【ミリオン】のり子「願いが叶うお守り!?」 (58)

みなさんこんにちわ。

今回は、福田のり子ちゃんのSSを書きました。

誤字脱字・キャラ崩壊・知識の誤り・設定違ってんよ!
などはご容赦ください。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1560694118




「うーん、そっか残念。急用なら仕方ないよね。うん。またね。」

アタシ、福田のり子はそう言ってケータイの通話を終える。
週末に会う予定だった友達が急用で来れなくなったって連絡。

「予定、空いちゃったなぁ。」
そうひとりつぶやきながら私の所属する765プロライブシアターの控え室へ足を運ぶ。





「あ、のり子ちゃんこんにちわ♪」
そういってとびきりの笑顔で迎えてくれる素敵な女性、桜守歌織さん。

その隣でクッキーを頬張ってるのはアタシの担当P。
アタシが初対面で倒しちゃった人。
アタシをアイドルにしてくれた人。
そしてアタシを……可愛いって言ってくれた人。


「P、歌織さん、お疲れ様!ダンスレッスンの休憩ですか?」

「ええ、そうなの。のり子ちゃんは歌のレッスンよね。」

「うん。そうなんだ。」
そう。今日はいつもよりうまく歌えて、先生からも褒められて上機嫌だったのにな。



「のり子、春香からクッキーの差し入れがあったんだ。どうだ?」

「お、やった♪もーらい!」

そういってひょいっと1枚つまんで口に放り込む。バターの香りが口いっぱいに広がる。
おいし♪ さっすが春香!

「ふふっ♪のり子ちゃんったら。今お茶を入れるから、座って食べてね。」

「あ、いっけない。行儀悪いよね。」
そんなアタシを歌織さんは気にする風でもなく、
慣れた手付きで紅茶のはいった透明なティーポットを少し揺する。


ポットの茶葉はきれいに広がっていて、
何度か間をおいてカップへ注いでいくと、踊るように茶葉が舞う。
アタシが淹れてもこうはならないんだろうなってまじまじ見ちゃう。



「この銘柄のアールグレー茶葉はベルガモットの香りがとってもいいの…はい、どうぞ♪」
「ベルガモ…?よくわかんないけど、キレイな色…。あと爽やかなすっごくいい香り…」

「ああ。すごく落ち着くよなぁ。こんな美味しい紅茶が、毎日飲めたら最高だろうなぁ」
紅茶に舌鼓を打ちながらポロッとこぼすP。
うん、分かるなぁ。

「まぁ……Pさんったら。…ま、毎日だなんて…そんな……うれしいけど…」
そう言ってポッと桃色になって俯いちゃう歌織さん。あ、可愛い。
Pは気にせずお茶に夢中だ。ぼくねんじん。



桜守歌織さん。

キレイで優しくて歌もうまくて、スタイルも良くて、すっごく素敵な人。
ガサツで乱暴なアタシとは正反対な人。
歌織さんみたいな清楚な女の人になれたらってちょっと憧れるんだ。
たぶん、ぜったいむりだけど…。

「そ、それではわたしはお片付けしてレッスンに戻ります。カップは流しに置いておいてください。」
恥ずかしさに耐えきれなくなったのか歌織さんは急いでレッスンルームへ行ってしまった。



Pは春香のクッキーを頬張ってる。

「うん美味い。春香、またウデを上げたな?」

それがあんまりに美味しそうだったから。

「ね、ねぇP。アタシも春香みたいにお菓子とか作ったりしたら、さ。食べてくれたりするのかな?」
勇気を出してきいてみる。

「え?のり子がお菓子を?」

Pが意外そうな顔でアタシを見る。

「そうだな……

「や、やっぱり変だよね?あたしなんかが……らしくないよね?
ご、ごめんね。 聞いてみただけ。気にしないで!ははは…!」

バンバン!とPの背中を叩いちゃう。

言ってしまったあとで、先を聞くのが怖くなっちゃって。恥ずかしくって。
Pの言葉を遮ってまくしたてるように話す。

…変に思われてないかな?


