長富蓮実「ザ・ラストガール」 (60)
「うーん……歌はうまいんだけどね」
「だ、だめでしょうか……?」
「なんというか……その……」
「……」
「現代っぽくないんだよね」
「現代っぽくない……」
「あのね、はっきり言うわ。 センスが古い」
「……古い……」
「ええ。 のど自慢やってるんじゃないのよ、オーディションなのよこれ」
「そんな、私はこの歌が本気で……」
「いや、僕は悪くないと思うよ? ただやっぱり……」
「その路線で今時やってけるかというと……どうかな?って感じ。 悪く思わないで!ねっ」
「……そうですか……」
「とにかく、結果は後日お知らせします。お疲れ様でした」
「はい。 ……ありがとうございました」
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憧れの季節は、もう終わり
吐息のネットも、悲しみ色
ううん、平気
この涙が乾いた跡には
夢への扉が
―――あるのかしら……
――――――
外に吹く風の音は、先ほど、部屋へ入った頃よりは弱まったような気がします。
日は少し傾き、窓に差し込む柔らかな橙が長い廊下に映り込み、足下を照らしてくれます。
同じように、私の心もまるで夕暮れ気分、といったところです。
あのように否定されるのは、慣れっことはいえやはり寂しくなります。
どこにオーディションを受けに行っても、私の評価はいつも似たようなもの。
「古い」「今時ウケない」「センスが80年代」
言われなくても分かっているのです。
自分の趣味も、それを模倣してみることも、それを自分の売りにできまいかなどと考えることも、
私の理想が、いかに浅はかな憧れかということは、自分が一番よく分かっているのです。
地元の島根から一人、東京に出てきて今日で半年あまりの春の日でした。
――――――
私の母は、若いころからアイドルが大好きでした。
80年代の歌謡アイドルブームのさなか、当時一世を風靡した彼女たちのことを母は心から尊敬し、
彼女たちの歌は今でもすべて歌えると自慢げに語っていました。
そんな母の影響で、物心ついたころから私の周りはいつも懐かしの歌であふれていて、
その歌たちを心底嬉しそうに、身をゆだねるように聴き入る母の姿をずっと見てきました。
そして子守歌代わりにアイドルソングを歌ってくれる母の声で、毎日眠っていました。
私は隣にちょこんと座って、あるいはまどろみの中、詞の意味もよく分からないままにそんな歌たちを聴いていただけ。
けれども、そのメロディーはいつまでも色あせないやさしさに包まれていて、
楽しく、悲しく、そして熱く、
まるで耳に口づけをされるような、ドキドキとちょっぴりの恥ずかしさを織り交ぜた不思議な気持ちにさせてくれたり、
あるいは雲の中にいるような、柔らかな心地にさせてくれたり。
聴くたびにあらゆる感情を引き起こしてくれる歌たちに、
幼い私はあっけなく、その魅力に取り付かれていきました。
母とともに、
いつしか一人で、
最後には歌と振り付けも覚え、自ら母に聴かせるまでに。
そうしてずっと歌たちと一緒に過ごしてきたものです。
母が観客で、私がアイドル。
二人だけのコンサートを母は毎回にこやかに見守り、最後にはいっぱいの拍手をくれました。
私は気をよくしてその都度「おおきくなったらセイコちゃんみたいなアイドルになる!」と自慢げに話していたとか。
母が用事でいないときも、私は押し入れからお気に入りのぬいぐるみや人形を引っ張り出して、周りに並べて、私だけのコンサートを開いたりもしていました。
そんな思い出が、アイドルを志すようになった理由かと聞かれれば、本当のところはよく分かりません。
ただ、最初のきっかけであることに間違いはないと思います。
かつてTVを華やかに彩っていた名だたるアイドルたち……
舞台の中央に一人佇み、一筋のスポットライトに眩しく照らされ、
他の誰にも出しえないオーラを放つ特別な存在に、少しでも近づいてみたい。
伝説とまで言われた彼女たちが、侵しえないたった一つの場所からどんな風に世界を見ていたのか、その1%でも共有してみたい。
もちろんこれは、今となってはそんな説明ができるというだけで、
実際にそこまで考えていたわけではないのですが。
まして、その思いは小さな子供が漠然と抱くような、単なる憧れでしかありません。
「セーラームーンになりたい」とか、「ウルトラマンになりたい」といったような、
夢見る子供の何の気もないお話に過ぎないふんわりとした願望は、誰もとがめず、しかし叶えず。
普通は大人になるにつれ、自然と忘れていくものです。
――――――
先ほどのように、私の好みが「古くさい」の一言で片付けられるのは、今に始まったことではありませんし、特に驚きもしません。
小学校の友達は、大きくなるにつれ少しずつ流行の音楽に興味を持ち始めます。
子供は辛辣で、そういう最新の音楽以外は「ダサい」の一言です。
私自身、母から聴かされた曲以外の音楽に詳しいわけではありませんでしたし、反対に特に自分からアイドルソングの趣味について語ったこともありませんが、
それでもこの間までクラスのみんながしきりに「これ大好き!」などと話していたもののことを、ほんのしばらくするとたちまち話題にしなくなっていく前では、
昔の曲ばかりが好きで子供のころからずっと聴き続けている、とはなかなか言い出せません。
時折ラジオやテレビで「昭和ヒットソング特集」なんてものが取り上げられた日には、
心は躍るものの、ふとよぎります。
―――私は周りから置いていかれているのでは?
少しずつ、友達と話が合わなくなっていくような気がしました。
それは趣味の内容に限った話ではなく、考え方、受け止め方、ふとした仕草、ファッションの感覚、
普段は何気なく過ごしていても、一度気になりだすとどれをとっても「私は人とは違うのでは……」と不安がよぎります。
もちろん、友達とは仲良く過ごせましたし、その頃の生活が楽しくなかったわけでは断じてありません。
幸いにも私の周りには、私の古くさい趣味をバカにするような人はいませんでした。
カミングアウトしたわけでもないので、当然といえば当然ですが。
今時の音楽に全く興味がないわけではなかったので、友達に勧められた、人気のロックバンドやポップス歌手のアルバムを聴いてみたりしたこともあります。
その当時は、友達を話を合わせるために半ば仕方なく始めたことではあったものの、なるほど最新の曲にもそれぞれの良さがあることに気づかされました。
いい曲はたくさんありましたし、新しいお気に入りの曲もいくつかは見つかりました。
けれど、やっぱり私の心の中にあるのは……みんなが好む新しい曲にはない良さをたくさん含んだ、往年のアイドルソングでした。
――――――
人生を変える出会いなんてものがあったとして、人はその出会いを何年も後になって振り返り、
「あぁ、確かにあの出会いは自分を変えてくれたのだな」とじわりじわり実感していくものです。
私にとって、それは突然にやって来て、あまりに強烈で、
そのときから「人生を変える出会いを手に入れた」と、実感できていたような気がします。
10歳の夏休みに母と初めて東京に旅行に来たある日の午後、
そのとき私はうっかり母とはぐれて街をうろうろしていました。
まだ携帯電話も持たされていなかったものですから、どうしようもありません。
人混みに流され右も左もわからないまま、たった一人で途方に暮れていたとき、
裏通りの古びたビルの、壁にぶら下がる雑多な看板の足下に小さな入り口を見つけました。
入ってすぐ下へと続く薄暗い階段になっていて、奥はなんだか騒がしい様子。
耳を澄ませてみればズンズンというくぐもった重低音とともに、時折挟まるかけ声と、
それに合わせるようにワァーという歓声が聞こえてきます。
立て看板を見ると、それはどうやら小さな小さな劇場だったようです。
これまで経験したことのないような得体の知れない雰囲気に、もしかしたら危ない場所なのかも……と感じたものの、
どうしても気になって、誘われるようにゆっくりと階段を降りていきました。
一歩進むごとに重低音がだんだんと大きくなり、耳だけでなく頭やお腹にまでその振動が伝わって来て、
乗り物に酔ったような、なんだかポーっとした気分になってきます。
一際大きな歓声が上がり、自分の身ごと震えるその感覚で、目の前にあった両開き扉の向こうがその音の源であることが分かりました。
おそるおそる、扉を開けてみると……
「はぁ、はぁ……それでは最後の曲です! 今日は会いに来てくれて、本当にありがとうございました~~!!!」
うおおぉぉおぉお~……!!!
