橙子「……眠そうだな、黒桐」黒桐「最近寝不足なんです…」(573)

― 伽藍の堂 ―



橙子「……」

黒桐「……」コクリコクリ

橙子「…幹也くん。あまり体調が優れない中でも出社して、働こうとしてくれるその気概は上司として本当に嬉しいんだけどね…」

黒桐「……」コクリコクリ

橙子「……どれだけ働こうとする意志があっても、実際に手が動いてないんじゃ意味がない。おい、一度目を開けろ、黒桐っ」カチャ

黒桐「……っ」ビクンッ

黒桐「あれ……ここは……。あ、橙子さん、おはようございます……」ボー…

橙子「…今はもう昼だよ。お前よくそんな状態でここまで来れたな。頭が完全に寝ぼけてるぞ」

黒桐「はぁ……」ウツラウツラ

橙子「全く…お前、今週に入ってからずっとそんな感じだぞ。一体どうしたんだ」

黒桐「いえ……特に……、何も……」

橙子「それが何も問題の無い奴の顔か。…今日は有給扱いにしてやるから、とにかく話してみろ。何が原因だ?」

黒桐「……すみません、助かります。実際今は満足に働けるかどうか自信が無いんです…」ゲッソリ

橙子「……やれやれ。そこまで追い込まれていたのか」

黒桐「その……実は、これは式に関係のある事なんですが……」

橙子「やっぱり」

黒桐「やっぱりって……何がです?」

橙子「決まってる。普段は面白みが無いくらい平凡で真面目な君がおかしくなる事態なんて、式が関わってるとしか思えないだろう」

黒桐「はぁ……」ポケーッ

橙子「で、式が関わっている事は分かったから、一体どんな理由で眠れてないんだ?式が夜に出歩くのが心配で眠れないとかか?」

黒桐「いえ……そんな事じゃないんですけどね」

黒桐「実は…」

橙子「うむ」



黒桐「……最近、式の性欲が強くて……夜に、満足に眠れてないんです……」

橙子「…は?」


黒桐「どうしたんですか…?まるで空飛ぶ鯨が豆鉄砲食らったような顔して…」

橙子「いや……。まさかあの式が、と思ってね……。完全に想定外だった」

橙子「でも確かにありえない事でもなかったか。ああ見えても式は寂しがり屋だからな」フフ

黒桐「笑い事じゃないんですよ、本当に……。本当は今日もここに来るだけで精一杯だったんです」ゲッソリ

橙子「すまんすまん、悪かったな」

橙子(しかし普段の黒桐なら何があっても私にだけはこんな事話さないだろうに……)

黒桐「……」ゲッソリ

橙子(これは本気でまいってるな)

橙子「分かった、詳しく話してみろ。何か助言の真似事でも出来るかもしれない」

黒桐「分かりました、詳しくお話します。実は先週……」

ここから昨日の続きまで飛ばした方がいいですか?

じゃあ折角だから貼りなおさせてもらいます
出来るだけ急ぎますサーセン

『先週、夜から急に天気が崩れるからって早めの帰社を認めてくれた日があったでしょう?』

『ああ、そんな事もあった気がするな。で、それで?』

『……だからそれで式に予め電話を一本入れておいたんです。「今日は早く帰れそうだから、迎えに来なくてもいいよ」って』   

『ふーん。最近本当に夫婦じみてきたんだな、お前と式って』

― 幹也のアパート ―

ゴロゴロ…



黒桐「ふぅ…。今にも雷落ちてきそうだけど……ギリギリ降る前に帰ってこれたか。良かったぁ…」

黒桐(やっぱり何でも言ってみるもんだな…。橙子さんが早退け認めてくれるなんて思いもよらなかった)

黒桐「『わざわざ大雨の中帰らして唯一の社員を風邪にするもいかないでしょ』なんて…)

黒桐(やっぱり、眼鏡かけてる時の橙子さんは優しいや)クスッ

トントントントン……

黒桐「あ、部屋に明かりが点いている」(それにこの音……式かな?)

黒桐「にしても音が外に聞こえるって…。安普請だなー…。まあその分値段は安いから文句言えないけど」

ガチャ

黒桐「ただいま……式」

式「お帰り、幹也。今日は早いな」ニコ

黒桐「うん、酷い天気になりそうだから橙子さんに無理言って早めに帰してもらったんだ」

式「ふーん。あいつも、たまにはまともな事するじゃないか」

黒桐「はは……」

黒桐(あまり否定できない事が悲しい……。橙子さん普段からこれくらい優しかったらなー…)

黒桐(……まあ考えても仕方ないか。それにこの匂い。やっぱり…)

黒桐「式、ご飯作ってくれてたの?ありがとう」

式「ああ。今日、アイス買いにスーパーに寄ったんでな。その時ついでに材料を買ってきた」

式「……お前の部屋、カップ麺だのインスタントのカレーだの、体に悪そうな物しか置いてなかったからな」

式「お前さ、一人暮らしなのにまともに料理も出来なくてどうするんだ」

式「このままならほっといても早死にするぞ」

黒桐「うっ……。人にはそれぞれ得手不得手というものがありまして……」

黒桐「僕はたまたまそれが料理だっただけというか……何というか…」シドロモドロ

式「……たまたまで済ませられる問題かよ」ハァー

黒桐「ぐっ……」

式「お前、オレを一生背負うだの何だの言ってるけど、逆にオレがいないとまともに生きていけないんじゃないのか?」

黒桐「うぅ……」(反論の余地が無い……)

式「……まあいい。もう出来上がるから、幹也は風呂でも沸かしといてくれ」

黒桐「はーい……」

黒桐(帰って来た途端…・・・散々に言われちゃったな……)トホホ

黒桐(……それにしても)

式「……」トントントントン

黒桐(台所に立つ式の後姿、様になるなー)

黒桐「……」フフッ

式「? 何ニヤニヤ笑いながら突っ立ってるんだ」

黒桐「いや……。『式は将来きっと良いお嫁さんになるんだろうなぁ』、なんて思って」

式「っ! 莫迦な事言う暇あったら、さっさと風呂沸かして来いっ!」

黒桐「はいはい」(本気なんだけどね)

式「―――だって……」ボソボソ

黒桐「? 何か言った?」

式「何でもないっ。 ……何度も同じ事言わせるなよ、コクトー」

黒桐「ごめんごめん」

黒桐「……ふぅ、ご馳走様でした。―――ああ、美味しかった」フゥー

式「ん、お粗末様。……さて、風呂もそろそろ沸く頃だし。汗流して来いよ、幹也」

黒桐「良いの? じゃあ、お言葉に甘えて……。後片付けが済んだら先に入らせてもらおうかな」

式「……そうか?じゃあ、その食器持ってくれ幹也」

黒桐「ん」

『とまあ、その日はこういう風に式と穏やかな夕食を過ごした訳です』

『なんか惚気話を聞かされてる気分だが……肝心の部分はどうした』

『すいません、あまりに幸せな体験だった物で、橙子さんにも話したくなっちゃいました』

『(こいつは…)』

『で、ここからが本題なんですがね…』

『ふむ……』

ガラガラー

黒桐「さて……後片付けも済んだし、これで心置きなくお風呂に入れる」

ザーッ

黒桐「あれ?いつのまにか雨降ってたんだ。全然気がつかなかった」

黒桐(式と話すのが楽しくてまるで耳に入らなかったんだな)

ザーッ

黒桐(あの事件以来雨にはどうも苦手意識があったけど……)

黒桐「不思議だな……。こうやって聞いてみると、やっぱり雨音も悪くないように思える」

黒桐『じゃあ、先に入ってくるね』

式『おう』

ガラガラー

式「……ふぅ」

式「夕飯の支度か……。ちょっと……疲れたな」ファーア

式(幹也が出てくるまで軽く横になっておこうか)

ザーッ

式「……何だ?雨の音か」

式(まるで気が付かなかった。幹也の方に気が向きすぎてたのか)

ザーッ

式「……」

式(そう言えば……あいつと一緒にいる時って…結構雨降ってるな)

式(一度目は……学校で秋隆が迎えに来るまで雨宿りしてた時……)

式(あの時あいつは…中国人みたいな変な発音で傘差し出してくれたんだっけ…)クスッ

式(私が迎えが来るから早く帰れって言ったら…あいつもうちょっとしたら帰るからそれまでここにいるって言って……)

式(壁にもたれかかって歌…そうだ、シングインザレインって流行歌歌ってたんだっけ…)

式(すぐ近くに居るのに会話がなくて気まずかったけど…不思議と苦じゃなかった。あの沈黙は、暖かかった)

ザーッ

式「……」

ー♪

式「……ん?」

ー♪ ー♪

式「あいつ……風呂で歌ってる…?」

『アイムシングインザレーイン』♪

式「……」

『ジャスシングインザレイン』♪

式「シングインザレイン…。「雨に唄えば」か…」

式(そうだ……。思えばあの時、一緒に雨宿りして。それから明確に両儀式は黒桐幹也を意識するようになったんだっけ……)

~♪

式「……」クスッ

式(お世辞にも……上手いとは言えないけど……)

式(あいつの声聴いてると……何故だか……式は……安心する……)

式(ふ、しぎ……)

式(……)



式「……」スースー

ガラガラー

黒桐「ああ、良い湯だった」フーッ!

黒桐(あんまりに気分が乗っちゃったんで柄にもなくノリノリで歌っちゃった……)

黒桐(思えば……前にこの曲歌ったのは確か学校で式と一緒に雨宿りした時だから…)

黒桐「ああ、もう4年近く前の事になるのか。時間が経つのはあっという間って言うのは本当なんだな」シミジミ

黒桐「さて……。式ー。お風呂上がったよー。次は君が入る番……」ムムッ?

式「……」スースー

黒桐「式……寝ちゃったのか」

式「……」スースー

黒桐「疲れてたんだろうな……」

黒桐「……さて、ちょっとお隣にお邪魔して……」ヨイショット…ストッ

式「……」スースー

黒桐「……晩御飯、美味しかったよ。ありがとう式」ナデナデ

式「……」スースー

黒桐(可愛い寝顔だな。そう言えば前に僕は式の顔の事を中性的で凛々しいって言ったけど)

式「……」スースー

黒桐(あれは間違いだったな。どう見ても綺麗な女の子だ)フフ

式「んー……」ネガエリ

黒桐「おっと……」

黒桐(本格的に眠りに入ってるのか。このまま寝かしといてあげたいけどお風呂湧いてるしな……んっ?)

黒桐「げぇっ!!こ、こ、こ…これはっ……!」

黒桐(寝返りを打った際に着物がはだけて……肌の露出度が上がったぁっ!?)

黒桐(うわぁ……やっぱり式って肌白いんだなぁ…。じゃなくて!)

黒桐(ああでも……目に入ってしまう……。うなじ……二の腕……太腿……。太腿っ!?)イッツビューリホーッ!

黒桐「うっひゃあ……。こーりゃ凄い……。……あっ?」タテ!タツンダ!ジョー!

黒桐「……よーし、落ち着け僕。今は風呂上りで血行が良くなってるだけなんだ。きっとそうなんだ」

黒桐「僕はっ、断じてっ、眠ってる女の子相手にっ、欲情するような外道なんかじゃないんだっ……(多分)」ギリギリギリギリ

黒桐「ああもうっ……。式がそんな無防備な格好で寝るからいけないんだよ……。僕は(多分あんまり)悪くないっ!」

黒桐(よし、とにかく式を起こそう。そうすれば後でどうにもでもなる)

黒桐「……式ー?僕はもうお風呂出たよ?次は君が入る番だぞー」

式「うぅーん……」グーグー

黒桐「駄目だ。こりゃあ生半可なことじゃ起きそうにない……」

黒桐(いつまでもそんな格好でいられちゃあ幾ら僕でも眼の毒だっ…。こっちゃあ健康な成人男子なんだぞ…)

黒桐「……もうっ。式っ。幾ら君でも食べてすぐ寝たら豚にな (ドゴォッ!!) ってぐおあッ!!」

式「誰が……豚だって……?」ゴゴゴゴゴ


原作読み直して気付いたんだけど映画のコクトーって原作のコクトーより男らしさが強調されてるね

コクトーってこういうキャラだっけ
読んだのずいぶん前だから忘れた

黒桐「ははっ……。良かった……荒療治(僕にとって)だったけど何とか起きてくれたみたいだ……」イタイ…イタイヨゥ…

式「何をぶつぶつ言ってるんだ……。それより聞こえたぞ、幹也。今お前オレの事豚だとか何とか言わなかったか…?」チョクシッ!

『その時僕は確かに見たんです。式の眼が蒼光を放つ、決定的瞬間を……!あれは本当に生きた心地がしませんでしたね』

『……どうでも良いけどさ。お前、さっきから惚気てるだけで全然話が進まないじゃないか』

『ああすいません。ここからが本題です』

『(さっきも同じ事聞いたぞ……。第一お前眠いんじゃなかったのか)』


>>35
すみません『式が関わると黒桐は変になる』って設定を拡大解釈してます

黒桐「まぁまぁ……。言った言わないは水掛け論になるだけだよ、式。それより君、お風呂に入るんじゃなかったの?」

式「分かってるよ……。……っくそ、後で覚えとけよ、コクトー」フラフラ

黒桐「お風呂の中で眠っちゃ駄目だぞー?」

黒桐(後今何か去り際にすっげぇ怖い事言われた気がする……)」ガタガタガタガタ……

ガラガラ

黒桐「さ…て」

黒桐「僕は今の内にベッドでも整えておこう」

黒桐(ん……?ベッド……?何か引っ掛かるなー……。ベッド・・・ベッドねぇ…)ウーム

黒桐「ああそうか、僕と式はいつも同じベッドで寝てるんだ。って事は今日も当然……」

黒桐「ってEーーーーーーーーっ!?」

黒桐「嘘だろ!?今まだ興奮の収まりきらないこの状態の僕と見た所堪忍袋の尾がキレかけてる式が同衾!?」

黒桐「嘘だろ!?(二回目)Why!? What Are You Doing!?(凄く綺麗な発音で)」

黒桐「ああっ!!動転してるあまりおかしな事を口走ってしまうーーーっ!!」ジタバタジタバタ

『本当…あの時の僕はどうにかしていたんです……。やけにハイになっていたというか…多分式に睨まれて恐怖していた事も関係あります』

『いや……多分これは素のお前だろ……。お前は式が関わると色々タガが外れるからな』

黒桐「落ち着け……落ち着くんだ僕……。そうだ…KOOLになれ……。冷静になって考えるんだ」フーッハーッ

黒桐(まだ助かる道はある……。簡単な事じゃないか……。そもそも何故今回に限り僕と式が同衾すると危ないのか)

黒桐(それは……今の状態のまま式と同衾すれば……多分僕は本能のままに式を襲い、式の怒りを買い……最悪の場合死に至るからだ)

黒桐「解決策は簡単だ。僕が冷静であれば良い。いつもの様に同衾しても手を出さない心構えでいれば良い。そうすれば式を怒らせる事はない」

黒桐「そうだ。簡単なんだ。普段から気が長い事に定評がある僕じゃないか。今回だっていけるいける」ハハ

黒桐「よし、まずはベッドに腰を下ろして落ち着こう」オチツケ…。2…3…5…7…

ジャーッ

黒桐「」ビクンッ!

