





客A 「うまいもんだなあ」


客B 「しかし不思議な曲だ。異国のものに違いない」


芸人A 「おいちくしょう、なんだあの指運びは。涼しい顔でやってのけやがって」


芸人B 「すごいなあ、妖精つきの詩人なんて。弟子になりたいなあ」


旅人A 「いったいどこの曲だろう。いろんな国を旅して来たが、耳にしたおぼえがない」


作家A 「これに歌がついていればなあ。良い物語になっただろうに」


客C 「何でも、口がきけないらしい。残念なことだ」


旅人B 「いいじゃないか、そんなこと。黙って聞いていよう」



ディロロロ ポロン ポロロン





ジャラン……


吟遊詩人A 「……………」


パチパチパチパチ


星妖精 「ありがとうございます。ありがとうございます」


チャリンッ チャリンッ


水妖精 「あいよー、お金はこの魔法の帽子の中にねー」




チャリンッ チャリンッ


火妖精 「はいはいー。まだまだたくさん入りますわよー」


水妖精 「ありがとありがとー……ったく。なんでアタシがこんなこと……」


星妖精 「助けてあげた上に都まで運んであげたんだから、お礼くらいしていきなさい」


水妖精 「ちぇっ……」


ワイワイ ピーピー


??? 「……あら。何やら楽しげな声」




ワイワイ


船乗りA 「なあ、歌つきのやつはねえのか?」


星妖精 「ごめんなさい。楽器弾きしかしていないの」


船乗りB 「残念だなあ」


芸人C 「そうだ、ちょうど歌い手と物語り師が酒場にいるはずだ」


客B 「それはいい。呼んできて、曲にあわせて歌ってもらおう」


星妖精 「あ、あの、ちょっと……」


??? 「おどきなさい、野次馬ども。私を通しなさい」




客C 「何だあんた、いきなり割り込んで……」

客C 「!」

客C 「あ、いや、その……お通りください」


客D 「お、おい、あれ……」


客E 「ああ……」


星妖精 「?」


ザワザワザワ


??? 「ふぅ、まったく……」

金髪姫 「お城の外は空気が悪いわねえ」





金髪姫 「それで……へえ……」


吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「…………」


水妖精 「…………」


火妖精 「…………」


金髪姫 「ふ~ん……妖精つきの吟遊詩人さんね」

金髪姫 「たしかに、ちょっと珍しいわね。私は見慣れてるけど」

金髪姫 「うふふ、可愛らしい妖精さんたちだこと」




星妖精 「ありがとうございます、美しい姫君」


金髪姫 「あらあら、一応の礼儀はあるみたいね。気に入ったわ」

金髪姫 「ねえ、吟遊詩人さん、お話があるのだけど」


吟遊詩人A 「…………」




金髪姫 「あら、だんまり? 無礼な人ね」


星妖精 「ごめんなさい、話すことができないの。だから、代わりに私が話しています」


金髪姫 「……ふうん。じゃあ、歌うことはできないのね」

金髪姫 「まあいいわ。歌舞音曲くらいはできるでしょう」

金髪姫 「あなた、今夜のお城のパーティーで演奏をしなさい」




吟遊詩人A 「…………」


金髪姫 「ああ、もちろん断ったりはしないわよね」

金髪姫 「何せ私は、かつて魔王を討ちモンスターからこの地を解放した、かの征伐王の子孫」


火水妖精 「……!」


金髪姫 「あなたがこの都で演奏できるのは、私のご先祖さまのおかげ」

金髪姫 「つまり、私のおかげなのだから」




水妖精 「めちゃくちゃだぜ……」ボソ


火妖精 「しっ」ボソ


吟遊詩人A 「…………」


金髪姫 「これを」


ジャラッ


吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「……鍵?」


金髪姫 「この先の宿屋の鍵よ。本当ならあなたなんかじゃ使えない、最高級の部屋のね」

金髪姫 「迎えを出すから、夜まで待っていなさい。あとで服も届けさせるわ」




星妖精 「あの……」


金髪姫 「そうそう、見張りもちゃんとつけておくから。まあ、逃げようなんて気は起こさないでしょうけど」

金髪姫 「では、ごきげんよう」

金髪姫 「オホホホホホ……」


ツカツカツカツカ


水妖精 「……うええ、気持ち悪い」

水妖精 「ホントに気持ち悪い……」




船乗りA 「運が悪いなあ……」


船乗りB 「ああ。よりにもよって城のお人に見つかるとは……」


客A 「城に呼ばれた芸人は短気な王様に無理難題をふっかけられて」

客A 「失敗したり断ったりしたら殺されちまうって話だ」


客B 「無事に国の外へ出られた奴はいないらしい……」


ヒソヒソ ヒソヒソ




作家A 「なあ君たち」


吟遊詩人A 「?」


作家A 「悪いことは言わない。まだ見張りもいないだろう。すぐに逃げ……」


黒い人影 「コホンッ」


作家A 「!」

作家A 「あ、いや……頑張りたまえよ。お城に呼ばれるなんて名誉なことだ」

作家A 「では私はこのへんで。国王陛下、ばんざい! はっはっはっ……」


タタタタタッ


吟遊詩人A 「…………」




宿屋 最高の部屋



水妖精 「うっひょおう!」


パクパク モシャモシャ


水妖精 「ちっくしょー人間どもめー! いいもん食いやがってー!」

水妖精 「この果物うめー!」


火妖精 「ですわですわー!」


バフンッ


水妖精 「ちっくしょー人間どもめー! いいベッドで寝やがってー!」

水妖精 「フカフカだぜー!」


火妖精 「ですわですわー!」


フカフカ モフモフ ゴロゴロゴロゴロ





星妖精 「なんだか、いやな雰囲気」

星妖精 「妖精と英雄の伝説がある国というから、素敵な物語がたくさんあるところだと思ったのに」

星妖精 「町並みは綺麗だと思うけど」


吟遊詩人A (まあ、人と自然があれば、曲はできるだろう)


水妖精 「人間どものつくる国なんてこんなもんさ。この際、どうでもいいけどな」


火妖精 「そうね。おかげで楽にお城に入れるんですもの」




星妖精 「私たちがいるうちは、いたずらなんてしないでね」

星妖精 「巻き添えで死刑なんて嫌よ」


水妖精 「しねーよぉ。だって、なあ?」


火妖精 「ええー。ですわー」


フカフカ モフモフ ゴーロゴロ


星妖精 「信用ならないわ……」




夜 宿屋前



仮面男 「……ちゃんとドレスも着ていますね」


吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「ええ。私たちの分のドレスまで用意してくれて、ありがとうございます」