マイク越しなせいか音割れしたようなキンキンとした女性の声が響き渡り、同時に観客と思われる十数人の大人たちが再び叫びだしました。
強張ってしまった自分の体を、勇気を振り絞り無理矢理前へ進め、大きな男の人たちの背中を縫うようにチラチラ覗きながら、背伸びをして一番奥まで目をやると、
可愛らしく、でも少し安っぽく、色はくすんでいるものの、それでも動きに合わせてキラリと輝く、
そんな衣装に身を包んだ、一人の女性がいました。
まだ小学生の私よりは背が高いとはいえ、大人にしては小柄な、明るいオレンジの髪の女の人。
頭にはウサギの耳の飾りをつけて、ヒラヒラした衣装を、全身を使って振り回すように、これでもかと大きく動かして見せながら。
マイクを片手に、激しめのダンスでただでさえ狭いステージをこれでもかと動き回り、
電子音に合わせて歌声を張り上げています。
そして観客側の人たちは、サイリウムを振り回しながら、彼女の歌や踊りに合わせて体をひねるような踊りで合わせていきます。
ポーっとしていた頭が追いつき、ようやくこの場がなんなのか少しずつ理解しはじめました。
―――アイドルのステージだ。
都会のビルの地下にある、小さくて古くて暗いこんな場所にもアイドルがいて、一生懸命になって歌っている。
子供で、無知だった私には驚きでした。
自分の中のアイドル像は、私の生まれるずっと前の、在りし日の彼女たちの姿であり、TVでの華々しい光り輝くステージばかりを眺めてきた私にとって、
今ここにいるアイドルのような人は、想像していたのとは全く異なる舞台にいたのです。
もちろん今時のアイドルのステージも、直接ではないにしろ観たことがないわけではありません。
ですがそれを含めても、目の前にあるその光景は私にとって異様とすら思えました。
カメラもない、マイクは時折音が途切れる、狭くて暑くてむせるような狭い空間で観客も数えるほどしかいない、
けれどもそんなところにアイドルはいたのです。
ただ、私の夢とかけ離れたようなそんな場所で歌い、踊っている彼女は、
額に汗を浮かべ、肩を上下させながらも、
苦しそうな表情一つ浮かべず、心の底からその瞬間を楽しんでいるみたいで、観客一人一人に目を合わせ、一つ一つの歓声に応えるかのように歌っていました。
狭くて暗くて小さなステージだったけれど、間違いなく、彼女のステージでした。
──────
最後の一曲が終わり一旦退場していったあと、アイドルのお姉さんはもう一度前へ出てきて、
今度は小さな箱を抱え、買ってください、一枚500円です、というように観客席の方へ叫んでいました。
どうやらこの場でCDを売っているらしいということも、私には衝撃でした。
ステージを見に来ていた人たちはCDのほうにはあまり興味を向けず、続々とその劇場を後にします。
そして、残っている人もまばらになっていたのに、私はまだそこにいました。
そのうち、観客はいなくなり、部屋が照明で明るくなりました。殺風景な真っ黒の壁が目に入ります。
そのまま設営のスタッフさんが撤収作業に入り始めました。
私は部屋の隅っこにじっとしていたので、しばらくは目立たず気づかれなかったのかもしれません。
「あの、すみません」
「わっ…!?」
振り返ると、先ほどステージに立っていたお姉さんがこちらをじっと見ていました。
「ぁ……ぇっと……」
少しだけ身じろぎし、それ以上は体が固まって動きません。
思えば私は入場料も払わずに勝手にステージを覗いた、不法侵入者です。
おまわりさんに捕まるかも? と、子供ながらにおびえながらお姉さんと視線を合わせていると、
「あの、初めまして! ですよね?」
私の心配とは裏腹に、お姉さんはにこりと笑いかけてくれました。
「今日は観に来てくれてありがとうございます! よかったら、CDも一枚500円で発売中ですので、ぜひぜひお買い求めください! キャハッ☆」
「あ、いえ……わたし……」
お姉さんが最後に軽くポーズを決めると、頭につけたウサギの耳もぴょこんと跳ねていました。
「……ご、ごめんなさい! その……勝手に入っちゃったんです。お母さんと一緒にいたんだけど、はぐれて……探してたら、ここに来て、それで……うぅ……」
しどろもどろに言葉をつなぎ、泣きそうになりながら必死で説明しようとします。
「そうなんですか? あらら……てことは、ここには迷い込んじゃったってことなんですね?」
「はい……ごめんなさい」
「気にしなくていいですよ。良かったらお母さん、一緒に探しましょうか?」
「でも、どこにいるか分からなくて」
「じゃあ、交番まで連れて行ってあげますよ!」
一人で不安だったのは確かなので、ここはお姉さんに甘えることにしました。
お姉さんはスタッフの方へ行ってなにやら話をした後、また戻ってきました。
「じゃあ、行きましょう! ……あ、その前に」
先導しようと数歩進んだお姉さんが振り返ります。
「ステージ、どうでした?」
「えっ……えっと、すごかったです!」
本当はもっといろんな言葉で伝えたかったのですが、上手く表現できません。
「わぁ、よかった! お嬢ちゃんみたいなかわいいお客さんは、とっても珍しいんです。そうだ、お名前を聞いてもいいですか?」
「はすみ、です」
「はすみちゃん……とっても可愛らしい名前ですね!」
「えへへ、ありがとう……」
どうやら、勝手に入ったことは怒られていないようで安心しました。
──────
一緒に地下の劇場から街へ出て、お話をしながらお母さんを探しました。
アイドルのお姉さんはすごく可愛らしくて優しくて、私の話を楽しそうに聞いてくれます。
私もアイドルが大好きなこと。よく歌を歌ったり、踊ったりしていること。
だけど、みんなと話が合わなくて、ちょっぴり寂しい思いをするときがあること。
「その気持ち、よぉ~くわかります。 私も、メイド喫茶で働きながら頑張ってアイドルをやってますけど、
その間に昔からのお友達は出世したり、結婚したり、うぅ……まあ、そうやってだんだんと疎遠になっちゃいましたから」
「そうなんですね」
「しかも、バイト先の後輩が……ある日どこかの撮影のエキストラに参加したらしいんですけど、その場でアイドル事務所にスカウトされちゃったりとか……
まあ、そんな風に先を越されたり、色々焦りもあります」
「へぇ……」
「それに、アイドルの方でも……昔は一緒にデュオを組んでた人がいたんですけど、その人はアイドルを辞めちゃって」
人混みの中、雑音混じりのお姉さんの声は寂しげでした。
「ああいう小さな劇場から抜け出せないことに、いらいらしてたんですね、きっと。もう少しで報われるから、まだ一緒に頑張りましょうって止めたんですけど……だめでした」
「……」
お姉さんは続けます。
「とっても悔しかったです。 あの人の夢を叶えてあげられなかったことが……だから、自分だけでもまだまだアイドルを頑張って、