「…ならいいけど。
ところで、今度の週末は久々に会う友達と遊びに行くって言ってたな。どこに行くんだ?」

気を取り直すようにPが紡ぐ。

「あー、それがさ…」
さっきの電話のことを話す。

「…そうか。それは残念だったな。」

「うん…。Pは?週末も仕事?」

「いや、なんと珍しく休みなんだ。」

えっ!なら一緒に出かけようよ!って言う前に

「でも、家の洗濯機が壊れちゃってな。
せっかくの休暇だけど、家電屋さんに行って終わってしまいそうだ…とほほ。」

なんだ予定、あるんだ。ガックリ。


そんなとき、つけっぱなしのテレビから同じ事務所のアイドルの如月千早が映る。
「おっ、千早のシャンプーのCMだ!」

まるで絹みたいな髪がサラサラとそよ風に舞っている。すっごいキレイ…。
「これ、普通のCMならCG使うらしいけど、これはCG無しだからすごいよな!」

やっぱり髪が長くて綺麗だと、男の人って嬉しいのかな?
アタシは今の髪型、アタシに似合ってるかなって思ってるんだけど。
自分の短い後ろ髪をクルクルいじってみる。

Pが喜ぶなら、ちょっとだけ伸ばしてみてもいいのかな?
やっぱりおかしいって思われちゃうかな?
なんてグルグル考えてたら

「さて、俺はもう仕事に戻るな。のり子もレッスン終わったんなら、気をつけて帰ってな?」


愛車のスクーター、クラウザー号に乗って帰路につく。
今日は友達との約束がダメになったり、Pの休日の予定聞く前に撃沈したり、
あんまりいいことなかったけど。

なんだかまっすぐ帰りたくなくて、いつもは直進する道を左折して小さな裏通りを走る。


初めて通る道。でも知ってる道の隣。
バスや電車に乗ってたんじゃ気づかない、裏道小道へスイスイ アタシを誘ってくれる。
進むも停まるもアタシ次第。バイクはいいよね♪


「おっ…と!」
走っていたら、パッと見てすごく雰囲気の良いカフェを見つけたんで、
クラウザー号を停めてまじまじ見てみる。

外壁は開店当初はキレイな白だったろうに、今はアイボリーになってる。

けど、古ぼけてない。
古いものを古いままにするとそれはオンボロになる。
でもちゃんと使い込んで、手入れして、光るまで磨いてあげれば
古さは味になって、オンボロからヴィンテージって名前に変わる。
ここはいい感じにヴィンテージだ。

空猫珈琲店のセットみたいだなってクスッと笑ってしまう。


ガラス扉越しに中を覗き込むと、
中では若いカップルが楽しそうにパンケーキを分け合って食べてる。

「…いいな。アタシもあんなふうに……。」

ダメダメ!!しかもこんなおしゃれなカフェ、アタシじゃ気後れして入れないし!
だいたい、相手がいないとあんなふうにはできないよね。
一瞬想像したとき、相手役で出てきたのは……ッッ!

熱くなった頬を冷ますように急いで店先から離れる。
でも、一度だけ後ろを振り向いて店の外観を目に焼き付ける。


いつか、来れたらいいな…。


クラウザー号を押して人通りの少ない裏通りをのんびり歩いてると、
雑居ビルの谷間で女のひとが小さなテーブルの前にちょこんと座っているのを見つけた。
テーブルの前には『占』って書いてある画用紙がテープで乱暴に貼ってある。


ーーーあやしい。


女のひとは黒っぽい服でつらつら書き物をしてる。
通り過ぎるべきなのは分かってるのに、気になる。
チラチラみてたら、女のひとと目があっちゃった。
ニコっと笑って手招きして、どうぞ♪と向かい合わせの形になる椅子へ誘われる。


「えっと…ここ、占い屋さんなんですか?」

「ええ、そうなの。自分で言うのもあれだけど、結構当たるのよ?」

「それにしてもすごく…その、お店構えがシブいですよね。」

「はは♪占いなんてアコギな商売やってる人間は、
安売りセールのノボリなんか立てちゃだめなのよ。裏でほそぼそと、よ♪」

思ったよりノリのいいお姉さんみたいで、緊張していた心が少しほぐれる。

「誘ってもらって申し訳ないんですけど…占いなんて、アタシやってもらったことないです」

「あら、それは占いなんて興味も必要もなかったからでしょ?
でも、今日は誰かに聞いてほしくて、何かにすがりたくて…
そう思わせるなにかがあったから立ち止まったんじゃないの?」


「うっ…」
図星を突かれる。そんなに顔に出てたのかな?
でも、占ってもらうにしても、こういうところってお代金とか高そうだよね。
基本料金とかの表記を探してキョロキョロしちゃう。

「ふふっ♪ ウチはお代金はあとからお客さんのお気持ちをいただきます。」

「えっ、お客の言い値なんですか?」
そんなんで儲けなんてでるのかな?意地悪なお客もいるだろうに。

「そう♪まぁ、ほぼ道楽みたいなものだからね。お気に召さなかったらタダでもいいわよ♪」


あやしすぎる。タダほど高いものはないっていうよね。

…けど、お姉さんに言われたことも事実かも。


「じゃあ、せっかくなんで占ってください!」
「はい♪では、あなたの今日の出来事から聞いていこうか…」


それからお姉さんにいろいろなことを話した。
今日のこと、アタシのこと、Pのこと。
お姉さんは聞き上手で、アタシの話を時折メモをとりながら聞いてくれた。

「なるほど。自分を可愛いと褒めてくれたそのPとやらをすこし意識している、と。
でも気恥ずかしさや自分への自信のなさからつい気後れした態度や言動をとってしまう、と。」

