※このSSは『とある魔術の禁書目録』のお話です
基本コメディ&日常、時々シリアス&戦闘入りますので要注意。地の文もたまーに入れます
主人公は上条さん、ヒロインは複数人(計三人)予定。一人目はバードウェイさんです
後の二人は出てからのお楽しみ……か、考えてない訳じゃないんだからねっ (´・ω・`)
ともあれ最後までお付き合い頂ければ幸いです
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1378160982
――プロローグ 「ようこそ、『明け色の陽射し』へ」
――魔術結社『明け色の日射し』 極東アジトの一つ
バードウェイ「ふんふふーん!」
マーク「……」
バードウェイ「るる、ららーっ」
マーク「……」
マーク(どうしよう。ボスがすっげー悪そうな顔で上機嫌だ)
マーク(さっきから『聞けよ?早く聞けよな?』的な視線を感じるし……)
マーク「あ、あのー、ボス?」
バードウェイ「ん?なんだ?」
マーク「先程から随分ご機嫌なんですけど、何かありましたか?」
バードウェイ「んー?そう見えるかー?そうかー、分かってしまうかー」
マーク「ぶっちゃけウザ――じゃなかった!違いますからまず魔術武器を仕舞ってください危険です!」
バードウェイ「さっきも言ったが、お前はいつまで経っても学習しない奴だよなぁ」
マーク「い、いえいえいえっ!いっつもボスのご指導ご鞭撻にはっ!えぇそりゃもう夢にうなされるぐらいにっ!」
バードウェイ「その言い方も気に食わんが……まぁいい。私は今、非常に機嫌が良いんだよ」
マーク「あー、その、私はボスに『なんで機嫌が良いんですか?』って聞こうと思ってたんですよ」
バードウェイ「見れば分かるだろう、と言うか見て分からないか?」
マーク「すいませんボス。私には全然分かりません、つーか理解したくないです」
バードウェイ「これだよ、これ」 ポンポン
マーク「これ……ですか?」
バードウェイ「格安だったんだよ!なんと20セントで買えたんだ!」
バードウェイ「どうだ?中々良い買い物をしたと思っているが」
マーク「えぇまぁ、よく、馬車馬のように働きそうな感じですよね」
マーク「ですが、その」
バードウェイ「なんだ?何か言いたそうだな?」
マーク「はいボス。先程から、つーか部屋に入った時から疑問に思っていたのですが」
マーク「ボスが腰掛けているそれ。20セントで買ったのって、何ですか?」
バードウェイ「……おいおい、マーク。マーク=ギルダ○?」
マーク「違います。スペンサーです。Gジェ○には出ていません」
バードウェイ「Xラウンダ○とAG○システムってなんだったんだろうな?」
マーク「ボス、爆死したバカに追い打ちするのはやめてあげて、と思います」
バードウェイ「全ての因縁を決着したのが、ノーマルパイロットと第二世代を改修した機体ってのはどうなんだ?」
マーク「それを言ったら第四世代なのにご覧の有様だったF○ばどうなるんですか、ボス」
バードウェイ「そもそも主人公がアス○(明日野)で、企画・シナリオ・ゲーム制作の特級犯罪者が日野ってファンにケンカ売ってるな?」
バードウェイ「アセ○・キ○・フリッ○の頭文字を取るとアキフ。バカの名前が晃博(アキヒロ)ってのもちょっと疑っているんだが」
マーク「い、いや別に良いんじゃないですかね?どこかのゲームで主人公の名前をライターと同じにして大炎上した例もありますし」
バードウェイ「自分で今言ったろうが、ボスが腰掛けてる、って?」
バードウェイ「だったらこれはイス以外の何であると言うんだ?あぁ?」
マーク「いやでも」
バードウェイ「見ろ、この座り心地を!普通のイスとは比べものにならない弾力性!」
バードウェイ「安物のスプリングでは得られない満足感だろっ!」
マーク「ですからね?そういう事ではなく」
バードウェイ「そしてこの肌触りっ!まるで最高級の革のようなしなやかさだっ!」
マーク「私が問題にしているのはそこじゃなくって――」
バードウェイ「それになぁ、このイスには会話機能もついているんだぞ?どうだ!どう考えても凄すぎるだろう!」
バードウェイ「よーしマークに自己紹介してみろ!」
マーク「ですからボス。そういう事ではなく――」
マーク「――ボスが座っているのって、イスじゃなくて上条さんですよね?」
上条「……こんにちは。バードウェイのイスになった上条です……」
バードウェイ「なぁ?」
マーク「待って下さいよボスっ!?流石にこれはシャレにならないっ!」
マーク「ウチでこんな扱いしてるのがバレたら、イギリス清教とローマ正教とロシア成教全てを敵に回しますからっ!」
バードウェイ「いやでも、イスだろ?だって本人喜んでるし?」
マーク「……上条さん、幼女に座られて喜ぶ趣味があるなんて!」
上条「喜んで――ねぇよっ!?つー何?なんなんだよっこの展開はっ!?」
上条「違うよね?イスつったら、普通のイスに俺が座って、その上へバードウェイが乗ってだ!」
上条「『何だかんだ言っても、まだ子供なんだな』ってする所じゃないのっ!?」
上条「それが何っ!?連行されたら即『四つんばいになって、喋るな』だものっ!」
上条「なんか違うしっ!つーか誰得だよっ!?」
バードウェイ「世の男には金を積んでまで座ってもらいたい層があるようだが」
上条「マーーーーーーーーーーーークゥゥゥッ!?テメェんとこのお嬢様の教育はどーなってやがるっ!?」
マーク「ご褒美ですよねっ」 キリッ
上条「真性の変態がイターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」
バードウェイ「まぁ気にするなよ上条当麻」 ポンッ
上条「冗談だよね?マジで俺30円ちょっと借りただけで、残りの人生イスになり続けるって事はしないよね?」
バードウェイ「……嫌、なのか?」
上条「……へっ?」
バードウェイ「私も鬼ではない。契約は守るし、お前が嫌というのであればそれ相応の扱いへと切り替えよう」
マーク「(契約は破らせない骨までしゃぶるって、それただの悪魔じゃねーか)」 ボソッ
バードウェイ「おいマーク、お前は霊装無しでイギリス清教潰して来い」
マーク「無茶ですよボスっ!?その命令のどこに意味がっ!?」
バードウェイ「ムシャクシャしてやった。反省はした事がない」
マーク「ボオォォォォォォォォォォスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥっ!?」
バードウェイ「とまぁスッキリした所で、上条当麻」
上条「な、何?」
バードウェイ「イス扱いした事を詫びよう。そしてこれからは血が通った扱いをすると誓うぞ」
上条「あぁいや分かってくれりゃ別に。俺だってケンカしたい訳じゃなかったんだし」
バードウェイ「なぁ、鉄の首輪と革の首輪、どっちが良いと思う?」
上条「待って!?それは俺の話じゃないよね?飼い犬とかペットの話をして居るんだよね?」
バードウェイ「んー、東洋人はSloe-eyedだから、やはり黒色で合わせるのがベターかな?」
上条「あ、ごっめーんっ!やっぱ俺イスが良かったわっ!つーか多分俺はイスになるために生まれてきたんだと思うよっ!」
上条「ほ、ほらっバードウェイって軽いからっ!上条さんの腕の負担には全然ならないしっ!」
上条「むしろっあれだよっ!柔らかくて色々と意識しちゃうからっ!気を遣っただけだからねっ!?」
マーク「上条さんも……!?」
上条「お前も見てないで助けろよ、なぁ?つーかなんでちょっと危機感覚えているの?」
上条「もしかしてお前も、一方通○の獣道を引き返せない所まで走ってる人?」
バードウェイ「そ、そうか?そこまで言うんだったらイスとして使ってやらなくもない」
上条「……イヌよりはまだ、イスの方が良いです」
バードウェイ「あぁそうそう上条。一つだけ言っておく」
上条「……何?イスとしての心構え?」
バードウェイ「まぁ追々慣れるだろうが――それ以前の問題、礼儀の話だ」
バードウェイ「お前も『明け色の陽射し』の一員となったのだから、これからは」
バードウェイ「私の事は『ボス』と呼べ」
――『明け色の陽射し』・極東支部(※上条のアパート)
バードウェイ「――と言う訳でお前も今日から『明け色の陽射し』の一員となった以上、迂闊な言動は慎むように」
バードウェイ「紳士たれ、とまで言わんが節度ある行動を頼むぞ」
上条「人間イスの刑は迂闊じゃないのか?どこら辺に節度あったっ!?」
バードウェイ「涙を呑んで上下関係を明らかにする必要があったのだよ、なぁ?」
マーク「ですね。見て下さいボスのお肌がツヤッツヤですから」
上条「お前らそれっぽい事言ってりゃ誤魔化されると思うなよ?俺だって出る所には出るんだからな?」
上条「つーかさ、ここ俺んちじゃねぇかよ!勝手に魔術結社の支部扱いすんなっ!」
バードウェイ「おんやぁ?イギリス清教のシスターが常在していた家が普通だって?」
マーク「今いらっしゃらないようですが、どちらへ?」
上条「あぁインデックスはイギリスに(以下略)」
マーク「ボケすらもスルーされるのは、ある意味ネタにされるよりも痛々しいと思います」
バードウェイ「弄られなくなったら終りだと思うんだがなぁ……まぁいい。暫く留守にするのであれば好都合だ」
上条「俺は?俺の都合も聞いた方が良いんじゃないの?」
上条「でもいきなりやって来てどうしたんだ?普通にくれば歓迎したのに」
バードウェイ「パトリシアを覚えているか?ほら、幼女の」
上条「お前もだからな?偉そうに言ってるお前と同い年だからな?……いや、流石に会ったばっかりだし、忘れもしねぇよ」
バードウェイ「今、学園都市に居るんだよ」
上条「へー……えぇっ!?入学させたのかよっ?」
バードウェイ「ここにだけはさせないから心配するな。そうじゃない。パトリシアは聡明だろう?」
上条「海洋地質学だっけ?そっちの専門紙に論文載ったって話は聞いたけど」
マーク「その実績を買われたようで。今回は『ゲスト』として学園都市へお呼ばれしました」
バードウェイ「青田買いという奴だ。オープンキャンパスさながら、学園都市ではこんなに施設が整ってますよー、ってな」
上条「期間は?」
バードウェイ「二週間だ。我が妹の優秀さに目をつけたのは評価に値するが、少々宜しくはない」
上条「そんくらいだったらまぁ、別にいいんじゃ?」
上条「前にも学園都市の油田プラント?か、なんかのプロジェクトにも参加してたって言うし。能力開発しないのであれば」
上条「人様の家庭事情に首突っ込むのもあれだけどさ、もうちょっと放任でも良くね」
バードウェイ「ダメだ!何を言ってるんだ貴様っ!」
バードウェイ「こんな危険な街に妹一人置いておける訳が無いだろう!」
上条「オイオイ、待ってくれよバードウェイ。確かにこの街は良い奴も悪い奴もいっぱいいるけどさ」
上条「流石にゲストを問答無用で巻き込む程、節操がないって事も無ぇよ」
バードウェイ「聞けばこの街にはロ×好きの超能力者達がいるそうじゃないか!」
上条「そっちの心配かっ!?つか×リがロ×言うなよ!……そっかー、有名になったなぁ一方通○」
上条「え、でも『達』ってどういう事。そんなにいっぱい居ない筈だけど」
マーク「私の調べた限りでは――まず、カキクケコ言う変態」
上条「知ってる」
マーク「次に真っ白な変態」
上条「……知ってる」
マーク「最後にビリビリする変態の三種類が確認されています」
マーク「許せませんよねっ!幼女とお風呂入ったり幼女とご飯食べたり幼女とシャンプーハット使ったり!」
上条「おいバードウェイ。お前達が調べたリストにはコイツは入ってないの?外国の都市よりも身内に居る犯罪者の方がタチ悪ぃよな?」
バードウェイ「バードウェイじゃない、ボスと呼べ」
上条「そもそも学園都市トップ3がアレなのは――待て待て。カキクケコと白いのはもう諦めてるけど、御坂は違うぞ」
上条「基本ストーカー二人に内外から狙われてる方だからね。あれ、そう考えると不憫になってきた」
マーク「噂の域を出ない話ですが、何でも『7、8歳ぐらいの幼女を手なずけようと色々している』そうで」
上条「あー……そういや佐天さんのトコで、フェ何とかってちっちゃい子、預かったっつってたっけ?」
上条「つか何?御坂、滅茶滅茶モテんのに彼氏作らなかった理由はそれかー……」
バードウェイ「(いや、まず間違いなくお前が原因だがな)」
マーク「(私も嘘は吐いてないので悪しからず、まる)」
バードウェイ「家族の心配をするのは当然の話だろう?」
上条「そりゃまぁそうだけど。動機は流石にアレだが」
バードウェイ「野暮用もあったが、それはついでの話だ」
上条「レアモンスターの配信でも待ってんのかよ」
バードウェイ「早く買わないと無料で野バスが手に入らないんだよ」
上条「あれなぁ。DLCばっか、デフォのキャラデザが同人未満のクオリティだっけ」
マーク「昔はドット絵だったのに、ポリゴンが増えて劣化するのもどうなんですかねぇ」
上条「またATMひぼた○☆3を探す一日が始まるぜ……」
バードウェイ「エル○シリーズを見習って欲しいものだが。まぁいいさ」
上条「ゴシッ○、ミハシ○と迷走しまくってるからなぁ」
バードウェイ「とにかく、だ。お前は我が結社の一員となったからには、その自覚を忘れないようにな」
上条「自覚もなにも強制だろうが!」
バードウェイ「……ま、私達がこの街を去るまでは体験入社という形を取ろう。適正があるかどうかのテストだな」
上条「ねぇマークさん。おまいらのボスはどうして人の話を聞かないの?」
マーク「いやぁこれでも結構緊張してあばばばばばばばばっ!?」
上条「敵の魔術師の攻撃かっ!?」
バードウェイ「おっとすまんマーク。間違ってこの尋問用霊装、スイッチが入ったまま押しつけてしまったようだな」
上条「……すっげービクビクしてるんだけど大丈夫?ここで死なれるとブチこまれるの俺だからね?」
マーク「かか、上条さん……!」
上条「なぁそろそろ止めてやれって。幾ら親しいからって、この扱いは良くないぞ」
マーク「ご褒美……です……!」
上条「変態プレイするなら帰ってくれないか?つーか俺を巻き込むな!」
バードウェイ「まぁこんな事を言うなよLolico013」
上条「人に勝手な魔法名つけんじゃねぇ!しかもロ×の後の数字が意味深だしっ!」
バードウェイ「その魔法名には『13歳以上は女じゃない』という意味が込められている」
マーク「おや、その名がNGなら上条さんは一桁でないとダメなタイプだそうですよ。ボス」
バードウェイ「まいったなぁ、そこまで真性だと矯正の仕様がないじゃないか。ちっ」
上条「せめて!せめて身に覚えのある事で責められるんだったら納得行くけどさ!」
上条「違うじゃん?俺そんな事一言もいってないじゃんかっ!」
上条「インデックスと何事もなく過ごしている時点でノーマルだよ!潔白だってば!」
バードウェイ「よし、その言葉忘れるなよLolico013?」
マーク「あーぁ、言っちゃいましたねー上条さん」
上条「……はい?」
バードウェイ「聞いての通り上条当麻の性癖はノーマル――つまり、私がここに宿泊しても何一つ問題がないって事だな」
上条「え、なに?」
マーク「いやーほんとはぼすがしんぱいなんですけどー、かみじょうさんならもんだいないですよねー」 (棒読み)
バードウェイ「だなぁ。『万が一必要悪の教会とかち合っても、上条当麻が緩衝材になれば戦闘しないで済む』だろうし、なぁ?」
上条「ハメやがったなチクショウっ!?そうか!お前ら人を防壁代わりに使おうってハラかよっ!」
バードウェイ「そこまで卑下しなくたって良いじゃないか、新入り?」
マーク「そうですよぉ、上条さんが一時的にウチの傘下に入るって事は、手を出した連中はその他大勢を敵に回すって意味ですし」
上条「て、事はなんだ?全部最初から仕込みだったのか?」
バードウェイ「当然だ。我ら『明け色の陽射し』イギリス屈指の魔術結社だぞ」
バードウェイ「奸智に長け、計略を以て武とする。そういう人種だな。伊達に『黄金』の名を継いでいないのだよ」
マーク「――って事を仰ってますが、実は行き当たりばったりです、はい」
上条「あ、そうなんだ?」
バードウェイ「……おいマーク」
見覚えのあるノリと勢い…!
>>1氏は過去に何か書いておられましたか?
>>13
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マーク「本当ならば順を追ってお願いするつもりだったんですよ。けど上条さんの家まで行く途中、買い物をされているのをお見かけしまして」
マーク「『ここは任せろ。なぁに私の手にかかれば赤子の幻想をぶち[ピーーー]!』なんて挙動不審な台詞でボスが」
マーク「私らを先に行かせて説得しようとしたんでしょうが、ほら、ボスとLolico13ってケンカしたばっかでしょ?」
上条「そうだよな、って俺をその名で定着させるの止めてくれないか。割とマジで」
マーク「話しかけるタイミングがないままズルズル尾行が続いて、『あ、小銭切れた、チャーンス!』と」
上条「なんだよバードウェイ。別に気にするようなこっちゃねぇのに」
マーク「あんま言ってやらないで下さい。そもそもボスも何だかんだ言って、12歳のガキですからねー」
マーク「嫌いな相手なら、手足引きちぎって犬の餌にするぐらいは朝飯前なんですが、その逆となると――」
バードウェイ「……マアアァァクゥ?マーク・スペンサー?」
マーク「え、どうしたんですかボス?魔術武器なんて持ちだして」
バードウェイ「ちょおおおぉぉぉぉぉっと席を外すが、いいな?見るなよ?」
マーク「ボス、あの、ものっそい強い力で掴まなくっても、私は逃げ――イタタっ!?」
パタン
上条「おーいお前ら外で何して」
ズゥンッ!!!
上条「!?」
カチャッ
バードウェイ「と言う訳で新入り、今日から世話になるな」
上条「いや、それは別に良いんだけど。玄関から黒コゲの何かが見えるって言うか」
上条「赤黒い液体がじわじわとしみ出して、猟奇的な絵面になってますよ?」
バードウェイ「ま、あまり客扱いしなくても良いさ。私はこう見えても空気の読める人間で通っている」
上条「読んでないよな?面倒はごめんだと全力でお断わりしているからな?」
バードウェイ「空気は読むが、波風を立てないと言った覚えはない。むしろかき乱す方が好みだ」
上条「……最悪だっ、このガキ……」
バードウェイ「――少し真面目な話をしようか、上条当麻」
上条「ん、あぁ」
バードウェイ「正直、私達は『必要悪の教会』と抗争している訳ではない。ないのだが」
バードウェイ「少し前にこの街でパトリシアが襲われているのも事実だ。向こうは『手違いだった』で済ませたが」
バードウェイ「だが、だ。だがしかし」
バードウェイ「――妹にちょっかいかけられて、私が怒っていない訳ではないのだよ」
上条「……」
バードウェイ「そこら辺を加味した上で、私が君という緩衝材を間に置く事で、『連中とやり合わないでやろう』と言っているのさ」
バードウェイ「君にとっても悪い選択肢ではない、と思うがなぁ?」
上条「……バードウェイ」
バードウェイ「いいか?お前は言った筈だ――『他の連中を巻き込むのであれば、俺を使え』と」
バードウェイ「だから、『これ』は当然の義務として――」
上条「バードウェイ!」
バードウェイ「……何だ」
上条「それは、違う。そうじゃない」
バードウェイ「何がだ。はっきり言え」
上条「知り合いんトコに世話になるのに、『それ』は違うんだ。そんな事しなくたって」
上条「そんな理由じゃなくたってだ」
上条「ただ、普通に……あぁいやお前なら、多分こう言うんだろ」
上条「『妹が心配だから、様子見るために何日か泊めろ』って」
バードウェイ「はぁ?バカかお前、誰がそんな生温い事で納得するんだよ」
バードウェイ「私達はお前が思っている程、好き勝手は出来ないのさ」
上条「お前はそうかも知れないが、俺は俺の流儀を通すぞ。絶対に」
上条「バードウェイの立場がどうであろうと、お前は、お前だからな」
バードウェイ「こんな下らない事で本質を変えようしたって、所詮はアレだ。本質は変わらない」
バードウェイ「アメリカ産の安ワインにブルゴーニュのラベルを貼った所で、味は変わらない」
バードウェイ「私はな、上条当麻。お前に親愛の情など抱いていないし、異能以外に興味もない」
バードウェイ「ただそれが『結社』のためになるから利用しているに過ぎん。それでも」
上条「だからだよ」
バードウェイ「何だと?」
上条「最初から仲良くやろうつっても無理なもんは無理だ。ならせめて、形ぐらいから入ろうぜ?」
バードウェイ「……好きにするがいいさ。私は所詮ゲストに過ぎん」
バードウェイ「郷に入っては、という言葉もあるぐらいだし、まぁ、そのなんだ」
上条「うん」
バードウェイ「あぁっその期待した目を止めろ新入り!……だからといって直ぐションボリするんじゃない!言葉のアヤだろうが!」
バードウェイ「……その、あれだよ」
バードウェイ「パトリシアが学園都市に来ると言ったので、付き合いで来てみた」
バードウェイ「泊る所は……まぁ、探せば幾らでもあるだろうが、肩も懲りそうだし遠慮したい」
上条「肩凝る歳じゃねーだろ」
バードウェイ「煩い!……だから、その、暫く泊れる所を探しているんだが」
バードウェイ「泊めろ!これは命令だからなっ!」
上条「おけ、これから二週間よろしくな、バードウェイ」
バードウェイ「バードウェイじゃない、ボスと呼べ……あぁ、こちらこそな」
バードウェイ「――で、だ。取り敢えず上下関係を明確にする必要があると思うんだよ、なぁ?」
上条「え、違くね?『仲直りできたし、ウヤムヤにして今日は終り』って展開じゃないの?」
バードウェイ「『人を信じろ』とホザいてた奴に、確か私はドリられそうになった挙げ句、まんまと騙されたんだっけ」
バードウェイ「いやぁすっかり忘れていたが思い出してしまったなぁ、んー?」
上条「待って下さいバードウェイさん!顔が大魔王クラスの悪い笑顔になってますから!」
上条「そもそも騙す騙さないの話ならそっちが先に仕掛けたんだろっ!?」
バードウェイ「つまりお前に許されるでもなくイーブンだった訳だ。その上」
バードウェイ「あの女を守るためだと襲撃を喰らった私は!高校生に全力で頬を殴られた私は!むしろ被害者だと言えるんじゃないか!」
上条「あー……結果だけを見れば、うん」
バードウェイ「そうだよなぁ、立ち話も何だし座ろうか」
上条「あ、うん。今座布団出すからちょっと待っ」
バードウェイ「オイオイ新入りぃ、そうじゃないだろ?」
上条「ベッドに座んの?いいけど、お客さんに失礼じゃないかな」
バードウェイ「いや私にはイスがあるから、それでいいよ」
上条「イス?和室にそんな洒落たもんねーぞ」
バードウェイ「何を言っている。あるじゃないか――なぁ、イス?」 ポン
上条「あれあれー?バードウェイさんはどうして俺の肩に手を置くのかなー?」
バードウェイ「バードウェイじゃない、ボスと呼べ。おや、このイスは私が20セントで買った筈なのになぁ?」
上条「その設定は終わったんじゃ?」
バードウェイ「あぁそう言えばあの『事件』は、被害者行方不明で起訴猶予処分になったんだっけか」
バードウェイ「ちょっとアンチスキルのトコ行って、真相を全て話して来るかー」
上条「……なんて?」
バードウェイ「『背後から頭にドリルを突きつけられて、言う事を聞けと脅された』と」
上条「子供相手に最悪の犯罪者じゃねぇか俺っ!?」
バードウェイ「『さァお嬢ちゃんの履いてるストッキングを寄越すんだグヘヘヘヘヘ』」
上条「100%捏造だよね?あと俺報いっつーか、脇腹に9mm貰ってんだけど!」
バードウェイ「……あぁなんだお前、さっきからヤケにダダをこねると思ったら。そうかそうか」
バードウェイ「いや私も流石にそこまでは気が回らなかった。素直に謝罪しよう」
上条「フリだよね?そこまで溜め作っても、今から言う事は酷いんだよな?」
バードウェイ「跪いて四つんばいになれ、このイス野郎」
上条「その気の遣い方はおかしいっ!?喜ぶ人なんて少数だよねっ!?」
バードウェイ「マーク(仮名)なら喜んで泣くぞ?」
上条「ネタにしたって下品過ぎるっ!そもそも(仮名)つけるぐらいなら、最初から伏せてあげて!」
バードウェイ「ま、たった二週間だ。バカンスだと思ってお嬢様の我が侭の一つや二つ、叶えてくれたっていいだろう?」
上条「……そう言われると」
バードウェイ「――と、いう逃げ道を作り、自ら人間イスをしやすい環境を整えてくれる優しいボスを持てた奇蹟」
バードウェイ「お前はもっと感謝すべきだろうなぁ、主に私にだが」
上条「逆にハードルが上がってるわっ!最初から飛べる位置を越してるけども!」
バードウェイ「やかましい!ツベコベ言わずさっさと下になれ!」
上条「オイ馬鹿止めろ!?知ってるんだこの展開はきっとあのパターンだから!」
バードウェイ「はぁ?何を言ってるん――」
ガチャッ
パトリシア「ごめんくださーい。お姉さんがお邪魔してるって――」
マーク「パトリシア嬢をお連れしましたよー。まぁ明日でも良いとは思いましたが、早い方が――」
上条「……」 (※下・腰の上に幼女)
バードウェイ「……」 (※上・マウント状態)
パトリシア「……お、お義兄さん?」
上条・バードウェイ「違うっ!」
パトリシア「まさか本当にお邪魔しちゃったとは!くぅー、どうしましょうかマークさん!?」
マーク「大丈夫ですよパトリシア嬢。ここは落ち着いて数でも数えるとしましょうや」
マーク「慌てず騒がずクールに振る舞え。それが結――もとい、サークルの信条ですから」
パトリシア「流石マークさんですねっ」
マーク「この作品に出ているのは18歳以上18歳以上18歳以上18歳以上18歳以上……」
上条「今更かっ!?つーかそれ明らかに嘘情報だし!」
パトリシア「と、とりあえず私達は一時間ぐらい帰ってきませんからっ!じゃっ!」
マーク「ボスが大人の階段を……あぁまだ来てないから安心っちゃ安心ですが……」
パタンッ
上条「……」
バードウェイ「……なぁ、新入りぃ?」
上条「えっと……バードウェイ、さん?可愛らしいお顔が、ものっそい悪い笑顔になってますよ?」
バードウェイ「これもそれも、アレだな。貴様がボスの言う事を聞かないからだよなぁ。誰がどう考えても」
バードウェイ「……よし、二度と粗相しないよう――」
バードウェイ「――その体に教えてやるっ!!!」
上条「待て!このビリビリはっ!まず――」
上条「これで!最初からこの騒ぎでだっ!」
上条「二週間もつ訳がねあばばばばばばばはばばばばばばばばばっ!?」
バードウェイ「よーし跪いて許しを請え!」
上条「だからどうしてお前はやる気あばばばばばばばはばばっ!?」
――回想 スーパー
バードウェイ「……」
マーク「ボス?どうしました」
バードウェイ「……何がだ」
マーク「学園都市についてからずーん、と落ち込んでるような。テンションだた下がりなんですけど」
バードウェイ「重い日なんだよ」
マーク「来てねえクセに嘘吐くな――ってボス!交通標識で殴られたら死にますからっ!?」
バードウェイ「殴りはしないよ。ちょぉぉぉっと首を撥ねるだけだ」
マーク「発想がDI○なんですが……」
マーク「ま、まぁまぁどうしましたか?ご機嫌が悪いように見えます」
バードウェイ「あー、色々とな」
マーク「まっさかボス、上条さんに会うのが気後れしているとか?」
バードウェイ「おいおいマーク、マーク・キン○」
マーク「スペンサーです。生きた伝説と言われるベーシストと間違われるのは、幾らなんでも畏れ多すぎます、ボス」
バードウェイ「私を誰だと思っている?若干12歳にして『黄金』系の魔術結社を束ねる身だぞ!」
マーク「あ、上条さん?ご無沙汰してますー」
バードウェイ ビクビクビクッ
マーク「なーんちゃって。やだなぁボス、フラグ立ってないんですから、そうバッタリ会う訳ないじゃないですか」
バードウェイ「……ウソ?」
マーク「普通なら一生口聞いて貰えないレベルですけど、上条さんなら許してくれますって――」
マーク「あれ、ボス。『プリマ・タロッコ』取り出してどうしました?」
バードウェイ「『世界は22に別れ、千々に別れた世界で愚者は知識を求め旅に出る』」
バードウェイ「『無知の知たる蛮勇は蕃神を辿りて、黄泉へ下らん』
マーク「待って下さい!?街中でFool→Starコンボをぶっ放すのは危――」
バードウェイ「――さて、お祈りの時間は終わったなぁっ!」
マーク「殺す気っ!?」
ドォォォンッ!
バードウェイ「……さて、バカは不幸な事故によって消えてしまったが」
マーク「……ボ、ボス?……出来れば、救急車……ぐふっ!?」
バードウェイ「どうしたもんだろうなぁ」 ゲシゲシ
マーク「傷口がっ!?ヒールがめり込んでキモ――痛いですっ!」
バードウェイ(仲直り。仲直りなぁ?)
バードウェイ(何となくパトリシアに着いてきてしまったが、今更感が強いよな)
バードウェイ(ばつが悪いと言うか、きまりが悪いと言うのか)
バードウェイ(形はどうあれ、結果もさておき。バゲージシティの惨状を『ケンカしようぜ!』で済ますバカだ)
バードウェイ(あれだけ悲惨な舞台を作った原因へ対し)
バードウェイ「……」
バードウェイ(……相手がなぁ。まだ指導者やそれに近い立場であれば、心理状態など手に取るように分かるんだが)
バードウェイ(カネ、信念、家、国家、民族。どれか一つ、もしくは幾つかの『柱』があって)
バードウェイ(それが行動原理となり、利害関係を辿ればある程度の思考は読める、が)
バードウェイ(バカ相手にはそれが通じない、と言うのがこの間の一件の教訓か)
マーク「……ボス……あの、上条さん、が……」
バードウェイ「お前はいつまで経っても学習しない奴だよなぁ、あぁ?」
マーク「違いますっ!あれっ、スーパーの入り口!」
バードウェイ ササッ
マーク「……ボス、何も電柱の陰に隠れ無くたって」
バードウェイ「……ハッ、隠れてなどいぬものか!私を誰だと思っている!?」
マーク「誤字かと思いましたが、噛んでるじゃないですか……あー、夕方ですし、学校帰りに寄ったんですかねー」
バードウェイ「……」
マーク「どうしましょうか?お宅まで伺うのが筋でしょうし、ここでお待ちするのがベターですかね」
バードウェイ「――いや、ここは任せろ。なぁに私の手にかかれば赤子の幻想をぶち殺す!」
マーク「やだ、この子錯乱してる」
バードウェイ「お前は暫く経ってから奴のホームで合流しろ。いいな?」
マーク「良いですけど。大丈夫ですか、色々な意味で?お前アタマ大丈夫?的な感じの」
バードウェイ「下僕の一人や二人、制御に戸惑うようなネンネじゃないって事さ」
マーク「ネンネも何も。まぁ良いですけど」
バードウェイ「任せておけ。心理戦は得意分野だ」
マーク(相手がフツーの相手なら、だけどな)
バードウェイ「……マークぅ?お前が思っているような『フツー』の相手なら、充分に読み切れるんだよなぁ?」
マーク「さーせんしたっ!」
――少し前 レジ
上条(インデックスも居ないし、食費がかからなくて済むけど)
上条(こういうのって一人だと料理するのが面倒で、ついつい総菜になりやすい――ってそれ、主婦の発想じゃねぇか)
上条(パスタと醤油。ソースはこないだ呑んじまったから、醤油とバターで適当に)
上条(ガーリックチップって残ってたっけか……?)
レジの子「――以上で1450円になりまーす」
上条(えっと……あ)
レジの子「1450円になりまーす」
上条(マズったなー……1420円しか持ってない。これは売り場に返してくるしか)
バードウェイ「――貸してやろうか?」
上条「マジか!?悪いっ!じゃ30円貸してくれ!」
バードウェイ「30円……20セントか。ほら」
上条「すまん、助かったよ――ってバードウェイっ!?お前だったのか!?」
バードウェイ「……30円に負ける存在力に少し凹むが……まぁ良いだろう」
上条「近くのコンビニで下ろすから――ってこっちこっち、袋に詰めるのはこっちでするんだ」
バードウェイ「キロ単位のパスタとビーンスプラァゥト……相変わらず苦労してるんだな、お前は」
上条「しみじみ言われても、それはそれで辛いんだが……」
バードウェイ「――あぁ、そうか。そうだな。そうすれば簡単か」
上条「バードウェイ?」
バードウェイ「……こほん。上条当麻、別に今の貸しは返さなくても構わないぞ。知り合いから取り立てる程、私も悪逆ではない」
上条「そうか助かっ――っていやいや!何か無理難題をふっかけられそうで怖いわっ!」
バードウェイ「心外だなぁ。もう少しお前は人を信じるべきだと思うぞ」
上条「それお前にだけは言われなくねぇよって言うか」
バードウェイ「だから、なんだ?無理に借りを返す事は無いからな」
上条「断る!絶対無茶振りが来るに決まってるもの!俺の人生そんなんばっかだよ!」
バードウェイ「とはいえなぁ。守銭奴でもあるまいし、立場上鷹揚な所を示さねばならない」
バードウェイ「そうだな……では一つ、頼みを聞いてくれないか?」
バードウェイ「それで貸し借りはフェアとしようじゃないか」
上条「あぁ構わないぜ。つーかそっちの方が俺も気が楽だ」
バードウェイ(よし!ヒットした!)
上条「……あれ?でも無茶振りを防ぐために借りを返すんだよ、確か」
上条「そうするとその借りを返す際に無茶振りが来たら……?」
バードウェイ「いやー助かったよ。こちらとしてもどう話を持ってくるか、悩んだんだが」
上条「その不吉な前置きを止めろっ!?嫌な予感しかしねぇしっ!」
バードウェイ「ようこそ、『明け色の陽射し』へ」
――プロローグ 「ようこそ、『明け色の陽射し』へ」 -終-
――次回予告(※予定)
女「むかしむかし、ある所にこんな物語があった」
女「魔女の継母に虐待されていた兄妹……いや、姉弟は家出をする」
女「喉の渇いた弟は泉の水を飲もうとするが、『この水を飲んだものは虎になる』という声を聞いた姉は、水を飲ませるのを止めさせた」
女「次に弟はまた泉の水を飲もうとするが、『この水を飲んだものは狼になる』という声を聞いた姉は、水を飲ませるのを止めさせた」
女「再び弟が泉の水を飲もうとするが、『この水を飲んだものは鹿になる』という声を聞いた姉は、弟に忠告したが弟は構わず飲んでしまった」
女「すると弟は鹿の姿になってしまう」
女「姉は靴下留めで作った首輪で弟と自分を繋ぎ、森の中にある空き家で暮らし始めた」
女「ある日、鹿を狩りに来た国王に見初められ、姉は妃となって迎え入れられる」
女「しかし継母とその子は幸せを妬み、妃を殺してしまう」
女「妃の代わりに隻眼の娘を妃の身代わりにさせ、王を誤魔化した」
女「その夜、死んだ筈の妃は幽霊となり、我が子の世話をし始める」
女「その最後の日。王と妃が出会うと妃は生き返り、継母は火刑、隻眼の娘は八つ裂きにされ」
女「鹿となった弟は元の姿へ戻る。めでたしめでたし、か」
女「……」
女「……私は弟を失った」
女「泉の水を飲ませ、虎にし、狼にし、鹿にしてしまった!」
女「王を殺し継母を殺そうともしたのよ!けど!」
女「……弟は元へ戻らない。私が幾ら笑おうとも。私が幾ら泣こうとも」
女「何をしたってエリスはもう帰って来ないんだ!……ちくしょう、チクショウっ……!」
女「……これは、とある愚者の物語」
女「魂を失った亡骸にしがみつき、魂囚われた哀れな魔術士の物語」
女「『断章のアルカナ』第一話」
女「――『姉と弟』」
――次回予告 -終-
※今回投下は以上で終了。読んで下さった方には感謝を
乙です!
バードウェイSSは中々完結したのを見ないので、最後まで頑張ってほしいです!
ちなみに、更新間隔はどれくらいのつもりですか?
>>14
やはり貴方でしたか!!
乙です!!
今回も期待してます!!
>>32
いつも通り週一ぐらいを予定しています
……が、暑さが収まらず、胃壁が良い感じで削られてビタミン剤とタバコ以外受け付けない状態でして
今から検査ですが、もしかしたら物理的に缶詰になるかも知れませんので、その際は次回投下が遅れてしまったらごめんなさい
>>33
有難う御座います。上司からワンパターンだと言われる文体ですが、お付き合い頂ければ幸いです
一度、この>>1で銀魂を見てみたいは……
乙
相変わらずdisが苛烈だな大いに共感するところはあるが
バードウェイprpr
乙です
乙ー!!!
やはり貴方だったか!! どうなる事やら。
この一週間でかなり寒くなったな
福岡
この人のめっちゃ面白いけど、インさんのあつかいがなぁ…。
注意書きにインデックス下げがありますと一言書いておくべきだな
インデックスに親を殺されたのか?と思うレベルぐらい嫌いだからな
一応言っとくけど
マークさんはスペンサーじゃないよ。マークさんはスペース、マーク=スペースだぜ
イン下げいやなら 前作見なさい前作
思い切りメインヒロインしてたからな
面白い!!実に!!!
そういや新約8巻は9月10日だっけ?
せやで
>>46
すっかり忘れてたわwwwwww
新約7巻が出たのが5月頃だったか?
光陰矢の如し……月日が流れるのは早いもんだなぁ……
今作も大いに期待!!!
何者なんだ上司wwwwwwwwwwwwwwww
いよいよ今日だな…新約8巻!
祝・8巻発売!
>>35
取り敢えずダメ元で好きなカプ書いてみようぜ。話はそれからだ (`・ω・´)
――断章のアルカナ 第一話 『姉と弟』
>>52
銀時と月詠!
新八と神楽!
――某マンション
黄泉川「だーかーらっ醤油をきらしただけじゃんか?つか別に毎日使うもんじゃなし」
黄泉川「つーコトで今日はビーフシチューに決まってるじゃんよ」
一方通行「違ァンだよ!そうじゃねェェンだよ!お袋の味は肉ジャガに決まってンだろォが!」
黄泉川「いやー、ウチのかーちゃん肉ジャガばっか得意じゃんか?だもんでいい加減ウンザリしてるんじゃん」
黄泉川「醤油とみりんは好きだけど、月一ベースで食うようなもんじゃないじゃん?」
一方通行「お前のかーちゃンなんざ知らねェよ!俺は肉ジャガが食いたいつってンだァ!肉ジャガが!」
芳川「作ってあげればいいじゃない、『肉ジャガガ』。大人げないわよ?」
黄泉川「いやあたしは飽きたって言ってるじゃん?あと、おかんの手料理思い出して凹むじゃんし」
打ち止め「おいしくなかったのー、ってミサカはミサカはちょっとだけ表現を曖昧にしてみたり!」
一方通行「決まってンだろうが。じゃねェとここまでビーフシチューに拘る意味が分からねェし」
芳川「その理屈で言うんであれば、あなたがビーフシチューへの拘りも同じって事になるけど」
黄泉川「いやーおかんのメシは美味いじゃんよ?そうじゃなく、実家の雰囲気が苦手じゃん」
一方通行「ンだァ?俺みてェに捨てられた訳じゃァねェだろうが」
芳川「逆よ、逆。娘さんが可愛くて仕方がないらしくてね」
黄泉川「あ、こら!」
芳川「地元の有力者の一人息子とか実業家とか、事ある度にお見合いの話が出て来るんだって」
打ち止め「結婚!人生のハカバだよねーっ!ってミサカはミサカはウンチクを語ってみたり!」
一方通行「実家と気まずいからって、カーチャンの得意料理敬遠するなンざ、子供か」
黄泉川「……割と辛いじゃんよ。マジでマジで」
芳川「……あー愚痴ってたわね。こないだ書類取りに帰った時、親子でご飯を食べに行って」
芳川「出る話題のことごとくが『誰々が結婚した』とか、『子供が生まれた』とか。延々聞かされたらしいじゃない」
芳川「最後の方は『孫って可愛いんだろうねぇ(父親)』とか、『そうじゃんねー(母親)』って責められると」
黄泉川「……ホームに帰ったつもりが、いつの間にかアウェイになってたじゃんよ……」
打ち止め「よしよし、がんばったよね、ってミカサはミカサはなでなでしてあげるのだ!」
芳川「ミ“カ”サじゃなくって、ミ“サ”カね?何と間違ったか分からないけど」
打ち止め「進撃する巨人のおねーさんなのだよ!ってミサカはミサカはミカサを説明してみる!」
芳川「ゲシュタルト崩壊しそうな響きね」
一方通行「……下らねェ理由だよなァ、やっぱ」
芳川「ねぇ?同僚からは結構口説かれてるのに」
黄泉川「うっさいじゃんよ!あんたらに気持ちが分かって……そうだ!」
一方通行「偽でも恋人のフリなんてしねェからな、先言っとくが」
黄泉川「なんでじゃんよ!?別に一回や二回!電話口で適当話してくれるだけでいいじゃん!」
一方通行「ババアに興味ねェよ。ラブコメ担当はピッタリの奴がいンだろうが」
一方通行「つーか学生へ手ェ出した事になンぞ、センセェ?あァ?」
芳川「幾ら男日照りだからって、生徒にはちょっと……よねぇ」
打ち止め「ねぇねぇ良く分からないけど、わたしもお話に混ぜてってミサカはミサカは言ってみる」
黄泉川「こうなったら上条に頼むしかないじゃん……!」
一方通行「ノリノリでやりそうだがなァ――っと」
PiPiPiPi、PiPiPiPi……
一方通行 チラッ
From――クソメガネ
一方通行「……面倒臭ェ」 ガタッ
黄泉川「つーワケで今日はビーフシチュー!決定じゃんよ!」
一方通行「すンなよ!俺は食わねェからな!絶対だからな!」 パタン
芳川「急に機嫌悪くなったわね、あの子」
黄泉川「いやあれは『べ、別にあンたのために食べるンじゃないンだからね!』って解釈していいじゃんか?被保護者さん」
打ち止め「大体合ってるかもー、ってミサカは宿命のライバルの口調を真似てみる!」
――ベランダ
一方通行 ピッ
土御門『現在、おかけになった電話番号は使われておりません。にゃー、と言う電子音の後にメッセージを入れ――』
一方通行 ピッ
一方通行(肉ジャガ……どっかで食ってくるかァ?)
一方通行(ガス○……あの一人席に座るのはキッついぜ)
一方通行(チンピラ誘って食いに――)
PiPiPiPi、PiPiPiPi……
一方通行 ピッ
土御門『酷くない?電話切るのはボケ倒した後だと思うにゃー』
一方通行「お前は存在そのものがボケなンだがなァ……つかお前、死ンだって聞いてたンですけどォ?」
一方通行「今の時期、土の下は冷たくて良い気分だったかァ?」
土御門『なんだ一方通行、心配したのか?』
一方通行 ピッ
一方通行(メシ……面倒ォだなァ。マッ○で月見でも食うかァ)
PiPiPiPi、PiPiPiPi……
一方通行 ピッ
土御門『あーごめんごめん?もうボケないから話聞いて?』
一方通行「ふざけンな。ンな事言うためにわざわざ電話かよ」
土御門『この業界、死んだと思わせて実は生きてましたー、ってのはお約束だからな』
土御門『俺もちっとドジ踏んじまってこのザマだって』
一方通行「そォかい。つーか何?今日はお友達に助けて下さァい、ってェ用事?」
土御門『いんや。俺と同じく死に損なった奴の話をちょっとな』
土御門『少し前に猟犬部隊が再結成されたって話は?』
一方通行「ロシア行く前じゃねェのか?今はもォとっくに解体されてんだろ」
土御門『俺が噂を聞いたのは一週間前だ』
一方通行「……学園都市が約束なンぞ守る訳がねェとは思ってたンだが、意外に早ェな」
土御門『いやいや、それがどうやら違うらしい』
一方通行「あァ?なンでお前が言えンだよ」
土御門『学園側なら人や装備は無尽蔵に入ってくるだろ?それが「強奪」されたんだと』
一方通行「けっ。そンなン幾らでも偽装出来るじゃねェか」
土御門『俺も同感……なんだが。合理的じゃないんだ』
一方通行「あァ?さっさと言わねェと切ンぞ?」
土御門『普通、武器を奪うなりにしろ、お前とは――お前達とは約束をしている訳で』
土御門『「新入生」の時みたいに新しい団体やメンバーで襲撃かけるのが筋だろ?』
土御門『そうすりゃ「ぼくらとはかんけいないですゆえ」って言えるんだし』
一方通行「なンで今妖精さ○入った?ァ」
土御門『なんで妖精○んネタ知ってんだにゃー?』
一方通行「……一緒にアニメ見ろっつって大変なンだよ」
土御門『いい保護者してっけど、最近のラノベ頼りの業界ってどう思う?』
一方通行「ンな話したくねェよ。本題に戻れ」
土御門『デビルサバイバ○見てると、「なんでおか○っさん反射使わねぇの?」って思うよねー?』
一方通行「戻る本題間違えてンぞクソメガネ」
土御門『じゃなんで今更「猟犬部隊」を動かす必要があるか、って話になるだろ?』
一方通行「……本格的に『戦争』をおっ始めるってハラかァ?こないだレベル5のアンドロイド潰したばっかりなンだが」
土御門『に、してはヌルい。普通はお前達に知らせないよう準備を進めて、必勝態勢に入ってから攻撃を開始するだろう』
土御門『手段は荒っぽいわ、情報管理が杜撰過ぎるわ。それを餌にして釣りをしてるのか……』
一方通行「噂は広まってンのか?」
土御門『多分俺が知らせなくても、100時間もすれば街の情報屋でも聞けるだろうな』
一方通行「……何考えてンのか分からねェ連中は面倒だなァ、おい」
土御門『全くだぜ。だがまぁ精々気をつけ――あ、そうだ一つ忘れてたにゃー』
土御門『猟犬部隊を率いてる奴の名前だったな』
一方通行「小物の名前聞いたって、俺が分かるワケねェだろ」
土御門『いや、最初に言ったろ。「死に損なった」って』
一方通行「あァ?」
土御門『そいつ――「木原数多」って名前らしいぜ?』
――? 早朝
上条「……」 スースー
バシャァァンッ!
上条「ごぼっ!?ぼぼぼぼぼがっ!?」
本来入ってくる筈の空気が消失し、息を吸おうと思いっきり吸い込んだ所で気管へ水が入る。
むせって咳き込んでしまっても、入ってくるのは水の塊だけだった。
上条「ごぼっ!?ぼががっ!?こばぼっ!?」
気管へと入り込んだ異物を体が拒否し、空気を求めて二度三度両手が探し求める。
片手に何かとっかかりのようなものが当り、それを手がかりにして水から上がろうと――。
上条「がぼっ!?」
――と、した所で自身の頭を掴む何者かの腕に気づく。
先程からもがいているのは、惨めったらしく足掻かねばならない原因は……。
上条(……あ、やば――)
プツリ、と上条の意識が暗転する直前、体が軽くなる。
引き上げられているのだ、と感じる間もなく床に転がされた。
上条「げほっ!げほっげほっ!」
肺に溜まっている水を押し出しながら考える。どうしてこんな羽目になったのか、と。
上条(昨日は確か……あぁバードウェイが遊びに来たんだっけか)
上条(何か色々あって『明け色の陽射し』団に入っちまったけど、まぁその内飽きる……と、思う事にしておこう。俺の精神衛生上の問題で)
上条(俺とバードウェイ、戻ってきたパトリシアとマークの四人で少しお喋りして、ああっと)
上条(夜も遅いからパトリシアを送っていくって話になって)
上条(俺は確か……バードウェイのビリビリ猫グローブ?だかのダメージが残ってたから、寝ちまう事にしたんだったな)
上条「……」
上条(なんだろうな、あれ?あんな霊装作る必要があんのか?もうちょっと出力抑えれば、イタ気持ちいいって感じかも)
上条(……あ、でも肩こりがスッキリ取れてる。ちょっと欲しいかも、あれ)
上条「……」
上条(その後は……覚えてない。バードウェイには合鍵渡したし、勝手に帰って来たんだろうか?)
上条(マークがついてるから心配は要らないんだろうけど、まぁ)
上条(つーか何?ここどこ?)
上条(っていうかさっきから俺の背中をさすってくれてんのは、誰だ?)
咳き込みながら、しかも寝起きで水に中へ突き落とされ、更には窒息寸前まで苦しめられた。
途中で止まったのは害する気がない、または誰かが助けてくれたかの二択か。
ようやく戻ってきた呼吸をややオーバーにしながら――最悪、横にいる相手に飛びかからないといけないので――ゆっくりと室内へ焦点を合わせていく。
上条(小さな窓とジメっとしているクリーム色の壁。風呂場、か?)
上条(スーパーで買ったシャンプー、3個98円の牛乳石鹸と軽石)
上条(ステイルが置いてったインデックス用のトリートメント?……って事はここ、俺んちじゃねぇか)
上条(あと、右手が引っ張られて痛い……なんだこれ?バスタブんとこの蛇口に手錠で結ばれてる……?なんで?)
上条「……けぼっ……」
上条(って事はだ。一連の事件の犯人は……あぁ、成程。ドSロリを昨日から下宿させてんだったか)
上条(あまりにも苛烈な朝の起こし方だって話?幾ら何でもやりすぎ、っていうか怒るべきだよなぁ、これは)
上条(起こしてくれたのは有り難いけど、言うべき事は言わないと……俺の命のためにもな!)
上条「……なぁ、バードウェイ。確かに俺を起こしてくれたのは嬉しい、けどこれは幾ら何でもあんまりじゃないかな?」
?「……んんー?」
上条「お前は優しい子なんだよ!だからやれば出来る筈なんだっ!」
?「優しいコナ○は睡眠薬を人に盛らないと思うよ?てかあれ、傷害だよね」
上条「コ○ンじゃねぇよ!?誰がバーローの話を――あ、あれ?」
?「ん?なあに、当麻お兄ちゃん?」
上条「……お前、だれ?」
?「あ、そっかぁ。自己紹介はしてなんいだっけ、失敗失敗」
?「改めまして、当麻お兄ちゃん。わたしの名前はねぇ――」
木原円周「木原円周、って言うんだよっ」
――『明け色の陽射し』極東アジト(※上条のアパート) 風呂場
上条「……待て待て。確かに顔は憶えてるけどもだ、取り敢えず落ち着いて話し合おうぜ」
円周「うんっ、いーよ」
上条「俺んちだよね、ここ」
円周「とりあえずびしょ濡れになっちゃったねぇ。とりあえず脱ごっか?」
上条「聞いてないよね?キミ今何に対して『いーよ』つったの?」
円周「あーぁ、わたしもびしょびしょだぁ」 ヌギヌギ
上条「脱ぐな脱ぐな脱ぐなっ!嘘吐けよっ!?お前腕以外全然濡れてな――腕、以外?」
円周「お兄ちゃん?」
上条「状況を整理したいんだけど、いいかな?良くなくてもするけども」
上条「俺んちだよね、ここ?」
円周「だねぇ」
上条「俺は全身ずぶ濡れ、しかも右手が手錠で固定されているよね?」
円周「蛇口にしっかりロックされてあるねー。しかもこれ合金製だから、市販の器具じゃ取れないし」
上条「3分ぐらい前、水の中に叩き落とされたんだけど」
円周「あー、ちがうちがう。バスタブの中で寝てたから、水を張っただけだよ?」
上条「……さて、現在この部屋には全身濡れまくった俺と、片腕しか濡れてない木原がいる」
円周「あ、円周って呼んで欲しいな?ね、いいでしょ?」
上条「そんな円周さんに問題です。俺を朝一で溺死させようとした犯人は誰?」
円周「えっと……」
円周「○ナン君じゃないかな?」
上条「オイ馬鹿止めろ!小さな巨人にケンカ売るんじゃねぇ!」
円周「あれあれー、毛○のおじさん声が変わってるよー?」
上条「コナ○君のフリして無邪気にDISるのヤメテあげて!?山○さんは降板ん時に号泣してたんだからな!」
円周「実質Bパートの主役なんだけどねー」
上条「そうじゃねぇよっ!俺が聞きたいのは高騰する声優のギャラじゃねぇ!」
上条「この惨状を作ったのって――」
円周「わたしだねっ!!!」
上条「人の台詞食いながらあっさり肯定しやがった!?」
円周「……お兄ちゃん、怒っちゃった?」
上条「そりゃ朝一でSA○ゴッコされりゃあなっ!」
円周「あ、じゃあ今から脱ぐからちょっと待っててね?」
上条「関係ねぇなっ!どっからその発想持って来やがった!?」
円周「え、体で払えって。お兄ちゃんの顔が言ってるし?」
上条「妄想だよね?俺どんだけエロ好きそうな顔してるんだ!?」
円周「じゃあ脱がない方が良いのかな?ブラだけつけた方が良いの?」
上条「全部着とけ?つーかお前ん中の俺はどんだけ鬼畜なの?」
円周「優しい当麻お兄ちゃん、だいすきーっ!」 ギュッ
上条「オイバカ離れろっ!つーか引っ張るな右手が痛いっ!」 ドンッ
円周「許してくれたお礼に――円周を、あげるね?」 ヌギヌギ
上条「トラップにも程があるよなぁぁっ!?どっち選んでも詰んでんじゃん!?」
円周「大丈夫、一生ここで円周と暮らそ?なんでもしてあげるから、ね?」
上条「病んでるーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」
円周「あ、子供は二人がいいなー。女の子一人と男の娘一人」
上条「子供がガチ虐められるから止めよう、なっ?人生ハードゲームになって病むから!」
円周「一人目はねぇ、率?」
上条「親が円周で、子供の名前が率って問題ありすぎじゃねぇか!」
円周「二人目はπ(ぱい)?」
上条「男でも女でもその名前は重すぎる!?どんな体型に育ってもあだ名は『おっぱ×』の一択だから!」
円周「三只眼(さんじやん)は古いのかなぁ?」
上条「いや、どっちかっつーと後半以降置物状態、固定砲台の座すら失っていったし……」
円周「SLGで主人公の兄貴分として出て来るんだけど、成長値が低くて一般人だから装備も貧弱で」
円周「いつのまにかリストの肥やしになってるユニット的な?」
上条「仕方がねぇんだよ!ゲーム的に序盤から強いユニット出すとバランスがダダ崩れになるし!」
円周「もうっ!当麻お兄ちゃんってば、ワガママなんだから」
円周「こういうときはどうすればいいんだっけ――」
ジジッ
円周「うん、うんっ!そうだよね、数多おじさんっ!『木原』ならこういう時、こうすればいんだよねッ!」
上条「な、なんだよっ!?ち、近寄るなっ!」
円周「変な事しないから、ね?ちょっとだけ、ちょっとだけだから!」
上条「な、何するの……?」
円周「ヒントいーちっ!――兄妹で出来ることぉっ!」 ジリッ
上条「おままごと、的な?」
円周「ヒントにーっ!最近は義理じゃなくてもおけ!」 ジリジリッ
上条「オーケー、じゃねぇよ!俺の想像でしかないけども!それは絶対に容認しちゃダメだと思う!」
円周「でも『俺○』ではお父さんの心配が100%的中しちゃって近親――」
上条「それ以上はかんべんな!俺も含めたファンの人は『義理とかサブヒロインに逃げなかった伏○先生マジ神猫!』って納得してんだから!」
円周「神猫って誉め言葉なのかな?要は『可愛イタイ』を遠回しに言ってるだけだと思うよ」
上条「あんの切ない結末に!どれだけ俺達黒○派が涙したと思ってんだコラアアァァァァァァッ!?」
円周「――っと、はいっきゃっちー、つっかっまっえったーっと」
上条「……えっ?」
円周「ごめんね、当麻お兄ちゃん。わたしはあや○ちゃん派だからね?」
上条「知ってた!何となくそんな気がしてたもんね!」
円周「さってと、それじゃ脱ごうっかぁ」
上条「もうヒントの欠片もねぇな!ストレートすぎるだろっ!?」
円周「うん、うんっ!そうだよね、病理おばさんっ!『木原』ならこんな時こう言うんだよねっ!」
円周「『へっへっへ!下の上条は素直じゃねぇか――』」
上条「言わねえなぁっ!俺その人知らないけど多分言わないと思うぜ!」
円周「よっしそれじゃキスから行ってみようか?あ、わたしも初めてだから――」
パァンッ!
バードウェイ スチャッ
上条「バードウェイすわぁんっ!助かったーーーーっ!」
円周「あっぶないなぁ。いくら旧式の銃だからって、頭に当たれば死んじゃうんだよ?」
バードウェイ「あぁすまない。殺そうと思ってたんだが、一撃でしとめられなかったなぁ」
上条「あ、あれ……どうしてバードウェイも殺気立っているの……?」
バードウェイ「ボスと呼べ……朝一で手錠プレイか。救いがたいな」
上条「無理矢理じゃねぇか!?状況よく見ろよ!」
円周「あれあれー?ねぇ、ジェラシー?嫉妬しているのー、へーえ?」
円周「お子ちゃまは邪魔しないでほしいな、ってキハラは言ってみたり!」
上条「バードウェイさんっ子供の戯言を真に受けないで!俺は無実ですから!」
バードウェイ「心配するな。私は仮にもボスだぞ?それ相応の器量がなければやっていけん」
上条「だよねっ!よっ、流石マニア系っ!」
バードウェイ「小娘を始末してから後ろの間抜けもキィィィッチリ送ってやる。続きはあの世で存分にすればいい」
上条「俺も死亡フラグ確定かよっ!?」
円周「ロ×コニアってあるのかなぁ?」
上条「ねぇよっ!?あってたまるか!あとその国は死んでも行ける資格は無いと思うぜ!」
バードウェイ「……と、言うか貴様何者だ?」
バードウェイ「このアパートに近寄る人間を監視させている上、無許可で入る人間は捕獲しろと命令してあるんだが」
上条「お前また勝手に話を進めやがって」
円周「監視……?あぁうんっ、わたし知ってるよ!そっかー、あの人達監視だったんだねぇ」
円周「てっきりストーカーか何かだと思ったから、めっ、って叱っちゃったんだよ。ごめんね?」
上条「具体的には……?」
円周「殺して“は”ないよ?早く殺してくれ、っては言ってたけど」
上条「何したの君?あんま聞きたくないんだけど、歴戦の魔術師相手にどんだけオーバーキルしたの?」
円周「ムカデ人――」
上条「はい待ったーーーーーーーっ!それ以上言ったら精神保たないから聞かないからなっ!」
バードウェイ「……面倒だなぁ、おい。あー、面倒臭い」
円周「だよねぇ?せっかく独りで大ちゃーんすだぜっ、って来たのに面倒だよねっ」
バードウェイ「じゃあまぁ――ここは一つ、スマートに行こうか」
円周「うん、うんっ!そうだねっ、数多おじさん!『木原』ならこんな時こうすればいいんだよねッ!」
上条「おい二人とも止めろ!?風呂場で殺し合うんじゃねぇっ!」
バードウェイ「返り血を落としやすくて、実にうってつけの場所だよなぁ」
円周「魔術、って言う能力を使う人なんだよね?常人とは脳の構造が違うのか、学術的興味を刺激するよねっ!」
上条「話を聞いてっ!?」
上条「誰かっ!?誰でも良いから助け――」
ガチャ
シェリー・クロムウェル「……おーい上条当麻ー。ドア開いてるわ、よ」
シェリー「……あん?」
上条(※全身ずぶ濡れ、手錠で拘束されている)
円周(※少し濡れてる。血生臭い。幼女)
バードウェイ(※右手はフリントロック式の銃、左手は魔術武器。幼女)
シェリー「……猟奇系の都市伝説ごっこ?」
上条「惜しいっ!お前が後10分遅れてたらそうなってた!そして間に合ってくれてありがとう!」
シェリー「あー……良く分からないけど、マカダミアナッツ、食べるか?」
――10分後 四人でテーブルを囲んで
上条「えっと、だな。取り敢えず自己紹介をしないかな?黙々とマカダミアナッツつまむのもアレだしさ」
上条「てか一人一箱割り当て、しかも六箱余るのって大過ぎじゃねぇのか?」
シェリー「禁書目録用に持ってきたんだけど、すれ違いになったみたいね」
バードウェイ「建設的な発言に聞こえるが、それは藪蛇だぞ新入り」
上条「なんでだよ」
バードウェイ「立場を曖昧にしておいた方が、表面上だけでも仲良くできる――こいつらがグレムリンだったらどうするつもりだ?」
上条「シェリーは前からの知り合いだし、円周が敵だったらもうどうにかなってるんじゃ?」
バードウェイ「トールと共闘して半殺しにされたバカは説得力が違うな。ま、騙す気があれば何をどうしたって意味はないか」
上条「ま、まぁ分かってくれたようで」
円周「諦めてられてるだけと思うよ?」
上条「スルーしたのに掘り下げるなっ……ああっと、俺は学園都市で学生やってる上条当麻です。よろしく」
円周「同じく学園都市に住んでる木原円周ですっ。円周って呼んでねっ」
バードウェイ「木原円周……オイオイ、『木原』のスプリーキラーか」
上条「スプリー?『お祭り殺し』?」
シェリー「大量殺人鬼のあだ名みたいなものよ。対象が無差別、短時間に大量やらかすから『お祭り』なんだと」
バードウェイ「バゲージシティでのキルレシオ121:1。しかも現地調達式――ジェイソ○型だからタチが悪い」
円周「てへぺろっ☆……あ、でももっとたくさん、めっ、しちゃった気がするけど」
上条「バゲージシティで保護した一般人じゃなかったのか……」
円周「当麻お兄ちゃんはお持ち帰りしなさい、って言われてたから殺しはしなかったよ?ホントだよ?」
シェリー「発想が虫レベルじゃねえか」
上条「あれはなぁ……いやいや、つーか円周」
上条「お前、何しに来たんだ?学園都市の命令じゃないよな?」
円周「鞠亜ちゃんを『ぐちゅぐちゃくぱぁ』ってしようと思ったんだけど、わたし負けちゃったんだよねぇ」
円周「だから『上条当麻』が足りないって分かったから、勉強しに来たぜっ」
上条「ごめん、誰が通訳して貰って良いかな?」
シェリー「何一つ分からないけど、野放しにしたらいけない人間だとは分かったわ」
上条「お前が言うな……ん、なに?」 クイクイ
バードウェイ「(更正させろ。割と素早く)」
上条「(この子をかっ!?)」
バードウェイ「(良く分からないが、お前を勉強しに来たんだから、ある程度言う事はきくだろ)」
上条「(いや、初対面から命の危険と生命の尊厳の危機をひしひしと感じるんだけど)」
バードウェイ「(『お兄ちゃん』だろ?少しの悪戯は笑って許してやれ)」
バードウェイ「(ガキの戯言に一々反応するのも馬鹿らしいだろ)」
上条「(まぁ、了解)……んじゃ円周さ?」
円周「お兄ちゃんはブラ着けてない娘はどう思う?」
バードウェイ「よし、戦争だな。表へ出ろ小娘が!」
上条「お前たった今自分で言った台詞を思い出せよっ!?」
シェリー「……なぁ、帰って良いかしら?顔見せに来て巻き込まれるのは割に合わねぇだろ」
上条「待って下さい!割と第三者挟まないと血みどろになりそうです!」
シェリー「……あー、円周だっけか。あなた、上条当麻の知り合いとのケンカ禁止ね」
円周「あなたは、だあれ?」
シェリー「シェリー=クロムウェルよ。イギリス清教だから学園都市に攻撃される筋合いは無いわよね」
バードウェイ「また飛び道具だな、これは」
シェリー「んで、人殺しも禁止。そうしないと追い出す――ってこいつが言ってた」
上条「あ、あぁあぁ!そうだな!」
上条(ナイスだシェリー!)
円周「んー……なんで?なんで人を殺しちゃいけないの?」
シェリー「そりゃアレでしょ、当然……なんでだ?」
円周「話の合わない相手をぶち殺しても構わないよね?」
シェリー「だよなぁ。お前良い事言うわね。ほら、マカダミアナッツもっと食え」
上条「最後まで頼りにさせてくれよっ!?あっさり寝返るんじゃなくさぁっ!」
バードウェイ「……なんだろうな、これ」
上条「あー……それじゃさ、えっと……円周はさ、甘いもの好きか?」
円周「大好きっ!当麻お兄ちゃんの次ぐらいに!」
シェリー「……信憑性が一気に消し飛ぶわなぁ」
上条「もしも、だ。バゲージで円周が死んじゃってたら、もう食べられないだろ?それは嫌だよな」
円周「うーん、嫌、かも?」
上条「他の人も同じなんだよ。生きてさえいればきっと良い事だってあるだろうし」
円周「他の人の『好き』を奪っちゃダメって事なの?」
上条「犯罪とか、そっちはまた別だとも思うけどな。取り返しのつく事とつかない事はある」
上条「でもそうじゃなかったら、無闇に人を傷つけたりするのはやめて欲しい」
円周「イマイチ理解出来ないけど……うん、当麻お兄ちゃんは『そう』してるんだよね?」
円周「それが『上条当麻』の強さって事なんだよね?」
バードウェイ「……」
シェリー「……」
円周「だったら勉強のためにも試してみるよ。しばらくは、だけど」
上条「余計な一言が不安を煽るけど、まぁ頼む」
バードウェイ「人類が狼を飼い始めた頃って、きっとこんな感じだったんだろうな」
シェリー「魔術師的にはガキの方が正しい気もするわね」
上条「んでシェリー、お前はなんで来たんだ?インデックスへのマカダミア係?」
シェリー「そんなにヒマじゃねえわよ。つーか居ると思ったのに」
上条「ま、まぁインデックスはイギ(以下略)だからいいとして」
シェリー「イギリスの美大で講師やってんだけど、学園都市から依頼があったの」
バードウェイ「よく引き受けたな」
シェリー「魔術がどうこうじゃなくって、鑑定してほしいって話……だった気がする」
上条「……大丈夫なのか?」
シェリー「ん、あぁイギリス清教には一言入れて許可は貰ってるわよ」
上条「そうじゃないんだけど……まぁいいか。んで、鑑定って何?」
シェリー「あー……?タローがどうこう言ってたかぁ?」
上条「太郎?桃太郎とか、民話の研究か?」
円周「タロットじゃないかなぁ?イェール大学から借りてるって数多おじさんが言ってたよ」
シェリー「英語圏じゃ語尾の“t”は発音しないんだ。現存する最古のタローはイタリア人が作ったやつだから、『タロッコ』が正しいのかもな」
シェリー「にしてもイェールか。ってこたぁスフォルツァ版だよなぁ……」
上条「へー、タロットの鑑定なぁ。少し前に流行ったダヴィンチの秘密の暗号とか?」
シェリー「……帰っていいかしら?ガキのお遊びに付き合うほどヒマじゃないわ」
上条「苦手か?」
シェリー「タロー――タロットの絵描いてんのは当時の画家だからな。そっから何か調べたいんだろ」
シェリー「つーかな、タロットに関しちゃ私よりも適任が居るでしょうが」
バードウェイ「……」
上条「ハードウェイ?」
シェリー「やっぱり『明け色の陽射し』か、魔術武器見てもしかしたら、とは思ったんだよ」
シェリー「レイヴィニア=バードウェイ、だな」
バードウェイ「だったらどうするイギリス清教?」
シェリー「おいおいお嬢ちゃんちょぉぉっと自意識過剰じゃねえかぁ?」
円周「端的に言うと?」
シェリー「面倒臭い。組織の抗争なんか興味ないの」
上条「それで済ませるのどうかと思うんだけど。ケンカは無しでね?ねっ!」
バードウェイ「自己紹介、まだ続けるのか?」
上条「あ、はい。お願いしますバードウェイさん」
バードウェイ「バードウェイじゃない、ボスと呼べと。まぁ紹介はするまでもないな」
円周「シェリーお姉ちゃんとレイヴィニアちゃん……愛称とか無いの?」
バードウェイ「煩いな。お前達と馴れ合うつもりはない」
円周「ニアちゃん、わたしはまどかお姉ちゃんって呼んでね?」
バードウェイ「……ほぉ?」
上条「ケンカいくない!堪えてっ!」
バードウェイ「参考までに聞くが、私が『お姉ちゃん』でないと判断した根拠は?」
円周「わたしはブラ着けてるんだよ?」
バードウェイ「やったんぞクラアアアアァァァァァァァっ!!!」
上条「だから抑えろって!お前の沸点はピンポイントで低すぎるっ!」
円周「お兄ちゃんにはさっき見せたよね?」
シェリー「未来に生きてんなジャパニーズ。源氏物語だっけ?」
上条「アレはアレで別の意味があって!育てるのを放棄するのが真性の人達だろっ!」
シェリー「レイヴィニア=バードウェイ、だな」
バードウェイ「だったらどうするイギリス清教?」
シェリー「おいおいお嬢ちゃんちょぉぉっと自意識過剰じゃねえかぁ?」
円周「端的に言うと?」
シェリー「面倒臭い。組織の抗争なんか興味ないの」
上条「それで済ませるのどうかと思うんだけど。ケンカは無しでね?ねっ!」
バードウェイ「自己紹介、まだ続けるのか?」
上条「あ、はい。お願いしますバードウェイさん」
バードウェイ「バードウェイじゃない、ボスと呼べと。まぁ紹介はするまでもないな」
円周「シェリーお姉ちゃんとレイヴィニアちゃん……愛称とか無いの?」
バードウェイ「煩いな。お前達と馴れ合うつもりはない」
円周「ニアちゃん、わたしはまどかお姉ちゃんって呼んでね?」
バードウェイ「……ほぉ?」
上条「ケンカいくない!堪えてっ!」
バードウェイ「参考までに聞くが、私が『お姉ちゃん』でないと判断した根拠は?」
円周「わたしはブラ着けてるんだよ?」
バードウェイ「やったんぞクラアアアアァァァァァァァっ!!!」
上条「だから抑えろって!お前の沸点はピンポイントで低すぎるっ!」
円周「お兄ちゃんにはさっき見せたよね?」
シェリー「未来に生きてんなジャパニーズ。源氏物語だっけ?」
上条「アレはアレで別の意味があって!育てるのを放棄するのが真性の人達だろっ!」
シェリー「あー、帰っていいかしら?顔見せと挨拶はもう充分でしょうし」
上条「出来ればトラとジェイ○ンと相部屋になってる俺の立場も、少しは考慮してくると有り難いんだけど」
シェリー「カマキリの交尾って知ってるかしら?」
上条「参考にならねぇなっ!要は逃げるしか生き残れないって話だろ!」
円周「ねーねー、シェリーお姉ちゃんは今日からお仕事なの?」
シェリー「いや、明日から顔出せって言われてるわよ」
円周「荷物はバッグ一つなの?」
シェリー「何よ?」
円周「そのお洋服で行くのは、ちょっとキツいと思うんだけど」
シェリー「キツいってなんだ、キツいって!普通のゴシックだろ!?」
上条「あぁいや似合うとは思うんだよ?その、日本人がしたら笑いを取れる格好でも、お前だと違和感はないし」
シェリー「だったらいいじゃない。てかお前凄ぇ事言ってるよな?」
バードウェイ「その歳でゴスロリ着るなよ。見ている方が気を遣うだろ」
上条「バードウェイっ!?言葉を選べって!そういうの本人が一番気にしてるんだから!」
シェリー「テメェも似たようなもんだろうが、つーかゴスロリじゃないわ――後、お前はやっぱり殺すな?」
上条「俺が悪いのかっ!?」
円周「最後の一線踏み抜いたのはお兄ちゃんだと思うけど。あ、だったらさ」
円周「みんなでお洋服買いに行こーよっ!仲良くしたいから、ねっ?」
シェリー「私には関係ねぇわよ」
円周「えーっ!?ねーねーっ、行こうよぉシェリーお姉ちゃんっ!」
シェリー「テメェに『お姉ちゃん』呼ばれる筋合いはねぇんだけどな――次、呼んでみろ」
シェリー「下顎を麻酔無しで引き抜くわよ」
上条「待て待て待て!シェリーも円周も落ち着け!つーか円周は気軽に馴れ馴れしくしない」
円周「売女って呼んだら鞠亜ちゃん激おこだし、おばさんも良くないんでしょ?」
上条「シェリー“さん”な?それで頼む」
シェリー「……ふん。付き合ってられねぇな」
上条「お前も話ぐらい聞いていけよ!つーか頼むバードウェイ!」
バードウェイ「ボスと呼べ……ま、手伝ってやるよ」
バードウェイ「――シェリー=クロムウェル。私の話を聞け」
シェリー「あぁ?」
バードウェイ「シンプルな話だ。君は私の忠告を聞かないと一生後悔する羽目になる」
シェリー「下らねぇわよ。後悔なんざ死ぬ程してる――それとも、あなたがさせてくれるって言うのかしら?」
上条(やばっ!ブチキレ寸前か!?)
円周(ふんふん。挑発して話を聞かせるのかー)
バードウェイ「とんでもない。君に屈辱を与えるのは私ではないさ。強いて言うのであれば、この『学園』だな」
シェリー「学園都市が……はっ!やれるもんならやってみやがれ!私はもう失うもんなんざ残ってねぇんだよ!」
バードウェイ「そう、言い切れるかな。ではクロムウェル、そこから窓の外を見てみろ」
シェリー「……」
バードウェイ「見るんだ。いいな?」
シェリー「……」
シェリー「――アレはっ!?」
バードウェイ「どうだ。これが現実だ」
シェリー「チクショウっ!?……クソが!学園都市はまだ私から奪おうってのかよ!?」
シェリー「私の尊厳すらも!残った矜持すらもかっ!?」
円周「(ねーねーお兄ちゃん?)」 サワサワ
上条「(なに?あと微妙な位置をサスサスするの止めて貰えるかな?分かっててしてると思うけど)」
円周「(お外、別に珍しいものはないよね?二人で何を言ってるの?)」
上条「(だよなぁ?特にどうって事無い朝の風景だよな)」
円周「(目立つのは繚乱家政の学生さん達の奉仕活動ぐらい、だよねぇ)」
上条「(路上のゴミ拾いだけどなー)」
上条「……なぁバードウェイ、さっきから何の話?」
バードウェイ「クロムウェルに聞け」
円周「どうしてそんなにダメージを受けているの、おね――シェリーちゃん?」
シェリー「……見えないのか、お前達にはアイツらの姿が!?」
上条「学生メイド達だよな。あ、舞夏もいる」
円周「鞠亜ちゃんも混じってるよねー。んー、挨拶した方が良いのかな?」
上条「あれは確かに学園都市じゃそんなに珍しくないけど。それが?」
シェリー「アイツらの服、おかしいだろ!?なんでメイド服なのラメ入りとかゴシック!ロリータ調のまであるんだっ!?」
上条「あー……多種多様な指向性に対応するため、かな?」
円周「一言で言えば『趣味』だよね、うん」
バードウェイ「さあぁっクロムウェル!想像してみるんだ!君がその格好で学園都市を闊歩している姿をだ!」
シェリー「や、やめろっ!?それ以上私の心を折るな!」
上条「いや、別に問題ないだろ?つーかメイド校との関連が分からん」
円周「さっきはあぁ言ったけど、シェリーちゃんにはよく似合ってると思うし……仕事着はちょっと、だけど」
バードウェイ「そりゃあなぁ?お前達は慣れているから、もしくは人よりも観察眼が優れているから『別物』だと分かる」
バードウェイ「だがな、新入りと――」
円周「円お姉ちゃんねっ」
バードウェイ「小娘以外はどう思うだろうな?」
上条「バードウェイさん、お顔が悪魔の顔してますよ?」
バードウェイ「空気読め、あとボスと呼べ」
シェリー「あ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
バードウェイ「流石は理解が早くて助かるよ、クロムウェル。聡い君は分かる……いや、理解してしまうんだ」
上条「そろそろ小芝居に付き合うのが面倒になってきたんだけど」
円周「もうちょっと待ってみよう?ダメだったら、私が二人をフレ/ン○するよっ」
上条「その人は知らないけれど碌な意味じゃねぇよなぁっ!?」
シェリー「……クソが!呪われろ学園都市!魔女のばあさんに呪われてしまえ!」
バードウェイ「無駄だよクロムウェム。君がここへ来たのは昨日か今日、だから何をしようと何を言おうと変わる訳がない。変えられる訳もない」
バードウェイ「そう!君がその『黒ゴスを着ている限り、メイド中の関係者だと思われる』んだ!」
シェリー「くそおおおおおおおぉぉぉぉっ!」
上条「……はい?」
円周「あー……なるほど」
バードウェイ「流石に、流石にその歳で生徒は思われないだろう。それはそうさ!当たり前の話だな!」
バードウェイ「だが君を見た学園都市の人間はこう思う訳だ――『あ、あのおねーちゃんメイド中学に憧れてあんな格好してるんだー』と!」
シェリー「……!?」
上条「なんでメイドに間違われる事ぐらいで凹んでんの?病気なの?」
円周「美術スキルが高い分、パチモンと間違われるのは屈辱の極みなんだと思うよ」
シェリー「……学園都市ぃぃぃっ!まさかそんなトラップを張ってたのかよ!」
バードウェイ「諦めたまえクロムウェル。むしろ君は私に感謝すべきだな」
上条「お前もドヤ顔で言ってるけど、中身は大した事言ってないからな?何となくイチャモンつけてるだけだからな?」
円周「(ねね、お兄ちゃん?)」 コスコス
上条「(なに?あと敏感な位置をコスコスするの止めて貰えるかな?確実に故意だよね?)」
円周「(やだお兄ちゃん……恋だなんてっ!)」 テレテレ
上条「(お前も佐天さん系の人?あの娘とジクソ○を悪魔合体するとお前になるよね?)」
円周「(真面目なお話、どんな格好を本人が納得してればいいんじゃ?)」
上条「(いやぁでも、あのメイド達と同系列で見られる、ってのは嫌なんだろ)」
円周「(繚乱ってメイドじゃないもんね。もうレイヤーさん養成校ぽいし)」
バードウェイ「さぁさぁどうするんだ?君に残されている選択は二つある」
シェリー「……」
バードウェイ「一つはこのまま黒ゴスを着続ける方法。シンプルで嫌いじゃない。私も良いとは思うよ、別に?」
バードウェイ「だがその代わり、君が滞在中、道を歩けば歩いているだけで『うっわーメイド厨だー』とドン引きだね」
バードウェイ「そしてもう一つの選択肢。そこのガキと一緒にどこかの服屋で買い物をするんだ」
バードウェイ「妥当ではあるが、まぁまぁ面白みはないね。私は正直こちらをオススメしない」
シェリー「……クソが!」
バードウェイ「さぁ!どうするシェリー=クロムウェル!信念を捨て衆愚に笑われるか、それとも妥協するべきなのか!?」
バードウェイ「君が、決めろ。道は私が提示した」
円周「(あのぉ、お兄ひゃん?)」 カミカミ
上条「(なに?あと人の首筋を甘噛みするの止めて貰えるかな?)」
円周「(別にこれ、そんなに大げさにする話じゃないよね?)」
上条「(つーかここまで引っ張って誰得的な感じでもあるし)」
円周「(――あ、オチ読めた。お兄ちゃんが得だよ、これ)」
上条「(どゆこと?)」
バードウェイ「さぁさぁ!?」
シェリー「……分かってた。いつかこんな日が来るんじゃねぇかって事は」
上条「どんな思考をしたら出先のメイド中とユニフォーム被るって発想になるの?テキトーだよね?何となくノリで言ってるだけだよな?」
シェリー「……すまない。私は信念を守れそうにない……!」
上条「どんな信念か分からないけど、量産型メイドに間違われたくないだけだよね?それ未満だって話だよね、信念が」
シェリー「……上条当麻」
上条「は、はい?」
シェリー「服を貸せ――この格好で服屋に行く事すら耐えらないっ!」 ヌギッ
上条「女の子がっ!威勢良く脱ぐんじゃありませんっ!?つーか黒ゴスの下の黒ブラって似合いすぎてもうねっ!」
円周「流石お兄ちゃん!ここまで考えての犯行だよねっ?」
バードウェイ「……ほぅ?」
上条「待てやっバードウェイ!?今のっ!今のどこに俺の関わる余地が――つーか脱ぐな脱ぐな脱ぐなっ!」
円周「おー、じゃ円周も脱ぐね?」
上条「お前バカじゃねぇの!?なんで連鎖して脱衣する方向にシフトしてんだよっ!?」
シェリー「良いから服出せよ、寒いだろ」
上条「お前はお前で羞恥心ってものを持とうぜっ?若い娘さんなんだし!」
シェリー「ガン見されてる奴の言うこっちゃないよなぁ、それ」
上条「いやだなぁシェリーさん、年上のおねーさんに弱いなんてのはデマデスヨ?」
バードウェイ「よーし新入り。オシオキの時間だ」
円周「あ、可愛い猫グローブだ」
バードウェイ「あぁこれは猫じゃなくてウサギ。ウサギには肉球がないんだ」
バードウェイ「スーパーふわふわウルトラかわいいミラクル虐殺肉ミンチ機能付きラブラブブリティ白ウサギグローブだぞ?」
円周「略すと虐殺ウサギグローブだね」
バードウェイ「よし、その名前採用――では」
上条「あばばはばばばばばばばっ!?死ぬ死ぬ死ぬ死ぬっ!?振動が!ビリビリがあばばばばばばばはっ!?」
シェリー「スラックス……ジーパンしかないのかよ。しかもダメージばっか」
上条「お前も勝手に人んちのタンスあばばばばばばばっ!?」
シェリー「ちょい丈が短い……あぁうん、なんでもないわ」
円周「だよねっ。お兄ちゃんは日本人体型だからね」
上条「お前らっ!?俺の心まで傷つけて楽しいのかっ!?」
バードウェイ「もちろん、楽しいなぁ!」
上条「全員、敵かあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
※今週分の投下は以上となります。読んで下さった方に感謝を
残りは大体半分ぐらい……やっぱ体力落ちてますねー
尚、インデックスヘイトヘイトと騒いでいる方はこっちへどうぞ
私がもしもインデックスさん嫌いならば、きっと以下のSSもつまらないでしょうから
インデックス「この向日葵を、あなたに」
インデックス「この向日葵を、あなたに」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1375930011/)
乙です
乙です
あと30分ぐらいでハケますが、銀魂は『銀×月』でファイナルアンサー?
乙でござんす!
>>84
貴殿の好きな様にやって下され!
では銀月で短編を立てます……スレ荒れそうで怖いですが
乙!
銀月とか俺得
無理にカプリングを作らなくてもいいんじゃないか?
あと十年後バードウェイってこんな感じかな?
ttp://kabegamu.com/wp-content/uploads/jormungand_1.jpg
>>89
ロリカードさんみたい
乙
面白い組み合わせだな
今北乙
面白いし新約キャラのssはありがてえ
GOOD!面白い!
89ってヨルムンガンドだったのか知らんかった
89ってヨルムンガンドだったのか知らんかった
>>89
フフーフwwwwwwwwwwwwwwwwww
>>96
あげないで下さい、
割とマジで。
最近出没してるage荒らしだから構わないのが政界
>>1
貴兄のSSはどれも面白いでゴザル!
トルルルルルルル、トルル――ガチャッ
打ち止め「もしもーし!ってミサカはミサカはお返事してみる!」
男の声『もしもし――ありゃミサカさんち?黄泉川さんじゃねーの?』
打ち止め「ここは黄泉川のおうちなのだ、ってミサカはミサカは繰り返してみた!」
男の声『あぁそうなん?面倒臭ぇシステムだな、バッファ足りてねぇんじゃねぇのか?』
打ち止め「そうなのってミサカはミサ――」
男の声『あーヤメヤメ。それよっかお嬢ちゃん、お宅に白モヤシいるだろ?』
男の声『オジサン、ソイツの知り合いなんだけど、ちょっと呼んでくれねぇかな』
打ち止め「あー、少し前にお出かけしたるみたいなの、ってミサカはミサカは帰ってこないかなーって、玄関を眺めながら言ってみる」
男の声『タイミングが悪ぃのなぁ。久しぶりに帰ってきたから挨拶に、って思ったんだがよ』
打ち止め「おじさん、あの人の友達なんですか、ってミサカはミサカは興味津々できいてみる!」
男の声『あーまぁモヤシの能力開発でちぃと縁があったってだけだぁな……しっかし居ねぇのか。そうかい』
打ち止め「およ?」 ガチャッ
男の声『そかそか。んじゃ、今からそっち行くわ』
一方通行「木ィィィィ原ァァアくゥゥゥゥゥゥゥンッ!」
男の声『なんだいるんじゃねぇか一方通行。つーかオジサン、若い子と話なんざぁ暫くぶり緊張しちまったよクソッタレ』
一方通行「お前ェ……!」
男の声『おいおいおい、「生きてたのか!」とか止めてくれよ?テメェ葬式に香典持って来た訳じゃねえだろ』
男の声『今ちょいと近くまで来てんだから、挨拶にでも行こうと思ったんだがなぁ』
一方通行「いいぜェ?何回でも超遠投してやンよ」
男の声『んが、今日はヤメだ。先約があるん挨拶だけにしとくわ。あー恩師をぶん投げたバカ相手に優しいなー、俺』
一方通行「恩師?はァ?頭ン中、どっかに落として来たンですかァ?」
男の声『――XX学区のデパート、いやアウトレットって言うんだっけか?』
男の声『今日はそこでお仕事すっから、ヒマだったら来れば?』
一方通行「……」
男の声『だよなぁ即答なんか出来ねぇよなぁ。ブラフかも知れねぇし、反対側の学区で騒動が起きるかも知れねぇ』
男の男『テメェを呼び出しといて、お嬢ちゃんかっさらう可能性も充分にあるって事だしなぁ?』
一方通行「何がしてェンだよ、木ィ原くゥンはよォ」
男の声『何、ってそりゃ嫌がらせに決まってんだろ。わざわざ「今から事件起こすから止めてみろ」なんつーのはよぉ』
一方通行「……はっ!バカじゃねェのか、つーかバラバランなったパーツ揃ってねェだろ、あァ?」
一方通行「俺はお前がなにをしようと興味もねェ。勝手にしやがれクソ野郎」
男の声『そう。んじゃしょうがねぇな。まぁまぁお前がそう言うんだったらそうなんだろうな』
男の声『張り合いが無いのも締まらねぇが、イージーモードも悪かねぇか』
一方通行「……もう切ンぞ?お前の下らねェ人生はウンザリしてンだよ」
一方通行「お前は一生の日の届かねェ掃き溜めで、呼吸すンのにも苦労してやがれ」
男の声『さて、一方通行さんに問題です』
一方通行「あァ?」
男の声『たった今俺ぁ「仕事」と言いましたが、実際の段階はどれか。三択問題です』
男の声『一、これから仕事をする。ヒーローさんが来れば助かるかも知れない』
男の声『二、今やってる最中である。ヒーローはダッシュで来れば間に合う』
男の声『三、もう既に仕事は終わった。ヒーローが来ても手遅れである』
一方通行「……クソが!死ね!」
男の声『ひゃはっ!答えは会場で俺と握手――』
ブツッ
打ち止め「ねーねーどうしたのってミサカはミサカは――」
一方通行「出かけンぞ。5分で支度しろ」
打ち止め「やったーーーーっ!アウトレットと言う名の小洒落たデパートに行くんだね!ってミサカはミサカはバンザイしてみたり!」
一方通行「いやァ、お前は浜……HAMADURA?」
打ち止め「はまづら?」
一方通行「そいつンとこて大人しくしとけ。フレなンとかの貸しがある以上、麦野に任しときゃ問題ねェだろ」
一方通行「……一応木原の被験者だったンだっけかァ、あいつも?」
打ち止め「あなたはどうするの、ってミサカはミサカは心配してみたり?」
一方通行「旧交を温めてくる、ってェ感じで、まァ?」
一方通行「次は大気圏までぶン投げとくわ」
――XX学区 商業地区
シェリー「……乗せられて来ちまったのもアレだが、人多いなぁ」
上条「まぁ230万人だか居るんだし、需要もそれなりに」
シェリー「あぁ鬱陶しい。服買ったらさっさと帰るわ」
上条「観光とか……は、興味ないんだよね」
シェリー「古いテンプル、聖堂や神殿とかは調べたいと思ってるわね」
シェリー「なんでも極東の島国には最強の『鋼』が眠るって話もあるぐらいだし」
上条「カンピオー○?それラノベの話だよね?」
シェリー「ていうかいつも思ってるんだけど。どうして日本側は天草式ぐらいしか魔術師が出て来ないの?」
上条「どうだろうなぁ。あんま会った事はないから分からないけど」
上条(土御門が来てるんだから、それなりに意識して住み分けてる感じか)
シェリー「それ以外はまぁ別に。学園都市には無いんでしょ、そういう所」
バードウェイ「無い、訳では無いが、徹底的に排していたな」
バードウェイ「どっかのバカに騙されてそれらしき所へ行ったが、魔術的要素は皆無、特定の何かをなぞった形跡もなし」
バードウェイ「大体守護神にネギ持たせて何がしたいんだろうか……?」
上条「おい!オワコン呼ばわりされながら7年目に入った○クさんディスるな!」
円周「あとネギは……うん、織○ちゃん良い子なのに、どうして蛇蝎の如く嫌われるのかな?」
上条「多分ツッキ○が敬遠される理由と同じだと思うよ?詳しくは分からないけど」
円周「シェリーちゃんは最新のモードとか知らないの?」
シェリー「興味ねえわよ、つーかファッション誌読むぐらいだったら――いや、そうでもないか」
上条「モードって?」
バードウェイ「『流行りの服』を小難しくした言い方だよ。お前の人生で使う機会は無いと思うが」
シェリー「衣装に魔術記号をもたせる奴も結構居るから、年代物の服飾は知らなきゃいけないの、よ……オイオイ」
シェリー「なんだぁ?デパートにオートクチュールって、どこの国だよ」
上条「バードウェイ?」
バードウェイ「ボスと呼べ。『お高い服屋』だと思っとけ」
円周「んー、シェリーちゃんは実用的なお洋服が好きなんだよねぇ」
シェリー「そうだけど。言ったかしら?」
円周「なんか、そんな空気出してるかも?」
バードウェイ「ゴスロリ普段着の奴は分からん。ガーリィでも着とけばいい」
シェリー「頭おかしいだろそれ」
上条「えっと……?」
円周「お兄ちゃん、ファッション誌とか読む?」
上条「立ち読みでちょいちょい。買う時は値段と相談で」
シェリー「の、割にはノーブランドのダメージジーンズばっかりだったけど」
上条「あれはねー……うん、元はフツーのボトムだったんだ」
上条「でもねっ!1エピソードが終わってみれば、ボロボロになってんだよ!」
シェリー「どういう話だよ」
バードウェイ「恐らく、日常生活がバイオレンス過ぎて」
円周「ケンカに巻き込まれたり、フラグを立てたり、立てたフラグをへし折ってビリビリーと」
バードウェイ「普通に買った普段着も気がつけばボロボロに、って話だろうな」
シェリー「不憫な奴……」
円周「話を戻すけど、ファッション誌でも『誰着るの?』の組み合わせがあるよね?」
上条「あー……罰ゲーム的な配色と、どう見ても浮きまくってるダサいブランドとか!」
バードウェイ「趣味は人それぞれ、また国によっての趣向もあると思うが」
シェリー「明らかに『場違い』なのはあるのよ」
上条「てっきりアレって俺のセンスがないもんだとばかり」
円周「ファミ○はクソゲーや深刻なバグ持ちもでも殿堂入るよね?」
上条「大丈夫!ファ○通だし!……あぁ、納得」
シェリー「だからまぁブランド関係無しに選べ、と。まさか学園都市にトラップがあったとは気がつかなかったけどな」
上条「罠、っていうか、別にいいんじゃね?と思うんだけど」
バードウェイ「だったらお前、常盤台の制服着てる社会人見たらどう思う?」
上条「ごめん。今のは全面的に俺が悪かった」
円周「んじゃお兄ちゃんも分かってくれた所で、入ってみようか」
シェリー「おい。ンな高ぇもんじゃなくてもいいわよ。どうせこっちに居る時しか着ないんだし」
バードウェイ「アーティストも結構だが、同行する他の人間にも気を遣え」
シェリー「知り合いは毎年シスター服しか居ないんだけどな」
上条「ま、まぁまぁ!俺達と遊びに行くとかあるだろうし?」
シェリー「だから馴れ合うつもりはねぇんだよ」
円周「すいませーん!ちょっと見繕って欲しいんですけどー」
シェリー「話を聞け!つか腕を引っ張んじゃねぇっ!」
店員「いらっしゃいま、せ?」 ジロジロ
上条「(どうしたんだろ。つーか店内スゲーなドレスコードでもあるのか)」
バードウェイ「(バッキンガムにTシャツズボンで乗り込んだ奴の言う言葉か)」
円周「(向こうじゃ階級で住み分けしてるしねー)」
シェリー「(あぁ居心地悪りぃ。さっさと買って出るぞ)」
店員「んー……あぁ!ご家族ですねっ!」
上条「なんでだよっ!?」
店員「え、だってホラ」
上条(※黒髪)
シェリー(※金髪)
円周(※黒髪)
バードウェイ(※金髪)
店員「ね、ほらパパママと娘さん二人のご家族ですよね?」
バードウェイ「支配人を呼べ!この店は教育がなっていないようだな!」
シェリー「……つーか髪の色だけだろうが。この国じゃ自動的に血縁関係に思われるのかよ?」
上条「まぁ変な組み合わせだしなぁ……円周?」
円周「ね、ね、おねーさん。わたしとレヴィちゃん、どっちが上に見える?」
バードウェイ「愛称変わってるぞ」
店員「んー、ブロンドのお嬢様の方が大人っぽい雰囲気ですねー」
円周「じゃっ今日から、レヴィお姉ちゃんね?」
バードウェイ「ふざけるな!妹なんて一人でたくさんだ!」
円周「あー、でもわたしの方が少しだけおっきいよねー……(縦にも横にも)」 ボソッ
バードウェイ「よーし貴様には皇帝→戦車→死神の即死付加付きコンボを決めてやろう」
店員「ごめんなさいねー?店内でカードゲームは禁止なんですよー」
バードウェイ「オイやめろ私に触るな!」
店員「飴ちゃん――キャンディ如何でしょうか?オレンジ?それともアップル?」
バードウェイ「ハッ!たかが食い物で吊られる程浅ましくはないぞ!」
店員「んー、そうなんですか?だったら、お店で暴れるのも良くないって分かりますよね?」
バードウェイ「それはまぁ……そうだが」
店員「じゃキャンディ両方あげるから、ママのお買い物に手伝って貰えませんかー?」
バードウェイ「……分かった」
シェリー「スゲーなジャパニーズ!『明け色の陽射し』を口だけで押さえ込んだぞ!」
上条「意外に弱いな魔術結社、あとママ云々は否定しろよ」
円周「ドS気取ってる人ほど、押しに弱かったりするんだよねー、○音様とか」
上条「あれはキャラだからな?天衣無縫ならぬ天衣無法な人、普通は有り得ないからね?」
シェリー「いいから行くわよ……面倒だわ」
上条「服買うのにこんだけ引っ張る必要性はねぇだろ、そもそも」
店員「――で、お客様。どのような商品をお求めでしょう?」
シェリー「あー……適当に見繕っ――」
円周「クロ○のワンショルダーに適当なボトム着せればいいんじゃないかな?」
バードウェイ「その選択肢は痴女まっしぐらだろ」
上条・シェリー「ワンショルダー?」
バードウェイ「ワンピースの肩一つのヤツさ――ってクロムウェルまで聞くのかっ!?」
円周「あー、本格的にダメなんだねぇ。お兄ちゃんには期待して無かったけど」
上条「俺だって少しぐらい分かるわっ!」
円周「わたしはシェリーちゃんにバレンシア○のジャンプスーツが似合うと思うんだけど、どうかな?」
上条「じゃ、じゃんぷすーつ?」
バードウェイ「動きやすいのはまぁ確かに。普段着として着るのはどうかと思うが。なぁ?」
上条「そう、だなっ!ジャンプスーツは動きやすい――動きやすいか?俺も着た事あるけど」
円周「意外……じゃないか。子供の頃よく着てそう」
上条「子供?子供着せていいもんなのかっ?」
バードウェイ「ちなみに会話は成立しているぞ?ここまでは、だが」 ニヤニヤ
上条「ウルセェなっこのドSロ○!楽しそうで結構じゃねぇか!」
シェリー「ちなみにそれはいつ頃?タンスん中には見当たらなかったけど」
上条「え!?ジャンプスーツって個人で持ってるもんなの!?」
バードウェイ「――はい、ありがとう新入り。優しい年下の女性が、今からたっぷり教えてやるからこっち来い」
バードウェイ「これ以上恥かく前に店の外へエスケープしたまえ。なっ?」 ポンッ
上条「やめろよっ!俺に優しくするなよぉっ!?生暖かい目で見るなっ見るんじゃないっ!」
上条「つかもう終了?ジャンプスーツって旅客機から飛び降りる時に着けるんじゃないの!?」
円周「言いたい事は理解出来るんだけど。そうするとスカイダイビング用のスーツ、街内でシェリーちゃんが着るんだよね?」
シェリー「人を色物扱いするのも大概にしろよジャパニーズ」
バードウェイ「街中を闊歩する絵面は知識欲を大いにそそられるが、ジャンプスーツとはツナギ――オーバーオールとも言うな」
上条「……だったらツナギでいいんじゃね?」
バードウェイ「小娘。後を頼む。私はこのバカにアパレル業界の厳しさを叩き込まねばならん」
円周「まっかされたっ!ビッ○系ファッションをお見舞いしてやるぜ!」
シェリー「……あぁもう面倒臭ぇなぁ。全部ぶち壊してぇ」
上条「おいコラしゃがんで床に何か描くのを止めろ!口寄せか?サス○がマン○呼ぼうとしてんのか?」
円周「中二病をこじらせると火○になっちゃうんだねー」
上条「なんか死亡フラグバリバリ立ってて辛いぜ!」
バードウェイ「よーし出ようか新入り。目立ってしょうがない」
上条「待ってくれないか?流石にデパートで暴れたら責任問題に繋がると思うんだよ。主に俺の保護者責任的な意味で」
バードウェイ「あぁそう言えばやらかしたんだったな。確かあの時は……学園都市側から、『不問にする』って通達が出た筈だが」
上条「え、どういう意味だ?」
バードウェイ「ま、二度目はないだろう。頑張って数百億単位の借金返済に切り刻まれろ」
上条「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?垣根featuring冷蔵庫はイヤアアアぁぁっ!?」
――数分後 自販機の前
上条 ピッ
自販機 ガチャコン
自販機の人工音声(cv.有栖川みや○)『ありがとうございましたー。さて今日の運勢は――』
上条(お、液晶でルーレット回ってる。何々……大吉でもう一本貰えると)
上条(よっし来い!俺の運勢!今こそハッピーボー○だ!)
自販機『わんわんっ!大凶!残念!』
上条(うん、知ってた)
自販機『今日もアナタの運勢は最悪!女の子に囲まれて、一見外からは羨ましそうに見えますが』
自販機『実際は胃壁と人生を磨り減らす一日になるでしょう』
上条「精度高ぇなオイっ!?どっかで監視でもしてやがんのかっ!あと今日“も”って悪意ありすぎだろ!」
バードウェイ「……おい。自販機と会話するのを止めるんだ」
上条「あ、ごめん。つい習性で。ボケは捌ける時に捌いとかないと、溜まって身動き取れなくなるんだよ」
バードウェイ「とにかく来い。テーブル――と言うのかどうか分からんが、まぁ席が空いてたぞ」
上条「あっち側がフードコートだからな。なんつーか、飛び地?」
バードウェイ「あぁ成程。服屋と食べ物屋が隣り合っていては臭いが移る」
バードウェイ「だから休憩所を兼ねたスペースを確保し、エア・クッションを置く、か」
上条「頭良いよなー、お前」
バードウェイ「ふふん。お前はもう少し私に敬意を払うべきだな、っとここで良いな」
上条(遠くの方にシェリー達が入っているテナントが見える。出て来れば直ぐに分かる席だ)
上条「コーヒーとオレンジジュースどっちが良い?」
バードウェイ「そりゃ当然オ――コーヒーで頼む」
上条「あ、なんだコーヒーはいけるクチ?」
バードウェイ「ブリテンと言えば紅茶だかね。嗜みとしては悪くないと思ってる」
上条「んじゃ、どーぞ」 パシュッ
バードウェイ「うむ、ご苦労………………にがぁ」
上条「あれ!?やっぱダメなの!?」
バードウェイ「べ、別にそう言う訳じゃない!ただこれはちょっと、日本の缶コーヒーにビックリしただけだ!」
上条(あー……そういやマーク言ってたっけか?味覚も年相応って)
上条「あ、ごめんな?やっぱ俺コーヒーの方が良いわ」
上条「良かったら取り換えて欲しいんだけど」
バードウェイ「そ、そうか?別に買ってくればいいだろう?」
上条「こちとら貧乏性だからなー。ほれ、オレンジジュースと交換だ」 パシュ
バードウェイ「……まぁ、良いだろう。ほらよ」
上条「ん、どーも」 ゴク
バードウェイ「あ……」
上条「ん、何?」
バードウェイ「あぁいや別に?全然全然気にしてないぞ?あぁ!」
上条「良く分からないけど……まぁいいか」
バードウェイ「……貴様の『それ』、どんだけ泣いてる女が居るんだろうなぁ」
上条「人聞きが悪いですよねっ!まるで俺が女の子を騙しているような!」
バードウェイ「禁書目録、神裂火織、御坂美琴、姫神秋沙、五和、アニェーゼ、オルソラ、食蜂操折、鳴護アリサ、『新たなる光』のチンピラ――」
バードウェイ「おっと数える指が足りなくなってしまったよ」
上条「ごめんな、謝るから指折って数えるのやめて貰えるかな?一本一本心が折れそうになるんだよ!」
バードウェイ「ハーレムもののアニメではよくある話さ」
上条「現実だよね?俺達が住んでるのはバーチャル世界とかそう言う設定はないよね?」
バードウェイ「『NiceBoat』事件を知っているか?」
上条「遠回しに刺されるっつってんのかっ!?」
バードウェイ「お前もう誰かと付き合った方が良いだろ。多分、他の面子から切られたり刺されたりビリビリされると思うけど」
上条「直接的に言えば許されると思うなよ!実は一部の娘が暴走するんじゃねぇかってガクブルだぜ!」
バードウェイ「さっきの占いもピンポイントで最悪だったしな……ふむ」
上条「……もう運で済ませられるレベルじゃないと思うんだよ、俺は」
バードウェイ「では少し占ってやろう」
上条「カード?タロットだっけか?」
バードウェイ「女の買い物は時間がかかる。少しぐらい労をねぎらうのも一興か」
上条「いやあの、朝からフルスロットルで疲労中なんですけど。出来れば一人で、寝たい」
バードウェイ「あのスプリーキラーに拉致監禁されるのがオチだと思うが。まぁそれはそれで人生だしなぁ」
上条「助けて下さい!?僕の人生まだ棒に振りたくないですからっ!」
バードウェイ「――と、人生に迷った時、占術があれば暗い行き先も明るくなろうというものだ」
上条「無理矢理まとめた感が……」
バードウェイ「ま、良い機会だ。お前も占いの一つや二つ憶えておけ。『明け色の陽射し』は霊装としてコイツを使う傾向が強い」
上条「右手があるから使えない、って思うんだけど」
バードウェイ「同様に我々『じゃなくとも使う』んだ。敵の魔術師がいつもいつも、ペラペラ自分の手の内を明かさんよ」
上条「対処するためにも覚えとけって?……でも親切だよなぁ、あいつら」
バードウェイ「結局、手持ち札でどうにかするしかないのさ。それがブタであったとしても、最弱だと知っていれば逃げ出す選択肢も取れる」
バードウェイ「ポーカーのルールも知らないのに、勝負しているのか私の近くにもいるな?」
上条「無謀だよねー、あっはっはっはー」
バードウェイ「ではタロットの講義と行こうか」
バードウェイ「タロットのルーツは古い。一説にはエジプトだと言われている――が、根拠となる証拠は、ない」
上条「嘘なのか?」
バードウェイ「とまでは言わないが、曖昧なんだよ、とても」
バードウェイ「例えばタロットの亜種にはアンク、十字の上に丸が乗ったシンボルを見た事はあるか?」
上条「テーブルに描くと……『♀』か?」
バードウェイ「正解。それが描かれているタロットもあるにはある」
バードウェイ「それ自体は金星のシンボルでもあり、同時にエジプト十字を示すものであり複雑なのだよ」
バードウェイ「だからといってそれが『エジプト魔術の流れを取り入れた』だけで、『エジプトに源流を持つ証拠とはならない』んだ」
上条「後から誰かが付け加えられたのかも知れないし、そうじゃないかも知れない?」
バードウェイ「ミックスジュースを飲んでみても、どの順番で入れたのかは分からない」
バードウェイ「それどころか誰が作ったのかも分からない」
上条「分かっているのは?」
バードウェイ「寓意の持つ絵柄と数だろうな。大アルカナ22枚、小アルカナ56枚で構成されている」
バードウェイ「特に小アルカナは1から14までのカードが四種類。実にトランプと酷似している」
上条「トランプの原型になった?」
バードウェイ「とも言われているし、逆にトランプから生まれたとも。全然関係無いという説もある」
バードウェイ「だがしかしトランプの成立年代は14世紀、また小アルカナを使ってトランプ遊びをしていた事もあり、境が曖昧だ」
上条「んー……む?」
バードウェイ「どうした?」
上条「いやさ、タロットもトランプも結局は趣味で、要は娯楽として使ってたんだろ?」
バードウェイ「流石に魔術師達は違うだろうが、そうだな」
上条「でも一般の人にとって、どっちだって構わない訳だよな」
バードウェイ「そう、か?嗜好品の一つであったのは間違いないと思うが」
上条「俺がもし、売り手の方だったら一緒にしちまうと思うんだよ」
上条「22枚のタロットだけだと占いにしか使えないから、トランプも一緒に抱き合わせて売った方が儲かるんじゃね、とか」
バードウェイ「……小アルカナの起源が大アルカナとトランプの抱き合わせ販売だと?」
上条「あ、いやもし売る方の立場となって考えればな、って話だ」
バードウェイ「……なるほどな。原型はどうあれ、広まっていった過程としてそういう道があった可能性もあるか」
バードウェイ「よくやった新入り!」
上条「いやぁ思いつきだよ?」
バードウェイ「褒美に跪いて靴を嘗めてもいいぞ」
上条「いやあのものっそいキラキラした目で言われてもね、それは一般の人にとって罰ゲームだから?喜ぶ人はごく少数だと思うし」
バードウェイ「日本でも歌になっていなかったか?」
上条「ARI-Projec○は飛び道具だからね!?結構好きだけどもなっ!ローゼ○無印第二期OPは神曲だし!」
バードウェイ「ともあれ、現時点で最古のタロット群は『ヴィスコンティ・スフォルツァ版タロット』と呼ばれている」
バードウェイ「15世紀にミラノ公スフォルツァ、彼が画家達に描かせたのが残ってる」
上条「ミラノって事はイタリアか。意外だなぁ、魔術っつったらドイツとかイギリスって感じだけど」
バードウェイ「いやいやイタリアだってローマ聖教のお膝元だしな?胡散臭さで言えば連中も負けてはいないよ」
バードウェイ「その、スフォルツァ版の中でも最古と呼ばれてるのが『キャリー・イェール版タロット』だ」
バードウェイ「これはキャリー家がイェール大学に寄贈し、その名で呼ばれるようになった」
上条「イェール……?偶然だな、シェリーもイェール大学から鑑定頼まれてる、って」
バードウェイ「気づいたか?まさに『それ』だよ。最古と呼ばれるタロットが、このタイミングで学園都市にあるんだ」
上条「ふーん?偶然にしちゃ出来過ぎだよなぁ、それって」
バードウェイ「そうだな。その通りだよ」
バードウェイ「『黄金』の遺産継承者であり、特にタロットの霊装を好んで使う我々と」
バードウェイ「偶然最古のタロットが同じ都市に出くわしたのだから、な?」
上条「あ、だったらさ。シェリーに頼んで見せて貰ったどうだ?」
上条「興味あるんだろ、その古いタロットとか」
バードウェイ「……貴様はもっと言葉の裏を読んだ方が良いぞ……?」
バードウェイ「偶然は重なる事自体偶然ではある、が」
バードウェイ「予め仕組まれた出来事をしては、作為と呼ぶんだ」
上条「え、何?なんかマズいのか?」
バードウェイ「『まだ』偶然だろうな。たまたまそーゆー事だってあるかも知れない」
バードウェイ「だがまぁ、『監視用の部下を戦闘不能にされた日に、たまたま襲撃される偶然』でも起きない限りは、な」
バードウェイ「歴史の勉強はここまでだ。次は実際に占いながら――あぁそうそう、お前はタロットの絵柄も知らないんだったか」
上条「王様とか、ライオンとか?」
バードウェイ「正確には皇帝だな。それはフランス野郎の僭王がアレした分、ややこしくなっているのだが」
バードウェイ「革命で王政を打倒した挙げ句、十年後にフランス皇帝が出来るとかフランス野郎は死ねばいい」
バードウェイ「連中が余計な事をしたお陰で、カエサル以降の皇帝を踏みにじった訳だ」
バードウェイ「では簡単に――0番のアルカナ、愚者だ」
上条「旅人のカード。あ、片足踏み外してる」
バードウェイ「よくタロットの解釈で言われているのは、『アルカナは世界を表す』そうだ」
バードウェイ「コイツ、この愚者が世界を巡り、徐々に知識をつけていく――と言われている」
バードウェイ「0番の愚者は1番の魔術師に出会い智恵を得て、2番の女教皇と話して客観性を学び、と言った具合に」
バードウェイ「最後のアルカナ、21番の世界に至って全てを知る……そうだ」
上条「なんで伝聞形式?」
バードウェイ「私はその説を支持していない」
バードウェイ「そもそもキャリー・イェール版大アルカナには番号はおろか、名前すらも入っていない」
バードウェイ「欠損部分があり、大アルカナが揃っていない状態でもある――が、まぁ?」
バードウェイ「その話は関係無い――だろう、おそらくは。私とお前の人生にそれが関わる訳はない筈だ」
上条「古いタロットはちょっと見たいけどなー。画家に描かせたんだろ」
バードウェイ「今で言えばイラストレーターと称する萌え絵師だな」
上条「人の夢砕くの止めて貰えないかな?情操教育に悪いと思うんだよ、主に俺の」
バードウェイ「どうしても気になるのだったら、クロムウェルに頼み込めばいいさ」
バードウェイ「前置きが長くなってしまったが、始めようか。何を占って欲しい?」
上条「センセイ!刺されないで済む未来が欲しいです!」
バードウェイ「心底どうにかしてやりたい気もするが。生憎私が丹誠込めて作った護符も、お前が持つと効力を失うしな」
バードウェイ「ま、魔力を介在しない未来指針であればある程度、と思っとけ。気休めにはなるだろうから」
上条「もう『あたったらラッキーだよね!』ぐらいの精度にまで落ちてないかな?」
バードウェイ「お前の本質はお前が決めろ。他者がどうこう言おうとも、自分で決めた線がブレなければいい」
上条「いい事言うなっ!」
バードウェイ ジーッ
上条「……いや、お前のパンプスを見つめられても。プレイはノーサンキューで頼む。俺はノーマルだし」
バードウェイ「では種類は恋愛――じゃなかった対人関係だな」
上条「今凄い間違え方したよね?」
バードウェイ「取り敢えず占いたい誰かを考えながら、タロットをシャッフルしたまえ」
上条「大丈夫?パキーンってしない?」
バードウェイ「保護用のプラスチックシートに入っているから問題ない。ま、壊れた所で寿命だ。私が子供の時から使っているものだし」
上条「今も子供――じゃ、ないですよねっ!?バードウェイさんはコーヒーも飲める大人ですよねっ!?」
バードウェイ「口の利き方に気をつけろ」 グリグリ
上条「アンチスキルに撃たれた所を足でつつくなっ!?痛みはないけど傷痕は残ってんだよっ」
バードウェイ「マーク=スペンサー(仮名)さんは喜んだんだが、贅沢な奴だ」
上条「スペースじゃね?言われるまで気づかなかったけど」
バードウェイ「オゥルトロップの名門貴族にスペンサー家と言うのが居てな。そっちと勘違いしてた」
上条「故ダイアナ妃殿下がそんな名前だったような……?どうせ本名はそっちっぽい気もするけど」
バードウェイ「ほらほら集中しろ。マークとの仲を占いたいのであれば止めない。むしろ嫌いじゃないぞ、決して」
上条「いよしっ!気合い入れるぞー!マーク以外との仲を知りたいなーっ!」
バードウェイ「今からするのは『ケルト十字法』という占いだ。使うのも大アルカナだけ、一部省略してあるし難しい要素はない」
上条「そりゃ助かるけど」
バードウェイ(――が、だ。上条当麻。占いには別の側面もある)
バードウェイ(相手が何を占うのかを事前に知っていれば、ある程度の絞り込みも可能――つまり!)
バードウェイ(この場合、『出た結果をお前との関係性に照らし合わせば、今まさに心の中で想っている相手の割り出しも出来る』訳だ)
バードウェイ(さぁて鬼が出るか邪が出るか……)
バードウェイ「……」
バードウェイ(……パ、パトリシアだったら……?)
バードウェイ「――よし、殺すか」
上条「お前真顔で急に何言ってやがるんだっ!なんで暗殺指令が入ったっ!?」
バードウェイ「すまない。独り言だ――と、では一枚目から裏向きに置いてみようか」
上条「お、おう?」
バードウェイ「次に横にしてその上へ重ねる――そうそう」
上条「十字を切るように並べる、と……」
バードウェイ「周囲に円を描くイメージ。カードで線を結ぶ感覚だ」
上条「3、4、5、6……」
バードウェイ「最後は『塔』を積み上げるイメージだよ」
上条「――10枚目、これで終りか」
バードウェイ「あぁ。全体の形がやや歪だが内容とは関係ない」
バードウェイ「ではまず一枚目をめくってみようか。上下を反転させないように気をつけろ」
上条「最初に置いたのだよな?……っと」
バードウェイ「あぁ。それが現在の状況を表している」
【死神(逆)】
上条「あの、バードウェイさん?鎌持った骸骨が、めっさ笑ってるんですけど?」
バードウェイ「一応逆向きだから。この場合は『死からの再生』か?」
上条「てっきり『もう諦めれば?』的な意味かと。次は――」
【力】
上条「ライオンのカード」
バードウェイ「剛毅、または力のアルカナ。二番目は障害だから『自惚れ』か」
バードウェイ「三枚目と四枚目は顕在性と潜在性、続けてめくってみろ」
【教皇】
【皇帝(逆)】
上条「聖職者っぽいカードが連鎖した」
バードウェイ「顕在性は『誠実』、潜在性は『自分勝手』か。合ってるな?」
上条「え、俺が誠実だけど自惚れてて自分勝手だって事か!?」
バードウェイ「一概に否定は出来ないが、まぁバーナム効果もある事だし、心理分析は冗談程度に留めておけ。ほら、次」
バードウェイ(さて、次から相手を特定出来る結果が出る)
【恋人・逆】
バードウェイ「……行き違い、もしくはケンカ別れ……?」
バードウェイ(コイツと敵対していた人間は多いしな。聖人や天草式、シスターも大概そうか)
上条「なぁこれはどういう意味なんだ?」
バードウェイ「お前と相手の過去の関係。そして次が未来を示す」
【星】
バードウェイ(え!?恋人確定かっ!?)
バードウェイ「……」
上条「悪いカードなのかっ!?」
バードウェイ「あぁいやそうじゃない。そうじゃないんだが……うん、何故かイラつくな。リア充は死ねばいい」
上条「私見入りまくりなんだが……次」
【戦車・逆】
バードウェイ「発生する問題が戦車のリバース。不毛な闘争的に巻き込まれると」
上条「まぁいつもの事だけどねっ!」
【女帝】
バードウェイ「環境は女帝……あぁ女性のペースで行けって事か。良かったな、流されるままでオッケーだ」
上条「良いのか、それ?次は9枚目、最後から2番目っと」
【審判】
バードウェイ「……改善?それとも裁かれる?誰に?」
バードウェイ「あぁ刑法的な意味でか!流石はLolico13だな!」
上条「おいこら人混みで呼ぶな呼ぶな!定着しちまったらどうしてくれるんだっ!?」
バードウェイ「――さて、次が最後のカード。一応最終結果である」
上条「10枚目……行きます!」
【世界】
バードウェイ ブーッ!?
上条「吹くような内容なのかっ!?……あぁティッシュ、ほれ」
バードウェイ「す、すまん。いやだがしかしまさか」
バードウェイ(最後、意気投合か国際結婚って、なんだ?どう考えても上手く行くだろ、これは)
バードウェイ(意中の相手を知る以前に、知らせていいものかどうか迷うな)
バードウェイ(自己分析の中に自惚れが入っている以上、あまり調子に乗られても問題だし)
上条「ネタ抜きで悪いのか?」
バードウェイ「あー、まぁ大丈夫じゃないか。多分?」
上条「またフワッフワした言い方だなオイ!」
バードウェイ「頑張れ。君の未来はまだ決定していない」
上条「ドSの人から励まされた!?」
バードウェイ「お、二人が出て来たぞー。それでは行こうか」
上条「待って!?一体俺の未来にどんな酷い事が起きるのかをはっきりさせ――」
バードウェイ(収穫はゼロではない。『一度争った相手』で、しかも『国際結婚』か。不毛な闘争が気になるが、今更だろう)
バードウェイ(消去法で行けば禁書目録、神裂、天草式、アニェーゼに『新たなる光』のチンピラも入るか)
バードウェイ(後は……クロムウェルもそうか。脈はないだろうが、そんなもの分かりはしないしな)
バードウェイ(他に上条と争った連中、日本籍じゃない奴――)
ピーンポーンパンポーン
バードウェイ「……ま、そのぐらいか」
館内アナウンス『お呼び出しを申し上げます、お呼び出しを申し上げます』
上条「今時珍しい……携帯で連絡した方が良いんじゃないか?」
バードウェイ「持っていないか、電池でも切れたのだろう。スマートフォンはバッテリーを食う」
館内アナウンス『XX学区より起こしの……これ、本当に読むんですか?冗談じゃなく?』
上条「?」
館内アナウンス『……失礼しました。改めてお呼び出し申し上げます』
館内アナウンス『XX学区より起こしの、白くてヒョロくてウルトラマ○ぽい服を着たモヤシ。お連れ様がお待ちです』
上条「何やってんだ一方通行っ!?なんで迷子になってんの!?」
バードウェイ「ツレの方が迷子になったんだろ。そうじゃなかったら痛すぎる」
円周「だったいまーーーっ!ごめんねー?シェリーちゃんが中々うん、って言ってくれなくってさー」
シェリー「……あたしが悪いんじゃねぇぞ。つーかあの値段気軽にホイホイ出せる額とは違う!」
円周「んー、大丈夫!『研究費』で領収書切っといたから」
上条「何の研究?つーか俺達モルモット扱いなの?」
円周「『上条』を勉強したいな、って始めに言った筈だけど」
バードウェイ「ま、いいが――(ほら)」 ツンツン
上条「(何?トイレか?)」
バードウェイ「(誰が一々相談するか!そうじゃない、クロムウェルが新しい服を着たんだ。言うべき事があるだろ)」
上条「(似合ってるよ、的な?)」
バードウェイ「(もう少し感情を込めてだ。『明け色の陽射し』の一員たるもの、紳士であれ)」
上条「(いやでもわざとらしくないか?何か口説いてるみたいで、下心丸出しって言うか)」
バードウェイ「(言わないよりはマシ。ただしキモがられる可能性はある)」
上条「(めんどくさー……まぁ、やってみる)」
上条「あぁっと、シェリー?」
シェリー「あぁ?何よ?」
上条(あれ機嫌悪い?何かとっかかり間違えた?)
