「そっか、幸せだったのか。インデックス」初春「両手に花?」 (609)



注意事項

1 時系列弄ってます

2 再編成物

3 ちとくどいかも

4 ほぼ上琴のつもり 嫌な方は回れ右

5 此処まで来たんだから完結まで頑張る


前スレ

「そっか、幸せだったのか。インデックス」



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1350898375

あらすじ

『妹達<シスターズ>』を巡り一方通行と対決した上条は病院からの帰り道、1年前から行方不明になっている御坂美琴のことを想っていた。
その上条の前に謎のシスター、インデックスが現れる。
否応なく事件に巻き込まれる上条と美琴を慕う三人の少女。
インデックスを狙う魔術師の襲来。
魔術師との対決の後にインデックスを救うため協力することになった上条達だが、錬金術師の介入に状況は一変する。
自動書記が作動し猛威を振るうインデックス。
犠牲を払いながらインデックスを解放した上条達に一時の安息が訪れる。
しかし学園都市では別の動きがあった。反乱を企てる超能力者 第二位 垣根帝督がプランの基盤となる『妹達<シスターズ>』の司令塔『打ち止め』を狙い暗躍していたのだ。
また、第四位 麦野沈利を撃破した無能力者 浜面仕上に抹殺命令が。
一方通行は終わらせるため、level5同士の人知を超えた戦闘を。
垣根は浜面抹殺を請負とともに打ち止め捕獲へと動く。

そして垣根に狙われる打ち止めは風紀委員の少女、初春飾利と一緒に第7学区の路上を歩いていた。



初春「私があの人と出会ったのは打ち止めちゃんよりまだ幼かったころ、ですね……」

打ち止め「わー、そうだったんだ、初春のお姉ちゃんはあの人をなんてよんでたの、ってミサカはミサカは聞いてみたり」

初春の「ええと、その……お兄ちゃん……でしたか……今のあの人には似合わないでしょうね」
(一方通行になったあの人には)
「あの頃はそう呼ぶと、はにかんだ顔をしてましたけど」

打ち止め「おー、はにかんだあの人、ってミサカはミサカは想像できないよー!」

二人は浜面達から別れて第7学区のメインストリートを目指して歩いていた。

浜面の忠告を受け入れて人混みのなかへまぎれるつもりだった。

その途中、歩きながらあの人との関係を初春は打ち止めに話していた。

『あの人が一方通行になったのは、私の所為なんです』

重い言葉だった。

あの人が一方通行にならなければ妹達<シスタース>が一万人も死ぬことはなかった。

美琴は妹達<シスタース>が生まれる切欠を作ってしまったことに責任を感じていたが、初春もまた責任を背負うつもりだった。

初春「私たちがその頃、預けられていた研究所には年が近い人がいなくて……寂しくて、あの人にひっついてたんです。あの人はメンドクサそうな顔をしてました。けど……結局、相手をしてくれるんです」



初春「あの人はそこを地獄と言ってました。実際、そんな場所でしたね。でも私はあの人がそばにいてくれたので怖くなかった」

辛いことはあってもあの人がいることで安心できた。

初春「アレが起こるまでは」

運命を決定づけたあの日。

初春「私たちがいた場所。今では何も残っていません」

役割を果たしたのか、その後も再建されず瓦礫を片づけただけで6年が過ぎても更地のままになっている。

初春「私の所為なんですよね」

ギュッと手を繋いだ打ち止めの手を握る。

初春「それからお互いの生死も知りませんでした。9982番目の実験後に再会するまで、会うことはありませんでした」

捜し出すまでの力がなかった。

初春「あの人はあの出来事のあと一方通行への道を辿ってしまったんです、私が起こした『崩壊』の所為で」

再会後に集めた資料、それには人との関わりを避け、心を閉ざした変わってしまったあの人の姿があった。

私が一方通行への道を開いてしまった。

初春「打ち止めちゃん達のことも遡れば私の所為ですね」

自虐を込めて、責められても仕方ないと初春は打ち止めに心の内を打ち明ける。

言っても詮無いことと思ったが、

打ち止め「それは……ううん、ってミサカはミサカはミサカの考えを代表してみる」

初春「?」



打ち止め「あの人、一方通行がいなかったら『実験』は立案されず、傾きかけていた量産型能力者計画が再び拾い上げられる事もなかったはずだから、ってミサカはミサカは最初に説明してみる」

初春「…………」

打ち止め「あの人がいなかったらミサカ達は生まれることはなかった、お姉様<オリジナル>がいても『実験』がなければ生まれてはこなかった、あの人は救い手にして殺し手、エロスにしてタトナス、生にして死、命なきミサカに魂を注ぎ込んだのは間違いなくあの人、ってミサカはミサカは実は感謝の念もあったり」

初春「感謝ですか……」

打ち止め「だから、あの人が一方通行でなければ『実験』はなかった、初春のお姉ちゃんが一方通行への道を作ってしまったと言うのなら、初春のお姉ちゃんもミサカ達の生みの親の一人、ってミサカはミサカは感謝するの。それに10032番目の実験を初春のお姉ちゃんは止めようとしてくれた、ってミサカはミサカはそれだけでも救われたと思ってる」

複雑な心境、美琴にも話してないことを語り、責められることも覚悟していたのに感謝していると言われるのは。

打ち止め「それにたぶんだけど、あの人も待ってたの、初春のお姉ちゃんが止めてくれるのを、ってミサカはミサカは推測してみる」



初春「えっ……とそうなんでしょうか?……」

そう思っていて良いのか、と初春はまだ疑問であったが、

初春「ところで」

他に現在で一番の疑問が残っている。

初春「打ち止めちゃんはどうして浜面さんと一緒だったんです?」

あの人と三人一緒にいるのを見かけた、という情報は知っていた。打ち止めがいた研究所が襲撃されたのも知っている。

しかし、どうしてこんな状況が生まれるのか分からない。

それに何だか一方通行の話しをするのが嬉しそうな気がする。

打ち止め「えーと、それはミサカがいた研究所が襲われて、あの人に保護を求めたの、ってミサカはミサカは解説してみる」

初春「あ、一方通行にですか?」

打ち止め「うん、でもあの人の居場所が分からなかったところを浜面が案内してくれて、ようやくあの人に保護してもらったの、今は三人一緒に暮らしてるよ、ってミサカはミサカは今の暮らしを要約してみる」

初春「えっええと……それって……その」

あまりに意外な、何故そうなる、話に聞いていても有り得ない組み合わせに初春は困惑。

初春(殺し、殺された者と無能力者の浜面さんが共同生活ですか?)

打ち止め「今日はあの人、何か用事があるって朝から出かけて、それであの人が帰るまで浜面が外に遊びに連れてってくれた、ってミサカはミサカは浜面と一緒だった理由を説明してみる」



打ち止め「だけど浜面も誰かに狙われてたらしいの、なんかその関係でお友達を助けに行かないといけなくなって、ミサカは都合よく登場した初春のお姉ちゃんに預けられたの、ってミサカはミサカはよくわからない状況を説明してみる」

初春(ああ、そう言えば浜面さんも何か狙われてるとか、その関係で絹旗さんのお仲間に何かあったんでしょうか?……本当は風紀委員として動かないといけないところでしょうが)

初春「うーん……心配しなくても浜面さんも第四位を撃破した経歴の持ち主ですから」

打ち止めに心配させないように初春も言うが、

初春(浜面さんを倒して名をあげようとかするだけの人なら絹旗達の仲間に何かあるはずもないですね)

初春はそれ以上の者が動いている可能性に行き当たる。

麦野達の『アイテム』の他にも警備員や風紀委員とは別に学園都市の不穏分子を処理する組織がこの街の闇に存在する。

都市伝説にも名前があがる猟犬部隊など、風紀委員では手が出せないだけの相手の可能性。

再び闇が忍び寄ってくる、そんな予感がする。

メインストリートはもうすぐ。

人混みに紛れ、姿を隠す。

初春はそれだけではすまないかもしれないと思う。

前スレこちらだと思う




第2学区 兵器試験場


天変地異、人外の戦いの様相を呈していた。

暴風が起こり、雷が舞う。

まず、一方通行が兵器試験場の大気を掌握し、暴風で残された構造物をなぎ倒す。

風速120mの暴風。兵器実験で残骸と化していた構造物は次々と倒れていく。

幾つかは残るが、磁力を使った高速移動は移動方向が限られてくる。

移動先を限定させる狙い。

その暴風を美琴に向け直す。

風がゴワッ!!と襲いかかる。
が、ブンッと空気が唸る音がすると美琴を吹き飛ばす前に暴風は勢いを失う。

電磁波を利用した空気振動。

一方通行が操作する風のベクトルに空気振動を与えベクトルの操作を解消してしまう。

一方通行はあらゆる力、ベクトルを操作できるも、それは体表面に触れたモノに限られている。

精密性が必要なベクトル操作。一方通行が演算して放たれたものに別の力が加われば解消されてしまう欠点。

一方通行はそういう結果になるとは思ってなかったが、そもそもそれぐらいで倒せるとは考えていない。

既に風を纏い、脚力のベクトルを操作して襲いかかっている。

電磁レーダーで一方通行の動きを掴めても常人では対応不能な速度。

磁力で逃れても逃れる先は限定済み。

ところが距離が縮まらない。

一定の距離が保たれる。



N極とS極がくっ付かないように近づけない。

追えば距離は縮まらず、離れれば距離は開く。

一方通行「こいつあァァァ!?」

反射を利用されている。

恐らく一定距離近づけば第三位から放たれる磁力線が一方通行に触れ反射、いやこの場合は反発、反発された方向へと第三位が移動する。

言ってみれば丸い透明な球体の中に第三位は入っており、一方通行が球体に触れれば反射を受けて球体は動いてしまう。離れるなら離れられても球体までの距離にしか近づけない。

距離が縮まらないのも道理。

突然、一方通行の周囲が蒼白の雷光に包まれる。

反射の壁を抜くためではない。

プラズマと化して酸素を燃やす。

一方通行「がァァァッ!」

一瞬にして酸素が奪われ息ができない。

後方へと跳び、一方通行はプラズマの檻から抜け出す。

改めて見る美琴の周囲に荒れ狂うプラズマが幾つも群れをなしている。

次はあれをぶつけてくる積もりか、と思う。

美琴の意志で自在に動くプラズマ。

胸に残る痛み。

先ほどの瓦礫のように反射の隙をつかれたら今度は一溜まりもない。

反射をランダムに設定し直してあるが大丈夫と言い切れるか。

能力の違いがあるとは言え、一方通行が半月前の戦いの際に大気操作でやっと作り上げたプラズマ。

自在に動くプラズマを見るとおこがましく感じる。あんなモノ、ただの遊びに過ぎなかった。

大気を操る術を覚え、世界を掌握した気分は勘違いをしていたに過ぎない。

世界を覆う大気、世界の一面を覗いた、世界を構成する一部を認識しただけだ。



一方通行の前に立ちはだかる第三位、能力の差は歴としたはず。

第一位の地位は安いモノではない。

元来の能力の質、演算能力に格段の差があるからこその第一位にして唯一の絶対能力者候補。

第一位と第三位には埋められない差がある。

ならば、この状況はなにか?

第三位が言うような100回目と30回目の経験値の差だと言うのか。

どれだけの回数の差があろうが埋められない根本的な差がある限り、第三位が第一位に勝つ事はない。

実験の回数が縮まるだけだ。

対等以上の戦いを見せる原因が経験値ならば、経験値とは何か?答えは既に出ている。

認識。

世界を観測し、目では見えない世界までもを如何にありのままに認識し、能力者独自の世界観である『自分だけの現実』で干渉する。

世界の認識が第三位はより深化している。

故に第三位はこの世界を深く捉え、あらゆる術を使って一方通行に対抗出来ている。

半月前の戦いで一方通行が大気の流れを捉えたように、それまで何気なく受け入れていた力をより深く捉えなければならない。

体表面に触れる力を一つ残らず観測していく。

甘美な喜びが湧く。



絶対能力に今更、興味は惹かれなくともやはり可能性を見るのは心が沸き立つ。

自らの能力がどこまで伸びるか、知らず知らずにいた世界を垣間見ていく。

頭脳に数式が刻まれる。クラクラする程に気持ちいい。

体に触れる力を自在に動かせる感覚。

これまでになかった圧倒的な力をこの手に掴む。

新しい玩具を貰った子供のようにこの力を振るってみたくなる。

一つ捉えた力を試す。

元は何階建てだったのか、上階が崩れ落ち、4階までしか残されていない鉄筋コンクリート製の建造物のそばに一方通行は移動する。

一方通行が興した暴風でも倒れなかっただけのことはあり、残された構造物の中でも大物にあたる。

一方通行はゴツンと腕をコンクリートでできた外壁に突っ込む。

肘まで入ったところで捉えていたベクトルを建造物に移し替える。

地球の自転そのもののベクトル。

ゴキンッ!!と地に繋ぎ止めていた基礎が割れた音。

一方通行「くかッあァああああああああああああああああッ!!」

地球の質量5.972×10の24乗kgが行っている自転、その自転速度は1,674.4km/h。僅か数秒足らずの回転エネルギーでも莫大な力を持つ。

その僅か数秒のエネルギーを建造物に与える。



一方通行(さァ、どうする。これだけの力、どー捌いてくれる?)

外壁に埋まった腕を振る。

4階までに高さを落とした建造物が押し出される。

地上に散らばる残骸を蹴散らし凄まじい速度で建造物は轟然と地を走る。

巨大な物体の突進に空気は振るえ、大地は地震のように揺れる。

標的は建造物に比べればあまりに小さい人一人。

止める術など無いと思われたが、閃光に包まれる。

見るからに膨大な熱量を持つプラズマの光球が白光の中に突進する建造物を飲み込む。

美琴「ああああああああああああああああッ!!」

美琴も叫んでいた。

10億ボルトの発電力を元に地上にプラズマの塊、太陽を作り出していた。

1万度を軽く超える熱量は建造物を焼き尽くす。高熱に晒されボロボロと崩れる建造物。

一方通行「核融合かよ、何でその力を俺に向けねェ!」

空から聞こえる。

美琴「無駄だからに決まってるでしょ!」

雷神と呼ぶべき力ながら、これだけのプラズマの塊を自在には扱えない。

演算能力の限界を試すような技。

見上げる空に一方通行が浮かんでいる。

一方通行「そりゃそうだわな!デモンストレーションぐれェにしか使えねェか!」

一方通行が言うようにこの者に対抗するなら無駄な火力。演算能力の無駄使いだ。どれほどの熱量を持ってしても反射の壁を超えられない。

その一方通行の背中から4本の竜巻のような空気の渦が生えている。

渦の巻き上げる力で空中に浮かび、4本の渦の力を調整することで高機動を可能としていた。



美琴(ヤバあっ!)

次の一方通行の行為を予測できた。

その予想通りに一方通行は空から舞い降り迫って来る。

一方通行の反射を逆利用、接近を防いでいたが、直上からでは不可能。

反射が向かう先は大地。美琴は一方通行と大地に挟まれ押し潰されることになってしまう。

美琴は脳内パルスを操作して人間が体が壊れてしまうからとセーブするリミッターを解除。筋肉組織が悲鳴をあげる。毛細血管が破けるのを感じながら一方通行を避ける。

一方通行は隕石の追突のように地上へと落下。

ドウッ!!!

轟音が鳴り響く。

大地が抉り取られ、大量の土砂が舞い上がる。余波で瓦礫が弾丸のように飛び散る。

大地が震え、ギリギリ均衡を保っていた構造物が崩れ落ちる。

美琴が居た場所にクレーター状の陥没が半径20mで出来上がっていた。

その爆心地、莫大な力の圧力にクレーターの底は結晶化してしまっていた。土煙が舞う中、そのクレーターの中心に居るのは一方通行。

ただベクトルを操作してできることではない。

一方通行が観測するベクトルを統括制御。

大気の流動、大地の微震動、重力や地球の自転、日の光から受け取る熱量、別々に存在するベクトルを変換し一つにまとめる。

莫大な演算能力が無ければ不可能。



『実験』が始まる前から、立っているだけで世界を滅ぼせるだけの力を持っていた一方通行。

学園都市第一位の地位につくだけの一方通行には十分過ぎる力があった。

たとえ核兵器であろうと身に危害を加えられる心配がないだけの力。

一方通行を殺せる者など見当たらなかった。一方通行の生存本能が喚起されるだけの「敵」が存在しなかった。

故に、より力を伸ばす必要性、成長する必要がなど覚えなかった。

『実験』により能力の応用性は学習した。しかし、それは以前からでも出来たことを能動的に使ってみたにすぎず、確認作業に近い。

一方通行が持つ莫大な演算能力をフル活用して行わなければならないものではなかった。

今、一方通行は本当の意味であらゆる力を観測し、利用しようと学園都市最高の頭脳で演算を行っている。

一方通行「楽しいじゃねェかァ、楽しすぎるぜェ、次には何を見せてくれる?何をやろうか?」

これまではつまらない相手ばかりだった。気が付く暇もなく悶え苦しむ相手か、気が付いたら気を失っている相手、たまに遊んでやろうかと思っても遊びにもならない相手しかいなかった。

今は、一方通行の前に、能力を十全に振るっても構わない相手がいる。新しい可能性を引き出すだけの相手がいる。

一方通行は楽しくて仕方がない。



美琴は自分のアドバンテージが次第に失われて行くのを自覚していた。

世界を観測し、支配下におく。戦場を掌握することは魔術師との戦いを経て経験を積んで学んできた。

兵器試験場の全域を観測領域に設定、美琴の周囲30mを絶対領域として支配下に納めてある。

絶対領域と言ってもミニスカとニーソの間ではない。

美琴の能力、電気。電荷の移動や相互作用によって発生するさまざまな物理現象をさす。

電荷は素粒子の一つ光子(フォトン)が持つ性質であり、原子内に存在する。よく知られる担体としては電子と陽子。

そして物理学上自然界の4つの根源的な基本相互作用の一つである電磁相互作用を生み出す。

観測するだけでなく美琴のその力で自在に干渉できる空間が絶対領域。

何もなかった空間に太陽を生み出したのもその一つ。

一方通行は体に触れるベクトルを観測し世界の認識を広げていけば良いが、美琴はそうはいかない。

電磁波を浸透させ、世界を観測していく。その結果、一度に受け取る情報量は膨大、当然のこと処理能力、演算能力に負担がかかる。

情報は力であり演算能力の糧。しかし、行き過ぎると情報の渦に呑み込まれる。演算がひたすら行われ、暴走。自意識まで失いかねない。

全ての情報を処理してはいられないので普段はフィルターにかけ情報量を制限。

フィルターは一方通行の反射と同様に自動設定、自意識を保っていられるレベルに設定してある。



美琴と一方通行の違い。

美琴と一方通行を探索機器として比べた場合、美琴は発信型の探索機器であり一方通行は受信型の探索機器。

美琴が干渉できる能力は4つある基本相互作用の一つの電磁相互作用であるのに対し、一方通行はベクトルという有る意味、何でもありの力を振るえる。

受信量は多くとも情報処理を制限していた一方通行がフル稼働を始め、先に場を掌握していた美琴に並んでいる。

また、美琴のアドバンテージの一つは一方通行が体表面に触れた力にしか能力を振るえないのに対し、美琴の能力は遠距離にあっても事象に干渉できること。
戦艦の撃ち放つ巨砲が一方通行で遠隔操作可能なミサイルとリモコン式の爆弾が美琴と言ったところである。

そのアドバンテージも意味をなさなくなり始めていた。

一方通行も自身に触れた力からその先にある現象を読みとり、連鎖反応を引き起こす。

尚且つ、戦艦の巨砲から精密にコントロールされる大陸間弾道弾へレベルアップしている。

力が吹き荒れ、都市の残滓を根こそぎにしていく。

いずれ、残された構造物を解体するはずだった兵器試験場はその必要もない、瓦礫置き場に変わっていく。

一方通行が世界への認識を深め攻勢を強める。

現状では凌ぎ切るには足りない。



美琴は最期の一手を決めるため地球の磁場、磁界、脈動を観測している最中。

それも一方通行がベクトルを操作するため揺れ動いている状態でだ。

反射の壁を突き抜ける力を集めるにはまだ時間が必要。

絶対領域を広げ、フィルターを緩め、深度を深める。

ドッと情報が流れ込む。

悲鳴をあげそうになる。

意識を手放しそうになるのをグッと堪える。

まだ、倒れる訳には行かない。

インデックスが黒子が佐天が初春がそして上条当麻が居る場所へ還らなければならない。




第7学区 ホテルの一室


垣根は『スクール』が隠れ家の一つとしているホテルの一室に戻り、心理定規に連絡を取っていた。

垣根「ああ……で、ふぅそっちの様子はどうよ?」

定規『なんかぐったりしている声ね……こっちは元のメインストリートに逆戻り、オープンカフェでお茶してるわ』

垣根「そうか……まあ、こっちは大変な目にあった、ってところだ」

定規『……まさか、苦戦したの、あなたが?』

垣根「つか、狙撃手のやつ、やられやがった。苦戦どころじゃねえな、こりゃ」

定規『へえ、あの狙撃手がね……そんなに強かったの無能力者が、信じられないけど』

垣根「強いって言うか、何だろな?賽子でも振ったら都合の良い目ばかりでてきやがる、そんな強さだ」

定規『何それ?……それで、ちゃんと始末できたの?』

垣根「あれで生きてねえと思うが、一応アイツに後は任せてきた」

定規『自分でトドメ刺さなかったわけ?』

垣根「そうもいかなかったんだよ、キャパシティダウンとかいうのに演算は阻害されるは、『アイテム』の女にはAIM拡散力場を乱されるはで」

定規『それは……本当に都合の良い目ばかり出てたってこと?……凄いわね、なんか第四位が撃破された理由がわかる気がするわ』



垣根「まあ、フロックじゃなかったと言うことだな」

定規『あなたがそんなことを認めるなんて……確実に息の根を止めるのをあなたも確認した方が良かったかもね、話しを聞いただけだと、なんか生きてそうじゃない」

垣根「…………俺もそんな気がしてきちまったじゃねえか、アイツから連絡もねえし」

定規『……どうするの?』

垣根「連絡をしてみるが……どちらにしても『最終信号』の奪取を優先するか」

垣根「生きてりゃ、『最終信号』の回収に現れるだろうし、早めに確保しとくに越したことはねえ」

定規『そうする?……でも、言い忘れてたけど、一つ問題があるわよ』

垣根「はぁ?」

定規『『最終信号』と一緒にいる女の子、腕に風紀委員の腕章をしてるのよね』

垣根「また、めんどくせえ事になってんなあ……ああ、まあ良い。そっち向かっから、動きがあったら連絡をくれ」

定規『大丈夫?……さっきの話しの通りなら、暴走しかねない危険な状態じゃないの?』

垣根「機材でチェックしてみたところだ。今んとこ安定を取り戻してる、暴走の心配はねえだろ」

ホテルに帰り着いて用意した機材、電話をしながら計測していたが一応、通常の値を示している。

ぐったりとした倦怠感は残ってる。

ひと休みしたいところではあるが探していた『最終信号』を確保する好機。

心理定規との連絡を終えた垣根は再び戦場へと出掛けていく。

此処まで

>>9
お手数をおかけしてすいません



電気の説明箇所はwikiを引用させて貰ってます

前スレ埋まってた、結構見てくれてる人いたんだ、と感謝しております

それとお詫びを、どうもブクマから貼ると上手くいかないようで、申し訳ありませんでした

無い知恵を絞りながら書いております、分かり難い点など多々あるかと思いますがこれからも宜しくお願いします




第7学区 オープンカフェ


遅い。

咄嗟のやりとりだったこともあり、連絡先の交換もしてなかったのは大失敗だった。

行く先も人混み、というだけでは浜面達が無事戻って来ても見つけて貰える保証はどこにもない。

別れてから、随分時間も経ってしまった。

初春はここで浜面達を待っていても良いのか迷いが生じてきている。

浜面は第四位の麦野沈利、先日の三沢塾ではローマ正教の騎士という魔術師を撃破している。そう簡単に負ける人ではないと思うが、やはりただ過ぎていく時間は不安を募らせてしまう。

その一方で打ち止めとの会話を楽しむ初春もいた。

オレンジジュースの打ち止めと遅い昼食でサンドイッチを食べる初春。

話しのきっかけは初春が一方通行と浜面そして打ち止めの共同生活に不安を抱いてしまい、暮らしぶりを尋ねてみたのだが、

打ち止め「たまに外食もするけど、家であの人に食事を任せると冷凍パックをレンジでチンするだけ、浜面がこれじゃダメだって料理を作ろうとするの、そうしたらあの人は、なんだこの男料理はガキに食わせられか、とか文句を言うの、正直どっちもどっち、ってミサカはミサカは言ってみたり」

初春「はははは……」

学園都市第一位の一方通行と底辺であるスキルアウトの浜面、二人の食事事情が偲ばれ、打ち止めのダメ出しに初春は乾いた笑いがでてしまう。

初春(は~、冷凍パックですか、栄養が取れたら良いって考えなんでしょうけどあの人は……浜面さんは味付けを濃くしてしまうんですかね?)

180万人もいる学生達、いつも外食ともいかないし、コンビニなどの弁当も飽きてくる。

そんな訳で自分で料理をする自炊派が存在する。初春もその一人で、佐天や上条もそうだ。

ただ自炊派と言ってもたまに料理をするだけ、大雑把で味付けを濃くして誤魔化すタイプもいる。

まあ浜面もそのタイプだった、ということだろう。



打ち止めの話は続き、

打ち止め「この前なんかひどいの、ってミサカはミサカは訴える!」

打ち止め「お店でお食事したあと、口のまわりが汚れてると言ってあの人、お口のまわりをふきふきするの、ってミサカはミサカはそこまで小さい子供じゃないと宣言する」

初春(うっ、そっそんなこともありました……ね?)

打ち止め「そのうえ、あの人ったら、口を塞ぐような子供っぽいイタズラをしてきたの、ってミサカはミサカは憤慨してみる」

初春「あはははは……」

初春(なっ、なんでしょ? この思い出を取られたような気分は?)

打ち止め「あっ、そう言えば一昨日なんか、浜面が急用でいなくなったとき、間が持たねえとか言ってゲームを大人買いしてたの、ってミサカはミサカはあの人の財力にびっくり」

初春「ゲームを大人買いって」

打ち止め「家政婦はみたの、その夜、あの人がゲームをしてるところを、ってミサカはミサカは暴露してみる」

初春「夜中にゲーム……」

打ち止め「でも、それってミサカのためだったの、上手にゲームが出来なかったミサカをフォローするのに一通りやってたんだ、ってミサカはミサカは浜面が教えてくれたことを初春のお姉ちゃんにも伝えてみる」

打ち止め「たぶん初春のお姉ちゃんと一緒だった頃もそんな感じだったのかな、ってミサカはミサカは想像してみる」

本当は変わってないと言いたかったのだろうか?

初春「私のことは気にしなくていいんですよ、あほ毛ちゃん?」

打ち止め「が~ん、いつの間にミサカの名前をあほ毛にされてる!!、ってミサカはミサカは気にしないでと言いながら毒を吐く初春のお姉ちゃんにびびったり」



それにしても天真爛漫な明るい子だと初春は思ったが少し疑問もある。

妹達<シスターズ>とのこの違いはどうだろうかと。

妹達<シスターズ>は反乱を警戒されて感情を入力されていない。

実験を遂行するうえで感情など邪魔だという考えもあろうが、端から感情をデータ化して入力できるものなのか?
せいぜいが行動様式のプログラムを組むぐらいしか出来ないと思う。

最近は情緒が育ってきてはいるらしく妹達<シスターズ>もそういう感情の発露を見せるようにはなってるがまだまだ、演技をしているように見える程度。

しかし、この打ち止めは違う。

司令塔の役割があるとはいえ妹達<シスターズ>の基本設定は同じのはず。司令塔として考えると余計にこのお子様らしい自然な感情表現は危険ではなかろうか?

逆に打ち止めの行動様式をわざとこのように設定してあるなら、何のために、と初春は考えてしまう。

初春(ここまで天真爛漫ではなかったと思いたいですが、あの人と一緒にいた頃はこんな感じだったような?)

初春「う~ん」

打ち止め「どうしたの?、ってミサカはミサカは唸ってる初春のお姉ちゃんを心配してみる」
初春「えっ、あっ、さすがに浜面さん達遅いかなって思いまして、心配かけてごめんなさい、あほ毛ちゃん」

打ち止め「あ、あほ毛じゃないよう!!ってミサカはミサカは抗議する!!」

打ち止めもジュースを飲み終わり、初春も食事を終えている。

そろそろここで待っていても埒があかないと初春も思い始めていた。

どうせなら、カエル顔のお医者さんの病院か風紀委員の支部のどちらが良いか思案していると、

「お嬢さん方、良かったら別なところでお茶しませんか、良いところ知ってるんですが」



初春がハッと見ると初春達が座っているテーブルの横にいつの間にかポケットに手を突っ込んだホスト風の男が立っていた。

初春「すいません、風紀委員の職務中ですので、これからこの迷子ちゃんを支部まで連れていかないといけないんです」

そこで初春はニコッと笑みを見せ、

初春「それに私たちをナンパしたりすると色々、疑われますよ?」

「ふっ」

男は吹き出しそうになるのを、

「おっと」

堪えると

「そう邪険にしないでも良いじゃねえ?……そうだ、その支部に行くまで、話しでもしようぜ」

初春「……そうですか」

初春は席を立ち、打ち止めを促す。

男はポケットから手を出そうとしていた。

初春「ご自由に……ついてくるな、とまでは言いませんよ」

「へぇ」

男はポケットに手を入れ直す。

初春「ところで、お名前は?」

「垣根、……垣根帝督だ」

初春「垣根さんですか、第二位のお名前と同じですね」

垣根「まあな、良い度胸してるじゃねえか」

初春「では行きましょうか」

店のシステムで会計は商品を受け取るときに済んでいる。テーブルに残された食器は店員が片付けてくれることになっていた。

初春は打ち止めの手を取ると歩き始めた。



垣根はその二人のあとをついて行く。

風紀委員の少女が話しかけたときから緊張しているのはわかっていた。

怯えもみえる。

一度、ポケットから手を出そうとしたとき、垣根は実力行使にでようとしていた。

面倒にはなるが騒ぎになっても垣根は別に構わないと思っていた。

風紀委員と言っても小柄な少女一人、何とでもなる。応援を呼ばれたところで『最終信号』を連れて包囲網が敷かれる前に突破すればよい。

後は風紀委員や警備員の出番ではない。闇同士の暗闘、反乱の開始。

それを、この少女は察知したのかもしれない。言葉を繋ぎ、実力行使に出るタイミングを失わせた。

ここで揉めれば被害が出る、それを避けたのか?

垣根は少し興味が引かれ、

垣根「こちらは名乗ったんだ、名前教えてくれても良いんじゃね?」

初春「……この子のことはご存知でしょうから、私は初春(しょしゅん)と書いて初春飾利です、……ちなみに御坂……美琴さんの友人でもあります」

垣根「ほう……」

垣根(『最終信号』を狙ってることも知ってやがる。この前、第三位とやり合ったこともたぶん知ってんだな。ホント良い度胸してんじゃねえか、……こいつ囮にすりゃ第三位も出てくっかな?)

垣根「それで、何処向かうんだったかな?」

初春「支部の予定ですけど、行かせはくれないんですよね?」



冷静に見えても初春の胸の内は、

初春(さあ、どどどどどどうしましょうか!?第二位ですよ、第二位!! あんなところで暴れられたらどれだけの被害が出るかもって出て来ましたけど、ポケットから手を抜きかけたときなんかひやひやもんでしたよ!ホントどうしたらいいんですかっ!?)

こんな状態だった。

初春(なんでこのタイミングで出てくるんですかっ!?……えっと……まさか?)

初春「垣根さん?」

後ろを見ず、問い掛けの声をかける。

垣根「っん?なんだ」

初春「垣根さんは浜面さんをご存知ですか?」

垣根「浜面? ああ知ってるぜ、さっきまで一緒だった」

初春の肩がビクッと震える。

それを見た垣根は、

垣根「安心しな、まだしぶとく生きてるみてえだ」

気持ち、楽になる。

なら、初春は覚悟を決める。

打ち止めを守る。

それほど浜面のことを知る初春ではないが、浜面に上条と同じ匂いを感じている。

必ず打ち止めを迎えに来てくれる。

資料で見た一方通行ではなく打ち止めのおかげで変わり始めているあの人。

周囲にいる人々を犠牲にせず、打ち止めをあの人と浜面の手に帰す。

支部への道は人通りが絶え間なく、向かうことは出来ない。

それに行かせてはくれまい。

打ち止めが逃げる道も確保する必要がある。

思い当たる場所を選択して行く。



垣根(どこへ行くつもりだ? こいつがどこの風紀委員の支部に所属してるか知らねえが、今の口ぶりじゃ向かうつもりも無さそうだが?)

二人の後をついて行く垣根は少々面白がっていた。

早く『最終信号』を確保したい気持ちはやまやまであるも、初春がどうするつもりなのか興味がある。

普通なら第二位という地位にある垣根を前にして絶対絶滅の場面。なのに応援を頼むような素振りも見せない。

もし、そういう素振りがあれば垣根はすぐに行動に移すだけ、寿命を縮めるだけだが、かと言って一人で対処しようと言うのか、知らないならともかく第二位としったうえで、と垣根は面白みを感じていた。

次第に人のざわめきが聞こえなくなり、人の姿もまばらになる。

垣根は向かう先がわかってきた。垣根も浜面を誘い込む場所として候補にあげていた。

第7学区は雑多な地区だ。

第7学区と言われれば『学舎の園』に統括理事長がいるとされる窓の無いビルを思い浮かべるがそれは学区の特徴を言い表したものではない。



第23学区のような航空宇宙開発といった研究分野、第四学区なら食品関連の施設が多く並び、第六学区ならアミューズメント施設が、第15学区は最大の繁華街があり、マスコミも多くはここへ拠点を構えている、他にも神学系の学校が多い第11学区、大学が多い第5学区などそれぞれの学区を特徴づけているが第7学区にはそれがない。

その代わり第7学区は活気に満ちている。

学園都市を凝縮したようなごちゃ混ぜした空気が漂い、雑多なエネルギーが活況を生んでいる。

新陳代謝も早く、1年もすれば様変わりする区画もある。

そんな発展を続ける学区の中には取り残された箇所が出てくる。そのような場所はスキルアウトの根城になり易いが、根城には向かない場所もある。

目の前にある寂れた公園もその一つ。

街の発展、年月とともに街の中心地が変わり、人が集う場所としては繁華街、住宅街から離れていってしまったのだろう。

利用者が少なく、それを理由に整備もお座なりになれば余計に通う人も居なくなる。

今日も人の気配は感じられない。

この公園には柵などの囲いもなく開け放たれている。何処からでも出入り自由という状態。

それがスキルアウトにも嫌われた理由、周囲を警備員の部隊に包囲されたら一網打尽になってしまう。広い陣地をより多数で囲まれたら守りきれない。

垣根が選択肢に入れながら選ばなかった理由は逆。広い陣地ゆえに誰かが盾になれば目標を逃す可能性を危うんでだった。

垣根(こいつはそれを狙っているのか?)



垣根(それができるだけの実力があるのかよ?)

能力を使わなくても手折れそうな少女。

その少女が公園に入り、垣根へと向き直る。

覚悟を決めた目をしていた。

垣根(笑わせるが、付き合ってやるか、……どうせすぐ終わる)

垣根の予想通りと言うか、初春は打ち止めへ語りかけている。

初春「あほ毛ちゃん、良いですか?あほ毛ちゃんはこの公園を出て浜面さんを探しに行って下さい。私はこの人のお相手をしてますから」

打ち止め「あほ毛じゃないって何度も言ってるのーっ!!初春のお姉ちゃんを残して行けるわけない、ってミサカはミサカは訴えてみる」

初春「ダメですよ、この方の狙いはあほ毛ちゃん、あなた。最初に研究施設を襲ったのもこの人です」

初春「ですから、あなたが捕まれば負け、あなたを逃しきれば私の勝ち、……妹達<シスターズ>には逃走プログラムが入力されてましたね、それに従って逃げて下さい!」

垣根「ああ、そりゃちょっと厄介かもな……さっさと潰すか?」

二人の会話に垣根が割って入る。ポケットからは既に手が抜かれていた。

初春「さあ早く、早く行って下さい!!」

打ち止めは初春の声にビクッと震えると向きを変え走り始める。



打ち止めは後ろ髪を引かれ時折、初春を振り返りながらも公園の出口へと到達し走り去る。

公園には対峙する二人が残る。

初春は不思議に思い垣根に声をかける。

初春「どうして?……打ち止めが逃げてるのに何もしないんですか?」

垣根「いや、なにな、ちょいオマエを気に入った。オマエのゲームに合わせてやろうかと思っただけだ」

垣根「どうせ、すぐ終わるしな」

垣根の背中からぼーっと白い光が横に広がる。

垣根「俺は外道のクソ野郎だが、それでも極力一般人を巻き込むつもりはねえんだ」

白い光が形をとろうとする。輪郭が整う。

垣根「だがな、……敢えて敵対するってなら別だ」

白い翼となる。

垣根「俺は自分の敵には容赦をしない」

垣根の左右に禍々しい白い翼が翻る。

垣根「抗えるのか?」

本当のところ垣根は殺す気までは無かった。第三位の友人だと言うなら利用価値はある。

殺さず打ち倒すつもりであった。

ブオッ!!!!

垣根の意志に従い白い翼は初春へ襲いかかる。

垣根(あっ、やべえ!)

それが力の調整を間違えたか、暴走の影響が残っていたのか必殺の一撃になっていた。

それが、



止まっていた。受け止める出なく、

初春が伸ばした手の前で。

翼は静止していた。




初春「言いましたよね、御坂さんの友人だと、聞いてますよあなたの能力は」

此処まで



桜のような花びらが舞い散り吹雪となって少女を覆い隠す。

寂れた公園に現れた名画を想わせる幻想的な光景。

魅入られる光景。

だが垣根にはそれを堪能する余裕など無かった。

食い尽くされるような、引きちぎられるような、むしり取られるような、奪い取られるような食いちぎられるような感覚。

力加減を誤り大木であろうと打ち倒したはずの未元物質<ダークマター>の白い翼、少女の手に触れたかと思えば、衝撃もなく、反動もなくその場に静止する。

そして突然だった。

制御を持って行かれた。

純白の花びらに見えるのは未元物質<ダークマター>の欠片。

制御を切り離さなければ何処まで持って行かれたか?垣根は暗い闇の顎に飲み込まれる思いだった。

未元物質<ダークマター>の欠片は宙を舞い散り、何処かへ消えていく。

垣根(何だってんだ、今日は?)

日常とは勝手が違う、垣根にとっての日常とは命が軽く扱われる世界であったが垣根は捕食者の立場、それが次元の違う世界へと迷い込んだ気分だった。



初春が発した言葉はいわゆるハッタリにすぎない。

垣根と初春の距離も幸いした。

美琴に聞いていた殺人光線に烈風を使うにしては微妙な距離。

あの白い翼が撲殺用のメイスのごとく使用される瞬間に備えていれば良かった。

第二位 垣根帝督から感じ取れる存在は異物。本来この世界に存在しない、有るはずがない存在。

美琴から忠告を受けた『消去』を使っても世界に歪みをもたらす懸念が無かったといえよう。

初春の伸ばした手、僅かに触れた手で静止する白い翼。

風はない。

季節はずれの白い桜吹雪が舞う。

白い翼を砕き、引きちぎり、むしり取った。



垣根は未元物質<ダークマター>を砕き、分解した力を解析しようとした。

しかし当てはまるモノがない。

熱量でもなく運動量でもなく、知り得る力ではない。

演算能力をフル回転させても推論もできず、分かるのは強力な力、破壊の力、未知の力が未元物質<ダークマター>を掴み、引っ張り出し、根こそぎ持っていこうとしたことだけだ。

どのような力であろうと完全に破壊されることの無かった白い翼が砕け散っていく様は驚愕に値する。

垣根は言葉に言い表せない。

垣根(第三位に俺の未元物質<ダークマター>を聞いてようが、対処法がそうそうあるかよ……)

垣根(俺の未元物質<ダークマター>、存在しない物質を否定された気分だぜ……否定?)



初春(う、上手くいったのでしょいか。これで警戒してくれたら時間を稼げます)

初春にしても手で触れない限り、力が使えない。

烈風にしても、殺人光線にしても対処できない。

白い翼を消し去ったことで初春への対処に時間をかけてくれれば、それだけで打ち止めが逃げ延びる確率が高くなる。

初春(でも……)

今、起こった現象。

初春(この世に存在しない物質だからでしょうか?今のような消え失せ方は初めてです)

初春もその光景に驚愕したが、表情は白い桜吹雪が隠してくれた。

それにもう一つ。

初春(この手に残る感触は一体?)

初春の手には『力』が残されていた。

本来なら世界を歪める原動力となる『力』。それが初春の手元に残る。



垣根(否定……まさか幻想殺し<イマジンブレイカー>とやらと同じ力じゃねえだろうな?)

学園都市、その最高峰とされる七人しかいないlevel5。一つ下のlevel4とは隔絶とした差。

だが噂、都市伝説の中には強大な力、level5に匹敵する力を秘めながら『書庫』にも登録されず、表にでてこない者もいるという。

幻想殺し<イマジンブレイカー>もその一人。

垣根(コイツ、幻想殺し<イマジンブレイカー>とは違うにしても同質の力?いや)

垣根は砕け散った翼を復活させる。

前と同じ2枚ではなく6枚。

ブランに何らかの関わりを持ち、統括理事長が注目している幻想殺し<イマジンブレイカー>。

異能の力を打ち消してしまうという。

現象だけ見れば同じに思える。

が、勘が違うと告げている。直に幻想殺し<イマジンブレイカー>を見たことはない。はっきり言える訳ではない。

しかし分からなくてもイメージはできる。



初春の手に膨大な力がある。

初春はこれまでただ存在を消去してきた、と思っていた。

実際には存在そのものを力に還元していたことに初春は手に残る力で初めて気づかされた。

世界を歪める原動力となる膨大な力、無色透明にして純粋、使い方によれば白にも黒にも変わる。初春の意思によって。

これで何が出来るか脳が回転していく。演算がフルに働き、恐れを抱く結果が導きだされる。

危険。

思い起こすは錬金術師が使用した黄金錬成<アルスマグナ>。垣間見た黄金錬成<アルスマグナ>がフォーマットとなり、あれ以上の事を起こすことが可能。

崩壊した三沢塾のビルが巻き戻り再建された姿、それすらも可能。

その力が宿る自分に初春は恐怖を覚える。

初春(と、取り敢えず、この場を凌がないといけないんですけど……使って良いものか……?)

目の前には6枚の翼を広げる第二位。

初春は思案していたが、

襲いかかる。



垣根(異能の力を消す、そいつは演算が働いても力が発動しない、力の影響を世界に映し出せねえってことだ。そんなイメージだよな)

垣根(けれどコイツのは違う。奪われた……違うな、貪り喰われた、そんな感じだ。現に)

力が渦巻いているように見える。

level5といえ『アイテム』の女のようにAIM拡散力場が見える訳ではない。

数々の戦闘経験が危険を感じ取って告げているだけだ。

それに未元物質<ダークマター>から還元された力であった為かもしれない。

垣根(元々の力って訳じゃなさそうだしな……まさか!未元物質<ダークマター>を力に還元したってえのか!?)

垣根(わかんねえ……俺の未元物質<ダークマター>、存在しない物質をどうやって還元すんだよ)

核反応とかそんな科学的根拠が思い付かない。科学的概念を基盤にしては解析できない。

垣根(存在そのものを力に変えるとか、そんなことでもねえ限り……コイツの能力はそういうモンなのか?)

垣根(試して見るか?)

翼を広げ襲いかかる。



心理定規、ドレスの少女は建物の陰から打ち止めが去って行くのを見送っていた。

垣根との打ち合わせでは打ち止めが単身逃れるなら心理定規が確保する手筈になっていた。

それを心理定規は追わずに見送っていた。

ついさっき例の『スクール』の制御役から連絡が届く。

打ち止めを負うなと、その場を離れるようにと

その寂れた公園の周囲はこれから封鎖区域に指定される、死にたくなければ離れておけ、と。

最終局面を迎えるのだろう。

打ち止めを追跡するのも、すでに上層部の意に反する行為、暗にほのめかされた。

垣根に対して裏切り行為になるが『スクール』の正規構成員も二人失われている。

潮時ではあった。

此処まで

忙しい日が続く上、捏造しながらなんで書くのが遅くなっとります
亀になるかもですが宜しくお願いします



ドッ!!バァッ!!!!!!

6枚の翼が羽ばたき、烈風を初春に叩きつける。

芝生など擦り切れ土の地面を覗く公園に砂塵が吹く。

初春の意思に従い、不可視の防壁が立っていた。

初春は烈風に煽られ後退るも被害と呼べるものはない。

その間に垣根は羽ばたきを利用して後方へ跳び距離をとっていた。

翼を展開する。太陽光を偏光するように角度を整える。

ギラリッ!

とイメージを擬音化した音が聞こえる気がした。

瞬く光。

初春が遮るように突き出した両手の前、空間が光に焼かれ熱せられる。

初春まで届いてはいない。

光を放った当人、垣根は放射状に広げた翼を一度降ろす。

垣根「やっぱ、幻想殺し<イマジンブレイカー>とは違うか…見えない壁?そんな防ぎ方する必要ねえもんな」

殺人光線も烈風も初春という少女にまで届かない、と言っても翼を消去されたように異能の力を打ち消されたのではない。

膨大な力を不可視の防壁に仕立て遮られた。

問題は防壁の攻略法。



よく利用する攻撃技、烈風も殺人光線も不可視の防壁に阻まれ全く効果が無い、翼を撲殺器具に使えば消去され、また『力』へと還元されるだろう。

垣根(まっ、防壁だけなら2つほど攻略法は思いつくがな)

初春の方もそれは分かっている。

ただ『力』の場を張って壁にしただけで、決して『力』を有効に使えたとは言えない。

『力』の無駄遣い、効率を考えたら燃費が悪いのは請け合い。

最適化しなければすぐに燃え尽きてしまう。

攻略法の一つは連続した攻撃を仕掛け、『力』を消費させてしまえばいい。時間の問題を考慮しないで済むならいずれ力尽きる。

垣根(それにしても……大体分かってきたが……ホントにそんな力があり得んのか?)

原子分解能力や核エネルギーを扱える能力と言われた方が納得できる。

垣根(もう一つ……)

もう一つの攻略法。

それは単純明快。腕は2本しかない。

おそらくではあるが翼を消し去った能力を発動できるのは両手のみだろう。

対応できる物理攻撃は二つ。それ以上の同時攻撃を受ければ?

斯くして6枚の翼が宙を翔る。

さながら杭のごとく。

少女を突き刺そうと。



思考は加速する。

初春(防御に最適化。あわよくば……)

(倒す?)

初春(その必要はありません)

(本当に?)

初春(ええ、閑静な場所ですが異常状態であるのは観測されてるはず……警備員が駆けつけてくれば、さすがに引くしかないでしょう)

(ここで倒しておかないと後に響くのでは?)

初春(その時はその時のこと、今そうする必要はないです!!)

よぎる声を振り払い『力』を再構成する。攻防に相応しい姿に。

ブワッ!!

と姿を現す。

白く光を放つ翼。

未元物質<ダークマター>とは違う概念で構成された翼。最適化を行った際、やはり元の形状を覚えていたのか二対の翼の姿をとり初春を包み込む。

バシィィィィッ!

初春を包む白の翼が6枚の白き翼を受け止めると翼は開き、押し広げ、一方の翼を弾く。

垣根の翼はそれだけでは止まらない。押し戻されたままではいない。

踏みとどまり、初春へ斬りかかる。

白い、無機質な、光を照り返す垣根の翼に自ら内なる光を放つ初春の白い翼。

似て非なる翼の衝突は空間を揺るがせる。



垣根(再構成もオッケー……かよ、常識は通用しねえってのが俺のフレーズなんだが……学園都市の科学……超能力の枠からハズれてねえか?)

ガツッン、ガッツンと翼同士が打ち鳴らす音が轟く。

ここに来て垣根は理解した。少女が扱う力の正体。

学園都市の超能力、それは量子力学を基礎に可能性を具現化する力。99%不可能と認識されている物理法則を1%の可能性でおこす超常現象。

矛盾するようであっても物理法則が下地にある。1%の可能性がなければ超常現象をおこせない。

それを無視するかのような力が垣根の前にある。

科学的に解釈しようとすれば哲学の分野になる。

精神、心などの根底には物質があると考え、それを重視する考え方の唯物論。それとは逆に精神のほうが根源的で、物質は精神の働きから派生したとみる観念論。

そのどちらとも言えないが少女が操る力は存在という概念に関わっている。



攻めるは垣根。6枚の白い無機質な翼を振りかざし打ち据える。

一撃、二撃、連撃を加える。

片や自在に動き、垣根の白い翼を受け止め、弾き返す初春の白く輝きを放つ翼。

垣根「クソッ!」

傍目には一方的に攻める垣根に凌ぐ初春の構図。

少女の必死の表情が見える。怯えも覗かせている。それとは裏腹に垣根は苛立ちを募らせる。

翼同士の衝突、削りたてる音が聞こえる。削られているのは未元物質<ダークマター>で出来た白い翼。

垣根「チッ!」

垣根(足りねえ、力が足りねえ!)

未元物質<ダークマター>の構成を変化させつつ物理法則では再現できないほどの力が込められている。

巨大なビルでも叩き潰す自信がある。

それでも白光する翼の防御を崩せない。

垣根(こんな戦闘経験もなさそうなガキに!)

垣根の白い翼には考え得るだけの力が込められている。

理解はした。

この世界に存在しない物質を扱える垣根だからこそ理解できた。

垣根「存在っていう概念を力として使ってんだろッ!」

物理法則に従う力では超えられない。

初春「ええ、よく分かりましたね!」



垣根「フザケんなッ!」

無茶苦茶な話だ。

未元物質<ダークマター>、この世界に存在しない物質。それ故に世界へ与える影響は大きい。

垣根自身そう信じてきた。水に異物を入れ、溶け込むことで水の性質を変えられる。

垣根の自信の源、優越性の源。

初春「無理です。決着がつくようなことはありません。警備員が来る前に引いては如何ですか?」

警備員は来ない。

垣根は初春の言葉を聞き、直ぐにその言葉が浮かんだ。

何故か。

垣根(仕組まれたのか?今日の一連の出来事は。無能力者に散々な目に合わされたうえに、……コイツが今まで力をこんな風に扱えたとも思えねえ、未元物質<ダークマター>が無ければ目覚めなかった……コイツを覚醒させる当て馬に使われたってえのか俺が?……なら警備員が来るわけねえよ)

垣根(アレイスター、テメェの思惑通りに……させねえ、思惑通りさせてたまるかッ!超えてやる)

垣根「超えりゃいいんだろうがッ!!!」



超えるための材料なら既にある。

無能力者との対戦で起こった暴走。目の前にある存在という概念の力。

間違えていた、未元物質<ダークマター>という能力の在り方を。

『この世界に存在しない物質を生み出す能力』

どうして物質を自在に動かすことができるのか?
無から有を生み出すことが可能なのか?

間違いを正す。

爆発的に6枚の翼が展開する。

初春が掲げる翼と同様、神秘的な光をたたえる。

この世界に存在しないはずの未元物質<ダークマター>、それが何を指し示していたのか、何処より引き出していたのか。存在という概念を力として振るう者、それは神に等しい力を持つ者。

概念上にしか見いだせない力が其処にある。概念上にしか存在しない神が住まう天界。

その天界の片鱗が未元物質<ダークマター>。本質を見失っていた結果、本来の力を活かせてはいなかった。

未元物質<ダークマター>を異物と認識していたため異物は異物でしかなく世界(物理法則)に摺り合わせなかったら影響を与えられなかった。

水に溶けなければ変えられなかった。



未元物質<ダークマター>自体が世界を変える力を持っていた。

世界の法則を変える力を未元物質<ダークマター>は持っていた。

存在するだけで化学反応を起こし水を別のものへと変えられる。

世界を変える、垣根はそれを望んでいたのに辿り着けてはいなかった。

垣根「ふっ」

力が溢れる。満たす。

垣根「ふはははははははははははははははははははははははははははッ!!」

暴走した時とは違う、掌中にある。

今は第一位への敵愾心もない。第一位とか第二位とかのランクづけなど気にもならない。

既に超えている。

笑いを堪えられる筈もない。

垣根(当て馬、どっちが当て馬だったのか、あの野郎にはどちらでも良かったのかも知れねえが)

第一位と敵対しても学園都市全てが敵に回っても歯牙にもかけないで叩き潰す、それだけの力が手にある。

目の前の少女を除いて。

全力で翼を振る舞っても簡単には壊れない。

今ある力、全てを吐き出して試せる相手。



叩きつけられる。

異物からさらに異質な存在へと遂げた翼、世界へ現出しているだけで世界を震わせる翼が叩きつけられた。

吹き飛ばされる。

初春の小柄な体が吹っ飛ぶ。

初春は自らの翼でガードしていたが翼が揺らぐのを感じた。

(ほら)

(目覚める前に殺しておくべきだったでしょ)

初春(ですから!)

(警備員が来てもこの人が止まってくれる?)

初春(…………)

もう一撃が来る。

(被害が増えるだけ)

初春(どうすれば?)

(分かってるじゃない)

初春(変える……)

世界というコップの中の水。その中に入り込んだ異物、それが水を変質させようとしている。

(望むままに変えれば良い)

(望む世界へと)

水を変えれば良い。

異物に侵されない水へと。

異物が混ざっても化学反応を起こさない世界へと世界を改変すれば良い。

(その力が貴方にはあるでしょ)

内なる声。自問自答なのか初春の隠れた別人格か、語りかける。

(どんな世界を望むの?)



初春(悲しみも、苦しみもないみんなが笑って過ごせる……誰もが幸せになれる世界)

(望みのままに)

初春の翼が輝きをます。

輝きが空間を圧し、世界を変転させる。

人が知る世界ではなく知らない世界。

ここではないどこかへと。

寂れた公園に異空間と呼ぶには生易しい世界が現出する。











初春「あはっ」

此処まで

次回は美琴VS一方の予定




















初春がまどかになりかけるなんて、そんな予定ではなかった


第2学区


ようやく、ようやく第2学区まで辿り着けた。

辿り着けたは良いがまだ先は長い。

第7学区から第15学区を抜けるまで交通機関を利用できたがこれからはそうはいかなかった。

公共交通機関が発達している学園都市でも数々の実験場が点在する第2学区、特に実験場周りは機密保持の観点からか交通網はさほど整備されてない。

自分たちの足で走るしかないのだ。

もどかしさを感じ、

「その後の様子は?」

「変わりません、とミサカは報告します」

何度目かの会話を上条と妹達<シスターズ>の一人19090号は交わす。

19090号は既に走り出している。

10032号とミサカネットワークを介して正解な場所を把握している。同時に状況も伝え続けられていた。

状況に変化はない。10032号がいる場所、一歩踏み込むだけで電磁波の影響を受けてしまう。兵器試験場らしき中で何が起こっているのか伺い知ることが出来ない。

しかし、それは美琴が健在でもある証拠。

その会話は安堵をもたらすが同時に不安である。

19090号に上条が追随し、その横には白いシスター服を着たインデックスが並ぶ。

インデックスの顔には焦燥感が浮かんでいる。

泣きそうな顔にも見える。


第2学区 兵器試験場


ビョオオォオオオオオオオオオッオオォオオオオオオォオオオッ!!

風が唸りをあげる。


第2学区


第2学区に至るまで美琴の事情、妹達<シスターズ>のことを上条はインデックスに話していた。

せざるを得なかった。

科学知識に乏しいインデックスがどこまで理解したかは分からない。

ポツリと、

「クローンてホムンクルスのようなものなのかな?」

と聞かれたが上条は反対に魔術世界の知識に乏しく、素直に分からないと答えるしかなかった。

その後は黙り込んだまま、今も同じく上条の隣を並んで走っている。

上条も美琴のことでいっぱいいっぱい、インデックスを気にかける余裕はなかった。

そのインデックスが

「……えっ、」

不自然なモノを見たように声を漏らす。

その声につられ上条がインデックスの顔を見ると驚きの表情に変わっている。

上条「どうした?」

イン「『世界の力』が……不自然なんだよ」

上条「『世界の力』って……地脈や龍脈とか地球を循環している力だっけ?」

イン「あれ、とうまに説明したことあったかな?」

上条「いや、……美琴から聞いた」

イン「……そうだよね、……みことは知ってるんだよね……」


第2学区 兵器試験場


「ぎゃは、ぎゃははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

哄笑が響く。


第2学区


上条「それが、えーと不自然だったか」

驚きから不安へインデックスの表情は再び変わっている。

インデックスが何か気づいたことは絶対に美琴に関わっている、そんな予感がして上条はインデックスに説明を求める。

イン「世界の力は世界を循環しているから何処にでもあるって言えるんだよ
でも場所によっては集まり易い場所もあるの、そんな場所には聖域と呼ばれたり、聖堂や寺院が建てられたりする、……それとは逆に世界の力を効率良く集めるために聖堂が建てられたりもするんだよ、これは聖堂と言っても魔術師が魔術を発動するための儀式場……
それに似て、世界の力が寄り集まっていく流れが見えるんだよ」

上条「その方向は?」

インデックスが指さす。

走りながらも19090号が振り向き、指さす方向を確かめる。

19090号「向かっている場所、間違いなくお姉様<オリジナル>が居る兵器試験場です、とミサカは確信を持って答えます」

上条「美琴が戦っているのは一方通行じゃなく魔術師?」


第2学区 兵器試験場


力の高まりが見える。

(これなら……応えて!)


第2学区

それは無い。

上条は自分で言いながら否定する。

魔術師相手なら上条たちに連絡があってもいいし、突発的な遭遇の可能性はあるも第2学区の実験場内というのは出来過ぎ。

まだ其方がマシだったと悪い予感しかしない。

インデックスが魔術師が説明してくれたように『世界の力』は世界を循環している力。

あの日のインデックスは自身を媒体に『世界の力』を魔神のごとく奮った。

自身を媒体に

上条「出来るのか?魔術を使わずに……その『世界の力』を引き寄せることが」

イン「聖堂や儀式場は様式さえ整えれば魔術で無くても作れるには作れるんだよ、でも……」
19090号「正答ではないかもしれませんが、とミサカは最初に断りをいれます。魔術師の魔力は血流や体内電流などを自在に操作して精製するのでしたね、とミサカは確認をとります」

イン「そうなんだよ」

19090号「それを『世界の力』に置き換えれば地球上というかこの大地の下にはマグマが対流し地球全体に磁場が形成されています、それが人の体にとっての血流や体内電流の代わりではないでしょうか、とミサカは想定してみます」


第2学区 兵器試験場


言葉が紡がれ、韻を踏み、旋律を編み、奏でられる。

風の唸りと哄笑の合間、歌われる。


第2学区


上条「美琴は電磁波を操作できる、『世界の力』を直接操作出来なくても……」

19090号「はい、磁場を操作することで『世界の力』を引き寄せられるのでは、ミサカ達では不可能でしょうがお姉様<オリジナル>なら、とミサカは推察します」

それがどういうことか、超能力者である美琴が何故、『世界の力』を集めようとするのか?

答えは決まっている。

上条「インデックス……その魔術を使わないで『世界の力』を利用することは出来るのか?」

魔術。三沢塾で見た光景が上条の脳裏に浮かぶ。拒絶反応を起こし血にまみれた生徒達の姿。

美琴も知っている。身を持ってその結果を経験しているらしい。

その美琴が考えもなく自滅を選ぶとは思えない。

イン「無理。無理なんだよ。『世界の力』は個人の魔力から較べたら無限に近い力を持ってるけど、それは原油と同じで燃やさなきゃ力には変わらないんだよ。そこにあるだけじゃ力にはならないんだよ。魔術という火で燃やさないと」

上条「そうか……」

イン「でも、歌なら……」

上条「歌?」

イン「祈りを込めた歌なら」


第2学区 兵器試験場


砂粒まで分解された残骸、かつての景色は跡形もなく消え失せている

あたりは砂丘のような景色に変わり果て、砂嵐が舞う。

狂喜をはらんだ赤い目が見据える先。

美琴は歌う。

祈りを願いを、世界を讃え。


第2学区


上条「歌?」

イン「ローマ正教には『グレゴリオの聖歌隊』っていう切り札があるんだよ」

上条「グレ……」

三沢塾で見たアレだ、アレのことだ。

イン「『世界の力』が集まる、世界でも指折りの大聖堂で3333人の修道士が祈りを込めて歌い発動させる大規模魔術」

イン「言葉を旋律にのせシンクロニティさせることが大切なんだよ。魔力は『世界の力』が応えてくれれば良いから一人一人の魔力はあまり問題じゃない」

イン「グレゴリオの聖歌隊は最初から術式が組まれた聖堂の中、『世界の力』が集まる聖堂の中で祈りを込めて歌うことで莫大な威力を発揮するんだよ」

上条「なら……」

しかし目に焼き付いた光景がある。

イン「聖歌は魔術としては初歩、日本人も神社でお祈りしたり、御守りを持ったりするでしょ?」

上条「ああ……」

イン「それらも魔術としては初歩の初歩、僅かながらも奇跡のきっかけになったりするんだよ、その段階では拒絶反応はおこらないって言うかそんなんで拒絶反応が起こったりしたら大変」

祈るだけならば

上条「えっ?」

イン「様式的にはね、聖歌は次の段階、旋律を刻むことで効率を高めるんだよ」

魔術の様式に則って歌えば


第2学区 兵器試験場


視界に映るのとは別の世界が脳内に映し出されている。

まるでポリゴンで構成された世界、データが羅列され、ちょっといじれば壊してしまいそうになる世界。

実際、敵対者から振るわれる力、凝縮されたデータの片鱗に美琴が対応したデータを加えると四散、分解、解消してしまう。

美琴は世界を電子情報化された空間として見ていた。

自分自身を見ることはできないが、俯瞰して見ることができれば自身もデータの塊にしか見えないかもしれない。

そんな電子情報化された世界に埋没しそうになるなか、正面に映る狂喜をはらんだ赤い目をして哄笑をあげる少年だけは美琴の眼で捉えたそのままの姿。

膨大なデータが世界を埋め尽くすなか一方通行のその姿だけは屹然と見える。

戦況は美琴の防戦一方のままで天秤は傾いている。一方通行が振るう力を美琴は凌だけの状況。

反撃の糸口も見つからず局面はもはや動くことはない、そう誰かが傍らから見ていれば思うだけの有様である。

その状況のなか美琴は歌う。

力が集まり、纏わりついていく一方通行へ向けて。



美琴の意識下において一方通行は特異点と言えば良いのか、一人だけ存在感が違う。

遠く離れた第7学区の方向に別種の特異点があるような気がするがそれに構ってはいられない。

一方通行「ぎゃははははははは何歌ってやがる?はははははははは」

ベクトルを操る力

地球上に溢れ、身に触れる力を

それは大地から湧き起こる脈動であり空気の流動で磁気の見えない波動。

『世界の力』に連なる力

一方通行はそれらを束ね力を振るう。

美琴は電磁波を誘導し活性化させ意図的に『世界の力』がこの地に集まるように仕向けた。

一つの流れができれば、後は一方通行の能力が繋ぎ止め離さない。一方通行自らが周囲に膨大な力を束ね凝縮しようしているからだ。

言ってみれば一方通行自身が『世界の力』を集めるための聖遺物に等しい

一方通行の認識外の力故に一方通行は気づきもしていないが見る人が見れば、魔術師が見れば恐れおののくほどの『世界の力』が凝縮されていた。

マッチの火ほどの必要も無く、静電気で燃え上がるほどに

そして美琴の歌は終わりを迎える。

考え抜いた対一方通行戦計画の最終幕

最後の節を唱える。



美琴「光あれ!」

その歌に祈りに世界は応える。

光が溢れ覆い尽くす。



光は一瞬のうちに収まり、世界は元の世界にかえる。

荒れ狂っていた風もなく、他の力の波動も消えた。

人の姿をしたものが膝をつき、前のめりに倒れかかる。

片方はそのまま地に伏せ、片方は倒れる前に腕を地につき身体を支え、前のめりになった身体を戻しペタンと腰を下ろした。

美琴「や、やった?」

一方通行を基点として『世界の力』が爆発的に光に変換された。科学的現象では無い変換、その時に起こった衝撃は起爆の中心にいた一方通行を貫いた筈である。

美琴が描いたプラン通りであればこれで終わりだった。

倒れ伏す一方通行にピクリとも動く気配は無い。

まだ深度を戻していない美琴の観測では先程までと違い、一方通行もデータの塊にしか映っていない。

反射の能力が起動しておらず、それは演算が行われていない証拠である。

恐らくは脳機能に一時的な障害が起こり演算処理が不可能になっているのだろう。

そう、あたりをつけると美琴は腰を下ろした状態から立ち上がろうとした。

美琴「ゴフっ!」



口から血が溢れそうになる。

反動だった。

歌っている最中から、息が詰まるような血が逆流するような体が弾けそうな感覚があった。

それを無理やり体内電流を操作することで押さえこんでいた。お陰で攻勢に回る余裕もなくなっていた。

それが、ここに来て決壊した。

身体がバラバラに砕けそうになるのを押さえつける。

美琴「ガハっ!」

体内電流を調整し直す。

が口から血が流れ、身を震わす。

ぶるぶると身体を震わしたところでようやくおさまる。

美琴は気がつけば腰を下ろしたまま顔を地につけていた。

美琴「ハアハアハア、ホントどういう条件よ、拒絶反応って?」

美琴の予測では魔力を精製しようとすることで拒絶反応が起こると見ていたがそれも若干違うようだ。

魔力を精製する代わりに『世界の力』を利用しようとしたがこの通りである。

美琴(魔術を使用しようとする、それ自体が拒絶反応を呼び起こすの?)

腰を下ろしたまま上体をもう一度起こし、身体を確認すると

美琴「参ったわね、さすがにコレは沂滯iリG魅v讀Dーuー翊」



上体を起こしボロボロになった自分の姿を見て、美琴は何も言わずに出掛けてこの姿で帰れば友人達に何を言われるかと、そんな事を言おうとして言葉が乱れた。

乱れたと言うより、世界に存在しない言語を吐いた。

美琴「深度を深くしすぎて言語機能が擔ン墨Y墓圧迫されてるのかしら?」

早く深度を戻そうとしたが、

警戒態勢を取り直す。

ピクリとも動きがなかった一方通行から未知の波動が起こっていた。

未知の波動、感じた一番近いモノは幻想猛獣<AIMバースト>、『世界の力』、魔力。

それぞれと近い距離にいながら離れておりその中間点に有るような波動。

その波動が形を為す。

黒い翼が世界を圧する。

此処まで

大変遅くなりました



第三位が歌い終わると光が満ち溢れた。

包み込まれたのではなく、自らが発光するかのように、何かが起爆し光へと変換された。

同時に衝撃に貫かれた。

足の指先、手の先、頭の天辺までを駆け抜けた。

理解不能。

一方通行は砂と化した元残骸の上に倒れ伏していた。

衝撃により手足は痺れ動かないのはもとより思考もままならない。

能力を発動しようにも壁にぶち当たるか、白いもやに巻き込まれるかで数式も浮かび上がらず、混乱するばかりで演算ができない。

自動設定されている反射、眠っていても一方通行の身を守っていた反射さえも今は働いていない。

一方通行を守るべき最強の盾が失われていた。

手足も動かず能力も働かない、身を守る術が無いことに言い知れぬ畏れを抱く。

第三位のなすがまま。

それは一方通行が終わるだけでは済まない。

ここへ来た本来の目的、打ち止めを救う、それが虚しくも果たせず終わる。

一方通行を殺した後、第三位は自らの劣化板であり粗悪品でしかない妹達<シスターズ>を殺し尽くすだろう。



天井から聞いた話しでは打ち止めは妹達<シスターズ>の司令塔、打ち止めから発せられた命令信号には拒否不可能。

打ち止めから死を命じる信号が送られたら簡単に妹達<シスターズ>は全滅する。

させては為らない。

何故させては為らないのか?妹達<シスターズ>を殺してきたのは一方通行自身である。

一方通行が行った絶対能力進化実験。最初、妹達<シスターズ>を殺さなければならない実験とは知らなかった。知ったのは実験を始めてから。

一方通行が絶対能力進化実験に求めたのは絶対の力、一方通行に挑むことさえ憚るだけの力。それが有れば還れると思った。手を繋ぎ触れ合えたあの頃に。

そうした思いは深層意識に沈んだまま実験は進んだ。

思いとは裏腹に。

殺し続ける日々、妹達<シスターズ>を人の形をした別の物、人形だと思わかったら続けられなかった。

打ち止めには一方通行が実験前に妹達<シスターズ>に汚い言葉を投げかけたのは拒否してもらいたかったから、と言われたがそれは一面では正しく反面では人形であることを確認したかったからだ。

人形でなければ続けられなかった。



心の奥底では気づいていた。

だから狂気を纏わなければ実験を続けられなかった。

その前提が崩れたのがあの日、無能力者、能力が効かない少年と闘ったあの日。

自分が人形ではなく人を1万人も殺してきたことに気づいた日。

自分が死ねば実験は終わる。絶対能力に至る能力者は自分しかいない、続ける意味がなくなる。

しかしそうなると妹達<シスターズ>はどうなるか?

非情なる研究者達は一方通行以上に妹達<シスターズ>を人形、実験動物としてしか見ていない。

不用品は処分される。

一方通行は曖昧な形で今が継続することを望んだ。

打ち止めとの一週間足らずの生活はそれをより強く望むようになった。

打ち止めが居て、浜面がいる、歪ながら擬似的家族。

喧しくも、人と触れ合う日々。

望んでいたモノがあった。

打ち止めを守る為にはいずれ断ち切らなければならない関係だったとしても。

それを一方通行の意思とは関係なく断ち切ろうとする者がいる。

与えてくれた者を壊そうとする者がいる。

一方通行がここで死ねば打ち止めが狙われる。打ち止めだけではなく、打ち止めを浜面は守ろうとするだろう。

そうなれば……



何度も言うが絶対能力など今更欲しい気持ちはなかった。

今の今まで、第三位との闘いでは力に酔っていた。軽くあしらえると考えていたが意外なほどに楽しすぎた、それが力に酔ってしまった原因。

余裕を持ち過ぎたと思うべきか、超能力者としての可能性を見る者の業と考えるべきか。本来の目的を見失っていた。

今は身を守る術が無い畏れ、また再び失う畏れが本来の目的を呼び覚まし、ある感情を呼び起こす。

畏れは絶望を絶望は何も出来ない自分と打ち止めに過酷な運命を与えるモノに、その刃となる第三位に怒りが呼び起こされる。

一方通行は今こそ力を、力を欲する、何者であろうとも守れるだけの力を渇望する。

くぐもった呻き声しかでないなか心で叫ぶ。

理解不能な力に対抗できる力を求める。

右脳と左脳が割れた気がした。
その割れ間から噴き出す。

溢れ出す。

絶望と怒り。それを体現した何かが一方通行を呑み込んでいく。

心の叫びが波動に変わる。

その身を突き破るように背中から噴射する。

黒く深淵と呼ぶべき波動。

思いに染まった黒い波動。

爆発的に広がる。

黒い翼の形をとり、一閃する。



薙払った。薙払うモノなど殆ど遺されていなかった世界を薙払った。

一つだけ遺されていた者、美琴は吹き飛ばされていた。

美琴「がっ!!!!」

直撃は受けていない。

美琴はギリギリのところで見切り、残された身体能力で躱したつもりだった。

しかし余波だけで吹き飛ばされる。

砂と化した元残骸の上を転がり続ける。

元の位置から20mは転がったところでようやく止まる。

重い体を何とか立ち上げ、波動のする方向、一方通行を見る。

同心円状に地にあった砂が払われて元の地面が現れていた。

そしてその中心に存在したのは

黒い波動の塊だった。

そこから数十メートルはあろうかという黒い翼が一方通行の背後に翻っている。

もっと近しいモノがあった。

三沢塾で見たインデックスの背中から生えていた紅い翼。10万3000冊の魔導書、それにより練り上げられた血のように紅い翼に近似していた。

見ただけでわかる。

この黒い翼には対抗する力は今の美琴には無い。



長時間の戦闘による疲労、魔術の反動でボロボロになった美琴の身体に対峙するだけの余力はなかった。

ただ一つ方法を残して。

立ち上がり、噴射し続ける黒い翼を背負い美琴の方を向いている一方通行が見える。

一方通行は右手を前に伸ばす。



一方通行「ihbf殺wq」



一方通行の掌から説明不能、不可視の力が噴き出した。

危険を察知していた美琴は咄嗟に避ける。

間に合わなかった。

左手が、

グシャ!!

厭な音をたてて潰れる。

左腕の肩から先が圧搾機に食いちぎられたように血にまみれる。

再び地面に転がる。

痛みにのたうち回る。

このまま次が来れば終わってしまう。

痛みに耐えながらそう思った美琴は痛感神経を切る。

帰るためには還れ無いかもしれない場所まで潜るしかない、と決意するしかなかった。

上条やインデックス、黒子、佐天、初春達の居る場所へ帰るには一度潜れば還っては来れない深い世界へ行くしかない。

踏み越えてはならない一線を美琴は超える。

自己を消失しかねない深度まで認識を広げる。

意識が拡大する。

個が希薄になる。

美琴は世界に包まれ呑み込まれる。



美琴「あはっ」



「あはっあははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!??????A?сE??Q??EYk?t??K\I懼e?" <?x??E ??¶E??§c???????W?? M¶+`V?E?;^??¢?E?E?E?E7??E?鵤q 8k????Ek?LC??l?¬pl?E?E???????t?6?L?????E5q?E??M??g?E?t$?4k? AA%??y??????A¶?k=[\?E???????E£$±?E%?????<??????E?E>m{K]K]X<??EW? 」

第2学区と第7学区、別々の場所で二人の少女の声がこだまする。

此処まで


第7学区


浜面「何だよありゃ……」

浜面が滝壺を病院に預け打ち止めを探しに出て、見た光景。

第二位より早く見つけられることを願ったが、第7学区のメインストリートにその姿はなかった。

尋ね歩き得た情報はそれらしき二人と二人にからむホスト風な少年が風紀委員の支部へと向かったとのこと。

ホスト風な少年は間違いなく第二位。風紀委員の支部へ向かうことにはなろう筈がない。

一歩先んじられた、浜面は歯軋りする思いだった。

浜面はスキルアウトの仲間に連絡をとった。

何か行方が分かる情報がないか電話をして回った。

そのなかにある公園を中心に封鎖地区が設定されている、というものがあった。

浜面の勘はそこだと告げていた。

そして向かった先、封鎖をかいくぐりそこで見た光景がこれだった。

空に白い輪が何十にも重なって浮かんでいる。

輪は時折光彩を放ち虹のような色合いを見せる。

その輪の下は切り離された世界。そんな印象だった。

そこへ向かう強い意志が無ければ見られない世界。

見えない壁が立ち、意識が阻害される立ち入れない世界が展開されていた。

浜面「クソッ!」



垣根「クソッ!」

輪の下、封絶された世界の中で垣根は抗う。

目の前の少女が声を漏らし、高らかな笑い声をあげた途端、世界が変わった。

少女の背後から伸びる翼が翻り、世界はその在り様を変えた。

変転、変遷、変更、更新された。

この世界は垣根帝督の存在を許さない。

垣根の体がギシギシと軋む。

この世界は垣根帝督を拒絶する世界。

細胞の一つ一つが揺さぶられる。

空に浮かぶ幾重にも重なり直径約100メートルに広がる白い輪。それがこの世界の効果範囲。

閉じ込められた世界、因果律から切り離された世界、少女によりデザインされた世界。

心象風景を映し出した世界。

寂れた公園、彩りを添える花も無く古ぼけた遊具が残されていただけの公園。

だった筈。

それが草花が咲き乱れる、生い茂る、幻想的な空間へと様相を変える。

楽園。

そんな名詞が浮かぶ。

楽園から排除される異物、それが垣根帝督だ。

気を抜けば消滅する。垣根帝督という存在が打ち壊される。

消滅するときはどうなるか、光の粒子が飛び散るように砕けるか、炎のように燃え尽きるか、生命の源のようなものに還元されるか?


第2学区


学園都市を囲む壁と遜色ない高さを持つ壁が聳え立っていた。
そこは兵器試験場、その入り口付近、資材や試験を行う兵器を搬入するゲートの前に常盤台中学の制服を着用した少女がいた。

その少女に駆け寄った上条は声をかける。

上条「もう止まってんだな、電磁波は?」

10032号「はい、19090号に連絡した通りです、強力な電磁波はおさまってますがお姉様<オリジナル>の気配は残ってます、とミサカは改めて報告します」

少女、妹達<シスターズ>の一人、あの日上条が救った少女、上条が御坂妹と呼ぶ少女が答える。

ミサカネットワークを通して同じ報告を貰ったのは少女の姿が見える僅か前、聞かずとも同じ答えであることは疑いなかったが聞かずにはいられなかった。

壁の内側では状況が何らかの変化があった示唆であり、気配が掴めるのは美琴が健在である証拠。

不安と安堵が行き交う。

「いこう、とうま」

上条の背後から呼びかけるインデックスも上条と同様、決意と不安が入り混じった表現をしている。

兵器試験場の入り口には彼ら以外の姿はない。

巨大なゲートの横には人が出入りするための通用口が見える。

上条達は頷き合うと其処へと向かった。



美琴の意識は拡大し世界と同化していく。

世界の中に漂う。感情と呼べるものが薄れ、魂だけが浮遊している感覚。

水の中に沈む氷が溶け出しそうになるのを堪える。

自分の身体も希薄。戻る場所、還る場所としての人の形をした器、ただのデータの塊。

そのデータがあちこち破損しているのが見える。特に酷いのは左腕。

データの修復を試みる。

美琴の身体がグチャグチャになっていた、本来動かしようもない左手を前にだす。

すると左手は青い輝きに包まれた。

その左手が突き刺す先、一方通行もまた右手を前へと向けたままゆらりと揺れると指を軽く握るように動かす。

不可視の力。

ギシッ!

空間が軋む音がする。

ギギギッビキッ!!ギィビギッ!!

美琴と一方通行の中間点、力が組み合い空間を揺らがし、見えないひび割れを生じさせる。

美琴の前へ伸ばした左手を包む輝きが収束して腕を象る。

輝きが完全に消えるとグチャグチャになっていた左手は修復されていた。

美琴もゆらりと左手を動かす。

ガァッギァギャギィ!!

押し返す。

一方通行から再度波動が加えられ押し止める。


第7学区


刃を交え絡め合うでもなく、矛を突き立てるでもなく、弾丸が飛び交うでもなく戦いは続く。

意思力の戦い。

見応えのない睨み合いのみ。観客が居ればブーイングを鳴らすに映る。

それでも絵画を愛する者ならビジュアルは最高だった。

キラキラと光る世界、草花が咲き誇り、その中で天使のような白い翼で世界を覆い尽くさんと広げる二人。その表情を除けば想像の世界にしかない楽園を描いた絵画。

初春は世界の理を変え世界から垣根の存在の痕跡を消去せんとする。

垣根は抗い異物たる個の力をもってその存在を示す。

こことは違う世界、あえて記す言葉を表せば天界。その天界の片鱗を振るい垣根は初春が示し現す楽園を踏み荒らす。

垣根の自らの示す世界に変えんとする。

と言いながらも劣勢に立たされているのは垣根。

変えようとする意志を示さなければ世界から排除されてしまうのは垣根。

意志力の鍔迫り合い、押し負ければ終わり。

危機的状況にありながらも垣根の顔には笑みが浮かぶ。

苦笑いと言えようか。

その垣根の眼差しに浮かぶものは

羨望。

世界の理を変えられる力への羨望。


第2学区


一方通行の瞳はどこか焦点の合わず、光を伴わないで虚空をさまよう。

美琴もまた心ここにあらずの表情、妹達<シスターズ>に似た人形が立っているにすぎない。

人の声は無く力が空間を揺らがし世界ばかりがざわめく。

世界を表と裏に分け隔ていたモノ、認識の壁が取り払われる。

現世から溢れる力、異界より滲み出る力。

膨大な力が世界には渦巻いていた。

その力を意のままに扱える絶対感。

高揚感と世界に溶け込む喪失感。

長くは保たないという確信。

その前に滅ぼさなければならない。

同じく膨大な力が込められた黒翼。情念の色に染められた力の奔流。打ち砕けぬモノなど在りはしない破壊力を持つ。

豪ッ!!

一方通行が背中から生えた黒い翼を振るう。対の翼が幾条にも分かれ、数十、数百となって美琴の器に襲いかかる。

衝突。爆風が外へと弾ける。

蒼い奔流が器より放たれ防ぎ、抑え、組み合っていた。

黒と蒼がぶつかり合い世界が軋む。

耳障りな音が聞こえる。

しかし美琴の器には聞こえてはいない。

感じ取る。

その美琴の意識は時間がたつにつれ徐々に薄れ、剥がれ、世界へと呑み込まれていく。

器もまた


第7学区


浜面「打ち止め!」

浜面は見つけた。建物の陰に隠れ変異した空間を涙を流しながら見つめる打ち止めを。

打ち止め「浜面ぁぁぁ!」

浜面の声に顔をクシャクシャにして歪め振り向く打ち止め。

浜面「何があったッ!?」

打ち止め「お姉ちゃんが、初春のお姉ちゃんが!」

それでおおよその理解が出来た。推論を重ねるまでもなく答えへと直結した。

浜面「あの中に第二位と風紀委員の嬢ちゃんがいるんだな、風紀委員の嬢ちゃんはお前を逃がそうとして」

何十にも重なる天輪の下、違う世界へと変容を遂げる視線の先。

オーロラのような壁が立ちふさがっている。

打ち止め「初春のお姉ちゃんを助……」

その後に言葉が続くのだろう。しかし、無能力者の浜面にそれを願うは浜面に死の危険を冒せということ、打ち止めには続けられない。

浜面「任せとけ」

浜面「巻き込んじまったうえに、見捨てるようなマネなんかできっかよ」

あの壁の内側に入れるかは分からない、こことは違う別の理を持つ世界が展開されている。

浜面はそう理解していた。

此処まで

あげてなかった



反乱を企図した目的は何か、望んだモノは何か?

世界を変えられる力。

いや反乱に限れば立場と言うべきだったか、第三位に言われたように異物は異物でしかない。世界に影響を与えられても根底まで覆す力は無い。

新たな力を身に付けても頂点に登りつめられる力があったとしても同じ事。

それ故に窓のないビルの住人が行おうとするプランを欲した。変えられる力を変えられる立場に変えて。

それが少女が行っているのはまさしく世界の理を変える行為。

羨望であり憧憬。

垣根の唇が動く。

―その全てが欲しい―

と。



初春は世界の濃度を増す。

世界から異物を排除する圧力を増す。

しかし内心では方策を誤っていたことに気づいてもいる。

世界を切り離し小さな世界を構築するまでは良かった。

その先が問題だった。

初春が望んだ世界は全ての人が幸福になれる世界、この小さな世界にはその願いが組み込まれている。

そこに矛盾があった。『全ての人』が幸福になる世界の中から『全ての人』の一人である垣根を排除するという矛盾。

初春はこの小さな世界、楽園の構築者。

垣根はこの楽園から排除される対象者であり矛盾を体現する者。

対立者。

足掻く者。

世界の変異は垣根に対極にある者としての存在を与えている。

楽園を構築するにあたって垣根を異物ではなく、ありふれた存在と規定するほうが良かったかもしれない。

世界の中で100の力を示すモノをありふれた0の存在とする世界を構築すれば良かったのだ。

そうすれば力を振るえ無かった。

排除を試みるたびにより矛盾は増す、垣根の対極にある者としての立場がより強固となる。

世界の矛盾を強める。

矛盾を孕んだ世界は歪みを始める。

初春が圧を増すたびより矛盾は歪みは顕在化する。



世界がざわめく。

内包した『力』を解き放つ時を待つ。



一方で黒い翼が舞い、蒼い炎が踊るたびに



一方で白い翼が翻り存在を示すたびに



世界の限界が訪れる。

破局の時が舞い降りる。



走っていた。

制止する声も渦巻く危険も無視して。

右手を握り締め、拳に力を込め。

思いは美琴へと、足は一方通行へと。



グニャリと空間が歪曲する。

想像のうえで築いた楽園の終わり。

無理に修正を試みようとする、綻びを繕うとする初春。

思いとは裏腹に力が制限なしに栓の壊れた蛇口のように溢れ、綻びを繕うどころか楽園が拡大する。

無意識のうちに留めていた範囲を超えて初春の楽園が世界を侵食し始める。

矛盾を孕んだまま、不穏を抱えたまま、決して楽園ではない世界が破滅を迎える世界が。

地球上を覆い尽くすことになれば当たり前にあった世界も破滅へと導く。

拡大するばかりの楽園、初春は綻びを繕うのを諦め、楽園を解除しようとした。

捻れ、歪み、撓んだままの世界を取り残して、楽園を解除することで一気にそれが解放される。

空間が弾ける。



黒と蒼の接点。

目に見えぬひび割れが起こり、バリンと音が鳴る。世界の破片がこぼれ落ち狭間が開く。

狭間に黒と蒼が呑み込まれ混ざり合う。

化学反応を起こし不吉な混濁した光が瞬く。

そして溢れ、覆う。



目の前にあった隔絶した世界が広がろうとしていた。

当たり前に感じていた世界を呑み込もうとしていた。

そこから逃げようともせず浜面は呑み込まれるに任せる。

危険を省みず、後先考えない行動。こんなことが彼を心配してくれる人々に知れたらなんと言われることか。

それでも踏み込む。自分で蒔いた種を刈り取るため、彼なりの正義を通すため世界の中心へと向かう。



ゴッ!オオオオオォオオオォオオォオオオオオォオオッ!!アアアァアアアアアァアアアアアァアアアアァアアアアァアアアアァアアアア!!!!!!!!!



天界の片鱗たる無機質な白い翼が優しく繭のように包み込む。

此処まで



次元の狭間で起こった爆発は予期し対応する暇もあればこそ、突如にして空間を砕く。

次元を超えて混濁した光をこの世に齎し、黒も蒼も呑み込み奪い去る。

世界を砕いた証し、稲光のようなひび割れが四方へ走る。留まることを知らず外へと向かう。

世界の破局、その第一歩に等しかった。

ここ兵器試験場より外へはみ出し、この星を覆うことになればこの星は砕け散る。

それを止められるただ一人の少年がひび割れが向かう先にいた。少年はひび割れに右手を殴りつける。

ひび割れの端から逆回しにひび割れに沿って消えていく。

そして兵器試験場は狭間を開ける前の状態へと復帰する。

そして全てを押し流したように黒い翼も蒼い炎も姿を消していた。

ただ美琴と一方通行が向かい合い対峙する構図に変わりはない。

一方通行(がっ!何が起こった?)

ぐらりと身体が揺れる。

手足が麻痺し身体に力が入らない。黒い翼を出る前の状態だ。

思考はしているも脳が機能障害をおこしたままなのか正常な状況分析ができない。

凄まじい力を発していた、超常の力を操っていた姿は今や見る影もない。

当然のようにベクトル操作をしようにも演算式がでてこない。情報の入力はされても回路が遮断された状態。

五感もおかしい。

視覚は対峙していた第三位が朧気に見える。火の粉を散らし霞んでいく。

聴覚も正常に音を捉えていない。

耳障りな音が撓んで聞こえる。



その耳障りな音の中、はっきり聞こえる声がする。

「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

声ではなく雄叫び。

かつて聞いたことのある怒声。

それを聞いたのはそれ程昔でもなく半月前のこと。

思うように動かせない身体、顔だけゆっくり声がする方に向けた。

映るのはあの時と同じ堅く握り締められた右の拳。

拳が届くまでの刹那の時間に一方通行は安堵する。

コイツがいれば妹達<シスターズ>を死なせることなどさせないだろう、と

拳が無防備な顔面を捉える。痛打が炸裂する。意識など一瞬にして消し飛ぶ。

堪える力など最初から無い。一方通行は仰け反り宙に浮くと背中から地面へと倒れ落ちた。



上条の右手には熱を持った痛みが残る。

右手を振り抜いた姿勢のまま一方通行が動かないことを確かめると上条は背後を振り返った。

そこには美琴が立っている。燐光を放ち身動きもせず、左手を前に差し出したまま。

上条「美琴ッ!!」

返事は無い。

不安な気持ちを抑え上条は美琴の元へと駆ける。

上条を追いかけていたインデックスに妹達<シスターズ>の二人も美琴へと向かう姿が見える。

上条は美琴へと近づく。

美琴は燐光を灯し、燐光からは蒼白い火の粉が舞う。火の粉は舞い上がると溶けるように消えいく。

そして近づいて見る美琴には表情がない、かつて見た路地裏での妹達<シスターズ>の表情と同じ。生への執着を忘れた絶望にいる者の相貌。

目の前に上条がいることに気がついているのか分からない双眸。

上条は思わず美琴を支えようと右手を伸ばす。差し出されている美琴の左手を右手で掴もうとした。

触れる寸前、上条の右手は止まる。

上条「まさか……」

今の状態の美琴に触れたら幻想殺し<イマジンブレイカー>で美琴を消滅させてしまうのではないかという疑念、恐怖が上条の心を縛る。

右手を戻しながら、

上条「み、美琴……」




もう一度呼び掛けるも、やはり美琴からの返事は無い。

虚ろな眼差しを虚空に向けるばかりだ。

丁度インデックスに10032号に19090号も美琴のそばに辿り着く。

妹達<シスターズ>の二人にはあまり表情の変化はないが愁いているのは分かる。

インデックスははっきりと悲しみの表情を浮かべている。

イン「み、みこと」

インデックスは美琴に呼び掛けると上条に替わり抱きしめようとするが、美琴の姿がゆらりと揺れる。その揺らぐ最中、まるで立体画像のように一瞬透けて見えた。

インデックスも透ける美琴の姿にハッとすると動きを止める。

インデックスは気を引き締め直し、唇をギュッと結んで美琴の姿を今一度確かめると

イン「とうまっ!」

何事かを決しインデックスは上条を呼んだ。



ぼんやりとした意識は宙を漂っていた。

上条が一方通行を殴り倒し、美琴への二度の呼びかけも、インデックスの声も、上条とインデックスに妹達がそばにいてくれるのも気づいている。

嬉しかった。

ただ明確な反応が出せない。

自分の事でありながら他人のことであるような感覚。

自分というモノが存在していない浮遊感。

世界の中に組み込まれ同化し自我の一塊しか今は残されていない。

個では無く全。

自我を強く示せれば世界はこの手にある。自由に動かせる。

が、その自我を留めていることができない。一枚一枚削ぎ落ち、既に世界の中へ流出していってしまっている。

個として在るのではなく、意識総体に含まれた一片の思念。

もうほとんど残されていなかった。最も強く願い念じていた思いが意識体を繋ぎ止めているだけだ。

そして御坂美琴と名付けられた器も失われ始めていた。

僅かに残る意識はその現象を捉え分析を試みる。

哲学的命題、精神は肉体に付随するものなのか、それとも精神が在るからこそ肉体が在り人として認められるのか?

人としての定義、人としての形が在れば人なのか、人としての精神が在れば人なのか?

結論はない。



ただ今、解るのは精神と肉体は不可分。分かちがたいもの。

世界へと同化する精神に引きずられ、人として保たれていた器が壊れようとしているのだ。

インデックスの声が聞こえる。同様な事を上条に説明していた。

霊体だとかアストラル体などといった用語が混ざっている。

当麻に理解できるだろうか、と疑問に思うが、科学的には精神生命体と呼ばれる存在を確定できない、寧ろ架空の存在に美琴は移行しようとしていた。

level6となれる者は一方通行のみ、その外のlevel5は身体バランスを崩してしまうか成長の方向性が異なる者か

これが異なる成長と云うことであろうか?

『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの』

学園都市が求める者とは人の身で辿り着けないならば人間を超えた身体を手にし神の答えへ辿り着く者。

精神生命体では当てはまりそうもない。

それに自我をどの程度まで残せるものか?

余分なものと云わんばかりに自我をはぎ取られていく現状で。

この状態では世界の中に埋没してしまい何も出来ないちっぽけな存在に成り果てる。

そうなる前に

伝えよう。

まだ伝えられるうちに。

自我を残すことになった強い思いを。



もう一つの戦場、意志と意志がぶつかり合ったその中心、爆心地には巨大な白い繭が残されていた。

周りは莫大な力が破裂したとは思えないほど静まり返り、元の寂れた公園へと姿を戻していた。

白い繭が花開くように解かれ、6枚の白い翼へと戻る。

そして2枚一対の翼を残し、4枚の翼は消える。

2枚の翼は宝物を抱えるように優しく一人の少女を包み込んだまま。

少女は翼に支えられ目を閉じ眠っていた。

あの時、楽園が解消され歪みが世界に解放された。撓んでいたモノが弾け躍動した。

その中心にこの少女はいた。

少女は負荷により意識を飛ばしてしまったのだろう。

それまで敵対していたにも係わらず垣根は少女を守った。

ぼんやりとこれから歩む道、未来が見えたからだった。

はっきりと道標が見えた訳ではない。

が、咄嗟に、気がついた時には翼で包み込み守っていた。

垣根は翼に支えられ眠る少女の顔を見る。

少女は当分の間、目を覚ましそうにもない。

垣根は翼を動かし少女を運び自身の両腕に抱き直す。

改めて近間で見る少女は世界を変えるだけの力を秘めている者には到底見えない、可憐な、まだ幼いと言える少女。



そこで垣根は2枚の翼も消し、ようやく一息をつく。

そして

垣根「……さーて、これからどーすっかなあ?」

途方に暮れる、と言うほどでもないが、全ては最初からやり直し、色々と練り直さなければならない。

一つ既に解っている障害もある。それは

この少女との関係改善。

協力して貰えれば、力を合わせて貰えれば目指す場所に辿り着ける確信がある。

どっかの誰かが考えているプランに乗っかるよりも、自らの望みを自らの考えで成し遂げられる。

ただそれもこの少女の協力あってこそ、闘いの最中に見た少女の性格から言って無理に言うことを聞かそうとしても協力を得られそうにない。

垣根「ふぅ……」

ため息めいた息を吐く。

そして、

垣根「もう『最終信号』やお前に手を出さない、と言ったら信じるか?」

背後の気配に語り掛ける。



「……そう簡単に信じられっかよ?」

背後の気配、男が答える。

いつの間にか、普段の垣根からは信じられないことに、背後に忍び寄られていた。

気配に気付いた時点で予感はあった。その予想通り依頼を受け今日仕留めるつもりであったスキルアウトの声だった。

見なくとも分かる。スキルアウトの少年、浜面が垣根の後頭部へ銃を突きつけている。暗部で過ごした性か気配で分かってしまう。

垣根「まあ、そうだろうな……俺だって信じねえよ。だが、本当に興味が失せちまったんだ」

浜面は垣根の背後からレディース用の護身銃を突きつけ、撃とうとした瞬間に声をかけられ撃つタイミングをはずされていた。

しかも浜面は問いに答えてしまい、会話へと垣根は導こうとしている。

浜面は会話を拒否したいところであったが、やはり浜面は荒事のプロではない。こう場が改まると引き金を引けない。

浜面は逡巡するも、

浜面「興味が失せた、なんて言っても俺の抹殺は学園都市の依頼なんだろ、今更やめれるのか?」

本当かどうかの確証を得るための疑問を提示する。

垣根「大丈夫だろ?俺ら暗部に対する依頼はあくまでも依頼であって命令じゃねえ」



垣根「俺が無理だった、と言って手を引いたところでペナルティーを貰うことは無い」

垣根「俺が失敗したっていう、汚点が残るのは……まあ問題だが……俺が我慢してればいいだけだ(先のこと考えりゃそれぐらい屁でもねえよな)」

垣根「『最終信号』については俺の独断、上は最初から関係ねえ」

垣根「俺が手を引かなければならなかった相手ってことになれば俺の代わりに依頼を受ける組織も考えるだろうよ。おまけに『アイテム』のガードもあるなら依頼を受ける組織は皆無じゃねえか?」

垣根「それにだ、上層部は一枚岩でもねえんだ。足の引っ張り合いをいつもやってやがる。受ける組織もねえなら、そのうち依頼そのものが取り消されるさ」

垣根「以上、俺が手を引いた場合の利点だが、どうだ?」

垣根の長い説明は浜面にとりいいことずくめに聞こえる。その癖、実は垣根が手を引く本当の理由は説明されてない。

まだ疑問、怪しいと思いながらも浜面が銃を降ろそうとするが垣根が抱いている少女、初春が目に入る。

気を引き締め直し、もう一度問う。

浜面「その子、初春さんをどうするつもりだ?」

返答次第では引き金を引く、垣根にはそう続くように聞こえた。



垣根「どうにもしやしねえって」

薄笑いを浮かべ

垣根「地べたに寝かしとくのも可哀想だろ?こんな可愛い子を」

そう言って垣根は背後を向けっ放しの状態から初春を腕に抱えたまま浜面の方へ体の向きを変えた。

垣根「なんならお前に渡すが?」

垣根は初春を浜面に渡すような素振りを見せる。

浜面「ちょっ!?」

浜面もまだ警戒を崩せるほど垣根が言うことを受け入れた訳でない。初春を預かれば銃を自由に使えなくなる。

どうするか詰まっていると。

垣根「なんだ、そらそうだろな。だったら俺が抱いてるのを認めてくれ」

浜面「くっ」

浜面は何か垣根の手のひらで踊らされている気分だった。

垣根「『アイテム』の女がいながら、この子まで……ちと欲が深いんじゃねえか?」

浜面「バッ……そ、そんなんじゃねえッ!テメェからかってやがるな?」

浜面は反撃の糸口を探して、

浜面「あんな中に初春を閉じ込めていたテメェなんか信用できるか!」

話しをひっくり返す。

垣根「うん?……ああアレを俺の能力だと思ってたのか」

垣根「違うぞ、ありゃこの子がやったことだ」

浜面「えっ?」

垣根「この子がやったことだ」

もう一度垣根は繰り返した。



垣根「暴走したんだよ、早く病院へ連れてくべきだな」

垣根はそう話すと初春を抱え直し歩き出す。

暴走とは嘘であったが初春の能力を浜面が知らないなら教えることも無い、と思い嘘をついた。垣根はできるだけ知られない方が良いと思った、いずれ自分のモノにするためには。

垣根は驚き呆けている浜面の横を通り抜けていく。チラッと浜面を見ると大概よく生きてるもんだ、思うぐらいボロボロだった。

垣根(まさか浜面もあの中に足を踏み入れてたのか?
あの破裂の時も?
そういや工事現場でも良く生きてたもんだ?
信じがたいぐらい生存能力じゃねえかよ
運てヤツなのか?)

浜面についてあれこれ考えてみても、垣根の目的からはあまり関係ない。

単に運が良いのだろう、と結論付けるとこれからの目的、最初の難題に頭を切り替える。

如何にこの少女、初春飾利と仲良くなるか。

垣根(………………………………違えだろっ!味方に引き入れるか、だろうがっ!!)

イライラとつい何故か足が速くなる垣根。

呆けていた浜面も正気に返り慌ててあとを追いかける。



残滓と云える自我をかき集める。

元の場所へと還る、その願いは叶いそうも無い。

ならば伝える思いは一つ。

消え去る前に器を動かす。

言葉にならない。それでも当麻なら分かってくれる、伝わる。

そう信じて、

(当麻、ごめん。還れなくなっちゃった。当麻、あ、あああああいって、そのああああああああああああああああああああああああーーーって何やってんのよ私こんな時まで、ちゃ、ちゃんと言わなきゃ!言うのよ私!頑張れ私!ファイト私!当麻……うっううう、あああああああ愛してる………………言えた)

急に押し流される。

意識が途絶える。



インデックスは上条に説明しながら、何とか対処法を見いだそうとああでもない、こうでもないと言っていた。

上条はインデックスの説明を聞きながら美琴の様子を窺っていた。

そんな中、美琴の雰囲気が変わる。

火の粉が飛び散る量が少なくなる。

透けて見えそうになっていた姿に透明感がなくなり質感が生じる。

還ってくる、上条がそう思いかけた時、美琴の唇が動いた。

言葉になっていない。音が空気を伝わらない。

上条は唇の動きで言葉を読む技術など持ってはしない。

しかし、言葉で伝わらなくとも心で伝わる。

が、伝わってくる心は悲しい言葉、謝罪に別れの言葉。

悲しみに追いやられる。

上条「そんな……」

尚も美琴の唇は動いているが、ブレて伝わって来ない。

その代わり、美琴の顔に何らかの表情が浮かぶ。どこか困ってるような、切羽詰まってるような、恥ずかしがってるような、あまり表情が動かない所為で解りづらい。

イン「とうまっ!」

説明を止め、上条と同じく美琴を見ていたインデックスが叫ぶように上条を呼ぶ。

イン「今なんだよ、今しかないんだよ、とうまの右手でみことを連れ戻すんだよ、私たちのところへ」



上条の右手、異能の力を消してしまう幻想殺しを宿した右手。

上条はインデックスの言葉にも美琴を消してしまうのではないかという恐怖が再び湧く。

インデックスは躊躇する上条に説明を続ける。

イン「どんなになってもみことの身体は人の身体、異能の力で拵えられたもんじゃないもん、逆に異能の力で消えようとしてるんだよ、ただ精神が離脱した状態だと切り離されままになるかもって怖かったんだよ。でも繋がってると確信できるんだよ今なら大丈夫。基準点に戻すだけなんだから」

イン「とうま。みことを助けて」

最後の言葉を待たず、上条は差し伸べられている美琴の左手を右手で取る。

いつものような何かを壊した手応えは無い。

インデックスの『歩く教会』を壊した時に似ている。

しっかり握った手の感触のみが伝わる。

美琴の手が消えることはなかった。

安心とこれで戻ってくるのか、心が戻るのか確かめるように美琴の顔を見る。

まだ美琴の唇は動いていた。

伝わる。

(愛してる)

上条「えっ、えーと、俺ってわあーーーっ¥#%♪∪≦仝ゞ!!!」

上条も伝えようとしたものの、美琴の身体が上条に向けて撓垂れ掛かってきた。



上条は慌てて抱き留めるが、力の入っていない美琴の身体は下へとずり落ちていく。

上条は堅く抱き締め、ずり落ちていくのを防ぐと、

上条「美琴、美琴、美琴しっかりしろ!」

この身体に心が本当に宿っているのか不安になり何度も呼び掛ける。

すると

「……うるさい」

美琴は瞼を一瞬開き声を漏らした。

すぐさま瞼は閉じられ寝息が静かにたてられ始めた。

上条「美琴さん?そ、それはさすがに酷いんじゃ………………良かった」

涙がこぼれ落ちる。














第6章 『超能力者』
終了

此処まで

ようやく今日6巻買えた
今から読む



まだ心と身体が馴染んでない感覚がある。

当初はリハビリ中の傷病者のように身体を動かすにもぎこちなかった。

今はかなり状態は良くなってはいる。ただこれが本当に自分の身体だろうか、自分の記憶なのだろうかとどこかしっくり来ないもどかしさががある。

心、自我、精神、魂と表されるモノが一時、世界へと同化した。その時に流出した、と言うか置き去りになったデータが多くある。

その大部分はハード、脳に元となるデータが記憶されていたので問題ないのではあるが違和感がどうしてもあるのだ。

それをインデックスに話すと、それは心と身体が乖離しかけたため、心と身体が別々の経験をした所為と言われた。

幽体離脱を長時間行ったりすると見られる症状らしいのだが、本当にそれだけなのか、もしかしたらあちらの世界に惹かれているのではないかと、疑惑を持ち続けている。これについては誰にも話してはいない。

一方通行戦後に強制入院させられ(前述のごとく身体機能に支障を来していたため)その後も経過観察のため退院を許されない美琴は暇を持て余しそんなことばかり考えて過ごしていた訳だったのだが。

一通の差出人不明の手紙が届けられ、一変させられることになる。



美琴「ううううううううう、ナニよこれ、何なのよ、なんだつーのよっ!」

手紙の封を切り、一読すると唸り声しかでない。一度読めば全て頭に入るだけの頭脳を持っている美琴、本来なら読み返す必要もないのに何度も読み返す。そのたびに同じ唸り声をあげていた。

手紙は手紙ではなく指示書、指示書と呼ぶよりは命令書。

折り畳まれた数枚の紙を広げると最初に書かれてある文字は、

『御坂美琴「超電磁砲」学園都市復帰計画指示書』

となっていた。

契約を守り、便宜を図るつもりなんだろうが問題はその内容だった。

次に書かれてあったのは上条当麻にも同様の指示書が送られていることが記されていた。

美琴は何でだろう、とは思ったが読み進めるうちに理由は明らかになる。

一つ 入国記録が無い状態で学園都市内にいきなり現れては要らぬ混乱を招きかねない。

一つ そのため美琴の知人である上条当麻の父親が帰国するにあたり家族旅行の申請がされていることを利用する。



一つ 御坂美琴はロシアで事件に巻き込まれ記憶喪失となりたまたま居合わせたイギリス出身のシスターインデックスに保護されていたこととする。

一つ 御坂美琴はシスターインデックスに連れられ上条親子の旅行先に観光に来たこととする。

ここまでは御都合主義であるが辻褄合わせのため、と理解したが問題の箇所はその後だった。

一つ 旅行先で運命の再会を果たす二人、ただの知人ではなく以前から上条当麻のことを深く愛していた御坂美琴は上条当麻を見て記憶を取り戻す。

一つ 二人は愛を誓い合い学園都市へと帰還。シスターインデックスは御坂美琴の予後のメンタルケアを名目に学園都市への特別滞在を許可を与える。

一つ シスターインデックスは上条当麻が保護管理すること、同居が望ましい。

10回以上読み返し、

顔を真っ赤にして、

美琴「誰が書いた三文芝居よーっ!」

美琴はあの時、伝えた筈の言葉をすっかり忘れていた。



もう一人、同゙様゙の手紙がどこかから届いていた少年、上条当麻は美琴の見舞いに病室へ向かっていた。

上条「覚えてねーのか、な……」

伝わった言葉、ところが美琴はどうも覚えてないようだった。

インデックスからは

「魂が乖離した間のことを覚えてないかも」

と注意をされていた。

夢を見ても、その夢の内容が漠然として思い出せないことがあるのと一緒、だと言う。

上条からしたら伝わった思いに答えを返したい。

返したいのだが肝心の美琴が覚えて無さそうなのだ。

敢えて上条の方から話しを切り出して覚えているかどうか、確認するのも気が引ける。

最近では伝わった思いが正解だったのか聞き取り間違えたのではないかと自信がなくなり、悶々と過ごしている。

そして今朝届いた指示書。

両親から旅行の誘いは受けていたのだが今の状況では断ろうかと思っていた。

ところがその旅行を利用して美琴の帰還について辻褄を合わせると云う。

旅行と言っても近場の海へ出掛けて遊びましょう、という程度。

予定では二泊三日。

なんと言っても夏の海。

学園都市の立地は内陸部、夏用のアトラクション施設はあってもさすがに天然の海など無い。



向こうへ行っても特別何かをする必要もない、出掛けている間に学園都市が御膳立てをするだけである。

実質、海で遊んでいれば良かった。

おまけに邪魔する可能性のある人物も少ない。

現地には二人にインデックス、両親、プラス母親の友人と云う人のみ。

それに両親の都合で一日目は三人だけになりそうだった。

夏の海に沈む夕日。

最高のロケーションでは無かろうか?

上条(その時に上手く聞き出せれば……いや、もうこうなったら俺の方から……ああ、でも迷惑だったら……どうしよ?)

一級フラグ建築士と陰口を叩かれながら、恋愛レベル0の上条。

自身の不幸体質も忘れ、

実は同゙様゙の指示書と言いながら上条の側には「以前から上条当麻のことを深く愛していた御坂美琴」「二人は愛を誓い合い学園都市へと帰還」などとは記されていない。

迷いながらも浮き立つ気分で美琴のいる病室、そのドアをノックする。

中では指示書を出した犯人の代わりに八つ当たりされる運命が待っていた。

此処まで

6巻おもろかったぜ!
しかし、しんとくんどうすっかなぁ
天井の策謀も……うーん

そこまで来るとネタバレしときますわ
その通りでござんすww

理由としてはインちゃんにも触れる以上、魔術側に関わりがある人物の方が良いかなってところです
文面については前スレお泊まり回のちょいとした仕返しみたいなもん、って理由を考えてました



責任は取る、はい確かに言いました、言いましたとも。

それがあんな事になるとは思ってなかった浜面である。

事の起こりは、滝壺が目覚めたと聞き『アイテム』の皆さんと見舞いに行った時だった。

最初は順調だった。それは間違いない。

それぞれが見舞いの品を渡し、

麦野は何故か鮭弁、病院食があるのに本当に何故?

フレンダは鯖缶三味セット……コイツらホント何考えてんだろ?フレンダの方が見た目重傷だった筈なのにもう回復してるし、能力ってやっぱ羨ましい!

ここはマトモな見舞い品を渡さねばと浜面は絹旗を押しのけ、うさぎのぬいぐるみを渡す。

滝壺を除く三人に白い目で凝視された。

「何故だ!」と叫ぶと、まず浜面に似合わない、どの面下げてファンシーショップに行ったのかと、浜面はやっぱり超浜面なんですねと言われてしまった。

唯一の救いは滝壺がしっかりぬいぐるみを抱きしめていたこと、

であるのだが、その時には爆弾が設置されていたのかもしれない。

次は導火線に火がつく番だった。

火付け役は絹旗。絹旗にそんなつもりは多分、恐らく、一切無かった筈。

絹旗の見舞い品は他の二人に比べたら随分マシであったが、実は微妙。



絹旗の趣味、B級C級と見られる難度の高い映画チケット2枚が絹旗の見舞いの品だった。

趣味に走りすぎだし、いつ滝壺が退院できるか未定、しばらくかかりそうな容態では公開期間を過ぎてしまう可能性が高い。

それに2枚ということは1枚は絹旗、自分の分だろ?絶対自分が見に行きたいだけだろ?

そんなツッコミを浜面が言う前に、

爆弾が弾けた。

2枚の映画チケットを受け取った滝壺が浜面に尋ねた。

滝壺「はまづら、一緒に行ってくれる?」

浜面「えっ?」

白い目の凝視どころではない、人を殺せる視線が二方向から突き刺さる。

金縛りにあって動けない。

蛇に睨まれた蛙状態。

動けない浜面に

滝壺「責任は取る、ってはまづら言った。そんなはまづらを信じてる」

特大のビームが浜面の上半身を蒸発させる光景、窒素パンチが炸裂し浜面の土手っ腹に風穴があく様子。

浜面はなんでか処刑風景が思い浮かんだ。

身近に迫る危険な予感。

ありもしない妄想と言えずそれが現実になると確信できた。

絶対零度か灼熱の視線。

奥で忍び笑う声。

浜面(フレンダ、てめぇだけは殺す!)

そして期待する滝壺の眼差し。

浜面「お、おう」



返事をしたのかしてないのか分からないくらい小さな声で浜面は答えていた。

恐怖に怯えながらも答えていた。

滝壺は身を犠牲にして浜面を守ろうとしてくれた少女であり、浜面が傷つけてしまった少女でもある。

体調も次第に良くなっているとはいえ、もはや『アイテム』の一員としては活動を続けられない。これまでの居場所を無くすことになる。

それ程にまで滝壺の身体は体晶に蝕まれていた。

誰かが支えになるなら、ならねば成らなかった。

その覚悟を一瞬にして、した浜面だった。

声は小さかったが。

滝壺「楽しみにしてるね、はまづら」

それでも聞くべき少女には聞こえたらしい。

そして浜面の両肩にポンと手が乗る。二人の女性の手。

次に両方の手首をとられる。完全に確保。

麦野「それじゃ滝壺、長居しても疲れさせちゃうからこれで失礼するわよ」

絹旗「お大事に、滝壺さん」

身体を気遣う言葉とは裏腹に底冷えする声で滝壺に告げると二人は身動きがとれない浜面を引きずって退出する。

浜面は処刑開始を待つわけにはいかなかった。今から自分一人のためでは無い。滝壺のためにも死ねない。

退出する際の僅かな隙、三人同時にはドアをくぐれない、押さえる手の力が緩んだその瞬間をつき二人を振り解くと浜面は逃げ出した。

そうして今ここに居られる訳である。



浜面(麦野も責任取れ、とか言ってやがったがアレは冗談だろうし、絹旗はそんなに映画に行きたかったんか?)

浜面(滝壺を騙す悪い男みたいに思われたんかなぁ?)

頓珍漢な方向へ処刑されかけた理由を解釈している浜面、それでは二人が可哀想かもしれない。

とりあえず逃げ延びることに成功した浜面は今、別件の重要案件に対処するためとあるカフェにいた。

カフェの角の席、向かいにはパフェを食べている打ち止めが座っている。

目立たぬようにしているが、気付いてない訳がない。

同じカフェ内にいても声が聞こえる距離ではない、それを一応の配慮と受け取って貰えることを期待していた。

実際、こちらへのアクションはない、ということは渋々ながらもここにいることを認めているのだろう。

浜面(それとも内心テンパってて、そんな余裕もねえんかな?)

首謀者である打ち止めはパフェを食べながらチラチラと視線を送っている。

計画の推進者として結果を確認する権利がある、というのが打ち止めの主張。

浜面に言わせればただの覗き、それでも浜面も気にはなっていたうえ、打ち止めを単独行動させるわけにもいかず、打ち止めに付き合っている。

打ち止めが送る視線の先には白い少年と頭の上に花を飾った少女がテーブルを挟んで座っていた。

短くてすいませんが此処まで



打ち止めと浜面に唆された。唆されたが結局逢うと決めたのは一方通行自身である。

浜面から繋ぎがとられた、逢ってやってくれないか、と。迷った末に応じたのは初春であった。

浜面を仲介役に日にちを決め、待ち合わせ場所を決め、こうして同じテーブルを挟んで座っている。

交わす言葉は山ほど有るはずだった。

再会は既に済んでいたとは言え、それはあの絶対能力進化実験の最中。実験の加害者とそれを止めようとする者では交わす言葉も違ってくる。

今はそれも終わりを告げた後。

お互いの状況について断片的に、間に挟まった二人に関わり合いがある人物達から聞いていた。

一方通行が美琴と戦ったことも。

初春が打ち止めを守ろうと第二位と戦ったことも。

これまでどうしていたか、何があったか、お互いのその口から聞きたかったが胸につかえるものがあり、言葉にならない。

一方通行(くそっ、アイツらこっちを見てやがる)

打ち止めと浜面がカフェ内に居ることに気づかない一方通行ではない。

打ち止めがチラチラ見ているのも、素知らぬふりして浜面が時折視線を向けるのも気付いている。



声が聞こえる距離ではない、それが気遣いなのだろうが、その視線は早く話をしろ、と言われているようだった。

他人に急かされるのは癪だが結局一方通行が口火を切る。

一方通行「あァ初春、久し振りだな」

初春「そうですね……………………一方通行」

名前を呼ぶまでの逡巡。昔の呼び方を今さらするには気恥ずかしく初春は今の通り名を口にした。

一方通行「……そーだな、俺は一方通行だったンだな」

昔の呼ばれ方を期待していた、ということではない。

が、隔世の思いがする。初春から一方通行と呼ばれると自らの立場、罪業を思い知る。

初春「え、えーと。いけませんでしたか?」

一方通行「そーじゃねェ、今更ながら俺がやったことをよォ、自覚してたンだ」

一方通行「バカやっちまった」

初春「それはこの前の美琴さんとの?」

初春は聞いていた。浜面から、美琴との戦闘の理由、一方通行も打ち止めを妹達<シスターズ>を守ろうとしていたのだと。すれ違ってしまっただけだと。

だから絶対能力進化実験ではなく美琴との戦闘だけに限定した。一方通行は変わり初めていると信じて。



一方通行「助けようとして誰かの手のひらの上で踊らされてこのザマだ」

一方通行「くそっ!」

一方通行「始末をつけに行ったら蛻の殻だ」

一方通行「イイように遊ばれちまった」

初春「暴力はダメです!」

学園都市の悪意が形作ったモノ、それが一方通行。

一方通行「今の俺はそういう風にできてる」

何より問題の解決を暴力に頼る傾向が強い。

安易に暴力を選ぶ。

初春(一連の事件でもそうでした。話し合い、分かり合えれば……ステイルさんも神裂さんもアウレオルスさんも、そして一方通行と御坂さんが戦う必要なんてどこにもなかったんです)

初春「ダメです!」

一方通行「力でしか解決しないこともあンだよ、特にこの街では」

初春「ええ、そうですね。全てを否定するつもりはありません」

初春「それでも力を使わないで解決する方法もあるんです」

強くなった、それが一方通行が初春に抱いた印象。

一方通行「お前はそれでイイ、俺は変われねェ、変われる筈もねェンだ」

初春「違います、変われます。変わらなきゃ」

「そうだぜ、第一位」



打ち止め「えっ、ええええええー、あっああああああの人は何で二人の席に向かうの、ってミサカはミサカは大混乱」

ようやく話しが始まったようでひと安心、と目を離していた浜面は打ち止めの声に驚く。

何事と思い二人の席に目を向けると

浜面「ブホォォォォォォッ」

意外な人物の登場に吹き出す。

打ち止め「浜面汚いよ、ってミサカはミサカは注意してみる、けどアワワワワワワ」

浜面「何であの野郎がこんなところで出てくるんだよっ!?」



一方通行と初春がいるテーブル、いつの間にかその横には花束を抱えた男が立っていた。

一方通行「誰だッ?」

警戒の色を濃くし一方通行は誰何した。

「誰だ、か。眼中に無かった、ってことかよ、普段なら許せねえところだが飾利の前だ、許すとするか」

一方通行「飾利だァァァァァァ、さんをつけろさんを少なくとも初春さんにしろっ、お前みてェなやつに呼び捨てにされる初春じゃねェッ!!」

「初春さん、ねえ?また他人行儀になっちまうな」

初春「か、垣根さん、どどどどうしたんですか、こんなところに?」

一方通行「垣根ェ?」

垣根「変な発音で呼ぶな、第一位」

垣根「今日の花を届けに来たんだ、毎日届けるって約束しただろ初春」

そう言って垣根は初春に抱えていた花束を差し出す。

如何にもなタイミング、無意識のうちに受け取る手が前に出る。つい受け取ってしまった初春だったが、はっとして

初春「や、や約束って、垣根さんが勝手に言っただけじゃないですかっ!」

慌てて抗議する。

初春にしてみればあの日、目覚めた病室で今のように花束を渡され一方的に宣言されただけだ。



幸いだったのは誰も見ている人がいない場所を選んで渡しに来ていたようで、友人達にも見つかっていないことだった。

見られていれば何を言われか分からない。

それを一方通行がいるこの時、この場所を選んで渡しに来るとは、只でさえ分からないのに余計に分からなくなる。

一方通行「毎日だとォ、ストーカーかァ?」

垣根「親愛の証だ、花が嫌なら何でも良いぞ、欲しい物を言ってくれ初春」

初春「ほ、欲しい物ってそんなっ!」

一体なんでそんなことをするのか初春には分からない。

一方通行「親愛の証だァァァ」

垣根「うるせえな第一位、学園都市第一位の頭脳ってのはオウム返ししかできねーのか?」

一方通行「お前死ンだぞ、自分で死刑の執行命令にサインしたって分かってンのか?」

初春「だっ、だから暴力はっ!」

垣根「おう、それだったな、話しを戻すぜ第一位」

一方通行「第一位、第一位とうるせェのはお前だッ!」

垣根「まあ、良いから聞け」

垣根は近くにあった椅子を寄せ座ると

垣根「この前、俺と初春は殺り合った」

その言葉、それで漸く一方通行はこの不遜な男が何者かわかる。



一方通行「……お前、第二位か……殺す理由が増えたなァ、こいつァ」

垣根の名前にはピンと来ずとも、浜面から初春と第二位との間で何が在ったかについては聞いていた。

打ち止めを巡る戦い。

恐らくは打ち止めを狙っていた張本人だとも。

狙うのは止めたらしいとも聞いていたがいずれ一方通行は片を付けるつもりでいた。

美琴との戦闘で起こった脳機能の障害は数時間後には治った。しかし、処理不可のバグが居残っているようで不快な気分になる時がある。

未知の力をその身に受けて、未知と言えど実はそこら中にある力、知らず感知した際に不具合が発生するのかもしれない。

それが分からず、万全とは言えない状態では後回しにしていた。

が、今目の前にいる。

垣根「今頃気づいたのかよ……はあ、話しを続けるぞ?」

一方通行「勝手にしろ、後で殺すことには変わりはねェ」

初春「お兄ちゃんッ!」

一方通行「ぐっ」

6年振りになる呼び名。

垣根「お兄ちゃんねえ、第一位が保護者さんかよ?こりゃあ許しを得るにも大変だな」

恐れを知らず混ぜっ返す垣根。

垣根「とにかくだ。その時、たしかに殺し合いをした、なあ初春?」



打ち止め「浜面、浜面何とかならない、ってミサカはミサカはお願いしてみる」

浜面「お願い、と言われたってなあ、第一位と第二位だぞ?俺なんかが間に入ったって瞬殺されちまう」

嫌悪な雰囲気が漂う向こう側。

オロオロとして席を立っている打ち止めに眺め様子見するしかない浜面。

あそこへ行けるのは勇者しかいない。



初春「そ、そうですけど」

暴力反対の声をあげる当人が殺し合いをつい最近したなどとは明かして欲しくない初春だったが。

垣根「ボタンの掛け違いだ。俺も絶対能力進化実験を中止させたかっただけだ」

初春(絶対違いますよね?その前に御坂さんとまで戦闘してるんですから)

垣根「そんでこんな可愛い子とやり合うことになるなんてなあ、なんて俺は不幸なんだ」

初春「か、可愛いってそのあの垣根さん?」

嘘を並べている、それが分かりながらも連日の花束攻勢に年上の男性、しかも見た目イケメンに可愛いとか言われ馴れていない初春は動揺してしまう。警戒心が削がれ、誤魔化されてしまいそうになるのは仕方ない。

垣根「おかげで仲良しになろうとこんなに苦労している」

垣根「まっ、初春が言うように最初に話し合い、分かり合えてたら今頃もっと関係を進められてたのに、なあマイハニー、俺の天使、初春」

初春「まマイハニーに、てっ天使って、ふわぁぁぁぁぁぁ」

初春は顔を真っ赤にして花束を持ったまま口が開き、目が廻る。

変な顔になっているのは間違い無かった。

そんな初春に

垣根「可愛いぞ、初春」

とどめとなり初春はついにテーブルの上に花束を抱えて撃沈してしまった。



同時にガタッという音がする。一方通行が腰を浮かし立ち上がっていた。

それに合わせ着いたばかりの椅子から垣根も立ち上がる。

一方通行「歯が浮くようなことをぬかしてんじゃねェッ!」

垣根「歯が浮いたんならベクトル操作で治せるんだろ?」

一方通行「言葉の比喩ってもんを知らねェようだな、あァァァッ!?」

両者臨戦態勢、火蓋が切られる。

かと思いきや勇者現る。第二の闖入者にして6番目の登場人物。

気づいたのは初春。これから争う二人とは違う異質な殺気。殺気とは違うが初春からしたら殺気だった。

イジリ倒したい、おちょくりたい、つつき回したい、といったいつもいつも感じている気配。ただ今日に限ってどこかしら嫉妬混じりの雰囲気。

初春(こ、これはこの気配は?ま、拙いです。こんなところを見られたら、というか見られたんですかっ?)

このカフェは普段の行動範囲からハズだった。それ故に選んだ場所だった。

が、パッと起き上がり撃沈状態から浮上すると案の定、初春の親友、佐天涙子がいた。

にこやかと云うかニヤニヤと笑っている。薄気味悪さを感じる。

初春(お、終わりました……)

何が終わったか分からないが初春はそう思った。



場の空気を読んでか読んでないかは知らず、佐天が口を開く。
佐天「えーと、初春?」

佐天を巻き込んではいけないという思いもありながら

初春「はい……」

蚊の鳴くような返事しか出来ない。

佐天「こちらの二人は?」

二人について聞きながら、その視線は突っ伏した際に胸に抱くような格好になってしまった花束へといっている。

初春「えーと……」

学園都市第一位と第二位の超能力者さんです、と答えるのは明らかに拙い。どういった関係か改めて聞かれるだろうし、先日の事柄については佐天は知らない、心配させまいと知らせてない。非常にややこしくなる。

初春が答えを逡巡していると

佐天「マイハニーとか俺の天使とか聞こえたよ、初春。その後の会話は明らかに三角関係を」

初春「ぶっ、ちょっ、佐天さんそんなところから聞いてたんですかっ?」

三角関係の痴話喧嘩どころか殺し合いになりそうだったのだが

垣根「おっ、初春の友達か?俺は垣根帝督って云う。今、初春にアプローチ中の者だ」

佐天「ア、アプローチ中!?」

佐天さん、目が輝きすぎてます、と言いたい初春。



垣根「そうだよ……テメェも名乗った方がいいんじゃないか?」

と一方通行に向かって言う垣根。

何故か場が和んでしまい、これから殺し合いという雰囲気では無くなってしまった。

しかし、垣根には対抗せねばならない。

とはいえ言葉を選ぶ。

一方通行「……昔の知り合いだァ」

佐天「お、幼なじみですか?」

間違いではないが特別な意味が籠もっているように拡大解釈する佐天。

初春(そんなにキラキラと)

佐天「うーいはる、こういうのってなんて言うか知ってる?」

初春(言いたくありません)

佐天「両足に月見草?」

つい間違いを訂正してしまう。

初春「両手に花?」

佐天「そうそう、それっ」

垣根「さすが俺の初春だな」

一方通行「誰がオ・マ・エのだとォォォ」

初春「違いますよぉ……」

第一位と第二位の戦闘は回避されたようであったがまだまだ佐天に追及されそうな初春。

色々なプレッシャーから果てそうだった。







第6.5章
終了

此処まで

シリアス期待した方ごめんなさい
次は旅行編

>>194
このカフェは普段の行動範囲からハズれた場所の筈だった。それ故に選んだ場所だった。

訂正



砲身となる角から砲弾が繰り出される。

同機種4体からなる敵機体はサッと散会して避ける。

砲撃を行った白い15mはあろうかというカブトムシを模した機体は羽根を動かし、後ろ向きに後退していく。

スラロームしながらの移動だった。

反撃を警戒しての行為。

地下街から地下鉄の路線を目指す。

予想通りの反撃が来る。砲弾がカブトムシ05と名付けられた機体の横を通過していく。機体の手前で炸裂する。

リアルに破壊されていく。

追い縋ってくる敵に向かいこちらも砲撃を放つ。

しかし、同機種、同性能の機体で4対1は圧倒的に不利だった。

全ての砲弾を避けるまでにはいかない。

4体が連携して砲弾を放つ。砲弾を避けた方向へ、逃げる方向を予測しそれぞれが砲撃を繰り返す。

避けられなかった砲弾がゴンッと機体を叩き、衝撃で揺らぐ。

動きが鈍ったところへ直撃をもらう。

叩かれ続け、反撃しようにも照準を定められない。

機体を覆う装甲もいつまで持つか分からない。

ダメージが蓄積されていき、先程までしていなかったギシギシといった音が鳴るようになった。

ビシッとひび割れる音もする。



もう無理か、と覚悟した時、地下鉄の駅が見えた。

入り口付近の構造物をなぎ倒し全速力で地下鉄用のトンネルへと突入する。

地下鉄用のトンネルは機体が自由に機動できるほど広くは無い。

また明るくもなく薄暗い。

追撃する4体も突入してくる。

4体で編隊を組んでいる所為もあってかスピードはこちらより遅い。

差が開く。

ゆるくカーブを描くトンネルでは砲撃も来ない。

逃げ切れそうであった。

このまま逃げ延びる策を採っても良かったが、それでは引き分けに終わる。

今は勝利条件を掴むチャンス。

カブトムシ05は機体をひねり込むようにスピンさせ砲身となる角を後ろへ向けた。

連続して砲弾を放つ。

狙うは敵機体ではなくトンネルの天井。

崩れ落ちる天井、コンクリートで出来たその瓦礫に敵機体が躱しきれず、止まれず、突っ込み、機体同士が衝突し瓦礫に埋もれていく。

カブトムシ05は瓦礫の重みで身動きが取れない敵を狙い撃つ。

残弾ゼロまで撃ち尽くしたところで敵機体の目が活動を示す赤から行動不能を示す黒に変わった。

そしてモニターに文字が表示される。

YOU WIN



初春「ふう」

初春「さすがに4対1は厳しかったですね」

初春は対戦型オンラインゲームのテスターを依頼され色々と試しているところだった。

オンラインゲームの内容は昔懐かしのムシ○ングのリニューアル版。まあ試してみると元の姿は跡形もなく、あるのは虫型の機体のみ、名乗るのがおかしい代物だった。

初春が使用していたのはゲーム中最強クラスのカスタマイズされた白いカブトムシ。

今のは悪条件下、ステージ環境を利用しプレイヤー次第でどこまでやれるかがチェックポイント。

また逆にCPU制御機の強度も適切かどうかのチェックも兼ねてあった。

初春「うーん、でも4対1で負けるというのもどうなんでしょう?」

その辺はゲーム制作者がゲームバランス全体から考えること、と思い直し一旦ログアウトする。

モニターの隅に表示された時計を見ると午後2時を廻ったところだった。

初春「御坂さん達はもう現地に着いたころですね……海か」

初春「はあ、いいなあ」

初春はアイコンをクリックして学園都市内及び外部情報を含むニュースサイトを広げる。

これも平穏を保つための情報収集活動の一つ。

初春は大きく扱われている記事に目が止まる。

初春「あれ?」



上条夫妻の予定では二泊三日、しかし学園都市側の都合で両親と合流する前日に上条達は海へと出発していた。

要するに美琴との再会の時間を両親との合流前に確保するため。合流後となれば上条夫妻に感動の再会を演じる必要が出てくる。

そうした事を省くための処置であるが、上条達にしてみれば親の目を気にせず遊べる時間が出来たとも言えた。

朝早くから出発して海への到着予定は2時頃。

そういう訳で上条達を出迎えるのは青い海と青い空。

そして目一杯、海で遊ぶ。

その筈だった。

しかし出迎えたのは西の海に消えていく太陽、茜色に染まる大空、黄昏色の海、上条の心と同じ暗闇が迫る東の空。

それが上条を待っていた風景だった。

早速、上条の不幸体質が炸裂していた。

上条「不幸だ……」

今回ばかりは上条一人が不幸な訳では無い。

落ち込む上条に

美琴「あはははは、大丈夫、大丈夫、当麻の不幸のせいじゃないって、同じような目にあってる人、今日は100万人単位でいるわよ」

イン「そうだよ、とうま。時間に正確な日本でこんな体験するなんて、とっても貴重かも」



外から切り離された学園都市を別にして、関東圏は大混乱の渦に包まれていた。

と言っても別に戦争が起こった訳ではない(戦争のようなものだったが)美琴が言うように数百万人が巻き込まれたのは間違いなかった。

何があったかというと交通機関、鉄道関連が一時的に全面ストップしてしまったのだ。

JRから始まり地下鉄線も私鉄までも運行に支障を来した。

最初にJRの運行を管理していたコンピューターがダウン、予備に切り替えようとも切り替わらない、安全確保のため通常の運行は停止されることになった。

同じ状況は他の鉄道にも波及。混乱は増すことになる。

インデックスが言うように正確かつ精緻なダイアを誇った日本では有り得ない現象だった。

ニュースなどでは大規模なサイバーテロが原因ではないかと取り沙汰されている。

そんな状況では上条の右手、インデックスの10万3000冊の魔導書などものの役にたたず、唯一美琴の能力は役立てたかもしれないが帰還を公表するまでは使うわけにもいかず、大幅に予定を超過しての到着と相成った。

沈みゆく夕日、慰める美琴とインデックスの声も今は上条の胸には響かない。



学園都市の計画とは別に上条には胸に秘めた計画があった。

それが第一段階から台無しになってしまっていた。

計画の本番を実行する予定だった浜辺は静かに佇んでいる。

狙った通り、綺麗な夕日を描いている。

ただ時間がなかった。

大混乱に巻き込まれ、立ち往生する電車、迷子になったインデックス、上条は心も身体も疲れていた。

計画を実行に移すだけの元気、雰囲気もこの期に及んでは無かった。

やはり上条は不幸だった。
















そして何処かで

「ヤッアァーパ科学って、脆弱よね」

此処まで



海の家『わだつみ』

上条「明日こそ、明日こそ」

その一室で上条はなかなか眠れないでいた。

エアコンも無い古い造りの客室、だからといって暑苦しくて眠れない訳でもない。

何もない浜辺の海の家、窓から自然な風が抜ける、静かに回る扇風機、掛け布団でなくタオルケットにすることで十分に涼はとれた。

夜も更けて真夜中、それこそ明日のことを考えれば早く寝たら良いのに悩める少年、上条はああでもない、こうでもないと作戦を練っていたのだ。

悩みすぎて、あの事を覚えているかどうか聞き出すのが目的か、シチュエーションを整えるのが目的か分からなくなっている風情が見える。

そうして時折、上条はふっと我に返り、気恥ずかしくなると布団の上でじたばたしていた。

そしてもう一室、こちらでも寝むれずにいる少女がいた。

美琴(ウルサいわね、ナニやってんのよ?)

電磁レーダーで様子を窺うまでもなく、部屋を隔てるは薄壁一枚。

隣の部屋の物音、呟きが聞こえてくる。

大きな音が立っている訳では無いのだが、余裕の無い美琴としたら気に障る。

今日、早速のトラブル。上条と一緒にいる限り必ず何かが起こる、それは覚悟していた。



一年の空白があっても分かり切っている日常に等しい。

そんなモノは今の美琴にとって大事の前の小事。重大な心配事がある。

それは上条の両親とのご対面。

上条のご両親の前でとんでもない失敗をするのではないか、変なことをしてご両親から嫌われてしまわないか、普段ならそんな事をするはずもない美琴であるが明日に控えると心配してしまう。

明日のことを考えると寝付けない。

その美琴が休む敷き布団の横で、

イン「むにゃ」

ひとり平和なインデックス。



「母さん、すまない。どうしても明日は出社しなければならなくなった」

「あらあら。刀夜さんたら」

顔はにこやかであるが背後に幽鬼が見える。

「こ、これは不可抗力というか、今日の交通機関のトラブルの影響で色々困ることが起こってしまってだな」

「せっかく、親子揃って海に行く機会ですのに」

「申し訳ない、とりあえず明日一日で処理を済ませて明後日には必ず、必ず行きますから」

なんとか平謝りで許しを請うと、ある部屋へと向かう。

新築したばかりの家、小学校入学以来滅多に帰って来ることの無い息子のために用意した部屋だった。

いつ帰って来ても良いように一式揃えてはいる。

しかし肝心の部屋の主がいない様子は寂しく映る。

「すまない。本当にすまない」

ここに居ない息子へ謝る。

「父さんはお前の幸せを祈ってるからな」

窓際の棚にイタリアで買ったお守りを置く。その他にも部屋のあちこちに旅先での土産が置かれてあった。

それはこの部屋に限ったことではなく、新築から間もないのに家中に置かれている。

全て愛する息子のため、あまりに不幸で『疫病神』と幼い頃に呼ばれた息子のためであった。

改めて祈る。



「当麻が不幸じゃなく、幸せになれますように」



明くる日

美琴「ほーら、起きた起きた起きろーッ!」

まどろみの中にいた上条は状況がハッキリしない。

上条「う、ううん?」

美琴「もう朝よ、当麻!ご両親、早くから来るんでしょ?」

目は開いたものの、まだ寝ぼけている。

上条「うーん、ここはお約束っていうか謎の義妹がフライングボディアタックとかする場面じゃ?」

美琴「……は?」

上条「わかんねーかな?起きろーとか言いながら布団を取ったら顔を真っ赤にして恥ずかしがる……」

その辺で頭の中にかかった靄が晴れてくる。上条が見上げると美琴がいた。

美琴の顔が真っ赤になっている。ふと自分の体を見ると布団代わりのタオルケットは掛かっていた。見られてはない筈、と思いきや。

美琴「ア、アンタは私にどんなキャラ期待してんのよっ!!」

その声に頭が完全に目覚めた上条は今になって女の子に話す萌えシチュエーションじゃないと思い当たる。

が時は既に遅し、美琴の周囲からバチバチっと音が鳴っている。

上条「いや、これはそのですね、寝ぼけてたんです、寝ぼけててですね、美琴さん?」

美琴「ほー、寝ぼけてて普段の願望がだだ漏れた、と言いたいんかッ!?」



上条「ち、違う、違います、違いませんの三段活用!」

美琴「違いません、ってどういうことじゃー、ゴラァーッ!」

お巫山戯ではぐらかそうとして失敗した。

何よりも寝る前、色々シミュレーションしているうちに妄想の域まで達していた。それが漏れてしまったことを否定できない。

美琴の勢いを止められない。

美琴「だいたい義妹ってどういうことよ?おにーちゃんって言って欲しいんか、えっ、おにーちゃん?」

上条「ガハッ」

美琴がおにーちゃんの部分だけわざとらしく可愛く言うと上条は悶絶した。

上条「み、美琴がそんなこと言うとは…………これがギャップ萌えと言うものなのか?」

美琴「そんなに妹というフレーズが好きかッ!」

美琴「つーか、昨日のアレで疲れてんのに夜遅くまで起きてるから寝ぼけた事言うのよ」

上条「うん?」

美琴「あによ?」

上条「何で俺が遅くまで起きてたって知ってんの?」

美琴「そ、それは」

反抗の糸口がこんな所にあった。

上条「美琴も遅くまで起きてたんじゃねーの?」

美琴「うっ……それは……枕が変わったからよっ!」

上条「一年も旅してたのに?そいつはなかなか大変だったなぁ」

美琴「くっ。そ、そうよ、そうだったわよ!ほら、それより早く起きて着替えないとご両親きちゃうわよ」



そう言うとそそくさと逃げるように客室から出て行く美琴を見送り

上条「助かった、はぁー」

電撃を喰らわずにひと安心する。

とはいえ美琴の言うことも尤もで、携帯電話で時刻を確認すると結構な時間になっている。

両親から告げられていた到着時刻も差し迫っていた。

上条は慌てて着替え始める。

上条「そういや、母さんが連れてくる友達って誰なんだろ?」

両親の元にいた幼少の頃と云えばあまり良い思い出がない。

両親からは愛されていたが、石を投げてくる同じ年頃から年上の子供達、それを注意するでもなく上条に冷たい目で見る大人。年下の従妹を除く親戚でさえそうだった。

極めつけは「お前の所為だ」と言って刃物で刺してきた誰かがいた。

あの両親が上条に偏見を持った人を連れてくることは無いと信じていたが、珍しく思い、不思議に思っていた。

着替えが終わると顔を洗いに洗面所へと向かう。

上条「しかし、失敗したなー……」

あらゆるシミュレーションをしていたが朝からしくじるとは思って無かった上条。

先が思いやられる、計画が上手くいくか不安になりながら顔を洗っていると、

「お客さーん、お連れさんが参りましたよー」

予定より少し早い。

それに何か呼ばれた声に違和感があった。



昨日聞いた海の家の親父さんとは声の感じが違った気がした。

たしかこれこそ海の家の親父、という鉢巻締めて上はタンクトップに下はハーフパンツといった体格の良い、野太い声の親父さんだった。

今は何か若い声に聞こえた。

ただ当初の手順では上条が両親を出迎えなければならない。その上で美琴を紹介し、事情説明する手筈になっている。

下手に先に美琴と両親が会ってしまったり、あの両親にペースを握られたりしたら根掘り葉掘り聞かれかねない。

ちょっとした違和感に構ってられない。

予定通りに進めるには早く出迎えた方が良かった。

タオルで顔を拭くと上条は玄関へと急ぐ。

玄関にはまだ両親の姿はなく、新たな靴も無い。外かと思い靴を履き玄関をくぐると、

上条「あれ?………………何してんだ、佐天さんに白井?」

思いの外、そこには両親ではなく佐天涙子と白井黒子がいた。

上条(尋ねるまでもねー、美琴が心配で追っかけてきやがったぁ!)

