ゆっこ「なのちゃん、キャンプ来なくて正解だったかも」なの「え?」(167)


はかせ「なのー、あそぼー」トテトテ

はかせ「あれ? なのー? ……あ」

なの「あ、はかせ……どうしました?」キュッキュッ

はかせ「……どこ行くの?」

なの「ちょっと、その……遊びに行ってくるだけですよ」

はかせ「え!?遊びに行くならはかせも一緒にいくー!」

なの「あー……すみません、映画を見に行くので……」


はかせ「……はかせも映画みたいんだけど」

なの「その……はかせには、まだちょっと早いというか」

はかせ「何で!? みーる―!」バタバタ

なの「うう……阪本さん!」

阪本「んあ?……なんだ?」パチッ

なの「はかせのこと、頼みました!」ペコッ

阪本「はっ? や、ちょっ待てよ!」

なの「それでは!」ダッ


はかせ「…………」ポカーン

阪本「ど、どうしろってんだよ……」オロオロ

はかせ「……ふん!」ゲシッ

阪本「ぐえっ!?」

はかせ「…………」ステステ

阪本「いってぇ……なんだありゃ」

はかせ「……なののばか」ボソッ


………………………………………


タッ タッ タッ タッ タッ タッ タッ タッ タッ

なの「ふう……待ち合わせより早く着いちゃった」

なの(……はかせには悪いことしちゃったかな……)


ゆっこ「おっ、なのちゃん早いねー、待った?」トテトテ

なの「あっ、相生さん! ……私も今来たところです」

ゆっこ「そう?……そんじゃいこっか!」

なの「はいっ!」トテテテ


カメラ的な何か「………」ジー…


………………………………………


ブオン… ブオン…


はかせ「……むー」カタカタ

はかせ「ゆっこと遊んでる……」

はかせ「…………」プクー

はかせ「……大っキライ!」


………………………………


ゆっこ「いやー、いい話だったね!……なのちゃん?」

なの「……す、すみません……感動してしまって」

ゆっこ「おお、そこまで……まあ、まみおが契約するシーンは私も泣いちゃったけど」

なの「それもありますけど、やっぱりウッドキュウべえが良かったですね……」

ゆっこ「え? あれ悪役じゃないの?」

なの「いえいえ、あれがなければここまででは……っと」

なの「その……ちょっとお茶でもしていきませんか? 話が長くなりそうですし」

ゆっこ「うわ、なんかスイッチ入ってるね……まあ、ちょうど喉乾いてたから賛成かな」

なの「じゃあ行きましょうか!」テッテッテ


…………………………………………


はかせ「…………」

はかせ「ここをこうして……っと」ガチャガチャ

はかせ「……できた!」

はかせ「うぷぷ……」ニヤニヤ


阪本(ガキのやつ、何作ってんだ……?)

阪本(リモコン?……変なことにならなきゃいいが)


……………………………………………………


ゆっこ「なるほどー、オギさんが最後に言ってた円環のラブドってそういうことだったんだ」

なの「わたしはそうなんじゃないかと思います」

ゆっこ「ただ変なだけの人じゃなかったんだね」

なの「もちろん! 私はオギさんが一番好きですね……あっ!」

ゆっこ「どうしたの?」

なの「もうこんな時間……」

ゆっこ「本当だ、もう帰らなくちゃね」ガタッ

ゆっこ「……今日は楽しかったよ!」

なの「はい!……私もです」


ハーイ アーリアッシター… ウィーン


なの「……それじゃあ、また明日」

ゆっこ「うん、じゃあね!」


…………………………………………


――研究所


ガチャッ ガララララ


なの「ただいま……遅くなってすみません」

はかせ「あ、なのおかえりー」

なの「………?」

はかせ「? どしたの?」

なの「え? いえ、なんでもありません……すぐ夕飯にしますね」トテテテ

なの(……意外と怒ってない……)

なの(まあ、子供は気まぐれだし……そういうこともあるか)


はかせ「…………」ピピピピ…

はかせ「………ぷぷぷ」


……………………………………


――数日後 通学路



なの「あ、相生さん!おはようございます」タタタ

ゆっこ「おお、スラマッパギ!」

ゆっこ「……あ、そういえば……」

なの「なんですか?」

ゆっこ「昨日のキャンプ、散々だったよ……カレーはこぼすしさー」

なの「………?」

なの(キャンプ? 何の話だろう……)


