智代「もうすぐ陽平たちの卒業式だな……」 (96)

CLANNADのSSです

春原「なあ、岡崎。なんとかして坂上智代を僕に惚れさせる事って出来ねえかなぁ」
春原「なあ、岡崎。なんとかして坂上智代を僕に惚れさせる事って出来ねえかなぁ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1376370028/)

上記SSの続編となります
よろしければお付き合いください
次から投下開始です

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1382029216

雪解けの季節がやってきた。

僕らがあの学校に通うのも、明後日で終わりだ。

なんだかんだ言いつつ通い続けた、この三年間。

楽しい思い出なんて数えるくらいしかないけど、まぁ悪くない三年間だった、と言えると思う。

バカをしあえる友達も出来たし、彼女も……出来たしな。

智代「もうすぐ陽平たちの卒業式だな……」

僕の部屋に来ていた智代が、不意にそんな事を言う。

智代「お前とこうして付き合うようになってから、長いようで短かったな」

春原「よせよ、しんみりするなんて智代らしくもない」

智代「流石にわたしだってこういう時はしんみりくらいするさ」

春原「……まあ、その、なんだ。僕は卒業したら一度実家の方に帰るけどさ、すぐにこの町に帰って来るよ」

智代「ああ、待ってる。陽平と、また一緒に過ごせるようになるのを」

春原「ふん、待ってるのはいいけど、一人暮らしの僕の部屋に入り浸るのだけは勘弁してくれよな」

智代「え、ダメなのか……?」

春原「っておい!早速そのつもりだったのかよっ!」

智代「だって、お前が今まで住んでいたのはこの学生寮だったじゃないか……したいことも出来なかったし、わたしだって色々我慢して来たんだぞ?」

春原「は……?」

智代「………っ、これ以上を女の子の口から言わせるのはダメだぞ、陽平」

春原「い、いや、あの……」

したいことも出来なかった?智代も色々我慢して来た??

その言葉だけで色々妄想が捗っちゃうんですが?

春原「だ、ダメだダメだっ!!僕は卒業したら社会人だけど、智代はまだ学生なんだぞっ!!その、そういうあれは、……とにかくダメだっ!!!」

智代「……どうしてもダメか、陽平?」

智代は潤んだ瞳で、僕にそう問い詰めて来る。

春原「う……」

智代「わたしは、お前が好きなんだ……女の子にここまで言わせておいて、恥をかかせないでくれ……」

じりじりと、智代は僕の方へ近付いて来る。

それに呼応する形で僕は後退するが、すぐに壁に背がついてしまった。

ここで押し切られたらマズイ……第一、僕だって健全な男だ。

ここまで迫られて、我慢出来ているのが奇跡レベルだ。

智代「陽平……」

春原「………」

ゆっくりと近づいてきて、僕の頬に手を添えると、智代は目を瞑り………。

コンコン

美佐枝『春原ー、あんたに電話来てるわよー?』

ドアをノックする音が聞こえると同時に、僕と智代はものすごい勢いで距離を取る。

美佐枝『ちょっと春原ー?返事くらいしなさい』

春原「は、はいはい今行きますー!」

美佐枝さんに返事をして、少しだけ電話の主に感謝すると、僕は立ち上がる。

春原「それじゃ、ちょっと電話に出て来る。待ってるのはいいけど、あまり部屋の中を散策するなよ?」

智代「わたしだってそれくらいの良識は心得ている。安心して電話に出て来るといい」

春原「………」

言葉の端々に引っかかりを感じた気がするが、まぁいい。

電話もいつまでも待たせるわけにもいかないしな。

寮のロビーに行き、電話に出る。

春原「もしもし」

『あっ、お兄ちゃん?わたしだよ、芽衣』

春原「芽衣?どうしたんだよ」

芽衣『どうしたんだよ、じゃないよ。お兄ちゃん、明後日卒業式でしょ?お父さんもお母さんも忙しくて行けないみたいだから、わたしが行く事になったから伝えておこうと思って』

