山岡「これはトナカイの肉さ」サンタ「!?」(14)

頼んだ

山岡 「市場で買って来たのを煮込んだんですが、結構いけるでしょう」

サンタ「これが、トナカイの肉だと!? まるで牛肉じゃないか!」

山岡 「ええ、その通り。北欧諸国ではトナカイは”北の牛”と呼ばれていて、大変美味です」

サンタ「長い間、トナカイと暮らしてきたが、食べるなんて思いもよらなかった」

山岡 「少し獣臭いので、鹿や猪に似ているかもしれません。
    ちゃんと臭み抜きをしてやれば、その味は、十分に通常食として耐えうるものですよ」

サンタ「ワインとの相性もいい。あんたも飲みなさい」

山岡 「いやぁ、ごちそうになります。ワインと食べるとまた格別だなぁ」

サンタ「匂いを抜いているからかな、味に癖が無く食べやすい。
    それに、このソースが甘酸っぱくて美味い。肉にも良くあっているよ」

山岡 「ここにあったコケモモでソースを作りました。
    それだけだと酸っぱすぎるんで、砂糖で甘くしてあります」

サンタ「コケモモ……ああ、リンゴンベリーか。トナカイのエサのつもりで置いておいたんだが」

山岡 「栄養豊富で保存も利きますから、人間が食べない手は無いですよ」

サンタ「美味いなぁ、人と食事をするのは久しぶりだ」

山岡 「こんな雪山の奥に住んでたらそうでしょう。最も、そのおかげで、俺は助かりましたけど」

サンタ「まさか、こんな日に来客があるとは思っていなかったよ」

山岡 「俺も、まさかこんな温かいものにありつけるとは」

サンタ「いやぁ、どちらも身近にあるものだが、口に入れたのは初めてだ」

山岡 「珍しいですね。トナカイの肉なんて、ここらじゃあ当たり前でしょう」

サンタ「わしは人里から離れて暮らしてるからな。トナカイは相棒だよ」

山岡 「なるほど……」

サンタ「まぁ、あんたのおかげで、久しぶりに美味いものと楽しい時間を過ごせたよ。
    明日は、街まで送っていこう。今日はゆっくり休んでくれ」

山岡 「恩に着ます」



「……か」

「……おか!」

「やまおか!!!」

山岡  「……んあ?」

探検部長「おお! 生きてるぞ! こっちだ! タンカ持ってきてくれ!」

山岡  「部長、どうしたんですか。面白い顔しちゃって」

探検部長「馬鹿野郎め! お前、雪山ではぐれて遭難してたんだよ! 覚えてないのか!?」

山岡  「そうなん……あれ、爺さんは?」

探検部長「大分、錯乱しているな。まぁいい、今は休め!」

山岡  「うん?」


数日後

山岡  「やっと退院か。浪人の末に大学に入れたから、冒険探検部なんて入ってみたが、
     やれノルウェーだのフィンランドだのに連れて行かれるわ、体力が無いとついていけないわ、
     雪山に置いていかれるわ、吹雪で迷うわ。二度とゴメンだ」

探検部長「しかし無事で何よりだ」

山岡  「偶然、山小屋に行き当たって良かったですよ。あの爺さんに礼を言わないと」

探検部長「山小屋? あの山にはそんなものないはずだぞ」

山岡  「へ? いや、だって」

探検部長「寒さで幻覚でも見たんじゃないか?」

山岡  「幻覚で吹雪がしのげますかね……?」

探検部長「ん? お前の、ポケットのそれは何だ」

山岡  「これは……木彫りの馬……」

探検部長「このへんの工芸品のおもちゃだな。
     案外、サンタクロースの家にたどり着いたのかもしれんな。ははは」

山岡  「やめてくださいよ、バカバカしい。
     それに俺は爺さんにトナカイの肉を食わせてやったんです。
     本当にサンタクロースなら、とんでもなく悪い子ですよ」

探検部長「最初から、そんな経験をするやつなんて滅多にいないぞ。
     お前、意外と冒険探検が向いてるんじゃないか」

山岡  「嫌ですよ。アウトドアなんてこりごりだ。飲み会のときだけ呼んで下さい」

探検部長「やれやれ、サンタとトナカイを食っただの飲み会だけ呼べだの、
     お前はとんでもないことしか口にしないな」

山岡  「俺は真実しか言いませんよ。何だったら新聞社に勤めたっていいくらいです」

探検部長「悪いことは言わん、向いてないからやめておけ」

山岡  「……ですよね」

(おわり)

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