自衛隊員「異世界に飛ばされちまった………」【参型】 (561)

演習中にファンタジーRPGのような世界に飛ばされてしまった自衛隊一個中隊
剣と魔法、そしてモンスターがうずまく非現実的な世界で
自衛隊は生き残りを賭けて戦う

【弐型】自衛隊員「異世界に飛ばされちまった………」【弐型】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1361332596/)
【詳細(Wiki)】http://ss.vip2ch.com/jmp/1339271696

当スレッドにおける注意事項

・sage推奨
・まとめblogその他への転載はお断りさせていただきます
・リアリティーは本土へ転進しました
・自衛隊側に独自、旧軍を想わせる設定が多数出てきます


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1366418410

手違いにより前スレがHTML化してしまったようなので
新しくスレを立てさせていただきました

狼娘は衛隊Bの手を借り、救急車へと戻された

衛隊B「はいこれ羽織って」

衛隊Bは上着の予備を狼娘に羽織らせる

狼娘「…」

狼娘は作業を進める衛隊Bを見つめる

最初はさっきの男達に捕まった娘か何かかと思ったが、
よくよく見れば、彼等と同じ奇怪な恰好をしている
それに腰にナイフを携帯している所見れば
どうにも捕まっているわけではないらしい

狼娘「(この娘も仲間…?)ねぇ…一体何なのあんた達…?」

衛隊B「その辺はあとで。それより具合は悪くない?
     どこか痛かったり、気持ち悪かったりしない?」

狼娘「それは…大丈夫…」

衛隊B「ふむ、発見した時よりひどい状態じゃないね…。
     さっきは士長達に驚いちゃったのかな?まぁ、驚くよね普通」

狼娘「あ、ああ…まぁ…」

衛隊B「えーっと、じゃあ次」

その後も狼娘は、衛隊Bに身体状態について
あれこれ聞かれる事となった

救急車の車外


FV車長と82車長が、衛隊Bから狼娘の容態を聞いている

衛隊B「記憶に少し混乱が見られます。
    多少話はできると思いますが…なるべく短時間でお願いします。
    長時間は彼女の体にさわります」

FV車長「わかった。とりあえず彼女に今の状況だけ説明しよう」

FV車長は後部扉をくぐり、救急車内へと上がる

FV車長「失礼」

狼娘「…ッ!」

上がりこんできた中年の男に、
狼娘は警戒の色を見せる

FV車長「大丈夫、そう警戒しないでください」

言いながらFV車長は反対側のベッドに腰掛けた
82車長は中には上がらず、ドア縁に肘をつき立っている

狼娘「な…一体なんなんだい、あんた達は…?」

FV車長「我々は陸上自衛隊。私はFV車長三等陸曹と言います」

狼娘「ジエイタイ…?や、野盗たちの仲間じゃ…ないのか…?」

82車長「冗談言うな。あんなんと一緒にされちゃ困るぜ」

狼娘「じゃあ、あいつらは…!?」

FV車長「落ち着いて。今からそのあたりの事をあなたに説明します。
     我々の部隊の一部が、物資調達のために星橋の街へ向かっていたんですが、
     この森を通過する時に、ここに潜伏していた者たちと戦闘になりましてね。
     そして安全確保のために彼等を追撃し、拠点と思わしきこの場所を制圧。
     そこで、あなたを発見したわけだ」

狼娘「あんた達があいつ等を…!?それで…あ、あたしをどうする気なんだ…?」

FV車長「心配はしないで。我々はあなたに危害を加えたりはしない」

狼娘「…」

狼娘「!、そうだ!あたしの仲間、商人C達は!?」

しばらく疑惑の表情を浮かべていた狼娘だったが、
仲間の安否を問い、口を開く

狼娘「三人!あたしには三人仲間がいるんだ!あいつらはどうなったんだい!?」

仲間の安否を知るべく、声を荒げる狼娘

FV車長「………」

一方で、FV車長達の表情は渋い物になった

衛隊B「あの、今の精神状態で伝えるのは…」

狼娘「なぁ、知ってるんだろう!?頼む、教えてよ!」

不安を浮かべた表情で食って掛かる狼娘
それは知りたいというよりも、不安を否定して欲しいという
懇願にも似た物だった

82車長「…後回しにしてもしょうがねぇ事だ」

FV車長「ああ、俺が話す」

FV車長は一度息を整え、座りなおす
そして狼娘を見つめて切り出した

FV車長「いいかい、気を落ち着けて聞いて欲しい…。
     我々はここを制圧したの後、あなたの仲間と思われる遺体を複数回収した」

狼娘「!」

FV車長「それと、あなたを発見した時、あなたは放心状態で…
     仲間の物と思われる首を抱いていたそうだ」

狼娘「ッ!!」

それを聞いた途端、狼娘の顔は驚愕一色となる

狼娘「あ…そう…だ…」

そして、自分に起こった事態を明確に思い出したのだろう
狼娘の顔はみるみる青色に染まっていった

衛隊B「ッ!大丈夫!?」

狼娘「だいじょうぶ…そう…か…」

アレは悪い夢だったのではないか
そんな淡い彼女の希望は、儚く崩れ去った

狼娘「し、商人Cの体は…?商人Cにあわせて…」フラッ

衛隊B「あ、ダメ!」

立ち上がろうとして、バランスを崩しかけた狼娘を
衛隊Bが支える

狼娘「しょ、商人C…みんな…」

衛隊B「…」

かける言葉が見つからず
衛隊B黙って狼娘の頭を撫でた

衛隊B「三曹、これ以上の会話は無理です」

FV車長「分かっている。今日はここまでだ、彼女には十分休んでもらう必要がある」

82車長「ひでぇもんだ…」

FV車長「衛隊B二士、その娘についててやってくれ。
     何かあれば応援を呼ぶように」

衛隊B「分かりました」

過激描写はここまでです
本当はもう少し早くに解除すべきでしたが…

後、前スレが予期せぬ形でのHTML化となってしまったので
少しの間、sage推奨を解除いたします(50レスくらいまで?)
今朝気が付きましたが、自分も何事かと驚きました




広場の端の塹壕で、隊員C等が歩哨についている
弧の字に作られた塹壕に軽機を設置し、支援Aが森を見張っている

支援A「よーぉ。いい加減コイツじゃ、心許ない気がしてきたんだけどよ。
     俺だけかぁ?」

支援AがMINIMI軽機をつつきながら呟く

隊員C「派遣小隊の連中、騎士共相手に5.56mmで苦戦したらしいぜ。
     鎧を貫通できなかったんだと」

支援A「あーぉ、そいつぁますます不安だぜぇ」

衛隊B「支援Aさんなら殴ったほうが早い気もしますけど…」

塹壕の後ろにも地面を掘り下げた壕が作られ、
隊員C達と衛隊Bは、壕の中心で燃える焚き火を囲っていた

支援A「おぉ?よーぉ、隊員Dのご帰還だぜぇ」

支援Aが、こちらへ歩いてくる隊員Dに気付いた
彼は拘束した野盗ボスへの暴行殺害の件で、
鍛冶妹の転移魔法を使い、野営地へと出頭していた

隊員D「はぁ…くそ」

衛隊B「あ、お帰りなさーい」

隊員D「ん、衛隊B?あの狼の娘についてなくていいのか?」

衛隊B「一服中です、すぐに戻りますよ。
     それに、あの娘もまた寝ちゃいましたし」

隊員D「容態はどうなってんだ?」

衛隊B「精神面は難しい状態ですが…体力的にはそれほど酷くはありません。
     獣人って言うんですか?やっぱり人間より強い体をしてるみたいで…」

隊員D「そうかい…」

言いながら、隊員Dは壕の端に腰掛けた

隊員C「でぇ、お前は一体どんだけくらってきたんだ?」

隊員D「48時間の原隊謹慎だと…」

支援A「ハッハァー、ほとんどお咎め無しだな!
     良かったじゃねぇか!」

隊員D「ああ…」

隊員Dは浮かない顔で焚き火を見つめている

隊員C「よぉ隊員D。気にくわねぇのは分かるがよ、軍隊ってヤツは
     融通の利かねぇモンなんだよ」

支援A「気持ちも分かるっちゃ、分かるけどよぉ。
     昼間のありゃぁー…すっげぇアートだったよな」

野盗ボスの有様を思い出し、なんとも言えない表情になる支援A

隊員D「当然の報いだ。なんだってあんな外道染みた事ができんだよ…」

隊員C「知ってるかぁ?生き物のシステムってのは
     道徳ってヤツと照らし合わせるとかなーり糞なんだぜ?
     この世界は俺等の世界ほどオブラートに包まれちゃいねぇからな、
     そういう糞な部分がはっきりと見えてくるのさ」

隊員D「もういい、聞きたくもねぇ…支援A、見張り代わるぞ」

支援A「頼むぜ」

隊員Dが支援Aと交代し、塹壕に入り軽機に着く

衛隊B「あ、お湯沸きましたよ」

支援A「よぉーし、俺様特製コーヒー作ってやるぜぇ。皆飲むよな?」

支援Aは沸いたお湯でコーヒーを淹れだす

隊員C「無駄に時間をかけんじゃねぇぞ」

支援A「そう言うなぁ、時間をかけるからいい味が出るんだぜぇ」

隊員C「普通でいいんだよ、泥みてぇでもない限りな!」

ぶつくさ言いながら隊員Cは、ドライフルーツを口に放り込む

衛隊B「(ホットチョコが飲みたい…)」

隊員D「そういや士長は?」

隊員C「自衛はシキツウで明日の行程を確認中だ。
     …とか言ってたら来やがったぜ」

バインダーを片手に自衛が現れた

支援A「よぉ、お疲れ」

自衛「変わりねぇか?」

隊員C「特にはな」

自衛「よぉし、全員聞け。明日は0800時から行程再開だ。
    ただし隊員D、お前は残ってFV車長達とここを守れ。
    衛隊B、お前が代わりに俺達と同行だ」

隊員D「了解です…」

隊員C「なぁんで代わりが衛隊Bなんだ?」

衛隊B「狼人間の生態系を詳しく知りたいんですよ。
     大きな街の医療施設なら、資料とかあるかなと」

自衛「狼のねーちゃんの面倒は、鍛冶妹が来て見ててくれる」

隊員C「あー、そりゃご苦労なこったね」

自衛「そんくらいだ、なんか聞きてぇ事はあるか?」

支援A「あー…特にはねぇぜ」

隊員C「ああ、質問じゃねぇんだけどな自衛、
    こいつ等じゃそろそろ威力不足じゃねぇか?
    …って話をしてたんだけどよ」

隊員Cは、支援Aの個人装備の軽機を示しながら言った

隊員C「同僚達も騎士共の装甲に苦戦したんだろ?それに5.56mmじゃ野戦で不利だ」

支援A「74式改か九二重あたりを引っ張り出すってのはどうだぁ?」

隊員C「気は進まねぇがな」

自衛「考えとこう。俺は反対側を見てくる。すぐ戻るが、しっかり見張ってろ」

自衛を見送る隊員C等

隊員C「…今日、人を焼いた人間とは思えねぇな…平気な顔してやがる」

支援A「ああ、ありゃクリスピーに焼けて最高だったな!」

昼間の戦闘を思い返し、支援Aはテンションを上げる

隊員C「お前も十分どうかしてるぜ」

隊員D「士長に限っちゃ、樺太じゃ日常茶飯事だったんだろうよ…」

衛隊B「あ、それ思い出しましたよ。一昨年の樺太県領土侵犯事件でしたっけ」

隊員C「ああ。露助の一部のパーな連中が、クーデターを起こしやがった
     糞迷惑な事件だ」

支援A「ありゃ、かなりびびったよなぁ!30年ぶりの派手なドンパチだったろ!?」

衛隊B「自衛士長、あの時樺太に居たんですか?」

隊員C「らしいぜ。当時最初に交戦した、第5混成団のどっかの普連だったか?
     どうでもいいけどよ」

支援A「で、樺太帰りでヒャッハーんなったってか?」

隊員C「だろうよ」

82車長「そいつは違うな」

支援A「あ?」

背後からした否定の声
気付けば、82車長が壕のすぐ側に立っていた

衛隊B「82車長三曹、どうしたんです?」

82車長「ちょっと一服にな」

82車長は壕に入り、座る

82車長「あ、支援A。俺にもコーヒーもらえるか?」

支援A「オーダー追加だな、任せとけ」

隊員C「おぃ、違うって一体何がだよ?」

82車長「自衛のヒャッハーっぷりさ。
     あいつは樺太で変わったわけじゃねぇ。
     教育隊の時からずっとああだ。樺太事件の時もな」

隊員D「本当ですかそりゃ?」

82車長「ああ、樺太にはかなりの数が投入されただろ。
     俺等、第1特科団も樺太に増援で行ったんだ。
     まぁー酷かった…、人が変わっちまったヤツも多くいたな…」

衛隊B「…」

82車長「だがな、あいつには別の意味で驚いた。
     当時からヤバい方向にズレてんのは知ってたけどよ、
     教育隊の時とちっとも変わらねぇ体で、平気で戦ってやがった」

支援A「ファォ…本当かよ」

隊員C「弾け飛んでるとは思ってたけどよ、根本からどうかしてやがったのか」

一同の顔がえげつないといった表情になる

自衛「俺の噂話で盛り上がってるようじゃねぇか」

衛隊B「ひゃ!?」

隊員C「もう戻って来やがった!」

支援A「ハハァ!主役の登場だぜ!」

戻ってきた自衛に驚く一同
自衛は気にせず壕へと押し入った

自衛「82車長、勝手に人をバケモノ扱いしてくれてんじゃねぇぞ」

82車長「ああ、悪かったよ」

隊員C「実際バケモンみてぇなモンだろ。中身も外見もよぉ」

自衛「口を閉じてろ、自称天才」

隊員C「へっ!」

自衛「戦闘で躊躇しねぇのは俺だけってわけじゃねぇ、
     そういう人間はいくらか居るもんだ」

82車長「どうだろうな…」

衛隊B「…」

自衛「個人差はある。だが、撃ったヤツ等が実際生き残った。だろ」

隊員C「そんくらい、言われるまでもねぇよ」

自衛「ならいい」

数秒間、焚き火のパチパチという音だけが周囲に響く

82車長「分かっちゃいるがね…邪魔したな。ごちそうさん」

支援A「まいどありー、ヒッヒィー!ってなぁ!」

衛隊B「そんな挨拶の店、二度と来たく無いです…」

82車長はコーヒーのコップを置くと、壕を出て行った

自衛「隊員D、お前も今日はもう休め」

隊員D「はい?しかし…」

衛隊B「ああ、そうですね…正直、まだちょっと顔色悪いですよ」

自衛「どうせ後二時間で施設の連中が来る。休んどけ」

隊員D「…分かりました。隊員C、代わってくれ」

隊員C「へーへー」

隊員D「先に失礼します…」

隊員Cと見張りを交代し、隊員Dは宿営テントへと歩いていった

翌朝


燃料分隊は行程を再開
昨日と同じ編成で星橋の街を目指す
ただし旧型ジープのハンドルは、隊員Dに代わり衛隊Bが握っている

支援A「でーぇ?向こうに着いたら何すんだ?」

自衛「最初に警察機構と接触だ。でかい街にはこの国の兵団が駐留してるらしい、
    そいつらに事を押し付ける」

隊員C「その後にようやくお買い物タイムってか?」

自衛「ああ、隊員Cがメガトン級アイスで死ぬ様を見届けようぜ」

隊員C「残念だったな。これでも俺様の腹は頑丈なんだよ」

衛隊B「医療機関に寄るのも忘れないで下さいね…」


82車長「…見えてきたか」

数十分走行を続け
車列の前方に、城壁に囲われた街が見えてくる

特隊A「でけぇな…ん?車長、前方からなんか来ます!」

82車長「何?」

操縦席横の銃座に着く特隊Aが、
前方、街の方向から接近する何かを見つけた

82車長「あれは…騎兵か」

双眼鏡を覗くと、確認できたのは四騎の騎兵だった

特隊A「こっちが目的かぁ?」

82車長「だろうな…前車に通達、前方から騎兵が四騎接近中。
     本隊が目的と思われる、警戒しろ」

通達を受け、全車が警戒態勢に入る

自衛「衛隊B、車列の脇に出ろ。車列を守る」

衛隊B「了解」

ジープは車列を外れ、車列を護衛できる位置に移る

自衛「隊員C、軽機に着け」

隊員C「今度は矢とか飛んで来ねぇといいよなぁ!」

車列と騎兵の距離は次第に狭まり、
肉眼で明確に視認できる位置まで近づいた所で、
先頭の騎兵が軽く手を振ってきた

82車長「82操縦手、停車だ」

お互いは距離が数メートルまで接近したところで一度停止
二騎はそのまま指揮車へと近づき、
他の二騎は警戒のためか、車列から距離を離す

隊員C「あっちも同じこと考えてやがる」

自衛「向こうのヤツ等ボウガン持ってやがる、警戒しろ。
     支援A、降車して見張るぞ」

ジープは離れた位置で停車
自衛と支援Aは降車して全体を監視する

国境の近く、星橋の街、か
なんて街に向かったのか忘れたから読み直してきたわ

>>42 43
道中、かなりダラダラしてすんませんでした…
書き出すと…


採掘施設の構築に資材が足りねぇ、星橋の街に買いに行くべ

途中の森で、汚物が襲い掛かって来たので消毒 まさに世紀末

狼娘を保護 野盗消毒その2

翌日 目的が増えて再出発 街の軍隊と接触 ←今ここ


です…街の名前、もしかして分かりにくい?

星橋騎兵長「私は星橋の街駐留、第12月詠兵団所属。星橋騎兵長と申す!
       そちらの身分、目的をお教え願いたい!」

近づいてきた二騎の内、リーダーらしき騎兵が声を上げた

82車長「こちらは陸上自衛隊 第1特科団所属、82車長三等陸曹。
     敵意は無い、あなた方の街への訪問が目的だ」

82車長が車長用キューポラ上から答える
二騎の騎兵は警戒しつつ、指揮車の横へと近づく
少しの間、車列を見渡した後に星橋騎兵長は口を開いた

星橋騎兵長「突然で申し分けないが…あなた方はもしや神兵様ではないか?」

82操縦手「まーた神兵か…」

82車長「あー、我々からそう名乗ったわけではありませんが…
     どうにもこちらの国に入って以降、
     その名で我々の噂が広まっているようで」

星橋騎兵長「やはり…!いや失礼、耳にした噂と似通った外見をしておられたので」

82車長「おそらく我々の事でしょう」

星橋騎兵長「それで、神兵の方々。我々の街を訪れられたとの事ですが、
       よろしければ、目的をお教え願えますか?」

82車長「物資調達、のはずだったんですが…お聞きしたいんですが、
      周辺の治安維持活動は、あなた方が行っているんですか?」

星橋騎兵長「?、はい…国境防衛の他、街内外の治安維持も我々の仕事です。
       現在も哨戒活動の途中でして、それが何か?」

82車長「ええ、あなた方にお伝えしなければならない事がありまして」

車列は星橋騎兵長達の案内で、星橋の街へ続く道を行く
旧型ジープは念のため、車列を見渡せる位置を保ち移動している

隊員C「くっそ、トロいなオイ!」

衛隊B「しょうがないでしょう、向こうに合わせないといけないんですから」

騎兵の速度に合わせての走行のため、車列はかなり速度を落としていた

支援A「あくびが出そうだぜぇ」

自衛「こいつで目を覚ましてやるかぁ?」

小銃を翳してみせる自衛

支援A「そんな優しくねぇモーニングコールはお断りだぜ」

自衛「じゃあ、ちゃんと警戒してろ」


星橋騎兵長は指揮車と並走し、車上の82車長と話している

星橋騎兵長「なんと…そんな事が…」

森で起こった事の説明を受け、
星橋騎兵長の顔は苦い物となっている

82車長「野盗は排除しましたが、早急にこの国の治安機構に伝えるべきかと思いまして」

星橋騎兵長「ええ、お知らせいただいた事を感謝します。
       司令部に今の件を通達してくれ」

星橋騎兵A「は!」

星橋騎兵長から指示を受けた騎兵は、馬を飛ばして先に街へと向かった

街の件、了解しました
ただ、そろそろ地図くらい作るかもしれん…

あ、あと、こっからsage推奨復活です
お願いします


車列は街の門の前までたどり着いた

星橋騎兵長「ようこそ星橋の街へ、しばしお待ち下さい」

車列は一時停止、星橋騎兵長は門の詰め所へと向って行く

星橋門番「騎兵長」

門番兵の一人が駆け寄って来る
彼のほか、門を守っている兵は
現れた自衛隊に対して、警戒の表情を浮かべていた

星橋騎兵長「大丈夫だ、彼等に敵意は無い。この街での物資調達が目的だそうだ」

星橋門番「はぁ…先程、星橋騎兵Aが駆け抜けて行ったのは?」

星橋騎兵長「ああ、彼等から緊急の報を受けてな…」

星橋騎兵町は、彼等を安心させるべく説明をする
そして一通り話し終えると、車列へと振り向き手を上げた

82車長「大丈夫みたいだな…話してくる。特隊B、代わりに銃座に上がってくれ」

特隊B「了解、気をつけて」

82車長は車内へと引き込み、サイドハッチから外へと出た

自衛「ヤツのお守だ。支援A、降車するぞ。後はこっから援護しろ」

支援A「行くぜベイビー」

82車長の護衛のため、自衛等は降車し門へと歩く

82車長「突然の来訪で、混乱させてしまったようで申し訳ない」

星橋騎兵長「いえ、それは構いません。それで、街に入る前に
       武器等の確認をさせて頂いているのですが…」

82車長「武器をですか?」

星橋騎兵長「ええ。隣国である紅の国の雲行きが怪しくなっていまして、
       現在、街へ入る方の検閲を強化しているんです、が…」

星橋騎兵長は指揮車や車両を見て、言葉を詰まらせる

星橋騎兵長「武器に値するものは…?」

82車長「あー、かなりの部分が…」

言葉を詰まらせた二人の間に、自衛が割ってはいる

自衛「何をゴタゴタしてんだ」

82車長「どうにも街は厳戒態勢らしい。持ち込みに制限があるみたいでな…」

支援A「またかよ、いちいち面倒臭ぇなぁ」

自衛「厳戒態勢なのはこっちもおんなじだ、ここ数日やっかい事続きなもんでな。
    それに物資調達に車両が無ぇとアレだ、そのへんなんとか融通利かねぇか?」

星橋騎兵長「上に掛け合ってみない事には…」

?「構わん」

突如、門の方から声がした
視線を移せば、そこには二騎の騎兵の姿があった
片方は星橋騎兵A、もう片方は体躯の良い壮年の男だった

星橋騎兵長「司令!」

?「私が許可しよう。しかし…これはなんと…」

司令と飛ばれた男は馬を下りると、指揮車や車列に驚きつつも歩み寄ってきた

支援A「誰だアンタ?」

82車長「おい、支援A…」

12司令「失礼。私は第12月詠兵団司令を務める、12司令と申します」

自衛「頭が直におでましか、手間が省けたぜ」

82車長「お前等な…こちらこそ失礼を。陸上自衛隊、第1特科団所属、
     82車長三等陸曹です」

12司令「星橋の街へようこそ」

82車長と12司令は握手を交わす

星橋騎兵長「しかし、司令自らお出向きになられるとは…」

12司令「噂の神兵様が現れたと聞いて、この目で確かめようと思ってな。
     しかしこれは…想像以上に凄まじい人達が現れたな」

82車長「すみません、お騒がせしてしまったようで…」

12司令「いえ、構いません。噂はここまで流れてきていますよ。
     突如現れた神兵様達だと」

自衛「そのダッセェ名称も、君路の野郎が勝手に言い出したんだがな。
    それより司令さんよ、俺等の本題を話しておきたいんですがね?」

12司令「ああ失礼。伝達で簡単な事は聞いていますが…ここでは難でしょう、
     司令部にご案内します」

星橋騎兵長「良いのですか司令?」

12司令「良いも何も、彼等に攻撃の意思があれば、最初から街も無事では済むまい。
     彼等の力は山を瞬く間に焼き払い、人の集団を粉微塵にしてみせると聞く」

星橋騎兵長「!」

12司令「ああ失礼、また話がずれてしまった。ともかくご案内しましょう」

ちゃんとした兵隊さん達は、絶対に自衛や支援A等の
真似をしないで下さい 大変な事になります


車列は街へと入り、騎兵隊の先導で街路を行く

隊員C「案の定、すさまじい悪目立ちぶりだな!」

自衛「あぁ、いつもの事だがなぁ」

住人達は街路を進む車列を驚きと不安の入り混じった表情で
見つめている

支援A「ヘィ!皆の衆そんなビビルなってぇ!
    スターのおでましだぜぇッ!?」

衛隊B「なんのこっちゃ」

だが、立ち上がり声を張り上げた支援Aに
住人達の顔はより一層強張った

隊員C「おい、どっかでガキが泣き出したぞ…」

星橋騎兵B「神兵様、お静かに願います!
       住人はただでさえ不安を抱えているんです…!」

旧型ジープの脇を並走していた困り顔の騎兵に
注意受ける事となった

支援A「なんだぁ、俺は場を和ませようと思ったんだぜぇ!」

自衛「お前ぇじゃ返って悪化する。黙って座ってろ」


82車長「あの馬鹿…!」

前方の指揮車上で82車長は悪態を吐いた
12司令は馬に乗り、指揮車と並走している

12司令「ははは…ユニークな方がいらっしゃるのですな」

82車長「すんません…我々のせいで人々を不安にさせてしまって」

12司令「いや…あなた方ばかりが原因ではないんですよ」

82車長「というと?」

12司令「隣国、紅の国についてはご存知ですかな?」

82車長「多少。その国に妙な動きが見られる事は耳にしていますが」

12司令「その影響です。まだ具体的な事はつかめていないのですが…
     住民の間にも漠然とした不安が広まっていましてな」

82車長「それで街へ出入りの制限を」

12司令「ええ。唯、物流などの事を考えますと、必要以上に厳しくできないのも
     現実でしてな…」

82車長「大変でしょう。ここは今まで訪問してきた街の中でも特に大きい」

12司令「はは、王都ほどではありませんが。さ、あそこが司令部です」

第12月詠兵団司令部 来賓室


12司令「何という事だ…」

森で起こった事態の詳細を受け、12司令の顔が苦いものとなってゆく

12司令「我が兵団も対魔王戦線への引き抜きで、任務内容が圧迫されているのですが…
     このような事態を許すとは…!」

82車長「この世界の情勢は我々も耳にしています、仕方の無いことです」

12司令「しかしこんな目と鼻の先で…!なんとも不甲斐ない限りです…」

自衛「司令さん。ここまでいくらかの街を見てきたが、基本的に街や村以外の場所は
     治外法権のようだが?」

12司令「ええ、ただ以前は国内の広域を兵団が巡回し、治安維持に努めていました。
     数年前には王都で、国内の安全圏を広げる政策も打ち出されたのですが…」

自衛「魔王云々がはっちゃけ出したせいでパーか」

12司令「そういう事です…」

12司令は一度深く溜息を吐いた

12司令「…暗い話になってしまった。お話の続きを」

82車長「ええ。我々はあなた方にこの事態の引継ぎをお願いしたい。
     現在現場を押さえ、生存者一名を保護。
     それと盗品らしき物品を多数預かっています」

12司令「成程…生存者についてお聞きしても?」

82車長「それが、精神に負担を負ってまして、我々も詳しい事は聞けていないんです。
     人狼の女性で、キャラバンの一員らしいという事くらいですか。
     可能なら保護願いたいのですが」

12司令「そうですか…分かりました、一名ならこちらでなんとかしましょう。
     どうするかは本人の意思次第ですが。
     兵団から選抜し、部隊を向わせます。少しお時間をいただく形になりますが」

82車長「お願いします。ああそれと…今更な報告なんですが
     現在我々の部隊の一部が、荒道の町付近に駐留しています」

12司令「荒道の町、何ゆえ…?」

82車長「自給活動のために。神兵と呼ばれていますが、我々は漂流者のような者なので…
     それの許可を頂きたいのですが」

12司令「自給活動のための駐留ですか…分かりました。
     秩序ある行動を約束していただけるのであれば、許可しましょう」

82車長「もちろんです、ありがとうございます」

12参謀「司令、よろしいのですか?」

12司令「少し特徴的な方々だが、一定の規律は感じられる。大丈夫だろう」

82車長「…所でつかぬ事を聞きますが、我々の噂は一体どこまで伝わって来ているんですか?」

12司令「どこまでかは分かりかねますが、この街では数日前から。
     私が詳細を知ったのは、先日手紙が来てからですが」

82車長「手紙?」

12司令「五森の公国の東の街はご存知だと思います。
     そこに私の娘夫婦と孫も住んでいましてな。
     無事を知らせる手紙が届きまして、その中にあなた方のことが」

自衛「山賊共とのドンパチの時か」

12司令「あなた方は個人的な恩人でもあるのですよ」

82車長「自分はその場に居た訳ではありませんが…」
     
82車長は横に居る自衛を見る

自衛「それより司令さん、他に頼みがある。この街で良い金物や工具品、資材が売ってる
    場所を教えてもらえますかね?それと、人狼に対する医療知識が分かる場所を」

12司令「それくらいであればすぐに。参謀、地図を頼む」

12参謀「は!」

地図に関しては少し時間を下さい


資材の調達可能な場所と、医療施設を聞き出し対話は終了
自衛達は司令部を出た

82車長「大分、俺等の噂が広まってきてるな」

自衛「言っただろ、時間の問題だってな。早いトコ地盤を整えるべきだ」

82車長「石油については、あの人等に詳しく説明しなくても良かったのかね?」

自衛「言ってもわかんねぇだろうし、しばらく様子見だ。
    煙に撒いとけ」

話しながら車列へと戻る
車列は司令部の前に停めてあり、残った隊員が見張っていた

隊員C「戻ってきたぜ」

衛隊B「どうでした?」

82車長「事態の引継ぎを承諾してもらった、明後日にはここの隊が派遣される」

隊員C「ああそりゃいいね!面倒は他人任せに限る」

輸送D「で、次はどうするんです?」

自衛「この街の金物屋やらを教えてもらった。手分けしてそいつの調達にあたる」

82車長「面倒は起こすな、この街にはあちこちに兵士が駐留してる。
     なんかあればすぐに飛んでくるそうだ」

輸送D「きな臭ぇ街だな」

82車長「それだけ治安維持に力を入れてるんだろう。
     特科隊と指揮車はここに残る、街中で下手に動き回ってもアレだ。
     施設A、2後支連で資材の調達を頼む」

施設A「了解」

自衛「隊員C、お前も2後支連についてけ」

隊員C「最初っからそのつもりだよ」

82車長「普通科は衛隊Bを連れて、医療施設を訪問。
     完了後、全隊ここに戻ってくるように。いいな?」

施設A「オーケー」

自衛「いいだろう」

82車長「よし解散。掛かってくれ」

自衛指揮の普通科組は街の病院施設を訪問
医療ノウハウと医薬品の提供を受けた後
物資調達中の2後支連と合流すべく、街路を進む

衛隊B「人狼と言っても特に大きな違いは無いみたいです。
     体内器官は人間と同じだそうなので」

自衛「なら楽だな」

衛隊B「医薬品も買えましたし。ただ、ちょっと出費がかさみましたね」

自衛「兵站そのものは同僚達が向こうでうまい事やったそうだ。
    だが、そろそろ手持ちの金を見繕うべきだな」

衛隊B「どんな世界でもお金とは…とと!」

街路の交差路に差し掛かり、溢れる人だかりを前に一度停車する

支援A「悪ぃな皆の衆!ちょっとお騒がせするぇぜッ!」

衛隊B「ごめんねー、通してねー」

現れたジープに、人々は慌てて左右に割れて道ができる
ジープはその人だかりの間を通り、交差路を走り抜けた

衛隊B「交通にものすごい迷惑をかけてますよね、コレ」

自衛「致し方無ぇ、それに装甲車が街並み薙ぎ倒して進むよりは良いだろ」

支援A「確かになぁ!にしてもよぉ、街中妙にピリピリしてどうにもやな感じだぜ。
     入隊する前、満洲に行った時もこんな雰囲気だったなぁ」

衛隊B「旅行ですか?」

支援A「いんや、ダチんトコを訪ねたんだ。
     一昨年のロシアちゃんのフィーバーに巻き込まれてねぇか心配でよ。
     まぁ、ダチの所は特になんも無かったんだが、
     空気が重くて、気が滅入っちまいそうだったぜ」

衛隊B「ああ、満洲にもクーデターが飛び火したんでしたっけ…」

自衛「樺太も似たようなモンだったがな。とにかく糞迷惑この上無ぇ事件だった、
     正直思い出したか無ぇな」

支援A「ハハァッ!自衛が言うと説得力あるなぁ!」

自衛「あぁ、ありがとよ」

衛隊B「あ、あれ」

自衛「あ、どうした?」

衛隊Bが何かに気付き、一軒の店の前でジープを停めた

衛隊B「あれ、隊員Cさんですよ」

衛隊Bの示す先、その店の窓越しに隊員Cの姿が見えた

自衛「あいつ何こんな所で何してやがる」

支援A「つーか、なんだぁここ?」

その店は内外に統一性の無い物が無造作に並び、胡散臭さを醸し出していた
看板の文字は“掘り出し物店 星屋”と書いてある

衛隊B「なんか胡散臭いお店…」

自衛「物資調達と関係があるようには見えねぇな。支援A、ジープを見張ってろ」

自衛と衛隊Bはジープを降り、店内へと向う


店内では隊員Cが無造作に置かれる商品を漁っていた
店主らしき青年から中年の間といった男は、その隊員Cを怪訝な顔で見ている

隊員C「おい店主、こいつは?」

隊員Cは、刃の中心が空洞になった奇妙な剣を手にして聞く

星屋店主「あー?それは機械剣の一種だ、内部に小さな刃を仕込んで飛ばせるんだよ。
      あんまし実用的じゃねぇが」

隊員C「ほぉ、そりゃおもしれぇ」

そういうが、隊員Cはその剣を荒い手つきで元に戻した

星屋店主「お客さん…なんも買わないんならいい加減帰ってくんねぇか?」

隊員C「まだ物色中だろうが、もうちっと待ってろって」

星屋店主「勘弁してくれ…」

心底ウンザリとした声を上げる店主

星屋店主「…ん?なんだ?」

その時店主は、窓の向こうに奇妙な物が停まっているのに気が付いた

ガチャ

しかしそれをよく確認する前に店の扉が開く

星屋店主「っと、いらっしゃ…い…?」

そして新たに店に入ってきた客に、店主の顔がより怪訝なものになった
入って来たのは、とにかくおぞましい風体の人物と小柄の少女だ

隊員C「あ?よぉ、自衛か」

星屋店主「お客さんのお仲間か…?」

隊員C「ああ」

自衛達は店内を見渡しつつ隊員Cへ話しかけた

自衛「お前こんな所で何してやがんだ」

衛隊B「っていうか、何ですこのお店?」

隊員C「見ての通りのガラクタ屋だ。何か使えるモンがねぇかと思ってな」

星屋店主「掘り出し物屋と言ってくれ。まぁ、ガラクタも有るっちゃ有るけどよ…」

店主は困り顔でカウンターに頬杖をつき、愚痴を吐いた

星屋店主「ん、待てよ…?奇怪な服装の集団…勝手に動く荷車…
      あんたら、もしかして噂の神兵様か?」

隊員C「あー、また神兵ときた…俺等はそんな趣味の悪ぃ呼び名を
    名乗った覚えはねぇんだけどよ!」

店主「つまり本人で合ってるんだな」

自衛「一応な。どう呼ばれてるかなんざ、知ったこっちゃねぇんだけどよ」

星屋店主「本当だったのか、しかし…想像してたのと全然違うな…
    正直、堅気かどうかも疑っちまうぞ」

隊員C「ああそうかよ。ったく…ん?」

その時、隊員Cの視線は店の隅にある本棚に向いた

隊員C「こいつぁ…」

そしてジャンルも大きさもバラバラの本棚の中から、
一番端にある本を手にし、ページをめくる

隊員C「おい、これを見ろ」

自衛「あ?」

衛隊B「はい?」

隊員Cはその本の一ページを開き、自衛達に差し出して見せた

衛隊B「これって…」

自衛「太陽系みてぇだが」

そのページには、太陽系を記したと思われる図が書かれていた

隊員C「ああ。だが見てみろよ、天体の数や配置が明らかに違うぜ…
    おい店主、この本は?」

隊員Cは手にした本をカウンターに広げて聞いた

星屋店主「んー?ああ、また妙なモンを手にしたな。
      そいつはどこぞの気ぶれ者が、天体について書いた本らしい」

隊員Cが再び内容に目を通す脇で、店主は説明する

星屋店主「俺はチラッと見ただけだが、この世界は球体で、
      他の星や月と同じように太陽を回ってるとか書いてあったぞ?
      馬鹿馬鹿しい内容だと思うがな」

隊員C「こんな店やってるお前に言われたかねぇだろうよ。
    それより、他にも似たようなモンはねぇのか?」

星屋店主「他にか…?確か書物に似たような事を書いたのがあったような…」

店主は店の奥へ引き込み、しばらくして数冊の書物を持ってきた

星屋店主「あったよ。全部、公共の図書館とかには置けない
      ふざけた本ばっかりだが」

隊員C「見してもらうぜ」

隊員Cはその一つを手にし、パラパラとページをめくる
自衛も他の本を手にし、何ページか目を通している

隊員C「よぉ自衛…細かい所は荒が目立つが、俺等の世界での天体の常識と結構近いぜ。
     天動説主流の世界でこいつはすげぇんじゃねぇか?」

自衛「どこの世界にも先進的な野郎はいるもんだ」

隊員C「所望してこうぜ、こいつはいい土産になる」

自衛「買うなら、お前の配当金から出せ」

隊員C「んだよケチ臭ぇ、分ーったよ。おい、こいつ等いくらだ?」

星屋店主「本当に買うのか?あー…合わせて60ヘイゼルだ」

隊員C「ほらよ。衛隊B、本を持ってけ」

衛隊B「はいはい…あれ?この本、全部作者が同じですよ?」

自衛「何?」

隊員Cが会計する脇で、本を持った衛隊Bが
作者の名前に気が付く

星屋店主「まぁ、こんなモンを書く人間は二人も三人もいないってことさ」

自衛「おい。それよりこいつ等を書いたパラリラ野郎が誰で、どこに居るか分かるか?
    まさか火炙りになってりゃしねぇだろうな?」

店主「なんで火炙り…?コイツを寄越したのは知り合いの仕入れ屋だが、
     それより先の事はな…
     機会があれば一応尋ねてみるが、いつになるかは分からないぜ?」

自衛「期間は別に問わん。頭の隅にでも置いといてくれりゃ良い」

星屋店主「分かった。それくらいなら」


星屋店主「ありあとあしたー」

自衛達は店を後にし、ジープへと戻る

支援A「へい、なんか面白いモンでもあったか?」

隊員C「ああ、お前に理解できるかどうかは別にしてな」

支援A「ああそうかい」

言いながら各々はジープへ搭乗し、衛隊Bがエンジンを掛ける

衛隊B「施設A三曹達はどこに?」

隊員C「この先の交差路を曲がった所だ。
     向こうの買出しも終わってる頃だろうよ」

衛隊B「やーっぱり抜け出してたんですね、隊員Cさん」

隊員C「有効的な分担作業さ。現に掘り出しモンがあっただろ?」

自衛「なんでもいい、向こうと合流してとっととズラかろうぜ。
    ここは人が多くて鬱陶しいからな」

数時間後


買出しを終えた燃料分隊は、空がオレンジ色に染まりかけた頃に制圧地域に帰還
物資を載せたトラックは、他の部隊と一緒に野営地へ戻ったが
普通科中心の部隊は、引渡しが完了するまで
この場に残り監視を続ける


右左前方!ケツから2番目!
泣かず飛ばず愚図と化した体!