上条「あー、結局ツナギにしたんだ」
シェリー「ゴス服でうろつくのも何だしなぁ……あのメイド連中と同じカテゴリに見られるのは嫌よ」
上条「でも、外見はアレだとしっかりしてるぜ?」
シェリー「そこを否定するつもりはないわ。でも限度ってもンがあるだろうよ」
上条「ま、良い機会とは言わないけど、たまには別の服着るのもいいんじゃないか?気分転換すりゃ発想も変わってくるだろうし?」
シェリー「分かってんだけどなぁ、お前これ幾らするか知ってんのか?」
上条「高いっつっても五桁じゃ?ウチからすりゃ充分お高いけど」
シェリー「……六桁」
上条「マジで!?」
シェリー「どうなんだろうなぁ?これだったらお前のダサジーンズで手ぇ打った方が良かったかも」
上条「ダサいは余計だけど。よく買う気になったな」
シェリー「この子が出すって言う以上、買わねぇ訳には行かないでしょうが」
円周「いえーいっ!」
上条「お前も無茶すんなよ」
シェリー「つーかタベってても仕方がないし、今日はこれで解散か?」
上条「俺はそれでもいいけど。出来ればどっかでメシでも食おう――って何だよバードウェイ?」
バードウェイ「(話が逸れすぎだろうが!誉める展開はどうなった?)」
上条「(お?……ついうっかり。なんかシェリーって男友達と話してる感じで、つい)」
円周「(お兄ちゃんに、友達居たんだー……?ノイジー的な?)」
上条「(俺に無理矢理病名つけるのやめてくれ!分かったよ。言えばいいんだろ!)」
上条「なぁシェリー」
シェリー「おー?」
上条「綺麗だ」
シェリー「ぶっ!?」
バードウェイ「ストレート過ぎるだろうが!?」
上条「フツーに誉めただけじゃねぇか!」
円周「って言うか、これ、『お兄ちゃん的には素』って事かー。うんうんっ」
シェリー「テメェは……!まぁいい、行こうぜ」
シェリー(なーんか調子狂うよなぁ、こりゃ)
シェリー(いつからこんなヌルくなっちまったんだろ、私)
――同時刻 迷子センター
男「おー、来た来た一方通行。遅せぇよ、何やってんだよ?」
一方通行「……人をお子様扱いしやがったンは、お前かよ、あァ?」
男「ムキにならなくたって良いじゃねぇかよ。ケータイ聞くの忘れたんだし」
一方通行「つーかお前ェ――誰だよ?」
一方通行「俺の知ってる木原くゥンはンな常識人みてェな格好はしてねェ」
一方通行(気の抜けるアナウンスで呼び出されてみりゃ、クソ木原と似た口調の奴かァ?)
男「まぁまぁ暑くなってんじゃねぇよ。取り敢えず場所変えようぜ」
一方通行(……クソ!向こうが何をしてェのか分からねェ以上、付き合うしかねェ)
男「クレープとたこ焼きどっちがいい?」
一方通行「……いらねェ。何入ってンのか、わかったもンじゃねェだろ」
男「テメェは相変わらず悲しい生き方してるよなぁ……まぁいい。俺が奢ってやっから死ぬまで感謝しやがれ」
一方通行「つー事はァ、お前をぶっ殺せばチャラになるってェ話か?」
男「けっ。死ね」
一方通行「お前が死ね」
一方通行(口調はまァ似てねェ事もない。だがあいつを知ってりゃァある程度は真似出来る)
一方通行(外見は似ても似つかねェサラリーマン風の男だ。人混みであればどこにでも居そうな感じの、平々凡々としたよォな)
一方通行「……」
一方通行(あのレベル0の事を思えば油断は出来ねェか)
男「ほれ、買ってきてやったぞ白モヤシ。学園都市製たこ焼きとクレープどっちがいい?」
一方通行「……学園都市製たこ焼き……?」
男「遺伝子操作して足を増やしたんだと」
一方通行「意味ねェよな?足増やすよりも体積増やした方が真っ当じゃねェのか」
一方通行「ンな気味悪ィの食いたかねェ。クレープ寄越せ」
男「クレープは……まぁ、足増やしたんだと」
一方通行「クレープに足ねェだろ!?」
男「小麦の成長促進のために、根をいっぱい張らせる研究だとか」
一方通行「ン研究するより、実験しようと思ったバカども開頭してやれよォ。多分蜘蛛の巣張ってっから」
男「遠慮すんなよ、食え食え」
一方通行「遠慮じゃねェよ!学園都市の頭の悪さにビビってンだァ!」
男「お前も相変わらずガキじゃねぇか、なぁ」
一方通行「……つーかいい加減にしろよ、偽もンが。俺の知ってる木原数多じゃねェだろ」
男「ふーん?じゃあお前は俺をどう定義づけるんだ?ニセモノだったとして、その目的は何?」
一方通行「ど腐れ木原の元研究者、もしくは下っ端なンだろ?俺を引っ張り出してなンか企んでやがる」
男「なんか、とは何?この状況でお前さんを引っ張り出して、誰が、どう得するって?」
一方通行「そうなァ……あァ俺の個人情報と引き替えに、なンかさせようって魂胆じゃねェのか?」
男「おっと流石は一方通行さぁん、お利口でちゅねー」
一方通行「……遺言は、それでいいンだな?」
男「好きにすりゃいいじゃねぇか。フードコートで爆殺なんざネットニュースで一番になれんぞ」
一方通行「……」
一方通行(時間稼ぎ、かァ?それにしたっておかしい)
一方通行(俺を囲もうとするんだったら、別に『木原』の名前出さなくたって、勝手にすりゃいいだけだ)
一方通行(警戒レベル上げさせてなにがしたいンだ、こいつ)
男「そうなぁ……あぁ、あれ。あっこにガキどもの群れがいるの分かるか?」
一方通行「あァ」
男「お前結局、あーゆー『輪』に入りたかったんだよなぁ?」
一方通行「そりゃァ……!」
男「そうだ。『木原数多』しか知らねぇ情報だよなぁ」
一方通行「お前……本当に?」
男「で、どうなんだ?お前は輪に入れるようになったのかよ」
男「能力なんて欲しくなかった、つってたお前がよぉ?」
一方通行「……誰だよ、お前。クソ木原はあン時音速でぶん投げた筈ろォ!?」
男「ま、記憶のバックアップなんて珍しくもねぇって話だ。それより答えろよ、世間話ぐらいいいじゃねぇか」
男「データじゃ知ってるが、お前の口から聞きたい」
男「お前は今、何をしているのかってな」
一方通行「……別にィ?大した事ァしてねェな、これといって大した事はだが」
一方通行「ガキとメシ食ったり、ババアと買い物行ったり」
一方通行「バカなガキどものケンカ止めたり……まァ普通だなァ」
男「なぁ、一方通行。お前確かそんな『普通』が欲しいっつってたじゃねぇか?」
男「『能力を制御して、普通の生活がしたい』ってなぁ」
一方通行「……」
男「……お前は今、『普通』なのか?」
一方通行「俺ァ……あァ、まァ、そこそこだ」
一方通行「ガキのお守りなンざ、面倒臭ェとは思ってたし、正直今も思ってンだが、まァ」
一方通行「悪くは、ねェよ」
男「……そっかあ、良かった、良かったぜ一方通行」
一方通行「ウルセェよ」
男「俺ぁこう見えて心配してたんだよ。お前が一人でハブられてねぇかって。一人で便所メシ食ってねぇかとか」
一方通行「出て行くだろ普通。そこまでされても居着くなンて、どんだけメンタル強ェんだ」
男「――で、お前は『いつこっちへ戻ってくる』んだ?」
一方通行「――え」
男「え、じゃねぇよ。テメェ勘違いしてるよなぁ」
男「バカみたいに殺して殺して殺しまくったお前が、今更『普通』の生活なんざ、戻れる訳がねぇだろ?」
一方通行「違うだろォ!?俺は必死に償ってンだよォ!」
一方通行「もう一人だって!あいつらを不幸にはしたくねェ!するつもりもねェよ!」
男「――あれ、あそこ見えるか?」
一方通行「……正面の、服屋」
男「あぁあそこで働いてるねーちゃんだよ。見覚えは?」
一方通行「ねェよ。なンの話してやがる」
男「ん?お前がアイツの弟殺してんだよ?」
一方通行「……はァ?なンで俺が――」
男「『猟犬部隊』でアイツの弟雇ってたんだよ。名前は……あー……?ジョンだか、ジョセフだかそんな感じ?」
男「お前が、その手でぶち殺したんだよ。憶えてもねぇのか」
一方通行「……ァ」
男「なぁよぉ一方通行?お前昨日のメシ何食った?肉ジャガ?カレー?俺ぁジャンクフードが好きだが」
男「その『守りたいガキ』と一緒に、仲良くワイワイ食ったんだろぉな?えぇ?」
男「でもよぉ、お前の殺したジョージのねーちゃんは一人でコンビニ弁当だ」
男「一緒に食ってた弟さんは、もう帰ってこないんだからなぁ」
一方通行「俺の――」
男「『俺の責任じゃねェ』か?まぁそうだわな」
男「お前をぶっ殺すように命令したのは俺だし、そもそもそんな馬鹿げた命令を聞かなくちゃいけないヘマしたのもジョナサンだ」
男「でも『殺したのはお前』だぜ?」
一方通行「――ふ!」
男「次にお前はこう思う。『不可抗力だった』と」
男「そうだな、お前は好きで好きでしょうがない打ち止めちゃんのために命がけで戦ったよ。えらいねー、がんばったねー」
男「でも、『殺す必要はなかった』よな?お前の技術と能力の使い方次第では、足でも折りゃあ決着はついてた」
一方通行「――」
男「お前はなぁ、何も考えずに、殺したんだよ――1万人のクローンを殺したように」
男「要はお題目が変わっただけで、お前のやってる事ぁ何も変わっちゃいねぇんだよ。なぁ?」
男「可哀想に。ジョリーンのねーちゃん、弟を捜しに学園都市に引っ越してきたらしいぜ?」
男「ずっと一人で待つんだろうなぁ。誰かさんが殺した弟の事を」
一方通行「……仕方が」
男「あぁ?」
一方通行「仕方がねェだろ!あン時はそれしか出来なかった!」
一方通行「俺を殺そうとする連中に、一々手加減なンざ出来る訳がねェ!」
一方通行「誰だってそォだろうが!大切なもンとそうじゃねェもン天秤にかけて、どっち選ぶか考えて来たンだろうが!」
男「ん?あぁいやいや勘違いしてんな、お前。俺ぁお前が悪いなんざ一言も言ってねぇ、だろ?」
一方通行「じゃァなンだって出て来やがった!?何がしてェンだよ!?」
男「忠告だってさっき電話で言ったろうが」
一方通行「言ってねェよ!」
男「だっけか?んじゃまぁ、改めて忠告な」
男「お前の住む場所はそっちじゃねえよ。さっさと戻ってこい」
一方通行「……それが、目的かァ?」
一方通行「なンだかンだと因縁つけて、結局はそれじゃねェか!俺の力が欲しいんだろ!?」
男「忠告だっつってんだろバカが。お前、ハワイまで行ったらしいじゃねぇか、暢気な事だなオイ」
一方通行「だからなンだ」
男「御坂美琴に『お前も加害者』つったんだってなぁ?」
一方通行「あァ?だからどォした」
男「……ここまで言っても分からねぇのかよ。信じられねぇが」
男「お前がたった今、ジョジョぶっ殺した事に関して、お前は『割り切った』よなぁ?」
男「当時はイッパイイッパイで仕方がなかった、って」
男「でも、お前は御坂美琴に対して」
男「お前と同じく――いや、もっと酷いな。『騙された御坂美琴に対して加害者だと割り切った』んだ」
男「んな思考してる時点でもう――お前が『普通』の生活なんざ出来る訳がねぇ」
男「テメェのしでかした不始末、妹達を助けるために、何度も何度も勝てない相手に挑んでは、ボコボコにされた第三位をだ」
男「いつもいつもヘラヘラ笑って半殺しにしてたクソヤローは誰だ、あぁ?」
一方通行「ち、が」
男「お前はなぁ、一方通行。結局テメェ自身しか可愛くはねぇんだよ」
男「演算能力を失いたくねぇから、『俺は打ち止めを守りきる』なんて思いこんでるだけだって、いやマジで」
男「だって本当にお前が心の底から、後悔してるんだったらば、だ」
男「御坂美琴に対して『加害者だ』なんて言えるかぁ、普通?」
一方通行「……」
男「なぁ一方通行?お前は良くやったよ、周囲に溶け込もうとしたし、頑張って『普通』になろうとした。他の誰が認めなくたって、俺が認めるぜ」
男「でも最初っから無理だったんだよ。お前は人を殺しすぎた」
男「ホレ、よくマンガとかで『不良が良い事をして善人に見られる』パターンってあるよな?それだよ、それ」
男「まぁ大抵は女の子に惚れられて改心するって話なんだが、※ただしイケメンに限るって話で」
男「最初っから全身タトゥーでシャ×中のヤツは除外されんだわな」
男「今更善人ぶったって遅いんだ」
男「『普通』の人間はどぉして普通で居られるのか――そりゃ『最初から最後まで悪い事もしねぇから』だよ」
男「その対価として安寧な退屈な日常を謳歌出来る」
男「だからもう帰ってこいよ、な?お前みたいなクソヤローは一生クソ溜まりの中で足掻くしかねぇんだよ」
男「別に俺と来いってんじゃねぇ。だから――」
一方通行「……そうだなァ、俺ァほンっっっっっとに、クソだ」
男「……」
一方通行「自分で殺した数も知らねェし、誰を傷つけたのかも憶えてねェ」
一方通行「多少ましンなったかと思えば、第三位に暴言だなァ、いやいや」
一方通行「だが、なァ?ここで『はい、そーですか』つって?全部逃げたとしても、そりゃ」
一方通行「そうしちまったら、俺ァ最悪のクソだ。分かるか?」
男「『普通』の世界で悪党が何をするって?テメェの居場所なんざ、無いに決まってんだろうが」
一方通行「だかよォ。明るい所が苦手な動物のように尻尾撒いて逃げたって、そいつァ『逃げ』だ。償いとは程遠い」
一方通行「俺は、逃げねェ……!もう、嫌なんだよ!そういうのはよォ!」
男「そぉかよ。まぁ……いいんじゃねぇか、そういうのも」
男「あ、ちなみにさっきのジョなんとかの話は、全部嘘だ。前の猟犬部隊には家族が居ないクソッタレを選んでる」
男「はっきり言って、『外』じゃ死刑にされでも文句言えない連中ばっかだから、お前がぶっ殺しても感謝されるだろうな?」
一方通行「……お前は、ぶっ殺す!」 カチッ
男「まぁまぁ待て待て。そう焦るなって、つーか折角良い事教えてやったんだから、感謝の言葉ぐらいねーのか?」
一方通行「そうだなァ、楽に殺してやンぜ」
男「んじゃ遺言代わりに聞いていけよ。お前の能力、『反射』だが、破るにはどうすればいい?」
一方通行「時間稼ぎしてンじゃねェぞ」
男「それも有効だな。魔術を使わせたり、お前の知らないベクトルをぶつけたり」
一方通行「後はテメェの拳の返し、ぐらいだが。もォ喰らわねェぞ」
一方通行「距離取って『風』以外の攻撃ぶつけりゃ簡単に――」
男「そう、それだよ一方通行!お前の悪い癖だ!」
男「今、お前はこう考えてる。『目の前の自称キハラが近寄ってこないよう気をつける』とかだろ?」
男「実際、俺に攻撃されても反応出来るように、お前は一定の距離から近づいて来ねぇ」
男「だが、それは違う、見当違いも良い所だぜ……良いのか悪いのか分かんねぇけどな」
一方通行「……遺言はそれでいいのかァ、って何回聞かせンだ」
男「まぁまぁ聞けって、あと少しだからよぉ。今、お前が、本当に注意すべきなのは――」
ザクリッ!!!
一方通行「か……はァっ……!?」
男「『俺じゃなくって背後から近寄ってる木原』にすべきだったんだよ!なぁ!?」
少女「うん、うんっ!そうだよねっ!数多おじちゃん!」
少女「『木原』なら、こんな時こういう風にすれば良いんだよね……ッ!」
一方通行(まだガキ――なンだ?首から下げたスマフォのグラフが波打ってる?)
一方通行「ク、そがァァッ!」
少女「わきゃっ!?」
一方通行(なンだ?あっさりぶっ飛ばせたじゃねェか)
一方通行(腹にナイフもらっちまったが、この程度ならどうって事はねェ。血流コントロールなんざ、難しくも――)
男「ちなみにぃ?『手首の返し』をインストールしたのはそいつだけじゃねぇんだわ、これが」
一方通行「ンなっ!」
男「『新しい』猟犬部隊全員、近接格闘はお前に突き刺さるんだよぉっ!」
一方通行「――死にやがれ!」
グガシャアァッ!!!
男「く、ぎゃはははははげぶっ!?なんだ!俺ぁ死んでねぇぞ一方通行!」
一方通行「お前らまさか……!」
男「あぁ、あぁ!今度の猟犬部隊は『俺を含めて全員が家族持ち』だぜ!誰一人例外なく人質を取られてる、かも、しれねぇ!」
男「さぁどーする一方通行!?全員ぶち殺すのか!えぇオイっ!?」
一方通行 クイッ
男「ぎゃふっ!?」
一方通行(どォいう事だァ?『俺を含めて』?)
男A「……」 チャキッ
男B「……」 スチャッ
タタタタタタタタタタッ!
一方通行(H&KのMP5……サブマシンガンを警告無しでぶっ放す、だと?)
一方通行」「……ワケが分からねェ。ンな豆鉄砲でどォにか出来ると考えちゃねェだろうな!」
ドォンッ!!!
――少し前 フードコート
上条「食べたいもんのリクエストあるか?イギリスって……あぁごめんなんでもない」
バードウェイ「ブリテンの食事をネタにするのはやめて貰おうか。どこの国も家庭料理なんてそんなもんさ」
上条「あ、じゃあイギリスの郷土料理の店もあるぜ?インデックスにせがまれて来てたんだけど」
バードウェイ「日本料理を頼む。現地に来たのだから食べない理由はあるまい」
上条「自分でハシゴ掛けといて外すってどうなの?」
円周「イギリスならジンだよね。イギリスジン、なんちゃってー」
上条「おいバカ止めろ!俳優辞めて小説家になった水嶋ヒ○さんの『KAGERO○』をdisるな!」
円周「でもこないだ『原作殺し(オリジンブレイカー)』の子と映画の宣伝に出ていたような……?」
上条「台風被害にあった奄美大島にポプ○社の本500万円分送って、大顰蹙買った水嶋○ロさんの悪口は止めろ、な?」
バードウェイ「オリジンブレイカー?能力者か?」
円周「出た映画全て外すわ、栞○さんをビッ×にするわで大人気だよねっ!」
上条「そろそろいい加減にな?映画ヲタのメル友は『プロメテウ○の吹き替え聞いた時、×してやるって本気で思った』らしいけど」
上条「一応擁護しとくけど、そこで食った煮込み料理のパイ包みは美味かった」
バードウェイ「パスティだな。いやぁまぁ、そのなんだ」
バードウェイ「国ではファーストフード感覚で食べている物を、代表料理と呼ばれるのは抵抗がな」
バードウェイ「だからといってチキンティッカマサラを勧めるのも、それはそれでどうかと思うんだよ」
円周「あれはインド料理じゃ?あーでも日本のカレーも本場とは別物だしねぇ」
上条「どんな料理?」
バードウェイ「骨を抜いた鶏肉を香辛料で味付けし、タンドールと言う窯で焼いたのがチキンチィッカというインド料理」
バードウェイ「それにトマトとクリームを加えたカレーソースで煮込む」
上条「ほぼインドじゃん!?」
円周「アッパークラスはフランスかイタリア料理だもんねー、ミドルクラスだってあんま食べないんじゃ?」
バードウェイ「ワーキングクラスの料理だけが広まったせいでもある。勿論彼らもジョンブルには違いないのだが」
上条「シェリーは?何かあるか?」
シェリー「……あー、すまん。ちょっと気分悪ぃ。先帰るわ」
上条「そか?だったらタクシー乗り場まで案内す――」
シェリー「ウルセェっ!私に構うんじゃねぇ!」
上条「……シェリー?」
シェリー「黙れ。潰すぞ」
上条「分かった、良く分からないけど」
シェリー「……クソッタレが……」 カッカッカッカッ
バードウェイ「……ふむ。人混みで酔ったんだろうな」
上条「そう、か?なんかスッゲー辛そうに見えたんだけど」
バードウェイ「だとした所で私達に出来る事ないさ、上条当麻」
バードウェイ「『アレ』は私達が助けようとしたって、その手を振り払って行った」
上条「いやでもさ、気になるじゃん?」
バードウェイ「本人が救いを求めていない以上、まさに『救いようがない』って奴なのだよ、これは」
上条「んー……」
円周「あ、じゃあじゃあ。わたしが行ってこようか?お兄ちゃん達よりも、シェリーちゃんと仲良くなったと思うんだ」
バードウェイ「お前の場合は前科を知らないから、消去法だと思うぞ」
上条「んじゃ、悪いけど頼めるか?具合悪いようだったら、病院とか――カエル先生の所に連れてってな?」
円周「うんっわかったよ!……あ、じゃ、わたしのリュック持ってて貰えるかな?」
上条「任された……ってこれノーマッ○?ピンク色のノーマ○ドのぬいぐるみかと思った」
円周「中開けたら、めっ、だよ?」
上条「しないしない。早く行け」
円周「手首ごと噛み千切られるからね?」
上条「中に何入ってんの!?むしろ持ちたくないなっこれ!」
円周「あ、そーだちょっと屈んで貰えるかな?先払いでお駄賃ほしいなー、なんて」
上条「お、おう?」
円周「んっ」 チュッ
上条「おぉうっ!?」
円周「えへへっ!じゃ、行ってきまーーーーすっ!」
円周「あ、あとっわたしのアドレスはお兄ちゃんのケータイに入れといたからーーーーっ!」
上条「は、あははは、うん、アレだよね?子供だもんね?子供のお遊び、的な?」
上条「まぁまぁまぁまぁっ!良くあることですし?つーかこの展開はどっか別でもあったような?」
上条「あっれー?どこだっけかなー?なんか、ツッコミのしすぎで喉が枯れた記憶が微かに?」
上条「あぁそういえば喉も渇いたし、そーだね、近くの喫茶店でお茶でも飲も」
バードウェイ「――あぁ、すまない。全力で話題を変えようとしている最中に失礼するが、少し話が出来た。Lolico013、いや」
バードウェイ「ロ×コサーティーンよ」
上条「ゴル×じゃないですよ?スナイプしてませんからね?」
バードウェイ「その割には必殺の効果を誇っていたようだが」
上条「無理だものっ!?さっきは流したけど、人のケータイへいつの間にか電話番号登録するような相手にどうしろって!?」
上条「神出鬼没だし!殆ど都市伝説レベルの能力じゃんかっ!?」
バードウェイ「気がついたら魔法使いの資格を失っていたりしてなー」
上条「バードウェイさん?俺別に魔法使いになりたいとは思ってないからね?」
バードウェイ「ボスと呼べ……ま、食事でもしながら待つとしようか。これ以上事態が悪化するとは思えん」
上条「だといいんだけど」
バードウェイ「『だかしかし、この時上条はまさかあんな悲劇が起きるとは予想だにしてなかった……!』」
上条「お前結構ボケるよね?てっきりツッコミ側の人だって思ってたんだけど」
――WC
シェリー「……ふう」
シェリー(何やってんだ、私は)
ため息を吐きながら、シェリー=クロムウェムは目の前の鏡を見つめた。
ぼさぼさの金髪、目付きの悪い女の顔、真新しいスーツには少し浮いている感じがする。
シェリー(……まぁ、それなりには嬉しかった、が)
上条当麻の言葉、世辞だと分かっていても僅かに心躍るものがあった。
買い物もそうだ。他人と慣れ親しむ事すら避けていたシェリーが、久々に楽しかった。
暴走気味の年下の少女に振り回されるのも、まぁ、悪くはない。
だが。
シェリー(……だから、だからこそ……!)
そんな自分が許せない。許す事は出来ない。何故ならば。
シェリー(エリスがここにいないというのに、少しでも心浮かれた私は何だよ?)
友と呼べる存在は居ない。近づこうとした物好きも殆ど居ない。
だからこそ、今日この場所で楽しんでしまった自分に吐き気がする。
このクソみたいな世界に独り取り残された自分が。
シェリー(……チクショウ、分かってる。分かってるわ、エリス)
心の中で何度もエリスに頭を下げる。けれどエリスの姿は笑うだけで何も答えはしない。
――死者はもう、何も語らない。
OL風の女「あのぅ、すいませーん?」
手洗い場で凹んでいる姿を見とがめられたのか。
シェリー「……別になんでもねぇわよ」
OL風の女「いえいえそう言うんじゃなくって」
シェリー「キャッチセールスならお断わりだ。他を当たれよクソ野郎」
本国ならば強盗の心配をするのだが、こっちは持っていたとしても精々ナイフぐらいだろう。
オイルパステルを一閃させればそれだけで事足りる。
OL風の女「落としましたよ、これ」
シェリー「ケータイ電話だぁ?」
親切心からだと気づき、ポケットの中で武器を離す。
OL風の女「いえ多分、これはあなたのですよ――ねぇクロムウェルさん?」
シェリー「……うふ、うふうふふふふっ」
シェリー「そっかぁ、敵かよ。いいよなぁ、単純で」
カチリ、と心の枷が外れていく。長らく忘れていた、破壊衝動が鎌首をもたげる。
シェリー「石と鉄筋で包まれた棺桶で、血と錆の浮いたあなたのお墓を作ってあげ――」
男の声『おいおい、よしとけってクロムウェル。つーか随分キャラ変わってんじゃねぇか、オイ?』
シェリー(携帯電話から声?)
シェリー「誰だテメーは。なんで私を知ってる?」
男の声『忘れちまったのかよ。まぁ20年前に会ったっきりだし、こないだもすれ違いだし無理はねぇか』
シェリー「20年前だぁ?何言ってるのよ、あなた。私の知り合いなんて学園にいる筈がねぇだろ!」
シェリー(……そうだ。エリスを除いては、誰も)
男の声『……オイオイオイオイ。マジで忘れてんのかぁ?ったくどいつもこいつも薄情だよなぁ』
男の声『俺は木原だよ、き・は・ら。木原数多って研究者憶えてねぇか?』
シェリー「キハラ……?あぁクソ!ジャパニーズの名前は憶えにくいんだっつーのよ!」
男の声『エリスの能力開発と、魔術発動の実験に立ち会った男だよ』
シェリー「……!生きてたのかよ!?」
男の声『あぁ。顔の皮ちょいと剥がされちまったけどな。みっともねぇったらよ』
シェリー「……確かに、懐かしいは懐かしいが、今更何の用だ?『エリスを守れなくてゴメンナサイ』って言うつもりかぁ!」
男の声『そりゃ俺の言う台詞じゃねぇ。実験そのものは失敗したが、あの時点で適切な処置をすりゃ、あのガキは助かったぜ』
男の声『それをメイスで滅多打ちにしたのは、お前らのお仲間だろ?』
シェリー「仲間じゃない!私に、仲間なんて――居ねぇんだよ!」
男の声『そりゃ悪かった。そっちも色々と抱え込んでるみたいだし、俺だってあの後大変だったんだぜ?』
男の声『こちとら研究に邪魔なものは排すべき、ってぇ強硬派が調子に乗っちまうし』
男の声『……ま、それはいいとしようや。終わった話だ』
シェリー「……」
男の声『聞いてますかー?もしもーしっ?』
シェリー「終わらねぇよ!?何にも終わってなんかねぇじゃねぇか!」
シェリー「あの子が好きだった世界は!また性懲りもなく一つになろうとしてやがる!」
シェリー「何一つ!終わってなんか、ないっ!!!」
男の声『……まぁな。それは俺もちょいと思っていたんだが、まぁまぁ?』
男の声『どっちに転んでも良いように、お仕事している最中だしなぁ』
男の声『とにかくお前が変わらないようで安心した』
男の声『そんなお前だから、俺は安心して悪事を吹き込める』
シェリー「……あぁ?」
男の声『なぁ、クロムウェルさんよぉ。俺と一つ、取引をしねぇかい?』
シェリー「しねぇわよクソッタレが。あなたは私の欲しいものを持っていない。であれば取引なんか成立しないわ」
男の声『でもねぇな。こっそり回収しといたもんがあんだよ』
男の声『お前、体細胞クローンって知ってるか?』
――和食レストラン
上条「どう?そんなに悪くはないだろ?」
バードウェイ「……ふむ。これは」
上条「あ、意外と高評価?」
バードウェイ「シェフを呼ぶんだ!」
上条「いねーよ!殆ど調理された状態で来てんだっ!」
バードウェイ「しかしこれ以下の我が国の料理って一体……」
上条「いや、お前はいいもん食ってんじゃないの?ボスやってんだから」
バードウェイ「家でこしらえる分にはな。それ以外だと苦労が多いんだよ」
バードウェイ「行きつけの店を下手に作ってしまえば、そこが襲撃される恐れもあるし」
上条「魔術結社って言うより、マフィアじゃねーか」
バードウェイ「そうだなぁ。只の研究機関かと思えば、悪の秘密結社さながらの某学園都市もあるみたいだが」
上条「棚に上げるのは良くないよなっ!……ホント、どうなってんだろうな。この世界」
バードウェイ「『大切なものは目に見えない』。サンテグジュペリの言葉だったか」
上条「あ、知ってる。星の王子様」
バードウェイ「目に見えないのか、それとも見ようとしないだけなのか」
バードウェイ「形を失って概念になったヤツに縋り付く、それもまた人生だとは思うがね」
上条「シェリーの事、調べたのか?」
バードウェイ「たかだか一介の魔術師如きに興味もない。だが」
バードウェイ「先日の騒ぎ――魔術と科学の仲を裂こうとした件については知っている」
上条「あれってお咎めなしだったんだよな。よく『必要悪の教会』が粛正しなかった……しようとしてたら、乗り込んだけど」
バードウェイ「あぁそうだが……それだけじゃない」
バードウェイ「処罰されなかったのは、学園側からの陳情があったからだとか」
上条「ふーん?研究者としても貴重だって話か?」
バードウェイ「いや、私が調べた限りでは20年前の事件、その時のブロジェクトの学園側責任者だった。あぁっと」
バードウェイ「木原……アマル?アルマ?だが手を回したらしい」
上条「木原ねぇ。円周の親戚かな」
バードウェイ「珍しい名字なのか?」
上条「いやいや、かなり一般的な名前だよ。一度聞いて――みるのは、良くないよなぁ」
バードウェイ「誰が何と言おうとも終わった話だよ。関係者は処罰されたし、計画も頓挫した」
バードウェイ「結果的に、魔術サイドと科学サイドが同じ歩みに至る事はなかった訳だが」
バードウェイ「もしもソレが成功していたのであれば、どんな世界になったろうか」
上条「皮肉は皮肉だよなぁ。学園都市とイギリス清教が組んだのは良いけど、次はグレムリンだし」
上条「外に敵がいないと協力しあえないのは寂しいよな……」
バードウェイ「それにしたってどちらがいつ裏切るのか分からない。まぁ、頑張りたまえよ」 ポンポン
上条「最後に他人事かっ!?それっぽいアドバイスとかくれないのっ!?」
バードウェイ「魔術師は元来、己の信念にのみ従う。それ以外はどーでもいいのさ」
上条「面倒臭い……魔術師の人ってこんなんばっかか!?」
バードウェイ「一方通行に御坂美琴、あと麦野沈利を擁する陣営に言われたくはないな」
上条「一方通行は……うん、まぁアレだけど!麦野さんも……まぁまぁデレのないヤンデレ化してるけども!」
上条「御坂はかなり普通の方なんじゃ?」
バードウェイ「お前、好きな相手に包丁で斬りかかるタイプなのか?『避けるだろうから大丈夫!』とか言って」
上条「ギャグだからねっ!あくまでもフィクションであって俺以外にはぶっ放してないから!」
上条「……あれ今好きって言った?誰が?誰を?」
バードウェイ「口元にソースついてるぞ。ほれ、拭ってやるから動くな」
上条「勘弁してくれよ、自分で出来るし」
バードウェイ「そうか?では――あぁ小娘の話だったな」
上条「あっれー?今キングクリムゾ○発動したような……?」
バードウェイ「小娘なんかだと……まぁいいか。私は二週間で帰るんだし」
バードウェイ「今朝のような都市伝説ごっこを毎日繰り返すと思うと、胸が熱くなるな」
上条「俺を!俺をイギリスへ連れてって下さい!」
バードウェイ「ならば忠誠の証を見せて貰おうか!」
上条「まさかのここでドS発動しやがった!?――と、遅いなあの二人」
バードウェイ「現実から目を逸らしても、現実は追い掛けてくるぞ?」
上条「ま、まだ二週間あるしぃ!きっとその間になんやかんやでそげぶして解決する筈だしぃ!」
バードウェイ「その場合、BadEndからS○W BadEndに変わるだけだと思う」
上条「あれ?強調のsoだよね?決して別口のサイコ映画入ってないよな?」
バードウェイ「そんなに心配なら呼び出せばいいだろ」
上条「だな……あ。円周のアドレス以外にも、シェリーの電話番号も入ってる」
バードウェイ「どうやって調べたんだ。鑑定の依頼出したのって、小娘じゃないのか?」
上条「シェリー呼ぶ意味が無い、と思うけど。あ、ちょっとかけて来るわ」
バードウェイ「どこへ行く?」
上条「トイレでちょちょいと。席でするのはマナー違反、だろ?」
バードウェイ「リュックを忘れているぞー、『当麻お兄ちゃん』?」
上条「見た目はキャラクターもんの缶バッジつけてて、可愛らしいんだよなぁ」
バードウェイ「中にどんな凶器が入ってるのか……いや、凶器『だけ』が入っていると考えた方が、まだ精神的に安定するな」
上条「不吉な事言うなよぉ!俺だって不安なんだからなっ」
バードウェイ「ともかく持っていけ。私一人になった途端、爆殺とかやりかねないだろ」
上条「……なぁ、円周ってそんなに悪い娘かな?」
バードウェイ「善悪で言えば『どちらでもない』と思うよ」
上条「だよなっ、なっ!」
バードウェイ「善悪を知らないが故に危険だが。興味があればキリストの舌でも平気で引っこ抜くだろうし」
上条「だよなー、うん」
バードウェイ「ちなみにその缶バッジな。家に帰ったら『Happy Tree Friend○』で検索してみろ。出来れば動画で」
上条「有名なんだ?」
バードウェイ「予備知識なしで、見ろ。100%トラウマになるから」
上条「んな危険なもん人に勧めるなよっ……んじゃ、ちょっと行ってくる。あ、そうだ」
上条「長くなるかも知れないから、デザートでも食べてれば?あんみつパフェなんてオススメだ」
バードウェイ「はっ!パフェなんて甘ったるいモンはお子様が食べるモンだよ」
上条「……そーですかー」 ガチャッ
バードウェイ「……」
バードウェイ キョロキョロ
バードウェイ ピンポーン
店員「はーい、なんでしょうかー?」
バードウェイ「あんみつパフェセットを一つ頼む」
ガチャッ
上条「あ、バードウェイ。そういやさ――」
店員「はーいっ!注文繰り返しまーすあんみつパフェセットー、あんみつパフェセットをおひとつー!」
上条・バードウェイ「……」
店員「お時間少々お待ち下さーい!」
上条「……ごめん。ほんっっとーーにっ、ごめんなさいっ」
バードウェイ「気を遣うな!逆にいたたまれない!」
上条「いや別に意外って訳じゃないと思うし。多分マークとか、他の部下の人らも『あ、ボス可愛いなー』ぐらいにしか思ってないって!」
バードウェイ「貴様……侮辱も程々にしろ!」
上条「いやだからごめんって!好きなもんは好きで良いじゃねぇか!」
バードウェイ「立場上入り婿になるが、それでも良いって言うんだな!?」
上条「錯乱してるな?つーか結婚させてまで守るレベルの機密じゃねぇから!」
バードウェイ「……ならばいっそこの手で――」
上条「電話して来まーす!きっと前後の事は忘れてると思いますからっじゃっ!」 シュタッ
バードウェイ「……」
バードウェイ「……はぁ」
店員「ご注文のあんみつパフェお持ちしましたー」 コト
バードウェイ「ご苦労」
店員「……」
バードウェイ「なんだ?日本じゃチップは要らないと聞いたが」
店員「素直になれよツンデレ」
バードウェイ「支配人を呼べ!この店も教育がなっていないようだ!」
――WC
上条「……?」
上条(何か騒いでんなバードウェイ?『シェフを呼べ』ごっこしてんのか?)
上条(さて) ピッ
上条(円周とシェリーのアドレス、正しいんだろうか?)
上条(つーかこれ赤外線使ったログもないし、全桁打ち込んだのかよ)
上条(人間としてオーバースペック。つか聖人なのかなぁ、神裂とか鳴護みたいな)
上条(ま、もうちょっと常識を分かってくれれば、良い友達になれると)
グリッ
男C「両手を上に上げろ」
上条「そんな気はしてたっ!何かイベント起きると思ってた!」
上条「背後から背中にゴリゴリと硬いものが。うんまぁ慣れてますけどね!」
上条「サイフは後ろのポケットん中だよチクショーっ!」
男D「早くしろ」
上条(強盗じゃないのか?って事はどっかの誰かの関係者)
上条(手洗い場の鏡で映ってる姿は普通の人っぽい……銃は持ってないか、普通は)
上条「……いっそ強盗の方がどんだけ気が楽だったか……!」
男C「そのまま両手を後ろへ回せ。携帯は預かる――リュックもだ」
上条「借り物だから、ちょっと拙いっていうか」
男D「寄越せっ!」
上条「……知らないぞ、俺は」
男C「よし、そのままだ。動くなよ?」
上条(拘束する訳じゃないし、何がしたいんだこいつら?)
男D「武器は……持ってないな」 ポンポン
上条「普通は持ってないだろ。つーか何で俺?俺なんかしたっけ?」
男C「黙ってろ。こっちのは――」
上条「おい止めろっ!?それは開けちゃダメだって!」
男C「なんだと?やっぱり武器が――」
バシュッ!ガリガリガリガリッ!
男D「え?」
男C「う、ぁぁぁぁぁぁぁっ」
上条「言わんこっちゃねぇな!……うっわグロッ!?」
上条(円周のリュックから手を離した男、その右手は手首から先がない)
上条(噛みきられたような、腕の腱とか血管とかが飛び出て、床に血溜まりを作っている)
上条「あぁもうっ動くんじゃねぇ!」
男B「お前も動くな!」
上条「言ってる場合じゃねぇよ!応急処置しないと出血多量でショック死すんぞ!」
男C「……」 グラッ
上条「あぁもうっ意識が朦朧としてる!銃を置いて縛るもの寄越せ!」 パキィィンッ
男D「に、逃げる気だな!?お前がすればいいだろう!」
上条「誰かが腕を押さえてないといけないんだよ!早くしろ!」
男D「べ、ベルトで良いか?」
上条「あぁ!腕に巻いて……そうだ。そのまま、棒か何か間に挟んでグルグル締めるんだ」
男D「組織が壊死するんじゃ……?」
上条「出血多量で死なせたいのかよ!?」
男D「わかった……」 ギュッ
上条「後は救急車を呼んで、腕も拾っとけ。出来れば氷詰めたビニール袋か何かを貰って来ないと」
男D「待ってろ!直ぐ持ってくる」
上条「すまん。その前にちょっといいか?」
男D「なんだ?」
上条「お前も――眠ってろっ!」 バキッ
男D「ぐぉっ!?」 パキィィンッ
パタリ
上条「……よし、と。あーもーどうしてこんな惨状になった……」
上条「あのまま後ろから撃たれるわりはマシ……と、思うようにしたい、うん」
上条「……」
上条「この血みどろリュック、持ってかないとダメか……?」
――同時刻 フードコート
ダダダダダダダダダッ
一方通行「あァ鬱陶しい」 ガッ
腕を一振りして斥力を生み出し、軽く吹っ飛ばす。
男G・H・I・J「!?」
ベクトルを操作された風が銃を持った者を中心に吹き荒ぶ。
近くにあったベンチを巻き込みながら、やや大雑把に男達を壁へ叩きつけた。
一方通行「……飽きた、つーか食傷気味っつーかなァ」
一方通行「中距離から豆鉄砲撃ってたって、俺を倒せる訳ァねェだろボケ!」
男G「ヒ、ヒイィッ!?
一方通行(さっきはクソ木原に不意を突かれて焦っちまったが、いざ能力を使えばどうって事ァねェ)
一方通行(てっきり煙幕でも張って近づいて来ンのかと思えば、距離取ってサブマシンガンで牽制)
一方通行(つかコイツら本当に猟犬部隊なのか?服は一般人そのままだし、武装も銃だけ)
一方通行(木原の野郎ならもっとえげつねェ――そう、俺が『殺さなくてはいけない』ようなシチュへ追い込む筈だなァ?)
一方通行(つーか訓練された連中の『凄み』も感じねェ。油断させるにしたって、雑すぎる)
一方通行(膨大な演算量の相手には、息を吐かせないラッシュで追い込むのか基本だろォ)
一方通行「……」
一方通行(――今もだ)
一方通行(ってェ事を考えてる隙に、敵が弛緩した瞬間を狙うのがセオリーの筈なンだが)
一方通行(それすらもしねェって怠慢にも程があンだろ)
『木原』と名乗ったにしては脅威度が低い。以前は死ぬよりも悲惨な所まで追い詰められたのに。
何かが、おかしい。『木原』とはこんなものではない。
一方通行(しねェ、のか?)
一方通行(……いや、『出来ねェ』ンじゃねェのか?)
一方通行(俺の『反射』をぶち破れるンだったら、人混みに紛れて奇襲すりゃいい)
数撃てば当たる、ではないが。反射出来るだろうと高をくくっている相手に、初撃で致命傷を与えるのが最善だ。
もしも作戦を立てる側であるなら、躊躇わずそうする。
一方通行(だってのにソレをしないってェのは――)
どうしてこんな回りくどい方法を取ったのか。それはつまり。
一方通行「……クソが!最初から『あのガキ一人しか反射を貫通出来ない』のかよォ!?」
一方通行(クソみてェなこいつらは全部囮!木原っぽい何ンかもフェイク!)
一方通行(俺に一撃入れるためだけ、たったそれだけのためにこしらえた舞台、っつー事かァ!)
ショーウィンドゥに傷口を映せば、周囲が異様に黒く変色し、組織がズタズタになってきていた。
痛覚を遮断し、血流を抑えていたから気づけなかった。
一方通行(毒かよォ!また古典的な!)
一方通行(痺れがねェって事は消化毒……と、何か良く分からない添加物が入ってンな。あァ面倒臭ェ)
一方通行(全てが『後ろから俺を刺して毒を打ち込むため』の芝居……ってェなら、ヤバい毒なんだよなァ、当然)
一方通行(能力を使えば異物も簡単に排出出来るが、バッテリーを喰う)
一方通行(……つってもしない訳にはいかねェ……あァなンかクラクラしやがる)
一方通行(節約すりゃ20分。今から追い掛けて間に合うもンかァ?……って)
一方通行「眠ってろ」 グギィッ
男H「……んがっ!?」
這いずって逃げようとした男に一撃。ズボンからこぼれ落ちた携帯を手に取る。
一方通行(通信機通信機っと……最近はスマフォでやりとりしてンのかよ。ハッキングされンだろォに)
一方通行(……あァご丁寧に。デパートのマップと全員の位置情報がリアルで流れてンのな)
今居る場所には『G・H・I・J』のアルファベット。他にも幾つかの記号と名前が動いている。
一方通行(さっき逃げてったガキは……)
『木原円周』。地図の大半を占める英字の中、日本語は異彩を放っていた。
一方通行(木原……まァこいつでアタリだろォな)
一方通行(コイツを――『反射』を貫通出来る人間をどォにかしねェと、いつまで下らねェ騒ぎに巻き込まれンだよなァ)
まだ意識のある男達を蹴り飛ばし、一方通行は円周への追撃に向かう。
だが、しかし。彼は気づかない。
一方通行に注入されたものが、物理的な毒だけではないという事に。
一方通行「……だよなァ。俺ァ降りかかる火の粉を払うンだ。こいつァ正当防衛だしィ?」
それが自分の――少なくとも、数時間前まで持っていなかった理屈である事に。
木原数多と再会した際、植え込まれた『悪意』である事に。
一方通行(誰だってそォだ。大切なもンとそうじゃねェもン天秤にかけて――)
毒は汚染する。思考を侵し判断を鈍らせ、麻痺させていく。
一方通行(――どっち選ぶか考えて生きてンだ。だから――)
毒は融かす。嘗て決別した筈の『境』を軽々と乗り越えさせる。
一方通行「――ぶっ殺しても『仕方がない』よなァ……?」
彼は、気づかない。
――同時刻 WC
シェリー「クローン、だぁ……?」
男の声『そうそう。髪の一本、血液の一滴さえあれば、同じ人間を造れるってぇ技術だ』
男の声『そいつでエリスを生き返らせるって話だ』
シェリー「……ハッ、アハハハハハハハハハハハハッ!」
見当違いな言葉に笑いが漏れる。
男の声『んだよ、笑ってんじゃねーよ』
シェリー「20年前だぞ?エリスが居なくなったのは!」
男の声『だから?』
シェリー「あの子の細胞が残ってる訳ねぇわよ!墓でも暴くつもりか!」
男の声『「回収」しといたんだよ。あん時、俺がな』
男の声『血溜まりん中からフラスコでこっそりとな?』
男の声『……ま、生憎見つかっちまって、顔の皮剥がされた訳だが、無駄にはならなかった』
シェリー「……それは、エリスじゃない」
シェリー「あの子はもう、ずっとずっと昔に死んだのよ!帰ってくる訳がないの!」
シェリー「幾らどれだけ外見を似せようとしたって!魂の宿らない肉体は人なんじゃねぇっ!」
それはいつだったろうか。シェリー本人が人ならざる存在へ向けた言葉。
ゴーレムの『エリス』が彼でないのを分かっていたからこそ。人でない彼女が人として生きているのを羨んだ。
結果、風霧を否定しようとしたのに、彼女の友達によって阻まれた。
そう、今の立場と同じように。
男の声『じゃあお前はどうしたいんだ、シェリー=クロムウェル?』
男の声『お前はカバラに手を染め、仮初めの土塊を造り出している……俺は知ってんだよ』
シェリー「……やめろ」
男の声『こないだの襲撃の際、監視システムがテメェの台詞も拾ってんだ。確かゴーレムの名前は』
シェリー「やめろ!言うんじゃねぇっ!」
男の声『エリス、だよなぁ?』
男の言葉は核心を突く。どれだけ言われても気にしていなければ揺るがない――逆に、図星であれば、些細な言葉でも動揺してしまう。
男の声『要はアレだよ、アレ。お前はエリスを自分の手で造り出したいのさ』
エリス「そん、なっ!そんなつもりはっ!」
男の声『イヤイヤ別にいいんじゃねぇか?死んだ知り合いの名前をつけるってぇのも』
男の声『ただ、俺が造る――造ってやるのは、正真正銘エリスの細胞を遣った「ホンモノ」だ』
男の声『お前が望むんだったら9歳でも30歳のエリスでもいいんだぜ?』
エリス「9歳だと……お前まさかっ!?」
男の声『あー、違う違う。別に作成済みって訳じゃねぇよ。学園都市の技術でな、好きな歳に成長させてからのクローンが出来んのよ』
男の声『多少寿命が縮むが、それだってゼロか1かだったら、お前さん1を選ぶよな?』
シェリー「わたし、は」
エリスの居ない未来に生きる自分。紛いものに名前をつけ、執着を断ち切られないで居る。
だがもし、今ここで、この男の言葉を受け入れさえすれば。
男の声『大丈夫。生まれたてのガキに教育も要らない。「学習装置(テスタメント)」って機械を使えば、記憶や人格をインストール出来る』
男の声『一般常識と、なんだったらお前の知ってる思い出でもフォーマットすりゃほら!エリスの出来上がりだ!』
男の声『別にバカ正直に「エリスです」って言う必要はねぇし、俺が学園側の戸籍でも用意してやっから、後は好きにすればいい』
男の声『そっちでも、なんつったか?ネセサリウスでも、ガキ拾ってきて兵隊にすんだろ?』
男の声『生物学的には人間だし、能力開発してないから理論上は魔術だって使えるぜ』
男の声『さてクロムウェル。どうするんだよ、つーか時間があまり無くてなぁ。出来れば直ぐにでも――』
シェリー「何を、させたいんだ?どうして私なのよ?」
一度気づいてしまえば遅い。『自分を納得させる理由』探しに、気がついたら台詞が口を滑っていた。
男の声『そりゃお前が適任だからだよ?場所的にも、人間関係的にも』
シェリー「……どうせ汚れ仕事なんだろ」
男の声『いや、そうでもねぇよ。ただの家出娘をふん捕まえて欲しいってだけ』
シェリー「やっぱりあのガキ――円周、か」
男の声『そう「木原」円周だ』
男の声『あのガキ任務失敗してから逃げ回ってやがってなぁ。何度か捕まえようとしたんだが』
シェリー「小娘一人にゴーレム使えって言うのか!?」
男の声『相性の問題だ。あいつは見た目通りのガキじゃない。対人戦闘のスペシャリストのデータを参考にして動けるんだわ』
男の声『アレだな。ハリウッド映画の主役みてぇな感じか』
男の声『テロリストと人質と一緒にビルに閉じ込められても、半日ありゃ皆殺しにして生還する』
シェリー「……冴えないおっさん刑事かよ」
男の声『人質ごと全員だ。ある意味「木原」を越えてやがるんだよ』
男の声『まぁサイボークか強化服辺りを大量投下すれば確保出来るが、そう派手にもいかねぇし』
男の声『どうしたもんかと考えていたら、どっかで見た顔が来たもんだ。俺ってラッキーだよな?』
シェリー「捕まえた後、どうするつもり?」
男の声『「学習装置」を使って人格を書き換える。危なっかしくってしょうがねぇんだよ』
シェリー「んな下らねぇ事に私が付き合うとでも――」
男の声『いや、するね?お前はするしかねぇんだよ』
男の声『なんせ「それ」はエリスの人格をインストールさせるために必要な実験だからな』
シェリー「腐れ外道が……!」
男の声『しつこいようだが、これは「取引」だ。だから俺はあくまでも真摯に情報を流してんだよ』
男の声『今だって嘘を吐いて適当に誤魔化そうと思えば出来た。でも、しなかった』
シェリー「……」
壊れる程強く握りしめた携帯電話。会話と会話の間に出来る無音部分に奇妙なノイズが走るようになっていた。
少しだけ耳を話せば……どこか遠くから、微かな振動と共に爆発音が響く。
男の声『聞こえるか、クロムウェル?建物の中が随分騒がしいが、こいつぁ円周を確保するために部隊が動いている音だ』
男の声『本来ならばあいつはさっさと逃げ出している筈なのに、今も留まってる』
男の声『さぁて、「誰」を心配してんのかね?』
シェリー「あの子を、殺すのかよっ!?」
たったの半日、いやたったの数時間しか付き合っていない相手。
だが、無邪気に――少なくとも外見は――懐いてくれた人間を差し出せと言われて、納得は出来ない。
男の声『あいつは生きてて良い人格じゃねぇ、だが殺すのは忍びない――いや、勿体ない』
男の声『だからわざわざ人格の初期化で済ませよう、って話だぜ』
シェリー「テメェらは、狂ってる!」
今も昔も。そう――戦わなければいけない相手は、魔術ではなく科学ではないのか?
禁忌を軽々と踏み越え、生命の再設計や死んだ人間を破片から造り直してしまうような相手を。
男の声『あ、悪い。時間も興味がねぇから、その話はメールにでも頼むぜ』
男の声『その気があるんだったら、適当に確保しといてくれや。ウチの若ぇのが引き取りに行っからよ』
男の声『円周の居場所はそのケータイ使えば分かる』
シェリー「――待て!一つだけ聞かせろ!」
男の声『おう』
シェリー「あなたが取引を裏切らない保障は?」
ダメだと心の中で誰かが叫んでいる。
それはきっと遠い昔に遊んだ少年の声と似ているのだけれど。
シェリーの心には、もう届かない。
男の声『信じろ、ってぇのが無理な話かも知れねぇな。俺だって昔は真っ当な研究者だった訳さ』
男の声『ぶっちゃけエリスのクローンだって造ろうとも思えば、機会も理由もあった――が、どうしても出来なかった』
真摯そうに聞こえる言葉。だがその全ては嘘で塗り固められている。
もう少し精神的に余裕があれば――いや、エリスの事でさえなければ、言葉の端々に潜む欺瞞を嗅ぎ取り、『取引』自体が嘘だと看過していただろう。
シェリー「……」
男の声『そこへ来て逃げ出した円周と、いつの間にか宜しくやってるお前の姿だ。俺ぁ思ったね。「こりゃ良いタイミングだ」って』
シェリー「……偶然、なのにか」
男の声『偶然は重なれば必然となる。そういう事だぜ』
偶然は重なる事自体偶然ではある――が。
全てが予め仕組まれた出来事であるならば、それは只の作為だ。
誰かが、何かのために用意した舞台。
男の声『大丈夫だ。俺ぁお前の信念を踏みにじるつもりはねぇよ』
男の声『きちんと成功させる――今度こそな』
言葉の毒、長い間他人を拒絶し続けた魔術師にも染み渡る。
乾いた布が水をよく吸うように。瀕死の古木が根から吸い上げるように。
『それが有毒だと分かっていても、飲まなければいけない』から。
長い間惰性で生き続けてきたシェリーにとって、その取引はあまりにも魅力的で。
喉が渇いた弟は泉の水を、飲む――そして人は獣になった。
※今週の投下は以上で最後となります。読んで下さった方に感謝を
一話4万字(原稿用紙100枚)で落ち着かせようと思ったんですが、今日投下する分を加えると既に5万字越えるんだどうしよう (´・ω・`)
来週が第一話終り+銀魂短編予定で……この調子で終わるんでしょうか
…気がつけばまた孤独な一人旅…
まあ見てるんだけどね
とりあえず乙
乙。>>1がレスつかなくてやきもきしてるとこをROMりながらニヤニヤするのが楽しくてつい…
って人が多かったり
乙
バードウェイだけにドSばかり
乙っした!!!!
乙です
乙
乙でした
乙々
バードウェイかわいすぎるー
>>1は色々と博識だな…何者だ?
――和食レストラン
バードウェイ「……ふむ。中々悪くないな。たまには戯れに子供用の食い物を口にするのもいい」 パクパク
上条「……あのー、バードウェイ?」
バードウェイ「なんだ。遅かったじゃないか」
上条「ちょっと聞きたいんですけど」
バードウェイ「あんみつパフェセットが二つあるのは変じゃないからな。片方はお前用だ。感謝したまえ」
バードウェイ「まぁ冷めてしまっては元も子もないので、私が食べざるを得なかったのだが」
上条「冷めねぇもの元々氷菓だし。じゃなくって俺が聞きたいのは」
バードウェイ「あぁお前も食べたいのか?一人で注文するのも心苦しいだろうから、私も付き合ってやろう」
上条「そうじゃねぇよっ!?つーか気に入ったんだなあんみつパフェセット!俺も大好きだけどもだ!」
上条「レディースデイで女性デザート半額になるのに、男の割引はされなくて不公平とか感じてるけども!」
上条「それよっか気になるのは店内に倒れている男達だよ!」
バードウェイ「しつこいナンパでぶっ飛ばした。反省はしていないし、するつもりもない」
上条「嘘吐くなっ!幾ら色々終わってる性癖が集まる学園都市でも、お前がピンポイントで狙われるかっ!」
バードウェイ「――ほぅ?」
上条「ヒイィッ!?」
バードウェイ「貴様まだ上下関係について学習出来んようだなぁ……?」
バードウェイ「嫌いじゃない。嫌いじゃないぞ、そういう反抗的な奴は!なにせ」
バードウェイ「屈服させるまでの時間が!屈辱に打ち震えながら頭を下げる姿を見るのも――また、愛おしい……!」
上条「嘘嘘嘘っ!?バードウェイさんってばまるでさる王室の方みたいに髪綺麗だわ肌白いわでっ、男選り取り見取りですよねっ!」
上条「あー4年後が楽しみだなーっ!俺4年経ったら実家へ帰ってパン屋を継いであの子にプロポーズした後で水門を見に行くんだっ!」
バードウェイ「露骨な世辞はマイナス評価だが……まぁ貴様の『下』のラインが16だと知れたのは収穫だな」
上条「しまった……!?これは敵の魔術師の攻撃だ!」
バードウェイ「その『魔術師から攻撃を受けているゴッコ』も、そろそろイタイ中二病とさして大差ないと気づけ」
上条「そうじゃねぇ!そうじゃなくてこの惨状はどういう事だって聞いてんだよ!?」
バードウェイ「お前と同じだな。トイレへ立って暫くすると、店の客たちが示し合わせたように『バードウェイだな』と」
バードウェイ「面倒なので無視していたら、私のパフェを倒したので少々礼儀を教えてやっただけだよ」
上条「……妙に幸せそうな顔で気絶してやがるけど」
バードウェイ「『殺すな』と小娘に言ってある手前、この程度で殺してやる義理はないさ――と、すまないが右手で触ってくれ」
上条「ん、あぁ?」 ナデナデ
バードウェイ「あ、こらっ、髪が乱れるっ」
上条「さっき言ったけどもお前の髪ってすげー綺麗な。金髪ってのはもっと薄っぽい感じかなって思ってたけど」
上条「金の糸で編んでる織物みたいな感じ?実物を見ると違うなー、と」
バードウェイ「そ、そうか?ふふんっ、もっとやっていいぞ」
上条「地毛、なんだよな」 ナデナデ
バードウェイ「当たり前だ。誰が染めるか」
上条「テレビで見るのはキラキラしたイメージがあったから」 ナデナデ
バードウェイ「あれはボトロドブロンド――脱色した奴だな。連中のは干し藁色をしているだろ?」
バードウェイ「私のは天然のゴールデンブロンド。稀少ではあるな」
上条「その割に俺の知り合いは金髪率が高い気も……?」ナデナデ
バードウェイ「偶然だな。『取り敢えず金髪にしときゃガイジンっぽく見えんだろ!』という意味はないぞ、多分」
バードウェイ「――って違うだろ!?どうしてこの流れでお前が私の頭を撫ぜる必要性があるっ!?」
バードウェイ「しかも貴様相当手慣れているな!ちょっと気持ちよかったぞ!」
上条「そうなのか?俺の憶えてる範囲じゃ、お前ぐらいしか髪触った事無いけど」
バードウェイ「いいからっほら!こいつらの肩でも頭でも叩いてやれ!」
上条「へーい」 ポンッ
パキイィィンッ
上条「あ」
バードウェイ「やはり何らかの魔術か能力の影響下にあったのか」
上条「なんで分かった?」
バードウェイ「それは移動しながら話そうか。面倒はごめんだからな」
上条「面倒って?」
バードウェイ「端的に言えば、この施設で銃撃事件が起きていると言う事だ」
上条「大事だな!……いやでも、『面倒』って事は、つまり」
バードウェイ「……ちっ、お前は妙な所で聡いんだったか」
上条「巻き込まれたのはどっちだよ!?」
バードウェイ「座れ、取り敢えず落ち着け」
上条「けどな!」
バードウェイ「だから、座れ、と言っている」
上条「……っ」
バードウェイ「情報が錯綜している以上、下手に動くのは得策ではない。ではまず」
バードウェイ「今し方襲ってきたこいつらの携帯電話だ」 ゴトッ
上条「英字とここいらの地図、か?」
バードウェイ「トイレに二人、こっちに四人。寝ている馬鹿どもと同じ数だな」
バードウェイ「で、マップとリストを操作してみると」
上条「『木原円周』?」
バードウェイ「他にもこいつら――工作員もどきが動いていたり、生命反応が低下している所が集中していたりする」
バードウェイ「……うん?ここのトイレの奴も少し下がってるようだが」
上条「あ!そういや俺救急車呼んだんだった!魔法で傷の応急処置って出来ないのか!?」
バードウェイ「ステータスからすれば必要ないさ。それよりもフードコートの方が瀕死になっているようだが」
バードウェイ「通信機能もついているが、着いたり消えたりの繰り返しだ。男達の会話を聞く分であれば一方通行、木原円周が襲撃対象」
バードウェイ「代わりに何故かクロムウェルには手を出すな、だそうだ」
上条「……どういう事だ?まさかシェリーが敵側だって話かよ!?」
バードウェイ「とも考えられるし、魔術師サイドだから手を出“せ”ないかも知れない」
バードウェイ「そもそもこの情報が正しいとは限らない」
上条「はぁ?」
バードウェイ「見せパンってあるだろ?アレと一緒でわざと私達に通信機を奪わせ、攪乱させる」
バードウェイ「実は今、シェリーが連中に囲まれてる真っ最中かもな?」
上条「……誰が敵で誰が味方だ……?クソッ!」
上条「情報が少なすぎる!慌てて駆けつけてみれば、敵に囲まれていたんじゃ意味が無い!」
バードウェイ「以上が現在ある情報だ。さ、納得した所で帰るとしようか」
上条「え?」
バードウェイ「夕飯はソバが食べたい。カツオとソイソースの風味は絶品だと思うのだよ」
上条「あぁどうも……?じゃなくってだ!円周はどうする!?シェリー居るんだろ!」
バードウェイ「何故?どうして私が助けてやらねばならん?」
バードウェイ「『明け色の陽射し』にどう利害が絡む?」
バードウェイ「むしろここで揉め事を起こした方が、ゲストとしての立場が悪くなると思うがね」
上条「そりゃ……そうかも知れないけどさ!」
上条「目の前で困ってる人が居てだ!手を伸ばせる位置にいれば、誰だって助けようとするじゃねぇか!」
バードウェイ「本当にそうか?この事件、杜撰が過ぎるぞ」
バードウェイ「見ての通り工作員もどきはやっつけ。恐らくは何らかの魔術か異能の支配を受けた一般人だ」
バードウェイ「しかもご丁寧にお互いの位置情報がバレッバレの携帯電話を、さも奪ってくれと言わんばかりに持って居た」
バードウェイ「トドメはあからさまに怪しい『木原円周』の表示だ。これが罠でなくてなんだと言うんだ、えぇ?」
バードウェイ「『明け色の陽射し』のボスとしては、むやみやたらに関わる事は出来ない」
上条「……分かった。それじゃ、俺一人で何とかしてみるよ」
バードウェイ「……」
上条「一方通行が居るんだったら、合流すれば何とかなるだろ」
バードウェイ「……あのなぁ新入り。私はダメだ、と言っている」
バードウェイ「『結社としてのメリットがなければ』と」
上条「ん、分かるよ?だから俺が――」
バードウェイ「そうじゃない!……あぁもう面倒臭いっ!」
上条「……いやあの、時間無いからさっさと行きたいんですけど」
バードウェイ「お前は誰だ?」
上条「うん?」
バードウェイ「見習いとは言え、貴様も『明け色の陽射し』の一員じゃなかったのか?」
バードウェイ「ならお前が首を突っ込んだ以上、結社全員の問題となる。違うか?」
上条「……バードウェイ、お前!」
バードウェイ「あぁ。まぁ、その、なんだ。つきあってやらんでも無い」
上条「……面倒くさっ!?」
バードウェイ「ここは感謝の台詞だろうが!『私はお優しいボスを持てて幸運でした!一生忠誠を誓います!』って言う所だろ!」
上条「知らねぇよなんだそのローカルルール!?七並べにジョーカー入れるようなもんじゃねぇか!?」
バードウェイ「え、入れるだろ?」
上条「いや、入れないだろ――じゃ、ねぇっ!」
上条「あぁもう行くぞ!ってか最初っからンなやりとり必要ないだろ!」
バードウェイ「私だってしたくてした訳では無い!どっかの馬鹿者が初日に『俺は俺の流儀を通すぞ。絶対に(ドャァ)』したから!」
バードウェイ「てっきり『仲良くするためには形から。この流れだと助けに行くもんだ』ぐらいは言うと思っていたんだよ!」
上条「お前なぁ……」
バードウェイ「――ま、冗談はともかくとしてだ」
バードウェイ「この騒動、確実に『もう一枚何か』が絡んでいる。まるで薄気味悪いストーカーに観察されてるような」
上条「マークじゃね?」
バードウェイ「気がつくと机の上へ『親愛なるボスへ(はぁと)』って書かれたメッセージカートがあった気分だ」
上条「あ、俺犯人わかっちゃった。マークで始まり、スペースで終わる人の犯行だと思うよ?」
バードウェイ「ここで考えられるのは『暗殺』だな」
バードウェイ「素人の兵隊を用意しておいて、その隙に死角から思いっきりぶん殴る」
バードウェイ「対象はお前に私、一方通行、クロムウェル……誰一人死んでも、碌な結果にだけはならん」
上条「……分かってるさ。円周含めて、誰一人として死なせるつもりはねぇよ!」
バードウェイ「それで良い。お前は、それ“が”良い」
ぐぃ、と上条は胸倉を掴まれ、顔が近づけられる……ただし身長差のせいで、大分前屈みになるが。
バードウェイ「世界にはいつだって人が死んでいるのに、それすら理解してない奴は多い」
バードウェイ「戦争になる前は『何故、戦争は無くならないのか?』と悩み」
バードウェイ「誰かが戦争を終わらせた後で『戦争しかなかったのか?』と言うような馬鹿者どもだ」
バードウェイ「誰もしないのであれば『お前』がしろ!武器と智恵は我々がくれてやる!」
バードウェイ「猟犬であり、魔弾であり、貴様は悪を撃つ剣であればいい」
バードウェイ「タクトは私が振ろう。お前は喉元に喰らいつくだけでいい」
バードウェイ「考えずに、走れ!行き先は私が誘導してやる!」
上条「……ありがとう、バードウェイ――じゃなかった、ボス」
バードウェイ「……ま、バードウェイで構わんさ。敬意のない敬称など豚の餌にでもくれてやれ」
上条「いや、敬意とか尊敬が無いって訳じゃないんだぜ?その歳でよく考えてるなーとか?」
上条「でもお前はちっさいから、守らなきゃなっても思うんだよ」
バードウェイ「生意気言うな馬鹿者。私を守るなんざ100年早いよ」
上条「ガキの台詞じゃねぇぞ、それ」
バードウェイ「ではいざ行かん、私達の戦場へ――店員、勘定を頼む」
店員「……」 ジーッ
バードウェイ「なんだ?」
店員「ナイスツンデレ」 グッ
バードウェイ「煩いぞ外野!後日この店には文章で抗議するからな!」
――ショッピングモール
シェリー=クロムウェルの探す相手は意外とあっさり見つかった。
高給文房具屋の一画、キャンバスやパン――昔は消しゴム代わりに使っていた、今では絶対に使わない――などの画材が並ぶ区画に木原円周はいた。
GPS情報そのままだった上、目印もあった。一言で表すならば『食い散らかし』であろうか。
必ずと言って良い程、異様な光景をまざまざと見せつけられる。
どうせ木原数多の兵士であろうから同情はない。側に転がっている銃器から察するに、自業自得とはいえ、だ。
シェリー(これ、本当にあのガキ一人でやった事なのかよ?)
間接が逆方向にねじ曲げられていたり、ホチキスの芯が動脈に刺さっていたり、画用紙で手首を切断されていた。
中にはシャープペンで壁に貼り付けになっている男達。シュールな絵は猫と鼠が追いかけっこするアニメを思い出させる。
学園都市製の『能力』であれば、身体能力の強化、物体の硬度を上げる、高速で投擲する、のどれかだが。
一人に能力は一つだけであり、一人の人間が巻き起こした惨状では有り得ない。
反対に魔術で再現するのは不可能ではない。ただ非効率であるいうだけの話。
人を害する魔術なり霊装なりを用意する魔術師は多い。また一つだけではなく、ネタバレや無効化されてしまった場合に備えて、複数個用意するのも常識だ。
しかし『メイン』――得意とする術式は大抵一つに絞られる。
戦場へ行くに当たってライフル銃を何本も持つ兵士は居ない。それが行動の妨げになるだけでなく、あれもこれもと手広くスキルを学んでも同時に使える訳では無いからだ。
なので一番己に適した武器を『メイン』として精度や威力を上げるに尽力するだろう。
その挙動一つ一つが並の魔術師を遥かに超える『聖人』や、どこぞの魔術結社のボスでもない限りは。
そう言った意味で言えば、目の前に広がる『これ』はとても効率的とは言えない。
一つの武器に拘る訳でもなく、まるで『たまたま目の前にあった道具を使ってみました』と言う感じですらある。
シェリー(そういやガキが『スプリーキラー』つってたっけか?)
短時間で多くの人間を殺傷した者へ送られる蔑称。中には栄誉に思う者もいるだろうが、思うが思うまいが狂ってはいる事実に違いはない。
『お前が気に入らないから』と言う理由だけで、多くを死へと追いやった存在――の、筈なのだが。
円周「……」
血溜まりの中、膝を抱えて座り込む姿はひどく弱々しく――年相応の少女にしか見えない。
シェリー「……よぉ」
円周「シェリー、ちゃん……?」
最悪不意打ちで一撃入れてでも、と思っていただけに、素直な反応は意外だった。
シェリー「あークソ。女の子がンな顔するんじゃねわよ。血でベットベトじゃねぇか」
円周「むー、大変だったんだからねー――むぎゅ、あにするお?」
持っていたハンカチで顔の返り血を拭いてやる。全身血塗れの相手にどれだけ意味があるのは不明だ。
シェリー「つーかね、何やってんのよ?これ全部お前が?」
円周「んー……多分?」
シェリー「多分て。憶えてねぇのかよ」
円周「帰ってきてからちょっと記憶が飛ぶんだよねぇ。鞠亜ちゃんに殴られたせいかも?」
シェリー「お前相手に一撃入れた相手ってどんなゴリラだ、そいつ」
円周「メイド学校の子だよ?ま、次は勝てばいっかー」
くすくすと笑う。邪気の全くない笑顔で。
しかしここまで来る途中にあった肉塊寸前の人間達を思えば、人格に問題があるとしか思わずにいられない。
シェリー「ここで話すのもアレだし、少し場所を変えるか」
円周「あっちの方にベンチがあったよ」
シェリー「ん」
改めて円周という少女を観察してみてつくづく思った事だが、これは人間じゃない。『肉と血の詰まった容器』だ。
動かしているのは何か別の、悪意とは次元の違う『欲』か?
根底にあるのは何かの依存心?それとも機械でも入っているのか?
シェリー(……ふん)
円周「どうしたのシェリーちゃん?気分悪いんじゃ?」
シェリー「悪いのは今も悪りぃけど……なぁ、聞いていいか?」
円周「当麻お兄ちゃんだよっ!あ、でもシェリーちゃんもっ」
シェリー「好きな奴じゃねーよ!そうじゃないの、お前の事よ」
シェリー「お前の歳でこれだけボコスカ殺しまくってだ。良心は痛まねぇのかって話だよ」
円周「殺してないよ?」
シェリー「今日だけじゃない。バゲージでも派手にやったって聞いたぞ」
円周「んー……お仕事だしなぁ。趣味だって思われるのは心外かも」
シェリー「仕事ぉ?」
円周「スプリーキラーって呼ばれる人達は、大体『好きでやっちゃった』んだよね?」
シェリー「じゃ誰も殺したいとは思わなかったって言うのかよ?」
円周「あ、違う違う。そうじゃないよ、出発点から、違う」
円周「わたしが誰かを傷つけたのは『木原』だからだよ?『木原である事を求められたから、そうしているだけ』なんだよ」
シェリー「はぁ?」
円周「人を作っているモノってなんだと思う?」
シェリー「神様とか、そういうこっちゃねぇよな?」
円周「うん。構成しているって意味で」
シェリー「私が言うのもアレだけど、物質的肉体は必須だよな」
円周「だねぇ。それはどっちのサイドでも外せないと思うよ」
シェリー「出発点はどうしたって『そこ』だからな。グノーシスみたいに、肉体を否定する所からは始まらない」
円周「グノーシス主義は原始十字教が、男性にしか許されていなかった裏返しだと思うけど?過剰な女性賛歌は地母神信仰の影響かも」
シェリー「……こっちサイドまでイケる口かよ」
円周「お互いのラインを踏み越えないようにしているけど、史実を研究しない訳にはいかないしねー」
円周「えっとね……うん、人は肉体を持って色々なモノを詰めているんだよね?」
円周「信念だったり、記憶だったり、お仕事だったり、趣味だったり、家族だったり。大事なモノを内側に置いている」
シェリー「……あぁ、何となく分かる気がするわ」
円周「人生の優先度、とか重要度みたいな感じでねっ」
円周「でも逆にほぼ――中身が『からっぽ』であっても、その人は人間なのかなって」
シェリー「それは――どう、だろうな」
円周「わたしには足りないんだって。本来入っているべき感情とか、『木原』としてあるべきものが」
シェリー「『木原』が足りない?」
円周「例えばねー、うん。このお洋服、ステキでしょーっ?」
返り血に染まった服をつまみ上げ、笑う。とてもじゃないが、愛想笑いすら出来る状況ではない。
何かが欠損している。
円周「けど、このお洋服は店員さんに選んで貰っただけの、『この年頃の女の子ならこういう服を着る』から」
円周「だから、選んだんだよ?」
ひゅう、と言う風の音が聞こえる。
人工的な風以外は絶対に入らない、ほぼ密閉させた施設であるというのに。
その風はとても、心を冷やす。
シェリー「……待て待て。お前確か、甘いもの好きだって言ってたよな?」
円周「『女の子は誰だって甘い物が好き』なんでしょ?」
予想以上に……壊れている。いや、自我が無いと言うべきだろうか?
シェリーは戦闘で一線に立つのは稀であるが、それ相応の修羅場は見てきた。
明らかに気を病んだとしか思えない霊装や、新大陸で興った蕃神系の魔術にも触れ、狂気へそれなりに耐性は持っている。つもりではいた。
だが目の前にある『これ』はなんだ?
物が人の姿をした何か、に思える。
また風が、ひゅう、と鳴く。心がささくれ立つ。
シェリー「……じゃあお前は。命令されたから、バゲージへ行った、ってだけの事なのか?」
それはシェリーが使っているゴーレムと何が違う?
軍隊が持つ鋼の兵器と比べてすら遜色ない。
円周「そうだねっ!興味もあったけど、一番の動機はそれかなー?」
円周「木原円周、っていう『筺(ハコ)』を満たすために頑張ってる、みたいな?」
シェリー「ふざけるな!そんな簡単に人が人である資格を失う訳が無ぇだろ!」
シェリー「ヒトの体に魂さえ入っていれば!それは立派な人間に決まってる!」
何を口走っているのか、自分でももう分からない。
この少女が希薄であればある程、シェリー自身の罪悪感は薄れるというのに。
シェリー「だ、大体お前は!テメェはあのガキが好きだって言ってたじゃねぇか!?」
シェリー「ほら、お前もきちんとした好き嫌いがあ――」
円周「――ね、シェリーちゃん?わたし、知ってるんだよぉ」
円周「シェリーお姉ちゃんもわたしと同じ、『足りない』んでしょ?」
円周「『本来ある筈のパーツを、永遠に無くしちゃった』んだよね?」
ひゅう。
円周「ね、言ったよね?わたしの『筺』は全てが空っぽだから、こんなに」
あぁそうか。この風の音は――。
ひゅうひゅうと。隙間風が。
シェリー(私の『筺』の隙間から、吹く音かぁ……)
円周「わたしね、当麻お兄ちゃんもシェリーお姉ちゃんもだいっっっっ好きだよっ!」
円周「二人とも、同じ!わたしと同じで!」
円周「埋まらない『筺』を、満たされない『筺』を抱えてる――」
円周「――お揃いだよね、ねっ?」
どこからか隙間風が吹く。
――ショッピングモール
携帯電話の表示通り進んで行けば、一方通行を待っていたのは散発的な襲撃とゴミのような時間稼ぎだった。
逃げ惑う客に紛れて攻撃する訳でもなく、ただ一定の距離へ入れば攻撃を受ける。
非常に退屈なルーチンだ、と彼は考える。
一方通行(よっぽどこの『毒』に自信があンだろォな。大した意味は無かったンだが)
体を蝕んでいた毒は既に体外へと排出されている。
ただ、気づくまでの僅かな時間――毒の『溶媒』に使われた物質を、少し吸収してしまってはいた。
一方通行(つっても能力落ちる訳じゃねェし?むしろ――)
ト゚ォォォォォォォンッ!!!
男T「――!?
悲鳴すらも巻き込んで襲いかかってきた猟犬部隊を沈黙させた。
一方通行(ちぃと制御が暴走気味になってンだが……まァ、いいか)
一方通行(この『普通』を守るためだったらなンだってする。俺ァ、そう決めたンだ……!)
時間の無駄とも取れる不毛な――文字通り『一方通行』なやりとりは暫くすれば収まる。
『木原円周』と地図上に表記されたポイントへ来てみれば。
一方通行(誰だ?あの女?)
先程背後から刺した少女、木原円周の他にもう一人。
ぼさぼさの金髪と真新しいスーツ――所々泥や血がついているが――を着た、褐色の肌の女。
一方通行(黄泉川と同じぐれェか……つかバレンシ○カ、30万近けェスーツじゃねェか)
一方通行(アンチスキルってェ訳がねェよな。どう考えてもクソ木原の関係者だろォが)
一方通行(一応声だけはかけっかァ)
一方通行「オイ!そのガキこっちに渡せ!」
シェリー「……アンタが……」
シェリー(木原が言ってた『若いの』はコイツか……白いな)
一方通行「早くしろ!こっちだってヒマじゃねェンだよ!」
シェリー(この、『薄い』ガキを渡すだけでエリスは――エリスの『外側』をした子は帰ってくる!)
シェリー(もう会えないと諦めていたエリスが!冷たい墓の下で眠ってるエリスと!)
シェリー(一緒に居てあげられるんだ!)
シェリー「……」
シェリー(けど……本当にそれで良いのか?)
人が人であるのは。獣との一線を画すものがあるとすれば。
それはきっと『信念』だろう。
シェリー(こんな単純に、『割り切って』しまう私が)
人としての尊厳を失ってしまえば、それも魂の有無以前に。
『筺』としての役割は無くなってしまう。
シェリー(人の形をした命あるモノをあっさり交換してしまえる私が)
“人”でなくなった私が――。
シェリー(あの子の側にいても――)
一方通行「……どォすンだァ?俺ァここでやったって構わねェンだがよ」
一方通行(毒は排出したのに能力が不安定になってやがる。さっさとぶっ殺して帰ンのが得策だァな)
円周「……ね、シェリーお姉ちゃん」
シェリー「……そう呼ぶなっつったろ」
円周「わたしね、分かってるんだよ」
円周「シェリーお姉ちゃんは私を捕まえに来たんだよね?」
円周「そうじゃなきゃ『わたしなんかに興味なんて無い』んだから」
シェリー「アンタ……知ってた、のかよ?」
円周「当ぉ然だよぅ!だってだーい好きなシェリーちゃんの事だもん」
円周「『こんな時シェリー=クロムウェルはこうする』って、私“が”観察したんだから」
円周「……いいよ、わたしの部品であなたの『筺』が埋まるんだったら」
円周「うん、うんっそうだよねっ!こんな時はこうするんだよねっ!
円周「『上条』ならきっとそうするって!」
シェリー「……っ!?」
一方通行「……お別れは済ンだかァ?カミサマに祈る準備はオーケェ?」
一方通行「これ以上時間稼ぎされっと、オマエごとぶち抜くンだが」
円周「待っててくれてありがとうっ……えっと?」
一方通行「名乗る意味が分からねェ。どうせオマエにはもォ関係無ェだろ」
円周「白モヤシ?」
一方通行「……なンで俺の周りは口が悪りィ奴しかいねェンだ。それとも俺も知らねェ間に祭りでも起きてンのかァ?」
円周「人の恨みを買った憶えはないのー?」
一方通行「心当たりが有りすぎて分からねェ……ンじゃついてこい。ちっと場所変えンぞ」
一方通行(ライオン女の前は……流石になァ?)
一方通行(まァそれでいい。人は結局『割り切る』もンだからな)
シェリー「――てよ」
一方通行「あァ?」
シェリー「待てって言ったんだよ!」
円周「シェリーお姉ちゃん……?」
シェリー「……そう私を呼ぶなっつってんだろ。テメェは後でオシオキだ」
一方通行「……まァ?こンな展開になるたァ、思ってたンですけどォ」
一方通行「一応聞いてやンよ――どォしたババア?今頃ンなって情でも湧いたのかァ?」
シェリー「『割り切れ』ねぇんだよ、こっちは」
シェリー「どうやったって人の姿して人の格好して人の感情持ってやがんだよっ!だったら『それ』はもう人と何が違うのよっ!?」
シェリー「ねぇ、そうでしょ!?そう簡単に『割り切って』良い訳がないっ!」
一方通行「……そりゃァ、オマエがそう感じてるだけだよ。良いも悪いもねェさ」
一方通行「けどよォ、つか。この世の中『割り切る』のが筋じゃねェのか」
一方通行「……世の中にゃァなァ、人の外ヅラとDNA持って生まれてきた奴が居てだ」
一方通行「そいつらを雑草引き抜くよォにぶっ殺してたクソもいるってェ話なンだが。まァ?」
自嘲する。もう、繰り返さないように。
あんな悲劇はもう二度とごめんだ、と。
一方通行「でも、どこかで!絶対に『割り切らなきゃ』いけねェンだよ!」
一方通行「大事なもン守りてェんだったら!二択を迫られて切り捨てる展開だってあるンじゃねェのか!あァ!?」
シェリー「ふざけんな!信念なんぞ人の数だけ、それこそ一人にだって二個三個あるってもんだろ!?」
シェリー「その一つ一つに優先順位つけるぐらいだったら――最初から、語るな!」
一度は一つの信念のために、捨てる決意をした。
入れ物としての“ヒト”を捨て、畜生以下に堕ちる覚悟すらした。
だが、しかし。
シェリー「約束を破るぐらいなら最初からしなければいい!」
シェリー=クロムウェルを突き動かすのは『信念』。
雑多な、しかも矛盾したチグハグなものであって、根底にある越えてはいけない一線がある。
シェリー「信念を守れないのなら最初から信念など持つな!」
シェリー「アンタはあれだよ。木原の犬だか息子だか知らねぇが、あのバカにそっくりだ!」
シェリー「テメェが――テメェらがやってんのは『楽』な方向へ進んでるだけだ」
シェリー「アレじゃねぇのかしら?二択だの割り切るだのって、それ。それの事なんだけと」
矛盾してようがしていまいが、どれ一つの信念も疎かにしない。
それが彼女を獣から掬い上げた。
シェリー「最初っから守るつもりもねぇんだろ、なぁ?」
ぴくり、と色素の薄い一方通行の顔に青筋が浮く。
一方通行「……まァ、アレだ。血管ぶち切れそうになる楽しいお喋りは、ここまでにしようぜ」
シェリー「そうね。私も面倒になってきたわ」
一方通行「ってェ割には楽しそうだなァ、オマエェはよォ?」
シェリー「うふ、うふうふふふふふふっ!そりゃ楽しいですもの!とてもとぉぉっても!」
シェリー「暗い昏い闇い冥い墓場の筺にあなたの亡骸を埋めて、お花を飾るわ――」
シェリー「――テメェの脳漿ぶちまけてえぇっ!紅い鬼灯でデコレートしてやるよ!」
シェリー「来い、エリス!!!」
地響きとともに土塊の巨人が立ち上がる。
一方通行「あァ……まァ、いいよなァ?『ここまで付き合ってやった』ンだからよォ」
カチ、と電極の出力を上げる。
一方通行「CryCryウルセェンだよクソババア!泣くンだったらオマエの弱さに歯痒ンで泣け!」
ドォォゥンッ!!!
仕掛けたのはどちらが先か。
ゴーレムが拳を振り、一方通行が掌を突き出す。僅かそれだけの攻防で辺りが砂煙で覆われる。
が、『砂煙』である以上、どちらが摩耗しているのは一目瞭然な訳で。
一方通行「だよなァ。こォなるよなァ?」
一方通行の突き出した腕はそのまま。ゴーレムは右腕の肘辺りまで崩れ落ちている。
どちらかと言えば長期戦が得意な魔術師。片や制限時間付きではあるが、学園都市最強。
瞬発力に於いて勝てる物ではない。
が、一方通行は心の中で僅かに首を傾げる。
一方通行(一撃でぶち壊して、後ろのハバアごと潰すつもりだったンだがなァ?妙な力、つーか魔術師相手だとちっと面倒臭ェ)
一方通行(魔術を使わせられる、なンてェとンでも体験は一回キリだ。これ以上付き合うつもりもねェが)
ドォン、と人型の土塊が床に手をつく。手応えがなさ過ぎる。
一方通行「オイオイもうオシマイってェ訳じゃねェだろう?俺をこれ以上怒らせンじゃねェぞ、あァ!?」
実際の所、これだけの大質量を人型にして操る能力であれば、最低でもレベル3。継続時間によってはレベル4であってもおかしくはない。
相手が悪すぎる――学園都市の人間であればそう諦観してしまう事であろう。
そう、それが『只の能力者でしかない』のであれば。
シェリー「エリスが泣いている。可哀想なエリスが」
シェリー「でももう大丈夫。ウスノロの腕は私が造り直してやる、何度だって」
ゴーレムが右手を引き上げると、床に着いていた場所に大きな穴が空いていた。
周囲のコンクリートや鉄筋、果ては電気ケーブルも巻き込んで、新しい『腕』の素材とした。
シェリー「うふ、うふふふふふふっ!素敵、ね?素敵よね?」
シェリー「こぉんな鉄と石と錆で囲まれた場所なんざ、無尽蔵にエリスの素材が揃ってるって訳だ!」
シェリー「そしてぇ、それだけじゃねぇんだよ!」
ズゥンッ!
突然天井が爆発する――の、ではない。
瞬間五芒星が浮かび上がり、大量の鉄筋やコンクリート片が爆砕四散した。
一方通行の真上で。
シェリー「あっはははははははははははははっ!どぉしたどした能力者ぁっ!?まっさか、不意打ち喰らって死んだなんざ笑っちまうよなぁ!」
念のため、万が一に備えて木原が裏切った場合に仕込んでいた魔法陣。
本来であればゴーレムを作成するための物だが、既に喚んでいる場合には土や鉄を弾けさせる凶器となる。
まともな能力者であれば不意を突かれ、能力の演算も出来ずに瓦礫の下敷きになったであろう。
そう『まとも』な相手であれば。
グォン!!!
墓場から死者が手を突き上げるように、極々何の躊躇もなく一方通行は周囲のゴミを吹き飛ばす。
辺り一面にガラスやコンクリートが突き刺さり、もしも買い物客や店員達が非難していなければ大惨事が起きただろう。
一方通行「あァ面倒臭ェ!土遊びはっかしてンじゃねェぞ!」
再生する土人形。
何度再生するとしても限界はあるだろうし、周囲のコンクリートを吹き飛ばしてしまえば物理的に不可能だ。
しかしそんな事をやっていれば余裕で時間切れになる上、やったとしても『じゃ、次はこいつだ!』と新しい何かを仕掛けてくる可能性もある。
一方通行(物理的に、つったって物理法則もガン無視決め込ンでる連中だしなァ)
本体を止めてさっさと木原円周を殺そう、そう結論づけで一方通行は手近にあった鉄筋を手に取る――。
グシャッ。
一方通行「……あァ?」
掴んだ筈の鉄筋はボロボロと握り潰してしまった。力の加減、普段の力では到底持てないため、多少ベクトルを弄ったが。
二度三度と他も試してみるが結果は同様。手に取るどころか崩してしまう。
シェリー「どうした白モヤシ?あんまり怖くてパントマイムしてんのかよ」
一方通行「ウルセェ更年期障害」
シェリー「やかましい若白髪。ケツからションベン漏れてるわよ」
安い挑発……だが、何か背中に違和感を覚える。
反射的に傷口にやった手を見てみれば――血が。
一方通行「……はァ?」
シェリー「じゃねぇよテメェは。最初っから瀕死だったんじゃねぇか」
ベクトル操作で出血や組織の壊死も抑えたのに、床には少なくない量の赤黒い血溜まりを作ってしまっていた。
この傷は――。
一方通行「……そォか。あァ成程なァ。そかそか、そォいう事か」
一方通行「俺が『これ』に巻き込まれたのは、俺への嫌がらせじゃねェのか」
一方通行「だからっつって今更勧誘でもねェし、背後からぶっ刺すのも違う!」
一方通行「毒もメインなンかじゃねェ!全て!全てがダミーだったンだよ!」
シェリー「……なぁ、そろそろ殺していいか?ダメだっつってもスクラップにするけどよぉ!」
『エリス』はゆっくりと腕を持ち上げる。
一方通行は動かない――動けない。
一方通行「『体晶』か!そいつを使って能力暴走させンのが――」
シェリー「こいつがテメェの『割り切った』結果だ。土塊を抱いて……おやみなさい」
身動きの取れない一方通行に土砂が降り注ぐ。
体積からすれば精々数トン。常人からすれば良くて即死、悪ければ苦しみながら、死ぬ。
普段通りのコンディションであれば、楽に跳ね返せる量。脅威ですらない。
だが能力が暴走している彼にとっては絶望的な状況だ。
銃弾であれば運動エネルギーを跳ね返せるし、向きを変える――最悪、急所から外すだけでもいい。
しかし『大量の土塊』であれば、その重量と勢いを転換させる力が必要とする。
先頭の土砂を反射したとしても、勢いが弱ければ次々と降り注ぐ土砂に呑まれるだけだ。
一方通行(……クソが!俺ァこンな所で終わる訳にはいかねェンだよ!!!)
生存本能からか、はたまた誰かにかけられたリミッターでもあるのか。
一方通行が最後の力を振り絞り、あの禍々しい『翼』を出そうとした瞬間。
声が、音が、姿が。
パキイィィンッ……!!!
襲いかかる土砂を霞の如く打ち消し、周囲一帯を無へと還元する『翼』の発現を止めた人物は。
いつものように、笑う。
上条「どうも。昨日から『明け色の陽射し』団に入った上条当麻です」
――ショッピングモール 震源地
シェリー「……テメェ、今更何しに来やがった!?」
上条「俺の方でも襲撃とか色々。ここに直行って訳じゃないしな」
バードウェイ「打ち払ったのは私なんだが、と私はキメ顔でそう言った」
上条「マシンガン持ってる相手に無理ですからっ!?バードウェイさんちょっと黙ってて!」
シェリー「そいつぁ何なんだよおぉっ?どうしてこのガキを殺そうとした?大体なんでテメェらが庇う必要がある!?」
シェリー「答えろよおぉっ!!!」
上条「……悪い。バードウェイ?」
バードウェイ「行ってこい。多分『それ』を一番望んでいるのは、クロムウェル自身だ」
バードウェイ「お前が『助けて下さいお優しいバードウェイ様』と懇願するまでは手を出さんさ」
上条「あぁ任せろ!……待って?それなんかおかしくない?」
シェリー「コントやってんじゃねぇわよっ!――エリス!」
腕を無くしたゴーレムは周囲から補充を終えると、再び手を振り上げる。
シェリー「答えろよおっ!ソイツは、ソイツは私の敵だぞ!?」
上条「友達だからだ」
シェリー「なん、だと……?」
上条「俺はこいつが友達だと思ってる。だから助けるんだ」
シェリー「は、あはははははははっ!そぉかぁ、お前も『木原』だったのかよ!」
シェリー「学園都市はクソだと思ってたけど、ここまでとは流石にねぇ?」
上条「違うんだ!聞いてくれシェリー!一方通行はお前の言っている『木原』なんかじゃない!」
シェリー「だとしてもだ!ソイツは、只『何も入ってない』って理由だけで!」
シェリー「このガキを殺そうとしたんだぞ!」
上条「そう、だな。それはそうかも知れない。でもっ!」
上条「俺は止めるさ。なんか聞き分けの良い事言って、『割り切る』ような真似をしたら殴ってでも」
上条「悪い方向に行こうとしたら、止める。それが友達だって俺は思ってるからな」
シェリー「……優しいのねぇ、あなた」
上条「でもな、シェリー。シェリー=クロムウェル!」
上条「俺はお前だって友達だと思っている!だから!」
上条「目の前でバカやらしそうになってるお前を!俺は絶対に止めるんだよっ!」
シェリー「つまんねぇジョークだなぁ――潰せよ」
ズゥンッ!
シェリー「ほらほら、どーしたぁ?ビビって動けねぇのかァ?」
シェリー「そこを早く退かないと、ミンチにしちゃうわよ?ね、ねぇっ?」
上条「退かない。俺は友達が傷つけられるのを黙って見てるつもりはないし!」
上条「友達が意味もなく傷つけるようとするのも、当然止める!」
シェリー「……そうかよ。じゃ死ねば?」
再度ゴーレムは両手を高々と上げ、拳を組む――では、なく。
二つの拳を融合させて一つの大きな石塊を作る。
シェリー「だよなぁ。そうだ!最初っからこうしちまえば良かったんだよ!」
シェリー「魔術だの科学だのウルセェんだ!全部ぶっ潰しちまえば関係ない!」
シェリー「みんなみぃんな壊れればいい!壊しちまうのがいいっ!」
どおおおおぉぉぉぉぉぉんっ!!!
魔術の言葉を切っ掛けに、ゴーレムの重い拳が振り下ろされた。
辺り一面に飛び散る瓦礫と砂埃。
バードウェイ「……やれやれ」
一方通行の治療を続けていたバードウェイは、手を休めずに周囲へ結界を張る。
バードウェイ「仮にも重傷人が居るんだ。もっとスマートにやれないもんかね」
一方通行「……随分と信用してンじゃねェか」
バードウェイ「あの馬鹿者が『手を出すな』と言った以上、私はそうするだけだ」
バードウェイ「『信頼』とは特に理解に苦しむ単語ではなかった筈だが、ボーヤにはまだ早すぎたかな?」
一方通行「……いやァ別に?その割には腕プルプルしてますけどォ?」
一方通行「なンかァ?今にも吹っ飛ばしてェンじゃ――」
バードウェイ「あぁすまん」
一方通行「――っ!?オマ、傷口に手ェ入っ――!?」
バードウェイ「ついでに盲腸もとっといてやろう。麻酔無しで」
砂煙が晴れる。そこにあった姿は。
石巨人が拳を振り落とした、その、僅か数センチ前。
多少は風圧や四散した瓦礫で傷ついたものの、然程変わらない位置に上条が立っている。
シェリー「……どうしてよ……?」
シェリー「なんて『右手』を使わねぇんだよ!?テメェみたいなゴミグスが当たったら死ぬじゃねぇかよ!?」
シェリー「お前も!お前も私を残して死ぬつもりだったのか!?」
上条「……それは、分からないよ」
上条「もしかしたら車の事故とか、信じられない病気になって俺は――つーか、誰だって死ぬもんだ。そりゃ絶対に」
上条「それが友達であっても――いや友達だったら特に、そうそう簡単に『先に死なない』なんて不義理な約束は出来ないんだよ」
上条「お前はエリスを失った。エリスは命を失った。二人は逢う事は、もうない」
上条「けど!だからっつって全部が全部無くなった訳じゃねぇだろ!?」
上条「エリスがお前に残したものはある!思い出とか!信念だとか!」
上条「今のお前にはエリスから貰ったものが、いっぱい詰まってんじゃねぇのかよ!」
シェリー「私の、筺の中に……?」
上条「そうだよ!お前は二度と悲劇が起きないように学園都市まで乗り込んだよな?」
上条「俺は絶対に認めないけど、それだって立派な信念じゃねぇのかよ!」
シェリー「煩いうるさいウルサイっ!!!」
シェリー「分かってるわよ!私だってあの子からいっぱい貰ってた事ぐらい!」
上条「昔を大事にするのは大切な事だし!誰もお前を責めたりはしない!
シェリー「テメェにエリスの何が分かるんだって言うんだ!?」
上条「分かるさ!当たり前だろうが!」
上条「エリスは――少なくとも、そんな顔するお前の顔なんて見たくなかった筈だ!」
上条「いつまでも自分を責めて戒めて欲しくなんて、ある訳がねぇだろうがよっ!」
上条「なぁ、シェリー?今、今のお前を見て」
上条「お前の中のエリスは笑ってくれてんのか……?」
シェリー「ちく、しょう……チクショウっ!!!」
ゴーレムがその両手で上条を捕まえる。
シェリー「どう、したの?逃げねぇのかよおおっ!」
シェリー「消しゃあいいだろうが、その『右手』で!」
上条「……さっきの一撃もだけど、俺は右手を使うつもりはない」
シェリー「あぁ?」
上条「俺の『友達』がだ。大事にしている親友の名前をつけた相手を――」
上条「――例えそれが魂のないゴーレムであっても、友達の親友をぶち殺すような真似は――」
上条「――絶対に、しない」
ズゥン、と。
思わずバードウェイが霊装を構え、一方通行がなけなしの力で鉄筋を投げようとした程の大きな振動は。
シェリー「……厄介だな、テメェは」
ゴーレム=エリスが、また只の石と土へ還る音であった。
――ボロボロになったショッピングモール
上条「さて、と。これでどうにか解決した……のか?」
上条「まさかとは思うけど、この惨状俺達が支払うって事はないよね?ねっ!?」
バードウェイ「アンチスキルも来ているだろうし、『男達を追い払った』私達には関係無い話だな」
上条「よかったー……てか一方通行大丈夫か?」
一方通行「……ウルセェ」
バードウェイ「出血多量と能力が少し暴走気味」
バードウェイ「あとお前が金の心配を優先したから、ご機嫌斜めだそうだ」
一方通行「……オマエ、憶えとけよォ……?」
バードウェイ「そうだなぁ。体晶――毒抜きと傷の手当てをしてやったんだし、私は憶えておいても吝かではないよ?」
一方通行「……おい、三下ァ」
上条「うん?」
一方通行「相変わらずそっちの女といい、こっちのまな板といい、いい趣味してやがンなァ?」
上条「友達だからなっ!?そういう基準だったらお前だって大変な事になってるだろ!」
シェリー「……?」
バードウェイ「お前も頭以外にイタイ所はないか?そこ以外のケガは治してやろう」
シェリー「ウルセェわよクソチビ……あの子が、いねぇんだよ」
上条「あ、そっか。円周も追われてたんだっけ」
円周「おっにーーちゃーーーーんっ!!!」 ガバッ
上条「うおぅっ!?」
円周「怖かったーーーっ!白くてカキクケコ言う変態が、『さァ俺の巨人さァンは大きいよォ?』って!」
上条「言ってないよね?途切れ途切れに通信聞いてたけど、そんな下りはなかったよね?」
一方通行「つーかなァ。そっちのライオン女もそォなンだがよォ」
シェリー「何がなんだったんだ?誰が敵で誰が味方なのか、そもそも白いのが私達を攻撃したのは何故?」
一方通行「木原のクソ野郎が噛んでる、ってェ事以外知らねェぞ」
バードウェイ「そうだな。疑問を残したまま探偵は退場しないのがセオリーではある」
バードウェイ「推理小説でそれをしてしまえば非難囂々だが。ではこう考えられるのでないだろうか?」
上条「もったいつけるなよ」
バードウェイ「『事件はまだ終わってない』、と」
グゥン、と何の脈絡もなく上条当麻の体が真横に吹っ飛ばされる。
タイムラグを置いて、タァーン!と銃声が全員に耳へ届いた。
一方通行「狙撃か!?――おいっ!」
シェリー「ちぃっ!」
倒れたまま動かない上条へ近寄る一方通行、ゴーレムを喚んで即席の壁にしようとするシェリー。
魔術結社のボスは慌てず騒がす、携帯電話を耳へと当てる。
バードウェイ「マーク」
マーク『確保しました、ボス。予想通りです』
バードウェイ「ご苦労。通報したら先に帰っていて構わんぞ」
マーク『はい。ではボスもお気をつけて』
切れた電話の代わりにどこからか杖を取り出し、クルクルと回す。
バードウェイ「さて、では謎解きを始めようか――と、その前に一方通行、寝ているバカを起こせ」
一方通行「狙撃されたンだぞ!?軽傷で済む訳がねェ……事も、ねェな」
派手に吹っ飛んで擦り傷は負ったものの。それ以外に傷らしい傷は見当たらない。
頭が一番のけぞったのだから、確実に弾丸は脳漿を撒き散らしていてもおかしくないのに。
上条「……いっつーーーーーーーーーーーーーっ!?あれ?今の何?バードウェイが何かしたの!?」
バードウェイ「お前はタロットを預けただろう?それのお陰だよ」
シェリー「魔術は効かないんじゃなかったのかよ」
バードウェイ「そいつ自身にかけず、『場』にかけた。良かったな、成功して」
上条「あのー、してなかったらどういう事に……?」
バードウェイ「――さて、ではここで私達の敵に初めて対峙する訳だが――」
上条「聞けよ人の話っ!?――って、お前」
バードウェイが差している相手は――木原。
円周という名を持つ――『木原』だった。
一方通行「ほォらみろ。やっぱり俺が正しいンじゃねェか!」
シェリー「だってソイツは――違うだろ!何でこんな回りくどい方法を取る必要があったの!?」
シェリー「自分自身を囮にするなんて正気じゃ――ない、のか……?」
バードウェイ「勘違いして貰っては困る。一方通行、君は正しいが間違っている」
バードウェイ「クロムウェル。君もその認識は正しいが、違う」
上条「どういう、事だよ?」
バードウェイ「私達が戦っていた相手、お前がその右手でぶっ殺さなければいけない相手。その名前は――」
バードウェイ「――『木原数多』だ」
ジジッ、ザザザザザザザァッ。
円周の首から下げているスマートフォン。そのグラフが激しく波打つ。
初めは不規則に、間隔もバラバラ波の大きさもデタラメに。
けれど徐々に整い。それは自然と聞き慣れたリズムへと移行する。
どくん、どくん、どくん、どくん……。
脈打つ鼓動は心臓の波長に酷似していた。
円周「『どぉしたもんだかなぁ。最後の最後までひっくり返されるたぁ思ってなかったんだが』」
一方通行「オマエえェェェェェェェェェェェェっ!」
バードウェイ「よせよせ。それは『木原数多』の本体ではないよ」
バードウェイ「スマートフォンを使ってハッキングでもしているのだろう、というかそれ以外にない訳だが」
円周「『普通こぉいうのはよぉ、崖の上ってぇ相場は決まってんじゃねぇのか?』」
バードウェイ「最近はそうでもない。探偵が昏倒するのが流行りだね」
円周「『あれって傷害及び不正薬物の使用だと思うんがだねぇ。公文書と私文書の偽造、元の年齢ならば実刑も喰らうか』」
バードウェイ「夢のない事を言うもんじゃない。ここはペラペラ犯人が語るのを期待して居るんだが、任せてもいいかね?」
円周「『面倒だ。テメェの推論から話せよ。違ってたら嘲笑ってやっから』」
バードウェイ「ふむ。では……まず小娘の記憶が曖昧になっている点に気づいた」
バードウェイ「私の愛称を『ニア』にしたかと思えば『レヴィ』に再設定」
バードウェイ「しかも『木原数多』を呼ぶ際に『おじさん』と『おじちゃん』の二通りあった。どう考えてもおかしいだろう?」
円周「『円周が表に出ている間は、俺も認識が曖昧だから――ってのは嘘で、テメェ自身をおじちゃん呼ばわりはしたくねぇだろ』」
バードウェイ「不自然と言えば朝の浴室もそうだな?恐らく能力が解かれるのを恐れた君は、『幻想殺し』の右手へ手錠をかけた」
円周「『表には出てねぇがな。そういう風に誘導したのは間違いねぇよ』」
バードウェイ「買い物に誘導したのも君か?」
円周「『選択肢は用意したし、誘わなければ介入してたが。誘ったのは円周の意思だな。俺がするまでも無かった』」
バードウェイ「そっちの白いのに吹き込んだのは……そうだな、『俺は今新しいブロジェクトをしている』とかそんなんだろ?」
バードウェイ「適度に挑発を入れて決裂させた後、背後から反射貫通でブスリとして撤退」
バードウェイ「赤くなった白モヤシは前後関係考えず、自分の能力を過信して追い掛けるに決まってるよ、なぁ?」
一方通行「ウルセェよ、まな板ァ」
バードウェイ「クロムウェルには、まぁクローンか。エリス=クローン」
バードウェイ「無抵抗の円周を確保させて心を揺らして、最後には保護するように仕向ける」
バードウェイ「そしてあからさまに怪しい堅気じゃない白いのが来て、二人は衝突する」
バードウェイ「――というのが推理だが、どうだろう?」
円周「『ほぼ正解。だがクロムウェルに関しちゃ俺が喋った訳じゃねぇ』」
円周「『別にこいつがフツーに身の上話でもすりゃ、似たようなその女も同情する筈だってな?』」
シェリー「テメェは……!」
バードウェイ「落ち着け。というより怒っても無駄だ」
円周「『だなぁ。鉛筆を立てりゃ自発的対称性の破れで倒れるぐらい当たり前だからなぁ』」
円周「『予想された結果が出た所で、はぁそうですか、って感じだし』」
バードウェイ「ともあれ舞台はそうして整えられた。クロムウェルと一方通行が対峙する」
バードウェイ「クロムウェルが勝てばそれで良し。一方通行も能力が暴走し、普段よりも電極の消耗が激しいハンディもある」
バードウェイ「地形相性がいいクロムウェルであれば、万が一勝つかも知れない」
円周「『いや、確率は20%ぐらいだと踏んでたぜ?』」
バードウェイ「逆に一方通行が勝てばそれでもいい」
バードウェイ「『どちらが勝っても魔術サイドと科学サイドの仲を断ち切れる』からな?」
円周「『そうかぁ?お嬢ちゃんが考えている程、単純な図式じゃねぇと思うぜ?』」
バードウェイ「一方通行を殺されれば学園都市は激怒するだろうが、クロムウェルはそうでもない。そうだな、その通りだ」
シェリー「小物扱いされんのも腹が立つんだがな」
バードウェイ「そう思った君は『更にプランを深くする』事にした」
バードウェイ「わざと私達へ情報を流し、二人の決闘を止めさせたんだよ」
バードウェイ「事前にウチの連中、しかも隠密行動に長けた奴を行動不能にして目と耳を塞ぎ」
バードウェイ「そっちは大方円周のリュックに仕込んだ、各種発信機で正確に把握していたと」
円周「『決闘なんてタチのいいもんじゃねぇと思うがね』」
バードウェイ「そして。私達が弛緩した一瞬。その隙を突いて――」
バードウェイ「『幻想殺しを暗殺。その疑いを両サイドへ向けさせる』」
バードウェイ「それがこの計画の全貌だな?」
円周「『だなぁ。もう少し「インストール」した連中が使えれば良かったんだが、今んとこ完全に再現出来るのはこいつしかいねぇしな』」
円周「『砂皿のシェアスキルは見ての通りだが、まだまだ精度が足りねぇ』」
円周「『……ま、お嬢ちゃんの推論でほぼ正解だな』」
円周「『クロムウェルが円周を殺せば良し、逆に一方通行に殺されれば良し』」
円周「『相打ちになれば最高だ!だが『幻想殺し』が居りゃあ防いじまう可能性もある』」
円周「『だったら防がしゃあいい。計画に首突っ込んできそうなら、最初から組み込めばいい』」
円周「『頭でも吹っ飛ばせばどこの勢力が殺ったかでグダグダになる――筈、だっんだがよぉ』」
円周「『予想外だったのはテメェだな、お嬢ちゃん』」
円周「『魔術を使って防いだ上、こっちのスナイパー即確保たぁ。全部読まれてたってぇことだわな』」
バードウェイ「私の専門は『勉強の出来るバカがしでかす騒動』だ。政治なり経済なり戦争なり」
バードウェイ「従って君がどう動くか、どんな狙いを定めてくるのか」
バードウェイ「フルオープンのインディアンポーカーよりも単純で、手に取るように読めてしまうのだよ」
円周「『……へぇ?』」
バードウェイ「プライドを傷つけられたかね、木原数多。だが私は何度でも言おう」
バードウェイ「君のような単純な相手を読むのは簡単だ。私の相手にすらならない」
バードウェイ「退屈だ。あぁ暇を持て余す」
バードウェイ「私はコイン一発をBETして、カード一枚しか貰っていないんだがね?せめて五枚は貰わないとゲームが出来ない」
バードウェイ「なぁ、あまり意地悪をしないで私も遊びに加えてくれたまえよ」
バードウェイ「こんなのはお遊びなんだろう?この程度の愚図な計画はジョークなのだろう?」
バードウェイ「たかが12歳の小娘に、学園都市屈指の研究者が読み負けるなんて事は無いよなぁ?うん?」
円周「『……名乗りな、お嬢ちゃん。テメェは今日この日から俺の敵になった!』」
バードウェイ「『明け色の陽射し』のレイヴィニア=バードウェイ」
バードウェイ「木原数多。君が何をしようと何を企んでいようと私に関係ないし、結社に影響しなければ見逃してやったのだが――」
バードウェイ「――貴様は我々に手を出した。その代償は払って貰う」
円周「『どうやって?お前は俺を知らない。俺がどこにいるのかも、どんな姿で居るのかも分からねぇよなぁ!』」
円周「『俺の銃はいつでもテメェを狙える!だがテメェの武器は俺に届かない!』」
円周「『貧相なフリントロック振り回しても!何十発何発撃とうとも掠りもしねぇんだよバカが!』」
円周「『ヒャッハァ!精々震えて眠るんだなお嬢ちゃん!』」
円周「『次に心安らかに眠れんのは、弾丸がテメェめり込んで棺桶の中だからなァっ!』」
バードウェイ「新入り。やれ」
上条「あぁ――木原数多」
円周「『よう「幻想殺し」。テメェの嘘はかーちゃんに許して貰えたのか?』
上条「お前は、俺の友達をたくさん傷つけたお前だけはっ!」
上条「――お前のそのふざけた幻想は、俺が必ずぶっ殺す!」
パキィィィンッ。
上条が円周の肩に触れると、スマートフォンに走っていた気味の悪いグラフは消える。
すぅ、と前のめりに倒れそうになる小さな体を、慌てて抱き留めた。
バードウェイ「……幾ら天才、幾ら能力者と言っても、体にかかる負担は生半可なものではない、か」
意識を失っているが、呼吸の間隔は穏やかで苦しそうな気配もない。
シェリー「……多分、そいつは知ってたんだ」
上条「何を?」
シェリー「テメェの頭の中に『もう一人』居るって事に。だからあんな」
シェリー「自分を差し出すような、真似を……しやがった!」
上条「……これからはもう、そんな事をしないように」
上条「そんな悲しい事をさせないように、俺達が」
シェリー「……分かってるわよ。言われなくたって」
打ち止め『おーーいっ!ウチの白い人見ませんでしたかーーってミサカはミサカは喚んでみたり』
番外個体『ヘーーーーイッ!生きてるかーーいっ!出来ればくたばってればいいぜ!』
上条「……愛されてんなぁ、お前」
一方通行「……ウルセェよ。その気遣いが、ウルセェ」
バードウェイ「と言うかネットワークがあるんだから、生死確認は簡単じゃないのか……あぁ!」
バードウェイ「良しお前ら、デカいのが来たら全員で『ツンデレ乙』と行こうじゃないか!」
上条「最後の最後で一番やる気になってるっ!?」
シェリー「ツンデレ……?確か凸凹コンビのちっこいのから借りた本に書いてあったような?」
上条「イギリスのシスターさんにまで侵食が始まっているのかっ!?」
――バッドエンド1
新郎控え室。
上条「……」 ソワソワ
浜面「いやぁ大将。そんなにキョドっても仕方がないと思うぜ」
浜面「つーかあと少しだし覚悟を決めろって」
上条「いやでも俺が結婚なんて――結婚?俺が?」
浜面「今更何言ってんだ。緊張で眠れないのは分かるけどさぁ」
上条「……マジで?ドッキリじゃなくて?」
浜面「大将が覚悟決めたときは大変だったろ?下手すれば第三次世界大戦よりもシビアな戦いが!」
上条「いやあの、そんなスケールなの?みんなゴシップ好きなんか」
浜面「オティヌスが世界壊して大変だったじゃん」
上条「あれも実は俺のせいだったのか!?力は凄いけどやってる事はしょうもないな!」
浜面「出番を貰えなかった俺の立場は?ねぇ、どうして俺出たり出なかったりするの?」
上条「登場人物の多さじゃねぇかな?ほら、お前って『アイテム』の子達とハッピーセット状態だし?」
浜面「未だにっ!中々滝壺と二人っきりになれない俺の気持ちがっ!」
上条「マジで?……いやまぁ、分かるけどさ。そっちのドロドロとした人間関係も」
浜面「最近第三位が出張ると麦野の機嫌がディ・モールトっ!!!」
上条「俺はイタリア語知らないけど、多分それ違うよ?間違っている感じがするな?」
浜面「まぁまぁ憶えてないって言うけどよ。相手の子も可愛いし、別にいいんじゃね?」
上条「また人生の一大事に軽いなっ!?他人事かっ!?」
浜面「正直また思い切ったなー、って感じはするけど」
上条「そうなのか?つーか誰か教えてくれよ!」
浜面「でも直ぐ会うんだしさぁ。なんつっても一度選んだ相手じゃん?信じるのは大事だって」
上条「そうか……?あ、そうだ!浜面から見てどんな感じの子だった?」
浜面「可愛い系だな。おっぱい小さいけど」
上条「お前の基準はおっはいか……え、誰だ?小さいつったって、対象絞りきれねぇ」
黒服「新郎様、ご入場の準備を」
上条「マジで!?こんなフワッフワした気分で行くの、俺!?」
浜面「覚悟を決めろよ、上条当麻!」
上条「浜メン……」
浜面「ハマヅラな?ボケばっかだから、大将がボケられなくて寂しいのは分かるけど!」
上条「って言うかこれメイン一人称全員『私』なんだぜ……?始める前にちょっと考えよう?サイコロ振って決めるんじゃなくてだ!」
上条「……分かった。俺、彼女と幸せになるさっ!」
浜面「いよっし!よく言ったぜ!……え?」
上条「『え?』ってなんだ!?『え?』って!?今の俺の台詞の中におかしな所なんざねぇだろうが!?」
浜面「いやぁ……うん、まぁ?」
上条「はっきり言えって!場合によっちゃ逃走も辞さない!」
黒服「ホラ、行くぞ。予約が詰まってんだから!」 ガシッ
上条「離せっ!?話せば分かるからっ!」
黒服「そう言った犬飼は問答無用で暗殺されてんだよ!オイ、浜面そっち持て」
浜面「おぅっ!……なんで呼び捨て?お前初対面だよね?つかモブキャラだよね?」
黒服「煩い浜面。行くぞ」
上条「はーーーなーーーせぇぇーぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
――聖堂
上条「……来ちゃったわー、マジで」
新婦「……」
上条(誰この子?つーか誰?ちっさいし顔見えないし誰か分からない……)
上条(髪はショート……誰だよ、マジで)
上条(背丈も小萌先生……ぐらい?いやでも髪なんて切れるし)
黒服『新郎新婦の入場です!』
新婦「行こう?」
上条「ん、んんっ?そうだな」
上条(俺は腕を出して彼女をエスコートする。チャペル?だかの、戸を開けば)
ミサカ10032「ちっ、来やがったとミサカは舌打ちをします」
ミサカ12121「いやいや、それは良くないですよね、と言いつつも同じく舌打ちをします」
ミサカ13003「ぶってんじゃねぇよって、ミサカはそいつの態度にも舌打ちします」
ミサカ14444「ちっ」
ミサカ14445「ちっ」
ミサカ約一万人『ちっちっちっちっちっちっちっちっちっ……』
上条「ミサカ全員で舌打ちすんなよ!?チッチッチッチッうるせぇっ!千鳥か!」
上条(席の殆どはミサカ達、立ち見もミサカ、あ、写真撮ってるミサカに花つけてるミサカ……いかん、ゲシュタルト崩壊しそう)
上条(知った顔がないかと探してみると――)
上条(こちらを呪い殺しそうな目で見るインデックスと御坂オリジナル)
上条(何故かエロメイドの格好をして、式をぶち壊している神裂と五和。嫌がらせだよな、どう考えても?)
上条(本気で凹んでいるアニェーゼとニコニコ顔の、でも怖いオーラ出しているオルソラ達)
上条(他にはバードウェイとかレッサーとかの魔術結社組……あれ?)
上条(小萌先生も参列席にいる?だったらこの子は誰だよ)
神父「――では新郎、新婦のベールを上げて下さい」
上条「はい。じゃ――」
エリス(新婦)「……うん」
上条「アッ――――――――――――┌(┌^o^)┐―――――――――――――!?」
エリス「どうしたのとーま君?」
上条「エリスじゃん!?男じゃん!?野郎じゃねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇかっ!?」
上条「何で選んでんだよ、俺!?どこでフラグ管理間違ったの!?」
エリス「とーま君が、僕を選んでくれたときは嬉しかった」
エリス「クローンでも良いって、言ってくれたよねっ!」
上条「それ以前の問題じゃねぇか!?クローンでショタってどんだけ倒錯的だ俺っ!?」
上条「つーかお前も断れよっ!?断りなさいよっ!?」
シェリー「オイコラ上条!」
エリス「シェリーお姉ちゃんっ!」
シェリー「エリスを不幸にしたら承知しねぇからなっ!」
上条「お前も正気なら止めるでしょうがあぁぁぁぁっ!?何『結婚式に送り出す頑固な親父』的な役に入ってんのおおおっ!?」
エリス「とーま君、いっぱい子供を作ろうね?」
上条「出来ないよ!?構造上の問題で俺達どっちもH極だもの!」
エリス「ほら、あそこに僕らの愛の結晶が!」 スッ
上条「え、なに?俺の右手は常識すらも殺しちゃったの?出来れば俺も殺して欲しいんだけど」
エリス二号「フンガー」
上条「テンプレ的なゴーレムじゃん!?生きてないじゃん!?」
エリス「そんなっ!?まるで玉(鋼)のような子だって誉めてくれたのにっ!?」
上条「それは本当に俺なのか?頭が悪いにも程があるよな?」
上条「誰かっ!?誰が助けて――」
声「待ったああぁぁぁぁぁぁっ!」 バーンッ
上条「良かった……助けに来てくれたん」
ステイル(男)「その結婚、僕が預からせて貰うよ!」
上条「こぉぉぉぉろぉぉぉせぇぇぇぇぇよおおおおぉぉっ!一思いに殺しゃあいいじゃねぇぇぇかよぉぉぉぉぉぉっ!?」
ズドオオォォンッ!!!
ステイル「ぐああああぁぁぁぁぁっ!?」
エリス「誰!?」
一方通行「……よォ」
上条「昔々女疑惑あって神様も否定しなかったけど、おか○っさんに決まって泣いた人が出た人キターーーーーーーーーっ!?」
一方通行「はっはァ!オマエがなんて言おうと、関係ねェンだよ!何故ならァ――」
一方通行「俺の愛は『一方通行』だからなァ!!!」
上条「ドヤ顔で言うような事じゃねぇな!?そんなに目新しいネタでもない!」
フレンダ「『や、やだ!もう俺の右手じゃ殺せない……!』」
滝壺「『そうさぁ、これがぁおれの能力……』」
滝壺「『――愛だっ!!!』」
フレンダ「『レータっ』」
滝壺「『いまずぃんっ!』」(超巻き舌)
フレンダ・滝壺 ヒシィッ!
上条「おいそのバカコンビ。お前ら揃って出る話間違えてるからな?巣へ帰れ帰れ!」
上条「こ、こうなったら――あ、シェリー!」 パシッ
シェリー「な、なによ?」
上条「俺と結婚してくれ!」
シェリー「……はい」
――黄泉川のワゴンの中 夜
シェリー「……?」 ムクッ
シェリー「……夢?」
シェリー(殺伐としたやりとりだったから、凄いアホな夢を見た?)
上条「おー、起きた?」
シェリー「ん、まぁ――あと、どんくらいで着くんだ?」
黄泉川「そうなぁ、30分ぐらいじゃん?先、あんたのホテルに回るじゃんか」
シェリー「……あー、ガキもいるしこいつら先にしてくれないか?」
黄泉川「まぁそんなに離れてないけど、分かったじゃんよ」
シェリー(あぁそうよね。取り調べで遅くなったのか)
シェリー(メシが遅くなって切れまくるバードウェイ、挙動不審なガキ……)
シェリー(二人とも上条の左右で、腕抱えながら寝ちまってる。まぁ?)
