アイマス×俺ガイルSS プロデューサー八幡とアイドル達の日常 (12)

アイマスと俺ガイルのクロスSSです。
最早何番煎じかわからないみんな大好き八幡がプロデューサーでアイドルのプロデュースをするお話。
そんな更新頻度は高くないです。
1日1件か2件出来たらいいな、程度です。

八幡は25歳の設定です。
事務所は特に決めてないので、いろんな事務所のアイドルが出てきます。
俺ガイルキャラもたまに出ます。
特に書いてほしいアイドルの募集とかはしません。
イッチの気の赴くままに書いていきます。
でも、要望多いと書くかも…。
アイドル達の八幡への好感度はいちいち考えるのがめんどくさいので全員高いです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1705323720

都内某所、今をときめくアイドルたちが子どもから大人まで所属しているとある事務所。
その事務所でアイドルたちのプロデューサーを務める男が気だるげな様子で職務室で作業をしていた。
その仕事の性質上、同社の人間にも見せられないようなものもあり、特別に社内に一室をもらっている。
かつて高校時代の教師に死んだ魚のような目と評された、目で今日も今日とてパソコンと向き合っている。
25歳という若さでありながら、事務所所属アイドル全員のプロデュースを行っている彼は高校時代の夢とはもっともかけ離れた職務を全うしている。
何度直しても直らないぴょこんと立ったくせ毛。基本的に猫背な姿勢。そして、死んだ目。
それこそがこの男、比企谷八幡という男である。

「ハニー!」

そんな男の部屋にノックもせず、ドアを勢いよく開け放ち、1人の少女が入ってきた。
長く少々、クセのついた金髪をなびかせ、エメラルドをも想起させるグリーンの瞳をキラキラとさせているこの美少女は星井美希。
上述の通り、彼はこの事務所に所属するアイドル全員のプロデューサーであるため、当然のごとく、彼の担当アイドルである。
身長は161cmと平均よりは高く、スタイルも上から順に86-55-83という抜群なものであるが、15歳の中学3年生である。

「星井。何度も言うがその『ハニー』って呼ぶのやめない?
勘違いされたりしたら困るんだけど。」

「ミキは困らないの!」

「俺が困るって話なんだよなぁ。はぁ、まあ外で呼ばないように気をつけてくれればそれでいいか」

「ミキとしては不満だけど、ハニーが言うならそうしてあげるの」

「じゃ、それで」

「了解なの!」

一社会人であり、学生時代、国語だけは得意だった八幡は『了解』という言葉は目上の者に使う言葉ではない、など当然知っているが、いちいち中学生相手に指摘したりはしない。
真面目な子ならともかく、こういった無邪気なところは星井美希の売りでもある。大人ならまだしも子どもの内からそんなところまで気にすることはない、と考えているのだ。

「んで、何か用か?」

「レッスン終わったから遊びに来たの!」

「おう、そうか。俺は忙しいから遊べないんだ。残念だったな。わかったらそのまま回れ右してくれるか」

「ちゃんと大人しくしてるから大丈夫なの!」

「そうか」

八幡は心の中で『遊んでないじゃん』とツッコミを入れ、作業に戻った。
作業に戻ったはいいものの美希は八幡のことをちょっと離れたところに置いてあるソファから見つめていた。

「星井」

「何?」

「遊ぶのはさすがに無理だが、仕事しながらでよければちょっとだけ話すか」

「うん!」

美希はパーっと一瞬で満面の笑みを浮かべて大きく頷いた。

「ハニーの好きな人は?」

「小町」

「お米?美希もおにぎり大好きなの!」

「いや、自分で人って言っただろ。米じゃなくて人、妹の名前だ」

「ハニーは妹が好きなの?」

「ああ。愛してると言っても過言じゃない」

「そっか!じゃあ、ハニーは美希のことも好きなの!」

「は?え?なんでそうなるの?」

「ミキも妹なの!」

「いや、そうかもしれんが俺が言ってるのは……」

八幡はチラッと美希の方を見た。
八幡の死んだ魚のような目に映ったのは何やらとても喜んでいる様子の自分の担当の姿。

(まあ、否定してやる気を削ぐのもあれだしなぁ。はぁ)

八幡は心の中で大きくため息をつく。
比企谷八幡はすでに大人になっている。高校生の時の彼とは違うのだ。
高校生の時では言えなかったようなことも少しは言えるように成長したのだ。

「まあ、あれだ。好きか嫌いかで言えばどちらかと言えば好きな方ではあるがな」

『好きか嫌いか』の2択に絞るという保険を掛けたうえで『どちらかと言えば』とさらに保険をさらに重ね掛ける。成長した比企谷八幡にとってこれが精いっぱいである。

「ハニー!」

そんな八幡のことは重々理解している美希。美希の意外と優秀な脳内コンピューターはそれが八幡のデレであると見破っている。その嬉しさのあまり、美希は八幡の左腕に抱き着いた。すると、当然中学生離れしている彼女の胸が腕に当たってくる。

「おい、仕事できないだろ。離れろ」

「や。いつもは『仕事とかしたくねえ』とか言ってるくせに!」

「ねえ、それ誰の真似?俺?似てないんだけど」

「そんなことはいいの!美希は嬉しいから抱き着くの!」

「俺がよくないんだよなぁ。ねえ、ちょっとほんとに離してくれない?」

「や!」

八幡は今度は実際に大きくため息をついた。
腕に当たるあたる感触も腕に当てている感触も互いに感じている。

(美希のどきどき、ハニーに聞こえてるかな)

中学生の小悪魔は少し赤く染まった頬を抱きしめた腕にこすりつける。
八幡は左腕に確かなぬくもりを感じながら、右手でキーボードをカタカタと叩き始めるのだった。

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速水奏編

「あなたと2人きりなんて随分と久しぶりね」

「ん?ああ、そう言えばそうだな」

八幡は夜の車道を社用車を運転しながら、助手席に座る少女と話していた。
少女の名は速水奏。八幡の担当するアイドルの1人である。
17歳の現役高校生でありながら、容姿や性格も相まって、大人以上の色気を醸し出し、老若男女を問わず、魅了するアイドルだ。

「比企谷さんとドライブなんて聞いたらみんなどう思うかしら」

「それはあれだ。あんなのと2人きりなんてかわいいそうとか思うんじゃないの?」

「相変わらずの自己評価ね」

「お褒めにあずかり光栄だな」

「いつから比企谷さんは耳まで腐ってしまったのかしらね」

「ねえ、『まで』って何?俺の腐ってるとこ、目だけだよね?」

「なんでそこの自信は揺らがないのかしら」

奏ははぁ、とため息をついた。

「昔から現在進行形で言われてることだからな。最近は比較的マシになったとは言われるが」

「妹さん?」

「まあ、そこらへんだな」

八幡の頭には豊富なボキャブラリで罵倒の言葉をかけてくる長い黒髪をたなびかせた女と就職し、トレードマークのお団子を下ろしている優しい女と生意気なあざとい後輩の姿が浮かんでいた。

「へぇ」

八幡と奏の会話はそこで一旦途切れた。
カーステレオから流れるラジオとエンジン音だけがその場に流れていく。
元々八幡は必要以上に話すことを得意とするタイプではないし、奏も決して口数の多いタイプではない。
故にこの時間は2人にとって決して居心地の悪い時間ではなかった。
ラジオから流れる音楽に合わせて奏が鼻歌を歌い始めた。

(随分と機嫌がよさそうだな。奏だけに鼻歌を奏で…ってどっかの酒好きおっさんアイドルの思考が移ってんじゃねえか)

八幡はチラッと奏の方に目をやると、すぐ視線を前に戻し、運転に集中し始めた。

(こいつの鼻歌を金払ってでも聞きたいやつは多いだろうし、それを考えると役得か)

「どうしたの?さっきからチラチラ見て」

(最初に見ただけのつもりだったが、そんなに見てたか?)

「いや、鼻歌なんてやけに機嫌がよさそうだと思ってな。仕事の内容がそんなに満足だったか?特別な仕事とかではなかったが」

「それがわからないかから比企谷さんなのよ」

「俺の苗字を悪口代わりに使わないでもらえますかね。妹も同じ苗字なんで」

「すべてそこに直結してしまうのね…。妹さんもこんな兄がいたら結婚とかできなそうね」

「は?いや、小町は一生独身だから。お前馬鹿なの。なんでうちのかわいい小町をどこの馬の骨かもわからないやつのところに嫁がせないといけないわけ?いや、向こうが婿養子ならいいとかそういうわけじゃないけど。小町を嫁になんて絶対やらねえから。同性婚でもやらん。大体お兄ちゃんがいればそれでいいだろ。あいつもいい加減小町から離れないと滅さんといかん。でも、あいつの姉がおっかないからな…。俺が滅されかねん。小町があいつに異性としての感情を持ってなさそうなのが救いだが。いやでも、あんなにかわいいんだからどいつが狙ってるかわかったもんじゃないしな」


「はい、ストップ。普段口下手で全然しゃべらないくせに妹さんのことになると随分と饒舌ね」

「当たり前だろ。俺の小町への愛はとどまるところを知らん」

「シスコンここに極まれり、ね。ホントに妹さんが大変そう」

「そうなんだよな。妹はかわいいんだが、兄が俺という汚点を周りに知られるわけにはいかんからな。学生時代とかなるべく外では接点がないようにしてたまである」

「自虐もそこに入ってくると余計にめんどくさいわね」

「んだよ。速水だってこんな兄がいるのイヤだろ?」

「うぅん、そうね。考えたことはなかったけど別にイヤではないわよ?」

「別に気を遣う必要なんてないぞ?」

「こんなことで気を遣わないわよ。比企谷さんってなんだかんだで面倒見はいいしね。実際に年少組からもかなり好かれてるじゃない」

「今だけだろ。あいつらも思春期とかになってくるとだんだん離れていくようになる。あぁ、龍崎から『せんせー』って呼ばれなくなるのか…。ヤバい、涙出そう」

「ロリコンまでこじらせてるの?」

「ロリコンはこじらせてねえよ」

「シスコンはこじらせてるのね」

「まあな。うちの妹が可愛すぎるのが悪い」

「はぁ。ちなみに私たちアイドルとあなたの妹どっちがかわいいかしら」

「妹」

「即答なのが本当にムカつくわね。今度まゆに教えてあげようかしら」

「ねえ、ちょっと。俺のことを遠回しに殺害予告するのやめてくれない?」

「今の発言録音したけど、誰に聞かせてほしい?」

奏は勝ち誇ったようにスマホを出してきた。八幡はまたチラッと確認すると大きくため息をついた。

「何が望みだ」

「理解が早くて助かるわ。比企谷さん、仕事もう終わりよね?」

「そうだが?」

「私、まだ晩ご飯食べてないのよね」

「……わかったよ。俺もまだ食ってないしな。ラーメンでいいか?」

「女の子、それもアイドルにプロデューサーがラーメンを薦めるのはどうなのかしらね」

(先生、女の子にラーメンを薦めるのはだめらしいですよ)

「それか、サイゼだ」

「なんでその2択なのよ。はぁ、ラーメン」

「アイドルがファミレスとラーメンの2択でラーメン選ぶのはどうなのかしら」

「うるさい。Lippsのグループチャットに流してほしいの?」

「急いで向かいます」

「よろしい」

2人を乗せた車は夜の道をずーっと走っていくのだった。


次回豊川風花編

何番煎じかわからん

豊川風花編

「比企谷さん!」

ノックもせずに八幡の部屋の扉をドンと開けて入ってきたのは、ウェーブのかかった青い髪をした女性だった。

「おぉ、豊川か。どうした。珍しいな、ノックもせずに入ってくるなんて」

豊川風花。元看護士のアイドルで22歳である。
急いできたためか、胸のたわわが風花の呼吸に合わせて上下している。

(相変わらずすごいな。由比ヶ浜といい勝負なんじゃないか)

「どうした、じゃないですよ。また、グラビアの予定が入ってるじゃないですか!」

「ああ、それか。だってオファー来たし」

「だってじゃないです!最近はそういうお仕事減らしてくれてると思ったのに!」

「ん?お前、何言ってるんだ?」

「何って、このスケジュールに入ってるグラビアですよ!」

「ちゃんとスケジュール読んでみ」

「え?○○誌のグラビアで内容は、私と休日のデート風の撮影?」

「ああ。水着になることはないし、豊川が好きそうな清楚系の服を着せてもらえるように先方には伝えていたが、そんなに嫌なら水着のグラビアに切り替えてもらうか」

「ああっ!待ってください!ごめんなさい!謝ります!謝りますからぁっ!その、なんでもしますから!」

「ったく、気をつけろよ」

「すみませんでした…」

「あと、軽々しく何でもするなんて口にするな。俺が変なこと注文したらどうするんだ」

「だって、比企谷さんはそういうことしないじゃないですか。そんな度胸ないでしょ?」

「え、何で俺がディスられる流れになってるの。いや、確かに手出すような度胸があったらプロデューサーとかやってないけど」

「なら、いいじゃないですか。それに比企谷さん以外には言わないので大丈夫です!」

風花は体の前で、むんと両手を握る。

「さいですか。まあ、お前はなんだかんだしっかりしてるし、大丈夫か。
折角来たんだし、コーヒーでも飲むか?」

八幡はそう言って、冷蔵庫の方に向かった。もちろん、冷蔵庫と言っても家庭用の巨大なものではなく、小型のものである。

「あの甘いやつですか?」

「マッカンな。千葉県民のソウルドリンクだ」

「千葉県民というか比企谷さんだけでは?」

「世間がこんなに苦ったらしいんだからコーヒーくらい甘い方がいいだろ」

「甘すぎると体に毒ですよ」

「元看護士が言うならそうなんだろうな」

「はい。しっかり言うこと聞いてくださいね♪」

さっきまでのしょぼんとした雰囲気はどこかに置き、風花はかわいらしいな笑みを浮かべた。
風花は大人組の中でも美人というよりはかわいい部類に入るだろう。
愛嬌の良さや先ほど見せた反応など、非常にかわいらしい。
もし、合コンに行けば、すべての男の注意を引くことなど本人の意に介さずとも余裕だろう。
なんせ、顔や性格がかわいらしいのはもちろん、あのスタイルである。そこら辺の男が放っておくはずがない。


(こんな感じなのに大人っぽいところはちゃんと持ってるから、人気もあるんだろうな)

「あ、そうだ。お前に1つ聞こうと思ってたことがあったんだ」

「私にですか?別にいいですけど」

「需要と供給ってわかるよな?」

「ええ。どれくらい欲しがられているのかと、どれくらい渡せるかってことですよね」

「まあ、そんなとこだ。マスクの値段が一時期、高騰していたのも世間からの需要が増えたが、供給が追い付かなったことが原因だな。食料の値段の変動とかも大いに関係する」

「たくさん採れたら安くなるけど、あんまり採れないと高くなるってことですよね。
えっと、比企谷さんは私に何が聞きたいんですか?」

「いやな。例えば需要が大きいものに対してお前は供給をどうするべきだと思う?」

「え?うーん。ものによるとは思いますが、供給量が増やせるのなら増やした方がいいんじゃないかな、とは思います」

「そうか。それならよかった」

「えっと、話が見えてこないんですけど」

風花は少々困惑した表情で八幡を見つめる。八幡はそんな風花を見て、にやりと悪い笑みを浮かべた。風花はこれまでの付き合いから自分が何かに引っかかってしまったのではないかと警戒を高めた。

「実はな。お前の水着グラビアの需要がめちゃくちゃデカいんだ」

「やっぱりそういう話につながるんじゃないですか!」

「俺もお前たちが嫌がることは極力やらせたくはないが、ここまで人気が大きいとな…」

「断ってくれてもいいじゃないですか!」

「これでもかなり、調整はしてるんだ。だが、それでもオファーは減らないし、SNSでもお前の水着を見たいって意見は散見されるしな」

「で、でも」

「『なんでもする』んだよな?」

「!比企谷さん、まさか」

風花は『やられた!』といった顔をした。

「いや、言ったのは豊川だろ?需要の話はともかく、そっちは完全に自滅じゃねえか」

「なんだあんなこと言ったの、私!比企谷さんを前に迂闊!」

風花は今度は頭を抱え、うんうん唸り始めた。八幡はその様子を黙ってみていた。

「知るかよ。というか俺の前じゃなくても迂闊だから。俺だけ悪いな言い方しないでね」

風花はハッ、と何かを思い浮かんだのか笑顔になったり、顔を赤くしたり、百面相のようになっていた。

「どうしたんだ、豊川?悪いものでも食ったのか?」

「違います!え、えっと水着引き受けるので条件があります!」

「……いうだけ言ってみろ。できるかどうかはわからんが」

「1つ目は比企谷さんも私に同伴してください!」

「1つ目って、何個あるんだよ」

「2つです!」

「ったく、俺忙しいんだけど?」

「比企谷さんならうまいことリスケできますよね?そういった調整は得意だと思いますけど?屁理屈こね回してなんとかできるはずです!」

「それは褒めてんの、貶してんの?どっち?」

「さあ?」

「こいつ…。はぁ。わかった。できるかぎり調整はしてやる」

「ホントですか!」

「できるかぎりだからな。それでも無理な時は諦めてくれ」

「はい!」

「で、もう1個は?」

「私と次のグラビアで使うデートプランを考えてください」

「それ、俺が1番向いてないんだけど。なんなの?意趣返し?」

「ち、違います!そ、その、こういうのって男性の意見も重要だと思うんですよね!」

「まあ、そうだな」

「なので、身近な男性として比企谷さんの意見を参考にしようかなって」

「今までの彼氏とのデートとかを参考にするとか」

「……せん」

「え?」

「私、彼氏いたことありません!」

風花は声を荒げる。

「……マジ?」

「マジです」

「……まあ、スキャンダルの芽がないのはいいことだな。」

「フォローになってないですよぉ」

「そうは言ってもな……。何と言うか、お前の近くにいた男たちって……あ~。いや、なんでもない」

八幡は口滑らせてしまうのをギリギリこらえた

「なんですか!そこまで言うなら最後まで言ってくださいよ!」

「なんでもねえよ…。それより、そのプラン考えるの手伝ってやるから今日はもういいだろ。こう見えて忙しいんだ」

「むぅ。でも、わかりました。絶対一緒に考えてもらいますからね!あと、撮影にも着いてきてくださいよ!」

「できたらな」

風花は「もうっ」と言いながら、八幡の部屋を後にした。

(さすがに、男の見る目がなかったとか俺が言ったらキモいし、フォローにならねえよな)

八幡はモニターに視線を戻し、作業に戻るのであった。

次回浅倉透&樋口円香編

浅倉透&樋口円香編

「ん?」

俺は会議室から作業部屋へ戻ってきて、ドアノブに手をかけ、首をひねった。
扉には”会議中”と書かれた札こそかかってはいるが、鍵がかかっていなかった。
鍵かけ忘れてたのか。うっかりしてたな。

俺の作業部屋にはその仕事の性質上、人に見られてはいけない資料なんかもある。
もちろん、事務所のセキュリティは万全のため、部外者が何もなくここに来ることはない。
だが、それでも不用心だったな。気を付けないとな。

俺が作業部屋に入ると、そこには客人が2人おり、ソファに座り、勝手に取り出したお菓子をパクパク食べていた。

「あ、おかえり」
「おかえりなさい、ミスター不用心」
「何してんだ。ミス不法侵入者どもめ」

部屋にいたのは浅倉透と樋口円香。人気ユニット『noctill』のメンバーだ。

「だって、開いてたし、鍵」

「それで入っていいなら空き巣は捕まらねえだろ」

「私たちは何も取っていませんが?」

「今、食ってるそれは俺の部屋の備品だが?」

「うん。おいしかった。ごちそうさま」

「はぁ。もういいや。で、何か用か?」

「さあ。浅倉が行こうと言ったので渋々ついてきただけですので」

「一言余計なんだよな。で、浅倉は何の用だ」

「別に。時間があったから」

「時間があったら、自主練でもしてていいんだぞ」

「それはこの後、2人が来たらやるから」

「さいですか。で、暇つぶしに来たってことか?」

「んー、じゃあそれで」

「なんでここで俺の意見が採用されんだよ。ったく。
お前ら福丸と市川が来るまで居座る気か?」

「何か問題でもありますか?」

「いや、それならちょうどいい。さっきの会議でちょうどお前らの話になってな」

俺は2人が座っているソファの対面に座った。

「私たち?まさか2人ですか?」

樋口の口調がいつもより少し冷たくなる。

「いや、ノクチル全員だ。本当は4人全員揃ってる時に話すつもりだったがな」

それを聞いて、樋口の様子は元に戻った。

「そうですか。それで何のお仕事ですか?」

「……CMだ」

「八幡はそれもう引き受けたの?」

「まだに決まってるだろ。さすがに案件デカすぎるからお前らに話を通してからじゃないとな。先方にも検討するとだけ伝えてある。まあ、幾つか候補のアイドルは挙げていただいてるんだが、第一候補はお前たちだ。なんでもイメージによく合ってるんだと」

「ちなみにどこのCMですか」

「某有名スポーツドリンクのCMだ」

「八幡はどう思うの?」


「俺としては引き受けても問題ないと思ってる。有名企業だけあって変な噂は聞かないし、これまでCMに採用されているタレントでも撮影中に変なことがあったみたいなことはないみたいだしな」

「聞きたいのはそっちじゃない」

「ん?」

「浅倉は私たちノクチルにその商品のイメージが合っているかと聞いているんです」

「ああ、そういうことか。それは、まあ、あれだな。あれ」

「そんな代名詞使われても伝わりませんよ。ミスター国語学年3位?」

「そんな昔のこと持ち上げてんじゃねえよ」

「あなたが国語だけは得意だったと自分から言ったんでしょ」

「ちっ。言うんじゃなかったな」

「それであなたの感想は?」

「……似合うんじゃないか。正直、俺も話を聞いた段階でイメージに浮かんだのはお前らだし」

こういう仕事についたからには俺はアイドルたちを褒め、より気持ちよく仕事をしてもらわなければならない。
だが、俺のが元来の性格もあり、女子を褒めるってのはハードルが高すぎる。
舌戦はどっかの雪女以外に負けるつもりはないが、こういうのは一生苦手なままだと思う。

「……オッケー。八幡、その話、引き受けていいよ」

「は?いや待て。だから全員の意見を」

「大丈夫。雛菜も小糸ちゃんも今の聞けば、すぐにオッケー出すから。それじゃあ、私たちは行くね。じゃあね」

「はあ。と言うことなので失礼しますね。ミスターすけこまし」

「すけこましたことなんて一度もないんだが…」

俺に歴代最も似合わないあだ名をつけ、浅倉と樋口は俺の部屋から出ていった。

「……とりあえず、先方に連絡入れとくか」

次回奉仕部編

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