水妖精 「うー、スースーするぜ。気持ち悪い……」ボソッ


火妖精 「しーっ」ボソッ




仮面男 「いえいえ、いくらでもありますので」


星妖精 「?」


仮面男 「いえ。では、さっそくお城へ参りましょう。馬車にお乗りください」




…………


ガタガタン ゴトゴト


仮面男 「お城に着く前に、いくつか注意を」

仮面男 「パーティーには、高貴なかたがたがご出席なさっています」

仮面男 「旅芸人に多くは望みませんが、最低限の礼をつくすことは心がけていただきますよう」


水妖精 「けっ、そっちの方から呼んだくせによ」


火妖精 「もう、水妖精!」





星妖精 「ごめんなさい。高貴な仮面の人」


仮面男 「お気になさらず。ですが、他のかたがたにそのような口をきけば」

仮面男 「首が飛んでも文句は言えませんのでご注意を」

仮面男 「まあ、首が飛べば話せませんがね」


星妖精 「気をつけます」




仮面男 「また、絶対に王様や高貴なるかたがたの要求を断ったり」

仮面男 「芸を失敗したりしませんよう」

仮面男 「これもまた、首が飛んでも文句は言えません」

仮面男 「まあ、首が飛べば……」


星妖精 「頑張ります」


仮面男 「…………」


水妖精 「ウケケ、言えなくて残念だったな。いろんな意味で笑えない冗談をよ」


火妖精 「水妖精!」



ガタタン ヒヒン ブルルル……


仮面男 「……着いたようですね」

仮面男 「お疲れ様でした」

仮面男 「馬車をおりたらすぐ案内の者がおりますので、ついていってください」


星妖精 「ありがとう」


ガチャン








仮面女 「妖精つきの楽器弾きのかたですね。話はうかがっております」

仮面女 「案内いたしますので、こちらへ」


吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「はい」


カツッ カツッ カツッ カツッ




水妖精 「へへへ、城だ城だ」


星妖精 「水妖精」


水妖精 「大丈夫。いたずらはしねーよぉ」


火妖精 「そういえば、あれからずっと黙りっぱなしでしたね、仮面の人間さん」 


星妖精 「そうね」


水妖精 「なんだよ、アタシのせいだってのかよ」


星妖精 「たぶんね」


カツッ カツッ カツッ カツッ




……… ドヤドヤ ラーラーラー 


星妖精 「あら、音楽と人の声が聞こえてきたわ」


仮面女 「近づいてきました」

仮面女 「天守の最上階が、パーティーの会場です」


水妖精 「へへへ……」


火妖精 「うふふふ……」


吟遊詩人 「…………」


カツッ カツッ カツッ カツッ





城 ゴージャスな控え室



仮面女 「ここが控え室です」

仮面女 「お疲れ様でした」

仮面女 「では、出番がきたらお呼びしますのでお待ちください」


星妖精 「はい」


仮面女 「この部屋にあるものはご自由にお使いください」

仮面女 「しかし、決して壊したりしませんよう」

仮面女 「首が飛んでも文句は言えません」

仮面女 「まあ、首が……」


星妖精 「はい」


仮面女 「…………」


水妖精 「はやってんのか、それ」




…………


ガヤガヤ ワハハハハ


カチッ コチッ


芸人たち 「…………」


吟遊詩人A 「…………」


ガチャッ


芸人たち 「!」


仮面執事 「芸人M一座さま、そろそろ出番です。ついてきてください」


芸人M 「はい……」




芸人たち 「…………」


水妖精 「どいつもこいつも、変な化粧してる奴まで辛気臭いなあ」

水妖精 「舞台の外の芸人ってこんなもんなのかよ」


火妖精 「すごく緊張してるって感じですわね」


星妖精 「おおかた私達と同じように紳士的なお誘いを受けて」

星妖精 「楽しいお話を聞かされたんでしょう」


水妖精 「あー、首が飛ぶほど気持ち悪い冗談をな」




ガチャッ


仮面執事 「吟遊詩人Aさま、そろそろ出番です。ついてきてください」


吟遊詩人A 「…………」


芸人たち (声が出ないほど緊張してるのか……)


星妖精 「はい」


水妖精 「ほいほいほーい」


火妖精 「はいですわですわー」


芸人たち (…………)