外に出て二人に近づく。

上条(うわっ、どうする?全面見直しになっちまうぞ)

内心、テンパり始めた上条に向かい、どこかのお嬢様風な着こなしをした佐天が、口に手を当て、おかしそうに

「あらあら。当麻さんたら、佐天さんに白井さんとはどちらの方なのかしら?」

「お母さんの顔を見忘れたのかしら?」

上条「は?」



上条「お母さん?何を言ってるんでせうか?」

「詩菜さん、この男の子が息子さんの当麻君?面白い子ね」

いつもの常盤台中学の制服ではない、胸が非常に余っているワイシャツに本来は七分丈であろうパンツスーツといった出で立ちの白井黒子が宣まわった。

上条「へっ?白井、今さら何を言ってんだよ、ってか詩菜さんて母さんの名前?教えたことあったっけな?」

妙に何が何だか分からない。推測してみれば二人が演技をして上条をからかってる、ということになるのだが。

上条「えーと、二人でからかってる?」

上条の母親の名前を調べるなど初春ならお手の物、近くに初春も居るのではないかと上条がキョロキョロしてると上条の母、詩菜と呼ばれた佐天が、

詩菜「あらあら。当麻さんたら、年上の人を呼び捨てにしてはダメですよ、それにこちらの方は白井さんではなくて」

と白井黒子を別の名前で紹介しようとした。

上条(あれ?これ母さんがよく使う口調だよな?)

が、上条の背後、上条がくぐってきた玄関口から声があがる。

美琴「えっ?」

短く驚きに満ちた声。

上条が出迎えてすぐ美琴が出てきて両親に紹介、美琴が挨拶する、その予定通りに美琴は顔を出したのだろう。

そこへ上条の両親ではなく、白井と佐天がいれば確かに驚く。



上条は美琴に声を掛けようとした。

白井と佐天に何か言ってやってくれと

それを口にする前に白井から

「み、美琴ちゃん?」

上条も、えっと声を上げそうになる。

上条(白井が美琴のことを美琴ちゃんなんて呼ぶようなことねーよな?)

その白井が一歩踏み出し、上条など眼中にないかのように美琴を見詰め、歩み寄る。

上条は白井の視線の先を追い掛け美琴を見ると後退っていた。
何かに怯えるように。

そして美琴の口が開く。

美琴「ママ」

上条「マ、ママァーッ???」

その声をきっかけにママと呼ばれた白井は飛びつくように美琴へ近づき美琴を抱き締める。

「美琴ちゃーん、何処へ行ってたのよーっ!?」

上条はその光景を見て唖然とするばかり。

上条「マ、ママって、美琴まで一体全体どうなってんだ?」

世界に異変が起きていることに上条はまだ気づかない。

此処まで
皆さんの予想通りの展開、かな?



美琴がママと呼んだ白井は美琴の母、御坂美鈴さんの設定らしい。

上条の母、詩菜が会員になっているスポーツジムの常連さんで、そこで上条の母と美琴の母は知り合ったらしい。

母=佐天の説明によると美琴の失踪以来塞ぎ込みがちだった美鈴の気分転換のためにこの小旅行に誘ったらしい。


そこで美琴と運命の再会と成った訳だ。

母=佐天が話してくれてるのだが上条の耳には入ってくれない。

らしいらしいとばかり書くが、上条には皆が事前に示し合わせて上条を担いでるとしか思えなかった。

いつ初春が「ドッキリ成功」と書いたブラカードを持って登場するか、待ち構える気分とそうであって欲しいと願う気持ちがせめぎ合っていた。

本当に母親達であるなら美琴について事情説明をせねばならない上条だが立ち尽くすばかりだった。

美琴は母親=白井から質問責めにされて困った顔をして助けを求める視線を上条に送ってくる。

上条はそんな視線を送って来られても演技だろ、と思いたい気持ちが強く付き合ってられない面持ち。

延々と漫然と続く舞台劇に終わりを告げる、ブラカードを持った初春はなかなか現れてくれない。

その代わりに、玄関口から

「外で立ち話も何ですから、中で話し合っちゃどうです?」



海の家『わだつみ』の親父さんが顔を見せ、美琴と白井=美琴ママに声をかけてくれた。

タンクトップの柄が違うだけで昨日の親父さんと同じ格好、しかしその顔は上条がまるで知らない人物、昨日見た親父さんとは全く違う顔だった。

親父さんと呼ぶには若々しい、下手をしなくとも上条と同年代。

ついでに茶髪のイケメン。

海の家には似つかわしくない、どちらかと言えば、派手目なスーツを着て、店で女性の相手をしている方が似合いそうな風貌。

上条を謀るにも全く知らない人物を連れて来て親父さんの代わりをさせる必要はない。

そこで始めて上条は疑念を持った。

上条(まさか、俺を騙くらかそうとかじゃなくて、みんなにはそれぞれの人に見えてるのか?)

上条(おかしいのは俺の目の方?)

海の家の親父さん=茶髪イケメンに促され、海の家の食堂に皆が案内される。

美琴は不満そうな視線を上条に投げてくる。

上条(そりゃ、俺が初っぱなに話さねーといけなかったのを任せっぱなしじゃ、怒られても仕方ねーけど、信じられるか?)

まだ上条は半信半疑で跡をついて行き食堂へ入った。

「親父ーっ!この女店のもん全部食っちまいそうだぞ、どうするよ?」



声を上げたのは親父さんの息子、昨日客室に通してくれた小学生ぐらいの男子。

と思って上条が見たら、三沢塾に同行してくれた第四位を撃破したことがあるという無能力者 浜面仕上だった。

見ただけでゲソッとする。

小中学校指定らしき名前付き海パンをピチピチに履き、子供用の小さいエプロンをしていた。

ガッチリとした体格に似合わなすぎて力が抜けてくる。

助けを求めるように視線を回すと、その店の食料を食い尽くそうとしていた白いシスターが目に入る。

がっくりとうなだれる上条。

銀髪の西洋人形のようだったインデックスはいない、そこには会った回数は少なくても強い印象を与えられた怖いお姉さん、麦野沈利 学園都市第四位がいた。

満面の笑顔を浮かべ、ごはんごはん、おいしいな、と言っている様子に上条は頭を抱えてしまった。



時が変わって午後、上条は浜辺に座り黄昏ていた。

母親達はビーチパラソルの下で日光浴をしている。

上条は未だに状況が分からない。

インデックスと美琴はビーチボールで遊んでいる。

上条は自分が狂っているのではないかと塞ぎ込んでいる。

勝手に話が進む疎外感。

午前中は腑抜け状態になっていた。

事情説明など出来る心境ではなかった。

粗方は美琴が説明してくれて上条は相槌を打ってるだけ、第四位の姿をしたインデックスも一応(色々危なかったが)手伝ってくれ母親達は納得してくれたようだった。

何故か佐天さんと白井の顔で意味深な微笑を浮かべていたが、気にしてる余裕は上条に無かった。

そのまま流されるように浜辺へ出ている。

上条(あー、そういやなんで父さん来てなかったんだっけ?)

記憶をまさぐる。

上条(うーん、と昨日のトラブルで急遽出社しないといけなくなったとか母さんが言ってた、か?)

つい数時間前の話しであるのに忘れかけている、上条の状況は深刻だった。

上条(だ、大丈夫なのか俺?度重なるケガで頭がおかしくなってるとかそんなんじゃねーだろうな?)



時間が経っても上条の目に映る人の姿は朝から変わらない。

時間が経てば元の通り、と僅かな希望に縋ってもそのままである。

上条(本格的におかしくなっちまったのか、俺狂ってんのか?)

自分が狂ってるとは誰しも思いたくない。

せめて一時的に幻覚を見ていると思いたいし、世界の方がおかしいと考えたい。

上条が虚ろな目をして海を見てると美琴と麦野の姿をしたインデックスが視界に入った。

年齢的に似合わない可愛いフレアが付いたワンピースの水着を着た麦野が大きくビーチボールを外す。

そのビーチボールを美琴が追いかける。

美琴は佐天が海に行くならばと美琴のために買ってきた海の中をモチーフにした柄のセパレートタイプの水着。

よく似合っていた。

上条(白井も選んでくるって言ってたが、白井じゃこうはいかなかっただろうな……うん?)

何か頭に引っかかった。もちろん水着の事ではない。

上条「なんで美琴だけ美琴に見えるんだ?他の人は別の人に見えてんのに?」

それに確かめたかった事がある。

自分がおかしいのか世界がおかしいのか?

自分一人で悩まず、もし相談するなら一人しかいない。



上条「美琴ーっ、ちょっとこっち来てくれないかっ!?」



詩菜「あらあら。当麻さんたら余所のお嬢さんをそんなに大声で呼んで、当麻さん的には美琴さんが好みにドンピシャなのかしら」

美鈴「美琴ちゃんたら、あんなに顔を真っ赤にして、知らないうちにボーイフレンドができてるなんてママは寂しいわ」

上条に大きな声で呼ばれて顔が赤くなるとそんな声が聞こえてくる。

美琴「ちょっ!……あー、もう」

美琴は抗議しかけて、特に自分の母親に、諦めた。騒げば余計にイジられるのは目に見えている。

美琴(もうアイツはママ達の前で大声で名前を呼ぶなっちゅーのよ)

母親達の声に益々顔を赤くした美琴はビーチボールをインデックスに渡し、上条の方へと小走りで向かう。

美琴(考えたら当麻、朝から様子がおかしかったわね?特にママ達に会ってから……事前に決めてたストーリーも説明は私に任せっぱなしだったし、どっか心ここにあらずって様子でさっきからエラく暗かったわよね)

美琴(初春さんからの電話もなんか……)

上条と同じく夜遅くまで起きてた美琴は朝、初春からの電話で目覚めた。それで上条よりも早く起きれたとも言える。

電話の内容はたわいのないものでもないが、昨日のトラブルの影響はどうかとか安否を気遣うものだった。



その中でインデックスの様子に変わりはないかと尋ねられた。

インデックスの様子には特に変わりもなく話し声に気づいて目を覚まし、まだ眠たいのか目をこすっていた。

それを伝えると

『そうですか、何も無ければ良いんです』

ちょっと不安そうな声を残し電話は切られた。

美琴(うーん、知らないところで何か起こってんのかしら?)

学園都市と此方で同時に何か起こってるとは考えがたったが、考えてるうちに顔の赤らみは引き、上条のそばに到着。

上条は自分の右側にと指し示している。

上条の右側に座ると、

美琴「どうしたの当麻?」

母親達に聞かれないくらいの声の大きさで聞く。

上条「その、だ。まずは何も聞かないで試させてくれ」

美琴「へっ?」

上条「いいか、いくぞ?」

美琴「はい?」

それを承諾の意味に取ったか上条が真剣な顔をして、

美琴の頭に右手を載せる。

唐突なことで何が起こったか美琴は分からなかった。

上条「何か変わってないか、母さん達やインデックスが別の人に見えるとか?」

美琴「べっ別にかかか変わりはないっていうううかかかっ」

頭頂部に上条の手のひらの感触、状況を理解すると美琴は



美琴「ふ、ふふふふにゃーーーーーっ/////」



上条「わっわっわわわ、ど、どうした美琴、やっぱりなんかあったのかっ!?」

突然、美琴が叫んだので慌てる上条、やはり何かの異変が絡んでいるかと思っていたら

美鈴「おー、美琴ちゃんたら頭を撫でられちゃって、カッワイイ」

白井の声をした美琴ママの声が聞こえる。

詩菜「あらあら。当麻さんたら人目も気にせずに、そう言えば刀夜さんも前は良くしてくれましたわね」

佐天の声をした母親の声が聞こえる。

自分が人前で何をしているか上条は理解した。

美琴と水着で隣りにくっ付いたまま頭を撫でている。

上条は二人とは別の視線を感じる。

それらしき方に目を向けると麦野沈利の姿をしたインデックスが

イン「とうま、人が見ている前でみことに何してるのかな?」

その顔はビームを放っている時にそっくりだった。

恐怖にかられ美琴の頭から手を放すとすぐに美琴の手を取る。

自分が立ち上がるのと一緒に美琴を引っ張り上げる。

再び真っ赤になって今度は目まで回っている美琴はなすがまま。

上条「し、失礼しましたーっ!」

上条「美琴こっちだっ!」

上条は美琴と手を繋ぎ逃げ出す。なすがままの美琴は抵抗もできず連れられていく。



美鈴「最近の男の子は母親の目の前で大胆ね」

感歎の声を出す白井の姿をした美琴ママ。娘が連れられていくのを止めようとしない。これが本物の白井ならばどうなっていたか?

イン「待つんだよ、とうま!みことをどこへ連れてくつもりなんだよ?」

対照的に麦野の姿をしたインデックスが追いかけようとすると

詩菜「インデックスちゃん、止めるのも無粋ですから、二人だけにしてあげましょうね」

息子を信じているのかインデックスを止める佐天の姿をした上条母。

その間に全速力で美琴を連れて逃げる上条は見えなくなる。

今日は昨日のトラブルの影響なのか他に海水浴客は見あたらなかった。

此処まで
次は来週ですな
いよいよアイツの登場なるか?



どれぐらい走ったことやら

上条「ぜぇぜぇぜぇぜぇ」

母親達から遠く離れて

美琴「はぁはぁはぁはぁ」

上条と美琴、二人とも息も絶え絶えになっていた。

美琴「はあ~……いきにゃり、にゃにをしゅんのよっ」

息は回復しても、まだ混乱から回復してないのか言語機能が乱れている美琴。

上条「ふぅ、その、実は……」

美琴「実は?」

上条「今朝から人が別の違う人に見えるんだ」

深刻そうに言う。

美琴「はぁ?」

美琴「何それ?……でも、今朝起きた時は私だって分かってたわよね?」

上条「そうなんだけどなー、今も美琴は美琴に見えてるのはたしかだ」

上条「違って見えてるのはその他の母さん達やインデックス、海の家の親父さんとその息子さん、美琴以外の今朝から会った人みんなが別の人に見える」

美琴「…………」
(それって私だけ特別ってこと?)

上条「それで俺がおかしいのか、周りがおかしいのかちょっと」

美琴「幻想殺しでまずは私達が幻覚でも見てるのか確かめたかったんだ」

上条「まー、そういうことだ」

美琴「そうね、インデックスはインデックスだったし、マ……うちの母親は母親だったし」



美琴「当麻のお母さんは今回初めてお会いしたからわかんないけどね」

美琴「つーか、最初に自分の頭に触った方が良かったんじゃない?」

上条「うっ!」
(自分が狂ったなんて思いたくなかったんです、なんて言えん)

美琴「今触っても私が私に見えてるんじゃ確認しようも無いわね……ちなみにどんな風に見えてんの、全く知らない人?」

上条「えーと、俺の母さんが佐天さん、美琴のお母さんが白井な」

美琴「そりゃまた」

上条「インデックスがこの前の麦野さん」

美琴「インデックスが第四位?」

上条「で、海の家の親父さんが全く知らないイケメンさんでその息子さんが同じくこの前の浜面って人だ」

美琴「うーん、全く知らない人が混じってるなら、知ってる人に置き換えて脳が誤認識してるわけじゃなさそうね」

上条「俺の頭が狂ってる、ってことじゃないで良いのか?」

美琴「そうよ、ひょっとしたら昔会った事がある人で当麻が忘れているだけかもしれないけど……基本的にはここ最近出会った人か身近な人で置き換わってることを考えれば多分無いわね」

美琴「その場合、頭の病気って可能性は少ないと思うわ」



美琴「むしろ能力を使った精神操作」

上条「おおー」

美琴「第五位とかに接触してないでしょうね?」

上条「常盤台の女王様か。無いというか、おかしくなったのは今朝からだろ、学園都市の能力者がそうそう外に出れるか?」

美琴「それはそう、だけど。遅効性のトラップかも、あの女なら……まあ、これも仮説、右手で頭触っても治んなかったら精神操作系の能力者に診て貰うしかないか……それまで他の誰かと会う時は私がフォローしてあげるわよ、もう大手を振って歩けるんだから」

上条「やっぱ美琴は頼りになるな」

美琴「うっ……その誉めたって何もでないわよ」

上条「ホント、ホント一緒に居てくれて助かる、美琴先生」

美琴「ふ、ふふん。まっ、当麻がそれだけ私のこと頼りにしてるから、私だけ変わらずに見えるのかもね」

上条「えっ」

美琴「……何がえっよ?」

上条(一晩中、美琴のこと考えてたから……か?)

美琴「私を強く意識してくれてたからじゃないの?」
(って何を言っとんじゃ私!?)

上条「そ、そうだ」
(い、言っちまったー……ど、どうする?)

美琴「えっ」



美琴(そ、そうなの?そそそそそれなら、ももももういっそのことここですすす好きって言ってしまう?で、でも当麻のことだから、また勘違いとか、「そうだ」も別の意味だったり、ソーダが飲みたいとか……さすがにそれはないか……まだ妹達のことも実験は中止になっても将来の道筋のこともあるし、今言うのは……私が責任を負うことなのに当麻にも)



上条(美琴も黙ったままになって……はっ、ここであの時のことを!!この雰囲気なら、聞けるっ!)

上条「その美琴? 別に聞きたいことがあったんだ」

美琴(「そうだ、別に聞きたいことがあったんだ」……はは、やっぱり私の勘違い……はぁ)
「ん、何?」

上条「この前のあの時、えっと一方通行との戦」

その時、

「うにゃーっ! カミやーん、やっと見つけたんだぜーい!」

肝心なところで奇怪な猫ボイスが邪魔をする。女性ならまだしも男性の気色の悪さが漂う声が響いてくる。

上条(この声はっ!)

拳を握り締める。歯を食いしばる。ギリギリと奥歯が鳴る。

邪魔者を迎え撃つ。

上条(土御門ーッ!)

振り向くと身長180センチの男、上条の学生寮の隣人にして学校のクラスメート土御門元春が駆け寄ってくる。

上条(許さんッ!)

拳を振り上げる。

ズバッと蒼い光が駆け抜けた。

チュドーン!!

土御門の前で光が弾け、土御門はアワレ吹っ飛ぶ。

上条「土御門?」

美琴の電撃、直撃でなくとも電気が伝達すれば感電死の可能性大。

美琴「えっ、土御門?」

砂浜に横たわる土御門。

果たして生死は?



土御門「カ、カミやん、痺れた、ぜい」

喘ぐように言う、土御門。どうやら生きてるらしい。

上条は振り上げてた拳を隠し、

上条「あー、生きてたか。まっ、良かった良かった」

上条「のは良いけどよ、どうしたんだ、美琴?いきなり電撃を喰らわすなんて、気持ち悪い不審人物だからって(気持ちは分かるが)やりすぎじゃね?」

美琴へと尋ねる。

美琴「つい……あれ、土御門って人なんだ」

美琴は何やら微妙な顔つき。

上条「見なかったっけ?俺のクラスメートで寮の部屋が隣の金髪グラサン」

困った顔に変わる。

美琴「ついでにアロハね、そうなんだ……はは、第一位がニヤケた顔して変な声出して近寄って来るもんだから、えーと反射的に」

上条「第一位に?」
(あれ?……おかしくないか、俺には土御門に見えて、どうやら土御門らしいが、美琴には第一位に見えるってどうなってんだ?)

美琴「大丈夫かな?」

まだ痺れてるのか倒れたままの土御門が、

土御門「ここは危ないにゃ、危ないねーちんがやって来るから早く逃げた方が良いにゃー」

上条「へっ危ないねーちん?土御門、なんか今起こってることについて知ってるのか?」



土御門に向かって問う上条に対し、美琴は周囲に警戒の目を走らせる。

すると

美琴「えっ?」

美琴の目には炎の天才魔術師ステイル=マグヌスがおどろおどろしい気を纏って歩いてくる姿が見えた。

美琴(ス、ステイル?だ、ダメよ、幾ら本当は14歳でも若気の至りとか若さ故の過ち、とかでは済まされないわよ、それは……)

美琴(あれ?)

美琴にとって砂浜に転がっている一方通行が上条によればクラスメートの土御門だと言う。

ステイルはルーン遣いの炎を得意とする魔術師。

ステイルの腰に見えるのは長刀。

ステイルが長刀を使っているところを見た覚えは無い。

どこか霞がかかった誤魔化されている感覚。

数秒も経たないうちに美琴は突き詰めて行く。

美琴(あの長刀は……七天七刀。七天七刀の遣い手は)

認識の壁が破れる。

そして記憶が呼び覚まされ2mの大男、ステイルに見えるがその服装は独特なファッションをしている誰かと同じ。

これまでなんでそう思っていたのか分からないほどスムーズに

美琴「神裂さん?」

答えに行き着く。

上条「神裂?」



上条が砂浜に転がる美琴には学園都市第一位に見える土御門から視線を移動する。

と、そこにはTシャツの裾を結びあられもなくへそを見せ、ジーンズを片側だけ大胆にお尻がでているのではないかと危うく思わせるほどカットして片足を艶めかしく見せている神裂がいた。

神裂「貴方方には私が神裂火織に見えるのですね」

敵意のこもった声。

上条「そ、そうだけど」

敵意に圧されて答える上条。

正確を期すと上条には神裂に見えても美琴にはステイルの姿に見えたまま、論理的思考を繰り返した結果、認識の壁を破り、神裂だと判断しただけだ。

神裂はおどろおどろしい気を纏ったままガンマンのように腰に巻いたベルトに吊り下げた長刀、七天七刀に手をかける。

神裂「ならば、貴方方をこの『御使堕し<エンゼルフォール>』の首謀者と見做します。すぐに解除しなさい。従わないと言うのなら実力を持って排除させていただきます」

上条は顔が引きつる。

かつてインデックスを巡り上条を含め中学一年組3名、プラス妹達<シスターズ>4名を圧倒し、あのインデックスが魔神と呼ぶべき力を示した時、そのインデックスに迫った神裂である。



その神裂が猛烈な敵意を向けてくる。

上条達を敵と見なし、言うことを聞かなければ排除すると言う。

土御門「待つんだにゃー、ねーちん」

ようやく痺れが取れたのか身体を起こし、土御門が神裂を制止する、が

神裂「土御門、邪魔をするなら貴方も敵と見做しますよ?」

土御門「やっ、ねーちんの気持ちも分かるぜい。でもホント待つんだにゃー、カミやんの言い分を聞いてからでも遅くはないぜよ、もし違ってたらどうするんだにゃー」

神裂「今現在、世界中で『御使堕し<エンゼルフォール>』の影響を被ってないのはこの二人だけです」

急に『御使堕し<エンゼルフォール>』などと言われても皆目見当がつかない。

上条「いや、そもそもその『御使堕し<エンゼルフォール>』ってのがワカンナいんだが」

当然、そんな返答をする事になる。

だいたいが朝からの異変に、ようやく美琴の協力で進展が見られたばかりなのだ。

しかし神裂の逆鱗に触ってしまったのか、対応する暇もなく、一足飛びに近寄れる筈もない距離を瞬間移動のように詰められ、

上条は首を絞められた。

神裂「白々しい隠し事はしないで下さい」



神裂「『御使堕し<エンゼルフォール>』は確かにこちらで付けた便宜上の魔術名ですが、世界中で起こっている人の入れ替わりは貴方が行った事でしょう」

神裂「貴方だけが全く入れ替わりもせず、認識も変わってないのですから、それは貴方を中心に魔術が展開している証です。早くなんとかしなさい上条当麻!」

神裂「でないと私は私は……」

聖人の力全開でもないがグイグイと上条の首を絞める。因みに全開なら上条の首と胴は離れていたことだろう。

そうでなくても当然、上条は息ができない。

美琴「ま、待って神裂さん!首を締めてたら答えようにも答えられないわよ」

顔色が変わる上条を見て美琴が助けにでる。

その美琴の声に神裂は上条の首から手を放す。

上条は完全に決まっていたのかへなへなと崩れ落ちた。

神裂は失神寸前の上条に問い質すのを無理と判断したか、替わりにギロッと美琴に眼差しを向け、

神裂「貴方ですか、貴方でもいいんですね、ここに来て判りましたが貴方も入れ替わりがないようで、そうですね……」

神裂「貴方ならインデックスの知識を拝借すればこのような魔術も容易いでしょう」

怖いことを言う。



美琴「ちょっ、神裂さん違うから!」

否定の声をあげるも、神裂の手が上条にしたように美琴の首に伸びる。

美琴「聞いて神裂さん!」

神裂の格好をしたステイルに迫られるのは不気味だった。鳥肌もんの美琴は後退る。

美琴「私も一応掛かってるから、姿が入れ替わってないのはなんでか分かんないけど」

美琴「人の姿は誤認識してるから、神裂さんの姿もステイルに見えちゃってるし」

神裂「ステイルの姿に、うっ」

ショックを受けたように神裂の動きが止まる。

チャンスと思い。

美琴「だいたい私が魔術使っちゃったら、今頃拒絶反応でこうして立ってられないわよ」

絶対条件を提示する。

能力者は魔術を使うと拒絶反応を起こし、最悪死に至る。

崩せない条件、これで神裂も納得してくれると美琴が安心しかける、と

神裂「そうですか、そうでしたね、ではやはり」

ホッとする余裕もなく再び上条へと神裂は矛先を向ける。

美琴「ダメ、ダメ、ダメ、当麻でもないわよ、忘れたの、当麻の右手のこと?幻想殺しが在る限り当麻にも魔術は使えないって」

必死に引き止めを図り、説得する美琴。



神裂「しかし、この者が『御使堕し<エンゼルフォール>』の中心にあるのも間違いありません」

が、なかなか理解してくれない。いつになく強情である。

美琴(キレたら怖い人で頑固なとこあるけど普段は他者の意見を受け入れてくれる良い人なんだけど、今日の神裂さんムキになってない?)

美琴「それは判んないけどさー?」

インデックスと一年旅し、今の美琴には魔術についてはそれなりの理解はある。

とは言え美琴の土台になっているのは科学、学問的な理解は出来ても摩訶不思議な魔術の現象については理解が及ばない。

今回の件についても入れ替わり現象だけ見ても、なんでこんな事が起こるのか判然としない。

美琴がそれ以上言えないでいると

土御門「だから言ったにゃー、ねーちん。カミやんがコレの中心かもしれんが、魔術を発動するのは無理だと、むしろこの魔術の標的にされてる可能性があるってにゃー」

美琴と神裂が言い争っているうちに、気がつけば土御門が上条を介抱していた。

その土御門が言い添え、別の視点を示す。

上条「ゲホッ、ゲホッ……標的?」

土御門「そうぜよ」

土御門(嘘も方便だにゃー)

此処まで
少し長くなったので早めにここまでを投下しときます

種は何となく察してはいるけど言わぬが花かな
しかしねーちんの格好したステイル・・・オェェ

>>256
ねーちんだけ原作通り、なんですがね
『御使堕し<エンゼルフォール>』の影響下にある人は服装まで入れ替わって見える訳でもないようですから、そう見えるんではないかと、ということで際立たせてみました。

『これから日本へ向かいます、分かっていると思いますが』

『魔術を使うなってことかな、それぐらいはわかっているよ』

『もう一つ』

『なんだい?』

『タバコを吸っては駄目です』

『それはまた』

『今の貴方の身体を考えたらダメに決まってます』

『自覚が全くないんだけど、本当に僕は入れ替わってるのかい?』

『私を見ればわかりますでしょ』

『ああ、できれば見たくないな……信じるしかないのか』

『元に戻るまでの我慢です。では行って参ります、ステイル』

『できるだけ早く頼むよ、神裂』

大人しく待つ身は辛かった。

本来のこの身体の持ち主のことを考えたら神裂が言うようにタバコも吸えない。

神裂が出掛けてから、ステイルはタバコを吸わないようにと蔵書室の主になっている。

本をめくる手を止め、

ステイル「自分で動ければ楽だったろうに、ツイてな……待てよ、神裂はあの服のまま行ったんだ……ね?」

道行く人がどう思うか、自分の反応を思い出せば簡単である。

ステイル「神裂ーッ!」

お遊びの1レスで御座います



土御門「ねーちん、ねーちんも早く解決したいのなら、ねーちんが落ち着かんと話を進めようもないぜい?」

神裂「うっ」

美琴「そうよ、神裂さん。こっちは寝耳に水状態で最初っから説明してくんないと答えようもないんだから」

土御門「良いかにゃ、ねーちん?」

不承不承ながら

神裂「……分かりました」

土御門「じゃ、状況説明からだにゃ、事の始まりは13時間前。ウチらがイギリスはウィンザー城にいた時だにゃー」

あっさり言われて流しかける、が

上条「ちょっと待て、なんでお前がウィンザー城なんかに居たんだ?それに神裂のことをねーちんって、前からの知り合いなのか?」

改めて考えるまでもなく、何故ここに土御門がいる?

答えたのは美琴。

美琴「当麻、その答えは簡単よ。この土御門って人はイギリス清教、それも必要悪の教会から学園都市に潜り込んだスパイ。そうでしょ、土御門さん?」

上条「へっ?」

感心しながら

土御門「さすがは『超電磁砲』、『禁書目録の同行者』。話しが早くて助かるぜい」

上条「お、お前、必要悪の教会って」

魔女狩り・宗教裁判と言った対魔術師用の機関。所属するは対魔術師に秀でた魔術師。



土御門「そうだぜい、この土御門さんは元は歴とした魔術師さんだにゃー」

土御門「今は学園都市の開発を受けちまって魔術師としては廃業、能力者としてもパッとせんどころか無能力者。かつての陰陽博士の最上位、土御門さんとしては泣けてくるぜよ」

神裂「……土御門」

地を這うような声。

土御門「おっと、ねーちんがまたキレたら困るんで話しを戻すにゃ、カミやん俺のことはまた後でにゃー」

後にしたら、誤魔化される、そう思った上条であるが、これ以上話しの進行を遅らせば白刃が舞いそうであった。

土御門「とにかくウィンザー城にいたオレとねーちんはこの入れ替わり現象に襲われたんだにゃー。鉄壁の魔術結界に守られた中でぜよ、魔術世界の常識じゃ信じられんことだぜい」

美琴「イギリスにいて?世界中って言ってたみたいだけど本当に世界規模でこの異変が起こってるの?」

土御門「確認した限りにゃ、世界規模の大魔術ってことだにゃー。しかもウィンザー城の最深部まで届く程の。難を逃れたのは個人結界が間に合ったオレとねーちんだけだにゃー、それでも中途半端に影響を受けちまってこれこの通りぜよ」



上条「美琴には土御門が一方通行で、神裂がステイルに見えてる、ってのが?」

神裂「ええ……」

俯きながら答える神裂。大変イヤそうである。

美琴「二人だけ、ステイルとかは?」

神裂「ステイルも入れ替わりを受けました。影響を受けると認識が変わってしまい異変が起きてると感づきもしません」

土御門「ウチらからは入れ替わった人物に見えるし、元の人物を捜すのもひと苦労だにゃー」

土御門「相手からは中途半端に影響を受けたウチらは入れ替った人物に見えるんだにゃー」

思い出して疲れた声の土御門。

美琴「ん?……もしかしてステイルも近くにいたの?」

土御門「大混乱にゃ、その場にステイルが二人、ステイルがねーちんを見て」

神裂「土御門、それ以上はーッ!」

土御門「僕はこんな変態じゃない!ってキレちまって、あわや大惨事だったぜよ」

美琴「はぁ~なるほど、それで」

チラッと神裂を見る。

イギリスから日本へ渡る間にもイロイロあったのだろう。

美琴「でも、認識だけ変わるなら世界規模と言っても、そんな大騒ぎするような……あっ!」



土御門「気がついたかにゃ? 入れ替わり現象って言ったのは肉体そのものが入れ替わってるからだにゃー」

土御門「見る側はそれを元の人物と誤認識してるだけぜよ」

神裂「土御門があわや大惨事と言ったのは、ステイルが魔術を使おうとしたからではありません、いえ使おうとしたからですが」

上琴「「?」」

神裂「ステイルの身体は学園都市の少女に入れ替わってました……その、覚えてませんか、絹旗という少女を?」

上琴「「あの子?」」

学園都市第四位 麦野沈利と一緒にいた少女。12.3才の年頃でありながら、どこかステイル達と同じ匂いを感じさせた学園都市の大能力者。

神裂「ステイルがその状態で魔術を使えばどうなるか、わかりません。肉体は学園都市の能力者の物です。やはり拒絶反応を起こす可能性がありました」

土御門「そんな訳でステイルは戦力として数えられないんだにゃー」

神裂「黙らした後、納得していただきましが、魔術が使えないステイルを連れてくる訳にはいきません」

美琴(黙らしたんですか、そうですか……冥福)

上条「でもよー、その入れ替わり現象を起こして何をしようってんだ?俺が標的かもってのも」



土御門「便宜上と言っても『御使堕し<エンゼルフォール>』って名前を付けた理由が関係あるんだにゃー」

美琴「名前って、エンゼル?」

土御門「最初に言っておくが、どれが主目的か副次的要素か分からんぜい?」

土御門「恐らく入れ替わり現象は副次的要素だにゃ、何故入れ替わり現象が起こったか、調べた結果」

神裂「10のセフィラが形作る四界に乱れが出ていました」

上条「はぁ?」

美琴「それって!」

意味不明な上条に対し驚きの声の美琴。

上条「……ワカルンデスカ美琴先生」

美琴「まさか、天使降臨?」

神裂「記録にある降臨時の乱れに近くはあります」

土御門「自発的に降臨する場合と奇跡的に召喚に成功する場合、二通りあるんだがその時の揺らぎに近いんだにゃー」

神裂「実際には自発的に天使が行動することはありません。御使いと言われるように主の命令を受けた行動しか出来ませんから」

土御門「奇跡的に召喚できた場合も本当は主が願い応えたからだにゃー」

美琴「今回はその例外?」

神裂「揺らぎ、乱れが大きすぎます。恐らく上位セフィラから下位セフィラへと強制的に天使が移動させられたため、かと」



上条「そのいいかな?全くワカラナイんですが?」

美琴「あー、予備知識無いとわかんないよねぇ?」

美琴「んーと、カバラの概念に代表されるセフィロトの樹って世界観があるのよ、セフィロトの樹には10のセフィラで構成され、それぞれのセフィラは位が決められているの、階級表のようなものね。主、天使、人はその位におのおの属していて数も限られてる、位を移すこともできないわ。で神裂さんが言った四界とは原形世界、創造世界、形成世界、物質世界が10のセフィラの元に形成されてるわけ、天使が降臨するってことは人に姿、気配を見せることになる、それは位が違う人の位に近付く、境界を侵すってこと、本来移動ができないわけだから、かなり無茶な行為よね?無茶な行為だから、その時に四界に揺らぎが生じる、その揺らぎを神裂さん達は観測したってことよ」

美琴「分かった?」

早口で一気に説明してのけた美琴。

上条「……」

美琴「うん、わかんないわよね、いいわ覚えなくて」

どこかイラッとしている雰囲気。

美琴「ようするに移動できないはずの天使のイスから人のイスへ移動してきて席順が乱れたってこと」

神裂「お見事です、やはり貴女が」

七天七刀に手をかけようとする神裂。



美琴「なっ、訳ないでしょうガァ!!」

神裂「ハイ」シュン

大人しくなる神裂。

土御門「イスってのは言い得て妙やにゃー、現在行われてるのはイス取りゲームぜよ」

上条「イス取りゲーム?」

土御門「そっ、数が決まってるイスに天使が混ざって座っちまったんだにゃー、イスを取られた人は別のイスへ、そこから押し出された人は、また別のイスへの繰り返しってことだぜい」

上条「それが人が入れ替わった理由?肉体だけが?」

土御門「肉体がイスって言いたいが、今回座標が固定されてるイスは精神、魂ぜよ」

上条「そんなことあるのかよ?」

美琴「あるから困るのよ、魔術ってのは!」

上条「美琴先生? さっきから語気が荒くなってるようですが」

美琴「言わないで、叫びだしたい気分なんだから!インデックスと旅して摩訶不思議にはさんざんっぱらあったけど、これは最大級よ」

上条「美琴先生?全然分かんなかったけど今、神裂が誉めるぐらいの説明をしてたんじゃ?」



美琴「ふふふふふふふ、そりゃあ、さっ。自分で見たもんを否定するのは簡単よ、でも命がかかってるなら認めないといけないじゃない、素直に認めるしかないのよ」

美琴「感情が騒いだって理性でねじ伏せないとダメなの、そのためには知識を得て理論武装もするわよ」

上条「そ、そうか」

美琴「だからと言って、感情面が摩訶不思議を受け入れる訳じゃないの、はぁぁぁ」

神裂「彼女は基本、科学脳ですから魔術理論の理解は大丈夫でもどうしても受け付けない部分があるようで」

美琴「魔術理論と言っても抽象的、概念上のもので、過程をすっ飛ばして結果があるような」

神裂「過程もあるには在るのですが?魔術も学問ですから」

美琴「それは分かってるの……それに今なんかイライラするのは……土御門さんて分かってるんだけどさぁ、目に映る姿が一方通行だと、超電磁砲をぶっ放したくなるの、なんか撃たなきゃいけないような?」

土御門「あ、あぁ話を戻しても宜しいでしょうか第三位様?ぶっ放される前にお願いしますですにゃ?」

土御門(こりゃ、例のことバレたら大事だぜい)



美琴「何でかなぁ? ええと、どうぞ」

土御門「と、まあ今起きてることの概略だにゃー、この『御使堕し<エンゼルフォール>』の目的は幾つか考えられる。一つは単純、天使の召喚」

土御門「奇跡的な確率だった天使の召喚を自由自在に可能にする方法を考案して、試したってことだにゃー。あとは首輪なりなんなりで天使を使役すりゃあいい」

土御門「次に天使を降ろして空いた席に自分が座ろうって魂胆からかにゃー」

上条「空いた席に座る?」

神裂「天使を降ろしたことで上位セフィラに一つ空きができます。それを横取りして自らが上位存在になろう、と云うことです」

美琴「上位存在ねぇ」

土御門「カミやん犯人説を取ると動機は不幸なカミやんを変えて貰おうと天使の力を頼った、不幸なカミやんを捨てて上位存在になろうとした、と考えられるにゃー」

ジーッと上条を見る神裂、再び七天七刀に手が伸びてる。

上条「あるかーッ!そんなもん、これだけ説明受けてもわけわかんねーのにできっかよっ!」

神裂「本当にですか? 嘘をついては無いでしょうね、これだけのことを成した犯人です。正直に白状するとは思えませんが?」

上条「しつこいっ!?」



美琴「何度もいうけど、当麻の右手がある限り無理よ、神裂さん」

土御門「そういうことだにゃー」

上条「つーか、よ?俺が標的かもってどこ行ったんだ?」

土御門「それは、やはりカミやんを中心に世界中に広がった結果を見たうえでの推測だにゃー」

上条「えーと、俺を中心に広がってんの?」

土御門「調査の結果はそうなってるんだにゃー」

上条「はー……」

土御門「想定されるのはカミやんの右手を我がモノにするために入れ替わりを狙った。この場合、入れ替わりは失敗。天使召喚が副次効果で起こってしまったことになるぜい」

土御門「もしくは目的は最初の二つと一緒。カミやんの右手にぶち当てることで『御使堕し<エンゼルフォール>』を引き起こしてるかもにゃー」

上条「あるのか、そんなことが?」

土御門「知ってるぜい。カミやんの右手は一瞬でどんなもんでも打ち消せるってもんじゃないぐらい、大規模魔術なら時間もかかる、ステイルの『魔女狩りの王』のような放出され続ける魔術には根っこをつぶさん限り効果が薄いってのもにゃー」

土御門「第三位が言ったように魔術は過程をすっ飛ばして結果がでる場合もあるんだにゃー」



上条「俺の右手が利用されてるってことか?……ってお前?」

土御門「土御門さんは優秀なスパイですからにゃー、カミやんの右手のことから三沢塾でのことも妹達<シスターズ>のことも知ってるにゃー」

上条「知ってて」

土御門「オレに何ができた?」

上条「……」

土御門「スパイをやってようがカミやんのことは友人だと思ってる。そのカミやんを危険に曝したくはなかったんだぜい」



上条「土御門……」

土御門「この異変にしたってカミやん自身に降りかかった災難でなければ放っておくさ、何せスパイが身を明かすなんてにゃー、最悪の事ぜよ」

上条「土御門、すまん」

土御門「別に、とっくに学園都市の上層部にゃ知られてるからにゃー。カミやんが気にする必要はないですたい」

上条「はぁ?土御門テメェ!」

土御門「それよりカミやん、これからの事ぜよ、『御使堕し<エンゼルフォール>』はまだ目的を達してない、完成してないと言えるんだぜい」

土御門「目的を達成されたら世界に未曽有の歪みが発生しかねないのは当然、今現在でも被害は出てるんだにゃー」

上条「はぁ? 入れ替わり現象でどんな被害が?」

美琴「死者数」

土御門「そうやにゃ、入れ替わった人物が亡くなった場合、一人の死は二人の死に繋がるにゃー」

上条「どういう?」

美琴「肉体を失えば元の持ち主はこの異変が元に戻ったとき戻るべき肉体が無いことになるわ。また、入れ替わってる時にその時の肉体が失われたらどうなるの?この世に魂が留まっていれば良いけど、でなければ異変が終わっても肉体に還ることは難しいわね」

上条「そんな」

その結果、迎えるは死。

死ぬ運命に無き人までもが。

美琴「世界で今、誰一人死んでないと思う? 戦争や紛争、事故病気だけじゃなくて寿命がきて亡くなる人もいるわ、元に戻ったときに修正されれば良いけど、期待通りにいくかは……」



神裂「それについては祈るしかありません、我々が出来るのは早期の解決を図るのみです」

土御門「カミやんの為にもにゃー」

上条「俺のため?」

土御門「そうぜよ、この異変に気付いたのがウチらだけと思うかよ? 難を逃れた者は少なからずいるはずだにゃー。ウチらはカミやんの右手について知っているから良いが、異変を調べ始めたら自ずとカミやんに行き当たる。異変の首謀者として真っ先に排除に掛かるぜよ、ねーちんみたいに」

神裂「あれは!」

美琴「神裂さんの気持ちも分かるわよ、その格好で日本に来たのよね?」

上条「?」

上条には実感が湧かなくても、美琴には神裂はステイルに見えている分、実感することができる。正直、気持ち悪さが際立つ。

神裂「ええ、世間から見ると私は身長2m強の赤髪大男、おかげで手洗いや更衣室に入っただけで悲鳴をあげられました」

神裂「道行く人々からは『妙に女っぽいシナを作る巨漢の英国人』などと呼ばれてしまいます」

美琴(えーと、神裂さん?それ以上にその服装が異様です、今回ばかりは趣を変えては如何でした?そうした事は注意することで克服できたのでは、とは言えないわね……あの服装は神裂さんの術式に関係することらしいから……神裂さんも可哀想だけど……もっと可哀想なのは、このことが人の記憶に残ったりしたら本人と思われてしまう……ステイル)



美琴「とにかく当麻の元に刺客が来る前になんとかしないといけないってことかぁ」

神裂「本当に身に覚えは無いのですね?」

上条「ねーって」

美琴「当麻を中心に広がりを見せてるのは間違いないのね?」

土御門「調べた限りはそうぜよ、距離的な広がりと因果律的な広がり両方を調べた結果だにゃー、たまたまオレがいつも事件の中心にいるカミやんを気にして目を向けて見ればバッチし合ったってことだにゃー、おかげで他よりいち早く駆け付けることが出来たんだぜい」

美琴「当麻を何らかの形で利用してるなら当麻の近くにいる可能性が高いわね……」

美琴「それで入れ替わりが行われてない人物、天使の位を横取りするにしても、天使を使役するにしても犯人自身が入れ替わったり誤認識してたら元も子もないから」

神裂「その条件を挙げていけば犯人像に一番近いのはやはり貴方になりますよ」

美琴「自信無くなってくるなぁ、誤認識してるのは術式を失敗して、記憶まで改竄されてしまっただけ?」

上条「み、美琴!」

美琴「それなら私が思い出せば万事解決になるわけね」

上条「おい!?」



美琴「大丈夫よ、私じゃないから、多分……土御門さん、当麻を中心とした広がりの最初は距離と因果律どちらが先?」

土御門「因果律が先だったようだにゃ、因果律で広がって、距離的にも連鎖的に一気にってところかにゃ?」

上条「因果律って?」

神裂「この場合、距離的な近さより、関係性の近さと云うことですね。親子、兄弟と言った血縁だけでなく恋人、親友、友人、知人、敵を含めた関係性と言ったら分かり易いでしょうか」

