レンアイカフェテラスシリーズ第152話です。
<謝罪>
5月に完結すると宣言しておきながら今までずっと放置してしまい、誠に申し訳ございません。
書き続けるという意志も持たずに軽い気持ちで総選挙への応援を記すという、「アイドルマスターシンデレラガールズ」という作品における登場人物への冒涜、
及び皆様方の情熱と愛情を軽視する行動となってしまった事も、深くお詫び申し上げます。
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――おしゃれなカフェ――
北条加蓮「えーっと、藍子は……っと。いたいた、やっぱりいつもの席。店員さんと喋ってるのかな……?」トコトコ
高森藍子「――そうなんですね。それで……あっ、加蓮ちゃん!」オーイ
加蓮「お待たせー、藍子」
藍子「……わぁ、綺麗なネイル! 今日はエメラルドの色ですね」
加蓮「そういう日だもん。エメラルドカラーは、ドリンクに合わせて」
藍子「ふふ……。今日はそういう日です」
加蓮「店員さん、メロンソーダくださいっ。藍子はもう注文したの?」
藍子「いま、するところでした。そうですね~、私は……コーヒーにしようかな、それともココアにしようかな……」
加蓮「今するところって言いながら悩んじゃうんだ。店員さん、今日はどっちがオススメ? ……コーヒーに自信があるんだ、なるほどー」
藍子「あはは……。では、コーヒーにします。いつもの味で♪」
加蓮「おねがいしまーす」
藍子「……加蓮ちゃん、お疲れ?」
加蓮「まぁね。今はほら……。ちょっとくらいは許してよ。今だけだからっ」
藍子「まだ、何も言っていませんよ」
加蓮「言おうとしてたでしょ」
藍子「ひとことだけは……?」
加蓮「ほら」
藍子「加蓮ちゃんだっていつも、今だけだから許してほしい! って、言うじゃないですか」
加蓮「……そ、そうだっけ? やー、そんなことないよ」
藍子「そんなことあります。1つ1つのお仕事にどれも全力で、どれも特別扱いしちゃうから……誰よりも真面目に取り組むからこそ、全部が「今だけは」になってしまうんですよね」
加蓮「細かく解説されると、もう何も言い返せないや……」
藍子「……えへっ」
加蓮「疲れたって言っても、藍子と打ち合わせをするだけの気力は残してるから大丈夫」
藍子「今日も撮影、お疲れさまでした」
加蓮「うん。今日も色んなことがあって――っと。今日は、その話じゃなかったね」
藍子「いつもなら、加蓮ちゃんのお話も聞きますよ……と、言うところですけれど」
加蓮「今くらいはね」
藍子「はい。今くらいは」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……あははっ」
藍子「……っ、もう。笑っちゃうお話ではないのに」
加蓮「しょうがないじゃんっ。なんか現実味がないよね。……っていうのは藍子に失礼かな」
藍子「大丈夫。私も、同じことを思っていましたから」
加蓮「ならよかった。あっ、店員さん。メロンソーダありがとー」
藍子「コーヒーも、いい香り……♪」
藍子「私はモバP(以下「P」)さんと、加蓮ちゃんよりも多い回数だけ打ち合わせをしましたから。現実だって、分かっているつもりではあります」
加蓮「そんなこと言って、席の下では足で八の字を書いている藍子ちゃんなのでした」
藍子「ぎくっ」
加蓮「バレないとでも思った?」
藍子「……現実だって分かっていても、そわそわはしてしまいます。加蓮ちゃんだって! 今日の加蓮ちゃんは、いつもよりちょっぴりテンションが高いですよ」
加蓮「まあね。だってまさか――『あいこカフェ』がオープンなんて」
藍子「あくまで企画の1つですから、3日の限定です。だけど……私の作る、私なりの場所……。私の思い描く、理想のカフェが作れるんです!」
加蓮「あはっ。人のテンションがどうこうなんて言えないくらいはしゃいでる」
藍子「えへへへっ。…………、」
加蓮「……?」
藍子「ううん、なんでも」
加蓮「そう?」
加蓮「さっき店員さんと話してたのも、本物を改めて見てー、ってことだったりする?」
藍子「そうですよ。店員さん、自分のことのように喜んでくれて、たくさん教えてくれました」
加蓮「店員さんには最初に伝えてあげたもんね。Pさんも、お世話になった人なら言っていいって許可をもらったし」
藍子「やっぱり、私たちが1番お世話になっている場所の、1番お世話になっている人ですから……」