「あ、改めて言われるとすっごい恥ずかしい……」

「……ピュアすぎて酸いも甘いも知ってるお姉さんついて行けないわ…。
そういう言いづらいことを相手に言わせるように仕向けるのを”駆け引き”って言うんだけど…あなたには早いかな?
じゃあ、そのPとやらに自分の願望を素直に言って聞かせるしかないわねぇ。」

それができたら苦労しないんだよぉ。
渋い顔になるアタシ。


「ふふ♪それができたら、って思ってるわね?そんなあなたに、これ。」
そういってお姉さんは懐から鈴の付いたお守りのようなものを取り出す。

「女の子はいつもああなりたい、こうなれたら、って願いを常に持っているもの。
でも自分でブレーキをかけちゃってなかなか素直になれない…。
これは、そんないじらしい乙女の小さな願いを叶えてくれる、秘密アイテムなのよ♪」


お姉さんはどうだ!とお守りをふりふり~っと振り、鈴がシャランと鳴る。


「えー。なんかすっっごい胡散臭い…。」
環や星梨花ならともかく、アタシは疑ってかかっちゃう。
こんなお守りに、そんな力があるとは思えないんだけど!


「ふふっ。じゃあ試しに今、
そのPさんとやらに電話して週末一緒に出かけようって誘ってごらんなさいな♪」

「えっ!?さっき言いませんでした?Pは予定があるって。」

「まぁまぁ騙されたと思って。これで断られても振り出しに戻るだけでしょ?」

うーん。たしかにそうだけど…
お姉さんは、お守りを手渡し、アタシを促す。


ケータイを取り出し逡巡するアタシーーーー




ええい!ままよ!掛けちゃえ!


プル…ガシャ
『もしもし。のり子か?』
うっ!出るの早いよぉPぁ!

「あ プ、P!お、おーす!元気ィ?」

『…? オス。元気だけど?何かあったか?』

「いや、さ。その……。今週末さ、予定がなくなったって話したよね?」

『ああ。そうだったな。』

あーすごいドキドキする。
お姉さんすっごいニヤニヤしてみてるし!お守りに願いを込めて…
息を大きく吐いて…っ!




「だから……さ。もしよかったら。週末、アタシと一緒に出掛けたり……しない?」



永遠にも思える短い沈黙のあと、



『…あー、週末な。言ったと思うけど、予定が入ってるんだが……』
ほら、やっぱりお守りの効果なんか……


『……俺の買い物にちょっと付き合わせちゃうけど、それが終わった後でいいんならどこか行こうか。』

「えっ!? う、うん。行く!絶対いくよ!うん!
11時にね。シアターで。うん…わかった!楽しみにしておくね!うん!」


電話を切る。す、すごい!

「どうだった?」
お姉さんはニヤニヤを隠さない。


「うわー!どうしようお姉さん!お出かけだ!Pとお出かけだ!すごい!このお守り!」

「でしょ?まぁ、こんなものよ♪」
「あと、これはお出かけじゃなくって、『デート』っていうのよ?」

デート!これは…デートっ!?
言い方を変えただけで途端に恥ずかしくなっちゃうけど…!
でも、これはすごいものをもらった気がする!これさえあればあたしも…っ!


「ふふっ♪ でもね、このお守り。
効果が一番出るのはあなた自身が行動しないといけないのよ。」

「えっ。それってどういうこと?」


「例えば、今回はあなたが"デートに誘う"という行動を取らないとお守りの効果が弱いの。

まぁ、行動した結果がお守りで保証されているなら、デートに誘ったり、行動するのなんて単なる通過儀礼よ、通過儀礼♪」


なるほど。通過儀礼、か。ちょっと緊張しちゃうけど、アタシでもなんとかできそう!


「あと、お守りの効果は今週末の日の入りと同時になくなっちゃうから。
デートがおわったら中身に入ってるものを取り出して、処分してね。」

「なんだ。ずっとあるものじゃないんだ。」

「ふふっ♪秘密のアイテムはずっとは使えないから秘密が守られるのよ?
…さ、わかったんなら、もう遅いから帰りなさいな。」


あれ?もう夕暮れ。ずいぶん話し込んじゃったみたい。

「お姉さん。お代金だけど…」

「今をときめく765プロのアイドルの話を聞けたんだもの。代金分以上もらっちゃったわ♪」

「お姉さん…!ありがとう!」
なんかぜんぜん占われてない気がするんだけど、まぁいいよね!

「週末、自信を持って行ってらっしゃいな♪」

お姉さんは手をヒラヒラーと振って見送ってくれる。
まずは行動すること、か!


ーー週末ーー

今日はデートの日。天気は晴れて絶好のデート日和!
765プロライブシアターの前で待ち合わせって話だったけど、
待ちきれなくって30分も早く来ちゃった…。


「あれ?のり子……だよな?ごめん。待たせたかな」
私服のPがアタシに駆け寄ってくる。あ、すごい新鮮。いつもはスーツだもんね。

「う、ううん!ぜんぜん待ってないよ!今日は…さ。付き合わせちゃってごめんね。」
「いや、こっちのセリフだよ。……それにしても、今日の服……。」



あ、キタ。
普段着てる服とはちょっと……いや、だいぶ変えてきちゃったんだよね。

青と白基調のトップスに、ふわふわスカートのすっごい清楚な服。
普段使わない手提げバッグとか、かわいい帽子とか被っちゃってるし……。




変かな?

らしくないかな?

気合入れすぎ?

引いちゃったりしてない?

助けて!お守りさん!




「すごく似合ってるな!」

「……え、ほんと?変じゃない?」

「うん。似合ってる。正直はじめに見たとき分からなくて驚いた。そういう服もバッチリ可愛いぞ!」


え、すっごいうれしい!
デート決まってから可憐や恵美に相談したり、
風花さんにちょっとしたお化粧教えてもらったり…頑張ってよかったよぉ!
でも大胆な行動に移せたのも、このお守りのお陰なんだけど!


「じゃあ、行こうか。まずは俺の買い物に付き合ってくれ」
「うん!」


それから電車に乗って大きなショッピングモールの家電コーナーに来た。
「たしか、洗濯機を買いに来たんだよね?」

「そう。今のが壊れちゃってな。それにしても値が張るなぁ。
…まぁ日用品だから奮発してもいいんだが、いい出費だなぁ。」

たしかに。思ったより高い。
このナノイー洗浄とかスマホの連動機能って使ってる人どれくらいいるのかな?

「なにかお探しのものはありますかー?」

ニコニコと近寄ってくる定員さん。
「ええ。洗濯機を。ただ、こんなに多機能じゃなくてもいいんで…」

「でしたらこちらのモデルなんか……」

ありゃ、商談に入っちゃったかな。でもPの顔は渋い。


「うーん、単身用の小さいものでいいんですが。」

「…でもこれから2人暮しされるんですよね?でしたら大きめのモデルがおすすめですが…。」




「「えっ!?」」



ふたりで顔を見合わせる。



「あれ?カップルのお2人ではないんですか?」


そ、そっか。同棲予定のカップルに見えちゃってるんだ…。
Pとカップル…すっごい嬉しいけど、恥ずかしい…っ。


「いや、この娘とはそういう…」
あ、やっぱりそこは否定するよね…。Pとアイドルだもんね…。



「そうですかー?

いまなら新生活応援キャンペーンでカップルの方だと特別割引になるのですが……」





「カップルです。同棲予定のカップルです。なっ!!!のり子!!!」


そういって急に私の手を、ぎゅっと握るP。



え、えええええええええ!
欲に目がくらんだとはいえ急だよぉおおおお!!
な、なんか恋人握りしちゃってるし!
P、話を合わせてくれ、みたいにしきりにウィンクしてるし!

う、ううぅ……。


「そ、そうだね!お互い初めての同棲生活だもんね!あ、あなた♪」

「あ、やっぱりカップルなんですね♪ 彼女さん、お顔が真っ赤…。
まだ照れが残ってるのかな?かわいい彼女さんですね♪」

「ははは、本当に。普段はちょっと勝ち気だけど、かわいい自慢の彼女です

……ってイテテ…」

余計なことを言うPの手をぎゅっとつねる。調子いいんだから。
か、かわいいっていうのは嬉しいけどさ…。

「さて、では具体的な割引額と工賃の相談を…」



「いやー、狙ってたモデルよりいいものを買えたよ!協力してくれてありがとうな、のり子。」

「うん…。でも次からいきなりカップルの演技とかは勘弁してよ! こ、心の準備がさ…」

「ははは。悪い悪い。」

まぁ、悪い気はしなかったけどさ。
お守りの効果なのかな。Pと手つなげたし!
運、向いてきてる気がする!


