客「ボクがよく行くパン屋さんは、少し変わっている」 (123)

客(ボクがよく行くパン屋さんは、少し変わっている)

客(なにがどう変わっているのかというと──)

客(……説明するよりは、実際にパン屋さんを見た方が早いだろう)

客(これからボクは、そのパン屋さんに行くのだが)

客(多分、その変わっている部分を見られるはずだ)

客(なぜなら、ボクがいる時は大抵変なことが起こるからだ)

客(そうこうしているうちに、パン屋に着いたぞ)

客(よし、入ろう)

第一話『フライパン』



─ パン屋 ─

ガラッ……!

客「こんにちは」

店主「やぁ、いらっしゃい!」

店主「いつも来てくれて、ありがとう!」

客「ハハハ。ここのパンは美味しいので、つい来てしまいますよ」

客(アンパン、食パン、カレーパン、ジャムパン、バターパン、チーズパン……)

客(この店にはどんなパンだって揃っている)

客(ボクはトングとトレイを持って、店内をうろうろしてる時がたまらなく好きだ)

客(もちろん、トングをカチカチするのも忘れない)カチカチ…

すると──

ガラッ……!

マッチョ「…………」ヌゥ…

客(うわ、デカイ人だな)

店主「いらっしゃい!」

マッチョ「お願いだ、フライパンを売ってくれ!」

客「!?」

店主「フライパンか……ほらよ!」サッ

客「!?」

マッチョ「金は払ったし、ここで食っていいか?」

客「!?」

店主「食いしん坊なヤツだな……もちろんいいぞ!」

客「!?」

マッチョ「いただきます!」ガブッ

バリバリ……! ムシャムシャ……!

客「!?」

店主「おお~、いい食いっぷりだねぇ!」

客「!?」

マッチョ「いやぁ~、うまかったぁ!」

マッチョ「ごちそうさま!」ズンズン…

客(出て行った……)

客「あ、あの!」

店主「なんだい?」

客「ボクの目がおかしくなきゃ、今の人──フライパンを食べましたよね!?」

客「いったい、なにがどうなってるんですか!?」

店主「ハハハッ、驚かせて悪かったな!」

店主「あれは食べられるフライパンさ!」

店主「黒パン作る要領で、フライパンの形をしたパンを作ったんだよ!」

客「あぁ、なるほど……」

店主「ちなみに、こっちが本物のフライパンさ」

客「あれ……。でも、このフライパン……柔らかいですよ?」フカフカ…

店主「えっ?」

店主「ホントだ……」フカフカ…

客「──ってことは、あのお客さん……」

客「本物のフライパンを食べちゃったってことですよね……?」

店主「そういうことだな……こりゃ参った!」

店主「ホームセンターに行って、新しいフライパン買ってこなきゃ!」

客「…………」

客(ボクがこの店は変わってるといった理由を、お分かりいただけただろうか)





                             ─ 第一話 おわり ─

第二話『食パン』



─ パン屋 ─

客(今日はオーソドックスに、食パンにでもしようかな……)カチカチ…

ガラッ……!

女子高生「こんにちは!」

店主「いらっしゃい!」

女子高生「あのぉ……ステキな男の子と出会えるような食パンが欲しいの!」

店主「フフフ、食パンをくわえて角でぶつかろうって魂胆だな? いいだろう!」

店主「ジャジャーン!」

店主「この食パンをくわえて朝走れば、ステキな男と出会えるかもしれないぜ!」

女子高生「ありがとう!」

女子高生「ちなみに食パンには、なにを塗ってもいいの?」

店主「基本的になんでもオーケーだが……イチゴジャムだけはやめときな」

女子高生「えっ、どうして?」

店主「ぶつかった時、血に見えちまうかもしれないだろ?」

女子高生「分かったわ!」

客(朝、食パンをくわえた女の子が、曲がり角で男と激突……古典的な少女漫画だ)

客(もっとも実際のところ、古い少女漫画にそんなシーンはない、らしいけど)

翌朝──

─ 通学路 ─

女子高生「パンをくわえて、と」モグッ…

女子高生「遅刻、遅刻!」タタタッ

女子高生(お、あの曲がり角は出会いの予感がするわ!)タタタッ

ドンッ!!!

