モバP「加蓮、ちょっと今いいか?」 (27)
なに? そのカメラ。
盗撮?
……いや、そんな慌てなくてもいいじゃん。
逆に怪しいし。
でもさ、アタシにだって肖像権ってのがあるワケだし?
撮るなら撮るで一言くらいあってもいいんじゃない?
いくらプロデューサーが女子高生好きだからってさぁ。
あ、女子高生好きについては否定しないんだ。
いや今さら遅いから。
好きなんだ、女子高生。へー。ふーん。
で、何だっけ?
そう、本題。なに、この……撮影?
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必要、って言われてもね。必要なのこれ?
お仕事どころかアイドルが何するのかもよく分かってないけど。
だからこそ? 意味分かんない。
分かったってば。
で、アタシは何を喋ればいいの?
気の利いたメッセージとか無理だよ。悪いけど。
……目標?
んー……ん。
あ、ううん。言われてみれば必要かもな、って。
そこで得意気になるのはおかしくない?
なるほど。言質を取ろうってワケね。
コワイ事務所。
茶化してないって。
ただ……纏める時間を稼いでただけ。それぐらい許してよ。ね?
……いざ言葉にしようとすると難しいね、これ。
んー……ん~~……?
ヤバっ、ボキャ貧なのバレちゃうじゃん。
あ。
あー……うん。これ、これが一番近い、かな。
アタシね、強くなりたいんだ。強いアイドルになりたい。
とは言っても、片手でリンゴ握り潰せるアイドルとか、そういうのじゃないからね?
え? 居るの?
え? 一人だけじゃないの? 何人も居るの?
……。
まぁ、今はその辺はいいから。うん。
この前ちらっとだけは話したけどさ、身体弱かったんだ、アタシって。
だから他の人が出来る事も出来なかったし、やりたい事だって出来なかったり。
他の人が羨ましかったな、正直。
テレビの中で唄うアイドルもさ。
絵本に出てくる主人公もさ?
みーんな強いの。アタシがなってみたい誰かは、みんな強かったの。
だから多分、アタシは……強くなりたいんだ。
はっ?
なに? 何で泣いてんの? 泣く要素あった今?
え、いや、うん。え? 涙腺緩くない?
分かった。分かったって……分かったってば!
はぁ……もう、先が思いやられるなー……。
― = ― ≡ ― = ―
えぇ……今ぁ?
ダンスレッスン終わりでヘットヘトなんですけど……。
だからこそ? ホント意味分かんない。
はいはい。ゴネてもムダなんでしょ。
女子高生好きなんだから仕方ないもんね。
いや、だから必死過ぎだって。
どう、って……今回は随分ざっくりしてない?
どう……どうって……そりゃキツいよ。
ボイトレはキツいし、ダンスもキツいし。表情とかのアレは……まだマシかな。
アイドルってこんな事しなくちゃいけないの?
確かに言ってたけどさー。
まさかここまで本気とは思ってなかったと言うか。
もう。死んじゃったら責任取ってくれるの?
死なないから。
いや死なないって。死なないよ……死なないって!
何なの!? 誓約書でも書けばいいの!?
はぁ……はぁ……。
プロデューサーってさ、時々すっごい面倒くさいよね……。
ダンスレッスンより疲れたよ……全くもう。
にしてもさー。何もこんな時に撮らなくたっていいじゃん。
やっぱりそういう趣味なの?
違うんだ。ふぅん?
分かった分かった。はいはい。
え? だってカッコ悪いじゃん。こんなヘバってる所。
そうかなー? カッコ悪くない? そう? よく分かんないけど。
そもそも苦手なんだよね。こういうビデオみたいなのって。
まぁ、元々アタシってキライな物が多いんだけどさ?
ビデオって言うと、ほら、アレ思い出すんだよね。天国からのビデオレター。
なんか縁起悪いような気がしちゃって。
死なない! 死なないからっ! 誓約書出しなってもう!
― = ― ≡ ― = ―
あー、例の?
うん。いいよ。
やけに、は余計。素直じゃないのはプロデューサーもでしょ?
ん……まぁ、プロデューサーが何をやりたいのか、何となーく分かってきたし。
今回訊きたい事だって分かるよ。
当ててみよっか?
「あの愛梨を見てどう感じたか」……でしょ?
正直言うよ。最初はどうとも……は言い過ぎだけど、すごいね、って思った。それだけ。
初代シンデレラガール……第1回って事は次回もあるんだよね?
事務所で今いちばん勢いのあるアイドル、でしょ?
別に仲だって悪くないし、拍手もしたし。
うん。最初は。
今はね……悔しいかな。
……ううん。見栄、張っちゃった。
かな、じゃなくて……悔しいよ。
愛梨は本気だった。
でも、アタシだって手を抜いたりなんかしてなかった。
じゃあ、この違いは何なの?
決まってるよね。実力の違い、ってやつ。
あー。ヤダヤダ。言い訳ばっか浮かんでくる。
加入時期が遅かったせいとか。
ライブに全然出られてないからとか。
そんなの言い訳だって、頭じゃ分かってるのにさ。
はー……。
……あのさ。明日、レッスン入れられる?
うん。結構激しいやつ。
プロデューサー、最初のこれ、憶えてる?
そ。「強くなりたい」って言ったでしょ。
強いアイドルはさ、きっと、これぐらいじゃビクともしないんだよ。
……え? そう? そんなに良い顔?
そんな筈はないんだけどなー。
だって、顔が良いのはも・と・も・と、だし?
誰かさんが思わずナンパしちゃうくらい、ね?
うん。誰かさん。誰だろうね? ふふっ。
あ、続けて激しいのはダメ?
この良い顔に免じて……ダメぇ? ちぇー。
― = ― ≡ ― = ―
ところでさ、これって収録とか放映とかしないよね?
……なーんか今の間、気になるけど……ま、信じとくかな。
しないよね?
うわ、大人っていつもこう。ズルいよね。
ほれふぇ、今回は何の話?
ん? フライドポテト。え、違う?
でも、揚げたてホクホクだよ? 食べてあげないと罪だよ?
第一これ今日撮るってさっき来るまで知らなかったし。
ん。分かればよし。おいひ。
ユニットかー。
つまり三人について話せばオッケー? うん。
んーと……じゃあ、まずは奏かな。
まずさぁ、顔が良いよね。
え、いやいや。みんな思うでしょ。プロデューサーも思わないの?
ああ、そう。
うん。今のは『加蓮の方が好みだな』って言う所だったけど。
ああ、うん。言ってくれないんだ。ふぅん。いいけどね。ふぅん。
ま、顔が良いってのは本当の話だよ。
造形の良し悪しだけじゃなくて……空気? 雰囲気? あるよね。
あと、話してみるとけっこー面白いよ。
いかにもクールです、って感じに見えたけど、意外に冗談とか言うし。
モテそう。うん。男の子ってああいう娘に弱そうだよね。
……今のも『加蓮もモテそうだな』って言うべき所だったけど?
まぁいいや。
それと、ひとの事をよく観察してる。
レッスン中なんかは特にそうだし、それ以外でも……いわゆる気配りの人?
一緒に居ると気が休まるよ。油断はならないけど。
え? うーん……なんか、油断すると持ってかれそうな気がする。色々と。
凛。凛ね。
熱血。
ホントだって。
一緒にレッスン受けてみれば分かるから。
熱血だよあの娘。本当に。
いつも先を見てる、って言うのかな。
一緒に活動してるこっちとしては置いてかれないように必死だよ。
後は……うん、言ってる事がたまによく分かんない。
なんかテンション上がってるっぽい時によく分かんない事言い出すんだよね、凛。
青じゃなくて蒼とか言われても、正直困ると言うか。いいけどさ。
それから、けっこー付き合いは良いかな。
オフに実家の花屋行ったら何だかんだ色々教えてくれたし。
ところでプロデューサー、バラ好き?
んーん。別に? 訊いてみただけ。
ふふ。なーに期待してんの。
あ。あと犬の……ハナコの話が長い。すごく長い。
気を付けたほうがいいよ。プロデューサーも。
えっと、後は奈緒?
奈緒……奈緒はねー……。
……。
プロデューサー、ハリネズミって知ってる?
うん。概ねアレ。
よく分かんない?
うーん……ちょっとこの動画観てみて。
そうそう。これ観ればだいたい分かるから。
観終わった? これが奈緒。
そうそう! ツンツンだけどプニプニ。
なーんだ。分かってきたじゃん。
それと、なーんか隠してる気がするんだよねあの娘。
一緒にハンバーガー屋行くとたまにすごい挙動不審になるし。
いつもじゃないんだけどさ。他のお店とかでもなるの。
うん。今度ちょっとつっついてみるね。
大丈夫。案外プニプニしてるから。
……あ。おっはー。二人とも。
ん? ハリネズミの話。可愛いよねーって。
ね、プロデューサー?
― = ― ≡ ― = ―
えっとさ、まず二つだけツッコミたいんだけど……。
何でそんな静かなの? いつものあの感じはどうしたの?
それと、いま撮る必要あるのこれ? なんか意地になってない?
え、いや、確かに安静にしてろって言われたけど。
こうやってベッドに寝てるし、別にPさんが喋ったくらいで……。
分かった分かった。ほら、誓約書の写し。
心配はありがたいけどね? うん。そろそろ怒るよ?
というか私、パジャマなんだけど。撮るんだ。
Pさんの趣味だって言うなら……まぁ、仕方ないけどさ。
あはは。ドキっとした?
……え、っと。そこ、頷いちゃう?
……。
あー! もう! 今のナシっ! な・し!
…………覚えとこ。
うん。平気だよ。
トラプリでの初ライブだからってはしゃぎ過ぎただけ。
良いパフォーマンス、出来てたと思うけど。どうだった?
ありがと。
まだまだ強くはないけど……少しは、アイドルらしくなれたかな。
次はもっともっとはしゃいでみせるよ。見てて?
……ふふっ。
ううん。ただ、幸せだなーって。
ずっと先の事を考えて、楽しくなれるのってさ、なんか良いね。
明日なんて来なければいいのに、なんて考えてた頃もあったから。
将来の事をあれこれ考えられるのって、幸せだね。
……ね。少し、昔話を聞いてくれる?
昔は私、病院と家を行ったり来たりの生活でさ。
そんな病院生活で、よく一緒の病室になる友達の娘とかも居たんだよね。
お互いあんまりお喋りな方じゃなかったけど……仲は良かった。
それで、いつだったか、また入院する事になったんだけど。
その娘、もう居なくなってたんだよね。
もちろん、今なら分かるよ?
元気になって退院したか、もっと良いところに転院したとかだって。
でも、昔の私はただ怖くて震えてたの。
結構、個人情報の管理とかしっかりした病院だったからさ。
看護婦さん達も他の患者さんの病状は教えてくれなかったし。
だから私、思ってたんだ。
あの娘は、ひょっとしたら……って。夜に一人で震えてた。
こんな風に調子崩して寝込んでるとさ、つい思い出しちゃうんだよね。
大切な人が、突然どこかに消えてっちゃうんじゃないか……って。
きゃっ……!
い、痛いよ……Pさんっ。
あっ……大丈夫、だから……大丈夫。顔、上げて?
気にしてないから。ほんと。
急に手なんて握られたから……ちょっと、びっくりしただけ。
カメラ、落ちてるよ? いいの?
あはは。そんな真剣に言わなくたって分かってるって。
Pさんは消えちゃったりしないし。消えたら探しに行ってあげるし。
もーいいってば。謝らないの。
気にして……あ、ならさ。手、もう一度握ってくれる?
優しく、ね?
……やっぱりPさんも男の人なんだね。
おっきくて、ザラザラしてる。
うん。でも、あったかくて……安心できる、かな。
……。
……あの、さ。
……これからも……一緒にいてね、Pさん。
……。
……あの、お母さんさ、いつから居たの?
あとなんでカメラこっちに向けてるの?
いや落ちてたとかそういう事を訊きたいんじゃなくてさ?
とりあえず録画止めよ? ね?
いや違うから。演技……演技の練習だからっ!
ほらPさんも手、離して!
え? あ、えと、さっきのは演技じゃ……じゃなくて!
お母さん見てるから! というかなんかまだ撮ってるからっ!
いやだから演技……あぁもうめんどくさい! この二人めんどくさいっ!
― = ― ≡ ― = ―
え。なんで凛がそのカメラ持ってんの?
頼まれたって……何のためか聞いてるの?
……うわ。聞いてる。そこの奈緒、笑わない。
はぁ……もう。私とPさんだけのヒミツだと思ってたのになー。
もー……後でポテト奢らせよっと。二人も食べるでしょ? オッケ。
それで? 今回のお題は?
いま頑張ってる事、って……なんか小学生の作文みたい。
書いたこと無いけどね。
とりあえず……レッスンは頑張ってるよ。うん。
サボッたりしないし? 録画見てチェックとかもするし?
後はまぁ、そこのお二人さんに何か言われたら素直に気を付けるしね。
昔の私とは違うんだよ? Pさん。
んー、頑張ってる事、ねぇ。
んー……んんー……?
……あ。
そうそう。女としての魅力を頑張って磨いてるかな奈緒笑わない。
どう? このネイル、今までと比べてもよーく綺麗に塗れてるでしょ。
夕べお風呂上がってからだいぶ頑張ったんだよ?
まぁ、今朝会った誰かさんは全然気付いてなかったけど。
髪型も色々と試してる途中でさ。
先週は思い切ってアップにしてみたんだよね、そういえば。
珍しいでしょ、加蓮ちゃんのアップ。
ブライダルイベントの撮影以来じゃない?
まぁ、半日いっしょに居た誰かさんは一言も褒めてくれなかったけど。
それから、うん……割と頑張ってるしさ、Pさんも褒めよ?
そこの神谷奈緒、笑わない。
そこの凛も笑わない。いいでしょ、これくらい言ったって。
― = ― ≡ ― = ―
うん。
ようやくここまで来たね。
実を言うとさ、前回はけっこー不安だったんだ。
急に3位になんてなっちゃってさ。
ひょっとして、何かの間違いで祭り上げられてるんじゃないかなって。
間違いなんかじゃないよね。
私の事を応援してくれるみんながいて、だからこそ私は……。
……私は、こうしてまた緊張できるんだよね。
あはは。そうだよ?
ほら。手、見てみて? もうブルッブル。
カメラ越しで分かるかな? 凄いよこれ。マッサージ屋になれそう。
Pさん、肩揉んだげよっか? いい? そう?
ん。正直、ふざけてないと声まで震えそう。
でも……だからこそ。
一ヶ月後の私に、格好良い私を見せてやらなきゃ駄目だよね。
Pさん。
長いビデオレターだったけどさ。私への伝言で締めちゃってもいいかな?
ふふっ。そりゃ、気付くに決まってるじゃん。
他の撮影はてんでバラバラのタイミングだったけど、総選挙の時期は必ず撮ってたし。
とっておきのプレゼントにしてくれるつもりだったんでしょ?
……あ、一応隠してたつもりだったんだ。アレで。
はぁ……Pさん、浮気は絶対やめときなよ? バレるから。ね?
本当に駄目だからね。
とまぁ、本気話はひとまず置いといて。
置いとくよ? 置いとくだけだよ?
そろそろラストメッセージ、いい?
こほん。
大丈夫だったでしょ? Pさんの育てたアイドルだもん。
― = ― ≡ ― = ―
ほんのもう少しだけ続くはずの映像がぶつりと途絶え、俺はほとんど飛び上がってしまった。
振り向くまでもないが、一応振り向いておく。
もちろん、そこにはリモコンを握る加蓮が居る。
「事務所でえっちなビデオ観ないの」
「観てない」
「目つきがやらしかった」
「嘘だろ……」
「嘘だけど、恥ずかしいからダメ。色々と」
言いながらリモコンを操作し、デッキからディスクを取り出す。
ケースにしまい直すと、俺の胸元へぽすんと押し付けた。
くいと振られる指先へ従うように、明かりを落として映写室を後にした。
「で、何で観てたのアレ?」
「いや何でと言うか定期的に観てるけど……」
加蓮が面白い顔をする。
筆舌に尽くし難いとはこの表情を指した言葉に違いない。
「……はぁ……Pさん、ほんっと変な人だよね」
「変って……そんな事ないと思うけど」
「女子高生の部屋にカメラ持ち込んでパジャマ姿撮っただけだもんね」
廊下というのは存外に足音が響く。
靴が床を叩く音だけがひたすらに続いて、最終的に俺はごめんと呟いた。
「まぁ、他人の趣味をとやかく言う趣味もないけどさ」
「趣味」
「でしょ」
「ごめん」
「一応言っとくけどごめんのめんは免罪符の免じゃないからね」
何故か加蓮はやたらと宗教に詳しい。
前に尋ねてみた事もあったが、何やかんやではぐらかされてしまった気もする。
とはいえやられっぱなしなのも面白くない。
しばらく考えてから口を開く。
「加蓮は」
「うん」
「今までアイドルやっててさ、一番思い出に残ってるのって何?」
加蓮の足取りがぴたりと止まり、俺は踏み出していた一歩を慌てて戻す。
「決まってるでしょ?」
そして俺を指差し、微笑みながら、言った。
おしまい。
http://i.imgur.com/SDW5xL6.jpg
http://i.imgur.com/egKwegR.jpg
第8回シンデレラガール総選挙、投票〆切は明日5/14の19時まで
北条加蓮ちゃんと高垣楓さんへの応援をどうぞよろしくお願いいたします
前作とか
高垣楓「風向き良し」 ( http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1556978069 )
北条加蓮「Pさん、私もうダメかも……」 ( http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1448194231 )
ちなみに微課金ですが新SSR肇ちゃんが290連目で来てくれたのでだいぶ投票できました
誰か助けてくれって叫んでる間もジュエルが溶けてった こわかった
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