もっと有名になった姿を見てもらって、もう一度あの人に勇気をあげたいんです」
「勇気?」
「……成功した私を見たら、あの人が一度は諦めたアイドルの夢を、もう一度追いかけてくれるようになるかも、って。 そんなことが叶ったら、とっても幸せなんですけどね」
まだ全然有名になれてないですけど、とお姉さんは恥ずかしげに付け加えて視線を私から正面へ戻します。
「そうだ。はすみちゃんの好きなアイドルは誰ですか?」
今度はお姉さんが質問してきます。
「好きなアイドルですか……?」
「ええ! 教えてほしいです!」
「えっと……」
私はおそるおそる、好きなアイドルを何人か挙げてみました。
「その、私が好きなのは……セイコちゃんとか、アキナちゃんとか……なんです」
自信なさげに、本当は私が知らぬ時代の、あのアイドルたちを。
「…………」
「……古くさいかもだけど……」
半ば独り言のように付け足した一言がお姉さんに聞こえていたかは分かりませんが、
「……わぁ~! セイコちゃんもアキナちゃんも、お姉さん大好きですっ! はすみちゃん、まだ小さいのにセンスありますよ!」
「……ほ、ほんとに?」
「ホントです! まだ若いのに、その良さに気づけるとは……将来有望、ってやつですね」
お姉さんはフフン、と鼻を鳴らします。
もしかしたら笑われるかもと思っていた私にはいい意味での誤算で、ほっとしました。
そういえば、母以外に初めて私の好きなものを褒められたような気がします。
「子供のころからずっと、昔のアイドルが好きだったんですか?」
「はい、お母さんが大好きで、私もずっと聴いてて……」
「歌ったり?」
「は、はい!」
「ですよね。 はすみちゃん、声すごく綺麗ですし、歌うの好きそうですし」
「えぇ~、そうかなぁ……?」
「ええ! 歌がうまいんだろうなって、分かりますよ」
「あ、ありがとうございます」
「歌うのが好きなら……はすみちゃんも、将来はセイコちゃんやアキナちゃんみたいなアイドルになるんですか?」
子供の頃からのぼんやりした小さな小さな夢に触れられて、
少しだけ、心臓のあたりがざわつく感じがしました。
「うーん…………なれたらいいな、とは思いますけど……」
「絶対なれますよ! だって、はすみちゃんとってもカワイイんですもの!」
「でも、古いし……今どきは、流行らないかもだし……」
濁った返答しかしない私を、違いますよ、とお姉さんが制します。
「流行り廃りとかじゃないんです、はすみちゃん。本当にいいものはいつまでも愛されるんですよ。
じゃなきゃ、はすみちゃんだってセイコちゃんたちのこと、好きにならなかったでしょう?」
お姉さんの言葉に、ハッとさせられました。
「私みたいな、地下劇場でくすぶってるような無名には説得力ないかもですけど……
アイドルって、歌やダンスだけじゃなくて、生き様がファンのみなさんの背中を押すんだと思います。
自分が好きだと信じる道を貫いて、まっすぐ突き進む……そういうところを、みんな応援してくれるんです。
これからの時代、そういうアイドルが必要なんですよ、きっと」
──────
ようやく交番に着くと、お姉さんがおまわりさんに事情を説明してくれました。
どうやら母はこことは違う別の交番に相談に行っていたようで、無事見つかったと、おまわりさんが連絡を入れてくれました。
「じゃあ、私はこれで」
良かったねと残して、お姉さんは何事もなかったように立ち去ろうとしていました。
―――お礼を言わなきゃ。
「あ、あの!……ありがとう……お姉さん」
「いえいえ、お安いご用です! ……あ、そうだ」
椅子に座っているに私に対し、しゃがみ込んで私の目線に合わせてくれます。
ぴょこんと跳ねるオレンジの髪。瞳もオレンジがかったブラウンがお揃いみたいで、
改めて近くで見ると、お姉さんはとても綺麗な人でした。
こんなに綺麗な人なのに、いやそれでも、有名なアイドルになるのはとっても大変なんでしょう、たぶん。
「はすみちゃん。 いつかもしアイドルになれたら……そのときは一緒にステージに立って、歌ってほしいです。 ……なーんて! キャハ☆」
そしてお姉さんのこの決めポーズは、もしかして照れ隠しのために使っているんでしょうか?
なんとなくおかしくって、だけど心強くて、
「はい、 約束します! いつか私がアイドルになったら、ですね」
「カチューシャのすてきな、未来のアイドルさん。お元気で!」
指切りげんまんをしたあと、お姉さんはにっこりと笑って、帰って行きました。
30分後、母が交番にやって来ました。
怒ったような、悲しんだような、喜んでいたような、安心したような、そんな表情。あまり覚えていませんが、とにかく心配をかけてしまったことを謝罪しました。
おまわりさんにもご挨拶をし、交番を出て駅へ向かう途中、母が尋ねました。
「一人で交番に行って待っていたの?」
「ううん。 お姉さんに連れて行ってもらった」
「そうなの……誰もいなかったけれど、もう帰られた後だったのね。せめてお礼を言いたかったわ」
申し訳なさそうにつぶやく母に向かって、私はそっとこぼしました。
「お母さん」
「なに?」
「私、アイドルになりたい」
「おかあさん。わたし、あいどるになりたい!」
子供のころから幾度となくそう口走っていた記憶は確かにありますが、10歳にもなって真剣に同じような夢を抱き続けているのは、
さすがに現実を見ていなさすぎじゃないかと心配もあったと思います。
結局、それは杞憂でした。
母に改めて私の夢を伝えると、母は私の顔をじっと見て、それからにこりと笑いかけてくれました。
「がんばんなさい、蓮実。あんたならきっとなれるわ」
そのときそう言ってくれた母のためにも、私は本気で、夢を叶えることに決めたのです。
――――――
憧れはいつしか夢に、夢はいつしか決心に変わっていきます。
ですがそれは、憧れを憧れでなくすため、その夢と真剣に向き合うということ。
私はアイドルになりたい。
その次に考えるべきは―――どんなアイドルになりたいか?
憧れでしかなかった私のアイドル像が、具体的なビジョンに変わるまでに、そう時間はかからなかったと思います。
だけど問題は、それが受け入れられるかどうか。
もちろん私がずっと憧れていたアイドルといえば、昭和の名だたるアイドルたち。
だけどこの時代になって、そうしたいわゆる「清純派」のアイドルは、
果たして見向きされるのか?
今の世の中、アイドルといえばいろんな方面で活躍している人が多くて、
それぞれ独自の強み、専門性、オリジナリティを持っています。
清純派というジャンルはすっかり鳴りを潜め、およそ今のアイドルの世界を席巻するような、大きなスターなどはいないと言っていいでしょう。
そんな中普通の、イマドキでない古びた感性のアイドルは受けるのか?
