少女「私を食べてくれない?」青年「いいよ!」(116)

町中──

青年(あ~あ、つい金貸しちまった)

青年(まぁアイツはきちんと返すヤツだからまだいいけど)

青年(頼まれると、イヤっていえないんだよなぁ……)

青年(というか、ほとんど反射で“いいよ”っていってる時もあるし)

青年(この癖治さないとなぁ……)

青年は一人の少女を見つけた。
しきりに町を歩く人に話しかけているが、誰にも相手にされていない。

青年(なんかマッチ売りの少女みたいな光景だな)

青年(どれ、俺が少し相手をしてやるか)スタスタ

少女「あのぉ」

青年「なんだい?」

少女「私を食べてくれない?」

青年「いいよ!」

少女「ホント!?」

青年(あれ、もしかして俺、やっちゃった……?)

少女「ありがとう、嬉しい!」

青年「ちょっと待ってくれ、食べるってどういう意味──」

少女「じゃあさっそくあなたの家に行きましょ」グイッ

青年「いやだから、ちょっと」

少女「ほら早く、早く!」グイグイ

青年(なんつう強引な子だ!)

青年のアパートに到着した。

少女「へぇ、ここが私の調理場か」

少女「ちょっと汚いけど、まぁいいかな」

青年「え~と、ごめん。君はいったいなんなんだ?」

青年「私を食べて、ってのはどういう意味だ?」

少女「文字通りの意味だってば」

青年「つまり俺は君を調理して、食べればいいってことか?」

少女「うん!」

青年(いまいち理解できないけど、子供の間でこういう遊びが流行ってんのかな)

青年(まぁいい、少し付き合ってやれば満足するだろ)

青年は手と口で、少女を切ったり焼いたりする振りを始めた。

青年「トントントン」

青年「ジュ~ジュ~」

青年「サッサッサ~」

青年「オリーブオイルをかけて、と……ドバドバ」

青年「はい、出来あがり~……とこんなもんでどうだい?」

少女「ふふ、今のは予行演習?」

青年「え?」

少女「じゃあ次はちゃんと私を調理してね」

青年(お、おい……今ので満足してくれよ……)

青年「あ、あのぉ……」

青年「調理するってのは、つまり……君を包丁で切ったり焼いたり、ってこと……?」

少女「もちろん!」

少女「揚げてもいいし、煮てもいいし、蒸してくれてもいいよ」

少女「楽しみ~」

青年「おいおい待ってくれ。そんなことしたら、君は……死ぬぞ」

少女「うん」

青年「うん、じゃないだろ! 死んじまうんだぞ!」

少女「だって私、そのために生まれてきたんだもの」

青年「そのために生まれて……って誰の子だよ、君は!?」

少女「料理評論家の××よ」

青年「!」

青年(××っていったら、有名な美食家じゃないか!)

青年(そういやついこの間、死んだってニュースでやってたな)

青年(なんでも臨終の言葉が“一番食べたいものが食べられなかった”だったらしく)

青年(まだ食べ足りないとは、さすがは希代の美食家、とかいわれてたっけ……)

青年(独身っぽかったが、子供がいたんだなぁ)

青年(けっこう強引な性格してたし、この子の強引さもきっと遺伝かな……?)

青年「………」

青年(あいつの“一番食べたいもの”って、まさか──!)チラッ

少女「?」

青年「つまり君は、××に食べてもらうために生まれて、育てられたってことか?」

少女「そだよ」

少女「お父さんいつもいってたっけ」

少女「“私はこの世のあらゆる食材を堪能したが、人間だけは食べたことがない”」

少女「“お前は私の美食家としての最後のピースを埋めるために、生まれたんだよ”って」

青年「………」

少女「人をさらうってことも考えたらしいんだけど」

少女「リスクが大きいし、どうせなら自分で最高の食材を育てたいってことで」

少女「どこかの女の人にお金を払って私を産ませたみたい」

少女「味がよくなるかもっていっぱい運動や勉強をさせられたし」

少女「……でもお父さん死んじゃったから、私を食べてくれる人がいなくなって」

少女「私、家から逃げて、自分を食べてくれる人を探してたの」

青年(もうわけ分からん……)

青年(なんか、ドラえもんの作者が描いた、ある短編漫画を思い出してしまった)

青年(でも、あれはあくまで広い宇宙には……って話だが)

青年(××と少女は、紛れもなく俺と同じ種族だ)

青年(人間を殺して食う、のはいけないことだという法の下で生活している)

青年(そういう人もいるんだね、じゃ話は済まされない)

青年(美食家がやっていたことは、れっきとした犯罪だ)

青年(もし俺がこの子を食べて逮捕されたら、親は泣くだろうな)

青年(というか、ドン引きだろう……)

青年(面会とかにも来ないんじゃなかろうか)

青年(まちがいなく犯罪史に残るよ、俺の名前)

青年(それに……食材にされるために生まれてきたこの子の価値観も哀れすぎる)

青年(なんとしても、説得しなきゃならない……!)

青年(さっき勉強してたといってたし、心をこめて説得すれば分かってくれるはず!)

青年「えぇと、だ」

青年「結論からいうと、俺は君を食べることはできない」

少女「えっ?」

青年「なぜなら食べてしまったら、君は死んでしまうからだ」

青年「死ぬというのはとても悲しいことなんだよ」

少女「え、でも私は食べてもいいっていってるよ?」

少女「むしろ食べてもらえない方が悲しいんだけど」

青年「まぁ、そうかもしれないんだけど……」

青年「きっと包丁で切られたりしたら、痛いぞ~苦しいぞ~」

少女「もちろん覚悟してるよ」

青年「い、いや覚悟したって痛いもんは痛いだろう……」

少女「でも私、食べてもらえるためならどんな苦痛だって我慢してみせる!」

少女「安心して!」

青年(安心できるかよ……)

青年(心に訴えるのは無理そうだな……。じゃあちょっと角度を変えてみるか)

青年「この国には法律というものがあってだね」

青年「人を殺す、ましてや食べるなんてのは言語道断なわけだ」

少女「ふぅん」

少女「でも今さらだよね」

少女「私をここまで育てるまでに、お父さんは山ほど法律違反してるだろうし」

青年「まぁ、たしかに……」

少女「罪が法に照らし合わされる頃には、私はもう胃袋に入ってるんだしさ」

少女「つまり、あとはあなた次第ってこと」

青年「………」

青年「俺は、犯罪者にはなりたくない……」

少女「そっか」

少女「じゃあ、また私を食べてくれる人を探しに行くね」スッ

青年「!」

少女「相手してくれて、ありがと」

青年「ちょ、ちょっと待て!」

青年「はっきりいっておこうか。この国には君を食べてくれる人なんていないぞ」

青年「さっきみたいに町で勧誘していたところで、いずれ誰かに通報されて」

青年「警察に補導されて……ってのがオチだ」

青年「だからもう、自分を食べてもらおうなんてマネはやめろ!」

少女「……そうなんだ」

少女「私を食べてくれる人なんて、いないんだ……」

青年「そうだよ! だから──」

少女「だったら……死ぬ」

青年「!?」

少女「私を食べてもらうことは、私にとって全てだった」

少女「でもそれが叶わない夢だと分かった以上、もう生きる意味はないよね」

少女「じゃあね、お兄さん……」スッ

青年「お、おいっ!」

青年「わ、分かった! 食べる!」

青年「君を食べてやるから、少し落ち着けって!」

少女「ホント!? 今度はウソじゃないよね!?」

青年「あ……」

青年(また勢いで適当なことを口走ってしまった……)

少女「今、いったよね? 食べてくれるっていったよね?」

青年「ああ、いった、ね……」

少女「よかったぁ~……やっぱりお兄さんを選んだ私は正しかった!」

青年(俺のバカ……)

少女「──で、焼くの? 煮るの? 蒸すの? 揚げるの? 炒めるの?」

少女「私も自分がどんな味だか知らないから、あまり大きいこといえないけど」

少女「きっと美味しいから!」

青年「……まぁ、待て」

青年「君ほどの食材、どう調理するかなんて簡単には決められないさ」

青年「だから三日間、猶予をくれないか?」

青年「その三日で、君をどう調理するか考えさせてもらうよ」

青年「それまではここで寝泊まりしていいから」

少女「うん、分かった!」

青年(あっちゃあ……どうせなら一週間とか一ヶ月とか長めにいっとけよ……)

少女「あぁ~ワクワクしてきた」

少女「お兄さん料理は下手そうだけど、食べてくれるだけで嬉しいよ」

少女「ありがとう、お兄さん」

青年「ハ、ハハ……シェフになったつもりで、頑張るよ……」

青年(どうする……)

青年(どうする──)

青年(どうする!?)

青年(もしこの問題に正解があるとしたなら──)

青年(『町で少女を無視する』だったが、はっきりいってもう手遅れだ)

青年(──となると、やっぱり警察か?)

青年(でも、こんな価値観の子を警察に突き出したら)

青年(警官の目を盗んで自殺しかねんぞ……)

青年(かといって食べるってのはなぁ……)

青年(どうしよ、マジで……)

青年(つうか、なんで俺、人を食べるとか食べないとか本気で考えてるんだろ)

青年(もう、俺もおかしくなりつつあるのかな……)

夜になった。

青年「じゃあ寝ようか」

少女「うん、おやすみなさい」

少女「すぅ……」スヤスヤ

青年(あどけない寝顔だ……)

青年(俺、本当にこの子を食べられるのか……?)

青年(食べられるわけないよなぁ……)

翌日、青年はファミレスでバイトをしていた。

青年(いつもはバイトなんかかったるいけど)

青年(今日に限っては、なんか日常に戻れたって感じでほっとするな……)

青年(今俺の家には、自分を食べられたがってる女の子がいるなんて信じられないよ)

青年(さてと、このハンバーグを焼いて……)

青年「!?」

青年の目には、グリルで焼かれているハンバーグが、あの少女に見えた。

青年「うっ……」

青年「うぇっ……!」ガクッ

バイトA「おいどうした、大丈夫か!?」

バイトB「しっかりしろ!」

青年「だ、大丈夫だって……うぅっ!」クラッ

バイトA「大丈夫じゃねえだろ、顔真っ青だぞ!」

青年「わ、悪い……ちょっと休むわ」

バイトA「おお、無理すんなよ」

青年(やべぇ、本当におかしくなったのかも……)

結局、青年はバイトを早退した。

青年「はぁ……」

青年(肉はおろか、野菜やデザートまであの子に見えてしまうとは……)

青年(やばいなぁ、こんなことが続くようじゃあそこ辞めなきゃならないぞ)

青年(せっかく仕事に慣れてきたとこだったのに……)

青年(なにか、いいリラックスの方法はないかなぁ)

青年(ちょっと本屋にでも寄って調べてみるか)

青年(リラックスの本とか、どこら辺にあるんだろ)キョロキョロ

青年(……あ、あれは料理の本だ)

青年(なんでこんな時に限って、料理の本なんか見つけちまうんだよ)

青年(いや、ここはあえて料理の本を眺めて克服した方がいいかもしれない)

青年(よし、見よう)ペラッ

青年「………」

本をめくると、そこにはさまざまに調理された少女の写真が並んでいた。

青年「うっ……」

青年「うわあぁぁぁぁっ!」

青年は本屋を飛び出した。

青年(料理が例外なくあの少女に見えてくる……)

青年(もう俺の中で、少女は食い物になってしまったのか?)

青年(死ぬのは悲しいだの、法がどうの、犯罪がどうのといいつつ、心の奥底では──)

青年(俺はあの少女を食べようとしているのか?)

青年(食べるのか?)

青年(食べられるのか?)

青年(食べたいのか?)

青年(食べちまうのか?)

青年(どうやって?)

青年(洗って? 包丁で切って? よく揉んで? フライパンで焼いて?)

青年(鍋で煮て? 油で揚げて? 塩コショウで味付けして? 皿に盛り付けて?)

青年(どんな味がするんだ?)

青年(人肉はマズイっていうけど、美食家に育てられたくらいだしあの子は美味いのか?)

青年(嗚呼……)

青年(誰か……)

青年(誰か俺を止めてくれ……)

青年はアパートに戻った。

少女「お帰りなさい!」

青年「いい子にしてたか?」

少女「うん。ところでお兄さんって、なんのお仕事してるの?」

青年「ファミレスでバイトしてるんだよ」

少女「へぇ~、つまり調理だってやるってことだよね」

少女「やっぱり私の目に狂いはなかったみたい!」

少女「二日後が楽しみだわ~」

青年「ハハ……そうだな……」

青年(俺はなにをやっているんだ)

青年(本当にこの子を食いたくないのなら、力ずくで追い出すべきだ)

青年(警察にだって“自殺しかねないのできちんと見張ってて下さい”っていえばいい)

青年(それをやらないってことは、やっぱり俺は食べたがってるのか?)

青年(なぜ?)

青年(好奇心? 義務感? それとも元々こんな性癖を持ってたのか?)

青年(ああ、なんかもう、どうでもよくなってきた……)

それからの二日間を、青年はまるで夢遊病患者のように過ごした。

青年(結局なんの解決策も打ち出せてないけど)

青年(というか、解決する気が失せてきた)

青年(食うのか? 食っちまうのか?)

青年(結局俺ってそんなヤツだったのか?)

青年(そんなヤツだったのかもしれないな、きっと)

そんな青年を尻目に、少女は遠足の日でも待つかのように浮かれていた。

少女(私、お兄さんと出会えて本当によかったぁ~)

少女(もうすぐ夢が叶うんだね……うふふ)

少女(いったいどんな感じなんだろうな、食べられるのって)

少女(ドキドキが止まらないよ……)

ついに当日が来てしまった。

青年「おはよう」

少女「おはよう」

少女「今日はいよいよ約束の日だね」

少女「約束……守ってくれるんだよね?」

青年「守るよ……俺は君を食べる」

青年「ブツ切りにして、焼いて食べてあげるよ……」

少女「ありがとう」

青年「ただし、俺は人肉を食べたことがない……」

青年「どうしても君を食べることに罪悪感、っていうか抵抗がある」

青年「だから俺はその抵抗を少しでも和らげるため」

青年「今日は右腕だけで調理をしたい……」

少女「?」

少女「いいよ、それくらい」

少女「お兄さんの心が少しでも楽になるのなら」

青年「分かってないな……」

青年「右腕だけで調理するってのは、単に左腕を使わないって意味じゃない」

青年「左腕を切り落とすって意味だ」

少女「え……どういうこと!?」

青年「つまり、俺はまず俺の左腕で料理を作る」

青年「そしてそれを君に食べてもらう」

青年「その後、俺は右腕だけで君を調理する」

青年「こうすれば互いに互いを食べたことになり、俺の心も和らぐって寸法だ」

青年「我ながらいいアイディアだろ?」

少女「ちょっと待って……何それ……」

青年「だから、調理されるのは少し待ってろ」

青年「すぐ俺の左腕でステーキ作ってやるから。君の最後の晩餐だ」

少女「やめてよ……そんなことしなくていいよ!」

青年「なんでだ?」

少女「そんなことしたら、血がいっぱい出て……お兄さん死んじゃうよ!」

青年「で?」

青年「そりゃお互い様だろう」

青年「左腕を調理した後は、君も調理するんだから」

青年「もしかして君さぁ」

青年「食べられる覚悟はあっても、食べる覚悟はしてなかったのか?」

少女「!」

青年「そりゃあないだろ」

青年「俺と君は共犯者、運命共同体」

青年「俺が君を食うからには、君にも俺を食ってもらう」

青年「これが、この三日間で俺が出した結論だ」

青年「まぁ、一口食ってマズかったら残していいから。どうせマズいし」

青年「さぁて、さっそく包丁入れるか……」

青年「まな板に左腕を置いて、と……」

青年「うまく切れるかな……」

少女「やめてっ! 死んじゃうってば!」

青年「大丈夫、すぐ止血するし、君を調理して食うまでは生きてみせる」

青年「ま、なんとかなるだろ」

青年「さてと、切るぞ」

青年「頼むから、もうジャマすんなよ」

グイッ

ゴリゴリ…

青年(ちっ、けっこう腕って硬いな……右腕だけだと力入らねぇし……)ゴリゴリ

青年の左腕から血が滴り落ちる。

少女「あ、ああ……あぁっ……」

少女「やめてぇぇぇっ!」ガシッ

青年「!?」

少女「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ!」

少女「私、人を食べるってことがこんなに恐ろしいことだと思わなかった!」

少女「悲しいことだと思わなかった!」

少女「お兄さんにそんなことをお願いしてただなんて夢にも思わなかった!」

少女「もう私、自分を食べてなんていわないから、お兄さんも腕を切るのをやめてっ!」

青年「………」

青年「───!」ハッ

青年「いってぇ……って左腕からすげぇ血が出てる!」

青年「いたい、いたい!」

青年「あそこに救急箱あるから、取って来てくれ!」

少女「わ、分かった!」ダッ

青年「早くっ! 死んじゃうっ!」

少女「う、うんっ!」バタバタ

青年「ふぅ……」

少女「思ったより傷が浅くてよかったね」

青年「あぁ、なまくら包丁で助かったよ」

青年(あんな包丁じゃ、どのみち人を切ったりするのは無理だったろうな……)

青年「……で、さっきいったことは本当だろうな?」

少女「え?」

青年「もう食べてもらう、なんていわないって」

少女「……うん」

少女「お兄さんが自分の腕を切ろうとした時──」

少女「突然私の中にブワッと、お兄さんの優しい顔が流れ込んできてね」

少女「あ、お兄さんに傷ついて欲しくない、絶対イヤだって……」

少女「もしかしたら私もお兄さんに同じことを……って分かったの」

少女「ごめんなさい……」

青年「気にするなよ」

青年「それを分かってくれたなら、こんな傷なんか安いもんさ」

少女「うっ……」

少女「うぇぇぇん……」ギュッ

青年「よしよし」

青年(この子も……きっと心の奥の奥底では食べられたくなんかなかったんだろう)

青年(当然だ……人間には生きようっていう本能が備わってるはず)

青年(いくら“お前は料理になるんだ”って赤ん坊の頃から洗脳したって)

青年(本能ってのはそう簡単に消せるもんじゃないはずだ)

少女「うっ……うっ……」

青年「よしよし。もう君を食べようなんてヤツはどこにもいやしないよ」

一時間後──

少女「私……警察行くよ」

少女「行って、お父さんが私にしてきたこと、全て話すよ」

青年「俺もついてくよ」

少女「でも、それじゃお兄さん誘拐犯みたいに思われちゃうんじゃ……」

青年「まぁ、大丈夫だろ」

青年「それにここまで来て、最後に突き放すみたいなマネするのはイヤだしな」

少女「ありがとう……」

青年と少女は警察に向かった。

どうやら警察でも美食家の××は色々不審な点が多いとマークしていたらしく、
家から逃げた少女がその答えだったということで納得したようだ。

また、青年が三日間通報することもなく少女をかくまったことについては、
少女の特異な価値観と「通報したら自殺するかもしれなかった」などの点が考慮され、
不問にされることとなった。

もちろん「もっと警察を信用して欲しい」と怒られもしたのだが。

一流料理評論家が金で女性を孕ませ、食べるために子供を育てたというおぞましい事件に
マスコミは飛びついた。

連日のように、テレビでは特集が組まれた。
希代の美食家は、死後になって恐怖の食人鬼へとその評価を変えることになった。

しかし、青年にとってはそんなことはどうでもよかった。
あの少女がどうなったのかだけが気がかりだった。

事件のほとぼりが冷めた頃──

青年(ポストになんか入ってるな。どうせダイレクトメールだろうけど)

青年(お、手紙か……珍しいな)

青年(誰からだ……?)ガサッ

青年「!」

青年(おお、あの少女からだ。なにも連絡がないから心配だったんだ)

青年「どれどれ……」ガサッ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

お兄さん、お元気ですか?

私は元気です。

今、私は○△児童養護施設にいます。

いっぱい友達もできました。

もしお兄さんが会わなかったら、私はどうなっていたか分かりません。

お礼が言いたいし、話したいこともいっぱいあるし、

今の私を見て欲しいから、ぜひ遊びに来て下さい。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

青年「………」

青年(あまりに特殊な育ち方をしたから、普通の生活に馴染めるか少し不安だったけど)

青年(元気でやってるようでよかった……)

青年(今度の日曜にでも、遊びに行ってみるかな)

青年の左腕の傷も、だいぶ薄れつつあった。





                                    ~おわり~

少女「私を食べてくれない?」青年「いいよ!」
の下に
のび太「何食べてるのドラえもん…?」 ドラえもん「…」クチャクチャ
あってクソワロタ

3日後

ついに当日が来てしまった。

青年「おはよう」

少女「おはよう」

少女「今日はいよいよ約束の日だね」

少女「約束……守ってくれるんだよね?」

青年「守るよ……俺は君を食べる」

青年「最高の調理法で、君を最高の料理に、いや、芸術に仕上げてみせる……」

少女「ありがとう」

青年「ただし、俺は人間を調理した事が無い……」

青年「どうしても君を調理する事に不安感がある、っていうか自信が無い」

青年「だから俺はその抵抗を少しでも和らげるため」

青年「まず何回か練習をしたい……」

少女「?」

少女「いいよ、それくらい」

少女「お兄さんの心が少しでも楽になるのなら」

青年「分かってないな……」

青年「調理の練習をするってのは、単に君を何回かに分けて練習するって意味じゃない」

青年「別の人間を使って調理するって意味だ」

少女「え……どういうこと!?」

青年「つまり、俺はまず君と同じくらいの少女で料理を作る」

青年「そしてそれを君に食べてもらう」

青年「その後、自信が付き、最高の調理法を確立したら君を調理する」

青年「こうすれば君を損なう事なく何度も練習が出来る、俺の不安も和らぐって寸法だ」

青年「我ながらいいアイディアだろ?」

>>79の後、しばらくなし崩し的な共同生活が始まるが、
青年の「食べ物が少女に見える」症状がちょくちょく再発する
それは、少女は食欲を誘うような魅力たっぷりに育成されているからだ
青年は狂気の食欲と理性の間で葛藤する・・・
的な展開になると思ったら終わった

まあ良かったです平和でε-(´∀`*)ホッ

少女「ちょっと待って……何それ……」

青年「だから、調理されるのは少し待ってろ」

青年「すぐ最高の調理法で調理してやるから。君の最後の晴れ姿になるんだからな」

少女「やめてよ……そんなことしなくていいよ!」

青年「なんでだ?」

少女「そんなことしたら、その人死んじゃう……死んじゃうよ!」

青年「で?」

青年「そりゃ小さな問題だろう」

青年「練習しなけりゃ、君の調理に差し障るんだから」

青年「それにね、もう遅いんだ」

少女「あ、あああ……」

別の少女「――」

青年「ああ、大丈夫。まだ絞めてないよ」

少女「あ……」

青年「死んだ後に捌くか」

少女「ああ……」

青年「生きたまま捌くか」

少女「あああ……」

青年「両方試すつもりなんだけどね」

少女「ああああ……」

青年「今回は生きたまま捌こうと思うんだ」

別の少女「――ん……え、貴方誰で」

青年「まずは血抜きから」

別の少女「カッ!?ッ!!ッ!!ッ!?……――――」

少女「ああああああああああああああああああああ!!!」

青年「さぁて、さっそく包丁入れるか……」

青年「胸骨を開くように包丁を入れて、と……」

青年「うまく切れるかな……」

少女「やめてっ! 死んじゃうってば!」

青年「大丈夫、もう死んでるし、君を調理するための練習なんだから」」

青年「うーん、思ったより硬いな」

少女「嘘……?」

青年「こりゃ牛切り包丁用意した方がいいな。柳葉じゃ骨が折れるよ」

青年「っと、しまった!腸開いちゃったよ!うっわ、臭ぁ……普段何喰ってたんだろうな、この子」

少女「うっぷ……おぇ……」

青年「あれ?」

青年「もしかして君さぁ」

青年「食べられる覚悟はあっても、食べる覚悟はしてなかったのか?」

少女「!」

青年「そりゃあないだろ」

青年「俺と君は共犯者、運命共同体」

青年「俺が君を食うからには、君にも人を食ってもらう」

青年「これが、この三日間で俺が出した結論だ」

青年「まぁ、一口食ってマズかったら残していいから。どうせマズいし」

青年「何分、人間を調理なんて初めてだからさ。正直自信が無いんだ、今回は」

青年「さぁ、調理が終わるまで時間がかかるから。時間を潰して待っててよ。見学しててもいいけどね」

青年「あ、調理の仕方、リクエストあるかい?焼くとか煮るとかさ」

青年「って、はは、もう行っちゃったか」

また始まったのか

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