監視壕付近では、携帯端末から大ボリュームで音楽が流れている

支援A「餌食ババァ!ズコンズコンしたらばLOVER!」

そして、それに合わせて支援Aが
これでもかと言う程やかましく歌っている

支援A「これが暁貴様等の…ッ!」

隊員C「うっせぇんだよォッ!支援Aッ!集中できねぇから黙ってろカス!」

支援A「硬い事言うなよ、俺等しか居ねぇんだからよ!
     夜中にこんなにはっちゃけられる機会なんざ無いぜぇ!?」

隊員D「その、一緒に居る俺等の事も考えろっつの…」

隊員C「ったくよぉ!」

一方の隊員Cは、図面片手に空を睨んでいた
壕の脇には星橋の街で手に入れた本の他、
この世界で手に入れた、多数の書物が重なって置かれている

自衛「おぉい、誰だ発動発電機で携帯充電しやがった馬鹿は?
    充電器そのままだぞ」

支援A「うぉー、俺だ!ワリィワリィ」

壕へ歩いてきた自衛は、携帯用のアダプターを支援Aに投げ渡した

自衛「私物の発電は手動ダイナモを使えっつったろ」

隊員C「細かいこと言ってやるなよ。どうせ衛生用で発電量一杯まで使ってねぇんだ」

自衛「だったらバッテリーに充電しとこうとは思わねぇのか」

隊員C「あー、分かった!分かったから後にしてくれ!」

自衛「本当に分かってんだろうな」

言いながら自衛は壕の端に腰掛ける

隊員C「丁度この時間帯なら、肉眼で観測できるはずなんだ…ッ!あったぜ!」

自衛「なんかおもしれぇモンでもあったか?」

隊員C「よく見ろ。あの微妙に梯子みたいな形した星座があるだろ?
     その隣、光り方の違う星が見えるか?
     あいつがこの星の隣にある惑星、ハルジオンだ」

隊員Cが指し示した先に、他よりも少し目立つ星があった

隊員D「あれか?花と同じ名前の星か、この世界にもハルジオンが咲いてるのかは知らんが」

言いながら隊員Dは脇に詰まれた本を手にし、惑星図のページを開いた

隊員D「えーと…エリオ、アンサンブル、リノニシア…ハルジオン、あったこれか」

自衛「あー?…この本が正しけりゃ、この太陽系の第四惑星か」

隊員C「たぶん合ってるぜその本。
     少なくともこの惑星とハルジオンの位置関係に関しちゃな。
     夕方に観測できたって事は、あの惑星がこの地球よりも太陽寄りにあるって事だ」

隊員D「この五番目のアーウィってのが俺等が居る星だろ…?
     ハルジオンは、俺等の世界で言う金星って事か?」

隊員C「そんな所だろうよ。ただし、リノニシアも金星と似たような惑星みてぇだがな」

隊員D「本当に別の宇宙に飛ばされて来ちまったってことか…」

隊員C「まぁ、そういうこった」

隊員Cは図面を畳みながら、壕へと戻って来た

隊員D「そう言えばよ。この地球、よく三つも月を引き付けてられるよな」

隊員Dは夜空に上っている、今日は二つしか見えない月を見て言う

隊員C「三つある分一つ一つが小せぇんだろ。
     見るに、一番でかくても俺等の世界の月の三分の一も無ぇ。
     それにプラスしてだ。たぶんこの地球が俺等の地球よりもデカイんだろうよ」

隊員D「ああ…そりゃ今後の旅路が楽しみだね…」

溜息を吐きながら、隊員Dは視線を本に戻す

隊員D「…惑星の並びやらも随分違うんだな。
     太陽から順にエリオ、アンサンブル、リノニシア、んであのハルジオン。
     俺等が居るアーウィ。
     メイラス、ボノ、ジャーマル、ヴォルグラティアか…」

隊員C「観測しきれてねぇんだろうが、
     ヴォルグラティアより先にもいくつか存在するだろうよ。
     たぶん四つ五つは惑星がある」

隊員D「考えるのも面倒になってきた…」

隊員Dは本を脇へ戻し、焚き火に薪をくべに掛かる

隊員C「しっかしよぉ?この世界の技術で一体どうやって、
ここまで観測できたんだろうな?」

自衛「なんらかの方法を持ってるのかも知れねぇ。是非とも面を拝みてぇモンだ」


ダメチンポ握れ!GET UP BOYS OH YEAH!


支援A「ウォーォ!バッファーローォーッ!!!」

隊員D「…だからうっせぇよ支援A!」

広場のはずれ

森の中で狼娘がたたずんでいた

狼娘「…」

彼女の足元には、人の身長サイズで盛り上がった土が三箇所
土の下には、彼女の仲間である商人C達が埋葬されている
埋葬は昼間に行われたが、その際彼女もその場に立ち会った

亡骸は隊員の手により極力綺麗にされており、
商人Cの体も衛生等が可能な限りの修繕を行った
それでも狼娘は、遺体を目にした時に
胸に鋭い物が突き刺さるような、強烈な感覚を覚えた

狼娘「商人A、商人B…商人C」

埋葬場所には、それぞれの遺品が墓標代わりとして置かれている
商人Cの場所には、彼の使っていた剣が墓標として突き立てられていた

狼娘「…ッ!」

彼女はその剣の柄を掴み、それを引き抜く
そして代わりに、自身が愛用していた剣をその場へ突き刺した

狼娘「もっと…もっとあたしが強ければ…!」

狼娘は商人Cの剣を腰に納め、広場へと戻って行った

広場へ戻ると、脇に掘られた穴の周辺で
緑服の者達が騒いでいる
ここの野盗たちを一掃したらしい、謎の集団だ

狼娘「…」

少なくとも敵ではないようだが、未だに彼等の正体が掴めない
今朝から様子を伺ってはいるが、
妙な行動をしていたり、時折内容の理解できない会話をしていたりする

狼娘「(本当になんなんだ…?)」

各々の顔立ち、服装、武器らしき物…いずれも見た事がない
そして特に目を引くのは、各所に停まる鉄の物体

狼娘「(今朝動いてたところを見ると、乗り物みたいだけど…)」

野盗たちの小屋が密集していたはずの、今は更地となった場所に
その奇怪な物体等は我が物顔で腰を据えている

衛隊B「あ、戻ってきたね」

その奇怪な物体の一つ、自身が寝かされていた荷車らしき物から
小柄の少女が近寄って来た

狼娘「大丈夫?あれから気分悪くなったりしてない?」

狼娘「あ、ああ…大丈夫」

助けられて依頼、この小柄の娘は必要に体調を気にかけて来る
どうにも医者か何かの様だが

衛隊B「良かった。大丈夫だとは思うけど、一応後でまた診察だけするから」

狼娘「ああ…分かったよ」

大丈夫?~の台詞は衛隊Bの台詞か。

>>87
ナンテコッタ マチガエタ
そうです、衛隊Bの台詞です

隊員C「ん。おい、戻ってきてるぜ」

森から戻って来ていた狼娘の姿に気付き、
隊員Cが彼女を指し示す

自衛「丁度いい、聞いて来るとするか」

自衛は壕から出て、狼娘の所へと近づく


衛隊B「他に何か困ってる事はない?」

狼娘「大丈夫だけど…。な、なぁ…それより、
    あんた達ジエイタイとか言ったけど、一体…ッ!」

言いかけた途中で、狼娘の顔が強張った

衛隊B「? ああ、士長か」

視線の先には、こちらへ近寄ってくる自衛の姿がある

衛隊B「あー、大丈夫。別に悪い人じゃないから。とって食われたりはしないよ」

狼娘「…」

衛隊Bが困り笑いで言うも、狼娘の顔は引きつったままだ

自衛「衛隊B、今いいか?ねーちゃんに聞きたい事がある」

衛隊B「ええ、話をする程度なら。硬貨の件ですか?」

自衛「ああ、早い内にハッキリさせとかねぇとな」

言うと自衛は狼娘へと視線を向ける

自衛「狼のねーちゃん。色々とあってキッツイだろうが、
    あんたに聞きてぇ事がある」

狼娘「き、聞きたい事…?」



支援A「誰ガ誰ノ為ニ産マレッ!!包ッタ体温ト愛ヲ振リマクノカッ!!!?」


狼娘「!?」

しかし話を始めようとした所で、
さらにテンションが上がった支援Aの声が割り込んできた

衛隊B「…えーっと」

自衛「ちょいと待っててくれ」

自衛は壕へ戻り、支援Aの携帯端末を掴んで曲を止めた

支援A「ウォウッ!?なんだぁオイ!?」

自衛「そこの生きとし生ける騒音公害。今大事な話をしてんだ、
     口を閉じて黙ってろ」

支援A「ああ?そんな事言うなよ!こんなハイな曲なんだぜぇ!?」

自衛「俺が言ってんのは曲じゃねぇ、おめぇそのものだ。少し静かにしてろ」

支援A「あーぉ、盛り上がってきた所だったのによぉ…!」

自衛が携帯を投げ渡し、支援Aは渋々とそれをポケットにしまった

狼娘「…あれ?あの機械…」

衛隊B「ん?携帯がどうかした?」

狼娘「ケイタイ……院生ちゃんが持ってたのと同じ…?」

衛隊B「…へ?」

その発言に衛隊Bは疑問を抱いた

衛隊B「同じって…わッ!」

自衛「どういう事だ」

が、衛隊Bがそれを聞こうとする前に、自衛が彼女を押しのけて狼娘に迫った

狼娘「…ひ、ひぃ…」

自衛「ねーちゃん、コイツと同じモンを見たような口ぶりだな?」

衛隊B「ちょ…自衛さん…」

慌てて間に入る衛隊B

狼娘「あぅぅ…う、歌とか音楽が流れて来る、あれと似た機械を見せてもらったんだ」

自衛「その院生とかいうヤツにか?何モンだ?」

狼娘「道中で会った女の子だよ…院生なんでも異世界から来たとか言ってたけど…」

衛隊B「異世界…!?」

衛隊Bは狼娘の発言に驚愕の声を上げる

衛隊B「士長…これって…」

自衛「オイ、あの100円玉まだここにあるか?」

自衛は壕で聞き耳を立てていた隊員C等に向って言った

隊員D「確か業務テントに、とって来ます!」

隊員Dは広場中央のテントに向って走り、数十秒の内に戻って来た

隊員D「ありました」

自衛「寄越せ」

隊員Dが投げ渡した硬貨を受け取り、それを狼娘に見せた

自衛「ねーちゃん、こいつはアンタが持ってたらしいな?」

狼娘「あ、それ…!野盗たちに持ってかれたかと思ってた…」

自衛「確かに連中がパクってやがった。俺等が奪い返したがな。
で、コレもその院生って娘からもらったモンか?」

狼娘「そうだけど…」

隊員C「おい…こりゃ、ほとんど当たりじゃねぇか?」

自衛「だろうな」

狼娘「…あんた達なんでそんな事まで…?
    なぁ、本当に何者なんだ…!?」

自衛「待ってな」

問いには答えずに、自衛はポケットから100円玉を掴み出し、
先程の硬貨と共に手のひらに置いて見せた

狼娘「え…?お、同じ物…!?どうして…?」

自衛「いいか。こいつは俺等の世界の、俺等の国で使われてる通貨だ。
    言ってる事分かるな?」

狼娘「!?嘘…じゃ、じゃあ…あんた達、院生ちゃんと同じ…!?」

自衛「その辺、詳しく聞かせてもらいてぇんだが」

一時間後 野営地


業務テントの内部で、補給二曹等がテーブルに広げた地図を睨んでいる
狼娘から得られた情報と照らし合わせ、院生の足取りを推測している最中だった

82車長「ここが星橋の街。で、越境してすぐの所にあるのが風精の町」

補給「その先の行路は分からないのか?」

特隊B「狼のおねぇちゃんは、いくつかの街を経由して
    北の国に向うとしか聞かなかったそうです」

補給「北の国…この笑癒の公国って国だな」

FV車長「こいつぁ厄介だぞ…どんな行路で、今どの辺を進んでるやら…」

補給「いや、その院生という人物達は徒歩だそうだ。
    我々みたいに車両での無茶は利かないはず…
    近場の町などを結んだ経路になるはずだ」

補給は地図上の町や村を、トントンと指し示す

82車長「予測を着けて、追っかけてみるしか無いですね…」

補給「だな。捜索部隊の編成を考えよう」

FV車長「やっぱ重装備で踏み込むか?この紅の国、まともとは言えないっぽいからな」

82車長「いや、捜索部隊は少数で編成したほうがいいかと」

FV車長「少数?なんでまた?」

82車長「こいつは自衛から吹き込まれたんですが…下手にゾロゾロ連れてくより、
     最低限の数で、邦人を追っかけるのに集中したほうが良いと」

補給「機動を考えれば有りだが…大丈夫なのか?何かあれば危険だぞ」

82車長「ええ。ですから、捜索部隊と別に緊急展開部隊を編成しろとか。
     ヘリを増援で寄越してもらって、そいつを中心に
     いつでも踏み込めるよう待機させとくんです」

補給「成程な」

82車長「さらに国境線近くに、装甲車を含む車両隊を」

FV車長「はぁー…どんどん話がきな臭くなって来るな」

補給「この状況だ、仕方あるまい。特隊B、通隊Aに今の件を
    陣地に知らせるよう言ってくれ」

特隊B「分かりました。具体的な内容は、データにして別途に送信しても?」

補給「問題ない、頼むぞ」

さらに数時間後 陣地改め五森分屯地


日はとっくに沈み、辺りはすっかり暗くなっていたが
分屯地内は喧騒に包まれていた

対外「邦人の可能性だってよ。本当おっもしれぇ話に尽きねぇなぁ」

隊員J「ああそうかい、それより早くその銃身寄越せ」

武器保管区画で隊員等が重機を引っ張り出し、点検を行っている
燃料隊から報告を受けた分屯地側は、増援派遣のための準備を進めていた

対外「おーけぃ、こいつらで終わりだよな?」

隊員J「ああ、とっとと持ってくぞ」

隊員J等は改良型九二式重機と予備機材を担ぎ、輸送ヘリへと向う

陣地内では他にも、増援の準備が進んでいた
車両駐車区画では、予備燃料などの積載が行われ
途中通りかかったテント内では、一曹をはじめとする曹等が
部隊編成に頭を捻っていた

対外「増援もいいが、こっちがスッカラカンになったりしてな!」

隊員J「全員が行くわけじゃねぇし、特科や11普連のヤツ等も残る事になってるだろ」

対外「まぁなんでもいい。俺等はやーっと退屈な防護任務からオサラバだぜ」

話している内に、ヘリポートへと到着した
ヘリポートでは久しぶりの飛行とあってか、航空自衛隊員等が作業に没頭している

対外「出発は明日だってのに、ご苦労なこったぁ」

本部「隊員J士長、対外士長。こっちに」

そこへ、老け顔の陸士がヘリポートの脇から声をかけてきた
彼の足元には多数の銃機が並んでいる

本部「隊員J士長。物資、弾薬のチェックは全て終わってます。
     後、残るは銃器類だけです」

隊員J「分かってる、文句はタラタラしてたこのクズに言え」

対外「ひひひ、そう言うな。結構な数だったんだぜ?」

悪びれもなく、対外は不気味な顔で不気味に笑ってみせる

本部「まぁー、少しの間活動拠点を向こうに移すそうですから、
    移送する量も多くなるんでしょう。
    それに事態が事態ですし」

隊員J「グズグズしてる暇はねぇ、個人装備だって整えなきゃならねぇんだ。
     チェックなんぞとっとと終わらせちまうぞ」

兵科事に細かく描写したいぜぇ、とか安易に思ってたらこの大惨事
本当ゴメンとしか言えない

あ、それと今更ですが、以前wikiを見やすく編集してくれた方
ありがとうございます
その後も自分が細々と書き加えさせてもらってますが…


同時刻 森の制圧広場


隊員C等は自衛から、明日の行程についての説明を受けている

自衛「以上だ。なんか質問あるか?」

支援A「あー…特にはないぜ」

隊員C「俺等は厄介ごとはスルーして、その院生ちゃんとやらを追っかけりゃいいんだろ?
     面倒に出くわしたら、緊急部隊にヘルプミーだ」

自衛「分かりやすい翻訳ありがとよ。行程開始予定は明日の0900時だ。
    全員装備を整えとけよ」

説明を終えると、自衛は壕内にドカッと腰を下ろした

隊員C「面倒が一つ片付けば次の面倒事だ。正直、コイツを見つけた時から
     嫌な予感はしてたけどよ…!」

隊員Cは野盗から押収した、例の100円硬貨を手する

隊員D「今回は邦人だぜ?放っておく訳にはいかねーだろ」

隊員C「わーってる!留守番のお前に言われるまでもねぇよ!」

隊員D「そりゃ結構な事で」

隊員C「ったく」

悪態を吐き、つまんだ100円硬貨を睨む隊員C

隊員C「……あ?」

そこで隊員Cは硬貨の妙な部分に気が付いた

隊員C「ッ…!」

自分のポケットから別の100円硬貨を掴みだし、二つを見比べる

隊員D「おぉい、何してんだよ隊員C?」

隊員C「…なんだこりゃ…おい、こいつを見てみろ!」

そう叫ぶと隊員Cは、近くにあった飯ごうをの蓋に
二枚の硬貨を並べて見せる

自衛「今度はなんだ」

隊員C「見ろ。右が連中から押収した硬貨、左が俺のだ。分かるか?」

支援A「あぁー?」

隊員D「…桜の数が違う…?」

隊員C「表に彫刻されてる桜は三つのはず。だが、押収したやつは四つあるぞ…」

自衛「ほぉ、コイツぁまた不可解だ」

隊員D「…偽モン…ってことか?」

自衛「偽モンでこんな手間暇かける馬鹿はいねぇと思うがな」

支援A「つまり、どういう事だぁ?」

自衛「さぁな。コイツの本来の持ち主を見つけて、直接聞いてみようじゃねぇか」

隊員C「チッ!クソッタレが、まーた妙な謎が増えやがったぜ…!」

と、言った後に開いたらまたレイアウトし直されている
見やすい…!

翌日 0800時
野営地付近


バラバラバラバラバラッ―――――!!!!!


航空自衛隊仕様のCH-47J輸送ヘリコプターが
野営地の上空へと飛来
巻き起こる強風に草が揺れ、砂埃が盛大に舞い上がっている

鍛冶兄「…………」ポカーン

鍛冶妹「…………」ポカーン

野営地の脇では、鍛冶兄妹がその様子を口を開けながら眺めていた

隊員C「来やがったか…!」

支援A「フゥーッ!飛んだのはこっち来て以来じゃねぇかぁ?」

輸送ヘリコプターは野営地から100m程先、
開けた場所の上空でホバリングに移行し、ゆっくりと高度を下げ始めた

鍛冶妹「なんなの…アレ…」

鍛冶兄「空を飛んでくるとは聞いてたが…」

鍛冶一家には昨日のうちに、増援が空を飛んでくる事は聞かされていた
しかし翼竜などを想像していた二人は、完全に意表を突かれ呆気にとられていた


偵察「着いたか、ヘリだと早いな」

ヘリコプターの貨物室では、隊員達が降機に備えて待機している
隊員G「小隊聞いてくれ。降りたら止まらずに野営地まで走れ。
    野営地前で一度整列、迅速にな」

輸送ヘリはゆっくりと高度を下げ、その巨体を地上へと下ろした

二尉『機長より貨物室。降機を許可、繰り返す降機を許可』

隊員G「よし。行け、行け!」

隊員A「モタモタするな!ランプ付近で留まるんじゃないぞ!」

機内で待機していた隊員等が降機を開始
後部ランプから地上へと駆け出して行く

隊員A「後ろが閊えるだろう!早く行け!」

支援B「チッ…そんな急ぐような場面でもねぇだろうに、
     鬼軍曹気取りがッ!」

隊員B「カワイイ顔もあれで台無しだかんな、もったいない」

同僚「二人ともよせ、聞こえるぞ」

悪態を吐く支援B等を止めに入る同僚

支援B「別に構やしませんよ!」

偵察「やめとけって面倒が増える。ほら降りるぞ」

各隊員の降機は着陸からものの数十秒で完了
輸送ヘリコプターがエンジンを停止
爆音と風が止み、周囲に静けさが戻って来た

二尉「オーケー、エンジン停止確認。搭乗員、先に外部点検に行ってくれ」

搭乗員「了解」

副機長「あぁ、糞ッ…久しぶりに飛んだのにほとんど何もしてねぇぞ」

二尉「愚痴は後にしろ、それよりチェック始めるぞ」

副機長「言われんでも分かってる」

機上整備士が外部点検へと向かい、コクピットでは点検が始まる

一曹「二尉、ちょいと失礼します」

そのコックピットへ、一曹が顔を出す

一曹「点呼終了次第、我々は作業を開始しますが、
    そちらの作業に何名か回しますか?」

二尉「いや、こっちは俺等だけで何とかなると思う。
    一曹さんはそっちの仕事に専念してくれ」

一曹「分かりました。よし隊員G、点呼を頼む」

隊員G「了解」

隊員Gに点呼を任せると、一曹は輸送ヘリから降り立ち野営地へと向う
そして、野営地の近くから歩いてきた補給と対面
互いに敬礼を交わした

補給「一等陸曹、月詠湖の野営地へようこそ」

一曹「色々と面倒を押し付けてすまなかったな、補給二曹」

補給「いえ、問題ありません。ヘリで来たのは…20名程ですか?」

一曹「ああ、それと物資をな。燃料と車両は隊員E達が陸路で持ってくる」

補給「そうですか。ところで無理な増援を頼んでおいてアレですが、分屯地の方は大丈夫なんで?」

一曹「特科隊や11普連が残って防護にあたっている。指揮は特科二曹に押し付けてきた。
    事態が事態だ、背に腹は変えられんよ。
    あれから状況に変わりは無いか?」

補給「良くも悪くも。特に新しい情報はありません。
    保護した子も今以上の事は知らないそうで」

一曹「そうか…仕方あるまい。捜索隊の準備の方は?」

補給「捜索分隊はほとんど準備を完了してます。
    あとは運んできた装備を搭載すれば、出発できます」

一曹「分かった、少し待ってくれ。すぐに運び出して準備しよう」

隊員G「二曹、各隊点呼完了。異常なしです」

一曹「分かった。よし各隊聞いてくれ、行動予定に変更はなしだ。
    第一分隊は野営地の移設準備の手伝いを、
    第二分隊は装備の積み下ろしに掛かってくれ。解散」

解散がかかると同時に、増援の各隊員はゾロゾロと持ち場へ移動を始める

鍛冶妹「結構な人数がいるんだね…」

隊員C「一応軍事組織だからな」

鍛冶兄「…服装も人によって少し違うんだな」

鍛冶妹「そういやそうだね。ねぇ、何か違いがあるの? 」

隊員C「今度教えてやるよ。暇があったらな」

ダルそうな声で適当に答える隊員C

鍛冶妹「教える気ないでしょ、お前…」

一方、支援Aは移動する隊員達へ声をかけていた

支援A「フゥーィ!久しぶりだなみんなぁ、元気してたか!?」

支援B「よぉ、支援A」

偵察「お前も変わらぬやかましさだな」

隊員C「あぁ、これで今日からさみしくねぇだろ?夜も安眠妨害の保障着きだ」

偵察「ご遠慮願いたいね」

一曹「おいお前等、あんまり無駄話はするなよ」

偵察「おっと、すんません一曹」

一曹「俺は別にいいが、早く動かないと隊員Aがうるさいぞ。
     ん?そこの兄ちゃんと姉ちゃんは?」

隊員C「ここん家の人間ですよ。先日は彼等と手を取り合って、
     感動に満ちた奇跡の生還を果たしましてねぇ!」

支援B「言い回しから、感動なんて微塵も伝わって来ねぇぞ…」

一曹「報告にあった協力者の方達か。色々とご迷惑をおかけしてます。
     部隊長を代行している一曹と申します」

鍛冶兄「あ、どうも…」

鍛冶妹「ご、ご丁寧に…」

一曹「お宅の前で居座ってしまって申し訳なかった。
     なるべく早いうちに移動しますんで、どうかご容赦下さい」

鍛冶兄「俺達は別にいいんだけど…」

鍛冶妹「っていうか、こっからどこかへ移るの?」

隊員C「荒地の向こう側に移るんだよ。あっち側のほうが、川も近いし
     切り出しにも便利だ。何より化け蜘蛛の監視もできる」

支援A「せっかくの原油をパーにされちゃ、たまんねぇからな!」

一曹「そういう事なんでしばしの辛抱を」

鍛冶兄「まぁ、そんなに気にしなくともいいですが」

一曹「どうも。よし分隊、早いトコ作業にかかるぞ」

支援B「了解了解」

同僚「自衛」

自衛「よーぉ同僚か、久しぶりだな。あー、何日ぶりだ?」

一方で、自衛は同僚と顔を合わせていた

同僚「五日だよ、それより色々と聞いたぞ。信じられない話も多いが…
    相当暴れたそうだな」

自衛「この辺は暴れる理由に、事欠かねぇからな。
    きな臭ぇ土地へようこそだ」

同僚「まったく…」

自衛「それより頼んだブツは持ってきたろうな」

同僚「ちゃんと持ってきたよ。私達も威力不足には悩まされたからな」

ヘリからは多数の銃器や弾薬が運び出されている

同僚「捜索分隊の分はすでに用意してある。それを持っていってくれ」


自衛「っつーわけだ、俺等用の重機は用意してあるそうだ。
    それ持って制圧地に行ってろ」

隊員C「へーへー」

支援A「さーて人探しだ、探偵ごっこと行こうぜ!」

同僚「乱暴な扱いはするなよ、優秀だが古い銃だからな」

自衛「重々承知してるさ、それより持ち出し記録は頼むぞ」

同僚「分かってるよ」

同僚はそう言うと、物資の積み下ろし作業へと戻った

鍛冶妹「…ねぇねぇ、今の人ってさ」

自衛「あぁ?」

鍛冶妹「今の人も兵士なの?」

自衛「同僚の事か?あいつも普通科隊員だが」

鍛冶妹「へぇ…あんな綺麗な人もいるんだ。ちょっと怖そうだけど…」

自衛「どうだかな」

鍛冶妹「へ?」

自衛「時間だ。隊員C、支援A、重機は任せるぞ。俺は衛生のヤツを呼んで来る」

数時間後

捜索分隊は国境線を越えた
快速機動を維持するため、編成は指揮車とジープ、隊員10名のみ
そして車両には可能な限りの装備を詰め込んだ


82車長『後方警戒車、定時報告寄越してくれ』

自衛「特に変わりはねぇが」

82車長『了解。引き続きよく警戒してくれ』

自衛「分かってる、切るぞ」

隊員C「警戒ねぇ、さっきから退屈な平野ばっかりだけどよ」

指揮車とジープは速い速度で平野のど真ん中を進んでいる

自衛「黙って目ん玉見開いてろ、ここの内情は聞いたろ」

隊員C「分かった分かった」

支援A「なぁ、そんなきな臭ぇのかよここ?一体どんな国なんだぁ?」

隊員C「紅の国とかいう名称はもう聞いたろ。
    せいぜい小さな県か市くらいの、小さな国だ」

衛生「五森の公国の半分くらいだったか?」

隊員C「ああ、だが大きく違ぇのが一つ。
     あっちに他の国は王政だが、ここは商議会だかなんだか言う
     元老院制を執ってるんだとよ」

衛生「商議会だ?」

隊員C「元々は商人だか商会だかが、この辺を拠点したのが始まりなんだと。
    そこに次から次へと人が集まって、
    カビみてぇに拡大して国になったんだとさ!」

衛生「つまり、元々は他国の領土だったんだろ?よくそんな事ができたな」

隊員C「地図を見てみろよ。この辺は元々、三つの大国の領土が隣接してたらしい。
     大国は緩衝地帯が欲しくて、建国を許したんだろうよ。
     まぁ、国っつっても駄菓子のおまけみてぇなモンだが」

衛生「駄菓子のおまけねぇ…」

隊員C「でよ。そんな半端な国が、いろんなばっちいモンの
     温床になんのはお約束ってモンだ」

衛生「森に巣食ってた連中、襲って捕まえた人間をこの国で
    売ってたとか言ってただろ…?
    士長、こいつは…」

自衛「あぁ、臭うってレベルじゃねぇな。
    あんましタラタラしてる余裕はねぇぞ」

82車長『後方警戒車、町が見えたぞ。備えろ』

話している内に、車列の前方に風精の町が見えてきた

>>146

× 隊員C「あっちに他の国は王政だが」
○ 隊員C「あっちや他の国は王政だが」


一方 露草の町

院生達は必用な物の補充のため、露草の町へ立ち寄っていた
そして町にある酒場の中に、麗氷の騎士の姿があった

麗氷の騎士「それだけか…?」

店主「ああ、ここで教えられるのはこれで全部だな」

麗氷の騎士はカウンターで店主と対面している

麗氷の騎士「情報としては随分曖昧なんだな…」

店主「おいおい騎士様。これでも貴重な情報なんだぜ?
    第一、秘宝や宝具がどれも危険で厄介なところにあるのは、
    あんたらが一番承知してるだろ?」

麗氷の騎士「それは分かっているが…」

店主「もっと詳しく知りたければ、現地に行って見るんだな。
    あんたの外見で擦り寄って行けば、
    案内してくれる男ぐらい見つかるかもしれないぜ?」

麗氷の騎士「ッ…悪いが遠慮しておく!」

麗氷はそれだけ言うと、足早に酒場を後にした

燐美の勇者「こっちは大体揃ったよ」

院生「こっちもです」

一方の院生達は、買出しを終え広場に集まっていた

院生「ところで麗氷さんは?」

燐美の勇者「酒場に行ってる。宝具の情報がそこで聞けるらしくてね」

院生「宝具…燐美さん達が探してる武器とか力の事ですよね?」

燐美の勇者「そ。今ボク達が目指してる宝具とは、別の物の情報みたいなんだけど、一応ね」

院生「成程。あ、戻ってきましたよ」

広場の向こうから、こちらに歩いてくる麗氷の騎士が見える

院生「麗氷さん、こっちです」

燐美の勇者「お帰り、買い物の方は終わったよ」

麗氷の騎士「そうか…」

燐美の勇者「どうしたの?怖い顔して?」

院生「麗氷さん、大丈夫ですか…?」

麗氷の騎士「いや、大丈夫だ…それより、すまないが情報に関しては
       期待はずれだった」

燐美の勇者「そっか…まぁよくある事だよ。少しの可能性でも当たっていかないとね」

麗氷の騎士「…そうだな」

燐美の勇者「その辺は前向きにね。それにしてもさ…」

麗氷の騎士「ああ…嫌な空気だ」

燐美の勇者達は軽く周囲を見渡す
町に入ってから、彼女達はずっと陰鬱な空気を感じていた

麗氷の騎士「どんな国も路地裏や地下に入れば、
       多少の嫌な空気は感じるものだが…」

燐美の勇者「この国の特性もあるだろうけど、ちょっとあからさまだよねぇ…」

院生「お店の人とかも、皆難しい顔してました…」

麗氷の騎士「町ひとつ移動しただけで、こうも空気が変わるとはな…」

燐美の勇者「急ごう。必用なものも揃えたし、長居は無用だよ」

燐美の勇者達は、町を出るべくその場を後にした

…スッ

追ってA「…あいつら…」

商会長「間違いないんだな?」

追っ手A「ええ、確かに森で会った勇者共です」

壮年の男と中年の男が、ある小部屋で追ってAの話を聞いている
そこは先程の酒場のカウンターの裏だった
一般の客席から隠されたそこには、少しばかり上品な小部屋が存在していた

商会長「ふむ…」

商会員A「良い機会ですな。理由は知らんが、魔王軍の魔人幹部は勇者を捕らえたがっていた。
     捕らえて引き渡せば、彼等に対しての発言権も上がるのでは?」

商会長「どうかな…だが、手駒は多いに越した事はないだろう」

追ってA「では仲間を使って、今すぐとっ捕まえさせましょう」

商会長「馬鹿者、仮にも勇者だぞ。それで痛い目を見たのを忘れたか?」

追っ手A「ッ…」

追っ手Aは、包帯で覆われた自らの右目を抑える

商会長「騎士の娘の話はここで聞いていた、奴等の次の行き先は凪美の町のようだ」

商会員A「成程、むこうの町のほうが都合が良いですな」
     
商会長「わざわざ奴等から赴いてくれるのだ、向こうでうまくやるんだ。
     それまでは監視だけ付けろ」

追ってA「分かりやした」

追ってAは小部屋から出て行った

商会長「…それとだ。草風の村の件、お主はどう見る?」

商会員A「あの村の村長、やはり気付き始めておりますな。
      商議会と魔王軍との繋がりに…」

商会長「やはり、かつては商議会の一角を担った男だな。
      隠居して老いぼれたかと思ったが…やはり野放しにはできぬか」

商会員A「奴はまだ確証を得ているわけではないようですが…」      

商会長「その前に口を封じねばならん。草風の村に雇った連中を差し向けろ。
     賊の襲撃に見せかけて、村を襲わせるんだ」

商会員A「村ごとですか?」

商会長「魔王軍側の準備もあと少しと聞いている、時間が稼げれば多少の荒事はかまわん。
     そもそもあの村には、商議会に反抗的な者も多いからな」

商会員A「それはそれは…恐ろしい」

商会長「顔が笑っているぞ」

商会員A「まぁ、かねてより草風村長の偽善的なやり方は、反感を抱くものも多かったですからなぁ」

商会長「ふん。とにかくこちらは任せるぞ、私は紅風の街に戻る。
     明日には魔王軍幹部が来る予定になっているからな」

商会員A「承知しました」

捜索分隊は、邦人が立ち寄ったらしい風精の町へと到着
町へ入る折にやはり一騒ぎあったが、なんとか町へと入った

そして手分けして町での情報収集を行った後、
分隊は一度町の入り口で終結していた

衛生「あの狼娘の話にあった宿屋を訪ねましたが、
    聞けたのは既に把握している事ばかりでした。
    具体的な行き先は不明のままです」

82車長「隊員C、そっちは」

隊員C「目新しい話はなんもだ。数時間かけて町中尋ね歩いたってのに、
     とんだ時間の無駄だったぜ…!」

82車長「ここでの動きはほとんどねーちゃんから聞いたからな。
     こんなもんか…」

自衛「肝心なのはこっから先だ。門番に聞いたが、こっから徒歩で北にある国に向うなら、
     高確率で露草の町とかいう所に立ち寄るだろうと」

隊員C「露草の町ねぇ?」

82車長「えーっとだ…」

82車長はジープのボンネット上に広げた地図に目を落とす

82車長「推測したルートと同じだな…こっから東北東にある町だ」

自衛「それとだ、途中に草風の村っつーのがある。余力がありゃ、そこに立ち寄ってる
    かもしんねぇ」

82車長「そこを訪ねてみるとするか…よぉし、行程再開だ、全員乗車しろ」

んほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

               _,|__|,_
                      ,.;x=7/>─</7ァx,
                ,ィ´///./      \//ヽ
               ,;'//////  \       ヽ/∧  安価が
               ,'//////   o|       |V∧
                  ;//////!    o!         lo}/ハ     「 'ニ)  、_
                 i//////|    o|         |o|/リ     、_,)   __) 」 だと? ルーシー
               V/////ハ__⊥ =-──┴--'--、
             ////\//|L -z、‐───=zァ7 ̄ ̄ヽ    予想外だ……
 .            //////./|ハ rテ汞ト-  ,ィァテ ∧___,ノ    この世には
           〈_//_, イ: |l:|: :〉 `冖`   /´冖'/|: |         その「安価」のために
 .              ̄ |: :|: :|l:|:/      │   ': l: :l        無償で…喜んで…
              _/l: :|: :|l:|'     -ト、ノ  / :│: ',         生命を差し出す者も
            / L:!: l : | | ヽ     --`- /l: : :l :_:_ゝ          大勢いる
      _r─‐x_ノ\l ∨ : |:l/⌒\  ー‐ ' イ┴<\
    /二二二\ \_ ∨ l:!   __` ー‐ '__|___/ ノ       たとえば
 .   /ニニニニニ∧   ヽV:/  /、   ̄二´   ,.ィ__        その者が
   {ニニニニニニハ     \/、 \____// |∧___      「女」であろうと
   /ニニニニニニニ}、 ,ィ      \_     i /  ./ ゚ \\_     ……
  r{ニニニニニニニ//。{            ̄ ̄    「 ̄\ } У \    修道女のような
  | \__二二二∠,.イ  i \_           ハ ゚ ゙ヽ 「jー-- 。〉   …………
  |ヽ.    ̄ ̄∧゚__\_l___,ノ__。 ̄了          \__厂\._/
 人 \__/  ./  / {_j       /                |  l |.l
/  \,       〈  /  /ヽ---<           -‐=   ̄ \_。_|ハ
          ∨。 ./   | |               ___|_|_∧
/`ヽ__         }/    | |        _ -‐   ̄  ̄ ̄Τl〉
ニニニ\___   l l      | |__ -‐  ̄  i:.           }ニ|

草風の村
草風村長宅


草風村長「……」

草風村長は自分の部屋で、数枚の羊皮紙に目を落としている
その羊皮紙には、ここ最近の商議会の行動や、
国内で起こる不可解な出来事等がまとめ記されていた

草風村人A「村長、失礼します」

草風村長「ん?おお、草風村人Aか」

草風村人A「月詠湖の王国への出発の準備は整いました」

草風村長「そうか、ご苦労だったな」

草風村人A「しかし、本当なのでしょうか?商議会が魔王軍と…?」

草風村長「私も信じたくは無いよ…しかし、探れば探るほどに怪しく思えてならん。
      杞憂であればそれでいいが、事実ならば早くに手を打たねばならん」

草風村人A「月詠湖の王国が、応じてくれればいいのですが」

草風村長「わからんな…今掴んでいる内容だけでは、正直確実とは言えん…」

苦い口調で言いながら、村長は羊皮紙をまとめる

草風村長「だが事実であれば、確証ができた時には手遅れだ。
      大陸も、私達のこの国もだ」

草風村人A「…」

部屋内に、しばしの沈黙が訪れる

草風村長「しかし…あの娘達は大丈夫だろうか?」

草風村人A「ああ、勇者様達のことですか?」

草風村長「中央に近い町を通ると言っていたからな…。
      勇者の名を持つ娘達を、私ごときが心配するのもおかしな話だが…」

草風村人A「きっと大丈夫ですよ。とても少女とは思えない強さを持つ娘達です」

草風村長「そうだな…おぬしも早く休め、明日早くには出発してもらわねばならん」

草風村人A「ええ、ではお先に…」

バンッ!

だがその時、部屋の扉が勢いよく開かれ、別の村人が飛び込んできた

草風村人B「村長!た、大変ですッ!」      

草風村長達は、村の北東にある櫓へと駆けつける

草風村人A「あ、あれは…!?」

草風村長「まさか…!」

そこで彼等の目に映ったのは、村の北東から迫る騎兵の集団だった

草風村人B「ならず者…にしては装備が良くないか…?」

村の見張り「…だが紅の兵じゃないぞ…一体どこの…」

ヒュゥゥ… ドスッ!ドスッ!

村の見張り「うぁっ!?」

草風村人B「ッ!」

言い終える前に、周辺広範囲に多数の矢が降り注いできた

村の見張り「な!…ひ、火矢だ…ッ!」

草風村人B「クソッ!」

おまけに鏃には漏れなく火が付いていた
各所に突き刺さった火矢は、あちこちを少しづつ焦がし始める

草風村長「(なんということ…先手を打たれたとは…!私の対応は遅すぎだったか…!)」

草風村人A「村長!」

草風村長「ッ!おんな子供を隠せ!手空きの者は武器を!」

草風村人B「はっ!」

草風村長「準備が出来次第要所を固めろ、急げ!」

村長の指示で村人達が一斉に駆け出す

草風村長「草風村人A!お主はすぐに出発の準備をしろ!」

草風村人A「は!?しかし…ッ!」

草風村長「急げ!この事を国外に伝えるのだ!」

ほぼ同時刻 草風の村の西

風精の町での調査を終えた捜索分隊は、
北東へと進んでいる


82車長「日が暮れてきた…」

時刻は0500時を回り、太陽は後少しで地平線に身を隠そうとしていた

82車長「警戒の人間は暗視装置を付けろ」

特隊A「ん…?三曹、前方を」

特隊Aが車列の進行方向を指し示す
その先に集落らしきものが見えた

82車長「目標の集落か…各車、停車してくれ」

車列が停車、集落を確認するべく82車長は双眼鏡を手にする

82車長「…確認した…が、ありゃぁ…」

双眼鏡を覗いた82車長の表情は渋い物になる

82車長「自衛、前方に集落だ。確認してくれ」

自衛『とうに見えてる』

ジープ上では自衛が同様に、双眼鏡で集落を睨んでいる

82車長「…どういう状況に見える」

自衛『お誕生会ってわけじゃねぇようだがなぁ』

集落からは多数の煙が上がり、あちこちが燃え盛っている
辺りが薄暗くなり始めるの中で、それは嫌と言うほど目立っていた

衛生『またこのパターンかよ…!』

隊員C「どーしてこう移動する度に面倒にぶち当たるのかねぇ、ホント!」

82車長「どうする…素通りするにはちょっと厄介すぎるぞ…」

一方、南側にある丘の影から様子を伺う者達が居た

傭兵A「…アレは一体なんだ?馬車には見えん」

男は遠眼鏡で車列を確認し、不可解な表情になる

傭兵B「だが人が乗ってる。なんであろうと村に近づくやつは殺せとの命令だ」

傭兵A「分かっている、行くぞ!向こうにも合図を送れ」


隊員C「…ッ!おい、丘の影からなんか出てきたぞ!」

隊員Cが丘の影を指し示す
そこから三騎が騎兵が現れ、こちらへと向ってくる

82車長「左からも三騎、警戒しろ!」

反対側からも含め、合計六騎の騎兵が車列に迫りつつあった

支援A「お出迎えかな」

隊員C「そうは見えねぇがな…!」

ヒュンヒュンヒュン!

ガキッ!ガンッ!

特科A「うぉぁッ!?」

瞬間、指揮車の側面に数発の火矢が直撃した

特隊A「火矢だ野郎!攻撃してきやがった!」

82車長「82操縦手!出せ、走れ!」

82操縦手『了解!』

82車長「警戒車!矢を避けるんだ!」

自衛「言われるまでもねぇ、衛生飛ばせ!」

ゴォォォォ! キキキキキ!

指揮車が、次いでジープが急速発進する

傭兵B「動き出したぞ!」

傭兵A「奇怪な動きを…早急に仕留めるぞ!」

傭兵達は走り出した車列を追いかけ、馬上で弓を構える

衛生「ッチ、追って来るぞ!」

自衛「蛇行しろ!奴等に照準を付けさせるな!」

ヒュンヒュン!

衛生「ッ!クソッタレ!」

車列向けて再び矢が降り注ぐが、幸い命中は無かった

隊員C「残念だったな支援A!こんなクソな歓迎しかしれくれねぇんだと!」

支援A「つれない連中だぜぇ!」

自衛「おしゃべりは後にしろ!どっちか重機につけ!」

支援A「任せろ!」

支援Aが重機につき、傭兵達に銃口を向ける
ジープの後席にはMINIMI軽機に代わり、
改良型九二式重機関銃が据え付けられていた

支援A「見ろよ、右側の連中がこっちに近づいてくるぜぇ!」

隊員C「おわびに花束でも渡してくれるのかねぇ!」

三騎の騎兵は弓による攻撃を止め、抜剣しジープへと接近し始めた

衛生「その気はねぇようだぜ!」

自衛「じゃあ用はねぇ、殺れ」

自衛が言うと同時に、支援Aが重機の押鉄を押した

ガ ガ ガ ガ ガ!!!

ヒュ!ヒュゥッ!キィ!

傭兵A「!?」

傭兵B「な、なんだ!?」

独特の発砲音と共に吐き出された7.7mm弾丸は、
傭兵達へと降り注ぎ、彼等の周辺の空気を切り裂いた

傭兵C「がぁッ!?」バチュッ

傭兵A「なッ!?」

そして接近してきた三騎の内の、一番後ろの一騎に命中
馬、人ともに血を噴出し転倒、脱落した

支援B「矢のお礼に、お届け返してやったぜぇ!」

自衛「命中が甘いぞ!こっちから奴等に寄せろ!」

衛生「了解!」

衛生がハンドルを切り、ジープは残る騎兵へと接近

傭兵B「ッ!?このッ!」スッ

接近してきたジープに対して、傭兵の一人が切りかかろうとモーションを起こす

支援A「おおっと!」カチッ

ガ ガ ガ ガ!

傭兵B「がはッ!?」バシュッ

だがその前に銃口が火を吹き、
傭兵は被弾、馬上から転げ落ちた

傭兵A「ッ!?おのれ!」

傭兵Aは馬を操り、ジープから距離を離そうとする

支援A「待てよ!まだお届け者はあるぜぇッ!」

ガ ガ ガ ガ!

傭兵A「グァッ!?」ブシュッ

だがその前に7.7mm弾の餌食となり、鮮血を噴出す

衛生「一体なんだコイツら!?」

自衛「後だ後!ハシント、右側はクリアだ!」

82車長『こっちを支援してくれ、こっちは残り二騎!』

自衛「了解。左のケツにいるヤツに接近しろ、ヤツを食え!」

衛生「了解!」

ジープは左側の後ろに居る騎兵に接近する

ガ ガ ガ ガ !

重機が数発発砲するも、動き回る騎兵に対し命中弾は無かった

支援A「アーォ!ちょこまか動きやがって!」

自衛「行進間射撃だぞ、近づくまで待て!よく照準しろ!」

ガガガ!ガガガ!

チューン!キィッ!

傭兵D「ゲッ!?」ペキョッ

その間に指揮車の50口径発砲し、前にいた一騎仕留めた

隊員C「シキツウが殺ったぜ」

自衛「最後の一匹になったぞ、仕留めろ!」

ジープが十分接近し、騎兵は照準にしっかりと収まった

傭兵E「クソォッ!」スッ

傭兵は頭に血が上ったのか、剣を振り上げて向ってくる

支援A「オーイェー!」

ガ ガ ガ ガ ガ!

傭兵「がぁッ!?」バシュッ

しかし真横からの銃撃をその体に受け、地面へと崩れ落ちた

特隊A「…全部片付いたか?」

82車長「82操縦手、一度停車しろ!ヤツ等の仲間が居ないか探せ!」

ゴォォ…

指揮車は停車し、車上の隊員達は周辺を見渡す

特隊A「…周辺に敵影無し!」

82車長「了解、だが油断できん。よく見張れ!」

グォォ…キィ!

指揮車の横にジープが乗りつける

82車長「自衛、そっちは無事か?」

自衛「特に異常無しだ」

82車長「了解…なんだったんだコイツ等は?」

自衛「さぁな。だが、十中八九あの村に関わってるだろうがな。
    お前等降りるぞ、転がってるヤツを調べる」

隊員C「へーへー、面を拝むとしようか」

自衛等は傭兵を調べるために、ジープから降りようとする

特隊A「待った!」

だがその前に、特隊Aが声を上げた

隊員C「あ?」

特隊A「集落の方見ろ!また来るぜ!」

82車長「何?」

指揮車上の特隊Aが集落の方向を示し、
82車長は双眼鏡でそれを確認する

82車長「…騎兵が新たに三騎、接近中!」

支援A「アンコールをお望みみてぇだなッ!」

支援Aは九二重の銃口をそちらへ向ける

82車長「いや…待て!なんか様子が変だ」

しかし82車長は射撃を静止した

支援A「ああ、なんじゃい?」

自衛「どうした?」

82車長「あれは…先頭のヤツ、追われてるんじゃないか?」

自衛「何?」

自衛も双眼鏡で確認する

自衛「あぁ、確かにそうっぽいな。格好も違ぇ」

先頭の一騎は、後ろの二騎から追撃を受けているようだった

隊員C「どういうこっちゃ?」

82車長「分からん。だが、あれは助けたほうがいい!」

自衛「いいだろう。指揮車はここでヤツ等の注意を引き付けろ、ジープで脇から叩く。
    衛生、右っ側に回りこませろ」

衛生「了解!」

ジープは接近する騎兵の脇に出るべく走りだす

草風村人A「ッ…はッ!」

草風村長の命により村を飛び出した草風村人Aは、
事態を隣国へ伝えるべく必死に馬を走らせていた

傭兵F「待て、この!」

傭兵G「急げ、誰一人出すわけにはいかんぞ!」

しかし村を出る折に、反対側に回りこんでいた傭兵に見つかり、
二騎の騎兵から追撃を受けていた

ヒュン!ヒュン!

草風村人A「ッ!…くそ…!」

矢による攻撃も先程から続いているが、
草風村人Aはひたすらに前を見て走り続ける

草風村人A「…?」

そして彼の目に、不可解な光景が飛び込んできた
進行方向に、濃い緑色の奇怪な物体が鎮座し、
数名の人間がその周りに展開している

草風村人A「!…回り込まれた…!?」

緑の物体についてはよく分からなかったが、
草風村人Aは傭兵の一部だと判断し、表情を苦くする

傭兵F「?…おい、前を見ろ!」

傭兵G「あれは…なんだ?」

しかし傭兵達の攻撃が止み、後ろからそんな会話が聞こえてくる

草風村人A「?…ヤツ等の仲間じゃない…?」

そう思った、その時だった

ガ ガ ガ ガ ガ!

草風村人A「!?」

唐突に聞こえ出した、何かが破裂するような音

傭兵F「な、うわ!?」

傭兵G「何だ…ぎゃぁッ!?」ブシュッ

傭兵F「お、おいッ…ぐぁッ!?」バシュッ

として次の瞬間には、後ろの傭兵達が突然血を噴出して倒れてゆく
まるで見えない矢にでも射られたかのように

草風村人A「な…!何が…!?」

突然の事態にさすがに馬を止める草風村人A
そして周囲を見渡せば、南側に奇妙な荷車が居座っていた
その上には人の姿も見える

草風村人「あれが…やったのか…?」

グォォ…

考える間もなく前方から音が聞こえる
前に居座っていた奇妙な物体が動き出し、こちらへと近寄って来る

草風村人A「ッ…!」

逃げるべきかと、馬を方向転換させようとする草風村人A
が、見れば奇怪な物体の上にいる人物が、こちらへ手を振ってきていた

草風村人A「…?」

奇怪な物体は草風村人Aへと接近し、目の前で止まる

82車長「無事か?」

そしてその物体の上に乗る、奇怪な姿の男がそう聞いてきた

草風村人A「ああ…あんた…達は…?」

82車長「あー、なんて言うべきか…とにかく、あんたに危害を加えたりはしない。心配すんな」

そう言いながらその男は、奇怪な物体の上から降りてくる

82車長「それよりあんた、あの集落の人か?」
     
草風村人A「ああ…そうだが…」

82車長「そりゃよかった、あそこで一体何が起こってんのか…
     おい、あんた大丈夫か?顔色が悪いぞ…?」

草風村人A「…大丈夫だ…それ…より…」フラッ

ドサッ

言い終える前に、草風村人Aは馬上から転落し、
地面へと倒れ込んだ

82車長「!?お、おい!」

唐突に倒れた草風村人Aに、82車長は慌てて駆け寄って行く

82車長「!…矢が…」

うつぶせに倒れた草風村人Aの背中には矢が刺さっており
衣服に血が滲み出していた

ブロロ…!

そこへジープが戻って来た

隊員C「あぁ、何してんだ?」

自衛「どうした?」

82車長「負傷してる、背中に矢をくらってるんだ!衛生見てやってくれ!」

衛生「!?了解!」

衛生がジープから飛び降り、草風村人Aへ駆け寄る

衛生「…刺さりは浅い…誰か指揮車から医療器材を!」

武器C「もうここにあるぜ」

衛生「すまん、手を貸してくれ」

医療器材を広げ、応急処置を開始する衛生
その背後から自衛等が様子を伺う

支援A「アウチ…こいつぁひでぇ…」

82車長「おいあんた、しっかりしろ!」

草風村人A「ッ…頼む、助けを…村が…襲われた…!」

草風村人Aは苦しさの混じる声で話し始める

82車長「あいつらにか?ヤツ等は一体なんだ?」

草風村人A「商議会の手先の…傭兵!ヤツ等が…魔王…軍と繋がってる…!」

隊員C「あぁ?魔王軍だぁ…!?」

草風村人A「その事を知った俺達の…口を封じに…あの野郎共…ッ!」

衛生「三曹、無理にしゃべらせると体力が」

82車長「ああ…」

草風村人A「伝えなければ…!村が…国が…!」

82車長「分かった、分かったからもうしゃべるな!傷に触る」

応急処置が進む側で、隊員C達が話している

支援A「なぁ自衛、これもいわゆる緊急事態なんじゃねぇかぁ?」

自衛「言われるまでもねぇ。通隊A、野営地に報告と緊急展開の要請をしてくれ」

通隊A「了解」

増援要請のために指揮車へと向う通隊A

隊員C「昨日の今日で早速コレかよ…面倒事はスルーしてく予定だったのによ!」

82車長「さすがにアレをほっとく訳にはいかん。
     それに、もしあそにまだ邦人が滞在してたらどうする?」

隊員C「分ーったよ、やれやれ…」

話している間に草風村人Aへの処置が一段落する

衛生「…よし。指揮車に移すぞ、手を貸してくれ」

武器C「分かった、そっちを持つ」

草風村人Aは衛生達によって指揮車へと運び込まれていった

支援A「所でよぉ、アイツが言ってた磨耗君ってなぁ一体誰のことだぁ?」

隊員C「はぁ?魔王軍だろがヴォケ!どんな耳してんだ…」

82車長「魔王とかいうのと、そいつが頭張ってる軍隊の事だ。
     よくは知らねぇが、この世界がきな臭ぇのはソイツ等が原因なんだと。
     今現在、各地の軍隊や勇者一行が殴りに行こうとしてる」

特隊B「さっきの男…その魔王軍とかとこの国の頭がつるんでるとか言ったよな?」

隊員C「ああ、みてぇだな。予想道理、いや予想以上に
    ゲロっカスだった分けだこの国は」

支援A「で、さっきのヤツ等がその手先ってか?」

特隊B「魔王軍とつるんでる商議会が、あの集落をコイツ等に襲わせたって事だよな?
     一体なんのために?」

自衛「その辺は後だ。それよりあの集落を漁りに行くぞ、なんか分かるだろ」

自衛は炎と煙を上げ続ける集落を指し示す

隊員C「あぁ?増援の連中を待つんじゃねぇのかよ?」

自衛「あと少しで日が沈むからヘリは来れねぇ、必然的に車列が来る事になる。
    到着まで二時間はかかるからな、その間に集落が消し炭になっちまうぞ」

隊員C「ああそうかい…いっそのこと消し炭になるまで飯でも食いながら見てようぜ?
    そうすりゃ、面倒事も少しはスッキリするかもしれねぇ」

隊員Cの愚痴を無視して自衛は話を続ける

自衛「俺とこの野郎で集落を見てくる。
    連絡とあの男の処置が終わったら、そっちも行動開始しろ」

82車長「あぁ、気をつけろよ」

自衛「よぉし、言いたい事は全部吐き出したか嫌味大王?斥候に行くからついて来い」

隊員C「ああ分かったよ、クソッタレ…!」

村の南西側 約200m地点

村の南西側はなだらかな斜面になっている
その斜面の上から自衛等は、村の入り口の様子を伺っていた

隊員C「見張りが…7名だな」

自衛「待て、哨戒が戻って来た」

村の門周辺には数名の軽装兵の姿と、複数の馬車止まっていた
さらに哨戒とおぼしき二騎の騎兵も戻ってくる

隊員C「はみ出しモン連中じゃねぇな、ある程度統制がとれてやがる。
     装備もアウトローのそれじゃねぇ…。
     だが、そんなヤツ等がなんでこんな辺鄙な村を制圧してんだ?」

自衛「なんかを探してるか、あるいは口封じだ」

隊員C「口封じぃ?何をだよ?」

自衛「そいつは、当事者から直接聞き出すとしようぜ」

そこへ、インカムに指揮車からの通信が入る

82車長『ジャンカー4ヘッド、こちらハシント。負傷者の収容と増援要請は完了した。
     今そっちはどうなってる?』

自衛「集落の入り口を監視中だ。入り口周辺に目視できるだけで9名。
    入り口まで遮蔽物は無ぇ、注意しろ」

82車長『了解。シキツウは敵の目前まで接近して、特科分隊を展開する。
     あと数秒でそっちに到着だ、備えてくれ』

オォォォォ…

隊員C「来たぜ」

後ろから車両のエンジン音が聞こえてくる

ゴォォォォッ!

そして自衛等の両脇を指揮車が、続いてジープが勢いよく走り抜けた

自衛「よぉし、行くぞ」

車両が駆け抜けるのと同時に、自衛等も起き上がり
村の入り口目掛けて走り出した

入り口付近で、見張りの傭兵が話をしている

傭兵H「なぁ。逃げたヤツを追い掛けた連中、やけに遅くねぇか?」

傭兵I「外周監視のヤツ等と一緒にサボってるんだろ?
     今回はそんなに気張る仕事でもねぇからな」

傭兵H「まぁな…ん?おい、何か見えるぞ」

傭兵の一人が、斜面の向こうから何かが現れたのに気付き、
南西の方向を指差す

傭兵I「あぁ……なんだありゃ?」

傭兵H「馬車…違うな、何だ…?」

ゴォォ…

傭兵I「って…は、早くないか!?こっちに来るぞ!」

傭兵H「なんだぁッ!?」

グォォォォッ!

姿を現した奇妙な物体は、わずか数秒で傭兵達の目前
数十メートルの所まで迫ってきた

ガガガガガッ!

傭兵H「ぎッ?」パキョッ

傭兵I「……は?」

そして炸裂音がしたかと思うと、
傭兵の一人の頭部が鮮血と共に弾け飛んだ

傭兵I「…あ…わあああッ!?」

傭兵J「なんだ!一体何が起こった!?」

突然現れた物体と、仲間に起こった惨劇に
見張りの傭兵達は混乱に陥った

キィィッ!

82車長「特科分隊、降車だ!展開しろ!」ガガガ

指揮車は一度停車
82車長は50口径で牽制を加えつつ、車内に向けて叫んだ

特隊A「了解。降りるぞ、行け」

武器C「行くぜ行くぜぇ!」

指揮車の後方ハッチが開かれ、指揮車の後部で待機していた特隊A等四名が降車
指揮車の両脇へと展開する

特隊A「入り口付近の敵を排除する!射撃開始!」

通隊A「了解!」

ドドド!

ドン!ドン!

展開した特科分隊が傭兵達に向けて攻撃を開始した

傭兵I「あ、あ…ぎゃッ!?」ビシュッ

傭兵K「うわッ!?な、なんだこれは…!あいつ等はなんだ!?」

傭兵J「ッ!何者だろうと敵には違いない!かかれぇッ!」

傭兵集団A「ウォォォォッ!」
     
     「野郎ォッ!」

周辺を見張っていた傭兵達が、
武器を手に指揮車へと襲い掛かって来る

ガ ガ ガ ガ ガ!

傭兵J「うがぁ!?」

傭兵集団A「痛ェッ!?」

     「な、何だ!?」

襲い掛かろうとした傭兵達の斜め横から、
何かが殴りつけるように降り注いだ

支援A「うひゃひゃひゃひゃッ!」

ガ ガ ガ ガ ガ!

指揮車より40m程東のやや後方
ジープからの支援射撃だ

隊員C「だぁ、糞ッ!」ダッ

自衛と隊員Cはジープへと追いつき、
車体の影へとカバーする

自衛「どうなってる?」

支援A「ヤツ等釘付けだぜぇッ!」ガ ガ カ ゙ガ

衛生「指揮車と特科分隊が交戦を開始!敵は向こうに集中してます!」

自衛「それでいい、ヤツ等を釘付けにし続けろ!特科の連中を支援するんだぁ!」

衛生「待った、敵の騎兵が動きます!」

入り口東側に待機していた騎兵が、指揮車に向けて動き出すのが見える

自衛「指揮車に近づけさせるな、仕留めろ!」ジャキッ

衛生「了解!」カチャッ

ドドド!ドドド!

自衛等は銃撃を開始
指揮車へ迫ろうとする騎兵へ、小銃による銃撃が集中する

傭騎兵A「ぐっ!?」ブシュッ

傭騎兵B「ッ!くそ…」

隊員C「おとなしくしてろッ!」ドドドド

傭騎兵B「うがッ!」ドシュッ

走り出したばかりで低速の騎兵二騎は、
小銃の銃火の餌食となって倒れた

隊員C「おい見ろ、特科のヤツ等が前進するぜ!」

指揮車と随伴する特科分隊が、ゆっくりと前進を再開するのが見える

自衛「俺等も前進だ。衛生、ジープを入り口の真横、ヤツ等を殴れる位置まで持ってけ!」

隊員C「よぉ、支援A!撃つ時はよーく冷やしてから撃てよ、二重の意味でな」

支援A「はぁ?」

隊員C「銃身と、お前のココさ」

隊員Cは自らの頭を指差しながら言った

支援A「うぇー、ご心配ありがとよ…!」

自衛「トンチは後にしろ糞馬鹿共!衛生、行け!」

衛生「了解!」

グォォッ!

ジープは回りこむべく東側へと発進

自衛「隊員C、俺等は前進だ。行くぞ」

自衛等は前進を開始した

ドドド!

ドド!

傭兵K「ウガッ!?」ビシュッ

傭兵L「げッ!?」グチャッ

最初に切り掛かろうと迫ってきた傭兵数名は、
重機による足止めの後、特科の銃撃により撃破されていった

特隊A「まだ他にも残ってるぞ、隠れてるヤツを片付けるんだ!」

武器C「待った!入り口から数名出てくる!」

集落の入り口から、増援の傭兵が駆け出してくるのが見える

特隊A「チッ!展開させるな、入り口付近に銃撃を集中しろ!」

特科分隊は、入り口付近への攻撃を開始しようとする

弓傭兵A「クソッ…!」ググッ

ヒュン!

ガンッ!

武器C「おぁッ!?」

だが次の瞬間、放たれた一本の矢が武器Cの鉄帽へ直撃した

特連A「武器C!」

特隊B「弓兵だ!櫓の上に弓兵二名!」

ヒュ!ヒュンッ!

カンッ!ドスッ!

通隊A「危なッ!?ざけんなッ!」

特隊A「誰か、櫓の弓兵を仕留められないか!?」

82車長『特隊A!こっちからヤツ等を弾き飛ばす、待ってろ!』

指揮車がゆっくりと前に出て、
50口径の銃口が櫓に向けて火を吹き出した

ガガガガガッ!

弓傭兵A「がッ!?」バキュッ

弓傭兵B「げへッ!?」グシャッ

12.7mm弾が櫓へと注ぎ込まれ、弓兵達は櫓ごと粉微塵になった

通隊A「おい武器C!大丈夫か?」

武器C「怪我は無いです…ビビらせやがって糞めが!」

特隊A「まだ敵は居るぞ!銃撃の手を止めるな!」ドドド

弓兵に注意が逸れた数秒の間に、
地上の傭兵達が散会しつつ迫ってきていた

武器C「糞!地上の連中がばらけちまった!」

特隊A「各個撃破しろ!」

ガガガガガ!

ドド! ドドド!

傭兵M「いがッ!?」ドシュッ

迫る傭兵達を迎え撃つ指揮車と特科分隊

通隊A「ッ!再装填する、援護してくれ!」

武器C「団子みたいに固まってりゃいいものを!」ドドドドド

ヒュッ! 

ドスッ! ドスッ!

武器C「うおッ!地上にもボウガン持ちだ!複数!」

特隊B「おい、面倒臭いぞこりゃ!」ドン ドン

特隊A「ジャンカー4!敵が横隊でバラけて迫ってくる!
    こちらの位置関係では優位な攻撃ができない!横から支援射撃を!」

自衛『待ってろ!ジープがヤツ等を殴れる位置に向ってる!
    俺等もすぐ射撃位置に着く!』

キキキキキ!

傭兵N「ッ!」

ジープが傭兵達を狙える位置へと滑り込んでくる

衛生「位置に着いたぞ!支援A!」

支援A「任せとけってェ!」カチッ

ガ ガ ガ ガ ガ!

傭兵N「ぐッ!?」ブシュッ

傭兵集団C「がぁ!?」ドシュッ

     「う、うわ!?」

重機の押鉄が押され、
指揮車へ迫る傭兵達の真横から、7.7mm弾が降り注いだ

隊員C「べっ!」ドサッ

自衛「着いたぞ、殺れ!ヤツ等に集中砲火だ!」ドドドドド

自衛等は射撃位置へと到着し、7.7mm弾を浴びる傭兵達へ
射撃を開始する

特隊A「足が止まったぞ!自由に発砲しろ!」

ドドド! 

ドド! ドド!

傭兵集団D「うぎゃぁぁッ!?」ドチュッ

     「な、なんだって言う…うがぁ!?」バシュッ

さらに釘付けになった傭兵達に、特科分隊も攻撃を再開

弓傭兵C「あ、あああ…」

傭兵O「嘘…だ…」

傭兵達は三方向からの集中砲火を浴び、次々と倒れていった

特隊A「撃ち方止め、撃ち方止めーッ!」

銃撃が止み、周辺に一瞬静寂が訪れる

特隊A「…報告しろ」

特隊B「向ってくる敵影、ありません」

武器C「同じく敵影無し!」

向ってくる傭兵の姿は無く、入口から指揮車までの間には
複数の死体が列を成すように転がった

82車長「特隊A、入口周辺を確保するぞ」

特隊A「了解。特科分隊前進だ」

指揮車と特科分隊は集落の入り口まで前進する

82車長「先行する、支援してくれ」

指揮車が先行し、入口から集落の敷地内へと乗り入れる
特科分隊がそれに続いて入口をくぐり、指揮車の周りへと展開してゆく

特隊B「敵影無し」

武器C「確保!」

特隊A「見張りの連中は片付いたか…」

82車長「警戒は続行しろ。またいつ沸いて出てくるか分からねぇぞ」

グォォォォ…!

そこへ、後ろから自衛等とジープが追いつき、合流する

自衛「よぉ、どうだ?」

82車長「この辺は片付いた。ただ、こいつらで全部…なんてこたぁ無ぇよな」

自衛「あぁ。きっと村の中でコイツ等の本隊が、何かやらかしてるだろうよ」

一方、転がる傭兵達の死体を眺め、衛生等が怪訝な顔を浮かべている

衛生「見張りの人数としちゃ、大げさ過ぎだ…この村の何が目的なんだコイツ等…?」

隊員C「限りなく臭ぇぞー、こりゃ」

82車長「それも気になるが、住人の安否も心配だ…村の中を調べるぞ。
     指揮車が先行する。
     特科分隊、指揮車の後方に展開して街路を警戒しろ」

特隊A「了解」

82車長「普通科はジープから重機の支援を」

自衛「任せろ」

話の途中ですが、地図ができたのでアップします
見やすいとは言えませんが…

地翼の大陸 全体図
ttp://i.imgur.com/s95IGnR.jpg

五森の公国 近隣図
ttp://i.imgur.com/CSQDRM0.jpg

捜索分隊は村の探索を開始


指揮車が先行して道を進み、その後方を特科分隊が続く
普通科とジープは一番後ろに位置し、重機で先行を援護する

武器C「ひでぇな」

とうに日は落ちたというのに、
村の中は各所から上がる火によって、明るく照らされていた

特隊A「荒れまくりだな」

通隊A「倒れてるの、ここの住人か…?」

所々に、村の住人と思われる死体が横たわっている
そして家屋の内部を覗き込めば、そのほとんどは荒らされていた

82車長「前方に十字路だ。先に出るぞ、援護を頼む」

特隊A「了解、各員周囲を警戒しろ」

ゴォォ…

指揮車は建物の影から、前方の十字路の中心へ出る

82操縦手「車長、車内に入ってください」

82車長「気が進まねぇな、スコープじゃ見通しが悪い…」

82操縦手「矢とかぶっ刺さるよりゃマシでしょう」

82車長「ああー、分かった」

82車長が車内へ入ろうとした時

ボッ…!

82車長「あ?」

一瞬、前方右側の家屋で何かが点滅する
そして82車長がそちらに視線を向けると…

ヒュゴォォッ!!

82車長「はぁぁぁッ!?」

目に移ったのは、こちらへ向けて飛んでくる
直径1mはあろうかという炎の玉だった

ボゴォォッ!

飛んできた炎の玉は、指揮車の前方右側面に直撃

82車長「ど熱ッち!?糞ッ!」

幸い82車長に直撃はしなかったが、彼はその熱に大慌てで車内へと引き込んだ

隊員C「おげぇッ!?」

支援A「なんだぁ、今のはぁッ!?」

その様子は後続にも当然確認できていた

82操縦手「ふざけてやがるッ!」グッ

キキキキキッ!

82操縦手は指揮車を後進させ、指揮車は建物の影へと引き込んだ

82操縦手「ッ!車長、生きてますかぁ!?」

82車長「ありえねぇ…大丈夫だ、そっちは!?」

82操縦手「こっちは平気ですが…!今のは!?」

82車長「炎の玉、火炎攻撃だ!クソッタレ!」

悪態を吐きながら車上へと上がる82車長
指揮車の被弾した箇所は、塗料が焦げていた

自衛「82車長、黒焦げにはなって無ぇようだな!」

82車長「あぁ…だが、最高にふざけてやがるぜ…!」

ボォォッ! ドゴォッ!