仮面執事 「元気があってよろしい。ではこちらへ……」




コツッ コツッ コツッ コツッ


仮面執事 「それにしても、妖精つきの芸人さんは久しぶりですな」

仮面執事 「それが三匹も。姫様もお喜びでしたよ」


星妖精 「ええ、たいへん素晴らしいお言葉をいただきましたわ」


仮面執事 「ははは。それはそれは……」


水妖精 「へへへ……」


火妖精 「うふふ……」


吟遊詩人A 「…………」




仮面執事 「しかし、その赤と青の妖精たちを見ていると、古い噂を思い出しますなあ」


火妖精 「…………」


水妖精 「…………」


星妖精 「あら、何でしょう。こんな職業だから、とても興味あるわ」


仮面執事 「かの征伐王がかつて討ちし魔王、その正体は」

仮面執事 「強大な火と水の魔法を自在に操る」

仮面執事 「双子の妖精王であったとか」




吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「まあ素敵。とても夢があるわ」


仮面執事 「ははは、妖精に夢を見せることができたとは光栄至極」

仮面執事 「遠い昔の話です」


火妖精 「…………」


水妖精 「…………」


仮面執事 「さて、いよいよですぞ」

仮面執事 「演奏、楽しみにしております」




パーティー会場



ガヤガヤ ワイワイ


芸人O 「…………!」


ポロッ


王様 「……!」


銀髪姫 「舞の最中に杖を落とすなんて! あなた、失敗しましたわね!」

銀髪姫 「お父様の見ている前で失敗するなんて!」


芸人O 「ひぃッ……!」


王様 「私はよい。だが、大勢の客の前で失敗した罪は重い」

王様 「その者を牢屋へ連れて行け」


兵士A 「は、はっ!」


兵士B 「おい、来い!」


芸人O 「ひいいぃ………」


ズルズルズルズル




銀髪姫 「……すみませんお父様。とんだ三流芸人でしたわ」

銀髪姫 「私の目が曇っておりました」


王様 「よい。そもそもあの芸人がおらねば良かったのだ」

王様 「きっと幻惑の魔法を使ったに違いない」

王様 「我が娘をたぶらかすとは怖いもの知らずめ」

王様 「ちゃんと死刑にしてやるぞ」


王妃様 「まあ、優しくて素敵」


王様 「わはははは。何せ私は征伐王の子孫だからな」




金髪姫 「ふふふ、次は私の呼んだ芸人の番ですわ」


王様 「おう、確か妖精つきの楽器弾きだったな」

王様 「妖精つきは優れた芸術家の証。これは楽しめそうだわい」

王様 「のう、宮廷歌人?」


宮廷歌人 「ま、まあ、そうですな……」


金髪姫 「あら? 私の前でなければ何か言いたそうな口ぶりね」


宮廷歌人 「いえ、そんなことは、決して……」


金髪姫 「うふふ、まあいいわ。ではお呼びして」


仮面メイド 「は、はっ!」




コツッ コツッ


吟遊詩人 「…………」


ザワザワ……


王様 「ほう、これは……」


星妖精 「…………」


王妃様 「あら、美しいこと……」


火妖精 「…………」


銀髪姫 「さすが、お姉さまの見つけた……」


水妖精 「…………」


宮廷歌人 「ぐぬぬ、三匹も妖精を……」




貴族A 「着ている服もそうだが、なんと優雅な」


貴族B 「おお、まさに妖精だ」


ザワザワ ザワザワ


金髪姫 「ふふふ。あらあら、まだ挨拶もしていないのに」

金髪姫 「さあ、芸人、始めなさい」


星妖精 「はい、王女様」

星妖精 「しかし吟遊詩人Aは言葉を使えぬ身。私が代わりに話す無礼をお許しください」


金髪姫 「あら、どうしましょう、お父様」


王様 「ふふん、分かっていて呼んだのであろう可愛い娘よ。よい、続けろ」


星妖精 「ありがとうございます」





星妖精 「…………」

星妖精 「王陛下、王妃様、金髪の王女様、銀髪の王女様。そしてお集まりの高貴なかたがた」

星妖精 「私どものような者を輝かしい場にお招きいただき、ありがとうございます」

星妖精 「心枯れるまで、演奏をさせていただきます」


王陛下 「うむ。しっかりと、きかせてもらおう」





星妖精 「では始めさせていただきます」

星妖精 「征伐王の物語」


王様 「ほう……」


シン……


吟遊詩人A 「…………」


ポン…… ボロン ポロロロ……




テロロロ ジャン ジャラン トロロロ……


貴族C 「征伐王の物語だ。劇なんかでも使われる、この国で最も有名な曲だ」


貴族D 「この国の芸人じゃないとのことだが、うまく弾くものだ」


貴族E 「演奏する姿も、なんと見事なことか」


王様 「……ふむ。もしやお前より上手なのではないか、宮廷歌人よ」


宮廷歌人 「わ、私は楽器弾き専門ではございませんので……」


王様 「ははは、そうであったな」




ディロン……


吟遊詩人A 「…………」


貴族たち 「…………」


王様 「…………」

王様 「……うむ」


パチ パチ パチ


貴族たち 「おお……!」


パチパチパチパチパチパチ




王様 「見事であった、異国の楽器弾きよ」


吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「ありがとうございます、ありがとうございます」


水妖精 「魔法の帽子は必要かい? へへへ」ボソッ


火妖精 「準備はできてますわよ? うふふ」ボソッ


星妖精 「黙ってて」ボソッ




王様 「他にも曲はあるのだろうな」


星妖精 「もちろんでございます」


王様 「よし、ではここで飲み食いすることを許す。また何か弾かせるので、そのつもりでいるように」


星妖精 「ありがたき幸せ。喜んで演奏させていただきます」


王様 「うむ。ではしばし楽しむが良い」

王様 「我が金髪の娘よ、よくやったな」


金髪姫 「ありがとうございます、お父様」


銀髪姫 「さすがですわ、お姉さま」


金髪姫 「ふふふ、ありがとう可愛い妹」


王妃様 「さあ、次はどんな芸人が見られるのかしら」




…………


ガヤガヤ ヒイイ ワイワイ


貴族A 「見事な演奏だよ、君」

貴族A 「服もすばらしい。まるで貴族のようだ」


吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「ありがとうございます、ありがとうございます」


貴族B 「今度、私の城でも弾いてくれないか」


星妖精 「ええ、ぜひ、ぜひ」




貴族G 「君達もたいへん綺麗だ」


水妖精 「おう、ありが……」


火妖精 「うふふ、ありがとうございますわ」


水妖精 「お、オホホ……本当ですわ」


星妖精 「…………」


吟遊詩人A 「…………」




…………


ディロロン……


吟遊詩人 「…………」


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王様 「………うむ、実に見事だ」

王様 「よくぞ臆すことなく、我々に多くの曲をきかせてくれた」


パチパチパチパチパチ


星妖精 「ありがとうございます、ありがとうございます」


水妖精 「へへへ、拍手なんて当たり前だ。あれから無理難題をふっかけやがって人間が」ボソッ


火妖精 「うふふ、だめよ水妖精。うふふふ……」ボソッ




王様 「ここまで素晴らしいものを見せてくれた楽器弾きに」

王様 「私は王として褒美をあたえなければなるまい」


ザワザワ


王様 「お前には今日より、宮廷楽師として働くことを許可する」

王様 「そして、この国一番の音楽家を名乗ることも許可する」


宮廷歌人 「な……」


王様 「良いな、宮廷歌人」


宮廷歌人 「は、はい、王様のおっしゃることに異を唱えるなど……」


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吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「そ、それは……」


