【咲安価】京太郎奇怪綺譚:拾肆巻目【都市伝説】 (1000)

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・咲-saki-の安価スレです
・原作とは違う性格付け・設定付けをされたキャラが登場する可能性があります
・現実に実在する人物、団体とは一切関係がありません。ここ重要
・色んな意味で広い目で見てください
・何かおかしい事があればそれはフリーメイソンってやつの仕業なんだ


前スレ
【咲安価】京太郎奇怪綺譚:拾弐巻目【都市伝説】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1364398114/)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1364921336


ってなわけで、「きょうたろうにっき」終了。

カットされた黒フードの境遇部分です。あんなことがあってこんなことがあって、今に至ると


恋人は皆さんの想像にお任せします。>>1の脳内では決まってますが、皆さんはそれぞれ好きな相手を想像すればよろしいかとー

でも何人かは予選落ちですね。フリーメイソン行っちゃった人とか、ファーストキスだった人とか

ま、この世界の京太郎とは関係ない事ですしね。誰でも世界線的に問題なし!


実はこっそり名前欄の「黒フード」の部分を「黒」に変えて、正体判明の時に皆さんの脳内で「黒い京太郎」というイメージをしっくりこさせるよう刷り込むサブリミナル文。ちょい実験でした



あの場面で結界連発!とか仲間援軍!とかされても黒フードには確実に仕留める仕込みが実はまだあったり



では今夜はこれにて。おやすみなさいませー

黒太郎はこちらの世界で守るもの、守りたいものを作れなかったから黒化したのか。
しかも目の前で『こうしていれば彼女は救われた』という回答が見せつけられるってそらSUN値も削りきれるわな。
たとえそれが『答えを知っている人間が助けている』って状況でも助けられる可能性がきっちりとあった証拠なんだからなぁ・・・

ふと思ったんだけどさ
あぐりちゃんて素体ベースは黒京ちゃんで外見がのどっちベースなんでしょ?
つまりあぐりちゃんは京ちゃんとのどっちの娘と言うことに!
……ならないね、うん

こっそり
http://i.imgur.com/raqzYXN.jpg

こんばんわけわかめな単語>>1的今年No.1、激おこプンプン丸

>>1の作品で「最近の女の子っぽくない」とか言われたとしても、アレの再現は無理です。はい

今夜21:30にスタートできたらいいですなぁ
あ、ついでに。言い忘れてましたが十六話後編はいいですとも!やりますよ



>>67
なるよ(断言)

>>72
ふぅおおおおおおおおっ!!
すばらっ!すばらっ!
支援感謝です!



三千世界の果てからも「麻雀しろよ」といわれる当作品。原作レイプといわれるのも仕方なしです


http://blog.livedoor.jp/asusoku/archives/25362024.html
http://natalie.mu/comic/pp/akunohana

は、発想のスケールで負けた・・・!?

また京ちゃんが超強化されるのか(歓喜)

ところで「ちょうきょうか」で変換したら「調教か」って変換された件

発想のレベルでいうなら黒執事の方が驚愕した記憶がある

この流れなら咲-saki-が実写されて剛力彩芽が咲、京太郎が水嶋ヒロになる可能性さえ微粒子レベルで存在している……?

このイベントは成功させないと今後がやばい。
ところで「せいこう」で変換したら「性交」って変換ミスされてそれが何回もあって泣きたくなったことが…

そういえば、今までに一度でも仲間が死んでたりしてたら何かシナリオは変わったのか?

>>87
>>90
へ、変態だー!
キャラの死に関わらず要所要所でシナリオはガクッと変わったのではないでしょうか
基本一話ごとにぶつ切りですから

>>88
あれはすっごいというかひっどいというか
なんであんなコラムの人が異常なまでにべた褒めしているのか邪推しますよね




                      __

                     ´      `
                    /               \
                 /               ヽ
                    '    i /  / i    /   i
                   i    |/-ミ/ ./     /i /  .|
      ___       |     | / `メ   /匕⌒   {
   /::::::::::::::::::::\___   | |  ィ卞J宍7 /厶斗 /  .八
  /:::::::::::::::::::::::::::::: V/\| |l  八 V)ソ /  V)ソ厶 / i}
/:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: ̄|l   ハ     i〉   /7  { lリ
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:://i      〈  /  : ̄`, { _j   ,ハ:::: ____:::|八 {三≧=--::::::::::::::::::::::|l
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::///|.      /〈   /^ヽ〈 � |::V::三≧=-::::|{:::| |≧=-へ⌒ヽ=≦ミ::::::::}l
:i///|    /7 ∧ _,〈 いハ Y´ ヽ⌒ヽ::::::-==彡八  i ハ{ \   �:::::八
:i///|    ′ i | i i  \_)i _ |__ ハ==彡⌒^¨´   \|j }|.      }iト(:::::::`
:i//八.      � 乂\_) .乂_j:::|/  }   \(_)      ヽ      �i∧:::::
:i///∧.      }|   }ヽヘ、  ト--| / .......... V ヘ ..............         }//∧:::
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ヽ:\/\__:::::::::`マ/∧    ∨  ゝ::::::::::::::::::::::://::::::::::::::r≪i   ////::::::://
  \::::::::::::`ヽ:::::::::ヾ∧   ∨   `¨¨¨  /fj/ `¨¨´ j:: |l./////:::::::///
   \:::::::::::::::::::::::::}/∧   }i   \    i {       ':: 八/////>::::::/
.      \:::::::::i:::::::////}    {ト    ヽ  | |  .....::::/{:::   ヽ//::::::/



可愛いけど時々かっこいいから素敵

投下はっじめーるよー

ネクサスとは、本人の知覚する『絆』を結線する力。


それが大であれ小であれ、そこに絆があるのであれば霊的な結線として機能させる事が出来る。


いつだって、どこだって、繋がっているがゆえの強さ。


だからこそ、誰もがその瞬間理解した。


だからこそ、その瞬間……この街の多くの人々が息を呑んだ。


その一瞬で、その瞬間で、その瞬刻で。



誰もが、須賀京太郎に起こった出来事と、彼の現状を理解した。

意識が深く沈んでいく。


深く、深く、深く。


今度は止まらない。
今度は生と死の境で漂っていたりはしない。
今度は決して、自分の力では戻れない。


まるで深く暗く冷たい海に沈んでいくかのように。
ゆっくりと、穏やかに静かに沈んでいく。


生を象徴する、光差す海面のような界面。

そこからどんどん遠ざかるように、死の底/海底へと沈んでいく。


麻雀においては最後に手にする牌を『海底(ハイテイ)』と呼ぶらしいが……


成程。
人は誰しも、その生における最後の時に海底に向かうものなのか。
こういった事に生きたまま気付ける人が悟りを開いちゃったりするんだろう。


立川在住のロン毛とか。パンチパーマとか。


……これが俺の人生の幕引き。

呆気無い、もんだったな……


人生自体に悔いは無い。
悪くない人生だったし、あれ以上を求めるのは贅沢だ。


……だけど。

またか。

またなのか。

また、『泣き顔』か。

くっそ、ふざけんな!



ゆっくり寝かせろ、チクショウ!

足掻く。

足掻く。

すがる藁が無くとも、ここでただ溺れていくわけにはいかない。

何にしがみついてでも、沈んでいくこの状況に抗わなくてはならない。


でなければ……きっと、咲(アイツ)の涙が拭えない。

でなければ……きっと、咲(ダチ)が泣き止んでくれない。



足掻く。

足掻く。

……それでも、無慈悲に沈んでいく。

それも当然。
気合だけで死が覆せるのなら、今頃現世はゾンビだらけになっているだろう。

これだけは、絆だけでは覆せない。
これだけは、想いだけでは覆せない。


だからこそ……その現実/死に、黒い髪の京太郎は打ちのめされたのだ。



沈んでいく。

沈んでいく。

深く深く沈んで行くほどに手足は重く、まるで鉛を巻きつけられたかのように。

頭は回らず、海面の光はもう見えないほど遠く、心無しか視界も薄れ。

徐々に抗う身体の動きも鈍り、意識は薄れていく。

このまま。



……このまま、終わるのか?

こういう所で他人抜きで死にたくないとか思えないから黒フードになっちゃうんだと思うんだ

薄れて行く意識の中、加速する想起。

俺が咲の前で目を閉じる直前まで見ていた、走馬灯の続き。

……って。

なんでお前なんだ。他に一杯居るだろう。
あの人とかアイツとかあの子とか。
なんでこのタイミングの走馬灯でお前の姿が浮かんでくるんだ?



あの日、俺の最初の仲間が二人も消える前。

事務所の構成メンバーが四人だった頃。

俺と、照ちゃんと、健夜さんと、アイツ。


アイツが事務所に来たのはいつだったかは忘れたが、健夜さんが連れてきた時の微笑みが印象的だったのを覚えている。


どこからかうちの義姉が連れてきた美少女。
その微笑みは暖かで、だけど静かで捉え所が無くて。
例えるのなら、西洋に吹く偏西風のようだった。


「あら、食べにくいですね」

「箸を上下逆、しかも片方だけって持ち方する外国人をリアルに見る日が来るとは……」



年齢不詳。学歴不詳。経歴不詳。

名前はどうにも韓国っぽいのだが本人曰くフランス出身。

日本語はペラペラ。日本文化は知らない。

外見通りのおっとりしたお嬢様気質で、常に傘を携えている。

どっからこんな謎人物を連れてきたんだ健夜さん。



……とにかく、そんなチグハグな人物だった。

頼りになった。

とにかく頭が良い奴だったのだ。

なので事務を担当し、うちの事務所のブレインでもあったりした。

……その頭の良さは、彼女の都市伝説とは全く無関係というのだから。
まったくもって、完全無欠に人材の無駄使いである。


何もかもが不明で、何もかもが不詳な彼女。

彼女にも、俺は沢山の事を教えてもらった。



「このごはんですよ、というおかずは美味しいですね」

「だろ? 俺もそう思う」



相手のパーソナリティが理解出来れば、それ以外は全ておまけでしかないという事。
相手の事を殆ど知らないままでも、相手を信じる事は出来るという事。
……女の子の秘密に無神経に踏み込むと、後が怖いという事。

どこに行っても一人でやっていけそうな強さと、目を離せない浮世離れした危うさと。

その相反する両面の性質を持った、そんな少女だった。



「傘、ですね」

「? 何がだ?」

「人を助けるという事。それそのものがですよ」

「まーた哲学的だな」

「人に害を為すものが雨ならば、私達は傘と言えます」

「覆うように庇って、守るって事か? 」

「はい、その通りです。ですが、忘れてはいけませんよ」



「傘を差しても足は濡れる。全てを守って当然と考えるべきではありません」

「そして何より、傘は持つ者の意志を無視してはならないという事」

「でなければ傘は傘足りえません。私達は人形を守っているわけでもないのですから」



「……ああ。肝に銘じておく」

「よろしい。貴方は、何か悲劇や大事件でもあればこれをすっかり忘れてしまいそうで怖いんですよ」

「人を鳥頭みたいに言うなっての!」

「それと、もう一つ」

「ん?」




「『傘』が、破けてしまった時の事について」

咲「……京、ちゃん……」

黒「呆気無いもんだ」


そして、場面は彼の目の届かない現実の世界へ。

12月30日の夜、この瞬間に顕現した地獄。

悪が居て、泣いている少女(ヒロイン)が居て、人を苦しめる悪夢がそこにあって。

それなのに、主人公(ヒーロー)だけがそこには居なかった。



黒「さて、念には念をだな」

黒「そこをどいてくれ、咲。首をきっちり撥ねておかないと、ソイツは安心できない」

咲「……!」


だが、どかない。


黒「頼む、どいてくれ。荒っぽい事したくないんだよ」

黒「特にお前にはさ……だから、どいてくれ」

咲「……や、やだ! 絶対に、ど、どかない!」


だが、どかない。


黒「……な、意地張るのもやめようぜ?」

黒「そいつはもう死んでるんだ。分かるだろ」

咲「……ぃ」

黒「?」

咲「貴方の言う事なんて……信じない!」


だが、どかない。
彼女が宮永咲で、彼が須賀京太郎だとしても。
彼女は、彼を信じない。



咲「貴方は……私の知ってる京ちゃんじゃない!」

咲「返してよ! 私の幼馴染を、京ちゃんを返してよ!」


咲「顔が同じでも、貴方なんて京ちゃんじゃない!!」

その言葉に、何を思ったのか。

その時の彼は、何を思ったのか。

その時の表情は、どんなに悲痛だったのか。


彼が見せた感情の発露は、彼の顔を見ていた咲だけが理解して。

それ以外の誰も。彼自身ですら、その感情の爆発には気付かなかった。


それは怒りか、悲しみか。それとも……



黒「……そう、か。分かった」

黒「なら、少し手荒くどかすまでだ。恨んでくれて構わない」

黒「怪我はさせない。少し眠ってもらうだけだ」



彼がその手を、咲の額に向ける。
そこに不可視の力が集まり、やがてそのベクトルが咲へと向かっていくのだろう。
咲に出来る事は、目を閉じず最後まで睨みつけるというささやかな抵抗のみ。



咲「(京、ちゃ——)」



もうダメだ、彼女がそう思った次の瞬間。


突然、黒の京太郎にバスが突っ込み、吹っ飛ばした。



「どうです? 良い感じに当たりました?」

「いや、ダメみたい。アレは後ろに跳んだだけだね」

「それでは打ち合わせ通りに」

「ごめんね。……義弟を、お願い」

「言われなくとも、そういたしますよ」


咲の耳には聴き慣れた声。

バスから聞こえる二人分の声と、バスから降りる一人分の影。

その姿は——



咲「す……健夜さん!?」

健夜「ん。ごめんね、ちょっと……いやかなり遅くなって」

健夜「京太郎くんと一緒にそのバスに乗って」

咲「え?」

健夜「早く。二度も言わせないで」

咲「え、あ、はい!」


重たい京太郎の身体を、全身全霊で背負って運ぶ文学少女。
170半ばの筋肉質な男の体だ。割と洒落にならない重量である。

それでも華奢な体躯の彼女が彼を運べるのは、ひとえに園芸部の活動で鍛えた体力の賜物だろう。

彼女をかつて励ましてくれた松実宥と花田煌の二人の先輩に、密かに咲は感謝した。



咲「これ、は……?」



京太郎を座席に寝かせ、バスの中を見渡す。

綺麗なバスだが、そこかしこに傘が吊り下がっている。

大きさもまばら、色とりどりで形も新しさも統一感がない。

まるで、日本中から傘をかき集めてきたかのような……



「お久しぶりです。元気にしていましたか?」

咲「あ、貴女は……!」

「あ、名前は呼ばないで下さい。私は終始正体不明の女です」

咲「え?」

「ミステリアス的少女というキャラ立てをすることにしたのです」

「目標は『謎の女、一体何者なんだ…?』と言われる事、でしょうか」

咲「は、はぃ……?」



約二年の月日。
その間、全くといっていいほど彼女らは会っていなかったのだが。



咲「(か、変わってない……!)」

【傘バス】



かつて失われたものを持ち主に届ける都市伝説。


ある日、とあるサラリーマンがバスに乗った。
いつもの時間、いつものバス、いつもの風景。

その日も変わり映えの無い毎日、その一幕でしか無いはずだった。

しかしふと前を見ると、そこに一本の傘があった。

懐かしい形。
懐かしい色。
懐かしい傷。

それは間違いなく、数年前に紛失した彼自身の傘だった。


それを持っていつもように通勤した彼の下に、予報になかった雨が降り注ぐ。


周囲の人々が雨に濡れる中、彼はただ一人濡れずにすんだという。


時にパクられ、時に無くし、時に電車の中に忘れ。

そうやって人は、長い人生の中で数え切れないほどの傘を忘れていく。

妖怪のモデルになるほどに歴史が深く、ある程度の数を誇る都市伝説ジャンル。

それが『傘』である。



無くしたものを送り届け、乗客の無事を祈る都市伝説。

健夜「……街中で、結界が解けた後に本気でコトリバコを使うなんてね」

健夜「どうしちゃったの?」

黒「範囲は狭めてありましたよ。円形の範囲にしか発動できないのがネックでしたが」

黒「収束した分威力が高まって、ハッカイなら結界も抜けるみたいです。隙はありませんでしたよ」

健夜「……」


違う。
そういう事を言ってるんじゃない、と。
健夜の目は語っている。



健夜「……あの時の話は、どうなったの?」

健夜「未来を変えたいんじゃ、なかったの?」

黒「勿論。変えますよ」

健夜「だったら、どうして……」

黒「犠牲無しには不可能だと、割り切ったんですよ」

健夜「……」


違う。
そういう事を言ってるんじゃない、と。
健夜の目は語っている。



健夜「なんで、殺したの?」

黒「必要がなくなりましたから」

健夜「必要がなかったら放置するんじゃないの? 君は」

黒「アイツの死で見込めるメリットが——」

健夜「私情でしょ。嫉妬?」

黒「……」

健夜「……その反応。本気でもう、手遅れなのかな」


違う。
そういう事を言ってるんじゃない、と。
健夜の目は語っている。



何一つとして伝わっていない。
根本的にズレている。
以前は兆候こそあったものの、ここまでではなかった。

そう、健夜は思考しつつ後悔する。



健夜「(いつから、こんなになるまで……)」

健夜「……街中で、結界が解けた後に本気でコトリバコを使うなんてね」

健夜「どうしちゃったの?」

黒「範囲は狭めてありましたよ。円形の範囲にしか発動できないのがネックでしたが」

黒「収束した分威力が高まって、ハッカイなら結界も抜けるみたいです。隙はありませんでしたよ」

健夜「……」


違う。
そういう事を言ってるんじゃない、と。
健夜の目は語っている。



健夜「……あの時の話は、どうなったの?」

健夜「未来を変えたいんじゃ、なかったの?」

黒「勿論。変えますよ」

健夜「だったら、どうして……」

黒「犠牲無しには不可能だと、割り切ったんですよ」

健夜「……」


違う。
そういう事を言ってるんじゃない、と。
健夜の目は語っている。



健夜「なんで、殺したの?」

黒「必要がなくなりましたから」

健夜「必要がなかったら放置するんじゃないの? 君は」

黒「アイツの死で見込めるメリットが——」

健夜「私情でしょ。嫉妬?」

黒「……」

健夜「……その反応。本気でもう、手遅れなのかな」


違う。
そういう事を言ってるんじゃない、と。
健夜の目は語っている。



何一つとして伝わっていない。
根本的にズレている。
以前は兆候こそあったものの、ここまでではなかった。

そう、健夜は思考しつつ後悔する。



健夜「(いつから、こんなになるまで……)」

健夜「……街中で、結界が解けた後に本気でコトリバコを使うなんてね」

健夜「どうしちゃったの?」

黒「範囲は狭めてありましたよ。円形の範囲にしか発動できないのがネックでしたが」

黒「収束した分威力が高まって、ハッカイなら結界も抜けるみたいです。隙はありませんでしたよ」

健夜「……」


違う。
そういう事を言ってるんじゃない、と。
健夜の目は語っている。



健夜「……あの時の話は、どうなったの?」

健夜「未来を変えたいんじゃ、なかったの?」

黒「勿論。変えますよ」

健夜「だったら、どうして……」

黒「犠牲無しには不可能だと、割り切ったんですよ」

健夜「……」


違う。
そういう事を言ってるんじゃない、と。
健夜の目は語っている。



健夜「なんで、殺したの?」

黒「必要がなくなりましたから」

健夜「必要がなかったら放置するんじゃないの? 君は」

黒「アイツの死で見込めるメリットが——」

健夜「私情でしょ。嫉妬?」

黒「……」

健夜「……その反応。本気でもう、手遅れなのかな」


違う。
そういう事を言ってるんじゃない、と。
健夜の目は語っている。



何一つとして伝わっていない。
根本的にズレている。
以前は兆候こそあったものの、ここまでではなかった。

そう、健夜は思考しつつ後悔する。



健夜「(いつから、こんなになるまで……)」

健夜「……街中で、結界が解けた後に本気でコトリバコを使うなんてね」

健夜「どうしちゃったの?」

黒「範囲は狭めてありましたよ。円形の範囲にしか発動できないのがネックでしたが」

黒「収束した分威力が高まって、ハッカイなら結界も抜けるみたいです。隙はありませんでしたよ」

健夜「……」


違う。
そういう事を言ってるんじゃない、と。
健夜の目は語っている。



健夜「……あの時の話は、どうなったの?」

健夜「未来を変えたいんじゃ、なかったの?」

黒「勿論。変えますよ」

健夜「だったら、どうして……」

黒「犠牲無しには不可能だと、割り切ったんですよ」

健夜「……」


違う。
そういう事を言ってるんじゃない、と。
健夜の目は語っている。



健夜「なんで、殺したの?」

黒「必要がなくなりましたから」

健夜「必要がなかったら放置するんじゃないの? 君は」

黒「アイツの死で見込めるメリットが——」

健夜「私情でしょ。嫉妬?」

黒「……」

健夜「……その反応。本気でもう、手遅れなのかな」


違う。
そういう事を言ってるんじゃない、と。
健夜の目は語っている。



何一つとして伝わっていない。
根本的にズレている。
以前は兆候こそあったものの、ここまでではなかった。

そう、健夜は思考しつつ後悔する。



健夜「(いつから、こんなになるまで……)」

健夜「追わないの?」

黒「追っても今は貴女が止めるでしょう? 今夜は引きますよ」

黒「目的だけは達成出来ましたし」

健夜「……ッ」


健夜は苦悩する。
目の前の変わり果てた弟の姿に。
それが何の為に頑張って来たか、彼女は知っているから。

その果てが、視界に映る男のこの末路。



健夜「……じゃあね」

健夜「ここは街中だから手を出さないけど」

健夜「次に顔を見せたら、容赦しないから」

黒「……肝に銘じておきますよ」


健夜は後悔する。
別の世界とはいえ、弟だからと無条件で信頼した。
何か考えがあるのだと、これも未来を変えるためなのだと。

その果てが、大切な家族の一人の辿った末路。



健夜「(……あの子は、私の弟じゃない。別世界から来た京太郎くん)」

健夜「(むしろ私の弟を手に掛けた、憎むべき敵)」

健夜「(なのに、私は、それと同じくらい今でも——)」

健夜「ほんっとうに、ままならないなぁ……」


彼女は悲嘆する。
弟を巡る運命に。それに負けた『弟』に。
ままならない現実を抱えたまま、彼女は歩く。

その果てに、彼女はまだ希望があると信じている。

黒「……どうした?」

黒「俺が呼ぶまで隠れて居ろと言ったはずだが」



健夜の去る背中を見送る彼の下に、歩み寄る影。

その姿は赤茶けた桜色で、内向的かつ活動的な彼女には不釣り合いなほど長い。

彼女の名は、青山士栗。
最強の座を頂く『口裂け女』。



黒「まあいいか。お前は予想外の戦力の対応のために置いていただけだし」

黒「全てが終わった今、もう待機する必要も——」

士栗「……んで」

黒「ん?」

士栗「なんで、殺したの!? そんな必要無かったじゃない!!」



予想外の戦力がここに集結した場合の予防策。
皮肉にもそれは、彼女が自分の友達が殺される場面を目撃する可能性を上昇させる事にもなっていた。

無論、黒い京太郎とて何も策を講じなかったわけではない。
ただ、甘く見ていたのだ。

彼女のモデルを。その頭脳を。そして、それを受け継いだ彼女を。



黒「すまなかったな。お前に見せるつもりはなかったんだが」

士栗「そういう事を、言ってるんじゃなくて!!」

黒「いつかは殺し合うハメになってたんだ。俺がやらなくても誰かがやったさ」

士栗「そういう事じゃない! そういう事じゃないの!!」

黒「お前がその手にかけてしまうより、後腐れない俺がやってしまった方がずっと——」

士栗「だからっ!」

え?こいつも女子供じゃ…

 



「友達が殺されて、それで平気だなんてっ!!」

「友達が死んで、それで悲しくないなんてっ!!」

「友達を殺した貴方を、許せるなんてっ!!」




「『口が裂けても』、言えるわけがないじゃないっ!!」



 

黒「……そうか」


『友達』。
彼女が生まれて初めて獲得した、彼女だけの宝物。
彼女が己の力で手に入れた、ただ一つの大切な物。

それ以外のものは、黒い京太郎に与えられた知識と生まれ持っての力のみ。

だから彼女にとって、名前をくれた二人の友人。
須賀京太郎と夢乃マホは、命よりも大切なものなのだ。

それが無くなれば、自分はただの『口裂け女』でしか無くなってしまうから。



士栗「それでも、貴方は私を生み出してくれた大切な人で……」

士栗「それでも、貴方は私に優しくしてくれた事もあって……」

士栗「……わけわかんないよぅ」


彼女はまだ生まれて間もない。
己の人生経験が倫理となり常識となるまで、まだまだ時間がかかる。

なのに、これまで彼女を導いていた者が彼女の大切な物を奪った。

例えるのなら、これは幼少期の子供が親におもちゃを目の前で壊されたに等しい。

虐待に等しい心の傷。それは、二人が近くに居れば広がるばかりだ。

育ちきっていない心に、憎悪と親愛の板挟みは毒すぎる。



黒「……士栗。お前、フリーメイソンを抜けろ」

士栗「え?」

黒「お前は役に立たない。どこぞへと行け、お前は自由だ」


士栗「え、ま、待って、私、行く所なんて無い」


黒「かといって、お前にこれ以上は無理だろうよ」

黒「俺のそばにいるのも、俺に力を貸すのも、もうお前には出来ない事柄だ」

黒「下手すりゃそのまま廃人コースさ。……好きに生きろ。思うままにな」

黒「じゃあな」

士栗「待って、待ってよ」



士栗「ねえ、待ってってば!」

「それは、ダメだ」

「……やっちまったのか、俺は。士栗の『友達』だと分かっていて、俺は」

「この世界で最初に見つけた希望を、俺はこの手で傷つけて……」

「……」


「今更、止まれるか」

「どうにかするさ。一人分の戦力が抜けた穴ぐらい、埋めてやる」

「士栗が居なくてもどうにか出来る。あの子に幸せな世界を残してやれるはずだ」


「……『青山 士栗』、か」

「いい名前をもらったじゃないか」

「一生付き合うには上等だろう。名前ってのはそういうもんだ」

「大丈夫だ、あの子なら。なんだかんだ、幼いだけで俺よりしっかりしてる部分もある」




「……だが……」




「結局この世界でも、俺は一人ぼっちか……」




「寂しい、な」

なんか眠気と回線の調子のダブルパンチで>>1の胃はもうボロボロ
明日!明日続きやります! お疲れ様でしたー


あぐりちゃんの心境は小学生の女の子が学校で初めて出来た友達を父親が首絞めて殺してるの目撃しちゃった的なアレ

現状は街の至る所で色んな人が動き始め、バスとすこやんはどこかへ向かっています

長い12月31日が始まります


回線ファッキュー。ファッキューチッヒ

ではでは明日。レス返しを後回しにするおやすみなさいませー

逆行した時点で詰んでるんじゃないかな黒フード
何もしなかったら未来は変わらずアウト
行動起こしても失敗したらアウト
うまくいっても今回みたいに狂ってアウト

まずTさんって都市伝説そのものが俺らが思ってるようなかっけえもんじゃなく、
鬱フラグブレイクに失敗した時点で都市伝説に飲み込まれて正気を失うこと確定とかいうとんでもない代物だったからなあ
京太郎、早く復活して黒太郎を眠らせてやってくれェ——ッ!!

こんばんワンタンメン

わ行の単語がいい加減尽きてきた気がします
回線の機嫌は何故か安定しているようでしていない模様


今夜いつも通りの21:30スタンディングバイ

「サクラメイキュウ」いい曲ですなー。龍の娘可愛い



>>101
まったくですよ

>>161
近くに待機させてるといざって時に乱入してくるんじゃないかーと考えた黒フードさんはちょっと離れた所に待機させていた模様
ジャンプで100mくらい跳ぶの余裕な子ですし、距離があっても一瞬一瞬

>>194
自分を許すか、全部忘れるか、自分勝手に生きるかすれば幸せにはなれますです
たぶん現状無理でしょうけど




鳥山先生は実際すごい

今更も今更だけど>>101、黒太郎だってりつべ町の半分くらいでも生き残ってればまた違った感じになってたんじゃねーかな…
京太郎の「ダチを泣かせないために生き残る」っていうモチベーションの、ダチの部分がすっぽりとなくなっちゃったわけだし

あ、言ってて自分で吐きそうになってきた…

出したくても出せない、そんなヒロイン



           :_,.  -─……─-  :
       :
      .:´........................................................\:
   :/.......................|........ト、..............................ヽ:

 : /....................| |...i|........| \...........|....|............
:/.........../ .....|.._|_八......|   \__....|............i:
: ̄ ̄ ̄|...|....| [   \|    \|....|............|:

      :|...|....|┬─┬    ┬─┬ |............|:
      : |...ト..| 乂:::ノ     乂:::ノっ|............|:
    :i|...|....|                 |............|:
     :||...|..人     , _       人.......l..|:
      八Λ.....>      _   .   <......../|/
      \|\_,ノ⌒ 〈___/ ⌒>‐-ミ:

      ;/ ̄ |:\ ∧ /  /:::::/  \;
       :/   |:::::::\ ∨_/:::::::::/   ハ:
      :/     \:::::::Χフ:::::::::/
     /        ̄/:Τ:< ̄        ',;
     ;\   |    〈::::∧:::〉       |  /:




投下はっじめーるよー

お菓子あげるからこっちで待機してましょうねー

心の表側が囁く。
「彼らには、綺麗なままで居て欲しい」と。
「俺のようにはなって欲しくない」と。
「あの光はずっとそのままで、あの街に在って欲しい」と。
「その笑顔がそこに在る事が嬉しいんだ」と。


心の裏側が叫ぶ。
「お前達も俺と同じ様に汚れてしまえ」と。
「間違っているのだと気付け」と。
「何故お前だけが、お前達だけが」と。
「その笑顔がそこに在る事が気に入らないんだ」と。


二律背反。
矛盾する自分。
己の中で表と裏の天秤が傾いていくのが理解できる。



彼等が現実に苦しんで、俺が選んだ選択、妥協した自分が正しかったと証明したい。
彼らを助け、至らない所を俺が陰ながら支え補い、彼等が正しかったと証明したい。

どちらも本音で、どちらも真意で、そのどちらもが俺なんだ。

矛盾していたとしても、実際そうなんだからどうしようもない。


彼等を穢したい自分。綺麗なままで居て欲しいという自分。

どちらも俺だ。……そして、その天秤が傾いている。



何が正しかったのか、何が欲しかったのか。

何を間違えたのか、何を求めていたのか。

何に突き動かされていたのか、何に執着していたのか。

誰の為に戦っていたのかも。

あの人達が最期に残してくれた言葉/傷も。

かつて大好きだった人達の笑顔も。



もう、薄れて思い出せない。

「つきましたよ、咲ちゃん」

咲「つきました、ってここは……」


空いていた年末の深夜の道路。
そこを全速力かつ無免許で疾走したバスが到着した場所は、咲も良く知る白い建築物の前。



咲「荒川病院……?」

「ですね。あちら側も憩さん辺りは事情を把握してるでしょうし」

「窓口に行けばそれだけで対応してくれるでしょう。さ、早く」

咲「え、でも……」


咲が口ごもる。

黒い京太郎に反論こそしたものの、彼女だって現実は見えている。
今の京太郎の現状をきちんと把握している。

だからこそ、その言葉の先を紡げない。


「『泣くなよ』」

咲「え?」

「もしそんな顔をしている貴女が目の前に居たら、彼はそう言うでしょうね」

咲「……」

「少なくとも、彼の事を諦めない人達は一杯居ると思いますよ」



京太郎を背負ってバスから降りた咲。
病院からこちらに向かい走ってくる人影。
それを確認し、バスを消し、彼女はどこかへ優雅に歩き去っていく。。

そして、去り際に一言。



「まあ、私には今の彼をどうにかする方法は思いつかないのですけどね」

咲「ええっ!?」

「その辺りは他の誰かにお任せしますよ。なんといっても」


くるりと回る傘の下。

彼女の微笑みは掴み所がなく、変わらず彼に向けられる。



「京さんの周りに諦めの悪い人達が集まるのは、いつもの事ですから」

「京さんが起きたら、『私の傘はもっと丁重に扱って下さい』と伝えておいてくださいな」

そもそもあの回想を信じるならフリーメイソンに敗北を喫した時点で都市伝説に飲まれる運命だったわけで
飲まれ切るまでにこっちの京太郎をここまで成長させた黒太郎は、きっと立派に自分の志を遂げたんだ
遂げたはずなんだよ…

俺達に出来ることは良コンマとって京太郎のその成長を黒太郎に見せつけて安らかに逝かせてやることだけなんだよきっと…

集中治療室。

重症患者のみが運ばれる、この病院で生と死の瀬戸際に最も多く触れる場所。

ここに今数人の医師と、一人の少女と、一人の少年が居た。


響く打撃音。
医師達の間に浸透するざわめき。
静寂が常の集中治療室においてはあまりにも奇妙な光景。

それも当然だ。


「脳波の反応なし、心臓の鼓動なし、体温もない」

「医学的に言えば完全無欠に死亡している。一片の蘇生の余地すら無い」

「対象が死亡すればコトリバコの効果は解除されるはずだ」

「ああ。あれはあくまで『殺す呪い』であって『壊す呪い』じゃない」

「……なのに。なのにだ」

「何故、いまだに彼の内蔵は千切れ続けているんだ……!?」



『死体が殺され続けている』という奇妙な光景。
ただでさえ、都市伝説による特例に対する治療は近年になってようやく整備されたばかりだというのに。
こんな事は全く前例がないほどにとびっきりである。


憩「何もおかしな事はないですよーぅ」

「なに?」

憩「身体は死んでも、魂だけは意地と気力だけで身体にしがみついているという事でしょう」

憩「だから、『死んでいるのに死んでいない』。そんなとこです」

憩「……ほんっとうに。君は医者泣かせなんやから、もう……」



間違い無く死んでいる。命の残滓が何一つとして残っていない。
その体はもう冷たくて、生きている要素が何一つとして残っていない。
現代の医学には、もう打つ手が何一つとして残っていない。

それでも彼女は、叩いて治す。

治して治して、治し続ける。

彼に目覚める気配が無くとも、治し続ける。



憩「死んだら治せんて、何度もゆーたのに」

憩「起きたら、おしおきとお説教やぇ……!」

真面目な場面なのに響く打撃音で笑ってしまう。

>>232
禿同

彼が討たれた時、この街に住まう彼と絆を育んでいた者達は何が起きたかを瞬時に理解した。


『虫の知らせ』とでも言うべきか。
一度結線された絆は、そういう事まで伝えてしまう。
彼の意志とは無関係に、無差別に、無制限に。


その事実にある者は泣き。

ある者は怒り、ある者は憎み、ある者は祈り、ある者は呆然とし。

その事実に、十人十色の反応を返した。


……だが。


示し合わせたかのように、似通った行動をとった者達も居る。

『彼女達』は驚き、俯き、そして顔を上げ。

前を見据えて、動き出した。


折れず、泣かず、膝をつかず。

彼女達は『自分に出来る事』を探し、動き始める。

彼女達はまだ諦めていない。

大切な友人の一人の命を、諦めていない。



時計の表示はすでに00:00を過ぎ日付は変わる。


諦めない者達の、12月31日が始まる。

今、彼女らはどこに居るのだろうか?


彼と特に強い絆を結び、多くの窮地を共に乗り越えてきた四人。

彼に力を貸してきた、彼の背中を預かる仲間達。


彼の力、彼の足、彼の鎧、彼の目。

彼の運命共同体。


彼女達は今。
彼の代わりに、この街に息づく希望を感知していた。

それを探し、それを彼に届けるために。


彼女達は己の理解者かつ彼の友である者と共に、街へとその一歩を踏み出した。




【探索パート】


【主人公不在】


【稼働可能ユニットが四つあります】


・「高鴨穏乃&新子憧」
・「国広一&天江衣」
・「鶴田姫子&白水哩」
・「園城寺怜&清水谷竜華」


【この街で現在特に重要な四つのポイントがあります】


・三尋木萬物店
・中央高校生徒会室
・河原
・作戦用設営地


【各ユニットを各場所に移動させ、想いを彼に伝えて下さい】

え、これは対応するキャラを対応する場所に動かさなきゃ駄目とかそんな感じですか?

イベント内容が変わったりすんのかな?

怜→三尋木(オモイヤリ的な意味で)
穏乃→生徒会室(消去法)
一→河原(出会いイベント的な意味で)
姫子→作戦設営(能力的な意味で)

ざっくり考えるとこんな感じ、かな

なん…だと?
誤爆は久方ぶりだ…。

お気になさらずー!

>>243
効果の割合とイベントの内容、人間関係などに影響はありますがハズレは基本無いですよ
ポケモンの最初の三匹的なアレです

>>244
いえす

>>251
HAHAHA!



ユニット:「高鴨穏乃&新子憧」


移動先を指定して下さい


【移動可能先】

・三尋木萬物店
・中央高校生徒会室
・河原
・作戦用設営地



>>262

生徒会室

中央高校生徒会室

煌「……連絡はつきました。ほどなく来てくださると思いますよ」

和「ありがとうございます。私、友達少なかったので……」

煌「いえいえ、可愛い後輩のたっての頼みですし」

煌「それに、です。こんな時に何もしていないというのは、なんとも私の性に合わない!」

煌「私に出来る事を提供してくれた貴女には、むしろ感謝したいほどですよっ!」

和「(……ああ、この人は、本当に心から尊敬できる先輩ですね)」


生徒会室。
年度末で閉まっているはずのそこに、何故か集まっている人影。

数は四。
彼女らは、とある目的でこの場所に集まった者達だ。


泉「ったく、ホンマになんとかなるんやろうな?」

和「あの、リスクと見込めるメリットに関しては説明したはずですけど……」

浩子「気にせんでええ。こいつお前に対抗意識持っとるだけや」

泉「船久保先輩!?」

和「はぁ、そうでしたか……」

泉「ま、真に受けんなや原村!」



そして扉を開き、慣れた様子で生徒会室に入ってくる者達。

数は四。


久「はいはい、お邪魔するわよー」

智葉「騒々しいのは代替わりしても変わらんのか。嘆かわしい」

ゆみ「まあ、落ち着きのある生徒会というのも違和感がな……」

やえ「そんなに悪い事でもないとは思うけれども。ま、良しかな」



そして最後に二人。

片方が片方を背負って走り、風より速く駆ける影。
影はひとっ跳びでベランダに着地し、窓から颯爽と参上した。


憧「あら、私達が一番最後?」

穏乃「ぐぬぬ、結構急いで来たのに……」


四に四が加わり、今二が加わって数は十。



和「(……よし、これで『十人』 )」

和「皆さん。危険を承知で、しかもこんな日に集まって下さって感謝します」

和「私達は今日ここに、ある一人の友人を助けるために集った十人です」

和「彼を助ける『答え』を得る為、私達は最悪命を賭けなければならないでしょう」

和「その覚悟は、ここに来てくださった時点で皆さんは既に持っていると思います」

和「では、これより」



和「『怪人アンサー』への挑戦を、開始します!」

しまった穏乃とかいう脳筋枠入れるべきじゃなかったか!?

ユニット:「国広一&天江衣」


移動先を指定して下さい


【移動可能先】

・三尋木萬物店
・河原
・作戦用設営地



>>289

河原

さっきから安価が字一色とか緑一色並の団結力で草生える

一「……懐かしいなぁ」

衣「以前、一はここでキョータローと出会ったと聞いたな」

一「あ、覚えててくれたんだ?」


彼と彼女が初めて出会った河原。
運命的な出会いの舞台の一つ、彼女の思い出の場所。

だが今日ここに彼女が来たのは、感傷に浸るためではない。



一「えーっと、ここら辺かな……」

衣「ううむ、『なんとなくこの辺りに何か有りそう』という感覚は参考にし難いな……」


理性でも理屈でもない、勘に近い感覚。
それが彼女等をこの場所まで導き、引き寄せた。

それが何なのか、本人達にも分かってはいない。



一「……あ、あったあった!」

衣「なんと! 流石トーカの専属メイド、一は優秀だ」

一「拾ってきたのは『ロロン』だってば」


これもまた運命か。
奇しくも目的の物が出てきたのは、彼女が従えるワニが初めて這い出てきた場所。
これもまた、出会いの場所だ

そこから少し小さめのケースを咥え、戻ってくるワニのロロン。
ケースは蓋を閉めている限り完全に防水になるタイプ。
川を流れてきたにも関わらず、おそらく中身は全く濡れていないだろう。



一「さて、中身はっと」

衣「……日記?」


このケースを川に流すということは、このケースの持ち主は自分以外の誰かにこの中身が渡る事を望んでいたという事。

川に流したケースは流した本人にもどこに行くか分からず、いつか何処かに引っかかり誰かの手に渡る。

……まるで。

まるで、
『自分の手元にこの日記が戻ってこないように』
『自分がこの日記を処分してしまわないように』
するために頭を捻った、そんな印象すら受ける。


そのケースの中に入っていたのは、分厚い一冊の日記。



一「タイトルが書いてあるね」

衣「どれどれ、タイトルは……」



「『新・きょうたろうにっき』……?」

ナイスロローーーン!!!!

ユニット:「鶴田姫子&白水哩」


移動先を指定して下さい


【移動可能先】

・三尋木萬物店
・作戦用設営地


>>313

作戦用設営地

これで残りは埋まったか

お前らの結束力マジでなんなのw

>>319
そら(古き良き少年漫画のクライマックスみたいな展開になれば)そう(展開に応えるための答えを出そうとする)よ

都市伝説スレも一枚岩ではないからな……

まあクリアさえすればヒロインの好感度は勝手に(しかも全員分)上がってくれる仕様だから、団結しない理由がないもんな

忘れてはならない。
コトリバコはそれ単体で凄まじく強力な都市伝説であり、素人では対処すら不可能な悪夢だ。

確保のみならず、その後の処理にも人材と時間が必要なのである。
そのための設営地。そのために集った者達。

ここもまた、戦いの地である。


小蒔「……」

霞「小蒔ちゃん……」

小蒔「今は、そう呼ばないで下さい」

霞「……承知しました、姫様」


流れる汗。苦悶の表情。漂う空気は彼女らが常に纏う柔らかなそれでは無い。
だがその原因は、この作業の困難さでも、彼女らの疲労でもないのだ。



初美「見舞いに行っても、良いんじゃないですかー?」

初美「心配なんでしょう? ここは私達に任せても問題ないですし……」

小蒔「ありがとね、はっちゃん」

小蒔「でもこれが、今ここで私のすべき事だと思うから」


彼の現状は彼女らもちゃんと把握している。
だがその上で、この処理を続けている。
それが自分達のすべき事だと、自分達がそうする事を彼も望んでいると、そう思うから。

だからこそ歯を食いしばり、彼女らはここで戦い続ける。



巴「もう六時間ぶっつづけですよ。休みましょう、姫様」

小蒔「……は」

巴「?」

小蒔「あの人は今、もっと苦しいと思うから。あの人は今も、頑張ってると思うから」

巴「……!」

小蒔「だから、もうちょっとだけ頑張らせて下さい」

巴「……はぁ。これは良い成長なのか、悪い成長なのか」

巴「あと一時間だけです。そこで絶対に休憩を取って下さい」

小蒔「はい!」


そしてその判断は結果的とはいえ、正しかった。
ハッカイの起動は他のコトリバコと共鳴し、全てが同時起動する可能性すらあったのだ。
誰も想定しなかった、事故に近い大惨事の発生。
真摯な彼女らの努力が、その惨劇を防いだ。

そんな、小さな奇跡。
誰かが動揺し、自己満足の見舞いになんて行っていれば防げなかった結末。



春「姫様」

小蒔「はい?」

春「頑張ろ。終わったら、一緒にお見舞いに行こう」

小蒔「……はいっ!」


彼女達も戦っている。
それは直接的に彼の為にはならないけれど、彼の大切な物を守り続けるのだ。

姫子「……だいじょぶみたいですね」

哩「よかよか。心配せんでも良かったとね」


それを見守る二つの影。

そして、そこに加わる三人。


透華「では、こちらも始めましょうか」

淡「他の人達はもう色々始めてるみたいだねー」

尭深「……準備は、大事だから」

淡「もー、尭深先輩は心配症だなー! 私いるし百人力でしょ!」

尭深「あ、貴女がお気楽なんじゃ……」

モモ「こっち終わったっすよー!」

透華「お疲れ様です! では、皆さんを集めてくださいまし!」



透華「いいですか? 『彼』は必ず、この病院に京太郎さんにトドメを刺しに来ます」

透華「タイミングは遅くとも夕方。それまでに罠なり準備なりを整えます」

透華「私達で時間を稼ぎます! 倒してしまっても構いませんわよ!」

透華「防衛作戦の指揮は白水先輩が最後衛から姫子さんと共に取ります。皆さん、よく聞くように」

透華「では、準備を始めて下さい! エグい罠だとなおよろしいですわっ!」




哩「今更だけんど、何故私?」

透華「貴女が最年長だからですわ。実力も申し分ないですし」

哩「……そか」

姫子「ファイトですよ、ファイトっ!」

あれ?哩も能力持ち?

菫「ロン」(物理)
姫様「……は」

なお、姫様はまたしても手塚神を引き当てる模様

この街のとある場所。

そこに店を構える三尋木咏のもとに、とある人物が訪れる。

三尋木咏の友人であり先輩で、互いに長い付き合いのある同志でもある人物。


健夜「咏ちゃん、お邪魔するよー」

咏「……ん、いらっしゃい」

健夜「あ、言わなくても分かってたりする?」

咏「ま、このタイミングならねぃ。もうちょい、あと数時間くれな」

健夜「手伝うよ」

咏「そりゃ手伝って貰うに越した事はないけど、良いんかい?」

健夜「何が?」

咏「こんな所で時間潰してて、って事。弟さん、心配じゃないの?」

咏「第一『こんなもの』仕上げたって、何か変わるわけでもあるまいに」


咏がカウンターの下から取り出した、長物らしき者を包む布。
それは布の下からでもどこか神秘的な存在感を漂わせる、そんな何か。

だがそれは、紛れもなく武器の素材。
健夜が咏に依頼していたであろう武器の一つ。
この状況にはあまりにも不釣り合いな、そんなものだった。



健夜「……かもね。何も変わらないかもしれない」

健夜「でも分かるんだ。何となくだけど、私が今すべき事はこれだって」

健夜「『これ』を仕上げて、あの子のもとに届けてあげないといけないんだって、そう思う」


布の上から『それ』をそっと撫で、少しだけ表情に苦渋を滲ませる健夜。

そこには確かな無力感と後悔が見える。

……だが、諦めてはいなかった。


咏「……そーかい。理屈じゃないんだねぃ」

咏「ならもう何も言わないさ。手伝っとくれ」

健夜「うん」


そこに、更に加わる彼の仲間達。
彼の半身とも言える相棒と、その理解者たる親友。


怜「なら、うちらも混ぜてもらおーかな」

竜華「お邪魔します、お手伝いですー」

健夜「!」

怜「それ、相棒の『オモイヤリ』やろ?」



怜「なら尚更、うちは手伝わなあかんと思う」

初期装備がパワーアップして最強フォームの武器になるのか
胸が熱くなるな…!

怜「で、これ何なん?」


咏を手伝いつつ、作業の予定を短縮させてゆく。
一人より多人数でやった方が作業は早く終る。足を引っ張らなければ、だが。
その点においては三尋木咏は優秀で、上手く素人の三人を使いこなしていた。


健夜「私の家系には、ルーツがあるの。これは家宝ってやつだね」

健夜「『小鍛治』の家は室町期の伝説の刀工の子孫だって言われてる」

健夜「けどもっと遡れば、そのルーツは外国から渡って来た移住者なんだ」


手を止めずに、しかし流暢に怜の質問に答える。

健夜が語るのは、知られざる刀工『小鍛治家』のルーツと、その家宝の由来について。



健夜「その渡って来た人の先祖の名前は『トバルカイン』。世界最初の鍛冶師なんだってさ」

健夜「この金属の棒っ切れは、トバルカインが作った槍の柄の部分。穂先はどっか行っちゃったからね」

健夜「どっかの兵士の手に渡って、ゴルゴダの丘って所で十字架に磔にされた人をぶっ刺したものだよ」


『トバルカイン』。
アダムから数えて七代目の子孫にして、世界で初めて殺人の罪を侵したカインの子孫。
そして世界最初の鍛冶師である。

彼が作った至上の双子の武器と呼ばれるものがあり、それは剣と槍であったという。

剣は既に失われ、槍も今や穂先を失いただの棒となっている。

それが今灰となった『オモイヤリ』の柄の代わりとなって、生まれ変わろうとしている。



竜華「あれ? それってロンギn」

咏「はっはっは、これが何かなんて私わっかんねー」

怜「あっはっは、うちも分からんなー」

竜華「……せやな。うちも分からんなー」



これで四人が汗水流して作っているのが『箒』だというのだから、世も末だ。

人読んで伊達男

彼女らの一つ目の幸運は、彼女らがよく知る『あの』怪人アンサーが出てきてくれた事。


『やあやあ、僕は怪人アンサー。そろそろ君がかけてくるだろうと思っていたよ』

『実は次も彼に君が協力してくる形で挑戦してくるものだと思っていたんだけどね……』

『ま、それは置いておこう。事情は把握してるし、急いでいるんだろう?』

『成長した君の知慧を、試させてもらおうか』


そして、二つ目の幸運は。


『さて、始めよう』

『君の問いかけ、九つなんでも答えよう。だけど真実、安くはないよ?』


これまでの物語の中で。これまでの日々の中で。
彼女が育んできた彼への想いと、それに触発された彼女の成長。

そして、彼の死による一時的かつ爆発的な彼女のモチベーションの上昇。

それが彼女のスペックを大きく引き上げた事に違いない。



和「——です」

『……大した物だ。いや、素直に称賛する』

『僕と本気で渡り合い、加えて初めてこの本番のゲームに参加したというのに』

『本来これは、九つの問いを発しなければ正答に辿り着けない物だというのに』

『六つ目の問いで既に、答えを確信しているとはね……』

和「問い二つ分は確認用でしたから。テストで見直しは基本でしょう?」

『……まいった。完敗だ。ここまで成長しているとは、まるで別人だね』


和「……彼に合わせて皆頑張って、皆成長してるんです」

和「人間ですから。今日の私達より、明日の私達はもっと頭が良いと思いますよ?」

和「彼を助ける答え(アンサー)、頂いていきます。ありがとうございました」


『不躾だが、僕も彼の幸運を祈ろう。頑張るといい』

和「はい」


完全勝利。
先輩や仲間達の手助けがあったとはいえ、本気の怪人アンサーの上を行った和。

だがその顔には歓喜も余裕も油断も無く、その思考には既に次の問題への策が練られている。


和「会長」

煌「はい、なんでしょうか」

和「白紙のコピー用紙、結構余ってましたよね」


次は全く毛色の違う問題。
……穏乃がここにいてくれことが何よりの幸運だったと、和はそう思った。



和「皆さん、片っ端から協力してくれそうな知人に連絡をお願いします」

和「とにかく手が足りません。この街に住んでいる人達全員巻き込むんですから」

和「朝までが勝負です。気を引き締めて下さいっ!」

黒太郎(アイマスく装備)「僕は腐ってる」

……おい違和感仕事しろ

玄「おねーちゃん、こっちこっち」

宥「あ、うん……」


駅前のカフェ。
そこで待ち合わせるために待っていた二人と、今入ってきた二人。

四人でテーブルを囲み、話を始めるようだ。


一「あ、早かったね。呼んだのは宥さんだけだったと思うけど」

玄「おねーちゃん、一人だとバスでも乗り過ごしちゃうし……」

宥「あぅ」

衣「そ、それはまた難儀な……」

宥「わ、私の事はもういいでしょう? それより、何で私を……?」

一「あ、要件はこれね。特に最後の所について」

衣「もしこれが本当であるのなら。衣達は心当たりを片っ端から当たっていく所存だ」


一の手から差し出された一冊の日記。
それを受け取り、宥はおどおどとしつつも読み始めた。

……内容は、想像にお任せしよう。

だが、それを読んだ松実宥の百面相はひどく安定しなかった。

泣きそうになったり、納得していたり、苦しそうだったり、怒っていたり、悲しんでいたり。

そして何より、後悔を滲ませていた。

特に『彼』の正体と、これまで『彼』に自分が向けていた感情や取っていた行動について。



宥「……わ、私、私、私、あの人に、ひどい事、一杯言って……」

玄「おねーちゃん」

宥「ど、ど、どうしよう……」

玄「……おねーちゃん!」

宥「ひゃっ!? ……く、玄ちゃん?」

玄「今は、謝る時? 後悔している時?」


玄「おねーちゃんは、そう思うの?」


宥「……ううん。今は、そんな時じゃないよね」

宥「ありがと。玄ちゃん」

玄「いえいえー。私、おねーちゃんの妹だもん」


松実姉妹。
京太郎が『二人で一人』とかつて評したほど、仲の良い姉妹。

伊達じゃないのだ、姉妹の絆は。




一「空気読めてないようで悪いけど、急いでるんだ。何か心当たりはある?」

宥「咲ちゃんは今、どこにいるのかな?」

一「へ?」

衣「サキなら、おそらく荒川病院だな」

衣「サキがキョータローのそばに居て見守ってくれている確信があるからこそ、みんな安心して動けてるんだ」

衣「じゃないとみんな見舞いに行ってててんてこ舞いだと思う」

宥「そっか。じゃ、行こう」

一「え? え? どこに?」

宥「荒川病院」



宥「咲ちゃんに、会いに行こう」

四つの希望。

四ヶ所の仲間達。

それぞれはそれぞれの道を行き、それぞれの戦いを始める。

この場所での彼女らの戦いは、その中でも最後に始まる戦いだ。

なんと言っても、12月31日の真夜中に始まるのだから。


姫子「……来た。大星、見えとる?」

淡「来てる来てる。うっわー、トドメ刺しに来たのかな」

透華「割と洒落になりませんわね、それ」

尭深「……ん。ここ通るの?」

モモ「らしいっすねー。私達はちょっと引っ込んでましょう」

尭深「ん」


他の三箇所の戦いが終わるまで、敗北の許されぬ戦い。

希望が繋がるまでの時間稼ぎ。最後に始まり、最後に終わらなければならない戦い。

相対するは荒川病院で未だ眠り続ける京太郎の首を取り、最後の希望を断とうとする黒い京太郎。

希望を繋ぐ事を友に任せ、彼女らは希望を守らんとする。


淡「さーて、みんながアイツを起こすまで頑張ろっか!」

淡「ここで私達が終わらせちゃうぐらいの気持ちでっ!」


「「「おーーーーっ!!」」」




哩「……頭のよか奴がだいたい強かやつで、前線に出さなかといかん」

哩「結果、指示出す本陣に頭のよか奴が残らなかのが最大の問題やと思うけん」

姫子「哩さんは十分頭よかとですよ! 自信ば持って下さい!」

あれ、たかみーっていつ出てきたっけ

黒太郎で一番の鬱ポイントは大切な人たちが遺してくれたモノを心の摩耗と都市伝説の暴走により忘れてしまっている事だな……

三尋木萬物店にて静かに。
日付が変わる頃に始まった戦い。
彼の新たな牙と希望。

中央高校生徒会室にて騒々しく。
日付が変わる頃アンサーと、そして新たに深夜に始まる戦い。
彼の救いとなる答えと、そこから生まれる希望。

河原にて懐かしく。
昼に宥と合流し、黒い京太郎が残した希望を巡る戦い。
今にも切れそうな、だが確かにそこに在る希望。

作戦用設営地、そして病院へと続く道。
31日の終わりに始まる、最も物理的で、最も危険な希望を守る戦い。
希望を繋ぐでもなく生むでもなく、守る為に。


誰一人として諦めていない。
だからこそ戦っている。運命に抗っている。

誰もが『現実』なんてものに心折られず、思うがままに前に進んでいる。

死という『現実』に抗っている少年が、自分の後ろに居るのだと知っているから。


そんな中、彼はいまだに眠ったままだった。


……だが。


死の果てに、身体も力も朽ち果てたはずの彼の指が。

彼が守った幼馴染が祈り、医師達が必死に治療を施すその中心で。


ピクリと動いた、そんな気がした。




END.
第十六話前編:Petit Prince/星の王子様

START.
第十六話後編:Patchwork Girls/パッチワーク・ガールズ

本日の投下はこれにて終了。次回はいいですとも!から開始で全てに決着を付けて終わりです

お疲れ様でしたー。明日早いのでレス返しは後回しにしてしまおうかと思います


六回質問→京太郎を救う方法聞く→二回質問して答え確認とかやってたHARAMURAさんは舐めプってレベルではなく


今回出番がなかった人達も、裏で色々動いてます
みんな頑張ってます。後は、それがどう噛み合うか次第


では本日はこれにて。お付き合い感謝です

パッションリップよりメルトリリスが可愛いとか予想外的おやすみなさいませー


俺は赤ランサーを使えるFDが来るのを祈ってるよ

もっとドロッドロの鬱展開にならんかなぁ

なんで課金兵達がこんなに集まってるんですかねぇ・・・?(困惑)

こんばんワーキングプア

ネットの回線費があればどうなっても満足して生きていける我々は果たしてプアの中に含まれるのか否か


明日ラストやりますー
時間はちょっと早めの20:30から、ですかねー



>>331
今の所は一般人。ただ頭が良いのと『眼』になる姫子との関係性、それとなんだかんだ年上を敬う子が多い陣営に配置された結果ですです

>>353
士栗ちゃんが屑おにーさんとか呼ぶようになってまいますね

>>367
今回が初出です
・・・ちょっと歪んだ形で前スレ>>1000の意向に沿ったなんて言えない雰囲気

>>375
むしろ全部綺麗サッパリ忘れられないからこうなっでしまったのではないでしょうか

>>388
つ、使うだけなら・・・

>>398
ファッ!?

>>408
みんな、肩は赤く塗らねえのかい?



http://matomate.blog133.fc2.com/blog-entry-5508.html

ビーストハイパー・シルバーブラック……!
正直メテオフュージョンといい最近はカラーリングだけでいいからもうちょっと気を使いなさいよと言いたいのですが

>>411
でも同じ様なカラーリングのライジングイクサはぐうかっこいい謎
曇り→晴れ→青空になってるって聞いたときは感動した

>>1にお願いが‥‥

次レスからでいいので、過去レスを全部まとめて(できればそれぞれのスレの都市伝説についても)載せて頂けると助かります

http://i.imgur.com/sZ4xv8p.jpg
http://i.imgur.com/eGxu83K.jpg
(※トレス・コラ)

京ちゃん復活したら卍解ぐらい使えるようになるはず

ビーストの戦闘スタイルで射撃武器がパワーアップアイテムなのもどうかと思うよね

>>423
ブラウザなら見れるんだけどチンクルとかで見る時はデータが取得出来ませんって出るんだよ…
今後の話の為に読み直そうと思ったらブラウザで見るのはキツイ

VS衣で止まってたたの一気に読んできた

なんだこの怒涛の展開……黒太郎は予想通りだったけどここまで想いとか考慮しとらんよ……

wiki復活したら今まで登場した都市伝説まとめてみるかね
また前話みたいなことが無いとも限らんし

(黒京太郎の過去がエロゲの世界じゃなくてよかったなー…)

咲ちゃんにカレイドステッキを持たせたいな・・・
そうすれば、麻雀強くなったり
ポンコツ魔法少女らしく並行世界を観測できるようになったり
園芸部らしく植物使ったケルト魔術使ったり
文学少女らしく闇の書持ってたり
とヒロイン力とイロモノ臭が爆発的に上昇するのに

>>437
誰とは言わんが絶対遵守の力とか複写眼とか人工ヴァルキュリア人だとか怪を引きつけたり浅黒い肌の上位生命体になったり全裸だったり商人だったりコロニーだったり綺羅星だったりヤクザだったり天才パズル作家だったりしちゃうキャラがいるから

さて、いいですともは何時ごろなのか…時間次第では参加できないから泣きそうだ

>>441
投下は20時半じゃなかったっけ

こんばんワイヤレス

ロックマンエグゼでワイヤレスプラグインが出た当時は最新技術だったんですよねー


今夜20:30開始ー


>>413
カラーリングとデザインのマッチングでしょうね、メテオストームもですし

>>416
んー、それ自体は労力じゃないんですが>>431さんがやってくれるというのなら面倒くさがりの>>1はお任せしたい・・・
とりあえずちょちょいとお待ちください

>>417
あぱあああああ
あざーす!ありがとうございます!

>>419
ビーストは色々武器や性能・スタイルの噛み合ってない感がしますよねー

>>426
以前の速報はDATでの取得機能もあって余計なスマホ用ページとかも無かったんですけどね・・・何で変えたんでしょうか

>>427
ウェルカム!

>>436
おいバカやめろ

>>437
咲さんの中の人が咲さんに使われてしまったせいで関西弁枠が足りなくなっているという事実
あの人の関西弁キャラは大好きです

>>440
福山さんは本当に多芸なお方

>>441
投下開始してほどなくですよー




               /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\
           ..::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::ヽ::::::::::ヽ
           /:::::::::::::::::/i::::::::::::::i:::::::::::::::::::ハ::::::::::ハ
            /::::::/::::::::::l .i::::::::::::::ト、:::::::::::i::::::i::::: /::::.
         ′::;'::::::::/i:| .i:i:::::::::i::| V::::::::|:::::|::::::::::::::.
           |{.i:::i:::::::/、|:! {ハ::::: il:| 戈ハ:i:::::|:::::::::::::::i
           |ハ:i::::::{  i:≧xヾ:::」≦斗=x i:::::|:::::::::::::::|
          ヾへ!ィ芹ミ    斤:刈 〉::: i:::::::::::::::|

           ;::::::ハヽV)リ    弋)リ |::::::|::i〉:::::::::|
             ′::::::} 、、、 '    、、、、 1:::::|::i:::::::::: |
          {:::i::::从     - 、     イ:::::i:::|:::::::::::|
          i:八::::::::>       , イ フ:::::」-一〜'
                ⌒~_   `¨i _/ }ヽー--- 、
                /{////  Уへ   //∧////∧
             {/7/'// /}. 〃 \{///∧/////{
                八{// { ̄ 「厂 ̄} //////////i|
             {//≧/>-ク^ヽ-く. i//<//{/////〉
             〈/∧//乂_/i弋_/ /////〉/i/////i
             }//}///i   i     {/////7/////|
             ///ト、//|   i    //////,{/////{
           {///|∧/1   !   }/イ/////i/////i|


アニメの振り向きシーンは可愛かった(小並感)
出番がないのは単純に話の都合というより登場人物の数の都合でごぜーます

>>442
投下すぐにいいですともが来るとは限らんやん?

って>>1来てた! いいですともには間に合うもようか! やったー!

エグゼは3が最高だった
7でないかな・・・

咲は別時空で包帯姿のぼっちでけなげ魔王で、さらわれ系ヒロインやってるじゃん

中の人ネタの時も名前が挙がらない太陽王……

>>448
アイリスが可愛すぎてメイルちゃんはヒロインとして生きるのが辛い

>>452
>>1はベル様かパールちゃんの下僕にしかならないから・・・

>>454
太陽王フハハーンがどうしたって?


                     ,.. - — - ..
                  >: :_: _:_/_: : : : : : : <

                 /: : : : : : : : : : ヽ: \: : : \
                   ,.: : /: : / : : : : : : : :,=ミヽ: : : : :,
               /: : :, : :/: : : : } : : : : :',==-ヽ: :__ソ⌒マ

                 {:.: : :|: :{ : : : : :!: :i!: : :.ハマ=-{ヾミ{ -—.{
               :: :i: :|: ハ: : : : :j: : !: : /: }マ=:|  {、 __',
               ハ:{: :ト:{__マ: ::/i: :/j/j:/ }ィハ .、!:i

               ,: ::ヾト{:. 迩i/ .j:/ ´迩メア ' .}: ヽ_{: ∨
              .: : : : :.ハ    j      __,八: : : : :∨
              /: : : :./ : :.  、  ,    /: : : ::', : : : : ∨
               /: : : : /:,.≧-========-≦-- .、 :'l: : : : :.∨
              ./: : : ::/{:::::::::::::::::{///{::::::::::::::::::::::::::::}}: : : : : :.V
            /: : : :/i:.ハ::::::::::::::::|///|::::::::::::::::::::::::::メ! : : : : : :.∨
              , : : :/--- ヽ::::ー-}///}:::::::__:::彡イ::{:::ー-ォ、 : : :、
            /: :/ }::::::::::::::iヽ::::::{///{::::::::::::__彡イ:::::::::/:::::i: : : : \
        ./: :/ /::,:::::::::::::∨∧::i///!:::///::::::::::::::/:::::::ハ : : : : :\
       ./: :/  ./:::::::::';::::::::::::::∨/ ̄ ̄V//:::::::::::::::::/:::::::/:::::.、 : : : : :.\
      /: :/  ノ:::::::::::::::i}::::::::::::::V    }':::::::::::::::::::::/::::::::'::::::::::::ヽ : : : : : \
     ,: :/   く::::::::::::::::::{::::::::::::::人   /:::::::::::::::::::::::{::::::::::::::::::::::::::::} : : : : : : :

     /: :′    ヽ::::::::::::::,:::::::////ヽ///\::::::::::::::::!:::::::::::::::::::::::::ノヽ : : : : : :
     i: : :     /: ノ:::::::::::::ハ//////::::\///,ヽ:::::::::::ハ::::::::::::::::r-{  \ : : : :
     {: : {   /:/::::::::::::::/ }///彡''- —-、::\///.≧∧ ヽ::::::::::::マハ.   \ : :
     .マ:ハ ./: :/::::::::::::::/: : }:::::/      \:::.ー-./: : ', }::::::::::::マハ     \:
      ヽ: \: /::::::::::::::::i: : :i´ ̄{   :    ノ⌒i:::::ム: : : ヽ!::::::::::::::マハ
     /: : : : /:::::::::::::::::::|/{  乂  :   イ   乂_リ: : : : :|::::::::::::::::マハ
   ./: : : : : :/::::::::::::::::::::::{ ノ ヽ___/  :   {_, -<ヽ: : : : !::::::::::::::::::マハ
   : : : : : : : /::::::::::::::> ´{   ノ {      ア {   }ノ < }:::::::::::::::::::::マハ
   : : : : : : /::::::> ´    ー<  /  .i   〈   > ´   ` <:::::::::::::::::マハ
   : : : : : /::::〈        /\ ′   j   ヽ.__ ィ       ` <:::::::::::マハ
   : : : : /::::::::::ヽ      /                V        ノ:::::::::::::マハ
   : : : /::::::::/::::` < _./                 ∨    >.:´:::::`''<::::マハ
  : : :/>.:´:::/// ヽr=ミ 、              ヽ/__ イ \:::::::::::::::::::`''<:,
  > ´::::::///////リ  .〉〉           __ノ{///∧:::\\::::::::::::::::::::::::`''<
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  :::://::/ `ヽ//  ./   ヽ { YY .} ./  マ:..  ∨///ヽ:::::::\\:::::::::::::::::::::::
  :: /:::::/     , \彡     ヽ乂i_iノ/     \ヽ }ソ´ ̄ \:::::::\\::::::::::::::::::
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  :::::::////// ̄ }}           /   ',          |      .\:::::::\\



投下はっじめーるよー

いいですとも!(フライング)

 



    絶望という崖の上にも、花は咲く。



 

息苦しい。

無限大に暗い闇の中に、無慈悲に冷たい世界の中に、無制限に深い海の底に。

深く深く、沈んで行く。

もう戻れない程に深く、生の光が見えない程に遠く。


この海が息苦しいのは……きっと、人が生きる世界がただ在るだけでも生き苦しい側面を持つからだろう。


かつてこの『海』に沈んだ時は、もっと浅い場所だった。
優しい人達の手助けこそあったものの、己の力で『絆』を掴み這い上がる事が出来た。
だからこその復活。だからこその進化だった。

……だが。


こんなにも深くて、こんなにも冷たくて、こんなにも暗い場所からは。

俺の力だけじゃ、どう足掻いても這い上がれやしない。


……それでも。

それでも、足掻く。



確かにここで眼を閉じて、この闇に身を委ねるのは楽かもしれない。

確かにここで生を諦めて、この世界で終わることは楽かもしれない。

確かにここで足掻くのを辞めて、諦めてしまうのは楽かもしれない。


だがそれは。そんな妥協は。そんな諦めは。そんな選択を選ぶという事は。

足掻くのをやめてしまうという事は、俺の生き方を曲げるという事だ。


ダメだ。それだけはダメだ。


俺に賭けた人達が居る。
俺を信じた人達が居る。
俺に託した人達が居る。


俺が生き方を曲げる事は、あの人達への裏切りになる。

だから、足掻き続ける。

それがたとえ無駄だったとしても、足掻き続ける……!!

……そんな、しぶとくもみっともなく足掻く俺の視界に。

ぼうっと、儚くもかすかに映る光があった。


ここは一筋の光すら差さない闇の中。
一欠片の輝きすら許さないこの世界では、ほんの僅かな煌めきですらまばゆく感じてしまう。

こんな果てしなく底の無い深海のような場所で、何が光を発しているのだろうか。


ここには俺しか居ないと思っていた。
俺は足?きながらも、一人ぼっちで死んでいくのだと。
この無限にして無光の世界で、どうしようもなく終わるのだと思っていたから、驚きはなおさらだ。



光は二種。

山吹色の今にも尽きそうな光と、それを支えカタチを保たせている浅葱色の光。

互いに混じり、互いに溶け、互いに支え。

けれど合一はせず、二色で一つであると主張するかのように流動している。



……ああ、なるほど。

なんとなく分かった。

俺の考えは正しかった。ここには俺しか居なかった。

この光は。輝きは。煌めきは。



俺の中から漏れ出ている、俺自身の『光』だ。



こんなにも光の無い世界に落とされたからこそ、実感できた光。

こんな場所に落とされなければ一生認識する事もなかったかもしれない、そんなか細い光。



山吹色の光は俺の命。俺の心。生まれ持っての俺の光。

浅葱色は……分からない。

なんだろうか。

俺の半身であるにも関わらず、こうして触れてもよく分からない。

それでも触れているだけで誇らしくなるような、心が奮い立つような、そんな光。

……興味が湧いてきた。

俺はその光に意識を向け、その深奥へと手を伸ばす。

もっと奥へ、もっと奥へ、もっと奥へ。



その奥に、きっと何かが———

【???】


このレスから15分後に、>>1が【今じゃ、パワーを京太郎に!】とレスします。

そのレスから15分以内にレスされた【いいですとも!】というレスの分、カウントされます。

同一IDは無効。

レス数の分、京太郎に『何か』が起きます。

前回とは違う方向性、今回は純粋にパワー補正です。

ネクサスとは別枠となりますので、人数の多寡は難易度の変化しかありません。



『そういう定義で動く力』に、パワーをやってくださいませ。

 



    【今じゃ、パワーを京太郎に!】



 

いいですとも!

・・・ん?


ん?

126かー

同一IDあっても126かー

せんとう ばらんすの ほうそくが みだれる!


と、とりあえず引き続き十六話後編をお楽しみください

美少女に囲まれる京太郎を囲む126の野郎の構図

>>654
やめーや
せめて赤マント回の苗字と名前が物凄いモブ達みたいな役割でくらい妄想させろや

遅れたけど………

カウントされませんが………!

いいですとも!

己の胸に手を当てて、その奥に『在る』この蒼い光の根源へ。

この手の先から更に伸びる、不可視の手を伸ばしてその先へ。

俺の胸の奥、心の奥、魂の奥、存在そのものの根源へと手を伸ばす。



そして、掴み取った。



……その瞬間、理解した。

俺の中で繋がらなかった幾つものピースが繋がる。

俺の魂、そして……『存在』そのものが正常な状態に組み直されていくのが理解できる。

力。これは、俺が本来手にしていたはずの力だ。



この力には、俺を黄泉路の果てから這い上がらせる力はない。

だけど俺一人ではこの場所でしか絶対に取り戻せなかった、そんな力。

俺がかつて請い焦がれた、心の底から渇望した力。

そして、今の俺に必要だった力。


その力が伝えてくれる。

皆が今、俺の為に頑張ってくれているという事を。

自分に出来る事を探して、精一杯頑張っているという事を。

そして、誰一人として諦めていないという事を。

だからこそ俺も、今自分に出来る事をしよう。



「……俺が見てたのは、『お前の記憶』だって言ってたよな」

「そんじゃ遠慮無く、もっと覗かせて貰うぜ」



『俺』の記憶、俺であって俺じゃない他人の記憶。

調べる事、調査する事こそ俺の本領。

俺は最後のピースを求め、『俺』のより深い部分へとその意識を飛ばす。



弱点でもなく、傷口でもなく、勝機でもなく。



俺が奴の中で探すべきは、そう———

黒太郎の中(意味深)に入ってたのか!?

——潜る。
その最中、余分な記憶が見えるが無視する。


黒「お前は、奇跡を信じるか?」

宥「はい?」


赤いマントと黒いフード。
気にはなるが今の俺には必要じゃない。
無視だ無視。


宥「……貴方は、もっとリアリストだと思っていたけれど」

黒「リアリストさ。俺が言ってる奇跡ってのはファンタジーじゃない、リアルの話だ」

黒「それに、響きだけなら素敵じゃないか」


もっと深く、もっと深く、もっと深くへ。


黒「どうしようもない現実、絡まった人間関係、踏破不可の困難」

黒「それらに努力した者達が挑み、そして敗北して夢破れ」

黒「だが、そこで奇跡が起きて……ハッピーエンド。めでたしめでたし」

宥「……やっぱり、貴方らしくもない」

黒「いいじゃないか、たまにはな」


もっと奥へ、もっと奥へ、もっと奥へ。


黒「この種を、お前の知る『宮永咲』という少女に渡しておけ」

宥「……これ、都市伝説の素体の種?」

黒「元はアイビーの種だ。誕生花で合わせてあるから、彼女とはそれなりに同調する」

宥「……なんで?」

黒「何、二回目にこっちのバラの種を渡す頃にはお前にも分かる」

宥「ここで教えて」

黒「……せっかちな奴め。まあいい、教えてやる」



黒「つまりだな、これは———」

宥「———」

黒「———」



もっと、先へ。




黒「奇跡が起こって、何もかもが上手く行って、そんでもって誰も彼もが幸せになって」

黒「……そんなご都合主義があったら素敵だと。それの何が悪いのかと。それはきっと素晴らしいのだろうと」

黒「俺は、そう思うよ」

京太郎が強くならないと…黒太郎が安心して消えられないんだ!

12月31日未明。

深夜と行って差し支えない時間帯にも関わらず、この街は既に騒がしかった。

師走の名に相応しく、休む間も取らず走り回る少女達。


その中でも一際活躍する少女の影。

風より疾く、誰一人としてその影を踏ませない神速の少女。

高鴨穏乃は、街を四方八方へと跳び回っていた。



穏乃「はぁ……はぁっ……、よし! 半分終わった!」



手に持っていた何かの紙を目の前の家の郵便受けに投函し、次の家に。

風の様に走り、次の目的地へ。一刻を争う今は時間がなく、節約せねばならない。

移動しながら携帯電話を手に取って、指示を仰ぐ。



穏乃「憧、今半分終わって紙が切れたから補充しに行くところ!」

憧『ゴメン穏乃! そっから南に2エリア分やって貰っていい!?』

憧『他が遅れ気味なの。だから……』

穏乃「オッケー。任せといて」


即答。

それが成せるだけの、強固で眩い信頼関係。


憧『……うん。任せた』

穏乃「頑張るのってさ」

憧『?』

穏乃「『誰の為に頑張るか』で、全然やる気が違ってくるんだね」

憧『……そうね。私も、そう思う』

穏乃「一区切り付いたらかけ直すから! じゃっ!」



ピッ



穏乃「……よっし! もうひと頑張りいきますかぁっ!」

生徒会室。



憧「……よっし、もうひと頑張りしましょうかね」

憧「こんなに心配かけさせるあのバカ、一発くらいひっぱたいてやんなきゃ気が済まないし」

憧「嫌よ、私は」

憧「……アンタが死んだ後の世界なんて、楽しそうに思えないんだから」



携帯を閉じ、同じ様に連絡を終えた和へと向き直る憧。

少し離れた場所では久と浩子と煌が話し合っていて、今煌が部屋から出て行った。

入れ替わるように入ってきたゆみと智葉が紙束を机の上に置き、すぐにまた部屋の外へ。

めまぐるしく人が動きまわり、常に携帯のコール音と話し声が絶える事のない部屋。

修羅場と呼ぶに相応しい、例えるのなら司令室。今の生徒会室はそんな様相であった。



憧「穴埋めに、早く終わった穏乃が向かってくれたわ」

和「こっちは小走先輩とその後輩達の動員数が予想以上です」

和「ギリギリ間に合わないかもしれない計算でしたが、もしかしたら……」

憧「オッケー、ダブらないように適宜連絡網を回して行きましょう」


机の上に広げられた地図。

それはこの街のものであり、その至る所に赤い点や矢印、円で囲まれた部分が書き込まれていた。

それを見下ろしながら、彼女達は苦笑する。


和「……友達の友達、というのは都市伝説の常套句ですけど」

憧「まさか、ここまで馬鹿げた事に付き合ってくれる奴らがこんなに居るなんてね」

和「『彼を助けるために』って連絡を回しただけで、こんなにも沢山の人達が協力してくれるなんて」

憧「なんだかんだ私達と同じで、みんな『アイツに何かあった』ってのは感じてたんでしょ」

和「怪人アンサーに聞いた方法を実行するには……」

憧「分かってる。それがこんだけの人数がいても、難しいってのは分かってる」

憧「でもさ」



片手を腰にニッコリと、自信たっぷりに彼女は笑う。

不敵で素敵な、新子憧の笑み。

京太郎が信じて頼る親友、彼女の確信に満ちた笑顔。

それが誰への信頼か、もはや語るべくもないだろう。



憧「アイツなら絶対———こんなにも沢山の人の期待は、裏切らないわよ」

その日、近所の子供達から『南浦の爺さん』と呼ばれる男は、珍しく早く起きた。

そしてしばらくゴロゴロしてから、ようやく起き上がった。

だらけた彼が身体を起こしたのは、まだ日も昇らぬ早朝。



12月31日。

彼は一年の終わりと節目、年度末だから今日もゆっくり昼まで寝よう……などと思っていたのだが。

どうにも早朝とすら言えない深夜に孫娘が何処かに出かけて行ってしまったようで、その物音で起きてしまったのだ。

進学のため越してきた孫娘との二人暮らしは、そんな物音ですら珍しいために良く目立つ。


……とりあえず、戻ってきたら夜遊びかどうか問い質した上で叱ってやろう。

孫娘はまだやらんぞー、とそんな思考を巡らせながら。

彼は朝の日課、郵便受けのチェックを始める事にした。



南浦「……あん?」



ふと彼の視界に映った、一枚のチラシのようなもの。

珍しい。
年度末はただでさえ郵便物が減るというのに加え、ただでさえ今日は12月31日だ。

明らかに異物。

その浮いているほどに奇妙なチラシに興味を惹かれた彼は、自宅に入りチラシをテーブルの上に置く。

時間帯に関わらず、チラシを照らす電灯の下。

そのチラシに書かれていた文字列の題名は——




南浦「……なんだこりゃ?」

南浦「『須賀京太郎、死す』……?」

————————————————————


和「問い、七つ目」

和「『彼を助ける、あらゆる要素を加味した上で成功確率が最も高くなる私達でも可能な方法を教えて下さい』」


多々あるであろう『現状京太郎を蘇生させる』方法。

難易度。時間。成功率。必要なもの。

あらゆる要素を想定した上での、最良の選択肢を知るための質問。

それが彼女が叩きつけた、希望に繋がる問い。



『ふむ、良い問いだ……しかし、まさか七問目でそれを質問されるとは思わなかったよ』

『いいさ。サービスも兼ねて補足も入れつつ答えるとしようかな』

和「……」


和と、彼女の背後に控える少女達が息を呑む。

これが彼女達に出来る事。
答え次第では希望は繋がらない……そんな、最後に残された蜘蛛の糸。

そして、彼女達は知る。

繋がる、繋がらないではなく。



『彼が死んだ、負けた、屈した……そんなニュアンスの「噂」を流すんだ』

『方法は問わない。けれど口コミだけじゃ間に合わないだろうから、嘘臭いチラシでも作るといいよ』

『配る時は配る本人の姿を見せずに。噂は、流した本人が誰かバレバレだと噂じゃなくなるからね』


『え? 都市伝説でも作るのかって? そんなわけないじゃないか』

『彼は「対抗神話」そのものだよ。ならそのアプローチは、逆になって当然だろう』

『噂が流れた時、人々がそれを「否定」する事が大切なのさ』


『これは嘘だと、これはデタラメだと、これはデマだと』

『彼を信じる人々がその「噂」を否定する事、それそのものが必要なのさ』

『人々が彼を信じ、「噂」という絶望を跳ね除ける事こそが重要なんだ』

『彼を信じる人々がこの街に居るのなら……その数が、イコールで彼に注がれる力になる』


『彼のルーツは、絶望の中でも希望を求めた人々の旗印だ』

『人々が彼の死を、彼への信頼から生まれた希望で跳ね除ける……これほどまでに、彼に似合う方法は無いと思うよ』


『勿論、極めて成功率の低い方法だ』

『だけどこれより成功率の高い方法は無いと断言しよう』


『さて、どうかな』


『この答え(アンサー)に、賭けるかい?』



本当の戦いはこれからで……まだ何一つ、始まってすらいなかった事を。


————————————————————

「ひー、起きたら覚えとけよ京太郎ー!」

「泉ィ! サボってんやないっ!!」

「す、すんません先輩ィー!!」


街を走る人々。


「ワハハ、人使いが荒いぞー」

「仕方無い。人が足りてないし」

「沢村は何をしてるんだー?」

「ローカルBBSも、こんな時は役に立つ」


郵便受に投函、電柱に貼り付け、掲示板にセット。
駅前や神社etc、人通りのある場所に間に合わせの机を置いて、その上にチラシの束を置く。


「ねんむっ……」

「おねーちゃん、しゃっきりしてなー?」

「須賀のあほー、覚えとれよー……」


警察のサポートと認可が無ければかなりアウトだっただろう。
だがアウトだったとしても、彼女らが何もしなかったとは思えない。


「あれ? ええと、終わったら連絡先は……ええと……」

「キャップ! 携帯の使い方くらい覚えるし!」


きっとどんなリスクを負ってでも、彼のために集ったはずだ。
彼女らを走らせるのは打算ではなく、彼への感謝だから。

だって、そうでなければ。


「いやはや、同じ中学に貴方のような後輩が居るとは知りませんでしたよ」

「えと、マホも先輩の事知らなかったですし」

「これも数奇な運命という事でしょうか……ま、モブみたいな私には関係のない事でしょうが」

「?」

「いえ、お気になさらず」


彼の通う高校が、生徒数2000人を超える進学校であったとしても。

彼にとっては友達の友達でしかない者達が、多少混じっていたのだとしても。



「頑張ろう。きっと、これが彼に向ける『ありがとう』になると思うから」



こんな日に、こんな時間に。

この街に住まう者達が、彼を想う者達が。



100や200では足りない……『1000』をはるかに超える者達が、彼の為に走ってくれる筈がない。

「あー、だりー……家に居場所がねえ不良は正月どうしろってんだよ……」

「先輩先輩、見てくださいよこれー」

「あ? 電柱に……なんだこりゃ、チラシ貼ってあんのか?」

「何が書いてあるんすかねー、えーっと……?」

「……おい、これ剥がせ。気に入らねえ」

「へ?」

「剥がせっつってんだよ!」

「は、はいぃ! 剥がします剥がします!」

「そいつはドブにでも捨てとけ。……ケッ、気分がますますシケちまったぜ」

「ちょ、先輩! 置いてかないでくださいよっ!」


「あのボウズが、そう簡単にくたばるかよ」


光が一筋、空に昇る。



「何これ、デマっぽくてチョーウケるんですけど」

「ありえないよねー」

「嘘ならもーちょっとマシな嘘書けってんだよね」

「だってウチの学校の須賀君だよ?」

「他の人ならともかくねー、キャハハ」


「彼が負けたまんま終わるなんて、キバヤシの与太話の方がよっぽど説得力あるよねー」


光が一筋、空に昇る。



「……ん?」

「これはまた……」

「君の生死はともかくとして、また厄介な事に巻き込まれてるようだね」

「ま、しがないサラリーマンの僕には関わりの無い事かもしれないけれど」

「君はどんな場所からでも這い上がれると、こんな所で終わりはしないと」


「そう、信じているよ」


光が一筋、空に昇る。

「……兄さん」

「ん? どうした?」

「郵便受けに、こんな物が」

「チラシか? どれどれ」


「デマだな」

「デマだよね」


光が一筋、空に昇る。



「やっぱり、こんな日にみんなを集めても全員は来れないよね」

「三人だけでも遊びつくしたい所存ー」

「マリパやろっか。……あれ? ギバ子ちゃんは?」

「見て見て見てこれぇっ!!」

「騒々しいので年末くらい静かにして貰いたい所存ー」

「このチラシっ! このチラシに書いてあるのってっ!」

「あんちゃんだぁぁぁぁっ!!」

「へ?」

「ええ?」


「……どう思う、綾」

「どうって……これ、須賀のお兄さんとこのチラシ、どっちを信じるかって話でしょ?」

「だよね。なら私は京兄かな」

「もー、ひなちゃんはいっつもそんな感じだよねぇ」

「あんちゃぁぁぁぁんっ!!」


光が一筋、空に昇る。

「嘘だな」


光が一筋、空に昇る。


「誰だこんなイタズラした奴。んな事になるわけねーだろ」


光が一筋、空に昇る。


「んー……なんでこんなに信憑性がないのかな、このチラシ」


光が一筋、空に昇る。


「俺はあの少年を信じよう」


光が一筋、空に昇る。


「ないない、それはないって」


光が一筋、空に昇る。


「何を信じるか、って事だよね」


光が一筋、空に昇る。


「なんというMMR臭のする眉唾な話」


光が一筋、空に昇る。


「ノストラダムスもマヤ暦も結局来なかったもんねぇ。それと同じだよ、こんなの」


光が一筋、空に昇る。



「……京くん」

「まだ私は、貴方に会いたくても……会うわけにはいかないけれど」

「心配じゃないなんて言わない。不安じゃないなんて言わない」

「けど」

「それ以上に、貴方を信じてる」

「この光が、貴方の行く道を照らしてくれますように」


光が一筋、空に昇る。

街の至る所から空に向かって昇る光。

それは機械(カメラ)には写らない、心でしか映せぬ光。

それはまだ儚くとも、確かにそこに在る希望。



そして荒川病院。

京太郎を黄泉路の淵にとどまらせている医師の戦場、治療室。

その扉の前のベンチに座り、祈り続ける咲。

ここにも、また希望はあった。


咲「これ、何ですか……?」

宥「……バラの種?」

咲「あ、いや、それは分かるんですけど」


バラの種。

以前宥が先に渡したアイビーの種とはまた別の、しかしどこか似た印象を受ける種。


宥「大事にしてね」

咲「え? ……あの、聞いても良いですか?」

宥「ん、なにかな」

咲「何でこのタイミングで私にこんな物を?」

宥「内緒」

咲「……えっ」

宥「あ、それとこれは『ルーベライズ』。彼が起きたら、これも渡しておいてくれるかな」

咲「えっ? えっ?」

宥「じゃ、ちゃんと渡したから。種は肌身離さず持っててね」

咲「え、ちょ、まっ」



嵐のようにやってきて、嵐のように去っていく。

松実宥。
彼女は優しく、誰にだって寛容で、人当たりもそれなりに良く。

だがしかし、長い年月に育まれたコミュ障が治りきっていなかったりする。

一「え? いいのアレで?」

宥「……うん。たぶん、詳細は分かってない方がいい気がするの」

衣「『祈りは無垢に、純粋に』か。確かに余計な思考は邪魔になるかもだな」

宥「ん」

玄「それじゃ、私達はどうしよっか」


四つの内、一つの希望が繋がる。

けれどもここで終わりではない。

まだ何も始まっていなければ、終わってもいないのだ。

だからここからまた、彼女達は走る。


宥「私、淡ちゃん達の所に行く」

宥「……たぶん、あの程度じゃあの人は止まらない」

玄「じゃ、私は憧ちゃん達の所に行ってくるよ」

玄「まだまだ人手が足りてないと思うから」


一「じゃ、ボク達は……」

衣「一」

一「……なに?」


衣「衣達は、トーカ達を助けに行こう」

衣「衣は、大切な家族を守りたい」

衣「大切な友達を守りたい」

衣「二兎を追う物が一兎を得られんと言われても、それでもだ」

衣「大切だから、失いたくない。守りたいんだ」

一「……!」


衣「……衣は、欲張りだろうか」

一「……ううん。フツーだよ、フツー」


一「だってボクも、同じ気持ちだから」



そして四人は、分かれて二つの道を行く。



玄「それじゃ三人とも、気を付けてねっ!」

宥「……うん」

一「ボク達はボク達に出来る形で、頑張ろう」

衣「玄も頑張るんだぞー」

誰もが諦めていない。

彼の命を。繋がる希望を。



咏「……完っ成っ! ギリギリじゃねーの、知らんけど!」

健夜「よしっ!」

竜華「つ、疲れたぁ……」

怜「休憩挟んだとはいえ寝ずに十時間近く作業しとったからなー」

健夜「それじゃ、私が……」

怜「ダメやダメ。健夜さん一番頑張っとたし、ただでさえ負荷のかかる能力何度も使っとるんでしょ?」

健夜「でも……」

怜「安心して下さいな。うちが代わりに行ったる」


怜「うちは、アイツの相棒やから」


健夜「……うん。じゃあ、お願いしようかな」

健夜「私も少し休んだら、すぐ行くから」

怜「はいな。りゅーかー」

竜華「なんやー?」

怜「学校の生徒会室の方から、誰かしら来て欲しいんやって連絡来たんや」

竜華「ちょ、ちょいと休憩してから……」

怜「だーめや。お二人と違ってうちらは能力面での疲労が一切無いんやから」

怜「何より若いんやから、根性根性!」

健夜「おいちょっと待て」

咏「あはは、言うねぃ」



四つの内、一つの希望が繋がる。


あははと笑い、扇子を開く大人。
ソファーの上で横になっていた身体を起こす大人。

細長い棒状の物を包んだ麻の袋を抱える少女。
身体を伸ばしつつぼやきながら、扉を開けて出て行く少女。


四人の内二人は留まり、残りの二人は分かれて二つの道を行く。


咏「気を付けてな」

健夜「任せるよ」

怜「万事うちに任せとき!」

竜華「怜ー、走らんとバスに間に合わんでー」

怜「えっ」

希望は二つ繋がった。

しかし、まだ足りない。

現に彼は、『須賀京太郎』は目覚めていない。

そして彼女らが急いていた最大の理由。
最大の不確定要素にして危険要素。


黒「……分かる。分かるぞ」

黒「不快だ。俺の中を探ってやがるな」

黒「やはりお前は、きっちり首を刎ねるべきだった」


日は既に沈み、夜は降りてくる。

夜の街を歩き病院へと向かう彼の目の前に立ち塞がるのは、かつての仲間達。

だが、今は敵だ。

それに相対する、彼の表情に。



黒「今度こそ、確実に仕留めてやる」



一欠片の躊躇いも、悲しみもなく。

笑えるほどに余裕があり、それは数ですら埋められない実力差を表していた。



哩「連絡してな、姫子」

哩「作戦、開始」



希望を繋ぐための時間稼ぎ。

戦いが、始まった。

戦闘は一応任せろー(バリバリ

後方陣地。

本来コトリバコ対策のために設置された陣地を再利用した、防衛戦用の司令塔。

事実上戦闘力を持たない者、作戦担当の者、そして哩と姫子がここに駐留している。

そして今、その場所に。


姫子「第一陣、第二陣、第三陣突破されました!」

哩「……アリとゾウとは、この事やね」


緊迫と苦渋の混ざった雰囲気が、広がっていた。



黒「さすがに弱体化していても、ホシガミは強いな」

淡「……うっわぁい、なんつーか、無理ゲー……」

黒「最後に戦った時でも、俺は『ホシガミ』には手も足も出なかったんだがな」

黒「俺が強くなったのか、お前が弱くなったのか、それとも両方か……」

黒「……どっちでも良いか」


圧倒的。
圧倒的だ。

かつてはこの星の上で最強だったはずの大星淡が、押されている。

多彩なスキルと戦闘経験、そして何より相手を知り尽くしているがゆえの戦い方。

黒い京太郎の過去を考えれば当然の事だが、彼はかつて戦った全ての人・都市伝説の行動パターンを把握している。

よって、誰に対しても有利。ゆえに圧倒的。
だからこそ、この街に住まう者達に彼は倒せない。


黒「寝てろ」

淡「……あっ」

淡「(……ごめん。まだ眠ってる貴方の為に、何かしてあげたかったのに……)」




姫子「第四陣、突破されました!」

哩「……これはちょいとやばいかもしれんね」

豊富な戦闘経験とその多彩なスキル………
それだけでもチートなのに
相手の行動パターンを知りつくしてるからな………

チートいいえバグ状態だな………

誰もが諦めていない。

彼の命を。繋がる希望を。


姫子「第五陣、突破されました! あと残っとるのは、龍門渕ば第六陣のみです!」

哩「ここで食い止めないと、後が無か……!」


あまりにも早すぎる進撃。
それでいて、一人も残さず仕留める圧倒的な力量。
これだけの戦力とぶつかり、誰にも傷一つ付けられないという純然たる強さ。

既に戦力の大半と、事前準備の八割が壊滅。

戦争であればもはや戦いの体すら成せないだろう。

それほどまでに絶望的な状況であった。

……だが。



「絶対に、諦めない……!!」



誰がその言葉を発したのか。
誰がその言葉を聞いたのか。

それとも、皆が皆そう言ったのか。

それは分からないが。『諦めない』という言葉は、不思議とこの場の皆に浸透した。


それが皆の心を支え、折れない気持ちをさせている。

こんなにも絶望的な状況でも、誰一人として諦めてはいない。

そして、諦めなければ。
希望は、次に繋がるのだ。



「おい、そこのマイクを貸せ」

姫子「へ? あ、ちょっと!」

「あー、あー、てすてす。……よし、防衛戦全域に響いてるな」


突如現れた女性。
彼女は市内への放送用の回線を使い、突如その声を響かせる。


哩「あ、貴女は……!」

姫子「哩さん、しっとーと!?」

哩「こん人は……」



藤田「待機中の警官全員に告ぐ」

藤田「銃弾一発につき始末書一枚は面倒だろうが、今日だけは我慢して欲しい」

藤田「ガキに頼りっぱなしの自分が情けないと思うなら、その気持ちを弾に込めてぶっ放せ」

藤田「終わったらお前ら全員、私が焼肉に連れてってやる」

藤田「焼肉が食いたかったら生き残れ。私の奢りだ」

藤田「攻撃、開始っ!!」

カツ丼さんがかっこいいだと………!