上条「敵も含むのか」

美琴「因果律のラインを辿っていても規則性は無し、ランダムってところ?」

土御門「そうだにゃー、因果律の結び付きはあっても近い遠いは関係ないにゃー」

上条「えーと、また分からなくなりましたが?」

神裂「先程の例で言うとですね、本来なら恋人と知人であれば恋人がより近い関係と云うことになります。でも、この入れ替わり現象では結び付きがあれば、遠近は関係ないということですね」

美琴「神裂さんと土御門さんを除けば当麻の身近で起こった入れ替わり現象は5例、私を含めれば6例、サンプルとしては少ないけど、その内の5例が当麻の知人であることを考えれば因果律的広がりを見せたことの実証になるかな?」



上条「今、美琴も含めてって言わなかったか?」

美琴「言ったわよ」

上条「じゃあ、美琴も入れ替わってんのか?」

神裂「えっ! 本来の姿、そのままに見えますが?」

美琴「ふぅ、都合の良すぎる話しになるけど因果律が関わってるなら、あるわね」

美琴「神裂さんも、たしか見たことありますよね、私のそっくりさんをあの時は4人か。土御門さんも妹達のこと知ってるんですよね?」

神土「「あっ!」」

上条「どういう、こと?」

美琴「ハァ……アンタは、頭の中いじくり回して直してあげようかな?」

上条「ちょっ、やめて、そんなことされても上条さんの頭は良くならないから」

美琴「おっそらくだけどっ!今の私の身体は妹達の一人のもんと入れ替わってるってことよっ!!」

上条「そんな偶然があるんか!」

美琴「だから入れ替わり現象が最初、因果律的に広がったのか確認したんじゃない、あるの!」

此処まで
疲れたぜよ



上条と美琴、二人の嫌疑を晴らしたところで今後の打ち合わせをした。

神裂と土御門は上条周辺を洗うため調査に、上条と美琴は待機となる。

待機と言っても美琴には役割が振られていた。上条の護衛である。

いつ現れるかわからない刺客、特に人為的に天使の召喚を試みるなどが御法度の十字教原理主義者なら問答無用で襲ってくる可能性がある。

安全を期すなら上条の護衛は必須、とは言っても美琴は上条のそばに元々いるわけだが

美琴「さて、お母さん達とあんまり離れているわけにいかないから、そろそろ行きますか」

上条「んー、でもよ。母さん達と一緒のところを狙われたりしたら?」

美琴「そのときの為の私でしょ、昨日の影響か、知らないけどこれだけ人気がないならどこから現れてもお見通しよ」

上条「あー、電磁レーダーか」

美琴「そっ」

上条「じゃあ、行くか」

上条が手を差し伸べる。

美琴(あー、何も考えてないんだろうな?無意識にやってんのよね)

嬉しい反面、普段から女性に何気なくこういう行為をしているのだろう、と予想できた。

少し腹が立つ。

美琴「アンタ、右手だしてどうすんのよ?」



上条「えっ?……あー、そうか力が使えなくなるもんな」

美琴「だすんなら左手でしょ」

上条「おっ、すまん」

美琴はだされた上条の手をとり、二人で歩き出す。

この時、二人は考えもしなかった。

悪夢が待ってるとは。

舌なめずりして二人を待っている最悪の者達がいることを知らなかった。

上条の右手、幻想殺しもモノの役に立たないほどの強敵。

学園都市第三位の肩書きさえその者達の前では虚しく、美琴は砂浜の上に消沈することになる。

そう、往くときと同じく手を繋ぎ帰ってきた二人に佐天と白井の姿をした母親達は悪魔の微笑で出迎えた。



手を繋ぎ去っていく上条と美琴を陰から見送る土御門と神裂。

土御門「あれでまだ付き合ってないとは信じられないにゃー」

神裂「趣味が悪いですよ……」

土御門「そう言われても気になるぜい」

神裂「本当に」

土御門「慌てても仕方ないぜよ、ねーちん」

神裂「慌てます、急ぎます、早く解決を図らないといけません」

土御門「実際どこから手をつけるか、改めて作戦を練らないといけないんだぜい、あの二人が何か知ってれば進展もあったかもにゃー、振り出しに戻っちまったようなもんぜよ」

唯一の手掛かりと言って良かった二人。

神裂「信用して良かったのでしょうか?」

土御門「カミやんについてはオレはよく知ってるにゃー、ねーちんも先月の終わりには見てたんだぜい、信用できない人物か、ねーちん?超電磁砲についてはオレは経歴しか知らんけど、禁書目録を一年も預けてたのはねーちん達だにゃー、ねーちんの方がわかってるんじゃないかにゃ?」

神裂「それはそうですが……そう言えば土御門は最初から二人を擁護してましたね。御坂さんの入れ替わってない姿を見て、実は入れ替わってた訳ですが疑念には思わなかったのですか?」



土御門「それはにゃー、訊くわけにいかなかったことだぜーい」

神裂「訊くわけにはいかなかった?」

土御門「そうぜよ、気の置けない友人でもまさか夜通しカミやんが年下の可愛い女の子に触っていたのか?なんて訊けないにゃー、土御門さんもさすがにそこまで踏み込めませんぜーい」

土御門の台詞が頭に浸透していき、徐々に顔を朱に染めていく神裂。

神裂「…………ふ、ふしだらです」

土御門「何を考えたのかにゃー、ねーちん?」

神裂「さ、さっさと行きますよ土御門」

ニヤニヤしている土御門を置き神裂は歩き出す。

土御門(本当は……カミやんには苦労を背負いこむことになるだけの超電磁砲とは離れていて欲しいだがにゃー)

ニヤニヤ笑いを納め、一歩遅れ土御門も歩き始める。

此処まで
おまけと云うかつっちーが疑念に思ってなかった理由を前日の投下分に入れ込むのを忘れてたんで、(投下してから気づくとは……ミコっちゃんが慌てるところを書くつもりだったのにハァ)補足ですね

age忘れ

乙 初春達残留組はどうなってるんだろうね

>>291
初春については決めてある
多分予想通り



太陽が西に傾いている。

美琴は水着から私服に着替えて浜辺に立っていた。

美琴「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

美琴からは長い溜め息が漏れる。

上条「不幸だ、った」

いつものフレーズが過去形になって聴かせるでもなく口をつく。

同じく私服に着替えた上条が隣りで座り込み黄昏ていた。

美琴「あの母親は……感動の再会をした娘にナニやってんだか……」

上条「美琴……大丈夫か?」

美琴「アンタも……」

身体よりも神経が疲れ果てていた。

手を繋ぎ母親達の元へ戻ってきた二人を迎えたのは母親達の訊問。

訊問は苛烈を極めた。

仲良いわねぇ、から始まり二人の出会いは?などなどボケとツッコミを繰り返し、主導権を握り続ける母親達。

終始劣勢を強いられる上条と美琴。

二人に置いてかれた、といじけるインデックスは味方になってくれず、帰還計画のストーリーから逸脱した話しを挟みかけ二人を慌てさせた。まさに背中に突きつけられたナイフ状態だった。

おかげで解放された頃には精神的疲労はMAX。海の家に戻り夕食の時間までを回復の時間に当てるため、再び浜辺へと足を延ばしたが、二人揃って虚脱状態であった。



そんな状態でも時は廻る。刻一刻と、時間が過ぎてしまう。

美琴は上条に話さなければいけない事、確認せねばならない事があった。

美琴「……考えるのもメンドクサいけど母親達がいないうちに作戦会議しない?」

気怠げに聞く美琴。

上条「『御使堕し<エンゼルフォール>』か……神裂と土御門が居なくても良いのか? それとインデックスには?」

美琴「インデックスには教えないわ」

異議を挿ませない口調だった。

上条は意外な感じがした。魔術絡みなら10万3000冊の魔導書の持ち主、人間生き字引インデックスの出番ではないかと思ったからだ。

美琴「理由はステイルと一緒ね」

上条「麦野さんの身体だからか……けど、インデックスは魔術が使えないんじゃ?」

美琴「使わないのか使えないと思ってるのかのどちらかよ、私は使えないと思ってる方に賭けてるけど、どのみち下手に魔導書の知識を引っ張り出したら麦野さんの身体に影響がでるかも知れない、それだけ魔導書は怖い物なの」

上条「そうか……」

美琴「実はね、二人抜きで相談しておきたいことがあるの」

上条「神裂と土御門に何か隠しておきたいのか?」

美琴「隠すと云うか、あの二人も当麻に言おうとしない事かな?」



スパイであることをバラした土御門には今更、隠しだてせねばならないことは無いはず、と思っている上条は

上条「……何だ?」

訝しげに美琴に尋ねる。

美琴「それじゃあ問題、天使はどこにいるの?」

美琴は質問で返す。

上条「……て・ん・し?そりゃ、えーと。入れ替わりで誰かのイスに座り込んで、誰かに、なってる?」

美琴「正解は正解よ、でも問題はドコにいるんでしょうか、ってことよ」

美琴「当麻を中心に現象が広がってるなら、天使が入れ替わった誰かは当麻の近くにいるかも知れない」

美琴「この異変の解決方法としては犯人を見つけて止めさせる、これが最善の方法。で、もう一つ思いつく解決方法があるの」

上条「……それは?」

美琴「天使の強制送還。天使が入れ替わった誰かから、無理やり天使を引き剥がして送り還すか」

美琴「その誰かを失わせることで天使を送り還せるかも知れない」

上条「失わせるって、一体?」

美琴「その誰かを殺すことね」

上条「……その誰かは天使何だろ?出来るのかそんな事が?」

上条「美琴は殺すって言ったよな」



美琴「天使の入れ物を壊す事ぐらいなら、入れ物は人の肉体だもの、出来ないことはないでしょうね」

美琴「肉体を壊された元の持ち主は元の肉体に還ることが出来ずに死ぬ事になるわ」

入れ替わり現象下では一人の死が二人の死になる、の説明と基本は一緒。

それに気づき、

上条「解決するためだからってそんなことが認められっかよ!」

憤りの声。

美琴「そう当麻が言うと思ったから、あの二人は言わなかったんじゃないかな」

美琴「それも私たちの近くに、ううん、当麻の因果律に沿って当麻と関係のある誰かに天使が入れ替わってる可能性があるもの」

距離的な近さでもなく、関係性のみ、ただの顔見知り、よく行くスーパーの店員、過去に道案内をしてあげただけの人、そして、

上条「俺のよく知ってる人物の可能性も有るのか……」

美琴「神裂さんの信条からその方法を採る可能性は少ないけど、私は土御門さんについては知らない」

上条「俺だって……土御門のことはクラスメートで寮の隣人で知ってるつもりでいた。けどよイギリス清教のスパイだって今日初めて知ったんだ。そんなヤツじゃない、と思いたい……」



美琴「事は世界規模、歪みが大きくなれば大災厄を招くわ、最終的にそういう手段を採る決断をするかもしれない」

美琴「当麻の周囲を洗うって言うのは犯人探しだけじゃなく天使を見つけることも含まれてるのよ」

上条「どうすれば良いんだ……」

美琴「当麻はどうしたいの?」

上条「犯人を見つけるのが一番良いってのは分かってる」

美琴「それはあの二人に任せましょ、魔術のプロに」

上条「天使の誰かは殺させない、俺の知り合いでも知り合いじゃなかったとしてもだ」

美琴「それが当麻の決断ね」

上条「そうだ」

力強く、噛み締めるような声、決意。

美琴「なら、万が一の場合はあの二人とも戦うことも覚悟しといてよ、二人が行動に移せば止めに入ることになるから」

上条「土御門と神裂と戦う……それも、したくはねえんだがな」

美琴「……そればかりは仕方ないわよ、当麻の希望を叶えるには」

上条「だったら、こんなところで話し合ってる暇はねーんじゃ」

自分達も捜索に回るべき、二人より先に天使を見つけなければ、と上条は腰を浮かし立ち上がる。

やることが見え、気力も戻っていた。

ところが、

美琴「そんな慌てなくても大丈夫よ」

いたずらっ子ぽい表情を美琴は浮かべていた。

上条「へっ?」



美琴「刺客と同じよ。天使も当麻が入れ替わり現象の中心って分かるわ。わざわざ探さないでも向こうから現れてくれるって」

楽しそうに、

美琴「強制的に引きずり降ろされたんだから、アチラに還ろうと怒り狂って張本人と覚しき当麻のところへ来てくれるわよ」

美琴は上条に恐ろしいことを告げる。

上条「それって、……あの二人と戦うとかの前に天使と戦うことになるんじゃ……美琴さん?」

至極、当たり前のように、

美琴「そうなるわね」

短く、間違いようもなく告げる。

一筋、上条の背をイヤな汗が流れる。

蒸し暑いせいと思いたい。

しかし海からは心地よい潮風が吹いている。

上条「あの二人と天使とどちらが強いんでせうか?」

美琴「モチロン天使に決まってるじゃない」

尋ねる上条に間髪いれずの即答だった。

上条「不幸だぁ!」

美琴「心配しないでも当麻の幻想殺しでなんとかなるわよ」

そこまでアテにされても困る。なんせ、こんな右手があってもヒーローには程遠い役立たず、とこの前まで自分を思っていた上条である。

上条「ナントカナラナカッタラ?」

どこかの外国人のような喋り方になる上条。



美琴「なんとかしなさい、助けるんでしょ、天使が入れ替わった誰か、も」

美琴に聞かれ決意したばかりだと思い返す。

上条「うっ……分かったよ、なんとかします、上条さんがこの命に代えても」

美琴は命に代えてもの言葉に眉を寄せ、

美琴「頑張ってね」

他人ごとのように聞こえる美琴の言葉。当然、協力してもらえると思っていた上条は

上条「……美琴さん? テツダッテハクレナインデスカ?」

また、カタコト喋りの外国人のようになる上条。

美琴は大変なことである、と分かってくれても軽々しく命をかける、とは言って欲しくはなかった。

それで矛を突いてしまった訳だが、矛を収め、上条の期待に応える為には

美琴「モチロン協力するつもりよ、でもちょろっと試させてね」

あることを試して置かなければならなかった。

上条「?」

美琴「右手を前に出しといて」

そう上条に告げると美琴は上条から離れていく。

美琴「こんくらいで良いかな?」

上条が訳も分からず、言われたように右手を前に出していると20mほどの距離を空けて立ち止まる美琴。

美琴「さてと」

美琴の身体から蒼白い雷光が輝いているのが見える。



上条「…………………………み、みみみみみみみみ美琴、ま、まさか?」

上条の声に答えず、

美琴「ウオリャアァァァアァァァッ!!」

気合い一発、10億ボルトの電撃が放たれた。


上条「ウッ、ウワァアァァァ!!」

バキィィィッン!!

ガラスが割れるような音がする。

避雷針のように突き出された右手に美琴から放たれた電撃は吸い込まれるように消えていった。

上条「な、なんばすっとですか美琴さん」

人が一瞬で蒸発しかねなかった10億ボルトの電撃を受けて全く無傷の上条。

美琴「どこの人よ。ふぅ、大丈夫そうね」

上条「何が大丈夫でせうか? 美琴の全力の電撃を人に当てたりしましたら、黒こげどころか蒸発しますですが」

美琴「だからアンタにしか試せないのよ、能力がそのまま使えるか試しとかないと、いざって時に困るでしょ?」

上条「いざって時って」

さも当然のように

美琴「ナニ言ってんの、天使と戦わないといけない時に決まってるでしょ」

じゃあさっきの他人ごとのような言い方はナニと尋ねたい上条。

美琴「この身体は妹達の誰かのものよ、妹達はレベル2か3、それじゃあ当麻の足手まといになりかねないわ」



美琴「自分の力を把握しとかないとね」

美琴「『自分だけの現実<パーソナルリアリティ>』の感覚はlevel5のままなんだけどさぁ、認識が狂っちゃってるから実践してみないと元のように本当にlevel5の出力を維持してるか分かんないのよ」

上条「それなら言っといてくれよ、心臓に悪い……ふう、今のはlevel5、本来の身体の時と変わらねーよな?」

幻想殺しで力が測れる訳ではないが、周囲を圧する電撃にはそれだけの力を感じた。

美琴「どういうモノか、そうみたい。これなら天使と戦わないといけなくなっても当麻の力になれるわ」

当麻の力になれると鮮やかに謳いあげた。

本音を言えば上条に規格外の存在である、天使と戦うことになって欲しくない。

神裂や土御門もその為に全力を尽くすつもりだろう。

上条に言わないのも配慮、言わず自らが泥をかぶる覚悟。

しかし、それは上条が望む事ではない。知れば、必ず違う答えを言う、確信があった。

そしてそれは間違いで無かった。ならば美琴の行動規範は異変の解決を図る事のみでなく上条の願いを叶える力となる事。

こうして上条と美琴だけの方針が決まる。



そのあと、美琴は一通り能力の確認をしたいからと上条には先に宿へと帰って貰った。

一緒に戻れば母親達にまた弄ばれる原因となる、といった恐怖もあり、上条も納得のうえでの別行動である。

そして一通り試すと、

美琴「まあ、こんなもんかな……でも」

疑問が湧く。

美琴(オリジナルである私はlevel5、クローンの妹達はlevel5になれず、level2か3止まり。身体的な違いと言えば遺伝子のテレメアの長さ、普通に考えればそれが原因ってことよね)

美琴はそれを心配していた。それ故に上条相手に試させて貰った。実験場でもない限り外で全力の力を試すと被害が出ててしまう。幻想殺しなら被害が出る心配が無かった。

美琴(これって能力は身体由来ではない実証になるのかな?)

そうでなけれは学園都市で問題になっている筈である。

能力が身体由来なら、身体が入れ替わってしまった能力者は力が使えないことになる。

美琴(能力の基礎は『自分だけの現実<パーソナルリアリティ>』)

『自分だけの現実<パーソナルリアリティ>』は脳に宿るモノと考えられてきた。脳のどの箇所に宿るか、非道な実験が行われたという噂もある。



能力と『自分だけの現実<パーソナルリアリティ>』は魂や精神と言ったものと共に自立しているのか?

本来の身体から離れても美琴としての力が使える、それはその所作ではないかと美琴は考えていた。

美琴「あと、当麻の右手で触られても、私の認識は変わらなかった、ママを見てもママとしか見えなかった、と同時にその時私の身体が元に戻ったか確証はないけど戻ってないわねぇ」

上条の右手に宿る、幻想殺しの限界。限界でなければ効果範囲。魔術の影響であるのに変わらなかった認識と身体の入れ替わり。

身体が入れ替わっても魂の部分で相手を認識するため。魂が魂を見ているだけなのでそれは異能に当たらない。身体も魔術によって移動させられただけで異能によって作られモノでない。

魂もまたこの世界に在るもの。

美琴「この世界に在るものでない天使、魂のようなモノは消せない幻想殺しなら送り還せる?」

魔術で天使を強制的に移動させたのなら、それが主因なら解決できるのではないかと結論に至る。

美琴「じゃあ、当麻には防御じゃなくて攻撃を担って貰わないとダメか?」



心積もりでは上条に防御、美琴が牽制の攻撃、それでなんとか時間を稼ぎつつ天使を説得するつもりだった。天使に言葉が通じるかは別にして。

方策は逆になる。

美琴「私が天使を足止め出来なかったら当麻が天使に近付けないもんね」

美琴「インデックスの時と同じかぁ……」

天使来襲時に神裂が居るかは分からない。最悪、美琴と上条だけで、恐らくあのインデックス以上の存在と争うことになる。

ため息を一つつき、美琴は宿に戻ろうと、して、

美琴「うん?……インデックス?」

言葉にした通りインデックスのことで何か引っかかった。

神裂や土御門も考えが及んでないであろう事柄。

万一、万が一である。インデックスの身体が誰かと入れ替わりに入ってしまった場合、その誰かの認識が変わってなかったらどうなる?

10万3000冊の魔導書は脳の記憶層に残されたままの可能性、魂の部分に全て移されてれば良いが。

一滴の汗が額から伝わり頬を濡らす。

急に気になるのは目覚まし代わりになった朝の電話。

インデックスに変わったところはないかと聞かれた。

なんでわざわざインデックスだったのか、彼女の能力なら誤認識を起こさないかも知れない。

そして朝起き上がり、鏡でも見たら?

杞憂であって欲しいと携帯電話を取り出し、素早く着信履歴から電話をかける。

暫く呼び出し音が鳴り、電話に出る気配がした。

美琴「初春さん?」


此処まで

3月1日には必ず



朝、目が覚めベッドから出る。

昨日も大騒ぎで疲れが残っているのか目覚めが悪い。

ぼーっとしながら昨日の事が思い出される。

昨日は非番を良いことに部屋で依頼をこなしていたが夕方、食材の買い出しに行ったスーパーの前に現れた。

その後はまたドタバタ。風紀委員の仕事を増やさないで欲しい。

今日はどこで待ち伏せされるのか、憂鬱な気分で洗面所へと向かう。見張られているようで落ち着かない、ながら慣れてきている自分もいる。

気持ちを切り替え、今日も一日頑張ろうと顔を洗い終え顔を上げると

「はれっ?」

自分とは別の顔が鏡に映っていた。

髪の長さも違えば色も違う、黒髪でなく銀髪。瞳の光彩も自分のモノではない。

鏡に映るは同じ女の子から見ても羨ましくなる美少女ぶり。

ツンツンと鏡をつついても鏡は鏡。モニター兼用鏡などと無駄機能がついた洗面台ではない。

ニコッと微笑んでみると鏡に映る顔も微笑む。

次に鏡に映っている銀髪の長い髪が本当にあるのか触ってみる。

妬ましくなるほどのサラッとした手触り。

もう一度、鏡を凝視しても自分ではない顔が映っている。自分の顔では無いけれど知らない顔でもない。

手で触っている銀髪の持ち主の顔は年上の友人が一年を費やし、救いあげたインデックスの顔。

「最近の幻覚は質感もあるんですね」

まだ髪の手触りを確かめながら呟く。



本当なら驚愕の叫び声のひとつでもあげているところ。が、頭が目覚めてないのかどうも現実感がない。

まだ夢でも見ているのかと思ってしまう。

既に起きているのだからいつまで待っても夢が醒める訳もなく、徐々に現実であると認識しつつ初春の頭脳は原因を探っていく。

幻覚を見せる装置とかがあったとしても視覚だけでなく、触感まで再現する手の込みよう、友人がイタズラのために用意できる物では、無い。

能力者の仕業の線が濃いが、される云われも思い付かない。

ふっと思いついて洗面所から携帯電話を取りに行き、一つ年上の友人へと電話をする。

特にこれといった理由があるわけではない、電話をかけながら、何を聞くつもりか何をしたいのか自分でも分からないが取りあえず電話をしなければならないと思った。

昨日、都心で起こったトラブルの影響であるとか取り留めのない話し、普段なら「上条さんとの(ラブラブ)旅行はどうですか?」とでも尋ねるところであるが、そんな気持ちのゆとりもない。

最後にインデックスの様子を聞いて電話は終わった。

「そうですよね……」

力無く呟く。自分の姿がインデックスに変わったとしてもインデックスにも変化が訪れている必然性はない。

「今日は支部に夜まで詰める予定なんですけど……どうしたら良いんでしょうか?」

困り顔した初春、その顔はインデックスの物。

初春は今日をどう過ごすべきか悩んでいた。



177支部に行くべきか、部屋に籠もり原因を探るべきか初春は悩み、悩んだ末に支部へと出ることにした。

理由は簡単。部屋に籠もっていては押し掛けて来る可能性の超能力者がいる。部屋の中が戦場と化しかねない。

それに一人で考えていても問題の解決を図れそうになかった。

この時はまだ自分一人の身に起こったことと思っていた。

一人で考えるよりは相談に乗って貰えれば、の考えだった。

初春は着替えると支部へと向かうため部屋を出る。

夏休み中の朝ということもあり寮の近辺は人影が少ない。一人、二人と遠目に姿がみえるだけだ。

何時もと同じ朝、同じ風景でありながら間違い探しをしているような違和感があった。

どこかおかしい。

いつもとは何かが違う。

時間が進むにつれ、通りを歩いて行くにつれ人の姿が増え始め、違和感は大きくなる。

この暑い中、ご苦労様と言いたくなるビジネススーツを着た小学生ぐらいの男の子。老若男女が入り混じったTシャツに短パン姿の集団が走り去って行く。おばあちゃんと呼びたくなる年頃の腰が曲がった女性がビジネススーツで闊歩している。他にもサイズが合ってなかったり、男女の服装が逆転したりといったアンバランスな風景。

もはや自分の姿を気にかけている余裕も無く、初春は支部に後少しまでの距離を走る。

走り抜け、177支部の入口までたどり着くとドアノブを回す。鍵はかかっていなかった。先に誰かが先に入室していた。



初春「ふぅ、はぁ~」

何時もより早い時間に寮の部屋へと帰り着く。

精神を消耗し尽くしていた。

支部へたどり着くまでは良かった。風紀委員の職務をこなしているうちは良かった。

余程顔色が悪かったか、挙動がおかしかったのだろう、当番の終了前に固法により早退させられてしまった。

それも仕方ないのか、初春が支部へ入室した時に待っていたのは固法に白井の二人。違う姿を持って初春に朝の挨拶をしてきた二人。

二人は初春だと認識して話しかけるが初春には別の人にしか見えない。

唖然というかギョッとしてあわあわしている初春に改めて声をかけてきたのは白井だった。

特徴のある口調に常盤台の制服、それで白井であると識別出来ただけであったがその姿は……何度か見かけたことのある、白井が恐怖を交えて語る常盤台の寮監。古くはlevel5である御坂美琴からも畏れられた人物。推定年齢、20代後半の妙齢の女性。その女性が白井と同じく髪をリボンでツインテールで結び、十代前半女子学生が憧れる常盤台の制服を着用している。

一言で言えば無理なコスプレといったところ。来客をガッカリさせるのは間違いない。



白井が呼ぶ声にも岩石のように固まって反応しない初春。それを不審気に問いかけたのは固法。

普段は頼りになる風紀委員の上司で自然に先輩と呼びたくなる人。

凛とした固法の様子は幼さが残る初春から見たら大人の女性と云わずとも、数年後にはそう在りたいと思わせる目標となる風紀委員の先輩。

それが思わず頭を撫でてあげたくなる容姿、ちょこんとベンチにでも座らして飾っておきたい姿へと変わっている。

こちらもまた知らない人物ではない。その人の人物像の多くはある人の口を通して知り得た物。学園都市に根強く蔓延る都市伝説にもなっている謎の生命体でもある。見た目幼女の姿をした上条当麻の担任教師、月詠小萌。

目眩がした。

どうやら二人には初春は初春飾利に見えているらしい。

自分だけ認識、知覚がおかしい現実は受け入れがたい。

それに囁いている。間近に見ることによって、存在を感じ取る力が寮監も月詠小萌の肉体も本来の白井と固法の身体と入れ替わっているのだと告げている。

精神をそのままに本来の肉体が入れ替わっている。

それに気がついているのは初春だけである現状、初春を取り巻く世界。

初春がこの入れ替わりについて相談しても二人からは病人扱いされる未来が見えた。



それでは相談したくても相談にならない。

初春は諦め淡々と風紀委員の業務を日常のルーチンワークとしてこなしていくしかなかった。

それも語弊がある。

淡々とではなく、二人に呼びかけられるたびにビクッとしているようでは周りから挙動不審に映っていても仕方ない。

それどころか初春は当然、何が起こっているのか考えもするし、監視カメラの画像を見ても、生放送のテレビを見てもおかしな画像ばかりが映っている現状について考えてしまう。変に物思いに耽っているように見えたことだろう。

極めつけに突如、青ざめ吐き気を催しかければ固法からの早退命令も止もう得ない。

何かしなければならない、解決の糸口を探さなければならないと心は焦る。具体的に何ができるか、考えた末だった。

インデックスの姿のまま寮へと戻った初春はベッドへ腰を下ろすと、真横へコロンと倒れ込む。

ある程度の状況、何故入れ替わり現象が起こったかについて今の初春は掴んでいる。

天使の降臨。

それしか考えられない。

学園都市の学徒、初春からしたら信じるには抵抗がある。天使など荒唐無稽と切って捨てたくなる。

超次元的生命体と置き換えた方がしっくり来る。

尚且つ、いくら状況を理解しても解決の手立ては初春一人では成し得ない。

まだ気分の悪さが残る。

体調より精神にかかる負担が重い。



横になった状態で初春は携帯電話を取り出す。

開く事無く閉じたまま握り締め眺める。

この事態を固法と白井に説明するよりは理解を示してくれる人がいる。その素地があるだろう。が、異常を認識出来ていない人に上手く説明できるかと云うと初春に自信はない。

とは言え、頼りになる人物を思い浮かべると学園都市の外にでている御坂美琴一行しかいなかった。

科学の申し子でありながら非科学の世界を知る御坂美琴。それこそ今の初春の身体の本来の持ち主、魔導書図書館インデックス。

可能性として入れ替わり現象が彼だけは打ち消されこの状況を認識しているかもしれない幻想殺し、上条。

暫く考えたのち、どう説明すれば良いか思案に耽ったのち起き上がると初春は朝に電話したダイヤルを押そうとした。

ところが名前が表示されていた画面が消える。操作している最中、省力モードに切り替わるには早い。

誰かから電話が掛かって来たのかと待っていると案の定、呼び出し音が鳴り始める。

暗くなっていた画面に文字が表示される。表示された名前は初春自身が電話をしようとした御坂美琴。

タイミングの良さに逆に呆気にとられ通話ボタンを押すのが遅れる。

耳元へ携帯電話をあてると

『初春さん?』



アドレス通り御坂美琴の声がする。

初春「は、はい。初春です、ってアレ?」

ホッとする気持ちと疑念が湧く。

初春(何で御坂さんの声がするんでしょうか?)

入れ替わり現象の被害に遭っていれば美琴の身体は別の人の誰かの物。記憶にある美琴の声とは違っている筈、思い返せば朝の電話でも本人の声と思い会話していた。

漫画的表現をすると花飾りの代わりにはてなマークが頭の回りに散らばっている。

美琴『えーと、その様子じゃ初春さん今の状況にやっばり気がついてる?』

初春「その……入れ替わり現象の事ですよね?……でも御坂さんの声、変わらず聞こえるんですが?」

初春(御坂さんは入れ替わりが起こってないのでしょうか………………………………まさか!上条さんの右手と繋がっていて影響を受けなかったとか、状況から言って入れ替わり現象が始まったのは夜中……あ、あああ……し、白井さんには言えませんね……御坂さんが大人の階段を登ったなんて」

美琴『へっ? 大人の階段を登ったって一体何のこと?』



初春「あっ、声に出してしまってましたか、いえ御坂さんは入れ替わり現象が起こってないようですから、……その……おめでとうございます。ついに上条さんと結ばれたのかと」

美琴『え?……………………なっ、¥%+☆@♪#仝≦』

意味不明な語列が並び、携帯電話を恐らく取り落とした音がする。

間が空き、

美琴『はあはあはあはあ、ちょっ、初春さん違うから!』

電話の向こう側の美琴が予想できる初春であった。深刻な状況でありながら気持ちが楽になる初春。

初春「えー、でも」

美琴『ちょっとした情報からそこまで推測できる初春さんは正直凄いと思うけど、凄すぎて思わず雷を降らしてみたくなるけど、違うから! 私も入れ替わってるから妹達の誰かと!』

初春「あっ、そうなんですか……残念ですね」

美琴『何が残念よ! もう……それより初春さん、初春さんも入れ替わってるのよね?』

初春「……はい」

美琴『それってもしかして……インデックス?』

初春「そうです」

美琴『………………覗いた?』

何を覗いたか語らずとも良かった。

初春「はい」

美琴『そう……』



初春「超能力や科学で解明できるような現象ではありませんでしたから、ヒントになればと思い……」

10万3000冊の魔導書を覗いた。インデックスの脳に残る知識の蓋を開けた。

事態を解明する一番の近道だった。

美琴『ふう……大丈夫なの、身体は? 初春さんの精神は? 魔導書に浸食されてない?』

初春「今は、そうですね。大丈夫です。『死霊術書(ネクロノミコン)』『金枝篇』『Mの書』『ヘルメス文書』『秘奥の教義』『テトラビブロス』『エイボンの書』『創造の書』『死者の書』とか勝手に内容が流入してきたときは卒倒するかと思いましたよ、インデックスの身体でなければどうなってたことか」

美琴『精神の方は?』

もう一度、心配そうな声で聞かれる。

初春「呑み込まれて戻れなくなるかと思いましたけどなんとか、白井さんや固法先輩に心配かけてしまいました」

蓋を開けただけで知識が流れ込んできた。

初春「あれは精神的防壁が無ければ見てはいけません」

以前にインデックスが語っていたように一般人が不用意に見れば悶死する。

初春「インデックスに鍵がかけられてなかったら、私もこうして電話で話しできてはいなかったでしょう」

此処まで

お待たせしてすいませんでした
次は週明けに



美琴「インデックスに鍵?」

初春『はい、魔導書の毒を薄めるためでしょうか、インデックスさんに魔導書への耐性を持たせているようです。毒を取り除くフィルターの役割ですね。魔導書の内容を知識としてだけ保管できるように』

初春『さらに学園都市の『書庫』と同様、インデックスさんに管理権限が与えられてます』

美琴はどういうことか?と考えて『書庫』を例に挙げられたことで腑に落ちた。

脳医学では記憶の領域が分けられていることは解明されている。しかし記憶の引き出し、と言っても普段の人の感覚ではそれ程整理整頓されたモノではない。明確にフォルダーに名前を付けて保管されている訳でない。それを『魔導書』として一つのファイルにまとめインデックスの頭の中で保管されている。

そこへアクセスできる権限を持つ者は耐性のあるインデックスだけ。

インデックスが自由に魔導書の知識を引き出せているように見えて、実は明確なシステムが構築されている。

ところが入れ替わり現象により初春にもアクセス権ができてしまっていた。

初春には信仰による精神的防壁こそないものの、インデックスが持つ魔導書への耐性がフィルターとして働く。



アクセス権=鍵が無い者が覗き見ようとすれば魔導書が遠慮なく覗き見た者に襲い掛かるだろう。

毒は薄められたものの、全く無くなった訳ではない。第一魔導書が書かれた理由からして人々に知らしめるために書かれたものだ。但し、読み人を選ぶ。魔導書に書かれた内容を受け付けない者にとって知識そのものが毒となる。

美琴(危険だわ……今の初春さんはインデックスの身体を持っている、10万3000冊の魔導書の知識を引き出せる)

美琴(今それを知っているのは私だけ……でも、入れ替わり現象に陥ってない者が初春さんの今の姿に気づいたりしたら……)

初春の身に危険が迫る。もう一つの魔導書図書館と見られ狙われる可能性が出てくる。

学園都市、魔術師が活動し難い場所ではある。が、目的を持つ魔術師に理屈は通用しない。彼等は是が非でも目標を達成しようとしてくる。美琴はこの一年のうちそれを幾度も見てきた。

初春の安全を確保する必要があった。

美琴「初春さん、今はどこに居るの?」

初春『えっ、学生寮ですが?』

美琴は初春を一番早く連れ出せる方策を思案する。

美琴「迎えを送るからその人と一緒にこちらへ来てくれる?」

初春『え、あの?』

美琴「事情は後で、この入れ替わり現象、神裂さん達は『御使堕し』と名付けているんだけど気づいているのは私達だけとは限らないの」



美琴「私達とは別の者が捜索の手を伸ばしたら、いずれ初春さんのことまで表にでかねないわ。ついでにとインデックスの魔導書の知識まで狙われたら」

初春『……分かりました。ところで迎えは誰が?』

美琴「神裂さんに頼むつもり」

初春『神裂さんですか』

美琴「外出の許可を取ってる余裕もないし、強行突破するならね」

初春『それは風紀委員として認めて良いんですかね』

美琴「この際よ、それじゃ神裂さんに今から頼むから待ってて……えーと、その驚かないであげてね? 神裂さん今、ステイルの姿に見えるから」

初春『………………ぜ、善処してみます』

返事が遅れたのは想像してしまったからだろう。

美琴は電話を切ると、改めて神裂と連絡をとるためダイヤルを回す。

呼び出し音が暫く鳴り、

神裂『は、はい神裂です……』

男性の声が聞こえる。神裂と名乗るがステイルの声である。

この辺はどういう作用なのかと考えてしまうところ。

深く考察する時間もないので、

美琴「神裂さんお願いがあるの、学園都市に行ってくれない?」

神裂『何故でしょうか?……『御使堕し』の解決が最優先の筈です。それに何か関係が?』



美琴「あると言ったら在るかな?」

神裂『……』

訝しく思っている様子が電話の向こうから伝わってくる。

美琴「実はインデックスの身体のことなの」

神裂『あの子の……ああ、誰かの身体にあの子の身体もなっているのは当然の事ですね、しかし頭の中に10万3000冊の魔導書の記憶が残されていたとしても入れ替わりを認識していなければ使うことなど』

美琴「それが認識してるのよね」

神裂『なっ!』

美琴「神裂さん、初春さんて覚えている?」

神裂『……あの子に変装していた少女でしたね、その初春さんが?』

美琴「詳しくは言えないけど、初春さんも特殊能力の持ち主、本質を見極められる能力の持ち主で『御使堕し』が起こしている現象を認識してるのよ」

神裂『能力者が『御使堕し』について気づくとは……保護すべきですね』

美琴「ええ、それを神裂さんに」

神裂『わかりました。あの子の身体のことでもあります、お任せください』

美琴「ありがとう。初春さんには神裂さんの姿がステイルになっていることは言ってあるから」

神裂『うっ、………………す、すぐさま迎えに行ってきます』

本当に服装だけでも変えれば良いのにと思う美琴だった。



連絡も終わり、美琴が海の家へ戻ると既に夕食の支度が出来ていた。

そして美琴の頬は引きつる。

出来上がっている。

海の家で用意されていたとは思われないワインの瓶がテーブルの上に鎮座していた。

そのテーブルを挟み、美琴の母美鈴と上条の母詩菜がニコニコ笑いながら赤みがさした顔で座っている。

上条はと云うと詩菜の隣でげんなりしており、インデックスはそのまた隣で涎を垂らしている。

美鈴「美琴ちゃん、遅かったわね。当麻君が寂しそうだったわよ」

美琴「マ、ママ持ち込みなんかして」

美琴「カタいこと言わないの。ご主人さんも良いって言ってくれたし」

奥から、

「気にしないで良いっすよ、そこのお嬢さんのおかげで客が居なくても十分な売り上げになってっから」

改めてテーブルの上に目を移すと、インデックスの前だけこれでもかと云うぐらいの海の幸を中心とした料理が並んでいる。
美琴(一軒のお店の売り上げを賄うほどって……まあインデックスだから……でも当麻によると今の身体は麦野さんの身体よね……元に戻ったときどうなるかわかんないけど……ご愁傷様)

恐らくダイエットに励まないといけなくなると美琴は予想した。



美鈴「ほら美琴ちゃん、早く座って」

美琴「あー、ハイハイ」

一応、皆美琴が来るまで食事に箸をつけるのは待っていてくれてようである。その割にはワインのボトルはもう半分以上空いているが。

美琴が席につき、夕食が始まる。

美鈴「インデックスちゃん、美琴ちゃんがお世話になってたんだから、お代とか気にしないでいっぱい食べてね」

本来の持ち主のことを考えたら止めるべきだったが、既にインデックスは遠慮という言葉を知らないかのように口いっぱいに頬張っていた。

美鈴「ほら美琴ちゃんも食べないと大きくなんないぞ」

美琴「なっ、ナニがよ!」

美鈴「決まってるじゃない、、美琴ちゃんたら一年以上前からあまり成長してないみたい……」

美鈴「当麻君も大きい方が良いわよね」

上条「ぶっ」

いきなり話しを振られ吹き出す上条。目線が泳ぐ。

詩菜「あらあら。当麻さんたら吹き出すなんてはしたないですよ、そういえば刀夜さんも、親子で似るものかしら」

どよーん、とした空気を上条は隣から感じた。

美琴「……と・う・ま」

そして正面からも。

美琴は上条の目線が動いたのを見逃してなかった。

上条にそのつもりはなかったのだが目線は美琴と美鈴の胸を行き来していた。



上条「違う、較べた訳じゃ、ただ」

美琴「へぇ」

微量に漏れてるのか髪が揺れている。

上条「大きいのが好きってことじゃなくてですね」

美琴「ほう」

美琴の目がつり上がる。

上条「だから、美琴ぐらいの年頃であれば標準と云うか、標準じゃなくても」

美琴「ふーん」

美琴の箸が震えている。

上条「将来は期待できるから、気にすんなと言いたい訳です」

美琴「言いたいことはそれだけか!結局、較べてんじゃない!!」

腰を浮かして吠えかかる。

美鈴「ほら美琴ちゃんどうどう」

美琴を宥める美鈴。

その対面でワインのボトルを傾けグラスについでいた詩菜が、

詩菜「あらあら。当麻さんたら美琴さんの将来に期待ってことなのかしら」

混ぜっ返す。

美琴「へぇっ?」

上条「母さん!」

イン「おいしいな」

美鈴「ってことみたいよ美琴ちゃん」

ボトルが空になっているのを確認した美鈴は新たなボトルを取り出しコルクを抜きにかかる。

シュポンッ!

美琴「ちょっ、一本だけじゃないの?」

美鈴「いいじゃない、二泊三日の予定だったもの、2日分は持って来てるわよ」



美鈴「それに今日は行方不明になってた美琴ちゃんにせっかく会えたんだから、大目に見てよ」

海の家にワイングラスなど在るはずもなく、美鈴はビール用のコップになみなみとワインを注ぐ。

美琴「もう」

この一年、親に心配させたのは間違いない。

当初の予定では学園都市への正式な帰還後、連絡をとる手筈だった。すぐに親の来訪が認められるか、はたまた大覇星祭まで待つことになるか、どちらにしてもこの小旅行が終わったあとの話しになるはずだった。

そこへこの予期せぬ再会。

おまけに上条にその母親、このメンバーが揃ってしまうと調子が狂ってしまう。『御使堕し』という異常事態にありながら緊張感が抜けていく。別の緊張に曝されている。

美琴(こんな時に、しっかりしなくちゃ)

そんな美琴の心境を露知らず。

美鈴「でも期待されてるなら期待に添って早く大きくならないとね、美琴ちゃん」

美琴「む、蒸し返すなっちゅうのよっ!」

美鈴「んー、いっそのこと当麻君に手伝って貰ったら?」

と、胸のあたりを揉む仕草をする。

上琴「「ぶほっ!?」」

吹き出し、顔を真っ赤にした美琴は、

美琴「そ、そんなの都市伝説でしょうが!」



美鈴「揉むことでホルモンが活性され成長するって話しよ?」

美琴「実証されてないでしょうが! それとも実証されてるっていうの? データがどこにあんのよ?」

美鈴「隣りにあるじゃない、この胸は旅掛くんとの」

美琴「わー、聞かせんな! 花も恥じらう乙女に両親のそんな話し聞かせんな、この酔っ払い!」

上条がボトルを見ると早くも中身は残り少なくなっている、美鈴もグビグビやっているが、上条の母である詩菜も次から次へとグラスに注ぐ。

上条(あー、父さんが来れないもんだから……それにしても、良いんかな?)