加蓮「と言っても……観察ばっかりしてないで、藍子らしくやればいいのに」
藍子「だって~」
加蓮「クリスマスの時だって……藍子らしいすてきな空間ができあがってたじゃん。もっと本格的に、って考えちゃうの?」
藍子「せっかくのチャンスですから、できる限りのことはしたいと思います。それに、あれは――」
加蓮「あれは?」
藍子「あれは……。もうっ。そんなお話よりも今日は打ち合わせです!」
加蓮「はいはい。打ち合わせ打ち合わせ。ってことで、メロンソーダいただきまーすっ」
藍子「私も、コーヒーを……あぁ、少しぬるくなっちゃっています」
加蓮「ふうっ。え、そんなに話してた?」
藍子「そうみたいですね。……あれっ、店員さん。注文は、呼んでいませんよ……?」
加蓮「藍子が困ってるから見に来たんじゃないの? ……ほら、そうだって言ってる」
藍子「なるほど……。店員さんは、お客さんの顔をよく見て――」
加蓮「……それはこの店員さんと藍子が特殊なだけだから。参考にしすぎないようにしなさいよ。店員さん、コーヒーを温め直してもらうことってできる?」
藍子「ごめんなさい、せっかく淹れてもらったのに……」
加蓮「オッケーだって。よかったね」
藍子「はいっ」
加蓮「さてと、打ち合わせ打ち合わせ。私も名無しの裏方さんとして一緒にいてあげるもんね。ふふっ、いつかの握手会を思い出すなぁ」
藍子「それって、加蓮ちゃんがスタッフさんになった時の?」
加蓮「そうそう。藍子のファンとか勇気を出して現場に参加させてもらったとか、色んな設定を作ったよね」
藍子「懐かしいなぁ……♪ 加蓮ちゃんが細かく考えていて、びっくりしちゃいました」
加蓮「でも今回はホントにただの黒子なの。変な設定とかナシ。それに……黒子であると同時に、いつもの私として藍子と一緒にいてあげるのが役目だもんね。設定とかそんなのじゃなくて、ここにいるいつもの私が、ね」
藍子「うんっ」
加蓮「確かアイディアをまとめて来るって話だったよね。どう? 何か思いついた?」
藍子「いろいろと考えてきましたよ。ちょっと、待っていてくださいね~……」ガサゴソ
加蓮「準備いいじゃん。あ、店員さん。コーヒー、そこに置いておいてあげて」
藍子「このノートと、こっちのメモと。あと、アルバムと――」
加蓮「待って待って待って」
藍子「えっ?」
加蓮「どれだけ持ってきたの……。え、ノート3冊分? まさかこれ、全部アイディアを書いてみた感じ?」
藍子「はい、そうですよ。昨日もお布団に入ってから、たくさん思いついて……何度も電気をつけて、書き足してしまいました」
加蓮「メモもすごい量……。料理の名前と、ドリンクと……じゃあこっちが出す商品の話なんだ。あれ、でもこっちのメモは内装のこととかインテリアのこと……まとめきれてない感じなんだね」
藍子「思いついたものを、そのまま書いちゃいましたから。打ち合わせの時間で、まとめようと思ったんです」
加蓮「いやいや、これだけの量なんて今日1日じゃまとめきれないってば……。テーブルの半分、半分って言ったら言い過ぎだけど、だいぶ埋めちゃってるよ?」
藍子「まさか、こんな量になるとは……。びっくりです」
加蓮「藍子のことでしょうがっ」
加蓮「アルバムは何?」
藍子「はいっ! あっ、私が説明するより加蓮ちゃんに見てもらった方がいいですよね。まずはこれからっ」
加蓮「き、急に元気になったねー……」
藍子「これが、前に行ったカフェの写真。外観を後ろ側から撮ったものもあるんですよ。あと近くに憩いのベンチがあって、そこからの光景がこう見えて――」
加蓮「え、これとこれって同じカフェの外観なの? こんなに雰囲気違って見える物なんだ」
藍子「そうなんです。だから外観もこだわらなきゃ。最近は、ホームデザイン? の本も読むようにしたり、あとはお散歩の時に住宅地を観察するようにしているんですよ」
加蓮「なるほどね……」
藍子「でも、まずは店内から決めたいって思っています。外観のイメージは、今度一緒にお散歩しながら考えましょうっ。まだもう少し日にちはありますし、Pさんも1日空けてくれるそうですよ」
加蓮「Pさんと藍子と、3人で歩くのもホントに久しぶりだね」
藍子「いつ以来でしょうか……? でも、加蓮ちゃんがPさんにワッフルをおねだりしていたことは、よく覚えていますよ♪」
加蓮「そういうことばっかり……」
加蓮「LIVE会場の下見とかならともかく、お散歩で仕事の準備なんてまずないもんね」
藍子「どのカメラを持っていこうかな……?」