武器C「どぉわ!?」

特隊A「奥に隠れろ!ヤツの視界に入るな!」

またしても炎の玉が飛来し、今度はこちら側の家屋に直撃
壁の一部を焦がした

隊員C「ッ!…炎だけみてぇだな、燃焼剤とかをぶちまけてる分けじゃねぇ」

特隊B「けど直撃すりゃ一発で火達磨だぞ…」

特隊A「どっからだ、一体?」

武器C「おそらくあそこです、向かいの建物の三階」

ヒュッ! ドスッ!

武器C「うぁッ!糞ッ!」

覗き込んだ武器C等に向けて、今度は矢が降り注いだ

特隊B「弓兵もいるぞ…クソッタレ!」

自衛「黙らせるんだ!誰かてき弾をあそこに叩き込め!」

武器C「俺が!」

自衛「隊員C、支援A。武器Cがてき弾を叩き込んだら向こうまで行くぞ!」

隊員C「マジかよ」

自衛「家を押さえて視界を確保、ついでにふざけた野郎の面を拝むんだ。接近戦に備えろ。
    他は突っ込む時に支援を頼む」

82車長「オーケー」

隊員C「ッ、分ーったよ」

自衛「衛生、お前は消火器を用意しとけ、無いよりはマシだ。
    それと、絶対指揮車より前に出るな」

衛生「分かりました、気ぃつけて下さい」

武器C「準備完了しました」

武器Cがてき弾を装填した小銃を手に、建物の影で待機する

自衛「隊員C、支援A、備えろ。よぉし武器C、やれ」

武器C「了解…くらいやがれッ!」カチッ

武器Cは遮蔽物からわずかに身を乗り出し、家屋に向けて引き金を引いた

ドゴォッ!

自衛「行け、行け!」

支援A「ヒッハァー!」

撃ち込まれたてき弾は建物の三階窓から入り、内部で炸裂
同時に自衛等が道へと飛び出した

特隊A「支援射撃!」

ドドド! ドドド!

自衛等が飛び出すのに合わせて、特科分隊は建物三階に向けて射撃を開始
支援射撃の元、自衛等は道を横断
反対側の建物の元へとたどり着いた

隊員C「おい、さっきの少しズレてなかったかぁ?」

てき弾は三階に飛び込み、少し奥で炸裂した様だった
隊員Cは、それによる殺傷効果の不足をぼやく

自衛「てき弾はあくまで目くらましだ、俺等が仕留めるんだ。それより窓をやれ」

隊員C「へーへー、オラッ!」ガシャッ

窓を破り、隊員Cが先に内部へ突入
薄暗い部屋の中を確認する

隊員C「ッ!…誰もいねぇ!」

自衛「廊下に出ろ、一階を洗いながら階段を探せ!」

自衛と支援Aが続いて内部へと入り
一階の探索を開始
面積の広い家ではなく、一回はすぐに無力化した

隊員C「一階は空だぜ、荒れ放題だけどな」

支援A「ヘイ!こっちに階段あったぜぇ!」

自衛等は二階への階段前で集結する

ボゥッ…!

隊員C「ッ!おい、今の…」

その時、外から微かに炎が燃え盛るような音が聞こえた
次いで、インカムに通信が入る

82車長『自衛、聞こえるか?上からまた火炎攻撃だ!上の連中まだ生きてるぞ!』

隊員C「チッ!見ろ、やっぱりだぜ!」

支援A「隊員C、お前ぇの予感はいっつも当たるよな。嫌な事だけだけどよぉ!」

隊員C「うっせぇな黙ってろ!」

自衛「隊員Cの予感がどうだろうと、ヤツ等は黙らせるんだ。行くぞ」

隊員C「へいへい、前向きでうらやましいね、糞!」

自衛が先に立ち、二階への階段を上る

ガタッ!

傭兵P「ッ!?」

そして上がり切った所で、近くの部屋から出てきた傭兵と鉢合わせた

傭兵P「入り込まれた!?ッ、うおぉッ!」バッ

傭兵は手にした剣を振りかざし、切り掛かって来ようとする

自衛「邪魔だどけ!」

ドドド!

傭兵P「ぐぁっ!?」パシュッ

しかし傭兵は接近する前に射殺された
自衛は傭兵の体を脇へを転がす

自衛「支援A、階段見張ってろ。先に二階を掃除する」

支援A「任せとけ」

自衛「隊員C、そこの部屋はどうだ?」

自衛は手前の部屋を覗き込んでいる隊員Cに問う

隊員C「空だ、ひでぇ荒れようだがな」

自衛「よぉし、奥の部屋を片付けるぞ」

自衛と隊員Cは奥の部屋の入り口へと走る
そしてドアを突き破り、自衛が押し入った

傭兵Q「!?」

部屋内に居た傭兵は三名、いずれも突然の乱入者に驚愕する

傭兵Q「なッ!傭兵Pはやられたのか!?」

傭兵R「ッ!うぉぉッ!」バッ

即座に一人の傭兵が、抜剣し迫ってくる

ドンッ!

傭兵R「がっ!?」グシュッ

が、自衛の撃った小銃弾の餌食となった

傭兵S「な!?あがっ!?」グシュッ

自衛は続けて斜め後ろに居た傭兵を射殺

傭兵Q「クソォォッ!」グォッ

隊員C「うぜぇんだよッ!」

ドドド!

傭兵Q「ごッ!?」ブシュッ

最後の一人の傭兵が迫っていたが、後続の隊員Cに射殺された

隊員C「ボケがッ!」

自衛「よぉし、他にはいねぇ」

部屋内にそれ以上の傭兵の姿は無かった
その部屋の中も、他の家屋同様ひどく荒らされていた

隊員C「片っ端から引っくり返してやがる、コイツ等何を漁ってたんだ?」

自衛「さぁな。それよか、先に上の不愉快な連中を片付けるぞ」

自衛等は部屋を出て、階段へと戻る

支援A「ヘーイ!お掃除は完了ォかぁ?」

自衛「片付いた、三階にお邪魔するとしようぜ」

傭兵Q「なッ!傭兵Pはやられたのか!?」

傭兵R「ッ!うぉぉッ!」バッ

即座に一人の傭兵が、抜剣し迫ってくる

ドンッ!

傭兵R「がっ!?」グシュッ

が、自衛の撃った小銃弾の餌食となった

傭兵S「な!?あがっ!?」グシュッ

自衛は続けて斜め後ろに居た傭兵を射殺

傭兵Q「クソォォッ!」グォッ

隊員C「うぜぇんだよッ!」

ドドド!

傭兵Q「ごッ!?」ブシュッ

最後の一人の傭兵が迫っていたが、後続の隊員Cに射殺された

隊員C「ボケがッ!」

自衛「よぉし、他にはいねぇ」

部屋内にそれ以上の傭兵の姿は無かった
その部屋の中も、他の家屋同様ひどく荒らされていた

隊員C「片っ端から引っくり返してやがる、コイツ等何を漁ってたんだ?」

自衛「さぁな。それよか、先に上の不愉快な連中を片付けるぞ」

自衛等は部屋を出て、階段へと戻る

支援A「ヘーイ!お掃除は完了ォかぁ?」

自衛「片付いた、三階にお邪魔するとしようぜ」

やっちまった 連投しちゃった

建物三階の部屋


部屋内には二人の傭兵の姿があった

傭兵魔道士「ッ…一体なんなんだアイツ等…!?」

傭兵T「火炎攻撃も利かなかった…信じられん…」

この部屋で見張りをしていた彼等だったが、
窓から叩き込まれたてき弾の炸裂で、見張りの傭兵の一人が死亡
その傭兵の亡骸は部屋の隅で横たわり、
生き残った二人の傭兵も満身創痍の体だった

傭兵魔道士「…入り口のほうから来たぞ…見張りの連中はどうしたんだ!?」

傭兵T「分からん…だが何にせよ、我々の姿を見られた以上は始末する。
    応援が来るまで堪えるぞ!」

傭兵魔道士「分かってる!…炎の精霊よ、我が身に…」

傭兵魔道士が再度、火炎攻撃を仕掛けるべく詠唱を始める
だが、その次の瞬間だった

ドゴォッ! バキバキィッ!!

支援A「こんばんわぁーッ!」

傭兵魔道士「!?」

傭兵T「なッ!?」

突然、廊下に面する部屋の壁が破られ、支援Aが奇声と共に踏み込んできた

ドドドド!

傭兵T「がっ!?」ブシュッ

そして彼等が反応する前に支援AのMIMIMIが火を吹き、
手前に居た傭兵は血を噴き出した

傭兵魔道士「傭兵ッ!?くそッ!」バッ

即座に傭兵魔道士は短剣を抜き、支援Aへ飛び掛ろうとする

ドドウッ!

傭兵魔道士「いぎッ!?」バシュッ

だが傭兵魔道士は、支援Aの後ろから入ってきた
自衛によって無力化された

支援A「サプライズのお返しだぜぇ!ヤツ等ビビッたかなぁ!?」

自衛「知るか。それより、部屋を調べろ」

他にも敵が居ないか三階を捜索するが、敵は発見されず
建物の安全は確保された

支援A「死体が三つだけだ、他は誰も居ねぇみてぇだぜ」

自衛「よぉし、いいだろう」

一方、脇では隊員Cが遺体の一つを調べている
それは傭兵魔道士の亡骸だった

支援A「何してんだ隊員C?」

隊員C「こいつを見ろ。ほかのヤツに比べて軽装で、妙なローブ被ってやがる。弓も持ってねぇ。
    想像するに、コイツが火炎玉をブン投げて来たんだろうよ」

支援Aは遺体の顔を覗き込む

支援A「あー?普通の人間じゃねぇかぁ。どんなバケモンが吐き散らかしてんのかと思ったのによ」

隊員C「魔法使いってヤツだろ、鍛冶妹のとかと同じな。夢見るクソファンタジーの専売特許だ」

隊員Cは皮肉な口調で言い捨てながら、傭兵の亡骸の目を閉じさせた

自衛「その辺にしとけ。ハシント、屋上のヤツを排除した。前進を…」

ボゴォォッ!

隊員C「おぁッ!?」

自衛「あぁッ!?」

通信しようとする前に、いきなり外から爆発音がし
窓に外が一瞬赤く光った

支援A「なんだぁッ!?」

窓の付近から炎が上がり、窓枠が燃えている
外の壁に火炎玉が命中したようだ

自衛「火炎弾だ!どっから撃ってきやがった!?」

隊員C「おい!もう一発来るぞ!」

隊員Cが窓の外を示す
そちらへ目を向けると、巨大な火の玉が窓の直前まで迫ってきていた

支援A「マジかよッ!?」

自衛「部屋の奥へ退避しろォ!」

ボゴァァァァッ!!

隊員C「おぉわぁぁ!?」

支援A「ファーオウッ!?」

炎の玉は窓から飛び込み、近くの棚に直撃
自衛等は吹っ飛ぶように部屋の奥へと転がり込んだ

隊員C「べっ!クソッタレが!炭火焼になっちまう所だったぞ!!」

支援A「ウェルダンをオーダーした覚えは無ぇぜぇッ!?」

自衛「糞が、場所が分かったぞ。ふざけた注文ミスしやがってェ! 」

82車長『自衛応答しろ!おい無事か!?』

地上からもその様子は当然見えており、インカムから82車長の安否確認の声が飛び込んで来た

自衛「あぁ、生きてる!それより報告訂正だ!
    左斜めの建物屋上にもう一匹居る、その場で待機しろ!」

自衛等は起き上がり、火炎玉の着弾箇所に目を移す
直撃を受けた棚は燃え上がり、あっという間に黒焦げになってゆく

隊員C「おぉい、あんなんをバカスカ撃たれたら洒落になんねぇぞ!」

自衛「あぁ、とっとと仕留めるぞ!こっからじゃ不利だ、隣の家に移れ!」

家の北側に移動し、隣の家に面した窓を見つける

自衛「こっから移れる、行くぞ!」

自衛が窓を破り屋根の上に飛び出る
そして屋根伝いに隣の家へと移り、隣の家の窓を破った

自衛「急げ!」

支援A「やべぇぜ!」

支援A、隊員Cと続いて隣の屋根へ飛び移って行く

ボォォッ! ボッゴォォ!

隊員C「うぉぁッ!?」

最後の隊員Cが隣の屋根に移った瞬間、
先程出てきた窓に、火炎弾が直撃

隊員C「熱っち!野郎ッ!」

隊員Cは炎から逃れるように、窓から部屋へと飛び込んだ

隊員C「マジでイカれてやがる!」

支援A「頼んでもねぇのに追加がくるぜぇ!」

隊員C「でぇ、どうすんだよオイ!?」

自衛「隊員C、お前は一階に行ってハチヨンを用意しろ!
    榴弾を叩き込んでヤツ等を黙らせるんだ!」

隊員C「道に出ろってか!?下手すりゃ黒焦げになっちまう!」

自衛「俺等がこっからヤツ等を引き付ける!その隙を見て撃つんだ、行け!」

隊員C「あー、わーったよ!」

隊員Cは階段で下階へと降りてゆく

自衛「支援A、反対の家に集中砲火だァ!!」

自衛等は窓際の壁に隠れ、交戦を開始した

支援A「お返しだぜぇ!」

ドドドドド!

ガガガガガ!

斜め向かいの建物に向けて銃弾が降り注ぐ

ボォォウ!

支援A「フォウッ!」

銃撃開始と数秒差で、火炎弾が飛来する
だが火炎弾はこちらの屋根を飛び越えて、明後日の方向へ飛んでいった

支援A「ハハァ!ヤツ等もびっくらこいたらしいな!」

自衛「ヤツ等に照準する隙を与えるな!」

ヒュン!ヒュン!

ドスッ!カッ!

支援A「ファォッ!」

火炎弾は外れたが、続いて飛んできた矢が建物の壁に突き刺さる

支援A「今度は矢がデザートで飛んできやがった!」

自衛「ヤツ等、炎を使うヤツと弓兵をチームで運用してやがるらしいな!」ジャキ

ドン!

自衛は向こうの建物に向けて発砲
向こうの窓から、矢を放とうとしていた傭兵を射殺した

支援A「ナーイス!まるでモグラ叩きだなぁ!」

自衛「撃ち続けろ、頭を上げさせるな!」

十字路を挟んで弾丸と矢が飛び交う

ボォォォッ!

そしてまたしても、火炎弾がこちらへと飛来

支援A「また、バーニングだぁ!!」

自衛「カバーしろ!」

飛来した火炎弾は下の階に着弾、建物の壁を焦がした

支援A「ウワォ!たまんねぇスリルだなぁ!」ドドド

自衛「図に乗りやがって!隊員C、まだか!?」

隊員C『もう少しだ、待ってろ!』

支援A「とっととしろよなぁ!隊員C!」

隊員C『黙ってろ!…よし、ほれ行くぞォ!』

敵の目が三階に向いている隙を突いて、
隊員Cは建物一階の玄関から、道へと出る
そして建物に向けて無反動砲を構え、引き金を引いた

ドゴォッ!

撃ち出された榴弾は斜め向かいの建物へと飛び、窓へと吸い込まれる

ボゴォォォン!!

支援A「フォーゥッ!」

そして内部で炸裂、内側から建物を吹き飛ばした

隊員C『……どうよ?』

自衛「あぁ、黙ったみてぇだ」

建物からの攻撃は沈黙し、火炎弾も矢も飛んでこなくなった

自衛「中を確認するぞ。支援A、こっから支援しろ。
    俺と隊員Cで調べてくる」

支援A「任せな」

自衛は一階へ降りて隊員Cと合流
支援Aの支援の元、十字路を渡り、
向かいの建物の入り口へと走り込んだ

自衛「どぉらッ!」

ドガッ!

扉を壊して中へと押し入り、一階を探索する

隊員C「一階はクリアだぜ」

自衛「おし、上だ」

一階の安全確保を終え、二階へと上がる

隊員C「ッ、わーお…」

自衛「こりゃ派手に吹っ飛んだな」

榴弾の直撃により二階の天井は壊れ、
二階と三階は筒抜けになっていた

隊員C「生きてるヤツは…いるわけねぇか」

そして部屋内には、榴弾によって倒れた傭兵達の亡骸が横たわっていた

自衛「ハシント、片付いたぞ。先の十字路までは大丈夫だ」

82車長『分かった前進する』

先の場所から、指揮車とジープが特科分隊に護衛されつつ走って来る
こちらまで来た指揮車は、自衛等のいる建物の近くで停車した

82車長「大丈夫か?」

82車長はキューポラから顔を出し、安否を尋ねて来る

自衛「一応な」

82車長「こっからも見えてたぞ、火炎が冗談みたいに飛び交ってたな」

自衛「あぁ、焼き加減ってヤツをわかってねぇ連中だったぜ」

隊員C「何言ってやがんだ、どうかしてるぜ…!」

平然と言う自衛に、心底ウンザリした口調で吐き捨てる隊員C

82車長「で、こっからどうする?」

自衛「分かれて調べよう。俺等は建物の中を進んで、
    他にも似たようなヤツがいねぇか探す」

82車長「よし、じゃあ俺達は集落の中央に向ってみる」

自衛「十分警戒しろ。衛生、お前も指揮車についてけ」

衛生「分かりました、気をつけて」

82車長「特科分隊、行くぞ。前進!」

車列は十字路を西へと曲がり、中心部向けて走り出した

自衛「よぉし支援A、こっちに合流しろ。俺等は北側を漁るぞ」

支援A『へいよぉ』

車両と特科分隊は集落の中心部を目指し、道を進んでいた

特隊A「ん…?待った、停車を」

道を曲がったところで特隊Aがそう言い、合図を出した
指揮車は停止し、特科分隊は道の両脇へと隠れる

通隊A「どうした?」

特隊A「前方見ろ、人影が複数」

特隊Aが示した先に複数の人影が見える
そして聞こえてくるのは金属のぶつかり合う音

特隊A「戦ってんのか…?三曹!」

82車長「見えてる。ヤツ等と…ここの住民みたいだな。
     …やばいな、押されてるみたいだ!」

武器C「やばいんじゃねぇか?撃っていいか!?」ガチャ

特隊A「馬鹿野郎、住民に当たったらどうする!」

武器Cが構えた軽機を、特隊Aが押さえる

82車長「接近するしかねぇ、誰か車上の軽機に着け」

特隊A「特隊B、行け!」

特隊B「了解」

特隊Bは指揮車の上へとよじ登り、車体前方の軽機に着いた

82車長「指揮車で先に突っ込んでヤツ等を分断する、後から援護頼むぞ」

特隊A「了解!」

82車長「おし!82操縦手、突っ込め!」

82操縦手「へい!」

グォォォォ!

指揮車は戦闘の中へ割り込むべく、走り出した


キンッ!

草風村人B「ッ!クソ!」

草風村人C「ッ…野郎…」

二人の村人が10名以上の傭兵に囲まれていた
そして彼等の足元には、村人の亡骸と傭兵の亡骸が
入り混じり横たわっている

傭兵U「うぁぁッ!」

草風村人C「だぁッ!」シュッ

傭兵U「ぎゃ!」

草風村人Cが、向ってきた傭兵の一人を切り捨てる

傭兵V「だぁぁッ!」

草風村人C「しまッ!…ぐぁッ!」パシュッ

だが、次に迫ってきた傭兵への反応が送れ
草風村人Cは体を切り裂かれ、亡骸へと加わった

草風村人B「草風村人C!…くそォ!」

傭兵達に対して抵抗を続けて来た彼等だったが、
体は傷だらけで、体力も限界に達していた

傭兵V「クソ、手こずらせやがって!」

傭兵W「あとコイツだけだ!」

草風村人Bを囲いだす傭兵達

草風村人B「ッ…!」

その状況に草風村人Bは、これまでかと覚悟を決めようとした

グォォォォォ…!

草風村人B「?」

だが突如、その場に聞きなれない音が割り込んで来た

傭兵X「お、おいなんだあれ!?」

傭兵の一人が道の先を示す

草風村人B「!?」

そして彼等の目に入ったのは、道の先から猛スピードで迫って来る
奇怪な物体だった

傭兵V「な!?」

ゴォォォォォッ!

バギャッ!

傭兵集団A「ゲッ!?」「がぁッ!」

謎の物体はそのままのスピードで傭兵達へと突っ込み、
傭兵を数人跳ね飛ばした
そして傭兵と草風村人Bを分断するように停止した

草風村人B「な…なんだ…!?」

82車長「殺れ!ちゃんとヤツ等だけを狙えよ!」

特隊B「分かってます!行くぞオラァッ!」

呆気にとられている傭兵達に向けて、特隊Bは引き金を引いた

ドドドドドドドド!

傭兵集団B「ぎゃ!?」グチャ

     「げ!?」ビシッ

     「いぎ!」

草風村人B「な…!?」

至近距離から叩き込まれた銃弾に、傭兵達はみごとに薙ぎ倒されてゆく

傭兵V「な、なんだぁ!?」

傭兵W「こ…殺せ!殺るんだ敵だ!」

傭兵達は事態を理解し切れていなかったが、
ただ目の前の物体が敵だと認識し、一斉に向って来た

ドドド!

傭兵V「ギャ!?」

だが後続の特科分隊が到着し
指揮車の両脇から、傭兵達に銃火を浴びせる

特隊A「落ち着いて撃て、近いからってビビるな!」

ダン!ダン!

傭兵W「ぎゃぁッ!?」

ドドド!

傭兵X「うがぁッ!?」

傭兵達は果敢に向ってきたものの、
密集していたのが災いし、銃火の前に次々と倒れていった

特隊B「…一掃しました」

82車長「周辺警戒!生存者がいないか確認しろ!」

傭兵達の一掃が終わり、隊員達は次の行動へと移って行く

武器C「…おい、まだ息のある住人が居るぜ!」

衛生「待ってくれ、今行く!」

草風村人B「……」

その様子を見ながら、脇で立ち尽くしている草風村人B

特隊A「おいあんた、大丈夫か?」

草風村人B「ッ…!」スッ

特隊A「っと!」

そこへ近寄って来た特隊Aに、草風村人Bは剣を向けた
彼女の目には警戒の色が浮かんでいる

特隊A「落ち着け嬢ちゃん、敵じゃない。俺達は…」

警戒の色を見せる草風村人Bに、説明しようとする特隊A

バタッ

特隊A「!?、おい!」

だが次の瞬間、草風村人Bは崩れるように地面へと倒れこんでしまった
すでに彼女の体力は限界だったのだ

特隊A「衛生!来てくれ!」

特隊Aは言いながら、草風村人Bへと駆け寄る

特隊A「おい、しっかりしろ」

草風村人B「あ…あんた達は…?」

特隊A「大丈夫だ、危害を加えたりはしない。
     今、手当てしてやるから待ってろ」

衛生「お待たせしました!」

衛生がその場に駆けつけ、応急処置を始める

衛生「ああ、ひでぇ…まず腕から止血を…」

草風村人B「な、納屋に…行かなきゃ」

弱弱しい声で草風村人Bが言ったのは、その時だった

特隊A「あ?」

草風村人B「この先の納屋…守らないと…」

衛生「納屋?」

82車長「どうした?」

様子に気付き、車上から82車長が声を駆けて来る

特隊A「この嬢ちゃんが、納屋がどうとか…」

草風村人B「お願い…皆が…ッ」

草風村人Bは息も絶え絶えの状態で必死に訴えてくる

特隊A「ああ分かった、俺達がなんとかする。だから無理にしゃべるな」

特隊Aはそんな草風村人Bを落ち着かせてから、82車長へと向き直る

82車長「納屋ねぇ…」

特隊A「どうします?アレならこの先を見てきますか?」

82車長「そうだな…頼めるか?」

特隊A「了解です。よし、武器C来てくれ。この先を調べに行くぞ」

おつ
敵の文字が足りなさそうw

>>269
地味に悩んでいる問題です


特隊Aと武器Cは偵察のため、先程の地点から更に北へと進む
しばらく進むと、進行方向に開けた場所が見えてきた

特隊A「待て」

一度停止し、近くの家屋の影に隠れる二人
そしてそこから先を覗く

特隊A「たぶんあれだな」

覗いた先、そこに目標と思われる納屋があった

特隊A「敵の姿は見えないな…行くぞ」

家屋の影から飛び出て納屋まで走り、
たどり着いたら、一度入口近くの壁に張り付く

特隊A「よし、援護頼む」

武器C「了解」

そしてタイミングを合わせ、納屋の内部へ押し入った

ドンッ!

傭兵Y「!?」

傭兵Z「な!?」

入口を破って中へ入った瞬間、
そこで二名の傭兵と出くわした

ドン!ドン!

傭兵Y「ぎゃぁ!?」バシュッ

特隊Aが自分の近くに居た敵を射殺

ドドド!

傭兵Z「グァッ!?」ドシュッ

続いて入った武器Cがもう一人を仕留めた

Excel方式で傭兵AA、AB、AC・・・でいいんではないかね?(無責任)

>>271
やっぱりそれが無難ですかね


特隊A「…他には!?」

武器C「…いません!コイツ等だけみたいです」

他に敵がいないのを確認し、内部を見渡す
外見と同じくいたって普通の納屋で、特に変わった所は見受けられない

特隊A「特になんも無いみたいだが…?」

武器C「コイツ等はここで何してたんだ?」

転がった傭兵達の死体に視線を向ける武器C
傭兵達は納屋の隅にある大きな箱付近で、何かをしていたようだった

武器C「…ん?この箱の下。なんかありますぜ」

武器Cは少しずれた箱の下から、何かが覗いているのに気付いた

特隊A「あー…?どかしてみる、見張っててくれ」

特隊Aが体重をかけて箱を押し退ける

特隊A「…こりゃ扉だ」

箱を退かして現れたのは、地面に作られた扉だった
そして扉を開けると、そこから地下への階段が続いていた

武器C「地下の倉庫か?」

特隊A「行ってみよう、後ろを頼む」

武器C「陰気だなこりゃ…」

警戒しつつ階段をゆっくりと降りてゆく
すると、降りて行った先にも更に扉があった

特隊A「開けるぞ、援護を」

武器C「了解」

武器Cが扉に向けて軽機を構える
そして特隊Aが扉に体当たりをかました

ドンッ!

特隊A「っとぉ!」ジャキッ

扉の向こうへ踏み入ると同時に、特隊Aは即座に銃口を向ける

特隊A「……あ?」

草風村人D「あ…あ…」

草風村人E「ひぃ…」

しかしその先で出くわしたのは、
多数の女子供と数人の老人や怪我人だった

武器C「なんじゃこりゃ…」

唐突に出くわしたその光景に、目を丸くする武器C

特隊A「成る程、“皆”か…。戦えない住人をここに隠したんだろう」

特隊Aは地下の部屋内を見渡しながら呟いた

草風村人E「み…見つかった…」

草風村人F「ッ、剣を…!」

一方の住民達、特に女子供の顔には恐怖の色が浮かんでいた
そして数人の負傷している男達は、自らの怪我にもかかわらず
武器を手にしようとする

特隊A「落ち着いてくれ!俺達は敵じゃない」

そんな村人達をなだめるべく、特隊Aは声を発した

草風村人D「え…?」

特隊A「それに、ここを襲ってる連中の仲間でもない。
     俺達もヤツ等に襲われ…」

草風村人E「う、嘘よ!」

だが一人の村人が、特隊Aの言葉を遮り声を上げた

草風村人E「今の状況でこの村にいるなんて…村人以外はヤツ等かしか考えられない…!」

そう言い放った村人は、短剣を握り締めてこちらを睨む

草風村人E「そう言って騙して、私達を殺す気でしょう…!?」

草風村人G「そんな…」

恐怖と不安のせいで猜疑心の強くなっている住人達は、
特隊Aの言葉を鵜呑みにする気は無いようだ
そして村人達はざわめき出す

武器C「おぉい、そんな言い方ぁねぇだろう!?
     こっちだって大変だったんだぞ!」

そんな住民達の態度に不服を抱いた武器Cが、声を荒げた

草風村人D「ひっ!?」

草風村人G「ッ!」

武器Cの一声に、その場が再び静まり返る

特隊A「よさんか馬鹿!ったく…お前は上を見張ってろ。
     彼等には俺から説明する」

武器C「あー、了解…!」

武器Cは不服そうな表情のまま、階段を上がっていった

特隊A「悪かったな。とにかく落ち着いて、よく聞いてくれ」

特隊Aは警戒の目を向ける村人達に、言い聞かせるように話し出す

特隊A「こんな状況じゃ疑いたくなるのも無理はねぇ。
     だが、俺達はあんたらに危害を加えるつもりはない。
     それに、俺達もヤツ等から攻撃を受けたんだ」

草風村人E「そんなこと…!」

草風村長「よしなさい…」

村人の言葉を遮り、部屋の隅から声が聞こえて来た

草風村人E「村長?」

草風村長「その人の言ってる事は本当だろう…第一、ヤツ等の仲間だとしたら、
      見つかった時点で皆殺しにされとる…」

声のした方向に目をやると、そこに壮年の男が横たわっている

特隊A「あんたがここの代表者か?」

草風村長「ここの村長をしております、草風村長といいます…」

特隊Aは横たわる草風村長の所まで近づく

特隊A「ッ、こりゃひでぇ…」

近づいてみると、草風村長の衣服には血が滲んでいた

草風村長「戦える者を指揮していたのですが、その最中に負傷してしまいましてな…
      はは…情けない…」

草風村長はそう言って笑うが、顔色は悪く
言葉尻にも苦痛が見て取れた

草風村長「あんた方、確かにあやつらとは雰囲気が違うが…旅の方か…?
      何にせよ、今村はこのような有様だ。
      早くここを去ったほうが良い…」

特隊A「そんな分けにはいかんよ。村長さん、ヤツ等は一体なんなんだ?
     ここで一体何が起こって…」

ドドドッ!

草風村人F「!?」

草風村人G「な、何!?」

特隊A「!!」

階段の上から銃声が聞こえてきたのはその時だった

武器C『特隊A士長!来てください!』

そしてインカムから武器Cの声が飛び込んで来る

草風村長「ッ…!?今の音は一体…?」

特隊A「糞、説明は後でする!皆こっから出るなよ!」

村人達にそう叫び、特隊Aは地上へと駆け出してゆく

ドドドド!

特隊Aが地上へ駆け上がると、
武器Cが入口から外へ向けて軽機を撃っていた

特隊A「敵か!?」

武器C「北東の方向から来てます!十名前後!」

先を覗けば、こちらへ迫ってくる複数の傭兵が目に映る

特隊A「さっきのヤツが伝令を出してやがったな!
    武器C!上に上がって軽機を撃て、一階は俺が守る!」

武器C「了解!」

武器Cは近くの梯子へ飛びつき、納屋の中二階へと上がって行く

特隊A「ハシント応答を、こちらケンタウロス2-1。
     先にある納屋の地下で、ここの住民を多数発見した。
     だが連中も嗅ぎ付けたらしい、多数がこっちに迫ってる。応援を!」

82車長『了解、ケンタウロス2-1。だが、こっちも負傷者の収容にもう少しかかる。
      なるべく急ぐが、少しの間持ち堪えてくれ』

特隊A「了解ハシント、できるだけ早く頼む」

バババ!ババ!バ…!

通信を終えると同時に、軽機の発砲音が一区切りする
外を伺うと、迫っていた傭兵達が亡骸となって
周辺に転がっていた

特隊A「武器C、どうだ!?」

武器C「数人逃しました!脇を通って反対側に、裏に回る気です!」

特隊A「俺が殺る、お前はこっち側を抑えろ!」

特隊Aは納屋の反対側へと向う

ドゴッ…!ドゴッ…!

外から押し開こうとしているのだろう、納屋の反対側の扉が音を立てている

特隊A「…!」

その扉に銃口を向ける特隊A

ドガァッ!

傭兵AA「だぁぁッ!」

そして扉が押し開かれ、傭兵数名が入り込んで来た

ドドド!ドド!

傭兵AA「うがッ!」ブシュッ

傭兵AB「げぇッ!?」グシュッ

扉が開いた瞬間に引き金を引き、雪崩れ込んできた傭兵達は
攻撃に移る前に射殺されてゆく

傭兵AC「オラぁぁッ!」

特隊A「うるせぇッ!」

ドンッ!

傭兵AC「ヅ!?」ドシュッ

最後尾の傭兵は剣を手に切り掛かって来ようとしたが、
その前に顔面を撃ち抜かれ、絶命した

特隊A「おし…!」

それ以上敵が来ないのを確認し、扉の先を覗く特隊A

特隊A「ッ!」

覗いた先に敵の騎兵が見えた
西側の建物の影から三騎の騎兵が現れ、こちらへと迫ってくる

武器C「士長、奥から騎兵です!突っ込んできます!」

中二階から武器Cが叫ぶ
納屋の東側からも三騎の騎兵が現れ、こちらへ向けて迫ってきていた

特隊A「こっちからもだ!こっちからも来てる!」

武器C「糞!」

特隊A「抑えろ!接近させるな!」

ドドドドド!ドドド!

武器Cは突っ込んでくる騎兵に対して発砲
5.56mm弾が騎兵達へと降り注ぐ

傭騎兵集団A「うぐぁッ!?」

      「ヅァ!?」

      「ぐぁッ!?」

納屋から降り注いだ弾丸の雨に、騎兵達は地面へと倒れて行く

キンッ!

特隊A「そらッ!」

特隊Aは西側から迫る騎兵達に向けて、手榴弾を投擲

ボグァッ!

傭騎兵集団B「ぐぉッ!?」

      「がぁッ!?」

爆発によって吹き飛ぶ騎兵達

傭騎兵C「ッ…!うぉぉッ!」

特隊A「!?」

だが最後尾の騎兵が爆発を逃れ、速度を落とさずにこちらへ迫る

特隊A「野郎!」

ドドド!

特隊Aは目前まで迫った騎兵に向けて発砲

傭騎兵C「ぁッ!?」

目前まで迫っていた騎兵は血を噴き出す
しかし勢いは消えず、騎兵はそのまま突っ込んで来た

特隊A「ッ!やべ!」

その様子に、特隊Aはおもわず影へ隠れる

ズッサァッ…!

騎兵は納屋の入口をくぐり、内部へと突入すると転倒
そしてやっと動かなくなった

特隊A「ッ、びびらせるな糞!」

特隊Aは倒れた騎兵に目をやり、吐き捨てる

武器C「士長!こっちからさらに十数名来ます!」

特隊A「チッ!」

特隊Aは東側へと移る
北東側と南東側の建物両方から、合わせて十数名の傭兵がこちらへと迫っている

武器C「どんだけ躍起になってんだ!」

武器Cは悪態を吐きながら、迫り来る傭兵に向けて弾幕を張っている

ヒュッ!

武器C「ッ!」

武器Cのすぐ近くを矢が掠めた

武器C「糞が!弓矢だ!」

特隊A「どっから飛んできた!?見えたか!?」

武器C「おそらく南東の建物!」

特隊A「よし!」

特隊Aは弓兵を仕留めるべく、南東の建物に銃口を向ける

特隊A「…!?」

だが、引き金を引く前に特隊Aの目に飛び込んで来た物
それは、それぞれ微かに違った軌道を描きながら、
こちらへ向けて飛来する三つの炎の玉

特隊A「マジかよ…ッ!武器C、隠れろッ!」

特隊Aは咄嗟に納屋の内側へと引き込む

ボガァッ! 
      ボォッ! 
           ボァァッ!


特隊A「ヅッ!?」

その次の瞬間、飛来した炎の玉は納屋の各所へと着弾した

特隊A「…!武器C無事か!?」

武器C「生きてますがッ…ふざけてやがる!ゲームじゃあるまいし!」

特隊A「待ってろ!今のは俺がやる!」

先の火炎攻撃は弓撃と同じく、南東側の建物から飛んできた
そこにいるであろう敵を仕留めるべく、銃を構える

ドンドン!

窓に見えた人影に向けて二発発砲するも、命中弾は無し
特隊Aは一度影に引き込む

ガスッ!

特隊A「危ねッ!」

隠れた瞬間に敵の応射が来た
近くの壁に矢が突き刺ささる

特隊A「野郎!」

ドンドン!

再度身を乗り出し発砲
今度は命中し、人影が窓の奥へ倒れるのが見えた

ドドドドドドドドドド!

傭兵集団C「ぐぁぁッ!?」

      「うぁッ!?」

      「うぎゃぁ!?」

中二階からは軽機の発砲音が唸り続け、
迫る傭兵に銃火を浴びせる

武器C「南東、北東の両側から次々突っ込んできます!」

特隊A「押し切らせるな!ヤツ等…!?」

ゴァァッ…!

目に入って来たのは再び飛来する炎の玉の群れ

ボァァッ! 
       ボォォ! 
 ボァッ!


