ミカサ「嘘つきエレンと」ジャン「壊れたみーちゃん」 (61)

進撃のみーまーパロ

誤字・脱字はご容赦ください
ハッピーエンドはない予定。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1383652945

キルシュタイン訓練兵が菅原道真?

期待

>>3
すまん、sage忘れた

前のは落ちたのか

みーまーとか珍しいな
期待

またなつかしいな

≪1です

ずっとバグってたから立ってないと思ってたら立ってたんだなww

結構何回もやったからスレ複数立っちゃってたかな
なんかスレの立て逃げみたいになってしまってスマン

今から書いてく。
書き溜めてるんでどんどん貼っていきますね


ミーナ・カロライナが殺された。

2日前の朝、水汲み場で倒れているところを発見されたらしい。
死体には刺し傷が2ヶ所。背中と心臓の位置に1ヵ所ずつ。
発見された時にはすでに息はなかったらしい。
犯人はまだわからない。


アルミン「やぁ、おはよう」

マルコと並んで朝食を取っているとアルミンがやってきた。
パンとスープの乗った盆を持って俺の斜め前、マルコの正面に座る。
目の下にクマが浮かんで、以前よりやつれているように思えた。

マルコ「…アルミン、また眠れなかったのかい?」

アルミン「うん…」

マルコ「駄目じゃないか、ちゃんと休まないと」

ジャン「いいんじゃねーの。たまには優等生も夜更かししたくなるだろうよ」

マルコ「ジャン!」

ジャン「はん。今日は訓練もねえしゆっくり休む時間は十分あるだろ」

マルコ「…君って本当素直じゃないね」

アルミン「ハハ…そうするよ。ありがとう二人とも」


「おはようございます!パァンください!」

3人で薄いスープを啜っていると、騒々しい声が飛んできた。
俺は右手で素早く食べかけのパンを掴むと背中にまわした。

ジャン「パンはねえ。わかったら他所へ行け芋女」

マルコ「おはようサシャ。でもその挨拶はどうだろう」

サシャ「おかしいですねえ、確かにパァンの匂いが…あ、アルミンそれ貰っていいですか!?」

マルコ「駄目だよサシャ。アルミンもちゃんと食べないと」

コニー「なんだ?アルミン元気ねえな!」

ジャン「耳元で叫ぶなうるせーな!」

クリスタ「おはよう。朝から元気だね」ニコッ

アルミン「おはよう」カミサマ…

マルコ「おはようクリスタにユミル」テンシ…

ライナー「おはようクリスタ(結婚しよ)」ケッコンシヨ

ジャン「どこから沸いて出た!?」

ユミル「おいおいお前ら、私のクリスタに唾飛ばすなよ?」

クリスタ「もうっユミル!そういうこと言わないの!」プンスカ

コニー「元気がないって言えばよ、ミカサも…」

騒がしかったテーブルが静まり返る。
しまった、という顔でコニーは右手で口を押さえた。
遅すぎだ、と心中で毒吐いた。ユミルも小声で「バカ」と呟いていた。

アルミン「…もう話し掛けても何も答えてくれないんだ。そっとしておく、べきなんだよ。ミカサもそれを望んでる」




1カ月前、エレンが死んだ。

訓練中の事故死だった。
立体起動の訓練中、アンカーがうまく刺さらずバランスを失ったミカサを助けようとして。
運悪く、この時ミカサが体勢を崩したのは硬い岩肌の露出した急斜面。
そしてこの日は朝の雨で足場が滑りやすくなっていた。

結果、ミカサを助けようと無茶な動きをしたエレンは頭から落下して即死。
ミカサだけが助かった。


その晩のミカサの取り乱し様は凄まじかった。

アルミンに連れられて食堂に入ってきたミカサは奇声を上げながら髪を振り乱し、焦点の合わない目を見開き、頭皮を血が滲むほど掻き
毟った。
必死に宥めるアルミンの手を振り払い、止めに入ったライナーを殴り飛ばし、駆け付けた教官2人に押えつけられるまで暴れ続けた。
一頻り暴れた後、幼い子供のように泣き喚きながらエレンと繰り返すその姿には、すでに何でもそつなくこなす以前の彼女の姿はそこに
は無かった。

当然、とても食事を取れるような状態ではなくミカサは教官に医務室に連れて行かれ数日は面会もできなかった。
唯一、面会が許されたアルミンは俺達に話した。


アルミン『―ミカサはすでにここでの生活を覚えていない。ミカサの記憶に残っているのは幼い頃にシガンシナでエレンと過ごした幸せ
     な思い出だけだ。』

アルミン『僕はもう…どうしたらいいのか、わからない』

エレンの死は、ミカサにとってショックが大きすぎた。
その為、ミカサの脳はエレンの死を拒絶し、無かったことにした。
そしてミカサの記憶に残ったのは、エレンと過ごした幸せな幼少期の思い出と、『エレンが2度も私を危険から救ってくれた』という都
合のいい解釈だけ。
他の記憶はすべて無かったことにされた。
エレンとの思い出に塗り替えられた。

一緒に過ごした時間も。
大切な仲間のことも、全部。


モブ「…なぁ、やっぱりこの間のミーナを殺した奴ってミカサじゃないか?」

沈黙の中、耳に入ってきたのは隣のテーブルから聞こえてきた根拠の無い噂話だった。

ライナー「…ひどいな」

クリスタ「ひどすぎるよ!私、注意してk「止めとけ」

ユミル「お前が行っても話がややこしくなるだけだ」

アルミン「………」

確かに、ミーナの人柄を考えると、とても人の恨みを買うような奴には思えない。
他の奴らが消去法で今のミカサを疑うのも仕方の無いことかもしれないが。


モブ「他に同期を殺そうとする奴なんt「はっ」

ジャン「ミカサがミーナを殺したわけ無いだろ」


食堂中の話し声が途絶えた。

コニー「…ミカサを疑ってるわけじゃ無いけどよ、なんでそう言い切れるんだ?殺される所を見てたのか?」

ジャン「そんなわけないだろ。ちょっと考えればすぐにわかるぜ?『刺し傷は背中と心臓に2ヶ所』。背中の傷は相手を始末しやすくす
    るためだ。だがミカサならどうだ?ミカサなら相手を[ピーーー]のに弱らせる必要はないだろ」

ごめん、なんかピーって入ったwwww

ミカサなら相手を弱らせる必要はないだろ」に訂正

卑猥なやつじゃないぞマジでwwwwww

クリスタ「た、確かに…!」

ライナー「だが相手も訓練兵だ。俺なら相手を弱らせてから確実に[ピーーー]だろうな」

ジャン「そりゃあライナー、お前みたいな頑丈そうな大男相手ならそうしたかもな。でも殺されたのはミーナだ。ミカサの腕力なら、女
    子訓練兵を一撃で仕留めるくらい容易いだろうよ」

アルミン「確かに、ミカサが本気で相手を殺そうとしていたのなら刺し傷だけでは済まなかっただろうね」

コニー「よくわかんねーけどお前、頭良かったんだな!」

食堂にざわつきが戻り始める。
さてと。

マルコ「ジャン、もう戻るの?」

ジャン「ああ。帰って寝直す」

マルコ「そう。…ねぇジャン」

ジャン「あぁ?」

マルコ「君はミカサのことが大好きだね」

ジャン「…うるせぇよ」



一人食堂を離れ、寮に向かって歩く。
…なんだかすごく疲れた。
肩を回しながら歩いていると、人影が目に留まった。

ジャン「ミカサ…」

寮へ続く階段の一番上の段に腰掛けて、瞬きもせずに宙を見つめている。
人形の様な固まった無表情に目にかかる黒髪。綺麗だ、と素直に思った。

声を、掛けようか。

『―やめた方がいい』

アルミンの警告が脳裏を掠めた。

『―ミカサはすでにここでの生活を覚えていない』

『ミカサの記憶に残っているのは幼い頃にシガンシナでエレンと過ごした幸せな思い出だけだ。』

ミカサの薄い唇が、僅かに震えた。

「エレン」。

………。


ジャン「よぉ、ミカサ」

ミカサ「……」

…無反応、か。こっちを見もしねぇ。上等だ。

ジャン「またあの『死に急ぎ野郎』のことでも考えてたのか?」     

ミカサ「………」

ミカサの乾いた瞳が俺を捕えた。無表情に静かな怒りを加えて俺を見下ろしてくる。
やっぱり、聞こえてて無視してやがったな。

ミカサ「…それは、エレンのことを言ってるの…?」

ミカサがゆっくりと立ち上がる。殺気を隠しもせず全身で表現するように足音を響かせながら距離を詰めてくる。

ミカサ「エレンを見下す奴は許さない」

ジャン「い、いや、そんなつもりじゃn「煩い」

言葉と同時に、拳が飛んできた。
左肩を風を切る音とともにミカサの右手が掠めた。危ねえ、反応が少しでも遅れていたら鼻が折れてたな。…とか思ってる暇も無く、
固く握り締められた左手が飛来。避けられたのは良いものの、バランスを崩して床で腰を強かに打つ。

ジャン「っ、お、おい、ちょっと待、っ!」

間髪入れずに左足がフルスイング。床を転がって何とか回避し、右拳を振り上げているミカサに掌を突きつけ待ったをかける。
効果無し、手加減の無いグーパンチが頭上で空を殴った。
ミカサは無表情で次の攻撃に向けて左の拳を振りかぶっている。

ジャン「落ち着けって、ミカサ!っ、いや、」



「   みーちゃん !   」


ミカサ「」


……?
恐る恐る見上げると、ミカサの時が止まっていた。
振り下ろされる筈だった拳は空中で停止し、目は瞬きを繰り返す。

僅かに開いた口、震える肩、揺れる眼球。素直に驚きを示す表情。それと困惑。
小さな唇が、掠れ声を搾り出した。



「 え、れん ?」



ゆっくりと顎を引いた。

わなわなと震える唇。見開かれた眼球の奥で瞳孔が収縮と膨張を繰り返して、

ミカサ「えれん?エレン…エレン!、う、わああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」


こうして、ミカサの時計は狂い始めた。

ミカサ「はい、エレン。あーん」

ジャン「い、いやいいって。自分で食えr「…『あーん』は?」ゴゴゴゴ


その日の夕食。食堂全体の注目が俺とミカサに集まっていた。

まぁ、俺が何故かエレンと呼ばれて、あのミカサがエレン以外にこんな行動を取っていれば視線が集まるのも仕方無いが。

真顔で野菜を掬ったスプーンを突き出してくるミカサを適当にあしらって、後ろのテーブルを振り返る。

皆同様に物珍しそうな目でこっちを見ていた。目が合った途端、わざとらしく逸らす。
…一人を除いては。

ミカサ「?…エレン?アルミンがどうかしたの?」

俺の視線を追いかけたミカサが不思議そうに首を傾げる。…ちょっと待て。

ジャン「…お前、アルミンのことはわかるのか?」

ミカサ「当たり前。アルミンは私達の大切な親友。知っているのは当然のこと」

あぁ、そうか。こいつ等は幼馴染なんだっけ。幼少期の思い出ってやつにはアルミンも含まれるのか。

ミカサ「そんなことよりも、エレン」

ジャン「なんだよ?」

ミカサ「みーちゃん。私のことはそう呼ぶと、約束した筈」

ジャン「…さすがにこの歳で『みーちゃん』呼びは抵抗が「私は平気」

…俺は?

ミカサ「エレン」

ジャン「…わかったよ、呼べばいいんだろ」

みーちゃん。


兵舎裏

問い詰められた。どういうつもりだ、と。
食堂を出て廊下を歩いていた時に、取り乱した調子のアルミンに呼び止められて。

アルミン「どうして、君が『エレン』を名乗っているんだ?」

>>1
メルアド欄に半角で「saga」入力すればピー音とかは外れるぞ
「sage」じゃなくて「saga」な

ジャン「いいだろ、別に」

アルミン「良くないよ!…今、ミカサの精神状態が良くないのはわかっているだろう?ミカサが好きだからっていうのなら止めた方がい
     い」

…なんで知ってるんだよ。そんなにわかりやすいか、俺は。

アルミン「どこで『みーちゃん』と『エレン』のことを知ったのか知らないけど、これ以上ミカサの前で『エレン』を自称するのは駄目
     だ。もしミカサを救いたいと思っていてもできないんだ。だって、」

アルミン「君はエレンじゃない!ジャンはミカサを騙しているだけだ!」

はっとしたような顔で口を紡ぐ。隈に縁取られた目が俺を見上げて、それから気まずそうに宙を漂う。

アルミン「……ごめん。ちょっと混乱してたみたいだ」

ジャン「…そうか」

さっきも、他の連中が不思議そうに俺とミカサを見ていた中(一部の奴らは笑いを堪えていたが。主にマルコ)、こいつだけは血相を変
えていたからな。誰もこっちに気を取られて気付いてなかったみたいだが。

アルミン「…ジャン、もうミカサの前でエレンの振りをするのは止めて欲しい」

ジャン「悪いが無理だ。ミカサは俺をエレンと思い込んでる」

アルミン「でも、このまま行ったらもっと大変なことになるかも知れないんだよ!?」

ジャン「大丈夫だ」

アルミン「けど、」

ジャン「大丈夫だから」

…多分だけど。




ミカサ「エレン、食欲が無いの?ちゃんと食べて」

さて。『エレン』になってそろそろ一週間経つわけだが、この光景もお馴染みになってきた。
ミカサは俺を疑いもせずに『エレン』と呼んで色々と手や口を出してくる。
…そこが問題だったりするわけだが。

ミカサは無関心になっていた訓練にも「私がエレンを守る」とやる気を出し始めて(そのたびにライナーが宙を舞ったりしているわけだ
が)、表面的には良くなってきたようではある。

しかし。

同期の奴等が俺とミカサを珍しそうに見る様に。
彼女の脳はいまだ正常に作動していない様だ。だって俺、エレンじゃ無いし。
そして、問題がもう一つ。

モブ「なあ、トーマスの奴まだ見つからないのか?」

トーマスが行方不明になっている。



ミカサ「エレン?」

ジャン「…なあ、ミカサ。お前今行方不明になってる奴知ってるか?」

ミカサ「知らない。私はエレンがいればいい」

即答だった。まぁそうか。
ミカサの中では「みーちゃん」と「エレン」が世界の中心でありすべてだからな。



トーマスの死体が見つかった。

訓練場の林の中にあったのを、食料庫に忍び込んだ罰で走らされていたサシャが見つけたらしい。
死体には前の時と同様、背中と心臓に刺し傷が1ヵ所ずつ。やはりミーナの時と同じ人物によるものであるようだ。

クリスタ「サシャ、元気無かったけど大丈夫かな…」

ユミル「クリスタは優しいなぁ~。でもアイツなら大丈夫だろ。飯も残してなかったし」

クリスタ「でも、先に寮に戻っちゃったし…」

マルコ「…あんなことがあったんだから仕方ないさ」

ライナー「そうだな…。だが、サシャなら大丈夫だろ。アイツはタフな奴だからな」

クリスタ「そうだといいんだけど…」

後ろの席から聞こえてくる会話を盗み聞きしていると、隣でスープを口に運んでいたミカサが手を止めた。
無表情ながら、どこか陰鬱そうな陰りのある声で呟く。

ミカサ「エレン。どうして仲間が殺されてるの?」

ないわぁ

ジャン「…どうしてだろうな」

ミカサ「あれは、エレンがやっているの?」

ジャン「…まさか。そんなわけないだろ」

安堵の表情。…ん?俺、疑われてたのか?

ミカサ「誰が、仲間を殺しているの?」

ジャン「…わからない。でも、その内わかるかもな」

ミカサは一度頷いて、真っ黒な眼球で俺を見据えた。

「エレンは、私が守るから」。

…頼もしいなぁ。



マルコ「やっぱりジャンはすごいよ」

コニー「なんだよ、俺だって立体起動は得意なんだぜ!」

ジャン「はっ、お前はガスの吹かし方がまだなってねえんだよばk「エレン!」

立体起動の訓練後、同じ班だったマルコとコニーの2人と喋っているとミカサが小走りでやってきた。今日は寝坊して朝食に間に合わな
かったからミカサの顔を見るのはこれが初めてだ。

マルコ「ミカサ、どうしたの?」

ミカサ「エレン。朝食の時いなかったので心配した。具合が悪かったの?」

ジャン「寝坊しただけだよ。…かーちゃんみたいなこと言うなって」

コニー「ん?ミカサはジャンのかーちゃんだったのか!?」

マルコ「君は何を言ってるの」

ミカサ「………………ジャン?」

あ。…しまった。

ミカサ「…?あなたはエレンじゃないの?」

コニー「は?エレン?何言ってんだよみかs」ムグッ

マルコ「……」ニコニコ

コニー「?(マルコが怖い)」フゴフゴ

ジャン「な、何言ってんだミカサ?俺はエレンだ。それで何かあったのか?」

ミカサ「?…うん。今朝話そうと思っていたけれどできなかった。ので、後で話がしたい」

ジャン「今は駄目か?」

ミカサ「…ここでは、言えない」

ジャン「そうか。じゃあ、午前の訓練の後でな」

ミカサ「わかった」





死体を見つけた。

二人だけで話したいというミカサに連れられてきた兵舎裏で、前置きも無しに唐突に切り出された。

昨日の夜トイレから帰る途中に見つけた、と。…面倒なことになってきた。

ジャン「トーマスの死体は昨日見つかったんじゃなかったのか…?」

ミカサ「嘘ではない。…エレン、信じて」

…勿論信じてるさ。ミカサはこんな趣味の悪い冗談を言う奴じゃないし、何より俺がミカサを疑うわけがない。
つまり、3人目の被害者が出たってことだ。

ジャン「嘘なんて思ってねえよ。そんなことより、他にその死体を見た奴はいたか?」

ミカサ「多分、いない。私が見た時には周りには誰もいなかった。それに、誰かが見ていたのなら既に噂くらいにはなっている筈」

全く、その通りだ。

ジャン「そうだな。このことは誰か、教官とかに話したりしたか?」

ミカサ「ううん、まだ。エレンに初めて話した」

ジャン「そうか…」

ミカサ「エレン。このことはアルミンに相談しよう」

ミカサ「どうして?アルミンならきっと何か知恵を貸してくれる。相談するべき」

ジャン「…アルミンは今忙しいんだ」

嘘だけど。

ジャン「それに、アルミンに心配掛けたくないだろ?」

ミカサ「…うん」

ジャン「このことは他の誰にも言うなよ。それと、後でその死体の所に案内してくれ」

ミカサ「うん…。ねえ、エレン」

ミカサ「エレンには…心配掛けてもいいの?」

ジャン「…当たり前だろ。だって、」


ジャン「……家族、なんだから」

…嘘だけど。どの口が言うんだ。

というわけで、死体の見学に行くためにミカサと二人で兵舎裏を歩いていた。
隣でミカサがデートとはしゃいでいる。
デートというには目的が血生臭すぎるけど。

しばらく進むと、ミカサが足を止めた。

ミカサ「……無い」

ジャン「本当にこの辺りだったのか?」

ミカサ「…間違いは無い、筈。確かにそこの窓から見た」

そう言って自分の右側にある兵舎の窓を指差す。ここに来て大分経つし、ミカサが場所を間違えているわけではないだろう。
と、すると。

ジャン「…死体を隠した」

こんな見晴らしのいい所に死体があったら、それこそ誰かが見つけているだろう。
…こういう謎解きはアルミンの方が得意だろうに。
とにかく、ミカサが見た死体は殺されたばかりのものだったようだ。これは多分間違いない。

ミカサ「どうするの?」

ジャン「どうもしない。戻るぞ。…あと、絶対誰にも言うなよ」

わかってる、と頬を膨らませるミカサは最高だった。


ミカサが暴走したと聞いたのは、それから1日後のことだった。

俺はその場に居合わせたわけではないから詳しくは知らないが、エレンを失ったときと似たような感じだったと聞いた。
たまたまその現場に居合わせたアルミンの話によると、死体を見たミカサが発狂したとか。

教官の手伝いをしていたミカサが偶然、兵舎裏の林の中で発見してしまったらしい。
多分、1日前にミカサが見たと言っていた死体だろう。

何故、2日間も行方不明者が出たことが隠されていたかというと、殺人か失踪かわからなかったため教官達が隠しておいたらしい。




ジャン「…で、何で一度見た死体であんな風になったりしたんだ?」

アルミン「わからないよ。だから僕も考えてみたんだけど…」

ジャン「何だ?」

アルミン「ミカサの話では、一度目に見た時は夜だったんだよね?」

ジャン「ああ」

アルミン「でも今回は昼だった」

ジャン「それがどうかしたのか?」

アルミン「つまり、死体がよく見えたってことだよ」

ジャン「…ますますわからねえよ」

アルミン「…おそらく、ミカサがああなった原因は死体を見たことじゃない。多分、血液だ」

ジャン「血液?」

アルミン「…ミカサはエレンが死んだ時に大量の血液を見ている。きっと、血がトラウマになってエレンの死と結びつけてしまったん
     じゃないか、って思うんだ」

ジャン「…お前、やっぱすげーな」

アルミン「そんなことより…ジャンはこれからどうするの?」

ジャン「は?…まだ何かあるのか?」

アルミンが切り出し辛そうに俯く。

アルミン「多分だけど…。もし僕の考えが正しいのなら、ミカサの記憶が混乱している可能性がある」


アルミン「…エレンの死を思い出したかもしれない」




久し振りに、夢を見た。
懐かしい、楽しい夢。

夢の中の私はまだ小さくて、隣には同じく幼いエレン。それに、アルミンも。
3人で輪になって外の世界の本を覗き込んでいる。

アルミンがきらきらした目で何か話している。
エレンが笑っている。目を輝かせて何か言う。

エレンが笑って、アルミンが笑って、私も笑う。幸せ。とても、幸せ。
エレンが夢の中の私に何か言う。
私はその声を聞き取れなかったけれど、外の世界に行ってみたいと言われた気がして頷いた。

行ってみたいと、私が言った。



 「みーちゃん」



あれ?

さっきまで目の前にいた幼いエレン。
現実の私をみーちゃんと呼ぶエレン。

ミカサ「えれん、?」

今、私の隣にいるのは ?




わかっていた。そういつまでも騙せる筈が無いことは。
あの時はマジで殺されるんじゃないかと焦っていて、アイツが寝言で言ってたことをつい言ってしまっただけだったのに。
本当はあの場面で嘘つき呼ばわりされて殴られると思っていたけどな。



森の中を歩いていた。
所々飛び出している木の根に足を取られながら暗い道を進む。空を見上げると木々の隙間から満月が覗いていた。
上着のポケットに手を入れ、あれがちゃんと入っているか確認。…大丈夫、ちゃんとある。

しばらく進んでいくと、開けた場所に出た。人影が一人分、こっちに背を向けて月に照らし出されている。
向こうの方が先に到着していたようだ。

左手に掴んでいた小さめのナイフの柄を右手に握り直して、足音を立てないようゆっくりと近付く。僅かな不安はナイフの柄と一緒に握
り潰した。大丈夫だ。ミカサのためにも、頑張らないと。

そいつとの距離が5mほどになる。向こうはまだこっちに気付かない。

呼吸を整え、木の陰から飛び出した。

両手で握り締めたナイフをそいつの背中に突き出す。
草を踏む音にそいつは過敏に反応して振り返る。けど、残念。少し遅かった。
咄嗟に横へ飛び退いたようだが、刃の切っ先はそいつの脇腹を切り裂いた。血の粒がナイフの起動をなぞるように飛んでいく。
すかさず次の攻撃を加えようとしたけれど、そいつの渾身の蹴りがナイフを握る手を捕らえた。痺れるような痛みが右腕に広がった。
ナイフを取り落とすことはなかったけど、その隙に距離を取られてしまう。

満月がそいつの不敵な笑い顔を照らし出した。
…嫌な笑い方だ。そして、それがよく似合う。
余裕を見せ付けるようにそいつは口端を吊り上げた。

「…まさか、お前が殺人鬼だったとはな」

よく言う。わかっていた癖に。
そう言うとそいつは肩を竦めた。

上着のポケットから折り畳まれた紙切れを引っ張り出した。
夕食後、ベッドの上に置いてあったそれにもう一度目を通す。

『こんばんわ。唐突ですが、私はあなたがしていることを知っています。よかったら、今晩兵舎裏の森で会いませんか?』

顔を上げると、そいつが傷口を押さえながらこっちを見ていた。
ポケットに紙切れを戻して痺れる右腕をさすった。

「おいおい、どうしたよ。大丈夫か?」

「…そっちこそ。さっきから腹から血が出てるけど」

嫌味を返すとそいつは鼻で笑った。指先に付いた自分の体液の感触に顔をしかめている。

「ふん。訓練兵団6位を嘗めんなよ」

「…今は5位だろ」

あー、そうだったな。どうでもよさそうにそいつが言った。
本当はミカサとワンツーフィニッシュがよかったんだけどなあ、と呟く。緊張感の無い奴だ。

「惚気てる場合かい?ジャン」

「…君は今、殺人鬼の前にいるんだよ?」


ジャン「そうだったな。…見逃してくれよ、アルミン」

僕は、汗の滲む手でナイフを握り直すとゆっくりと首を横に振った。

アルミン「やだね。…君は見逃せない」

ジャン「何だよ。まともにやりあって俺に敵うと思ってんのか?」

アルミン「君は格闘術はいつもサボっていたじゃないか。僕はまじめにやってたけどね」

こっちは刃物もあるし。

ジャン「チッ。仕方ねえなあ」

ジャンが脇腹から手を離す。僕もナイフの柄を握り直して出方を窺う。
手負いとはいえ、相手は成績上位者だ。それに何も隠し持っていないとは限らない。警戒に越したことはないだろう。
…でもその前に。

アルミン「ねぇ、ジャン。聞いても良いかな」

ジャン「何だよ?手短にな」

アルミン「…どうしてすぐに教官に報告しなかった?」

そうすれば、少なくとも腹に切り込みを入れられることはなかったのに。
僕の問いかけに、ジャンは大袈裟に溜め息を吐いた。

ジャン「こんなときに説教か?後でいいだろ、そんなの」

アルミン「駄目だよ。君が死んでからじゃ聞けないんだから」

ジャン「おいおい自信あり気だな、アルミン。俺が死ぬこと前提かよ?」

アルミン「…質問に答えてよ」

ジャン「俺もお前に聞きたいんだが「答えるよ。君が答えてくれたらね」

舌打ちを前置きとして、ジャンが語り出した。

ジャン「お前がただ人を殺し回ってるだけだったら、俺もこんな回りくどいことしないでさっさと教官に報告しただろうな。でも」

ジャン「…なあ、アルミン。何でお前がミカサを狙う?」

…ふぅん。

アルミン「…気付いてたんだ」

ジャン「…あぁ、気付いてた」

『みーちゃん』を守れるのは『エレン』だけだからな。



……よく言うよ、大嘘つきが。

ジャンが乾いた笑い声を上げた。
無意識に声に出していたみたいだ。

ジャン「アルミン、お前そんなこと言う奴だったのか」

ジャン「俺もお前に聞きたいんだが「答えるよ。君が答えてくれたらね」

舌打ちを前置きとして、ジャンが語り出した。

ジャン「お前がただ人を殺し回ってるだけだったら、俺もこんな回りくどいことしないでさっさと教官に報告しただろうな。でも」

ジャン「…なあ、アルミン。何でお前がミカサを狙う?」

…ふぅん。

アルミン「…気付いてたんだ」

ジャン「…あぁ、気付いてた」

『みーちゃん』を守れるのは『エレン』だけだからな。



……よく言うよ、大嘘つきが。

ジャンが乾いた笑い声を上げた。
無意識に声に出していたみたいだ。

ジャン「アルミン、お前そんなこと言う奴だったのか」

アルミン「…僕は正直者なんだよ」

ジャン「俺と同じだな」

アルミン「君と一緒にしないでくれよ」

ジャン「酷い言いようだな。傷つくぜ」

嘘つけ。

ジャン「さて、次はお前が答える番だな」

アルミン「何の話だっけ?」

ジャン「とぼけんなよ。…ミカサを狙う理由だ」

ジャン「ミカサを[ピーーー]ために他の訓練兵で予習でもしてたんだろ?」

アルミン「そこまでわかってるなら、言うまでもないんじゃないかな」

ジャン「2人でエレンに会いにでもいくつもりか?」

アルミン「…それもいいかもね。でも、僕はエレンに合わせる顔なんてないよ」

ジャン「話が逸れたな。何でミカサを狙う」

アルミン「……見て、られなかった。今のミカサを見るのが、辛かったから」

ジャン「あぁ?…そんな理由でミカサを殺そうとしてたのか?」

アルミン「勝手なのはわかってるよ。でも、」

アルミン「僕は、どうしたらいいのか…わからないんだ」

ジャン「…しっかりしろよ。お前がそんなんじゃミカサは「わかってるよ!」

アルミン「…わかってるよ。でも、ミカサはもう・・・壊れてしまっている」

アルミン「ジャンも気付いてるんだろう?」

ミカサは、エレンすら忘れかけている。
ミカサが求めているのは自分を『みーちゃん』と呼んでくれるエレンの偽者だ。
でもそんなのは、エレンじゃないんだ。
…僕はもとのミカサにもどってほしい。

ジャン「…だったら、ミカサを[ピーーー]必要は無いだろ」

アルミン「確かに、偽者を消せばミカサは元に戻るかもしれない。でも、そこに『エレン』がいなければ同じだよ」

ジャン「じゃあお前が俺を見逃せない理由は何だよ」

静かな森に、細く気味の悪い笑声が響いた。
僕は、こんな声が出せたのか。ジャンが身構えるのを見てそんなことを思った。

アルミン「…許せなかった」

僕ら3人の友情を偽ったから。



ゆっくりと目を開いた。
辺りが暗い。…今は夜?
体を起こそうとすると、頭痛が走った。起き上がる気は失せて暗い天井を見つめる。

…どんな夢を見てたっけ。
さっきまで夢の中にいた筈なのに思い出せない。確か、幸せな夢だったと思うけれど。

クリスタ「あ、ミカサ。目が覚めたんだね。良かった」

あなた、誰?…エレンは?エレン!

ミカサ「エレン!エレンはどこ!?」ガバッ

クリスタ「きゃっ!?どうしたのいきなり」

…エレンを探さないと。

クリスタ「あっ、ミカサ!?まだ安静にしてないと駄目だよ!」

女の子の制止を振り切ってベッドを抜け出そうとする。

エレン、エレンどこ?どうして私はこんな所で寝ていたの?目を覚ます前は何をしていたんだっけ。
確か、教官の手伝いをさせられて、それで

あ、 。


ミカサ「、あ……ぁ あ」

クリスタ「ミカサ?どうしたの?」

思い、出した。思い出した。

ミカサ「え…えれ、ん?」

エレンは、

ミカサ「違う!」

エレンは死んでない。だって、今朝だって一緒に、

夢の中のエレン。
現実のエレン。

ミカサ「違う、の……?」

わからない。わからない。エレンが、わからない。

ミカサ「―えれん?…エレン、エレン。エレン、どこ!エレン!え、れん・・・」

クリスタ「ミカサ!?どうしたのミカサ!!」

ミカサ「どうして…?」

どうして




ミカサ「何も、思い出せないの…?」









ジャン「…やっぱり素手なんてやめときゃよかった」

左腕を流れていった生温かい感触に鳥肌が立つ。
他にも、肩とか足とか大分痛い。めっちゃ痛い。マジで痛い。
気絶中のアルミンを背負って普段の半分以下のスピードで歩く。

何とか兵舎まで戻らないと助からないぞ、多分。

ジャン「…それだけは駄目だ」

そんなことになったら、またミカサは次の『エレン』を探さないといけなくなる。
できれば、そんな苦労は掛けたくない。

…それに。
叶うのならどんな形であれ、ミカサの隣に居続けたい。
例えそれが、アルミンの言うように『エレン』という彼女にとって都合のいいだけの人形であっても。
それでもいい、と心の底からそう思えた。

まあ、今のところ俺が『エレン』なわけだし。
だったらせめて、彼女からお払い箱にされるその時まではちゃんと責任持たないとな。

というわけで、もう一頑張りしないと。


『…さむい』

『わたしはこれからどこへ帰ればいいの?』

『お父さんもお母さんも、もういない』

『…』

『……さむいよ』

『…』

『…』

『…みかさ』

『…』

『…もうすぐ、父さんがけんぺい団を連れてくる』

『だから、それまで我慢してくれ』

『手、つないでてやるからさ』

『……うん』

『…みーちゃん』

『………エレン』




忘れる筈が無い。
私がエレンを、忘れる筈が無い。

笑った顔、怒った顔、泣き顔、全部。

ミカサ「…覚えてる」

覚えてる、筈なのに。

ミカサ「……エレン」

何も、思い出せない。

ミカサ「…ごめんなさい…」

私は、あなたがわからない。




医務室の扉がノックされた。

入ってきたのは目つきの悪い男子だった。
なぜか包帯だらけで、目つきの悪さも相まってただの怪しい人にしか見えなかった。

ジャン「よう、ミカサ」

ミカサ「……誰?」

ジャン「…なんだ、忘れちまったのかよ」

ベッド横の椅子に許可なく腰掛ける。昨日の夜は、金髪の女の子がそこに座っていたっけ。
目線が私と水平になった。

ミカサ「……」

…早く、出て行ってほしい。

ジャン「……そんな睨むなって、」





ジャン「みーちゃん」





エレン『みーちゃん』



あぁ、そうだ。その呼び方。

エレンだ。

エレン。

やっぱり私は、あなたを忘れていなかった。

その一言だけで、私は目の前の彼がエレンだと確信できた。




ミカサが飛びついてきた。

昨日の夜から何も食べていない人物とは思えない勢いでベッドから1m近く離れた俺の元にダイブする。
後ろへ倒れることはなかったが、傷口は開いてしまったようだ。

ミカサ「エレン!!!」

そんなことより、こっちの方が重要だ。
あのミカサが、俺に抱きついているんだぞ!

傷口が嫌な音を立てたようだが、どうでもいい。
腕の締め付けが強すぎて本気で血がすべて搾り出されてるかもしれないが、それもどうでもいい。

あーでも、ミカサは血がトラウマだったから気を付けないとな。

ミカサ「エレン、どうしてそんなに怪我をしているの?」

ジャン「あー、これはな…ちょっと親友と青春しすぎたんだ」

ミカサ「アルミンと?」

ジャン「そうそう」

ミカサ「そう。…ねえエレン、アルミンはどこ?」

ジャン「…今は教官のところにいると思うが」

多分、色々と聞き出されている最中だろう。
すべてを知った教官が精神不安定なアルミンをどうするかはまだわからないが。

ミカサは「ふーん…」と呟いただけだった。

ミカサ「それよりエレン」

ジャン「何だよ?」

ミカサ「私のことを、また昔みたいに呼んでほしい」

……昔、ねえ。生憎、俺にその頃の記憶はないんだけど。

ジャン「…まあ、構わないが」

ミカサ「ほんとっ!?今!今呼んでほしい!」

ジャン「……みーちゃん」

ミカサが足をバタつかせて喜ぶ。そのつま先や踵が足の傷に容赦なく降りかかるが、気にしないことにした。



いつか『エレン』が不要になるその日まで、『みーちゃん』に付き合おう。

あーあ。結局俺って報われないのな。
包帯だらけで、エレンの振りまでして、やっとミカサと一緒に居ることができるようになっただけとかよ。

ミカサ「…大好き」


いやーごめん。やっぱ嘘。俺、ちょー幸せ。

以上です。

最後まで読んでくれた人はありがとう。
みーまーも進撃も好きなんでどうしてもやりたかったんだ、許してくれorz

「saga」って書けばよかったのか知らなかったわww

気をつけます。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom