機械男「僕は殺し屋」 (282)

「や、やめてくれ!見逃してくれ!」

「この通りだ!金が入用なら払う!して欲しいことがあれば何だってしてやる!」

「頼む……!家族が家で待っているんだ……!!」

機械男「……」

「やめろおおおお!!こんなところで死にたくないいい!!」

「せめて……せめて最後に妻に!娘に合わせてくれ!!」

機械男「……」



機械男「バイバイ」

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――――――
―――



チンピラ「なぁマスター知ってるか?」

店主「何がだ?まずは内容を言ってくれなきゃ伝わらねぇぞ」

チンピラ「アレだよアレ!最近この街に来てるらしいぜ?」

店主「主語が無いから何言ってるのかわからねぇって!」


カランカラン


警部「おーす、マスター」

チンピラ「おー、新入りの警部さん。儲かってるかー?」

店主「おお、いいところに来たな。このクソ野郎をしょっ引いてくれねぇか?」

チンピラ「ひでぇ事言うな!?」

店主「ワケわかんねぇ事ばかり言い散らかしやがって、脳みそ足りてねぇんだよ」

チンピラ「ンだとゴルァ!?」

警部「はいはいそこまでそこまで」

警部「それよりマスター知ってる?最近ここいらを変わった殺し屋が拠点にしてるって噂」

店主「ああ知ってるぜ、この界隈じゃ有名だな」

チンピラ「それだよそれ!俺はそれを伝えたかったんだよ!」

店主「おめぇの口から殺し屋の"こ"の字も出てなかったっての」

チンピラ「何でも、西部のガンマンみたいな格好をしたガキって言われているけどよぉ」

店主「酷い情報だな。あくまで噂の域を出ないって事か?」

警部「だな。警察からは色々情報が捻じ曲がって伝わってたり伝えてたり……お前のそれも噂の一つだ」

チンピラ「警部さんよぉ。警察はうごかねぇのか?」

警部「あくまで噂だし、そもそも殺人事件なんてしょっちゅう起こってるから何とも言えないっての」

店主「殺人がしょっちゅう起こるなんて、おっかねぇ世の中だ」

警部「そういうような仕事を斡旋している貴方が言うのもどうかと思うよ?」

店主「おいおい、俺は善良な市民だぜ?そんな言いがかりやめてくれよ」

警部「表面はいい店主を演じるか……。まぁいいや、いつもの頂戴」

店主「あいよ、カルーアミルクな」コトッ

チンピラ「お?警部さんその傷だらけのイカした顔から飲むものがそれってどういうこった!ハハハ!」

警部「おい、あんまり鬱陶しいと眉間にイッパツ撃ち込むぞ」カチャ

チンピラ「とっとっと!?冗談だよ冗談……」

店主「店ん中でぶちまけるの止めてくれよ」

カランカラン



チンピラ「ほら新しい客だ!その物騒なもの仕舞ってくれよぉ……」

警部「ったく……」

機械男「……」

店主「ん、見ない奴だな?」

チンピラ「あのチビ気味悪ぃな、あんなローブとテンガロンハットなんて被りやがって」

店主「ローブにあの帽子……」

チンピラ「ん?……あっ」

警部「どうした?」

店主「おい、殺し屋ってどんな格好してたって言ってた?」

警部「ああ、西部のガンマンのような格好をしたガキ……そうそう、ちょうどあんな感じじゃないのかな?」

機械男「……」

チンピラ「おおおい!?不味いんじゃないかこれは!?」

店主「落ち着け馬鹿やろう、何で因縁も無い相手にビビらなきゃいけないんだ」

警部「なんだ?自分が殺しの対象にされているかもしれない自覚でもあるのか?」

チンピラ「いやいやいや!そんなことは無い!こんなナリでも俺はまだいい人生を生きている!」

店主「どうだか……」

機械男「……!」

チンピラ「おあ!?こっち見た!」

店主「おめぇがうるさいからだよ」

チンピラ「ヤバイヤバイ!絶対俺の命狙ってる!知ってはいけない事を知りすぎたからか!!」

機械男「……」スタスタ

チンピラ「きたああああ!?」

機械男「やぁ、この店でよかったんだね」

警部「あい、待ってたよ。"S・N"」

チンピラ「んへ?」

店主「エスエヌ……名前?なんだ、連れか?」

警部「ああ、パートナーだ。いいコンビをやらせてもらってるよ……」

機械男「うん、そうだね」

機械男「来て早々、知り合って早々、悪いけどマスター」

機械男「お仕事、頂戴?」

店主「……こんなガキに何吹き込んだ?」

警部「さてね」

機械男「ガキだなんて失礼だね。まぁ、僕は人より小さいと思うけどさ」

警部「コイツになにか仕事くれてやってくれ、俺の顔を立ててさ」

店主「んー……」

チンピラ「いやちょっと待て!どう見積もっても120センチくらいしかないじゃねーか!ガキだろ普通に!」

店主「仕事を欲しがる命知らずだ、そこはいいとしよう。でもな坊主、仕事が欲しいんだったら顔ぐらい見せな」

店主「まずは礼儀ってもんがあるだろう、そんな深く帽子を被ってねぇでよ」

機械男「……大丈夫?」

警部「大丈夫だ、この人は信用できる」

機械男「そ……」

機械男「それじゃあはい、僕の素顔」パサッ

店主「ん?」

チンピラ「お前舐めてるのか?そんな変なマスク被りやがって」

店主「薄ら笑い浮かべた仮面の顔……全体的な作りはまるでブリキのおもちゃだな」

機械男「マスクやメイクじゃなくてこれが僕の素顔。どう?只者じゃないでしょ?」

チンピラ「嘘つくなオラァ!」ギュー

機械男「痛い痛い!?何するのさ!」

チンピラ「うお嘘だろ……本物の鉄塊だぞこの頭……」

警部「コイツはちょっと特殊な部類の人間……なのさ」

店主「人間ねぇ……」

機械男「そうだよ、これでも人間」

店主「職業柄、手足が機械の奴とかも見たことがあるが……お前さんほど人間の形を残していないのは始めて見たな」

機械男「失礼だね、僕だって人間の形してるじゃないか」

店主「お前さんのそれは"人間の形"じゃ無くて"人型"だ」

警部「ま、何だっていいさ。仕事をこなしてくれれば誰だっていいんだろう?」

店主「コイツは使えるのか?」

警部「腕の方は超一流、俺なんか歯が立たないね」

店主「ほう……」

店主「あんたの推薦なら信用は出来るが……」

チンピラ「マスター、なんか胡散臭いぜ?」

警部「俺がやるはずだった仕事が一つあるでしょ。コイツを変わりに向かわせたいんだけど」

店主「え、ああ……代理ってことか」

警部「代理というか小手調べというか……今すぐ動けるか?」

機械男「勿論、すぐお金が欲しいからね」

店主「わかった、んじゃあ」

店主「この写真の男を始末してくれ」

チンピラ「なぁなぁところでよ、S・Nって何の略だ?磁石か?」

警部「内緒だバーカ」

――――――
―――



機械男(この街に来て初めてのお仕事)

機械男(対象、郊外に住む男性ジョン・マクレーン)

機械男(身長177センチ、72キロ。年齢32歳)

機械男(家族構成、足の不自由な母親一人……)

機械男「ま、これから殺す相手。こんな情報どうでもいいのだけれど」ポイッ

機械男「殺しを依頼されるくらいだ、どうせ碌な人生歩んでないだろうし。負い目なんて無いね」

機械男「さて、そんな人の家に着いたけど」

機械男「後腐れなくスパッと解決したいね」

機械男「裏口から行くか、二階の窓から進入するか」

機械男「僕なら正面突破だけど」


ガチャ


機械男「玄関閉めないなんて無用心だね」

機械男(電気も点けずに暗がりの中)

機械男(情報だとこの時間は既に家に帰っているハズだけど)

機械男(感づかれたか漏れていたか……)

「うう……ジョンいるのかい?」

機械男(……)

「ジョン、ゴメンね、母さんこんなんになっちまってなにもしてやれなくて……」

機械男(暗いおかげで見えていないか)

機械男(でもこんな状態の母親を放っておいて出かけるなんてサイテーだね)

機械男(居ないみたいだし、見なかったことにして出るか)

機械男(早速お仕事失敗、何て伝えようかね)


「ジョン……ジョーン!返事をしておくれー……」


機械男(……まったく気分が悪いね……ん?)


カタン


機械男「……僕はね、かくれんぼが得意なんだよ、特に鬼がね」

機械男「注意しなきゃダメじゃないか」

機械男「お母さんを盾にしているのかい?」

「……」

機械男「返事は無し。ねぇお母さん?あなたの息子さん、ベッドの下に居たりしないの?」

「ジョンー、ジョーン!いないのかい?ジョーン!」

機械男「ボケたフリしても遅いよ」

機械男「見つけた以上は逃がさない、庇ったって無駄だよ?」

機械男「こっちもお仕事だから。ベッドの下、失礼するよ」スッ

「ジョン逃げて!!」

「この野郎!!」チャキ

機械男「?」

ダンッ



「眉間に一発!どこの野郎か知らねぇが俺はまだ死ねないんだよ!」

「ジョン……何も殺すことは……」

「やらなきゃ俺がやられてた!母ちゃんは何も心配しなくていいんだ……」

機械男「……」

「不気味な野郎だ……片付けるか……」

「ごめんね、何もしてやれなくて……」

機械男「涙ぐましい家族愛だね」ムクッ

「ッ!なっ!?生きてっ!?」

機械男「酷いなぁ、普通なら死んじゃうよコレ」

「クソッ!死ね!死ね!!」ダンッダンッ

機械男「痛ッ!?効かないっていっても痛いって"思う"んだから止めてよね」

「ヒィッ!?ば、化け物!?」

機械男「平気で人を殺せるような奴の方がよっぽど化け物だよ」ギュルギュルギュル

機械男「お母さん思いなのは結構な事だけど、人生の選択を誤ったね」

「逃げて!逃げてぇぇぇぇ!!」

「クソッ!!」ガシャーンッ

機械男「自分の家の窓を堂々と壊していくとは……逃がさないよ」バッ

(はぁ……はぁ……何なんだよあのチビ!)

(急に手元が光りだしたと思ったら、変な球体出してやがった!)

(だが、まぁいい……あの小柄な体格だ、走れば大人には追いつけはしないだろう)

