準備は順調に進んだ。
我が「旅行同好会」史上最大となるであろう今回の旅行は、お兄ちゃん持ち前の行動力で円滑に計画が進行した。
今回の旅行の目的は、当然「避暑」だ。こう暑くては、何事も敵わない。
今までこの同好会では、日帰り旅行ばかりだったけど、お兄ちゃんいわく、
「夏の真の敵は寝苦しさ」らしく、宿泊が決定した。
避暑地でいざ快眠を!というのがコンセプトであり、観光の要素はあまり含まない
旅行となっている。
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同好会メンバー、友くん、女さん共に異は唱えず、私も当然賛成した。
そもそもこの同好会、お兄ちゃんが小さい頃からの友人しかおらず、さらに
旅行以外の活動もしばしば、というお兄ちゃんにとって大変都合のいい場所だ。
・・・まあ、お兄ちゃんはすごく楽しいらしいから、いいんだけど。
何はともあれ楽しみだ。旅行は明日。今日は寝られそうにないかも。
・・・寝れたことなんて一度もないけど。
唸る猛暑にまたな、と告げ、車に乗り込む。
後部座席には妹と女。助手席には友が座り、桃源郷への路を走る。
「どんなとこなのかな?」
後部座席から、女がたずねる。・・・目が輝いている。相当楽しみにしていたのだろう。
「湖があるよ。あと、なんていうかな、風が爽やか、っていうか」
友が答える。今回の行き先、友は一回行ったことがあるらしい。
それからは、いつもの会話。他愛もないやつ。
目的地までは大体3時間くらい。そして、一時間もすると、いつものアレが始まった。
「・・・寝たか」
「僕は起きてるけど」
友は寝ていなかった。・・・珍しい。
「今日ばっかりは、兄の話し相手になろうかと思って」
「それは嬉しいな。いっつも暇なんだ。まったく、運転手は辛い」
「そう思って、昨日はたくさん寝たよ。・・・妹ちゃんと女は寝れなかったんだろうね」
「だろうな。昨日は妹が夜中に何回もリビングでお茶を飲んでた」
朝起きると、シンクにコップがずらりだった。洗う方の身にもなって欲しい。
「かわいいじゃん。いいね。妹。僕も欲しいな」
「面倒くさいだけだ」
これは本音。だと思う。真相心理はどうかわからないけど。
「おっ、湖、見えてきた!」
意外と早い。三時間の運転は正直だるかったのだが、案外・・・
そこからが長かった。景色は変わらず、湖沿いをただただ走るという、地獄。
なあ友、まだ着かんのか」
「着かないねえ。この道は長いんだ」
その言葉を聞いて、俺は手に力が入らなくなった。
結局、着くまでには予想していた三時間がかかり、予想していた通りのだるさが俺を襲った。
だがしかし、目的地は、俺の予想をはるかに上回った。
「す、涼しい・・・!半端ない!」
ああ、ここは天国か。まるでイ○ンの店内のような涼しさ!
涼しさだけでなく、目に余る程の自然、つまり木々も、またその涼しさを一層際立たせていた。
どこからか鳥のさえずりも聞こえる。これは良い眠りができそうだ。
・・・さて、車の中の眠り人を起こさねば。
「おーい、着いたぞ」
「・・・・・・」
これがなかなか手強いのだ。
「起きろぉ!!」
「ひゃっ!?」
素っ頓狂な声を上げ、二人共、目を覚ましてくれた。
「いいとこだね。すっごく涼しい!」
女も俺と同じく暑さに弱い。最も嫌いなものは、と問えば、「猛暑日」と答える奴だ。
それに対して、友は暑さが得意だ。
「30度を超えると、運動が一層気持ちいいね!」とか言う。引くわー。
ひんやりとした空気にうっとりしながら、四人で宿へと向かう。
「旅館、どんなとこかなー?おいしいもの出るかなー?」
女は相変わらずだ。そんなにお高いとこじゃないから、あまり期待しないでくれ、と言いたかったのだが、やめた。
ところが、この旅館もなかなか味がある場所だった。これといって目立つところはないのだが、風情、といったものが滲み出ている。
部屋は当然二部屋だ。こういったとこはしっかりしないと。
二手に分かれて別々の部屋へと向かう。夕方からお祭りがあるらしく、それまで
自由行動ということになった。
部屋に着くなり、
「僕は風呂に入る!!!!!!」
と友が声を大きくして言った。うるさい。
そして、
「兄も一緒にどう?」
と誘われる。うむ、まだ風呂には早い気もするが悪くない。
「わかった。俺も行く」
置いたばかりの荷物から、風呂道具を引っ張り出す。
クローゼットから浴衣をひっぱり、慣れない手つきで着た。
・・・似合わない。
はよ
期待
道具も持って、いざ風呂へとドアを開けると、同じことを考えていた二人が。
「おお、風呂か」
「・・・お兄ちゃんもお風呂でしょ」
まあ、似た者同士だ。
風呂までそんな距離はなかった。だが、風呂は2階にあるため、上り階段がきつい。
エレベーターがあるといいのだが、ここはホテルではなく旅館。贅沢は言えない。
・・・しかし、露天風呂からの景色はそれはそれはたいそうなものだった。
「おおーっ。すごいな」
「だね」
目の前いっぱいに広がる湖。・・・なかなかやるな。
太陽の光に照らされ、開放感が心地いい。
「これくらいの時間も、いいもんだな」
「でしょ?お風呂は日の出ているうちに限るよ」
目一杯風呂を楽しみ、部屋に戻ったところでハプニング。
・・・お約束だな。
「湯あたり?」
「そ、そうなの!妹ちゃん、お風呂上がってすぐ倒れちゃって!」
「はあ・・・」
と、こんな具合。本当にあいつは・・・イベントを楽しめない運命にあるというか。
今まで、運動会、学芸会、修学旅行。無事に終わった試しがない。
「僕、見てるよ、女と兄はお祭り行っといで」
「そ、そんな!・・・いいの?友くん」
女は責任が自分にあると思ってるのだろう。妹の自己管理が悪い、と言いたかったが、
女はそんなんで納得しない。
「僕は大丈夫。世話は好きなほうだから」
「じゃ、頼んでいいか」
「あ、兄君!」
「友がいいって言ってるんだからいいだろう。妹の分まで楽しもうぜ」
「で、でも・・・」
女はまだ食い下がる。・・・そんなに気にすることか?
すると流石に妹も見かねて、
「女さん、行ってきて。わたし、そんなにひどくないから」
と言った。
「そういうことだそうだ」
女は渋々首を縦に振った。
太鼓の音が響いて、売り子の声がうるさくて、ってほどの大きさの祭りではなかった。
それでも、こんなとこでやる祭りにしてはそれなりの規模だった。
祭り特有の、あのいろいろなものが混ざった匂い。それに加えて、神社の境内で
やっているせいか、なんだか木の匂いがしてくる。
まあ、あまりいい匂いでは無い。
見渡すと、綿菓子、りんご飴、焼きそば、金魚すくい、射的・・・
祭りのの代名詞となる夜店から、チューブチョコ、1000円くじ引きなど、
何やら怪しげな夜店まで。
「思った程、混んでないな」
お祭りは混んでいる、という等式は成立していると思っていたのだが。
「そうだねー。まあ、これくらいが楽かもね」
その通りだ。混んでいるのは嫌いだ。
「じゃ、行こう!兄君」
・・・それでもいいのだが。
俺たちは大学生だ。
大学生が、はたして普通に祭りを楽しめるだろうか?
・・・NO、だよな。
「・・・勝負、しかないだろ?」
「いいよー!乗った!」
女は、笑顔で了解した。
「一発目は、射的!!」
女が提案してきた。よし、いいだろう。
「たくさん景品とったほうが勝ちね!」
「望むところだ」
「・・・おかしい、絶対におかしい。絶対へばり付いてるだろ!あれ!」
まあまあ、兄君。楽しかったからいいでしょ?」
「取れなくて楽しいのか?」
俺はそうは思わん。
「まあ、気を取り直して、二発目といこうよ!」
まあ、女がそういうのなら。
「りんご飴早食い!」
なかなか面白いことを考える。よし。乗った。
「面白そうだな、それにしよう」
そういえば、りんご飴なんて何年ぶりに食べるだろう。
そもそもお祭り自体がかなり久しぶりだなあ・・・。
などと、感慨に浸ってる暇はない。目の前の勝負に集中せねば。
「兄君、準備いい?いくよ?」
おう、かかってこい。俺は頷く。
「よーい、どんっ!」
一斉にかぶりつく。・・・そして、口を離す。
「か、かてえ!!なんだこれ」
歯が折れそうなほど、かたい。たべれない。
「そ、そうだね、かたいね」
女が言う。
「・・・やめない?これ」
「・・・賛成。」
結局勝負は中止になった。なってしまった。
「兄君、もうすぐ花火やるって!」
花火。これまた夏の風物詩だ。
「場所、取りに行くか」
「うんっ」
気づけば人も増え始めている。
花火目当ての人がぞろぞろと川原にむかって歩きはじめた。
「もうすぐかな?」
と女が言ったその時、夜空に花火が打ち上がった。
「わぁ!綺麗・・・」
一発、また一発と花火が打ち上がる。
気づけば二人無言で花火を見つめていた。
十分くらいたっただろうか、おもむろに女が切り出した。
「兄君、わたしね、この旅行で兄君に言おうと思ってたことがあるの」
今日はここまでにしときます。
地の文ちょっと寒いかな?
乙
すばらっしい!!
寸止めとな
乙
セリフの前に人物名を書いて欲しい
>>32
文盲が
地の文形式だと合わなくなるんだよ
人物名あると雰囲気壊れるのはわかるが地の文に描写が足りないと読みにくいだろ
他には口調をはっきりさせて区別するとか
再開します。
読みにくいようですいません。
セリフの前に人物名書かないのは大体>>33です。
頑張って読みとって下さい。
「ううん、言わなきゃいけないこと・・・かな」
女の顔が強ばっている。はて、心当たりはないが、何かしただろうか。
沈黙が続く。
「どうした、らしくない。言葉に詰まるなんて」
「ご、ごめんね。あんまり整理してなくて」
「? そうか」
花火はクライマックスに差し掛かる。大きな花火が立て続けに打ち上がり、一番の見せ場であろう特大の柳が打ち上がった所で女が動く。
「・・・兄君、もし、よかったら」
「わたしと、結婚を前提にお付き合いしてくれないかな、って」
その時の俺の顔は多分、「きょとん」だろう。それくらい驚いたし、今まで全く気がつかなかったからだ。
「あ、兄君、へ、返事とか」
女が促す。
「・・・・・・ごめんな、俺、付き合ってるんだ。幼馴染と」
「・・・! そっか、そうだよね、仲、良かったもんね。なんにも、ないわけないよね」
「ってことは、遠距離恋愛、だよね。そっかぁ、付き合ってたのかあ」
「ああ」
幼馴染は、隣町の大学だ。進学するにあたって引越し、必然的に遠距離恋愛になる。
「・・・兄君、わたし、先戻ってるね!」
女はそう言って走って行ってしまった。後ろ姿は、泣いているように見えなくもなかった。
どこぞの花束を渡し、この花の花言葉は「愛してる」、だぜ。といったようなファンタジー的かつロマンチック告白はできるはずもなく、ましてやどうしようもない俺は、普通の告白すらも上手くはいかなかった。
さあ告白、となると足が震え、考えていた台詞もすべて飛んだ。
挙句の果て、その相手である幼馴染にもフォローを入れられるという大惨事。
思い出したくもない。
それでも、OKをもらえたのは奇跡だと思う。
まあ、多少なりとも哀れみの目は向けられたが。
大学に入って、会う機会はそりゃあ減ったが、それでも休みの日は毎日会っていた。
しかし最近は・・・なんというか、メールだけ。それも週に一回くらい。
正直、疎遠になってきていると思う。だから、旅行同好会で鬱憤を晴らしているのかもしれない。
これだけで見ると、旅行同好会をただの憂さ晴らしのように捉えられてもおかしくはないが、そんなことはない。ここはここで楽しい。
でも、やっぱり。この顔ぶれの中にもあいつがいて欲しかった。
あいつは、この大学に来るには、ちょっと、足りなかったから。
あいつの行く大学に行きたかった、とは思わないが、こっちに来て欲しかった。
そんな、自分勝手を女に伝えないまま、今日を迎えた。
本当に申し訳なかった。
川原の人ごみをすり抜け、旅館へと歩く。
「おかえり、もうすぐご飯だよ」
部屋の中には友がいた。どうやらもう一回風呂に行ったらしく、部屋にあった4つのバスタオルのうち、3つが濡れていた。
「いやあ、風呂から見る花火も、なかなか乙なものだね。川の近くまで行ったのかい」
「ああ。湖のすぐ近くに川があるって、おかしなとこだな、と思った」
「あれは人工的につくられた川だよ。花火用のね。湖から水を引いてるんだ」
そうだったのか。こんな自然豊かな場所なのに。リゾート開発しなきゃいけないんだな。
俺の中のここの評価が少し下がったような気がした。
「そういえば、妹はどうだった?回復したか?」
「うん。本当に大したことなかったみたい」
まあ、そうだろう。
「それより、女とはどうだった。何もないわけ無いだろう?」
「それがお前の推論であればご明察と言いたいところだが。あらかた二人で組んでたんだろ?」
「どうして分かる」
「女が湯あたりしないで、妹が湯あたりするわけないだろ。女は暑さが苦手なのに」
友が小声で、そういうところは鋭いのに、どうして・・・とつぶやくのが聞こえた。
「・・・振ったよ。わかるだろ?」
「そうかい。でも、僕はいけると思ってたよ」
「どうしてだ」
「兄が優柔不断だからだよ」
夕飯は普通だった。普通の和食。
女はいつも通りだった。俺もいつも通りだった。
泣き腫らした様子もなく、落ち込んでいる素振りも見せず。
告白は無かったことになってるのか、と思うくらい。
安心はしたけれど。
夕飯が終わると、妹と女は風呂に行った。
女は絶対だめ、と最初言ったけれど、妹が本当のことを言ったらしい。
そして俺と友が部屋に戻ったとき、友が何かを思い出して、叫ぶ。
「あーーっ!!忘れてきた!録画!」
「テレビがあるじゃないか。見ればいいだろ」
「違うんだ。見たい番組が二つあって、時間が同じなんだ」
「家に電話して、頼めば」
「家には誰もいないんだ!僕の家族も出かけてるんだよ」
むう。それはどうしようもないんじゃないか。
「諦めろ、友。どっちか一つに絞れ」
うう、と友は唸り声を上げる。決められないのだろう。
「なんとかできないかな、兄」
なぜ俺に頼る。目をそらす。
「頼む、兄!一緒に考えて!」
「・・・はぁ」
そこまで言われると俺も少し考えてみようかと思ってしまう。
考えるだけだけど。
「まず、お前に目が二つしかない限り、二つの番組を同じ時間に見るのは不可能だ」
「だが、最近のテレビは二つの番組を一気に見れるやつがあるだろ。二画面で」
といったものの、
「・・・兄。このテレビがそんなことを出来ると思うかい?」
旅館にあるのはかなり年季を感じさせる代物。映るのかどうかすら怪しい。
しかし、見たところチューナーらしきものが付いている。地上波は映るだろう。
ただ、困った。それができないとなると、もはや残る手は録画しかない。
「兄、あと15分で始まるよ。やっぱり僕は選択しなきゃいけないかい?」
・・・・・・・・・待て。
「そうだ!携帯はどうだ?携帯の動画撮影をすれば!」
「そのやり方だと、テレビが二つないといけないよ」
「女たちの部屋のテレビを使えば・・・あ」
「そうだよ。女たちは今、お風呂だ」
万事休すか。方法を見つけても、実行できないんじゃ意味がない。
何とかして、二つ、テレビを。いい案だと思うんだが。
「・・・兄。諦めるよ。そんなに見たいなら、録画を忘れるな、って話さ」
俺はもう一度考えを整理する。
録画をするには、テレビが二つなきゃいけない。
女たちの部屋のテレビは使えない。
なぜなら彼女たちは今、風呂に入っているからだ。
・・・・・・・・・・?
閃いた。
俺は今、後悔している。とても。
何が悲しくて、旅行先でテレビを携帯で動画撮影せにゃならんのだ。
俺は携帯を投げ捨てたくなるが、自分のじゃないのでままならない。
携帯を固定したいところだが、ちょうどいいものは見当たらず、結局手で持つことに。
それに加えて、テレビ番組のセンスも悪い。録画しているのは、三流のホラー映画。
・・・怖いのは苦手だ。
さらにさらに、録画しているもんだから、怖くてもうかつに声は出せない。
くそっ。とんだ失敗をしたもんだ。友め、戻ってきたらただじゃおかない。
その友はどこへ行ったかというと。当然、テレビを見に行ったのだ。・・・風呂に。
俺は暑いのが苦手だ。それはホラーで和らぐようなもんじゃない。
だがそれは裏目に出たようだ。こっちのほうが数倍つらい。
テレビがある場所、でひらめいたのは、サウナだ。
どこの風呂にもたいていサウナはあり、そしてたいていテレビがある。
昼に風呂に入っていなければ、もう少し言えば友があの計画を企てなければ、
俺は思いつかなかっただろう。
ホラー映画が大団円に入り、予想通りの結末を迎えたところで友が帰ってきた。
「いやあ、サウナはいいね。旅番組の冷やし中華が一層美味しそうだったよ!」
このやろう。こっちの身にもなれ。
しかし、録画した携帯電話の充電が、友が映画を見ている途中で切れるという天罰が下り、
ちょっと良い気分。ざまあみろ。
結末を教える、という仕打ちも検討したが、あまりにもかわいそうなので、やめた。
友よ、結末を気にしながらこの旅を過ごすがいい。今夜は寝れないな。
明日の帰りの車では、友は爆睡まちがいなしだろう。
まあ、こいつには女の件で貸しがある。これでイーブンだろう。これでいい。
今回の件で学んだのは、「旅館についたらまず風呂に入れ」ということだ。
書きだめなくなったのでここまでにしときます。
まだまだ続きます。
はよ
続き書かんの?
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