黒桐「あ、あの、あの音は…?」

ジャーッ

黒桐(式が……シャワーを浴びている音…)

黒桐(今……式は扉の一枚向こうで……。そう言えばさっきの寝てる式……やけに色……)

黒桐「……」ゴクッ

黒桐「ああもう……駄目なんだったら……。落ち着けよお前……」

黒桐(死ぬとかそういう冗談は関係無しに……本当にいけないんだよ……)

黒桐(おかしい……。今の僕は本当に何かおかしい……)

黒桐(さっきの式の寝姿を見てから……自分をコントロール仕切れてない…)

黒桐(それは、つまり……)

黒桐「あー……畜生。やっぱり俺、本当に君にいかれちまってるんだ」



『……そう言えば前にお前、私が式のいる病院に医師として招かれてると教えた時、奇怪な行動に出たな』

『……そうでしたっけ?』

『ああ。お前は式が関わると普段の冷静さは何処へやらすぐ感情的になる』

『どうやらお前は感情が自分の中の許容量を超えると奇行に出る性質らしい。まあ殺人みたいな物騒な物じゃない分マシか』

『はは、言えてますね……。じゃあ、話を続けます…』

黒桐「……」フゥー

黒桐(僕は……自分で自分をコントロールできずに人を傷つけるような真似は、あまりしたくない)

黒桐(まあ人間だから……どう頑張ったって自分を抑えきれない時はあるだろうけど……)

黒桐(それでも……君だけは傷つけたくない。君にだけは―――傷付いてほしくない)

黒桐「…はぁ」

ガラガラ

式「ふぅー……。上がったぞ、幹也」ホカホカ

黒桐「…式」

式「……」

黒桐「……」

式「……」

黒桐「……」ッ…

黒桐(だんまり…か。やっぱりさっきの事怒ってるんだろうな)

黒桐(そりゃそうだ……。女の子が冗談でも自分を豚呼ばわりされて(誤解だけど)、腹を立てない訳がない…)

黒桐(本当……何考えてたんだよ僕は……。眠る式の姿見て頭のネジが外れちまってたのか……大馬鹿野郎)




『(……言動を省みるに、その時のお前は明らかに頭のネジが2~3本外れてたんだろうな。それだけ式の姿が強烈的だったという事か)』

黒桐「あの……」

式「……」

黒桐「……っ」

黒桐(謝らなければいけないって分かってるのに……言葉が出て来ない……)

黒桐(何が『式が嫌がっても、勝手に世話をやくって決めたんだ』、だ……)

黒桐(今、君の嫌がる事を言って、君を傷付けたかもしれないと考えただけで、こんなにも心が苦しいのに……)

黒桐「……っ」ググッ

式「……あのさぁ」

黒桐「! ……何、かな?」

式「オレ……今日はもう疲れたから、早く眠りたいんだけど」

黒桐「……ああ、そうだね。ベッドは整えておいたから、いつでも眠れると思うよ」

式「そうか。じゃあオレ、もう寝るな。お休みコクトー」

黒桐「……お休み、式」

式「…? どうしたんだお前。何かさっきから元気ないぞ」

黒桐「いや…。何でもないよ」

式「ふーん…。なら別に良いんだけどな。さて…と」バフッ

式「幹也、電気消してくれ。もう寝よう」

黒桐「? 電気は消すけど、もう寝ようってどういう……」

式「どういうって……。何だよ、オレとお前はいつも同じベッドで寝るじゃないか」

黒桐「(…?)でも式、さっきの事怒ってるんじゃ…?」

式「何の事だよ? さっき風呂に入る前に、オレなんかお前に言ったか?寝ぼけてたんで覚えてないんだ」

黒桐「えっ……」キョトン…

式「もしかして。その時にオレ、何かお前の気に障るような事言っちまったか?」

式「だとしたら悪いな。文字通り寝言だと思って流しといてくれ」

黒桐「……ううん。別にそんな事はなかったよ」

式「そうか。なら別に良いじゃないか。それより、今割と本気で疲れてるんだ……。さっさと寝よう」

黒桐「……ああ、分かったよ」

パチッ

黒桐「はい、電気消したよ」

式「……ん」

黒桐「じゃ、隣にお邪魔して……」ガサガサ

式「……ああ」

黒桐「……」

式「……」

黒桐「じゃあ改めて……お休み、式」

式「ああ……お休み、幹也」


黒桐「……」ジーッ

式「……」

黒桐「……」ジーッ

式「……」

黒桐「……」ジーッ

式「……なあ、コクトー」

黒桐「うん、何?式」

式「あの…な」

黒桐「うん」

式「その…だ」

黒桐「はい」

式「いくら部屋が暗いから、と言ってもだぞ……」

黒桐「ああ」

式「やっぱり間近から見つめられるのは……恥ずかしい、んだけど……」

黒桐「……ああ、ごめん」ハハ…

式「全く……本当にどうしたんだよ今日のお前は。らしくないぞ」

黒桐「らしくない……。そうか……今日の僕はどうも僕らしくないらしいや」

黒桐「そう……今日は普段より色々な事があったんで……ちょっと混乱してるらしい」

式「……?」

黒桐(いつもより優しい橙子さんだったり、四年振りの懐かしい歌だったり、無防備に眠る式の姿だったり……)

黒桐(まあ一番衝撃が大きかったのは最後の出来事…というよりあれさえなければこんな風に取り乱す事はなかったんだろうけど)フフ

黒桐「何だか…今日という日は、普段感じる日常と比べて刺激的過ぎて、『いつもの僕』って奴が驚いてどこかに逃げちゃったらしい」

式「……オレには言ってる事がよく分からん。それにらしいらしいって、結局はおまえ自身にもよく分かってないんじゃないか」

黒桐「そうかもね」

式「……。おまえって普段は何かと一般論を口にするくせに、時々本当に分からなくなるな」

黒桐「そうだね。でも式は一般論が嫌いなんだろ?なら、分からない事言ったって良いじゃない」

式「それとこれとは話が違う。人に何かを伝えたいんなら、分かるように話せ」ブー…

黒桐「式、それって君の嫌いな一般論って奴なんじゃ…?」

黒桐「勝手だなぁ……。……えいっ」ダキィ

式「っ! いきなり何するんだ、幹也っ」

黒桐「式が言ったんだろ?今の僕はどこかおかしいって。だから普段の僕じゃやらないような事だって、今ならやっちゃうかもな」

式「……勝手にしろよ」

黒桐「うん、勝手にする」



チェックポイント

黒桐「……」ギュウ

式「……」

黒桐「ねえ、式」

式「なんだ」

黒桐「君、確か今日はとっても疲れてるんだよね?」

式「……そうだけど、それがどうした?」

黒桐「マッサージ、してあげようか?今ならお風呂上りで血行も良いから、普段より上手く出来ると思うよ」

式「……偉く唐突な提案だな。どういう風の吹き回し?」

黒桐「うん。今日は式に美味しい夕食をご馳走になったし…」

黒桐「そのお礼にと思ってね。―――駄目?」

式「……そりゃ、してくれるんなら嬉しいけどさ…」

式「お前、マッサージなんて出来るのか?」

黒桐「ああ、その点は問題ないよ。橙子さんがさ、たまーに何の突拍子も無く…」

黒桐「『おい、黒桐。しんどい。肩揉め』なんて言い出して僕にマッサージ強要させる時があるんだ」

式「……あいつなら、やりそうだな。―――じゃあ、任せていいか?」

黒桐「あ、良かった。てっきり『馬鹿言ってないで、疲れてるんだからとっとと寝させろ』、なんて断られるものだと思ってた」

式「……せっかくだからな。わざわざ好意を無碍にするような真似はしないさ」

黒桐「まあ君が反対しても機を見計らって決行するつもりだったんだけどね」

式「なんだそれ…勝手すぎるぞ」

黒桐「だから言ったろ。今日の僕は普段と少し違うって」フフン

式「……」フゥー

黒桐「……それじゃ、とりあえず俯せになってくれるかな、式」

式「はいはい」ゴロン

黒桐「よし。じゃあ、まずは肩から行くね」オオイカブサリ

式「っ…!お、おいっ、幹也っ。何をするんだ」アタフタ

黒桐「何って……仕方ないだろ、僕は足が悪いんだから、不自然な姿勢はずっと取ってられないんだよ」

式「……分かったよ。じゃあ、頼んだ」

黒桐「はい。……じゃ…改めて行くよ、式」

黒桐「……」モミモミ

式「……」

黒桐「……」モミモミ

式「……」

黒桐「……」モミモミ

式「……」フゥ…

黒桐(柔らかいなー……式の体)

黒桐(武道の達人や一流のスポーツ選手の筋肉はとても柔らかいって何かで読んだ事があるけど……)モミモミ

式「……」

黒桐(式の場合、やっぱり女の子って事なんだろうな。お風呂上りって事も関係あるんだろうけど)クスッ

黒桐(さて、この辺はどうだろう……?)ギュッ

式「あっ…。幹也、そこが良い…」

黒桐「これ?」グリグリ

式「あぁ…。……おまえ、思ったより上手いんだな、幹也」

式(そうだ……こいつ、何かを探したり見つけ出す事は冗談みたいに上手かったな)

黒桐「……」モミモミ

式(なら……体の、こってる部分を見つけるくらい……なんちゃないってか……)フフ

式(それに…幹也の触り方は温和しくて柔らかいから……)

式(何だか…凄く、落ち着いて…安心できる……)

式「……」スースー

黒桐「よし…肩はこれで終わり、っと」フゥ

黒桐(次は……腕かな。左腕は義手だけど……それでも一応は揉んどこう)モミモミ

黒桐「うわー…。これまた柔らかーい…」プニプニ

式「……」スースー

黒桐「これは……楽しい。正直ずっと触っていたくなるな……」モミモミ

式「……うふっ……」クスクス

黒桐「…? 笑った。寝言かな…」モミモミ

式「……」スースー

黒桐「……」フフ

黒桐「よし、少し名残惜しいところはあるけど……。はい、腕も終わり」

黒桐「次は…手か」フニフニ

式「……っ」クークー

黒桐「指の腹も一つ一つ……」フニフニ

式「…っ、うーん……」フルフル

黒桐(くすぐったいのかな。まぁ…手は感覚が敏感な所だし)モミモミ

式「っ…」ギュッ

黒桐「…式?(僕の手を握って…)」

式「……」クークー

黒桐「…分かったよ、はい」ギュッ

式「んっ……」クークー

黒桐(…赤ちゃんは、眠る時に何か手に掴める物があると安心するそうだけど…)

式「……」クークー

黒桐「…流石にこんな大きな赤ちゃんは見た事ないなぁ」ハハハ

式「……」クークー

黒桐「いつの間にかすっかり寝付いちゃって……」

黒桐(こんなにも無防備な姿を見せてくれているって事は…一応、信頼されているのかな)

式「……」ギュウゥ…

黒桐「式の手……温かいから、そうやって握ってくれるのは嫌じゃない。けど…」

式「……」

黒桐「…これじゃ他の所をマッサージできないよ。式、そろそろ離してくれない?」

式「んー……」イヤイヤ

黒桐「君も結構勝手なんだなぁ」

黒桐「……よし、そうだ。条件を付けよう」

黒桐「手を離してくれたら後で式に良い事してあげるよ。それならどう?」

式「ん……」シブシブ

黒桐「よしよし、式は偉いな」ナデナデ

式「……///」ゴロリ

黒桐(式って頭撫でられると猫みたいに丸くなるんだ)


『本題まだかい』

『もうすぐです』

黒桐「さて、定石(?)通りに行くなら次は腰だけど」モミモミ

式「……」クークー

黒桐「腰が終わったら、その次は……お尻?」モミモミ

黒桐(……)モミモミ

黒桐「いや、まずいよね。どう考えても」モミモミ

式「……」クークー

黒桐(いくら何でもそこは一旦式の了承を得てからじゃないと)モミモミ

黒桐「……何て事考えてる内に腰を揉み終えちゃったよ」アララ

黒桐(……まぁ揉むにしろ揉まないにしろ、それは後で決めたらいいさ。今は足を先に)

黒桐「じゃあまずはふくらはぎから踝にかけて…」モミモミ

黒桐「…足の裏って、どうなんだろうな。一応しておくけど」グリグリ

式「っ…、っ…、っ…」ピクッピクッ

黒桐「やっぱりこそばゆいか……。悪いけど、ちょっと我慢してくれよ」



書き溜めはここで終わっている……

式「……」ゼーゼー

黒桐「……無理に声押し殺さなくても良かったのに」

黒桐(まあこれで足は揉みおえた……。次は聞くだけ無駄だと思うけど、一応尋ねとこう)

黒桐「式ー、お尻の方は揉ま 「別に良いよ」 って答えるの早いな……」

黒桐(それに別に良いって……それじゃ否定にも肯定にも取れるじゃないか)

『それで……』

『うん、それでどうした』

『……』

『……』

『……』

『……?』

『……』クークー…

『寝るなっ!お前寝不足って設定今まで忘れてただろう!』パコォッ

『っ! ああ…三途の川が…』

『(話し終えるまでは)渡るな!……仕方ないな……、ほらこれ飲め』

『カン・コーフィー?すみません、ありがたくいただきます……』プシュッ

黒桐(おかしいな……。普段の式ならここで『馬鹿な事言うな』とか何とか僕の意見を一蹴するはずだったんだけど)

式「……」ジーッ

黒桐(……あの目はどう見ても「どうした?やらないのか?」と無言で僕に訴えかけてるな)

黒桐(……人には今日のお前は何か変だのいろいろ言うくせに…式だって今日は何かおかしいじゃないか)ハァ

黒桐「……分かったよ。じゃあ、行くね」

黒桐(じゃあ……まずは腰の少し下の辺り……尾骨から)グッグッグッ

式「……ん」

黒桐「……」グッグッグッ

式「……」

黒桐(出来るだけお尻の肉には触らないように……。よし、次は仙骨の辺りを)グリグリ

式「……」フーッ…

黒桐「……」グリグリ

式「……」

黒桐「……」グリグリ

式「……」

黒桐「…はい、おしまいっ。気持ちよかった?式」

式「……まあ、悪くはなかったけど。何だか最後は投げやりじゃなかったか?」

黒桐「気のせい気のせい。さあ、もう寝よう。僕は明日も仕事なんだ」

式「……」ムー…

黒桐「……」

式「……」ジーッ

黒桐「……」

式「……」ジーッ

黒桐「……」

式「……」ジーッ

黒桐「……あのさ、式」

式「なんだよ、コクトー」

黒桐「……あのさ、式」

式「なんだよ、コクトー」

黒桐「いくら、部屋が暗いとはいっても…」

式「……」ジーッ

黒桐「その…そんな風に間近から見つめられると……ちょっと眠り難いんだけど」

式「そうか。そりゃ悪かったな」ジーッ

黒桐(……これ絶対さっきの意趣返しだ。自業自得と言えばそうなのかもしれないけど…)

黒桐(式は時々理不尽な理由で機嫌を損ねる事があるけど……)

式「……」ジーッ

黒桐(……今回のは分かりやすいな。原因は明らかにさっきのマッサージ、最後に僕が手を抜いたから式は怒ってるんだ)

式「……」フンッ

黒桐(しかしだ……。途中までは(僕の気のせいじゃなければ)明らかに機嫌が良かったじゃないか)

黒桐(それを最後、気恥ずかしいからって理由でちょっと手を抜いて……それが理由であそこまで怒るもんかな?)

式「……」ジーッ

黒桐(それにしても・・・この視線は本当にきつい……)

黒桐(このまま放っとかれたら朝まで絶対に眠れないと自信があるっ…!)

式「……」ジジーッ

黒桐「―――ああ、もうっ。分かったよ!さっきのマッサージ、最後の所だけやり直す!それで良いかい?」

式「…おう、分かってるじゃないか」ニッコリ

黒桐(そしてこの良い笑顔……。さっきまでの不機嫌は何だってんだ)

黒桐「……じゃあ、さっきと同じように俯せになって」

式「おう。今度はしっかりやってくれよ」

黒桐「……」フゥー

黒桐(一回だ……。真剣に一回やって、そのすぐに寝てしまおう)

黒桐(もう……今度は最後まで絶対に手を抜いてやらないからな、式)

黒桐「…じゃあ、行くよ」

式「……ん」

黒桐「……」モミモミ

式「……」

黒桐(さっきは、出来るだけ……お尻の肉を触れないよう……)モミモミ

式「っ……」ピクッ

黒桐(尾骨の周囲だけ触るようにしてたけど……今度は……)サワサワ

式「…っ、…っ」ピクピク

黒桐(―――範囲を広めよう。大体、足のマッサージだってお尻に近い部分にある太腿には触らなかったんだし)サワサワ

式「っ…!?」ビクッ

黒桐(なるほど、全体的にこってるな。そう言えば式が嗜んでる習い事って剣道とか、華とか…)モミモミ

式「っ!」ビクビクッ

黒桐(正座で行なう物ばかりだからな……。そりゃお尻の肉がこっちゃうか)ナデナデ

黒桐(……さっき式が怒ったのも分かる。こんなにこりが酷いのに、あんな中途半端な所でマッサージを止められちゃ…)グッグッグッ

式「…っ!…っ!…っ!」ウ…

黒桐(……誰だって腹が立つさ。しかも他の部分を念入りにやってたから余計に失望も大きかったんだろう……)グリグリグリ

式「っ!?」エッ…!?