家電コーナーをあとにした私達はプラプラとショッピングモールを歩いていると、
美容コーナーで千早のシャンプーのCM映像がエンドレスで流されてる。


「よく流されてるな、あのCM。評判もいいみたいだし、あの仕事取れて良かったなぁ」

風にたなびく千早のロングヘアを眺めながらちょっと誇らしげなP。
ずっと気になってたこと、聞いてみようかな。

「あのさ、P。アタシも髪、伸ばしてみようかなって思ってるんだけど……どうかな?」

「……え?うーん、のり子のイメージは元気でスポーティって感じだからな。

…ただ、今日のそういう服で髪の伸びたのり子なら、清楚なお姉さんって感じだな。
いつかそういうのり子も見てみたいな!」


「清楚なお姉さん!? なんかぜんぜんアタシらしくないけど…。
えへへ…Pがそういうんならまずはショートから挑戦って感じかな?…へへ。」


「ははは。そうだな!髪は、急には伸ばせないからな!」



そんな会話をしてるときに、美容コーナー正面の美容院で


「ただいま、新作エクステの試着体験会やってまーす!

簡単にあなたの髪をボリューム・アップできまーす!

無料でお試しいただけまーす!

この機会にぜひお試しくださーーーい!!!」


店員さんの元気なセールスの声が響く。





「「……」」

またお互い顔を見合わせちゃう。



まさに奇跡のタイミング。いやいや、怖いくらいだよ!絶対これって……!

「はは…なんていうか、こういうこともあるんだな。
これもなにかの縁だし、やってもらってきたらどうだ?」

「え?いいの?待たせちゃうかもしれないけど……」

「髪を伸ばしたのり子を少し早く見れる機会だからな!いくらでも待ってるから、行っておいで。」


ううう…P、優しいよぉ。すっごくドキドキするけど…。
でも女・福田のり子!ここで逃げたら女が廃る!
そう自分に言い聞かせて覚悟を決めて店員さんに声をかけるーーーっ!


「……あのっ!」




数十分後、定員さんにレクチャーを受けてあっさりエクステをつけ終わった。
「Pぁ…。で、出来たよ。」

「お、早かったな!待ってる間、店員さんの説明を聞いていたが、
最近のエクステは簡単につけ外しできるんだってな!」


恥ずかしくてつい物影に隠れちゃう。
いざ見せるとなったら恥ずかしすぎる。
でも、今はお守りがあるからっ!


意を決してPの前に出るーーっ!



「ど、どうかな?おかしく…ないかな?あはは…」

「……」



うわーPすっごい見てる…。
アタシ、すっごい見られてる…
こんなの凝視に近いよ…。



ベリーショートだったアタシの後髪に、セミロングのエクステをつけたんだけど…。
肩や首筋に髪があたってくすぐったいし、首を動かすたびに髪がなびいて、すっごく違和感……。
いつもみたいに動いたら、セットした髪型、崩れちゃうよね。
これじゃ、バイクなんて乗れないよぉ…!


長い沈黙のあとPが呟くように
「…似合ってる。」

「…ほんと?おかしくない?」

「ああ。言われないとのり子だと気が付かないくらい印象がガラリと変わったな!
驚きすぎて言葉を失ってしまったよ。
まるでお嬢様学校に通う清楚な女子大生って感じだな!」

すこし興奮気味にしゃべるP。
自分ではすっごい違和感があるんだけど…。
そ、それって喜んでいいのかな?
喜んでくれてるなら、ちょっとは…自信持っていいのかな? えへへ。



「とりあえず写真を……」
そういっておもむろにケータイを取り出すP。



「え?…あーーーー!!だめ!だめ!なんで撮るの!!絶対撮っちゃだめーーー!!!」

「なんでだ!今後ののり子の売出し方の貴重な参考資料として、シアターのみんなに見てもらって意見をだなぁ…!」


なんでって!もしもシアターのみんなに見られたら絶対笑われちゃう!
みんなに延々イジられちゃうよ!



「絶対だめ!!店員さん!ありがとうございました!もうエクステ外してもらって構いませんから!」


「ああ!そんなご無体なぁ!」




それからショッピングモールを出て占いのお姉さんがいた、あの裏通りへきた。
写真を撮ろうとしたバツに、カフェに連れて行くようにお願いしたら、あっさりOKもらっちゃった。


アタシたちは窓際の気持ちいい風が通る席へ座る。
時代遅れな大きなスピーカーからはゆるいジャズのレコードがかかってる。
カウンターではヒゲを蓄えた主人が慣れた手付きでコーヒーをサイフォン抽出していて、いい香りを店内に振りまいてる。
そこまで広くない店内には客はまばらにいるだけで、静かすぎない、落ち着く雰囲気。


「へー、のり子はおしゃれなカフェを知っているんだな。なんか…空猫珈琲店のセットみたいだな!」
店内のレトロな調度品を眺めながら、あたしと同じような感想を漏らすP。