加蓮「そこはファッションとか靴とかじゃないの? じゃあ、それにも向けてメモをまとめなきゃ。ホント、すごい量だよね。アルバムの写真も、ノートの文字も――」
藍子「……?」
加蓮「ううん。やっぱいいや」
藍子「加蓮ちゃん」
加蓮「……もう、いいってばー。ったく……。ねえ、藍子」
藍子「はい、なにですか。加蓮ちゃん」
加蓮「今回はとってもやる気みたいだね。こんなに資料とか揃えて、勉強もしちゃって。最近忙しくて、いつものお散歩コースに行けてない~って前に話してたのもこれが原因なんでしょ。今回はどうしてそんなにやる気になってるの?」
藍子「……」
加蓮「藍子の口で、聞いてみたいな」
藍子「……はいっ」
加蓮「……藍子が聞かせたんだよ?」
藍子「加蓮ちゃんが、聞きたそうにしていたからですよ?」
加蓮「もー……」
>>9 申し訳ございません、下から5行目の加蓮のセリフを修正させてください。
誤:加蓮「藍子の口で、聞いてみたいな」
正:加蓮「藍子の口で、教えてほしいな」
藍子「カフェは私たちにとって、大切な場所……そして、私たちが大好きな場所」
加蓮「うんうんっ」
藍子「私と加蓮ちゃんが、たくさんの時間をすごした場所。悲しいことや、辛いこともあったけれど、それも含めてぜんぶ、大切な時間です」
加蓮「ホント、色んなことがあったよ……」
藍子「3日間という短い期間の間、足を運んでくださった方には、ほんの少しだけでもいいから、私たちのようにかけがえのない時間を過ごしてほしいんです」
加蓮「時間の尊さを伝えきれるかな。ううん……伝えきる為の、膨大な下準備だよね」
藍子「それだけではありません。私がアイドルになってから知った、この世界にたくさんたくさんある楽しい物や、幸せな存在――私の知った幸せや笑顔を、今回、みなさんにお伝えしたいんです。私の作る、私の大好きな場所で!」
加蓮「うんっ……」
藍子「そう思うと、どんどん、どんどんアイディアが浮かんできちゃいました。……ちょっぴり、やりすぎちゃったかも……?」
加蓮「……私との時間を語りたいなら、これでもまだ足りないくらいかな?」
藍子「……え~っ」
加蓮「せめてメモでテーブルをぜんぶ埋め尽くして、その上から同じ量の写真を並べるくらいしなきゃ」
藍子「加蓮ちゃん、それはさすがにぜいたくです! それに……いま、私が話すことを知っていて聞きましたよね」
加蓮「うん、そうだけど? 藍子の口で教えてほしいって言ったじゃん」
藍子「そういうことは、嫌いじゃなかったんですか?」
加蓮「上辺だけの感情や取り繕った気持ちで言うのなら、聞きたくもないし話したくもないよ。でも藍子は違うって知ってるから。……やっぱり、藍子の話は聞いていたいの。分かっていても、何度だって」
藍子「もう。ズルいんですから……」
加蓮「けど……藍子の気持ちは、いつも予想以上なんだよね」
藍子「予想以上?」
加蓮「うん。ふんわりしているように見せかけて、誰よりもたくさんの気持ちを持ってる。しかもそのほとんどが他人へ向けられた物」
加蓮「嬉しいことを、なんだって人に分けてあげようとしてさ。いつもとっても優しくいられて……正直、今でもたまにすごいなぁって思うことがあるの」
加蓮「人のことを1番に思いやれるアイドル。どうやったらそんなに優しくなれるんだか――なんて、悪態をつきたくなるくらいに」
藍子「…………、」
加蓮「……ごめん。今日はそういうのナシだった」
加蓮「でも、そういうのがあるからPさんも張り切っちゃうんだよ。最初はただの1日店長だったんでしょ?」
藍子「最初は、カフェコラムを書かせてもらった場所の1つからオファーがあったんです。私が1日だけ店長になって、おもてなしの空間を作るっていうお話でした」
加蓮「それが気がつけば3日に延びて、気がつけば藍子が自分のカフェを開くって話になって」
藍子「そ、それはさすがに言いすぎです。開くといっても、まだ学校の学園祭みたいなものですから!」
加蓮「なんでそこで引け腰になんのよっ。学園祭やろうって話でこれだけアイディア持ってくるヤツがいるかっての! 話がどんどん大きくなったのって、絶対Pさんが張り切ったからでしょ。で、その原因って間違えなく藍子の情熱でしょ」
藍子「そうなのかな……。でも、私のやりたいって気持ちをすくい上げてくださったのなら、嬉しいですっ」
加蓮「私からすればまだまだ全部をすくい切れてないけどね……。ま、いっか」
加蓮「で、どこから決めていく? 外観は後で決めるって言ってたけど――」