黒桐(分かった…今度は真剣にやるよ、式。……さっきは悪かった。君がこんなに酷いこりに悩まされてるなんて知らなかったんだ)

すみません…2~3時間ばかり時間をくれませんか…
コクトーくんじゃないけどもう眠たくで自分でも何してるのか分からないんです…

じゃあ、とりあえずキリの良い所まで……

 ― 三十分後 ―

黒桐「……」フゥッ

式「……」ビクッ…ビクッ…

黒桐「何とか……やり遂げられた、か……」

黒桐(筆舌にし難い強敵だった……あの腿の付け根の方にあったこり…)

黒桐(見つける事自体は容易かったけど……まさか橙子さんの肩で鍛えられた、僕の指でさえ悲鳴をあげるほどとはね…)

黒桐(式も苦しかったんだろうか……指で押すたびに何度も背中を海老反りにして声にならない叫びを上げていたな……)

黒桐(最後の方は疲れちゃったのか……もう式の体が動かなくなってたし、叫びも上がらなくなってたけど…)

式「……」ビクッ…ビクッ…

黒桐(でも、僕も式も苦労した甲斐はあったはずだ。これで式は当分お尻の肉のこりに関しては悩まなくて済むはずだから)

(ちなみに黒桐くんは知らない事だが、式の太腿のこりは所謂『準性感帯』と呼ばれる部分と重なっていた)
(そこにある敏感なツボを黒桐くんの指は何度も撫で回し、押し込み、刺激した。…その時に式が何を感じたか、今となっては分からない)

黒桐「……当初の予定より大分長引いちゃったけど、とにかくこれで僕のマッサージも終わりだ。ああ、疲れた…」ファーア

黒桐(でも…今の僕は何だか不思議な達成感に包まれている。うん、これは悪い物じゃないな…)

黒桐(式も本当によく頑張った。……触られると海老反り返るくらいつらいこりを何度も刺激されても一切泣き言を言わなかったんだから)

黒桐「お疲れ様、式。……最後はよく頑張ったね。偉かったよ」ニッコリ

式「……」ビクッ…ビクッ…

黒桐(…? 反応がない…?そう言えば式、さっきから一言も喋らないな…)

黒桐「ねえ、式……?君、大丈夫かい?」

式「…」パクパク

黒桐(もしかしたら眠っちゃったのかと思ったけど……違った、声が出なかったのか)

黒桐「良いよ、声が出ないのなら無理に話そうとしなくて良い。……とにかくマッサージは済んだんだから、僕はもう寝るよ」

式「―――…! ―――…!」パクパク 

黒桐(どうしたんだろう、式?よっぽど何か僕に言いたい事でもあるんだろうか。…でももう眠いしなあ)ファーア

黒桐「悪い……。今はちょっと眠気が勝ってるからまた後で眼が覚めた時に聞くよ。お休み、式」チュッ

式「―――! ―――!」パクパク

・・・ふぅ

『……』

『……』ゴキュゴキュ

『……なあ、おい。黒桐』

『……はい、何ですか橙子さん?」ップハァ

『私は記憶が定かなら確か「式の性欲が強くて夜眠れない」とかいう理由で相談を受けたはずなんだが』

『ええ確かに。だからこの話はもう少しだけ続きがあるんですが……何分眠くてですね……』ファーア

『……分かった。少し寝て来い。起きた時にまた続きを聞かせてもらおうじゃないか』

『そう言って頂けると助かります……。じゃあ、少しだけ……』



ここまでの記録をセーブしますか?

はい/いいえ

6時過ぎ位まで仮眠とってきます
7時過ぎて帰ってこなかったらその時はサーセン…

書き溜めが切れるといつも話がおかしくなる不思議

…眠たいのに眠れない

来週末までに書き上げて黒桐「」ってスレタイで立て直しますんで今回は落としといてくれませんか…?

『……』ン…

『……』

『……おはようございます、橙子さん』

『ああ、おはよう黒桐。今はもう朝じゃなくて夕方だけどな』

『はぁ……』

『……』ナニガハァダコッチガハァダ

『あの……すみません、僕どのくらい寝ていましたか?』パチクリ

『……数時間くらいだ。おまえが職場で堂々と寝るのは、巫条ビルの一件以来これで二度目だな』

『それは……どうも、すみませんでした……』

『……構わんさ。今日一日は有給扱いにしてやるとさっき言ったからな』

『……』ボーッ

『今日一日だけは、職場で寝ようが家に帰ろうが君の自由だ。この私が許す。だから……』

『…っ。橙子さんっ……』ガシィッ

『……?』

『……僕はっ、今日と言う日ほどっ……、貴方が上司でいてくれて……嬉しいと思った事はありませんっ』ブンブンブンブン

『……はぁ。……一応、褒められてると思って良いんだな?(あー、こいつ今感情が自分の中の許容量を上回ってるな)」

『……ふぅ』

『……落ち着いたか?』

『ええ……あぁそうだ、……嬉しかったと言えば……』

『(……いや、落ち着いてないなこれは……)

『……式が病院に入院してた頃、橙子さんが式のいる病院に医師として招かれた事があったじゃないですか』

『ああ……あったな、そんな事も』

『……あの時の橙子さんは、凄く格好よく見えましたけど……』

『……』

『……不思議ですね。今日の橙子さんは、何故だか天使のように美しく見える……』

『……はっはっは。今日はやけに舌が回るじゃないか黒桐くん。いいぞ、もっと褒めてくれてかまわん』

『ええ、それじゃあ話は横道にそらすのはこれくらいにしておいて……』

『……。いやまあ、世辞だって事は分かってたがね……』

『……実は、ですね』

『うむ』

『……』

『……』

『……』

『……?』

『……』クークー…

『……寝るなっ』パコッ

『っ! ああ…三途の…』

『それはさっきもう聞いた。……同じネタを何度も繰り返す芸人は、すぐに飽きられるぞ』

『誰が芸人ですか、誰が』

『……誰が殺したクックロビン』ボソッ

『……』シーン…

『……』

『……』

『……ん?』

『(……この人、時々何の前触れもなくおかしな事を言い出すんだよな)』

『あれ……?黒桐、このネタが分からないのか……?』

『ええ、初耳です。何ですそれ……?クックロビンって……マザーグースか何かですか?』

『(おかしいな…私が少女の時に流行ったネタだから年代的に通じない訳はないんだが…)』ウーム

『……まあ、それは置いておくとして。今日は有給扱いなんですよね?』

『ああ、そうだよ』

『良かった。なら僕は一足お先に帰らせてもらいます。お疲れ様でした』

『ん……?いや、それは確かにそうなんだが……』ナニカワスレテルヨウナ…

『……何だか悪いですね。今日、僕がここに来てした事と言ったら、コーヒーを飲んで寝てたくらいじゃないですか』テキパキ

『……口でそう言う割には、帰り支度を整えるのは早いじゃないか黒桐。……まあ、あまり無理はしないようにな』

『……ありがとうございます。橙子さんの方もお体には気をつけて。それでは、失礼します』

『おー、また明日ー』ヒラヒラ

ガチャッ

橙子「……ふぅ」

橙子「何か……忘れているような気がする……」ウーム

橙子「……。あっ…?」

橙子「……あー、そうだ。思い出した。多分あれだ。あの時の事だ」ポンッ

橙子(そう言えば前に、黒桐にロケットペンシルネタを振って通じない事があった)

橙子(あれは地味にショックだった)ワタシハマダマダワカイハズナノニ…

橙子「年は十も離れてないのにな……。うん、今度一度徹底的に黒桐と話し合ってみよう」


相談の事はすっかり忘れている橙子さんだった

黒桐「……」フーラフーラ

黒桐(……まだちょっとは気だるいけど、朝に比べれば大分マシになってる)

黒桐「やっぱりコーヒーを飲んで一眠り出来たのが大きいな……。橙子さんには感謝しなくちゃ」フフ

黒桐(……そう言えば、先週も夜に天気が崩れるからって早退けを認めてもらったんだっけ)

黒桐「……早退けどころか有給までくれるなんて。何が酷い上司だ、そのうち罰が当たるな僕」

 ― 幹也のアパート ―

黒桐(そう言えば僕……今日橙子さんと何話したんだっけ・・・?)ウーン

黒桐(えーと…そうだ、確か話の最中で僕が寝てしまったんだ)

黒桐(そうしたら橙子さんがコーヒーをくれて…少し仮眠を取るように言われて……)

黒桐「……。駄目だ、肝心の話していた内容がさっぱり思い出せない」

黒桐(完璧に寝ぼけてたんだな……。橙子さんが真剣に耳を傾けていてくれた事だけは覚えてるんだけど)

黒桐(……明日橙子さんに会ったら一応聞いておこうか。なにかおかしな事でも話していたのなら恥ずかしいし……)

ガチャッ

黒桐「ただいま」

黒桐(…? 履物がある。って事は、もしかして……)

式「……」スースー

黒桐「……やっぱり。ずっと寝てたの?式…」

式「……」スースー

黒桐「……夢でも見てるのかな」

式「……」スースー

黒桐(式が、眠る事が好きな子だって事くらい分かってるけど……)

式「……」スースー

黒桐「……これはいくら何でも熟睡しすぎじゃないかな。それも人の部屋のベッドで……」タハハ…

式「……」スースー

黒桐「……何だか僕まで眠くなってきたし」ファーア

黒桐(まだ夕食の時間って訳でもないし……。僕も少し横になろうかな…?)

黒桐「…じゃ、少しお隣に失礼して……」ポフッ

式「……」スースー

黒桐(堂々とした眠りっぷりだなぁ……。これ……一応僕のベッドのはずなんだけど……)コクリコクリ

式「―……」ボソッ…

黒桐「…ん?(起きたかな?)」

式「……、うーん……」ガサゴソ

黒桐「……なんだ。寝返りうちたかっただけか」

黒桐(それにしても……)

式「……」ガシッ

黒桐(……何で、わざわざ僕に抱きつくような形で……?)コクリコクリ

式「……」グーグー

黒桐「……」コクリコクリ

黒桐(まあ……別にいいか……)

黒桐(これも……特に悪い気は……、しない……、し……)

黒桐(……)




黒桐「……」スースー

黒桐「……」スースー

式「……」グーグー



式「んっ…、んん……」ゴロリ

黒桐「……」スースー

式「んー……、あぁ……」フゥー

黒桐「……」スースー

式「―――……、―――……」ボソ…

黒桐「……」スースー


式「―――鬼……、悪魔……」ボソッ…


黒桐「……」スースー



完…?

黒桐が橙子に話した内容、それは全て寝呆けた頭の生んだ妄言だったのか、それとも紛う事なき真実だったのか
もし仮にそれが真実なら「式の性欲が強くて夜眠れなかった」とは一体…?―――空白の30分には一体何が起こったのか?
そして式が最後に漏らした言葉の真意とは…?ますます謎は深まるばかりである……

次回、黒桐「式ってベッドの上だとネコになるんですよ」橙子「ああそう」に続く……(大嘘)

 ―― 境界式 ――

『……』フゥー

『……』

『…えー、少し語る事も尽きてきたんで……。ここは一つ、これはちょっと別の話をしましょうか』

『……お前ただ延々と式との惚気話を語っていただけだしな。ったく、いつになったら本題とやらに入るんだ』

『まぁまぁ、そう焦らさないでください。時間はまだまだたっぷりあるんだから』

『(……元々この話はお前が寝不足で苦しんでる事から始まったのにな)』

『えー…じゃあ、ここは一つ。僕と式が初めて身も心も通わせた時の話をしましょうか』

『(結局は惚気じゃないか……。そしてそれは尺稼ぎに話すような内容じゃないだろ…)』

『(……ん?初めて身も心も…?なんか引っ掛かるな…)』

『……ちょっと待て黒桐、お前今何て言った?』

『? 「式はどうしてあんなにまで可愛いのだろうか」、ですか?』

『全然違う。というかお前、直前に自分が言った事さえ覚えてないのか』

『すいません……今ちょっと頭が眠くて……』フラフラ

『何とも都合の良い頭だな。……そうじゃなくて、ほら、お前と式が身も心も通わせたとか何とかって話だよ』

ごめんなさい、お腹空いた!

『……えぇー?そんな事聞いちゃいます?もう、橙子さんったら趣味悪いなぁー……」テレテレ

『言いだしっぺはお前なんだがなぁ…。……何だ、お前もう式とは初体験済ませてたのか?』

『……逆に聞いていいですか?橙子さんは何で未だに僕と式が友達以上恋人未満の関係だと思ったんです?』

『いやだってなぁ……さっきからの惚気聞いている限り、お前も式も一々反応初々しいんだもの』

『初心を見失いたくないんです』

『さよけ』

『で、それはいつ頃の話なんだ?ここまで来たらもったいぶらずに教えろよ』ワクワク

『……何だか急に「らしく」なりましたね』

『今まではお前の言動がちんぷんかんぷんなせいで色々と混乱させられていたんだ。さ、早く言え。それは最近の事か?』

『違いますね。えーと、確か僕が退院してすぐの事だったから……三月の初めくらいだったと思います』

……ぶっちゃけ式とコクトーの初体験って想像できないよね

 ―幹也の部屋―

黒桐「……」

式「……」

黒桐「……」フゥ

式「……っ」ビクッ!

黒桐「…っ!」ビククッ 

黒桐「…どうしたの?式。何かあった?」

式「……いや。何でもない」

黒桐「……そう。それなら良いんだ」

式「……」…ハァ

黒桐「……」

式「……」

黒桐(……落ち着け。まずは……落ち着くんだ……)フゥー…

式「……」…ハァ

黒桐(緊張しているのは式も同じ……いや、女性である分、式の方がもっと怖い思いをしているのかもしれない……)

黒桐(なら僕が……落ち着かなくちゃ。落ち着いて……冷静に……よし、言えっ…!)

黒桐「あの」式「あの」

黒桐「……」

式「……」



童貞なんです…

黒桐「……」

式「……」

『……』

『……。あのさ、黒桐……」

『はい、何ですか?』

『お前らさ……確かこの時もう二十歳になっていたよな?二人とも』

『はい、僕も式も冬の生まれですけど……三月といったらとっくに誕生日を過ぎてましたよ。それが何か?』

『いやなに、別に悪い事じゃない。……なるほど、確かにお前らは今時珍しいくらいピュアなカップルだ』ククク

『? 普通だと思いますけどね。続けますよ』




式「……なに、幹也」

黒桐「……いや、お風呂……どうするのかな、と思って」

式「その事か……。…オレは後で入るから、幹也が先に入って良いよ」

黒桐「……いや、そんな……悪いよ。やっぱり一番風呂は式からどうぞ」

式「いいからっ。……大体ここはお前の家じゃないか、主が先に入らないでどうするんだ」

黒桐「……?じゃあ、仮に式の家でする事になってたら、やっぱり式が先に入ってたの?」

黒桐(って僕は何を言っているんだ……。言葉尻を掴むような真似をして……まずいな、頭が全然回ってない……)

式「……知らないよ、そんな仮定の話に意味があるもんか。とにかくここは幹也の家でここにある物は幹也の物なんだからお前が先だ」

黒桐「……君、普段は僕の物を了承得ない内から勝手に使うよね?」

式「―――! あんまり屁理屈言うようなら、オレはもう帰るぞ」スタスタ

黒桐「ああごめん、待った待った。……分かった、じゃあ風呂は僕から入らせてもらうね。それで良い?」

式「……最初っからそうしてりゃ良いんだ」ムスッ

ガラガラ

黒桐「……やっぱりどっちが先っていうのもあれだし。一緒に入らない?」

式「とっとと入れ莫迦!」

黒桐(……怒らせちゃったかな)

黒桐「ええと…まずはいつものようにシャワーを浴びて……」ジャーッ

黒桐(ぐわあっ!冷たいっ!!まだこれ水じゃないか!って当たり前か…)

黒桐「……」ジャーッ

黒桐「ええと……卸したてのボディソープはどれだったかな…?」

ジャーッ グワアーーーッ!!