上条「……ん?あぁこいつら」
上条「魔術と科学の天才だっつっても、子供だからなぁ」
シェリー「微笑ましくは……ねぇよな」
上条「実態を知ってると、まぁ色々と複雑だけど」
シェリー「ガキは無邪気だ、とは言うが。そりゃあ親の願望かしらね」
シェリー「こうあって欲しい、こうに違いないっていう気持ち」
上条「かも、知れないな」
シェリー「……」
シェリー「なぁ、一つだけ聞かせろ」
上条「あぁ」
シェリー「この世界には手遅れになるもんだってあるわよね」
上条「……うん。それは、ある」
シェリー「例えばお前が私の立場になったとして、お前ならどうする?」
上条「俺は……多分、泣くよ」
上条「お前がやったみたいに八つ当たりするかも知れない」
上条「全部が嫌になってぶち壊そうとするかも?」
シェリー「……」
上条「でもそんな時にはきっと、俺の友達が全力で――あぁいや違うな、そうじゃない」
上条「ここぞどばかりに、日頃の恨みを込めて助走をつけてぶん殴ってくる気がする」
シェリー「……ふふ、何よそれ」
上条「それが友達じゃねぇかな、多分」
シェリー「……そう、なの?」
上条「俺の人生もまぁ、色々あって学園都市まで逃げてきたって感じもするけど」
上条「けどどこへ行ったって、どんな逃げ方をしたって」
上条「俺達は生きていかなきゃいけないんだ。それは絶対に」
上条「シェリー、お前の痛みは分からないけど」
上条「20年以上経って今でも傷が痛いのかも知れないけど」
上条「一緒に、エリスの話をしようぜ」
上条「エリスがどんな風に生きて、どんな風な最後だったのかとか」
上条「無理に笑う必要は無い。でも無理に泣く必要なんかもっと無い」
シェリー「ワケが、分からないわよ」
上条「あー、俺も思ったまま喋ってるだけだから、繋がってない気もするけど」
シェリー「でも、何となく分かるわ。あなたが『私と悩んでくれてる』って事」
上条「……うん」
シェリー「マジな話。私は今もぶっ壊してぇし、ぶっ殺してやりたい連中もいるわ」
シェリー「そう簡単に整理はつかない。一生エリスの事を忘れるつもりもない」
シェリー「だから――エリスの話を聞いてくれないかしら?」
シェリー「あの子がいたって事を。この世界で何をして、どんな事を考えて」
シェリー「私という『筺』の一部になっていったかって」
上条「……あぁいいぜ」
ひゅう、と私の中で隙間風はまだ吹くけれど。
時々胸を刺す痛みは中々消えてなどくれないけれど。
シェリー「ありがとう……ねぇ、あなた?良かったらで、いいのですけど」
それはもう既に、私の一部だから。
割り切る必要なんてないのだから。
シェリー「わたしの、ともだちになってくれませんか?」
そう自然と、笑いかける事は出来た。
黄泉川「おー、いいじゃんよ?」
上条「アンタじゃねぇよっ!?つーか空気読めよっ!明らかにそういう流れじゃ無かったじゃん!?」
黄泉川「別にスタートがどっからだって良いじゃんよ?つかお前また弱ってる女の子につけ込む気満々じゃんか」
上条「俺が!いつ!そんな事をしたんですかァァァっ!?」
黄泉川「ちょい待ち、今ケータイ出すじゃんし」
上条「前見て、前っ!?アンチスキル兼先生が前方不注意はっ!?ダメだって!」
黄泉川「あーもうウルサイじゃんよ。ほれ上条、あたしのケータイ渡すから、登録しとけって」
上条「ハンドル離すんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
ねぇ、エリス?私は今きっと。
シェリー「……うふふ」
笑って、います。
――断章のアルカナ 第一話 『姉と弟』 -終-
――次回予告
少女「むかしむかし、ある所にこんな物語がありました」
少女「ある夫婦は子供を授かります。けど身重になった妻は、魔女の庭に生えているラプンツェルを食べたくなります」
少女「夫は妻と生まれる子のため、魔女の庭へ忍び込み身を盗み出そうとします。でも」
少女「魔女に見つかり、それでも欲しいと懇願しました」
少女「すると魔女は実を好きなだけ与えるが、引き替えに生まれた子供を寄越せと言いました」
少女「やがて妻が産んだ女の子は魔女に連れて行かれ、ラプンツェルと名付けられます」
少女「彼女は森の中の高い塔に閉じ込められます。魔女はラプンツェルの長い髪をハシゴ代わりにし、窓から出入りをしていました」
少女「そんなある日、森を歩いていた王子が美しい彼女の声に惹かれ、閉じ込められたラプンツェルを見つけます」
少女「二人は何度も逢瀬を続け、やがてラプンツェルは妊娠しました。しかし激怒した魔女は彼女の髪を切り、荒野へと放逐してしまった」
少女「ラプンツェルが居ると思って彼女を訪ねた王子は、待っていた魔女から顛末を聞かされ絶望し、塔から身を投げて失明してしまいます」
少女「数年後、盲目のまま森を彷徨っていた王子は、男女の双子と暮らしているラプンツェルと再会しました」
少女「嬉し泣きするラプンツェルの涙が王子の目に落ち、王子の目は再び開き」
少女「王子はラプンツェルと子供達と国に帰り、皆で幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」
少女「……」
少女「魔女は塔の中でラプンツェルにこう言ったんだよ、うんっ」
少女「『塔の外はとても怖い所。悪い人間がいっぱい居るんだから』」
少女「『お前みたいなダメな子は、外に出ちゃいけないよ』って」
少女「ラプンツェルは外へ出てしまった。生きる事の喜び、愛される幸せ、大切な伴侶を得た」
少女「でも、それは。本当に幸せなのかな?国へ帰ったラプンツェルは幸せになれたの?」
少女「何も考えず、何も恐れず、そうしていた方が幸せだったんじゃないかな?」
少女「私という『塔』は!ほら、まだこんなに空っぽだって言うのに!」
少女「ねぇ、誰が助けてよ!?わたしはっ」
少女「『木原』を求められて!『木原』すらも失ったわたしは――」
少女「……ねぇ、当麻お兄ちゃん。こんな時、『円周』だったらどうすればいいのかなぁ……?」
少女「……これは、とある吊し人の物語」
少女「『自分』という殻を失い、魂求めて彷徨う科学者の物語」
少女「『断章のアルカナ』第二話」
少女「――『ラプンツェル』」
――次回予告 -終-
※今週投下分は終了となります。読んで下さった貴方に感謝を
……今数えてみたら、第一話だけで約8万語なんですが (´・ω・`)
つか『学探』の方のプロローク~七話とほぼ同じ……地の文を書くと総量が増えますしねー
あと一応銀魂SS書きましたが、時間と構想切る余裕がなかったもので、ギャグ短編6000語となりました。銀さんしか出ないショートコントです
『断章』の方で少なかったネタ成分はこちらで補給して下さい。ギャグ苦手だから大変でしたー
銀時「かぶき町体操第一ぃぃぃぃっ!ハイッ!」
銀時「かぶき町体操第一ぃぃぃぃっ!ハイッ!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1380073704/)
乙です
乙
otu
乙
いい話だった
GJですの!!
まだ続くのかな?
このssを読んで
新約を買うことを決意しました
>>236
ヲイヲイ買ってなかったのかよ…
禁書は新約からが本番だぞ!
>>237
お前色んなスレあげすぎsageろ[ピーーー]
――断章のアルカナ 第二話 『ラプンツェル』
――『明け色の陽射し』 極東支部(兼・上条のアパート) 深夜
上条 グーグー
円周 スースー
バードウェイ「……?」
バードウェイ「……ぁん……?」
バードウェイ(豆球……ベッドの上――三人でかっ!?)
バードウェイ「……」
バードウェイ(……あぁ、そうか。確かアンチスキルとやらの取り調べを散々受けて)
バードウェイ(コンビニで買ったソバを食べて、そのまま寝たんだったか……)
上条 グーグー
バードウェイ(……まぁ、モール内を走り回ったしな。疲れもするだろう)
バードウェイ「……」
バードウェイ(人生初の男との同衾が『コレ』というのも、少々アレだなぁ)
バードウェイ(ま、ノーカウントで良いか。明らかにコレは別種だ)
バードウェイ「……」
バードウェイ(……なんだ?眠れん)
バードウェイ(車の中で眠ったから?いや、熟睡は出来なかった筈だ)
バードウェイ(と、すれば別の外的要因――そうか!コーヒーか!)
バードウェイ(あんなクソ不味いもの飲まされて、と言うか苦くてかなわん。良く平気だな)
バードウェイ(カフェインを摂取するなら茶で充分と思うんだが)
円周 スースー
バードウェイ(コイツはコイツで『幻想殺し』の右腕に抱きついて寝ている。流石にバケモノでも自分を失うのは怖いのか)
バードウェイ(その『自分』とやらの定義も怪しい所だな。器が人の形をしていても、中身までそうとは限らん)
バードウェイ(被害者か加害者かの境は曖昧だが……まぁ今晩ぐらいは許してやらんでもない)
円周 スースー
バードウェイ イラッ
バードウェイ「……?」
バードウェイ(うん?どうしてイラついているんだ、私は?)
バードウェイ(ふむ……?)
バードウェイ「……あぁ!」
バードウェイ(そういえば昼間、このバカが小娘にキスされてやがったじゃないか)
バードウェイ(そうかそうか、そのオシオキをするの忘れていた。私とした事がうっかりだな)
バードウェイ(さて……虐殺ウサギグローブ――は、今一だな。慣れてしまったのか、肩こりが取れるとか言っていた)
バードウェイ「……」
バードウェイ(肩が凝る、のはジャパニーズ特有の現象だ。論文でも書いてみようか?)
バードウェイ(日本へ来て外国人が『肩こり』の概念を本国へ持ち帰り、という話はたまに聞く)
バードウェイ(あれは肩のマッサージが気持ちよくて、ただ単に依存症になった気もするが)
バードウェイ(まぁ今回はビリビリ無しだ。あまり連呼していると別のフラグが立ちそうな予感もするし)
バードウェイ(後は……リードでもつけて散歩か?悪くない)
バードウェイ(どちらが上なのか、教え込ませるのは実に好みではある)
バードウェイ「……」
バードウェイ(……待てよ?確かこの間、日本のファッション誌を見たんだよ)
バードウェイ(そこに載っていたな――『NEXTサスペの新アイテム・ハーネス』と!)
バードウェイ「……」
バードウェイ(ハーネスは胴輪だぞ?基本馬に着用する馬具だからな?)
バードウェイ(首輪と違って負担が少ない分、20年以上前から犬用にも広まっているが)
バードウェイ(未来に生きている、と言うか死んだ方が良いと思うぞ。特に編集)
バードウェイ(お前らの頭がオカしいのは結構だが、『海外からそう見られる』んだからな?ネタじゃなくて)
バードウェイ「……」
バードウェイ(そういう意味で却下だ。躾がファッションだと思われるのは我慢ならん)
上条 グーグー
バードウェイ(……しかし気持ち良さそうに寝ているなー、こいつは)
バードウェイ(少しムカつくが……ふむ)
バードウェイ「……そうだ!」 ググッ
バードウェイ(近いな、と言うかまぁ……色々だ!色々あるんだ!)
バードウェイ(信賞必罰の言葉の通り、貴様には褒賞と罰を与える)
バードウェイ(褒賞は昼間の働きにだ。一歩間違えれば――最悪、木原数多が痺れを切らして狙撃しかねん状態で、だ)
バードウェイ(あっさりクロムウェルを口説き落とした功績――おや?なにかモヤッとするな?)
バードウェイ(そして罰だが――貴様はこれから起こる、人生最大の栄誉を授かった事を知らないだろう)
バードウェイ(……ま、こんなところか)
バードウェイ「……」
バードウェイ(クソガキは右頬にしたんだっけか。ならば私は反対側に)
バードウェイ(なんだろうな?既にこの配置的なものに作為を感じないでもないが。まぁまぁ?)
バードウェイ(光栄に思えよ、新入り)
バードウェイ チュッ
バードウェイ「……ふぅ。意外に大した事はなか」
円周「――って言う訳にはお顔が真っ赤だけど?」
バードウェイ「……」
円周「あ、ごめんねー?最初っから全部見てたし聞いてたし内心もエミュレートして読んでたよ?」
バードウェイ「き、さま」
円周「わたし、デバッグしてただけで眠ってなかったんだよね、うんっ」
円周「やっだもぅレヴィちゃんってば乙女だし!うん、うんっ!こういう時、『木原』ならこう言うんだよね……ッ!」
円周「『素直になれよツンデレ』」
バードウェイ「――殺すっ!殺してやるっ!木原全員皆殺しだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
円周「きゃーおにいちゃんたすけてー」(棒読み)
上条「……ん?なに、どったの……?」
円周「レヴィちゃんがねーぇ」
バードウェイ「『世界は22に別れ、千々に別れた世界で愚者は知識を求め旅に――』」
上条「なんで呪文!?どうして真夜中に詠唱してるのっ!?取り敢えず霊装を仕舞えっ!」
円周「お兄ちゃんの寝込みを襲おうって」
上条「お前じゃないんだからしねーよ!んな物好きいる訳がねぇし!」
バードウェイ「……ほぉ?」
上条「え、なんでお前がキレてんの?」
円周「えーっ?本当なのになーっ」
上条「つーかね、何度も言うけどいい歳した――って言うにはちょっと早い娘さんがだな。そういう事しちゃいけません!」
上条「大体ロリ痴女の需要がどこにあるって言うんだよ!」
バタンッ
マーク「あるよっ!あるに決まってるじゃねぇかっ!!!」
上条「真性きやがったっ!?深夜に人んチ押しかけての第一声がそれかっ!?つーか近所迷惑と世間体を考えろ!」
マーク「永遠はあるよ!ここにあるよ!」
上条「あとファンと俺を刺激するから余計な事は、言うな?」
マーク「おっと取り乱しました。失礼を」
上条「いや割といつも取り乱しているよね?そっちがデフォだよね?」
マーク「ですが上条さん、いや!Lolico13!ご自身の魔術名を否定するとは何事ですくわっ!?」
上条「よーし俺は今から全力そげぶするからな?出来れば幻想以外も殺せるといいなーっ!」
マーク「ロ×の風上にも置けませんねっ!」
上条「風下にだって置けないよね?つーかその性癖は一生隠しとけ!」
バードウェイ「『――吊し人は罪を知り智恵を得て隻眼となる――』」
バードウェイ「『――短い旅の果てに旅人は魔術を友とし罪を母に迎え、法を従える女教皇とならん!』
マーク「あ、ボス!愚者→魔術師→刑死者→女教皇の4コンボはマズいです!」
上条「どんくらい?」
マーク「んー……このテレズマですと半分ぐらいでしょうか?」
上条「部屋の半分かっ!?ふざけんなよっ!」
マーク「いえ、アパート半分倒壊します」
上条「マップ兵器かっ!?つーか逃げろ円周――円周?いないなっ?」
マーク「あ、ベランダから逃げていきました。それじゃ私も失礼しまーす」
上条「あ、コラ待ちやがれ!?つーか何!?なんでこんな流れになってんの!?」
バードウェイ「はっはぁっ!貴様が犯した罪を数えろおぉっ!」
上条「犯して、ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
ズドォォォォンッ!!!
――学生寮
男「『――え、マジで?ケミカロイドって凍結しやがったのか?』」
男「『あー、あのガキどもが?暴走?……ふーん』」
男「『つか、つーかよぉ?アレの欠点ってペ×野郎向けの人形遊びだろ?耐久性がフィギュアに劣るっつー事なのに』」
男「『ジジイも軍用品として使えねぇから、相手にしなかったんだが……わかってねぇよなぁ、開発も』」
男「『そもそも能力主義なんて言ってる連中、「劣ってる連中を慰めるための言い訳」なんだよなぁ』」
男「『なんであーゆー手合いは、直ぐ暴力に走ろうとすんのかねぇ。おじさん悲しいぜ』」
男「『――で?お前は今何やってんだ?あぁ?』」
男「『いや、そろそろシャバの空気が吸いたくなったんじゃねぇか』」
男「『加群、病理、乱数。あとジジイもどっかに失踪してやがるし?どうしたもんかぁ、ってな』」
男「『導体と相殺に連絡取ろうにも、あっちはシカトしてやがるんだわな。これが』」
男「『加群も何だかんだ言って、最後は「木原」らしい最期だったみてぇだし……まだ動いてるっつー情報も入ってんだが。一応』」
男「『円周と那由他ぁ?あいつらはダメだろ。使い物にはならねぇよ』」
男「『……ま、少ぉし手ぇ加えりゃあ、化けるかも知れねぇが』」
男「『――あぁ。それじゃ出たくなったら連絡寄越しな。んじゃな』」
ピッ
男「――さてと……あぁもう時間かよ。面倒臭ぇが」
プツッ
工山規範「……」
工山「……あ、あれ?」
工山(ボクは何を……あぁ寝オチしてたのか。ヘッドギア落ちてる)
カチャカチャ
工山(……良し、と。これで今日も) ピッ
工山(『同期』させてっと――)
――『明け色の陽射し』 極東支部(兼・上条のアパート) 朝
バードウェイ「――さて、今日集まって貰ったのは他でもない」
円周「あ、お兄ちゃん、お醤油とってー?」
上条「おー……ってシェリー味噌汁の中にご飯を入れんな。行儀悪いぞ」
シェリー「あぁ……?昨日アンタもやってたじゃねぇか」
上条「昼と夜は良いんだよ。日本にはな、朝からぶっかけご飯を食べると、結婚式の日に雨が降るって言い伝えがあって」
シェリー「カツオブシも取ってくれ」
円周「はいどーぞっ、シェリーお姉ちゃん」
シェリー「アンタまた……まぁ良いか、面倒臭ぇ」
上条「聞けよぉぉっ!?大事な話をしてるんだからね、今!」
円周「よしよし」 ナデナデ
シェリー「あんまソイツを甘やかすな。癖になんぞ?」
上条「冤罪にも程があるわっ!?もうちょっと世界は俺に優しくてもいい筈だし!」
円周「大丈夫っ、お兄ちゃんならそーゆーのもアリだからっ」
上条「ありがとう……?いやいやっ、なんか納得出来ねぇな!」
円周「むしろ相性ピッタリだし?」
上条「どうしてこのパーティには中間が居ない?……今思えば、あの残念な金髪は癒しだったよなぁ……」
円周「うん、うんっ!こんな時あの金髪ならこう言うんだよねっ!」
円周「『まぁ結局、諦めた方が良いって訳よね?ふぁいおーゆり○っ!』」
上条「明らかにバランスが悪いだろう!全員ボケだぞ、俺が全部拾うなんて無理筋じゃねぇか!」
円周「って言ってる間にもボケ一つ流されてるしねー。可哀想なゆ○かちゃん」
上条「せめてっ!せめてもう一人ぐらいまともな子がいればっ!」
円周「ぶー。お兄ちゃん浮気は良くないよっ」
上条「お前の脳内設定で俺は兄貴なの?それとも恋人なの?そろそろはっきりしてほしいんだけど」
円周「最近はどっちもって多いよね?流行りなのかなっ」
上条「現実の話をしようぜ?俺達が住んでる所の話だよ!」
シェリー「え、でもアンジェレネから借りた本だと、大体同じ意味って書いてあったわよ?」
上条「すげーなラノベ!?つーか向こうまで侵食してやがるんだっ!」
シェリー「神裂もハヤ……なんとかってマンガをだな」
上条「おっとそれ以上は止めてくれないか!『むしろ最近あっちの方が出てますよね?』とか言うと俺が泣くんだからな!」
円周「うん、パトリオットは無いと思うんだよ。いくらなんでも他に見せ場作れたよね?」
上条「お前からも言ってやって下さい、ボスっ!」
バードウェイ「……」
上条「あれ、バードウェイ……?」
バードウェイ「――はい、貴様らが黙るまで5分かかりました」
上条「陰湿だな!」
円周「あ、お姉ちゃん。お漬け物も入れると美味しいよ?」
シェリー「ピクルスは苦手なんだよなぁ、私」
円周「このきゅうりはお味噌――豆をペースト状にした後、発酵させたのに漬けた奴だから、酸っぱくはないよ?」
円周「むしろ旨み成分が増えているから、甘みと風味が際だってるんだよね」
シェリー「へぇ……?興味なかったけど、日本のメシもイケるもんだなぁ」
上条「あの、すいません二人とも?そろそろバードウェイがぶち切れて魔術ぶちかますから、そろそろ話聞いてくれないかな?」
シェリー「朝のクソ忙しい時間になに話すっつーんだよ、あぁ?」
バードウェイ「そういう貴様こそ、毎日毎日その忙しい時間に人の家で食事を集りに来ているようだがな!」
シェリー「え、友達ってそういうもんじゃねぇのか?」
バードウェイ「……」
上条「……」
円周「……あー、うん」
シェリー「……そっか、悪ぃ事したわね。それじゃ明日からは――」
上条「待って!?合ってる!その解釈で合ってるからねっ!?」
上条「仲の良い友達の中に、きっと毎日メシ一緒に食ったりする時もあるって、なっ!?」
円周「あ、ごめんねお兄ちゃん?わたし友達はいないから、分かんないや」
上条「意外。お前の外面で騙される奴、結構居るんじゃ?」
円周「興味ない相手は無視するしねー。レヴィちゃんはどう?」
バードウェイ「私はまぁ……普通だな」
円周「普通にお友達が居ないんだねっ?性格キツいし、現実世界でのツンデレはタダの嫌な人だし」
バードウェイ「よーし、表で話そうか――主に肉体言語で!」
円周「うん、うんっ!辛いけど、とってもとっても辛いけどっ!降りかかる火の粉は磨り潰さなきゃいけないよねっ!」
上条「喧嘩禁止です!あと食事中にバタバタしない!」
シェリー「……なんつーか、私も寂しい奴だとは思ってたんだけど」
シェリー「意外と珍しくもない、のか?それともたまたまぼっち系が集まっただけかしら?」
上条「ま、まぁまぁ?今まで、アレだったけどさっ!これからは俺達が友達だしっ!」
上条「段々と慣れていけばいいから、な?」
シェリー「そう、よね?うん」
バードウェイ「……さて、話もまとまった所で――」
上条「あ、すまん。そろそろ学校行かないと時間がマズい」
シェリー「私もだな……ちっ、面倒臭ぇよっと」
円周「それじゃわたしも途中まで送るよー。お兄ちゃんだけだと、襲われてもどうしようも無いしねー」
上条「はっきり言われると傷つくんだが……」
円周「だーいじょーぶっ!わたしは当麻お兄ちゃんがゴミ虫でも愛しているからね?」
上条「……すいません。愛が!愛が重すぎるんですっ!」
シェリー「諦めろ。どーせ『可愛らしい解剖用カエル』程度の認識じゃねぇのか?」
上条「……せめてもっと素直な相手ならっ!」
シェリー「まぁ逆に考えるんだな。『愛されているウチは、死ねない』って」
上条「わぁいったっのしいっなー」(棒読み)
シェリー「んじゃ私は先に――あ、そうだ。上条、顔上げろ」
上条「はい?」
シェリー チュッ
上条「」
円周「あーーーーーーっ!お姉ちゃんとお兄ちゃんがちゅーしてるっ!」
シェリー「え、友達ならするんじゃねぇのか?本に書いてあったぞ?」
上条「『僕は友達が少な○』は、フィクションだ!タダの、物語だっ!」
シェリー「そ、そうなのか……?てっきり仲の良い友達ならすると思って……」
上条「待て待て待て待てっ!?そのパターン止めろって!」
円周「なんか鉄板になりそうなネタだよねー、それ」
シェリー「それじゃ先行くわ」 パタンッ
上条「待てコラシェリー!?マジなのかネタなのかをハッキリさせていけ!」
円周「――って、怒ったフリをして誤魔化そうとしているよね?ねっ?」
上条「お前もアレだな!……うんよし学校へ行こうかっ!」
円周「誤魔化すのが下手なのも程があるよねー。でもそんなお兄ちゃんも、いいなぁ」
上条「あ、すまんバードウェイ。食器とか流しに置いといてくれ」
円周「それじゃ、お留守番よろしくねー?」
上条「あ、おい手を繋ぐんじゃない」
円周「いいでしょ、ね?ちょっとだけ、停留所までだか――」
パタン
バードウェイ「……」
パタン
マーク「おっはようございまーす……?あ、ボス。本日も良い天気で。はい」
バードウェイ「……なぁ、マーク?マーク=R=ヒュー○?」
マーク「スペースです、ボス。世界規模のマルチ商法の創始者であり」
マーク「『母親が30歳で死んだから健康食品売ります』と言いながら、自分もアル中ヤク中で夭逝したバカじゃないです」
バードウェイ「今、我々が居るのはアウェーだし、相手も結構な相手だよなぁ?」
マーク「先日のやりとりを見れば、それ相応の難敵かと」
バードウェイ「その相手にだ。しかも今度は『私』と言う誤差を修正し、全力でかかって来る相手に」
バードウェイ「こんなグダグダでどうしろって言うんだっ!?」
マーク「いやぁ……まぁ、はい」
バードウェイ「なんだぁ?私が負けるとでも思っているのか?」
マーク「理不尽すぎますよボスっ!?罠じゃないですか!」
バードウェイ「……まぁいいさ。学校が忙しいというのであれば」
マーク「あのー、ボス?お顔がめっさ悪い感じになってますよー?」
バードウェイ「――ムリにでも付き合って貰うまでだよなぁ……!」
――停留所
円周「うーん、人いっぱいだよねぇ」
上条「気にはなってたんだけど、お前学校とか行かないの?」
円周「行ってもなぁ。あ、だったらさ!」
上条「俺の学校への進入は禁止だ。中学生、つーかお前背の高い小学生しか見えないから、絶対バレるって」
円周「ちぇーっ。世の中には何の脈絡も伏線もなく、合法ロ×の先生だっているのに」
上条「あれはまぁ……うん。そーゆーもんだとしか言えないけどなっ。エルフだから140歳、みたいな!」
円周「わたしは別にお勉強したい時には勝手にしてるから大丈夫だよ?」
上条「君に必要なのは情操教育とか道徳の部分だと思うけど」
上条(この子のぶっ飛んだ行動を見る分に、多分『暗部』の連中達と似たような扱いか)
上条(そういえば一方通行もフラフラしてるし、心配しなくていいのかな?)
円周「白い人は8兆円の借金バックれた人だからねー。まぁ元々の実験とかでちょっとした地方銀行並みのお金は持ってるけど」
上条「マジか!?すっげぇなぁ……ってあれ、俺今口に出してたっけ……?」
円周「大丈夫だよっ!お兄ちゃんの思考パターンは手に取るように分かるからっ!」
上条「学習するってそういう意味かよっ!?プライベートを尊重して欲しいですよねっ!」
円周「ってか観察して分かったんだけど、そんなに大した事は考えてないよね?アドリブに弱いし、言われてるほど女たらしでもないし?」
上条「よしまずそこから教えて貰おうか?俺の評価って他じゃなんて言われてるの?『暗部』でも有名ってどういう事?」
メイド服「取り敢えずで敵をハーレム要員にする異能の持ち主」
上条「心当たりは無いっ――よ?」
円周「てか魔術サイドの殆どが元敵だし?否定するだけの根拠に乏しいよねぇ」
メイド服「と、ウチの引きこもりが言っていた気がしないでもない」
上条「つーか誰だお前っ……雲川先輩の妹さん、だよな?」
雲川鞠亜(メイド服)「視線を顔から胸元に下ろすのは失礼だと言っておくよ。上条当麻、だっけ?」
円周「おはよー鞠亜ちゃんっ。お兄ちゃんは雑食で、何でもいけるクチだから気をつけてね?」
上条「そもそも視線を下ろした事実はないし、冤罪確定なんだが!」
鞠亜「バゲージで色々あった相手と仲良く手を繋いでいれば、噂が事実無根かどうかは分かりそうなものだと思う」
円周「鞠亜ちゃんもこの間はごめんね?次はもっと上手くヤるから?」
上条「日常シーンへ殺気を持ち込むも止めてっ!?」
鞠亜「君の実態を知らなければ『仲の良い兄妹だな』で、済ませられる話だけれどね」
上条「雲川も登校?つーか朝からメイド服なの?」
鞠亜「メイド服は私達にとって制服だからな」
円周「頭の悪そうな名前バッジと風俗にいそうな黒黄色シマシマは、正気なの?」
上条「だからお前はそういう事言うなって。人の嫌がる事は言っちゃいけないんだぞ?」
円周「そなの?そんな風には見えないけど」
上条「いやいや、そんな事ないって。誰だって自分の趣味を貶されれば傷つく――」
鞠亜「……良し!今のは中々良かったぞ!私のプライドが傷つけられてレベルアップだ!」
円周「ほらね?」
上条「あ、あれ?こないだはシリアスしか見てなかったから分からなかったけど、実はこんな子なの?」
円周「何となく方向性は理解出来るんだけど、屈辱の耐性をメイドで補強する意味がちょっと分からないよねぇ」
鞠亜「経験値がまた増えるっ!いいのか私!?」
上条「……あの、関係者だと思われたくないから、向こうへ行って貰えませんか?」
鞠亜「まただっ!また私の経験が!」
上条「すいません円周さん、キツいの宜しく。正気に戻してあげて」
円周「あ、胸のカップは私と同じぐらいかな?芹亜お姉ちゃんとは似てないよね?」
鞠亜「胸の話はするな。殺すぞ?」
円周「うん、うんっ!とっても気が進まないけどっ!売られたケンカは買わないといけないよね……ッ!」
上条「だからお前らはどうしてそんなに沸点が低いんだっ!?つーか雲川先輩に似てないし!」
鞠亜「姉ほど達観してないのは認めるが、年相応じゃないかね」
円周「加群おじさんを持ち出さなかったし、気を遣ってるつもりなんだけどなぁ」
上条「そんな気遣いはいらん。あと雲川先輩は中学ん時もあのままっぽい気がする」
鞠亜「ま、そんな訳で今日は朝から出向だよ。繚乱とは別の場所で実習さ」
上条「メイドの実習?へー、どっかのお屋敷でか」
鞠亜「いやメイド喫茶でだが?」
上条「メイド違うじゃんか!?何、お前らの学園のメイドってあーゆー所を目指してんの!?」
鞠亜「逆だな。店側から請われてレクチャーしに行くと」
円周「今は『メイド服さえ着てればメイドですが何か?』的な風潮だもんねー」
鞠亜「そういった悪しきエセメイド達を駆逐するためにも!我々が本物を示す時なのだよ!」
上条「オイコラ色物メイド。ドヤ顔でその台詞言う前に自分の格好顧みろ」
円周「イロモノ加減じゃ巷に氾濫するメイドもどきと大差ない、っていうかより酷いぜ、っていうか」
鞠亜「おおっとそれ以上私のレベルを上げるのはやめて貰おうかっ!CPが溜まりすぎて使い道に困ってしまうからな!」
円周「あー、分かる分かる。世界○とかでさ、攻略wikiやガイドブック全然見ないで進めて」
円周「後からやり直しすると大変だから、スキルポイントは必要最低限しか遣わない、的なの」
鞠亜「……でも本命はパーティに入れてないプリンセスとかビーストマスターだった日にはね。もう、ガッカリって言うのか」
上条「……もうヤダ……どうしてこの手の変人しか居ないのっ!?」
円周「っていうかさ。鞠亜ちゃんレベルアップしてるの?本当に?」
鞠亜「なんだね。私のライフスタイルに疑問でも?」
円周「なんか傍目には『詰られて喜ぶ変態女』にしか見えないんだけど?」
鞠亜「……」
上条「あー……確かに」
鞠亜「――と、言う訳で私はそろそろ行かねばならない。愚鈍なご主人様に仕えなければいけないからねっ」
上条「逃げんなコラ。目的と手段が逆転してんぞ」
円周「……んー」
上条「どした?」
円周「ね、お兄ちゃんと鞠亜ちゃんにお願いがあるんだけどぉ」
上条「ダメだからね?人体は気軽に壊しちゃいけないって約束したよな?」
鞠亜「なんだそのバイオレンスな約束は……?」
円周「わたしも鞠亜ちゃんと一緒に働いてみたいなー、って」
上条「なんでまた?」
円周「メイドさんのスキルがあった方が得じゃないかな?」
上条「一部だけだからね?殆どの人間は人生でメイドと接点無しで終わるからな?」
円周「その需要も結局『メイド服着た可愛い娘』だし?」
上条「否定しきれないのがアレだけど――大体、雲川が良いって言わないだろ?あっちは遊びでやってるんじゃないんだから」
鞠亜「んー、まぁ構わないよ」
上条「いいのかよっ!?」
鞠亜「誰かに教えるのは私の勉強になるだろうし、メイドの仕事を学びたいのであれば是非もないさ」
鞠亜「ただその代わりと言っては何だが、バゲージの遺恨は今後無しにして欲しいが」
円周「わたしが負けちゃったのはわたしが弱いからだし、鞠亜ちゃんを恨んではないよ?」
鞠亜「……その言葉が信じられれば良かったんだが」
上条「いいのか?本当に」
鞠亜「さっきも言ったがアバウトな店だし、一人増えるぐらいは問題ないだろう」
鞠亜「むしろ失敗すればするでオイシイ、らしい」
上条「なぁその店って本当にメイドさん必要としてるか?綺麗な服着た可愛い女の子だけだよね、欲しいのは」
鞠亜「おっと不用意な発言は控えて貰おうか!」
上条「……何?俺なんかまた言ったの?」
円周「フラグメーカーの仕様だしねー。ってワケでよろしくお願いしまーーーすっ!」
上条「いいか?雲川の言う事は守るんだぞ?」
円周「うんっ、勿論だよっ」
鞠亜「ここだけを見れば普通の兄妹に見えるな」
上条「人を殺すのはダメだからね?あと、解体して結果的に殺すのもダメ」
円周「再起不能は?間接を三つぐらい増やすとか?」
上条「悪い相手なら、まぁ一つぐらいは……?」
円周「白くてメンタルの弱いしましまが来たら?」
上条「被保護者さんに通報しなさい。全力で来てくれるから」
鞠亜「ごめん。錯覚だったよ、全て」
円周「やっぱり人数多いとツッコミ最低二人は必要だよねー。鞠亜ちゃんもウチに来なよ?」
鞠亜「全力で断る!これ以上風評被害を拡大させるもんか!」
上条「……何?そっちもなんか言われなき被害を受けているの?」
鞠亜「それも君のせいなんだがね、手癖の悪さ的な」
上条「冤罪だよっ!?何一つ俺関係ねぇし!」
円周「鞠亜ちゃんも油断してるとぉ――」
上条「やめろ。出会う人間片っ端から意味ありげに俺の悪口を吹き込むな!」
鞠亜「そういえば仙人のような姉もいつの間にか……!?」
円周「キーワードは『放課後・使われていない体育倉庫・写メ』だよねっ」
上条「お前らいい加減にしないと出るトコ出るよ?特にちっこいのは不穏当すぎるわっ!」
鞠亜「……姉のGだけでは満足出来ないって言うのかっ!?」
円周「むっ、流石おっぱいソムリエ上条当麻って言われるだけの事はあるねっ」
上条「前に言ったけど、普通の学校に使われてない倉庫なんて無いからな?予算着いてるんだから、余計な建物が増やせる訳がねぇっ!」
上条「あと円周さん?そのとても心惹かれる職業は実在するの?国家資格なの?それともガンダーラ的な所に行く必要があるの?」
プップー
鞠亜「あぁバスも来たようだし、取り敢えず今日一日は預かるよ」
上条「ゴメンナサイは?時間潰しでからかってた俺に謝る発想はお前らにないの?」
円周「じゃ、お兄ちゃんもお勉強頑張ってね?放課後のアレもっ!」
上条「ねぇ放課後のって何?意味ありげに言うの止めてくんないかな?」
鞠亜「ではまた」
円周「ばいばーいっ」
上条「いいかっ!面倒起こすなよ、絶対に!絶対だからねっ!」
円周「遠回しに『キハラって来い』って意味かな?」
鞠亜「曲解にも程がある。まぁメイドとしてのスキルは教えるから、暴れるのだけは勘弁だ」
パシュ、プップー
鞠亜「そうじゃないとあの『お兄ちゃん』にも迷惑がかかる。わざわざ私が釘を刺す必要は無いだろうがね」
円周「ここであのバスを追い掛けてって、バスジャックしたら楽しいだろうなー」
円周「お兄ちゃんが『何してんのっ!?何してくれてんだぁぁぁぁぁっ!?』って狼狽える姿は好きなんだよねっ」
鞠亜「……凄いのに慕われているんだな。流石に同情するよ」
円周「あ、鞠亜ちゃんも大好きだよ?」
鞠亜「おや?震えが止まらないんだが、風邪でも引いたのかも」
円周「そんなあなたに持ってて良かった木原印の風邪薬!」
鞠亜「――さて、実習先のメイド喫茶へ向かおうかっ!全力で行くぞっ!」
――学校
青ピ「カミやんお疲れだにゃー?」
上条「それ土御門の台詞……ってまだ帰ってねぇの?」
青ピ「みたいや。あンのアホ、可愛い妹ちゃん置いてどっこで遊んでんだか」
上条「まぁフラっと戻ってくると思うけどなー」
青ピ「そんなことよりもぉぉぉぉっ!カミやん!」
上条「突っ込む気力もねぇし。何?」
青ピ「今日は何とイギリスからの交換留学生が!」
上条「何やってんだあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?展開読めたものっ!」
青ピ「ちょ、どーしましてん?」
上条「二択だもんっ!分かってるしぃっ!?どうせまた開口一番それっぽい台詞大混乱ギャーでロ×条ペ×麻』とか呼ばれるんだろっ!?」
青ピ「あぁいや、カミやん?そうじゃなくって――」
上条「ってかね!すぐ男女の仲を疑うのは良くないと思う!カップリングとか考えるのはイケナイよぉっ!」
姫神「おはよう。でもそれを言ったら色々と破綻するんじゃ?」
上条「男女の仲にだって友情は成立するよな、なっ?」
ガラガラッ
小萌「はいはーい、おはようなのですよー。エキサイトしている上条ちゃんは席に着いてくださいなのですー」
上条「先生っ!ボク気分が悪いのでおうち帰ってて良いですかっ!?」
小萌「はーい単位ギリギリで落第寸前の子は、寝言を言わずにきちんとお勉強しましょうねー?」
上条「小萌先生まで俺の敵にっ!?」
姫神「ロシアに謎の失踪をしていたから。仕方がないと思う」
上条「あれだって俺の意思――だけども!帰還が遅れたのは俺の責任じゃねぇよ!」
小萌「――ってな訳で留学生です。皆さん仲良くして上げて下さいねー」
上条「覚悟決めだぞっ!ドS×リでもドS×ドでもかかってこい!」
青ピ「どっちも同じですやん」
上条「よーし来い!ツッコミの準備は万全だ!」
青ピ「なんでカミやんをここまで駆り立てるん……?」
ガラッ
マーク「初めまして皆さん。マーク=スペンサーです」
上条「まぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁくっ!?マーク=スペースっ!?」
マーク「一応偽名使ってんですから一秒でバラさないで下さい」
小萌「えと、偽名って?」
マーク「あぁお気になさらずリトルミス。チュッパチャップ○でもどうぞ?」
小萌「は、はぁ?」
上条「何で来やがった!?俺の平穏の地に何の用だよおぉっ!」
青ピ「いや、血涙流さずほどのもんじゃないですやんか」
姫神「上条君の知り合い?」
マーク「はい。同じサークル仲間でして」
小萌「あ、そうなのですか?ちなみにどんな?」
マーク「各国の食文化を勉強するサークルですよね?」
上条「あ、あぁまぁそんな感じで?」
マーク「留学生と言うよりも社会見学、ゲスト扱いで10日程お世話になりますが、よろしくお願いします」
青ピ「んー、なんか大人っぽい人やね」
姫神「外人さんは年齢不詳な感じなのかも」
上条「(大人だしなぁ、実際)」
上条(いやでもバードウェイや円周に乗り込まれるよりは、全然マシだ)
マーク「ちなみに妹もこちらに来ていますので、もしかしたら見学に来るかも知れません」
マーク「まぁその時は兄妹共々いじめないで下さいねー」
上条「……あぁなんだ。もうそこら辺は既定路線なのね?フラグは悪い意味で立っちゃってんのな?」
小萌「それじゃ上条ちゃんの隣の席で、面倒見てあげて下さいね?」
上条「……はーい」
マーク「よろしく……ま、人生諦めが必要かと」
上条「もう突っ込む気力もない……寝かせて……」
マーク「(じゃあ寝る前にボスからの素敵な伝言が御座います)」
上条「(いやあぁぁぁぁぁぁぁっ!?)」
マーク「(あ、いえネタじゃなくマジな方です。えっと)」
マーク「(『白いのの意識が戻ったから、放課後集合』と)」
――放課後 一方通行の病室
バードウェイ「――さて、今日集まって貰ったのは他でもない」
シェリー「魔術サイドに白いのがちょっかいかけてきた件だろ?」
一方通行「今度こそ潰すぞババア?」
上条「病室でケンカしない!つーかシェリーは円周の事言えないからな!」
芳川「あのー、ちょっと良いかしら?今魔術って聞こえたんだけど」
一方通行「あァそりゃ学園都市製じゃねェ能力者だ。あンま突っ込むな」
芳川「……明らかに違うと思うんだけど、その説明じゃ」
一方通行「余計な所に首突っ込ンだら、出れなくなンぞ?」
芳川「オーケー。分かったわ」
シェリー「学園都市よりかは人道的だと思うけどな」
一方通行「そいつァ俺も同感だがなァ」
上条「まぁそっちは一方通行に聞いてくれ――ってかその人誰?」
バードウェイ「――っていう話をしようとしていたら、貴様らがぶち壊してくれたんだかなあぁぁっ!?」
上条「ごめんなさいっ!?つーかキレキレじゃないですか!」
芳川「帰っていい?と、いうよりどうして私が呼ばれたの?」
一方通行「黙っとけ。オマエは後で『学習装置(テスタメント)』について喋って貰うンだよ」
芳川「『学習装置』っ!?あれは廃棄されたって聞いたわよ!」
バードウェイ「何だ、何も話していないのか?」
一方通行「面倒臭ェ」
バードウェイ「……その面倒が他者に回ってくるんだが。まぁいい。前回は色々と混乱していただろうし、おさらいも兼ねて確認しようか」
上条「あ、ごめん。その前に一ついいか?」
バードウェイ「言ってみろ。お前好みの年上のおねーさんだからって、張り切るな馬鹿者」
上条「何で今俺怒られたっ!?……いやいやっ、一方通行の体って大丈夫なのか?今日まで意識無かったんだろ?」
一方通行「あァそいつァ嘘だ」
上条「そっかそれなら良かった――待って?」
バードウェイ「バカが吊られやしないと罠を張ったんだよ。結果はゼロだったがね」
上条「それもなんかなぁ……つか心配した俺の立場は?」
芳川「言っておくけど能力が不安定になってるのは本当よ。だからこの子にムリさせないでね?」
一方通行「黙ってろクソババア。オマエは俺のかーちゃンか」
バードウェイ「『体晶』だかの影響が抜けるまで、あと10日程。無理以前に暴走すればこちらの命が危ない」
一方通行「ウルセェよ」
バードウェイ「他に質問は?トイレに行きたいのであれば今のウチにしとけ」
シェリー「帰りてぇ」
バードウェイ「――ではまず。お前達に接触を取って来たのが『木原数多』で合っているな?」
芳川「待って?その人確か、失踪してる筈だけど」
一方通行「知り合いかァ?」
芳川「何十人もいる共同プロジェクトに入った事があるだけだから、会話は殆どしてないわ」
芳川「『天才』って言葉が物足りないぐらいの結果を出していた研究者ね」
芳川「専攻は能力開発、だけど。彼が何かしたの?」
一方通行「あァまァ。俺はクソ木原に呼ばれて行ったら後ろからブスリ、だ」
一方通行「だがそこにいたのはその木原数多じゃねェ。ただのガキで」
一方通行「そついが反射を貫通させやがったンだよ」
芳川「状況が理解出来ないんだけど……?」
一方通行「あァ。木原数多の方は何回か『手首の返し』?でボコボコにされたンだが、そいつは全く同じ精度でしやがったンだ」
一方通行「そン時に漏らしてた言葉が『インストール』だなァ」
バードウェイ「クロムウェル。お前はどうだ?」
シェリー「……」
上条「頼むよ、アイツをぶん殴るために必要なんだ」
シェリー「あー……私に接触した木原は『20年に死んだ奴のクローンを作ってやる』って」
芳川「……悪い噂は聞いていたけど、ここまでとはね」
一方通行「けっ!どォ見ても悪党顔だろォがよ」
バードウェイ「お前も大して変わらんが。他に何か言ってなかったか?」
シェリー「私が『それはエリスじゃねぇ!』って言ったら、『学習装置で記憶や性格をインストールすりゃいい』……クソが!」
上条「ここでも『学習装置』か」
バードウェイ「後は二人が顔を合わせて、ある小娘――木原円周を取り合った」
バードウェイ「片方は割り切るため、もう片方は割り切らないため」
バードウェイ「狙いはもう一つ深い所にあったんだが、まぁかいつまんで言えば『共倒れ』だ」
バードウェイ「両方をつぶし合わせ、そっちとこっちを仲違いさせる。それだけが目的」
バードウェイ「まぁそれはそこ馬鹿者が止めたので事なきを得たんだが」
上条「全ての黒幕は円周で、その円周は『木原数多』がインストールされていた……!」
バードウェイ「以上により我々は『木原数多』との抗争に突入した――ん、だが。問題が一つ持ち上がる」
一方通行「木原くゥンは俺がぶち殺してンだよなァ。確実に」
シェリー「あぁ?それじゃ仕組んだのは別の人間って事かよ?」
バードウェイ「『木原数多』が死んでる以上、そう考えるのが普通だ。けれど私は門外漢なので知らないんだよ」
バードウェイ「以上の事が他人にも可能かどうか、可能であればどんな人間なのか」
バードウェイ「専門家であるあなたの意見を伺いたい」
芳川「……元々『学習装置』はクローンに人格やある程度の常識や知識を植え付けるための装置よ」
芳川「でも生きている人間の人格を書き換えたり、他の人格を残したままインストールなんて聞いた事はないわ」
芳川「少なくとも私が関わっていた時の『学習措置』であれば、だけど」
一方通行「天井のクソが仕掛けたテロみてェに、誰かがやってンじゃねェの?」
芳川「……あのねぇ、確かに『学習装置』は人の記憶を書き込むのは可能よ?けど」
芳川「白いノートに書き込むのと、びっしり書き込んだノートを消して書き込むの。明らかに難易度は違うでしょう?」
芳川「天井亜雄は……まぁ、それなりに優秀な研究者であったけど、精々赤いペンで一行上書きする程度しか出来なかった」
芳川「それこそ『木原数多』級の人間じゃないと、『学習装置』の改良は不可能よ」
バードウェイ「技術的な意味で?それとも設備や開発予算的な意味で?」
芳川「両方ね――それより、こちらからも聞いて良いかしら?」
バードウェイ「魔術を学びたいのであればウェルカムだ」
芳川「えっと……?」
一方通行「冗談だ。流しとけ」
芳川「え、えぇ。それじゃ『逆』の可能性についても聞きたいのだけど」
芳川「あなた達の言う『インストール』は間違いじゃないの?」
バードウェイ「うん?」
芳川「『学習装置』を改良するよりも、例えば……その、円周って女性が、反射貫通の能力者だった可能性だってあるんじゃないかって」
バードウェイ「それは違う。何人かインストールさせられた人間が居て、そいつらをここで分析して貰ったんだよ」
芳川「他にも居るのっ!?」
バードウェイ「結果はクロ。この男は『異能を打ち消す』能力なんだが、こいつが触る前と後でスキャンした結果、脳の一部に電気の流れが違っていた」
芳川「データは見せて貰えないのかしら」
バードウェイ「白いのには送ったんだがな、後で見せて貰いたまえ――とにかく、そういう意味で自作自演と言う線はなくなった」
一方通行「つーかよォ。インストールってなンなンだ?あのガキは出来て他の連中は反射貫通出来なかったのは、どォしてだ?」
バードウェイ「想像でしかないが、元々身体能力系の能力者なのだろう。イメージした通りに体を動かす、的な」
バードウェイ「だからこそ何人かインストールされた中で、唯一反射貫通を正確に再現出来た」
上条「んー、俺からも質問」
バードウェイ「なんだ?」
上条「お前じゃなくて、先生っぽい人に――『学習装置』で記憶や人格が書き込めるんですよね?」
芳川「そうね」
上条「でも俺は御坂妹達に何回か触ってるけど、アイツらの記憶が無くなるとかは無かったけど?」
バードウェイ「ちなみにどんなエロい触り方をしたんだ?」
上条「そうなぁ、病院で――違うよっ!?誘導尋問だっ!?」
芳川「それは多分、あなたの異能が『不自然な状態を自然な状態にする』んじゃない?違う?」
上条「はい。知り合いの魔人――じゃなかった、暇人はそう言ってた」
芳川「育った人間には記憶と人格があるのが自然、無かった子達が時間を掛けて『学習』したのは不自然ではない」
芳川「でも既に記憶があるのに、上書きされたり書き換えられたりするのは」
上条「『不自然』であり、能力の対象になる、か」
シェリー「しかしその理屈で言えばマズかないか?」
一方通行「一回完全に記憶なり人格を消した後に書き込めば、もう元には戻らないって事だァな」
上条(俺の記憶が戻らなかったのもそのせいかも?完全に失った記憶は『自然』な状態になりようがないしな)
バードウェイ「まぁ『学習装置』が『実現可能』だと分かっただけでも良しとしよう。次は『木原数多』だ」
バードウェイ「私の推測からすれば十中八九グレムリンと縁がある」
バードウェイ「ハワイでのやりとりを知っていたり、そもそも二つのサイドをケンカ別れさせようとしたり、推測というのもおこがましいぐらいだ」
芳川「……ギズ○?」
一方通行「反学園都市の組織だ。ンなに可愛くはねェよ」
バードウェイ「従って資金力や技術力だけではなく、相手が科学と思っていたら魔術師が出て来る可能性も高い」
上条「なーんか防戦一方だなぁ、俺ら」
バードウェイ「でもない。下っ端どもを拷問――もとい、優しく訊ねてたら、色々吐いたぞ」
上条「今不穏な単語が出て来たっ!?」
バードウェイ「プチ拷問しちゃったゾ☆」
上条「可愛いけどもっ!何か、何か違うなあぁっ!」
芳川「インストールは?」
バードウェイ「家捜しやネットリ歴――もといネット履歴を調べ上げた」
一方通行「……俺がなァ」
バードウェイ「暇だったし良いだろ。で、出て来たのが、こいつだ」
芳川「……ヘッドギア?」
一方通行「なンでも一日一時間着けるだけでレベル3になれるンだと」
上条「その数字がまたリアルだな」
バードウェイ「『SEED』。『学習装置』の書き込み端末なんだろうな」
バードウェイ「最初は脳の一部分に代理演算……まぁ電卓?をインストールさせるから、確かに思考は早くなる」
バードウェイ「だが続けて使っている内に、インストールされるのは『木原数多』の人格データとなる」
一方通行「木ィ原くゥン、ついにウイルスになっちまったかァ。ま、ピッタリだけどよォ」
バードウェイ「ちなみにコイツを配ってたサイト並び関係者の自宅はついさっき襲撃した」
上条「危なぇな。誘えよ!」
バードウェイ「私の話を聞かなかったお前が悪い――別にお前のためなんかじゃないぞ?いいか、勘違いはするな?」
芳川「ねぇ一方通行、この子もしかして?」
一方通行「黙ってろ。当事者以外は知らねェ」
シェリー「あん?何の話だ?」
バードウェイ「『SEED』を送った住所を押さえたんだが、どうせ全てではないだろうし、ダミーも多いんだろうな」
バードウェイ「彼らがどこから入手したのかは調査中だ――が、まぁあまり期待はしない方が賢明か」
芳川「学園側に禁止って通達を出し――たら、きっとみんな欲しがるでしょうね」
上条「病んでる子は病んでるしなぁ。上に行きたい気持ちは理解出来るけど」
一方通行「雑魚はなにやったってェ雑魚なンだよ」
バードウェイ「さて、では話をまとめてみようか」
バードウェイ「……現時点で、『木原数多』が直接手を下した例はない」
バードウェイ「もしもネットの外、つまり現実世界に『木原数多』が存在するのであれば」
バードウェイ「そうでなくとも協力者が居れば、こんな回りくどい方法でなくともいい」
バードウェイ「で、あれば――回りくどい方法を『するしかない』理由があるのではないか?」
上条「誰かが『木原数多』に見せかけてるって考えは?」
バードウェイ「非効率過ぎる」
芳川「そうね。別にこの子達を確保したり、煽るのだって『インストール』した子を巻き込まなくても良いんだし」
バードウェイ「実際にそこから『SEED』の集配所が割れたのだしな」
バードウェイ「――ともあれ、それが現時点で分かっている事さ」
一方通行「面倒臭ェよなァ、ほンっと」
シェリー「クソはクソらしく車にでも轢かりてりゃいいのによぉ」
バードウェイ「おい、そこのコミュ障ども。お前らが『こんにちは』って自己紹介してれば、戦闘は避けられんだからな?」
バードウェイ「中二病丸出しで突っ込んだバカは、もう少し反省しろ」
上条「いやぁ、それちょっと無理なんじゃ?」
バードウェイ「あぁそうそう。お前に狙撃防止のアルカナを持たせているって言ったよな。覚えているか?」
上条「そりゃ当然。助かったぜー」
バードウェイ「あれは嘘だ」
上条「――え」
バードウェイ「タロット自体に魔術的な効果は今もあるが、お前が持っている時点で無効化されている」
上条「じゃ、じゃあじゃあこないだのは何だったんだよっ!?」
バードウェイ「アレは予め私が“場”に掛けた防御結界みたいなものだよ。クロムウェルは気づいていたようだが」
シェリー「流石に空気読むだろ」
バードウェイ「あの展開であれば『アメリカ魔法』で一発逆転が来るとは分かったからな」
上条「つ、つまり?」
バードウェイ「現在『木原数多』はお前に銃が効かないと思いこんでいるが、実際には効く効く。相性:◎」
上条「二倍ダメージかっ!?」
バードウェイ「ハッタリでもしておかないと確実にスナイプされるからな。感謝したまえ、私の偉大さに」
一方通行「はったりじゃねェか」
バードウェイ「さて、我々はヘッドギアの解析、並びにネット上にあるであろう『木原数多』の人格データを追跡する」
バードウェイ「幸いにもショッボい協力者しか居ないため、大した脅威にはなっていないのが現状だが」
バードウェイ「ともあれ現状はそのぐらいだ――で、芳川桔梗さん?」
芳川「何かしら?」
上条(綺麗な人には綺麗な名前がつくもんですねっ!)
バードウェイ「新入りは空気読め、後でオシオキだ」
上条「読んでるじゃん!?あ、いや思ってもないけど!」
バードウェイ「貴様はエロい事考えると鼻筋に血管が浮かぶんだっ……!」
上条「マジでかっ!?……いや、別になんともなくね?」
一方通行「……今時よォ、ンなベタネタで引っかかるかァ?」
上条「え?」
バードウェイ「マヌケの罪は二割増しにするとして――あなたの意見を請いたい、いや」
バードウェイ「『木原数多』へ対抗するため、あなたの力を貸して貰えないだろうか?」
バードウェイ「私とライオン女、それと貧乏そうな男には圧倒的に『そちら』の知識が足りない」
上条「ごめんよ?俺、学園都市側なのに、どうして一般人扱いなの?」
芳川「……ここまで聞かせられて、放って置くつもりはなかったけど」
芳川「いいわ。やりましょう」
バードウェイ「あなたに心からの感謝を――マーク」
マーク「――はい」
バードウェイ「必要な環境や設備、また報酬はそちらの男に言ってくれ」
芳川「分かった――その、報酬についてなんだけど」
芳川「『魔術』ってのを教えて貰う訳には行かないのかしら?」
バードウェイ「可不可であれば“可”だ。けれどそれは最低でも学園都市から決別する事を示している」
バードウェイ「それを良く踏まえた上で、覚悟をしたのでならば話を聞こう」
芳川「……」
一方通行「……オマエにゃ“それ”は向いてねェよ。どっかの非常勤講師が精々なのに、あっちもこっちも高望みし過ぎなンだ」
芳川「言ってくれるわね……で、えっと?」
バードウェイ「レイヴィニア=バードウェイだ」
芳川「芳川桔梗です。宜しく」
バードウェイ「では早速今後の方針なのだが――」
芳川「取り敢えずヘッドギアの分解と使われている部品の分析――」
一方通行「ダウンロードした人格データのCRC――」
上条「……なーんかする事ねぇなぁ」
シェリー「科学だしなぁ。タダの魔術師と学生の見せ場はねぇだろう」
上条「んー……シェリーも仕事帰りだったのか?」
シェリー「あぁ。呼ばれたんだよ。つっても片手間でも出来るようなやっつけだったけどね」
上条「へー、ってか結局そっちのどんな依頼だったんだ?」
シェリー「スフォルツァ版タロット、まぁ現存してる古いタロットの復元“推定”作業だな」
上条「推定?」
シェリー「あぁ。スフォルツァ版タロットはイタリアのミラノ公爵スフォルツァ家が画家に描かせたもんだ」
上条「そこら辺はバードウェイから聞いた。キャリー?なんだっけ?」
シェリー「『キャリー・イェール版タロット』だ。スフォルツァ版の中でも一番古い。つまり正真正銘最古のタロットよ」
上条「色が落ちたとかカビが生えたとか、そういう復元処置?」
シェリー「いや、そうじゃなくてだな。キャリー・イェールのアルカナは全部で11枚しかねぇんだよ」
上条「半分以下じゃんか」
シェリー「そうよ。だからまぁ、『残りの12枚を当時の画風で描かせたらどんな感じ?』ってのが、今回の計画」
上条「あー……半分以上ピースの欠けてるパズルを、残った破片から全体の絵を描く感じ?」
シェリー「それだなぁ。『こんな感じに描いたんですけど、当時の流行りの書き方で合ってますか?』ってのにダメ出しをする仕事」
上条「散逸したアルカナの復元なぁ。それ、そんなに価値があるもんなのか?」
シェリー「さぁ?そっちの魔術は専門外――でも、ないか。カバラとタロットは親和性が高いけど」
シェリー「ま、私には関係ないし、そもそも学園都市主導のプロジェクトだし?」
上条「魔術サイドから見たら?霊装にするとか?」
シェリー「あー……神話象った武器は多いがなぁ。でもタロットはちょっとアレだ」
シェリー「グングニールって知ってるか?オーディンの持つ槍。ゲームとかにも出てんだろ」
上条「あるなぁ。最上位系の武器だ」
シェリー「アレの名前を持つ霊装は大量にある。でもまぁ効果はまちまち」
シェリー「私の知ってる限りだと、雷喚んだり、ルーンのランダム精製だったり、貫通強化とかな?」
シェリー「何が言いたいかって言えば、普通の霊装がモチーフにするのは『神話』なんだよ。神の武器とか逸話とかを再現するんだ」
シェリー「けどタロットはそうじゃねぇだろ?」
上条「あー確かに。バードウェイの場合だと『タロットを使って寓意を再現』してるよな?」
シェリー「……お前、そういう勘だけは鋭いのな」
シェリー「だからまぁ?こいつらみたいに使う事はあっても、『タロットカードを再現したって意味はない』んだ」
上条「それが神様の武器でもない限りは、って話か?」
シェリー「大体そんな感じじゃねえか。タロットは『手段』であって『目的』じゃねぇ」
上条「タロットに関しての逸話とかないの?」
シェリー「『黄金』系の魔術師が好んで使う以外には殆ど……あぁ、まぁ今で言う都市伝説みたいなのは聞いたな」
シェリー「キャリー・イェール版を含むスフォルツァ版タロット、通称『プリマ・タロッコ』」
シェリー「『原初のタロット』って言う意味なんだが、このタロット群には共通点があんのよ」
シェリー「それは『どのデッキも共通して二枚だけ足りない』の」
上条「イェール版は11枚、他のも散逸してるだけじゃないのか?」
シェリー「んー、その可能性もあるかしらね?」
シェリー「けれど、幾つか残っているデッキの内、『悪魔』と『塔』のアルカナだけなくなっているのは不自然じゃない?」
シェリー「だから後にタロットを、というか古美術の収集家達はこう囁かれた」
シェリー「『タロットで“塔”を引いてしまうと、悪魔が現れて持ち主を連れ去ってしまう』」
上条「お、おぉう!都市伝説系の話だなっ」
シェリー「だから当時の持ち主達は意図的にその二種類のアルカナを廃棄した、という噂」
上条「すっげー縁起の悪いカードだから、最初から存在しなかったとか?」
シェリー「それだと後年のタロットに悪魔と塔があるのはおかしいじゃない?」
上条「教会とかに配慮……も、今更っぽい気がするし」
上条「それじゃ今回の事件とタロットの復元は無関係かぁ……いやでも、タイミングが良すぎるって」
上条「前に言ってたけど、『木原数多』がシェリーを罠に嵌めるために喚んだんじゃないか、って」
シェリー「やりかねないけど……なーんか不自然なんだよなぁ」
上条「どこが?」
シェリー「バードウェイはそう睨んでるんだろうけどよぉ。それにしちゃ手が込みすぎてる」
シェリー「再現されたアルカナが異常な程、塗料からキャンバス、描き方も完璧に当時のやり方を模倣してんのよね」
シェリー「ホンモンだっつって売ったら高値がつくレベルよ」
上条「カモフラージュ的な奴かも?」
シェリー「だったらもっとやっつけ的な感情が入る筈だ。私の勘だけども」
シェリー「……まぁ何にせよ。仕事は今日で終りよ」
上条「え、帰っちまうのか?」
シェリー「別口で誘われている仕事もあるんだが、クソ木原をぶん殴るまでは帰らねぇ――帰“れ”ねぇわよ」
上条「寂しいような、残念なような」
シェリー「だったら遊びに来い。ウチの女子寮は慢性的な人手不足だし」
上条「パシリ前提じゃん!?」
シェリー「何だったら管理人にでもなっちまえ。オルソラと神裂のどエロい体が毎日拝めるぞ?」
上条「べ、別に俺はそんな事じゃ心轢かれないからなっ!やめろよっ!それ以上余計な事は言うなよっ絶対に!」
シェリー「キモノ?の下って下着着けないんだなぁ」
上条「取り敢えず英語は話せないとダメかな?家事全般は出来るし、就労ビザはそっちで何とかなんない?」
バードウェイ「おい、そこの話についていけない残念なガキども。そろそろ戻ってこい」
バードウェイ「――と、言う訳で専用の部屋は用意してある。マーク、お連れしろ」
マーク「はい。ではこちらへどうぞ。表に車を回して御座いますので」
芳川「じゃ、さっき言った通りに」
バードウェイ「頼む」
一方通行「俺ァネットの方か――って待て待て。どォして俺もローテに入ってンだ」
バードウェイ「元の恩師だろ?死者は墓場へ返してやる義理もあると思うがな」
一方通行「……墓穴掘ったのも俺なンだがなァ」
バードウェイ「クロムウェルは私と外回りだ。着いて来い」
クロムウェル「私もか?」
バードウェイ「嫌とは言わせんぞ。お前のゴーレムは探知系も結構イケる筈だ」
クロムウェル「あー、禁書目録探しに見せちまってたかー」
バードウェイ「ヘッドギアのソフト面やウイルスの配布先は、私達だとどうしようもないからな」
バードウェイ「だからハード面から探すぐらいはしないとな」
上条「そっか。それじゃ」
バードウェイ「あぁお前は別行動だよ。もっと大切な役割がある」
上条「……マジで?俺要らない子じゃない?」
バードウェイ「そうだ。お前にしかできない事だ」
上条「……良し!言ってくれバードウェイ!」
バードウェイ「夕飯はテンプラ、出来れば鳥肉のテンプラがいい。なんだっけかな?あの葉っぱ?」
クロムウェル「三つ葉?」
バードウェイ「それも頼む」
クロムウェル「それじゃ私は肉無しの掻揚げで。タマネギ入れるの忘れるなよ」
バードウェイ「……貴様は朝だけじゃなく、夕飯もねだりに来るのか……?」
上条「えっと、あの……なんつーか、俺の想像してたのと違うよね?」
上条「どっかに乗り込むとか!尾行するとか!そーゆー事じゃねぇの!?」
バードウェイ「……あのなぁ、上条当麻?よく考えてみろ?」
バードウェイ「『SEED』自体はレベル3になれるって触れ込みだ。分かるよな?」
上条「あ、あぁ」
シェリー「つまり実質それ以下の連中を相手しかいねぇって話だ」
上条「レベル低い強敵だっているかも!」
バードウェイ「こんな胡散臭い、中二病をこじらせでもしないと着けられないような、痛々しい帽子をだぞ?」
バードウェイ「真に受けるような連中だったら、下地からして大した連中じゃないだろう?」
上条「元々ゴミみたいな相手しか引っかからない?」
バードウェイ「そう思わせておいて、という罠の可能性もあるが。まぁそれを言ったら始まらん」
バードウェイ「ともあれ人手は足りている。お前は夕飯の事だけ考えろ」
上条「えっと――『マークさん、お前んとこの結社、明らかにブラック結社だよね?』っと」
バードウェイ「泣きそうな顔でメール打つんじゃない!文句は本人へ直接言え!」
シェリー「あー……ほら、だったら円周の能力でも聞いとけば?」
バードウェイ「あれもある意味、お前しか出来ないよなぁ」
上条「俺って『円周係』なの?」
バードウェイ「適材適所だ、がんばれー……っと、そうそう。言い忘れてた」
上条「何?天ぷらソバにでもしろって?」
バードウェイ「そんなハイブリッドがあるとは……!?……ではなく、ここでの会話は秘密にしとけ」
上条「はい?」
バードウェイ「『木原』に聞かれると少々拙い。だから情報が漏れるリスクは最低限に抑えるべきなのだよ」
上条「それは……理屈は分かるけどさ!」
バードウェイ「納得はしてないって顔だな」
上条「でもそれは円周に変な人格がインストールされていたからであって!」
バードウェイ「成程。君の理屈は理解出来る。しかし君は事態を理解してはいない」
バードウェイ「別に洗脳などしなくとも、幾らだって協力は出来るだろう?例えば――」
バードウェイ「『最初から木原円周は向こう側で、スパイになるために潜り込んできた』とかな?」
上条「お前それ本気で言ってんのかよ……!?」
一方通行「……おい。そりゃァそのちっこいのが正論だァ」
バードウェイ「ちっこいは余計なお世話だよ、白いの」
一方通行「『木原』ってェのはそういうもンなンだよ。少なくとも一長一短で更正するよォな奴じゃねェ」
上条「でもほら、信じるのって大事じゃないかな?子供は信頼に応えたい、ってやる気を出すような感じで」
上条「お前だってそうだったろ?打ち止めとか居なかったら」
一方通行「……買いかぶってくれンのは、反吐が出る程嬉しいンだがよォ。そいつァお前の理屈だ」
一方通行「俺がモルグへ送った連中は少なくねェ。そいつらの家族からすりゃァ悪党だってェのは今も変わらねェだろォ」
一方通行「オマエみてェに不殺を貫く義理はねェし、そっちの方が良いと判断すりゃ迷いもねェし」
一方通行「そンな俺だから言わせて貰う。『木原』は、あの『木原』は鬼子だァな」
一方通行「あンなガキっぽいナリをしてンのも全部擬態で、本性は虫みてェな野郎だって可能性もある」
一方通行「気ィ許したつもりでも、実は喉笛に食いつかれてンのはどっちだ、ってなァ?」
上条「……その、さ。俺は、まぁ人を見る目はないし、はっきり言やぁ不幸だけども」
上条「それでも、信じた相手に裏切られた事はないんだよ」
バードウェイ「ふん、皮肉のつもりか?」
上条「お前は違うだろ。裏切ったフリをして、世界を救おうとしただけだ」
上条「でも、結局はまた、戻ってきてくれただろ?俺を信じてくれたよな?」
上条「お前もそうだよ一方通行。確かにお前はそう『割り切って』生きていこうとしたんだと思う」
上条「だからもし、お前の前にお前が殺した奴の家族が来たら、俺も一緒に頭を下げるよ」
上条「そんな『価値』がある友達だって、そんな事が出来る相手だって教えてくれたのはお前じゃないのか!?」
上条「お前が打ち止めにした事は、誰が何と言おうと『正しい』よ。それは俺が、保証する」
一方通行「……バカじゃねェのか?ほンっとォに」
上条「目の前子供一人助けようとして、学園最強を失いそうなったバカに言われたくはねぇよ」
シェリー「バードウェイ」
バードウェイ「……わかったよ。ならばそれもお前の『運』に賭けてみよう」
バードウェイ「情報云々に関してはお前に任せる。好きに話せばいい」
上条「ありがとう」
バードウェイ「上条、上条当麻!」
上条「……ああ」
バードウェイ「ただ一つだけ約束をしろ。私はお前を『信じた』、だから――」
上条「――俺もお前を『信じる』よ。何があっても」
バードウェイ「結構。では作戦に移りたまえ」
上条「了解――っとそうだ、バードウェイ」
バードウェイ「何だ」
上条「もし円周が何かして、危なくなった時には俺が責任取るから」
バードウェイ「生意気言うな。私を守るなんざ10年早い」
上条「あれ、周期短くなってね?」
※今週の投下は以上となります。読んで下さった方に感謝を
乙です
乙です
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※ネタバレを多々含みます。原作小説・コミックス・アニメ見てない方は要注意
佐天「ちゃんらーーーーーーーーーーーーーんっ!いっえーーーーーーーーーーーいっ元気だったかヤローどもっ!」
佐天「テレビの前のみなさんに、モニタの前のみのさんは元気かなー?んー?」
上条「みなさんな?“みの”さんじゃないからな?」
佐天「『右手は既に成人しており、本体の自分の責任が問われるのはおかしい』」 (キリッ)
上条「みのもん×ネタでごり押しするの止めよう?確かに放送していた当時は無かったネタだけど」
佐天「道義的責任ってどういう意味なんでしょうね?」
上条「『俺達の嫌いな日本人を攻撃するための難癖、ただし民主×が与党の時には使わない』じゃないかな?直近の民意と同じで」
佐天「いやぁ東京オリンピックも決まりましたしー、良い事ばかりですねっ!」
上条「そうだね、一部のバカが『同調圧力』とか言って『気に入らない俺の意見も尊重しろ!』とか寝言ほざいてるけどな」
佐天「そう言えばあたしとフェブリちゃんのお風呂シーンって要りますっけ?」
上条「大人の事情でね!話の展開で初春さんが荷物を確かめるためにも必要だったよ!」
佐天「『佐天さん巨乳説』もあながち根拠の無い話ではない、と?」
上条「アレなぁ……うん。色々と問題あるんじゃねーの?佐天さん細いし、結構あったような……?」
上条「つーかさ、何で佐天さん衣装とか髪型とか変えまくってんの?ポニテとかポニテとかポニテとか?」
佐天「いやいやっ、あたし関係ないですってば!神裂さん十八歳に悪くて悪くて」
上条「オイオイ制作、力入れすぎじゃねぇかなぁ?」
佐天「『アイテム』さんも、原作そのままの衣装使い回しでビビリましたっ!」
上条「いやぁ良いと思うんだけどさぁ。うん?」
佐天「――はいっ!と言う訳でつかみもオッケーです!番宣ですっ!」
上条「え、今の愚痴流れんの!?痴漢疑惑も全部!?」
佐天「どーせ見てる人なんか居ませんって。番組の間の紹介番組ですし、別枠で一本撮るような内容でもありませんし?」
上条「まぁ宣伝だけだしなぁ、基本」
佐天「あ、それじゃ何かやっちゃいます?『学探』らしく、ちょい怖エロ不思議な話でも?」
上条「エロは皆無だよね?ヌレなんとかさんお盆編で入れようかなって思ったけど、メインとはかけ離れているから外したんだし」
佐天「あれ意外と人気あったから、地の分入れて別番組として放送するかもですねー」
上条「でもなーんか中途半端なんだよなぁ?食蜂さんのキャラが濃すぎるのかな?」
佐天「所詮おっぱい大きい人には勝てないんでしょうかねぇ。なんかノーブラっぽい感じですし」
上条「……あれは卑怯過ぎやしないか……?」
佐天「ある意味『能力絶対主義』を体現している気も。金髪さんはよくやってますってば」
上条「ネタ抜きで人気が今一なんだよなぁ、『声優はアタリだよね!』的な意見もあるが」
佐天「ま、それはさておき何かありますか?怖い体験したとか?」
上条「そーなぁ……?私生活では死にそうになってるけど、いつもの事だし?」
佐天「文庫本30冊前後に渡る大冒険ですねっ!」
上条「ステマじゃないよ?確かに読む人が広がるのは嬉しいけども、俺にギャラが入る訳じゃないからね!」
佐天「あたしもまぁ……あ、そういえば!ヌルっとした人に追い掛けられました!」
上条「コミックスの話な?なんかいいの、あれ?他にも新キャラ目白押しなんだけど」
佐天「神様と神様が打ち合わせしてる時点で、あっれーっ?って感じですけど」
上条「超電磁砲側のキャラ比重がね、うん」
佐天「『実はお守りを貸していた』というフラグが!ついに本編でもあたし無双来ますかね!?」
上条「食蜂さんみたく『本編?なにそれオイシイの?』状態だったのに、気がついたらガッツリ食い込んでいるのもどうかなぁ?」
佐天「では次回予告こんなんどうでしょ?――『次回予告・科学と魔術が交差しないセカイで上条が見たものとはっ!』」
上条「あー、一回壊れた世界を再構成的な?」
佐天「『魔術も進んだ科学もないセカイ』で、フツー代表のあたしがヒロインで学園ドラマ!」
上条「ありそう。ヒロイン云々はともかく、その展開確定じゃねぇかなぁ?」
佐天「食蜂さんが小説版で堂々と伏線回収に来ましたし、ネタ抜きで出るかも?」
上条「どうだろうなぁ?割とイッパイイッパイって言うか、そろそろどうにかしないと飽和状態だと思うんだけど」
佐天「ヒロイン使い回しは斬新ですけどねー。逆に言えば『ただの酷い男』ですから」
上条「胸がイタイ言葉ですよねっ!身に覚えはないですけども!」
佐天「禁書雑談スレでも誰かが言ってましたが、オティヌスさんも次巻で『びいえぇぇぇぇんっ!』っなっちゃってる可能性が」
上条「あー黒夜さん的な?」
佐天「何故か浜面さんのオプションになってて驚愕しましたよ」
上条「だよね?あの流れってそういう流れだよな?……いやー」
佐天「おっ、ハーレムキングの上条さんとしては何か言いたそうですなー」
上条「その称号に思い当たる節はないけど、『大丈夫?』って」
上条「浜面良い奴なんだけど、つーか多分俺が小説とかマンガ描くんだったら、あーゆー三枚目にすると思うんだよ」
上条「『劣等生』の達○さんとか、『友人○』の夏○とかじゃなくて」
佐天「流行りですしねー。シリアス時のギャップ萌え的な」
上条「でもこの禁書世界で果たして主人公としてやっていけんのかなって」
佐天「対麦野さん戦ではミラクルの大安売りでしたけど、オブジェクトの方みたいに?」
上条「クウェンサーとヘイヴィアは正規の軍人プラス天才だろ?どうにもハマーが活躍する下地的な説得力がなぁ」
佐天「NARUT×も気がつけば『あの名高い○○一族の××!』みたいに、完全に血統もしくは師匠自慢になってますし」
上条「全員エリートなんだよなぁ。リ○だって『実は体術の超天才』だし、無いのは……テンテ○とサ○ぐらい?」
佐天「あの方は王国民の加護がありますゆえっ!」
上条「妖精さん入ったの?確かにあれ可愛いけど、俺『最果てのイ○』初回版が音声無しのはまだ許してないからね?」
佐天「当時ですらボイス当たり前なのに、どうして入れなかったんでしょうね?」
上条「何年か経ってから『完全版』としてフルボイス版出たけどなー」
佐天「これは特定のライターさんをdisってワケじゃないんですけど――」
上条「おいやめろっ!誰にケンカ売るつもりだっ!?」
佐天「鬱シナリオとかバッドエンドしか書かない人って、何か違くありません?」
佐天「あー、いえいえ。悲劇的な文学はメジャー、ってかむしろそっちの方が多いですし、それが悪いとは思いませんよ?」
佐天「んでも最近の『鬱合戦』的な、悲劇シナリオの量産化はどーにも違うような気がします」
上条「あー……なんだろうな。なんか悲劇的な話が過大評価されてる感じだよな」
佐天「インデックスさんの『向日葵』も話的には悲劇で終わらせた方が『締まる』んですね、えぇ」
佐天「作品のインパクトとして読者の方にも残りますし、続編的なもので補完すればそれはそれで満足するでしょうし」
上条「でもなんか嫌なんだよ、そういうの。『良い子は幸せにならないといけない』ってのが絶対であって」
佐天「まぁ商業作品じゃないですし、反響その他は最初から度外視だった、ってのもあるんですが」
上条「随分話が脱線しちまったけど、なんか小話無いの?」
佐天「弟のメル友さんの話で良ければ」
上条「だから縁切った方が良いって!」
佐天「これは白木○で隣に座ったヤク×の会話を再現したものです。あ、勿論名前とかは適当に変えてありますよー」
上条「あーうん。何?また実話系なの?割と変な体験してるよね?」
佐天「ではカンペ渡しますんで、兄貴役お願いしますね――『兄貴、俺、もうダメかも知れません』」
上条「『なんでぇな。どうしたんじゃワレ』……無理な方言使うのやめよう?ギャグになるから」
佐天「『こないだ“オレオレ”したんです。でも、そしたら』」
上条「『何?ノルマこなせなかったんか?』」
佐天「『もしもしオレオレ、俺だけど――ってしました。いつものように。そしたら』」
佐天「『……タカシ?タカシなのっ?っておばさんが』」
佐天「『だからわし、俺タカシだけどカネが必要になってん!早く振り込んでくれないと――って』」
佐天「『でも、そのおばさん電話口で、タカシ、タカシぃって泣きだしたんです』」
佐天「『なんか気味悪くなって、切ろうとしたんですわ。そしたら、そのおばさんがいきなり――』」
佐天「『――タカシぃ!あんたもう死んでんねんで!って』」
上条「……」
佐天「……」
上条「……え?マジで?マジ話?」
佐天「五年ぐらい前の話ですけどねー、実話です」
上条「モニョる感がハンパねぇんだけどっ!何つったらいいか分からないが!」
佐天「まぁ人間のクズだしいいんじゃね?って笑い話でしたー」
上条「笑えないだろっ!?つーか事はおばさんちにタカシ今も電話掛けてきてるって事じゃん!?」
佐天「親孝行ですよね?」
上条「ウルセェっ!そのポジティブシンキングがウルセェよ!」
上条「ポニテなんて凄い似合ってたからな!次々と新規ファン開拓するの止めて貰えないかなっ!?」
佐天「おっと途中から褒め殺しになってますが――ここで宣伝ですっ!」
佐天「次の日曜日、2013年10日6日、池袋サンシャインシティでSS速報の同人誌が出る事になりましたーっ!」
佐天「サークル名は『SS速報同人部』!本の名前は『別冊SS速報第1巻』だそうですっ!」
上条「あー確定したんだ。良かったー」
佐天「参加した作家は>>1のも含めて6名程、推薦とか宣伝は集まらなかったので、今回は掲載を見送ったそうです」
上条「まぁ……誌面だってタダじゃないんだから、勧めにくいよな。うん」
佐天「尚、前に書きましたけど、基本無料で配布」
佐天「ですが、側に空ティッシュ箱か缶を置くそうなので、現金的なモノを入れて下さると嬉しいとの事です」
上条「作って下さってる方は時間や印刷とか、色々なものを犠牲にしているから、せめて見合う対価は貰っても良いと思うけど」
佐天「人気がなければ第二巻、三巻は出ないでしょうし」
上条「俺らが出る話は『「佐天さんの学園都市七大不思議探訪っ!出張版!」 『藤娘』』か」
佐天「あたし達二人がたまたま泊った旅館で次々と起こる怪現象!?」
佐天「意味もなく喋るミイラや誰が世話していたのか不明なピラニア!」
佐天「果たして二人は無事に脱出できるのくわっ!」
上条「違うね?それ弟切○だよ?」
上条「実際にはいつもと同じテンションでグダグタしかしなかった筈だけど」
佐天「ちなみに>>1はこのお話を公開するつもりはありませんので、読むには冊子しかないんですねー」
上条「あんま言いたくないけど、>>1の話って別に金出す程面白いかと言えば……うーん?」
上条「他に寄稿された方は面白いと思うけど」
佐天「会場にお立ち寄りの方は是非いらして下さいねっ!」
上条「お願いします。割とマジで発 ◆DiH/DBdYeoさんに迷惑かけたくないんです」
佐天「全部捌けたら『学探』のセカンドシーズンが来るかもなっ!」
上条「あー、まぁ反響次第だな。番組改編の時期だし、スペシャル一本あってもおかしくないっちゃないけど」
佐天「次のシリーズ、『レッサー「這い寄れ!レッサーさん!」』の準備で忙しいんでしたっけ?」
上条「止そう?『学探』のネタ予告がいつの間にか現実化してるんだから、不用意な事は!」
佐天「まぁそんな感じで!冊子でボクと会おうぜっ!約束だあっ!」
上条「……真面目にお願いします。会場に行った方は是非お立ち寄り下さい」
――広告 -終-
※行かれる方は本気でお願いします
乙です
行きたいけど遠い…
乙でした!!
東京は地方民には遠いなぁ
委託さえあれば入手出来るのに…
第一位とは思えない頭の悪さ…
乙!
ノリが良くておもしろっ
乙
ロック・リーの青春フルパワー伝とか見たいけどテンテンが過労死しそう……
カップリングはリー×テンテンで
――とあるメイド喫茶
カランカランッ
円周「『お帰りなさいませっご主人様!何名様でいらっしゃいますかー?』」
上条「取り敢えず雲川さん呼んでくれないかな?ぶん殴って説教するから」
上条「半日会わない内に、そのあつらえたようなミニスカメイド服を着せたバカを呼べ!」
円周「『鞠亜ちゃんご指名入りましたー!』」
上条「そういうシステムなのかっ!?完っ全にっいかがわしい店じゃねぇかよっ!」
円周「あれあれー?当麻お兄ちゃん、いかがわしいお店ってどういう意味?」
上条「へ?お前何で突然素に戻って」
円周「いかがわしいってどういう事?何をするのが、ダメなの?ね、ねっ?」
上条「あ、あれ?どうして俺はメイド喫茶の入り口で言葉責めをされているの?」
円周「お兄ちゃんはどんな事を想像したのかなー?具体的にどんなイケナイ想像しちゃったの?」
円周「ほぉら、円周に教えて?ねっ?」
上条「もう何か空気違うしっ!?つーかお前が俺をお兄ちゃん呼ばわりすっと、周囲から何故か殺気が飛んで来るんだよ!」
鞠亜「……おいそこの変態エセ兄妹。営業妨害にも程がある。帰ってやれ」
円周「うん、うんっ!帰ってからヤるよっ!」
上条「帰ってもやらねぇよ!ヤらねぇよっ!?」
鞠亜「あー、すまない先輩。今丁度、というか二時間ぐらい前から満席でな」
上条「いやあの円周迎えに来ただけだから、お構いなく?」
鞠亜「……ふふっ!たった数年先に生まれただけの相手に、先輩と呼ばせられる屈辱!また経験値が上がるぞ!」
上条「構えよ!客じゃねーけど必要最低限の礼儀は持て!」
鞠亜「やれやれ、困ったちゃんなご主人様だな――だが、それがいい!」
上条「……父さん母さん、都会はとても怖い所です……!」
円周「実家のパパとママ、元気でやってるかなー?」
上条「うん、お前の両親じゃないけど元気だよ?」
円周「やったねお兄ちゃん!家族が増えたよ!」
上条「それの元ネタは夢も希望もない最低のお話だからな?」
円周「今日はねー、鞠亜ちゃんが来るって告知してあったから、お客さんいっぱいなんだよー?」
上条「……どう考えてもメイドのスキル上達以前に、商売ネタになってるよな?」
鞠亜「エセメイドを量産させるのは諦めるとして、せめて質を上げようとする方針なんだがね」
上条「事態の解決どころか、その内悪貨が良貨を駆逐する勢いなんだが――つか帰るぞ」
円周「遅番の人来るまで30分ぐらいだし、もう少しだけいちゃダメかな?」
上条「そんぐらいだったら、まぁ」
鞠亜「それでは店内でお待ち下さいご主人様――と、言うべきなのだろうが、生憎満席でね」
上条「あぁ気を遣わなくってもいいって。近くのコンビニで立ち読みでもしてっから」
円周「店内にお兄ちゃんの知り合いとかいないの?メイド好きの一人や二人、居そうだけど?」
上条「いないっ――事はないけども!流石にそこまでアレな知り合いは居ないよ」
円周「それじゃ、さっきから手を振ってるあの人はだぁれ?」
海原『やぁっ奇遇ですねっ!』
上条「……他人です。知りません」
海原『守ると言っておきながらロシアまで出張させた上条さんではないですかっ!』
上条「……あれ、俺が悪いのかな?確かに動機はそうだけど、『知り合いのために核ミサイル止める』って……?」
円周「まぁ『知り合い』のためだったらそこまではしないよね。『知り合い』なら、だけど」
上条「うん?どういう意味?」
円周「『はーいっ!ご主人様お一人ご案内でーーーっす!』」
鞠亜「どうぞこちらへ、ご主人様」
上条「あぁどうも」
鞠亜「……格下の相手を丁寧に持てなさなくてはならない!これは人間耐久度がまた上がるっ!」
上条「お前もどっかおかしいよね?円周の事あんま強く言えないぐらい、何か病んでるよね?」
――同席中
海原「お久しぶりです。海原です!」
上条「知ってる。つーか誰に自己紹介してんの?」
海原「そんな事よりも中学生!メイト喫茶でジュニアハイスクゥゥルが合法的に拝めるとは中学生!」
上条「その語尾止めない?」
海原「自分を常盤台マニアだと思わないで頂きたい!」
上条「ふと思ったんだけど、お前って本当は幾つなの?ガワは中学生ぐらいだけど、中はオッサンだったら偉い事になるよね?」
海原「何を仰いますやら。自分は御坂さんLOVEであって決して中学生が好物でありません!――んが!」
海原「ただ、愛しているのですっ!!!」
上条「もうちょっとボリューム落として?周りの人らも、うんうんって頷いてるし、どんだけこの店は終わってんの?」
海原「見て下さいよお義兄さん!ほら、妹さんのメールアドレス貰っちゃいました!」
上条「少し頭冷やそうか?俺に殴られるのと、俺に殴られてから一方通行にシバかれるのどっちがいい?どっちも?」
上条「つーか没収だ。名刺寄越せ」
海原「あぁっ!せっかくジャンケンゲームで勝って貰ったのに!?」
上条「えっと……『hamadura-superstars-item-no-mens@doXXXXne.jp』……?」
上条「……ごめん、コレ返すわ。俺が悪かった」
海原「流石お兄ちゃん!心が広いですね!」
上条「確認するけど、それ円周から貰ったんだよな?」
海原「はい!『寂しくなったらここに掛けてね?』と!」
上条(あー……自分のアドレスとは言ってないからセーフ、か?)
上条(浜面、エロサイトにでも登録したのが流出してんぞ)
円周「お待たせしましたーっ!お兄ちゃんご主人様っ!」
上条「エロゲで言いそうだよね?……って俺、頼んでないけど?」
円周「店長からのサービスなんだって。オムライス嫌いじゃなかったよね?」
上条「むしろ好きだけど。んじゃ遠慮なく」
円周「あ、美味しくなる魔法を掛けるからちょっと待って?」
上条「やめろよっ!?痛々しいんだろ、どうせっ!?」
円周「『ふんぐるいむぐるうなふ――』」
上条「期待は裏切ったけど喚ぶな喚ぶなっ!?この世界でサス○ェの次に面倒臭ぇ連中とコンタクトとるんじゃねぇっ!」
海原「蕃神系の魔術師は新大陸に多いようですよ?」
上条「的確なアドバイスありがとうな!神様今Sのオマケで話書いてるみてぇだけども!」
円周「お、おいしくなぁーれっ!きゅるるんっ?」
海原「恥ずかしがってるその様子を激写――」
上条「――ってしてるバカに『幻想殺し(簡易版)』」
海原「冷たっ!?いきなりお冷やぶっかけるなんて酷いじゃないですか!?」
円周「ごめんねー、ご主人様?店内では撮影禁止だからね?」
円周「誰だって不意打ちで撮られるのは嫌でしょ、うんっ」
上条「良かったー、その程度のモラルはあんのね」
円周「だからまず『勝てばラミカプレゼントゲーム』をクリアして貰わないとっ。一回500円だけど」
上条「金次第っ!?良識ねーじゃん!?風俗と何が違うよっ!?」
円周「どんな美人さんでも老いるんだから、稼げる内に稼いだ方が良いって思うんだけどなぁ」
海原「ですよね。反原発で元アイドルのババアがヌードとか、誰得状態ですし」
上条「……いいのかなー?女性から反発来そうな感じもするけど……?」
円周「女性の敵は女性なんだよ、お兄ちゃん」
海原「中には『家庭を持って子供が小学生になったらパート出て、後はちょいちょい趣味で生きよう』って専業主婦を望む方も居ますしねー」
円周「でも何故かそういう人は同性から『お前のようなヤツが女性の地位をダメにしてるんだ!』って責められて」
海原「普通であればそういった生き方も尊重されて然るべきなのに、『女性平等論者』からは目の敵にされる、と」
円周「『自分達以外の生き方を認めない』ってのがデフォだし、よくある話だよねっ」
上条「……お前らなんでそんなに詳しいの?飲み屋で上司から愚痴られたの?」
円周「まぁまぁそんな事は良いから食べてみてよ?」
海原「美味しかったですよ」
上条「不安だけど、頂きます――ん?」
円周「どうどう?」
上条「美味い、のは美味いけど。これって、俺の味だよな?お前が作ったの?」
円周「一昨日作ってくれたの『覚えた』んだよ?ね、ね、良くできてるかな?」
上条「……あぁ、うん。良いと思うけど」
円周「良かったーーっ!それじゃご主人様、ごゆっくりーっ」
上条「おー……ってお前時間を忘れるなよ!」
円周「いえっさーーーっ」
パタパタパタ
海原「新しい妹さんですか?」
上条「だったら楽だったんだけど。んー」
海原「あまり嬉しくなさそうな?成長する妹に対して感情を持て余すんですね、分かります!」
上条「おい変態。妄想はフィクションだけにしとけ?」
海原「では何でしょうか?悩み事でも?」
上条「やけに突っ込んでくるなぁ、今日は」
海原「……まぁたまには、そういうのも良いんではないかな、と」
上条「たまにはね……まぁ、たまにはいいか」
海原「えぇ。自分で良ければ聞きますよ」
上条「知り合いの話なんだけど」
海原「性欲を持て余す?」
上条「ごめん、俺今からお前を殴るわ?せーのっ!」
海原「ジョークですって!ジョーク!」
上条「あとせめて感情ぐらいにしとけ。色々と問題あっから。えと、なんだっけ?」
上条「……俺は一人っ子だから分かんないけどさ。弟なり妹が居たとして」
上条「そいつらは兄貴や姉貴の真似をするんだって?」
海原「……これはまたピンポイントで来る話題ですね。いやはや、なんとも」
上条「例えばオモチャとかも、上の兄姉が持ってるのを欲しがる、みたいなの」
上条「それっていつまで続けりゃ良いと思う?」
海原「兄の背中を追いかける妹、ですか……自分にも心当たりがありますが」
上条「お前、兄妹いるんだ?」
海原「というよりは兄妹弟子みたいな感じですかね。尤も、付き合いは長いので家族のそれに近いと思います」
上条「……その割に中学生ヒャッホウ!は、どうなの?反省しないの?」
海原「自分から言える事は『好きにさせとけ』でしょうか」
海原「『真似するな!後を追うな!』と言った所で聞きはしないでしょうし」
上条「……」
海原「いつかきっと、後ろを追いかけるよりも大切な何か見つける――それが普通ではないかと」
上条「……だな。それが『普通』だよなぁ」
海原「でももし、それが。妹が、例えばの話」
海原「自分の『隣』に並ぶのを望んだとすれば」
上条「……うん」
海原「……どうしましょうか?」
上条「考えてないんかいっ!?」
海原「いえ、お話も結構ですが、その前にすべき事があるのではないかと」
上条「何?」
海原「冷めますよ、オムライス?」
上条「……まぁ、それはそうか」
海原「考えるのはいつでも出来ますし、最悪棺桶に入ってからは暇になるでしょうからね」
上条「……お前、結構計画性ないよな?衝動的っつーか、外見に反して熱いっていうか」
海原「人の生き様は外見に出ると言いますが、借り物ですしね。自分は」
海原「故郷では『メキシコに吹く熱風!』と呼ばれるぐらいですし」
上条「サンタ○?柱の男だよね?シュトロハイ○から命名されたのに、カー○達からもなんでそう呼ばれてんの?」
海原「あぁ失敬。どうぞ召し上がって下さい……これからは自分の独り言と言う事で」
上条「……?」
海原「ここ数日、いえ下手をすれば一週間以上前から、妙な魔力の流れを感じます」
海原「自分には興味がないので放置していたのですが、少し気になりまして」
海原「ほら、選挙とか役所の広報カーとかあるじゃないですか?スピーカー鳴らして近づいてくるの」
海原「それと同じで妙な魔力も高まるにつれ、漸く正体が掴めてきた、ような気がします」
上条「随分と慎重な言い方だな」
海原「どうせまた一枚噛んでいるのでしょう?なら余計な先入観は与えず、自分の感想を直に伝えた方がいいかと思いまして」
上条「……それじゃ、お前ここで待ってた――」
海原「――のは、勿論タダの偶然ですけど。だからこれは世間話です」
上条「うん、知ってた」
海原「ベースは、恐らく十字教徒系の魔術、でしょうか。この街に大規模な儀式魔術を展開しようとしています」
上条(バードウェイが何かしようとしてるんだろうけど、またアイツ事後承認で動いてんのか)
上条「街ごと?」
海原「どんな種類のものかは分かりませんが……どうにも、不気味でしてね」
上条「良くない術式だって思うのか?」
海原「とは言いません。言いませんが、不気味と言いましょうか」
海原「アステカ帝国の最期はご存じでしょうか?……まぁスペインに滅ぼされて、今も尚間接的に十字教の支配下にあるのですが」
海原「帝国を滅ぼす際、動員された魔術師の『ニオイ』がするんです」
上条「ぶっちゃけるけど、今はイギリスの魔術師と共闘してるんだ。それじゃないのか?」
海原「いえ……いや、違うような気がします。イギリス――イングランドはイギリス清教でしょう?」
海原「スペインはローマ正教系。どうにもそちらのニオイがすると言いましょうか」
上条「俺の知り合い以外にも誰かが動いている、か?」
海原「あくまでも可能性ですが」
上条「その話、直接言ってやってくれないか?俺に伝えるだけじゃ、分からない事もあるだろうし」
海原「……すいません。それは出来かねます」
海原「あなたを信じていない訳でもないのですが、あなたが信じると決めたお相手までは、流石に」
海原「仮に学園都市へ攻撃を仕掛けようとしているのであれば、自分が会いに行くのは消されに行くようなものですし」
上条「いやぁ、そういう奴じゃないと思うけどなぁ」
海原「自分はセーフティみたいなものだと考えて下さい。危険な術式であれば、一も二もなく介入しますから」
上条「そりゃありがたいけど」
海原「勿論、あなたを敵に回したとしても、ですが」
上条「忠告……警告どーも。ま、お手柔らかにな」
海原「そちらこそお友達を大切に。外見がそうであっても決して油断なさらぬよう」
上条「後から刺す気満々じゃねぇか」
海原「それは自分のキャラではありませんが、臨機応変で。ではこの辺で失礼します」
上条「悪いな、なんか。待ってて貰っちゃって」
海原「おや?偶然だと言いませんでしたっけ?」
上条「そうだった。んじゃまた」
海原「えぇ。出来れば会わすに済む事を祈って」
――帰り道 夕暮れ
上条「おつかれー。大変だった?」
円周「そんなには?メイドさんも大変だなっては思ったけど」
上条「アレはメイトじゃなく、コスプレしたウェイトレスさんの仕事だと思うけど」
上条「あ、でもお前ちょっと恥ずかしそうにしてなかった?オムライスに妙な呪い掛ける時とか?」
円周「演技に決まってるじゃん?恥ずかしがった方がお客様も喜ぶし」
上条「……え!?って事はよくマンガやアニメでネタにされるような話は」
円周「お金のために割り切ってるよ。むしろ「バカじゃねーの?」って笑ってると思うし?」
上条「営業妨害になんねぇかな……」
円周「やってる方はプロだからねー。むしろ広まったら広まった勝ちみたいな?」
上条「バカしてるつもりがされていたり?」
円周「メイド喫茶も初めの頃はそうだったんだって。17歳の先輩が言ってたよ?」
上条「年齢はスルーするとして。まぁ最初は色物だけど、色物として取り上げられていく内に定番になっちまったしなぁ」
円周「だから後は差別化――ご飯が美味しかったり、女の子がお料理したり、色をつけるんだって」
上条「お前も作ってたんだっけ」
円周「キッチンのバイト募集中だから、一緒にやろーよーっ?ね、いいよねっ?」
円周「従食もつくし、鞠亜ちゃんルートにも入れるし、いいことずくめだよねっ!」
上条「勝手にルートを固定するな!……普段ならやるかもだけど、今はいつどんな事が起きるか分からないからなぁ」
円周「むー。それじゃわたしもダメかな?『良かったら明日も』って鞠亜ちゃんから誘われてるんだけど」
上条「あ、気に入ったんだ?情操教育には良くないと思うけど」
円周「え、好きじゃないよ?全然?」
上条「――はい?」
円周「別に嫌いって訳でもないけど。んー?どっちかっていったら『どうでもいい』かな?」
上条「うん?それじゃなんでやってんだ、つかやりたがったんだ?」
円周「『若い女の子は可愛いモノが好き』なんだよね?だから」
上条「えっと……もうちょっと分かり易く頼む」
円周「って聞かれてもなぁ。シェリーお姉ちゃんにも説明したんだけど、分かって貰えなかったみたい」
上条「こないだの話だよな?無線が切れ切れでよく聞こえなかったけど、『筺(はこ)』がなんとかって」
円周「それそれ。人は肉体の中に色々なモノを詰めてるよねって」
円周「信念、記憶、お仕事、趣味、家族……あとお友達とか?」
円周「でも逆に――中身が『からっぽ』であっても、その人は人間なのかなって」
上条「……それ、ちょっと場所移そうか。そこに公園あるし、少しぐらい寄り道したって良いだろう」
――公園
ガコンッ、ピピピピピッ……
自販機(cv.成瀬未○)『はっずれー。残念でしたねーっ』
上条「……まぁ、いつもの事だけど」
円周「こう言うのはゲームセンターのプライスマシンと同じで、一定額に達するまで絶対に当たらない仕組みなんだよ」
上条「そうなのかっ!?てっきり運が悪いのかとばかり」
円周「『設定額まで貯まりきった自販機に出くわす』事自体は運だと思うけどねー」
上条「単純な運だけじゃないって分かっただけとでも良しとしよう……椰子の実サイダー?」
円周「――は、お兄ちゃんどうぞ。わたしはコーヒーが好きかなぁ」
上条「寒いしなー」
円周「あっちのベンチ開いてるね、行こうっ?」
上条「ん」
円周「あ、お兄ちゃん、先座ってー」
上条「お、おぅ?」
円周「しっつれいしまーーーすっ!」 ポスン
上条(円周が膝の上に乗っかってきた……軽いな)
円周「ごちそうさまでしたーっ」
上条「飲むの早ぇなオイ」
円周「言われてみれば喉渇いていたかも?」
上条「店内は結構暑い、っていうか熱気ムンムンだっだよなぁ」
円周「流石に雲が出来る程じゃあないけど、お客様はみんな薄着だよねっ」
上条「え、エコで良いんじゃないかな?」
円周「お店のご主人様は、どうしてみんな黒い服しか着てこないの?仕様?」
上条「CPを別の所に割り振ってるから、ファッションまでは気にしないだけじゃないかな?」
円周「携帯でパンツ撮ろうとした集中力を別に回して欲しいかも」
上条「……一応聞くけど、そいつどうした?」
円周「指の関節を一つ“ずつ”増やして、アンチスキルに突き出しておいたよ?」
上条「まぁ……自業自得かぁ?」
円周「――で、お話しってなぁに?みんなの前では出来ない事?」
上条「あー、まぁ。お前が『足りない』ってのは何かなって思ってさ」
円周「わたしには足りないんだって。本来入っているべき感情とか、『木原』としてあるべきものが」
円周「まぁそれはわたしの能力も関係してるんだけどねぇ」
上条「そういや聞いてなかったな。つか聞いてもいいのか?」
円周「別に内緒にするつもりはなかったんだけど――そだね、見て貰った方が早いかも」
円周「あっちにさ、ド下手なストリートダンス踊ってる女の子達がいるよね?」
上条「いる……な。下手かどうかは分からないけど」
円周「んー、あぁいう子達は形から入るからねー。まぁそれもアリだと思うけど」
上条「何かマズイの?ヒップホップ系?だかのだらーんってした格好じゃん」
円周「元々はアメリカの貧民層発祥の音楽スタイルだからねぇ。そういった子達は親兄弟のお下がりしか貰えないとか普通だし」
円周「ラッパーが元ギャングはザラで、死んじゃった大物の中には麻薬の運び屋さんとかも居たりするし」
円周「ムーブメントが起きると、憧れた人達がサイズの合ってない服をわざわざ買うとか逆だよねー。明らかに」
上条「ブルース歌手が大金持ちになったりとか?」
円周「今じゃ『俺は金持ち万々歳』的な歌詞も多いし、プロモーションビデオを見てると美人のねーちゃん侍らせてばっかだし、なんだかなぁって」
上条「……日本にもいそうだもんなぁ。親の金で四大入って新品のフーディ着てラップ歌ってる奴とか」
円周「外人さんが片刃の曲刀持ってサムライごっこしてるのと同じだよねぇ」
円周「剣術が幾ら上手になっても、日本人からすれば笑っちゃうだけだよ。それと同じ」
上条「随分辛辣だけど、まぁそれはそれでいいんじゃいないかな、うん」
上条「本人が好きでやってるなら、誰に笑われたってさ」
円周「お兄ちゃんは甘いなぁ。でもそう言う所は愛しているよっ!」
上条「はいはいどーも」
円周「もういいかな。んじゃちょっと見ててよ、っと」
上条(そう言うと円周は膝の上から下り、彼女曰く『ド下手なストリートダンス』を披露し始める)
上条(俺との雑談中に見ていた子達のと、寸分違わずに。途中で少しトチる様子も正確に再現している)
円周「――はい、ありがとうございましたー。これがわたしの能力『卓上演劇(テーブルトーカー)』だよ」
上条「凄げぇな。見ただけでコピーできるのかよっ!」
円周「ううん。出来ないよ?」
上条「いや、したじゃん今っ!」
円周「んー、なんて言ったらいいのかなぁ……?これは低能力(レベル1)なんだ、お兄ちゃん」
上条「そう、か?少なくても異能力(レベル3)ぐらいはあると思うんだけど……あ!なんかすっげー疲れるとか?」
円周「別に人並みじゃないかな、ってそうじゃなくて。本当にレベル1なんだって」
円周「分類的には電気能力者で、外部入力で相手の動作を覚えて、体に電気信号を流して再現するってだけの」
上条「いや、お前の見る限りだと充分なんかに使えそうだろ?」
円周「その『外部入力』ってどうすると思う?」
上条「外部って、そりゃ憶えるんだろ?パソコンみたいに取り込めないから」
円周「その『憶える』のに『何時間も何日もかかる』んだって、普通は」
円周「だってそうだよね?普通の人だったら完全記憶能力でも持ってない限り、人の動作を憶えるなんて無理だし」
円周「『卓上演劇』は『自身の記憶にある動作を、正確に再生出来るだけ』の能力なんだよ」
上条「……つまりアレか?お前が今のストリートダンスをうろ覚えだったら」
円周「当然うろ覚えにしか再生出来ないよ?」
上条「意味無ぇなその能力は!」
円周「だから汎用性も低いし、応用しようにも机上の空論だし?見て憶える自体は誰だって出来るから」
円周「目の前で絵を描いた人が居るとするよね?理論上は『卓上演劇』を使えばその人と同じ絵は描けるんだ。でも」
円周「『下書きから塗りまで全ての動作を記憶し続けるなんて、まず不可能』だよね?」
上条「……ホンっとーーーにっ、使い道ねぇな」
円周「あくまでも『自分の思い通りに体を動かせる』能力だし?逆に同じサインを数百枚書くとかは向いてるよねっ!」
上条「そんな状況一般人には生涯来ないよ?」
円周「いやー?鳴護アリサちゃんから泣きつかれたり?」
上条「仮にそうなったとしても、サイン色紙楽しみにしてるファンの人に申し訳ないだろ――あれ?待て待て?」
円周「年上好きにとってはシャットアウラお姉ちゃんの方が好みだよね?」
上条「俺はジェントルだからムキになって否定はしないけども!……いやいや、そうじゃなくてだよ」
上条「お前今使ってたよな?目の前で、たった数分ぐらいしか見てない踊りを正確に再現したよね?」
円周「したねぇ」
上条「もしかしてあっちで踊ってるあの子達知り合い?前から観察してたとか?」
円周「興味ないから自信はないけど、今日が初対面だと思うよ?人も踊りも」
上条「じゃあなんで、つーかどうやったんだ?一回見たぐらいじゃ、完全記憶能力でもない限りは――」
円周「あ、お兄ちゃん気づいちゃった?それが『木原』なんだよ」
上条「数分間の体の動きを完全に記憶したのかっ?」
円周「んー、足りないよ?それだけじゃ『木原』に届かないかも」
円周「あの日、数多おじちゃんにハッキングされた時から、わたしはスマートフォンもデータ端末も首から下げてないけど」
円周「あれは一体何のためだったと思う?ね、答えて答えて?」
上条「話の流れからすりゃ『外部からの入力』か……?あのグラフだけで?」
円周「あったりーっ!お兄ちゃんにはわたしをプレゼントーーーっ!」
上条「……」
円周「あ、あれ?引いちゃった?」
上条「……なぁ、円周」
円周「なぁに?」
上条「グラフだけの入力で個人を再生してしまった、それが――」
円周「わたしの『木原』だね?」
上条「凄い、けど。それはただの模倣だろ?」
円周「だけじゃない、ってのはお兄ちゃんも第一位相手で分かったでしょ?
円周「わたしは『木原数多』の戦闘データを再生出来れば反射も貫通出来た」
円周「それだけじゃないよ?中には人格パターンも戦闘データも入ってるから、それを脳内で『卓上演劇』すれば――」
円周「その人と同じ思考、同じ動きが出来るんだよぉ。ね?凄いでしょ?」
上条「再生とか!でもお前の体は子供で!」
グシャッ
上条(円周は笑ったまま、スチール缶を親指と人指し指だけで握り潰した)
上条(大人だって無理……どうなってる!?)
円周「――って考えるんだろうけど、それは『生物のリミッター』を外してるから」
円周「ソフトウェアにバードウェアの性能が足りなくって再現出来ない、って問題は解決済みだし」
上条(思考を読まれた?読心能力?)
円周「あー、違う違う。『上条当麻ならこう考える』って思ってるだけだから、能力は関係ないよ?」
円周「付き合いの長いお友達が、何となく行動パターンが分かるってぐらいの話だから?」
上条「……いや、俺ら出会って一週間経ってねぇだろ?」
円周「あれぇ?『勉強』してるって言わなかったっけ?ま、いいや」
円周「で、その『生物のリミッター』は力加減だね。全力で人を殴ったら、殴った拳も折れるからセーブしてる的な」
円周「それを任意で調整出来るってだけだし?『木原』の中じゃ基本的な能力だよねぇ」
上条「……大丈夫なのか、それ?」
円周「えっ?」
上条「その、なんか危険そうだよな?自我を失ったり、とか」
円周「そうだねぇ。たまーに境が曖昧になるぐらいだけかな?」
上条「……お前もうその能力使わない方が良いんじゃねぇのか」
円周「だから能力自体はレベル1なんだって。わたしの使い方が上手なだけで?」
円周「例えば肉体硬度を上げられる能力があったして、それは使い用だよね?」
円周「格闘技に長けた人間であれば相性抜群だけど、研究職だと何の役にも立たないっぽいし」
円周「たった『隠し芸でウケを取る程度の能力』であっても、『木原』であればこういう風に使うんだねっ」
上条「……他人の行動や戦闘パターンを再生?能力は流石に出来ないだろうけど、それって反則じゃねぇのか」
円周「過大評価してくれるのは嬉しいけど、まだまだ足りない。『木原』が足りないんだよ」
円周「『卓上演劇』の欠点は幾つかあるけど、この間鞠亜ちゃんが拳で教えてくれたのは『癖』なんだって」
円周「どんなデッキでも、戦闘パターンを無数に持っていたとしても、選択するのは『わたし』って個人でしょ?」
円周「だからパターンが読みやすい、的な?」
上条「同じデッキであっても、初心者と熟練者じゃ強さが違うもんな」
円周「あとは『どうやっても本人はなれない』かなぁ」
円周「模倣はどんなに上手くやっても模倣に過ぎないし、思考パターンをどれだけ積んだって本人にはなり得ないからねー」
上条「充分脅威だと思うけど、それ」
上条「格闘術?とか銃とかの名人を『卓上演劇』で使えば」
円周「当然出来るよねっ!……あ、けど今は断線してるから二人分ぐらいしかストックはないけど」
円周「木原加群の研究データの半分だけ、後は『上条』の行動データをラーニング中みたいな感じ」
上条「加群、グレムリンではベルシって呼ばれた人だっけ。雲川さんの先生でもある人……」
上条「話逸れるけど、『木原』ってのはそんなに酷い一族なのか?」
上条「加群さんや円周ぐらいだったら、まぁ?昔の一方通行や黒夜みたいなもんだし?」
円周「その二人を『酷くない』カテゴリに入れてるお兄ちゃんには戦慄すら覚えるけどね。んーと、『木原』はねーぇ」
円周「『科学のためなら自分を含めた全てになんだってする』人の集まりかな?ど」
上条「マッドサイエンティストの集まり、つったら悪いか」
円周「お兄ちゃんが想像しているのを数倍悪くしたので正解、かな。でも逆に言えば『科学に関係無ければどうだっていい』んだよ」
円周「木原加群は一度『木原』を止めようとして、学校の先生になった。確かに病理おばさんが諦めさせたけど、基本的には無視だったし」
上条「良くも悪くも研究にしか興味がないのか?」
円周「逆に必要だと思ったら同じ『木原』でも躊躇なく遣い潰すけど、わたしみたいに?」
上条「……木原数多には貸し一なんだよな。近い内に取り立てるつもりだけど」
円周「――それじゃ、わたしが『足りない』話に戻るけど。正しくは『補充してない』が正解かも知れないね」
円周「さっきも言ったけど普通は憶えられないよね。人一人の思考・行動パターンなんて無理だし?」
円周「外部からの補助があったとしても、限界はあるよ。だから」
円周「『普通じゃない方法』を採っただけだから」
上条「お前……それじゃ!?」
円周「流石お兄ちゃん、分かっちゃったかぁ――ってまぁヒントは色々出てるけど」
円周「『学習装置』に『卓上演劇』を組み合わせてあるんだよ、うん」
円周「オンラインゲームでさ、端末であるハードディスクに背景とか音楽とかの一部データをインストールするじゃん?」
円周「他のデータは適宜ダウンロードして、読み込みを早くする、みたいな?珍しくもないよねぇ」
上条「だから、だからってお前はっ!」
円周「大丈夫だよぉ、当麻お兄ちゃん。わたしは『脳内バッファに基幹データを確保』してあるけど」
円周「それは別に生きていくには必要のない情報の所へ、上書きしているだけだから」
上条「本当か?つかそれってどこだよ!?」
円周「ここでやっとお兄ちゃんの最初の質問、『足りない』に戻るんだよ、やったねっ!」
円周「データがあるのは『視床』。嗅覚以外の感覚神経を大脳へ中継する所であり」
円周「感情の発現や運動の促進とかをする働きがあるみたいだねー」
上条「それじゃお前は、誰かに感情を消されたって言うのかよ!?」
円周「だーかーらっ!言ってるじゃない、お兄ちゃん。お兄ちゃんには『木原』が足りないって」
円周「確かに一人じゃ出来る事じゃないから、数多おじちゃんに手伝って貰ったけど。それは」
円周「うん、うんっ!そうだよね、わたしが『木原』になるためだったら仕方がないんだよねっ!」
上条「まさかお前、自分の意思で……?」
円周「んー、生命の危機に関する感情系は消さなかったけど、それでこの間ムキになって鞠亜ちゃんには負けちゃったし」
円周「だからって全部消す訳にはいかないよねぇ、流石に」
上条「……あぁ、そうか。何となく、そんな感じはしてたけど」
上条「お前は大体、いつも笑ってるけど――全然楽しそうじゃなかった」
円周「そうなのー?」
上条「テレビとかで無理矢理演技してるような、そんな感じだったし」
円周「……そっかぁ。お兄ちゃんに看過されるなんて余っ程ダメなんだろうなー」
上条「その言い方もどうかと思うが……あ、でもさ、お前本当に感情がないの?」
上条「俺に無茶振りしたり、俺に無理ネタ振ったり、俺にバードウェイし向ける時なんか生き生きとしてっけど?」
円周「どーだろ?お兄ちゃんとシェリーお姉ちゃんは大好きなんだよ」
円周「でもそれって同じ『筺』だからかなー、って思ってたんだけど」
円周「お姉ちゃんは心におっきな『隙間』があるから、だからわたしと同じだ!って感じたんだぁ」
上条「その理屈じゃ俺も何か」
円周「あるよね、お兄ちゃんも?」
円周「人には言わない――言えないけど、決して塞がらない『隙間』みたいなの?」
円周「そんな傷があるから、わたしと似ているから懐いたんだよ、きっと」
上条「……これは、シェリーが言ってたんだけど」
上条「お前を引き渡せばエリス・クローンを作ってくれる、って言われたのを知ってて。それでもお前は行こうとしてたんだよな?」
円周「……笑わない?話しても良いけど、笑っちゃヤダよ?」
上条「笑うような所は一切無かったと思うけど。約束する、笑わない」
円周「約束ね?破ったら社会的にハリセンボン呑ますからね?」
上条「初めて聞いたなそのっ脅し文句!?社会的にってどういう意味だっ!?」
円周「わたしは『木原』じゃないし、でも『普通』でもない。だから」
円周「わたしっていう『パーツ』でお姉ちゃんが満たされるんだったら」
円周「まぁいいや、って」
上条「……うん」
円周「あーーーーーっ!?お兄ちゃん約束破ったし!」
上条「違う違う!そう言う意味で笑ったんじゃない!お前がおかしくてとかじゃねぇよ!」
円周「ちょっと待ってね?今ハリセンボン用意しちゃうから。あ、でも吉×まで行くの面倒だなぁ」
上条「お前っ俺に何食わせようとしてんのっ!?まさか芸人の方かっ!?」
円周「クールー病が怖いけどねー。脳がスカスカになったら、わたしが一生面倒看てあげるから、ね?」
上条「……待とう?お前は本物のヤンデレなんだからな?」
上条「えっと……あぁ、今笑ったのは安心したからだよ。お前には『足りなく』なんかねぇって」
円周「わたしが?」
上条「あぁ。もしもお前が言う通り、情も何もないような奴だったらシェリーを助けようだなんて思わないし、好きになったりしない」
円周「そう、なの?わたしは『足りない』んじゃないの?」
上条「俺の友達にはクローンの奴が何――千人か居るけど、そいつらは『造られた体』なんだよ」
上条「でも、だからって卑下する訳じゃないし、今はまだぎこちないけど立派に生きてる」
上条「円周の理論だと、そいつらの『筺』は偽物だかに魂も宿ってないって事になるのか?」
円周「そう、なのかな……?良く分かんないけど」
円周「……なら、わたしは『筺』が本物だから、宿ってる魂は正しいって事……?」
上条「違うさ。それはどっちも間違いだ」
円周「……どゆこと?」
上条「魂が宿ってようがいまいが、『筺』が自然なものなのが不自然なのか――」
上条「――別にどっちだって構わねぇって話だな」
上条「『人間』の定義は分からないし、分かってる事の方が少ないと思うけど」
上条「少なくともそいつらが人と同じような格好してて、意思疎通が出来るんだったら」
上条「誰か他人のために、自分を投げ出すような事が出来るんだったら、それはもう人間以外の何者でもないと俺は思うし。何より」
上条「お前らは、俺の友達だって事実は変わらない。それは絶対にだ!」
上条「もしも誰かがお前や妹達を『こいつらは人間じゃない!』なんて言うかも知れない」
上条「生まれてきた事すらを否定されるかも知れない。でも、そん時は!」
上条「俺が、そいつらの幻想をぶっ殺す!」
円周「でもっ!わたしは『木原』の落ち零れだしっ!」
上条「……勉強が出来る出来ないんだったら、俺も落ち零れだなぁ」
円周「『木原』が足りないって!『木原』らしくないって!」
上条「お前を遣い潰そうとするなんて、そんなの身内でもなんでねぇよ。『木原』なんて止めちまえ」
円周「え」
上条「お前は確かに『木原』だった。それは絶対に変わりはない。事実なんだからな」
上条「でも、だからっつってこの先ずっと連中の流儀に従う必要はないだろ?」
上条「人が同じ生き方をずっと強いられなきゃいけないなんて、それこそやっちゃいけない事だろ」
円周「……『木原』を捨てるの?」
上条「感情が無いだなんて言うけど、少なくともお前は『木原』に対して家族愛みたいなのは持ってんだろ?」
上条「形は歪かも知れないけど、身内を頼りたいってのは誰だって持ってる『感情』だ」
円周「お兄ちゃん……わたし」
上条「どんな教育されたのかは分からないが、お前は、お前だよ」
上条「普通ではないかも知れない。でも感情をそこそこ持った女の子だ」
上条「……なんつーか、まぁこれは俺の考えだけど。そもそもが、だ」
上条「笑って人の間接へし折って笑うようなお前が、『木原』だと『筺』だのって拘る事自体」
上条「『円周』らしくはねぇな、って思う」
円周「わたし、らしく」
上条「子供はいつか親兄弟から離れる時が来るし、お前はちっとそれが早かったたけの話」
上条「お前には俺とかシェリーとかがいるし、友達に迷惑かけちまえよ」
円周「……えぐっ……!」
上条「……今まで一人でよく頑張ったな?偉かったぞ」
円周「お兄ちゃんっ、お兄ちゃんっ!」
上条「……うん」
円周「お兄ちゃんのお嫁さんになるねっ!」
上条「いいシーンが台無しだなっ!?どっからその発想出て来やがった!?」
円周「え、『木原が嫌なら上条にしてやんぜ!』ってプロポーズが?」
上条「一言も言ってねぇ!?」
円周「お兄ちゃんっ」 ガシッ
上条「ちょっ!?急に抱きつくな!」
円周「……」
上条(――ってまぁ、強がっているのはバレバレで)
上条(腕の中で声を殺して泣きじゃくる――多分、生まれて初めて『安心』して泣いてる女の子を。つか今の俺達の姿を見た人は)
上条(『仲の良い兄弟だな』って思うんだろう)
円周「……よっっし!お兄ちゃんゲットだ!……」
上条「気のせいなの?もう少し空気読もう?せめて小声で言うとか考えなかった?」
上条(……まぁ、そんな感じで。また少し仲良くなった、んだよな?俺騙されてないよね?)
――上条のアパート 夜
バードウェイ「――とまぁ今日は収穫無し。本格的な行動はSEEDの解析待ちとなる」
円周「あ、ごま油で揚げるんだ?サラダ油じゃなくて?」
上条「んー、まあ毎日食べる訳じゃないし、少しぐらいは贅沢したっていいだろ」
シェリー「へぇ。これがテンプラか……家庭用コンロで出来るものなの?」
バードウェイ「幸いにして良いスタッフも集められたし、時間の問題だろうな」
上条「学園の外の電気コンロじゃ火力が足りないけど、まぁ突っ込むな。色々あるから」
シェリー「フライヤーってのを見たんだが、あれは実用的じゃないのか?」
上条「あれは素材自体に油分がないと美味しくないらしい、って通販マニアが言ってた」
上条「フライドポテトを作ってみたら、風味のないマッシュドポテトが出来上がったって」
円周「水と空気で揚げてるからねぇ。どうしても物足りなく感じちゃうだろうし」
シェリー「どんな感じか興味はあるわね。借りて来られねぇかな?」
上条「他のクラスの女子が借りたいっつってたかな?――っと、油に入れるから離れててくれ」
円周「はーいっ!」
ジュゥゥゥゥッ
バードウェイ「かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁみぃぃじょぉぉぉぉおおおぉぉぉぉぉっ!!!」
上条「ヤダ霊現象っ!?」
円周「はいはい、お兄ちゃんは料理中で危ないからねー?レヴィちゃんはこっちでわたしと遊んでよ?ねっ?」
バードウェイ「……どけ小娘!私は今からそのバカの顔面をカラッと揚げねばならん!」
上条「人の顔面で何するつもりだっ!?つーか目が離せないのに後ろで何騒いでやがるっ!?」
シェリー「あー、あれだな。鍋の中にぶち込むだけだろ、台詞から察するに」
上条「死ぬよっ!幾ら学園都市だからって無茶すれば!多分!」
円周「絶対とは言い切れない所はアレだけどねぇ。ってレヴィちゃん、テレビでも見て待ってよう?」
バードウェイ「オイ貴様!軽々しく私に触れるなっ!」
円周「よいしょっと。あ、軽いねぇ」
バードウェイ「さーわーるーなっ!子猫みたいに抱きかかえるんじゃない!」
円周「たかいたかーいっ!」
バードウェイ「……もう殺す!」
円周「……うん、うんっ!そうだねっ、そろそろカビの生えた魔術結社も賞味期限切れなんだよねっ!」
円周「こんな時加群おじさんだったら、こう壊すんだよね……ッ!」
上条「俺の背後で殺し合いするの止めてっ!?誰か助けて上げてえぇっ!?」
シェリー「こんぐらいで騒いでんじゃねぇわよガキども」
上条「おおっ!頼むぜシェリーさん!」
シェリー「任せろ……友達だろ?」
上条「……あぁ!」
シェリー「いいか、アンタ達?今はガキかも知れないけど、誰だって成長するもんだ」
シェリー「いつまでガキみたいな事ばっかしてっと、体だけデカい最悪の大人になるわよ?」
バードウェイ「だがなぁ。20姉前の思い出し殺意で、科学サイド皆殺しにフラッと来た奴にだけは言われたくないな」
円周「しーっ!レヴィちゃん酷い事言ったらダメだよ!お姉ちゃんはアーティスト気取ってるんだから!」
バードウェイ「おっとすまない。そうだな、お前はアーティスト()だもんな?少々変人であっても許されるもんな?」
円周「ごめんね、お姉ちゃん?悪気があって言ってる訳じゃないんだよ」
円周「どんだけ痛々しかろうと、そろそろゴス着れる上限に達してるけど、別に悪いっては思ってないからね?」
円周「ただそれが痛々しいだけだからねっ?周りは気を遣ってるってだけだから、うんっ、大丈夫だよっ!」
上条「オイバカヤメテあげて!?元からメンタル弱いシェリーさんをはぐれ悪魔超○コンビがイジるのやめてあげてぇぇぇぇっ!?」
シェリー「……なぁ……?」
上条「は、はい?」
シェリー「アンタがもし道に迷った時には夜空を見上げればいい」
上条「どうしたの?本格的に世迷い言言い出したんだけど!?」
シェリー「そうすりゃクソ汚ぇ都会の空気であっても、薄ぼんやりと星の明かりが見えるじぇねぇか」
シェリー「……私は、そのどれかになって見守っててやるから、な?」
上条「詩的な表現で絶望的な事を言い出したな!?つーかメンタルが弱すぎじゃねぇか!」
上条「っていうかそんな気分で夜空見上げたくないもの!だって夜空見上げる度に『あ、シェリーだぁ』ってしんみりするもの!」
バードウェイ「――と、そろそろ出来たんじゃないか?」
円周「だね、運ぶの手伝うよー。お姉ちゃんはテーブル片付けてといて」
シェリー「ん、あぁ。そうだな」
上条「ちょっと待とうか?お前ら今の全部お芝居なの?俺担ぐために仕掛けた、ねぇ?」
バードウェイ「と言うか平然と全て調理するのもどうかと思うが」
上条「現実逃避してたんだよ!『これキレイに揚げ終わったらケンカは終わってる!』って夢の世界で願ってたんだよ!」
円周「あ、ソバはザルだよね。ん、付け合わせの刻みノリも用意してと」
上条「お前らなんだよおぉっ!?とーしてそんなに連携良くなったのぉぉっ!?」
シェリー「めんつゆは……あ、希釈しないでいいのかよっと」
バードウェイ「柚醤油を入れた方が好みだが」
円周「あーそれ和風レストランぐらいにしかないよ?ご家庭じゃ使う機会が中々限られるからねぇ」
円周「ポン酢とレモン果汁で代用――ってお兄ちゃん?みんなで食べよ、ねっ?」
上条「……お前ら妙に馴染んでやがるよな?特にジョンブル二人」
バードウェイ「察しろ。大英帝国として世界の40%を持っていたのにも関わらず、何故かイギリス料理が碌なモノがないという現実に」
シェリー「普通は植民地の美味いモノ取り入れるのに、それをしなかった国民性だからなぁ」
上条「……それって家の近くにピザ屋とイタ飯屋と牛丼屋があるから、中々料理が出来ない一人暮らしの発想じゃ……?」
バードウェイ「その例えを否定する要素がない」
円周「ニューリベラリズムの行き着いた先が料理を作らない母親だからねぇ。国民性ってだけじゃないと思うけど」
バードウェイ「利便性を追求して分業制に特化し続け……まぁそれがいいのかどうかは分からんがね」
上条「メシを見るにアイタタな結果になってんじゃねぇか」
円周「イギスがネタ抜きで再興を謀るんだったら、魔術王国でも目指した方が良いかも?ポッタ○も大人気だったじゃん」
バードウェイ「残念。この世界に魔術は存在しないのだよ」
シェリー「バラした日にゃ大混乱は必至だろうしなぁ」
上条「つーか狭い!お喋りは食いながらでいいだろ!」
三人「はーい」
※今週の投下は以上となります。読んで下さった方に感謝を
尚、>>270からの宣伝のSS速報の同人誌版、二時間で完売したそうです
んで一応郵送もやる(あんまり多い場合には出来ない)かもなので興味がある方は下記までどうぞ
■ コミケにSS速報で何か作って出してみない? 2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1368282039/)
乙です
乙!この>>1…やはり只者じゃねぇ…!!
乙でゴザル!!!!!
あなたの作品が今一番の楽しみです
――食事中
バードウェイ「――シェフを呼べ!」
上条「えっと……『ボスのテンションがダダ上がりなんですけど、どうすれば?』っと」
バードウェイ「言いたい事があれば直接言え、直接。マークにメールで愚痴るんじゃない」
上条「つーか気になってたんだけど、マークは?」
バードウェイ「芳川桔梗の警護だな。襲撃に備えて何人か配置してある」
上条「マークってそんなに強かったんだ」
バードウェイ「プロの魔術師程度ならばまず負けん……と、いいなぁ」
上条「希望かい」
バードウェイ「慎重になりすぎる所がある。例えば相手の力を見極めてから攻撃する、とかな」
シェリー「タロットってぇのはそういうもんじゃねぇか。相手の防御に合ったぶち破り方を探るんでしょうから、むしろ近道じゃ?」
上条「すまん。意味が分からない」
円周「目の前に壁があって解体しましょう。材質を調べてブルーシートを張って、埃が立たないように放水しながら壊すのがマークさんのやり方」
円周「ジョンブル組二人は『壊れるまで殴ればいいんじゃね?』派」
バードウェイ「合ってはいるが、クロムウェルと同じ扱いは止めて貰おうか。コイツはそれ以外に方法がないからだ」
シェリー「……いや、ゴーレム以外にも術式は持ってるからな?基軸をゴーレムにしてるってだけで」
上条「分かったような分からないような――って、いい加減情報交換しようぜ」
上条「一応円周の能力も聞いといたし、きちんと共有しておいた方がいいと思うんだ」
円周「お兄ちゃんに頼らなくても教えたのにー。水くさいなー」
バードウェイ「適材適所だ。まぁソイツと情報を共有するのは一抹の不安を覚える所ではある」
円周「信用ないなぁ」
バードウェイ「――だが、まぁ逆に考えろ。『木原円周』よ」
上条「バードウェイ……?」
バードウェイ「君のおじさんにも言った事だが、君達がどこで何をしようが、どんな人道を踏み外した研究をしていようが、私には関係ない」
バードウェイ「だからまぁ君もグレイであり、一応、渋々、仕方が無く、本当に極めて不本意な事に」
バードウェイ「どっかのバカ兼天然人たらし兼新入りが突っ込んだ以上、助けざるを得なかった訳だが」
上条「……あれ?遠回しに非難されてる?」
シェリー「ダイレクトに『自重しやがれ』って言われてんのよ」
バードウェイ「だが、もし一度信頼を得ておいて裏切るのであれば、それ相応の覚悟を持つ事をお勧めしようか」
バードウェイ「今までは『存在を許しておいてやった』だけの相手が、『明確な敵』へと変わり堂々と排除出来るんだからな?」
円周「あー、しないしない。だってメリットがないよね?わたしがレヴィちゃん達を裏切るって事は、何らかのリターンがないと」
上条「『あればするし?』みたいな感覚はやめなさい」
円周「数多おじちゃんは何でトチ狂ったのか分かんないけど、学園都市とイギリスはグレムリンって言う共通の敵を持ってる訳でー」
円周「イギリス清教を切ってまで、今の学園都市に何の得があるのか?『木原数多』がどう利益を得るのか?って答えが出ないんだよ」
シェリー「グレムリンは学園都市潰しを標榜してんだから、クソ木原は単独で動いてんじゃねぇのか?」
上条「だったら何がしたいんだろうな……?」
バードウェイ「考えられるのはアイツ自身が『向こう側』へ行ってしまったとかだな。木原加群という前例がある以上、それもアリだ」
バードウェイ「ただそこまでして何が得られるのは、甚だ疑問ではある」
円周「『グレムリン傘下の学園都市』とか?でもおじいさんから重宝されていた数多おじちゃんが、地位を捨ててまでする意味がないし」
上条「おじいさん?」
円周「ボトルシップみたいなんだって。揺らしたいよねっ」
バードウェイ「面倒はごめんだ、お前も自重しろ。というかあの超ニートが出張る……あぁ頭が悪い方の右手狩りには出たんだったか」
上条「……俺?」
バードウェイ「お前は救いようがない方だな」
上条「悪口だよね?それもう俺怒っていいんだよね?」
円周「流石お兄ちゃんっ!言われるままにイギリス行ってクーデターを秘密裏に鎮圧したと思えば、その足で第三次世界大戦を終結!」
円周「今時007でも出来ないような行動力だよねっ!」
シェリー「常日頃仲間だ友達なんだを連呼しつつ、実際には最初から最後までぼっち旅。有り難くて泣きそうよね?」
上条「悪かったよ!あん時はテンパってたんだって!」
シェリー「つーか確か露出狂女の貸しがあったよな、テメェとは」
上条「……いやまぁ気持ちは理解出来るし、あそこで抵抗するのもアリだとは思うんだけどさ」
バードウェイ「アレは逃げて成功だったのさ。ヘタれのキャーリサ殿下が“誰も信用できない病”をこじらせた喜劇だ」
バードウェイ「誰かさんは誰も信じずにクーデターを起こし、誰かさんは誰も信じずに世界を救おうとし」
バードウェイ「そして誰かさんは誰も信じずに解決しやがりました、とさ。めでたしめでたし」
上条「……あれおかしいな……?ここ俺のホームじゃなかったっけ?いつの間にアウェイに?」
シェリー「せめてなぁ?天草式の連中は心中してでも突っ込む気満々だったってのに、どうやった連中を撒けたんだとか疑問もあるし」
上条「土下座した方が良いのかな?俺が謝ればいいんだろっ!それで気が済むんだよなぁっ!?」
円周「それでレヴィちゃん達は何か分かったの?」
バードウェイ「大した成果は出ていないが――」
上条「っとごめん、今の間に洗い物しとくわ」
バードウェイ「デザートはリンゴで頼む」
上条「無いよ!」
シェリー「帰りがけスーパーで買ってきといた」
上条「用意がいいな。つーか女の子三人も居て手伝う気はねぇのかよ?」
シェリー「よし、じゃあ私がリンゴを芸術的に剥いてやる」
上条「あ、ごめん?座ってて?」
円周「シェリーお姉ちゃんの場合だと、美術スキル以外に手を出すと大失敗ってイメージが」
シェリー「テメェらの顔の顔も剥がしてやろうか?」
――夜
上条「終わったー。あとリンゴどーぞ」
バードウェイ「取り敢えず新入りは正座だな」
上条「どうしたっ!?俺が洗い物をしてる間にどういう結論が出たのっ!?」
シェリー「いやぁ流石にローティーンにプロポーズは、引く」
上条「お前どんだけ脚色しやがった!?」
バードウェイ「そもそもロリコ×は『自分よりも弱い相手にしかどうこう出来ない』というメタファーがだな」
上条「その学説、一時期流行ったけど科学的根拠は皆無なんだよね?ゲーム脳と一緒で」
円周「そんなっ!?夕日をバックに『俺は円周率に詳しいんだ、3.7564……』って言ってくれたのは嘘だったの!?」
上条「嘘だろ全部!幾ら俺だって円周率を『みなごろし』とは言わん!カイワレ総理とは違うんだ!」
シェリー「そもそも円周率を持ちだして口説くって、どういうシチュなんだよ」
バードウェイ「――と言う訳で、今度は家庭で作る手巻き寿司を頼みたい訳だ。いいな?」
上条「どっからどう話が跳んだらその展開になるの?……いや、作るけどさ」
バードウェイ「ポテトサラダの手巻き寿司があると聞いたんだ」
上条「いやー、こないだの広告に載ってたけど、日本に十何年か住んでるけど初めて見た」
バードウェイ「しかし『卓上演劇』か……宴会芸程度の能力を、よくまぁ最悪に応用させるんだ」
円周「『人の動作を見て覚えて真似出来る』のは、時間さえあれば誰だって出来るしねぇ。それだけじゃ面白くないかなぁって」
バードウェイ「一つ聞くがシングルタスクなんだよな?」
円周「だねぇ。マルチタスクが出来れば異能力(レベル3)ぐらいだったと思うけど」
シェリー「シングルタスク?」
上条「パソコンの用語、だと思う。シングルが単独処理、マルチが並列処理」
シェリー「うん?」
上条「そうだな。例えば――」
バードウェイ「――『Hello, world!』と三秒間メッセージの出るプログラムを作るとしよう」
バードウェイ「構文は『mes “Hello, world!”』と『wait 300』、『End』。それぞれ『文字を書く』『三秒待つ』『終了させる』の意味だ」
バードウェイ「言語によってはバッファを確保したり、変数・変列型の宣誓を必要するのだが、ここでは省く」
バードウェイ「シングルタスクとはそれを記述されている順番に実行する。一度に一つずつの仕事しか出来ない訳だ」
バードウェイ「対してマルチタスクとは、同時に幾つのも仕事を並列して処理出来ると」
バードウェイ「デュエルタスクであれば『Hello, world!』を同時に二つ、それ以上であれば性能の許す限り幾らでも並列処理出来る」
シェリー「それがどうしてコイツの能力に関わるのよ?」
円周「チェスや将棋とかで人と機械が勝負するよね?あれは何千何万の選択肢を計算するの」
円周「ここのマスへこの駒を進めた場合、進めなかった場合って感じに。全部の選択肢を想定し、最善のモノを選択するだけ」
シェリー「あー……あれか?多次元宇宙みたいなもんか?犬が吠えた世界と吠えなかった世界とか、どんどん枝別れする世界の中で」
円周「自分に相応しい世界を選択する――まぁ能力の根幹でもある『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』も原理は同じだけど」
バードウェイ「もし小娘にマルチタスクが出来ていれば『木原数多の思考パターンを持つ木原加群』、みたいな最悪が誕生していたろうが」
円周「行動パターンと思考パターンが分けられたら、もっとえげつない戦い方出来て楽しいだろうしねぇ」
円周「思考パターンを複数、並列処理で走らせて最善のモノを取捨選択――って、お兄ちゃん?どうしてうなだれてるの?」
上条「科学サイドの端くれである俺の立場はっ!?ようやく出番が来たと思ったのに!」
上条「つーかどうしてボスはプログラム知ってるのっ!?構文からして中級言語っぽい感じだったけど!」
バードウェイ「そりゃ勉強したからに決まってる。踏み込むかどうかは別にして、“そちら”のやり方を知っていて損はあるまい」
バードウェイ「あと気持ち悪いからバードウェイと呼べ」
円周「ちなみに木原数多が『インストール』するのも同じ原理だよ。人の思考のメインを奪って操作する、みたいな感じで」
円周「人間の交感神経・副交感神経以外は、基本シングルタスクだしねぇ」
上条「……頭痛い」
バードウェイ「よくやった!よく気づいたな!あぁ確かにお前は頭イタイんだっ!」
上条「追い打ちは勘弁な!……いやいや、円周の能力はいいんだってば。実際にシングルタスクだったから、こないだ利用されちまった訳だし」
上条「それとも他の人達もデュエルタスクにすれば『インストール』を防げる、とか?」
円周「んー、難しいかなぁ?構造上の問題だしねぇ」
円周「脳幹を半分に割ってぇ、左右で分けるとかハードの拡張無しにはまず無理」
バードウェイ「二つ程度が競合しても、無理矢理『木原数多』が勝ちそうな気もするがね」
上条「んじゃバードウェイの方、あれから何か進展あったのか?」
バードウェイ「『SEED』の分解と中のソフトウェアの分析。どちらもまだまだ」
バードウェイ「ただ芳川は初見で『アンバランスだ』とは言っていたな」
上条「やり方が?」
バードウェイ「ヘッドギアは手製らしい。工業製品として作られた訳では無く、ジャンクパーツから製作した可能性が高いそうだ」
シェリー「そうした方が身バレする確率を抑えられる?」
バードウェイ「そう言っていたな。またプログラムは白いの次第、つまり序列一位が手こずる程度には手の込んだ防壁だ」
上条「それって超高難易度じゃんか」
バードウェイ「ハードの話だが、『それにしてはしょっぺェ』との感想も上がっている」
バードウェイ「まずはサーキットが――」
上条「あの、バードウェイさん?出来れば結果だけを、ですね」
バードウェイ「『高校生が無理して作ってみました』」
上条「あー……」
バードウェイ「この件に関しての『木原』専門家のコメントは以下の通り」
上条「誰?そんなコメンテーター聞いた事が無いんですけど?」
円周「『最新のオンゲインストールしたのは良いけど、パソコン古くて処理落ちしまくり』」
上条「意外と身近に居たねっ、そういえばっ!」
シェリー「良く分からねぇが、しでかしてる割には装備が酷いって事かしら?」
バードウェイ「どうにも落差が酷くアンバランスだ、と繋がる」
シェリー「制作委託した相手がガキだった?」
バードウェイ「には、まず不可能な技術が含まれている。その割には下手だと」
バードウェイ「まるで使い慣れていない工具でやっているかのような……」
上条「『インストール』は出来たが体に馴染んでない?」
シェリー「それが妥当だろうなぁ」
上条「……ってかさ、反射の件でも思ったんだけど、『インストール』しても完璧に肉体を扱えるんじゃないのな?」
円周「『学習装置』でセッティングした上で、『卓上演劇』を使わない限りは難しいと思うよ」
バードウェイ「勝手知ったる肉体とは別に、人様の体を使おうって話だ。その程度のデメリットが無くてはおかしいだろうさ」
円周「そもそも数多おじちゃんの戦闘パターンが『金槌レベルの衝撃を顕微鏡の精度で』だからねぇ」
円周「聞いた事はないけど、わたしと同じ肉体制御系の能力者だったのかも知れないし」
上条「成程。だから余計に」
円周「正確に体をコントロール出来ないのが、もどかしいのかも知れないね」
上条「ビリビリがビリビリ出来ないようなもんか。ふむ」
バードウェイ「報告は以上だな――で、だ。明日からの予定なんだが」
円周「あ、わたしとお兄ちゃんはメイド喫茶勤務だからね?」
バードウェイ「……ほぉ?」
シェリー「お前ら、人が街中駆けずり回ってる時に何やってんだ?あぁ?」
上条「俺は決まってねぇし!確かに円周は許可したけど!」
円周「鞠亜ちゃんって言うメイドさんが居てだねぇ」
上条「相手は中学生だしっ!俺は別にメイド好きって訳じゃねぇよ!」
円周「その子のお姉ちゃんがGなんだって!やったよお兄ちゃん!薄い本が厚くなるねっ!」
シェリー「お前それ……いや、引くだろ。ないない、ないわー」
バードウェイ「人間ってどこまで汚くなれるんだろうな?」
上条「二人とも待ってくれないかな?犯罪者を、しかもシリアルキラーを見るような目で見るのは止めてくれないか?」
円周「あ、お揃いだねぇっ!」
上条「揃ってねぇよ!決してワンペアになんかなってねぇ!」
バードウェイ「おっとここに学園都市を襲撃したテロリストが一人」
シェリー「あぁ確かに。イリーガルの代表格、今やアメコミにすら登場するブラック・ロッジの首領様もいるじゃねぇか」
上条「す、スリーカード?」
バードウェイ「すまないが、ちょっと頭の後ろ見てくれないか?」
円周「どうしたの?」
バードウェイ「少し前にどっかのバカにハンドドリルを押し当てられてなぁ。いやー、物騒だなぁ学園都市って所は」
シェリー「表面上は治安も良いって聞いたんだが、随分悪い奴も居るのよね」
上条「そろそろ全員で結託して俺を罠へ嵌めるの自重して貰えませんか?俺の胃壁がピンチなんだよっ!」
シェリー「女三人に男一人の時点で諦めろ。ほら、少しぐらい触ってもラッキースケベって事にしといてやるから、な?」
上条「無理だよっ!よく知り合いから『ラッキースケベ()』とか言われるけど、それってタダ気まずくなるだけだからな!?」
上条「あとお前にその単語を教えた奴を教えろ!ちょっと行って幻想殺してくるからっ!」
円周「てへぺろっ☆」
上条「よっし俺は女の子に拳を振う事だって躊躇わないからな!絶対だぞ!絶対だからなっ!?」
円周「そんなにお兄ちゃんに問題でーす」
上条「な、なんだよっ!?」
円周「今のわたしの『卓上演劇』は『木原加群』の『人体破壊』がアクティブになってるんだよねぇ」
円周「ネットワークを介した外部入力が不可能だから、一人分のスキルしかないけど」
円周「んでもってぇ『リミッター』は常時外れているから、人一人を撲殺ぐらいは簡単だしぃ?」
上条「近寄るなっ!近寄るんじゃねえっ!?」
円周「あ、心配してないでね?お兄ちゃんを『学習』してる分、加群おじちゃんの『蘇生』部分に上書きしちゃってるからっ!」
シェリー「つまりそりゃ、アレだな」
バードウェイ「『壊すだけで元へ戻せない』、か」
円周「大丈夫?関節を外すだけだから、ねっ?」
円周「外す時に“は”痛みもないし?」
シェリー「外した後は折れたぐらい痛いんだっけかな、確か」
バードウェイ「しかも下手にそげぶすると、『卓上演劇』の動作が解除されるため、ただ力任せに外されるだけだしなぁ」
上条「ウソウソウソウソっ!そげぶしないからっ!冗談だしっ!」
円周「大丈夫っ!……じゃ、無かった。うん、うんっ!『木原』ならこんな時、こう言うんだよねっ!」
円周「『俺の愛はァ……一方通行だァっ!!!』」
上条「それ『木原』じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
――数日後 ある学生寮 昼
工山規範「あー……」
工山(今日もサボっちゃったかー……なんかこう、体だるいよな)
工山(病院に行――たって、意味はないんだろうし、どうしようか)
ピンポーンッ
工山「……?」
女性『すいませーん。工山くんいるじゃんかー?』
工山(……いや、ホントに誰?学校の先生?サボってるから……あぁ、様子を見に来てくれたのか)
女性『もしもーし?声だけでもいいから聞かせてくれるじゃん?』
工山(どんな人……?……あぁいかにも、って人だな)
女性『居ないじゃん?居留守使っても無駄じゃんよ、あんたはもう包囲されてるじゃんし!』
工山(不登校未満相手に包囲ってなんですか、つーか誰?『落第防止』の教師?)
女性『ほんとーーーにっ居ないじゃん?マジで?居留守使ってない?』
工山(……いやぁ、居留守も使いたくなると思うけど)
女性『後悔しても知らないじゃんよ?警告はしたじゃんね?』
工山(誰に言ってんの?)
女性『よし。居ないじゃんよ』
少年『――おゥ』
バキバキベキベキッ
少年「工ゥゥゥゥやァァァァァまァァァくうゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンっ!」
工山「んなっ!?誰っ!?白くてシマシマがドアぶち破って!?」
少年「いるじゃねェか。なにシカトしてやがンだ、あァっ!?」
工山「すいませんすいませんスイマセンッ!お願いだからアンチスキル呼ばせてください!」
女性「おー、ここにいるじゃんよ?」
工山「え、それどういう意味――げふっ!?」
少女「――動くな。私の質問へ簡潔に答えろ」
工山「だ、だれ……?」
少女「君は知らないでいいし、知る必要もない。が、不都合を感じるのであれば、『真っ昼間から殴り込む程度の暴力主義者』と認識してくれたまえ」
少女「次、私に余計な時間を取らせれば右手をへし折る。その次は左手、右足、左足をぺきりと行く」
少女「あぁ五回目から先は聞かない方が良い。これが片付けば遅めのランチでね、食欲を失うのはお互いに不都合だろう?」
女性「(随分手慣れてるけど、マジでしないじゃんね?)」
少年「(まァ、多分)」
少女「分かるだろ?だから慎重に答えるのをお勧めするんだが――どうだろう、私の“穏やかな”提案に従ってはくれないだろうか?」
工山 コクコクコクコクッ!
少女「結構。では君の名前は?」
工山「く、工山規範です」
少女「以前にアンチスキルの世話になっているようだが、理由は?」
工山「ある風紀委員の詰め所に不正アクセスを!でもそれはずっと前の話です!奉仕活動もしましたし!」
少女「ずっと前?具体的にはいつの話だね?」
工山「夏休みが始まる前、えっと具体的には――」
少女「そこまで結構だ。ふむ……成程、そうか。そうなるか」
工山「え、はい」
少女「ありがとう。君の協力のお陰で大体アタリをつける事が出来たよ」
工山「そ、そうですか……」
少女「すまなかったね。ドアはすぐにでも業者に――と、しまった。最後にもう一つ聞いてもいいかな?」
工山「はい?」
少女「『今日』は何月何日だ?」
工山「それは当然――あ、あれ……?」
少女「うん?憶えていないのか?まぁ無理もないか、君は学校に来なくなって『2ヶ月ほど経つ』のだから」
工山「――え?」
少女「では質問を変えよう、工山君。『昨日の日付はいつ』だ?」
工山「XX月YY日、だけど」
少女「それは丁度今日から二ヶ月前の日付だね――おい」
少年「……まァ、ちっと寝てろ」
工山「待っ――!?」
バタンッ
少女「そっちはどうだ?」
少年「こっちのモバイルから書庫(バンク)にアクセスした履歴が。普通消すだろうがァ」
少女「……チッ。予想以上に小物だったか」
少年「まァいいじゃねェか。『SEED』配ってた野郎確保したンだからよォ」
少女「この程度で潰せるようなら、最初から苦労していない――と言う訳で後は任せる」
女性「それはいいじゃんけど」
少女「後で新入りを向かわせるから、適当に殴って貰えば元に戻る」
女性「つーか何でいないじゃん?こーゆーのは真っ先に首突っ込むもうとする筈じゃんし?」
少女「一身上の都合によりメイドカフェでバイト中だ」
女性「……はいぃ?」
――とあるメイド喫茶
バードウェイ「――さて。では現在までの状況をおさらいしようか」
円周「『いらっしゃいませーーっご主人様っ!何名でいらっしゃいますかぁっ?』」
バードウェイ「昨日までに20人近く『木原数多』を叩きのめした訳だが、今一効果が上がっていない」
円周「『二ひ――二名様ですねっ!ではこっちへどうぞ萌え豚ご主人様っ!』」
バードウェイ「……奴は何を狙っている?潜伏するにしてもお粗末、ただ手駒を増やしているにしてもおかしい」
円周「『メニュー?メニューが欲しいの?欲しいんだったら、それなりの態度ってものがあるんじゃないかなぁ?』」
バードウェイ「だとすればどう考えたものか……お前はどう思う?」
上条「場所、変えない?」
円周「『’お待たせしましたご主人様っ!なるべく早く帰ってね!』」
バードウェイ「どうしてだ?」
上条「こんな雰囲気で出来る訳ねぇだろ!?つーか態度悪ぃなアイツ!?」
シェリー「そーゆー店じゃねぇのか?本で読んだけど、こんなもんだったわよ」
上条「リアルとフィクションの境は分けよう?イギリスだってポッタ○居ないでしょ?」
シェリー「ある意味『ローマの休日』は実現できそうな感じもする、かしら?」
上条「俺は関係ない俺はフラグ立ててない俺はキャーリサと会わない……っ!」
鞠亜「『お待たせいたしました、ご主人様』――休憩は30分だからな。早めにキッチンへ戻ってくれ」
上条「……はーい」
バードウェイ「多忙な『当麻お兄ちゃん』のためを思って来てやったんだが、やれやれお気にそぐわなかったか」
上条「悪意ですよね?冷やかしに来たかっただけですよね?」
シェリー「……お、カレー美味ぇな」
上条「いいんだけどさぁ、こう」
バードウェイ「芳川と白いのも誘ったんだが、一蹴されたよ」
上条「いやだから、帰って報告すればいいんじゃね?いつの間にかシェリーも住み着いたし?」
シェリー「仕方がないでしょう。ホテルを追い出されたんだから」
上条「ホテルの壁に油絵描いてりゃなぁ……」
シェリー「ガキ二人泊めてんのに一人増えたって構わねぇだろ」
上条「子供と大人の女性は違うんですよっ!主に外聞的に意味でねっ!」
シェリー「友達ってS××するんだろ?」
上条「夜○さんだよね?しかもそれ薄い方のだから、100%個人の妄想だからね?」
円周「人体改造はちょっと引くよねぇ」 トスッ
上条「いきなり話に混ざるな!あと俺の膝の上に座るんじゃねぇって」
バードウェイ「結局いつもの面子に落ち着いてしまった訳だが、まぁいい」
上条「え、マジで?メイド喫茶と言う名の金毟りカフェで作戦会議すんの?」
バードウェイ「日本の文化の一つとして興味はあった」
上条「ネタ抜きで止めてくれません?つーかメイドの発祥ってイギリスじゃなかったっけ?」
バードウェイ「正確には家事使用人だな。家令や執事以外にも従者とか、戦場にも使用人付きで行っていたから」
上条「……家来、みたいな感じで?」
バードウェイ「も、含むが、基本は主人の世話が優先される。食事やその他、軍馬の世話等々」
シェリー「そもそも騎士は貴族階級だし、金属鎧が主流になってくると一人では脱ぎ着出来ねぇんだよ」
上条「イメージと違うなぁ、それ」
円周「でも当時から主人による性的搾取は頻繁にあったし、中には週一でメイドの振りをしてくれる人を雇ったりもしてたしねぇ」
上条「どんだけアレな国なんだよ、イギリス」
円周「まぁでもそれが成り立つ程には裕福な生活や文化があった訳だし?いいと思うよ」
円周「はい、お兄ちゃん。あーんっ?」
上条「自分で食えるって……なんだろうな、喫茶店で食べるカレーが自分ちの味付けって言うのは、なんか、なんつったらいいのか」
円周「ウチは味にも拘ったお店になっておりますっ」
シェリー「男が作るんだったら、別にレトルトでもいいんじゃねぇの?」
バードウェイ「そこはそれ、母親以外のメシを食った事がない連中は癒しなのだろう。可哀想だから放っておいてやれ、な?」
鞠亜「オイお前たち営業妨害は止めるんだ。気持ちは分かるが、非常に分からないでもないが」
円周「現状で誰も損してないんだからなぁなぁで済まそうぜ、って話だよねーっ」
上条「まぁレシピ書いたの俺だけど、作ってるのはメイドさんもいるし?あんま言うのも」
バードウェイ「――と適度に周囲を牽制した所で本題と行こうか」
鞠亜「なんだね?悪巧みならば私も混ぜて貰おうじゃないか」
上条「帰って?お仕事しようぜ?」
鞠亜「……そしてまた私には経験値が溜まるなっ!」
シェリー「学園都市もアレよね?『濃い』よなぁ、どう考えても」
上条「個性豊かで良いんじゃないんですかね、はいっ。自由な校風もウリですし!」
円周「自由と無責任は別なんだけどねぇ――ってお話は?」
バードウェイ「良い話と悪い話、そしてどうでもいい話の三つあるが、どれから聞きたい?」
上条「どうでもいいってのは興味あるけど……でもホンットにどうでも良いんだろな」
上条「んじゃ良い話からで」
バードウェイ「今さっき穏便に話を聞いてきた工山規範は、時期的に見て早い段階で『インストール』されたようだ」
円周「最初の『木原』って事かな?」
バードウェイ「白モヤシが殺したと証言している後、時期的にも工山が不登校になった境と一致している」
バードウェイ「実際に奴の部屋には『SEED』の材料や、他の連中に発送したログも完全に残っていた」
バードウェイ「ここまでの一連の犯行、と言うか『木原数多』の親は工山だったと」
バードウェイ「発送先はアンチスキルが『お話』を聞くそうだ」
上条「それ……解決じゃね?」
バードウェイ「本当にそう思うか?」
上条「無理、だよなぁ……無駄に厄介だな、『木原』」
円周「いぇいっ!」
シェリー「誉めてねぇ――いや、誉めてるのか?」
バードウェイ「芳川と白いのの意見も同じだ。『ここまで手が込んでいるのに、これで終りな訳が無い』とな」
上条「それが悪い話?」
バードウェイ「ここまでは良い話。まぁ一応のケリはついたという意味で、良かったのかも知れないが。で、だ」
バードウェイ「悪い話は『インストール』の元データの事だな」
バードウェイ「ダミーの人格データ、と言うかネストとディレクトリをそれっぽく分けたハードディスクを用意して」
上条「簡潔にお願いします」
バードウェイ「『インストール』されるデータの場所を確認した」
上条「それ良いニュースじゃね?それを消しちまったら解決じゃん」
バードウェイ「データそのものは白いのがハッキングして消しんだが、暫くして再実験してみたら別のデータを『インストール』すると」
バードウェイ「どうやら学園都市のイントラの中に、幾つも存在しているようだ」
上条「イントラって?」
円周「会社や省庁とかで、内部のコンピュータだけを繋げて構築してるネット環境、かな?」
円周「学園都市は都市そのものが巨大な一つのイントラで作られてて、外部との接続を許してる状態だねっ」
上条「……学園都市のパソコンの中に、うじゃうじゃしてるって?」
バードウェイ「その理解でいい、か?……まぁ第一位が片っ端から消して回ってるのが現状だよ」
上条「……なんだかんだで、付き合い良いよな」
バードウェイ「同時に芳川がデータそのものを分析し、効率的に検出・排除出来るプログラムを組んでいる」
上条「完全にウイルスだな」
バードウェイ「以上、悪い話だ」
円周「悪いって言うよりも、面倒?」
バードウェイ「しかしそれ程心配はしなくていい。『勝手にファイルをコピーする』のは普通のセキュリティソフトで防げると確認された」
上条「って事はもう心配なくて良い、とか?」
円周「セキュリティの甘い人なんか掃いて捨てる程一杯だよ?『木原数多』がコピペするって可能性もあるし」
上条「何にせよ本人をどうにかしないと、かよ」
バードウェイ「そしてどうでもいい話だが……工山はハッキングが趣味らしい」
上条「ホントにどーでもいいなっ!……いやいや、大事じゃね?」
バードウェイ「つい三日前にも書庫(バンク)に侵入したそうだ」
上条「まさかそこにっ!?」
バードウェイ「個人データの中には紛れ込ませるのは、幾ら何でも悪目立ちすぎるだろう」
円周「誰かの個人情報が知りたかった、とか?」
バードウェイ「現在調査中だ。工山の行動も同じくだが、そちらの方もあまり期待しないでくれ」
上条「記録がない?」
バードウェイ「監視カメラの映像を見るに、全くと言っていい程外出してない」
円周「『SEED』の材料と発送は?」
バードウェイ「近くのコンビニで両方済ませている。材料の送り主は調査中、と……ふぁふ」
上条「あー、大変だったもんな色々と。先帰って寝てろよ」
円周「そこだけ聞くと凄い台詞だけど……あ、シェリーちゃんも寝てる」
シェリー「……クソつまんねぇ探知の連続で、それなりに疲れてんのよ」
バードウェイ「まぁ兎に角、今日は先に帰らせて貰うよ。いいか?きちんと送って貰え?」
上条「おうっ!ちょっと情けないけどなっ!」
シェリー「寄り道はさせないで、真っ直ぐ帰りなさいね?」
円周「はーいっ!」
上条「……なんだろうな、この屈辱感……?」
――バックヤード
円周「お疲れ様でーすっ!」
鞠亜「はい、お疲れ様。悪巧みはもういいのかい?」
円周「んー、一段落した感じみたいだし?」
鞠亜「それは残念。困っているんだったら、無理矢理にでも助けたんだが」
円周「情報戦だから鞠亜ちゃんより芹亜お姉ちゃんの方がありがたいかも」
円周「でも『木原』相手だから、下手に介入されると拙いかもねぇ」
鞠亜「木原、だと?」
円周「加群おじちゃんじゃないよ。数多おじちゃんの方」
鞠亜「本当に必要ないのか?先輩には借りが一つあるんだから、遠慮なんていらないんだぞ」
円周「『メイドさんハァハァ体で返して欲しい』、って言ってたっ!」
鞠亜「それを本当に言うようであれば、堂々と踏み倒せるんだがな。言わないから逆にタチが悪い」
円周「自分に対して強いられてるみたいにストイックなんだよねぇ」
鞠亜「そこら辺は男には珍しくない、んじゃないか?先生もそうだったし」
鞠亜「寡黙な人だったけれど、私達にはいつも優しくしてくれた」
円周「それが初恋?」
鞠亜「『初恋は叶わない』というジンクスがある訳だが、まぁ私もそのクチだよ」
円周「……うー、わたしの初恋は叶って欲しいなぁ」
鞠亜「先輩……しかないよな。ここで別の人だったら意外すぎる」
円周「鞠亜ちゃん……わたし、実はねっ!鞠亜ちゃんに殴られてからずっとずっと――!」
鞠亜「やめろ、それ以上私に近づくな!」
円周「――って話は共学よりも繚乱は多そう」
鞠亜「無くは無い。ただ私は変人扱いされているから、無縁だけども」
円周「ちょっと興味あるよねぇ」
鞠亜「……」
円周「何?やっぱりキスする?みんなにはナイショね?」
鞠亜「やっぱりの意味が分からないなっ!……いやそうじゃなく、君は変わったな」
円周「……ごめんね。わたし、鞠亜ちゃんとはお友達でいたいから、ね?」
鞠亜「そっちじゃないな。ボケ倒すの止めてくれないか?」
円周「舌を入れなければ、まぁ?」
鞠亜「それ男から一番嫌われるパターンだからね?……いやいや、そうでもなく」
鞠亜「変わったというのは性格だ。私が知っている『木原円周』はもっとサイケデリックな性格だった気がするよ」
鞠亜「……それともこちらが“素”なのかい?」
円周「よく、分からないけど」
鞠亜「急ぐ必要はない。現状の『誰も傷つけないで済む環境』が続けば、それで充分に学習は出来るだろうし」
鞠亜(急ぐ必要は、ない。ただ)
鞠亜(善性を獲得してしまえば、自身の過去の行いに押し潰されるかも知れない)
鞠亜(けれどそれは、『こちら側』に籍を置くのであれば避けては通れない)
鞠亜「……まぁ、どこぞのお人好したちが何とかするんだろうけど」
円周「だよねぇっ、いっつも死にそうな目に遭ってるもんねっ!」
鞠亜「思考パターンを読むんじゃな――ん?」
円周「気を悪くしちゃったの?ごめんね、つい癖で」
鞠亜「そうじゃないよ。何か今ひらめいた気がしたんだが……まぁいい」
円周「加群おじちゃんのお話でも聞きたい、とか?」
鞠亜「それは是非にでも聞きたいね。暴力を用いるのも吝かではないよ」
円周「芹亜お姉ちゃんから聞いてないの?」
鞠亜「ある程度は、だな。先生が『木原』としてどんな研究をしていたのかは全く」
円周「んー……あ、そうだ!丁度今、加群おじちゃんの思考パターンがアクティブになってるんだったっけ」
鞠亜「何?」
円周「うん、うんっ!こんな時、『木原加群』だったらこう言うんたよね……ッ!」
鞠亜「お前――っ!?また先生を侮辱するのか!」
鞠亜「先生は!先生はお前なんかに分かる訳が――」
円周「『“それ”は気にしないでいい。全てに100%正しい答えはまず有り得ないし、だからといって捨てていいとも限らない』」
鞠亜「だからそれは先生なんかじゃない!あってはいけないんだよっ!」
鞠亜「生者が死者を勝手に代弁するなんて!どんだけ傲慢な事だと思ってやがる!?」
円周「『君が私をある程度理解してくれるのは嬉しく思う。けれど、私も「木原」であるのは間違いないんだ』」
円周「『目的のために手段を選ばず、時として手段のためには目的を選ばない』」
円周「『同じ「木原」であるが故に、この「木原」が私の思考をトレースしやすいのもまた事実だ』」
鞠亜「……せん、せい……?」
円周「『……済まなかった。私は、私達の下らない闘争に、君たちやあの少年を巻き込んだ事を申し訳なく思う』」
円周「『敵は取ったが……だが、失われたものは二度と帰ってこない』」
鞠亜「……先生は、先生、なのか……?」
円周「『あくまでもエミュレーションだ。だから100の言葉の中で、私が現実で言ったであろう言葉は一つか二つかも知れない』」
円周「『聡明過ぎる故にクラスで孤立していた君だ。信じられないかも分かる。でも、だからこそ』」
円周「『私は聞いて欲しいと思う』」
鞠亜「やめろ!先生は!先生はなっ!」
円周「『君達の教師であった時、ほんの僅かな時間でしかなかったが――』」
円周「『――私は、とても幸せだった。穏やかでやりがいある仕事だったよ』」
円周「『だから、と言う訳ではないし、君が強く望めばこの「木原」は私の研究データの開示も拒まないだろう』」
円周「『でも、君達の中で――「君の中での木原加群は、無口な教師“だけ”でいたい」と願う』」
円周「『私のやって来た事、それを知られたくないと思うのは、私のエゴだろうか?』」
鞠亜「……バカヤロウっ!先生は、先生はなっ!そんな事は言わない!」
円周「『……そうか。君の中の「木原加群」は――』」
鞠亜「違う!そこじゃない!私の先生は――」
鞠亜「生きてる間は!こんなにベラベラ喋るような性格じゃなかったんだよ!」
円周「『……ありがとう、雲川鞠亜』」
鞠亜「アンタに言いたい事はいっぱいあったよ!私だけじゃなくて!他のみんなだってそうだ!」
鞠亜「それを黙って行きやがって!姿を眩ますなら眩ますで、サヨナラの一言ぐらい言われせたっていいだろ!」
鞠亜「だから!だからっ!」
円周「『あぁ』」
鞠亜「……ありがとう、先生」
円周「『……あぁ』」
――十数分後
鞠亜「――さて、と言う訳で通常業務へ戻ろうかっ!」
円周「鞠亜ちゃんお目々が真っ赤だし号泣したのもバレバレだし?」
鞠亜「君のロールプレイに付き合ってやっただけの話だよ。私クラスになると嘘泣きの一つや二つ当たり前だろう?」
円周「や、さっきから鞠亜ちゃんにハグされてお顔が痛いんだけどねっ」
円周「肋骨的なものがゴリゴリ頬に当たるって言うか?」
鞠亜「女の器量は胸の大小で変わりはしない。むしろ拘る方がどうかしている」
円周「『俺加群、ツルペタはぁはぁ』」
鞠亜「黙れ。殺すぞ……あぁ、そうか。そう言う事かっ」
円周「小学校の先生って性犯罪者の比率が高いんだよねぇ」
鞠亜「今その話をする意味が全く分からないんだが、そうじゃない。さっき感じた違和感だ」
円周「……ごめんね?あんまり上手く『他者再生』出来なかったかも」
鞠亜「違う!君が私に負けた理由の方だ!君の思考パターンは偏っているからだったんだよ!」
円周「んん?どういう意味?」
鞠亜「例えばイギリス人の行動・思考パターンを模倣するとしよう。でもそれには背景にある情報が不可欠だよね?」
円周「歴史とか民族性とか、ピューリタン――じゃなかった、イギリス清教とかも大切だよね」
鞠亜「だから君の再生が不完全すぎたのも、そこら辺の問題だったんだよ」
鞠亜「上っ面しか見てないんだ、そりゃ本物とかけ離れるのは当たり前」
円周「結局わたしに足りないのは、なぁに?」
鞠亜「それは……私が言うべき事ではない、と思うよ。言わなくても知っていると言うべきか」
鞠亜「でもそれは『足りない』んじゃないんだ。『足りなかった』んだ」
鞠亜「僅かではあるが君の中に存在し、これからも増え続け――て、欲しいと私は願うよ」
円周「むー、抽象的すぎるし!」
鞠亜「別に意地悪をしているんじゃない。ただそれは他人から知らされる類のものではないってだけで」
円周「寝癖?」
鞠亜「……気がつけばいつの間にか、と言う点では惜しいか。まぁ悲観するような話じゃ――」
ガチャッ
上条「おーいお前らー、そろそろ店長が戻ってこいって――」
鞠亜「……」 (※円周をハグしている)
円周「むに?」 (※鞠亜にハグされている)
上条「あー……うん、ごめんな?俺は何も見てなかったよ?」
鞠亜「待て上条当麻!君は致命的な勘違いをしている!」
上条「嫌いじゃない!俺は決して嫌いじゃないよ!うんっ!」
円周「あ、やっぱりお兄ちゃん百合厨だっだんだねぇ。ベンジャミ○先生のご本が多いと思ったら」
上条「て、店長には上手く言っとくから!心配はしなくていいぞっ!あと円周さんは帰ったらお話があります、主にプライバシーについて!」
上条「それじゃっ!」
鞠亜「ちょまっ!?」
パタンッ
鞠亜「……」
円周「……」 クンクン
鞠亜「まずいマズい拙いっ!?先輩の口から姉に伝わったら大惨事だ!死ぬまでこのネタでからかわれるっ!?」
鞠亜「君も弁解しなくては――」
円周「……ね、鞠亜ちゃん?」
鞠亜「な、なにかね?」
円周「鞠亜ちゃんって、いいニオイがするよねっ……!」
鞠亜「離せ私にはそういう趣味はないっ!」
円周「成程成程、一度組んじゃえば能力は使えないのかー。だったら力任せに押し倒せば良かったんだねぇ」
鞠亜「だからそう言うのはノーサンキューっ!誰かに見られたらどうするっ!?」
円周「『鞠亜ちゃんが見てる』的な?」
鞠亜「私のトラウマを刺激するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
――帰り道 夕方
円周「――って鞠亜ちゃんはトラウマがあるみたい」
上条「御坂さんちのスールみたいな感じか。でもまぁ本人同士がいいんだったら、別にいいんじゃね?」
円周「百合厨の人は心が広いよねっ」
上条「濡れ衣だなっ!俺はベンジャ○ン先生じゃなく黒○先生の方のファンだしぃ!」
円周「いやでも鬼ごっ○も百合百合しい花が咲いていた気がするけど……?」
上条「あんまり言うな、な?色々と問題があるから」
円周「でもあれで良かったのかなぁ?」
上条「本物じゃないだろうけど。間違った事は言ってないと思う」
円周「鞠亜ちゃんからは精度上がったって誉められたけど、原因が分からなきゃ意味はないよねぇ」
上条「まぁでもあんま良い事じゃない、って俺は思うけど」
円周「お兄ちゃんは反対なの?」
上条「判断そのものは正しいと思う。加群さんの『木原』時代のデータを渡さなかったり、思考パターンで話した内容も」
上条「けどそれは『木原加群』じゃないだろ?」
円周「精度の問題?」
上条「生命の尊厳の問題、かな?例えば円周が俺のデータを完全に『卓上演劇』したとする」
上条「生まれてからのデータ全てを完全に分析すれば、限りなく俺と同じ思考や行動が出来るんだろう」
上条「だからって俺じゃない、よな?」
円周「……うん。お兄ちゃんはお兄ちゃんだし、代わりは存在しないって思う」
上条「それと同じで。どれだけ上手く、『木原加群』を再現したって、それはオリジナルじゃない」
円周「理屈は、分かるけど。言っている事も理解出来るけど」
円周「じゃあじゃあ、どうして鞠亜ちゃんは泣いちゃったの?最初は怒ってたのに」
上条「それも、ある意味同じだ。『雲川芹亜が何を考えているのか、それは雲川芹亜にしか分からない』だろ?」
上条「……まぁ、俺の想像だけど。嬉しかったってのは間違いないと思う」
上条「一度は正面から殴り合った相手に気を遣われた、とかじゃねぇかな」
円周「そっかぁ。喜んでくれたんだ……」
上条「単に雲川さんの欲しかった台詞を言っただけかも?明日にでも聞いてみればいい」
円周「……嫌がらないかな?」
上条「頑張れ」
円周「えーっ!?お兄ちゃん無責任すぎるしっ!責任取ってくれなきゃやだよぉっ!」
上条「路上でその言葉叫ぶの止めて貰えないかな?多分わざとだと思うんだけど」
円周「でもっ」
上条「人の嫌がられる事をして嫌われるのは当然だ。逆に人の喜ばれる事をすりゃ、好かれる、かも知れない」
上条「とにかく、勉強しろ。俺とかシェリーとか、練習相手はいるんだからな?」
円周「……」
上条「こればっかりは慣れて貰うしか――ってどした?急に立ち止まって?」
円周「あの、ね?今、気づいたんだけど」
上条「うん」
円周「わたしがもし、鞠亜ちゃんに酷い事して怒らせちゃったら、ゴメンナサイ、するんだよね?そうすれば許してくれるの?」
上条「取り返しのつかない事でもない限りは、多分大丈夫だと思うけど――お前なんかやったのかよ!?」
円周「そうじゃない、そうじゃないんだよ!鞠亜ちゃんには、そんなに酷い事はしてないと思う。でも――」
円周「――わたしが、『木原円周』が今まで殺してきた人は、もう無理だよね……?」
上条「それは……」
円周「その人を再生するデータも無いし!その人達はもう」
上条「そう、だな。それは円周の言う通りだと思う。けど――」
壮年の男性「あのー、すいません?ちょっといいですかー?」
上条「悪い、今立て込んでるから。他の人に頼んでくれ」
壮年の男性「道をお伺いしたいんですが――」
上条「――駅前じゃあるまいし、住宅地の真ん中で迷う奴なんていねーよっ!」
バキィッ!
壮年の男性「うぉうっ!?」
パキィィィンッ!
上条「……クソ!このタイミングか!待ってたのは、『これ』だったのかよ!?」
周囲を歩いていた人間、仕事帰りのサラリーマンやOL風の女、数人の高校生たちがニヤリと同じ表情を作る。
男「『暫くぶりだなぁ、「幻想殺し」?』
陽は地平に落ちようと傾き、闇が周囲を喰らい出す。
――同時刻 上条のアパート
シェリー「泥を掬い上げて眠りなさいな――エリス!」
いつの間にか持ち込まれていた石膏像。のそりと一震えすると、玄関から殺到しようとする男たちを薙ぎ払った。
だがしかしそれは陽動。
本命である即死性のグレネードを“抱えたまま”の工作員たちが、窓ガラスを破って特攻してくる。
『インストール』してあるが故に無謀すぎる行動。並の魔術師ならば対処出来ずに終わっただろう。
しかし。
バードウェイ「――弁えろ」
ズゥン!と象徴武器を一振りすると呪文も無しに衝撃が飛ぶ。
一瞬で外へと投げ出された男たちは空中で誘爆した。
シェリー「……胸糞悪ぃぜ」
バードウェイ「手は抜くな。操られているとは限らん」
元より気を抜ける状況ではない。だが、二人の表情はどちらかと言えば澄んでいた。
シェリー「……ガキ二人が居ねぇ分、教育に配慮しなくていいのかしらね?」
バードウェイ「おいおいクロムウェル。滅多な事を言うもんじゃ、ない」
言葉はあくまでも諫めるように。しかし口から出る台詞は嬉々として。
バードウェイ「私達は『さっさと片付けて、助けに行かなければいけない』んだ。つまり――」
シェリー「『死ぬほど急いでる』んだから、まぁ――」
バードウェイ・シェリー「「――これは、しょうがない」」
爆音が轟く。
――帰り道、帰れない道
陽は完全に落ち、幾つかの街灯だけが周囲を照らす。
オバケの一つでも出そうな雰囲気ではあるが、そちらの方がまだ幸運だったかも知れないが。
男「『どぉしたい?親の敵でも見るような目ぇして?』」
男「『あぁお前さんを一度殺した相手はちっこいシスターさんだっけか?そっちの敵はとらねぇのか?』」
普段であれば堅実そうなサラリーマン風の男。しかし軽薄な笑みは、悪意たっぷりの言葉回しには心当たりが有りすぎる。
上条「お前らは『円周がこうなるのを待ってた』のか……!」
上条「俺達と仲良くさせる事で!『円周に善悪を学ばせる』ためだったのかよ!?」
後ろに隠れる少女を庇うために前へ出る。それはいつもの事だ。
男「『あー、あっあー。そうじゃねぇな、それだけでもねぇよ。つか』」
男「『わざわざどうして弱らしたか、ってぇ所に答えがある』」
上条「捕まえようと!……してるんじゃ、ないのか?」
わかってねぇなぁ、と肩をすくめる男達。
余裕を見せているのか、彼らが包囲を詰める気配はない。
上条(時間稼ぎさえすれば……バードウェイ達が、来る……!)
男「『――的な事を考えてるんだろうが、生憎それはちぃと難しい。何故ならあっちも襲撃してっからな』」
上条「アイツらは、お前らなんかに負けない!」
男「『だなぁ。それはどうしようもねぇ現実だが――』」
壮年の男性「――あ、あのー?」
先程一撃を入れて昏倒させた男が、頭を振って立ち上がろうとする。
どう見ても一般人の彼は、事態を把握してそうにない。
上条(二人を守りながらどうにか?……いや、するしかない!)
上条「えっと、おじさんはこっちに!」
壮年の男性「は、はぁ?」
上条(せめて円周が普段通りなら、どうにかなったんだが)
男「『おー、そいつも守るのかい?大変だなぁ、ヒーローさんって奴ぁ』」
上条「……俺はヒーローなんかじゃない。けど、お前には一生――何回生まれ変わっても、分かりやしねぇよ」
男「『そいつぁ敵なんだぜ?銃持ってお前をぶっ殺そうとしたのに?』」
上条「フザケんなっ!?お前が命令したんじゃねぇか!」
上条「人の体を操って!動かして!好き勝手しやがったのはお前だろうが!」
それは上条の辿り着いた結論。『操られているから仕方がない』と。
不可抗力ではあるし、刑法でも無罪に当たるだろう。
人間感情としても、いざ自身が同じ立場に立たされた時を考え、どうしても甘くなってしまう。
けれど。『木原』はそれをも利用する。
壮年の男性「ねぇ、上条当麻君――」
壮年の男性「――『インストールする前から敵』という発想はないのですかな?」
上条「――え」
瞬間、発光。
振り向く暇も与えず、只の被害者であった男の手から離れた赤い光が上条の太股を貫通した。
円周「お兄ちゃんっ……?お兄ちゃんっ!?」
上条「お前――お前がっ!」
壮年の男性「お初にお目もじ致します。『グレムリン』の魔術師で御座いますれば」
慇懃無礼に一礼。どこか執事を思わせる雰囲気のまま、魔術師は少し距離を取る。
円周「お兄ちゃん!傷が――」
どくどくと穿たれた傷口から血は止まらない。
傷痕を押さえようにも、華奢な掌からは防ぎきれない程に命が流れだしている。
上条「……」
男「『お?静かになったか?死んだとか?』」
円周「……木原おじちゃん、わたしはっ!」
男「『俺達を皆殺しにする、か?いいんじゃね?すれば?』」
魔術師「それは流石に困りますなぁ」
円周「……ふざけてるの?わたしは!確かに迷ってるけど!」
円周「当麻お兄ちゃんを傷つけた相手になら、なんだって――」
男「『まぁ落ち着け。そうじゃねぇ、お前が本気でするんだったら、難しくもねぇだろ。けどよぉ』」
男「『傷の手当て放っぽっときゃ、そのお兄ちゃんは死ぬだろうが?』」
円周「……っ!」
上条「……なにが、したいんだよ……?」
息も絶え絶えに肺から押し出すように上条が呟く。
男「『あーそりゃ簡単だ――お前に「諦めさせる」ためだよ』」
上条「俺に……?」
男「『じゃねぇよ無能、お前なんかに価値はねぇ。そっちの「木原」にだ』」
円周は上着を脱ぎ、止血帯を作ろうとする。しかしどこを縛ったらいいのか分からない。
魔術師「早く止血しないと死にますよ?動脈を破っているので、時間との勝負ですな」
テレビのマラソン中継でも見るように、軽い言葉。
何度も何度も円周は失敗を繰り返し……ようやく出来たのは、只キツく布を巻いただけの、お粗末な応急手当だった。
円周「……ごめんなさい、お兄ちゃん!ごめんなさいっ!」
上条「お前……どうして謝って……?」
男「『そいつは今「木原加群」をアクティブにしている。簡単に言うと人体破壊と蘇生のスペシャリストだ』」
男「『だから本来であれば、別に何一つ苦労する事無く、お前の傷口の手当も出来る――どころか、この場で簡易手術も出来た』」
男「『だが、こいつが現実だよ。上条当麻』」
男「『そのバカは「壊す」事だけを残して、加群の「治す」部分を消しやがったんだろ』」
男「『これが、現実。これが、「木原」なんだよ』」
円周「……ごめんなさい、ごめんなさい。ごめんなさいっ!」
男「『善性がどうだっつった所で誰一人救えねぇ。助ける事なんて出来やしねぇ』」
魔術師「――まぁ、アレですな。『木原数多』さんが何をやっていたかと言えば――『待っていた』と」
魔術師「あなた方が『木原円周に善意を植え付け、自壊するのを待っていた』だけですよ。ただそれだけのお話」
たたみ掛ける『木原』の悪意。
出口の見えないトンネルを除くかのような、底の知れない悪意の塊。
木原円周が獲得した善性に真っ向から反発する『悪性』の存在。
男「『生き方なんてぇのは絶対に変えられねぇんだよ!テメェがぶっ殺した、踏みにじった連中は生き返りはしねぇ!』
男「『「木原」に帰ってこい?そうすりゃ悩むも必要もねぇ。善性なんてクソだ!』」
男「『辛いんだったら、捨てりゃいい!モラルも正義もテメェが決めればいい!』」
男「『お前はもう、「木原」としてしか生きていけないんだよ――なぁ、「木原」円周!』」
これがもし暴力であれば、木原円周は膝を突かなかったであろう。痛覚を遮断するか、『気にしない』事にして笑いながら拳を受け続けたかも知れない。
これがもし脅迫であっても、木原円周は頭を垂れなかったであろう。大切なものが存在しない相手に、脅しが通用しないのだから。
だか、しかし、けれども。
自分の最も大切な存在――『理解』してくれる、受け入れてくれる人間の前で、まざまざとおのれの持つ業を暴き出された。
獲得したばかりの『善性』により、自責の念に囚われた心をハンマーで打ち砕くように。
もう、保たない。
円周「ごめんなさいごめんなさいごめ――」
彼女の言葉を最後まで言わせず――いや、言わさず。
くしゃり、と。そう、何でもないように、極々普通の事であるかのように、円周の髪を撫でたのは。
上条「――充分だ。もう痛くはねぇよ」
『木原』が最悪であるのがいつもの事であるように。
彼が立ち上がるのもまた、いつもの事だ。
円周「お兄ちゃんっ!?立ったら傷口がっ!」
上条「お前の痛みに比べりゃ、どうって事はねぇよ」
円周「わたし?わたしは別に――」
上条「じゃあ何で今、お前は泣いてやがるんだよ!」
確かめる円周の頬に流れるものはない。
だが、上条には見えている。
円周「わたしは何もっ!」
上条「分かるんだよ!お前は何も言ってないけど、お前はずっと泣いてたじゃねぇか!」
上条「誰にでもなれる能力なんて!お前が誰からも見てほしいって願望じゃねぇのか!?」
上条「でもそれじゃダメなんだよ!誰かになれるとかなれないとか、そう言う事じゃねぇ!」
目の前の少女は、こんな傷ついてたのに。
誰も助けなかったのは。
上条「お前が言わなきゃいけなかったのは、『助けて』って言葉だけだ」
――帰り道、終り
男「『ぶ、ぶはははははははははははははははっ!』」
血を吐く――と言う吹く――上条の言葉にも、一層深さを増した闇には届かない。
男「『いいねぇ。格好いいねぇ、おじさんも一回ぐらいは言ってみてぇよ、その言葉』
上条「お前が――お前たち『木原』がこの子をっ!!!」
男「『あーまぁそうだわなぁ。それは間違いであり、正解でもあるんだが。今は関係ねぇ』」
男「『でもなぁ今のはちっと頂けねぇと思うぜ、俺は』」
上条「お前に何が分かるんだ木原数多っ!」
男「『分かるんだよ、分かっちまんだよ!俺は「木原」だからな』」
男「『テメエみてぇな甘っちょろいクソ野郎とは相容れない、ってぇ事がよ』」
上条「……つっ!?」
男「『あーもうホラ、無理してカッコつけっから、そうなんだってばよ――オイ!』」
魔術師「お待ちを――失礼します」
背後に回っていた魔術師が上条に肩を貸し、ゆっくり地面へ下ろす。
ベルトを外して足の根本を縛り、応急処置を始めた。
上条「なに、を」
魔術師「すいませんね、呪的防御がかかっていると聞いたものですから、少し強めにやってしまいました」
男「『ま、こいつはこんなもんか。んじゃまぁ――行くぜ?』」
上条「お前ら、何が――」
集まっていた男達がバラバラの方向へ消え始める。
一人は徒歩で暗がりへ歩み、一人は学生らしく自転車に乗り、また他の一人は駐めてあった車を動かす。
代表格の『木原』――そして『円周』も同じ車へ。
上条「……待てよ!?どうしてお前ま――くっ!?」
魔術師「ですから安静に。ショック死してもおかしくない傷なんですから」
上条「ウルセェよっ!円周っ!」
地を這う体力すらなく、上条は声を振り絞る。
そんな彼に、彼女は『いつもの楽しそうな満面の笑み』で応える。
円周「……ねぇ、とーまお兄ちゃん」
円周「わたしも、『上条』になりたかったよ」
円周「そして出来れば、『そっち側』に居たかった」
円周「それは――『木原』じゃない、『円周』はそうしたかったよっ!」
表情が心の底からでない事ぐらい、短いながらも濃密な付き合いをした人間には分かる。
理解して、しまう。
上条「駄目だ円周っ!戻って来いっ、お前には帰れる家があるんだろうっ!?」
上条「家族じゃねぇけど、待ってる俺達が居るんだよっ!だから、だからっ――」
円周「……ううん、駄目なんだよ当麻お兄ちゃん。何故なら、それは――」
円周「『木原』なら、こんな時、こうしなくちゃいけないんだからっ!!!」
上条「……っ!」
木原円周にトドメを刺したのは誰か?
自分達が決定的に『違う』と思い知らしめたのは。
円周「だから、だからね、お兄ちゃん――」
意識が暗転する。
地面に倒れたのか、地面がせり上がって顔を殴ったのか、分からない程に疲労は蓄積していた。
闇に刈り取られる意識の中、声ならぬ声を聞く。
円周「――その『右手』で、わたしを殺して、ね?」
――病院 朝
上条「――」
上条「……?」
一方通行「……目ェ覚めたみてェだな」 ピッ
上条「……一方通行……?」
一方通行「『起きた……あァ』」 ピッ
上条「……っ!?」
一方通行「大腿部の動脈損傷と筋肉裂傷、暫くベッドで寝てやがれってェのが医者の診断だァな」
一方通行「……つってもまァ、言う事聞きゃァしねェだろォってンで――」
上条「円周は……?」
一方通行「――俺がバカの世話任されてンだが、ぐらいは言わせろ。あー、木原円周な?」
一方通行「オマエを襲撃した連中は行方不明、あン時監視カメラは切られてた上、同時刻に『木原』が起こした事故でアンチスキルは後手後手だ」
一方通行「ンで、しょうがねェから工山ンちにあったリストから、虱潰しにやってンのが、ここ三日の間だなァ」
上条「……三日?オイそれじゃ!」
一方通行「血ィ流したオマエを保護してから寝っぱなしだったンだが」
上条「……悪い。俺――」
一方通行「……あァなンだ。それはもう手遅れなンだよ」
一方通行「『木原円周』はもう、この世界に居ねェってのがこっちの推測だ」
上条「……?どういう」
一方通行「状況証拠からオマエのボスが出した結論は、だ」
一方通行「『クソ木原はクソガキを諦めさせるのが目的だった』ってェ話……なンで俺が説明しなきゃいけないンだか」
上条「……おかしいだろっ!?そんなもんはっ!」
一方通行「……あァ『無理矢理ふん捕まえてフォーマットしちまえば良くね?』かァ?俺もそう言ったンだが」
一方通行「『インストール』された連中は、『木原数多』が出ている間の事は一切記憶してねェ。が、だ」
一方通行「あのクソガキは何となく憶えてる――電気系、しかも脳神経に介入できる異能なンだろ?」
一方通行「だから最初に『インストール』喰らった時にゃ、能力で不完全にガードを――」
上条「……そうじゃねぇよ」
一方通行「あ?」
上条「どうして円周なんだよっ!?あいつはまだまだこれからじゃねぇか!」
上条「やっとだ!自分のしてきた事に罪悪感を持って!これからどうしようかって所だったのに!」
上条「やって来た事に向き合おう、ってのが……悪い事なのかよ……?」
一方通行「……たまァに思うンだがなァ。人生の幸運、不幸ってェのは分からねェよな」
一方通行「俺みてェな最悪のクソッたれがあのチビと出会って、ちょい最悪のクソッたれになったンだが」
一方通行「てめェ自身のやった事に気遣ねェ方が幸せだったのかもしれねェよな?」
上条「……なぁ一方通行。それは――分からないよ」
上条「誰がどんな生き方をしようとも、他人から見て幸せだって思われなくても。本人が納得してりゃ、いいっては思う」
上条「結局、自分がどんだけ幸せかなんてのは、自分自身で決める話だからな」
一方通行「まァ……な」
上条「でもな、円周は違うんだ!泣いてたんだよ!」
上条「あんな顔して――『自分を消しに行った』奴が、幸せな訳ねぇだろうが!」
一方通行「あー、怒鳴るな怒鳴るな。そいつァクソ木原にぶつけてやれ」
上条「一方通行……?」
一方通行「どォせバカが突っ込むだろォから、肩貸してやれってェ言われてンだよ」
上条「……ありがとう」
一方通行「別にィ?礼を言われるよォな事ァしちゃいねェがだ。もしも、だ」
一方通行「記憶を消した後に書き込めば、そりゃもォ『右手』で戻らねェンだよなァ。分かってンのか、そこら辺?」
上条「あぁ、知ってるさ」
一方通行「以上を踏まえて『木原円周の体を乗っ取った木原数多』、なんつー最悪のシロモンが出来た日にゃ、オマエはどォすンだ?」
一方通行「『学習措置』で『木原数多』を消して、一から子育てでもするのかよ?」
上条「取り敢えず、一発殴る」
一方通行「……まァ、そォなンだろうォな」
上条「中身で誰であろうとながろうと、俺はあの子を助ける。中身がオッサンだろうが、関係は、ない」
上条「例え『木原数多』であっても――いや、あったからこそ、か」
上条「これからの人生を見捨てるつもりも、知らんぷりするつもりもねぇよ」
――車で移動中
芳川「――で?どこまで行けばいいの?」
上条「……どうしよう?」
一方通行「バカじゃねェの?オマエバカじゃねェの?何テンションだけで病室飛び出してンの?」
芳川「ウチの子がツッコミを入れる日が来るとはね……!」
一方通行「オマエもいい加減にしろよクソババア?ウチでもオールボケに囲まれてンじゃねェか」
上条「あなたは菩薩みたいな人だっ!結婚して下さいっ!」
一方通行「『あー、オレオレ。今オタクの新入りさンがさァ』」
上条「ごめんよ一方通行君?もうふざけないから携帯を俺に返して、ね?」
芳川「よ、よろしく?」
一方通行「オマエもバカの戯言本気になンじゃねェよ適齢期。つーか人の携帯で婚活サイトに登録してンじゃねェよ」
上条「もしもし?上条だけど」
バードウェイ『ん?どこの上条さんだ?生憎ネタで求婚するような知り合いは居ないもんでね』
上条「怒ってるじゃん!?……イタタ」
バードウェイ『あぁ、私の知り合いの頭イタイ上条さんか』
上条「もっとこう、なんつーかな!お前も人に対する思いやりを育てた方が良いよ?マジでマジで!」
上条「つーかお前らは――探してんだよな、やっぱり」
バードウェイ『お前が寝てる間、クロムウェルは不眠不休で探し回ってはいるが、進展はない』
上条「あ、そうだ!俺、グレムリンの魔術師とかち合ったんだよ!」
バードウェイ『現場に飛散した“術式ではない”テレズマがあった。だから我々も存在は把握している』
上条「そいつが妨害している、んだよな」
バードウェイ『学園都市側の監視カメラを拝借したい所だが、三日前に『木原』がやらかしたお陰で手が出ない』
上条「お前でも無理なのか?」
一方通行「時間さえ寄越しゃァ、まァ?そこいらのハッカーには勝てても、一流連中とツールも無しにやり合うのは専門じゃねェよ」
上条「アンチスキルから、黄泉川先生からはアクセスして貰えないのか?」
芳川「君が襲われた時、多発事故が起きたのよ。勿論、『木原数多』が人為的に引き起こしてものでしょうけど」
芳川「そっちの事後処理と対策でてんてこ舞いかしらね」
上条「そいつらを縛り上げても」
バードウェイ『何も出て来なかったよ。先日の工山規範しかり、逮捕された連中は有益な情報は何も持っていなかった』
上条「……完全に手詰まりじゃねぇか……」
バードウェイ『他に判明した事は――あぁその工山がおかしな事を言い出してな』
バードウェイ『とある実験で作った「ワクチン」で「木原数多」を消した所、「俺は工山じゃない!」と言い始めた』
上条「また随分乱暴な方法を――工山じゃない?」
バードウェイ『私に聞かれても分からんよ。記憶が混濁しているか、錯乱しているのか、その両方なのかも知れない』
バードウェイ『そもそも学園側の「書庫」では工山の顔写真が載っていて、それと彼だと証明しているのだからな』
上条「……」
バードウェイ『どうした?傷が痛むのかっ!?』
上条「確か、さ。今捕まってる工山は『書庫』にアクセスしたんだよな?数日前に?」
バードウェイ『お前が寝ている期間をそこへ足す必要があるが、そうだな』
上条「『今捕まってる工山は、本当に工山』なのか?」
バードウェイ『……何が言いたい?』
上条「工山が工山だって証明してんのは『書庫』だけだ。つまり」
上条「『書庫をクラッキングして、偽物の工山の顔と偽物とすり替え』れば――」
一方通行「本物の工山は好き勝手に動ける、かよ。クソ木原のやりそォなった」
上条「誰か工山の素顔を知ってる人は居ないのか?あと出来れば『書庫』を調べられるような凄腕のハッカーとか!」
バードウェイ『少し待て!今黄泉川に連絡を取って――何?』
バードウェイ『大丈夫なのか?……あぁ、分かった』
上条「居たのか!?俺達はどこへ行けばいいっ!?」
バードウェイ『風紀委員の中に一人凄腕のハッカーが居て、しかもそいつは工山を最初に捕まえたんだそうだ』
上条「そうか!だったらそいつの所に」
バードウェイ『――現在、ジュニアハイスクールで授業中なんだそうだ』
――貸倉庫 昼
窓もなくモニタの光だけが光源となっている、ガランとした空間。
荷物が天井近くまで重ねられていてもおかしくないのだが、あるのは数人の人影と机だけ。
唯一の家具である机の上にはノートパソコン、それから伸びるケーブルが『SEED』と接続され、床に横たわった少女に被せられている。
殺風景を通り越して異様な有様であったが、疑問を挟むような者は居ない。
魔術師「いよいよ、で御座いますなぁ」
工山「『まぁな。対して嬉しくもねぇが、肉体の有り難みを感じるとか、どんな幽霊だっつの』」
魔術師「肉体と精神は切り離して考えられませんしね。私達の方では肉体を『捨てる』と言う概念はありましたが」
工山「『結局の所、精神が剥離したとしてもそれを外部に伝える手段がなきゃ、死んじまってんのと変わりはねぇよ』」
工山「『そう言った意味でカミサマだのアクマだのは、存在しねぇのと同じだろうぜ』」
魔術師「唯物論に従えば、ですか?しかし実際に魔導書を紐解けば『異界』の知識が汚染してきますし、証明は成されているのではないかと」
工山「『汚染、ねぇ?発狂か廃人程度で済むってぇのも変な話だわな。もっとリスクがあってもおかしかねぇのによぉ』」
工山「『アレだ。エキノコックスって知ってるか?』」
魔術師「寄生虫でしたな。狼や狐から人が感染するとまず死ぬという」
工山「『いや早期発見なら助かる――じゃねぇ、あーゆー寄生虫ってのは中間宿主、終宿主ってのがあんだよ』」
工山「『まずは幼生が昆虫に寄生し、それを食った鳥や動物に行って成虫になるんだ』」
魔術師「……あの?これから昼食なのですが。ラザーニャとか言う、ラザニアに似たコンビニ弁当をですね」
工山「『だが本来入るべき宿主じゃねぇ場合、激しい拒絶反応を引き起こすんだよ』」
魔術師「宿主の構造が違いますからな」
工山「『テメェらの魔導書やら異界ってのもそうじゃねぇのか?お前らが持つべきじゃなく』」
魔術師「私達以外に使われるべきものである、ですか?科学のような、オカルトのような」
工山「『古代人が作ったオーパーツだの何だの言うがね。結局ソイツらと俺達が同じ種族だって保証はねぇ訳で』」
魔術師「暗黒神話大系によれば私達人類は、『彼ら』に奉仕する奴隷でありましたな」
工山「『まぁ何にせよ――』」
キギイ、と。暗闇に少しずつ光が差す。
何重にも架せられている鍵を。電子にも強固な戒めを事もなく引き千切り、動力を切った扉を軽々とこじ開ける。
工山「『遅かったじゃねぇか、ヒーローさんよぉ』」
上条「……そうだな。それはまぁ、認めるよ」
上条「散々あんたに振り回されたし、今もあんたの都合の良い光景なんだろうな。けど!」
上条「それも、もう――最後だ!」
工山「『上条さん超かっけー、俺がマジ惚れるわー、って』」
工山「『テメェはどう思いますか、なぁ?――「木原円周」さん?』」
無造作に横たわっていた少女――木原円周。
工山の呼びかけに応え、ゆっくりと体を起こす。
頭にくっついていたヘッドギアを乱暴に引き剥がし、いつもと同じように、嘲笑いかける」
上条「円、周……?」
円周「おはようお兄ちゃんっ!大好きだよっ」
しかしその笑みは。どうしようも無く違っていて。
円周「『――なんて言う訳ねぇだろうが、ボケぇぇっ!』」
『インストール』は終了していた。
――倉庫
円周「『ヒャィィーハァッ!絶望しなぁ、「幻想殺し」さんよおっ!』』
木原円周の姿と声を使い、簒奪者は高らかに謳い上げる。
円「『ここにゃテメェに救えるような奴ぁ居ねぇんだよ!』」
円周「『テメェだってアレイスターのプランからは逃げられねぇ!クソみてぇな悪夢の中で、ゲ×吐いて死に晒――』」
シェリー「死ぬのはテメーの方だよド腐れ野郎っ!!!」
倉庫の入り口から最短軌道を描いて土塊が突進する。
上条が止める間もなく、木原達を押し潰し――そうになる前。
バキィィンッ
側に控えていた魔術師が何らかの力を行使し、跳ね返した。
円周「『まだ生きてやがったかクソババアっ!』」
シェリー「オイオイ何言ってんだよ、オォイッ?あの程度で死ぬとか殺すとか、随分ヌルいんだなぁ学園都市ってぇのはよぉ」
円周「『よく言った!もう殺すっ!』」
シェリー「これ以上アタシから奪うんじゃねええぇぇっ!!!」
再度突進しようとしたゴーレムが弾き返され、倉庫の壁をぶち抜いて行く。
魔術師「シェリー=クロムウェル様。ここは何分狭う御座います。お話は外にて賜りましょう」
シェリー「これはこれはご丁寧にどうも――テメェの血袋を泥で一杯にしてやるよ!」
魔術師「では、参りましょうか」
魔術師二人が場所を移し、散発的に爆音が遠ざかる。
室内に取り残されたのは三人――なのか、それとも二人なのか。
円周「『おーおー張り切っちゃってまぁ、何もかも遅ぇってのにどうしちまったんかねぇ』」
上条「……お前はシェリーと知り合いだったんだろ?何も思わねぇのか!?」
円周「『あぁ知り合いじゃねぇ。少なくともデータでしか知らない』」
上条「……あぁ?」
円周「『考えてもみろよ。人間一人分の記憶、ネットに保存するなんざ、どんだけ容量食うと思ってんだ』」
円周「『余所様のハードディスクに忍び込む、つっても限界はある。だから』」
円周「『俺は必要最低限の記憶しか、「こっち」に保存してねぇんだよ』」
上条「何?何を言ってるんだ?」
円周「『面倒臭ぇな。人間ってのは色々な記憶を憶えてんだよ。勉強した内容だけじゃなく、朝飯とか日常会話とかな』」
円周「『そういった細々とした記憶まで残すのは無駄だろ?』」
上条「『インストール』した連中も、か?」
円周「『あいつらはもっと断片的にしかしてねぇよ。使い捨ての兵隊に手間暇掛けねぇだろ』」
円周「『OSの再インストールと同じだ。ハードディスクをフォーマットした後、一から情報書き込むのが筋だが』」
円周「『一々記憶消すのは面倒だろ?だから少々齟齬が起きたとしても、ウイルス程度で済ませてやったんだ』」
円周「『だから兵隊どもはお前かワクチンで元へ戻る――くぅっ!俺って優しいな、なぁ?』」
上条「……円周は」
円周「『うん、きちんとフォーマットしといたぜ?記憶が入ってる所、丸々全部』」
円周「『だからもう、何をやったって戻りようがねぇ。元に戻るべき記憶が無ぇんだからな!』
円周「『――いいねぇ!その面ぁ!世界を救ったヒーローさんよぉ、たった一人のガキを救えない今、どんな気持ちだ?』」
上条「……お前は!お前だけは!」
円周「『――お前は「木原円周」を理解してない』」
円周「『こいつぁ小さい頃にあるバカに誘拐されたんだよ。理由は嫉妬だか、研究だか知らねぇが』」
円周「『窓もない部屋で何年も何年も、足枷嵌めて放置プレイだ』」
上条「……」
円周「『でも、こいつはある時、攫った連中を融かして帰って来た!「木原」らしくて結構だなぁ!そん時何つったと思う?』」
円周「『何年も監禁していた相手をぶっ殺して清々した?本当はいい人で殺したくなかった?違うね、こいつはそうじゃねぇ!』」
円周「『ただ「研究を見て欲しかった」んだとよ!たったそれだけの理由で、このバカはたまたま作った強酸で人をヤってきやがった!』」
円周「『その後はまぁ――お前も知ってるだろ?バゲージでもこっちでも善悪の区別無く、興味のためだったらなんだってするんだ』」
円周「『そんなバケモンが、人としての道徳に目覚めたからって、今更「良い子」なんてなれる訳ねぇだろうがよ!』」
円周「『何故理解出来ねぇんだっ!?俺をぶっ殺そうが、テメェらは誰も助けられねぇんだよおおぉぉっ!』」
上条「――黙れ。それはお前が決める事じゃねぇ」
上条「誰かを救うとか救わないとか、どうだって良いし、興味もない」
上条「俺が世界を救ったとか言うけどな!――俺は只、友達を助けに行っただけなんだよつ!」
上条「人殺しがどうした?悪い奴だったからどうだって言うんだよっ!だからっつっても――」
上条「円周や一方通行が、今俺の友達に変わりはしないんだよ!」
円周「『一万人ぶっ殺したクソガキと、劣化コピーのちょいクソガキ相手に、情でも移ったのかぁ?』」
円周「『救えねぇよ、テメェは。誰一人何一つ』」
上条「俺が誰かを救うんじゃない!俺はただ『助かりたいって足掻いている奴を引っ張り上げるだけ』なんだよっ!」
上条「――この、右手でなっ!」
信じるものは何か?その信念は何なのか?
逃げ場を奪われ、絶望しかできない状況に置かれても。
上条当麻は、前へと進む。
円周「『聞いてましたかぁ?俺の話と俺の話と俺の話とか?つーか何、今更どうこう足掻いた所で――』」
上条「じゃ聞くけど。木原数多」
上条「俺は只、お前に近寄っただけだ。お前の言ってるのが正しければ、俺はお前に何も出来ない」
上条「円周の体使って、殴りかかって来られたら――俺は反撃も出来ないだろう。だってのに、だ」
上条「どうしてお前は『下がって』るんだ?」
円周「『……』」
上条「お前も思ってんじゃねえのかよ――『もしかしたら』って」
円周「『……く、ぎゃははははははははははははははははっ!』」
円周「『有り得ねぇよ!そんな訳はよぉぉっ!』」
円周「『最先端科学を征く学園都市で!その頂点に立つ俺がっ!』」
円周「『何かをし損じるなんて事ぁ――』
上条「最先端の科学がどうした?テメェらの身内も守れねぇような連中がっ!」
上条「テメェ自身も守れる訳がねぇだろうがよおぉっ!」
上条「円周!聞いてるんだろ!?木原円周!」
上条「お前はどうなんだっ!?このまま消えちまってもいいのかよっ!」
上条「何か言えよっ!どうして欲しいか言ってくれよっ!」
工山「『無駄だっつのによぉ。そんなに撲殺して欲しいんだったら、してやりゃいいじゃねぇか』」
工山「『ガキはもう素直にフォーマットしたんだろ。だから遠慮する必要は』」
円周「……お兄ちゃん」
上条「円周っ!円周なのかっ!?」
工山「『遊んでんじゃねぇよ。つーかお前も信じてんじゃね――』」
円周「『――ろせっ!ガキを殺せっ!』」
工山「『あぁ?……お前、マジなのか!?』」
円周「――お兄ちゃんっ、わたしをっ――」
円周「――助け、て……?」
上条「――了解。もう心配は要らない」
上条「俺は、その幻想をぶち殺してやるっ!!!」
無造作に。軽く開いた右手で。
上条「――帰ってこい、円周」
いつもように円周の髪を、撫でる。
パキイィィィィィンッ!
異能を消す力が、音が響く。
円周「……お兄ちゃん……」
上条「……あぁ」
円周「お兄ちゃんっ!わたし、わたしねっ!」
上条「……いいよ、それは――大切だけど、今は」
上条「帰ろう、お前の家へ?シェリーが完徹三日目に突入してフラフラしてっから」
円周「……うん、うん……ッ!」
工山「『オイオイオイオイ、何やってんだ俺?あぁ?』」
工山「『ノリノリで演技すっとこじゃねぇだろが!どう考えても記憶が戻る訳ねぇだろうが!』
工山「『奇蹟なんて起きねぇだろうが!お前は絶望して這いつくばるんじゃねぇのかよ!?』」
上条「工山、じゃなかった木原数多。お前が負けた原因はたった一つだよ」
上条「――お前は円周を知らない。あの子がどんな風に笑うのか、何をすれば喜ぶのか」
上条「この子が、どれだけ狡猾なのか、ってのも含めて」
工山「『……何だと?』」
円周「数多おじちゃんはさ『一度人格を乗っ取られた』ら、対策はしない方なのかな?」
円周「対抗策の一つも取らないで、漫然と過ごすの?自殺願望でもないとそれはないよねぇ」
工山「『何が出来るってんだよ!ネットも使えねえ、「学習装置」も無い状態でだ!』」
円周「わたしは能力を使って、記憶の複製と書き込みをしてたんだ」
円周「本来であれば感情が入ってる視床――わたしが能力を強化するため、調節した所にね?」
円周「だから本来記憶がある所の記憶は消され、『木原数多』が占有しちゃったけど」
円周「『元へ戻るべき記憶』が、別の場所に残っていたから、お兄ちゃんの能力で復旧は出来たんだよ」
工山「『出来る訳ねぇだろうが!人の記憶を一々手動で書き込んでいったら、どんだけかかると思ってやがるっ!?』」
円周「だっよねぇ。だからわたしの記憶はスカスカなんだけど、まぁまぁ?」
円周「バゲージより前、お兄ちゃんやお姉ちゃん、鞠亜ちゃんと出会う前の記憶なんて、要らないじゃん?」
円周「だから結構書き込み自体は早く終わってたんだけど、ねっ?」
工山「『……それでもだっ!お前の脳髄にあったのはフルインストールした「木原数多」と、みみっちい記憶の残りカスだろうがよ!』」
工山「『その状況下で、何をどうやったら「円周」を“主”だって考えるんだっ!?』」
パキイィィィィィンッ!
異能を消す力が、音が響く。
円周「……お兄ちゃん……」
上条「……あぁ」
円周「お兄ちゃんっ!わたし、わたしねっ!」
上条「……いいよ、それは――大切だけど、今は」
上条「帰ろう、お前の家へ?シェリーが完徹三日目に突入してフラフラしてっから」
円周「……うん、うん……ッ!」
工山「『オイオイオイオイ、何やってんだ俺?あぁ?』」
工山「『ノリノリで演技すっとこじゃねぇだろが!どう考えても記憶が戻る訳ねぇだろうが!』
工山「『奇蹟なんて起きねぇだろうが!お前は絶望して這いつくばるんじゃねぇのかよ!?』」
上条「工山、じゃなかった木原数多。お前が負けた原因はたった一つだよ」
上条「――お前は円周を知らない。あの子がどんな風に笑うのか、何をすれば喜ぶのか」
上条「この子が、どれだけ狡猾なのか、ってのも含めて」
工山「『……何だと?』」
円周「数多おじちゃんはさ『一度人格を乗っ取られた』ら、対策はしない方なのかな?」
円周「対抗策の一つも取らないで、漫然と過ごすの?自殺願望でもないとそれはないよねぇ」
工山「『何が出来るってんだよ!ネットも使えねえ、「学習装置」も無い状態でだ!』」
円周「わたしは能力を使って、記憶の複製と書き込みをしてたんだ」
円周「本来であれば感情が入ってる視床――わたしが能力を強化するため、調節した所にね?」
円周「だから本来記憶がある所の記憶は消され、『木原数多』が占有しちゃったけど」
円周「『元へ戻るべき記憶』が、別の場所に残っていたから、お兄ちゃんの能力で復旧は出来たんだよ」
工山「『出来る訳ねぇだろうが!人の記憶を一々手動で書き込んでいったら、どんだけかかると思ってやがるっ!?』」
円周「だっよねぇ。だからわたしの記憶はスカスカなんだけど、まぁまぁ?」
円周「バゲージより前、お兄ちゃんやお姉ちゃん、鞠亜ちゃんと出会う前の記憶なんて、要らないじゃん?」
円周「だから結構書き込み自体は早く終わってたんだけど、ねっ?」
工山「『……それでもだっ!お前の脳髄にあったのはフルインストールした「木原数多」と、みみっちい記憶の残りカスだろうがよ!』」
工山「『その状況下で、何をどうやったら「円周」を“主”だって考えるんだっ!?』」
工山「『消えて無くなるのはお前の方じゃ無かったのかよおぉっ!?』」
円周「うん、うんっ!それはねぇ、きっとわたしの能力のせいだと思うよ?」
工山「『「卓上演劇」如きレベル1がなんだってんだ!マルチタスク出来ない以上、データ総量の大きい方を優先するだろ!』」
円周「あー……ごめんね?わたしの本当の能力は『卓上演劇』じゃなく、レベル3の『他者再生(エミュレータ)』なんだよね」
円周「効果自体は『卓上演劇』とほぼ同じだけど、『複数の人格を同時起動出来る』――」
円周「――つまりマルチタスク出来るから、主はあくまでも『わたし』なんだよね」
上条「つまり?」
円周「パソコンでゲームをしても、OSを乗っ取ったりしないでしょ?」
工山「『テメェはぁぁっ!ガキが!「木原」の足りねぇクセしやがって!』」
円周「え、なぁに?数多おじちゃんまさか『わたしが本当の事を申告する』とでも思ったのぉ?」
円周「『木原』が足りてないのは、数多おじちゃんの方じゃないかなぁ?」
工山「『……』」
円周「あ、怒っちゃったー?許して、ねっ?」
工山「『……確かに。ここじゃあ俺の負けだぁな。ムカつくが認めてやるぜ』」
工山「『だがよぉ。ここで工山をぶっ飛ばしても、そりゃ俺じゃねぇ』」
工山「『テメェらは頑張っちゃいるが、結局今回も俺にゃ届かなかったんだよ!』
バードウェイ『――等と、勝利宣言をしても虚しいだけなんだがな』
工山「『バードウェイか!テメェ姿も見せずにどこにいやがる?』」
バードウェイ『少し野暮用でね。新入りに持たせた携帯電話で失礼するよ』
工山「『姿を見せねぇのはこっちも一緒――』」
バードウェイ『――では、ないよ?私達は君の居場所を特定している』
工山「『……へぇ?言うだけ言ってみ?』」
バードウェイ『君はこの学園都市のイントラ――つまりネット内に存在しているデータの塊だ』
バードウェイ『自己データを無限増殖していくウイルス、と言った方が良いのかな?』
工山「『く、ひゃはははははははははははははははっ!』」
工山「『そうだなぁ!俺は確かに只のデータの塊だ!「木原数多」なんて名乗っちゃいるが、本当はどうなのかも怪しいぜ!』」
工山「『「SEED」なんてぇ使うバカに乗り移る悪霊みてぇなモンかね?』」
バードウェイ『そんな良いもんじゃないさ。君は病気だよ、ペスト程度のな』
工山「『それで?俺をどうしようって?まさか「右手」でサーバー殴ってナントカしようってんじゃねえだろな、あぁ!?』」
工山「『ハッ!やれるものならやってるよな、とっくによぉ!分かってんだよテメェらが俺に手も足も出せねぇなんてのはよ!』」
工山「『屏風の虎と一緒だなぁ。テメェらの武器は届かねぇ!けど俺からの攻撃は届く!』」
工山「『今度こそ、百人!いや千人単位の「木原数多」で始末してやんぜ!』
バードウェイ『難しい話ではないよ、木原数多。君は“そこ”にいる』
バードウェイ『対象が分からなければ、術など掛けようがないが。まぁ逆に?』
バードウェイ『「居る」という「定義」さえしてしまえば、幾らでもやりようはあるんだ』
工山「『何を言ってやがんだよ、お嬢ちゃん?』」
バードウェイ『そもそも「人の定義」とは曖昧なものだ。右手を失った存在は人だろうか――と問えば、多くはそうだと答えるだろう』
バードウェイ『だが両手がない場合はどうなる?足だったら?首だけだったら?』
バードウェイ『シリンダーの中に浮かぶ脳髄だったら?それが「人」なのだろうか?』
バードウェイ『まぁ私は別に興味もないし――事も、ないか。が、それは境界線を越えるのでこちらから踏み越えはしないよ』
バードウェイ『だから私は魔術師らしく、魔術を掛けるだけの話』
バードウェイ『「体を捨て電気反応だけになった相手」にな?』
工山「『……あぁ?』」
バードウェイ『術式の名前は「ハーメルンの笛吹男(パイドパイパー)」』
バードウェイ『効果は中世で行われた鼠殺しだ――が、一部ポカーンとしている馬鹿者がいると思うので、解説しておこうか』
バードウェイ『中世、ハーメルンという街へ笛吹の男がやってくる』
バードウェイ『街では鼠が悪さをして大変困っていたが、笛吹は鼠の駆除を申し出る』
バードウェイ『男が笛を吹くと街中の鼠が現れ、男についていった。男は近くの湖に膝まで浸かると――鼠たちは皆溺れ死んだ』
バードウェイ『この後、報酬を貰えなかった笛吹は笛を吹き、子供達を誘拐してしまった――と言うオチがつくが』
バードウェイ『さてさて、聡明な木原アマ……なんとか君。有名な伝説をモチーフにした魔術、その効果はどうだと推測するかね?』
工山「『……自殺、か!』」
バードウェイ『黒死病を媒介したのは鼠とノミ。彼らを殺したとしても、死骸がそこら中に残ってしまえば新たな感染症が広がる』
バードウェイ『それを防ぐため、この術式は「人里離れた場所で自滅する」ようになっている』
バードウェイ『いやはや、人間の知恵だね』
工山「『……ハッ!そんなバカな事が出来る訳ねぇだろ!俺がどこにいるのかも――』」
バードウェイ『君が「フルインストール」する際、当然「全ての人格データを用意する」必要があるね?』
バードウェイ『そのデータの場所、ダウンロードした履歴はこちらで押さえている。君の育てた白いのが頑張ってくれたんだ』
バードウェイ『虫のように隠れていれば良かったのに、君は下手な欲を出して「本体」とも言えるデータ群を晒してしまった訳だな』
工山「『まだ、まだだ!他の俺が――』」
バードウェイ『あぁそりゃ他にも居るだろうな?君に「インストール」された連中が』
バードウェイ『でも君達は必ずネットで「同期」させて連絡を取るのだろう?そこら辺の流れも突き止めてあるし』
バードウェイ『そっちにも彼らが同期する度に「木原」だけが消えていく』
工山「『やめろっ!?コイツが、コイツの体がどうなっても良いのかっ!?』」
バードウェイ『ふむ、人質かね?ようやく事態の深刻さと魔術の脅威を理解出来たのは良かったのだが』
バードウェイ『生憎とそれは無理なのだよ、木原君。あぁその人間が無価値という訳では無いんだ』
バードウェイ『実はもう「笛吹男の魔術は掛け終わった後」なんだ』
工山「『――は』」
バードウェイ『新入りが長々と話している最中、暇で暇で仕方がなかったので、つい』
バードウェイ『だからもう、君が何をしようがしまいが、泣こうが笑おうが、本体のデータは「死んだ」んだ』
バードウェイ『残された君達は次に何をすればいいのか、同期して確かめるだろう?そうすればその者達も「自滅」スイッチが入る』
バードウェイ『安心したまえ。君の人格データに“だけ”効果を発揮するのは、工山君の偽物で実験済みだから』
バードウェイ「と、そろそろいいかな?――おい、新入り」
上条「――いえっさー、ボスっ」
バードウェイ『――あぁそう言えば。私の銃は届かない、君がそう言ったのを憶えているか?』
バードウェイ『だがまぁ私の専門は別なんだ。銃を使わなくとも魔術があるのさ』
工山「『バードウェイ!レイヴィニア=バードウェイっ!!!』」
バードウェイ『――ばぁーん、ってね?』
上条「死人は、墓へ帰りやがれえぇっ!!!」
パキイイィィィィンッ……!!!
――バッドエンド2
居酒屋チェーン店。
浜面「――って訳でさぁ、俺悪くないよね?俺別に悪い事したんじゃないよね?」
上条「……」
浜面「ねぇ、聞いてんの大将?ねぇってばよ」
上条「お、おぉう?あー、ごめんボーっとしてたみたい」
上条(あるぇ?俺何でスーツ着て浜面と飲んでんだ……?)
浜面「俺が上司にメール出したらさぁ、激おこじゃんか?なにもそんなに怒らなくたっていいんじゃね?」
上条「ん、あぁ?誤字だろ?なんて入れたんだ?」
浜面「あー『小一時間立ったら』ってのをだな」 ピッ
ケータイ『濃い乳時間×ったら』
上条「アウトじゃん!?出る所に出たら完敗するぜっ!」
浜面「てか、こないだ嫁さんに指摘されるまで、『小一時間』を『濃い乳時間』だと信じてた」
上条「浜面君、お前大丈夫?社会人の常識以前に問題だよね――って嫁?お前に?」
浜面「いや、何言ってんだって。オタクの嫁さんとよく一緒にいるでしょーよ」
上条「俺もっ!?誰と!?エリスじゃねぇだろうなっ!?」
浜面「エリスぅ?また新しいラッキースケベ的な話?」
上条「いや、お前に言われるのは心外なんだけど……」
上条「つーか誰?俺誰と所帯持ってんの?またこの展開なの?」
浜面「……げふっ。あーでもあんたんとこの嫁さんは良いよなー。家事も出来るし料理も美味い、ある種男の理想的な感じじゃね?」
上条「メシが美味い、か」
上条(それで考えられるのは五和とオルソラ……いや、つか他に女の子の手料理食べた事ないっけか)
上条(土御門の妹さんはノーカンとしても、他に――あぁ。御坂は……既製品でしたっけ)
上条(あとレッサーは上手かどうか別にして『料理する』って言ってた)
浜面「いやでもウチの嫁のメシが一番ですけどねっ!えぇっ!」
上条「お前の嫁さんも気になってんだけど、結局滝壺さんになったの?」
浜面「えっ?」
上条「えっ?」
浜面「……それじゃそろそろ帰ろうぜ?あんま遅いと叱られっちまうし」
上条「誰に?お前の嫁の名前だけ教えて?なんだったら子供の名前でも良いから」
浜面「でもそっちは年下じゃんか?いいよねー、体もつのー?」
上条「露骨に話を逸らされたんだが……年下、ねぇ」
上条(って事はレッサー?オルソラは年下じゃねぇよな)
上条(つか五和って幾つぐらいなんだろ?タメぐらいって感じはするけどさ)
浜面「それじゃ――っとすまん」 ピッ
上条(あ、携帯だ)
浜面「『うん……うん、大丈夫だって!浮気?してないってば!』」
上条(あぁ、良い旦那やってんじゃんか。相手はスッゲー気になるけど)
浜面「『あぁ、コンビニで豆腐?わかった、了解、それじゃ――にゃあ』」
上条「待てやコラ!お前今『にゃあ』つったか?言ったよな?」
上条「お前散々ロシアまで行っといて最終的にはフレメアに着地したのっ!?不時着にも程があるだろ!どんだけ滑走路の手前に落ちたんだ!?」
浜面「よーしっ大将っ!それじゃまたなーーっ!」
上条「……よく麦野さんと滝壺さんに殺されなかったな。ある意味凄ぇけど」
――自宅前
上条(――と、まぁ自宅まで来ちゃいましたけど)
上条(住んでるアパートそのまんまってのも、どうかと思わないでもないけど。それはそれでリアル、なのか?)
上条(前回のエリスに比べたら、うん。男の娘じゃなきゃ、まぁまぁ的なね?)
上条「……」
上条「……よぉっし!行くぞっ!」
上条「たっだいまーーーっ!」
ガチャッ
円周・鞠亜(メイド服)「「お帰りなさいませ、ご主人様っ!」」
上条「あ、すいません。部屋間違えましたー」 クルッ
円周「――はい、確保―っと」 ガシッ
鞠亜「往生際が悪いんだな、君も」 ガシィッ
上条「離せっ、離せようっ!?アパートの一室にメイド居る時点でおかしいじゃねぇかよぉっ!?」
舞夏(メイド服)「おー、上条じゃないかー。玄関でなにやってんだー?」
上条「そりゃまぁ確かにお前はそうだろうけどさぁっ!俺が言ってんのはそうじゃないじゃん!?もっと一般的な問題だ!」
土御門(メイド服)「カミやんちじゃいつもの事だにゃー」
上条「おいクソメガネ?お前何やってんだ?暫く姿見えないと思ってたら、メイド好きが高じてメイドになったの?」
土御門(メイド服)「意外と暖かくて、秋口頃からは着やすいんだぜぃ?」
上条「着ないからな?着る必要性がないからね?あとお前が着てるのはレイヤーさん向けので、本職用のではないんだ」
円周「まぁまぁ良いから中へ、ねっ?」
鞠亜「そうだぞご主人様……全く、手がかかってまたレベルアップしてしまうじゃないか!」
上条「面倒臭っ!?個人メイドになっても面倒臭さそのままかっ!?」
――自宅
円周「今日も一日お疲れ様でしたー、お兄ちゃんご主人様―」
鞠亜「ご飯にするかね?それともお風呂?それでもなく」
上条「言わせねぇよ?ベッタベタのシチュってどういう事?今時、家帰ってメイドって何の話?」
円周「お兄ちゃん、忘れちゃったのっ!?酷いよ、あんなに情熱的にプロポーズしてくれたのにっ!」
上条「……なんつったの、俺?どんな取り返しのつかない事言っちゃったの?」
円周「『一生俺のメイドさんになってくれないかぶち殺す?』」
上条「脅迫っ!?途中からそげぶがくっついちゃってるけど、もしかしてそれ噛んでただけじゃねぇのっ!?」
上条「……いやでも、んな憶えねぇけど、それ自体はまぁまぁ合法だよね?都条例的なアレコレをさっ引いたとしても、自由の範囲だよな?」
上条「んじゃなんで雲川さん居るの?二人のメイドがお帰りなさい、ってそれもうお店だよね?」
円周「あー、それはわたしが鞠亜ちゃんを誘ったら、『経験値稼ぎなら?』って事で」
上条「はい?」
鞠亜「好きでもない男に抱かれるとかっ、これ以上の屈辱はないだろうな!」
上条「あのー、雲川さん?俺前も言ったかも知れないけど、心の病気は専門の人に診て貰った方が良いよ?ねっ?」
上条「雲川先輩には俺が言っておくから、取り敢えず帰れ、な?」
円周「いやでも個人の性癖はしゃーない、ってKAKER○先生も言ってるし?」
上条「性癖じゃねぇだろ!?……あぁいや、合ってのんか?つーかそれで良いのか?」
鞠亜「勘違いするなよっ!私は別に君の事が好きなんじゃないんだからなっ!」
円周「おー、本気で言ってるのに、なんかツンデレっぽい感じがするよねぇ」
上条「……ツンデレが発生しすぎて、色んな所で問題になってる気がするよな。マジで」
円周「BL系では宿命の敵同士のカプで、『なんでこの二人?』って聞くと」
円周「『あぁコイツ、ツンデレだからこうなんスよ』って真顔で答えられた事あるしねぇ」
上条「怖いから中身には触れないけど、大抵の男は女が好きなんだからね?ロ×であっても一応は」
円周「――あ、良い事考えたぁ」
上条「ごめんちょっと俺、書類忘れたみたいだから暫く――離せっ!?お前らの変態プレイに俺を巻き込むなっつってんだろ!?」
円周「よぉぉっし!それじゃ今日も経験値上げしよっかぁ!」
上条「助けてー!?誰か、誰かっ!?」
鞠亜「大丈夫、先輩。無理矢理されるのもそれはそれで興奮――じゃなかった、レベルが上がるぞ!」
上条「お前もう本末転倒すぎるじゃねぇか!?ちったぁ自分の言動顧みやがれ!」
円周「うん、うんっ!こんな時、『木原』ならきっとこう言うんだよね……ッ!」
円周「『もう諦めたらどうですかー?』」
上条「人生かかってんだよ!主に俺とか俺とか俺のが!」
円周「やだ……上条の下条さんは元気……!」
上条「話を聞けぇぇよおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
――倉庫
円周「――むー?」
上条「おはよー」
円周「……なんか今、4年ぐらい先の夢を見てた気がする……」
上条「ふーん?知りたいけど藪蛇になりそうだから、自制するな?」
円周「えっと、あれ?どうしたんだっけ?」
上条「『木原数多』をぶっ飛ばした続き。今、こっちに黄泉川先生達が向かってんだって」
円周「お姉ちゃんは?
上条「逃げられた。つか隣隣」
シェリー スースー
円周「こうやって見るとキレイ系なんだけどなぁ。言動が残念すぎて」
上条「自然体で良いんじゃね?……というかこのパーティ、これっぽっちも色気がねぇなぁ」
円周「お姉ちゃんは慣れてないってのもあると思うけど。そこは可愛いよねぇ」
上条「完徹しながら魔術使ってたんだから、あとで礼は言っとけ――お前は?記憶、とか」
円周「何が無くなってるのかが、まず分からないみたい」
上条「うん?」
円周「福袋を買いました。でも途中で落としました。さて、中身はなーんだっ?」
上条「逆に残ってる部分は?」
円周「専門知識は……数多おじちゃんも使うつもりだったみたいで、丸々残ってる、かも?」
円周「雑多な記憶のアーカイブは完全にフォーマットされてるや。腐っても『木原』だなぁ」
上条「……」
円周「でもまぁお兄ちゃん達の記憶はあるから、別に困りはしないけどねー」
上条「……ん、まぁそれで良いんだったら、まぁけど。そんなに気負うなよ」
円周「気負ってないよ?やだもうっ、お兄ちゃんってばシスコンさん?」
上条「……これから、だからな。これからだ」
円周「そうだねぇ。あとカップは二つぐらい上がって欲しいかなぁ」
上条「まだ早いよ、バーカっ」
円周「ぶーっ、おっきくなったもお兄ちゃんには触らせてあげないもん!」
上条「大きくなると良いなぁ。いつの話だか分からないけど――つーかなぁ」
むにー、と円周の頬を引っ張る。意外に良く伸びた。
円周「むー、あにするお?」
上条「ガキが粋がるんじゃねぇよ。お前はまだ子供なんだから、さ」
上条「『木原』だかなんだか知らねぇけど、スプリーキラーとか言われてっけども、お前、只の、ガキじゃねぇか」
上条「自分のしでかした事に責任も持てない子供だよ……まぁ、俺もな」
手を離して両手を見る。年相応とは言えない程、大小の傷痕が残っている。
上条「色々言われちゃいるけど、その実殆どは誰かに助けて貰ったり、人のケンカに乗っかったりした結果だしなぁ」
上条「あん時も、他のあの時も余計に首突っ込んで大怪我したり、やってる事はガキだけどさ。まぁでも」
上条「だから助けて欲しいって時には。次、お前がどうしようも無くなったら――」
上条「――きちんと『助けて』って言えよ、な?」
円周「わたしは」
上条「視床、だっけ?お前が能力を強くするために、上書きした所」
円周「感情を司るとこ、だけど」
上条「芳川さんに聞いたんだけど、人間の脳は一度書き込まれたらそれっきり、って訳じゃないんだと」
上条「お前が勝手に書き換えた所も、それなりに感情が表に出れば上書きされるって」
上条「……確かに、今のお前は『足りない』のかも知れない」
上条「元から少なくなってたのに、『木原数多』が消しやがったから、余計に」
上条「けどな、『お前』はそこに居るんだ」
上条「無くなったんだったら探せばいい。落としたんだったら拾えばいい」
上条「『足りない』んだったら、『足りる』まで詰め込んじまえよ」
円周「……うん」
上条「朝起きてバードウェイやシェリーとケンカしながらメシ食って」
上条「学校行って周囲をドン引かせて。メイドカフェ行ってカモ相手に金巻き上げて雲川さんとボケ倒して」
上条「日が暮れたら手ぇでも繋いで家に帰ればいいじゃねぇか。んなダラダラっとした毎日続ければ、その内きっと」
上条「お前ん中の、お前って『筺』は一杯になってんだよ」
円周「……そう、かな?わたしはここにいても、いいのかな……?」
上条「人の機嫌伺うような殊勝なキャラじゃねーだろ、お前は」
円周「……あはっ……お兄ちゃん、酷いなぁ」
円周「でも――うん、うんっ!分かったよ!」
上条「……そか」
円周「お兄ちゃんとしては三人とも行くルートなんだねっ!」
上条「全く理解してねぇな!?あれ、お前ラジオでも聞いてたの?」
円周「なんか未来予想図がハーレムルートになってるんだけど」
上条「例だ、例!わかりやすくしただけだっ!他意はねぇしっ!」
円周「って事なんだけと、どうかな――シェリーちゃん?」
上条「はぁ?何言ってんだ、おま――」
シェリー「……マジで?ほら、サブイボが」
上条「なんで起きてんだあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?つーか、まさか!まさかお前聞いて――」
黄泉川「なー、だから言ったじゃんよ?こいつはまた弱った女につけ込むじゃんて」
上条「先生までっ!?来たなら声かけろっ、かけろよおぉぉぉぉぉぉっ!?」
上条「も、もしかしてこれはっ!この展開は最悪のアイツが――」
バードウェイ「『だから助けて欲しいって時には。次、お前がどうしようも無くなったら――』」
バードウェイ「『――きちんと「助けて」って言えよ、な?』」 キリッ
上条「やーーめーーろーーよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?そういうテンションじゃねぇ時に持ち出すの卑怯だろうが!」
上条「つーか全員じゃんっ!?どうして俺、今良い事言ったのに!全部台無しだし!?」
バードウェイ「頑張れよ、『お兄ちゃん』」
シェリー「そうだぜ、『お兄ちゃん』。妹の面倒ぐらいしっかり看やがれ」
上条「え、俺この先円周係って事か!?ずっと!?」
黄泉川「まぁお前は一人ぐらい世話した方が力出るじゃんよ、『お兄ちゃん』」
上条「やだ妹が四人も出来たっ!?」
円周「まぁまぁ色々あったけど――」
円周「――これから、よろしくね、お兄ちゃんっ!!!」
――断章のアルカナ 第二話 『ラプンツェル』 -終-
――次回予告
――幽州。今ではない、いつか
野盗「おいおいお嬢ちゃん達よぉ、この橋通りたければ今履いているニーソ置いていきな」
愛紗「ふっ、野盗と思えばただの変態の群れか。我が青竜刀の露と消えるがいい!」
鈴々「にゃー?別に靴下ぐらい鈴々はあげても良いと思うのだ?」
桃香「だ、駄目よ鈴々ちゃん!?あの人達はその――」
愛紗「人の物を強引に取るのは良くないって意味ですよね!桃香様!」
桃香「え?あぁうんうんそうなんだよ!ちゃんと働いたり、自分で編まなきゃいけないんだよね!」
野盗「い、家には病で伏せっている弟が居るんだ!弟が『ニーソが、ニーソをペロペロしたい』ってうわごとを言うんだよっ!?」
愛紗「もう死んだ方が良いな、その弟」
桃香「っていうか時代考証がね?頑張ろ、もうちょっと考えてみよ?」
野盗「あぁもうやっちまえ、お前らっ!」
桃香「きゃぁっ!?」
愛紗「数が多い!」
鈴々「桃香お姉ちゃんっ!」
野盗「ひゃっはーっ!今夜はニーソでご馳走だぜ!」
男?「――よっと」 カ゚ッ
野盗「ぐああっっ!?」
男?「危ないから、俺の後へ」
桃香「は、はいっ」
野盗「だ、誰だテメェっ!男はニーソ履いてねぇからどっかいけ!」
愛紗「もし履いていたら奪うのか……?」
野盗「可愛は正義!」
男?「なんか数も多いし、斬ったら汚れそう――召喚、『ケルベロス』!!!」ヴヴウゥンッ
愛紗(なんだ?地面に広がった光の円から何かが出て来る!?)
鈴々(虎よりも大きいのだー……白い狼?)
ケルベロス『盟約により魔獣ケルベロス推参仕りました。我が牙、我が体、我が煉獄の炎は主がために』
ケルベロス『救世主(メシア)様、どうかご下命を拝する栄誉をお与え下さいませ』
桃香「喋った!?」
男?「からかうのはやめろって――パスカル、薙ぎ払え!」
パスカル(ケルベロス)『カズトおにーちゃんは変わらないよね――よっと』
ゴオオオオオォォォォォォッ!!!
野盗達「ぐああああああぁぁっ!?」
愛紗「凄い!辺り一面が炎で――」
鈴々「うー、もふもふしたいのだー」
男?「――大丈夫?怪我はない?」
桃香 ポーーーーーーーッ
男?「えっと?」
愛紗「あぁ大丈夫、助かった事に関しては礼を言おう」
鈴々「もふもふっ、もふもふしたいのだっ!」
愛紗「こら鈴々っ!」
男?「あぁ、いーよいーよ」
鈴々「本当なのか!?」
男?「パスカルが嫌だって言わなかったらな」
パスカル『うんいいよー。あ、でもシッポ引っぱったりはやー』
鈴々「わーい、なのだっ!」 モフモフモフモフッ
愛紗「喋る、狼……」
男?「別にケルベロスは珍しくもないと思うけど。あぁどっかのシェルターから来たの?」
愛紗「しぇ?すまない、聞き覚えのない単語だ」
男?「と言うか、ここどこだ?昨日までカテドラルに居たと思ったんだが」
愛紗「かて、どら?それも知らないな」
男?「参ったなー……あーでも姿をくらまそうとしてたから、丁度良いっちゃ良いのかも」
桃香「あ、愛紗ちゃん!ちょっとちょっと!」
愛紗「なんですか桃香様。引っ張らなくても」
桃香「そうじゃなくって!この人、管輅先生の予言にあった――」
世界が乱れ、大陸が血によって赤く染まる時、人の英雄が現われる。
それは天の世界より遣わされた救世主――ではない。決して“この”世界を救うために訪れた存在ではない。
男?「まぁなんか物騒みたいだし、近くの街まで送るよ」
だが彼の者は紛れもなく救世主である。
遠き所の、いつか、どこかの国を悪しき物から、そして正しき物から、人を救った存在。
桃香「あのー、あなたのお名前は――?」
男?「北郷、北郷一刀」
彼の者は白き獣を友とし、この世界をも再び導かん。
パスカル『おにーちゃんはね、前の世界“も”救ったんだよ』
北郷「こら余計な事言うな。ってかお前今“前の世界”って言ったか!?」
超ハードルート(現実→真・女神転生Ⅰ→現在)を辿った北郷一刀の、ある外史の物語が始まる――。
――次回予告 -終-
ヽ \ / ____ヽヽ ___|__
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__.-‐=ミ 厂_〉
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| ! | ヽ_ノイ:::::/丶
/(__/ //!厶':::::_/)、
〉 l// {:::::::厶 ト、{::::..、 , //
/ / // !l∧::::∠」::|' `ヽ::::メ、/_///
ゝ{/ l l .!| }:::::::::::::! `ヽ:://r_)
、_) ) ゝ, ト==!:::::::::::::::. 〃ヽ{/
`ー ' ノ^ー/乂:::::://ミx=、
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l: : :' ./.:′
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{: :/ ゞ=!
,: :/ `¨
ノ:./
{{: :.!
`¨
――次回予告
少女「昔々――ではない。かといって最近の話でもない、とあるおとぎ話」
少女「新大陸、カンザス住むドロシーはある日竜巻に家ごと飛ばされてしまう」
少女「行き着いた『オズの国』でドロシーは旅に出る。カンザスへ帰るため」
少女「大魔法使いの『オズ』が暮らすエメラルドの都へと向かった」
少女「ドロシーは出会う――臆病者のライオンと」
少女「ドロシーは出会う――脳の無いカカシと」
少女「ドロシーは出会う――心の無いブリキの木こりと」
少女「まぁアレだよ。ドロシー達は冒険した末、こう悟った」
少女「臆病者のライオンは『勇気』を手に入れ」
少女「脳の無いカカシは『智恵』を手に入れ」
少女「心の無いブリキの木こりは『意思』を手に入れた」
少女「かくしてドロシーは無事カンザスへと帰り来たる事が出来ましたとさ」
少女「めでたしめでたし」
少女「……」
少女「クロムウェルは『勇気』を手に入れ」
少女「小娘は『意思』を手に入れた」
少女「と、すれば差し詰め私は『智恵』かね。ふむ」
少女「――『それ』は必要ない。私はもう持っているものだ」
少女「至高にして唯一、輝かしい『結社』である我々の英知に欠けたる所など、無い」
少女「重ねて言おう。我らは望であり、朔たる存在では――無い!あってはならないんだ!」
少女「――などと、まぁ年相応に肩肘を張ってみても、だ」
少女「如何ともしがたい時代は抗する術もなく、千年王国は二度目の死を遂げた」
少女「ならば孤独に星を詠みあげながら征くのもまた、悪くはないかも知れないな」
少女「それもまた、アルカナの導きによって」
少女「……これは、とある星詠みの物語」
少女「『栄光』を失い、輝きを見上げ嗤う支配者の物語」
少女「『断章のアルカナ』最終話」
少女「――『オズの魔法使い』」
――次回予告 -終-
※今週投下分は終了となります。読んで下さった貴方に感謝を
二話目もなんだかんだで8万とんで373語。原稿用紙200枚ですね (´・ω・`)
……じゃないですね、20×20にページ設定弄ってみたら、396枚……うん
説明台詞ばっかりでしたが、まぁまぁ伏線回収で必要だったので
人気無いですねぇ、なんかむ
乙です
乙!続き楽しみに待ってる!
乙エス
にせ予告がきになりすぎる
黄泉川が妹とか羨
乙乙
乙
おっつ
乙
良かった
ラストか…!
もう終わっちゃうの!?Σ(゚Д゚)
始まりがあれば終わりもある、そういう事だ。
始まりがあれば終わりもある、そういう事だ。
重要なんですねわかりません
ラノベの文章量がどれくらいだろうか
早く続きを…!
>>1の書く浜面が何か好きだわ俺wwwwwwwwwwwwww
>>369-385
ありがとうございます。最終話っつっても前二人と同じぐらいの文量(予定)なので、完結は早くても来週
――断章のアルカナ 最終話 『オズの魔法使い』
――4th.
――『明け色の陽射し』 極東支部(兼・上条のアパート) 朝
上条「うー……?」
円周 スースー
上条「……毎日ベッドから落ちる訳ねぇだろ。おーい」
円周「……んー……?」
上条「よいしょっと」
上条(ちょい寒くなってきた朝、円周の高い体温はカイロ代わりになりそう……扱いがペットっぽい気がする)
上条(鋭すぎる牙を気にしなければ、の話だけど)
上条(やったら軽い体を適当にベッドに投げ……いやぁ、定員オーバーかぁ?)