先程射殺したのは火炎弾の主ではなかったらしい
二度目の火炎弾が飛来し、納屋の各所が燃え上がった

特隊A「ッ!糞が、野郎生きてやがる!」

火炎弾の命中精度は高くないようだが、
それでも脅威である事に違いは無い

武器C「一歩間違えばこんがり焼けちまうぜ!」

さらに地上からは、軽機からの発砲が止んだ隙を突いて
傭兵達が納屋への接近を試みて来る

武器C「隙を突いて群がってきやがる!クソッタレ!」

特隊A「ヤツ等なりの支援射撃ってかッ!武器C、お前は北東側に集中しろ!」

武器Cに指示を飛ばしてから、特隊Aは手榴弾を掴む

特隊A「オラッ!」

そして南東側から迫る傭兵に向けて投擲

ドッゴォッ!

傭兵集団D「ぐぁぁッ!?」

      「ぎゃぁッ!?」

向って来ていた傭兵数名が、爆発により吹き飛ぶ

特隊A「今ので手榴弾は空っ欠だ!」

ドンドン!

傭兵AD「げッ!?」

銃を構え直し、手榴弾の爆発を逃れた傭兵を射殺

特隊A「再装填する!」

武器C「了解!」

特隊Aは壁に背を預け、弾倉の交換にかかる

草風村人F「痛ッ…クソ…!」

特隊A「!?」

地下階段から村人が上って来ているのに気がついたのは、その時だった

草風村人F「ッ、これは…!一体どうなってる…!?」

草風村人E「草風村人F、危ないよ!」

傷を押さえながら階段から身を乗り出す村人
その後ろから別の村人が追いすがっている

特隊A「馬鹿、何出てきてんだ!」

草風村人F「こんな状況だぞ…!戦わなくてどうする!?」

特隊A「そうは言うがな…!」

ボガァッ!      ボォォ!
      ボゴォ! 

草風村人F「ッ!」

特隊A「うごッ…!」

三度襲い来る火炎弾の群れ
多数の火炎弾の命中に納屋に煙が立ち込め出す

武器C「火炎攻撃が邪魔だ!やばい、捌き切れない!」

草風村人F「見ろ!ヤツ等がそこまで迫ってるんだろう!?じっとしてろと…!?」

特隊A「気持ちは分かるが、危険だって…ッ!?」

傭兵AE「うぉぉッ!」

反対側の入口から一人の傭兵が侵入、剣を片手に突っ込んで来る

ドンッ!

傭兵AE「ぎゃッ!?」

草風村人F「!?」

特隊Aはすかさず発砲、傭兵を射殺した

特隊A「また反対から来やがった!」

草風村人F「な…!?」

草風村人E「い、今の何!?」

特隊A「後だ!いいから、隠れてろ!」

特隊Aは村人達を強引に階段の下へと押し込み、
反対側の入口の防御に回る

武器C「ゴホッ!煙で視界がッ…このままじゃ本気でヤバイッ!」

特隊A「銃火を絶やすな!ヤツ等も無限じゃねぇはずだ!」

武器Cにそう言ってから、特隊Aはインカムに向けて怒鳴る

特隊A「こちらケンタウロス2-1、誰か聞いてるか!?
     納屋にて敵の集団に囲まれ、なおかつ火炎弾の脅威に合っている!
     このままじゃ俺達も住民も危険だ、応援はまだか!?至急…ッ!!」

南東側の建物 二階


傭兵AF「このッ!」

一人傭兵が窓からクロスボウを構え、納屋に向けて撃ち放つ

傭兵AF「ヤツ等、よくわからん魔法を撃つ回数が減ってきた!あと少しだ!」

傭兵AG「ああ…だがよぉ…」

傭兵の一人が窓の外に目を向ける
納屋の周辺には、味方の死体が大量に転がっていた

傭兵AG「クソ商議会のヤツ等…楽な仕事じゃなかったのかよ!」

傭兵リーダー「落ち着かんか」

傭兵は悪態を吐いた傭兵を、部屋の端にいるローブの男がなだめる

傭兵隊リーダー「俺達みたいな傭兵に回ってくるような仕事だ、淡い期待は捨てろ」

傭兵AG「そうかもしれませんが、リーダー…!」

傭兵リーダー「それよりも…見てみろ!」

リーダーと呼ばれた男は窓の外を示す

傭兵リーダー「燃えていく、燃えていくなぁ!いい眺めだ!」

窓から見えるのは、幾度もの火炎攻撃により燃え上がる納屋
        
傭兵AF「…」

傭兵リーダー「きっと中で怯えているだろう。囲まれる恐怖に、殺される恐怖に、焼け死ぬ恐怖に!
        これが見たくて俺は傭兵をやっているんだ!」

傭兵リーダーは心底楽しそうな表情で言う
納屋に向けて炎の玉を撃ち込んでいたのは、この男だった

傭兵AF「…まぁ、今回は報酬もでかい。その代償と思って割り切るかしかねぇ…」

傭兵AG「クソ、なんでもいい!とっとと終わらせちまおう!
     村人を皆殺しちまえば終わりなんだろ!?」

傭兵リーダー「そう焦るな、あと少しだ」

傭兵リーダーはそう言うと、両手を窓から納屋に向けてかざす
そして詠唱を開始しようとする…

その次の瞬間だった

バキ!ドッガァ!

傭兵リーダー「!?」

傭兵AF「な!?」

突如、彼等の背後から聞こえた崩落音
見れば背後の壁の一部が破られている

傭兵AG「な…ひッ!?」

そしてそこから突っ込んで来た何か

自衛「勝手に上がるぜェ!」

それは大柄でおぞましい顔の、
ホラー映画から飛び出してきたかのような人物だった

広くは無い部屋で、お互いの距離はほとんど白兵距離だ

傭兵AF「ッ!はぁぁッ!」

一番近い位置に居た傭兵が反応し、切り掛かって来る

自衛「茶はいらねぇぞ」

だが、自衛が鉈を振るう方が速かった

ゴズッ!

傭兵AF「あ…!?が…?」

横殴りに襲い掛かった鉈は、傭兵のこめかみ部分に叩き込まれた

ドゴォッ!

傭兵AF「げ…ッ」

そして傭兵は、そのまま近くの壁へ体ごと叩き付けられる
叩き付けた勢いによって、鉈は傭兵の頭部を完全に切断
頭の上半分は蓋のように綺麗に切り落ちる

ズッ……バシュッ!

そして切断面から血を噴き出し、傭兵はそのまま地面へと崩れ落ちた

傭兵AG「ひぃ!?」

自衛は鉈を引っこ抜き、次の傭兵へと迫る

傭兵AG「あ…こ、この野郎ォ!」

傭兵は恐怖と混乱に襲われながらも、迫ってくる自衛に剣を振り上げる

自衛「邪ぁ魔だッ!」

ヒュンッ!

傭兵AG「がッ!?」

ドス!

自衛の鉈が傭兵の持つ剣を吹き飛ばし、剣が壁に突き刺さった

傭兵AG「しまッ!………え?」

慌てて予備の短剣を抜こうとした傭兵だが、そこで自分の右手の違和感に気付く
傭兵の右手は手首より先が無くなっていた

傭兵「え…あ…ああああッ!?」

そして切断面から血が噴き出し、傭兵は絶叫を上げた

傭兵リーダー「チッ!」

部屋の隅にいる傭兵リーダーは、両手を突き出して詠唱を始める

傭兵リーダー「――…精霊よ、我が手元に!」

短い詠唱を終えると、傭兵リーダーの手元に
バスケットボール程の炎の玉が形成される
そして出来上がった火炎弾を撃ち放った

傭兵リーダー「苦しめ!焼け焦げろ!」

傭兵リーダーは自衛に向けてそう叫んだ
火炎弾が自衛に向けて迫る…が

グイッ!

自衛「お前でいい」

ドガッ!

傭兵AG「なぁ…ッ!?」

自衛は傭兵の体を掴んで、火炎弾の進路上に放り出した

傭兵リーダー「ッ!?」

火炎弾の進路を傭兵の体が遮る
そして火炎弾は傭兵に直撃

ボォォォォッ!

傭兵「あぎゃあああああッ!?」

傭兵の体は炎に包み込まれた

傭兵リーダー「なッ!?そんな!?」

自衛「注文違いだぁ!ボゲェ!」

自衛は鉈の背で燃え上がる傭兵の体を退け、地面へ転がす

傭兵リーダー「馬鹿な!クソッ!」

悪態を吐きながらも再び両手を突き出し、詠唱を開始しようとする傭兵リーダー

自衛「よぉお」

傭兵リーダー「!!」

だがそれより前に、自衛は傭兵リーダーの目の前に踏み込んだ

ドグッ!

傭兵リーダー「グホッ!?」

そして傭兵リーダーの腹に、鉈の柄を叩き込み詠唱を阻止

グッ ゴガッ!

傭兵リーダー「ごぁ…ッ!?」

そのまま傭兵リーダーの頭部を鷲掴みにし、壁に叩き付ける
そして手を放すと同時に、傭兵リーダーの頭部に鉈を叩き込んだ

傭兵リーダー「ごげッ…!?」

頭頂部から叩き込まれた鉈は、喉仏あたりまで食い込み
傭兵リーダーの頭部は文字道理真っ二つにかち割れ、鮮血を噴き出した

自衛「頼んでも無ェモンばっか寄越しやがって」

自衛は傭兵リーダーの頭から鉈を引き抜き、傭兵リーダーの体を横へ転がした

隊員C「おい自衛、一階の連中は黙らせた…げ!?」

支援A「ファォ!」

制圧が終わった部屋内へ、隊員Cと支援Aが駆け込んで来る
隊員C等は部屋内の惨劇を見て驚きの声を上げた

自衛「よぉ、下は片付いたか」

支援A「あぁ!こっちほどトマトパラダイスじゃねぇけどな!」

隊員C「うぇ…もうちっと穏やかにやろうたぁ思わねぇのかよ…?」

自衛「ご丁寧な意見をありがとよ」

隊員Cの言葉を流して、自衛は特科隊へ通信を開いた

自衛「ケンタウロス2-1聞こえるか?こちらジャンカー4だ」

特隊A『ジャンカー4か、今どこだ!?こっちは今にも押し切られそうだ!』

自衛「南東側の建物だ。火炎ゲボを吐いてた野郎は潰した、
    そっちに行くから撃つんじゃねぇぞ!」

特隊A『了解、とにかく急いでくれ!』

通信を切った所で、支援Aが燃える納屋を示して叫ぶ

支援A「ヘイ、めっちゃ燃えてらぁ!やばいんじゃねぇかぁ!?」

自衛「分かり切った事を喚くな!隊員C俺と来い、支援Aはここに残って援護しろ!」

隊員C「あー、へいへい!」

自衛「行くぞ!」

自衛と隊員Cは窓枠を乗り越えて、地上へと飛び降りる

ドドドドドドドド!

建物二階から支援Aが射撃を開始
納屋へ群がろうとする傭兵へ、弾丸を横殴りに浴びせて行く

傭兵集団E「うがッ!?」
   
     「な!?リーダー達の建も…ぎゃ!?」

群がる傭兵達は倒れ、地面に横たわる仲間の死体へと加わって行く

隊員C「見ろ、死体だらけだぜ!どんだけ躍起になってんだアイツ等!?」

自衛「知るかよ」

自衛等は転がる傭兵達の死体を横目に見ながら、納屋へ向うべく道を横断する

グォォ…!

隊員C「あ?おい見ろ、指揮車だ!」

横断の途中で、道の先から向ってくる指揮車が目に映った

ゴォォッ!

自衛と隊員Cが道を渡り切ると同時に、その背後を指揮車が駆け抜ける

隊員C「危ねッ!」

自衛「駆け込め!」

自衛と隊員Cはそのまま駆け抜け、納屋へと転がり込んだ

特隊A「やっと来たか!正直かなりやばかったぞ!」

自衛「あぁ、だが元気そうで何よりだ」

隊員C「うれしいだろ?救世主様だぜ、クソッタレ!」

言いながら、特隊Aや武器Cへ予備弾薬を投げ渡す自衛達

自衛「隊員C、お前ぇは反対側を見張れ!」

隊員C「了解了解!」

隊員Cは納屋の西側入口へと向う
一方、指揮車は納屋の東側入口を塞ぐように停車
迫る傭兵達の前へ立ちふさがった

82車長『遅くなって悪い!今、黙らせる!』

車上の82車長が、50口径の銃口を傭兵達へと向ける

傭兵AH「な、なんだコイツはぁ!?」

82車長「悪いな、終わりだッ!」

ガガガガガガガガッ!

傭兵AH「がげッ!?」

傭兵集団F「バケモ…がッ!?」

      「うぎゃッ!?」

そして群がる彼等を片っ端から弾き飛ばし始めた

ドンッ!

傭兵AI「がぁッ!?」

50口径の掃射を逃れた傭兵は、特隊A達が仕留めて行く

特隊A「ッ…自衛、ここは長くは持たない!地下の住民を避難させる必要がある!」

自衛「避難先のアテは?」

特隊A「俺達が来た道を戻れば、損傷の軽い建物がある。そこまで連れて行く」

自衛「分かった、安全確保はこっちでやる。お前は住人に脱出の準備をさせろ」

特隊A「頼む!」

特隊Aは住民の避難誘導へと向う

自衛「ハシント聞こえるか?ケンタウロス2-1が住民を南へ避難させる。
    残りの敵はどんくらいだ?」

82車長『群がって来るのはほとんど弾き飛ばした、あと少しだ』 

自衛「分かった、残りの掃除を頼むぞ。避難路はこっちで確保する」

ガガガガガ!

ドドドド!ダダダダ!

傭兵集団G「うがぁッ!?」

      「こんなことが…ぐげッ!?」

指揮車からの攻撃と、支援Aや武器Cによる二階からの銃撃によって
傭兵達の勢いは目に見えて衰えていった

草風村人F「…嘘だろ、傭兵達があんなにあっさり…!」

草風村人E「…すごい…」

その様子を村人二人は唖然としながら見つめている

特隊A「おい、あんたら!」

草風村人F「!」

特隊A「この納屋はまずい。ここから避難するぞ、下の皆に知らせるんだ!」

草風村人F「避難、あの中をか…!?それに、地下には歩けない負傷者も居る…!」

特隊A「大丈夫だ、ヤツ等の攻撃の勢いは衰えてる!負傷者の搬送は俺達が手伝う!」

草風村人F「だが…」

特隊A「急げッ!それとも村人揃ってここで燻製になりたいか!?」

草風村人F「…分かった!」

特隊A「自分で歩けないのは何人居る?」

草風村人F「村長を含めて四人、後は大丈夫だ」

特隊A「よし、南にある建物まで俺達が誘導する。皆を連れて来てくれ!」

数分後


特隊B「…」

特隊Bが納屋の壁際から外の様子を伺っている
納屋へと迫る傭兵達の姿は見えず、こちら側の銃声もほとんどしなくなっていた

特隊B「収まってきたか…脱出準備は?」

武器C「整ってる」

彼等の後ろ、納屋の入口近くから地下階段の下までには、
住人達が列を作って脱出に備えていた

特隊B「いいですか?ここを出たら道を南下して、先の十字路まで向います。
    そこにある家…えーと、草風村人Eさん?」

草風村人E「ええ…私の家よ」

武器C「悪いな、勝手に避難先にしちまって」

草風村人E「別にいいわよ、こんな時だし」

特隊B「向こう着いたら彼女の家に駆け込んでください。そこまでは我々が先導します」

草風村人E「…」

草風村人D「ねぇ、草風村人E…この人達、なんていうか大丈夫なの…?」

草風村人Eの後ろにいる草風村人Dが小声で話しかける
彼女の表情には不安の色が浮かんでいた

草風村人E「少なくとも敵ではないみたい、目的はよく分からないけど」

草風村人D「でも…」

草風村人E「胡散臭い気もしなくはないけど…膝を抱えながら焼け死ぬよりマシよ。
      それよりあなたは子供たちをよく見てて」

草風村人D「う、うん」

草風村人Eはそう言って、草風村人Dを落ち着かせた

特隊B「ハシント、敵影は?」

82車長『ほとんど無し。大丈夫だろう、避難を開始してくれ』

特隊B「了解」

指揮車からの指示を受け、特隊Bは村人達に大声で言い放つ

特隊B「避難を開始します!列を乱さず、落ち着いて我々に続いてください!」

そして住民達の避難が始まった
特隊Bが合図と共に納屋の外へと踏み出し
待機していた住民達が、それに続いて外へと脱出

武器C「道のど真ん中には出るな!建物の影に隠れるように進んでくれ!」

住民達は武器C等の護衛を受けながら、駆け足で避難先の建物を目指す

そうして脱出が進む一方、納屋内では負傷者の搬送が行われていた

特隊A「持ち上げるぞ、ちょいと我慢してくれ」

草風村長「ッ、すまん…」

納屋内に乗り入れたジープに、村長を含む重傷者を乗せてゆく

草風村長「しかし…本当にヤツ等を…?」

特隊A「ああ、なんとか防ぎ切った。だから安心してくれ」

草風村長「そうか…」

特隊Aの言葉に、草風村長は安堵の声を漏らした

自衛「終わったか?」

特隊A「重傷者は皆乗せた。早いトコ向こうに連れてって手当てしないと」

自衛「じいさん、あんたがここの村長だって?事情は掴めんが、災難だったな」

草風村長「あ、ああ…それより、あんた方こそ一体何者なんだ…?」

特隊A「そういや、俺等の事もほとんどなんも説明してなかったか」

自衛「お互い色々聞きてぇ事は山盛りだな。だが、話は後でゆっくりしようぜ」

草風村長「…そうだな」

自衛「衛生、いいぞ」

衛生「了解。皆しっかり掴まっててくれ」

村長等負傷者はジープで避難先の建物へ後送されて行った

自衛「他は誰も残ってねぇな?」

特隊A「一応確認する、待ってくれ」

特隊Aは確認のため納屋の地下へと向う

自衛「支援A、避難はほぼ完了だ。こっちに合流しろ」

支援A『オーケーベイビー』

自衛「急げよ。82車長、いいか」

自衛は支援Aへ撤収を伝えると、車上の82車長へ声を掛ける

82車長「どした?」

自衛「ぶっ倒れてる連中の中に、生きてるのは見えるか?」

82車長「?何人か息はあるみてぇだが、それが?」

自衛「よぉし、隊員C来い!」

隊員C「あー?今度はなんだよ!?」

自衛は西側を見張っていた隊員Cを呼びつける

自衛「捕虜を確保するぞ。俺と隊員Cで息のあるヤツを引きずって来る」

隊員C「はぁ?マジかよ」

自衛「82車長、こっから支援してくれ。隊員C行くぞ」

82車長「おいおい!」

隊員C「やれやれ…!」

言うと自衛は指揮車の影から飛び出し、倒れている傭兵のところへ駆け込んだ

隊員C「糞がッ!」

続いて隊員Cが駆け込み、周囲を警戒する

自衛「こいつと…こいつも生きてる。隊員C、お前はこいつを引きずってけ」

そして息のある傭兵の首根っこを掴み、指揮車のところまで引きずって来た

82車長「無茶すんなよ」

自衛「だが収穫だ。コイツ等を連れてくぞ」

引っ張ってきた傭兵の体を、強引に指揮車の上に押し上げる
そこへ支援Aと、確認を終えた特隊Aが戻ってきた

特隊A「残ってる住人は居ない。大丈夫だ!」

自衛「よぉし、撤収だ!」

最終確認の後、自衛達は指揮車と共にその区画から撤収した

夏はアカン…


納屋から脱出した捜索分隊は、草風村人B達を発見した十字路まで退避
そこにある民家へ住人達を避難させ、周辺の守りを固めている

自衛「武器C、軽機を持って反対側の建物二階に行け。あそこなら見渡せるはずだ」

武器C「了解」

82車長「シキツウは北側の道を塞いどきゃいいよな?」

自衛「ああ、ヤツ等北から沸いて出て北みてぇだからな」

民家の玄関脇で防衛の相談をする自衛達
それが一区切りつくと、屋内へと目を移す

82車長「住民の人達はどうだ?」

屋内では特隊A等が住民の救護に当たっていた

特隊A「俺等にできる範囲の手当てはやりました。村長さんみたいな重傷者は、衛生任せです」

82車長「そうか、分かった。後は緊急部隊が来るまで固守だな…」

82車長は屋内を見渡す
当面の脅威こそ逃れたものの、住人達の表情は不安で染まっていた

草風村人G「…神様、どうかあの人を…」

草風村人H「お父さん…お母さん…」

そして家族や知人を想い、心配する声が聞こえてくる

82車長「…無事だったのはこれで全部なのか?」

特隊A「納屋の地下に隠れてたのは、全体の三分の一くらいだそうです。
    他は連中を迎え撃つために出て行ったか、逃げ遅れたか…」

自衛「だが死んだと決まった訳じゃねぇ、捜索したほうがいい。隊員C、支援A!」

十字路で警戒に当たっていた両名を呼び寄せる

支援A「あぁ?」

隊員C「チッ、今度はなんだよ!?」

自衛「他にも生存者が居ないか捜索に行く、ついでにヤツ等の残党狩りもな。準備しろ」

支援A「フゥー、つまり延長戦ってわけだぁ!」

隊員C「マジかよ…」

自衛「ここで燻ってても時間の無駄だからな。82車長、こっちは頼むぞ」

82車長「分かった、気をつけろよ。何かあれば無線で知らせる」


生存者を探しに出た自衛達は、村の南西側の捜索を行っていた
周囲に目を配り、警戒しながら道を進む

隊員C「糞ッタレだねぇ…皺共、化け蜘蛛、糞野盗共と続いて、
    今度は火炎馬鹿共ときた!」

自衛「一々喚くな鬱陶しい」

隊員C「だってよ!俺等が動く度に、糞共が茶々入れて来やがるんだぜ?
    こんな時くらい愚痴吐かねぇとやってらんねぇよ!」

自衛「こんな時じゃなくても吐いてるだろ。それこそ排気ガスみてぇによぉ」    

支援A「ハハハハハッ!」

隊員C「あぁそうかい、いっそのこと片っ端から中毒にして殺してやろうか!?えぇ?」

自衛「地球にやさしい存在になるべく、努力しようとは思わねぇのか」

隊員C「まっぴらゴメンだね、それこそゲボ吐きそうだ!」

そんな不毛な会話を繰り広げている所へ、通信が入って来た

82車長『ジャンカー4、自衛応答してくれ。こちらハシント』

自衛「こちらジャンカー4、どうした?」

82車長『今さっき、緊急部隊から通信が入った。
     集落を目視できる位置まで来てるらしい、後数分で合流できるそうだ』

自衛「分かった、こっちは特に変わり無しだ。またなんかあれば知らせてくれ」

通信が切れると、それを聞いていた隊員Cが再度愚痴り出す

隊員C「チッ、増援の到着はいっつも事が落ち着いてからだな。いいご身分だぜ」

自衛「うるせぇ。それより周囲にちゃんと目を配れ」

隊員C「へいへい、分かった分か…ッ!」

適当に返そうとした隊員Cだったが、途中で言葉を切る

自衛「どうした?」

隊員C「あれ見ろ…!」

そして前方の民家を指し示す隊員C
その民家の壁際から路地裏までの地面に、何かを引きずったように血の跡が続いていた

支援A「うわーお、ホラー映画みてぇ…」

隊員C「馬ぁ鹿!どう考えても怪我人が逃げ込んだんだろうが!」

自衛「調べるぞ。支援A、お前は周囲を見張れ」

支援Aに周辺の見張りを任せ、自衛達は路地の先を確認する

隊員C「ッ!当たりだ」

路地の少し奥には、一人の村人が横たわっていた

隊員C「俺が行く」

隊員Cが路地へと入り込み、村人の容態を確認する

自衛「息は?」

隊員C「待て…ある!けど、かなり弱ってやがる…!」

自衛「とにかくここじゃまずい、引っ張り出してどっかに移すぞ!」

自衛達は生存者を路地から引っ張り出し、すぐ側の民家へと運び込んだ

草風村人I「ッ…ぁ…」

隊員C「格好からして村人だな。おい、しっかりしろ!」

声をかけるも、村人自身の意識は朦朧としていて反応は無い
そして村人の衣服は、各所に血が染み込んでいた

隊員C「チッ、どこが傷口だぁ?」

自衛「右腕だ、こっから血が流れて服に染みたんだろう。布を寄越せ」

自衛は村人の衣服の右腕の部分を破き、傷を確認
そして村人の腕に布を巻き、止血を施した

隊員C「おぉい、この失血量はまずいんじゃねぇか…?」

自衛「言われるまでもねぇ、急ぐぞ。支援A、コイツを運べ!」

支援A「任せな」

民家の玄関付近で見張りについていた支援Aが、村人に駆け寄り彼を担ぎ上げる

自衛「ハシント応答しろ、ジャンカー4だ。生存者を一名確保、今からそっちに搬送する。
    生存者はかなりの失血を起こして危険な容態だ」

82車長『ハシント了解した。対応の準備をしておく』

自衛「頼むぞ、以上。…よぉし、急ぐぞ」

自衛達は民家を出て、来た道を戻り出した
生存者の村人を担いだ支援Aを、自衛と隊員Cが護衛しながら進む
そして、しばらく進んで交差路に差し掛かろうとした時だった

隊員C「ッ!おい前方!」

交差路の向こうの建物の影から、複数の人影が現われた
統一性のある装備を纏った者達
暗がりの中でも彼等が何者かはすぐに分かった

自衛「敵だッ!」

自衛達は即座に近くの建物の影に実を隠す
傭兵側もこちらに気付き、同様に隠れて行く

ドドド!

傭兵AJ「ぐッ!」

自衛は即座に傭兵達に向けて発砲
放たれた弾丸は、隠れるのが遅れた一人の傭兵に命中した

ドスッ!

隊員C「危なッ!?」

それに入れ違うように傭兵側も矢を放ち、
飛んできた矢がこちらの建物の壁に突き刺さった

隊員C「ッ!この急いでる時に!残りモン共が!」

自衛「支援A、負傷者を遮蔽物に隠せ!」

支援A「ウンコタレ共!救急車には道を空けるって知らねぇのかよ!?」

支援Aは敵を罵倒しながら村人を遮蔽物の影に隠し、軽機を構える

自衛「とっとと下水の奥に流しちまえ!あまり余裕は無いぞ!」

ドドド!ドドド! ダン!ダン!

突破路を確保すべく、傭兵達に向けて弾丸が注ぎ込まれる

ヒュッ!ドスッ! ドッ!

それに返すように飛んで来る数本のクロスボウの矢

隊員C「うぜぇ…ちょっと進む度に邪魔してきやがって!」

支援A「ヘェイッ!例のが来るぜ!」

支援Aが叫び、示した方向から
およそ50cmほどの火炎弾が飛んで来た

隊員C「いい加減にしろよ、糞!」

悪態を吐きながら身を隠す隊員C等

ボッガァァッ!

そして飛来した火炎弾は近くの建物の壁に直撃し、その箇所を黒く焦がした

支援A「ハハァッ!ウェルダンのフェアが未だに開催中らしいな!」

自衛「あぁ!大不評につき中止になったのを、ヤツ等知らねぇらしい!」

隊員C「何度も同じネタ使いやがって!」

隊員Cは火炎弾を撃ってきた魔道士を照準に捕らえる
だが魔道士は建物へと引き込んでしまった

隊員C「野郎ッ!建物内に逃げやがったぞ!」

自衛「おそらく二階に上がる気だ」

隊員C「糞うぜぇ!おい、吹っ飛ばしちまおうぜ!支援A、弾頭寄越せ!」

イラついた隊員Cは支援Aにハチヨンの予備弾頭を要求する
しかし支援Aは弾頭を渡そうとはせず、交差路の南側へ視線を向けていた

隊員C「おい支援A!」

支援A「へい…聞こえねぇか?この音」

隊員C「あぁ?」

支援Aにそう言われ、隊員Cは聞き耳を立てる

キュラララ…

耳に入って来たのは、聞きなれたキャタピラの音
その音は次第に大きくなる、そして

ゴォォォン!

支援A「来やがったぜッ!」

南に伸びた道の先、建物の影から装甲戦闘車が姿を現した
さらにその後ろに、トラック二両と弾薬給弾車が続いて現われる

FV車長『前方で交戦中の部隊、応答せよ。こちらエンブリー』

インカムにFV車長からの通信が入る

自衛「エンブリー、こちらはジャンカー4だ!負傷搬送中に敵と会敵し交戦中!
    支援を要請する!」

FV車長『了解、敵の位置を知らせろ』

自衛「交差路南東側の建物だ!軽装兵数名と火炎弾を飛ばしてくる奴がいる!」

自衛が説明した次の瞬間、それを証明するかのように
建物から装甲戦闘車へ向けて火炎弾が飛来

ボォォウッ!

飛来した火炎弾は装甲戦闘車の砲塔部分に命中した

FV車長『ッ!確認した。待ってくれ、すぐに黙らせる』

だがそれで装甲戦闘車が止まる事は無く、砲塔が建物の方向へ旋回する

ボウボウボウッ!

そして機関砲が唸り声を上げた
吐き出された35mm機関砲弾は、建物の二階を木っ端微塵に吹き飛ばした

傭兵集団H「な!?うわッ!?」

      「ひッ!?」

突然現われた装甲戦闘車に仲間が建物ごと吹き飛ばされ、
建物付近にいる傭兵達は混乱に陥った

FV車長「FV砲手、建物の下にまとまってるぞ」

FV砲手「…ッ、分かってます」

FV砲手の操作で、機関砲の砲身が混乱する傭兵達へと向く

ボウボウボウッ!

傭兵集団H「はがッ…!?」

      「ぎッ…!?」

そして再び吐き出される機関砲弾
傭兵達はその炸裂を直に食らい、肉片と化した

隊員C「…静かんなったな」

自衛「エンブリー、攻撃してくる敵影無し。対象は沈黙した」

FV車長『了解、そっちに合流する』

車列は自衛達の側まで前進して来て停車
装甲戦闘車の後部扉が開き、隊員が降車を開始

隊員G「よし、周辺を確保だ。隊員A、同僚と隊員Bを連れて建物を押さえろ」

隊員A「は!二人とも行くぞ!」

隊員B「はいはい、っと」

隊員G「支援B、俺と反対側を警戒だ」

隊員G率いる分隊が装甲戦闘車の支援の元、交差路周辺へ展開して行く

衛隊B「よいしょ…!」

一方、二両目のトラックのからは衛隊Bが降りて来る
そして普通科隊員が展開してゆく中、折りたたんだ担架を抱えてこちらへ駆けて来た

衛隊B「士長、負傷者はどこです?」

自衛「そこだ」

自衛が遮蔽物の後ろに居る負傷者を指し示す
衛隊Bは負傷者に駆け寄り、地面に担架を広げる

衛隊B「ここへ乗せてください」

支援A「オーケイ」

支援Aが負傷者を担架に横たわらせる
そして衛隊Bは医療用具をその場に広げ、応急処置に掛かりだした

補給「自衛陸士長!」

自衛「補給二曹。どうも」

さらにその場へ補給が歩いて来た
自衛と補給はお互いに軽く敬礼を交わす

補給「他の連中はどうした?」

自衛「村の中心、こっから北東に少し行った所で守りを固めてます」

補給「そうか、ここの住人に多数の負傷者が出ていると聞いたが?」

自衛「えぇ、固めた場所で衛生が片っ端から手当てをしてます。
    ですから収容が終わったら、車列はそっちに合流して下さい。
    手も足りねぇし、防護も不十分です」

補給「そうか、分かった。お前等はどうするんだ?」

自衛「俺等は引き続き生存者の捜索を行います。それに粗方は蹴飛ばしましたが、
    敵の生き残りがうろちょろしてる可能性がある」

自衛達が会話をしている間に、負傷者の応急手当が完了する

衛隊B「よし…オッケーです。誰か担架の反対側を」

自衛「隊員C、手伝ってやれ」

隊員C「わーったよ」

隊員Cと衛生が担架を担ぎ、負傷者はトラックへと運ばれて行く

補給「…しかし、酷い有様だな…」

負傷者を見送った後に周辺を見渡し、補給は表情を苦くする

自衛「ふざけた事態の連続です。退屈しねぇ世界だ」

補給「そうだな…何か補充が必要なものはあるか?」

自衛「弾は大丈夫ですが、人手が数名あると楽になります」

補給「よし、何人かそっちに合流させよう」

自衛「頼みます」

そうしたやりとりをしている内に、負傷者の収容が完了
車列は避難所に向けて移動を開始、自衛達は車列と分かれ、捜索の続きに移った

増援到着から数時間が経過し、時刻は日にちを跨いだ


部隊は避難先の十字路を中心に防護を固め、救護活動を行っていた
十字路の北側の道には、道の半分以上を塞ぐ形で病院天幕が設置され
重傷者の処置が行われていた

衛生「3番寝台の患者、血液検査終わったか!?」

衛隊B「終わってます、今輸血準備中です!」

天幕内で処置に駆けずり回る衛生隊員等
一方、防護されている区画へはトラックやジープが
頻繁に出入りを繰り返している
捜索部隊が何組か編成され、負傷者の処置と平行して
村内の生存者捜索が行われていた

輸送B『救護所へ、こちらデリック2。北西区域で生存者を一名確保。
    そちらへ搬送する』

隊員G「了解したデリック2。西側の道を明けろ、生存者の搬入が来るぞ!」

しかし、その生存者が搬送されてくる事はまれで、
運ばれてくるのはほとんどが村人か傭兵の亡骸だった
避難区画から離れた場所に設けられた安置所へは、亡骸が次々と並んでいく

補給「…」

補給はそんな避難区域内を、苦い表情で見渡していた

特隊B「補給二曹」

補給「ああすまん…続けてくれ」

特隊B「村の生存者は67名ですが、内19名は重症。
     後、捕虜二名を確保しました」

特隊Bは手にしたメモ帳の内容を、補給へと告げて行く

補給「犠牲者は?」

特隊B「正確な数は分かりませんが、回収した遺体は100体に上る勢いです。
    その内、ここの住人の者と思われるのは半数以上」

補給「…邦人は発見できたか?」

特隊B「今のところ、それらしき人物は誰も確認してないそうです」

補給「そうか…敵との接触は?」

特隊B「一時間前に隊員A三曹率いる一組が、少数の敵と交戦しましたが、
    それ以降戦闘は起こっていません」

補給「分かった、ただし警戒は続行するように」

特隊B「了解」

補給「しかし、ひでぇもんだ…」

そう言って再び周辺を見渡す補給

特隊A「二曹、いいすか?」

そこへ特隊Aが割って入ってきた

補給「ん、大丈夫だ。どうした?」

特隊A「この村の村長さんの怪我の処置が完了したそうです。
     少しは話ができるそうなので、来て貰えますか?」

補給「分かった、すぐ行く」

コールサインに関しては

異世界に飛ばされてきた各部隊を混成部隊として再編成し時に、
本部要員の隊員等が考えた物を、(演習時の物とは別に)新たに振りなおした

というような設定を考えてはいるんですが…正直自分の趣味で好き勝手に付けてます
実際の自衛隊のコールサインを参考にしている訳ではないのでご注意下さい



補給はFV車長や隊員G等の曹を集めて、村長の収容されている天幕へと向う

処置用天幕の隣には、負傷者収容用天幕が併設されており、
中では村長を始とする負傷者が簡易ベッドに寝かされていた
そして負傷者の身内や知り合いらしき村人が、
天幕内に違和感を感じながらも、それぞれ負傷者に付き添っている