式「」ビクンッ!

式「…あれ…幹也の声?」

式(何かあったのかな……)

ジャーッ

式「……」

ジャーッ

式「……」ムズムズ

ジャーッ

式「……。あーっ、もうっ……」ガバッ

黒桐「……」ゴシゴシ

黒桐(……これくらい丹念にやれば大丈夫かな?あ、というかシャワー出しっぱなしだった…)モッタイナイ…

黒桐「よし……後は洗い流して……」ジャーッ

コンコン

黒桐「ぎえぁっっっ!!?」

黒桐(な、なにっ?何なんだ?ノック?……式?)

ギエアッッッ

式「……やっぱり何かあったのか?」

式(さっきも変な叫び声が聴こえたし……大体あの時からシャワー流れっぱなしじゃないか)

式(あの几帳面で貧乏性の幹也がそんな豪勢な(?)真似をするとは考えにくいし……)

式「おい……大丈夫か、幹也?」

大丈夫かー幹也

黒桐「……全然大丈夫じゃないよ。あービックリした」ハァ…ハァ…

黒桐(それにしても……どうしたんだろう式?さっきあれだけ怒ってたから当分向こうからは話しかけて来ないと思ってたんだけど)

黒桐(……もしかして、この扉越しの状況じゃないと話せない様な事でもあるのかな……今になって怖くなってきたとか)

黒桐(…よし、ここは緊張をほぐすためにわざと明るく聞いてみるか)

どうしたのー、式ーっ。今になって一緒にお風呂に入りたくなったのかーっ

式「!?」



『……君は式が関わると普段からは考えられないくらい言動がおかしくなるね』

『……なんですか。そんな冷めた目でこっちを見ないでくださいよ』

式が一緒に入りたいって言うんならーっ、僕は構わないけどーっ

式「……」

式(なんだあいつ。さっきのあれ、冗談じゃなかったのか……)ハァ

ちょっとーっ、聴こえてるーっ?おーいっ

式(……でもまあ、こうやって声を聞く分には元気そうだし……心配して損したか)ホッ



『……ここらへんの話は、後で式から聞いたんですけどね』

『……落ち着いてるって言うんなら、式の方がお前より何倍も上だな』

黒桐「……返事がない。一体何しに来たんだろう、式は」ウーン

黒桐「まあそれは後で訊くとして……よし、いざ浴槽へ入ろう」ザブーン

黒桐「……」

黒桐「何だろう……このお湯」

黒桐(熱いのか温いのか、よく分からない……。まるで熱出してる時に入ってるみたい)ブクブク

黒桐「……やっぱり今は緊張で頭が上手く回ってないんだな)コイノヤマイカ…

黒桐「……」ウーン…

ガラガラ

式「っ!」

黒桐「……上がったよー」ホカホカ

黒桐(結局……湯船の感触はよく分からなかったな)

式「ああ、うん。次は、オレの番か」ヨッコイショ

黒桐「……」ジーッ

式「? なに?」

黒桐「いや……結局、式は途中で入ってこなかったなって。僕、結構期待してたんだけど」

式「……本気だったのかよ。ここの浴槽は二人一緒に入れるほど大きくないだろ。無理に入って怪我でもしたらどうするんだ、莫迦」

黒桐「頑張れば大丈夫だよ。……そうだね、式が僕の体に足絡ませたりすれば余裕で 『ボカッ』 …ってえ!!」グエッ

式「……じゃ、入ってくる」

ガラガラ

黒桐「……罪のないジョークなのになぁ」トホホ




『……どう考えても罪のないジョークじゃない。このお前の発言は下心丸見えだぞ、黒桐』

『そんなっ。どう考えても緊張に凝り固まっている女の子を揉み解す、粋なジョークじゃないですかっ』

『(こいつ式が絡まなければ普段は言動も外見も人畜無害だからな……式にはちょっと同情する)』

黒桐「……」ボーッ

ジャーッ

黒桐「あっ…(シャワーの音…)」

黒桐「この扉一枚向こうで……式がシャワーを浴びているわけか……」ゴクリ

黒桐「……」フーッ…

黒桐「何か……現実味がないなぁ」

ジャーッ

黒桐(……起きたまま夢を見ている気分だ)

黒桐「……」

ガラガラ

式「……ふぅ」ホカホカ

黒桐「……あぁ、式。湯加減の方はどうだった」

式「うん、まぁ悪くはなかった」ホカホカ

黒桐「そうか……それは良かった」

式「……」スタスタスタ ストッ

黒桐「……」

式「……」

黒桐「……」

式「……」

黒桐「……」

式「……」スッ…

黒桐(……?)

式「……」ペタッ

黒桐「……」

式「……」

黒桐「……」ギュッ…

式「ん……」

黒桐「……」

式「……」



黒桐「…ねえ、式」

式「…なに、幹也」


黒桐「え……っと、さ」

式「……なに?」

黒桐「う……ん、とさ」

式「……なあに?」

黒桐「……」ンー…

式「……」

黒桐「これは……どうなんだろうなぁ……」

式「なんだよ。言葉にしないと分からないよ」

黒桐「……そうかな?」

式「そうだよ」

黒桐「そうか……うん、きっとそうだね。じゃあ、言うよ」

式「……」ギュッ

黒桐「―――ねえ、式」

式「……うん」

黒桐「……」

式「……」






黒桐「……一緒に、アイス食べない?」

式「……」




式「……んんっ?」コクビカシゲ

『……んんっ?』コクビカシゲ

『あ、式と同じリアクション取るんですね橙子さん』

黒桐「えっと……つまりだから……」

式「……」

黒桐「今冷蔵庫に、ハーゲンダッツ(イチゴ味)が丁度二つ入ってるんだけど……」

式「……」

黒桐「それを一緒に食べないか、ってこと」

式「……」



式「……?」コクビカシゲ


式「……?」コクビカシゲ

黒桐「んー……イマイチ釈然としないな、そのリアクション。とりあえず僕は食べるけど、式はアイスいるの?いらないの?」

式「……いい。オレはいらない」テバナシ

黒桐「…そう?お風呂上りに食べるアイスって中々乙なもんだよ」シュタッ スタスタ

ガチャッ

式「……」

黒桐「えーと…あ、あったあった。これだこれ」ヒューッ!

式「……」

黒桐「よし、じゃあまずは一口……」ヒョイッ パクッ

黒桐「……ああ、美味い。火照った身体に冷えと甘さと染み渡るっ」

式「……」フ-…

黒桐「……」ヒョイッ スッ…

式「……?」

黒桐「……」

式「……。なに?」

黒桐「だから、君の分だよ。…食べないの?」

式「……」





式「……?」コクビカシゲ

黒桐「ああっ。式、さてはそのリアクション流行らそうとしてるな」

式「……」ンー?

黒桐「駄目だぞー。鮮花や橙子さんは釣れるかもしれないけど、僕だけは絶対に真似しないからな」ステ…、ステ…、ステロイド…ナントカダッケ

式「別に……そういう、つもりじゃないけど……」

黒桐「……そう?あんまりに可愛い仕草だったから、ついね。それじゃ、はい」スッ

式「いや、オレアイスは……」

黒桐「……」ジーッ

式「~っ……」



式「んっ……」パクッ

黒桐「ん……」ニコッ



初めて気が付いた……まさか鮮花ここまで一回も出てない……?(驚愕)

黒桐「……味の方はどうかな、式」ウマイゾー

式「……ふぅ。だからさ、オレはアイス苦手なんだって……。前から言ってるだろ、コクトー」…ゴクッ

黒桐「……そう?アイス嫌いの式でも風呂上りの奴だけは別だと思ったんだけどな……」アハハ…

式「……」フーッ…

黒桐「……。ねえ、式」

式「今度は、なに?」

黒桐「これってさ……一応、間接キスにって奴になるのかな」

式「……。ほんっと、お前ってさ……何で時々言わなくていい事まで言うんだろうな……」


黒桐「ごめんごめん。(アイスは飲み物かどうか)気になったもんで」

式「そうかよ……」ヒュッ

黒桐「あっ……もう、君ってやっぱり僕の了承得ずに物取るよね」

式「うるさいな。アイスの一つや二つで男がガタガタ言うな」ヒョイッ パクッ


黒桐「……」ヤレヤレ…

式「……」パクッ パクッ

黒桐(……。どうやら、アイスを食べて一旦頭を冷やそうって作戦は良かったみたい)

式「……んんっ?」アレッ?ヤッパリコレウマイ…?

黒桐(さっき……何の考えもなく、頭が熱に浮かされたような状態のままで式を抱いていれば……)

式「…っ、…っ」モニュ…モニュ…

黒桐(きっと僕は妙に気負ってしまって……まあ、きっとあんまり良い事にはならなかったろう)

式「っ、っ、っ」ウンマア~イッ

黒桐(僕にとっても……―――きっと式にとっても初めての事なんだろうから、あんまり嫌な思い出にはしたくないよ)

式「っ!っ!っ!」ハムッ ハウハフ、ハフッ!! …アレ、モウナイノ?

黒桐(お陰で色気もへちまもなくなっちまったけど……まあ、これはこれでいいよな)フフ


式「……」チョンチョン…チョンチョン…

黒桐「うん?なんだい、式」

式「―――なあ、コクトー」

黒桐「…はい?(何故急にシリアス風に?)」

式「アイス」

黒桐「え? 」

式「だからさっきのアイス、おまえのだろ。オレ、自分の分のアイス食べてない。不公平だろ、そういうのって」

黒桐「……」

式「……」

黒桐「……」






黒桐「……んんっ?」コクビカシゲ

「両儀式ちゃん、コクトーにアイスを所望するでござる!」の巻、完

単刀直入に言おうセックスはまだか?

>>280
この後すぐ!

すぐって言っても何分掛かるか分からないけど……

単位は確かに「分」なんだな?

>>282
一時間=六十分

実際何分掛かるかは…

『……』ズズー

『……』

『っふぅ、ああこのカン・コーフィー美味しいですね』

『そうか…そんな物でそこまで喜んでくれるならこっちも嬉しくないわけじゃないんだけどな…なあ、黒桐』

『はい、何ですか橙子さん』

『私の記憶が定かならさ、お前確か最初お前と式の『初体験』について語るって言ってたよな?確かに言ったよな?』

『さあ…橙子さんの記憶って本当に定かなんですか?何分今の僕は僕はさっき言った事にさえ覚えている自信がないもので』

『私はまだぼけるような年じゃない。……さっきの話は惚気ばかりで色気が一切なかったんだが』

『……橙子さんって思ったよりHな人なんですね……。もしかして…僕ピンチだったりします?』

『(……どうも今のこいつは苦手だなぁ……)』

『とにかくさっさと話してくれ。私だって暇じゃないんだ』

『普段暇潰しに精を出してる人が言う事じゃないですね。ああ、この後はですね』



式「コクトーのうちにあるハーゲンダッツ全部? は、オレをアイス好きに染めたければその三倍は持ってこいってんだよ」

黒桐「やめてっ……、今月給料ピンチだからマジでやめてっ……」



『なんて事式が言い出して』

『初体験は?』

『ああはい、えっとですね……確かあの後……』

黒桐「……」

式「……」ムスッ

黒桐「ねえ式……いい加減機嫌直してよ」

式「……」プイッ

黒桐(駄目だこりゃ)

黒桐(あの後式がもう一つのアイスを寄越せ寄越せとうるさいから…つい僕もカーッとなっちゃって…』

黒桐『うるさい!そんなにアイスが欲しいなら舌ねじ込んで口移しで食わせてやるぞ!!』

黒桐(何てことは当然後が怖いから言えなかったけど…まあそれなりに式と格闘したわけだ』

式「……」

黒桐(当然喧嘩で僕が式に勝てるわけなくて……でもまあその甲斐あって何とかアイスは死守できたんだよな)ボロボロ

『……あのさ、黒桐。これさっきも聞いた事なんだけどな』

『はい、何ですか橙子さん』

『……お前らさ、本当に成人してる?アイス取り合って大喧嘩なんて今時小学生位しかやらないぞ』

どんどんコクトーが誰コレ状態になってるんだが

黒桐「痛たた……あのさあ、式。君は喧嘩じゃ絶対に僕に負けっこないって事くらい分かってたんだろ?」

黒桐「ならさ、もうちょっと手加減してくれても良かったんじゃないの?』

式「知るか。男のくせに同い年の女にさえ勝てないお前が悪い」

黒桐(うわー……正論。普段は一般論は嫌いだとか何とか言うくせに……こんな時に限って)

黒桐「……そんなの卑怯だよ、式」

式「知らなかったのかコクトー?戦いにおいて卑怯だのずるいだのなんて言葉は負けた奴以外口にしないものなんだ」

黒桐「……そうかよ。分かった、式がそんな考えならもう良い。僕は疲れたから寝るよ」スタスタ

式「……」フン

黒桐「……」ゴロネ

式「……」

式「……」スタスタ

式「……」ゴロネ

>>295
一週間睡眠不足が続いて頭の中がパッパラパーになってる状態だと思…っても無理すね


黒桐「……」

式「……」

黒桐「……」

式「…なあ、コクトー」

黒桐「……」プイッ

式(こいつがここまで拗ねるなんて本当珍しいな……そんなにあのアイス食べたかったのか?)

黒桐「……」ツンッ

式(大の男が拗ねる様なんてあんまり気持ちの良い光景でもないけど……)

式(不思議……。こいつ普段はあんまりイライラとか表に出さないからな……こういう姿は見てて新鮮で面白い)

黒桐「……」

式(まあ怒った理由がたかがアイス一個って言うのは……ちょっと子供っぽいけど)フフフ

式「なあ…コクトー」

黒桐「……」

式(この呼び方じゃ相手にもしてくれないか…なら)

式「あー、その。幹也ー?」

黒桐「……」

式(普段のこの呼び方でも駄目か。と、なると……)

式「……」ウーン

式(どうするかなー……この呼び方はなー……)

式(こんな所で使っていいのかなー……本当はもっと、大切で時間に使いたいんだけどなー)

式「……」ウーム

式(まぁ……いいや。やっちゃえやっちゃえ)

式(大人気なく拗ねる幹也なんてこれから先見られるかどうか分からないし……それに……)

式「……」アー、コホン

黒桐「……?」

式(細かい事は、後で誰かと一緒に考えればいいさ)

式「―――ねえ、黒桐くん」




黒桐「―――――」




黒桐「―――――」ゴロ

式(あっ、こっち向いた。―――前に幹也のキザったらしい台詞を嫌いじゃないって言った時は空飛ぶ鯨を見たような顔したけど)

黒桐「―――――」

式(今回は、それ以上ね。空飛ぶ鯨が月までブッ飛ぶところを見た顔だ)クスクス

式(――私の中に、まだ織がいれば。彼はこの事をどう思ったんだろうな)

式(私は彼じゃないし……死んでしまった人の気持ちなんて、何があっても分かる訳がないから。普段はそんな事考えるの嫌いだけど)

式(……案外、笑って喜んでくれたかもしれない。「あはは、コクトーお前、なんて顔してるんだ!こりゃ傑作だ!」なんて言って)

黒桐「―――――」

式(確かに。幹也には悪いけど。この顔は。……ああもう無理、頬が弛むのを抑えきれないっ)ニコニコ

橙子さん可愛いシーンあるなら支援するが?

黒桐「―――――し、き?」

式「ええ。この口調であなたと話すのは久しぶりね、黒桐くん」ニコニコ

黒桐「―――――!

黒桐(す……ごい……。今の式は……織がいなくなったり、左腕が義手になったり、眼が人の死なんて物を見えるようになったり―――)

式「……」ウフフ

黒桐(昔とは……大分変わっちゃったと思ったけど。―――そりゃ、人は変わる事でしか生きていけない生き物だけど。けど―――)

式「どうしたの?さっきから口ポカンと開けちゃって」ニコニコ

黒桐(この式は。昔のまんまだ。4年前、僕らがまだ高校一年生だった頃の。今より少しだけ幼かった頃の式と。全く同じだ―――)

>>307
ごめん、橙子さんはギャグ担当

じゃあ織とのエッチなシーンはありますか?