中学に入りもう子供でなくなった私は、そのようなことをぼんやり悩んでいました。
もっとも、アピール戦略を練っていたとかいう大層なことではありません。
ただ、自分が好きだからというだけの理由で通用するような簡単な話でないことくらい、未熟な私にも分かります。
考えれば考えるほど、険しいだけのその道の向こうには何もないような気がして、自信をなくしかけます。
私の夢は、ずっと憧れと決心の間でゆらゆらしていました。
そんな、3年生の春。
――――――
新学期が始まって間もなく、桜の花びらも散りきらないようなある日の放課後、忘れ物を取りに教室にもどった私は、引き戸に手をかけたそのとき、
中に人の気配が残っていることに気がつきました。
耳を澄ませてみると、ほんのかすかに音楽が聞こえます。
そしてその音には聞き覚えがありました。
……Boy いつの日からか まだ見ぬ人に ときめいていた
Boy 心に深く 伝える愛は 不思議な力……♪
いえ、聞き覚えと言うよりはもはや体に染みついていると言ってもいい、
30年も前に流行った、私の大好きな曲の中の一つ。
―――あの曲? 教室で? 誰が?
ゆっくり、ゆっくり扉を開けてみると……
担任の先生が、教卓に座って携帯電話からその音を鳴らしながら、
部活動にいそしむ生徒たちの集まるグラウンドを見下ろしていました。
今年新任として学校にやってきた、まだ若い先生です。
「……先生?」
「!」
先生は私に気づくと慌てて携帯をしまい、音を消そうとしていました。
「待って下さい、先生! 今の……」
「いえ、なんでもないんです」
「『BOYのテーマ』ですよね? モモコちゃんの!!」
いけない、思わず叫んでしまいました……。
「……知ってるんですか?」
先生は驚いた表情でこちらをゆっくりと振り返り、尋ねてきます。
「はっ……はい! この曲大好きです。 モモコちゃんの曲だと二番目に好きで……あ、一番は『もう逢えないかもしれない』なんですけど……いや、一番は『卒業』かな?」
「…………」
「でもBROKEN SUNSETのイントロもかっこよくていいですよね……あとは………………ぁ」
そしていつの間にか舞い上がってしゃべりすぎてしまっていたことに気づいて、
「……すみません……好きな曲だったから、嬉しくてつい……」
ようやく我に返ると、先生は少し可笑しそうに私を見ています。
「ふふっ。モモコちゃんが好きなんですね」
「先生もお好きなんですか?」
「……そうですね。若いのにこういう旧いアイドルソングなど聴いてると、周りには馬鹿にされるものですが」
「……そんなことないです。 この時代の歌はどれもとっても素敵で……」
「長富さん、ですよね」
先生は後ろに体重を預け、いすの背もたれをキィと鳴らしました。
「先生は、もちろんモモコちゃんも好きですが、トモヨちゃんのほうがもっと好きです」
少し恥ずかしそうに笑う先生の顔につられて、私も思わず笑みがこぼれました。
学校で同じ趣味を持っている仲間がいたのがとっても嬉しくて、部活動にも入っていなかった私は放課後、
先生と一緒に教室でアイドルソングを聴いては語り合う日をしょっちゅう過ごしました。
「見てください、これ。レコードよりもバックバンドがかなりアップテンポです」
「わっ、本当ですね……」
「それでもきっちり『ゆれて湘南』を歌い上げるあたり、さすがの一言です。直前のMCも実にヒデミちゃんらしいですよね」
「とっても楽しそうですよね♪」
自分で言うのも何ですが、先生は私に負けず劣らずのレトロアイドルファンで、
時々こうやって先生のスマートフォンから、当時のライブ映像なんかを見せてもらったりします。
大好きなアイドルや歌のことについて、お母さん以外の人と気の済むまで話し合うのがこんなに楽しいことなのかと、
そのときは学校に行くのが嬉しくて嬉しくて仕方ありませんでした。
クラスの友達に「ハスミン、放課後残って何してるの?」などと聞かれもしましたが、勉強を見てもらっている、という口実で十分でした。
いつしか資料置き場となっている空き教室を借りて、残してあった古いレコードプレイヤーを引っ張りだし、先生が持ってきたレコード盤を一緒に聴いたりもしました。
私の家にもあるもの、ないもの、限定版のプレミアもの、先生はそれはもう色んな種類のレコードを持っていて、私には尊敬の念しかありませんでした。
レコードを取り出すたびに目をきらきらさせて喜んでいる私を見て、先生も楽しんでくれていたようです。
――――――
「この間の進路調査の用紙、見ました。長富さんは研究者になりたいそうですね」
すっかり先生と仲良くなっていた2学期、いつもの時間に先生が切り出します。
こうやって一緒に音楽を聴いているときにそういう話をされたことがなかったので、不意打ちでした。
「あれですか? えっと……確かにそう書いたかも……」
確かに、まだ堂々と書くのは恥ずかしくて、多少ごまかした節もあります……ばれていたのでしょうか。
「大学へ行く気はないのですか? 『80年代歌謡文化』について専門的な勉強ができますよ。社会学科とかへ行けばね。
長富さんならそのままいい教授になれそうです」
なんて、先生が茶化します。
どうやら今日のレコードよろしく、大人になるために色々考えなさいということなのですが、あいにく手元にチョコレートはありません。
「まあ、他の生徒も似たようなものなので安心していいですよ」
「そうなんですか?」
「スポーツ選手になりたいとか、宇宙飛行士になりたいとか、電車の運転士になりたいとか……仮に中学生が持つ夢なんて、子供の憧れの延長です。
みなそれぞれに抱えていても、正直に書いて笑われるのが怖くて、進路調査なんてやったところで結局は無難な内容になるのがほとんどです」
そう言われると、なんだか心がちくりとします。
「ただ……そうやってごまかしで書いているのと、本気でなりたくて書いている人の違いくらい、先生にも分かりますよ」
「へぇ……」
「長富さんは確かに研究者向きかもしれませんが、本当は希望なんてしていないって事もね」
「…………」
「おっと……レコード、換えましょうか。次は誰にします? セイコちゃんかモモエちゃんか」
気づくとプレイヤーはとっくに再生を終えて、ブツブツという特有のノイズが響いています。
先生は立ち上がって別の一枚を引っ張り出そうとゴソゴソ鞄をあさり始めました。
「先生。かつてのアイドルたちも、進路調査には適当書いていたんでしょうか」
「あはは。 どうでしょうね……」
背を向けたまま、先生は静かに笑います。
「確かに、アイドル志望ですなんて書くと怒りそうな先生はたくさんいるでしょうね。年配の方だととくに」
「……もし、生徒の中に『本気でアイドルを目指しています』っていう子がいたら、先生はどうされます?」
「うーん……」
これはもう、ほとんど白状しているようなものでしょう。
さっきから心臓のどきどきが止まりません。
―――先生なら、この人なら、応援してくれるかも、あるいは―――という期待と恐怖。
考え込む様子の先生をじっと見つめながら、答えを待ちました。
「…………先生なら、一度は止めますね」
「そ、そうですか……」
とたんに目の前が暗くなって、少し血の気が引くような感覚に襲われます。
「ただ」
ただ、先生が続ける言葉が、その本音を表しているような、そんな気がしました。
「教師としてはそれが正解なんです。大切な教え子に『よしわかった、アイドルを目指せ』などと、面と向かって無責任には言えません。何のサポートもできるわけないんですから。
それでももしその子が本気だというなら、どのみち先生の言うことには耳を貸さずアイドルを目指すでしょうしね」
「……!」
そこまで本気ならもう止めてあげません、と冗談気味に語っていたのが、なんだか印象的でした。
――――――
先生と一緒に音楽を聴いていく日々は結局、卒業式の前日まで続きました。
「こうやって長富さんと過ごすのも最後になりますか」
「高校に入っても、たまに遊びに来ますね」
「そうですか。あまり期待せずにいます」
「あ、ひどい。本気なのに……ふふっ」
先生は笑いを押し殺しながら、あみんのレコードを途中から流していきます。
サビのフレーズが印象的な一曲。本当は寂しくて切ないバラードなのに、会話の流れのせいで少し可笑しくって、
「えぇ、ここでこれですか?」
「先ほどの返事ですよ。あはは」
先生は2、3度、『私待つわ……』の部分を繰り返して、ようやく曲の頭から再生を始めました。
「……先生」
「何でしょう?」
「私って、変わり者ですよね」
小さい頃から好きなものがずっと変わらず、古びたナンバーを擦り切れるまで聴き続ける私の趣味がイマドキでないことくらい、とっくに分かっています。
「見る人からみればそうかもしれませんね」と、先生は正直に答えてくれました。
「長富さんは確かに、今時珍しい好みを持っているかも知れません。 でも、きっとそのこだわりは人生を良い方向に導いてくれるはずです」
「人生を……」
「いつまでも自分の好きなものを好きでいることって、とても素敵なことです。たとえそれが古くさくて、他の人が見向きしなくても、長富さんだけはずっと好きでい続けて下さい。
そして自分の好きなものを信じて突き進んでほしい」
「仮に長富さんがいつか、清純派アイドルを愛する最後の一人になったとしても」
「最後の一人……」
「すみません、さすがに誇張が過ぎましたね」
またいつの間にか円盤の再生は止まっていて、
空き教室の静けさの中かすかに広がるノイズが妙に心地よく感じました。
―――楽しかったな。
―――本当に遊びに来ていいのかな。
ぽつりぽつりと独り言を浮かべます。
「もちろん貴女と同じ趣味を持った人たちはいると思いますよ、先生みたいにね。
だけどきっと多くはなくて、それぞれが今の長富さんみたいに、『こんな趣味はもう流行らないのかも』って心配になっていることでしょう」
そして、
「そういう人たちに、現代にはこんな清純派アイドルがいるんだぞ、チエミちゃんやイヨちゃんみたいな素晴らしい逸材がまだいるんだぞ、って言えるような……
そんなアイドルがいたら、とっても面白くて素敵だなって思います」
「…………!」
このときの先生の一言が、私にとって決定的なものになったのだと思います。
「教師として長富さんに言えることは、ここまでです」
先生はそう言って最後に、にっこりと笑いかけてくれました。
「……ありがとうございます、先生。 いままでお世話になりました!」
「こちらこそ、今までありがとうございました」
一礼をして、空き教室を出ます。
扉を閉めて5歩ほど進んだのち、もういちど振り返って一礼をしました。
思わず走り出してしまうような帰り道。
ようやく気づけたのです。
私のなすべき事に。
――――――
「長富さんですが、残念ながら一学期をもって転校します」
高校1年の夏。クラスがざわつく中、隣に立った私の代わりに先生が説明してくれます。
「長富さんは自分の夢を叶えるために、一人で東京へ行くことを決めました。寂しいですが、彼女の意志を尊重し、みんなで応援してあげましょう」
一部のクラスメイトから、「東京で一人暮らし? かっこいい!」といった、羨望の混じった声もちらほら聞こえます。
「長富さん、挨拶を」
「はい」
先生の言葉に、みんなの注目が集まります。
何を話そうか特に考えていなかったので、数秒の沈黙を作った後、ゆっくりと口を開いていきます。
「みなさんに何もお話ししていなかったこと、謝ります。すみませんでした。先生のおっしゃったとおりです。東京でないとできないことがあるので、一人で行くことを決めました」
「分かったけど……東京で何するの?」
「……それは……その」
この質問が来ることは予想していましたが、やはり少し、答えることをためらってしまいます。
しかし、万が一……そう、万が一夢が叶えばいずれ知れ渡ること。
「……笑われるかもしれませんが……私、アイドルになりたいんです」
重い口を開き、ほとんどの人には語ったことのない私の夢を、初めてみんなに知らせました。
あぁ、言ってしまった。
笑われるだろうか?
おまえには無理だろうと、馬鹿にされるだろうか?
しかし、仮に笑われたとしてもかまいません。
覚悟はとうに決めているのです。
しかしながら、私の予想とは裏腹に、
「……いいじゃん」
「うん、ハスミンならなれそう」
「長富さん、応援するよ!」
「へ?」
誰が始めたかわからないパラパラとした拍手がいつの間にかクラスメイト全員に広がって、
がんばれーとかそんな歓声で包み込まれていきます。
正直、驚きました。
いえ、もちろん馬鹿にされたかったわけではありません。
嬉しいんですが、あまりにも拍子抜けというか、すっかり応援ムードになってしまっているのが自分でも信じられなくて。
「……てっきり笑われるかと……」
思わずこぼすと、
「そんなわけないじゃん! うちのクラスからアイドルだよ? 自慢するっての!」
「……う…………」
ますます分からなくなって、
「そ、それに! ……この際だから言ってしまいますが、私、なんというか80年代とかの、その、セイコちゃんとか、キョンキョンとか、そういう昔のアイドルが好きで……
こ、こんな時代だけど、わ、私も、そういう風な、その、懐かしい感じ? のアイドルになりたくて……」
ついつい余計なことまでしゃべってしまい、あとからしまったと気づきます。
あぁ、これはさすがに変な子だと思われる……
「知ってるよ」
「隠してたつもりなの?」
「バレバレだよ! 今更何恥ずかしがってるの」
え、えぇ……?