特隊A「すまんな、ちょっと通してくれ」

補給等はそんな村人達の合間を縫って通り、村長の簡易ベッドまで辿りついた
村長の周りにも何人かの村人が付き添っている

特隊A「村長さん、どうだ具合は?」

草風村長「おぉ…君か。傷はまだ痛むが…少しだけホッとしているよ」      

特隊A「そりゃ良かった。悪いが、ちょっとだけ時間をもらってもいいか?」

草風村長「?、あぁ…かまわないが?」

そう言って特隊Aは補給と場所を代わり、補給は村長と対面する

補給「始めまして。自分は部隊長を代行しています、補給と申します。
    こんな事態が起こってしまい、なんとお声を掛ければ良いか…」

草風村長「あぁいえ、どうかお気になさらず…して、ご用件のほうは?」

補給「ええ、少しあなた方にお聞きしたい事がありまして。
    お怪我を負っている身に、無理をさせて申し訳ないのですが…」

草風村長「いぇ、それはかまいませんが…」

草風村人E「ねぇ、ちょっと待って」

草風村長に付き添っていた草風村人Eが、
村長の言葉を遮り会話に割って入って来る

草風村人E「その前にいい加減教えてもらえない?あなたたち…一体何者なの?」

草風村人Eに続いて、今度は隣の簡易ベッドの草風村人Fが問いかけて来る

草風村人F「さっきの戦いの様子からして、ただの旅人ってわけじゃないだろう?
       それに今“部隊”って言ったし、どこかの傭兵か軍隊か?」

特隊A「あぁ。そういやゴタゴタしてて結局まだ話してなかったな」

補給「我々は陸上自衛隊と言いまして、日本という国の軍事組織です」

草風村長「ニホン…ですか?」

草風村人F「聞いたことが無い…少なくともこの大陸の国じゃないよな?」

初めて聞く国の名前に、村人達は訝しげな表情を浮かべる

補給「まぁ…遠くの国だと思ってもらえれば」

草風村人E「それで…そのニホンって国の軍がこの村に何のようなの?」

特隊A「そう警戒すんな嬢ちゃん、まぁ無理も無いのかもしれんが…」

補給「私達は人探しをしていまして、その人の情報を追って各町を訪問していたんです」

FV車長「そしてその各町を巡ってた捜索部隊が、今回の襲撃の現場に遭遇した」

草風村長「そういう事でしたか…」

補給「村長さん。差し支えなければ、教えてもらえませんか?
    この村を襲って来た連中は何者なんです?」

草風村長「ヤツ等は……おそらく商議会の手先でしょう」

補給「商議会…確かこの国の政府に当たる機関では?」

草風村長「ええ、そうです。襲ってきたのは、その商議会が雇った傭兵だと思われます」

補給「なぜ政府がそんな事を?」

草風村長「口封じでしょう。私達が商議会の魔王軍との繋がりを知ったから、
      それを外部に漏らされないようにと」

補給「魔王軍…ですか?」

特隊A「そっちの兄ちゃんも、回収した時にそんな事言ってたな」

特隊Aは別の簡易ベッドで眠ってい草風村人Aを見る

特隊A「商議会と魔王軍がつるんでる。怪我してんのに、えらい剣幕でそんな事話してました」

補給「一体どういう事です」

草風村長「どこから話すべきですかな…」

草風村長は少し考えた後に口を開いた

草風村長「事の起こりは先月でした。中央府の紅風の街にいる、
      私のかつての部下から手紙が届いたのです」

補給「部下?」

草風村人B「村長は数年前まで商議会の議員だったんだ。そこで派閥の一つを率いていらした」

特隊A「マジかよ、村長さん政府の要人だったのか」

草風村長「今はただの老いぼれさ、老いには敵わん…それで、その部下が知らせて来たのです。
      “紅風の町にて、魔人と思わしき者の姿を目撃した”と」

FV車長「魔人だ?魔王軍に続いて色々と出てくるな」

特隊A「なぁ、いちいち話をぶった切って悪いが、その魔人ってのはなんだ?」

草風村人E「魔王軍の中枢を司る、人ならざる者達」

特隊Aの疑問に、草風村人Eはそんな一文で返した

隊員G「なんだそりゃ?」

草風村人E「魔人を言い表す時の言葉。
      正直な話、魔人について広くに知られてるのはこの一文と、
      いくつかの言い伝えだけなの」

草風村人B「それもはっきりとした内容の物は無いんだ。
      強大な力を持ち、容姿については人に近い姿をしてるって話もあれば、
      亜人や魔物のようだという話も聞く。
      雰囲気が明らかに違うとかも言われてるけど、結局目にしない事にはね…」

草風村人E「対魔王戦線に出ている将兵なら、目撃してる人もいるかもしれないけど」

そう言った後に二人は方をすくめて見せた

隊員G「ファンタジーだなぁ…」

草風村人F「だから俺達は…いや、部下本人も当初は半信半疑だったらしい。
      ソイツの外見や雰囲気が、言い伝えの物とどことなく似てる、
      くらいのモンらしかったからな」

草風村長「ですが、後日さらに手紙が届きました。
      部下は商議会の議員と、その魔人らしき者が接触している所を確認したそうです。
      そしてさらに調査を続け、
      魔人らしき者は魔王軍の関係者であり、この大陸の下調べに来ている。
      商議会は魔人に活動の場を提供し、それに手を貸している事が発覚した…と」

補給「……」
      
FV車長「衝撃の真実だな…」

草風村長「正直な話をしますと…今回の件より前から、中央府の政策には不審な部分を感じていたのです。
      流通の偏りや、急な政策の改変等…」

草風村人E「その部下は元々、そのあたりの調査を行っていたの。
      ただ、その最中に魔人らしい者を目撃、不審に思って追ってみたら…」

特隊A「ドンピシャリってか。
    所でよ、魔王軍ってのは世界中を踏み荒らして歩いてる連中だろ?
    そんなヤツ等になんだって手を貸すんだ?」

草風村人B「魔王軍は快進撃を続けていて、こちら側の旗色はあまりよくないらしい。
      そのせいで、こちらを裏切り魔王軍に協力する国も出てきてるんだ」

草風村人「商議会の連中も同じだろうな。
      ヤツ等は今の内から魔王軍に手を貸して、制圧後の発言権を得るつもりなのさ。
      妙な政策の変更も、その下準備の一環って事さ…!」

FV車長「成る程…」

草風村長「議会に身をおいていた立場としては、お恥ずかしい話です…」

草風村人B「村長の責任ではありません!臆病風に吹かれたのはヤツ等です!
      村長が現役であれば、議会に魔人を立ち入らせる事すらなかったはずです!」

草風村人E「村長が率いてた派閥も、今は発言力が弱くなってるからね。
      魔王軍侵攻に不安を覚える人間も増えてきたし…」

草風村長「ともかく。各国が一丸となって対抗しているところへ、この裏切りは許される事ではありません。
      私は部下に、確実な証拠を掴むよう命じたのです。
      しかし、その手紙を最後に部下との音信は途絶えました。半月前のことです…」

FV車長「マジかよ」

特隊A「つくづくひでぇ話だな…そんで、その事を隣国に伝えて、
    そいつらをしょっ引いてもらおうとしたわけか」

草風村人E「まぁ…ね」

歯切れの悪い返事をする草風村人E

草風村人F「そう簡単に行ってくれれば、うれしいんだが…正直、隣国が動いてくれるかは望み薄なんだ」

特隊A「どういうことだ?」

草風村人「この国の成り立ちというのはご存知ですかな?」

補給「?、ええ…確か三つの大国の緩衝地帯としてできた国だと」

草風村人F「その緩衝地帯としての機能を保つための条約があるんだ。
      紅の国に国境を接する各国は、紅の国中央府からの要請が等が無い限り、
      緩衝地帯への軍の派遣、進駐等の行為を一切禁止する、ってな」

草風村人B「もしそれを破れば、残りの二大国を敵に回す事になるって訳」

特隊A「んな事言ったって…その中央府が魔王軍とつるんでるんだろ?
    条約云々以前の話だろうが?」

草風村人F「事態を知ってる俺達からすればその通りなんだが…
      俺達が持ってる情報は、部下が見聞きして得た物だけだ。
      もちろん俺達は部下を信じてる。
      だがそれだけじゃ、月詠湖の王国に動いてもらうための、決定的な証拠とはならないんだ…」

草風村長「我々は部下との音信が途絶えた後も、独自に調査を続けましたが、
       それ以上の情報を得る事はできませんでしてな…」

草風村人B「今はただでさえ対魔王戦線への出兵で、どこも兵力が不足してる。
      そんな中で大した根拠も無しに動く事は、どこの国もしたくないだろう。
      もしどこか違えば、魔王軍以前に大陸内で戦争が始まってしまう」
      
草風村人E「魔王軍側から見れば、そうやって大陸内が混乱に陥るのも
      アリなのかもしれないけどね」

FV車長「ことごとくこっちの行動を潰してくるようで、気色悪ぃな…」

草風村人F「まったくだよ。そして間にも商議会の連中は、着々と準備を進めているんだろう」

草風村長「ですが私達もそれを黙って見ているわけにはいかない。
      そこで、せめて今ある情報だけでも伝えようしたのです」

草風村人E「知らせないよりはマシ、程度の物だけどね」

草風村長「そのために、草風村人A使いを出そうとしたのですが…」

補給「その前にヤツ等がこの村を襲って来たと」

草風村長「そういう事です。野等の襲撃に見せかけ、私の縁者や部下ごと葬り去る気だったのでしょう。
      小さいとはいえ、私達はヤツ等にとっての目の上の瘤ですからな」

特隊A「にしたって乱暴な方法だな。村ごとかよ…」

草風村人E「商議会は治安部隊を掌握してるし、大きな街には商議会の息が掛かってる人間も多いわ。
       それくらいは簡単にもみ消すでしょうよ」

特隊A「議会の力と雇った連中を使えば、悪事も司法も好き放題ってか」

草風村長「それと、多少の荒事を許容できるくらい程に、余裕ができたのでしょうな」

補給「それつまり…魔王軍がこの大陸へ上陸して来るのが近いと?」

草風村長「明確な作戦までは分かりませんが、おそらく何らかの手立てが整いだしているのでしょう。
      時間はもうあまり無い」

草風村人E「でもさっきも言ったとおり、こっちが持っている情報は断片的。
      できるのは悪あがきがいい所よ」

補給「商議会と魔王軍の斥候は、この国のあらゆる物を隠れ蓑に使っているわけか…」

草風村人B「クソッ!このままヤツ等の思い道理になってしまうのか!?」

不安と苛立ちの入り混じった表情を浮かべ、髪を掻き毟る草風村人B

草風村長「よさないか。まだ何もできないと決まったわけではない!」

草風村人F「もちろん俺達だって諦めるつもりなんてありませんよ!」

草風村人E「でも弱気になるのも無理ないですよ、この二三ヶ月、皆負担を抱えっぱなしですし。
      ナイトウルフの問題に方が片付いて、やっと一つ面倒が減ったと思った矢先にこれだもの」

病院天幕内の空気は重くなり、村人達は大きく溜息を吐いた

半端な所で申し訳無いのですが
ここから草風村人達の“村人”表記を省略します


草風村長「…ああ、申し訳ありません。、みっとも無い所をみせてしまった…」

補給「いえ、とんでもない…」

草風村長「とにかく皆、状況を悲観するのはそこまでだ。
      それより、今できる事としなくてはならない事を考えよう」

草風村長は村人達を見渡し、そう言い聞かせる
     
草風F「できる事か…とりあえず、再度月詠湖の王国に使いを出すか?」

草風B「誰が行くんだ?襲撃のせいで馬に乗れる人間はほとんど殺られた、
      私達もこの怪我では無理だ」

自分の傷を忌々しそうに見る草風B

草風E「待って、あたしも乗れるわよ。草風Aの変わりにあたしが…」

草風F「お前はダメだ。武術の心得がほとんど無いだろう」

草風B「ただでさえ治安が悪くなってる上に、この騒ぎの後だぞ?
      君が単騎で行くなんて危険すぎる」

草風村人E「…」

名乗りをあげた草風Eだったが、二人の言葉に押し黙ってしまう

草風A「それより……村の守りをどうする…?」

そこへ別の声が割り込んできた

草風E「!」

声のした方へ視線を向ける一同
向かいの簡易ベッドの草風Aが目を覚まし、体を起こそうとしていた

草風B「草風A!よかった、目が覚めたんだ…!」

草風A「時々意識は戻ってた…朦朧としてて何もできなかったけどな…」

体を起こして周囲を見渡す草風A

草風A「…誰が…いや、何人殺られた?」

草風B「分からない…生き残ったのは半分ちょっとで、数人だけ見つかって無い。後は皆…」

草風A「ッ!そんなに…か…?」

犠牲になった者の多さに、草風Aは顔を青くする

草風A「クソ…畜生ッ!」

そしてショックは怒りへと変わり、簡易ベッドに拳を叩き付けた

特隊A「おい兄ちゃん、気持ちは分かるが落ち着け!傷が開いちまう」

草風B「まだ横になってたほうがいいよ」

草風Bに体を押さえられ、草風Aは再び簡易ベッドへ横になる

草風A「…だが、いつまでもこうしてはいられないぞ…
      俺達が生き残った事をヤツ等が知ったら、すぐにでも次のヤツ等を送り込んでくるぞ…!」

草風B「わかってるさ…ヤツ等が放って置いてくれるわけが無い…」

草風E「でも、それこそどうするのよ…?戦える人はほとんど死んだのよ。
      草風A達もすぐに直る怪我じゃない…どう守るのよ…」

考えれば考えるほどに状況の困難さが明確になり、村人達の表情は悲観に染まって行く

草風村長「…ヤツ等め…!」

ついには草風村長も剣幕を見せ、悪態を吐いた

少しの間俯いていた草風村長だったが、しばらくすると顔を起こした

草風村長「…皆さん、この村は近いうちにまた襲撃を受けるでしょう…」

FV車長「またか?しつこい連中だな」

草風村長「そこでお願いがあります。村を立つ時に、生き残った子供とその親を
      一緒に連れて行っていただけませんか?」

特隊A「…ん?待て村長さん、なんでいきなりそんな話になるんだ?」

草風村長「ここまでして頂いた上で、図々しい事を言っているのは分かっています。
      しかし、せめて女子供だけでも…」

FV車長「待った、ちょい待った!」

FV車長は草風村長の言葉に割って入る

FV車長「どうにも俺等とそっちで解釈に行き違いがあるぞ」

補給「村長さん。我々はこの村への脅威が無くなるか、他の組織へ村の防護を引き継ぐまでは、
     ここに留まるつもりでいます」

草風村長「な…本当ですか?」

補給「ええ。もし、村内に居られるのが迷惑だというのであれば、
    村から離れた位置に陣地を構築しますが」

草風村長「ご迷惑など…願っても無いことです。しかし…」

村人達は一度顔を見合わせる

特隊A「どうした?」

草風F「いや…あんたら、どうしてそこまでしてくれるんだ?」

草風E「近隣諸国ならまだしも、あなた達は大陸外の軍隊でしょ?
    さすがにここまでかかわる義理はないはずじゃ…?」

特隊A「義理も糞も…こんな状況に出くわして、無視できるわけねぇだろ」

草風E「そうは言っても…この国の内情はさっき話したでしょう?
    ちょっと人助けするのとは分けが違うのよ?」

補給「当然、心得ていますよ。それに、我々にとっても全くの無関係ではないんです。
    先程話された商議会の企みが事実ならば、
    我々にとっても脅威となり得ますので」

草風B「脅威…?あなた達と商議会がどう関係するの?」

補給「現在、我々の部隊の一部が月詠湖の王国内で間借りして、
    国境線近くで活動をしています。
    そこが我々にとっては大切な拠点なんです」

FV車長「その大事な拠点のお隣がこうもきな臭いってのは、よろしくねぇ分けだよ」

特隊A「それにな。他所の軍隊とは言うが、俺達もそう簡単にこの大陸から
    “はい、さよなら”って撤収できる分けじゃ無いんだ。
    そこへ、近いうちに魔王軍が押し寄せてくると聞いちゃ、
    それこそ他人事では居られねぇよ」
    
FV車長「“同じ境遇のヤツに手を貸す”って言えば、少しは納得してくれるか?」

草風E「まぁ…」

補給「いきなり現れた私達に言われても、説得力も無いかもしれませんが…」

草風村長「いえ、とんでもない!…ただ、少しばかり困惑してしまいましてな…」

草風B「話が二転三転しすぎで…ちょっと整理させて」

草風F「なんて目まぐるしい夜だ…」

村長や村人達の顔には、疲労の色が浮かんでいた

FV車長「無理も無ぇや。あの騒ぎの後だし、皆気を張りっ放しだったろうしな」
     
草風F「…あぁ、所であんた等。人を探してこの村を訪れたとか言ってたよな?」

FV車長「あぁ、それなんだ。疲れてる所に悪いんだが、
     最後にその件だけ聞かせてもらってもいいか?」

草風村長「えぇ、大丈夫ですよ。して、その探している人というのは?」

草風E「この村の住人ならすぐに分かるけど?」

補給「いえ、この村の方では無いんです。
    ええと…待って下さい」

補給はポケットから手帳を取り出した
そして狼娘から聞き出した院生の名や、外見的特長を村人達へ伝える

草風B「院生…黒髪の女の子…ねぇ、それって」

草風A「ああ、あの子だな」

FV車長「知ってるのか」

草風村長「はい。三日…いえ、日を跨いだから四日前になりますな。
      魅光の王国の勇者様達がこの村を訪れられまして、
      その勇者様達と一緒にいた子が、そのような外見だったかと」

草風B「名前も、確か勇者様達にそんな風に呼ばれてたと思う」

特隊A「勇者一行…狼のねーちゃんの言ってた通りだ」

隊員G「当たりだな」

補給「それで、その人達は今はどこに?」

草風村長「訪れられた翌日には、村を発たれました。
      彼女達は、露草の町と凪美の町を経由して、隣国の笑癒の公国に向うと言っていましたな」

補給「そうですか…」

追いつけなかったのは残念だったが、
今回の事態に巻き込まれたという、最悪の結果は避けられた事に
補給は心の中で安堵した

FV車長「ええとだ…」

FV車長等は地図を取り出して広げ、村長が口にした町の位置を確認する

FV車長「露草…凪美…予想したルートと同じです」

補給「だな…それぞれの町までは、どれくらいかかるんですか?」

草風村長「徒歩でしたら、この村から露草の町までは二日程度。
      露草の町から凪美の町まで、ほぼ同じくらいです」

特隊A「その子らも歩きだったか?」

草風A「あぁ。護衛の騎士が一匹だけ馬を連れてたが…三人は乗れないだろうし、おそらく歩きだろう。
     だから無理をして進んだとしても、今はまだ露草の町と凪美の町間辺りのはずだ」

特隊A「こっからそんな距離じゃねぇな…」

隊員G「追いつけるか?」

補給「いや、ルートが分かるんなら先回りすればいい。この凪美の町の先で網を張れば…」

地図を囲って院生と合流するための案を話し合う補給等

草風B「ねぇ…ちぃっといいかい?」

そこへ草風Bが声を挟んだ

特隊A「?、どうした嬢ちゃん?」

草風B「正直、色々と疑問だらけなんだけどさ…
     まず、あなた達とあの子に一体どういう関係があるの?」

FV車長「あぁー…正確に言うとな、俺等も実際に面識は無いんだ。
     だがその院生って子、どうにも俺等の国の国民らしくてな」

草風E「国民ですって?」

FV車長「そうだ。詳しくは端折るが、その勇者一行と道中一緒だったって人が居てな。
     その人の話を聞くに…あー、どーにもこの大陸に迷い込んだっぽくてな」
     
草風A「はぁ…そういえば、確かにあの子だけ勇者様達とは雰囲気が違ったな…」

草風B「髪もこの人達と同じで黒髪だったね…」

草風A「しかし……まずい、考えたらまたしんどくなってきた…」

少し俯き、目頭を押さえる草風A

隊員G「話はここまでだな、続きは夜が明けてからだ。
     お互い聞きたい事は他にもあるだろうが、今は休んだほうがいい」

補給「無理をさせて申し訳ありませんでした」

草風村長「いえ。私達に今できるのは、これくらいですからな…」

補給「村の内外は我々が守りますので、ゆっくり休んで下さい。
    ありがとうございました」


補給等は負傷者収容天幕を後にし、外へと出た

FV車長「やれやれ、どうにかその院生ちゃんに追いつけそうだな」

隊員G「ええ。しかしその過程で、とんでもねぇ話を知っちまった…」

村長達が話した事の内容を思い返し、隊員Gは顔を渋くする

特隊A「国の政府が魔王と手を組もうとして、それを知った村を消しに掛かる…
    ふざけてるにも程があるぜ」

補給「だな…ともかく特隊A士長、野営地に無線連絡を頼む。
    邦人の位置が特定できた事と、その商議会の企みの件もだ。
    月詠湖の軍隊への引渡しの時に、向こうでこの件を伝えてもらおう」

特隊A「了解。…あー、説明が面倒だな…」

特隊Aは呟きながら指揮車へと向った

補給「FV車長三曹、隊員G三曹。普通科、特科の各隊を編成し直して、各所の防護に当たってくれ」

FV車長「了解」

隊員G「わかりました」

補給「後方活動は私が引き続き指揮をするが、落ち着いたらこちらも防護の応援に回る。
    それと、各隊は交代で仮眠を取るように。頼むぞ」

夜が明け、時刻は0900時
東の森 自衛隊制圧地域

森の広場にある業務天幕内では、難しい空気が漂っていた
長机を挟んで一曹と、軽装備を纏った男が対面している

第一団長「そうですか、紅の国でそんな事が…」

そして軽装備の男は一言呟いた
一時間ほど前に、森には約束された派遣部隊が到着していた
彼はその派遣された部隊、第12月詠兵団、第一分兵団の団長だった
現在も引き渡し作業が行われており、業務天幕の出入り口からもその様子が伺える

第一副団長「最近妙な感じがすると思ってたけど、まさか魔王軍の名が出てくるとな…」

団長の側に立っている、副団長の女性が続けて発する
二人はたった今、一曹等から紅の国に関する情報を聞かされた所だった
そしてそれを聞かされた二人の顔は、非常に苦々しい物となっていた

第一団長「分かりました。お伝えいただき感謝します…しかし…」

第一副団長「今の段階じゃ、こっちからは何もできないだろうな…」

隊員H「おいおい、マジかよ?」

二人のその言葉に、脇に居た隊員Hが声を上げる

隊員H「こんだけヤバげな話がボロボロ出てきてるんだぜ?
    おまけに連中はそれを知った村人達を、口封じのために襲ってきやがった。
    こんだけあんのに、まだその条約とやらに引っかかるのかよ?」

第一副団長「ああ、残念だがその通りだ…
       商議会の魔王軍との接触、草風の村の襲撃、どちらも聞き捨てならない話だが、
       現段階ではあくまで、紅の国国内での出来事だ。
       月詠湖の王国への明らかな脅威が確認されない限り、他国に介入する事はできない」
       
第一団長「明確な証拠も無いのに踏み込んでいけば、逆にこちらが条約違反とみなされ、
      他の条約加盟国から刃を向けられる事になります」

第一団長は忌々しそうに言う

第一副団長「紅の国は緩衝地帯だからな、そのへんの規定は特に厳しいんだ」

隊員E「…厄介だな」

一曹「…ちなみに、介入への正当な理由となる証拠とは、どういった物があれば?」

第一団長「そうですね…紅の国の現役商議員などから、
      わが国への明確な脅威となるような発言が得られれば…たとえば明らかな侵攻計画など。
      そういった物を明らかにした上での介入であれば、
      他の加盟国もその正当性を認めるでしょうが…」

隊員H「それこそ、ヤツ等が正直に“はい、ボクたちは悪いことかんがえてます”なんて
    言うわけはないわな」

隊員E「おい、隊員H。少し自重しろ」

おちゃらけた調子で言う隊員Hを、隊員Eが咎める

第一団長「いえ、おっしゃる通りです…とにかく、この件は司令と相談して、
      こちらからも調査してみます」

一曹「お願いします」



紅の国周りの情勢をややこしくし過ぎて、
すごいテンポが悪くなった…

話が一区切りし、一曹は背後へと振り返る

一曹「狼娘さん、長い事待たせてすまなかった」

狼娘「ああ、いや…大丈夫」

一曹の背後、天幕の隅のパイプ椅子には狼娘が腰掛けていた
第一団長はその狼娘へと向き直る

第一団長「狼娘さん、今回はこんな事になってしまい、
      なんとお詫びしたらいいか…」

狼娘「お詫びって…別にあんたらのせいじゃ…」

第一団長「いや、街の外とはいえ、この辺り一帯の治安維持は本来我々の管轄だ。
      それなのにこの森に野盗が根付くのを許し、
      あなたとお仲間に危害が及んでしまった。本当に申し訳ない」

そう言って、団長と副団長は狼娘に頭を下げた

狼娘「よしてくれ…!あんたらに頭を下げられても困るよ…頭を上げてくれ」

第一団長「我々にできる事はあまり多くはありませんが、
      いくらかの手配をさせてもらいました」

第一副団長「星橋の街の教会へ話を通してある。
       しばらくの間は教会が君の身を保護してくれる事になってる」

狼娘「それは…」

第一副団長「それか、故郷に帰るというのであれば、
       ギルドから人を雇って、あなたを送り届けさせる事もできる」

第一団長「もちろん、どちらもあなたの意思次第ですが」

狼娘「…」

それらの案を提示された狼娘だったが、彼女は膝の上で拳を握り考え込んでしまう
さすがに、すぐには決めかねているようだった

一曹「…まぁ、すぐに決めるってのも無理だろう。
    しばらく考えるのもいいんじゃないか、その間は俺達のところに居ればいい」

狼娘「…ごめん、そうさせてもらっていいかな」

第一団長「すみません。我々からもお願いします」

一曹「いえ。事態をそちらに持ち込んだのは、こちらですから」

第一団長の言葉に、一曹は言いながら軽い会釈で返した

その後、一曹等と団長は引継ぎ内容の再確認などを行い
両者の話し合いは終了した

第一団長「こんな所か…」

第一副団長「団長、私は捜索の現場指揮に戻ります」

第一団長「ああ、頼む」

現在、引継ぎ作業と平行して、自衛隊だけでは行いきれなかった森全域の捜索が
兵団の手によって行われていた

隊員H「そろそろ、ここでの俺達の仕事は無くなって来たな」

一曹「ここではな。他にやる事はたくさんある。
     隊員E、お前等は先に野営地に戻って、応援部隊の準備を頼む」

隊員E「分かりました」

一曹「狼娘さん、もう少しだけ時間をもらってもいいかい?
    あなたのキャラバンの所有物だけ分別しないとならないから、
    それの確認作業だけ付き合ってもらいたい」

狼娘「ああ、分かったよ」

一曹「隊員H、狼娘さんと確認作業を頼む」

隊員H「了解」

そして各々は、それぞれの作業へと掛かるために天幕を後にした

第一団長「では私も一度、作業に指揮へと戻ります」

それに続いて、第一団長も席を立ち、天幕を出ようとする

第一団長「そうだ。一曹殿、最後に一つだけ」

しかし第一団長は天幕を出ようとした所で、一曹へと振り返った

第一団長「あなた方は条約に接しませんので、紅の国での活動も書類上は問題ありません。
      しかし、紅の国の今の状況を考えれば、
      あなた方のような組織が国内に居座る事を、商議会は良くは思わないでしょう」

一曹「ええ、重々承知しています」

第一団長「あなた方に任せ切りの立場で、説教じみた事を言って申し訳ない。
      しかし、彼等は今後も何をしてくるか分からない…
      十分お気をつけ下さい」

一曹「えぇ…分かりました」

そういった会話を交わした後に、第一団長は天幕を後にした

一曹「(…そこがチャンスになる可能性もあるわけだがな)」

同時刻
草風の村から東へ数百メートル地点


丘の傾斜地に身を隠し、そこから村の様子を伺う者達がいる

追っ手A「なんだ…どうなってやがる…?」

商議会の配下である追っ手A達だった
盗賊兼傭兵である彼等は数年前から商議会と契約し、
商議会が表立って行えない、非合法な仕事を請け負っている

だが今の仕事は少し毛色が違った

昨晩、草風の村へ襲撃に出向いた傭兵隊が朝になっても戻って来ず
事態を把握するために、急遽偵察へ出る事となったのだ
そして彼等は信じがたい状況を目にしていた
草風の村は本来ならとっくに焼け落ちているはずだった
だが村は無傷ではないものの健在
それどころか、草風の周辺にはおかしな格好の連中が居座っているではないか

追っ手A「傭兵共、しくじりやがったのか…?こんな小さな村相手に?
      あの奇妙な連中が絡んでるのか…?」

追ってD「追っ手Aさん。あのおかしな格好の連中、一体なんなんすか…?」

追ってA「俺が知るか!糞…とにかく一度戻るぞ!」

露草の町に戻り、商会員に報告しなければならない
追っ手A達は丘の麓に隠した馬へと戻るべく、丘を下ろうする
だが

支援A「よぉー、そんなに急いでどこ行くのお?」

追ってA「な!?」

突然大男が、その進路を塞ぐように姿を現した

追っ手達の居た場所よりさらに少し下った所に、段差になっている所がある
隊員Cと支援Aが回り込んでそこに隠れ、
“様子を見に来た追っ手達”の様子を伺っていたのだ

隊員C「俺等に何か用事があるんじゃねぇのか?」

支援A「俺達も君等のお話聞かせてほしいなぁ」

支援Aは言いながら段差を乗り越える
そして軽機を突きつけ、ニタニタとした表情浮かべながら追っ手達へと近寄る

追っ手D「な…なんだお前!?」

突然眼の前に現れた大男に追っ手Dはうろたえる

追っ手A「ッ…クソッ!」

一方の追っ手Aは抜剣しようと、腰に下げた剣に手を伸ばした

バンッ!

追っ手A「ぎゃ!?」

隊員C「余計な事すんじゃねぇよ」

だが、支援Aの斜め後ろにいた隊員Cが、自身の護身用の拳銃でそれを弾き飛ばした

追っ手A「う、腕が…」

支援A「おいたはダメだぜぇ、お兄ちゃん」

剣を弾き飛ばされ、自らの手をおさえる追っ手A

追っ手D「あ…く、クソッ!」

それを見た追っ手Dは、身を翻して反対方向に逃げ出そうとした

追ってD「うぶッ!?」

だが身を翻した瞬間、追っ手Dは何かにぶつかった
そこには何もなかったはず、そう思って顔を上げると

追っ手D「…ひぃ!?」

自衛「よぉ」

そこにいたのは別の大男だった

追っ手D「な、バケモ…げぼッ!?」

そして追っ手Dの腹に自衛の拳が叩き込まれ、追っ手Dは気を失う
自衛は気絶した追っ手Dを放り出し、追っ手Aへと迫る

追っ手A「な、一体何なんだおま…ぐッ!?」

声を上げる追っ手Aだが、自衛は追っ手Aの顎を鷲掴みにして黙らせた

自衛「黙れ。色々知ってそうだな、来て貰うぞ」

一時間後 月詠湖の野営地


野営地では草風の村へさらに応援を送るべく、
ヘリの発進準備が進んでいた

一曹「そうか、やっぱり偵察を送ってきたか」

隊員E「ええ。現在は捕まえた者達から、情報を聞きだしているそうです。
    有益な情報が得られればいいんですが」

一曹と隊員Eはヘリに向かって歩きながら、話している

一曹「俺等が襲撃に介入した事で、向こうさんの計画には狂いが生じた。
    商議会とやらはそれを取り繕うために、予定外の行動を取らざるを得ないはずだ」

隊員E「送ってきた偵察も、その予定外の一環でしょうね」

一曹「他にもきっとモーションを起こすはずだ。それをうまい事掴めりゃいいんだがな」

話している内に、一曹等はヘリの側まで到着した

一一曹「だが、それも大事だが、優先事項は村の安全と邦人の回収だ。
     くれぐれも気を抜かないでくれ」

隊員E「もちろん、分かっています」

一曹「頼むぞ。俺も引渡し作業が落ち着いたら、陸路で追いかける」

話が終わり、隊員Eは離陸前の確認作業へと向っていった
そして一曹は視線を別の方向へ移す

視線の先、ヘリの脇に鍛冶兄と鍛冶妹の姿があった
連絡用として転移魔方陣を使用したい自衛隊は、両名に協力を要請
鍛冶兄と鍛冶妹は支援部隊に同行する事になった

一曹「二人とも、準備は大丈夫ですか?」

鍛冶兄「ええ、一通りは。と言ってもそんな大した事はしてないが」

鍛冶兄は手に持った荷袋を示してみせる

一曹「しかし二人とも申し訳ない。
    唯でさえ色々とご迷惑をおかけしているのに、
    その上国外への同行など、お願いしてしまって」

鍛冶兄「まぁ、構いませんよ。そっちで行きを送ってもらえるんなら、
     帰りは転移魔法で一瞬だし」

鍛冶妹「むしろ設置しに行くまでが大変だからねー。
     活用できる良い機会だと思ってるよ」

鍛冶兄「それに、こっちも色々してもらってるしな」

鍛冶妹「昨日も家の建付け直してもらったしね」

一曹「我々の方も、非常に助かっていますよ。あと少しで出発します、
    誘導の隊員が来ますんで、それに従って搭乗してください」

そう言って一曹は、その場を後にした

鍛冶兄「…しかし」

一曹を見送った二人は、視線を前方へと戻す

鍛冶妹「飛ぶんだよね…今から…」

そして眼の前に鎮座する輸送ヘリコプターを見ながら、そう呟いた


副機長「チェック終了。異常なしだ」

二尉「了解。エンジン始動する、地上要員は退避しろ」

二尉は地上要員に無線で告げる
そしていくつかの操作を行い、ヘリのエンジンを始動させた
機体の計六枚のブレードがゆっくりと回転を始め、徐々にその速度を上げる
ヒュンヒュンと風を切る音が、やがて轟音へと変わり
機体の周辺に砂煙が立ち込め出した

副機長「始動を確認。問題無し」

二尉「各ポイント報告上げてくれ」

対外「右てき弾手、異常は無しだ」

隊員J「左機銃手、異常なし」

支援C「後部重機関銃…よし」

機内の各銃座から報告が上がる

二尉「了解。搭乗員、お客さんは?」

搭乗員「二人とも座席に着きました、オーケーです」

てき弾銃が設置してあるキャビンドアのすぐ近くの座席に、
鍛冶兄妹は並んで座っている

鍛冶兄「音がすごい…」

鍛冶妹「大丈夫なの…?」

搭乗員「大丈夫ですよ、リラックスして」

そして搭乗員が、二人の不安を和らげるべく言葉をかけていた

二尉「よーし、オールオーバーだな。いつでも行ける」

副機長「おい、今度は俺が飛ばす」

計機を調節し、操縦桿を握る副機長

二尉「お客もいるんだ、しっかりやれ」

副機長「ハッ!総飛行時間はお前より長い」

ちゃかす二尉に対して、副機長は仏頂面でそう返した

二尉「固定翼機時代を含めればの話だろ?まぁいい、気は抜くなよ」


ヘリの後部ランプ付近では一曹と隊員Eが対面している

隊員E「1000時、第一波支援部隊。出発します」

一曹「1000時、了解した」

敬礼を交わした後に、隊員Eは後部ランプから機内へと乗り込み
コックピットへと向う

隊員E「機長、総員搭乗完了しました」

二尉「了解」

副機長「おーし、離陸するぞ」

搭乗完了の報告を受け、副機長はエンジンのパワーをさらに上げる
そして機体はふわりと浮かび上がった

鍛冶兄「!…」

鍛冶妹「ひ…?」

機体が浮かび上がる感触に、鍛冶兄妹は顔を強張らせる

二尉「50フィートまで上昇、方位020に合わせろ」

副機長「020、了解」

ヘリは一定の高度まで上昇すると、機体を旋回させる

副機長「行くぞ」

そして副機長が操縦桿を倒し、機体は前進を始める
輸送ヘリコプターは草風の村を目指して航行を開始した

東の森


森の北東側に、森の中に通っている道の出口がある
その周辺は第一分兵団の野営地となっており、多くの馬車が止められていた
一番端には旧ジープが一両止まっている

第一副団長「森の中の罠はほとんど撤去した。
       もう周辺は大丈夫だろうが、しばらくは巡回活動を行う予定でいる」

隊員H「そうしてくれると助かるぜ、こっちもゴタゴタ続きで難儀してるからな」

ジープの側では隊員Hと副団長が話している
いくつかの確認作業に立ち会うために、隊員Hはここまでジープを走らせて来ていた

狼娘「…」

ジープの後席には狼娘の姿もあった
彼女が森の外の空気を吸いたいと、同行を願い出たからだ
自衛隊側は彼女の気分転換にいいだろうとそれを許可し、
現在彼女は、漠然と景色や兵団の作業の様子を眺めていた

隊員H「そういやあの話、伝えてくれたか」

第一副団長「ああ、一応兵士達には通達しておいた。
       君達の仲間が森の上空を通過するから、何か見えても慌てないようにとな」

隊員H「ありがとよ、辺に混乱させてもあれだからな」

第一副団長「しかし…空飛ぶカラクリって説明がいまいちピンとこないな…
       本当なのか、翼竜の類とかではなく?」

隊員H「ああ。ま、実際に見りゃ分かるさ」

聞こえてくる隊員H等の話を、狼娘は無気力に聞いていた
当初は彼女自身も自衛隊の存在に驚いていたが、
商人達の死を知らされて以降、一々驚いたり、疑問に思うのも億劫になっていたのだ