黒桐(―――ただ。同じと言っても。4年前、今ではもう思い出の中にしかいないあの頃の式と。この式とには。一つ大きな違いがある)

黒桐(それは――――)

式「……」ニコニコ

黒桐(四年前の式は。こんなにも幸福そうな笑みを僕の前で浮かべる事は一度もなかった。――いや、笑顔自体、あの事故の瞬間までは…)

黒桐(四年前の式は。いつも怪我をしそうで危うかったあの頃の君は。決してこんな笑みを浮かべる事なんか出来なかったはずだ)

黒桐「――――式」

式「ええ。なに?黒桐くん」

>>310
NO…前に式(おまけ程度に織)とやりまくるSSはVIPで見た気が

>>312
おまけ程度というか
ボツネタで1レスだけだった気がす
間違ってるかもしれんが

黒桐(言葉が……出て来ないっ)

黒桐(心にはこんなにも君への想いが溢れているのに……。頭にはこんなにも君へと伝えたい事が浮かぶのに……)

黒桐(僕は―――こんなにも君と、話がしたいのに……)

黒桐「……っ」ググッ

式「……」フゥ

>>313
ああ…そう言えば確かに本格的なのはなかったような……

後俺の中で女口調式はなんか藤ねえと被るのでやっぱり藤ねえ最高

黒桐(分かってる……これはいつもと同じ式だ。人間性(なかみ)は変わってない……―――正真正銘の同一人物だ)

式「……」

黒桐(分かっていてなお、式が口調を織の物から式の物変えただけ。ただそれだけの事に、何故僕はここまで動揺しているんだろう……)

黒桐(僕は……式も織も同じ様に好きだったつもりだけど、知らぬ間に口調で区別していたんだろうか。式と織を。同じ人間を)

黒桐(式とも織とも一緒にいて楽しかったけど。織との楽しいは友達に対するそれで。式との楽しいは――恋人に対するそれだったのか)

黒桐「……あ、あの 「ねえ黒桐くん」 ―――っ」ビクッ

黒桐「な、なにかな式」

式(あ。この状況でも動揺を面に出さないように一生懸命頑張ってる。これはすごい。うん、素直に幹也を見直した)

式(―――でも)

黒桐「……」ーッ… -ッ…

式(……顔以外、で全部分かっちゃうのよね。気配って奴かな。多分勘の鈍い人でも緊張してる分かるんじゃないかな)…フフ

黒桐「……」ーッ… ーッ…

式「……」フー

黒桐「……―っ」ック…

式「……あのね」

黒桐「――――!」ッ

式「あのね、黒桐くん」

黒桐「……うん、なに」

式「私ね……あなたに謝らないといけない事があるの」

黒桐「えっ……」

式「さっき……アイスクリーム一つを巡って私、あなたと取っ組み合いの喧嘩しちゃったでしょう」

黒桐(え……あ…)

黒桐「……うん、そうだね。でももう気にしてないからいいのに」

式「……やっぱり優しいのね黒桐くんは。でも、私は謝らなければ気が済まないの」

式「必死で冷蔵庫を守ろうとするあなたに、式は飛び掛ったり馬乗りになったり投げ飛ばそうしたりしたでしょう」

黒桐「……うん、あれは凄かった。まるで人の形をした猛獣と戦ってる気分だったよ」フフ…

式「まあ、ひどい。……でも悪いのは式だし、仕方ないかな。式はね、あなたといるとすぐにそうやって素が出ちゃうのよ」

黒桐「……こっちは堪ったもんじゃないけどね」

式「だから、こうやって謝るの。―――ごめんなさい黒桐くん。たかがアイスクリーム一つのために、あなたを散々に痛めつけちゃって」

黒桐「いや……まあ、アイス一つに本気になったってんじゃ僕も同じだし。さっきも式に言われたけど男なのに君より喧嘩が弱い僕が悪い」

なんかおかしくないか?

式「……黒桐くん、昔から青瓢箪……とまでは言わなくても殴り合いの喧嘩なんか大の苦手ですって雰囲気が顔から出てたものね」

黒桐「……そうだね。思えば殴り合い、取っ組み合いの喧嘩なんてこの年になるまで一度もした事がなかった」

黒桐「そんな僕の記念すべき、でもないけど、初めて喧嘩をした相手が同い年の女の子で、しかも惨敗だって言うんだから笑えないね」アハハ

式「……私だって。誰かと本気になって『喧嘩』をしたのは、あなたが初めてよ、黒桐くん」アトワラッテルジャナイアナタ

黒桐「……?ああ、そうか。式は昔から人と関わらないようにしてきたんだったね。なら僕と式は世にも珍しい初めて同士の喧嘩相手だ」

式「世の中探したっていやしないでしょうね。こんな珍しい初めて同士なんて」クスクス

>>322
式乱暴すぎますかね……

式「ああ、そうだ。こうやって、普通にお互いに自然な状態のまま笑いあう事が出来た相手も、式にとってはあなたが初めてね」

黒桐「そうか、じゃあ改めて考えると式から家族を除けば初めて触れ合う事が出来た相手ってもしかして僕が最初なのかな」

式「……うん、そういう事になるかな」

黒桐(ふふ……僕たちは一体何を話しているのかな。こんなのお互いとっくの前に理解している事なのに)

黒桐(いつもと口調が違う、ってだけでこんなにも会話が新鮮になるなんてな)

式「―――私ね、他に黒桐くんに謝りたい事がたくさんあるの」

黒桐「えぇ?」

黒桐「僕は式に謝って欲しい事なんて―――まあ、全くないとは言わないけど―――あんまりないよ?」

式「まあまあ。折角の機会だし謝らせてよ。―――今の内にあなたに話して楽になりたい事が式にも結構あるのよ」

黒桐「んー……、まあ。式の罰は僕が背負ってやるって前に言ったしな。うん、いいよ。僕で良いなら懺悔でも何でも聞いてやるよ」

式「……ありがとう。―――じゃあ、まずは……」スッ

黒桐(……?あ……)

式「……」フサァ

黒桐「……」

式「―――あなたの、この左眼の事」サワ

黒桐(まだ気にしてたんだ……いや、こんなに分かりやすい所にある傷じゃ気にするなって方が無理かな)

黒桐(……そりゃ、確かに片目が効かないって言うのは日常生活に置いて不便だけど……でも)

式「……」サワ

黒桐「……君が直接付けた傷って訳じゃないんだし、その……そんなに思い悩まなくても良いんじゃないかな」

式「……」サワ

黒桐「……そりゃこの傷を貰った時、僕は死に掛けた。眼だけじゃなくて足も肩も傷付いた」

式「……」

黒桐「……でも実際、この傷を僕に付けた人は死んで、傷をつけられた僕はまあ何とか生きているんだし……えーと、つまり……」

式「……そこから、先は言わないでいい」

黒桐「……」

式「……黒桐くん。生きてさえいればそれでいい、生きていたんだからそれでもう全部良いじゃないか、なんて単なる結果論よ」

黒桐「……そりゃあ、ね」

式「あなたはこの傷を負った時……死の際にいた。いつ死んでもおかしくない状態だった。むしろ……死ぬ可能性の方が高かった」

黒桐「……生きてるからいいと思うんだけどな。付けられた本人が良いって言ってるのに、式はそれでもまだ納得できないの?」

式「当然よ。もしあなたが死んでしまったなら―――もう、式は生きていけないもの。生きていく意味なんて、なくなっちゃう」

黒桐(……)

黒桐(あれ……?これ、もしかして式に告白されてる?え?一生一緒にいてくれや?)ライフタイムリスペクト?

黒桐(いや……そんな、そりゃあ僕は自分でも気恥ずかしいと思う台詞を何度か式に言った事があるけどさ……逆に…言われるのは…)

黒桐(大胆な告白は僕の特権じゃなかったのか?それに……何故か、あんまり嬉しいとは思えないし)

式「……」

黒桐(あんな……悲しそうな顔していられちゃね。どんな想いのこもったの言葉だって相手に届くとは限らない)

黒桐「式……僕からすればね、そんな悲しそうな顔で言われる愛の告白より笑いながら青瓢箪って莫迦にされる方が何倍も嬉しいよ」

式「え……?」キョトン

黒桐「いや……だから、相手にキチンと自分の思いを伝えたいのならそんなに回りくどい言い方する必要ないんだよ」

式「……」

式(愛の告白って……え?幹也何か勘違いしてる?これ、謝ってるつもりなんだけど……)

式(そりゃあなたがいなければ生きていけないって……愛の言葉に聴こえない事もないけど……)エェー?

黒桐「例えば僕は『私は貴方がいなければ生きていけません』なんて告白は……いや実際言われたら嬉しいだろうけど……好きじゃない」

黒桐「それより「貴方の事が大好きです。これから一生私と生きてください』って明るい感じに言われる方が好きだな」

式「……」ポカーン

黒桐「あー……その、分かるかな?女の子って、明るい話より悲しくて暗い話の方が好きって聞いた事あるけど……」タブンアザカモナ-…

式「……」

式「そう……ね、貴方はそういう人だった。式はずっと前から知っていた」

式(私が二年ぶりに目覚めた時……泣き顔より、笑顔でいる事を貴方は選んでくれた)

式(ずっと泣き続けている事より……ずっと笑顔でいることの方が難しいけど。―――貴方は、ずっと笑っていたい人でしょうものね)

黒桐「……えー、つまり。僕は『必死の思いで言ってもらう謝罪よりも、お腹を抱えならされる感謝の方がいい』って事」キョクロンダケドネ

黒桐「同じ様に……愛の、告白も……欲を言えばもうちょっと明るく言ってもらえた方が助かる……んだ」

黒桐(大胆な告白って……意識せずにさらっと言うのは楽だけど、こう面と向かって言うのは恥ずかしいなあ……)カアッ///

式「……」クスクス

黒桐「つまり!……端的に言うと、君の謝罪はもう聞きたくない。そういう事なら口調を普段の物に戻してもらっても構わない」ナゴリオシイ…

式「……」

黒桐「……やっぱり、いやかい?」

式「いえ……元々あなたのための謝罪だもの。あなたがそれを拒否するのに続けるというのはおかしいでしょう」

黒桐「……良かった。君の罰は全部背負っちまうって言っちゃったしな……。君が本気で言うつもりなら僕には止め様が無かったんだ」

式「ふふ……。あ、そうだ黒桐くん。これは謝罪とは関係ないんだけどあなたに言いたい事が一つだけあったの」

黒桐「……うん?何かな、式」

式「あなた、前に『式が死ぬ時けして独りきりにならないよう』に、私を殺すって言わなかったかしら?」

黒桐「」サーッ

式(やっぱり……自分の事情や言動はすぐにどっかの棚の上げちゃう癖、まだ治らないのね)クスクス


黒桐「……いや、あの、その……あれは……」シドロモドロ

式「なに?あなた、将来私を殺すつもりなんでしょう?怖いわね、未来の人殺しさん」クスクス

黒桐「……」

黒桐(あれは……本気なんだ。もし君が死ぬ時に独りぼっちになってしまったら悲しすぎるから。君の罰は、僕が背負うって言ったから)

黒桐(……何にだって、誰にだって、人殺しは決して許す事の出来る罪じゃない。だから……せめて、ずっと君の傍にいたいんだ)

黒桐(……まいったな。じゃあさっき僕が口に出したことは全部嘘っぱちの理想論って事になるのか?)ウーン…


何か……黒桐じゃなくて士郎っぽくなってる…?

黒桐「……えー、とりあえずその話をおいておくとして」

式(あ、流した)

黒桐「……何だか話がそれちゃったね。つまり、僕の言いたい事は……」

式「『長ったらしい謝罪なんて聞きたくないから、とりあえず感謝されたいなぁ。後俺を愛してると言ってくれ』って事でしょ?」

黒桐「……。酷い、そりゃ酷いよ式ー。何が一番酷いって要約するとつまりその通りになるのが一番酷い」

式「後ね。あなたさっきから何度も「つまり」「つまり」言いすぎよ。全然要約出来てないじゃない。せっかちね」クスクス

黒桐「……悪かったね。どうせ僕は無駄に貧乏性ですよ、だ……」トウコサンニモイワレタシナ

黒桐「―――話を戻そう」

式「それで話を戻すの何回目?」

黒桐「……。つま――だからね、僕が式に言いたかった事は……」グスッ

式(あ、眼が潤んで声も泣き声になった。でも例の如く絶対泣く事はないんだろうな)

黒桐「……」ガシッ

式「……?」

黒桐「……」

式(え……何?肩を掴んで……というか幹也の顔が近―――――

この時の幹也は。頬を紅色、表情ははにかみ気味。眼は少し潤んでいた。それでも今まで見せてくれた中でも最高と思える笑顔で。



黒桐「式。僕は、君の事が大好きです。とても愛しています。これから先、―――僕と一生一緒にいてくれや……―――ください」



私にこんな事を言ってくれた。


泣けると言うよりは笑えた。でも少し涙も出た

黒桐「……」ギュウゥッ

式「……」

黒桐「……」

黒桐(噛んじゃった……)

黒桐「……」ギュウゥッ…

式「……」

黒桐(何て言うか……やっぱり恥ずかしいな、うん)フフ

式「……」

黒桐(大胆な告白はそれ自体が恥ずかしいって言うのに……まさかあそこで噛むか。噛むか僕)イッショウイッショニイテクレヤ♪ジャネーヨ…

式「……」

黒桐「……」ギュウゥ…

黒桐(うぅ……恥ずかしくて式の顔が見れない……。二重の意味で……)エーカゲンソウナオレデモ♪ッテホントエーカゲンダッタヨ…

黒桐「……」

黒桐(OK、冷静になれ。そうだ。落ち着け。何かこの状況を誤魔化すいいアイディアは……そうだっ!)

黒桐(これは式にベストな告白の仕方を教えただけなんだ。きっとそうなんだ。ちょっと熱が入りすぎてた気もするけど。本気だったけど)

式「……」

黒桐(よし、じゃあまず腕を放そ……ってうわっ!?僕もしかしてずっと全力で式を抱きしめてたのか!?)パッ

式「……」フラッ…

黒桐(ど……どうしよう……。いくら式だからって大の男に全力で抱きしめられ続けて無事でいられるものだろうか…)

式「……」

黒桐(……良かった、何とか意識はあるみたい。ちゃんと自分の足で立ってるし。……でも何度ずっと俯いてるんだろう?)

式「……」

式「……っ」ブルッ…!

ブル……?

黒桐(とりあえず、式に事情を説明しないといけないな。……噛んじゃったせいで、馬鹿にされたと思ってるかもしれない)

黒桐(……そして自分の思いを相手に伝えるには……やっぱり相手の眼を見て話すのが一番。よし、式にこっちを向いてもらおう)

黒桐「式ー?」スタスタ

式「……」フルッ…

黒桐(むっ……顔を背けられた。……もしかして、本当に馬鹿にされたと思って怒ってるのかも)

>>366
分かり辛いけど……身震いって事で……

黒桐「式ー?」

式「……」フルッ

黒桐「式ー?」

式「……」フルッ

黒桐(……ぬぬっ。これは思ったより手強い。もしかしたら名前を呼ぶ事さえ侮辱だと思われているのかもしれない……)

式「……・」

黒桐(こうなったら……)

黒桐「……」ギュッ…

式「……っ!」

黒桐(……これで体の動きを止めることは出来た……けど、結局また抱き締めるしか方法がなかったな……)

黒桐「……」ギュッ

式「……」

黒桐「……さっきは、力強くしすぎちゃってごめんね。痛くなかった?」

式「……」フルフル

黒桐「……そっか。なら、良かった」セナカナデナデ

式「……」



置くだけ…?

黒桐「ねえ、式……」ナデナデ

式「……」

黒桐「……こっち向いて、顔見せてくれない?」

式「……っ!」ブルッ

式「……」フルフル…

黒桐(首を横に二度振るって事は……つまり、イヤイヤって事?)