藍子「1つずつ、ゆっくりと……」
加蓮「じゃあ殴り書きっぽいメモから見ていった方がいいかな」
藍子「あっ、当日にお出しする料理は早めに決めておいてほしいと、Pさんが言っていました。まずは、メニューについて考えましょう」
加蓮「了解。じゃあまずポテト料理をざっと4種類くらい――」
藍子「加蓮ちゃん?」
加蓮「冗談でーす。でも1個くらいは入れてよ」
藍子「じと~」
加蓮「みんな好きだって、絶対っ」
藍子「……分かりました。今日は、加蓮ちゃんの言うことを信じます」
加蓮「ありがと。当日は店員係のスタッフさんもそんなに入(い)れないって言うし、あんまり手の込んだ料理は避けた方が良さそうだね」
藍子「そうなりますね。加蓮ちゃんが、キッチンに立つというのも――」
加蓮「できると思う?」
藍子「…………」
加蓮「やると思う?」
藍子「……どうしてそこで言い換えるんですか」
加蓮「できるかどうかって言われたら、できるまでやれって言われそうだったし……」
藍子「さすがに、そこまでは言いませんよ~」
加蓮「せっかく来てくれるんだし、よくある定食より藍子の手作り感あふれる料理がいいよね」
藍子「1つくらいは、定食も入れておきたいですね。日替わり定食メニューを決めることに、憧れていたんですっ」
加蓮「なにその憧れポイントー。でも分かる、日替わりって特別感と日常感の両方があるよね」
藍子「うんうんっ」
加蓮「明日は違う料理が出るって言ったら、初日に来てくれた人が2日目にも来てくれるかもよ?」
藍子「それ、いいアイディアかも。メモメモ……っと」
加蓮「店員をやるからには、藍子には魔性の女になってもらわなきゃね……ふふふっ……」
藍子「……それって、このカフェの店員さんも、加蓮ちゃんにとっては……ということになりませんか?」
加蓮「あの人は例外」
藍子「えぇ……」
加蓮「藍子に誘惑された側だから」
加蓮「そういえば結局、アイドルのみんなにも手伝ってもらうって話は無しになったんだね」
藍子「無しになりました。Pさんが、みなさんに手伝ってもらうと私が1歩引いてしまうかもしれないから……って言って、当日は私だけになりました」
加蓮「私は元々黒子の予定だったけど、なおさら都合が良くなったね」
藍子「加蓮ちゃんだけは絶対に一緒にいてほしいって、Pさんに何度もお願いしました!」
加蓮「ありがと。……でも、Pさんも分かってないなぁ」
藍子「えっ……」
加蓮「今の藍子が1歩引くなんて、するハズがないのに。……ねぇ?」
藍子「……はい。もちろんです」
加蓮「その目つきの鋭さ、強張った顔……Pさんにも見せてあげたいな」
藍子「…………」
加蓮「ううん、そういう顔を見なくても分かってあげなきゃ。Pさんも分かってないよねー。ねー?」
藍子「……わ、分かっていませんよね~?」
加蓮「……」
藍子「……ごめんなさいPさん……Pさんのお心遣いはちゃんと分かっています、悪いのは加蓮ちゃんなんです……」
加蓮「こら、さり気なく人を悪者に。まぁその辺は……優しさ故の間違いってことにしてあげようよ」
藍子「分かってますよ。加蓮ちゃん、メニューのお話を続けましょ?」
加蓮「オッケー」
□ ■ □ ■ □
加蓮「藍子ってば、ホントにサンドイッチが好きだね」
藍子「ひなたぼっこする時でも、つい作っちゃうんですよね……。事務所のみんなが喜んでくれることが、すっごく嬉しくて♪」
加蓮「コーヒーも、こんなに銘柄を用意してたらホントにカフェみたいだよ」
藍子「もうっ。本当にカフェなんですよ?」
加蓮「あはは、ごめんごめん」
藍子「どんな方がいらっしゃるかは、握手会やLIVEと同じで、当日までのお楽しみ。誰が来ても、幸せな時間を過ごしていただけるように……。できる限りの準備はしなきゃ」
加蓮「そうだね。私も、当日までにもう1回銘柄を覚え直そっと」
藍子「加蓮ちゃん……」
加蓮「?」
藍子「ううんっ。すっかり加蓮ちゃんも、カフェアイドルだなぁって……」
加蓮「カフェが似合う女。少しはなれてる?」
藍子「はい。とっても♪」
加蓮「よかった。……正直今でもカフェって藍子がいる場所ってイメージがあって、それならファミレスとか、学校とか……事務所や家でもいいや。そこに藍子がいれば、私はいいのかな……って、思うこともあるんだ」
藍子「……、」
加蓮「でもさ、こうして考えるとやっぱり違うみたい。いいよね、カフェって」
藍子「……うんっ」
加蓮「いい場所だよね……」
藍子「いいですよね」