狼娘「はぁ…」

小さく溜息を吐く狼娘

狼娘「……ッ!」

だが次の瞬間、彼女の耳が何かの音をとらえ、ピクッと揺れた
そして南の方角へと振り向く

隊員H「ん?どうしたねーちゃん?」

狼娘「音が…風?いや、違う…」

呟きながら、灰色の耳をピンと立てる狼娘

隊員H「?…ああ、来たかな」

隊員Hは運転席に置いてある双眼鏡を手にし、それを覗く

隊員H「大丈夫だ、ねーちゃん。さっき話した俺等の部隊だ」

南の空に小さな影が見えた
そして微かにパタパタという音が聞こえてくる

隊員H「副団長さん、見えたぜ」

副団長も遠見鏡※を取り出し、南の空を見る

第一副団長「…あれがか…?」

影は数十秒で肉眼でもはっきり分かる大きさになり、音は次第に大きくなる
副団長を始め、兵団の兵達は作業の手を止めて、接近するそれを眺める

そしてその巨体を彼等の前へと現した輸送ヘリは、
風を切り裂くような轟音と共に、彼等の真上を通過した

第一副団長「ッ…!」

狼娘「ッ!」

ヘリの轟音に狼娘は一瞬だけ耳を寝かせる

第一副団長「……すごいな」

副団長や兵士達はざわめきながらも、通り過ぎた輸送ヘリを見上げる
飛び去る輸送ヘリの後部ランプから、手を振る者の姿がかすかに見えた


※(この異世界で使われている、簡単な構造のフィールドスコープ)

輸送ヘリコプターは東の森の上空を通過
後部ランプでは、搭乗員が森の外にいる人影に手を振っていた
据付の重機関銃をはさんだ反対側では、隊員Eも眼下を眺めている

隊員E「森を通過したか…この距離を一瞬で行き来してたんだな…」

森と野営地の間はおよそ10km程の距離がある
その距離を文字通り一瞬で行き来できる転移魔法の存在に
隊員Eは改めて感心していた

最もその転移魔法の主達は、それ以上に驚いていたが

鍛冶妹「…ひえぇ…」

鍛冶兄「飛んでる…本当に…」

鍛冶妹「しかも、かなり速いよねコレ…」

鍛冶兄妹は窓の外を流れてゆく景色に、目を丸くしていた

隊員E「大丈夫ですか?気分が悪くなったりはしてませんか?」

鍛冶兄「いや、それは大丈夫…」

鍛冶妹「うん…正直、すっごく落ち着かないけどね…」

飛行機酔いなどは起こしていないようだが、二人の表情は相変わらず緊張で強張っていた

対外「ヒッハッハァ。こーれはまたなんとも不思議なお話だぁ」

鍛冶妹「へ?」

そんな二人の横から、唐突に奇怪な笑い声が聞こえて来た
声の主はてき弾銃に着く対外だ

対外「空間を飛び越えられる不可解な術を持つ諸君等だというのに、
    空を飛ぶ事にこうも初々しい反応を見せてくれるとは」

何の真似なのか対外は、不気味な笑顔とやたらと芝居じみた口調でそんな事を言ってくる

鍛冶妹「えっと…いや…」

鍛冶兄「そう言われてもな…転移魔法とは感覚もまるで違うし…」

反応に困っている鍛冶兄妹に代わって、隊員Eが口を挟む

隊員E「…対外陸士長、少しは気を使わんか。
    彼等は初めて航空機に乗ったんだ、緊張するのは当然だろう」

対外「こーれは失敬失敬、誤解しないでくれ。
    この摩訶不思議な世界の住人達も、
    我々同様に驚く事があるのだと知り、感心してしまったのだよ」

鍛冶妹「はぁ…」

対外の発言に困惑、というより若干引き気味の鍛冶兄妹

隊員J「お前の感想は知らねぇけどよ、その気色悪ぃ言い回しをやめろ」

対外の反対側で、備え付けの車載型九二重に着く隊員Jが鬱陶しそうに言った
ただ台詞回しは鬱陶しそうだが、その表情は何を考えてるのか分からない
というかどこを見てるのかも分からない

対外「隊員J。貴様の見てくれと比べれば、優雅ですらあると思うがねぇ?」

隊員J「こっから叩き落すか、お前?」

隊員E「おいお前等、それくらいにしておけ…!」    

隊員Eは会話に割り込んで、その奇妙なやり取りを止めさせた

隊員E「それよりちゃんと警戒するんだ、まもなく国境を越えるぞ」

隊員J「分かってますよ」

対外「ハーハッハァ」

両名は適当な反応を返し、監視へと戻った

隊員E「はぁ…二人ともすまなかった。もし何かあったら遠慮せず、すぐに呼んでくれ」

鍛冶兄「あ…はい…」

隊員Eは二人に謝罪すると、コックピットへと歩いて行く

鍛冶妹「…なんか、変な人達だね」

鍛冶兄「ああ…」

鍛冶兄妹は周りに聞こえない声で呟いた

隊員Eはコックピットへと顔を出す

隊員E「機長、まもなく国境を越えるはずです」

二尉「ああ、分かってる。副機長、念のため高度を少し上げるぞ。
1500フィートまで上昇だ」

副機長「了解」

二尉「上げ過ぎるなよ、地形が確認できなくなる。
    上昇後に進路の修正を忘れるな」

副機長「分かった分かった」

副機長が操作を行い、機体は高度を上げだす

二尉「あの二人の様子は?」

隊員E「緊張はしていますが、大丈夫そうです」

二尉「そいつはよかった」

隊員E「では、私は監視に戻ります」

隊員Eは貨物室へと戻っていった

副機長「そんなに緊張できるとは、うらやましいね。
     こっちゃ退屈で退屈でしかたねぇってのによ」

副機長は上昇操作を行いながらも、退屈そうに呟やく

二尉「はっはっ、音速を超えた事のある人間はいう事が違うな」

二尉は皮肉の混じった笑みを浮かべて、副機長に問いかける

二尉「お前聞いてるぞ。T-2改を降ろされて、特例でヘリの基本過程に移った時、
    その態度でさんざん揉め事起こしたんだってな?」

副機長「そんな事もあったかね」

副機長は興味なさそうにそれに返した

二尉「やれやれ。ちっとは緊張感を持てよ、今はお客さんを乗せて飛んでるんだからな」

副機長「分かってる、退屈だが油断はしねぇよ」

ニ尉「ならいいがな、頼むぞ」

草風の村


自衛、同僚、隊員C、支援Aの四人が村内の道を歩いている
先程まで着いていた歩哨任務を別の組と交代し、中心部まで戻る所だ

同僚「…ひどいもんだ…」

周囲を見渡しながら同僚は呟く
生き残った村人はほとんどは中心部に集まっているため、
それ以外の場所は人気が無く、焼け焦げた家屋だけが生々しく残っていた

隊員C「おぉい?そりゃつまり、いつまでここに居座り続けりゃいいか
     分からねぇって事かぁ?」

その中で隊員Cの卑屈めいた言葉だけが響く

自衛「兵団の連中は、証拠が無ぇと介入できねぇと言って来たらしい。
     すぐに引継ぎができねぇとなると、少なくとも今日明日で撤収は無理だろうな」

隊員C「マジかよ…歓迎しがたいねそりゃ!」

同僚「お前なぁ、村がこんな状況なんだぞ?少しは物言いを考えろよ」

同僚は、吐き捨てるような口調で言った隊員Cを咎める

隊員C「言うけどよぉ、こっちだって人数的に余裕があるわけじゃねぇんだぜ?
     ここに居座り続けてる間は、燃料をなんとかする作業は中断同然だしよ、
     野営地だって手薄になるだろ」

同僚「確かにそれはそうだが…」

隊員C「その上、例の院生ちゃんとやらの捜索もまだ途中だろ?
     そんな状況なのに、長い事ここに人数を割き続けるのは、
     よろしい事とは思えねぇがな?
     自衛、マジで無期限にここに居座り続けるのかよ?」

自衛「いや、陸曹達も盲目的に居座り続ける気はねぇだろうよ。
     隣国を介入させるための糸口を、色々と探ってる。
     今も、今朝とっ捕まえた奴をゲボらしてる最中だ」

隊員C「そううまくいくのかよ?捕虜にした傭兵は大した情報を持ってなかったんだろ?
     “雇い主に必要以上の詮索はしないー”とかご立派にほざいてよ。
      とっ捕まえた連中が情報を持ってる保障はあんのか?」

自衛「さぁな、吐かしてみなけりゃ分からねぇ。
     ただ、目処が立たないようなら、村人を国外に脱出させることも考えてるらしいぜ」

同僚「それならここを守り続けるよりは、負担も少ないが…
     けど、村人達はきっと故郷を離れたくはないだろうな」

隊員C「そんな悠長な事言ってる場合かよ。
     俺だったらこんな面倒事の中心地からは、とっととオサラバしたいがね」

自衛「感想は結構だが、今の話はあくまで最終手段だ。まだ、村人には話すなよ」

支援A「お口にチャックだってよ、隊員C」

隊員C「了解了解、クソッタレ」

隊員Cは両手をヒラヒラさせながら、適当に返事を返した

同僚「はぁ、せめてもっと人数がいればな…設備機材は大量に揃ってるのに…」

隊員C「あぁ、そのへんには同意してやるよ」

同僚「はっ、お前と意見が合うなんて珍しい」

同僚は苦笑いで隊員Cに返す

隊員C「それでよ、そのへんに関してちっと奇妙だと思う事があるんだがよ」

支援A「あぁ?」

自衛「話してみろ」

隊員C「中央補給区域※にはいろんなモンが大量に集積してあったんだろ?
     実際、膨大な量の武器弾薬、機材が一緒に飛ばされてきて、
     俺達はそれを好き勝手使ってるわけだ。
     大部分は持て余してっから分屯地でおねんね中だけどよ」

同僚「ああ。私達が偵察に出ている間、それらの再集積が大変だったらしいぞ。
     車両数は限られてたからな」

隊員C「それだよ。弾薬や機材の膨大さに対して、
     車両やら人数やら燃料やらの数が半端じゃねーかって話だ。
     補給区域には人数も、車両燃料も十分あったって聞いてるぜ?
     それが、まるで欠け落ちたみたいな半端さじゃねぇか」

同僚「欠け落ちた、って…確かに妙ではあるが」

支援A「ただの偶然なんじゃねぇのかぁ?」

隊員C「あぁ、それを言っちまえば終わりだよ。
     そもそも異世界に吹っ飛ばされてる時点で、理屈もハゲもねぇんだろうけどよ。
     唯どうせ飛ばすんなら、もっと利便のいい形で飛ばしてくれりゃよかったのに、
     って思ったんですぅ!」

隊員Cは軽く目を見開き、嫌味ったらしく言い切った

同僚「結局愚痴かよ…」

自衛「それなりに気になる考察だが、無いモンを駄々こねてもしょうがねぇ。
     とにかく今はあるもんでなんとかするんだ」

同僚「そうだな。それと、考察はいいけど、嫌味抜きで聞かせて欲しいもんだよ」

話している内に自衛達は避難区域へと到着した
到着すると同時に、道に止まっている指揮車から
隊員Gが向ってくるのが見えた

隊員G「自衛。お前の組、今手空きか?」

自衛「えぇ、さっき歩哨から上がった所です」

隊員G「そうか。歩哨の直後で悪いんだが、もうすぐ輸送ヘリが到着する。
     作業の支援に行ってくれないか」

自衛「いいでしょう」

隊員G「すまん、頼む」

他にもやる事があるのだろう、隊員Gはそれだけ言うと
小走りでその場を去って言った

隊員C「さっそく良い例が出たな、人手不足で息つく暇もありませんよと!」

自衛「ヘリは北の空き地に誘導される手筈だ。とっとと片付けちまおう、行くぞ」


※(演習場内に設営されていた補給地点。各師団、旅団への補給に対応するために、多くの支援部隊が集結していた)

避難区域より150m程北側に開けた場所がある
草風の村上空へ飛来した輸送ヘリは、轟音と砂埃を上げながらそのスペースへと着陸する

二尉「接地を確認」

副機長「エンジン停止する」

副機長がエンジンを止め、ローターは回転数を下げ、やがて停止した

鍛冶妹「ふえー…」

鍛冶兄「ついたのか…」

機体が地上へ降り、振動と轟音が鳴り止んだ事で、
鍛冶兄妹は安堵の溜息をついて脱力する

対外「空の旅は楽しかったかね?銀髪の少年少女たちよ」

そんな二人に対外は怪しげな口調で問いかけてくる

鍛冶兄「少年少女って…」

鍛冶妹「そんな呼ばれ方する年じゃないんだけど…」

隊員E「こいつの言う事は聞き流してください。隊員J、ここを任せるぞ。」
     隊員D、お前は鍛冶兄さん達の案内を」

隊員D「分かりました」

指示を出した隊員Eは後部ランプから機外へ降りる
その時ちょうど、道の先から自衛達がやってきた

隊員E「自衛陸士長」

自衛「どうも、隊員E二曹」

両者は互いに敬礼を交わす

自衛「作業の手伝いをするよう言われてきたんですが?」

隊員E「隊員J陸士長に任せてあるから、彼に指示を仰いでくれ。
     私は補給二曹に報告をしたいんだが」

自衛「そこの道を行った先が、住民の避難区域になってます。
     補給二曹はそこに併設した指揮所に」

隊員E「分かった、ありがとう。
     ああ、それと鍛冶兄さん達が一緒に来ている。
     彼らのことも頼めるか?」

隊員C「あいつらか…いつから俺達はアイツ等の保護者になったんだぁ?」

自衛の後ろで隊員Cがぼやく

自衛「黙ってろ隊員C。鍛冶兄妹の面倒はこっちでみておきます」

隊員E「頼むぞ」

隊員Eは自衛達とは分かれ、避難区域へと向って行った

ヘリのランプ付近には、隊員Dの姿があった

隊員D「またこんな風景か…」

隊員Dは周囲を見渡しながら苦い表情を浮かべている
空き地の周辺にも、焼け焦げた民家がいくつか見受けられた

支援A「よーぉ、ご到着だな!」

そこへ支援Aの大声が響き、隊員Dはこちらへ来る自衛達に気が付いた

隊員D「士長、どうも」

自衛「隊員D、鍛冶兄達は一緒だな?」

隊員D「ええ、機内に」

隊員Dは機内の鍛冶兄達を視線で示す

隊員D「二人とも、足元に気をつけてくれ」

鍛冶兄「あ、ああ」

隊員Dは降りようとする鍛冶兄達に注意を促した

同僚「あの二人大丈夫か?顔が少し青いように見えるが…」

隊員C「そりゃそうだろ、アイツ等ヘリに乗るなんて初めてだろうからな。
     ところで隊員D、お前のお勤めは終わったのかよ?」

隊員D「ああ、昨晩で48時間の謹慎は解けた」

隊員C「で、そいつ等のお守でくっついて来たってか」

ちょうど機外へ降りてきた鍛冶兄妹を指し示す隊員C
その表情は心底面倒臭そうだった

鍛冶妹「顔合わせた途端にそれ?少しは愛想よくしてもいいんじゃない?」

隊員C「じゃあ、一緒にワルツでも踊りましょうかぁ?え?」

自衛「茶番は後にしろ。二人とも早速で悪ぃが、転移陣地の設置を頼めるか?」

鍛冶兄「あぁ、もちろん。こっちも着いたらすぐに掛かるつもりだったしな」

自衛「助かる。隊員J!」

自衛はヘリの機内へ向けて声を掛ける

自衛「鍛冶兄達のお守に二人ほど貼り付けるが、いいな?」

隊員J「あぁ、大丈夫だ。こっちは5~6人いればいい」

自衛「よぉし。隊員C、隊員D、鍛冶兄達と一緒に行け。
     接地に都合のいい場所を探して、天幕を設置しろ」

隊員D「分かりました」

隊員C「へーへー」

自衛「鍛冶兄、鍛冶妹、こいつらについてってくれ。
     同僚と支援Aは機材の積み下ろしだ」

同僚「分かった」

支援A「了解だぁ」

自衛「よし、早いトコ終わらせようぜ」

各々は、それぞれの作業へと掛かって行った

隊員Eは避難区域へと到着
指揮用の業務用天幕を見つけて天幕内を覗くと、
中に置かれた長机の前に補給の姿があった

隊員E「補給二曹」

補給「ん?おお、お疲れさん。よく来てくれた」

隊員Eは鉄帽を脱ぎ、天幕の入口をくぐった

隊員E「お疲れ様です。こちらの状況は?」

補給「なんとか整理はついてきた所だが…まだやるべき事はたくさんだ。
     とりあえず、ここの住民の安否だけは全て確認できた。
     今は村の周辺を警戒しながら、生存者の救護活動中。
     それと、平行して亡骸の埋葬中を行ってる。
     …村の南側、見たか?」

隊員E「ええ…上空を通過した時に」

ヘリが村の南側上空を通過した時に、隊員E等は
一帯の土が掘り起こされているのを目撃していた
それらは遺体の埋葬のために掘り起こされた物だった

補給「ひどいもんだよ」

補給は長机の端にあるメモ帳を手元に寄せる

補給「この村の元々の住民の数は117人だそうだ。
     そして、今朝までの捜索で43名が死体で発見された。
     さらに保護できた負傷者の内4名が今朝までに死亡。
     生存者は70名だが、内15名は重傷だ」

隊員E「…」

補給「それと村人とは別に73名分の遺体を回収。
     この国の政府、商議会に雇われた傭兵のものだ。
     100を越える遺体の埋葬に、かなり手間取ってる。
     村の人達も何人かが手伝ってくれてるんだが、夜まではかかるだろうな…」

補給は苦い顔で呟き、小さな溜息を吐いた

補給「まぁ、今の状況はそんな所だ」

隊員E「そうですか…そうだ、補給二曹。拘束した偵察らしき者たちは、どうなりました?」

補給「あぁ、それなんだがな―――」

申し訳ありませんが、少し時間が空きそうです…

避難区域から出て少しのところに、半壊した一軒屋がある
その一軒家の一室を借り、拘束した追っ手の尋問が行われていた

部屋には一組のテーブルと椅子が置かれ、その片方に追っ手Aが座らせられている
反対の椅子にはFV車長、机の横には特隊Bの姿もあった

FV車長「……おい、いい加減話してみたらどうだ?」

FV車長は追っ手Aを睨みつけながら問う

追っ手A「…何をだ?」

FV車長「お前達の目的だ。あんなところで何をしてた?」

追っ手A「言ってるだろう、俺達は通りがかっただけだ」

だが問いかけに追っ手Aは、涼しい顔でそう答えるだけ

FV車長「見え透いた嘘を吐くな。
     “傭兵のヤツ等がしくじった”そんな事を言っていたそうだな?
      奴等とどういう関係だ?一体誰の差し金なんだ?」

追っ手A「何のことだかさっぱりだな。あんたらの仲間が聞き間違えたんじゃないか?」

特隊B「君なぁ…いつまでもそんな嘘が通用すると思うのか?」

追っ手A「通用も何も、知らないものは知らない」

FV車長「ッ…」

このようにFV車長達が何を問いかけても、
追っ手Aはとぼけたような返事を返すだけだった


補給「…ずっとあの調子だ」

隊員E「なるほど…」

補給と隊員Eは少しだけ開けたドアから、部屋内の様子を伺っている
そこは廊下で、補給や隊員Eの他、見張りの特隊A等の姿もあった

特隊A「埒が明きませんよ。多少、手荒な手段に出てもいいと思いますがね?」

特隊Aは補給に対してそんな発言をする
その表情は若干イラついていた

補給「馬鹿を言うな。そんな事は許可できない」

だが補給は視線を部屋内に向けたまま、その意見を否定する

特隊A「しかし!」

補給「暴力は許可しない。
     森での一件の時は、事情が事情だったから何も言わなかったが、
     暴力措置が慢性化する事は許さん」

特隊A「そうは言いますが…!」

特隊Aがさらに発言しようとしたその時、廊下の先の玄関がから別の隊員が入ってきた

隊員B「っと、お疲れ様です」

入ってきた隊員Bは、補給や隊員Eの姿に気付いて敬礼する

補給「なんかあったのか?」

隊員B「ええ。もう一人のほうが目を覚ましたので、知らせに来たんです。
     なので、ちょっと失礼します」

そう言うと隊員Bは補給等の間を通って、ドアをくぐった

隊員B「FV車長」

FV車長「ん、隊員Bか。どうした?」

隊員BはFV車長へ耳打ちする

FV車長「…わかった、連れて来い」

隊員B「了解」

返事をした隊員Bはすぐに部屋から出て行った
それを見送ったFV車長は、追っ手Aへと向き直る

FV車長「お前さんの相方が目を覚ましたそうだ。交代だ、少し頭を冷やせ」

追っ手A「…」

FV車長のその言葉に、追っ手Aはつまらなそうな表情を返すだけだった

FV車長「特隊A!こいつを戻してくれ」

特隊A等、見張りの隊員が部屋へと入って来て、
そして追っ手Aを部屋から廊下へと連れ出す

隊員E「特隊A」

その途中で隊員Eが特隊Aを呼び止めた

特隊A「はい?」

隊員E「ちゃんと見張ってくれ、くれぐれも自殺とかさせないようにな」

そしてそう念を押す
五森の公国の砦での戦闘で、敵将軍に自害された前例を鑑みての言葉だった

特隊A「了解です、厳重に見張ります」

隊員E「頼むぞ」

そして追っ手Aは玄関から連れ出されていった

補給「お疲れさん。FV車長、特隊B」

それを見送ってから、補給等は部屋へと入り、FV車長等に声をかける

FV車長「補給二曹。隊員E二曹も、お疲れ様です」

補給「すまんな、慣れないことを押し付けて」

特隊B「俺は一応慣れてるからいいですけど…」

FV車長「あの野郎ずっとあの調子で、こっちのほうが疲れちまった…」

言いながらFV車長は肩を回す

隊員E「見てたが、本当に知らないの一点張りだったな」

FV車長「ええ。ですが、何かしらの情報は持ってるはずです。
      無関係の人間なら、あんなふざけた態度はできねぇ」

FV車長は疲れとイラつきの混じった口調で言った

隊員E「厄介だな…」


お待たせして申し訳ありませんでした…

避難区域の片隅
そこには天幕が一つ設置されている

隊員D「握把と銃身をしっかり握って構えるんだ。
     そしたらストックを肩に押し当てて安定させる」

鍛冶兄「こうか?」

隊員D「オーケー。そうすると、照準が目で覗ける位置まで来るだろ?
     構えた状態で、両方が重なるようにそれを覗くんだ」

その脇で、隊員Dは銃のとり扱いの指導をしている
指導を受けているのは他でもない鍛冶兄だった
鍛冶兄の手には小銃が握られ、隊員Dの指示に従って構えの姿勢を取っている

隊員C「…よーぉ、そいつに教えてなんの意味があるんだぁ?」

端でそれを見ていた隊員Cが口を挟む

隊員D「教えるくらいはいいだろうよ。兄ちゃん達には色々面倒かけてるし、
     長い事居座ってんのに、俺等の事を正体不明のままにしとくのも失礼だろ?」

隊員C「感心だねぇ。地域との交流に意欲的なようで」

そういうが、隊員Cの口調はどうみても感心していの者のそれではなかった

隊員D「ったく…中断してすまん」

鍛冶兄「いや、いいよ。で、次は?」

隊員D「ああ、前後の照準を重なるように覗くだろ。
     そしたら、その態勢を崩さないようにしながら、
     照準の先に目標を捕らえるんだ。
     そうだな、あの建物の出窓を狙ってみてくれ」

鍛冶兄「あれか、分かった」

隊員D「撃つ直前まで、安全装置には指を掛けないようにな。
     動く時は銃だけじゃなく、上半身ごと捻るように動くんだ」

鍛冶兄は言われたとおりに、出窓を狙う

隊員D「照準を合わせたら、引き金を引くんだ。
     このとき体を動かさないようにな」

そして鍛冶兄は引き金を引いた
今の小銃には弾倉も弾丸も込められていないため
ガン、と激鉄が降りる音だけが響いた

隊員D「戦う時には弾倉を込めてこれをやる、すると」

鍛冶兄「ヤッキョウ…につめられた粉が破裂して、
     先についた鉛を打ち出す…」

隊員D「そういうことだ」

鍛冶兄は構えを解き、手の中にある小銃を眺める

鍛冶兄「取り回しはなんとなくクロスボウに似てるな」

隊員D「あぁ、発想は似通ってるかもな」

鍛冶兄「だが…一度に撃ち出せる数が違う。弓を引き直す手間もない…」

隊員D「それだけじゃないぜ。弾丸は矢に比べて風の影響を受けにくい。
     それに、なにより殺傷力が違う」

鍛冶兄「よくできてるな…」

鍛冶兄は感心しながら、小銃を隊員Dに返した

訂正

隊員D「撃つ直前まで、安全装置には ×
隊員D「撃つ直前まで、引き金には  ○
    

鍛冶妹「兄貴~…」

その時だった、天幕内から鍛冶妹の声が聞こえてきた

鍛冶兄「?」

隊員C「あんだぁ?」

天幕内へと入る鍛冶兄、隊員Cも天幕内を覗き込む
天幕内には大きな布がしかれ、そこにインクで魔方陣が描かれている
だがその魔方陣は、途中まで描かれた所で止まっていた

鍛冶妹「どうすんだっけ…分かんなくなっちゃった…」

鍛冶妹は助けを求めるように鍛冶兄を見上げる

隊員C「なんだぁ?この前は“じゃましないよ~にぃ~”とか言って、
     一人で得意げに書いてなかったかぁ?」

鍛冶妹「う、うるさいなぁ…」

鍛冶兄「お前教本を忘れてきたな?ったく、だから暗記しておけと言ったのに…
     どれ?どこで詰まってるんだ?」

書かれている途中の魔法陣を覗き込む鍛冶兄

鍛冶兄「…最初の基礎術式と、この魔方陣の指定式は書いてあるな。
     その先は各転移先の指定式を書く…
     って、家の魔方陣の指定式までは書いてあるじゃないか」

鍛冶妹「んー、その先…ここで一度完結記号でくくるんだっけ…?」

鍛冶兄「違う。そのまま続けて他の場所の指定式を書く。
     そして最後に魔方陣の完結式を書くんだ」

鍛冶妹「あー、そっか」

隊員C「まるでプログラミングだなぁ」

後ろからそれを見ていた隊員Cはそう呟く

鍛冶兄「…ん?ちょっと待て!お前、最初のほう描き間違えてるぞ」

鍛冶妹「うえ!?どこ!」

鍛冶兄「ここだ、基礎術式とこの魔法陣の指定式の間の完結記号。
     余計な単語が混じってる。これじゃ転移できないぞ」

鍛冶妹「あ…」

鍛冶兄「ったく…まだお前、荒が多いな」

鍛冶妹「うぅ…ねー、やっぱり兄貴が描いてよ。その方が早いし正確でしょー?」

鍛冶兄「馬鹿言うな。魔力を持ってるお前が描けなくてどうする。
      ほら、後は一人で書けるだろ」

鍛冶妹「むぅ、わかったよ…」

鍛冶妹は少し不服そうな顔をしながらも、魔方陣の続きを書き始める
そして隊員Cと鍛冶兄は天幕から出て行った

隊員C「おい、大丈夫なんだろうな?下手して、訳分かんねー所に
     飛ばされるなんざゴメンだぞ?」

天幕を出た所で、隊員Cは鍛冶兄に問いかける

鍛冶兄「大丈夫、それは心配ないよ。
     設置式の転移魔法は、指定が少しでも違えば発動しないから。
     少なくとも事故にはならない」

隊員D「設置式?妹ちゃんが今描いてるあれは、そう言うのか」

鍛冶兄「ああ。魔方陣を描いて、そこから別の魔法陣に転移するのが設置式。
     もう一つの、術者がその場で詠唱して転移するのが詠唱式だ」

隊員D「森で妹ちゃんがやってたヤツだな」

鍛冶兄「そう。ちなみに、詠唱式も正しい詠唱をしなければ発動しないから、
     事故の心配は無いよ」

隊員C「ハッ、だといいがね」

隊員D「その二つは、具体的にはどう違うんだ?」

鍛冶兄「違いはいくつかあるが…まずは君等も見た通り、発動の方法。
     そして発動にかかる手間だな。
     設置式は設置に手間も時間も掛かるし、何より最初は目的の場所に
     設置しに行く必要があるが、
     詠唱式はその手間が無く、その場で発動できる」

隊員D「ほぉ」

鍛冶兄「そして移動先。設置式は魔法陣を設置した場所にしか転移できないが、
     任意の場所に転移する事ができるんだ」

隊員C「で、その詠唱式とやらは飛べる距離がみじけぇんだろ?アイツが言ってたぞ」

鍛冶兄「いや、そういうわけじゃない。
     詠唱式は、術者の保有する魔力と転移できる距離が比例するんだ。
     だから術者が強い魔力を持っていれば、それだけ遠くに飛べる」

隊員C「あぁ?ってーと、アイツは魔力とやらが足りてねぇから、
     遠くには飛べねぇって事か」

隊員Cは嫌味ったらしく言ったが、鍛冶兄はそれを否定した

鍛冶兄「いや、アイツの魔力はなかなかの物だよ。
     魔力の強さだけで見るなら、詠唱式で結構な距離を飛べるはずだ」

隊員C「じゃ、なんでアイツは目視できる範囲しか飛べねぇんだ?」

鍛冶兄「それは単に鍛冶妹の技能的な問題なんだ。
     一つは単に暗記力。
     飛ぶ目標が長くなると、それに応じて詠唱内容は長く複雑になるからな。
     そしてもう一つは、アイツが遠方知覚の能力を持って無い事」

隊員C「なんだそりゃ?」

鍛冶兄「遠くの場所の状況を把握することができる、遠方知覚魔法というのがある。
     詠唱式転移魔法はそれで転移先の状況、そして安全を確認してから飛ぶんだ。
     様子が分からない場所に、いきなり飛ぶのは自殺行為だからな」

隊員D「あぁー、そりゃそうか」

鍛冶兄「本来は詠唱式転移魔法と遠方知覚魔法は組み合わせて使うものなんだが…
     アイツが遠方知覚の習得に根を上げちまってな。
     だから、目視の範囲でしか飛べないんだ」

隊員C「でぇ?代わりに不便な設置式を使ってるってか?」

鍛冶兄「そういう理由も無いわけではないが…
     詠唱式が一方的に優れているわけじゃない。設置式には設置式の利点がある」

隊員D「というと?」

鍛冶兄「まず一つ、設置式は設置するときは面倒だが、
     一度設置できれば距離に制約は無いんだ。
     だから単純に長距離を移動するなら詠唱式に、
     特定の箇所を何度も行き来するなら、設置式のほうに利がある」

隊員D「ほぉ…」

鍛冶兄「そして二つ目は、君達も体験してるはずだ。
     詠唱式は詠唱者がいないと他者は転移できないが、
     設置式は一度設置さえできれば、詠唱者以外も転移できる」

隊員D「あぁ、確かに…アレ使って、森と野営地を好き勝手に行き来してるしな」

鍛冶兄「というわけで、どっちにも利点と欠点があるんだ。
     本来は両方を使い合わせて、その欠点を補い合うんだが…
     さっき言った通り、アイツは詠唱式のほうが不完全でね」

隊員C「つまり、やっぱり足りてねぇ所があるわけってわけだ」

鍛冶妹「なんかさっきから、あたしの悪口が聞こえてきてるんだけどー?」

隊員Cの嫌味を聞きつけたのか、天幕内から鍛冶妹の声が聞こえて来た

隊員C「気のせいじゃござんせんかねぇ!」

隊員Cはそんな返事で返して、話を続ける

隊員C「所で、今更だけどよ…そんなモンが存在するなら、
     町とかの守りはどうなってんだ?」

隊員D「言われてみりゃ…ここに来るまで、城壁で囲まれた町を見てきたけどよ。
     城壁とかも意味を成さねぇよな?」

鍛冶兄「あぁ、だから大きな街とかは大抵、障壁魔法というのを張ってるんだ。
     これで内外からの転移を弾いて、街への侵入を防ぐ。
     更に感知魔法というのもあって、これは内部に無断で設置された設置式
     魔方陣を発見、種類によっては発動できないよう無力化する事ができる」

隊員D「成る程。そりゃまた便利なモンがあるんだな」

鍛冶兄「まぁ、それ以前に転移魔法は使える人間事態が少ないから、
     転移魔法がらみの騒ぎはほとんど聞かないけどね。
     あれは簡単に覚えられる物じゃないから」

隊員C「ほぉう。つまり、アイツはあれでもエリートってか」

鍛冶兄「そうまでは言わないけど…身内が言うのもあれだけど、光る物はあると思うよ」

隊員D「っつーか、そう言うあんたは妹ちゃん以上に詳しいみたいだけどよ?
     あんたも転移魔法が使えるのか?」

鍛冶兄「…いや、俺は使えないんだ。ただアイツを手助けしてるうちに
     詳しくなっちまっただけだ」

そう言った鍛冶兄だが、その表情には少し陰りが見えた

隊員D「?」

鍛冶妹「兄貴ー、できたから確認お願い」

鍛冶兄「…あぁ、今行く」

だが、天幕内から鍛冶妹の呼ぶ声がし、鍛冶兄は再び天幕内へと入っていった

対外「やーぁ、諸君!元気かねぇ?」

鍛冶兄が天幕内へ姿を消すのと入れ違いに、
そこへ隊員Jと対外がやってきた

隊員C「まーた、おかしなのが来やがったぜ」

胡散臭い挨拶と共に現れた対外に、隊員Cは悪態を吐く

隊員J「暇そうだなお前等。転移魔法とやらの設置は終わったのか?」

隊員D「一応、今終わったみたいですよ。兄ちゃんのほうが最後の確認してる所です」

隊員Dは後ろの天幕を親指で示してみせる

隊員J「そんならお前等は暇って事だな。どっちか一人、俺等と来い。
     北側の監視、陣地構築作業の交代だ」

隊員C「ふざけんな、俺は一時間前に終えたばっかだぜ」

隊員Jの言葉に隊員Cは苦言を放つ

隊員C「そもそも昨日から戦い詰めだし、今だってあいつ等のお守で…」

隊員J「分かった、黙れ。お前はここでお守を続けろ」

だが隊員Jは隊員Cの苦言を途中で遮り、黙らせた

隊員C「チッ」

隊員J「隊員D、一緒に来い」

隊員D「はー、了解」

隊員Dはやれやれといった様子で、自分の銃を抱えて立ち上がった

隊員D「そんじゃあ、クタクタの隊員Cおじいちゃんの代わりに、一仕事してくるぜ」

隊員J「その内自衛達が来る。お前はそれに合流しろ、その間に面倒は起こすなよ」

隊員C「へいへい了解です、先任士長殿!とっとと失せてくれ!」

隊員J「行くぞ」

心底鬱陶しそうな表情の隊員Cの見送りを受けながら、
隊員J等は隊員Cの元を後にした

隊員C「ったく…樺太帰りの気色悪いパッパラパー共が」

隊員J等の姿が見えなくなってから、隊員Cは一言呟いた

あけおめ ことよろ
去年は色々と難儀な年だった

隊員Cの所を後にした隊員J等は、
北側の監視地点に向うために、避難区域を横切っている

特隊A「下手な真似はしてくれるなよ」

追っ手A「……」

その途中で追ってAを連行して行く特隊A達と出くわした
すれ違いざまに、隊員Jが特隊Aに声をかける

隊員J「おい、お客さんとの会話は弾んだか?」

特隊A「いんや、随分とマナーのいいお客さんのようでな――」

特隊Aは皮肉めいた表情で言いながら、追っ手Aを指し示す

追っ手A「……」

指し示された追っ手Aは、仏頂面で明後日の方向に目を向けていた

対外「…ふむ」

特隊A「こんな風に、ずっとだんまりだ…ほら行くぞ」

そうして、追っ手Aは連行されていった
隊員J達はさらに歩き、はずれにある、尋問に使われている一軒家の前まで来る
そこでちょうど、追ってAと交代で連れて来られた追っ手Dが、屋内へと入っていくのが見えた
そして屋内へと消えた追っ手Dと入れ違いに、補給と隊員Eが出て来た

