ショートショート深夜VIP(168)
暇つぶしに書いたショートショートを淡々と投下するスレ
余裕の2get
見ろよ>>3の「2getしてやったり」な意気揚々とした書き込みをwww
今度からコイツのことクソムシって呼ぼうぜw
【電車】
電車から降りるとき、私はいつも不安になる。
なにか落し物をしてはいないか、
大切な何か(それが何かは分からないが)を電車の中に置き忘れてしまっているのではないかという不安に駆られる。
去年は、携帯電話をうっかり置き忘れ、
一昨年は、大事な書類を取り戻しに2つ隣の駅まで走った。
私たちを乗せて颯爽と走る電車は、私に対して冷たい。
>>2
帰れ
面白そうだよ
支援
ある晴れた日の朝、私は自分の声を電車の中に置き忘れていた。
普段からあまりおしゃべりをしない私は、自分の声がなくなっていることに気付かなかった。
気付いたのはその日の午後、思い出せなかった歌詞を口ずさもうとした時だ。
「……」
なんということだ。声が出ない。
さて、どうしたものか。
探そうにも探す手段が分からない。
困った私は、何を思ったか担任の先生に相談した。あまり親しいわけでもないのに。
「んー?なになに…声を取り戻す方法?」
テレビのカンペのようにスケッチブックに書いて事情を説明した。
先生は、ふぅんと頷くと机の中からゴソゴソと何かを取り出し、私の前に置いた。
「これで、置き忘れた電車を調べてごらん。僕も昔はよく忘れたからなぁ、あはは…」
先生は少し照れくさそうに笑い、そそくさとお茶を汲みに行った。
ふむ、マイクと録音機、それとヘッドホン。
他にどうしたらいいか分からないので、私は言われた通り、それらをお気に入りのバックに詰めた。
私の家と学校は、町外れにまで伸びた線路に沿って同じ直線状の位置にある。
電車に乗れば15分で家につくが、歩くとなると1時間近くかかってしまう距離だ。
私は、家と学校のちょうど中間地点。
綺麗なコスモスが咲いている踏切の傍に立って膨らんでいるバックから渡された機器を取り出した。
風の音。
遠くから聞こえる、風を切る音。
電車はもう少しで私を通り過ぎる。
ヘッドホンを装着し、マイクを線路のほうに向けて、録音機のスイッチを入れた。
しばらくの雑音の後、録音されているであろう音が聞こえてくる。
いつも耳障りだと思っていた車輪の音は、目を閉じて聞いてみるとそこまで不快なものではなかった。
よく耳を澄ませてみると電車の中から多く人々の声が聞こえた。
電車はそれを全て包み込み、私たちの帰るべき場所まで運んでいるかのようだった。
電車と風が一瞬で私の横を走り抜けた。
「○○○」
私は、ヘッドホン外して録音のボタンを切った。
颯爽と走り去っていった線路には静寂が、手元の録音機には私の声が残っていた。
あの電車は今日も誰かの思いと言葉を乗せて走り続けるのだろう。
さて、家に帰ろう。
家に帰ったら、親にずっと言い出せなかったテストの点数の話をしようと決断した。
【おしまい】
つぎいくよー
【砂糖】
「本当だよ?ほら舐めてみてよ」
彼女は甘ったるい声でそう囁く。
突然の申し出に固まっていると、彼女はその綺麗で長い小指を突き出してきた。
「ほら、遠慮しなくてもいいんだよ。別に恥ずかしいことでもないんだし」
秋の夕暮れの日差しと相まってその表情は官能的に、恍惚と見えた。
人差し指を恐る恐る口に含んでみる。女の子の指を舐めるのは生まれて初めてだ。
口の中で、彼女の指の形がはっきりと感じられる。
つるつるとした爪、適度に反発する指の腹、少し指紋がザラザラする。
「ね?本当に甘いでしょ」
彼女は先ほどよりちょっと嬉しそうに、甘い声ではしゃぐ。
確かに、彼女の指は甘かった。
例えるならコンペイトウ、いや角砂糖かハチミツ、混じりけのない砂糖の甘さ。
彼女の指は砂糖でできているかのように甘く、魅惑的な味と香りを放っていた。
訂正>>10 人差し指を恐る恐る→小指を
「これは、誰にも言っちゃいけないからね。2人だけの秘密」
「 」
「…うん、約束。ふふっなんだかドキドキしない?なんだかいけないことしてるみたいで」
「 ?」
「だってさ、初めてなんだよ。誰にも言っちゃいけない秘密を伝えるの」
「私、いつかこうやって自分の中の隠さなきゃいけない部分をさらけ出すの、ずっと待っていたの」
「…隠さないことってすごく、怖いんだね。否定されたらどうしようか不安で不安でしょうがなかった」
「でも、それ以上に今はすごくドキドキしてる。不思議ね…そう思わない?」
「 」
「そんなことないよ。きっとあなたにも秘密、あると思うよ。自分がわからないだけできっとある」
「いつか、私にも教えて欲しいな。あなたの誰にもいえない秘密の部分を」
「そうしたら、きっとドキドキできると思うよ?」
「……」
そういって彼女は意気揚々と歩き出す。
どうしたらいいか分からず、不思議な羞恥心を悟られないように彼女を追いかけた。
彼女といつ出会ったのか、覚えていない。
いつの間にか話しをするようになり、いつの間にか隣にいるようになり、いつの間にか彼女の秘密を知っていた。
ここで彼女について詳しく説明はしない。きっと、誰もが惚れてしまうから。
彼女の周りはいつも甘い匂いが漂っていて、学校中で人気者になっていた。
沢山の男の子に告白され、沢山の友達ができて、彼女は毎日楽しそうに笑っていたように思える。
まるで、群がるミツバチと花。誰もがその甘美な匂いの虜になってしまう。
彼女に群がる人たちを見ると無性に腹が立った。
輪の中で楽しそうに笑う彼女が気に入らなかった。
そして、羨ましかった。
何度か彼女の家に遊びに行ったことがある。
彼女の家は裕福らしく、豪邸と言えるほど立派な建物だった。
彼女の部屋に行き、自慢だという紅茶を飲まされた。
「お味はどう?今日はちょっと多めに入れてみたの」
その紅茶は今まで飲んだことのない味わいだった。
普段紅茶を飲まないけれど、つい目を見開いてため息をついてしまうほどの味であった。
御代わりを頼むと、意気揚々と彼女はポットに紅茶を入れ、
爪をぱちんと切り、カップにひとかけら入れて差し出した。
砂糖のように甘い彼女の爪。その味はこの世のものとは思えないほど美味しい。
心の中に湧き出る、熱くどんよりとした彼女への好意が怖くなった。
もし、心のそこから彼女のことを好きになれば、深い深いところに落ちて抜け出せなくなる気がした。
それから、徐々に彼女と距離を置くようになった。
これと言って理由はないのだが、強いて言えば心の中に訳の分からない感情が膨れ上がってきて、
それは恋とも呼べるような、けれど歪んでしまっているような、それが怖かったのだ。
時々、彼女を廊下で見かけることもあったが、目を合わせることなく通り過ぎた。
すれ違う彼女の髪の毛からあの甘い匂いが漂ってきて、うっかり振り返り、声をかけようかと思ってしまった。
日に日に彼女の匂いは強くなっていった。
クラスに彼女が座っているだけで、教室にいる全員がはっきりと彼女の存在を認識できるほど匂いは強くなっていた。
目を合わせ、匂いをかぎ、声を聞くと、誰もが彼女に惚れた。
その行動全てにあの甘美な味と香りが漂い始めて、すれ違う全ての人を魅了した。
「私のこと、もういっかい舐めてみて」
ある日突然、彼女が言った。