(レッドブルを飲めば)本当は空を飛べると知っていたから…?

黒桐(……弱ったなぁ)

式「……」ギュウゥ

黒桐(……と、まぁ。こういう事もあろうかと一石二鳥の秘策を用意しておいたんだよな、僕)

式「……」ギュウゥ

黒桐「……ねえ、式。もしかして、今はどうしても僕に顔を見せられない理由でもあるの?」

式「……」コク

黒桐(首を縦に一度振るって事は…あー、ハイハイ)

黒桐「……」ナデナデ

式「……」ギュウゥ

黒桐(……ふっ)

黒桐(どうしよう……早くも僕の策潰されちゃった)

式「……」ギュウゥ

黒桐(そもそもこの策は……式が素直に僕の言う事を聞いてくれるという前提により成り立っていた)

黒桐(その前提が破綻した以上……この策はご破綻、僕はもう何も出来ない……)

黒桐(困ったなぁ……)

>>1
この前の人?

黒桐(……と、まあ。人間、こういう困った時にどう動けるかという事が大切なのです)

黒桐「式、どうしても僕の方に顔向けてくれない?」

式「……」シーン…

黒桐(返事なし……迷ってるんだな。よし、ここは行こう)

黒桐「……じゃあさ、式。君は一体どうすれば僕の方を向いてくれるの?」

式「……」

黒桐(こりゃ賭けだぞ……)

>>392
途中でぶつ切りになっちゃった奴の事なら俺です

ああじゃあ違うやごめん

黒桐「……」

式「……」

黒桐「……」

式「……」

黒桐(……やっぱり駄目か?ここでもうひと…いや、最後まで式を信じてみよう)

式「……」

黒桐「……」

式「……っ」ボソッ

黒桐(来た!)

>>394
頭撫で撫でするスレの式と黒桐がおはようのキスをして終了する奴は俺す
この二つ以外は違います

>>397
最後に見たらっきょSSだな

おはようのキスのほうのスレタイkwsk

こっからどうやってスレタイと最初のあたりを回収するんだw
もうエロなんてなくていいか

式「……っ。……っ」ボソボソ

黒桐「うん、なに?」

式「いま……たぶん……」

黒桐「……うん」ギュッ…

式「……きっと、ひどい……かお、してるから……」

黒桐「……」

式「みき、やのほう……むけない……」

黒桐「……」

式「……」

黒桐(……うん、なるほど。そういう事か。なるほどね)

>>398
式「幹也、ちょっと云々ってスレの>>146から、はい

式「……」

黒桐(ようは、式は今の自分を顔が……まあちょっと崩れちゃったから、恥ずかしくて僕の方を向けないと。うん。なるほどなるほど)

式「……」

黒桐「……ほああぁぁっ!?」

式「っ!!」ビグンッ!!

黒桐「ちょっと待ってよ式!なに?なんなの?君そんなに普段の自分の顔に自信あったの?いや確かに君は美人だけどさ」

貶しながら褒める。これぞ黒桐が咄嗟に用いた開心術であった

>>399
これ>>205からの外伝だからスレタイと初期に繋がってなくても大丈夫

えっエロないんですか?

黒桐「……」フゥー…

式「…っ! …っ!」ドクッ ドクッ

黒桐「……いいかい、式」

式「……」ドクッ ドクッ

黒桐「結論を言ってしまえば。今の君が……まあ、僕に見せられない顔か見せても大丈夫な顔かなんて君には判断が付けられない」

式「……」

黒桐「ということは……やっぱり、見てみるまで分からないんだよ。まあ確証のない事を言えば今の状態でも君は大丈夫だと思うけどな」

式「……」

黒桐「……話を続けるよ」

>>404
一応初体験の話なんで予定はしてるんですが……
この二人がストレートに一発でやるイメージが湧かなかったんす……

黒桐「……そもそも君はどうして僕に……その、今の状態の顔を見せたくないんだい?」

式「……」

黒桐「……いや、女の子にこんな質問する事自体何かおかしいのかもしれないけど。でも教えてくれ。どうして?」

式「……っ」ギュウゥッ…

黒桐「答えたくないんなら答えなくていい。そもそもそんな事を本当は女の子に言わせたくない。今のは……まあ、ちょっと格好付けて」

式「……」ギュウゥゥ…!!

黒桐「アタタタタッ!!ごめん、式!謝る!ごめんなさい!今ちょっと柄にもなく格好付けようとしました!抓らないで!ごめん!!」

式「……」ムスー

黒桐「……」ヒーン…

式「……」ムス

黒桐(うう……「大好きです、愛しています」とまで言った相手と抱き合ってんのに、何の因果でこんな痛い目に遭ってるんだ……)

式「……」プンプン

黒桐(式……本気で抓るんだもんなぁ……。まだ痛みが残留してる……。ああどうしよう、千切れてないかな……痣になるかな……)

黒桐「僕……滅多な事じゃ泣かない自信あったんだけど……今回ばかりはすごく痛くて……泣きそうです。泣いていいですか」ウルウル…

式「……っ」ピクッ

黒桐(そして式は変なワードに反応するし……何なんだよ君は、人の泣き顔見て喜ぶタイプって訳でもないだろう……)ウルウル…

猫みたいだよな
真祖の姫君といい式といい

黒桐「式ぃ~?」

式「……」プイッ

黒桐(ああもう、本当に何なんだよ、君って人は!鬼!…というには可愛すぎるから子鬼!…悪魔?小悪魔系?)



痛みのあまり現実逃避に走る黒桐であった



式「……」ボソボソ

黒桐「んー…?今度は何だって言うんだ」ヤサグレコクトー


式「いま……みきやもひどいかおしてそうだから……」ボソボソ

黒桐「……お相子だから見せても大丈夫って?なんだそりゃ……」

式「……」フフン

黒桐(ああっ、いま笑った!顔見えないから分からないけど雰囲気がそうだ!)

>>414
+…式はそれに加えてウサギ属性まであると来てる…
だから誰か式がバニー服着てる画像とか持ってませんか?

黒桐「おいっ。こらっ。ちょっと式。そこに座り……ああもう、このままの格好でいいよ!一度しか言わないからよく聞けよ!」

式「……」シーン

黒桐「……一度しか言わないからちゃんと聞いてね?いやその……どうしても聴こえなかったのなら、後でそこだけ言い直すよ」

式「……」フフッ

黒桐(笑われたのか……それとも笑ってくれたのか……出来る事なら後者がいい物だけど)

黒桐「ええとね、女の子にこんな事聞くのは野暮ってものかもしれないけどさ。……式って元々そんなに自分の外面を重要視してたっけ?」

式「……」

この>>1よく頑張ってんな
式を文章に表すのって
難しい気がする

黒桐「……僕の記憶が正しければそうじゃなかったはずだ。君は美人だったけど、自分の外見にそこまで気を遣う方じゃない」

黒桐「なのに今に限って急に僕に顔を見せたくないだの……これは一体どういう気持ちの移り変わりなんだ?」

式「……」

黒桐「……返事は期待してない。でもさ、さっき聞いた限り式が顔を見せてくれないのは僕に見られたくないからだよね」

黒桐「……僕は式が美人じゃなくても、いや美人でいてくれた方が嬉しいな。とにかく、外面より内面が好きなんだ。外面も好きだけど」

式「……」

黒桐「式だってそうだろ?例えば僕の容姿が式の好みから外れてしまったら式は僕をあっさり捨てるの?違うだろ?」

式「……捨てる」ボソッ

黒桐「えっ……」

式「……」

黒桐「……」

式「……」クックックッ

黒桐(えっ……?捨てられちゃうの僕?)

式(……やっぱり幹也はたまーにからかうと面白いな)クックックッ

>>418
あざす…

>>420
貴重な境界スレだ
応援してる

黒桐「……」ポケーッ

式「……どうするの? 今なら、顔見せてあげても良いけど……」

黒桐「え……ああ、じゃあお願い……」ポケーッ

式(……完全に放心してる。幹也って冗談を真に受けやすいタイプ?)



ちなみに式は普段あまり冗談を言わないタイプである



式「……じゃあ、1・2・3で行く?」

黒桐「ええ?ああ、はいはい。そうですね……」ポケーッ

式(……大丈夫かなぁ)

>>421
滅多に立たないんすよね……何か型月の人気は今Fate一点に集中してる気がします

式「じゃあ…行くよ」

黒桐「……」ポケーッ

式(うーん……。何か今の幹也はあまりいい顔をじゃない気がする)

式(さっきちょっと体抓った時は声だけで何となく泣いてるって予想がついたんだけど……)

黒桐「……」ポケーッ

式(今の幹也は何かもう泣くもへちまもないというか…強いて言うなら、そう……虚無っぽい表情してる気がする)

式は時々一般人には理解しがたい例えを使う

式「1…」

黒桐「……」ポケーッ

式「2…」

黒桐「……」ポケーッ

式(……これは駄目かなあ。とても満足のいけそうな顔をしてるとは思えない)

式(さっき……好きだと言ってくれた時のあの表情は……まぶたに焼きつくんじゃないかと思うほど魅力的だったけど……)

黒桐「……」ポケーッ

式(……うーん。私が不用意に冗談なんか言っちゃったから。今度から幹也の前ではあまり刺激の強い冗談は話さない事にしよう)

式(それに……今の状態の幹也なら、多分私の顔なんか見てもどうも思わないだろうし、別にいいか。……それはそれで少し寂しいけど)

黒桐「……」ポケーッ

少しお手洗いに……

式(これ以上は待つだけ無駄か。……仕方ない、幹也のいい顔は諦めよう)

黒桐「……」ポケーッ

式「さ……」

この時。式が3を宣言し終えるまで後数十分の一秒もない、この瞬間!黒桐の脳内である爆発的な変化が起こっていた

黒桐(……)

黒桐(……僕は、式にとっては特に何か重要な存在って訳じゃないのかな)

黒桐(―――分かっている。そういう生き方を目指してきて、今もそうあり続けているのは僕が選んだ事だ。これは物心付いたときからずっと)

黒桐(でも……外見が好みじゃなかったら捨てるって……いやまあ、それ自体は別段おかしな事でもないんだけどさ)

確かに時は流れていた。ただ、黒桐の脳内においてその流れは0に等しい。ただそれだけの事

……式が3を宣言し終えるまで、後数百分の一秒



黒桐(式は……僕の知る限り、あまり冗談を言わないタイプだ)

黒桐(僕のいない所ではバンバン小粋なジョークを飛ばしまくってる可能性も…まあ0じゃないけど殆ど0か)

黒桐(その式が……僕にはっきりと言ったんだ。『外見が好みじゃなければ捨てる』って」

黒桐(……。ショックだよなぁ。僕が式に外面より内面が好きなんだって言った直後だっただけに)

黒桐(ああいう時、普通は素直に自分の意見を言い辛いのに。それでも式は本心を言えた。つまりそれは―――どうしようもなく、本気という事)

だがしかし、黒桐は拒絶された程度で諦める男ではなかった。その常軌を逸した精神力により、式の手を引き暗い世界より救い出したのだ

……式が3を宣言し終えるまで、後数千分の一秒

黒桐(まあ……この程度の拒絶で心が折れるようなら、僕はもう4年前のあの時に式からはなれていたさ)

黒桐(―――僕は、式から離れたくない。式に嫌われたっていい。勝手に世話をやく。―――一生許(はな)さないって、誓ったんだもの)

黒桐(―――?ちょっと待て。そもそも『嫌われる』が選択肢に入ってるってどういう事だよ。違うんだよ。嫌われちゃ意味がないんだ!)

黒桐(逆だろ!惚れた女を逆に自分に惚れされる事が出来なくて何が男なんだ!逆に式が僕から離れたくなくなる様にしなくちゃ駄目だ!)

黒桐(―――ああもう!手っ取り早く式を僕の物にするにはどうしたら良い!?考えろ考えろ考えろ!)

さ……

黒桐(何だこれ…?式が何かを読み上げてる…?数字?これは3かな)

黒桐(ああそうだ、そう言えばさっき1・2・3で式が顔上げてくれるとか言ってたな。今の僕になら酷い顔見られたって気にならないって)

黒桐(……見られるのは、泣き顔じゃない。目に物見せてやる)

黒桐(……やってみるか。一石二鳥の秘策!わざわざ自分から顔を上げた事を後悔……じゃなくて、まあいいや、行けっ!)



黒桐「」ピクッ

式「…ん」

『……』ゴキュゴキュ…

『……。あのさ、黒桐。どーしても一つ言いたい事があるんだけど』

『っぷは。はい?何ですか橙子さん?何でもジャンジャン言ってください。いやぁ、やっぱりこのコーフィーは最高です』

『これ、何て伝奇小説?おい、黒桐。お前絶対フカシこいてるだろ。なんだこの数千分の一秒って』

『橙子さん、これは現実です。あの時の僕はなんだか神懸かっていたんです。式への想いゆえ。式への愛が生んだ奇跡です』

『ああ、でもまあ。あの現象をあえてカテゴライズするならば「新伝奇 『うるさい』 はいはい、すみませんでした』

黒桐「…!」キッ!

式(……えっ?幹也?)



ギュウゥッ……

式(なに……?どうしたの……なんだか、急に……苦しいくらいの力で……)

黒桐「……式」

式(……やっぱり。これ、幹也だったの……何か……さっきまでの放心した状態とも……普段、とも違う……)

黒桐「……」ジーッ

式(……今の顔……見られて……?というより、何かどんどん顔が近く……)

黒桐(一石二鳥の秘策……まあ、要するにだよ)

黒桐(あの時は式の誤解を解くのが一つの目的だった。もう一つはきつく抱き締めちゃったんでお詫びに何か優しい事してあげたかった)

黒桐(この二つを同時に解決できて……尚且つ、式の顔がこっちを向いてないと実行できない物なんて一つしかないだろ)



深夜になると何故か話がわき道に反れる不思議

黒桐(……なんだかえらく遠回りになっちゃったなぁ)ギュウゥ

式「……」ボーゼン

黒桐(さっきまではまるで立場が逆か。今は何だか式が脱力したような感じになってる)・・・?コレハ・・・

黒桐(あの時も今も……こうやって、腕の中に式を抱き締めている事に変わりはないんだから)ギュウゥ

黒桐(素直に……あの時、式が素直に顔上げていてくれたらな。わざわざ抓られたりしなくて済んだのに)ギュウゥ


黒桐(まあ……今からどうのこうの言ってももう遅い。今は…)ジーッ

式「……」

黒桐(今、この瞬間の事だけを考えていよう。他の事は……後から考えればいいや)


黒桐「式」

式「……」ピクッ

黒桐「……やっとこっち向いてくれたか。長かったなぁ……」

式「……」

黒桐「……あのさ、式。君は一つ、僕に対してすごく大きな誤解を抱いてるかもしれない」

式「……?」


黒桐「ああ……いや、正確には誤解が一つに謝らなくちゃいけない事が一つか」

式(……謝らなくちゃ、いけない事?)

黒桐「まあこの二つは……同じ様な事なんだけどね。それでもやっぱり別々に謝っておくよ」

式「……」

黒桐「―――式。さっきは渾身の力で長い間抱き続けてごめん。痛くなかった?」

式「……」



式(……はっ?)

式「……なに、それ?」

黒桐「……覚えてない?そうか……やっぱり、式はその時一時的酸欠状態になっていたのかもね」

式(強く抱き締めすぎて……酸欠?何の事だろうか……さっぱり話が見えてこない)

式(きつく抱き締められたって言うんなら……まあ、今がそうだけど。でも……これのどこか酸欠?)

式(多分、幹也が言っている事はこれじゃない……でもなぁ、他にきつく抱き締められたって……)ンー?

式「……」ウーン…

黒桐「……」

黒桐(式は……あの事、覚えてなかったか……。って事は、もしかしてその直前の……あの、告白の事もか?)