ギュルギュギュル

「……?」

機械男「追いつけないとでも思ってた?」

「なっ!?どうやって!?」

機械男「悪いけど、機動力には自身があるんだ」

機械男「人に見られるのは厄介だから、早々に決着をつけさせてもらうよ」

「クソッ!クソッ!」ダンダンッ

機械男「バカの一つ覚え……効かないってば」バキッ

「うぐっ!」

機械男「……冥途の土産、僕の取っておきを見せてあげるよ」ギュルギュルギュル

「!?」

機械男「漫画とかゲームとかでよくあるでしょ?手からビーム出すやつ」

機械男「アレと同じさ、ただこれは高速回転してるけどね」

「あ……なんだよ……それ……」

機械男「ズルイと思う?でもしょうがないじゃない、出来ちゃうものは仕方が無い」

機械男「足につければ高速移動、手に持てば壁だって上れちゃう優れモノ」

機械男「でも……敵(ターゲット)に当たれば……」

機械男「おっと、殺し屋さんはあんまり喋りすぎちゃいけないね。神秘性が無くなっちゃう」

「あ……あ……」

機械男「恨んでくれても構わない、呪ってくれても構わない。でもね」

機械男「死んだら、意味無いよね。そういうのも」

機械男「それじゃ」




機械男「バイバイ」

――――――
―――


チンピラ「なぁなぁ、噂の殺し屋ってあのガキってことでいいんだよな?」

警部「さてね、俺の知ったことじゃない」

チンピラ「何ではぐらかすんだよ……んで、どんな仕事を渡したんだ?」

店主「小手調べに普通の始末だ。対象の男は麻薬の密売人だ。それもやり手の」

警部「警察でもその動向を捉えられなくてな、毎回まんまと逃げられていたワケ」

警部「……警察にグルがいたからそうなっていたのだが」

警部「法で裁けない罪はその身をもって償ってもらう。マスターにはそういう仕事を優先的に回してもらってるよ」

警部「それが俺の……俺達の行っている殺しだ」

チンピラ「ヒュー、カッコつけるじゃないの」

警部「と言っても、大儀の無いただの憂さ晴らしだけどな」

店主「まー形はどうあれ、始末してくれればこちらとしてはそれでいいが」

チンピラ「でもよー、あのガキが失敗したらどうするんだ?成功する保障もないし、なにより殺せても後が厄介じゃねーの?」

警部「アイツの仕事の成功率は8割、失敗の2割は大抵元々対象がその場に居なかったってだけ」

警部「そんで、俺が何のために警察にいるのかその足りないオツムでよく考えな?」

チンピラ「あ゛あん?」

店主「気張っても馬鹿なのはかわらねぇよ、ちっとは考えろ」

チンピラ「そんなもんなりたくて警察になったんだろ?」

警部「はい、馬鹿確定」

店主「おめぇなぁ……」

チンピラ「な、何だよ、そんな目で見るなよ……」

警部「俺が根回しして殺人現場の担当になる、証拠になりそうなもの全部揉み消す、わかる?」

チンピラ「あーあー、そういうこと」

警部「もっと色んな利点はあるけど主にこんな感じ」

警部「といっても、アイツが物的証拠を残すようなことはしないけど」

店主「信頼してんだな」

警部「長いからね。ただ、いくつか困ったことになぁ……」

チンピラ「困ったことに?」


カランカラン


機械男「……」

チンピラ「早っ!?もう帰ってきた!?2時間くらいしか経ってねぇぞ!?」

警部「どうだった?」

機械男「ご依頼どおり、仕留めておいたよ」

店主「おう、何か証拠になるものはあるかい?」

機械男「明日の朝刊」

店主「随分遅めだな……」

警部「いつもこんな感じだ」

機械男「そういうワケで、報酬ちょうだい?」

店主「渡せるワケねーだろ。どうなってるかわからねぇんだからよ」

機械男「むぅ……依頼くれる人たちって毎回こうだね」

警部「当たり前だよ馬鹿。お前が変なだけ」

チンピラ「ヘッヘッヘ、本当は殺しなんて出来ずに失敗して逃げてきたんじゃねーのかぁ?」

機械男「どう思ってくれても結構」

店主「あんまり挑発するなよ?店内での争いはご法度だ」

チンピラ「そんな細い腕じゃ暴力なんて振るえねぇえよなぁ、機械のガキんちょ」

警部「マスター、おかわり」

機械男「あ、僕も同じものもらえるかな?」

店主「お前さん、飲めるのか?」

機械男「うん、もちろん」

チンピラ「おーい、皆して無視すんなよー」

警部「でも、お前がすぐに報酬を欲しがるなんて珍しいな。女でも出来たか?」

機械男「うん、美人さん。奢ってあげたくてね」

店主「こんなちっこいのにも彼女がいるのにおめぇときたら……へいお待ち」

チンピラ「そんな哀れみの目で見ないでくれ」

機械男「彼女は子供もいるからね、それなりにお金もかかる」クイッ

チンピラ「そして子持ちと来た!トンでもねぇなこのチビすけ!」

警部「ほうほう……」

警部「小遣い程度なら俺のポケットマネーから出してやるよ。ほれ」

機械男「ん、ありがと」

警部「いいよ、今回も仲介料貰うしな」

店主「せこいなお前さん」

機械男「キミは自分ではあまり動かないからね」

警部「俺が動くのはお前が手こずりそうな時だけ、基本的に警察内部で裏でのサポートさ」

チンピラ「警察が大手を振って殺しなんて出来ないしな、ケッケッケ!」

機械男「じゃあここのお勘定もよろしく、僕は彼女を待たせてるからもう行くよ。ありがと、美味しかったよ」

店主「あいよ、警部さんに付けとくぞ」

機械男「じゃあねー」スタスタ

警部「あ、おい!そりゃねぇぜ……」

チンピラ「……でよぉ、警部さん」

警部「ん?」

チンピラ「あいつ、ホントに始末してきたと思うのか?」

警部「ああ、勿論だ。いつもああやって……失礼、電話だ」

警部「もしもし?……ああ、殺しねぇ……場所は……」

警部「はいはい、すぐ行くよ……」ピッ

店主「忙しいねぇ」

警部「ま、嬉しい仕事だけどな」

チンピラ「嬉しい?」

警部「明日の朝刊を楽しみにしてな……はい、お代」

店主「まいど、確認次第振り込んでおくよ。振込みは……」

警部「俺の口座にお願いするよ。あいつには俺から渡すから」スッ

店主「あいよ、気をつけてな」

チンピラ「?なんの話してんの?」

店主「ホント、馬鹿だねおめぇは……」

――――――
―――



「お待ちしておりました警部どの!」

警部「はいはい。で、被害者は?」

「この近辺に住む、ジョン・マクレーン……調べれば調べるほど黒い経歴が出てくる男です」

警部「誰が通報したの?」

「被害者の母親です。精神が錯乱していてわけの分からない事を繰り返し言っています」

警部「……ふーん」

「人形が息子を追っていった、不死身の化け物が息子を殺したの繰り返しですよ」

警部「で、俺が呼ばれたわけだ」

「はい、警部が追い続けている事件の類のものだと思われましたので」

警部「ん……じゃあ仏さん見せて」

「こちらです」

警部「おーおー、やっぱりか。俺が追ってるやつだね。いつ見ても凄い死に方だなこりゃ」

「手足が綺麗に捻り取られ、さらに胸に野球ボールくらいの大きさの穴がポッカリ」

「いったいどうやったらこんな事が出来るのやら……」

警部「案外、本当に化け物がやってるのかもねぇ」

「はぁ……?」

警部「以前は小さな町で起きている程度だったけど、ここ最近でこんな都会にも進出して来たか」

警部「……周りを見た感じだと銃撃戦をしてたみたいだけど」

「それはすべて被害者が発砲したものです」

警部(だろうねぇ……)

警部「それじゃあ、俺は本部で作戦会議にでも参加してきましょうかね。どうせチームが組まれるだろうしね」

「もうよろしいのですか?」

警部「毎度証拠も何も、髪の毛一本残ってないんだ、ここにいたってしょうがないじゃない」

警部「後始末、頼むよ」

「はい!」

警部(本当に困ったことに……)

警部(誰が殺したかっていうのが一発で分かっちゃうのがねぇ)

警部(正体がバレない今のうちはいいけれど、情報操作と隠蔽工作するこっちの身にもなれっての)


警部「時に極悪人を、時に善良な市民をも始末する」

警部「誰の敵でも味方でもなく、猟奇的な殺しをする者」

警部「コードネームS・N、"サディスティック・ニュートラル"」

警部「それが……」

――――――
―――


機械男(S・N……それが、過去の記憶の無い僕に与えられた名前。猟奇的殺人者の名前)

機械男(記憶をなくす前……こんな体になる前)

機械男(僕はどんな人生を歩んでいたんだろう)

機械男(僕が覚えている一番最初の記憶)

機械男(人を殺している男の記憶)

機械男(手に握られたナイフで肉を抉り、骨につき立て、引き裂いて)

機械男(血まみれになったその手を見て絶望している)

機械男(……それはきっと、僕自身なのだろう)

機械男「じゃなきゃ、今もこうして人殺しなんてしてないだろうしね」

機械男「キミは僕の名前、どう思う?的を得ていると思わない?」

機械男「……ご飯は美味しいかい?ちょっといい物を買ってきたんだ」

機械男「ほら、遠慮しないで?彼女だけじゃなくて、子供たち分もちゃんとあるから……」

機械男「ゴメンね、こんな廃ビルなんかに住まわせちゃってさ」

機械男「上手く食べられないのかい?フフ……キミ達は本当に可愛いね」

機械男(……家族か……)

――――――
―――


カランカラン


店主「ん、来たか」

機械男「やぁ、朝刊は見たかい?」

店主「ああ、やれたみたいだな」

機械男「まぁね」

店主「どうやって死んでいたかってのは書かれてはいないみたいだが……」

機械男「それは秘密事項だから、仕方ないね」

店主「警部さんが外部に漏らさないようにしてるってワケか」

機械男「うん、マスコミの連中にバレる可能性は彼が潰してくれるから安心だよ」

店主「あの人は警察内どころか色々と繋がってるからな。その分敵に回したらおっかなさそうだぜ」

機械男「頼もしい限りだよ」

店主「だが今更何のようだ?また仕事貰いに来たって雰囲気じゃなさそうだが、報告に来たって報酬は警部さんの口座だぜ?」

機械男「え゛!彼に渡しちゃったの?」

店主「そりゃそうだ、お前さんは受け渡し方法を俺に伝えてなかったからな」

機械男「直接貰おうと思ってたんだけどなぁ……気前良くお小遣いくれると思ったらそういうことだったか」

店主「なんだ?ピンハネでもされるのか?」

機械男「されるね、まったくもう!」

店主「悪い悪い、次からは直接渡すよ」

機械男「あ、また仕事くれるんだ」

店主「ああ、一応及第点ってことで。力のほどは直接見ておきたいが」

機械男「お見せするほどのものじゃないけどね」

チンピラ「おいおいおいおいおいおいおい!」

機械男「ん?いたんだ」

チンピラ「ガキんちょ!お前一体全体どうやって殺したんだよ!」

チンピラ「銃でも使ったか?そんなんじゃすぐに足がついちまうぞ?」

チンピラ「それともナイフか?ザックリ行っちまったのか!?」

機械男「……彼、どうしたの?」

店主「放っておけ、いきなり仕事をこなしたお前さんに嫉妬してるだけだ」

チンピラ「あーあー!畜生!何でこんな奴に仕事渡して俺にはくれないんだよ!」

店主「おめぇはまず人間性に問題があるんだよ、黙ってろ」

機械男「賑やかなことで」

店主「せっかくだ、何か飲むか?」

機械男「ああ、そういえばここ表向きはバーだったね」

店主「ここは一般人が経営するただのバーだ、それ以上でもそれ以下でもねぇ!」

機械男「フフ、そういうことにしておくよ」

機械男「それじゃあ……またカルーアミルク貰おうかな」

店主「そんなのでいいのかい」

機械男「うん、好きなんだ」

店主「ほい、どうぞ」

機械男「どうも」

チンピラ「あ、マスター。俺も何か適当なものくれよ」

店主「あ?おめぇに出すものなんてねぇよ!どれだけツケ溜まってると思ってんだカス!」

機械男「キミはお客としてカウントされてないみたいだね」

チンピラ「最近金欠だからな!」

店主「やれやれだ」

チンピラ「なぁなぁ、結局よう。お前はどうやって殺しをしたんだ?」

機械男「黙秘するよ、商売道具はそう易々と人には見せられないから」

機械男「キミだってそうだろう?手の内を明かすようなのは二流以下だ」

チンピラ「お、おう?そうなのか?」

機械男「……キミってさ、この業界長いの?」

チンピラ「おう!長いぜ!ここ数年ずっとカツアゲだけで暮らしてきたからな!」

機械男「殺しは?」

チンピラ「したことない!」

機械男「どういうこと?」

店主「どこからか俺の見せの噂を聞きつけて通い詰めてるだけだ。危なっかしくてそいつに仕事なんてやれねぇよ」

機械男「なるほど、半分も足を突っ込んでないのね」

チンピラ「??」

機械男「キミの知らなくてもいいことだよ。精々変なのに引っかからないようにするんだね」

チンピラ「ヘヘッ、相手は選んで喧嘩を売るってもんだぜ!」

機械男「悩みがなさそうで羨ましいよ」

チンピラ「でよう、聞きたいことが沢山あるんだけどさ」

機械男「脈絡も無く質問攻めかい。答えられる範囲でなら答えるけど、あんまり好奇心旺盛だといつか痛い目に会うよ」

チンピラ「そんなわけわかんネェ話はいいからさ!どうして殺し屋なんてやってるんだ?」

機械男「んー?そんなこと?」

店主「お前さん、"そんなこと"で済ます理由なのかい」

機械男「まぁね、別に隠すことでもないし」

機械男「理由は簡単、お金が欲しいから」

機械男「食事は必要、住居は必要。そうしないと生きていけないし」

チンピラ「稼ぎたいんだったら素直に働けばいいじゃねーか」

店主「お前がそれを言うか」

機械男「僕がどこでも雇ってもらえるような見た目してると思う?」

チンピラ「あ、それもそうか」

機械男「こんな姿じゃ今みたいに夜くらいしか活動できないし」

店主「不便だな」

機械男「ま、こうやって誰かを始末することしか生きる方法を知らないだけなんだけどね」

店主「じゃあ俺からも質問だ。どうしてそんな体してるんだ?人間であることは間違いないんだろう?」

機械男「踏み込んでくるね。さぁ……なんでだろうね」

チンピラ「おいおいはぐらかすなよー」

機械男「そういうことじゃないよ、僕自身も知らないんだ。どうしてこんな体なのか」

店主「ほう……」

機械男「一番古い記憶は誰かを惨殺していた記憶。気がついたらこんな体だった」

機械男「昔の記憶が無いの、僕」

店主「そりゃあ悪い事聞いたな」

機械男「いいよ、気にしてないから。他に質問ある?」

チンピラ「ノリノリだな!ええっと……殺したりすることに罪悪感とかある?」

店主「殺し屋にそういうこと聞くか」

チンピラ「だってこういう本物と話せる機会なんて滅多にないしな。警部さんは何も答えてくれないしよ」

店主(本物の殺し屋はこの店に沢山来てるっての、お前の後ろで飲んでる連中とか)

店主(……コイツが声をかける勇気が無いってだけか)

機械男「罪悪感……まったく無いね」

機械男「僕が始末するのは悪人ばかり。人を殺めたり貶めたりしている連中ばかりさ」

機械男「たまに表沙汰になっていないような事件の加害者"善良な市民"なんてのも始末するけど」

店主「んぐぐッ!」

チンピラ「マスター、そこで反応するか」

機械男「ま、そうでなくてもそういう疑いがある奴が悪い」

機械男「……勝手な意見だけど、悪人ってのは許せないね」

店主「何もかもが綺麗な真人間なんていやしねぇよ……」

店主「だが、矛盾しているな」

店主「それならお前さんだってその許せない連中に入るじゃねぇか」

チンピラ「自分だけは許されるって精神か!」

機械男「まさか、僕もその中の一人だよ」

機械男「人殺しなんて人間のやることの中でもっとも愚かで最低なことだよ」

チンピラ「うへぇ……言うねぇ」

機械男「だから僕は撃たれる覚悟はある」

機械男「それが個人的な恨みだろうと仇討ちだろうとね」

店主「殺されてもいいと?」

機械男「ただじゃやられないよ。僕は自分から手は出さないけど、自己防衛はする」

機械男「それで殺されるって言うのなら……ある意味本望さ」

チンピラ「なんか知らんがかっこいいじゃねーか」

カランカラン



警部「お、来てたか」

機械男「やぁ」

チンピラ「おーっす新入りー」

警部「俺よりも新入りなのがそこにいるんだから新入り扱いはやめろっての」

店主「ガハハ!もう諦めろ、その男は態度だけだからな」

チンピラ「もっぺん言ってみろこのピザ野郎!」

店主「おっと、店の主にそんな口聞くんじゃねーよ」カチャ

チンピラ「だ、だからといって拳銃を突き立てなくてもいいんじゃないですかねぇ?」

警部「善良な市民が聞いて呆れるね」

機械男「首尾は?」

警部「今回も迷宮入りコースだな……いつもの頂戴」

店主「あいよ。捜査一日目にして迷宮入りか?」

警部「証拠品も無く凶器も特定出来ず、指紋も無し体毛一本だって落ちてやいない」

警部「コイツの仕事はいつもそう。公になってないだけで結構な件数になってる」

チンピラ「おっかねぇおっかねぇ……」

機械男「……そんなにベラベラ喋っちゃって、他の客に聞かれたらどうするの?」

警部「重要なことは言ってないし、ここの連中は皆同じ仕事柄口は堅い」

店主「俺が上手いこと甘い汁を吸わせてやってるからな。裏切ったら消えてもらうが」

チンピラ「俺もその中の一人って事か!」

店主「お前は馬鹿だからだ、馬鹿は信用できる」

チンピラ「お、おう?褒められてるのか?」

機械男「キミがそう思うのならそうじゃないかな?」

チンピラ「ヘヘッ!そうか!」

警部(馬鹿だねぇ)

機械男「あ、そうだ。お金、返してよ」

警部「ん、何のこと?」

機械男「僕の仕事の分振り込まれてるでしょ、返せ」

警部「返すも何も、渡すつもりだっての……ちょうど飲んだ後にそっちに行くつもりだったし。ほい」

機械男「んー……ん?これだけ?」

店主「もっと振り込んでたハズだけどなぁ」

警部「直接札束持って歩けるかよ。それに、昨日も言ったが仲介料。今回は新しい仕事口紹介してやったんだから多めに俺が貰う」

機械男「はぁ……まぁいいけど」

店主「いいのか?」

機械男「しばらくキミのツケで飲み食いさせてもらうよ。マスター、それでお願い」

警部「うえ!?マジかよ……ま、下手に逆らうと俺も捻り取られちまうからいいけどさ」

店主「捻り取る?」

機械男「あ゛ん゛?」

警部「おっと……こりゃ失礼」

チンピラ「じゃ、俺も一緒にご馳走になろうかね?ヘッヘヘ」

警部「お前はダメ」

機械男「払うモンは払いなよ」

店主「出禁にするぞ」

チンピラ「なんでこういう扱いになるかな」

――――――
―――


警部「ふぅ……飲んだ飲んだ」

機械男「この時期は冷えるね、早く家に帰って温まりたいよ」

警部「お、このまま俺の家でまた一杯やるか?」

機械男「遠慮しておく。しかし、あんな甘ったるいもので飲んだ気になれるなんて幸せだね」

警部「そういうお前は他の酒の味、知らないだろう?」

機械男「ふん、いいでしょ別に」

機械男「……変な言い方だけど、いい人たちだね」

警部「ルールの上で成り立った連中だ。こっちがそれを破らない限りは気のいい奴らさ」

機械男「そういえばさ、キミが来る前にあの小者君に質問攻めにされたんだけどさ」

警部「プッ、ハハハ!小者君か、いい名前だな!」

機械男「どうして殺し屋なんてしてるのか、殺しに罪悪感は無いのか」

警部「質問まで馬鹿っぽいな」

機械男「ああいう愚直な人は好きだよ、僕」

警部「で、それがどうした?」

機械男「いや、キミはどうなのかなって思って」

警部「俺ェ?」

機械男「付き合いはそこそこ長いけど、キミがこんな世界で暗躍している理由を僕は知らない」

警部「昔の無口で内気なお前からは想像できない質問だな……ま、聞かれなかったな」

警部「しかし最近付き合いいいよな、何かあったのか?」

機械男「家族が出来たから心に余裕が出来たのかもね」

警部「ケッ、言ってた女かよ。壁があったら殴りたいよ」

警部「俺がこんな世界にいる理由はな……罪滅ぼしだよ」

機械男「罪滅ぼし?」

警部「俺な、昔人を殺したんだ」

機械男「今も必要ならやってるじゃん」

警部「バーカ、まだこんな荒れてた状態じゃなかったときだよ」

警部「あの時は本当にどうかしていた……精神的に病んでて自傷癖まで出てたくらいだ」

機械男「その顔の傷も?」

警部「そう、これは殺しをした直後につけた傷」

警部「俺の親がそっち方面に顔が広くてな、色々と取り計らって全部無かったことにしてくれた」

警部「そう、何もかも……」

機械男「傍から聞いていると胸糞悪くなる話だね」

警部「そんで、色々あって警察に入ったはいいが、こっちはただ単に内部がどれだけ腐っていたか見たかっただけ」

警部「外から声が掛かっただけで殺人事件を揉み消すような組織はどんな感じなんだろうなって」

機械男「キミ、助けられておいてよく言うよ」

警部「助けてなんて欲しくはなかった。俺はな……裁かれたかったんだ」

警部「俺が誰かを殺したという罪を背負った時点で、誰かに殺されたかったんだ……」

機械男「……偉く寒い理由だ。自分が死ねばその殺した人たちへの罪滅ぼしになると思っているのかい?」

警部「当事者からすりゃたまったものじゃないが……そういうことになるな」

機械男「陳腐、幼稚、下らない。理由付けとしては落第点」

警部「ハハ、酷い言われようだ」

機械男「自害してない分さらにタチが悪い。ま、僕には関係ないけどさ」

警部「自害じゃダメだ。誰かに殺されなきゃ意味が無い」

機械男「でも全力で抵抗するでしょ?僕みたいに。だったらそれは生きたい証拠。言ってることが滅茶苦茶過ぎるよ」

警部「あー、ここまで言われるなら喋らない方がよかったな……」

機械男「僕に同意を求めるのが間違ってるよ」

機械男「そしてもう一つ、殺しに罪悪感は……」

警部「無い。俺たちがやっている事は正義だ」

警部「俺やお前も含め、いずれは処罰を受けなければいけない」

警部「その時まで……俺はどす黒い悪人共を始末し続ける。俺が真っ黒になっても、だ」

機械男「正義……嫌いだね、その言葉は。間違った自分の行いを正当化しようとしているから」

警部「そうだ、それでも構わない……」

機械男(自分が抱えている矛盾を気にしてすらいない……十分病んでると思うよ、僕もキミも)

警部「ところでS・N」

機械男「ん?どうしたの?」

警部「……後をつけられているな」

機械男「え?今更?」

警部「え?」

機械男「え?」

機械男「いや、普段どおりに振舞って感情を悟られないようにしているのだと思っていたけど……」

警部「本気で普段どおりに会話してたぞ……」

機械男「やれやれ、買いかぶり過ぎていたようだね」

警部「いつからつけられていたんだ?」

機械男「店を出てからしばらくして……十中八九狙いは僕だろうけど」

警部「心当たりが?」

機械男「ありすぎるね」

警部「だろうねぇ」

機械男「適当なところで撒くよ、走ろう」ダッ

警部「おいちょっと待てよ!」ダッ


「……!」


機械男「追ってきた、そこそこ早いね」

警部「ちょっ!あんまりオッサンを走らせないでくれよ!」

機械男「まだ20代でしょうに、頑張りなよ」

警部「まったく!一緒に居ると碌なことにならない!」

――――――
―――



警部「いる?」

機械男「もう追ってきてはいないね……お疲れさん」

警部「あー、飲んだ後に急激な運動させるなっての!」

機械男「思ったらキミは一緒に逃げることなかったね、狙いは僕だろうし」

警部「あ、本当だよ……」


警部「だが、ああいうのは始末しないのか?」

機械男「うん、手を出してこない限りは……逃げ切る自身はあるからこっちの足はつかないだろうし」

警部「仕事外では自己防衛はするが私怨で戦いはしない、か。律儀だねぇ」

機械男「その禁忌を破れば僕はただの殺人鬼だ」

警部「今と何が違うのやら」

機械男「さぁね」

警部「がむしゃらに走ったせいでわかんねぇ場所に来ちまったな」

機械男「あ、僕ん家この近くだから。じゃあね」スタスタ

警部「お、本当か。せっかくだし今日は泊めてくれないか?ここから家に帰るのにも骨が折れそうだ」

機械男「ダーメ、彼女が待ってるから」

警部「同棲してるのかよ……監禁とかじゃないだろうな?」

機械男「確かに連れてきたけれど、嫌がってはいないよ」

警部「正体バレるようなことだけはやめてくれよ、仕事にならなくなる」

機械男「大丈夫、彼女は喋らないからね」

警部「おいおい怖いぞ……」

機械男「そのうち紹介するよ、本当は引っ越してきたばかりで部屋が散らかってるから上げたくないだけだし」

警部「ま、期待はせずに待っておくよ」

機械男「ん、わかったよ」シュパッ

警部「……」

警部「って!俺はここからマジに帰らなきゃいけないのか!?」

警部「おいもう居ない!?クソッ……終電間に合うかぁ……?」

――――――
―――


機械男「ただいま」

機械男「ふぅ、やっぱり彼と話していると落ち着くね」

機械男「ん?この前話した彼だよ。仕事のパートナー」

機械男「出会ってから2、3年経つね。何かと僕の世話を焼いてくれる」

機械男「ま、それでもギブアンドテイクな関係かな」

機械男「そうそう、尾行されたんだよ。帰ってくる最中に」

機械男「……敵意は無く観察されているみたいだったよ」

機械男「キミ達も気をつけなよ?そんな人を見かけたらすぐに逃げるんだよ」

機械男「……キミ達を見ていると……なんだろう」

機械男「……上手くいえないな」

機械男「それじゃあ僕はもう寝るね」

機械男「オヤスミ……僕の家族……」

――――――
―――


その日、久しぶりに夢を見た
小さな少年が、家族と共に食事をしている
みんな笑っていた

そう

一人の男が訪問してくるまでは

――――――
―――



カランカラン



店主「おう、最近よく来るな。二週間は通い詰めじゃねーか」

機械男「うん、仕事が欲しいからね。カルーアミルク頂戴」

店主「あいよ……だが残念、お前さんに渡せる仕事は中々来ないんだな」

機械男「むぅ……始末の仕事は少ないのかな?」

店主「一回の料金も高くなるし多くは無いが……まぁお前さんの優先順位が低いってのも原因だな」

機械男「もっと信頼を得れば優先してくれるようになるのかな?」

店主「んー、悪党を懲らしめるっていう条件もついてるしなぁ。いいのが見つからないんだよ」

機械男「大体この世界は殺される側にも問題はあるんだ。僕は始末の依頼なら何でもこなすのに」

店主「警部さんからはそういう条件だけのものにしろって言われているからな」

機械男「僕にまで強制しちゃって……彼はスポンサーか何かなのかな」

店主「ハハッ、傍から見ればそんな感じだな」

機械男「こんなしみったれたコンビから独立したいものだねぇ」

店主「いいコンビだと思うけどな、俺は」

チンピラ「ヘッヘッヘ、下っ端は中々仕事は回ってこないものなんだぜ兄弟!」

機械男「ここ数日少し奢ってやっただけで兄弟扱いか。ガキ呼ばわりされていたときが懐かしいね」

機械男「ところでさ、キミは仕事も貰えないのに何でここに入り浸ってるのさ。客ですらないんでしょ?」

店主「そいつ、馬鹿だがかなりの情報を持った野郎だ。そこそこ重宝しているよ」

機械男「なるほど、だから置いてもらっているのか」

チンピラ「ああ!噂と聞けば必ず俺の耳に入るって位に情報通だからな!」

機械男「こんなのでも一つくらい取り柄があるんだねぇ」

店主「世の中不思議なもんだ」

チンピラ「……馬鹿にしてる?」

機械男「あー褒めてるよー」

チンピラ「ヘッヘッヘ!そうだろ?俺は凄いだろう!」

店主(バーカ)