「あのさ。ぶっちゃけ、ハスミンの趣味は古くさいよ」
「うっ……」
クラスメイトの中でも昔から仲の良かった友人が、ぴしゃりと言い放ちました。
「でも、いいと思う。 そういう昔のものが好きなところがハスミンらしいし、『だっちゅーの』が新しい方のギャグだと思ってる、そのズレっぷりもハスミンらしいなって思うし。
私たちはさ、昔のアイドルのことは全然わかんないけど……ハスミンなら、本物でしょ。 そういうアイドルになれるかもね」
続けてクラスの男子が、「さすがにセイコちゃんくらい知ってるよ!」とか、「うちのオカンも好きで聴いてるぜ」とか、彼ららしい言葉で精一杯応援してくれているのが分かります。
子供の頃から、自分の趣味は変だ、きっと笑われるなどと、好きなものに関して周りと壁を感じていました。
単純に、自分から壁を作っていたに過ぎなかったのです。
胸を張って好きだと言えるもので、人から認められるというものがどれほどの喜びか、初めて分かったような気がしました。
「みんな、ありがとうございます……蓮実、一生懸命頑張ります! 私の大好きな清純派アイドルに、きっとなってみせます!」
再び大きな拍手で教室が湧いた後、今後のためにと、クラスメイト全員にサインをせがまれたのもいい思い出です。
──────
その日の帰り、通っていた中学校へ足を運びました。
もちろん、先生にこれからのことを報告するためです。
職員室にお邪魔すると、先生はどうやらテストの採点をしていたようですが、私に気づくと目を丸くしてこちらを見ていました。
「長富さん……?」
「お久しぶりです、先生!」
たった3ヶ月ぶりとはいえ、久しぶりに会ったのだからもう少し気の利いた挨拶をするべきでもありましたが、
「先生、私東京に行くんです。 アイドル目指します!」
「…………」
興奮気味にようやく伝えると、
「……やっぱり、そうだと思いましたよ」
先生は優しく笑ってくれました。
「先生はもう長富さんの教師ではないので、無責任な発言も許されますね。 ぜひとも全力でぶつかって、夢を叶えて下さい。
アイドルになれたら、先生ファンレターを送りますから」
「はい! 待ってます! 絶対ですよ♪」
「楽しみにしていますよ」
嬉しくて嬉しくて、帰り道はついついスキップになってしまいました。
――――――
引っ越しの前夜、
荷物をまとめていた私の部屋の扉が、こんこんとノックされました。
「蓮実、忙しい?」
「ううん。入っていいよ」
母でした。
「……明日なのね」
「……うん」
母はキャリーバッグに荷物を詰め込む私の隣にそっと座ります。
「ここだけの話……」
「ん?」
「お母さんも、子供のころはアイドル目指してたことあるのよ」
「そうなの?」
初めて聞いたことだったので驚きはしたものの、別段意外でもありませんでした。
なにせ、私のお母さんだから。
「そんなこと無理だって、自然と諦めちゃってたけどね。けど、私もセイコちゃんやモモエちゃんに、本気で憧れてたもの……小学生くらいまではね」
「……だから、蓮実のこと、尊敬してる」
「尊敬? お母さんが? 私を?」
「蓮実はそういう子供の憧れで終わらせないで、中学に入ってからも高校に入ってからも、本気でアイドルになりたいって決心を持ち続けて、一人で東京に行くことも決めて。
すごいわよ、意志の強さも、行動力も。お母さんより全然」
「……」
「羨ましいの。お母さんにはできなかったことだから……あ、もちろん、子供に自分の夢を重ねて~だとか、そういうつもりじゃないの」
「うん、わかってる」
「小さいころから、お母さんにいっぱいいろんな歌、歌って聴かせてくれたわよね。……今度はテレビで蓮実の歌が聴けるの、お母さん楽しみにしてる」
「……うん…………がんばる」
「それでいつか帰ってきたら、アイドルになった蓮実のお話たくさん聞かせてちょうだい」
「……うん……!」
「お母さんは蓮実のこと一番応援してるから」
扉がパタリと閉められ静かになった部屋の中で、じんわりと視界を歪ませながら、私は残りの荷造りを進めていきました。
――――――
“12時20分発、280便東京羽田ゆきはただいまより機内への案内を始めます。 ご搭乗のお客様は……”
「じゃあ、行ってきます、お母さん」
「行ってらっしゃい。明日にはお母さんたちもそっちへ行って、準備いろいろ手伝うから」
「うん。待ってる」
「それじゃ、気をつけて」
翌日、空港の出発口で軽く挨拶を交わし、搭乗ゲートへ向かいます。
緊張や不安よりも、ついにこの日が来たというドキドキとワクワクが勝っていて、
震えながらも軽い足取りでした。
姿が見えなくなる直前、もう一度振り返って母に手を振ると、
母も、そっと手を振り返してくれます。
ほんなーひとまずさえなら、島根。 だんだん。
今度は、立派なアイドルとして帰ってくるね。
――――――
東京での新生活の準備は、家族総出で行いました。
引っ越しの後片付け、高校の転入手続き、当面の生活をこなすための買い出し。
この小さなアパートは仮住まいです。
アイドル事務所に入るためのオーディションは関東の各所、様々な日程で行われるため、
都度島根から往復するよりも、一旦東京に生活拠点を移して臨む方が私の負担が少ないと考えてのことでした。
両親には本当に、感謝してもしきれません。
一通りが終わってみんながへとへとになりつつ、
お父さんとお母さんは最後に東京を一日観光して回り、島根へ帰っていきました。
新しい学校も、みなさん親切な方たちばかりでひとまず安心です。
クラスの人たちも私を歓迎してくれましたし、担任の先生も『できる限りの協力はする』と、アイドルになるための活動について理解を示して下さいました。
ただ、地元のみんなに大見得切ってこちらへ出てきた手前、
やっぱりダメでしたなどと、簡単に帰る訳にもいかないのです。
もはや退路は断たれました。
ここからは、もうやるしかありません。
一人での生活に慣れないまま、慌ただしい1週間が過ぎた頃。
東京に出てきて、初めて芸能事務所のオーディションを受ける日を迎えます。
――――――
昼前、指定された時間よりかなり早めに到着し、案内されて向かった待合室に長いこと一人で待ちぼうけを食らっていました。
しばらくするとコンコン、と扉が叩かれます。
「失礼します……」
思わず背筋を伸ばしましたが、どうやら案内の人ではないようでほっと一息。まだ心の準備ができていません。
目をやると私と同じくらいの歳の女の子が、半開きの扉から顔だけ覗かせて部屋全体をキョロキョロ見渡していました。
「あ、あの……ここが、オーディションの待合室で良かったですよね?」
「? ……はい、そのようです」
「あぁ、良かった……さっき階を間違えちゃって、男の人たちが会議中の部屋に入っちゃって……あはは、焦りました……」
「そうだったんですね。ふふっ」
どうやら同じくオーディションを受けに来た仲間のようです。
女の子は私の隣の椅子に座り、ふぅと一息ついて鞄からお茶を取り出しています。
「……あの、あなたもアイドルになりたいんですか?」
「……はい、恥ずかしながら」
「そっかー……あ、いや、ここに来てるんだからそりゃそうですよね……何言ってるんだろ、私……」
少しおとぼけな会話に、なんだか気が抜けていきます。
「……ふふっ」
「あれ……私変なこと言いました……?」
「ふふふっ……いえ、ごめんなさい。少しだけおかしくって……ありがとうございます、おかげでリラックスできました」
「そうですか? ……なら、良かったです! えへへ」
女の子と話をしていくうち、他のオーディション参加者も続々集まってきます。
「あの、どちらから……?」
「私は、島根から来ました」
「わぁ、遠いところから!」
「そうかもしれませんね。 あなたは?」
「私は近いと思います、一応。 って言っても、ここまで電車で2時間くらいですけど」
「そうでしたか」
本当は合格の枠を奪い合うライバル同士、実際待合室の空気は全体的にピリピリしていましたが、
私とその女の子だけが、ひそひそ声ながらつかの間の会話を楽しんでいました。
そして指定の時間を5分ほど過ぎた頃、ようやく案内係の人が部屋へ入ってきました。
「お待たせいたしました。ただいまよりオーディションを開始します……1番の方からどうぞ」
「あっ、私です……うぅ、緊張する……!」
「トップバッター、頑張って下さいね」
「はい、ありがとうございます……!」
女の子はぎこちない歩き方で部屋を後にします。
待合室の緊張感にいよいよ私も巻き込まれてから十数分たったころ、今度は私も呼び出しを受けました。
「よし……蓮実、ファイト」
小さなガッツポーズで気合いを入れ、勢いよく立ち上がります。
――――――
アイドル業界の“洗礼”を受け、私は無言でビルの玄関を後にします。
はじめの会話の受け答えこそ悪くなかったものの、どんなアイドルになりたいか、実際に一曲歌ってみて下さい、と言われてからは散々で……
バッサリ「悪くはないんだけど、ちょっと古くさいね(笑)」と切り捨てられ、初めてのアイドルオーディションは終わりました。
いえ……こんなことでめげてはいけません。
目にしみる夕日に背を向け、顔を両手でパンと叩きます。
「……あ、あの! 先ほどの人ですよね……?」
後ろから声をかけられて振り返ると、先ほど隣で順番を待っていたあの女の子がいました。
「どうでした? 上手くいきました?」
「あ……お疲れ様です。 ……いえ、だめだと思います」
半ば自嘲気味につぶやくと、
「あー、実は私もで……私ってドジだから、今日もダンスの途中でこけちゃいました……あはは……」
「そうでしたか……なかなか、厳しいですね」
「そうですねー……ま、しょうがないです!」
どうやらあちらも同じようで、妙な親近感が湧きます。
おかげで、なんだか少し気が楽になりました。
とりあえずのお疲れ様会として、二人で駅前のカフェに入りました。
こんなとき、のむんだったらコーヒーに限ります。
もちろん、お砂糖は多めですが。
「他に、事務所受けたりしてるんですか?」
「いえ、私は今日が初めてで……ここがダメなら、また探そうかと」
「そうなんですね。 私はもう何回かいろんなところに行ったんですけど、どこもダメで……今度受けるところが、最後になるかも知れないです」
対面席で、コロコロと氷を鳴らしながら女の子が話します。
どうやら彼女はめげずに何度もオーディションを受けているようでした。
そうですね、たった一回落ちただけの私が諦めるのは早いに決まってます。
「そうなんですね。 ……もしそこが上手くいかなかったら、どうするんですか?」
「……さぁ、まだ考えてないけど……どこからも『才能ない』って言われたら、アイドルは諦めるしかないですかね……?」
やっぱり自分は無理なのかも、と弱音を吐いているその子には、
確かに目を引くような華やかさや独特のオーラといった、大スターが持ち合わせるものはまだないように思えます。
だけど……
「……でも、あなたならきっと大丈夫だと思います」
「そうですか? どうして?」
それは私も同じようなものです。
アイドルに必要なものなんて、自分でもまだよく分からない。
ただ自然と出てきた彼女への言葉は決して慰めではなく、今日という短い時間を一緒に過ごした私からの本心です。
「だって初めて会ったのに、あなたといると自然と笑顔になれて元気が出てきますから。
アイドルって、そういうのが一番大切だと思うんです」
少しだけ顔を赤らめてはにかむ女の子の表情は、同じ女の私から見てもとっても可愛くて魅力的でした。
「ぁ、ありがとうございます……そういうもんですかね? ……あはは、照れちゃうな……」
――――――
「……あ、そろそろ……ごめんなさい。電車の時間なので、私は帰ります!」
「……あぁ、もう8時ですもんね」
時計を見るまでもなく、真夏の日差しはすっかり落ち込んで外は真っ暗でした。
「あれ、他の友達は『まだ8時なのに~?早すぎだよ』って言うところなんですけど……」
「島根では普通の時間ですから。ふふふっ」
「あ、そうなんですね。 ……ふふふっ」
私との他愛もない話で、少しでも彼女が元気を取り戻してくれたなら。
大きなステージで観客を沸かすこの夢がまだ叶わないとしても、せめて目の前にいる誰かだけは笑顔にしてあげたい。
そのくらいなら、今の私にもできる気がします。
お構いなくと遠慮する女の子をたしなめつつ、最後は駅の入り口までお見送りしました。
「じゃあ、これで。 今日はありがとうございました!」
「こちらこそ、楽しかったです。オーディション、合格してるといいですね」
「お互いに、ですね」
女の子は改札を通過したすぐの場所で、もう一度こちらを向きなおします。
「……あの、もしいつかどこかで、今度はお互いアイドルとして出会えたなら……そのときは、是非一緒に。 なんて!」
確かに、そんな事ができればどれほど数奇で素敵なことでしょう。
「……そうですね。そうなればとっても楽しいと思います……」
「ん? ちょっと待って……」
私が返事を言い切るか言い切らないかで、女の子は自分の腕時計と駅の電光掲示板をにらめっこし始めました。
「あぁっ! この時計、10分遅れてる!? もう電車行っちゃう!!」
「えっ、大丈夫ですか!?」
「ダッシュで行きます! ごめんなさい、じゃあ! さようなら!」
「あっ、待ってください……!」
今度は慌ただしく走り出します。
途中何もないところでつまづき、転びかけた体をなんとか立て直して、
「名前……まだ聞いてないのに……」
頭につけた2つのリボンを揺らしながら大急ぎで向こうへ走っていった女の子は、やがて人混みに紛れて見えなくなってしまいました。
――――――
その女の子とは、それっきり会っていません。
最後かも知れないと言っていた事務所に決まったのか、
それとも……それすら分からないまま。
そして私も他人の心配をしている場合などではなく、
いろんなオーディションに参加したものの、なかなか結果は出ませんでした。
「君ねぇ……本気でそれでやっていきたいわけ?」
「イロモノで勝負しようってつもりかも知れないけど、それが長く通用するほど甘い業界じゃないわよ」
「いっそ芸人でやってけば? いるでしょ?『しもしも~』っての」
ただでさえ狭き門のアイドルの世界、
なおのこと難しい挑戦になることは覚悟していたつもりですが、
あまりの言われように、傷つくことも少なくありませんでした。
やはり私のやり方ではダメなのでしょうか。
何度吹っ切って決心したつもりでも、迷いが何度も沈み込んでは浮かんできます。
同時に、悩みを捨てきれない自分のふがいなさにも腹が立ってきそうです。
秋になり冬が近づく頃、いつものように「今回もだめだった」とお母さんに連絡を入れたとき、
「蓮実。いつでも帰ってきていいからね」
と言ってもらえはしたものの、余計に悔しさが際立ちます。
まだ諦めたくない。チャンスはまだある。
そう言い聞かせながら、
何度も何度もオーディションに応募して、そのたびに否定されて。
でも、私の理想だけは絶対に曲げたくなくて。
30年前なら私は、世間に受け入れられてアイドルとして成功できたのでしょうか?
私のようなアイドルは、やはりのう必要とされていないのでしょうか?
憧れは憧れでしかないのでしょうか?
ついに春になり、16歳の誕生日を迎えてまもなく。
最後のチャンスと決めたオーディションも、同じような結果に終わりました。
そして、冒頭に戻ります。
――――――
「はぁ……憧れの季節は、もう終わり……。 吐息のネットも、悲しみ色……」
オレンジ色の廊下で、私の足取りは重いものでした。
我ながら、こんな独り言は笑えてきます。
けれどもそんなくだらない事で気を紛らわすのが、今の私には精一杯でした。
「……やっぱり、全然上手くいかない…… あきらめた方がいいのかな……」
外を向いてそっとつくため息に曇る窓ガラスだけは、私を心配してくれているようですけれど。
そんなとき、
「どうしたの?」
「!」
向こうから歩いてきた男の人が、見かねて声をかけてきました。
「あ……すみません。 私、今そこでオーディションを受けさせていただいたんですけど……」
なんだかどうでもよくなって、ぽつぽつと独り言のように話してしまいます。
「昔のアイドルソングばかり歌ったら『センスが古い』って言われてしまって。まるで。ローカル局のモノマネ大会みたいって……
『別のは歌えないの?』ってリクエストされたんですけど、私どうしてもあの歌で審査して欲しくて……」
「どうして?」
「私にとって、昔のアイドルソングは大切なものなんです。アイドルのことを大好きな母が、ずっと子守歌代わりに歌ってくれたんです」
「……」
「それを聴いて育ったから……私も歌いたくて。この場だけじゃなくて、これからもずっとずっと……」
吐き出しながら、少しずつよみがえってくる思い出がいっぱいで。
「それで、少しでもそういうアイドルに近づきたいって思ってオーディションに来たんですけど……」
「なるほど」
「もしかしたら、清純派アイドルなんて求められてもいないし、もういないのかもしれませんね」
きっと優しい方なんでしょう。こんな独り言に付き合って、最後まで聞いてくれる……
ただ、私の方はもはや投げやりに、諦めるようにどんどん言葉が突いて出てきます。
「私の好きな昔のアイドルは、思い出の中にしか……」
「…………」
「黙って聞いて下さって、ありがとうございました。 さようなら……」
「確かに」
「!」
「確かに、君の目指してる清純派アイドルってのは、今となっちゃ古くさいもんだ。俺でも分かる」
「…………」
「オーディションでも審査員にぼろくそ言われて、笑われる。今時そんな方向性バカらしいって」
「…………」
「……自分でそこまで分かってるんなら、なんでそれを目指すんだ?
普通にすりゃまだチャンスもあるかも知れないのに、なんでそこまでこだわるんだ?」
「……それ……は…………」
私はまた、これまでの人生を振り返っていました。
なぜ自分自身が清純派アイドルになろうとするのか。
時代に逆行して、古くさいスタイルに囚われているのはなぜか?
簡単なことです。
その答えは、既に持っているのですから。
「…………その通りです」
冷え切った心に、もう一度火をつけるように。
今度ははっきりと、一つ一つの言葉を返します。
「確かに、この時代にもなって30年も前の古くさいアイドルに憧れて、そんなアイドルに自分もなりたいだなんて真剣に考えてるのは、私くらいしかいないと思います。
だからこそ、なんです。 ……私しかいないからです」
「……君しか?」
「私がこの夢を諦めたら、同じように清純派アイドルになろうとする人なんていない。 いなくなっちゃうんです。 私や……母が大好きなアイドルたちは」
まだ諦めたくない。悔しい。
この人に思いの丈をぶつけても、もう遅いのに。
「自分が理想とするアイドル像が今時必要とされていないことくらい、分かってます。でも、それでもやらなきゃいけないんです……」
「……」
「だって、今それになれるのは……なろうとしてるのは、私だけで……たぶん、私が最後の一人だから……!」
「……」
「同じようにどこかで、清純派アイドルを好きでいる人たちに、少しでも届けたくて……私みたいなのが、まだいるって事を……」
こうやって本音の本音をこぼしていくと、一緒に涙までこぼしてしまいそうだけれど。
「―――そう思ってたんですけれど、やっぱりダメだったみたいです」
ぐっと肩に力を込めて、深呼吸してを繰り返して、ようやく私は言いたいこと全てを語りました。
「甘くなかったんです。母には申し訳ないけれど、今日が上手くいかなかったら、島根に帰ろうと思ってました」
「そうなのか?」
「私の憧れてた清純派アイドルはもういない。残念ですが、これが現実です」
あぁ、なんだかすっきりしました。
泣きそうなのも収まりました。
今度こそ帰ろう。
足取りを仮住まいへ向けます。
「なるほどね。清純派はもういない……か」
「それは違うな」
「まだ君がいる」
とたんに心臓が跳ね出して、頭がぼーっとする中、
男の人は先ほどよりもしっかりした口調で、私を引き留めます。
「君は古き良きアイドルの精神でこの時代に懐かし路線でデビューしたい。 今時そんなの、ギャグでも流行んないよって言われ続けてるが……それがもし」
「もし……?」
「トップの座に立てたら」
「トップ?」
アイドルの……とっぷ?
清純派アイドルが?
あのときと同じように?
「面白いと思わないか?」
「面白いって……でも、私そんな……アイドルとしての才能があるかまだ分からないし、ダンスも苦手だし―――なにも強みなんてありません」
「強み……あるよ。君には」
「ホントですか……?」
「自分のスタイルをすでに持ってる。 そしてそれが逆境であることを、すでに理解してる」
「!」
手に力が入りません。
この人が言おうとしていることが、まだはっきりと理解できなくて……
だけど、今までこんな風に言ってくれる人がいなかったことも確かです。
「今……自分が最後の一人だって言ったよな? 古き良き清純派アイドルの最後の一人だって」
「……はい」
「俺の仕事は、そういうたった一人の逸材を見つけ出して、世に送り出す手助けをすることだ」
「つ、つまり……あなたは……?」
この男の人はずるいです。
ここでやっと名刺を取り出して、本当の姿を見せるなんて。
「346プロダクションのプロデューサーをやっているものです。 君を直々にスカウトします」
「…………!」
「そんでもってさ、一緒に清純派を復活させてやろうぜ」
明日への扉が、ようやく目の前で開いていくようでした。
「は……はい! ありがとうございます……! きっとあなたは、アイドルの神様……!」
――――――
1週間後、
346プロダクションの正面玄関前に、私は立っています。
ここに来るまで色々ありましたが、ようやく最初の一歩を踏み出せるに至りました。
小さいころから憧れだった、昭和の清純派アイドル。
彼女たちと同じようなステージに立つことをずっと夢見てきた私は、
それが時を経て、今となっては古びたイメージになってしまっているとしても、
そのスタイルを貫くことを決めました。
それは自分にとっての憧れだったからだけではなく、
同じように今でもかつての清純派アイドルを愛する、声なきファンたちに届けたいから。
あの時代はまだ死んでいないと。
あの頃のアイドルは、今の時代においても他に負けず輝ける魅力をたくさん持っていると。
自信を持って、あのときの清純派を愛してほしいと。
それが、こうしてチャンスを得た私の務めになるはずだから。
それは私だけが目指せる道だから。
負けるわけにはいかない。
私の信じる道で、夢を追いかけ続けたい。
この清純派と呼ばれる道を歩むものが、たとえ私で最後だったとしても。
まだ見ぬ本当のアイドルの世界のなかで、最後の一人として、この道を歩みきりたい。
私の物語は、ここから始まります。
終
帰ってきた清純派、長富蓮実ちゃんをよろしくお願いいたします。
https://i.imgur.com/cavjq3X.jpg
お付き合いありがとう
乙。やっぱはすみん良いな
乙でした。芯の強さこそが清純派アイドルの条件なのかもね
ゾンビランドサガの純子ちゃんと会わせてみたいな
乙
さすがのはすみんも、戦前回顧はしないだろうな……
誤字訂正
>>44
私のようなアイドルは、やはりのう必要とされていないのでしょうか?
↓
私のようなアイドルは、やはりもう必要とされていないのでしょうか?
いけるやん!ええこやん!
前のスレ面白くなりそうなのにエタって残念だったんだ
期待は間違ってなかったよ
完結させてくれてありがとう
このSSまとめへのコメント
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