ゆっこ「なのちゃん、来なくて正解だったかも」


なの「………え?」


ゆっこ「あ、でもちゃんと連絡くらいはしてほしい、ってみおちゃんが言ってたよ」

なの「えーと、あの……」

ゆっこ「流石にドタキャンは困るんだってさ……でも細かいよねえ」

なの「あ、あの!」

ゆっこ「? 何?」

なの「えーっと……その」

なの「キャンプって……何ですか?」

ゆっこ「……ほら、河原で野宿とかする……」

なの「そ、そうじゃなくて、その……さっきから言ってる、キャンプって何のことですか?」

ゆっこ「え? ……忘れちゃったの?」

ゆっこ「昨日……みんなでキャンプに行こうって約束してたじゃん」

なの「……え?」


なの「えーっと……ど忘れしちゃったかな……?」

なの「それって、いつ決まったんですか?」

ゆっこ「……一週間くらい前からかなあ」

なの「え……そんな前からなんですか?」

ゆっこ「うん、まあキャンプだからね」

ゆっこ「色々と計画立てなきゃいけないってことになってさ……」

なの「……そんな」

なの(どうしよう……ぜんぜん覚えてない)

なの(それくらい前からなら、ちょっとくらい覚えててもよさそうなのに……)

なの(それにドタキャンって……私が忘れてたせいで、皆さんに迷惑を……?)クラッ

ゆっこ「……なのちゃん! 大丈夫!?」ユサユサ

なの「あ……だ、大丈夫です……すみません」

ゆっこ「そう?……ならいいけど」

なの(……これは、ちょっと……)

なの(……普通じゃないかもしれない)


――研究所


ガチャ ガララララ


なの「はかせ!……どこに居るんですか!?」トテトテ

はかせ「ん? どしたの?」

なの「あ、はかせ……ちょっといいですか?」

はかせ「うん、なーに?」

なの「その……私の頭、何か故障とかありませんか?」

はかせ「故障? なんで?」

なの「実は……覚えてるはずのことを、忘れちゃってるみたいなんです」

はかせ「…………」

なの「ただ忘れたとかじゃないんです……まったく思い出せなくて」

なの「もしかして、機械のほうの故障なんじゃないかって……」

はかせ「……なの、それってもしかしてキャンプのこと?」

なの「……え? そう、ですけど……」


はかせ「………ぷぷっ」

はかせ「あはははははっ!! あっはははっ!」ゲラゲラ

なの「……はかせ?」

はかせ「ひー……それ、故障じゃないんだけど」

なの「……どういうことですか?」



はかせ「だって、それははかせが消しただけだもん」



なの「は……?」


はかせ「じゃじゃーん! このリモコンを使えば、なの頭の中をいじれるのです!」スッ

なの「頭の……中?」

はかせ「えへへ、昨日作ったんだ」

なの「何で……そんな、ものを」

はかせ「なのが遊んでばっかりいるから悪いんだもん!」ポチポチ

なの「…………」

はかせ「ほら、こうやって記憶を簡単に消せて……」



パアン!



はかせ「………え?」

なの「…………」


はかせ「え、えっと……な、なんでぶつの?」サスサス

はかせ「……ふあ」ウルッ…

なの「当たり前じゃないですかっ!!」

はかせ「ひっ……」ビクッ

なの「……こんなもの!」バ゙シッ ゲシゲシッ バキッ!

はかせ「あ……り、リモコン……」

なの「はあ……はあ……」キッ

なの「……なんてことするんですか」

はかせ「え、えっと……」

なの「こんな機械を作って……知らない間に記憶を消して!」

はかせ「……うっ」ウルッ

なの「やめて下さい!……泣きたいのはこっちです!」

はかせ「……っ!」


なの「相生さんとの……大切な約束だったのに!」

なの「どうして……どうしてこんなひどい事が出来るんですか!?」

はかせ「それは……だって、なのが……」オロオロ



なの「うるさいっ!……この人でなし!」



はかせ「っ!!」ビクンッ

阪本「ちょっ、ちょっちょっと待て! お前らどうしたんだ!?」タタタッ

はかせ「…………」

なの「はあ……ぐすっ……」


阪本「な、何があった?……おいどうしたんだよ?」

なの「……知りません、もういいです」スクッ

阪本「あ?……おい、娘! どこ行くんだよ!」

なの「…………」スタスタ


ガチャ ガララララララ… ピシャン!


はかせ「…………」

はかせ「……は……だから」ブツブツ


阪本「……な、なんだよ、何があったんだよ……」

はかせ「……を……して」ブツブツ

阪本「おいガキ、お前娘に何をした?」

はかせ「……へ……した」ブツブツ

阪本「……ガキ?」

阪本(?……何言ってんだ……?)ソッ



阪本「――っ!!」ゾクゾクッ

阪本「……お、お前……」

はかせ「…………」スクッ

はかせ「…………」スタスタ

阪本「…………」

阪本(元々、どっか不自然だとは思ってたが……)


阪本(……この家も、もうおしまいか?)


…………………………………


なの「…………」トボトボ

なの(言い過ぎたかな……)

なの(……ううん、私、全然そんな風に思ってない)

なの(それだけ……ひどいことをされた)

なの「…………」

なの(人でなし、かあ……)

なの(でも、私だってそうだよね)


なの(人間じゃ……ない……)


なの(……記憶を、あんな、簡単に消せちゃうなんて)

なの(親戚も居ないし、頼るところもない……)

なの(結局私は……研究所から出れないのかな)

なの(じゃあ……私はこれからどうなるんだろう?)


なの(……私って何なんだろう)

なの(生まれてきてから、一度も疑問をもったことが無かったけど)

なの(はかせは……何のために私を作ったんだろう)

なの(……愛もないのに?)

なの「…………」クラッ

なの(う……リモコンの影響かな、頭がクラクラする……)

なの「………」フラッ


――ガシッ


ゆっこ「……なのちゃん? 大丈夫?」


なの「……相生、さん?」

ゆっこ「どうしたの?こんな所で……帰ったんじゃなかったの?」

ゆっこ「それに、なんかふらふらしてるけど……」

なの「あ……」ホロッ

ゆっこ「な、なのちゃん?」

なの「うう……うわああああん」ドバーッ

ゆっこ「ええーっ!?」


ザワザワ…


ゆっこ(しゅ、周囲の目線が……)キョロキョロ

ゆっこ「なのちゃん! と、とりあえずうちに行こうか! ね!?」ワタワタ

なの「ひっ……えぐっ……はい……」

ゆっこ「さ、さあ、もう行こうか、ね?」テテテテ


ゆっこ(……なんだこの状況ー!?)


――相生邸 ゆっこ部屋



ゆっこ「……落ち着いた?」

なの「はい……すみません、ご迷惑をおかけして」

ゆっこ「いや、それはいいけど……その……」

ゆっこ「……もしかして、家出?」

なの「……はい」

ゆっこ「そっか……」

なの「…………」

ゆっこ「…………」

なの「…………」

ゆっこ「……なのちゃん」

なの「はい……?」


ゆっこ「今夜は……うちに泊まってく?」


――夜


ホー… ホー…


なの「…………」

ゆっこ「ぐー……すぴー……」

なの「……相生さん?」

ゆっこ「ぐー……ふがっ……すぴー……」

なの「寝ちゃったんですか?」

ゆっこ「ぐかー……すう……」

なの「…………」


なの「……私、実はロボットなんです」


なの「はかせが私を作ってくれて……昔は、研究の手伝いとかをしてました」

なの「……でも最近、そのことが嫌になってきてるんです」

なの「今まで、そんなこと考えもしなかったけど……」


なの「私……やっぱり、人間じゃないんですよね」


なの「腕がとれたりネジがついてたり……簡単に記憶を消せたり」

なの「でも、はかせはそれを……いつも都合よく利用するだけで」

なの「……私、思うんです」

なの「はかせは……私を、ただの代わりとしてしか見てないんじゃないかって」


なの「多分……子供の人形遊びと一緒なんです」

なの「居ない家族の代わりに、人形を作っただけで……」

なの「だから、思い通りにならない私のことなんかどうでもいいんです、きっと」

なの「いらなくなった人形を、捨てるみたいに」

なの「捨てるんです、いつか」

なの「……………」

ゆっこ「ぐー……ぐー……」

なの(……もう寝よう)クルッ


――ギュッ


なの「……!」

ゆっこ「……なのちゃん」


ゆっこ「……私は好きだよ、なのちゃんのこと」

なの(……え)

ゆっこ「人間でもロボットでも、この、なのちゃんが好き」

ゆっこ「だから……そんなに不安にならなくてもいいんだよ」


ゆっこ「もし、はかせがなのちゃんをそんな風に思ってても……」

ゆっこ「……本当になのちゃんを好きな人は、ここにちゃんと居るから」


なの「…………」

ゆっこ「難しいことはわかんないけど……それだけは言いたかった」

なの「…………」


ゆっこ「……ふわあ……ちょっとトイレ行ってくるね」ムクッ


テテテ ガチャ ギイ… バタン


なの「…………」

なの「…………」ムクッ

なの「ごめんさい……でも私、帰らなくちゃですね」


テテテ…


……………………………………


テッ テッ テッ テッ テッ テッ テッ


なの「…………」

なの(書き置きは残しておいたけど……相生さんには悪いことしちゃったなあ)

なの(……はかせ、まだ怒ってるだろうなあ……)

なの(でも、やっぱりこのままにはしておけないよね)

なの(私のほうが、妥協してあげないと……)

なの「…………」

なの(……この私が好き、かあ……)

なの「…………」

なの「……えへへ」


テッ テッ テッ テッ テッ テッ テッ テッ…


……………………………


はかせ「…………」ガチャガチャ

はかせ「…………」ガチャガチャ

はかせ「…………」ガチャガチャ

はかせ「……できた!」

はかせ「…………」ニヤ


…………………………………………

ここで2ルートに別れるんだけど、
バッドエンドのAルートとハッピーエンドのBルートどっちがいいかな
多かったほうを最初に書く もう一方はその後に書く

わかった Aだな


……………………………



なの「……ん?」テテテ


ウー カンカンカンカン…


なの「なんだろう……火事かな?」

阪本「はあっ……はあっ……」テッテッテッ…

なの「あれ?……阪本さん?」

阪本「はあっ、はあっ……娘か!?」タッタッタッタ

なの「どうしたんですか阪本さん?こんな夜中に……」

阪本「はあ……大変なことに、なった……」

なの「阪本さん?……何があったんですか?」


阪本「研究所が……火事に……!」



……………………………………

――東雲研究所


ウー! カンカンカンカンカン!


ザワザワ ザワザワ


なの「……そんな」

阪本「何もできなくてすまん……気がついたら家中に火が回ってて」

阪本「……俺だけ逃げ出すのが、精一杯だった……」

なの「…………」


タタタッ…


なの「……あれっ?」


なの「……今の、もしかして」

なの「はかせ……? はかせっ!」ダッ

なの「はかせ!? ……あれ? 居ない……」キョロキョロ

阪本「……? どうした?」

なの「今、人ごみの中にはかせが……」

阪本「娘……すまん、ガキは多分、もう……」

なの「…………」


なの(……見間違い? 本当に……?)



ゴオオオオオオ……



…………………………………………



チチチ… チュンチュン


なの「………ん」パチッ

なの「…………」ムクッ

なの「ふわあ……夢か……」グシグシ

なの「…………」ポケー

なの(……嫌な夢だったなあ……)

なの「……ふう、そろそろ起こさなきゃ」



ゆっこ「ぐー……すぴー……」

なの「相生さーん、起きてください、もう朝ですよー」

ゆっこ「うあ……あと五分……」

なの「もう……いつもこうなんだから」

なの「……でも、気持ちよさそうに寝てるなあ……ふふっ」

ゆっこ「ぐかー……すー……」


………………………………


ジャー トントン


なの「えーっと、今日はお弁当いらないんだっけ……」


ガチャ


ゆっこ母「……あら! もう起きてるの?」

なの「あ、お母さん、おはようございます」

ゆっこ母「悪いわねえ……朝ごはんまで作ってもらっちゃって」


なの「いえ、今日はちょっと早く起きちゃったので……」

なの「……それに、いつも作ってもらってますから、たまには」ニコッ

ゆっこ母(……なんて良い子なの……っ!)ブワッ

ゆっこ母(……それに比べて)


ガチャッ


ゆっこ「おはよー……あー良い匂い」トテトテ

ゆっこ母「くぉらぁ!!あんたもちょっとはなのを見習いなさいよ!」ベシッ


ゆっこ「はびっ!」ポーン

なの「あわわ……だ、大丈夫ですか?」

ゆっこ「う、うん……なんとか」

ゆっこ母「本当に優しいわねえ……」ウルッ

ゆっこ「……お母さんがぶっ飛ばしたくせに……」ボソッ

ゆっこ母「おらああああっ!!」ブオン!

ゆっこ「うっはあああっ!!」ビダァァァン!!

なの「相生さーん!」タタタ

ゆっこ「」ピクピク

なの「……まだ息がある……良かった」ホッ

ゆっこ「…………」


………………………………

――通学路



ゆっこ「あー、まだ体がバキバキ言ってる……」バキバキ

なの「あはは……お母さん、正確に急所狙ってましたからね」

ゆっこ「……っていうか、私になのちゃんの真似なんて出来るわけないじゃん」バキバキ

なの「そうですか? 相生さんって料理上手じゃないですか」

ゆっこ「いや、心構えの問題っつーか……」バキバキ

ゆっこ「……ところでさ」バキ

なの「はい?」

ゆっこ「お母さんのことはお母さんって呼ぶのに、なんで私だけまだ相生さんなの?」

なの「あー……慣れ、ですかね……」

ゆっこ「もうなのちゃんだって相生さんなんだし、いつまでもそれじゃおかしいよ?」

なの「う……じゃあなんて呼べばいいでしょうか?」


ゆっこ「うーん……普通にゆっこでいいけど」

なの「……ゆ……ゆっ……」

なの「……祐子……」

ゆっこ「…………」

なの「す、すみません……でも、あだ名呼びはちょっと恥ずかしいと言うか……」

ゆっこ「いや、別になんでもいいけど……」

ゆっこ(どっちかって言うと、名前呼び捨てのほうが恥ずかしい気がするなあ……)

なの「………はあ」

ゆっこ「……どしたの?」

なの「もう、一年くらいになるんですね……」

ゆっこ「……そういえばそうだね」


なの「あの……火事から」


…………………………………………


……あの時の火事で、東雲研究所は全焼しました。

火事の原因は不明。 死体も一切見つからなかったそうです。

私と阪本さんは相生さんの家に引き取られて、今は幸せに暮らしています。

阪本さんは、前より自由が減ったとかぼやいてますけど。



………あの時阪本さんは、気がついたら火が回っていた、って言ってました。

でも、人間よりずっと勘がいいネコが、そうなるまで気付かないものでしょうか?

警察の人も、火の広がりがあまりに早いから一時は放火を疑ってたそうです。

証拠がみつからなかったので、結局原因不明ということになりましたけど……


でも、今でも少し思うんです。


証拠を残さず、一瞬で家中に火を行き渡らせる。

そんなことも、はかせなら出来るんじゃないか……


まだ……はかせは生きてるんじゃないかって。


……それにこの間、ちょっと遠くに出かけた時。


ちょっと入り組んだ路地の先に……あったんです、東雲研究所が。


一瞬目を疑いました。 看板の名前こそ東雲では無かったけれど、本当にそっくりで……

家の形も、玄関も、庭の様子も、煙突が折れてるところまで、全部一緒でした。

それで、気になってちょっと覗いちゃったんです。

そしたら……物干し竿がまったく同じ場所にあって、見覚えのあるシャツがかけられていて。

その前に、黒髪の、エプロンをつけた女の子が立って、洗濯物を干していて。

その背中には、ねじ回しのようなものがついていて。

家の中から、子供が走ってくるような足音が――



ゆっこ「……なのちゃん?」

なの「へっ? ……はい、何でしょうか?」

ゆっこ「いや、いきなり立ち止まってぼーっとしてるからさ……大丈夫?」

なの「……はい、大丈夫です……すみません」


ゆっこ「……やっぱり、まだ忘れられないよね」

なの「はい……」

なの「……でも、もういいんです」

なの「私には、関係ないことですから」

ゆっこ「なのちゃん……?」

なの「……私は、相生なのだから」

なの「もう、東雲研究所の人間じゃないんです」

ゆっこ「……そっか、それもそうだね」

なの「はい……それにもう、私には本当の家族が居ますから」スッ

ゆっこ「……うん!」ギュッ



……そう、私は今、相生さんの家族として……幸せなんです。

だから、昔のことはもう、良いんです。


……え? その後、その家で何があったか……ですか?


……正直に言うと、その足音が聞こえてきた時点で、走って逃げてきちゃったんです。

だから、あれが何だったのか……本当の所はわかりません。


でも、あれ以上見ていることは、私には出来ませんでした。

もう二度と、あそこに行きたくもありません。

だって……もし、あそこから出てくるのが本当にはかせだったら……

……あの足音が、はかせのものだったら。


一年前のあの時から全く変わっていない、子供のままの姿で……現れるような。


そんな気がしたから。



Aルート、終わり

俺にそんな、マジキチなバッドエンドを期待しないでくれ……
じゃあBルートも投下する


――東雲研究所


ガチャ ガララララ…


なの「……ただいま……」ソーッ

なの(はかせはもう寝てるのかな……)ステステ


ガチャッ


はかせ「……なの?」

なの「! ……はかせ」

はかせ「…………」

なの「…………」

はかせ「……どうしたの?」

なの「え? あの……」


はかせ「……?」

なの(あれ……? 意外と怒ってない)

なの「……今日、ぶったこと……ごめんなさい」

はかせ「……もう痛くないからいいよ?」

なの「い、いいんですか?……本当に?」

はかせ「うん……それよりなのー、ごはんはー?」

なの「え、まだ食べてなかったんですか?」

はかせ「うん……」グー…

なの「あー、すみません……じゃあささっと作っちゃいますね」テッテッテ

はかせ「わーい!」


なの(……良かった、一時はどうなることかとおもったけど)

なの(やっぱり子供ってきまぐれだよね……)


なの「………あれ?」

なの(なんか今の、デジャブなような……)

阪本「……おい、娘」トテトテ

なの「あ、阪本さん」

なの「もうすぐ食事にしますから、もうちょっと待っててくださいね」

阪本「いや、そうじゃねーよ……ちょっと聞いておきたくてな」

なの「なんですか?」

阪本「お前……なんか調子悪いとかあるか?」

なの「……え? ありませんけど……」

なの「何でですか?」


阪本「俺の思い過ごしならいいんだが……」

阪本「……お前が居ない間、ガキが研究室にこもっててな」

阪本「また何かくだらないもんでも作ったんじゃないか、と思ったんだが……」

なの「それって、あのリモコンみたいなものを……ってことですか?」

阪本「ああ……まあ特に何も起こってないなら平気だろ」

なの「……教えてくれてありがとうございます」

阪本「別に……さっさと飯にしてくれよ」

なの「…………」

なの(研究室にこもってたから、食事を取ってないんだ……)

なの(……それに、全然怒ってないのも)


なの(もうやりかえしたからスッキリした、ってことじゃ……リモコンの時みたいに)


なの「…………」

なの「……まさか、ね」


……………………………

――翌朝



なの「じゃあ、行ってきますね……」ガララララ

はかせ「いってらっしゃーい」


なの「…………」ステステ

なの(やっぱり気になる……また、大事なこと忘れたりしてないかな?)

なの(一応、皆に聞いておこう……)

なの(それと、これからはメモをとるようにしないと)


テッテッテッ


みお「なのちゃん、おはよう」

なの「あ、おはようございます……そうだ」

なの「長野原さん……その、最近、遊ぶ予定とかって立てましたか?」


みお「え? うーん……多分無いと思うけど」

なの「そ、そうですか……良かった」

みお「どうしたの? いきなり」

なの「いえ、何でもありませんから……」

みお「……?」

なの(後で水上さんと相生さんにも聞いておかないとなあ……)


ゆっこ「おっ、みーおちゃん! スラマッパギー!」

麻衣「……おはよう」


なの「あ、相生さん、水上さん! ちょっと聞きたいことがあるんですけど……」

ゆっこ「へっ……あ、うん……」

麻衣「……何?」

なの「あの……最近、みなさんと何か約束したりしましたか?」

ゆっこ「えっ?……あー……して、ないと思うけど……」

麻衣「……無い」

なの「あ、そうですか……ならいいんです、すみません変なこと聞いて」

麻衣「……気にしない」

ゆっこ「…………」

みお「なのちゃん、それさっきも聞いてきたよね? どうかした?」


なの「い、いえ、本当になんでもないですから……」

みお「……そう? 記憶喪失にでもかかってたりしてね」

なの「!!そ、そそそんなわけないじゃないですか……」ビクッ

ゆっこ「…………」

麻衣「………?」

みお「わかってるよ、冗談だって……あれ? どうしたのゆっこ、黙りこんじゃって」

ゆっこ「え……ああ……」

なの「……相生さん?」

ゆっこ「あっ……えーっと」ビクッ


麻衣「…………」

みお「ちょっと、さっきからおかしいよ? 変なものでも食べた?」

ゆっこ「…………」

ゆっこ「……あの、さ……みおちゃん……」

みお「何?」



ゆっこ「こ、この娘……誰だっけ?」



なの「……え?」

みお「な、何いってんの?……なのちゃんでしょ?」

ゆっこ「なの、ちゃん……えっと、苗字は?」


麻衣「……安中」

ゆっこ「安中?……安中かあ、うーん……」

麻衣「…………」ペシッ

ゆっこ「痛っ……え? なに?」

みお「ちょっ……ゆっこ、冗談でも面白くないよ?」

ゆっこ「冗談じゃないってば! だって……本当に知らないんだもん!」

なの「……そんな」

ゆっこ「え……もしかしてドッキリか何か? なんかネジみたいなのついてるし……」

みお「いい加減にしなよ! 友達でしょ!?」

麻衣「…………」

ゆっこ「えーっ!?……絶対会ったこと無いって……」


なの「……………」


なの(……私は、ロボットだから)

なの(だから、記憶をリモコン一つで消せるんだと思ってた)

なの(でも……私の頭の中は、人間と比べてそんなに単純かな?)

なの(……そうじゃない、同じくらい複雑なはず)

なの(でも、はかせはそれを……簡単に、書き換えた)



みお「……ゆっこ、あんた頭でも打ったんじゃないの?」

ゆっこ「そんなこと無いよ……本当に知らないんだって」

みお「そろそろ本当に……あっ」

ゆっこ「えっ?……うっ」

なの「…………」ポロポロ


なの(どうして……思いつかなかったんだろう)

なの(どうして、はかせがそれくらいのことを出来ないって思ってたんだろう)

なの(私だけじゃない……)


なの(人間の記憶まで……はかせは操作できるんだ)


なの(そういう道具を、作ってたんだ……昨日、私が居ない間に)

なの「……っ!」ポロポロ

ゆっこ「あ……」


みお「ほら、泣いちゃったじゃん……なのちゃん、ゆっこが一番好きだったんだよ?」

ゆっこ「えー……そんなこと言われても……」

なの「……相生さん」

ゆっこ「え?」ビクッ

なの「最初に、家に遊びに来てくれた時……なんて言ったか、覚えてませんか?」

ゆっこ「……えーっと……」

なの「それも……忘れちゃったんですか?」

ゆっこ「…………」

ゆっこ「……ごめん」


なの「………っ!」ブワッ

ゆっこ「えっ……」

みお「な、なのちゃん……?」

なの「す、すみません……今日は、学校を休むって……伝えてください」フラッ 

なの「…………!」ダダッ

みお「ちょっとなのちゃん!?」

麻衣「…………」ジー

ゆっこ「…………」


………………………………………


――東雲研究所



なの「…………」ガララララ

はかせ「あ、なのおかえりー」

なの「………っ!!」ギリリッ

はかせ「? どうしたのー?」

なの(この人は……本当に、何も感じてないんだ……っ!)

はかせ「ねー、なのー?」

なの「……っ」

なの(……やめよう)

なの「………」フイッ テッテッテ


ギイ バタン


はかせ「なのー? おっかしーなー……なんでいつまでも怒ってんの?」

はかせ「……ま、いいか」トテトテ


なの(どうせ、はかせをいくら怒っても何も伝わらない……それに)ドサッ

なの(……長野原さんや水上さんまで、記憶を消されたくない)ズルズル…

なの(それに……はかせを恨んだってしょうがない)ヘタン

なの(私が……私が悪いんだ)

なの(私がロボットだから……ロボットのくせに、友達なんか作ったから)

なの(幸せなんか望んだから……)

なの(相生さんの言葉も……相生さんの気持ちも)


なの「全部……無くしちゃった」


なの「は、あは……はははははっ」

なの「ははははははっ……っは」

なの「……苦しい」

なの「助けて……相生さん……」


………………………………………………………………


――数日後 東雲研究所



なの「ただいま……」ガラララララ

はかせ「あ、なのおかえりー」

なの「おやつ、買って来ましたよ……」

はかせ「わーい!」

阪本「…………」


なの「…………」

なの(……あれから数日間、一度も相生さんと会話せずに過ごしてきたけど)

なの(辛いなあ……)

なの(……でも、相生さんの方も困るだろうし……それに)

なの(もう、これ以上……傷つきたくない)


なの(何も持たなければ、もうなくすこともないし……)

なの「…………」


「すいませーん、ごめんくださーい」


なの「……? あ、はーい!」

なの「……お客さん?」

なの「宅配便かな……」トテトテ


ガロッ


なの「すいません、おまたせしました……」


ゆっこ「おっ、いた! なのちゃん!」


ガロッ ピシャッ!


ゆっこ「ええっ!?」


なの(……ええええええっ!?)

なの(どどどどどっ、どーしよー!? 何で相生さんが家に来てるのー!?)

なの(だ、だって相生さんはもう、私のことを覚えてないんじゃ……)

なの(……思い出したとか? いや、はかせの発明に限ってそんなことは……)

ゆっこ「なのちゃん、聞こえるー?」

なの「ひっ!」ビクッ

ゆっこ「えー……そんなに驚くの?」

なの「あ、あああああの……」

ゆっこ「その……ちょっと話だけでも、聞いてくれないかな?」

ゆっこ「扉越しでいいからさ」

なの「……はい?」


ゆっこ「私……なんか記憶喪失?らしくてさ」

ゆっこ「なぜかなのちゃんのことだけ、全然思い出せないんだよね」

なの「…………」

ゆっこ「……でも、みおちゃんとか麻衣ちゃんに色々聞いてさ」

ゆっこ「すごく仲のいい、友達……だった、らしい、というか」

なの「…………」

ゆっこ「……ごめんね、この前のこと」

ゆっこ「ひどい事、色々言っちゃって……ごめん」

なの「……い、いいんです」

なの「全然気にしてませんから……」

ゆっこ「……本当?」

なの「はい、だから、その……」


なの「……もう、帰ってもらえませんか」



ゆっこ「…………」

なの「もう……私の友達の相生さんは、居ないんです」

なの「だから、帰ってください」

ゆっこ「……そっか」

なの(っ!……そんなこと本当は思ってないのに)

なの(帰って欲しくなんて無いのに……)

なの(でも、会ったらきっと……もっと悲しくなるから……)

なの(ごめんさい……!)

なの「…………」

ゆっこ「そうだよね……もう、なのちゃんと仲のよかった私は居ないんだよね」

なの「……はい」

ゆっこ「……でもさ、今日来たのは……そういうことじゃないんだよ」


なの「え……?」

ゆっこ「なんかさ、話聞いてたら……羨ましくなっちゃってさ」


ゆっこ「昔の私には、こんなに良い友達がいたんだなーって」


なの「……っ!」

ゆっこ「だから私も……なのちゃんと、友達になりたいっていうか?」

ゆっこ「いや、なれるんじゃないかな……きっと」

ゆっこ「そう思ったの」

なの「…………」

ゆっこ「だからやり直しに来たんだ、初対面」

ゆっこ「この前のは、ノーカンにしてさ……お願い!」

ゆっこ「ここ……開けてくれる?」

なの「……はい」


ガララララッ…


なの「…………」

ゆっこ「あー、はじめまして、相生祐子です」ペコッ


なの(……そうか)


ゆっこ「あだ名はゆっこで、ポジションはツッコミです!……よろしく!」

なの「はじめまして……東雲、なのです」


なの(もう一度……友達になればいいんだ)


なの「背中のネジは、決してロボット的なものじゃなくて……」

なの「その……よろしく、お願いします」ペコッ


ゆっこ「……えっ、ロボじゃないの?」

なの「ろ、ろろろロボじゃありませんよ!」アタフタ

なの「こ、これは勝手に刺さったというか、生えてきたというか……」

ゆっこ「……ぷっ、あはははっ! なにそれ、むしろ完全にロボじゃん!」

なの「ち、違いますって!」

ゆっこ「はー……まあ、別にどっちでもいいけどね」

なの「……え?」



ゆっこ「……なのちゃんはなのちゃんなんだしね」



なの「………っ!!」


ゆっこ「ところで、なのちゃんは……うおっと!」

なの「…………」ギュウウ…

ゆっこ「……な、なのちゃん?これは、その……」


なの(何回記憶を消されても、何回初対面を繰り返しても……)

なの(……そのたびに、この人は私を救ってくれて、私はこの人を好きになる)



なの(たとえ記憶がなくなっても……私は私で、相生さんは相生さんなんだから)



ゆっこ(え……なにこれ、前からこういう、抱き合ったりするような深い関係だったの……?)

なの「……もう、絶対離しませんから」

ゆっこ(ええーっ!? ……私って、そっちの趣味があったの……!?)

ゆっこ「お……おう! 私もだよ!」

なの「……ふふっ、あははっ!」

ゆっこ「な、なのちゃん?」



なの「大好きです……ずっと」





Bルート 終わり

以上 どっちにしろなのゆこエンドだし、
まあ一応はかせが生き残ってる方がハッピーということで
欝を期待してた人には申し訳ないな 読んでくれてありがとう

Bの記憶喪失は普通にはかせ犯人だよ

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