王様 「何か。よもや征伐王の子孫である私の好意を無碍にすると?」


星妖精 「いえ……あまりにも、身に余る光栄。ありがたく……」


王様 「であろうな、うむ」

王様 「そして」


シン……


王様 「我が国一番の音楽家を見つけた我が金髪の娘にも、褒美をやらねばなるまい」

王様 「娘よ、何なりと申してみよ」




金髪姫 「ありがとうございますお父様」

金髪姫 「そうですねえ、うふふふ……」


吟遊詩人A 「…………」


金髪姫 「私一度、この新しい宮廷楽師さんの歌をきいてみたいですわね」


星妖精 「………!」




王様 「おお娘よ、それはさすがに無理というものだぞ」

王様 「お前は国一番の音楽家を、あっという間に道化にしてしまうつもりなのか」


金髪姫 「あら、そうですわね、ごめんなさい」

金髪姫 「じゃあ、それが駄目なら」

金髪娘 「うふふふ……」


吟遊詩人A 「…………」


金髪姫 「この宮廷楽師さんの妖精を、三匹全部いただきたいわ」




星妖精 「そ、それはあまりにも……」


王様 「おお、それなら良いぞ。宮廷楽師は私の部下。つまり私のものだ」

王様 「私のものなら、惜しみなく分け与えよう」

王様 「楽師には他の通訳者をつけよう」


金髪姫 「まあ、ありがとうございます、お優しいお父様!」


王様 「わははは、何せ私は征伐王の子孫だからな」


パチパチパチパチパチ




星妖精 「そ、それは……!」


王様 「光栄であろう。貧乏な旅暮らしが一転、贅沢な暮らしができるようになるのだ」

王様 「まさか違うとでも? 征伐王の子孫である私に仕えることは不名誉だと?」


シン……


星妖精 「わ、私は……」


王様 「何だ? ほれ、遠慮せず申してみよ」


星妖精 「…………」


水妖精 「…………」

水妖精 「あーあー、申させてもらうぜ豚野郎!」


王様たち 「!?」




水妖精 「おっと豚よばわりは失礼だな! 豚に失礼だ!」

水妖精 「こんなヘドロスライムより汚い肉の塊がいる城なんかやだね。気持ち悪くてしかたねえ!」

水妖精 「何が征伐王だ、英雄の子孫だ! 調子に乗るなよ人間が!」

水妖精 「あんたなんかに仕えるなら、瓶詰めの方がましってもんだぜ!」

水妖精 「ばーかばーか!」





星妖精 「あ、あなた何てこと……!」


火妖精 「うふ、うふふふふ……!」


王妃様 「あ、ああ……! 何て汚い言葉……」


銀髪姫 「お、お母様、お気をしっかり! 誰か、医者を呼びなさい!」


王様 「…………! ッ!」

王様 「きさま、王である私に向かってそのような……!」


水妖精 「ばーか! あんたが遠慮せず言えって言ったんだろうが、ばーかばーか!」

水妖精 「悔しかったら捕まえてみろよ!」

水妖精 「誰かに任せず、自分の手でなあ!」




王様 「おのれ……このような侮辱を受けたのは初めてだ!!」

王様 「兵たちよ、この悪人たちを捕らえろ!」


兵たち 「は、はっ!」


ガチャガチャガチャガチャ


兵A 「覚悟しろ、悪人め!」


吟遊詩人A 「…………!」


火妖精 「……うふふっ」


ボッ


兵A 「!?」




ドロッ ジュワッ


貴族E 「ひ……火の玉が一瞬で」


貴族F 「兵士を鎧ごと蒸発させた……!?」


火妖精 「あらあら、魔法で驚かして追い払うつもりだったのに」

火妖精 「このお城に来てからというもの、力が溢れてくるんですもの」

火妖精 「間違えて、ちょっとやりすぎちゃいましたわあ。次はちゃんと調整しませんと」

火妖精 「うふっ、うふふふふふふふ……!」


貴族D 「う、うわああああああああ!」


ドタバタドタバタ キャーキャーワーワー




王様 「お、落ち着け、みな落ち着くのだ!」


火妖精 「そおれ」


ボオオ


兵士B 「ぎゃあああっ!」


火妖精 「あら、鎧が溶けて熱い鉄が体中に。どうしましょう、うふふふ!」


水妖精 「そりゃいけない、冷やしてやろう。それ水鉄砲だっ」


バシュッ


兵士B 「ぎゃっ」


水妖精 「おっと、勢いを間違えて心臓に穴を空けちゃった! へへへへへ!」


兵たち 「う、うわあああああ! お助けー!」




吟遊詩人A 「…………」


星妖精 「何て残酷なことを……」


火妖精 「うふふ、ありがとう星妖精。そして詩人の人間さん」

火妖精 「あなたたちのおかげで、数百年ぶりに私たちのお城に戻れましたわ」

火妖精 「ここってもともと、私達のお城だったの。そしてこの国はもともと、モンスターの国」


水妖精 「自分の城のゴミ掃除をしてるんだ」

水妖精 「これってイタズラじゃないよなあ!?」


星妖精 「だからって、やりすぎだわ……」


吟遊詩人A 「…………」


火妖精 「うふふふっ。あなたたちには恩があるし、気に入ったから何もしないであげる」

火妖精 「今のうちにお逃げなさい」


水妖精 「きゃはははははは! そらそら人間ども、魔王陛下のご帰還だあ!」



ガチャガチャガチャガチャ ワーワー キャーキャー





王様 「な、な……誰か、誰か……!」


水妖精 「誰か誰か誰か誰か、誰か僕ちゃんを助けてってかあ!」


王様 「ひっ!?」


水妖精 「よう王様! いやいや……」

水妖精 「にっくき、征伐王の、子孫様よぉ……」


王様 「あ、あわわわ……」


水妖精 「ああ英雄だよあんたのご先祖様は」

水妖精 「薄汚い手でアタシたちをだまくらかして」

水妖精 「瓶に詰め込んで何百年間も泉の底に封じてくれたんだからなあ!」




水妖精 「思い返しただけでも気持ち悪い!」

水妖精 「このお礼をたっぷりしてやりたいところだが、あいにくどうやら本人はいねえ」

水妖精 「ところが、ここにその子孫がいるときた!」


王様 「ひぃい……」


水妖精 「むかつくぜ、子孫なんか残しやがってよお!」

水妖精 「しかもこんな中身のないボンクラときた」

水妖精 「こい、この野郎!」


ガシッ


王様 「ひっ!?」




パリンパリン ウフフフフ キャーキャー ワーワー


王様 「お、おろせ、おろせえぇえー!」


星妖精 「あ、王様が飛んでる。水妖精に吊られて」


吟遊詩人A 「…………」


水妖精 「きゃははははは! よーく見とけよ人間ども!」

水妖精 「あんたらの征伐王の子孫様が、床に落ちてあっけなく肉団子になる様をなあ!」

水妖精 「そしたら次は、どっかに隠れちまった娘たちだ!」

水妖精 「一族根絶やしにしてやるから覚悟しろーぉ!」




??? 「そうはいかないわよ、お転婆な妖精さんたち!」