建物の影から、移動してきた車両の影から、ビルの上から。

四方八方から囲むように降り注ぐ、銃弾の雨。

人類の文明の利器。
本来、人間一人に向けるべきではない火力。


黒「警察、か」

黒「……あの時」

黒「人が死んでるのに助けてもくれなかった、肝心な時に何も出来なかった」

黒「役立たず共が、でしゃばってんじゃねぇっ!!」


彼はその場で、恐ろしい速さで回転する。

だがそれ以上に恐ろしいのは、既に残像すら目で追えないほどの速さで振るわれる両手。

身体は回り、腕を振るい、そして銃弾の雨が止んだ頃。


透華「……なんと」

純「こいつは、キッツいな……!」



回転を止めた、『無傷』の彼の両手が開かれる。

その両手の中から、数えきれないほどの銃弾がこぼれ落ちる。

……この男は。四方八方からの銃弾の雨を受けたこの男は。


全ての銃弾の軌道を見切り、掴み取ってみせたのだ。

握り、受け止め。握り、落とし。握り、潰し。

そうやって、人類の最大の武器を打倒した。



黒「……次は、どいつだ?」


そんな黒いフードの男の前に、舞い降りた赤いマントの女が立ち塞がる。


宥「私」

黒「……お前か」

宥「龍門渕さん。後方で第七陣の形成と残存戦力の再構成が行われてます」

宥「ここは引いて、合流してください」

純「ちょっと待て、アンタは」

透華「……分かりましたわ」

純「透華!?」

透華「純。彼女は覚悟してここに立ち、時間を稼ごうとなさってますわ」

透華「むしろここに残るのは彼女に失礼……それに、足手まといになりかねません」

透華「(それに、もしわたくしの予想が正しければ……)」

宥「行って」

透華「ここは、お任せします」

どこのネジさんや………
この玄(黒)太郎………

宥「……ごめん、なさい」

宥「ごめんなさい……」


黒「……なんで、お前が謝る」

黒「お前達は間違っていても、悪い事をしているわけじゃないだろう」

黒「誰に、謝っている……?」



誰もが諦めていない。

彼の命を。繋がる希望を。



豊音「ね、おとーさん」

姉帯「……お前には、あんまり危ない事はして欲しくないんだがなぁ」

豊音「もう、子供扱いしないでよっ!」



衣「トーカ」

透華「衣……」

衣「一緒に頑張ろう。……家族、だから」

純「……こーんにゃろう! 可愛いなちくしょー!」

衣「あわわ、や、やめろ!」

一「あはは……ともきー、こっち来て大丈夫なの?」

智紀「あっちは早朝の時点で半分終わったようなものだったから。戦える人は、順次こっちに来てるよ」

一「そっか」



藤田「コトリバコの方はどうなっている?」

「はっ。まだ時間がかかるそうです」

藤田「現在時刻22:00……正念場かな」




黒「どいつもこいつも、なんでそんなに『俺』を守ろうとする……?」

黒「そいつに、そんな価値は無い。守るだけの価値は無いんだ」


黒「『俺』にかけるその期待が、その信頼が、そもそも間違ってるんだよ……!!」

読者のLP(現在)1000ぐらいやな………

怜「はい、これ」

咲「え?」

怜「ホンマはうちが直接渡したかったんやけど……うちは、うちに出来る事をしに行くわ」


怜から咲に渡される、細長い物が入っている麻の袋。

ここまで繋いできた希望のバトンが、また咲に手渡される。


咲「あの……」

怜「しゃーないから、今回だけは相棒の隣を咲ちゃんに任せる。頼んだで」

咲「あ、待って!」


咲の声にも振り向かず、怜はどこかへと去っていく。

……咲だって、分かっている。

何故か今、自分に期待がかけられている事に。
自分だけが、何もしていない事に。
自分は祈るだけで、京太郎の助けになんてなっていないという事に。

けれど、それが分かってはいても。


咲「私に、どうしろっていうの……?」

咲「私、何も出来ないもん。何の力もないもん」

咲「ドン臭いし、頭だって良くないし、運動も出来ないし……」

咲「特別な力だって、無いし。私は……」


咲「……私は、お姉ちゃんにはなれない」


不安げなその瞳は、集中治療室の扉に向けられる。

その向こう側には、彼女の大切な人が今も横たわっているのだろう。



咲「……ねえ、京ちゃん」

咲「私、一人じゃダメだよ……」

咲「何か言ってよ、何でもなかったみたいに起き上がってよ」


咲「……寂しいよ……」

バカな………

咲のヒロイン力が上がりまくってるだと………

バリン!(スカウターが壊れる音)
グハッ!

藤田「……ふざけてるな、これは」

藤田「ここまで来れば笑えてくるッ!!」


ドンッ、と机を拳で叩いた音が鳴り響く。

その拳には、無念と怒りが込められていた。


藤田「全、滅……」

藤田「これだけ揃えて、傷一つ付けられず、全滅」

藤田「その上、死人も重傷者も確認出来るだけでゼロ」

藤田「全員気絶させて、殺さないように加減して……」

藤田「加減して、これか……!!」



魔物がいて、警察は総力を上げ、事前に罠まで仕掛けて。

皆が皆力を合わせ、不屈の闘志でこの場に臨んだ。

にも、関わらず。

全てを台無しにするかのように、全てを否定するかのように、彼は全てを薙ぎ倒した。



黒「力を合わせれば、諦めなければ」

黒「なんとかなるとでも、思ったのか」

黒「絆があろうと、仲間がいようと、知恵を絞ろうと」

黒「負ける時は負けるし、死ぬ時は死ぬんだよ」



黒「これが、『現実』だ」



誰も居ない。
誰も止められない。
無人の道を、彼は荒川病院へと歩く。



姫子「じゃ、行ってきます」

哩「……怪我ば、せんように」

姫子「もう私しか残ってませんけん。私は今、私に出来る事ばしてきます」



姫子「彼に、少しでも時間を」

さぁ………
最終防衛線(ライン)の始まりだ………

自分が助けられなかった人たちが助かり続ける光景ってのは
逆説的に黒太郎の行動がいかに間違っていたかを示しているわけで……そんなの直視し続けてまともでいられるわけがない。
しかも内側からは『Tさん』の都市伝説でゴリゴリ削られているんだからなおのことだろう

「荒川医師!」

憩「何ですか、現在こちらは忙しゅうて……」

「例の件で連絡が来ました! 防衛線、突破されたとの事!」

憩「!」

「なんだと!?」

「至急彼をここから搬送すべきです! 彼の安全は勿論の事、一般の患者が巻き込まれかねません!」

憩「そうですねー……外で彼を待っている、咲ちゃんを呼んで下さい」

憩「(……ここまで、なんか?)」

憩「(や、諦めるんにはまだ早い)」



長時間の治療。
現在時刻、23:30。
……凄まじい事に、十二時間近く彼を治療し続けた医師の鏡。

荒川憩は体力がある方ではないが、それでも気力だけでここまで彼を保たせ続けた。

それも、ここまで。



憩「咲ちゃん、ええですかー?」

咲「あ、はい。イマイチ状況飲み込めてないですけど」

憩「これからウチが話す事を、一言一句聞き逃さんようになー」



抗う力、力で抗える者達はもう残っていない。

それでも、抗う事だけはやめたりしない。

最後の最後まで、彼女らは絶対に諦めない。

深く、潜る。


京太郎「……ここだ。アイツの、魂の周り」

京太郎「ここに、何かが在る」


あの男の、『俺』の一番深い所の一歩手前。

ここに在る何かが、俺を呼んでいた。

叫び声を上げて、泣いていた。
だからこそ、俺はここに来た。

そして、見つけた。



京太郎「……あ」

京太郎「……そっか、そうだったのか」

京太郎「……ははっ、なんか俺の事みたいに嬉しくて、情けねえや」


京太郎「ずっと、見守ってくれてたのか」

京太郎「ずっと、力を貸してくれてたのか」

京太郎「ずっと、そばに居てくれてたのか」



黒い京太郎の魂の周りに漂う、幾つもの光。
それはどこか暖かくて、優しげで、悲しげで。

その姿に、京太郎は見覚えがあった。

その魂の印象は、京太郎のよく知る者達によく似た感じがしたから。

別の世界であっても、彼が大切な人達を見間違えるはずがない。



京太郎「それなのに、『俺』は……」

京太郎「……」

京太郎「今、確信した」


京太郎「アイツの生き方は間違ってる」

京太郎「任せてくれ。アイツは、必ず俺が止めてみせる」


顔もない魂。口もない魂。
だというのに、京太郎には何故か。


「ありがとう」と、笑顔で言われた気がした。

おやっさんの能力を知ってる黒太郎が使わせる暇を与えてたらなぁ・・・

魂だけになったとしても
あなたの傍で見守ってるよ………
か………

咲「はぁ……はぁ……」


咲が息を切らせながら、固定された京太郎ごと車椅子を押して行く。

彼の首にはルーベライズ、車椅子にはオモイヤリも固定されている。


咲「頑張ら、なきゃ……!」



——ここで常道は、救急車を使って彼を小鍛治さんの所まで運ぶ事

——だけどそれはあまりにも目立つんや。相手が相手やしねー

——よってここは、派手に陽動するえ

——今病院に待機してる救急車を全部出動、四方八方に走らせて眼をくらます

——その間に、咲ちゃんが彼を安全な場所まで運ぶんや!

——車椅子なら、男性一人運ぶとしても30分でいけるはず



咲「また、京ちゃんを傷つけさせるもんか」

咲「あの時守ってもらったんだから、今度は私が」


咲「私が、京ちゃんを守る!」



病院の裏手を抜け、広場から裏道へ。

その先に在る公園を抜け、更にその先に在る三尋木萬物店が目的地。

その場所に向けて、彼女は駆け出した。

完全に
完璧に
そして絶対に
先回りしてるパターンやんこれ………!

>868
闇に墜ちても『Tさん』だからというよりも魂を守り続けていた彼女たちのおかげと思う方が救われるなぁ

怜「おーっと、ここは通せんぼやな」

黒「笑わせるな」

怜「ん?」

黒「お前が俺を止められる奴じゃないって事ぐらい、俺はよく知っている」

怜「……ふーん。ま、確かに力づくじゃ止められへんやろな」


荒川病院前。

何もかもをなぎ払い、彼はここまで辿り着いた。

そんな彼の前に立ち塞がる最後の壁は、彼の半身とも言える……言えた、相棒。



怜「ま、止めるだけなららくしょーやねん」

黒「は、出来るもんなら……」

怜「これ、なーんだ?」

黒「……メス?」

怜「そ。ちょちょいと病院からちょろまかしてきたんや」

怜「このメスを、うちの首の頸動脈に当てます」

黒「……!」

怜「おーっと、そっから一歩でも動いたらこのメスをぶっさすでー」

黒「! 正気か、お前……!?」

黒「(こいつ……ハッタリじゃない。本気で、やると言ったらやる!)」

怜「正気も正気や。アンタ、うちらの死を完全に納得できる程には『妥協』できひんやろ?」

黒「……」

怜「バレバレや。今夜も誰も殺してないし、加えてうちは相棒やで?」



にしし、と笑う少女。

奇妙な事にこの瞬間、互いの力量はそのままで、互いの力関係だけが逆転していた。

怜かっこいい………

怜「なーに、15分くらいここで待っといてくれたらええよ」

怜「そしたら追うなりなんなりするとええ」

黒「……何故、そこまでする」

怜「ん?」

黒「命を賭けるほどの価値が、アイツにあるのか」

怜「ある」


即答。


怜「まー、相棒が復活したらきっとアンタも救ってくれるような気がするしなぁ」

黒「……俺?」

怜「そそ」


意外そうに、彼は問い返す。

だけどそれは、変な事でも何でもない。



怜「恩義のある相棒に……須賀京太郎に、幸せになってほしい」

怜「それだけや。アンタだって例外やない」

怜「きっとそっちのうちもそう思ってたはずや。『園城寺怜』なら、ぜったいにそうやねん」


怜「それには、命を賭けるだけの価値がある」

怜さんマジメインヒロイン!

そしてかっこいい!

咲「……はぁっ、あっ、ようやく、ここまで……」


比較的大きな公園にさしかかり、気を緩める咲。

ここまで来れば、もう道のりは半分も過ぎている。

あと少し、そう彼女が思ったその時に。



黒「ここまで手間取るとは、正直思わなかったぞ」

咲「! う、うぁ……」



12月31日23:50。

とうとう、黒い彼は京太郎のもとへと辿り着いた。

辿り着いて、しまった。



黒「そこをどけ、咲」

咲「い、嫌! 絶対にどかない!」


以前の繰り返し。
ならば、彼が取ろうとする行動も同じ。
ただ一つ違う事があるとすれば。

ここで彼女を助けられる者が、もう居ない。


黒「なら、寝てろ」

咲「(こんな、所で……!)」


もうダメかと、彼女が思ったその瞬間。


神風が、吹いた。


黒「……っ、眼に、砂が……!」


砂ではない。
彼は気付いていないが、彼の目に入ったのは『灰』である。
燃え尽きた何かの、灰である。


咲「あ、種が……」


そしてその風に答えるように、彼女のポケットから種の入った袋がこぼれ落ちる。

宥から貰った、バラの種の入った袋。

それが落ち、中の種が地面に散らばってしまう。

旧オモイヤリの最後の活躍やな………

咲「え……?」


そして、奇跡が起こる。

まるでビデオの早回しのように、急速に成長するバラ。


咲「何、これ……?」


種が芽を出し、茎が伸び、葉が出て、蕾が現れ、花が咲く。

ありえないほどの速度で成長し、その花は咲の眼の前に現れる。

彼女はその花を通じて、ようやく己の力を自覚する。


咲「……ああ、そうだったんだ」

咲「こんな私にも、京ちゃんを助けられる力があったんだ」

咲「一度きりだけど、一度だけだけど、それでも……」

咲「……本当に、嬉しいな」


奇跡の象徴。

現実になった夢。

都市伝説にして都市伝説にあらず。

彼女の中に秘められていた、神様からの贈り物。

何度だって言おう。



咲「咲いて」



絶望という崖の上にも、花は咲くのだ。



咲「『青い薔薇』っ!!」

都市伝説にして………
都市伝説では在らず………!

近年実際になったその伝説………!

奇跡の象徴!
青い薔薇か!

【青い薔薇】


かつて都市伝説であったもの。

都市伝説から現実になった、夢叶う物語。


かつて『青いバラ』といえば物語の中で語られるものの、現実には存在しない架空のバラだった。

だがそれは多くの人々の憧れであり、実現したい夢の象徴でもあったのだ。

まさしく、都市伝説のバラといっても過言ではなかった。


色素を抜いてみたり、品種を改良してみたり。
様々な方法が試され、数え切れないほどの失敗があった。
多くの人々が挑み、そして夢破れた歴史のみが積み重ねられていった。


しかし、日本とオーストラリアの夢見る企業が力を合わせ、1990年から研究を開始。

最新技術である遺伝子組み換え技術を用いて、天才達が試行錯誤を繰り返し。

実に24年の月日をかけて、完全な青いバラを作り出すことに成功した。


都市伝説でしか無かった青いバラは、現実のものとなったのである。


青いバラが現実になるまでの、青いバラの花言葉は『不可能』『ありえない』『夢物語』。

そして現実になってからの花言葉は、『奇跡』『神の祝福』『夢かなう』。


人の想いが奇跡を起こし、誰かの祈りを現実とした。

そんな素敵な、都市伝説ではない物語。



ただの一度きりの『奇跡』を実現する、都市伝説であって都市伝説でないもの。

「それが例え先の見えない道であっても、歩く事すら出来ない巌しい道であっても、高い高い壁が立ちはだかる道であっても」


「その道が、望む未来に繋がっているのなら」

「その道が、目の前に広がっているのなら」

「その道が、自分の選んだ道であるのなら」



「迷う事は無い。選んだ道が一本であるのなら、迷う筈がない」



「その志(こころざし)に、選んだ道に、信じた己に」

「ただひたすらに、絶望的に賭けるんだ。どんな時でも、どんな場所でも」

「それを繰り返し、繰り返し、繰り返す。それが、俺の選んだ生き方」



「己の芯を定め、その在り方をいつの日か果てるその時まで貫き通す。それが、皆に胸を張って誇れる『俺』だ」



「その生き方を曲げてしまったら、俺は胸を張って歩けない」



死の淵にある俺の、己の在り方を再確認する。

妥協してもいい。器用に生きるのもいい。

……だけど、生き方だけは曲げてはいけなかったのだ。

俺の生き方に、あの人達は賭けてくれたんだから。


記憶に潜った時に、俺も同じだけの苦しみを追体験した。

それでも俺が折れなかったのは、第三者だったからか、それとも皆が頑張ってくれている事が支えとなってくれたからか。


その記憶の中で……誰も『俺』を責めなかった。

その理由が分からなかったから、『俺』の心は折れかけた。


……簡単な事だったのに。

俺が人に頼ったとしよう。

頼った人が失敗したとして、責める気になるだろうか?

いや、ならない。


それは頼った俺の責任で、賭けた俺の自責だからだ。


あの人達もそうだった。

俺の生き方に賭けたから。俺を信じて頼ったから。

だからその責任は『俺』にはないと、そう思ったから。

だから俺を、誰も責めなかったのだ。


……そんな理屈で納得できるものでもないが。

『信頼を裏切った』『裏切っていない』

それが、あの人たちと『俺』の認識の違い。



けれど、大切な事が一つある。

忘れてはならない事が、一つある。


あの人達は、『俺』の生き方を信じてくれたという事。

『俺』の生き方を愛してくれていたという事。

『俺』の生き方だからこそ、賭けてくれていたという事。


それを曲げてしまう事は、あの人達への最悪の裏切りだ。


だって。


俺が見た記憶の中で、あの人達は最後の最後まで、俺の生き方を否定しなかったから。


未来を変えたいのは、他人が苦しむ事で自分が苦しむのが嫌だから。


『俺』は、苦しみを理由にあの人達の気持ちを裏切っている。

誰もがまだ、諦めていない。


防衛戦で気絶していた者達が、這ってでも向かおうとする。
立ち上がろうとし、倒れ、また立ち上がろうとする。


誰もがまだ、諦めていない。


噂を流すのも限界がある。
それでも、無駄になったとしても。


誰もがまだ、諦めていない。


祈るだけの者も入る。
それでいい。十分だ。それも彼の力となる。


誰もがまだ、諦めていない。


死の淵にある彼も、諦めていない。


誰もがまだ、諦めていない。




そんな人々から、光が一筋空へと昇る。

想いの光。心の光、信じる光。

数え切れないほどの輝き、空の星々より多いのではないかと錯覚してしまいそうな煌めき。

それらが天蓋の中心に集まり、収束し。



光の柱となって、京太郎の元へと降り注いだ。

京太郎の今の無益無欲を例えるなら

上杉謙信(基本的には)かね〜?

——声が、聞こえる。

この夜に、どこかの誰かが心から絞り出した声。

それが生と死の境界を飛び越えて、俺の元へと届いている。



「ぜったい、諦めへん」

「諦めてたまるもんか。アイツが褒めてくれたんだ、だから」

「ボクは、諦めない」

「諦めたりしなか、絶対に」

「諦めるかよ」

「諦めるのは性に合いませんわね」

「諦めないっす」

「諦めないよ、私も」

「まだ終わってない。だから、諦めない」

「諦めませんよー」

「諦めませんわ。ウチは、この命を」

「諦めてないんだろ? わっかんねーけど」

「諦めん」

「諦めません、何があっても!」

「『諦めるな』と、そう教わった」

「諦めたくないなぁ……」

「諦めないよー!」

「諦める? ご冗談を」

「アイツなら、諦めないと思うから」

「ここはまだ、諦める所じゃない」

「諦めたらそこで終わり」

「じゃ、諦めなきゃ終わらないんだね」


諦めない。


「諦めない」


その声が、想いが、俺を震わせる。

俺はこの想いの持ち主達が大好きだ。だからその想いに応えたいと思った。

それが始まりで、それが俺の曲げられない誓い。



この声を裏切らないためにも、俺はこの生き方を曲げられない——!!



「だから」



「「「「戻って来い! 須賀、京太郎ッ————!!!!」」」」

もっと、高く/TAKE ME HIGHER


http://www.youtube.com/watch?v=RTN9A4wKRKw

そう。

一つで完全な物など存在しない。
一人で完全な者など存在しない。


だからこその、他者との繋がり。


この世に満ちる最も不変なる光は、あの日輪から降り注ぐ無色の光だ。

時に山吹色にも真紅の色にもなる。
だが人を育むのは、天蓋に座す無色の輝き。
それも当然だ。


全ての色の光を重ねれば、光は無色となるのだから。


だからこそ、重ねる。


全ての人の輝きを、全ての人の心の光を。


光を集め、光を束ね、光を重ね。

あの日、信じる者と重ねたあの手のように。


力を借り、力を併せ、力を重ね。

あの日、力を貸してくれた皆に報いるために。


絆を育み、絆を繋ぎ、絆を重ね。

あの日、そうして生きてきた自分を誇れたように。


想いの光を受け止めて、己を支える力と成す。
想いの力をその身に宿し、誰かを守る絆と成す。
想いの絆を明日へと繋ぎ、誰かを照らす光と成す。


この場に集う光が、力が、絆が。


彼を導き奇跡を起こす、無色の光の道しるべ。

そうだ。

俺は繋ぐ者。

俺があの日に手に入れた力は、繋ぐ力(ネクサス)だったはずだ。

それは俺と誰か、誰かと誰か、そんなくくりにも縛られない、繋ぐ力。


だからもっと、違う物を繋いだっていい筈だ。


出来ないはずがない。
俺はずっと、そうしてきたはずだ。


俺は俺だって助けられる。

俺は俺とだって分かり合える。

俺は俺だって、変えられる。



京太郎「『希望を———」



自分自身も助けられない奴が、胸を張って誰かを助けられるわけがないっ!!



京太郎「———繋ぐ者』(ネクサス)!!」



そして、俺を包む光と共に蘇る/黄泉帰る。

起き上がった俺の目の前には、泣きそうな顔をした咲と。

信じられないような目でこちらを見る、『俺』の姿。



黒「な、て、テメェ……」

京太郎「未来は変える。誰の犠牲も出さず、お前の想いも力にして」

黒「……!」

京太郎「……だから、まずはお前だ」

京太郎「お前が諦めた、誰も犠牲にしないで進める幸せな未来」


それは彼が、とうの昔に諦めた希望で。
こうなったらいいな、という儚い希望で。

もしも全てを守ろうと欲張って失敗したら……という恐れが、折ってしまった希望。



京太郎「お前の希望も、俺が繋いでみせるっ!!」



その言葉は、彼の心の何処かを震わせたのか。



黒「なんで……なんでテメェのバカは、死んでも治らねぇんだッ!!」



殺意をみなぎらせた咆哮を、真正面から叩きつけた。

黒「なら、何度でも死ねっ!!」


黒い京太郎が、懐から取り出したのはコトリバコ。

ルーベライズは一つ。

対象者は二人。

またしても、昨晩の惨劇の再現。


咲「京ちゃ……」

京太郎「大丈夫だ、咲」

京太郎「みんな、俺が守るから。咲も俺が守るから」

京太郎「だから、俺から離れるなよ」



京太郎には防げない。
京太郎には避けられない。

冷静さを失った黒い彼の放つ呪いは、この周辺一帯の女子供を殺し尽くすだろう。

止める方法は無かった。

昨晩の時点では無かったのだ。


けれど、今は在る。



黒「起動しろ。殺し尽くせ、コトリバコ」



コトリバコの呪いが箱の継ぎ目から染み出し、四方八方へと飛散する。

その大部分はは京太郎とその側にいる咲へと向かい、殺到する。

だが、風に揺れる柳のように平然と。



京太郎は呪いに向けて右手をかざし、叫んだ。

 



    「破ァッ!!」



 

寺生まれのTさんがログイン(覚醒)しました

蒼い光。

浅葱色の閃光が、幾つもの光の束となって解き放たれる。

それらはコトリバコから放たれた全ての黒色光に突き刺さる。

そして浅葱色の光と黒い光は混ざり合い、無色となり、消え去った。



黒「その、力、は……」

京太郎「全部と、向き合ってきた」


京太郎「死んだ自分と向き合って、この力に気づいた」

京太郎「お前の仲間が死んだ絶望を追体験して、絶望した自分と向き合った」

京太郎「折れそうになったけど、外で頑張ってる皆と向き合って持ち堪えた」

京太郎「お前の中の人達と向き合って、今のお前を否定する覚悟を決めた」

京太郎「……お前を否定出来ない自分。お前を肯定してやりたい自分は、今は胸の中にしまっておく」



その右手を更に、黒い京太郎とコトリバコへと向ける。


京太郎「破ァッ!!」


放たれる浅葱色の輝き。

コトリバコに突き刺さり、それを浄化しつつ消滅させる。

そして残りは、楔のように黒い京太郎へと突き刺さる。



黒「ぐっ、あっ……!!」

黒「この、作用はッ……!!」


京太郎「お前を誰かが肯定するかもしれない。それだけの人生を、お前は送ってきた」

京太郎「だけどお前は……肯定じゃ、絶対に救われない」

京太郎「同情が誰も救えないのと一緒で、誰かがお前を否定しなくちゃならないんだ」




黒「俺の……俺達の力を! 封印しやがったなッ!?」

だが封印って奴は何故か破られやすいぞ

【ヒーローシフト】


ネクサスシフトに続く特殊シフト、「ヒーローシフト」の仕様をご案内いたします。


このシフトは「比翼の鳥を使用していない」という条件を満たしていた場合のみ、使える力となっています。

既に誰かを格納した戦闘中は、使えないという事です。

さらに発動後、その戦闘中に比翼の鳥も使用不可となります。



ヒーローシフト中は京太郎が「寺生まれのTさん」化。
誰も格納していないという前提では、これまでとは比較にならない力を発揮します。


その特筆すべき特性は、MAXHPを減少させる事で発動する「破ァッ!!」です。

極めて強力ですが、減ったHPは戦闘終了後も戻りません。
調子に乗っていると本気で詰みますのでご注意を。


加えて言えば対応力も比翼の鳥に及ばず、性能で言えばネクサスシフトにも届きません。

ここぞ、という時の切り札とお考え下さい。



『ステータス補正』

参加人数126人。

MAXHP+参加人数×2

ATK+参加人数/2

DEF+参加人数/2

【須賀京太郎】

HP:440

ATK:35
DEF:35

・保有技能

『比翼の鳥』
人一人にして人に非ず。翼片翼にて翼に非ず。
人物を指定し、己の中に格納する能力。
格納した人物に応じた能力と補正を得る。

『TTT(光)』
The Templehero T。
寺生まれのTさん。この世のありとあらゆる理不尽の天敵。
絶望を絶つ者。どこかの誰かの希望の具現。
心を照らし、絆を紡ぎ、希望を繋ぐ者。
ヒーローシフト中、MAXHPを100減少させる事で以下の能力を使用可能。
・戦闘中、指定した技能を【封印】する。
・都市伝説による効果を指定。指定した効果を無効化する。
・自分のMAXHPの数値分、指定した人物のHPを回復する。



〈装備〉
E:『真・ルーベライズ』
効果:死亡・ゲームオーバーを無効にし、所有者をHP1で復活させる。

E:『腕輪:Nexus』【防具】
ATK補正+15
DEF補正+15

・『真・オモイヤリ』【聖遺物】
ATK補正+30
DEF補正+30
ヒーローシフト中、行動判定で勝利する事で何かしらの「奇跡」を行使する。


〈アイテム〉
・秘薬『クレイジーダイヤモンド』×2
効果:HPを50回復

・秘薬『烈火の姫君』
効果:HPを150回復

・注射『ただのビタミン剤』
効果:任意のステータスを50上昇させる。

・投網『スパイディ』
効果:使用した次のターン、相手の出す手が分かる

・視鏡『爆砕点穴』
効果:現在戦闘中の相手の行動パターンを知る事が出来る

【須賀京太郎/黒フード】


補正後HP:222

補正後ATK:222
補正後DEF:222


・保有技能

『比翼の鳥』
人一人にして人に非ず。翼片翼にて翼に非ず。
人物を指定し、己の中に格納する能力。
格納した人物に応じた能力と補正を得る。
彼に力を貸す者は、もう誰一人としていない。


『TTT(闇)』【封印】
The Templehero T。
寺生まれのTさん。この世のありとあらゆる理不尽の天敵。
絶望を絶つ者。どこかの誰かの希望の具現。
すでにその輝きは失われ、変質している。
目の前で死んだ親しい人物の保有技能・ステータス補正を獲得する。
ただし一部の人物は獲得時に変質、そのまま獲得する事は出来ない。


〈装備〉

E:『腕輪:Nodus』【防具】
ATK補正+15
DEF補正+15

むしろな………

封印ってやつは以外と破られやすい気がするのは気のせいでいいよね

ちょいと休憩。ここまで長引くとは・・・!

再開は20分後です

そのまま戦闘、そして決着となります

>>1000なら黒太郎がメインヒロインに

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