加蓮「……ちょっとだけ突っ伏せちゃお」
藍子「……加蓮ちゃん。耳のところも、ちゃんと隠さなきゃ。赤くなっているのが、ばれてしまいますよ~?」
加蓮「うっさい! 藍子が見えてないフリすればいいの」
藍子「うふふっ」
藍子「……そんなことを言われたら、また迷っちゃうな……」
加蓮「?」
藍子「あっ。なんでもありません。ええと、料理はだいたい決まったので今日から練習して……。加蓮ちゃんもやっぱり、一緒にやりませんか?」
加蓮「絶対ヤダ」
藍子「店員さんなんですよ?」
加蓮「店員だけど、絆創膏を貼り付けまくった黒子なんて絶対格好悪いじゃん」
藍子「そうならないために、練習するんです!」
加蓮「私はずっと食べる係でいるのー。事務所にいたら、みんながご飯を作ってくれるようなアイドルでいたいー」
藍子「……親切にしすぎたら、お節介だって言って怒るくせに」
加蓮「乙女心」
藍子「加蓮ちゃんの気持ちですね」
加蓮「あ、そうだ。食器とかは? Pさんは撮影用のを使うって言ってたけど、どうせ藍子も新しく用意するでしょ?」
藍子「はい。今度、いくつかインテリアショップを回って探してみるつもりです。これ、予定です」
加蓮「そんなところまでスケジュールを組んでるんだ。うわ、撮影の合間に何分で歩いて見て回ってとか、全部書いてるっ」
藍子「それだけ本気ってことですっ。スケジュールの作り方は、美波さんや愛梨さんから教わりました」
加蓮「こういう時に大学生組は頼れるよねー」
加蓮「……」
加蓮「……?」
藍子「加蓮ちゃん。どうして首を傾げているんですか」
加蓮「いや……。私まだ高校生だから知らないけど、大学生ってみんなあんなにしっかりしてるのかなって思ったらなんか……なんかこう、ちょっと違わないかな」
藍子「……志希さんの顔を思い浮かべてみましょう」
加蓮「藍子、ナイス!」
加蓮「あの人もあの人で、普通じゃないんだろうけど……でも、普通の大学生ってところがあるんだよね」
藍子「ありますよねっ」
加蓮「想像だから、違うかもしれないけど」
藍子「きっとあっていると思いますよ」
加蓮「それに中学生みたいなとこもあるし」
藍子「それは……どうでしょう」
加蓮「高校生みたいなところはない」
藍子「分かりますっ」
加蓮「っと。気を抜いたらすぐいつものモードに……。今日は打ち合わせ、打ち合わせ。大丈夫、ネイルもちゃんと輝いてる」
藍子「加蓮ちゃんも、用意したいものがあったら持ってきて大丈夫ですからね」
加蓮「了解。と言っても内装もほぼ決まったような物だし、持っていくのはせいぜいワンポイントかなー。目を惹き付ける程度の」
藍子「いつの間にか、壁紙やテーブルクロスも決まっちゃいました」
加蓮「あ、Pさんから連絡来た。座席の数も大丈夫だって」
藍子「は~い」
加蓮「来客は抽選式にしたみたいだよ。人数がやっぱりすごいことになってるって」
藍子「誰がいらっしゃってもいいように、準備しています♪」
加蓮「って藍子が言ってたよ、っと」
藍子「Pさんは、他に何か……」
加蓮「私に対してちゃんと休んでるかどうかってお節介を3回分のメッセで送って来やがってた」
藍子「あ~……。Pさんのこと、許してあげてくださいね」
加蓮「ちぇ。私も参加させてもらうから、それで許してあげよっと」
加蓮「外観のことは実際歩いてみないとわからないよね。ってことは今日の打ち合わせは――」
藍子「…………」
加蓮「……あれっ。まだ何かある?」
藍子「打ち合わせとは、少し違うんですけれど……」
加蓮「うん」
藍子「……相談したいことが1つあるんです。私のカフェのことで……」
加蓮「うん、どうぞ。……何か不安なことでもある?」
藍子「大丈夫っ。不安なら、とっくになくなっちゃいました。加蓮ちゃんとお話……ごほん。打ち合わせをしていたら、今すぐにでも始められちゃいそうって思うくらい!」
加蓮「気が早いんだからー」
藍子「加蓮ちゃんの言うことが、どれも具体的だから、すぐ思い浮かべられるんです。わかりやす言葉のおかげですね♪」
加蓮「そういうのに慣れてますから。今まで何回、Pさんと一緒にこういうことをしてきたと思ってんのよー」
藍子「とっても頼りになりますっ」
加蓮「いつか冗談で言った藍子の担当プロデューサー、今こそ名乗る時?」
藍子「それは……う~ん……?」
加蓮「残念。じゃあ名乗るのやめよっと。でもちょっと惜しい気持ちもあるんだよね……」
藍子「打ち合わせの時だけ名乗って、それ以外の時は言わないようにするっていうのはどうでしょう」
加蓮「何その都合のいい感じ。半端なのは嫌いなんだけど?」
藍子「……ごめんなさい」
加蓮「ふふっ。ごめんごめん。つい凄んじゃった。……今のは冗談だよ。けど、せっかくやるなら後腐れ無くやりたいよね」
藍子「後腐れ無く――」
加蓮「こう……やるんだ! って宣言しちゃう感じ?」
藍子「…………」
加蓮「その方が最後までやろうって気持ちになるし、みんなに届けたいって想いもずっと強く――なんて、どっちも藍子の方が分かってることだったね」
加蓮「……藍子?」
藍子「……加蓮ちゃん。加蓮ちゃんはPさんから、あのことは聞いていますか?」
加蓮「あのこと、って……。心当たりはないけど。なんか重大な話?」
藍子「はい。私にとっては――」
藍子「今回の『あいこカフェ』は、3日限定のお話です。3日したらお店はなくなってしまって、私はまた、今までの私に戻ります」
加蓮「うん、そうだね……?」
藍子「アイドルを続けて、ステージにものぼって……ときどきここに来て、加蓮ちゃんとお話をしたり、お話を聞いたり――」
藍子「……」
藍子「カフェを……本当のお店として、やってみないかってお話をされました」
加蓮「え?」
藍子「Pさんに……。『あいこカフェ』は3日限定の物ではなくて、本物の……ここと同じように、本当に実在するカフェにしないか、って提案されました」
加蓮「…………」
藍子「と言っても、そこまで決まっているお話じゃないみたいなんです。噂のようなものというか……詳しいことは、なにも決まっていません。私はまだ子どもですから、お店の経営なんて1人ではできないと思います。Pさんはプロデューサーさんですし……もし実現したらどうなるのかは、まだ何も」
加蓮「それでも、Pさんは藍子に提案したんだ」
藍子「はい。藍子ならできるかもしれない、って……」
加蓮「無責任な思いつき……という訳でもないみたい」
藍子「私のことを信じてくれる、いつもの眼差しでした」
>>24 重ねて申し訳ございません。以下の2箇所を修正させてください。
◯上から3行目の藍子のセリフ
誤:藍子「と言っても、そこまで決まっているお話じゃないみたいなんです。
正:藍子「と言っても、そこまで決まっているお話ではないみたいなんです。
◯下から2行目の加蓮のセリフ
誤:加蓮「無責任な思いつき……という訳でもないみたい」
正:加蓮「無責任な思いつき……という訳でもないんだね」
加蓮「…………」
藍子「…………」
加蓮「……藍子は」
加蓮「っ……」
加蓮「藍子は……どうしたい?」
藍子「私は――Pさんが具体的な計画を作って、本当に実現するようなお話を用意しても、お断りすると思います」
加蓮「!」
藍子「だけど……もしまた提案された時、はっきりと断れる自信は……ありません」
加蓮「どっちっ……!」
藍子「だってその提案は、すごく嬉しかったから……!」
藍子「アイドル活動は楽しいけれど、大変です。学校になかなか行けないこともあって、家に帰ってもすぐ寝ちゃう日もあります……ううん、家に帰れない時だってあって、お母さんとお父さんにはその度に心配されてしまいます」
藍子「その上、カフェまでやるなんて……。それってきっと、すごく難しいことですよね」
藍子「芸能人の方がお店をやるというお話は、たまに耳にします。きっとすごく頑張って、いろいろ調べたり、勉強したり……なによりも、やりたいという気持ちが強くあって、やり遂げている方もいます」
藍子「私は……。今の私には、そこまではできないって思っています。トップアイドルへの長い長い道も、まだ歩き終わっていないのに……」
藍子「いくら好きなことだからといって、突然違う道を歩き出すのは間違っていますよね」
藍子「アイドルならアイドルを、カフェならカフェを。やるって決めてやらなくちゃ」
加蓮「……半端なのは嫌い、か」
藍子「はい。だから加蓮ちゃんがさっき、まるで私の気持ちを見通したようなことを言った時には……すごく、びっくりしちゃったんですよ」
加蓮「そんなつもりはなかったけど――ううん。まっ、普段私が味わわされているのはそれってことで? たまには藍子が受ける側になってみなさいよ」
藍子「加蓮ちゃんが、気持ちを分かってもらえたのに悔しそうにしていたのは、こういうことだったんですね……!」
加蓮「ホント。藍子ってば、頼んでもないのにズケズケといつもいつも――」
藍子「……頼んでいないんですか?」
加蓮「こらっ。そういうことを真顔で言うのはダメ!」