機械男「……じゃあさ、調べて欲しいことがあるんだけど」

チンピラ「んー?なんだ?内容にもよるけど」

機械男「情報量は少ないけど……」

機械男「ただの一家惨殺事件。警察にも情報は無いみたいだし、どれだけ調べて新聞にも載ってはいない」

機械男「ほんの……そうだね、感覚で言えば10年ほど前の出来事。ナイフ一本で男女二名が殺されている」

機械男「場所も……分からないけど。この国で起こったことだとは思うよ」

チンピラ「お、おいおい……いくらなんでも情報少なすぎるぜ」

機械男「なに、片手間程度に調べてくれるだけでいいんだ。お金も出すし」

店主「なんだ?そんな事件がどうかしたのか?」

機械男「前に話した僕の最初の記憶だよ」

機械男「もし本当に起きた事件なら僕の過去の手がかりになるだろう?」

機械男「多分、僕が起こした事件なんだからさ」

チンピラ「お……おお、おおお!?」

機械男「ん?どうしたの?」

チンピラ「お金、出してくれるのか!?情報出すだけで!?」

機械男「……?当然でしょ?情報屋から情報買うってそういうことなんだから」

チンピラ「うおおお!情報が金になるのか!!今までタダで色々触れ回って損した気分だー!!」

チンピラ「だったら早速調べてくるぜぇーッ!!」ダダダダ



機械男「……情報屋じゃなかったの?」

店主「前に言ってたろ、あいつはカツアゲで生計立ててるって」

機械男「情報は持っていてもそれで稼ぐって発想が無かったのね。バカ」

カランカラン


警部「ふぃー、疲れた疲れた。公務員は辛いよ」

機械男「やぁ」

店主「いらっしゃい、久しぶりだな」

警部「おーっす、とりあえずいつもの」

店主「あいよ……忙しいみたいだな」

警部「ああ、そりゃあもう。猟奇的事件が立て込んでてたまったもんじゃないね」

機械男「へぇ、興味深いね」

警部「おっと、今回はお前と事件内容は関係ないから何も話さないぜ?これでも"真っ当な"警察官だからな」

機械男「そりゃ残念」

店主「真っ当ねぇ、よく言うよ」

店主「だが、お前さんはS・Nの事件担当じゃなかったのか?」

警部「一人の犯人追ってるだけじゃ勤まらないって。猟奇的だったり不可解な事件は総じて俺が行くことになってるし」

機械男「なんでさ」

警部「お前のせいだよお前の……」

警部「まぁいいや。でよ、その事件の内容って言うのがさ」

機械男「結局話すんだね。早すぎるよ」

警部「カニバリズムって知ってるか?」

機械男「食人、人を食う人のことだね」

警部「ああそれ。最近その手の事件が多く起きていてね」

店主「食人鬼か、怖いねぇ」

警部「通り魔のような場当たり的犯行」

警部「だが死体はどれもグチャグチャに噛み千切られて放置されてる」

機械男「同一犯……だよね?」

警部「歯形からしておそらくね」

店主「そんなのが同時期に何人も現れたら大変だっての」

警部「だが……どうも食うのが目的じゃないと俺は思う」

機械男「カニバリズムなのに?」

警部「あくまで殺害手段で噛み殺しているってだけのようにも見える」

警部「確かに、人体の至る所が欠損しているが……膝とか腕とか」

機械男「なんだ、ただの憶測か」

警部「俺ならもっと柔らかそうな箇所を狙うんだけどな」

店主「自分基準かよ」

カタン

店主「おっと、そういった所で早速仕事の通達が来たな」

機械男「……何それ、手紙?」

店主「伝書鳩が届けてくれるんだ」

警部「古典的だが……ま、電話一本やファックスやメールだとどこで聞かれたり見られたりするか分からないしな」

機械男「見つかるリスクは変わらないじゃないか」

店主「暗号化されてるからそこらへんは大丈夫だ。ま、コレで依頼書を書き起こすのは俺だから大変なんだが」

機械男(暗号化なら別にメールでもいいじゃない)


機械男「ふーん……で、どんな仕事?僕に回せるようなら回してよ」

店主「まぁ落ち着けって、殺し以外の仕事かもしれないしヒットマンはご指名されてるかもしれないし……お?」

警部「どうしたのマスター?驚いた顔しちゃって」

店主「そりゃ驚くさ、今回の依頼内容がよ」

店主「食人鬼の始末、だそうだ」

警部「ほう……」

機械男「噂をすればなんとやら……だね」

店主「それに加えて、だ」

店主「よかったなS・N、ご指名だ」

機械男「僕が?」

警部「ここいらじゃ殆ど無名なのに、そりゃどういうこった?」

店主「詳しくは言えないが、依頼主はいつもご贔屓にしてもらっているちょいと大きな組織でよ」

店主「化け物退治には化け物を、って書いてあるぜ」

機械男「組織……まぁ、こんなナリだし、色々なところから目をつけられているのは理解しているけど。化け物呼ばわりは酷いなぁ」

警部「前に後をつけられたことがあったが……そいつはその大きい組織とやらの組員だったかもな」

警部「しかし化け物ってのは?」

機械男「詳細」

店主「ほいほい。目標は組織の改造人間」

店主「実験に失敗し誕生。脱走を図った化け物。驚異的な身体能力に加え、殺人衝動の抑えられなくなってしまった」

店主「……改造人間?」

警部「おいおい、ジャパニーズヒーローな話でもないだろうに」

機械男「現実味が無いね」

店主「お前さんがそれを言うな」

機械男(改造人間……この組織、僕のこと知ってるかも)

店主「目に付いた人間を食い荒らしてどうも手に負えなくなってるみたいだな」

機械男「組織の尻拭いだねぇ……どうする?」

警部「受けてみるか、お前もそろそろ仕事がしたいだろう」

警部「それに、その食人鬼には、人を食い殺した分裁きを与える」

警部「人の手で捕まえることが出来ないのなら……俺たちの手で」

機械男「はいはい、始末するのは僕だけどね」

機械男「と、いうわけで。受けるよ、その依頼」

店主「ん、じゃあ……」サラサラ

店主「指定の場所と時間はこの紙に書いた通りだ」

機械男「へぇ……って、もうすぐじゃないか」

店主「そこへ目標を誘き出すみたいだ。その後はお前さんに始末を任せるんだと」

警部「誘き出せるんだったら始末も自分達で出来ないものなのかねぇ」

機械男「それが難しいから僕に依頼したんでしょ。まぁいいさ、じゃあ行ってくるよ」

――――――
―――


警部「これはこれは、何かが出てきそうな薄暗い場所だこと」

機械男「スラム街……ならず者達が集う無法地帯」

警部「だが、どういうことか人っ子一人いやしねぇ」

機械男「……キミ、当然のようについてきたけど、足手まといだから隠れてなよ」

警部「ま、邪魔にならないようにはするよ」

機械男「ここに居たであろう人たちは非難させたのかな?」

警部「或いは組織に全員始末されたか」

機械男「そりゃあ笑えないね」

警部「ま、そんな大規模なことはしないだろうから何かに付けて追い出したんだろうな」

機械男「そっか……おっと、もうお出ましか」

警部「随分早かったな」

「キッヒ……」

機械男「全身タイツに変なバイザー、アレは確かに尋常じゃないね」

警部「ジャパニーズな特撮じゃなくてアメコミの敵って感じだな、ありゃあ」

機械男「じゃあ、僕はこれからヒーローになるって事だね」

機械男「ただし、ダークヒーローだけどね。奴を始末して……さッ!!」バッ

「ッ!!」バッ

警部「んじゃ、俺は後方支援に回ろうかね」

機械男「必要ないのに……」

機械男(獣のような動きだ、明らかに人間のソレではない)ギュルギュル

機械男「まずは一発」ビュンッ

「ハァッ!!」

機械男(当然のように避けるか)

機械男「化け物には化け物……ねぇ、確かにアレは人の手には負えなさそうだ。まぁいいや、続けて行くよ」ギュルギュル

警部(高い運動性のある機械の身体に加えてあのワケの分からない回転する球体)

警部(ほーんと、アイツは何者なんだろうねぇ……いや、俺はよく知ってるんだけどさ)



「グヌ!」

機械男「いいよ、どんどん来なよ。僕を殺してみろよ」

「ヒヒ……!」ガギンッ

機械男(左右に振り子のように振り続ける、そして隙を突いての……)

「ガァ!!」バッ

機械男「突進ッ!いい子だ……ここまで接近されると球体も投げられないよ」

機械男「でも、これはどうかな?」ギュルギュルギュル


警部(足であの球体を踏みつけることによる高速移動)

警部(旋廻して後ろを取るか、だが奴の動きもドーベルマンの如き早いぞ。どうする)


「ガアアッ!」バッ

機械男「アッハッハ!お上手お上手!ついてくるとは流石だよ!」

機械男「本当に犬と戯れているみたいだよ」


警部(遊んでる場合じゃねーだろ!)

「ガン!!」ギンッ

機械男「……ありゃ?」

「ハグッ……ハグッ!」ガジガジ

機械男「腕噛まれちゃった」

「グッ!ンッ!?」

機械男「楽しい?そんな味気の無いものかじってて」

機械男「それに自分から捕まりに来るなんて……せっかくの機動力が無駄じゃないか」

警部(見た目が玩具みたいなくせに頑丈なんだよなぁアイツ)

警部(さて、俺もそろそろ準備しますかね)


機械男「ハハッ、やめなよ。いくらやったって無駄だよ」

機械男「痛いとは"思う"けど"感じる"ということはないんだ」

機械男「それに、傷が出来ると治し難いんだ……そろそろやめな」ギュルギュルギュル

「ッ!?」

機械男「球体が投げるだけのものだと思った?」

機械男「こうして手の平から好きなときに出せるんだ、こういう使い方も……」

「クッ!!」バッ

機械男「逃げようとしてももう遅い!出来るんだよ!!」


ゲギャギャギャギャギャギャ

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」

機械男「この速度で回転している球体を直接腕に押し付けられた感想を聞こうか?」

「グォ!?ゴオオオオオオ!!」

機械男「ああ、その悲鳴が感想だね。いい声だ」


ブチッ


機械男「あ、捻り切れちゃった。改造人間って聞いてたからもっと頑丈かと思ったのに」

「オゴ……オゴ……!!」

機械男「どうしたんだい?さっきみたいな調子で僕を襲ってみなよ」

機械男「さぁ、僕を殺すんだろう?やってみなよ……」



機械男「……やってみろよ」



「ヒグゥ!?」ダダダ

機械男「あらら、残念。僕と同じ類の人間かと思ったけど、とんだ腰抜けだ」

機械男「期待はずれだね。これじゃあ僕を殺せそうに無い」

機械男「逃げても無駄だよー、僕は敵は絶対に逃がさない」コツコツ

機械男「こうやって点々と落ちている血の痕を辿っていけばいいだけだしねぇ」

機械男「放っておいても出血多量で死ぬと思うけど……自棄になって他所で暴れてもらっても困るし」

機械男「……ん?」

機械男(行き止まりに逃げ込んでいるな……誘っているのか?)

機械男「……まぁいいよ、乗ってやるよ」

機械男「さて、案の定路地裏の行き止まりだ。どこに隠れたんだい?」

機械男「マンホールの下かい?それとも……」

機械男「高い壁の上かな?」

「……ッ」

機械男「大当たり。景品はキミの命ってことで……」ギュルギュルギュル

「キヘッ……キヘヘッ!」チャカッ

機械男(バズーカ!?)

警部「S・N!こっちだ!!」

機械男「ッ!」

「シネエエエエエエエエエエエエエエエ!!」


ドンッ

……

機械男「うわ……上から物凄い爆発音と衝撃」

警部「間に合ったみたいだな」

機械男「恩にきるよ、まさかあんなものを取り扱う知恵があったとは……」

警部「狂っても人間って事だ。片腕であんなものぶっ放せる時点でどうかとは思うが……」

機械男「しっかしマンホールの下からこんにちわ、してくるなんて思ってもみなかったよ。あ、今はこんばんわだね」

警部「そんなことはどうでもいいよ。お互い化け物退治なんて初めてなんだ。逃走経路くらいは確保しておこうと思ってな」

機械男「助かるよホント。流石の僕も爆発物を喰らったら治るのに凄く時間が掛かるし」

警部「それでも治るんだな……」

警部「さぁ、お喋りしている時間が惜しい。移動するぞ」

機械男「いや、ここで迎え撃つよ。どうせ僕を狙ってくるだろうし」

機械男「下水道の……この狭い場所だったら奴も動きにくいだろうし」

警部「それならまぁ……任せるが」

機械男「キミは先に行ってな、僕がやるから」

警部「一応俺も戦えるからな?銃も持ってるワケだし」

機械男「当てられるのならね……さてと」

機械男「……」

警部「……」

機械男「……来ないね」

警部「まさかとは思うが……逃げたか?」

機械男「失策だよまったく。予想外の反撃してきたからまだ戦闘意欲があるのかと勘違いしてた」

機械男「僕への恐怖心とそこそこの知能があるんだ。あそこから逃げるという選択肢を選んでもおかしくはない」

機械男「やられたね」

警部「そう油断させておいて……とかも考えられるな」

機械男「かもね、止血の方法も心得ている可能性がある。改造人間だから超再生とかかも……ともかくこのまま放ってもおけないし」

警部「超再生とはまたファンタジーな……妙な読み会いに持ち込まれちまったな。とりあえず別の出口から出よう、話はそれからだ」

機械男「賛成、どの道この上は爆風でグチャグチャだろうしね」

機械男「嫌だね、化け物退治は……何もかもが初体験で上手くいかないや」

警部「化け物退治に限らずに最初なんてそんなもんだ。お前だって初めから殺しが上手かったワケじゃないだろう」

機械男「殺しが上手いって変な言い方だね……でもまぁ、そうだね。始めは酷かった」

警部「俺が力添えしてやらねぇと何にも出来なかったからな、お子様だよ」

機械男「そ、お子様さ。今も昔も変わらずに」

機械男「キミがいてくれて本当に助かるよ。こうやって仕事で食い扶持をくれたんだから」

警部「見返りが大きかったし、何より俺の目的の為だったしな」

機械男「悪の根絶……まったく、夢物語にもほどがあるよ。個人の力じゃ無理だ」

警部「そういうな、たとえ俺たちが達成できなくても、同じ志を持った連中がやってくれるさ」

警部「この身が果てるまで、自分自身を酷使し続けるつもりだ、俺は」

機械男「やれやれってやつだね」

警部「出口だ。ここから上に出るぞ」

機械男「僕から行くよ。何があるか分からないし」

警部「悪いな、そうしてくれ」

機械男「万が一何かあったら顔は出さないようにね」

警部「俺はそこまで役に立たないか?」

機械男「戦闘においてはまったくね……出るよ」

警部「ああ、頼んだぞ」


カタン

機械男(外は……ん?室内?)

警部「あ、言い忘れてた。ここなぜか直接大きい倉庫の中に繋がってるんだ」

機械男「建てつけ最悪だね……」

警部「大丈夫そうか?」

機械男「うん、何とか」

警部「ういー、じゃあ俺も出るよ」

警部「ふぃー、下は息が詰まるぜ」

機械男「そうだね、臭いも強烈だ……」

警部「ウゲッ、確かに臭いな」

機械男「……嫌な予感がするよ」

警部「どうした?」

機械男「動物のような運動神経に噛み付き攻撃、まるで犬のようだったね。あいつ」

警部「……超再生能力は無いにしろ」

機械男「超嗅覚くらいは持ってるかもね……背中をお願い、銃を構えて。近くにいる」

警部「お、おう!」バッ

機械男「上から追跡してきていたみたいだね、臭いで」

警部「どこにいるかまではわからないのか?」

機械男「それが分かったら背中は任せないよ」

機械男「またバズーカを撃たれても、今回は防いで見せるよ。僕の球体でね」

警部「すっげぇ下水道に戻りたいんだけど」

機械男「隠れてる最中に僕の視界外から撃たれたら反応が遅れるかも」

機械男「僕は無事でもキミが大変なことになりそう……だから何か見えたら声をかけてほしいからさ」

警部「そんな無茶苦茶な……」

機械男「死にたがりのキミなら別にいいだろう?それとも何かい?ただじゃ死にたくないって?」

警部「そりゃそうだ、裁かれる相手は選びたいんでね」

機械男「裁く裁かれるは置いておいて……ただじゃ死にたくないってのは同意だね」

機械男「まぁいいや、ちょっと荒いけど奴の位置を確認するよ……」ギュルギュル

警部「この音は……球体?何に使うんだ?」

機械男「空気の流れを感知する。奴の潜めた息遣いもコレで探知できる……かもね」

警部「保障は無いんだな?」

機械男「言ったでしょ?何もかもが初体験ってね……」

機械男(行け、奴を探しだせ)

シュルシュル


警部「……」

機械男(僕の手から離れた時点でコントロールが出来るのは一度跳ねさせることだけ)

機械男(空気の流れからうまく探知出来るかは分からないが……)


機械男「……」


シュルシュルシュルシュルッ!


機械男「ッ!コンテナの裏!跳ねろ!!」

「ッ!!」

「ガァッ!?」

機械男「ダメだ!直接投げないと威力が落ちる!仕留め損ねた!」

警部「だが奴の得物は弾き飛んでぜ!」ダダッ

機械男「待て!迂闊に手を出すな!」

警部「俺が裁いてやるよ……食人鬼!」

ダンッダンッ!

「ッ!?」バッ

警部「避けられた!?」

「ガアア!!」グシャッ

警部「うぐぅ!!」

「ウガアアア!!ガアアアア!!」

警部「うあああああああ!!」

「グシシシシシシ!!」

警部(クソッ!!何度も何度も同じ箇所噛んでるんじゃねぇよ!!本当に食人目的じゃなくて殺人手段だったか!!)

警部「このッ!このッ!!離せ!!」ガッガッ

「グゥ!グゥ!!」

機械男「今助ける!」ギュルギュルギュル

「キヘッ……」バッ

機械男「ッ!」

警部「こいつッ!俺を盾に……!」

「キヘッ、キヒヒヒヒヒヒヒ!」

警部「まさか、本当に足手まといになっちまうとは……」

機械男「参ったね……」

警部「……S・N、ここでお決まりの言葉を……ぐっ、言わせてもらうが」

機械男「自分ごと撃てと?悪いけど、仲間ごと撃つなんて僕には出来ないよ」パッ

機械男「ほら、ホールドアップ。球体は手から離したよ、望みくらいなら何でも聞いてやる」

警部「お、おい……」

「……キヒヒヒヒヒヒッヒヒ」

機械男「言葉が通じてないのか……残念」

警部「話が出来るような奴じゃねぇ!早くやれ!このままだとどっち道苦しんで死ぬことになるんだよ!」

機械男「……キミは裁かれたいんだろう?」

警部「こんな形じゃねぇ!!お前の手で裁かれるなら文句は無い!!だから早くやれ!!」

機械男「僕はキミを裁くつもりは無いよ……その裁きが下る日まで諦めるなって事を伝えたいんだよ」

警部「どういう……ことだ?」

機械男「こういうこと」

ズドンッ

「ガァ!?」

警部「これは!?」

機械男「球体は僕の手から離したよ。ただし、敵であるキミを追尾するようにね」

「グゥ……うう……」

機械男「一度手から離してしまうと直接投げるより屠れるほどの威力がなくなっちゃうけど……」

機械男「痛みを与えるのには十分、しかもキミは消耗していると来た」

機械男「さぁて……よくもまぁ僕のパートナーを痛めつけてくれたね」

「ウ……グ……」

機械男「僕はね、今とっても怒っているんだよ?」

機械男「憂さ晴らしだけど……ま、彼の言葉を借りると」

機械男「キミには相応の裁きを受けてもらうよ」ギュルギュルギュル

「ア……アア……ッ!!」

機械男「それじゃ」




機械男「バイバイ」

――――――
―――


「任務の完了を確認した」

機械男「そりゃどうも」

「残骸は我々で処理する。金は仲介所に預けておくからそこで受け取れ」

機械男「分かったよ……あとさ」

機械男「近くで見ていたくらいなら自分達でもどうにかしようと思わなかったの?」

「依頼主に対しての詮索は殺し屋として失格だ」

機械男「時と場合によるよ」

「それに、化け物退治は化け物に。そういった方針だ」

機械男「あっそ……不快だからさっさと持って行っちゃって」

「言われずとも」

機械男(組織ってこんな人たちばっかりなのかねぇ)

機械男「あー、後さ」

機械男「こんな身体の僕の事、知ってたりする?」

機械男「例えば、おたくの組織が改造したとかさ」

「お前は我々の組織にマークされている人物だ」

「我々の組織が作り上げたものではない」

機械男(ハズレか)

「そこの男の治療は一応済ませておいた」

機械男「そこだけは感謝するよ、分かったから早くいなくなって」

「では、失礼する」

機械男「やれやれ、災難だねぇ」

警部「ったく……まったくだよ」

機械男「立てる?」

警部「何とか……あででででで!あいつらの治療荒すぎだろ!」

機械男「痛みを感じるのなら正常だね」

警部「他人事みたいに言うなっての……」

機械男「実際他人事だしねぇ」

警部「しかしまぁ見事なものだな」

機械男「何が?」

警部「粉々だ」

機械男「ああ、死体か」

警部「ビックリしたよ、本気でやるとここまで悲惨なことになるとはな」

機械男「S・NのSは"サディスティック"のSだからね」

機械男「僕のパートナーに手を出した報いだ」

警部「アレで死にたくはないな、つくづく思うよ」

機械男「自分ごと撃て、とか言いかけたくせに」

警部「一発で仕留めてくれるのならアリっちゃアリだけどな……いや、やっぱり勘弁願う」

機械男「そりゃ誰だってあんな死に方は嫌だろうね」

機械男「まぁ、そういう星の下に産まれてきたことを後悔するんだね」

警部「怖い怖い、恐ろしい殺し屋さんだ」

機械男「同類のキミが言うことじゃないだろう?」

警部「それもそうだな……ヘッ」

機械男「フフ、やれやれ」

――――――
―――


機械男「ただいま。ゴメンね、今日は遅くなっちゃった」

機械男「でも許してね?お仕事だからさ」

機械男「……寒そうだから毛布を買ってきてたよ」

機械男「暖房だと僕がいない間につけっぱなしに出来ないし、コレで我慢してね?」

機械男「……今日は疲れたよ」

機械男「化け物には化け物、まったく酷い連中だよ。僕だって人間なのにさ」

機械男「……やっぱり、彼と一緒でよかったよ」

機械男「今度彼を招待するよ、キミ達も紹介したいしね」

機械男「僕の家族……家族……カゾク……?」

機械男「……ボクハ……?」

機械男「……」

機械男「……ん?ああ、何でもないよ。ボーっとしてただけ」

機械男「それじゃあオヤスミ、また明日」

機械男「いい日になるといいね」

機械男「今日よりずっと……過去よりずっと……」

機械男「ね……」

――――――
―――


刺した

何度も何度も

血は飛び、肉は抉れ、骨が削れる音がして

それでもまだ生きている

腹を刺した

足を刺した

喉を刺した

それでもまだ生きている

また刺した

何度も刺した

何度も何度も

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も

――――――
―――



カランカラン


店主「おう、いらっしゃい」

警部「うい、いつもの」

店主「はいよ……あれから結構経ったが怪我はもういいのか?」

警部「よくないよ。だが、今の公務員は無理をしてでもお仕事さ」

店主「下手なブラック企業よりブラックだな」

警部「文句が言えないのが下っ端の辛いところさね」

店主「情報操作できるような奴が下っ端とはなぁ」

チンピラ「何だ?警部さんあんた下っ端だったのか?」

警部「警部って時点であんまり下ではないけどな」

店主「言葉の絢だよ、バカは首突っ込むな」

チンピラ「やめてくれよバカって言うの!最近気にしてるんだからよぉ」

店主「やっと恥じるようになったか」

警部「遅いんだよバーカ」

チンピラ「うるせぇ!やめろ!」

警部「ところで今日はS・Nいないの?」

店主「さっき帰ったばかりだよ。女と戯れたいんだとさ」

警部「妬けるねぇ、こんないい相棒を待たずして女の所か」

チンピラ「なんだぁ?あんたそっちの気でもあるのか?」

警部「お前ちょっと黙ろうな?」チャキッ

チンピラ「ちょ!銃出すなって!!」

店主「ところで、お前さんとS・N……まぁ、警察と殺し屋って言った方がいいか」

店主「どういう経緯で知り合ったんだ?まさか真面目に公務活動してて出会ったワケじゃないだろう?」

警部「まぁそうね……そんなんじゃ一生会えないだろうね」

警部「出会ったのはプライベートだよ。ただ漠然とそこに突っ立っていたアイツを俺が拾ってやった」

チンピラ「なんだ?捨てられてたのか?人形みたいに」

警部「さぁな、捨てられたのかどうなのかはアイツも覚えてないから何ともいえないな」

警部「……3年前だな」

警部「俺とアイツが出会ったのは」


――――――
―――



偶然だった
ただ家に帰る途中だった

突然降ってきた雨を避けるために適当に雨宿りできる場所を探していた
そこに、アイツがいた

警部(……人形?)