春原「は?お前こっちにくんの?」

芽衣『また露骨に嫌そうに言う!止めても無駄だからね、明日そっちに行くから!ひと晩お兄ちゃんの部屋に泊めてもらうからね!』

春原「おい、勝手に決めんなよ!第一、卒業式なら当日の朝でも間に合うはずだろ!?」

芽衣『ついでにお兄ちゃんがちゃんと生活してるかどうかも見るの!本当なら卒業式前に一度そっち行きたかったんだけど、都合付かなかったし』

春原「……はぁ、わかったよ。気を付けて来るんだぞ?」

芽衣『うん!それじゃね、お兄ちゃん!』

受話器を戻し、部屋へと引き返す。

芽衣がこっちに来るのか……。

一応、智代にも話しておこうかな……。

部屋のドアを開け、中へ入る。

智代「あ、お、おかえり、陽平」

春原「? どうしたんだよ、智代。なんか様子が変だぞ」

智代「い、いや、その……」

智代は何やら視線を僕と合わせようとしない。

更には、自分の胸元を気にしている。

春原「………?」

智代「と、時に、陽平」

春原「なんだよ」

智代「お、おまえは、その……お、大きい胸が好きなのか?わたしの大きさでは、不満か?」

春原「…………おい」

~~~

智代「だから、すまないと言っているだろう」

春原「なんでも謝れば済むと思ったら大間違いだ!散策するなって言ったのになんでしてんだよ!?」

智代「それは振りだったんじゃないのか?いいか、するなよ、絶対するなよ!?みたいなあれだ」

春原「意外に俗な事知ってるんだなお前!あれはあくまでコメディだからな!?普通はそういう意味合いでは捉えないの!」

智代「冗談だよ……別に、知られて困ることでもないだろう?そ、その程度で、わたしが陽平の事を嫌いになるわけでもなし」

春原「っ、そう言ってはぐらかそうとしても無駄だ!」

智代「と言いつつ、少し顔が赤くなっているぞ?」

春原「……そういう智代だって」

智代「こ、こういう事を言うのは、慣れていないとお前も知っているだろう。あまり言わせるな」

春原「はぁ……もういいよ。ただ、ひとつだけ言わせてもらうけどな」

智代「なんだ?」

春原「男なら誰でもそういう本のひとつやふたつ、持ってるもんなんだよ。岡崎だって部屋を散策したら絶対出て来るぞ」

智代「そ、そういうものなのか……」

春原「納得したか?」

智代「ま、まぁ、一応は」

春原「それに……その、なんだ。僕がどんな本を見ようとも、智代以上に可愛いと思った奴なんていねえよ……」

言ってる途中で恥ずかしさが込み上げて来て、語尾が小さくなる。

智代「よ、陽平……」

春原「な、なーんて言ってみたり?あ、あは、あはははは!」

この空気に耐えられなくなり、そう言って誤魔化そうとする。

しかし智代の方は僕の笑い声を聞いても笑わず、また少しずつ僕との距離を縮めて来る。

智代「陽平……」

あれ、何これ?

もしかして、智代さん、変なスイッチ入っちゃってる?

智代「そう言えば、先ほどは邪魔が入ってしまって有耶無耶になってしまったな……」

春原「あ、あぁ……い、いや、まだ僕たちは学生だぞ……」

智代「そんなの、些細なことだろう……好きという気持ちが、何より大事なはずだ……」

春原「と、智代……」

ああ、ダメだ。

今度こそ僕も堪えられないぞ……。

ガチャリ

朋也「邪魔するぞー、春原」

杏「やっほ、智代、陽平」

いきなりドアが開かれる音がして、またも僕たちは素早く距離を取る。

杏「………何してんの、あんたたち?」

部屋の隅と隅に正座する僕たちを見て、杏はそう聞いて来る。

智代「あ、あぁ、杏さん、岡崎!いらっしゃい!」

春原「よ、よく来たな!ゆ、ゆっくりして行けよ!?」

朋也「お、おう……」

なんとなく空気を察したのか、二人はそれ以上問い詰めてこなかった。

朋也「智代はもうここにいるのが普通になりつつあるな」

智代「それはそうだろう。なにしろわたしは、陽平の彼女だからな」

杏「ここが智代と陽平の愛の巣!みたいな?」

杏のひと言で、僕と智代はお互いに顔を突き合わせ、そしてすぐに恥ずかしくなり逸らした。

智代「………」

春原「………」

朋也「……おい、なんだこの空気」

杏「……えっと、なんかゴメン」

智代「い……いや、気にするな。うん、わたしも陽平も、いつも通りだぞ!な、陽平?」

春原「そ、そうそう!至って普通!いつも通りだよ、うん!」

杏「………なんか怪しい」

智代「そ、そんなことより岡崎と杏さんが2人で来るなんて珍しいな!何かあったのか?」

朋也「ん……まぁ、杏が、な」

春原「? 杏がなんだよ」

珍しく歯切れの悪い岡崎を、更に問い詰める。

杏「……と、朋也から言いなさいよ」

朋也「なんで俺からなんだよ……お前が報告に行くから一緒に来いって言うからついて来たんだぞ」

杏「な、なんかいざとなると恥ずかしくなってきたのよ……」

朋也「いいから、お前から言え。……なんなら、手を握るくらいはしてやるから」

杏「……じゃあ、お願い」

朋也「……お、おう……」

春原「………つまり、そういうこと?」

僕がそう聞くと、杏は顔を真っ赤にして頷く。

智代「え?え?つまり、どういうことだ?」

一人状況を理解出来ないでいる智代が、僕たちの顔を交互に見て問い詰める。

杏「じ、実は、あたしと朋也、その……つ、付き合う事になって……」

途切れ途切れに、言いづらそうにしながら、杏はそれだけ言うと顔を真っ赤にして俯いてしまった。

岡崎は岡崎で、照れくさそうに視線を泳がせている。

智代「え……えっ!?き、杏さんと、岡崎が!?」

杏「は、はい」

朋也「まぁ……一応、そういうことになったらしい」

杏「ちょっ、らしいってどういう事よ!?」

朋也「いや、だってあんな事言われたって……なぁ、春原?」

春原「なんでそこで僕の方に振るんだよ!?お前らが付き合うようになったのなんて今初めて聞いたぞ!」

杏「何よ、あんた、あたしの事好きじゃないの!?なのにあたしの告白を受け入れたって言うの!?」

朋也「ち、違う違う!なんでそんな話になるんだよっ!」

杏「じゃあなんで『らしい』なんて言うのよっ!」

朋也「俺だってまだ実感湧いてないんだから仕方ないだろっ!」

智代「待て待て、落ち着け三人とも!」

言い争っている岡崎と杏を、智代が仲裁に入る。

智代「順を追って説明してくれ。わたしたちにはさっぱり話が見えてこない」

春原「智代に同意。まず、いつからだよ?」

杏「こ、今年の一月の終わりくらいから……よね、朋也?」

朋也「俺に振るなよ……そうだよ、今年に入ってからだ」

智代「それで、告白したのはどちらからなんだ?」

杏「それは……あ、あたし……から……」

智代「そうか、杏さんからか!おめでとう、杏さん!心配していたけれど、うまく行ったんだな!」

朋也「は?智代、お前知ってたのか」

智代「わたしは杏さんの親友だからな!当然だ!」

杏「ありがとう、智代」

春原「そっかそっか、杏もとうとう自分の気持ちに素直になったか、うんうんいいことだね」

朋也「春原まで……え?もしかして知らなかったのって俺だけか?」

春原「まぁ僕はそうじゃないかな?って思ってただけだけどね」

杏「そ、そういうわけよ!一応、陽平と智代もあたしにとっては他人事じゃないと思ってたから、報告だけはしておこうと思ってね」

朋也「なんで他人事じゃねえんだよ?」

杏「だって、二人とも知ってるじゃない。その二人になんの報告もなしってどうなのよと思ってね」

朋也「ふーん……なんか釈然としないけど、まぁ別にいいか」

杏「何が釈然としないのよ?」

朋也「い、いや……前から……だったなら、もっと早くにだな……」

杏「……えっ」

朋也「………」

春原「おーい、お二人さーん?イチャイチャするのはいいけど、人前だってことを忘れるなよー」

杏「っ、う、うるさいわねっ!わかってるわよ!」

朋也「別にイチャイチャなんてしてないだろ。報告は終わりだろ、なら帰ろうぜ」

そう言うと、岡崎は立ち上がり部屋から出て行く。

杏「あっ、ちょっと待ちなさいよ朋也!」

春原「ふーん、普段は僕や岡崎をしばいてた杏が、こうまでなるとはねぇ」

杏「う、うるさいって言ってるでしょ!」

智代「時に、杏さん」

杏「な、なに?智代」

智代「その……妹さんの件は、どうなったんだ?」

杏「椋がどうかしたの?」

智代「前に杏さんが言っていただろう。あなたの妹も、岡崎の事を……と」

杏「あ、あぁ……その話は、また今度ゆっくりしましょう。朋也行っちゃうから」

智代「丸く収まった……と捉えていいのだろうか?」

杏「……そうね、あたしも椋も、後悔するような結果にはなっていないと思う。お互い、心にはちょっとだけ傷が残っちゃったけど……ね」

智代「………。そうか、引き止めてすまない。聞かせてくれるのなら、今度改めて聞かせてくれ」

杏「それはもちろん!じゃね、智代、陽平!」

それだけ言い残し、杏も部屋を出て行く。

春原「ふーん……結構深刻な問題だと思ってたけど、そうでもなかったみたいだね」

智代「だな……。姉妹で、同じ人を好きになってしまったら、どちらかが傷つくのは回避出来ない事だろうとは思っていたが、杏さんの様子を見る限りでは妹さんも心配なさそうだ」