そして、あの時と同じように細くて綺麗な指を差し出してきた。
「ねぇ、舐めて」
「……」
「いいから、舐めてよ」
そっと、彼女の指を咥える。
あの時と変わらない甘い指。
艶やかな爪は飴のように、張りのある指の腹はグミのように、甘かった。
「…ねぇ、私、あなたに舐められるとすごくドキドキするの。自分の一部が君の口の中に溶けて、消えていく」
「それがすごく不思議で、ちょっぴり怖くて、興奮する。ねぇそう思わない?」
「… 」
「でしょう?私、ずっとあなたのこと好きだった。いや、好きだったってことにようやく気付きかけていたの」
「ねぇ、私のこと…嫌い?」
「 」
「じゃあ、なんで最近私のこと避けるの?」
「… 」
「なにそれ、意味わからない」
「 」
「…私ね、先輩から告白されたんだ」
「… 」
「ごめんね、あなたには関係ないことだったよね…それじゃ、バイバイ」
「……」
「あ、そうだ」
「 ?」
「秘密、ばらしたら殺すから」
彼女は、冷たくそう言って、悲しそうに怒り去っていった。
それきり彼女とは口を交わすことはなかった。
時は流れ、季節が巡った。
彼女は先輩と付き合いだしたらしく、学校の中でも少しばかり噂された。
どうやら相当仲がいいらしく、年中ベタベタと甘えているらしい。
しかし、彼女は段々と学校に来なくなり、長かった髪がどんどん短くなっていった。
ある日、クラスの担任が鏡台に着いて一言
「実は、残念なお知らせがあります…」
彼女は、失踪してしまったという。
私には、その理由が分かってしまった。
彼女は他人の温もりに溶けてしまったのだ。
【おしまい】
ちょこちょこ投下していくよ
今日はこれでおしまい
けっこう好きかも
おつ
面白いな
乙
つぎいくよー
【相棒はヤギ】
世界の終わる瞬間を、僕はずっと待ち続けていたのかもしれない。
ずるずると足を引きずりながら歩く僕の相棒をそっと支えながら、目を薄めて空を眺める。
切り取り線のような煙が、天を目指して空を横切っていた。
「ねぇ。本当に許されないことなんだけれど、僕はこの光景をとても美しいと思ってしまうよ」
「メェー」
相棒がおじいちゃんのような顔をして答える。
山の向こう側がカッと弾け、光が徐々に空を蝕んでいく。
先ほどまで闇の中、暗い道を歩いていたせいで
僕は一瞬夢から目覚めたような心地になった。
もしかしたら、いまこの世界が夢の中で、実はあの光は本当の朝焼けで、
僕は目が覚めたのかもしれない。そんなことを一瞬だけ思った。
「ねぇ。僕たちはいったいどこに向かっているんだろうな。僕にはもう分からなくなってしまったよ」
「メェー」
「たとえば奇跡的に生き残ったとして、一体なにが大切だと言い切れるんだ?」
「僕は自分の中で何が幸せと呼べるものなのか、すっかり分からなくなってしまったんだ」
「空っぽなんだ。だけど、なぜだかこの景色は美しいと思うんだ。終わってしまうからかな」
「メェー」
あの光は、僕たちを殺すための光だ。
何人もの人たちがあの光によって息を引き取った。
いや、そんな生易しいものではない。虐殺だ。生きていくために行われる虐殺だった。
あの煙の先には、裕福な人々が火星に行くためのロケットがある。
残された僕達は、それを美しいと眺めていることしか出来ない。
誰が悪いと言うわけではない。しかし、僕達は恨み続けていくだろう。
その泥臭い生き方でしか、納得できないのだと思う。
やがて世界は終わる。
僕は、うっかりこの光景を美しいと感じてしまった。
【おしまい】
つぎいくよー
【旅行】
私たちは、季節の変わり目を旅行している。
旅行と言っても、計画をしていた訳ではない。
突然というか、唐突というか、気まぐれというか、そんな感じである。
期末テストが終わり、私たちはいつもの喫茶店で羽を伸ばしながらだらだらとしていた。
「ねぇ。どこか行きたいね」
「どこってどこよ」
「そりゃ…どっかだよ」
そんな不毛な会話は2時間近く続き、マスターの眉間が露骨に帰れと主張し始めたので
私たちはわからないどこかを目指し、外を散策することにした。
通学路から2つほど道に逸れて、いつもとは違う道を歩き、私たちは駅を見つけた。
この町に生まれ育った私たちが知らない駅、聞いたことも見たこともない。
冗談半分で壊れた切符販売機?で切符を買う。
予想外だったがしっかりと起動していたようだ。
【春夏秋冬行き】
切符には子供がクレヨンで書いたような行き先が書いてあって、私たちはけらけらと笑った。
「昔、子供の頃こういうの作ったよね」
「こういうのって?」
「切符。どこどこ行きってさ、行きたいところをクレヨンでよく書いて遊んだじゃない」
「あー、覚えてる。あんた宇宙、とか夢の中、とか書いてた」
「あはは、いいじゃん子供らしくてさ」
ホームに立って数分後。電車が来た。
お菓子のような外見の電車がゆっくりとホームに停車する。
少々の不安もあったが好奇心には勝てず乗り込んだ。
私たちはこうして季節の旅を始めたのだ。
春は文字通り春であった。
最初、桜でも咲いてある地に行き、停車するのかと思ったが違った。
電車の中、この4畳半より少し大きいスペースが春になったのだ。
吊革に鶯が止まり鳴き出し、荷台から桜が咲き始め、私たちはたちまち花粉症になった。
夏は文字通り夏であった。
天井にある蛍光灯は燦々と輝き始め、天井のスピーカーからはやかましく蝉が鳴る。
ふと外を見てみると、映画にでも出てくるような青い海が広がっていた。
私たちは窓を全開にして夏の甘ったるい、ごうごうとした風を全身で受けた。
秋は文字通り秋であった。
ソファがゴソゴソし始めたと思ったら、落ち葉に変わり自然のソファになった。
手すりをリスが駆け上がり、さっきまでの夏の風が爽やかな物悲しいものへと変化していく。
私たちは鞄の中に入れてあった本を取り出し、秋の読書と洒落込んだ。
そして、今。私たちは冬の中にいる。
クーラーから刺すような冷たい雪が噴出している。
電車の中は車輪以外の音はなく、静寂に包まれていた。
私たちはひとつしかないマフラーを2人で巻き、天井から垂れる氷柱をじっと眺めていた。
「寒いね」
「そりゃあ、冬だしね」
「確かに」
「なんだか…」
「うん?」
「すごく、綺麗で、切ないよ」
「…うん」
窓を開けると、外の空気と中の空気が交じり合ってキラキラと雪が光り輝いた。
子供の頃、忘れてしまっていた頃の気持ちが胸の中に広がっていく。
その大切な記憶が愛しくて泣きそうになったが、我慢した。
【次は○○ー。直、この列車は折返し…】
「あ、なんか最初に乗ったところに戻ってきた」
「ぐるっと一周してきたんだね」
「この電車、ずっと同じとこ回ってるのかな」
「そうなんじゃない?」
不思議な電車は今日も変わらず、季節を巡る。
ずっと、ずっと。
【おしまい】
つぎいくよー
【魔女】
僕の彼女は正真正銘の魔女だ。
四畳半のボロアパートの一室。そこで僕と彼女は同棲している。
今朝の朝ごはんは蛙の丸焼き、毒蜘蛛の薬漬け、魚の目玉スープ。
最初は吐き気と共に食していたが、今となっては問題なく食べれるようになった。
「おいしい?今日はちょっと張り切ってみたの」
「うん。このスープなんか最高。腕を上げたね」
「そうでしょう。実は隠し味にコウモリの血が入っているのよ」