機械男「……」

警部「不気味だな……こんな場所に」

機械男「ブキ……ミ?」

警部「ッ!」

その人形は喋った
聞き間違いかと思って何度か耳の穴ほじって確かめた

だがその人型のような何かはまた何かを発した


機械男「キミは……ダレ?」


聞きたいのはこっちだ

ただの興味本位だった
俺はその不気味な人型と話すことにした


警部「俺は……ダンって名前だ」

機械男「ダン……」

警部「あ、ああ。そうだ、お前は何ていうんだ?」

機械男「ボク?……わからない」

その人型は自分が何者なのか
自分が何なのかを知らなかった

こんな世界にいる俺でも、このときは恐怖心や警戒心よりも真っ先に好奇心が動いた

そいつを家に連れて帰ることにした
変な小道具かもしれないしどこかの秘密研究所で作られたロボットかも知れないが

そんなことは知ったことじゃない
心が躍ったものだ

警部「何か覚えていることはないのか?ほら、誰に作られたとか」

機械男「作られた……?」

警部「そう!だってお前は……ロボットだろう?」

機械男「ボクは……ニンゲンだよ」

警部「え?」

どういうわけか、そいつは自分が人間だと言い張った
何度問いただしても何度聞いても

実際、物は食べるし飲むし

テレビのバラエティを見れば声を出して笑う

涙は無いが、悲しければ声を出して無く

その仮面のような顔からは表情は読み取れなかったが
その行動自体、どれをとっても"人間の子供"だった

しばらく一緒に暮らして突然ある日、アイツは言った
一つ思い出したことがあると

たった一つだけ
思い出した

機械男「……ヒトをコロした」

機械男「ナンドもサした」

機械男「ナンドもナンドもナンドも」

警部「ッ!」

俺はアイツに
同じものを感じた


―――
――――――


警部「……そこからは都合がよかったな」

警部「アイツを殺し屋として仕立て上げたのはこの俺自身」

警部「一度殺しをしたというのなら、罰を受けるべきなんだ。俺と同じでな」

店主「だから同じものを背負わせた……」

警部「そのとぉーり」

警部「同類なんだ、俺たちは」

警部「殺人衝動を持つ根っからの悪人」

警部「正義のために黒に染まる……イカれっちまった人間だ」

店主「ああ、歪んでるな。お前さんたちは」

チンピラ「なるほどなぁ……自分の記憶を探すためにあんなことを俺に頼んだのか」

警部「あんなこと?」

店主「お前さんは聞いていなかったな」

チンピラ「10年前の前後にあった一家惨殺の事件を調べるように言われたんだよ」

チンピラ「男女の二人組み、自分が殺した相手だって言ってたな」

店主「気にはなるんだろうな、自分の最初の記憶が」

警部「アイツがねえ……」

カランカラン


機械男「あら、来てたの」

警部「おう、来てるよ」

店主「何だ?忘れ物でも取りに来たか?」

機械男「うん、買い物袋。忘れちゃってね」

機械男「ここら辺に無かった?彼女へのお土産なんだ」

店主「ああ、コレお前さんのか……ん?でもこいつぁ……」

機械男「ありがと、それじゃね」スタスタ

警部「あー、S・N。ちょっと話したいことが」

機械男「今度にして、彼女を待たせてるから」

警部「お前なぁ……」

チンピラ「ヘヘッ!お断りされてやがんの!」

機械男「ん……急用?」

警部「そういうわけじゃあねーが……」

機械男「……ま、いっか。ウチ来る?」

警部「お?いいのか?」

機械男「うん、もう片付いてるしね。彼女も嫌がることは無いだろうし、多分」

警部「んじゃあ連れて行ってもらおうかね、一回見ておきたいし」

機械男「じゃあ行こうか」

チンピラ「おーおー、何かいい仲じゃねーか」

機械男「ま、コンビでやってるんだからコレくらいはね」

店主「仲のいいコンビは長続きしないって話もあるけどな」

警部「おいおい、コレでも3年一緒にやってるんだぞ?」

店主「"まだ"3年だ、長続きするようにしろよ?」

警部「余計なお世話だっての」

……

警部「……ここら辺、廃ビルしかないのな」

機械男「隠れ住むには丁度いいよ。僕はまともな所になんて住めないからね」

警部「そりゃそうか」

機械男「でも、住むには問題ない設備は揃っているよ。提供してくれている人は非合法なアレだけど」

警部「だろうねぇ」

機械男「世知辛いよ、まったく」

機械男「ここのビルの……4階だね」

警部「えらく廃れてるな……」

機械男「ま、ここも廃墟の一つだしね」

機械男「もう人の手が加えられることの無い場所さ」

警部「エレベーターは……」

機械男「勿論動いてない。頑張れ」

警部「はぁ……怪我人って事忘れるなよ?」

機械男「……着いたよ、ここの部屋」

警部「角部屋か、いいところもらってるじゃない」

機械男「このビルに住んでるの僕だけなんだけどね」

警部「他の部屋とか使い放題なのになんでここなんだよ……」

機械男「ルールってものがるんだよ、支給されたのはココ。他の入居者が来るかもしれないしね」

警部「さいですか」

機械男「だたいま、帰ってきたよ」

警部「お邪魔しまー……す」

警部「電気は……」

機械男「通ってないよ、暗いけど我慢して」

警部(この分だとガスも水道も無しだな)

警部「こんな劣悪な場所に女住まわせてるなんてお前最低だな」

機械男「そう言わないでよ。それでも彼女達は健康なんだ」

警部「ああ、そういや子連れなんだっけ?」

機械男「うん、皆元気がいいよ」

警部「子供は一人じゃないのか」

警部「で、どこにいるんだ?その彼女さんたちは」

機械男「そこにいるじゃない」

警部「は?」

機械男「だから、そこの……」

機械男「箱の中」

警部「ッ!!」

警部「お前まさか……」

機械男「なんなら開けてみなよ、キミの手で」

機械男「さぁ……早く」

警部(……コイツは変な所で殺しをするような奴じゃねぇ)

警部(だがこの中に女と子供が入ってるとか本気だったら……コイツ、相当キメてやがるぞ)

機械男「もう、じれったいなぁ。はい、ご開帳」パカッ

警部「あ、おい!」

ミィ

ミィミィ

警部「……あれ?」

機械男「ただいま、毛布暖かそうだね」

警部「これは……なんだ?」

機械男「可愛いでしょ?僕の愛しい家族」ヒョイ

ミィ

警部「猫……」

機械男「うん、猫。一回も人だ何て言ってないしね」

警部(コイツわかってて色々はぐらかしてたな……)

機械男「この子の話をするたびに小者君が悔しがるんだ。本当に面白いよ」

機械男「勝手に人間だって脳内で変換しちゃうんだもん。人だって言ったことないのに」

警部「性格悪いなお前」

機械男「お互い様さ」

機械男「でも紛れもない家族さ。はいみんな、ご飯買って来たよー」

警部「土産の正体は猫の餌か」

機械男「それでさ、ダン」

警部「んー?」

機械男「僕に何か用事があったんじゃない?」

警部「あー、そうだったけど。なんかどうでもよくなった」

機械男「なんだよそれ」

警部「色々拍子抜けしたってことよ……ま、お前らしいっちゃお前らしいけどさ」

機械男「ちょっとお茶目な所が?」

警部「タチの悪い所が」

警部「ま、一応聞いておくか」

警部「記憶、戻ったか?」

機械男「……まだまだって感じだね」

警部「そうか……小者君に探らせてるのか?自分が起こしたかもしれない事件」

機械男「うん、気になるからね」

警部「ざっと見積もって10年前後。絞り込むだけでも相当な労力が必要になる」

警部「ましてや表沙汰になっていないようなことだ、いくら調べても出てきやしない」

機械男「それでも諦めないよ。僕自身のことだから」

機械男「知りたいんだ、その先に何があっても」

警部「……ああ、それでいい。お前はそれがいい」

小休止
でもまたすぐに始める

再開

……

機械男「悪いね、何もおもてなし出来なくて」

警部「期待してなかったからいいよ」

機械男「そ……ここから一人で帰れる?」

警部「子供じゃねーんだから大丈夫だよ。前にどこかの誰かさんにここら辺で放置されたからな」

機械男「あら?誰だいそんな無責任なやつ」

警部「あーあー、誰だろうねぇ」

機械男「ねぇ」

警部「ん?」

機械男「僕たちってさ、これからもずっと一緒にやっていけるよね」

警部「気持ちの悪い事聞くなよ……まぁお前の働き次第だな」

機械男「そっか、実の所コンビ解消したいと思ってるけど」

警部「お、おい!考え直せ!そりゃ俺が困る!」

機械男「うん知ってる、冗談だよ」

機械男「僕も独立なんて未来のビジョンは見えないからね」

警部「ああ……ま、本当にお前次第だな」

警部「記憶が戻れば……またお互い変わるのかもな」

機械男「変わらないよ……僕は」


ガシャ


機械男「おや?」

警部「……?」

機械男「こんな時間に外に出歩いてる人は珍しいね……動物かなにかかな?」

警部「明らかに物の発する音だったろ……誰だ、出て来い」

「……」

警部「車椅子の女……?なんでこんな所に」

機械男「ッ!」

「死ね……」

警部「え?」

「死ねえええええ!!!」ダッ

警部「包丁!?S・N!!」

機械男「ッ」


ガシャンッ

「お前が!お前が息子を!!私の息子を殺した!!」ガンッガンッ

機械男「……」

「返せ!!ジョンを返せ!!返せえええええええ!!」ガンッガンッ

機械男「……そんな刃物じゃ僕は殺せないよ……」

「返せ!返して……」

警部「おいおい、どういうことだ?」

機械男「この街に来たときに……初めて僕が始末した相手の母親」

警部(……本来俺がやるハズだった仕事か)

機械男「情報も無いのに僕を見つけ出すなんて、見事だよ」

「返して……返して……」

機械男「……」

ナイフで刺した

何度も何度も

何度も何度も

何度も何度も

機械男「ッ!!」ビクッ

警部「……自己防衛はしないのか?」

機械男「……そんな気分じゃない」

警部「そうかい」チャカッ

「返して……」

警部「悪いが、そんなものを振り回してる時点で危険人物だ」

ダンッ



……

機械男「……思うんだ」

警部「何だ?」

機械男「僕たちは……間違っている」

警部「いや、正しいね」

機械男「……まぁ、初めから正しいなんて微塵も感じたことは無かったけどさ」

警部「……」

機械男「この行いが正しい方向へ向かうっていうのも……ありえないよ」

警部「じゃあ何でお前は殺し屋を続ける」

機械男「生きるため……だよ。キミに教えられた、たった一つの生きる方法」

機械男「死ぬために動いてきたキミとは違う」

警部「……」

機械男「ゴメンゴメン、すっかり白けちゃったね」

機械男「彼女の遺体は、息子さんのお墓の近くに置いておくよ」

機械男「幸い、コレなら自殺を装えるだろうしね……銃、貸して。どうせ出所不明のものでしょ?」

警部「これは俺の名義で登録してあるものだ、物が落ちていればすぐにバレる」

機械男「ありゃりゃ、残念」

警部「情なんて必要ない、その辺に深く埋めておけ」

機械男「……そうだね」

機械男(……ゴメンね)

機械男(息子さんと同じところで眠らせてあげられなくて)

警部「俺はもう行く……またな」

機械男「うん、またね」

警部(……S・N、お前は……)

機械男「……」

機械男(……僕も)

機械男(分かるよ)

機械男(家族が死んだんだもん)

機械男(こうなっちゃうよね)

機械男「……僕が殺してきた人たち、どんなことを思って死んでいったんだろう」

機械男「……おかしいな」

機械男「……罪悪感なんて無かったはずなのに……」

――――――
―――


また、夢を見た

手に取ったナイフを見つめる

男は絶望の表情を浮かべている

何故こんなことを?

どうしてこんなことを?

男は血まみれの肉塊を眺めた

そして

そのナイフを……自らに……

――――――
―――



機械男「うあああああああああああああああああああ!!」バッ

機械男「ハァ……ハァ……」

機械男「今のは……なんだ?……夢?」

機械男「……タチの悪い夢だ」

機械男「……殺したのは……殺されたのは……ッ」

機械男「……いや、今見たのは……夢なんだ……」

ミィ
ミィ

機械男「……ゴメンよ、驚かせてしまったね」

機械男「……僕は……今見たものが本当だったら……」

機械男「どうすればいいんだ……」

機械男「……」

――――――
―――


カランカラン


店主「いらっしゃい」

機械男「どうも」

警部「おう、先に飲んでるよ」

機械男「フフ、カルーアミルクじゃ酔えないだろうに」

警部「ほっとけ、コレで十分なの俺は」

機械男「……ねぇ、また聞かせてくれないかな」

警部「何を?俺の警察内部での武勇伝?」

機械男「いろんな意味で気になるけど……まぁそうじゃなくてさ」

機械男「キミの一番初めの殺し」

警部「……聞いてどうする?」

機械男「どうもしない、聞くだけ」

警部「マスターちょっと……」

店主「ああ、ちょっと裏で仕入れのチェックでもしてこようかねぇ」

警部「……悪いね」

機械男「僕たちが席変えればいい話じゃない」

警部「他の連中に席を占領されてるから無理だろ」

機械男「……そだね」

警部「で、どこから聞きたい?」

機械男「……任せるよ」

警部「いいのか?脚色するかもよ?」

機械男「……好きに話して欲しい」

警部「……ああ」

警部「10年前だな……突然さ、ワケも無く人を殺したくなった」

警部「家庭環境のせいかね……親に色んな黒い噂があって、真っ当に生きてきたつもりだったが、歪んでいたみたいだ」

警部「……どこの顔も知らない誰かの幸せを壊してやりたくなった」

機械男「……それで?」

警部「狙いをつけていたわけじゃない、ただ衝動的に。遠い街の一軒の家に無断で押し入った」

警部「家ん中はそりゃもうパニック、俺の手には鋭い刃物が握られていたんだから」

警部「まずは女、柔らかそうな箇所狙って一突き」

警部「止めに入った男にビビッて刃物振り回したらたまたま首に当たって即死」

警部「女に跨って叫び声を聞きつつ滅多刺し」

警部「何度も何度も……な」

機械男「……」

警部「それで、最後にクローゼットの中にいた子供」

警部「怯えてたよ、震えていたよ……」

警部「それで、刺した」

警部「胸を刺した、腹を刺した、足を刺した、喉を刺した」

機械男「……」

警部「……コレが全容だ」

機械男「キミは……」

警部「そう……これは……」




機械男「ハァ、かなり脚色してるじゃないか!昔僕がキミに話した記憶とまったく同じ!」

警部「……バレた?」

機械男「話の元が僕だからね……パクリは酷いよ」

警部「ちょっとは変えただろ?最後、子供を殺す所とか」

機械男「……うん」

機械男「……それでさ、話したいことがある」

警部「言ってみな」

機械男「記憶、戻ったかも」

警部「……そうか、よかったな」

機械男「でも確証が無い。ただの夢かもしれないし、今の君の嘘話が記憶と混同しているのかもしれないし」

警部「……嘘かどうかは自分で見極めな」

警部「……仮に」

警部「仮にすべてが本当だと思うなら、お前はどうする?」

機械男「どうもしない」

警部「ッ!?」

機械男「全ては過去のこと、過ぎたことはどうしようもないし、僕は許せるね」

警部「お前……ッ!」

機械男「言ったよ、僕は記憶が戻っても変わらないって」

機械男「……決して消えない罪を背負っているから……変われないんだ、僕もキミも」

警部「……」


カランカラン


チンピラ「おーっす、S・Nいるかー?」

機械男「ああ、ココにいるよ」

チンピラ「丁度よかった、ホレ。頼まれてた事件の詳細、見つかったぞ」

機械男「え?ホント?期待してなかったんだけどねぇ」

チンピラ「警部さんが色々絞り込んでくれたから早く見つかったぜ」

機械男「……キミが?」

警部「マスター、お勘定」

店主「ん、もういいのか?」ノソ

警部「ああ、御馳走さん。コイツの分も払っておくよ」

店主「あいよ」

機械男「もう行くの?」

警部「用事を思い出した、じゃあな」

機械男「うん、気をつけて」

チンピラ「でよ、お前が言ってた事件のことなんだけどよぉ」

機械男「あ、うん」

警部「……」

チンピラ「被害者が男女ってので前提条件が違ってたみたいでよ」

機械男「……もう一人、子供がいた?」

チンピラ「そうそう!そうみたいなんだが……」

チンピラ「肉片やら血やらは飛び交ってるのに、何でも子供の死体だけなくなってたみたいなんだ」

チンピラ「これお前がやったことだとしたら……なにやったの?」

機械男「……さぁね」

機械男「それにどうやら、それは僕の起こした事件じゃないみたいだ」

チンピラ「え?ハズレ!?」

チンピラ「おっかしいなぁ……警部さんから直接極秘資料もらったから何かあるのかと思ってたけど」

機械男「彼から直接……ね」

店主「警部さんは初めからその事件を知っていた……だが犯人でもないS・Nにそれを教えてどうするつもりだったんだ?」

機械男「……裁かれたい……か」

チンピラ「サバカレー?」

機械男「……マスター、お代わり」

店主「はいよ、追加料金は……」

機械男「彼につけといて」

店主「いつも通りでいいんだな」

機械男「ああ、いつも通りでいいんだ」

機械男「いつも通りで……」

――――――
―――


機械男(……確定してしまった)

機械男(殺したのは僕じゃない……)

機械男(……思い出した)

機械男(僕が……"殺された"んだ)

機械男(あの日、家族でただ普通に食事をしていた)

機械男(いつもと違ったのは、見知らぬ青年が僕の家に押し入ってきたこと)

機械男(ママが刺された、次にパパの首が切られた)

機械男(僕は怖くてクローゼットに隠れた)

機械男(そして僕はジッと見ていた、ママが刺されるところを)

機械男(ママの声が聞こえなくなると、青年はクローゼットを開けた)

機械男(僕を引きずり出して胸を何度も刺した)

機械男(何度も何度も)

機械男(それでも僕は生きていた)

機械男(次々と他の箇所を刺される。腹、足、喉)

機械男(それでも僕は生きていた)

機械男(青年は驚いた顔をしている)

機械男(手に持ったナイフを見て絶望している)

機械男(正気に返ったのだろうか)

機械男(彼はそのまま……手に持ったナイフで)

機械男(自分の顔を傷つけた)

機械男「……僕の記憶……僕が殺したんじゃなくて」

機械男「客観的に見ていた……僕が殺された記憶」

機械男「……じゃあ、この身体は何なんだろうね」

機械男「その後僕に何があったんだろうね……」

機械男「……ただいま、今帰ったよ」ガチャ

機械男「……」


ミィ……ミィ……


機械男「……」

機械男「……」

機械男「…………」

機械男「キミ……だけかい?」




機械男「生きているのは……」

――――――
―――


カランカラン


警部「よ、今日は遅かったじゃないか」

機械男「うん、お墓作ってたから」

チンピラ「墓?なんの?」

機械男「僕の彼女、死んじゃったからさ」

店主「お前……」

チンピラ「やっちまったのか!?」

機械男「昨日帰ったら死んじゃってた、撃たれてた」

店主「そいつぁ……」

機械男「残念、可愛い猫ちゃんたちだったのになぁ」

チンピラ「……猫?」

機械男「そう、猫」

チンピラ「すると……今まで俺に話していたのは……」

機械男「うん、猫ちゃん。どうしたの?まさか人間だと思ってた?」プークスクス

チンピラ「騙したなああああああああああ!!」ガタンッ

店主「……撃たれたってどういうことだ?」

機械男「……はいこれ、忘れ物。昨日ウチに来たんでしょ?」カタン

警部「……」

機械男「キミの銃。ワザとらしく置いて帰っちゃってさ」

チンピラ「え……?」

店主「ちょっと待て……!?」

警部「おお、悪いな。躾が悪いドブ猫共を始末したときに忘れていったみたいだ」

機械男「そう、今度からは気をつけてね」

機械男「マスター、僕も彼と同じものを」

警部「……おい」

機械男「ん?まだ何か忘れていった?」

警部「ふざけるなよ……」

機械男「何が?」

警部「何がじゃねぇよ!!テメェの家族が殺されておいてそれは何だ!?犯人が目の前にいるんだぞ!!」

機械男「……キミは、僕にどうも喧嘩を吹っかけているようだけど、僕は別に気にしてないよ」

機械男「私怨じゃ戦わない、それにキミとは元々戦うつもりも無い」

警部「……ッ」

機械男「いいんだよ、僕はキミのすべてを許せる。だからキミも何も気にする必要は無い」

機械男「たとえどれだけその手が血塗られていようと、何も……」

警部「マスター、勘定」

店主「あ、ああ……」

警部「あとコレを」

店主「なんだこりゃ?」

警部「俺が店を出てから10分後にあけてくれ、それじゃ」

チンピラ「……なんだったんだ?」

機械男「さぁね、彼も色々思う所があるんだよ」

店主「S・N……事情はよくわからねぇが……」

機械男「マスターが気にする必要は無いよ」

機械男「それよりさっき何を受け取ったの?気になるじゃない」

店主「10分後に開封しろって言われたが……まぁいい、ただならぬ状況じゃなったし見てみるか」ビリッ

店主「……」

機械男「マスター?」

店主「……S・N、依頼だ。それも緊急の」

チンピラ「依頼書?何でまたあの人が……」

機械男「……」

――――――
―――


警部「……来たか」

機械男「こんな港の倉庫だらけの場所に呼び出しておいて……ドラマなんかの最後を飾るに相応しそうな場所だね」

警部「特に、ハードボイルドなアクション物のな……おせぇよ、今まで何してた」

機械男「聞きたいのはこっちだよ」

警部「……早速だが、今回の依頼の話をしよう」

機械男「……いいよ、そんな下らない事」

警部「俺にとっては最重要事項だ」

機械男「今ならまだ冗談で済む話だよ」

機械男「さ、依頼を取り消して帰ってまた皆で飲もう……今日は僕が奢るよ」

警部「断る」

機械男「おんや?たまには奢らせてくれよ、不服だったかい?」

警部「いつまでもそんなヘラヘラと……前に言ったハズだ」

警部「俺は"裁かれたい"ってな」

機械男「……償いたいのならこれから僕と行動を共にしてくれればいい、それ以上は望まないよ」

警部「償いたいなどと言ってはいない!!裁きを受けたいんだ!お前の手で!!」

機械男「……」

警部「俺は過去にお前の家族を殺した。そして"お前自身も"」

警部「どうやって生き返ったかは知らないが、お前は確かに俺が殺したガキだ」

機械男「何でそんなことが分かるのさ。人が生き返るなんて非現実的なこと、僕は信じられないね」

警部「お前の存在こそが非現実的だよ……」

警部「お前が昔俺に話した当時の記憶……それはまさしく、俺の罪の記憶なんだ」

機械男(僕の初めの記憶……男がナイフを振りかざし、人を滅多刺しにするビジョン)

機械男(その男は……僕ではなかった)

機械男(男は笑いこちらを見る……その手に持った血染めのナイフで己を傷つけながら……)

機械男(僕を刺した、胸を刺した)

機械男(何度も、何度も)

機械男(何度も何度も、隣に転がっている肉塊と同じように)

機械男(何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も)

機械男(血が飛び、肉が抉れ、骨の削れる音がして)

機械男(それでも僕の意識は消えない)

機械男(また刺された、今度は腹だ)

機械男(次は足、次は喉)

機械男(それでもまだ僕は生きていた、何度も刺された)

機械男(何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も)

警部「俺は悟ったよ……神はいるんだと。俺に死神を遣わせてくれたんだと……」

警部「お前が記憶を取り戻し、俺に伝えてきたときは心が澄み渡るような感覚がしたよ」

警部「俺を裁く権利がある奴がようやく現れたんだって思ったからな」

警部「でも蓋を開けてみればどうだ?過ぎたことだ?許すだ?ふざけるなクソガキがッ!!」

警部「そうして今回も……俺はお前から奪ってやったよ。新しい家族を」

機械男「……僕への挑発に彼女達を巻き込んだのか」

警部「そうだよ!全てはお前に俺を殺させるためだ!!……あの時と同じ、幸せそうな家族を壊してやった」

警部「だが……お前はその挑発にさえ乗ってこなかった」

警部「そんなに私怨で人を殺すのが嫌か!?お前の言う下らない殺人鬼の境界ってのはそんなに大事か!?」

機械男「僕にとってのけじめだ……キミにどうこう言われる筋合いは無いね」

警部「変に俺に友情なんて感じて勝手に自己完結してんじゃねぇぞ!」

警部「さぁ、俺を殺せ!殺してみろ!その分俺は足掻いてみせる!逆にお前を殺してみせる!!」

機械男「言ってることが滅茶苦茶だ……でも、キミがイカれてるのはもう知っているよ。さぁ、マスターも小者君も心配していたし帰……」


ダンッ

機械男「ッ!」

警部「……それが俺の返答だ」チャキッ

警部「お前が俺を殺して、俺が裁かれるか。俺がお前を殺して、お前が裁かれるか!」

警部「お前に対する情なんてものは俺には一切ない。全部、このときの為のことだったんだよ……」

機械男「……僕達の今までの関係は……偽りなんかじゃなかった」

機械男「僕が目を瞑れば上手くやっていけると思った……コレからもずっと……」

警部「俺たちはな……最高のコンビなんかじゃないんだよ」

警部「……もう戻れない、戻るつもりもない。お互い覚悟を決めよう」

機械男(分かっているさ……分かっていたけど……ッ!!)

警部「……」

機械男「……」

機械男「……対象、ダン・シーリィ。住所不定」

機械男「身長182センチ、体重79キロ。年齢28歳」

機械男「家族構成、両親共に事故死により他界。配偶者無し」

機械男「職業……警察官……」

機械男「僕の目の前にいるこの男が……今回の依頼主であり……僕の敵(ターゲット)……」

警部(そうだS・N、それでいい……それでいいんだ)

機械男「……依頼に従い……貰うよ、キミの命」ギュルギュルギュル

警部「来いよ……殺し屋ッ!」チャキッ

機械男「銃は僕に効かないよ!」

警部「ンなこと知ってるよ!!」バッ

機械男(倉庫の中に身を隠すか……)

機械男(……やることはやっておくか)

警部(まともに戦っても勝ち目は無い!その分お前の戦い方は研究してきたつもりだ!)

機械男(対策してくること自体は知っているよ……どう出る)

機械男「厄介だね、物陰に隠れられると」

警部(直線状にさえ立たなきゃ一発で死ぬことは無い)

警部(上手くおびき出せるか)カチャン

機械男「……そこかい?」バッ

機械男「いない……ね」

警部(バーカ、そこにあるのは……)

機械男「手榴弾ッ!?」


ドッ


警部(決定打にはなりえない!次の武器だ!)ガチャン

機械男「グ……そこそこ効いたよ」

機械男(地雷のように使ってきたか……僕が誘いに乗らずに近づかなかったら虚しく爆音だけが鳴り響いていたね……)

機械男(いや……来ることを知っていたから置いていったか)

機械男「だとすれば次は……上からの爆発物ッ」

警部「おせぇよ!!」ドンッ

機械男「間に合うんだよ!」ギュルギュル

警部(両手で球体を構えた!?)

機械男「直接捻り込む!!」

ギュルギュルギュル

警部(うえ!?砲弾を無理矢理粉微塵にしやがった!?)

機械男「来る場所が分かっていれば出来ることさ」

警部(さすが化け物……やることのスケールが違うねぇ)

機械男「また隠れたか……まぁいい」

機械男「僕から逃げられないことは知っているだろう?」

機械男「空気の流れを読む球体」ギュルギュル

警部(そうそう、俺の息遣いから探そうって言うんだろ?お見通しだよ……)

機械男(どこだ……どこに隠れている……)シュルシュルッ!!

機械男「そこかッ!!」ビュンッ

シューシュー

機械男「ッ!?ガス!?しまっ」

……

警部「おーおー、派手に倉庫が爆発したねぇ」

警部「早め早めの行動が大事だね、俺はとっくに脱出していたけど」

警部(空気の流れを読むのなら、間違ってガスにぶち込むんじゃないかって思ったが……上手くいったな)

警部「なぁ、S・Nよぉ……この程度で沈むタマか?」

警部「こんなもんで決着がついて拍子抜けだよ……せっかく……俺を裁ける奴が現れたと思ったのによ……」

カシャン

カシャン


警部「!」

機械男「そう……だね……キミが……本気だってことは……理解したよ」

警部「ハハッ……アレで生きてるとは……本当に化け物だな」

機械男「帽子とマント……後右腕と顔半分……無くなっちゃったけどね」

機械男「足も……右足が上手く動かないや」

警部「だが、時間をかければ治るんだろ?」

機械男「ああ……どういうわけかね」

警部「……体の中身……そこまで機械なんだな」

機械男「見せ掛けの……玩具だけどね」

警部「……じゃあ、このままコンクリート詰めにでもして、引導を渡してやるよ」チャキン

機械男「いいよ……やってごらんよ……」

機械男「やってみろよ」

警部「ああ……やってやるさ」

機械男「跳ねろ」

警部「何ッ!?」

機械男「跳ねろ、跳ねろ跳ねろ!!」

警部「グッ!?が!?あああ!?」

機械男「倉庫に入る前に僕の手から無数の球体を出して待機させておいた」

機械男「ズルイと思うかい……でも、前準備して構えていたキミにも言えることだよ」

警部「お前……ぐ……」ドサッ

機械男「死ぬことは無い、だが痛いだろう?」

警部「……ああ、立てねぇな」

機械男「残念、あまりにも呆気なさ過ぎて」

警部「俺は……お前や前に戦った奴と違って……化け物じゃ……ないんでな」

機械男「キミまで化け物扱い……酷いね」

機械男「……死にたいだけだったら、抵抗しなくてもよかったじゃない」

警部「本気だってこと示さなきゃ……お前が相手にしないだろ……?」

機械男「それも……そっか」

警部「ふぅ……だがコレでいいんだ」

警部「俺は裁かれる……俺が殺した家族の生き残りの手によって……」

機械男「無責任だよ」

警部「知ってる」

機械男「自分勝手だよ」

警部「知ってる」

機械男「僕を……勘違いした僕を人殺しに仕立て上げて」

警部「悪いなんて思っちゃいない、俺は俺に同意してくれる奴が欲しかっただけだ」

機械男「僕には一生分からないだろうね、キミの考えは」

警部「理解されなくたって……お前は俺の後を継ぐさ……」

警部「そうすることでしか……お前は生きていけない……」

機械男「うん……それは同意するよ」

警部「ヘヘッ……やっぱ俺たちって……」

機械男「最高のコンビだよ」

チャキン

機械男「この銃、使わせてもらうよ」

警部「ああ……球体で殺さないのか?」

機械男「これから、キミに頼らないで仕事をしなくちゃいけないんだ」

機械男「今までの始末の仕方じゃ……いつも通りの僕の犯行だってバレちゃうし」

機械男「もう隠してくれる人はいない」

警部「その通りだ……」

機械男「それに、アレで死にたくないって言ってただろう?」

機械男「じゃあね、コレで終わりだよ」

警部「あ、最後に一つ……」

機械男「なに?」

警部「今までどおり美味い酒が飲めると……思うなよ?」

機械男「……覚えておくよ」

警部「ああ……」

機械男(私怨で殺しはしないって決めてたのにな……家族のことも猫のことも……)

機械男(恨んでいないワケじゃない……だから)

機械男(この銃弾にすべてを込めて)

機械男「さようなら、僕の大好きなパートナー」

機械男「それじゃ」















機械男「……バイバイ」

――――――
―――


カランカラン


店主「お、久しぶりだな!もう怪我はいいのか?」

機械男「うん、おかげさまで全快だよ」

チンピラ「本当に治るんだな……すっげぇ」

機械男「うん、原理は分からないけどね」

機械男「それに、記憶は戻ったけど結局この機械の身体になった理由が分からないままだし」

チンピラ「不思議なもんだねぇ」

店主「……警部さんのこと、残念だったな」

機械男「気にしてない、彼がそう望んだことだし僕もそれを心のどこかで望んでた」

機械男「お互い様……コレで晴れて僕は本物の殺人鬼さ」

店主「純粋だな……お前さん」

チンピラ「お前はやられた分やり返しただけだろ?だったら殺人鬼なんて名乗らずに殺し屋のままでいろっての!」

機械男「……キミの明るさには助けられるよ」

チンピラ「え?あはは!そうか!」

店主「報酬は渡した、お前さんは依頼で警部さんを始末したんだ」

店主「だから、お前さんはお前さんの言う殺人鬼って奴にはなってないよ」

機械男「少なからず恨んではいた、それに殺し屋だの殺人鬼だの、結局は全部同じだよ」

チンピラ「身も蓋もねぇ……」

ミィミィ

機械男「おっと、出てきちゃダメじゃない」

チンピラ「お、この前話していた猫ちゃんか」

店主「おいおい、ウチはペット禁止だぞ?」

機械男「いつも連れ歩いていないと拗ねちゃうんだ……迷惑はかけないからさ」

店主「しょうがねぇなぁ……しっかり管理しろよ?」

機械男「よかったね、ダン」

ミィ!

チンピラ「って警部さんの名前付けてるのかよ!」

店主「色々とまぁ……」

機械男「まぁ、この子女の子だけどね」

機械男「それよりマスター、いつもの頂戴」

店主「おっと残念、お前さんにはもう酒は出さねぇんだ」

機械男「え゛!?なんで!?」

店主「警部さんからの遺言、依頼書と一緒に挟まってたよ」



追伸
アイツ、実はまだ未成年だから酒は出さないようにね
子供はミルクで十分だ!

吠え面かきやがれバーカ!!

機械男「最後の最後にコレか……酷い嫌がらせだ」

店主「ッつーワケで、お前にゃ酒は飲ませられないな」

機械男「ちぇっ」

チンピラ「ヘッヘッヘ!まぁ落ち込むなって。そうだマスターこいつにアレ出してやれよ」

店主「アレ?なんだ?」

チンピラ「アレだよアレ!前に俺に出してクソ不味かった……」

店主「パスタか!不味いとは失礼だな!茹ですぎただけだ!」

機械男「パスタ……か」

機械男「貰おうかな、それを」

店主「おう待ってな!腕によりをかけて作ってやるよ!」

チンピラ「ヘヘ……反吐が出るくらい不味いぜぇ?」

機械男「それは僕が食べてから決めることだよ、パスタなんて食べたことないし」

チンピラ「おりょ、珍しいな。初パスタだなんて」

機械男「……うん、僕にとってはいろんなことが初めてだからね」

機械男(……キミがいなくても僕は生きていく)

機械男(いつか僕もキミと同じように報いを……裁きを受ける日が来るだろう)

機械男(それでも、僕は殺し屋を続ける)

機械男(僕は僕のやり方で、キミとは違うやり方で……この世界を生きていく)

機械男(このまま変わらずに……ずっと)




機械男「僕は殺し屋」 完

終わった
書き溜めで一気にやるような長さじゃなかった
機械の身体になった理由は特に考えてないので悪しからず

もしお付き合いしていただいた方がいましたら、どうもありがとうございました

過去作
http://blog.livedoor.jp/innocentmuseum/

ファンタジー世界ではないです
コレ含めて定食屋勇者に出てきた4組は主人公組のゲストって形です

失礼

他所で突込みがあったので一応
名前が同じダイハードのジョン・マクレーンの事を忘れてました

不快に思われた方がいましたら本当に申し訳ありませんでした

サイトの方でマクレーンさんからドレーンさんに改名させいただきました
不死身の男は殺しちゃダメだよね

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