対外「おぉや」

出てきた補給等は何らかの会話を交わしているが、その表情は渋いものだった

隊員D「…補給二曹達、なんか辛気臭い顔してますね」

隊員J「どうやら尋問は芳しくねぇようだな」

隊員D「俺達は刑事じゃないですからね、専門の人間でもいりゃいいんですが…」

隊員J等は言いながら、一軒家の前を通り過ぎようとした

対外「隊員J、私は少しはずさせてもらうが。いいかね?」

だがその時だった、対外が唐突にそんな言葉を吐いた

隊員J「あ?」

唐突な台詞に、隊員Jは怪訝な表情で振り返り対外を睨む

対外「少し出番がありそうなのでねぇ」

だが対外はそれだけ言うと、返事を待たずに身を翻し一軒家の方向へと歩き出していた

隊員D「え、対外士長?ちょっと、どこへ?」

対外「はーはっはぁ!」

隊員Dが対外の背中に問いかけるも、対外は片手を挙げ、奇妙な笑い声で返すだけだった

隊員J「馬ぁ鹿が。行くぞ隊員D」

一方の隊員Jは一言悪態を吐くと、対外を無視して監視区域に向けて歩き出した

隊員D「え!?しかし…!」

慌てて隊員Jを追いかける隊員D

隊員J「大丈夫だ。途中で支援Cを拾って、頭数はそろえる」

隊員D「いや、それより…対外士長はなんだって突然…?いいんですか?」

隊員J「ほっとけ、てめぇの仕事をしに行ったんだろうよ」

隊員D「仕事?」

隊員J「お前がさっき言った“専門”のだ。多少捻じ曲がっちゃいるがな」

一軒家 尋問使われている一室


室内の席には、追っ手Aに変わって追っ手Dが座らせられている

追っ手D「…俺は何も知らねぇ…」

追っ手Aと同様に、追っ手Dは何も知らないと主張し続けていた
だが追っ手Dの表情や口調には、追っ手Aのような余裕や冷静さは感じられない

FV車長「そんなわけあるか!お前達がここを襲った傭兵と関係してるのは明らかだ!
      知っている事を話せ!」

そこを狙い、FV車長は尋問をしつこく続け、口を割らせようとしていた

追っ手D「本当に知らねぇ…通りすがりだって言ってるだろ…!」

だが追っ手Dも一筋縄では行かず、なかなかに口を割ろうとはしなかった

特隊B「FV車長三曹、少し落ち着いてください」

FV車長「ッ…はぁ…」

FV車長は眉間を抑えて溜息を付く

FV車長「(糞、素人知識の尋問じゃ限度あるぜ…)」

FV車長が心の中で悪態を吐いたその時だった

対外「事態を進展させるキーワードは見つかりましたかなぁ?」

背後から奇妙な台詞が聞こえてきた

FV車長「?」

FV車長達が振り返ると、開かれた部屋の入口に対外の姿があった

FV車長「お前、北方対※の…」

対外「ごー機嫌よぅ、FV車長三等陸曹」

およそ隊員の物とは思えない挨拶と共に、対外は部屋内へと入って来た

補給「尋問の途中で割り込んですまんな、FV車長三曹」

その後ろから、続いて補給が入って来る

対外「少し、彼と話をさせてもらえますかなぁ?」

FV車長「話って…」

FV車長は補給へと振り返る

補給「あぁ、対外士長が取調べを自分にやらせてくれと言って来たんだ。
少し彼に任せてみようと思うんだが」

FV車長「俺は構いませんが…いいんですか?アイツは“北方対”の人間ですよ…?」

補給「彼には、暴力を手段として使うなと厳命してある。分かっているな、対外陸士長?」

対外「はっはっはぁ、いいですとも。時に違う道を通ってみる事も、
     何かとめぐり合えるチャンスかもしれない」

FV車長「あぁ…?何言ってんだお前?」

対外の奇怪な発言に、FV車長は怪訝な表情をする

補給「まぁ…なんでもいい、とにかく任せるぞ。FV車長三曹、
     君にも引き続き尋問の監督を頼みたい」

FV車長「ええ…分かりました」

少し戸惑いつつも、補給の言葉を了承するFV車長
そして補給は部屋を出て行った

対外「さてぇ。よろしいかな、青年よ?」

対外は机の前に立つと、追っ手Dの顔を覗き込んだ

追っ手D「ッ…!?」

対外の、常にニヤついているような薄気味悪い目に、追っ手Dは顔を歪める

追っ手D「お、俺は何も知らねぇって…!」

対外「まぁーまぁ、落ち着きたまえ。君も疲れているだろう。
     そうだ、気分転換にいくつかお話を聞きたくはないかね?」

追っ手D「……は…はぁ?」

唐突にそんな事を言って来た対外に、追っ手Dは呆けたような顔になる

FV車長「おい、対外士長。一体何を始めるつもりだ?」

対外「焦らずに、三曹。さて、まず何を話そうかぁ―――」


※ 『北部方面対国外行動隊』の略称
   北部方面隊の下にある架空の隊

年が明けたばかりと油断している間にも、23日が過ぎてしまった
ほんのわずかだが、続きを投下したい


二時間後


部屋には再び追っ手Aが連れて来られた

特隊A「座れ」

追っ手A「…」

特隊A等の手によって、追っ手Aは椅子へと座らせられる

追っ手A「(クソ、しつこい連中だ。…しかし…コイツ等本当に、一体なんなんだ?)」

椅子に座らせられた状態で、追っ手Aは周囲を目線で見回しながら、
考えをめぐらしていた

追っ手A「(この村の住人ってことは有り得ねぇだろうが、月詠湖の兵団とも思えねぇ。
      なのに、何でこうもしつこく探りを入れてきやがるんだ?
      どこぞの傭兵か?にしても、格好に顔立ち、他にも色々と妙だ…。
      …クソ、思い当たる節がねぇ…)」

しかし考えるも、追っ手Aは納得の行く予測を立てる事すらできず、
心の中で悪態を吐いた

追っ手A「(チッ……まぁ、なんでもいい…、
      どうせ今日の深夜には、凪美の町にいる傭兵連中の本隊が、
      この村に奇襲攻撃を掛ける事になってるんだ。
      それまではぐらかせばいい…それに何より…)」

追っ手Aは目の前の、何かを話し合っているFV車長等を盗み見る

追っ手A「(理由は知らんが、こいつらの尋問は恐ろしくぬるいしな。
      ただ威圧的に質問をしてくるだけで、拷問を行ってくる様子が無い。
      余裕だ…)」

そう思いながら追っ手Aは視線を手元に戻し、これまで通りの
素知らぬ表情を作ろうとする

対外「やーぁ」

ぬっ、と

追っ手Aの背後から肩越しに、対外の顔が現れたのはその時だった

追っ手A「!?」

対外「御ー機嫌よう、良き人よ!気分のほうはいかがかねぇ?」

追っ手A「な…!?」

突然自分の顔を覗きこんできた対外に、追っ手Aは思わず身を遠ざけた

対外「我々の勝手でご足労願って申し訳ない、まずその無礼を詫びよう。
      さて、それを踏まえた上で…よければ君とぉ、少し話がしたい」

対外言いながらは追っ手Aの背後から横に回ると、必要以上に上半身を屈めて、
再度、追っ手Aの顔を覗きこんだ

追っ手A「(な…なんだ…?この気色悪い男…!)」

背後から音も無く唐突に現れ、気色の悪い顔で気色の悪い言葉遣いをしてくる対外に、
ここまで平静を装ってきた追っ手Aも顔を歪めた

追っ手A「……何も話すことなんか無い、ずっと言っているだろう…」

追っ手Aはその気食悪さに少し言葉を濁しつつも、
あくまでシラを切ろうと、対外から顔を背けてそう発言する

対外「おーとっとぉ、そんな邪険な態度をしないでくれたまえ。
    私の心が悲しみで溢れてしまうよ…!
    あぁ!そうだね失礼。
    確かにこちらから君にお話を要求するばかりでは、不公平というものか!
    よろしい。ならば気分転換も兼ねて、
    私から君に、ある昔話をお送りしよう」

追っ手A「…は…?何を言って…」

奇妙な事を言い出した対外に、追っ手Aは伏せていた視線を少しだけ対外へと向ける

対外「さぁ!お耳を拝借、良き人よォ!
    ここで我等が顔を合わせたのはただの偶然か、
    はたまた何かの因果か!
    この小さな出会いを祝して、この物語をお送りしよう」

追っ手A「!?」

次の瞬間だった、
対外は突然両手を広げて、芝居のような大げさな口調で話し始める
突然の出来事に追っ手A思わず体を引いた

FV車長「はぁぁ…」

反対側に座るFV車長は、心底うんざりした表情で頬杖を付き、
そんな対外を横目で見ている

対外「これからお語りするのは、いつかのどこかの物語!
    真実か、はまたま風のイタズラが作り出したか御伽噺か!?
    ある男の一生を綴った物語ぃ!」

あまり好意的ではない反応をする周囲を意に介さず、
対外はそのお話を語りだした

対外「その男はぁ、物心ついた時にはすでに孤独の身。
     父の背の心強さも、母の腕の中のぬくもりも記憶には無く、
     知っているのは、身を貫くような風と世間の冷たさだけ!
     何があったのか、なぜ男がそうなったのかを綴る記録は何も無い。
     ただその男は、頼るべき者の無い小さな身で、
     過酷な環境を死に物狂い生きるしかなかったぁ!」

大げさな口調でそこまで言い切ったかと思うと、
今度は一転して声のトーンを落として話し出す

対外「男の寝床は路地裏の冷たい地面。
     物を乞い、ゴミを漁り、汚水をすすって飢えを満たし、小さな命を繋ぐ。
     幼き身にはあまりに辛い日々…
     だがぁ、その劣悪な環境の中を男は生き抜いた。
     死への恐怖…いやぁ、それ以上に自身の居る環境に対する挑戦心のような物が、
     男の中に生まれていたのかもしれませんなぁ」

対外はFV車長に同意を求めるように視線を送る

FV車長「(知らねっつの…)」

対外「劣悪な環境を耐え抜き、夜を幾度も越え、男は少しづつに成長してゆく。
     そしてぇ、日々育って行くその身を支えるには、
     ゴミを漁り、汚水をすするだけではあまりに心許ない!
     男がその手を次の手段に染めるのに、時間はかからなかったぁ。
     そうだぁ。男は生活の糧を得るべく、盗みを働くようになったのだ」

対外は不自然に大げさな歩調で机の周囲を回りながら、話を続けて行く

対外「男が住まうのは罪人に慈悲など与えられぬ社会!
     盗みの場を見つかり捕まれば、命の保障すら無い危険な綱渡りぃ!
     だがぁ、今日と言う日を生きるべく、男は危険な領域へと踏み込んだ。
     ある一軒の家へと忍び込み、食料と思わしきものを手当たりしだいに掴み取り、
     そして死に物狂いでその場を後にした…」

一拍だけ対外は間隔を置く、そして目を見開き、続きを吐き出した

対外「なんということだろう!
     そこで得られたのは、ゴミを漁り得られる食物とは比べ物にならない味!
     そして暖かさ!
     男は初めて、満ち足りたと言う感覚を味わった…
     そしてぇ……男は同時に、この世の冷たさを再確認したのだぁ!
     この満ち足りた感覚は、自分達に“与えられる”事は今までも無く、
     そしてこれからも無いだろう。
     格差、理不尽…それらは男を闇の世界へいざなうには十分だったぁ」

対外はそこまで話すと一度、追っ手Aにニヤリと不気味な笑顔を向けた

追っ手A「……」

対外「そして月日が立った。
     初めて盗みに手を染めて以来、男はありとあらゆる悪行に手を染めた。
     生きるべく盗みを続け、時には騙すようになり、
     そしてぇ…ついには殺すようになったぁ。
     それは時に自身のために。時には金銭と引き換えに、他人のためでもあった。
     そう!この世は常に表裏一体、光の世界あれば闇の世界もまたあり。
     男はいつしか、他者の代わりに手を染める事を、
     生業とするようになって行ったのだ!
     過酷な環境で身につけた知識と技術を持って、
     権を持つものの闇を肩代わりし、
     何人もの人を時に殺め、時に陥れていった…
     皮肉にも苛酷な環境が、男を強く、そして残酷に育て上げたのだぁ!」

両手を大きく広げて天井を仰ぎ、対外は大げさに言い放った

対外「男は、闇の世界での名声と地位を手に入れた。
     その一方でぇ、強く育った男の下には、
     いつしか境遇を同じくする仲間少しづつが集っていった。
     生き残るべく集まった、何の縁も無いはずの者たちの群れ。
     だが、男はそこに集う者たちに感じるものがあった。
     それはぬくもりだ。幼少期では得る事のできなかった暖かさを、
     初めて知ることができたのだぁ」

     少し易しめの口調で言い終えると、対外はくるりと背を向けた

追っ手A「…はッ、それでめでたしめでたしか…?」

追っ手Aはそう言い、対外の話を鼻で笑おうとした

対外「だがぁ!」

追っ手A「!?」

しかし、その前に対外は勢い良く振り返り、追っ手Aの間近まで顔を近づける
対外「そんなささやかな温もりの一方でぇ、
     男はより深い闇の世界へと引きずり込まれて行く!
     その世界は、どこまで行こうと、どこまで技を磨こうとも
     いつ切れるとも知れない綱渡りであることに変わりはなぁいッ!
     あぁぁッ!なんとも不条理ッ!男が手に入れたぬくもりは、
     いつその手から零れ落ちるのかも分からないのだぁッ!」




半端なところで申し訳ありませんが、お知らせしておきたい事があります

非常に勝手な話ではありますが、近いうちに活動の場を
個人のHPへ移そうかと考えています

唐突な話で、読んで下さっている方々にはご迷惑をおかけしますが
何卒ご理解の程よろしくお願いいたします

お久しぶりです、ご迷惑おかけしております

三ヶ月に及ぶ頭のおかしいシフトがようやく終わりました
そしてこの、止めときゃ良かった”対外の部屋”ももうすぐ終わります


言い切ると、対外は追っ手Aから顔を離して、
再びゆっくりと机の周囲を回り始め、語りだす

対外「そして残酷にもぉ、その裁きの日はふいに訪れた…
    ある日のことだぁ。男は国の政府の要人から、
    秘密裏に仕事の依頼を受ける。
    その国の政府は長年二つの派閥が対立しており、
    依頼内容は、対立する派閥の要人を暗殺することだった。
    大きな仕事だったが、男にとって困難な物ではなかったはずだった。
    決行の日は、暗殺対象の屋敷で晩餐会が開かれる夜。
    男は夜闇にまぎれてその屋敷へと忍び込む。
    そして屋敷の中庭にて、いとも簡単に暗殺対象の姿を見つけた。
    多くの人々が晩餐を楽しんでいる中だったが、
    男にとって、その中から対象を見つけるなど容易な事だった。
    男が陣取るは中庭を見下ろせる屋敷の一室、
    標的を射抜ける最良の位置から、何も知らぬ獲物に向けて弓を引く。
    その手を放せば、対象を矢が貫き、息を止めるだろう。
    そして、男は矢を放つべく、指の力を緩める…」

そこで対外は、息を吐くようにして静かに言葉を区切る

対外「だが!なぁんという事だろうッ!」

と、思った次の瞬間、台詞とともに対外は目をくわっと見開いた
そして両手で顔を覆うようにしながら、嘆くように語りを再開した

対外「悲しき偶然か、もしくは性悪な運命のいたずらなのだろうか!?
    次の瞬間、いままでそよ風すら無かった中庭に、
    唐突に風が吹き込んだのだぁッ!
    風を即座に感じた男は、目を見開き矢を掴みなおそうとする。
    しかし、時はすでに遅かったぁ!
    矢は男の手を離れ、空中へと打ち出されていた。
    そして風はいたずらにも矢を煽り、
    矢は標的を貫くという己の使命を果たさずに、儚くも地面に突き刺さったぁ…!」

わざとらしいまでに驚愕に満ちた表情で、対外は一気にまくし立てる

対外「男は息を呑んだ。
    風が止み、周囲を一瞬の静寂が支配する…
    ほんのわずかな時間の後に、女性の悲鳴がその静寂を破った。
    そして中庭は一転して騒然となる!
    目的を果たせなかった矢は、逆に仕留めるべく標的に危機を伝え、
    主の存在を敵に知らせてしまったのだ!
    標的は内部へと引き込み、暗殺の続行は絶望的。
    それどころか、侵入者を見つけ出すべく衛兵達が屋敷内を駆けずり回り始める!
    暗殺の舞台は崩れ去り、男はその舞台から逃げ出すしかなかった!」

追っ手A「……」

対外「危機的状況の中だったが、男はからくも敵地からの脱出に成功する。
     幸いにも追撃は無く、男は自らの悪運の強さに感謝しつつ、
     その場を後にした。
     もちろん男には、このまま引き下がる気など毛頭無ぁい!
     次の手を考えつつ、男はアジトへの岐路に着いた。
     この脱出劇で、最後の悪運が尽きたとも知らずに……」

不気味な笑みを浮かべたまま、対外は言葉を溜める

対外「翌日、男は雇い主から呼び出される。
     そして伝えられたのは…“解雇”という冷たい一言だったのだ…ッ!
     雇い主が求めていたのは完璧な遂行人、たった一度の失敗も
     看過する事は許されなかったのだ!
     無慈悲に伝えられた言葉に、男は驚愕し、その顔はみるみる青ざめていったッ!
     通告に対して男は、身元が割れるような証拠は残していない事や、
     次こそは確実に暗殺を成功させるという旨を、必死で弁明する!
     だがぁ!
     悲しくもその悲痛な弁明が聞き届けられる事は無かった!
     たった一度の失敗により、男は見放されてしまったのだぁ…!」

わざとらしいまでの悲観的な口調で語りきると、
対外はFV車長に向けて問いかけてきた

対外「さぁて…FV車長三曹。彼の運命は大きく変わってしまった。
     その後、男が一体どうなったのかぁ…三曹の予想をお伺いしても
     よろしいでしょうかぁ?」

FV車長「あぁー…?顧客からの信用を失ったんだろ?
     その手の仕事から足を洗って、堅気に戻ったんじゃないのか?」

対外からの問いかけに、FV車長は心底だるそうにそう答えた

対外「成る程…そうでしょうなぁ、そうであれば…
     あぁ!そうであれば…ッ!まだ救いがあったかもしれないッ!」

対外は自分の身を抱くようにして、嘆くように言葉を発する

対外「だが…!男の苦悩と苦痛に満ちた人生は、ここからが始まりだったのだぁ!
     闇に生きてきた男は、既に数多くの黒い秘密を知ってしまっていた。
     当然その中には、男が仕事を請け負った者たちの秘密も含まれている。
     彼等は、男が絶対の仕事人だからこそ、男にその秘密を託したのだ。
     だがぁ…今回の男の失敗によりその安心にヒビが入った…
     もし男が敵対する者の手中へ落ちていたら!
     あるいは今後、そのような事が起これば!
     最悪の場合、そのヒビから自分たちの黒い秘密が露見してしまうかもしれない…
     雇い主たちがそう考えるのは、ごく自然な事…そうだろう?」

対外は最後の一言を、追っ手Aの耳元で不気味に囁く

追っ手A「ッ……」

対外「この先の展開は、君にもわかるだろう?
     雇い主は男と、さらには男に付き従う仲間たちを…消しに掛かったのだよ!
     失敗を犯した闇の仕事人に与えられるのは、
     労いでも慈悲でも無い、暗い死だ!
     あぁッ、なんと無慈悲なことかぁッ!!」

対外は本気で嘆いているかのように叫び、さらに続けてまくしたてる

対外「男と、彼の元に集った仲間達は、哀れにも終われる身となった!
     それから始まったのは、つらく苦しい逃亡の生活だった。
     彼等はみすぼらしくも、暖かかった住処を捨て、
     ちりぢりなって必死に逃げた。
     だが、保身が懸かった元雇い主達の魔の手は、あまりに強力で残酷だった!
     金と数に物を言わせた追撃の手により、次々と殺されて行く仲間達!
     そんな中を盗賊は、幼少期からの経験と秀でた自らの力で、必死に逃げ延びた。
     だが…一度、仮初とはいて暖かさを知った身に、
     その生活は苦しく、つらく…寂しいものだったぁ…」

そして最後は打って変わって、儚げな口調で言いながら
手のひらを胸に当てた

対外「逃亡生活は永きに渡り、男の体を蝕んでいった。
     寒く暗い下水の隅に追いやられた男は、痩せた己の身を抱え、
     昔の暖かかった時間を思い出す…
     渇いた口と喉に染み込んでゆく水。
     胃を満たしてくれるパンの味。
     凍えて縮こまった身を解してくれる、暖かな暖炉とやわらかな毛布の感触。
     共に酒を分かち合い、他愛の無い会話を交わし会う仲間。
     その全ては、すでに彼の届かぬ所にあった…」

FV車長「(よーやる……)」

語り続ける対外を、FV車長は呆れ顔で眺めている

追っ手A「……ッ…」

FV車長「…ん?」

その時、視界の脇の追っ手Aが、生唾を飲み込むのが目に映った

対外「そして…彼はついに息絶えたぁ…
     冷たい路地裏で、静かに地面に倒れたのだ。
     誰に見守られることも無く、最後には何一つ満たされぬまま…
     結局彼がこの世に残せたものは何一つ無かった!
     そして、生きた証を残せぬまま、その亡骸は鳥達についばまれてゆき、
     ついにこの世に彼がいたという事実は、何も残らなかったぁ…
     これはある男の一生を綴った物語。
     真実かはたまた御伽噺か、世にも悲しいお話だぁ」

対外は物語の最後を、その一節で締めくくった

対外「良き人よ、いかがだったかなぁ?」

そして、今一度追っ手Aの顔を覗きこみ、感想を尋ねる

追っ手A「…ふざけてるのか…?ただ間抜けなコソドロが、
     ヘマをしてくたばったってだけじゃねぇか…」

対外「おや、なんと!御気に召さなかったか、それは残念だぁ…!」

追っ手A「くだらない話は終わりか?いい加減に…」

対外「…そうだぁ!」

追っ手Aの言葉を遮り、対外は声を上げる

対外「ならばこのお話ならどうだろう!」

追っ手A「ッ…!おい!これ以上は…」

対外「よき人よ!同胞達よ、今一度お耳を拝借!
     これは、ある少女の摩訶不思議な冒険譚ッ!」

追っ手Aは文句を遮って、次のお話を優々と語りだした

一時間が過ぎ、二時間が過ぎる


対外「そのキャラバンはついに仲間の死体に手を出したぁ!
     特に太っている者の肉を切り出し…」

その間に、対外はいくつもの話をしていった

対外「腐臭と血の臭いに耐えつつ、少年は腐乱死体から金品を漁る生活を続けた!
     だが、疫病はついに少年へとその牙を向ける…!」

それらはどれも、異常に生々しくて痛々しく、
人の不快感を煽るような内容の物ばかりだった

FV車長「はぁ…タバコ吸いてぇ…」

FV車長は椅子に背を預けて足を組み、酷くしんどそうな顔でそう呟く
不快な話に長時間付き合わされれば、そんな状態になるのも無理は無かった

追っ手A「…ッ」

だが、一方の追っ手Aの様子はまた違っていた
追っ手Aは両手を自分の膝の上で握り、顔を俯けている
そして俯けたその顔には、大量の汗が浮かんでいた
対外の話は、何の覚えも無い人間が普通に聞いただけなら、
ただの気色悪い話で終わっただろう
しかし追っ手Aは違った
聞かされる話の登場人物の境遇は、そのいずれもが
追っ手Aのそれと似通っていたのだ
そして登場人物達の痛々しい末路は、この先の選択を誤れば
追っ手A自身が辿る事になるかもしれない未来だった


先の追っ手Dの尋問にて対外は、内容やアプローチの仕方に多少の違いはあったが、
ほぼ同様の方法で尋問を実施
対象の不安感を極限まで煽り、そこに付け入る事で情報を聞きだしていた
追っ手Aと違って余裕の感じられなかった追っ手Dは程無くして口を割ったが、
残念ながら自衛隊が必要としている情報は得られなかった
だが、対外は追っ手Dから追っ手達の生活や追っ手Aの過去を詮索
そこで追っ手達が苦しい生活を送っていた過去を知り、
それを尋問のための作り話に混ぜ込んだのだ


対外「口封じのために、盗賊の少年はマフィアから追われる身と――!
     おや…?どうされた良き人よ!なにやら顔色が優れないようだぁ!」

追っ手Aの状態の変化に対外は早い段階で気付いていたが、
あたかも、たった今それに気付いたかのように、わざとらしく問いかけた

追っ手A「……」

対外「その顔、もしや何か不安を抱えているのではないかな?
     ふむ…私が口を挟む事ではないかもしれないが…
     あえて、愚かな私に提案させてもらえないか!?
     心に闇を抱えているのならば、良ければ吐き出してみてはどうだろう!?
     君の心のわだかまりを、少しでも晴らせるかもしれない!」

追っ手A「……何も話す事なんて無い……」

白々しく言う対外に、追っ手Aは憎々しそうに答えた

対外「そうかね?背負い続けるのは心にも体にも良い事では無いのだが…
     良き人がそう言うのなら、無理強いはできない!
     では、話を続けよう!
     少年はマフィアから追われる身となり、何日にも渡って逃走を続けた!
     どこまでも追って来る死角を振り切るべく、形振り構わぬ逃亡が続け、
     体は傷つき疲弊して行く。
     あちこちに負った傷は癒える事無く化膿してゆき、
     慢心相違の身をより蝕んで行った!」

追っ手A「ッゥ……」

休むまもなく、追っ手Aの不安感は煽られ続ける
だが、追っ手Aの精神を蝕むのはそれだけではなかった
数時間の尋問により、追っ手Aは少なくない飢えと乾き、
そして疲労感に襲われていた
ただでさえ監禁、拘束されているという状況の中
数時間に渡って蓄積されていったそれらの負担は、
追っ手Aの心身を確実に追い込んで行った

対外「そして己の限界を感じた少年は、ある決断に至った…
     ボロボロの足を引きずり向う先。
     それはマフィアの息のかからない、遠い町の騎士団の砦!
     己が知る、マフィアの悪行を全て伝えるべく…!」

対外はその極限状態の追っ手Aの前に、一滴の水を垂らしにかかる

対外「少年は騎士団の元へ出頭し、全てを打ち明けた…
     当然、自らも盗賊の見である少年は、そのまま騎士団の元に拘留された。
     だが、少年により打ち明けられた真実によって、
     少年を追うマフィア達の悪行が明るみに出た。
     一度亀裂が入れば、物事はあっというまに崩れ去って行く。
     少年を追うマフィアも例外ではなく、やがて組織は壊滅に追い込まれたのだぁ!」

追っ手A「……う…」

対外「少年を追う者はいなくなった。だが同時に、少年も罪を償わなくてはならなかった。
     この成り行きは少年の因果だろうか?
     それとも、神が少年に与えた小さな慈悲だったのか?
     それは記録には残っておらず、知る事は叶わない。
     だがぁ、願わくば少年が罪を償い、第二の人生を歩んだ事を願おうではないか」

対外はそう言って、その物語を締めくくった

対外「…おっとっと!最初は前菜の感覚で、短めの話をいくつか紹介させてもらったのだが、
     思ったよりも時間が過ぎてしまったぁ!」

追っ手A「……」

対外「困ったことだ。まだ、聞いてもらいたい物語はたくさんあるというのに!
     そうだな…抑えておきたいのは、ある貴族の家系に起こった不可解な…」

追っ手A「…ッ…おい…!」

その時、対外の声を遮り、追っ手Aが声を上げた

対外「ん?どうしたのかね良き人?」

追っ手A「……この後の…俺達の処遇を…どうするつもりだ…?」

追っ手Aは言葉を搾り出すように、そう尋ねて来た

FV車長「…事が落ち着いたら、お前達の身は
     月詠湖の王国の兵団に引き渡すつもりでいる」

追っ手Aの質問にはFV車長が答えた

追っ手A「…話す…」

FV車長「ん?」

追っ手A「俺が把握してる事は…全部話す…!だから、その後は早急に引き渡してくれ…!」

追っ手Aは汗だくの顔と険しい表情で、ぶっきらぼうに言い捨てた
それは、極度の恐怖と不安から逃れたいがために吐き出された、保身のための言葉だった
彼の心からは余裕などとうに消え去っていたのだ

対外「おぉ、おぉ神よ!良き人が私に心の内を話してくれると申し出てくれた!
     なんたる感激!私の物語が、良き人の心を開いてくれたのだぁ!」

不自然なまでに感激の言葉を発しながら、対外は天井を仰ぐ

FV車長「あー、そいつぁ良かったな…」

そのしらじらしい姿に、神ではなくFV車長が皮肉たっぷりの口調で答えた



今回のゲストは追っ手Aさんでした
表現が色々とメッタクソでしたが、ようやく次のシーンに進めます…

露草の町


町の中心部にある、一軒の建物の前に一台の馬車が止まっている
それは一般に使われている荷馬車ではなく、
丁寧な作りの要人用の馬車だった

商会員A「まったく、魔王軍の奴等も注文が多い」

眼の前の建物の入口から、愚痴を漏らしながら中年の男が出てくる
商議会の議員の一人である商会員Aだ
側には彼の側近の姿もあった

商会員A「向こうの準備は整っているな?」

商会側近「は。すでに手筈を整え、手の者の配置も完了しております」

商会員A「大丈夫だろうな?仮にも相手は勇者だぞ」

商会側近「抜かりはございません。凪美の町町長の傘下の者に加え、
      術師も配置しておりますゆえ」

商会員A「ならよいがな」

会話をしながら、商会員Aと商会側近は馬車へと乗り込み座席へ座った

商会側近「出発してくれ」

商会側近が馬車の前側に付いている小窓から御者に告げ、馬車はゆっくりと走り出した

商会員A「…傭兵どもは町を出発した頃か?」

少し窓の外の町並みが流れた所で、商会員Aが口を開く

商会側近「ええ、おそらくは。今夜には草風の村に到着し、
      再度襲撃を仕掛ける手筈となっています」

商会員A「まったく…一体どうなっているのだ。昨晩、襲撃を仕掛けた傭兵共は、
     ほんの数騎だけが逃げ帰ってきたと聞いたぞ?
     あの小さな村ごときに、一体何をやっているのだ?」

商会員Aは顔をしかめ、文句を口にする

商会側近「その逃げ帰ってきた傭兵が話していた事なのですが…
      なんでも村に、村人とは違うおかしな連中がいたとか」

商会員A「おかしな連中…?」

商会側近「姿ははっきりとは見なかったそうですが、
      奇怪な魔法と怪物を操る者達だと言っていました。
      傭兵共はそいつらにやられたそうです」

商会員A「なんだそれは?あの村の村長が術師か魔物使いでも呼び寄せたのか…?
      あやつの協力者はあらかた潰したつもりだったが…」

商会側近「草風村長を慕うものは国内にまだいくらか潜んでいますので、もしやという事も…」

商会員A「忌々しい。一応、目立たぬようにと、傭兵の数を制限したのが裏目に出たか…」

商会員Aは苦々しい表情を浮かべ、呟く

商会側近「今晩の襲撃には、先にもお伝えしました通り、
      雇っている傭兵200人隊の残り全てを差し向けました
      腕利きも含みますので、今度は潰せるはずです」

商会員A「これ以上あの村に手間取る事はしたくないからな。
      それに…傭兵連中は仕事が無ければ、町では酒をかっ食らって
      バカ騒ぎしてるだけの荒くれだからな。
      雇った金の分は働いてもらわんとならん」

商会側近「まったくです」

二人は静かに笑いあった

やがて馬車は町の南側の城壁まで到着

城壁の門の近くには、数騎の馬が待機していた
軽装兵を乗せた軽騎兵が6騎
そして騎手、馬共に鎧を纏った重騎兵の姿が3騎
いずれも商会員A等の乗る馬車を護衛するのが任務だ
到着した馬車が一度停止すると、騎手達は馬を操り
馬車の前後に配置して隊列を形成していった

商会員A「まったく。ここでの仕事は、二つの町を行き来しなければならんのが面倒でならん」

ここ、露草の町はいくつかの交易路が交わる町であり、
人の出入りが多く、情報なども比較的集りやすい町だ

一方の凪美の町は、交易路からは外れており人の出入りが少なく、
加えて町が砦としての機能を有しており、身を潜めるには絶好の場所だった
商議会はこの二つも町を活動の中心としていた

商会側近「全ての事が片付けば、用済みになりましょう」

商議会A「ははは、そうだな。早く紅風の街に帰りたいものだ」
      そして隊列は門をくぐり、凪美の町へ向けて出発した



偵察「……」

町から数百メートル離れた地点
オートバイに跨った偵察が、双眼鏡を覗いている
町の門から出て来る馬と馬車の隊列が、双眼鏡を通して偵察の目に映っていた

偵察「…ナッシャー1-2だ。出たぞ」



空模様は数刻前から機嫌を損ね出し、今は薄暗い雲が空を覆っている
そんな中、隊列は凪美の町へと続く道を進んでいた

商会員A「しかし、魅光の王国の勇者か…小娘だというのに、ご苦労な事だな」

商会側近「商会員A様。お言葉ですが、勇者に手を出すなど大丈夫なのでしょうか…」

商会員A「今更何を言う。我々は、いや、我が紅の国は魔王側と手を組もうとしているんだぞ」

弱気な発言をした商会側近を、商会員Aは半ば呆れ顔で叱咤する

商会員A「それに、各国から勇者の一行が各地に派遣されているが、
      その内の一割が行方不明になっているのは知っているだろう?
      魅光の王国のような、中途半端な大きさの国の勇者が消えても、
      今のご時勢、さして騒ぎにはなるまい」

商会側近「ええ、そうでしたな…失礼しました」

商会員A「ここまで来て、臆病風に吹かれては困るぞ?」

商会側近「は。…それで、勇者の娘に関しましては、魔王軍に引き渡すとして、
      仲間の娘二人はいかがいたしましょう?」

商会員A「奴等は仲間に関しては指定してこなかったからな。
      捕らえた後はいつもの闇市の商人共にくれてやればいい。
      騎士のほうは私も見たが、なかなかの美貌だったからな、
      資金の調達に一役かってくれるかもしれんぞ」

商会側近「分かりました。もう一人の娘も同様に?」

商会員A「ああ、出身のわからん異大陸の娘だったか…?
     かまわん、同様に適当に闇市に流してしまえば…」

商会御者「な…なんだあれは!?」

商会員Aの言葉を遮り、外から御者の叫び声が聞こえて来たのはその時だった

商会側近「なんだ、どうした?」

商会側近が小窓を空け、外の御者に問いかける

商会御者「う、後ろから奇妙な荷車が…なんだありゃ、馬無しでうごいてやがる!」

商会側近「はぁ?」

御者の要領を得ない発言に、商会側近は怪訝な顔になる

商会員A「何を馬鹿な事を…」

同じく商会御者の話を聞いていた商会員Aは、
呆れ顔を浮かべながらも窓の外に目を向ける

商会員A「…な!?」

その次の瞬間には、商会員A等も商会御者の心情を理解する事となった
隊列の右斜め後方から、緑色の荷車らしき物が見える
正確に表現すれば、その荷車は明らかに隊列を追いかけてきていた

商会側近「なんだあれは…?」

商会側近も窓に張り付き、隊列を追って来る奇怪な荷車を見つめる

商会御者「は、反対側からも来てます!」

商会御者の叫び声を聞き、商会側近は反対側の窓へと回る
左後方に、先の荷車より一回り小さい荷車が、同じように追いかけてくるのが見えた

商会側近「なんだ?賊か…?」

商会御者「前からも何か来てます!な、ば、化け物かありゃ!?」

商会側近や商会御者の発する不穏な単語に、商会員Aは表情を強張らせる

商会員A「ご、護衛の兵は何をしとる!?早く対処させんか!」

商会側近「は、はい!おい、隊列を…!」

商会側近は対処すべく、御者に指示を飛ばそうとする

商会御者「う、うわッ!うわッ!」

だが商会御者は指示には耳を貸さず、またしても叫び声を上げた

商会側近「今度はなんだ!?」

商会御者「ま、前の化け物が兵を轢き潰して…!こ、こっちに来るッ!?」

商会員A「い、一体何事……が?」

混乱しながらも窓の外へ目を向けた商会員A
そこで彼の目に映った物、それは馬車の前方右側から
こちらへと突っ込んでくる奇怪な緑色の化け物

商会員A「な…」

商会員Aがその状況を把握する前に、
馬車の横っ腹に奇怪な化け物の鼻っ面が激突

商会員A「おごわぁぁぁッ!?」

次の瞬間、馬車全体に暴力的なまでの衝撃が走った
そして馬車の転地は傾き、商会員A達は地面と平行になった
馬車内の壁に叩き付けられた

HPが出来ました


http://kakinaguru.at-ninja.jp/

場所だけ用意した状態で、現在は何も無いですが
以後、続きはこちらで掲載してゆきます
急な話ではありますが、ご了承下さい

このスレッドはhtml化依頼を出させていただきます



移転に関しまして、前もってSS製作者総合スレで相談させていただいたのですが
特に問題は無いらしいです
そういう人はほとんどいないみたいですが…

いくつか試みてみたい事ができまして(後、内容がタイトル詐欺)、HPへの移転を思い立ったのですが、
私の勝手でご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした

移転先いったんだけど読めなかった。
まさかガラケーからだと無理とか?

>>557
私の携帯では問題なかったのですが…なんだろう…

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom