【シャニマス】果穂「マイヒーロー」 (24)
「樹里ちゃんって怖くない?」
「え?」
きっかけはある日の放課後。アタシの教室では女の子で集まって、好きなアイドルの話をしていた。どこの学校にだってありふれた風景。少し違うのは、アタシがそのアイドルグループの一員ということくらい。
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一番人気はちょこ先輩。お姉ちゃんになって欲しいのは凛世さん。少し大人っぽい子は将来夏葉さんみたいになりたいと言う。
そんなありふれた会話の途中、一人の友達が何気なくそう言った。
「…怖くないよ」
「でも金髪だし…」
そんなの関係ない。みんながかっこいいって言ってた315プロの人だって金髪だった。
「なんか、前ライブ見に行ったら無愛想だったね…」
違う、樹里ちゃんはあの時緊張してただけ。新曲のラップを失敗しないように。
「『バッドガール』って不良って意味の…」
「違う!!!」
「ひゃあ!?」
「…あ」
気付いたらアタシは机に手を叩きつけていた。
「ごめん!!ごめんね!!でも、その…」
「ううん…こっちこそ…」
「お、いたいた、果穂、レッスンに行くぞ…って…」
「あっ、プロデューサーさん!い、今行きます!」
気まずいまま、アタシはレッスンのために教室を出る。
「果穂ちゃん、前はあんなことしない子だったのに…」
「やっぱり樹里ちゃんって…」
廊下を走ってしまいたくなるほどに、背中から聞こえる声がアタシを責め立てる。こんなことですら、樹里ちゃんのせいになってしまうのだろうか。
けれど、アタシはあの樹里ちゃんが。誰よりも優しいあの樹里ちゃんが誤解されるのが許せなかった。
学校を出て、レッスンをしていてもアタシの心は教室に置いてきたままだった。誤解した友達を更に誤解させたのはアタシだ。その事実がより一層アタシの心を掻き乱す。どうしてどうしてどうしてどうして…
「果穂…どうしたんだ?」
「…樹里ちゃん」
そんな心の不調を一番知られたくない人に知られてしまった。今日ばかりは樹里ちゃんの優しさが憎い。
「たしかに…何かあったのか?果穂?」
プロデューサーさんまで気づいてしまった。
「な、何でも…ないんです…」
「何でもないって顔してねーだろ…アタシには言えない話か?」
全てを見透かしたように笑う樹里ちゃんの金髪は夕焼けが反射して、キラキラととても輝いて悲しいほどに綺麗だった。
「いや…その…」
「ん?」
違う違う違う違う、そんな顔をさせたかったわけじゃない。その一心でアタシは間違えてしまった。
「樹里ちゃんは…不良じゃないですよね!」
「え?」
「学校で…樹里ちゃんのことを不良だって言う友達がいて…それで…それでアタシ…」
「…そっか」
よく言ってくれたなと、笑った樹里ちゃんの顔を見て、アタシはすぐに間違いに気づいた。どうしてアタシはこんなに間違えるのだろう。一番間違えてはいけないところでことごとく間違えている。
「ごめん…ごめんな、果穂…」
「ち、違うんです!!そうじゃ…そうじゃなくて…」
こんな時にまで綺麗に煌めく樹里ちゃんの髪の毛が寂しそうに揺れる瞳と相まって息が詰まる。最低だ。アタシは大切な人を傷つけておきながらその人に見惚れている。
「果穂…それはな…」
「いいんだ、プロデューサー」
何かを諦めたような、優しく、けれど悲しい声色だった。
「なあ、プロデューサー、明日から髪の色戻すよ」
「樹里…」
「違います!!!」
樹里ちゃんとは全然違う、大きな声をそれでもアタシは出さずにはいられなかった。
「違います!!!樹里ちゃん!!!樹里ちゃんは…樹里ちゃんは…」
負けるな小宮果穂、ここで涙を流してはいけない。泣くなら後でたくさん泣けばいい。だから今は、涙に負けるな。
「私は…樹里ちゃんが大好きです!!!」
「果穂…」
言った。でもまだだ、まだ足りない。ちゃんと伝えないと。誰よりも優しくて、誰よりも強い樹里ちゃんに。ヒーローみたいな樹里ちゃん。いつもアタシたちを守ってくれる樹里ちゃんを、今度はアタシが守るんだ。
「樹里ちゃんは、いっつもとっても、誰にでも優しくて…ヒーローみたいで…だからアタシは大好きで…」
「…はは、こんなガラの悪いヒーローいねぇよ」
「いえ!!樹里ちゃんは…誰がなんと言おうとヒーローです!!」
「果穂…」
「そうだよな、果穂、樹里は誰より優しいもんな」
「はい!!!樹里ちゃんは…樹里…ちゃん…は…」
ダメだ、泣くな、泣くな、ここで泣いてるようじゃ樹里ちゃんの味方になれない。ヒーローになんてなれやしない。
「うぁぁぁぁぁぁん!!!」
「はは、泣くなよ…果穂ぉ…」
そういう樹里ちゃんだって泣きそうなのに。いつだって樹里ちゃんはアタシたちのために泣くのを我慢している。
「でも…でも…アタシ…樹里ちゃんを傷つけて…なのに…アタシが先に泣いて…」
「違うよ」
何が違うと言うのだろう。アタシにはちっともわからなかった。
「果穂が泣いてくれたから…アタシのために泣いてくれたから、アタシは泣かずにいられるんだよ」
どうして樹里ちゃんはこんなに強いのだろう。本当は一番泣きたいのは樹里ちゃんのはずなのに。
「ありがとな、果穂。アタシも優しい果穂が大好きだ」
「アタシは…優しくなんか…」
「優しいよ。な、プロデューサー?」
「そうだな、果穂は優しいよ。なんせ誰かのために泣けるんだから」
誰かの痛みがわかる人ほど、優しい人はいないんだぞ。と続けたプロデューサーさんの言葉を聞いて、樹里ちゃんが優しい理由が少しだけわかった気がする。
「…プロデューサーさん」
「ん?どうした?果穂?」
帰り道、いつもなら一人で帰れるけれど、今日はたくさん泣いてしまったから、それを道行く人に見られるのは恥ずかしいし、事務所的にも良くないからとプロデューサーさんが送ってくれた。
泣いているところを見られた気恥ずかしさから、最初は黙っていたのだけれど、気になったことを聞いてみることにした。プロデューサーさんは大人だから、もしかしたらアタシの知らない答えを知っているかもしれないから。
「どうして樹里ちゃんは、あんなに優しいんでしょうか?」
「…そうだなぁ」
プロデューサーさんは、きっとアタシが見られたくないことを察して、こっちを見ずに運転に集中するふりをしながら、少し考えてから教えてくれた。
「きっと、樹里はさ。たくさん傷ついてきたんだよ。だから他の誰にもそんな想いをさせたくないんじゃないかな」
「それじゃあ…樹里ちゃんが可哀想です…」
「そうだよな、だから果穂は樹里を守ろうと思ったんだろ?」
「プロデューサーさん…どうしてわかるんですか?」
「わかるよ、それくらい」
やっぱり大人って凄いな。そんなことまでわかるんだ。アタシもプロデューサーさんくらい大人になったら樹里ちゃんを守ってあげられるのかな。
「プロデューサーさんは凄いです…」
「何言ってんだ。樹里を救ったのは果穂じゃないか」
「え?」
何を言ってるんだろう。余計なことを言って傷つけたアタシが樹里ちゃんを救ったわけがない。
「嬉しいことなんだよ、自分のために怒ってくれたり、泣いてくれたりする人がいるってのは」
「…そんなの当たり前です」
「そうかもな、それが『当たり前』って果穂が思ってくれてると俺も嬉しいよ」
そう言いながらプロデューサーさんは車を停めた。もうアタシの家の目の前まで来ていた。
「なあ、果穂」
お礼を言って、車を出ようとしたアタシにプロデューサーさんはこれで最後とばかりに付け足した。
「樹里は優しいよな。そんで俺は『優しい人はたくさん傷ついた人』って言っただろ?でもな、傷ついたまんまじゃ誰かに優しくなんてできないんだ」
「じゃあ樹里ちゃんは…どうして優しいんですか?」
「誰かに優しくされたからじゃないか?」
「プロデューサーさんみたいな人にですか?」
「今日の果穂みたいな人にだよ」
そういって、プロデューサーさんは車を走らせていった。
「おはようございます!!」
次の日の朝、アタシが学校に行くと少し教室がざわついた。無理もない、喧嘩ではないと思うけれど怒って出て行ったようなものだったから。
「か、果穂ちゃん…」
「あっ、うん…」
樹里ちゃんを怖いと言っていた子に声をかけられた。
「昨日はごめんね、その、樹里ちゃんのこと…」
「ううん、アタシの方こそごめん…でもね」
昨日あれから一晩考えた。アタシは樹里ちゃんが不良だったら、嫌いになるのだろうか。いいや、きっとならない。だってきっと樹里ちゃんはどんなになっても優しくて強いあの樹里ちゃんだから。
「アタシね、樹里ちゃんのこと大好きなんだ!」
早く放課後にならないかな。そうしたら誰よりも優しくて、誰よりも強いあの人に、直接言えるから。
終わり
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