火水妖精 「!?」




??? 「ふふふふふふふ……」

金髪姫 「私のお父様にこれ以上危害を加えるというのなら」

金髪姫 「ただではおかないわよ」


水妖精 「はん、誰が飛び出してきたかと思えば、アタシたちが城に帰るのを手伝ってくれたお姫様じゃねえか」

水妖精 「あんたへのお礼はあとだ、引っ込んでろ!」


金髪姫 「そうはいかないわ」


火妖精 「うふふふ、あら勇ましい。危害をくわえたらどうだというのかしら?」


金髪姫 「ふふふふ、あなた達はまた思い出すことになるのよ」

金髪姫 「征伐王の力をねっ」


カランッ




火妖精 「……!」


水妖精 「それは……!」


星妖精 「何かしら、栓のされた瓶だわ」

星妖精 「瓶……もしかして」


吟遊詩人A 「…………」


金髪姫 「ふふふふ、うろたえたわね」

金髪姫 「そう、これこそが、征伐王が魔王を討ったとき……いいえ」

金髪姫 「双子の妖精王を封印したときに用いた魔法の瓶!」

金髪姫 「我が王家に伝わる秘宝!」


火妖精 「な、何てことですの……! あれ一つだけではなかったなんて!」




王様 「おお、我が娘よ。なんと頼もしい……」


金髪姫 「ええお父様、すぐにお助けしてさしあげますわ」

金髪姫 「さあ妖精さん、ゆっくりと安全に、お父様をおろしなさい」

金髪姫 「でないと、この栓を抜くことになるわよ」


火妖精 「…………」

火妖精 「し、しかたありませんわ水妖精……!」


水妖精 「く……くそぉ、卑怯だぞ……」


フヨフヨフヨ




トサッ


王様 「ひ、ひいぃ……」


ヨタヨタヨタ


金髪姫 「はい、ご苦労様。また危害を加えるなら栓を抜きますからね」


水妖精 「ちぇっ……」


金髪姫 「お父様、ご無事ですか」


王様 「おお、我が娘よ、助かったぞ」


金髪姫 「よかったですわ、お父様」

金髪姫 「うふふふ、それじゃあ次は……」

金髪姫 「妖精さんたちを瓶詰めにしてあげるわあ!」




金髪姫 「新たな征伐王、お父様伝説誕生の瞬間よ!」


貴族たち 「お、おおお……!」


兵士たち 「征伐王ばんざい! 金髪姫様ばんざい! 国王陛下ばんざい!」


ワアアアアア


水妖精 「な、卑怯だぞ!」


火妖精 「言われたとおりにしましたのに!」


金髪姫 「そんなこと、知ったこっちゃないわねえ!」

金髪姫 「お父様のお城でこんな大騒ぎをした時点で、あなたたちは許されないのよお!」

金髪姫 「そおーれ! 開け、魔法の瓶!」


火妖精 「や、やめ……!」


キュポンッ


水妖精 「くッそおおおおおお!」




キュイイイイイイイ


星妖精 「…………」

星妖精 「ああもうかわいそうに。あの子たち、変な気を起こすから……」


グググッ


星妖精 「……あら?」


吟遊詩人A 「…………!」




キュイイイイイ


水妖精 「おおおおおおおお……って、あれ?」


火妖精 「何ともありませんわね……」


キュイイイイイイ


星妖精 「あらららららら?」


星妖精 「どうして、何だか私が吸い込まれてるような……」


ギュイイイイイイイイイ


星妖精 「あーれぇええー……」




ギュイイイイイイ


星妖精 「ええええぇー……」


シュポンッ キュキュキュッ


瓶詰め星妖精 「…………」


吟遊詩人 「…………」


金髪姫 「…………」


王様 「…………」


火妖精 「…………」


水妖精 「…………」


貴族たち 「…………」


兵士たち 「…………」




水妖精 「へっ、へへへ……」


火妖精 「うふっ、うふふふふふふ……」


水妖精 「残念だったなあ征伐王さまよぉ!」


火妖精 「まあ、確かに新しい伝説ですわよね。不名誉な!」


水妖精 「さあ、もう一度大暴れといこうかあ?」


火妖精 「うふっ、うふふふふふふ……!」


貴族たち 「ひ、ひぃい……!」


兵士たち 「もう駄目だあ……!」



金髪姫 「…………」

金髪姫 「………ふふふふふ!」




金髪姫 「ふふ……おほほ……」

金髪姫 「おーっほっほっほっほっほっほっほぉお!」


水妖精 「何だあ? 気持ち悪い高笑いしやがって」


火妖精 「あらあら、うふふ、失敗の絶望で気が狂ったのかしら?」


金髪姫 「おほほほほほほ………!」

金髪姫 「瓶が一つだと、だぁーーれが言ったのかしらあ!?」


カランッ カラカラカラカラッ カランッ


火水妖精 「!?」


瓶詰め星妖精 「!?」




火妖精 「魔法の瓶があんなにたくさん……!」


水妖精 「そんなのってありかよ……!」


金髪姫 「うふふふふ……!」

金髪姫 「別に失敗なんかじゃないわよぉ」

金髪姫 「最初っから、妖精はみんな私のものにするつもりだったんだもの」

金髪姫 「そのために呼んだんですもの!」


瓶詰め星妖精 「…………!」


吟遊詩人A 「…………!」





金髪姫 「ああ、うれしいわあ。私の妖精の剥製コレクションが三つも増えるなんて」

金髪姫 「うれしすぎて狂っちゃいそう……」

金髪姫 「うふふ、ふひゅひゅひゅひゅひゅ……!」


火妖精 「は、剥製ですって……!」


水妖精 「やっぱり人間はどこまでも気持ち悪い……!」





金髪姫 「くひゅひゅっ……安心して、すぐに出してあげるから。あなたたちの力を出せないようにしてね」

金髪姫 「さあ行くわよぉ……」


キュッ……


火妖精 「……ひっ」

火妖精 「い、いや、剥製なんていや……!」


金髪姫 「くひゅっ! いいわいいわぁ……」

金髪姫 「生意気な、しかも伝説の妖精が泣きじゃくって剥製になっていく姿、声……!」

金髪姫 「想像しただけでもう、もう、もう……」

金髪姫 「うふひゅひゅひゅひゅひゅ……ッ!」


水妖精 「く、くっそぉおおお、ぶっ殺してやるからなこの死体マニアの変態めぇええ!」


金髪姫 「あああ、いいわいいわもっと抗ってみせて妖精さん……!」

金髪姫 「それじゃあ、キュポンッと………」




吟遊詩人A 「…………!」


ジャラアァアアアンッ


一同 「!?」




吟遊詩人A 「…………」

吟遊詩人A 「これより始まるは、星たちの物語……」


ディロロロロ……


貴族K 「歌いはじめた……?」


貴族J 「歌えたのか。しかし、私たちの知らない言葉だ……」




吟遊詩人A 「緑色の剣の杖。風を手に入れた勇者のナンタラカンタラ……」


ジャラン… 


兵士L 「な、何を歌っているのかさっぱり分からない」


兵士V 「ああ、だが……」