上条(シェリーがバードウェイを抱え込んで寝てる。バードウェイの方は苦しそうだけど、まぁいいか) ポイッ
円周「……むぎゅ」
上条(さって、俺は朝飯を作るとしましょうかね)
……
上条「おーいお前ら朝だぞー、おっきろーっ!」
円周「……おはよー」
バードウェイ「……ち。寝苦しいと思ったら、またコイツか……」
シェリー「……」
円周「お兄ちゃん、お姉ちゃんもおはよー。ほら立って?お顔洗いに行こ?」
バードウェイ「先に借りるぞ」
シェリー「だぁぁぁぁぁぁりぃぃっ……」
円周「お酒臭いなぁ、もう」
シェリー「黄泉川から誘われたのよ。しょーがねぇだろ」
円周「お酒始めたの最近なんでしょ?慣れてる人と同じペースじゃ潰れるってば」
シェリー「だりぃ……あー、肩貸して」
円周「しょうがない、ねっと!」
シェリー「おぅふ。世界が揺れてやがるぜ……」
上条「……なんかもう、最初の頃は考えられなかった光景だな」
バードウェイ「まぁ良くも悪くも馴染んだのだろう――と言うか、予想以上にダメ人間だな」
上条「芸術家って見るからに一芸特化っぽい感じだし、仕方が無いじゃないかなぁ」
バードウェイ「頭のネジが外れた連中と言ってやればいいのに」
上条「朝から飛ばしすぎだ――ってお前、意外と寝起きに強いのな」
バードウェイ「子供扱いは止めろ、と何度も言ってるんだが――体に教え込む必要があるのかなぁっ?」
上条「今日はサバの香油通し焼きだねっ!ほぉら焼き立てが一番美味しいんたぞぉっ!」
バードウェイ「うむ。日本に来た以上、和食を堪能せねばな」
上条(良かったー)
バードウェイ「オシオキは放課後でもいいだろう。楽しみにしておけ?」
上条「……それまでに機嫌治ってるといいなぁ」
……
円周「ごちそうさまでしたーっ!」
バードウェイ「ごちそうさま」
シェリー「あー……ごちそうさまでした」
上条「はい、お粗末様でしたー。っと円周、今日は早番だっけ?」
円周「遅番だねぇ。片付けとお洗濯はやっとくからねっ」
上条「悪いな」
円周「うーん、居候その三が役に立たないからねぇ」
バードウェイ「三じゃないぞ。最初にここをアジトにしたのは『明け色の陽射し』なんだが?」
バードウェイ「むしろ貴様らが要らぬ騒動をデリバリーしくさったんだろう」
円周「そうじゃなかったら今頃ラブラブだったのに、とか?」
バードウェイ「表へ出ろ。人形モドキに『恐怖』の感情を叩き込んでやる」
円周「うん、うんっ!そうだよねっ、こんな時『木原』ならこうするんだよね……ッ!」
シェリー「あー……円周、着替えー」
円周「あ、ごめんね?殺し合いは少し待ってて?」
上条「やめなさいお前ら。メシの量減らすぞ」
バードウェイ「だがしかしお前のその視線がクロムウェルから以下略そして目潰しっ」 ズブッ
上条「のぉぅっ!?また俺が理不尽に攻撃をっ!?」
円周「でもないと思うけど……んー、お姉ちゃんの体ってすっごく均整が取れてるよねぇ」
上条「実況だけするとか生殺し過ぎる!」
バードウェイ「不健全すぎる生活環境でどうにかしたオルソラを誉めるべきか、迷う所ではある」
シェリー「テメェら私の努力とかって可能性は考えねぇのかよ」
バードウェイ「違うだろ、実際。『必要悪の教会』でも依存しまくってると見るが」
シェリー「……合ってるけどなぁ。つーかアイツも私なんかに構ってねぇで、男の一人でも作ればいいのによぉ」
円周「ローマ正教のシスターさんって、結婚はアリなの?」
シェリー「あー……ちっこいの?」
バードウェイ「その名で呼ばれるのは酷く気に入らないが、実は可能だ」
バードウェイ「ローマ正教では司教未満は妻帯を許されている、と言う事になってはいる。が、女性が聖職に就く事自体が難しい」
バードウェイ「そもそも十二使徒自体に妻帯者が居る上、マグダラのマリア――イエスの母でない方のマリアが妻だった説もある」
バードウェイ「教会側は否定しているが、彼女は懺悔した娼婦と見なされる場合も多く――」
円周「あ、じゃあお兄ちゃんなんてどうかな?甲斐性以外はあると思うよ?」
上条「呼んだ?……つーかまだ目が痛くて、見えないんだけど」
バードウェイ「……まぁ、アレだ。したいならばすればいいだろう。イギリス清教に改宗しても、同じ神には違いないのだから」
シェリー「アンタ今20億人にケンカ売ったぞ?……って、スーツ着るの面倒だなぁ」
円周「あーもうっ、きちんと頭梳かして!」
シェリー「いいんだよ、これで。別に見合いの席じゃあるまいし」
バードウェイ「と言うかお前ら、時間はいいのか?」
上条「時計時計……げ。すまん、俺先に出るわっ!」
シェリー「待てコラ!私はまだ終わってねぇぞ!」
上条「お前は黄泉川先生が迎えるくるからいいじゃんか!俺はバス通学なのっ!――って、先に出るわっ」
バードウェイ「ならば、私も出ようか。鍵を忘れるなよ、小娘」
円周「いってらっしゃーーいっ!」
パタン
――通学路
バードウェイ「しかしまぁ馴染んだものだな、お前もあいつらも」
上条「その中にお前も入れとけ。最初の方はよく口喧嘩で殺し合いにまでなりそうだったよな?」
上条「今じゃすっかり――あれ?今朝もしようとしてませんでしたっけ?成長してないよね?」
バードウェイ「仲間の絆的なものを期待されても困る。どうせ、お前の家を出たら魔術結社、科学サイド、イギリス清教の三竦みへ戻るんだからな」
上条「それもなんか寂しい話だ……なんとか、ならないのか?」
上条「割と気に入ってるんだよ、こう言う穏やか――じゃないけど、まぁまぁ家族っぽい生活」
バードウェイ「それは禁書目録が帰って来たら言ってやるといい」
上条「……そうだよな。お前が居るのってパトリシアのついでだもんな」
バードウェイ「あと4日なのか、もう4日しかないのか。気分の持ちようだな」
上条「シェリーも、あんまこっちには居られないだろうし。円周はどうするんだろうな?」
バードウェイ「間違ってもお前の所で保護しようとするなよ?『必要悪の教会』がぶち切れる」
上条「科学サイドの元狂信派ですもんねー。実際にはほぼ被害者側だけど」
バードウェイ「人生とはそういうものだよ。別れがあれば出会いもある。それは仕方がない事だ」
上条「強いんだな、お前は」
バードウェイ「なんだね、いよいよ『明け色の陽射し』へ入る気になったのか?」
上条「この生活を続けられるんだったら、それも悪くねぇよなって」
バードウェイ「出来ない訳でもないが、それをするには多大な犠牲を支払わねばならない。お前も私も」
バードウェイ「……まぁ、どうしても、と言うのであれば手が無い訳でもないのだが」
上条「マジで?じゃ、それで行こうぜ!」
バードウェイ「……ぅ。ま、まぁまぁ、その内にな?」
上条「そっかー」
プップー
上条「バス来たんで、んじゃ」
バードウェイ「あぁ、勉学に励みたまえ――では、サヨナラだ」
上条「おー」
ガタン、プップー
バードウェイ「……さて、次は」
――自宅前 道路
シェリー「……おぅ」
バードウェイ「しかしアレだな、お前もそうやってれば少しは見れる外面だってのに」
シェリー「いーんだよ、私はこれで。一生喪服を着ていくって決めてんだから」
バードウェイ「魔術名にするぐらいだから相当なもんだとは思うが、まぁ程々にな」
シェリー「あぁ」
バードウェイ「ではな」
シェリー「待てよ」
バードウェイ「うむ?」
シェリー「あー……その、何よ。アレだ。アンタもあれだぜ」
シェリー「ガキはガキらしく、もうちっと他人を頼りゃいいんじゃねぇか?」
シェリー「世の中にはボランティアで解決してる物好きが居るみたいだし」
バードウェイ「お前にだけは言われたくない台詞だと思うがね」
シェリー「でないと私みたいになっちまうわよ」
バードウェイ「それは……まぁ、検討に値するな」
シェリー「やかましい。さっさと行っちまえ」
バードウェイ「言われなくても――では、またどこかで」
シェリー「願わくば敵同士で相見えない事を、ね」
――自宅
円周「お帰りなさいませっ、お嬢様!」
バードウェイ「ネタに走るのはやめろ。あと、朝一でお前のテンションは心に毒だ。一言で言えば、鬱陶しい」
円周「レヴィちゃんに好かれようとは思ってないけど、一応聞いとくねっ」
円周「それで?お兄ちゃんとお姉ちゃんにお別れはしてきたの?」
バードウェイ「そんな大層なものじゃないが、するだけはしてきた。まぁ理解してないのも居たとは思うが」
円周「普段お見送りなんてしないのねぇ。普通は分かると思うんだけど」
バードウェイ「何にせよ言うだけは言ったさ。どう受け取るかは本人次第」
バードウェイ「お前にも世話になっ――ってはないな。むしろ迷惑を散々掛けられまくった」
円周「わたしはレヴィちゃんにとっても感謝してるよ?」
バードウェイ「……ふむ。で、あれば疑問に思っていた事が幾つかあるのだが」
円周「答えられる――憶えている事なら、大体は」
バードウェイ「お前の『卓上演劇(デーブルトーク)』、じゃなかった『他者再生(エミュレータ)』は元々マルチタスクなんだよな?」
円周「だねぇ。秘密にしてたけど」
バードウェイ「ならば何故雲川鞠亜に負けた?『木原数多の思考を持つ、木原加群』であれば、彼女の想定を上回る事も出来たろうに」
円周「良く憶えてないから、殆どは想像になるけど――必要がないって思ってたからかも?」
円周「だって普通は『円周としての癖を読まれる』とは思わないでしょ?だからそこまで複雑な処理は避けていたんじゃないかな」
バードウェイ「『卓上演劇』で充分だろうと高を括っていた?」
円周「脳にかかる負担の軽減って言って欲しいけどね」
バードウェイ「下手に簡略化させて、必要な処理をショートカットしてしまった感じか」
円周「うんうん、そんな感じで」
バードウェイ「次にお前は今、『憶えていない』と言ったが、矛盾しているよな?」
円周「何が?必要な記憶以外は切り捨てたって言ったよね?」
バードウェイ「バゲージよりも前は忘れた、と言って居た筈だが――単刀直入に聞こう」
バードウェイ「お前、実は全然憶えてないんだろう?」
円周「……言わない?お兄ちゃん達には内緒だよ?」
バードウェイ「『明け色』の名に誓おう」
円周「大体九8日前ぐらい?」
バードウェイ「私達と接触した初日じゃないか!……どうしてそんな嘘を」
円周「お兄ちゃん、悲しいお顔するだろうから、何となく?あ、でもデータとしては断片的にあるんだよ?」
円周「ただ実感は全くないってだけで。人の書いたご本を読んでる感じかも」
バードウェイ「何だかんだで成長しているのか、お前は」
円周「記憶がないのに?経験が残せないのに?」
バードウェイ「禁書目録と同じだよ。記憶がリセットされていても、性質が変わりはしない――尤も、周囲がそう仕組んでいる気もするがね」
バードウェイ「と言うかその内外共に危険極まりない能力、何とかならないのか?」
円周「視床に『学習装置』でセッティングした所は、少しずつ記憶野へ移しているみたい?」
バードウェイ「芳川と何かやってたな、そういえば」
円周「記憶が大幅に無くなったから丁度いいって、桔梗おば――お姉ちゃんが」
バードウェイ「彼女も少し病んでいる気がするが……まぁ、感情が戻ってくるのは歓迎――出来る、のか?」
円周「情緒不安定になるかも知れないよねぇ」
バードウェイ「……では最後の質問だが――その前に『木原数多』の『再生』は出来るのか?」
円周「うん、データ端末とのリンクも復活したし、大丈夫だけど……?」
バードウェイ「『再生』中はお前の記憶はあるんだよな?」
円周「書き込み付加にすればバッファにしか残らないけど。何?秘密のお話なの?」
バードウェイ「お前達は知らない方がいいって話だよ。それじゃリードオンリーで頼む」
円周「うんっ――『……あぁ、やっぱり来やがったか』」
バードウェイ「私は君と初対面なんだが、そこら辺の整合性はどうなっているんだ?」
円周「『どぉもなってねぇよ。ただこのガキが「木原数多ならこう言う、こうする」ってのをデタラメにやってるだけだ』」
円周「『理屈自体は子供のゴッコ遊び。ただし精度は極めて高い』
円周「『ガキも知らない――通常は必要ない膨大なデータをストレージに保存し、適宜読み込む』」
円周「『肉体スキルに関してはほぼ100%再生出来るってぇ代物だぁな』」
バードウェイ「その代償に脳の魔改造が妥当とは思えんが――まぁいいさ。それよりも聞くがね」
バードウェイ「――『木原円周はエリスのクローン』だな?」
円周「『……根拠は?』」
バードウェイ「明確な返答ありがとう、木原数多。君に――今の君に何を言っても憶えていないだろうが、探偵役として最後の義務を果たそう」
バードウェイ「まず円周は幼い頃に誘拐された。しかし誰も助けはしなかった。何年もの間だ」
バードウェイ「狂犬よりも狂っている君達にしては、少々おかしな対応だとは思わないかな?」
円周「『一族同士の繋がりは薄いんだよ。別に珍しいこっちゃねぇ』」
バードウェイ「では次にコイツが『木原が足りない出来損ない』なんだったな?」
バードウェイ「ならば何故、この歳まで誰にも害されずに育ってきた?『木原』を植え付けられてもおかしくない筈だろう?」
バードウェイ「『善悪を判断しないバケモノ』ってのは、裏を返せば『誰も教えてやらなかった』状態なんだ」
バードウェイ「物好きの木原の誰かが、そこら辺を踏まえて『教育』してもおかしくはないのに」
円周「『俺が引き取って育ててた、っつーかぁ『学習装置』で頭ん中弄ったのは俺ですけどぉ?』」
バードウェイ「それも実は伏線なのだろう?ある程度――そうだな、エリス・オリジナルと同じ歳まで育ててから、クロムウェルに何かの実験名目で引き渡す」
バードウェイ「その際には記憶をフォーマットし、『エリス』としての記憶を植え付けた上で、というのが君のプランだった筈だ」
円周「『遺伝子操作して、性別いじくってまでかぁ?』」
バードウェイ「そこまでしないといけなかったのさ。『木原』には底意地の悪いおばさんが居るらしいし」
バードウェイ「実際君が退場してから、バゲージで使い捨てにされそうになったしね」
円周「『苦しい話だなぁ、おい。状況証拠だけって話』」
バードウェイ「よく陰謀論か語られる際、『証拠がないのが証拠』と言われるな」
バードウェイ「曰く、闇の勢力は絶大な影響力を持っていて、証拠全てを残さないんだ、と」
円周「『バカが信じそうなこった。グーグルアー○で不審船探すアホと同レベルだ』」
バードウェイ「……まぁ、それはそれで構わないと思うよ」
バードウェイ「例え『木原円周が最初からクロムウェルへ懐いていた』としても。それもきっと偶然なのだろうな」
円周「『……』」
バードウェイ「何にせよ、計画は潰えた。罪悪感なのか、それとも計画の再開の布石を望んでいたのかは誰も知らない」
バードウェイ「だが、君の残した遺産を使って騒ぎを起こした連中が居た」
バードウェイ「本来であれば君の記憶データは、『木原円周』へ残した手向けだったのかも知れないのに」
円周「『「SEED」だよなぁ。つかーあんな大騒ぎしてガキ一匹捕まえるんだったら、最初っからフルインストールしてるっつーの』」
バードウェイ「そうだな。誰かが何らかの手段を用いて、この一連の『木原』騒動を起こした」
バードウェイ「最初に『SEED』を作ったのは誰か?そして工山規範に『インストール』させたのは誰だ?」
バードウェイ「……死人を墓から引っ張り出して、弄んだのは」
円周「『検討は着いてんのか?』」
バードウェイ「どうやらこの話で私は探偵役ではなかったようでね」
バードウェイ「あくまでも第三者として物語に関わり、私はただの異分子だと思っていたのだが」
バードウェイ「ソイツはクロムウェルを学園都市まで呼び、『キャリー・イェール版タロット』を復元させ――」
バードウェイ「『木原数多』を殺すために『ハーメルンの笛吹男』の魔術を私に使わせたんだ」
バードウェイ「『明け色の陽射し』が数日掛けて作り上げた儀式魔術を乗っ取り――いや、同調してか」
バードウェイ「私達から盗んで行った。それが基幹だよ」
円周「『てぇ事はだ。最初からテメェが魔術を使う事は想定済みってぇ話かよ』」
バードウェイ「この物語の主役は私だったのだよ。君達は私を追い込むための手段に過ぎん」
バードウェイ「……情を移らせたのは木原円周ではない。まんまと一杯食わされたのが全てだ」
バードウェイ「だがまぁ『後』は私がケリをつける。少々乱暴になるので、良い子の諸君は寝る時間だ」
円周「『右手のにーちゃんにでも頼った方がいいんじゃねぇのか?』」
バードウェイ「ダメだな。これはもう――」
バードウェイ「――『明け色の陽射し』へ売られた戦争なのだよ」
――学校
上条「いやー、疲れたー」
青ピ「ってかカミやん疲れてる所しか見ませんけどぉ?――って、そうでもないよーな?」
上条「うん、まぁここ数日はそんなでもない。朝からちょっと決闘騒ぎがあったぐらいで」
青ピ「カミやんちはどんだけ緋色に染まってるの?それはもう日常とは言いませんやんか」
上条「俺以外が流血沙汰にならなかったら、まぁ平和ですよねっ」
青ピ「泣いているのは――ボク?悲しくなんて無いのに!」
上条「そうだぜ?割と良くある事だし」
シェリー「おい、上条は居るか?」
上条「あー、はい。どうしました」
シェリー「いや何って訳じゃねぇんだが、クソガキがだな」
上条「どっちの?」
シェリー「性格が悪りぃ方だ」
上条「どっちもじゃね?」
シェリー「外見が白いの」
上条「あぁ、はいはい。バードウェイがどうしたって?」
シェリー「スペースも来てない、んだな」
上条「いやだから、何かあったのか?」
シェリー「いやぁ、何もねぇんだがな。多分」
上条「うん?」
シェリー「……はっきり言った訳じゃねぇが――まぁいいか」
ガラッ
上条「なんだよ」
青ピ「あのぅ?カミやん先生?」
上条「なんだよ、つーか先生って何?」
青ピ「シェリー先生とのご関係は?」
上条「知り合い。ショッピングセンターでテロ騒ぎあったじゃん?あん時、黄泉川先生と一緒に世話になってさ」
上条「その縁で暫く美術講師引き受けたとかなんとか……?」
吹寄「ウチの学校は予算が少なくて、人も回ってこないからね」
上条「身内の人間を入れて予算節約……いや?シェリーって有名じゃなかったっけ?」
青ピ「そ、そうなんっ!?てっきりボクぁまたいつものパターンで同棲してるもんだとばかり!」
上条「やだなぁ、そんな訳ないじゃないですかぁ」
青ピ「そ、そうやねっ!ボクはカミやんの事信じていいんですよねっ!?」
上条「当たり前だろう!俺達親友じゃねぇか!」
青ピ「……カミやんっ、カミやぁぁんっ!」 ヒシッ
上条「お、おうっ!」
上条(こいつ名前なんつったっけ?)
吹寄「なにやってんるだか、三バカの二人」
姫神「決して嫌いじゃない。そういうのもアリだと思う。うん」
ガラガラッ
シェリー「あぁ今晩遅くなるかもだから、先にメシ食ってろ」
全員「……」
シェリー「バードウェイは……まぁ、気にすんな。どうせ間に合わねぇだろうし」
ガラッ
上条「あ、ごめん。僕ちょっとお手洗いへ」
青ピ「――ってな訳で、第百二十一回上条弾劾裁判を始めたいと思います!」
上条「待てやコラ!?弾劾って何?俺なんか悪い事したかよっ!」
姫神「この状況下でしてないっ思う方がおかしいと思う」
上条「姫神まで敵かっ!?俺は別に疚しい事はしていないさ!」
青ピ「ほー、マジで?マシでそう思うんでっか?」
上条「幾ら俺が年上のおねーさん好きであっても、困ってる同居人に手を出す程落ちぶれてねぇ!」
姫神「クロムウェル先生。どうしたの?っていうか聞いても良い話?」
上条「ビジネスホテルの壁に落書きしたら、ブラックリスト入りした上で追い出されたって」
吹寄「芸術家らしいエピソードではあるけど、ねぇ?」
青ピ「まぁ実際にやったらドン引きってぇ感じですわ」
上条「だから俺は仕方が無く友達の同居を認めたんだよ!どうだ、疚しい所なんかこれっぽっちもねぇ!」
青ピ「あー、ごめん、ごめんね。カミやん?ボクら疑っちゃって」
上条「俺が毎度毎度疑われるのは仕方がないけどさ、もうちょっと信用してくれたっていいんじゃね?」
土御門「それはさておき、褐色金髪美女ってずぅんごくエロいよにゃー」
上条「だよなぁ?エロいよなっ!」
一同「……」
上条「ち、違うんだ!これはきっと敵の魔術師の攻撃なんだ!」
上条「つーか今土御門居なかったかっ!?野郎の声が聞こえた気がした!」
青ピ「つまり『手は出してないけど、ものっそい意識はしている』でファイナルアンサー?」
上条「違うよっ!いや、違くないけどさっ!俺の話を聞いてくれよぉぉっ!」
吹寄「キリキリ吐きなさい上条当麻。骨は拾ってあげるから」
上条「委員長までそんな事言うのかっ!」
姫神「委員長じゃないんだけど。ずっと委員長と思ってた」
青ピ「ではホンモンの委員長からの命令ですわ。素直に言ったらええですやん?な?」
青ピ「別に誰がチクる訳じゃ無いですし、ここだけの話にしときますよって」
上条「だからそーゆーんじゃないんだって!」
ガラガラッ
シェリー「悪ぃ。やっぱ飲み会キャンセルだって――」
上条「そりゃまあ意識はしてるけど!だつてシェリー可愛いもんっ!」
上条「普段はズボラで格好もだらしないけど、結構根は優しかったり、気ぃ遣いだっりするし!」
上条「でも友達だから意識しないようにするじゃねぇ――」
シェリー「」
上条「えっと……何?どういう事?本格的にドッキリなのか?」
シェリー「……あぁ、いや別に?全然全然?な、ほら?」
上条「お、おぅっ!」
シェリー「その、私もまぁ、あれだし、まぁその――」
シェリー「――今日、早めに帰るわね?」
ガラガラッ
上条「待て待て待て待てっ!?違うんだ!そうじゃねぇんだ、いや違わないけども!」
上条「つーかお前らも無責任すぎるだろ!何全員目ぇ合わせないようにして席へ戻るのっ!?」
青ピ「……カミやん」
上条「な、なんだよ」
青ピ「やったね!明日はお赤飯だよ!」
上条「ウルセェよ!そんなんじゃねぇよ!」
上条「どう考えても家帰ったら気まずいだけに決まってだろ!?なあぁっ!?」
上条「お前らっ!責任取れって、きーけーよおぉぉぉっ!?」
――放課後
上条「……疲れた。精神的にどっと疲れた……」
姫神「お疲れ様。今回のは悪くは無いと思うけど。小萌先生とか大人を頼るべき」
上条「あぁうん、幾らなんでも俺だって分かってるけどさ。その」
姫神「あっち関係の人?」
上条「うん。元敵の、はい」
姫神「誰彼構わず味方にするのは悪い癖。主に私の個性に関しても不都合」
上条「それは姫神のご都合ですよね?ケンカせずに済むんだったら、そっちの方が良いんじゃねぇかなって」
青ピ「――オイ、カミやん聞いたかっ!?」
上条「何?これ以上俺を弄ったって何にも出て来ないよ?」
青ピ「校門のトコにメイドさんがビラ配りに――」
上条「何やってんだグラアァァァァァァァァァァァァァァッ!?」
青ピ「――来てるんだけど、って最後まで言わせて欲しかったんですけど」
青ピ「って先に征かせるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
姫神「あ。窓から」
姫神「……」
姫神「よい子のみんなは窓から出ちゃダメ。うん。死ぬから」
吹寄「バカは死んでも治らない、の史上初の実験をしてみたい所だけどね」
……
――校門前
青ピ「前世ではアナタの兄だった気がしま――げふっ!?」
上条「ぜー、はーっ……ケガは、ないか……?」
円周「たった今目の前で傷害事件があった以外は、これといって特に?」
上条「……つか何やってんのおぉっ!?人んち学校でビラ配りか!?」
円周「新規のお客様を開拓しないといけないんだって、店長が」
上条「いっぺんお前のトコの店長と話をつける必要があるよね?中学生のバイト雇うのもどうかと思うけど」
円周「大丈夫だよぉ、店長17歳の女の子だしっ」
上条「そういう問題じゃねぇと思うが」
青ピ「……たか」
上条「あん?」
青ピ「またカミやんですやんかっ!?何?ボクらなんか悪い事しまし――」
円周「はいはーいっ、ごめんんねーっ?」 キュッ
青ピ「……ぅぐっ」 パタン
円周「お兄ちゃんにおイタしちゃ、めっ、だからねー?」
上条「あれお前何したの?人って軽く首筋抑えだけで気絶しないよね……?」
円周「あぁこれ?加群おじちゃんがよく使ってたスキルをシェアリンクしてるだけだよ」
円周「頸動脈を圧迫するだけだと、失神するまで数秒かかるんだけどぉ」
円周「動脈の血管を掌で包みながら、●●の方に●●●●●●するとぉ」
上条「はいストップー!それ以上は危険だから、ね?マジで洒落にならないから!」
円周「んー、抽象的に言えば『無理矢理パソコンの電源を落とす』って感じかな?」
上条「お前何やってんだ!?路上で人の知り合いに殺し技かけてんじゃねぇよ!」
円周「え?だったら掌底で●●を叩き折って●●に●●●●た方がいいって事?」
上条「即死じゃん!?つーか引くよ!メイドさんがラフプレイしまっくてたら、他のお客さん来ないものっ!?」
円周「わたしに優しくオトして欲しい人は、き・て・ねっ?」
生徒達『オオオォォォォォォォォっ!!!』
円周「はーい、ビラをどーぞ。ね?問題なかったでしょ?」
上条「……もうヤダっ!こんな学園生活普通じゃないし!」
円周「男の子はみんな、そーゆー時期があるって聞いたけど?」
上条「中二病はね……うん、特別になりたくてしょうがないって言うか。そういう時期は必ず来るけど」
円周「まぁお兄ちゃんも来てよ、ねっ?」
上条「その内気が向いたらって事で」
青ピ「是非お義兄さんと一緒に伺いますわっ!」
円周「わーいっ!」
上条「復活が早いのは今更だけど。コイツ、中身は虎より始末悪ぃぞ?」
青ピ「そりゃ当然魔族とのハーフやったら当然ですやんかー。カミやんってば当たり前の事を今更ですやん?」
上条「どっからその結論持ってきた?魔族って何?新しい食べ物か何か?」
青ピ「ネリ○さんをボクに下さああああぁぁぁぁぁぃいっ!」
上条「相変わらず未来に生きてんな!……居ないと思うけどなぁ、悪魔。居たら居たで話の収拾がつかなくなるし」
円周「知的好奇心は刺激されるよねぇ。そういうの」
上条「悪魔さん逃げてー!?ロズウェルの宇宙人みたいな末路しか思い浮かばない!」
――自宅 夜
円周「たっだいまーっ」
シェリー「……おー」
上条「お帰りー。ってお前らバードウェイと一緒じゃなかったのか?」
シェリー「あー……居ないのか?」
上条「まだ帰ってきてないから、そっちだとばかり」
上条「……探しに行った方が良いのかな?」
シェリー「やめときなさいな。相手はライフル撃ち込まれたって平然としてるガキよ?」
上条「強かろうが子供に変わりねぇし、監督するのは年長者の義務だよ」
上条「しっかし遅くなるなら遅くなるで、言ってて欲しいよな」
円周「あ、コイツ出したんだ?」
上条「そろそろ寒くなって来たろ?今夜は鍋にでもしようかなって」
円周「お姉ちゃん」
シェリー「……だな」
上条「どした?」
シェリー「はっきり言うけど、多分バードウェイはもうここへは来ないわ」
上条「来ないって、なんでまた?まだ4日あるのに」
円周「んー、馴れ合うのはゴメンだって事じゃないかな」
上条「馴れ合うも何も俺達は、少なくとも俺は友達のつもりだぞ?それがなんだって」
シェリー「『それ』も問題なんだよなぁ。アンタの無自覚な所もだ」
シェリー「魔術と科学が奇跡的なバランスで成り立っているのは理解出来るよな?その間で色々見てきたんだから」
円周「今までは『木原数多』っていう、学園都市にも都合の悪い存在と戦ってた訳でしょ?だからここにいられたんだけど」
上条「いやでも後少しなんだぜ?」
シェリー「『明け色の陽射し』はイギリス清教の敵だ。つーか『取り敢えずパトリシアを殺しとけ』って命令が出るぐらいのな」
円周「だからレヴィちゃんはお兄ちゃんに、そしてインデックスちゃん?へ気を遣ったんだよ」
上条「……そうか」
シェリー「私みたいな下っ端じゃなく、禁書目録が『許可』した形でありゃ多少は違うんだが。悪いな」
上条「いや、誰も悪くないさ。朝もバードウェイに言われたけど、いつかは元の三竦みへ戻るって言われてたし」
上条「ただそれがほんの少しだけ、早まっただけだし」
円周「お兄ちゃん……うん、そうだよねっ!」
上条「あぁっ!」
円周「減ったハーレムは適当に補充するもんねっ!」
上条「人聞きは悪ぃし全っ然分かってなかったし!?」
シェリー「まぁそんなに気にするなよ。生きてりゃ会えんだろ、簡単にくたばりそうな女じゃねぇわよ」
上条「だよなぁ。長生きしそうではあるけど――あ」
円周「なぁに?あ、お別れ会でもしたかったの?」
上条「それはしたかったけど。ってそうじゃなくって忘れ物が」
シェリー「あいつ何か持ってたかぁ?サイフとか携帯とか、ナショジオとサイエンス読んでた……か?」
円周「わたしやしシェリーちゃんと違って、バックはなかったしねぇ」
上条「いやぁ、それがなぁ……ぱんつ」
シェリー「……」 ズズッ
円周「うっわぁ……」 ズズッ
上条「引くな引くな引くな!?別に俺が盗ったって訳じゃねぇよ!?」
シェリー「いや今のは流石に冗談だけど。もしかして洗いに出したのが?」
上条「さっき洗濯してベランダに干してあるけど」
円周「雑誌類は綺麗に持っていったのに、また凄いもの忘れちゃったねー……あ、もしかして、別の意図があるのかも?」
上条「ぱんつに深い意味がある訳ないと思うが……」
円周「かあさんがーよなべーをしてー」
上条「寒い特に穿けってのか!?設定が無茶にも程があるすぎるだろ!」
シェリー「でも捨てるのもアレだし、だからって持ってても、なぁ?」
円周「ベストはわたし達から返す、もしくは知らんぷりして捨てる、の二択かな」
上条「最後の最後で妙なトラップ踏んだ感がしないでもない……まぁ、その話はそのウチ考えようか。うん」
円周「戦わなきゃ、現実と!」
シェリー「幾ら逃げても現実は追いかけてくるんだぜ?」
上条「無理ゲーじゃん!?俺が持ってても『きゃードーン!』されそうな気がするし!逆に捨てても『うそードーン!』される未来が見える!」
シェリー「骨は拾ってやるから、な?」
円周「なにそれすっごく見たい!」
上条「おいお前ら人の不幸を流すのってどうなの?血は流れているの?だとしたら何色なの?」
円周「……血、見たい?ね、見せてあげよっか?」
上条「嫌な予感しかいねえからノーサンキューだ!唐突にエ×スイッチ入れるのやめて下さい、ねっ?」
上条「……まぁでも真面目にな、お前らが帰る時には前もって言ってくれよ?」
上条「送別会――なんて、きちんとした形じゃねぇけど、それでもお別れは言いたいからな」
シェリー「私は……禁書目録次第だわな。あんまり刺激すっとヤクザ神父に燃やされそうだし」
シェリー「そもそもイギリスじゃなきゃ生きていけないって訳でもねぇから、お前らが年度変わりまで先生やったって構わねぇわよ」
円周「うーん。だったらわたしも出て行かなきゃいけないよねぇ。お姉ちゃんの面倒看るよ!」
上条「……そうしてやってくれ。シェリー一人にすると不安が。オルソラの気持ちが分からないでもない」
シェリー「ウルセェわよ。こちとら三十路近くまで一人でやってんだから」
円周「奇蹟に近いと思うんだよねぇ、割と」
シェリー「アンタには言われなくねぇぞ」
上条「んじゃメシの用意すっから、手ェ洗ったらテーブル片付けといてくれー」
円周「はーいっ!」
シェリー「スーツ肩凝ってしょうがねぇな」
上条(さて準備。一度は火を通したから、もう一回煮立ててれば良いか)
上条「……?」
上条「……しまった。一人分多いんだっけ」
――3rd.
――上条のアパート(※元・『明け色の陽射し』 極東支部)前 放課後
御坂 ソワソワ
上条「あ、どうも、こんにちは」
御坂「ぅえっ!?う、うんっ!どぉも」
上条「今日はいいお天気ですね?」
御坂「そうかな?台風来るって聞いたような」
上条「じゃ、さようなら」
御坂「うん……」
上条(……良し!)
御坂「ちょっと待って?どうして今の流れで私をスルーしようとすんのよっ!」
上条「え、だってお前直ぐ攻撃するじゃん!?だから穏便に済ませようとしたんですけどぉっ!」
御坂「アレは――挨拶代わりに決まってるじゃない!」
上条「ホラ!そういう所がだ!俺じゃなかったらこんがりと電子レンジになってんですからね!」
御坂「電磁波だから、電気よりも波に近い性質なんだけど」
上条「騙されないぞ!俺はもうビリビリするのは嫌なんだ!散々虐殺ウサギ喰らったんだからな!」
御坂「散々って――アンタ!一体どこの誰の電撃喰らったって言うのよ!?」
上条「え、食いつく所そこかぁっ!?」
御坂「信じられない……私、私信じてたのに!」
通行人A「おい……あの子って……」
通行人B「うっわー、泣かせてるし」
上条「待ってくれないかな?俺のホーム(家の近く)での好感度がダダ下がりなんだけど」
御坂「私が!私がどんな思いでビリビリしてたのか……分かってる癖に!」
上条「え、御坂お前――もしかして」
通行人C「よし行け!告白しろ!」
通行人D「いやぁ、この展開だとアレでしょ?どうせ」
御坂「ムシャクシャしてやってたに決まってるじゃないっ!!!」
上条「うん、知ってた」
通行人E「ヘタレた」
通行人F「ヘタレたよ、また」
通行人G「つーか気づけよ。バカじゃねぇの?フラグ立ってんじゃんか」
御坂「つーかうっさいわよ外野!散れ散れっ!」
上条「いやだから、あの御坂さん?俺んちの近くなんで刃傷沙汰はちょっと……」
御坂「うるっさいわね!大体アンタがいけないんでしょーが!はい、これっ!」
上条「これ?――メモリーカード?」
御坂「……何よ!頼まれたから持ってきてあげたのに、その態度って無いわよね!」
上条「そうなのか?……そう。悪かったな、ごめん」
御坂「ば、バカじゃないの!?そんなゴメンの一つぐらいで私が機嫌治すと思ったら大間違いなんだからねっ!」
通行人H「上条もげろ」
通行人I「まさか現実でお目にかかれるとは……あ、写メ撮っとこ」
上条「あー、それじゃ家上がってお茶でも飲んでく?」
上条「お茶請けが……きなこ棒ぐらいしかないけど」
御坂「はぁ?いらないわよ、そんな駄菓子ぐらいで釣られると思わないでよね!」
上条「そっか?折角上手く出来たと思ったんだけど」
御坂「食べるに決まってるじゃない!何言ってんのよ!」
上条「……なぁお前、躁鬱病って知ってる?」
御坂「誰がパラノイアだっつーの!」
上条「いやぁ……うん。つーかさ、一つ聞いていい?さっきから気になってたんだけど」
御坂「べ、別に通りかかっただけなんだからね!だからそのっ、ついでに持ってきてやった、的な感じで!」
上条「お前――なんで俺んち知ってんの?」
御坂「……」
上条「……」
御坂「――さ、さぁってと!それじゃお邪魔するわねっ!」
上条「誤魔化されてねぇよ!?何一つ大惨事のままじゃねぇか!」
通行人J「ちなみに女性のストーカー加害者は少ないけど、それは外見がそこそこであれば『まぁいっか?』で済ませるケースが多いんだ」
通行人K「まぁ合意であればオッケーってのもなんか。男は悲しいよね」
上条「ねぇそこの人?俺通報した方が良いのかな?っていうかおっきな声出した方が良いのかな?」
通行人M「もげろ」
通行人N「ちんこもげろ」
通行人H「上条はEDになればいいと思うよ。いやマジで」
上条「うるっせぇぞ外野!あと今、通行人Hはどっか見覚えがあるからな、なぁっ!?」
――自宅
御坂「お、おじゃましまーす……?」
上条「おー、いらっしゃい。あ、靴は脱ぐんだぜ」
御坂「……あんた。どんだけ私がお嬢様だって思ってる訳?」
上条「常盤台の子達はなぁ?俺知ってるのって御坂、白井、食蜂さんぐらいか」
御坂「あの女との関係を問い正したい所だけどねっ!」
上条「いやぁ憶えてないですし――あ、お茶入れるから、座布団どーぞ」
御坂「あ、はい。ありがとうございます」
上条「……なんで緊張してんの?付き合い長いのに、俺ら」
御坂「うっさいな!男の部屋に上がるのって初めてなのよ!」
上条「いや別にカレカノって訳じゃないんだから、取って食おう的なイベントも起きないし」
御坂「そ、そうよねっ!緊張なんかしてないわよ、全然っ!アンタも口開けてないで、こっち見なさいよ!」
上条「おーい、御坂さん?お前が今話しかけているのは洗濯機だ」
御坂「知ってたわよ!悪いっ!?」
上条「うん、知ってる方が色々悪いとは思うよ?――ってお湯沸いた。緑茶でいいな?」
御坂「あ、いえお構いなく。あ、でも意外ね」
上条「何が?」
御坂「一人暮らしの割には綺麗ってのがパターンじゃない?」
上条「パターンってなんだ。パターンって」
御坂「汚いって事じゃなくって、そこそこ散らかってて生活感があるって意味よ。あ、ほら」
御坂「ここに下着出しっぱなしじゃない。もー、私が本当の彼女だったら小言言われまく――」
上条「お待たせー。なに?」
御坂「……っ」
上条「はい?」
御坂「……ぱんつ」
上条「違うんだっ!?そうじゃないんだっ御坂さぁんっ!?」
上条「話を!まずは話を聞いてくれませんかっ!?」
御坂「……これ、女の子のよね?結構ちっちゃい子の」
上条「ち、違うっ!?これには事情があって!」
御坂「……ばーか」
上条「敵の魔術師がベクトルを一方通行でオティヌスはぁはぁ――へ?」
御坂「何構えてんのよ?私はあんたの事知ってるって言ったでしょ?」
上条「そ、そう、か?ビリビリしないの?」
御坂「あんたの方こそ私をどんな風に考えてんのよ。つーか失礼にも程があるじゃない」
上条「だ、だよねっ!俺達もう、誤解されるような付き合いじゃないもんねっ!」
御坂「取り敢えず、アンチスキルに自首しよう?そうすれば、執行猶予ぐらいで済むと思うんだ、うん」
上条「100%誤解ですよねっ!?何一つ俺を理解してねぇし、完全に犯罪者扱いじゃねぇかよおおぉぉぉぉぉっ!?」
御坂「待ってるから!私、アンタの事を待ってるから!」
御坂「例えば世界中がアンタを敵だっていっても、私はあんたの事を――!」
上条「出来れば別のシチュで聞きたかったけどなその台詞!つーか信じるって言ってる本人がまず信用してねぇよ!」
御坂「……それとも、私と逃げちゃおっか?」
上条「話を聞いてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
――10分後
御坂「あー……居たわねー、あの子か」
上条「そうそう!ハワイに一緒に行った子だって!たまたま忘れてっただけだから!
御坂「んむぅ。困るって言うか、まぁ困るわよね。逆の立場だったらちょっと考えちゃうし」
上条「だよね?俺がおかしいんじゃないよね?」
御坂「じゃ私はその子を撃てばいいのね?」
上条「ごめんよ?俺やっぱおかしいみたいだ、お前の言葉何一つ理解出来ないもの」
御坂「大丈夫よ!レベル5なら一人や二人何とかなるって!」
上条「言わないよ?俺の御坂美琴さんはそんな物騒な事は!」
御坂「だ、誰があんたのよ!?」
上条「……あ、戻った」
御坂「そ、その代わりあんたは私のなんだからねっ!」
上条「戻ってなかった――いやいや、いつまでもボケてないでそろそろ本題を」
御坂「あ、このきなこ棒美味しいわね。作ったの?っていうか家庭で作れるの?」
上条「あぁうん。今日の料○でやってたんだ。ってか水飴ときなこの味しかしない筈だけど」
上条「てか、よく知ってんな?こーゆーの食べるんだ?」
御坂「実家に居た頃とか、ママに近所の駄菓子屋さんへ連れてって貰ってたし」
御坂「他にも仙台駄菓子だっけ?あの中にも入ってたような」
上条「予想よりも作りすぎちまったから、良かったら持ってくか?」
御坂「いいのっ!?」
上条「そんな驚かれても困る、っていうか人にあげるのもちょっとアレな代物だから」
御坂「通販で売ったら激売れ間違いなしね」
上条「誉めてくれるのは嬉しいけど、出来ればサミーを忘れないであげて?」
御坂「あー、メモリーカードね。佐天さんと一緒にいた男の人から渡して欲しいって」
上条「男の人……何?またあの子強い引きでトラブルを踏み抜いたの?」
御坂「って思って……これ、内緒ね?」
上条「約束する」
御坂「ここへ来る前に軽く中の動画見ちゃったんだけど。別におかしな内容じゃないっぽいわ」
上条「その判断は正しいと思う」
御坂「まぁザッと見た感じ、フツーに話してるだけみたいよ」
上条「ちなみにその人、彼氏さんとか?」
御坂「結構歳離れてたし、頼まれた、みたいな事言ってたから、ほぼ初対面みたいな感じかな。なに?気になるってか!?」
上条「……分かるよな?俺がどんな意味合いで心配してるか、お前なら!」
御坂「良い子なのよ?うん、どこに出してたって胸を張って良い子だって言えるんだけど――」
上条「どこにいたってトラブルを引っ張ってくるっていうか、何かデジャブを感じるけどもだ!」
御坂「あー……分かる気がする。誘蛾灯的な」
上条「内容はなんだったの?つーか緊急で見た方が良い感じ?」
御坂「でもないけど、まぁ見る?」
上条「えっとカメラカメラ……」
御坂「パソコンないの?って携帯で見ればいいじゃない」
上条「……お前も見るんだよな?」
御坂「ま、まぁ?」
上条「だったらカメラに入れて、テレビにケーブル繋いで再生、っと」 ピッ
――いつもの喫茶店(※動画)
麦野「……」
佐天「――はいっ!と言うわけでやって来ました!『新・学園耳袋!』今日は出張版ですよー!」
佐天「なんと今日はゲストがいらっしゃってます!その名は――」
麦野「……」
佐天「そーーーのーーーなーーーはっ!!!」
麦野「……」
佐天「えっと、すいませんガン無視って酷くないですかね?」
麦野「――はい?」
佐天「良かったー、聞いて貰えましたっ!さっ、お名前をどうぞ!」
麦野「麦野、です……?」
佐天「そーですかっ!本日のゲストは麦野さんって女性の方ですっ!見れば分かるねっ、すっごいキレーな人だぞ!」
麦野「はぁ、どーも」
佐天「ってかそのお洋服miumi○じゃないですか?もしかして、とは思ったんですけど!」
麦野「そう、だけと、よく分かったわね」
佐天「いやいやっ、とてもお似合いですよー、ってかモデルさんですか?背も高いし、実にセクシーな感じで」
麦野「その質問に答える前に、聞きたいんだけど良いかしら?」
佐天「どぞっ」
麦野「ここ、喫茶店よね?」
佐天「はいっ」
麦野「あなたはたまたま相席になった人よね?混んでる感じには見えないけど」
佐天「あいまむっ!」
麦野「なんでゲスト?っていうかいきなりハンディカム回して何やってるのよ?」
佐天「あ、ご存じじゃないですか?『新・学園耳袋』?」
麦野「耳袋ってのは江戸時代に書かれた怪談ものだっけ?」
佐天「それの現代版です。こう見えてケーブルテレビでも流れてるんですよー」
麦野「あ、そうなの?ごめんね、あんまりテレビ見ないから」
佐天「『新・学園耳袋』、日曜夜27時で絶賛放映中でーすっ!」
麦野「朝だよなぁ?それもう深夜じゃねぇし、日曜の夜に見る奴いねぇだろ」
佐天「あれ?今口調が?」
麦野「それで?なんでアタシがその番組に出てんのよ、つーかゲストって何?」
佐天「えっとですね、都市伝説ってご存じでしょうか?人面犬とか、花子さんみたいなの」
麦野「そりゃまぁ話ぐらいは」
佐天「番組がそんなあったかも知れない、無かったかも知れない話を追いかける、って主旨なんですが」
麦野「無かったかも、のはただの捏造よね?」
佐天「がぁっ!しかぁし!最近学園都市でも妙な噂が流れているので、ここは一つ街の方から話を伺えればな、と」
麦野「急に言われても――あー、知り合いで一人、好きそうなのはいるかー」
佐天「マジですかっ!?是非ご紹介をお願いしたいですっ!」
麦野「ん、まぁいいけど――(暗部って訳じゃなくなったし)暫く待ってれば来ると思うわ」
佐天「ありがとうございます」
店員「――すいません、お客様。相席をお願いしたいのですが」
佐天「あたしは別に構いませんけど」
麦野「私も別に」
店員「ありがとうございます――お客様、どうぞこちらへ」
壮年の男性「いやぁ申し訳ない。お友達の会話は邪魔しませんから、どうぞ続けて下さい」
壮年の男性「コーヒーを一つ下さいな。あと軽く食べられるものを」
店員「承りました。少々お待ち下さいませ」
佐天「外人さんですかっ?」
麦野「あ、こら!」
壮年の男性「いえいえその通りですからねー。ポルトガルから来ました――ってカメラ?」
佐天「今ちょっと学園都市内のケーブルテレビの企画で、都市伝説について調査してるんですよー」
佐天「宜しければおじさんもご存じのお話があれば、是非」
壮年の男性「都市伝説ですか?とは言っても在り来たりのものしか存じませんよ」
壮年の男性「私としてはこちらで流行ってるものに興味がありますが」
麦野「(ノリノリだな、おっさん)」
佐天「こっちで、ですか?うーん……白いカブトムシの大量発生以外、これといって面白そうなのはないんですよねぇ」
壮年の男性「実験動物的なものが逃げ出した――エイリアンアニマルみたいなものでしょうか」
佐天「ですかねぇ。チュパカブラスもその類って言われてますし」
壮年の男性「私も仕事柄、色々な所を歩き回っていると、ご当地モンスターは結構聞きますな」
佐天「ほうほう。どんな感じの?」
壮年の男性「それは――では、なく。学園都市の話では?」
佐天「いやもうぶっちゃけ目新しいの無くてですねー。次はどうしたもんかって困ってるんですよ」
壮年の男性「では定番的なものでいいのではないですかな?色物ばかりを追うのではなく、初心へ返る意味合いも込めて」
佐天「初心、ですか……あー、それじゃ『人攫い』なんて話がありますねぇ」
佐天「能力の高い子供がいつの間にか居なくなっていたり、みたいなの」
壮年の男性「……ここってそういう所なんですか?」
佐天「いやいやっ!違いますって、噂ですよ、噂」
佐天「あたしの友達には能力の高い人もいますけど、お二人はふつーにしてますからっ!」
麦野「(いやぁ、そいつらがレアケースって可能性もあるけど。実際『書庫』の改竄は日常茶飯事みたいだし)」
壮年の男性「日本では『神隠し』でしたっけ?カミサマが連れて行ったりする感じで」
佐天「あー、そっちの神様はお一人ですもんね」
麦野「人んちの信仰対象をお一人様みたいに言わないの」
佐天「あ、すいませんっ」
壮年の男性「いえいえ私も一応十字教徒ですけど、そんなに信心深いって訳じゃないですので」
壮年の男性「……神隠し――あぁ、そう言えばこちらにもありますね。有名な人攫いのお話」
壮年の男性「『ハーメルンの笛吹男』、とか」
――喫茶店
店員「お待たせ致しました。ではごゆっくりどうぞ」
壮年の男性「ありがとうございます」
佐天「あー、昔絵本で読みました。ネズミを退治するけど、子供も連れて行っちゃうみたいなの」
麦野「……あれってペストって説があるけど。だから耐性の弱い子供が一斉に死んじゃった、って」
壮年の男性「はい、その説もあります。ネズミは黒死病を媒介しておりましたし」
壮年の男性「墓地と納骨堂の関係から、土葬から火葬へと転じて行ったのも関係性がありそうですよ」
麦野「他にも十字軍遠征の暗喩と言うのもよく聞くわね」
佐天「子供達がですか?」
壮年の男性「猫も杓子も、という勢いでしたからねぇ。そもそも巡礼者を保護しながら行く小規模のクルセイドもありましたし」
壮年の男性「でも途中で力尽きたり、売られていったりと悲惨な最期もあったようですよ」
壮年の男性「そこら辺は『少年十字軍』に詳しく書かれて――確か日本のマンガにもあったような……?」
麦野「そこまでして結局、聖地を取り戻したのは第二次世界大戦後だしね。しかも正確には十字教徒じゃないし」
壮年の男性「それを言われると辛いものがありますな。当時ですら様々な国の思惑で振り回されてきましたし」
壮年の男性「同じ十字教国を襲撃したり、東方植民地を拡張したりと混沌とした状況になってましたから。えぇ」
麦野「オスマントルコは、異教徒の存在も税金付きで認めてたんだってぇから、色々と底が知れるわ」
壮年の男性「いえいえ。それは一概に言えませんよ」
壮年の男性「当時のスルタンはアンティオキア公国を滅亡させ、国民は殺すか奴隷にしてますから」
壮年の男性「それ相応の危機感を十字教側は抱いていたかと」
壮年の男性「実際、裏付けるように15世紀には帝国がヨーロッパへ侵攻していますからねぇ」
壮年の男性「彼の勇名轟くHELLSING――もとい、ヴラド=ツェペシュ公が活躍されたのもその辺りです」
佐天「あ、知ってます。外から攻めてこられないよう、ワザと残酷な刑罰をしたって王様ですよね」
壮年の男性「ですね。ただしドラキュラの作者であるブラム=ストーカー氏はアイルランド人である事を鑑みませんと」
麦野「『血を吸う貴族』で『ドラゴン』っつったら、ウインザー朝に『死ね』って言ってるのと同じよね」
壮年の男性「聖ジョージやア・ドライグ・ゴッホ等は王権の象徴たり得ますからな」
佐天「なる、ほど?」
壮年の男性「あぁ脱線しました。笛吹男の話でしたな」
壮年の男性「――その第9次クルセイドが終了したのが1272年」
壮年の男性「そしてハーメルンの街で子供が消えたのは1284年6月26日ですね」
佐天「そんなに離れてませんよね。でも参加したにしては、うーん?干支一回りぶんは近くもないような?」
壮年の男性「時系列を追えばその通りですが、当時は情報の伝達速度もカメのようですからねぇ」
麦野「……そうか。逆に避難するって考えもあるのよね」
壮年の男性「可能性ですがね。後の魔女狩りに関しても集団的なパニックに陥りやすい下地はあるようで」
壮年の男性「現在唱えられている説の中で、最も支持を集めているのが『東方開拓』です」
壮年の男性「子供達は親を捨てて、クルセイドで拡張した東方へと移り住んだと」
佐天「ご両親と別れてまで、ですか?」
壮年の男性「貧しい家庭であれば、遠くへ出稼ぎをする必要に迫られますし、全く珍しい事ではありません」
麦野「まぁそう言う時代だったって話ね」
佐天「でも、だからって笛吹男さんに全て責任押しつけるのもなんかって気がします!」
壮年の男性「日本では人が居なくなった場合、『神様が隠した』って考えるんですよね?」
佐天「神様っていうか、天狗とか、はいそんな感じですけど」
壮年の男性「『子供の失踪』という結果に対し、『神隠し』と言う原因を後付けしました。ここまでは宜しいでしょうか?」
佐天「えぇ。当時は世界情勢なんて分からないでしょうし、客観的に分析出来る人も組織も無かったでしょうからね」
壮年の男性「同様に私達は『子供の失踪』に『笛吹男』と言う原因を後付けしたんですよ」
壮年の男性「神様が怖いから、日本とは違う形になりましたが」
佐天「あー、なるほど」
麦野「つっても推論だけでしょうが」
壮年の男性「西洋では『狼男伝説』が数多く残っています。それこそ『リターナー』と同じぐらいの頻度で」
佐天「リターナー?初めて聞きます」
麦野「日本語の『黄泉帰り』って所じゃないかしら?」
壮年の男性「墓から戻ってくる死人はどこでも聞きますが、西洋は狼男が一杯居ます。それは何故か?」
佐天「狼さんがたくさんいたからでしょうか?」
壮年の男性「はい、つまり?」
佐天「え、えぇっと――パスいちで!」
麦野「何回ルールだ?……ああっと、アレよね。日本には『天狗』って伝説があった。だから天狗のせいにされた」
壮年の男性「西洋には狼が住む深い森があった。だから狼男のせいにされました」
佐天「はい?」
壮年の男性「例えば村で子供がいなくなったとします。日本では天狗の仕業。西洋では狼男に食われたと」
佐天「あー……はいはい。なんか分かったような気がします、はい」
麦野「ちなみに天狗は『あまついぬ』の略だから、一応犬の仕業で東洋共に共通はしてんのよね」
壮年の男性「加えて魔女もヤマンバも性質はよく似ていますし」
佐天「なんて言うか、二人ともお詳しいんですねぇ」
麦野「わたしは知り合いから聞かせられた。つーか詳しいなアンタ」
壮年の男性「私は商売柄色々と――と、そうそう」
壮年の男性「今では『人攫い』は誘拐全般の古い呼び方ですが、元々は東京周辺に出る怪異の事だったそうです」
佐天「え、そうなんですかっ!?」
壮年の男性「えぇ、と言っても山の方?らしいのですが」
麦野「……まぁ、昔は子供がいなくなれば大抵バケモンのせいに出来たからね」
ピピピピッ、ピピピピッ
佐天「あ、すいませんあたしです。ちょっと失礼しますね」
麦野「あぁ」
壮年の男性「お気になさらず」
麦野「……」
壮年の男性「……そう言えば」
麦野「あん?」
麦野「今では大変らしいですけどねぇ。そっちの市場も」
麦野「そっち、って?」
壮年の男性「人攫いではなく人買いの方です。貨幣経済の浸透と言いましょうか、弊害と言うべきなのか」
壮年の男性「昔はアレですよ。貨幣経済の信用なんて皆無でしたから」
壮年の男性「親が中々子を手放さず、『人攫い』専門の集団があちこちに居たんですね」
麦野「……そりゃな。ガキつっても農村じゃ充分に労働力になるんだから、早々手放しゃしねぇだろ」
壮年の男性「でも今はもうダメなんです。だってお金で買えますから」
壮年の男性「ソ連が崩壊して、旧東欧諸国は大不況に叩き込まれました。まぁ実際にそういう土地だったんですが」
壮年の男性「今じゃそこら辺を中心に、人買いのシンジケートが暗躍しているそうですよ」
壮年の男性「お金と引き替えに泣く泣く子供を売り渡す親がぞろぞろと。嘆かわしい話ですよねぇ」
麦野「お前――」
壮年の男性「そして質が悪いのは自国政府が無視している事ですな」
壮年の男性「社会保障費に大した予算は割けない。かといってそういった貧民達を放置しては犯罪の温床となる」
壮年の男性「なので『本来国家が保護すべき社会弱者を外国へ売り捌く』と」
壮年の男性「棄民政策。そして『貧困と犯罪の輸出』とでも言うのでしょうかねぇ」
壮年の男性「ほんと嘆かわしい限りですな」
壮年の男性「効率社会も結構ですが、親が進んで売り飛ばすのはいやはや――『私達』としても商売あがったりでして、はい」
麦野「私達、ってのは」
壮年の男性「昔は良かった。信仰と信心、そして隣人愛に守られた人々の手から無理矢理子供達を攫えば良かったのですから」
壮年の男性「『ハーメルンの笛吹男』の二つ名に相応しく、どこへ行っても恐れられましたとも。えぇ」
壮年の男性「現地の騎士達だけでなく、十字教徒や裏社会ですらも私達を敵と見なし戦っていた闘争の日々は遠く」
壮年の男性「今はやりがいもない、と言うか私達が出張る必要すらなく」
壮年の男性「僅かな金銭をマフィアにちょいと支払えば、それでもう売買は成立してしまうのですからねぇ」
麦野「――アンタ、何なのよ?どう考えてもカタギじゃねぇよなぁ、あぁ?」
壮年の男性「『宵闇の出口』の元ボスと言っても、科学サイドのあなたにはご理解頂けないかと存じますが」
麦野「分からないわね――取り敢えず、潰しとっかって事以外は」
壮年の男性「おやおや?無辜の一般人に手を上げるのは流石に」
麦野「それが遺言でいい――」
プツッ、ジジジッ
佐天「――あれ?麦野さんは?」
壮年の男性「あぁトイレ――じゃなかった、ミタライ?」
佐天「『おてあらい』ですよ」
壮年の男性「だ、そうですよ」
佐天「そうですか。えーっと、あれ?カメラが少しズレてる……」
壮年の男性「――そうそう。お聞きしたいのですが、こちらの住所をご存じでしょうか?」
佐天「えー、何々……行き方ぐらいは、はい。そんなには遠くないですよ」
壮年の男性「知り合いが『カミジョー』と言う方にお世話になっているそうで」
佐天「上条……上条当麻さんですか!?」
壮年の男性「お知り合いでしょうか?」
佐天「はいっ!何度かお話しさせて貰ってますよっ。そっか、上条さんの知り合いかー」
壮年の男性「はは、奇遇ですねぇ。まるで狙ったみたいです」
佐天「やだなぁ、そんな偶然ある訳無いじゃないですか」
壮年の男性「ですよねぇ。たまたま相席になるなんて、魔法でも使わない限りはとてもとても」
佐天「でっすよねー……あれ?でも席結構空いているのに、どうして相席になったんでしょうか……?」
壮年の男性「恋の魔法、的な?」
佐天「えー、ちょっと年上過ぎますって。あたしのお父さんよりも多分、上っぽいですし」
壮年の男性「それは残念」
佐天「今から会いに行かれるんですか?」
壮年の男性「出来ればサプライズさせてあげたいんですが、花束でも買っていきましょうかね?」
佐天「って言われても――あぁ、じゃこうしません?ビデオメッセージ!」
佐天「今からこのカメラにおじさんのメッセージを吹き込んで貰って、それを先に送っておきます」
壮年の男性「ほう」
佐天「最期に『実は俺も学園都市に来てるんだぜ!』で締めたら意外性ありますよね、ねっ?」
壮年の男性「それは中々楽しそうですが――メモリーカードは宜しいので?」
佐天「RAID?だかって内蔵HDDにも並列して保存するみたいですから、問題ありませんっ!」
壮年の男性「そうですか……本当にありがとうございます。いやぁ初対面の方に申し訳ない」
佐天「いえいえ困っている時にはお互い様ですから」
壮年の男性「――では、後でお友達は解放しておきましょう。お礼になるかは存じませんが」
佐天「……え、はい?」
御坂『おーいっ、佐天さーん』
佐天「あ、ちょっと失礼します――聞いて下さいよ御坂さん!この人――」
壮年の男性「……ふむ、残念。需要はありそうなのですが。まぁ仕方がないでしょうか」
壮年の男性「約束を守る相手には手出し出来ない……まぁベタですがねぇ」
壮年の男性「では改めて――上条当麻君」
壮年の男性「Eu sou seu inimigo.」
壮年の男性「Por favor, escolher voce ou algo para minha garganta, eu vou matar ou comer」
壮年の男性「――Por favor, siga-me. Me e seu inimigo」
ジジッ、ブツッ
――現在 上条の部屋
上条「御坂、今のメッセージって」
御坂「『私はあなたの敵です』」
上条「っ!?」
御坂「『あなたはが私の喉へ噛みつくか、私があなたを食い殺すか選びなさい』」
御坂「『――私を追いなさい。あなたの宿敵である私を』」
上条「佐天さんに連絡取れるかっ!?アイツは!」
御坂 ピッ……
上条「……」
御坂「……出ない」
上条「クソっ!お前ら最期に会ったのはどこだよ!今から急いで――」
佐天『――もしもーし?聞いてますかー……あれ?』
御坂「佐天さんっ!?佐天さんなのよねっ!?」
佐天『えぇまぁはい。あたし以外居ないって言うか。どうしましたか?』
御坂「大丈夫なのっ!?さっき話してた男が居たら、直ぐに離れてアンチスキルを呼んで!」
上条「あと出来れば人の多い建物に入ってくれ!」
佐天『はぁ……?良く分かりませんけど、あたし今病院にいますんで大丈夫かと』
佐天『一緒にいた麦野さん――女の人が体調悪くて倒れちゃったみたいなので、付き添い中です。はい』
御坂「良かった……」
上条「取り敢えずは、だけど。御坂、悪いけど」
御坂「黒子を行かせる――その前に、佐天さん?聞こえる?」
御坂「あの男はどこに行ったか、どこに行くとか言ってなかった?」
佐天『えっと……あぁ!言ってました言ってました、確か』
佐天『「ビデオレターを見終わったタイミングで、直接会いに行ったら驚くかな」って」
ズドォォォォォォォッ!!!
上条「御坂っ!俺の後ろに!」
壮年の男性「大丈夫、お友達に手を出してはいませ――あ、違います。そうじゃない。間違えました」
壮年の男性「確か、こんな時には――そうそう」
壮年の男性「『実は俺も学園都市に来てるんだぜ!』、でしたっけ?」
――半壊した部屋
上条「お前はっ……!
壮年の男性「木原さんのアジトでお会いしましたが、あまり憶えてはいらっしゃらないでしょう?そういう術式ですので」
上条「何しに来やがった、ってのは今更なんだよな」
壮年の男性「強いて言えば一つだけ誤解があるようなので、訂正して頂ければ幸いですな」
上条「なんだよ?まさか今更『敵じゃない』とか言うんじゃないだろうな!?」
壮年の男性「いえいえ、もっと根本的な事です。そしてそれはあなたのこれからにも関係する話」
壮年の男性「実は――私、そちらのお嬢さんに、ここの住所教えてないんですよねぇ」
上条「……はい?」
御坂「……」
壮年の男性「『あ、そういえば頼んだのはいいけど、住所教えるの忘れました』って、後をつけたらこの有様で」
上条「……御坂、さん?」
御坂「えっ……敵の魔術の攻撃よ!騙されないで!」
上条「え、今それ言うの?」
壮年の男性「間違いではないですが、ユダヤ陰謀論みたいに全責任を押しつけられましても」
上条「……いやまぁ、その件は置いておくとして、お前は何なんだ?『木原』の復讐なのか?」
上条「一体何がしたいんだよっ!」
壮年の男性「あぁすいませんね、上条君。あなたに直接用事はなかったんですけど」
壮年の男性「バードウェイさんが見当たらないもので、こちらへお邪魔すればもしかして、と」
壮年の男性「念のために確認しますが、お知り合いですよね?」
上条「――お前、バードウェイに何かしやがったのか?」
壮年の男性「いえ、そんなに大した事は特に。ただちょっとだけ――」
壮年の男性「当たったら蒸発する程度の術式で、隠れていたビルごと攻撃し――」
上条「お前えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
壮年の男性「――人の話は最後まで聞きましょうか。『戦車』」
魔術師との間の空間、遮るものが何かも無かった所へ、くすんだ銀色の塊が現れる。
馬に引かせるタイプの『戦車』、骸骨のレリーフの入ったそれが突進してくる。
轢かれる。そう把握するよりも先に右手を動かす。
上条「『右手』を知らねぇのか!」
壮年の男性「はい。存じています」
バキィィンッ、といつものように無力化させる音が響き――数瞬後、数百キロの鋼鉄の塊に上条は跳ね飛ばされていた。
御坂「ちょっ――と!」
磁力を利用して壁を駆け上がった御坂に抱き留められる。
壮年の男性「そりゃ対策ぐらいはするでしょう?これは、アレです。クロムウェルさんのゴーレムと同じで」
男がカードを取り出すと、戦車は男の前までバックしていく。
壮年の男性「異能の力を打ち消しはすれど、確定してしまった結果は消せない――鋼鉄の塊を動かす魔力は消せる、が」
壮年の男性「慣性で飛んでいくのはどうしようも無い。まぁ銃弾を撃ち込んだ方が早い気もしますけどねぇ」
御坂「鋼鉄?だったら――私が!」
グゥン、と戦車が止まるべき位置を大きく越え、玄関もろとも男を破壊しようとする。
壮年の男性「――『愚者は天に昇りて皇帝となる』」
魔力が男を中心に渦を巻く。当然魔力を知らない者には見えないが、御坂の電磁波を読み取る能力が異様な圧力を察知していた。
上条「野郎っ!」
御坂「ダメ!?あれは、ダメっ!」
上条「離――」
壮年の男性「――『皇帝は教皇を弑逆して星を堕とす』――」
御坂の磁力が失われる程、周囲には魔力が荒れ狂う。
バチバチと火花のように飽和状態となった空間に、審判者の声が轟く。
壮年の男性「――『そして下されるは永劫からの鉄槌』」
誰の目にも見えるようになかった魔力――『天使の力』が明確な形となって現れる。
ただ一振りの、しかし人の背丈を遥かに超える。
『戦槌』が。
上条「だから効かねぇつっってん――」
怒鳴るが早いか、一撃を入れようと。
壮年の男性「……残念。この程度でしたか」
振り下ろされる狂気へ『右手』を突き出して消し去る――筈の力が、明確な質量を伴って押し潰してくる!
上条「なんだ……これはっ!?」
壮年の男性「あなたが打ち消す能力であれば、常に供給され続ける膨大なテレズマを叩き込めばいいだけの話。加えて」
パァンッ。
上条「……ぐぁっ……!?」
壮年の男性「魔術師だからといって銃を使ってはいけない話もなく。私の所もバードウェイさんの所と同じで、純粋な魔術結社ではないんですね」
壮年の男性「……ま、言っても仕方がないでしょうが。それでは、ではでは」
壮年の男性「――おやすみなさい、上条当麻君。良い悪夢を」
全てが吹き飛ばされる。
壁、天井、床。それら全てを撃ち抜き、崩壊させていく
受け止めずに投げ出せば、と言う考えが脳裏に浮かぶが、この規模で術式を発動した以上、下手に弾き飛ばせば、飛ばした先で二次被害を生みかねない。
かといって手を離してしまえば、背後の御坂や下に住む住人達にまで被害が及ぶ。
当然、術式を放った側にすれば、『他人を見殺しに出来ない』のですら、想定内だったのだろうが。
アパートの消失は避けられない。だからといってこのまま抱えていれば崩壊に巻き込まれる。
仮に万が一、『天使の力』が途中で消えたとして――物理的に、ただ当然の事実として。
レベル0がアパートの崩落に巻き込まれれば、死ぬのは必然だ。
上条(やば……これ、詰んだ……か?)
往生際の悪い男が、起きない奇跡を望む。背後に庇われてる少女の方は、まぁこれはこれで悪くないかも?と思い始めた頃。
起きない奇跡は起きない変わりに、現れるべき必然は堂々と登場する。
少女「『世界は22に別れ、千々に別れた世界で愚者は知識を求め旅に出る――』」
少女「『――吊し人は罪を知り智恵を得て隻眼となる――』」
少女「『――短い旅の果てに旅人は魔術を友とし罪を母に迎え、法を従える女教皇とならん!』」
ゴゥン。ただそれだけの音が響き。
全てを押し潰そうとしていた『天使の力』は霧散した。
上条「……バードウェイ……!」
バードウェイ「違うな新入り。ここはそうじゃないだろう。こう言うんだよ」
バードウェイ「『馬鹿で愚かな俺を助けて下さってありがとうございます。とてもお優しくて将来性たっぷりの偉大な――』」
バードウェイ「『――ボス』ってな?」
――半崩壊したアパート
バードウェイ「それにしてもアレだな、私が居ない間に随分とシケた顔をするようになったじゃないか」
バードウェイ「つーか一人欠けた後に早速一人補充しようとするとは、中々大物ではある」
上条「違うよ!?なんでそんな話になってんのっ!?」
壮年の男性「甲斐性で御座いますなぁ、こればっかりは業かと」
上条「あれ?お前も敵なの?分かってたけどさ」
バードウェイ「えっと……なんだっけ?『岸田メ○?』」
壮年の男性「『宵闇の出口』の『Homem de ratoeira』……笛吹男(パイパー)と呼ばれておりますれば」
バードウェイ「一度殺したよな?」
笛吹男「えぇ、そちらも今朝方始末した筈ですが?」
バードウェイ「死体の確認もせずにさっさと立ち去った奴が、言うべき台詞じゃない」
笛吹男「そちらも同じでしょう。私に変装した部下の、顔の皮すら剥がずに立ち去ったみたいですし」
バードウェイ「そうだなぁ。お互いにミスがあったという事で水に流そうじゃないか」
笛吹男「ですなぁ、痛み分けですか」
バードウェイ「では改めて」
笛吹男「はい」
バードウェイ・笛吹男「殺す――」
カッ!
笛吹男「これは――閃光弾っ!」
バードウェイ「――と、思ったんだが。今日はちょっと忙しくてね」
バードウェイ「揃ってしまった『断章のアルカナ』は暫く預けといてやるよ。もう少し借りたオモチャで寂しく遊んでいればいい」
笛吹男「『明け色の陽射し』のボスともあろうお方が、盗人相手に逃走ですか?いやはや過去の威光も地に落ちましたなぁ」
上条「テメェっ!」
バードウェイ「無駄だ。魔術を撃ち込んでも防がれるだろうし、お前が行っても『戦車』に撥ねられて終りだ」
バードウェイ「それより――行くぞ」
上条「バードウェイ?飛び降りてもここ五階――のおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
御坂「ちょっ!?待ちなさいよねっ!」
バードウェイ「これで落下制御魔術失敗したら笑い物だろうなぁ」
上条「笑えないよっ!?だって笑う前に死んじゃう、死んじゃうからっ!?」
――XX学区 路上
バードウェイ「ここまで来れば大丈夫だろう」
上条「……本当に?それ映画の世界だと死亡フラグだけど」
上条「つーか御坂は?地面に落下した時には居た筈だけど」
マーク「お嬢さんは私達の方で送り届けておきましたよ」
上条「ならいいけど、ってかすげー久しぶりだな」
バードウェイ「ご苦労だった。車を」
マーク「はい、ボス……少々混んでますので10分ほどかかるかも?」
バードウェイ「チッ。余計な気遣いを」
マーク「何の事か分かりませんが。暫しお待ち下さい」 サッ
バードウェイ「――だ、そうだ?」
上条「あぁはいどうも?ってかさ、アレなんなの?『木原』は終わったんじゃなかったの?」
バードウェイ「巻き込んでおいて気が引けるが、ここからは進む道を分けようか」
上条「バードウェイ?」
バードウェイ「君はそちら、私はこちら。線引きはきちんとしないとな」
上条「……えっと、バードウェイさん?」
バードウェイ「さんは不要だ。というか白いのもお前も外見で人を判断しすぎじゃないか?」
バードウェイ「あの魔術師は私達の方で始末をつける。君は『他の連中に累が及ばないか?』と案じているのだろうが、それはない」
バードウェイ「奴が人攫いする時には必ず魔術を使う。というか使わざるを得ない。子供であろうが、人一人を運ぶのは困難だからな」
バードウェイ「我々はそれを探知して的確に攻撃する――というか、して見せた」
バードウェイ「以後、奴が不用意に『そっち系』の魔術を使いはしない。居場所がバレるからな」
上条「アイツはもう俺や御坂達を巻き込まない?」
バードウェイ「それは私が生死不明だったせいだよ。以後は不用意な真似は出来んさ」
バードウェイ「私達を潰すまでは一切手を出さないだろう」
上条「……そうか。それじゃ俺はどうすればいい?」
バードウェイ「気になるようだったらお友達の側に居てやれ。ついでにフラグの一つも立ててやれば安心するだろう」
上条「あ、いやそうじゃなくって、お前を手伝うからどうすればって、意味で」
バードウェイ「やめろ馬鹿者、手を出すな。『アレ』は私達の獲物だ」
上条「お前……ムキになってんのか。お前らしくも――ない、事もないけど」
バードウェイ「……ならないといけないのさ。どうしても」
バードウェイ「魔術結社だなんだと言ってはいるが、その実態はマフィアと変わらん」
バードウェイ「名誉と闘争、表沙汰にならない歴史の表面下での戦争は当たり前だ――事実、連中を一度壊滅させたのは私だしな」
上条「……」
バードウェイ「お前も奴が不合理な動きをしていたのに気づかなかったかね?」
上条「そういや……知り合いの子と会ってたけど、人質には使わなかったり」
上条「さっき撃たれたのもペイント弾……ワケわからねぇよ」
バードウェイ「一応、ではあるが『関係無い人間を極力巻き込まない』という配慮をしたんだろうな。建前上は」
バードウェイ「馬鹿者が中途半端に首を突っ込んでいた手前、『灰色』として攻撃したんだよ」
上条「……あれ、どう見ても本気だよね?大人げないにも程があったよね?」
バードウェイ「奴がぶっ放す前、警告や知己かどうかの確認はしなかったか?まさか手を先に出したりはしてないだろうな?」
上条「家を壊したのはあっちが先だよ!」
バードウェイ「分かり易い解説どうも。筋は通しているのか、あぁ気分が悪い」
バードウェイ「アイツも『そう』なのさ。数百年――あぁいや、奴は笛吹男の後継を自称しているから700年以上か」
バードウェイ「だから『面子』を何よりも重んじる」
上条「お前への復讐なんだろ?だったら余計に放っとけねぇよ!」
バードウェイ「涙が出る程有り難い話をありがとう、上条当麻君。だがね、こうも考えて欲しいんだ」
バードウェイ「『魔術結社へ復讐しようとする男を、学園都市製の能力者の力を借りて倒した』と」
バードウェイ「我々は業界から笑い物にされるだろうね、確実に」
上条「それの――何が悪ぃんだよ!それで助かるんだったら――」
バードウェイ「ダメなんだ!そうじゃないんだよ!」
バードウェイ「確かに私の命は助かるかも知れない。結社の仲間達も命を落とさないで済むかも知れない」
バードウェイ「でも、私達の心が死ぬんだ。プライドが!魂が!そして存在意義がだ!」
バードウェイ「自分達の不始末、しかも相手が見かけ上は堂々と臨んできているのに、第三者の力を借りられる訳が無い!」
バードウェイ「私達が面子を失うって事は、そういう話なんだよ!」
上条「それは」
バードウェイ「……例えばの話。自分のミスから2万人近い命を生み出し、1万人が殺されたとしよう」
バードウェイ「どう足掻いても、逆立ちしたって勝てない相手に死をも恐れずに立ち向かっていった」
バードウェイ「それは何故だ?どうして彼女はその選択肢を掴んだんだ?」
バードウェイ「戦わない理由なんて、それこそ幾らでもあったろうに」
上条「……」
バードウェイ「……君が戦った理由と大して変わらない。他人からすればおかしな生き方なのだろう」
バードウェイ「魔術結社の矜持。今や朽ちかけてる古い樹の戯言かも知れない。けれど――」
バードウェイ「――それをしなければ、私が、私でなくなってしまう――」
バードウェイ「――死ぬなんかよりも、それはずっとずっと怖いんだ」
上条「……」
バードウェイ「だからもう、ここからは別れよう。上条当麻」
バードウェイ「魔術サイドと科学サイド。そんなものを気にしているのが馬鹿馬鹿しくなるぐらい」
バードウェイ「僅かな間だったが、楽しかったよ」
上条「バードウェイ……」
バードウェイ「では――こんどこそ、サヨナラだ」
――XX学区 路地裏の路地裏
上条「――って遅いなマーク。渋滞にでも巻き込まれてんのか?」
バードウェイ「そうだなぁ、時間帯で言えば混み合う――待て待て、違うだろ、そうじゃないだろ」
上条「道間違ったのか?大丈夫、そんな時には地図アプリがだな」
バードウェイ「道を間違ったのは私じゃない。お前だ、お前」
上条「先に歩いてないのにその無茶振りはどうかと思うんだよ、うん」
バードウェイ「いやいや、だから!お前は科学サイドだろうが!」
バードウェイ「え?じゃない!さも当然のように何着いて来ているんだっ!?」
上条「いやだって、手伝おっかなって?」
バードウェイ「……貴様はホンッッッッッとに人の話を聞いてないんだな、あぁ?」
バードウェイ「これは、私達の、ケンカだ」
バードウェイ「分かるか?日本語は通用するんだよな?肉体言語がいいって言うんだったら、そっちでもいいぞ?」
上条「そんなイジられかたは初めてだっ!?」
バードウェイ「何度も言ったが、面子やら誇りやらが魔術結社としての有り様だ」
バードウェイ「だから貴様が出る幕は――」
上条「いやいや、そうじゃない。違うんだバードウェイ」
上条「俺がお前の味方するってのはそう言う事じゃなくてだ」
バードウェイ「じゃあ何だ?何がしたい?お前の信念は私達の誇りよりも強固とでも言うのか?」
上条「そういう話でもねぇよ。信念に大小は無いだろうし、比べていいもんでもねぇ」
上条「つーか忘れてんのかお前。何回か言った筈だけど」
バードウェイ「何をだよ」
上条「俺は約束したじゃねぇか、だからだよ」
バードウェイ「……うん?」
上条「どんだけ偉かろうか、ボスだろうが、そんなは関係無ぇんだよ」
上条「『俺はお前を守る』って決めてんだ。それ以上でもねぇ以下でもねぇ」
バードウェイ「わ、私をか?貴様が?」
上条「前にも言ったけど、『他の誰かを巻き込むんだったら、俺を利用しろ』って憶えてるよな?それでケンカもしたけど」
上条「今回も、アレだ。俺はとっくに巻き込まれてんだよ!だったらする事は決まってんだろ?」
上条「俺が関係ない、筋違いだなんてよく言えたよな。大体俺は今――」
上条「『明け色の陽射し』の一員なんだろうが!」
――XX学区 路地裏の路地裏
バードウェイ「……ぅ、うん。まぁまぁ?なんだ、そのいいんじゃないか、たわしとしては」
上条「噛んでるよ?」
バードウェイ「煩いな!誰だって動揺するだろう!?その、一応確認するんだが、本気なんだよな?」
バードウェイ「……『明け色の陽射し』の一員的な話は?」
上条「こんな時に嘘吐くなんて有り得ねぇだろ」
バードウェイ「いやまぁ、うん――本気、か?本当の本当に?」
上条「何回言わせんだよ。いや、何度でも言うけどさ」
バードウェイ「そ、そうか……?いやでも、私の勘違いと言う事もあるし。まだまだっ私は騙されないぞっこの『幻想殺し』め!」
上条「『女殺し』的な意味は、無い。前にもどこかで言った気がするけど」
上条「――あ、そういやお前、大切なもの忘れてっただろ」
バードウェイ「な、何がだ」
上条「えっと――」
上条(ぱんつ、っては言いづらいよな?んじゃ遠回しでいいか)
上条「大事な、ものだよ。いつもは目に見えないけど、みたいなの」
バードウェイ「謎かけか。大体場違いな話だろうが!」
上条「いや、これは後回しにすべきじゃないんだよバードウェイ。大切なんだって」
バードウェイ「大切、なぁ――それは、もしかして、なんだが」
バードウェイ「とてもとても大切なもので、掛け替えが無くて――」
バードウェイ「――私が居なくなって、初めて気づいた、とか言うんじゃないだろうな?」
上条「……あぁ、その通りだ」
バードウェイ「それだとまるでプロポー――なに?」
上条「何、ってそりゃお前」
バードウェイ「」
上条「……お前が居なくなるまで気づかなかった!あって当然だと思ってたんだ!」
上条「普段は意識しないけどさ、やっぱりその、無くなったら気づくだろ!?」
バードウェイ「お前……いやでもっ!?流石にまだ、早いって言うか」
バードウェイ「誤解するなよ?私もまぁ、うん、嫌いじゃないとは思うんだよ」
バードウェイ「でもほら、こう言うのは段階を踏んで、的なのがあるだろうが!」
上条「好きとか嫌いじゃないだろ!必要だろ!俺にもお前にも!」
バードウェイ「お前は……」
バードウェイ(ここまで強烈に求愛されるとは……!)
上条(ぱんつって必要ですよね、はい)
バードウェイ「……分かったよ、上条当麻。そこまで言うのであれば、まぁ私も覚悟を決めよう」
バードウェイ「元々『結社』にとっては利用価値のある男だ。諸手を挙げて賛成こそすれ、反対する奴は八つ裂きにするから心配はいらん」
上条「お、おぅ?」
上条(ぱんつ穿くのが反対?マークが変態こじらせてんのかな?)
バードウェイ「苦労が無いとは口が裂けても言わんよ。だがしかしその全てから私はお前を護ろう。そしてお前は私を護れ」
バードウェイ「――死が二人を分かつまで、な」
上条「……うん?十年早いんじゃなかったのか?」
バードウェイ「4年弱早いっ!」
上条「なんだろうな、この周期?段々短くなってるけど。ん、そりゃ構わない――何か結婚式のアレみたいだな」
バードウェイ「馬鹿者が!そういうのはアレだっ!……もうちょっと、困るって言うか。いや!困らないけど!なぁ!?」
上条(あれ?俺また地雷踏み抜いたの?もしかしてすっごい大きいの)
バードウェイ「……やれやれ、とんだ『ローマの休日』になってしまったようだが。まぁ仕方があるまい」
バードウェイ「思えばお前がやたら私に構うのも、そういう縁だったのかも知れないなぁ」
上条「それ言ったら、お前は北極で助けてくれたじゃんか?借りは俺の方がデカんだからな」
バードウェイ「いやその、借りとか貸しとか、なんだ……アレだよ、『ファミリー』なんだから」
バードウェイ「助けて当然、助け合って当然だ……でもまぁ、お礼を言うのは、言ってくれるのは、嬉しい、かもな」
上条(ファミリー?あぁマフィアとかでよく言うもんな)
上条「取り敢えずは、あの魔術師ぶっ飛ばしてからだな。全部」
バードウェイ「……あぁ。あったなぁ、そんな話」
上条「大事じゃないですかねっ!?すっごく!」
バードウェイ「人生の一大事に比べれば些末な話だよ。正直、時間を割いてやるのも惜しいぐらいだ」
上条「さっきと言う事違ってやしませんか?……まぁいいから、行こうぜバードウェイ」
バードウェイ「――おい、新入り。私はバードウェイじゃない」
上条「え」
バードウェイ「レイヴィニアって呼ぶんだ!いいなっ!?」
※今週の投下は以上となります。お付き合い頂いた方に深く感謝を
上司から「最後の最後でラブコメに戻るってどうなの?」って言われましたが (´・ω・`)
いやまぁ前二人は重いテーマ抱えてるから、解決しないとどうしようも無いって言うか、うん
最終話もしかしたら来週で最終回になるかも……次、何書こう……?
乙
安定の上条さんでしたw
乙です
乙
上条さん罪な男やでぇ…それはそうとレイヴィニア可愛すぎるな! 最高だぜ!
アイテムのときみたいにアフターも是非よろしくお願いします!
そしてRー18もゴニョゴニョ
うぉぉぉ
バードウェイ
かわえーなー
来てたのか!!乙でした!!
鳥道さんってマジで実年齢12歳ぐらいなのね。
小萌先生みたいな合法ロリかと思ってたわ………
age繧薙↑ks
ウィザードの白い魔法使い?
>>1ーーーーーーーーーーー!!早く来てくれーーーーーーーーーーーーー!!!
毎回月曜か火曜日に投下だからもう少し我慢しなさい
>>446
『レッサー「這い寄れ!レッサーさん!」』で是非!
>>446
食蜂と雲川の過去に何か因縁のありそうな二人組に一票
後はシェリーが被るけどイギリス女子寮組とか
――路地裏
上条「しかし遅いなマーク」
バードウェイ「気を利かせたつもりなのだろう。もしくは『笛吹男』に襲撃されてるかもしれんが」
上条「ってか、ざっとしか聞いてないけど、車で移動とかあんま隠れてないよな?」
バードウェイ「奴らは学園都市側ではないからな。監視カメラや携帯のハッキングを恐れずに済む」
バードウェイ「むしろ霊装で会話する方が盗聴される恐れがあるぐらいだ」
上条「ふーん。つーか『ハーメルンの笛吹男』のハーメルンってドイツの街だったよな?」
上条「けどアイツ確か、『ポルトガルから来た』っつってるよーな?」
バードウェイ「詳しくは長くなるから歩きながら話そう。待っていても時間の無駄だ」
上条「わかった。けど、どこに?隠れアジト的なとこか?」
バードウェイ「……自分の格好を見てみろ。下手打ったコンビニ強盗みたいになってるから」
上条「ペイント弾喰らった場所がカラーボール食らったみたいになご覧の有様に……」
バードウェイ「その塗料自体に追尾用の魔術が――おい、動くなよ」 クンクン
上条「おぉいっ!?急に顔近づけてどーしたっ!表通りで人多いんだからなっ」
バードウェイ「……ふむ。特にこれといって問題はないか」
上条「えっと、絵面が危険な事になってますよ?つーか魔力感知したの?」
バードウェイ「いや、我慢出来ないほどキツい体臭だったらどうしようと」
上条「関係無ぇなっ!?それと10日以上一緒に住んでる奴が今更だろうっ!」
上条「……あ、俺っ銃弾だと思って撃たれた所に触ってるから、打ち消しちまったのかも」
バードウェイ「妥当な線だろうな。何せ『笛吹男』は『盗躁の魔術師』と呼ばれてるくらいだし」
上条「逃走、闘争?逃げていく方?闘う方か?」
バードウェイ「盗むと躁鬱の躁で、『盗躁』。派手にやらかして盗み出すって意味さ」
上条「どっかの怪盗三代目みたいなの想像した」
バードウェイ「奴らが主に盗んで――攫っていくのは『人』だ。それも子供に限る」
上条「っ!」
バードウェイ「魔術の実験に使って廃人にしたり、どこかへ売り飛ばしたり」
バードウェイ「『宵闇の出口』は元々『黄金の夜明け』と呼ばれていた、大きな魔術結社の一つでな」
バードウェイ「同じく枝分かれした『明け色の陽射し』の親戚だと言えなくもない――が!」
バードウェイ「私達が『効率的に統治する方法を探求する』のに対し、奴らの組織は『盗賊団』が前身、そして解体した後の今もだ」
バードウェイ「だからいつの間にか、奴らのボスは『笛吹男』と侮蔑と畏怖を込められて呼ばれるようになり――」
バードウェイ「――連中も嬉々として自称し始めたんだよ」
――輸入洋品店
バードウェイ「お邪魔するよ」 カランコロンッ
上条「おいっ!こんな高そうな店で買えないよっ!つーかスーパーでも苦しいぐらいなのに!」
店員「これはこれはボス。ようこそおいで下さいました」
バードウェイ「世話になる。爺は来ているな?」
店員「えぇ、こちらへどうぞ」
上条「顔馴染みの店?……あぁこっちのに来るのも三回目だっけ」
バードウェイ「そうではないよ。ここは『明け色』傘下の店だ」
上条「お前ら店まで経営してんのかっ」
バードウェイ「違う違う。ブリテンに本店があって、ここはその支店」
バードウェイ「ある意味アイルランド人と同じで、生活互助会みたいなものさ」
上条「宗教みたいなもん?」
バードウェイ「というか不思議に思わないかね。これだけデカい科学の街に、魔術結社の一つや二つや三つ、潜り込んでない方が不自然だ」
上条「……いいのかなぁ、これ」
バードウェイ「とはいえ、別に何か工作をしている訳でも、イリーガルな諜報活動をさせている訳でもない」
バードウェイ「たまたま、偶然にも、神の気紛れにより、我が結社の構成員の店があっただけの話」
上条「もしも誰かが捕まったら?」
バードウェイ「個人でした事だ。結社とは関係ない」
上条「ブラック企業じゃねぇか!?」
バードウェイ「ブラックロッジだよ?」
上条「うん、知ってた」
老人「『……ようこそおいで下さいました、レイヴィニア様』」
バードウェイ「『ご苦労。待たせたな』」
老人「『とんでも御座いません。この爺、お嬢様のご命令とあらばどこへでも馳せ参じますぞ』」
上条(見るからに職人って感じの人。仕立て屋さんなんだろう)
上条(てか会話内容は英語だから、半分ぐらいしか理解出来ない……頑張らないと)
老人「『何でもキャベツ野郎と抗争中だとか。ここは私が「鉄血の腕(アイアンブロウ)」にてお助け致します!』」
バードウェイ「『年寄りの冷や水だ、自制しろ』」
老人「『ですがお嬢様!』」
バードウェイ「『お前に何かあっては曾孫と私が悲しむ』」
老人「『……口がお達者になりましたなぁ』」
バードウェイ「『あとキャベツ野郎ではなく、その子孫だな。自称だし、コーカソイドには違いないだろうが』」
上条(キャベツがどうこうって……あぁ、今晩の献立か何か?)
バードウェイ「『お前の方こそ口に気をつけろ。我が大英帝国が植民地を失ったサムライの末裔だぞ』」
老人「『否定はいたしませぬが』」
バードウェイ「『そもそもアレはルーズベルトがアカの狗に成り下がった結果だよ――というか、さっさとやってくれ。時間が惜しい』」
老人「『それでは』――それでは、こちらへどうぞ、お客様」
上条「はい――お前は来ないのか?」
バードウェイ「……自分の下着姿を嫁入り前の淑女へ見せようとは、随分いい趣味をしているなぁ、貴様」
上条「違う!?そうじゃなくてだ。連中との絡みって意味だよ!」
バードウェイ「心配はいらん。というかしてもいない」
バードウェイ「だってこれからはお前が守ってくれるんだろう?」
上条「……言った手前守るけどさ。危機意識ぐらい持とうぜ?」
バードウェイ「言って事は守らないと。なぁ、『お兄ちゃん』?」
上条「気がつけば妹が四人!その内半分が俺より年上って……?」
――バットヤード
老人「ではお召し物を脱いでそちらへお立ち下さい」
上条「あ、はい」
老人「細かい採寸を致しますので、少しくすぐったいかも知れませんがご辛抱を」
上条「はい、大丈夫です――っていうか、代えの服を出してくれるんじゃ?」
老人「えぇ、それも致しますが、新しい服をつくのに寸法は知らねば――と、もしかして何も聞かされておいででない?」
上条「というか追ったり追われたりしてんのに、こんなんでいいかな、と」
老人「パイパーについての子細はご存じで?」
上条「こっちに来てからは多分、最初っから関わってます」
老人「……ふむ、だから。でしょうか」
上条「何がですか?」
老人「いえ独り言で御座います。では失礼致します」
上条「いやあの待って下さいよ。採寸はいいんですけど、何か服を仕立てるって事ですよね?」
上条「遠慮したいって言うか、貰う理由が無いって言うか」
老人「代々続いておるしきたりで御座いますれば、あまり深くはお考えにならない方が宜しいかと」
老人「所謂『新入り』へ対し、入社に当たって服をプレゼントされております。私の一族は代々仕立てる任を仰せつかっておりますれば」
上条「『明け色』のって事ですよね?」
老人「確かに金銭的な価値は……まぁ、ほんの少しだけ御座いますよ。ユニークなCloseの、衣服の形をしたゴミに比べればですが」
上条「口悪いなっ!?結社の人って全員そうなのかっ!」
老人「確かに新入りでは風格も経験も浅く、大抵はスーツが似合わない――『服に着られている』状態となるでしょう」
老人「ですが、それでよいのですよ」
老人「経験が無ければ積めばいい、風格もその内出て来るでしょう。結社の中で揉まれていけば、いつかは」
老人「『立派な服に見合った中身になる』、それだけの話で御座います」
上条「……」
老人「親が子供の成長を願って、少しだけ大きい服を買う。まぁそんなようなものですなぁ、要は」
上条「……期待されるのはプレッシャーもあるけど、ちゃんと応えたいなっては思う」
上条「そうじゃないと、相手の『信用』を裏切る事になるから」
老人「結構。それだけ知っていれば充分。まだ辞退されるおつもりでしたら、一発殴って叩き出す所でした」
上条「またまたー、ご冗談を……冗談ですよね?」
老人「お嬢様は孫娘のようなものですからなぁ。口先で騙すような男には容赦致しません」
上条「まぁちっさいのに良くやってるし。バードウェイ」
老人「癖の強い魔術師の集まりにも関わらず、裏切り者を全く出さない理由はそこいら辺にあると私は考えております」
上条「まず信頼しないと信頼してくれないって話?」
老人「それでも最初から信用に値しない、どころか会話する余地のない連中は多う御座います」
老人「ライム野郎の教会系魔術師なんか、内部監査と粛正が恒例行事ですから」
上条「……あんまり弁護はしたくないけど」
老人「ふむ?」
上条「アイツらの目的は『イギリスを守ろう』って事なんだから、それだけデカい組織じゃないと出来ないだろうし」
上条「面子集める上で色々と入り混じまうのは、何か仕方がないって気もするけど」
老人「ますます結構。共通の理念などと言う看板が無いと理解されておいでだ」
老人「余所様がどうであろうと、我々は我々のスタイルを守れば良いかと」
上条「でも個人的にはさ。連中も国が好きで人が好きでやってる奴も居て」
上条「それを、その事実を見なかったフリにも出来ないって言うか」
上条「……バードウェイの後見人っぽい人に言うのは、良くないとは思うんだけど」
老人「ほぅ、ご存じの上でも我を通されるか?」
上条「ちょっと前にあいつが『自分が自分じゃなくなるのは死ぬより怖い』って言ってたんだけど」
上条「……俺、頭悪いから正直良く分からなかった。でも」
上条「ガキを守るのは大人の役目だろ?『結社』――お前らが、今までしてこなかった事をだ」
上条「俺がしようって約束したんだよ」
老人「……クソ生意気な東洋人め。地獄へ落ちろ、サンドリヨンの継母に食われてしまえ」
上条「だから口悪ぃな!?バードウェイの口の悪さはお前らが影響したんじゃないのか!」
老人「採寸はもうしてやったから、さっさとそこにある予備のスーツを着て出て行け!シャツと一緒にハンガーにかけてる奴だ!」
上条「これ?」
老人「あぁそれじゃない!そんな若造が着る、ラペルの厚いみっともない奴じゃダメだ!」
上条「ラペルって?」
老人「スーツの下襟がラペル、上襟がカラーと言うんだ。幅広い不格好なラペルが流行ったのは、カブトムシとか言う若造の影響だ」
上条「ビートルズって言えよ。あんま知らないけど」
老人「いいか?ライム野郎の紳士ってのは、胸ポケットにハンカチを入れるもんだ。こういう風にさり気なく」
上条「あー、映画とかで見たような」
老人「けどワイドラペルだと引っかかるんだよ。ほれ」
上条「確かなんかみっともないかも。バランス悪い」
老人「そうそう。だから本場の人間は黙ってハンカチを差すもんだ。どうせ持ってないんだろ?くれてやるから持っていけ」
上条「マジで?いいの?」
老人「どうせ売るほど余ってんだから問題ない。店の客に一枚を二枚分の値段で売りつけるから心配するな」
上条「商売人として問題がありすぎるだろ」
老人「どうせ高く売れば高いだけ有り難がる馬鹿者どもだ。その筋の商品、一年程度見てれば分かるような違いにも、一生気づかないような連中だぞ?」
老人「スーパーの野菜売り場で腐りかけのキャベツ買って来ようが、目利きの問題だろうが」
上条「さっきと言ってる事違うな!ユニークなナントカはどこ行った?」
老人「物の価値に合ってるかどうか、って話だよ。ガキには理解出来ない」
老人「あぁそうそう。お前の名前はなんて言うんだ?刺繍するのに必要だろう、書いていかないなんて気が利かない東洋人だな」
上条「いやそこまでしてくれなくたって、別に」
老人「仕事なんだよ。じゃなきゃ誰が貧乏そうな東洋人の相手なんかするもんか。ここへ書いていけ」
上条「……ムカつくなぁ。えっと……」 カキカキ
老人「なんて読むんだ?最初の二文字がファミリーネームか?」
上条「名前が当麻、名字が上条だ」
老人「カミジョー……うむ、そうするとトーマ=K=バードウェイか。使徒トマスの名を生意気にも使ってやがる」
上条「……はい?」
老人「まぁ、何とか仕上げといてやるから。服に着られぬように精進しろ若造が」
上条「そりゃどーも」
老人「――あと『パイパー』には殺されるな。注文がキャンセルさせられたら、売り上げが減るからな」
上条「……分かったよ、じーさん。アンタも立派になった時の服を作ってくれるまで、精々長生きしやがれ」
老人「死ぬなって事だろ?最近の若いのは優しくて泣きそうだ」
上条「近いウチだよ。具体的には今月中に立派になってやるよ」
バードウェイ「――おい馬鹿者ども。レディを放置しといて意気投合してるんじゃない」
老人「いえ若造に礼儀を教えていたまでです――さっさと出て行け。仕事の邪魔だろ」
上条「わかったよクソジジイ。もう二度と来ないからな!」
老人「ふざけんな!ウチの女房が作ったマズいフランス料理をお見舞いしてると思ってたのに!」
上条「だったら丁度いい!さっき逃げる前に偶然袋詰めしていたきなこ棒をくれてやるぜ!」
バードウェイ「分かったから暇な時にやれ。今は一応抗争中だ」
バードウェイ「あときなこ棒は私にも寄越せ。割と好物だ」
――店内
バードウェイ「……本当に貴様は人と仲良くなるのは早いよなぁ」
上条「なんつーか変わったジーサンだよなぁ。お前の後見人みたいだって言ってたけど」
バードウェイ「私の前の前のボスの時代、マーク的な立ち位置にいた魔術師だ。今では引退して趣味で仕立人をしている」
上条「何か偏屈なイギリス人っぽい感じ」
バードウェイ「元々はフランス人で、ヴィシーの際のユダヤ狩りで嫌になってイギリスに亡命。それからずっと、だな」
上条「へー?凄い人なの?」
バードウェイ「彼の作ったスーツは必ず『明け色』へ入った人間へ送られる」
バードウェイ「今では流石に廃れたが、古参の中には生涯着続けた人間も少なくない」
上条「職人さんなんだなぁ……あ、もう一つ聞いて良いか?」
バードウェイ「あぁ私達の下着の替えとかも用意させておいたよ」
上条「いや、そーゆー事じゃ無くって。何で今このタイミングで日本の、しかも学園都市にいるの?」
バードウェイ「……」
上条「……」
PiPiPi、PiPiPi……
バードウェイ「おっとすまない。その質問は後日秘書を通して説明させるとしよう」 ピッ
上条「うん、意外とお前らが緩いのは最近分かってきたような気がする」
バードウェイ「『私だ――が、あぁウルサイウルサイ。もう聞いたのか』」
上条「っていうかお前も日本語で話す必要は無いと思うんだけど」
バードウェイ「パイパー対策でクイーンズよりもマシだろ?無駄だとは思うが――『こっちの話だよ、何?』」
バードウェイ「『……』」
上条(電話の向こうでパニクってるっぽいマークの声がする。緊急事態かな?)
バードウェイ「『……なぁ、マーク?マーク=ハン○?』」
上条「それK-1選手。最近『あっれー?こんなに強かったっけ?』って総合格闘技でも活躍してる人」
バードウェイ「『お前がどうしても言うのであれば、この件は白紙にしよう。何せお前の言う事は大抵間違っていないからな』」
バードウェイ「『いやいや謙遜は要らんよ。滅私奉公とまでは言わないが、お前の忠義にはいつも感謝している』」
バードウェイ「『――だが、それならば当然?「代わり」はいるんだろうな、あぁ?』」
バードウェイ「『「右席全員を倒す」程度の実力、そして「学園都市第一位を蹴散らす」程度の能力を兼ね備えた相手だよ』」
上条「イナイイナイ。そんなバケモノ居るワケが」
バードウェイ「少し自覚しろよバケモノ――『で、どうだね?』」
バードウェイ「『……ふむ?黙ってしまったなマーク。どうしたんだ?』」
バードウェイ「『流石に今のは私も大人げなかったか。流石に撤回するよ。条件も変えよう』」
バードウェイ「『では「正々堂々決闘」なんてどうかな?女を賭けて勝負は神話の時代からのお約束だ』」
上条(バードウェイさんが生き生きとして、ものっそい悪い顔で喋ってる……!)
上条(悪い子じゃないし、むしろ良い子なんだけど……未来の彼氏は相当苦労するだろうなぁ)
バードウェイ「『では本人に話を聞いてみようか』――なぁ?」
上条「はい?」
バードウェイ「将来を誓い合った男女を無理矢理引き離すため、マークが決闘したいと言っているんだが」
上条「今からそっち行って、寝言ごとをぶっ飛ばせばいいのか?」
バードウェイ「『――だ、そうだ。どうする?』
上条(このクソ忙しいのに何やってんだよマーク)
バードウェイ「『――そうだなぁ、その通りだよマーク。お前は理解が早くて嫌いじゃない』」
バードウェイ「『……いや、心配してくれるのは有り難いと思うし、お前の懸念も理解は出来る』」
バードウェイ「『だがあそこまで熱烈に求婚されてしまっては、覚悟を決めねばならない』」
上条(姉妹か親戚の結婚式でもあんのかな?)
バードウェイ「『了解した。では――何?何だと?』」
バードウェイ「『それは構わないが……』」
バードウェイ「おい。マークが何か話したいんだと」
上条「うん?――『もしもし』」
マーク『えっと……はい、まぁなんて言ったらいいのか、分かりませんが、その』
マーク『ご愁傷様ですっ!いやホンットに!』
上条「『いきなり何なの?お疲れ様です、のイギリスバージョンはその挨拶なのか?』
マーク『いやまぁスペンサー老がエラく気に入ったので、今更手遅れ状態になっていますが、まぁまぁ』
マーク『いいですか、上条さん!生きていれば絶対に良い事はあります!だから早まった真似はしないで下さいねっ!?』
上条「『ごめんな?何か心配してくれてんのは分かるんだけど、何を言っているのか、何一つとして分からないよ』」
マーク『あー……でも、よくよく考えれば俺もクソガキのお守りから解放される、んだよなぁ……?』
上条「『もしもーし?マークさーん?』
マーク『小間使い兼執事兼奴隷の仕事をせずに済む……!』
上条「『おーす?聞いてますかー?』」
マーク『さっさと出来れば結社は安泰。元々ボスの性別年齢も都市伝説みたいなもんだし、不利益はない、か』
マーク『よっし分かりました!そう言う事であれば私は全力でサポート致しますっ!』
上条「『よく分からないけど、お前自分の都合を何かよりも優先させたよね?よく分からないけどもっ!』」
マーク『分かりました!まぁ本人同士が幸せであるのなら、私は涙を呑んで認めましょう!』
上条「『声がとても笑っている気がするんですけど』」
マーク『それじゃ今日はメールで送ったホテルに泊ってください。そちらから歩いていける距離ですし、万が一であれば応援も短時間で、はい』
上条「『分かった』
マーク『あぁ後、上条さんにお願いがあるのですが』
マーク『実はボス、一人で眠るのが苦手でして、普段は抱き枕かパトリシア嬢を利用されているのです』
上条「『パトリシアが抱き枕扱いってのもアレだけど。んで?』」
マーク『えぇ当然ホテルには無いでしょうし、また襲撃の心配もありますので上条さんが代役で』
上条「『あぁうんいいけど』」
マーク『……コイツ本当に頭悪りぃよなぁ……』
上条「『え、なんだって?』」
マーク『定番の返しありがとうございます。後は……電気とか全部消してくださいね、じゃないと眠れませんから』
上条「『それも分かった』」
マーク『ではご武運を祈っております。明日の朝は応援を連れて伺うと思いますので、何事もなければ待機していて下さい』
上条「『了解。でもあんまりそっちも無理するなよ?死んじまったら、何にもならないんだからな』」
マーク『またまたぁ。上条さんだって「死ぬよりも大切だ」とか言って、色々な所に首突っ込みましたよね?』
上条「『俺は良いの。俺の知り合いは、ダメだ』」
マーク『そりゃ手厳しいですよ。ではまた明日』
上条「『んじゃまた』」 ピッ
バードウェイ「また碌でもない事を吹き込まれたんだろ?」
上条「いや細かい指示が幾つか……あ、メール来た」
バードウェイ「どれ――ホテルだな」
上条「今晩ここに泊まれって指示と、明日は朝一で応援を連れてくるって」
バードウェイ「応援……?無関係な連中は協力出来させられないんだが」
上条「雇った、とかそーゆー事じゃねぇの?」
バードウェイ「それも宜しくないのだよ。向こうがそうしてない限り、こちらがするのは拙い」
上条「あっちは『木原』騒動でやらかしまくってるのになぁ。ってかさ、連中がなんであんな事件仕掛けたんだ?」
バードウェイ「それも話すと長くなるのでホテルへ行こう。と言うか腹が減った。何か作れ」
上条「ホテルじゃ無理だろ」
バードウェイ「長期宿泊者用のビジネスホテル、と書いてある。簡単なキッチンが付属してあり、ツインルームがベースだそうだ、が」
バードウェイ「……あぁ、すまん」
上条「何?どったの?」
バードウェイ「個室だけでお前の部屋よりも広いな」
上条「言わなくていいじゃない?指摘しない方が優しさだって事もあるんだよ!?」
――ビジネスホテル
上条「――はい、メシ出来たぞー」
バードウェイ「……あぁ味噌汁は良い。疲れた体を癒してくれる……」
上条「ライスは売ってる奴、味噌汁もレトルトのだけど。グラタンは鍋とオーブンレンジで作ったんだからな」
上条「……いや、俺何回も言ってるけど、こんな事してる場合じゃないよね?」
バードウェイ「そこら辺は食事が終わったら話そう。面倒臭いからマークに丸投げしたい所ではあるが」
上条「つーか俺、『お前らが何かやってる』以外の情報が与えられていないんだが」
バードウェイ「おっと、『死ぬなら死ぬでも構わない』出力で術式かまされて、二度も命を助けられた男の台詞とは思えんなぁ?」
上条「そりゃ感謝してるけどっ!それと説明責任は別物でしょーが!……つか俺このネタ一生引っ張られそうな気がする」
バードウェイ「いいじゃないか。それはそれで楽しそうだ」
上条「……まぁどっちかっつーと、お前が無理難題ふっかけてこない方が気になるけど」
バードウェイ「どういう意味だ」
上条「『命を助けてやったんだから協力しろ』みたいな感じで」
バードウェイ「貴様は私をどう思っているのかね?」
上条「ドSロリのバードウェイさん」
バードウェイ「爆破――じゃない、融解したアジトに置いてきたビリビリウサギが惜しまれるな」
上条「……頼むっ!あれだけはっ、あれだけは壊れててくれっ!」
バードウェイ「と言うか何度かスルーしてしまったが、決して恥ずかしい訳でもないんだが、と三度前置きするんだが」
上条「超回りくどいな」
バードウェイ「バードウェイじゃない、レイヴィニアと呼べ」
上条「あー、うん、慣れたら追々な?」
バードウェイ「……でもまぁ人前は少しだけ、ほんの少しだけ躊躇するよなぁ。ふむ?」
バードウェイ「私も『トーマ』と呼ぶ必要もあるし、暫くは猶予期間と行こうか。お互いに」
上条「だなぁ……だなぁ?」
上条(何かスルーしちゃいけない気がするけど、大丈夫かな?)
バードウェイ「それより食べてしまおう。きちんとした飯を食うのは昨日の……朝食以来だ」
上条「四人で食った時ぶりか。随分大変だったよなぁ……ともあれ、いただきます」
バードウェイ「いただきます」
上条「グラタンはお代わりあるから遠慮するなよ」
バードウェイ「食事以外でも今までした事が無い――いや、たくさん食べる女は嫌い、か?」
上条「俺の作った飯なら逆に嬉しいかも」
バードウェイ「貴様はもう少し女性の機微について勉強――は、要らんな。これ以上面倒臭くなったらかなわん」
上条「……言葉の意味は良く分からないが、罵倒されている事だけは分かるからな?」
――食後
バードウェイ「……眠くなってきた」
上条「事情説明は?アレだよね、お前ら人のアパートぶっ飛ばしておいて、アフターケア無しってどういう事だよ」
バードウェイ「いいじゃないか、別に。お前が知ったからって物事がどうにかなるとも思えん」
上条「魔術に関しちゃそうだけど」
バードウェイ「あぁすまない、昨日の朝から寝てないんだよ……仮眠を取るから、暫くしたら起こしてくれ」
上条「あぁいーよいーよ別に?疲れてるんだったら、そのままベッドで寝ちまえ」
バードウェイ「おい新入り。ボスをベッドまで運ぶ栄誉を与えてやろう」
上条「へいへい。よいしょっと」
バードウェイ「お、てっきり猫の子状態で運ぶと思ったが、中々気が利くじゃないか」
上条「前にもあったよなぁ、ってうか路地裏でマフィアに絡まれてるお前を運んだのが最初だっけ」
バードウェイ「帰りの飛行機でパトリシアに自慢してやったら、盛大に羨ましがられたよ……というか、あの時以来か」
バードウェイ「光栄に思えよ?貴様の腕の中のレディを抱いているのは、父親以外ではお前が始めてだからな」
上条「どこ?どこにそんな人が――待て待て待てぇぇっ!?魔術武器振り回そうとすんじゃねぇっ!」
上条「つーかお前本当に眠いのかっ?何か説明が面倒だからとかじゃねぇの?」
バードウェイ「あーもーねむいなー。このままだと少しぐらいイタズラされても気付かないなー」
上条「お前らから俺はどんな目で見られているの?海原?それとも白い人?」
上条「――降ろすぞ?」
バードウェイ「ご苦労……なんだ、ここはラッキースケベで押し倒すシーンじゃないのかね?」
上条「だってあれフィクションだもの!現実には早々有り得ないよ!」
上条「ってかいつも言ってるけど、実際にあんな事故起こしたら、例えば仲が良ければ良い程気まずくなるよっ!」
バードウェイ「まぁいい……では、おやすみ」
上条「うん。洗い物終わったら来るからな」
バードウェイ「あぁ――あぁ?」
パタン
バードウェイ「……」
バードウェイ(うん……?今何か聞き捨てならない台詞を聞いた気もするな。よし、落ち着いて考えよう……)
バードウェイ(まずは……あぁスペンサー爺に許可は取ったし、本国にも伝わっているだろう)
バードウェイ(あの爺が気に入った、のだから誰も文句は言えない。というか言ったら老人どもをまとめて敵に回す)
バードウェイ(マークも渋々認めさせた。そもそも若い連中は奴と共闘し、どんな大バカなのかを知ってる。ここまでは良しとしよう……)
バードウェイ(現時点で『明け色の陽射し』がほんのちょっと追い込まれているが、まぁ逆に言えばチャンスでもある)
バードウェイ(『宵闇』の死に損ないどもはいつか必ず仕掛けてきた。それが学園都市であっただけの話)
バードウェイ(地理的にも人員的にもアウェイ。しかも手駒は限られている……)
バードウェイ(そんな状況下でトー――新入りの力を借りて殲滅すれば手柄だ)
バードウェイ(『明け色』の名誉は守られ、実力も認められる。うん。中々悪くないな)
バードウェイ(平時であれば民族やら人種でモメるんだろうが、まぁ解決出来れば悪くない)
バードウェイ(と、なると問題は……)
バードウェイ「……」
バードウェイ(パトリシア、か)
バードウェイ(確かに聡明な上、利発で優しい良い子だ――私に似て)
バードウェイ(その上将来性は充分、絶世の美女に育つだろうな――私に似て)
バードウェイ(……ヤツを側に置いてたら、フラグを立てられるんじゃないか、という不安が……?)
バードウェイ(……むぅ。どうしたものか、さっぱり分からん……)
バードウェイ(起きたら……占いで)
バードウェイ「……」
バードウェイ(……そう言えば、最初の頃タロット占いをして)
バードウェイ(成程、この結果を暗示していた……のか……)
バードウェイ(……『一度争った相手』……『不毛な闘争』……『国際結婚』)
バードウェイ(まぁ……私の腕が良かっ――)
――深夜
ギュッ
バードウェイ「……うん?」
バードウェイ(暗い……あぁ、どこかのホテルに泊まったんだったか)
バードウェイ(食事を取って……歯も磨かずにそのまま……)
バードウェイ(淑女たる私が有り得ない。まぁ多少は仕方がない。と思うようにする)
バードウェイ(パトリシアの事を考えていたら眠ってしまった……のか。筈だ)
バードウェイ「……」
バードウェイ(暗くて良く分からないが、えっと、アレだ)
バードウェイ(ここはベッドの上だよな、あぁ?それは知ってる)
バードウェイ(柔軟剤の匂いとスプリングが下品なぐらい効いていて、寝心地が悪いような、そうでないような)
バードウェイ(だというのに、だとすれば――)
バードウェイ(私を後ろから抱きしめてるのは、誰、だ?)
バードウェイ「……!」
バードウェイ(……よし、落ち着こう。こんな時には占いをだな)
ギュッ
バードウェイ「……」
バードウェイ(お、おいおいおいおいっ!?幾ら何でも早過ぎやしないかっ?ジャパニーズは奥手だと聞いたぞっ!?)
バードウェイ(昨日の今日でこの展開は、うん、流石に、なぁ?)
バードウェイ(いやまぁ私も、アレだ。法なんてクソ喰らえの結社のボスである以上)
バードウェイ(こう、条例的なものは怖くもない、んだが)
バードウェイ(まぁ……まぁ!その、簡単に許す女だと思われたくもないし?)
バードウェイ(だからといって無碍にするのも、なんかアレだ!可哀想だし!)
バードウェイ(取り敢えずだ。取り敢えずは会話して、雰囲気次第って言うか、うん!)
バードウェイ(……あー、でも着替えとかシャワーとか、ガン無視したんだよなぁ……)
バードウェイ(だなぁ、流石にこの状況は難しいし?)
バードウェイ「……ま、待とうか上条当麻?」
バードウェイ「いやまぁ、そのなんだ?私としては嫌じゃない?嫌じゃないんだがな?」
バードウェイ「その淑女的なものがね?アレがアレしてアレな訳であって――」
シェリー「――んー?あぁ悪ぃ。ついやっちまった」
バッ
バードウェイ「――へ?」
シェリー「抱き枕、抱き枕……あぁ、こっちか」
円周 スゥスゥ
シェリー「んー」 ギュッ
円周「……むー?なんじー?」
シェリー「……まだ朝じゃない」
円周「んー……」
シェリー「……」
バードウェイ「……おい」
バードウェイ「なんで貴様らが私のベッドでクークー寝こけているんだ馬鹿者どもがああっ!!!」
バードウェイ「いやっ!何となくどっかの誰かが仕組んだのは検討もつくがだっ!」
バードウェイ「だからって同じベッドに来ないでも部屋はあるだろうがっ!なあぁっ!?」
シェリー「……あー、ウルセェ。来いっ」 グッ
バードウェイ「おいっ!人を抱き枕代わりに使うんじゃない!」
シェリー「……クーラーの調節分からねぇんだよ。つーかガキは体温高ぇから、カイロ代わりにいい」
バードウェイ「……貴様らはっ!」
シェリー「……」 ギュッ
バードウェイ「聞いているのかっ?オイコラっ!?」
シェリー「……すぅ」
バードウェイ「……はぁぁぁぁぁっ……」
バードウェイ「バカに付き合っているとバカになる、か」
バードウェイ「……まぁいい。今は、眠ろう……」
バードウェイ「……けど忘れないからな?この復讐は日を改めて……」
バードウェイ「……」
バードウェイ スー
――2nd.
――ビジネスホテルの一室 朝
バードウェイ「タレ……?このナットウは調味料が付いているのか?」
円周「だねぇ。出し汁とか塩麹とか、黒酢入りの醤油ってもあるみたいだけど」
上条「ウチでいつも買ってる納豆は安さ優先だから、出汁とか辛子とか入ってないヤツなんだよ」
シェリー「いいじゃねぇか何だって」
円周「お姉ちゃんは醤油派だからねぇ。でもトッピングを色々変えると美味しいかも」
バードウェイ「例えば?ケチャップでも入れるのか?」
上条「ベタなのは刻んだネギ、鰹節かな。あっとは……みじん切りにした漬け物っても入れるって聞いたような?」
バードウェイ「それは少し試してみたい気がするな」
上条「ってかイギリス組、お前らいい加減馴染みすぎじゃねぇか。そろそろ英国の誇りを思い出せ」
バードウェイ「煩いなぁ。いいじゃないか、良い物は取り入れてきたのが我らの文化だ」
円周「『大英帝国』名乗ってた割に、食事が全然発達しなかったってのは、どうなのかな?かな?」
シェリー「前にも言ったけど、極端な分業制と見栄の文化で余所は余所、ウチはウチってぇの感じだったからね」
バードウェイ「貴様の先祖が起こした清教徒革命によって、質素を美徳するバカが増えたせいかもしれん」
シェリー「私にゃ関係ねぇだろ。つーか多分先祖じゃねぇわよ」
上条「イギリス飯はなぁ……知り合いがホームステイした時、『毎日毎日嫌がらせされてるのかと思った』って」
円周「それ、本当に嫌がらせされてたんじゃないの?今でも完全な格差社会だよねっ」
上条「最初の飯で出て来たのが、ジャガイモとベーコンの所謂ジャーマンポテトの亜種だったんだって。塩と胡椒のシンプルなヤツ」
上条「結構旨いし、元々あんま強い味付けは好きじゃなかったから、『あ、美味しいですね』っつって喜んだんだけど」
上条「それがね、うん。毎食出て来るんだって」
バードウェイ「あー……困るよなぁ。それきっと年寄り夫婦だろ?」
上条「厚意でやってくれるのは分かってるから、何か言おうとすら出来ず大変だったって」
シェリー「言ってやりゃ良かったんだよ。我慢して食ってる方がよっぽと失礼だっつーのに」
上条「半分過ぎたぐらいから、夕食は和食を作って三人で食べる事にしたんだけど……」
シェリー「何か失敗したの?」
上条「最終日に『孫娘(一桁)をやるからこっちの学校へ通わないか?』って冗談で言われたらしい」
円周「ロ×だったら歓喜なんだけどねぇ、×リだったらばの話だけど」
上条「余談だが、一緒に行った『名前を言ってはいけないあの人』が、無理矢理アレをアレしようとして翌年から留学中止」
シェリー「関係無い話だけど、ヴォルデモ―○は純血主義の割に自分は混血なんだっけ?」
バードウェイ「ヒゲの伍長の爺さまがユダヤ人だった説もあるし、劣等感と自己認識が崩壊するんだろうな」
円周「どっちつかずは両方から嫌われるしねぇ」
バードウェイ「てかお前ら、記憶無い割に結構憶えてないか?」
上条「俺は生活に関する記憶はまるまんま残ってたし、円周もそんな感じじゃ?」
円周「わたしが消されたのは『木原数多』にとって不要な部分だから、日常的な常識は残しておいたんだと思うよ」
上条「と言うか積もる話もあるだろうし、さっさと食って作戦会議しようぜ」
三人「はーいっ」「あぁ」「おー」
――食後
バードウェイ「――よし、お前ら帰れ」
上条「開幕それかっ!?」
円周「あー、そこら辺の『名誉ある戦い』だっけ?の話は聞いたから」
シェリー「つーかなぁ、黄泉川から連絡あって帰ってみれば家はほぼ全壊だし?」
シェリー「連絡も入れないでお前ら何やってんのよ?」
円周「『それは済まないと思っている。だがこれは我らの、そう「明け色」の問題なんだよ』」
シェリー「円周を拾って、今みたいに『レイヴィニア=バードウェイ』を『他者再生』させてみた」
円周「レヴィちゃんだったら、きっとわたし達も見張らせているだろうなー、って結論が出たから、捕まえて色々お話聞いて」
シェリー「スペースと連絡取って、『じゃ早速』っつって昨日の夜、こっちに合流したのよ」
上条「心配だなー、その見張りの人」
シェリー「大丈夫よ?最初から味方だって分かってたから、無茶させなかったし。うん、させなかったから!」
上条「何で二回言うの?具体的には何しくさって来たの?」
円周「あー、うん。性癖がね、ちょっとアレになっちゃっただけだから」
上条「詳しく話しなさい!つーか肉体壊さなっきゃいいってもんでもねぇし!」
バードウェイ「……帰る家を壊されたから、つまりお前たちも参加する資格はあると?」
シェリー「つーかなぁバードウェイ。はっきり言うが」
シェリー「この戦い、本当は勝算なんてねぇんだろ?な?」
上条「……何?」
バードウェイ「いいえ、そんな事はないよ。私が戦う以上『それ』はない」
シェリー「そもそも、で言えば全部はテメェのお人好しがなけりゃ起きなかったんだよ」
バードウェイ「それも仕方がない。私達が目指しているのは『秩序ある世界の支配』だ」
円周「うん、うんっ!そうだよね、こんな時、『レイヴィニア=バードウェイ』ならこう言うんだよね……ッ!」
円周「『――故に意味のない混沌や破壊が行われそうな場合、介入を躊躇わない』」
円周「『別にお前たちでなくても、あの状況であれば私達は私達の利益のために助けてやっただろうな』」
円周「一生恩に着ろよ愚民どもっ!主に朝昼晩、おはようからおやすみまちっぱい様を崇めるのだっ!」
上条「最後違うよね?別人降りて来ちゃった?」
バードウェイ「やりづらいな……どれ、その口を縫いつけてやろう、お嬢ちゃん」
円周「うん、うんっ!そうだよね、こんな時『木原』なら売られたケンカは買わないといけないんだよね……ッ!」
上条「はいはいそこで『幻想殺し』」 ペチ、ペチッ
バードウェイ「あイタっ!?貴様、淑女にてを上げるとは何事だっ!」
上条「淑女ならケンカしないのっ。あと円周も分かったか?……円周?」
円周「……」
上条「あ、悪い。痛かったか?そんなに強くいった憶えないんだけど」
円周「気持ちよかっ――むぎゅっ!?」
シェリー「――ってなワケで、今回の事件。クソ木原以前の問題として、私らは最初っから当事者なんだよ」
シェリー「だから、テメェの都合なんか知ったこっちゃねぇし。ダメっつわれても私らは参戦するからな?」
円周「『組織』なんてに捕らわれて躊躇する方が、『木原』らしくないよねぇ、うんっ」
バードウェイ「……どぉにもお前らの厚意がくすぐったくてしょうがないが、まあいいだろう」
バードウェイ「ただし覚悟はして貰いたい。私達と共に来る事になれば、現在の君達の陣営から疎まれる可能性がある」
バードウェイ「最悪の場合、裏切りと見なされ粛正もされかねん」
シェリー「イギリスのクソどもに義理立てするつもりはねぇわよ……つーか『騎士派』の脳筋ども、全っ然変わってねぇじゃねぇか」
円周「わたしも別にー?加群おじちゃんみたいに外へ出るのもアリだと思うしねっ」
バードウェイ「二人に感謝を……まぁ、いざとなればウチで引き取るさ」
上条「良かったな、バードウェイ」
シェリー「とか言ってるバカも――あぁ、成程」
円周「うーん、まさかそう来るとは。まさに電撃戦だよねぇ」
上条「俺?俺がどうしたって?」
バードウェイ「とまぁ色々言った所で、お前らが来た時点で手遅れだからな。これからどうするのかを話そうか」
円周「はーいっ!その前に『木原数多』の事とか、何をどうしてこうなったのか、って聞きたいんだけどっ」
シェリー「断片から大まかな全体像の想像は出来るんだがよ。どうしたって全部のピースが足りねぇ」
バードウェイ「そうだなぁ。確かに君達は聞く権利を有している。何故ならば――」
バードウェイ「――図らずも『断章のアルカナ』を揃えた当事者なんだから」
――十分後
円周「お茶入ったよー」
シェリー「茶請けは?」
円周「角砂糖ぐらいしかないけど」
バードウェイ「おい貴様ら、人が折角溜めたのにその反応は何だ?あぁん?」
上条「まぁまぁバードウェイさんっ!多分良く分かってなくて『あぁそーなんだ?』ってだけだと思いますからっ!」
シェリー「アンタもスペースみたいに飼い殺しされる姿が目に浮かぶなぁ」
円周「奴隷みたいなお兄ちゃんっ!うん、そーゆーのも嫌いじゃないねっ!」
上条「お前ら人の未来設計図を勝手に描くの止めて貰える?つーか当たりそうでガクブルなんだからなっ!」
バードウェイ「――さて、では全ての発端からだが」
上条「話しちゃうの?もうなんかグダグダになっちゃってんだけど、無理があるよね?」
バードウェイ「半年程前、私が『宵闇の出口』というポルトガルの魔術結社を潰したのが始まりだな」
シェリー「あー聞いた事あるわ。半分都市伝説みたいな、人攫い専門の魔術結社だっけ?」
バードウェイ「正確には『子供を使い潰すのを躊躇わないクズども』だ」
円周「学園都市と同じだよねっ」
上条「嬉しそうに言うな」
バードウェイ「その通りだな」
上条「肯定しないでくれませんか、その、複雑なんですけど」
バードウェイ「そういう意味じゃない、くもないか。実際には学園都市へ『素材』として子供達を提供していたんだろうな」
円周「あー、もしかして『木原数多』とかと交流があったって事?」
バードウェイ「で、なければ舞台をわざわざ『ここ』にあつらえる理由が分からん」
シェリー「想像はついてはいたけど、『木原』も?」
バードウェイ「まぁ待て。物事には順番がある。こっちは素人にも分かるように話さなくてはならないんだよ」
上条「すいませんねっ!えぇっ」
バードウェイ「で、その『宵闇の出口』は私の妹を――大分端折るが、誘拐しようとしたので潰した。連中のボスも殺した」
円周「筈だった?」
バードウェイ「曲がりなりにも歴史はそこそこあるからなぁ。ゴキブリとある意味同じさ」
バードウェイ「『宵闇』とは元々、『明け色』と同じ『黄金の夜明け』と言う巨大な魔術結社から枝分かれしたものだ」
シェリー「『黄金』は19世紀末のイギリスの魔術結社。『獣』のアレイスター=クロウリーが有名かしらね」
上条「どっかで聞いたような……?」
バードウェイ「ただし『黄金』の歴史はもっと古い。表舞台に名が出たのはその時代だったと言うだけだ。そして――」
バードウェイ「『明け色』はもっと古い。当初は『たまたま効率的に人を支配する方法』を探していた人間達の集まりだったのが」
バードウェイ「『魔術を取り込んだつもりが、逆に取り込まれていた』と言う訳だ」
上条「元々の目的は別だったんだよな」
バードウェイ「だがそれは宵闇も同じ、『元々は盗賊団だった』のだよ」
バードウェイ「『ハーメルンの笛吹男』と言う名の、な?」
円周「あっれー?それっておかしくないかなぁ、だってポルトガルでしょ?ドイツから遠いじゃん」
円周「っていうかEU最西端なんだけど、場所が違いすぎるよね?」
バードウェイ「あくまでも自称なんだよ。そう呼ばれるようになったのか、それとも最初からそうだったのか。それは本人達も知らないだろう」
バードウェイ「ただし分かってる事はある。それは連中が『盗躁』に特化した魔術に長けている事だよ」
円周「とうそう?」
バードウェイ「要は『騒いで盗む』って話だな。伝説にある『笛吹男』のように、騒ぎを起こしてはごっそり頂いていくと」
シェリー「普通の盗賊だったら目立たないようにするわなぁ」
バードウェイ「まぁそんな連中のボス、通称『笛吹男』が今回の裏を引いていたって訳だ」
シェリー「このガキが捕まった時、私の相手をした魔術師か?」
バードウェイ「後から話に聞くに、そうだろうね」
シェリー「いやだけども、私が言うのも何だけど強くねぇぞ、アイツ?」
円周「非戦闘員のお姉ちゃんでも充分渡り合えたんだしねぇ。手加減してたのかな?」
バードウェイ「だから言っているだろう。『盗み』が専門の魔術結社だと」
バードウェイ「場をグダグダにして逃げ出すのは得意でも、正面切ってガチで戦うのは苦手なのさ」
シェリー「待て待て、それもおかしいだろ。だったらお前ら『明け色』はどうしてさっさと始末をつけない?」
円周「えげつない術式で今頃、『もう死なせてくれ!?』って言わせてた筈だしねっ」
上条「人んちを好き勝手言わないの」
バードウェイ「そうしたいのは山々なのだがなぁ」
上条「意外にブラックだったっ!?」
シェリー「……こいつんトコ、マフィアもビビって逃げ出すんだぞ?」
円周「色んな意味で手遅れなんだけどねー。なむなむ」
上条「円周さん、そこを詳しく話してくれませんかね?主に俺の精神安定のために」
バードウェイ「まず、だ。クロムウェルがこの街へ呼ばれたのは何故だ?」
シェリー「なんだよ関係無――ある、のか?」
バードウェイ「詳しくは私も聞いていない。推論の根拠を得るため教えてくれないか」
シェリー「現在残されているタロット――『キャリー・イェール版タロット』の復元作業だ」
シェリー「正確には『現在残っている11枚以外のアルカナを、当時の技法で再現させる』試みだよ」
バードウェイ「かくして『失われたタロットは全てのアルカナが揃った』と言う訳か」
上条「それを使ったから、つまり原初のタロットを使ったから『笛吹男』は強いって事なのか?」
上条「それって『オーディンの槍とそっくりに作った霊装があれば、同じ効果がある』ってぐらいのトンデモじゃねぇのか?」
円周「そんな単純には行かないと思うけど――わたし、なんだよね?悪いのは」
バードウェイ「善し悪しじゃない。先程も言ったように君でなくても助けた――助けざるを得なかった」
バードウェイ「あの時、ネットに拡散していた『木原数多』を殺す際、私は『ハーメルンの笛吹男』の術式を使った。だが、それは」
バードウェイ「あの状況は『全て最初からそう仕組まれていた』ものだったんだよ」
シェリー「……オイ!確かテメェらあん時、『明け色』総出で儀式魔術してやがったよなぁ!?」
バードウェイ「そうだな。それが目的だった。まさに『笛吹男』の名に相応しい手口だと言えようか」
バードウェイ「連中は『私達の魔術に同調し、霊装に蓄えていた魔力を盗んでいった』んだ」
シェリー「……具体的には?」
バードウェイ「分からん、というか我々でも検討がつかない」
バードウェイ「最低でも普通の魔術の魔力100年以上は確実だろう」
上条「そうか!だから俺の『右手』でも消せなかったのか!」
円周「『常に供給され続ける力』は完全に打ち消せないもんねぇ」
バードウェイ「そうした奪った力を復元させたイェール版タロット――通称『プリマ・タロッコ』へ入れ、奴らのトンデモ霊装は完成した訳だ」
上条「いやいやっ!デタラメ過ぎんだろうが!やり方にもしても杜撰って言うか、強引って言うか!」
シェリー「……私も同意見だ。そんな方法で出来る訳がない」
シェリー「だって『筺の半分が偽物』であり、『魔力も他人の物』でしょ?無茶にも程があるわ」
シェリー「と言うかなぁ、バードウェイ。つーか最初っから疑問に思ってたんだけどよぉ」
シェリー「テメェや人攫いどもがやったら『プリマ・タロッコ』に拘る理由ってのは何なんだよ?」
バードウェイ「……うむ。いい質問だね」
上条「どういう事だよ?」
シェリー「お前にゃ初日に言った筈だがよ――そもそも、だ。『霊装ってのは神話や伝説の武器を模す』んだよな」
シェリー「オティヌスの『槍』だってそうよね。ありゃ全能神としてのオーディンのグングニールの霊装を作るって話じゃねぇか」
シェリー「だっつーのによぉ、どうしてテメェらはあくまでも『タロット』に拘るんだ?」
シェリー「タロットってぇのは『霊装』だろ、ただの?これといった神話や背景もない、ゲーム感覚で何となく伝わってきただけ」
バードウェイ「――これから話す事は他言無用で頼む」
バードウェイ「もしその誓いを破るようであれば、私の親であろうが手に掛けねばならん」
円周「わたし、外に出てようかな?」
バードウェイ「『木原数多』モードにして、バッファ書き込み無効で頼む」
円周「りょーかい――『あぁ?何か用かよクソガキが』」
バードウェイ「クロムウェルは?」
シェリー「聞かなくちゃいけないでしょーが。もしかしたら内容から連中を打倒できる発想が浮かぶかも知れないし」
バードウェイ「……お前は」
上条「誓うよ」
バードウェイ「聞くだけ無駄だったか。では確認が取れた所で改めて」
バードウェイ「実はね、『タロットとは霊装ではない』んだよ」
シェリー「……はぁ?お前、今更何言ってやがんだよ」
バードウェイ「あれは正確に分類するのであれば。恐らく世界中で全てのタロットを合計すれば数百万セットは存在するであろう、その全てが――」
バードウェイ「――『たった一つの魔導書の写本』なのだよ」
シェリー「――おいっ!?そりゃ――アレだ!……本当、に?」
上条「魔導書ってのは、何だ?」
バードウェイ「禁書目録の保護者たるお前がそれを聞くのか……?まぁいいい。誤解されたままでは不都合だな。専門家、頼む」
シェリー「面倒臭ぇな――たまには人様の役に立てよクソ木原」
円周「『魔術ってぇのは「式」だ。1+1=2って具合に結果も式もある程度決まってる』」
円周「『能力者と違う点は、それを『人が本来持ってる魔力』で呼び込むもんだなぁ』」
上条「……この人、何なの?つーか良く一方通行倒せたよなぁ」
円周「『ただし、この「式」ってのがクセモンでよぉ。科学と違って中々、人が試行錯誤でどぉにかなるってもんじゃねぇんだよ』」
バードウェイ「きっと木原加群の知識でもアクティブになっているんだろう……何故あるのかは不思議だが」
シェリー「『グレムリン』に入る前から研究していたって、おかしかねぇだろうけどな」
円周「『だから魔術師どもは「別世界にある式」を知ろうとしたんだよ。天界とか魔界とか、神話に出て来るような所のよ』」
上条「あるのか?」
円周「『力場の集大成とか、テレズマの集合知と呼ばれているが、まぁ?何かは、ある』」
円周「『実際にそこいらから「魔力」を引き出し、「テレズマ」とか呼んでるようだぜ』」
円周「『そういった知識――所謂「魔術式」を集めて書き記したモンが魔導書なんだよ』」
シェリー「補足しとくが、そういう『異界の知識』は人間にとって猛毒だからな?普通の人間が見りゃ確実に発狂する」
バードウェイ「だから普通は、もっと毒を薄めた『写本』程度でお茶を濁す――んだがな」
円周「『強い力を欲しがる魔術師に取っちゃ悩みどころだよなぁ?』」
シェリー「中世頃なら兎も角、今じゃ徒弟制度の方がメジャーではあるけど」
上条「……なーんか納得出来ないよなぁ。異界からの知識を学べば魔術の使える式が分かるってのは」
円周「『そうなぁ……ある有名な本の中に「海を割って渡る」魔術が記載されている』」
円周「『それの魔導書を目にして「式」を知れば、理解すりゃ、魔力を遣って同じ魔術が使えるようになるんだ』」
バードウェイ「あまりいい例えではないがね。面倒そうで嫌だ」
円周「『ただし「原典」は毒が強すぎる。だから「だれでもわかるおはなし」って写本にして毒を極端にまで薄め、世界中に広がってるんだわ』」
上条「……まぁ魔術師がそうだってのが分かれば、うん」
シェリー「それで?一体『プリマ・タロッコ』は何の魔導書なのよ?」
バードウェイ「『死者の書』だ」
シェリー「んなっ!?」
円周「『へぇ……エジプトの』」
上条「世界不思議発○で見た事ある。王様のお墓に埋葬されたパピルスだっけ?」
シェリー「お前それ――シュメールに続く古ぃ冥界下りの魔導書じゃねぇかよっ!?そんなもんがどうして世界中に複製されてんだっ!?」
バードウェイ「新入り。内容は知ってるか?」
上条「俺!?えっと……死んだ人の魂が、冥界へ行って審判を受ける、だっけ?」
バードウェイ「そうだなぁ。『毒を薄めた後』の死者の書にはそう書いてあるな」
シェリー「逆じゃないの?それから劣化して広まったのが、テメェらのタロットだっつー話じゃねぇのかよ」
バードウェイ「おいおい、止めてくれよクロムウェル。私はお前の破天荒な所が気に入っているが、中々こう言う所では常識の枠を出られんようだな」
シェリー「んだと……?」
バードウェイ「『王家の墓にあった物が、どうしてオリジナルだって分かる』んだい?」
シェリー「それじゃ――まさか!?」
バードウェイ「今、王家の墓に残っている『死者の書』は魔導書の後半部分でしかないのさ」
シェリー「……あぁクソ!そうか、そういう事だったのかよ!」
上条「すまん、シェリー」
シェリー「タロットってぇのは0番の『愚者』が旅をする物語だってのは知ってるよな?」
シェリー「『魔術師』に会ったり、『隠者』を見つけたり、『皇帝』や『法皇』に会ったり」
シェリー「けど途中からは『死』のカードが出た以降は、死後の世界を彷徨うって説がある」
シェリー「それまでが人物ばっかりだったのに、『悪魔』や『塔』、『太陽』や『月』、『星』……どう考えても抽象的なもんになってくんだよ」
バードウェイ「そして現在伝わる『死者の書』は、タロットの後半部分、それも一部しか表していない」
上条「半分だけしか残っていないってのは、どうしてだ?」
円周「『エジプトの死生観じゃ、生きて死んで一周、じゃねぇのか?』」
円周「『人によっちゃ生き返ってリセットされるんだし、生命のサイクルが「死後」も含まれてて当然だぁな』」
バードウェイ「私の前のボスの見解と同じだね。彼らにとって死後とは『人生の残り半分でしかない』のだと」
シェリー「だから入れられる『死者の書』も後ろ半分だけ、かよ……」
円周「『「死者の書」の正式名は「日下文書」、つまり「日上」もあったっていいってか』」
バードウェイ「魔導書が脈々と受け継がれていく内、現在のタロットの姿になった――そう、伝えられてる」
シェリー「……納得はしてないが、理解はした。けどおかしな点もある」
シェリー「お前らが――『黄金』の残党がタロットに詳しいのも分かった」
シェリー「つーか濁しやがったし、突っ込んだら蛇が出そうだからお前らの出自についても触れない」
バードウェイ「わざわざご親切にどうも。『黄金』系結社として痛み入るよ」
上条「えっと」
円周「『今日もいい天気だよなぁ、お兄ちゃん?』」
上条「その口調でやめなさい」
シェリー「で、だ。そんなタロットにお詳しいテメェらがどうして盗人程度に後れを取った?たかが盗むしか能のない連中にどうして?」
円周「『そいつぁ「連中も後継者の一人」なんじゃねぇのかよ、クロムウェル』」
シェリー「何?」
円周「『「ハーメルンの笛吹男」の説の中には「民族の大移動」って説もある。最近は呼び方も変えろって言われてるらしいがな』」
円周「『連中がヨーロッパに移動生活を行い始めた当初、フランスに来た連中はこう言っていたらしいぜ』」
円周「『「我々は低地エジプト出身の善良なキリスト教徒だ。一度信仰を捨てたが、今では巡礼の旅に出ている」と』」
円周「『尤も、連中は色んな所で様々な嘘吐いて矛盾しまくっちゃいるんだが』」
円周「『お前よぉ、「サーカス団は人攫い」ってぇ伝説は聞いた事あるか?』」
上条「あー……誰か言ってたような?都市伝説じゃないのか?」
円周「『いや、実際にな。連中は移動しながら人の物を盗み、犯罪を繰り返していた集団だな』」
シェリー「当初は巡礼者として手厚く持てなされたんだが、一切帰ろうとしない。どころか勝手に定住する始末なのよ」
シェリー「実際に最初の80年が過ぎた頃、各国では連中の追放令が相次いでいる」
円周「『大都市の周りに勝手に住み着いて税金は納めない。法律は守らないってぇ最悪の集団だったんだと』」
バードウェイ「当然定住政策も取られたが……まぁ、彼らにとって放浪は文化なのだから、現在まで続いているよ」
バードウェイ「だが現実問題として、彼らの文化は私達定住する人間にとっては、ただの脅威に過ぎない」
バードウェイ「フランスでは母国へ送り返され、スロバキアでは壁が作られた。それが、現実」
シェリー「ブリテンでも10カ月の間に6人の子供を出産したって届けて、月7000ポンド」
円周「『111万円』」
シェリー「の、社会保障費を受給してたって問題になってんのよ」
バードウェイ「ギリシャでも彼らのキャンプを捜索してみたら、4歳の女の子が見つかった事件が先々週辺りに起きている」
上条「でも、それって」
円周「『あー、ムリムリ。世界の潮流は移民排除へと舵を切ってんだよ。もうどうしようもねぇのさ』」
円周「『外国に住んでテメェらの暮らしや文化を保っていたい』」
円周「『けど祖国にゃ帰りたくねぇ。便利で豊かな国でずっと住んでいたい』」
円周「『それで軋轢生まねぇ訳がねぇさな……どっかで聞いた話ではあるがね』」
上条「……『笛吹男』はそういう」
バードウェイ「背景がある『かも知れない』ってだけさ。一緒に酒を酌み交わした訳でもないのだから、ただの推測だよ」
シェリー「しかしよりにもよって『死者の書』かよ。原典じゃない分だけマシっちゃマシだけどよぉ」
バードウェイ「ちなみにそういった理由から、『明け色』の魔術師の力は『笛吹男』には通用しない」
バードウェイ「私達の使っているタロット――『死者の書』の写本が『プリマ・タロッコ』の劣化複製品である限り、そして」
バードウェイ「我々の魔力を用いているため、昨日私の力を以てしても傷一つ着けられなかった」
円周「『具体的にお前の力は何割まで落ちてんだ?』」
バードウェイ「そうだなぁ。アルカナが全て揃っていれば聖人とタメを張れる――1神裂といった所か」
バードウェイ「今は、あー……0.2神裂、か」
上条「神裂を単位に使うのやめてあげて!東京ドームと違って向こうは人なんだよっ!」
バードウェイ「まぁそんなこんなで絶体絶命の状態に立たされている――」
バードウェイ「――と、思うだろう?思うよなぁ、普通は」
上条「やだ、超悪い笑顔っ!?」
シェリー「ガキはもうちょっと楽しそうに笑うもんだかな、ふつー」
円周「『こいつもこのガキと同じぐらい歪んでやがんじゃねぇのか』」
バードウェイ「新入り。お前に預けていた物を返して貰おうか?」
上条「お、俺?えっと、何かあったっけ?」
バードウェイ「ショッピングモールで預けただろう、アレだよ、アレ」
上条「おぉう……?」
バードウェイ「詰んだか?まさかここまでひっぱっといて『ダメでしたー』ってオチなのかっ!?」
シェリー「あー……じゃ、私がゴーレムで囮になるから」
円周「『いやぁ、バレッバレだと思うぜ?それよっか白モヤシ引き込んで、瞬殺した方が早ぇって』」
円周「『アイツが魔術結社入りなんて超面白そうじゃねぇか』」
上条「――あぁ、うんうんっ!憶えてる憶えてるっ!タロットな!」
バードウェイ「……貴様、これが終わったらそのしっかりとした記憶力で憶えとけよ?」
上条「だってもう色々事件がありましたしっ――えっと、確か、ついさっき制服のズボンから取り出したんだよ、うん」
シェリー「銃弾弾いたってブラフかました時のな」
バードウェイ「そうだ。これこれ」
シェリー「……おい、こらクソガキ。テメェは何やってんだよっ!?あぁっ!?」
上条「どうしたんだよっ?」
シェリー「よくまぁンな賭けしやがった、っつっーかお前、人類の文化遺産に対する冒涜じゃねーのか、これ」
バードウェイ「どうだね?まさか向こうも馬鹿に切り札を持たせているとは思うまい」
円周「『説明しろロ×ハバアとリアルババア』」
上条「お前っ!片方はホンモンの×リなんだからなっ!」
シェリー「お前はあとで、殺すからな?」
バードウェイ「止めておけ、私が先だ――と、遊んでる場合じゃない。寄越せ」
バードウェイ「……ふむ。全部揃っているな、良し良し」
上条「なぁ、教えてくれよ?そのタロットが何だって言うんだ」
バードウェイ「あー、現在最古のスフォルツァ版タロット群、そしてその中でも最古のイェール版タロット」
バードウェイ「つまり『笛吹男』が核として用いているタロットだが、実は」
バードウェイ「あれは、『このタロットの複製に過ぎない』んだ」
上条「……はい?」
バードウェイ「大昔に極めて精巧な偽物を作り、向こうと入れ替えたんだよ。やり合うのは分かっていたからな」
円周「『なんだそりゃ。ご都合主義にも程があるじゃねぇか』」
バードウェイ「作られた年代は同じ、言ってみれば姉妹版。どちらにも大した優劣はない。またこれに入っていた魔力を盗まれもしなかった」
上条「それを使えば、もしかして!」
バードウェイ「あぁ。私達の魔術がヤツに通用するんだよ」
シェリー「いや待て。理屈じゃそうかも知れないけど、あっちには膨大な『天使の力』があるんだろ?」
バードウェイ「どちらも持っているのは銃だ。口径の大小こそあれ、頭にめり込ませばそれで終いって事だな」
円周「『……なぁ、クソガキ。俺ぁ疑問に思ってたんだが』」
バードウェイ「なんだね」
円周「『「笛吹男」ってぇのはどうして、この街から去らねぇんだ?』」
円周「『向こうは筋も通さねぇマフィアだって事だろ?だったにテメェが反撃する「かも、しれない」リスクは避けて、さっさと逃げんじゃねぇの?』」
円周「『復讐にしたって、お前らに一泡吹かせた時点で面子丸潰れだろ?だってのに、わざわざ残る必要があんだよ』」
シェリー「効率的じゃない、か?」
バードウェイ「あぁそれは『笛吹男』の特性なんだよ。伝説で奴がしたのは覚えているか?」
上条「ネズミ退治と子供の誘拐だよな?」
バードウェイ「そう。だから奴の大規模な魔術には、『それ』が必ず入るんだ」
バードウェイ「まず『約束を破らない相手からは盗めない』のが一つ」
バードウェイ「これは『専守防衛』も含まれているようで、自分から手を出すのは不可能……まぁ、逆に言えば手を出させれば可能だって話さ」
バードウェイ「次に『奴が盗んだ場所に一定以上留まり、自分達が居るアピールしなければいけない』と」
バードウェイ「これはハーメルンの街の郊外の洞窟、そこで一定期間留まった事から来ている」
上条「なんで留まるんだよ。さっさと逃げればいいのに――って良くないけども」
バードウェイ「そういう術式なんだから仕方がない。ジークフリートに『塗り残しに気をつけろ』とは言わんだろ?」
バードウェイ「以上二つのルールを奴は破れない」
シェリー「いや、アンタからもう盗んでるわよね?何か約束破ったの?」
バードウェイ「あぁ半年前にね。私は『殺してやる』と言ったんだが。守られてないため、『盗み』が可能になったんだと思うよ」
上条「相手も無茶苦茶だよなぁ」
バードウェイ「“も”が気に入らんが、概ね同意しよう。魔術師なんて変人ばかりだ」
シェリー「テメェが言うな」
円周「『テメェもだババア』」
バードウェイ「兎も角、奴が『明け色』から盗んだ日、そしてハーメルンの子供達を攫った日から導き出すに」
バードウェイ「明日の午後を過ぎれば、タイムリミットって事だよ」
――コンビニ
店員「らっしゃぃあっせっ」
上条「メシメシ……と、どれがいいかな?」
円周「大変だったよねぇ。何かお姉ちゃんがグッタリしてるし」
上条「あーうん衝撃の事実的なアレがね?言えないんだけど、多分それが研究者としては歯痒いんじゃないかな」
円周「大変だなんだねぇ。ってか思ったんだけど、シェリーちゃんって美術家としては地に足が付いてるよね?」
上条「向こうじゃ学校の講師もやってるみたいだしなぁ」
円周「何かわたしのイメージだと、魔術師って職業不詳の自称自営業っぽい人が多い気がするかも?」
上条「世間からは理解出来ないからねっ!あと多分人前では出られないアレコレありそうだし――って、ラザーニ○だ」
円周「ラザニア?新商品だよねっ?」
上条「名前似てるよなぁ。何か違うのかなぁ?」
笛吹男「あぁそれあんまり美味しく御座いませんよ?なんかこう酸っぱいだけで」
上条「そうなのか?」
笛吹男「正確な発音はラザニアよりもラザー○ャの方が近いんですが、CMに福○使うよりも先に味をなんとかすべきかと」
上条「だからって生姜焼き弁当買っていく訳にもいかないしなぁ」
笛吹男「大所帯ならばおでんでも買って行かれてはどうでしょうか?」
上条「あー、悪くないなぁ。んじゃそうするわ――何?」 クイクイッ
円周「(この人、だよね?首折っちゃっていいのかなっ)」
上条「(気づかないフリだよっ!つーか俺達だけでどうにかなる訳ないじゃん!)」
笛吹男「ご相談は当人が居ない時の方が宜しいかと。と言うよりも、偶然出会うってありえないかと」
上条「いやあの、うん。割と無い訳じゃないんだよ、まぁまぁ」
円周「神様が嫌がらせしてるんか、ってぐらいにアクロバティックな人生送ってるもんねぇ」
上条「俺はっ!平和で穏やかな人生が欲しいんだよっ!」
笛吹男「どうせ見捨てられないのであれば、無意味かと存じます。過去、何度だって舞台を降りる選択肢は御座いましたでしょう?」
笛吹男「今日の用事も残念ながらそっち関係で――お誘いに参りました」
上条「フルートの演奏会でもしようってんじゃねぇだろうな?」
笛吹男「まさか。なに、ちょっと決闘でもしようかな、と」
上条「まぁそうなるよなー。期日まで逃げ回ってるのもいい加減限界だし」
上条「『勝負を挑んだんだけど、応じなかったので引き払った』って口実も出来る」
笛吹男「流石はバードウェイさん。ご慧眼で」
上条「……俺が考えたとか、そういう可能性もあると思うんだ、うん」
笛吹男「同業者でなければ無理だと思いますよ。クロムウェル様であれば別でしょうけど――あ、これどうぞ」
上条「触っても?」
笛吹男「ただのコピー用紙ですから。日付が変わる頃、そちらでお待ちしておりますので、もし宜しければお越し下さい」
上条「行かなかったら?」
笛吹男「『明け色の陽射し』の面子は丸潰れ。まぁでも死ぬよりはマシでしょうが」
上条「……なぁ、思ったんだが」
笛吹男「無理ですよ。それはもう、私達は住んでる場所も生き方も違いすぎる」
笛吹男「私は――私達は顧客が居て相応の対価があれば、何一つ躊躇う事無く手を汚します」
笛吹男「それが犯罪だの人道無視だの言われますが、私達は長年そうやって生きて来ました」
笛吹男「変わる道もあったのかも知れません。いや、実際に変わった同胞も数多くいます」
笛吹男「けれど私は、私達は変えられなかった。ただそれだけの話です」
上条「俺はっ!」
笛吹男「ダメです。それは、いけません。あなたの目の前にいるのは、人の皮を被った獣に過ぎないのですから」
笛吹男「実際に私はそちらのお嬢さんやクロムウェル様へ対し、酷い事をいっぱいしたでしょう?あなたはそれを怒ったでしょう?」
上条「……」
笛吹男「ですからどうか、躊躇わないで下さい。で、ないと――」
笛吹男「――あなたのお友達も、連れて行ってしまいますよ?」
上条「テメェはっ!」
笛吹男「おやぁ?その紙の裏側、何か付いていますよね?」
上条「これ――ゲコ太、と茶色の髪の毛……まさかっ!?」
笛吹男「あっははははははははははははははははははっ!笑えますなぁ、上条当麻君!」
笛吹男「お待ちしておりますが、まぁまぁ来なければ来ないで、どこにでも高く売れそうなサンプルが手に入りますし?」
笛吹男「ではまた後ほどお会いしましょう」
上条「――おい」
笛吹男「はい?」
上条「お前のその、クソふざけた幻想っ!俺が、この俺が絶対に――」
上条「――ブチ、殺すからなっ!!!」
――ビジネスホテル
上条「――って事があった」
バードウェイ「ふーん?」
上条「……これ、御坂がつけてたストラップの人形なんだよ!ほら、ここに傷が出来てるだろ?」
上条「ロシア行った後についちまったって、凹んで――なぁ、聞いてるのか?」
バードウェイ「いやあの、だからな?……まぁいいか。心配なら電話してみろ」
上条「電話?……あぁ!もしかしたら通じるかも知れないしな」 ピッ
御坂『――もしもしっ?もしもしっ!?』
上条「『御坂かっ!?お前今どこにいるんだっ!?』」
御坂『うん?どこってそりゃ、学校、だけど』
上条「『――はい?』」
御坂『それよりもそっちは大丈夫なのっ!?朝、アパート見に行ったら、工事が始まってたけど、だれも居なくてっ!』
上条「『いやまぁそんなに進展はないんだけど――』」
……
御坂『ゲコ太?あー、それ昨日巻き込まれた時に無くしちゃってたのよ!』
御坂『良かったぁ……見つからなくてさぁ……私、どうしようかって』
上条「『……なんか想像と違うけど。まぁいいや、もうすぐケリはつけるから、それまで大人しくしていろ。いいな?』」
御坂『ちゃ、ちゃんとゲコ太は返しに来なさいよね!いいっ!?約束だからねっ!』
御坂『アンタなんか全っ然心配になんかしてやらないけどっ!ゲコ太は大事なんだからっ!』
上条「『……うん。お前はそれでいい思うよ。それじゃまた』」 ピッ
バードウェイ「古き良き時代のツンデレだなぁ。カトレ○はいいものだ」
上条「言うほど古くはねぇぞ?……ってか、どーゆー事?」
バードウェイ「先に説明しただろ?一応、『結社』同士の抗争、しかも正々堂々としたものだから、第三者をどうにか出来ないって」
バードウェイ「それに奴が誰かを攫う時には、注文があってからだ。そうじゃない限りは基本的に無害なんだよ」
上条「じゃあ何か?一応は善意で返しに来たって受け取ってもいいのかよ?」
バードウェイ「プレッシャーを掛けるため、かも知れないがね」
上条「なんだかなぁ」
バードウェイ「考えるだけ無駄なのだよ。奴のオリジナル――少なくとも、魔術の基軸に置いてある『ハーメルンの笛吹男』をなぞっているだけだ」
バードウェイ「約束を守るものには対価に相応しい結果を出す、約束を破る相手には相応の罰を与える」
バードウェイ「ちょっとした都市伝説みたいな連中なのさ」
上条「子供を実験に使ってる、って言ってなかったっけ?」
バードウェイ「必要があればするし、なければしない」
上条「……なんかなぁ?」
バードウェイ「どうしたかね?私が予想以上に相手を買っていて、嫉妬でもしたのかい?」
上条「うーん、ある意味そうかも?俺なんかだと、どうしても『善悪を判断できるんだったら、そうすりゃいいのに』って」
バードウェイ「昨日も言ったかも知れないが、私は――『明け色の陽射し』にだって誇りはあるさ」
バードウェイ「だから『部外者』の手は借りられない。何故ならばそうしてしまえば、過去積み上げてきた先人達を汚すからだ」
バードウェイ「それは理解出来るな?時として自分の命よりも大切なものがある、という事に関してだ」
上条「あぁ」
バードウェイ「同様に『宵闇』もまた同じなのだよ。『人攫い』などという、何一つ誰一人共感はおろか、石を投げられるべき存在であってもだ」
上条「……誇れないのに、誇るのが?」
バードウェイ「私もそうだよ?由緒ある魔術結社などと誇ってはいるが、そもそも魔術師とは日陰者だ」
バードウェイ「善悪の境は曖昧だし、様々なケジメも着けてきてはいるが、イギリス清教からは敵扱いだ」
上条「それは――違うと思うぞ。少なくともお前は俺を助けてくれたじゃねぇか」
バードウェイ「本当に?『結社』のためかもしれんぞ?」
バードウェイ「こうして、こうやって、だ。外見は幼気な少女のナリをしてはいるが、その実、裏では何を考えているのか分かったもんじゃない」
バードウェイ「全てが全て、クロムウェルのように裏表がない人間ばかりだとは限らないさ」
バードウェイ「木原円周のように、中身ががらんどうの空虚な人間もいるし」
バードウェイ「『笛吹男』のように、『人によく似た何か』である人間もいるさ」
バードウェイ「……さて、君の前にいる私は、一体どちらなのだろうな?」
上条「……お前は円周を助けてくれたさ。『明け色』が魔術を使ってくれなかったら、今でも『木原』の脅威は続いていた」
上条「シェリーもそうだよ!何だかんだ文句は言いながら、お前は首を突っ込んだじゃねぇか、なあっ!」
上条「そうやって嘘を吐いて、誤魔化そうとしても無駄だよ――レイヴィニア」
バードウェイ「……ここで名前を呼ぶのか。いかんな、これは――」
上条「お前がどんだけ偽悪ぶろうが、どれだけ人から憎まれ役を買ったってだ――」
上条「――俺は、お前の事を嫌ってなんかやらねぇからなっ!!!」
バードウェイ「……ふむ。拙いな、これは、本当に」
上条「何がだよ?」
バードウェイ「どうやら私は自分でも思っている以上に」
バードウェイ「君の事を気に入ってるようだ」
――1st.
――XX学区 深夜0時
マーク「――着きましたよ、ボス」
バードウェイ「運転。ご苦労」
シェリー「空港みてぇにだだっ広いトコだな」
上条「飛行場だったらしい。なんかの事故が起きて封鎖されて、それっきり」
円周「って設定で、多分表に出せない実験に使われてるんだと思うけどねっ!」
上条「そんなに楽しく言うようなこっちゃねぇな。つーかさ、なぁ円周?」
円周「なぁに?」
上条「どうしてお前、ここへ来てメイド服なの?」
円周「んー、今日は遅番だったから着替えるの面倒臭かったし?」
上条「ってかバイト入れるのってどうなの?」
円周「あー、違う違う。そうじゃなくって、一応鞠亜ちゃんも会っときたいから、ね?」
上条「あぁなんだそれなら、うん。分かる」
円周「鞠亜ちゃんがねぇ、『女の勝負服はメイド服に決まってるだろ!』って」
上条「ごめんな?いつもいつも言うけど、お前が、お前らが何を言っているのか理解出来ない」
円周「多分『今晩勝負を賭けるんだぜ!』って言ったのを、性的な意味と勘違いしたんじゃ?」
上条「うん、知ってた。それ雲川先輩に情報上がるんだろうなぁ……」
シェリー「緊張感ねぇよなぁ」
バードウェイ「今更だろう、それこそ」
マーク「では、行きましょうか」
上条「お前も、つーか手出し出来ないんじゃ?」
マーク「あくまでも自分は見届け人のつもりで来ています」
上条「……いや、魔術効かないのにどうするって話だが」
――飛行場跡
笛吹男「――あー、時間通りですねぇ」
バードウェイ「レディを待たせなかっただけ、良しとしようか」
バードウェイ「それよりもそっちの面子は一人でいいのか?」
笛吹男「『宵闇』の最後のメンバーですからねぇ。そちらは大所帯でまぁ」
バードウェイ「どうせそっちは『明け色』から盗んだ『断章のアルカナ』を使うんだろ?」
バードウェイ「こっちらの霊装はお陰で碌に使えないし、そっちは『原典』に近い魔導書持ちなんだ。多少は大目に見ろ」
笛吹男「……まぁハンデを貰っているのは私の方ですし?全員相手でも吝かではありませんが――と言うか、その魔力」
笛吹男「やはり『本命』の霊装を他に預けておいてでしたか。流石で御座いますなぁ」
バードウェイ「貴様如きに使ってやるのは勿体ないのだが、今日は機嫌がいいので特別だよ」
笛吹男「ハロウィンも近いですしねぇ――で、狙うのは『死者の書』のソートでしょうか」
バードウェイ「……それぐらいしか勝ち目はないからなぁ。ちっ、流石に読まれているか」
上条「あのー、ちょっといいかな?」
バードウェイ「黙ってろ。今それっぽい事を言って、盛り上げてるんだから」
上条「そんな理由なのかっ!?」
笛吹男「まぁまぁいいではありませんか。何でしょう、何かご質問でも?」
上条「さっきからソートとか言ってるし、『死者の書』の話聞いて思ったんだけど――」
上条「お前らの持ってるタロット、それって『本』じゃないよな?カードであって」
笛吹男「仰る通りで。魔導書ならずとも、本は例外なくページ順に閉じられている物で御座いますな」
バードウェイ「その通り。桃太郎が家来を作る前に鬼ヶ島へ着いてしまっては大変だろ」
上条「だったらその『死者の書』のオリジナル、どういう配列なんだ?」
シェリー「……あぁそれは気になってたわね。タロットは『愚者』が世界を旅する寓話になってんだよなぁ」
シェリー「王の墳墓で見つかった『死者の書』は、死人が冥界の神オシリスに逢って終りだったっけか?」
笛吹男「流石にクロムウェル様はご慧眼で」
バードウェイ「残念だが、その答えは出ていないんだよ」
シェリー「試してこなかった、ってのかよ?勿体ねぇ」
バードウェイ「タロットが『死者の書』の魔導書なんてトンデモ発想誰もしてこなかった」
バードウェイ「そもそも魔導書として復活させようだなんて馬鹿者は、目の前のコイツ以外には存在しない」
シェリー「だったら解明しようが無いんじゃないのか?」
笛吹男「でも、ないのですよ。それは魔導書の特性を利用すれば不可能ではない」
笛吹男「こうやって一枚一枚はただの霊装。しかし二枚、三枚と続けることで、アルカナは物語を生みますな」
笛吹男「『愚者』、『教皇』、『力』のコンボでは術者のブーストと言った具合に」
笛吹男「『死者の書』がその効力を発揮するのは、この並べ方が原典と同じ形になる時。つまり――」
バードウェイ「最も強いアルカナの組み合わせが、『死者の書』の本来の並びという事だな」
シェリー「……成程。分かったか?」
上条「何となくは、うん」
笛吹男「文字のない絵本のページをバラバラにしてしまっても、その順番は『最も意味が通る』形で並べてやれば元通りになるって話でしょうか」
上条「あー、うん?大丈夫だよ?」
笛吹男「――さて、始める前に二つだけ忠告を。バードウェイさんだけではなく、皆さんにも」
バードウェイ「なんだ?命乞いでもしたら助けてくれるのか?」
笛吹男「私の『プリマ・タロッコ』は数枚並べれば、その出来の悪いタロットを凌駕致します」
笛吹男「そう、それこそ『一発で「死者の書」の正式な並び順を発動しない限り』は、ね?」
バードウェイ「……随分と余裕だな」
笛吹男「二つ目の忠告へ入る前に――『盗賊団に過ぎない私達が、これだけの情報を持っているのか』、そう疑問に思いませんでしたかな?」
笛吹男「本来、ただの人攫い。盗賊風情には過ぎる情報でしょう?」
バードウェイ「それは――貴様あぁっ!?」
上条「バードウェイっ!?」
バードウェイ「盗んだのかっ!?私達からっ!?魔術の秘技をっ!?」
笛吹男「だけじゃない!だけじゃないんですよ、レイヴィニア=バードウェイさん!」
笛吹男「あなたがその、後生大事にお持ちのタロット、恐らくそれが本来の『プリマ・タロッコ』――すなわち、『死者の書』の器足るべき存在!」
笛吹男「けれど!良く考えてご覧下さいな。一介の魔術結社如きが、イェール大学からすり替えられたのか、と!」
笛吹男「それをすり替えたのは一体どこの組織であったのかを!」
バードウェイ「そんな昔からっ!貴様らとは因縁があったのか!?」
笛吹男「そうですよぉ。確かにすり替えるよう依頼を受けたのは私達だ。けれど!」
笛吹男「そのすり替えた大事な大事なタロットを!そのまま素直に渡すとは、随分甘い考えていらっしゃいますな!」
上条「じゃ――これは!」
笛吹男「偽物だとバレてしまっては角が立ちますからな。元々それはあなた方が用意した、ただの模造品」
笛吹男「とはいえかなりの良品でしょうから、一流の魔術師が使っていても、何ら問題はないでしょうがね!」
バードウェイ「……」
シェリー「――ダメだな。行くわよ」
円周「はーいっ、と」
上条「俺もっ!」
シェリー「お前は後ろのお姫様を正気付かせてやれ。時間は稼ぐ」
円周「多分わたしとお姉ちゃんだけだと、火力不足だしなぁ」
上条「けどっ!」
シェリー「こんなピンチ、別に珍しかねぇよな」
円周「いつもの、事だし?」
上条「お前ら」
シェリー「――我が呼びかけに応えろよ、土塊」
シェリー「――魂無きその身に宿すのは『命』」
シェリー「――例えばそれは永遠じゃないし、永劫にも届かない短い命だが」
シェリー「――そいつを誇りするかどうかは私が決める。立ち上がれ!」
シェリー「――エリス=ゴーレム!!!」
オオゥんっ!物言わぬ塊が吠える訳はなく、だかしかしその場に居た者の耳には咆哮として届く。
綺麗に舗装された石畳を巻き上げ、石と土で練り上げられた巨人が立ち上がった。
シェリー「あー、もうゴチャゴチャ面倒臭ぇ!要はグッチャグチャにした方が勝ちなんだろうが!」
笛吹男「相変わらず見事な造形美で。これを崩すのは正直惜しゅう御座います」
シェリー「うふ、うふふふふふふっ!」
シェリー「遊びましょう?ね、アナタ?」
シェリー「楽しいクソ忌々しい私の可愛いお人形さんでぇ――」
シェリー「――テメェのケツごと墓穴掘ってやんよおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
ずぅぅぅぅぅん!!!
拳が薙ぎ払――。
笛吹男「――『皇帝』」
ギギギギギギィンッ!
振り払った手からは無数の槍――知識のある物が見れば『パイク』と呼ばれる長槍――が、ゴーレムの腕を串刺しにし、縫い止める。
笛吹男「アルカナ一枚で詠唱も不要。人様から借りた力とはいえ、チート過ぎます――」
ぼき、と。
つまらなそうに呟く笛吹男の首が。地面へ対して直角にねじ曲がる。
笛吹男「ごぼっ……?」
円周「あはぁっ、ごめんね?辛いけどぉ、とってもとっても辛いけどっ」
円周「わたしは『木原円周』だから、こんな時にはこうするんだよね……ッ!」
ぶちぃっ。
尋常ではない膂力で笛吹男の首が引き千切られる。
辺りに血しぶきが舞う――前に、その体は、首が宙に溶け体が風に吹き消える。
円周「あっちゃー。だよねぇ、そんな簡単にはいかないんだよねっ!」
笛吹男「私はとても臆病でして。最初から幻術を少々――『戦車』」
少しぐらいのビル程もある鉄の塊が現れ、円周に突撃した。
シェリー「気ぃ抜いてんてじゃねぇわよクソガキがっ!」
ゴーレムの体当たりを受けて、その軌道は大きく変わる。
数では押している。手数すらも上回っている。
だが、決定的な一撃は入らない。
僅かな動作で、タロットを起動させてしまえば、それだけで充分。
即席のコンビネーションだけではなく、お互いに信頼しきった者同士の連携ですらも無防いでしまう。
そう、足りないのは。
決定的な、一撃。
上条「――バードウェイ。レイヴィニア=バードウェイ!」
バードウェイ「……見ろ、いや見るな!これがだ、この程度が『明け色』のボスだ!」
バードウェイ「たかが盗賊如きに騙され、最後の最後で切り札を失う――笑えばいいさ」
バードウェイ「この程度の私達をなっ!」
上条「……レイヴィニア!聞いてくれっ!」
バードウェイ「何をだっ!?私達はもうとっくの昔に終わった存在だぞ!?」
バードウェイ「けどなっ!それはもう私達達だけじゃない!どいつもこいつもオシマイなんだよっ!」
バードウェイ「世界で最も支持を集めるローマ清教ですらも!ミレニアムは二度過ぎても何も起きない!」
バードウェイ「どころか徐々に人の日心は移ろい、お前たちの――そう、『科学』を信仰してしまうだろうが!」
バードウェイ「私達がどれだけ!どれだけ頑張った所で――」
バードウェイ「カビの生えた魔術結社の時代なんかじゃないんだよおぉっ!」
上条「……バードウェイ。つーかボス、聞いてくれ」
バードウェイ「笑えばいいさ、上条当麻。貴様に散々偉そうな事を言っておいて、最後はこのザマだ」
上条「笑わないよ、俺は。笑うもんか」
上条「お前は古い結社をもうダメだって言うけど、別にダメだって良いじゃねぇか」
バードウェイ「……なん、だと?」
上条「結社を誇りに思う、自分の先祖が築いてきたもんを大切にするのは、わかる」
上条「誰だって間違うじゃねぇか!失敗するだろうが!どんだけ立派な人達だったとしてもだよ!」
上条「現に一回『明け色』は騙されてる!お前だって霊装に込めた魔力を盗まれた!けどな!」
上条「――その『仕返し』をするのは、俺達ですりゃあいいだろう!」
上条「因縁がたまってきたら、お前がその手で取り立ててやればいいじゃねぇか!なあっ!?」
バードウェイ「私達、が?」
上条「第一、その霊装が本当にすり替えられたもんかどうかも怪しいだろ!つーかお前があっさり相手を信じるなんておかしいだろうが!」
バードウェイ「……うん?」
上条「俺のボスは……アレだよ!もっとこう余裕たっぷりでクソムカつくガキなんだよ!」
上条「騙されたら万倍に返さないと気が済まないような、そりゃあもう酷い酷いブラック企業も逃げ出す奴だって!」
上条「平気で部下は騙すは足蹴にするわっ、ちっこい割には態度がビッグで偉そうだけど!」
バードウェイ「……ほぉ」
上条「飯はよく食う割に全っ然成長しないで、一体将来はどんなだけって不安になるぐらいなんだし!」
上条「だからっ!だからこのまま黙って見過ごすような真似は――バードウェイ、さん?」
バードウェイ「……よくもまぁ、散々好き勝手言ってくれたなぁ、貴様」
上条「バードウェイっ!復活してくれたんだなぁっ!よぉしここから反撃――」
バードウェイ「誰が性悪のアバズレだっこの貧乏人がっ!!!」
上条「言ってねえよ!?そんな主旨の話じゃないでしょーがっ!」
バードウェイ「……あぁもうイラつく!何であんな盗賊如きにここまでいいようひっかき回されるんだっ!」
上条「そりゃ相手が上手に立ち回ってるだけだって事じゃ……?」
バードウェイ「私の祖先も祖先だっ!こ、のっ!完璧なレイヴィニア様でなかったら、きっと今頃『びぇぇぇぇぇんっ!』って泣きじゃくっていただろうがな!」
上条「いやあの?実際それに近いぐらい凹んでましたよね、バードウェイさん?」
バードウェイ「バードウェイじゃないボスと呼べ。貴様なんぞ、一生私に傅いていればいいんだっ!」
上条「俺奴隷じゃねぇかよっ!」
バードウェイ「黙ってろ20円で売られた男――背中を貸せ」
上条「背中?えっと――」
バードウェイ「後ろから私を抱きしめろと言っている!鈍い男め!」
上条「ごめんなっ!……あれ?今の俺悪いのかな?」
上条当麻が静かに後ろからバードウェイを包む。
ただし『右手』は触れぬよう、そして飛んできた術式を打ち消せるように、敵へと向けて。
先程までの言葉とは裏腹に、腕の中で小刻みに震える少女はやはり。
年相応のそれと変わらない。
前線では彼女に助けられた二人が、命を賭して稼いでくれる。
恐らくそのプレッシャーに戦いているのだろう。
上条「大丈夫だ。お前なら、きっと出来る」
その言葉に根拠などは無い。けれど。
バードウェイ「……まぁ、そうだな。この私がやって駄目だったのであれば、他の誰がやった所で失敗するんだろう」
タロットを構え、正面の暴虐に立ち向かう術を探る。
22に別たれた世界は今、一つの物語としての生を得る。
バードウェイ「『全ては無に、無は全てに還元される――そう、死神は蕩々と説き逝く』」
――『死神』のアルカナ
バードウェイ「『逆巻く力は行き場を失い、我が身を滅ぼす力とならん』」
――『力』のアルカナ
バードウェイ「『けれどそれは立場故の過信とは言えず、教皇は一人ほくそ笑む』」
――『教皇』のアルカナ
バードウェイ「『皇帝は彼を妬み、独り善がりとなり』」
――『皇帝』のアルカナ
バードウェイ「『恋人達はその愛の深さ故に仲違いをする。が、しかし』」
――『恋人』のアルカナ
バードウェイ「『想い人達は未来に希望を見る。友人だけではない、もっと別の可能性を』」
――『星』のアルカナ
バードウェイ「『つまらない闘争であっても、星詠みを裂ける障害にはならず』」
――『戦車』のアルカナ
バードウェイ「『秘めたる母性に惹かれるのもまた、運命と言えようか』」
――『女帝』のアルカナ
バードウェイ「『かくして死神は審判を下す。全ての過去との因縁をこう、結論づける』」
――『審判』のアルカナ
バードウェイ「『光あれかし、闇あれかし――無謀な汝らの未来には、無貌の世界が広がっている、と』」
――『世界』のアルカナ
ヴゥン、と膨大な威力の魔力が形を取る。
色無き色を無色に染まり、形無き形を得て。
この世界に召喚された力場が不可視の存在となり、停滞する。
主からの命を受け、襲いかかる猟犬の如く。ただ、忠実に傅く。
上条「これって――最初に占って貰った時の……?」
バードウェイ「それと同じだ。良く憶えていたな」
上条「そりゃ忘れる訳が無い……忘れられる筈が、無い」
上条「でも、いいのか?22枚全部使わなきゃ、『死者の書』を再現する可能性すら無くなっちまうんだろ」
バードウェイ「それこそお断りだ。どうして私が!このレイヴィニア=バードウェイが!」
バードウェイ「たかだか“ほんのちょっとピンチになったぐらい”で、人攫い如きに本気を出してやる義理もないさ」
バードウェイ「これでいい。いや――」
バードウェイ「――私は、これが、いい」
上条「……お前は、ホンットにお前だよなぁ」
言う少女の顔を覗き込む無粋はせず――どうせいつもの『物凄く悪そうな笑顔』が張り付いているだろうから。
バードウェイ「さて――これで終りだよ、『笛吹男』」
バードウェイ「君の、君達の長い長い流浪の旅は、今日ここが終着点だ」
バードウェイ「哀れな人攫いよ。ルーツを持たず、人様の命を掠め取って生き長らえてきたドラクルよ」
バードウェイ「人は家に帰る。故郷に帰る。獣ですら家族の元へ帰る」
バードウェイ「生き物が死ねば土へと還り、その命は循環していくと言うのに」
バードウェイ「君たちは何を道標にし、何を探し求めるのか?」
バードウェイ「家を捨て宿り木すら捨てた憂いの三賢者よ。君は還る場所は――」
バードウェイ「――『ハーメルンの笛吹男』の物語だ!」
『天使の力』が笛吹男へ向かい、近くに居たクロムウェルと円周が慌てて飛び退く。
笛吹男「これは中々……『明け色』のボスの一撃としては少々物足りない気も致しますが」
それでも並の魔術師ならば、これと言った抵抗もなく呑み込まれてしまっただろう。
霊装を奪われ、魔力を盗まれた状態では間違いなく、最大と言っていい出力に違いない。
笛吹男「けれどまだまだ。これだと片手で吹き飛ばせま――」
にやけた笑みを張り付かせたまま。
ゾン!
笛吹男「……ぁ?」
マーク「すいませんね。いやはや、美味しい所を持って行ってしまいまして」
背後に回っていたマークの術式が、笛吹男の腹を貫通していた。
制御を失ったアルカナでは抵抗しきれず、バードウェイの放った一撃が男を押し潰していく。
笛吹男「……いや、あの、これって!違いますよね?『明け色』の魔術は効かないんじゃ……?」
バードウェイ「そうだなぁ、お前の言う通りだよ。『プリマ・タロッコ』と同格か、それ以上の霊装じゃないとお前には効かない」
バードウェイ「――そう、『明け色』以外の魔術でもない限りは、だ」
笛吹男「いやでもこれ、これはっ!これは一体!?」
ジジジ、と不吉な音を立てて膨大なテレズマに呑み込まれていく。
その顔は苦悶と唖然とした表情に占められていた。
笛吹男「マーク!マーク=スペース!あなたにそんな魔術が使えるなんて、聞いてな――」
マーク「違います、ボス。それは“自分”の名前じゃありません」
マークは――いや、マークの外面をした者は『手に持った黒曜石のナイフ』をブラブラさせつつ、こう嗤った。
海原(マーク)「初めまして、海原光貴です」
笛吹男「ぐがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁっ!!!」
小さな太陽が地上に振ってきたかのような光量が辺りを包み、戦闘は終わる。
それが二つの『結社』の数百年に渡る因縁の終了を意味していた。
――飛行場跡
笛吹男「……全く。ペテンにも程がある……」
バードウェイ「まだ息があるのか。流石に魔導書持ち相手に、全力の2割程度じゃ殺しきれなかったようだ」
シェリー「どうせ手加減したんだろうが、このツンデレ」
円周「だよねぇ。ホンットにお兄ちゃんに甘いんだから」
バードウェイ「黙れ。殺すぞ」
上条「海原――え、海原っ!?」
海原(マーク外見)「えぇ、メイド喫茶以来ですね」
上条「いやでもっ!名誉ある決闘とかっ!」
海原「自分はあなたにこう言ったではありませんか。『見届け人になるつもりだ』と」
海原「ですが笛吹男は『全員でかかってきて構わない』と仰ったので、遠慮無く背後から刺させて頂きました」
上条「バードウェイさんっ!?さっきパニクって言ってた事と違いますよねっ!」
バードウェイ「そりゃお前、保険の一つや二つは入っておくだろうし、油断させるための演技ぐらいするだろう?」
上条「だってさぁっ!」
バードウェイ「そもそも『俺はお前を嫌いになってなんかやらない』と豪語した以上、約束は果たして貰うぞ、あぁ?」
海原「ナイスツンペ×っ!」
上条「やめろっ!海原も余計な事言って猛獣を刺激するんじゃねぇっ!」
シェリー「いやぁ……さっきのは、なぁ?」
円周「うーん、どうなんだろうねぇ。ってかレヴィちゃんの場合、ブラフと強がりが半分半分って感じな気がするんだ」
バードウェイ「さて――お前の負けだよ、笛吹男。『プリマ・タロッコ』を返却すれば命までは取らない」
バードウェイ「そろそろお前が死ぬ前に魔力を還して貰いたい所だが、どうだね?」
バードウェイ「というかせめて、周囲に漂う『天使の力』を霧散させろ。チカチカして目に毒だ」
上条「うん?」
シェリー「こいつらのタロットは一枚一枚に力があるだけじゃなく、使えば使う程、『場』に力が溜まんだよ」
海原「一部のRPGで攻撃すればするだけ、気力が高まっていく、ようなものでしょうか」
笛吹男「……詐欺師にペテンで勝つとは……これが、『明け色』か……!」
バードウェイ「正面切っては勝ち目のない相手でも、後ろから刺せばいいだけの話。お前たちが散々使ってきた手口だ。文句は言わせん」
バードウェイ「いい加減身の振り方を考えろ。『宵闇』をお前一人で名乗ったところで何が出来る?」
バードウェイ「大人しく隠居してサッカーでも見ていろ、この人攫いが」
笛吹男「……私は、ね。私はスーペル・リーガに立つのが夢でした」
上条「ポルトガルのサッカーのプロリーグか」
バードウェイ「何を今更。したいのであれば、すれば良かったんだよ」
バードウェイ「安易に家業を継ぐなんてしなければ、今毎きっと」
笛吹男「……弟が、居ました。二つ下の。笑うと花が咲くような、憶えている……」
笛吹男「私が10になった時、父から『宵闇』の真相を聞かされ……私は泣いて吐いた」
笛吹男「そして、こうも言われました――『お前が笛吹男にならなければ、弟を継がせる』と」
上条「……それじゃ!」
バードウェイ「……」
笛吹男「……まぁその弟も、敵対する組織に殺されましたが……真実を知らないまま、穢れのないままで」
笛吹男「『宵闇』も私で最後の一人……これ以上、復讐される事もないですし――」
バードウェイ「……私はな。お前を殺せなかったんたじゃない、殺さなかったんだ」
バードウェイ「組織と魔術知識は壊滅させたが、人間は其程手に掛けていない」
バードウェイ「『穏健派』と呼ばれるお前が居れば、姿を変え、名前を変えてどこかで再出発すると願っていたんだが」
笛吹男「それは感謝しております……つい最近、『人攫いなんて時代遅れだ』と言いましたが、実にその通りで」
笛吹男「特定の国家が棄民政策を取っている以上……我々の仕事は上がったり、はい」
笛吹男「だから、そろそろ店じまいに、とは考えていたんですが……」
笛吹男「誰かがケジメを着けなければいけないのであれば、それは……私しかいないでしょう」
笛吹男「『宵闇』のボスは私なのですから……」
バードウェイ「……」
笛吹男「……ねぇ、バードウェイさん?私とあなたは、似ているな、と」
笛吹男「あなたは――本当に、ご自分の意思で、その場に立っておられますか?」
笛吹男「妹さんを巻き込みたくなくて、仕方がなしに――」
バードウェイ「違う。それは違うよ、笛吹男」
笛吹男「……どう?古くさい『結社』に囚われ、何も出来ない人形ではないのですか……?」
バードウェイ「それは――」
上条「――違う。ウチのボスはお前とは」
バードウェイ「新入り」
上条「フィアンマが世界を壊すって時、バードウェイは立ち上がったぞ。それが、違う」
上条「そしてまたグレムリンがどうしようも無い事をし始めた時、こいつらは戦いを選んだぞ。それも、違う」
上条「……人の生まれや、民族や人種!確かにそれで世界ってのは決まっちまうかも知れない!けどなっ!」
上条「お前は最初っから『諦めた』だろ!?弟さんが死んでも、ただ無気力に嘆いていただけだろうが!」
上条「変えようとする努力を放棄して!誰かが悪い、誰かの責任だなんて言っても良くなる訳ねぇじゃねぇかよ!」
上条「周囲に正論を吐く人間が誰も居なかったら、お前が言えば良かったんだ……!」
上条「お前が……変えようとすれば……っ!」
笛吹男「……おやおや、意外ですなぁ。『幻想殺し』が泣き虫だったとは……」
笛吹男「――いいものを見せて下さったお礼に、私も――」
バードウェイ「いかんっ離れろ!」
笛吹男「私もただ遊んでいた訳ではありません。既に21枚のアルカナの配置は済んでおります」
バードウェイ「やめろっ!死ぬぞ!」
笛吹男「『プリマ・タロッコ』、私には過ぎた代物……遣う度に一年ほど寿命が減るようですが……まぁ」
笛吹男「後一枚を並べるぐらいには――『塔』!」
『プリマ・タロッコ』――原初のタロットとの二つ目を得て、名前と姿を変えた。
膨大な魔力を得て過去の栄光を一時的に取り戻す。
異界の知識、神への莫逆たる存在。
冒涜の象徴である『死者の書』としての存在を。価値を。役割を。
上条「俺の後ろへ!」
シェリー「いやぁ、これはなぁ」
円周「ちょっと、無理っぽいけど」
先程バードウェイが放った一撃がビル程の大きさの塊だとするなら、『死者の書』が創りだした魔力は新興住宅地程の大きさ。つまり。
海原「これは……飛行場、全部を覆っていますね」
上条「こんなにかよ……!」
笛吹男「やはり悪役は最後まで悪役らしくありませんと……ね」
血を吐きながら笛吹男は笑う――誰を?
けれど、精一杯の願いは神にすら届かない。
彼らもう、大分前に祈りを捨ててしまっていたのだから。
バードウェイ「……そうか、やはりお前達はそれを選んでしまったのだな」
グシャ。
『天使の力』から具現化した腕が、鈎爪を持つ禍々しい巨大な腕が、笛吹男を握り潰す。
笛吹男「……な!あ、が」
バードウェイ「クロムウェル。スフォルツァ版タロットに語られた噂があったよな?」
シェリー「『タロットで“塔”を引いてしまうと、悪魔が現れて持ち主を連れ去ってしまう』――か?」
笛吹男「それは――あくまでも噂でっ!?」
バードウェイ「間抜けは貴様らだよ、笛吹男」
バードウェイ「私達が貴様らのような人間達を信用すると、本気で思っていたのか?」
笛吹男「それじゃ――最初からっ!?」
バードウェイ「あぁ『明け色の陽射し』は、貴様らが必ず『死者の書』を復活させると踏んでいたのだよ」
バードウェイ「『プリマ・タロッコ』を核にして、『断章のアルカナ』を完成させる馬鹿が出ると予測していた。それも数百年以上前からだ」
バードウェイ「悪用されるのを恐れた私達は、わざとタロットの一部を失伝させた。警告の意味も兼ねて『塔』と『悪魔』のカードを」
バードウェイ「……まぁ、アレだな。貴様が盗んだアルカナにはある呪いがかかってる」
バードウェイ「特定の条件下でアルカナを使った場合、術者本人へと攻撃が下されるように」
笛吹男「ぐぅっ!?」
『天使の力』で出来た悪魔の腕は締め上げる力をより一層強める。
元より致命傷に近い傷を負っていたのだから、とても耐えられる筈が無い。
上条「――っ!」
バードウェイ「行くなっ上条当麻!」
駆け出そうとする上条を制止する。幾ら『右手』があった所で、桁違いの量の『天使の力』を打ち消せなどはしないのだろうが。
振り返った先で彼が見たボスの顔は、表情は。
バードウェイ「……これで、いいんだよ。これで」
上条「バードウェイ……」
バードウェイ「悪の結社である『宵闇の出口』のボスにして最後の一人」
バードウェイ「『ハーメルンの笛吹男』は、ここで死ぬんだ」
バードウェイ「……卑怯な手を使って、それでも堂々と正面から戦い、負けた」
バードウェイ「決闘なんてする必要すらないのに、己の力を過信して応じてしまったが故に」
バードウェイ「そう、それだけの話だ」
上条「けどなっ!」
バードウェイ「――終わらせてやるんだよ。奴が悪い魔術師である内に」
笛吹男「……ありがとうごさいます……バードウェイさん……」
バードウェイ「――貴様は地獄へ堕ちろ。『笛吹男』にはそちらが似合いだろう」
笛吹男「いえ、お断わり致します――旅に出ますよ。長い長い旅に」
笛吹男「誰も私を知らない街へ行って、笛を吹いて子供達に聞かせ――」
笛吹男「――私が去った後には、誰も残らない――そう、それが――」
笛吹男「――本物の『ハーメルンの笛吹男』で御座いますれば」
こうして一つの結社の長い旅は終り、そして終りのない旅が始まる。
少年が望んだ自由を、齢数十年にして漸く手に入れた。
『天使の力』が消えた後、そこには瓦礫と粉砕されたコンクリートだけが残っており、人がいた痕跡は残っていなかった。
――そう、まるで『笛吹男』は最初から存在しなかったように。
――バッドエンド3
――『明け色の陽射し』 支部(兼・上条のアパート)
上条「……あのー、バードウェイさん?」
バードウェイ「……いやぁ疲れたよ。ホンットに歳は取りたくないもんだ」
上条「お前が言うなローティーン。いや、そうじゃなくってですね、こう説明を求めたいって事なんですけど」
バードウェイ「あの馬鹿に関してか?正直、思い出したくもないんだが」
上条「や、それもあるんだけど」
バードウェイ「仕方がないなぁ。あまり説明は好きじゃないんだが、私が解説してやろう。この、私がなっ」
上条「お前って解説大好きだよね?教えたがりって言うか」
上条「それも知りたいんだけど、それよりももっと疑問があるんだよ」
バードウェイ「なんだね。エロいのは駄目だぞ?」
上条「しねぇよ!?どんだけ見境無いんだ俺!」
バードウェイ「ちょ、ちょっとだけなら?」
上条「どうしよう最近ボスがおかしいんです」
上条「……だからそうじゃなくって。ここ、俺の部屋だよね?」
バードウェイ「見れば分かるだろ。この古いコタツに見覚えはある筈だが」
上条「コタツ出したのは憶えてるけど、その後半壊したような……?レイアウトは微妙に違ってるけど」
バードウェイ「科学の進歩は凄いなー」
上条「おいっ都合が悪くなると科学サイドに丸投げはやめろ!」
上条「それも不思議なんだけど――バードウェイさん、君いま俺の膝の上に居るよね?」
上条「ぶっちゃけ今座椅子状態にあるんだけど、これってどういう意味?」
バードウェイ「煩い黙れ。20セントで買った椅子が喋るな」
上条「……あるぇ?俺達って結構仲良くなった気がするんだけど……?」
上条「あぁなんだ夢か!俺は夢見てんのな、そっかー」
上条「アレだろ?どうせコタツの中に浜面が居て、『ドッキリで隠れたんだけど、出るにでれなくて酸欠ぎゃー』なんだろ?」
バードウェイ「その結論づけもおかしいと思うが、まぁ納得するのであれば好きにしろ」
バードウェイ「『僕たちは夢と同じもので織り上げられている』か。至言だとは思うが」
バードウェイ「それで?私に聞きたい事とは何かね」
上条「今回の事件、つーかお前また隠し球とか伏せたままやりやがったろっ!?」
バードウェイ「ん?なんだ怒っているのか?」
上条「当たり前だよ!俺がどんだけ心配したと思ってやがる!?」
バードウェイ「だって『嫌いになるなんて無いぐらい大好き』なんだろう?だから安心して騙せるってものさ」
上条「いやそこまで言った憶えは……」
バードウェイ「えっと、『部下が私を好きすぎて困る』っと」 ピッ
上条「ツイッタ○に投稿すんな。炎上するから」
バードウェイ「まぁアレだよ。上条当麻」
バードウェイ「正直な話、アレの全てが演技と言う訳でもない」
上条「……笛吹男を油断させるためにしたんじゃないの?」
バードウェイ「あの時点で奴の真意は計りかねたからな。まさか自殺志願者だとは――何となくしか、思ってなかったさ」
バードウェイ「ともあれ『明け色』だけではなく、魔術結社全般が斜光なのは間違いないからな」
バードウェイ「……お前が『自分で変えればいい』と言ってくれた時には、心が震えたぞ?」
上条「あ、コラっ!その上でもぞもぞしないのっ!そのキャラは円周担当だから!」
上条の下条さん(お久しぶりですね)
上条「お前は黙ってろ!つーかもう出番は来ねぇよ!」
バードウェイ「とはいえ解説もなにも、あの場で言った通りだよ。もうこれ以上裏らしい裏はない……(事もない)」
上条「盗んだとか、盗ませてやったとか、そこら辺が良く分からなくて」
バードウェイ「あー……まず、現在巷に溢れるタロットは『死者の書』と言う魔術書の劣化写本だ。ここまではいいか?」
上条「うん。失っただか、無くなってるそれを復活させようってのがアイツだったんだろ?」
バードウェイ「そうだ。で、現在残っている写本の中で最古の『プリマ・タロッコ』を核に造り上げた」
バードウェイ「『木原数多』が肉体の筺(はこ)を用意して、中身を書き換えようとしたのと構図は似ている……いや、逆か」
バードウェイ「今となっては奴が本当に復活を望んでいたのかも怪しい」
上条「お前らの溜めてた魔力?だかも奪って、だよな」
バードウェイ「だが私達『明け色の陽射し』は、連中やその他の馬鹿者どもが『死者の書』を復活させるのを危惧していた」
バードウェイ「だからまず、『プリマ・タロッコ』に『塔』と『悪魔』のアルカナを最後に使えば、術者へ跳ね返る呪いをかけておいた」
上条「具体的には、って聞いても分からないか」
バードウェイ「イコノグラフィ――日本語で図像学と言う学問がある」
バードウェイ「この絵のこの小物は、何々の宗教学的な意味を含んでいるとかな」
バードウェイ「『死者の書』が最高のアルカナコンボで発現するように、私たちもアルカナの図柄に細工を加えて、魔術儀式の自動発動を仕込んでおいた」
上条「時限爆弾みたいなもんか?……あー、シェリーも『なんかおかしい』って言ってたっけ」
バードウェイ「あれは元々私達の持ち物だ。名前を書いて怒られる筋合いはないよ」
バードウェイ「そして次に『宵闇』に働きかけて、用意した偽物と呪いをかけた本物をすり替えようとした」
バードウェイ「もしもここで彼らが素直に従うようであれば……いや、言っても仕方がないか」
バードウェイ「現実として彼らは私達が用意した偽物を私達へ返し、呪いのかかった本物は自分達で所有してしまったのだからな」
バードウェイ「要は偽札と一緒だな。作る方は自分達がババを引かされぬよう、必ず分かる『符丁』を入れる」
バードウェイ「ユキチに『風×』と名前を書いたり、そういう事だな」
上条「それ違う人だと思う。個人的には番外個体やってほしかったけど」
バードウェイ「私達が自分で作った偽物を見抜けないでも思ったのか、連中は」
バードウェイ「後はまぁ……海原光貴は向こうから接触してきた」
上条「あの野郎……!俺の知り合いは信用出来ないとか言ってた癖に!」
バードウェイ「私は処刑するつもりだったんだが、その時なんて言ったと思う?」
上条「『中学生ハァハァ』?」
バードウェイ「……お前、魔術師相手に侮辱も程があるだろう」
上条「お前は、ヤツを、知らない」
バードウェイ「『上条さんのお友達であれば、信用出来るかと』、だ。少しは反省しろ」
上条「海原……」
バードウェイ「『宵闇』に関してもそうだよ。一応私が皆殺しにした『と言う設定』になっている」
上条「でも殆どは殺してない、のか?」
バードウェイ「わざわざ私が手を下さずとも、あと何代かすれば崩壊していただろうな」
バードウェイ「奴も言ったように『人買い』がビジネスとして成り立ってしまったため、ハーメルンの笛吹男はその役割を終えたんだ」
バードウェイ「昔と違って貨幣経済の浸透、特定国では家畜より価値が低い人民」
バードウェイ「後は少々旅好きなマフィアが居れば誰だってやれてしまうんだよ」
上条「だから――あそこで死ぬのが正解、か」
バードウェイ「……同じ『結社』である私には分かる。どうしても連中は、笛吹男は自然消滅なんて耐えられなかったんだ」
バードウェイ「だから最後に勝負をして、惨めな敵役としてでも名を残したかったんだと思うよ」
上条「だからってさぁ。そんな事しなくたって」
バードウェイ「これはマークの話なんだが、昔犬を飼っていたそうだ」
バードウェイ「その犬とは幼い頃から兄弟同然で育ち――だが、人間とは比べるべくもなく寿命には差がある」
バードウェイ「老衰で床に伏せる事が多くなった老犬を、毎日毎日介護していたんだが、ある日」
バードウェイ「その犬は仲の良かったマークの掌に思いっきり噛みついたんだ。血が噴き出し、肉が見える程、強く」
上条「……」
バードウェイ「その後数日も経たずに老犬は天へ召されたが、お前は老犬が何で噛みついたのか分かるか?」
上条「覚えていて、欲しかったんじゃないかな?」
バードウェイ「マークもそう言っていたよ。そして自分の掌に今でも残る傷跡を誇らしげにしている」
上条「笛吹男も同じように」
バードウェイ「……どうだろうな、それも。殊勝な事を言っていたようだが、それもまたフェイクに過ぎないかも知れない」
バードウェイ「『盗躁』の名は伊達ではないよ。『必要悪の協会』やイギリス、ローマからも数世紀逃げ切り、尻尾一つ掴ませなかった」
バードウェイ「……ヤツがまだ生きていて、どこかで子供達相手に笛を吹いている気もするがね」
上条「……そう、かもな。きっとそうだ」
バードウェイ「『死者の書』も取り戻せたし、奪われた魔力も還して貰った」
バードウェイ「これで私も漸く1神裂へ戻れたという訳さ」
上条「だから神裂さんを聖人単位でイジるの良くないと思うの」
上条「最近の『あれは……っ!?聖人級の力かっ!』って風潮はちょっと」
バードウェイ「教皇級が右ストレート一発で沈んだもんだから、説得力を失ったんだと思うがね」
バードウェイ「ちなみに今の流行は『魔人級』かな」
バードウェイ「ともあれこれで数百年前からの因縁にはケリがついた。このっ!偉大な私の力を以てしてなっ!」
上条「あー……そういや俺、なんだかんだで幻想ぶち殺せなかったなぁ」
バードウェイ「私は形の上ではクロムウェルとクソガキを助けた。私の魔術が無ければ救いようはなかった。それは、事実だ」
バードウェイ「だが上条当麻。その『心』を救ったのは紛れもなくお前だと思うよ」
バードウェイ「クロムウェルがほんの少しだけ目を細めて微笑んだり、クソガキが嫌われないように遠慮するようになったのは」
バードウェイ「間違いなく貴様の責任だ」
上条「俺は、大した事なんてしてないよ――って今責任って言ったか?なぁ?」
バードウェイ「たまには活躍を誰かに譲るのもいいもんだ。なぁに、これから嫌でも主役にならなければいけないからな」
上条「まぁ変に気負うよりはポジティブでいいけどさ――ってそういやさ、もう一つ聞いていい?」
バードウェイ「さっきから聞いてばっかりだが、うむ?」
上条「『死者の書』ってどんな魔導書なの?てか誰が書いたの?」
バードウェイ「あー……聞きたいのか?どうしても?」
上条「いや別にどうしてもって訳じゃないけど、つーか無理には」
バードウェイ「聞きたいのであれば私の夫になるしかないなぁ?その覚悟があるのであればっ!」
上条「ないですっ!ごめなんさいっ!?」
バードウェイ「……ちっ、臆病者め。そこは『そんなものにも興味はないけど、お前の婿になれるんだったら知りたい!』って言う所だろうが」
上条「お前の中での俺かっけーな!つーかどんだけ俺お前が大好きなんだよっ!?」
バードウェイ「き、嫌いなのか……?」
上条「そりゃ!……だってほら、なぁ?」
バードウェイ「ちなみに私は好きだぞ。むしろ愛しているといってもいいぐらいだ」
上条「バードウェイ……?」
バードウェイ「お前が欺されてアタフタする様は大好きだっ!見ていてとても心が踊るなっ!」
上条「……どうしてお前とパトリシア、ここまで差が出ちゃったんだろう……?」
バードウェイ「DNAは同じなのになぁ。偉大すぎる姉を持つ気苦労は察してやれ」
上条「今テメェの暴虐武人ってぷりを論点にしてるんだからね?どうか察してあげて?」
バードウェイ「『傍若無人』だ。合ってない気がしないでもないが」
上条「ま、でも無事終わって良かったよな。俺たちに関しては、だけど」
バードウェイ「……それがなぁ。そう手放しで喜んでもいられないんだよ、流石にな」
上条「まだなんかやり残しがあるのか?」
バードウェイ「ないからこそ困っているのさ」
上条「うん?」
バードウェイ「『姉と弟』で姉は弟を取り戻した。度は失った弟を、そして捨てた自分を掬い上げた」
バードウェイ「『ラプンツェル』では楼閣の姫は知恵の実を口にした。もう独り悲しく歌う事はないだろう」
バードウェイ「そして『オズの魔法使い』は堂々開幕し――」
バードウェイ「臆病者のライオンは『勇気』を手に入れ」
バードウェイ「心の無いブリキの木こりは『意思』を手に入れ」
バードウェイ「脳の無いカカシは『智恵』を手に入れた」
バードウェイ「――かくしてドロシーは無事カンザスへと帰還しました、とさ」
上条「……そっか。もう……ん?帰還し“た”?」
バードウェイ「僅か二週間しか経っていないのにな。この『幻想殺し』め」
上条「だから『女殺し』的な意味はないと何度言えば……まぁ、楽しかったなぁ」
バードウェイ「不愉快な事も多々あったがね。主にデカいガキとチビのガキのせいによってだが」
上条「精神年齢は三人ともそんなに変わらないような気がするけど。うるさかった分だけ、寂しくなるよなぁ……」
バードウェイ「――以前、私がこういったのを覚えているか」
バードウェイ「『今の生活を続けるには、多大な犠牲を支払わねばならない』と」
上条「あー、確かそれ」
バードウェイ「あの時は軽いジョークのつもりだったんが、どうする?」
バードウェイ「お前が望むであれば、私は叶えてやってもいいんだぞ」
上条「マジでか!?スゲーなバードウェイ!……あ、でも」
バードウェイ「あぁいや別に何かの対価は要らないよ?今回の件で活躍してくれたし、そのぐらいはタダで叶えてやろう」
バードウェイ「何せ私は『魔法使い』だからね。その程度雑作もないさ」
上条「ホントかっ!?じゃ頼む……ってあるぇ?いつかもこんな風に騙されなかったっけ?」
バードウェイ「……では、えっと……目をつぶっていろ」
上条「うん。なんかマジックみたい?」
バードウェイ「そのまま、待て。いいか!?目を開けたらダメなんだからなっ!? ゴソゴソ
上条(何かバードウェイがゴソゴソしてる?なにやってんだろ人の膝の上で?)
バードウェイ「よーし行くぞ?心の準備はいいか?後からキャンセルもクーリングオフも効かないんだからな?」
上条「大丈夫だ。やってくれ」
バードウェイ「では、私の言葉をリピートしろ」
上条「おう」
バードウェイ「『私は一生貴方の物です――』」
上条「『私は一生貴方の物です』」
バードウェイ「『――そう、生涯かけて証明するとここに誓います』」
上条「『――そう、生涯かけて証明するとここに誓います』」
バードウェイ「――ならば仕方がない。私がお前を貰ってやろう」
上条「――え?」
バードウェイ チュッ
上条「」
バードウェイ「――っと、目を開けていいぞ新入り。じゃなかったトー――うん、新入り」
上条「何やってんの、何やってんのおおぉぉぉっ!?バードウェイさぁぁぁぁぁんっ!?」
バードウェイ「あん?困ったやつだな、女の口からそれを言わせるつもりなのか、恥ずかしいヤツめ」
上条「キ――とかした奴の方がもっと恥ずかしいじゃねぇかよおおぉっ!?」
バードウェイ「まぁ色々考えたんだが、お前は私が貰う事にした」
上条「俺の!?俺の意見はどこ行ったああっ!?最近家出したまま帰って来ないんですけどぉぉっ!?」
上条「ってかその結論は一体どこから出して来やがったの!?」
バードウェイ「まず魔術サイド、科学サイド、そして『明け色の陽射し』の三つは相容れない」
バードウェイ「だから『全員私の所で引き取る』事にしたんだよ」
上条「えっと……?何?どゆこと?」
バードウェイ「そろそろ帰ってくる頃――あぁ、来たな」
パタン
円周「たっだいまーーーっ!あ、お兄ちゃんねぇねぇっ、すっごいんだよ!外人さんばっかり!」
シェリー「……そりゃそーでしょうが。つかアンタの方がアウェイなんだからな」
上条「お前ら!?つーか……待て待て。今円周さん、不吉な事言わなかった?ねぇ?」
円周「うん?……あー、レヴィちゃんまだ言ってないんだ。お兄ちゃん可哀想」
上条「可哀想って何?どんな残酷な事実が俺を待ち受けているの?」
シェリー「あー、見た方が早いだろ」
上条「見る?何を?」
シェリー「ん」 スッ
上条「窓……あー、すっかり秋めいてきたよね。街路樹が色づいて風に葉が舞う、的なねっ」
上条「行き交う人もすっかり暖かそうなコートを着て、着てい――」
上条「……」
上条「うん?あれ?」
バードウェイ「気づいたか」
上条「ねぇシェリーさん?どうしてみんな外人さんばかりなの?」
シェリー「そりゃ全員ここいらに住んでるんじゃねぇのか?近くに学校もあるし、若ぇ奴が結構居た」
上条「ねぇ円周さん?どうして日本人どころか、東洋系が誰一人としていないの?」
円周「どっちかって言えば校外だからかなぁ。あんまり観光客も通らないよねぇ」
上条「あの、バードウェイさん?」
バードウェイ「何かね。あとバードウェイじゃない、レイヴィニアと呼べ」
上条「ここ、どこ……?」
バードウェイ「ブリテンだが何か?」
上条「何か、じゃねぇぇぇぇぇっ!なんで連れてきたっ!?どうして俺がいるのか説明しやがれっ!?」
上条「俺が納得できるような理由をつけてだっ!なぁぁっ!?」
バードウェイ「――まぁ、これは割と真面目な話になるが、例えば兵器開発ってあるよな?核や無人兵器とかを想像してみろ」
上条「それ、本当に関係あるのか……?難しい話で誤魔化そうとしてんじゃねぇの?」
バードウェイ「基本的に西側諸国ではやれ非人道的だの、核の悲劇がどうのと騒ぐ」
バードウェイ「それ自体は間違いでもないし、好きにすればいいと思うんだよ。私達の住んでいる国は自由に物が言える国だからな」
バードウェイ「でも仮に西側諸国全てが止めたとして――独裁国家や、一部の東側国家は止めないんだよ。どうしても」
バードウェイ「なぜなら彼らには民主主義が無く、故に力によって民衆が押さえつけられのを知っているからだ」
上条「うん……?」
円周「『銃を規制しましょう』って言っても、一般人へ流通する銃の量が減るだけで、犯罪者はお構いなく使うぜって話だよねっ」
バードウェイ「科学と魔術もそうなんだよ。今までは不可侵、お互いの領分を守って接してきた」
シェリー「……まぁ、それだって怪しいモンだかな」
バードウェイ「だがイギリス清教と学園都市、グレムリンとバゲージ。パンドラの箱はとうの昔に開いてしまったのだよ」
上条「だから何――って『明け色』も!?」
バードウェイ「『明け色の陽射し』は『科学』をも取り込む。そう、これは必要に迫られてだ」
上条「でも!それって他の組織から狙われるんじゃないのかよっ!?」
バードウェイ「だからなんだ?それが、どうした?」
上条「どうした、って」
バードウェイ「私達が科学を使わなければ、相手もそうするだろうと?」
バードウェイ「さっき言った兵器の話と同じだよ。西側が一つ減らせば、東側は二つ増やす。そう言う関係なんだ」
バードウェイ「――そう、『明け色』とは魔術結社ではない」
バードウェイ「『他人を効率よく支配するための方法』を学んでいる内に、いつの間にか魔術結社になってしまった存在だ」
シェリー「……それも怪しいんだよなぁ。キェリー・イェールの時系列にはローゼンと肩を並べるしよぉ」
円周「ってか『死者の書』の遺産管理人だったら、紀元前まで遡るんだよねぇ――って、知らないんだったっけ」
バードウェイ「だからこれは本来の姿に変えるだけの話。今までの魔術サイド偏向がイレギュラーなのだよ」
上条「いや分かったけど……でも、俺関係ないですよね?そろそろおウチに帰してくれませんか?」
バードウェイ「――ってのが建前だ」
上条「嘘かよっ!?つーか建前長いな!」
バードウェイ「まるっきり嘘という訳でもないが、まぁそれだけ大風呂敷を広げればお前達を受け入れやすいんじゃないかな、的な発想だ」
上条「プランが杜撰すぎるだろうが!」
バードウェイ「幸い学園都市も『フォーマット』したばかりのガキであれば、情報漏洩の心配もないと快く送り出してくれたし」
円周「パティちゃんとも仲良くなったんだよ!ね、ねっ偉い?誉めて誉めて!」
バードウェイ「性格に難があって、モラルの持ち合わがなく、殺傷能力が異様に高い以外は、歳も近いし妹の護衛にうってつけだろう」
上条「護衛にしちゃオーバーキル過ぎるだろう!あとそれ難ばかりじゃねぇか!つーかお前それがしたかっただけだろ!」
バードウェイ「イギリス清教の方も問題はない」
シェリー「週末、寮に荷物取りに行かないとなぁ――あぁ、伝言があるんだったわ」
上条「インデックスから……?」
シェリー「『よくやった!でもあの子を悲しませたからいつか殺す!』」
上条「あぁ面倒臭ぇっ、面倒臭ぇよなっ!ステイルはなぁっ!」
バードウェイ「最後に君の処遇だが、学園都市は渋った」
バードウェイ「なので取り敢えずは留学という形で様子を見よう、という所に落ち着いたんだ。うん、我ながらいい落とし所だな」
上条「言っとくけどな、お前のやってる事は『笛吹男』の別のバーションでしかねぇからな?実質人攫いだよね?」
バードウェイ「来週から高校転入おめでとう。大丈夫だ、『結社』系だから名前さえ書けば卒業出来るぞ!」
上条「大丈夫じゃねぇよ!?俺の人生設計100%詰んでるじゃねぇか!」
上条「浜面っ!?HAMADURAはどこだよっ!?」
上条「どーせアレだろ?また『実は夢でしたー』ってオチがつくんだろ、なあぁっ!?」
上条「出てこいよ浜面っ!お前の嫁さんが誰かで一ボケするんだよなっ!なっ!?」
バードウェイ「諦めろ。さっきのアレで婿入りは確定済みだ――が、なんだ」
バードウェイ「どうしても、私が嫌だって言うのであれば。私はっ!」
上条「嫌じゃねえっ、嫌じゃないけどもっ!」
バードウェイ「ちなみに愛人は……三人まで許す」
円周「はいっ!立候補します!――お姉ちゃんと一緒に!」
シェリー「私は関係ねぇだろ。つーか友達はそんな事しないのよ」
円周「けど、この小説には『友達から始まる恋だっていいじゃない』って」
シェリー「あ、う、そう、なのか?……そっか、するんだ」
上条「お前も比較的常識人をエロゲ脳に洗脳しないでっ!?そ・れ・はっ!フィクションだからっ!?」
バードウェイ「往生際が悪いんだな、お前も」
上条「だってさぁ、つーかなぁっ!もっと他に穏当な方法だってあるじゃねぇかっ!?」
バードウェイ「何度だって言うが、もう諦めろ」
バードウェイ「君が私を『惚れさせた』時点で全ては終わっているのだよ、上条当麻君」
バードウェイ「何を言った所で、どう足掻こうが君は私のモノなんだからな」
上条「……いや、なぁ?」
バードウェイ「その代わりに私をくれてやろう。『レイヴィニア=バードウェイ』をだぞ?」
バードウェイ「貴様は悪を撃つ剣であれば、私はその収める鞘となろう」
バードウェイ「お前が邪を滅ぼす狼であれば、私はその甘やかす飼い主となろう」
バードウェイ「君が良き夫であれば、私はその貞淑な妻となろう」
バードウェイ「……どうだ?等価交換と行こうじゃないか」
上条「俺、そんなにお釣り持ってないんだけど」
バードウェイ「ならばそっちの二人も混ぜてやれ。その程度では私と釣り合うとも思えんがね」
上条「お前さ。割とずっと前から思ってたんだけども、実は」
上条「すっげー優しいし、一度関わった人間見捨てられないぐらいに、超甘々だよな」
上条「口が悪いのはちょっとどうかって思うけど」
バードウェイ「黙れ新入り。そいつは『明け色の陽射し』の最高機密だぞ」
バードウェイ「文句があるのだったら塞いでみろ。私も、貴様が漏洩させようとした時には、そうしてやるから」
上条「こう?……あ、よく伸びる」 ムニーッ
バードウェイ「いひゃいな馬鹿者め!違うだろっ!?もっと他に方法はあるだろうが!」
シェリー「素直になれよツンデレ」
バードウェイ「黙れ。殺すぞ」
円周「うん、だからこうやって――」 チュッ
上条「」
円周「ちゅちゅっ、あぅ……ちゅぷ」
円周「くぷ、ちゅちゅっ、ちゅば……ちゅ」
円周「くぷ、あぅ……や……ちゅぅぅぅっ」
円周「――ね?こういう事だよねっ!」
上条の下条さん(やだ、情熱的……!)
上条「」
シェリー「魂抜けてんなぁ」
バードウェイ「……決めた。貴様はドーバーで人体の限界に挑戦させてやるっ!」
円周「まずはブラをしてから出直して来るんだぜっ」
バードウェイ「よく言った!今日が貴様の命日だな!」
上条「二人とも人の部屋でバトるな!あぁもうなんか訳分からん状態になってるし!」
シェリー「by前屈み条」
上条「しょうがねぇじゃんかっ!?痛みには耐えられるけど、それ以外はっ!」
シェリー「がんばれー。どっちに手を出しても法的にアウトだからなー」
上条「他人事だなオォイっ!」
シェリー「だ、だったら私で練習……する?」
上条「他人事じゃないっ!?むしろ悪化してるじゃねぇか!つーか割と可愛いんだよチクショウっ!」
円周「ぶー。お姉ちゃんって結構いいとこ持ってくよねぇ」
バードウェイ「あんまり言ってやるなよ。アラサーには後が無いのさ」
シェリー「殺すぞ?」
上条「……まとまりねぇよなぁ、お前ら」
バードウェイ「まぁ、なんだね。これから色々とあると思うが、改めて――」
バードウェイ「――ようこそ、『明け色の陽射し』へ!」
――断章のアルカナ 最終話 『オズの魔法使い』 -終-
――バードウェイ「ようこそ、『明け色の陽射し』へ」 ~断章のアルカナ~ -完-
※最後までお付き合い下さった貴方へ心から深い感謝を。本当にありがとうございました
以上で『バードウェイ「ようこそ、『明け色の陽射し』へ」 ~断章のアルカナ~』は完結と相成ります
第三話も8万3300語(上司に送って推敲するので前後するでしょうが)、トータルで約24万4千語、400字詰め原稿用紙610枚となります
>>383
ちなみに電撃文庫フォーマット(一ページ=42文字×17行で換算)だと341枚。長めの本一冊程度です。私のWord2003だと改行はカウントされないので、ぴっちり詰めた場合ですが
……ネタ的にアレがアレしてアレするような内容なので、うん。ちょっとアレでは扱えないんだって上司(モ○先生の抱き枕取り寄せたって自慢してた)がね、はい
ともあれ読んで下さった方が「ウチのボスが可愛すぎて生きるのが辛い」ぐらい思って下されば嬉しいです
では、またいつかお会い出来れば幸いで御座います
おつでしたぁ!
乙でした
エピローグを待つッ
この話はまだ読んでないけど、乙
アイテムの話が面白かったけど間に合わなかったのとこれから読むのに期待して
乙!
最高におもしろかった!
いやー今回も素晴らしかった!乙!
後日談もあるんだよね?ね?
乙です
すげえ面白かった!感謝を込めて乙!
超乙です!
こまいけど魔「道」書ですね
素晴らしい作品をありがとうございました!!
乙
良かったよ
>>1氏のSSは今作も含めてどれもこれも良作だな!乙でした!次回作にも期待してます!
次回作の御予定は?
――次回予告
――洛陽。今ではない、いつか
占い師「――もし、そこの方」
華淋「――悪くはないわね」
秋蘭「はい、先日起きた暴動も収まり、最近は大分安定しております」
占い師「――もし、そこの金髪ツインテの方」
華淋「結構な事じゃない。でも、それだけじゃないんでしょう?」
春蘭「はっ!確かに一帯の治安は改善したのですが、その、住民が別の所へ」
華淋「あぁ。難民街が貧民街へ移ってしまったのね?……全く、ここの町守は何をしているのかしら」
秋蘭「それは仕方がありますまい。黄巾党の奴らが近くの村を襲っておりますれば」
華淋「比較的守りの堅いここへ集まる、か。ま、当然でしょうね」
占い師「――もし、そこの学生時代に同性から告白されてトラウマになっている方」
華淋「中の人は関係ないでしょうが!春蘭、この者の首を刎ねなさい!」
春蘭「はっ!」
秋蘭「よさないか姉者!華淋様も時代考証的なものを、はい」
華淋「さっきから何よ、死相でも出ているって言うのかしら、この私に?」
華淋「なんだったらこの場であなたの寿命を占わせてあげてもいいのよ?」
占い師「……私はまだ死にませぬ。彼の『天の御使い』様に言葉をお返しするまでは、とても」
華淋「そう。だったら今この場であなたの首を刎ねたら、詐欺師って事になるわよね」
占い師「運命とは人の力で変えられるもので御座いますれば、それもまた致し方ないことで御座いましょう」
華淋「ふぅん、度胸はあるようね。いいわ、言うだけ言ってみなさいな」
占い師「『世界が乱れ、大陸が血によって赤く染まる時、人の英雄が現われ――』」
華淋「『その者、白きオオカミを伴い、この世界を平和と導く――』よね?そんなの子供だって聞いた事があるでしょうね」
占い師「『その者、赤きオオカミを駆り、世界を導く』」
華淋「色が違うわね、それが?」
占い師「……曹操様。その者があなたの覇道に大きく関わると見えております」
華淋「……」
春蘭「こいつ出任せを言っております華淋様!即刻首を刎ねましょう!」
華淋「止めなさい春蘭――秋蘭」
秋蘭「はっ!……少ないが、これを」
占い師「これは、かたじけない……」
華淋「悪くなかったわ。ではね」
占い師「……ご武運を」
秋蘭「華淋様、宜しいのですか?あんな詐欺師など斬って捨てれば良かったのです」
春蘭「姉者。姉者の目は節穴か」
春蘭「なんだと秋蘭!?」
華淋「私は占い師の前で一度も名乗らなかったわね。あなた達も真名で呼んでいたでしょう?」
秋蘭「勿論、他のどこかで見知っていただけかもしれない。しかし逆に言えばあの占い師はそれだけ情報量が多いという事だ」
秋蘭「情報屋として優れている者に、縁を作っていても悪くはあるまい?」
春蘭「もっと簡潔に!」
秋蘭「あの占い師はある意味、『ホンモノ』だと言う事だ」
春蘭「最初からはっきりそう言えばいいだろう!」
秋蘭「……姉者」
華淋「分かってる。分かってるから、ね?――おや、人だかりね」
秋蘭「芸人でも来ているのでしょうか?で、あればいいのですが」
華淋「そうね。少しは気分も紛れるでしょうから。ね、春蘭――春蘭?」
秋蘭「……華淋様、あそこに」
春蘭「ええいっ!どけどけっ!見えんではないかっ!」
華淋「……いや、まぁ、うん」
秋蘭「姉者の不始末は……」
華淋「アレでいいとしましょう。微笑ましい、と一応は」
秋蘭「……はっ」
――広場
男「『さぁさぁお立ち会いお立ち会い!』」
男「『我が輩こそは予言者からこの世界を救うと託された英雄!その名もHAMADURAである!』」
男「『占い師の予言である通り!『白き獣を連れた天の御遣い』とは我が輩の事だっ!』」
春蘭「華淋様華淋様っ!凄いですよ、こいつ天の御遣いですって!」
秋蘭「姉者!そんなに大声を出すな!」
華淋「……まぁ、いいのかしらね?」
男「『そんな我が輩が今日は皆様に良いモノをお見せしよう!なんとっ!我が輩の友である白いオオカミをだっ!』」
男「『遠からんものは音に聞け!近くの者は寄って見よ!これがあのオオカミだっ!』」
犬「わんっ」
一同「……」
男「お、オオカミだっ!」
犬「わふー」
一同「……」
男「え、無言っ!?つーかノーアクションって酷くないっ!?」
男「いやそうじゃなくって!見せ物見せたんだからお金払いなさいよ!すっごいモノ見せたじゃん!?」
男「外見はちょっとアレかもしれないけどさ!ウチのポチは俺以外には誰も懐かない、マッドドッグと呼ばれたんだからねっ!」
春蘭「よーしよしよしよしよしっ」 モフモフモフモフッ
ポチ(犬)「くぅーん」
男「ポッツィィィィィィィィィイッ!?お前何やってんのぉぉぉっ!?」
華淋「はい、散りなさい。県令の命令である」
華淋「てか、どう見てもその子、ただの犬じゃない。見た事ない種類みたいだけど」
男「こ、こう見えて凄いんですからねっ!ほらぁぁっ!?」
春蘭「そーか、来るか?お前も?私と一緒に華淋様にお仕えしよう?なっ!」
ポチ「わんっ!」
男「やだポチが浮気してるっ!?」
秋蘭「姉者も軽々しく生き物を拾うな」
男「拾ってないよ!?ポッツィはウチの子だもんっ!」
秋蘭「姉者が全力で抱きしめると、直ぐ死んでしまうだろう?」
男「逃げてっ!?ポチさん逃げてぇぇぇぇぇっ!?」
華淋「――で、御遣いさん?あなたはこんな所で何をやっているのかしら?」
華淋「大道芸で稼ぐくらいだったら、さっさとこの世界を救って欲しいのだけど?」
男「い、いやお金なくてさ」
華淋「だったら働きなさいな。世界を救う実力があれば、食うに困る筈はないわよね」
男「だってさ、その――」
兵士「――曹操様にご報告が!」
華淋「何か」
兵士「黄巾党の大軍がこの町の近くに集結しております!その数、千!」
華淋「そう!隊を三つに分けて秋蘭は西、春蘭は東に。私は南の守りを固めるわ!すぐに兵を展開しなさい!」
兵士「はっ!」
男「ちょ、ちょっとアンタ」
華淋「ん、あぁまだ居たの?さっさと逃げなさいと、ここも戦場になるわよ」
男「そうじゃない!そうじゃなくって!アンタ今、町の周りを固めるって言ってたよな?」
華淋「それが?」
男「それが、じゃない!町の北側には難民キャンプとスラムがあるだろう!?どうしてあっちには兵を置かないんだ!?」
華淋「きゃ?すらむ?」
男「兵士を固めれば、手薄な所を狙ってくるんじゃねぇのか?」
秋蘭「控えろ。今は貴様に関わっている時間すら惜しい」
秋蘭「向こうは千、こちらは四百。それで分からなければ話をするだけ無駄だ――華淋様」
男「けどよっ!納得出来ねぇよ!あいつらは元々この町の住人じゃないのかっ!」
男「アンタ、偉い人なんだろっ!?だったら助けてくれたって――」
華淋「――黙れ、俗物が」 ガッ
男「ぐっ!?」
華淋「今、こうしている間に、お前と無駄なお喋りをしている間だって、向こうが攻めてきているかもしれない。それは理解出来るか?」
華淋「たった一人の口だけの男のせいで何十、何百の人間が死ぬ」
男「そりゃ……!」
華淋「次に人間、誰だって万能ではないし、全能でもないのよ。両手で拾える量は決まってる」
華淋「今、私たちに出来る事は町の一番大切な所――商業地と住宅地を守る事だ」
華淋「それらが破壊されてしまえば、復興なんてとても出来たものじゃない。だから」
男「大して役に立たない所を切り捨てる、のかっ!?」
華淋「……そして最後に!私が、この私がそんな下らない方法を好きこのんで使っていると思うのか!?」
男「っ!」
華淋「助けたいに決まってる!誰だってそうだ!助けられるんだったら、そうしている!」
華淋「でも、力が足りなければどうしようもない!それが、この世界の現実だ!」
華淋「それでも――今のでも納得出来ないって言うんなら、あなたが助けなさいな」
男「俺が……?」
華淋「世界を救うのでしょう、天の御遣い。だったらさっさと救いなさいよ」
華淋「たかだか千ぐらいの盗賊なんて撃ち払えるでしょう、ねぇ?」
男「……」
兵士「曹操様!馬をお持ちしました!」
華淋「ご苦労!――それじゃ、楽しみしているわね、御遣い様?」
――馬上
秋蘭「良かったのですか?」
華淋「いいのよ。これだけ脅しておけば、あのバカも分かるでしょう」
華淋「……ま、分かった所でどうしようもないんだけど」
秋蘭「ですが」
華淋「ねぇ秋蘭、賭けをしない?」
華淋「あのバカが貧民街を助けに行くかどうか」
秋蘭「恐れながら賭けにならないかと」
華淋「あら?やってみないと分からないじゃない?先に選ばせてあげるから」
秋蘭「では――『行かない』で」
華淋「そう。だったら私は『行く』ね」
秋蘭「本気ですか?」
華淋「確かに一人じゃノコノコ殺されに行くようなもんたわ。でも、少し頭を使えばどうにかなるかもしれない」
華淋「あのバカが『俺は天の御遣いだ!』とか上手い事言って、住人の戦意を引き出せれば」
華淋「私たちが応援に向かうまでは持ちこたえる、かも」
秋蘭「あそには無頼の輩が多い。ですが、その性質故に易々と人を信用はしないかと」
華淋「そう?ならばそれだけの男だったのでしょう」
華淋「けれどもしあの男がどうにか収めたのであれば――そうね」
華淋「軍の一つでも任せてみるのも悪くないわね」
秋蘭「華淋様……おい、姉者からも華淋様をお止めしてくれ」
秋蘭「そもそもこういう時は姉者が真っ先に止める――姉者?どうした?」
華淋「春蘭?」
春蘭「……あのぅ、華淋様?」
華淋「何?」
春蘭「あの犬っころ、虎や熊の子供ではないですよね?」
秋蘭「姉者……」
春蘭「ち、違うぞ!?私にだって犬とそれ以外の見分けぐらいつく!」
秋蘭「具体的には?」
春蘭「モフモフしているのが犬で、モフモフッとしているのが虎だ!」
秋蘭「……華淋様、姉の不始末は私が」
華淋「いいのよ、これで――で、あれが、犬じゃないって言うのはどうして?」
春蘭「はい。つい私は犬っころを全力で抱きしめてしまったのですが」
秋蘭「待て待て。姉者が本気でやったら、大の大人でも真っ二つだろう?」
春蘭「そうなんだ!私もしまった!って思ったんだが」
春蘭「あの犬は全然平気そうだった。しかも、私が抱きしめてるのに、するって抜け出してあの男を追いかけていったんだ!」
華淋「……秋蘭。参考までに聞くけど、もし虎や熊の子だったとしても」
秋蘭「当然、結果は犬と大差ないでしょうな」
華淋「――春蘭、秋蘭!命令である!」
春蘭・秋蘭「はっ!」
華淋「私は今から貧民街に向かう!他の三方はお前だけで持ち堪えろ!」
春蘭「はっ!御意に!」
秋蘭「ですが華淋様!まさかお一人で向かわれるのですかっ!?」
華淋「大丈夫よ、危なくなったら逃げるから――ではっ」
秋蘭「華淋様っ!?せめて兵士を何人かは――」
春蘭「寄せ秋蘭」
秋蘭「姉者!何故止めるっ!?」
春蘭「華淋様が『大丈夫』と仰ったんだ」
秋蘭「姉者。だが」
春蘭「よく分からないが、全員ぶっ飛ばしてから華淋様をお助けすればいいんだろう?」
春蘭「なぁに難しい話じゃないさ」
秋蘭「……ふっ、姉者は姉者だな」
春蘭「ちょっと待て秋蘭!珍しく私は良い事を言ったのだぞ!もうちょっと褒めてくれたって――」
……ズゥゥゥゥンッ……
秋蘭「地震――違うな。北から?」
春蘭「考えている暇はない。私たちはすべき事をするだけだ!」
秋蘭「おうっ!」
――町の北方 貧民街
華淋「……」
華淋(住人は殆ど逃げ出した、か。まぁ当然よね)
華淋(わざわざ残る物好きも居ないだろうし、そもそもこの町と縁深い訳でもない)
華淋(ならば逃げ出して当然。それが普通でしょうね)
華淋(でもだとすれば――)
華淋「あれは、何よ……!?」
遠方には黄巾党の群れ。千の内、半分程がここへ集結したように見える。
党というよりも賊と言った方が相応しい彼ら。
本来であれば、兵士が集結する前に、町へ雪崩れ込み、略奪して去るのを得意している。
正規兵とは比べられぬぐらいに練度も低い、統率もあってないようなものだ。
しかしその士気が高いのは獣程度の道徳しか持たぬ、彼らのサガでもある。
だと、いうのに。
本来彼が殺到してくる筈が、一定の距離を保ったまま近づいてこない。
それは、何故か。
華淋「赤い……獣」
例えるのであれば巨大な『筺(はこ)』。
文車を人よりも、いやちょっとした家程まで大きくしたような、異形。
その色は血よりも赤く、陽光を反射して鈍く輝く。
筺からは一本の角が生え、黄巾党を指し――。
ヒュゥッ――――ズドゥゥンッ!!!
華淋「っ!?」
天が割れたのか、と錯覚する程の豪音。
数秒の間隔を置いて、黄巾党が集中している辺りが爆発した。
華淋「あれは――」
ヒュゥッ、ズゥゥンッ!ヒュゥっ、ズゥンンッ!
赤い筺の角の先から火を噴く度、何かが飛ばされ、黄巾党を巻き込んで爆発する。
もしもこれが正規の軍隊であれば、得体の知れない兵器相手に尻込みをし、一時的にでも撤退をかける。
よく分からない相手に対し、対策を練るのは不名誉ではない。むしろ無為に兵を死なせる方が恥である。
けれど烏合の衆、しかも略奪に特化した賊の集団。ごろつきやチンピラと大差ない連中は違った。
黄巾党『だあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』
鬨の声を上げ、仲間――と呼ぶのは相応しくないだろうが――の屍を踏み越え、赤い筺ですら奪い盗ろうと殺到していく。
ポチ「わふっ!」
茶色の閃光。
筺に気を取られ、殆どの者は気づかなかったであろう。いや、気づいたとしても気には止めなかった。
ただか犬一匹。武装した人間達の前では驚異とはならない。ならない筈であった。
黄巾党「う、ひゃ――」
ポチが男達の間を疾風る度、目に見えない音速の翼が切り刻み、唸りを上げる。
音よりも速いその攻撃に、為す術もなく命は狩り取られていく。
黄巾党「ま、まだだ!アレさえ手に入っちまえば、どうにか――」
獣によりも獣らしく執念に駆られた男達。その末路はどうなったのか。
もしも誰かが死者の声を代弁出来たのであれば、こう答えただろう。
『もっと速く、死んでいれば良かったのに』
ギュルギュルギュルギュルギュル……
筺が――戦車が動く。別の世界では赤い死に神と呼ばれた名機が。
彼の敵を討ったハンターに忠誠を誓った悪魔が。
黄巾党「……な、なんだぁ……?」
不気味な苦闘音が響き、首を傾げる。
いざとなれば逃げられる。その勘違いから来る余裕でもあった。
だが、もう遅い。
ギュルルルルルルッ!
戦車は唸りを上げ――その、その鋼鉄の体を惜しげもなく、黄巾党へ突っ込ませる!
数十トンの塊が全てを巻き込み、破砕し、ミンチへ変える。
虐殺の時間は然程かからなかった。
――数分後
戦車が動く者全てを薙ぎ倒し、蹂躙すると。その塊はゆっくりと町へ近づいていく。
あまりの出来事に圧倒され、思考能力の殆どを奪われてはいたが――。
――それでも『王』はその矜持を忘れてはいなかった。
華淋「止まりなさい!それ以上町へ近づくな!」
仲間もなく、兵もなく。それでも己に与えられた役割を守るため、たった一人で戦車の前へ立ちはだかる。
華淋(……やれやれ。まぁこれも運命なのかしらね)
鋼鉄製らしい以外、何も知れない相手に対し、言葉が通じるとは思えなかったが。
しかし、彼女の直ぐ前まで来ると――戦車はピタリと歩みを止める。
華淋「……何?」
かこん、と意外に間抜けな音を立てて、筺の上部から頭を覗かせたのは。
男「おー、大丈夫?平気だった?」
華淋「あなた……さっきの!?」
男「一応レーダーに映ってたからさ、流れ弾とかは行かないようにしたけど」
世界が乱れ、大陸が血によって赤く染まる時、人の英雄が現われる。
それは天の世界より遣わされた救世主――ではない。決して“この”世界を救うために訪れた存在ではない。
華淋「――私は」
男「あん?」
だが彼の者は紛れもなく救世主である。
遠き所の、いつか、どこかの国を悪しき物から、そして正しき物から、人を救った存在。
華淋「私は曹孟徳。洛陽の県令をしている者よ。あなたは?」
彼の者は赤きオオカミを駆り、この世界をも再び導かん。
男「あー、俺は浜面。浜面仕上」
浜面(男)「帰り道を探してる……迷子みたいなもんかな?」
超ハードルート(現実→メタルマックスⅡ→現在)を辿った浜面仕上の、ある外史の物語が始まる――。
――次回予告 -終-
ヽ \ / ____ヽヽ ___|__
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〈: : : :./ヽ / {ィ
_ {`¨¨´! ハ , -=ニ>='
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ゝ-(/l 人{//::::::::::::::::l7 /
〈`´}-へ!〈{::/(乂ヽ:::::::::::|_
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「 :{ /:.:/
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人/
{--し,
`¨´
次は浜面かwww楽しみにして待ってる!
>>522-533
ありがとうございます
>>546
しむらー、上上
※選択肢・あくまで参考
1.シェリーのアフター書け
2.円周(以下略)
3.バード(以下略)
4.全員(悪魔)
5.『新たなる光』の長編(レッサー達とアリサ長編)
6.HAMADURA三国志
見てなかったorz
4or5でお願いします
まさかのHAMADURAがウルフに乗ってるなんて
もうすぐメタルマックス4の発売思い出した
5で
3で
4と5しか見えない
5
リクエストは今回の続編ってことなのかな?
あえて6で
4と5
3だな!
4
乙
全部やっちゃえ
4と5しか見えない
上条とフロリスの絡みみたいです
4or5かな
4と5しかない
4
5
4
5
お前らシコシコしすぎ
4と6
4と5でお願いします。
4と5だな
4と5で
4と5を頼むぜ
45
5、出来るなら4もだけど優先は5で
4もみたいし5もみたい6は論外
敢えて6でwwwwwwwwwwwwww
5で
4,5,6全部
お前らそんなに6が嫌か?浜面に何か怨みでもあんのか?
俺は浜面好きよ?泥臭くて格好良いと思うぜ?でも俺三国志わからんからww
あーでもこれを機会に三国志にハマってみるのもいいかもな…じゃあ6で!あと3も!
5中心にブレイクに6みたいな感じで
その後でもいいから番外で済ませたみさきち編をやって欲しい
45
4545
>>578
浜面が嫌いというより、上条さんがみんな好きなんじゃないか?
4か5でお願いします
4.5で
>>1殿のやりたい様にやったらええ…俺ら読者は大人しく待っとるだけや。
4+5でお願いするが、無理ならべつにいよ
シェリーや新たなる光ががっつり書かれるとか下手したら初めて見るんだしそっちが人気なのはしゃーない
5で
>>577
嫌いだけど?
4と5!
――どこにでもあるようなありふれた昼の風景、そんな話
フレイア「おっはっろーーーーっ!こっちこっちっ!」
沈麻「だから目立つからやめろっての!ただでさえ肩身が狭いんだから」
絶愛「超キュートな異母姉妹に挟まれて悩むんですね、超わかります」
沈麻「ウルセェっつってんだろ。あと上目遣いで首傾げるのやめなさい、卑怯だから」
フレイア「上二人はどったの?結局来てないみたいだけど」
上条「姉さんは生徒会、妃后は保健室だって」
フレイア「あー、当利は外面良いもんねー」
絶愛「妃后は体調悪いんですか?朝、超元気だったような気が?」
沈麻「そーだよ。サボりだよ。つーか俺よりも体育の成績いいんだもんな」
フレイア「理后ママが体弱いから、妃后もっとかつい思っちゃう訳だけど」
絶愛「なんだかんだで理后母さんも、昼間のカブトムシみたいに気がついたら超移動してますもんね」
沈麻「虫に例えない。お前口悪いぞ?」
澪子(みおこ)「でっすよねーっ!絶愛ちゃんはあたしを見習った方がいいぞー?」
絶愛「超お断りだ。わたしは毒舌キャラで超売っているので悪しからず」
澪子「キャラて!いやいやっせめて身内にぐらい優しくしてほしい、っていうかね?そう思いません、沈麻兄さん」
沈麻「……いやいやいやいやっ!?お前誰だよっ!?つーか何で新キャラ出てんの!?」
澪子「へ?やっだなぁもう朝ご飯一緒に作ったじゃないですかっ」
澪子「そん時に『絶愛ちゃんとご飯食べに行きますから』って聞きましたもん」
沈麻「……俺?俺がおかしいのか?」
ラウィニア「――あまり深く考えても無駄だぞ。馬鹿は馬鹿だから馬鹿って呼ばれるんだ、この馬鹿」
沈麻「一台詞で四回も馬鹿って言いやがったなこの幼女!……待て待て。つーかなんか、これ。罵倒に聞き覚えがあるって言うか」
ヴォイニッチ「もー、しずまはご飯持ってくるの遅いんだよ!お腹ペコペコになっちゃったかも!」
シャルドネ「いやあんた、さっき私の研究室に来てお菓子全部平らげてったよなぁ?」
沈麻「大学生にまで若返ってるっ!?」
シャルドネ「やかましいな、誰がババアだコラ。マイナス10ぐらい許してやれよ」
絶愛「長編書く前に『誰得?』って上司から超言われてました」
フレイア「うんまぁ結局、『筺と旧い魔術結社の生き残る道』ってテーマで必要だったって訳」
ラウィニア「ん……どうした沈麻?本当に調子でも悪いようだな」
澪子「兄さん、どうしちゃったんです?――って、あ、わかりました!」
澪子「優弧ちゃんの襲撃でも受けたんでしょ、ねっ?」
沈麻「誰だよそいつ――はっ!?」
優弧(ゆうこ)「もーお兄ちゃんってば、授業終わったら居なくなっちゃうんだもん。探したんだからねっ」
シャルドネ「おーおー、今日もフルスロットルだなぁ。何人ヤってきた?」
優弧「二桁以上は面倒だから数えてないかも?」
沈麻「待てや!お前ヤるって何だ、ヤるって!?」
優弧「お兄ちゃんのクツに画鋲を入れようとした人とぉ、ラヴレターを送ろうとしてた人達だけかな?」
優弧「うん、うんっ!とっても悲しいけどぉ、こんな時『上条』なら女の子にもグーパンチするんだよね……ッ!」
沈麻「病んでやがるなこいつ!ってか円周母さん更正したんじゃなかったのか!?」
優弧「あはぁっ。やっだな、更正したからこそ誰も殺してないんじゃん?」
ラウィニア「いいからさっさと食うぞ。貴様も今更騒ぎすぎだよ、レアと殆ど変わらないじゃないか」
絶愛「それも超どうかと思いますが。まぁ時間がないのは超同意です」
フレイア「それじゃ澪子そっちのシート持ってー」
澪子「りょーかいでーすっ!」
ヴォイニッチ「手伝うんだよっ」
沈麻「……あぁ、下が芝生でチクチクするわ、人の目線がチクチクして痛いぜ……」
シャルドネ「まぁ気にするだけ無駄だろ。境遇が変わるって訳でもないだろうし」
沈麻「変わってる!その境遇が変わってるんだよ!朝まで俺の姉妹は4人しか居なかった筈だもの!?」
沈麻「なんで急に5人増えてんだっ!?どっから引っ張ってきた、つーかクソ親父は色々と間違ってるだろ!」
優弧「まぁまぁ仕方がないんじゃないかな?ある意味責任は取ってるみたいだし?」
澪子「責任の取り方が極端というか、だったら最初からするんじゃねぇよ、って見方も強いですけど、はい」
沈麻「……あぁ殺してぇ。親父のその幻想ぶっ殺してぇなオイ!」
澪子「だがしかしあたしがその幻想を半[ピーーー]!」 シャキーン
沈麻「え、なにどういう能力なの?半分だけ殺すってどういう事?」
澪子「『半幻想殺し(ハーフ・ブレイカー)』――能力だけが殺せて中二病は治りませんっ!」
沈麻「能力打ち消して言動は痛々しいままだったら最悪じゃねぇか!?逃げて、一方通行さん逃げてーっ!?」
ヴォイニッチ「もー、しずまもゴヂャゴチャ言ってないでいただきます、するんだよ!じゃないと食べられないし!」
沈麻「えっとインデックス――じゃなかった、ヴォイニッチさんの能力は……?」
ヴォイニッチ「わたし?わたしは『偽書目録(ヴォイニッチ・インデックス)』だけど」
ラウィニア「『禁書目録』が『十字教では禁忌とされた知識』であるならば、『偽書目録』は『偽書としなければならなかった知識』だ」
シャルドネ「ヤバくて禁書指定すら憚られた禁断の知識を、『偽物』とラベル貼って封印したって話よ」
ラウィニア「死海文書オリジンに聖ユダの黙示録、果てはヒエロニムス・ボスの『悦楽の園・クロウリー解釈書』もあるって話だし」
シャルドネ「興味あるけど、発狂するリスクを冒してまではちょっと、だよなぁ」
優弧「黒いマリア様も載ってるの?」
ヴォイニッチ「それはねぇ、元々『アフリカから現れる無貌の神』をモチーフにした――」
沈麻「止めようぜ、飯食う前には?食ってからも俺の居ない所でコズミックホラーの話を続けてくれ」
絶愛「――おべんと並べましたけど、超何やってるんですか?」
沈麻「……家族の会話かな……?あ、結局人数分あるじゃねぇか。作った憶えないのに」
フレイア「まーまー、結局難しい事は食べてから考える訳」
沈麻「そうだな、親父には後で説教構す必要が出来たけどな!」
澪子「だがしかしそれが後々後悔する事になるとは、上条沈麻はまだ知らなかった……!」
沈麻「おい、ふつーふつー言っときながら一番冒険しやがってる人の娘。お前も涙子母さんも無茶しすぎだろ!」
ラウィニア「ある意味『女版上条』だしな。まぁ母親と違って、私、優弧、絶愛、レアにヴォイニッチの誰かと一緒だから問題はない」
沈麻「なんだその『遊び人・魔法使い・忍者・戦士・盗賊・賢者』って強パーティ」
優弧「そういえば澪子ちゃんが仲良しなのは、誰だっけ?」
澪子「そりゃもうっ初夏しか――」
沈麻「おいよせ!これ以上色々と面倒な話を持ち出すな!?」
ラウィニア「ネタだと良いよなぁ。噂では全員行くつもりだとか」
シャルドネ「おい、沈麻。そろそろメシ食わせねぇと猛獣に噛まれんぞ」
沈麻「猛獣?」
ヴォイニッチ「ぐるるるるるるるっ……っ!」
沈麻「よっし食べようか!俺が食われる前に速やかに早く!」
沈麻「それじゃ、まぁ――いただきます!」
絶愛・フレメア・澪子・ヴォイニッチ・ラウィニア・シャルドネ・優弧「いただきます」
――どこにでもあるようなありふれた昼の風景、そんな話 -終-
※私事ですが、10年使ってきたパソコン(Pentium4-2800Hzシングルコア、メモリ1280M、GeForce 6200)がクラッシュ……いやリカバリして今もこれ書いていますが
(タイミング的に『断章』が終わった後だったので、丁度良かったと言えば、まぁまぁ)
尚、ご覧になっている方の中に使ってないノーパソをタダでくれる方は居ませんか (´・ω・`)
デュエルコアで仕事量は2倍!クアッドコアで更に倍!ヘキサコアなら当社比6倍の威力に! щ(・ω・´)щ
……ネタはともかく(やったら管理人さんにアク禁喰らう)、実生活に於て『XXを改善してYYが飛躍的に出来た!』的な話は広告以外で聞きません
とあるバカ(上司)がクアッドコア+GeForceほぼ最新のパソコン買ったは良いものの、
上司「遅かったゲームが捗るよね!」
と、結局仕事に費やす時間が減り、新しいパソコンを封印する羽目になっていました
ちなみに文章データはUSBメモリ(orポータブルHDD)指しっぱなし+一時ファイルもそこに保存するのがベストだと思います
OSがクラッシュしてしまっても、本体の中から取りだして、別のパソコンに繋いでデータを取り出す面倒に比べればまだまだ
書き手読み手に関係なく、データ保存にはくれぐれもご注意下さい
>>548-587
ご意見有難う御座いました。4・5が多かったので来週以降、シェリー・円周・バードウェイのアフター的なものを書かせて頂きたいと思います
『新なる光+鳴護アリサ』の長編SSは年明けてからです。準備と年末進行で色々と。サモンナイト5がね、うん
曲はパクる訳には行かないのでそれも作らねばいけません。二次創作としてもやって良い事と悪い事がありますから
(極めて個人的にはシェリルさんの「what,'bout my star」を歌わせたい所ですが)
来月の頭ぐらいには別スレで『クリスマスに上条さんちに誰が訪ねてきました。さて、誰?』というSS企画で、
『アイテム』『学探』『向日葵』『断章』に出たヒロインの人気投票をしたいと思っています
(麦野、絹旗、ンダ、滝壺、佐天、インデックス、バードウェイ、シェリー、円周、学年主任の中で誰が一番好ツボったか、と)
最多得票者一人とラヴコメ……というか、まぁグダグダな短編書いて今年は〆ようと思います
あと今日は調べ物があるので数時間居ますけど、何か質問とかあったら伺います。余所様のご迷惑になるのでsageで宜しく
乙です
明後日引っ越すから明日ノートPC捨てるんだけどいる?
ちなみに
Core2duoでメモリは2G、OSはXP、各ドライバのCDは破棄済み
欠点は偶に電源のコネクト部が熱で溶融する
>>597
お気持ちだけ有り難く、ってか結構他の方も長持ちさせてるんですね
乙!
乙ッス!!!
ではまた来週です
乙でした!!
――断章のアルカナ・アフター
――職員室
シェリー「スチューデントキーパー?」
黄泉川「そそ。所謂『落第防止』って奴じゃんよ」
シェリー「所謂の意味が分からねぇけど、つまり何だ?つーかご大層なルビって逆に読みにくくないか?」
シェリー「『風紀委員(ジャッジメント)』ってどう意訳しようが、あぁはならねぇだろ」
黄泉川「んー……まぁ、色々あって学校に来なくなる生徒が居るじゃん?そいつらにカツ入れて引っ張ってくる係」
小萌「あの、黄泉川先生?それはちょっと違うのですよー?っていうか強引すぎて問題になってたじゃないですか」
黄泉川「あー、繊細なの苦手じゃんね。どーしてもこればっかりは」
小萌「クロムウェル先生も気にしないで下さいね?黄泉川先生は講師の方に押しつけようってハラなんですから!」
シェリー「学校に来れない、ってのはイジメか何かか?」
小萌「だけでは、ないのですよ。基本的に学園都市は親御さんの元を離れたお子さん達をお預かりしているんですけど」
小萌「途中から無気力になって『あーめんどー』って、来なくなる生徒がたまーに出るのですよ」
シェリー「そいつぁやっぱり『能力』のせいなのかしら、ね」
黄泉川「あー、ありそうじゃんね。こっちに来る前はなんかすっごい能力かも!ってワクテカしてるんじゃんが」
黄泉川「いざこっちに来てみれば大した事無い能力でガッカリ、しかも伸び悩むって感じじゃん」
クロムウェル「……ふーん」
黄泉川「ってなワケでどうじゃん?助けると思って、ね?」
クロムウェル「あー……まぁ、少しぐらいなら?」
――とあるアパート 部屋の前
ピーンポーン……
シェリー「……」
ピポピポピーンポーン……
シェリー「……」
シェリー(居ないのか、それとも居留守か)
シェリー(前のデータじゃ『中で腐ってた』ってぇ話もあるみたいだし、生死確認は必須、と)
シェリー(管理人室は無人……ドアも普通のアナログな鍵穴か)
シェリー キョロキョロ
シェリー「――安寧の地を捨て光り求めよ」
シェリー「――汝に約束されし場所は道程の道半ばにして折れん」
カチッ
シェリー(……まぁ、鉄はちっと重いが、安物ピッキングするぐらいは問題無ぇよな)
ガチャッ
女生徒「」
シェリー「おー、居るんじゃねぇか。居留守使ってんじゃねぇわよ」
女生徒「だ、誰よっ!?つーか外人っ!?なんでっ!?」
シェリー「私からすりゃテメェも外人だかな。あー、なんだっけ?スチューデント何とか?」
女生徒「様子を見に来てくれた、先生……ですか?」
シェリー「おー、そんな感じそんな感じ。別に盗みに入って来たって訳でもねぇし」
女生徒「いやでも、カギ閉めて……ました、よね?」
シェリー「さぁ?何回か回してたら開いちまったし、立て付けでも悪いんじゃねーのか?」
女生徒「取り替えた方が良いのかな……?」
シェリー「それよっかアンタ。学校出てこいよ。つーか何やってんだ今?」
シェリー「見た感じ栄養失調でぶっ倒れたり、シャレになんねぇトコに首突っ込んだって話でも無いんだろ?」
女生徒「だ、ダメダメっ!わたしが居ないと世界が滅ぶんだから!」
シェリー「……あぁ?」
女生徒「見て下さいよっ!ほらっ!」
女生徒「ラグナロックでは悪い神様がですね一杯居るんですよ!」
女生徒「だからわたしがテンプルナイトになって、教皇様を助ける的な!」
シェリー「……碌な連中じゃなかった、つーかヴェントは結構被害出してたハズだけどな」
女生徒「わたしが戦わないと世界が終わっちゃうんだから!」
シェリー「心配すんな。ネットゲームは運営側が死なない限り世界は終わらねぇから」
シェリー「むしろテメェらが栄養になってる分だけ、逆に寿命は延びてくんだよ」
シェリー「つか何か?お前ゲームにはまって学校に出て来ねぇのか?」
女生徒「た、端的に言えば?」
シェリー「……いや、いいけどよ。学校だけが全部って訳でもねぇし」
シェリー「つーかもっと別になんか打ち込むモンとかある――あぁ」
女生徒「あ、ちょっと勝手に見ないで下さい!?」
シェリー「……へぇ、絵、描くんだ?マンガか?」
女生徒「イラスト。このゲームのキャラだけど」
シェリー「ふーん……あ、うどん?」
女生徒「触手!?それは見ちゃだめ!」
シェリー「触手……イカの足っぽく見えるんだけど」
女生徒「だ、だから触手だし!」
シェリー「いやいや、イカタコの脚って触腕。正確にはイソギンチャクの口の周りに着いてんのが、触手」
女生徒「そう、なの?先生も触手好きなの?」
シェリー「意味が分からねぇわよ。つーか塗り何使ってんの?」
女生徒「Gimpって言って分かる?」
シェリー「あー、パソコンな。絵、得意なのか?」
女生徒「見れば分かんじゃん」
シェリー「もうちょい完成させた奴が見たい。一応美術の非常勤講師なのよ」
女生徒「へー、そんな感じだけど」 カチカチ
シェリー「ホームページ……あぁ、はいはい。これな」
女生徒「……ど、どう?」
シェリー「構図が甘い、遠近感がなってない、配色がダサい」
女生徒「全否定っ!?」
シェリー「絵としちゃ落書きレベル……おい、どーした?なんで凹んでんのよ」
女生徒「あんたが今オトしたんですよねぇっ!?普通こういうのはほめる所じゃないの!?」
シェリー「いや言えっつったでしょうが。ド下手くそを絶賛したって何にもならないし」
女生徒「いやいやっ、ここはやっぱり『実は絵の才能があった!』的な話になるんじゃないっ!?」
シェリー「……あー……そうだなぁ、まぁ私がアンタの絵の評価をするんだったら、8ってトコか」
女生徒「……どうせ100点満点で、とかでしょ」
シェリー「いや10点満点でだよ。技法その他はデタラメ、塗りも陰影つけないままソフトでやっちまってるし、まぁ素人だな」
女生徒「……やっぱり」
シェリー「でもまぁなんつーか『描きたい』ってのは分かる。下手くそだけど、上手い下手とか関係なしに、『楽しい』って感じがする」
女生徒「それは……うん。けど」
シェリー「何?」
女生徒「現実逃避、みたいな感じで描いた奴だから。あんまり良くないと思う」
シェリー「いいんだよ別に。描く動機なんてのはどうだって」
シェリー「本人が楽しんでやってれば、それでいいと思うぜ」
女生徒「……あの、先生」
女生徒「絵、もっと上手くなりたいんだけど、どうすればいいかな?」
女生徒「やっぱり美大とか、専門学校行かないとダメなの?」
シェリー「そうなぁ。それも選択肢なのは間違いない。えっとピカソって知ってるよな?」
女生徒「ゲルニカとか描いた人」
シェリー「そうそう。そいつはきちんとした技法をちゃんと持ってて、その上であぁいう絵を描いたんだよ」
女生徒「つまり?」
シェリー「タレントが下っ手クソな自己満足映画撮るだろ?それが何で『浮いてる』かって分かるか?」
女生徒「基本を、押さえてない、から?」
シェリー「勿論、中にはそういうのを全部すっ飛ばすのも居る。そいつらは『天才』って呼ばれるけどな」
シェリー「だけど、普通の連中はそういう下地があった上で、後世にまで名を残すような絵を描けるんだよ」
女生徒「んー……」
シェリー「アンタの人生だ。何をどうしろっつっても、責任は取れねぇけどな」
シェリー「絵が上手くなりたいんだったら、自己流で勉強するのもアリだと思うぜ?」
女生徒「絵は……好きなんだけど。実はね」
女生徒「ゲームも作ってみたいな、って」
シェリー「ゲームなぁ。ゲームかぁ。うーん」
女生徒「そういうのやってて、『わたしならこういう風にしたいな!』って」
シェリー「あー、絵やら設定は書きたいけど、プログラム組めないってのか?」
女生徒「うん。DirectX使える中級言語まではどうにか憶えたんだけど、どうしても速度がさ」
シェリー「素人にも分かるように頼む」
女生徒「簡単な言語は憶えやすいんだけど、どうしてもその分処理が複雑になっちゃって」
シェリー「人間には使いやすいが、パソコンは使いにくい?」
女生徒「か、かな?よく分からないけど」
シェリー「んー……あぁ、そういや一人居たなぁ。アンタと同じでちょい休学してた奴」
女生徒「どうしたの、って聞くのはダメ?」
シェリー「まぁ病気か?二ヶ月間の記憶丸々無くなっちまってるし」
女生徒「なにそのラノベの主人公っぽい展開」
シェリー「まぁ色んな術式あるからなぁ。一応テレパス系犯罪で収めようとしているみたいだけど」
シェリー「で、そいつ確かそっち系に詳しかったっけ」
女生徒「……あ、会うの?」
シェリー「メールでいいだろ。別に会わなきゃどうこうって訳でもないだろうし」
女生徒「同級生にすらあんま喋った事無いのに!」
シェリー「あー……黄泉川の方から言っとくから、な?流石に用件がどうとか、ダメ元でいいから伝えとけ」
シェリー「何かしたいんだったら、行動起こしとけ。出来る出来ないって問題じゃなく」
シェリー「んで、学校来る気になったら、来い。今は転校して、アンタみたいな落ちこぼれ集めて開いてるトコだってある」
女生徒「落ちこぼれって」
シェリー「絵に興味があるのだっていいし、ゲームが好きならそっちに取り組むのもいい」
シェリー「けど『基本』の所が抜け落ちていれば、碌な形にならない。どう歪んでいるのかってのに気づけない」
女生徒「ピカソが、そうだったみたいに?」
シェリー「常識から踏み込むには常識を知ってないダメなのよ。指針、みたいなものかな?」
シェリー「何かに感動するような感性を持っていないと、相手に共感されるものは作れない、って――あぁダメだ。面倒臭ぇ」
女生徒「先生?」
シェリー「今度展覧会でも行ってこい。実物見ないでどうこう言ったって意味はないでしょ」
女生徒「えー……オンラインアーカイブでいいじゃん」
シェリー「……まぁ、好きにしろ。そろそろ時間だし」
女生徒「も、もうちょっとお話ししたいのに」
シェリー「だったら学校来いよ。さっきも言ったけど、保健室登校が嫌なら転校してそっちに入るって方法もあるんだし」
シェリー「私と喋るよりは同世代の子らと話した方が建設的でしょうが――あ」
女生徒「あ、ってなに?あって?」
シェリー「知り合いに高校生が居るんだけど……いややっぱダメだわ」
シェリー「多分、満員電車で痴漢と間違って、ツンツン頭の高校生を突き出して、待ち合わせした喫茶店で待っていたら能力者の強盗が入ってきて」
シェリー「人質に取られて大ピンチになってる最中、そのツンツン頭が出てきて右ストレートで黙らせてフラグ立つから」
女生徒「……先生?先生ってラノベ結構好きなの?なんか気が合いそうなんだけど」
シェリー「あぁイギリスのちっこいシスターが『日本の勉強になりますからぁっ!』って」
女生徒「騙されてると思うよ、うん。根拠はないけど」
シェリー「いやだって能力とか学園都市とか、ジャパンは予想以上にラノベそのままだったわ」
女生徒「なんか反論しにくいですけど。それだったら外国に魔法学園もあるんですか?」
シェリー「ねぇわよ。ホグワーツみたいな面白可笑しい所は。多分」
シェリー(でも『新たなる光』みたいな連中がいる以上、どっかで教えてるのも確かなんだよなぁ)
シェリー(霊装は北欧系……あー、北アイルランドか?でもあっちってローマ正教の飛び地みたいなもんだし)
シェリー(……麦食い野郎――に、しちゃ愛国心が動機ってのが、また何とも)
シェリー「(……ま、サークル気分で学んでるのは否定出来ねぇよなぁ)」 ボソッ
女生徒「はい?」
シェリー「いや別になんでも。それじゃそろそろお暇するわ。つーか茶の一杯ぐらい出せ。あと学校来い」
女生徒「あーまぁ、うんうん。ラグナロクを助けたら!きっと!」
シェリー「おいテメェは人の話聞いてたのかコラ?」
――上条のアパート
シェリー「――ってナコトがあったんだけど」
バードウェイ「おい、ニュアンス気をつけろ。不安定になるから」
円周「『あーそりゃ問題だよなぁ。色んな事情があるのは分かるけどさ』」
バードウェイ「何で『他者再生』使ってるんだ?本人今直ぐそこにいるだろ」
シェリー「まぁソイツは何とかなりそうだけどな。イジメも無かった――らしい、って話だし。環境さえどうにかなれば」
シェリー「けどなぁ問題は次に行く奴なんだよ」
円周「『そうなのか?』」
シェリー「黄泉川に言わせれば面倒臭さじゃワースト5に入るんだとよ」
円周「『大変だな、シェリー』」
シェリー「だよなぁ。だから悪いんだけど、カミえもんちょっと着いてきてくれないかな?」
円周「『俺!?いや、まぁいいけどさぁ――その代わり』」 チラッ
円周「『俺がその幻想をぶっ殺す!』」
シェリー「やだ、超『幻想殺し』……」(※棒読み)
上条「……何やってんの?お前ら人が台所で鍋からアク掬ってるのに、何小芝居しているの?」
上条「てか今の寸劇ってもしかして俺?カミえもんって俺の事?」
バードウェイ「くっ!?やるな学園都市!こまで正確に『上条』をトレース出来るとは!」
上条「してないよね?今明らかに労働の対価として肉体的な何かを要求してたもんね?」
上条「ってか『幻想殺し』に性的なニュアンスはないと何回言えば分かってくれるの?」
円周「『おっと童貞が意外にガッツいてないと思ったら大間違いだぜ!』」
上条「一括りにするのはやめよ、な?個人差っつーか、個体差みたいなのもあるだろうし」
シェリー「つーワケで明日宜しく。お、鍋――スキヤキか」
上条「いやだからテーブルの上、片付けて欲しいっていうか。円周は運ぶの手伝って欲しいみたいな」
円周「はーいっ」
上条「そんな事よりもだね。まず俺の扱いの悪さについてのミーティングを」
バードウェイ「卵……むぅ」
シェリー「生卵はまだ苦手?」
円周「日本人全員好きって訳じゃないから、別に入れなくたって良いんだよっ」
バードウェイ「苦手、という事ではないんだが、どうしたものか」
上条「あー、んじゃ少し火を通そうか?濃いめの出し汁で卵スープみたいにすりゃ」
バードウェイ「すまないな。迷惑をかける」
上条「良いって別に」
バードウェイ「これも部下の躾が行き届いている私の功績だな、うん」
上条「良くないからね?お前外見がちょっと可愛いからって調子に乗んなよ?」
バードウェイ「――ま、こんなもんだ」
シェリー「悪ぃな」
円周「……お兄ちゃんが心配だよねー、ここまで来ると」
バードウェイ「と言うかどう面倒なんだ?まさか命の危険があるんじゃないだろ?」
シェリー「おーおー、そんなにお兄ちゃんが大好きかブラコン」
バードウェイ「取り敢えず外へ行こうか、レディ?豚には豚の泣き方を仕込んでやらないとな」
シェリー「うふ、うふふふふふふうふっ!良いわね、それ。すっごく、すぅっごぉぉぉぉぉぉくっ楽しそう!」
上条「どうしてお前らは直ぐ戦争に持ち込むの!?俺が席を離れた瞬間に殺し合いって!」
円周「一発かませばおとなしくなると思うよ?」
上条「よーし円周さんはご飯食べたら説教だっ!」
円周「……何を教え込まれちゃうの?わたしの無垢な肢体に、当麻お兄ちゃんは何をしようとするの、ねっ?」
上条「誰かっ!?ボケばっかりで突っ込みが足りないっ!?」
バードウェイ「ゴタゴタしてないで食べるぞ」
シェリー「全く食事前に何やってんのよ」
上条「頼むから全員で俺イジる流れはやめないか?ストレスが溜まる一方なんだけど」
円周「『いやー結局さぁ、あたしみたいなボケ&天然担当がいないとダメだって訳だし?』」
上条「今、平行世界から受信しやがったの?つーかそっちの俺は上手くやってるの?」
上条「出来れば誰か好きな人と恋人になって、穏やかな余生を過ごしたい所だけども!」
円周「『いや、うん。退屈はね?してないって思う訳。退屈は』」
上条「……まぁいいや。とにかく、メシは暴れないで食おう?メシの時間だけは」
上条「んじゃまぁ」
全員「いたたぎます」
パソコン復旧のアレコレで今週はこれ以上書けませんでした。えぇ別にほかのSS書いてたとかそーゆー話ではなく
短かったですが、お付き合い下さった方に感謝を
乙ー
乙でした!!!
乙
乙です
乙でござんす!
乙乙
続き待ってる
乙
sage忘れすまぬ
乙ッス!!
次回作の御予定は?
これにて完全終了?乙でした!
乙でした!!
今作も面白かった!次回も期待!
ところでこのスレはこれでもう終わり?
終わったんならHTML化の依頼した方がええで!
連投すまぬ…
今週はこれ以上云々いってるから続きあるでしょ
あるよね?
そりゃ今年はまだ終わってないからな、書くに決まってる(ゲス顔)
>>614-629
ありがとうございます。アフターのシェリー偏が未だ終わってない状況です
年末進行的なあれでちょっと、はい
――数日後 あるマンション
シェリー「――はい、と言う訳で『落第防止』で来たクロムウェルよ。先に伝えてあるわね」
シェリー「えーっと、書類書類……なんだこれ、名前と顔と履歴が真っ黒。つーか何で枠線しか残ってねぇんだよ」
シェリー「あぁ名前んトコに何か走り書き――『アクセラレータ』?」
一方通行「……おい」
シェリー「アクセラレー太?レー太くんな。ジャパンでもぶっ飛んだ名前使ってんだなぁ」
シェリー「まぁでもこっちは二千年前からミシェルとかガブリエルとか、大天使の名前を子供につけてんだけど」
一方通行「……おい、つってンだろ」
シェリー「それじゃ黄泉川アクセラレー太くん、話を聞こうじゃない」
一方通行「その前に聞かせろ黒ババア。お前なにやってンの?人ンち乗り込んで来て、どォいう了見だァ?」
シェリー「いやだから、『学校来ないバカの様子見てこい』ってぇ話でしょうが」
一方通行「百歩譲って企画の意図はわかンだよ。黄泉川がなンか騒いでたからなァ」
一方通行「けどよォ。無理だろ、つーか無理だし」
シェリー「なんでよ?」
打ち止め「え、何々なんか面白そうな企画をやってる!ミサカも混ぜて混ぜて!ミサカはミサカはお願いしてみたり!」
番外個体「ウ、ウチの子はそんな子じゃないんです!ただちょっと中二病をこじらせちゃっただげで、ホントはとっても優しい子なんです!」
番外個体「ほらっ!妹もこう言ってますし!」
打ち止め「え、これ読むの?んーっとねぇ――『この間、夜中にミサカの部屋にレー太お兄ちゃんが――』」
一方通行「なァ?ぐだぐだになンのは目に見えてたよなァ?」 ビリビリ
打ち止め「あーっ!?まだ読んでないのにってミサカはミサカは――!」
シェリー「中々個性的なご家族をお持ちで。えっとお母さん?と妹さん?」
一方通行「分かってンだろ?分かって言ってンだよなァ?あァ?」
シェリー「さぁ?別に興味ないし、性格悪ぃガキと性根の腐ってるガキの話は殆ど忘れたけど」
一方通行「『木原』と魔術マフィアって、それ両方の暗部把握してンじゃねェか」
シェリー「――で、だ。このままだと話が無駄に長くなるのでゲストを呼んであんのよ」
一方通行「はァ?」
上条「おー久しぶり。『木原』ん時は手伝ってくれてありがとな」
一方通行「おゥ?……いや別に野郎の墓穴掘っただけだから」
上条「ウイルスの方はどうなったんだ?」
一方通行「ンあァ。全消ししたみてェだな。サーバん中のデータにアクセスしてくる奴も、ここ二週間出てねェし」
一方通行「元データも気がついたら容量減ってるし。つーかデータを人に見立てて魔術なンざどう考えても――」
一方通行「――じゃ、ねェよ。どォしてこいつが」
上条「いや俺も着いてこい、って言われて来ただけで何が何だか」
一方通行「だからそォいう主体性の無ェのが、って人の事ァ――」
打ち止め「あ、前はごちそうさまでしたのだ、ってミサカはミサカはお礼を言ってみる!」
上条「んー、あぁ別に。ウチの子も一方通行のお世話になってたみたいだし、いいって」
上条「それよか体調は……問題なさそうだな」
番外個体「……」 ソローリッ
一方通行「……ってしてる間に、何お前逃げようとしてンの?挨拶も出来ないンですかァ?」
番外個体「ちょっ!?ダメだって!あの人はこのミサカの存在意義の否定になりそうなのっ!」
シェリー「つー感じで今からちょっと進路相談するから、ガキの面倒頼むわね」
上条「分かったけど。どうして俺?」
シェリー「家でもやってんじゃねぇか」
上条「得意って訳じゃないけど、つーか俺の胃壁がガリガリ削られてんだけど――まぁ、うん。んじゃ遊ぼうか」
番外個体「ムリムリムリムリっ!溶けちゃうからっ!アイデンティティ的なものが!」
シェリー「大丈夫だ。イマジンでも歌えば何とかなる」
一方通行「たった四人ですら仲良く出来なかった連中の歌だぞ?説得力皆無じゃねェか」
一方通行「つーかあれ平和な所では歌えンのに、独裁国家じゃ逮捕されるってェどンな皮肉だよ」
シェリー「世界のどっかで民族浄化されて死ぬ奴に体張るよか、西側で反戦謳ってメシの種にしようって奴でしょうね」
上条「お前ら色々とマズいからな?自重しろ」
上条「えっと……おっきいミサカも、ほれ、行くぞ?」
番外個体「い、行かないし!そんなに、ミサカに優しくすんじゃねぇっ!」
打ち止め「って言って割には素直に着いてきたり、ってミサカはミサカは――」
パタン
一方通行「なンなンだろォなァ、あれ。ちったァ腐った性根治してくれると助かるンだが」
シェリー「あー、ウチにも一人ツンデレが居るけどよぉ。デレるまで待ってゃりいいんじゃねぇか」
一方通行「お前がその単語知ってる理由を聞きてェ所だが――で?」
シェリー「あぁ?……あぁ、レー太くんか」
一方通行「知ってンだろ。つーか初対面じゃねェだろ、自己紹介はしてねェけどよ」
シェリー「黄泉川から聞いてないの?」
一方通行「……いやァ聞いてっけどさァ。なンでお前が来たンだってェ話だ」
シェリー「そりゃ他の連中じゃ危なっかしくて触れないんでしょう?つーか学校来いよ」
一方通行「俺以外誰も居ねェ教室で、ディスプレイ眺めンのは飽きたンだよ」
シェリー「嫌なら転校するとか」
一方通行「……あのよォ、お前がどんだけ俺を知ってンだっつーの」
シェリー「危なっかしくて外には出られない?」
一方通行「こっちが騒ぎゃァ向こうも釣られるってェ話だ。ましてや、俺がどっかで友達作って青春ごっこしたとしても」
一方通行「連中が放っておく訳がねェし。そもそも最初っから『仕込む』可能性だってあらァな」
シェリー「おいおいやっぱ親御さんの言う通りか。どんだけ中二病こじらせちまってんだ、テメェはよ」
一方通行「あァ?知り合い連れてきて調子に乗ってンじゃねェぞ、クソババア」
一方通行「お前にゃ『殺してやらないでやった』ってェのでかい貸しがあンだからな」
シェリー「学園都市の『闇』ってのは、まぁ私も詳しくは知らない。ガキどもから軽く聞いただけで、面倒になったしなぁ」
一方通行「聞けよ、聞いとけよ。仕事じゃねェのか」
シェリー「けどもまぁ逆に。こっちは魔術サイドの闇は見て来た――つもりでは、ある」
シェリー「最近グレムリン相手に自信は品薄ぎみなんだけど」
シェリー「その経験から言わせて貰うと――アンタの、お前の、テメェが対峙してきた『闇』ってのは、大人しくしてりゃ黙りする程度の相手か?」
一方通行「……」
シェリー「『こっち側』の心身ともに彼岸へ行っちまった連中に、一歩も引かない、引けない集団は『その程度』な筈が無ぇわよね」
シェリー「今、こうやってバカ話をしている間にだって――つーか、先月複合能力者?だかとやり合ったって聞いたけどな」
一方通行「……まァた部外者が好きに勝手にほざきやがるがよ。なァ?先生よォ」
一方通行「だったら俺はどうすりゃいいンだよ!?何をどうすれば、どうなるってェ――」
シェリー「知らねぇよ。それこそ部外者に聞いたって答えなんか出てくる訳ねぇだろうが」
一方通行「お前なめてンだよなァ?ぶち殺されてェのか?」
シェリー「いや、だから考えりゃいいだろ。黄泉川も言ってたけどよ、アンチスキルに入るとか、どっかの大学で研究職になるとか」
シェリー「テメェが学園都市の『兵隊』じゃなくなって、『外』の連中に認知されちまえばいいんじゃねぇのか?」
一方通行「そりゃまァ、言うのは簡単だがよォ」
シェリー「あー……なんつーかなぁ、面倒臭ぇから踏み込みたぁねぇんだけど、アンタがどうこうしてやりたいってのは、今のガキどもだろ?」
一方通行「そォ見えンのか?はっ、だとすりゃ相当お前の目は腐ってンだなァ」
シェリー「いやロシアに行ったバカから聞いた。『助けてやって欲しい』って超泣いて殴りかかってきた、って」
一方通行「あいつともケリつける必要があるよなァ……つかあれ、『殴りかかった』程度にしか思われてねェのかよ」
シェリー「あのバカはまぁ……諦めろ」
シェリー「いやいや、そうじゃなくてよ。だから、つまり、要するに」
シェリー「ちったぁ環境変えてみればいいんじゃないかしら、って事」
一方通行「環境なァ。さっきから言ってるように――」
シェリー「てか思ったんだけど、アンタの能力開発される前はぼっちだったでしょ?」
一方通行「話が飛びすぎやしねェか。関係無ェだろ、何一っつ」
シェリー「あぁいや私もそうだったんだよ、今もまぁ似たようなもんだけども」
一方通行「……」
シェリー「色々あって親友の一人もどうにか作ってみたけど、その子はさっさと殺されちまうし。どーしたもんかなぁ、っては思ってた」
シェリー「半年ぐらい前には学園都市をぶっ潰そうって、テロかましてみたりもした……まぁ、何が変わるって訳でもなかったわね」
シェリー「で、聞くんだけど、アンタは何がしたいの?何をすれば良いと思う?」
シェリー「持ってる『信念』のために、どう動けばいいって?」
一方通行「俺ァ」
シェリー「確かに今、『人質を取られてる』状況かも知れない。それがどんななのかは分からないけどね」
シェリー「でも逆に『人質を取らなければいけない程に危険視されてる』って、裏返しでもあるわよね」
一方通行「そいつァ……あァまァ、そォ、言えるかも知れねェか」
シェリー「取り敢えず――元・ぼっちの先輩から言わせて貰えるんだったら、仲間を増やせ。世間を広く知れ」
一方通行「今更学校通えって?笑う前に吐き気がすンだけど」
シェリー「人質云々に関しちゃ、もう無理だろ?つーかダメじゃねぇのか」
シェリー「今のガキどもや黄泉川に芳川、守るのは結構だが。アレだ――」
シェリー「――ずっと一日中見張ってるって?」
一方通行「フザケンな!何が分かるってェンだよクソバハア!」
シェリー「だから、何も分からねぇっつってんだよ白モヤシ。私一人ぶっ飛ばしたって、現実は変わらねぇわよ」
シェリー「具体的な方法は知らないし、あくまでも案の一つだけども、アンタが大勢の人間に認められれば手を出しにくくなるんじゃねぇのか?」
シェリー「そうすりゃ相対的に周囲の人間も危険度も下がるってもんだし」
一方通行「はァ?出来る訳がねェだろうが!俺はなァ!」
シェリー「だから知らねぇっつっんだろ白モヤシ。テメェがどこで何しやがって来たのかは興味も無ぇわよ」
シェリー「どんだけ人をぶち殺して来たのか、それともクソみてぇな科学に荷担してきたのか、それは知らない」
一方通行「……」
シェリー「けどなぁ、黄泉川みてぇな女やさっきみたいなクソガキどもをだ。後生大事に抱え込みましょうって人間が」
シェリー「道に転がってるクソみてぇな人間の訳がねぇんだよ」
一方通行「……うぜェな、ババア」
シェリー「つー訳で学校来いよ。ぼっち教室じゃなくって、もう少しまともなの用意出来るって話だし」
一方通行「世界を広げる、かァ……俺が」
シェリー「学生生活ナメんなよ?便所メシが日本の伝統だけだと思ったら大間違いだ」
シェリー「結構イジメで死ぬ奴だって居るんだからな」
一方通行「……実感こもってンなァ」
シェリー「『フツーの生活』が全部正しいって話じゃねぇが、まぁ」
シェリー「知っておくのも悪かねぇわよね。そりゃあ」
一方通行「……学校には行ってやってもいい。けどな」
シェリー「分かってる。そこいら辺は黄泉川が何とかしてくれる――多分」
一方通行「最後の最後で人任せってどォなンだよ」
シェリー「……前、悪かったな」
一方通行「あァ?急にどォした」
シェリー「デパートん時の話よ。アレは碌に確認もしなかった私が悪かったわ」
一方通行「気持ち悪ィな……まァ、なンだ」
一方通行「『体晶』撃ち込まれてキレキレだったってェのもあるし、お前だけが悪いってェ訳じゃねェ」
一方通行「そもそも、で言えばどっかのバカが仕組んだんじゃなかったのかよ」
シェリー「そういう事じゃねぇんだ。テメェはまだガキなんだよ」
一方通行「……謝ってンのかケンカ売ってンのか、出来ればもォちっとシンプルに言ってくれませンかねェ、あァ?」
シェリー「ジャパニーズの歳はよく分からねぇが、どう高く見てもハイスクールだよなぁ。下手すりゃそれ未満か」
シェリー「そんな歳の人間相手に、殺すとか殺されるとか――」
シェリー「――割り切るとか割り切らねぇとか、そんな選択を突きつけていい訳がないわ」
一方通行「なンか勘違いしてるみてェだがよォ」
シェリー「全面的にアンタを肯定するつもりはねぇし、私が誰かさんの立場だったら殺すまで殺してるとは思う」
シェリー「だからこれは綺麗事よ。第三者が見た感じでの感想」
シェリー「まだ心も体も不安定なガキ一人に大量虐殺させて、他の連中誰一人責任すら有耶無耶にしてるってぇのは」
シェリー「明らかに間違っている。それは、断言出来るわ」
一方通行「……お優しいこったなァ」
シェリー「当然。どんだけガキだろうと、テメェがもっと上手く立ち回りゃ良かったってぇ前提もあるけど」
シェリー「そんな判断すら出来ないガキ騙したクソッタレども、一番腹切って死ぬ必要があるのは学園都市の連中じゃない」
一方通行「けどよォ?そいつァお前の理屈だなァ?」
一方通行「俺が楽しんでやってンだって可能性も――」
シェリー「何気取ってるのか、中二病発症してんのかは知らねぇんだが」
シェリー「偽悪ぶるのもいい加減にしろよ白モヤシ。大体だ」
シェリー「テメェにそんな考えがあればとっくにやってんじゃねぇのかよ」
シェリー「計画が凍結されようが、退院したその日にどっかのバカのマンション潰してリベンジしてだ」
シェリー「学園都市『最強』だったんだろ?何でしなかったのよ」
一方通行「……」
シェリー「周囲にチヤホヤされて煽てれられてがんじがらめにされて、って感じか。まぁどっちも似たようなモンなのかも知れないけど」
シェリー「『最強』って割には随分パシリさせられてたじゃねぇか、なぁ?」
一方通行「――黙れ」
シェリー「あー、20年前にな。イギリス清教と学園都市で一つのプロジェクトが勧められたのよ」
シェリー「『能力者に魔術は使えるか』って」
一方通行「そりゃァ……」
シェリー「エリスって能力者が選ばれて私は魔術を教えた……まぁ?」
シェリー「気弱でぼっちだった私に出来た、最初で最後――じゃねぇのか、えっと……初めての友達だったから、嬉しくてね」
シェリー「毎日毎日魔術を教えるのが楽しくてしょうがなかった。それが正しいと思い込んでいた」
一方通行「……お前も、か?」
シェリー「後はま、いざ魔術発動して全身から血を吹いたエリス、でもってそこに実験反対派の魔術師が乗り込んできて」
シェリー「――あの子は!私を助けるために――」 ギリッ
一方通行「……ガキなのに」
シェリー「……今考えてみればおかしな話だよなぁ。当時の私はティーン行ってなかったんだぞ?」
シェリー「一応先祖がシヴァの女王の末裔を名乗っちゃいるが、どうしてそんな未熟な魔術師に魔術を教わる必要がある?」
一方通行「その被験者ってェのもどォかしてねェか?普通は『事故』が起きてもいいように――」
一方通行「――良くはねェが、耐久性の高くて体力のある大人を選ぶだろ」
シェリー「で、だ。後輩さんよぉ。エリスをぶっ殺したのは『誰』だ?」
一方通行「反対派のクソどもだろ。考えるまでもねェよ」
シェリー「そうよね、それはきっとそうだわ」
シェリー「でもそれだけじゃない。追い詰めたのは私よ」
一方通行「そいつァ筋違い、じゃねェか。そン時にお前が居なかったろうと、その計画自体は進められてただろォし」
一方通行「『入館○○番目のお客様』みてェに、その場に立ってのたのがたまたまお前ってだけだ」
シェリー「意外と優しいのな。あっちで遊んでるバカの言う通りか」
一方通行「誰か幻想殺してくれねェかな……」
シェリー「ってかテメェも同じだよな。『その場にたまたま立ってた』ってぇのはよ」
一方通行「だから俺も無罪です、ってかァ?そいつァ有り難ェ」
シェリー「とは言ってない。私もテメェも、罪を被る必要はあるだろ」
シェリー「幾らガキだったっつっても、拒否出来る権利ぐらいはあったんだからな」
一方通行「訳分からねェな。何が言いてェンだよ?」
シェリー「なんだろうなぁ?お前の境遇を弁護したいって気分もあるけど、だからってぶん殴りてぇ気もすんだよなぁ」
シェリー「だってお前よぉ、『自分の大切なモン守るためだったら、なんだって犠牲にする』って割り切ったろ?」
一方通行「デパートの事かァ?ありゃ別に俺だけだって」
シェリー「こないだ学園都市にテロしに来たっつったよなぁ?」
一方通行「テロリスト無罪放免って、お前はどんだけVIPなんだよ」
シェリー「そん時に関係無い人間巻き込んでぶっ殺そうとしたら、クソ忌々しいツンツン頭の東洋人にぶっ飛ばされたんだけど」
一方通行「復讐、復讐なァ?」
シェリー「難しいよなぁ。死人は何やったって否定すらしてくれねぇし」
シェリー「つーかあの子が好きだった学園都市を潰したとしても、それで大笑いするような感じでもねぇし」
シェリー「なーんか、なぁ?違うんだよなぁ」
一方通行「……俺の場合は、俺が死ねば喝采してくれるってェ奴も多いだろうが」
一方通行「逆に『闘争へ逃げンな』って言われた事もある」
シェリー「結局、そこら辺もテメェらで考えなさいって事なんだろうけど。ただ」
シェリー「『テメェがガキでどうしようも出来なかった後悔』を抱えてる先輩、って立場から言わせて貰うとだ」
シェリー「その、大切な人や大切だったもの『だけ』を守る、ってのはなんか違う気がするな」
一方通行「何が言いてェンだ」
シェリー「エリスの墓守をすりゃ、それは多分喜んでくれるとは思う。けど」
シェリー「墓標の前にエリスを殺した奴とか、騎士派連中の首並べたって、笑っちゃくれねぇなって」
シェリー「それよりか残された私が笑ってる方が、エリスも笑ってくれるような気がするんだよ」
一方通行「それはお前の方の理屈じゃねェの?どォやったって加害者と被害者の理屈ってェのは違うだろォよ」
シェリー「いやテメェもだよ。守りたい人間、後生大事に抱えるのは良い。けどさ」
シェリー「そいつら守るためにだって、そいつらが悲しむような方法で守ったって喜んでくれるか?」
シェリー「ガキ一人瞬殺して『割り切る』のが、本当に喜んでくれんのかよ」
一方通行「あの、ガキもだ」
シェリー「あぁ」
一方通行「『その場にたまたま立ってた』ってェ奴だったンだよなァ。仕込みでもなく」
シェリー「そうだな。まだなんかクソガキが隠してるみたいだけど、害は無いみたいよ」
一方通行「……面倒臭ェな。フツーに生きるってェのはよ」
一方通行「『守る』ってェンだったら、そういう所も考えンのかよ。まァ言いたい事ァ分かったが」
シェリー「でもやるだけの価値はある――って、私に言われるまでも無いかしら」
一方通行「ウルセェよ。お前も黄泉川も、どォしてババアは年取ると説教臭くなるンだ」
シェリー「そりゃお前年寄りだからだよ。目の前にバカなガキが居たとして、説教かますのは義務みてぇなもんだろ」
一方通行「まァ……言いたい事は分かったわ。学校も条件次第だよなァ」
シェリー「そっちは黄泉川が用意するって話だけど、信じない理由は無いでしょうが」
一方通行「……クソ忌々しい事だがなァ」
シェリー「素直になれよツンデレ」
一方通行「デレねェよ」
――路上
シェリー「いやー、疲れた……慣れねぇ事はするもんじゃないわね」
上条「意外にきちんとやってんだな」
シェリー「イギリスじゃ美術の講師もやってたけどね、一応」
上条「変人で通ってた?」
シェリー「……否定出来ねぇけど、もう少し気を遣え」
上条「孤独なロンリーウルフ?」
シェリー「そもそもオオカミは群れで暮らす生き物だろ。大抵はそうだろ」
上条「誰が言い出したんだろうな。一匹狼的な話は」
シェリー「あのガキもやっかいな性格してやがる。野生のオオカミに餌付けした方が楽じゃねぇのか」
上条「一方通行は境遇だと思うけどな。それこそ周りに誰も味方が居ない状況で」
上条「近寄ってくるのはスキルアウトと『木原』的な研究者。それじゃ歪んじまうのも仕方がないって」
シェリー「それじゃぶっ殺された一万人は『仕方がなかった』で済ませんのか?」
上条「それは」
シェリー「死んだ奴ぁ何も言わないし何も望まない。『もしも生きていれば』とかって言うのは簡単よ?」
シェリー「でもそいつぁガキの『他者再生』と同じよ。本物に限りなく近いニセモンなんだよ」
シェリー「なまじっか死人を知っているだけに、身近な人間には醜悪にすら映るんだろ」
シェリー「アレだよ。有名人の蝋人形みたいなの?似ているだけに気持ちが悪いって奴」
上条「『不気味の谷』だっけか。人間に似せれば似せる程気持ち悪い、的な話」
シェリー「……どうだろうなぁ。木原円周に関しちゃ、加害者であり被害者ってぇ感じで誤魔化したが」
シェリー「『人によく似た何か』って不自然さを感じないでもない……あぁ、そりゃ白いのにも言えるが」
上条「んー……俺はあんまり難しい事は分からないけども」
上条「人だろうが、人でなかろうが、意識のやりとりが出来て他人を大事に出来るんだったら、それはどっちでもいいんじゃねぇかって」
上条「あいつは経験が足りないだけで――」
シェリー「意地悪な事を聞くけど、じゃ『意志を伝えられない、他人を大事にしない』って奴は人じゃねぇのか?」
シェリー「広い世界、ましてやテメェが首突っ込んでる所には、そんなバケモノが珍しくない」
シェリー「『信念』って鎧を着た、他人だけじゃなく自分も顧みないような連中がな」
上条「そん時は取り敢えずぶん殴るよ」
シェリー「……おい」
上条「話せば分かる、なんて綺麗事が通じないのぐらいは理解したさ」
上条「イギリス清教にローマ正教、神の右席に学園都市。どいつもこいつも好き勝手しやがるけど」
上条「――でも結局、話をしなきゃ絶対に分かり合えないんだよ」
シェリー「理解するには、か?」
上条「俺達だってそうだったろうが」
シェリー「そうだな。あの白いのにもそんな救いがあれば良いんだけど」
シェリー「……でもアイツは、どれだけ足掻こうが、誰かみたいに成り行きで世界を救ったとしても――」
シェリー「――死んだ連中が笑って許してくれる日は、絶対に、来ない」
シェリー「テメェがテメェ自身を許せる日が来るまでは、心の中の死人は笑っちゃくれねぇんだよ」
シェリー「……多分、誰よりもそんな日が来ると思ってないのは……」
上条「なぁシェリー。さっきから気になってたんだけど」
シェリー「べ、べつにあいつのことはなんともおもっちゃいないんだからねー」(棒読み)
上条「よっしお前にそのネタを仕込んだ奴を教えろ!イギリス行ってぶっ飛ばしてくるから!」
シェリー「ちびっ子じゃなく円周だな。にゅーくりあ?文庫がどうだかって」
上条「……萌えが広がるのは別に良いけどさ、結果的に日本の評判を貶めてないかな?」
シェリー「流石に私も殺す殺さないって奴相手、とまではイカれちゃいない」
上条「じゃ、ねぇよ。エリスの事とかさ。一方通行とダブらせてるって話じゃ」
シェリー「だから気ぃ遣えっつてんだろガキが」
上条「それをしないからガキだって言われるんだろ」
シェリー「どうかしらね、そこんトコは自分でも分からないけど」
シェリー「……でもまぁ、白いの見てるとモヤモヤとっするのは確かだわ」
シェリー「――主にぶん殴りたくて、だけど」
上条「人んちの事情だから。そこはそれ――って、スーパー寄ってかないと」
シェリー「荷物持ちに付き合――悪い、携帯が」 ピッ
上条「いいって。それじゃまた後で」
シェリー「あぁ――『もしもし』?」
ステイル『――すまないね。何か楽しそうだったみたいなのに』
シェリー「『男女関係に友情があったっていいじゃねぇか。つーか覗き見とは……まぁ、ぴったりか』」
ステイル『……まるで僕が好きこのんでしているみたいに聞こえるんだけど?』
シェリー「『今、どこに居るんだ?』」
ステイル『その店の裏の駐車場。別に来なくても構わないけど』
シェリー「『わざわざ学園都市まで来たんだ。湿気た面の一つでも拝ませていきなさいな』」
――スーパーの駐車場
ステイル「ちょっと近くまで来たもんだから、ついでに寄ってみた――って言っても信用しないんだろう?」
シェリー「『人払い』まで張ってか?どんだけシャイなんだっつーの」
シェリー「っていうか最近分かってきたんだけど、お前や露出――神裂の格好って悪目立ちしまくるよなぁ?」
シェリー「それで『必要悪の教会』とかってナメてんのか。あぁ?」
ステイル「今、神裂を露出狂って言おうとしなかった?あと僕を一緒にして欲しくないんだけど」
ステイル「少し見ない間に小洒落た格好になったと思ったら、服装についてのダメ出しから入るのかい」
シェリー「いやいや、私もまともな格好じゃないけど、実働の連中があんだけエロい格好で人目を引きつけるのって、どうなの?」
ステイル「そこは天草式に問題があるんじゃないかな――って、そんな話をしに来たんじゃない」
シェリー「天草式が都市迷彩みたいな服着てるから、ありゃ個人の趣味だと思うんだけどなぁ」
ステイル「元を戻さないでくれるかな。神裂のアレは聖人だから仕方がないんだよ、きっと」
シェリー「『超人だから』で全部済ませるキン肉マ○と同じじゃねぇか」
ステイル「――さて、本題に入るんだけど。君、そろそろ帰って来ないの?」
シェリー「まぁ、そうだよなぁ」
ステイル「『笛吹男』の『宵闇の出口』を潰したり、学園都市の有力な研究者をフォーマットしたりと、活躍は評価されると思うけど」
ステイル「ってかあの女狐は最初から分かっていた気もするけどもだ」
ステイル「こっちにはそれ以外の仕事が山積みになってる、みたいな感じだね。どうにもアイドルを巡って色々と焦臭い事態になりそうだよ」
シェリー「オルソラとちっこいシスターが騒いでそうだな」
ステイル「シスター・オルソラが仕事にかかりっきりだと、女子寮のご飯が不味くなる」
ステイル「ご飯が不味くなるとシスター達の士気がガタ落ちになる。ほら、これで『必要悪の教会』の戦力は大幅ダウンだよ」
シェリー「メシで弱る魔術結社ってどうなんだよ。ってかケータリング業者に頼めばいいじゃねぇか。誰か雇うとか」
ステイル「一応公務員だからね。経費で落とせる範囲とそうじゃない所があるんじゃないの?」
ステイル「出身地も育ちもバラバラ、性格は天然からドSまで揃った奴らの面倒なんて好きこのんでしないって」
シェリー「……それはテメェの性癖的な問題じゃ……?」
ステイル「別に僕はどうだっていいんだけどね。君がどこで先生ゴッコしようとしても」
シェリー「若作りババアは何て?」
ステイル「特に何も。と言うか僕がここに来た意味を察して欲しい所ではあるけど」
シェリー「さもないと始末するぞ、って」
ステイル「どうだろう。そんな暇があればいいけど」
シェリー「マジ話なのかよ。アイドル云々ってのは」
ステイル「今度は『どっかで眠るヌメヌメタコ野郎』……あ、イカだっけ?の、相手をするとかしないとか」
ステイル「邪教集団相手にお腹いっぱいってのは、本当だね」
シェリー「……そう」
ステイル「だからなるべく君は早く決めて欲しい……ま、これは僕の意見だけど」
ステイル「こっちに残るのだっていいだろう。たかだか君程度の凡庸な魔術師一人、僕達が抹殺してやる義理もないさ」
ステイル「それにどっかの東洋人を突いたら蛇が出そうだしね。それも内外から」
ステイル「ただし、決めるのであれば早々に頼む。後釜を探さなきゃいけないだろうし、来もしない援軍を頼りにするのはバカげている」
シェリー「いいのか?ババアの代わりにそんな事言っちまって」
ステイル「僕みたいな不真面目な人間を寄越す時点で、展開は読めているんだろうさ」
ステイル「もしも本腰入れて連れ戻すんだったら、シスター・オルソラ辺りを事件に巻きこんで、『帰って来ざるを得ない状況』を作る」
ステイル「それをしないって時点で、君には選択肢が用意されてるのさ――おっと」 ピッ
シェリー「忙しいってりは本当みたいね」
ステイル「いやこれはあのバカが買い物を終わってこっちへ来てる、って合図だよ」
シェリー「幾ら『人払い』した所でガイジン二人は目立つよなぁ。特にバカデカいヤツが」
ステイル「そうかもね。ハイファッションのモデル服着てるのと一緒にいれば、ね」
シェリー「ってか隠れて伝える必要は無ぇんじゃねぇのか、そもそも。禁書目録も帰省中だし、ふつーに顔出しゃいいじゃねぇか」
ステイル「……言っておくけど、君が今寝起きしている相手は、僕たちが問答無用で攻撃しろって言われてる相手だからね?」
シェリー「そうは見えねぇよなぁ」
ステイル「……それは見解の違いだよ――じゃ」
シェリー「あぁ」
……
上条「――あれ、今誰か居なかった?」
シェリー「居ないわよ?ニコチン中毒のバーコード入りヤサグレ赤神父なんて、どこにも」
上条「なんだ来てたんだステイル。こないだもメシ誘ったのに帰っちまったんだよなぁ」
シェリー「買い物は終わったの?」
上条「あぁ。今晩はオムライスです」
シェリー「バードウェイのには旗立ててやれ。多分喜ぶぞ」
上条「寄せ!攻撃されるのは俺しか居ないんだぞ!?」
シェリー「この間『葛湯』をねだってんの見て暫くしてから、『アレ?』って。違和感があんま仕事してねぇんだけど」
上条「その内ジャパニーズマフィアの真似するんじゃ、って不安で不安で」
シェリー「ヤクザねぇ。振り袖には興味あんだけどな」
上条「お、アパレルもイケるんだ?」
シェリー「昔々『振り袖大火』ってのがあってだな」
上条「うん、君らは魔術から離れる事も考えようね?」
シェリー「仕事柄仕方がねぇんだっつの。あんま日本の魔術師とは戦り合わねぇけども」
上条「わざわざイギリスやヨーロッパまで出向いてドンパチはしないよなぁ」
シェリー「大戦中は凄かったって話だぜ?」
上条「マジで?」
シェリー「兵部大佐がだな。サイキッカー舞台を率いて――」
上条「それマンガじゃね?絶対可憐なヤツ」
シェリー「あれ、結局教え子に手を出す話よね?」
上条「あれは、うん。皆本さん、もうちょっとこう、一線引こうっていうかね?」
上条「個人的にはン十年付き合った相手どうこうってのは、ちょっと引くよね」
シェリー「『獣欲業を征す』だっけ?」
上条「『柔よく剛を制す』な?俺はお前が何を言ってるのかは知らないけども!」
――路地裏
ステイル「……」
ステイル(……ふむ。意外と普通にやってるのか)
ステイル(こっちに残るって可能性も無くはない……まぁいいか)
ステイル(研究職一人引退した所でシスター・オルソラが居ればまぁ、何とか)
ステイル(もっとそちら側を専門とする魔術師の育成も計るべきと。『最大教主』に進言するか)
少女「――おやぁ、そこにいるのはステ……イル君ではないのか?」
ステイル「――あぁクソッタレ。また面倒臭い相手に」
少女「幼女のストーキングに飽きたから、今度はエチオピアンかね。まぁ良い事だ」
ステイル「確かに原義ではエチオピアにそういう意味があったけど、今そう言うのは少しばかり問題があると思うよ。というか」
ステイル「『明け色』のボスがどうしてこちらへ?」
バードウェイ(少女)「ん、いや深い意味はないよ?ちょっと近くまで来たついでみたいなものか」
ステイル「つまり、こっちの動向は完全に把握しやがってる、と」
バードウェイ「なんだい。そう嫌そうな顔をするんじゃない」
バードウェイ「まるで私が嫌われてるんじゃないかと錯覚するじゃないか、なぁ?」
ステイル「あきらかにそっちはロウサイドじゃないと思うんだけどね。愛想を振りまく義理もない」
ステイル「ってか、レーザーポインタで狙うのは止めて貰えないかな。気分が悪い」
バードウェイ「あぁ失敬。どうにもウチのは気が短くてね。あぁこれ忘れ物」 ポイッ
ステイル「駐車場に設置したカード……」
バードウェイ「ダメじゃないか。掃除するバイトの子がビックリするだろう?」
ステイル「わざわざご丁寧にどうも。次からは気をつけるようにするよ」
ステイル「では僕はここで失礼したんだけど、まだ何か用があるのかな?」
バードウェイ「少し話がある。付き合いたまえ」
ステイル「拒否する、と言ったら?」
バードウェイ「……なぁ、ステイル。ステイル……なんだっけ?」
ステイル「格好つけいたんだったら憶えなよ」
バードウェイ「君は一つ勘違いをしている。私は、私達は決して正義の味方ではないよ」
バードウェイ「君たちが『必要悪』を名乗るのであれば、私達はそれ以上の『悪』であると」
バードウェイ「君たちが手段を選ばない以上に、私はよりエゲつない手を使うって事だけど」
ステイル「……へぇ?やるのかい?ここで?」
ステイル「――冗談も程々にした方がいい!」 ゴウッ
ステイル「そんなつまない脅しが僕に効くと思うな!」
バードウェイ「なら『ここに痴漢が居る』って大声で叫ぶ」
ステイル「おい!?」
バードウェイ「そして逮捕されて顔写真入りで記事になったのを、英訳して世界発信してやろう」
ステイル「それは洒落になってないぞ!?というかやり方が陰湿すぎるだろう!」
バードウェイ「――さて、この後少しだけお時間を貰いたい所だが、どうだろう?」
ステイル「……あぁクソ!あのバカと食事した方が何倍もマシだった」
バードウェイ「まぁそう言うな。本場のメイド喫茶の神髄を見せてやろう」
ステイル「メイドの本場はイギリスだよね?こっちのはまがい物だと思うんだけど」
バードウェイ「『青い目のサムライ』的なヤツだな」
ステイル「前にも思ったんだけど、サムライ過剰評価するのはサムライにも迷惑がかからないかな?」
――夕食
バードウェイ「で、どうだったんだ?上手く行ったのか?」
シェリー「テメェは私の母親かっての……あぁ、オルソラにもよく言ってたっけか」
円周「こらっ!パパにそんな口きいちゃダメだよっ!」
番外個体「そーだそーだっ!」
バードウェイ「埋めるぞ貴様ら。誰が父親だ」
シェリー「いやぁキャラ的に
上条「あーほら、ケンカしないの。おかわり上げないんだからな?」
円周「ごねんねー、ママー」
番外個体「ママ、ミサカはそのおっきいのがいいなって」
上条「あーもうどれだって一緒です!ママ贔屓なんてしませんから!」
シェリー「意外に違和感がねぇよな」
バードウェイ「いい主夫になりそうだが……ま、その様子だと問題は無かったみたいだな」
シェリー「あるなしで言えば、あるんじゃねぇのか、っていうか、あのよぉ」
シェリー「どうしてテメェがここに居んだよ?」
番外個体「……どのミサカの事を言っているのかなー?」
バードウェイ「明らかに発育しすぎのお前だ、お前。えっと」
番外個体「わたしっ今日からこの家の子になるっ!」
シェリー「さっき思いっきり嫌がってたじゃねぇか。この短時間にどうやって調教しやがった?」
上条「してねぇよ!?ただ三人でゲームしてただけじゃんか!」
円周「あー、膝の上に女の子乗せてエロ×―みたいな感じ?」
上条「円周さんは完全にエ×ゲ脳ですよね?しかるべき所で看て貰え、なっ?」
番外個体「だってあの家じゃっ!ミサカは、ミサカはずっとずっと虐げられて……っ!」
番外個体「あんな生活もうイヤだっ!」
上条「ミサワ……」
番外個体「その呼び方はやめてくれない?イメージが悪過ぎるんだけど」
円周「清々しいぐらいに涙の痕が皆無なんだけど」
バードウェイ「で、本音は?」
番外個体「MNWに生中継したら、他のミサカからの嫉妬が超気持ちいい」
上条「『あー、もしもし?――うん、こっちに居る』」
上条「『性格悪いの――それそれ』」
番外個体「帰るから!ご飯だけ食べさせて!もう炊飯器メシはいい加減飽きたんだって!」
シェリー「炊飯器で飯炊くのは普通じゃねぇのかよ」
バードウェイ「ほら、学園都市だし?万能炊飯器的な何か得体の知れない技術がだな」
円周「都合が悪くなると科学に丸投げもどうだろ?珍しい名字は沖縄と福島出身にしとけ、みたいなのはね、うん」
上条「でっかいミサカさん、親御さんから『いい子にしてないと噛み殺す』って伝言が」
円周「よっツンデレっ!」
番外個体「いやぁ、それ程でも?」
上条「そこでデレる意味が分からないけど、とにかく大人しくしとけ」
番外個体「えっとそれは『やっちゃえ!』って前振り?『押すなよ、絶対押すなよ!絶対だからな!』的な」
上条「日常会話をそこまで裏読みする意味が分からない!?一方通行どんだけハードな日常送ってやがんだ!」
シェリー「はいはい。人様んちにまで首突っ込まない。さっさと食おうぜ」
番外個体「いったたぎまーすっ!」
円周「あ、ミサワお姉ちゃんフライングはダメだよっ」
バードウェイ「暴れるなガキども。埃が立つ」
上条「お前らいい加減にしないとそげぶするよ?」
番外個体「ミサカ、今夜は帰りたくないの……」
上条「床でいいなら別に?あぁ親御さんの了解もあれば」
番外個体「……チッ。同棲生活が長すぎて耐性がついてやがるぜ」
円周「お兄ちゃん枯れてるもんねー。上っ面だけは」
シェリー「あぁダメだ、帰れよ」
番外個体「おおっと!意外な所から反撃キターーーーっ!何々?独占欲?」
シェリー「じゃねぇわよ。授業があんだからな」
番外個体「えー、それあの人じゃんか。このミサカ関係ないしぃ?」
シェリー「何言ってんだ。アンタも来るに決まってんでしょうが」
番外個体「――え」
バードウェイ「……ところで、新入り」
上条「はいはい?」
バードウェイ「私のオムライスの上に鎮座ましましている、イングランド国旗のようなものは何かね?」
上条「そ、それはですねっ!外人さんには珍しいかなって配慮が」
上条「ボスってば派手っぽいの好きそうですし、少しでも綺麗に見えるようにねっ!他意は無いですけど、他意は!」
バードウェイ「ほう、それはすまないね。疑った事を謝罪しよう」
上条「い、いやいやっ!そんな別に頭を下げるほどのもんじゃ」
バードウェイ「てっきり私は『テメーにはお子様ランチがぴったりだ』的な、悪意だと思ったんだが」
上条「シェリーつっあん!?ほら言ったじゃんか!ダメだって!?」
バードウェイ「あとこの旗はユニオン・フラッグじゃないぞ!どうして竜の上に女が乗ってるんだ!?」
円周「ルイ○ちゃんだねぇ。何年か前にネタで新しい国旗のデザイン募集した時、暇人のおじちゃん達が送って問題に」
上条「碌な事しませんねっ!俺達はっ!」
シェリー「てかウェールズの赤い竜はイングランドに併合済みだったら、敢えて省いてあったんだけどなぁ」
円周「ハルケギニアに喚ばれた先生にも見えるよう、今からでもして欲しいけど」
シェリー「いや故人は喜ぶだろうけど、ネタで国旗変えられる身にもなってくれよ」
バードウェイ「ご飯を食べたら人間イスだ」
上条「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
番外個体「な、なんだろ?ミサカすっごく興味ある単語が出てきたような?」
円周「あ、じゃあじゃあミサワお姉ちゃんも一緒に乗ろうか?」
番外個体「なんかあなたとはすっげー仲良くなりそうな予感がする。主に悪意」
円周「心外だなぁ。わたしは悪意なんてこれっぽっちも無いよ?だって『木原』だもん」
バードウェイ「悪意のない悪意ってのが一番タチが悪いと思うがね」
上条「止めろ!これ以上Sを増殖させるな!」
シェリー「『俺の家族がこんなにドSな訳がない』?」
上条「だーかーらっ!粛々とそっちの知識を教え込むんじゃねえぇぇぇぇっ!」
※来週はシェリー編ラストと円周編の頭予定です
お客様の中に年末進行をそげぶ出来る方は居ませんか (´・ω・`)
乙です
乙
年賀状でも書いて精神を落ち着ければいいじゃない
乙です!
乙乙
素晴らしい
続編が読める事に感謝
待ってました!!乙ですッ!!!
乙です!
嗚呼…11月も今日で終わりかぁ…
ぐぅおおおおオオオオオオッッッッッッッ!!!!!!!!
番外個体もとうとう上条家入りかと歓喜し涙し絶叫(はご近所迷惑だから必死に堪えた)までしたというのに!!
やっぱダメなのかっ!!?これ以上は増やせないのか!!?
長々と失礼!うるさくてごめんなさい!! 乙ッッッッッ!!!
>>658
今後のおおざっぱな予定
攻略済(9)
麦野、絹旗、ンダ、滝壺、佐天、インデックス、バードウェイ、シェリー、円周
攻略中(0)
未攻略
御坂、神裂、御坂妹、オルソラ、アニェーゼ、五和、レッサー、鳴護、シャットアウラ、雲川姉妹、黒夜
上司推薦枠
アンジェレネ、キャーリサ、食蜂、一方通行
多分途中で投げると思いますが
――数日後 空き教室
シェリー「――って訳で授業を始めたいと思います」
打ち止め「わーいっ!ミサカはミサカははしゃいでみたり!」
一方通行「あのォ、ババア?」
シェリー「せめてクロムウェルって言え。何だよ?」
一方通行「面子おかしかねェか?」
シェリー「いや私の担当こんだけだから、つーか逃げやがったなデカいのは」
一方通行「そりゃ逃げるわ。つーか今からでも逃げ出してェよ」
シェリー「工山にモブ子も来てるか」
モブ子「モブ子って誰!?」
シェリー「悪ぃ。触手女だっけか?」
モブ子「宜しくねっ!モブ子です!」
工山「あの、先生?」
シェリー「何?」
工山「『落第防止』のカリキュラムの一環ってのは聞いたんですけど、具体的に何をするんでしょうか?」
シェリー「まぁレクリエーションみたいなもんかしらね。本格的に学校出る前にワンクッション置いとけ、みたいな」
シェリー「難しい事ぁしねぇから心配は要らねぇわよ」
工山「は、はぁ」
シェリー「それじゃまず教壇まで画用紙と画材を取りに来い。全員だ」
一方通行「油絵にパステル……クレヨンなンて今の時代に残ってンだなァ」
シェリー「私の持ってきた奴だから、ちとボロいが実用品よ」
打ち止め「んーとねぇ、ミサカはミサカは油絵の具を」
一方通行「ガキが背伸びすンな。クーピーで充分だろォが」
シェリー「テメェが決めんじゃねぇ、殺すぞ?」
一方通行「あァン?」
モブ子「ちょ、先生!」
工山「なんで二人とも好戦的なんだろう……?」
シェリー「良いんだよ別に。好きに描けば」
シェリー「つーかメールで『汚れてもいい格好』って告知してあんだろうが」
一方通行「いやァ。そォじゃなくてな?被害に遭うのが基本俺なンですがァ、って事だよ」
シェリー「ガキのお遊びに腹立てんなよ、っていうか多分そのガキはお前の反応が楽しくてやってんじゃねぇの?」
打ち止め「な、何を言ってるのかこのミサカは全然分からないにゃあ、ってミサカはミサカはとぼけてみたり!」
モブ子「なにこの萌える生き物。どこで買ったの?ハンズ?」
一方通行「約8兆円だけど、割に合ってるとァ思えねェな」
……
シェリー「全員画材は取った、よな?それじゃ今日の課題」 カリカリ
『全員の似顔絵を描いてみよう』
シェリー「はい、始め」
一方通行「待て待て、どォいう事だよ」
シェリー「使い方が分からない――あぁまぁちっこいのが優先か」
モブ子「はいっ」
シェリー「トイレはだな」
モブ子「違います!全員って、どういう全員?」
シェリー「要はテメェ以外の全員分だよ。別に発表会に出す訳じゃねぇし、好きにやれ」
モブ子「はぁ……?」
工山「そんなのでいいんですか?」
シェリー「ぶっちゃけ大体そうなんだけど、『セオリー』ってのはある」
シェリー「例えばどっから書き始めるとか、輪郭をまず仕上げるとか、『上手く』描く方法だな」
シェリー「私が教えてる所にはそう言う連中が来るんだが――大抵、まず壁にぶち当たるんだよ」
シェリー「なんつーか、自分よりも上手い連中だな」
一方通行「当たり前じゃねェか」
シェリー「って思うだろ?街一番の才能だって奴も、国一番には適わないんだな」
シェリー「大抵そう言う奴は途中で投げ出して、別の方向ヘ進んじまう。いやまぁそれはそれで良いとは思うんだけど」
シェリー「けど、その前に思い出して欲しいんだよ」
シェリー「『上手く描く』んじゃない。『楽しんで描く』事をだ」
打ち止め「どう違うのかな、ってミサカはミサカは質問してみますっ!」
シェリー「そうなぁ。『芯のある奴と無い奴』ってぇのが分かりやすいか」
シェリー「どんだけ下手クソだろうと、『楽しんで描く』奴と『上手く描く』奴じゃ強度が違う」
シェリー「目の前の技術ばかりに目が行って、『上手く描く』奴は心が折れやすいんだ」
モブ子「適当に生きてた方が楽しい、って話?」
シェリー「そりゃな?現実的な話、絵だけで食ってる奴なんざほんの一部だ」
シェリー「ましてや成功してる奴なんてのは、新星を見つけるぐらいの確率――の、上にデカい問題も持ち上がってきてる」
シェリー「こっちでも権威主義と派閥主義か強くなりすぎちまって、展覧会の直前に裏金がどう、って騒いでんだろ?」
シェリー「だからまぁ今現在成功してる奴だって、正直絵の才能だけで食ってるとは言いづらいのが現状」
シェリー「興味がある奴ぁ『Boogie Woogie(邦題;ギャラリー)』って映画でも見ろ。イギリス人特有のエゲつないブラックユーモア満載だから」
シェリー「なんだかんだ偉そうに言ってる私だって、結局副業で食いつないでるようなもんだし」
シェリー「で、まぁ街一番だった絵描き少年は、大抵上の学校で一度は挫折するんだよ。国一番に負けてな」
シェリー「そんなに連中を立ち直らせるには、『絵を描くのが楽しかった』のを思い出させてやりゃいいんだよ」
一方通行「……意味が分からねェよ。何が言いてェンだ」
シェリー「まぁ、なんだ。私はあんた達のアレコレ、知ってるけどもだ」
シェリー「もっと好き勝手に生きりゃいいんじゃねぇのか、って思うんだよ」
シェリー「誰に迷惑描けたって良いし、そりゃかけないのが理想的ではあるけど」
一方通行「訳わかンねェ……」
シェリー「結局、物の価値を最終的に決めるのはテメェ自身なんだよ」
シェリー「芸術家の中には精神病んでそのまま彼岸に逝っちまう奴、結構居るけどよ。果たして連中が幸せだったと思うか?」
シェリー「どれだけ名声を得たとしても、後世に名前が語り継がれても」
モブ子「……」
工山「……」
シェリー「たまーに思うんだよなぁ。ゴッホは自殺した――あぁ他殺説もあるけど――が、人生は楽しかったのかよ、って」
シェリー「もしも彼が凡庸な絵描きで、絵だけなんてとても食っていけなくてだ」
シェリー「どっかの工員として細々とやってるウチに、付き合ってた女にガキが出来て渋々結婚してだ」
シェリー「たまの休みの日にはガキどもの絵を見てやったりして、無名の画家のまま終わる。そんな『可能性』が」
シェリー「ゴッホになりたい人間はごまんと居るだろうし、中には本気でなろうとしている連中も少なくない。だがな」
シェリー「ゴッホはそいつらみたいに、普通の生活がしたかったんじゃねぇか、っても思うわ」
一方通行「……」
シェリー「だからあんた達も正直好きなように生きればいいと思う。他人に迷惑かけるのも好きにやっちまえ」
シェリー「苦しかったら逃げたっていいんだよ。助けて欲しいんだったら助けを求めればいい」
シェリー「……少なくとも、世界にはあんた達の味方をしてやれる『大人』が居るから」
一方通行「……有り難くて涙が出そォ――あだっ!?」
シェリー「生意気言うなクソガキ」
一方通行「ンだとクソババア!」
シェリー「……話が逸れた。だから別に下手クソでも良いんだよ、誰からも笑われたって自分が楽しければ」
シェリー「自分が納得して、楽しく描いていればそれだけで」
シェリー「それでも我慢出来ない。もっと上手く描きたい、認めて欲しいってなら勉強しろ」
シェリー「先人がクソみたいな時間かけて培った技法が、幾らでも、ね」
……
一方通行 カキカキ
工山 カキカキ
モブ子 カキカキ
打ち止め「むー」
シェリー「どした?」
打ち止め「貝殻の粉が欲しいな、ってミサカはミサカはねだってみたり?」
シェリー「フェルメールの真似はやめろ。つーかアンタん中では白いのがこんなにキラキラしてんのかよ」
一方通行「うるせェクソババア。今度こそぶち殺すぞ――って、あァ、工山だっけか」
工山「えっと、前乗り込んできた人、だよね?」
一方通行「あァ。あン時言い忘れたンだが、お前今でもハッキングしてンだよなァ?」
工山「し、してないしっ!?言いがかりは――」
一方通行「いやそォじゃねェ。前に調べた時、お前ンのツールの中に、ウイルス仕込まれてンぞ?」
工山「え、どれがっ!?」
一方通行「確か、あー……外部からOSリブートさせっちまうヤツか」
一方通行「あれ使うと風紀委員に連絡入るみてェだわ」
工山「ま、待ってくれよ!あれは僕が作ったんだよ!?」
一方通行「どっかのサイト踏んだ時にでもウイルス感染したンじゃね?元データと構造体比較してみれば?」
一方通行「……まァ信用しねェのもいいだろうがなァ」
工山「そうなの……?ちょっと待って」 ピッ
一方通行「お前いつも持ち歩いてンの?」
工山「――嘘だろ」
一方通行「言った通りじゃねェか」
モブ子「あのー、ちょっと良いかな?」
一方通行「あァ?」
モブ子「二人ともパソコンとか得意なの?結構、詳しい?」
一方通行「こいつはなァ。俺は人並みだ」
モブ子「教えて欲しいんだけど、ゲームってどう作るの?」
一方通行「聞けよ話――おい」
工山「ジャンルによる、かな?ポリゴンとか多用するようなヤツは、DirectXは絶対に必要だし?」
工山「3Dやるんだったら、LightWaveみたいな安いのから慣れるのもアリだと思う」
工山「逆に簡単なヤツなのはフリーソフトでも充分に出来る、けど」
モブ子「……言わなくちゃ、ダメ?」
一方通行「好きにすれば?」
工山「まぁ言ってくれた方が、相談には乗りやすい」
モブ子「……ゅ」
一方通行「あァ?はっきり言えよ!」
モブ子「しょ、触手……」
一方通行「……」
工山「……」
モブ子「ちょっと!?言えって言ったのそっちじゃんか!」
一方通行「……いやァ、うン。悪ィ」
工山「普通さ。こういう場合、アドベンチャーとかシューティングとか、ジャンルの話であって」
一方通行「どォ考えても18禁でェすありがとうございました」
モブ子「違っ!?違わないけど、そういうんじゃないの!」
工山「えっと……改めて聞くけど、RPG?」
一方通行「いやエロゲーじゃねェのか?それ以外に触手さン活躍する機会ねェだろ」
モブ子「メインじゃないし!違うから!」
シェリー「おらガキどもお喋りも結構だが、手も動かせ。今日中に終わらねぇぞ」
一方通行「そいつのはどォなンだ――おい」
モブ子「うそ……凄っ!」
打ち止め「どーだ見たかっって、ミサカはミサカは誇らしげに胸を張ってみるのだ!」
一方通行「……お前、チートしてンじゃねェの?あれだろ、他の連中のスキル借りてるだけだよなァ?」
シェリー「いーんだよ。何描こうが。つーかお前らも手を動かせ」
――数時間後
キーンコーンカーンコーン……
シェリー「……んー、意外に全員悪かねぇな。実は下手でしたーって笑いもんにするつもりだったのに」
一方通行「特定の人間を見ながら弄ンじゃねェ。教師失格だろが」
モブ子「先生、やっぱ上手い」
シェリー「一応な。時間裂いてる分だけ、素人より上手くて当然」
モブ子「わたしも、時間をかければ上手くなれる?」
シェリー「なんだってそうよ。かけなければ、無理」
モブ子「……そっか。そう、だよね」
シェリー「それじゃ一人一人、自分の似顔絵は回収したら帰っていいわよ」
一方通行「聞いてねェぞ!?」
シェリー「言ったら手ぇ抜くだろうがよ。つーか絵の一枚二枚でぎゃーぎゃー言うな。テメェは画伯かコラ?」
一方通行「……ちっ」
打ち止め「ごめんなさいねー、うちの子は反抗期ってミサカは――って、頭ぐりぐりはいやーーっ!?」
一方通行「お前も反省しねェよなァ、あァ?」
シェリー「――ってな訳で、私の授業は以上で終りよ。次からは黄泉川――先生が、カリキュラムを作ってくれるわ」
シェリー「……ま、思ってたのより大した事ぁ無かったろ?それだけの話よ」
シェリー「私から言える事は――そうだな、そうか」
シェリー「せっかく生きてるんだから、人生楽しめばいいんじゃねぇのか?」
シェリー「色々面倒臭いけど、それだって何年かすりゃ折り合いつけて生きていけるから」
シェリー「無駄に深刻ぶるよりか、前向いて背を伸ばすより――」
シェリー「――テメェの歩幅で歩けよ、それだけだ」
――夜 上条のアパート
上条「――そっか。上手くやったんだな」
シェリー「それを言うにはまだ早いかしらね。白いのはひねくれてっから」
シェリー「ただまぁ普通の子達とフツーに喋れたみたいだし、そんなに心配はしてないけど」
バードウェイ「ある程度は不可抗力だと思うがね――それで?」
上条「それで、って?一方通行がまだなんか?」
バードウェイ「そうじゃない――まさかお前、何も言わずに行くつもりじゃないだろうな?」
シェリー「……テメェが台無しにしてくれやがったけどな、たった今」
バードウェイ「してやってもいいがね。出来れば自分の口で言うんだ」
シェリー「クソ忌々しい……あー、なんだ、その、上条当麻」
上条「は、はい?」
シェリー「今までお世話になりました。ありがとう」
上条「いえいえそんなご丁寧に、ってなんかお別れの挨拶みたいだな?」
シェリー「……」
上条「改めて言われると照れるって言うか、うん」
バードウェイ「空気読め」
円周「お兄ちゃん、分かってるでしょ?実は」
上条「……まぁ、幾ら俺だって。うん」
シェリー「急な話――でもないけど、これは。最初から決まっていた事なんだが、私は」
シェリー「明日、12時の便でイギリスに帰るわ」
――翌日 学園都市大23区(空港) 11時
シェリー「……」
上条「……よっ」
シェリー「やっぱ来たか。つーか授業はどうした?単位足りないんだろ」
シェリー「小萌と黄泉川に説教喰らえ、帰ったらな」
上条「残念。送り出してくれたのが小萌先生、車で送ってくれたのが黄泉川先生だよ」
シェリー「教師も生徒もどっかおかしいんだよ。この街は」
上条「いやまぁ?俺達にとってはそれが『普通』だし?」
上条「そんな所、一個ぐらいあったっていいじゃねぇか、って思うけど」
シェリー「そんなにボコボコあったらたまったもんじゃねぇわよ、ってホラ」
上条「うん?ハンカチ?」
シェリー「泣くなよ。みっともない」
上条「泣いてねぇし!?これはねアレですよ!心の汗みたいな感じで!」
シェリー「良いんだよ、別に」 ギュッ
上条「ちょ、シェリー!?」
シェリー「……こんくらいさせてくれよ。私達――」
シェリー「友達、なんだろ?」
上条「そりゃ……うん」
シェリー「今っからイギリス帰るんだ。ババアのワガママには付き合ってくれたっていいじゃねぇかよ」
上条「……それ、なんか、卑怯だよ」
シェリー「良いんだよ。お前らガキは黙って言う事聞いてれば」
上条「けど、シェリー?」
シェリー「おう?」
上条「俺は、年寄りだなんて思った事ないからな?年上のおねーさんぐらいで」
シェリー「……ん、まぁ知ってた」
上条「知ってたって」
シェリー「夜中のバスタブって意外と響くんだよなぁ、これが」
上条「待って下さいっ!?それって」
シェリー「クソガキは多分知らない。バカな方のガキは……あー……?」
上条「いやいやっ!違うって誤解だって!」
シェリー「……つーか、なんで私ら抱きあってんの?恋人って訳じゃねぇんだし」
上条「そっからか?そっからまず突っ込み直さないとダメなのか?」
シェリー「……まぁ、なんだ。色々とあったけど、有り難う」
上条「シェリー」
シェリー「……だからそんな顔すんじゃねぇよ。行きづらくなんだろうが」
上条「ごめん……なぁ、やっぱりさぁ。どうしても帰らなきゃダメなのか?」
上条「『必要悪の教会』の仕事が忙しいから?オルソラ達が待っているからか?」
シェリー「あー……まぁ、それもある。でも、それだけって事もないかしらね」
シェリー「私は『大人』なんだ。だからすべきことを、する。それだけの話」
シェリー「こっちに残ってダラダラ過ごすのは、確かに魅力的よ?」
シェリー「ガキ三人とバカやって暮らすのは楽しいでしょうね。けど」
シェリー「私には果たすべき役割があって、帰るべき所がある」
上条「……そっか。ごめん」
シェリー「ガキはワガママ言うモンだよ。じゃねぇと大人の立場ってもんが危うくなる」
シェリー「心配すんな。何か困った事があっても、気が向いたら助けに来てやるから」
上条「確定じゃないのな?」
シェリー「そういうのが、『友達』なんだろ?きっと」
上条「……そう、だな。俺も」
シェリー「あん?」
上条「シェリーが困ってたら、助けに行くよ」
シェリー「丁度良かった。美大のアシスタントがだな」
上条「俺が出来る範囲でなっ!」
シェリー「使えねぇなぁ――と、そろそろ」
上条「あぁ」
シェリー「――の、前に忘れもんだ」 チュッ
上条「」
シェリー「――ちゅ、んん」
シェリー「と、これで良しと」
上条「友達同士でキスしないって!」
シェリー「お、悪い悪い。忘れてた」
上条「言ってる事がさっきと違うし!」
シェリー「いいじゃねぇか選別代わりにくれたって」
上条「……お前これ、逆パターンだったら大問題だからな?」
シェリー「い、いやだった……?」
上条「だからそれ禁止っ!つーへかお前最近自分のギャップ萌え使うのに躊躇しなくなったよね!?」
シェリー「クソガキから色々と教わってるからな。いやー、女って怖いんだなぁ」
上条「円周さんには後で俺が言っておくから。かなりキツめに」
シェリー「それじゃ、また」
上条「……うん。またな」
――数日後 イギリス 『必要悪の教会』女子寮
シェリー「……あー……」
オルソラ「おはようございますなのですよ、シェリーさん」
シェリー「おー……」
オルソラ「今日は良いお天気でお布団でも干そうかと」
シェリー「……んー」
オルソラ「ホームシック、で御座いますか?」
シェリー「家、ここだから。どこへ帰るんだっつーの」
オルソラ「そう言えば最近、ダチュラさんが『下着がなくなった』と」
シェリー「ルチアじゃねぇのか?ダチュラは花だろ」
シェリー「ってかシスターでミニスカガーターベルトって、そっちの店じゃねぇか」
オルソラ「ですから、お布団を干すので早く起きて頂ければ」
シェリー「……寝ぼけてんのは私か?それともお前か?」
オルソラ「あら?シェリーさんがベッドにいらっしゃいません」
シェリー「オーケー分かった。お前だったわね、朝からボケてるのは。朝だけじゃねぇけどな」
オルソラ「また徹夜をされたのですか?」
シェリー「……仕事じゃねぇわよ。ウェイトリーの兄弟は『彼らの存在を正式に肯定する事は現時点で難しい』って結論出たじゃねぇか」
オルソラ「ではどうして?」
シェリー「あー……プライベートだよ」
オルソラ「上条さんの事で御座いますねっ!」
シェリー「プライベートだっつってんだろ!」
オルソラ「違うので御座いましょうか?」
シェリー「合ってっけどよぉ、そういうのじゃねぇんだよ」
オルソラ「そういうのは、どういう」
シェリー「あー、なんだ。メールでも出そうって気になったんだよ」
シェリー「けどいざ書こう、って考えたら、な?分かるよな?」
オルソラ「あ、お布団干しちゃいますね?」
シェリー「おいババア?お前どっかおかしいよなぁ?」
オルソラ「それで手紙の文面はなんて?」
シェリー「たまーに思うんだけど、お前楽しんでねぇか?なぁ?」
シェリー「暗号解読のプロってんだから、頭は良くなきゃ出来ねぇだろうし。計算か?計算なのか?」
シェリー「……ん、まぁ、『元気でやってる』ってだけ」
オルソラ「そうでしょうか?シェリーさんは帰ってきてから元気がないように見えるのですが」
シェリー「気にしすぎだろ。私はそんなに脆くはねぇぞ」
オルソラ「それで朝食なんですが」
シェリー「……突っ込んだら負けのような気がしてきたわ。つーか今日、アンタ当番だっけか?」
オルソラ「いいえ。違うので御座いますよ」
シェリー「に、しては良い臭いだけど。あ、神裂か?」
オルソラ「ではお先に失礼しますのですね」
シェリー「オイ!お前やっぱ計算じゃねぇのか、なあぁっ!?」
――食堂
アンジェレネ「――こ、これはっ」
アンジェレネ「まずはサラダ!普通はご飯に彩りを添えるだけの脇役にしか過ぎません!」
アンジェレネ「ですがっ!何と言う事でしょう!これはサラダの概念を覆すものではありませんかっ!」
アンジェレネ「ビネガーとラディッシュ、そして綺麗に切り分けられボイルされたエビの彩りが鮮やか!」
アンジェレネ「そしてその隣にあるスープっ!一見普段と変わりはないようにも見えますが、だがしかぁしっ!」
アンジェレネ「ほのかに自己主張するこの香り――これは、ボニトではありませんかっ!」
アンジェレネ「その色は琥珀色に輝き、具材の一つ一つが透き通って見えます!」
アンジェレネ「これが――東洋の、ミソ・スープっ!!!」
ルチア「……あの、シスター・アンジェレネ?」
アンジェレネ「けれど場を支配する圧倒的な存在感!まさに王者の風格が漂うのは、メインディッシュ!」
ルチア「料理の鉄人ごっこしている所、悪いんですが」
アンジェレネ「黄色い丘の上に咲いた赤い赤いチューリップ!そう!まるでオランダの田舎町を彷彿とさせるこのフォルム!」
ルチア「オムライスですよね?普通の?」
アンジェレネ「その流れ、風を切り裂く流線形!それはまさに魔弾タスラムの如し!!!」
アンジェレネ「あぁ神はわたしを試され――いひゃいいひゃいいひゃいですよぉぉっ!?」
アンジェレネ「シスター・ルチアあぁぁっ!?」
ルチア「流石にいと高きあのお方を引き合いに出すのは、ダメです。反省しなさい」
アンジェレネ「で、でもでもぉっ!ルーグは別カウントでしたし、いいんじゃないですかぁっ!」
ルチア「いけません!邪教の神の名前をみだりに呼んでは!」
上条「いやぁ別にいいんじゃね?食事中に騒がれるよっか、マシだろ?」
ルチア「ダメに決まっています!神は私達に質素倹約を説かれました!ですから、私達はあくまでも『頂く』という事を前提にですね!」
上条「まぁまぁそんな怒らなくたっていいじゃん?珍しいメシでテンション上がってんだから。な?そうだよな?」
アンジェレネ「そ、そうですよぉぉっ!ジョークだったのにぃ」
上条「って本人も言ってんだし。メシぐらい気楽に食おうぜ?」
ルチア「ダメに決まっています!大体私達は粗食が基本なのに、そんなに贅沢なものはっ!」
上条「……えっと、確かシスター・ルチアだっけ?」
ルチア「気安く私の名前を呼ばないでください!この異教徒が!」
上条「俺は神様の事は分からないし、信仰がどうのってのはもっと分からない」
上条「けどな。どこだって、どんな世界だって同じルールってのはあると思うんだ」
ルチア「……はい?」
上条「俺達がメシを食えるのは、メシになってくれる植物や動物達のお陰だろ?違うか?」
ルチア「私達は……それがあの方から授けられたものだ、と」
上条「それだって同じじゃねぇか。授けられたにしろ、俺達が食べるものに感謝するのは当然だろ?違うか?」
上条「神様から頂いたとしても、少なくともその直前まではどっかで生きてたんだからな」
ルチア「……何、ですか」
上条「だから俺達には残さず食べなくちゃ、って思うんだよ。俺達の血と肉なってくれる、そんな連中に感謝しながら」
上条「で、そのついでに美味く食べようってのは罪じゃないんじゃないか?」
ルチア「ですが!私達には信仰倹約をですね」
上条「いや別に贅沢してる訳じゃないし、これ全部キッチンにあった食材だぜ?」
ルチア「う、嘘です!だってこのスープはどこから持ってきたのですか!?」
上条「神裂じゃないか?良い感じの鰹節あったから、使わせて貰ったけど」
ルチア「そ、そうですか」
上条「……なぁ、シスターさん」
ルチア「はい?」
上条「確かに俺達は誰かを犠牲にして生きてる。それは絶対だな」
上条「でも俺達が奪っておいてだ」
上条「『あぁマズい。あぁ美味しくない』って食べるのが、正しいと思うか?」
ルチア「……それは、失礼ですね」
上条「それに麦だって米だって、俺達が育てて品種改良して、毎年毎年すっごい量を育ててるよな?」
上条「それって共生だと思うんだよ」
ルチア「私達が刈り取っているのにですか?それは傲慢が過ぎるかと」
上条「いやいやそうじゃない。植物ってのは『どんだけ子孫を残せるか』って話だろ?生存競争、だっけ?」
上条「つまり俺達がパンや米を食べてる内は絶対に絶滅しない」
上条「それどころか大事に大事に育てて、新しくて強い品種を作って貰えるんだ」
上条「それを俺は『共生』していると思うけど」
ルチア「……」
上条「どう、かな?ダメ?」
ルチア「それは……きっと傲慢な考えなのでしょうね。私は認める事は出来ません」
上条「……そか」
ルチア「です、けど。それが、品種改良をする事で、飢えずに済む人が増えれば」
ルチア「いと高きあのお方を信じる機会も増えるのでしょうね、きっと」
上条「……どうも、シスター」
ルチア「違います!そうじゃない!」
上条「しすたー?」
ルチア「私にはルチアという名前があります!きちんと名前で呼びなさい、いいですねっ!?」
アンジェレネ「シスター・ルチアがデレたーっ!あざといっ!」
ルチア「誰もデレていませんっ!これが素ですっ!」
アンジェレネ「デレ、デレたじゃないですかぁっ!?いま、今今今今っ!」
ルチア「――残念ですが、シスター・アンジェレネにはお仕置きが必要ですか。残念ですが!」
アンジェレネ「ちょ、ちょっと待って下さいよぉぉっ!?わたしのオムライスをどこへ移そうって――あーっ!?」
上条「……つーかお前らが一番うるさい――ん?」 トンッ
アニェーゼ「……パパぁ……?」
上条「お前また寝ぼけて。ホラ、良い子だから顔洗ってこい、な?」
アニェーゼ「やぁ。パパとっ、いっしょがいーい……」
上条「しょうがねーな。ほら、来い」
アニェーゼ「だっこ、だっこがいぃ」
上条「あぁも面倒臭――」
シェリー「――ってオイ?」
上条「はい?あ、おはよー」
シェリー「どんだけだ?つーかお前何やっての?何この数分で全員にフラグ立ててんだコラ?」
上条「フラグって。いやだからお前ラノベの読み過ぎじゃねぇの?」
シェリー「質問に答えろよ。何してんだお前?」
上条「ん?いやだから、『困った時は助けに行く』的な約束したじゃんか」
シェリー「いやいやっ!?確かに困ってる、困ってるけどそりゃお前の扱いにだよ!?」
シェリー「イギリスまであっさり来れる訳がねぇだろ!」
上条「円周がね、どっからか時速7000キロオーバーの音速飛行機のチケットを調達してきてな?」
シェリー「あのガキ何しくさってんのよ!?どう考えても危ない橋渡ってんだろうが!」
円周「――ひっどいなぁ、フツーだよ、フツー?『木原』なら当然の事をしたまでだって」
シェリー「アンタも来て――じゃ、クソガキもか!?」
バードウェイ「そのクソガキに憶えはないけれど、せめて『有り難う御座います、偉大なるバードウェイ様』ぐらいは言えんのか」
シェリー「テメェら何しやがった!?」
バードウェイ「ん、いや大した事は別に?」
円周「ただちょっと『木原数多』をお片付けした見返りが欲しい、って頼んだだけだよー?」
上条「何か色々と条件はついたけど、月一ペースならどうにかしてくれるんだと」
バードウェイ「……ま、『途中勝手に通過してくる国』へ対しての示威行為がメインだと思うがね」
円周「どーせまたイランで下手掴ませられるんだから、面倒だよねぇ」
シェリー「そんな――バカじゃねぇのか?」
シェリー「そんな、そんだけのために」
シェリー「んな、下らねぇ事のためだけに、そりゃ」
上条「ウルセェな。いいからさっさと座れ」
シェリー「……けど」
上条「友達とメシ食いに来て何が悪いっつーんだよ?」
上条「たまたま近くまで来たからついでに寄った、それ以上でもねぇし以下でもねぇから」
シェリー「……お前ら、ホンットに狂ってやがる」
上条「いーんだって、俺は『ガキ』だから」
上条「好き勝手やって、大人に迷惑かけるのが仕事みたいなもんだし?」
シェリー「……あぁ、そうかよ。ま、いいんじゃねぇの?……ははっ」
シェリー「お前らがガキだって言うんなら、私は『大人』だ。当然義務ってもんがある」
シェリー「メシ食ったら全員説教だ、クソガキども。覚悟しとけ」
円周「あ、ごめんねっ?その前にロンドン塔行きたいんだけど」
バードウェイ「今日は観光スケジュールが一杯でね。その案件は後日改めて検討しようじゃないか」
シェリー「……ホントにまぁ、見事なまでにガキばっか」
オルソラ「そういえば」
シェリー「あぁ?お前もなんかあんのかよ?」
オルソラ「シェリーさんはどんな手紙を書こうとされていたのでしょうか?」
シェリー「ばっ、お前っ!?」
バードウェイ「予定変更。アーチスト気取りのぼっち女のお部屋訪問と行こうか」
円周「ダメだよ、ねっ?人の嫌がる事をしちゃ、めっ!だよ」
バードウェイ「こんな時、『木原数多』ならどうするんだっけ?」
円周「『テメェが引きつけとけ、俺が鑑識並みの精度で探索してやんよ』」
シェリー「……よし、殺す!」
上条「だーかーらっ!お前ら殺し合いはメシ食ってからにしなさいっ!埃が立つからっ!」
シェリー「……ったくお前らは、なぁ?」
シェリー「こんなに友達が面倒臭いなんて聞いてねぇぞ――なぁ、エリス?」
――断章のアルカナ・アフター 『シェリー編』 -終-
※シェリー編は以上です。シェリーさんと一番仲良かったらこんな感じに終わってたかな、と
この後は『友達ならセーフだよね?』と上条さんの下条さんが無双したりしなかったり
あと業務連絡。もしもこのスレを転載される方いらっしゃいましたら、>>603の一文を、
――断章のアルカナ・アフター 『シェリー編』
と換えて頂ければ幸いで御座います……まぁ内容がアレですので、商業誌は無理じゃね?と上司(氏ね)から判断されたんで微妙でしょうが
描写的にエグいのと政治的にエグいのはまた別の話。そう言った意味で『劣等生』は尖ってますが
来週からは円周編です
乙ぅうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!
乙です
こっちで人気投票やっています。最多得票キャラのクリスマスSS書くので、宜しかったらご投票下さいませ
禁書多数決安価SS 「今日は平日」
禁書多数決安価SS 「今日は平日」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1386028904/)
乙
乙
乙です!
>>659
ところで新たなる光からはレッサーだけ?
乙!
キャラの口調、ギャグ、ノリ、テンションがまんま原作のソレだわ。
マジで凄いな…>>1は相当原作を読み込んで鎌池先生の癖を掴んでる事が分かる。
とりあえずageるな
>>685
あ、何時の間にかsageが消えてた!すまん!
乙ッ!乙ッ!乙ッ!
>>1は何処でこれだけ細かいネタや深い知識を仕入れているんだ?
マイナーな漫画のネタが出てきて嬉しいときがある
あーあ。最高すぎるな、うん
貴方のSSが読めて幸せです
次回も楽しみに待たせていただきます。 乙です
何か、かつてないくらい穏やかな気持ちでのレスだ……
>>683
鳴護さんのEUライブツアーに『濁音協会(だくおんきょうかい)』を名乗る魔術結社が絡んできて、そこへ『新たなる光』(+ツンツン頭)が防衛戦をする、というのが大まかな構想です。予定は変わるかもですが
ですので鳴護さんとレッサーサは確定。他はどうしようか検討中です
把握
楽しみだ
フロリス!
フロリス!
スパッツ!
巨乳お姉さんベイロープに出番を・・・
乙でした
今更なんですが>>534からの嘘次回予告で
>彼の敵を討ったハンターに忠誠を誓った悪魔が。
ってこれメタルマックス1の話じゃないかな?
2は戦車のシャシーだけでウルフ本人は出てこないよ
リメイクでシナリオ追加されてたなら俺の勘違いなんだけど
http://r-s.sakura.ne.jp/w/n/ni_c09.jpg
来たぜ新約9巻!!!
>>696
その通りです。2はリメイク含めてもウルフさん出ていませんけど、まぁ浜面だしいいかなって
機銃外しただけで戦車も牽引せずに立ち去るウルフさんマジかっけー
――断章のアルカナ・アフター 『円周編』
――メイド喫茶
円周「いらっしゃいませーっ!何名様ですかー、え?お一人なの?ぼっちなんだー、へー?」
円周「友達は居ない?じょあしょうがいなよねっ、うん」
円周「たばこは吸わないよね?分煙とか面倒だし、他の人にこれ以上迷惑かけるのは良くないしねっ」
円周「ではお席へどーぞっ、ご主人様っ」
鞠亜「……完璧だな、これは!見事としか言いようがない!」
鞠亜「まるでドSメイドになるために生まれてきた人材だ!」
上条「おい、そこのメイド先輩。間違ってるからな?どう考えても今の接客はツイッター拡散されて炎上されるに決まってるからな?」
上条「ってかどんだけ暴言吐いてんだよ!?あれどう考えたってダメじゃんか!?」
鞠亜「いや、だがしかしホラ」
上条「うん?」
海原「あ、すいませんメイドさん?もうちょっと、出来れば人格を根底から否定する形でお願いします」
円周「へーき?結構キツいけど?」
海原「大丈夫!慣れてますから!」
円周「このブタご主人様、毎日毎日わたしに会いに来てくれてありがとっ!今日も一杯お金を落としてってねっ!」
海原「もっとエゲつない感じで!」
円周「生きてて楽しいの、ねぇ?一人で寂しくメイド喫茶へ来たって、孤独なのは変わりないんだよ?」
円周「『ご主人様』とかって言われてるけど、内心じゃ『ブタ野郎』がデフォだからね?
鞠亜「――と、言う感じで概ね好評みたいだが」
上条「……誰かあいつらの幻想殺してくれねぇかなぁ……」
鞠亜「世の中には強い信念を持つ者が居て、それはきっと暴力にすら膝を折らないんだよ、先輩」
上条「何ちょっと良い事言ったみたいな顔してんの?信念じゃねぇからな?アイツのアレは性癖だからね?」
鞠亜「あぁ!格下の相手に先輩とつけなければいけない屈辱感!また経験値が捗るな!」
上条「雲川さんもどっかおかしいよね?今度雲川先輩に会ったら相談しとくけど」
上条「あと『はかどる』ってそんなに使うかな?今の用法も合ってない気がするんだけど」
鞠亜「まぁ色々と心配はあったものの、ここまで馴染んだんだ。奇矯ではあるが……まぁ、この学園都市ではクラスに一人程度のレベルだ」
上条「スゲぇな学園都市。懐深いにも程があるだろ」
上条「――っとオムライス出来上がり。12番テーブルへヨロシクっ」
鞠亜「了解した――っというかまぁ」
上条「なに?」
鞠亜「君も馴染んでいるけどね。充分」
上条「いやあぁぁぁぁぁぁぁっ!?気がついたらクラスで変人扱いされてんのはそーゆーワケかああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
海原「おや、そこにいるのはキョ○君でないですか!奇遇ですねぇ」
上条「最近姿見ない人持ち出すの止めて?つーか俺だったら映画作る時、監督の顔面殴って絶交する」
円周「オーダー入りまーすっ!6番のご主人様、えっと……あ、ごめんねっ?面倒だから自分で言って貰えないかな?」
円周「なんかもう、ご主人様のために時間を割くのが無駄だよねっ、って感じだから」
上条「謝って!6番テーブルのお客様に謝ってきなさい!」
海原「麻婆カレーライス一つとアステカ風コーヒーをお願いします」
上条「お前プライドはないの?『笛吹男』をバックスタブした時の格好良さは俺の錯覚だったの?」
客A「あ、僕も注文いいですかー?」
客B「ブヒも注文したいブビ」
上条「ってかお前ら本当に並ぶなよっ!?ウェイター居るのにお客様がキッチンに注文するってどういう事っ!?」
鞠亜「あとブヒのお客様は一人称だけでなく語尾もブヒなのかね。どちらかへ絞った方がキャラ的に良いと思うが」
上条「その突っ込みもおかしいしな!現実で使う奴ぁ居ないから!」
鞠亜「知り合いの弟のメル友の友人が、マジカルハロウィ○の全国ランカーらしいんだが。メーカーからイベントの招待券が届くレベルの」
上条「そのメル友ってあれだよな?可愛いけど残念な子の弟さんのメル友なんだよね?」
鞠亜「彼がこの間新台を撃ちに行ったら、『フロス○たん、フロ○トたんブヒィィ』ってネタ抜きで聞こえてきたらしい」
上条「……最近のパチンコは精鋭化しすぎてないかな?確かに規制が厳しくなってんだろうけど」
上条「一般のお客さんを引かせる……いやでもパチンコは客層が特殊だからなぁ」
鞠亜「『あれ?どこにキモオタいやがる』と思って耳を澄ましてみれば――」
鞠亜「『ブヒィ、ノワー○たんもブヒのお嫁さんにしたいブヒィ』……おや?思っていたよりも近く。それもすぐ側で聞こえる」
鞠亜「『でもやっぱり本妻はアリスたんブヒィ』……辺りを見てもそれっぽいのは誰も居ない。しかし幻聴じゃない!確かに聞こえるんだ!」
上条「そこまで熱演する必要あるの?つーか文章力の無駄遣いだよね、これ?」
鞠亜「彼がふと顔を上げた瞬間、台に映った自身の顔を見た時、全てを悟る!」
鞠亜「――実は、ブヒブヒ言っていたのは自分だったんだよ!と、いうオチがだね。ちなみに実話だ」
上条「都市伝説みたいなオチにすんな!つーか語り部の最初の不自然な背景説明で何となく展開は読めてたし!」
海原「天空のシンフォニ○が台になって、一体誰がやるんでしょうね?あ、OPの『光を求めて』は名曲だと思いますけど」
上条「あぁ面倒臭いっ!?ボケが多すぎて突っ込みも料理も間に合わないよっ!」
円周「『よーっし!それじゃそういう時にはご一緒にっ!』」
上条「おいお前今度はどこの平行世界から受信しやがった!?」
円周・客「『うーいはっるーーっ!愛してーるぞーーーーっ!!!』」
上条「だから違う!?ってかそんなデータどこに残ってた!?」
鞠亜「ユングによれば、人は無意識の所で繋がっているそうだ」
上条「お前はお前で急に何言いだしやがった?」
鞠亜「集合的無意識という海の中に『個』という島が人類の数だけ浮かんでいて、私達の意識は普段その孤島で生活している」
鞠亜「常に孤独であるよう宿命づけられているが、根幹は繋がっており個々の発想自体はそう大差ない」
鞠亜「どの島もそれを支えているのは分厚い岩盤であり、大地の奥深くで繋がっている、と」
鞠亜「遠く離れた北欧のトール神と日本の建御雷。どちらも共に雷神であり、武神でもあり、時として農耕神としての一面も持つ」
鞠亜「ギリシャ神話の冥界下り、オルフェウスが死んだ恋人を蘇らせる――黄泉帰らせる下りは、日本のイギナギ・イザナミ神にも共通する」
鞠亜「これはただの偶然ではなく、かといって両者に交流があった事実はない」
鞠亜「従ってユングは『人類はある種の「原型(アーキタイプ)」を持っており、そこから知識が流れ出る』と考察したんだ」
鞠亜「さっき言った孤島の例えであれば、煮立った鍋の中に浮き出る泡は、どれもこれも同じって事だね」
鞠亜「……尤も、最近じゃ人類を守るために不気味な泡も沸き立つようだけれど」
上条「……つまり?」
鞠亜「さっきからカレー鍋が噴きこぼれそうになっているよ?」
上条「面倒臭っ!もっと早く言え+ヤングの話持ち出した意味が分からねぇっ!?」
鞠亜「ユングだね。一応君は高校生だし、若い部類には入るけれど」
円周「あれ?当麻お兄ちゃんカンピオー○に出てなかった?」
鞠亜「それは仕方がない。人間は集合的無意識で繋がっているのだから、ある程度似通ってしまうのも当然さ」
上条「オイバカ止めろ!最近のラノベの主人公がどれもこれもテンプレ過ぎるとか業界批判するんじゃねぇよ!」
上条「作家さんは最初に企画書を作って出版社に提出しなきゃならないんだから、結局編集が無難だと思ったキャラしか通らないんだし!」
円周「あれもなぁ、ツンデレみたいにいい加減使い回しが過ぎると思うんだけどねー」
鞠亜「悪貨は良貨をなんとやら。まぁ私達には関係のない話だな」
上条「い・い・か・らっ!仕事をしやがれクソメイドとも!!!」
――帰り道 夜
円周「いやー、疲れたねぇ、お兄ちゃん」
上条「……お前は働いてないよね、そんなに?割とお客様を使役しているように見えたけど」
上条「俺は延々料理作ってたけど、いいのか?あんなんでギャラ貰って?」
円周「本人達も楽しんでたみたいだし良いんじゃないかな?」
上条「未来に生きてるよねっ!」
円周「ってロリコ○の人達だから、むしろ喜んでやってるんじゃ?」
上条「違うと思うよ?きっと、こう、あれだ!もっと純粋な気持ちでだな」
円周「連絡先、何人から貰っちゃったけど」
上条「貸しなさい?俺とマークで然るべき対応くとっから、ね?」
円周「若さが売れる時にしか、出来ない事ってあるよねぇ。どうやっても」
上条「だからお前女性を敵に回すようなだな。色んな人にケンカを売ろうってのは、控えよう?」
円周「あぁお兄ちゃんってミスコン廃止するのが正しいと思う人?それさーぁ、どう考えてもフェアじゃないんだよ」
円周「『女性を人扱いしていない』とか、『品評会なんて人権無視だ』とか、言うけど」
円周「でもそれってさ、結局『ミスコンをしたい女性』の意見を無視してるよね、って事なんだけどなぁ」
上条「あー……目立ちたい、的な?」
円周「お化粧とかする派?」
上条「しないけどな!男だ!」
円周「男の子でもするよ?モデルさんとか俳優さんとか、外見を売りにしている人は」
上条「それはそうかもしんないけど」
円周「ミスコンに出たい――まぁぶっちゃけ美人の人だって、外見にアグラをかいてるって訳じゃないんだよねぇ、これがさ」
円周「例えば日舞や洋舞、『どんな所作をすれば綺麗に見えるのか』って稽古は積んでいるだろうし、お洋服にだって気を遣うよね?」
円周「どんな美人さんだってダサダサな服着てたら、逆にキツいから」
上条「それが努力、なのか?」
円周「お肌のお手入れだってそうだし、お化粧しない人には分からないだろうけど、すっっっっっごくお肌に悪いんだ」
円周「『お肌の曲がり角』って聞いた事無い?三十路前ぐらいには『限界』になっちゃうアレ」
円周「けどしないと綺麗にならないから、する子はみんなするし」
円周「頭の良い子は勉強をして良い点を取れば褒められるし、かけっこの早い子が陸上部で一番になるのも良い事だけど」
円周「外見を綺麗さで計るのはダメ、ってのは納得出来ないよねぇ?」
上条「……んー?」
円周「まぁそう言うのは大体ブサイクな同性の妬みなんだけどねっ!」
上条「ただ今の発言はあくまでも木原さんちの円周さんの発言であり、私上条当麻は一切関係ありません!絶対だからな!」
円周「所謂先進国病の一つに『出生率の低下』があるよねぇ。あれってば実は『女性の社会進出』が問題なんじゃないかって説もあったり?」
上条「良い事じゃねぇの?男女の差無く働けるんだったら」
円周「まぁ確かに?仕事の何割かは可能だよ、それは絶対にね?」
円周「でも例えば一流のシェフとか、料理人には男性しか居ないんだ、分かる?理由?」
上条「男性社会だから、って事?」
円周「女の子は体温や体調が一定してないんだよ。だから『同じ味を出せない』って言われている。あくまでも通説だけど」
円周「他にも……そうだねぇ、ハイファッションの世界、モードは知ってる?」
上条「あー、ごめん。全然知らないっぽい」
円周「半裸の格好でキャットウォーク歩き回る見せ物ってあるじゃん、あれ」
上条「もうちょっと言葉選ぼうな?円周さんワザと言ってるよね?」
円周「いやぁここら辺はシェリーお姉ちゃんが詳しいんだけど、あれはあれでねぇ、うん」
円周「色々な疑惑とか、年相応のアレコレとか……まぁあるみたいだけど、まぁまぁ本題は別かな」
円周「出展するデザイナーの多くは男の人だよね。少なくとも分類上は」
上条「遠回しに『ゲイばっか』とか言わないでね?」
円周「そして子供は女性にしか産めない。そりゃ仕事を持って、自分だけで生活が完結しちゃえば結婚しなくていいよねっ」
上条「……何となく分かった、か?女性が社会に受け入れられるから、わざわざ結婚する必要がない、みたいな」
円周「まぁそれを理由に『結婚出来ない自分は普通だよ!』って思い込んでいる人も居るだろうけど」
上条「君さっきから全周囲にケンカ売ってるからね?」
円周「――で、最初の話に戻るけど、容姿だってある意味『才能』なんだから、個人が誇ってもいいんじゃね、的な」
上条「買ったり売ったりするのは論外だけど、まぁ出る本人が納得してれば良い、かな?」
円周「わたし的には専業主婦もいいかな、って――もうっ!お兄ちゃんったら言わせたがりなんだからっ!」
上条「結局それ言いたかっただけじゃねぇのか、なぁ?」
円周「ロ×だって今しか出来ないんだから、稼いだ方が得じゃないかなぁ?」
上条「稼ぎ方に寄るだろ。なんだっけ?子供が水着着てるのとか見ると、引くよ。マジで」
円周「あれはあれで枕を売ったり、朝まで演技指導受けたり大変な世界みたいだけどねぇ」
上条「お前もアレだろ?もうちょっと抑えないと『愛の戦士』を自称するオプションが装備されるんだからな?」
上条「世の中には子供――ぽいのじゃないダメー、的なのが結構居るんだから。主にアキハバラ」
円周「正当防衛って殺して良いんだっけ?」
上条「お前は俺が守るから!お前は絶対に手を出すな、分かったか!?」
円周「やだ、お兄ちゃんプロポーズ……?」
上条「緊迫感はそうかも知れないし、そこだけ抜き出せばそれっぽいけどなっ!」
上条「けど決してこの胸のドキドキはそんないいもんじゃないですよねっ!」
円周「両手両足へし折ってぇ、爪を一本一本剥がしてぇ」
円周「辛いけど、うんっ、とってもとっても辛いけど!」
円周「歯を引き抜いてから、傷口にシャープペン入れてぐちゅぐちゅさせたいなぁ」
上条「……たまーに思うんだけど、お前どこまで本気なの?」
円周「試してみれば分かると思うよ?」
上条「よぉっし!今日は一杯働いたからご飯が美味しいですよねっ!」
円周「わーいっ!」
上条「イギリス組二人が腹を空かせた肉食獣状態だから、早く帰ろうかっ!」
円周「シェリーお姉ちゃんがはぐれライオン、わたしが虎。レヴィちゃんは……んー?」
円周「オオカミ、っていうかジェヴォーダンの獣かな?」
上条「シェリー、オスのライオンは怠惰だし、分かる気がしないでもない」
上条「バードウェイの頭が良くて群れで狩りをするオオカミ……ノーコメントでお願いします」
円周「がおーっ、がおがおっ!食っべちゃうぞー」
上条「よせよせっじゃれるなよ」
円周「性的な意味でねっ!」
上条「よーっし!どっちが早く帰れるか競争だぁっ!」 ダッ
円周「待ってよぉ、お兄ちゃーんっ!」
――自宅
バードウェイ「遅いぞ馬鹿者が!」
上条「お帰りの代わりに罵声が来やがった!?」
円周「やったねお兄ちゃん!ご褒美だよ!」
上条「どうしてお前らは俺をド変態にしようとするの?仕様的な感じ?」
シェリー「からかって反応するのが悪いんだよ。無視しちまえ、無視」
上条「いやでも無視したらしたで、魔術とか肋骨の隙間を狙って抜き手とかがですね?」
バードウェイ「御託はいい。それよりも誠意を見せろ」
上条「……たまには自分で作ろうって姿勢はないのか、おい居候ども」
シェリー「イギリス料理で良いんだったら、するけど」
バードウェイ「おい貴様、その前置きは要らないだろ」
円周「あ、ごめんねー。今作っちゃうから、待ってて?」
上条「シェリーが作ってくれ」
円周「『イギリスの家庭料理を初めて口にした時の感想?そうだな、ホームステイ先で最初に頂いた際、こう思ったよ』」
円周「『自分はもしかしてこの人達の、大切な家族を殺めてしまったのではないか?』」
円周「――って前、留学していた知り合いの弟さんのメル友が言ってたよ、うん」
上条「どんだけだ?イギリス料理奥が深いなっ」
シェリー「いやぁ間違っちゃ居ないけどなぁ?一般的な料理が『煮る・焼く・蒸す』に対して」
シェリー「ウチは『煮る・煮る・煮る』って言われてるぐらいだし?」
バードウェイ「前にも言ったが清教徒革命の影響が強いとされている。侮辱はそこまでにして貰おうか」
上条「いや別にネタにした訳じゃなく、っていうかイギリスの人達は好きで食ってんだろ?」
上条「日本の納豆が海外で歓迎されないように、って確かスウェーデンでもシュールストレミングとか言うドギツい発酵食品あったっけ?」
バードウェイ「……まぁ、そうなんだがな。あとスウェーデンだからといって、必ずしもアレを食べる訳じゃないからな?必要に迫られてだ」
バードウェイ「あれはニシンを海水と共に樽詰めし発酵させる。要は冬の間の保存食なのだよ」
シェリー「緯度が高い所、特に極限じゃ生活が限られるわよね。イギリスもまぁ、それっぽい気がするな」
上条「燃料も食料も限られれば、当然豊かな食文化は育たないかー」
バードウェイ「そりこそお国柄もあると思うがね」
円周「――おまたせー、ご飯ですよ」
上条「あぁ悪い、ってかもう出来たのか」
円周「クラムチャウダーとマスの酒粕漬けを焼いただけだから。お野菜は煮込む前に電子レンジでちょいちょいっと」
上条「マス?サケの粕漬けじゃないのか?」
円周「マスはサケ科、っていうかサケとマスって境界が曖昧なんだよね」
上条「どういう事?」
円周「マスは英語でトラウト、サケはサーモンって言うんだけど、キングサーモンは日本語だとマスノスケって呼ぶし?」
バードウェイ「あー、アレだ。淡水種のをマス、海水種のをサケって呼んでいるんだよ。確か」
上条「あ、なんだ。違うじゃんか」
バードウェイ「けどマスノスケはサケと同じように小さい頃は海で育ち、成長すると川を遡って産卵するんだ」
円周「他のマス種でも同様の様式が見られたりするしねぇ」
上条「……はい?」
円周「うんまぁ?芝エビの偽造と同じで、『トラウトサーモン』って書かれているサケは、わたし達が『マス』って呼んでいるものだと思ってくれれば」
バードウェイ「結局、自分達が何を食っているのか分からなければ気にならない、ってヤツだからな」
バードウェイ「五つ星だろうが、高級食材であろうが、マズいメシはマズいって事だよ」
バードウェイ「ま、お前の食事は充分に美味いから気にするな」
円周「よっ、ツンデレ!」
バードウェイ「表へ出ろこのロリポップ女。小さければ何やったって許されると思うなよ?」
シェリー「お前らメシ食ってからにしろ。私も腹減ってんだから」
上条「シェリーさんもちゃんと止めてあげて!?この子達は本当に殺し合うんだから!」
※今週は以上です。思っているよりも仕事が忙しくて、有り難い事ではありますが
あぁアフター歳越します。鳴護さん&レッサーさんもその後という事で
乙です
来てたのか!!乙でした!!
乙です!
おー、いつの間に。乙
やっぱ貴方も貴方の書くSSも最高だ
田中(ドワーフ)は間違いなく神作者の一人だな
ギャグの面白さとキレが半端ない
>>1の才能と手腕に割とマジで嫉妬しちゃうぜ
――放課後 学校
円周「おっにぃっちゃーんっ!」
青ピ「カミやん、妹さん来とるでー?」
円周「いぇいっ!」
上条「……いやあの、妹を持った憶えは無いって言うか」
吹寄「大丈夫?メイド服を無理矢理着せられたりしてないわよね?」
円周「あ、これはお店の制服だからねっ。店長さんが宣伝してこいって――あ、パンプどーぞ?」
姫神「『上条家の家庭の味を再現してみました』……?誰得?」
円周「いやいや意外と好評だよ?懐かしいご家庭の味がするんだって」
青ピ「クレ○おばさん並に仕事を選びませんなぁ」
上条「そりゃお金貰っている以上全力でするだろ。メシに関してはオーナーさんが賄いを気に入ってくれたんだし」
姫神「賄いご飯?従食って言うんだっけ」
上条「雲川さん――メイドの先輩に食べさせたら、推薦してくれたんだよな」
青ピ「また新しいフラグ立てるなんてっ!……って雲川?くーもぉーかぁーわー?」
上条「近い近い、顔近いって」
青ピ「まさかっ――G(ドス)先輩がメイド服着とるんかいなっ!?」
円周「鞠亜ちゃんは妹さんだねぇ。カップはまぁ……平均的、かな?」
上条「……良かった……!お前にも少しだけ思いやりが芽生えたんだな……!」
吹寄「……号泣するほど?前はどんだけ?」
青ピ「よっしゃ!それじゃ今日は全員で行こか!」
円周「あ、ごめんねー?今日は臨時休業なんだ」
上条「じゃあなんでメイド服で来たっ!?俺の人生に波風立てて楽しいか、なぁぁっ!?」
円周「すっっっっっごくっ楽しいよねっ!!!」
青ピ「なんの曇りもない爽やかな秋晴れのような笑顔やっ……!」
姫神「……これが!『自分だけの現実』!」
吹寄「いや、人徳だと思う」
上条「吹寄さん、それはつまり俺に徳が無いって……あぁごめん。どうして視界がにじむんだろう。おかしいな、あははっ!」
円周「お兄ちゃんが弱っている姿を見るとゾクゾクするなぁ――じゃなくって」
円周「どうせこれ聞いたらお店に行くんだから、迎えに来たって訳さっ!」
上条「これって、どれだよ?」
円周「出たんだって、ストーカーさんが」
――放課後 メイド喫茶(※臨時休業中)
鞠亜「あぁやっぱり来たか、先輩――もとい。お帰りなさいませ、ご主人様」
上条「いやそりゃ来るだろ、つーか完全に読まれてた感がするんだけど」
円周「お兄ちゃんの性格はテンプレ的だからねぇ。もうちょっと外連味があってもいいと思うけど」
円周「薄い本みたいに『誰これ?』的な積極性をだねぇ」
上条「いやだから個人の妄想な?神様は確実に関係してない――よね?性格上、どっかのサークルにSS書いてそうな気もするけど」
上条「まぁ何にせよ放課後はやる事もなかったし、一応顔出してはみたんだけど
海原「ストーカー……ですか。嘘から出たナントカと言いますし、誤解から始まる関係もあるのではないかと愚考致しますが」
上条「そりゃまぁ無い事はないかも?まず接点がなければ絶対に始まらないだろうし」
海原「あぁっ!届けこの想い!『鏡の義足』の名にかけて!」
円周「それ確か人身御供を好む、ジャガーの神様だった気がするけど」
円周「余談だけど、『悪魔く○』に出てきたヨナルデパズトー○もテスカトリポカの化身の一つだからねっ!」
上条「あぁ他は何となく分かるんだけど、当時『誰?』って感じで見てた」
鞠亜「とはいえ、最初からストーカーしている時点で、可能性はマイナスに入ってると思うがね」
上条「……ちょっといいかな?俺、凄い事に気づいちゃったんだけど」
円周「なぁに?まだお茶も用意してないんだけど、座ったらどうかな?」
鞠亜「そうだぞ先輩。君はまだストーカーの詳しい話すら聞いてないじゃないか」
鞠亜「まさか姉でもあるまいし、『犯人分かっちゃったんだが、言っていい?ねぇ言って良いかな?』とは言わないだろう?」
上条「荒んでるよなー、雲川家。二人で金田○でも見てた時の話じゃねぇか」
海原「今、お茶を用意致しますから。あ、コーヒーの方がいいでしょうか」
上条「――違う!そうじゃない!俺が言いたいのはだ!」
上条「この中に――犯人が居る……ッ!!!」
円周「え?」
鞠亜「何を言っているんだい、急に」
海原「……へぇ、それは面白そうですね。是非とも聞かせて貰いましょうか!」
上条「いやあの『金○一の犯人候補っぽいリアクション』して貰ってる所悪いんだけど、お前だよな――海原?」
上条「っていうかストーカーって聞いた時から、犯人お前だって確信してたもの」
海原「――自分が?どうして?」
上条「っていうかさっきから気になってたんだけど、何でお前当然のように関係者として混ざってんの?」
海原「……成程。確かに盲点だったかも知れません」
海原「喫茶店に入り浸るちょいハンサムな好青年!状況証拠と言うかミステリ的にはよくある犯人像だと言えます!」
海原「だが上条さん!残念ですがあなたの推論は成り立たないのですよ!」
上条「つまり?」
海原「御坂さん以外をこの自分がストーカーする筈が無いじゃないですかあぁっ!!!」
上条「言い切らないで?なんつーか、確かに俺の予想は外れてたかも知れないけど、別件でアウトって事だよね?」
鞠亜「まぁ私達も最初は怪しいと踏んだんだけどね。まぁ、その」
円周「ぶっちゃけ『常盤台の娘さんストーカーしている以上、こっちまで手を伸ばせない』って事で納得したんだよっ!」
上条「そっかー、君らそれで納得しちゃったのかー」
海原「自分を甘く見ないで頂きたい!」
上条「お前もう帰れば?お前がハジければハジける程、オリジナル光貴君に迷惑かかるんだからね?」
鞠亜「待ってくれ先輩。ここは蛇の道は蛇、ストーカーにはストーカーの意見が有効だろう」
上条「一理あるけど……あるか?ないよね?そんなに有効じゃないよね?」
上条「変態って人種で括られているけど、その実態は様々じゃないかな?」
円周「まぁまぁ取り敢えず情報引き出してから、突き出せばいいんじゃないかなぁ?」
海原「ご心配なく!魔術で証拠は残していません!」
上条「軽々しく魔術言うな!……関係者しかいないから良いけどさ」
上条「――んで、真面目な話、何か事件でもあったのか?店長さんもいないようだけど」
鞠亜「店長はアンチスキルへ相談だな。周囲の警邏回数を増やして貰うよう、交渉に行くんだとか」
上条「そりゃまた素早い対応で、しかも常識的だな」
鞠亜「未成年の子を預かってる以上、下手は打てないそうだよ。今日だって臨時休業にしたし」
円周「まぁ……正直、事件っていう程、大した何かがあった訳でもないんだよねぇ、これが」
上条「大した事がないのは良いんだけど、そもそもどういう話なんだ?誰かが家に帰るまでつけ回されたとか?」
鞠亜「三日前の18時半頃、遅番で来た子達が店の前にいる人影を見つける――お茶をどうぞ」
上条「海原じゃねぇの?……ありがとう、つーか話しながらよく出来るな」
円周「『俺に毎日入れてくれないか?向日葵のチャペルでメイド服のまま式を挙げよう!』」
上条「遊んでんじゃありませんっ!真面目な話してるんですからねっ!」
鞠亜「というか幾ら何でも結婚式ぐらいはウェディングドレスを着たいのだけど」
上条「お前もお前で突っ込む所がオカシイよね?」
海原「では間を取ってお色直しで着る、という事にしましょうか」
上条「ドヤ顔で言うけど、大したアイディアでもないからね?てかご来場の皆さんドン引きだよ」
円周「それじゃわたしがメイド服で、鞠亜ちゃんが白無垢だねっ!」
上条「しないよ?どうしてお前に一緒に嫁いでくる気満々なの?どっちともしないからね?」
海原「憎しみで人が殺せれば……ッ!」 ギリギリ
上条「俺が望んだ世界じゃねぇし!?何か一回終わったのに無理矢理強いられている気がするんだけどなっ!」
鞠亜「見事な6連続突っ込みだな。流石は先輩」
上条「帰っていいかな?残念な子の相方やってた頃も喉枯らしてたけど、突っ込み一人の世界もこれはこれで大変なんだよ!」
円周「『まーさーにーっ!』」
上条「どうしたの?今度はどんな危険なペルソナをアクティブにしたの?」
円周「『(ここでボケてくださいっ――はいどうぞっ!)』」
上条「すぐそうやって無茶振りする所が特にねっ!君もこっちまで出張ってくんな!」
円周「『いやぁクリスマスSSで出れると思ったんですけどねー』」
鞠亜「お茶一杯でここまでアホ話を盛り上げられるのは、ある意味特筆に値するな」
上条「……あー、お茶美味しい……」 ズズズッ
円周「あ、お兄ちゃん現実逃避してる」
鞠亜「ではそのまま聞きたまえ、えっと――どこまで話したっけ」
海原「三日前まで、というかほぼ何も話していません」
鞠亜「その日、遅番の子が出勤する際、店の前に立っている人を見たんだ」
上条「たまたま、とか。知り合いと待ち合わせとかじゃねぇの?」
上条「店ん中、人多すぎてどうしようか迷ってたとか?」
円周「って話をバックヤードでしたら『あーうんうん!わたしも見た見たっ』って目撃証言が多数あったんだよねー」
鞠亜「彼女たちの話を総合するに、大体一週間ぐらい前からその人影は居たようだ」
上条「具体的な人相は?どんな男?ヤバめ?」
円周「暗いし、別に注意して見てたって訳じゃないからねぇ。『あぁそういえば居たかも?』って感じで」
鞠亜「昨日、君たちが帰る時はどうだったかね?尾行されたりとか?」
上条「いや、俺達はされてないよ。もしなんかあったら円周が襲いかかってるから」
円周「ぶいっ!」
鞠亜「その信頼の仕方もどうかと思うが……まぁ君はちょっとした魔獣並の野生を持っているしな」
海原「いいですよねっ!ケモノっ娘!」
上条「お前は黙ってろ。つーかイントラの辞書に『ケモノっ娘』って単語登録してんじゃねぇよ」
鞠亜「私もその話を聞いたのは昨日、君たちが帰ってから他の子が騒いでいるのを、ね」
鞠亜「それが……大体19時頃か?その時に確認してはみたが、特にそれっぽい人物は居なかった」
上条「……うむ。昨日の今日でこの対応か。随分素早いんだなぁ」
鞠亜「昨日の内から私が助言していたからね。当然だよ」
上条「そっかー、偉いんだなー雲川さん」 ナデナデ
鞠亜「き、気軽にフラグを立てるのは止めてくれないかなっ!?」
円周「駅前のドワーフさんみたいにフラグ乱造するよねぇ」
上条「駅前にあるハウスは違うよ?色々とマダオ的な人が集まってるから、近づくなよ?」
海原「あー、殺してー、あいつの幻想ブッスリ殺りてー」
上条「お前お前でヤサぐれてどうすんだよ。キャラ戻せ戻せ」
カランコロンッ
鞠亜「――ん?お客様?」
円周「あ、入り口鍵閉めるの忘れちゃってた――はーいっ、ごめんなさいねー、ご主人様―」 タタッ
上条「人気があるってのは有り難いけどなー」
鞠亜「――それで、だ。授業中の私の所へオーナー――店長から相談があり、取り敢えず今までの指示をしたと」
円周「無難すぎて退屈かも?もっとアクティブに攻めた方が楽しいと思うんだけどなーぁ」
上条「具体的には――っていいっ!何かオチは読めるからっ!」
海原「今のお客様はブヒ山君ですかね?」
上条「あいつ名前にもブヒ入ってたんだっ!?個性強すぎじゃねぇかな!」
円周「どこかの巫女さんが羨まがりそう――って別の人、てんちょーが不在なのでお店を開けられません、って」
鞠亜「店長だけに任せるのも無責任だと思ったので、ここは私が華麗に解決して見せようという訳さ」
上条「あー、だからこの『なんかあっても、取り敢えず自分の身は守れる』面子なのな」
鞠亜「ふっ!ストーカー如きサッパリと退治して見せようじゃないかっ!」
円周「鞠亜ちゃんも時々暴走するよね。結構な頻度で」
海原「天才の割に本音がダダ漏れなのは、割と致命的な気もしますけど」
上条「ともあれ主旨は分かった。店の子が狙われてるんだったら大変だよな」
海原「ですね!人を陰から追い回すなんて卑怯な行為を見過ごす訳にはいきません!」
上条「おーい円周!鏡持ってきて海原に見せてやってくれ!」
海原「自分は……あぁほら、日本にも夜道で現れる妖怪があるではないですか?足音だけ聞こえるが無害なの。そんなものだと思って頂ければ」
上条「それは妖怪べとべとさんだけど、お前は幼怪ペドペドさんだからな?有害だよな?」
鞠亜「仲が良いのは結構だが、そういう訳で手伝って貰えないかね」
上条「そりゃ当然。でも手伝うって他の娘たちの送り迎えしろって話?」
鞠亜「いや、それでは埒が明かない。こちらから打って出よう」
円周「あー、この展開は、うん」
鞠亜「誰がこの店一番の人気メイドか白黒つけようじゃないかっ!!!」
上条「主旨違っ!?」
※今週は短いですが以上です。次回は円周編ラスト、来週出来るかは微妙
乙です、毎度ここの>>1は安定の才能ですなあ
乙です
実に面白い…某有名人ジャナイヨ
……ん?おー、いつの間に。乙だぜー!
乙!!相変わらずキレてやがるwwwwwwwwww
過去作読んだけど円周ヒロイン二回目なんだね
ドワーフさんのお気に入りキャラだったり?
>>729
いやぁ、『帰らず村』は『座敷わらし』とネタ被ったから、出来ればなかった事にしたいだけです
――18時 メイドカフェ(※臨時休業中)
鞠亜「作戦は至ってシンプルだよ。まずストーカーが現れる。これは確実だろう」
上条「そう、か?店の子達が『それっぽいのを見た』ってだけで確定情報じゃねぇだろ」
上条「最悪『勘違いでしたー』、って可能性もあるだろうし?」
海原「とはいえ、ですよ。何か間違いがあってからでは遅いですし、今回の対応を以て十全とすればいいかと」
上条「なんつーかな。今までのやり方はそれで良いと思うんだけど」
上条「アンチスキルの警邏依頼やら、他の子達を休みにしたのはまぁ、妥当だわな」
鞠亜「と、いう流れで私が!この店の指名率ナンバーである私が!スッパリ囮になって華麗に解決しようじゃないか!」
上条「って宣ってる頭の良いバカを見るに、不安で不安でしょうがないんだが」
鞠亜「また私のプライドか傷つけられた!経験値が稼げるなっ!」
円周「鞠亜ちゃんテンション振り切ってるよねぇ。わたしが言うのも何なんだけど」
鞠亜「そもそも勘違いをしているようだが、この中で単純な白兵戦であれば私が一番強いんだよ」
上条「マジでか?」
円周「わたしは一敗してるからねぇ。確かにそこらの社会不適合社と一対一で殴り合ったら、まず負けないと思うよ」
海原「それはつまり多人数であれば話は別だ、と?」
円周「ボクサーや格闘家でも、ナイフ持った相手には負けるし、多人数じゃ余計に捌ききれなくなるから。ブタご主人様は?」
海原「自分は以前、ケンカで上条さんに負けていますから」
上条「あれお前、勝つつもり無かったじゃねぇかよ」
海原「さぁ、どうでしたっけ?」
上条「で、俺よりも強い円周に勝ってる雲川さんが一番、か?じゃんけんみたいな相性じゃねぇの?」
鞠亜「先輩の心配も理解はしているよ」
上条「そうか、だったらもっと自制してくれよ。主に、今」
鞠亜「私のような可憐で繊細な、時として手折りたくなるような美少女相手に劣情を催すのも致し方か無い事だ」
上条「そんな心配はしてねぇし、別件出すな。ってか話が完全に俺の性癖になってる」
円周「あと、お兄ちゃんの好みは年上巨乳かソフト百合だから、鞠亜ちゃんはほぼ射程距離外だねぇ」
上条「お前はお前で俺の黒征先生を汚すな!そんな目で見てたんじゃないよ!純粋な目でだよ!」
海原「あぁショタでも有名ですもんね」
上条「高校生でそっち行ったら終りだろうが。いや、否定するつもりはないけど」
円周「あれは否定するべきだよ?受け入れたらバカじゃんか」
上条「お前また問題発言を」
円周「だって『小数の例外』のために一々法律を変えていたら、最終的に『個人の欲求』にまでレベル落とさなくちゃならないから」
上条「はい?」
鞠亜「同性婚の次は一夫多妻が待ってるのさ『同性婚よりも更に少ない一夫多妻を認められないのは差別だ!』って言うに決まってる」
海原「おかしいですよねぇ。多数決前提の民主国家で、極々例外の少数派のために民法が改正される。それで益を受けるのは文字通り少数なのに」
鞠亜「一枚目の舌は『一票の格差』を憂い、二枚目の舌で『少数派の権利の優遇』を説く。何枚舌があるのか興味深い所ではあるが」
円周「あ、でもお兄ちゃん的には一夫多妻は望む所だもんねっ!」
上条「お前いい加減にしないとぶん殴るよ?」
円周「鞠亜ちゃんと一緒に末永くご奉仕します、ご主人様っ」
鞠亜「勝手に私をメンバーに入れないで貰おうかっ!ってか最近風評被害が多いんだけれど!」
円周「好きでもない男に初めてを捧げるなんて、はぐれメタ○倒すよりもレベルアップするよ?」
鞠亜「……」
上条「考えるなそこ。俺はどっちもお断りだからな」
円周「わたしと鞠亜ちゃんが絡んで、お兄ちゃんは見る係で?」
上条「……」
海原「真面目に悩まないで下さい。ってか上条さんが百合厨だとは……まぁ言われると、思い当たる点も?」
上条「無い無い!俺は至って健康的な一般人だ!」
円周「その一般人のカテゴリ、他に誰が入っているかは興味あるよねぇ」
海原「上条さんが一般人なのはご自身が保障されるとしても、それが正常かどうかはとてもとても」
鞠亜「まぁともかくだ、ちょっと行ってくるよ。そんなに心配なら君たちも音からついてくればいいさ」
海原「任せて下さい!こんな事もあろうかと店の周囲半径10kmの地図は頭に叩き込んでありますから!」
海原「ターゲットがどこを通ったらどの道を使えば先回りできるか、既にシミュレーションは完璧です!」
上条「お前それ絶対に違うよな?ストーカー側の発想なんだよなぁ?正直に言ってみ、なぁ?」
円周「内外に敵がいて不安だよねぇ、うんうんっ」
上条「……つーかさ雲川さん。君が強いってのも分かったし、先輩の妹さんだし、そこら辺考えても信用出来るけど」
鞠亜「だったらいいじゃないか。姉の信用する私を信用したまえよ」
上条「でも君は若い女の子なんだからな?あんまり無茶して欲しくないし、少しでもヤバそうだと思ったら直ぐに逃げるんだぞ?」
鞠亜「姉に叱られる?」
上条「そんな事はどうだっていいんだよ!同僚心配するなんざ当たり前だろうが!」
円周「あーぁ、やっちゃったかー」
海原「実質何日でしたか?」
円周「バイト始めて10日ぐらい。バゲージからすると一ヶ月かなー」
上条「――だから、さ?」
鞠亜「ん、んんっ!まぁまぁ、うんっ!分かったような、まぁ大丈夫だよ」
上条「その無駄な自信を止めろっつーのに」
鞠亜「……そうじゃない、そうじゃないさ」
上条「じゃなんだって」
鞠亜「危なくなったら、先輩が守ってくれるんだろう?なら、私は心配なんかしなくっていいって話さ」
海原「タイプ的にはバードウェイさん型ツンデレ、でしょうかねぇ」
円周「と、思うよ。レヴィちゃんもなんだかんだで尽くしそうなタイプだし」
海原「意外と独立志向の女性って、家族や身内への依存心が高いんですよねー、これが」
円周「そういうの好きなんでしょ、ギャップ萌え的なの?」
海原「相手に寄ります、としかお答えできかねます――と、まとまったようですよ」
鞠亜「――で、では、作戦のおさらいをしようか!」
円周「よっこのベッドヤクザ!」
海原「流石先輩、その調子でグレムリン全員デレさせて下さいよー」
上条「意味が分からねぇよ!あと海原、そのキャラ誰だ?」
海原「世の中には人知れず消えていくモブキャラが星の数ほど、えぇ」
鞠亜「取り敢えずこのノートパソコンを見てくれ」
上条「ライブ映像……あ、店の前の電柱――」
海原「――の、陰に居ますね。少年……?」
円周「アングルからして、これ街頭カメラじゃないの?」
鞠亜「こんな事もあろうかと、昼間の内にハッキングしていた!頑張った!」
上条「胸を張るな!お前も御坂も犯罪行為だって理解しろ!」
円周「『無い胸を張ったって余計惨めになるだけだぜ?』」
鞠亜「ぶっ殺すぞ先輩」
上条「明らかに俺じゃないでしょーが!?声も口調も何一つエミュレートしてなかったよねぇ!」
海原「もっと解像度を上げられませんかね。これでは暗くて人相が分からない」
鞠亜「出来なくはないが、すると『風紀委員』が駆けつける」
円周「あー……ずさんなツールで良くまぁやったねぇ」
鞠亜「時間がなかったし、本職でも無いからやっつけだな」
上条「んじゃ、こいつ今捕まえれば良いんじゃねぇの?見た感じ――カメラ振って、近くに共犯っぽいのもいないみたいだし」
円周「さんせーいっ!顔のツラ剥がそうっ、ねっ?」
海原「自分が言うのも何ですけど、妹さんの教育には注意された方が、はい」
上条「覚えか無いんだよっ!?俺確か一人っ子の筈なのに自称ボスや同居人が増えてだね!」
円周「後をつけるのはお兄ちゃんとご主人様で行ってね?わたしはお店から指示出すから」
上条「納得はしてないけど、分かったよ」
海原「今日もまた流されっぱなしですよねぇ」
上条「受け身をとらなきゃ骨折すると思うんだよ。最近そう思うようにね、うん」
鞠亜「辺り一帯のカメラの操作――は、言うまでもないか。じゃ、ちょっと行ってくる」
上条「ネタ抜きで気をつけろよ?相手は見えてる奴以外にもいるかも知れないからな?」
鞠亜「その時は、よろしく『お兄ちゃん』」 カランコロンッ
上条「五人目の妹が……」
海原「――お静かに。気を引き締めて行きましょう」
上条「あぁ――って店の前」
人影? ササッ
円周「おー、ちゃんと隠れたねぇ。結構素早いかも」
海原「……うん?」
上条「どうした?」
海原「あぁいえ気のせいですね。それより雲川さんが見切れてしまいます」
円周「も一つアプリ立ち上げてっと、分割画面でいいかな」
上条「それじゃ、奴が動いたら俺達も」
海原「ですね。あ、仕掛ける時は自分が合図しますから、逃げ道を絶つまで自制して下さいね?」
上条「了解!」
円周「……」
海原「……」
上条・円周・海原「……」
海原「……なんか、アレですね」
上条「……だよな。アレだよな」
円周「っていうかさ、もしかしてこれ、アレなんじゃないかな?」
上条「あー……やっぱり?」
海原「いや、でももう少し見てみましょう」
円周「んー、もう無理だと思うけど。距離的にも厳しいだろ」
上条「っていうかあの服で商店街歩ける雲川さんのメンタル半端ねぇな!」
海原「明らかに指さして笑ってる小学生と、『見ちゃいけません』ってしてるお母さんもいらっしゃいますし」
円周「まぁ『どこのお風呂屋さんから逃げて来たの?』って格好だし――って、もう良いんじゃないかな?」
上条「そう、だよな。もうそろそろ、頃合いだよな」
海原「ですね、はい」
円周「うん、うんっ!」
上条・円周・海原「……」
上条「連絡、誰が入れるって決めてたっけ?」
海原「いやぁしていませんよ。盲点でしたね、いやはや」
円周「あ、だったらお兄ちゃんが良いんじゃないかな?年長者だし?」
上条「俺かっ!?俺に汚れ役任せるのっ!?」
海原「自分はホラ、女性に優しいキャラですので、ちょっと、はい」
上条「お前もこう言う時に限ってそれはねぇだろ!つーか円周は?お前がナビするって約我だったんじゃ?」
PiPiPi、PiPiPi……
上条「あれ、俺の携帯?」
円周「鞠亜ちゃんに登録しておいたからっ」
上条「お前また余計な事をしやがったなぁっ!?」
PiPiPi、PiPiPi……
海原「それより鳴っていますよ?取った方が良いのではないですか?」
上条「お前も他人事だと思って!いいかっお前ら忘れないからなっ!?」 ピッ
上条「『もしもし?』」
鞠亜『先輩!先輩なのか!?』
上条「『あーうん、オレオレ。上条ですけど』」
鞠亜『聞いてくれ先輩!これはもしかしたら、私達大変な相手を敵に回したかも知れないんだ!』
上条「『そ、そうなの?へー、大変だなー』」
鞠亜『何を言ってるんだ!相手は相当な使い手だぞ!』
鞠亜『どうやったのかは知らないけど、気配の一つも感じられない!これは相手が相当場数を積んでいる証左だよ!』
上条「『あー、うん。それは感じないよね。そりゃあね』
鞠亜『すまないが姉へ連絡して欲しい!私の手だけでは――』
上条「『――雲川さん!』」
鞠亜『どうした?すまないが、緊急――』
上条「『待ってくれ!俺の話を聞くんだ!』」
鞠亜『それは――今、私を追っている相手よりも大切な事なんだろうか?』
鞠亜『場合によっては私が危険に――』
上条「『いいから聞くんだ雲川鞠亜!』
鞠亜『――!』
上条「『……大声を出して済まない。けど、それだけ大事な話なんだよ!』」
上条「『今言わなきゃいけないし!そしてお前は絶対に聞く義務があるんだ!』」
鞠亜『先輩……』
上条「『……どう、落ち着いた?雲川さん?』」
鞠亜『……鞠亜』
上条「『うん?』」
鞠亜『私の名前だよ。知らなかったかい?』
上条「『……いや、知ってたけど――鞠亜、それじゃ、言うな?』」
鞠亜『……あぁ!遠慮せず言ってくれ1私はなんだって受け止めてみせる……!』
鞠亜『それがどんなクソッタレな現実だったとしてもだ!』
上条「『あの、な。実は――』
上条「『――居ないんだよ』」
鞠亜『いない?誰がだ?』
上条「『だから、その、犯人っぽい人?……うん』」
上条「『今も店の前で様子を見てる、っていうかね』」
鞠亜『……はい?』
上条「『ぶっちゃけると。ストーカー、最初っからお前に興味なかったみたい』」
鞠亜『』
上条「『うん、だからね、その気配がないってのも、相手がどうって事じゃなくてだな』」
鞠亜『……』
上条「『覚悟を聞けるのは良い事だから、うんっ!だからテキトーに戻ってきて?な?』
プツッ、ツーッ、ツーッ、ツーッ……
円周「あ、切れた」
上条「……いいのかなぁ、これで」
海原「明らかに盛り上げすぎた方にも問題があると思いますけど、これはこれで経験値も上がるでしょう」
円周「しっかし盲点だったよねぇ。わたしも鞠亜ちゃん目当てだと思ったけど、よくよく考えたらあんなアイタタタなメイドさんは嫌だよねぇ」
海原「それに関しては否定も肯定もしません。ま、他の方の可能性もあって当然なんですよね」
上条「なんつーか、雲川さんが自信満々だったから、『そ、そうかな?』って流しちまってたしなぁ」
海原「それでは妹さんの線は無いのですか?」
円周「わたし目当てなら昨日のウチに着いてきてるんじゃ?一回もそれっぽい気配はなかったけどなぁ」
上条「普通従業員は裏口から出入りするのに、俺らはお客様が通る表口から通ってるから」
海原「なら当然ストーカーは見ている筈であり、見過ごされた可能性は低いと。ふむ」
円周「……うーん?何か引っかかる」
上条「ま、まぁまぁ取り敢えずは雲川さんだよ。今どうしてる?」
円周「えっと……カメラには自販機に黙々と蹴りを入れる姿が映ってるけど、どうしよっか?」
上条「何やってんだアイツ!?ちょっと俺回収してくるわ!」
円周「いってらー」
海原「お気をつけて」
カランコロン
円周「……むー?なんか引っかかるんだよねぇ」
海原「と、言いますと?」
円周「だってさ、普通従業員の子って裏口から出入りするよねぇ、普通は」
海原「えぇ、そうらしいですね。流石に場所までは存じませんが」
円周「えっと、店の北東側、お店の玄関とは反対側だね」
円周「もしストーカーさんがお店の子狙いだったら、普通はそっちに張り込むんじゃないかな、って」
海原「監視のしやすさではないでしょうか?リスクを考えて、と」
円周「だってほら、『お店の前だと全員監視出来ない』んだよ。別にお店の前を通らなくても、裏道からちょっと曲がれば入れるし」
海原「目当ての子がお店を通過するパターンと考えるのが順当。ですが、確かにスッキリしませんね」
円周「だよねぇ?第一さ、今日は臨時休業じゃん?」
円周「なのに一体『誰』を待って――」
円周「……」
海原「妹さん?」
円周「『……あぁ難しいこっちゃねぇだろ。つーか何?俺、銀○扱いなのかよクソッタレ。きっちり成仏させてくれっつーのに、ったく』
海原「……どちら様で?」
円周「『あぁ気にすんな。人格変えて別視点から推理ってぇだけの話だよ――ふーん?』」
円周「『キーワードは“店の正面を通り”、“店の玄関から出入りする”人物だってのは間違いない』」
円周「『ついでに“雲川鞠生以外、現在店に残っていた”人物。って簡単じゃねぇか』」
円周「『野郎の出没する時間は18時前後……あぁそうだなぁ、丁度だよ』」
円周「『丁度お前と「幻想殺し」が帰る時間とピッタリだよなぁ、あん?』」
海原「それじゃもしかして――!」
円周「『テメェは雲川に指示を出して商店街の方から走らせろ。俺達はこっちから走る』」
円周「『なんの事ぁねぇ、奴の狙いはメイドなんかじゃなく――』」
円周「『――上条当麻だって話だよ』」
――18時20分
上条「……」
上条(暗いなー、もうすぐ冬至だしクリスマスも――)
上条(まぁバードウェイ達と過ごすんだろうけど、なんかモニョる。高校生がこれでいいんかい、と)
上条(退屈はしないからいいっちゃいいんだけど、うん。まぁ退屈はね、退屈だけはね)
上条(連中のケンカに巻き込まれて命の危険を感じる……あ、でも不幸と幸運の量って釣り合うって言うじゃない?)
上条(なけなしのお金で買った年末ジャンボ、きっと当たってくれるよ!今年も散々だったし!)
タッタッタッタッ……
上条(うん?後ろから誰が走って来――)
PiPiPi……
上条「『海原光貴』……登録した憶えねーけど、『もしもし?』」
海原『そこから離れて下さい!奴の狙いはあなたです!』
上条「『……はい?お前何言って――』」
人影「……」
上条「『――オーケー、理解した、つーか無理っぽいわ』」
上条「『カメラで見えねぇかな?丁度今、俺の目の前に居るよ』」
海原『では今二人が向かっていますから!時間稼ぎだけでも!』
上条「『……いや、それはしない』」
海原『上条さん?』
上条「『人を追い回すなんて野郎!俺が腐った幻想ぶっ殺すからだよ!』」 ピッ
人影「……上条、当麻で合っているか?」
上条「テメェはっ誰だっ!?いったい何の用で俺をつけ回すんだよ!」
人影「……分からないか?そうか、お前はそうなんだろうな」
人影「わたしから奪っていったモノの大切さを!貴様が理解する訳がない!」
上条「奪った、だって」
人影「……いや、それはもう言うまい。過ぎた事だ、終わった事だ。だからわたしはお前を責めたりはしない」 スチャッ
上条「って言う割には、ナイフなんか取り出して穏やかじゃねぇなぁ、おい?」
人影「焦りもするさ。お前にわたしの心情など、わたしがどれだけ急いでいるか、わかる筈がないだろうとも!」
円周「お兄ちゃんっ、離れて!」
鞠亜「先輩!そこを退くんだ!」
上条「お前達は離れていろ!こいつは俺に用があるんだ!」
人影「拒否権はない。断れば、死あるのみだ!」
上条「そこまで……お前は、俺に一体何をさせたいんだよ!?何が目的だ!?」
円周「(鞠亜ちゃん陽動ヨロシクっ)」
鞠亜「(了解。しくじるなよ)」
円周「うん、うん……ッ!そうだよねっ、こんな時、『木原加群』ならきっとこうするんだよね……ッ!」
人影「それは――」
人影「――それは料理を教えて貰うに決まっている!」
上条「……うん?」
円周「……むぅ?」
鞠亜「……何?」
人影「……」
上条「……すいません、あの、良く聞き取れなかったので、もっかいお願い出来ますか?」
上条「出来れば単語を日本語以外でも表わしてくれると助かるんですが」
人影「料理だ!クッキング!理解が遅いな!?」
上条「いや知ってるよ?俺だって単語の意味ぐらいはね」
上条「つーかお前バカじゃねーのか!?たかだか料理一つ勉強するため、張り込みとかしやがったのかよ!?」
上条「料理教える教えないで人にナイフなんて普通は向けねぇだろうが!?」
人影「そうだが?」
上条「あ、ごめんな?本当のバカなんだな、疑って悪かったよ真性だもの、お前のバカは」
円周「んー……?」
鞠亜「いやいやっ!意味が分からない!」
海原「――ケガはありませんか、かみじょ――」
上条「……いや、ないけどさ。海原からも言ってやっ――海原?」
海原「ショチトル……」
ショチトル(人影)「ちっ……嫌なタイミングで現れたものだな」
上条「お前ら知り合いなのかっ!?」
鞠亜「なんか頭イタイが……取り敢えず全員、場所を移そう。路上で話すような話でもないだろうからな」
――19時 メイド喫茶
円周「――つまり、簡単にまとめると」
鞠亜「君の村で兄と慕う人物が学園都市で音信不通になったと。それで君が追いかけて来た」
上条「で、『何で帰って来ないのか?』と聞いたら『中学生大好き』と」
海原「言ってませんよね?そんな明確には言っていませんけどね?」
上条「海原、正座」
海原「……はい」
円周「でも最近じゃちょっと落ち着いて来たと思ったら、なんかメイド喫茶に入り浸っちゃった」
鞠亜「そこで君はこう考えたんだ――『ここは確か食事を提供する店、街頭で配ってたチラシには「上条家の味」と書かれている』」
鞠亜「『……そうか!兄はきっと家庭の味に飢えているんだ!』」
鞠亜「『でもきっと料理方法は店の命、教えてはくれない……なら味を作るコックを脅迫すれば!』と、だね」
上条「あー、だから俺を捕まえてどうこうって事ね、はいはい。ってかホントに頭イタイよな」
海原「あの、上条さん?妹の事はあまり悪く言わないで頂けますか」
上条「お前だよ?今、俺達が問題にしているのは、主にお前の素行だからね?」
海原「いやでも自分はホラ、『笛吹男』でも尽力しましたし、そこら辺を評価して頂ければな、と」
上条「してるよ?だからここで『メイドさんはぁはぁ』の意味を、俺らが詳しく説明していないんだからな」
上条「やったら確実にお前は刺されるから。あと、正座を崩すな」
海原「……はい、すいません」
キタ━━☆゚・*:。.:(゚∀゚)゚・*:..:☆━━━!!
ショチトル「……謝るつもりはない!」
円周「あ、いいんだよ?ショチトルちゃんは被害者なんだし、悪くないって」
鞠亜「レシピもまぁ、教えるのは教えるんだが――それで、根本的な問題は解決しないんだよなぁ、これがまた」
上条「どうしたもんかな、うーん?」
円周「血は繋がってないとは言え、家族の間の事だからねぇ?出来れば話しあって貰うのが一番だけど」
鞠亜「その内、誤解から私や店の子が刺されそうでもあるし」
上条「また逆に御坂が狙われる可能性もある、か」
海原「大丈夫!その時は自分が守りますから!」
上条「テメーは黙ってろ、な?それが問題だっつってんだろ」
上条「これ以上御坂にオプション増やしてどうすんだよ。今までは一応善意――まぁ、本人達は善意だろうけど、今度は殺る気満々だし」
鞠亜「困った問題だね。殴り飛ばして済むんだったら、そっちの方が簡単だった」
円周「えっと、ねぇショチトルちゃん?あなたもお兄ちゃんが大好きなんだよね?」
ショチトル「ち、違うっ!誰があんな奴の事なんか!」
円周「んー、そのお顔も本物じゃないよねぇ。汗のかき方が微妙だし、表情筋の動きが少し遅れる」
円周「整形、もしくは何か特殊な繊維質で出来た表皮を顔につけてる、どう?」
ショチトル「……貴様、何者だ……?」
上条「一応科学者、なんだっけ?」
鞠亜「論文も木原数多と共同名義で出しているな」
円周「だから隠しても無駄だし?あぁうん、否定するのは勝手だと思うけど、でもそれだといつまで経っても進展はしないからね?」
円周「……人ってさ、どんな結末が待っているとしても、それは前に進まなくちゃダメなんだよ。それは、分かる?」
ショチトル「……」
円周「良い機会じゃないかなぁ。多分今ここでも逃げ出していたら、次もズルズル同じ事になると思うよ」
上条「円周……」
鞠亜「成長しているんだな、君の妹さんも」
上条「先輩の気分が分かった?」
鞠亜「姉は……どうだろう?あぁみえて面倒臭がりだから」
ショチトル「……分かったよ、降参だ、私はそこの男を、慕っている、と思う」
海原「……ショチトル、あなたは」
上条「正座」
海原「……はい」
円周「――うん、よく勇気出して言ってくれたね。それじゃ――『処刑の時間だぜ』」
上条「おぅ?」
鞠亜「これは……『木原数多』か?」
円周「『話は聞かせて貰ったが、アレだろ?なんか今までもそれっぽい告白はしたんだよな?遠回しに言ってみたりとか』」
円周「『んで、その都度「妹だから」とか「家族だから」とか、言われてやんわりと断られてきたってぇ話だろ?なぁ?』」
ショチトル「そう、だが。よく分かったな」
円周「『あーうん、結論から言えばお前は充分にコイツの女として認識されてっから、心配すんな』」
海原「待って下さい!何を言ってるんですか!?」
円周「『いやいや、だって考えてみろよ。お前もし、スッゲー不細工な女から告白されたら、なんつーんだよ?』」
円周「『「あれ?生物学にはゴリラ・ゴリラ・ゴリラ?空○先生、○知じゃないですか?」的な超ブサイクがストーカーしてたら』」
円周「『そん時は「全く脈はありませんし、迷惑だからもう付きまとわないで下さい」って言うだろ?なぁ?』」
上条「あの……円周さん?なんか、こう、『感情を取り戻して、絆の大切さを熱く語る』ってコンセプトじゃないんですかね?」
上条「なんつーか、ぶっちゃけるにも程があるって言うか、嫌な予感しかしないんだけど」
鞠亜「予想していたのよりずっとハードなんだが」
円周「『嫌いな奴とか、もう一生関わり合いになりたくない奴にはなんだって言えるんだよ。それをしなかったってのは、この男が未練タラッタラの証拠だ』」
円周「『つーかな、多分お前の押しも弱かったんじゃねぇの?全裸で迫るぐらいは普通するぜ?』」
上条「しないよっ!?……しないよなぁ?」
鞠亜「その件については後から事務所を通して報告させて頂こうか」
ショチトル「……そうか、確かにあの時も!」
海原「だって家族ですよ!?そりゃ血の繋がりはありませんけど、一緒に育ってきた間柄なんですからね!」
円周「『血の繋がりが無ぇんだったら、そりゃただの幼馴染みじゃねぇか。何言ってんだよ、バカじゃねぇの』」
円周「『家族だからってのは、そいつぁテメェがこのガキを意識してるって裏返しなんだよ』」
海原「いえ、そりゃ好きですけどね?」
ショチトル「エツァリ……!」
海原「ですから家族として、って言っているじゃないですか!」
上条「海原、正座」
海原「……はい」
円周「『んー……あぁ成程成程、そいつぁお前「刷り込み」だなぁ。所謂「術式を使わない魔術」って奴だよ』」
海原「魔術……いや『原典』を持つ自分に、早々下手な魔術がかかっていたとしても、それは物の役に立ちませんが」
円周「『そうじゃなくってプラセボ効果の方だ。偽薬って聞いた事ぁねぇか?』」
ショチトル「薬だって言い聞かせて飲ませれば、ある程度効果が現れる、だったか」
円周「『察するにテメェらの集落だか共同体だかは、ガキはガキ同士集めて育てる。家庭よりかコミュ全体で教育する、ってぇ感じだろ。違うか?』」
海原「そうですけど、よく分かりましたね」
円周「『閉鎖的な結社には良くある話でな。あぁ文化人類学の話に飛ぶが、そういう集団じゃ年の近い連中を「兄弟」として育てるんだわ』」
円周「『そうして「共同体内の婚姻をタブーして刷り込み、血が濃くなるのを防ぐ」って寸法だわな』」
円周「『知りたい奴ぁ、フレーザーの『金枝篇』読んどけ……いやエリアーデの『世界宗教史』だっけかな?』」
ショチトル「言われてみれば……長老達は、そうだ!そうだったんだよエツァリ!」
海原「……」
円周「『って事でどうだ?そろそろ覚悟決めた方が良いんじゃねぇのか、「エツァリお兄ちゃん」よぉ?』」
円周「『つーかさぁ、そもそもの動機――なんだっけ?たまたま来た場所で現地の女に一目惚れするって有り得なくないか?』」
上条「……いやそれ言ったら、うん。神様のパワープレイも程々にしないと」
鞠亜「イングランドはクリケットの発祥地なのに、何故かラクロスを得意とする魔術師とかな」
円周「『そいつも実の所、「妹を振り切るための方便」にしか見えねぇがね、俺には』」
海原「……あなたに、自分の何が分かるって言うんですか!」
海原「自分の信念が曲がる事はありませんから。何を言っても無駄です!」
円周「『え、マジで?良いの?本当に?絶対だな?』」
海原「えぇはい、時間の無駄だと思いますがね」
円周「『だったらこっちのガキ、上条ファミリーに入れても良いんだな?』」
上条「俺に飛び火しやがった!?つーか何で俺の友達になるのが罰ゲーム扱いになってんの!?」
海原「ダメに決まってんだろ!不幸になるのが分かってる相手の所に行かせられるか!」
上条「お前もお前で俺の評価が最低じゃねぇか!?つーかキャラ忘れるぐらい嫌か!?」
鞠亜「……ぬぅ、なんという説得力!」
上条「雲川さんは後でお姉さんに一部始終を教えとくから、一生ネタにされ続けるといいよ」
円周「『……ナニソレ?勝手じゃね?つーかそれもう肉親じゃねぇよなぁ、どう考えても彼氏みてぇな感じじゃね?』」
円周「『俺がどうこう言うのは筋違いだとは思うがね。最終的に決めるのはテメェら同士の話だよ』」
円周「――まぁ、男なんて全裸で押し倒せば大抵イケると思うよ?」
上条「シメがその言葉って有り得ないだろうが!?つーかお前他人事だと思って好き勝手言うんじゃねぇよ!」
ショチトル「……分かった。うん、エツァリの気持ちも」
海原「いやですから、これはあくまでも親愛の情でしてね」
上条「海原―?」
海原「……正座ですよね、はい」
鞠亜「うん、君も分かってくれた、のかな?」
ショチトル「あ、料理は――」
円周「あ、暫くキッチンで働けば良いんじゃ?お兄ちゃんが教えてくれるだろうし」
海原「ダメです!この悪魔のような男に近づいては!」
上条「……俺、そこまで言われる筋合いは無いと思うんだけど。特に、お前にだけは」
円周「当麻お兄ちゃんは結構他の人も助けてるけど、こっちのブタ野郎ご主人様は結構身勝手だよね、うん」
海原「そうは言いますけど、ここじゃ言えないような所で活躍してますからね?白いのとかクソメガネとか露出狂女パーティの常識人として」
上条「でも妹さんほったらかしにしたのはダメだろう。つーか正座」
海原「……これ地味にキツいんですが」
鞠亜「……あぁじゃ監視でもしたらいいじゃないかな。幾ら先輩でも、ご父兄が近くにいる状態で押し倒したりはしないだろうし」
上条「なんか今日一日で友達だと思ってた人達の本音を聞いて、俺人間不信になりそうなんだけど……!」
円周「あ、じゃあみんな殺そうか?今度は上手くヤるからっ!」
上条「お前はお前で身勝手過ぎるよっ!?」
――19時 帰り道
円周「楽しかったね、お兄ちゃん!」
上条「……いや、他人の修羅場に巻き込まれてその発想はない」
円周「え?他人の不幸だから楽しめるんだよ?」
上条「お前の情操教育も着々と失敗してる気がすんだよなぁ、これが」
上条「バードウェイとかシェリーとか、どう考えてもアレな人間しか居ないってのも」
円周「じゃ、お兄ちゃんの知り合いで人格者はだぁれ?」
上条「あー……小萌先生、かな?」
円周「わかったよ!その人を『他者再生』すればいいんだねっ!」
上条「わかってねぇ!何一つ理解してないし!」
円周「まぁまぁ冗談はともかく、あの二人上手く行くといいよねぇ」
上条「とは思うけどさ。ってかよく分かったな、あいつらの環境だなんだ、刷り込みってのも」
円周「ううん、全部ハッタリだけど?」
上条「うん、何となく知ってた。つーかボスに鍛えられた」
円周「でもエナリって人も大概だと思うよ、わたしのブラフで動揺するんだったら、その程度の想いだったって事だしねぇ」
上条「エツァリな?超ベテラン俳優さんじゃないからね?」
円周「あー、でもさ。こうも思ったり?」
円周「わたしも嘘を吐いたけど、もしかしてそれがアタリだったのかもしんないけど」
円周「あの二人がお互いを大事にしてる、ってのは本当だよね?ねっ!」
上条「それは……うん、間違いないだろ」
円周「だから、ホラ少しぐらいズルしちゃっても、それは結局近道を通っただけであって」
円周「少しだけ目的地に着くのが早くなったってだけだと思うよ、うん」
上条「嘘を吐いても?」
円周「二人が最終的に幸せになるんだったらいいんじゃないかな?」
上条「……うーん?肯定はしないけど、否定も……むぅ」
円周「フレーザー云々も、術式じゃない魔術ってのも全部デタラメだけどねー。二人が『納得する言い訳』になってくれれば、って」
上条「嘘も方便、か?」
円周「事実だけが人を幸せにするとは限らないし、逆に嘘だって本人同士が良いんだったら、ね?」
円周「わたし達もあぁなりたいなぁっ!お互いを支え合うよな関係にっ!」
上条「お前も懲りない、つーかブレないよなぁ――円周?」 ギュッ
円周「お兄ちゃんの足りない所、欠けてる『筺』は見つかったの?」
上条「俺がか?」
円周「もし無いんだったら、わたしが――埋めるとか、ダメかなぁ?わたしじゃ、足りない?」
上条「あーしたなぁ、そう言う話も。お前は、どうなんだよ?」
上条「お前の『筺』はガラクタで一杯になったのか?」
円周「……最近忙しくて、忘れちゃった」
上条「……そか、うん。まぁ、それもいいんじゃねぇのか」
上条「人だの筺だの、よく分からない話だったけど、それはまぁそれで」
上条「――寂しさを忘れっちまうぐらいに満たされてるんだったら……うん」
円周「……やっぱりね、当麻お兄ちゃん大好きだよっ!」
上条「おいおい、あんまひっつくなって――あれ、この展開どっかで?」
円周「性的な意味でねっ!」 ギリギリギリッ
上条「だからお前、そーゆートコ全っ然反省してねぇじゃねえかよおおおぉぉぉっ!?」
上条「しまった!?今日は最初から腕組んでるから逃げられない!?」
円周「がおー、たべちゃうぞーっ!」
――断章のアルカナ・アフター 『円周編』 -終-
※……あぁ疲れた。この後は感情が乏しいと言いつつ、少しは他人にも興味を持ち始めて、社交的になっていく……と思います
ともあれ4月に投稿を始めて早8ヶ月、私の駄文にお付き合い下さった方に深い感謝を
年内の投下は今日で終了と相成ります
次は年明けバードウェイのアフターっぽいの書いて、鳴護さん+レッサーさん達がヒロインの予定と
あぁ後言葉が足りませんでしたが、『新たなる光』のベイロープ・フロリス・ランシス達がレギュラーとして出るのは確定です。つか護衛的に出ないと枚数が足りない
けど主役――と言うか、それぞれをヒロインに据えてシナリオを作るかは、悩んでいます
私の書いたフレンダさんみたいに「誰これ?」ってのが、はい
あと過剰に褒めて下さる方がいて嬉しいのですが、私の頭イタイ自作自演にしか見えないので、えぇ。出来ればその、適当にお願いします。適当に
評価頂けるのは嬉しいですけど、私も言う程読み込んではいませんし。あぁ勿論キャラを似せようとはしていますが
例えば……絹旗が滝壺を呼ぶ際、「滝壺“さん”」って言うのに気づいたのはS始まってから
また『アイテム』書き終わってから、ダベってる場所が『喫茶店じゃなくファミレスじゃね?』とかも結構あるので
今年も色々ありましたが、来年も宜しくお願い申し上げます。それでは良いお年を
……年末ジャンボ、当たるといいなぁ
乙!面白かった!
次も期待して待ってる
大変素晴らしゅうございましたッ!!!
乙
円周回はいつもええ話やでぇ
バードウェイ回も楽しみにしてるぜ
――先行試作版――
(※設定は予告無く変更される事が、事が事が事が――)
「いぁいぁ、『Only Teasing』だからだよ。言わせんな恥ずかしい」
――某音楽番組
ヅラ「はい、次は初登場ARISAちゃんです」
ヅラ「えっと、ライブ会場のARISAちゃーん?繋がってますかー?」
鳴護『はい、こんばんはー……え?違う?おはようございます?』
ヅラ「髪切った?」
鳴護『あ、いや特には切ってないです』
ヅラ「シングルでミリオン達成だって?すごいんだねー」
鳴護『ありがとうございます。応援してくれた皆さんのおかげです』
ヅラ「髪切った?」
鳴護『切ってないです』
ヅラ「まだ学生さんなんだよね。どう、勉強もしてる?」
鳴護『ボチボチですかねー。選択問題は強いんですけど、筆記問題は得意じゃなくて』
ヅラ「髪切った?」
鳴護『切ってないです。っていうか「似合ってない」って言われてるんですか、あたし?』
アナウンサー「――はい、曲の準備が出来ました。ARISAさんどうぞー」
鳴護『あの、基本髪切った話しかしてないんですけど……』
ヅラ「はい、という訳でARISAさんの新曲――」
ヅラ「――『髪切った?』」
鳴護『切ってないです。あと曲の名前と違いますし、順番間違えてるんじゃ?』
桂「ヅラじゃない桂だ」
ヅラ「おい今の声なんだ?どうやって潜り込んだの?」
――クリスマス LIVE会場
チャンチャンチャンチャンチャンチャンチャンチャンッ
鳴護『――世界が一つであった時代、私達は何を考えただろう?』
鳴護『世界が二つ出会った時代、私達は何を求めるのだろう?』
鳴護『神様が意地悪をして、私とあなたを引き離したけれど――問題はない』
鳴護『だってもう心を伝える方法は知っているから』
ワァァァァァァァァッ……
鳴護『私達が子供の頃、もどかしく考えてなかった?』
鳴護『うん、それはきっと今では答えを見つけている――その手に』
鳴護『――世界が一つであった時代、私達は何を考えただろう?』
鳴護『世界が二つ出会った時代、私達は何を求めるのだろう?』
鳴護『言葉は要らない。手を伸ばせば届くよ』
鳴護『この世界にまだ言葉が無かった時代にも愛はあった』
鳴護『――そう、そのまま抱きしめるだけで……』
ジャジャァァンッ………………
ワアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!
鳴護『――はい、って言う訳でテレビ中継は切れちゃったみたいです。電波が悪いのかな?』
鳴護『けどライブはまだまだ終わらないから、安心してねー?』
ウォォォォォォォォォォォォォッ!!!
鳴護『――みんなーーっ、あたしのライブに来てくれてありがとーーーーーーーっ!』
鳴護『「クリスマスぐらい大事な人といようぜ」、ってあたしの大先輩は言ってたけど』
鳴護『あたしも大切なファンのみんなと一緒で幸せだよーーっ!』
ファン『おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』
浜面「あっりっさ!あっりっさ!」あっりっさ!」
ファン『あっりっさっ!あっりっさっ!あっりっさ!』
鳴護『でも来年ぐらいは好きな人と一緒にいたいかなー、なんて?』
鳴護『どう?ダメ?アイドルが恋しちゃうのはNG?』
浜面「上条もげろ!」
ファン『もっげっろ!もっげっろ!もっげっろ!』
鳴護『えっと、個人名を出すのはちょっとアレだよね。うんっ』
鳴護『みんなー、恋はいいよ?好きな人に好きだって言えるんだし』
鳴護『こんなに良い事って他にないよ。うん、ほんとにっ』
浜面「好きだーっ!結婚してくれーっ!」
鳴護『……さっきから彼女持ちさんの声がする気がするけど、メイスクリーン見て?』
浜面「おぅ?」
鳴護『MC中のアレコレがカメラで抜かれて、世界にLIVE発信されてるんだけど。いいのかな?』
浜面「やだ撮らないでっ!?」
鳴護『それじゃ、次の曲行くよーーーーっ!』
オオォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!
鳴護『曲名は――』
――あるファミレス
滝壺 ガクガクガク
絹旗「なにやってんですか、超何やってんですか浜面。滝壺さん置いて一人でライブなんて超有り得ないでしょう」
麦野「ま、常識的に考えりゃペアチケット取る筈が一枚しか当たらなくてさ。それでコッソリ行ったとかじゃないの?」
絹旗「……むぅ。確かに鳴護アリサのクリスマスコンサートは超プレミアですけど」
麦野「だからって彼女置いて行くかよ?あのクソったれ、帰ってきたら顔面無くすまでぶっ飛ばす」
滝壺「……かめらに抜かれているのに、必死に百面相してごまかそうとしている」
絹旗「これはこれで超面白そうですね。あ、超録画してツベにアップロードしましょう」
麦野「つかこれ学園都市の……どっかの学区からの生中継なんでしょ?」
絹旗「ですね。タ○さんの音楽番組中継は超途中でキレてしまいましたが」
麦野「電波障害、か?変な声も入ってたみたいだし」
絹旗「ま、学園都市の有線の超強度と比べるのは酷でしょう……って、滝壺さん?」
滝壺「……これ、なに……?」
麦野「どうしたのよ、凄い汗――滝壺?滝壺っ!?」
滝壺「暗い暗い海が見える……その淵には最果てが無く、ただただ赤黒い白い緑の葉っぱが敷き詰められて――」
滝壺「――海から押し寄せるのは――違う!あれは、あれは――っ!」
絹旗「超落ち着いてく――い!」
滝壺「押し寄せるんじゃ、ない!違う、違、血が、地が、智が!」
麦野「救急車を――早く――!」
滝壺「――海より帰り来たる。慟哭と怨嗟と、赤子の泣き声、それは――」
滝壺「――凱旋、だ」
――同時刻 XX学区 コンサート会場 来賓用駐車場
完全防音を謳うコンサートホールにして野外音楽堂でもあるライブ会場。
しかし鳴護アリサの歌声は、人工的に調整された音の流れを無視し、僅かながら会場周辺にも漏れ聞こえていた。
時として多数のクレームで回線がパンクする程、ホールの苦情係は激務であるのだが、今日に限っては楽なものだった。
プレミアチケットとなった招待券がないのに、微かにではあるがおこぼれにありつけた。感謝こそすれ、クレームが入る気配すらなかった。
野球やサッカーの試合が行われているのであれば、適度に“市民の声”を捌く必要があったのに、随分と現金なものだと軽く思っていた。
しかし、それは暫くすると一つの疑念に思い当たる――「静か“すぎる”のではないか」と。
ホールの外を通る車の影も、出待ちかチケットを手に入れられず、未練がましくたむろしている人影も。
普段、普通にしていれば嫌でも目にする影が、当たり前のように存在する雑踏や人の生活音が、何故かポッカリと欠けていた。
今日はクリスマスイブ。冬至も過ぎたばかりだと言うに、得体の知れない恐怖が背筋を這い上がり、暑くないのに汗がぐっしょりシャツを濡らす。
気のせいだと言い聞かせても、どうにも不安で不安で溜らなくなってくる。
『――あー、コーヒーでも買って来るわ』
そう言って出て行った同僚の姿は、未だにあるべき所に帰ってきてない。
所か、休憩時間を大幅に過ぎ、これ以上ないほどに怠慢――。
いや――怠慢なのか?もしかして、得体の知れない何か、よりにもよって鳴護アリサのコンサートの日にたまたま当番になったため、巻き込まれたのではないか?
人影が誰一人と見えず、また同僚も某かのトラブルに襲われてどこかへ消えてしまったとか?
そう思って、警備員か誰か、とにかく人の居る所まで出ようと思い、部屋を後に――。
「……ァ」
バタン。
「あっ、す、すいませんっ!」
部屋のすぐ前に誰かが突っ立っていたらしい。思いのほか勢いよくドアを開けたせいで、相手を転倒させてしまったようだ。
その証拠に半分開いたドアから上半身と下半身が見える。
あぁなんだ、その制服は同じ従業員の同僚のもの。丁度帰って来ていた所に、たまたまぶつけてしまったのか。間が悪い。
「え、っと。どうし、た――」
上半身と下半身?……どうして、それが、別々にあるのだろうか?
普通は、一般的には、それは別セットで数えられるものじゃない。必ず二人で一つ――と言うか、分けては存在しない。出来ない。
けれど、ここから見えるパーツ達は明らかに別の方向を向いていて。
上半身は壁にぶつかり、下半身は床に転がり――あぁ、これはそうか。
同僚の体は、上下に引き千切られていた。
「ひっ!?」
「……ぁっ、ぁっ」
まだ生きているのだろう。壁に寄りかかったまま言葉にならない言葉を紡いでいる。
血の痕が水溜まりを徐々に作り、そこかしこに考えたくもない赤黒い何かが飛び散っていた。生理的にとても受け付けない血臭に胃液が上がってくる。
「く、ぷっ……!?」
ダメだ、まだ、ダメだ。吐くのは後からでも出来る。今は少しでも早くこの状況を伝えなければいけない!
警備員でもアンチスキルでも良い!通報が早ければ同僚の命も助かるかも知れない!
だから、ただ、早く……!
慌てて部屋に駆け込み、内線用のアナログな電話を取り――音が、しない。
カチャカチャと適当にボタンを押しても、受話器からは何の反応も返っては来なかった。
次に私物の系帯電を取り出して、耳に当て――やはり音はしなかった。これは、どういう。
ふと、思いつく。“そういえば”と。
少し前に行われてたテレビ中継がぶつ切りになった。それは外部の何かが原因だと思っていた。
けれど、それは、違う。
“あの時から既に、ここで何かが起きていた”のではないだろうか?
大規模なテロとか、暴走した能力者だとか、反学園都市の組織とか。
だとすれば、ここにいるだけで、危険だ。これ以上踏み留まるべきではない――そうだ!自分には異常を外部に知らせに行かなければいけない!
そう自分に言い聞かせながら、変わり果てた同僚の側を通――。
「――オイ、そこで何をやってんだ!?」
第三者の声にビクリとしながら、“そういえば”と再び思う。
どうして同僚が殺されてる必要があったのか?
どうして自分は殺されなかったのか?
血溜まりが“広がりつつあった”のを察するに、同僚が部屋のドアを一枚隔てた外で殺されたのは間違いない。
ならつまり、そこまで犯人は来ている。
この、目の前にいる少年の所までは。
上条「――聞いてんのかよ!?こっちに人が倒れてんだ!アンチスキルを呼んでくれって!」
上条(こっちの……あぁ、手遅れか。息をしてない以前に、この血溜まりじゃ)
社員「あ、う……ぁぁっ!」
上条「アンタ、おいっ!?待てよっ!」
社員「お、お前は何なんだよっ!?ソイツみたいに殺すのか、なあぁっ!?」
上条「あぁ!?」
社員「お前がやったんだろ!?お前以外に誰もっ!」
上条(錯乱してやがる……無理もないけど)
上条(バゲージでの経験がなかったら、俺も似たようなもんか)
上条「落ち着いて考えろよっ!俺がもしお前の同僚?かなんかを殺してたとして、わざわざお前に話をする意味がないだろ!」
上条「第一俺はお前みたいに汚れてないし!返り血を浴びずに、どうこう出来るってのか、あぁ!?」
上条(……人体切断なんて、能力か魔術で簡単に出来るとは思うけど、まぁそれ言ったらどうしようもないしな)
社員「あ、あぁ」
上条「だったらそのまま聞いてくれ!俺はこっちから近寄らない、良いかっ!?」
上条「取り敢えず何があったんだよ?コイツは誰に殺されたんだ!?」
社員「わ、分からない!ソイツがコーヒー買いに行って、戻ってこないから探しに行こうと思ったんだ……」
社員「そ、そうしたら、ドアの前で!」
上条「アンチスキルに通報は?」
社員「出来なかったんだよ!有線がダメ!携帯もダメ!一体何がどうなってるんだ!?」
上条「落ち着けって!俺もよく分かってないんだから」
社員「お前は、誰なんだ……?」
上条「俺はバイトで観客誘導してたんだけど、コンサート始まって休憩室――ロビーの脇んトコでテレビ見てたら、急に電源が落ちてな」
上条「何かホールは無事なんだけど、こっち側の施設がダメになったみたいで。手分けして見回ってる最中だよ」
社員「明かりが?気づかなかった……」
上条「……何?」
社員「こっちはずっと電気は点いてるぞ……?」
上条「点いてる、って……?お前、そりゃおかしいだろ」
社員「な、何が?」
上条「――こっち“も”真っ暗じゃねぇか」
社員「……はい?」
上条「俺がマグライト持ってくるまで、照明なんて無かったんだぞ?今だって、ホラ」
社員「……」
上条「つーかお前、電気が完全に消えて、真っ暗闇になってんのにさ」
上条「何をどうやったら、お前の相方が死んでいたって事が分かるんだ?」
社員「見え、るだろう?ほらっ!電気なんか消えてない!」
社員「そこに壁に持たれているのは上半身で!床に転がっているのは足でっ!」
社員「お、俺は外へ出ようとしたら、ぶつかって!それで驚いて!」
上条「……そうか。それじゃもう一つだけ聞いても良いかな?」
社員「な、なんだよっ!?」
上条「今の話から察するに、アンタはこっちの人に指一本触れてないようだが――」
上条「――だったらどうして、アンタの体は返り血で真っ赤に染まっているんだ?」
社員「……」
上条「内線が通じないのは当然だ。だってさっきからずっと停電してるんだからな」
上条「非常灯の明かりもここには届かないのに、どうやってアンタは俺を“視て”るんだよ!」
少年の指摘に息が詰まる。欠損していた記憶が甦る。
同僚は確か気の良いヤツで、喉が渇いたと呟いたのを聞いて自販機へ向かったんだった。
けれど自分はその行為を無碍に踏みにじり、蹂躙し、ハラワタに顔を埋め。
香しい血の臭い。恍惚とした一時を過ごしたのではなかったのか?
“そういえば”と三度思う。
「帰らなきゃいけないんだった――海へ」
上条「お前――クソッ!」
上条(皮膚が――鱗?急に緑色になりやがった!)
社員「ゲゴゴゴゴゴゴゴゴゴっ!」
上条「よく分からねぇが――ぶん殴れば!」
パキイィンッ!
上条「ふう、これで元に戻る――ら、ない!?」 ガッ
社員「――ッ!アーァァァァァァァっ!?」
上条「何でだよっ!?どうして元に戻らな――」
少女「――はい、ちょっと失礼しますよっと」
サ゚ンッ!
上条(俺に飛びかかろうとした男は、その勢いを逆に利用されて、カウンターで突き出された“槍”に頭を貫かれる)
上条(人間の頭蓋骨よりも、もっと歪で鋭角が目立つ骨格を突き破り、槍は深々と突き刺さった)
社員「……あ、ギ……ゲゲ……」
上条(ほぼ即死だったのか、数度体を痙攣させると社員――だったモノは地面へ倒れる)
上条(乱入してきた第三者にライトを向けると、こっちが頼んでもいないのに自己紹介を始めやがった)
少女「いつもニコニコあなたのお側に這い寄――」
グリグリグリグリグリッ
少女「痛いイタイ痛いいたいっ!?ちょっ、ジョークじゃないですか、ジョーク!」
少女「場を和ませるためにとっておきの持ちネタをですね」
上条「……何やってんのレッサーさん?つーかお前ここ学園都市なんだけど」
レッサー(少女)「折角ネタを決めようとしたのに、ばっさり切られた!?……あ、すいません真面目にやるんで、マグライトでグリグリはちょっと」
レッサー「まぁオシオキ(性的な意味で)ならバッチ来い!……あ、でも最初は流石に道具はプレイはちょっと」
上条「非常事態だっつーのに!つーか何だよコイツ!?」
上条「真っ暗な所でも平気でウロウロしてるわ!急にウロコだらけの姿になるわ!何なんだっ!?」
レッサー「はぁ、『深きものども(ディープ・ワンズ)』ですねぇ。いやー、まさか実在するとは」
上条「いやだから簡潔に頼むっ!」
レッサー「まぁアレですなー。ぶっちゃけ今度の敵は――」
レッサー「――『クトゥルー』なんだぜ?」
――とある魔術の禁書目録SS -胎魔のオラトリオ(仮)- -現在構想中-
※途中でバックレたら、ごめんね (´・ω・`)
即興で書いてみましたが、まぁこんな感じかなー?ちょっと暗すぎるかも
それでは改めてまた来年
乙です
浜面wwwwwwwwwwwwww
乙です
乙
楽しみで仕方ない
バードウェイのアフターも
もうマジパネェ超パネェ
その文才が欲しい
あけましたね~おめでたいよ~~♪ 皆今年もよろしくね!
……よーし、頑張って生き延びるぞー!!
新約のキャラをバンバン出して下さるから有難いわ
>>1殿!今年もよろしくお願い致します!
――断章のアルカナ・アフター 『バードウェイ編』
――『明け色の陽射し』極東支部 夕食後
バードウェイ「――さて、諸君らに集まって貰ったのは他でもない」
上条「……何?急にどうしたんですか、ボス」
バードウェイ「非常に全く極めて遺憾な事態が発生してしまった事を報告しよう」
上条「またかっ!?またどっかの魔術師が攻め込んで来やがったのかよっ!?」
円周「うん、うんっ!全っ然、全然気は進まないけどっ!新手の顔を剥ぐ毎日が帰ってくるだよね……ッ!」
上条「やだこの子反省してない」
シェリー「ってかどう見ても嬉々としてる……つーか鬼気、かぁ?」
上条「お前ら何なの?どうしてそう好戦的なの?話し合いでどうこうしようってハラはねぇの?」
バードウェイ「武器を突きつけられた上、中指を立てて『仲良くしようぜ!』と言う人間は取り敢えず敵だと割り切る事にしている」
バードウェイ「生憎、それで困った事もないがね」
上条「つーかまた敵なの?俺がまた関係各位に頭を下げて回る日々が始まるの?」
バードウェイ「いやいや、そんなに面白い話ではないんだ。むしろ私としては不本意で、正直躊躇っている」
シェリー「へぇ?珍しいじゃねぇかよ」
円周「その割には楽しそうにしているけど、見間違いなのかな?かなっ?」
上条「その語尾は止めなさい。それ以外は同感だが」
バードウェイ「まさか私も身内に犯人が居るとは思いたくなかったさ」
上条「犯人、ってまた穏やかじゃねぇなぁ。何かあったのか?」
バードウェイ「――犯人はこの中にいる……!」
上条「……はい?」
円周「……レヴィちゃんの気持ちも分かるけどさ、この雪で閉ざされたロッジの中で、犯人捜しはやめにしない、ね?」
上条「俺の部屋だよね?つーか雪って何?年末頃にちょっと降ったけど、それ以外は乾燥してるよね?」
円周「当たっていればいいけど、そうじゃなかったらホラ、ね?誰も得をしないんだから」
円周「ここは黙って、警察の人が来るのを待つべきだと思うんだよ、うんっ」
上条「推理小説でありがちな『ゲストヒロインで実は真犯人だった!』ってリアクションだよね?」
上条「つーかそれ前回やって大恥かいた可愛いけど残念な子act2が居たんだけど、もしかして気に入ったの?」
シェリー「あぁ?探偵ゴッコなら勝手にしてりゃいいじゃねぇか。けど付き合うのはゴメンだわ」
シェリー「私は部屋に帰る!犯人が居るかも知れないのに、一緒になんて過ごせる訳がない!」
上条「シェリーさんも一枚噛んでるの?つーかそれ完全に死亡フラグだからね、割と鉄板な」
円周「大体主人公をバカにした人から殲滅していくよねぇ。だったら普通探偵さんが第一容疑者へ回ると思うんだけど」
上条「あれは『ほら、主人公の捜査に協力しないと死にますよ!』って、話の流れをスムーズにだね」
シェリー「常識的に考えりゃ身バレすっかもしんねぇから、探偵真っ先に殺るよなぁ?」
上条「お前もお前で日本の文化に慣れすぎだよね?相○?最近人気落ちてるアレ見たせいなの?」
上条「ってか犯人って何だよ。誰かがお前のアイスロール喰ったとか?」
バードウェイ「……まさか私がたかがデザート一つでムキになるとでも?」
上条「また作ってやっから、なっ?」 ポンポン
バードウェイ「今すぐに私の頭から手をどけろ新入り。麻酔ナシで引き抜くぞ」
上条「機嫌を取ろうとしただけなのにペナルティが重すぎるわっ!」
円周(チラシの裏に手書き)『ここでボケて!!!』
上条「無理じゃんか!?どう考えてもちっこい悪魔が逆ギレするわっ!」
シェリー「悪魔って正しく認識してんのは良いと思うけどな。まぁした所で打開策は無い訳だけど」
バードウェイ「ま、否定出来ない所ではある――では気を取り直して、解明編と行こうじゃないか」
上条「待て待て。解明以前に、俺らどんな事件――つか、何が起こったかすら聞いて無いんだけど」
上条「問題も分かってないのに推理だけ聞かせられても、正直ワケ分からんっつーかな」
バードウェイ「ちなみに途中で犯人が名乗り出れば、罪は減刑される」
上条「だから聞けっつーのに」
バードウェイ「逆に最後まで自供しなかった場合――」
上条「ば、場合は?」
バードウェイ「――私が異変に気づいたのは、そうだな……十日ぐらい前か」
上条「言おう?そこは先に言っとかないと、『あ、それじゃ自供しよっかなぁ』ってはならないよね?」
上条「俺犯人じゃないけど、たぶん。うん、きっと……でも覚悟はしてるけど、念のために」
円周「ってかレヴィちゃん減刑する気ないもんね?最初っからどんな刑か言ってなければ、どんな刑でも自己申告でしかないから」
上条「どゆこと?」
シェリー「あー、最初に『ケツバット100回』って言ってれば、自供すりゃ99回以下にすんだろ、普通は」
円周「けど言ってないから、『減刑して100回にしといたら』的な事が通るんだよねぇ、うん」
上条「鬼っ!悪魔っ!このブラックロッジめ!」
バードウェイ「以前のアパート、私達『明け色』の極東支部が半壊した時にまで話は遡る」
上条「お前もパワープレイはいい加減にしないと。強くてニューゲーム並みの強引さってどうなの?」
バードウェイ「一度私はここを引き払い、『笛吹男』との対峙に専念した――まぁ、詳しくは控えるが」
上条「待とう?つーか、おかくしないか?俺ら今、どこの時間軸にいるの?」
上条「なんかこれ時系列、杉井×先生のやらかした暴言&頭イタイ自作自演並みにあやふやにする気満々だけど、今一体いつ頃なの?」
上条「こないだシェリー追いかけて『必要悪の教会』の女子寮行った気もするし」
上条「他にもメイドカフェでビリビリのストーカーをストーカーしているストーカー退治、ってややこしいな!」
シェリー「普通は最初から最後まで構想立ててから書くしなぁ?『最初から端折った』ってのは普通無いわけだし」
バードウェイ「――で、別のアジトで数えていたら少ないんだよ、これが」
円周「何が?」
バードウェイ「私の――ぱんつが」
上条「あれ伏線だったのかっ!?てっきり『やっちゃった』的な一発ネタだと思っていたのに!?」
バードウェイ「――この中に一人、犯人がいる――!!!」
円周・シェリー「この人(こいつ)が犯人です(だな)」 ピシッ
上条「ソッコーで指さしやがった!?つーかお前ら事情知ってんじゃねぇかよ!」
バードウェイ「見たかこの推理力!僅か数分で解決に至るとはなっ!」
円周「わたしが変態こじらせた方が良かったのかな?鞠亜ちゃんが見てる、的な」
シェリー「面倒臭ぇからこれ以上持ち属性増やすな。下手に主人公の相方ポジに入っても、変態扱いされんぞ」
上条「白井は……うん、もうちょっと神様控えめにした方が。っていうか押しの強い子に持って行かれているっていうか」
上条「ガチでやり合ったら学園上位に入るんだろうけど、最近ネタキャラ……うん」
バードウェイ「で、被告人?刑の執行前に言い残す事はないか?」
上条「もう確定済っ!?せめて裁判は開こうぜ!?なっ!?」
円周「せめて一本ぐらいは残してあげて欲しいよねぇ。お兄ちゃんの決め台詞も言えなくなっちゃうし?」
上条「お前それっ遠回しに『腕落とせば?』つってねぇか!?なあぁぁぁっ!?」
シェリー「オイオイ、相手はマフィアもビビって逃げ出す悪の秘密結社だぞ?そんな甘っちょろい考えが通用するかぁ?」
上条「お前ら冤罪だって知ってるでしょーがぁぁぁっ!?事実を言ってやってくれってば!」
円周「レヴィちゃんが引き上げた日、お兄ちゃんが『ぱんつどうしたらいいかな?』って」
上条「そうそうっ!そんな感じで!」
シェリー「『捨てるのもアレだし、私らのどっちかに預かってて貰えば?』つったのよ、一応は」
上条「そうそう……あれ?この展開って」
円周「『まぁその内考えればいいか、今は俺の手にあるんだしくんかくんかはぁはぁぺろぺろ』って言って曖昧に」
上条「後半深刻な捏造が加えられているよね?」
バードウェイ「つまり前半は正しかったという事かね」
上条「……はっ!?い、いや違うんだ!これはお前が洗濯に出したまま忘れていったからで!」
円周「ってかさー、あの後どうしたの?翌日ぐらいにアパート半壊しちゃったし、巻き込まれたとか?」
シェリー「だったら不可抗力じゃねぇか、お前もンなに怒る程の――あん?」
上条「……」
円周「どしたの?――あっ、何か心当たりがある、とか?」
バードウェイ「だよなぁ、上条当麻君。君には覚えがあるだろう?どうしてこの馬鹿話がここまでデカくなったのか、その理由がだ」
上条「……違うんだっ!?あれは不可抗力で!」
シェリー「え、マジで何かしやがったのか!?」
上条「疚しい事はしてないよっ!でも、ほらっ……疚しい事は、してないよ?」
円周「お兄ちゃんがそこまでキョドるってのも珍しいよねっ。ホントに何があったの?やらかしちゃったの?」
円周「……ぺろぺろ、的な?『このスレには18歳未満は出ていません』って、今の内に言っとく?」
上条「絶対に違う!下着には興味無ぇよっ!」
シェリー「『12歳児もイケる口です』って断言すんのはどうかと思うぜ。いやマジで」
上条「一般的な男の性癖の話をしているだけですからねっ!」
バードウェイ「そ、それで貴様っ!?道理で最近目が合うと思ったら――」
円周「うん、それは確実にレヴィちゃんが見てるだけだからね?」
上条「良かった……最近円周がツッコミ要員になってくれたお陰で、俺の負担が……!」
シェリー「ってボケるくらいには余裕あんじゃねーか」
上条「……あれは俺がメシの片付けをしている時だった――」
シェリー「たかがぱんつに回想か!?」
――回想 バードウェイが居なくなった日の夕食後 台所
上条(洗い物は終りっと。結局一人分多くても残らなかったなぁ)
上条(意外とシェリーは空気読むから、多く食べたのかも知れないけど)
上条(円周は……まぁ、マイペースなのは良い事だよ)
上条「……」 キュッキュッ
上条「……良し、と」
上条(次は洗濯を畳んで――って、あぁバードウェイのぱんつ、これこれ)
上条(どうしたもんかなー?嫌がらせな気がしないでもないけど、まさかこんなしょーもない地雷を仕込んだ訳じゃないだろうし)
上条(いやでもこういうのって、ラブコメではよくあるパターンじゃん?例えばさ)
上条(ハンカチ代わりに持ってて、何かの拍子で取り出して汗を拭いて『きゃー変態―!どーん!』みたいなの?)
上条(ってかアレもオカシイよね?主役の子、それ以前にハンカチ使った描写がないのにいきなりだからね?)
上条(普段から使う習慣がないのに、ハンカチ入ってたら警戒するだろうけど……まぁまぁ)
上条(後は……あぁ、何かこう、ヒロインとぶつかったり、持ち物検査をされて『は、ハレンチなっ!』って感じか)
上条(ってか持ち歩かないよね?返す前に誤解されるから包むよね?最低でも)
上条(対処的にはそんな未来はウソであ○の高○君がベストだと思うけど)
上条「……」
上条(だよなぁ?普通はそうするよね?)
――回想終り
上条「――って、感じで」
円周「紙袋に入れたの?ちぇーっ、常識的でつまんないやー」
シェリー「ま、そんなもんでしょうよ。ってかそれでキレる意味が――もしかして、違うのかよ?」
上条「……なんか、こう、さ?袋だと妙にリアルじゃん?だからね、小さな紙箱に入れたんだよ」
上条「縦横高さ5cmぐらいの空き箱がたまたまあったから」
円周「こないだ実家の父さんと母さんから届いた、旅先で買った赤べこのキーホルダーのだっけ?」
上条「うんまぁお前の両親じゃないけど、それの空き箱」
シェリー「何故か四人分あって戦慄を禁じ得なかったんだよなぁ」
上条「一言も言ってないのにな!母さんはそーゆー人らしい」
シェリー「んー……まぁ、いいんじゃねぇのか?つーかどんだけ下手打ったのか怖かったんだけど、至極真っ当じゃねぇか」
バードウェイ「……確かに私も否定はしないよ、クロムウェル。ここまでは良かったんだ、ここまでは」
バードウェイ「というか貴様、それだけじゃないよな?箱を用意して入れただけじゃ済まなかったよな?」
円周「え、お兄ちゃんこの上に何かやらかしたの?」
上条「……俺らまぁ、多少仲良くなったとは言え、他人は他人じゃない?家族程は、うん」
上条「だからまぁ、他の人が間違って開けないように、梱包したんだ――」
シェリー「はぁ?それのどこがおかしいって」
上条「――手近にあったのがね、クリスマス用の包み紙とリボンしかなかったんだな、これが」
シェリー「あー……」
円周「ま、まぁまぁ?うんっ、それはねっ!季節柄仕方がなかったんだと思うよねっ!仕方がない仕方がないよっ!」
バードウェイ「そうだな、否定はしない。それだけであったのであれば」
円周「え、まだ続くのっ!?」
バードウェイ「あれは――そう、クリスマスイブの日だった……」
シェリー「引っ張る必要無くないか?口頭で簡単に言やぁいいじゃねぇか」
――回想 上条家 クリスマス 昼間
テレビ『――はいっ、今日は世界各地にサンタさんが――』
バードウェイ「……」
バードウェイ(クリスマスなぁ、クリスマス)
バードウェイ(基本十字教圏では『家族や友人達と共に過ごす』んだが、まぁ楽しみ方は人それぞれだろうか)
バードウェイ(よく日本を多神教国家として称し、その一例にクリスマスを挙げられるが)
バードウェイ(その実、全然崇めてない――どころか、騒ぐ口実に使う辺りはむしろ不道徳)
バードウェイ(……ま、それは日本に限った事ではないか)
バードウェイ「……」
バードウェイ(今日は五人――いつもの面子にパトリシアを加えて、ささやかながらパーティか……ふむ)
バードウェイ(悪くはない。悪くはないんだし、海外であれば当然なのだが……ふむ?)
バードウェイ(○○――に、なっての初めての、クリスマスなんだが。そこら辺をもう少し汲むべきだな)
バードウェイ「……」
バードウェイ(……まぁ?そこはそれ、そういう可愛いというか、こちらが率先してイベントを振っていくべきだと思う)
バードウェイ(……とはいえ、なんだ。そう、サプライズの一つぐらいあってもいいだろうに)
バードウェイ「……うん」
バードウェイ(どれ、ここは一つ学校にでも押しかけて――)
ピーンポーンッ
バードウェイ(誰だ?)
配達員『XX宅急便でーす!お届け物に参りましたーっ!』
バードウェイ「……日本語がおかしいんだが」 ガチャッ
配達員「あ、おはようございます。XX便です。えっと、上条当麻様のお宅はこちらでしょうか?」
バードウェイ「あぁ」
配達員「上条当麻様方の、レ、レイなんとか、バードウェイ様もこちらに?」
バードウェイ「私だが――私にか?」
配達員「お荷物が届いております。お受け取り証明書にサインか判子をお願いしまーすっ」
バードウェイ「だから日本語が間違っている――誰からだ?」 カキカキ
配達員「えっと……上条当麻様、ですね、はいっ」
バードウェイ「――!」
配達員「――っとはい、確かに頂きました。では失礼――良い悪夢を」
パタンッ
バードウェイ(これは……)
バードウェイ「クリスマス風にラッピングされた小箱……まさかっ!?」
バードウェイ(待て待て、落ち着け。あのバカが気の利かせる筈がない!)
バードウェイ(どう考えても大きさといい、重さといい、軽いモノが入ってるとしか思えないのだが!)
バードウェイ(箱にはバカの筆跡で「バードウェイ」って書いてあるし!誰かのドッキリじゃないよな、これは)
バードウェイ(これはやはり……エンゲージリング、的な)
バードウェイ「」
バードウェイ「……良し!落ち着こう、お前は誰だバードウェイ?」
バードウェイ「『明け色の陽射し』総帥にして、輝かしい栄光の正当後継者たる私が。たかだかこれぐらいで取り乱す訳がないだろう?」
バードウェイ「……」
バードウェイ「取り敢えずは両親に挨拶か、うん」
バードウェイ「多少私は若く見られがちだが……上条夫妻もどう見ても同類だし、問題はない。血は争えんか」
バードウェイ「父親は商社の営業マン。正月休みには帰ってくるだろうし、挨拶も兼ねて丁度良い」
バードウェイ「問題はオマケ二人――」
バードウェイ「――は、最悪事故に遭って貰うしかないか。偶然とは怖いからなぁ」
バードウェイ「それよりも、問題はこれだな。こういうのは直接渡すに限る」
バードウェイ「幾らオマケ二人が引っ付いているからといって、こう、昼間コッソリというのは……卑怯、なんだからなっ!」
バードウェイ「まぁいい。それは後日もう一度させるとしてだ」
バードウェイ「問題はサイズ、だな。これで少し大きかったりしたら、昼間の内に直さねばならん」 ガサガサ
バードウェイ「手のかかる相手だが、まぁ――惚れた弱みか、うん」 ガソゴソ
バードウェイ「……?これは……!」
バードウェイ「――ぱんつ?」
――回想終り
上条「……あぁ、成程!だからあの日帰ってきた俺は魔術ぶち込まれたのな!あー、納得納得!」
シェリー「日常的に攻撃されてるせいで、慣れっこになってんのな。不憫な奴」
円周「っていうか今、『笛吹男』さんっぽい人が出てたような?それともあれかな?」
円周「素人の怪談話であるように『よく憶えてないんだけど』って言いながら、小説家並みの精度と記憶力で憶えている的な?」
シェリー「100%作りじゃねぇか。いや、そっちの方が良かったけどもだ」
円周「あとレヴィちゃんが意外に家庭的だって事だけど、突っ込まない方が良いのかな?」
シェリー「年相応じゃねぇのか?魔術と裏社会は熟知してても、それ以外は疎いって話でしょうし」
バードウェイ「そんな事はどうだっていいんだよ!問題は貴様がやった事だ!」
シェリー「つまり、この話ってのは」
円周「お兄ちゃんがぱんつを確保してて、でもって適当にラッピングしてて、箱に名前まで書いちゃってた」
シェリー「ま、そうしときゃ普通は開けないもんな。普通は」
円周「で、『笛吹男』さんは爆破後のアパートで拾って『あ、これ大切なもんじゃね?』って、日時指定で配達予約してくれた、と」
シェリー「それ自体はいい話だな。そこだけ聞けば」
円周「一言で切って捨てれば『バカ』だけどねぇ、うんっ」
バードウェイ「――さて、そろそろ良いか。いたいけな少女を弄んだ罪は知ったな?」
上条「俺悪くねぇじゃんか!?むしろどっちかっつーと気ぃ遣った方だよねっ!?」
バードウェイ「残念だが結果が出なければ意味はないのだよ」 スチャッ
上条「そ、それはっ!?あの爆発の中も耐えきったというのか!?」
バードウェイ「ほーら。お前の好きな『スーパーふわふわウルトラかわいいミラクル虐殺肉ミンチ機能付きラブラブブリティ白ウサギグローブ』だぞー」
円周「略して虐殺ウサギグローブってしなかったっけ?」
バードウェイ「じゃそれで」
上条「あばばばばばばはばばばばばばばばばばばはっ!?」
シェリー「おー、超振動している、ってか出力上がってねぇか?」
バードウェイ「手直しする際に少しだけ出力上げておいた。ドMには垂涎モノだぞ?」
上条「俺はドMじゃあばばばばばばばばばばばばばはばばばばばばばばっ!?」
シェリー「なんて?」
円周「『嫌いじゃない。むしろ興奮する。だって俺はドMじゃけんのう』」
シェリー「おー、完璧なエミュレーションだなぁ」
上条「だからお前ら見てあばばばばばばばばばばばばばはばばばばばばばばっ!?」
――翌日 ショッピングモール 正月休み中の午前
バードウェイ「いやー混んでいるなぁ。各人一斉に休みが入るのであれば仕方がないか」
パトリシア「ですねー、あんま言っても仕方がないですし」
バードウェイ「どーにも鬱陶しくして適わない。大丈夫か、妹よ?」
パトリシア「あははーっ、お姉さんは心配性なんですからっ」
バードウェイ「そうだな、転んで服が汚れてびーびー泣いてたのは僅か半年前までの話だったな」
パトリシア「気遣ったんじゃなくて遠回しに攻撃されていたっ!?」
バードウェイ「お前も成長――は、してないよな。姉より優れた妹など存在せんわっ!」
パトリシア「ジ○キ様ですかっ!?」
上条「……あのー?」
バードウェイ「何だ?」
パトリシア「何でしょう?」
上条「あ、そういう表情は似てるかも――って違うよ!そうじゃねぇよ!」
バードウェイ「○ャキじゃなくて○ャ“ギ”だな。たまーに間違うんだ、あれ」
パトリシア「名前を言って良いのか悪いのか、どっちなんでしょうね」
上条「聞けよおまいら!特に確信犯的に話をズラす性格悪い方のちっこいの!」
バードウェイ「――貴様、私の妹に暴言を吐いたなっ!?」
バードウェイ「幾ら完璧な姉と比べられて惨めな思いをするからと言って、その暴言は看過出来んぞ!」
パトリシア「あの、お姉さん?お義兄さんが言ったのは、多分私じゃないと……っていうか、真顔で『えっ?』ってされても」
上条「『確信犯じゃなく故意犯だろ』って返ってくるのかと思えば、スルーされて悲しいけど」
上条「つーかパトリシアの呼び方もなんか、こう……?」
上条「まぁそれは置いとくとして、なんかおかしくねぇかな?」
バードウェイ「だから何だと聞いている……あぁ両手に花の状態で戸惑っているのだな。このシャイボーイめ」
上条「いや別にそういうのは全然ないですからね?」
バードウェイ「残念だな、妹よ。こいつに取ってお前は花ではないらしい」
バードウェイ「可憐な気高く美しき過ぎる身内を持つと、どうしても比べられてしまうなぁ?」
上条「なぁパトリシア、お前のねーちゃんって何食ったらこんな風にポジティブになれるの?見習いたいぐらいなんだけど」
パトリシア「そろそろ個人的にもムカついてきてるんで、一発キツいのをどうぞ」
上条「ってかお前も散々ボケてた筈だけど――つーかさ、聞いていい?」
上条「パトリシアの体験入学みたいなの、あれって二週間で終りじゃなかったっけ?
バードウェイ・パトリシア「……」
上条「それがどうして年越しちゃってんの?つーかあれ秋頃の話じゃ」
バードウェイ「――では本来の目的を憶えているか!」
パトリシア「はいっ!今日はお買い物に来ているんでしたっけ!」
上条「誤魔化すにしてももうちょっとあるだろ、方法は」
バードウェイ「どっかのバカが私のぱんつを隠匿した上、丁寧に包んで大事に保管していたからな。枚数が足りなくなった」
パトリシア「うわぁ……」 スッ
上条「引くな引くな引く――いや、引くけどねっ!それは良かれと思ってやったんであって!」
上条「俺は別に好きでやった訳じゃねぇよ!むしろ良くやった方だし!」
パトリシア「そういうプレイを人前でするのは良くないと思いますしっ」
上条「やべぇな、やっぱりここ俺一人しかツッコミ居ないみたいだ!」
バードウェイ「あぁホラ、いつまでも馬鹿やってないで行くぞ」
上条「いやだからバードウェイさん口悪いよ?そろそろ直そう?」
――輸入洋品店
カランコロンッ
バードウェイ「お邪魔するよ」
パトリシア「こんにちわーっ!」
上条「ってここ。前スーツ貸して貰ったトコか」
バードウェイ「昨日の夜『持ってこい』と伝えてあった筈だが?」
上条「悶絶してたよね!?主にお前が加害者で円周まで上に乗ってきたけど」
バードウェイ「ほへー、大人になっちゃったんだなぁ、お姉さん」
上条「待とうか?今君は深刻な誤解をしていると思うんだよ。俺はそう確信している!」
老人「ようこそおいで下さいました、レイヴィニア様にパトリシアお嬢様」
バードウェイ「暫くぶり、と言う程でもないが」
パトリシア「本当にお爺ちゃん呼んじゃったんですか。お姉さんいつか破産しますよ?」
上条「……俺は?」
老人「あぁすまない。スペースの若造かと思った」
上条「マークいつもこんな扱いなのかっ!?」
パトリシア「ですよねぇ?サークルのお友達っていうより、マフィアの参謀みたいな感じてすし」
上条「あー……汚れがないよねー、そっちは」
バードウェイ「おっと、妹にまで食指を伸ばすのは遠慮して貰おうか」
上条「“まで”ってなんだよ!?“まで”って!」
バードウェイ「あーウルサイウルサイ。それよりも」
上条「あぁうん。これ、この間ジャケット有り難う御座いました」
老人「話は聞いたぞ、トーマ」
上条「ん、いや別に大した事は」
老人「オリーブ野郎のケツに電柱突っ込んだらしいじゃないか」
上条「それ、俺じゃない。っていうか誰もしてない」
パトリシア「またお姉さん何かしたんですか?」
バードウェイ「なぁに、ちょっとしたポーカーのようなものさ」
上条「お前にとっちゃそうなんだろうが、俺とマークの心労にも気を遣え、なっ?」
老人「口に利き方に気をつけろ、若造が」
上条「お前らが甘やかすからっ!こいつは傍若無人な性格になったんでしょーが!」
バードウェイ「貴様――妹に暴言を!」
パトリシア「ってだから多分きっとそれわたしじゃないですし、ってか話が進まないですよ」
バードウェイ「取り敢えず着替えだな。バックヤードへ行くぞ」
パトリシア「あ、わたしは店内ぐるぐるしてますから。ごゆっくり」
上条「良いけど。またなんかすんの?」
バードウェイ「この間仕立てたスーツが出来たんだよ」
――バックヤード
上条「ってか早いなぁ。てっきり数ヶ月かかるって思ってたのに」
バードウェイ「ふふんっ。実は以前から用意しておいたのだよ。念のため、とは思ったがまさか当たるとはな」
バードウェイ「意外、でもないか。ある意味必然でもある」
上条「当たる、って何が?」
バードウェイ「……」
上条「流さないからな?何かこないだからずっと納得行かないアレコレあるから、まとめて追求するからね?」
バードウェイ「心配は要らないよ。お前が気にするような事は何一つ無い」
上条「そ、そうかな?なんか、俺のあずかり知らない所で着々と既成事実的なものが――」
バードウェイ「なんだね?私が信用出来ないのか?」
上条「そんな事はないって!」
バードウェイ「なら、それでいい。いや、それ“が”いい」
上条「……そのお前の『悪巧みしてますっ!』って顔がね、うん。俺をとてつもなく不安にさせるんですよ」
バードウェイ「もう、全てにおいて手遅れだ」
上条「そこを詳しくっ!」
バードウェイ「義母さ――詩菜さん、最近は近くのジムへ第三位の母親と通うのが趣味なんだそうだよ?」
上条「よおおおおぉっし!新しい服が楽しみだなぁぁぁぁっ!」
上条「何か今不穏な単語が聞こえてきたけどもっ!前を向いて歩いていけば!きっと何とかなるよねっ!」
バードウェイ「大抵はそのまま穴に落ちるんだが、まぁそれはそれで良しとしよう」
老人「――これで御座います」 スッ
バードウェイ「うむ。ご苦労だったな、スペンサー」
老人「有り難きお言葉に御座いますが、若造のツイードぐらいどうと言う事はなく」
上条「若造は余計だっつーのに……黒、じゃないな、紺色のジャケットか?」
老人「藍で染めたんだから藍色だ。なんだ日本人なのにそんな事も知らないのか?」
バードウェイ「言ってやるなよ。我が国よりツイードの手作業はこちらの方が現存しているじゃないか」
上条「それじゃ――って、見た目よりも、堅いな」
老人「ツイードはウール糸を染め上げ、それを綾織りにしたものだ。だから遊びが少ない」
上条「あー、でも暖かい。コート要らないかも?」
老人「スコットランドの羊は寒い所で育つため、毛は太くなるのさ。それを使ってるんだから当然だな」
バードウェイ「元々は確かコート代わりの作業着に着ていたんだよな?」
老人「仰る通りで御座います」
上条「まさにジャケットって感じだけど……あ、でもやっぱ違和感が」
老人「最初だけだ。3年も経てば今は立っている毛が寝て、柔らかくなる」
バードウェイ「少々の雨も弾いて通さないし、カッター程度で斬りつけられても平気だな」
老人「それにそいつは特注製だ」
上条「魔術的な何かが?」
老人「――と、言うよりは、こう」
バードウェイ「……内緒だ、それは」
上条「……気になるんですけど、すっごく」
老人「バカは考えるだけ無駄だから止めておけ。茨姫のばあさんに呪われろ」
上条「だから口悪りいよなぁっ!?」
老人「昔っからお姫様が糸を紡ぐのは勇者のためだって、相場は決まってんだろうが」
バードウェイ「やめないかみっともない。娘を盗られた父親じゃないんだからな」
老人「それが一番適切な表現に思えますなぁ」
上条「なに?お前が糸紡いでくれたって事か!?」
バードウェイ「あー……なんだ、まぁ、暇潰しだな。全部と言うわけではないよ、流石にな」
上条「そっか……ありがとうバードウェイ。大事に着させて貰うよ」
バードウェイ「気にするな、とまでは言わないが、大した事じゃないさ、うん」
バードウェイ「お前には護符も霊装も効かないから、これぐらいは、な?」
老人「感謝しろ若造が」
バードウェイ「――なぁ、スペンサー?」
老人「――これはこれは出過ぎた真似を。では少々野暮用が御座いますので失礼を」
上条「あー、なんだ、スペンサーさん?」
老人「あぁ?」
上条「アンタも有り難う。今は確かに『着られている』って感じだけど」
上条「コイツが似合うぐらいにはなってみせるから」
老人「……ちっ、クソ生意気なジャパニーズめ。呪われろよ」
老人「不摂生でハラが出て着られなくなったら、その時は持ってこい。直してやるから」
上条「ならねぇよ。俺はいつでも健康に気を遣ってんだよ!」
上条「その内、バイトでもしてギャラが入ったら、似合うシャツとか買いに来るから用意しとけよ!」
老人「はぁ?そいつぁ何年後の話だ?バイトなんてもう――あぁいや、これ以上は」
上条「どゆ事?俺の人生バイトも出来ないって、一体何が待っているの?死?」
老人「……まぁジーサンどもは全員納得させたから、後は好きにすると良い」
バードウェイ「仲が良いのは分かったから、男同士でイチャイチャするんじゃない」
上条「した憶えはないんだが……」
老人「精々今の内に楽しんどけ。卒業後には直ぐ人生の棺桶入りだよ」
老人「そん時にゃ、ばあさんの不味いライスプティングでお祝いしてやるから感謝しやがれ」
上条「いやいや、人生の墓場ってそれ結――」
バードウェイ「――と、そろそろパトリシアも退屈しているだろうし、戻ろうか」
上条「そうだな。あ、これ着てっても良いのか?」
バードウェイ「むしろそうしないと駄目だな、お前のためにもそれが賢明だろう」
上条「なぁ説明しようぜ?お前の場合、冗談なのか本気なのか、全っ然分からなくてガクブルなんですけどねっ!」
――ショッピングモール
上条「……」
上条「……あれ?」
上条(今俺店内に居た、よな)
上条(それがどうして一瞬で外に、しかもここフードコートじゃねぇか)
上条(服の魔術のせい……な、ワケかないか。あんだけペタペタ触ったのに)
上条(って事はバードウェイがまたなんかやったのか?)
バードウェイ「――あぁ居た居た、探したぞ」
上条「おー、どうしたんだ?今一瞬で――」
バードウェイ(※黒髪)
上条「髪の色変わってるっ!?何、2Pキャラなのっ!?」
上条「つーかそのブラウスも何か黒いし!」
黒バードウェイ「何を言っているんだ貴様は。相変わらず馬鹿は馬鹿なんだから、馬鹿みたいに考えても仕方がないんだぞ、この馬鹿」
上条「バカって四回も言いやがったな!?……いやいや、バードウェイさん?」
黒バードウェイ「なんだね」
上条「バードウェイ、なんだよなぁ?他の人じゃなくって」
黒バードウェイ「決まっているだろうが、何を今更」
上条「……つーか、それどしたん?あぁいや、似合ってるけど、急にっていうか。何の仕込み?」
黒バードウェイ「……ふむ。そちらは全く理解してないようだな。面倒だ」
上条「いやいやっ!また面倒ごとを持ち込んだんかいっ!?」
黒バードウェイ「あー、取り敢えず、どっかの喫茶店にでも行こうか。ここで話す内容でもない」
――喫茶店
上条「あんみつパフェ二つ、あとは」
黒バードウェイ「ほうじ茶で頼む」
店員「かしこまりましたーっ、少々お待ち下さいー」
上条「お前もう隠す気ゼロじゃねぇか。味覚も子供で隠している設定はどこ行った」
黒バードウェイ「うん?子供?隠すも何も――って、あぁそこからか。面倒臭い仕事を押しつけやがって」
上条「最初に聞くけど、今すっげーピンチとか、そういうことはないんだよな?座っていられるだけの余裕ぐらいあるんだよね?」
黒バードウェイ「余裕があるのは間違いないが、かといって安全とも言い切れないがね」
上条「どっち?」
黒バードウェイ「あー……まず、お前は『死者の書』についてはどれだけ知っているんだ?」
上条「詳細聞いたら『DEADor婿入り』、ぐらい」
黒バードウェイ「あぁそれは心配しなくて良いよ。それだけは有り得ないから」
上条「あ、なんだ。だよなー、流石にジョークだもんねー」
黒バードウェイ「いや、それ自体は正しいんだが――まぁ後で直接本人の口から聞けばいいさ」
上条「本人、って、誰だよ?仕立屋のじーさんとか?それともマーク?」
黒バードウェイ「――それでは講義を始めるが」
店員「お待たせいたしましたー」
黒バードウェイ「ご苦労」
店員「……」
黒バードウェイ「なんだ?」
店員「ナイスツンデレ?」
黒バードウェイ「それは私の担当ではないな。他を当たってくれ」
上条(あれ?なんか反応が違う……?)
黒バードウェイ「まぁ食べながらで良いから聞いてくれたまえ」
上条「ん、あぁ」
黒バードウェイ「もぐもぐもごもごもぐもぐがふっ?」
上条「聞き取れねぇよ!?つーか行儀悪りぃ――あん?」
黒バードウェイ「これは失礼、ってどうしたね?」
上条「お前――バードウェイじゃないなっ!?」
黒バードウェイ「いや?私はバードウェイだよ?」
上条「だよねー。あれ?おかしいな、違和感があるような、ないような」
黒バードウェイ「ま、大した事ではない――それより『死者の書』の話だ」
黒バードウェイ「あれは『王者の法(アルス・マグナ)』だ」
上条「へー、そうなんだー」
黒バードウェイ「……」
上条「……ごめんなさいっ!全然分からないですっ!」
黒バードウェイ「……錬金術、って知ってるよな?鉄を金に換える奴」
上条「等価交換すると鎧に魂が入る奴だな」
黒バードウェイ「あれは別に死霊術士の領域へ踏み込んだという訳じゃない……まぁいい。大体そんな感じだな」
黒バードウェイ「で、その始祖はどこから来ているのか――それは」
黒バードウェイ「ギリシャ神話に出てくる『ヘルメス神』だと言われている」
上条「名前ぐらいは聞いた事があるけど。クツ関係のアイテムの人」
黒バードウェイ「より正確に言えば『ギリシャ神話のヘルメス』、『エジプト神話のトート』、そして『錬金術師のヘルメス』」
黒バードウェイ「彼らが同じ存在と見なされ、『ヘルメス・トリスメギストス』なんだが」
上条「えっと……神様が、似たような他の神様と統合される、みたいな感じ?」
黒バードウェイ「本来はそれで合っている。ただしこの場合は、『同じ血族』をそう呼んだに過ぎない」
黒バードウェイ「こういう話は面倒だし、もっとぶっちゃけてしまえば、だ」
黒バードウェイ「『明け色の陽射し』は彼――いや、正確には“彼女”の子孫なんだよ」
上条「へー、そうなん――待て待て待てっ!?それオカシイだろっ!?」
上条「お前らが神様の子孫、って。幾ら何でも――」
黒バードウェイ「君は今、『オカシイ』と言ったがね。それはもっと早く、こう思う必要があったんだよ」
黒バードウェイ「――『アラスカ・ルーン』。そして『ドナーティのホロスコープ』」
黒バードウェイ「『明け色の陽射し』が『黄金の夜明け』に参加したにしては、随分と古くから魔術に慣れ親しんでいるな、と」
上条「それは――そう、か!そうだよな!」
上条「そんな遺物みたいなオーパーツ、『黄金』って確か、中世に興った結社なんだよなぁ?」
上条「だったら『それ以前に作られた霊装に「明け色」が絡んでいる筈が無い』、か」
黒バードウェイ「科学の発端は教科書に書いてあるかね。幾ら君でも知っているだろうが」
上条「それは『錬金術』だよな」
黒バードウェイ「――そう、それは『ヘルメス・トリスメギストス』と言う錬金術師によってもたらされた」
上条「それじゃ、科学のルーツは『明け色の陽射し』が一枚噛んでるって事なのかよ!?」
黒バードウェイ「んー?もう一声頼む。それだけじゃない」
黒バードウェイ「現代に通じる魔術、ヘブライ系のカバラや魔導を紐解いていけば、大抵はギリシャかエジプトに通じる」
黒バードウェイ「また歴史家のタキトゥスは、北欧神話のオーディンとヘルメスを同一であると説いている。つまり?」
上条「科学サイドと魔術サイド、両方の源流は――」
黒バードウェイ「ギリシャ神話に出てくるヘルメスは朱鷺の姿を取り、ゼウスに進むべき道を示したと言う――」
黒バードウェイ「――だから彼女の子孫は誇りある家名を声高らかに、こう、名乗る――」
黒バードウェイ「――『バードウェイ』、と」
上条「……すげぇオカルトだな。本当なら、だけど」
黒バードウェイ「ま、疑うのも当然だろう。だがしかし、私には『王の書』――いや『王者の法(アルス・マグナ)』がある」
上条「……つーかさ、それどっかで聞いたと思ったらアウレオルスの術式じゃのねぇのか」
黒バードウェイ「あんな大層なものではないさ。と言うか、『王者の法』とは錬金術ではなく、ただの魔術に過ぎない」
黒バードウェイ「『自分だけの現実』と、似た仕組みだよ」
上条「無限に分岐する世界から、自分の都合の良い世界を選ぼうって能力か?」
黒バードウェイ「それのもうちょっと節操のないものだ。例えば」
トンッ
上条「床がっ!?」
黒バードウェイ「――では、暫しお別れだよ上条当麻君」
上条「お前――俺の知ってるバードウェイじゃねぇだろうが!」
黒バードウェイ「そうだよ?」
上条「そうだよ、って」
黒バードウェイ「詳しくは自分で悟るか、誰かに聞けば良い。これ以上は面倒だが――あぁそうそう」
黒バードウェイ「君に一つだけお願いなんだが、出来ればもう少し暖かめの方が好みなんだよ」
上条「なにがだっ!?」
黒バードウェイ「人肌が最善とはいえ、そこはそれ好みの問題、個人差という――」
黒バードウェイ「――暫く会う事はないだろうが、まぁ――」
黒バードウェイ「――だが、必ず」
ジジッ
――??? 雪原
上条「……あれ?」
上条「ってなにこれ?これ何?つーかどこよ!?」
上条「放り出されたのが雪原なんて――いや?」
上条(寒くはない?吹雪いてるのに?つーかなんか、体透けてる?)
上条「……」
上条(死んじゃった、的な?いやいやっ!これは夢だ!そうに決まってる!)
上条(そうそう!だって死ぬ筈がないもの!悪運だけは強いじゃない!)
上条「……」
上条(いやー……?そうかなぁ?そうでもないような……?)
上条(つーかさ、つーかね。俺気づいちゃったんだけども)
上条(俺の足下に転がってるのって)
上条(※↓ボディ)
上条(死んでんじゃんっ!?だって血塗れだもんっ!)
上条(つーかここが学園都市だったらまだっ!カエル先生とか居るけどもだっ!)
上条(こんなクソ寒くて吹雪いてるロシアみてーな所なら即死じゃねぇのか!?)
上条「……」
上条(……ロシア?もしかして、ここ)
上条(ってか俺のボディさんが着てる服って確か、『ベツレヘムの星』へ乗り込んだ時の……)
上条「……」
上条(全部、夢?)
――ロシアの雪原
上条(あー……まぁ、納得か?慌てても仕方がないしなぁ)
上条(走馬燈にしちゃ、随分とモテたなー。うん)
上条(夢でもない限りはあんなに無節操にはモテたり……しないもんね。分かってるさ!)
上条「……」
上条(……つーか俺、このまま死ぬのか。だよなぁ、どうしようもないしなぁ)
上条(『ベツレヘムの星』は落としたから、後はまぁなんとかなる……出来れば生きて帰りたかったけど)
上条(けどなぁ……うん。これじゃ……)
上条「……」
上条(……まぁ、上出来、かな?第三次世界大戦も終わるだろうし、それだけは)
上条(あーでもグレムリンとのケンカはまだ……いや、あれも俺の妄想か?)
上条(いるかもしれない連中野放しにするのは心残りだけど、まぁ他の連中がなんとか、うん)
上条「……」
上条(……約束、守れなかったなぁ)
上条(インデックスともだし、御坂――つーか海原とのも、か)
上条「……」
上条(あと、バードウェイを守る、って言ったっけか)
上条「……」
上条(……いや、それは俺の――)
上条(無かったんだよ全部。今まで見ていたのは、優しい夢で)
上条(俺は彼女と約束なんて――して、ないんだ)
上条(……うん)
上条「……」
上条(……あぁなんか、眠く。うん)
上条(寒さで傷の痛みが麻痺……まぁまぁ、悪い事ばかりじゃないって事さ)
上条(色んな奴に会えて、ケンカして、仲良くなって)
上条(悪くねぇ、かな。うん)
上条「……」
上条(……でも、まぁ、出来れば、だけど)
上条(あいつらと、バードウェイと円周とシェリーと)
上条(バカみたいにギャーギャー言って……騒い)
上条「……」
上条(……眠ろう。少しだけ)
上条(……うん。大丈夫、きっと、なんとか……)
上条(……なる、よ……)
?「――――――っ!」
上条「……」
上条(……うる、さ――)
上条「……?」
?「――しろ!声を出せ!この、このっ――」
上条(なつかしい……この声は)
バードウェイ「――馬鹿者がっ!!!」
上条(……来て、くれ……)
マーク「駄目です、ボスっ!吹雪が強すぎてっ!」
上条(……夢の中じゃ……この後、拾われて……)
上条(でも……普通は――)
バードウェイ「他の連中はどうしたっ!?連絡はっ!?」
バードウェイ「はやく――しないとっ!」
マーク「それが出来ないつってんだろクソガキが!いいか?ここはアウェイなんだぞっ!?」
マーク「いくらで強制的に跳んできたとしても、下手に動けばイギリス・ローマ・ロシアに横っ腹を見せてるんだ!」
マーク「こっちが隙を見ているのに食い付かれたら『明け色』は終わるんだよ!分かってんのかっ!?」
バードウェイ「それはっ!」
上条(……正しい、よ)
マーク「……あぁもうそんな顔しないで下さいよ。俺だって好きで言ってる訳じゃ」
バードウェイ「……分かっている。それは」
マーク「……見捨てるつもりも見捨てたくなんて無い!けれどっ!」
バードウェイ「――言うな、マーク」
マーク「すいません、ボス」
バードウェイ「……」
上条(……バードウェイ、俺は分かってるから)
上条(だからもう……うん)
バードウェイ「……けどなっ!あの馬鹿は、あの馬鹿は一人で乗り込んだんだぞっ!?」
バードウェイ「それを見捨てるのかっ!?世界が救われたと喜ぶのかっ!?」
バードウェイ「たった一人で馬鹿みたいに突っ込んで馬鹿をっ!私達はっ!」
上条「……」
バードウェイ「見殺しに……する、のか……?」
マーク「……ボス、泣いて……?」
バードウェイ「泣いてなんか居るものかっ!これは――そうだ!怒りだっ!」
上条(いやいや……)
バードウェイ「あの大馬鹿者か私との『約束』を破った事へのなっ!」
上条(……やく、そく?)
マーク「ボス……?それはどういう……?」
バードウェイ「お前は私に言った筈だよ上条当麻!憶えていないのかっ!この裏切り者めっ!」
上条(……言った……?けれどそれは、俺の夢じゃ……?)
バードウェイ「『どんだけ偉かろうか、ボスだろうが、そんなのは関係無ぇんだよ!』」
上条(……それは)
バードウェイ「『「俺はお前を守る」って決めてんだ。それ以上でもねぇ以下でもねぇ!』」
上条(……俺は、言った……!)
バードウェイ「出て来い上条当麻!この大嘘吐きの大馬鹿野郎め!」
バードウェイ「約束も守れないような最低の馬鹿は私が直々に処刑してやるっ!だからっ!」
マーク「……ボス、そろそろ頃合いです」
バードウェイ「いいのか!このままでっ!まだ私達は約束すらしていないんだぞっ!?」
マーク「いい加減にしないと。学園都市の能力者が近くに来て――」
バードウェイ「私を、呼べ!私の名をっ!このっ、私の名前をだっ!」
バードウェイ「頼むからっ――!」
上条「……イ」
バードウェイ「――聞こえた……」
マーク「……ボス?それはきっと風の音――」
上条「……バードウェイ……」
マーク「――じゃ、ないっ!?上条さんっ!?」
バードウェイ「どこだっ!?どこにいるっ!?」
マーク「あっちから聞こえ――」
上条「――バードウェイ!レイヴィニア、バードウェイ……っ!」
バードウェイ「――あぁ。あぁっ!」
上条「……居る、のか……そこに?」
バードウェイ「あぁ居るとも――お前の、側に」
――喫茶店
上条「……」
ピッ
バードウェイ「『――もしもし?私だが』」
バードウェイ「『そう嫌そうな声を出すんじゃない。まるで私が嫌われているかのように錯覚するじゃないか』」
バードウェイ「『――いや、ちょっと気になる結果が。あぁ、占いのな』」
バードウェイ「『気にするかしないかはそっちの勝手。好きにすればいい』」
バードウェイ「『お代は要らんよ。充分に貰っている――あぁウルサイ。あれは助けてやっただろうが』」
バードウェイ「『とにかくお前は下ばかり見ているから転ぶんだ。たまには空を仰ぎ給え』」
バードウェイ「『ではないと足下を掬われるぞ?いいか?忠告はし――』」
バードウェイ「……切りやがったよ、あの馬鹿者が。全く、人の気も知らずに」 ピッ
バードウェイ「なぁ、そのあんみつパフェ、食べないなら貰うぞ」 スッ
上条「せめて疑問系で聞きなさいよっ!?……あれ?」
バードウェイ「もぐもぐもごもごもぐもぐがふっ?」
上条「聞き取れねぇよ!?つーか行儀悪りぃ――あん?」
バードウェイ「これは失礼、ってどうした?」
上条「お前――バードウェイじゃないなっ!?」
バードウェイ「いや?私はバードウェイだが?」
上条「だよなー、って白っ!?」
バードウェイ「あぁ?何の話だ」
上条「髪も元の金髪、ブラウスも白……あれ、お前今さ、黒くなかった?」
バードウェイ「……ほぅ、それはつまりアレかね?『ボス腹黒いですよ』の裏返しか?良い度胸をしているよなぁぁっ?」
上条「すいまっせんボス!?……いやいや、違うそうじゃなくて」
バードウェイ「馬鹿が。年頃のレディとデートに来てるというのに、白昼夢でも見てたのか?」
上条「そう、か……?それにしては死にかけた気がするけど。なんか記憶が混乱して」
バードウェイ「そりゃ副効果だな。大丈夫だ、軸は『ここ』に固定しただろうから」
上条「そう?ならいいんだけど――待て待て、お前今すっげー事言わなかった?」
バードウェイ「あ、馬鹿っよせっ!人が折角曖昧にしてやろうしているのに!」
上条「よさないものっ!だって今の一連のトンデモってなんなんだよっ!?」
上条「ヘルメス何かとか!『死者の書』の正体だとかっ!」
バードウェイ「……あーぁ、やってしまったなぁ、これは」
上条「な、何の話?」
バードウェイ「その様子だと、アレか?全部聞いてきたんだな?」
上条「ん、あぁ。つーか言ったのお前じゃねぇか。別に聞いても『DEADor婿入り』しなくていいって」
バードウェイ「……」
上条「な、なんだよ?」
バードウェイ「確認するが、正確には『出来ない』とか『有り得ない』って言ってなかったか?」
上条「後ろの方だった」
バードウェイ「そりゃ無理だろう。だってあれはわたしの娘だ、幾ら何でもノーカンだな」
上条「――はいぃっ!?」
バードウェイ「あー……『アレ』の話だが、簡単に言えば『世界は無限の選択肢で分岐している』って感じなんだよ」
上条「例えば、今さっきほうじ茶を注文した世界と緑茶を注文した世界に、みたいな?」
バードウェイ「『そちら』ではほうじ茶だったのか」
上条「あ、いつの間にか抹茶になってる」
バードウェイ「『アレ』は『その世界から自分の都合の良い世界を選ぶ』力がある」
バードウェイ「だから私は『イギリスからお前が落ちていた場所』へと跳んだ。ここまでは良いな?」
バードウェイ「そうでもしないとあの混乱の最中、ドーバーから短時間で乗り込めそうになかったからな」
上条「あ、あぁ。俺が北極海にダイブした時だよな」
バードウェイ「でもそれじゃ『足りなかった』んだ。探知魔術も効かない馬鹿なんか放っておけ、と私は言ったんだがね」
上条「……俺の記憶と大分違うよな……?」
バードウェイ「マークが泣き喚いて懇願したので仕方が無く、人力で探していたのがだか、あの時見つけたのは偶然――ではない」
バードウェイ「意識のない程に重傷を負った貴様が声を上げたのは、子孫が『アレ』を使ってお前に細工をした、といった所か」
上条「いやいやいやいやっ!?だって卵が先かって話になるんじゃないのかっ!?」
バードウェイ「『未来からの介入がある事すら織り込み済みの運命』なんだろう、きっと」
上条「……待て待て、どんだけ凄いんだその霊装。過去改変だぞ?」
バードウェイ「オティヌスの『槍』も大概だと思うがね。あぁ」
バードウェイ「そんなに助かったのが不服なら、今から北極へ戻って埋めてやろうか。どれ」
上条「すいませんでしたっ!ですからその物騒な銃はしまって、ねっ!?」
上条「……いやいや、今ちょっと思ったんだけど」
上条「アレっつーか、北極まで跳んだ時には『死者の書』使ったって事だよね?」
バードウェイ「当然だな。他の方法もないではないが、それが一番手っ取り早かった」
上条「つまりお前は、『最初っから「死者の書」の正式な並び順を知っていた』……?」
バードウェイ「『知らない』と言った覚えはないよ?」
上条「って事は何かっ!?余裕で『笛吹男』も瞬殺出来たんじゃねぇかっ!」
バードウェイ「『原典』はな。使う度に異世界の知識が流れ込み、術者の命を奪うんだよ」
上条「え、それじゃ」
バードウェイ「魔力を掠め取られた状態で使おうとすれば、良くて術者が発狂。最悪暴走して周囲一帯が虚無に呑み込まれかねない」
バードウェイ「強いが故に使いづらい訳だな、うん」
上条「それを言われると……んー」
バードウェイ「そ、それにだな。いくら『アレ』であるとしても、時間遡航制限はまだあってだな」
上条「……どんな?」
バードウェイ「『術者の身内にしか効力を発揮出来ない』、って」
上条「ふーん?……え、って事はつまり」
上条「でもそれおかしくないか?黒バードウェイがお前の娘なんだろ?」
バードウェイ「可能性としてはパトリシアかもしれんがね。魔術を使っていれば十中八九間違いない」
上条「それで介入したのは、お前にじゃなく俺だったんだよな?意識か何かを跳ばし――」
上条「……」
上条「……あるぇ?つーことはだ。つまりあの黒バードウェイは」
バードウェイ「『お前』ではなく『私達の』が正解だな、うんっ」
上条「待てやゴラあああぁぁぁぁぁっ!?つーか、もしかしてアレかっ!?俺達が結婚しなかったら!」
バードウェイ「当然生まれない者は生まれず、貴様は死ぬだろうなぁ」
バードウェイ「まぁ諦めろ。どっちにしろ『アレ』に深く関わった時点で、『DEADor婿入り』は確定済みだから」
上条「それ実質上の一択じゃねーかよっ!!!」
バードウェイ「いやぁ、困ったなぁ?私はだね、元々寛大な方である訳だよ、これが」
上条「……急にどーしたの?わっるい笑顔になってるんだけど」
バードウェイ「だからまぁ秘密を知られたぐらいで、野蛮な『DEADor婿入り』を課すつもりはない。安心したまえよ」
上条「いやあの、バードウェイさん?つーかそれ、死にますよね?多分遡って、俺、死んじゃいますよね?」
上条「要は自然消滅かお前らにチョメチョメされるかの差でしかないよね?結末はDEAD-Endまっしぐらだよな?」
バードウェイ「我々『明け色』としてもだ、正直『嫌いな相手との結婚はゴメンだ』しなぁ」
上条「……つまり?」
バードウェイ「何を今更、分かっているんだろう?……いや、でもまぁ、一応、念のために言っておくか」
バードウェイ「在り来たりな表現で済まないが、私はどうやらお前に惚れているようだ」
上条「……マジで?」
バードウェイ「で、なければわざわざイギリスからお前の着地点を割り出し、敵味方入り交じっている最中に突っ込むものか」
バードウェイ「視て、いたんだろう?そして、私の名を呼んだな?」
上条「……うん、確かに、それは」
バードウェイ「今となっては『約束』が先か後か、まぁ些細な事ではあるが」
バードウェイ「……だか、私は強制しないよ。その程度の誇りはあるつもりだ」
バードウェイ「勿論、『明け色』の名にかけてお前を死なせたりもしない。そう――」
バードウェイ「――『約束』すると誓おう」
上条「バードウェイ……」
上条(そう言って俺を見つめる瞳に濁りはなく、また偽りの欠片もなく)
上条(弱者へ手を差し伸べる聖者のように堂々として)
上条(身震いする程に気高い『誇り』を持ち、それでいて繊細な少女へ)
上条(……まぁ、そんな事を考えたのも一瞬で)
バードウェイ「――あ」
上条「……うん」 ギュッ
上条(俺の『右手』でバードウェイ――いや、今日からレイヴィニアだ――の、手を握っただけで意志は伝わったけれど)
上条(それだけじゃ足りなくて、とてもとても物足りなくて)
上条(気持ちは止まらない)
上条「だったら、俺はお前を守るよ。それこそ命懸けで――」
上条「――良かったら、一生」
バードウェイ「……仕方がないな、貴様は。ほんとーーーーっに仕方がない奴だ」
バードウェイ「これで一生私の人間イスが決定してしまったんだぞ。光栄に思うが良い!」
上条「え、今の告白もしかしてドレイになれって事なのっ!?最期の最期でそんなトラップが!?」
バードウェイ「似たようなもんさ。離れたくしても離れられないし、離すつもりもない」
バードウェイ「私の背中を預けるんだ。それ相応の意味を持つんだよ」
上条「え、それじゃお前割最初っから――」
バードウェイ「今日からお前は私の所有物になったんだからな!このっ!偉大なる私のだっ!」
上条「だから誤魔化すんだったら上手くやれと……早まった気もするよなぁ」
上条(胸を張る彼女の姿は頼もしげであり、恐ろしくもあり)
上条(まるで悪魔のような笑みを浮かべる、そんな姿を見ていて可愛いなって思っちまう俺も俺だが。まぁまぁ?)
上条(少なくとも退屈はしな――あれ?どっかで似たような感じが――?)
バードウェイ「では、念のためにもう一度。というか、今までは仮入団だったのが、おめでとう!今日から正社員だ!」
上条「何の話――って、あぁアレな?」
上条「何かもう大分昔の話に思えるけど」
バードウェイ「……ま、こう言うのは決まりだからね。言うだけ言っておかないと……こほん」
バードウェイ「では改めて上条当麻君、婿入りおめでとう、そして――」
バードウェイ「――ようこそ、『明け色の陽射し』へ!」
――断章のアルカナ・アフター 『バードウェイ編』 -終-
――バードウェイ「ようこそ、『明け色の陽射し』へ」 ~断章のアルカナ~ -完-
※終り。最後まで読んで下さったあなたへ心からの感謝を
ではまたいつかどこかで
乙!
乙乙
素晴らしかった!
できれば、アフターのアフターをだな
乙でした!
乙
ロシアで上条さんが二度目の『死』を迎えた、ってこういう事だったのね
人生の墓場みたいな意味で
乙
ロシアで上条さんが二度目の『死』を迎えた、ってこういう事だったのね
人生の墓場みたいな意味で
乙
ロシアで上条さんが二度目の『死』を迎えた、ってこういう事だったのね
人生の墓場みたいな意味で
連投になってしまった、申し訳ない
乙です
ネタ抜きで真面目な話、
『一般的な探知魔法が効かない相手』を
『ドーバー海峡から極限近くまで他の組織に気づかれる事無く数千キロ移動』して、
『電磁波で生物(or身に着けている物も)を探知できる世界屈指の電気能力者より早』く、
『大質量と一緒に落下した個人を人力で発見する』のって、
奇跡でも起きない限りは無理でしょうし
バードウェイが初めから極限へ部下を配置していたとしても……なんかなぁ、と
よっぽどお兄ちゃん好きでもない限り、ありえないかと
あぁ書き忘れましたが、あけおめです。あと銀×月の方、ようやく約束守れました
愛のちからってすばらしかぁ~
乙です
遅れちまったが、乙だぜ
アンタ本当に最高だ
乙! 面白かった!
レヴィちゃん可愛すぎる
…最後に言うけど、笛吹男さんが俺のツボだったわ。マジ良いキャラ
乙! 面白かった!
レヴィちゃん可愛すぎる
…最後に言うけど、笛吹男さんが俺のツボだったわ。マジ良いキャラ
すまん、連投しちまった
本当に乙でした!!
めっさ面白かった!!
最初から最後まで最高に楽しめた!!
これを機に上条×バードウェイのSSがバンバン増えると良いなぁ
乙でした
乙
乙ッ!
完全に終わったんならHTML化の依頼した方がええよ
新作が完成したら告知するために残してる
マジ楽しみだ
次回作にも期待!
楽しみじゃのぅ
新約のキャラをバンバン出してくれるからありがたい。
円周がかわいい
『そして静かに幕を開ける。ある反撃の烽火』
――???
「……ふむ。とあるゲームでな」
「例えば攻撃する際には六面ダイスを振り、その出目に攻撃に使った武器の威力を足し、それが最終的なダメージとなる」
「カッター程度であれば2、ナイフで7・8?真剣で15ぐらい。銃器では20前後だった気がする」
「対して人間の体力は10程度。カッターが2、ダイスの期待値が3.5として足して5.5。二回も当たれば瀕死だ」
「まぁ主人公達はレベルが上がったり覚醒したり、二桁後半は当たり前。前衛ともなれば三桁体力は必須のインフレ世界」
「敵も同様。取り残されていくのは哀れな一般人だけとなるんだが」
「だがそのゲームには追加ルールがあってね。『ダイスの出目が6である限り、もう一度振り足せる』と」
「これをクリティカル――と、呼んでいたかは忘れたが、まぁそう呼ぶとしよう」
「当たり所が悪かったのか、それとも上手く急所を突いたのか。デザイナー側はそう演出したかったと思うよ?」
「このルールのお陰で『誰であってもどんな相手に対しても一矢報いる』可能性が出来たと」
「理論上は悪魔王ルシファー――最も強いラスボス辺りですら、小学生が投げた石ころで撲殺できる“可能性”はある」
「だが実際の所――大真面目に計算してみたら、その世界で大ボスを倒すにはだ」
「『世界中の人間全員にダイスを振らせ、一回起こるかどうか』の、確率でしかない」
「逆に言えば『世界中の人間に石を投げつけられる』必要があるんだが。普通の相手であれば黙ってはいないだろうね?」
「同様に、だ。君は今、『上条当麻と同じ事をするのであれば、誰だって代わりえた』という仮説を立てたが……ふむ?」
「目の前の家出シスター相手に右手を振い」
「一万人殺した世界最強の能力者に立ち向かい」
「変質的な錬金術師に死にかけ、十字教一派と苦楽を共にしたり――」
「時にはイギリスを敵に回し、それでも飽きたらず第三次世界大戦中のロシアにまで乗り込んだな」
「そんな大馬鹿者が。常人どころか聖人や英雄ですらも匙を投げるような事態に対しても、だ」
「何度も何度も死にかけ、挫けて、何の見返りも求めない大馬鹿者が!」
「世界中のどこを探しても『上条当麻』以外の馬鹿なんて、いないに決まっているだろう!」
「可能性はあるかも知れない。もしかしたらもっと上手く、もっと楽に、誰かが何かを助けてくれた“可能性”だ」
「だが!それはあくまでもしもの話だ!現実には起こりえなかった仮定の話、所詮は言葉遊びに過ぎない!」
「あの日、あの時、あの場所で!」
「現実に押し潰されそうになる少女を!」
「妹のために死に場所を見つけた少女を!」
「姉に命を説いた少女を!」
「助けたのは、誰だっ!?」
「名も知れぬ英雄か!?万能の能力者か!?それとも偉大な魔術師にして騎士王か!?」
「誰でもない!どれでもない!」
「少しばかり変わった右手を持つ少年――馬鹿で馬鹿な馬鹿の……」
「――馬鹿なんだよ」
「……くく、浅い。浅いなぁ、魔神オティヌス」
「所詮はその程度か。全知にして全能の存在の名を持ちながら、そんな簡単な事にすら気づけないのか」
「……あぁそれじゃ無理だろうな。タロットを使うまでもなく、私には幻視るよ」
「君が魔神になんか、どれだけ時を費やしたとしてもなれやしないさ」
「空しく、そしてただ、虚しく。永劫を一人寂しく彷徨うのが精々だろうね」
「……」
「……と、言うかだな、貴様。君じゃない、頭が悪い方のだ」
「なんだかんだで、まだ生きてるんだろう?どうせ悪あがきをして、死に損なっているんだろ?」
「既に終わった世界で、閉じた世界の終末を突き抜けた先で、私の声が響いているのが証拠だよ」
「理解しろとは言わないけれど、その悪い頭と学生としては色々と致命的な演算能力を総動員して聞きたまえ」
「“誰が”とか、“もっと上手く”とか、そういうのは良いんだよ。何をどうやった所で結果論に過ぎない」
「例えば世界を造り直したとして、最初から英雄を設置としていたとしても、それは、ただの、偽物だ」
「悲劇を食い止められて私達は笑うかも知れない。幸福に浸るかも知れない――あくまでも、外面だけだがな?」
「例えばそこがどんなに満たされた世界でも、そして自分の思いのままに出来たとしても、それは夢だ」
「仮に全ての悲劇が回避されたとしよう。元の世界で起きた筈の悲劇が、無かった世界が出来たとする」
「だがそれじゃ『新たに起きる悲劇』は誰が食い止める?」
「学園最強の能力者が最強のままであっても、それはいつか訪れる魔術師には容易に敗れ」
「『必要悪の教会』がほのぼのハッピーな組織になったとすれば、凶悪な魔術犯罪者は誰が審判を下す?」
「グレムリンがグリーンピース程度にまでスケールダウンしたとして、他の人間は邪な考えを抱かないか?」
「それでも――『全人類の思考方向を探知し、特定方向へ誘導させる魔術』なんて方法であれば、悲劇は避けられる」
「だが、しかし、それではだ」
「去勢された家畜の生き方と何が違う?それをまさか“平和だ”などと言うつもりはないだろうな?」
「そもそも論で言うのであれば――まぁ私が言うのも少々棚に上げる気もするがね?」
「『たった一人で地球上全ての命を軽々しく消し飛ばした人格破綻者』が」
「『そんな絵本に出て来そうなヒューマニズムに悪酔いしたゴッコ遊びに付き合う保障』とやらも示して欲しい所だ」
「オカシイと言うのであれば、それは全てだ。最初からだよ」
「全知全能の力を持ちながら、そして世界を壊し、新たに構築する力がありながら」
「元の世界の矯正はせず、只々癇癪を起こした子供のように叩き潰した」
「そんな相手の善性に縋るのであれば、それは自殺と何が違う?」
「……」
「……なんだね。まだ目が覚めないのかい?」
「まぁ……貴様という大馬鹿者もなんだかんだで言わせたがり――もとい、悪趣味極まりないからなぁ」
「だからもう一度だけ言おう。いいか?普通は有り得ないんだぞ?光栄に思えよ?」
「……いやでも最近思うようになってきたんだが、こう言うのは言ったもん勝ちな気もするな。結局恥ずかしい思いをするのはそっちなんだし?」
「だから別に私は別に何とも思わないぞ?勘違いするなよ?」
「……」
「……ウルサイな佐天涙子!『惚れた弱み』とか言うんじゃない!デレた憶えなんてないし!“別に”もワザと噛んだんだ!計算だよ!」
「あと概念しか存在しないのにカメラを回そうとするな淫乱ゴールド!お前が持ってるそれはアガシックレコードだ!」
「星の記憶へ私のデレを刻んでどうする!?二周目では創世神話が御坂美琴の日記みたいになるだろう!……いや、デレた憶えはないが!」
「だからオルソラと鳴護アリサは勝手に頭を撫でようと――お前ら、いつか然るべき報いを受けさせるからな?憶えておけよ?」
「……あぁこっちの話だ。オリジンとパラレルが混ざり合った世界で、どーにも下らない事になっている」
「果たしてどの世界の基軸になるのやら。最悪全部入り交じったら悲惨――いや、笑えるだろうがね。私達以外は」
「……」
「――私は、お前“で”いい」
「……いや、違うな。そうじゃないな」
「――お前じゃ無ければ、嫌だろ。お前の居ない世界など、つまらんよ」
「私は、お前“が”いい」
――??? -続-
乙
外伝でなくみさきちメインという上司も言葉も偶には思い出してあげてください(おれの願望も込みですが)
>>850
順番的なアレです。つーかソロなのか御坂さん辺りと絡むのか、それも含めて考え中なので
>>851
ああ申し訳ないHTML化してるから少し見てると思わないでふざけてただけなんです
催促と取ってしまったのなら更に申し訳ないです
乙です
乙
期待してる
乙、覚醒編か……スキル選択がしんどすぎたなぁ
乙乙
期待しているぜ
乙。解釈が素晴らしいな
乙でした!
>>852
お気になさらず
某スレでは頑張ってるのにゴリラ連呼、しかもなぜか株が上がるのが空知先生という理不尽に比べれば……
ってかhtml化してないですね。まぁいいっちゃいいんですけど
>>859
おお作者様、おはようございます。
>>859
いつも面白いSSをありがとうございます!
そういえばブログやってらっしゃったんですか?
>>859
いつも面白いSSをありがとうございます!
そういえばブログやってらっしゃったんですか?
このSSまとめへのコメント
期待です!