アイドルマスターミリオンライブ!の中谷育のSSです。
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夏は涼しさを運んでくれる潮風も、12月も半ばになるとさすがに寒く感じる。
「寒くないか、育?」
「もう、ちゃんとあつぎしてるから大丈夫だよ。子供あつかいしないで!」
駅からテレビ局へ向かう道すがら、モコモコなマフラーに顔を包まれる少女、中谷育は唇を尖らせて不満を露わにする。
「ごめんごめん。さすが、育だな」
「うん♪おかあさんに、かぜをひかないようにちゃんと着込みなさい、っていつも言われてるの!」
そう言いながら、育は年相応に可愛らしい笑顔を見せる。
今日はこの子の誕生日。
夕方からのバースデーライブに向けて、午後はリハーサルで忙しくなる予定だ。
そんな忙しない一日だが、午前中はごく短いテレビ番組の収録のみ。
今の内に、ちょっとでも誕生日を堪能する時間が取れればいいんだが。
「今日はずっとプロデューサーさんがついてきてくれるの?」
「うん。収録が終わったら時間があるし、どこかに出かけようか。不肖ながらエスコートさせてもらうよ」
「えすこーと・・・って大人の女の人がされる、あれ?」
「うん、それ」
「そっかぁ・・・♪」
マフラーに顔を埋めながら目を輝かせる育に、自然と頬が綻んでしまう。
今日は、出来る限り傍にいてやらないとな。
「おはようございます、765プロですー」
育と並んでいつもの関係者通用口を通ると、暖房がもたらす温もりが俺達を出迎えてくれた。
「えっと、今日のスタジオは確か・・・」
「3階だったよね?」
「うん、そうそう。さすが、よく覚えてたな」
「でしょ?えへへ♪」
そんなやりとりをしながらスタジオへ向かっていると、局の関係者向けエントランスに一人の少女が立っているのが目についた。
歳は育と同じくらいだろうか。
腰まで伸びた黒髪がとても綺麗な子だ。
上へと続く階段を無表情でジッと見つめる姿が妙に気になったが、収録に遅刻するわけにもいかなかったので、ここは先を急ぐことにした。
「ありがとうございましたー!」
機材やセットが飾るスタジオに、育の元気いっぱいな声が響く。
元々短い予定だったが、育がミス無くこなしてくれたおかげで予定よりも早く収録が終わった。
スタジオの隅っこ、出入口の真横で俺も見守っていたのだが、何も手出しをする必要が無い仕事ぶりだった。
「プロデューサーさん、おつかれさま!」
「お疲れさま、育。すごいじゃないか、ディレクターさんも、完璧だったって褒めてたぞ」
「えへへ、昨日、おかあさんとたくさん練習したの!」
そう言いながら満面の笑みを見せる育を眺めながら、ふと扉越しに廊下を横目で見ると、先ほどエントランスにいた女の子が歩いているのが見えた。
一瞬しか見えなかったが、その澄ました顔にはほんの僅かな不安の色が見え隠れしていた。
「えっと、しゅうろく早く終わったよね?プロデューサーさん、この後いっしょに・・・」
遠慮がちに俺の顔を窺う育。
今日はこの子の誕生日だから、ちゃんと傍にいてあげないと・・・
「・・・ごめん、育」
いや、やっぱりあの子のことも放っておけない。
「ちょっとここで待っててもらっていいか?」
「えっ・・・」
育は驚きの表情を見せた後、明らかに落胆している様子だった。
罪悪感に胸が痛んだが、とにかく今はあの子を追いかけないと。
急いで廊下へ駆けだして、前を行く黒髪の少女に声をかける。
「ねえ、君!」
振り返った少女は相変わらず落ち着いた表情を湛えていたが、その綺麗な瞳には驚愕と不安の色が見えていた。
女の子がぽつりぽつりと語ってくれたところによると、この子も育と同じくアイドルらしい。
今日は新人として局に挨拶回りに来ていたが、同行していたプロデューサーとはぐれてしまったとのこと。
広くて複雑な局内で、初めて来た小さな女の子が人探しをするのは大変だよなぁ。
寡黙な雰囲気の子だし、道行く人を頼るのも難しかっただろう。
というわけで、俺が代わりに局の事務に問い合わせると、少し時間はかかったがこの子のプロデューサーと連絡を繋ぐことが出来た。
駆け付けた青年は安心が半分、申し訳なさが半分といった様子で、俺と少女に平謝りしていた。
それなりに大変な出来事だったが、別れ際に少女が見せた、ささやかながら可愛らしい笑顔で疲労感は満足感に変わってしまった。
・・・はっ、いかんいかん。
育を待たせたままだった。
「ごめん、育!待たせちゃったな!」
「・・・プロデューサーさん」
さっきのスタジオに戻ると、育はしょんぼりとしながらパイプ椅子に座って足をプラプラと揺らしていた。
気付くと、収録が終わってから一時間が経過していた。
もうそろそろ、劇場に戻って今日のライブの準備をしないと。
「本当にごめんな。一緒にどこか出かけようって言ってたのに・・・」
「ううん、気にしないで。こまってる人がいたんでしょ?」
「それはまあ、そうだけど。でも・・・」
「だったら、しかたないよ!それに・・・」
育はその綺麗な瞳で、真っすぐ俺を見つめる。
「プロデューサーさんだったら、ぜったいにわたしのところに帰ってきてくれるって、しんじてたもん♪」
その笑顔は、純粋で、眩しくて、それでいて思わず抱きしめてしまいたくなるほど、温かった。
「育・・・」
「あっ、でもね・・・」
そこから一転、育は俺から目を逸らして、遠慮がちにスーツの袖を指で摘まんできた。
「今はもうちょっとだけ、そばにいてくれたらうれしいな・・・♪」
頬をほんのり紅く染めて、上目遣いで繰り出されたその懇願は、脳髄にガツンとくる威力があった。
「う、うん。わかった」
「えへへ、今だけプロデューサーさんを独り占めだね♪」
妙に照れ臭くなりながら、右の手の平を包み込んだその小さな手の平を、そっと握り返した。
おわり
以上です。ありがとうございました。
HTML化依頼出してきます。
育ちゃんの動きがカワイイ
乙です
中谷育(10) Vi/Pr
http://i.imgur.com/jpp00JD.png
http://i.imgur.com/4TJktNY.png
育さんと同じ年の頃で黒髪ロングで無表情で寡黙……
…佐城さん!?
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