藍子「くすっ」
加蓮「こーいうのは、隠しておくべきことでしょ? 見えてても、見えないフリをするのっ」
藍子「は~い」
加蓮「まったく……」
加蓮「……じゃあ、カフェを開くって話は断って、今まで通りアイドルを続けるつもりなんだ」
藍子「そのつもりです。……そのつもりなんですけれど……」
加蓮「断れるか、自信がない……か」
藍子「3日限定だけど、自分のカフェをやろうってお話になった時も、すっごく嬉しかったんです。大好きな場所を作れることが、すごくすごく嬉しくて……っ」
藍子「最初は冗談かと思っていたんですけれど、Pさんの真剣な眼差しを見て……私の好きなことを、すくい上げてくれたんだって分かって!」
藍子「もしもそれが、3日だけではなくて、ずっと続けていられるのだとしたら……。ちゃんと拒めないかもしれません。アイドルを続けていきたいって、堂々としていられるかどうか……」
藍子「…………」
加蓮「…………」
藍子「加蓮ちゃんは……。どう思いますか……?」
加蓮「…………」
藍子「……きびしい言葉でも、大丈夫ですから」
加蓮「私は……。私も、今すぐの答えは出せないよ。こうして欲しいとか、こうなったらいいとか、あとは私が藍子ならこうするとか……正解なんて、全然出てこない。だから思ったことをそのまま言うことになるけど――」
藍子「うん……」
加蓮「正直言うと……藍子なら、どっちもできるんじゃないかって思っちゃうの」
藍子「えっ……?」
加蓮「カフェとアイドル。だって藍子はゆるふわカフェアイドルでしょ?」
藍子「……冗談っ――」
加蓮「本気だよ。藍子ならできるんじゃないかって思っちゃうの。カフェもアイドルも、どっちも。半端な事なんかじゃない、どちらにも全力でなれて……藍子らしい方法でみんなへ幸せな時間を、って」
藍子「…………」
加蓮「夢望んだことを形にするのって、すごく難しいよね。私達がこうして一緒にいる時間を迎えるまでに、沢山の傷や涙があったのと同じで……絶対に、簡単なことじゃないと思う」
加蓮「まして、それが3日だけじゃない、永遠に続いていくなんて……やろうよ、って簡単に言えることじゃないよね」
加蓮「でも、藍子ならできると思うの。傷ついても泣いちゃっても、今の時間を迎えてるんだよ」
加蓮「私は藍子の優しさを知ってる。誰かの笑顔の為に、これだって決めた道を歩き続けられるって知ってるから……」
加蓮「それにさ……」
加蓮「それに――私も付き合うよ、って言っちゃいそうになって……」
藍子「……加蓮ちゃんも……」
加蓮「アイドルを続けながらカフェを開く。ずっと続けていく。そんな無理なことも、私がいればちょっとくらいはできることが増えるかもしれない。じゃあ、その為に私も付き合うよ。……って言いたくなる」
加蓮「永遠を覚悟してなお、私に寄り添ってくれた藍子へのお礼。それから……これからもずっと一緒にいたいっていう私の気持ち」
加蓮「あははっ。そんな建前なんて、もういらないんだった」
加蓮「藍子の夢が叶って、藍子が笑顔でいるところを、一緒の場所で見ていたいの。そのために人生を捧げるのも、全然悪くないやっ」
加蓮「……だけどそれは、私の話」
加蓮「藍子がやろうって言ったのならともかく、こんなのは全部私の気持ちのことだもん。それって違うじゃん。ただの私の身勝手な感情じゃん」
藍子「……いままでずっと、ここでずっと。私とあなたのやりたいことを、自分の気持ちを大切にして、言葉として交わし続けていたのに?」
加蓮「今だけは、それじゃダメだって思う。そもそも――」
藍子「…………」
加蓮「そもそも私の気持ちって言うなら、……藍子にはアイドルでいてほしい」
加蓮「アイドルか、カフェの店長さんか、って2択なら、アイドルでいてほしい。そこにアイドルとカフェの店長さんっていう3つ目の選択肢を入れても、その中からアイドルを選んで、今まで通り輝いてほしいって思っちゃうくらいに」
加蓮「それを……それこそ今までずっとやってきたように、私の言いたいこととして藍子に押し付けられないのは……。私も、カフェっていう場所が大好きだからかもね」
藍子「…………」
加蓮「……ごめんね、はっきりしない話で」
藍子「ううん……」
加蓮「私も、話しててわかんなくなっちゃった。だって全部が本当のことなの」
加蓮「藍子なら両方できるって思うし、少しでも実現できる可能性が上がるなら付き合ってあげたい。けどアイドル一筋でいてほしい。ただ……カフェっていう場所も、大好き。藍子がカフェを開いて、そこにいる姿が簡単に想像できるし、素敵な未来だって思ってしまう。全部、嘘じゃないの……」
藍子「知っていますよ……。だって加蓮ちゃん、嘘が大嫌いですからっ」
加蓮「あははっ、まあね? いつだって自分に正直だもん」
藍子「それも、知っていますよ」
加蓮「知ってた?」
藍子「はいっ」
加蓮「そっか」
加蓮「ねえ、藍子。とっても無責任かもしれないけど……打ち合わせ、もう少し続けよっか」
藍子「……打ち合わせ?」
加蓮「これからずっと先のことじゃなくて、まずはこの、3日間限定『あいこカフェ』の打ち合わせ」
藍子「だけど、もういま話すことなんて」
加蓮「なんでもいいよ。打ち合わせにするようなことを作るの。お客さんが来た時のシミュレートとか、スタッフさんへの指示の種類とか。料理のレシピを考え直してもいいし」
藍子「…………、」
加蓮「本当にカフェをやるかどうかってお話は、とても大切なことかもしれないけど……だからこそ今、急いで話し合っても答えは出ないと思う」
加蓮「それに、『あいこカフェ』をやることで何か気付けることがあるかもしれないでしょ?」
加蓮「その後のことは、終わってからまた話そうよ。一晩でも何日でもかけて話そう」
加蓮「藍子の歩く道は、ゆっくり選んでいいんだから……」
藍子「……うんっ」
加蓮「うんっ」
加蓮「せっかくのオープンなんだから。別のことなんて考えたら、来てくれるファンの人たちもがっかりしちゃうよ?」
藍子「そうでしたね」
加蓮「ま、そうなる前に私のチョップが飛ぶけど」
藍子「そう言いながら、さっそくテーブルの下から蹴って来ないで~っ……いたいっ。加蓮ちゃん、そこは痛いっ」
加蓮「くくくっ」
藍子「も~……。でも……ありがとう、加蓮ちゃん」
加蓮「どう致しまして」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……くすっ」
加蓮「ふふっ」
藍子「さあ、何を決めましょうか。もう1回、最初から見直してみてもいいのかな……」
加蓮「こういう時は見返すのも重要だよね。当たり前のことも……、……あっ」
藍子「内装も、また別のいいアイディアが――」
加蓮「……藍子」
藍子「あ、はいっ。なんでしょう」
加蓮「なんか打ち合わせの必要はないみたい」
藍子「えっ……?」
加蓮「外」
藍子「……まっくら」
加蓮「あ、店員さんが来た。閉店のお時間です、だそうです」
藍子「……21時?」
加蓮「ね?」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……あははっ。わらっ……笑っちゃだめだって分かりますけれど、もうっ……!」
加蓮「ぷくくっ……。なによー、人がせっかく用意してあげた建前を」
藍子「ごめんなさいっ」
加蓮「なんでもかんでも、すぐゆるふわ空間で無駄にしちゃうんだから」
藍子「でも、それだけ真剣なお話だったんです。だから……」
加蓮「いいよー。その代わり、今日は藍子のとこに泊まるからね」
藍子「ほっ」
加蓮「お母さんからのメッセージなんて全部無視しちゃおー」
藍子「せめて、私の家に泊まることくらいは教えてあげましょう……? 心配しちゃいますよ」
加蓮「それもそっか」
藍子「店員さん、遅くまですみません。今日も、ありがとうございました」
加蓮「ありがとね。……そんな心配そうな顔しなくても大丈夫。藍子だって、そこら辺の新人アイドルなんかじゃないの」
藍子「はいっ。自分で歩く道は、ちゃんと自分で決めます。加蓮ちゃんも、いてくれますから」
加蓮「……え、単純に外が暗いから心配? あははっ、そういうことなんだ」
藍子「つい、勘違いしてしまいましたね。お母さんが迎えに来てくれるまで、外で待たせてもらいます」
加蓮「いやいや、中でお待ち下さいって……いいってば。ズルいことはしたくな――ああもう、分かったって! いちいち顔を寄せてこないのっ」
藍子「ふふっ。加蓮ちゃんの言っていた、カフェの店員さんが……ってお話も、本当のことみたい♪」
加蓮「ね、藍子」
藍子「なんですか、加蓮ちゃん?」
加蓮「どうするか決まってからも……もしもアイドルの話を一緒にしなくなったとしても、たまにはこうして一緒にいようね。私達の大好きな、この場所で」
藍子「もちろんっ。私たちの大好きなこの場所で、一緒の時間を!」
【おしまい】
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