「あぁ、通りでおいしいわけだ」
食事を終えると、僕達はいつもの様にまぐわいを始める。
簡単に言えばセックスだ。
しかし、魔女と人間とのセックスは普通の人間同士が行うようなモノではない。
僕は、いつも通りにナイフで自分の舌の先端をスッと切り落とす。
彼女は、僕からナイフを受け取り自分の下腹部、子宮のあたりをゆっくりとナイフを撫でて切る。
白い肌を彼女の鮮血が静かに恍惚と流れ落ちていく。
「いくよ」
「うん」
痛みで熱く痺れた僕の舌を、彼女の赤く染まった傷口に付ける。
お互いの血が交じり合い、一つになって溶けていく。
彼女はビクンと身体を震わし、赤く染まる頬を気持ちよさそうに吊り上げた。
「ねぇ、私、すごく今幸せよ。このまま死んでしまってもいいと思えるくらい、私幸せ」
「……」
僕達は幸せだった。
だけど、僕はいつも彼女とセックスをしているとき泣いてしまう。
嬉しいからなのか、悲しいからなのか、僕には分からない。
僕の中の、濁りきった気持ちが行き場をなくして、流れ落ちていくのだろうと思う。
それを僕は絶対に言葉にしない。
一時間ほど僕達は繋がり合って、それから2人で散歩に出かけた。
先ほどの傷跡はもうすでに癒えて、すっかり元通りになっている。
「ねぇ、なんで私と付き合っているの?」
「どうしてそんなこというのさ」
「不安になるの。私、いつか、あなたを殺してしまうんじゃないかって」
「僕は…」
僕は、その通りだと思った。
いつか彼女に殺されて、薬の糧にされて、バラバラになって死んでしまうような気がした。
「僕は、それでも君が好きなんだよ」
「…うん」
僕は彼女が愛しくて仕方がなかった。
それゆえに、この拭いきれない悲しみがいつも僕の胸を締め付けている。
僕の彼女は正真正銘の魔女だ。
【おしまい】
きょうはここまで。みんなおやすみ
ねむれないから、お題もらえれば、即興がんばってかくよー
女が目に見えないなにかに襲われる
ちょっとまっててね
即興いくよー
【襲撃】
ある晴れた昼下がり。カフェでお茶を飲んでいると、私を悲しみが襲った。
「え?なんで私泣いているんだろう」
気付いたときには涙がボロボロと流れ落ちていき、コーヒーカップに垂れ落ちていた。
特に悲しいわけでもない。と言うより優雅に午後のひと時を楽しんでいたのだ。
涙を流す理由なんて微塵もなかった。
「お、お客様。どうかされましたか?ハンカチをどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「なにか出来ることがありましたら、なんなりと仰ってくださいね」
「わっわかりっ、ましっ、た」
イケメンの店員さんが心配そうにハンカチを渡してくれた。
その間も、私の両目からは滝のように涙が零れ落ちていく。
「あら、どうしたのぉ。辛いことでもあったのねぇ。おねぇさんが聞いてげる、ね?」
「うえっ?」
向かいに座っていたオカマのおじさんが、ズルズルとこちらのテーブルに近づいてきた。
「お姉ちゃん大丈夫?泣かないで、このチョコレートあげるから…」
小さい女の子が、私の手に半分溶けてしまったチョコレートを渡してくる。
「おやおや…お嬢さん、涙を拭いてください。そんな顔をしていると運が逃げてしまいますよ」
ダンディなおじさんが、やさしく微笑みながら私の頭を撫でた。
「私にっ、できることがっ、あるなら、なんでもっ、いってくださいっ!!」
ヒステリックになった女が、私と同じように号泣していた。
「おう!なに泣いてるんだよ!元気だせよ!ほら!えいえいおー!」
暑苦しい男が、全力で応援を始めた
「あらあらあらあら、なーんで、あんた泣いてんのよ!シャキッとしなさいよ!」
お母さんがうるさい。
私は、泣きながら思った。
理由は何であれ、泣くときは一人でひっそりが一番だな、と。
【おしまい】
やまなし、おちなし
今日はここまで。みんな今度こそおやすみ
良かった
乙
つぎいくよー
雪の上を走る鉄道。
じいちゃんは死ぬ間際までずっと乗りたいと言っていた。
とりあえず寒い。手がガチガチに固まってスルメになってしまいそうだ。
そうはいっても仕事はしなければいけない。
「おい。どうしてこんなに遅れた?」
「仕方がないだろう。今年は暖冬で雪が少ない」
気味の悪い仮面のような表情を浮かべながら、車掌は頭だけ出し答えた。
予定では21時30分に到着する予定だったが、だいぶ遅れて現在22時38分。
これは後々上司から面倒な説教を浴びせられるパターンだ、畜生。
僕の生まれ育った場所は雪が一切降らない土地で、一年中草木が茂っている穏やかなところだった。
故郷を飛び出し、子供のころから夢だった鉄道関係の仕事に就いたはいいが、
担当されたのは島の最北端。雪で覆われた駅の管理人であった。
一年中草木を愛していた人間が、一年中雪と格闘できるかと言えばはっきり言って自信がなかった。
すぐにでも辞めてやろうかと思ったが、じいちゃんの言葉が僕を奮い立たせた。
「一度決めたことから逃げたしちゃいかん」
両親が嫌いだった僕は、最後までじいちゃんのことが大好きだった。
それはいまでも変わらず、僕を支えてくれている。
先ほどからホームの端っこで少女が電車を待ち続けている。
黒い髪を雪とともになびかせて遠くを見ているかのようだった。
私は何度か声をかけてみたのだが返事はいつも同じ
「私は、ここで待ちますから」
なにかこだわりがあるのだろうか。
僕は頑なに動こうとしない彼女を説得させるだけの気力もなかったので、さっさと事務所に戻りストーブに薪を放り込んだ。
列車が再び動き出すまであと15分ほどかかる。
なにせ雪の上を走る特別列車だ、相当なエネルギーを使うのだろう。
しばらく時間をかけて固まった指先を温めほぐした。
気持ちに余裕が出てくると先ほどの女の子のことが気になり始め、窓から様子をうかがう。
先ほどと同じように、どこか遠くを見つめているようだ。
僕はアツアツのコーヒーをカップ二つ分淹れ、自分の分を一口すすりながら彼女に近づいた。
「いかがです。温まりますよ」
彼女は一瞬拒むような表情をしたが、そっと細い指を向けてカップを受け取った。
雪は音を吸収するというが、それは少し違う。
雪はこの世から余計な音を消してしまうのだ。
彼女からは音とともになにか人間らしい空気が漂ってこなかった。
それは表情やしぐさなどの類ではなく、雰囲気。
漂う温度が雪と同じような、そんな気がした。
「おいしい…」
彼女の頬が少し赤みを帯びる。
僕はいろいろなことを訪ねたかったが、頭の中でその言葉を消した。
彼女の物語に私は登場してはいけないと咄嗟に思った。
誰かがあの女の子の物語を語ってくれる時を、私は駅で待ち続けようと思う。
【おしまい】
つぎいくよん
【電話】
全開にしている窓から、満開の桜が見える。
春のなんとも言えない心地のよい空気にのんびりしていると、突然部屋のドアが開いた。
「おーっす、来たよ」
「もぅ、遅かったじゃない。何してたの?」
「ふふふ…見て驚くなよ…じゃーん!!」
そう言うと、後ろに回していた腕を解き、持っているものを見せ付けてくる。
表面は艶やかに黒く、ピカピカに光っている黒電話だった。
「これ…どうしたの?」
「そこのゴミ捨て場で拾った」
「ゴミなんて持ってきてどうすんのよ」
「いいじゃーん。なんかレア物かもよ?もしかしたらいい値段で売れるかも」
「そんなの売れるわけないじゃん…」
宝物を見つけたようにはしゃいでいる彼女を見ていると、
くだらないと思いつつ、もしかしたら…という気分になった。
「それ、まだつながるかなぁ」
「無理に決まってんでしょ」
ふざけながら受話器を取り、耳に宛がうとコール音が鳴り始めた。
プルルル
「…鳴った」
「ほえっ?」
「この電話、鳴ってる」
喉がゴクリと鳴り、電話のコール音が繰り返し流れる。
私は何が起こっているか分からずに、硬直していた。
しばらくの沈黙の後、ガチャリと電話越しに音がした。
「はいもしもし」
「あっ、あのっ」
「ご用件はなんでしょう」
「よっ用件・・・ですか?」
「あなたは、私に用があるからこうやって電話をかけてきたんでしょう?早く仰ってください。私だって忙しいんですからね」
電話の相手は面倒くさそうな声で、ぶっきらぼうに言った。
私はまだ混乱しており、震える手と声を抑えている。
「ごめんねさい、私、この電話がつながるとは思ってなくて…あなた一体誰なんですか?」
「私は、あなたの脳よ」
「はぁ…えっ?」
「もういいでしょ。早く用件を行って頂戴。早くしないと止まっちゃうわよ」
「あっ、えっと、元気…ですか?」
「えぇ、まぁいいほうなんじゃない?勉強もしっかりしているようだし、これからも頑張って頂戴」
「はぁ、ありがとうございます」
「あと、適度な糖分を忘れずにね。栄養がないと私動かないから」
「わ、わかりました」
「んじゃね、頑張るのよ」
「はい…」
そういって電話が切れた。
ゆっくりと受話器をおいて、深呼吸をする。
「ねぇ、誰だったの?」
「…あんたも、ちょっとこれ、試してみてよ」
「えっ、あぁ、うん」
私と同じように黒電話の受話器を耳に当て、しばらくすると会話が始まった。
どうやら彼女も自分自身の脳味噌と話をしているようだ。
彼女が会話を終えて、再び受話器を置く。
「ねっ?繋がったでしょ、あぁーびっくりした。なんかの悪戯なのかなぁ」
「…うん」
「それにしても、自分の脳みそと話しが出来るなんて思わなかったな。あんたどんなこと言われた?」
「…馬鹿って言われた」
「…そう」
私たちは、黒電話を再びゴミ置き場に捨てて、明日に控えている試験の勉強を始めた。
【おしまい】
つぎいくよー
【犬】
突然の雨。シャッターの閉じた店の下で雨宿りをしていると一匹の犬が語りかけてきた。
「やぁやぁ、急に振り出すのは勘弁して欲しいですなぁ」
「そ、そうですね 」
やけに軽快にしゃべる犬は、小刻みに体を揺らして毛から垂れる水滴を払った。
僕は、犬と目を合わせないようにして振り続ける雨の行方をぼんやりと見ていた。
「なぁ、あんた仕事は何しているんだ?やけにいい背広を着ているじゃないか」
「実はこれからお見合いなんですよ」
「ほぉ、メスに会いに行くんでしたか。そりゃビシッと格好つけて当たり前ですわ」
ケラケラと犬は笑い、僕もつられてクスリと笑った。
「しっかし、なにもそんな大切な日に雨なんて降られちゃたまりませんな」
「どうしてです?」
「文字通り振られちゃう、ってなもんです。あっはっはっ」
「あはは…」
おっさんくさい犬は、それきりすっかり黙ってしまい暫く沈黙が続いた。
熱く乾いたアスファルトを濡らす匂いが妙に懐かしく感じられる。
「なぁ兄ちゃん。ちょっとききたい事あるんだけど、いいかな」
「なんですか?」
「兄ちゃん、生きてて幸せか?」
「幸せ…ですか。うーん、なかなか難しい質問ですね」
「別に答えなくても大丈夫だかんね?ただ…兄ちゃん幸せそうな顔してるし、聞いてみたくて」
雨に濡れた犬の横顔は、少し疲れて垂れ下がっていて通勤帰りのサラリーマンのようだった。
働き者で、まじめで、疲れつつ、淡々と毎日を生きている者の顔だった。
「…はっきり言って、今が幸せかどうかはわかりません。けれど」
「けれど?」
「不幸でもないから、まぁ良しとしてます」
「そうだよなぁ、不幸じゃないんだよなぁ」
雨が止み、雲が流れ、間から日差しが差し込んできた。
地面に跳ね返る光が、僕たちを照らした。
「雨、止みましたね」
「おう、ちゃんと晴れたな。これで、お見合いにいけるなぁ、頑張れよ兄ちゃん」
「はい、犬さんも」
僕は、急いで約束の場所に向かう。
犬も、また何処か知らないところへと歩いていった。
【おしまい】
また書いたらきます
落としてもいいし、自由に書いたやつ勝手につぎいっちゃってもいいし、
まかせます。
よんでくれてありがとう。
今日はここまで、みんなおやすみ。
乙乙!
良いものであった
1じゃないけど、自由に次をとの言葉に甘えて投下させてもらいます。
【ハッピーエンド】
俺には容姿可憐な幼馴染がいる。
でも俺は彼女の事を恋愛の対象として見る事はできない。
こう言うとまるで軽い恋愛作品にありがちな設定のようだが、俺の場合は本心での事だ。
俺には心を寄せる女性がいた。
同じクラスの『女』だ。
淡い想いだった頃から数えれば一年間に渡り、小さな努力を積み重ねてきた。
甲斐あって自信過剰とも思えないくらい、良好な仲を築いていた。
休日に二人で過ごす事も幾度か叶った程だ。
「なんだか今日は落ち着かないみたいだね」
朝、通学路を歩きながら幼馴染が俺に言った。
「まあな、ちょっと…思い切ろうと思って」
「…女さんの事?」
「いいだろ、別に」
幼馴染は成績も素行も、性格さえもすこぶる良い奴だ。家も比較的裕福で、非をうつところは無いと言える。
俺はそんな彼女が、少し疎ましかった。
俺だってそんなに恵まれない人間ではないつもりだ。でも幼馴染と一緒に居るとどうしても自分で比較してしまう。
そんなちっぽけでくだらない自尊心が、幼馴染を好きになれない理由だった。
そして俺はその日、ついに女に想いを告げる。
勝算は充分にある、明日からの薔薇色の日々を脳裏に描いての告白だった。
「ごめんなさい。貴方はいい人だけど、そういうつもりでは見られないの」
彼女は迷う様子すらなく、拒絶の言葉を返した。
目の前は真っ暗、足下が崩れ落ちるような衝撃。
俺は女の前では演じきれていないだろう平静を装い、部屋に戻っても帰り道での出来事さえ覚えていない始末。
翌日、俺の様子に気付いた幼馴染が「気を落とさないで」と労りの言葉を掛けても、返事をする気にさえなれなかった。
幼馴染は当然のように異性に好かれている。何度も告白を受けてはそれを断り続けている事は知っていた。
そんな彼女に今の俺の気持ちなど解るはずが無い、そう思ったから。
数ヶ月、失意の日々を過ごした後それでも俺には次の春が訪れる。
かねてより俺に歩み寄ろうとしてくれていた『後輩』だ。
彼女が俺に好意を持ってくれていたのは何となく解っていた。
でも俺には想い人がいたから、後輩に対して真っ直ぐに向き合う事はしてこなかった。
「男先輩、私の事を好きじゃなくてもいいです。嫌いじゃなかったら、私を彼女にして下さい」
その時の俺に、彼女を拒絶する理由は見当たらなかった。
失恋の傷を少しでも癒すためと言えば後輩に対してあまりに失礼だけど、実際のところその想いが無かったとは言えない。
こうして俺と後輩の交際は始まった。
あれほどひどく傷ついたつもりだった失恋も、所詮は高校生の浅はかな恋心だ。
次第に傷は薄れていき、そしてやがて後輩の事を本心から愛しく想うようになった。
その頃から朝に幼馴染が俺を迎えに来る事は無くなる。
「最近、元気になったね」
「まあな」
教室では普通に会話するが、やはり彼女持ちとなれば近寄り難かったのだろう。
俺は、幼い頃から何でも思うように手にしてきた幼馴染を少し出し抜けたような優越感を覚えていた。
しかしそんな日々は突然に終わりを告げた。
後輩の両親が転勤でヨーロッパに移住する事になったのだ。
卒業を控えたような歳であれば、彼女だけが日本に残る事も可能だったかもしれない。
でも後輩はまだ一年生だ、両親について行く他に選択肢は無かった。
「男先輩…向こうの高校を卒業したら必ず帰ってきます、その時まで待っててくれますか」
涙声で俺に告げる後輩。
でも俺は距離も時間も遠過ぎると思った。
遠距離恋愛など、そう続くものではない。
彼女が日本を発って独りになった俺は、再度訪れた失意の日々を過ごす事になる。
嫌いあって別れたわけでない失恋というのは厄介なものだった。
新しい恋を探す事もできず、追いかける事もできない。
そしてまた、幼馴染が俺を迎えに来るようになった。
「元気出して、男…」
「…出ねえよ」
こんなにもぞんざいな態度ばかりとる俺に、なぜ幼馴染は構おうとするのだろう。
古くからの顔見知りだという事、誰よりも仲良く遊んでいた過去がそうさせるのだろうか。
本当は解っていた。
そこには密かな想いがあるのだという事。
でも俺は彼女の気持ちに応える気にはなれなかった。
相変わらずの身勝手な心のわだかまりと、今さら都合良くそんな関係になれるものかという変な拘りがあったから。
そして俺は気を紛らわせるつもりで、かねてより興味のあった二輪に手を出す。
学校には内緒で免許を取得し、オンボロでもよく走るレプリカタイプのバイクを悪友から譲り受けた。
休日の昼間は峠を駆け回り、夜は高速道路で車間を縫って走る。
周りの迷惑を省みない、無謀な運転を繰り返した。
走っている間だけはツイていない境遇を忘れられる、そんな錯覚を感じていた。
馴染みの峠でも『アイツの走りはキレてる』と囁かれるほど速く、無謀な走行。
実際、死んでしまうならそれでもいい位に考えていた。
だから当然だったんだ。
俺は事故をした。幸いにも相手はいなかった。
タイヤのグリップが限界を超え、滑り落ち投げ出された俺の身体が叩きつけられたのは、アウト側の擁壁。
次に目を覚ましたのは病院のベッドの上、丸一週間も昏睡していたらしかった。
一命はとりとめ、四肢を形として失う事も無かった。
ただ左の手足には軽い麻痺が残るだろうと、医者は言った。
こうして俺はロクなものでは無かったとはいえ、また心の拠り所を失ったんだ。
そして入院してひと月ほど経った今日、病室に幼馴染が見舞いに来た。
「ザマ無えだろ?お前、バイク危ないからやめろって言ってくれたのにな」
「男…」
「笑えよ、マトモに左手も動かなくなっちまった」
「笑えないよ、そんな男を見て」
彼女は感覚も乏しい俺の左腕に触れて言う。
「大丈夫…私がついてる」
その一言が俺の心を抉った。
でもそれは今までの受け止め方とは違うものだった。
「なんで…お前、俺のところへ来るんだよ。俺は今までずっとお前を軽んじてきたのに」
情けなくも涙が溢れた。
ずっと意地を張ってきた幼馴染相手に、俺はついに弱い心を見せてしまった。
本当は意地を張る心こそが弱かったのかもしれないけれど。
「幼馴染…俺についてちゃ駄目だ。お前まで不幸に巻き込んじまう」
「嫌だよ、私は男を見捨てたりしない」
幼馴染が俺を抱き締める。
「私、男が好き。ずっと好きだった」
あんなに冷たかった俺を、こんな身体になった俺を、それでも好いてくれる幼馴染。
俺は過去を悔いた。
つまらない自尊心に拘り彼女の想いに応えなかった自分を。
そして今、都合よくも彼女の気持ちを受け入れようとしている事を認めた。
涙を止められないまま、自由のきく右腕だけで彼女を抱き返す。
そして俺は、今までで一番身勝手な言葉を吐いた。
「俺にはもう、お前しかいないんだ…」
彼女は小さく「うん」と答えた後、数秒して身体を離すと小さく溜息を落とした。
少しの間、二人の視線が泳ぐ。
「あ、スズメ…」
病室の窓枠に一羽のスズメがとまっている。
幼馴染はそれに左手を延べて、右手で自分の髪を一本ぷつりと抜きながら「おいで」と言った。
「…嘘だろ」
スズメが羽ばたき、彼女の手にとまる。
「昔、流行ったおまじないなの」
そう言いながら幼馴染は寂しそうに笑った。
「髪を一本抜きながら願い事を声に出すと、叶うって。小学校の頃に女子の間で流行ったわ」
彼女は窓辺に歩むとスズメを放し、背を向けたまま外を眺めている。
「…消去法なんだね」
「え…?」
「俺にはもう私しかいないって、さっき言ったでしょう?」
「それは…」
言い訳はできなかった。でも自分の心は自分で解る。
こんなにも良くしてくれる幼馴染を、今の俺は心から愛しく想っている。
それなのに言葉はまだ薄汚い意地を張っていたのだ。
「…ごめん」
「ずっと…ね、男にだけは本当の意味で振り向いて欲しかった」
「幼馴染…」
「でも、無理なんだね。消去法で私を選んだ貴方は、いつかまた違うモノを見つけてしまう」
くるりと俺の方に向き直った幼馴染の頬には、雫が伝っている。
「…その時、また男は私から離れてしまうんだね」
「そんな事ない」
こんな状態の俺を抱き締め、見捨てないと言ってくれた幼馴染。
だから俺はもう、絶対に離れるつもりなど無かった。
でも言葉にしなければ、それは伝わらない。
「幼馴染…俺は」
「男、お願い」
彼女がまた、ぷつりと髪を抜く。
「私のものになって」
当たり前だ、だって俺は今お前に告げようと思ったんだカラ。
「幼馴染…好きだ」
消去法じゃナク、心から好きだカラ、俺はズット幼馴染の傍にいるンダ。
「男、左腕が不自由でもいいの。私が貴方を守ってあげる。何も心配しなくていい」
「…うん」
良カッタ、最初カラコウスルベキダッタンダ。
「貴方は、私だけを見てくれたらいいんだからね」
ナンデモット早ク気付カナカッタンダロウ、馬鹿ダナア俺ハ。
「うん…幼馴染、大好き」
アア、幸セ。
ズット、幸セ。
ナノニ何デ、俺ハ泣イテイルンダロウ。
【おしまい】
ちょっと長くなってしまった
スレ汚し失礼
よかったよ。汚してないからもっといろんなもの書いて欲しいな。
つられていくよー
【初恋】
僕の生まれ育った町は、田んぼと川が綺麗な田舎だった。
田舎と言ってもそれなりに大きなスーパーもあるし、コンビニだってある。
いわゆる地方のどこにでもある町だと思う。
僕の初恋は、中学生のころの同級生だった人。
自分で言うのもなんだけど、僕は運動も勉強も人並みにはできたし、要領もよかったから比較的モテた。
モテたといっても、クラスで人当たりがいいくらい奴程度だったから告白されたりとかは全く無かったんだけどね。
僕のクラスには3人の可愛い娘がいて、
一人はアイドルみたいな明るくて可愛い女の子、
一人は結構サバサバしている元気な女の子、
そして彼女だった。
彼女は猫みたいな女の子だった。
追いかけると離れていって、チラリとこちらを振り返るようなズルさを持った女の子。
髪に少しの癖があって、いつも外側に癖毛が跳ねていたのを覚えている。
仲のよい人の前では無邪気に笑い、知らない人の前では無愛想。
簡単に笑わないからこそ、彼女は魅力的だったのかもしれないな。
僕のクラスの人たちは女子も男子も、彼女と仲良くしたくてうずうずしていたんだ。
僕はそんな内の一人だった。
ある日の帰り道、僕はいつもと同じように暗くなった坂道を歩いて帰っていたんだ。
頭の中で、ふと彼女のことを考えた。
今何してるかとか、明日は話しかけてみよう、とかそんなくだらないこと。
坂を下りきった時、電柱の影に隠れて、その彼女がこっそり泣いていたのが見えた。
僕は心臓が飛び出るかと思ったよ。
まるで今思っていた妄想のような出来事が、いま現実に起こったんだから。
彼女は下を向きながら泣いていた。
誰にも気づかれないような静かな暗闇だった。
僕はドキドキしながら彼女に話しかけたよ。人生で一番勇気を出した気がする。
彼女は鼻を数回啜ってから、泣いていないと嘘を言った。
僕は彼女の横に立ったまま、彼女と話ができたことにドキドキしていた。
「どうしたの?」
「なんでもない」
「だいじょうぶ?」
「なんでもないってば」
僕は何を話していいか分からなくなって黙り込んでしまった。
しばらく無言のまま、僕は空を見て、彼女は地面を見ていた。
すっかり日も暮れて月がいつもより綺麗に見えていた気がする。
僕には彼女がなんで泣いていたか見当もつかなかったし、それをと言い詰める勇気もなかった。
ただ彼女の隣に立って、同じ時間を過ごしていることに精一杯だったんだ。
でも、なにかしなければと思った。
このままだと彼女がどこかへ消えていってしまいそうな気分になった。
僕は勇気を振り絞って好きだとつぶやいた。
びっくりするくらい小さな声だったと思う。情けなくて帰りたくなったけど我慢した。
緊張して彼女のほうを見ることができなかった。
彼女は少し時間をおいてから、ふっと息を吐いて、悲しそうな声でありがとうと一言だけ言った。
その一言だけで、僕は自分が振られたのだと分かった。
彼女に元気を出してと言って、そのまま走って帰った。
嬉しいはずなのに泣きそうになったよ。彼女は僕じゃ駄目なんだと直感的に思った。
僕がいくら彼女を好きでも、彼女が僕を好きにならない限り、どうしようもないんだって。
そんな当たり前のことが辛くなって、僕は逃げ出してしまったんだ。
今でも、寂しくなるとその夜のことを思い出す。
いや、思い出すだけさ。もう何も出来ないし、何もするつもりもないよ。
誰にだって、美しくて振り返ると泣きそうになってしまう時があったはずだ。
それを忘れることも、汚してしまうことも出来ない。
え?なんで振られたのに嬉しそうにしているのか、だって?
…僕は、カタオモイが苦痛で苦痛で仕方がなかったんだよ。
【おしまい】
思いついたら、みんなも書いてみてね。
みんなおやすみ。
乙乙!
お二方良かったよ
俺もやってみる
【目】
「僕の目はすこしおかしいんだ」と彼は言った。
「どんなふうに?」とわたしは訊ねる。
「きみは空の色が何色に見える?」と彼は質問に質問を返してきた。
わたしは空を見上げる。心地よいまでの秋晴れが広がっている。
絵の具で描いたような雲がぽつりぽつりと風に流されている。
何色に見えると訊かれれば、わたしは「青」と答える。
わたしでなくたって、正午ごろの晴れ空を見上げれば皆が「青」と答えるだろう。
「青色に見えます」とわたしは言った。
「うん」と彼は満足そうに頷いた。「空は青いって言うものな」
「それがどうかしたんですか?」
「僕には空が赤く見えるんだ」と彼は言う。「真っ赤な空に見える」
「赤?」とわたしは素っ頓狂な声をあげた。
「そう。赤。昔は僕も青空を見ることができたんだけどね、ちいさい頃にへんな病気に罹ってしまったんだ」
「病気」とわたしは復唱する。
「そう。病気。目の病気さ」
「空が赤く見える病気ですか」
「空が、というか、青が赤に見えて、赤が青に見えてとか、そんな感じだね」と彼はなんでもないみたいに言った。
「ちいさい頃に見たことのないものなんかは、元が何色かわかりにくいんだよな。
“ああ、これは白に見えるから元は黒なんだな”とか思うんだ」
「じゃあ、救急車が黒くて、消防車は青いんですか?」とわたしは訊ねる。
「そうだね」と彼は答えた。
わたしにはそんなこと考えられない。「たいへんですね」とわたしは言った。
「救急車が黒くて消防車が青いってのは大した問題じゃないんだ。問題だったのは信号機だよ」
「信号機?」
「うん。赤で止まれ。青で進め。それは当たり前なんだけど、僕には赤と青が逆に見えるんだ。
最初の頃は苦労したよ。何度も撥ねられそうになったなあ」と彼は笑いながら言った。
「でも今は大丈夫だ。慣れればどうってことはないさ。
一度染み付いた習慣は、なかなか落ちないものだよ。シャツに染み付いた墨とか血みたいなものだね」
「はあ」とわたしは感心して言った。いったい彼はどんな世界を見ているのだろう、と考えずにはいられない。
彼の視界では、夜になると白い空が広がっているのだろう。
言葉にするのは簡単だけど、実際に想像してみることはできない。
彼の力になりたいとわたしは思った。もう一度彼に青空を見せてあげるのだ。
「あの、おせっかいかもしれないですけど……」とわたしは言った。
「何?」と彼は微笑む。
「わたしの友人のお父さんが、なんでもすごい医者らしいんですよ」とわたしは言う。
そう、わたしはこの事を彼に伝えるために話しかけたのだ。
「なるほど」と彼は言う。わたしの言いたいことを理解してくれたらしい。
「そのお医者さんに診てもらうってことか」
「はい。どうですか?」
「そうだな」と彼はすこし考えこむ。それから、「わかった」と微笑んだ。
「かわいい子の頼みは断れないからな」
わたしの顔は熱くなった。
数日後の正午ごろ、わたしと彼は友人のお父さんが医者を務める病院を訪れた。
医者――医者というよりは博士とか呼んだほうが
しっくり来そうな出で立ちだった――はすぐに彼の診察を始める。
わたしは待合室の硬いソファに座りながら、彼が戻ってくるのを本を読みながら待っていた。
診察は1時間にも及んだ。彼が戻って来たのは14時前だった。
「どうでしたか?」とわたしは訊ねる。
「治るって」と彼はぽつりと言った。「信じられない」
「信じられないなんて言っても、嬉しそうな顔してますよ」とわたしは言った。
彼はちいさく吹き出して、わたしの目を見て言う。
「うれしいよ。ありがとう。きみのおかげで僕はもう一度青空を見ることができるんだ!」
わたしも自分の事のように喜んだ。
数週間後、手術は行われた。
3時間に及ぶ手術は成功し、彼は目に包帯をぐるぐると巻いて病院のベッドに寝かせられた。
わたしは毎日彼の元に通った。彼はわたしが来ると喜んでくれた。もちろんわたしも喜んだ。
5日が経った頃、彼の目の包帯は外された。暗闇から徐々に目を慣らし、やがて太陽の光を見る。
「すごい! 空が青いよ。それに、きみの顔もずっと綺麗だよ」と彼は大いに喜んだ。
わたしも照れながら自分の事のように喜んだ。
彼はわたしの手を握って言う。「ありがとう。きみが医者のことを教えてくれたおかげだよ!」
「いいえ。あなたが頑張ったからよ」とわたしは言った。
「頑張ったのは私だがな」と医者は言った。
「ありがとうございます」と彼は何度も医者に頭を下げた。わたしも彼といっしょに何度も頭を下げた。
それから2日後、彼は退院した。わたしは彼を家まで送り届けて、
自宅へ帰ろうとしたとき、彼は「ねえ、きみの家はどこなのかな?」言った。
わたしが住所を告げると、彼は「明日遊びに行ってもいいかな?」と訊ねる。
もちろんわたしは「いいとも」と言った。その日、わたしはスキップして帰った。
スーパーで買った卵が割れているのに気づかないほど上機嫌だった。
しかし、翌日の夜になっても彼は現れなかった。
わたしは心配になって彼の携帯電話に電話を掛けた。
『もしもし?』と電話の向こうの男は言った。ひどくしゃがれた声だ。
「あの、**さんは?」とわたしは彼の事を訊ねる。
『ああ、きみは彼を病院に連れてきた子かな?』と男は言う。
どうやら電話の相手は、彼に手術を施した医者らしい。
「そうです」とわたしは言った。
『彼はさっき病院で亡くなったよ』と医者は言った。それは呪いの言葉みたいにわたしの内側を抉った。
「え? なくなった? 死んだってことですか?」とわたしは半ばパニックになりながら訊ねる。「嘘でしょ?」
『ほんとうだ』と医者は言った。
「どうして? もしかして、手術ミスをしたの?」わたしは不安と怒りを吐き出した。
『いいや、違う。私の手術は完璧だった』と医者は言った。
「じゃあどうして?」
『事故だよ』と医者は言う。
『彼は信号を無視して交差点に進入したんだ。そこへ大型トラックがドン、というわけさ』
【おしまい】
いいな
>>86-100を書いた者だけど、とても刺激を受けるわ
あぁ、すごくおもしろい。ちょっぴり嫉妬してしまう
某スレで投下したやつ、いくよー
僕の隣に座っている女の子はロボットである。
見た目こそ可憐で、小柄な体格、つぶらな瞳の愛らしい女の子なのだが
この子の正体を僕だけが知っている。
ある日、思い切って彼女に問いただしてみることにした。
「あの、少しお時間いただいてもいいでしょうか」
「えぇ、いいですよ。どうかなさいましたか?」
「いや、あのですね。僕は、あなたが、どうやら生身の人間とは思えなくて…」
「…何時からそのことを?」
「ずっと前です。席替えで隣の席になって気がつきました」
「そうですか」
彼女は諦めたかのように、ふぅ、と息を吐くと、穏やかな笑顔でこちらを向いた。
僕はその笑顔と同じような顔をして返した。
「バレてしまっては仕方がありませんね。仰るとおり、私は人間ではありません」
「やっぱりそうでしたか」
「こうなってしまっては仕方がありません。世間に発表するなり、破壊してしまうなりしてください」
「どうしてそんなことをいうのですか」
「私の正体が人間にばれてしまった時点で、任務は失敗なのです。私は、この任務に失敗した。いずれ破壊されてしまうでしょう」
「ならば、その前に、あなたに壊されたい」
「あなたが、そう望むのであれば、そうしましょう」
僕は、彼女を自分の手で破壊した。
硬く握り締めたこぶしを振り上げて、彼女のボディを叩き殴った。
惚れ惚れするような胴体のライン、
さらさらな繊維質の黒髪、
青白いレンズの瞳。
背骨付近にある電子回路を引きちぎり、思考回路の詰まっている頭部を踏み潰した。
壊せば壊すほど、心の中に感情が染み渡っていく。
僕のこぶしによって、バラバラに壊れていく彼女を眺めながら、僕は成長していった。
人間の感情を理解すること、それが僕たちロボットの任務である。
この日、僕は悲しみを理解した。
この子の正体を、僕だけが知っていた。
しかし、もう僕の正体を知ってくれる人はもういない。
【ロボット】
【おしまい】
もっかい前に書いたやつ、いくよー
【猫】
「雨、止みましたよ」
「うむ。そうだな」
「ここは何処なのでしょうか」
「私に聞かれても困る」
「急に外に出たいというから付き合ってあげたのに、酷い言いぐさですね」
「雨の日の散歩だぞ?なかなか趣があってよかったじゃないか」
「濡れるのは嫌いではなかったんですか」
「熱い水に入るのが嫌なだけだ」
「……帰ったらお風呂入りますからね」
「……はて、何の話か」
「さぁ帰りましょう。もう十分でしょう?」
「うむ。少々腹が減ったな。今夜は魚が食べたいぞ」
「…昨日も食べたじゃないですか」
「むぅ。そうだったか?」
私は彼(と言っても世間体から見ればそれは猫と呼べる生き物なのであるが)と、
昼下がりの雨のなか、ふらりと外の散歩と洒落込んでいるのである。
彼は、私が生まれたと同じくらいに生まれ、私と同じ家で育ち、私と同じ飯を食った。
猫の割に口が上手く、私はいつも喧嘩になると負けてしまう。
妙にプライドが高く、ゆっくりと撫でてやらないと怒る。
私は彼と同じ道を進み、彼も私と同じように寄り添って生きてきた。
雨で濡れた道がやけにキラキラと輝いているので、彼は終始ご機嫌であった。
彼の機嫌のいい日は決まって夕飯に魚料理を要求する。
私はそれほど料理に自信はないのでいつも困ってしまう。
彼は雨の日が好きだ。しかし、私は雨の日が嫌いだ。
私はそのことを口にしない。
【おしまい】
いいね
このスレ楽しいわ
【貝殻の恋】
「もう、どのくらいですか」
「こっちは…そうだな、三年位かな」
少し冷たくて強い風が吹く砂浜に、二人分の足跡を刻みながら僕らは歩いた。
「そっちは?」
「もう四年目になりました」
足を水に浸すには季節が遅い。
砂の渇いたところを選んで少し蛇行しながら、ゆっくりと進んでゆく。
「寂しいもんだよね」
「そうですね…。なにより段々と平気になってくるっていうのが、一番寂しいです」
「全くだな」
波の具合で出来たのだろうか、砂浜の質が少し変わった。
細かな砂というより、ちょっと砂利に近い粗い粒子が集まった場所。
ここなら腰をおろしても、服が砂まみれになる事は無さそうだ。
僕らは並んで、そこに座った。
「最近でも連絡はあるの?」
「ごくごく、たまーに」
「それは余計、タチが悪いね」
「本当ですよ。…そっちは?」
「さっぱりだよ、もしかして幻だったのかと思うくらい」
数年前にはふた組のカップルとして、共に旅行をした事もある仲の四人だった。
今、一緒に歩くひとつ年下の彼女と僕の二人は、それぞれの相方の仕事の都合で取り残されてしまった言わば残り物同士。
「もういっそ、私達で幸せになっちゃいますか?」
「…悪くない話だな」
少し心臓が強く鳴った。
見れば彼女も落ち着かない様子で、右手の指で砂利を弄っている。
座った周りの砂利浜に混じるたくさんの貝殻。
彼女はその中のひとつ、二枚貝の片割れを手に取り、ぎゅっと握った。
「今…私が手に取った貝殻、見ました?」
「ああ、なんとなく」
「じゃあ、その片割れ…探してみて下さい」
そんな無茶な。
砂の数ほどじゃなくても、同じ種類に見える貝殻だって無数にある。
たぶんそのひとつひとつが全部、微妙に違って合うわけがない。
僕はそう思いながらも、少し慎重に本気で同じくらいの大きさのものを探した。
「あはは、がんばれー」
確かこのくらいの大きさだった、と思う。
「じゃあ、これ」
「はいはーい、では合わせてみまーす」
彼女は僕の手からそれを受け取ると「せーの」と呟きながら二つを合わせた。
「…違うね」
「はい、ちょっとずれてますね」
「残念」
口にしてはいないけど、きっとこの行為には何らかの願掛けがあったに違いない。
でも、そう上手くいくはずが無いんだ。
でも次に彼女が言った言葉は。
「じゃあ…私達、恋をしましょう」
ああ、そうか。
別々の貝の片割れずつでも、ぎこちなくとも、今この二つを選んだ事を運命だと考えるなら。
それは大きな問題じゃないのかもしれない。
「随分と勝ちが見えた賭けだな」
「そりゃそうですよ、告白のつもりでしたから」
【おしまい】
>>146 自由にしていいですよ。
ちょっとながいやついくよー
【天使】
僕が天使を見つけたのは、春の雨に濡れた路地でのことだった。
自分の家に食料がなくなったことに気づき、一週間ぶりに外に出かけた日の帰り道のこと。
両手に大量のカップラーメンが入ったコンビニ袋を抱え、
今日は何をして時間をつぶそうか、
明日は何をして過ごそうか、などニート特有の堕落的な考え事をしていた。
そうだ。子供のころ挫折してしまったゲームをしよう
我ながらいい暇つぶしを見つけたと感心してしまう。
そんなことをぼんやり考えていると、僕は電柱の影でモゾモゾと動く物体を発見した。
ばっちりと目が合う。
長いまつ毛がピクピクと上下に動いて、その奥の瞳を遮っている。
猫ではない。少女である。
これこそ漫画に出てくるようなシュチュエイション。
普通であれば、ここで優しく手を取りハニカミながら「家の家においでよ」と囁くのが正解なのであろう。
しかも、一見アイドルのような顔立ち、いわゆる美少女である。
雨上がりなので服と髪がしっとりと濡れている。
滴る水分によって露骨に主張されたボディラインとおっぱいラインが艶めかしい。
肩まで伸びた髪の毛を伝い落ちる水滴が、少女の首筋を撫でている。
僕は目を反らし、早足にその場を走り去った。
ご先祖様、僕にはちょっと荷が重すぎたようです。
玄関で息を整えながら、僕は必死に現実と向き合っていた。
一週間誰とも会話をしていなかった人間に、いや一般的常識を持ち合わせた人間が、
路上でひとりうずくまっている女性を見て気軽に声をかけられるだろうか。
この20年間、冷たい社会の風に翻弄され続けた僕にはわかる。
もし僕が路上で物欲しそうな顔をして待ち続けたとしても、誰も手を差しのばしてくれる人はいない。
そう、これは仕方のないことなのだ。普通の人間ならば、当然の反応なのだ。
いや、まてよ。
この場合、一人でうずくまる女性を助けないほうが常識的に考えて駄目なのではないか。
僕の場合はそりゃ声はかからないだろう。しかし、あれは麗しき女性。
一般的紳士ならば、一言大丈夫ですかと声をかけるべきではなかったのか。
そう考えてくると、自分が最低な人間だと思えてくる。
なにもしない結果、社会不適合者の烙印を押された僕だが
おばあちゃんから言われ続けてきた「本当は優しい」という唯一の長所がなくなろうとしている。
これ以上、僕から誇る部分を削り取られては堪ったものではない。
生きる粗大ゴミになってしまう。
僕は、焦りからか大量のカップ麺をなぜか冷蔵庫に押し込み、先ほどの捨て猫少女(仮)のもとへと再び走り出した。
僕のアパートから捨て少女?のところまで、走って5分ほどの距離。
少女のいた場所に戻る頃、僕は彼女以上にみすぼらしい姿になっていた。
その原因は、家を出る際に間違えてサンダルを履いてしまったこと、
そのせいで水たまりに2回転んだこと、
走っている途中から雨が降り出したこと、
その他体力的理由である。
「……」
捨て少女は隣に置いてあった段ボールをうまく使い、傘の代わりにしている。
途中から走れなくなった僕は、ずっと雨の中歩いていたため息は整っていた。
これで息が上がっていたら、興奮しながら少女に滲みよる気味の悪い不審者に思われたであろう。
さて、どうしたものか。
生まれてこの方、女性に話しかけたことがない。
正確にはあるのかもしれないが、少なからず記憶には残っていないので、ないと言って構わないだろう。
草食系ならぬ断食系男子である。いや、意味が分からない。
というか、なんて声をかけるのが正解なのだろう。
「うち来る?」という昼番組みたいなノリで行けばいいのだろうか。
そもそも僕の家はゴミと無残に捨てられたティッシュの山で溢れかえっているので家に呼ぶのは無理だ。
それとも、紳士的に「大丈夫ですか?」だろうか。
どちらかというと僕のほうが大丈夫ではない状況なので説得力がない。
もう本当に誰か僕を助けてくれ!!
少女がこちらをジロリとみる。やばい、これは不審者を見る目だ。
何とかして一言声をかけなければいけない。
僕は人生の大半をゲームとオナニーに費やしてきたことを恥じた。
もっと頑張って経験を積めばよかったのだ。
そのとき、走馬灯のように頭の中を閃きが駆け抜けた。
紳士的かつ、丁寧な一言。
「きゃ、きゃんないへるぷゅー?」
それ中学生時代、英語の時間に隣の席と会話練習をする際、用いられる一言である。
僕が中学生の頃、緊張のあまりこの英文を叫び、唾を大量に顔にかけ、練習相手だった隣の席の女の子を泣かせてしまったことがある。
以後、なぜか隣の席の人は後ろの席の人と練習をし、僕は先生と練習をした。
なにはともあれ、僕はなにを言っているのだろうか。
お手伝いしましょうかって何だよ、しかも英語って。
こういう時ツッコミをしてくれる友達が欲しいと何度思ったか。
僕はこのようなつまらなく、くだらないボケをひとりで考えているのである。
なんと不毛な愚行であろうか。いや、意外と楽しいから困る。
少女がきょとんとした顔でこちらを見てくる。
段ボールを頭の上に載せて、ちょこんと座り、こちらを上目で見ている。
(畜生!不覚にも萌えてしまう!!)
僕は、今までの人生を悔いた。
というかさっきの一言を悔いた。
大人しく家に閉じこもってオナニーでもしていればよかったのだ。
普段と違うことをするということは、それなりの傷を受ける覚悟をしなければいけないということだったのだ。
僕は、恥ずかしさと罪悪感から逃げるため帰り道へと向きを変えた。
雨で濡れて汗と涙が目立たなかったのが不幸中の幸いである。
さらば少女。こんな情けない屑ではなく、爽やかなサラリーマンに助けを求めてくれ。
僕の小指ほどしかない優しさは雨と一緒に下水道へと流されていった気がしたが、あえて流しておくことにする。
少女があっと声をだし、救いとも呼べる声を発した。
「な、なんで英語やねーん…」
不覚。
背中越しに受けるツッコミに僕は震撼した。
なぜだか僕は溢れる涙をこらえきれなかった。この少女はきっと天使であろう。
僕は振り返り叫ぶ。
「なんで関西弁なんだよ!!」
【おしまい】
さむいギャグでも、書ききるのが大事だとおもうのです。
みなさんが書いたもの、もっと見たいです
ちょっと相談があるんだけど、いいかな?
あ、ごめん。いいやなんでもない。
スルーしていいよー
どうぞ
しかし>>149-162、めっさ面白いが真相は何にも解らないままという
ほしゅあげ
>>146はやっぱりあんただったか置場に入ってたな
ROMってたけどそうだろうとは思った
このSSまとめへのコメント
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