~~~

日が傾いて来た頃。

智代「そろそろわたしも帰るよ。また明日な、陽平」

智代は立ち上がり、僕にそう挨拶する。

春原「おう、気を付けて帰れよ」

智代「………。それだけか?」

春原「ええい、何度も言うが僕たちはまだ学生だ!」

智代「別れ際くらい、いいだろう……」

そう言って、智代は僕の顔に手を添えると唇を重ねてきた。

智代「……うん、じゃあ、またな、陽平」

顔を微かに赤らめ、智代は出て行く。

春原「………うん。うん……」

今更だけど……。

春原「僕たち、付き合ってるんだよなぁ……」

智代と付き合うようになってから今まで、何度も思ったことだけど、こうして恋人らしいことをすると改めて実感する。

春原「………あれ」

なんだろう?なにか、大切な事を忘れてる気がする。

なんだったか……智代にも話しておこうと思ってたような気がする。

春原「まぁ……覚えてないってことはそれほど大切なことじゃないってことだよね、多分」

楽観的な答えを出し、そんなことは早々に忘れてしまう。

~~~

そして、翌日。

春原「くかー……んー……」

「すみません、ありがとうございます」

「いいのいいの、気にしないで。春原の奴、起こしちゃってちょうだい」

「え、まだ寝てるんですか?わかりました」

遠くで、話す声が聞こえて来る。

「朝だよー、起きてー」

春原「むにゃ……もうちょっとだけ寝かせてくれー……」

「相変わらずだねぇ……いつまでもダラダラ寝てたら、高校卒業したら大変だよ?今から生活習慣を整えなきゃ」

春原「うるせぇな……智代には関係ないだろー……」

「………」

唐突に、僕に話しかけて来る声が止まった。

恐らく智代だろう。このままもう少しだけ寝かせてもらうとしよう。

芽衣「ちょっとお兄ちゃんっ!起きて!智代さんって誰!?」

春原「………は?」

そのひと言で、急激に目が覚める。

ガバッと布団をはねのけると上半身を起こし、来訪者の姿を確認する。

芽衣「むー……」

春原「め、め、芽衣……!?」

芽衣「おはよう、お兄ちゃん!」

明らかに不機嫌な声で、芽衣は朝の挨拶をしてくる。

芽衣「で、智代さん、って誰?」

春原「なんで芽衣がここにいるんだよおおおおおおおおおおおっ!?」

卒業式まであと一日。

どうやら、僕に平穏というものはもう訪れないらしい。

本日の投下、以上
>>1に書いた通り、続編物となります
卒業式の話がメインになる予定ですので、色々キャラが出て来ると思います
よろしければお付き合いください


前作が素晴らしかっただけに楽しみにしているよ

続編待ってました
乙乙

春原は最高の親友キャラだよな!こんな友達が欲しかったな~…

北川にもこのくらいの出番は欲しかったな

ここで続けるのかな?

はい

マダー?

まだ...なのか...

だいぶ待たせてしまって申し訳ないです
今日の夜には投下に来ますのでもう少々お待ちください

まってぃーました

今日の夜とはいったい……うごごご

1日は28時間あるからまだ

お待たせしました、投下開始します

芽衣「なんでって……昨日電話で言ったじゃん!明日そっちに行くからねって!」

春原「へ!?昨日!?」

芽衣「……もしかして、忘れてたの?」

春原「……………あ………あぁ……?」

徐々に、昨日の記憶が蘇って来る。

春原「そ、そういえばそんな電話が……あった、ような………?」

芽衣「あったようなじゃなくて、あったの!もう、大丈夫かなぁこの人は。我が兄ながら心配になってきたよ……」

春原「え?大体お前、何しに来たの?」

芽衣「それも電話で言った!お兄ちゃんがちゃんと生活してるかどうか、確認したかったの」

春原「……あー……」

芽衣「まだ寝ぼけてるんじゃないの、お兄ちゃん?」

春原「いや……もう目が覚めたよ、おかげさまで」

芽衣「それならいいんだけど……」

そう言いながら、芽衣は部屋の中をひと通り見回す。

芽衣「まぁ、そっちの心配はとりあえず大丈夫かな。わたしが想像してた以上に、部屋の中綺麗だし」

春原「ふふん、そうだろうそうだろう」

何しろ、智代が毎日のように僕の部屋に来ていたんだ。

僕がどうこうしなくとも、勝手に少しずつ部屋は整理整頓されていった。

………いや、別に僕一人でも片付けようと思ったらいつでも片付けられたんだぞ?本当だぞ?

芽衣「それで、お兄ちゃん。さっきから聞いてるけど、智代さんって誰?」

春原「……えっ」

芽衣「とぼけても無駄だよ。さっき寝ぼけながら呟いてたよね?智代には関係ないだろーって」

春原「あ、あぁ……いや、そんな奴の名前呟いてたか、僕?」

芽衣「とぼけても無駄!確かに言ってたよ!」

春原「あー、あれだよ!この学校に入学してから出来た、僕の友達!」

芽衣「お友達?お兄ちゃんに!?」

春原「なんで驚くんだよっ!?」

芽衣「え、だってお兄ちゃん、サッカー部を追い出されてからはこんな学校やめてやるなんて言ってたじゃない!」

春原「そんな昔の話を持ち出すな!僕も大人の階段を登ったの!」

芽衣「お、大人の階段っ!?まさか、この寮で……」

春原「どうしてそっちに話が逸れるんだっ!!ただ精神的に成長したって言いたいだけだ!」

芽衣「えー、ちょっと信じられないなぁ」

春原「なんとでも言えよ。僕が成長したのは揺るぎない事実だ」

智代「ほう、そうか、陽平は成長したのか」

春原「ああ、そうさ!こうして三年間学校に通い続けたのが何よりの証だろ!」

智代「岡崎から聞いた話では、不良やってたようだが?」

春原「は?なんで芽衣が岡崎の事……」

智代「おはよう、陽平」

春原「………」

こいつ、神出鬼没過ぎるだろ。いつの間に来たんだ。

芽衣「こんにちは。お兄ちゃんのお友達ですか?」

智代「ん?お兄ちゃん?」

芽衣「あ、申し遅れました、わたしは春原陽平の妹の、春原芽衣です!始めまして!」

智代「ほう、陽平にこんな礼儀正しい妹がいたのか。始めまして、わたしは坂上智代だ。陽平とは、友達以上の付き合いをさせてもらっている」

芽衣「智代さん?友達以上……?」

春原「ストーップストップ!話がこじれるからこれ以上は待て」

智代「最初はこの部屋にわたし以外の女と二人きりでいるからどうしてやろうかと思ったが、そうか、妹か」

春原「逆に、妹以外のなんだと思ったんだよ?」

智代「……それをわたしの口から言わせようと言うのか?」

芽衣「ちょっとお兄ちゃん、詳しく話を聞かせてよ!」

春原「ええい、質問攻めするな!ひとつずつ答える!答えるから待て!」

言葉と手で二人を制し、落ち着かせる。

春原「えーと、まず智代から。こいつは僕の妹で、春原芽衣。明日の僕の卒業式はこいつが僕の両親の代わりに出るんだってよ」

芽衣「改めて、始めまして智代さん」

春原「で、この人は坂上智代。僕と同じ学校に通ってる、二年生だ。僕とは……」

なんと答えたらいいものかと悩み、智代に視線を移す。

智代「?」

春原「……僕の、彼女だよ」

結局、素直にそう答えることにした。

智代「始めまして、芽衣さん」

芽衣「………」

智代「……芽衣さん?」

春原「どうした、芽衣?」

芽衣「お兄ちゃん……そんな見栄張らなくてもいいよ……わたしまで悲しくなってくる」

春原「おい」

芽衣「だってさっきは友達って言ってたじゃない!」

智代「……え……」

春原「あ、あれは!」

芽衣「そんな嘘付かなくってもいいって!お兄ちゃんに女の人の友達がいるだけでも十分驚きなんだから!」

智代「………そうか………わたしは、陽平の友達なのか………そうか………」

春原「ああああ、待て待て!芽衣、さっきのは嘘、嘘だ!僕は智代と付き合ってるの!マジで!」

芽衣「わかりきってる嘘をつき通そうとするなんて……妹ながら悲しいよ……」

智代「友達か……いや、でも陽平と一緒にいられるならそれでも……しかし……」

春原「なんで納得しねえんだよ!智代も帰って来い!自信を持って僕の彼女だって芽衣に言い聞かせてやってくれよ!」

智代「そうさ……どうせわたしなんて、自身の打ちたてた目標すら達せられない中途半端な存在だ……はは……」

朋也「お邪魔するぞー、春原」

杏「やっほー、陽……平……」

混乱する場に、今度は岡崎と杏が姿を現した。

芽衣「ああ、お兄ちゃんがどんどん嘘付きに……」

智代「こんなわたしが、陽平と釣り合うわけないよな……友達でいられるだけ感謝しなければ……」

春原「ちょうどよかった、岡崎、杏!こいつらに説明してやってくれ!」

朋也「………え、あぁ……」

杏「あ、あんた……まさか、二股掛けたの!?最低ね、信じらんない!」

春原「はあ!?」

杏「そ、それも、一人はこんな、小さな……!!何考えてんのよあんた!?」

春原「待て待て待て待て、これ以上話をこじらせるな!!落ち着け!!」

杏「うっさい、問答無用!!」

春原「ぶっ!?」

早足で僕に近づいて来ると、渾身の平手をお見舞いしてきやがった。

杏「前も智代を傷つけたのに、それだけじゃ飽き足らないなんて、ホンット最低ね、あんた!!」

智代「いつから友達に降格したのだろう……あの頃からか……?」

芽衣「ああ、神様、こんなどうしようもない兄ですけどどうか見守ってあげてください」

春原「……もう、どうにでもなれや……」

~~~

ひとしきり騒いで落ち着きを取り戻したのは、それからどれくらいだっただろうか。

僕の頬は真っ赤にはれあがっていた。原因は杏の平手連発。

最初に正気を取り戻した智代が、僕の胸倉を掴んで平手を連発している杏を制止してくれたのだった。

杏「………」

芽衣「……えっと……」

朋也「……はぁ」

智代「……よし、手当完了だ」

春原「……サンキュ、智代」

部屋の空気は何故か非常に重苦しい。一体僕が何をしたって言うんだろう。

杏「で、陽平」

春原「なんだよ……」

杏「………」

春原「な、なんでしょうか……」

杏にギロリと睨まれ、敬語で言いなおす。

杏「まず、この小さな子は誰?あんたの浮気相手?」

芽衣「いえ、あの……」

春原「こいつは僕の妹だよ。春原芽衣。ほら芽衣、挨拶しろ」

杏「は?妹?」

芽衣「は、始めまして、春原芽衣って言います。お兄ちゃんの言ってた通り、春原陽平はわたしの兄です」

杏「……はぁ、あのさ、陽平」

春原「なんだよ」

杏「嘘を吐くならもっとマシな嘘を吐きなさい」

春原「え、いや」

杏「あんたにこんな礼儀正しくてかわいい妹がいるわけないでしょ!?」

朋也「ああ、同感だな。どう見ても血の繋がりが見当たらない」

智代「そ、そうなのか陽平!?」

春原「芽衣と同じ事を言うな!!れっきとした僕の妹だよ!!」

芽衣「あの、お兄ちゃんの言ってる事は本当です」

僕の発言を、芽衣が肯定する。

杏「芽衣ちゃんって言うのね。何もこのバカを庇う事ないのよ?素直に言いなさい、本当はお兄ちゃんじゃないんでしょ?」

春原「どうして真っ先に疑って掛かるんだよっ!?」

杏「バカは黙ってなさい。こんな小さな子にお兄ちゃんって呼ばせるなんて……あんたの性癖疑うわよ」

春原「余計なお世話だっ!」

芽衣「あの、本当なんです。確かに、わたしとお兄ちゃんじゃ全然似てないかもしれませんけど」

朋也「………マジでか?」

芽衣「はい、マジでです」

智代「……わ、わたしは陽平を信じるぞ、うん」

春原「都合のいい時だけそう言うな!お前も杏の言う事を真に受けてただろうがっ!」

智代「うっ……な、なんの話だ?さっぱりわからないな」

杏「え、え……本当に?」

芽衣「はい、本当です」

杏「……へ、へぇ……そ、そうなんだ……ふーん……」

春原「ったく、ただの殴られ損じゃないか」

杏「だって、あんな修羅場っぽい光景見たら……ね、ねぇ、朋也?」

朋也「えっ、あ、ああ……まあ、確かに修羅場に見えなくもなかったような……」

杏「んじゃ、何がどうなってあんな空気になってたってのよ?」

芽衣「それがね、聞いて下さいよ、えっと……」

杏「ああ、ごめんね芽衣ちゃん。あたしは藤林杏よ。で、こっちが岡崎朋也」

朋也「おう」

芽衣「杏さんに岡崎さんですね、よろしくです」

杏「こっちこそよろしく。芽衣ちゃんも大変ね、こんなバカを兄に持って」

春原「バカってのは余計だ!」

芽衣「大丈夫です、もう慣れましたから」

春原「そこは否定しろよっ!?」

杏「はいはい、陽平は黙る。で、何があったの?」

芽衣「あの……お兄ちゃんったら、智代さんを自分の彼女呼ばわりしてたんですけど、本当なんですか?」

春原「そこに戻るのかよ!いい加減認めろよ!」

智代「それはわたしも気になるところだな。聞くところによると、最初はわたしのことを友達呼ばわりしていたらしいじゃないか」

春原「そりゃ、誰だって自分の恋人を紹介するのは気恥ずかしいもんだろ!岡崎と杏ならわかるよな?」

杏「な、なんでそこであたしたちに振るのよ?」

春原「なら杏に聞いてやるよ!岡崎って誰だ?」

朋也「!」

杏「え……だ、誰って……あ、あたしの……か、彼氏……、だけど……」

朋也「………」

杏がそう言うと、二人は気恥ずかしそうにお互い視線を逸らしていた。

春原「どうだ、答えにくいだろ?僕が友達って答えたのはそういうことだよ」

智代「え、え?つまりどういうことだ?」

春原「照れ隠しでそう言ったってだけ!智代も、僕の彼女だって自信を持って答えられるだろ?」

智代「………」

その問いに対して、智代は赤面しつつ頷く。

春原「これで納得したか、芽衣?」

芽衣「うそぉ……お兄ちゃんに、こんな綺麗な彼女さんが出来るなんて……」

智代「お、お世辞はやめてくれないか……照れる」

芽衣「なんか、安心したよ」

春原「あん?何が」

芽衣「お兄ちゃんはお兄ちゃんで、ちゃんと学園生活を楽しんでたんだなって」

春原「……まぁ、多少はね。スポ薦だろうと、入学した以上は中退するのもなんか癪だったし」

朋也「よく言うよ。あの時はくそつまらなそうな顔してて、今にも学校飛び出しそうな顔してたってのにな」

春原「それは岡崎もお互い様だろ」

朋也「まぁな」

智代「………なんだか、訳ありだな?」

春原「うん?」

杏「そういや、あんた達の一年の頃の話って聞いたことなかったわね。ちょっと興味あるかも」

智代「わたしも杏さんに同じだ。陽平がスポーツ推薦というのも初めて聞いた」

春原「あー……そうだったっけ」

芽衣「わたしもちょっと聞いてみたいかも。お兄ちゃん、自分の事ってあんまり話さないんだもん」

春原「僕の話なんて面白くもなんともないと思うけどねぇ」

智代「まぁ、たまにはいいだろう?今度は陽平の番だ。昔話、聞かせてくれないか?」

朋也「……だってよ、春原」

春原「ふん……今思い出しても胸糞悪い話だけど……まあ、たまにはいいか……」

当時の事を少しずつ思い出しながら、僕は語り始める。

僕と、岡崎が知り合ったあの日の事を。

本日の投下、以上
次の投下は春原と岡崎の昔話となります。次は早めに投下に来れると思います
では

お疲れ様です

お疲れ様です。つぎがたのしみだぜ

更新来てたか
待ってましたよ

おっつおっつ
楽しみに待ってるよー

投下します

―――――
―――


―――3年前

この春、僕はとある高校の推薦を通り、有名な進学校にスポーツ推薦で入学した。

東北から遥々やってきたこの町は、僕の想像よりも小さかった。僕の新しい住居はは、学校から近いところに立っている学生寮だ。

学生寮といっても、僕みたいにスポーツ推薦で入学したやつらがほとんどだった。

春原「明日、入学式かぁ……」

ベッドに寝そべり、そうつぶやく。進学校という言葉が少し引っかかるけど、まぁ思う存分サッカーが満喫できればなんでもいいかなという結論に辿りつく。

~~~

入学式から数日。今日から、新入学生の部活動が始まる日だ。

放課後になると、僕は颯爽と教室を飛び出して、サッカー部の部室へと向かった。

春原「今日まで楽しみにしてたからなぁ……」

サッカー部の部室前まで来て、そのドアを勢い良く開けた。

春原「どうも、こんにちは!スポーツ推薦で入学しました、春原陽平といいます!今日からよろしくお願いします!」

ドアを開けると同時に、そう言って頭を下げた。

先輩「あ……?」

中から、低い声が聞こえてきた。

先輩「スポ薦……?」

何人かの先輩が、僕のところに歩み寄ってくる。

春原「は、はい……?」

それに、ついつい気圧される。

先輩「はっ、そうかよ。まぁ、頑張ってくれや、エリート君」

そう言って、頭を軽く小突かれる。

春原(なんだよ、感じわりぃな……)

これが、先輩流のスキンシップだとでも言うのだろうか。それでも、とりあえずは部活をするようだ。

僕は、部室内の空きロッカーを探して、そこに自分の荷物を押し込んだ。

~~~

春原「はぁ、疲れた……」

今日一日は、僕以外の新入部員も含めて一年生全員が玉拾いに走らされた。

春原(まぁ、新参者だから仕方ないのかもしれないけどさ)

早く、ボールに触りたい。スポーツ推薦で入学したんだし、それくらいはいいじゃないか。

春原「くそっ……」

仕方ないと頭では理解していても、苛立ちは抑えられなかった。

~~~

次の日、クラスで各部の話をしているのを小耳に挟んだ。特にその中でも印象に残ったのは、やはり自身が所属するサッカー部の話だ。

どうやらこの学校のサッカー部は、あまり評判がよくないらしい。

実力があれば一年でもレギュラーに入ることは出来るらしいが、滅多に一年がレギュラーで試合に出ていることはないと言う話だった。

春原(はっ……実力があれば、ねぇ……)

自分のサッカーの腕前は、自惚れるわけではないが自信はあるほうだった。

要は実力があればいいわけだ。簡単な話じゃん。

~~~

部活には、熱心に取り組む姿勢を意識していた。入部したばかりの頃はボール拾いが大半だったが、たまにボールに触らせてくれることもあるにはあった。

よくよく意識を向けていて気付いたのだが、顧問が練習の様子を眺めている時にだけ一年にボールを触らせているようだった。

なるほど、評判がよくないというのは主に先輩方の意向の所為だったようだと思う。そりゃ、先輩方から見れば一年がレギュラーなんて生意気だと思うかもしれないだろう。

僕が先輩の立場になったとしても、生意気と思ってしまうななどと考えてしまう。だから、ある程度は我慢する必要があると結論付けた。

ボールに触る機会はそれほど多くはなかったが、少しずつこの学校での部活も楽しいと感じ始めるようになっていた。

部の顧問は、僕の実力を認めてくれた。そして、一年ながらレギュラーに抜擢されたのだった。それが、僕の自信にも繋がった。

それに対し、他の先輩はあまりいい顔はしなかった。まぁ予想の範囲内だろう。

そして、僕がレギュラーの座を獲得して、初めての練習試合。

春原「はっ腕がなる……」

準備運動をしながら、そう呟く。実際は、腕は使わないのだが、その辺はまぁ気にしないでおこう。

そんな僕の後ろでは、先輩方がにやにやとした笑みを浮かべているのには、気付かなかった。



試合が始まる。

それは、偶然というには異常と言える現象だった。相手チームのマークは、僕に集中しているような気がした。

気がした、というのは間違いではないだろう。

苛立ちながらも、試合は続く。



試合の勝敗については、何も知らなかった。

途中で交代させられ、ベンチへと戻った僕は先輩に言われるまま、半ば強制的に試合中に帰されたのだから。

練習試合の次の日。僕は気を晴らすために、一人商店街をうろついていた。

春原「あーぁ、こんなとき一人ってつらいよなぁ……」

東北から遥々やってきた僕には、休日に行動を共にするような親しい友達はまだ出来ていなかった。

春原「あーくそっ!いらつくなぁ……」

思い出されるのは、昨日の練習試合。

気晴らしに商店街をうろついていても、そのことは頭からは離れなかった。

春原「……ん」

ふと、前方から歩いて来る三人に視線が行く。

昨日の練習試合での、相手チームのやつらだ。異常なほどに僕に付きまとった三人。

春原(あいつら……!)

理不尽な怒りが湧き上がってくる。

あれは試合だったのだから、マークされるのは仕方ないことだ、と自身に言い聞かせながら、そいつらとすれ違う。

聞こえて来たのは、信じがたい言葉の数々だった


「しかし、安い仕事だったなぁ」

「一人を集中マークするだけでいいんだもんな」

「でも、なんでこんなことを頼んできたんだろうな?」

「ああ、あいつ一年らしいぜ。なんでも、一年がでかい顔をするのが気に食わないんだとさ」

「ま、俺らにはもう関係ねぇことじゃん」

「違いない!」

それから先は、よく覚えていない。

記憶に残っているのは、野次馬の騒ぐ声と、僕の手と顔が酷く熱かったことくらいだった。

休み明け、学校に行くと僕はすぐさま生徒指導室へと呼び出された。

内容は、先日の商店街での出来事。

よく覚えていないという僕の言葉に、生徒指導の先生はあの後どうなったのかと、これからどうなるのかを詳しく話した。

喧嘩相手の三人は、全員僕がのしてしまったということ。

新人戦は、僕が喧嘩沙汰を起こしてしまったせいで、出場禁止となること。

僕自身も喧嘩沙汰を起こしたとあって、数週間の停学処分を課せられること。

ひと通りの話を聞き終えると、僕は退部届を片手に職員室へと向かった。

顧問に、退部届を提出する。最後に言われた言葉も、心ないものだった。

「なんだ、スポーツ推薦で入学しておきながら、部活をやめるのか。まぁ、お前がいないほうが部の指揮もあがる。もう、部には顔を出すなよ」

その言葉に対し、僕も言葉だけは丁寧に、返事をする。



春原「短い間でしたけど……お世話になりました」

職員室を後にし、寮へ帰ろうと思い玄関へ向かう。

その途中で、再び生徒指導の先生に捕まった。

言い忘れていた事があると言い、またも生徒指導室へと連れられた。

春原(僕は、この学校になにをしに入学したんだろうな……)

先生の小言をよそに、そんな疑問が頭を掠めた。スポ薦で入学しても、その部活をやめてしまったら意味がない。

考えを巡らせていると、自然と学校を辞める、という選択肢が頭に浮かんでくる。

春原(家族には悪いけど……もう、こんな学校辞めてやろうかな……)

僕がそう言ったら、親はなんて言うだろう。

芽衣は、多分悲しむだろうな。あいつ、僕がサッカーする姿が好きだったみたいだし。

先生「ほら、もう行っていい」

春原「えっ?」

そんな声が聞こえてきて、我に返った。

今はまた、生徒指導室に呼び出されて説教を受けていたんだったか。それが、もう終わったんだろうか?

春原「じゃあ……失礼します」

そう告げて、指導室を後にする。

「……ん?」

廊下に出ると、老教師に連れられている一人の生徒と目が合った。老教師が歩いていくのを気にしない様子で、僕と目が合ったところでそいつは立ち止まった。

まじまじと僕の顔を眺め、やがて、

「……ぷっ……あはははははははははっ!」

そいつは大笑いをした。

春原(なんだ、こいつは……)

「な、なんだお前っ……その顔はっ!あっはははは!」

指摘されて、思い出す。

僕の顔は、つい昨日起こしたばかりの喧嘩によって所々が絆創膏だらけだった。

「こっ、こんな進学校で、そんな顔をしてる奴がいるかよ……あっははは!」

……なんて楽しそうに笑うんだ、こいつは。

それに、よくよく見るとこいつの顔も傷だらけだった。

自分の事を棚にあげて笑うこいつを見ていると、僕もなんだか可笑しくなってきた。

春原「……ははは、うるせえよ!お前も鏡で自分の顔見てみろってんだ!」

「違いない!あははははは!」

廊下の真ん中で、お互いの顔を指差して大笑いした。

思えば、初めてかもしれない。この学校に来てから、こんなに笑ったのは。

廊下の真ん中で互いの顔を見て笑う僕らの様子を、少し離れたところで老教師が見守っていた。

~~~

そいつの名前は、岡崎朋也といった。話を聞くと、そいつも僕と同じようなやつだった。

スポ薦で入学したにも拘らず、部に所属出来ないやつ。

そうか、僕と同じようなやつだから、気が合ったのかもしれない。

こいつとなら、意味がなくなった学校生活も楽しくなるかもしれない。

春原「……よし!」

決めた。このまま、実家に帰るのもなんだか気が引ける。こいつと三年間、楽しく過ごそう。

そう決めた。


―――
―――――

春原「……ま、大雑把だけど、大体こんな感じだよ」

朋也「なんか所々美化されてる気がするけど、まぁ概ね合ってるな」

春原「美化もへったくれもないだろ、あくまで僕の主観で話しただけだ」

杏「へぇ……あんたらに、そんな過去があったのね」

芽衣「なんだかわたし、感動しちゃった。岡崎さんとお兄ちゃんは、親友なんですね」

春原「ああ、そりゃもう切っても切れない関係さ!な、岡崎!」

朋也「……ふん」

杏「あら?珍しく否定しないのね、朋也」

朋也「まぁ、親友という言葉には疑問しか感じないが、切っても切れない関係ってのはあながち間違っちゃいないからな」

芽衣「今までお兄ちゃんと一緒にいて、大変だったでしょ、岡崎さん?」

春原「おい、芽衣、そりゃどういう意味だ!」

芽衣「えー、だってお兄ちゃんだし……」

春原「今言ったばっかりだけど、僕と岡崎は親友なの!大変もなにもないんだよ。な、岡崎?」

朋也「いやー、本当にな。春原ってこういう奴だから、大変だったよ」

春原「ぅおいっ!?どういう意味だ岡崎!?」

朋也「何しろ、アホだし」

芽衣「うんうん」

春原「アホってなんだ、アホって!?」

朋也「やることなすこと突拍子もないし」

芽衣「うんうん」

春原「岡崎、お前僕のことをそう言う風に……」

朋也「でもま、こいつのおかげで退屈はしなかったかな」

芽衣「………」

春原「……」

杏「………」

朋也「おい、なんだこの空気は」

杏「え、いや……なんだかんだ言いつつ、朋也も陽平の事はいい友達と思ってるんだなぁ……って」

春原「杏に同じく……」

朋也「俺だって、言う時は言うよ。いつまでもあまのじゃくな態度取ってたら、どこかで話がこじれるからな。な、智代?」

智代「っ!」

朋也「いつかは、自分の気持ちに素直にならなきゃダメな時が来るもんさ」

智代「………岡崎は、結構意地悪なんだな」

朋也「一応、お前と智代の事は近くで見てきたからな」

芽衣「智代さんも、お兄ちゃんの彼女やっていて大変じゃありませんか?」

春原「おい、芽衣っ!智代にまでそんな事を……」

智代「そんなことはないぞ。わたしは、好きで陽平と一緒にいるのだからな」

春原「っ!」

たったひと言で、智代は世話焼きの芽衣を黙らせた。

智代「そしてそれは、これからも続けて行きたいと思っている。わたしは……陽平の事が、好きだからな」

春原「………ふんっ」

いつもと変わらない様子でそういう智代につい気恥ずかしくなり、顔を背ける。

芽衣「……お兄ちゃん、いい彼女さん持ったねぇ」

春原「……ま、まぁ、な」

芽衣「よかった。お兄ちゃんのこと、そんなに心配する必要なかったかも」

春原「何をそんなに心配してたんだよ、芽衣は……」

芽衣「退屈な三年間を過ごしてたんじゃないかとか、そもそもまともに学校に通ってたのかとか、色々だよ」

春原「………」

僕、兄だよね?なんでこんなに妹に心配されにゃならんのだ。

智代「ところで、話に出てきた老教師というのは誰の事だ?」

春原「幸村の爺さんだよ。あの爺さんが、岡崎を連れて歩いてたんだ」

杏「幸村先生……って、あれ?確か幸村先生って、今年で定年じゃなかったっけ?」

朋也「………」

春原「えっ?マジ?」

杏「……あんたねぇ……仮にも学校で居場所を作ってくれた恩師じゃないの?ずいぶん薄情な教え子を持ったわねぇ幸村先生も」

春原「……そうか……幸村の爺さん、定年なのか……」

智代「岡崎の方は、どうやら知っていたみたいだな?」

朋也「まぁ、一応……な。あの爺さんには、世話になったし」

春原「岡崎も知ってたのかよ?」

朋也「そりゃな。俺にとっても、あの人は恩師だ。それはお前も同じじゃないのか?」

春原「……まぁ……否定は出来ないな」

芽衣「お兄ちゃんの恩師……これはわたしからも挨拶しておかなくちゃ」

春原「余計なことはすんなよ、芽衣」

芽衣「余計なことって……!」

春原「……その、恥ずかしいだろ、今更」

朋也「………」

芽衣「……あ……」

杏「ま、そうね。第一、一応まだ現役教師なんだし」

智代「そうだな、杏さんの言うとおりだ」

芽衣「むー……わかったよぅ……」

不満げな芽衣の声が、部屋の中に響く

でも、そうか……幸村の爺さん、定年か……。

芽衣じゃないけど、最後に挨拶くらいはしておこうかな。

本日の投下、以上
結構短い話になる?かもしれません

朋也と春原の昔話については、本編内で語られていたものを自分なりに解釈して書いたものです。
本編と矛盾しているところがあったら、指摘してくれると嬉しいです

では


いいよ、いいよ

乙ん
多少矛盾はあっても面白けりゃ気にしないから、気にせず自由に書いてくれ

おー更新だったか
おっつおっつ

乙っした!!

乙でした!!
やっぱり春原は最高ですね

マダー?

杏かわゆ

続き期待してます。

報告遅くなりました、>>1です
使用していたPCが壊れてしまって、更新が厳しい状態になっています(この文もスクリーンキーボードで書いています)
なので、勝手ながらこのスレは打ち切りとさせていただきます。楽しみにしていた方には申し訳ないです
HTML化依頼に行ってきます

な、なんと寂しい…
またクラナドss書いてくれ、待ってるから

いつかまた書いて欲しい

そんな...待ってる

なんだと…
またいつか待ってる

またいつか書いてもらえたら嬉しいです。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年04月11日 (土) 10:31:18   ID: xRjuvXII

何でや……

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