吟遊詩人A 「蹄鉄が枯れ果てた茨を踏み砕いてアイヤソレソレ……」


金髪姫 「な、何なの……」


水妖精 「身体が動かない……!」


火妖精 「歌を聞かずにはいられない……!」





吟遊詩人A 「やがて許されぬ恋がドーシタコーシタ……」


ティロロロ トロロン


貴族Q 「な、なぜだ。意味が分からないのになぜこうも……」


兵士Q 「こうも心をわしづかみにされるんだ……」


瓶詰め星妖精 「……! ……!」




吟遊詩人A 「嵐が吹き荒れてアータラコータラ……」


ギャオオオオ…… バサッ バサッ……


王様 「……ん? 何だ……」


オオオオン…… ギャア ギャア


兵士S 「鳴き声……?」


水妖精 「お、おい、これまさか……」


火妖精 「ええ、分かってるでしょ。これは……」


ザワザワザワザワ……


瓶詰め星妖精 「……! ……! ~~~~~~!」


ギャオォオオオオオッ


ドゴォオンッ


王様たち 「!?」




ガラガラガラガラ……


貴族の誰か 「な、何だ!? 天井が崩れた!」


兵士の誰か 「あっ……あれを見ろ!」


バサッ バサッ


双頭竜 「ギャオオオオオ」


王様 「り、り、竜だと!?」


バサッ バサッ


兵士の誰か 「そ、それだけじゃない……他にもたくさん……!」


翼の獣 「ギャアァアッ。ギャアアァアッ」


ペンギン 「クエーッ」


グリフォン 「クォオオオオーーッ」





貴族の誰か 「ほ、星がまったく見えない! 空が恐ろしい魔物で埋め尽くされている!」


窓際の兵士 「い、いや……まだだ……!」

窓際の兵士 「地上も……都にモンスターの群れが……!」


オオォオオオ ギャオオオオオオン


貴族の誰か 「こっちに来ている……。モンスターの黒い群れが、こっちに……」


兵士の誰か 「は、ははは……何だこれは、どうしていきなりこんな……」




城 下層



仮面女 「な、何なの、急に騒がしく……」


仮面男 「モ、モンスターだ。大量のモンスターがこの城めがけて!」


仮面メイド 「そんな、いったいどこから湧いてきたのでしょう!」


仮面執事 「皆さん落ち着いて。そして手分けして、城中に防御をかためるよう伝えるのです」

仮面執事 「まずはゲートから」


仮面男女メイド 「は、はいっ!」


ダダダダダッ


仮面執事 「…………」

魔物執事 「おかえりなさいませ、魔王さま」




都 作家Aの家



ギャオオオオオ ドシンッ ドシンッ


作家A 「……今、私は地獄の足音を聞いている」

作家A 「突如現れたモンスターたちが、都を、空を覆いつくしている」

作家A 「地面の下にも、蠢くものたちの気配を感じる」

作家A 「彼らはみな城を目指し、家屋には興味を向けないが」

作家A 「それも間もなく終わるだろう」

作家A 「この都は一夜にして廃墟と化し、いったいの人間は死に絶えるのだ」

作家A 「ああ、しかし何ということだろう。この命の極限にあって」

作家A 「魂は創造に狂い昂る。私はひたすらに、ペンを紙の上で躍らせる……」


…………




聖なる森の入り口 テント群



ドヨドヨドヨドヨ


旅人W 「お、おい、都の方の空が……」


旅人K 「何だありゃ、不吉な……」


旅人L 「あれ、魔物……じゃないのか……?」


ザワザワ ザワザワ


ヒゲの旅人A 「お、おい……」


ヒゲの旅人B 「あ、ああ……」

ヒゲの旅人B 「山を越えずに逃げて良かった……」


…………




城 パーティー会場



ギャアアアア ワーワー キャーキャー


双頭竜 「ギャオオオオオオ!」


天馬 「ブルルルルルッ!」


魔物執事 「おやおや……」


ペンギン 「クエーッ」


ドォンッ キャーキャー ギャアアアア


水妖精 「キャハハハハハ! 何てこった! 帰ってきたぞ! みんな帰ってきたぞ!」

水妖精 「夢みたいだ! みんな取り戻したぞ! アタシたちの国の復活だあ!」


火妖精 「さあ尻尾を巻いて逃げ出しなさい、愚かな大陸の愚かな人間たち!」

火妖精 「もちろん、身包みぜんぶ置いてね! うふふふふふ! あー楽しい!」




吟遊詩人A 「……ウンタンウンタンあとに残るはそよ風だけ」

吟遊詩人A 「悲しい愛の残り香だけぇー……」


ジャララッ ジャランッ ジャララッ……


カラスの魔物 「クィイイイイ」


王様 「ぎ、ぎゃああああッ!」


金髪姫 「お、お父様!? お父様ぁあああああ!」


ダダダッ


カランッ カラランッ バリンッ カラランッ


ゴトンッ


瓶詰め星妖精 「……!」


ゴンッ ゴインッ


瓶詰め星妖精 「ッ! ッッ!」


ゴロゴロゴロゴロ……




吟遊詩人A 「…………!」


ゴロゴロ…… ピタッ


瓶詰め星妖精 「……! ……!」


吟遊詩人A 「…………」


瓶詰め星妖精 「……。………」


ガサゴソッ


吟遊詩人A 「……………」


水妖精 「キャハハハハハハ!」


金髪姫 「あああ、お父様、お父様………!」


吟遊詩人A 「…………」





翼の魔物 「グルル……」


吟遊詩人A 「…………!」


翼の魔物 「グルルルル!」


吟遊詩人A 「……おい」


翼の魔物 「!?」


吟遊詩人A 「悪いが、道をあけてくれないか」


翼の魔物 「…………」

翼の魔物 「キュウン………」


ソロソロ……


吟遊詩人A 「…………」


カランッ


コツッ コツッ コツッ コツッ


吟遊詩人A 「…………」


キャハハハハハ ウフフフフフ


ゴオオオオオオオ………




…………


都の見える草原



ザッ ザッ ザッ


吟遊詩人A 「…………」


ガサゴソ


瓶詰め星妖精 「………。 ……!」


吟遊詩人A 「…………」


キュポンッ


星妖精 「ぷはっ!」


吟遊詩人A 『大丈夫かな』


星妖精 「え、ええ。声を出せない気持ちが分かったわ……」


吟遊詩人A 『そりゃあいい。私の気持ちが分かったわけだ』




星妖精 「そんなの、いつだって分かっているわ」

星妖精 「何せ心が通じ合っているんですもの」


吟遊詩人A 『そうだった』


ギャアッ ギャアッ


星妖精 「……都の声、ここまで聞こえる。風下だからかしら」


吟遊詩人A 『ああ。そうかもしれないね』





星妖精 「話し声は魔物を追い払って」

星妖精 「歌声は魔物を呼び寄せる」

星妖精 「やっかいなものね、魔王の声なんて」


吟遊詩人A 『簡単だ。無駄口を叩かなければいい』


星妖精 「もう、気楽なんだから」




星妖精 「どうして、モンスターの味方なんてしたの?」


吟遊詩人A 『お姫様は君を剥製にしようとしたが』

吟遊詩人A 『あの双子妖精は君を特にどうこうしようとしなかった』

吟遊詩人A 『理由はそのくらいかな』


星妖精 「あら、それってまるで……」


吟遊詩人A 『しいて言えば、君の味方ってことさ』




星妖精 「まあ、素敵」

星妖精 「だったら都がああなったのは、私にも責任があるってことじゃない」


吟遊詩人A 『ああ。そうかもしれないね』




ソヨソヨソヨ


吟遊詩人A 『風向きが変わった』


星妖精 「まあ、気持ちのいい風」

星妖精 「都から出てみれば、星もこんなに綺麗」

星妖精 「ちょっと寝転がって、休んでいきたい気分だわ」


吟遊詩人A 『ああ、それもいいね』

吟遊詩人A 『新しい歌でもうかんできそうだ』




星妖精 「どんな歌かしら。声には出せないけど聞いてあげるわ」

星妖精 「だって、心が通じているんですもの」


吟遊詩人A 『そうだな……』


カランッ


星妖精 「あら、それ……」


瓶詰め金髪姫 「…………! ……!」




吟遊詩人A 『瓶詰めの国を滅ぼしたお姫様の物語』


吟遊詩人A 『……ってのはどうだろう』





おわり

※これより、あんまり関係の無いおまけ




少女魔王Nの城 玉座の間




霊女商人 「……という素晴らしい伝説のある素晴らしい魔法の瓶なわけだ」


猫耳蛇娘 「どうじゃどうじゃ、すごいジャろ? 大冒険してみつけたんじゃぞう」


母性巫女 「それは、大変でしたね……」


少女魔王N 「え、ええ、本当にお疲れ様ね……」


霊女商人 「……欲しいか?」


少女魔王N 「いらん」




霊女商人 「!?」


猫耳蛇娘 「お、おぬし、これが何が分かっとるのか?」

猫耳蛇娘 「魔法の瓶! 魔法の瓶なん蛇ぞ!」

猫耳蛇娘 「あ、今の蛇は、ジャと蛇をかけた高度なシャレじゃぞ」


少女魔王N 「やかましいわよ分かっとるわよ」

少女魔王N 「はいはい魔法の瓶でしょ魔法の瓶、魔法瓶。最近魔法使いギルドがつくったやつ」

少女魔王N 「うちは間に合ってるの。冬でも心はポカポカなの。だからいらんわよ」


猫耳蛇娘 「ぜんぜん分かっとらんじゃないか」




猫耳蛇娘 「駄目じゃあ霊女商人ー。この桃髪娘は駄目駄目魔王じゃあー」


霊女商人 「そう、こいつはどうしようもないポンコツ魔王だ」


少女魔王N 「触手の海に沈めてやろうか」


母性巫女 「……魔王さま?」


少女魔王N 「じょ、冗談よ」




少女魔王N 「……とにかく、そんな作り話したって買わないものは買いませんからね」


霊女商人 「……作り話? 違うな、これは実際にあったことだ」


少女魔王N 「はいはいそうでしょうね。どうせ暇だし付き合ってあげるわよ」


霊女商人 「ふざけんないつも商品を安く売ってやってんだろうがなんだその貴様の尻みたいにデカイ態度は」


少女魔王N 「ええ感謝してるわよだから余計なことしないでよ失礼ね私のお尻は安産型だとご近所でも評判よ」


霊女商人 「黙れ付き合うご近所なんてないだろうがばーかばーか馬鹿マザコン魔王」


少女魔王N 「ええそうよ嘘ついたわよ見栄張ったわよばーかばーか馬鹿シスコン商人」




ギャース ギャース


母性巫女 「…………」

母性巫女 「あの、それで、本当にあった話というのは……」


猫耳蛇娘 「ん? おお、よくぞ聞いてくれた」

猫耳蛇娘 「その通り、魔法の瓶の話は本当にあったことなのじゃ」




猫耳蛇娘 「でも、何かおかしくなかったかの?」


母性巫女 「ええ、そうですね……」

母性巫女 「金髪のお姫様の妹が銀髪になることもあるなんて、初めて知りまし……」


猫耳蛇娘 「ややや、そこじゃなくての」

猫耳蛇娘 「こう、瓶に関係することというか……」


母性巫女 「…………?」


猫耳蛇娘 「何かその、コホンッ……どうして妖精を閉じ込める瓶に……コホンコホンッ」

猫耳蛇娘 「人間の姫が入れたのかなあ、コホンッ、とかのう……? コホンッ、コホンッ」


母性巫女 (話したいのね……)

母性巫女 「ど、どうして人間のお姫様が魔法の瓶に入れたのでしょう」



猫耳蛇娘 「な、なんと! よいところに目をつけたのう!」

猫耳蛇娘 「そこに気づかれては、話すしかないのう。いやいやしかし……これは軽々しく話しては……どうしようかのう」


チラッ チラッ


母性巫女 「……わあ、私、聞きたいなあ」


猫耳蛇娘 「おおう、そうかそうか! しかたないのう、話してやるとするかのう!」


母性巫女 「うふふ、お願いします」




猫耳蛇娘 「うむ。吟遊詩人たちの歌をもとに調べていったんじゃがの」

猫耳蛇娘 「何せ気が遠くなるほど昔の歌じゃから、大変でのう……」


母性巫女 「それは、お疲れ様でした……」


猫耳蛇娘 「で、その征伐王の子孫、つまり金髪姫じゃな」

猫耳蛇娘 「どうやら人間ではなかったようなのじゃ」





母性巫女 「まあ……! でも妖精を剥製にしようだなんて、人の所業とは思えませんものね」


猫耳蛇娘 「……おぬし、見た感じ少女なのにお母さんみたいな話のズレ方をするのう」

猫耳蛇娘 「こう、ぬるっと脱線していくというか……」


母性巫女 「ごめんなさい、気をつけてはいるのだけど……」


猫耳蛇娘 「まあ良いわ。人間ではなければ何なのか」

猫耳蛇娘 「たしかに心が歪み、何か別のものになりかけていたのかもしれん」

猫耳蛇娘 「じゃがそれ以前に、彼女は別のものだったのじゃ」

猫耳蛇娘 「分かるかの、分かるかのう?」


母性巫女 「な、何かしら。お姉さん見当もつかないなあ」


猫耳蛇娘 「ぬふふふふ……ならば教えてしんぜよう」

猫耳蛇娘 「魔法の瓶に入れる姫」

猫耳蛇娘 「彼女には、妖精の血が流れておったのじゃ」




母性巫女 「まあ、そんな……」


猫耳蛇娘 「不思議な話もあるもんじゃ」

猫耳蛇娘 「双子の妖精王を封印した人間の勇者の子孫が」

猫耳蛇娘 「妖精だなんてなあ」




母性巫女 「どこかでまざってしまったんでしょうか」


猫耳蛇娘 「むふふ」

猫耳蛇娘 「さてさて、すべての歌で双子の妖精は、征伐王に子孫がいたことに腹を立てている」

猫耳蛇娘 「あるいは水の妖精が、あるいは火の妖精が、そのことについての恨みを吐いている」

猫耳蛇娘 「これに気づいたとき、ウルトラ蛇娘ちゃん脳が驚くべき働きをみせたのじゃ」


母性巫女 「あら、すごい」

母性巫女 (ウルトラ蛇娘ちゃん脳って、何なのかしら……)