女子高生「いたた……っ!」ドサッ

女子高生(こ、この感触……この弾力、この圧力! まちがいないわ!)

女子高生「あ、あの……っ!」

女子高生「私と突き合って下さいっ! 全力でっ!」

マッチョ「いいぜ……久々に骨のありそうな相手だ。かかってきやがれ!」

女子高生(この平和な現代社会で、やっと出会えた──)ザッ

マッチョ(好敵手ッ!)ザッ



ズドンッ……!





                             ─ 第二話 おわり ─

第三話『アンパン』



─ パン屋 ─

客(頭脳パンか、こんなんで本当に頭がよくなるのかな?)カチカチ…

ガラッ……

教授「…………」スッ…

店主「いらっしゃい!」

客(──なんて思ってたら、頭がよさそうな人がきた!)

教授「店主君。少し話したいことがあるのだが、いいかね?」

店主「どうぞ!」

教授「アンパンのあんこには“つぶあん”と“こしあん”があるが」

教授「この世の物質は、原子という小さな粒子、粒でできておる」

教授「もちろん、あんこも例外ではない。ゆえに“こしあん”も……」

教授「“つぶあん”としてしまっても、間違いとはいえないのではなかろうか?」

店主「たしかに!」

店主「しかし、全てを“つぶあん”としてしまうと──」

店主「色々と不便ですな!」

教授「たしかに!」

店主&教授「…………」ニヤッ…

教授「では、メロンパンをいただこうか」

店主「毎度あり!」

客(終わりかよ!)





                             ─ 第三話 おわり ─

第四話『海パン』



─ パン屋 ─

ミ~ン……! ミ~ン……!

客(暑いなぁ……)

客(こんな日は、あっさりしたパンでも──ん?)カチカチ…

ガラッ……!

茶髪「へへへ……」

店主「いらっしゃい!」

茶髪「オレ、今度海行くんだ! 海パン売ってくれよ!」

客(なんでスポーツ用品店に行かないんだろう……)

茶髪「しかも、とびっきりモテる奴をな!」

店主「だったら……これだろ!」パサッ

茶髪「うはっ、スッゲェ~! チョーかっこいいじゃん!」

店主「だろ!? これなら、浜辺でモテモテだ!」

茶髪「サンキュー、これ買わせてもらうぜ!」

店主「頑張れよ!」

客(普段の洋服ならまだしも)

客(海パンでモテるモテないが左右されるとは、とても思えないけど……)

三日後──

─ 浜辺 ─

ワイワイ…… ガヤガヤ……

茶髪(へへっ、パン屋で買った海パンをビシッとはいて)ビシッ

茶髪(砂浜を歩くとするぜ!)ザクッザクッ

「お、あの海パンイケてね!?」 「かっこいい!」 「すっごぉ~い!」

茶髪(さすがだ……)

茶髪(みんなの視線がまぶしいぜ!)

茶髪(こりゃあ……いい女に出会える予感がするぜ!)

水着女「すご~い、この海パン!」

金髪女「キャ~! もっと近くで見せて~!」

日焼け女「こんなカッコイイ海パン初めて見た!」

茶髪(オイオイ、マジかよ……女がどんどん寄ってきやがる!)

ビキニ女「その海パンちょうだい!」ガシッ

茶髪「え」

「ダメよ!」 「私がもらうっての!」 「この海パンはアタシのものよ!」

茶髪「ちょ、ちょっと待っ──」

ワァァァァァ……!

茶髪「やっ……」

茶髪「やめてくれぇぇぇぇぇ!」

茶髪「…………」ボロ…

茶髪「…………」ピクピク…

茶髪(大勢の女にムリヤリ海パンを脱がされ、全裸で砂浜に一人放置されるなんて)

茶髪(無様すぎる……情けなさすぎる……!)グスッ…

茶髪「うっ……うっ……!」シクシク…

眼鏡女「あの……」

茶髪「なんだよ、アンタ!?」

茶髪「オレ、今全裸なんだ! 近づかないでくれ! 放っておいてくれ!」

眼鏡女「このタオル……よかったら、使って下さい」スッ…

茶髪「!」

眼鏡女「これを腰に巻けば……パンツの代わりになると思いますから」

茶髪「あ……」

茶髪「ありがとう……!」



これが、運命の出会いだった。





                             ─ 第四話 おわり ─

第五話『残パン』



─ パン屋 ─

客(お、ツイストパンが一個だけ残ってる)カチカチ…

客(残り物には福があるっていうからなぁ……今日はこれにするか)

ガラッ……!

客「!」

店主「いらっしゃい!」

男A「残パンを売ってくれ」

男B「残パンを売ってくれ」

客(残飯ならぬ、残パン!?)

客(二人の客が、同時に同じものを注文した! いったいどうなる!?)

店主「ハイ、残パン!」スッ

店主「10円いただくよ!」

男A「ありがとう!」チャリン…

店主「ハイ、残パン!」スッ

店主「1万円いただくよ!」

男B「ありがとう!」パサッ…

客「!?」

客(え、え、10円と……1万円!?)

客(二人とも、満足げに帰っていったが……どういうことだ?)

客「店主さん、聞きたいことがあるんですが」

店主「なんだい?」

客「さっき、二人とも同じものを注文したのに、なんで値段が全くちがったんですか?」

店主「ああ、あれかい!」

店主「片方の人はパンの耳が好きでね」

店主「ここで時々、ウチで切って残っちまったパンの耳を買っていくのさ」

客「そういうことですか。もう片方の人は?」

店主「あの人はある有名女優のマニアなんだ」

店主「で、その女優が食べ残したパンを買っていったってわけだ!」

客「どうりで値段が千倍もちがうわけだ……」

客(女優の残パンをどうやって入手したか気になるが、聞かないでおこう)





                             ─ 第五話 おわり ─

第六話『腹パン』



客(あ~お腹空いた。今日はどのパンにしよっかな……)カチカチ…

ガラッ……!

父「こんにちは」

娘「こんにちは~!」

店主「いらっしゃい!」

父「さっそくだが、ワシと娘の腹部にパンチ──いわゆる“腹パン”をしてほしい!」

店主「1000円いただきます!」

客(ええええええええええっ!?)

客(どういうことだ? マゾなのか、この親子は!?)

店主「んじゃ、まず娘さんから──」

店主「むんっ!」シュッ

ドズゥッ……!

娘「ううっ……!」

娘「治ったわ! あんなに苦しかった胃もたれがすっかり治ったわ!」パァァ…

客(えぇ~~~~~!? 店主さんって、こんなこともできるのか!)

店主「次はお父さん」

店主「どりゃっ!」シュッ

ドズゥッ……!

父「がはっ……!」

父「いやぁ~、すっかり重度の胃潰瘍が治ったよ!」パァァ…

客(す、すごいな!)

客「いやぁ~、さっきのすごかったですね!」

店主「ん、そうかい?」

客「どんな病気でも治せるんですか?」

店主「お腹に関連する病気ならな!」

客「あ、あの……じゃあボクにもやってくれませんか?」

店主「う~ん、やめといた方がいいと思うぞ?」

客「お願いします! 1000円払いますから!」パサッ…

店主「そこまでいわれちゃ断る理由もないな」

店主「とうっ!」シュッ

ドズゥッ……!

客「おぐぅっ!」

客「い、痛いっ……!」

客「痛いんですけど!?」ゲホゲホッ

店主「あ~……やっぱりな」

店主「健康な人が俺の腹パン喰らったら、ただ痛いだけなんだよ」

客「な、なるほど……」

客(1000円払って、ただ痛い目にあうだけとは……いたた……)





                             ─ 第六話 おわり ─

第七話『短パン』



─ パン屋 ─

客(今日はどのパンにしようかな……)カチカチ…

客(たまにはフランスパンにするか!)

客(ちょっと歯に悪そうな、カリッカリッに固いのがボクの好みなんだよな~)

客「──ん?」

客「店主さん、このフランスパンだけ……他のに比べてずいぶん短いですね」

店主「ああ、それは短パンさ」





                             ─ 第七話 おわり ─

第八話『順風満パン』



─ パン屋 ─

客(ハァ~……最近ツイてないな)

客(こんな日は、あまぁ~いクリームパンでも……)カチカチ…

ガラッ……!

オタク「あ、あのっ……!」

客(うおっ!?)

店主「いらっしゃい!」

オタク「順風満帆になれるパンを売ってほしいんだ!」

店主「フフフ、いいだろう!」

店主「名づけて順風満パン、これを食えば順風満帆だ!」

オタク「ありがとう!」

オタク「さっそく家に帰って、食べさせてもらうよ!」

客(順風満パン……そういうのもあるのか!)

客(ホントに色んなパンがあるんだな、この店って)

─ オタクの自宅 ─

オタク(ウフフ……順風満パンを食べたぞ!)モグモグ…

オタク(これでボクは望み通り、ネットゲームの世界で王者になれるはず!)

オタク(──ん?)

オタク(あれ!? なんかパソコンの調子がおかしいぞ!?)

オタク(これじゃネットができない!)

オタク(ちょっと待ってくれ!)

オタク(これのどこが順風満帆なんだァ~~~~~!?)

─ パン屋 ─

オタク「ひどいじゃないか!」

オタク「あれからというもの、パソコンの腕が認められて」

オタク「大手企業で働かなきゃならなくなったし!」

オタク「二次元しか興味ないのに三次元の彼女ができちゃったし!」

オタク「ネトゲのお金にしか興味がないのに、現実のお金ばかり増えるし!」

オタク「最近は忙しくて満足にゲームもやれてないよ!」

オタク「元に戻してくれぇ~」シクシク…

店主「悪いな、一度食っちまったら無理なんだ」

オタク「そんなぁ~……」シクシク…

客(なにが幸せか不幸だなんて、分からないもんだなぁ)

客(やっぱり、自分の力で順風満帆になるのが一番だってことか)





                             ─ 第八話 おわり ─

第九話『ジーパン』



─ パン屋 ─

客(最近はオシャレなパンや菓子が増えたよな~)

客(このカヌレってやつ、買ってみるか)カチカチ…

ガラッ……!

若者「ちわっす! オッサン、ジーパンくれよ! ワイルドなボロボロなヤツ!」

店主「いいぞ! ただし、今はジーンズって呼ぶんだぞ!」

若者「え、マジ!?」

客(今はデニムって呼ぶらしいけどな……。ボクも詳しくはないけど)

─ 若者の自宅 ─

若者「なんでぇ! ちっともボロボロじゃねえじゃん!」

若者「まぁいいや。だったら自分でボロボロに──」スッ…

バキィッ!

若者「ぶべっ!? ──な、なにしやがる!?」

ジーパン「愚か者がっ!」ヒラヒラ…

ジーパン「ワシは人間にダメージを与えるのが仕事じゃ」

ジーパン「ワシをダメージジーンズにしたくば……ワシに勝つことじゃな、小僧ッ!」

若者「…………!」

若者「おもしれぇっ、絶対勝ってやるッ!」シュッ

ジーパン「ほう、なかなか見所がありそうな若造じゃ!」ブオンッ

ドゴォッ! バキィッ! ガッ! ゴガッ! バシィッ!

同時刻──

─ トレーニングジム ─

マッチョ「!」ピクッ

女子高生「!」ピクッ

マッチョ「お前も感じたか!?」

女子高生「ええ、感じたわ……」

女子高生「近い将来……私たちの新たな好敵手が生まれるという予兆を……!」

マッチョ「フハハ、実に楽しみだな!」





                             ─ 第九話 おわり ─

第十話『ルパン』



─ パン屋 ─

客(この店には色んなパンがあるように──)

客(この店って色んな客が来るから、店主さんも大変だろうなぁ)カチカチ…

客「店主さん」

店主「ん、なんだい?」

客「この店には色んなお客が来ますけど……一番大変だったのはどんなお客ですか?」

店主「う~ん、一番大変なのはまちがいなくあの件だろうな」

店主「ただし……俺が大変ってわけじゃないんだけどな!」

客「へ?」

~ 回想 ~

店主「いらっしゃい!」

少女「おじちゃん、怪盗ルパンください」

店主「ルパン? オッケーだ! ルパン、こっちに来てくれ!」

ルパン「吾輩になにか用かね、可愛いお嬢さん?」ザッ…

少女「え~とね、え~とね……」

少女「日本中の、貸したまま持っていかれちゃったゲームやマンガ、を」

少女「全部、盗み返して持ち主に返してあげて欲しいの!」

ルパン「!」

少女「ムリ?」

ルパン「吾輩に盗めぬものなどない!」

ルパン「よかろう……やってみせよう!」

少女「ありがとう!」

~ 現在 ~

店主「…………」

客「…………」

店主「あれから数年になるが──」

店主「ルパンは今も、借りパクされたゲームや漫画を盗み返して持ち主に返すために」

店主「日本中を飛び回ってるはずだ……」

客「たしかに、一番大変ですね……」

客(ルパンすら苦労するほど、借りパクされてるゲームや漫画は多いってことか……)





                             ─ 第十話 おわり ─

第十一話『乾パン』



─ パン屋 ─

客(地震や台風……災害って怖いよな)カチカチ…

客(もし大災害に見舞われたら、こうしてパンを選ぶこともできなくなるんだろうな)

ガラッ……!

女「こんにちは」

店主「いらっしゃい!」

女「乾パンをくださいな。非常食として備蓄しとこうと思って」

店主「毎度あり! なら、とっておきの乾パンを紹介するよ!」

─ 女の自宅 ─

女「へぇ、けっこうおいしそうな乾パンね」

乾パン「よう!」

女「へ!?」

乾パン「ふむふむ」キョロキョロ…

乾パン「アンタの部屋、地震対策がなってねぇな……」

女「な、なんで乾パンがしゃべるのよ!?」

乾パン「オレは被災した時だけじゃなく、防災にも役立つ非常食なんだ!」

乾パン「ビシビシ鍛えてやっから、覚悟しろい!」

女「そ、そんなぁ……」

数時間後──

女「家具は固定したし、家具の上に割れやすいものを置かないようにしたし」

女「食器棚には皿が飛び出してこないよう止め具をつけたし」

女「タンスも重いものを下に収納して倒れにくくしたわ」

女「これで大丈夫かしら……?」

乾パン「おう、ちったぁマシになったな!」

乾パン「んじゃ、オレは眠りにつかせてもらうぜい!」

乾パン「なにかあったら、オレを食ってくれよな!」

女(ふう、やっと静かになった……)

女(でも、対策したことで少し気が楽になったわね……)

女(これでいい男に出会えれば完璧だわ、なぁ~んてね)

─ 会社 ─

イケメン「やぁ、女さん」

女「あら、イケメンさん」

イケメン「最近の君は、なんだか自信に満ちあふれてて、魅力的だね」

女「あらそう?」

女(これも地震対策をしたおかげかしら……)

イケメン「あのさ……」

イケメン「よかったら今度の休日、一緒にデートでもどうだい?」

女「え!?」

女(イケメンさんが私を誘ってくれるだなんて……ビックリだわ)

女「ええ、喜んで!」

─ 女の自宅 ─

女「フンフ~ン」

乾パン「そんなにめかしこんで、どうしたい?」

女「今日は、イケメンさんとデートなの!」

乾パン「…………」

乾パン「オイ、そいつと付き合うのはやめときな」

女「なんで?」

乾パン「オレの勘だ」

女「なにいってんの? バッカじゃないの!?」

女「アンタは災害のための存在であって、私のデートには関係ないでしょ!」

女「引っ込んでてよ!」

乾パン「…………」

─ 街 ─

イケメン「次はあの店に寄ってみようか」スタスタ…

女「そうね!」スタスタ…

女(イケメンさんって、顔はいいけどあまり浮いた話を聞かないわよね)

女(それに、微妙にこわばった顔をしているし……)

女(せっかくのデートなのに、私とも微妙に距離を置いている……)

女(乾パンの勘を信じるわけじゃないけど、なにかあるのかもしれないわね)

イケメン「ん、どうしたんだい?」

女「い、いえ、何でもないわ!」

─ 夜道 ─

イケメン「今日は楽しかったね」

女「ホントね。映画も面白かったし、お食事もおいしかったし……」

イケメン「…………」

イケメン「ところでボクには、秘密があるんだ」

イケメン「こんなところで悪いけど、打ち明けていいかな?」

女「かまわないけど……」

女(なにかしら……こんな誰もいないところで……?)

イケメン「実は──」

イケメン「ボ、ボク、実は……」

イケメン「少しでも気が緩むと、貧乏ゆすりが出てきて」カタカタカタカタ…

女「へ!?」

イケメン「しかも、静電気がすごくって」パチパチ…

イケメン「多少化粧してるけど、ちょっとしたことで顔が真っ赤になって」カァァ…

イケメン「香水でごまかしてるけど、加齢臭みたいな体臭がするんだ!」ムワァ…

イケメン「こんなボクでよかったら……付き合って下さい!」バッ

女「あらまぁ……」

女(まさに、地震、雷、火事、親父だわ)

女(どうりで、顔がいいわりにあまりモテなかったわけね)

イケメン(やっぱり……ダメか……! ダメに決まってるよな……!)

女「──そうだわ!」

女「あなたにピッタリな人……いえ、ピッタリなパンを紹介してあげるわ!」

イケメン「え?」

─ 女の自宅 ─

乾パン「おめえがイケメンか!? オレの主人が世話になったな!」

イケメン「は、はい」

イケメン(乾パンがしゃべった!?)

乾パン「ふむふむ」ジロジロ…

乾パン「地震、雷、火事、親父!」

乾パン「負の体質の四重苦……これもまた災害にはちがいねえ!」

乾パン「だが見たところ、どれもオレが指導すれば改善できる体質ばかりだ!」

乾パン「ビシビシ鍛えてやっから、覚悟しろよ!」

イケメン「はいっ!」

女「頑張って!」

乾パン(オレの嫌な予感は、コイツのミニ災害みたいな体質に反応してたんだな)

乾パン(やれやれ、とんだ取り越し苦労だったってわけかい)

─ 街 ─

イケメン「驚いたよ!」

イケメン「たった一ヶ月足らずで」

イケメン「貧乏ゆすりも静電気もあがり症も体臭も、すっかり改善されたよ!」

イケメン「君とあの乾パン師匠のおかげだよ! 本当にありがとう!」

女「すごいでしょ! なんたって──」



─ 女の自宅 ─

乾パン「このオレは、災害の時のための非常食だからな!」





                            ─ 第十一話 おわり ─

最終話『パン』



─ パン屋 ─

ガラッ……!

客「こんにちは」

店主「やぁ、いらっしゃい!」

店主「いつも来てくれて、ありがとう!」

客「ハハハ。ここのパンは美味しいので、つい来てしまいますよ」

客(今は他にお客さんはいないみたいだな)

客(それにしても、このパン屋さんは本当に変わってる)

客(店主さんも……売っているパンも……やってくるお客も)

客(なにも変わってない──つまり平凡なのはボクぐらいのもんだろうな)

客(たまには面白い注文をしてみたいけど、やっぱりボクは普通のままでいいや)

店主「しっかしお客さん、ほとんど毎日のようにウチでパンを買ってくれるけど」

店主「生粋のパン党なんだねえ~」

店主「茶碗や炊飯器なんて、お客さんには縁のないものだろう?」

客「え?」

客「なにいってるんですか? ボクはバリバリのごはん党ですけど」

店主「え?」

客「え?」

店主「あ……なるほど!」

店主「パンはあくまでオヤツで、三食とはまた別ってことか!」

客「いえ、ちがいますけど」

店主「……え?」

客「ボク──」

客「熱々のご飯にこの店で買ったパンを乗せて食べるのが、大好きなんですよぉ~!」

店主「…………」

店主(ウチによく来るこのお客さんは、少し変わってるなぁ……)





                             ─ 最終話 おわり ─

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年02月27日 (木) 17:39:30   ID: dYYcBykF

一部作者の実体験が入ってね?

2 :  SS好きの774さん   2014年08月15日 (金) 00:10:48   ID: msQkqfiP

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