気後れして入れなかった、裏通りのあのおしゃれなカフェ。
前はガラス越しに眺めるだけだったけど、いまはお店の中でPと向かい合わせでいる。
それがただ、嬉しい。


「それにしても、お昼ごはんならパスタでも良かったのに、パンケーキでよかったのか?」

「そう!さぁP!今日のお昼ご飯はアタシとこれ、食べるよ!」


「パンケーキはお昼ご飯にはてきさな…むぐっ!」
言葉の途中で口にパンケーキをねじ込む。


「んぐ……!いきなりひどいなのり子!」


「へへー!美味しかった? P!」
えへへ…1回やってみたかったんだよね。あーん…♪


「むむっ!じゃ、今度は俺の番だな!クリームたっぷりつけて……さ、あーんだ!」

意地悪な顔でフォークを差し出すP。でも今日のアタシは、負けないよ!
Pの差し出したフォークを、パクっと大きな口をあけて食べちゃう。


「うわっ!いつもののり子なら恥ずかしがると思ったのに!」

「いつまでも恥じらってばかりののり子さんじゃじゃないんだなぁー♪」
そういってお互い笑い合う。



それから、普段お互い仕事で忙しくてできなかった話をたくさん話した。

Pと出会ったときのこと。
シアターの娘達と組んだ、たくさんのユニットのこと。
あたしの初センター公演のときのこと。


どれもここ1年のことだったはずなのに、どこか遠い昔のことようで、懐かしくて。
そんな思い出の中には、いつもPが後ろにいてくれていたんだなって嬉しくなる。



話題はとめどなく溢れて、嬉しい時間が店内のぼやけたレコードの音にやさしくとけていく。


気がつけば陽がずいぶん落ちるまで話し込んじゃってたーー。


カフェを出たアタシたちは、少し歩こうかとどちらともなく言い出して、
気がつけば765プロライブシアターに来てた。

海沿いにあるシアターは、いつもは海の蒼と華々しいネオンが眩しいけど、
いまはどちらも夕焼けに染まってる。

いつもトレーニングの走り込みで通り過ぎるだけだったベンチにふたり座って、
カスタード色に染まった空と海を眺めてる。

「結局、ここに帰ってきちゃうんだな。」
「うん。なんでだろうね。」

こんなに穏やかな気持ちで夕焼けを見るのは初めてかもしれない。
いまならずっと渡せなかったもの、渡せそうな気がする。



「あのさ、P。これ…受け取ってくれないかな?」
そう言ってアタシは手提げバッグからかわいくラッピングした紙袋を取り出す。


「……これは?」
「えへへ…クッキー。作ってきたの。」

あのとき、Pが美味しそうに食べてたから、春香にお願いしてレシピを教えてもらったバタークッキー。
何回も失敗しちゃったけど、これは美味しくできてる……はず。

「へぇ…!のり子が。今、食べてもいいか?」
「…うん。」
袋を開けてクッキーをひとつまみしてゆっくり味わうように食べる。

「ど、どうかな。生焼けじゃないよね?」

「……のり子、料理できたんだな。すごく美味しいぞ!」


そういってニコニコしながら美味しそうに食べてくれる。
料理って、食べてくれる人がいるだけでこんなに楽しいんだね。
それがPなら、なおさらかも。
普段なら気後れして絶対渡せなかったけど、頑張って作ってきてよかった!


「……ふぁあ。たくさん話して、歩いて、食べたからかな。日暮れの陽が心地よくて……」

大きくあくびをするP。ちょっとはしゃぎすぎちゃったかな?だったら…


「じ、じゃあさ、アタシに寄りかかって寝ても…いいよ?」

いつかレーシングライブのあと、アタシがPの肩借りたんだし今度はアタシが貸すよ!って言ったら、
眠気に勝てなかったのか、Pは言われるがままアタシにすこし寄りかかって眠ってしまった。



いつもみんなに頼られてるPが、今はアタシに体重を預けてくれてる。
それが嬉しくて、でもちょっと気恥ずかしくて。


目の前にあるPの頭に何本か白いものを見つける。
あんなにたくさん、担当アイドルがいるんだもんね。
苦労…してるんだろうな、なんてぼんやり考えて、起こさないようにそっと髪を撫でる。



ーーがんばれ。アタシのプロデューサー。




もう日が落ちてきた。お姉さんとの約束を思い出して、ずっとポケットに入れておいたお守りを取り出す。
シャラン、と涼し気な鈴の音が鳴る。

今日は、これのおかげでいつも心の中だけに留めていた願いを全部叶えることができた。
でももう日暮れ。お守りの効果はこれでおしまい。


名残惜しさを胸に、お守りの中を開ける。
中には小さく折られた紙が入っていて、開くと簡単な手紙になっていた。



""デート、お疲れ様。楽しめたかしら?