猫耳蛇娘 「もしかしたら双子の妖精はかつて、征伐王に惚れておったんじゃないかのう」

猫耳蛇娘 「しかしどちらも征伐王とは結ばれず、それどころか封印されてしまった」

猫耳蛇娘 「そして封印をとかれて外に出てみれば、自分達が得られなかった征伐王の子孫が」

猫耳蛇娘 「堕落して、自分達の国を我が物顔で支配していたのじゃ」

猫耳蛇娘 「怒りもひとしおだったじゃろうなあ」


母性巫女 「でしょうねえ……。はい、お水をどうぞ」


猫耳蛇娘 「わあい、すまんのう」

猫耳蛇娘 「わあいじゃないわいこのお母さん少女め」


母性巫女 「あはは、疲れるだろうと思って……」




母性巫女 「でも、二人とも結ばれなかったなら」

母性巫女 「どうやって妖精の血が入ったんでしょう」


猫耳蛇娘 「ぬっふっふ……」

猫耳蛇娘 「では、双子の妖精が」

猫耳蛇娘 「実は三つ子の妖精だったというのはどうかのう?」




母性巫女 「!」


猫耳蛇娘 「もう一人の妖精は双子を裏切り、自分の国も裏切り、征伐王のもとへ走ったのじゃ」

猫耳蛇娘 「征伐王はこれを受け入れ、裏切りの妖精の協力を得て魔法の瓶をつくり、双子の妖精の国を滅ぼした」

猫耳蛇娘 「……とまあ、こんな感じじゃ」

猫耳蛇娘 「どうじゃ、なかなかぶっ飛んだ説じゃないかの? えっへん」


母性巫女 「え、ええ……」




猫耳蛇娘 「む、なんかイマイチな反応じゃのう」


母性巫女 「いえ、そんな……」


猫耳蛇娘 「じゃあ単純に、征伐王が無理矢理双子の妖精に子供をうませた」

猫耳蛇娘 「というのはどうじゃあ!」


母性巫女 「はあ……は、え?」


猫耳蛇娘 「これも駄目か? ええーい、どうしたらこの瓶が高く売れそうな裏話になるんじゃあ!」


母性巫女 (うわあ……)




母性巫女 「あ、あの……本当にあった話なんじゃあ……」


猫耳蛇娘 「知るかそんなもん。たしかにそんな感じのことはあったらしいが」

猫耳蛇娘 「あれじゃぞ、吟遊詩人の歌なんて尾ひれつきまくりじゃぞ」

猫耳蛇娘 「だったらわしがつけても問題ないじゃろう!」


母性巫女 「…………」

母性巫女 「ええー……」







猫耳蛇娘 「のう、買ってくれんかのう」


母性巫女 「う、うーん……。ですが魔王さまがいらないと……」


少女魔王N 「ギャースギャース」


霊女商人 「ドギャースドギャース」


母性巫女 「まだやってる……」


猫耳蛇娘 「のうのう、いいじゃろいいじゃろ母性巫女~」

猫耳蛇娘 「こんなおもくそ物騒な胡散臭い瓶、持っていたくないんじゃ~」


母性巫女 「言っちゃったらだめじゃないですか」




母性巫女 「でも、そうですね。透明な可愛い瓶だし」

母性巫女 「ちょっと物語のあるハーブ入れを買ったと思えば……」


猫耳蛇娘 「おっ、そうじゃろそうじゃろ」

猫耳蛇娘 「のうのうお母さ~ん、買って、買ってぇ~ん」


母性巫女 「お、お母さんて……。いえ、そんな甘えた声出したって……」


猫耳蛇娘 「のうの~う、買ってくれなきゃ泣いちゃうぞう」

猫耳蛇娘 「ごろにゃんごろにゃん」


母性巫女 「も、もう……」

母性巫女 「分かりました。私のお小遣いからということで、買わせてもらいます」


猫耳蛇娘 「おお! お買い上げありがとう蛇!」




猫耳蛇娘 「いや~、しっかし恐ろしいのう」

猫耳蛇娘 「過去の事実なんて、後の人々の利益やら何やらのために」

猫耳蛇娘 「簡単に捻じ曲げられていっちゃうものなんじゃからのう」


母性巫女 「そうですね、私達も気をつけないといけませんね」


猫耳蛇娘 「うむ。邪推による蛇足もほどほどにっちゅうこっちゃ」

猫耳蛇娘 「じゃ、だけに蛇推なんてのう」

猫耳蛇娘 「にゃーっはっはっはっはっは……!!!」




母性巫女 「!」


少女魔王N 「!」


霊女商人 「!」


猫耳蛇娘 「にゃはっ、にゃはははははは! にゃーっはっはっは!」


少女魔王N 「…………」


霊女商人 「…………」


猫耳蛇娘 「にゃーっはっはっはっはっはっはっは……!!!」


母性巫女 「…………」


カランッ


母性巫女 「…………」


キュポンッ


猫耳蛇娘 「!?」




ギュイイイイイイ


シュルルルル


シュポンッ……




瓶詰め少女魔王N 「…………」


母性巫女 「…………」


霊女商人 「…………」


猫耳蛇娘 「…………」


瓶詰め少女魔王N 「…………」

瓶詰め少女魔王N 「…………」

瓶詰め少女魔王N 「……えっ!? なんで!?」



おまけ

霊女商人「胡散臭い魔法の瓶を売りつける」猫耳蛇娘「なん蛇と!?」

おわり




商人のアイテムメモ


00002番


魔法の瓶(妖精の瓶)


妖精を生きたまま閉じ込める魔法の瓶。透明。
栓を抜くと、より近くのより強い力を持つ妖精を吸い込む。

ある世界の勇者と妖精の妃が、悪い妖精を封印するために協力して作ったとされる。

わりと壊れやすい。


HTML化のあれをあれしました。あとはグダグダ何かします。
ありがとうございましたクリスマス爆発しろきゅっぷいきゅっぷい。

吟遊詩人は、話に出てこないどうでもいい別の魔王と関係。


※これより二次創作系




『村』




キュゥべえ 「やあ、驚いたなあ。山道を歩き続けて丸一日」

キュゥべえ 「まさかこんなところに村があるなんて」

キュゥべえ 「まあいいや、おかげで助かったよ」

キュゥべえ 「さて、泊まるとこを探さないとね」


メガネの少女 「…………」


キュゥべえ 「おや、ちょうどいいところに村人が」

キュゥべえ 「おうい、そこのきみー」


メガネの少女 「?」

メガネの少女 「!」


キュゥべえ 「この村に泊まれるところは……」


メガネの少女 「おんどりゃあぁぁあ!」


キュゥべえ 「うわー、ゴルフクラブらしき凶器を振り回して襲い掛かってきた!」




悪魔少女 「ほむりゃああ!」


キュゥべえ 「うわー!」


リボン少女 「うぐぅうううう!」


キュゥべえ 「お助けー!」


黒髪少女 「はあああああああ!」


キュゥべえ 「わあー!」




ヨロヨロ


キュゥべえ 「何だっていうんだこの村は。村人みんなが、ぼくを見るなり襲ってくるじゃないか」

キュゥべえ 「わけがわからないよ……」

キュゥべえ 「やや、何やらあそこに看板があるぞ。この村について何か分かるかもしれない、見てみよう」

キュゥべえ 「なになに……」


看板 『おいでませ、あけみほ村』


キュゥべえ 「……なんてこったい」



おわり

なんと。失礼しました。
ありがとうございます。

初めて来た方へ~スレに、
これ以上投下しないと決めたらHTML化依頼しましょう
って書いてあった。

ごめんなざい。

依頼したあとに書いてるスレもあるけど、
そこんとこどうなってるかは分からんです。

勉強になりましたありがとうございます。

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