美琴の目からは違和感ないのだろうが上条の目にはワインを飲んでる二人は佐天に白井なのだ。

そう見えているだけでなく、その本来の持ち主は佐天と白井。未成年の身体にあれだけワインを飲んで大丈夫か心配になる。が、既に飲み始める前に止めようとして返り討ちにあってしまっていた。

美鈴である白井が無い胸の前で揉む仕草を見てもやはり上条からしたら微妙、それに食ってかかる美琴、コメディである。

イン「わーい、このお魚おいしいな、何てお魚かな?」

「おお、それは今日息子が釣ってきた鰺だ。新鮮じゃないとなかなか刺身ではいただけねえぜ」

イン「おお!」

「わははははははははは!」

一人幸せそうに料理を平らげているインデックス。それを見て豪快に笑う茶髪イケメンの海の家の親父さん。

早く時が過ぎないかなあ、と願いながら箸を動かす上条だった。

此処まで



風呂上がり、海からの風にあたる、火照った身体に心地良い。

風呂場は別棟、母屋からの渡り廊下に上条はいた。

入れ替わりに今は美琴が風呂に入っている。

大人二人は酔いつぶれたのか既に寝入っていた。風呂上がりの待ち合わせをしてもツツかれることはない。

上条「大人ね……カオスだろ?」

夕食の模様を思い出す。

上条「美琴の母親、美鈴さんて巨乳なんだろうな」

上条の目からは白井にしか見えない、実感がない。

上条「較べようが無いだろ?」

だからといって『御使堕し』を知らない人間がいる場で、それを含んだ発言などできない。インデックスにもナイショと話はなっていたのだ。


上条「それぐらい美琴もわかってくれても良いじゃん」

あの時は何か言わないといけない、そんな雰囲気だった。

上条「ホントに見比べた訳じゃない、目線が泳いだ先にたまたまあっただけだ」

白井と佐天、どちらが標準と言われてもわからない、美琴はその間。

上条「将来に期待、って言い方が悪かったのか?」

上条は悪気もなく、真底思ったことを言っただけである。



それが不味かったことに気づかない上条。

以来、美琴の態度はどこかツンケンとしていた。

上条「はぁーーー」

夜風が気持ちいい。

もうすぐ美琴も風呂から上がる時間。

上条「誤解を解いといた方が……て、謝ってもなかったな……」

理不尽な気もするがご機嫌をとっておいた方がよいのも確か。肝心なときにへそを曲げられていても困る。

風呂場の方から物音がする。

美琴が脱衣場まで出てきたのだろう。少しドキッとする。

動悸が早まる。

そこへ赤い風が見えた。

風の色が見えるわけも無し。何か赤い色した物が素早く動いていた。

飛び退いていた。

考えるよりも先に体が動いていた。

元の上条がいた場所、その首があったあたり人に向けるには凶悪な道具がピタリと止まっている。

それはノコギリ。

何でそんな物がと思わずゾッとする。あんな物で切られたらヒドい傷になる。ズタズタに肉を引き裂かれる。

ノコギリが勝手に動いたのではない、持ち手がいた。

その持ち手の異様さに上条は再度、後ずさった。

赤い風に見えたのは羽織っている赤い外套。夏の日には合わない。

それにインデックスがかぶる帽子のようなベールと元は同じデザインと思わせる物を頭に被っている。



ベールの違うところは赤い色と少々どころではない、過激なデザインに変更されているようだ。

それだけで十分異様と言えたが問題はその外套の内側。

今云った異様さなど吹っ飛ぶ。

外套がはだけ、その内側に見える姿は強制的に着せられているなら児童保護団体が真っ先に駆けつけてくるような格好をしていた。

まるで帯だけでできた拘束衣、帯と帯の隙間からは素肌を覗かしている。華奢な体のラインをより見せつけるために縛っているかに見える。

さらに、首輪をしている。首輪ぐらいしていてもおかしくはないが、そこからリードが伸びている。何の為かは聞きたくない。

腰にはベルト。そこには金属ペンチや金槌にL字のバール。何の為に持っているかわからない物ばかり吊している。いや今、手に持つノコギリと同様に凶器。

風が通り抜け、ウェーブがかった金髪が揺れる。

深く被ったベールのせいで風貌は分かり辛いが、それらを着用しているのはまだ13才ぐらいの少女に見えた。

まともには見えない。

スッとノコギリが引かれる。

その持つ手が降ろされる。

ホッと、突然のことに息も出来ずにいた上条の息が抜けた時、

逆の手で金槌が引き抜かれ上条へと襲いかかる。



美琴「当麻!」

風呂場の入り口から美琴の鋭い呼び声。

襲撃者の金槌を持つ手がグンと引っ張られる。

体ごと持っていかれそうになり襲撃者はパッと金槌を手放す。

代わりにバールを腰のベルトから引き抜こうとする。しかし、それも美琴の磁力により奪い穫られる。

握ったままのノコギリ、それを上条に向けようとするも、

美琴「しつこい!」

美琴の電撃が走る。

ノコギリが青白い光に包まれる。

バシッと電撃がノコギリにはじける前に襲撃者は手を離していた。

一歩引き、身構える襲撃者の少女。

美琴「そこまでよ!」

美琴は右手を前にして襲撃者を牽制する。指にはコインを挟んでいる。いつでも超電磁砲を放てる構え。

美琴「遅れてゴメン、当麻」

謝れる話しではないと上条は思う。どちらかと云うと不可抗力。

上条(風呂じゃな、一緒にってわけには……素数、素数!)

それに、

上条「大丈夫だ、コイツも最初から俺を殺そうとしたわけじゃない」

咄嗟に避けたがノコギリは元の位置から言えば首の手前で止まっていた。

所謂寸止め、威嚇だろう。



不意打ちに近かったそれを避けられ、上条を金槌で昏倒させようとしたのではないか、それでも危険は危険であるが。

美琴「そうなのアンタ?」

構えを崩さず襲撃者に問う。

まだ、上条を狙うようであれば容赦なく撃つつもりの美琴。

「問一。それは雷神の魔弾か」

抑揚のない平坦な少女の声。

上条「雷神の魔弾?」

美琴「超電磁砲の名称は使えなかったのよね、そんな風に呼ばれてたのよ」

「『禁書目録の同行者』」

「問二。『御使堕し』を起こしたのは貴方達か」

美琴「その前に、どこのどなたか名乗るのが礼儀ってもんじゃないかしら」

美琴の声も冷徹な感じがする。

「解答一。ロシア成教のミーシャ=クロイツェフ」

美琴「ロシア成教? 『殲滅白書』所属の戦闘修道女?」

ミーシャ「解答二。肯定」

上条「『殲滅白書』?」

美琴「簡単に云うと神裂さんたちの『必要悪の教会』のロシア版ね、違うのは『在らざる者』を討滅するのが主目的と云ったところ?」

美琴もロシア成教『殲滅白書』に詳しい訳ではないが、ロシア成教の魔術師とは因縁がある。



美琴が魔術師と関わりを最初に持った事件、ショッピングセンター事件でロシア成教の魔術師は敵に組していた。

警戒を緩めるつもりにはなれない。

が、

美琴「名乗って貰ったから答えるけど、違うわ。『御使堕し』を起こしたのは私達じゃない」

ミーシャ「問三。それを証明する手段はあるか」

神裂達とのやり取りを再現することになる。何も知らない相手ではより説明が長引く。

ここは仕方ないと思い、

美琴「私の本当の所属はイギリス清教じゃない、学園都市よ。能力者が魔術を使ったときのことは魔術師の間では共通認識よね」

美琴の姿は風呂上がりとあってか短パンにTシャツ。健康的な肌に拒絶反応を起こして負荷が掛かったような痕は見受けられない。

上条「いいのか?」

美琴が『禁書目録の同行者』であったのは今の会話でバレている。美琴が超能力者、科学側の人間であることは表沙汰に出来ないのではなかったのか、と上条は問う。

美琴「いい訳ないけど仕方ないわ、無益な争いをするよりは。でも大変なのは当麻かな?」



上条「へっ、俺が?」

それには答えず、

美琴「ミーシャさん、当麻についてもそう。当麻は特にその右手にオカルトのみならず異能の力なら打ち消す事のできる『幻想殺し』があるの」

それを聞いても訝しそうにしているミーシャ。

美琴「だから、魔術なんて余計に使えないし、『御使堕し』の影響も受けない」

言葉だけで信用しろというには当然無理がある。

美琴「信用ならないなら」

嫌な予感がする上条。

美琴「試してみればいいわ」

上条「またかッ!」

大変なのは当麻、の意味が分かっても今更である。

既にミーシャが何らかの魔術を起動させようとしていた。

ミーシャ「数価。四0・九・三0・七。合わせて八六」

ミーシャの背後から水の柱が上がる。

美琴「構えてないと危ないわよ」

上条「くそっ」

軽く右手を握り腰ダメに構える。

ミーシャ「照応。水よ、蛇となりて剣のように突き刺せ<メム=テト=ラメド=ザイン>」

水の槍。水の柱がミーシャの声に呼応して生き物のように動き、枝分かれすると上条へと襲い掛かってきた。穂先は蛇の頭の形をしている。



ミーシャの背後から上条へと向かって来る水の蛇の穂先、その内真っ直ぐ正面から向かって来る穂先へと上条は右手をぶつけた。

水の槍が砕ける。どれほどの威力があった魔術かはわからない。しかし、一滴の水も上条には当たらず四方へと飛び散った。

辺りはびしょ濡れになっていた。

ミーシャ「正答。『幻想殺し』の実在を確認。先程の説明と実験結果には符合するものがある。この解を容疑撤回の証明手段として認める。少年、容疑の解を得る為とはいえ刃を向けた事をここに謝罪する」

上条「刃を向けたってノコギリ? あんなもん人に向けるもんじゃねーって、それに実験って云うなら一声かけてからしろよ!」

ミーシャ「私見一。試せと言ったのはそこの『禁書目録の同行者』では」

それを受けて、

美琴「うん、まあ。それが手っ取り早かったからゴメンね、当麻」

上条「……ひょっとして、やっぱり根に持ってますですか?」

美琴「根に持つ、って何が」

ニッコリ笑いながら言う美琴、少しコワい。

上条「いえ、もういいです……」

美琴「取りあえず、『御使堕し』の主謀者についてはイギリス清教の人達も調査しているわ、アナタはこれからどうするの?」

ミーシャと名乗る赤いシスターに問う。

此処まで



できればこのロシア成教の魔術師、ミーシャと協力体制が築けたらと美琴は思う。

天使が現れる可能性。それを考えると少しでも戦力が欲しい。

ミーシャ「問三。イギリス清教側の調査結果は」

解答ではなく問、尋ねると云うことは恐らく他の手掛かりを持ってはいない、その可能性が高い。

取引材料になる。

美琴「まだね、結果を聞いたら教えてあげましょうか?」

ミーシャ「問四。それは協力せよと暗に云っているのか」

思ったより単刀直入だった。

美琴「察しが良くて楽ね、無理なら別にいいわ。単独で行動しても同じ情報を集めるだけ、意味ないわよね?」

美琴「 努力しました、って自己満足したいのなら何も言わないわ。目的は一緒、『御使堕し』の解決でしょ?……つーかアンタらの方でも『御使堕し』と呼んでるの?」

ミーシャ「解答三。協力を承諾」

ミーシャ「解答四。当方で事態を把握しているのは我のみ、特徴的な事象故に『御使堕し』と呼ぶ。事態を理解している者の共通認識によるものと思われる」

魔術師の間でそれだけ天使の降臨、いや天使を堕すというのはそれだけ衝撃的な出来事なのだ。

美琴「成る程ね」



それを最後にスッとミーシャの姿が掻き消える。

返事を終えるともう用はないと言いたげな行動。移動していた、秒速50メートル程であろうか、目で追えるスピードではない。

美琴のレーダーではミーシャを捉えていたがもう遠く離れている、目で捉えられる範囲ではない。しかし、異変を察知できない距離でもない。

何かこちらに動きがあれば出てくるつもりだろう。

美琴「一応協力するって言ってたけど……どうかな?」

味方と云うには不安が残る。

上条「一段落、でいいのか?」

あまり、状況が読めてない上条の言葉。いきなり襲われて、それに片が付いた程度に思っているのだろう。

それはそれで助かる。

美琴「そうね、敵に回らないだけ良しとしましょうか」

最悪、二人だけでの対処と考えていたのだ。

美琴「それにしてもスゴい格好をしてたわね」

奇抜にすぎた。

上条「ああ、何だったんだアレは、ロシア成教ってのはあんな格好してるのか」

美琴「以前に会ったロシア成教の魔術師は普通だったけど」

上条「普通ね?」

上条が出会った魔術師は4人、それぞれが独特の服装。比較的にマシと呼べたのはあの錬金術師、それでも現実世界で真っ白いスーツの上下はどうだろうか。

ミーシャと名乗る魔術師、その服装に目が行き容貌にまで話題にならなかった、印象が強すぎた。



それに話を続けようにも、ドタドタと足音が二人分聞こえてくる。

上条と美琴が足音に振り返ると

イン「みこと、とうま何があったのかな、魔力の反応があったんだよっ?」

インデックスが母屋から渡り廊下に顔を出す。

美琴「魔力?どこで」

ミーシャが魔術を使ったのは事実。魔力反応があっても然るべき。

それでもすっとぼける美琴。ヒドい気はするがこの件にインデックスを関わらせるつもりがない美琴達としては致し方ない。

イン「この辺りなんだよ!」

ムキになってインデックスは言うが、

美琴「この辺り、って私と当麻しかいないわよ、気のせいじゃない?」

いなされる。

イン「き、気のせいじゃないもん。絶っ対、魔力反応があったもん!」

プンすかするインデックス、普段なら可愛くも映るのだろうがそうはいかない。美琴は一年の付き合いで慣れてる。

美琴「あー、ハイハイわかったから部屋でゆっくり聞きましょ」

美琴はインデックスの手を取って部屋へ戻ろうとした。

上条にしても

イン「と、とうまは何か見てないのかな?」

インデックスはあの怖いお姉さんに見えてるのだ、怖い物は怖い物にしか見えない、同情の対象にはなりにくい。



インデックスは美琴に引っ張られながら上条に助けを求めるが、美琴の意図が分かっている上条は

上条「なーんも見てないぞ、どーせお腹いっぱいになって寝てたんじゃないか?」

イン「とうまは寝ぼけてたって云うつもりなのかな。そんなことないもん!」

事実、夕食後お腹いっぱいで動けなくなったインデックスを上条と美琴が客室に連れ帰ると、この第四位の姿をしたシスターは幸せそうにすぐ寝てしまっていた。

力一杯否定しても無駄。

ミーシャが現れたことを考えたら、インデックスが寝入っていたことは幸いだったかもしれない。

魔術の気配に気がつき起き出してきたのだろうが、後は美琴が言いくるめてくれるだろう。

上条は美琴とインデックスに手を振って別れる。

問題は、

「その何で水浸しになってんですか?」

第四位を撃破した無能力者、浜面仕上がイタズラはよして下さい、という顔をしていた。

上条(訂正、浜面の姿をした海の家の息子さん)

上条は本来は小学生男子、恐らくは上条より背は低かったろう。今は上条より背が高い少年にごめんなさいをするしかなかった。



その様子をミーシャは遠くから眺めていた、常人では肉眼で捉えられる距離ではない。

何らかの魔術を使っていた。



容疑者をひと思いに殺しても良かった。

犯人でなくとも容疑者を一人ずつ始末していけばいずれ真犯人に当たる。命題からすると無関係な者の命の優先順位は低い。

それでは何故、上条をひと思いに殺害しなかった、かというとやはり禁則事項に抵触するからだ。

『御使堕し』は上条を中心に巻き起こっている、それは間違いない。ただ上条自身は台風の目のように無風、魔術を使える人物にも見えず、寧ろ真空に近い。

あやふやな状態で殺害すべきではない、唯一の手掛かりなら禁則事項が低ランクでも守るべき条件だった。

今は離れて状況が動くのを見守っている。離れて置くべきだった、人が本能と呼ぶ部分がアレは危険と判断していた。

命題を果たすために全てを破壊する必要はない、真相を暴くにも手順が必要。

イギリス清教サイドが収集してきた情報を教えてくれるなら任せて置く。自分は上条が中心にあるなら上条を巡って真犯人もいずれ動く、それまで上条の周囲の監視を続ければ良い。

満天の星が輝くなか、暗闇に隠れる。穏形の術、一般の人間に見つかる事はない。

見つけるとしたら同じ世界にいる者、関係者だ。



だから完全には姿を隠していない。

気づく者は気づく、釣り出す意味もあった。

眺めていたミーシャの手が動く。腰のベルトに吊ってある武器と呼ぶには語弊がある道具を引き抜こうとした。

「おっと、敵じゃないぜよ」

星の輝きがあっても一寸先は闇、その暗闇から声がする。暗闇から敵意が無いことを示すため姿を表す。

制止の声をかけたのはグラサンにアロハの少年。

ミーシャ「問一。貴方はイギリス清教の手の者か」

土御門「イギリス清教の土御門って者だぜい。様子は見させてもらったんだにゃー。協力することになったんじゃないかにゃ?」

ミーシャ「解答一。肯定、情報があれば教えて貰うことになっている」

土御門「なら、あちらは忙しいみたいやから先に教えとくぜい。と言っても新たな情報ってのは無いんだにゃー、せいぜいが現在のところ、この周辺には真犯人と目される人物は存在しないとわかったぐらいだにゃー」

ミーシャ「……」

考えている風でありながらその表情は読めない、それは両者とも。

土御門「引き続き、こちらはカミやんの関係先を洗って行くつもりぜよ、そちらはどうすんのかにゃ?」

此処まで



土御門「ほーい、カミやん」

上条『なんだ、土御門かよ』

電話をしたらぞんざいな返事が返ってきた。

土御門「ヒドいにゃー、カミやーん。カミやんのためにこーんなに働いてるオレに向かってその言い方はないぜよ!」

上条『あー、すまねーな、疲れてたんだ』

土御門「何かあったのかにゃー」

上条『渡り廊下を拭いてたんだ。あの魔術師、こーなることがわかっててサッサと消えたんじゃないだろな?』

土御門「ミーシャちゃんのことかにゃー?」

上条『何でそれを?』

土御門「さっきまで会ってたんだぜい」

上条『はー?』

土御門「それより、魔術師との接触があったなら連絡してくれんと困るぜよ」

上条『あっ……美琴はインデックスを宥めてっから』

土御門「それくらいカミやんがしてくれると超電磁砲も信頼してたのさ、神裂ねーちんの電話は知らんでもオレの電話は知ってるにゃー」

上条『うっ』

土御門「会った途端に戦闘ってことでもなかったからにゃー、超電磁砲には黙っといてもいいぜい」

上条『その土御門、恩に着る』

土御門「すっかり愛しの美琴ちゃんに尻に敷かれてるようやにゃー」



上条『なななな何言ってんだーッ!テメェこの土御門!美琴とはそんな仲じゃねー』

土御門「まっ、その話しは置いといてだ、現在判明している調査結果を伝えるぜい」

上条『あー、くそっ、覚えてろよ、はあはあはあはあ……で、何かわかったのかよ?』

土御門「覚悟して聞けよ、カミやん」

上条『お、おー』

土御門「カミやんの周囲、これは距離的なもんだ、『御使堕し』の主謀者、コイツはいない」

上条『近くにはいないのか?』

土御門「ああ、これだけの大魔術だ、普通なら手の込んだ魔法陣やら儀式場が必要だがその気配が無いんだにゃー」

上条『…………』

土御門「どうしたカミやん?」

上条『それって、何もわかって無いってことじゃ?』

土御門「そ、そーでもないぜよ、判ってないってことが判るっていうのも重要なことなんだぜい」

上条『そんなもん何の解決にもならねーじゃねーか』

土御門「いやいやカミやん、近くにいないってことはだ、カミやんを起点にしている以上、カミやんに関係しているどっかが『御使堕し』の儀式場になってる可能性があるんだにゃー」

上条『それを早く言えよ!……俺に関係しているどっか、って場所か?』



土御門「そうぜよ、場所やにゃ。カミやんに縁のある場所、そこから『御使堕し』を起こしている可能性が高まったんだぜい」

上条『そーか、俺に関係が深い場所っていうと?』

土御門「カミやんの部屋、オレ達の学校、しらみつぶしに当たるしかないにゃー」

上条『で、土御門は学園都市に戻るのか?』

土御門「それがそうもいかないにゃー、なんせ今のオレは学園都市最強の一方通行に見えるっとなると厄介だ、因縁付けられる可能性もあれば一方通行が学園都市内に二人って状況もマズいんだにゃー」

上条『じゃあ、どーすんだ』

土御門「実はもうねーちんに行って貰ってるにゃー」

上条『神裂に?』

土御門「『超電磁砲』からの依頼もあってにゃ、その様子だと聞いてなかったようだな?」

上条『美琴が?』

土御門自身が学園都市に戻るのか、聞かれた時点で予想はしていた。

『超電磁砲』御坂美琴は色々なことに関わりすぎている。

土御門「いいかな、カミやん。オレのことを聞いたよな?」

上条『ああ、今でもピンとこねーけど土御門は魔術師なんだよな』

土御門「そうぜよ、使おうにも魔術を使えなくなっちまった、廃業寸前の魔術師ぜよ」



土御門「使ったら拒絶反を起こして血みどろになっちまう、下手したら死んじまうことになるぜい、見たんだろカミやん、三沢塾で」

上条『……見た』

土御門「ウィンザー城で結界を張った時にやっちまったんだにゃー」

上条『なっ、土御門!』

土御門「お陰様で見えないところはボロボロだぜい。後一、二回魔術を使用すれば確実にあの世行きだにゃー」

上条『お、おい』

土御門「そこまでして何でスパイなんざやってると思う?」

上条『……』

土御門「カミやんにはわからんだろにゃー。陰陽博士の最上位になったのは年端もいかない頃、必要悪の教会に所属したのはまだ小学生の頃やにゃー。その後はカミやんも知っての通り、中学からは学園都市で学生さん。以来、潜入工作員をしてるわけだぜい」

土御門「深みに嵌まっちまったのさ、そんで深い闇の中で泳ぐことを覚えた」

土御門「カミやんや青ピとの学生生活も日常ならスパイとしての土御門さんも当たり前の日常なんだぜい」

土御門「言ってみれば気に入ってんのさ、裏側の深い闇の世界が」

上条『……土御門』



土御門「その世界に溺れないように気をつけてるけどにゃー。そんなわけで表側の友人、カミやんに忠告だぜい」

上条『忠告?またなにを』

土御門「この世界にカミやんに関わって欲しくないってのは本心ぜよ。ただ超電磁砲、御坂美琴と関わり続けるならカミやんもこの世界にどっぷり浸ることになるぜい」

土御門「御坂美琴は非常に危うい立ち位置にいる。科学サイド、学園都市最強レベルのエレクトロマスター、level5の序列第三位、妹達〈シスターズ〉の素体。かつ禁書目録と一年もの間を過ごし、魔術サイドの闇の部分も知っている。学園都市に帰還したら終わり、じゃ済まねーよ。これからも科学サイド、魔術サイド両方の問題に巻き込まれる。一緒にいればカミやんも必然的に巻き込まれる」

土御門「カミやん」

土御門「深みに嵌まる覚悟は在るかにゃー」

上条『……ある』

上条『大体な、土御門。今回の『御使堕し』なんざ俺のことに美琴を巻き込んだようなもんだろ? 俺の不幸体質からしたらよ、巻き込むのは俺になるんじゃないかってのがどちらかと言やあ、心配なんだ』

土御門「それが相乗効果でカミやんが大変なことになるというのがオレの心配なんだがにゃー」

上条『美琴と二人ならなんとかなるさ』

土御門「……お熱いこって」

上条『だから、そーゆーのじゃねーって!』

土御門「へえへえ、これからはオレも精一杯フォローさせてもらいますにゃー。じゃあなカミやん」

と、電話を切る。

土御門「オレが忠告とはにゃー」

此処まで

三カ所か、ついやっちまったぜい

忙しく色々遅れてしまってます。来週には投下できるよう頑張ります



上条を心配している自分と上条を利用している自分がいる。

『背中を刺すナイフ』『嘘吐き村の住人』そんな二つ名を自称することもある。魔法名も似たような名だ。

上条に語ったことは本心であり本音ではある。

上条のような人間が関わりを持つ世界ではない、そう思う。

土御門自身は好きでこの世界にいる。幼い頃からどっぷり浸かっている。探求心や興味本位、そんなモノが根っ子にある。守るべき者ができてもそれらから離れることもできない。それは同時に世界の安定を保つ役割を彼が果たしていると自負しているからでもあった。

科学の側、学園都市。そちらにも深い闇が漂っている。妹達<シスターズ>の事ばかりではない、覗き込む事もできない深いところでどす黒い闇が蠢いている。その闇が上条を絡め取ろうとしていた。

ぽっかり空いた大きな穴が上条を引きずり込もうとしている、その様子が端から見ている土御門には良くわかる。

このまま進めば関わりを断つのは不可能、科学も魔術も上条に注目している。

上条の意志、それが自身の平安を望むだけであるなら、今の段階であるなら、土御門一人の手で逃すことも出来た。

それ故にらしくないと思いながらも忠告した。



どんな返答が返って来るかは予想は出来ていた。

その通りの返事。

ならば利用できる者は利用させて貰う、土御門の目的を果たすためにも利用する。世界のバランスを取るために上条を利用する。

土御門「おっと、いけないにゃー。カミやんの家の住所を聞き忘れちまったにゃー」

ボンと手を叩いて嘆息する。

確率は低い。上条の関係する場所として上条家は縁が薄い。外出が制限されている学園都市では実家といえ滅多に帰ることはない、しかも上条は小学生にあがってからの学園都市生活、親が住んでいる場所でしかない。

儀式場にするには結び付きが低い。むしろ上条の現在の生活空間である学園都市の可能性が高い、そちらには神裂が出向いている。

上条家を調べるのは念のため、土御門でさえ上条家は無関係と思っていた。確率が低いなら後回し、今すぐでもなくても良い。周囲を見落としが無いか洗い直し、上条周辺の安全を確保してから向かう方針を神裂と立てている。

上条家に向かうのは明日。

上条にもう一度連絡を取る。

「カミやーん、ごめんにゃー!」

怒っている上条の声が聞こえる。

それでも大切な友達だ。



一方の神裂。

美琴からの依頼、初春の保護と共に上条当麻の関係場所を洗うために学園都市へ潜入していた。

まずは初春の保護を優先、美琴から聞いた住所にまで来ているの、だが。

そこで神裂は当惑していた。

あの三人は何者だろうか?睨み合う二人にそれを宥めすかしている者が一人。初春の部屋へ向かう階段の上がり口に立ち、行く手を邪魔している。

それも三人が三人とも尋常ではない雰囲気を醸し出している。

特に睨み合う二人、『御使堕し』の影響を受けているのは明白で見た目はそれを思わせる容姿ではない、だが荒事を専門とする気配がする。神裂の手は無意識のうちに七天七刀に伸びる。漂う空気が魔術サイトの戦略兵器扱いをされる聖人、神裂にそうさせる。

二人が格段の存在であるだけで間に挟まる人物も神裂から見れば異質、聖人の神裂だからこそ感じ取れる異質さだった。他の誰か見てもその異質さは感じ取れないだろう。

それはその者が持つ特性、聖人が持つある特性と同質であったからだろうか、もちろんその者は聖人ではない。ないが神裂が忌み嫌う聖人の『幸運』を持つ者と同類の感覚がある。



聖人でなくとも幸運な人はいる、その対極が上条当麻ということになる。が、聖人以外の人の幸運性など本来見極められるモノでない。

幸運な事が積み重なり、あの人は幸運な人と評価されるだけだ。上条の不幸体質も積み重なった結果で認知されている。

一目で見極められるモノで無い、長い過程から人々にそう見られるのだ。

その者からは感じられる。

生き残れるはずもない死地から生還する。

転んだ拍子に避けられ筈もなかった弾丸が通過していく。

勝てる可能性の無い敵が油断から自滅してくれる。

困った時には誰かの手助けが入る。

例えば神裂が七閃で彼の者を狙ったとしても何らかの理由で軌道が逸れるだろう。

最低でも最悪は回避される、そんな予感がするのだ。

ここは科学の街、能力者の街。幸運を引き寄せられる能力者がいるのだろうか?

そしてその三人の構図に興味が惹かれるが神裂の当惑、そのものはその者が話す内容に神裂の目的の人物、初春の単語が挟まるからだ。

今も残る二人を説得しようとしてか喋っている。

「なっ、初春ちゃんに迷惑かかんだろ。よそうぜ二人ともこんなところで」

「うるせェのはオマエだァ、浜面」




「そう、尖んなよ第一位。オレは初春の具合が心配で見舞いに来ただけなんだからよ、第一位が邪魔しなければすぐ帰るから通してくんねぇかな?」

「それが信用できねェつってンだァ!」

「お前らホント勘弁してくれーっ!なんで俺がこの二人の間に入って止めねーといけねえんだよっ!?」

それは貴方がその二人を止められる数少ない一人ですから、と神裂は口に出掛かる。

それはともかく目的の初春に曰くが在る人物達に間違い無さそうである、表口から初春の部屋へ入り連れ出すと一悶着あるのは会話の様子を窺っても確実のようである。

携帯電話を取り出すと慣れない手つきで初春へと連絡を入れる。

「か、神裂です」

『あっ、神裂さんお久しぶりです』

「はい。今、初春の寮の前まで来たのですが、初春のお知り合いらしい方々が入口に立ち塞がっておりまして、裏から参って宜しいでしょうか?」

『ああ、あの二人ですか……はははははっはぁ~~~』

「? 二人でなく三人ですが」

『浜面さんですね、御苦労なことです。裏からと云うとベランダからですか?』

「そうなります……お答えしなくても構いませんがあの二人は何者ですか?」

『………………………………シスコンにストーカーでしょうか?』

「はぁっ?」


此処まで
時間が空いたわりには少ないです、すいません

乙  浜面のラッキーさは聖人にも匹敵するってすごい
でも聖人と違ってたまにどっかで大きな反動が出る、とかだったら面白そうと思ってしまった  ごめん、ヅラ  

浜面の補正に対するその解釈は本当に面白い
おつおつ

酷えいい様だ
妹にシスコン呼ばわりされているの知ったら、セロリ精神崩壊すんじゃね

>>389
その発想は無かった
>>391
主人公補正をよく言われるので設定にしたった
と言っても無条件に発動するのではなく命の危機や一生懸命になってないと発動しないレベルで考えてます
今回は二人を止めようと必死だったから見えた、ということになります

>>392
自分でも酷いと投下後に思った

明日投下予定
支部に投下したのは私、本物です
念のための証明です



すっとベランダへ物音も立てず神裂は降り立つ。

掃き出しの窓は開いており、直ぐに初春が姿を見せる。事前に聞いてはいてもその姿に神裂はハッとする。

初春が柔らかく微笑みかけていた。

インデックスとの記憶の中でそれは嘗て神裂にも向けられたものだった。

胸に詰まる。

初春「神裂さん?」

固まっていたのだろう、初春が訝しく問いかけてくる。

神裂「あっ、すいません。あの子との過去が少し」

ただ、その問いかける初春の表情に微妙な違和感を神裂は感じた。

初春「そうですね、神裂さんからは私はインデックスに見えているんですよね」

声は同じ、それはそうだ、肉体そのものはインデックスのモノ、声質が変わる訳がない。しかしイントネーションが違う、初春の話し方である。

それを寂しく感じる。

と、違和感の正体に気づく。

神裂「初春さん、私がわかるのですね」

質問しているようで断定している口調。神裂や土御門のように結界を張り防御した訳でもなく、『御使堕し<エンゼルフォール>』の影響を受けて尚、認識が変わらぬ初春、その者に神裂が如何に映るか定かではなかった。神裂がステイルに見える可能性もあった。

初春「ううん?どうでしょう、声とかはわかるのですが、実際に神裂さんを見るとなんて言うか」

神裂「?御坂さんは、本質を見極める能力と言ってましたが」

初春「(遠回しな言い方をされたんですね)基本的には神裂さんだと認識できます」



神裂「基本的には?」

意味が分からない、神裂自身に見えるかステイルに見えるかのどちらかなら話しがわかる、神裂の予想とも違う話しだった。

初春「存在そのものは神裂さんなんです、でもそれにステイルさんの存在が被さって私には見えてるんですよ、上書きされているのに元が透けて見えるような感じですかね?」

神裂自身は自分の精神、肉体を防御することはできた、できたとは言えそれは中途半端なもの、『御使堕し』の影響を受けた人からは神裂には見えず、赤髪の大男に見られてしまう。

初春の話しはそれを説明することになる。神裂という存在は残っていてもステイルの存在が上書きされ、『御使堕し』の影響を受けた人からはステイルの存在を主に認識しているのだ。

神裂「初春さんは存在そのものを認識する力をお持ちになっているのですね」

初春「具体的にどう見えているか説明しようとすると難しいのですが……すいません神裂さんちょっと宜しいですか?」

初春は握手を求めるように手を出す。初春の意図は解らなかったが神裂はその手を握る。

すると、体が軽くなる。今までが重かった訳ではない、疲れていた訳でもないが、重さが取り払われた気分だった。

初春の目にはステイルの影が薄れ神裂の輪郭がカタチ在るものとなった。



初春「多分これで他の人にもステイルさんには見えないと思います」

神裂「まさか……ステイルの存在を消したのですか?」

初春「いえ、そこまではステイルさんの存在を薄め、神裂さんの存在を表にだしただけです」

神裂「そんなことが……」

同じ事が魔術で可能なら既に行っている。ステイルに見られ人の目が怖いと思うほどに苦労していたのだ、神裂は信じられない思いだった。

初春「神裂さんの存在そのものが他の人より大きかったからできたことですよ」

神裂は聖人である。聖人は偶像理論により様々な特典が与えられている。

神は自らの姿に似せ人を象ったとされる。偶像理論の上では人は神の力を扱えることになるが人の器で神の力など扱いきれるものではない。

しかし扱える者も居る、世界に20人足らず。十字教の神の子に似た身体的特徴、魔術的記号を持つ人間、それがその者であり聖人と呼ばれる。

生まれながらに呼吸をするようにテレズマを扱え、身体能力は音速移動を可能にする。莫大なテレズマの利用により他の魔術師など圧倒する力がある。

そして神の祝福、幸運を与えられている。



幸運とは何だろうか?宝くじを買えば必ず当たる、賭事をすれば負け無し、そんなことだろうか?

神裂に与えられた幸運は先ほど表で見た者と同じく、最低でも最悪を回避する程度だ。

聖人の幸運とは危地にこそ作用する特質。幸運と呼ぶよりは悪運が正しいという人もいる。

神裂はこの幸運を疎ましく思う、祝福でなく呪いだと思える。

神裂が聖人であるからこそ初春に出会え処置してもらえた、ここでもそれが作用したのかと思ってしまう。

神裂「初春さん、これは他の人には?」

適用できるのか、入れ替わり現象を初春の力で元に戻せるのかという質問。

初春「無理ですね……」

それは初春も考えていた、出来るものなら自分の身体で試している。

初春「神裂さんの場合は元の身体が残っている状態で上書きされただけでしたから可能でした、他の人は元の身体が残されていません」

あるいは世界規模で能力が振るえたら可能かもしれない。しかし初春が扱う能力の基本は手で触れた物という制約がつく。世界規模での修正などできない。
それは別条件。

神裂「そうですか……」

神裂には結局、初春に出会えた事が運が良かった、になってしまう。



初春「私の力で出来るのはそれぐらいです、問題の解決には基点を破壊するしかないでしょう」

その初春の言葉で神裂も初春が魔術についてある程度の理解をしていることが知れた。

神裂(あの子に眠る10万3000冊の魔導書、その知識。知恵の実を食べた人間にならなければよろしいのですが……)

神裂「その事ですが、初春さん。少しお付き合いしていただいて宜しいですか?」

初春「?」

神裂「私どもはこの現象を『御使堕し<エンゼルフォール>』と呼んでいます」

初春「『御使堕し<エンゼルフォール>』」

神裂「現在判明している現象の中心にいるのは上条当麻、あの少年です」

初春「上条さんが?」

神裂「はい、ですがあの少年が『御使堕し<エンゼルフォール>』を引き起こした張本人とは考えていません」

最初は本気で疑っていたのだがそのへんはおくびにも出さない。

初春「無理ですもんね」

神裂「そうです、しかしこれは手掛かりになります。あの少年を中心に現象が起こっているのなら、少年に関わりがある場所が基点となっている可能性が高いのです」

初春「それで今から学園都市内を調査したいのですね……ただ」

神裂「ただ?」



初春「いえ、何でもありません」

解答を導き出す道筋には間違いがない、というのは初春も認める。しかし前提を間違えている、そんな勘めいた考えが頭の中で囁いている。説明しようにも言葉にして表すことができない。

もやもやとしたものが残るが

初春「それでは私が上条さんの関係先を案内します」

問題解決が先決である、初春は案内人に名乗り出る。

神裂「助かります、では行きましょうか」

と云うと神裂は初春を抱えた。

初春「えっ、えっ、えっええええええええ?」

神裂「表からは出れませんので」

それはそうだ表に居る三人に見つからぬようベランダから入って来たのに、わざわざ表から出てしまっては元も子もない。

それは解るのだが女性にしては力強い腕に抱えられ、初春の顔には豊かな胸が触れている。それも神裂はTシャツ一枚、初春にそういった趣味は無いが頬を染めてしまう。

初春「(あわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ、大きくて柔らかいです)」

神裂「では、行きます。しっかり捕まっていて下さい」

聖人の力があるので初春を落とす心配などないが言い添える。

初春「えっ、あっ、はい」

初春もギュッと神裂の背に回っていた腕に力をいれる。

と、ベランダから宙に躍り出ていた。
























その後、ドアが破られた事を初春は知らない。

此処まで



上条の高校、学生寮を回り、次には上条がよく立ち回る先へと神裂と初春は調査を進めていた。

結果は捗々しくない。

起点となるような儀式場や魔法陣が見当たらない。今は上条の経歴から過去の中学校、小学校まで足を延ばしていたが結果は同じだった。

神裂「これは……アテが外れましたか」

神裂が戸惑う様子で呟く。

上条当麻の生活空間であり、上条当麻に関わりがある者の大半が住む学園都市。

初春「他に思い当たる場所というと……」

あまり無い。あとは上条に馴染みが薄い場所ばかりだ。上条への指向性が得られると思えない。

神裂「となると……」

上条の持ち物なりに照準が移る。

分かり易く云うと

丑の刻参りなどといった呪術に代表される対象者の一部、髪の毛や爪など、もしくは使用していた持ち物を媒体とした魔術形態。

『御使堕し<エンゼルフォール>』の起点にはそうしたものが捧げものとして用いられている事になる。

そうなると

初春「難しいですね」

儀式場や魔法陣の位置を絞りきる事ができない。

寧ろ

神裂「『御使堕し<エンゼルフォール>』を起こした目的を推測した方が早いでしょうか?」

初春「それですが……」



初春「もともと上条さんを中心に広がりをみせたことに無理があるんです」

神裂「あの右手ですか」

初春「はい」

初春は胸に蟠っていた疑問を口にし始める。

初春「『御使堕し<エンゼルフォール>』。最大の問題は天使を強制的に降臨させたことですよね」

神裂「ええ」

初春「それが目的ではないとしたら」

神裂「つ……同僚もそれを示唆していました。ですが」

初春「別の目的があるのかもしれません」

神裂「……」

考え難かった。

規格外、現世において絶対的存在である天使。抗することが不可能とも言える、聖人である神裂でもどこまで立ち打ちできるかと問われても答えることができない相手である。

その天使を手に入れることが目的でないとは魔術サイドの常識からすると考え難い。

神裂(初春さんの言われるように手に入れることが目的でないとしたら……もう一つの可能性)

神裂「自らが天使の位に昇る」

それを目的とした者達がいる事を神裂は知っている。ローマの奥深くに、バチカンの最深部に。その者達が首謀者であるとかなり厄介なことになるのだが。

初春「それでも無いかと」

初春は否定する。



神裂「それは一体?」

初春「そこで上条さんの右手です」

全ての異能を打ち消す右手。

初春「あの右手についてはインデックスさんの持つ10万3000冊の魔導書にも記述がありません。そして科学側の常識からも外れてます。異能の力を消せる、わかっているのはそれだけです。天使を降ろす、そのために未知な要素を利用しようと思うでしょうか?」

初春「異能を打ち消すだけの右手にどんな意義を見出して上条さんを中心に据えてるのでしょうか?」

神裂「寧ろあの少年を中心に『御使堕し<エンゼルフォール>』を起こすには害悪ですか……」

考え込む神裂、初春が言うようにおかしいと思い始める。

上条を中心に入れ替わり現象が起きてるなら、天使を降ろす最初のイス取りは上条に起こらなければならない。

上条を天使を容れる器に見立てる訳だが、そうなるには上条の右手が邪魔だ。天使が降りてきても異能の力を打ち消す右手に送り返されるのがオチだ。

魔術に応用しようにも打ち消されるだけでは利用しようにもない。

神裂「では、どうします?」

初春「上条さんのもとへ、上条さんの周囲で何が起こっているかを再度確認しましょう」



10万3000冊の魔導書の知識、それに存在の力。二つがあれば上条の周りで何が起こっているか確証を得られる。

回り道をしたが新たな手立てが打てる。回り道も手順を経るうえで必要なことだった。

そう思いを新たに、神裂と初春は頷き合う。

神裂「ただ、その前に」

初春「困りましたね」

二人はすぐにでも上条達の元に向かいたいところだった。

しかし、そうはいかない。

困った人達がいる。

できればこの重大事に登場して欲しくない者達。

初春「素直に行かせてくれたらいいんですけど」

神裂「シスコンにストーカーですか……」

街灯の灯りに照らされる道路に足音が聞こえる。

その一方で月明かりが映し出す薄らとした影が延びている。

二名。

初春「と言いましたが二人はこの街の超能力者でも第一位と二位です」

神裂「ただ者ではないことは分かってました」

神裂は知っている。学園都市の第三位をこの一年間つぶさに見てきた。インデックスを守りきってきたその実力、その者より上位に位置する二人、肌で感じた脅威の理由が判明する。

コツコツと足音がする方から

「さァて、こっから先は一方通行だぜ」

声がしてくる。

なかなか書く時間がとれへんですいません
此処まで



初春「一方通行……」

初春から声が漏れる。

暗闇から一方通行の顔が見えた。歪んだ顔をしている。先程の台詞と合わせると大変な誤解をしているようだった。

初春は一方通行であると認識できたが、その姿は『御使堕し<エンゼルフォール>』の影響を受けて普段の白さは無い。そして顔を歪めている狂暴な笑みが無ければ爽やかなイケメンではなかろうかと思わせる。どこかのお坊っちゃんぽさがあった。それはそのはず、初春は知らなかったが元の肉体の持ち主は常盤台中学の理事の息子、この学園都市ではそれなりの地位にある家の御曹司。

しかし一方通行は一方通行、第一位は第一位、その実力は本物、そして。

一方通行「初春、今助けてやっからなァ」

元の持ち主に似合わない声音で一方通行は初春に告げる。その内容は、やはりと言うか大いに誤解しているのは間違い無いようである。

神裂「誘拐したとでも思われてるのでしょうか?」

初春「はぁ、多分」

考えてみれば表口から正常に外出しないでベランダから飛び降りている。何か起こったと思われても仕方ない。



推測するに言い争いをしていた直後、頭に血が登ったまま冷静になることもなく単純明快な答えにたどり着いた、そう考えて間違い無さそうである。

神裂「話し合いでは……仕方ありませんね」

ただ歩いて来る一方通行。

が、既に臨戦態勢であることは見て取れる。話し合いでは解決できそうにもない。

神裂の声は落ち着いていた。

神裂の右腕は力を込めているようにも見えず、だらりと垂れ下がっている。それは危機感が無いわけではなく、いらぬ力みをとり、素早く抜刀するため。左手は七天七刀を掴み、親指は鯉口を切ろうとしていた。

その状況に初春は一歩前へ出る。

神裂の前へと一方通行に立ち塞がるように、7月の終わりにかけ、何度もあった誤解による激突を防ぎたかった。

一方通行「初春、どいてろ」

一方通行は前に出た初春に不審げな表情を見せながらも対決の姿勢は変わらない。

誘拐は誤解だったかと改めても、そばに立つ神裂から醸しでる雰囲気から危険を生業にしている者と判別できる。

そこへ

「まあ、待て第一位」

もう一つの影から声がかかる。

月明かりに映し出された、うっすらとした長い影。



対決の姿勢を見せる一方通行に対し佇んでいただけの人影。

影の形が変わる。横へと影が延びる。

初春「垣根さん!」

それは翼。

どれほどの力を秘めている翼が初春は知っている。

振り仰いだ初春の視線の先にあるのは月光に照らされた白い翼。神々しいまでに不吉な翼。

神裂「これは?」

神裂もまたその姿を見る。

垣根「心配するな初春、俺は別にその露出狂の姉ちゃんと戦り合おうとか思っちゃいねぇ」

初春「うっ」

言葉でなく視線に収めたその人、その姿に初春は言葉を失った。

白い翼こそ常の垣根であるも、その姿はやはり『御使堕し<エンゼルフォール>』の影響から入れ替わっている。

ホスト風なイケメンから筋肉の固まりのような体躯、絶対お前幾つ戦場を渡り歩いたんだと聞かれそうな姿、もしくは格闘ゲームの敵役、その悪の秘密組織のラスボスといった風情。

その全てが白い翼とアンマッチで似つかわしくない。

初春が絶句していると

垣根「どうした、初春。見惚れたか?」

初春「い、いえ。その」

見当違いのことを言っているが何時もの垣根。それが余計に違和感を際立たせる。



一方通行「オイ、待てとはどういう意味だァァァ、三下の垣根くゥゥゥン。オマエに止められる覚えはないンだかなァ、あァ?」

垣根「はッ、煽るな第一位。初春の様子から言って、無理矢理連れ去らわれたってことじゃ無さそうじゃねえか。初春から暴力に頼るなって散々言われてるだろが?」

一方通行の問いにイラつきを見せながら答える垣根、その答えに

一方通行も垣根が言ったことに気はついていた。一方通行も目が見えない訳ではない。神裂と初春の様子から誘拐とかでなく初春が自主的に付き添っていることが見て取れた。

しかし、一方通行にはそれを看過できない、譲れぬ理由がある。

初春の傍らに立つ神裂から只ならぬ空気、強者が醸し出す気配を一方通行は受ける。

その者と尋常ならざる手段で部屋を出た初春、トラブルの予感しかしない。

学園都市最強の超能力者、第一位の一方通行。それも自嘲気味になるこの頃であるが、それでも以前より弱くなったとは思わない。寧ろより強くなったという実感がある。ただ最強を名乗れるとしても手の届く範囲には限りがある。

嘗て救えなかったと思っていた初春、トラウマと呼べるモノの原点。



それがまた一方通行が知らぬところで初春がトラブルに関わるなど一方通行には許せなかった。

初春からどう言われようが、力に頼るなと言われようとも初春をトラブルに巻き込む者、危険な目に合わす可能性のある者は力づくで排除するつもりだった。

一方通行「関係ねェ、初春が危険に身を晒させねェといけないもンは未然に撤去だァ」

垣根「厳重に金庫にしまっとこうってか?」

一方通行「そンなンじゃねェ」

垣根「初春を危険から遠ざけたいんだろ?」

一方通行「わかってンなら」

垣根「初春をみくびりすぎだ」

一方通行「ナンだとォ?」

垣根「過保護なんだよ、お兄ちゃん」

垣根は嘲るように言う。

一方通行「オマエにお兄ちゃんなんて言われたら虫酸が走る」

一方通行の垣根に向けた目は血走っていた。

垣根「そりゃ、すまねえな。だがこれからもテメェが一人で守っていけるのか?初春だけじゃねえ、打ち止めもテメェに関わった人間全員を、第一初春はテメェに頼らなくてもこの街で生きてきたんだぜ?初春の意志を尊重してやれよ、初春は強い」

それは垣根の実感、人を傷つける力ではなく意志の力、それが初春の強さ。



一方通行「だからってなァ」

それは一方通行にもわかっている。操車場での対峙がある、初春の意志の強さはその時見せつけられた。

垣根「初春」

初春「えっ、あっ、はい?」

当事者であるはずの初春、しかし第一位と第二位の話に置いてきぼりにされていたが垣根に唐突に呼ばれ、慌てて返事をすると

垣根「持って行け」

垣根が言うと広げてあった白い翼が初春に迫る。

迫る翼に初春が反射的に手を向けた。未元物質〈ダークマター〉が力に変換される。

神裂「えっ?」

神裂はすぐそばで膨大な力が変換される様を目の当たりにする。そしてそれは一方通行も同じだった。

垣根「その力があれば多少の困難があっても切り抜けられるだろ、認めてやれ第一位」

苦い顔をする一方通行。

ギリッと奥歯が鳴る。

一方通行でも解析不能と言って良い力。これだけの力があれば、とは一方通行も思う。だが理性より感情が認められない。

それに疑問に思っていたこと、何故超能力者の第二位ともあろう者が初春に付きまとうのか、初春の持つ能力に起因するのかと予想していたが確証を得た気持ちだった。



一方通行「これが狙いか、第二位?」

第一位が第二位に問う。

問われた意味を垣根は理解していた。

未元物質〈ダークマター〉と初春の能力の組み合わせは無限の可能性を生む。そして自らを神に等しい存在へ、次のステージへと押し上げるのが垣根の目論見だった。そのために初春が欲しかった。

垣根「そうだな」

が、初春とのやり取り自体を楽しんでいたりもする。それは垣根にとっても疑問であった。

垣根「ナンだろな、これは?」

自分に問いかけながら垣根は手で初春達に行くように合図をする。

一方通行「まだ認めたわけじゃねェ」

神裂が初春を抱える。

垣根「第一位、しつこいと嫌われるぞ?」

音を立て神裂と初春の姿がその場から消えた。

垣根が失った翼を再生し、烈風を放つ。二人を追いかけようと気流を操作する一方通行だったが烈風に邪魔され出遅れる。

一方通行「邪魔をするんじゃねェ!」

垣根「おう、こわ」

一方通行「ふざけんな!オマエの方から始末」

垣根「すげえな、俺でも追いつけるか?」

初春を抱えた神裂は一瞬にして遠く離れた場所まで移動していた。そしてそのまま移動を続けている。



一方通行「クソッ!」

垣根を捨て置き一方通行は二人は追いかけていく。

今度は邪魔をすること無く一方通行を見送った垣根だったが

垣根「それにしても何者だったんだ、あの露出狂?超能力ってことも無さそうだし、サイボーグか?」

疑問を口にしていた。

「ぜぇぜぇぜぇぜぇ」

そこで息を乱した声が聞こえる。

垣根「遅かったな浜面」

浜面「ぜぇぜぇ、お、おまえらに、生身で追いつけるか、この」

ようやく追いついた浜面だった。

浜面「それで一方通行は?」

垣根「初春をまた追いかけてる」

浜面「また???で、お前はナニしてんだ?」

垣根「プレゼントを渡して役割を終えたところか」

此処まで

乙です。
垣根は駒場になってるのか?

>>428
横須賀
分かり難くてすいません



夜が明ける。

浅い眠りしか受け入れられなかった。『御使堕し<エンゼルフォール>』という奇妙な現象下でゆっくり寝ていて良いのか、横になりながらずっと自問自答していた。

日差しが窓から入り込む。

魔術のプロでもない彼にできることは何も無い。それを理解していても知ってしまった以上、一人のんびり休んでられる心境ではなかった。

開けていた窓から風が入る。

問題に対処している人々がいる。彼の出番はあるとしてもまだ先、と言われてもそう納得できるものではない。

体を起こす。

上条「ふぅ」

考えは纏まらない。

考えても仕方ないこともわかる。しかし不甲斐なさが身にしみる。

と、トントンとノックする音が聞こえてきた。

美琴「起きてる、当麻?」

美琴の声がする。

昨日はノックも無しだった。

上条「あー、起きてる、入るんならいいぞ」

昨日の朝の事を思い出して美琴に警戒させてしまったかと上条は思った。昨日の朝、それは今から思えば楽しい朝だった、それまでは平和だと思っていた朝だった。

美琴「それじゃ、失礼するわよ」

美琴が部屋へと入ってくる。

上条「うーす、美琴」

美琴「おはよう、当麻」



朝の挨拶を交わす。変わり映えのしない平和な一時、一コマ。

美琴「眠れなかったの?」

それで終わらない現実がある。上条に近寄りながら美琴が尋ねる。

上条「うん?……何でだ?」

美琴「朝だっていうのに疲れた顔してるもの」

上条「そうか……」

そんなにわかるような顔をしていたのかと上条が消沈していると美琴は上条のそばに寄り、畳のうえに座った。

美琴「休める時に休まないとダメよ」

美琴は上条と同じ方向を眺める。

上条「そうは言ってもな」

古びた客室の壁が見えるだけ。

美琴「割り切るしかないのよ、出来る事と出来ないことがあるんだから」

上条「簡単に割り切れねーよ、美琴も本当は」

美琴「そうね、出来ないわよね」

ヒーロー気質というものなのか、二人ともジッと状況が動くのを待つのは苦手だ。トラブルの中心に飛び込んで行く方が性格的に合っている。

それを互いに知っている。

美琴「とは言ってもね、遅かれ早かれ天使は襲来するし、ミーシャさんみたく刺客もやって来るわよ。体調を整えとかないと」

上条「天使に刺客か、ホントただの学生には荷が重いこってす」



美琴「大それたことよね、でも当麻がいるから手立ても考えられるのよ」

上条「美琴?」

美琴「だからこれは出来る事、力を合わせて乗り切りましょ、今日一日を」

そして美琴は明け方、神裂から連絡があったことを告げる。

美琴「神裂さんからの報告では学園都市にもそれらしき魔術の痕跡は無いって」

上条「手掛かりはいまだ無しか……天使に早いことご登場願ってお引き取りして貰うしか無いってことか?」

美琴「そうね、それが今のところ一番手っ取り早そうね」

上条「そういや、何を神裂に依頼したんだ?」

美琴「ああ、それね。初春さんのこと」

上条「初春さん?初春さんがどうかしたのか?」

美琴「どうもインデックスと入れ替わっちゃったらしくてね…………初春さんについて当麻はどこまで知ってるの?」

上条「インデックスに?……初春さんのことか……どうなんだろ、詮索したこともないし、ただ特殊と言っていい能力を持ってんじゃないかと思ったことがある」

一方通行と対決した時、朦朧とした意識の中、一方通行と対峙している初春がいた。そのとき巨大なコンテナが消失する光景の夢も見た。



美琴「……初春さんから話しが無い限り私も詳しくは言えないけど、その通りよ。その特殊な能力のせいで肉体こそ入れ替わってしまったけど認識はそのまま肉体と魂を見分けてる状態らしいのよ、それでこちらに保護しておこうと思って」

上条「そっか……それでこっちへ神裂と一緒に向かってるのか?」

美琴「それが何だか色々あったみたいなのよね」

上条「色々?」

美琴「二人で当麻の立ち回り先を当たっていたのは予定の通り、でも要領を私も得ないんだけど誰かに追い掛けまわされてなかなか学園都市の外に出られなかったらしいのよ」

上条「追い掛けまわされて?風紀委員か警備員か、か?」

美琴「神裂さんは聖人よ、初春さんを連れていたって風紀委員や警備員を撒くなんて訳ないわ」

上条「その、何度か話しに出てた聖人ってナンだ?」

美琴「あれ? 話したことなかったっけ?」

上条「聞いたこと無い」

美琴「あー、まあ改めて話す機会も無かったわね。聖人っていうのは神の子に似た身体的特徴や魔術的記号を持つ人のこと」

上条「?」



美琴「偶像の理論ていうのが魔術にあってね、形を似せた物には元となった物と同じ力が宿るって考えなの」

上条「形を似せたら元と同じ力が出せるって、そんな事があるのか?」

美琴「あるわよ」

上条「へっ?」

美琴「こちらでもコピー商品てあるじゃない、紛い物でも性能はともかく機能が一緒なら使えないことはないわ」

上条「それは家電とかそんな物のことだろ?聖人っていうのは人間だろ、人間と家電を同じにするのは」

美琴「人間でも同じよ。『原石』、当麻やこの前の姫神さんのような生まれ持っての天然物。魔術師が云う才能ってやつね。『原石』を真似て才能を開発したのが能力者。才能の無い者が『原石』の起こした現象を真似たのが魔術。私はそんな理解の仕方をしているわ」

上条「それじゃ、その聖人の元になった神の子というのは?」

美琴「神に等しい存在、史上最高の『原石』っていうのが私の見方。魔術の側ではね、人自体神の姿を真似て作られたモノ、なら神の力も扱えるはずという考えが成り立つの、でもそんな力は扱えない、何故なら人間は神の劣化版だから神と同等の性能は発揮できない、発揮できたのはただ一人、神の子」



上条「神の子は神の力を扱える器だったと」

世界の真理という『神様の領域』は人間には辿り着けない。だから人間を超えた存在とならなければ答えは得られない。

『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの(SYSTEM)』

学園都市が目指す先には神の子があるのか、神の子を人工的に作り上げるのが目的だったのか上条は疑問が浮かぶ。

上条「その器と似た身体的特徴や魔術的記号を持ってるから」

美琴「元々の魔力に扱える天使の力がそのへんの魔術師とは桁違い。おまけに身体能力まで怪物、音速機動なんかされたら厄介どころじゃないわ」

上条「音速機動ってマッハで人間が?そんなこと出来るって聖人つーのは『原石』なのか?」

美琴の推測では魔術も超能力も元々のフォーマットは『原石』。では史上最高の『原石』と同じ特徴を持つ聖人はまた『原石』となるのか、それが疑問だった。

美琴「それは違うわね」

美琴は自分の頭を指差し

美琴「神の子と似た身体的特徴を持っていても脳の構造が違うもの、『原石』が持つような才能はないわ、それでも人の身では限界点まで神の力を扱える世界に20人もいない、魔術側にとっては核兵器級の扱いを受ける人達よ」



そして昨日、美琴は言った。聞くだけでも恐ろしいその聖人である神裂より天使は強いと。

だが上条がいることで手立てもあると、これは先ほどの話だ。

上条「まあ話しを戻すと聖人である神裂がてこずって遅れてんだな」

美琴「そういう事になるわね」

上条「うーん学園都市を褒めるべきなのか、これ」

美琴「神裂さんも手加減してたんでしょうけど……」

神裂と初春から連絡が入ったのは今のこと、ようやく外に出れたとのことだった。

そこまで時間を掛けさせられた相手となると、思い浮かぶのは少なくとも美琴と同ランクの能力者。

美琴(無事に学園都市へ戻ったら戻ったで面倒くさいことになってそうね)

上条「美琴?」

言いかけ黙り込んでしまった美琴を上条がどうしたものかと思い美琴の名前を呼ぶ。

美琴「あっ、ごめん。て、ことで二人の到着は昼前ね」

上条「昼前か、昨日の夜の電話じゃ親父の到着もその頃って話しだな」

美琴「同じ頃ね……」

上条「どうする? 母親二人に親父、インデックス、海の家の親子、それに初春さん。これだけ揃っちまって」



昨日のミーシャは幸か不幸か上条一人の時に襲撃してくれたが他の刺客や天使がそれらの人を配慮してくれるとは限らない。

美琴「うーーーん、みんなから離れてるしかないかな?」

上条「二人だけで行動か、やっぱな、それぐらいしか対策……」

残念ながらそこで言葉が途切れる。

二人だけで行動する理由を親達に何と説明するか、それが問題だった。

今日、また二人だけで行動したいだのと親に言えばもう決定的である。

鈍いと言われる上条もそれが何を意味するか、それがもたらす未来がわかる。その未来が嫌な訳ではない。

しかし、思いも寄らない流れに流され逆らえずに行き着いてしまうのは違う。

誰しも外堀を埋められた結果を享受したくはない。自分で選びたいのだ、結果は同じであろうとも、その過程を大事にしたいのだ。

が、みんなを巻き込まない為には二人だけの行動は必須、上条はジレンマに陥る。

美琴「その、困るわよね?」

その言葉に上条は美琴も同じ想いなのかと思った。

上条が美琴を見ると、はにかんだり、弛んだり、困り顔をしたり、眉間に皺を寄せたりとくるくると表情が変わっている。



実は上条の予想は少しズレていた。

美琴は確かにからかわれたりするのは嫌であるものの、既成事実確定認定されてそのままゴールインだとか、二人っきりでまた浜辺できゃっきゃうふふだとかといった妄想が浮かんでしまうのだ。

それをそのたび何の為に二人きりになるのか、皆の安全確保、上条を守る為だと否定し、そんな楽しむ余裕は無いと自分に言い聞かせている。

とは言っても妄想は止まってくれない。それこそ、今でしょ!という声が聞こえてくる。

level5の強度を誇る美琴の『自分だけの現実』も莫大な感情を前にしては揺れ動く。

そうして美琴は百面相をしている。

上条がそれを見て浮かんだ感情は言わない。

上条(いっそのこと、冷やかされても構わないようにするか?)

それが答えだ。

そしてその為に今から何を口にしなければならないか、美琴に何を告げないといけないかぐらい上条だってわかっている。

一つの関係の終わりと新しい関係の始まりを告げなければならない。

上条「み、美琴」

上条は美琴の名前を呼ぶが、ダメだったらどうしようという不安が上条を逡巡させる。

反対に、



美琴「えっ、あっと、ご、ごめん」

美琴の脳内では場所が浜辺、昨日あったシチュエーションと同じながら昨日とは違い邪魔をする者も居らず、寄り添う二人状態だった美琴は上条に呼ばれて我に返る。

気づくと現実でも上条ににじり寄り、あと少しで腕が触れ合う距離だということに慌ててパッと距離を取る。

上条(ご、ごめんてナニ?飛び退かれたのってナニ?)

美琴「うん、ああ、ママ達には上手く言って誤魔化しましょ、今日一日やり過ごせば明日には学園都市なんだから、昨日から冷やかされっぱなしなんだから多少耐性はついてるわよ。それより二人っきりでいる方が重要よ」

上条は項垂れながら

上条「……そうだな」

そして

「美琴ちゃんダイターン」

上条と美琴二人しか居ないと思っていたら部屋の入り口から声がかかる。

部屋の入り口には

美鈴「もう、美琴ちゃんたら、二人っきりになりたいならママ達を誤魔化さないでもいいのよ」

楽しげな白井に

詩菜「あらあら。当麻さんたら、お母さんより美琴さんと二人っきりが良いのかしら」

冷気を伴なっ微笑を見せる佐天。昨日の連絡で夫、刀夜の到着が遅れると知ってから機嫌が悪かったりする。



二人とも入れ替わっているだけで母親達なのだが上条にはそう見えてしまう。

それに加え、

イン「もう二人でいちゃいちゃするのは後にして欲しいかも、とっくに朝のご飯の時間なんだよ!早くしないとお腹と背中がくっついちゃうかも!」

ぷんぷんしながら上条と美琴を非難するように二人を指差す麦野沈利の姿をしたインデックス。今にも光線が撃たれそうで恐ろしい。

上条と美琴はどこから聞かれたか非常に気になるし、呼びにくるなら一応外から声をかけて欲しい、と抗議したいところだが突然なことに慌てるばかりで声をあげられない。からかわれて二人とも頬が火照ってしまう。

そして、これが上条にとって不幸かといえば、上条の人生における一大イベントシーンを親達に目撃されずに済んだのなら如何であろうか。

火照った頬の熱を和らげる風が窓を抜けてくる。

こののち、別の凶暴な風が吹く事を知らず上条と美琴は熱を冷ましてくれるその風に感謝していた。

此処まで



かなり大変だった朝食も済み、上条と美琴は浜辺へと出かけていた。

かなり大変だったというのは誇張ではない。母親達からはやし立てたり、直接からかったりとされた訳ではないが精神的ダメージが酷かった。

一例をあげると

『思い出すわ、旅掛君と新婚の頃はよくアーンてやってたわ』
手振りを示す美鈴。

『あらあら。美鈴さんのところでも、うちは今もですのよ』

上条は自分の親のラブラブっぷりを今更ながら知ってしまったうえ、

その母親達は上条と美琴を凝視してくる。母親達の目は

『やらないの?』

と、期待大。

無視してもじーっと見つめてくるのだ。

当然、そんな真似できる筈もなく大急ぎで朝食をたいらげると慌てて海の家を飛び出してきた次第である。

ちなみに母親達は海の家で上条父が到着するまで談笑の予定、インデックスはと云うと母親達が二人っきりにしてあげましょう、と引き留めてくれた。

それは上条と美琴の都合からすると有り難いのではあるが、食堂から出たところで聞こえた美鈴の

『待ってるあいだ、当麻君と美琴ちゃんのためにイギリス流の結婚式を教えて頂戴♪』

は聞こえなかったことにしたい。



そんなわけで精神的ダメージを受けてる上条と美琴であった。

美琴「はは……うちのマ…母がごめん」

上条「うちの方だって」

美琴「困った親達よね」

青い空、青い海。広々とした海辺。

上条「そういや、美琴のお父さんは旅掛さんて言うのか?」

美琴「うん、旅人の旅に……がけは掛け算とか物を掛けるの掛ね」

上条「旅人にえ、えーと掛け算の掛?」

美琴「掛がどんな漢字かわかんなかったんでしょ?」

上条「そ、そんなことはないぞ」

美琴「動揺してると丸わかりよ。年中、海外に行きっばなしだから名は体を表すって本当ね」

上条「そんな名前だから年中旅しっぱなしになったんじゃ?うちの親父も月に三回は海外に出張してるからなあ、似たようなもんか。この旅行も忙しいスケジュールの合間を縫って計画を立ててくれたらしいんだかな」

美琴「生憎のことになっちゃって残念よね……」

上条「まーな」

美琴「お父さんが来られるまでに解決してたらいいけど」

風が吹く。

上条「『御使堕し<エンゼルフォール>』の事が無くても一昨日の事で会える時間が少なくなってたんだ、親父には勘弁して貰おう」



美琴「一昨日の交通マヒね……ニュースではサイバーテロかもって言ってたけど」

上条「交通制御システムだけじゃなく都市機能を司るシステムに不具合が出てたらしいな、親父も専門じゃないのに駆り出されてるって話だ」

浜辺を二人並んで歩いて行く。海の家も既に遠い。

昨日と同じく二人以外に人の姿は見えない。

美琴「学園都市を除いて首都圏は大混乱、学園都市のセキュリティーレベルの高さを示したってことね」

上条「外とは2、30年は技術レベルが違うって言われてるからな」

美琴「そうね、私や初春さんぐらいじゃないと学園都市のセキュリティーは落とせないわ」

二人の声の他には波打つ音しか聞こえない。

上条「ところで一昨日のことも『御使堕し<エンゼルフォール>』と関係あるのか?」

美琴「さすがにサイバーテロと魔術よ?」

全くの二人きり。

上条「魔術の側も科学技術の製品を全然使わないとかないよな?」

人影は見当たらない。

美琴「そりゃあ、ね。便利だもの今時文明圏にいる限り使わないで生活できないわよ」

が、

「反吐がでるっちゅーのよ」

三人目の声。

美琴「随分前から仕掛けられてたみたい、人払いの術ね」

此処まで

短いですがとりあえず



意識の外からの声だった。

唐突に誰もいないと思っていた空間から声がした。そしてその者は姿を見せる。これまた唐突に最初からそこにいたかのように、上条と美琴がただ今まで気づいていなかっただけかのように姿を現した。

その者の姿は奇抜と言ったところであろうか。服飾史に造詣が深い者であればクラシカルと言ったかもしれない。

カートルと呼ばれる女性衣類に腰に細い革のベルト、手首から二の腕にかけて着脱可能な袖が取り付けられている。そして頭には一枚布の被り物で髪の毛は隠されていた。

全体の色合いは黄色、それらを着用している者は服装からして女性。

美琴「当麻からはどう見えてる?」

上条「細身の女性かな、あの化粧のせいで年齢まではよくわかんねー」

美琴「そう、私からも女性に見えるけど……細身とは言わないわね、グラマラスと言った方が間違いないか……」

上条「土御門達と一緒ってことか」

互いの認識の確認がとれたところで

「話は終わった?」

その女が口を挟む。

美琴「えっ、あーすいません」

放っておいたことについてまず謝る。

「ふーん、あんまり驚いてないようだけど覚悟してたわけ?」



美琴「まあ、いくら何でも誰もいないってのはね」

元々、海の家が一軒しかない海水浴場、普段から客は少ないと言える。昨日は特に首都圏大混乱の影響で足が遠退いたと言って良い。

ただ今日までとなると異常であった。さすがに二日目も人っ子一人いないとなると何らかの作用が働いていると考えられた。

突如の現れ方にはギクリとさせられても誰かが現れることに驚きは無い。

「そう、覚悟ができてたんなら早速、死んで頂戴」

美琴「これ言うの三度目になるけど私達は『御使堕し<エンゼルフォール>』については無関係よ」

死刑宣言と取れるセリフに美琴は抗弁するが

「無関係ねえ、無関係と言えるの?」

美琴「無関係でしょ」

「笑わせるな、そこの男を中心に『御使堕し<エンゼルフォール>』が広がってるのはわかってんのよ」

上条「だからそれは俺達が預かり知らないことなんだ」

「それでもいいのよ、たとえあんたらが『御使堕し<エンゼルフォール>』の首謀者じゃなくたってね、その起点になってんのはアンタだ、アンタを殺せば治まりがつくのよ」

上条「俺が死ねばっ!?俺が起点!?」

「そこの女は察しがついてんでしょうよ」



美琴「まあね、魔法陣とかは別にあっても当麻を中心にってことは当麻が術式に組み込まれているってことだものね」

それは土御門が言っていたことに符合する。

上条以外の人間は理解していたのだ。天使を押し返さなくても、魔法陣を破壊しなくても上条という存在自体が『御使堕し<エンゼルフォール>』を引き起こした何らかの役割が与えられているなら、上条の存在を消してしまえば終わることを。

だから、この女は上条が首謀者であろうと無かろうと上条の命を狙ってきた。

美琴はこの女の目を見ただけで話し合いが通じないことがわかっていた。この手の類は手段を選ばない、いやそうではない、むしろ手段を選ぶ、問題解決への最短距離を選択する。そうした輩を美琴はインデックスとの旅の中、散々目の当たりにしてきた。

「そうよ、早く御使いにはお戻り願わなくてはね」

美琴「御使いね、アンタも十字教関係?」

その女は顔中にピアスをしているがその中でも舌先のピアスは見る側にとってイタい。そしてそのピアスからは細い鎖で繋がれた十字架がぶら下がっている。

「あとで御使いを堕とした大罪人にも鉄槌を下してあげる」



その女の右手に1mほどの有刺鉄線が巻かれた鉄槌。

美琴「それをありがたいとでも、それなら私達じゃなくソイツのところへいってよ」

美琴は話しをしていても、それは探りを入れているだけだ。

「ふん、犯人が解ってればさっさと行ってるわよ。あたしらぁと似たようなお考えだろうけどさ、位に昇る目的でも御使いと席を入れ替わろうなんてさすがに考えないわ、見逃す訳にはいかない。そんな計画は潰さなきゃね、それにはそこの男をぶち殺すのが手っ取り早い」

言葉の節々に出てくる単語を元に相手の素性を美琴は探っていた。

思い当たる節があった。

美琴「神の右席?」

それはインデックスより聞いた話し。ローマ正教の深奥部に潜む集団の名称。元はローマ法王を補佐する役割を負っていた者達がいつしか人間たる『原罪』を捨て去り、神の右側に座る位、すなわち天使の位を得ることを目的とした集団に変わる。そのためか通常の魔術とは違う形式を取ると。

「さあ、どうだかねぇ」

威嚇するかのようにその女は目を剥き出し、鉄槌を振り上げ肩に乗せた。

美琴「当麻、話し合いで解決できる相手じゃないわ」

そして狂信者であるとも聞いていた。

此処まで



美琴が言ったようにその女の正体は神の右席、その4人しかいない者のうちの一人だった。

前方のヴェント、それが彼女の名前。

たまたまこの地、日本にいた為『御使堕し<エンゼルフォール>』に対処することになった。

本来の目的は学園都市攻略のための威力偵察。東京西部にある学園都市、それを含む首都圏を混乱させその強度を計っていた。科学嫌いのヴェントからすればサイバーテロを行うなど憤懣モノであったが、手順を経るには仕方なかった。まだローマ正教が学園都市に真っ向から戦争を仕掛けるには理由が足らない。だからと言ってグレゴリオの聖歌隊に騎士団といったローマ正教のなかでも上位に位置する戦力を学園都市内での暗闘で失った以上、勢力均衡の面から見過ごすわけにもいかなかった。何らかの方法で学園都市の力を削ぐ必要があった。

そして行われたのが首都圏へのサイバーテロ。

これに学園都市が巻き込まれるようであれば科学の総本山である威信を落とすはずだった。


しかしその結果は無傷、学園都市には何ら影響を及ぼせはしなかった。

とは言え、それは予想されていたことでもある。


そうしてヴェントは自らの手で学園都市を叩くため日本の地に降り立った。

が、降り立った途端、入れ替わり現象に見舞われ咄嗟に結界を張ったまでは良いが人の目からはヴェントには見えず、どうやら同じローマ正教のリドヴィア=ロレンツェッティに見えるらしい。

この事態に際し学園都市攻略は後回しに『御使堕し<エンゼルフォール>』への対処を優先せざるを得なかった。

問題は切り札は使えない事。界が揺らぐなか、更に入れ替わり現象が起こっている状況ではどんな影響が出るか判らなかったからだ。

ヴェントは肩に担いでいた鉄槌を持ち上げ、振り下ろす。



振り下ろしても届かない距離。

どんなに危険な凶器に見えても当たらなくてはなんて事はない。

しかし、上条は咄嗟に右手を前に出した。

空気が揺らぐのが見えた。砂浜に鉄槌が打ち下ろされ無くとも砂が舞うのが見えた。

右手に圧力が刹那の間かかり、音が鳴り霧散した。魔術、能力を問わず打ち消した手応えが残る。

ヴェント「……何かしら、それ」

防がれた、という印象ではない。現象としては無効化に近く、最初から何も起こらなかったかのように掻き消えた。

上条「何やったか知らねーが、俺にはそんなもん通じねーんだよ!」

半分虚勢であるが、必要な事だ。何故打ち消されたか解らなければ当然疑心暗鬼に陥る。精神的に優位に立てられるなら虚勢も張る。

ヴェント「そう、でもね。それぐらいで引くと思うなら」

上条の虚勢など歯牙にもかけず、ヴェントは舌先から十字架を揺らす。

美琴「油断しないで」

上条「(する余裕あるか!)」

ヴェント「なーめてんじゃないわよ!!」

鉄槌を横に振る。

チリっと音が鳴る。

揺れる十字架に鉄槌がかすった音だ。

身構える上条。が、今度は兆候が見えない。



美琴「当麻!」

美琴が自らの身体ごと上条を引き倒す。

その上をゴッ!!という爆音が通り過ぎた。

それもヴェントが構える方からではない、あらぬ方向からだった。

上条「今のは!?」

美琴「横から!空気を圧縮した風の塊みたい、あーやなヤツをまた思い出す」

上条「なんで横からなんてところからくんだよ!?」

美琴「それが魔術の理不尽なトコよ!」

読めない。

ヴェント「よーく避けました、っと」

再びヴェントが巨大な鉄槌を振る。

ヴェント「吹っ飛べコラ!」

上条「くっ!」

美琴「上!」

見上げる余裕は無い。

上条と美琴が左右に分かれると、

ドゴッ!

見えない筈の風の柱が見えた。

砂浜を抉り、細かい砂を撒き散らす。

上条にも砂がかかるが払っている余裕はなかった。ヴェントが鉄槌を振るおうとする姿が映る。

上条「くっ!」

ヴェント「ヒャハ!」

美琴「当麻!」

上条「どっちだ!」

左右に気を取られていた。

上条がハッと思ったときには正面から気弾が迫る。

躱す余裕も無く右手を前へ

ギリギリ間に合い気弾は消える。



ヴェント「不意をつけたと思ったんだけどさー?ホントどういう理屈よ、その右手!」

喋りながらも既に鉄槌を振ろうとするヴェント。

美琴「何度も」

美琴「させるもんですかッ!」

上条とは反対側に身をかわしていた美琴が雷撃の槍をヴェントへと向ける。

ヴェント「チッ!」

ヴェントは振り下ろす鉄槌より生まれた気弾を地に叩きつけた。砂が舞い上がりヴェントの姿を隠す。

美琴「なっ!避けられた?」

雷撃の槍に手応えは無い。

砂埃の先にヴェントの姿は無く、

ヴェント「舐めてんじゃねー!学園都市製のようだけどさー?こちらに電撃を得意としたヤツがいないとでも思ってんのかいッ!」

気弾の衝撃を利用して自らの身を宙へと踊らせたヴェントの声が上から響く。

ヴェントの舌先から細い鎖で繋がれた十字架がキンッと音を立てる。

鉄槌が十字架を掠めていった音。

美琴「そんなヤツもいたわね!ヘタクソな雷を撃ってくるもんだから笑ったわ!」

空間は支配している。

あのタイミングでの電撃を躱された事には驚いた。しかし居場所は把握していた、空から聞こえる声に驚きは無い。



それよりも、これだ。

横合い、気圧の変化を美琴のセンサーが捉える。

法則性が解らない。

飛んでくる気弾を避ける。

不意打ちとまでいかないのは救い。

ヴェント「学園都市の紛い物がーッ!禁書目録を預けるなんてイギリス清教の連中もナニ考えてんだかね?」

連射と言うほどでも無いがそれなりの手数のため、攻守の切り替えが難しい。

そして法則性が見いだせないが故に気弾が発生してから対応するにしてもギリギリとなる。

上条を狙ってのものか美琴を襲うつもりか、発生直後では判別しがたい。

美琴「紛い物って!アンタ!……それもバレてんなら仕方ないわねえ?」

美琴が凶悪な笑みを見せる。

美琴「ふん縛って記憶を操作させて貰いましょうか」

青い稲光がヴェントを狙う。

ヴェント「できるもんならね、ハッ」

気弾を発生させ、その反動を利用して高速回避をするヴェントが鼻で笑う。

二人の女性の闘い、それに対して上条は

上条「(怖っ!)」

闘いの最中、笑みを見せる美琴への正直な感想。

そして上条は割って入りたくても隙を見いだせない、突如として沸く気弾を右手で防ぐだけで精一杯だった。




美琴「当麻」

ヴェントと相対しながら振り返りもせず上条の名を叫ぶ。

上条「な、なんでも無いです」

美琴「へっ?」

上条は美琴に聞こえていたかと思い、つい弁解口調で言ってしまった。

美琴「……あー、いいからこの場から離れてくれる」

上条「美琴一人に任せて離れられるか!」

上条は気を取り直して美琴に言葉を返す。

美琴「気持ちは有り難いけど、ちょーっとコイツを仕留めるには離れていて貰いたいのよ」

ヴェント「行かせると思ってんの?」

口を挟むヴェント。

上条「だ、そうだが美琴?」

美琴「それぐらいの時間、作ってあげるわよ」

ヴェント「切り札が使えないからって!」

鉄槌を振りかぶる。

美琴「行って!」

ヴェントの視界を遮るように黒いカーテンが砂浜から立ち上がった。

美琴が掌握した砂鉄だ。

美琴「これからやろうとする事に巻き込んじゃうから、お願い」

上条「考えがあるんだな?」

美琴の狙いは広範囲への電撃、周囲一帯を感電させる攻撃を行うつもりだった。幸いにも上条を除けば他に被害を与えるものはない。上条に幻想殺しが有るにしても効果範囲は右手首の先だけ、砂浜を経由した電撃は消せない。

意図を察したものか上条が下がっていく。

此処まで

AGE



土御門「大外ししちまったにゃー」

自嘲めいた呟き漏れる。

場所は上条家、一戸建ての新築からさほど月日が経っていない住宅。

新築と言えど中は生活空間が出来上がっている。土御門はその中に足を踏み入れていた。

家人に断りを入れて上がらせて貰っている訳ではなかった。この家の息子、上条当麻には調査に入ることは言ってあったがその両親には内緒。詰まるところ無断侵入だ。

鍵を開け、玄関から入ると真新しい靴箱に置物があった。違和感があったが趣味の範囲と土御門は奥へと進んだ。

まず入った部屋はリビング。ありきたりな家族団欒の空間。一見すると一般的な家庭と変わらない、その中で目に付くのは置物の数。

置物と言っても花瓶であるとかフォトフレームといった物、そういった物も勿論あるが圧倒的に多く置かれている物は何処かの国の土産物。それも御守り、厄払いといったその国で縁起物とされる種類の品だ。

一つ一つは確かに土産物として売られているためおかしな事でもない。魔術の専門家である土御門からすればレプリカに過ぎず魔術的効果が得られる品ではない筈だった。

土御門は気ぜわしく、且つ慎重にリビングを離れ各部屋を改めていく。



そして土御門は上条当麻が帰省した際に使用出来るよう、構えたと思しき部屋で冒頭の言葉を吐いた。

帰って来るか分からない上条の為にしつらえた部屋には姿見が飾られている。その他にはやはり他の部屋でも見かけた大量の縁起物の土産品。

土御門「まさかにゃー、念のためだったんだが」

自嘲の言葉にもなろう。

土御門「可能性を低く見積もった場所が目的地とは」

そう、『御使堕し<エンゼルフォール>』を起こした儀式場が一番縁の無さそうな上条家だとは思いもしなかった。

土御門は4月、身の安全を図るためクラスメートの調査を一通り行っている。

注目すべき情報として幻想殺し〈イマジンブレイカー〉があったが魔術関係では上条が一月前にインデックスに接触してからのことだ。非科学に触れたのもその時が初めて、上条の両親にしても土御門の調査では魔術に携わる家系にも仕事にも就いていない。全くの素人の筈だった。

それがこの始末。

縁起物の土産品、レプリカでありイミテーションに過ぎない。数を集めたとしても魔術的効果などあろうはずもない。配列、相互位置、魔術的に的確な配置が為されない以上は。そして魔術師が起動しない限り。



繰り返すが、上条の両親は魔術師ではない。的確な配置は偶然のケースはあるかもしれない。しかし『御使堕し<エンゼルフォール>』を起動させる事など出来はしない。

何かスイッチになる物がなければならない。行き当たったのがこの部屋、偽物ばかりのなかに本物が混ざっていた。本物と言えど霊装と呼べる品ではない。ホンのちょっと願いを叶える、運勢を僅かながらに良くする程度の効果を持つぐらいの魔術的物品。

それが術者の願いに応え、家中に張り巡らされたイミテーション共が回路を繋げ相乗効果を発揮してしまったのだろう。

土御門「参ったにゃー」

二つの意味があった呟き。

土御門が映る姿見にもう一人の影が映る。

警戒が走る。

「問一。儀式場を突き止め何が参ったのか」

土御門に焦りはない。

土御門「儀式場をぶっ壊して終わりとはいかないにゃー、術者を止めてからでないと魔力が暴走する可能性が大だ」

姿見に映ったのはロシア成教のミーシャ。上条家を調べるに当たって土御門に付き添ってきたのだ。

素人の配置だから、か無駄が多い。専門家からみたら機能美に欠ける。だがそれ故に厄介だった。

此処まで



土御門「見ての通り、『御使堕し<エンゼルフォール>』を発動するだけなら無駄に手が込んでる、必要ない回線まである、置物を少しずらせば別の術式になりそうだな、これは。おまけに世界の力を呼び集めて膨大な力がこの家を駆け巡ってる状態だ。儀式場を壊してもその力はどうなる? 世界規模の大魔術を展開するほどだ、手順を踏まず開放しちまえば天変地異を引き起こして辺り一面を崩壊させちまうだろうな」

土御門は珍しく真剣に饒舌に語る。儀式場を壊せば良いという安易な手段を押しとどめるように、それは神が認めることでは無いと暗に理解を求めたものだった。

「問二。では術者は誰か」

ミーシャの問。

土御門が参ったと言ったのは二つの意味、一つは今話した事。そしてもう一つが

土御門「検討はつくけどにゃー」

確かに検討はつく、海の家にいる上条の母親は『御使堕し<エンゼルフォール>』の影響を受けている。可能性は無いわけでもないがこの所狭しと置かれている物は海外からの土産、確率的に海外への出張が多いという上条の父親が術者である可能性が高い。それを言うべきであるかが問題だった。

このロシア成教のミーシャと名乗る者に。



土御門「ところでミーシャ、ミーシャって云うのはミハイルの愛称でロシアじゃ男性名だよな」

話しをずらし慎重に尋ねる。

「解答一。……肯定」

間が空く答え。

姿見に映ったミーシャに疑問が芽生えた。

服装はともかく金髪の少女らしい容姿。上条も女の子と認識していた。結界を張り『御使堕し<エンゼルフォール>』の影響を極力防いでも、土御門は一方通行に神裂はステイルに他者からは見えるという影響を残している。反面、土御門や神裂はお互いが本人と認識できる。上条もまた同じである。

そして何故確認しておかなかった今更、土御門は後悔していた。

誰に?

御坂美琴に、『御使堕し<エンゼルフォール>』の影響を受けている彼女に。

じんわりと手が汗ばむ。

「問二を再度、そして」

「問三。何故そんな事を聞く」
真っ向から説得すべきか、但し道理が通じる相手か悩む。神の命以外で大勢の人命を損なう事は神の命に反する行為だ。問題は『御使堕し<エンゼルフォール>』を起こし、御使いを座から降ろした人物については神の意に反した大罪人。誅するに躊躇する理由が無い。

土御門「知ってどうする」

土御門は話しを続ける積もりだった。

その前にミーシャが腕をあげる。

その手にはフォトフレームが握られていた。

それは土御門も見かけた、数年前の大覇星祭の時に撮ったと思われる家族写真だった。




初春「急ぎましょう」

駅の改札を慌ただしく抜け、初春は神裂に声をかける。

美琴に伝えた時間より早く着きそうだった。だが一方通行の邪魔さえなかったら、夜が明ける前に到着できるはずだったのだ。

焦る気持ちも分かる。

そしてそれは神裂もまた同じだ。自然に足も速くなる。

人の姿はまばら、というか二人を除けば駅員と前を歩く一人の男性の姿しかない。

そのスーツ姿の男性、やつれたサラリーマンに見える男性のそばを駆け抜けようとした時、

初春「あっ、神裂さん!」

有り得ないことに運命がそうさせたのか神裂が何もない場所で躓いた。

神裂「えっ、あっあああ」

人外の身体能力を持つ聖人、神裂は起こり得ない事が起きて慌てる。躓き、更に前に転びそうになるのを踏みとどまるがバランスを崩しよろめく。

「おっ、と」

すると、よろめく神裂の身体をそのスーツ姿の男性が肩を押さえ支えた。

神裂「えっ」

支えて貰い、体勢を立て直すと神裂は男性から身を離す。男性はその一連の動作があまりに自然。

神裂「す、すいません。このような事、普段は無いのですが」

恥ずかしく、つい神裂は言い訳を口にしてしまった。



「いやー、慣れてますので」

男性はこのような事が日常茶飯事であるかのように答える。

初春「大丈夫ですか神裂さん?」

心配する程でもないが初春が神裂に尋ねる。

神裂「え、ええ」

学園都市で夜通しの追いかけっこをしてしまったが体調におかしいところはない。同僚に見られたら呆れられるか笑われる状況だ。

改めて神裂は

神裂「ありがとうございました」

先ほどすいませんと言ったがそれは迷惑をかけた詫びであり、今のは助けて貰った礼である。神裂も言い訳がましい詫びだけでは礼を欠くと思い、重ねて男性に礼をしたのだ。

初春も神裂に合わせ頭を下げる。

初春から見れば男性は自分の父親ぐらいの年齢、やつれたサラリーマンといった最初に見かけた印象は変わらない、ついでにさえないをつけても良いといった感じである。ただふらふらと頼ってしまいそうな安心感がある。

「あー、礼など構いません。本当に良くあることですので、今日は妻もいませんから叱られることも……これは余分なことでしたね、ははははは」

よく見れば精悍な風貌でやつれて見えるのは無精ヒゲのせい、そして目は理知的な輝きを見せる。

此処まで

あげわすれ

もう3週間か……
ところで>>1ってpixivやってるんですか?
pixivでこのSSを発見しました



神裂と並んで頭を下げていた初春はふと違和感を覚えた。顔をあげ今一度男性の顔を覗く。

変哲もない、やはり初春の父親ぐらいの歳つきの男性にしか見えない。なのにこの違和感は何故か考えていると。

「どうしたのかな、お嬢さん」

凝視されて男性に困った顔をされた。

初春「いえ、すいません。ちょっと知ってる方に似ていたものですから、申し訳ありません」

再度頭を下げる。

それは口から出任せであったが、言ってみてあながち間違いではないことに気づく。困った顔が誰かに似ていた。

「そうでしたか」

にこやかに応対する男性。気さくに、後味の悪さを残さないで済む雰囲気を作ってくれる。そんなところも似ていた。

神裂「初春さん急ぎませんと」

初春「その神裂さん、少し」

初春はこの男性と今少し話す時を作ろうと神裂に言いかける。

その前に

「うん?初春、さん……もしかして私に似た人と言うのは当麻のことでは」

男性が上条の名を挙げた。

初春「上条さんをご存知なんですか」

「ああやっぱり、こんなところで当麻の友人に会えるとは、当麻の父の上条刀夜と申します」

初春「上条さんのお父さん?」



刀夜「はい、当麻からの手紙で初春さんのお名前を拝見しておりましたので、これは奇遇ですな」

初春「よく、覚えてられますね」

日頃から接していないと子供の友人の名前など咄嗟に思い出すなど稀なことだ。

刀夜「そりゃもう、離れて暮らす息子からのたまの便り、100回読み直して一字一句覚えてます。親とはそういうものです」

初春はさすがにそれは親バカではという言葉を飲み込み、神裂の腕を取る。

神裂「?」

話の途中で先に感じた違和感、その正体について初春は答えを得ていた。

この男性、上条当麻の父である上条刀夜からは『御使堕し<エンゼルフォール>』の影響を受けた気配が無い。つまり、入れ替わりが行われていなかった。

そしてそれは上条刀夜が『御使堕し<エンゼルフォール>』を起こした犯人である図式が成り立つ。

刀夜「まあ、珍しいお名前という印象もあったりしますが、おっとこれは失礼だったかな」

と、笑いながら言う上条父はそのような事を起こす人物に見えない。

初春「いえ、あまり初春なんて名字ありませんからお気になさらないで下さい……お父様もこれから上条さんの元に行かれるのですか?」

刀夜「ええ。も、と言うことはあなた方も?」



初春「そうです、私達も海の家へ向かっているところだったんです。上条さんから行方不明になっていた私達の友人が見つかったと聞きまして待ってもおられずに皆を代表して私が」

刀夜「ああ、友人と言うと旅掛さん、美鈴さんのお嬢さんのことですね、本当に良かった」

初春「はい、本当に……御坂さんのご両親をご存知なんですか?」

刀夜「美鈴さんは妻の友人で旅掛さんとは出張先での顔なじみですか」

仕事関係では無いが一仕事を終え、フラッとバーに立ち寄ると何故かいる。不思議な縁がある関係だ。

刀夜「そのお二人のお嬢さんが息子の恋人だったとは、不思議なもんですな」

初春「ふぇっ?」

神裂「はっ?」

刀夜「え」

初春「……その」

刀夜「もしかして違いました?妻がそう言ってましたから、てっきり……息子にもようやく幸せが来たと、昨日の夜は祝杯をあげたのに、まだまだだな」

初春「いえ、その端から見る分には熱々ですから、もう補給成分はパッチしです。正式にお付き合いしてるわけじゃ無いだけで、えーと今回の再会で出来上がっているかも」

刀夜「そうなんですか? これは効果があったかもしれないな」



初春「こ効果?」

初春は掴んでいた神裂の腕にグッと力を込める。

神裂はまだその意味が分からなかった。しかし、『御使堕し<エンゼルフォール>』の中心にいる上条当麻の関係者、因果関係で言えば非常に近いこの上条刀夜と話を続けるには意味があるのだろうと思った。

刀夜「これですよ」

上条刀夜はポケットに手を入れ、スカラベのキーホルダーを取り出した。

おそらくはエジプトあたりのお土産。

刀夜「旅先でご当地の御守りなどを買い集めるのが趣味というか、既に強迫観念に捕らわれていますが息子のためにできることといったらこれぐらいです」

初春「上条さんのため?」

刀夜「息子は、当麻は小さい頃、小学生になる前から不運に見舞われ疫病神などと」

視線を落とし幼い頃の上条の話をする刀夜。

刀夜「逆恨みした男が当麻を刃物で刺したこともありました」

初春「そんなことが」

刀夜「それで迷信などに惑わされない学園都市に送ることにしたんです……ただ当麻の不幸だけは変わらないようで、頼ってしまったんです」

頼った結果が魔術だったのか、行き着いた先が『御使堕し<エンゼルフォール>』だというのか、初春は尋ねたい気持ちを堪えていた。

此処まで

>>501さん
やってます



刀夜「オカルトを、おかしいですよね。こんな物に頼るなんて、情けない父親です」

初春「そんな、上条さんへの思いやりだけでも立派な父親だと思います」
(ですが、これで『御使堕し<エンゼルフォール>』が起こせるものですか?)

刀夜「しかし、当麻にこんな可愛いお友達や恋人候補ができたのなら集めた甲斐があったものかな?」

初春「集めたというとどれくらい?」

刀夜「そうですな、家に飾ってあるものを合計すると千個は下らないでしょうか」

初春「千個っ?」

ようやく、神裂にも話の道筋が見えてきていた。しかし反面、一千万分の一の確率の偶発的な事が重ならない限り今の現状は起こり得ない、という魔術師としては至極真っ当な解答にもなる。

偶像理論があるとは言え、土産物の開運グッズをただ並べただけで力を示すなら今頃世界はおかしな事になっている。

理論に沿い手順に従い魔力を注ぐ、それでこその魔術であり、それを執り行う者が魔術師だ。

上条刀夜という人物は魔術師に見えない。魔術師を見分ける特徴、魔力を見せていない。勿論、魔力を抑えておくことは可能。



しかし神裂という強大な魔力の源がそばにいて警戒せず、魔力を抑えておくことができるのは余程の胆力の持ち主だけだ。

初春と話している上条刀夜を見て神裂はそうは思えなかった。

刀夜「そう言えば、そちらのお嬢さんも当麻の?」

神裂が考え込んでるうちに上条刀夜が怪訝な顔をしながら尋ねてきた。怪訝な顔をするのは上条当麻の友人と言うには年上に見えるし、布に包んではあるが長大な七天七刀を提げているのだ、一般人からすればおかしくも見えよう。

初春「えっと、この方は御坂さんと一緒におられたシスターさんのご友人だそうで、昨日学園都市に来られて私達に事情を説明していただきまして、えーと戻る際にご一緒させて貰ってるというか」

整合性をとるため、しどろもどろ気味ながら初春が神裂を紹介しようとした。

神裂「あ、はい神裂と申します」

イギリス清教の所属、インデックスとは同僚であること、美琴とも顔見知りと言うことを付け加える。

そしてインデックスの名を挙げても動揺の気配がない。魔術の世界にいれば耳にする禁書目録。反応が感じらんないあたり、やはり神裂がいる世界とは無関係の人物と思わざるを得なかった。



とすると問題があった。

初春も上条刀夜が『御使堕し<エンゼルフォール>』の張本人であると思っているはず。が、まだ確定ではない、まだ見極めが必要。

海の家まで同行する話が進む、どのみち向かう先は一緒なのでおかしなことでもない。むしろここにきて別々に向かう方がおかしい。

一応その旨を上条当麻に伝えようと初春が連絡をとろうとした。

初春「あれ?電話にでませんね」

電話が通じない。

訝しっていると神裂の電話が鳴る。

取り出し電話に表示された相手は土御門からだった。

上条刀夜に断りをいれその場を離れる。

土御門『ねーちんまで電話が繋がんないかと思ったにゃー』

表示通り土御門の声がする。

神裂「私までというともしかしてそちらもあの少年に電話が繋がらなかったのですか?」

土御門『ねーちんもか……海で遊んで電話を置き忘れてるぐらいならいんだが……万が一を考えると時間がない、本題だ。術者の正体が解った』

神裂「上条刀夜ですか」

土御門『はぁ?……ねーちんなんで解った?』

神裂「初春さん、彼女が上条刀夜氏に入れ替わり現象が起きてないことに気づかれて、口にされた訳ではないですが」

土御門『初春のお嬢ちゃんか、彼女ならって言うか上条刀夜に接触してるのか?』



神裂「はい、今から一緒に海の家へ向かうところです、それで儀式場は家そのものですか」

土御門『ああ、家が魔術回路になってやがる、ねーちんは上条刀夜から魔力を感じるか?』

神裂「いえ、全く。一般人と同じです」


土御門『やはりな、自立してるってことか……こいつを解決するにはハードルを幾つか越えないといけねえ』

神裂「一つは術者が解除の仕方が解ってない」

神裂も問題と思っていたことをあげる。

土御門『その通りにゃー、ド素人が偶発的に発動させちまったモンだ、解るはずもない。逆にプロでも解きほぐせるかは微妙、少なくともオレには無理だ』

神裂「土御門でも無理なのですか」

現在、能力開発のため魔術を使用するには制限がある土御門だが元々の実力は高く評価している。

土御門『残念ながらな、こいつは一つの魔術を機能させる代物じゃない』

神裂「?」

土御門『御使いを降ろすのが目的じゃ無いってことだ。カミやんの親父さんが願ったことを叶えるため儀式場が選択した結果だ。願いによっては幾百通りの魔術を発動させることも可能だ、プロの魔術師からは目的を達成させるには無駄と言える部分がそうさせている。言わばカミやんの実家は願いを叶えるため最適な魔術を発動してくれる巨大な霊装だな』

神裂「では御使いが降りたのは」



土御門『状況証拠だけだが、カミやんの親父さんが願ったのはカミやんが幸せであることだろうな』

神裂「先ほどまで話してましたが、それで間違いないかと」

土御門『そうか、やはりな。ねーちんみたいに幸運属性を与えようにも、カミやんの右手で弾かれちまうんだろ、それでカミやんの右手に負けない強大な守護天使でも付けようとしたんじゃないのか?それすら弾き、ねじ曲がった結果が『御使堕し<エンゼルフォール>』』

神裂「では天使は」

土御門『天使を受け入れられる器は少ない、弾かれた結果そこへ飛び込んだんだな。天使を降ろすことは出来ても、天使に与えられた神の命まで変えることはできない、天使は術者を殺してでも元の席に戻ろうとする』

神裂「ええ、土御門。良く見てますね」

土御門『その……ねーちん』

神裂「何です?」

土御門『天使にも術者の正体、バレちまった』

神裂「は?」

土御門『いやー、説得しようとはしたんだぜい?』

神裂「どういう事です?」

土御門『ロシア成教のミーシャって子、あれが天使でしたですたい』

神裂「ふざけてるのですか?」

土御門『ふざけては無い。一生の不覚だ、裏を取り忘れたオレが悪い』



神裂「それで天使は?」

土御門『説得する暇もなく飛び出して行きやがった。カミやんの親父さんを捜しに』

神裂「それでは」

土御門『正確な居場所は解らんはずだが海の家へ行くことは知っている、間違いなく、そちらに向かう。オレも急ぎ戻ろうとしてんだが魔術の使えないオレじゃ追いつかねえ、親父さんの保護を』

神裂「わかりました」

土御門『それとカミやんの方も何かあった可能性がある』

神裂「上条刀夜氏を保護しつつ、あの少年が危難にあっていれば助ければ良いのですね」

土御門『無理を言ってねーちん』

神裂「構いません」

土御門『助かる……あー、解決策だが』

神裂「はい」

土御門『告らせろ』

神裂「は?」

土御門『カミやんに幸せになって欲しい、親父さんの願い叶わない限り止めることはできないぜい』

神裂「そ、そうですが」

土御門『『御使堕し<エンゼルフォール>』なんつーのに巻き込まれた状態で幸せなんか感じようもないだろ、今のカミやんは』

神裂「それは」

土御門『なら、ぜひ告白を成功させて幸せ気分を味わって貰おうぜい』

此処まで



敵もさるものだった。

美琴「いい加減にしなさいよね」

ヴェント「こっちのセリフよ」

決着は中々つかない。

一応、上条が離れた位置に移動したお陰で美琴の負担が減り、有利には立っている。

が、一気に決着を付けようとした意図は見抜かれ、美琴の射程内にヴェントは入って来ようとしない。

上条が離れた後は本格的な攻防は2、3繰り返しただけで膠着状態が続いている。

そうなると気が焦るのは美琴の方。いつ天使の来襲があるやもしれないのだ。

美琴の目的は上条の安全、敵を打ち砕くのが目的ではない。たとえ目の前のヴェントを倒しても上条に何かあれば悔やむことになる。

だが、互いに決定打が出せない。今はせいぜいがフェイントを織り交ぜた威嚇の攻撃を行い、隙を窺うことぐらい。

今も電撃を撃つ素振りを美琴がすると、ヴェントはフェイントと見切り鉄槌を振り上げる。そしてそのまま振り下ろすかと思いきや振り上げた姿勢のまま。

フェイントと思わせ、ヴェントが気弾を撃つなら美琴は電撃を放っていた。ヴェントの攻撃は連射が効かない、鉄槌を振った後のタイムラグがある。その隙をつけば電撃から逃れられない予定であった。



鉄槌を振り下ろさないということはそれも読まれていた、ということ。

言葉のやりとりはその間のことだ。

美琴「まったく面倒なんだから」

ヴェント「言ってやがれ」

同じようなやりとりが続く。

不利を感じているのはヴェントの方だ。気弾と電撃、明らかに目標に到達する速度が違う。ヴェントの気弾は視覚外に気弾を発生させて不意を打てるという利点も、美琴にはレーダーで捉えられいる。それに連射性にも劣る。

ヴェント「さあ、どうすっかねえ」

ある程度の距離も確保して置かなければならない。下手に相手の陣地に踏み込めばそこは電撃の地雷原となっている、無力化されて終わりだ。結果距離が離れていれば攻撃手段の優位からヴェントの不利を覆すのは難しい。

では何故、膠着状態になるのか? ヴェントからしたら美琴は本気を出していないように映る、そして逆に本気であることも分かっている。

甘い、甘ったるくはあってもそれが当たり前、『神の右席』を前にしても不殺の信条を守っている、いやそんな信条を掲げている事さえ意識していない。

それがおこがましいとヴェントは言いたい。




ヴェントは言いたいのであるが、押さえ込まれているのも現実。

ヴェントにしても切り札さえ使えればという思いはある。が、使おうとすれば使えるのに使おうとしないのは美琴と同じ条件。

それを踏まえると言える立場でもない。

ヴェント「ホント……」

こう押さえ込まれている状況では目的の達成、標的の殺害は厳しい。で、あるなら一旦退くべきであった。態勢を建て直したうえで目的を達成する方策を練るべきであるのはヴェントも分かってる。

しかし、ヴェントが憎む科学、その総本山である学園都市が生み出した超能力者が相対している者だと理性より感情が先立つ。

退いてたまるか、という融通が効かない気持ちになる。

それを宥める状況の変化が無ければ退くのは許されなかった。


上条当麻はその様子を離れた場所にある岩陰から見守っていた。

上条「美琴に任せっぱなしで何をやってだよ俺は」

美琴からの指示とは言え何もせず見守ってるだけというのは忸怩たる思いだ。

手助けをしたいと思っても邪魔になるだけ。先刻の様相がそれを示し、美琴の想定通りにはケリを付けれなかったと言っても現状は優勢を保っているのは傍目からも見て取れた。

此処まで



上条が見守る中、ヴェントがジレたように攻勢に出る。

小康状態を保っていた場が動き出す。

ヴェントは激しく移動を繰り返しながら気弾を放つ。あらぬとこれから気弾が美琴を襲う。

上条の手を汗が湿らせる。

発生場所が見えぬ気弾を美琴は悉く捌いていく。

美琴に奇襲は通用しない。

にもかかわらずヴェントは跳ね、飛び美琴の照準を会わさせず、しかも一定の距離を保ちながら身体を揺さぶり気弾を次々と繰り出す。

先手を取り続け反撃を許さないつもりであろう。そして美琴の体勢を崩させ、その一瞬の隙をつき一気に詰め寄る戦法、と見て取れる。

ヴェントはかなり無理をしている。あれだけの機動を人間の身体で行っていれば長くは保たない。魔術の補助があったとしても本来のスペックは人でしかない、いつかは限界が来る。

それに遠くから見ているだけの上条にもパターンが見えてきていた。

あらぬ場所に発生する気弾、それを発生させるたびにヴェントは身体を大きく揺さぶっている。そして舌先から揺れる鎖でつながれた十字架、太陽の光を受けキラリと輝く十字架がヴェントの動作に合わせ舞う。その十字架に掠めるように鉄槌は振られていた。



おそらく、あらぬ方向から気弾を発生させる原理はそれだ。不軌道な動きをしている十字架がそれを生み出している。

それに気づかぬ美琴ではない、と上条が思っていると

気弾を躱した美琴が砂に足をとられる。

上条「あっ、美琴!」

美琴にも驚いた表情が浮かぶのが見えた。

よろめく美琴に向け、ヴェントが鉄槌を構え飛ぶ。

上条は思わず岩陰から飛び出し走る。

が、間に合う筈もない。

体勢を立て直す余裕を与えないため、ヴェントは間が空く気弾より自ら飛び込む方を選択した。

鉄槌による直接の一撃。

魔術を使わなくとも重量物、気弾を発生させるだけの霊装ではない、人間一人を昏倒させるなど訳はない。

その重い一撃が当たればである。

ヴェントが飛ぶ前、美琴に驚いた表情が見えた、それを見たヴェントは反射的に飛んでいた。

限界が近く、ヴェントには余裕がなかった。

今の美琴は

してやったり、といった表情に変わっていた。

既に射程圏。

ヴェントは考えていたタイミングより早く鉄槌を振る。美琴に当てる為でなく自身の身体を逃す為に美琴へ向かい続ける身体を止める為に鉄槌を降った。

降ろしきる前、ヴェントの身体に電気が走る。



美琴の眼前を砂が覆う。ヴェントがギリギリ放てた気弾のせいだ。

気弾を放つ前に手応えはあった。気弾の反動で逃れたとしてもダメージは与えた。

油断せず美琴はヴェントの姿を追っていると

「えっ、えー美琴、うあっ」

上条の声とズデンと転ぶ音が後ろでする。

美琴「……何をやってるのよ」

美琴が振り向くと音の通り上条が転けていた。

上条「美琴が危ないと思って」

心配のあまり飛び出しはいいが、実はワザと足をとられた振りをしてヴェントを誘ったことに上条も気づき、足を止めようとした、したものの勢いがつき過ぎて止まり切れず、上条の方が足を本当にとられて転けてしまった。

弁解するにも少し恥ずかしい上条だった。

美琴「ああ、うん。心配かけてごめんね」

上条の気持ちを推し量ったのか優しい美琴の言葉。

上条「ははは」

虚しい笑い声が零れる。

そこへ

ヴェント「よ、余裕じゃないの、くっ、まだ、まだ終わってねぇ、つーのよ、これぐらいのことで」

上条は起き上がり声の主を見る。

ヴェントは鉄槌を支えに砂浜に膝をつけながらも上体を起こしていた。そして震えながらも、もがき、立ち上がろうとしている。



美琴はゆっくりとヴェントへ向き直る。上条へと向いていた時も意識は外していなかった。美琴には目で逐わずともヴェントを警戒しておく術がある。

そして距離を置くことに成功していてもヴェントには抗うだけの力が残されていないことも分かっていた。

美琴「無理よ、できやしないことは分かってるでしょ」

今のヴェントは高電圧を受け、スタンガンを受けた状態と同じ、神経網が強烈に刺激され筋肉も収縮し身体の制御が利かない状態にされている。

それでも立ち上がろうとする、それが出来るのは、生命力から魔力を精製する過程で身体の制御に長けている魔術師らしいとは言える。

しかしそれで精一杯であることを美琴はインデックスとの旅の最中に起こった幾度もの魔術師との闘いの経験で知っている。

自律神経のような本来自分の意思では動かせない部分を制御することで生み出した生命力を魔力へと変換する。変換した魔力で魔術を使用するわけだが、身体の制御がままならない状態では魔力への変換は難易度が跳ね上がる。つまり今のヴェントでは魔術の使用は甚だ困難であった。

それでも

ヴェント「こんな小娘に、学園都市の紛い物に私は負けられないんだよ!」



美琴「ははは、紛い物ね。ならアンタはモノマネ師?おばさん」

まあ、過酷な旅を経てもまだ美琴も14才の少女である、小娘と言われ紛い物と言われたらさすがに腹が立つ、そこまで人間はできていない。

インデックスとの旅の最初、偶像理論の話しを聞き、美琴は素直にモノマネ師と言ってしまった。悪気はなかったが魔術とは神話などに出てくる神や英雄のモノマネをしている印象だったからだ。結果インデックスと大喧嘩をすることになり、以来禁句にしていたもののヴェントに言い放った。

ヴェント「舐めるな!『神の右席』はLa Persona superiore a Dioを目指す者、そこら辺の魔術師と一緒にするな!」

美琴「La Persona superiore a Dio?神上ね、もう少し聞いてみたいけど時間が惜しいわ」

次こそ完全に気絶させるために美琴は電撃を放とうとした。

上条「美琴、そこまでしないでも」

美琴「ダメよ、放っといたらまた当麻を狙って来るわ、せめて『御使堕し<エンゼルフォール>』が解決するまで黙らしとかないと」

上条「けどよ」

その時、浜辺の気配が変わる。

ヴェントにより覆われていた人払いの術式が浜辺から消えた。



ヴェントが術式を解いた訳ではない。別の強大な圧により押し出された印象だった。

感じていた違和感が別の違和感に取り変わっただけだ。

上条と美琴はその違和感の中心に目を向ける。

それは陸側。

二人にそのようなモノを見分ける感覚は備わってはいない、しかしこればかりは歴然としていた。

目を向けた先には一人の少女の姿をしたモノ。

昨日、上条を襲い最後は協力を約したロシア成教の魔術師を名乗っていた少女を象ったモノ。

押し隠していたモノを今は開け放っていた。

上条「ミーシャ?」

上条は象った少女の名、昨日聞いた名前を呼んだ。その名が今は正しい名前なのか分からない。正しい名前を教えて貰ったかも定かではない。

世界を一変せしうる存在がそこにいた。

ヴェント「はっ、天使様だ、分からなかったのか学園都市の紛い物?」

まだ身動きが取れないヴェントが答えを言う。

紛い物と呼ばれても今度は毒舌を返す余裕はなかった。

美琴「当麻こっちへ!」

少しでも上条を御使いから離すべく美琴は上条に呼びかける。

上条「でも、ミーシャなんだよな、昨日は俺が犯人じゃないって納得してくれたよな?」

昨日ミーシャは上条が犯人ではない事を納得した、今更上条を狙う理由は無いはず、そう思い上条は問い質した。

ミーシャ「問一。貴方の父親は何処か」

上条への返答はギリギリ人の枠を保った声による問いかけだった。

此処まで

半端なく忙しく更新できずに申し訳ありません
近々できるかと思います


上条「親父?」

ミーシャの問いに上条はそれしか返せない。ひどく空気が重かった。まるで深海の底に居るかのよう、手足を自由に動かせず、美琴の指示通りにその場から離れられなくなっていた。

そして何故、ミーシャに父親の行方を尋ねられるのか、それが結びつかない。

上条「なんで?」

答えは帰らない。

ベールと前髪に隠れていたミーシャの瞳がのぞく。

無機質。

見開かれた瞳は赤い光彩を放つ。でありながら奥が見えない水晶のごとし、目を会わせば深くどこまでも飲み込まれそうな印象。人が持ちえる瞳ではなかった、だから上条にその瞳を持つモノの感情などうかがい知れない筈。

それでも上条に伝わる。

言葉を介さずとも、雄弁に語る瞳でなかろうとも、それが答えだと言わんばかりに上条を射すくめる無機質な眼差し。


上条「まさか?」

行き着く答えは

上条「親父が『御使堕し』の術者だっていうのか、そんなわけがあるか!親父は魔術なんてもんに縁もゆかりもねーショボくれた普通のサラリーマンだぞ!」

上条は叫ぶ、訴える。

しかしミーシャの眼差しは変わらない。無感情、無個性でありながら狂おしく上条を見詰めたままだ。

ビギッと空気が震える。ミーシャが何をしたわけでもない、ただ内から溢れるモノを止められなくなっているだけだ。術者を見定めた事で抑制が効かなくなっていた。セールの前の日まで堪えていられたものが、開店当日1分前にまだ入口が開く気配がなく意味もなく焦っている、そんな心境に似ていた。

表情にはそれは見えない。見えなくとも漂う空気がそれを知らせる。

美琴「当麻!」

再び美琴が上条を呼ぶ。短い掛け声に決意が滲んでいた。

昨日話していた通り、天使が現れた際の対処は決めていた。


上条の心境からすると父親が『御使堕し』の犯人かもしれないというのは信じれないことであり、驚きをもたらされたことである。

が、シンプルに考えると今は『御使堕し』を解決せしめるチャンスであった。上条の右手、『幻想殺し』を上手く使えば天使を元の階層に送り返せる。

但し、状況は不利。美琴はヴェントとの一戦をこなしたばかり、疲れがないはずがない。

拳を固める。

左足を踏み出す、その一歩が重い。空気が深海の水より重いわけがない、精神的負荷だ。心にかかる重みを断ち切る、砂を噛む左足を踏み込む。土台にするには弱いが全身をバネとし、右腕を後ろへ振り反動をつける。

上条は駆ける。


その時にはミクロの単位でミーシャに変化が現れていた。

封じ込めてはおれない力が上条へと指向していた。本能と呼ぶ人間的な反応ではなくプログラム、自己防衛システムが上条の右手を危険と判断した結果であった。

上条(来る!)

恐るべき一撃が来るであろうことを予測した。

砂浜に脚をとられる、柔らかく沈む砂で踏みしめても普段のダッシュ力があるでもない、上条の右手は届かない。ミーシャの懐まで入り込めない。

さりとて、上条は避けようとはしない、全ての異能の力を打ち消す右手も引き絞ったまま突き進む。

判っていた。

上条の背後から雷光が駆け、傍らを抜ける。

美琴の援護射撃。

援護射撃と呼ぶには些か過少、全力で10
億ボルトの出力を持つ美琴、その全力での雷撃の槍。まともに喰らえば対象は消し飛ぶ威力だ。

それが、援護にしかならないことが天使の強大さを語る。

ミーシャの背から白い翼が瞬時に展開した。青白い光が瞬く、崩れる様子は見えない。


それで構わなかった、飛び込む一拍の時間があれば良かったのだ。手が届く距離に到達していた。

上条は引き絞った右腕をついに前へと発射する。

青白い輝きを残す空間へと右手を突き入れる。

上条「あっ?」

手応えがない。右手により美琴が撃った雷光は消えている、上条の右手の感触は雷光を消しただけだった。予想というか、上条は何か巨大なモノに触れるのではないかと思っていた、それがない。そしてそこには何も残ってはいなかった、ミーシャの姿は見えず

美琴「後ろ!」

美琴の注意が飛ぶ。

後退りながら振り返るは海辺。

そこには此処にいたはずのミーシャが立っていた。

立っていた、というには正確さを欠く。ミーシャの足元は海の上、海の中ではない。

つまり海の上に浮いていた、と書くべきだった。


そして一瞬、垣間見た白い翼を広げていた。偽らざる天使の翼。

ミーシャ、いや元の身体の持ち主の瞳の色なのか金色の瞳の周囲を赤い光彩が縁取る。

すっと手が動き、ミーシャはL字のバールを握る。それをゆっくりと天にかざす。還るべき場所を指し示しているかのようだった。天上へ指し終える、変化は唐突に起こる。

柔軟な羽毛のようだった翼が一つの房ごとに硬質なモノへ、水晶のような、砕いた硝子のような氷の塊のような、それが翼とは呼びきらないゴツゴツとした先端が鋭利なモノになる。さらに幾重にも枝分かれしていきミーシャは針山を背負っているようにも見える。

と同時にドン!!と地が揺らぎ、唐突に世界が目に見えて在り方を変えた。時がうつろい、急速に時間が過ぎていった感覚。まだ日は高く、太陽は光を降り注いでいた筈だった、ところが早回しのように地に沈む。大地は太陽を隠し、代わりに星々の姿を露にした。

美琴「とんでもないわね、ある程度予想はしてたけど……これ程とは」

上条「ああ、これはその地球の自転を進めたのか?」

美琴「それだけじゃないわ、あの月」

辺りは星空へと変わっている、星空ならば月がでていてもおかしくはない。昨日は三日月が浮かんでいた。

上条は空を仰ぐ。

上条「そんな……」

禍々しい蒼い満月。

上条「天体の位置関係まで動かしたって言うのか」


美琴「そうね、じゃないと説明がつかないわ……今の地揺れですんだのが非常識よ、私達が死んでないほうが不思議なくらい」

我々は地球のうえに立っていても感知できないが、地球一周は赤道上で約4万km、これを24時間で割ると一時間に1666kmのスピードで自転していることになる。それを半日程度、速めたか巻き戻したかは分からないが慣性の法則は無視できるものではない。科学的常識からすると地上にいる者が生きているのがおかしいのだ。

そのうえ、少なくとも月の軌道までをも変えたことになる。

天使の強大な力を目の当たりする。

ヴェント「 水の象徴にして青を司り、月の守護者にして後方を加護する者。 旧約においては堕落都市ゴモラを火の矢の雨で焼き払い、 新約においては聖母に神の子の受胎を告知した者。 常に神の左手に侍る双翼の大天使……『神の力』 。時を夜に月をかざし、海辺に立つ。属性である月と水を兼ね備え十全に力を振るえる舞台を作ったわけよ、あんたらにどうにかできんの?」

ヴェントがどういうつもりか解説してくれた。

が、聞いているうちに

美琴「あっ」

上条もミーシャへと駆け出すが既に遅かった。 ミーシャは空へと昇る。

機会を失う。

上条の右手なら天使を元の位階に還すことができるとにらんでいた。しかし、それは上条の右手が天使に触れてこそ、上条はその右手を除けばその辺にいる16才の少年と変わらない、16才の少年に空を翔べる特殊技能など持ち合わせて無い。

手の届く場所から離れられては困難さが一層増した。

上昇が止まる。

不吉な予感が上条と美琴によぎる。


その予感は当たってしまう。

蒼く輝く満月より光の輪が弾ける。一瞬にして水平線、地平線の彼方まで広がり、そこで止まった様子もない。過ぎ去ったあとの夜空には複雑な紋様が光の筋により描かれていた。

巨大な魔方陣が夜空に浮かび、地表を睥睨する。

ヴェント「マジか?」

どちらかと云えば上条と美琴を嘲笑気味であったヴェントの口調が切迫を帯びていた。

ヴェント「『一掃』を使おうって言うのか……こうなる前に片を付けときたかったのに……予想以上の荒業を使ってくれるねえ」

ヴェントは立ち上がる。

美琴「『一掃』?」

ヴェント「そうさ、『一掃』。かつて堕落した文明を滅ぼした火矢の豪雨さ、もちろん実物を見たことなんて無い 旧約に記された神話上の術式、こんなモノ持ち出すとはよほどキテるんだろうね、学園都市に落とすなら笑って見てるところだけど」

美琴「火矢?あの夜空の光、全てがそうだって言うの?」

上条もまた光の筋を目で追いかけ愕然とする。水平線に地平線の彼方まで続く光の筋、圧倒的光景に汗が吹き出し身震いが起こる。


上条「どこまで続いてるんだ……」

ヴェント「さてね、あんたの父親が術者だとして何処にいるかも分からないんじゃ、この国一帯か北半球を包み込んでるか、はたまた全世界を飲み込んでんのか、まだ世界の終わりを告げるラッパを鳴らす訳にもいかないしねえ」

美琴「へー 、手伝ってくれるの」

ヴェント「手伝う?冗談言わないでよね、あんたらと協力なんてできるか。こんなことで世界を終わらす?そんなことを見過ごせ無いだけさ」

ヴェントも戦列へと並ぶ。

天使は狂っているのだろう、『御使堕し』により地に引き摺り落とされ時点から狂いが生じていた、神が定めた審判までのプログラムも無視しようとしていた。残されているのは元居た位階への帰還 。

上条「『一掃』か?それを行うには時間がかかるのか?」

夜空を覆う光の魔方陣は輝くばかりで、まだ発動する気配はなかった。

ヴェント「世界を終わらす規模の術式よ、時間はかかる、天使であってもね。まあ過去 、伝説上の『神戮』でも執行猶予の時間はあった。これは……おおよそ30分くらいと言ったところか」

上条「30分」

美琴「その時間内にあの天使をなんとかしないとね」

逃れる時間も逃れられる場所も無い。世界の終わりを止められるのはこの場所に居る者のみ。

決意を新たにする。

頼みの綱は上条の右手、『幻想殺し』。届かぬ位置にいる天使に届かせねばならなかった。

此処まで

ごめんなさい、もう少し落ち着いたら続けますので

少し前

初春は絶句していた。

目の前で繰り広げられる光景に目眩がする。

親友の佐天がおどろおどろしいオーラを放ち上条父、刀夜氏を責めている。口に手をあてお嬢様風、笑みも浮かべているのにそう見えてしまう。

それを受けて、オドオドしている上条刀夜氏、その辺は親子なのか上条当麻にも通ずるものがあった。

そしてその後ろでは白井が管を巻いている。少々アルコールが入っているのか、うちの旅掛くんはとか、あの宿六がとかのたまわっていた。友人としては目を覆いたくなる光景、見て見ぬふりするのが一番と結論付ける。

『御使堕し』の影響、それは分かっていても心臓に悪い。悪いうえに他の配役も最低だ。インデックスは麦野、海の家の息子さんが浜面、これが演劇なら受けを狙ったミスキャストとして前衛的と評価されるか、狙いすぎと低評価、二三日で打ち切られるかのどちらかだ。


そして最後に初春はげっそりした。

「ありゃ、お客さん増えたか。うちだけ大繁盛だなガハハハハハハ」

昼食の仕込みをしていたのか遅れて出てきた海の家の主人。タンクトップにハーフパンツ、ねじり鉢巻といった出で立ち、豪快に笑っている。

彼の笑みはカッコつけてニヒルに笑うか気障ったらしく笑っている顔しか初春はみてない。それがガハハハである、太陽の光が歯で反射してそうなほど口許も目映い。

似合わない、というのが第一印象。自信家で大物っぽい雰囲気、を醸し出している。level5であればそれも頷ける、しかし初春は安っぽさも感じていた。反抗期の少年が背伸びをしている印象があった。

初春「ははは」

垣根帝督の姿をした海の家の主人とは反対に力無い笑いがこぼれる。

この状況に陥った上条の困惑が偲ばれたがこのまま漫然と流されるわけにもいかなった。

初春の知覚は異常を捉えていた。遥か先

美鈴「美琴ちゃんたら、当麻君と一緒に出掛けてまだ戻らないのよねえ?、浜辺に出ただけだから直に戻るでしょうけど…………若いって良いわね」

初春「あはは」

こちらもへべれけな白井の姿をした美琴の母親の言葉に乾いた笑いがでる、遥か先と言っても歩いて行けない距離ではない。

その二人がいる浜辺に異質な力、元の肉体の持ち主であるインデックスなら当然魔力と評した力が存在した。

初春「えーと、それでは私達も浜辺の方へ行ってみます」

詩菜「あらあら、待ちきれないのかしら?お邪魔に…………カメラはお持ちです?」

初春「えっ、携帯なら」

詩菜「もしもの時は撮影しておいて下さいね」

初春「もしも……………って!あわわわわわわわわわ」

美鈴「私達にも記念にまわすように」

初春は親とはこういうものだろうかと今度は絶句する。自分の親もまさか、と思いつつ特殊な例であると思いたいが自分が誰かとああなっている写真を見て親が笑みを浮かべている様子を頭のなかに描く。

そして、首を振った。親の様子ではなく、その写真の中で誰が自分とそうなっているか、無意識のうちに選んだその誰かの姿にそんな訳ないと慌てて首を振っていた。

初春「か、神裂さん行きましょう」

神裂「宜しいのですか」

その問いに含まれているのは写真の事ではない。ようやく詩菜の責めから解放され安堵の溜め息をついている上条刀夜の身柄、安全についてであることは察しがつく。

しかし、二人がいるであろう浜辺には強大な気配が迫りつつあった。恐らくは天使、魔力に誘われたか、そこに上条等がいることを確信し問い質すため。天使、ミーシャを押さえ込めば安全は確保できる。

それに万が一があったとしても

初春はそっと背後を見やる。

視線を戻し

初春「大丈夫ですよ、多分」

神裂に答える。

神裂「え、ああそういうことですか、では」

美鈴「じゃあ撮影お願いね」

初春「無いでしょうけど、その時には写真、撮っておきます」

短い会話を勘違いしているのはありありであったが時間が惜しい。

初春は神裂と共に浜辺へと向かった。

「おい、何処へ向かおうってんだ?」

「なーーーーンでオマエに答えなきゃなンねェ」

「はーーー、初春に頼まれただろうが今…………分かんなかったのか?」

「そンくらい、当たり前だァ、こっちに気づいてることぐれェ分かってる!此処を頼むって目が訴えてたのも分かる!だが、オレが後をつけてきたのは」

「珍しいよな初春がテメエに頼み事なんてよ」

「……………………」

「かくゆうオレも初めてだがな」

「………………………」

「折角、頼んでくれたんだ、初春を追う場面じゃないよな」

「くそっ」

「それじゃあ第一位はお留守番な」

「ってオマエだけなンで追おうとしてンだァァァ!!!」

「お兄ちゃんは言う事を聞く義務があっけど恋人は愛する人のためなら無視してもいいのさ」

「誰が恋人だァ!相手にもされてねェくせに厚かましいンだオマエはァ、天地がひっくり返るか、太陽が西から昇るかしねェ限り有り得ねェェェ!」

その時、世界が変わる。一般常識からかけ離れた存在である彼等にも埒外の現象であった。

「これは………………その類いか?」

「こいつは?」

青く澄み渡っていた空が星空へと変わっていた。

「第一位、まさか怒りのあまり自転を動かしたとかねえだろうな」

「わけねェ、そンなベクトルを動かしたら只ですむはずねェだろうが」

「ああ、急激な加速で世界は滅んでるわな」

生存報告代わりに


そして話は返る。

世界は危機に瀕していた。ヴェントによればざっと30分、その短い時間で世界の終わりを回避しなければならなかった。

天を覆う魔方陣を支えるように宙に浮く天使、ミーシャ。

三沢塾で対峙したインデックスと同格もしくはそれ以上、人の身で相対するには無謀の極みと言って良かった。

一つ勝機があるとすれば、世界を滅ぼす程の強大な魔術を展開しているため上条等に向け全力を傾けるのは流石に無理。そして上条の右手で、あくまでも可能性であるが天使をこの世界から天使が在るべき世界へと還すことができる。

そのためには

美琴「当麻、私の後ろに」

ミーシャが空虚な目で上条を見る。

上条「ダメだ、また盾になろうとしてくれてるのは分かる。だがな、これは俺の問題だったんだ、俺の親父が本当に『御使い堕し』を引き起こしたかは解らね、それでも親父を狙って、そのせいで世界が滅びかけるなら俺が止めないといけないんだ。美琴に守ってばかりいるなんてできねーよ」

美琴「そんなことじゃ」

上条の右手なら天使の攻勢も凌げる、上条に防御を任せておけば有利な展開も期待できる。同時に上条の右手は決着をつける切り札でもある。出来ることならその時が来るまで温存していたかった。

上条「美琴もそこのヴェントも万全てわけじゃないだろ」


激しい戦闘の後である。

上条「今度は俺が盾になる」

美琴「もう」

ならば、あの天使を上条の右手が届く距離に引き摺り降ろすのが美琴の役目だ。


そして話は返る。

世界は危機に瀕していた。ヴェントによればざっと30分、その短い時間で世界の終わりを回避しなければならなかった。

天を覆う魔方陣を支えるように宙に浮く天使、ミーシャ。

三沢塾で対峙したインデックスと同格もしくはそれ以上、人の身で相対するには無謀の極みと言って良かった。

一つ勝機があるとすれば、世界を滅ぼす程の強大な魔術を展開しているため上条等に向け全力を傾けるのは流石に無理。そして上条の右手で、あくまでも可能性であるが天使をこの世界から天使が在るべき世界へと還すことができる。

そのためには

美琴「当麻、私の後ろに」

ミーシャが空虚な目で上条を見る。

上条「ダメだ、また盾になろうとしてくれてるのは分かる。だがな、これは俺の問題だったんだ、俺の親父が本当に『御使い堕し』を引き起こしたかは解らね、それでも親父を狙って、そのせいで世界が滅びかけるなら俺が止めないといけないんだ。美琴に守ってばかりいるなんてできねーよ」

美琴「そんなことじゃ」

上条の右手なら天使の攻勢も凌げる、上条に防御を任せておけば有利な展開も期待できる。同時に上条の右手は決着をつける切り札でもある。出来ることならその時が来るまで温存していたかった。

上条「美琴もそこのヴェントも万全てわけじゃないだろ」



激しい戦闘の後である。

上条「今度は俺が盾になる」

美琴「もう」

ならば、あの天使を上条の右手が届く距離に引き摺り降ろすのが美琴の役目だ。

その天使は上条だけを見ていた。危険と判断しているのはやはり右手。自身を脅かす可能性があるのは異能を打ち消す右手、それさへ警戒していれば夜空に展開した魔術が発動し元の位階へと還れる。

邪魔をする者は排除。

今一度、力を集める。海水を集める。背中に生える針山のような翼が一気に伸びる。

美琴「来る!」

翼の一翼、70mほどに伸びた翼の一つを天に掲げ、上条へと落とす。

力が入っている様にも見えず、ただ重力に引かれ倒れていくだけに見える。

それで十分であった。翼には『天使の力』が封入されている。その一撃は天罰に等しく一つの街を全壊させる。

本来ならば

降り下ろされた翼は上条へと、人に向けるには凶暴な力、上条を打ち据えるどころか地形を変えかねない翼は地に触れることなく人の背の高さぐらいで止まっていた。



上条の右手がその強大で神の力そのものである翼を支えていた。

刹那の拮抗の後、水晶か氷柱かに見えた翼は解きほぐされたように空中で液体へと変わった。

飛沫となって上条にかかる。

上条「水?」

ヴェント「言ったろ『神の力』は水の象徴だって、ここの海から力を得てんだっと」

言いながらヴェントは鉄槌を振る。

横合いから空気弾が天使を襲う、が翼が遮る。天使本体は身じろぎもしない。

ヴェント「チッ」

ヴェント「おっと不敬だわね……………」

神の右席、神の横に侍らんとしその先を目指す者。しかしそれは目標であり道半ばである。今はまだ神の力、天使の属性を借り受け利用しているに過ぎない。その前に神の右席とて十字教、ローマ正教の信徒。天使とはその信仰の対象となる神の御使いにして執行者。本来なら抗うにも抗い難き存在。

ヴェント「手伝うと言ったもんのこれは何ができるもんかねえ?」

美琴「少しでも注意を逸らしてくれるだけで十分よ!」

美琴も電撃を放つ。天使は同様に翼をもって遮る。





美琴「このっ!水でできてるなら電気が通っても良さそうなのに!」

ヴェント「天使の力が通ってんだ、そんな単純なもんであるか、科学の常識で計るな!」

風と雷を防ぐために折り畳んだ翼を広げる。

そしてそのまま

豪ッ!!!

今度は風が唸る。空気に振動が走った。真上からの一撃とは桁違いの力が込められていた。

横凪ぎに払われた翼が上条に迫る。

結果は

上条の右手が受け止める。

先ほどと同じ、とまでは言えない。元である水に還元されるまで時間がかかった。しかし上条は無傷。

上条「やれる、これなら」

天使の強大な力も異能の力である限り上条の右手で打ち消せる。

強気な上条の言葉も頷ける。





天使の表情は変わらない。無機質で空虚な眼差しに頬の筋肉を一つも動かす気配もない。

焦りが有るようにも見えない。

が、足下の海がざわめき吸い上げられていく。力を蓄え直す。より強固に水でできた翼、水翼を強化する。

それでも結果はさほど変わらないと美琴は予想できる。神の奇跡さえ打ち消す上条の右手に宿る『幻想殺し』、その前にはいくら水翼を強化したとも儚い幻想として消える。

だが同時に現状のままではこちらも打つ手が無いに等しい。

上条が守りに専念していては何時までも天使に届かない。残り時間は幾らあるのか、今の攻防でも時間は過ぎている、世界の終わりまで時間が無いのはこちらである。

美琴はスウッと意識を深める。世界へと意識を解き放つ。

絶対の力、絶大なる力、人の身では辿り着けない神の意思へと至る道。学園都市の目的は神ならざる身で神という概念に等しいモノを創ろうとする業。まだ美琴もその一歩を踏み出し遥かな頂を目指し歩み始めたばかり、level5でもそうなのだ。

しかし、深淵を覗いた事がある。一方通行との戦いの最中に限界を超えた領域に足を踏み入れた事がある。




此処まで
はじかれたと思ったら入ってましたか……二重投稿メンゴ


十数本の水翼が踊る。轟音が鳴り、風が蠢き、大地が震える。

上条の右手一本ではさばききれない数で押し切るつもりであろう。

天使が背負う針山のように連なっていた水翼が一斉に上条に襲い掛かる。真上から右から左から、それだけではなく上条の背後へも回り込もうともする。

それに対し、まずヴェントが対処する。発生した暴風を味方につける。風はヴェントの属性、力の源。巻き込み束ね水翼を押し返す。が、それは些細なもの、力の量、扱える力の総量が天使とは神の右席と言えども違い過ぎた。僅かに水翼の連携を乱すのみ。

それでも上条には十分な援護となった。

風に抑制された水翼は同時ではない、先に到達した真上から降り下ろされた水翼を右手で掴む。水翼は一瞬では砕かれず、水に直ぐに還元されない。それを、上条は左に捻る。次に迫る、左側から向かってきた水翼へとぶつけた。さらに返す右手で右側からの水翼を防ぐ。

三沢塾での戦いが生かされていた。

そして捌ききれない水翼が爆ぜる。青白き光が跳ね水翼を打ち返す。夜空を照らす光が上条の周囲で瞬く。


十数本の水翼が踊る。轟音が鳴り、風が蠢き、大地が震える。

上条の右手一本ではさばききれない数で押し切るつもりであろう。

天使が背負う針山のように連なっていた水翼が一斉に上条に襲い掛かる。真上から右から左から、それだけではなく上条の背後へも回り込もうともする。

それに対し、まずヴェントが対処する。発生した暴風を味方につける。風はヴェントの属性、力の源。巻き込み束ね水翼を押し返す。が、それは些細なもの、力の量、扱える力の総量が天使とは神の右席と言えども違い過ぎた。僅かに水翼の連携を乱すのみ。

それでも上条には十分な援護となった。

風に抑制された水翼は同時ではない、先に到達した真上から降り下ろされた水翼を右手で掴む。水翼は一瞬では砕かれず、水に直ぐに還元されない。それを、上条は左に捻る。次に迫る、左側から向かってきた水翼へとぶつけた。さらに返す右手で右側からの水翼を防ぐ。

三沢塾での戦いが生かされていた。

そして捌ききれない水翼が爆ぜる。青白き光が跳ね水翼を打ち返す。夜空を照らす光が上条の周囲で瞬く。



それは予想以上であった。捌ききれない水翼は美琴が何とかしてくれるという信頼はあった。

水翼は青白き光に爆ぜ、押し返される。数十もの青白き光、雷が水翼を塞ぎ止める。次々と上条に迫っていた水翼、上条の手前で砕かれていた水翼が次第に上条より離れた場所で砕かれ始める。上条と天使の間、その中間点までさしかけ攻防を変えた。

青白き光が天使の間際まで攻め返す、水翼は重なり層を作り、天使を守る。数十の雷が一つに束ねられ濁流のごとく天使を襲う。一際大きな光が目をくらませる。

美琴「だめね」

美琴が呟く。

打ち砕かれていた水翼は何事もなかったように再生していた。月光が降りおり海から水を吸い上げ続ける。巨大で無限に近い力の供給元。天使に有利なステージに変えられている状況はかくも不利だった。

美琴「これだから」

相手に支配された舞台で戦う不利はこれまでも味わったことがある。

基本的には力の供給源を断ち切るか、この場合なら再生を上回る速度で打ち砕いていくしかない。

月光を断ち切る、海からの吸い上げを止める、残念ながらその手立てが無い。再生を上回る速度は可能かもしれない、しかしそれは天使の仮の棲み家である元の持ち主の肉体を打ち壊しかねない。



上条「美琴、それは………」

思考に耽っていた美琴が我に返ると上条の焦りを浮かべた顔が見える。

美琴「え、あっこれ?」

美琴の姿は燐光に包まれていた、それは一方通行戦の後に消え去ろうとした様子に酷似していた。

上条「俺が頼りないばかりに」

苦悶の表情。

天使戦では美琴に負担をかけない、何より身内が引き起こしてしまった現象なら自らの手で、という思いが上条は強かった。

それが、また美琴を失うかもしれない場面に直面している。

美琴「大丈夫よ、同じ過ちはしないから」

上条「本当にか?」

上条の問、真剣な眼差し、瞳の奥に見える不安。

安心させる言葉は余計に不安を掻き立てる。

嘘はつけない。

美琴「長引かない限りね」

上条「どれくらい?」

美琴「さあ?30分はもたせるわよ」

それぐらいは大丈夫、確信があるわけではないが言えた。


美琴を包む燐光は力の現れ、膨大な力を秘めているのは見てとれる。同時に危うさも、また内包している。

自意識を繋ぎ止められるギリギリのところ、気を緩めたりすれば、あっと云うまに押し流されそうな世界と云う名の圧倒的な情報量。それこそが力の源、それをコントロール下に治める精神力。一時の休息も許さない力と対峙する規格外の存在である天使、精神の疲弊も当然。

水翼を再建した天使がその水翼を振るう。

上条「くそ」

真上から降り落ちる水翼を上条は右手で打ち砕く。

上条「くそっ!」

間髪いれず、右より迫る水翼を右手で払う。

上条「くそっ、くそっ!」

次は左、3本同時。電撃を受け吹き飛ぶ。




30分はもたせるという言葉の意味。

それが呻きに似た声を上条に吐かせる。

30分という時間、それは天使が発動する魔術のタイムリミットと同じ。

魔術を止めるために、そのためには意地でも美琴はもたせるだろう。が、魔術の発動にはタイムリミットがある、30分以上持たせても意味はない、北半球が壊滅してしまえば世界の終わりと同義。肉親や親しい友人、その他の人々も喪われるのだ。

それを回避するため、美琴はタイムリミットが来る前に限界を突破して天使を止めに入る。

その結果は…………分からない。一方通行戦後のように引き戻せるか?目の前で美琴を喪ってしまうのではないかと感じた恐怖が甦る。

させてなるものかと、上条は吠え拳を振るうしかない。30分のうちに解決の糸口を見いだすしかない。




天使の方はと言うと、方針を改めていた。

十数本の水翼が上条を狙い上下から左右から正面か迫る。右手一本で受けきれるとも思えないそれらを上条は怯むことなく待ち構える。踏み出す一歩に備える。

そして雷光が走り瞬く。

撃ち漏らした水翼にだけ拳を合わせ、天使に向かって駆ける。届くかは分からない。それでも水翼を一時的に失なった直後しか右手を届かせる機会を上条は見出だせなかった。

が、違和感。

雷光が駆け、水翼が砕かれたかに見える。

しかし、それは違っていた。

水翼は自らを砕いていた。

破片が砲弾となる。

天使の目的は元の位階へと還ること、唯一つ。その手段として地上を一掃、術者を排し『御使堕し』を止める。上条達への対処は『一掃』を邪魔する者として排除するのみ。しかし、『一掃』を支えながらでは上条達へ割ける力は1/10以下、それでは易々と排除されてくれそうもなかった。先程は人に有らざる程の電撃であと一歩まで迫られた。『一掃』を停止したうえなら恐れることは無いにしても、彼方も全力ではないと見切っていた。

ならば手数で圧倒し、此方に手を出させる余裕をなくせば良い。

砕け散った水翼の破片、十数本の水翼から数百の氷の砲弾が上条へと集中する。

譏取律

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