黒桐(まいった……あの時は完璧に舞い上がりすぎてた。面と向かって式に愛を囁くなんて本当にあれが初めてだったから)

黒桐(……いや、まあ面と向かわない状況でなら何度も愛を囁いてるって訳じゃないんだけど……)

黒桐(そうだな……式に好きと言う事くらいなら、それこそまだ若かった頃―――4年前の僕でさえやれていた)

黒桐(まあ、正面から見つめ合ってなんて事はなかった……と言うよりあの頃、僕と式はお互い目を見ず会話してたからな)シミジミ

黒桐(……また話がわき道にそれた。本当、式に指摘されたとおりだな。僕は本当に閑話が好きなんだ)クスクス

式「……どうしたの?急に笑い出したりして」

黒桐「……いや。今僕が謝りたい事と直接関係があるわけじゃないんだ。ただ昔は僕と式本当に目を合わさなかったなーって」

式「……そうね。私が幹也の方を向く時決まってあなたはどこか遠くの方を見てるんだもの」

黒桐「屋上でご飯食べてた時の事?……ああ、確かに。あの時僕は大抵グラウンドで運動部が頑張る姿を眺めてたからな。後は雲とか」

式「……幹也は時々、すごく物騒な話題降ってくる時があった。今から食事って時に、この前のバラバラ殺人がー、なんて言う?普通」

黒桐「式に普通がどうの言われるなんて……君だって聞くだけ聞いた後に『食事時にする話じゃない』なんて理不尽な事言ってたじゃない」

式「……私はいいの。あの時は、そういう事が普通だと思っていたんだもの。あなたは普通なのに、おかしな事を言うからおかしいのよ」

黒桐「そういうものなのかなー……」タハハ

式「どう考えてもそういう物でしょう。あなた、私以外のクラスメイトにはあんな事話してなかったんでしょう」フフ



黒桐(不思議だな……。人間性(なかみ)はいつもと同じだって分かってるのに……この口調の式と少し昔の事を話すだけで……)

式「……」ニコニコ

黒桐(まるで、昨日の事の様にあの時の事を思い出せる。……そうか、この口調の式は僕にとってはあの時の象徴なんだ)

黒桐「……。あー、また話題がそれちゃった。これはもう一種の才能だと思っていいのかな?『話が脇道にそれない事がない』って」

式「幹也は昔から無駄話が大好きだった物ね。むしろあなたと話していて有益になる情報を手に入れた覚えがないわ。ただ楽しいだけで」

黒桐(うーん……口調は織の物より柔らかいのに、何故だかこっちの方が一々言う事がきつく感じるな)

黒桐「……まあ、いいや。それより式。君が誤解しているかもしれない件については詳しく話していなかったね」

式「そうね。それを聞く前に幹也が話を逸らしちゃったから。何で酸欠の話が4年前の学校の話になるの」

黒桐「……それはもう、そういう物だと思って了承してもらうしかないよ」

黒桐(そう言えば……さっきから何か式の口調に微妙な違和感のような物を覚える。記憶の中にある口調を全く一緒なのになぁ…)

式「……?」

黒桐「……」ウーン…

式「……幹也、どうせまた変な事考えているんでしょう。顔に書いてあるわ」

黒桐「……あっ」

黒桐(そうか、分かった。呼び名だ。昔の彼女は僕の事を黒桐くんって呼んでいたんだ。それがこの違和感の正体か)


すみません、ちょっと今はここまで……
何でまだ本番にも入ってないのにこんなピローみたいなのしか浮かばないの…

いつ頃本番いけそう?

…一時間経ってる

>>451
黒桐くん何はともあれ式を落としきる→イチャイチャしながら本番突入
10~11時くらいに再開できたら……

何故式はあんなにも可愛いのか……
12:20~30くらいを目処に…再開させてください

『……』

『……』

『……なあ、黒桐。今お前の話を整理してて一つ気づいた事があったんだが』

『はい、何ですか橙子さん。……僕、いい加減このやり取りにも飽きてきたんですが』

『……仕方ないだろう。お前の話はとにかく脇道に逸れやすいんだから。大体これだけ話したのに未だ本題に入ってないってどういう事だ』

『最初は式の性欲が強くて眠れない、次は勿体ぶって初体験の話をするだの言っておいて……お前ただ惚気を私に聞かせたいだけなのか』

『あっ、バレちゃいました?』

『ばれいでか。……君が寝不足で困ってるというから、わざわざ今日は働かなくていいとまで言ってやったのに』

『すみません、この話を真面目に最後まで聞いてくれそうな人は、僕の周囲には橙子さんしかいなかったんです。誰かに惚気たかったんです』

『学人や大輔兄さんに話したら、それからずっとからかわれそうだし……秋隆さんとは、そんな話が出来る親しい仲になれていませんし』

『……鮮花は?こういう話こそあいつに聞かせるべきだろう。……いや、もしかして―――お前もう鮮花には話したのか?』

『……』

『(……やっぱりか)』

『おい、どうなった。教えろ黒桐。私にはお前と式の惚気話なんかよりそっちの方がずっと気になる』ワクワク

『……今の橙子さん、すごく意地が悪い……というより、普段みたいな顔になってますね』

『それは普段の私は意地の悪い顔をしているという事か。……まあいい、どうなったどうなった。早く聞かせろ』ワクワク

『……結論から言うと、話しかけようとしただけで燃やされかけました』

『……』

『……』カチッ シュボッ

『……近寄ろうとした時には、あいつもう火蜥蜴の皮手袋付けてて……』

『……』フーッ…

『「おい鮮花、ちょっと僕と式の……」の「し」を言いかけた時、もう火は目の前でした』

『へぇ、燃えたろ?』

『燃えたら今ここであなたと会話できてません。ギリギリの所で何とか交わして、その後脇目も振らずに一直線に逃げ出しましたよ』

『……そうか』

『……あれ以来、しばらく火がトラウマになりました。コンロ見る度にそれを思い出すんです。式がいなけりゃきっと僕は餓死してました』

『お前って、結局は式との惚気に話を持って行きたがるんだな。踏まれてもただで起きないその図太さは立派だ』

『……そうですか?珍しいですね、橙子さんが直球に僕の事を認めてくれるなんて』テレテレ

『(これはお前の話が長い事に対する皮肉なんだが……やっぱり、今のこいつじゃそんな事も分からんか)』

『まあ、それはおいといてだ。さっきお前の話を整理してて、一つ気づいた事があるって言ったろ。その後また話が脇道に逸れたけど』

『そうでしたね』

『お前さ、式がアイスをがっついてる時、隣で一人物思いに耽ってただろ』

『まあ、式の方をチラ見しながらですけどね。アイスを一心不乱に頬張る式がそれはもう……』

『はいはい……その時お前『僕にとっても式にとっても初めての経験だけど』とか考えてた、って言ったよな』

『はい。出来るだけ良い思い出として残したい事ですからね。そりゃ色々と考えてますよ』

『問題はそこじゃない』

『どこです?』キョロキョロ

『下らん冗談言うようだと蹴っ飛ばすぞ。―――つまり、お前の初めての女は式って事だろ?』

『え……はい……いや、まぁ……///』カァァ…

『……お前さ、人に意気揚々と性生活語ろうとしたりするくせに変に初心な所あるね』

『つまりだ。お前は三月某日まで女と関係を持った事がなかった。これは確かだな?』

『……えぇ。そうですけど……それが何か?』

『……ふぅ。お前さ、これまで一人も女を抱いた事もないのに式や鮮花に「女の子はこうでなきゃ駄目だ」とあれこれ文句付けてたのか?』

『』サーッ

『(からかうと青ざめるのは黒桐家の血筋なのかな。こいつと鮮花の親もそうなのか?。―――今度秋巳刑事で試してみようか)』

『ええと……それで話を続けるとですね』

『(逃げたか……)』


黒桐「……」

式「……」


黒桐(そうか……これってありえそうで、絶対にありえない事だったんだな。式は、事故から目覚めて以来―――ずっと織の口調だったから)



黒桐「……」ギュウゥ

式「……」

黒桐「……」ギュウゥ

式「……ねえ、幹也」

黒桐「なに」


黒桐「……」ギュウゥ

式「……ねえ、幹也」

黒桐「なに」

式「その、式の体はね……」

黒桐「……うん」

式「確かに普通の女の子に比べると、すごく丈夫に出来てる。―――でも」

黒桐「……」ギュウゥ…

式「そんなに強く抱きしめられるのは……嫌じゃないけど、少し痛い」



黒桐「……ああごめん、言った傍から」ユル

式「……」ホ…

黒桐「……」

式「……」

式「幹也って、もう少し……落ち着いた人だと思ってたんだけど。その―――案外周り見えなくなる事もあるのね」フフ

黒桐「いやはや……面目ない。自分でも、一度頭で考えてから行動するタイプだと思ってたのにな…」アハハ…

式「うん……でも、いやじゃないよ」

黒桐「……そう」ナデナデ

式「誰かに……何も考えられないくらいに、自分の事を思ってもらうって―――こんなにも嬉しい事なんだ」

黒桐「……今日の君は、聞く方が真っ赤になるような事を平気でポンポン言うね」

式「……赤くなる様な事を言ったのは、あなたが先だけどね。もう、また自分の事を棚に上げて……」クスクス

式「まあ本当は……痛いくらい抱きしめられるのもそう悪くない。……変な言い方だけど、少しくらい痛い方がかえって気持ちいいもの」

黒桐(……少し?そう言えばさっきの式、あれだけ強く抱きしめたのに「少し痛い」としか言わなかったな)

黒桐(……これは僕が相手だから痛いのを我慢くれていると考えるべきなんだろうか)

黒桐(それとも……もしかして、本当に僕の力じゃ本気で抱きしめても式は少し痛い程度にしか感じないって事なのか)

黒桐「……」ウーン

式「……あなた本当に一人で考え込むの好きね。私、さっきも言ったでしょ。言葉にしてみないと分からない事もあるのよ」

黒桐(試しに一度聞いてみるか。もし、今僕の頭に浮かんだ仮説が正しいとするなら―――)

黒桐(―――誤解していたのは式じゃなくて、僕だったって事になるな。酸欠なのはこっちだったか……)ハハ、ワラエナイ…

黒桐「ねえ式。ちょっと変なこと聞くけど、いいかな?」

式「あなた本当にさっきから質問してばかりね……なに?」

黒桐「……」ウーント…

式「……」

黒桐「……」エーット…

式「……」

黒桐「……」アーット…

式「……」

黒桐(まずいな……。この疑問はさっきの式の言った事みたいな、誰でも恥ずかしくなるような事柄じゃないんだけど)

式「……」

黒桐(……むしろ人によっちゃそれを何かのバラメーターにしてるって事もあるんじゃないだろうか。しかし僕はなぁ…)

式「……」

黒桐(ああ、もう……!行け行け、言っちゃえ!僕はそこまで自分に自信がない訳でもないし、これは式が凄いだけかもしれないんだから)

黒桐「……」フゥー

式(考えが纏まったのかな)

黒桐「あの…ね」

式「はい」

黒桐「……さっき僕さ、君に―――一生一緒にいてくれや…―――ください―――って、言っただろ」

式「……」コクリ

黒桐(覚えてたか……ああ、これじゃあもう勘違いしていたのは僕で確定……。そしてまた噛んじゃったし)ズーン

式「……」クスクス

黒桐「―――率直に聞こう、式。君はあの時酸素欠乏を起こしていたはずだ。大の男が女の子を渾身の力で抱きしめてならないはずがない」

式(……)クスクス

黒桐「……あの後君、少しふらふらしていたじゃないか。あれは酸欠で頭に血がいかなくて目の前が真っ暗だったからだろ?そうでしょ?」

黒桐(……これはそうであっても、そうでなくても酷い話だな)

式「……」フー

式「……いいえ、そんな事は無かったわ。確かに少し痛いくらいだったけど、抱きしめられた時式はあなたの胸の中で笑っていたのよ」

黒桐「……」

式「……」

黒桐「そう……」

式「……」フフ

黒桐(……ふっ。全て僕の勝手な思い込みだったか。ふふふ……あはははは……)

黒桐(そりゃそうだよな……僕は式と取っ組み合いの喧嘩をしたら、ボロボロにされるくらいだもの……)シキガツヨイダケカナ

黒桐(そんな僕が渾身の力を込めて抱きしめた所で……式の意識を奪う事なんて出来るわけがない……か)シキガンジョウダモンナ…

式「―――話はそれで終わり?まだ私が誤解している件、って事の話はまだ聞いていないけど」

黒桐「……ああ。そうだね。それについては今話すよ」

黒桐(そうだな……片方は僕の勝手な思い込みだったと分かったけど、もう片方までそうとは限らない)

式「……?」

黒桐(つまり……式はあの僕の告白を馬鹿にされたと思っているんじゃないか、という事)カンジャッタカラナ

黒桐(……これは勘違いじゃない可能性の方が高い。だって式はさっきこう言った)

黒桐(『抱きしめられた時胸の中で笑っていた』、……それはつまり、あまりの馬鹿馬鹿しさぶ笑ってしまったという事じゃないか)

黒桐(……あの時は恥ずかしくて、何とか誤魔化す方法を考えていたけど。実際式に想いが伝わっていないのならそれは寂しい……)

黒桐(……僕って奴はとことん身勝手だな。冗談だと言いたかったのに、いざ冗談だと思われたらそれはそれでいやだなんて)クスクス

ちょっとくどい
エロはいらないがそろそろスレタイ回収上手くしないとテンポ悪い

黒桐「式」ジーッ

式「?」

黒桐「……」ジーッ

式「……」

黒桐「……」ジーッ

式「…なに?」

黒桐(酷い顔してるから見られたくない……か)スッ

式(……え?また……顔が近く……?)

黒桐(そんな事ないのにな。後で式に鏡見せてあげよう)ススス…

式(まだ……近づくの……?これ以上は……)

>>503
何か無駄に長くなるんですよね……急いでみます

黒桐「……」ピタッ

式「……」

黒桐「……式」

黒桐(今日……もう、何回式に呼びかけたかな。……覚えてないや)

黒桐「……君はさっき、今酷い顔してるから僕に顔を見せられないって、言ったよね」

式「……」

黒桐「……そんな事ないのになぁ。今だって君は十分綺麗だ。……まぁ式が見せたくなかったって言うんなら仕方ないけど」

式「……」

黒桐「でもさ。……やっぱり、人間って変わる事でしか生きていけない生き物だから。ずっと満足したまま生きていくのは無理だと思う」

黒桐「そりゃ……他人には、ずっと自分の綺麗な面だけ見ていて欲しいと思うのは当然の事だと思う。僕だってそうだよ」

黒桐(昔、式が夜に出歩かないかどうか両儀家を見張ってた時があった。後に学校で式がそれを知ってたって教えられた時は驚いたなぁ)

黒桐「……でもさ。僕はもう、式の良い所も悪い所も全部ひっくるめて背負っていくって決めたんだよ。だから、今更隠されてもなぁ…)

式「……」ゲシッ

黒桐「痛いっ!痛いっ!!ごめん、足踏まないでっ!!本当に痛い!そんな風に手が早いのも、君の短所の一つじゃないか…っ!」

式「……」ピタッ

黒桐(何か……今日は痛い目にあってばかりだ……。式と喧嘩したり、身体をつねられたり、足踏まれたり……)ヒーン

黒桐「……」フゥー

式「……」

黒桐「つまりね……僕たちは……まあ、結構長い付き合いだし。お互いの長所・短所をある程度知り合ってるわけじゃないか」

式「……」

黒桐「ほら、式だってさっき僕の事散々に言ったじゃないか。無駄話が好きだの、自分の事を棚に上げるだの、貧乏性だの」

式「それ、全部本当の事よ」

黒桐「……いや、まあそうだけどね。……あー、つまり。僕たちはこういう相手の欠点を知った上で。その上で好き合ってるんだろ」

式「……」

黒桐「……いや、好きあってるよね?僕の方だけって事はないよね?ねえ?」

式「……ふふ」

黒桐「……つまり、式は僕に酷い顔を見せてくれたってよかったんだよ。それも式だって受け入れるから」

式「……」

黒桐「……僕たちはもう一生付き合っていく予定だろ。式はどうか知らないけど、少なくとも僕はそのつもりだよ」

黒桐「……生涯付き合う相手に、見られたくない顔を一度も見せないでおくなんて出来るわけがない」

式「……」

式「……幹也。あなた中々本題に入らないけど、ちゃんと考えてから話してる?」

黒桐「……今折角いい事言ってるのに」ヒーン

黒桐「……結論を言うと。人間、たまには酷い顔したって良いんだ。それも含めての人間だから」

黒桐「……辛い事があるから楽しい事だってあるんだ。酷い顔しちゃった時は、後で楽しい事して良い顔になればいいさ」

式「……」

式「……長い前振りだったけど……もしかして、ただそれが言いたかっただけなの?」

黒桐「……そうだけど。ただそれだけって訳でもないさ」

黒桐「……僕はそう感じなかったけど、さっき式は自分が酷い顔してるって思ってたんだろ?」

式「……」

黒桐(溜めに溜めた前振りだったけど……やっとここらで使えそう)

黒桐「……僕は、君には笑顔でいてもらいたい。……そうだ、君僕に謝りたいとか何とかって言っていたけど」

式「……っ」

黒桐「もし、君が本当に僕にすまないと思っているのなら。出来るだけいつも楽しそうにしていてくれる事が一番良い形での謝罪かな」

式「……でも」

黒桐「……さっき、僕と話している時。君は笑っていてくれたじゃないか。ああいうのがいいな」

式「……」

式「……こう?」ニコ…

黒桐「そうそう、良い感じ。それのどこが酷い顔さ。ただの美人さんだ」ハハ

式「……」フフ…

黒桐(……自然に笑ってくれた。……よし、後は誤解を解くだけだ。けど……)

黒桐(……)

黒桐(何て切り出そうかなー……「噛みましたけどさっきの告白は本気です」とか……)

黒桐(格好が付かないって物じゃないぞ……やっぱり僕も男だし、少しは守りたい意地って物がある)

黒桐(……)

黒桐(よし、ここはまず動こう。口で説明するのは、こっちを終えてからで良い)

黒桐「……」ジーッ

式「……顔覗きこむの、それで何回目?飽きないの?」フフ

黒桐「ん……いや、その……やっぱり式の笑顔って何回見ても良いなぁ、って」

式「……そう」



黒桐(これは……この『式』の知る事じゃないけど、初めて会った時も式は僕に微笑みかけてくれた)

黒桐(……思えばあの時からずっと、僕は式の笑顔に魅了されてるのかもな……)

黒桐(……また関係ない事考えてる)

黒桐(まずは動くって決めたばかりじゃないか、よし……)

黒桐「……」ジーッッ

式「……」

黒桐「……」ジーッッ

式「……」

黒桐「……」ジーッッ

式「……」

式「……あのさ」

黒桐「なにかな」

式「……なんでどんどん顔が近づいてくるの?」

黒桐「君の顔をもっと近くで見たいから」

式「……。それと、本当にずっと見てて飽きないの?」

黒桐「君の笑顔が大好きだから、ずっと見ていたいと思う事はおかしいかな?」

黒桐(……我ながら臭い台詞だとは思う、実際恥ずかしさで死にそうだ。でも一応本心だしな……)

式「……///」プイッ

黒桐「視線が逸れた。―――よし、やるなら今か)

黒桐「―――式」

式「……今度はなに」

黒桐(式がこちらを仰ぎ見る……視線が合う……その瞬間に……)スススッ



『チュッ……』




式(……え?)

黒桐(ちょっと強引かな……)

黒桐「……」ギュウゥ……

式「……」

式(……え?これ、なに。なんで幹也の目が目の前に)

黒桐「……」ギュウゥ…

式「……」

式(それに……今……何か、唇に……温かい物が当たってる……?)

黒桐「……」ギュウゥ……

式「……」

式(背中……少し痛いな……。どうしたんだろう、こんなに力を入れて)

黒桐「……」ギュウゥ………

式「……」

式(……なんで幹也はさっきから一言も喋らないんだろう?)






キスシーンなんて書けない……だってオラは童貞だから……

黒桐「……」ギュウゥ……

式「……」フーム

式(……えーと、つまり)

黒桐「……」ギュウゥ…

式「……」

式(今、目の前に幹也の目があるのは、幹也の顔が近くにあるから。うん、これは間違いない)

黒桐「……」ギュウゥ……

式「……」

式(今、背中が痛いのは幹也が腕に力を込めているから。うん、ここまでは正しい)

黒桐「……」ギュウゥ………

式「……」

式(今、幹也が一言も喋らないのは……見えないけど、恐らく口が何かで塞がってるから……とか?)ウーン…

黒桐「……」ギュウゥ…………

式「……」

式(うーん…唇に何か温かい物が触れているけど……もしかして。そうか、これは幹也の唇か?うん、これじゃ喋れるわけがない)

黒桐「……」ギュウ…

式「……」

式(つまり……今私の唇が幹也の唇を塞いでるってわけか。なるほどなあ)

黒桐「……」ギュウ…

式「……」

式「……」

式「……」

式(……んんっ?)

黒桐「……」ギュウ…

式(え……?って事は……つまり、今……幹也の唇は、私の唇に触れているって事……?)

式(それはつまり、世間一般で言うところの……いわゆる……キ……)


黒桐「……」ップハァ

黒桐「……」ブチュッ


式(―――――――!!)

式「~~~ッ!~~~ッ!」ジタバタジタバタ

黒桐(……やっと気付いたか)ギュウゥッ

式「~~~ッ!!~~~ッ!!」ジタバタジタバタ

黒桐(……まさか、いくら不意打ちとは言えあそこまで上手くいくとは思わなかったな。式って勘鋭いし)ギュウウウ…

式「~~~ッ!!!~~~ッ!!!」ジタバタジタバタ

黒桐(いくら式でもこうやって本気で腕を押さえれば、まあそう易々とは逃げられないだろう)ギュウウウウ…

黒桐(僕の告白が冗談だという誤解を解きつつ式を慰める一石二鳥の大秘策……となれば)ギュウウウゥゥゥ

式「~~~ッ!!~~~ッ!!」ジタバタジタバタ

黒桐(これはもうキスしかないでしょうよ。うん、多分そう)ギュウウゥゥゥ

式「~~~ッ…!~~~ッ…!」ジタバタ…ジタバタ…

黒桐(……疲れてきたか。そりゃ完璧に唇塞いでるからなぁ。口からは息のしようがない)ギュウウウゥゥゥ

式「~~~ッ……!~~~ッ……!」ジタ…バタ…ジタ…バタ

黒桐(……鼻で息をすればいいのに。相当焦ってるのかなぁ……)クスクス

式「~~~ッ………、~~~ッ………」ビクッ…ビクッ…

黒桐(あぁ……ただでさえ呼吸できてないのに……無理に動こうとするから……)ギュウウウゥゥゥ

式「ッ……、ッ……」ビク…ビク…

黒桐(……そろそろ離してあげよう)ユル…

式(―――)フラァ…

黒桐「おっと……」ガシッ…

式「……っ、……っ」ハァーッ…ハァーッ…

黒桐「……やりすぎちゃったかな。とりあえず、ベッドまで運ぼう」ガシッ

式「……っ、……っ」ハァー…ハァー…

黒桐「……」

黒桐(あれ……?これってもしかして慰めるどころか逆効果……?)ンッ

5分後

式「……」ハァー… ハァー…

黒桐「……」

黒桐「式、つまりね」

式「ッ!」ビクッ

黒桐(……これはもう完璧に逆効果だったかな。おかしい……この策が浮かんだ時は完璧に思えたのに)ウーン

黒桐「……つまり」ススス…

式「……」ススス… 

黒桐(駄目だ……逃げられてる。……でも僕が何を思ってこんな行動に出たのかだけははっきりとさせておかないと)

黒桐「つまりー」ススス…

式「……」ススス… 

黒桐「……つまりだよ」ススス-…

式「……」ススス-… 

黒桐「……」

式「……」

黒桐(……)ガバァッ

式「!?」ビクンッ

黒桐「……ふぅ、何とか捕まえた」ガシィッ

式「ーーーッ」バタバタ

式「……ッ」バタバタ

黒桐「……」

式「……ッ」バタバタ

黒桐「式」ヒクイササヤキ

式「!」ビクッ

黒桐「……」

式「……」ピタッ

黒桐(よし……何とか止まってくれた。……じゃあ、式を正面に向けて……と)グルリ

式「……」

黒桐(……よし、言うか)

黒桐「式……その……あれはだね……」

式「……」

黒桐「あれは……」

式「……」

黒桐「―――あれは、本気だったんだ……」シンケンナメ

式「……」

黒桐「……」



黒桐(……あれ?何か抜けた?)コクビカシゲ

黒桐(……。ああ、そうか。気持ちが先走りすぎて「さっきの愛の告白は」と、主語を入れるの忘れちゃったんだ)

黒桐(でも、そんな事情を知らない今の式からすると……無理矢理キスをされて……酸欠一歩手前まで行かされて……)

黒桐(ベッドまで運ばれて……自分に無理矢理キスした男に抱きしめられて……いきなり「あれは本気だったんだ」と謎の告白をされる)

黒桐(……うん、訳がわからないな。もしかしたらさっきの強引なキスの事だと解釈しちゃうかも)

黒桐(それはまずい……)

黒桐「……えーと、式」

式「……」

黒桐「その……あのだね、今の『あれは本気だったんだ』って言うのは……」

式「……」ハァ…

黒桐「その……さっきの強引なキスの事じゃなくて……いや、キスも全く関係ないわけじゃないんだけど」シドロモドロ

式「……じゃあ、何の事なの。それと、さっきのあれはなに?」

黒桐「さっきのあれ……?ああ、キスの方の事か。あれはその……一種の愛情表現。と慰め。僕の言ってる方は違う」

式「……あんな強引な愛情表現があってたまるものですか。人の了承を得ず勝手に―――それも、初めてだったのに」

黒桐(僕も気持ち的にはあれが初めてだけど……前に先輩に口移しで薬飲まされたからな……)ウーン

黒桐「その事については謝るよ。恥ずかしくて、面と向き合った状態じゃとても出来そうじゃなかったんだ」

式「……事前に言ってくれれば、せめて心の準備くらいは出来たのに。本当、幹也って酷い男ね」

黒桐「……反省してます。まさか、あそこまで式が取り乱すなんて思わなかったから」

式「―――不意にキスされた事がないからそんな事が言えるのよ、幹也は」

黒桐「そりゃないよ。僕だって(気持ち的に)君が初めての人なんだから。でも、これ以上は言っても言い訳にしかならないかな……」

式「……」ツンッ

黒桐「僕が言う方のあれって言うのはね……。その、さっきの二回言った愛の言葉についてなんだ」

式(……あれ?よっぽどあのフレーズ気に入ったのかしら……)

黒桐(日本には三度目の正直って言葉もある事だし……今度こそ成功してくれよ)

黒桐「……」ガシッ

式「……」

黒桐「……」フゥー

式「……」

黒桐「……式。一度しか言わないから、ちゃんと聞いてくれよ」

式「……」ピクッ

黒桐(いやまあ、実際三回目なんだけど噛まなければ実質一回目と同じと言うか。頼むから噛むなよ噛むなよ……)

黒桐「―――式。僕は、君の事が大好きです。とても愛しています。これから先、君を―――一生許(はな)さない」



式「……」

黒桐「……」

式「……」

黒桐(……。ふっ……)

黒桐(二度ある事は……三度あったか……。しかも…何だこれ…)

黒桐(一生の部分から何とか噛まないように頑張ったら……許さないって……)

黒桐(式も……やっぱり呆れてるんじゃないか。そりゃ聞く度に内容が二転三転する愛の言葉なんてな……)

式「……」ガシッ

黒桐「……?(式…?)」

式「……まいったなぁ」ギュウゥ

式「最初に……聞いた時は……半分、冗談みたいな感じだったから」

黒桐「……」

式「……だから、我慢できたのにな」ギュウゥ

式「コクトー。もしかして、本気で私を泣かせに来てる?」

黒桐「……僕は女の子の泣き顔は苦手だよ、三年前のあの日からずっと」

式「そっか……なら、私も泣かない方が良いのかな?」ギュウゥ

黒桐「僕は泣いてほしくないかな。女の子の泣き顔は苦手だけど……特に、君の泣き顔だけは大の苦手なんだ。出来れば絶対に見たくない」

式「……酷い奴だね、コクトーは。人を泣けるようにしたのはお前なのに」

黒桐「そうだね。でもさ、やっぱり……人間にはどうしても泣きたくなる時ってものもあるんだろうね」

式「……」

黒桐「だからさ。式がもし、泣く事を……悪い事とは言わないけど、まああまり良い事じゃないとでも思っているのなら」

式「……」

黒桐「僕の胸で泣いていいよ……式の罰は一緒に背負うって言ったし、泣き顔だって式の一部だってちゃんと受け入れるから」

式「……なんだそりゃ。お前がいなければ、式は……―――最初から、泣かなくても良かったのに」

黒桐「だから、その責任を取らせてくれ。―――それに、僕だって男なんだから、好きな女の子に胸貸したくなる時くらいあるんだよ」

式「ああ、そう。……お前って、本当に自分勝手。自分が泣かしておいて、その上で僕の胸で泣けだなんて」

黒桐「……そんな事、式は昔から知っていたはずだろう?もう、長い付き合いになるんだから」

式「……知るもんか。勝手なコクトーなんて、嫌い」ギュウゥ…

黒桐「……」

式「……」



式「……ッ」ギュウゥッ……

黒桐「……」ナデナデ

黒桐「……」ナデナデ

式「……ッ、……ッ」

黒桐(……僕は)

黒桐(僕は……誰かのために泣いた経験がない。泣く事は特別な事だと思っていたから、物心付いた時から泣かないように生きてきた)

黒桐(……それは式が相手だって例外じゃない。彼女が車に撥ねられて……壊れた人形のようになった時だって)

黒桐(……彼女が二年振りに昏睡から目を覚まして、僕の名前を呼んでくれた時だって)

黒桐(白純先輩に式を殺されたと思って……でも本当は生きていた時だって)

黒桐(瞳は涙で滲んだ。眼が潤んで前が見えなくなった事もある。でも、泣けた事は一度だってない)

黒桐〈単純に……泣くよりは、笑った方が良いんじゃないかって考えてる事もあるんだろう)

式「……ッ、……ッ」

黒桐(式は……泣けるんだな。誰かの事を思って泣ける子なんだ)

黒桐(愛しい人のために一度も泣けなかった僕と、こうやって誰かのために泣ける式)

黒桐〈式は昔よく自分を異常者だって言ってたけど……本当に異常なのは、どっちなのかな)

式「……」

黒桐「……泣き止んだ?」

式「……」コク

黒桐「そう……」

式「……」

黒桐「……」

黒桐〈さあて……多分もう言いたい事は全部伝えちゃったし……これからどうしよう)

黒桐(……)

黒桐〈何か……大切な事を忘れているような……)

黒桐(!)

黒桐(そうだよ!あれだあれ!あれだよ!!)

黒桐(ったく、何でこんな大切な事忘れてたかなー……)

黒桐(……胸の中に式がやって来た事に浮かれすぎてたか……)

黒桐(そもそも……全てはこれから始まったのにな……)

黒桐「……ねえ式」

式「……うん」

黒桐「僕さ……君に、どうしても伝えないといけない事が一つあるんだ」

式「……?」

黒桐「それを告げる前に……ちょっと式、自分の胸に手を置いて今日一日の言動を振り返ってごらん」

式「……?」

黒桐「……」ウォッホン!

式「……」ムー…

黒桐「……」

式「……」ウーン…

黒桐「……分からない?僕はさっきからずっとこの事だけ考えてたんだ……」

黒桐(君を胸の中に抱きいれた瞬間は……そんな事は頭の中から吹っ飛んでたけどね)

式「……」ムー

式(今日一日……今日……今日か……)

式(……そう言えば私、今日はどうして幹也の家に泊まってるんだろう。確かに……何か大切な事を忘れているような?)

黒桐「後三秒以内に答えないと忘れてるとみなすよ。1……2……」

式(今日……今日……。………あ、もしかして。幹也が言いたいのは)

黒桐「……。時間切れだ。行くよ」

式「! 私たちの初 『僕の最初の告白について』 ん……」

式「……」

黒桐「……やれやれ、すっかり忘れてるみたいだな」

式「……」

式(……え?)

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