ほむら「魔女使い」 (774)

まどマギに「ペルソナ3」「ペルソナ4」の要素と設定の一部を混ぜ込んだものです
新編ネタバレはありません
百合要素あり

次から本文

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1385459293

――魔女

それは、絶望を撒き散らす存在

私たち魔法少女が己の為に倒すべき敵

そして…魔法少女の成れの果ての姿

ソウルジェムが濁りきったとき、私たちはその呪われた姿へと変貌する

全ての魔法少女はいずれ魔女になってしまう。……ソウルジェムを砕かぬ限り

だが、ソウルジェムを砕かれた者は…その場で命を落とす。魔女化か、死か……

私たちの運命は、その2つしかなかった

……なかったはずだった

ほむら「……」

ほむら「……今回もまた…しくじったわね……」

また、彼女を救えなかった。守れなかった

私がワルプルギスの夜に苦戦してるところを、アイツが見逃すはずがない

まどかを契約させて、ワルプルギスの夜を倒させ、彼女を魔女へと変貌させる

魔力を使い果たし、ソウルジェムはグリーフシードへ…まどかは魔女へと生まれ変わる

そして今、まどかの成れの果て…救済の魔女が、天高く聳え立っていた

魔女「……」

QB「まどかが魔女になってくれたおかげで、大きなエネルギーを得ることができたよ」

ほむら「……ごめんなさい、まどか」

QB「あの魔女をどうにかするのは君たちの仕事さ。ほむら、君は戦わないのかい?」

ほむら「えぇ。私のすることではないわ」

QB「でも君は魔法少女だろう?」

ほむら「私の戦場はここじゃない」

盾の砂時計を逆転させ、時間を巻き戻す

私の意識は、1ヶ月前のあの日へと遡って行った

ほむら「……これでもう、何度目かしらね」

ほむら「……何度目だろうが、関係ない。私はまどかを救う。ただ、それだけよ」

ほむら「……戻りましょう、あの日へ」

時間遡行魔法を行使し、1ヶ月前へと向かって歩き出す

その途中でふと、まどかとの話を思い返す

この時間のまどかとの、最後の会話を

――――――

まどか「ほむら…ちゃん……」

ほむら「まどか……!どうして…どうして契約なんて……!」

まどか「わたしだって戦えるのに…黙って見てるだけ、なんて…できないから……」

ほむら「まどか…私は……!」

まどか「約束…破っちゃって、ごめん…ね……」

ほむら「まどか…もう少しだけ頑張って、今グリーフシードを探して……」

まどか「……ううん、いいの…ほむらちゃん、次の…時間に行って…そして……」

まどか「わたしを…みんなを、助けてあげて……」

ほむら「みんな…を……?」

まどか「わたしだけで…いい、なんて…きっと嘘だと思ったから…だから……」

ほむら「……わかった。何とかしてみる」

まどか「……ありがとう、ほむらちゃん……」

まどか「……もう、ソウルジェムも…限界みたい」

ほむら「……あなたの手は汚させない。私が……」

まどか「ねぇ、ほむらちゃん…わたし、思うんだ……」

まどか「魔女っていうのは…もうひとりの自分なんじゃないか、って……」

ほむら「まどか……?」

まどか「ソウルジェムが…本体で、それがグリーフシードになるって、聞いたとき…そう、思ったの……」

まどか「自分自身が…ソウルジェムが耐えられなくなったとき…もうひとりの自分が、わたしを殺して…姿を現す……」

ほむら「もうひとりの…自分……」

まどか「その、もうひとりの自分が…力を、貸してくれたら…よかったのにな……」

ほむら「だけど、それは……」

まどか「うん…叶うわけないって、わかってる…でも……」

まどか「ほむらちゃんの中の…もうひとりのほむらちゃんが、力を貸してくれるようにって…わたし、祈ってるから……」

ほむら「まどか……!」

まどか「……そろそろ、お別れ、だね…ほむらちゃん、早く…行って……!」

ほむら「だけど、ソウルジェムは……!」

まどか「わたしのことは…いいから……!お願い、行って……!」

ほむら「そんな……」

まどか「……ほむら、ちゃん…また、1ヶ月前で…待ってるから……」

まどか「また、ね……」

――――――

ほむら「……」

その言葉の直後、まどかは魔女へと姿を変えていった

しかし、まどかの言っていた魔女はもうひとりの自分だという話

姿形はともかく、その性質を考えるとあながち間違ってもいないように思える

美樹さやかの魔女を例に挙げれば、想い人に自分を見てほしい、愛してほしい…そんな思いで溢れている

もし、本当に魔女がもうひとりの自分だとしても…それを意のままに操るなどということはできないだろう

もしかしたら、契約の願いによってはそういった能力もあるのかもしれないが…それは特殊な例だ

だけど、まどかが私を思って祈ってくれたのだ。その命が燃え尽きる瞬間に

私の中にも、もうひとりの自分がいるのなら

私に、力を……。まどかを守れるだけの力を貸して……

ほむら「……何をやっているのかしら。こんなこと、したところで……」

ほむら「それよりも、早く行きましょう……」

そう思い、いつの間にやら止まっていた足を動かす

だが、どこまで行っても一向に終わる気配がない

いつもならもう抜けていてもいい頃のはずだ

ほむら「どうなってるの……?何かの不具合かしら……」

ほむら「……?あれは…何……?」

私の視線の先に、誰かが立っていた。人ではない何かが

この空間に私以外の何かが存在するなどというのは初めてだった

私は警戒しながらその何かに近づく。そして……

ほむら「こいつ…魔女……?」

その何かの側まで近づいて、それが魔女であることに気が付く

魔女は黒い三角帽子のようなものを被り、黒いマントを羽織っていた

どうしてここに魔女が、と思っていると

その魔女は私に語りかけた

魔女「……よく来たわね」

ほむら「……!魔女が喋った……?」

魔女「確かに私は魔女。……だけど、あなたの知る魔女とは少し違う魔女」

ほむら「……何だかわからないけど、魔女というのなら……」

魔女「やめなさい…私に戦う気はないわ」

ほむら「……私も武器を持ってなかったわね。魔女を見逃すつもりじゃないけど…私は行かせてもらうわ」

その魔女を避けて通ろうとすると、魔女は私の前に立ち塞がる

私は魔女にその行動について問いただした

ほむら「……まだ私に何か用?」

魔女「……あなた、本当に彼女を…まどかを救うつもり?」

ほむら「……!どうしてまどかを……!」

魔女「あなた1人で彼女を救えるというの?」

ほむら「……確かに私1人では辛いものがあるのは事実。だけど、他の魔法少女の協力を取り付ければ……」

魔女「あなたにそれができるの?険悪にさせるだけのあなたが」

ほむら「それは……」

魔女「利用できるだけ利用してやった方が楽よ?まどかを救えるのならそれでいいじゃない」

ほむら「……まどかに頼まれたもの。みんなを助けてあげて、と」

ほむら「まどかがそう願ったのなら、私はその願いの為に戦う。それだけよ」

魔女「……とても辛い戦いになるわよ?まどか1人でさえ救えずにいるのだから」

ほむら「わかっているわ」

魔女「……あなたの覚悟、聞かせて頂戴」

魔女「まどかを守れるなら…その命、賭けられる?」

ほむら「まどかを救えるのなら…安いものよ」

魔女「まどかを救えるなら…自分はどうなろうとも構わない?」

ほむら「元より、人であることを捨てた身体よ。今更どうなろうと構わない」

魔女「……何が何でも、まどかを救うというの?」

ほむら「それが、私の存在理由よ。……覚悟なら、とうにできているわ」

魔女「……わかったわ」

そう言うと魔女は、懐…のような部分から何を取り出し、私に差し出した

何かの書類のようだが、見たこともない文字で読むことはできなかった

魔女「この先に進むのなら、ここに署名を」

ほむら「……これは?」

魔女「そうね…契約書とでも言うべきかしら。まどかを救うという覚悟の契約」

ほむら「覚悟の契約……?そんなもの、あなたと契約せずとも……」

魔女「……」

ほむら「……署名せずには進ませてくれないというわけね……。わかったわ、書けばいいんでしょう?」

愚痴をこぼしつつ、署名欄と思しき空欄に自分の名前を書き込む

そして、その書類を魔女へ手渡した

魔女「……あなたの覚悟、確かに受け取ったわ」

ほむら「なら、もういいでしょう?こんなところで立ち止まってる暇はないのよ」

魔女「……最後にひとつだけ」

魔女「時は全ての物事に結末を運んでくる。例え目と耳を塞いでいても、ね」

魔女「そして、その多くは確定された結末となる。運命とでも言うべきかしら」

ほむら「……それは、私ではまどかを救うことなどできないとでも?」

魔女「いいえ。あなたは時を操る魔法少女、暁美ほむら。あなたなら、その結末を変えることができるはずよ」

ほむら「私の名前まで……?私を知っているの?」

魔女「……それはどうでもいいことよ。それよりも、次の時間が始まるわ」

ほむら「……」

魔女「……大丈夫。あなたなら、必ずまどかを救えるわ」

ほむら「魔女にそう言われるのも変な気分ね…それじゃ、私は行くわ」

魔女「えぇ。……また会う日まで」

魔女の言葉と同時に、目の前が白く霞んでくる。漸く次の時間へ行けるようだ

意識がなくなる直前、魔女が何かを言っていたような気がした

魔女「……あなたのことなら、誰よりもよく知っているわ。だって……」






『私はあなた、あなたは私だもの……』



ひとまず導入まで
続きは今日9時頃に投下します

遅くなっちゃった…
ペルソナ側で使うのはごく一部の設定だけなので分からなくてもお楽しみいただける…はず

次から本文

――――――

ほむら「……」

ほむら「また…戻って来てしまったわね……」

ほむら「何かしら…時間遡行中に誰かと話したような気がするんだけど……」

ほむら「……気のせい、よね。あの空間に私以外の何かが存在するとも思えないし」

ほむら「……」

ほむら「……さて、準備を始めましょう」

ほむら「まどか……」

もう何度、繰り返して来ただろうか

またしても、この病室に戻って来てしまった

特にここ何回かの時間は上手くいかない

まどかはおろか、美樹さやかたちさえまともに生存させることができないでいる

まどかの死と魔女化を連続して見てしまったせいか、私の心は酷く磨り減っていた

前回のループはそれが原因で余裕が無くなり、やることなすこと上手くいかなかった

それでも、立ち止まるわけには行かない。まどかを救うまでは

ほむら「……これでよし、と」

ほむら「前回は余裕が無かったせいで全て裏目に出てしまったから…今回は……」

ほむら「……私にできるのかしら。まどかを救うなんて……」

ほむら「……だいぶ参ってるみたいね…そんな風に考えてしまうなんて……」

ほむら「できるできないじゃない。……やるしかないのよ」

ほむら「……何にせよ、今度こそまどかを……」

――――――

ほむら「暁美ほむらです。よろしくお願いします」

何度目かわからない自己紹介

それを終え、まどかの方へ視線を向ける

まどかは少し驚いているようだったが、私の視線に気づくと優しい笑顔を返してくれた

休み時間になると、いつものように質問攻めに遭う

私はいつものようにまどかに声をかけ、保健室に案内してもらうことにした

まどか「暁美さん、大丈夫?」

ほむら「えぇ、大丈夫……」

まどか「でもなんだか疲れてるっていうか…顔色があんまりよくないみたいだから……」

ほむら「そう…かしら……」

まどか「無理しちゃダメだよ?辛くなったらいつでも言ってね」

ほむら「……ありがとう、鹿目さん」

この時点のまどかにも気遣われてしまうなんて…きっと今の私はよほど酷い顔をしているのだろう

転校生の私にも優しく接してくれる…やっぱりまどかはまどかだ

まどかの笑顔から、少しだけ元気を分けてもらえたような気がした

ほむら「鹿目……」

いつもここでまどかに警告をしているが…果たして通じているのだろうか

もしかして理解されてないのでは……。そんなことを考えていたら、まどかが話しかけてきた

まどか「暁美さん?」

ほむら「あ、いえ…鹿目さんのこと、まどか、って呼んでも……?」

まどか「うん!それじゃわたしも、ほむらちゃんって呼ぶね」

ほむら「よろしく、まどか」

まどか「よろしくね、ほむらちゃん。……えっと、その……」

ほむら「……?」

まどか「……ほ、ほむらちゃん…あ、あのね……」

まどか「わたしと…友達になってくれないかな……?」

ほむら「友達……」

まどか「だ、ダメかな……?」

ほむら「……そんなことないわ。ありがとう、まどか」

私に…魔法少女に関わってほしくない。頭ではそう考えているはずなのに、その言葉が出せなかった

酷く磨り減り、疲弊しきった私の心がまどかの側にいたいと…そう思っているのだろうか

とにかく、こうなった以上はまどかの友達としてまどかを守ることにしよう

あとは、インキュベーターと接触させないようにするだけだ

――――――

ほむら「おかしいわね……」

ほむら「いつもならこの付近にいるはずなのに……」

ほむら「ここにいないとすると…一体どこに……?」

まどかとインキュベーターを接触させないように、アイツを探しに来たが……

今回に限って、アイツを見つけられないでいた

時間をかければ、アイツがまどかを呼び出してしまう。早く…早く見つけなければ

『助けて……』

ほむら「……!」

『誰か…助けて……』

そうこうしているうちに、アイツのテレパシーが聞こえてきてしまった

ぐずぐずしてはいられない。まどかより先にアイツを見つけなくては

テレパシーの聞こえてきた方へ向かうと、そこには結界の入り口が口を開けていた

ほむら「結界……?どうしてこんなところに……」

ほむら「……何にせよ、この中からのようね。まどかが入ってきてしまう前に……!」

結界の中へ足を踏み入れ、テレパシーを送っているインキュベーターを探す

しかし、結界の中で私が見たものは

今まで見たことのない光景だった

使い魔「……」

QB「誰か…誰か、助けて……」

アイツが、使い魔に襲われていた

いつもなら演技のはずなのに

ほむら「一体、どうなっているの……?」

QB「そこの君…お願いだ、助けて……」

ほむら「……」

これはアイツを始末する絶好の機会。そのはずなのに

何故だか私は、アイツを助けなければならない気がした

いつもと違う状況に戸惑いつつも、私は盾から引っ張り出した機関銃で使い魔を薙ぎ払った

ほむら「……これで、最後……!」

使い魔「!!」

ほむら「……追撃はないみたいね」

QB「ありがとう…助けてくれて……」

ほむら「……」

QB「それで…傷の手当てをしてもらえると…嬉しいんだけど……」

ほむら「私は回復魔法は……」

『キュゥべえ!!』

聞き慣れた声が聞こえてきた

振り返るとそこには、魔法少女姿の彼女がいた

マミ「キュゥべえ!大丈夫!?」

QB「うん…何とかね……」

マミ「とにかく、今治すわね」

QB「ありがとう、マミ……」

巴マミがインキュベーターの傷を治していく

私はそれをただじっと見ていた

マミ「……これでよし、っと」

QB「ありがとう、助かったよ」

マミ「いいのよ。……それよりも」

マミ「あなたは……?」

インキュベーターの治療が終わった巴マミが私に話しかける

彼女とは敵対してばかりだが…何も争いたいわけではない

インキュベーターを襲っていなかったことが幸いし、警戒はされているものの敵視されているわけではないようだ

私はできるだけ友好的に話すことにした

ほむら「私は暁美ほむら。あなたと同じ、魔法少女」

マミ「私は巴マミ。この街で活動している魔法少女よ」

QB「ほむらは、僕が使い魔に襲われているところを助けてくれたんだ」

マミ「そうなの?ありがとう、キュゥべえを助けてくれて」

ほむら「私は別に……」

マミ「でもキュゥべえのテレパシーを聞いて、助けに来てくれたんでしょう?」

ほむら「確かにテレパシーは聞いたけど……」

QB「ほむら、助けてくれてありがとう」

ほむら「……」

『あれ、ほむらちゃん?』

ほむら「……!」

声のした方へと振り向くと、テレパシーを聞いてしまったであろうまどかが美樹さやかと一緒に姿を見せる

巴マミとインキュベーターにばかり気を取られて、彼女たちがやって来るということをすっかり忘れてしまっていた

どうにか切り抜けられないかと考えたが、もう手遅れのようだ

まどか「ほら、やっぱりほむらちゃんだよ」

さやか「ほんとだ…こんなところで何してんの?」

ほむら「私は……」

マミ「あなたたち、暁美さんのお友達?」

まどか「あ、はい。鹿目まどかって言います」

さやか「あたしは美樹さやかです。転校生…ほむらとは直接話してないけど、まどかの友達です」

マミ「私は巴マミ。見滝原中学の3年生よ」

まどか「わ、先輩ですか…よろしくお願いします、巴先輩」

マミ「ふふ、名前で呼んでくれていいわよ?」

さやか「えっと、それじゃ…よろしくお願いします、マミさん」

マミ「よろしくね、2人とも」

まどか「それでマミさん、ひとつ聞きたいんですけど……」

マミ「何かしら?」

まどか「そこにいる白い動物、何ですか?」

QB「はじめまして、鹿目まどか、美樹さやか」

さやか「うおっ、喋った!」

まどか「び、びっくりした……」

QB「僕の名前はキュゥべえ」

QB「僕と契約して、魔法少女になってほしいんだ!」

まどか「魔法…少女?」

マミ「あなたたち、キュゥべえが見えているのよね。それなら、ちゃんと説明したほうがよさそうね……」

マミ「私の家で説明するわ。いいかしら?」

まどか「あ、はい!」

さやか「お、お願いします!」

ほむら「……」

まどか「ほら、ほむらちゃんも行こうよ」

ほむら「え、えぇ……」

結局、まどかとインキュベーターを接触させてしまった

あのときどうしてアイツを始末しなかったのか…私にもわからない

でも奴を助けたことによって、巴マミとは敵対せずに済んだ。それでよしとしよう

今はとりあえず、彼女たちについて行くことにした

今回はここまで
次回投下は27日夜を予定しています

来場者特典でもらったフィルム2枚開けてなかったから開けてみたんだ
そこそこなの1枚、ネタにもならない微妙なの1枚でうーんって

次から本文

――翌日――

マミ「それじゃ魔法少女体験ツアー、始めるわよ」

まどか「ほむらちゃん、マミさん、よろしくお願いします!」

さやか「よろしくお願いします!」

ほむら「はぁ……」

まどか「ほむらちゃん、どうしたの?また具合悪いの?」

ほむら「いえ…何でもないわ……」

昨日巴マミの家で聞いた魔法少女の話

基本的にはインキュベーターが言うような内容の話だった

その話の中で、例の魔法少女体験ツアーの話になったときに

私もそれに参加してほしい、と頼まれてしまった

正直あまり気は進まなかったが、まどかを守る為にも仕方なく参加することにした

そして今、私たちは薔薇園の魔女の結界の前にいる

マミ「それじゃみんな、行くわよ」

まどか「はい!」

さやか「よっしゃー!」

ほむら「はぁ……」

――結界内――

マミ「はっ!」

使い魔「!!」

マミ「やっ!」

使い魔「!!」

マミ「それっ!」

使い魔「!!」

さやか「うーん、マミさんの戦い方、優雅だなぁ……」

まどか「そうだねぇ」

さやか「それに比べて向こうは……」

私へと向かって来る使い魔へ機関銃の銃口を向け、引き金を引く

発砲炎が噴き上がり、撃ち出された弾丸の嵐が使い魔たちを一掃していく

そして、最後の使い魔を撃ち抜いて引き金から指を離したとき

美樹さやかの、私への感想が聞こえた

さやか「……どこが魔法なんだ、って話だよ……」

まどか「だ、ダメだよそんなこと言っちゃ……」

ほむら「聞こえてるわよ。悪かったわね……」

まどか「ご、ごめんね」

マミ「……どうやら、魔女はこの奥みたいね」

ほむら「私は2人の防御に付くわ。魔女との戦闘はあなたに任せていいかしら」

マミ「えぇ、わかったわ。2人をお願いするわね」

まどか「ほむらちゃん、よろしくね」

ほむら「えぇ、任せなさい」

マミ「それじゃ、行くわよ」

魔女「……」

マミ「あれが…魔女よ」

さやか「うわ、何かグロいなぁ……」

まどか「ほむらちゃんとマミさんは、いつもあんなのと戦ってるの?」

ほむら「えぇ、そうよ」

さやか「でも、あんな大きい相手にどうやって戦うの?」

ほむら「どうもこうも普通に……」

マミ「そこで使うのが、魔法少女のもうひとつの力よ」

さやか「もうひとつの力?」

マミ「そうよ。魔法少女には2つの力があるの。ひとつは願いに応じた魔法。私の場合ならリボンになるわね」

マミ「そして、魔法少女のもうひとつの力……」

もうひとつの力……?

少なくとも私は、願いに応じた固有魔法以外は聞いたことがない

そんな疑問を抱いていると巴マミが右手を翳す

その掌の中には、どういうわけかソウルジェムが浮かび上がっていた

浮かび上がったソウルジェムを握りつぶすと同時に、何かの名を叫んだ






マミ「キャンデロロ!!」



ロロ「……」

マミ「さぁ、行くわよ!」

ほむら「な……!」

それを見たとき、私は自分の目を疑った

巴マミの背後に現れたそれは

紛れもなく、彼女の魔女化したときの魔女だった

巴マミの魔女化した姿…おめかしの魔女はごく小さい姿だったはずだが、このおめかしの魔女は巴マミより少し大きい程度の大きさをしていた

それに、彼女が握りつぶしたあのソウルジェムは何だったのだろうか。ソウルジェムは私たちの魂のはずでは……

この時間軸…今までと何かが違うようだ

魔女「……!」

マミ「まずは…これでっ!」

巴マミは召喚したマスケット銃を構え、魔女へ向かって引き金を引く

発射された弾は魔女へ命中したようだが、威力が足りないのかあまりダメージを受けていないようだ

マミ「……私の攻撃じゃダメね」

魔女「……!」

魔女は巴マミへ向けて蔓を思いきり叩きつける

だが、その蔓の攻撃を巴マミの魔女がリボンのような腕で器用に受け止めた

マミ「それなら…ロロ、行くわよ!」

そう言うと、リボンのような両腕がマスケット銃へと形を変える

まさか彼女は、あの魔女を意のままに操っているとでも言うのだろうか

そんなことを考えていると、発砲音が聞こえた

どうやら巴マミが薔薇園の魔女へ攻撃を仕掛けたようだ

魔女「……!」

マミ「やっぱり魔女には魔女ね、これなら……!」

魔女「……」

マミ「無駄よ…拘束!」

魔女「……!」

マミ「ロロ、トドメよ!」

マスケット銃だった巴マミの魔女の両腕が再び形を変える

現れたのは、彼女の必殺の一撃の為の大砲。そして

マミ「ティロ……」

マミ「フィナーレ!!」

ロロ「……!」

彼女の号令と共に放たれた砲撃は真っ直ぐに飛んでいき、魔女を貫く

身体に風穴を開けられた魔女は、もうそこに存在していることができなくなったのかボロボロと崩れていった

さやか「すげー!マミさんカッコいい!」

まどか「ほんとに、あの大きいの…倒しちゃった」

ほむら「……」

この時間軸の魔法少女、私の知っている魔法少女とは違う

魔女化したときの魔女を使うだけでなく、彼女の必殺の砲撃もその魔女が大砲を作り、そこから発射している

本当に、あの魔女を自らの手足のように操っているのだろうか

とにかくわからないことが多すぎる。もっと詳しい話を巴マミから聞いたほうがよさそうだ

その巴マミは魔女が落としたグリーフシードを拾い上げ、私たちのところへと戻って来ていた

マミ「ふぅ、こんなところかしらね」

さやか「マミさん、何ですか今の!」

マミ「今の?……あぁ、私の魔女のこと?」

まどか「え?でも魔女って、今倒した……」

マミ「えぇ、そうよ。魔女を倒すために、こちらも魔女の力を借りているってわけ」

さやか「それってどういう……?」

マミ「昨日はその説明を省いちゃったから…私の家で詳しい話をすることにするわね」

――マミの家――

マミ「……さて。それじゃあ魔法少女のもうひとつの力、魔女の話をするわね」

QB「昨日まとめて説明すればよかったんじゃないのかい?」

マミ「難しい話を1度にしても覚えきれないでしょう?」

さやか「やっぱり、あれも魔女なんですか?」

マミ「えぇ。……でもどうしたものかしら、敵も私も魔女だとややこしいわね…別の呼び方を……」

ほむら「呼び方は何だっていいわ。それよりも説明を」

マミ「暁美さんだって魔法少女じゃ…まぁいいわ。見てくれたからわかると思うけど、あれは私が召喚した魔女よ」

まどか「召喚って……?」

マミ「キュゥべえが言うには、あの魔女は自分の中にいるもうひとりの自分ってことらしいの」

ほむら「もう1人の……」

まどか「ほむらちゃん……?」

ほむら「あ…何でもないわ。続けて」

マミ「私たち魔法少女は、キュゥべえと契約することによって始めて魔法少女となる。これは昨日言ったわよね」

まどか「はい、願いを何でもひとつ叶えてくれるって」

さやか「金銀財宝とか、不老不死とか、満漢全席とか考えたんだけど……」

まどか「さやかちゃん、最後のはちょっと……」

QB「叶えてあげられるのは契約時にひとつだけだから、よく考えた方がいいと思うよ」

マミ「話を戻すわね。キュゥべえと契約することによって、魔法少女となる。そのときの願いで、おおよその固有魔法が決まってくるの」

マミ「そして、それと同時にもうひとつの能力…魔女の召喚が行えるようになる」

マミ「さっきも言ったけど、召喚した魔女はもうひとりの自分。そのもう1人の自分の力を借りる…そう言った方がいいかしらね」

マミ「魔法少女になることでそのもうひとりの自分を呼び覚まし、自身の力にする。こんな感じでいいかしら」

まどか「何だか複雑だなぁ……」

マミ「魔法少女の力は固有魔法と魔女の召喚。それだけ覚えておいてくれたら大丈夫よ」

さやか「それにしてももうひとりの自分かぁ…なんだか漫画やゲームみたいな話ですねぇ……」

マミ「言いたいことはわかるわ。私も実際魔法少女なんてものが実在するとは思わなかったわけだし」

ほむら「……知らなければ知らなかったで、何の不都合も無いとは思うけど」

まどか「うーん…でも、わたしがキュゥべえの声に気づいたから、ほむらちゃんともこうしていられるんだと思うし……」

まどか「それに、もし気づかなかったらマミさんとも知り合えなかったと思うんだ」

QB「結果としてはほむらとマミに助けてもらえたけど…来てくれてありがとう、まどか」

ほむら「……」

マミ「……あ、そうそう。ここからはとても大事なこと。ちゃんと聞いてね」

まどか「……?わかりました」

マミ「この魔法少女というものだけど…とても危険なことなの」

マミ「魔女と戦うこともそうだけど、自分の魔女を使役することも…ね」

QB「姿形は違えど、あの魔女も君たち自身なんだ。自分の内にいるもうひとりの自分を引きずり出して戦う……」

QB「それだけで精神に大きな負担となる。自分で自分を操っているようなものだからね」

マミ「魔女は自分自身の精神や感情に影響されやすいの。不安や猜疑心、怒り、憎しみといった気持ちがあると、途端に不安定になる」

マミ「そして、自分で自分を制御できなくなったとき…魔女は暴走を引き起こす」

マミ「それだけに…魔法少女には自分で自分を律する覚悟が必要なの」

さやか「マジですか……」

まどか「……怖いんですね、魔法少女って」

ほむら「……」

巴マミの話を聞いて、この時間軸の魔法少女と魔女の関係はある程度理解できた

だが、やはり私の知る魔法少女とは大きくかけ離れていた

それに、さっきのもうひとりの自分が魔女という話…どうにも引っかかる

ひとつ前の時間のまどかともうひとりの自分が云々…という話をしたが、それとはまた違う

ここに来る以前にどこかで誰かと話をしたような気がする。自分の中の自分…私の心を見透かしたような誰かと

だが、いくら思い出そうとしても何も思い出すことはできなかった

まどか「ほむらちゃん?さっきから難しい顔してるけど、どうしたの?」

ほむら「……あ、いえ。何でもないわ」

さやか「そう言えばほむらも魔法少女だけど、どんな魔女を使うの?」

ほむら「私は……」

マミ「とにかく、魔女についての話はおしまい。今の話を聞いて、それでも魔法少女になると覚悟できたのなら……」

マミ「その時は一緒に戦ってくれる仲間として、歓迎するわ」

まどか「うーん…今はまだ…かな」

さやか「あたしも。……今はまだ、先輩と後輩として仲良くしてください、マミさん」

マミ「えぇ、わかったわ。いつでも遊びに来てね」

さやか「ありがとうございます。……それじゃ、そろそろ帰ろっか、まどか」

まどか「うん、そうだね。ほむらちゃんは?」

ほむら「……少し聞きたいことがあるの。魔法少女のことで」

さやか「じゃあ、あたしたちは先に帰るね。マミさん、おじゃましました」

マミ「……それで、私とキュゥべえに聞きたいことって?」

この時間軸の魔法少女は私とは違う魔法少女

もう少し踏み込んだ話がしたいと思い、巴マミとインキュベーターに聞いてみることにした

ほむら「……これからおかしなことを聞くかもしれないけど…正直に答えてほしいの」

マミ「……?わかったわ」

ほむら「まず最初に…あの掌に浮かび上がったソウルジェムは一体何なの?どうしてソウルジェムを握りつぶして生きているの?」

マミ「え?だってあれが魔女の召喚方法だし……」

QB「あれ以外の方法で召喚すると、召喚した魔女が不安定になりやすいからね」

ほむら「……キュゥべえ、ソウルジェムの真実…話して頂戴」

QB「真実と言われても…君が何を訊きたいのか、さっぱりわからないよ」

ほむら「……私たち魔法少女の本体は、このソウルジェムじゃないの?」

QB「君は何を言っているんだい?ソウルジェムは僕との契約の証、そして魔女の召喚器でしかないよ」

ほむら「ソウルジェムが肉体操作をしていたり、魔法を使う度にソウルジェムが濁るということは?」

QB「肉体操作というのはわけがわからない質問だね。ソウルジェムが濁るというのは事実だけど……」

QB「濁りの程度と精神状態にもよるけど、一晩休めば大抵はよくなるはずだよ」

ほむら「それは…ソウルジェムが砕けたり、濁りきっても…死ぬことはないと……?」

QB「ソウルジェムが濁りきるのはあんまりよくないことだけど…それが直接の死因にはならないね」

インキュベーターの話が本当なら、今までの魔法少女の真実というものが全てなくなっている

むしろ、魔法を使い、魔女を召喚することのできる人間という印象さえある

それに、ソウルジェムが従来のように濁らないというのなら…もうひとつ、聞いてみることにした

ほむら「……グリーフシードというものは知ってるわね?」

マミ「グリーフシード…確か魔女の元となる、魔女の種だったわね」

QB「うん。魔女を倒したときに落とすものだね」

ほむら「それの使い道って……」

QB「僕がある目的の為に集めているものだよ。他に用途はないはずだけど……」

どうやらこの時間軸のグリーフシードにソウルジェムの穢れを浄化する力は無いようだ

なら、私はこれからどうしたらいいのだろうか。この時間軸の魔法少女でない私は……

QB「君が何を心配しているのかはわからないけど…ちょっとソウルジェムを見せてごらん」

ほむら「……わかったわ」

QB「それじゃ、ちょっと失礼するね。……うん、君もマミと同じ魔法少女じゃないか」

ほむら「え……?」

QB「でも変だね。僕には君と契約した記憶がないんだけど…どういうことなんだろう」

ほむら「私…あなたと同じ……?」

マミ「暁美さん、あなたも魔法少女でしょう?……記憶でも失っているのかしら」

QB「……うーん、やっぱり君と契約した記憶はないなぁ」

マミ「単純にキュゥべえがど忘れしてしまったってことは?」

QB「それはないと思うんだけどなぁ…まぁ何にせよ、魔法少女と言うのならマミに力を貸してあげてほしいんだ」

ほむら「巴マミと協力してくれと…そういうことかしら」

QB「うん、そういうことだね。それにマミと一緒なら、いつ魔女が召喚できるようになっても大丈夫だしね」

ソウルジェムを浄化する必要がないのなら、無理に魔女と戦うこともない

だが、それでは彼女の協力を取り付けることはできないだろう

インキュベーターの提案に乗るのも何だか複雑な気分だが、私は巴マミに手を貸すことにした

ほむら「……わかった。よろしくお願いするわ」

マミ「よろしくね。……さてと、それじゃそろそろ夕飯にしようかしらね。暁美さん、よかったらどうかしら」

ほむら「いえ…私もこれで失礼するわ」

マミ「そう?気をつけてね」

ほむら「えぇ。……それじゃ」

マミ「暁美さん、明日からよろしくね」

ほむら「……そうね、よろしく」

マミ「じゃあ、また明日ね」

ほむら「……また、明日」

QB「……今度は上手くやれるといいね」

マミ「……そうね」

ソウルジェムが砕けて死ぬことがない。濁りきって魔女になることもない

どうしてこんな時間軸に来てしまったのかはわからないが、これは大きなチャンスだ

いつもなら誰かしらが魔女になってしまうことを危惧していたが、その心配をする必要がなくなったのだ

なら、私が普段気を払うべきことはまどかの契約の阻止だけだ

いくら魔法少女が以前と違うものになっていたとしても、私はまどかに戦ってほしくない

まどかは、私が守る。その覚悟を取り交わしたはずだ

ほむら「……?覚悟を取り交わしたって…誰と……?」

ほむら「……とにかく、家に帰りましょう」

今回はここまで
読んで下さってる方、ありがとうございます

次回投下は28日夜を予定しています

投下始めると途端に夜の時間が取れなくなる自分です
何かの呪いだと思いたい

次から本文

――数日後――

ほむら「……これで最後!」

使い魔「!!」

ほむら「……ふぅ。片付いたみたいね」

マミ「えぇ、お疲れさま。……それにしても」

マミ「まさかあなたの武器が実銃とは思わなかったわ」

ほむら「私には素質がないから…武器を生み出すことができない。だから……」

マミ「わかってるわ。魔女を召喚できるようになればいいのだけど、まだみたいね」

ほむら「えぇ、今のところは」

巴マミに手を貸して数日

今のところ魔女は現れず、使い魔の結界がいくつか現れた程度だ

そして、私の魔女の召喚も今のところそれができる様子もない

だが…魔女の召喚ということが、どうしても引っかかる。何かを忘れているような……

きっと、まだ魔女を召喚するということがしっくり来ないせいだろう

マミ「……それじゃ、今日のところは帰りましょうか」

ほむら「えぇ。それじゃマミ、また明日」

マミ「ふふ、最初は巴マミなんてフルネームで呼んでたのにね」

ほむら「……うるさいわね」

マミ「それじゃあ暁美さん、また明日」

――翌日 放課後――

まどか「ほむらちゃん、さやかちゃん、今日これからって空いてる?」

さやか「ん?あたしらに何か用事?」

まどか「うん。わたしの家でほむらちゃんの歓迎会をしようかなって」

さやか「お、いいじゃんそれ」

まどか「それで、今日空いてる?」

ほむら「私は構わないわ」

さやか「本当は恭介のお見舞いに行くつもりだったんだけど…ま、いいか」

まどか「さやかちゃん、いいの?」

さやか「いいの。あっちはいつでも行けるんだからさ」

まどか「ありがとう、さやかちゃん」

さやか「いいってことよ。……そう言えば、ほむらはまどかの家は初めてだっけ」

ほむら「……えぇ、そうね」

まどか「じゃあ案内するね」

ほむら「お願いするわ」

さやか「よーし、それじゃ行くかー」

――――――

まどか「……それじゃあ、ほむらちゃんの歓迎会を始めます」

さやか「いえーい!」

ほむら「え、えっと……」

さやか「ほむらはこういうのに慣れてないの?」

ほむら「えぇ……」

さやか「そっか…まぁ、少しずつ慣れていけばいいよ」

ほむら「そうね…まどか、私の為にありがとう」

まどか「気にしないで、わたしがやりたいって思ったことだから」

まどか「それに…わたし、もっとほむらちゃんと仲良くなりたいし」

ほむら「まどか……」

さやか「……思ってたんだけどさ、ほむらってまどかにだけ態度が違わない?」

まどか「え?」

さやか「いやさ、あたしとマミさんはついこの間までフルネームだったのに、まどかだけは初日から名前で呼んでたし」

ほむら「それは……」

さやか「……ほむら、あんたもしかして…まどかの嫁になりたい、とか?」

ほむら「は……?」

さやか「でも残念でした!まどかはこのさやかちゃんの嫁になるんだからね!」

まどか「もー、さやかちゃんまたそんなこと言って…ごめんねほむらちゃん。さやかちゃんの冗談だから」

ほむら「え、えぇ……」

さやか「……ごめん、ちょっとお手洗い行ってくるよ」

まどか「うん、わかった」

さやか「そんじゃ、しばらくはお2人だけでどうぞごゆっくりー」

そう言ってさやかは部屋を出て行ってしまった

部屋にいるのは、私とまどかの2人だけ

何を話したものかと考えていると、まどかの方から話しかけてきた

まどか「……ねぇ、ほむらちゃん。ちょっと相談があるんだけど」

ほむら「相談……?私に?」

まどか「うん…こんなこと、ほむらちゃんにしか話せないし」

私にしか話せない相談…となると、魔法少女についてのことだろう

この時間軸の魔法少女のことは話で聞いた以上のことはわからないが、とにかくまどかの話を聞いてみることにした

まどか「……わたしね、魔法少女になろうかなって…そう考えてるんだ」

ほむら「……」

まどか「わたし、得意なことも、自慢できることもなくて…ずっとそのことを悩んでたの」

まどか「でも、こんなわたしでも魔法少女になって、みんなを守れる…ほむらちゃんとマミさんの力になれるのなら……」

ほむら「やめておきなさい」

まどか「え……」

ほむら「魔法少女なんて…碌なものじゃないわ」

まどか「で、でも……」

ほむら「私たちの力になりたいと思ってくれているのは…嬉しいわ」

ほむら「……だけど、魔法少女になってしまったら…一生、その呪縛から逃れられなくなる」

ほむら「魔法少女が素敵なのは、漫画とアニメの中だけ。現実の魔法少女は…悲惨なだけよ」

まどか「……じゃあ、ほむらちゃんはどうして魔法少女になったの?」

ほむら「私は…そうしなければならなかったから。そうしなければ…何よりも大事なものを失ってしまうから」

まどか「何よりも…大事なもの……」

ほむら「魔法少女なんて、ならずに済めばそれに越したことはないの。……魔法少女にならずとも、まどかにはできることがあるはずよ」

まどか「……」

ほむら「だから、私はあなたには…魔法少女になってほしくない。それだけはわかってほしい」

まどか「……うん、わかった。わたし、魔法少女には…ならないよ」

ほむら「……ありがとう、まどか」

まどかを説得し、何とか考えを改めさせることができた

効果があるかわからないが、さやかにも念の為に話をしておいた方がよさそうだ

まどか「ほむらちゃん…ありがとう。話、聞いてくれて」

ほむら「……別に大したことはしてないわ」

まどか「わたし…探してみるよ。魔法少女にならなくても、自分にできることを」

ほむら「……そうね。必ず見つかるはずよ」

さやか「ただいまっと」

まどか「あ…おかえり、さやかちゃん」

さやか「それで、あたしがいない間2人は何の話で盛り上がってた?」

まどか「え?えっと……」

ほむら「まどかの部屋はこう…女の子らしくていいわねって話を」

さやか「……そんな話してたの?」

ほむら「……悪い?」

まどか「ほ、ほむらちゃんの家も見てみたいなぁ。今度、連れて行ってよ」

ほむら「……面白いものじゃないわよ。何もないし……」

まどか「うん、それでもいいよ」

さやか「あたしも気になるなぁ、ほむらの家」

ほむら「そこまで言うなら…今度招待するわ」

まどか「楽しみだなぁ…ありがとう、ほむらちゃん」

さやかが急に戻ってきたせいか、咄嗟に嘘の話題を言ってしまった。別に隠す必要もないと思うのだが

さっきの、魔法少女にならないでほしいという話をさやかにもしようと思い、口を開きかけたそのとき

私の携帯が鳴り響いた

ほむら「あら…マミから?どうしたのかしら……」

ほむら「……マミ?何か用かしら?」

マミ『あ、暁美さん!病院の入り口で結界の入り口を見つけたの!手を貸して!』

ほむら「……!わかった、すぐそっちへ向かうわ」

マミ『私は先行して中に入るわ!目印にキュゥべえを外に置いておくから、なるべく早く来てね!』

ほむら「えぇ。それじゃまた後で」

まどか「ほむらちゃん?どうしたの?」

ほむら「病院に魔女が現れたらしいの。……悪いけど、私はこれで失礼するわね」

さやか「病院って…恭介は大丈夫なの!?」

ほむら「病院の人たちに何もないように、私たちが行くのよ。2人は大人しく待っていて頂戴」

まどか「う、うん」

さやか「あたしも行くよ!恭介のことが心配だよ!」

ほむら「……結界の中には入らないで。いい?」

さやか「わかってる!ほむら、急ごう!」

ほむら「えぇ。……じゃあまどか、今日はこれで」

まどか「あ、うん。……気をつけてね」

ほむら「……ありがとう。行って来るわね」

――――――

QB「……あ、ほむら。こっちだよ」

病院前に到着すると、私を待っていたインキュベーターが声をかけてきた

インキュベーターの背後には結界の入り口が口を開けていた

ほむら「これね…それじゃ、私もすぐに行くわ」

さやか「あたし、恭介のところに行ってくる!」

ほむら「えぇ、そうしなさい。病院に影響が出る前に始末するわ」

さやか「うん…頼んだよ……!」

QB「気をつけてね」

さやか「……あたしは恭介のところに!」

さやか「恭介!」

恭介「わっ…何だ、さやかじゃないか。病院では静かにしないと駄目だよ」

さやか「あ…うん、そうだね。ごめん」

恭介「それで、今日はどうしたんだい?お見舞いにしては随分と遅かったけど……」

さやか「あー、えっと、それは……」

さやか(本当のことを言うわけにも…えぇい、こうなりゃ……)

さやか「きゅ、急に恭介に会いたくなっちゃってさ…それで、来てみたんだ」

恭介「え……」

さやか「……だ、ダメだったかな」

恭介「……そんなことないよ。ありがとう、さやか」

さやか「そ、そう?よかった、へへ……」

さやか(ほむら、マミさん…頑張って……!)

――結界内――

ほむら「マミ!」

マミ「来てくれてありがとう、暁美さん」

ほむら「それよりも、魔女は?」

マミ「幸い、まだ実体化してないみたいね」

ほむら「……そう言えば、あなたはどうしてこの結界を?」

マミ「いつものようにパトロールしてたら見つけたのよ。何となく、今日はこっちを探してみようと思って」

ほむら「……あなたの魔女で捜索をかけたら確実に見つけられるのでは?」

マミ「魔女は結界の中でしか使えないのよ。魔女だから仕方ないと思うけど」

ほむら「そう…だったかしら」

マミ「本当に何も知らないのね。……っと、そろそろ実体化するみたいね。やるわよ!」

ほむら「えぇ、わかってる……!」

部屋の中央からグリーフシードが浮かび上がり、そのまま宙に浮いていく

そして、グリーフシードを中心に魔女の身体が構築されていった

先ほどのマミの言葉…何のことかと思っていたが、確かにこれは孵化と呼べるものではない。実体化、召喚…そんな感じがした

だが、どうもおかしい。いつもなら魔女の外面のぬいぐるみのような奴がいるはずなのに

どういうわけか、そこに現れたのは中にいる本体の方だった

魔女「……」

マミ「暁美さんは後方支援を。まずは私が行くわ」

ほむら「えぇ、わかった」

マミ「……出なさい、キャンデロロ!!」

ロロ「……」

マミ「さぁ…私とロロの攻撃……!」

マミ「受けてみなさい!」

マミは手の中にマスケット銃を召喚すると、魔女へ向けて発砲する

それと同時に彼女の魔女…キャンデロロも腕部をマスケット銃に形を変え、魔女へと攻撃を開始した

魔女「……!」

マミ「これなら…一気に……!」

ほむら「次は私が行くわ」

マミ「え、ちょっと……!」

魔女「……」

ほむら「この時間の魔女相手に、どこまで戦えるか……」

ほむら「……これで!」

私は盾から機関銃を引っ張り出すと、魔女に狙いをつけ引き金を引く

倒せるとまでは行かないが、どうやら私の現代兵器による攻撃でも一定の効果はあるようだ

魔女「……!」

ほむら「ちゃんと効果はあるみたいね…なら、このまま……!」

マミ「ロロで援護するわ!」

ロロ「……!」

ほむら「助かるわ!……私たちの攻撃、いつまで耐えられるかしら!?」

そう言って、私とマミは魔女へ集中砲火を浴びせる

だが、敵もしぶとくこちらの攻撃をただじっと耐えていた

マミ「……埒が明かないわね、こうなったら一気に……!」

ほむら「待ちなさい、迂闊よ!」

一向に魔女を倒せないことに痺れを切らしたのか、マミが魔女へ向かって突っ走った

今のマミはあまりに無防備だ。敵もそれを見逃すほど甘くはない

蛇のような巨躯をマミへ向けて思い切り伸ばす。そして

マミの眼前で、その大口を開いた

魔女「……!」

マミ「あ…っ……」

ほむら「……っ!」

マミの目の前に魔女が迫った瞬間、私は考えるよりも先に時間停止を発動させる

その甲斐あって魔女に食らいつかれる寸前で、時間を止めることに成功した

ただ、当然マミの時間も止まってしまっている

ほむら「……ふぅ。さて、と」

指定者の時間は止めないなんて応用ができれば便利なのだが、できないことを言っても仕方がない

マミを退避させるついでと、魔女の口の中へ爆弾を放り込む

そして、安全な場所まで退避が完了したところで時間停止を解除する

解除したその瞬間、魔女の口に放り込んだ爆弾が炸裂し、轟音を響かせた

マミ「……あ、あら?私……」

ほむら「いくらなんでも迂闊すぎるわ。気をつけなさい」

マミ「暁美さん、あなたが私を……?」

ほむら「えぇ、私の魔法であなたを助けた。……それよりも、また来るわよ」

魔女「……!」

ほむら「……さすがに体内からの攻撃には弱いようね」

先ほど放り込んだ爆弾で、思った以上のダメージを与えることができたようだ

もう1度時間を止めて爆弾を放り込んでやろうかと、盾に手をかけたところで

後ろにいたはずのマミが、いつの間にか私の目の前に立っていた

マミ「……今のを見る限り、弱点は身体の中ということになるわね」

ほむら「……恐らくはね。あとは私に任せて……」

マミ「いえ、私がやるわ。今の借りも返さないといけないし」

ほむら「なら…任せたわ」

マミ「ありがとう。……それじゃ、行くわよ!」

そう言うと、マミは両手にマスケット銃を構え、魔女へ向けて発砲する

だがその弾は命中することなく、後ろの壁にめり込んだ

マミ「これで……!」

ほむら「マミ!命中してないわ、戻りなさい!」

外れたのが見えていないのか、再度魔女へ向かって走って行く

それと同時に、魔女もマミへ向けてその身体を延ばす

また同じことの繰り返しかと思ったそのとき

マミの放った弾からリボンが伸び、魔女の身体を締め上げた

ほむら「あなた、まさかこの為に……」

マミ「そう何度も同じ目に遭うわけないでしょう?こう見えてもベテランなのよ、私」

マミの目の前まで迫った魔女は、彼女に食らいつこうと大口を開けてもがいている

だが、リボンで雁字搦めにされた今は、もう成す術など何もなかった

マミ「私に食らいつこうなんて、10年早いのよ」

ほむら「……最初、私が助けてなかったら食らいつかれてたと思うけど」

マミ「そ、それは…とにかく、これでトドメ……!」

マミ「行くわよ、キャンデロロ!!」

マミがそう言うと、彼女の魔女…キャンデロロの両腕が大砲へと形を変える

魔女の口内へ狙いを定め、そして……

マミ「ティロ・フィナーレ!!」

魔女「!!」

放たれた砲撃は口から尻尾へと縦一直線に魔女の身体を貫く

マミの攻撃を受けた魔女はボロボロと崩れていき、やがてグリーフシードがカランと地面に落ちた

ほむら「……何とか倒したわね」

マミ「そうね。……今回はごめんなさい、私……」

ほむら「気にすることはないわ。ただ、次からは気をつけて」

マミ「えぇ。……それじゃ、グリーフシードを回収して外に出ましょうか」

――――――

QB「……あ、マミ、ほむら」

さやか「よかった…2人が無事で……」

マミ「あら、美樹さん?」

ほむら「彼女の好きな人がここに入院してて、魔女が出たと聞いて心配になって様子を見に来たのよ」

さやか「ちょっ!?何を言ってんのよあんたは!?」

マミ「あらあら、そうだったの。でももう大丈夫よ、魔女は倒したから」

さやか「あ…ありがとうございます、マミさん」

QB「それでマミ、グリーフシードは……」

マミ「ちゃんと回収してきたわ。はい」

QB「ありがとう。それじゃ早速……」

さやか「……背中が開いて、食べちゃった」

QB「……これはお菓子の魔女、性質は執着…か」

さやか「それ、今2人が戦った魔女のグリーフシード?」

QB「うん。グリーフシードにはこういう魔女の情報が入っているんだ」

さやか「ふーん…まぁ無事魔女を倒せたのなら、そろそろ帰ろうよ」

ほむら「そうね…さやかはもういいの?」

さやか「うん…2人が戦ってると思うと気が気じゃなくてね。そしたら……」

さやか「今日のさやかは何だか静かだね。でも、たまにはいいかもね…とか言われちゃって……」

さやか「何だか急に恥ずかしくなって、逃げるように出て来たところなんだよ……」

マミ「その子と上手くいくといいわねぇ……」

さやか「はい…じゃなくてですね、あたしはあいつとは別に……」

ほむら「私はこのまま帰るわ。それじゃ、また」

さやか「ほむら、まどかにちゃんと連絡してやりなよ。心配してるだろうからさ」

ほむら「そうね…家に着いたら連絡しておくわ」

マミ「じゃあ暁美さん、またね。今日はありがとう」

さやか「あ、マミさん。少し相談があるんですが……」

家へ帰る途中、この時間軸の魔法少女と魔女について考える

魔女を倒すために、もうひとりの自分…魔女の力を借り、自らの力とする

そしてそれが、魔法少女の契約によって可能になるということ

何度考えてもわけのわからない時間軸だ。まさか魔女を使役するだなんて……

家へ帰る途中、この時間軸の魔法少女と魔女について考える

魔女を倒すために、もうひとりの自分…魔女の力を借り、自らの力とする

そしてそれが、魔法少女の契約によって可能になるということ

何度考えてもわけのわからない時間軸だ。まさか魔女を使役するだなんて……

別の時間からやってきた私にはできない芸当だ

だが、以前インキュベーターにソウルジェムを見せたとき、言われたはずだ。マミと同じ魔法少女だと

それはつまり、私にも可能だということなのだろうか

何にせよ、魔女がいるというのなら必ず奴も…ワルプルギスの夜も現れるということだろう

どんな時間軸だろうが、私のやることはひとつだけ

まどかを守り、まどかとの約束を果たす。ただ、それだけだ

今回はここまで
読んで下さってる方、ありがとうございます

次回投下は29日夜を予定しています


本編だとシャルの日に上条が医者に宣告(面会拒否)を受けたはずだけど
この世界だとずれてるのかな

>>116
同じ文章二度入ってるね
1行目から6行目

本日の投下もう少しずれこみそうです。ごめんなさい
日付変わって30日0:30頃投下予定です

>>118
ミス指摘ありがとうございます

時間ずれ込みすぎて泣きたくなる…
本文の前に修正点の修正から

家へ帰る途中、この時間軸の魔法少女と魔女について考える

魔女を倒すために、もうひとりの自分…魔女の力を借り、自らの力とする

そしてそれが、魔法少女の契約によって可能になるということ

何度考えてもわけのわからない時間軸だ。まさか魔女を使役するだなんて……

別の時間からやってきた私にはできない芸当だ

だが、以前インキュベーターにソウルジェムを見せたとき、言われたはずだ。マミと同じ魔法少女だと

それはつまり、私にも可能だということなのだろうか

何にせよ、魔女がいるというのなら必ず奴も…ワルプルギスの夜も現れるということだろう

どんな時間軸だろうが、私のやることはひとつだけ

まどかを守り、まどかとの約束を果たす。ただ、それだけだ

修正おわり

次から本文

――――――

???『……また会ったわね』

???『巴マミと協力し、彼女を守ることができた。……ここまでは順調ね』

???『だけど、まだこれからよ。美樹さやかの契約がそろそろ近づいている』

???『そして、近いうちに彼女もまた動き出すでしょうね』

???『何にせよ、あなたは私と覚悟の契約をした。その契約が成就するよう……』

???『あなたの内から祈ってるわ……』

――――――

『……ら…ほむら……』

ほむら「ん……」

さやか「ほーむーら!おーきーろ!」

ほむら「……あら、私……」

まどか「おはよう、ほむらちゃん」

ほむら「えぇ…おはよう、まどか……。もしかして、私…寝てた……?」

さやか「もしかしなくても寝てたよ。ホームルーム中ずっと船漕いでたけど、ものの数分で寝てるとは思わなかったよ」

まどか「ほむらちゃん、疲れてるの?」

ほむら「いえ、それは大丈夫だと思うけど…それよりも、何か夢を見ていたような気が……」

まどか「夢?」

ほむら「えぇ、でも…忘れてしまったみたい。思い出せないわ」

ほむら「……そう言えば、わざわざ起こしてくれたところを見ると、私に何か用かしら?」

まどか「あ、うん。この前のほむらちゃんの歓迎会したときに話したでしょ?ほむらちゃんの家、行ってみたいって」

まどか「それで、今日遊びに行きたいなって思って」

ほむら「今日?随分と急ね」

さやか「都合悪かった?別の日でもいいけど……」

ほむら「……いえ、構わないわ。以前も言ったけど、つまらないところよ」

まどか「いいんだよ、ほむらちゃんの家に遊びに行くってことが大事なんだから」

ほむら「……それじゃ、案内するわね」

まどか「楽しみだなぁ、ほむらちゃんの家」

――――――

ほむら「……ここが私の家よ」

まどか「ここかぁ…素敵な家だね」

ほむら「そうかしら……?」

さやか「ここに1人で住んでるんでしょ?寂しくない?」

ほむら「もう慣れたわ」

マミ「何だか悪いわね、私まで誘ってもらっちゃって」

さやか「気にしないでくださいよ。多い方が楽しいじゃないですか」

ほむら「それじゃ…中へどうぞ」

まどか「ほむらちゃん、おじゃまします」

先日の約束通り、私の家へみんなを招待することにした

まどかとさやか、そして途中で会ったマミを家へと上げる

だが、いつも使っているワルプルギスの夜の資料を纏めた部屋へ入れるわけにも行かない

この情報はまだ伝えるべきではない。なんとなく、そんな気がした

なので、何の変哲もない普通の部屋へとみんなを通した

まどか「面白くないって言ってたけど…そんなことないんじゃないかなぁ」

ほむら「まどかの部屋のように女の子らしくもないし、マミの部屋のように内装に凝ってるわけでもないし……」

まどか「でも、わたしは素敵だと思うよ。ほむらちゃんらしい、落ち着いた部屋で」

ほむら「……ありがとう、まどか」

マミ「そうね…私も素敵だと思うわ」

さやか「あたしはダメだなー。なーんか落ち着かない……」

ほむら「ならお茶飲んでさっさと帰りなさい」

さやか「ごめん、ウソだって」

ほむら「……それで、今日は何をするつもりなの?」

まどか「あ…ごめんね、ほむらちゃんの家に遊びに行くことしか考えてなくて、その先は……」

ほむら「考えてなかったってわけね…さて、どうしましょうか」

マミ「何をするでもなく、お喋りしてるだけでもいいんじゃないかしら?」

まどか「それじゃ、今日はみんなでのんびりお喋りでもしようよ。ね、ほむらちゃん」

ほむら「私は……」

まどか「……ほむらちゃん、魔女や使い魔と戦って、きっと疲れてるんだよ。だから放課後、眠っちゃったんだと思う」

まどか「だから今日くらい、ゆっくりしていようよ」

ほむら「……まどかがそこまで言うなら」

疲れて眠ってしまったわけではないと思うが、どうやらまどかはそう思ってしまっているようだ

まどかなりの私への気遣いを無碍にするわけにもいかず、私はその提案を受け入れることにした

さやか「……相変わらず、まどかが相手だと甘いねぇ、ほむらは。あたし相手じゃ絶対こうはいかないよね」

ほむら「いいことを教えてあげる。日頃の行いって、とても大事だと思うわ」

さやか「……何も言い返せない」

マミ「でも2人が仲良しでいいことじゃない。そうでしょう?」

さやか「そうなんですけど…やっぱり不思議なんですよ。どうしてこの短期間であんな仲良くなれるのかって」

まどか「あの、そのことなんだけどね……」

ほむら「まどか?」

まどか「わたし、ほむらちゃんを…夢の中で見たんだ」

さやか「……まどか、大丈夫?帰って寝る?」

まどか「う、嘘じゃないよ。ほむらちゃんが転校してくる前の日、夢でほむらちゃんを見たんだよ」

まどか「だからその夢のおかげも…少しだけあるかも。もちろん、わたしが仲良くなりたいって思ってるから、仲良くなれたんだと思うけど」

さやか「出会う前に夢で見て、その子が転校してきたねぇ……。あんたらきっと前世か何かで恋人同士だったんじゃないの?」

まどか「こ、恋人!?」

さやか「そうなんじゃないの?愛してるからこそ、時を超えて夢の中で再び出会うって感じで」

マミ「もしそうだとしたらとてもロマンチックね」

まどか「そ、そんなわけないですって!大体、わたしもほむらちゃんも女の子ですよ!?」

マミ「あら、もしかしたら前世は男女だったかもしれないわよ?」

まどか「もー!」

まどかの夢に私が出て来た…もしかして、時間遡行による何らかの影響だろうか

だけど、そのおかげでまどかと仲良くなれたのなら…少しだけその夢に感謝することにした

まどか「……ねぇ、ほむらちゃんからも何か言ってよ!」

ほむら「……あ、えっと……?」

まどか「さやかちゃんとマミさんがからかってくるの…わたしとほむらちゃんが前世で恋人だーって」

さやか「あたしの嫁が実はほむらの嫁だったなんて…あたしゃ悲しいよ」

ほむら「……いい加減にしておきなさい。まどかが困ってるでしょう」

さやか「ごめんなさい…謝るから、そんな睨みつけないで……」

ほむら「全く…それにしてもまどかと恋人同士だった、ね……」

ほむら「……私が釣り合うわけ、ないわ」

まどか「……?ほむらちゃん、何か言った?」

ほむら「……いえ、何も。それよりも、何か違う話題に……」

――――――

ほむら「……あら、もうこんな時間…そろそろ帰った方がいいんじゃないかしら?」

さやか「え?……あー、全然気がつかなかったな」

マミ「ついお喋りに夢中になってしまってたわね…今日はこれでお開きにしましょうか」

何をするでもなく、みんなとの会話を楽しむ

今までならそんなこと、絶対にしなかったと思う。……だけど

今はきっと…心に余裕があるおかげだと思う

1人で戦っているわけではないこと、魔女になることがないというのも要因のひとつ

だけど、1番はやはりまどかの側にいることによるものが大きいと思う

失敗続きで疲れきっていたはずの私の心も、まどかの側にいるだけで不思議と気持ちが楽になった

気を抜くわけではないが、たまにはこんなことがあっても構わないだろう

さやか「それじゃ、そろそろ帰りますか」

まどか「うん、そうだね」

マミ「それじゃ暁美さん、またね」

ほむら「えぇ、気をつけて帰りなさい」

そう言って、まどかたちは帰って行った

たった今までみんなと話していたせいか、私1人になってしまい、酷く寂しいと感じてしまった

それだけあのひとときが楽しかったのだろう

ほむら「……またまどかと話、してみたいわね」

――――――

さやか「……それで、まどかはほむらをどう思ってるの?」

まどか「どう、って……」

さやか「最近随分と仲がいいから、気になるんだよね」

まどか「うーん…ほむらちゃんともっと仲良くなりたいとは思ってるんだけど……」

まどか「考えてみると…ほむらちゃんのこと、知らないことが多いんだよね」

マミ「そうね…私は魔法少女としてだけど、気になる点があるわ」

マミ「前に聞いたときに口ごもった契約の理由。……まぁこれは話したくないのなら無理に聞き出すつもりはないんだけど」

マミ「それに暁美さん、見たところ随分長く魔法少女をやってるみたいだけど、魔女の召喚を知らなかったみたいだし……」

さやか「うーん…そう考えると秘密が多いなぁ、ほむらは」

まどか「だけど…きっといつか話してくれるよ。わたしはそう思ってる」

さやか「まどか…うん、そうだね。ほむらを信じて待ってみるか」

マミ「えぇ、そうね。それに何があっても彼女はもう、友達で、仲間なんだから」

さやか「さて、それじゃあたしとまどかは向こうなんで」

マミ「もう暗いから気を付けてね」

さやか「はい、マミさんも……」

まどか「……あれ?ねぇ、さやかちゃん」

さやか「うん?どした?」

まどか「あそこ歩いてるの、仁美ちゃんじゃない?」

さやか「仁美?今日も習い事で先に帰ったはずじゃ…ありゃ、ほんとだ」

マミ「お友達?」

まどか「はい、同じクラスの志筑仁美ちゃんです。あ、わたし、ちょっと声かけてくるよ」

さやか「話し込んで遅くなるなよー」

まどか「仁美ちゃーん」

仁美「あらぁ…鹿目さん、ご機嫌よう……」

まどか「……?仁美ちゃん、今日習い事じゃなかったの?」

仁美「そんなこと、もうどうでもいいんですの……。これから素晴らしい世界へ旅立つんですもの……」

まどか「仁美…ちゃん……?」

仁美「鹿目さんとここで会ったのも何かの縁…素晴らしい世界へ、鹿目さんを招待しますわ……」

まどか「仁美ちゃん、何を言って……」

さやか「まどか、どうかした?」

まどか「あ、さやかちゃん…仁美ちゃんの様子が……」

マミ「様子がおかしかったから来てみたんだけど、これは……」

仁美「美樹さんと…あら、こちらの方はどなたでしょう……」

マミ「私は巴マミ。見滝原中学の3年生よ」

仁美「そうでしたか…それではお2人も、招待しますわ……」

さやか「……一体どこに連れて行こうってのよ」

仁美「ふふ…今よりももっと素晴らしいところですわ……」

まどか「ま、マミさん、仁美ちゃん、どうしちゃったんですか?」

マミ「……恐らく魔女に操られているわ」

まどか「そんな……!元に戻るんですよね!?」

マミ「大丈夫、操っている魔女を倒せば元通りになるはずよ」

QB(マミ、聞こえるかい?)

マミ「あら、キュゥべえから……?」

マミ(キュゥべえ?どうしたの?)

QB(どうやら工場地帯に魔女が現れたみたいなんだ。すぐに向かってくれるかい?)

マミ(工場地帯ね、わかったわ。暁美さんに連絡は?)

QB(多分テレパシーの圏外に出ちゃったんじゃないかな。通じないんだ)

マミ(彼女への連絡はこちらでするわね)

マミ(わかった。僕も工場地帯へ向かうよ。それじゃ、また後で)

マミ「……これではっきりしたわね。この子、魔女に支配されてしまってるわ」

さやか「それじゃマミさん、早く魔女を……」

マミ「それなんだけど…この子に案内してもらおうかしら。間違いなく魔女のところまで連れて行ってくれるわ」

まどか「それは…大丈夫なんですか?」

マミ「絶対、守ってみせるから。それに、操られた人があちこちにいるより1ヶ所に集めた方が対処もしやすいわ」

まどか「……わかりました。マミさん、仁美ちゃんを助けてあげてください」

マミ「えぇ、わかってるわ。あなたたちは暁美さんに連絡したら、そのまま家に……」

さやか「……あたしたちも連れて行って下さい。マミさんと仁美が…心配なんです」

マミ「……わかったわ。志筑さん、だったわね?その素敵なところへ連れて行ってくれないかしら」

仁美「えぇ、勿論です…さぁ、こちらですわ……」

マミ「それじゃ…行きましょうか」

さやか「はい……!」

――工場内――

マミ「これは……」

さやか「すごい人数…これみんな魔女に操られた人たちなんですか……?」

マミ「えぇ、そうよ。……鹿目さん、暁美さんへ連絡は?」

まどか「すぐにこっちへ来てくれるそうです」

マミ「そう…さて、これだけ集めて何を始めるつもりかしら……」

さやか「さぁ…でも、もしマミさんや仁美が危なくなるようなら、あたし……」

マミ「待って。この間も言ったけど、結論はちゃんと出たの?」

さやか「そ、それは……」

マミ「結論が出ないうちは契約をするべきじゃないと思うわ。ゆっくり考えなさい」

さやか「はい……」

まどか「さやかちゃん……?」

さやか(あたしは……)

まどか「あれ…マミさん、何か始めるみたいで……」

まどか「ま、マミさん!あれ、あのバケツ!あれ、なんとかしないと!」

さやか「ま、まどか?」

まどか「今バケツに入れたのと、あの人が持ってるの、混ぜたらダメな奴だよ!」

マミ「どうやらこの魔女、この人たちを集団自殺させるつもりだったのね……」

さやか「と、とにかくあのバケツを何とかしないと……」

仁美「美樹さん…邪魔はしないでいただけます……?」

さやか「仁美!?何してんの、このままじゃあたしら全員……!」

仁美「えぇ、だからこそですわ。肉体という器を捨て、今よりも素晴らしい世界へ旅立てるのですから……」

さやか「わけわかんない…マミさん、あたしは大丈夫ですからバケツを!」

マミ「早くあのバケツを……!」

工場長「てめぇ、何する気……」

マミ「邪魔…しないで!」

工場長「うぐ……」

マミ「あとで解きますから!……それよりも、バケツをどうしたら……」

マミ「あれは…窓……?それなら……!」

マミ「こんな危ないもの…飛んでいきなさい!ティロ……!」

マミ「フィナーレ!!」

さやか「バケツ、窓の外に……!」

まどか「や、やった……!」

さやか「……やったけど…やってないみたい」

まどか「へ?さやかちゃん、それってどういう……」

仁美「……あなたたちは大変なことをしてくれましたね」

まどか「さやかちゃん…何だか操られた人たちの様子がおかしいよ……」

さやか「これは…もしかして怒ってる?邪魔されたから……」

まどか「ど、どうするの!?何だかすごい目でこっち見てるよ……」

マミ「2人とも、一旦逃げましょう!こっちよ!」

さやか「わかりました!まどか、行くよ!」

まどか「う、うん!」

さやか「……ふぅ、何とかなったかな」

マミ「そうね…そう言えば、結界はどこかしら?ここに集められたってことは、この辺りのはずだけど……」

QB「あれ、マミ。2人を連れて来たのかい?」

マミ「あら、キュゥべえ。そうなの、2人の友達が操られて……」

QB「それはいいんだけど、この部屋に入れたのはマズいよ……。結界、ここなんだ」

マミ「え……」

まどか「あ…結界が……!」

さやか「そんな…あたしたちは逃げ……」

QB「もう無理みたいだね……」

魔女「……」

使い魔「……」

マミ「……探す手間が省けたわね。わざわざお出迎えなんて」

マミ「2人とも、私の防御結界から絶対に出ないで!キュゥべえ、あとは頼んだわ!」

QB「わかったよ。マミ、頑張って」

まどか「マミさん、大丈夫だよね……」

さやか(あたし…どうしたらいいんだろ。あたしは、あいつのバイオリンが聴きたいだけ。でも……)

さやか(マミさんが言ってた…夢を叶えてほしいのか、その夢を叶えた恩人になりたいのか……)

さやか(見返りなんてなくたっていい…あいつのバイオリンが聴けて、ほむらとマミさんの力になれるのなら……)

まどか「さやかちゃん……?どうしたの?」

さやか「……何でもないよ」

使い魔「……」

マミ「結構な数の使い魔ね…ならこっちも最初から全力で行かせてもらうわ……!」

マミ「出なさい、キャンデ……」

使い魔「……!」

マミ「っく…召喚させないつもり……?」

使い魔「……!」

マミ「まず数を減らさないと…魔女がいなくたって戦える……!」

マミ「全部…叩き落としてあげるわ!」

使い魔「!!」

マミ「隙ができた……!今のうちに……」

マミ「……あら?魔女はどこに……」

さやか「マミさん!後ろっ!」

魔女「……」

マミ「……え?」

魔女「……!」

マミ「あ…う……!」

まどか「マミさん!」

さやか「マミさん、大丈夫ですか!?」

マミ「あ…いや、私……!」

マミ「お願い…置いて行かないで……!」

さやか「マミさん!?どうしたんですか!」

マミ「ごめ…なさい……」

まどか「マミさん、どうしちゃったの……?」

QB「恐らくだけど、精神攻撃を受けてしまったんじゃないかな。今のマミには何か違うものが見えているんだろう」

QB「だから今の現状が見えてないし、僕たちの声も届いていないんだ」

さやか「現状?……まずいよ、使い魔と魔女がこっちに……!」

QB「マミが戦闘不能になってしまったからね…当然と言えば当然だよ」

まどか「ほむらちゃん…早く来て……!」

さやか(……ほむらはいつ来るかわからない。マミさんは魔女の攻撃で戦闘不能……)

さやか(……あたしの覚悟はあとですればいい。今ここで2人を失ったら…きっと後悔する。だから……)

さやか「……キュゥべえ!あたし、契約するよ!」

まどか「え…さやかちゃん、何言って……」

さやか「……いいんだよ。どの道きっかけがほしかっただけなんだから」

まどか「でも…もっとよく考えた方が……」

さやか「あたしには…叶えたい願いがあるの。それに、今契約しないと多分、ずっと後悔すると思うから」

まどか「さやかちゃん……」

QB「……本当にいいんだね?」

さやか「時間ないんだから、急いで!」

QB「……わかったよ。美樹さやか、君の願いはなんだい?」

さやか「……上条恭介の指の怪我、治して!」

QB「……その願いは、魂を差し出すに値するかい?」

さやか「そんなもんいいから!早く!」

QB「君の願い、確かに受け取ったよ。……さぁ、受け取るといい。契約の証、ソウルジェムを」

さやか「っ……!」

まどか「さ、さやかちゃん……」

さやか「……これが、あたしの力……?」

QB「武器は剣のようだね。癒しの願いで契約したから治癒魔法も使えるはずだよ」

QB「あとは…魔法少女になったわけだから、魔女の召喚も……」

さやか「それはあとでいい!あの魔女を…倒さないと!」

魔女「……」

さやか「よくもマミさんを……!絶対、許さない!」

使い魔「……!」

さやか「遅いっ!」

魔女「……!」

まどか「速い……!」

さやか「食らえ!」

魔女「!」

さやか「せいっ!」

魔女「!」

さやか「まだまだ!」

魔女「!」

使い魔「……!」

さやか「使い魔…なら、これで……!」

さやか「最後…だっ!!」

魔女「!!」

QB「魔女が真っ二つに……」

まどか「すごい…魔女、やっつけちゃったよ」

QB「契約したてでここまで戦えるなんて…すごいじゃないか」

さやか「そ、そうかな?……それよりも、マミさんは……」

魔女「……!」

まどか「さ、さやかちゃん!後ろ!」

さやか「へ……?」

ズドォォォォォン

さやか「うおっ!?な、何事?」

ほむら「……グリーフシードを確認するまでは気を抜かないことね」

まどか「あ…ほむらちゃん!」

ほむら「ごめんなさい、遅くなってしまったみたいね」

まどかから連絡をもらい、すぐにここに向かったが…どうやら少し遅かったようだ

さやかが魔法少女に…インキュベーターと契約してしまっていた

ほむら「さやか…あなた……」

さやか「……うん。見ての通り、魔法少女になったよ」

ほむら「……それは、しっかりと考えた上での契約かしら?」

さやか「……はっきりとそうだとは言えないよ、あんな状況だったし。でも……」

さやか「あたし、後悔だけはしてないよ。まどかとマミさんを守れて…よかったって思ってるから」

ほむら「そう……」

まどか「ほむらちゃん!」

ほむら「まどか……?」

さやかと話をしていると、不意に誰かが私に抱きついてきた

それがまどかであることはすぐにわかったが、何やら様子がおかしかった

まどか「ほむらちゃん…ごめんね、わたしたちがついて来たばっかりに……!」

まどか「それに…マミさんがやられちゃって…わたし、すごく怖かった……」

私に抱きついてきたまどかの体は、恐怖で震えていた

目の前でマミがやられ、何もできない自分たちへと使い魔と魔女が迫る。計り知れない恐怖を感じてしまったのだろう

私はまどかをそっと抱きしめてから、まどかに優しく語りかけた

ほむら「……ごめんなさい、まどか。私が遅くなったせいで、あなたに怖い思いをさせてしまって……」

ほむら「もう2度と…あなたに怖い思いはさせないから」

まどか「ほむらちゃん……」

さやか「まどかー?あたしたちがいるの、忘れてない?」

まどか「へ?……あ、その、ごめんねほむらちゃん、抱きついちゃったりして……」

ほむら「気にしないで、別に嫌というわけじゃないから」

さやか「つまりほむらはまどかに抱きつかれて嬉しかった、と?」

ほむら「……悪い気はしないわ」

まどか「も、もう…やめてよ、2人とも……」

さやか「ごめんごめん。……それよりも、マミさんは……」

マミ「ごめんなさい…不覚を取ったわ……」

ほむら「マミ、大丈夫?酷い顔してるけど……」

マミ「えぇ…見たくもないもの、見せられたせいでね……」

ほむら「そう…私が遅くなったせいね。ごめんなさい」

マミ「暁美さんのせいじゃないわ、油断した自分の責任よ。……さて、美樹さん」

さやか「……はい」

マミ「私を助けてくれたことは感謝してるわ。ありがとう。……でも、私が言ったこと…覚えてるわよね?」

さやか「……はい。でも、まだ答えは出てないんです。だけど…契約した以上、きちんと答えを出します」

マミ「状況が状況だったから仕方ないわね…だけど、その返事を聞いて安心したわ」

マミ「これからよろしくね、美樹さん」

さやか「はい、よろしくお願いします」

ほむら「……さて、魔女も倒したことだし、帰りましょうか」

まどか「そうだね。パパとママも心配してるだろうし…怒られないといいけど」

ほむら「まどかは私が送って行くわ」

さやか「わかったよ。……それじゃ、あたしは帰るね」

QB「僕は魔法少女の基本についてさやかに説明してあげないとだから、さやかと一緒に行くね」

マミ「今日は早く帰って休みましょう…それじゃまた……」

まどか「……マミさん、大丈夫かな」

ほむら「きっと大丈夫よ。ほら、私たちも行くわよ」

――――――

まどか「……ねぇ、ほむらちゃん」

ほむら「何?」

まどか「多分なんだけど…ほむらちゃん、わたしたちに秘密にしてることって…ない?」

ほむら「それ…は……」

まどか「ほむらちゃんと友達になってしばらく経つけど…ほむらちゃん、自分のことってあんまり話してくれないから……」

まどか「わたし、ほむらちゃんのこと…全然知らなくて…だから、もうちょっとほむらちゃんのこと、知りたいなって思って」

ほむら「まどか……」

まどか「ほむらちゃんが何を秘密にしてるのかはわからないけど…いつか、話してくれたら嬉しいな」

ほむら「……いつか、必ず話すわ」

まどか「ありがとう。……じゃあほむらちゃん、また明日」

ほむら「えぇ。また明日」

私がもたもたしてたせいで、さやかが契約してしまった

この時間の魔法少女のルールなら魔女になることはないと思うが……

インキュベーターの本質が変わっていないのだとしたら、きっと何か裏があるに違いない

だが、契約してしまったものは仕方がない。今後は彼女のフォローもしてやらなければ

それにしても、私が隠し事をしているとまどかはどうしてそう思ったのだろう

今までより親密になれたせい…なのだろうか

何にせよ、今はまだ話すことはできない。もう1人…最後の仲間の協力を取り付けてから、明らかにしようと思う

私の、戦う理由を……

今回はここまで
読んで下さってる方、ありがとうございます

次回投下は30日夜を予定しています

時間が遅い…明日こそ10時までに投下したい

次から本文

――翌日 放課後――

さやか「……それじゃ、あたしは恭介の様子を見に行くね」

ほむら「えぇ。今日はどうしようかしら、爆弾作成でも…でもまだストックは……」

さやか「……事情知ってるからいいけど、知らない人から見ると物騒な奴にしか見えないから気を付けた方がいいよ」

ほむら「わ、わかってるわよ。……じゃあ私は帰るわ。まどか、またね」

まどか「うん。またね、ほむらちゃん」

さやか「あんたたちも最近妙に仲良いよね、このさやかちゃんを差し置いてさ」

まどか「そんなこと……」

さやか「もしかすると…もしかしちゃうんじゃないの?」

まどか「べ、別に何もないってば。ほむらちゃんは友達だよ」

さやか「友達、ねぇ。……よし、そんじゃあたしもそろそろ行くね」

まどか「あ、うん。さやかちゃん、またね」

――病院――

さやか「……」

さやか(う…何だか入りづらいな……)

さやか(……あたしはあいつのバイオリンが聴きたいから、怪我を治した。それだけ……)

さやか(だから…絶対、あたしが治したんだって知られちゃいけない。もし恭介が知ったら……)

さやか(あいつ、きっとあたしを恩人みたいに扱うと思うから…あたしはそんな関係、望んでない)

さやか(それに…ううん、これはいいや……)

さやか「……さて、と」

さやか「し、失礼します……」

恭介「あれ、さやか。どうしたんだい?失礼します、だなんて」

さやか「悪かったわね、そういうセリフが似合わなくて」

恭介「ごめんごめん。そんなつもりじゃないんだ」

さやか「もう。……それで、怪我が治ったって……?」

恭介「うん…先生も驚いてたよ。急に動くようになるなんて、まるで奇跡だ、って」

さやか「奇跡…か……」

恭介「……実はね、先生に…もう2度と動かないだろうって、言われてたんだ……」

さやか「え…そうだったの……?」

恭介「うん。だけど…現に今、こうしてまた動くようになったんだ」

恭介「……僕はね、さやかが起こしてくれた奇跡なんじゃないかって思うんだ」

さやか「あたしが……?」

恭介「僕が事故に遭ってから、さやかはずっとお見舞いに来てくれたよね」

恭介「僕の勘違いだったら恥ずかしいけど…きっと僕の怪我が治るようにって祈ってくれてたんだと思う」

恭介「だからその祈りが通じて…奇跡が起こったんじゃないかなって……」

さやか「恭介……」

恭介「さやか…ずっと僕を支えてきてくれて、ありがとう」

恭介「それと…ごめん。イライラしてさやかに八つ当たりしたこともあったし……」

さやか「……気にしないでよ。あたしが好きでやってたことだからさ」

さやか「あたしは…また恭介のバイオリンが聴ければ、それで十分だよ」

恭介「それなら…さやかの為に心を込めて弾かせてもらうよ」

さやか「……ありがと。あたし、そろそろ行くね」

恭介「うん。きっと近いうちに退院できると思うから、また学校にも行けるようになるよ」

さやか「……それじゃ、またね」

――――――

さやか「……」

QB「どうしたんだい、ソウルジェムを眺めたりして……」

さやか「……ううん、何でも。願い、ちゃんと叶ってたよ。ありがと、キュゥべえ」

QB「お礼を言うのは僕の方さ。魔法少女になってくれてありがとう、さやか」

さやか「これであたしも…魔女と戦うことができるようになったんだよね」

QB「そうだね。マミとほむらもいるんだ。大丈夫さ」

さやか「ん、そうだね…それじゃあたし、そろそろ寝るよ」

QB「じゃあ、僕も帰るよ。おやすみ、さやか」

――――――

さやか「……ん、あれ?ここは……」

『やー、よく来たね』

さやか「え?だ、誰?」

魔女「誰って、あたしよ、あたし」

さやか「ま、魔女?何で魔女が……」

魔女「あんた、魔法少女になったんでしょ?説明受けてないの?」

さやか「あ…それじゃ、あんたがあたしの……?」

魔女「そ。美樹さやかの中の、もうひとりのあたし」

さやか「あんたが……」

魔女「契約して魔法少女となった以上、あたしはあんたの力になる。だけど……」

魔女「本当によかったの?自分以外の為に願いを使っちゃって。それも、好意を寄せている人にさ」

さやか「べ、別に好意なかじゃ……」

魔女「隠したってムダだって、あたしはあんたなんだから。……あんた、ケガを治してどうしたいの?」

さやか「どうって…あたしはあいつのバイオリンが聴きたいだけで……」

魔女「本当にそうだって言い切れる?それを口実に何か見返りを求めたりしないって…覚悟できる?」

さやか「覚悟……?」

魔女「そう、覚悟。あんたにそれができる?」

さやか「……あたしはあいつのバイオリンが聴ければ、それでいい。それは別に見返りじゃないよね」

魔女「まぁ、それを願って契約したわけだからね」

さやか「なら、それだけであたしは十分。ケガを治してやったからどうこうしてほしいなんて、思ってないよ」

魔女「そっか…それじゃ、覚悟はできてるんだね?」

さやか「……当然でしょ」

魔女「……わかった。それならいいんだよ。これからはあたしがあんたの剣になる。よろしくね」

さやか「あ、うん。よろしく」

魔女「さっきも言ったけど、あたしはあんた、あんたはあたし。……忘れないで」

さやか「わかってるよ。……えーと」

さやか「あんた、なんて名前なの?」

魔女「あぁ、そうだね。名前がないと召喚できないからねぇ…うっかりしてたよ」

さやか「うっかりって……」

魔女「それじゃ、よく聞きなさいよ。あたしの名前は……」

――翌日――

さやか「……という夢を見たんです」

マミ「もしかすると…美樹さんはもう魔女を召喚できるようになったんじゃないかしら」

マミ「まさか魔法少女になってからこんなにすぐできるようになるなんて思わなかったわ……」

さやか「あたしもですよ。まさかほむらよりも先になるなんてね……」

ほむら「悪かったわね」

さやか「別に悪いなんて言ってないのに…でもこれでマミさんとほむらの力になれるのなら……」

マミ「それはそうだけど…本当によかったの?見返りを求めないなんて覚悟、してしまって……」

さやか「いいんです。マミさんやほむら、まどか…それに恭介や仁美、この街の人たち」

さやか「みんなを守りたいんです。それが魔女と戦えるあたしの使命ですから」

これからのことを話し合おうとマミの家に集まったとき、さやかから魔女との夢を見たという話を聞かされた

マミの話では、さやかが魔女の召喚ができるようになったということらしい

まさかさやかに先を越されるとは…別に悔しいというわけではないが

この時間に来てしばらく経つが…やはり魔女の召喚が未だに頭のどこかに引っかかる

だが、いくら考えても答えは出ない。私の魔女のことはひとまず後回しにして、今日これからのことを話すことにした

ほむら「……それじゃ、マミはさやかの指導にあたってもらえるかしら」

マミ「えぇ、任せておいて。とりあえず使い魔の結界あたりで、美樹さんの魔女を確認しておきたいわね」

ほむら「頼んだわ。私は…会いたい人がいるの。その人に会って来るわ」

さやか「会いたい人?」

ほむら「……魔法少女の佐倉杏子という人物よ」

マミ「佐倉さんに……?」

さやか「マミさん、知ってるんですか?」

マミ「えぇ。佐倉さんに何の用なの?」

ほむら「……協力をお願いしたいの。これからの為に……」

マミ「それは…難しいわ。今の彼女は……」

ほむら「……?」

マミ「……とにかく、佐倉さんには近いうちに私が話をしてみるわ。それでいいかしら」

ほむら「……なら、任せるわ」

マミ「……それじゃ美樹さん、そろそろ出ましょうか」

さやか「そうですね」

ほむら「私は…どうしようかしら」

さやか「今日はゆっくりしてればいいんじゃない?何ならまどかのとこに行っててもいいし」

ほむら「そう…ね。そうさせてもらおうかしら……」

マミ「今日の結果は明日話すわね」

ほむら「……さやかのこと、頼んだわ」

佐倉杏子に会いに行くつもりが、急に1日空いてしまった

マミの家の前で2人と別れ、家路に就いたがどうにも真っ直ぐ家に帰る気にはならない

私はさやかに言われたように、まどかの家へと向かって歩き出した

さやか「……使い魔の結界とは言ったものの、そう都合よく見つかりますかね?」

マミ「どうかしら、こればっかりは……」

さやか「ですよねー…あれ、こんなとこにゲーセンなんてあったんだ……」

マミ「……あら、ソウルジェムに反応が…これ、使い魔のものかしら」

さやか「今度来てみようかな…え、使い魔、見つかったんです?」

マミ「恐らくだけど。とにかく行ってみましょう。こっちよ」

さやか「あ、ちょ、ちょっと待……」

???「おっと……」

さやか「……っと、ごめん、大丈夫?」

???「あぁ、気にすんな。よそ見してたアタシも悪いんだからね」

マミ「美樹さん、どうし…佐倉さん……」

杏子「ん?……あぁ、マミか…久しぶりだな……」

マミ「……えぇ。佐倉さんも元気そうでよかったわ」

杏子「元気そう…ね。ま、死なない程度に生きてるよ」

さやか「佐倉さんって…じゃあ、この子がほむらの言ってた……」

マミ「そう…この子が、佐倉杏子……」

杏子「……何だ?アタシに何か用か?」

マミ「えぇ…佐倉さん、もう1度戻って来てもらえないかしら」

杏子「……わかってんだろ。アタシはもう…戦えねぇって」

マミ「今回ばかりは…私ひとりの意見じゃないの。暁美ほむらさんからの依頼でもあるの」

杏子「暁美ほむら……?誰だそりゃ」

マミ「え?佐倉さん、知らないの?」

杏子「魔法少女の知り合いは…少なくともマミ以外にはいねぇよ」

マミ「じゃあ暁美さんはどこで佐倉さんを知ったのかしら……」

杏子「何だかわかんねぇが…アタシにはもう、一緒に戦う力はねぇんだよ……」

さやか「あの、これ聞いていいのかわかんないけど…一体何があったんです……?」

杏子「……昔、ちょっとあってな…己以外の為に願いを使ったのが間違いだっただけさ」

さやか「自分以外の為に……?あたしと……」

杏子「……オイ、お前まさか、自分以外の奴に……」

さやか「え?う、うん……」

杏子「マミ…何で止めなかった?何でそんなバカげたことさせた?」

さやか「……バカなこと、だって?」

杏子「あぁ、そうさ。自分以外の為に願いを…魔法を使ったってロクなことになりゃしない」

さやか「あんた…何勝手なこと……!」

杏子「それが事実さ。他人の為に魔法を使ったところで…結局、何も残らないんだよ」

さやか「……もういい。マミさん、結界に行きましょう」

マミ「え、えぇ……」

杏子「……やめとけって。別にアンタの友人家族がヤベェってわけでもねぇんだろ」

杏子「自分以外…完全な赤の他人の為に魔女や使い魔を倒したところで…何になるってんだ」

さやか「……あんたにはわからないだろうけど、あたしはマミさんに…憧れてるんだ」

さやか「だからあたしは…マミさんの力になりたいって、そう思ってる」

さやか「ほむらにも何か目的があるみたいだけど…そっちも、よほど変なことじゃなければ、協力したい」

杏子「他人の為、他人の為って…それがアンタの望んだことか?」

さやか「……そうだ。仲間に…友達に力を貸すのが、そんなにおかしいこと?」

杏子「……いや。もう何も言う気はねぇよ」

さやか「……なら、あたしたちはもう行くよ。マミさん、急ぎましょう」

マミ「えぇ…佐倉さん、最後にひとつだけ」

杏子「何だ…アタシはもう、戦えねぇって……」

マミ「……さっき言った暁美さん。彼女、魔女を使わずに戦ってる子なの」

マミ「だから…佐倉さんが戦えないわけじゃいわ。あとは佐倉さんの覚悟次第よ」

杏子「……」

マミ「それだけよ。……また、いつでも遊びに来てくれて構わないから。……待ってるわ」

杏子「……チッ」

――結界内――

使い魔「……」

マミ「よかった、使い魔の結界だったみたいね」

さやか「遅くなったから、ちゃっちゃと片付けましょうか」

マミ「美樹さん、忘れてない?今回は美樹さんの魔女の確認をしたいのだけど」

さやか「……あ、そうでした」

マミ「もう…人の話はちゃんと聞くこと。戦闘中に話やテレパシーの聞き漏らしがあると大変よ」

さやか「そうですよね…すいません」

マミ「……さて、それじゃ美樹さんの魔女、確認させてちょうだい」

さやか「はい!……行くよ、もうひとりのあたし……!」






さやか「オクタヴィア!!」



オクタヴィア「……」

さやか「これがあたしの魔女…オクタヴィアです」

マミ「これは…騎士、かしら。鎧に剣……」

さやか「だと思いますけど……」

マミ「でも…何で人魚?」

さやか「それはあたしにも……」

マミ「……まぁ、それはいいわ。せっかくだから、あの使い魔、魔女で倒してもらおうかしら」

さやか「わかりました!……行くよ、オクタヴィア!」

オクタヴィア「……」

使い魔「……!」

さやか「よし……!食らえっ!」

オクタヴィア「……!」

使い魔「!!」

マミ「一撃…見た目通り、強いわね」

さやか「へへ、どんなもんです?」

マミ「気を抜かないで、もう1体いるわよ」

使い魔「!」

さやか「ありゃ、ほんとだ。まぁ、すぐに倒しますよ!」

使い魔「!」

さやか「待てー!逃げるなー!」

オクタヴィア「……!」

使い魔「!」

さやか「くそ…全然当たらない……」

マミ「美樹さん、小さい使い魔相手に大振りしたって駄目よ」

さやか「わかってるんですけど、まだ上手く制御できなくて…あぁもう!オクタヴィア、突撃!」

マミ「ちょっ、美樹さん!?」

ズドォン

さやか「え?あれ、使い魔が……?」

マミ「あの槍…もしかして……」

杏子「……動きにムダが多すぎだ。使い魔相手に全力出してどうすんだ、バカ野郎」

杏子「……相手をよく見ろ。どう動くか予測して、そこを狙え」

マミ「佐倉さん……」

さやか「あんた…何で……?」

杏子「……少し気になったんだよ。マミに憧れてる新米がどんな奴か」

杏子「それに…アタシを知ってるらしい暁美ほむらって奴のこともな」

マミ「それじゃあ…また、一緒に……?」

杏子「……とりあえずはな。だけど、ここしばらくは魔女と戦ってないんだ」

杏子「だから…当分は戦力としては期待するなよ」

マミ「えぇ、それでも構わないわ。……また、よろしくね。佐倉さん」

杏子「……あぁ」

さやか「えっと……?」

杏子「さっきは変にイチャモン付けて悪かったな。……えーと」

さやか「さやか。美樹さやかだよ。……あんたの…杏子の考え方は、やっぱりまだ納得できない。でも」

さやか「マミさんとの話から…きっと何かあったんだと思う。……だから、これ以上は何も言わないよ」

杏子「そうか…そうしてもらえると助かるよ」

さやか「うん。……だけど、いつかまた…ほかの人の…仲間のためにって思える日が来るからさ」

杏子「……何でそう思うんだ?」

さやか「何でって…何でだろ?でも、何となくそう思うんだよね」

杏子「そう、か…よろしくな、さやか」

さやか「よろしく、杏子」

マミ「……それじゃ、せっかく佐倉さんも戻って来てくれることだし、私の家で歓迎会でもどう?」

さやか「いいですねそれ。……あ、まどかとほむらはどうしましょうか」

マミ「うーん…あの2人は2人で楽しくやってるでしょうから、いいんじゃないかしら」

さやか「あいつら最近妙に仲良くてあたし、ちょっと疎外感感じてるんですよね」

マミ「そうなの?それじゃ、それ以上に私と佐倉さんと仲良くなればいいのよ」

さやか「そうですよね!特に杏子とはすぐ仲良くなれる気がするんですよ!」

杏子「ウゼェ……」

マミ「ふふ…じゃあ、行きましょうか」

さやか「はい!ほら杏子、行くよ!」

杏子「だーっ!引っ張るなっての!」

今回はここまで
読んで下さってる方、ありがとうございます

次回投下は12月1日夜を予定しています

遅くなりすぎてしにたい
投下の予定じゃなくて1日の予定見直した方がいいね…

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――翌日――

さやか「そういうわけで、佐倉杏子、連れて来たよ」

ほむら「は……?」

まどか「えっと……」

話があるから家に来てほしいとマミに言われ、まどかと一緒にマミの家へやって来た

部屋へと通されると、そこにはなぜか佐倉杏子の姿があった

ほむら「……一体、昨日何があったのかしら」

マミ「順を追って説明するわ。昨日は……」

マミ「……ということなの」

ほむら「そう…昨日のことはわかったわ」

杏子「なぁ…アンタが暁美ほむら…なのか?」

ほむら「えぇ、そうよ」

杏子「アンタ…一体どこでアタシの名前を……?ここ最近はまともに魔法少女、やってなかったはずなんだが……」

ほむら「……それは、近いうちにきちんと話すわ。それよりも、私たちに協力してくれるということでいいのかしら?」

杏子「一応はな……。だけど、マミにも言ったが…今は魔女とはロクに戦えねぇ。それだけ…覚えといてくれ」

ほむら「……?」

今までの彼女と比べると…闘争心というか、覇気というか…何か弱気な感じがした

碌に魔女と戦えないとはどういう意味なのだろうか…杏子に聞いてみることにした

ほむら「魔女と戦えないって…どういう意味?」

杏子「アタシは…もう、魔女を…召喚できねぇから……」

ほむら「魔女を……?」

杏子「昔、色々あってな…悪い、今はこれ以上は……」

ほむら「……構わないわ。話したくないことくらい、誰にだってあるでしょうし」

杏子「それより…アンタ、魔女を召喚しないで戦ってるって…本当なのか……?」

ほむら「えぇ。私は魔女を召喚することはできないわ」

杏子「そうか……。アンタは…強いんだな」

ほむら「杏子……?」

マミ「それよりも…暁美さん?」

ほむら「何かしら?」

マミ「そろそろ、話してもらえないかしら。あなたの目的を」

まどか「ほむらちゃんの…目的……?」

マミ「私たちだけじゃなく、佐倉さんにまで協力を求めるなんて…あなたは一体、何をしようとしてるの?」

ほむら「あなた…気づいて……?」

さやか「気づいたのはあたし。……まぁ、気づいたっていうか、ただそんな気がしただけなんだけどね」

ほむら「……」

ここで私の目的…ワルプルギスの夜のことを話してもいいのだろうか

だが、当日が近くなってから言っても余裕がないだけで何もいいことはない

意を決し、私は目的…の一部を話すことにした

ほむら「……まず最初に断っておくわ。私のしようとしてることは…命懸けよ」

さやか「命懸けって…一体何をしようってのさ」

ほむら「私の目的は…ワルプルギスの夜を、この世から始末すること」

マミ「ワルプルギスの夜…ですって……?」

杏子「……まさかここでその名を耳にするとは思わなかったよ」

さやか「マミさん?杏子?その、ワルプル…何とかって、何?」

まどか「ワルプルギスの夜だよ、さやかちゃん……」

マミ「ワルプルギスの夜…結界を持つことなく、直接この世界に現れる巨大な魔女……」

杏子「その姿は…人であるとか、空飛ぶ要塞のようだとか…あやふやなんだ」

さやか「どういうこと……?」

マミ「そのワルプルギスの夜と戦って…生きて帰った者がいない、ということね」

まどか「そんな……」

ほむら「……実はあと2週間ほどで、この街に…ワルプルギスの夜が現れるの」

マミ「え…この見滝原に……?」

ほむら「えぇ。奴を倒す為に…あなたたちの力を貸してほしい……」

杏子「力を貸すって言ってもな…奴は結界を持ってないんだ。だから……」

さやか「あ…あたしたち、魔女を召喚できない…ってこと?」

ほむら「……」

結界の中でなければ魔女を召喚することはできない。それは、私もマミから聞かされている

つまり、ワルプルギスの夜と戦いに魔女の力を借りることができないということだ

元々使うことのできない私はいいとして、それが当然としているマミ、新米のさやか、召喚不能の杏子……

果たして、協力してくれるのだろうか

マミ「……疑うわけではないけど、その情報はどこから?」

ほむら「……杏子を知っている件と同じ。近いうちにちゃんと話させてもらうわ」

マミ「……わかった、私は協力させてもらうわ」

さやか「マミさん……?」

マミ「どうして理由を隠しているのかはわからないし、正直半信半疑ってところね。でも……」

マミ「もしそれが本当なら、この街の危機だもの」

さやか「うーん…マミさんが協力するって言ってるし、あたしも力を貸すよ」

杏子「アタシは…力にはなれそうにないよ」

マミ「佐倉さん……?」

杏子「魔女も魔法も使えねぇ…槍ブン回すしかできないアタシが戦力になるとも思えないからな……」

さやか「そんな…あたしの修行はどうなんのさ」

杏子「約束した以上、それはきっちり面倒見てやるよ。……だけど、戦うことはできねぇ」

ほむら「……わかったわ。さやかの面倒、よろしく頼むわね」

杏子「……あぁ」

杏子が頑なに戦うことを拒む理由…この時間の彼女に一体何があったのだろうか

彼女の魔法…幻覚魔法が使えなくなったこと、魔女の召喚が行えないこと…きっとその辺りと関係しているはずだ

だが、今の彼女は戦う以外のことだが、協力はしてくれると言っている

お願いする立場の私はこれ以上は何も言えなかった

杏子「……そろそろ訓練、始めるか。さやか、行くぞ」

さやか「わかった。とりあず、使い魔の結界を探さないと……」

杏子「見つからなかったら、お前本人の訓練だな。……んじゃ、行って来る」

マミ「えぇ、行ってらっしゃい」

そう言って2人は部屋から出て行った。さやかのことは杏子に頼んでおけば大丈夫だろう

私としては杏子自身のことが気にかかるが…これは本人が話してくれるまで待つことにした

考え事もそこそこに、魔女が出ない限りこれ以上はすることもない

そろそろ家に帰ろうか、そう思っていたときだった

まどか「……ねぇ、ほむらちゃん」

ほむら「まどか?どうしたの?」

まどか「やっぱり、わたしも魔法少女に……」

ほむら「……どうしてそう思ったの?」

まどか「だって…今まで誰も生きて帰っていない魔女なんでしょ……?」

まどか「それを聞いて…不安なの。もしかして…ほむらちゃんたちも、帰って来ないんじゃないかって」

まどか「だから、わたしもほむらちゃんの力になりたくて……」

まどかが私のことを心配してくれている…そう思っていてくれているのはとても嬉しい

だが、私はまどかを契約させるつもりはない。絶対に

ほむら「……まどか、あなたがそう思ってくれていることは嬉しいわ。……でも」

ほむら「あなたが契約する必要はないわ」

まどか「え……」

ほむら「あんな話を聞いたのだから、不安になるのも無理はないと思うけど……」

ほむら「さやかとマミが一緒に戦ってくれる。杏子だって、力を貸してくれる。……だから、大丈夫よ」

まどか「ほむらちゃん…うん、わたし、信じてるからね」

マミ「……あなたたちって、本当仲が良いわよね。案外、あの前世が恋人だって話も本当なんじゃない?」

まどか「ま、マミさん…またその話……」

ほむら「……それじゃ、私はこれで失礼するわ」

マミ「そう?わかったわ」

まどか「わたしも一緒に帰るよ」

マミ「暁美さん、鹿目さんのこと、よろしくね」

ほむら「えぇ、わかってるわ。……じゃあ、帰りましょうか」

まどか「マミさん、おじゃましました」

――――――

まどか「……あ、ここまででいいよ」

ほむら「そう…わかったわ」

まどか「送ってくれてありがとう。じゃあ、またね」

ほむら「えぇ、また」

まどかと別れ、1人家路に就く

歩きながら、今日聞いた話を整理する

1番気になることというと、やはり杏子のことだ。彼女を戦力外とすると、だいぶ厳しいことになるだろう

それとワルプルギスの夜のこと。人だったり要塞だったりあやふやとの話だが…一体どういうことなのだろうか

その辺りのことについては、今はまだ情報が足りない。早々に別のことを考えることにした

ほむら「……やっぱり、まどかのこと、かしら」

この時間のまどかとはだいぶ…かなり仲良くなったと思う。前世で恋人だったと言われてしまうほどに

正直私もここまで仲良くなれるとは思ってなかった。だけど、仲良くなれたことは素直に嬉しく思う

今まではまどかを守る為だと言って、彼女を遠ざけ、必要以上に関わろうとしなかった

だが、今回は違う。まどかが私の側にいても、ここまで順調に進めることができた

ほむら「……いえ、まどかがいてくれたからこそね」

そんなことを考えながら歩いていると、不意にどこかから声が聞こえてきた

『……ここまでは上手くやれているみたいね』

ほむら「な、何……?誰なの?」

『言わずとも分かるはず……。それよりも……』

『佐倉杏子が戦力にならない…このままだと、ワルプルギスの夜には勝てない』

ほむら「何を…言ってるの……」

『そして…直に美樹さやか最大の問題にも直面するでしょう。佐倉杏子、美樹さやか…2人の仲間……』

『どちらを欠いてもあなたは失敗してしまうでしょうね……』

頭に響く声は私の問いかけにも応じず、一方的に話を続ける

しかしこの声、どこかで……

『あなたの目的は…まどかと、魔法少女の仲間を救うこと。そのはずでしょう?』

ほむら「誰だか知らないけど…言われるまでもないわ……!」

『そう…忘れていないのなら十分よ。その目的が果たされるよう……』

『あなたの内から祈っているわ……』

ほむら「……」

それっきり、謎の声は聞こえなくなってしまった

冷静になって考えると、今の声は…恐らく私の魔女の声なのだろう

だが、特に何も召喚のことには触れられなかった。今はまだその時ではないということなのだろうか

ほむら「だけど…今の声、どこかで聞いたような…どこだったかしら……」

ほむら「何か…何かを忘れているような……」

何か大事なことを忘れている。何故かそんな気がした

ともかく、魔女からの声が聞こえたということは、近々私にも何か変化があるのだろう

そんなことを思いながら、再び家へと歩き出した

――数日後――

マミ「……じゃあ、今のところは……」

ほむら「えぇ、特に何もないわね」

マミ「声が聞こえたのなら何かあってもいいと思うのだけど……」

あれから数日が経ったが、未だに何か起こる様子はない

あれは本当に自分の魔女の声だったのだろうか…そんな気さえしてきた

この時間で契約したわけではない私には、やはり使えないのだろうか

しかし、ソウルジェムはこの世界の規格のものに変わっている。一体どういうことなのだろうか

答えの出るはずのないことに頭を悩ませていると、杏子が姿を見せた

杏子「……何だ、さやかの奴はまだ来てないのか」

マミ「いらっしゃい、佐倉さん。……そう言われると、確かに。鹿目さん、美樹さんは?」

まどか「さやかちゃんは友達…仁美ちゃんから話があるって言われて……」

マミ「この間助けたあの子ね。その後変わったことはない?」

まどか「はい。あのときは本当にありがとうございました」

マミ「気にしないで、って言いたいけど…あれは美樹さんの活躍よ。鹿目さんにも怖い思いをさせてしまったし……」

まどか「いえ、そんな……」

杏子「仕方ねぇ…少し待たせてもらうよ」

さやかが志筑仁美に呼び出される…上条恭介のことについての話だろう

あの声の言った通り、さやかにとって最大の問題がやって来てしまった

それからしばらくしてさやかが姿を見せる。だが、その様子はどこかおかしかった

さやか「ごめんごめん、遅くなっちゃった。さ、杏子、今日もよろしく頼むよ!」

まどか「さやかちゃん…仁美ちゃんと何かあったの……?」

さやか「な、何かって何かな?べ、別に何も……」

ほむら「バレバレよ。そんな態度じゃ」

さやか「で、でもこれはあたしの問題……」

ほむら「嘘や隠し事をしても得はないわよ。話しなさい」

さやか「ほむらに言われたくは…まぁバレちゃってるみたいだし…ちょっと聞いてもらおうかな」

そう言うとさやかは志筑仁美との間に起こったことを話し始める

私の思った通り、上条恭介のことについての話だった

彼と長く一緒にいるさやかが先に告白するべきということらしいが、彼女はどうしたらいいか迷っているようだ

さやか「あたしは…どうしたらいいんだろう……?」

まどか「告白…したらいいんじゃないかな」

さやか「だけどさ…あたしは見返りはいらないって…そう、覚悟したはずだし……」

マミ「美樹さんが…その上条君に、自分が怪我を治してあげた。だから付き合ってほしい…なんて言わなければ、それは見返りじゃないと思うわ」

ほむら「そうね。それを黙っていれば、彼のあなたへの好意次第というわけよね」

さやか「で、でも……」

杏子「……いつまでもウジウジしてねぇで、スパっと言っちまえばいいんだよ」

さやか「杏子……?」

杏子「せっかく相手がお先にどうぞって言ってくれてるんだ。……告白、するしかないだろ」

さやか「そ、それにあたし…魔法少女だし……」

杏子「……それはさやかの個性ってことでいいんじゃないか」

さやか「個性……?」

杏子「あぁ。魔女と魔法が使える…そんな変わった中学生がいたっていいじゃねぇか」

まどか「そうだよ。さやかちゃんなら絶対、上手く行くよ」

さやか「……わかった。あたし、恭介に…想いを伝えてみるよ」

杏子「その意気だ。……さっさと伝えに行って来い」

さやか「え、でも特訓は……」

杏子「んなもん今の調子で身が入るワケねぇだろ。……だから早く行けって」

さやか「……ありがと、杏子。マミさん、まどか、ほむらも」

マミ「上手く行くといいわね」

まどか「さやかちゃん、がんばって!」

ほむら「……頑張りなさい」

さやか「うん……!あたし、ちょっと行って来る!」

そう言うとさやかは勢いよく飛び出して行った

これが吉と出るか凶と出るか、今の私にはわからない。でも

いつもと違うこの行動がきっといい結果になると、私は信じている

まどか「それにしても好きな人かぁ…仁美ちゃんもラブレターいっぱい貰ってるしなぁ」

マミ「鹿目さんはそういう人、いないの?」

まどか「うーん、今は何とも……。マミさんはいないんですか?」

マミ「魔法少女やってるとねぇ…恋してる暇もないっていうか……」

まどかとマミが恋話を始め、杏子はそれを頬杖をついて眺めている

そういった会話をしたことがない私がその会話に入れずにいると

まどかが、私に話を振って来た

まどか「ねぇ、ほむらちゃんは好きな人っている?」

ほむら「え?わ、私?」

まどか「うん。ほむらちゃん、結構人気あるみたいだから気になって」

私の好きな人…そう言われて出てくる人物はひとりだけ

そういう意味で好きというわけではないのだろうが……

ほむら「……私はまどかが好きよ」

まどか「ちょ、ちょっとほむらちゃん?何言って……」

ほむら「私、今まで恋なんてしたことなくて……」

まどか「そ、そうだったんだ…あ、もちろんわたしもほむらちゃんのこと、好きだよ」

まどかも私が好きだと返してくれた。友達として当然の返事

さやかやマミ、杏子への好きと何ら変わりのない気持ちだろう。だけど……

そう思ったら、少しだけ…胸に棘が刺さったような違和感を覚えた

一体何だろうと思う間もなく、マミがちょっかいをかけてくる

マミ「あらよかったわね。鹿目さんの好きな人、こんな素敵な人だなんて」

まどか「だ、だからそういう意味じゃないんですってば!」

マミ「大丈夫、あなたたちならお似合いのカップルになれると思うわ」

まどか「もー…そもそもわたしたち、女の子同士なわけで……」

マミ「愛があればそれは大した問題じゃないと思うわ」

まどか「マミさん、お願いだから話聞いてください……」

もし、仮に…まどかが私をそういう意味で好きだとしたら、それは凄く嬉しい。だけど……

私にはまどかの隣は似合わない。私のような人間は……

杏子「……さやか、上手く行くといいな」

ほむら「杏子…えぇ、そうね……」

まどかとマミが変な言い合いをしている隣で、杏子がそう呟く

杏子は杏子なりにさやかのことを気にかけているのだろう

私も改めてさやかの成功を祈る。だが

その日、さやかが戻って来ることはなかった

今回はここまで
読んで下さってる方、ありがとうございます

次回投下は2日夜を予定しています

今週の1日ごとの予定を見直した
明日から大丈夫…だと思いたい

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――翌日――

ほむら「……結局、来なかったわね」

まどか「……さやかちゃん、どうしたんだろう」

マミ「ちょっと心配ね……」

翌日になってもさやかは姿を見せなかった

休み時間にさやかの携帯へ電話をかけてみたが、電源が切られているのか繋がらなかった

ほむら「昨日の今日でこれだから…上条恭介への告白が原因だと思うけど……」

まどか「うん…さすがに上条君にさやかちゃんの告白をどうしたのかなんて聞けないし……」

マミ「美樹さんがいないって聞いたあと、佐倉さんに街で見かけたら教えてと伝えておいたけど……」

ほむら「……とにかく、今日の放課後まで待ちましょう。さやかを待つにしても、探しに出るとしても」

マミ「そう…ね……」

まどか「さやかちゃん……」

――放課後 マミの家――

マミ「……美樹さん、やっぱり来ないわね」

まどか「マミさん、杏子ちゃんは?」

マミ「多分まだ美樹さんを探してくれてるんだと思うわ……」

まどか「そうですか……」

ほむら「……私たちも探しに出ましょうか」

まどか「うん…そうだね」

ほむら「マミは杏子と合流して。まどか、あなたはさやかの自宅に……」

いつまでも待っていても仕方ない。こちらからさやかを探しに出ようとしたとき

杏子から連絡が入った

杏子(マミ、ほむら…聞こえてるか?)

ほむら「杏子……?」

まどか「ほむらちゃん?どうかした?」

ほむら「杏子から連絡が……」

マミ(佐倉さん?美樹さん、見つかったの?)

杏子(いや、そうじゃねぇが…魔女の結界を見つけた。一応、教えといた方がいいと思ってな)

マミ(魔女の……?こんなときに……)

杏子(……魔女はマミとほむらに任せる。アタシはさやかを探すよ)

ほむら(こうなった以上、仕方ないわね。さやかのこと、頼んだわよ)

杏子(あぁ…わかってる)

まどか「杏子ちゃん、何だって……?」

ほむら「残念だけどさやかを見つけたということじゃないの。魔女の結界を見つけたみたいで……」

マミ「私たちは魔女を倒しに行くわ。なるべく早く倒して美樹さんの捜索をしたいところね……」

ほむら「さっきも言ったけど…まどかはさやかの自宅を見てきて頂戴。そのあとはあなたの判断に任せるわ」

まどか「わかったよ。……ほむらちゃん、気をつけてね」

ほむら「えぇ、わかってる。……マミ、私たちも行くわよ」

マミ「佐倉さんに場所を聞いておいたわ。行きましょう」

――――――

ほむら「……あった、あれね」

マミ「今日は時間がないの……。最初から全力で行かせてもらうわ……!」

ほむら「確かに急ぎではあるけど、焦っては駄目よ」

マミ「わかってるわ。焦らず、迅速に……!」

ほむら「わかってるのならいいわ。……あら、あれ……」

杏子の言っていた結界が見えてきた

だが、その入り口の前に見慣れた人物が佇んでいた

さやか「……」

マミ「美樹さん!」

さやか「……あ、マミさん…ほむら……」

ほむら「さやか……」

さやか「今日は…ごめん。多分心配かけちゃったと思うし……」

マミ「美樹さん…一体何が……」

ほむら「話は魔女を倒してからにしましょう。さやか、手を貸して」

さやか「……うん」

マミ「美樹さん、大丈夫?」

さやか「大丈夫…だと思います……」

マミ「本当に大丈夫なのね?……じゃあ、行きましょう」

――結界内――

さやか「てりゃっ!」

使い魔「!!」

さやか「ふぅ……」

ほむら「後ろよ、さやか!」

さやか「え……」

使い魔「!!」

さやか「あ…ありがと、ほむら……」

ほむら「……あなた、本当に大丈夫なの?これで3度目よ?」

さやか「……ごめん」

さやかにも手を貸してもらったが…今の彼女ははっきり言って足手まといだ

注意力が散漫になってるのか、使い魔に何度も背後から攻撃されてしまう

その度私やマミが援護してはいるが……

マミ「……魔女のところまで来たけど」

ほむら「さやか、あなたは下がってなさい」

さやか「え…でも……」

ほむら「……目の前のことに集中できないのなら、大人しくしてなさい」

ほむら「……その調子で戦ってたら…最悪、死ぬわよ」

マミ「私も暁美さんに賛成よ。今の美樹さんには戦わせられないわ」

さやか「……わかりました。だけど、2人が危ないようだったら…あたしも戦いますから」

ほむら「そのときはお願いするわ。そうならないように注意はするけど……」

マミ「それじゃ…行きましょう」

魔女「……」

マミ「あの魔女…何かを祈ってるのかしら」

ほむら「そう見えなくもないわね。……魔女が何を祈ってるかなんて知ったことじゃないけど」

マミ「そう…ね。じゃあ美樹さん、あなたは後ろに下がってて。いいわね?」

さやか「……はい」

ほむら「私とマミ、どちらかが援護に回った方がいいかしらね」

マミ「なら、私がやるわ。……行くわよ、キャンデロロ!!」

ほむら「……わかったわ。援護は任せたわよ」

提案したあとで思ったが、私が援護に回った方がよかったような気がした

私の銃器で果たして倒せるのだろうか……

最悪、射線を確保した上でマミに砲撃してもらうという手もあるが

とにかく考えていても仕方がない。私は盾から機関銃を引っ張りだすと、マミに目で合図を送る

それと同時に私は魔女へ向かって突っ走った

触手のような使い魔が私を捕らえようと四方八方から向かって来る

だが、そのほとんどは私に届く前にマミとキャンデロロによって次々に撃ち抜かれていった

ほむら「さすがマミね…正面以外を気にしなくて済むのは助かるわ」

使い魔「……!」

ほむら「正面は自分で薙ぎ払えば……!」

マミの位置からは死角になっている自分の前方に残っている使い魔に機関銃の銃口を向け、引き金を引く

私の邪魔をしていた使い魔が一瞬で蜂の巣となり、消滅する

まだいくらか使い魔が残っていたが、全ての相手をするつもりはない

残りをマミに任せ、私は魔女へと向かって使い魔の群れの中を走り抜けた

ほむら「抜けた……!あとは魔女を倒せば……!」

魔女「……」

ほむら「これでも…食らいなさい!」

使い魔の群れを抜けた私は機関銃を盾へ戻し、ロケット砲を引っ張り出す

そして、魔女へと狙いを定め、ロケット砲を発射した

発射された弾頭は魔女へ向かって飛んで行き、命中、爆発した

ほむら「どうかしら……?」

今の一撃で倒せたとも思えない。使い魔は姿を消しているが……

銃を構えて警戒していると、不意を突いて爆煙の中から魔女の触手が伸びてくる

咄嗟に銃の引き金を引くが撃ち落とせず、右腕を絡め取られてしまった

ほむら「……っ!そうだった、コイツも……!」

さやか「ほむらが……!」

マミ「まずいわね…私が行くわ。美樹さんはここを動かないで」

さやか「で、でも……」

マミ「いいから、私に任せて。……暁美さん、今行くわ!」

さやか「あ…マミ、さん……」

さやか(あたし…あたしは……)

さやか(あたし…何やってんだろ…仲間が危ないっていうのに……)

さやか(それに…覚悟したはずじゃない…見返りを求めないって。でも……)

さやか(恭介……)

ほむら「く…この……!」

絡め取られたのは右腕だけだったのは幸いだ。多少は時間稼ぎができるはず

だが、このままではいずれ全身を拘束され、影に引きずり込まれてしまうだろう

それだけは絶対に避けなければならない。何かいい手はないかと思案していると

マミがこちらへ向かって走って来る。だが、先ほど使い魔が現れた辺りの地面が妙だ

何か影のような……

マミ「暁美さん!もうちょっとだけ頑張って!」

ほむら「あれ、まさか…マミ、踏み込んじゃ駄目!」

マミ「え?なっ……!」

悪い予感は的中し、マミの周囲から多数の使い魔が姿を現す

そして、マミ目がけて一斉に襲いかかった

マミならあの程度、大丈夫だと思うが…これでは私の救助に来ることはできそうもない

自分で何とかするしか……

さやか「マミさん…ほむら……」

さやか「……あたしが…やらなきゃ。助けて…あげなきゃ……!」

さやか「ここであの2人を…仲間を助けられなきゃ…それこそ、あたしは……!」

さやか「あたし自身の問題で…あの2人に迷惑なんてかけたくない。だから……」

さやか「お願い…力を貸して……!」

さやか「……オクタヴィア!!」

マミ「……暁美さんを助けないといけないのに…邪魔よ!」

使い魔「……」

マミ「倒しても倒しても…キリがない……!」

さやか「マミさん!今助けます!」

マミ「美樹さん…それにオクタヴィアも……」

さやか「邪魔…だっ!」

オクタヴィア「……!」

使い魔「!!」

マミ「凄い…一太刀で……!」

さやか「あとはほむら…あたしが助けないと……!」

マミ「美樹さん!待って、私も……!」

魔女「……!」

ほむら「う…ぐ……!」

魔女に絡め取られながらも何とか抵抗していたが、それもそろそろ限界だ

時間停止を使っても魔女が私に触れてしまっている以上、それは無意味だった

そんな中、私を呼ぶ声が聞こえる

振り返ってみると、マミと魔女を従えたさやかがすぐそこまで来てくれていた

その足元には再び黒い影。そこへ踏み込むと、再度使い魔が姿を現した

さやか「また……!」

マミ「美樹さん、あなたは暁美さんを!ここは任せて!」

さやか「マミさん…わかりました!」

使い魔「……!」

マミ「させないっ!」

使い魔「!!」

ロロ「……」

マミ「あなたたちの相手は私よ。……さぁ、かかってきなさい!」

さやか「ほむら!今、助ける!」

魔女「……!」

さやか「邪魔を…するなっ!」

さやかの接近に気付いた魔女が彼女へと触手を伸ばす

だが、さやかは自身の魔女…オクタヴィアの両手の剣でそれを片っ端から切り落としていく。

そして、私を絡め取っていた触手をさやかの剣が断ち切った

ほむら「さやか…助かったわ、ありがとう」

さやか「お礼なんて…あたし、2人に迷惑かけちゃったし」

ほむら「……その様子なら、もう大丈夫そうね。行ける?」

さやか「もう大丈夫。あとはあたしに任せて」

ほむら「なら…あの魔女、真っ二つにしてやりなさい。もしものときは援護するわ」

さやか「……うん。行くよ、オクタヴィア……!」

オクタヴィア「……」

さやか「魔女…あんたは、あたしが…斬る!」

魔女「……!」

さやか「うわ、枝…かな……?だけど、そんなもの……!」

さやか「オクタヴィア!!」

オクタヴィア「……!」

魔女「!?」

魔女は向かって来たさやかを迎撃しようと枝を伸ばすも、オクタヴィアが一刀の下に斬り捨てる

そしてそのまま一気に魔女の懐へと潜り込んだ

さやか「これで…トドメだっ!」

魔女「!!」

オクタヴィアの大振りの剣が一閃する

次の瞬間には、魔女は真っ二つに両断されていた

さやか「ハァ…ハァ…」

ほむら「さやか…よくやったわ」

さやか「あ…あたしが、魔女を……?」

ほむら「えぇ。あなたが倒したのよ。見事だったわ」

さやか「そ…っか。あたしでも…ちゃんと魔女、倒せるんだね……」

さやか「杏子から色々教わってたけど…なかなか上手く行かなくて…あたしじゃダメなんじゃないかって……」

ほむら「さやか……」

マミ「暁美さん!大丈夫!?」

ほむら「えぇ。さやかのおかげで助かったわ」

マミ「そう、よかった…それよりも美樹さん、待っていてって言ったのに……」

さやか「あ…す、すいません……」

マミ「……ふふ、冗談よ。私と暁美さんを助けてくれてありがとう、美樹さん」

さやか「これで…あたしも2人の役に立てるかな」

マミ「えぇ。これから頼りにさせてもらうわ」

さやか「……!は、はい!頑張ります!」

マミ「それじゃ、戻りましょうか。……あ、そう言えばグリーフシード……」

ほむら「それなら私が回収しておいたわ。それよりも早くまどかと杏子に連絡を……」

マミ「結界を出たら連絡しておきましょうか」

――――――

QB「やぁ、お疲れさま」

マミ「キュゥべえ…どうしてここに?」

QB「魔女の反応があって、来てみたら君たちがもう中で戦ってたみたいだったからね。ここで待ってたんだ」

マミ「そう……」

QB「それよりも、グリーフシードを渡してくれないかな」

ほむら「……ほら」

QB「ありがとう。それじゃ早速……」

QB「……影の魔女、性質は独善…か」

さやか「……前々から思ってたんだけど、その食べたグリーフシードはどこに行くのさ」

さやか「あんたの中に詰まってるわけでもなさそうだし」

QB「そうだね…詳しく話してもきっとわからないだろうから簡潔に言うと、別の場所に転送されてるんだよ」

さやか「転送…ねぇ……」

QB「……さて、僕はそろそろ行かないと。それじゃ、また魔女を見つけたらよろしくね」

インキュベーターはそう言い残すと、私たちの前から去って行った

私たちも帰ろうとしたとき、マミがインキュベーターの行動について疑問を投げかける

マミ「……それにしても、キュゥべえはどうしてグリーフシードを集めてるのかしら」

さやか「あ、今聞けばよかったですかね…まぁ、次会ったときでいいかな」

私の知っているインキュベーターと比べると、この時間の奴は多少は友好的に思える

だが、どこまで行っても奴らはインキュベーター。自身の都合と利益の為ならこちらを利用するような連中だ

あの態度の裏に何が隠されているかわからない。特に魔法少女に関したことは……

さやか「……おーい、ほむらー」

ほむら「……あ、何かしら」

さやか「どうかした?今、すごい顔してたよ。眉間に皺寄せちゃってさ」

ほむら「……何でもないわ」

さやか「ならいいけど。それよりも、まどかに連絡してあげてよ。あたしを探し回ってるんでしょ?」

ほむら「そうだったわね…杏子にはマミかさやかが……」

さやか「今マミさんが連絡してるよ。だからほむらはまどかに電話してあげて」

ほむら「わ、わかったわ……」

ほむら「……えぇ。だからもう切り上げてもらっても大丈夫よ」

ほむら「ありがとう、まどか。それじゃ、またね」

マミ「暁美さん、終わった?」

ほむら「えぇ、今終わったわ」

さやか「まどか…なんだって……?」

ほむら「とても心配していたわ。さやかからも謝っておくことね」

マミ「もちろん佐倉さんにもよ。今日はずっと美樹さんを探していてくれていたのだから」

さやか「……うん。ちゃんと謝っておくよ」

マミ「……さて、私たちも帰りましょう」

――――――

ほむら「……さやか、ちょっといいかしら」

さやか「うん?何?」

帰り道の途中で、私はさやかに声をかけた

本当は聞かない方がいいのだろうが…そういうわけにもいかなかった

ほむら「今日は…どうしてまたこんなことを?」

さやか「こんなこと…って……」

ほむら「学校を無断欠席したり、集中しきれていなかったり……」

ほむら「昨日あんな話をしたあとだから、そのことだと思うのだけど……」

さやか「……マミさんとほむらには話しておこうかな。えっと……」

さやか「昨日…あのあと、恭介の家まで行って…恭介とちょっと外に出たんだ」

さやか「それで…恭介に告白したんだ。あたしと付き合ってください、って」

マミ「そ、それで……」

さやか「……見事にフられちゃいました」

ほむら「それで今日はそんな調子だったの……」

マミ「美樹さん…大丈夫なの?」

さやか「もう大丈夫ですよ。このくらいでへこたれるあたし…じゃ……」

そう言いかけたところで、さやかの顔が青ざめていく

さやかの視線の先を見ると、そこには

上条恭介と、彼に寄り添って歩く志筑仁美の姿があった

さやか「恭…介……」

マミ「美樹さん……」

さやか(……わかっては…いるよ。もしあたしがダメなら…仁美が告白するってことは……)

さやか(だからきっと…恭介は仁美と…付き合うことになるんだろうって……)

さやか(仁美は友達だから…嫌いになるつもりも、嫌われるつもりもない。……でも、だけど……)

さやか(ねぇ、恭介…やっぱり、あたしなんかより…仁美の方がいいの……?)

さやか(あたし…ずっと恭介を想って…お見舞いに行ってたんだよ……)

さやか(見返りを求めないって…バイオリンが聴ければ十分だって言ったけど…やっぱり、あたしは……!)

さやか(恭介のケガ…治したのはあたし…なのに、あんたは仁美を選ぶの……?)

さやか(そんな…そんなのって……)

ほむら「……さやか?」

さやか「……っ!ご、ごめん…あたし、先に帰る。それじゃ……」

マミ「あ、ちょっと、美樹さん!」

そう言うと、さやかは走り去ってしまった

好きな人に告白を断られ、その直後に別の誰かと一緒にいるところを見てしまったのだ。無理もない

ただ、こればかりは私は何も言えない。誰かに恋したことのない私には……

ただひたすらにまどかを守る、まどかを救うと…まどかのことだけを考えてここまでやってきた私には……

ほむら「……好きな人…ね」

マミ「暁美さん?今、何か?」

ほむら「……何でもないわ。私たちも帰りましょう」

マミ「え、でも美樹さんは……」

ほむら「さやかも帰ると言っていたし…家に帰ったのよ。……私たちから逃げ回るつもりもないでしょうし」

ほむら「……それに、私たちが何か口添えしても…最終的にはさやか自身がどうにかしなければならない問題だと思うわ」

マミ「それは…そうだけど……」

ほむら「まどかにも念の為に連絡しておくわ。……今日のところは帰りましょう」

マミ「えぇ……」

本来なら、さやかの魔女化だけは絶対に阻止しなければならない問題だった

だが、この時間は魔女になることはない。……インキュベーターの話を信じればの話だが

奴らの性質が変わっていないのだとしたら、絶対に何かを隠している

ソウルジェムが濁り切っても、それが直接の死因になることはない。……でも、何故か酷く嫌な予感がする

さやかのソウルジェムが濁り切る前に何とかしなければ

私の中の何かが、そう告げていた

今回はここまで
読んで下さってる方、ありがとうございます

次回投下は3日夜を予定しています

まるで見直した効果がなくてしにたい

次から本文

――――――

???『……お久しぶり。また会ったわね』

???『それにしても…まずいことになってるみたいね』

???『美樹さやかが姿を見せず、ソウルジェムの状態もわからない……』

???『彼女を救うのであれば、急がないと手遅れになるわ』

???『彼女のソウルジェムが濁りきる…その前に手を打たないと』

???『……非常に厄介なことになるわよ』

――――――

ピピピピピピピピ

ほむら「う…ん、朝……」

ほむら「……何か夢を見ていたような……?」

ほむら「……駄目、全然思い出せない…最近変に多いわね、思い出せない夢が」

ほむら「別に夢だから覚えてなくても問題はないんでしょうけど……」

ほむら「……そろそろ支度しないと」

――数日後 マミの家――

ほむら「……それで、さやかから連絡は?」

まどか「……今日も何もないんだ…ごめんね、ほむらちゃん」

ほむら「……まどかが謝ることじゃないわ」

マミ「でもどうしたら……」

あの日以来、さやかが学校に来ることはなかった

上条恭介と志筑仁美が何日も姿を見せない彼女を心配してか色々と聞きに来たりするが……

ほむら「……帰り、いつも通り様子を見に行ってあげて」

ほむら「それと、もし余裕があれば…念の為ソウルジェムの様子も見てきてほしい」

まどか「うん…わかった」

あの日からさやかは、ずっと家に籠ってしまうようになった

さやかはきっと、あの2人が付き合うことになるのが怖いのだろう

実際は私たちも聞いたりしていないのでわからない

さやかも了承していたはずだ。自分の後に志筑仁美が告白することは

だが、その結果を知りたくない。そんな風に思って、部屋に籠ってしまったのだと思う

>>288訂正

ほむら「……帰り、いつも通り様子を見に行ってあげて」

ほむら「それと、もし余裕があれば…念の為ソウルジェムの様子も見てきてほしい」

まどか「うん…わかった」

あの日からさやかは、ずっと家に籠ってしまうようになった

さやかはきっと、あの2人が付き合うことになるのが怖いのだろう

実際は私たちも聞いたりしていないのでわからない

さやかも了承していたはずだ。自分の後に志筑仁美が告白することは

だが、その結果を知りたくない。そんな風に思って、家に籠ってしまったのだと思う

ほむら「あまり気が進まないけど…あの2人がどうなったのか、聞いた方がいいんじゃないかしら」

まどか「それはそうなんだと思うけど……」

マミ「えぇ…仮にあの2人が本当に付き合うことになっていたら、どう説明したらいいか……」

ほむら「……私、恋なんてしたことないからわからないのだけど…そんなに辛いものなのかしら」

マミ「そうね…相手を想っていればいるほど、それが実らなかったときの苦しみは計り知れないものだと思うわ」

マミ「届かない想いが心で渦を巻いて…身も心も引き裂かれて……」

まどか「……今、ちょっと想像したんだけど……」

まどか「もし…もしだよ?わたしがほむらちゃんに告白して、それを断られて……」

まどか「そのあと、別の誰かと一緒にいるのを見ちゃったとしたら、やっぱり…悲しくて、苦しくて、辛くて……」

まどか「きっと…耐えられないよ、わたしは」

ほむら「ま、まどか?急に何を言って……」

マミ「あらあら、鹿目さんは暁美さんが好きなのね」

まどか「え?……あ、いや、そういうわけじゃ……!」

マミ「でもその割には具体的な想像だったじゃない。素直に言った方が楽になるわよ」

まどか「そ、それはただわたしが1番好きなのがほむらちゃんで、好きな人を取られちゃうのってどうなんだろうって……」

マミ「やっぱり好きなんじゃない。よかったわね、暁美さん」

ほむら「えっと…あ、ありがとう……?」

まどか「あ…う……」

とんでもないことを口走ってしまったまどかは真っ赤になって俯いてしまった

まどかの好きがどういう形の好きかは、わからないし…今は怖くて聞くこともできない。でも

彼女に好意を寄せられていると思うと、少し顔が熱くなった

まどか「……それじゃ、わたしはそろそろ帰りますね」

ほむら「さやかのこと…頼むわね」

まどか「うん、わかってる。……じゃあ、おじゃましました」

そう言って、まどかは部屋を後にした

まどかが出て行って少ししてから、マミが私に問いかけてきた

マミ「暁美さんは鹿目さんのこと、どう思ってるの?」

ほむら「……さっきの話の続き?」

マミ「えぇ。何だか気になってしまって」

ほむら「……別に、ただの仲の良い友達だと思うけど」

マミ「そう…じゃあ、鹿目さんに本当に告白されたら、どうする?」

ほむら「何を…大体、私もまどかも女同士よ?いくら何でもそんなこと……」

マミ「ないとは言いきれないと思うわ。あんな想像の話をするくらいだもの」

マミ「きっと…心のどこかであなたのこと、そういう風に見てるんじゃないかしら」

さっきの話に影響されたのか、マミまでそんな話をしてくるとは……

まどかのことは勿論好き。もっと言えば、他の誰よりも。私にとって、まどかは特別な人だ

だけど、それが恋愛対象として好きかと聞かれると…答えられなかった

ほむら「……もし仮に、まどかが本当に私が好きで、告白してくれたら…それは嬉しいと思うけど」

ほむら「今はまだそれに応えることはできないと思う。私の目的…ワルプルギスの夜を倒すまでは……」

マミ「本当にこの街に現れるの?ワルプルギスの夜が」

ほむら「えぇ。間違いないわ」

マミ「どうもいまひとつ信じきれないのよね…心の準備だけはできているつもりだけど……」

マミとそんな話をしていると玄関のチャイムが鳴る

まどかとさやかではないだろうし、私とマミはここにいる。そうなるとやって来たのは杏子だろう

マミ「あら…佐倉さんかしら。ちょっと出てくるわ」

恐らく杏子であろう来客の対応へと、玄関に向かって行った

ワルプルギスの夜まであまり時間がない。だが、今は待つことしかできそうもない

少しばかりの焦りを感じながら、まどかを信じて連絡を待つことにした

――――――

まどか「……」

まどか(えっと、わたしのやること…まずさやかちゃんを元気づけること。それと……)

まどか(ほむらちゃんに頼まれた、ソウルジェムの状態を見てくること)

まどか(さやかちゃんのことはわかるけど、ソウルジェムのことってどういうことなんだろう……?)

まどか「……ほむらちゃんのことだし、何か考えがあるんだと思うけど…それよりも……」

まどか「さやかちゃん…出て来ないなぁ……。どうしたんだろう……」

まどか「うーん、どうしよう…鍵かかってるだろうし、入れるわけ……」

まどか「……あれ、開いてる……?何で……?」

まどか(何だろ…何か嫌な予感がする……)

まどか「さやかちゃん、いる?鍵、開いてたから入るよ?」

まどか「さやかちゃん?さやかちゃん、どこ?」

まどか「さやかちゃんってば!返事、してよ!」

まどか(さやかちゃんからの返事がない…あと探してないのはさやかちゃんの…自室……)

まどか(大丈夫…だよね。ただ、部屋で寝てるだけ。そうだよね、さやかちゃん……)

まどか「……さやかちゃん。部屋、入るよ?」

まどか「……いない…どこ行っちゃったの……?」

まどか「あれ、これ…置き手紙……?何が書いて……」

まどか(え…何、これ…嘘、だよね……?)

まどか(でも…現にさやかちゃん、いないし…どうしたら……)

まどか「……とにかく、ほむらちゃんに連絡しないと……!」

――――――

ほむら「まどか!」

まどか「ほむらちゃん!」

まどかからの連絡を待っていたら、何やら慌てた様子のまどかから連絡が入った

何を言っているのかよくわからなかったが、肝心な部分は聞き取れた。さやかが家からいなくなった、と

ほむら「さやかが消えたってどういうことなの!?」

まどか「さやかちゃんの部屋に…これが置いてあったの」

そう言って、私はまどかから何かメモのようなものを受け取る

手渡されたのはどうやらさやかからの置き手紙のようだ

『まどかへ』

『この手紙を見つけたってことは、心配で部屋まで見にきてくれたんだろうね。ありがと、まどか』

『あたしは、恭介のバイオリンが聴きたくて魔法少女になった。それは間違ってなかったと思う』

『そして、見返りを求めないという覚悟をした。……夢でだけど、もうひとりのあたしともその覚悟を交わした』

『もちろん最初はそのつもりだった。バイオリンが聴けるなら、それでいい…はずだった』

『だけど…今はもう、自信がない。見返りなんていらないって…はっきりそうだと言いきれない』

『仲間と友達…それに、この街を守る…それが自分の使命だって思ったのに…そう誓ったはずなのに』

『その誓いも守れそうにないよ』

『この間の…恭介と仁美がいるところを見て、恭介を仁美に取られちゃうって感じて…それで……』

『あたしはどうして仁美を助けちゃったんだろうって、そんな風に考えてしまった』

『見返りを求めないはずだったのに、ケガを治してあげたんだから、あたしと付き合ってほしいって思ってしまった』

『マミさんに憧れてたはずなのに…まさか自分の友達をそんな風に思っちゃうなんて…最低だよね、あたし』

『結局のところ、覚悟が足りなかったんだろうね。……だけど、もう何もかもがどうでもよくなってきちゃったんだ』

『いつだったか、マミさんが言ってたよね。自分で自分を制御できなくなったとき、魔女は暴走を引き起こすって』

『今のあたしは魔女を暴走させない自信はない。だから、あたしは消えるよ。みんなに迷惑かけたくないから』

『最後に…まどか。ほむら。マミさん。杏子。ありがとう。ごめんなさい』

ほむら「これは……」

その内容に目を通して、絶句した

さやかの胸の内が綴られた手紙を握りしめ、停止しかけた思考を巡らす

さやかはどこへ消えた?これからどうするべきか?自分の制御ができなくなり、暴走すると何が起きる?

とにかく、まずはさやかを見つけるのが最優先だ。マミと杏子にも手を貸してもらおう

そう考え、私はマミの携帯に連絡を入れた

まどか「ねぇ…さやかちゃん、大丈夫だよね……?」

ほむら「私にも…わからないわ……。だけど……」

ほむら「……早く見つけて何とかしないと…きっと取り返しのつかないことになるわ」

まどか「そんな……!」

ほむら「……あ、マミ?杏子もまだそこにいるわよね?実は……」

まどか(さやかちゃん…どこに行っちゃったの……?)

ほむら「……えぇ、それじゃお願いするわ」

まどか「ほむらちゃん、マミさんは……」

ほむら「マミと杏子も捜索に当たってくれるそうよ」

まどか「よかった…ありがとう、マミさん、杏子ちゃん……」

ほむら「……さて、私たちも行きましょう」

まどか「う、うん。わたし、さやかちゃんが行きそうなところ、行ってみるよ!」

ほむら「頼んだわ。私は向こうを探してみる」

そう言ってまどかは走って行った

さやかにとってこの現状は酷く辛いものなのだろう。だが

何としてでも、立ち直らせてみせる

――――――

さやか「……」

さやか「……あたしは…どうなるんだろうね」

さやか「……相当参ってるみたいね、あたしは。ソウルジェム、真っ黒になってる……」

さやか「……そう言えば、魔女の暴走ってどういうことなんだろ……?」

さやか「……でもまぁ、そんなことどうでもいいか。どうせあたしにはもう関係のないことだし」

さやか「……さて、と。そろそろ行こうかな」

ほむら「どこに行くつもりなのかしら」

さやか「……ほむら…みんな……」

みんなで手分けして探したが、一向にさやかを見つけることができなかった

ふと、手紙に書いてあった文…私たちの前から消えるという部分

もしかしてこの街から消えるという意味ではないだろうかと思い、急いで駅へとやってきた

そこでベンチに座り、虚空を見つめているさやかを見つけたときには、辺りはすっかり暗くなってしまっていた

ほむら「探したわよ、さやか」

さやか「……別に頼んじゃいないでしょうに。まぁ、心配してくれたことは…ありがと」

マミ「美樹さん…手紙、読ませてもらったわ。あれは…本当なの……?」

さやか「……そうですよ。あたしはもう…マミさんと一緒に戦う資格なんてないんです」

さやか「ほんの一瞬でも、友達を助けたことを…後悔してしまうような奴は……」

杏子「だけどよ、だからって……」

さやか「……杏子、初めて会ったとき、言ってたよね。自分以外に魔法を使うとろくなことにならないって」

さやか「もう少し早く出会って、それ、言ってくれてたなら…こうはならずに済んだのかな……」

杏子「さやか、お前……」

まどか「ねぇ、さやかちゃん…そんな死んじゃうようなこと、言わないで……!」

さやか「死ぬ…か。案外、そうなるんじゃないかな……」

まどか「え……?」

さやか「魔女が暴走したら…どうなるかはわからない。だけど、案外死ぬだけで済むんじゃないかなって……」

まどか「死ぬだけって…そんなこと言わないでよ!」

さやか「……のよ……」

まどか「さやか…ちゃん……?」

さやか「だったら…どうすりゃいいのよ!?ねぇ、教えてよ!!」

さやか「確かに、あたしは恭介のケガを治す願いで契約したよ!!見返りなんていらないとも言った!!」

さやか「だけど、あたしがケガを治したばっかりに、仁美が恭介を……!恭介のお見舞いにも、ほとんど来なかった仁美に……!」

さやか「ケガを治したから付き合ってくれなんて言うつもりなんてない!!だけど、こんなじゃ…言いたくもなるよ!!」

さやか「……もう、どうでもいいんだよ。何もかも……!」

まどか「さやかちゃん……」

精神が不安定になっているせいか、やけに攻撃的になってしまっている

自分が駄目だったから、志筑仁美が付き合うのだろうという思いが不安と猜疑心を煽り

どうして怪我を治してあげた自分じゃなく、彼女なのかという思いが怒りと憎しみを掻き立てる

そんな負のスパイラルに陥っているのだとしたら…非常にまずい。これ以上悪化させてしまうと、魔女が暴走してしまうのではないか

さやか「だからさ…あたしのことはもう、放っておいて」

ほむら「……そうはいかないわ。私たち…仲間でしょう」

さやか「仲間…ね。今のあんたの仲間って言葉…ちょっと信用できないのよね」

ほむら「……」

さやか「隠し事の多いあんたのことだから、どうせまだ何か大事なことを隠してるんでしょ?」

さやか「そんな奴のこと、信用できるわけないでしょ」

まどか「さやかちゃん、ほむらちゃんを責めないで。教えてくれるまで、待って……」

さやか「……まどか、あんたもあたしにはついてくれないんだね」

杏子「さやか…お前、何を言って……」

さやか「そりゃそうだよね…はは、もうあたしの味方はいないんだね……」

さやか「……あたしって…ほんとバカ」






『あんたって、ほんっとバカだよねぇ』



さやか「え……?」

マミ「何……?どうなってるの……?」

杏子「さやかが……」

まどか「2人に……?」

どこからか声が聞こえる。その声の主を探し辺りを見回すと、さやかのすぐ側に誰かが立っている

どういうわけか、その人物はさやかとうり二つの姿をしていた

さやか?「どうも、はじめまして」

ほむら「あなた…まさか……」

さやか?「そう。あたしはもうひとりの美樹さやか。さやかの影とでも言うべきかな」

唐突に姿を現したもうひとりのさやか

一体何故姿を見せたのかと考える

あのさやかの影はもうひとりの自分。魔女もまた、もうひとりの自分

そのもうひとりの自分が表に出て来た、ということは……

さやか「……それで、あたしに何か言いたいことでもあるの?」

さやかの影「言いたいこと…まぁ、そうなるのかな」

さやか「……はっきり言いなさいよ。一体、何しに出て来たっていうわけ?」

さやかの影「……まさかあんたがここまでバカだったとは思わなくてね」

さやか「……何だと?」

さやかの影「マミさんに言われたはずでしょ。恭介のケガを治してどうしたいのかって」

さやかの影「答えの出ないうちに契約して、できもしない覚悟なんかしちゃってさ」

杏子「オイ、さやか…何を……」

さやかの影「杏子は黙ってて。これはあたし自身との話だから」

さやか「あたしは…覚悟してた。そのつもりで……」

さやかの影「だけど結局、あんたは見返りを求めた。ケガを治してあげたのはあたしなんだから、って」

さやかの影「そして、あんたは仁美を憎んだ。恨んだ。よくも恭介を奪った、と」

さやか「そんな…そんなこと……!」

さやかの影「嘘を言ったってムダだよ。言ったはずさ、あんたはあたし、あたしはあんただって」

さやかの影「あんたが心の奥底に押し込めてるものはあたしには筒抜けなの」

さやか「う、嘘だ!あたしはそんなこと、思ってない!」

さやかの影「もっと言っちゃおうか。あんたは後悔してる」

さやか「後悔……?」

さやかの影「そう、後悔。あんたは魔法少女になったことを後悔してる」

さやか「な…そんなわけ……!」

さやかの影「……いや、違うか。魔法少女なったことじゃなくて、契約の願いのことだね。恭介の指のケガを治してほしいという願い」

さやか影「あんな願いで契約してしまったから、恭介を仁美に取られてしまった。そう考えてる」

さやか「違う…あたしは……」

さやかの影「あんな願いでなければ、恭介は今もまだ入院してる。ずっと自分が恭介の側にいられた」

さやか「違う…違う……!」

さやかの影「あの状態だったなら、時間はいくらでもあった。ゆっくり時間をかけて、自分を意識させ、告白したらきっと成功してた」

さやかの影「あんたは今、あの状況を望んでる。病院で恭介と2人きりになれるから、って」

さやかの影「そして、それと同時に後悔している。あの願いによって恭介を退院させてしまったから、仁美に恭介を取られてしまった、と」

さやか「そんなこと…あたしは、後悔なんて…仁美のことだって……!」

さやかの影「了承したはずだよ?仁美の条件をさ。あんたのあとに告白するって」

さやかの影「その結果を認めたくないっていうのは、こうなってしまったことを後悔してるってこと。違う?」

さやか「それ、は……」

さやかの影「でもまぁ、仁美に取られたというのなら、話は簡単じゃない。取り返せばいい」

さやか「あんた…何を……」

さやかの影「今から恭介のとこに行って、両手足を潰してやればいいのよ。動かなくなるまでね」

さやか「な…っ……!」

さやかの影「そうすれば、あんたはまた恭介の側にいられる。ゆっくりと、あんたなしじゃ生きられない体にしてやるのよ」

さやか「ふざけないで!そんなこと、できるわけないでしょ!?」

さやかの影「なら、あたしがしてあげる。遠慮はいらないよ、これも自分の為だしね」

そう言うと、さやかの影は魔法少女へと変身した

もうひとりの自分なのだから当然だが、武器から衣装まで、同じ姿をしていた

自分の影の凶行を阻止すべく、さやかも魔法少女へと変身する。そして

さやかは自分の影に切りかかった

さやか「絶対に…行かせるもんか……!」

さやかの影「邪魔しないでよ。あたしはあんたが思ってることをやろうとしてるだけ」

さやか「あたしは…そんなひどいことなんて、考えてない!」

さやかの影「あんたは確かに思ったさ。恭介が入院したままだったなら…2人きりでいられたらってね」

さやか「違う……!こんな、こんなの……!」

さやかの影「違わないよ。あんたが心のどこかで思っていたことだ」

さやか「違う…違う、違う、違う!!」

胸の内に秘めていたことを容赦なく浴びせられる。それも、自分自身に

だが…いくら後悔しているとは言え、さやかがあんな酷いことを考えているはずはない

あの影は自分が思ったこと、感じたことを大幅に誇張して攻め立てているのだろうか

さやかの影の語ったことより、今はその影の凶行を止めなくては。私たちもさやかのところへと駆け寄る。だが

その増大された怒りと憎しみを孕んだ言葉に耐え切れなくなったさやかは

自分自身を否定した






さやか「違う!あんたは…あんたみたいな奴はあたしじゃない!!」



今回はここまで
読んで下さってる方、ありがとうございます

次回投下は4日夜を予定しています

どんどん遅くなる投下時刻
どういうことなの…

次から本文

さやかの影「はは…あたしはあんたじゃない、ね……」

マミ「何……?様子が変よ……」

さやか「あんたが…あたしのわけない!!あんたは、あたしじゃない!!」

さやかの影「自分自身にヒドいこと言うね。だけど、あんたはあたしを否定した。だから……」

さやかの影「あたしはもうあんたじゃない。なら、あたしのこの怒りと憎しみの元を…破壊してやる!!」

さやかの影がそう叫ぶと、腹部のソウルジェムが形を変えていく

何が起こっているのかはわからない。だが、ただひたすらに嫌な予感がする

まどか「ねぇ、ほむらちゃん…一体何が……」

ほむら「わからないわ……。とにかく、まどかはさやかと一緒にいて。杏子、2人をお願い」

杏子「あぁ、わかった……!」

さやかの影「仁美と恭介…2人の前に、あたしの邪魔をするあんたたちを…始末させてもらうよ!」

形を変えたソウルジェムを手にする。その手に握られていたのは

紛れもなく、グリーフシードだった

そのグリーフシードから結界が広がっていく。そして

私たちはあっという間に結界に飲み込まれてしまった

マミ「……みんな、いる!?」

ほむら「えぇ。杏子、そっちは?」

杏子「まどかもさやかも大丈夫だ!」

さやか「あたし…あたしは……!」

まどか「さやかちゃん……」

さやかの影「あたしはもう美樹さやかじゃない。……そろそろ行かせてもらうよ」

ほむら「……!ちょっと待って、あの影はもうひとりのさやか…つまり、アイツは……!」

さやかの影「さすがはほむら、よく気づいたね。……だけどもう、手遅れだよ」

さやかの影「……あたしも、あんたたちもね」

そう言い残し、彼女は黒い炎に包まれていった

その黒い炎を飲み込み、グリーフシードが宙へと浮いていく。そして

グリーフシードを中心に、魔女の身体が構築されていく

さやかの…人魚の魔女、オクタヴィアの巨体が私たちの目の前に姿を現した

魔女「……」

マミ「ちょっと…何であんなに大きいのよ!?元々美樹さんの魔女だったはずでしょ!?」

ほむら「恐らく…あれが魔女の暴走という奴じゃないかしら」

マミ「あれが……?」

ほむら「あなた、知ってるんじゃなかったの?」

マミ「魔女が暴走するというのは知ってるけど、実際どうなるかまでは……」

ほむら「……とにかく、今はあの魔女を何とかしないと……」

さやか「あんな奴が…あたしの中に……」

杏子「た、確かにあの魔女はお前の魔女だけどよ…でも、あんなバカでかくなかっただろ?」

さやか「あんな…化け物があたしの中にいたんなら…そりゃ、狂っちゃうわけだよ……」

まどか「……違うよ」

杏子「まどか……?」

まどか「わたしにだってわかるよ。あの魔女…今はさやかちゃんじゃない」

まどか「きっと…怒りと憎しみでおかしくなっちゃってるだけなんだよ」

さやか「まどか…何でそんなこと……」

まどか「……何となくだけど、わかるんだ」

魔女「……!」

ほむら「マミ、来るわよ!」

マミ「わかってるわ!……行くわよ、キャンデロロ!!」

ロロ「……」

機関銃を構え、マミに注意するよう声をかける

マミも魔女を召喚し、砲撃戦の用意をする。その直後、魔女が攻撃を仕掛けてきた

魔女「……!」

ほむら「……今よ、散開!」

魔女の巨大な剣が振り下ろされると同時に散開する。そして

魔女へ向けて、機関銃の引き金を引いた

まどか「ほむらちゃん…マミさん……」

杏子「……すまねぇ。アタシも手を貸してやりたいけどよ……」

杏子「今のアタシが行ったところで、足手まといにしかならないからな……」

まどか「ううん、気にしないで。それに、ほむらちゃんとマミさんならきっと大丈夫だよ」

杏子「……ありがとよ、まどか。だけどよ、こっちは今魔女を召喚できるのはマミだけなんだよな……」

杏子「さやかのはあそこで暴れてるし、アタシとほむらは召喚自体が……」

まどか「……大丈夫。杏子ちゃんも、自分と向き合えば…覚悟を決めたのなら、きっとまた……」

杏子「まどか……?」

まどか「あ…ごめんね、魔法少女でもないわたしがこんなこと言って……」

杏子「……いや、別に気にしてねぇよ」

杏子(自分と向き合う…覚悟、か……)

さやか(……あたし、また…またみんなに迷惑かけて……)

さやか(前の魔女のときだって…あたしがだらしないせいで、マミさんとほむらに迷惑を……)

さやか(今回もまた…それも、今度ばかりは完全にあたしのせい……)

さやか(……あたしのせいで、こんなことになっちゃったんだ……)

さやか「……」

まどか「さ、さやかちゃん……?」

さやか「……オクタヴィア!!」

さやか「……オクタヴィア!出てきてよ、オクタヴィア!!」

杏子「落ち着け、さやか。……お前の魔女はあそこで暴れてるだろ。だから…今はお前の中には……」

さやか「あたしの中にいないって…やっぱり、あいつは……」

杏子「……」

さやか「でも…それでも、認めるもんか……!あいつは、あたしじゃない!」

杏子「あ、おい!待て、さやか!」

まどか「さやかちゃん!」

杏子「クソ…アタシまでここを離れるわけには……!」

まどか「さやかちゃん!戻って、さやかちゃん!」

杏子(アタシが…召喚さえできれば……!)

魔女「……!」

ほむら「く……!マミ、大丈夫!?」

マミ「えぇ、何とか…ただ、正直余裕はないわね……」

遠距離からの銃による攻撃に対し、魔女は車輪を飛ばして反撃してくる

マミはともかく、その車輪を貫いて魔女まで届く攻撃手段を有していない私は思うように戦うことができなかった

ほむら「車輪ごとあなたの砲撃で吹き飛ばせない!?」

マミ「できないことはないと思うけど……!」

魔女「……!」

ほむら「……車輪のせいでそれも難しいってわけね……!」

マミ「えぇ…どうしたものかしら」

近接型でない私たちが接近戦を挑んだところで、剣を持った魔女には敵わない

ならばと遠距離での戦いを選んだが、こっちはこっちで決め手が無い

時間を止め、マミに直接魔女を狙ってもらうべきか考えていたときだった

さやか「うあああぁぁぁぁっ!」

ほむら「ちょっと、さやか!?戻りなさい!」

さやか「あいつは…あたしが倒す!あたしの偽物は、あたしが……!」

マミ「偽物って、あれは美樹さんの……」

さやか「違う!あいつは…あたしの偽物だ!偽物でなけりゃ、あんなこと……!」

さやか「あたしを…騙るな!」

マミ「美樹さん!」

魔女「……!」

さやか「そんなもの…当たるもんか!」

突っ込んでいくさやかに対し、魔女は無数の車輪を召喚する

さやかはその車輪の隙間を縫うように走って行く

そして、魔女の目の前まで近づいたところでさやかは思い切り飛び上がった

魔法陣を足場にして、魔女へと向かって突撃する。しかし

それを予見していたのか、魔女はさやかへ向けてその巨大な剣を振るう

さやかは自身の剣でそれを防ぐも、大きさが違いすぎる

そのままさやかは大きく吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた

さやか「……っぐ…う……!」

ほむら「さやか!」

さやか「……まだ、だ……!あたしはまだ…戦える!」

そう言って、さやかは再び魔女目がけて突っ走った

先ほどと同じように、車輪をすり抜け、魔女へと飛びかかる

だが、全く同じ手が通用するはずもなく巨大な剣により吹き飛ばされ、叩きつけられる

私たちの制止も聞かず、さやかは何度も立ち上がり、走り、吹き飛ばされ、そして叩きつけられた

杏子「さやか…あのバカ、今のお前1人じゃ……!」

まどか「さやかちゃん!もうやめて!」

杏子(アタシには…何もできないのか……?)

杏子(アタシはアイツを…さやかを失いたくねぇ……!)

杏子(こんな短い間にも、アタシには…友人も、仲間もできた。もう、2度とできるはずもねぇと思ってた…だからこそ……)

杏子(もうたくさんだ…大切な誰かをを失うのは……。だから、アタシは……!)

杏子「……まどか、すまねぇ。アタシに行かせてくれ」

まどか「杏子ちゃん…うん、わかった。さやかちゃんを…助けてあげて」

杏子「……あぁ、任せろ!」

杏子(待ってろ、みんな……!)

さやか「ぐあ…ッ……!」

ほむら「さやか!もういい加減にしなさい!死ぬわよ!?」

マミ「あの車輪さえなければ、リボンで縛ってでも止められるのに……!」

さやかが突っ込んでは弾き返されている間、魔女の標的を変えさせようと攻撃を仕掛ける

だが、魔女は私たちに見向きもせず、さやかに狙いを定めていた

ほむら「とにかく、奴の狙いを私かマミへ向けさせないと……!」

さやか「あいつは…あいつはあたしが倒す……!余計なこと、しないで!」

ほむら「待ちなさい、さやか!」

杏子「……ちょっと待て、さやか」

さやか「杏子……」

ほむら「杏子…まどかは?」

杏子「まどかには許可もらってる。……それよりも、さやか」

杏子「あの戦い方は何だよ。ただがむしゃらに突っ込んだって無意味だ」

さやか「杏子には関係ないでしょ……!あいつはあたしが倒さなきゃダメなんだ……!」

杏子「……何がどうなってアイツが現れたのかはわからん。だけど、さやかはそれに責任感じちまってるんだろ?」

さやか「……」

杏子「だからって、全部お前1人で背負い込む必要なんてないだろうが。何の為にアタシらがいると思ってんだ」

さやか「何のためって……」

杏子「1人で倒せないのなら、力を貸す。……そう言ってんだよ」

杏子「……アタシはな、さやか…お前が羨ましかったんだ。誰かの為に戦えるお前が」

杏子「アタシにはもう…そう思える、大事な家族も、仲間も…いなかったから……」

さやか「杏子……?」

杏子「……だけどよ、お前らと一緒にいて、思ったんだ。また、アタシにも仲間ができたんだって」

杏子「アタシは…1度は大切なものを失っちまった。だから…その分、大事だと思える人を守ろうって……」

杏子「誰かを失って、そのせいで悲しむ奴が生まれてほしくない。……少なくとも、アタシの周りでそんなことは起こさせない」

杏子「アタシは…覚悟を決めたよ。本当の自分と向き合うって。仲間を守るんだって」

杏子「もう1度…アタシは戦う。自分の為じゃない、仲間の為に…戦う」

ほむら「杏子……」

マミ「佐倉さん……」

杏子「マミ、ほむら…アタシも力を貸すよ。さっさと大暴れしてるあのさやかを止めてやろうぜ」

ほむら「え、えぇ…でも杏子、あなた…戦えるの?」

杏子「大丈夫だ。相棒もまた力を貸してやるって言ってくれてるからな」

マミ「佐倉さん…それじゃ……!」

杏子「あぁ。……行くよ……!」

杏子はそう言うと右手を翳す

その掌の中には、胸に輝く宝石と同じ真紅のソウルジェムが浮かび上がっていた

そして、それを握りつぶすと同時に、魔女の名を叫んだ






杏子「出ろ!オフィーリア!!」



オフィーリア「……」

彼女の背後に現れたのは、槍を構え、馬に跨った騎兵のような姿の魔女

武旦の魔女、オフィーリア。もうひとりの杏子がついにその姿を現した

マミ「……佐倉さん、もう大丈夫ね」

杏子「長い間、迷惑かけちまったな。……でも、もう大丈夫だからよ」

さやか「杏…子……」

杏子「……行くぞ、アイツを倒しに」

さやか「……うん!」

ほむら「そうは言っても…何かいい手でも?」

杏子「あぁ。……さやか、お前…オフィーリアに乗れ」

さやか「……はい?」

杏子「さやかをオフィーリアに乗せて突撃、そのあとさやかが飛び出して魔女を斬る。これでどうだ」

さやか「ちょ、ちょっと待ってよ。あたしは……」

杏子「何だ?あれだけ自分で倒すとか言ってたじゃねぇか。それとも倒す自信がねぇのか?」

さやか「な…いいよ、やってやろうじゃん!」

杏子「なら決まりだ。ほむら、マミ、もしものときの援護、頼んだ」

マミ「えぇ、わかった。任せて」

杏子「……さやか、準備できたか?」

さやか「な、何とか」

結局、さやかはオフィーリアの背中にしがみつく形で同乗した

無理にさやかが倒す必要もないのだろうが…それがさやかのけじめのつけ方なのだろう

もしものときの為にいつでも時間を止められるように盾に手をかけ、成り行きを見守る

杏子「そんじゃ、行くぞ!」

オフィーリア「……!」

さやか「うおあっ!?」

さやかを乗せたオフィーリアは魔女目がけて駆け出した

それを迎撃しようと車輪を召喚するが、オフィーリアはその巨大な槍で片っ端から叩き落としていく

なおも魔女へ接近すると、射程内に入ったのか魔女が剣を構える

だがその剣を振るうよりも速く、オフィーリアが懐へと辿り着く

手にした槍が閃いた次の瞬間には、槍が魔女の身体を貫いていた

魔女「……!?」

杏子「今だ、さやか!やれ!」

さやか「わかってる!」

そう言うとさやかは剣を構え、飛び上がった

先ほどまでなら、また吹き飛ばされていただろう

しかし、槍で貫かれ、もがき苦しんでいる魔女にそうするだけの余裕はなかった

さやか「これで…どうだああぁぁぁっ!!」

魔女「!!」

がら空きになった魔女の胴体へと突っ込んでいく。そして

魔女の左胸に、その剣を深々と突き立てた

さやか「これで倒し…え……?」

崩壊した魔女の身体の中から、グリーフシードが現れる

そのグリーフシードから黒い炎が燃え上がったかと思うと

炎の中から、もうひとりのさやかが姿を現した

さやかの影「……まさか、あたしが負けちゃうなんてね」

さやか「……当然でしょ。美樹さやかはあたし」

さやか「あたしを騙った偽物なんかに…負けるはずない」

さやかの影「偽物…ね。あたし、何度も言ったよね。あんたはあたし、あたしはあんただって」

さやか「……」

さやかの影「確かに、あんたはあたしほど強い悪意を持ってるわけじゃない。だけど……」

さやかの影「恭介や仁美に抱いた、ほんの少しだけの嫉妬や恨めしい気持ち…それは間違いなく、あんたの本心」

さやか「黙れ!あたし…あたしは……!」

ほむら「……いい加減、認めたらどうかしら。目の前にいるあなたも…自分自身だって」

さやか「……頭じゃわかってるよ。こいつもあたしなんだって。だけど……!」

さやか「だから、余計に認めたくないんだよ!恭介や仁美に、あんなこと思っちゃうなんて……!」

さやかは、目の前にいる自分の影が許せないのだろう

自身の感情が大きく誇張されていたとは言え、想い人と友人に少なからずそういった気持ちを持ってしまった

きっとその事実が、さやかを苦しめているのだと思う

どうさやかを説得するべきか悩んでいると

背後から、まどかの声が聞こえた

まどか「……さやかちゃん」

さやか「まど…か……」

まどか「さやかちゃん…自分が許せないんだよね……」

まどか「上条君と仁美ちゃんに…ほんの少しでも、変なことを思っちゃったことが……」

さやか「……」

まどか「でも…わたし、それが普通なんだと思うよ」

さやか「……普通?」

まどか「うん。きっとさやかちゃんは…仁美ちゃんに嫉妬しちゃったんだよ」

まどか「上条君に対しても…仁美ちゃんを選んだことを、ほんのちょっとだけ恨めしいって思っちゃったんじゃないかな」

さやか「……どっちにしろ、友達にそんなこと思っちゃうなんて」

まどか「……仕方ないよ。だって…それが恋ってことなんだと思うし」

まどか「さやかちゃんと仁美ちゃんみたいに、同じ人を好きになっちゃったら…どっちも断られちゃうこともあると思うけど」

まどか「どちらかが選ばれたのなら…もう片方の人は、選ばれた人、好きになった人、両方に嫉妬して、どうしてって思っちゃう」

まどか「だから、さやかちゃんがそう思っちゃったことは…おかしくなんてない。わたしは…そう思うよ」

さやか「あんたに…まどかに何がわかるってのよ……!恋なんてしたことのないまどかに……!」

まどか「……少しだけど、わかるよ。恋として好きかはわからない。けど……」

まどか「わたしにだって、好きな人…いるから」

さやか「まどか…あんた……」

まどか「その人にふられて…誰かと一緒にいるのを見ちゃったら…わたしだって、きっとさやかちゃんと同じこと思っちゃうよ」

まどか「……さやかちゃん、もう…自分自身を許してあげて。認めてあげて」

まどか「このままだと、さやかちゃん…心が壊れちゃうよ。そうなっちゃったら…もう取り返しがつかなくなっちゃう」

さやかの影「……」

さやか「あたしはあんたで…あんたはあたし、ね……。全部ひっくるめてあたしってことか……」

さやかの影「……うん」

さやか「……恭介と仁美に…嫉妬したのは事実。それでも…あたしは恭介が好き。仁美が好き。だから……」

さやか「2人を守るために、あたしは戦う。……それがあたしの覚悟」

さやかの影「……今度こそ、信じてもいいんだね?」

さやか「……うん。もう迷わない」

さやかの影「……わかった。あんたを信じるよ」

さやか「あんたはあたしなんでしょ?……自分を裏切るようなマネ、もうしないよ」

さやかの影「じゃあ…あたしは帰るよ。あんたの中に」

さやか「うん。また、戦いのときは…よろしく」

さやかの影「わかってるよ。……今後とも、よろしく」

さやかの影はそう告げると、その身体が光に包まれる。そして

その光はさやかのソウルジェムへと向かっていき、ソウルジェムの中へと消えていった

濁りきっていたはずのさやかのソウルジェムは、一点の曇りもなく煌めいていた

さやか「……」

ほむら「……さやか」

さやか「……うん。もう大丈夫だから。みんな、ありがとう」

さやか「それと…ごめん。迷惑かけちゃって……」

マミ「気にしないで。私たち、仲間で…友達じゃない」

さやか「マミさん……」

杏子「その…何だ、悪かった。アタシが告白しろだなんて言っちまったから……」

さやか「……杏子が背中を押してくれなかったら、きっとあたし、何もしないで後悔してたと思う」

さやか「だから…ありがと、杏子」

杏子「……おう」

まどか「さやかちゃん……」

さやか「まどか…ありがと。まどかのおかげで、あたし…自分と向き合えた」

まどか「わ、わたしは何も……」

さやか「それでも…ありがと、まどか」

さやか「……それはそれとして、まどかの好きな人って…一体誰のことなの?」

まどか「……え?」

さやか「さっき言ってたじゃん。好きな人がいるんだーって」

まどか「わ、わたし、そんなこと言ってた……?」

さやか「うん」

マミ「そう言えば……」

杏子「そんなこと言ってたな」

まどか「う、嘘…さやかちゃんの説得に必死で、全然覚えてない……」

まどか「あ……!ほ、ほむらちゃん!ほむらちゃんはそんなの、聞いてない…よね……?」

まどかが私に聞いてくるが…正直に言えば、私も聞いてしまっている

どう答えたものかと少し考えたが答えは出ず、まどかから視線を逸らしてしまった

まどか「や…やっぱり聞こえちゃってる…よね……」

まどか「……どうしよう。ほむらちゃんに聞かれちゃった……」

顔を真っ赤にしたまどかが何かをボソボソと呟いていたが、何を言っているかは聞き取れなかった

そんなまどかを見てさやかが何かちょっかいを出したらしく、まどかの顔はさらに真っ赤になってしまった

マミ「結界も消滅したみたいだし…そろそろ戻りましょう」

杏子「そうだな。さやかも無事に確保できたことだしな」

さやか「結局まどかの好きな人は誰だったのか聞けなかった……」

まどか「うぅ……」

さやか「……まぁ正直もう目星はついてるんだけどね。いやー、まどかも難儀な相手を……」

そう言ってさやかは私へと視線を向ける

さやかのその視線は、まどかの好きな人は私だと物語っていた

……まさか。さすがにそれはあり得ない。さやかの思い過ごしだろう

まどかの抱く私への好きは、さやかたちへの好きと同じもの。そう思っていると

以前にも感じた、妙な胸への違和感。だけど

その違和感は以前に増して大きくなり、私の胸を締め付ける

確かに私はまどかを好きだと言ったことはある。だけど、あれはそのつもりは……

まどか「……らちゃん。ねぇ、ほむらちゃんってば」

ほむら「……え?」

まどか「もうここに用事もないし、そろそろ帰ろうよ」

ほむら「え、えぇ…そうね……」

まどか「……?ほむらちゃん、どうかした?」

ほむら「え?い、いえ、何でもないけど……」

何だか変にまどかのことを意識してしまう

別にまどかは私が好きだと決まったわけでもないのに、どうして私は……

ただ、まどかの好きな人が私であれば、と考えてしまう

そんなことを考えていると、暗闇から白い生き物が姿を現した

QB「……やぁ、みんな」

マミ「あら、キュゥべえ。どうしたの、こんなところに」

QB「……この辺りで魔女の反応を確認してね。様子を見に来たんだけど」

ほむら「……それはさやかの魔女の暴走によるものだと思うわ」

QB「……それはどういうものだったんだい?」

さやか「あたしがひどく落ち込んで、何もかもどうでもよくなって……」

マミ「美樹さんのそばにもうひとりの美樹さんが現れて、美樹さんがそれを自分じゃないって否定したら……」

杏子「そのままさやかの魔女が巨大化して現れた、って感じだったな」

QB「……うん。それは間違いなく魔女の暴走だね」

さやか「うわ、やっぱりそうだったんだ……」

QB「……だけど、見る限りさやかは無事に見えるけど」

さやか「うん、みんなが必死になってあたしを助けてくれたから……」

さやか「おかげさまで何とか無事に……」

QB「……さやかが生きてここにいるのはそういうことだったんだ。全く、余計なことをしてくれたようだね」

さやか「え……?」

QB「……率直に言わせてもらうよ。さやか、君はここで死ぬべきだったんだ」

マミ「……キュゥべえ?一体どういうこと?」

QB「どういうつもりかって?それは……」






QB「さやかが死ねば、高純度のエネルギーが得られる。それだけだよ」



今回はここまで
読んで下さってる方、ありがとうございます

次回投下は5日夜を予定しています

製作中に一番しっちゃかめっちゃかになった部分
たぶん大丈夫だと思いたい

次から本文

マミ「な……」

さやか「あたしが…死ねば……?」

杏子「テメェ…何を言って……!」

QB「さやかはここで死ぬべきだったんだよ。僕の…僕たちの目的の為にね」

ここに来て今までそれなりに友好的だったインキュベーターの態度が一転する

今までと違っても、やはりインキュベーターはインキュベーターということなのだろう

恐らく、ソウルジェム…魔法少女システムにも、私たちに隠していることがあるはずだ

こうなった以上、その全貌を聞いておくべきだ。口論をやめさせてから、インキュベーターに問いかける

ほむら「……キュゥべえ。私、以前聞いたわよね?ソウルジェムの真実を話せと」

QB「確かに訊かれたね。だけど、ただ漠然と真実を語れと言われても、何のことかわからないからね」

ほむら「なら…お前はソウルジェムや魔女のことで隠していることがある。……そういうことね?」

QB「訊かれた以上は答えるよ。確かに僕はソウルジェムや魔女のことについて、隠していることがある」

ほむら「以前に聞いた…あれで全てではないの……?」

QB「あれは君の質問に答えただけだよ。現に、君の言う肉体操作なんてしてないじゃないか」

QB「それにソウルジェムが濁りきっても、それが直接の死因にはならない。……そう、直接の死因にはね」

ほむら「……どういうことかしら」

QB「……君はどうやら全てを知りたいみたいだ。ここじゃ何だし、マミの家にでも行くことにしよう」

QB「そこで全てを話してあげるよ」

――マミの家――

QB「……さて。暁美ほむら、君は僕に何を訊きたいんだい?」

インキュベーターが隠している、ソウルジェムの真実。今までの時間と違う以上、どんな話が飛び出して来るかわからない

ここはまず私だけで話を聞くべきか……

ほむら「……まず私が話を聞かせてもらうわ。みんなは別室に……」

杏子「いや…アタシたちも聞かせてもらう。自分たちのことでもあるしな」

さやか「どうしてあたしがあんなことになったのかも…知っておきたいし」

マミ「変に隠されるよりも…その方がマシよ」

ほむら「……」

まどか「……ほむらちゃん、きっと大丈夫だよ」

ほむら「まどか……?」

まどか「どんな真実が隠されていたって…みんなが一緒なら、絶対…大丈夫。だから……」

ほむら「……わかった。キュゥべえ、話しなさい」

QB「まず何から話そうか…そうだね、さやかの身に何が起こったか。そこから話そう」

QB「さっきも言った通り、もうひとりの自分が現れ、巨大な魔女となって襲ってきた。これは間違いなく魔女の暴走によるものだ」

ほむら「そもそも、魔女の暴走とは一体何なの……?」

QB「以前にマミから訊かされたはずだろう?自分で自分の制御ができなくなったとき、魔女は暴走すると」

ほむら「……お前の口から聞きたいのよ。全てを」

QB「やれやれ、仕方ないなぁ…魔女の暴走というのは、もうひとりの自分…つまり、自分の魔女を制御することができなくなった状態のことだよ」

QB「ソウルジェムの濁りというのは、君たちの精神を可視化したものだ。濁っていないときが良好な状態、濁っていればその逆というわけさ」

QB「怒りや憎しみ、迷い…そういったもので精神が不安定になったとき、ソウルジェムは濁り出す」

QB「そのソウルジェムが濁れば濁るほど、魔女の制御は不安定になっていく。不安定な精神ではとてもじゃないが魔女の制御なんてできるわけがない」

QB「ソウルジェムが濁りきったとき、もうひとりの自分は自分の影として姿を現す。そして、自分の心の奥底にあるものを、最大級に誇張して君たちを責め立てる」

QB「その自分を認め、受け入れることができれば、再び君たちの中へと戻る。でも、君たち人間はそう簡単にそれができないんだろう?」

QB「それに耐えられなくなり、自分で自分を否定したが最後。君たちの影は魔女として暴走する」

さやか「じゃあ…あたしは……」

QB「そうさ。その暴走は君が自分で引き起こしたことだ」

QB「自分で勝手に描いた理想の自分にはなれないと落胆し、僅かでも自分で思ってしまったことに悲観し、自分の願いに絶望する」

QB「そしてその最後に、自らを否定した。君の浅慮と弱さが招いたことさ」

QB「マミの言葉を借りるなら、覚悟が足りなかったということだね」

さやか「そん…な……」

マミ「……だけど美樹さんの魔女を倒したら、また元に戻っていったわ。あれはどういうこと?」

QB「君たち本人が生きていると、影はその宿主に引き寄せられる。多分、その魔女はさやかを狙っていたと思うけど」

杏子「そう言われりゃ確かに……」

QB「さやかに自分の影が戻ったのは、暴走した魔女を倒し、自分を認めることができたからだろうね」

QB「だけど、自分を認められない限りもうひとりの自分は何度でも魔女となり、襲いかかってくる」

QB「つまり、自分を認めることができなければ延々と自分自身と戦うことになる」

QB「……そう、死ぬまでね」

さやか「あたしも…一歩間違えたらそうなってたってこと……?」

杏子「テメェ…そんな大事なこと、何で黙ってた……!」

QB「訊かれなかったからさ。訊かれない以上、話す必要性はないだろう?」

ソウルジェムが濁るともうひとりの自分の制御が不完全になり、自分の中から現れる

その自分を認めることができなければ魔女となり、暴走する…ということか

だが、もうひとりの自分はどうして魔女の姿をしているのか、聞いていない

どうせインキュベーターのことだ。訊かれていないからと隠しているのだろう

折角だ。その理由について、話してもらうことにしよう

ほむら「……そのもうひとりの自分…どうして魔女という姿をしているのかしら」

QB「……全く、君は訊いてほしくないことを訊いてくるね」

ほむら「……答えなさい」

QB「仕方ない…君たちの心の自分がどうして魔女の姿をしているか。それは……」

まどか「……きっと、同じような存在…だから」

ほむら「まどか……?」

まどか「わたし…魔法少女じゃないからよくはわからないけど……」

まどか「みんなが召喚する魔女も、戦って倒す魔女も…同じような存在だから…じゃないかな……」

QB「まさかまどかに見抜かれるなんてね…その通りだよ」

ほむら「……もう少し詳しく話しなさい」

QB「簡単な話さ。もうひとりの自分も、倒すべき魔女も、同じ存在なのだから」

マミ「同じ…存在……?」

QB「君たちの操る魔女と、戦って倒すべき魔女。本質的に2つは同一の存在だ」

QB「ただ、君たちの精神の制御下にあるかないか…つまり状態の違いにしか過ぎないものさ」

マミ「待って…じゃあどうして、その魔女が私たちの中に存在しているの……?」

QB「どうして?それは君たちがそうなることを望んだからだよ」

マミ「私たちが…望んで……?」

QB「そうさ。魔法少女というのは、精神の奥底にいる君たちとは別の人格…もうひとりの自分を魔女へと変えた者のことだよ」

QB「精神の一部を魔女としているから、精神が不安定になると召喚も不安定になる…ということになるわけだ」

QB「願いによる固有魔法と、もうひとりの自分の魔女化。それが、魔法少女の契約さ」

マミ「……何よ、それ……!」

QB「精神に魔女を宿したが最後、魔法少女の呪縛から逃れることはできない。例え、杏子のように全てを放棄したとしてもね」

杏子「テメ……!」

QB「だけど本当に惜しいことをしたよ。さやかがあそこで死んでくれていれば、暴走したさやかの魔女は真の魔女として覚醒していたのに……」

杏子「真の魔女の覚醒…オイ、それって……」

QB「君たちが戦っている魔女、アレになるってことだよ。真の魔女として覚醒した瞬間、もうひとりの自分が内包した感情は大きなエネルギーに昇華する」

QB「その真の魔女が産み落とす使い魔もまた、人を襲い、やがて魔女へと覚醒する。その魔女を倒す為に君たちは戦っているわけだね」

QB「さっきも言ったことだけど、君たちの魔女と敵の魔女の違いは制御しているか否かしかない」

QB「君たちが死んで、本人との繋がりが切れたその瞬間、真の魔女として覚醒するんだ」

杏子「テメ…フザけたマネを……!」

まどか「キュゥべえ…何で…何でこんなことするの……?こんなのって…あんまりだよ……」

QB「僕たちの目的は君たちの感情をエネルギーに変え、宇宙の寿命を延ばすこと。その為にエネルギーを集めているだけさ」

まどか「宇宙の…寿命……?」

QB「無限とも思える宇宙だけど、寿命は存在する。それを延ばす為に、僕たちはこうしてエネルギーを集めているんだ」

QB「僕たちインキュベーターは感情をエネルギーにする技術を持っている。だけど、その感情というものを持っていなかった」

QB「そこで目をつけたのが君たち人間だったというだけさ」

さやか「あたしたちの…感情……」

QB「そう。とりわけ、君たちのような少女の感情は大きなエネルギーとなるんだ」

QB「人間は願いがひとつ叶うと言われれば、大抵の人は何かしら願うことがあるものなんだろう?」

QB「その願いの代償に、君たちは魔法少女となる。その内に魔女を住まわせ、いずれ真の魔女へと覚醒させる為にね」

さやか「だからあんたは…あたしたちを魔法少女に……!」

QB「勿論、もうひとりの自分を認め、魔女を飼い馴らすことができたのなら何も心配する必要はないよ」

QB「もっとも、そんなことは前例が無いけどね。魔法少女の辿る結末は2つにひとつ」

QB「敵の魔女と戦って死ぬか、暴走した自身の魔女に殺されるか。魔法少女になった以上、その運命からは逃れることはできないよ」

さやか「キュゥべえ……!あんた、最初からこのつもりで……!」

QB「自分への見返りがないのに、願いを叶え魔法少女にするわけないだろう?むしろ、僕には君の考えが理解できないよ」

さやか「あんたに何がわかるってのよ!?人の心を…何だと思ってんのよ!」

QB「本人でさえ自覚できていないもうひとつの人格を利用させてもらっただけじゃないか。何を怒っているんだい?わけがわからないよ」

杏子「それじゃ何か……?アタシたちはテメェらのために魔法少女になったってワケか……?」

QB「そうは言ったって、ちゃんと願いをひとつ叶えるという見返りの上で契約してもらってるじゃないか」

杏子「黙れ!アタシらは…テメェらの家畜じゃねぇんだぞ!!」

QB「いずれ君たち人間も宇宙へ進出するときが来る。そのときに枯れ果てた宇宙を渡されても困るだろう?」

さやか「あんたは…そんなことのためにあたしたちを騙してたっていうの!?」

QB「魔法少女はいずれ死して宇宙の為のエネルギーとなる。そうだとしても、君たちは叶えたい願いの為に魔法少女になったのだろう?」

QB「絶対に叶うことの無い願いを叶える為に」

さやか「それ…は……!」

QB「僕は言ったはずだよね。その願いは魂を差し出すに値するかい?って」

QB「それの肯定を以って、僕は君たちを願いの為に命を捨てても構わない少女と認識し、魔法少女の契約を行ったというわけさ」

さやか「あの言葉…そういう……!」

QB「人間というのは見えもしない魂というものを大事にするものなんだろう?その魂を差し出せるということは、即ち命を差し出せるということだ」

QB「だからこそ、魔女と化した精神を内包する宝石をソウルジェムと呼ぶわけだよ」

QB「それに、僕は君たちに自分の意思で魔法少女になることを確認しているじゃないか。僕が強制的に魔法少女にしたわけじゃない」

杏子「テメェ……!今ここで始末して……!」

ほむら「やめておきなさい。いくら殺したところで無駄よ」

QB「暁美ほむら…君はどうやら僕のことを知っているみたいだけど、どういうことなんだい?」

ほむら「……」

QB「……何にせよ、僕の話は以上だ。理解して貰えたかな?」

インキュベーターが、尻尾を揺らしながら全てを話し終えたことを告げる

今の話を聞く限り、この時間の魔法少女は魂を抜かれ、ソウルジェムに作り変えられてしまうという事実はなかった

だが、その代わりに精神の奥深く、自身でさえ認知できない人格を魔女に作り変えられてしまっているようだ

そして、その魔法少女が死した瞬間、制御を失った魔女は私たちが戦う魔女…真の魔女として覚醒する、ということか

魔女と戦う方は私たちが協力して戦えば問題は無いはず。問題はソウルジェムの濁りの方だろう

ソウルジェムを濁らせなければいい。そう言っても、グリーフシードで浄化することができないのが厄介だ

ソウルジェムが濁りきり、暴走してしまってもまだ助けるチャンスが残っていると考えれば。これで聞きたいことは全て……

……いや、まだだ。エネルギー云々の話は今聞いた。それよりも、グリーフシードのことだ

奴は何故、あれほどまで積極的にグリーフシードを集めていた?

これが最後の疑問。私はインキュベーターに向けて、その疑問を投げつけた

ほむら「……グリーフシードの使い道。お前が回収する以外に用途はないと言ったわね」

ほむら「キュゥべえ…いえ、インキュベーター。お前は何をしようとしているのかしら」

QB「……本当に君は訊いてほしくないことを訊いてくれるね。わかった、教えてあげるよ」

QB「ほむら、君は魔女が現れる瞬間を見たことがあるかい?」

ほむら「えぇ。病院に現れた魔女のときに。あと、さやかの暴走時にも見たわ」

QB「それなら話は早い。魔女はグリーフシードを中心に、その身体を構築して存在している」

QB「グリーフシードひとつで魔女1体。それなら、グリーフシードがたくさんあったらどうなるだろう?」

マミ「どうなるって…それだけの数の魔女が……」

QB「……違うよ。複数のグリーフシードをひとつのグリーフシードとして魔女を組成させる。これがどういうことか、わかるだろう?」

ほむら「……まさか……」

グリーフシードひとつで魔女1体。姿形は違えど、それが所謂普通の魔女

そのグリーフシードを2つでひとつとして魔女の核となれば、恐らくその強さは2倍では済まない

そして、インキュベーターが集めたグリーフシード、その全てを使ってまで召喚させようとしている魔女

それは、つまり……

QB「君の思っている通りさ。伝承に残る最強の魔女、ワルプルギスの夜。アレをこの世に召喚させる」

ほむら「……っ」

QB「ワルプルギスの夜の召喚には特別なグリーフシードが必要になる。でも、この間もらった分でようやく全てが集まったというわけだ」

マミ「じゃあ…今まで世界のあちこちに現れたワルプルギスの夜も……」

QB「全て僕たちが召喚させたものさ。姿形が違うのは…これは口で説明するより、実際に見てもらった方が早いね」

杏子「んなことさせるかよ!何があっても……」

QB「無駄だよ。既にワルプルギスの夜は召喚されたのだから」

さやか「え……」

QB「ただ、普通の魔女とはわけが違うからね。この世に現れるまでもう少しかかるだろう」

QB「でも、君たちにできることはもう何もない。……いや、ひとつだけ手段はあるね」

そう言ってインキュベーターは頭だけを動かして、まどかを見る

その真紅の双眸にまどかを捕らえ、お決まりの台詞を放った

QB「まどか、僕と契約して、魔法少女になってよ」

まどか「……ふざけないで。わたしは魔法少女なんかに……」

QB「もしかしたらもう聞いてるかもしれないけど、ワルプルギスの夜は今までの魔女とは比較にならないほどに強力な魔女だ」

QB「今までワルプルギスの夜と戦って、生きて帰った者がいないくらいにね」

まどか「それは……」

QB「だけど…まどか、君にはワルプルギスの夜を倒せるだけの素質がある」

まどか「え……?」

QB「そして魔女として覚醒したとき、そこらの魔法少女が束になっても敵わないほどのエネルギーになるんだ」

QB「だから、僕はお願いするよ。宇宙の為に死んでほしいんだ」

ほむら「インキュベーター……!」

QB「まどかを契約させた方が賢明だと思うよ。君たちがワルプルギスの夜に勝てるとは到底思えない」

QB「まどか1人が契約すれば済む話だ。敵わない相手に挑んで無駄死にすることもないと思うけど」

QB「まぁ、君たちが自分から宇宙の為に死んでくれるというのなら、止めはしないけどね」

まどか「……わたしは……」

1度は決意を固めたまどかだが、インキュベーターの言葉を聞いてその決意が揺らぐ

以前…ワルプルギスの夜のことを話したときも契約しようかと言っていた

あのときはワルプルギスの夜がまだ漠然とした不安程度だったからこそ、すぐ思い直させることができた

だが、今は違う。目の前に迫る、はっきりとした恐怖としてまどかの心に襲いかかる

お前はいつだってそうだ。まどかの優しさに付け込んで、彼女を契約させようとする

私はまどかを思い直させる方法をあれこれ考える

しかし、それを考えている間にまどかは魔法少女の契約に踏み切ろうとしていた

まどか「……やっぱりわたし、魔法少女に……」

ほむら「まどか…あなたが魔法少女になることなんて……」

まどか「……だけど、わたしじゃないと…ワルプルギスの夜に勝てないんでしょ……?」

ほむら「そんなの…やってみなければわからないでしょう。それに……」

ほむら「私、言ったはずでしょ?魔法少女にならずとも、まどかにはできることがあるはずだって」

まどか「それでも…ワルプルギスの夜を倒せるだけの力があるのに、見てるだけなんて…わたしにはできないよ」

まどか「……みんなを…ほむらちゃんを守れるのなら、わたしは……」

ほむら「……考え直してはくれないのかしら」

まどか「……」

ほむら「そう……」

こうなった以上、下手な説得ではまどかの考えを変えさせることはできない。どうしたら……

いや…もう、あれこれ考えるのはよそう。私はまどかに歩み寄り、まどかを抱きしめる

そして、私の思いをまどかに伝えることにした

ほむら「まどか……」

まどか「え…ちょ、ほむらちゃん……」

ほむら「……お願い、まどか。私の話、聞いて」

まどか「ほむら…ちゃん……?」

ほむら「私は…あなたを守る為に戦ってるの……」

まどか「わたしを……?」

ほむら「そう……。あなたを魔女から守り、魔法少女にさせない。それが私の使命……」

まどか「で、でも…ワルプルギスの夜が……」

ほむら「私たちが勝てないなんて誰が決めたの?そんなの、インキュベーターが勝手に喚いてるだけのことじゃない」

まどか「だけど……」

ほむら「……大丈夫。私が…私たちが必ずワルプルギスの夜を倒すから。だから…まどかは契約なんてしないで」

まどか「ほんとに…大丈夫なんだよね……?」

ほむら「えぇ。私がまどかに嘘を言ったこと、ある?」

まどか「……わかった。わたし…契約はしないよ」

ほむら「……ありがとう、まどか」

まどかを抱きしめている腕に、少しだけ力を込める

それに応えるように、まどかも私を抱きしめてくれた

必ず…まどかを守り抜いてみせる。まどかは、私が……

杏子「……お前ら、いつまでそうしてるつもりだ?」

まどか「……あ、や、あの、これは……」

ほむら「ご、ごめんなさい、まどか…急にあんなこと……」

まどか「き、気にしないで。別に嫌じゃないから」

さやか「それで、まどか……」

まどか「うん。……わたしは、ほむらちゃんの言葉を信じる。だから、魔法少女には…ならない」

QB「……本当にそれでいいのかい?後悔しても知らないよ?」

まどか「大丈夫。後悔なんて、あるわけないから」

QB「……まぁ、強制するわけにもいかないからね。仕方ない」

まどか「……それよりも、ほむらちゃん。ひとつだけ聞かせて」

ほむら「何かしら」

まどか「ほむらちゃんは…どうしてわたしを守ってくれるの?」

ほむら「……そのことね」

未だ伝えていない、私の本当の目的

さやか、マミ、杏子…そして、まどか

誰1人欠けることなく、ここまで来ることができた

……やはり、みんなに聞いてもらうことにしよう。私のことを……

まどか「……聞いちゃダメなこと…だった?」

ほむら「……いえ、そんなことはないわ。話してあげたいところだけど」

ほむら「今日のところはそろそろ帰った方がいいんじゃないかしら」

まどか「あ…うん、そう…だね」

ほむら「……明日、私の家へ来て頂戴。そこで話させてもらうわ」

杏子「明日、ほむらの家に行けばいいんだな」

QB「暁美ほむら…君が何を隠しているのか、どうやって魔法少女になったのか、気になるところだけど」

QB「ワルプルギスの夜を召喚した以上、もうそんなことはどうでもいいことだ。精々、頑張ることだね」

ほむら「お前に言われるまでもないわ。失せなさい」

QB「……まどか、契約したくなったらいつでも呼んでくれて構わないからね。きっと君は僕と契約してくれるだろうから」

ほむら「……聞こえなかったのかしら。失せろと言ったはずよ」

QB「……それじゃあ、僕は帰るよ。じゃあね」

自分の言いたいことを言って、インキュベーターは闇へと消えていった

インキュベーターがいなくなったのを確認してから、私はみんなに声をかけた

ほむら「……今日のところはこれで解散にしましょう。話の続きは明日、私の家で」

マミ「え、えぇ…それは構わないわ……」

さやか「マミさん…大丈夫ですか?顔が真っ青になってますけど……」

マミ「……ごめんなさい…ずっとキュゥべえと一緒にいたからかしら……」

マミ「キュゥべえはきっと…騙したとも、裏切ったとも…思ってないのよね……」

さやか「マミさん……」

杏子「……アタシ、今日は…マミと一緒にいてやる。今のマミは…あの時のアタシと同じ顔してるからな」

マミ「佐倉さん…ありがとう……」

さやか「じゃああたしも今日はこれで。まどかも早く帰ろう?心配してるよ、きっと」

まどか「あ…うん。連絡するの忘れちゃってたし…きっと怒ってるだろうなぁ……」

ほむら「まどかは私が送って行くわ。……杏子、マミをよろしく頼むわね」

杏子「あぁ、わかってる」

ほむら「さやかは…特に何もないわね。気をつけて帰りなさい」

さやか「うん。……今日は本当にごめん。あたしのせいで」

ほむら「気にする必要はないわ。あなたを助けられたのだから」

さやか「……ありがと、ほむら。じゃあ、また明日ね」

ほむら「えぇ。……まどか、私たちも帰りましょう」

まどか「うん。マミさん、おじゃましました」

――――――

まどか「ほむらちゃん、送ってくれてありがとう」

ほむら「えぇ…でも本当にここまででいいの?私も一緒に説明した方が……」

まどか「いいの。ほむらちゃんまで一緒に怒られることないと思うし」

ほむら「……わかったわ」

まどか「それじゃほむらちゃん、またね」

私にそう挨拶をすると、まどかは家へと歩き出す

私も早く帰って明日の準備をしよう。……全てを打ち明ける、心の準備を

このことはずっと…私の胸の内に秘めておいたこと

正直に言えば…この話をするのが怖い。言ってしまったら、何かが変わってしまうような気がして……

だけど、みんなに聞いておいてもらいたい。……誰かに背中を押してもらいたい

そんな風に考えていた私は知らず知らずのうちにまどかを追いかけ

まどかの手を握った

まどか「えっと…ほむらちゃん?どうしたの?」

ほむら「……」

まどか「な、何か言ってもらわないと、わたしもどうしたらいいか……」

ほむら「……少しだけ、こうさせてほしい」

まどか「そ、それはいいけど…ほんとにどうしたの?」

ほむら「……明日、私が話そうとしてること…本当に伝えてもいいのか、わからなくなって……」

ほむら「話しておきたいとは思ってる……。でも、話したら…何かがおかしくなってしまうんじゃないかって……」

まどか「……怖くなっちゃったんだね」

ほむら「……」

まどか「……わたしに勇気があるなんて、自分じゃそう思えない。だけど」

まどか「もし自分に勇気があるのなら…今こうして手を繋いでるほむらちゃんに分けてあげられてる気がするよ」

ほむら「……ありがとう」

しばらくの間、私はまどかの手を取り、自分の胸の前で握りしめた

まどかの手。小さいけど、強くて、優しくて、暖かい手

こうしてまどかの手を握っていると、胸の奥がじんわりと暖かくなってくるような気がした

まどかから勇気をもらった私は、もう大丈夫だと握った手を離す

顔を真っ赤にしていたまどかだったが、手を離すとき、何だか名残惜しそうな表情をしていた

まどか「そ、それで…もう大丈夫?」

ほむら「えぇ…迷惑をかけたわね。帰りを余計に遅くさせてしまって……」

まどか「き、気にしないでよ。わ、わたしもその…嬉しかったというか……」

ほむら「まどか……?」

まどか「と、とにかく、わたしでよければいつでもほむらちゃんの力になるから!」

ほむら「そ、そう…ありがとう、まどか」

まどか「そ、それじゃわたしは帰るよ!ま、また明日ね!」

まどかはそう言って早足で家へと向かって行った

まどかの手を握りしめた私の手と、勇気を貰った私の心がまだ熱を帯びている感じがした

だけど、それだけじゃない…何かもっと別の物も一緒に貰ったような気がする

何にせよ、まどかのおかげで覚悟を決めることができた。……もう大丈夫だ

家へと向かいながら、話す内容について考える。だが

さやかの魔女と戦い、インキュベーターの碌でもない話を聞かされた私は心身ともに疲れきっていた

家に帰って来たところで気が抜けたのか、急に睡魔が襲ってくる

考えが纏まる前に睡魔に負けてしまった私は、そのまま眠りに落ちていった

今回はここまで
読んで下さってる方、ありがとうございます

次回投下は6日夜を予定しています

最近気づいたんだけど叛逆のCMって一応ネタバレ対策してたんだね

次から本文

――翌日――

ほむら「……」

さやか「……えっと、ほむら?確か話があるんだよね?」

ほむら「……えぇ」

マミ「もう30分ほどこうしてるのだけど…そんなに話しづらいの?」

ほむら「……それもあるけど、昨日考えを纏める前に眠ってしまって」

杏子「それで、今その段取りを考えてるってワケか……?」

ほむら「……えぇ」

昨日、どうやら私は帰って来たところで眠ってしまったようだ。目が覚めたときには朝日が昇っていた

学校でも時間の許す限り考えてみたが結局時間が足りず、今もこうして段取りを考えている始末だ

まどか「それにしても…ほむらちゃんの家、久しぶりに来たけど……」

さやか「まさかこんな部屋があったなんてね……」

杏子「なぁマミ…この浮かんでる資料……」

マミ「恐らく…ワルプルギスの夜に関するものだと思うわ」

杏子「出現予測地点、行動パターン、使い魔の能力…これだけの情報、どこから手に入れたんだ……?」

マミ「それについても話してくれるそうだから、今は暁美さんの話を待ちましょう」

さやか「あーもー…段取りなんていいから、早く話して……」

まどか「さやかちゃん」

さやか「へ?」

まどか「ほむらちゃんの話…すごく大事な話なの。それをどう話そうか、今必死に考えてる」

まどか「だから、急かさないであげて。ほむらちゃんもこの話をするの、怖いって…そう思うくらいだから」

さやか「う、うん…あの、ごめん……」

まどか「……」

さやか「まどか……?」

ほむら「……ごめんなさい、待たせてしまって」

何とか考えが纏まったところで、待たせているみんなに声をかける

今になって思ったが、何のもてなしもせず、ただ座らせていただけとは…何だか悪い気がしてきた

まどか「ほむらちゃん、もういいの?」

ほむら「えぇ。ただ…あなたたちを待たせた上、短時間で纏めた付け焼刃の話だから何かおかしい部分があるかもしれない」

ほむら「気になった部分があったら言って頂戴」

マミ「わかったわ」

ほむら「えっと、それじゃ……」

杏子「……ちょっと待ってくれ」

話を始めようとしたところで、杏子がそれを遮る

一体何かと思っていると、杏子が話を続けた

杏子「……ワリぃ、ほむら。先にアタシの話をさせてもらえねぇか?」

ほむら「あなたの……?」

杏子「あぁ。……アタシの身の上の話。……それと」

杏子「どうして魔女が召喚できなくなったのかって話をな……」

ほむら「……構わないわ」

杏子「……ありがとよ、ほむら。じゃ、話させてもらうよ」

私の話の前に、杏子が自分のことの話をし始めた

教会の生まれで、父親の教義を聞いてほしい願いで魔法少女になり、そして……

杏子「……最後はアタシだけ残して、一家心中しちまったのさ」

私がいつか聞いたときと全く同じ内容の話をする杏子

いつもならここで終わる話なのだが、今回はまだ続きがあった

杏子「……アタシの願いが家族を壊しちまった。アタシの本心がどうあれ、結果は…な」

さやか「杏子…だから最初会ったとき、あんなこと……」

杏子「あぁ。……それで、家を飛び出したアタシは…行くアテもなく、フラフラしてたんだ。……呪いを撒き散らしながらな」

杏子「ずっと一緒だった奴がぱったり来なくなったのが心配になったマミがアタシを探してくれたんだ」

杏子「……アタシを見つけてくれたときは、ソウルジェムはもう真っ黒だった。今思えば、もうちょっと遅かったらきっと暴走してたと思う」

マミ「……」

杏子「それで、マミが親身に話を聞いてくれたおかげでそのときは事無きを得たんだ。だけどな……」

杏子「アタシが魔法少女なんかになったから、家族を失ってしまった。こうなったのは全て自分のせいだと…その時のアタシはそう考えてた」

杏子「もう自分のせいで大事な人を失いたくない。傷つけたくない。そう思って、アタシはマミの前から消えたんだ」

杏子「……次またそういったことになったら…アタシは確実に魔女を暴走させるだろうからな」

マミ「佐倉…さん……」

杏子「それからのアタシは…魔法少女であることを捨てた。戦うことから逃げた。魔女も使い魔も見て見ぬ振りをした」

杏子「……アタシにはもう、大事な家族も、仲間も…何もかも失ってしまったから」

杏子「そうしてるうちに…もうひとりのアタシに愛想を尽かされたんだろうな。召喚しようとしても、うんともすんとも言わなくなった」

杏子「そのあとは…お前らに出会い、今に至るってワケだ」

マミ「……私はその話、知っているけど…どうしてその話、ここでしようと?」

杏子「……お前らといるうちに、お前らのことが…大事な人になったんだよ」

杏子「大事な人を守りたい。そう思えたから、また魔女の召喚もできるようになったんだと…そんな気がするんだ」

マミ「……そう。よかった、また以前のような佐倉さんに戻ってくれて」

杏子「心配かけたな。……それと、まどか。ありがとな」

まどか「え……?」

杏子「昨日言ってくれただろ?自分と向き合えって。そう言ってくれたから、アタシは覚悟ができたんだ」

杏子「もし、あの言葉がなかったら…きっと今も、自分から目を逸らしてたと思う。だから、ありがとよ、まどか」

まどか「ううん、気にしないで。わたしたち、友達…でしょ」

杏子「……あぁ」

杏子「これでアタシの話は終わりだ。段取り崩して悪かったな、ほむら」

ほむら「……いえ、大丈夫よ」

さやか「それで、ほむらの話っていうのは……」

ほむら「……まず最初に言っておくわ。これから私が話すことは信じがたい内容になると思う。だけど……」

ほむら「私の話は全て本当のこと。それだけは信じて聞いてほしい」

マミ「……わかったわ」

ほむら「それじゃ……」

これから私が話すことについての了解を得てから、口を開く

だが、本当に話してもいいのかという思いが一瞬頭を過ぎる

ちゃんと話さなければ。頭ではわかってはいるが、心がそれを拒否しているのか言葉が出てこない

何も話すことができず、下を向く。膝の上で握った拳が、微かに震えていた

話せないのなら、無理に話すこともないのでは…そう思っていると、不意に私の手に何かが触れた

まどか「ほむらちゃん」

ほむら「まど…か……」

私の手に触れた何かは、誰かの手だった

私が視線を上げると、向かいにいたはずのまどかが私のすぐ側に座っていた

まどかは私の拳の上に手を重ねると、私に優しく語りかけた

まどか「……ほむらちゃん1人だと辛くて…怖いのなら……」

まどか「私が一緒にいるから……。だから、大丈夫だよ」

まどかが側にいてくれている。まどかが手を握ってくれている

ただそれだけのはずなのに、不思議と恐怖を感じなくなった

昨日と同じように、胸の奥が暖かくなってくる。まどかが一緒なら…もう何も怖くない

私は息を吐くと、今日話すべきことを語り出した

ほむら「……魔法少女になるには、キュゥべえと契約する必要がある。でも、奴にはその記憶がない。何故だか…わかる?」

さやか「え?……単純にキュゥべえが忘れてる…とか」

マミ「契約したあとで、何らかの方法で記憶を消した……?」

ほむら「簡単な話よ。……私はあのキュゥべえとは契約していないから」

マミ「あのキュゥべえとは……?それはどういう意味?」

ほむら「私は…この時間の人間ではないから。それが理由……」

杏子「……ちょっと待て。それじゃ、お前……」

ほむら「……えぇ。私は…未来から来た魔法少女……」

まどか「未来…から……?」

ほむら「そう。私のいた時間は…ワルプルギスの夜によって、全てが破壊されてしまったの」

ほむら「そのときに私はキュゥべえと契約して、魔法少女になったの。……ワルプルギスの夜によってもたらされた結果をやり直したいと」

ほむら「そして…私はその魔法によって、この1ヶ月を…何度も、何度もやり直してるの。……ワルプルギスの夜を倒す為に」

杏子「それじゃこのとんでもない量の資料は……」

ほむら「えぇ…その量の情報を集められるだけの時間を繰り返しているということ。私1人で倒せるようにと……」

まどか「ほむらちゃん…1人で……?」

さやか「ちょ、待って。その、ここじゃない時間にはあたしやマミさん、杏子はいないの?」

ほむら「……いるにはいるわ。でも…ある理由で、今のように協力することは容易じゃなかった」

マミ「ある理由……?」

ほむら「えぇ。これが1番大事なところ。それと同時に、私が魔女召喚を知らなかった理由……」

私は以前までの魔法少女と魔女についてを話した

グリーフシードの能力、ソウルジェムの正体…そして、魔法少女の末路

今の時間とは違う魔法少女と魔女の話を、みんなは真剣な表情で聞いてくれた

グリーフシードが必要だからこそ生まれてしまう魔法少女同士の対立

隠されていた真実を知ってしまったときの絶望、仲間殺し

私が全てを話し終えると、話を聞いていた4人は呆然とした顔をしていた

さやか「……その…今の話、本当…なんだよね……?」

ほむら「……えぇ。全て事実。私がこの時間にやって来るまで、幾度となく経験してきたこと」

杏子「そんな世界があったなんてな……」

マミ「……佐倉さん、ごめんなさい…私、あなたを……」

杏子「……気にすんな。今のお前はそんなこと、しないだろ?」

マミ「あ、当たり前よ!」

杏子「なら、それで十分だ。それに向こうのアタシは随分とグレちまってたみたいだな……」

さやか「今のあたしは何とか助かったけど…向こうのあたしも魔女になってるんだ…ダメじゃん、あたし」

まどか「ねぇ…わたしはどうなったの……?」

さやか「そう言えばまどかは全然話に上がらなかったような……?」

ほむら「……私が契約を妨害していたわ。まどかが魔法少女になっても…いいことはないから」

まどか「そうなんだ…ありがとう、ほむらちゃん」

ほむら「……礼を言われることじゃないわ。私がここにいるということは、それだけの数の時間で失敗を重ねて来たということだから」

まどか「ほむらちゃん……」

ほむら「……それよりも気になるのは、私はこの時間で魔法少女になったわけじゃない。なのに……」

ほむら「どうしてこの時間の魔法少女と同じ姿に変わったのかしら……」

杏子「……そればかりは考えても答えが出そうにはないな」

さやか「それにしても、絶望したら魔女化ねー…その辺は今の時間の方がマシだよ」

まどか「……そう…かな……」

さやか「……まどか?」

まどか「今までの時間は…絶望したら魔女化…それで、今は…自分を認められないと暴走…最悪、殺されちゃう……」

まどか「どっちも…残酷だと思う。……今の時間のことしか知らないけど……」

まどか「自分を認めるのって、すごく…大変なことだと思う。それこそ、覚悟と呼べるくらいに……」

まどか「魔法少女になって…願いとか色々あって、自分がわからなくなって…それで、自分を認められなくなって……」

まどか「それが理由で自分に殺されて、もうひとりの自分も魔女として覚醒する…そんなの、絶対おかしい。……わたしは、そう思うよ」

ほむら「……そうね、おかしいとは思う。でも…こればかりはどうにもならないことだから……」

まどか「……」

ほむら「大丈夫。今までと比べたら、随分と楽になったわ。現にここまでやって来れたのだから」

まどか「……うん」

ほむら「とにかく、私の話はこれでおしまい。何かわからないことはあるかしら?」

杏子「……いや、ない。ないけど…頭がまだ話を飲み込めてねぇよ」

マミ「私も…暁美さんのことだけでも驚いたのに、今とは違う魔法少女だなんて……」

さやか「あたしは自分に腹が立ってきたよ……。ゾンビだからって何も絶望することなんてない…はずなのに」

まどか「わたしも…大丈夫だと思う」

ほむら「そう…なら、そろそろ本題を話させてもらうわ」

マミ「本題……?」

ほむら「私のこと、以前の魔法少女のこと…今話したことはあくまでおまけ。私が話したいことは……」

杏子「……ワルプルギスの夜についてか?」

ほむら「……その通りよ。ワルプルギスの夜についての話」

昨日インキュベーターが言っていた、ワルプルギスの夜の召喚

出現に少し時間がかかると言っていたが…恐らく、今までと同じ日に現れるに違いない

もうあまり時間は無い。ワルプルギスの夜を倒す為、私は3人に協力を仰いだ

ほむら「……恐らくワルプルギスの夜は数日後に現れるわ」

杏子「それも…経験してきたこと、ってワケか」

ほむら「えぇ。キュゥべえ…インキュベーターが何の目的でワルプルギスの夜を召喚したのかはわからない。だけど」

ほむら「私の目的はただひとつ。ワルプルギスの夜を打ち倒すこと。……その為に、力を貸してほしい」

マミ「もちろんよ。この街を守るために、力を貸すわ」

さやか「あたしだって。マミさんには及ばないけど…あたしが全部守ってみせる」

杏子「もう目の前で大切な誰かを失いたくない。……アタシも戦うよ」

ほむら「……ありがとう、みんな」

相手は最強の魔女、ワルプルギスの夜。どれだけ辛い戦いになるかわからない

それでも、3人は私に力を貸してくれると言ってくれた。これであとは、ワルプルギスの夜を倒すだけだ

ほむら「ワルプルギスの夜への対策の話もしたいけど…また別の日にした方がよさそうね」

さやか「そうして…もういっぱいいっぱいだよ……」

ほむら「なら、今日のところはこれで解散にしましょう」

マミ「それじゃ私はこれで。……佐倉さん、行きましょう」

さやか「あれ?杏子、マミさんとどこに?」

マミ「昨日、佐倉さんには迷惑をかけてしまったから…何かお詫びをと思って」

杏子「アタシは別にいいって言ってんのによ……。あのときの借りを返しただけさ」

マミ「それでもよ。何かお礼をさせて。ね?」

杏子「……ったく」

さやか「へー…あたしもついて行っていいですか?」

杏子「おう、来い来い。その方が詫びって感じでもなくなりそうだしな」

マミ「佐倉さんがそうまで言うなら…あ、鹿目さんもどうかしら?」

まどか「えっと、わたしは……」

ほむら「ごめんなさい。まどかは残ってもらえないかしら」

まどか「え?う、うん。……ごめんなさい、そういうわけで」

マミ「えぇ、また別の機会に。……それじゃ2人とも、行きましょうか」

さやか「あ、はい!……ほむら、またねー」

杏子「んじゃ、またな」

マミはさやかと杏子を連れて部屋を後にした

それから少しして、玄関の扉が開き、閉まる音が聞こえた

今この場にいるのは、私とまどかの2人だけ

急に残ってほしいと言ったせいか、少しだけ困惑したような顔をしていた

まどか「……ほむらちゃん、どうしたの?わたしだけ残ってほしいなんて」

ほむら「……あなたに話しておきたいことがあるの」

まどか「わたしに……?」

ほむら「えぇ。……さっきの私についての話。その、真実を」

先ほどの私の話。当然嘘は何も言ってはいない。だが

私が意図的に伏せていたことがある。……私とまどかのことだ

隠すつもりはない。でも…この話は、まずまどかに聞いてもらいたい。そう思い、さっきは話さなかった

……私の話を聞いて、まどかはどう思うだろうか。私には見当がつかない

それでも、伝えなければ。何より…まどかに隠し事はしたくない

私は意を決し、まどかに全てを打ち明けた

ほむら「……さっきの話で言ったわよね。私は未来から来た、って」

まどか「うん。ワルプルギスの夜を倒すために魔法少女になって、何度もやり直してるって……」

ほむら「……私が魔法少女になったのも、ワルプルギスの夜を倒そうとしてるのも…私の目的の為」

まどか「ほむらちゃんの…目的……?」

ほむら「えぇ……。私の目的、それは……」

ほむら「……まどか。あなたを守ること」

まどか「え……?」

ほむら「……これだけ言っても何のことだかわからないわよね。……最初から話すわ」

ほむら「私が契約した時間。私にとって始まりの時間で…私とあなたは友達だったの……」

ほむら「魔女の結界に迷い込んだ私を、魔法少女のあなたが助けてくれた。それがきっかけで、私はあなたと友達になったの」

ほむら「何をやっても駄目だった私に、あなたは手を差し伸べてくれた……」

ほむら「あなたと友達になって…世界が変わった気がした。あなたが隣にいるだけで、世界が輝いて見えた……」

ほむら「ずっとあなたと一緒にいれたら…そう思ってた。でも…あの日、災厄が現れたの……」

まどか「……ワルプルギスの…夜……」

ほむら「えぇ…マミ亡き後、あなたはたったひとりでワルプルギスの夜に立ち向かって行った。そして……」

ほむら「……あなたも、死んでしまった……」

まどか「……」

ほむら「私は…認めたくなかった。あなたが死ぬ結末なんて…だから私は、キュゥべえと契約したの」

ほむら「……まどかとの出会いをやり直したい。まどかに守られる私じゃなく、まどかを守れる私になりたい」

ほむら「それが…私の願いよ」

とうとう話してしまった。誰にも話したことのない、私の願いを

私の話を聞いたまどかは僅かに目を見開き、そして俯いてしまった

少し待ってみるも、まどかは顔を上げてくれない。話はきっと聞いてくれているはずと、私は話を続ける

ほむら「それから何度かやり直して…私とあなた、2人で何とかワルプルギスの夜を倒せたの。……だけど、お互いソウルジェムはもう限界だった」

ほむら「さっき説明した今とは違う魔法少女の世界だから…グリーフシードがなければ魔女化を待つのみ。でも……」

ほむら「私はあなたに助けられた。最後のひとつで、私のソウルジェムを浄化してくれたの……」

ほむら「時間を巻き戻せる私に、あなたはこう頼んだ。……キュゥべえに騙される前のわたしを助けてあげてほしい、と……」

ほむら「私はそれを引き受けてから…あなたのソウルジェムを撃ち抜いた。……あなたを…手にかけた……」

まどか「……っ」

ほむら「あなたとの約束の為に、私は数えきれないほどの時間を渡り歩いた。そして……」

ほむら「今までとはまるで違う、私の知らない魔法少女が戦うこの時間に辿り着いた、というわけ」

ほむら「……これで私の話はおしまい。もう何も隠していることはないわ」

残りの話の間も、まどかは1度も顔を上げてくれなかった

俯いてしまっているので、まどかの表情はわからない。だが、きっと泣いているのだろう

話の途中から、まどかの嗚咽が漏れ聞こえていた

それからしばらくして、まどかは顔を上げ、口を開いた

まどか「……今の話、全部…本当なんだよね……?」

ほむら「……えぇ」

まどか「わたし…どう言ったらいいか全然わからなくて……」

ほむら「無理もないわ…こんな話じゃ……」

まどか「だけど…わたし、自分が許せないよ……」

まどか「わたし、ほむらちゃんと、友達…だったのに……」

まどか「ほむらちゃんのこと…忘れてたなんて……!」

ほむら「……それは仕方ないわ」

まどか「でも……」

ほむら「そのことは気にしないで。ね?」

まどか「……うん。それじゃほむらちゃんは、わたしのために……?」

ほむら「……えぇ。あなたを守る為に戦ってるの。あなたとの約束の為に……」

ほむら「それに…ひとつ前の時間のあなたにも頼まれたの」

ほむら「さやか、マミ、杏子…みんなを助けてあげて、と……」

まどか「そんな大変なこと頼んじゃうなんて…わたし……」

ほむら「どれだけ大変で、辛くても…あなたとの約束だもの。あなたとの約束の為に戦う。それが私の存在理由」

ほむら「……でも、ね。さやかたちを助ける約束はした。でも……」

この先は言うべきじゃない。だけどもう、感情の制御ができなかった

私はまどかを抱きしめると、自分の想いをぶちまけた

ほむら「私が…私が1番守りたいのは…まどか、あなたなの……!」

ほむら「あなたのことが…何よりも大切で…どんな犠牲を払ってでも守りたいの……!」

まどか「ほむらちゃん……」

ほむら「あなたとの約束に…順位なんてつけたくない……。でも、それでも……!」

ほむら「私は…まどか、あなたが1番だから……!」

まどか「ほむらちゃんは…わたしのこと、特別だって…そう、思ってくれてるんだよね……?」

ほむら「……えぇ」

まどか「……嬉しいな。ほむらちゃんがわたしを、そう思ってくれてるなんて」

ほむら「でも…私……!」

まどか「……ほむらちゃん、みんなを守るのに…手を抜いてたりする?」

ほむら「……そんなことないわ」

まどか「それなら大丈夫だよ。ほむらちゃんは…わたしのことも、みんなのことも、全力で守ろうとしてくれてる」

まどか「それがたまたま、わたしを特別だって思っちゃっただけ。でも、それは人間なら…仕方ないと思うよ」

ほむら「……ありがとう、まどか……」

まどか「……えっと、自分で自分が特別に思われてるなんて言うと恥ずかしいけど、そういうことじゃないかな」

ほむら「私…まどかが大事。誰よりも、何よりも……」

まどか「誰よりも、何よりも、か……。嬉しいな、そう言ってくれて……」

まどか「……わたしだって、さやかちゃんたちよりも、ほむらちゃんのこと……」

ほむら「まどか……?」

まどか「……ごめんね。なんでもない」

そう言ってまどかは私の胸に顔を埋めた。そう言えば、いつの間にかまどかも私のことを抱きしめていた

まどかに抱きしめられているせいか、鼓動が速くなる

お互いに抱きしめあって密着しているのだ。きっと、まどかに気づかれているだろう

でも、それはまどかも同じことだ。まどかの早鐘のように高鳴った鼓動が、私に伝わってくる

私の鼓動とまどかの鼓動。その2つが不思議と心地いい。ずっとこうしていたい

だが、それも長くは続かなかった。まどかに離してほしいと言われたので、私はその手を離した

まどか「あ、あの、えっと…ご、ごめんね。何だかよくわかんないけど…とにかくごめんね」

ほむら「だ、大丈夫よ。むしろ私が謝るべきよ。先にしてしまったのは私だから……」

まどか「で、でもわたし、ほむらちゃんに思いっきり抱きついちゃったし……」

ほむら「い、いいのよ。まどかがそうしたかったのなら」

まどか「そう言ってくれるのは嬉しいけど……」

ほむら「こ、この話はもうやめましょう」

お互いに相手を気遣う言葉の投げ合いになってしまったので強制的に切り上げる

強制終了したせいで会話が途切れてしまった

何を話したものかと考えていると、先にまどかが口を開いた

まどか「……さっきの…ほむらちゃんとわたしのこと…みんなにも話すの?」

ほむら「……えぇ。ワルプルギスの夜が来る前に…話しておくわ」

まどか「もし、1人で話すのが辛かったら…わたしも一緒にいてあげるから……」

ほむら「……ありがとう」

まどか「うん。……じゃあ、今日はこれで帰るね」

ほむら「引き留めてしまってごめんなさい。……ありがとう。話、聞いてくれて」

まどか「わたしの方こそ、ありがとう。話してくれて。……それじゃ、また明日ね」

ほむら「えぇ、また……」

まどかの見送りをと、玄関まで一緒に向かう

玄関先で再度、さよなら、と挨拶を交わして、まどかは私の家を後にした

私のあの…わけのわからないような話を真剣に聞いてくれて…ありがとう

まどかへの感謝もそこそこに、頭を切り替える。さやかの魔女化を乗り越えることができた

今までとは違う時間でも、結局はアイツはアイツ。最後は魔女になる手順の違いでしかない

だけど、問題を抱えていたさやかも杏子も、自分と向き合い、自分を受け入れられた

あとはみんなと協力して、ワルプルギスの夜を倒すだけ。だが、その前にやらなければならないことがある

ひとつはワルプルギスの夜の情報を伝え、戦闘方法の話し合いをすること

もうひとつは…私とまどかの話をすること。もちろん、意図的に言わなかったことも謝ること

長い間戦ってきたが、4人でワルプルギスの夜に当たれることはほとんどなかった。恐らく時間がかかることだろう

何にせよ、もう残り時間は少ない。明日からが勝負だ

そう思い、私は拳を握りしめた

今回はここまで
読んで下さってる方、ありがとうございます

次回投下は7日夜を予定しています

1度推敲したはずなのに本当に大丈夫かと思って何度も見直しちゃう
ミスするときはそれでもするんだけど…

次から本文

――数日後――

ほむら「……それじゃ、これで決まりね」

まどかに私の真実を伝えてから数日

対ワルプルギスの夜の話し合いが思うように進まず、3人には未だに本当のことを話せないでいた

いつ話そうかとまごまごしているうちに、ワルプルギスの夜が現れる前日になってしまった

マミ「えぇ。……でも、本当に大丈夫かしら……」

杏子「今から弱気になってどうすんだよ」

マミ「そうは言っても、ワルプルギスの夜に結界はないのよ?それだと魔女の召喚は行えない……」

マミ「つまりティロ・フィナーレが撃てないってことじゃない……」

さやか「魔女の召喚ができないのはみんな同じですよ。あたしと杏子もサポートしますから」

マミ「美樹さん…ありがとう」

さやか「いえいえ。……それよりも、いよいよ明日か……」

杏子「作戦は決まったし、あとはアタシたちが全力で戦うだけだな。……まぁ、魔女が使えないってのは不安だけどよ」

マミ「でも、魔女が使えなくても戦えないわけじゃないわ。暁美さんだって魔女なしで戦っているのだもの」

ほむら「武器に不安があるのなら言いなさい。適当なものを見繕ってあげるわ」

マミ「大丈夫よ。ティロ・フィナーレが撃てなくても戦えるわ」

ほむら「そう……。私が言うのも何だけど、魔女が召喚できない程度で私たちが負けるわけない。絶対に勝てるわ」

杏子「ずっと魔女なしで戦ってきたほむらが言うんだ。間違いないだろうよ」

マミ「……絶対に、ワルプルギスの夜を倒しましょう。この街を守るために……」

さやか「この街と、大事な人を守るんだ。そして……」

さやか「……恭介の横っ面、張り飛ばしてやるんだ」

杏子「……何言ってんだ、お前」

さやか「……あのですね、この間、あたしは魔女を暴走させてしまいましたよね?」

マミ「えぇ……」

さやか「原因は…ご存じの通り、恭介を仁美に取られる…と思ったから、だったんですが……」

杏子「……なぁ、まさか」

さやか「……はい。恭介、仁美とは付き合ってないらしいんです…今はバイオリンだけで手いっぱいだからって」

杏子「なんだそりゃ……。お前、自分の勝手な思い込みで勝手に暴走したってのか」

さやか「その通りです…ほんと、ごめんなさい……」

杏子「まぁ…アレがあったから、アタシも魔女が再び召喚できるようになったんだ。よしとするか」

さやか「杏子……」

杏子「そのかわり、その恭介…だっけか?何が何でも物にしろよ?」

さやか「……うん。仁美には絶対に負けない」

マミ「……さて、そろそろ教えてくれないかしら。どうして鹿目さんがあなたの隣にいるのか」

ほむら「……」

さやか「話してる間、ずっと気になってたんだよね。まどか、魔法少女じゃないからいても仕方ないのに」

まどか「……うん。ちょっと、ね」

杏子「まだ何かあるのか?まどかを契約させる、とか言い出さないよな?」

ほむら「そんなことさせるわけないでしょう。……少し、話を聞いてもらいたいの」

マミ「話……?」

ほむら「えぇ。その前に、まず謝らせてもらうわ。……ごめんなさい」

さやか「ちょ、ちょっと…どういうことなのさ」

ほむら「……この前話した、私のことの話…あったでしょう?」

杏子「あぁ…ほむらが未来から来た魔法少女だった…って奴か」

ほむら「……あの話、あなたたちに隠していたことがあるの。意図的に伏せていた、本当のことが……」

マミ「……一応聞かせて。どうしてあのときは伏せていたの?」

ほむら「あなたたちに話す覚悟がなかったのと…最初はまどかに聞いてもらいたかったから」

さやか「まどかに……?」

ほむら「えぇ。……あなたたちにも聞いてほしい。私の本当のこと…それと……」

ほむら「私とまどかの関係を……」

私は先日まどかに話したことと同じ話を3人に話した

まどかと友達だったこと、まどかとの約束のこと、まどかを守る為に戦っているということ

私が話をしている間、まどかはずっと私の手を握ってくれていた

全てを話し終えると、マミとさやかは涙を流し、杏子は驚きと悲しみの混ざったような複雑な顔をしていた

1度話を聞いているはずのまどかも、その目には涙が浮かんでいた

ほむら「えっと…大丈夫、かしら……?」

マミ「……ごめん、なさい…私……」

さやか「何で…何でもっと早く言ってくれなかったのさ……!」

杏子「……仕方ねぇだろ、以前が以前だったんだ。信じろってのが無理な話だ」

杏子「……でも、今話してくれたんだ。それで十分だろ」

ほむら「……ごめんなさい。話すのが遅くなってしまって」

杏子「気にするなって。……別の時間のアタシたちのことは…ほむらの話を聞いた分でしかわからねぇ。でもよ……」

杏子「今、この場にいる…アタシも、さやかも、マミも…みんなほむらのこと…信じてるからよ」

ほむら「……ありがとう。私も、あなたたちを…信じる」

杏子「あぁ。……さやかにマミ、いつまで泣いてんだ、しっかりしろって」

さやか「ほむらぁ…ごめん…ごめん……!」

マミ「暁美さん…私……」

ほむら「……気にしないで。以前までの話だから」

さやか「でも…でも……」

杏子「ほむらも気にすんなって言ってんだろ。あぁもう、泣くなって」

まどか「……ほむらちゃん、よかったね」

ほむら「えぇ。この時間のみんなとは…ずっと協力してきた。だけど……」

ほむら「今、この話をして…やっと仲間になれた。……そんな気がするわ」

まどか「……うん」

ほむら「それよりも…いつまで手を握ってるの?もう離してくれても……」

まどか「いいの。わたしがこうしていたいから」

ほむら「……まぁ、まどかがしていたいのなら」

話をしているときはそれどころではなかったから気が付かなかったが

まどかが手を握っていると意識すると、胸の奥が熱くなってくる

ここ最近、まどかといると何だか変だ

手を握られたり、抱きしめられたり…まどかに触れていると特にそう感じてしまう

まどかのことは…誰よりも、何よりも大事な人。つまり、好きな人ということだろう

まどかのことが好きだから、まどかに触れていたい。そういう理屈なのだと思う

だけど、自分のこの好きという気持ち…どういう形なのだろうか。友情か、それとも……

……もし、もし仮にそうだとしても…それは伝えるべきじゃない。私もまどかも、女同士なのだから

確かにまどかには、私の隣にいてほしい。でも、それはそういう意味では……

まどか「……ほむらちゃんってば」

ほむら「……え、あ…な、何かしら」

まどか「どうしたの、ほむらちゃん?ずっと何か考えてたみたいだけど」

ほむら「……何でもないわ。それで、何?」

まどか「うん。話も終わったし、これからどうするのかなって」

ほむら「そうね…準備は終わったから、各自自由に過ごして頂戴」

杏子「最後の日常…ってか」

マミ「……最後になんてさせないわ。絶対に」

さやか「そうだよ。あたしたちみんなで、ワルプルギスの夜を倒すんだから」

杏子「……それもそうだな。今日1日貰えるのなら…アタシ、ちょっと向こうに行って来る」

マミ「佐倉さん…向こうって……」

杏子「……アタシの家…教会に行って来る。ケジメ、つけないとだからな」

マミ「……私も行くわ」

さやか「あたしも」

杏子「……ありがとよ。でも、大丈夫だ。アタシ1人で行くよ」

マミ「そう…じゃあ、私の家で待ってるわね」

杏子「あぁ、わかった」

マミ「それじゃ美樹さん、佐倉さんが来るまで話し相手になってもらえる?」

さやか「いいですよ。……まどかはどうする?」

まどか「わたしは…ほむらちゃんと一緒にいるよ」

さやか「……わかった。んじゃ、あたしらはこれで」

ほむら「明日は朝に私の家に。わかってるわね」

マミ「えぇ、大丈夫よ。……それじゃ、また明日」

ほむら「……また明日」

私とまどかを残し、3人は部屋を後にした。図らずも、先日と同じ展開になってしまった

ただ違うのは、困惑しているのが私だということ。まどかは何を思ってそんなことを?

まどかが何をしたいのかわからず戸惑っていると、まどかの口からさらに困惑してしまうような言葉が飛び出した

まどか「……ほむらちゃん、好きな食べ物ってある?」

ほむら「え?」

好きな食べ物。ないことはないが…どうして今そんなことを……?

そんな風に考えていると、まどかは次から次へと私に質問を投げかけてきた

まどか「じゃあ、好きな動物は?好きな色、好きな音楽とかは?」

まどかの質問はどれもこれも、私の好きなものを尋ねる内容のものばかり

わけがわからなくなってしまった私は、1度まどかを制止する

ほむら「ちょ、ちょっと待って。そんなにあれもこれも聞かれたって答えられないわ……」

まどか「……あ、ごめんね」

ほむら「えっと、どうして私の好きなものなんかを……?」

まどか「……ほむらちゃんはわたしのこと、すごくよく知ってるんだよね」

まどか「きっとわたしが秘密にしてるようなことも、別の時間のわたしから聞いたことがあるんじゃないかな」

ほむら「……確かに、あなたのことはよく知ってるわ」

まどか「でも…わたしはほむらちゃんのこと、何も知らない。ほむらちゃんの好きなものすら……」

まどか「知ってるのは…魔法少女で、わたしを守ろうとがんばってること。それと、とても優しいってことだけ」

ほむら「……」

まどか「だから、わたし…もっとほむらちゃんのこと、知りたいんだ」

ほむら「そう…だったの……」

まどかの話を聞いて、漸く質問の意図を理解できた

思い返せば、私のことをまどかに教えたことなどほとんどなかった

だけど、今のまどかには私の過去…私とまどかのことを話している

それもあって、私のことをもっと知りたいと思ったのだろうか

まどか「それでほむらちゃん、好きな食べ物って何?」

ほむら「そうね…ここ最近はずっとカロ○ーメイトばかり食べてるわ」

まどか「えぇー…大丈夫なの?それ……」

ほむら「食事する時間があったら、あなたを守る為に行動した方が有益よ」

まどか「そ、そう言ってくれるのは嬉しいんだけど……」

ほむら「でも…ひとつだけあるわ。私の好きな食べ物」

好きな食べ物…こういうときは母親の手料理だったりするのだろうが、それはもう思い出すことができなかった

でも、これだけは…どれだけ時が流れようと、忘れるわけがない

ほむら「私の好きな食べ物は…まどかの玉子焼きよ」

まどか「え?わ、わたしの?」

ほむら「……以前、今みたいに私が碌なものを食べてないってまどかに知られたことがあってね」

ほむら「次の日に、私にお弁当を作って来てくれたの」

まどか「で、でもわたし、そんな料理は得意じゃ……」

ほむら「そうね、特別上手だったわけじゃないわ。……でも、誰かの手料理なんてとても久しぶりだったから」

ほむら「それに、あなたが私に作ってくれたんだと思ったら…もう、涙が止まらなくなってしまって」

ほむら「それ以来、あなたの玉子焼きが好きになったの」

ほむら「……まぁ、そのとき以来食べたことなんてないのだけど」

まどか「……じゃあ、今度わたしが作ってくるよ。玉子焼き、いっぱい詰めたお弁当」

ほむら「私ね…ワルプルギスの夜を倒したら、やりたいことがあるの」

まどか「やりたいこと?」

ほむら「学校の屋上で…まどかの作ってくれたお弁当を、まどかと一緒に食べること」

ほむら「ずっと…まどかとそんな風に過ごしてみたかった。だから…そのときは私の願い、聞いてもらえる?」

まどか「もちろんだよ。……そのときは、わたしとほむらちゃん…2人だけでね」

ほむら「えぇ。……でも、それって何だか恋人みたい…ね……」

まどか「ほむらちゃん?」

ほむら「……何でもないわ。まどか…私と友達になってくれて…ありがとう」

ほむら「あなたは…私の最高の友達よ」

まどか「最高の友達…嬉しいな、そう言ってくれて」

口ではそう言うまどかだったが、その顔はどこか残念そうに見えた

それよりも、まさかあんなことを口走ってしまうなんて……

まどかには聞こえていなかったらしく、それ以上は何も言ってこなかった

まどか「……まぁそれはそれとして、ほむらちゃんのこと、もっと教えてよ」

ほむら「そうね…それじゃあ……」

それから私はまどかに自分のことを話してあげた

私の好きなものだったり、過去のまどかとのやり取りだったり、可能な限り色々な話を話した

時が経つのも忘れ、まどかとの会話に夢中になる

気が付いた頃には、辺りはすっかり暗くなってしまっていた

ほむら「……もうこんなに暗くなっていたなんて」

まどか「全然気づかなかったよ……」

ほむら「まどかとの話が楽しかったからかしらね」

まどか「わたしも楽しかったよ。ほむらちゃんのこと、色々知ることもできたし」

ほむら「そう…それはよかったわ」

まどか「うん……」

ほむら「……」

まどか「……明日…なんだよね」

ほむら「……えぇ」

まどか「……大丈夫…だよね」

ほむら「……えぇ。あなたは家族と一緒に避難して」

まどか「……うん」

ほむら「……あなたも、あなたの友達も家族も、あなたが住むこの街も……」

ほむら「あなたの大事なものは…私が全て守ってみせる。不安も恐怖も、全部私が払ってみせる」

ほむら「だから…私に任せて、待っていて」

まどか「……うん。ありがとう、ほむらちゃん」

まどか「……ほむらちゃん、わたし…ほむらちゃんのこと……」

ほむら「まどか……?」

まどか「……ううん、何でもない。じゃあ…そろそろ帰るね」

ほむら「それじゃ、送って行くわ」

まどか「大丈夫だよ。今日はゆっくり休んで」

ほむら「……わかったわ」

まどか「じゃあ…またね……」

ほむら「えぇ…また」

まどかは一瞬寂しそうな顔を見せるも、それ以上は何も言わずに帰って行った

1人になった私は早めに夕飯を済ませ、ベッドに潜り込んだ

明日…ワルプルギスの夜が召喚され、この世界に姿を現す

できる限りの対抗策は講じた。仲間を集め、対ワルプルギスの夜の作戦を立てた

ただ気になるのは、ワルプルギスの夜が人の姿だったり、巨大な要塞だったりと、私の知らない話が含まれていることだ

その不確定要素が何を意味しているのかはわからない。だが、例え何が起こったとしても私が成すべきことはひとつだけ

ワルプルギスの夜と戦い、奴を打ち倒す。それが私の悲願

まどかのことを考えたせいか、ふと今日のやり取りを思い出す

まどかの作ったお弁当を屋上で2人で食べる…まさに恋人同士のようなことだ

でも、まどかには聞こえなかったとは言え、あんなことは言うべきではなかった

まどかが私をどう思ってるかなんて、わからないのだから

下手をすればせっかく仲良くなれたのに…気持ち悪いと思われ、嫌われてしまうだろう

この時間でワルプルギスの夜を倒したとしても、まどかとはずっと友達でいた方がいい。そう思っているはずなのに

私の胸は何かに締め付けられ、ズキズキと痛み出す。まるで荊で締め上げられているかのように

ここ数日まどかに対して感じる、様々な想い。胸が熱くなったり、触れていたかったり、締め付け、痛み出したりするこの気持ち

私は…きっとまどかのことが好きなのだろう。友達としてではなく、恋の対象として……

今まで恋をしたことがないので、これがそうだという確証はない

ただ、まどかを想えば想うほど膨らんでくるこの想い。十中八九、そうなのだろう

だけど、私もまどかも女同士…同性だ。私の気持ちは…きっと正しくない

まどかには伝えない方がいい。今まで通りでいるのが正しい。そのはずなのに

胸に絡みついた荊が今まで以上に私を締め付ける

まどかを守れるのなら、それでいい。今まではそう思っていた。でも

今は違う。まどかを守り…私の隣にいてほしい。そう思ってしまっている

まどかとどうなりたいか、今の私には答えは出せない。どちらにせよ、今はワルプルギスの夜を倒すことだけ考えればいい

私はまどかへの想いを全部纏めて心の奥へと押し込んで蓋をして、何とか眠ろうと目を閉じる

9時にはベッドに入っていたはずなのに、私が眠ったとき時計は天辺を指し示していた

今回はここまで
読んで下さってる方、ありがとうございます

次回投下は8日夜を予定しています

最初クリームヒルト見たとき何が何だかよくわからなかったっけ…
今回文章量多い気がする

次から本文

――――――

???『……こんばんわ』

???『まどかに…伝えたのね。あなたのことを……』

???『……あなた、まどかのことが…好きなのね……?』

???『心に流れてきたあのまどかへの気持ちは…そういうことなんでしょう?』

???『あなたは私と契約したわね。まどかを救う覚悟の契約を……』

???『まどかを守れるのなら…救えるのなら、自分の命など安いものだ、と』

???『本当に…そう思っているのかしら?』

???『美樹さやかも、佐倉杏子も…自分と向き合い、本当の自分を認めたわ』

???『なら…次はあなたの番よ、暁美ほむら』

???『まどかをどう思い、まどかとどうなりたいのか。本当の自分と向き合いなさい』

???『もう時間は残ってないわ。答えは、次会ったときに…聞かせてもらうわ』

???『……頑張って』

――――――

ほむら「……っ!」

ほむら「……今のは…何……?夢……?」

ほむら「魔女の…夢……?契約って何のこと……?」

ほむら「まさか…私にも、魔女が……?」

ほむら「……いえ、それよりも今の魔女の話……」

ほむら「まどかとどうなりたい…か……」

ほむら「……まどか、私……」

ほむら「……今はそれよりも、目の前のことに集中しないと」

ほむら「もう…今日、なのね……」

ほむら「……支度…しないと」

私の夢に現れたあの魔女。あれは恐らく、もうひとりの私なのだろう

私が心に押し込めたまどかへの気持ちについて、一言助言を言いに出てきたのだろうか

本当の自分と向き合っても…きっと結果は変わらない

私とまどかは友達。それ以上でも、それ以下でも……

そんなことを考えながら、今日の準備をする

魔法少女となって戦うだけだが…学校の制服に着替え、簡単な朝食を済ませる

何の気なしにテレビをつけると、ニュース番組のキャスターが見滝原近隣住民に避難を呼びかけていた

それから程なくして、みんなが私の家へとやって来た

だが、どういうわけかその中にまどかの姿があった

ほむら「……どうしてまどかがここに?」

マミ「それがわからないのよ。何も話してくれなくて……」

さやか「まどか、家族と避難するんじゃなかったの?」

まどか「……1人暮らししてる友達がいて…心配だから、様子を見に行って…そのまま避難するって言ってきた」

杏子「それなら…まぁ……」

ほむら「私たちに何か用でも……?」

まどか「わたし、ほむらちゃんと一緒に戦えるわけじゃない。それはわかってる……」

まどか「ワルプルギスの夜はすごく強いって聞いてるから…何だか怖くなっちゃったんだ……」

ほむら「昨日言ったでしょう?私に任せてほしいって……」

まどか「そうなんだけど…ほむらちゃんにもう会えなくなっちゃう気がして……」

ほむら「……大丈夫。ワルプルギスの夜は…絶対に倒してみせるから」

まどか「……違うの。ほむらちゃんが死んじゃうんじゃないかって…そう思っちゃって、いてもたってもいられなくなって……」

まどか「わたし…怖いの。ほむらちゃんがいなくなることが…死んじゃうかもしれないってことが……」

ほむら「そんなこと……」

まどか「ほむらちゃんのことだから…きっとわたしを守れるのなら、自分の命も顧みないんじゃ…って……」

ほむら「……っ」

まどか「ほむらちゃんがわたしを守ってくれるのは…すごく嬉しい。でも…それがほむらちゃんの命と引き換えなんだとしたら……」

まどか「……わたしは…そんなの望んでない」

ほむら「……」

まどか「ほむらちゃん…お願い。絶対…無茶なこと、しないで。絶対、生きて…帰って来て……!」

恐怖のせいか、まどかの体はカタカタと震えていた

まどかがそこまで私を思ってくれているなんて…私は幸せ者だ

無論死ぬつもりなんてない。だが、文字通り死力を尽くして戦うのだ。どうなるかはわからない

それでも、今のまどかに不安にさせるようなことは言えない。まどかを不安にさせないよう、私は言葉を選んでまどかに話しかけた

ほむら「……大丈夫よ。私たちは何も、死にに行くわけじゃないわ」

ほむら「ワルプルギスの夜を倒して、誰1人欠けることなく帰って来るから。だから、信じて待っていて」

まどか「本当…だよね……?」

ほむら「えぇ、本当。言ったでしょう?まどかに嘘なんて言わないって」

まどか「……うん。わたし、待ってるから……」

ほむら「それと…これはみんなにも聞いてもらいたいことなのだけど」

さやか「何?どうかしたの?」

ほむら「えぇ。今朝…夢に魔女が出て来たの」

さやか「魔女が?それって、あたしの奴と……?」

マミ「私は魔女の夢を見たことはないけど…美樹さんのときと同じく、召喚の時が近いのかもしれないわね」

ほむら「だといいのだけど……」

杏子「それで、自分に何を言われたんだ?」

ほむら「……励まされたのよ。これからのことについて。それよりも……」

ほむら「どうやら私はそのもうひとりの自分と何か契約をしたらしいの」

マミ「もうひとりの自分と契約……?どういうことなのかしら」

杏子「心の奥で思ってることを言われるならともかく、契約って何だ……?」

ほむら「……その様子だと心当たりはなさそうね。何か知ってるかと思ったけど」

杏子「あぁ…すまねぇ」

さやか「でもさ、魔女の夢を見たのなら案外もう召喚できるようになったんじゃないの?」

ほむら「それは…魔女の名前もわからないままだし……」

杏子「どの道ワルプルギスの夜は結界を持たねぇんだ。召喚はできねぇと思うぞ」

さやか「それもそうなんだけど……」

マミ「美樹さん、何か気になることでもあるの?」

さやか「根拠も何もないんですけど…ほむらの魔女があたしたちの切り札になるような気がするんです」

杏子「切り札…ねぇ……」

マミ「暁美さん、何かあったらすぐに言って。いいわね?」

ほむら「……えぇ」

ほむら「……さて、そろそろ時間よ」

杏子「だな。……んじゃ、行くか」

ほむら「まどか…あなたは……」

まどか「……わかってるよ。避難所に…行くよ……」

ほむら「さやか、マミ、杏子…準備と覚悟はいいかしら?」

さやか「もちろん」

マミ「いつでもいいわ」

杏子「用意できてる。行けるよ」

ほむら「そう…それじゃ、向かいましょうか」

ワルプルギスの夜が現れる時間が迫り、移動しようかと立ち上がる

そんなとき、誰かに服を引っ張られたような気がした

さやか、マミ、杏子の3人は私の目の前にいる。つまり、私を引っ張っているのは……

引っ張られている方へ視線を向けると、まどかが涙目になりながら私の制服の裾を握っていた

ほむら「まどか……?どうしたの?」

まどか「……」

ほむら「そろそろ行かないとだから…離してほしいのだけど……」

まどか「……」

ほむら「……ごめんなさい。先に行っててもらえないかしら」

さやか「そりゃいいけど…大丈夫なの?」

ほむら「えぇ。まだ多少は時間はあるはずだから」

マミ「……わかったわ。美樹さん、佐倉さん、行きましょう」

杏子「あ、あぁ……」

まどかが離してくれるまで全員ここにいるわけにもいかないので、さやかたちには先に行ってもらうことにした

みんなが出て行ったあと、一体どうしたのかとまどかの方へ向き直ろうとしたとき

私は、まどかに背後から思いきり抱きしめられた

ほむら「まどか……?」

まどか「……ないで……」

まどかが何かを呟いたらしいが、よく聞き取れなかった

何を言ったのか聞き返すと、消え入りそうな涙声で私に訴えかける

まどか「行かないで……!お願い…行っちゃ…嫌だよ……!」

ほむら「それ、は……」

まどか「……わたしのわがままだってことくらい、わかってる…でも……!」

まどか「ほむらちゃんに…行ってほしくない……。ほむらちゃんと離れたくない……!」

ほむら「……それは、さっきの…私ともう会えなくなるかもしれないから?」

まどか「うん…もう会えなくなるかもしれない…わたし、それが怖くて…耐えられないの……!」

ほむら「そう思ってくれるのは嬉しいけど…どうしてそこまで私のことを……?」

まどか「それは…わたし…わたし、ほむらちゃんが……!」






まどか「ほむらちゃんのことが、好き…大好きだから……!」



ほむら「……え?」

まどかの言葉が理解できなかった

間違いなく聞こえていたはずだが、頭が理解することを拒んだのだろうか

確認の為に再度まどかに問いかける

ほむら「まど、か……?今……」

まどか「わたし…ほむらちゃんが好き…大好きなの……!」

ほむら「それは…友達として……?」

まどか「……違うの。わたしは…ほむらちゃんに恋をしたの。ほむらちゃんに恋愛感情を…持っちゃったの」

ほむら「……そう…だったの」

まどか「最初は友達として好き…だったの。でも…ほむらちゃんと一緒にいたいなって…そういうことは思ってたんだ」

まどか「少し前…さやかちゃんのトラブルがあった頃に、ほむらちゃんへの好きは他のみんなへの好きと違うって…気づいた」

まどか「それから…ほむらちゃんがわたしのために戦ってくれてるって聞いて…わたしのことが大事だって言ってくれて…すごく嬉しかった」

まどか「きっとそのときに…ほむらちゃんを好きになったんだと思う」

まどか「でも…わたしもほむらちゃんも同じ女の子…これが普通の恋じゃないことくらい、わかってる……」

まどか「ごめんね…ほむらちゃん……。わけ…わかんないよね……」

まどか「気持ち…悪いよね……」

ほむら「そんなこと……」

まどか「だけど…それでもわたしは…ほむらちゃんのことが好きだから……!」

ほむら「……」

まさかこんなことになるとは思ってもみなかった

まどかが私のことをそういう意味で好きだったなんて……

まどか「こんなときに…ごめんね。でも…返事、聞かせてほしいんだ……」

まどかは私に告白の返答を求めた

私だって…まどかのことが好き。どれだけ取り繕って、誤魔化しても…それが私の本心

……ただ、今それを伝えるわけにはいかなかった

私には…まだ成すべきことがある。ワルプルギスの夜を…倒さなくては

ほむら「……ごめんなさい。今は…それに返事をすることはできないわ」

まどか「……そっか……」

一言、そう呟いたまどかは、私を抱きしめていた手を離す

私はまどかの方へ向き直ってから、まどかの両肩に手を添える。そして

まどかの頬に、キスをした

まどか「ほ…ほむらちゃん……」

ほむら「私には…やるべきことがある。だから…今はこれで許して」

まどか「……絶対に…帰って来てね」

ほむら「……えぇ。そろそろ私も行かないと…まどか、あなたは……」

まどか「……うん。ちゃんと避難するよ」

ほむら「それじゃ…行って来るわね」

私はそう言い残し、家を後にした

ワルプルギスの夜が現れる直前だと言うのに、頭は全く違うことを考えてしまっている

まどかのことは…好き。まどかが告白してくれたことは、本当に嬉しい

だけど、それを受け入れる覚悟が私には…ない

何より、私がまどかを幸せにできるとは…到底思えなかった

ふと、夢で言われたことを思い出す。私は…まどかとどうなりたいのだろうか

あれこれ考えているうちに、いつの間にか合流地点の目の前までやってきてしまった

まどかの告白…どうするにせよ、まずはワルプルギスの夜を倒してから。全ては、それからだ

まどか「……行っちゃった…な……」

まどか「ほむらちゃん…何度も、何度も…大丈夫だって、言ってくれたよね。でも……」

まどか「どうしてだろう…全然、大丈夫って気にならないよ……」

まどか「……何もできずに、ただ待ってるだけが…こんなに辛いなんて……」

まどか「ほむらちゃんが好きだから…余計に辛いよ……」

まどか「……ねぇ、ほむらちゃん…わたし、決めたよ」

まどか「もし…もし、わたしが戦わなければならなくなったら、そのときは……」

まどか「……わたし、みんなを…ほむらちゃんを守ってみせる」

『その想い…本当?』

まどか「え……?」

――――――

ほむら「ごめんなさい、遅くなったわ」

杏子「お、来たな。まだ現れてねぇから大丈夫だ」

ほむら「そう…それじゃ私は先制攻撃の準備に入るわ」

遅れてみんなと合流し、手早く準備を始める

私が攻撃の準備をしていると、横からさやかが声をかけてきた

さやか「……ねぇ、ほむら」

ほむら「何?準備があるのだけど」

さやか「しながらでいいよ。……あのさ、まどかに何か言われた?」

ほむら「……特に何も」

さやか「……へぇ」

ほむら「……」

さやか「……本当?」

ほむら「……えぇ」

さやか「ふーん…まぁほむらが何でもないって言うんなら、無理には聞かないけどさ……」

さやか「ひとつだけ言わせて。……誰かに好きだって言ってもらえるのは…すごく幸せなことだと思うんだ」

さやか「もちろんほむらがまどかをどういう風に見てるかはわからない。でも…きっとほむらとまどかの想いは通じ合ってる」

さやか「初めての恋が同じ女の子だから戸惑ってるんだろうとは思うけど…でも、お互いが好きだったなら…そんなの関係ないよ」

さやか「だから…まどかには、ほむらの本心…本当の気持ちを伝えてあげて。恋愛に関しちゃ、あたしの方が先輩なんだから」

さやか「……んじゃ、あたしは向こうで待機してるよ。……絶対、ワルプルギスの夜を倒して…まどかのところに帰ってあげなさいよ」

ほむら「……ありがとう、さやか」

ほむら「……これでよし…と」

マミ「暁美さん、終わった?」

ほむら「えぇ。今終わったところよ」

私の準備も完了し、後はワルプルギスの夜が現れるのを待つのみとなった

私たちがワルプルギスの夜の出現を待ち構えていると

背後から忌々しい声が聞こえてきた

QB「やぁ、みんな。不安と恐怖で震えてると思ったけど、案外平気そうだね」

ほむら「……今更何の用かしら」

QB「決まってるだろう?戦いを見届けに来たんだ」

ほむら「……お前が何を企んでワルプルギスの夜を召喚したのかはわからない。でも……」

ほむら「そんなことはどうだっていい。目の前に迫った災厄から…大事なものを守る為に戦う。それだけよ」

QB「……本当に君たちが勝てるとでも思っているのかい?」

さやか「感情のないあんたには到底理解できないだろうけどね…勝てる勝てないじゃない。勝つのよ」

杏子「過去に出現したワルプルギスの夜もテメェが召喚したって話だったな。……ここで倒せば、もう現れなくなるってことだからな」

QB「……そうかい。マミ、君も戦うんだろう?」

マミ「……当然よ。このままワルプルギスの夜が現れたら…街が壊され、人が死ぬ……」

マミ「私たちの街を…地獄にはさせないわ」

QB「君たち人間の感情というものは本当にわけがわからないよ。勝てるはずのない相手に戦いを挑むなんて」

ほむら「だからお前は愚かなのよ、インキュベーター。魔法少女は不条理を覆す存在……」

ほむら「魔法少女の…人間の底力、思い知らせてやるわ」

QB「何を言われても僕には理解できないことだよ。それよりも……」

QB「そろそろ用意した方がいいんじゃないかな?」

インキュベーターの言葉とほぼ同時に、辺りの空気が変わった

見えない何かに押さえつけられているような、重苦しい空気

私たちは各々武器を構え、出現に備える。そして

QB「さぁ…幕開けだ」

ワルプルギスの夜の出現予測地点にカウントが表示される

カウントダウンが始まり、5…4…3…と表示される数字が小さくなっていく

カウントの数字が0になったその瞬間

空間が割れ、その合間からワルプルギスの夜が姿を現した

杏子「……あれがワルプルギスの夜…なのか」

さやか「バカでかいコマに見えるんだけど……」

マミ「コマというより、何かの装置みたいね……」

ほむら「お喋りはそれまでにして。今までの魔女とはケタが違うわよ」

QB「ワルプルギスの夜と戦って、生きて帰った者はいないんだからね」

QB「精々、足掻いてみるといい。この狂宴の中、君たちはどこまでやれるのか」

QB「僕は君たちの戦いを見届けさせてもらうよ」

インキュベーターは私たちを挑発するが、それに構っている暇は無い

奴のことなどどうでもいい。それよりも今は、ワルプルギスの夜と戦うことに集中しなければ

だが、ワルプルギスの夜の様子が変だ。こちらを伺っているような……

何をしているのかわからず、手を出せずにいたときだった

QB「薔薇園の魔女。性質は不信。その力の全ては薔薇の為に……」

杏子「何を言ってやがる、テメェ……!」

さやか「待って、ワルプルギスの夜が……」

マミ「何、あれ…ワルプルギスの夜の腕が……?」

ワルプルギスの夜の腕が変質していく。腕部の袖のようなものの中から出て来たそれは

どこかで見たことのある、植物の蔓のようなものだった

ほむら「何が…どうなってるの……?」

QB「ワルプルギスの夜は最強の魔女、絶望を総べる魔女だ。それ故に、普通のグリーフシードでは召喚することはできない」

杏子「普通のグリーフシード……?」

QB「そう。この世には普通のグリーフシードと、特別なグリーフシードの2種類が存在する」

QB「魔女の元となるグリーフシード、そしてワルプルギスの夜を呼び出す為に必要な特別なグリーフシード……」

QB「そうだね…因果を持ったグリーフシードとでも言うべきかな」

ほむら「じゃあ…お前が積極的に集めていたグリーフシードは、全て……!」

QB「そうさ。それらは全て因果を持ったグリーフシードだ」

QB「そして、ワルプルギスの夜は召喚に使われたグリーフシードの魔女の力をその身に宿している」

QB「消費した数だけの魔女の能力を、オリジナルとは比べものにならない程強力になって、ね」

ほむら「ワルプルギスの夜が人であったり空飛ぶ要塞であったりするのは……!」

QB「召喚される度に使用されるグリーフシードも違うからね。その時その時の魔女の能力が発現していたせいだよ」

マミ「じゃあ…あの植物の蔓みたいなものって……」

QB「君が倒した、薔薇園の魔女の力さ」

さやか「その…因果を持ったグリーフシードがいくつ使われたのか、わかんないけど……」

さやか「あいつは一体、どれだけの数の魔女の力を持ってるの……?」

QB「そう多くの数を使ってるわけじゃないはずだから、ひとつずつ倒して行けばいいと思うよ」

QB「勿論、それができればの話だけどね」

別の魔女の能力…つまり、このワルプルギスの夜は元々の能力に加え、更に別の魔女の力を行使するということか

ここまで来て、そんな面倒なことになるなんて……。だが、既に戦いの幕は上がっている。選択肢はひとつだけだ

ほむら「それが何だと言うの?……さやか、マミ、杏子…行くわよ!」

ワルプルギス「アハハハッ!」

準備が整ったのか、ワルプルギスの夜の笑い声が辺りに響き渡る

……今まで、何度も、何度も敗れてきたワルプルギスの夜。だが

今回は…絶対に負けるわけにはいかない。私の為にも…まどかの為にも

マミ「行くって言ったって…作戦は!?」

ほむら「作戦変更よ。何が何だかわからないけど、今のアイツは別の魔女の力を行使している。……つまりは手を抜いて戦ってるに過ぎないはず」

ほむら「私の作戦はあくまで本来のワルプルギスの夜と戦うことを想定して組み立てたもの。だから、今はまだ……」

さやか「でも、あんなデカブツ相手にどうしろってのさ!?あたしと杏子、近接なんだよ!?」

ほむら「とにかく、攻撃を。私とマミは砲撃、さやかと杏子は…あの蔓を叩き切って」

杏子「簡単に言いやがって…ま、他に刃が通りそうかと言われると…な」

マミ「美樹さん、佐倉さん…ごめんなさい。危険な役を押し付けてしまって……」

さやか「お、押し付けるだなんて…あーもう、あんな蔓すぐに叩き切ってやる!」

杏子「お、おいさやか、待て!……マミ、ほむら、援護は頼んだ!」

ほむら「……さて、こちらも用意するとしましょう」

マミ「えぇ。……それで暁美さん、あなたの魔女のことなんだけど……」

ほむら「……駄目ね。特に何か変わったこともないし」

ほむら「何より、魔女の名前もわからない…召喚のしようがないわ」

マミ「そう…何となく、気になるのよね。暁美さんの魔女が私たちの切り札になるって美樹さんも言ってたし……」

QB「君が今魔女の召喚を行えるようになっても無駄なことさ。君程度の素質なら、なおさらね」

ほむら「……私たちはお前と話をしているわけじゃない。そこで黙って見ていなさい」

QB「……」

ほむら「……さて、そろそろ始めましょう」

私はマミにそう言うと、盾の中からロケット砲を引っ張り出す

マミも私の言葉を聞いて、マスケット銃を多数召喚し、展開させる

ワルプルギスの夜に狙いを定め、射線にさやかと杏子がいないことを確認してから

私たちは攻撃を開始した

――避難所――

まどか「……」

詢子「お、まどかー、こっちだ」

まどか「……」

詢子「……?おい、まどか?」

まどか「……あ、ママ……」

詢子「どうしたんだ?何かボーっとしてるみたいだけど」

まどか「……何でもないよ。何でも……」

詢子「そうか?それで、1人暮らししてる…ほむらちゃんだったか?その子は大丈夫なのか?」

まどか「う、うん…入り口で別れちゃったけど、ちゃんと……」

詢子「何だ、別に連れて来てもよかったんだぞ?まどかも誰か友達と一緒にいた方が安心できるだろうしな」

まどか(一緒、か……。ほむらちゃん…大丈夫だよね……?)

詢子「……まどか、本当に大丈夫か?何かあったんじゃないのか?」

まどか「……ううん、大丈夫」

詢子「ならいいけど。……っと、何だ、アタシの携帯か…ちょっと出てくるから、荷物頼んだよ」

まどか「うん……」

まどか(さっきの声…結局何だったんだろう……?あれっきり何も聞こえなくなっちゃったし……)

まどか(まさかとは思うけど、もうひとりの自分…わたしの魔女……?ううん、そんなわけないよ)

まどか(だってわたし、魔法少女じゃないし…空耳?幻聴?)

まどか(……でも、はっきりと聞こえた。その想い…本当?って)

まどか(……わたし、魔法少女でも何でもない。何の力も持ってない。だけど……)

まどか(もし、わたしに力があるのなら…ほむらちゃんを…大好きな人を助けたい。守ってあげたい)

まどか(ほむらちゃんがわたしにそうしてくれるように…わたしもほむらちゃんを……)

詢子「ただいま、っと。会社から避難したかどうかの確認の電話だったよ」

まどか(ほむらちゃん……)

詢子「……おーい、まどかー?」

まどか「……あ、な、何?」

詢子「……やっぱ何かあるんだな。話してみなよ」

まどか「……ママは大事な人が危険な目に遭ってたら…どうする?」

詢子「大事な人がか?そりゃ助けに行くさ」

まどか「自分には何の力もない…何の役にも立たないとしても……?」

詢子「まどかが何を聞きたいのかわからないけど…少なくとも、アタシはその大事な人のところへ行くよ」

詢子「それに、助けに行くのにそんな気持ちじゃダメさ。自分には大事な人を守れる力がある。そう思わなきゃな」

まどか「……ママはすごいよ、即答できるんだもん。わたしは…ダメだよ。とても自分にそんな力があるなんて……」

詢子「……まどか、誰か助けたい人がいる。そうなんだな?」

まどか「……」

詢子「それは…まどかの言う、ほむらちゃん…なんだろ?」

まどか「……うん」

詢子「……アタシ、まどかの周りで何が起こって、どうしてそう思ったのかは…わからない。でもね……」

詢子「何か大変なことになってるんじゃないかくらいの想像はつく。それにほむらちゃんが立ち向かって行ってるのだとしたら」

詢子「きっとまどかの力が必要だと思うんだ。他の誰でもない、まどか…お前の力が」

まどか「わたしの…力……?」

詢子「まどか…お前の力は誰かを想ってやれる強さだ」

詢子「誰かが喜んでいるときも、悲しんでいるときも…その人のことを想い、行動できる」

詢子「それが、まどかの力だ。ほむらちゃんが苦しんでいるのなら、まどかが手を差し伸べてやらなきゃ。大事な人なんだろ?」

まどか「……うん。わたし、ちょっとほむらちゃん探してくる」

詢子「あぁ。……しっかしパパとタツヤはいつ帰って来るんだ?そんな混んでるのか……?」

まどか(……ママ、ありがとう。少しだけ、自信がついたよ)

まどか(でも…今回ばかりはそれだけじゃ何の役にも立てないんだ)

まどか(……わたし、どうしたらいいんだろう。ほむらちゃんのために、戦う力がほしい。だけど)

まどか(魔法少女になるわけには…それはほむらちゃんの努力を無駄にしちゃう……)

まどか(わたし…は……)

『大丈夫。わたしがいるから』

まどか「え…また聞こえた……?」

――――――

さやか「これで…どうだっ!?」

ワルプルギス「アハッ!」

さやかがワルプルギスの夜左腕の蔓を切り落とす

それに対し、右腕の蔓をさやかへ向けて思いきり振るう

だが、その攻撃がさやかへ届くことはなかった

杏子「余所見してんじゃねぇよ!その蔓、もらった!」

蔓がさやかへと到達するその前に

杏子が右腕の蔓を切り裂いた

ワルプルギス「アアアッ!」

ほむら「効いてる…のかしら?」

マミ「みたいね。両腕の蔓を斬ったら、少し苦しそうにしてるわ」

ほむら「ならいいのだけど…それより、次は私たちの番……」

私たちが攻撃を行おうとした、そのとき

ワルプルギスの夜の腕が再び変質していった

ほむら「また何か違うものに変わるみたいね…さやかと杏子を退避させて」

マミ(美樹さん、佐倉さん、一旦下がって!)

杏子(わかってる!今そっちに戻ってる!)

連絡をしたすぐあと、2人が戻って来た。ワルプルギスの夜がどう変化するのか、様子を伺っていると

インキュベーターが、再び口を開いた

QB「お菓子の魔女。性質は執着。暴食の口は全てを食らい尽くす」

ワルプルギスの夜の両腕から、巨大な蛇のようなものに大きな口がついた何かが現れる

どうやらあれは、病院に現れたお菓子の魔女の能力なのだろう

マミ「あいつ…確か病院に現れた……!」

さやか「あいつがあのときの……」

薔薇園の魔女、お菓子の魔女と立て続けに私のよく知る魔女の力を行使するワルプルギスの夜

召喚に使用されたという因果を持ったグリーフシード。初めのうちはまるでその意味が理解できなかった

だが、おぼろげながらその正体が見えてきたような気がする

因果を持ったグリーフシード。それは恐らく、私が繰り返してきたこの1ヶ月の間、この見滝原に現れた魔女のグリーフシードのことだろう

もしかしたら、他の地で回収した物もあるのではないかとも考えた

だが、ワルプルギスの夜がこの地に現れることを考えると私の推測は正しいはずだ

答えを知っているはずの張本人…インキュベーターにその推測をぶつけてみた

ほむら「インキュベーター。因果を持ったグリーフシードと言うのは、全てこの地に現れた魔女の物。そうでしょう?」

QB「よく気が付いたね。その通りだよ」

ほむら「そう……。なら、その数は5…いえ、さやかのは含めないから4体。それを全て潰せば、本当のワルプルギスの夜と戦えるってことね」

QB「あのワルプルギスの夜が偽物というわけでもないんだけど…そういうことになるね」

ほむら「……念の為に聞くわ。今の話に間違いや嘘は無いでしょうね?」

QB「僕は嘘を言わないよ。訊かれないから答えないだけさ」

ほむら「そう…ならもういいわ。黙ってなさい」

今の話が本当なのだとしたら、これからの変質にも対応できる

今発現しているのはお菓子の魔女の力。この地で出現した残る魔女は…箱の魔女、影の魔女…さやかの人魚の魔女、オクタヴィアは数には入らないだろう

あと3体の特性を潰せば…本当のワルプルギスの夜と戦える。私はインキュベーターから聞いた話を全員に伝達する

ほむら「みんな、よく聞いて。ワルプルギスの夜は、今のお菓子の魔女を含めてあと3体分の特性しか持っていない」

ほむら「それを全部潰してやれば、本当のワルプルギスの夜になるはずよ」

さやか「何だかよくわかんないけど…要はあの腕から出てくるものを片っ端から潰していけばいいってこと?」

ほむら「全てが腕から出てくるとは限らないわ。最大限の注意を」

杏子「わかってる!援護は任せたぞ、2人とも!」

マミ「えぇ、任せて!」

杏子「よし、そんじゃ行くぞ!」

さやか「うん!」

さやかと杏子は再びワルプルギスの夜へと向かって走って行った

薔薇園の魔女はともかく、ここからは一層注意を払う必要がある

コイツの場合は、頭を持っていかれないように……

ほむら「……またあんなことが起こらないといいけど」

マミ「あんなことって…あ、あぁ…あのことね……」

ほむら「もしものときは私が行くわ。あなたは突っ込まないで」

マミ「も、もうそんなことしないわよ……」

ほむら「ならいいけど。……一応、火力支援の用意だけはしておきましょう」

ワルプルギス「アハハッ!」

さやか「うおっと!」

杏子「気ぃつけろ!食らいつかれたら持ってかれるぞ!」

さやか「わかってる!……それにしても、厄介だね」

杏子「右か左、どっちかを先に仕留めた方がよさそうだな。両方まとめて相手するとヤバそうだ」

さやか「それじゃ…先に左腕の恵方巻きを何とかしよう」

杏子「左腕だな、わかった。まずアタシが行くから、さやかはその隙に真っ二つにしてやれ」

さやか「了解。……杏子、気をつけて」

杏子「わかってる。……先に行くぞ!」

ワルプルギス「アハッ」

杏子「テメェの相手はアタシだ!食らいつけるモンなら食らいついてみやがれってんだ!」

ワルプルギス「アハハハハ!」

杏子「遅いよ、ノロマ!そんな攻撃、食らうワケ無いだろ!」

杏子「これはお返しだよ……!多節槍、展開!」

ワルプルギス「ア……!」

杏子「捕まえた……!さやか!今だ!!」

さやか「わかってる!行くよ……!」

ワルプルギス「ア、ハ……!」

さやか「これで…どうだっ!!」

ワルプルギス「……!」

さやか「よし、まず1本……」

杏子「ひとまず少し下がるぞ!次のはそれからだ!」

さやか「わかった!」

ワルプルギス「……」

さやか「……あれ?もう1本の恵方巻き、引っ込めちゃったよ?」

杏子「……この辺なら大丈夫か。何をするにしたって、ここなら……」

ワルプルギス「アハハハハッ!!」

杏子「……ッ!さやか、逃げ……」

さやか「うわ……」

ズドォォォォォン

さやか「うおっ!?爆発!?」

ほむら「2人とも、大丈夫かしら」

さやか「ほむら…ごめん、助かった!」

私の危惧していた通り、2人が食らいつかれそうになってしまう

それを視認した私は時間を止め、急いで2人の下へと向かった

2人の目の前にまで迫った大口の中へ爆弾をいくつか放り込む

そして、爆風の被害が無いところへ退避してから時間停止を解除した

杏子「話には聞いてたが…すげぇもんだな、時間停止って奴は」

ほむら「……私にはこれしかないだけよ。それよりも、今は無駄話をしている場合じゃないわ」

さやか「うん…あ、まだ倒しきれてないよ!」

ほむら「まだ食らい足りなかったのかしら。それならこれで……」

ほむら「止めよ!」

腹の中で爆弾が炸裂したお菓子の魔女…のようなワルプルギスの夜の一部

私の爆弾によってダメージを負ったその部分へ止めの1発とばかりにロケット砲を撃ちこむ

ロケット砲の直撃を受け、お菓子の魔女…のような部分は完全に吹き飛んだ

ワルプルギス「アア…ア……!」

ほむら「これで2つ目…あと2体分ね」

マミ「美樹さん、佐倉さん!大丈夫!?」

さやか「大丈夫です。すいません、心配かけて」

杏子「……で、何でテメェまでいやがる」

QB「言ったじゃないか、戦いを見届けるって。ほら、それよりも次の魔女が出てくるよ」

インキュベーターの言葉を聞き、ワルプルギスの夜へ視線を戻す

次に出てくるのは箱の魔女か、影の魔女か。順番から言うと恐らく箱の魔女だろう

しかし、特にどこかが変質しているらしい部分は見当たらなかった

ほむら「変ね…どこも変わってないと思うのだけど……」

マミ「そうね…腕も特に変わった様子はないし……」

QB「箱の魔女。性質は憧憬。思い起こせ、己の過ちを」

ほむら「……ッ!」

杏子「クソ…何だ、コレ……!」

マミ「これが…箱の魔女の能力よ……!またこんな…精神攻撃を……!」

ワルプルギスの夜に何の変化も見られないと思った矢先、箱の魔女の能力、精神攻撃を受けてしまう

私の脳裏にありとあらゆる見たくない、思い出したくない映像が浮かび上がる

考えまいとすればする程、そのことを考えてしまう

思い出したくない映像を容赦なく叩きつけられた今、戦闘を続行することができなかった

やがて立っていることができなくなった私は、その場に蹲り頭を抱えた

さやか「う…あ……!」

QB「君たちが何を見せられているかはわからない。でも、その調子じゃ戦えないだろう?」

QB「もう全て諦めてしまったらどうだい?」

さやか「こんな…もので、諦めるわけ…ない!」

QB「……!」

さやか「誰にだって、思い出したくないことも、考えたくないことだってある!それでも……!」

さやか「あたしは自分に誓ったんだ。もう迷わないって。自分への誓いは、信念だ……!」

QB「……ならば君はその信念とやらで戦っているというのかい?」

さやか「そうだ。信念が…覚悟があるから、戦える。感情のないあんたには…一生わからないだろうけど」

QB「別にわかろうとも思っていないよ、そんなわけのわからないものは」

さやか「……それに、思い出したくないことだって、あたしの一部だ」

さやか「いいとこも悪いとこもひっくるめて…美樹さやかという、あたしなんだ!」

QB「……」

杏子「……アタシだって、自分と向き合ったんだ。家族のことは…目を逸らして、考えないようにしてた……」

杏子「だけど、今はもう違う。逃げたって何も変わらない。自分のせいであの悲劇が生まれたのだとしても」

杏子「……アタシはそれを受け入れる。受け入れて…アタシは変わる……!」

さやか「杏子…大丈夫なの?」

杏子「……あぁ。いつまでも逃げ続けるワケにもいかねぇしな。それに……」

杏子「お前が頑張ってるのに、アタシがダウンしてるワケにもいかねぇからな」

QB「……まさか精神攻撃を打ち破るとはね」

さやか「あたしたちは自分を認め、全部受け入れたんだ。もうそんなもの、効くもんか」

QB「だけど…あの2人は苦しんでいるみたいだよ?」

ほむら「ぐ…う……!」

マミ「私…そんなつもりじゃ……」

さやか「そんな…何で……?」

QB「簡単な話さ。2人は君たちのように自分を認め、受け入れることができていないんだ」

杏子「んなワケあるか!アタシらにできて、何で2人にできねぇんだ!」

QB「そんなこと僕に訊かれたってわかるはずないじゃないか。それだけ2人には認めがたい何かがあるんだろう」

さやか「とにかく何とかしないと…杏子はマミさんをお願い。あたしはほむらを……」

ほむら「……私は、大丈夫だから…2人はマミを……!」

さやか「で、でも…とても大丈夫には見えない……」

ほむら「いいから……!自分のことくらい…自分で何とかする……!」

さやか「……わかった。絶対、負けないでよ」

さやかは私にそう言うと、マミのところへと向かって行った

だが、自分で何とかするとは言ったが何をどうすればいいのか、まるでわからない

それに、まどかの最期の映像が頭の中に流れ続けているせいか碌に頭が働いてくれない

魔法で遮断することもできず、最初の時間のまどかから、ひとつ前の時間のまどかの死を延々と見せつけられる

私は、まどかを救う為に戦ってきた。だが、実際はどうだ。一体、何人のまどかを犠牲にしてきた?

私のしていることは、ただまどかを苦しめ、死なせているだけではないのか

認めるどころか、否定的なことばかりが浮かんでくる。私ではまどかを守れないのか。そう、思ったとき

誰かに呼ばれたような気がした。何の声も聞こえないが、確かに私を呼んでいる

その呼びかけに気づいたとき、私の視界にテレビの砂嵐のようなノイズが走る

ノイズは徐々に大きくなっていき、そして

私の意識は、どこかへと落ちていった

今回はここまで
読んで下さってる方、ありがとうございます

次回投下は9日夜を予定しています

ペルソナ3冒頭のオルフェウスからタナトス出現のシーンは今もお気に入りのシーン

次から本文

――――――

ほむら「……ここは…時間遡行の……?」

ほむら「どうなってるの……?私は確かワルプルギスの夜と戦って…まだ時間遡行をした覚えは……」

『待っていたわ』

ほむら「……!お前は…魔女?」

魔女「えぇ。でも私は、あなたの知る魔女とは少し違う魔女」

ほむら「そう…つまり、お前は……」

魔女「えぇ。私は、あなたの中の自分。もうひとりの暁美ほむら」

目の前の魔女が、私にそう告げる。自分がもうひとりの暁美ほむらである、と

黒い三角帽子のようなものを被り、黒いマントを羽織っていた

これが、もうひとりの私……

ほむら「……それで、私を呼んだのはあなたかしら?」

魔女「えぇ。あなたに言いたいことがあってね」

ほむら「言いたい……?」

魔女「あなた、さっき…自分ではまどかを守れないのか。そう、考えたわね?」

ほむら「それは……」

魔女「嘘を言ったって無駄よ」

ほむら「……そうよ」

魔女「あの程度の精神攻撃で惑わされてるんじゃないわよ。まどかとの約束を守るのでしょう?」

ほむら「……」

魔女「確かに、今まで数多くの時間で失敗し、その度まどかを辛い目に遭わせてしまったことは事実。だけど……」

魔女「あなたは覚悟したはずでしょう?何度繰り返すことになっても、まどかを救ってみせると」

魔女「何より、あなたは私との契約を反故にしようとした。それが気に食わないの」

ほむら「契約……?」

夢の中でも聞かされた、自分との契約。だが、私には何のことかさっぱりわからない

自分との契約のことについて、聞いてみることにした

ほむら「悪いけど…私、その契約というものに心当たりがないのだけど」

魔女「あなたは、確かに私と契約を交わしたわ。前回から今回への時間遡行の途中で」

ほむら「……時間と時間の狭間でのことだったせいかしら、全く記憶にないわ」

魔女「……それは予想外だったわ、ごめんなさい。でも、契約をしたことは事実。ちゃんと契約書に署名をしてもらってるわ」

そう言ってもうひとりの私は懐のような部分から何かの紙を取り出し、私に差し出した

見たこともない文字で読むことのできない契約書に、私の筆跡で暁美ほむらと名前が書かれていた

ほむら「……確かに私の字ね」

魔女「言ったでしょう?契約は事実だと」

ほむら「……それなら、私はあなたと一体何の契約をしたのかしら?」

魔女「……まどかを救い、まどかを守る。その、覚悟の契約」

魔女「それが、私とあなたが交わした契約よ」

ほむら「まどかを…守る……?」

魔女「そう。まどかを守れるのなら、その命を賭けられる。自分はどうなろうとも構わない」

魔女「何が何でもまどかを守り抜く。それが自分の存在理由」

魔女「あなたは、私にこう言ったわ」

ほむら「私…本当にそんなことを……?」

魔女「えぇ、言っていたわ。間違いなくね」

ほむら「……わからなくなってしまったの。私のしていることが正しいのか」

ほむら「もう…自信がない。私にまどかが守れるのか……」

魔女「あなたがやらなければ、まどかは確実に魔法少女となる。そして、凄惨な最期を迎えることになるわ」

魔女「それに、今回までの数多くの失敗は今回の成功に繋がるはず」

ほむら「それでも…私がまどかを殺してきたことに変わりはない。直接的にも、間接的にも……」

魔女「……そうやって自分を責めるのはやめなさい。まどかはそんなこと、望んでないはずよ」

ほむら「……何故、そう思うの?」

魔女「簡単なこと。まどかがあなたのことを好きだからよ」

魔女「まどかが望んでいるのは、あなたが自分で自分を責めることじゃない。隣で笑っていてくれることじゃないかしら」

ほむら「隣で…笑って……?」

魔女「そう。あなたが隣で笑っていてくれる。まどかにとって、それが1番の幸せだと思うわ」

魔女「……それに、まどかに告白されたのでしょう?」

ほむら「……」

魔女「まどかには…あなたが必要よ。そして、あなたもまどかを必要としている」

魔女「美樹さやかも言っていたでしょう?あなたたちの想いは通じ合っている、と」

ほむら「想いだけで…何ができるというの……。私じゃ、まどかを幸せには……」

魔女「……そう。あなたがそう言うのなら、きっとまどかは一生幸せにはなれないわね」

ほむら「何を……」

魔女「言ったはずよ。隣であなたが笑っていてくれる。まどかにとってそれが1番の幸せだって」

ほむら「あ……」

魔女「まどかは…誰よりもあなたが好きで、誰よりもあなたを必要としてくれている」

魔女「そう想われてるあなたが幸せにできないのに、誰がまどかを幸せにしてあげられるというの?」

ほむら「私は……」

まさか自分にこうも励まされるとは思いもしなかった

でも、こうして自分と話をして…自分の気持ち、自分の想いを再確認することができた

私の心の奥底に押し込んでいたまどかへの想い。ここに来て、私はようやく自分の本当の気持ちと向き合えた

魔女「夢であなたに聞いた、まどかとどうなりたいのか。ここで、答えを聞かせてもらうわ」

まどかとどうなりたいか。答えなんて、もう決まっている

私は少し考え、言いたいことを纏めてから自分の答えを伝えた

ほむら「……私、自分で勝手に諦めていた。まどかの隣に私は相応しくない、と」

ほむら「まどかの隣で手を繋ぐには…私の手は血に塗れているから、と」

ほむら「私ではまどかを幸せにしてあげられない…と」

ほむら「それに…私もまどかも女同士。だから、叶うわけないと思ってた。でも……」

ほむら「それでもまどかは…私を好きだと言ってくれた。私が言えなかったことを、まどかは言ってくれた」

ほむら「本当は…ずっと胸の内に秘めておくつもりだった。でも、今なら言える。私は……」






ほむら「まどかのことが好き。大好きよ」



魔女「……それが、あなたの本心?」

ほむら「えぇ。私はまどかが好き。……ううん、愛してる」

魔女「……それは取り繕った表面だけの言葉じゃないわね?」

ほむら「この気持ちが嘘か本当か…あなたならわかるはずでしょう?」

魔女「……ふふ、それもそうね」

ほむら「……もう大丈夫よ。本当の自分と…あなたと向き合えた今……」

ほむら「私の心に…迷いは無いから」

魔女「そう…それなら、あなたとの契約のことも大丈夫ね」

ほむら「契約……」

まどかを守り、救う覚悟。その覚悟は当然あるが、契約をした記憶が私にはない

それならと、私はもうひとりの私にこう持ちかけた

ほむら「……私と、もう1度契約してほしい」

魔女「契約書はもう頂いてるから形だけになるけど…いいかしら」

ほむら「……構わないわ。これは、私の覚悟の再確認。そして……」

ほむら「自分との契約をこの身に刻む為よ」

魔女「そう…そういうことなら、あなたに再度問うわ」

魔女「まどかを守れるのなら…その命、賭けられる?」

ほむら「……命を賭してまどかを守る。勿論、死ぬつもりなんてないわ」

魔女「まどかを救えるのなら…自分はどうなろうと構わない?」

ほむら「……人であることを捨てたはずなのに、この時間は何故だかソウルジェムが本体なんてことはなくなってた」

ほむら「何にせよ、魔法少女である以上…今更どうなろうと構わないと思ってた。だけど……」

ほむら「まどかが私を必要としてくれている…私の帰りを待っていてくれているのだとしたら…こんなにも嬉しいことはないわ」

ほむら「だから…何が何でもワルプルギスの夜を倒して…そして、まどかの下へ生きて帰る」

ほむら「……これが、私の覚悟よ」

魔女「……あなたの覚悟、確かに受け取ったわ。それにしても…変わったのね、あなたの覚悟」

ほむら「えぇ。きっとまどかのおかげよ」

魔女「あなた…記憶が……?」

ほむら「断片的にだけど。以前は…まどかに対してそういう気持ちがなかったから、守れるのならそれだけでよかった」

ほむら「でも、今は違う。まどかを守って、私も生きて帰る。そして、直接まどかに伝えるわ」

ほむら「……まどかが好きだって」

魔女「そう……。もう、大丈夫みたいね」

ほむら「手間をかけたわね。……私は戻るわ。戻って、ワルプルギスの夜と…戦う」

魔女「……時は全ての物事に結末を運んでくる。例え目と耳を塞いでいてもね」

魔女「そして、その多くは確定された結末…運命となる。あなたが見てきた結末のように」

ほむら「そんな運命、私が変える。変えてみせる。私は…時を操る魔法少女、暁美ほむらなのだから」

魔女「あなたが戦うというのなら、私も力を貸すわ。私だってあなたなのだから…まどかを守りたい気持ちは一緒よ」

ほむら「……ありがとう」

魔女「言ったでしょう?私はあなた、あなたは私だって。……それよりも、早く戻りなさい」

ほむら「えぇ、わかってるわ」

魔女「それじゃ、向こうで。……あ、私の名前は」

ほむら「大丈夫、わかってるわ。……じゃあ、向こうで」

私はそう言うと静かに目を閉じる。そして、次に目を開いたときには

私の意識は再び現実へと戻って来ていた

――――――

ワルプルギス「アハッ、アハハハッ!」

マミ「違う…違う、違う……!私、そんなつもり……!」

さやか「マミさん!マミさんってば!」

杏子「クソ…このままだとヤバいぞ!」

さやか「わかってるよ!マミさんは精神攻撃受けてるし、ほむらは意識がないみたいだし……」

QB「君たち2人じゃどうしようもないだろう?もう諦めたらどうだい?」

杏子「うるせぇ、引っ込んでろ!……マミ!ほむら!いい加減…目ぇ覚ましやがれ!」

現実に戻ってきた私が最初に聞いたのは、杏子の怒鳴り声だった。あれからどれだけの時間が経ったのだろうか

私はその場に立ち上がり、2人に声をかけた

ほむら「さやか、杏子……」

さやか「ほむら!大丈夫なの!?」

ほむら「えぇ…迷惑をかけたわね」

杏子「よし…あとはマミを叩き起こすだけ……」

ほむら「その必要はないわ」

さやか「ほむら……?それ、どういう……」

ほむら「……私1人で戦う。あなたたちはマミをお願い」

杏子「はぁ!?」

ほむら「戦える私たちが全員ここに残っても仕方ないわ。なら、私1人だけでもワルプルギスの夜に攻撃を加えるべきよ」

杏子「だがよ……!」

ほむら「……議論している時間はないわ。マミを頼んだわよ!」

私は伝えるべきことを伝えると、ワルプルギスの夜へ向かって走り出した

結界が無い以上、召喚はできない。だけど…力を貸してくれるはず

自分の心にそう問いかけてから、盾からロケット砲を引っ張り出し、ワルプルギスの夜へ向けて引き金を引いた

マミ「わ、わた、し……」

さやか「マミさん…やっぱり、ワルプルギスの夜…というより、箱の魔女の特性を倒さないとダメなのかな」

杏子「……」

さやか「ほむらみたいに、自分の中で結論を出せればいいのかもしれないけど……」

QB「まさかほむらが復帰するとは思わなかったよ。本来の魔女ならともかく、能力がケタ違いのワルプルギスの夜の精神攻撃のはずなのに」

QB「だけど、マミは駄目だろう。彼女は元々精神面は強くないからね」

さやか「そんなわけあるか!杏子も何か言って……」

杏子「……」

さやか「……杏子?」

杏子「……マミ、顔上げろ」

マミ「……」

杏子「……上げろっつってんだろ!」

さやか「ちょっ!?杏子!?」

杏子「よく見やがれ!精神攻撃食らって、意識まで飛んでたほむらが…立ち上がって、1人で戦ってるんだ!」

杏子「意識飛ぶほどキツいモン見せられて、それでもなおアイツを倒そうとしてるんだ!」

マミ「あ……」

杏子「アタシもさやかも…ほむらだって、自分を受け入れて、乗り越えたんだ!お前にできねぇワケねぇだろ!?」

杏子「お前は……!魔法少女、巴マミだろ!?アタシとさやかが憧れた…正義の魔法少女だろうが!!」

マミ「あけ…み、さん…みき…さん…さくら、さん……」

マミ「わた、し…私…私は……」

マミ「私は…魔法少女……!魔法少女、巴マミよ!!」

QB「……!」

さやか「マミさん!よかった……!」

杏子「……手間かけさせやがって」

マミ「2人とも、ごめんなさい。私が弱いばかりに……」

マミ「私…精神攻撃で両親に責められていたわ。どうして自分たちを助けてくれなかったのか、って」

マミ「実際…あのとき自分だけでなく、両親も助けていればって…心のどこかでそう考えていた」

マミ「だからこそ…あんなものを見せられてしまったのでしょうね」

さやか「マミさん……」

マミ「私が両親を助けられなかったのは事実。だからこそ私はそれを認め、受け入れないとなのに…それができなかった」

マミ「でも…美樹さんと佐倉さんの声を聞いて、暁美さんの戦う姿を見て…勇気が出てきた」

マミ「みんなは自分を受け入れられているのだから…私だけいつまでもそれを引きずっていられないって」

マミ「でも…本当は少しだけ、思っちゃったの。生きることを諦めて、両親の元へ行こうかな…って」

マミ「おかしいわよね…魔法少女となって、生きることを選んだのは私のはずなのに」

杏子「オイ……」

マミ「心配しなくてももう大丈夫。それに、私…決めたの」

マミ「例え何があっても…生きて、生きて、生き抜いてみせるって。それがきっと、両親が望んでることだと思うから」

さやか「マミさん……!」

QB「……全く、想定外だよ。心の弱いマミはもう立ち上がれないと思っていたんだけど」

マミ「……いつまでも弱いままの私じゃいられないのよ。目を逸らしていたことを見せつけてくれたことは、ある意味感謝してるわ」

QB「……」

杏子「それよりもお前ら、駄弁ってる暇ねぇぞ!ほむらの援護に……!」

マミ「美樹さん、暁美さんの現在位置は?」

さやか「え?えっと…あ、いました!あのビルの屋上です!」

マミ「あそこね…なら大丈夫。影響はないわね」

さやか「ま、マミさん?一体何を……」

マミ「結果としてよかったのかもしれないけど…よくもあんなもの、見せてくれたわね……!」

杏子「大砲!?ちょっと待て、アレって魔女がいなけりゃ撃てなかったはずじゃ……」

マミ「言ったはずよ?いつまでも弱いままの私じゃいられないって。心も、戦う力も。今の私なら、魔女がいなくとも……!」

さやか「きょ、杏子!一応ほむらにそこ動くなって伝えた方がいいんじゃない!?」

杏子「あ、あぁ!アタシが伝える!」

マミ「これはろくでもないもの見せてくれたお礼……!食らいなさい!」

マミ「ティロ・フィナーレ!!」

ワルプルギス「アハッ!アハハッ!」

ほむら「チッ……!」

何本目かのロケット砲を撃ちきり、次のロケット砲を引っ張り出そうと盾の中へ手を伸ばす

薔薇園、お菓子の魔女と違い明確な弱点がわからず、本体へ向けて攻撃を続けるが一向に特性が切り替わる様子はない

それに、ワルプルギスの夜の近くにいるせいか精神攻撃の影響を強く受けている気がする。心が何かに蝕まれている感じがした

早くコイツを倒さなければ。そう思っていたとき、杏子からのテレパシーが聞こえてきた

杏子(ほむら!そこを動くな!いいな!?)

ほむら(杏子……?動くなってどういうこと?)

杏子(いいから!動くんじゃねぇぞ!)

テレパシーの内容は一言、動くなということだった

何が何だかわからないが、攻撃を止めるわけにもいかない。盾から引っ張り出したロケット砲を発射しようとした、その瞬間

マミが放ったと思しき砲撃が、ワルプルギスの夜に直撃した

ほむら「今のはマミの……!どうなって……?」

ワルプルギス「ウア……!アアッ……!」

ほむら「……!」

マミ(暁美さん!一旦戻ってきて!)

ほむら(マミ?大丈夫なの?)

マミ(えぇ、心配かけてごめんなさい。もう大丈夫よ)

ほむら(そう…とりあえず、1度そっちへ戻るわ)

ダウンしているはずのマミからテレパシーが届き、少し驚いたが大丈夫そうだ

私はマミのテレパシーに従い、1度みんなのところへと戻った

ほむら「ふぅ……」

マミ「暁美さん、大丈夫?」

ほむら「えぇ。それよりもさっきのアレはやっぱりあなたの……」

マミ「私のティロ・フィナーレよ。今の私なら、魔女がいなくてもこのくらい……」

マミ「それよりも…ごめんなさい。あなただって辛いものを見せられたはずなのに、1人で戦わせてしまって」

ほむら「……気にしないで。それにあなたの心が弱いのも、知っていたから」

マミ「他の時間の私もそうだったの…迷惑かけっぱなしね、私。……でも、もう今までの私とは違うわ」

ほむら「そう…頼りにしてるわ」

マミ「えぇ、任せて」

さやか「……!みんな、見て!また形が変わってくよ!」

QB「影の魔女。性質は独善。全ての生命に平等な死を」

インキュベーターがそう言うと同時に、ワルプルギスの夜の腕部が変質する

枝のようなものが生い茂り、その根元には引きずり込もうとする影らしき黒い靄のようなものが見える

枝で絡め取り、影に引きずり込む魂胆なのだろう

杏子「あの枝を全部切り落としてやればいいんだな?」

ほむら「根本にある影に引きずり込まれたら終わりよ。気をつけて」

さやか「わかった!」

マミ「私たちは?」

ほむら「効果があるのかはわからないけど、ワルプルギスの夜本体に攻撃を」

マミ「わかったわ。生まれ変わった私の力、見せてあげる!」

ワルプルギス「アハハハッ!」

杏子「アタシは右腕に行く!さやかは左腕を頼む!」

さやか「了解!それじゃ、また後で!」

杏子「死ぬんじゃねぇぞ!」

ワルプルギス「アハハッ!」

杏子「……何も強くなったのはマミやさやかだけじゃねぇ……。一瞬で刈りつくしてやる……!」

杏子「行くぞ……!ロッソ・ファンタズマ!!」

さやか「でぇい!」

ワルプルギス「アハ……!」

さやか「細かいのはどうでもいい…大元をぶった斬ってやれば……!」

さやか「枝の大元は…あそこか……!」

ワルプルギス「……!」

さやか「そんな枝程度に、あたしが捕まるもんか!」

さやか「……あの黒いのに引きずり込まれるとヤバいって話だったから、この辺で……」

さやか「これで…どうだああぁぁっ!!」

杏子「おらっ!」

杏子「このっ!」

杏子「でりゃっ!」

杏子「はっ!」

杏子「……何だ、本当に一瞬で刈りつくしちまったな。さて…残るは大元……」

杏子「……コイツの次が、本当のワルプルギスの夜…だったか。それなら……」

杏子「さっさとその正体…見せやがれってんだ!!」

マミ「……!暁美さん、見て!」

ほむら「大丈夫、見えてるわ。……無事にやってくれたみたいね」

ワルプルギスの夜の変質した腕から生えた影の魔女の枝が左右ほぼ同時に切り落とされる

それと同時に、ワルプルギスの夜の苦しそうな笑い声が聞こえた

これで前哨戦…前座は終わりのはずだ。……ここからが本当の戦い。そう思っていると

辺りの空気が一変する。今まで以上に重苦しい空気が漂い始めた

マミ「……何、この嫌な感じ……」

杏子「マミ!ほむら!」

さやか「何だか嫌な感じがしたから戻ってきたんだけど…何がどうなってるの……?」

ほむら「……出てくるわよ。本当のワルプルギスの夜が」

QB「舞台装置の魔女。性質は無力。この世の全ては彼女の戯曲……」

ワルプルギス「アハ…アハハッ……!」

ワルプルギス「アハハハハハハッ!」

杏子「野郎…本性現しやがったな」

さやか「あれが…本当のワルプルギスの夜……!」

マミ「見た目は変わっていないはずなのに…威圧感がとんでもないわ……」

ほむら「わかってるわね?ここがスタートラインよ。……まず、私から行かせてもらうわ!」

私は周囲に多数のロケット砲を展開させ、そこで時間を止める

停止した時間の中で私は、ロケット砲を片っ端からワルプルギスの夜目がけて発射した

そして、最後のロケット砲を撃ったあと、時間停止を解除する

止まっていた弾頭が一斉にワルプルギスの夜へ向かって飛んで行き、着弾、爆発した

ほむら「……次!」

ワルプルギスの夜が現れる前に用意しておいた迫撃砲を作動、発射させる

出現位置からほとんど動かなかったことが幸いし、全ての砲弾はワルプルギスの夜に直撃した

それを確認してからタンクローリーを魔法操作し、橋の欄干からワルプルギスの夜へとぶち当てる

その途中でタンクローリーから飛び降り、川の中に隠しておいた巡航ミサイルを発射。ワルプルギスの夜ごと、最終地点へと飛んで行った

最後の仕上げにと、無数に設置した爆弾を起動。次の瞬間、耳を劈く轟音とともに地面が揺れ、巨大な火柱が噴き上がった

ほむら「……」

マミ「あ、あの…暁美さん……?」

杏子「……これさ、木端微塵に吹っ飛んでるんじゃねぇのか?」

さやか「銃やら何やらはまだいいんだけど、さすがのさやかちゃんもこれにはドン引きですよ……」

ほむら「……ごちゃごちゃ言ってる暇ないわ。この程度でくたばるような奴じゃないわよ」

爆炎の向こうから、ワルプルギスの夜が姿を現す

その身体には、私の砲撃、爆撃によるダメージは殆ど見受けられなかった

さやか「ウソでしょ…あんだけドッカンドッカンやってたのに」

マミ「魔力を介していない攻撃だからかしら…とにかく、まだ生きているのなら私たちが……!」

杏子「魔力を介した攻撃を叩き込んでやればいいってワケか……!」

マミ「そういうことよ。……さぁ、行きましょう!」

ほむら「ワルプルギスの夜…今度こそ、倒してみせる……!」

今回はここまで
読んで下さってる方、ありがとうございます

次回投下は10日夜を予定しています

わっほい。今日も遅くなっちゃった
完結に向けてもう少し早めに投下したいなぁ…

次から本文

――――――

まどか「……」

ズドォォォン

まどか「わっ…何?爆発音……?」

まどか「……きっとほむらちゃんたち…だよね」

まどか(あれから時々誰かの声が聞こえるけど…これってやっぱり魔女なのかな……)

まどか(でも、わたしは魔法少女じゃないから召喚できるわけないし……)

まどか(わたし、ほむらちゃんを守るって決めたのに…わたしには何をすることもできない……)

まどか(ただこうして、ほむらちゃんが無事帰って来るように…祈ることしか……)

まどか(……悔しいなぁ。わたし、ほむらちゃんに守られてばっかりで…ほむらちゃんに何もしてあげられないなんて)

まどか(ほむらちゃんは…わたしに戦ってほしくない。でも、もしほむらちゃんたちが負けちゃうと…次の時間に行ってしまう)

まどか(わたし…そんなの嫌だよ……。わたしの、告白の返事…まだ聞いてないんだから……)

まどか(それに…これ以上、ほむらちゃんに苦しんでほしくない。魔法少女だから、戦わないわけにはいかないのかもしれないけど……)

まどか(でも、この地獄みたいな…終わらない1ヶ月から、一緒に未来へ進んで行きたい)

まどか(ほむらちゃんをこの1ヶ月に閉じ込めちゃったのは…私。だから、せめてわたしがほむらちゃんをここから連れ出したい)

まどか(だけど…何をどうしたらいいのか、何も……)

『大丈夫。心配しないで』

まどか「……!」

『あなたには力がある。全てを救済する、その力が』

まどか「誰なの……?あなた、一体誰なの?」

『わたしはあなた。あなたはわたし。こう言えばわかるよね?』

まどか「それじゃ、やっぱりわたしの……?」

『あなたの中にある、膨大な魔力を使ってこうして話しているの。だけど、そう長くは持たないと思う』

『だから、大事なことだけを聞くね。……あなた、ほむらちゃんを助けたい?』

まどか「も、もちろんだよ!」

『ほむらちゃんを守れるのなら…その命、賭けられる?』

まどか「え……」

『命を賭けてほむらちゃんを守る。……その覚悟があなたにはある?』

まどか「わ、わたし、そんなつもりは…ただ、ほむらちゃんと一緒に……」

『それはあなたの希望でしかないよ。わたしは覚悟を聞いてるの』

『魔法少女でもないあなたがほむらちゃんを守る。それを成すには、相応の覚悟が必要になる』

まどか「わたし…は……」

『……もう少しだけ時間はあるから、よく考えてみて』

まどか「……」

――――――

ほむら「く……!」

さやか「こ…のっ!」

杏子「クソ…数が違いすぎる……!」

ワルプルギス「アハハハハッ!」

視線の先で、ワルプルギスの夜が今の私たちを見て笑う

私の爆撃のあと、ワルプルギスの夜は使い魔を召喚した。自身のものに限らず、発現した魔女の使い魔の姿もある

ワルプルギスの夜が召喚した大量の使い魔への対処のせいで、武器の残りも心許なくなってきてしまった

なるべく強力な火器は残そうと今は両手に持った拳銃で凌いでいるものの、このままでは使い魔の圧倒的な数に押しきられてしまう

もう悠長なことを言ってはいられない。右手に握っていた拳銃を放り、盾の中の機関銃に手をかけたときだった

マミ「こうなったら…私が直接ワルプルギスの夜を狙うわ……!」

ほむら「あなたが……?」

マミ「使い魔が多すぎてワルプルギスの夜のところまで辿り着けないのなら…ここから直接攻撃するしかないでしょう?」

ほむら「……わかった、任せるわ」

マミ「えぇ。使い魔の方は…お願いね!」

使い魔「……!」

ほむら「させない……!」

杏子「テメェらの相手はこっちだ!」

さやか「マミさんの邪魔、するなっ!」

ワルプルギスの夜へ攻撃しようとしてることを察知したのか、使い魔たちが一斉にマミへ攻撃を仕掛ける

私とさやか、杏子はマミへ向かっていく使い魔を片っ端から叩き落としていく

攻撃準備の整ったマミは、ワルプルギスの夜へと砲口を向けた

マミ「行くわよ……!ティロ・フィナーレ!!」

マミが放った砲撃は、使い魔たちを薙ぎ払いながらワルプルギスの夜へ向かって一直線に飛んで行く

だが、ワルプルギスの夜に直撃はしたもののダメージを与えられたようには見えなかった

ワルプルギス「アハハッ」

マミ「冗談…でしょ……?ティロ・フィナーレが当たったのに……」

杏子「マミ!呆けてる場合じゃねぇぞ!」

必殺の一撃でも目に見えたダメージを与えられなかったせいか、ほんの少しの間マミは呆然と立ち尽くしてしまう

だが、それを見逃す程甘い敵ではない。無防備になっているマミへと、破壊された建物の残骸を放った

さやか「マミさん!危ない!!」

マミ「あ……」

ほむら「……ッ!」

盾の砂時計は既に砂が落ちきっていた。もう、時間停止は使えない

それに、考えている時間もない。私たちの身体より遥かに巨大な残骸が飛んで来ている

咄嗟に私はマミの前に出ると、盾を構え防御魔法を展開する

しかし、私の防御魔法では防ぎきれるはずもない。防御魔法を貫き、残骸が私に激突した

ほむら「う…ぐ……!……ゲホッ」

さやか「ほむら!!」

杏子「おい、しっかりしろ!!」

ほむら「……だい…じょうぶ、よ…この、くらい……!」

マミ「あ…ああ…私…暁美さんを…私のせいで……」

防御魔法のおかげでだいぶ激突時の衝撃を減らすことはできたが、それでも深刻なダメージを負ってしまった

あちこちの骨が折れ、特に左腕の損傷が酷い。内臓のどこかを痛めたのか、口からはとめどなく血が溢れ出す

私はすぐに全身の痛覚を遮断し、身体を動かせる程度までの修復を始めた

ほむら「私のことはいいから…ワルプルギスの夜を倒すことだけ、考えなさい……!」

マミ「……もう、無理よ。私のティロ・フィナーレでも…全然効果がないのよ……?」

杏子「誰も1発で倒せるなんて言ってねぇだろ!?1発でダメなら2発、3発…倒せるまで叩き込んでやれば……」

さやか「杏子!また使い魔が来てるよ!」

杏子「クソ…こんなときに……!」

ほむら「あなたは…もう諦めるというの?何もかもを……」

マミ「諦めたいわけ…ないでしょう……!だけど……!」

マミ「私たちだけじゃ…勝ち目がない……!」

ほむら「自分を見失ったら…それこそ、インキュベーターの思う壺よ……!」

ほむら「相手がどれだけ強大でも…強大だからこそ、心を強く持ちなさい……!」

ほむら「戦闘中に…安定性を欠いたり、暴走なんてしてみなさい…そこで、全て終わってしまう……!」

マミ「でも……!」

ほむら「なら…あなたはそこで見ていなさい……!私は、絶対に…諦めない……!」

ほむら「例え、ありったけの血を流そうが、心臓が破れようが…まどかを守る。守ってみせる……!」

そうは言ってみたものの、こちらの状況は圧倒的に不利だ。確かに、私たちだけでは勝ち目はないのかもしれない

そんなとき、どこからか声が聞こえてきた

『私はあなた、あなたは私……』

ほむら「……!」

ほむら「……えぇ、そうね。あなたと一緒なら…何が相手でも……!」

その声を聞いた瞬間、私は確信した。ここは結界内ではない、言うなれば現実の世界。召喚などできるはずはない

頭ではそう思っているはずなのに、私の心は正反対…ここで召喚できると信じていた

損傷の酷い左腕も動かせる程度には回復した。私はその場に立ち上がり、残骸との激突の際に手放してしまった拳銃を拾い上げる

そして、その銃口を自分の頭に押し当てる。この時間で過ごしたまどかとの思い出が浮かんでは消えていく

その最後に、まどかの優しい笑顔が見え、私に言ってくれた告白の言葉が聞こえた気がした

私は意を決すると薄く笑みを浮かべ、銃の引き金を引く

それと同時に、私の分身の名を紡いだ






ほむら「ホムリリー!!」



さやか「あれは……!」

杏子「ほむらの…魔女……?」

マミ「ここは…結界の外のはずでしょ……?」

ホムリリー「……」

私の背後に現れた魔女は、私が見たときと同じ姿をしていた

黒い三角帽子を被り、黒いマント羽織った私の魔女。これがもうひとりの私、ホムリリー……

マミ「暁美…さん……?どうして魔女を……」

ほむら「……話は後にして、まずは使い魔を片付ける。……ホムリリー、時間停止」

ホムリリー「……!」

砂が落ちきって時間停止が使えなくなった私に代わって、ホムリリーが時間停止を行使する

時間の止まった世界で私は盾から多数の機関銃を取り出し、魔法で辺りに展開させる。そして

ほむら「……撃て!」

私の号令と共に、全ての機関銃の引き金が引かれ一斉に火を噴いた

しばらく銃撃を続けたあと、もう十分と判断した私は銃撃を止め、機関銃を盾に収納し時間停止を解除する

解除した瞬間、周囲を埋め尽くしていた使い魔は1匹残らず消滅した

さやか「あれだけいた使い魔が…一瞬で……」

杏子「すげぇ……」

ほむら「……」

QB「そんな…有り得ない、現実世界で魔女の召喚を行使するなんて……」

ほむら「言ったはずよ?魔法少女は不条理を覆す存在。人間の、魔法少女の底力を思い知らせてやる、と」

QB「……」

ほむら「……さぁ、ここから反撃開始よ。あなたたちも魔女の召喚を」

マミ「え……?」

ほむら「魔女の召喚に必要なのは…覚悟。あなたたちにだって、心に決めた覚悟があるはずでしょう?」

さやか「そ、そりゃ……」

ほむら「なら、できるはずよ。何より、私にだってできたのよ?あなたたちにできない道理はないわ」

杏子「……わかった、やってみるよ」

さやか「杏子?」

杏子「ほむら1人に戦わせるワケにはいかねぇだろ?……それに、アタシたちだって魔法少女。だろ?」

さやか「……うん!」

マミ「先輩の私がこんなことで折れてちゃ駄目ね……。私も…頑張るわ」

杏子「……それじゃ、やるぞ」

杏子の言葉を合図に、3人は目を閉じ、集中する

3人なら必ずやってのける。そう信じ、見守る私にインキュベーターが話しかけてきた

QB「……君は別の時間からやって来た魔法少女だそうだね。それなら僕に君との契約の記憶がないことも理解できる」

ほむら「……それが何か?」

QB「……君はこの時間の存在ではない、イレギュラーだ。君にできたからって、彼女たちにできるとは限らないはずだよ?」

ほむら「私にできてみんなにできないはずはない。そう言ったはずだけど?」

QB「そんな簡単な言葉だけで片付けられるわけがないだろう?」

ほむら「片付けられようが何だろうが…私はそう信じてる」

QB「……やれやれ、わけがわからないよ」

ほむら「誰もお前に理解してもらおうなどと思ってないわ。……それに、どうやら私が正しかったようね。みんなの右手、見てみなさい」

QB「……!」

3人の翳した右手の上にソウルジェムが浮かび上がる

次の瞬間、3人はソウルジェムを握りつぶし、自分の分身の名を叫んだ

マミ「キャンデロロ!!」

さやか「オクタヴィア!!」

杏子「オフィーリア!!」

3人の背後に各々の魔女が姿を現す

私だけでなく、みんなも召喚に成功したようだ

ほむら「無事に召喚したみたいね」

マミ「えぇ。本当に出来るなんて、思ってもなかったけど」

さやか「あたしも…だけど、これで全力で戦える。今のあたしたちなら……!」

杏子「あぁ。ワルプルギスの夜に…勝てる!」

ほむら「私たちは…ワルプルギスの夜を倒す。そして……」

ほむら(そして…まどかに本当の気持ちを……)

さやか「ほむら?」

ほむら「……何でもないわ。行きましょう」

私たち魔法少女が4人に、魔女が4体

マミとキャンデロロ、さやかとオクタヴィア、杏子とオフィーリア。そして、私とホムリリー

私たち全員が力を合わせれば、絶対に勝てるはずだ

そんなことを思いつつ、私たちはワルプルギスの夜へ向かっていった

QB「……行ってしまったみたいだね」

QB「まさかここで魔女の召喚をするなんて…全くの想定外だよ」

QB「もしかしたら君たちなら、真のワルプルギスの夜を引きずり出せるかもしれないね」

QB「何も知らないから、君たちはワルプルギスの夜に立ち向かって行けるんだろう。だけど……」

QB「……ここで諦めた方が、君たちの為でもあったんだけどな」

QB「その方が、僅かな希望すら抱かずに済むだろうし……」

QB「……まぁ、君たちが戦うことを選ぶのなら、僕はそれを見届けるだけさ」

ワルプルギス「アハハハッ」

ほむら「ご丁寧にこちらを待ってるなんてね…その余裕、いつまで続くかしら?」

杏子「ほむら、どうする!?」

ほむら「まず私が仕掛ける。……ホムリリー、クロックダウン!」

私はワルプルギスの夜へ向けて時間操作能力を応用した魔法、クロックダウンを行使する

時間を止めることしか出来なかった私がこんなことができるようになるとは、思いもしなかった

きっと正反対の魔法も使えると思うが、今はこれだけでいい。私の魔法にかかったワルプルギスの夜は、目に見えて挙動が遅くなった

ほむら「今のうちに攻撃を!そう長くは持たないわ!」

杏子「わかった!さやか、準備できてるか!?」

さやか「できてるけど、何でまたあたしがオフィーリアに乗らなきゃいけないのさ!?」

杏子「黙ってろ、舌噛むぞ!……行け、オフィーリア!」

さやか「ちょっ!?うわ……!」

杏子の号令を合図に、さやかを乗せたオフィーリアはワルプルギスの夜へ向かって走り出した

オフィーリアを迎撃しようと行動を始めるも、私の魔法が効いているせいで上手く動くことができないようだ

杏子「ここなら……!跳べ!」

さやか「よっし…行くよ、オクタヴィア!」

ワルプルギスの夜に接近したオフィーリアは奴目がけて飛び上がる

さらにその馬上からさやかが飛び出した

さやか「その腕、もらったああぁぁっ!!」

杏子「食らいやがれっ!!」

ワルプルギス「ア……!」

オクタヴィアの巨大な剣がワルプルギスの夜の右腕を切り落とす

それとほぼ同時に、オフィーリアの槍が左腕を貫いた

杏子「どこ殴ればいいかわかんねぇが、これならどうだ!?」

マミ「私が仕上げを……!佐倉さん、美樹さんに退避指示を!」

マミ「……ロロ、やるわよ!」

ロロ「……!」

マミがそう言うと、キャンデロロの両腕が大砲へと形を変える

それに加え、周囲に無数の銃を展開させる。マミの周囲に現れたそれは、全て必殺の一撃の為の大砲だった

夥しい数の大砲の砲口がワルプルギスの夜へ向けられ、そして

マミ「ティロ・フィナーレ!!」

キャンデロロの砲撃を皮切りに、多重展開させた大砲が次々に火を噴いた

動きの鈍っているワルプルギスの夜にこの集中砲火を避けることなどできはしない

発射された砲撃の嵐が、ワルプルギスの夜に降り注いだ

マミ「私の本気、わかってもらえたかしら?」

杏子「いや…うん、ほむらも大概だったけどさ、マミはマミでおっかねぇよ……」

さやか「戻ったよ。今の集中砲火、マミさんのでしょ?すごいですよ、マミさん!」

マミ「本当は素敵な名前をつけたかったのだけど、時間がなかったのよね……」

ほむら「……待って。ワルプルギスの夜はどうなったの?」

杏子「あれだけ撃ち込まれたんだ、今度こそ……」

ワルプルギス「アハッ…アハハハハッ!」

さやか「ウソ…でしょ……?何で…効いてないの!?」

杏子「アタシとさやかがやった腕も…再生してやがる……!」

マミ「そんな…それじゃ、どうしろって言うのよ!?」

さやかと杏子に両腕を破壊され、マミに何十発と砲撃を浴びせられたというのに、まるでダメージがない

それどころか、破壊した腕が即座に再生してしまっている

いくらワルプルギスの夜が強力な魔女だとしても、有り得ない

もしかしたら、何か見落としがあったり見当違いのことをしているのではないか

そう思ったとき、ふとインキュベーターの言葉を思い出した

アイツは確かワルプルギスの夜のことをこう言ったはずだ。舞台装置の魔女、と

もし…もし、ワルプルギスの夜が舞台装置なのだとしたら、攻撃を加えるべきは下の人間の部分ではない

ほむら「人形を破壊しても舞台装置は止まらない…ということかしら……」

さやか「ほむら?」

ほむら「……みんな、聞いて。恐らくだけど…ワルプルギスの夜の弱点がわかったわ」

マミ「弱点?」

ほむら「えぇ。狙うべきは人形部分じゃない。スカート部の、あの歯車よ」

さやか「歯車?」

ほむら「インキュベーターは奴のことを舞台装置の魔女だと言っていた。それなら、歯車を破壊して舞台装置を止めてしまえば……」

杏子「ワルプルギスの夜を倒せる…ってのか?」

ほむら「……確証はないわ。だけど、他に思いつくようなこともない」

さやか「確証がないのなら、試すまでだよ」

杏子「あぁ、そうだな。ダメならダメで、またそのとき考えればいい。だから、今は……」

マミ「あの歯車の破壊だけを考えましょう?」

ほむら「……えぇ、そうね」

杏子「狙うべき部分がわかったんだ。全員でかかればきっと……!」

さやか「よし…それじゃ、行こ……」

ワルプルギス「アハハッ!」

話が纏まり、ワルプルギスの夜へと向かおうとした、丁度そのとき

ワルプルギスの夜が再び使い魔を召喚した

先ほどと比べて数は少ないようだが、それでも私たちの妨害には十分すぎる数だった

さやか「あいつ、また……!」

ほむら「懲りないわね…私が散らして……」

杏子「……いや、大丈夫だ。アタシに任せてくれ」

マミ「佐倉さん?何か考えが……?」

杏子「あぁ。お前ら、用意はできてるよな?」

ほむら「いつでも大丈夫よ」

杏子「了解。……行くぞ、オフィーリア!!」

さやか「杏子?ここで召喚して、何を……」

杏子「言ったろ、任せとけって。……よ、っと」

何か考えがあるらしい杏子はオフィーリアを召喚し、人部分の前方に乗り込んだ

そして、そのままの状態で杏子は自身の魔法を発動させる

杏子「ロッソ・ファンタズマ!!」

オフィーリアに乗った状態で魔法を発動させたからか、杏子と一緒にオフィーリアの数も増えていく

その数はどんどん増えていき、大規模な騎馬軍団となっていた

杏子「どうだい、即席の騎馬軍団は」

さやか「す、すごい……」

杏子「このままワルプルギスの夜まで突撃するぞ!使い魔はアタシたちに任せろ!」

マミ「こっちはいつでも行けるわ!」

杏子「よし、行くぞ!しっかりついて来いよ!」

そう言うと、杏子とオフィーリアの騎馬軍団はワルプルギスの夜へ向かって一斉に突撃を開始した

それを阻止しようと使い魔が向かって来るが、ただの1匹の撃ち漏らしもなく杏子とオフィーリアの槍の餌食となっていった

杏子「抜けた……!」

さやか「今から使い魔召喚を始めても、もう遅いよ!これなら……」

杏子「アタシの攻撃…まだ終わっちゃいないよ……!」

杏子は自身の分身を全て消し、魔力を集中させる

そして、ワルプルギスの夜に向かって跳び上がると、魔力を解放し、最大級の攻撃を放った

杏子「食らい…やがれええぇぇ!!」

魔力を解放した瞬間、オフィーリアの巨大な槍が更に大きな槍へと姿を変えた

巨大化した槍を構えたオフィーリアは歯車に向かって突っ込んでいく

そして、歯車にその巨大な槍を思いきり突き立てた

ワルプルギス「ア…ガッ……!」

マミ「……!暁美さん、効果が……!」

ほむら「えぇ、わかってる!どうやら当たりのようね……!」

さやか「あの歯車を破壊すれば……!先に行くよ!」

マミ「暁美さん、私たちも行きましょう!」

ほむら「えぇ……!」

先行したさやかの後を追い、私とマミもワルプルギスの夜へ攻撃を仕掛けるべく接近する

歯車を狙うに都合のいい建物を探し、その屋上に着地した

マミはすぐにキャンデロロを召喚し、砲撃態勢に入る。私の視線の先に、さやかがオクタヴィアを召喚し、歯車に攻撃を仕掛けるのが見えた

さやか「これで…どうだっ!?」

オクタヴィア「……!」

さやか「ぐっ……!硬い…でも!」

さやか「怯んでなんていられない!斬れないってんなら……!」

さやか「この剣を…突き立てるまで……!やって、オクタヴィア!」

オクタヴィア「……!」

さやか「こんのおおおぉぉぉっ!!」

ワルプルギス「アガアアアッ!?」

ほむら「さやかがやったみたいね。次は……」

マミ「次は…私の番よ!これで決めてみせる……!」

その言葉を聞いてマミの方へ振り返ると、マミとキャンデロロが大砲を構え、歯車に狙いをつけていた

先ほどのような多重展開はせず、確実に狙いをつけられる自分とキャンデロロの2発に絞ったのだろう

マミ「多重展開は狙いが逸れる…無駄撃ちなんてしていられない……」

マミ「それなら、私とロロの攻撃で…歯車を撃ち抜く……!」

マミ「食らいなさい……!ティロ・フィナーレ!!」

マミとキャンデロロが放った2発の砲撃は途中でひとつとなり、歯車へと向かって飛んで行く

ひとつとなったことでより威力を増したマミの一撃が歯車に突き刺さった

ワルプルギス「アハ…ハッ…ガアッ……!」

マミ「あれでも駄目だなんて……!」

さやか「ほむら!マミさん!」

杏子「どうすんだ?あともう少しだと思うが……」

ほむら「……後は私がやるわ」

マミ「あ、暁美さん!?」

ほむら「……大丈夫よ。これで全て、終わらせてみせるから」

みんなにそう伝えると、私はワルプルギスの夜へと向かって行く

私の接近に気付いたワルプルギスの夜は火炎を飛ばして反撃してくる

辺りに浮かぶ建物の残骸を利用し、攻撃を掻い潜る。そして

ワルプルギスの夜の最上部、歯車の上に降り立った

ほむら「……さすがにここまで攻撃は飛んでこないみたいね」

歯車にはマミとキャンデロロ、さやかとオクタヴィア、杏子とオフィーリア…みんなの攻撃によって無数のヒビが入っていた

あとは私がこの歯車を破壊して…それで、全て終わりだ

ズタボロになった弱点…歯車の上で大爆発を引き起こしてやれば、倒せるはず

ほむら「……それじゃ、始めましょう」

私は盾の中から先ほど使った弾の切れた銃を取り出し、自分の頭に突きつける

そして、目を閉じ、集中する。魔女を喚び出すのに必要なのは、覚悟

どうしてあの3人と私ではこうも召喚方法が違うのかはわからない。だが

私にはうってつけの召喚方法だ。まどかを撃ってしまった私にとっては……

それに、命を賭けてまどかを守ると覚悟したのだ。この程度のことに臆してなどいられない

自分の命を賭ける覚悟はしたが、それは何も死ぬ覚悟ではない。上手く言えないが、2つは全く違うものだ

私は命を賭してまどかを守る。これまでも、そしてこれからも。覚悟はとうにできている

私は目を見開くと同時に銃の引き金を引き、ホムリリーの名を呼ぶ

私の背後に、召喚されたホムリリーが姿を現した

ほむら「……これで最後よ。ホムリリー、時間停止」

私がそう言うと、ホムリリーの帽子に見える何かが作動し、時間が止まる

時間の止まっている間に、私は盾から残る全ての爆発物をその場にぶちまける。爆弾から手榴弾、ロケット砲……

最後に、爆発物の山へ向かって起動させた時限爆弾を放った。私の手を離れた時限爆弾は山なりの軌跡を描き、その途中で停止した

それを確認してから、歯車の上から離れる。さやかたちを見つけ、その側に着地してから、時間停止を解除した

マミ「……あ、暁美さん!ワルプルギスの夜に攻撃をするんじゃ……」

ほむら「えぇ。攻撃は全て時間停止中に行って、ここで時間停止を解除しただけよ」

さやか「攻撃終了って…まだ歯車は壊れてないけど……」

ほむら「……大丈夫よ。これで全て…終わりだから」

杏子「……そうか」

ほむら「そう…これで全て終わり。……くたばりなさい、ワルプルギスの夜……!」

私がそう呟いた直後、歯車の上で爆発が起こる

最初に放った時限爆弾の小さな爆発のあと、ありとあらゆる爆発物を巻き込んだ大規模な爆発が巻き起こる

爆発が収まってからワルプルギスの夜へと視線を向ける。その上部の歯車には、ここから視認できる程のヒビが入っていた

そのヒビ割れは見ている間にもどんどん広がっていき、そしてついに耐えられなくなったのか

ガラガラと音を立てて、歯車は崩壊していった

ワルプルギス「アア…ア……」

マミ「歯車が…崩れて……」

さやか「……ということは…あたしたち、勝ったの……?」

杏子「勝った…勝ったんだよ、アタシたちは!」

さやか「やった…やりましたよ、マミさん!」

マミ「えぇ…やったわ、美樹さん、佐倉さん!」

QB「……まさか本当に歯車を砕いてしまうなんて」

不意に背後からインキュベーターの声が聞こえた

振り返ると、インキュベーターが尻尾をゆらゆら揺らしながらこちらを見ていた

ほむら「……今更何の用?」

QB「用というほどのことじゃないよ。それよりも、君はどうして歯車が怪しいと思ったんだい?」

ほむら「お前が自分で言ったのでしょう?ワルプルギスの夜は舞台装置の魔女だと」

ほむら「その舞台装置の部品…歯車を破壊すれば倒せる。そう思っただけよ」

QB「……そうかい」

ほむら「お前が何の目的でワルプルギスの夜を召喚したかは知らない。知りたくもない」

ほむら「でも、そのワルプルギスの夜も私たちが倒させてもらったわ。……残念ね、目論見が上手く行かなくて」

QB「残念?何を言うんだい、むしろ願ったり叶ったりだよ。なんせ……」






QB「君たちはこの場で死ぬのだから」



今回はここまで
読んで下さってる方、ありがとうございます

次回投下は11日夜を予定しています

カチャ    \・・・。/
     ;y=ー( ゚д゚)
     \/| y |)

    \乙フェウス!/
     ;y=ー( ゚д゚)
     \/| y |)

     ;y=ー( ゚д゚)・∵. ターン
     \/| y |)

本日の投下ですが、日付変更後0:15くらいになりそうです。ごめんなさい
もう少しだけお待ちください

15分過ぎてるじゃないですか…穴掘って埋まりたい

次から本文

ほむら「……今、何と言った……?」

QB「君たちはワルプルギスの夜によって殺される。そう言ったんだ」

杏子「何フザけたこと言ってやがるんだ?ワルプルギスの夜は……」

QB「もう勝った気でいるのかい?ワルプルギスの夜はまだ生きているというのに」

さやか「まだ生きてるって…どういうことよ!?」

QB「言葉通りの意味さ。ほら、見てごらん?」

ワルプルギス「フ…フフフフ……」

歯車を破壊し、倒したと思ったのも束の間、インキュベーターからまだ生きていると告げられる

そのワルプルギスの夜は歯車を失いはしたものの、今もなお空に浮かんでいた

何をするでもなく、気味の悪い笑い声を響かせていた

マミ「そんな…あの歯車は弱点ではなかったと……?」

QB「いや、歯車が本体だというのは本当さ。……ただ、本体のひとつと言ったところかな」

マミ「それじゃあ…まだ本体が残って……?」

QB「そういうことになるね。歯車が破壊された今、あの人形を破壊すれば倒せるはずだよ」

杏子「何でそんな面倒な……!」

QB「僕だって詳しいことは知らないよ。でも、ワルプルギスの夜は舞台装置の魔女だから……」

QB「歯車が舞台装置で、人形は演者…もしくは観客のどちらかを表しているんだと思うよ」

QB「歯車を破壊して舞台装置を止め、人形を倒して演者か観客がいなくなれば戯曲は終わる…ということなんじゃないかな」

ほむら「破壊した腕がすぐ再生したのは…舞台装置が生きていたからかしらね。でも、今なら……!」

さやか「もう歯車はぶっ壊したんだ……!今すぐあの人形を叩き斬って……」

QB「それは不可能だよ。言っただろう?君たちはワルプルギスの夜によって殺されるって」

杏子「苦戦はしたが勝てない相手じゃねぇ。魔女のいる今なら……」

QB「……君たちはワルプルギスの夜がどうして逆さまになっているのか、気にならないのかい?」

さやか「え?……そりゃまぁ、少しは」

QB「簡単なことだよ。魔法少女が2人3人集まったところで、ワルプルギスの夜は逆立ちしてたって勝てる」

QB「つまり、君たちはワルプルギスの夜に遊ばれていただけさ。……歯車を破壊されるまではね」

QB「歯車を破壊された瞬間、ワルプルギスの夜は君たちの認識を遊び相手から敵へと変える。君たちを戦うに相応しい相手だと認めたってことだ」

ワルプルギスの夜が反転している理由。私は単にそういう魔女なのだろうという程度の認識で戦っていた

もしかすると、今まで戦ってきたワルプルギスの夜も……?いや、今はそんなことはどうでもいい。それよりも……

ほむら「……今までの、戦う気のない状態であの強さだったのよ?私たちを敵と認識した、ということは……」

QB「君の思っている通りさ。全力で敵魔法少女…君たちを倒しにかかってくるだろう」

QB「ワルプルギスの夜が全力を出した以上、君たちに勝ち目は無い。……君たちだけならね」

ほむら「……」

QB「だけど、まどかが魔法少女になったのだとしたら話は別さ。まどかほどの素質なら、例えワルプルギスの夜が全力であろうと相手にならない」

QB「これ以上街を破壊させたくない。戦って死にたくない。そう思っているのなら、今のうちにまどかを連れて来ることを勧めるよ」

ほむら「……何をふざけたことを言ってるのかしら。まどかを契約させる?……私がそんなことさせるわけないでしょう?」

QB「……現に君たちはもう限界のはずだ。他に手段があるとも思えないけど」

ほむら「つくづく愚かな奴ね、インキュベーター。……どうして私たちの限界がお前にわかるというの?」

QB「……」

ほむら「それに、例え限界だったとしても…ワルプルギスの夜を倒すまで私たちは戦う。限界を超えてでも」

QB「限界を超える…だって?」

ほむら「感情の無いお前には理解できないでしょうね。覚悟や信念、執念と言ったものがどれほどの力を持っているのか」

ほむら「私は…命を賭けてまどかを守ると誓った。それは何もまどか本人だけじゃない」

ほむら「まどかの家族、まどかの友人知人、まどかの住む街…まどかの全てをこの手で守ってみせる」

QB「……君たちも同じ考えかい?」

マミ「当然でしょう。私たちの街と、そこに住む人たちを守る。……それが、魔女と戦える私の使命よ」

さやか「恭介に仁美を守る。それに、仲間のみんなの力になる。そう決めたから」

杏子「もう大切な誰かを失いたくない。アタシはアタシの大切な人を守るために戦う」

QB「……そうまで言うのならもう何も言わないよ。好きなようにやってみればいいさ」

ほむら「お前に言われるまでもないわ。戦って、勝つ。それだけよ」

QB「……」

ほむら「……みんな、もう少しだけ力を貸して」

さやか「あったりまえでしょ。あとはあの気色悪い人形を破壊すればいいんだよね」

杏子「魔力ももうあまり残ってないな…一気に決めようぜ」

マミ「ワルプルギスの夜を倒したら、またお茶会をしましょう。もちろん鹿目さんも一緒に」

ほむら「……ありがとう、みんな」

QB「……それなら、戦ってみるといいよ。全力のワルプルギスの夜がどれ程のものか」

QB「向こうもそろそろやる気になったみたいだからね」

インキュベーターの言葉を受けて、私たちはワルプルギスの夜へ視線を向ける

そこで目にしたのは、ワルプルギスの夜がゆっくりと反転していく姿だった

私たちがその姿を捉えたときには、もうそれを阻止するだけの時間は残っていなかった

そして、人形が上部へとやってくる。反転が完了したその瞬間、カチリと何かのスイッチが入ったような音が聞こえた気がした

それと同時に、ワルプルギスの夜の暴力的な笑い声が辺り一面に響き渡った

ワルプルギス「アハハハハハハッ!」

杏子「アレが本気になったワルプルギスの夜…ただひっくり返っただけかと思ったが……」

マミ「えぇ…ワルプルギスの夜の魔力かしら、酷く嫌な感じがする……」

さやか「空気が重すぎる…実際に押さえつけられてるような気さえしてくるよ」

ほむら「何にせよ…あの人形を潰せば、今度こそ倒せるのでしょう?」

QB「それは間違いないよ。歯車と人形、その2つがワルプルギスの夜を構築している核とも言える部分だからね」

さやか「嘘じゃないでしょうね……?」

QB「嘘じゃないさ。今までだって訊かれた以上は本当のことを話してきたじゃないか」

杏子「嘘じゃないってんなら…あの人形をブッ潰して、今度こそワルプルギスの夜を……!」

ほむら「あと少し…準備は?」

マミ「いつでも!」

杏子「大丈夫だ!」

さやか「あと一押し…頑張ろう!」

ほむら「……えぇ。この戦い…絶対に勝ってみせる」

ほむら「……みんな、行くわよ!」

私の言葉を合図に、私たちはワルプルギスの夜へ向かって走り出した

本気を出したワルプルギスの夜…恐らく、今まで以上に辛い戦いになるだろう

それでも…私は奴を倒す。必ず…倒してみせる

奴を倒せるのなら手段は選ばない。……例え、私の全てを投げ捨てることになったとしても

――――――

まどか「……っ!何…今の……?」

まどか「何だろう…すごく嫌な感じがする……」

『……もう、時間がないみたい。今のはきっとワルプルギスの夜の魔力』

まどか「ワルプルギスの夜の……?」

『うん。その魔力が急に大きくなったのを感じたんだ。今まで本気で戦ってなかったって感じなのかな』

まどか「本気になったってことは…そうだよ、ほむらちゃん…ほむらちゃんは無事なの!?」

『それは…わからない。でも、このままだと……』

まどか「そんな……」

『……魔法少女でもないあなたがほむらちゃんを守る。それを成すには、相応の覚悟が必要になる』

『……さぁ、答えを聞かせて。あなたの覚悟を』

まどか「わたしは……」

まどか(……ほむらちゃんは…わたしのためにずっと戦ってきてくれた。わたしを守ってきてくれた)

まどか(今ここにいるわたしだけじゃない…過去のわたしのことも全力で守ろうとしてくれてたんだと思う)

まどか(きっとどの時間のわたしも…ほむらちゃんに守られてばかりだったんだろうな……)

まどか(わたしには何の力もない。だから、自分は無力なんだって…さっき自分でそう思っちゃった。でも……)

まどか(もし…もしわたしに力があるのなら…大事な人を…ほむらちゃんを守れるのなら……)

まどか(……うん。迷うことなんて何もない。わたし……)

まどか「……もし、ほむらちゃんが危険な目に遭ってて…それを救えるのがわたしだけだとしたら」

まどか「わたしは…ほむらちゃんを守りたい。……全てを捨ててでも、ほむらちゃんを守ってあげたい」

『……そっか』

まどか「わたし…ずっとほむらちゃんに守られてきた。だけどそのせいでほむらちゃんをこの時間に閉じ込めちゃった」

まどか「ほむらちゃんを閉じ込めてしまったのがわたしなら…ほむらちゃんを未来に送り出すのもわたし」

まどか「何より…ほむらちゃんへの告白の返事、まだもらってないし、それに……」

まどか「……あれこれ理由を並べるより、この一言の方がわかりやすいよね」

まどか「わたしは…ほむらちゃんが大好きだから。大好きな人を何が何でも守ってみせる」

まどか「……それが、わたしの覚悟だよ」

『……わかった。あなたの覚悟、確かに受け取ったよ』

まどか「……それよりも、早く行かないと…ほむらちゃん……!」

『きっとワルプルギスの夜の近くにいるはず…わたしが案内するよ』

まどか「……うん、お願い」

『……言ったよね、わたしはあなた、あなたはわたしだって。わたしだってほむらちゃんを守りたいんだ』

『……急ごう。全てが手遅れになってしまう前に』

まどか「……うん!」

――――――

ワルプルギス「アハハハッ!」

杏子「クソ……!マミ、今ので何発目だ!?」

マミ「もう数えてないわ……。少なくとも10発以上は撃ち込んだはずよ……?」

さやか「10発以上…それだけ撃ち込まれてるのに、何で……」

さやか「何でダメージがないのよ!?」

杏子「キュゥべえの野郎…最後の最後で大ホラ吹きやがったか!?」

ほむら「……単純にこちらの火力不足ね。奴の装甲を撃ち抜けない……」

さやか「火力不足って…これ以上どうしろって言うのよ!?」

弱点さえわかっていれば必ず勝てると信じ、反転したワルプルギスの夜と交戦を続けるもそう上手くは行かなかった

それどころか、その圧倒的な強さに私たちは次第に追い込まれていった

吹き荒れる暴風は強さを増し、放ってくる火炎も規模が大きくなっている

何より、弱点と思われる人形に攻撃を集中させるもとてもダメージを受けているとは思えなかった

さやかと杏子が両腕を破壊できた反転前とは明らかに強さが違いすぎる

ワルプルギス「アハッ!」

さやか「杏子、炎が来たよ!」

杏子「わかってる!防御はアタシがやるから、マミは……!」

マミ「えぇ……!行くわよ、キャンデロロ!!」

ロロ「……」

マミ「ティロ・フィナーレ!!」

マミとキャンデロロの砲撃がひとつとなり、ワルプルギスの夜に直撃する

だがその攻撃も虚しく、未だ余裕といった笑い声をあげていた

マミ「これでも…駄目だなんて……」

さやか「くそ…あたしとオクタヴィアで直接攻撃を……!」

杏子「さやか、待て!……ほむら、どうすんだ!?」

ほむら「え……」

杏子「アタシらはアイツと戦ったことなんてないんだ!だから実際戦ったほむらが指示を出してくれ!」

ほむら「わ、私だってあの状態のワルプルギスの夜は初めてよ」

杏子「経験ゼロのアタシらよりかはマシだろ!?頼む!」

杏子にそう頼まれた私はこの現状を打破するべく策を練る

マミ、さやか、杏子の3人は魔力が残り少ないはずだ。私自身の魔力も、もう余裕はない

魔力が底を突く前に奴を倒さなければ。それができなければ…何もかもが終わってしまう

私はいくつかの策を考え、その中から最大のリターンを得られるものをみんなへ伝達する

ほむら「……以上よ、何か疑問点は?」

杏子「大丈夫だ!それで行くぞ!」

さやか「疑問があろうがなかろうが、やるしかないからね……!」

マミ「もう余裕はない…何としてもこれで決めましょう!」

杏子「あぁ、そうだな。……よし、さやか!行く……」

ほむら「……!待って!杏子、防御魔法を!」

杏子「あん?何を……」

ほむら「いいから!早く!!」

ワルプルギス「アハハハハッ!」

作戦が決まり、ワルプルギスの夜へ攻撃を仕掛けようとした、まさにそのときだった

ワルプルギスの夜の前方に魔力が集中し、黒い何かを形成し始める

それを何らかの攻撃と見た私は杏子に防御魔法を展開するように指示を飛ばす

杏子が鎖の防御魔法を展開した直後、集中させていた魔力が解き放たれた

解放されたワルプルギスの夜の魔力は衝撃波となり、私たちに襲いかかった

杏子「ぐ…お……!」

さやか「杏子!」

杏子「……ク…ソ、このままじゃ…オフィーリア……!!」

杏子「多重魔法障壁…展開……!」

オフィーリアを召喚した杏子は防御魔法を幾重にも張り巡らせる

杏子の展開した防御魔法をマミのリボンが繋ぎ合わせ、ひとつの巨大な防御魔法となり、衝撃波を受け止めた

できることが何もない私は、攻撃を受け止めている杏子をただ見守るしかなかった

次第に防御魔法を軋ませていた衝撃は緩くなっていき、やがて完全に消滅していった

杏子「ハァ…ハァ…ほむ、ら…助かった……」

杏子「あのとき…お前が、指示出してくれなかったら…直撃してたな……」

ほむら「杏子、しっかりして。魔力の残りは?」

杏子「もう…殆ど残っちゃいねぇな……。すまねぇ……」

ほむら「……いえ。助かったわ、ありがとう」

さやか「それよりどうするの?杏子、もう残りがヤバいんでしょ?」

ほむら「……3人で仕掛けるしかないわね。杏子が抜けた分、負担が増えるだろうけど…やるしかないわ」

マミ「佐倉さんは休んでいて。あとは私たちが……」

杏子「肝心なところで…ガス欠なんてな……」

さやか「大丈夫だって。あたしたちがあのキモい人形、ギタギタにして来るから」

杏子「……あぁ、頼む。それじゃ、防御魔法…解除するぞ……!」

ほむら「えぇ。……さぁ、行くわよ!」

私の言葉を合図に、杏子は防御魔法を全て解除する

それと同時に、私とさやか、マミの3人はワルプルギスの夜目指して突っ走った

だが、今のワルプルギスの夜には近づくことすらできなかった

ワルプルギス「アハッ!」

さやか「うぐ…っ……」

マミ「あ…う……」

ほむら「く…ッ……」

私たちが走り出した直後、身体を何かに抑え込まれるような感覚に囚われる

この重苦しい空気のせいだと思っていた。だが、そうではない

気持ちや空気の問題じゃない。実際に身体が重い。それがワルプルギスの夜の仕業だとわかったときには、もう手遅れだった

ワルプルギスの夜の魔力が私たちに圧し掛かる。重力負荷が何倍にも膨れ上がったような気がした

この程度のことに屈するわけにはいかない。ここで倒れるわけにはいかない

そう思っていたが、両隣にいたさやかとマミが崩れ落ちる。限界を迎え、圧し掛かる魔力に抗えなくなったのだろう

ほむら「さや、か…マミ……!」

さやか「行って、ほむら……!行って、ワルプルギスの夜を……!」

ほむら「でも…私1人では……」

マミ「まだ…倒せる可能性は残っているでしょう……?なら、行きなさい…暁美さん……!」

さやか「可能性が残ってるのなら…諦めるには、まだ…早いよ……!」

ほむら「……わかった…私は、アイツを……!」

2人の言葉を受け、私はワルプルギスの夜へと向かう。重圧により走ることは叶わず、1歩ずつ歩みを進める他なかった

だが、ワルプルギスの夜へ近づけば近づくほど、魔力による重圧は重みを増していく。身体中がギシギシと悲鳴を上げる

重圧が増した分だけ、私の歩みが鈍くなる。やがて、私の足は完全に止まってしまった

まだワルプルギスの夜は視線の先で笑っている。ここで立ち止まっている場合じゃない。足を動かせ

頭が前に進めと指令を出すも、これ以上進むことができない。そして

重圧に耐え切れなくなった私は、その場に倒れ伏した

ほむら「こんなところで…寝てる、場合じゃ……!」

ほむら「私…私は……!」

倒れても尚ワルプルギスの夜の魔力による重圧が私を襲う

身体が鉛のように重い。立ち上がろうとするも、指1本動かすことができなかった

それでもと襲い来る魔力に抗っていると、インキュベーターが倒れた私のすぐ目の前に座っていた

QB「これでわかっただろう?全力のワルプルギスの夜がどれ程のものか」

ほむら「インキュ…ベーター……!」

QB「自分たちは歯車を破壊した。だから全力のワルプルギスの夜が相手でも勝てるんじゃないか」

QB「君たちはそう信じて疑わなかったのだろう?遊びのつもりだったときでさえあれだけ苦戦していたというのに」

QB「それでも倒す手段があるのならと、僅かな希望を抱いて戦った結果がこれさ。君たちではどう足掻いてもワルプルギスの夜には勝てない」

QB「ワルプルギスの夜に敗れ去る。それが君たちの運命だ」

ほむら「……ッ!」

QB「どうせ最後になるんだ。ワルプルギスの夜を召喚した目的も教えてあげるよ」

QB「僕たちがワルプルギスの夜を召喚する目的。それは、まどかを契約させる為さ」

ほむら「まどか…を……」

QB「……いや、この言い方は正しくないね。正確に言うのなら、莫大な才能を持った少女を契約させる為、だね」

QB「莫大な才能を持った少女が真の魔女として覚醒したときに生まれるエネルギー量は、そこらの魔法少女とは比べものにならない」

QB「ワルプルギスの夜の召喚に必要なのは因果を持ったグリーフシードだと言ったよね。その因果と才能のある少女は引かれあうとでも言うのかな」

QB「同じ時期、同じ地に現れるんだ。まるで世界がそうさせているみたいにね」

ほむら「それで…契約、を……」

QB「街が破壊され、人が死ぬ。自分の周りが地獄と化せば、自然と願いは出てくるものだろう?」

QB「街を元通りにしてほしい。人を生き返らせてほしい。そういった願いがね」

QB「だけど、魔法少女になったが最後。魔女となり、エネルギーを生み出すしかないのさ」

QB「魔女と戦い、敗れ、命を落として真の魔女に覚醒する者」

QB「願いの理想と現実の乖離に気づき、自身を受け入れることが出来ず、暴走した自分の魔女に殺され、真の魔女に覚醒する者」

ほむら「お前は…何が言いたい……」

QB「簡単な話さ。君もまどかも、全て魔女となり、エネルギーになる。それが魔法少女の運命だ」

QB「過程は違えど、結末はみんな一緒だ。君たちは死によって終わりを迎え、もうひとりの君たちは死によって真の魔女となる」

ほむら「インキュベーター…貴様……!」

QB「いくら喚いたところで無意味さ。君にはもう何をすることもできない。だけど……」

QB「君にはその力がある。君ほどの才能があれば、彼女たちを救うことだってできる。だから……」

QB「まどか、僕と契約して、魔法少女になってよ!」

インキュベーターがまどかの名を呼ぶ。この場にまどかがいるということなのだろうか

地に倒れ、身体を動かせない私にはその姿を確認することはできない

このワルプルギスの夜の魔力による重圧の中、まどかがいられるはずがない

しかし、誰かが私の方へと近づいて来る。そんな気配を感じた

やがてその気配の人物は私のすぐ側で立ち止まる。そして

私はその誰かに抱き起こされた。私を抱き起こした人物。それは……

ほむら「まど…か……」

まどか「……」

ほむら「まどか…どうして、ここに……」

まどか「……ほむらちゃんを助けに来たの」

ほむら「私を……?」

QB「よく来たね、まどか。……契約して魔法少女となり、宇宙の為に魔女になる覚悟ができたのかい?」

まどか「……わたしは、ほむらちゃんを助けに来ただけ。魔法少女になんて…なるつもりはないよ」

QB「ほむらを守る?確かに君は契約したのなら、ワルプルギスの夜すら足元にも及ばない程の魔力を持っているはずだけど」

QB「魔法少女でない君はただの人間だ。自分の身を守ることすらできないのに、どうしてほむらを守れると言うんだい?」

まどか「それは……」

QB「君以外の魔法少女は全員再起不能だ。君を守ってくれる人はいない。その現状で、アレをどうするつもりかな?」

ワルプルギスの夜の放った火炎が私とまどかへと迫ってくる

まどかにアレをどうにかする力はない。私を置いて逃げろと言ってもそれを聞き入れる彼女ではないだろう

QB「さぁ、どうするんだい?このままだと2人まとめて丸焦げになってしまうよ?」

まどか「……っ」

まどかが火炎から庇うように私を抱きしめる。その間にも火炎はどんどん私たちに向かって来る

私はまどかに何をさせているのだろうか。魔法少女でもないまどかに庇ってもらっているなんて

私自身のことはどうだっていい。だが、ここにはまどかがいる。まどかがいるのなら…私はまどかを守る

友達だから。大事な人だから。……何よりも、私の好きな人だから。大好きなまどかを、何が何でも守ってみせる

私は左腕を伸ばすと、迫り来る火炎に向けて盾を構える。防御魔法と衝突した火炎は弾けて消滅した

QB「……!」

まどか「ほむら…ちゃん……」

ほむら「……まどかは…私が守る……。ここで私が諦めたら…全て終わってしまう……」

ほむら「私は…そんなの、認めない……!まどかを守る為にも…力を貸してくれたさやか、マミ、杏子の為にも……」

ほむら「ここで終わりにするわけには…いかない……!」

そう言うと私はワルプルギスの夜の重圧を跳ね除け、立ち上がる

まどかが来るまでは指1本動かせなかったのに、と自分でも立ち上がれたことに少し驚いた

きっとまどかが力を分けてくれたのだろう。勿論それが本当かどうかはわからないが、私はそう結論付ける

QB「そんな…有り得ない、君にはもうそんな力は残っていないはずなのに……」

ほむら「まどかの為ならば…私は何度でも立ち上がれる。この命を賭けて…まどかを守る……!」

QB「わけが…わからないよ。君は一体……」

ほむら「私は…暁美ほむら……。魔法少女よ……!」

QB「……何にせよ、ワルプルギスの夜を倒すなんてまどかが契約しなければできるはずはないよ」

QB「莫大な才能と因果を持った少女を契約させる為の魔女だ。君が勝てるはずが……」

まどか「ほ、ほむらちゃん、わたし……」

ほむら「……何も心配しなくていいわ。確かに私では…本気になったワルプルギスの夜には勝てないかもしれない。でも……」

ほむら「奴を葬る手段は…まだあるわ。……出なさい、ホムリリー!!」

今の私にはワルプルギスの夜を正攻法で倒す手立てはない。相手が全力であるのなら、なおさらだ

だが、ひとつだけ…上手く行けば私1人で奴を葬ることができる方法がある

ホムリリーを初めて召喚し、その能力が頭に流れ込んできたときに見つけた手段。正攻法で勝てるなら…使わずに済むのならそれに越したことはない

何より、もうひとりの私との契約を反故にしてしまうかもしれない。しかし、このままではきっとまどかは契約してしまうだろう

私の覚悟、私との契約…それも大事なものには違いない。ただ、私にとって何よりも大事なもの、守るべきものがある

それが、まどかを守ること。何よりも…私のことよりも優先されることだ

これを実行してしまえば、自分がどうなるかは検討もつかない。それでも、自分で言ったはずだ。命を賭けてまどかを守る、と

覚悟を決めた私は盾から取り出した弾の切れた銃で自分の頭を撃ち抜く

私の背後にもうひとりの私…ホムリリーが顕現した

QB「今更君の魔女を召喚してどうするつもりだい?ワルプルギスの夜を葬れるとは到底思えないね」

ほむら「そう思いたければそう思っていればいい。私は…ワルプルギスの夜を始末する。今度こそ」

QB「何度やり直したかは知らないけど、嫌という程には繰り返してきたんだろう?何度やっても同じ結末だ。それが運命というものさ」

ほむら「……時というのは全ての物事に結末を運んでくるわ。目と耳を塞ぎたくなる程に残酷なものだとしても」

ほむら「いくら変えたいと願っても、その多くの物事は変えることのできない結末…運命となる」

QB「そこまでわかっているのならもう気づいているはずだ。鹿目まどかが魔法少女となり、魔女となる。それが運命だと」

ほむら「私の話を聞いた上でその結論…インキュベーター、お前はどこまで愚かなのかしら」

ほむら「私は…時を操る魔法少女。時を操れるのなら、運命だって変えられる。まどかを苦しめる運命も因果も、私が全て葬ってみせる」

まどか「ねぇ…ほむらちゃん……」

ほむら「……まどかの運命を、こんなところで終わらせない。これで、全てに決着をつける」

まどか(何だろう…何か嫌な予感がする……。ほむらちゃん、もしかして……)

まどか(……もし、もしほむらちゃんがそう思ってるのだとしたら…そのときは、わたし……!)

いつの間にか私を襲っていたワルプルギスの夜の魔力による重圧は消えて無くなっていた

私たちを行動不能に陥らせる、圧殺する…何が目的かはわからないが、それが果たせないと感じ、再度攻撃を仕掛けようとしているのだろう

何度叩き潰しても立ち上がる私が面白くないのか、もう笑うことをやめていた。辺りには気味の悪い魔力が渦巻いていた

ほむら「今になって攻撃準備に入ったところで遅いわ。お前は消えるのよ…私と一緒に」

QB「消える……?君の魔法は限定的な時間干渉…まさか……!」

ほむら「えぇ。きっと今お前が考えていることが正解よ」

QB「君は正気なのかい?そんなことをすれば、君自身がどうなるかわかったものじゃ……」

ほむら「元より、覚悟の上よ。ワルプルギスの夜を始末できる絶好の機会…逃すわけにはいかない」

まどか「ほむらちゃん…何を……?」

ほむら「……ごめんなさい、まどか」

まどか「え……?」

ほむら「……やるわよ、ホムリリー」

ホムリリー「……」

ほむら「これで…全て終わらせる……!時空間結界、展開!」

私の言葉を合図に、ホムリリーの羽織っているマントが変質する

変質したホムリリーのマントがバキバキと音を立てて周囲の空間を侵食し、結界を造り出していく

時空間結界は瞬く間に広がっていき、辺りの風景は嵐の吹き荒れる街から、時計のような意匠の施された結界内部へと変わっていった

ワルプルギスの夜が私に襲いかかるも、捻じ曲げた時空に囚われ何も行動を起こすことはできなかった

結界の展開がほぼ完了し、あとは私の後ろにある外への出口を塞ぐだけ

だが、その前に彼女を外へ出さなくては。私は自分のすぐ側に立っていた彼女へ声をかけた

ほむら「……まどか」

まどか「……」

ほむら「……まどか、結界から出て。その出口を…塞がないと」

まどか「……ほむらちゃんは…どうするの」

ほむら「私は…この結界の中に残る。誰かが魔力を供給しなければ、結界は消滅してしまうだろうから」

まどか「……この結界が完成して、ほむらちゃんが中に残る…それって、どういうことなの……?」

ほむら「……出口を塞いだ瞬間、時空間結界は今のこの時間から切り離され、時間と時間の間…時空の狭間を漂うことになる」

ほむら「恐らく…2度と元の時間には戻れなくなると思う……」

まどか「……嫌だよ…ほむらちゃんと会えなくなるなんて…そんなの、嫌だよ!」

まどか「ずっと…永遠にここでひとりぼっちになるなんて…死ぬよりも辛いよ……!」

ほむら「……お願い、まどか。ワルプルギスの夜を葬るには…もうこれしかないの」

ほむら「倒せないのなら…私と一緒に通常の時間から追放してしまえばいい」

まどか「でも…でも……!」

ほむら「私の目的は…あなたを魔法少女にさせず、生きてワルプルギスの夜を乗り越えること」

ほむら「ここでチャンスを逃せば…私はまた最初からやり直しになってしまう。だから……」

まどか「嫌だよ!ほむらちゃんのいない世界なんて…わたし……!」

ほむら「……」

まどか「それに……!ほむらちゃん、言ったはずだよ!生きて帰って来るって!」

まどか「生きて帰って…わたしに返事、聞かせてくれるって…言った…はずだよ……!」

まどか「ほむらちゃん、わたしに嘘なんて言わないんじゃなかったの!?あの約束、嘘だったの!?」

ほむら「……」

まどか「何とか…何とか言ってよ!ほむらちゃん!」

ほむら「……ない…じゃない……」

まどか「えっ……」

ほむら「嘘なわけ…ないじゃない……!私…私は……!」

ほむら「私は…まどかが好き、大好きよ!ずっと…一緒にいたいって…そう思ってる……!」

まどか「ほむら…ちゃん……」

ほむら「だけど…もう他に倒す手段が無い……。さやかたちは戦闘不能…あなたを契約させるわけにはいかない……」

ほむら「現状で唯一、奴を確実に葬れる手段は…これしかない。私の存在と引き換えに、時空の狭間に封印する」

ほむら「自分の言葉通り…命を賭けてまどかを守る。……まどかを守れるのなら、私は……」

まどか「わたしは…認めない……。ほむらちゃんが犠牲になるような方法なんて…認めない!」

ほむら「……これは犠牲なんかじゃない。まどかの…未来への道標。……もう、覚悟はできてるから」

まどか「そん…な……」

ほむら「まどか…ありがとう。こんな私を…好きだって、言ってくれて」

ほむら「その言葉だけで…私は十分すぎるほどに幸せよ」

ほむら「……さよなら、まどか」

まどか(わたし…結局何もできないの……?好きな人ひとり守ることも…できないの……?)

まどか(ほむらちゃんを守るって…全てを捨ててでも守ってみせるって…そう決めたはずなのに……)

まどか(ずっと…わたしを守るために戦って、傷ついて…辛い目に遭って……)

まどか(もう少しで…あとほんの少しで、やっと未来に進めると思ったのに……)

まどか(それがこんな結末なんて…わたしのせいで、死ぬより辛い目に遭わせてしまうなんて……)

まどか(そんなの…絶対に嫌だ。ほむらちゃんがわたしを守ってきてくれた分…今度はわたしがほむらちゃんを守ってみせる)

まどか(……ねぇ、聞こえてるでしょ?もうひとりのわたし)

まどか(わたしは…ほむらちゃんを守る。あなたもわたしって言うのなら……)

まどか(お願い、力を…力を貸して……!)

『わたしはあなた、あなたはわたし……』

まどか(……!うん、ありがとう……!)

ほむら「……」

まどかは結界を出ることなく、下を向いて何かを考えているようだった

力づくでもまどかを外へ押し出してしまおうかと考えていたとき、まどかが不意に顔を上げる

その真剣な眼差しに、私は少しだけ気圧された。まどかがこんな真剣な顔をするのは決まって同じ

自分の中で決めた何かをすると、意を決したときだけ

まどかは真っ直ぐに私に視線を向けると、こう問いかけた

まどか「……ねぇ、ほむらちゃん。さっき…わたしのこと、好きだって…言ってくれたよね」

ほむら「……えぇ」

まどか「あれって…その、どういう意味での好き…だったの?」

ほむら「……あなたと同じよ。私も…まどかに恋をしてる。恋の対象として…あなたが大好き」

まどか「……ありがとう、ほむらちゃん」

ほむら「こんな形での返事でごめんなさい……。でも、これでもう心残りは……」

私が言葉を言いきる前に、まどかが私の前へ歩み出る

結界を出るどころか、さらに踏み込んできたまどかの意図が読めず困惑する

だが、すぐにまどかが自分の中で決めた何かを知ることとなる

まどか「ほむらちゃん…今日までわたしのこと、守ってきてくれてありがとう」

まどか「きっとどの時間のわたしも…ずっとほむらちゃんに守られていたんだと思う。ほむらちゃんが、そう望んでくれていたから」

ほむら「まどか……?」

まどか「わたしね…本当のことを言うと、ほむらちゃんのこと…諦めてたんだ。わたしもほむらちゃんも…同じ女の子だから」

まどか「だけど…ほむらちゃんはわたしの想いに応えてくれた。わたしを受け入れてくれた。わたし…すごく嬉しかった」

まどか「ほむらちゃんがわたしを好きだって、そう想っていてくれるのなら…もう、何も怖くない」

まどか「わたし…決めたの。今までほむらちゃんが守ってきてくれた分、今度はわたしがほむらちゃんを守ってみせるって」

まどか「だから…わたしに任せて。わたしが…全てを救ってみせるから」

まどかが何を言っているのか、理解できなかった

まどかは魔法少女ではない。何かができるとは到底思えない

だが、今のまどかはその言動ひとつひとつに自信と、覚悟が溢れていた

何をするつもりかはわからないが、とにかくまどかを止めなければ。そう思っているはずなのに

私は身体を動かすことも、声を上げることもできなかった

まどかは息をひとつ吐くと、天に向かって手を翳す。そして

真なる彼女の名を、その口で紡いだ






まどか「クリームヒルト!!」



今回はここまで
読んで下さってる方、ありがとうございます

次回投下は12日夜を予定しています

今回入れてあと2,3回の投下で完結の予定です

次から本文

ほむら「なっ……!」

まどか「……ほむらちゃん1人が犠牲になることなんてないんだよ」

まどか「たとえそれで未来に進めたとしても…そこはほむらちゃんの存在しない未来。わたしは…そんなの、嫌」

まどか「そんな方法で守ってもらっても…わたしは、嬉しくないよ」

まどかが自身の魔女…クリームヒルトの名を口にした瞬間、凄まじい…それと同時に、暖かい魔力がまどかの内から流れ出る

私たちの魔女は精々自分より少し大きい程度のサイズだったが、まどかのクリームヒルトは私たちを遥かに上回る大きさだった

もしかすると、私が見て来たあのクリームヒルトと同じサイズなのかもしれない。しかし、そうなるとこの結界に収まる大きさではない

内側から破られてしまう…と思っていたが、クリームヒルトはその膨大な魔力を使い、私の時空間結界を急速的に広げていく

拡張が完了し、私は天を仰ぐ。ワルプルギスの夜すら玩具に思える程に巨大なまどかの魔女が、その全貌を明らかにした

ほむら「まどか…あなた、魔女を……」

まどか「……うん」

ほむら「どうして……?あなたは魔法少女じゃないのに……」

まどか「実際のところは…わからない。だけど……」

まどか「わたしのほむらちゃんへの想いと覚悟。それがわたしの魔法少女の素質…眠ってる魔力と結びついて、こうして形になって現れた」

まどか「わたしは…そう思ってる」

ほむら「……この際、何故魔女を召喚できたのかは問わないわ。それよりも……」

ほむら「まどか…あなたは一体何をするつもりなの……?」

今までのまどかの話を聞いていると、最悪の展開が頭を過ぎる

即ち、まどかが私の代わりとなり、この結界に残るということ。それだけは絶対にさせるわけにはいかない

まどかは私の問いかけに、はっきりとした声で答えた

まどか「ほむらちゃんはワルプルギスの夜をどこの時間でもない…時空の狭間に追いやって、そこに封印しようとしてるんだよね」

ほむら「……えぇ」

まどか「だけどそれは…ほむらちゃんも一緒に封印されちゃうってこと……。2度と私のところに…帰って来てくれなくなるということ……」

ほむら「……」

まどか「……何度も言うけど、わたしはそんなの…絶対に認めない。ほむらちゃんの犠牲の上の未来なんて…何の価値も、意味もない」

まどか「わたしが望むのは…わたしとほむらちゃん、2人で手を繋いで、一緒に歩んで行ける未来。そのためにも……」

まどか「わたし…この結界に残る。そして…ほむらちゃんを救ってみせる。絶対に」

ほむら「……そんなこと、まどかにさせられるわけないでしょう?あなたは…魔法少女ではない。それに……」

ほむら「言ったはずよ?元の時間には戻れないだろう…と。まどかをそんなところには…行かせられない」

まどか「もしかすると…戻れなくなるのかもしれない。だけど…そんなの、覚悟の上だよ」

ほむら「わかっているのなら…どうして!?どうしてまどかが……!」

ほむら「私は……!まどかを守る為に戦ってきた!こんな…私の身代わりになんて…させられるわけ……!」

私なんかの為に、自分が代わりとなる。まどかにそうまで想ってもらえていることは素直に嬉しい。だが

魔女を召喚できたとは言え、魔法少女でもないまどかをここに残すわけにはいかない

それでも、2度と戻れなくなると知った上で自分が残ると言っている

まどかの説得を試みるも、私の話を聞いているのかいないのか、まどかからの返事はなかった

魔女はもうひとりの自分。そのもうひとりの自分が肉体から長期間離れるとどうなるかわからない。それもあり、力づくで外へ追いやることもできない

私は…どうすべきなのだろうか。ここまで来て…また駄目だったのだろうか。そんな思いが頭の隅に浮かぶ。だが

不意に、私の身体が何か暖かい、柔らかいものに包まれた。何が起こったのか、すぐには分からなかった

気が付くと、私はまどかに抱きしめられていた

まどか「……ほむらちゃんがわたしのために戦ってきてくれたことは…すごく嬉しい。……本当にありがとう。ほむらちゃん」

まどか「だから…今までの戦いが全部無意味になっちゃうんじゃないかって…そう思ってるんだよね」

ほむら「私…ずっとまどかを……!」

まどか「……大丈夫だよ。今までほむらちゃんのしてきたことは…絶対、ムダになんてしない」

ほむら「まど…か……」

まどか「クリームヒルトを召喚したときに…能力って言うのかな。それが頭の中に流れてきたの」

まどか「わたしの魔女、クリームヒルトには…救済の力があるの。ありとあらゆるものを救う力が」

まどか「さっきのほむらちゃんの話を聞いて…わたし、考えたの。時間と時間の間からなら、過去、現在、未来…何処にでも行けるんじゃないかなって」

まどか「……わたし、決めたよ。全ての魔女…そして、魔女を宿してしまった魔法少女を…救ってみせる。わたしと、クリームヒルトで」

ほむら「どうして…どうしてそこまで……!」

まどか「……魔法少女のことで、もう誰にも悲しい思いをしてほしくない…っていうのもあるけど」

まどか「1番は…ほむらちゃんのためなんだ」

ほむら「私の……?」

まどか「うん。ほむらちゃん、きっと今までずっと傷ついて、苦しんで…地獄を見てきたと思う。だけど……」

まどか「ここから先の未来で…ほむらちゃんには辛い思いをしてほしくない。笑っていてほしい」

まどか「だからほむらちゃんを苦しめる原因…魔女と魔法少女を何とかしてみせる」

まどか「何よりも愛しくて、世界で1番好きな人を守るために…わたしは戦う」

まどかのその言葉を聞いた瞬間、私はもう堪えることができなかった

まどかを思いきり抱きしめると、堰を切ったように涙が溢れ出した

ほむら「私も……!私もまどかが…世界で1番大好きよ……!」

ほむら「だからこそ…あなたと離れたくなんてない……!」

まどか「ほむらちゃん……」

ほむら「まどか…私も一緒に……!」

まどか「……嬉しいけど、それじゃダメなの。ほむらちゃんは…ここに残ってほしいんだ」

ほむら「そんな…どうして……!」

まどか「わたし…ほむらちゃんとこれでお別れにするつもりなんて…ない」

まどか「全ての魔女と魔法少女を救ったら…必ず、ほむらちゃんのところに帰って来るから」

まどか「他の誰でもない…今ここにいる、わたしを好きだって言ってくれたほむらちゃんのところに……」

ほむら「そんなの…無数の時間軸の中から、私を見つけ出すことなんて……」

まどか「大丈夫。……少し時間がかかるかもしれないけど…でも、絶対にほむらちゃんを見つけ出してみせる。だから……」

まどか「わたしが帰って来るまで…これ、預かっててほしいんだ」

まどかはそう言うと、髪を結んでいたリボンを解く

そして、そのリボンを私の手に握らせた

ほむら「これ…あなたの……」

まどか「ほむらちゃんは…わたしの帰って来るべき場所。ほむらちゃんがそのリボン…持っていてくれたら」

まどか「わたしは…またここに戻って来れるから」

まどか「……優しくて、暖かい…ほむらちゃんの隣に」

ワルプルギス「ア、ガ…ギィ……」

まどか「……そろそろ行かないと。ワルプルギスの夜もまた動き出してしまうから」

ほむら「どうしても…行ってしまうの……?」

まどか「……うん。わたしとほむらちゃんの未来と、魔法少女のみんなを…救ってくるよ」

ほむら「……どう足掻いても…止められないのかしら」

まどか「もう覚悟したことだから。たとえほむらちゃんがわたしに銃を向けたとしても…わたしは行くよ」

まどか「それが…わたしの覚悟。そして、ほむらちゃんへの想いでもあるから」

私に銃を向けられたとしても…まどかはこの時間を離れる覚悟をしていた

覚悟を決めたときのまどかの強さはわかっている。……もう、私では止めることは叶わないだろう

ほむら「絶対…絶対に、帰って来るの……?」

まどか「……絶対、帰って来るよ。何があったって、必ず」

ほむら「嘘じゃ…嘘じゃないわよね……?」

まどか「嘘なわけないよ。わたしがほむらちゃんに嘘を言ったこと、ある?」

ほむら「でも……!あなたと離ればなれになるなんて…私……!」

ほむら「何より…私はもうあなたを…まどかを失いたくない!!」

ほむら「お願いよ…お願いだから…どこにも行かないで……!私の隣にいて!!」

ほむら「まどかと想いが通じ合ったのに…こんな…こんなのって……!」

まどか「……ほむらちゃん」

まどかは私の名を呼ぶと、両手でそっと私の顔を包む。そしてそのまま、まどかの方へと引き寄せられた

その途中で、まどかはぽつりと一言、私へと呟いた。私の聞き間違いでなければ、まどかの呟いた言葉は……

まどか「……ほむらちゃん…愛してるよ」

まどかは確かに…私を愛していると、そう言ってくれた。私も、と言おうとしたがそれはできなかった

私が言葉を発するよりも先に、まどかは私の唇に自分の唇を重ねた

ほむら「……っ」

まどか「ん…っ……」

今私の唇に触れているもの。それは紛れもなく、まどかの唇

まどかが…私の大好きな人が、キスをしてくれている。そう思うと、頭の奥が痺れ、胸の内が熱くなる

まどかが行ってしまえば、もうこうしてキスをすることもできなくなってしまう

いつまでもこの瞬間が続いてほしい。そう願ってみるも、それは叶わない願い

それから少ししてから、まどかは重ねた唇を離した

まどか「……ほむらちゃんの想い、受け取ったから。わたし…行くね」

ほむら「待って…まだ私の全部を伝えてない!私だって、あなたを……!」

まどか「ありがとう。でも…その続きは、わたしが帰って来たとき…伝えてほしいな」

ほむら「まどか……」

まどか「……それじゃあ、お別れだね」

ほむら「嫌…嫌よ、私……!まどかと離ればなれになるなんて……!」

まどか「……これを永遠のお別れになんてさせない。必ず…帰って来るから」

まどか「わたしは…ほむらちゃんの笑顔のために戦ってくるよ」

ほむら「私の…笑顔……?」

まどか「うん。ほむらちゃん、ずっとわたしのために戦ってきてくれた。そのせいで、長い間辛い目に遭わせちゃった」

まどか「だから…今度はわたしがほむらちゃんの笑顔のために戦う。わたしがほむらちゃんを…幸せにしてみせる」

まどか「ほむらちゃんの笑顔のためなら、わたしは戦える。奇跡だって起こしてみせる」

まどか「……次、逢えたときは…わたしもほむらちゃんも、きっと…最高の笑顔で笑いあえると思うから」

まどか「ほむらちゃんのために…わたし、行くよ」

そう言ってまどかは私に背を向ける

その声はどことなく、涙声になっていたような気がした

まどか「さよならは…言わないよ。……また、ね。ほむらちゃん」

ほむら「嫌…待って……!まどか!まどかっ!!」

まどか「……ホムリリー!ほむらちゃんを…お願い!」

まどかの声に呼応し、私の中からホムリリーが姿を現す

どうしてホムリリーが?私は召喚なんてしていない…そう思った次の瞬間、私はホムリリーによって捕らえられてしまった

ホムリリーに捕らえられた私は、そのまま時空間結界の外へと引きずり出されてしまう

結界の外で解放された私は、すぐに結界の入り口へ向かって走り出した

結界の入り口がどんどん閉じていく。恐らく、クリームヒルトが制御しているのだろう

ほむら「このままじゃ……!ホムリリー、時間停止!」

ホムリリー「……」

ほむら「ホムリリー!?早く時間を止めて!早く!!」

私がいくら叫んでも、ホムリリーが時間を止めることはなかった

そうしてる間にも、結界の入り口はみるみるうちに小さくなっていく

ほむら「私……!まどかのいない世界なんて嫌よ!方法なら他に考えるわ!だから……!」

ほむら「お願い……!早くその結界から出て!まどか!!」

私は入り口の向こうにいるまどかへと言葉を投げる

私の声が聞こえたはずのまどかは私の方へと振り返る。その目には涙が溢れ、頬を濡らしていた

ほむら「まどか!行っちゃ駄目よ!行かないで!!」

まどか「ほむらちゃん……」

ほむら「あなたが…まどかがいなくなったら、私は……!」

まどか「……大丈夫だから!わたし…絶対に帰って来るから!!」

まどか「わたしとほむらちゃんの未来の幸せのために…わたし、がんばるから!!だから……!」

まどか「どこにも…違う時間になんて行かないで!!この時間で…わたしを待ってて!!」

ほむら「時間操作魔法を扱える私が言ってるのよ!行ってしまったら…もう元の時間には戻れない!!」

まどか「ほむらちゃんがいれば…絶対に帰って来れる!!ほむらちゃんの隣がわたしのいるべき場所だから!!」

まどか「……お願い、ほむらちゃん!わたしを信じて、待ってて!!」

ほむら「でも…だけど……!」

まどか「わたし…信じてるから!ほむらちゃんはどこにも行かないって!ずっとわたしを待っていてくれるって!!」

まどか「それが、わたしが好きになった…わたしが愛したほむらちゃんだから!!」

まどか「ずっと…わたし、ずっとほむらちゃんのこと、好きだから!ずっと愛してるから!!」

まどか「だから……!ほむらちゃんもわたしのこと…好きでいて!!」

ほむら「まどかが好きだから…何よりも愛しいからこそ、あなたと離れたくなんてない!!」

まどか「想いが通じ合っていれば…必ずまた逢えるから!!それまで…少しだけ、待ってて!」

まどか「ほむらちゃん、わたし…行って、くるね……!」

ほむら「駄目…待って、まどか!!」

まどかへ向かって思いきり手を伸ばす。だが、その手はまどかを捉えることができず、空を切った

何も掴めなかった…それは、完成した時空間結界がこの時間を離れ、次元の狭間へと行ってしまったということに他ならない

手を伸ばしたときの勢いのせいでバランスを崩した私は2、3歩踏み出したあと、その場に倒れ込んだ

ほむら「まど…か……!」

あと少し…目と鼻の先というところまで迫っていたのに……。まどかへと伸ばした手を見つめる

自分が…ここまで無力だとは思わなかった。自分の好きな人ひとり守ることができないなんて

私を好きになってくれた、愛してくれたまどかを守れなかった。何よりも、それが悔しかった

最高の条件でここまで来たのに…また駄目だった。自分の情けなさに歯を食いしばり、拳を地面に打ち付ける。そして

ほむら「まどか……!まどかあああぁぁぁ!!」

喉が引き裂かれんばかりの声でまどかの名を叫ぶ

私の叫びがまどかに届くことは無く、辺りに虚しく響き渡るだけだった

――――――

まどか「……」

クリームヒルト「これで…よかったの?」

まどか「……わたしだってほむらちゃんと離れたくなんて…ないよ。本当は今すぐにだって帰りたい。でも」

まどか「これは…わたしにしかできないことだから。わたしが…全てを救ってみせる」

まどか「全て救って…ほむらちゃんの下に帰る。絶対に」

まどか「……もう、覚悟はできてるから」

クリームヒルト「そう…わかった。それなら……」

まどか「……?あれ、わたし……?」

クリームヒルト「そのあなたはわたしが作り出した分身。それよりも……」

クリームヒルト「あなたの覚悟が本当なら…その書類にサインしてほしいの」

まどか「何…これ?全然読めないけど……」

クリームヒルト「わたしとの…覚悟の契約。これからあなたが成そうとしていることは…想像を絶するもの」

クリームヒルト「その覚悟があるのなら…書類にあなたのサインを」

まどか「えっと…ここの空欄でいいんだよね?……鹿目まどか、と」

クリームヒルト「……あなたの覚悟、受け取ったよ」

まどか「それじゃ…そろそろ始めよう」

クリームヒルト「うん…そうだね」

ワルプルギス「ア…ハ……」

まどか「ワルプルギスの夜…まず、あなたから救ってみせる。……力を貸してくれるよね?」

クリームヒルト「もちろんだよ。全てを救うまで、わたしはあなたの力になる」

まどか「……ありがとう。じゃあ、行こう!」

まどか「……クリームヒルト!!」

――――――

ほむら「……まどか…私は……」

私は…何の為に戦ってきたのだろうか

まどかが犠牲となる結末…それを変えたくてここまで戦ってきたはず。だが、実際は……

ふと、もうひとりの私の言葉が脳裏を過ぎる

結局、私では結末を…運命を変えることなどできないのだろうか

それでも、諦めるわけにはいかない。次の時間へ行こうと、盾に手をかける

砂時計をひっくり返そうとしたまさにそのとき、背後から私を呼ぶ声が聞こえた

さやか「ほむら!」

ほむら「みんな……」

マミ「ワルプルギスの夜は…どうなったの?」

ほむら「……消滅したわ。この時間から」

杏子「つまり…倒したのか?」

さやか「やったじゃん!……それより、まどかは?」

杏子「まどかが来てたのか?」

マミ「えぇ…暁美さん、鹿目さんは?」

ほむら「まどかは…旅立ったわ。……全てを救う為に」

さやか「旅立った…って……?」

杏子「一体…何があったんだ?」

マミ「暁美さん…教えてくれるかしら」

ほむら「……えぇ。全て話すわ。何があったのか……」

私はまどかがやって来てから起こったことを全て話した

時空間結界のこと、私の存在と引き換えにワルプルギスの夜を封印しようとしたこと

そして、時空間結界の中でまどかと話したことを

私の話を聞いた3人は呆然とした表情をしていた

さやか「それじゃ、まどかは…ほむらの代わりに、その結界に残って……?」

杏子「時の彼方に行っちまったってことなのか……」

マミ「暁美さんを助ける代わりに鹿目さんが…ごめんなさい、私たちの力が及ばないばかりに……」

ほむら「気にする必要はないわ。……それじゃ、私はそろそろ行くわ」

さやか「行くって…どこに……?」

ほむら「……次の時間によ。私は…まどかを救えなかった。だから、またやり直す。それだけよ」

杏子「ちょっと待て。お前が行っちまったら、まどかはどうなるんだ?まどかはお前を信じて旅立ったんだろうが」

マミ「鹿目さんは暁美さんを信じているのに、暁美さんは鹿目さんを信じていないの?」

ほむら「それは……」

さやか「……ほむらが今時間を戻したら…あたし、あんたを許さない」

さやか「まどかは…絶対、戻って来るって言ったんでしょ!?あんたがそれを信じないでどうすんのよ!」

ほむら「さやか……」

さやか「あんた、まどかが好きなんでしょうが!そのまどかを裏切ってもいいって言うの!?」

さやか「まどかを信じて待つ……!それが、今あんたがするべきことでしょ!?」

ほむら「私の…するべきこと……」

さやかの言葉が私の頭を殴りつける。私がここで時間を戻せば…私はまどかを裏切ることになってしまう

握りしめたまどかのリボンを見つめる。まどかは何を思って、私にこのリボンを託したのか

まどかが私を信じているのなら…私もまどかを信じよう。まどかは、絶対に帰って来る

言っていたはずだ。私たちの想いが通じ合っていれば、必ずまた逢える、と

私とまどかの想いは同じ。それだけは自信を持って言える。それならば

私はここでまどかの帰りを待とう。そして、再び巡り逢ったら…私の全てを伝えよう

それが、まどかを好きになった私のするべきこと

ほむら「……駄目ね、私は。さやかに言われるまで、気づけないなんて」

さやか「ほむら……?」

ほむら「私…待つわ。まどかが全てを救い、私の下に帰って来る…その日まで」

ほむら「例えまどかが手の届かないところへ行ってしまっても…私の気持ちは変わらない」

ほむら「まどかが好きだからこそ…まどかを信じ、まどかを想い…帰りを待つ。この時間で」

マミ「そう…よかった……」

さやか「ご、ごめん、怒鳴っちゃってさ」

ほむら「気にしないで。……ありがとう、さやか。おかげで目が覚めたわ」

杏子「……好きな人と離ればなれになっちまったからな…きっと辛くなることもあるだろうけどよ」

杏子「もし辛くなったなら…アタシたちを頼ってくれよ。……仲間で、友達なんだからな」

ほむら「……えぇ。ありがとう、杏子」

QB「やぁ。どうやらみんな生きていたみたいだね」

ほむら「インキュベーター……!」

QB「あらゆる時間から隔絶された結界を造り、そこへワルプルギスの夜を封印する。……考えたものだね」

QB「でもそのせいでまどかを契約させることができなかった。彼女のような膨大な素質の持ち主と契約しないとまとまったエネルギーにならないのに……」

ほむら「……そう」

QB「それよりも、まどかは契約しなければ何もできないはずなのに、どうして行ってしまったんだい?」

ほむら「……まどかは全てを救う為に行ったのよ。魔女と、魔法少女を……」

QB「魔女と…魔法少女を?そんなこと、できるわけが……」

ほむら「まどかの素質を忘れたの?……まどかとクリームヒルトがいれば、必ず成し遂げられるわ」

QB「……どうやらまどかは未契約で魔女の召喚を成し遂げたみたいだね。それが本当なら…並大抵の素質じゃない」

QB「全ての魔女と魔法少女を救うとなると…きっと魔法少女に関わる全てのものの形が変わってしまうだろう」

QB「僕たちにそれをどうこうする力は無いから…受け入れるしかなさそうだ」

ほむら「……」

QB「……それじゃ、僕はそろそろ行くよ。世界がどう変革するか、見届けることにしよう」

QB「それに、万一を考えて次のエネルギーの候補を探さないといけないしね」

ほむら「……宇宙の存続の為に誰かを犠牲にするような方法は…いずれ綻び、破綻するでしょうね」

QB「もしまどかが本当に魔女と魔法少女に関する全てを書き換えたとしたら…そのときは違う方法を考えることにするさ」

ほむら「まどかはやるわ。必ず」

QB「そうかい。……じゃあ、僕はこれで」

ほむら「えぇ。さようなら」

インキュベーターはそう言うと、風に溶けるように消えていった

まどかがどういう救いをもたらすのかはわからない。だけど

きっとまた、奴とも会うことになるだろう

さやか「……さて、それじゃあたしたちも帰ろうか」

マミ「そうね。……街はだいぶ被害を受けてしまったみたいだけど」

杏子「ワルプルギスの夜相手にこの程度の被害だったら十分だろ。避難所は無事だったんだ、大丈夫さ」

ほむら「少し時間はかかるだろうけど、きっと元通りになるわ。……まどかが好きだった街に」

さやか「……それよりも、早く移動した方がいいんじゃないかな。嵐が収まったから、避難してた人も戻って来るだろうし」

マミ「それもそうね…家に戻る前に1度私たちも避難所に……」

杏子「ちゃんと避難してたってことにしといた方がよさそうだな」

マミ「そういうこと。それじゃ、行きましょう」

ほむら「……」

さやか「ほむら……?」

ほむら「……ごめんなさい。先に行っててもらえるかしら」

杏子「そりゃ構わないが…なるべく早く来いよ」

ほむら「えぇ、わかってるわ」

マミ「じゃあ、先に行ってるわね」

3人は避難所へ向かって歩いて行き、やがて見えなくなった

1人その場に残った私は、嵐が過ぎ去り、晴れ渡った青空を見上げる

ほむら「まどか……」

時間の壁の向こう…時の彼方へと旅立った、想い人の名を呟く

私を信じ、私を想い、私の為にと戦いに赴いた、彼女の名を

ほむら「また…逢えるよね、まどか……」

ありとあらゆる時間軸の中から、私のいるこの時間軸を見つけ出し、戻って来る

口で言うだけなら容易いが、それは最早奇跡と呼べるものだろう

だけど、私は信じてる。まどかはきっと、ここに帰って来ると

私とまどかの心が、想いが、魂が繋がっていれば、奇跡は起きる。絶対に

ほむら「……そう言えば、これ……」

ほむら「……私に似合うかしら、まどか……」

私は付けていたカチューシャを外し、まどかのリボンを頭に結ぶ

鏡があるわけではないので今の自分の姿を見ることはできないが、何故だか妙に馴染んでいるような気がした

この姿なら、きっとまどかにすぐ見つけてもらえるはずだ

あなたを信じ、あなたを想い、あなたの帰りを待っている、私を

全てを救う為に旅立ったあなたが、いつ帰って来るかはわからない。だけど

何日、何ヶ月、何年だって…私は待ち続ける。いつまでも、この時間であなたの帰りを信じてる

それが…私を好きになってくれたあなた、私が好きになったあなたが望んでいることだから

ほむら「……さて、私もそろそろ行きましょうか」

そう言うと、私はみんなと合流するべく避難所へと向かって歩き出す

少ししてから、ふと立ち止まってまどかの消えていった場所へ振り返る

そして、伝わるはずもないまどかへの言葉を呟いた

ほむら「……私、待ってるから。ずっと…まどかを好きでいるから」

ほむら「だから…絶対、帰って来てね。あなたが大好きな、私のところに……」

『うん。約束だよ、ほむらちゃん』

ほむら「……!」

ほむら「……約束、よ。まどか」

いるはずのない、まどかの声が聞こえたような気がした

まどかと約束を交わした私は、再び歩き出した

まどかに伝えることができなかった言葉を今ここで吐き出そうとも思ったが、その言葉を飲み込む

この言葉は…まどかと再び逢えたときに、まどかの顔を見て言うことにしよう

この言葉を伝えたとき、きっと私もまどかも最高の笑顔を見せられると思うから

私とまどかの最高の笑顔と未来の為に、どんなに辛くても私は待つ

あなたに逢える、その日まで

今回はここまで
読んで下さってる方、ありがとうございます
次回で完結です

次回投下は13日夜を予定しています

今回の投下で完結です

次から本文

――――――

ほむら「……ん、ここは……」

ここは…どこだろうか。気が付くと私は真っ白な、だだっ広い部屋の中央に立っていた

辺りを少し見回すと、ここがどこかはすぐにわかった。ここは……

ほむら「私の家…ね。ワルプルギスの夜の資料を集めていた部屋……」

ワルプルギスの夜が消滅した今はもうこの部屋は使っていないはず

私はこの部屋で何をしていたのだろうと、再度辺りを見回す

ほむら「……?誰かいる……?でも…あれ、まさか……」

何もないはずの空間から、誰かが姿を現した

そこに現れた人物、それは……

まどか「……」

ほむら「まどか……?まどかなの……?」

まどか「……」

ほむら「何……?何が言いたいの?聞こえない……」

私の前に現れたまどかは何かを語りかけているようだが、私の耳には何故か何も聞こえなかった

少しして、全てを話し終えたのだろう。まどかは私を見ると、優しく微笑む

その直後、まどかの背後に時空間結界の入り口が口を開いた

まどか「……」

ほむら「あ…待って!まどか!」

ほむら「まどかっ!」

まどかへ向かって手を伸ばすが、到底届く距離ではない。近づこうにも、私の足は全く動いてくれなかった

私がもがいている間に、まどかは結界の中に入りその入り口をどんどん閉じていく。そして

結界の入り口が閉じきると同時に、私の意識もそこで途切れた

――――――

ほむら「……っ!」

さやか「お、やーっと起きた?もうホームルームも終わってるよ」

マミ「大丈夫?何だかうなされていたみたいだけど」

ほむら「……さやか…マミ…私、眠って……?」

さやか「うん、ホームルーム前からずっと」

ほむら「……そう」

さやか「それよりも、そろそろ離してあげなさいって。いつまで握ってんの」

ほむら「え…あ、ごめんなさい」

どうやら私は眠っていたらしく、自分の席で目を覚ました私をさやかとマミが心配そうに覗き込んでいた

夢の中で手を伸ばしたせいか、私の右手はマミの腕をしっかりと握っていた

ほむら「……そう言えば、どうしてマミが私たちの教室に?」

さやか「あぁ、先生に呼ばれたんだよ。あたしとほむら、それにマミさんに聞きたいことがあるって」

ほむら「先生って…早乙女先生に……?」

さやか「……うん」

ほむら「……この3人が呼ばれた…ってことは」

マミ「えぇ…きっと、ね。だから、あなたたちと一緒に向かった方がいいと思って」

さやか「さて…と。ほむらも起きたことだし、教務室行きますか」

ほむら「……わかってるとは思うけど」

マミ「誤魔化すしかないわよね…本当のことを話すわけにはいかないし……」

もし、呼び出された理由がまどかのことについてだったら…私は平静でいられるだろうか

万一のときのフォローを2人に頼み、どういう方向で話を誤魔化すかを話し合いながら教務室へと向かう

その足取りは、誰もが重いものだった

さやか「……失礼しましたー」

マミ「まぁ…当然と言えば当然よね……」

案の定、呼び出された理由はまどかのことについてだった

本当のことを話すわけにもいかないので、打ち合わせておいた内容で話を誤魔化す

さやか「ですねー…それよりも、ほむら…大丈夫?」

ほむら「え……?」

マミ「話の途中で声が震えてたし、今だって泣きそうな顔してるわよ……?」

長々とまどかの話をしていたせいか、私の脳裏にまどかの顔が浮かんでは消える

夢に見ていたことも相まって涙が零れそうになったが、何とかそれを堪えた

ほむら「……大丈夫よ。用事も済んだことだし、もう帰りましょう」

さやか「う、うん……」

――――――

さやか「さて、今日は何をー……」

さやか「……あれ。校門のとこにいるの、杏子かな」

学校の玄関を出ると、校門の前に赤髪の少女が立っているのが見える

どうやら杏子が私たちを待っていたようだ

お菓子を食べながら、時折生徒に声をかけられるも適当にあしらっているようだった

杏子は私たちに気づくと、足早にこちらへと向かって来た

杏子「もっと早く出て来てくれよ。さっきから声かけられっぱなしでウゼェったらねぇよ」

さやか「別にずっと校門前で待ってなくてもいいのに……」

杏子「そ、そりゃそうだけどよ」

さやか「あーうん、大丈夫だよ、言わなくても。早くあたしたちに会いたかっただけなんだよね」

杏子「……超ウゼェ」

マミ「はいはい。それじゃ、行きましょう」

杏子「……それでよ、今日はまた随分時間かかってたな」

さやか「あぁ…ま、ね」

杏子「……?何かあったのか?」

マミ「……鹿目さんのこと、先生に尋ねられて。それでちょっと……」

杏子「あぁ…普通の奴らからしてみりゃ、急に姿を見せなくなっちまったんだもんな……」

杏子「……あれから、どれだけ経ったっけか?」

ほむら「……少なくとも、数ヶ月…ね」

まどかがこの時間からいなくなってどれだけ経っただろうか

最初のうちこそ、1日、1週間、1ヶ月と数えていたが、2ヶ月を過ぎた頃から数えるのを諦めた

まどかがいなくなった日数を数えれば数えるだけ、辛くなってしまうだけだから

杏子「そ、か……。もう随分経っちまったんだな……」

さやか「うん……」

マミ「だけど…鹿目さんが頑張ってくれているおかげで、私たち魔法少女も、変わり果ててしまった魔女も…救われてるのよね」

ほむら「えぇ……」

まどかが旅立った少し後から、魔女が目に見えて少なくなった

魔女が減ったと言うよりは、新たな魔女が生まれなくなったと言うべきだろうか

魔女が新たに生まれなければ増えることもない。そして、あるときを境に魔女は完全に姿を消した

ただ、私たち魔法少女が戦うべき魔女は消滅したが、私たちの内にいる魔女はそのままもうひとりの自分として残ることになった

杏子「アタシたちが戦ってきた魔女がいなくなったのは助かった。……戦わずに済むようにはならなかったけどな」

マミ「そうね。鹿目さんの頑張りで、確かに魔女は消えてなくなった。だけど……」

杏子「その代わりなんだろうな、アイツらは……」

ほむら「……魔法少女というシステムがある以上、私たちが戦うべき敵の存在を世界が必要としているんじゃないかしら」

さやか「何にせよ、戦う相手が魔女からあいつらに変わったってだけ。あたしたちが戦って、倒す。そういうことだよね」

ほむら「……えぇ。まどかの帰って来るべきこの時間で好き放題させるわけないでしょう」

杏子「……で、そのまどかが帰って来るべき時間で、何好き勝手してくれてんだい?インキュベーター」

QB「……何だ、気づいていたのかい」

杏子「気がつかないワケがねぇだろ。……で、どのツラ下げて出てきやがった……?」

QB「杏子?何を怒っているんだい?」

さやか「あんたがあたしたちに何をしたか、忘れたっていうの!?」

QB「確かに君たちにあれこれしたことは事実だけど…今はまどかの力によりその全てが過去のものとなってしまったじゃないか」

QB「忘れてくれとは言わないけど、今そのことについて責められるのは心外だよ」

マミ「キュゥべえ……」

QB「それに、そのせいで今までとは比べものにならない程エネルギーの回収が困難になってしまったんだ。君たちも知ってるだろう」

杏子「テメェの都合なんか知ったことじゃ……!」

ほむら「……その辺にしておきなさい。言い合ったところで時間を無駄にするだけよ」

杏子「ほむら…だけどよ……」

ほむら「今のそいつらは割に合わないエネルギー回収を必死でこなす労働者。契約を取ってもリターンがごく僅かなんて…惨めなものね」

QB「いくら契約しても、魔女として覚醒しなくなったせいでエネルギー回収は大打撃さ。それでも、エネルギーの為に魔法少女が必要なのは変わらない」

QB「全く…精神の抑圧から外れた魔女を全て救済してしまうなんて……。さすがまどかと言うべきなんだろうけど……」

まどかの救済によって、戦うべき魔女は姿を消した

私たちの魔女が真の魔女として覚醒する前に彼女と、彼女の魔女、クリームヒルトが救済してくれる

それはつまり、インキュベーターたちがエネルギーの回収に私たちを利用することができなくなったということだ

従来の手段でエネルギーを得ることができなくなった彼らは、別の方法でごく微量のエネルギーを採取することとなった

ほむら「そう……。それで目をつけたのが『シャドウ』というわけね」

QB「シャドウ……?あぁ、確かマミがそう名付けたんだったね」

シャドウ。マミがそう名付けた、魔女に代わる存在

インキュベーターが言うに、あれは人から零れ落ちた心や感情の一部…らしい

そのシャドウが持っているほんの僅かな心と感情の欠片を、彼らは必死になって集めている

QB「シャドウが持っているのは誰かが落とした心と感情の欠片。それを倒しても無に帰すだけ」

QB「消滅するだけのものを僕たちが有効活用しているだけさ」

ほむら「えぇ。……でも気をつけなさい。お前たちが扱っているのは形は違えど、私たち人間の心と感情」

ほむら「それを悪用するようなことをしてみなさい。そのときは……」

QB「……わかってるさ。これ以上エネルギー回収が難しくなると大変だからね」

QB「それに、君たち人間がいる限りシャドウは途絶えることはない。感情がある限り、シャドウは生まれ続けるのだからね」

QB「……さて、それじゃあ僕はそろそろ行くよ。シャドウが現れたときはよろしくお願いするね」

杏子「テメェに言われなくてもわかってる。とっとと消えろ」

さやか「言っとくけど、あたしたちはあんたのために戦ってるんじゃないんだからね」

QB「……」

マミ「……また、気が向いたときでいいから…たまには遊びに来てね」

QB「……ありがとう、マミ。それじゃ、また」

インキュベーターはそう言い残し、私たちの前から消えていった

インキュベーターを見送ったあと、さやかが口を開いた

さやか「……シャドウ、か。人から零れ落ちる程の心と感情……」

杏子「不安や猜疑心、怒り、憎しみ…そういった負の感情が形を持って、人の心を貪る存在…だったな」

マミ「えぇ、そうよ」

さやか「……そう言えばマミさん、魔女がいなくなったあと、あたしたちの魔女の名前も変えようとしてませんでしたっけ?ペル…何とかって」

マミ「そう思ってたけど…やっぱり私たちのは魔女でいいかな、って……」

杏子「へぇ、そりゃまたどうしてだい?」

マミ「上手く言えないんだけど…元はキュゥべえが私たちの中に無理やり造り出した存在。だけど……」

マミ「この魔女も私の一部なんだって思ったら、ちょっとだけ愛着が湧いちゃってね」

マミ「魔女にはあまりいい思い出はないけど…それも含めて私なのだし」

杏子「さやかが言ってたっけな…いいも悪いも全部ひっくるめて自分なんだって……」

さやか「や、やめ、やめてって……」

杏子「何だ?珍しく照れてんのか?」

さやか「うっさい。……それじゃ、あたしたち魔法少女の方を変えたらどうですか?」

マミ「そうねぇ…魔法少女…自らの魔女を飼い馴らす…そうね、魔女使いというのは……」

杏子「……余計なこと言うなよ。また妙な名前つけられたらどうすんだ」

さやか「いやぁ、つい……」

そんな彼女たちの会話を聞き流しながら、通りかかった公園の方へと視線を移す

その公園の中に私の見知った人がいるのが見えた

ほむら「……ごめんなさい。私、ここで失礼するわ」

さやか「だからー…え?あ、うん。またねー、ほむら」

ほむら「えぇ。……それじゃ」

杏子「ほむらの奴、公園に何か用か?」

さやか「……あ…あれ、まどかの……」

マミ「……いつまでも見てるのも悪いし、私たちは行きましょうか」

さやか「……そうですね」

ほむら「……こんにちは」

公園に入り、ベンチに座っていた女性に声をかける

女性はこちらを見ると、笑顔で私を迎えてくれた

詢子「お、ほむらちゃんじゃないか。どうしたんだい、こんなところで」

ほむら「いえ…公園の外から詢子さんが見えたので……」

詢子「そうか…さやかちゃんにマミちゃん、杏子ちゃんは元気にしてるかい?」

ほむら「……はい。さっきもしょうもない話で盛り上がってました」

詢子「子供はそれでいいのさ。友達とどうでもいいくだらない話で盛り上がって、笑い合って……」

ほむら「そう…ですね……」

詢子「……さやかちゃんたちのことより、アタシはほむらちゃんのことが心配だよ」

ほむら「私の……?」

詢子「今のほむらちゃんは…何だか無気力というか、生気がないというか…そんな感じがするんだ」

詢子「ほむらちゃん…最後に笑ったの、覚えてるか?」

ほむら「……」

最後に笑ったのは…いつだろう。もう、随分長い間笑っていないような気がする

まどかは必ず帰って来る。そう信じていることは事実。だけど……

まどかに会えないのが辛い。まどかの声が聞けないのが苦しい。まどかの笑顔が見れないのが耐えられない

まどかのいないこの世界が、全て灰色に見えてしまっていた

その灰色の世界では…笑うということができなかった

詢子「……まどかがあんなことになっちまったんだ…そうなるのも仕方ないと思うけど……」

ほむら「……ごめんなさい。私が弱いせいで、まどかを……」

詢子「……これはあの子がほむらちゃんを想ってしたことだ。ほむらちゃんが謝ることはないよ」

詢子「それに、アタシたちも信じてるからさ。……まどかが帰って来るのを」

まどかが旅立った後、私たちはまどかのご両親に全てを説明した

魔法少女と魔女のこと。そして、まどかが全てを救う為に旅立ったことを……

詢子「学校の方にも、まどかが帰って来るまでは何とか誤魔化すって決めたからね。大丈夫だよ」

ほむら「帰って…来ますよね……」

詢子「……当たり前じゃないか。まどかは好きな相手を残したままにするほど薄情な子じゃないよ」

ほむら「そう…ですよね……」

詢子「あぁ。ほむらちゃんとまどかのこと…聞かされたときはやっぱり驚いたけどさ」

詢子「今はまどかの相手はほむらちゃんしかいないって思ってるよ」

詢子「もう何度も聞かされたと思うけど…ほむらちゃんとまどかが想い合っていれば、必ずまた逢えるさ」

ほむら「……ありがとうございます」

詢子「……話し相手くらいにはなってあげられると思うから、辛くなったらいつでも来ていいんだからね」

ほむら「……はい」

そうしてしばらく詢子さんと話をしていると、聞き覚えのある男性の声が聞こえた

声のした方へ視線を向けると、まどかのお父さん…知久さんと、まどかの弟…タツヤくんが私たちの方へと向かって来ていた

知久「暁美さん、こんにちは」

ほむら「こんにちは……」

挨拶をすると同時に、タツヤくんにぐいぐいと手を引っ張られる

どうやら、どこかに連れて行きたいようだ

手を引かれるがままについて行くと、先ほどまで遊んでいたと思しき場所へとやって来た

ほむら「どうしたの……?私と遊びたい…のかしら」

タツヤ「まろか!まろか!」

ほむら「え……?」

そう言って、タツヤくんはしきりに地面を指差す

そこには、1人の少女の絵が描かれていた。それは、紛れもなくまどかの絵だった

ほむら「これを…私に見せる為に……?」

タツヤ「ほむ、げんき、らして!」

ほむら「……うん。ありがとう」

どうやら私はタツヤくんにも心配されてしまっていたようだ

幼いタツヤくんなりに、私を元気づける方法を考え、この絵を見せてくれたのだろう

私は絵を見せてくれたお礼を言って、頭を優しく撫でる

そのお返しにと、屈託のない笑顔を私に向けてくれた

詢子「タツヤー、そろそろ帰るぞー」

タツヤ「あー、ママー!」

詢子「おー、これはまどかか?タツヤは絵が上手いなー!」

タツヤ「えへー」

詢子「さて、と。それじゃ、アタシたちはこれで帰るよ。ほむらちゃんはどうするんだい?」

ほむら「私は…もう少しここにいます」

詢子「そうか。……ほむらちゃんならいつでも歓迎するから、家にも遊びに来ておくれよ」

詢子「きっと…まどかも喜んでくれると思うからね」

ほむら「……はい。ありがとうございます」

詢子「それじゃ、またね」

帰って行く詢子さんたちを見送り、1人その場に残った私はタツヤくんの描いてくれたまどかの絵をじっと見つめる

近くに木の棒が落ちているのを見つけると、それを拾い上げてまどかの絵の隣にもう1人、人物を書き足した

まどかの絵と手を繋いでいる、私自身の絵を

ほむら「……こんな感じかしら」

あまり絵を描いたりしないせいか、やたらと時間がかかってしまった

公園内にまばらにいた人たちも、今はもう誰もいなくなってしまったようだ

地面に描かれた私とまどかの絵を見ているだけなのに、何故か涙がこみ上げてきてしまう

ほむら「……ねぇ、まどか……。私、あなたの帰りを待つって…そう決めたわ。だけど……」

ほむら「私…もう耐えられない……!あなたのいないこの世界に……!」

私はその場に膝をついて、まどかの絵に向かって胸の内を吐き出した

まどかが旅立ったあの日から、1日たりとまどかを想わなかった日など無い

まどかに逢いたい。1日も早く、逢いたい

決意とは裏腹に、まどかに逢いたい想いが日に日に大きく膨らんでいく

結んでいたまどかのリボンが解け、はらりと地面に落ちる

ほむら「まどか…いつ帰って来てくれるの……?早く…早く帰って来てよ…まどか……!」

溢れ出した涙は頬を伝って流れていく。そして

ぽたり、と涙のひとしずくがまどかの絵を濡らした

ほむら「……ッ!」

私の涙が落ちた瞬間、地面に魔法陣と思しき紋様が浮かび上がった

円と線で描かれた魔法陣。その中心部は、どうやらこの私とまどかの絵のようだ

私は解けて落ちたリボンを拾い上げ、魔法陣の上から退避すると魔法少女に変身し、盾から魔女召喚用の弾の入ってない銃を取り出す

この魔法陣はシャドウによるものなのだろうか。正体が掴めず、成り行きを見守る

円と線が繋がり、魔法陣が組みあがっていく。そして、魔法陣が完成するとその中心部が眩い光を放った

あまりの眩しさに私は目を覆った。それからしばらくして、次第にその光は弱くなっていき、やがて完全に消え去った

ほむら「……シャドウの仕業というわけでもなさそうね。一体何が……」

先ほどまで誰もいなかったはずの魔法陣の中心に、誰かが立っていた

現れた人物の姿を見た瞬間、私は大きく目を見開き、息をのむ

握っていた銃が手をすり抜け、カシャンと地面に落ちた

まさか…本当にそうなのだろうか。私は目の前の少女へ恐る恐る声をかける

ほむら「……まど、か……?」

私が名前を呼んだ少女はゆっくりと目を開く

その桃色の瞳で私を真っ直ぐに見つめ、問いかけに答えた

まどか「……うん」

ほむら「本当に…まどかなの……?」

まどか「……うん」

ほむら「あなたは…私が大好きな…まどか……?」

まどか「……うん。わたしは、ほむらちゃんのことが…大好きなわたし」

ほむあ「じゃあ…本当に、あなたは……!」

まどか「……うん。ただいま、ほむらちゃん。ずっと待たせちゃって…ごめんね」

ほむら「まどか…まどかっ!!」

まどかが言葉を言い終わるよりも早く、私はまどかへと走り出す

そしてそのまま、まどかの胸に飛び込んで彼女を思いきり抱きしめた

ほむら「まどか…まどかぁ……!」

まどか「ほむら…ちゃん……」

ほむら「馬鹿…ばかぁっ……!私が…どんな思いでいたか……!」

ほむら「私……!あなたに逢いたかった……!声が聞きたかった……!笑顔が見たかった……!」

ほむら「何より…寂しかった……!寂しかったよ…まどか……!」

まどかの柔らかい感触が、温もりが、優しい匂いが、まどかの全てが私を包んでくれる

間違えるはずがない。私が愛した、あのまどかだ

まどかをきつく抱きしめ、溢れ出した涙が次から次へと流れていく

膨れに膨れ上がったまどかへの想いを、まどかは何も言わずただじっと聞いていてくれた

だが、まどかも我慢ができなくなったのか私へ向けてその胸の内を吐き出した

まどか「……わたしだって…寂しかった……!ほむらちゃんに逢いたかった!」

まどか「ほむらちゃんのためだって思って…がんばった……!でも……!」

まどか「このまま、ただ魔女と魔法少女を救うだけの存在になっちゃうような気がして…怖かった……!」

まどか「もう2度とほむらちゃんに逢えなくなるような気がして…辛かった……!」

まどか「それでも…こうしてまた、ほむらちゃんの下に帰って来れた……!だから……!」

まどか「わたしは…もうどこにも行かない!!ずっと…ずっと、ほむらちゃんの隣にいるよ!!」

まどかは目から大粒の涙を零しながら私の背中へと手を回し、本当の想いを打ち明ける

私だけじゃない。まどかも私と同じ想いだったなんて……

そのまましばらく、私とまどかは涙を流しながらお互いに抱きしめあった

――――――

ほむら「……まどか、落ち着いた?」

まどか「うん。ほむらちゃんも、もう大丈夫みたいだね」

落ち着きを取り戻した私とまどかは近くにあったベンチに並んで座る

思いきり泣いたせいか、まどかは真っ赤な目をしていた。きっと私も同じことになっているだろう

ほむら「えぇ。まどかを前にしたら、何だかあなたへの想いが溢れてきて……」

ほむら「本当は笑顔で迎えようって思ってたのに…何だか締まらない迎え方になってしまったわね」

まどか「そんなことないよ。ほむらちゃんに思いっきり抱きしめてもらって…嬉しかったから」

ほむら「そう…ならよかった」

まどか「……それにしても驚いたよ。戻って来たと思ったら、目の前にほむらちゃんがいるんだもん」

ほむら「それは私も同じよ。まさかまどかが目の前に現れるなんて、夢にも思わなかった」

まどか「……本当はね、少しだけ諦めてたんだ。元の時間に帰れないんじゃないかって」

ほむら「え……?」

まどか「でもね…ほむらちゃんがわたしを呼ぶ声が聞こえたような気がしたの」

まどか「その声を追いかけてきたら…ここに辿り着いたんだ」

ほむら「きっと…想いが通じ合っていたからだと思うわ。心と、想いと、魂が繋がっていたからこそ…奇跡が起きたんじゃないかしら」

まどか「わたし…言ってたっけ。想いが通じ合っていれば、また逢えるって」

ほむら「えぇ、言ってたわね。私もまどかも同じ想いだった。……私は、それが何より嬉しいわ」

まどか「……うん。わたしも嬉しいよ」

ほむら「……そう言えばまどか。あなた、契約無しで魔女を召喚していたわね」

まどか「うん。結局何が理由かは今もわからないままだけど。……それがどうかしたの?」

ほむら「私たちは今、シャドウと戦ってるの。それで……」

まどか「ほむらちゃん、シャドウって……?」

ほむら「え?……あぁ、マミがそう勝手に名付けたんだけど…魔女の代わりに現れた奴らのことよ。どういうわけか、仮面をつけているの」

ほむら「キュゥべえの話だと、私たち人間から零れ落ちた心や感情の欠片がシャドウとなるみたい」

まどか「わたしがいない間にそんなことが……」

ほむら「きっとまどかが魔女を救済して世界が変わったからかしら。私たち人間の感情の行き先が魔女からシャドウに変わった…のだと思うわ」

まどか「そっか…魔女を救えば全部うまくいくと思ったんだけどなぁ」

ほむら「まどかのおかげで私たちは十分に救われたわ。……それよりも、シャドウは魔女を召喚できる者を襲うから、まどかも……」

まどか「……わたしにはもう…魔女を召喚する力は残ってないよ」

ほむら「え?それってどういう……」

まどか「ほむらちゃんの時空間結界に魔女…魔法少女の敵として存在する魔女が生まれる前に救済する術式を組み込んできたの」

まどか「その術式に…クリームヒルトを通して、わたしの素質と因果、クリームヒルトの能力……」

まどか「全部置いてきたから。だからきっと今のわたしには…キュゥべえも見えなくなってると思う」

ほむら「そう…でも私としてはその方が嬉しいわ。……あなたをもう、戦わせなくて済むから」

まどか「ほむらちゃん……」

ほむら「私…1度はあなたを守り抜くことができなかった。でも、これからは…ずっと私があなたを守る。何があっても」

まどか「……うん」

まどか「ねぇ…ほむらちゃん。今のわたしを見て…どう、かな」

ほむら「……最初、あなたを一目見たときから気になってたんだけど」

ほむら「まどか…その髪……」

まどか「うん…向こうにいる間は何も食べたりする必要はなかったんだけど、何でか髪だけは伸びちゃって」

以前はそれほどでもなかったまどかの髪。今は私と同じか、それ以上にまで長く伸びていた

こんな髪型のまどかは初めて見るせいか、その姿に少しだけ見とれてしまった

まどか「今までのも好きだったけど…長いままにしておこうかな……」

ほむら「あら、どうして?」

まどか「ほむらちゃんとおそろいだなって、そう思って…やっぱり変かな」

ほむら「……全然変じゃない、素敵よ。でも……」

ほむら「……このリボンを結んでいるあなたの方が…もっと素敵」

私はずっと預かっていたまどかのリボンでその長髪を結ぶ

以前と同じ結び方にしてあげたが、髪が伸びたせいか随分と印象が変わっていた

まどか「ほむらちゃん…これ……」

ほむら「あなたから預かったリボン…確かに返したわ」

まどか「ずっと…持っててくれたんだ……」

ほむら「当然じゃない。まどかに預かってほしいと頼まれたし、それに……」

ほむら「私がこのリボンを持っていれば、また私のところに帰って来れるって…まどかの言葉を信じてたから」

まどか「ほむらちゃん…ありがとう」

ほむら「リボンもそうだけど…私、あなたにまだ伝えてないことがあるの」

まどか「え?」

ほむら「あの日…言ったでしょう?まだ私の全てを伝えてないって」

まどか「あ…うん。帰って来たら伝えてほしいって言ったんだよね」

ずっと…ずっとまどかに伝えたかった、私の想い、私の全て

今日まで伝えられずにいたこの言葉。もう伝えられないのではないかと思ったこともあった

だが、それももう終わり。まどかは目の前にいる。私のところに帰って来てくれたのだから

それなら、もう堪える必要なんてない。私はまどかをそっと抱き寄せると、私の全てをまどかへ伝える

ほむら「私…ずっとまどかに逢えなくて…まどかに伝えたいこと、たくさんあるの」

ほむら「でも、それだと何が1番伝えたかったことかわからなくなるわ。だから、一言だけ……」

ほむら「……まどか、私…私ね……」






ほむら「あなたを愛してる。誰よりも、何よりも……」



まどか「……ありがとう。ほむらちゃんからその言葉、言ってもらえたってだけで……」

まどか「がんばってきてよかったって…そう思えるよ」

ほむら「まどか……」

まどか「わたしも…ほむらちゃんを愛してるよ。誰よりも、何よりも」

まどか「だから…えっと、その…あとはほむらちゃんから…お願い……」

まどかはそう言うと、私の眼前で目を閉じる

これは…つまり、そういうことなのだろう。まどかが私をこんなにも求めていてくれるなんて

私は辺りを見回し、人がいないのを確認してから

まどかの唇に、自分の唇を落とした

ほむら「ん……」

まどか「……」

私の唇に、まどかの柔らかい唇が触れている。そう思うと、こうしているのがとても気持ちいい

何より、私の心も、魂も、幸せでいっぱいになっていくような、そんな気がした

前回のように…まどかがしてくれるのも悪くはない。でも、やっぱり私がまどかにしてあげたい

その方がきっと…私もまどかも幸せだと思うから

ほむら「……ふぅ…これでよかったのかしら……?」

まどか「……うん。あのね、わたし…1度はほむらちゃんに逢えないかもって、諦めかけてた」

まどか「だけどこうして、ほむらちゃんの下に帰って来て…ほむらちゃんにキスをしてもらって……」

まどか「わたし…今、最高に幸せだよ」

ほむら「私だって…あなたにもう2度と逢えないんじゃないかって、そう思って……」

ほむら「あなたが旅立った直後…時間を戻そうともしてしまった……」

ほむら「でも…もう逢えないかもと思ってたあなたが帰って来てくれて…あなたに触れて、あなたにキスができた」

ほむら「今まで感じたことないくらい…幸せよ」

まどか「……今まで辛い目に遭わせちゃった分…今度はわたしが、ほむらちゃんを幸せにしてみせるよ」

ほむら「それは…少し違うわ。どっちが幸せにするとかじゃない。2人で一緒に幸せになる。……でしょう?」

まどか「そっか…そうだね。ほむらちゃんと一緒に幸せになった方が、もっと幸せだもんね」

ほむら「……えぇ、そうね」

今日まで逢えなかった空白を埋めるようにまどかと話をしていたが、随分と長い間話をしてしまっていたようだ

いつの間にか辺りは真っ暗になり、空には月が浮かんでいた

正直私もまだ全然話し足りないのだが、これ以上話していると中学生が出歩くには適さない時間になってしまう

それにもう、話そうと思えばいつでも話せるのだから。私は話を切り上げ、帰ることを提案する

ほむら「……さて、そろそろ帰りましょうか」

まどか「帰る…って……」

ほむら「勿論、あなたの家によ。さぁ、行きましょう」

まどか「う、うん…でも、みんな怒ってる…よね。急にいなくなったりしちゃったし……」

ほむら「まどかに起こったことは私が説明しておいたわ。それに……」

ほむら「みんな、あなたの帰りを待ち望んでいるわ。……帰りましょう、まどか」

まどか「……うん。じゃあ…帰ろっか」

私とまどかは話し込んでいたベンチから立ち上がる。その直後、まどかは私の手を取り、指を絡めて手を握った

まどかのその行動に少し驚いた私はまどかの方へと視線を向ける

そんな私を余所に、まどかは私へ言葉を向けた

まどか「ねぇ、ほむらちゃん」

ほむら「何?」

まどか「ほむらちゃん…わたしのこと、ずっと好きでいてくれて…ありがとう」

まどか「ほむらちゃんがわたしを好きでいてくれたから…こうしてほむらちゃんの隣で、手を繋いでいられるんだと…そう思うから」

ほむら「まどか……」

まどか「わたしね…ほむらちゃんのことが、世界で1番…大好きだよ」

その言葉を聞いた瞬間、まどかの私への想いが私を包んでくれたような気がした

まどかの方へ振り向くと、私の隣で笑顔を見せてくれていた

その笑顔は今まで見たことが無い程に素敵で

最高の笑顔だった

ほむら「……まさかまどかにそうまで言ってもらえるなんてね」

まどか「ほむらちゃんはわたしのこと、どう思ってる?」

ほむら「そんなの、わかりきってることじゃない」

まどか「気持ちは言葉にしなきゃ伝わらないんだよ。ほむらちゃん、教えて?」

ほむら「……そうね。じゃあ、言わせてもらうわ」

ほむら「私もまどかが…世界で1番、大好き」

まどかがいない間、私はずっと笑うことができなかった。私は、上手く笑えるだろうか

だけど、私が待ち望み、恋い焦がれたまどかが私の隣にいる。私にとって、それが何よりの幸せだった

最高の幸せを感じている今、笑うなというのは無理な話だ。自然と頬が緩み、笑みが浮かぶ。そして

今、まどかに向けている笑顔。それは、今までに見せたことのない、最高の笑顔だった

ほむら「じゃあまどか、帰りましょう。……あなたの家へ」

まどか「うん。……ほむらちゃん、これからはずっと一緒だよ」

ほむら「……えぇ。ずっと…一緒よ」

そう言って私とまどかは手を握ったまま、まどかの家へと向かって歩き出す

まどかが無事、私の下に帰って来てくれた。これで、私の戦いにも幕が下りる

そして、今日ここから新たな戦いが幕を開ける。まどかを一生守って行くという、新たな私の戦いが

私が心から愛し、私を心から愛してくれている、あなたを守る為の戦い。あなたが隣で笑っていられるように、私は戦う

私とまどかが勝ち取ったこの未来。2人の想いが通じ合っていたからこそ手繰り寄せることのできた、奇跡の未来

もし、何かがひとつでも欠けていたらこの結末に辿り着くことは無かっただろう

まどか…私を好きになってくれて、ありがとう

あなたが私を好きになってくれなかったら、きっと私はまだあの1ヶ月を彷徨っていただろうから

1度は離してしまったこの手。だけど再び繋ぐことができた今、この手は2度と離さない

私の隣にあなたがいて、あなたの隣に私がいる。それが、2人が想い描く最高の幸せだと…そう思うから

私とまどかの未来はここから始まる。どんな形の未来が待っているのか、私にもわからない

でも、まどかと一緒なら恐れることは何もない

鈍色のような明日でも、絶望の未来でもない…私とまどか、2人の最高の未来へ

ねぇ、まどか……。私、今…とても幸せ

だって、またあなたに逢えた。触れられた。声が聞けた。抱きしめられた。キスができた

何より、あなたとこんなにも愛しあえているのだから

まどか…私の隣に帰って来てくれて、ありがとう

おかえりなさい、まどか……






Fin



これで完結です
最後まで読んでいただき、ありがとうございました

読んで下さった方、感想頂けた方、本当にありがとうございました
今回まどほむが甘かった気がする…次回はもっと頑張ります…

・次回予告

まどか「最悪のクリスマスイブ、最高のクリスマス」(仮) 季節ネタ

ほむら「まどかと過ごす1日」 短編

ほむら「あなたを守りたい私と私を守りたいあなた」 長編


叛逆公開したし叛逆ネタのも書きたいけどあんなんどう調理したらいいのか…
もう何作か長編は本編再構成になりそう…

また見かけましたらよろしくお願いします

   \だれも,いない内に/
        (゚д゚ )
        (| y |)

カチャ    \・・・。/
     ;y=ー( ゚д゚)
     \/| y |)

   \オルフェウスと見せかけてタナトス!/
     ;y=ー( ゚д゚)
     \/| y |)

     ;y=ー( ゚д゚)・∵. ターン
     \/| y |)

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