じゃあ種明かし。このお守り、実はなーんのご利益もないただの小物入れ。


あなたがすこしでも自分の心に素直になれるように手助けになれれば、って思ったの。


すこしはPさんに甘えられたかな?


あなたとPさんに、幸多からんことを♪""



「な…な、ななななな……。」
お守りが……ただの……小物入れ!?


じゃあ、Pが服を褒めてくれたり、手を繋げたり、エクステのキャンペーンに出会ったり
カフェに付き合ってくれたりしてくれたのも…。
運でもご利益でもなく、全部ただの偶然だったってこと……!?


今日、お守りの効果を担保にやってきたことが頭をよぎり、
みるみる顔が熱くなっていくのを感じるーー



「んん…。ふぁーーーあ。少し寝たらスッキリしたな…ってどうしたのり子?顔が真っ赤だぞ。」

「い いや、ちがうよ!これは夕焼けのせいでそう見えるだけだよ!」

「そうか?…それももう日の入り寸前だな!」


もうお守りは使えない。
お守りの力に、依存していた自分がいる。
どんな言葉を言ったらいいか、戸惑う。


そんなとき、日の入り直前のひときわ眩しい太陽をやさしげに眺めながらPが切り出す。
「……のり子。今日は誘ってくれてありがとうな。」


「…え?」


「俺は、のり子の顔を毎日見ているようにみえて、
実はのり子のことを全然知らなかったことに気づいた。
今日だけで、俺の知らなかったのり子をたくさん知るとこができた。
だから、今日は誘ってくれてありがとうな。」


予想外の言葉にすーっと冷静になっていく。
そんなふうに、思ってくれてたんだ。
アタシの口から自然に言葉が紡がれる。


「………じゃあ、さ。 Pは今日1日アタシと過ごして、楽しかった?」




「ああ!こんな素敵な休暇をプレゼントしてくれたのり子に、たくさんありがとうって言いたいんだ。」



ーーああ、良かった。

そのPの一言だけで心底安心した。

無駄じゃなかったんだ。

頑張ってよかったんだ。

素直になってよかったんだ。


そんな思いが雪崩のように襲ってきて、胸がいっぱいになる。
思いは溢れて、それは涙になってポロリ、またポロリと落ちてきた。


前にセンター公演で流した涙とはちがう。でもこれがどんな涙なのかアタシにもわかんない。
ただ、涙はつぎつぎ頬を静かにつたっていく。



そんな涙にPが気がつくのはもう少しあと。


「ほら、のり子。日の入りだ!」


赤色の世界が、藍色に染まっていく。



ーーそれからーー

デートの成功を報告するために裏通りのお姉さんがいた場所に何度も行ってみたけれど、
結局会うことはできなかった。
今思えばすべて夢だったんじゃないか、って思うんだ。
だけど、バイクキーのキーホルダーに使ってる例のお守りの小物入れを見ると、
今日もどこかで怪しい露店を開いてるんだろうなってひとりクスリと笑っちゃう。


デートのときの服を選ぶときにいろいろ相談に乗ってくれた恵美や可憐には悪いけど、
結局あの清楚な服はあれから着て行ってない。
やっぱりらしくないなって思うところもあるし、なによりあんなひらひらじゃバイクに乗れないよ!


少し変わったこともあった。
歌織さんに紅茶や珈琲の淹れ方を教わったり、春香や美奈子からときたま料理を教えてもらってる。
まだまだ失敗も多いけど、マイペースにやっていくつもり。
うまくできたらまたPに食べてもらいたいな♪



ある日、Pから新しい仕事の依頼がきた。
「え?アタシに作詞をしてほしいって?」

「そうだ。バイクの大手販売チェーン店のイメージガールにのり子が選ばれたんだ!
そのオリジナルイメージソングの作詞だな。歌うのはもちろんのり子になる。」


どうやらPは、前にリブラで作詞をやったとき、
年下2人の意見の取りまとめと、歌詞の調整をアタシがやったのを覚えてたみたい。



「へー、曲はもうできてるんだ。元気で明るい曲だね!曲名も決めていいんだ。
……でも作詞とかできるかなぁ。前とはワケが違うし、さ。」



「大丈夫だ!バイク乗りののり子しか書けない、のり子らしい曲に絶対出来る。
そう信じてる。引き受けてくれないか?」


「アタシらしい……曲。」

つい、気になって聞いてしまう。


「ねぇ。Pの思う、アタシらしさってどんなだと思う?」

「えっ。そうだなぁ………あっ…!」
そう言ってPは、おもむろにケータイを取り出し、何かを探してあった!と小さく叫ぶと、

「これも、のり子らしさの一部なんじゃないか?」

とニヤニヤしてその画面を見せつけてくるーー



「あっ!!!それ、アタシがエクステつけたときの!撮ってたの!?」

「今のケータイカメラはすごいなぁ。連射機能がついてて……」

「もう!!消してよ!!」

「ははは!大丈夫!誰にも見せたりしてないよ!」
そう笑ったあと、Pはしみじみと続ける。

 
「…でもさ、これもたしかにのり子の一部なんだよ。
あの日、俺が知らなかったのり子の一部。可能性って言ってもいいかな。

だから何を指してのり子らしいかは俺には分からない。
けど……のり子らしさは、必ずあると思う。」




……アタシも、最近考える。

アタシらしさって、自分が一番わかってたはずなのに、あのデートからわからなくなった。

このあいだのデートで、らしくないことをたくさんした。
あんなにウキウキしたり、ドキドキしたり、ウルウルしたの初めて。


あの日のアタシは、全部知らなかったアタシだった。
そしてたぶん、まだ出会えてない""アタシ""が、きっとどこかにいる。

それはどんなアタシなんだろう?
誰と一緒だったら見つけられるかな?




そう思ったとき、バイクキーについてるお守りの鈴が、シャランと鳴った気がした。
このお守りが一番効果が出るためにはーーー




「……P!ちょっとアタシとバイク乗らない!?」

「え? また急だな。どうしてだ?」

「バイクの歌詞を書くんなら、バイクに乗るのが一番でしょ!?」

ヘルメットなら、昴をいつでも乗せられるように、アタシのロッカーの中にあるし!
ってまくしたてるように話す。

「なら、のり子ひとりでも…」

アタシは、Pの目を見つめる。
アタシの目線に気づいたPも、アタシの目を見つめる。
今、アタシは自分がどんな顔をしているのかわからない。


するとPは一瞬ハッとした顔をしてから、
最後は困ったようにも諦めたようにも見える顔で、笑う。



「…俺が一緒に乗って、のり子の手助けになるなら…!」

「…っ! 決まり!ヘルメットとってくるね!」

ふたりして劇場を飛び出て、駐輪場のクラウザー号へ向かう。




クラウザー号のエンジンを始動する。
へっぴり腰のPをクラウザー号の後ろに乗せる。

バイクに二人で乗るときは、お互いの協力が不可欠だ。
後ろの人がアタシをちゃんと支えてくれないと、バイクの挙動が変わる。
そのことをPに伝える。



「だから、ちゃんとアタシを支えててよね!! P!!」

「わ、わかった!ちゃんと支えてるからな!のり子っ!」
慣れないヘルメットとバイクのシートに、すこし上ずった声でPが話す。
今はちょっと頼りないけど、いつもこうして後ろから支えてくれるこの腕がなにより頼もしくて、あったかい。
この支えがある今なら、なんだってできそう!


「のり子、どこへいくんだ?」
Pの問いに、アタシは思案するように空を見上げる。



空は雲ひとつない青空が広がってる。
向かい風もない。追い風もない。


不思議と劇場前の道路は車1台通っていない。
道路はずっと1本繋がっていて、途中たくさんの十字路がある。


どこへ行ってもいいんだ。


「さぁて どうしよっかな。とりあえずーーーーっ!」


探しに行こう。
まだ知らないアタシを。
見つかるはずだよ。
後ろで支えてくれるPと一緒なら!


スクーターは道を往く。


アタシの速度で、アタシの道をーーーっ!






以上です。お目汚しを失礼しました。

ゲーム本編中で彼女とのコミュやふれあいで言っている、
あれがしたい!今度、これしようよ!これしたらどうかな?
っていう欲求を、できる限り叶えてあげたいなぁって思って書きました。


皆様のお暇つぶしになれたのであれば幸いです。



また、わたしの過去作です。
掲示板に貼ったものを加筆・修正しております。お暇があれば、ぜひ。

https://www.pixiv.net/member.php?id=4208213
【ミリオン】 紬 「エミリーさんにトイレを教えるのですか!?」
【ミリオン】志保「Pさん、ヒゲはやしたんですか!?」

占い胡散臭いイメージあったけど、きっかけくれたこのお姉さんいい人だな
乙です

福田のり子(18) Da/Pr
http://i.imgur.com/izmJJAc.png
http://i.imgur.com/DFTdII3.jpg

>>3
桜守歌織(23) An
http://i.imgur.com/HAO7vrU.png
http://i.imgur.com/w7ZCmJV.png

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom