女「夢桜、どうか散らないでいて」 (183)

SS3作目です。

例によって例のごとく、とある歌を参考にさせてもらっています。

少し書き溜めてから投下するという手法なので、投稿頻度は早くないですがご容赦ください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1563929282


ーーー学び舎 教室ーーー

教師「……」テク..テク..

生徒たち「「「……」」」ヌイヌイ

教師「……」テク..テク..

女友「……」ヌイヌイ

チクッ

女友「いっ……」

教師「……慌てて自分の指を縫うようでは、淑女とは言えませんよ」

女友「は、はい…すみません……」

教師「……」テク..テク..

教師「……」テク...



女「……」ヌイヌイ



教師「……」

教師(ふむ……)

女「……」ヌイヌイ

教師「女さん」

女「はい…?」カオアゲル

教師「少し見せて頂けますか?」

女「あ、分かりました。どうぞ」スッ

教師「……」スッ

教師「……」ジッ...

女「……あの、何か至らない箇所が……?」

教師「…いいえ、その反対です」

教師「とても素晴らしい出来ですよ」



ーーー学び舎 教室ーーー

教師「……」テク..テク..

生徒たち「「「……」」」ヌイヌイ

教師「……」テク..テク..

女友「……」ヌイヌイ

チクッ

女友「いっ……」

教師「……慌てて自分の指を縫うようでは、淑女とは言えませんよ」

女友「は、はい…すみません……」

教師「……」テク..テク..

教師「……」テク...



女「……」ヌイヌイ



教師「……」

教師(ふむ……)

女「……」ヌイヌイ

教師「女さん」

女「はい…?」カオアゲル

教師「少し見せて頂けますか?」

女「あ、分かりました。どうぞ」スッ

教師「……」スッ

教師「……」ジッ...

女「……あの、何か至らない箇所が……?」

教師「…いいえ、その反対です」

教師「とても素晴らしい出来ですよ」



教師「皆さんも、よく御覧なさい。この縫い目の正確さ、均等さ。これだけ早く手を進めることが出来て尚、乱雑さが全くありません。時間のある者は、女さんの手元を見て学ぶと良いでしょう」



「さすが女さんですね」

「あれだけ美しいだけでなく、お裁縫も完璧だなんて……」

「名家のご令嬢……気立ても良くて……」

「まさに私たちの憧れですわ……」



女友(女、やっぱりすごいなぁ)

女「皆さんおやめください…恥ずかしいですわ……私なんてまだまだ……」

教師「ご謙遜なさらないでいいのですよ。あなたの優秀さは皆、分かっておりますから」

教師「あなたは、この第一高等女学校の誇りとも言える生徒です。もっと胸を張って頂かないと」

女「…ありがとうございます」ニコッ



カランカラン!



教師「おや、鐘の音……」

教師「お時間です。今日のお裁縫の授業はここまで」

教師「…女さんだけではありません。ここにいる皆さんも第一高等女学校の生徒なのですから、そのことを意識した行動を普段から心掛けるように。いいですね?」

生徒たち「「「はい」」」



ーーーーーーー

教師「──それでは、皆さん本日も良い一日を」

生徒たち「「「良い一日を」」」



ガヤガヤ



女「……」カエリジタク



スッ...



女友「──では、参りましょうか。女お嬢様」

女「…もう、女友、悪ふざけはよしてちょうだい」

女友「いやー、だってさ、すごかったじゃない」

女友「お裁縫の時間にさ、あんなにべた褒めされて。やっぱ女って何でも出来ちゃうのねぇ」

女「皆買い被り過ぎなのよ。少し家で齧ったことがあったからちょっと感覚が分かるだけなのに」

女友「……おまけに、その鼻にかけない手弱女っぷり」

女友「昔馴染みとしてずっと見てきたけど、私が男性だったら絶対惚れていたわ」

女「大袈裟よ……私だって、女友をお嫁にもらいたいって思ったことあるのよ?」

女友「」キュン

女友「女……一緒に幸せになりましょう!」

女「ふふっ」



女友「…あ、いけないいけない。危うく落とされるところだったわ」

女友「それに、こんなことももう少しで言えなくなるものね」

女友「確か来月なのよね、女が正式に結婚するの」

女「…そうね」

女友「いいなー。お相手はあの有名な旧家の青年さん、だったわよね」

女「えぇ」

女友「幼い頃からの許婿って言ってたけど、私と女が出会う前からよね?」

女「私がまだ5つになる少し前…くらいかしら。ご両親同士の話し合いで決まったと聞いたけれど…」

女友「会ったことはあるの?」

女「何回かね。催事でも顔を合わせることがあるから」

女友「…どんな方なのか訊いても?」

女「私の知る限りの印象なら」

女「……素敵な方よ。優しくて、それでいてしっかりとした男性らしさも兼ね備えてらっしゃって。女性を立てるのがとってもお上手なの」

女友「とっても格好いいって噂よねぇ」

女「…ちゃんと聞いてた?」

女友「聞いてますー」



女友「でもそっかぁ。女のこと、絶対幸せにしてくれそうな方ね。羨ましいなー」

女「女友だって、最近お見合いをしてるって言っていたじゃない」

女友「そうなんだけど……お父様が選り好みした男性としか顔を合わせる事も許されなくて……おまけに肝心のお父様の見る目がないから……はぁ」

女「……きっといい人と巡り合えるわよ」

女友「ありがとー」

女友「…そうだ!」

女友「女、この後少し時間ある?」

女「え、うん。歌の習い事までなら時間はあるけど」

女友「じゃあさ、この学校の近くの、桜並木見に行きましょう!」

女友「玄関口のすぐ近くの桜あるじゃない?あれがすごく綺麗に咲いていたから、きっと桜並木も咲き揃ってるに違いないわ!」

女「ふふ、いいわね。行きましょう」



ーーー学び舎 玄関口ーーー

ザワザワ



「ねぇ、あの方って……」

「えぇ、間違いないわ。私以前お見かけしたことがあるもの……」



ザワザワ



女友「……なんかやけに騒がしいわね。何かあったのかな」

女「そうね…どうして皆さん集まっているのかしら」

女友「とにかく、この人垣を押し退けないと、外にも出れないわね…」

テクテク...

女友「──皆様、ごめんなさい。私達、外へ出たいのです。少しばかり道を開けて頂けますでしょうか?」



「あらこれは……」

「失礼しましたわ」



ササッ



女友「感謝いたします」

女友「…さ、行きましょ、女」ボソッ

女「敬語、とっても似合ってるわよ」ボソッ

女友「う、うるさい……」カアァ



スタスタ



女友「……ふぅ、ひとまず外には出られたけど……皆何をそんなに見ていたのか……えっ」

女「なに?女友、どうしたの…──!」



青年「……」サクラミアゲ





「やっぱり、あのお姿は青年さん……」

「ああ…桜を物憂げに見上げるそのお顔も、とても素敵ですわ……」



ザワザワ



女友「あの方が……」

女(……どうしてここにいらっしゃるのかしら……?)



青年「…!」チラリ



テクテク



青年「……」

女「……」

青年「…待っていたよ、女さん」スッ



(そっと手の甲に口付け)



女友「わぁ…!」



「まぁ!なんという…!」

「あの方は…女さんですか」

「青年さんには許嫁がいらっしゃると聞いておりましたが…女さんだったのですね」

「適いませんわ…とってもお似合いですもの、お二人」



女「お久しゅうございます、青年様」

青年「青年様だなんて、そんな堅苦しい呼び方はよしてくれ。青年でいいと、いつも言っているのに」

女「いえ、そんな畏れ多い……」

青年「……はは、そんなところも素敵だけれどね」

青年「でも、僕たちはもうすぐ夫婦になるんだから、少しずつ慣れていってくれると嬉しいかな」ニコッ

女「…これでも努力はしておりますのよ、青年さん」ニコッ

青年「!」

青年「これは……はは、なぜだろうね、様と呼ばれるよりも距離を感じてしまうよ」

女「ふふ、ごめんなさい。少し意地悪をしてみたくなったもので」



女「…ところで青年様。本日はなぜこちらへ?青年様も学校があると伺っておりますが……」

青年「いやなに、君との婚儀がちょうど来月に控えているだろう?そう考えていたら、その時まで待ちきれなくてね……どうしても君に会いたくなってしまったのさ。学校には少しわがままを言って早退させてもらったよ」

女「まあ、悪いお人」

青年「会って早々、意地悪を言う女の子といい勝負じゃないかな」ニッコリ

女「さて、何のことでしょう」

青年「……」

女「……」

青年「…はは」

女「…ふふ」



「なんて尊い空間なのかしら……」

「私、今日のこの光景決して忘れないわ…!」



女「……けれど」

青年「ん?」

女「来られるのなら、もう少し場所を考えて頂けるとより嬉しかったかもしれません」

女「なにせここでは、目立ってしまいます」

青年「おっと…それは失礼した。配慮が足りていなかったかな」

青年「それに……」

女友「……」ボー

青年「……すまなかったね、君たちの邪魔をしてしまったようだ」

女友「……ハッ」

女友「い、いえ!とんでもないです…!」

女友「あの、青年さんのお姿を見て、お声を聞けただけでも私とても幸せですから…!」

青年「……これは参ったね。妻の前で口説かれてしまったよ」

女友「えぇ!?いや決してそういうわけではなく…!」アタフタ

女「…あまり私の友人をいじめないで頂けますか?」

青年「はっはっは。悪いね。美しい方だったもので、つい」

女友「ほへ…?」

女「この人は女友さん。私の小学時代からの友人です」

青年「青年と言います。貴女は僕のことをご存知だったようですが…初めまして」スッ

女友「あ…こ、こちらこそ」スッ



(軽い握手)



女友(わ、すごい……しっかりした手)

女友(立ち居振る舞いも上品だし、あの蠱惑的な言動……)

女友(皆の憧れになるのも頷けるわ)

青年「…そういえば君たちは、これから帰るところだったんだよね?」

女友「えっと……」チラッ

女「桜並木を見に行くところだったのです。女友さんと一緒に」

青年「おお、それはいいね。丁度優雅に咲いている頃だろうからね」

女友「……あの、もしよろしければ、ご一緒しませんか?その方が女さんも……」

女「……」

女友「……女?」

女「!あ、えぇ。青年様も一緒の方が、きっと桜も喜ぶでしょう」

青年「嬉しいことを言ってくれるね」

青年「ありがとう。それじゃあお言葉に甘えてお供させてもらうとしようかな」

女友「…!はい!」

女友「では、早速参りましょう…!」テッテッ

女「女友、そんなに急ぐと転ぶわよ」テクテク

青年「面白い人だね」クックッ



テクテク...





ーーー女家 お屋敷ーーー

召使「──おかえりなさいませ、お嬢様」

女「ただいま帰りました」

召使「お嬢様、本日は少々お帰りが遅かったようですが、何かございまして?」

女「ん?ちょっと女友とね、寄り道をしていたんです」

召使「寄り道、でいらっしゃいますか……?」





女父「──よい、召使よ。話は聞いておるからな」





召使「これは旦那様」

女「ただいま帰りました、お父様」

女父「うむ。聞いたぞ、女よ。青年殿と会われたようではないか」

女「はい。ですがお父様?彼、私に会うために学校を早くあがってきたとおっしゃっていましたの。……もしかして、少々やんちゃなところがあるのかしらと」

女父「ははは、茶目っ気もあっていいことではないか」

女「茶目っ気で済ませられるものでしょうか…?」

女父「それになにより、それだけお前のことを想ってくれているということだ。嬉しいことだ」

女「まぁ…そうですわね」

女父「まだお前が幼い頃、家の安泰のためとはいえ早計な婚約をした時には少し不安であったが……」

女父「お前たち、既におしどり夫婦のようだと評判だぞ」

女「……私には勿体ないくらいのお方です」

女父「何を言うか。青年殿ほどお前のことを想ってくれている男は他におるまい。婚儀を待ちきれずお前に会いに来るほどの──」

女「──お父様、そろそろ夕食をとりませんか」

女父「む?おお、そうだな。お前は今日この後、歌の稽古があるのだったな」

召使「既に用意は出来ております。こちらへ」

女父「うむ」テクテク

女(………)





ーーー夜ーーー

女「……」テクテク

女「……」テクテク

女(ふぅ……どうしてかな、今日はあんまり歌に身が入らなかった……)

女(そのせいで先生からお叱りを受けてしまったし)

女「……」テクテク

女(……まだ夜も更けていない時間なのに、この季節ではこんなに暗くなってしまうのね)

女(いつもより暗く感じるこの帰り道……まるで今の私の気持ちのよう……)

女「……」テクテク

女(青年様……悪いお人ではないのだけど)

女(どうしても分からないわ。結婚というものが)

女(これが大人になるということなのかしら…?)

女(今日まで、ずっと子供のままでいられていたと思っていたけれど……結婚というものを行えば、それも変わってしまうのかな)

女(……ちょっと、怖い……)

女(それでも私は、きっとあの方と幸せな家庭を築いていくのでしょうね…)



──ヒラ



女「……桜の、花びら」

女(あの桜並木も美しかったけれど……夜桜……風流ね)

女「…!」

女(そういえば、家の裏手にも大きな一本桜があったわね)

女「………」



スタスタ...



.........





女「えーと……」

女(確かこの辺りだと思ったのだけど)

女「……」キョロキョロ

女「……!」

女(あ…きっとあれね)

女(こんなに離れていても分かるくらい、満開みたい)

女(近くで見たらどれだけ綺麗に見えるのかしら…!)

女「……」テクテク



~~♪



女「…?」

女(この音は……?)

女「……」...テクテク



~~♪



女「……」テクテク

女(バイオリン…?)

女(どんどん近くなっている気がする……)



~~♪



女「……」テクテク

女(…綺麗な音色)

女(一体誰が弾いているのかしら…?)

女「…!」

女(居た…桜の下の人影……きっとあの人が……)

女「……」スタスタ

スタスタ

スタ...

女(──あ)





男「」~~♪





女「──」



男「」~~~♪



女(──なんて、綺麗な、お人……)

女(お姿が、だけではなく……丁寧に弓を弾くその右手……弓が震わす糸の音……)

女(こんな誰もいない夜桜の下で、あまりにも華麗な独奏)

女(その音色一つ一つが、意思を持っているみたいに、世界が色付いていくよう……)

女「──」

男「」~~♪

女(ずっと、包まれていたい……この音に……)

男「」~~♪



.........





女「………」

男「」~~♪...

男「……ふぅ」

男「…夜分に騒がしくしてしまい、申し訳ありません」クルリ

女「…あっ、いえ、その…とても素敵な音だったので、思わず聞き入ってしまいました」

男「ありがとう。あなたのような綺麗な方にそう言って頂けるなら、無駄ではありませんでしたね」ニコッ

女「」ドキッ

女(お声を聞いているだけなのに…こんなにも胸が……)

女「……あの、どうしてこちらで演奏を…?」

男「バイオリン教室からの帰りだったのですが──」ミアゲル

男「──ふと、この桜を見かけまして、自然と足が動いていたのです」

女「そうだったのですね」

男「…あなたはなぜここへ?」

女「ふふ、実は私も似たような理由でして」

女「歌の習い事から帰っている途中に、この一本桜が思い浮かんできて、居ても立っても居られなくなってしまったので、見に来たのです」

男「こんな夜分に……危険ではないのですか?」

女「大丈夫です。私の家はここのすぐ近くにございますから」



女「……とても、素晴らしい音色でした。あれはただ弾いているだけでは出せない、優しい音……何を想って演奏されていたのでしょう?」

男「そこまで褒めて頂けるのは、少々恥ずかしい気もしますね…」

男「……この桜の木……今でこそ、このように見事な花を咲かせていますが、きっと、咲くことが許されなかった時があったのだろうな、と」

女「…と、おっしゃいますと…?」

男「数十年前、私たちがまだ生まれもしていない時代……とても大きな戦争があったと言います。この辺りも戦地となることが珍しくなかったようで……」

男「そこには、花開くことなく散っていった数々の命があるのでしょう」

男「今でこそ、この国は繁栄の礎を築いているように見えますが、その陰には多大な犠牲があったこと……生きたくても生きられない、そんな絶望の悲鳴が響いていたこと……どうしても考えてしまうのです」

女「……」

男「せめて、私の奏でるこのバイオリンの音が、彼らの傷を少しでも癒すことが出来ないかと……」

男「…自分でも、徒労に終わることは分かっているのですが……」ウツムキ

女「……」テク..テク..



スッ(手を重ねる)



男「…!」

女「……とても、お優しいのですね」

女「きっと伝わっていますよ、あなたのその想いは」

女「あんなにも響き渡る音色なのですから」

女「…あなたがお一人で苦しむ必要はないのです。どうか顔を上げてください、心優しいお方……」

男「……」

男「…情けないところを見せてしまいましたね、申し訳ない」

男「あなたのおかげで少し、心が軽くなった気がします」フッ...

女「それでしたら、よかっ──」ハッ!



パッ



女「ご、ごめんなさい…!私ったらはしたない真似を…!」

男「ふふ、とんでもない。暖かい手でしたよ。ご本人の心を反映しているのでしょうね」

女「もう…お上手ですね」



男「……しかし、あなたは不思議な方です」

男「私のこの想い、心苦しくて今まで誰にも打ち明けたことはなかったのですが…」

男「なぜでしょう、あなたの前では自然と口をついて出ていました」

男「それでいて、その想いを笑うことなく受け止めてくれる……もしかしたらあなたは、私にとっての女神様なのかもしれません」ニコッ

女「…っ」

女「そ、そんな女神様だなんて、持ち上げ過ぎですよ…」

男「…そうですね、女神様はそのように可愛らしい照れ方をされないでしょうからね」フフッ

女「~~!」

女「……もぅ……」

女(………ふふ)

女「……その、よろしければお名前を教えて頂けませんか?」

男「はい、構いませんよ」

男「男、と申します。しがないただの学生です」

女「まあ、そうでしたの!私てっきりもう少しお歳を召しているものだと……ごめんなさい」

男「よく言われます。これでもまだ高等部なのですけどね」

女「私もです」

女「……私は、女と申します」

男「!」

女「しがない……とは言えませんが、一学生をしています」



男(この方が……彼の……)

男「…あなたが女さんでしたか。お噂は兼ね兼ね伺っております」

女「噂、ですか?」

男「はい。第一高等女学校の顔、とても眉目秀麗でお淑やかな、非の打ち所のない大和撫子である…というような」

女「うぅ…私の知らないところで、どうしてそんな……」

男「火のない所に煙は立たないと言います」

男「…少なくとも私は、その噂は本当だと実感致しましたよ」ニッコリ

女「困ります……そんな出来た人間ではありませんのに……」

女「……あっ」

女「すみません、私そろそろ行かなければ…家の者が心配してしまいます」

男「こちらこそ、申し訳ない。長々と引き留めるようなことになってしまい…」

女「男さんのせいではありません。私が勝手にここへ来ただけなのですから」

女「……あの、明日もここにいらっしゃいますか…?」

男「………」

男「…はい。奏でていますよ、この桜を見ながら」

女「…!」パァァ

女「では、おやすみなさい、男さん…!良い夜を!」



パタパタパタ...



男「……おやすみなさい、女さん」




一旦ここまでです。

最初の投稿で同じものを連投してしまってますね、すみません。


ーーー翌日 学び舎 教室ーーー

教師「──であるからして、この語の成り立ちというのが──」

生徒たち「「「……」」」カキカキ

女「……」ボー

教師「──それでは、この語の意味を、女さんにお答えしてもらいましょうか」

女「……」ボー

教師「女さん?」

女「…!は、はい!」

教師「大丈夫ですか?気分が優れないでしたら衛生室で休憩をとってきても構いませんが…」

女「いいえ、平気です。すみません。120ページの語の意味ですよね?これは──」

女友(女……?)





ーーー昼ーーー

女友「女さ、何かあったの?」

女「え?何かって?」

女友「だって今日ずーっと上の空だったじゃない」

女「そんなこと……」

女「……あったかも」

女友「ま、どうせ女のことだから、また夢中になるものでも出来たんでしょ?いつも没頭し過ぎてそうなっちゃうもんね」

女「む…分かったようなこと言っちゃって…」

女友「えー?事実でしょう?」

女友「で、今度は何に心奪われちゃったんですかー?」

女「心奪われるって何よその表現…」

女友「あ、分かった!」

女「」ドキッ

女友「青年さんでしょ」

女友「昨日、あんな情熱的なお迎えをされたんだもんねぇ……結婚が待ち遠しくてわざわざ会いに来るなんて、やっぱりあれくらいの方になるとやることが違うわよねぇ」

女(……ほっ)



女友「それで、改めて意識しちゃった乙女な女ちゃんは、頭の中が愛しの青年さんのことでいっぱいになってしまった……と」

女友「どう?」

女「……うん、そんなところかな」

女友「やっぱりっ!」

女友「女、昔から色恋に疎いところがあったけど、しっかり女の子になってるのね~」

女「…それ、女友には言われたくないんですけど」

女友「え、ちょっと…それどういう意味!?」

女「さあ?自分でよく考えてみることね」

女友「女ー!私に良い縁がないのって、まさか私が恋心を知らないからだって言いたいの!?」

女「私は別にそんなこと言ってませんけどー?」

女友「もー!自分が素敵な人と結婚できるからって──」

女「そんな風に考えたことは一度も──」

ガヤガヤ...

女(男さん……)

女(……夜が待ち遠しい)





ーーー夕方ーーー

男「……」テクテク

男「……」テクテク



ーーーーー

女「──あなたがお一人で苦しむ必要はないのです。どうか顔を上げてください、心優しいお方……」

ーーーーー



男(……穏やかな表情だった)

男(女神…なんて、我ながら的を得た形容じゃないかな)フッ





「おーい!」タッタッタッ





男「……」フリカエリ

タッタッ...

青年「ふぅ……追いついた追いついた」

青年「薄情じゃないか。僕を置いてさっさと帰ってしまうなんて」

男「…わざわざ俺を追いかけてきたんだ?」

青年「勿論。君がいないと帰り道も退屈だからさ」

男「青年と一緒に帰りたいなんて人は山のようにいるじゃないか」

青年「おいおい、今更そんな野暮なこと言わないでくれよ」

青年「彼等も皆良い奴ばかりだけど…僕のことを"旧家の青年"としてしか見てくれないからね。色眼鏡を外してくれない人と付き合うのは、なかなか骨が折れるものなんだよ」

青年「…その点君は何の遠慮もなくぶつかってきてくれるから、気楽なものさ」

男「……悪かったと言っているだろう。あの時は周りの人間の家柄も碌に知らなかったんだって」

青年「別に責めてはいないよ」

青年「ただ…はは、思い出すね、君との出会い」



ーーーーー

青年「……」スタスタ



ザワザワ



「あの人が噂の……」

「あぁ、あの旧家の青年その人らしいな」

「すごいな…もう歩き方から何から世界が違って見える……」



ザワザワ



青年「……」スタスタ

青年(……ふぅ)

青年(高等部に上がったらもしかしたら…とか思っていたけど、結局は同じような視線に晒されるだけか)

青年(……苦手なんだよな、どうにも)

青年(僕を見ているようでその実、旧家という名札とセットでしか見ていないあの視線が)

青年(まぁいいか。とりあえず学長に挨拶ついで、父上の言伝を伝えればいいんだよな)

青年(手っ取り早く済ませてしまおう)

青年「……」スタスタ





ドンッ



青年「おっと…!」ヨロ...

男「いてっ」ドサ

青年(なんだ…?いきなり曲がり角から…?)

男「つー……あ、すみません。ちょっと焦っていたもので」

青年「いや、こっちこそすまない。立てるかい?」スッ

男「ありがとうございます」ギュ



スクッ



男「しまったな…怪我などはないですか?」

青年「僕は大丈夫だけど……どうしたんだい?慌てていると言っていたね」

男「えっと、それが恥ずかしい話なのですが……道に迷ってしまって」

青年「ん…?」

男「いえ、何分ここまで見事な学舎は初めてなものですから、自分の教室を見つけようとしたら、この様なわけです…」

男「あぁ、すみません、自己紹介がまだでした。私、男と申します。名もない平家出身の者ですが、本日よりこの第一高等学校で多くの仲間と共に学ばせて頂く身です」



青年「……なぁ君、そんな畏まった口調はやめておくれよ」

青年「僕だって君と同じ新入生なんだからさ」

青年「青年と言うんだ。よろしく」

男「青年君……なるほど覚えておこう」

青年(…!)

男「…ということは、もしかして青年君も迷子に…?見たところこの辺りに教室はなさそうだし……」

青年(……)

青年「…実はそうなんだ」

青年「僕も、今までこんな広い学校に通っていなかったからね、どうにも慣れなくて」

男「!やっぱり…!」

男「いやぁ、まさか俺と同じ人間がいるとは思わなかったけど…君とは仲良くなれそうな気がするよ、青年君」

青年「はは、青年でいいよ」

青年「…ところで、もしよかったらさ、まだ授業まで幾分か時間もあることだし……」

青年「──少しこの学校を探検してみないかい?」ニィ

ーーーーー



青年「あのときの探検は楽しかったよねぇ」

男「…俺にとっては束の間の安息だったよ。あの後すぐに青年が大層な家の出身だって分かって……教室に入った時の、隣に並んでた俺への奇異な視線を思い出す…」

青年「ただでさえ君、上級生に見えなくもないしね」

男「あれはそんな生易しいものじゃなかった……何だこいつはっていう無遠慮な思念さえ感じたよ」

青年「考え過ぎだよ。君の出身がどうだろうと、今はしっかり周囲と馴染めているじゃないか」

男「おかげさまでな。青年の立ち回りと振る舞いには学ばせてもらっているよ」

青年「それはどうも」ニコッ

男「……今日は、愛する姫君の元へ行かなくていいのか?」

青年「あぁ。十分さ」

青年「昨日は桜を見に行ったよ。彼女の友人も一緒にね」

男「……」

青年「桜並木もすっかり咲き誇っていてね…綺麗だったよ」

青年「もっとも、僕はどちらかと言うと彼女のことばかり見ていたけれどね」



男「本当に好きなんだな、その子のこと」

青年「当たり前さ!親が取り決めた相手だったけど、会って少しずつ彼女のことを知っていく度にどんどん惹かれていって、そのうち…」

青年「彼女を絶対に幸せにしてやると心に誓っているんだ」

男「……お前なら出来るさ」

青年「君のお墨付きなら安心かな」

男「よく言う」

青年「……それに!」

青年「なにも、彼女と会えるのは昨日だけじゃないからね!」

男「また早退するつもりか?あんな無茶苦茶な特例をよく認めさせられるよな」

青年「いやいや、さすがにそこまで節操なしと思わないでおくれ」

青年「ほら、今度交流会があるだろう?僕たちのところから代表生を数人選んで、第一高等女学校の授業に参加する素晴らしい会が!」

男「その日一日、一緒に授業を受けるってやつか」



男「……って、まさか代表生に選ばれる気でいるのか?」

青年「というより、既に父上から誰が代表生になるのか聞かされたんだ」

男「え?もう決まっているのか」

青年「それはそうだ。土壇場で決めるような代物じゃない」

男「父上から聞いたって……何かきな臭い香りがぷんぷんするんだが……」

青年「誤解しないでくれ。僕の家から学校側に圧力をかけるなんてしないさ。あくまで、厳正な審査による結果とのことだよ」

男「厳正な審査ね……」

男(ま、こいつなら何もしなくても選ばれるのは当然か)

青年「…君、さっきから他人事みたいな顔してるね」

男「それは、俺みたいな一般人には無縁の話だからな」

青年「………」

青年「本当は教えてはダメなんだけど……君にだけ」

男「?」

青年「何も聞いてないフリをしてくれよ?」

青年「──君も、その代表生の一人なんだ」

男「はっ!?」

青年「良い反応だねぇ」



男「さすがにそれは冗談だろう…?」

青年「本当だとも」

青年「…代表生に選抜される条件を知っているかい?」

男「いや…」

青年「家柄、容姿、素行とか、まぁ細かい基準もあるようだけど、もう一つ大項目があるんだ」

青年「それはね──成績だよ」

青年「君、勉強は然ることながら、運動も音楽も並外れて優秀だろう?」

男(…そのおかげで、俺みたいな何でもないやつが特別枠として入学させてもらえたわけだしな…)

青年「それが学長達の目に留まったんだろうね」

男「……あんまり注目されたくはないんだけどな」

青年「もっと喜びなよ。僕としては、親友が正当な評価を受けていることが分かって満足な結果さ」

青年「…ま!そういうわけだ!」

青年「僕はまた彼女に会えるし、君と向こうの授業を受けることも出来る!」

青年「近頃は嬉しいことが多くてね、この後に何か不穏なことでも待ってるんじゃないかと勘繰ってしまうくらいだよ」ハハハ

男「…今のお前には、不穏な影の方から避けていきそうだな」

男(………)





ーーー夜 女家 裏口ーーー

ガチャ...



女「」ヒョコ

女「……」キョロキョロ



(物静かな裏庭)



女「」コッソリ



タッタッタッ...





ーーー一本桜ーーー

~~♪



男「」~~♪



男(………)

男(……母さん……)

男(………)



男「」~~♪



男「……」~♪...

男「……」



スッ(腕を下ろす)



──パチパチパチ



男「!」

女「……」パチパチ...

男「来ていらしたのですか」

女「はい。熱心に弾いておられる様でしたので、少しばかり静観を」

女「昨夜と違わず、見事な演奏でした」



男「素敵なお客さんが聴いてくれていたからですよ」

女「…この花びら一つ一つが、ですよね?」フフッ

男「…それもあるかもしれません」クスッ

女「今日も綺麗に咲いていますね。……まるで夢の世界の桜のよう……」ジー...

男「……そういえば気になっていたのですが」

女「なんでしょう?」

男「今日も、なにか習い事の帰りなのですか?」

女「………いえ、実は……」

女「今日は、家を密かに抜け出してきました」

男「…!」

男「そんな…いくら家が近いからとはいえ、そのような……」

女「えぇ、分かっておりますよ。お父様に見つかれば、大目玉間違いなしでしょうね」フフッ

女「…ですが、この素晴らしい夜桜と、あなたの演奏を聴けるのなら、そのくらいは些事として許されてもいいと思っているのです」

女「……ですよね?」ニコッ



男(……)

男「……いえ、私は許しません」

女「え…」

男「まさか女さんがそのようなおてんばな方だとは思いませんでした」

男「…ふふ、罰として、歌を聴かせてもらいましょうか」

女「歌…ですか?」

男「はい。簡単なもので構いませんよ」

男「あなたの歌声を聴くことが出来れば、今日の行為を不問にしたくなるかもしません」ニッコリ

女「なんですかそれ……は、恥ずかしいです……」

男「……」ニコニコ

女「……うぅ、分かりました」

女「それでは、短いものですが、一つだけ」

女「」スー...ハー...

女(……よし)



女「~~♪」



.........







~~♪



女「♪~~…」



女「……以上、です」

男「」パチパチパチ

男「素晴らしい以外の言葉が見つかりません。透き通るような歌声……思わずバイオリンに手が伸びかけましたよ」

女「一緒に弾いて頂いてもよかったのに…」

男「今の私はただの聴衆ですから」

男「…機会があれば、また聴かせて頂けますか?」

女「……機会なんて言わずに、男さんが望むのであれば、よいですよ」

男「ほほぅ…なら早速もう一曲──」

女「き、今日はもうおしまいですっ!一日一つまでです!」

男「ククッ、望むのならという割に、厳しい制限だね?」

女「!」

女(今の喋り方……これが男さんの素…?)

女(…もっと知りたい、この人のことを)

女「男さん」

男「ん?」

女「その……あなたの……」



女(ダメ…あなたのことが知りたいなんて、直接的過ぎて言えない…)

女「…バイオリンを始められたきっかけは何だったのですか?」

男「っ」

男「……」

女「…?」

女(!この目、昨日と同じ…)



ーーーーー

男「──私の奏でるこのバイオリンの音が、彼らの傷を少しでも癒すことが出来ないかと……」

ーーーーー



女「……すみません、私──」

男「──父が昔、嗜んでおりまして」

女「…お父様の進言で始められた、と?」

男「父に言われたわけではないのですけどね」

男「……母が、父の弾くバイオリンをとても気に入っていたみたいなのです」

女「まあ…!それではお母様にお聞かせするためにやられているのですね!すごく素敵な理由だと思います」

男「そう、ですね……」

女(まだあの悲しい目をしている…)


男「………」チラリ

男「…母は、亡くなっているんです。私を産んだと同時に」

女「─!」

男「元々体の強い方ではなかったようなのですが、以前の戦争の最中に大きな怪我を負ってしまい……それが原因で出産に耐えられるかどうかギリギリの体になってしまったみたいなのです」

男「しかし私を身籠った時、周囲がどれだけ反対しても絶対に産むと譲らなかったようで……」

男「…その結果、母と引き換えに私という人間がこの世に生を受けることになった、というわけです」

女「──」

女(そんな……それでは昨日の独白は……心震わせるあの独奏の意味は……)



ツー...



女「……」ポロ..ポロ..

男「!?」

男「女さん…!どうかされましたか!?何か不躾なことを言ってしまったのなら申し訳ありません…!」

女「いいえ、違うのです…」ポロポロ



女「ただ…男さんがバイオリンを演奏する意味を考えていたら……どうしても……」ポロポロ

女「ごめんなさい…!不躾な質問をしたのは私の方です…!」ポロポロ

男(この人は……)

男(なんて感受性の高い人なんだろう)



ーーーーー

青年「──彼女を絶対に幸せにしてやると心に誓っているんだ」

ーーーーー



男(確かに……守ってあげたくなる人だ)

男「……すみません、軽々しく聞かせるお話ではありませんでしたね」

男「ですが最後まで続けさせてください」

男「父から聞いた話では、母は私を産んだ直後、それは満足気に息を引き取ったとのことです。また、父も母が残してくれた最後の贈り物だからと、私に目いっぱい愛を注いでくれました」

男「一時期、私が母を殺したという自責の念に駆られることもありましたが、周りの方々の支えもあって私は今こうして幸せな生活を送れています」

男「…このバイオリンを弾くのも、勿論天国の母に届いて欲しいという思いもありますが、純粋に、弾くことが楽しいからしているのです」

男「ですので、どうか涙を止めてください」



女「そう……ですか……」ポロ..ポロ..

女(……嘘)

女(だって、ずっとあの目をしているんだもの)

女「……」ポロ...

女「…お見苦しいものを見せてしまいました」

男「いいえ。むしろ、感謝したいくらいです。私なんかのために涙を流してくださるなど」ニコッ

女「……」

女(支えになりたい)

女(この人の心に空いた隙間を、埋めてあげたい…)

男「それはそうと、女さん」

女「はい…?」

男「まさかとは思いますが、明日もここに来られるつもりでしたか?」

女「えぇと、その通りですけれど……もしや男さんの都合が付かないのでしょうか…?」

男(!…俺が居ること前提なのか)

男(………)



男「そうではないのですが……」

男「日にちを決めておきましょう」

女「あ…それもそうですね」

男「私は休日以外であればこの時間にここに来れますよ」

女「私もです」

男「……家を抜け出せば、ですよね?」

女「……意地悪です」

女「そういう男さんはどうなのですか?」

男「私は特段咎められることはありませんよ。日頃の行いが良いからでしょうね…なんて」

女「それは私への当て付けなのでしょうかっ」プクー

男「んふふ……責めるつもりはないんです」クックッ

女「むー……」

男「機嫌を直してください」

男「……話が逸れてしまいましたね」

男「取り敢えず、毎日顔を合わせるのはさすがに控えた方が良いでしょう。あまり頻繁に抜け出していては怪しまれてしまいますから」

女「……」

男(不服そうな顔だ…)



男「……隔日程度に…そうですね、週に三日くらいなら程よいかもしれませんね」

女「……まぁ、それなら……」

男(ふふ、分かりやすい人だな)

男「では、決まりですね。今日を含め、一日跨いだ前後二日の、計三日。これが私たちの約束の日にしましょう」

女「…はい」

男「さて!では心苦しいお話をしてしまったお詫びです。女さんのお聞きしたいことがあれば、何でもお答え致します」

女「!いいのですか…!」

男「えぇ」

女「でしたら、んー…まずは──」

男(……いや、分かっているんだ)

男(本当はこんなことやめさせるべきだと)

男(なぜなら、この人は彼の……)

男(……)

男(…だから、せめてこの桜が散るまでの夢としよう)





ーーー翌週末 学び舎ーーー

女「……」ボー

女(……はぁ、男さん……)



ーー四日前 一本桜ーー

女「──私の学校のお話ですか…?」

男「えぇ。是非お聞かせ頂ければな、と」

女「いいですけど……男さんのお話も同じようにしてくださいね?」

男「分かっていますよ」

男「……多分します」ボソッ

女「多分とは何ですか!多分とは!」

男「ははは、聞こえてしまいましたか──」

ーーーーー



女(ちょっぴり意地悪だけど、本当はとても優しくて)



ーー二日前 一本桜ーー

男「──と、私はそのお話を読んでそう感じたわけです」

女「まあ。その物語でしたら、私も少し前に授業で扱いましたよ」

男「そうなのですね……通う所は違えど、案外同じような進度で──」



ヒラッ



男「──あ……ふふ」

女「?どうしました?」

男「いえ…あなたのここに」トントン(自分の鼻を指さす)

女「え?」スッ



ヒラヒラ...



女(桜の花びら…)

女「やだもう……可笑しかったですよね……」

男「いや、絵になっていました。まるで絵画のようでしたよ」

女「男さん…!」パアァ

男「……本当は桜和菓子みたいだなって、ちょっと思ったけど」ククッ

女(…!)

女「どういう意味ですかそれは──」

ーーーーー



女(時折見せる素の彼が、たまらなく愛おしい……)

女「……」フッ...



女友「……」ジー

女友(女、また考え事してる)

女友(あんな恋する乙女みたいな顔して……)



ガララ



教師「さて、皆さんお揃いですか?本日はお帰りの前に、お知らせしておくことがございます」

教師「翌週の初め、第一高等学校の生徒との交流会があるのはご存知ですね?」

教師「彼等の中から代表生が数名、本校の授業を共に受けることになるのですが──」

教師「──あなた方の組に混ざって、受けてもらうことになりました」



「まあ…!」

「私たちが殿方と一緒に授業を…?」

「あの一高の方々と!」



ザワザワ



教師「静粛に!皆さんは本校を代表する組として選ばれたということです。くれぐれも粗相のないように振る舞うのですよ」

教師「それでは、本日も良い一日を」

生徒たち「「「良い一日を」」」



ガタッ ザワザワ...



女友(交流会ね…どんな人が来るんだろう)

女「……」ボー

女友「……まずはお姫様の意識を呼び戻しますか」ガタッ



ーーー交流会当日 学び舎 玄関口前ーーー

ヒソヒソ...



(綺麗に整列する生徒たち)



教師「──間もなく到着するお時間です。失礼のないようにお出迎えするのですよ!」

生徒たち「「「はい!」」」



女「……皆さん、いつもより意気込みを感じる」

女友「格式高い名門、一高の男性と過ごせるからでしょうね」

女友「一高といえば……ねぇ女、聞いてくれるっ?」

女「女友、あんまり声出すと注意されちゃうよ…?」

女友「う…それは気を付けるけど」

女友「でも言わせてちょうだい」

女友「昨日ね、お見合いをしたの」

女「え、また?ついこの間したばかりって言ってなかった?」

女友「そうなのよ。今まで月に一回程度だったから何事かとは思ったの。でもね──」

女友「──相手の人、これまでで一番素敵な方だった!」ズイッ

女「そ、そう」ヒキ...



女友「とっても謙虚で、真摯に私を見てくれる方でさ!私に下卑た視線を向けてきたり、金づるとしか見てなかったりした今までの男たちとは違う……」

女友「初めてお話してて楽しいと思える男性だったの。お見合いがあんなに短く感じられるなんて…」キラキラ

女「わぁ、良いことじゃない。じゃあその方と結婚を?」

女友「……それがねー、そのお見合い、お母様が勝手に取り付けたものだったみたいなの。あれこれうるさいお父様に内緒で」

女友「けど結局お父様にバレちゃって、一高に通ってるとはいえどことも知れない家の出の男にお前を任せられるかって、一刀両断されたわ」

女友「酷いと思わない?私はともかく、お母様の意向まで完全に無視して…」

女友「あーあ、せっかく素敵な方と出会えたと思ったのに」

女「女友が気に入る男の人…ちょっと気になるかも。なんていう方なの?」

女友「その人の名前?確か──」



「あ、見えましたわ!彼等ではなくてっ?」



女・女友「「!!」」

女友「来たみたいね」

女「えぇ」

女(……あ)



青年「……」スタスタ



女友「さすが青年さん。代表生の先導を任されるなんて。ね、お相手の女さん?」

女「…そうね」

女(……青年様……)



スタスタ スタスタ



女友「…あ、あの方よ、女!私がさっき言ってた方!」

女「この場に来れるなんて素晴らしいお人なのね──!?」







男「……」スタスタ





女(えっ…!男さん、どうして…!?)

女友「男さんって言うのよ。交流会に選ばれるくらいなんだから、お父様も認めてくれたっていいのに」

女(そっか…男さんの通われてた学校って第一高等学校だったんだ…そういえば訊いていなかった)



スタスタ...



(横一列に並ぶ代表生)



教師「……第一高等学校代表生の皆様、ようこそいらっしゃいました」ペコリ

生徒たち「「「ようこそいらっしゃいました」」」ペコリ

青年「」スッ(一歩前に出る)

青年「……第一高等女学校の皆様、本日はこのような素晴らしい会を開いて頂き、誠にありがとうございます」

青年「我々、第一高等学校の代表7名、貴女方と共に真剣に勉学に取り組み、良き交流が出来ることを約束致します」チラリ

女友「…今、女の方見たわよね」ボソッ

女「え、そうだった?」ボソッ

女友「気付かなかったの?」ボソッ

女「そうみたい…」ボソッ

女(だって、気になってしょうがないんだもの)チラッ



男「………」



ーーー学び舎 教室ーーー

青年「──青年と申します。本日はこのような素敵な方々と共に過ごせること、非常に嬉しく思っております。どうぞよろしくお願い致します」ペコリ



ワアァ...!



女友(前来ていた時も思ったけど、すごい人気ね……許嫁がいるっていうのに)

男「……」

男(青年のやつ…よくこの場であんな歯の浮くような台詞を言えるな…)

男「…男、と申す者です。本日はよろしくお願い致します」ペコリ

女(男さん、緊張してる…?ちょっとかわいいかも)フッ

青年「」ククッ

男「っ」

男(青年め…)



教師「ご紹介ありがとうございます。私共一同も、素晴らしい会となることを期待しています」

教師「では席の方ですが、最後列の6席と一列手前の1席…」

女(私の隣の席だ)

教師「…少々不便かもしれませんが、青年さん、そちらの席にお願いします」

青年「全く問題ありません」ニコッ

教師「青年さん以外の方々は後ろの6席をお使いください」

スタスタ

カタッ スッ...

女(男さん、一番遠い席に……隣、青年様ではなくて男さんだったら…)

女「」ハッ!

女(私は何を考えているの…これではまるで青年様をないがしろ、に……)

女「………」

青年「…?」

青年(どうしたんだろう。女さん、顔色が良くないような…?)

女友(男さんが後ろに…男さんが後ろに…!)ドキドキ

男(女の人ばかり……慣れない……)

教師「さて、授業の方を始めていきましょうか。一限目は国語です。教科書を出して、ページは──」



.........





ーーー休み時間ーーー



ガヤガヤ



「ね、あなたのそのお名前…あの大財閥の御曹司様ですよね?」

代表生A「……あぁ。よく分かったね。……覚えてくれているのかい?…ありがとう」ニッ

「なんてクールなお方…!」

「お声を聞いているだけで幸せだわ…」



「男様って、とても大人びて見えるのですけど、もしかして私達よりも上級生なのですか?」

男「…ふふ、同じことをよく訊かれます。皆様と同じ学年ですよ」

「まあ!そうなのですね!てっきり代表生様の中でも特別な方なのかと」

「出身はどちらなのです?」「きっと素晴らしい御家に違いありませんわ!」「私聞いたことあるかもしれません!確か遠い地の大名が祖先だとか…?」「通りでこの辺りでは聞かないはずです!」

男「え、えーと…皆様どうか落ち着いて…」

ワイワイ



男(活気があり過ぎる…!女三人寄れば姦しいとはこの事か)

男(…しょうがない)

男「……女友さん、お助け願えますか…?」

女友「えっ!?わ、私ですか!?」

「女友さん…?」

「なぜ貴女が呼び掛けられるのですか…?」

女友「いや、えー、その……実は先日この方とお見合いを致しまして」

「なんと!」

「抜け駆けでございますか…っ」

女友「ぬ、抜け駆けとは何ですかっ。お母様の正式な取り決めのもと行ったのです!やましいことなどありませんよ!」



ワーワー!



女「……」ジー

女(……皆さん、あんなに浮かれて……本校生徒としての振る舞いはどうしたのかしら…)

女(この惨状を先生がご覧になったら、反省会でも開きそう)

青年「彼らが気になるかい?」

女「…はい。とても、お淑やかと無縁な騒ぎだな、と」

青年「はは、そう言ってあげないでおくれ。彼女らもなかなか、こうして間近に異性を見ることが少ないだろうからね、どうしても浮き足立ってしまうのだろう」

女「その言い方ですと、ご自分は異性に慣れているように感じられますね?」

青年「手厳しいなぁ…」



スッ(女の頬に手を添える)



女「」ピクッ

青年「…僕は君一筋なだけだよ」

女「……せ、青年様、場所を弁えてくださいな…」

青年「ごめんごめん。つい、ね。君が妬いているみたいだったから」

女(……)

女「そんなこと……」ハッ!



(クラス中の視線)



女「……ゴホン。なんでしょう?」

生徒たち「「「………」」」

女「皆さん、少々浮かれ過ぎなのではないかと思うのですが、気付いておられますか?」

「……女さんがそれを言えまして?」

女友「私も女さんが一番青年さんと仲睦まじくしてたと思います」ニヤニヤ

女「今のは、別に…!」カアァ

男「……」ジッ...

女「…!」

女(男さん…?)



カランカラン!



「あら、次の授業ですわね」

青年「次の?先生の姿が見えないようだけど…」

「次は音楽なのです」

女友「演奏室で行うんですよ、青年さん」





ーーー学び舎 演奏室ーーー

音楽教師「皆様、本日の授業も歌唱を行ってもらいます。ですが、本日は第一高等学校の方も見えているので、少し特別な編成を考えています」

ザワッ

音楽教師「お静かに。……まずは発声練習からです。私に続いて発声してください。代表生の方々は、ご自分の楽器を準備してお待ちください」

代表生たち「「「はい」」」

音楽教師「では……ー♪ーー♪ーーー♪」



.........





音楽教師「……よいでしょう。歌唱に入っていきたいと思いますが」

音楽教師「本日は代表生の方々に伴奏をして頂きながら、皆様に歌って頂きます。また、それにあたり、お手本となる方を一名ずつ決めていきます」

音楽教師「伴奏係一名、歌唱係一名の計二名ですね」

「先生!それはつまり、選ばれる二人は代表生のお一人と、私たちの内から一人…ということですよね?」

音楽教師「その通りです」



ワァッ..!



音楽教師「……皆様」ジロ

生徒たち「「「」」」ビクッ

音楽教師「これはれっきとした授業であることをお忘れなきよう」



音楽教師「…歌唱係は私の方で決めさせて頂きます」

生徒たち「「「……」」」

音楽教師「そうですね……」

音楽教師「──女さん」

女「!…はい!」

音楽教師「お願いできますか?」ニッコリ

女「分かりましたっ」

女友(相手が女じゃ、誰も文句は言えないわよねぇ)

音楽教師「伴奏係については、代表生の皆様の中で是非にという方がいらっしゃれば、どうぞ申し出てください」

代表生たち「「「……」」」





青年「──はい」スッ





音楽教師「おや、貴方は、青年さんでしたか」

音楽教師「では貴方が伴奏係を行うということで──」

青年「いえ、違います」

音楽教師「む?」

青年「私は、この男という者を推薦させて頂きたく、こうして手を挙げたのです」

男「っ!?」

女(…!)



青年「この者、我が校でも随一のバイオリンの名手……この交流会にて、その腕前を存分に活かしてもらいたいと願っておりました」

音楽教師「なるほど…」

男「おい…!どういうことだよ…!」ボソッ

青年「事実を言っているまでさ。それに…彼女の歌は君の演奏にも引けを取らない程華麗なんだ。是非君に聴いて欲しくてね」ボソッ

男(……)

音楽教師「男さん、伴奏係引き受けて頂けますか?」

男「…はい。勿論です」

音楽教師「ありがとうございます。…良い友人をお持ちですね」

音楽教師「さ、お二人とも、前へ」



サッ、サッ、サッ...



女「……」

男「……」

音楽教師「こちらが楽譜になります」コトッ

男「ありがとうございます」

男(…これは)



ーーーーー

女「~~♪」

ーーーーー



男(あの時歌っていた曲か)



女「……」

女(…こんなところで男さんと一緒に歌唱出来るなんて…)

女(今日だけは決して間違えないようにしないと…!)

音楽教師「いかがでしょう。無理なく弾ける曲を選んだつもりですが」

男「はい。このくらいであれば、問題なく演奏出来ます」

ワー...!

女(皆さんそんなに驚いて……男さんなら当然です)

音楽教師「そうですか。それでは慣らしの意味も込めて、冒頭の部分を演奏して頂きましょう」

男「え…私一人で、ですか?」

音楽教師「はい」

男「……」チラッ

女「!」フイッ

男(………)

男「…では、恐れながら」スッ

(構える)

男「……」



...ピーー



男「──」

男(…第一音から、外した…)

生徒たち「「「………」」」

女「ク、フフッ……」カタフルワセ

男「……」

男「…申し訳ありません。少々緊張しておりまして。ですが今ので調子は分かりました。今一度…」スッ



~~~♪



.........





ーーー昼ーーー

「非常に美しかったです、男様の演奏!」

「青年様が推される理由が分かりますわ…!」

男「大袈裟ですよ、皆さん。私以外の彼等も十分──」

ガヤガヤ

女「……」

女(相も変わらず、取り囲まれてる…)

女(私も少しくらい男さんとお話したいのに)

女(でも…)



ーーーーー

男「」~~♪

女「~~♪」

ーーーーー



女(……とても楽しかった。男さんとの協奏)

女(今夜またしてもらおうかしら♪)



女友「女、今日やけに機嫌よくない?」

女「そう?」

女友「えぇ…傍から見て分かるくらいよ。珍しい。…いくら青年様が居るからって、うかうかしてると水を差されちゃうかもよ?ほら」ユビサシ



青年「──、───」ニコッ



女友「あんなに楽しそうに他の方と話をしてる」

女「あら……」

女友「ね?行ってこなくていいの?」

女「……大丈夫。あれしきでかどわかされる方ではないから」

女友「おー、さすが本妻の余裕ってやつだねぇ」

女「…女友も、今日はずっとおおっぴらな態度ね」

女友「やっぱりそう思う?だってあの男さんとこんなに早く再会出来たんだもの。…なんかね、こう運命のようなものを感じちゃうのよね…!」キラキラ

女「すっかりお熱になっちゃって……」

女(……いえ、お熱なのは女友だけじゃない)

女(だって男さんのことを考えるだけでこんなにも……)



──トクン..トクン..



女(この気持ち、捨てたくない)

女(でも私は……)

女「……」



(朗らかに談笑する青年)



女「………」グッ...

女友「……女?」







「──男様は、心に決めた方はおられるのですか?」





女(!!)

女友「!?」バッ

「ちょっとあなた、そこまで訊くのは失礼に値するわよ!」

「そうは言っても、知りたいものは知りたいのです。あなたこそ気になりませんの?」

「……気になりますけど」

「ほらっ」

男「……実は恥ずかしながら、女性と触れ合う機会が少なかったもので色恋には疎いのです」

女「……」

女友「」キキミミ

「そうなんですの?お見合いはされたとおっしゃっておりましたけど…」

男「そうですね…見合いの場でお会いしてきた方々は皆、良い人ばかりでしたよ」

「…男様、そのような無難な模範解答では、ここにいる皆さんは満足されませんよ?」

女友「」ウンウン

男「えっと…参りましたね、はは……嘘ではないのですが」

「では、その……私たちのうちから決めるとしたら、どなたがよろしいでしょうか…?」

男「えっ…」

ザワッ!



「いくらなんでもその質問は……」

「いいえ、よく言いました!恋の前には淑女の振る舞いなど些細なこと…!」

男「あ、はは……」

男「あの、この話はここで終わりに致しませんか?貴女方に優劣をつけるなどとてもとても──」

生徒たち「「「終わりません!」」」

女「………」

女(……)

女友「もう…あの人たちなんて態度をとっているの…あんな醜態を晒すための交流会ではないのに…!」ソワソワ

女友(誰を選ぶのかとーっても気になるけど!)

女「女友、私少し出てくるわね」

女友「え?うん、分かった。鐘が鳴らされる前に帰って来るのよ?」ソワソワ

女「分かってる」



スクッ スタスタ...



青年「……」





ーーー学び舎 演奏室ーーー



...ガチャ

サッ、サッ...



女「……」

女「……」

女(先程まで、ここで歌っていたのね)

女(…男さんと一緒に)

女「すー……ふぅ……」

女(あの人のことを考えるだけで、こんなに心が温かくなる)

女(あの人の隣に居るだけであんなに顔が熱くなる)

女(あの人のちょっとした一面を知れただけでとても嬉しくなる)

女「……男さん」

女(──名前を口にするだけで、こんなに胸が締め付けられる)

女(あの方を誰にも取られたくない。毎日でもお話したい)



ギュ...(胸に手を当てる)



女(これが、恋というものなのね……)

女「……」





ーーーーー

女父「──青年殿ほどお前のことを想ってくれている男は他におるまい」

ーーーーー



女(……けれど、この身はもう青年様のもの)

女(物心ついたときからそう決められている……)

女(それが当然だと思ってた。お父様方が決めてくださった素敵な方のもとに嫁いで、世の女性たちと同じように幸せな日々を享受していくのだと)

女(なのに)



ーーーーー

男「」~~♪

ーーーーー



女(…あなたの音色に包まれたその時から、私にとっての幸せは変わってしまったの)

女(私の世界に音が──躍動が、満ちた瞬間。あの場に舞う、桜吹雪のように…)

女「……っ」

女(あぁ……いっそ何もかも捨て去って、あなただけを想って生きていきたい……)

女(婚儀まであと半月……それで私の人生は固定される)

女(この想いも、桜が散るまでの夢となってしまうのかしら……)







青年「……随分お悩みのようだね、お嬢さん」





女「!」フリムキ

女「……青年様、どうしてここへ……?」

青年「思い詰めた顔で君が出て行くのが見えたからさ」

女「………」

青年「…なんだか、今日の君は少し忙しない。そう感じるのはきっと気のせいではないよね?」

女「……」

青年「打ち明けてくれないかい?辛そうな君を見るのは、僕も心が苦しいよ」

女「……それはどのような意味でおっしゃっているのですか?」

女「単なる同情心?青年様の優しさ故?それとも──」

女(番になると決められた相手だから──?)



青年「誰かが苦しんでいるのなら、救い出してあげるのが人情……それが人の本来あるべき姿だ」

青年「……なんて受け売りの言葉さ。そんな格好のいいことを言えるほど、僕は出来た人間ではないからね」

青年「僕はちっぽけな一人の人間なんだ。だから、僕が守れるのは一人だけでいいのさ」

青年「……自分の愛する人だけでいい」

女「青年様…」

女(この方はこんなに、私のことを真っ直ぐ想ってくれている)

女(……私は……)

女「………」

青年「………」

女「……桜が、ですね」

青年「……桜?」

女「はい。ここからも少し見えます」



(窓の外に咲く桜)



女「……これだけ幻想的に咲いたのに、散ってしまうのが心細くて」

女「つい感傷的になってしまったのです」

青年「…桜は居なくならないよ。一年経てば同じ景色が帰ってくる」

青年「その時は、またあの桜並木を見に行こう」

女「……ふふ、そうですね」

青年「………」



サッ、サッ



青年「……女」

女「はい…─!」

女(近い…いつの間に…)

青年「……」ジッ

女「あ、の……青年様…?」





スッ...



女「…!」

女(顔……近付いて……)

女(これって………)



ーーーーー

男「──」ニコッ

ーーーーー



女(……い、いやっ)



トンッ!



青年「!」ヨロ...

女「…あ、ごめんなさい。私、その……」

青年「……」

女「……戻りますっ…!」



タッタッタッ…



青年「………」





ーーー学び舎 教室ーーー

教師「皆さん、本日はお疲れ様でした。代表生の方々のお見送りも済み、ひとまず交流会を無事に終えることが出来たと言ってよいでしょう」

女「………」

女友(女、お昼に戻ってきてから一言も喋ってないけど…)



ーーーーー

ガヤガヤ!

女友(男さん、誰の名前を口にするんだろう)ソワソワ

女友(もしそれが私なら……)

女友「」ニヘヘ

青年「──女友さん」

女友「!?っはい!」

青年「そろそろ男のやつを助けてあげてくれないかな?彼、ああ見えて押されると弱いんだ。僕はちょっと行かなくてはならない所があって」

女友「あ…分かりました」

女友「……女さん、ですか?」

青年「……」ニコッ



スタスタ...



ーーーーー



女友(……なにかあったのよね)

女「………」

教師「私共にとっても、彼らにとっても、素晴らしい経験となったと……」

教師「……そう言いたかったのですがね」

女友(え…?)

教師「──別の組の方からお聞きしました。授業の合間時間、正午の休憩……貴女方が彼らの前でどのような振る舞いをしていたのか……」

教師「皆さん、本日は特別補習です。全員、こちらに反省文を書いて頂きます」ニッコリ

「そ、そんな……!」

教師「当然です!あれだけ第一高等女学校の生徒としての自覚を持つように言い含めておりましたのに…!」

女友(あちゃー……)

女「………」



女(………)





ーーー夜 女家 女の部屋ーーー

女「………」



(ベッドに横たわる女)



女「………」



ーーーーー

青年「──女」

ーーーーー



女(……あの時)

女(青年様は、多分……)

女(口付けをしようと)

女「……」

女(それを拒んだのは、私…)

女(いえ、それより、あの瞬間思い浮かんだのは……)



女「………」ゴロン...

女(……私はどうしたらいいの……?)

女(教えてよ…彼と私を引き合わせた意地悪な神様…)

女「……」ギュ...

女(……)

女(今夜も男さんとの約束の日)

女(会えば、なにか分かるかな)

女(ぐちゃぐちゃになった私のこの胸の中……ほどいてくれるかな)

...ムクリ

女「………」



スタスタ ガチャ...





召使「あれは……お嬢様?」





ーーー一本桜ーーー

女「……」テクテク

女「……」テクテク



男「………」ジッ...(地面を見つめる)



女「……今日は弾かれていないのですね」

男「…昼間、十分に演奏しましたから」

女「あなたと共演出来て良かったです。珍しいものも見ることが出来ましたし」クスッ

男「私も失敗することくらいあります。……あんなに笑っていたのは女さんくらいでしたよ?」

女「だって普段澄ましてる男さんが……ふふっ」

男「……」

男「…あの授業がとても楽しかったのは同じです。あなたとの協奏、よもや交流会で実現するとは思ってませんでしたが」

女「そうです、そこです!」

女「男さん、どうして言ってくださらなかったのですか?第一高等学校に通われていること、今日代表生として参加されること…!」

男(……)

男「訊かれませんでしたからね」チラリ

女「む……それくらい教えてくださってもいいではないですか……」



男「……なんだか」

女「?」

男「初めにお会いした時より少し…欲張りさんになりましたね?」フフッ

女「!?」

女「ご、ごめんなさい!幻滅させてしまいました、よね……」

男「いいえ、とんでもない。むしろ、飾らない女さんが見られて嬉しいですよ」

男「あなたの知らなかった部分を知るのが、最近の楽しみの一つなのです」

女(!…私と同じ…)

女「……でしたら、男さんも私の前では余所行きの仮面をはずしてくれませんか?」

男「仮面?」

女「はい。手始めにその堅苦しい話し方をやめて頂く、というのはどうです?」

男「……堅苦しくないというのは、こんな感じかな?」

女「!…はいっ」

男「砕けた口調で喋るのなんて、家族か友人くらいなものだけど……」

男「……やはり違和感がすごいです。女さんに対してとても失礼なことをしている気分になります」

女「……」ムッ



女「…では、男さんにとっての私とは何なのですか?」

女「家族ではありませんし、ご友人でもない……だとしたら、今こうしてあなたの前にいる私は、どういった存在なのでしょう?」

男「………」

女「………」

男「……知人、というのはいかがですか?」

女「っ……」

女「…そのような言葉遊びが聞きたいのではありません」ボソッ

男「………」

女「………」

女「お見合いを、したそうですね」

男「……えぇ。私もよい年齢ですから」

女「……………」





テク..テク..



──ギュ(手を握る)



男「─!」

女「……」ウツムキ

女「……私は、嫌です……」

男(何が──など、訊かなくても分かってしまった)

女「………」

男(伏したその表情が、雄弁に物語っていたから)

男「………」



ギュ(手を握り返す)



女「……!」

男「……ありがとう」

男「あなたの気持ち、痛いほど伝わってきます」

男「私は幸せ者ですね。あなたのような素晴らしい方から……」

女「……」



男「ですが……ここまでです、女さん」

男「これ以上はもう、私の存在はあなたが歩むべき道の障害となる」

女(──っ)

女「………分かって……おります……」

女(障害……)

女(…その通りなのかもしれない)

女(あなたは私の人生に突然現れた闖入者。私が思い描いていた"予定調和の幸せ"をことごとく崩していった)

女(そして……あなたの言う通り……本当は理解してる)

女(この想いは叶えることが出来ない──叶えてはいけない)

女(……そんなこと、分かりたくなかった……!)

女「……」グッ...

男「……女さん、手、少し痛いです」

女「知りません……」

女「痛いのなら、振りほどけばいいじゃないですか…!」

女(一思いにこの手を払ってくれれば、私の絡まったこの気持ちも、切り捨てることが出来るのに)

男「……」

女(──あなたは決して自分から振り払うことはしない。そういうお人…どこまでも優しい)

女(……でもその優しさが、今の私には苦しいよ……)



女「………」

男「………」

男「……私、意外に抜けているところが多いのです」

女「え…」

男「一高に入学した初日、教室の場所が分からなくて学校内で迷ってしまっていました」

男「それだけではありません。一度間違えて、卒業したはずの中等学校へ登校しかけたこともありました。そこの恩師と挨拶を交わすまで気付けなかったものですから、狐にでも化かされていたのかと思いましたよ」

男「結局、その恩師と笑い合ってから、その日はめでたく遅刻をしてしまったのですけどね」

女「……クスッ、なんですか、それは」

女「どこか緩いところのある方だとは思っていましたが、そこまでといくと反対に大物のような気がしてきます…ふふ…」

男「……よかった、笑ってくれた」

女「…?」

男「女さんには、そんな難しい顔は似合いませんから。普段見せてくれる笑顔の方が、好きです」

女「──」



女(……)

女「…些か、強引ではないですか?」

男「不器用なもので……これで勘弁してくれませんか」



ーーーーー

男「──実は恥ずかしながら、女性と触れ合う機会が少なかったもので色恋には疎いのです」

ーーーーー



女(……そういえば)

女「…では、私からの質問に答えてくれたら、勘弁してあげます」

男「はい。それくらいで、いつものあなたが戻ってきてくれるのなら」

女「……ちゃんと答えると、約束して頂けますか?」

男「勿論」

女「……フフッ」

女「では……男さん」





女「誰をお選びになったのですか?」





男「………ん?」

女「聞こえませんでした?」

女「今日のお昼の時、訊かれていましたよね。私たちの組の方から誰かを選ぶとしたら、どなたがよろしいか…と」

女「是非その答えを聞かせて頂きたく思います」ニッコリ

男「………あの時は、誰とも答えてはいませんよ?彼女たちに優劣を付けるような所業ですし、女友さんが皆さんを止めに入ってくれてましたから」

女「……でしたら、今お決めください」

女「まだ日も跨いでいませんし、どなたが居たかくらい、覚えていますよね?」

男「待ってくれ待ってくれ……女さん自分が何を言っているか──」

女「約束」

女「…致しましたよね??」ニコッ

男「えー、と………」

男(今そんなことを訊くなんて、ほとんど脅迫のようなものじゃないのか…!?)



女「……」ニコニコ

男「…分かりました」

女「!」

男「ですが、それは今日の去り際にお話します。……楽しみはとっておいた方がよくありませんか?」

女「んー……では、その口車に乗せられてあげます。もう今から待ち遠しいですね」チラッ

男「……はは」

女(……)

女(嗚呼、夢桜、どうか散らないでいて)

女(彼とのこの時間はきっと、短い夢の中に消えていってしまうのでしょう……)

女(けれど今だけは……今だけは──)





女(──想っていたい)





ーーー翌日 女家ーーー

女「……」スタスタ

女(男さん、なんだかんだあの問いに答えてくれなかった……上手いことお茶を濁されてしまった気がする)

女(また次回、問い詰めてあげないとっ)

女「……」スタスタ

女「……」スタ...

コンコン

女「お父様、私です」



「入りなさい」



ガチャ パタン

女「ご用とは何でしょうか?」

女父「うむ……」

女父「………」

女「……?」


女父「……女、昨晩どこに行っていた?」

女「っ!」

女父「召使から報告があった。夜な夜な部屋を抜け出し、外に出ていたようだな」

女「……」

女父「何をしていたんだ?」

女「……夜桜を見ておりました」

女「先日歌の習い事からの帰りがけ、ふと見かけたその桜があまりに綺麗でしたので……つい」

女「無断で夜間の外出をしていたことについては、申し訳ありません……」

女父「……」

女父「…それは、男女で仲睦まじく見なければならないものなのか?」

女(──っ)

女「……」

女父「女、私が何を言いたいか、分かるな?」

女父「婚儀そのものは翌週に控えているとはいえ、お前の身は既にお前のものではないのだ」

女(……)



女父「賢いお前のことだ。それくらい自覚していると思っておったのだがな……」

女「……あの方とは、昨日偶然お会いしただけです」

女父「……」

女父「男、というそうだな。青年殿と同じ第一高等学校に通っているとか」

女父「…彼にはもう、お前に近づかないよう言い聞かせておいた。況んや、この家そのものにもな」

女「なっ…!」

女「そんな!勝手過ぎます!あの人は関係のない単なる知人です!」

女父「勝手なのはどっちだ!お前はまだ自分の価値が分かっていないのか!?今このことが青年殿の家に知られたらどのような措置が取られるか分からんのだぞ!」

女父「男という人間など知らなかった……今ならそれで済むのだ」

女「青年様以外の異性とただお話することさえいけないのですかっ!」

女父「そうだ!」

女父「それが世の常。この時代の女子(おなご)としての有り様だ」

女「っ……」



女「……私は、装飾品ですか」

女「意思のない飾り。側に置いておくだけの木偶」

女「それが女性の常識というのなら、私は女になど生まれて──」



バンッ!



女「」ビクッ

女父「……いい加減にしなさい」

女「……」

女父「お前は混乱しているだけだ」

女父「…どうするのが自分の幸せなのか、見失ったわけではあるまい」

女「………」

女父「………」

女父「……もう行ってよい。自分の部屋で頭を冷やしてきなさい」

女「………」



サッ..サッ..サッ..

...ガチャ



女父「…召使を、側につけておく。お前の自由を奪うつもりはない、念の為だ」

女「……」

女父「……聞き分けのよい女が戻ってくるのを、待っているぞ」

女「……失礼します」

パタン

女父「………」

女父「………」

女父「女……」





ーーー男家ーーー

男「………」



トッ、トッ、トッ



男父「使いの者は帰ったよ、男」

男父「しつこいくらい関わらないよう念を押してきたから、最後は締め出してやったがね」

男「……そう」

男父「……ずっとそこで座ってたのか?」

男「……」

男父「……」

男父「女さん、だったかな」

男父「私も名前くらいは知っているよ。この町で知らない人はいない程だ」

男「……」

男父「そうか。この頃、暗くなってから出かけることが多いとは思っていたが、その子のもとへ行っていたんだな」

男父「……近いうちに婚儀を執り行う娘と逢瀬を重ねる。確かにそれは世間から見れば褒められたことではないだろう。だがな、私は嬉しく思っているんだ」

男父「これまでずっと母さんの跡を追い求めていたお前が、初めて外に目を向けてくれたんだからな」



男「……女さんとは、そんなんじゃないよ」

男「それに、これで良かったんだ」

男「父さんの言った通り、身を固める女性と人目を盗んで会うなんて、不徳にも程がある。こんなこと、続ければ続けるほど彼女を傷付けるだけなんだ」

男父「……」

男父「すまないな。頼りない父親で…。私がもっと由緒ある家の出だったら、お前にこんな思いをさせずに済んだろうに……」

男「頼りない…?そんなこと一度だって思ったことはないよ」

男「父さん一人で俺をここまで育て上げてくれた。いつでも俺から目を逸らさず向き合ってくれた……こんなに誇れる父親は他にいないさ」

男父「……ありがとうな……」

男父(……)

男父「少し、昔話をしようか」

男「……」

男父「…母さんとの馴れ初めの話だ」

男「っ!」

男父「気になるか?お前にそこまで聞かせたことはなかったからなぁ」



男父「…お前も知っての通り、母さんは元々何でもない村の娘だったんだ。私はこれでも一応貴族の端くれではあったからね、普通なら接点なんてないんだが……」

男父「その頃の貴族の間では度胸試しなるものが流行っていてね。今では立ち入りが禁止されている町はずれの森があるだろう?あの中心には、戦争で出来た大きな穴があってな。そこから突き出ている不発弾を触って来る……というものだった」

男「!?…そんなの危険過ぎるじゃないか!何考えてたんだよ!」

男父「はは、本当にな。けどな、あの頃は必死だったんだ。そうでもしないと、周りの立派な家の子達からは認めてもらえなかったからね」

男「ともかく、私はその場所に行って、不気味に飛び出た不発弾のごく端っこの方をちょっとだけ触ろうと手を伸ばしたんだが……あろうことか足を滑らせてしまってな。あわや穴に落ちてしまいそうになったんだ」

男父「そんなに深くはないがそれでも落ちればそれなりの怪我は免れない。自力で這い上がるのは難しくて、徐々に腕に力が入らなくなってきてから、無駄と分かってはいながら大声で助けを呼んだ」

男父「あんなに必死に叫んだのは人生であの時くらいなものだ。そしたら、驚いたことに一人の女性が来てくれたんだよ」

男「それが……」

男父「そう、母さんだ」



男「……とんでもないけど、忘れられない出会い方だったんだな」クスッ

男父「はっはっは。まあ、助けてもらったから好きになったとかじゃあなくって……」

男父「単なる一目惚れだったんだがな」

男父「そんな経緯で母さんとはよく会うようになって、少しずつ親密になっていったんだが……母さんに対して及び腰になってしまった時期があったんだ」

男父「なにせ自分は貴族、相手は平民。この身分の差が、母さんを苦しめてしまうことになるのではないか……とね」

男父「鋭い母さんは、私の態度の変化をすぐに見抜いて、詰問してきた。誤魔化すのも嫌だったから、全て伝えたよ。私が何を不安に思っているのか、このまま母さんの近くに居ていいのか……」

男父「そしたら、それを聞いた母さんは笑ってこう言ったんだ」

男「……」







男・男父「「好きに生きればいいじゃない」」





男「……母さんの口癖、だろう?」

男父「そういうことだ」

男「散々父さんから聞かされていたけど……初めて聞いたのはその時だったんだな」

男父「あぁ。不思議とスッと入ってきたよ。私の一番好きな言葉だ」

男父「母さんは言うだけあって、最後まで自分の思うように生きていたよ」

男父「……お前という、かけがえのないものを残してな」

男「……」

男父「結局私は、母さんの言うような生き方が出来ているのか…今でも分からないが……」

男父「……男、お前はこのままで良いのか?」

男「………」

男父「………」



男「…良いも何も、俺は彼女の辿る道の異物でしかない」

男「異物は退けられ、彼女はこれまで通りの道を進んで行く……それが自然な成り行きさ」

男父「……」

男父「…私は、お前がどんな選択をしようと、否定しない」

男「……」

男父「それはきっと母さんも同じだろう。親というのは、いつでも子供の幸せを願っているものだ」

男「………」



ーーーーー

女「──私は、嫌です……」

ーーーーー



男(………)





ーーー女家 女の部屋ーーー

女「………」

女(………)



ーーーーー

男「──男、と申します。しがないただの学生です」

ーーーーー



女(……あの日、夜桜を見ようと思わなければ……)

女(手近な桜の木で満足していれば……)

女(……私たちは出会うことはなかった)

女「……」

女(出会うべきじゃ……なかったのかな……)

女「……」グッ...





コンコン



召使「お嬢様、夕食のご用意が出来ました」

女「…食欲がないのです。今は要りません」

召使「……では、失礼して机上に置かせて頂きます。お嬢様の気分が良くなりましたら、お召し上がりください」

ガチャ スタスタ

女「……」

召使「…こちらに並べていきますよ」

カタン コトッ カチャ

召使(……)チラッ

女「………」

召使(…私のしたことは間違っていないはずだ)

召使(お嬢様に仕える身として、正しいことをした)

コト、コトン...

召使(何より、あんな男がお嬢様の心を奪うなど……)

召使(……その相手が、私だったなら……)

召使「これで全てです。私は部屋の外におりますから、何かございましたらお呼びください」

女「………」

召使「…失礼致します」

スタスタ ガチャ

...パタリ

女「……」

女「………男、さん」

女(忘れるしかないのですか……?)





ーーー数日後 学び舎ーーー

女「………」

女「………」



テクテク



女友「……女、いつまで座ってるの?もう帰る時間よ」

女「…えぇ。そうね、ごめんなさい」

スッ

女「行きましょうか」

女友「……」



テクテク...



女「……」テクテク

女友「……」テクテク

女友(交流会の日以来、女は笑わなくなった)

女友(誰の目から見てもおかしいのは明らかなのに、周りには何でもないの一点張り……)

女友(何も言いたくなさそうだったから、私も少し見守ってきたけど)

女友(もう見過ごせない……女はずっと苦しんでる)



女友「……女」

女「なに?」

女友「交流会のとき…なんだよね?」

女「…!」

女「……なにが?」

女友「はぐらかさないで」

女友「何かあったんでしょ。青年さんと」

女「……」

女友「お昼の休憩のとき、青年さんが女を追いかけていったの知ってるんだから」

女「………」

女友「ねぇお願い。女が苦しむ姿をこれ以上見たくないの」

女友「自分の中に抱え込まないで。私にも背負わせて…!」

女「……ありがとね」

女「でも、これは私たちの問題だから、女友は巻き込みたくない」

女友「私は関係ないから引っ込んでなさいって?」

女「そんな言い方してないでしょう……」

女友「否定はしないんだ?」

女「……」



女友「……あぁもう!」

女友「ならいいわよ!今から私青年さんの家に行ってくる!それで直接問い質してやるわ!女に何があったのか答えなさいって!」

女「何を言ってるの…!」

女友「私は本気だからね。女の暗い顔を見る毎日が続くなら、殴りこみくらいやってやるわよ!」

女「わ、分かった!言うから、落ち着いてよ!」

女「……あの日、接吻をされそうになったの」

女友「……へ?」

女「ひとりで少し考え事をしていたら、青年様がやってきて……初めは軽くお話していただけだったのだけど、不意に青年様の雰囲気が変わって、それで……」

女「……私は、拒んでしまったの」

女友「いきなり襲われかけた…ってこと?」

女「いいえ。そんな浅ましい様相ではなかったし、脈絡が全くなかったわけでもないのだけどね……」

女友「そう、青年さんが……」

女友「大胆なことをするのね、あの方は」

女友「……けど、さ」

女友「女と青年さん、翌週の婚儀を以って夫婦になるのよね?」

女「……」

女友「青年さんのしたことを肯定するわけじゃないけど……なんで女は拒絶しちゃったの…?」



女(………)

女「……ちょっとね、怖くなってしまって」

女「心の準備も何も出来ていなかったものだから、つい、そのまま逃げてしまったのよ」

女友「……それから青年さんとは話をしたの?」

女「………」

女友「女……」

女「大丈夫、平気よ。もうしっかり向き合う心積もりは出来たから」

女(──嘘)

女友「本当に?今の今、そう思い込んでるだけとかじゃなくて?」

女友「あのね、一度芽生えた不安ってそう簡単には──」

女「心配し過ぎよ。今までどんなことでも私が乗り越えられなかったことなんてあった?」

女(──私の心はぐちゃぐちゃなまま)

女友「それは、今まではそうかもしれないけど……」

女「青年様とも婚儀のときに話し合うつもり」

女「そしたらちゃんといつもの私に戻るから」

女「……安心して、女友」

女(──もう何を頼りに歩いて行けばいいのかも分からない)

女友「……信じるわよ、その言葉」

女「……」ニコッ



テクテク...





ーーー第一高等学校 多目的室ーーー



──ガラガラ ピシャリ



男「……それで、話したいことって何だ?」

青年「………」

男「………」

青年「……交流会があった日」

男(……)

青年「僕は愚行を犯したんだ」

男「……え……?」

青年「あの日の女さんは、これまでにないくらい落ち着きがないように見えた」

青年「時折表情に影が差すことさえあった」

青年「だから、僕はひとり悩んでいる彼女を追いかけて、心の重しを取り除いてあげるつもりだったのに……」

青年「……今にも消えてしまいそうなほど儚げな彼女を見ていたらね、僕の胸がこう…張り裂けそうになって……」

青年「──僕は彼女に、口付けをしようとした」

男「──っ!」



青年「……結果を知りたい?」

男「……」

青年「ふっ…拒絶されてしまったよ」

青年「怯えた目をしていた……当然だよね、あんな浅ましい行為に出てしまったんだから」

青年「……なぁ、僕は彼女を幸せにしてやれないのかもしれない」

青年「愛する人一人、慰めてあげることすら出来ず、それどころか傷付けてしまう始末」

青年「男……僕はこのまま、彼女の夫となっていいんだろうか……?」

男「………」

男「…俺に訊いてどうするんだよ」

青年「分かってる。これは僕と女さんの問題だ」

青年「でもさ、怖いんだよ」

男「……」

青年「僕は男だ。これから妻に迎える女性を力強く引っ張っていくことだけを考えてればいいんだろう。それが夫の役目」

青年「だが、彼女と次に会う翌週の婚儀……」

青年「次に顔を合わせるその時、もしも一瞬でもあの怯えた目を向けられたら、僕は……」

男「………」

青年「はは……自分勝手だな僕は。そうなる原因を作ったのは他ならぬ僕なのにな」

青年「それに、酷く情けない……」

男(………)







男「好きに生きればいいだろう」





青年「!」

男「お前がここでどんなに思案に暮れたところで、それが彼女に届くわけじゃない」

男「結局彼女が分かるのは、お前の言葉と行動」

男「だったら伝えればいいだけだ。お前が彼女のことをどう思っているのか、自分はどうありたいか」

男「……なぜ口付けをしようとしたのか」

青年「……」

男「男性が女性に弱音を見せることが情けないって?」

男「そんな下らない常識に囚われて仮初めで塗り固めた生活を送る方が、よっぽど情けないと思うけどな」

青年「………」

青年「──」

青年「」バッ!



ガシッ(肩を掴む)



男「うぉ!な、なんだ…!?」

青年「男っ!」

男「あぁ…?」

青年「やっぱり君に相談して正解だった!」

青年「君はいつもそうだった。僕に変な同情や気遣いをしないで意見をくれる。その度に僕は」

青年「──こうやって新しい道を見つけ進むことが出来た」

青年「ありがとう。君は最高の友だよ」ニカッ

男「……おう」

男「ま、お前が普段飄々としてるくせして臆病なのは今に始まったことでもないしな」

青年「そんな風に僕のこと思ってたのかい!?……事実だけどさ」

男「心配するなって。多分俺以外の奴は誰も気付いちゃいない」

青年「気付かれてたまるか……こんな弱い僕を」

青年「僕は旧家の青年だ。そこだけは絶対に譲ってはいけないんだ」

青年「僕の弱さを知ってるのは、君と……彼女だけでいい」

男(……随分信頼されたもんだ)

男(………)



男(仮初めで塗り固めた、か……)





ーーー夜ーーー

女「……」テクテク

女「……」テクテク

女(……あぁ、やってしまった……)

女(歌の習い事だというのに、今日はもう、声もまともに出せなかった)

女(先生からは帰るように言われてしまうし……)

女「……」テクテク

女(だって、歌おうとすると、思い出してしまうんだもの)

女(あの日同じ音色を奏でたこと)

女(思い出してしまって……胸が苦しくなる)

女「……」テク...

女「……」

女(あなたと出会った日の夜もこんな帰り道だった)

女(あの綺麗に咲き乱れる桜の下で、あなたの音色を見つけた……)

女「………」



タッタッタッ...





ーーー一本桜ーーー



タッタッ...



女「はぁ…はぁ…」

女(疲れた……)

女(……無理に、走り過ぎちゃったかしら……)

女「はぁ……ふぅ……」

女「」キョロキョロ

女(………いない)

女「……そうよね」

女(これでいいの)

女(これが"普通"なの)

女「……」

女「……」ミアゲル



(大きな一本桜)



女(……あんなにたくさんの花をつけていたのに)

女(もうまばらに残すだけ……)



女「………」

女「…ありがとう。立派な桜さん」

女「あなたのおかげで素敵な夢を見れた」

女(うん、夢)

女(あれは暖かい春の陽気が見せてくれた気まぐれな夢)

女(頭の奥にしまわれて、いつかふと思い出すこともなくなるような……)

女(そんな、夢)

女「……」

女「」スー...ハー...

女「しっかりしなさい、私」

女(一時の夢に心かき乱されて、何もかも見失うような人間になるの?)

女(違うでしょ)

女(私は──女という人間は、いつだって強く、可憐であるべき)

女(それが、皆の思い描く"私")

女「……帰りましょう」

女(ここからなら裏口の方が近いわね)

女(今日は歌の習い事も早退してしまったし……)

女(一回見つからないように自分の部屋に戻りましょう)



コソコソ...





ーーー女家ーーー



...コッソリ



女「……」キョロキョロ

女(……よし)



ススス



女「……」

女(ふぅ……なんとか部屋の前まで着けたわね)

女(ドアも、音を立てないように……)

女「」ソー...

キィ...

女「……」スッ

...ハタリ

女(……入れた)



女「………」

女(真っ暗ね)

女(天井の照明を点けたらバレてしまうから、弱い照明だけ……)

女「……」サッ、サッ

女(確かこの辺りに……)

チョン

女(!あった)



カチッ



女「……これくらいなら、辛うじて見えるし、外に漏れることもないわよね」

女(さてと)

女(あとはいい時間になるまでここで待って──!?)ギョッ





召使「………」





女「……め、召使……?」

召使「……」

女「驚かさないでくださいよ……幽霊でもないのですし……」

女(…いえ、待って。おかしい)

女(彼は、私が部屋に入る前から居たってことよね…?)

召使「……」

女「……ねぇ、あなたここで何をしていたの?」

召使「っ…」

召使「……私は、お嬢様のお部屋の整理をと思い……」

女「決められた時間ではないですよね?お父様の許可はとっているのですか?」

女「第一に……明かりも点けていなかったではないですか」

召使「………」

女「…召使。返答によっては私はあなたをお父様に突き出さなければなりませんが、黙っているということは、問答など必要ないと、そう捉えてよろしいのですね?」

召使「……」

女「……」



召使「……好き、なのです」

女「?…なんの話です?」

召使「お嬢様のことが、好きなのですっ」

女「……はい?」

召使「私がお嬢様に仕えるようになったのはほんの数年前でした。私は初めてお会いしたその時」

召使「──貴女に一目惚れしてしまいました」

召使「ですが当然、そんな気持ちを抱くなど従者として禁忌」

召使「しかしお嬢様から離れたくもなかった……」

女「…それで?」

召使「……ですから、時折こうしてお嬢様の留守の間だけ、部屋にお邪魔させて頂いてたのです」

女「……」

女「ここに居た、だけではないですよね」

召使「っ」

召使「………」

女「正直に言いなさい。何をしていたのです?」



召使「……………」

召使「……お嬢様の、お召し物を拝借して……」

召使「………慰め、を………」

女「………」

女「……下劣な男ですね」

召使「──っ」

女「自分の中で留めておくこともせず、利己的な欲求を発散させ」

女「…見損ないました」

召使「………」

召使「……仕方ないではないですか!」

女(!)

召使「この想いを告げることが出来たなら、すぐにでもそうしていました!ですが、私は召使。貴女にお仕えする身。そんなことは許されない」

召使「だったらせめて、貴女のことを少しでも身近に感じていたいと、そう思うことはいけませんか!?」

女「そんな言い分が通るとでも──」

召使「貴女も同じはずです!」

召使「もうじき青年様とご結婚なさいますよね。この御家を出て行くのもそう遠くはないのでしょう」

召使「…だというのに、あの男なる者と蜜月な関係を築いていたではありませんか!」

女「──……」



召使「……とどのつまり、そういうことです」

召使「誰かを好きになるという気持ちは、自分で抑え切れるものではないのです……」

女「……好きに……」

女(………)



男さん……



女(…………あ)

女(ダメ……!)

女(せっかく、この想いに見切りをつけたのに……!)

女「………召使」

召使「……はい」

女「このことがお父様に露見すれば、あなたはきっと解雇どころでは済まないでしょうね」

女(待って、私は何を言おうとしてるの…?)

召使「……」

女「あなただけじゃない。あなたのことを保証したご家族にまで、迷惑がかかるのではないかしら?」

女(やめて…)

召使「………」

女「…けど、内密にしておいてあげます」

召使「えっ…!」

女「私の提示する条件を一つ呑んでくれれば、ですが」

女(その先は言わないで…!言ってしまえばもう──)







女「──今夜だけ、私を見逃してください」





召使「見逃す、ですか…?」

女「そうです。私は今夜、大切な用事があるのです。けれど勿論お父様に言えば禁止されてしまいますから…」

女「あなたに証人となってもらいます。私が今夜ずっとここに居たことの」

女「大丈夫です。早朝には帰りますから。誰にも見つからずここまで戻ってきます」

女「…分かりましたか?」

召使「お嬢様……それは……」

女「……」ジッ...

召使「それ、は………」

女「……」





ーーーーーーー



タッタッタッ



女「はぁ……はぁ……」タッタッ



タッタッタッ



女「はぁ……はぁ……」タッタッ

女(もう、止まれない)

女(この足も)

女(溢れてくるこの想いも)

女「はぁ……はぁ……」タッタッ

女(私はなんてバカなことをしようとしているのかしら)

女(こんな、何もかも裏切るような……)

女(……でも関係ない)

女(これは、桜が散ってなくなってしまうまでの夢なんだもの)

女(聞き分けのいいお飾りに戻るのは、この夢が覚めてから)

女(それまでは、私はただのひとりの女の子)

女「はぁ……はぁ……」タッタッ

女(会えなくなってしまう前に、住まいの場所を聞いておいてよかった)

女(……息が苦しい……)

女(だけど……もう少し……)



タッタッタッ...





ーーー男家ーーー

男「………」



ーーーーー

男父「──お前はこのままで良いのか?」

ーーーーー



男(……いいんだよ)

男(これがあるべき姿)

男(無遠慮な余所者の手で、綺麗に咲く高峰の花を摘み取っていいわけがないんだ)

男「………」

男「……」チラリ

トッ、トッ、トッ...

カチッ グイ



サーー...



男「……風が、暖かいな」

男「………」

男(……花びらは落ちているのに、ここからじゃ桜そのものは見えもしない、か)

男(教室の窓からでも、密やかな花見くらいは出来るのにな)



男「………」

男(…あの桜は、もう散ってしまっただろうか)

男(最後に見たのは4日前……もっと昔のような気がしてしまう)

男(…4日程度じゃ、意固地な花弁がまだ枝にしがみ付いてるだろう)



ーーーーー

男「──あまり頻繁に抜け出していては怪しまれてしまいますから」

女「……」

男(不服そうな顔だ…)

ーーーーー



男(……少し意地っ張りなところは、あなたに似ているかもしれないな)フッ

男「………」

男「………」

男(素敵な時間を、ありがとう)

男「……寝るか」



──ザッ..ザッ..



男「!!」

男「誰だ!?」







女「はぁ…はぁ……男、さん……」





男「なっ……」

男「女さん……!?」

女「やっと……はぁ……見つけました……はぁ……」

女「ケホッ、ケホッ!」

男「…!無理に喋らないで。まずは息を整えて…!」

女「はぁ……はぁ……はい…」

女「ふぅ……はぁ……」

男(こんなに息を切らして…)

男(ただ事じゃないんだろう。こんな時間に、彼女ひとりで……)

男(……ひとりで?)



女「はー………」

男「落ち着きましたか?」

女「……はい」

男「……女さん、何があったのです?わざわざこんなところにまで走って来られるなんて」

男「お付きの者は側にいないのです…か……?」

女「……」ウツムキ

(肩を震わせる女)

男「……女さん…?」

男「やはりどこか具合でも──」

女「」ダッ!



──ヒシッ...



男(…!!)

女「」ギュー

男「………」

女「……」ギュー

男「……」

女「……」ギュー







女「──好きです」





男「──」

女「大好きです!男さんっ!」

女「初めてお会いした時からずっと…!」

女「あなたの優しい心が」

女「私と二人、お話をするその声が」

女「時折見せるいたずらな笑顔が」

女「バイオリンの弓を踊らすその手が」

女「──あなたの奏でるあの音色が」

女「全部好きなんです…!」

男「………」

女「……」ギュー...

男(………)

男「…あなたは、それを言うために……?」

女「……」

男「……」

男「……こっちを向いてください」

女「………」



ソッ...



男「………」

女「………」

男「…その顔」

男「ふふ…また泣いてしまうのですか?」

女「……」

男「まったく……」

男「ここまで悪い人だったなんて思いませんでした」

男「第一高等女学校の大和撫子……そう呼ばれるあなたはどこに行ったのでしょう?」

女「……いません。そんな方」

女「ここにいるのは、何でもないただの女です」

男「……」

女「…一度はあなたを忘れようとしました」

女「でもダメなんです…!」

女「どんなに自分を誤魔化しても、隠しきれない気持ちが溢れてくるんです…!」

女「だって!」

女「恋が、こんなにも焼けつくような想いだなんて知らなかったのに!」

女「あなたがそれを教えるものだから……!」



男「………」

男「…私のせいなのですか?」

女「そうです…あなたが、全部いけないのです……」

男「それは、困りましたね」

女「もっと困ってください……私の為に……」

男「………」

女「………」

男(本当に困った方だ)

男(こんなことまでして……)

男(……揺らがせないでくれ……)

男「……では、悪者の私はあなたから遠く離れ──」

女「」キッ!

男「…!」

女「…違い、ます」

女「悪者の男さんは、罰として私の言うことを一つ聞かないといけません」

男「罰…」

女「はい」

女「………私に」





女「一夜だけの思い出をください」





男「女…さん……?」

男「それは……例えあなたの為の罰だとしても、それは…!」

女「いいのです…!」

女「これは夢なんですから…!」

男「夢……?」

女「そう……あの桜が見せてくれる、短い夢」

女「だから、関係などないのです。"男"という方も、"女"という方も」

女「今ここで何が起ころうと、それは目が覚めればきっと忘れてしまいますから」

女「……あなたが最後の思い出をくれれば、ちゃんと忘れられますから」

女「……お願いです、男さん……」

男「………」

男(俺は……)

男(……この女性の……)



ーーーーー

女「──今こうしてあなたの前にいる私は、どういった存在なのでしょう?」

ーーーーー



男(………)

女「………」

男「……夜風に当たり過ぎると風邪を引く」

女「……」





男「こっちにおいで」




次回の投稿で、一区切り出来ると思います。


ーーーーーーー

女「……」スースー

女(………ん)

女「………」



ノソッ...



女「………」

女(……まだ暗い)

女(けど、少し白んでる。もうすぐ日の出なのね)

女「……」フリカエリ



男「……」スースー...



女「………」

スッ



──チュ



男「……」

女「……ふふ、可愛い寝顔」



女「………」

女「ありがとうございます」

女「とても素敵な、思い出になりました」

女「これで私は歩いて行けます」

女「……この想いも、昨夜のことも、全部心の奥底にしまって、ずっとずっと……」

女「……鍵をかけておく」

女「それで私は元通りですから。心配しないでください」

男「………」

女「……もう行きますね」

ススッ トッ...

テク..テク..

女「……」テク...

男「……」

女「………」

男「……?」

女「」クルッ

テクテクッ

女「……男さん、起きてますか?」

男「………」

女「………」





ポスッ(頭を男の背に預ける)



男「………」

男「………」

男(………?)





──ポタ





男(……!)

女「……」ポロ..ポロ..

男「……」

女「……」ポロポロ

男「………」

女「……やだよぉ……」ポロポロ

男(っ……)

女「離れたくないよぉ……」ポロポロ

女「こんなに愛してるのに……近くにいて、手が届くのに……」ポロポロ

女「こんなのってないよ……!」ポロポロ

男(………)

女「グスッ……うぅ……」ポロポロ

男「………」



男(……女さん……)

男(今、その名を口にすれば)

男(……あなたは泣き止んでくれるのだろうか?)

男(ここであなたを、もう一度この腕に抱き寄せられたら)

男(幸せと言ってくれるだろうか…?)

男(仮初めではなく、本当の………)

女「………」

女「……早くしなきゃ……日が出てくる……」



スクッ(立ち上がる)



男(………)



男(……………俺は)





1 黙って行かせる

2 女の腕を掴む



※注 安価ではありません


1 ーーーーーーー

男「………」

女「………」

男「………」

女「……」テクテク



...ガチャ





女「──さようなら、私の恋した人」





ーーー数週間後ーーー

青年「──すっかり暖かくなったよね。ほら、こっちも緑が付き始めてるよ!」タッタッ

女「もう、子供みたいにはしゃいで…」テクテク

女「…でも本当にそうですね。過ごしやすい時分になりました」

青年「だろう?んー、ずっとこの季節が続いてくれれば暑いとか寒いとかの繰り言もなくなるんだろうね」

女「それは困ります。四季の花々が見れなくなるじゃありませんか」

青年「はは、そうだね」

青年「…なら僕は、花を眺めてる君をじっくり鑑賞していようかな」

女「何を言って……」

青年「……」ジー

女「……あなた?」

青年「……」ジーー

女「………そんな真剣に見つめないでください」フイッ

青年「かわいい反応、ありがとう」ニコッ

女「うー……」



青年「それとっ!」

青年「その呼び方」

女「え?」

青年「あなた…というのも奥ゆかしくて好きだけど」

青年「二人のときは名前で呼んでくれてもいいんじゃないかい?」

女「……青年様?」

青年「君って人は……分かってるくせに」

青年「ね?」

女「………青年」

青年「なんだい、女」ニコニコ

女「……な、なんですかこれは……」

青年「何って、おかしなことはしてないだろう?」

青年「夫婦同士、名前で呼び合うなんて」

女「………」

女「…二人きりのときだけですからね?」

青年「十分さ」

青年「………」

青年「……女、こんな弱い僕を受け入れてくれてありがとう」

女「……」

青年「婚儀の日、僕の中で淀んでいた何もかもを全部ぶつけたのに、君は微笑んで抱き締めてくれた」

青年「今だから言えるけど、正直君に見限られる覚悟もしていたんだ」

青年「でも君は全て包んでくれた」

青年「そこで実感したよ。やっぱり妻にする女性は君以外考えられないって」



女「………」

女「幸せにしてくださいね?」

青年「勿論っ!」

青年「あぁ…!ずっと待ち焦がれていたよ!君とこうやって過ごせること…!」

青年「ただ共に歩いてるだけなのに、世界がこんなにも違って見える…!」

女「大袈裟ですって」クスッ

青年「……ところで、僕らはどこに向かっているんだい?」

青年「見たところ、ここは君の家の近くだろうけど……」

女「はい。せっかくなので、見ておきたいものがありまして」

青年「見たいもの……珍しいね、普段おとなしい君が」

女「私にだってしたいことの一つや二つはありますよ?」

女「…きっと、青年が困っちゃうくらいには」フフッ

青年「…!」

青年「……望むところさ。それで女のことをもっと知れるのなら!」

女「ふふ…」

女「………あ」ピタ



(若葉の茂る大きな木)



女「………」

青年「ん…?」

青年「この木……なのかい?」

女「…はい」

青年「随分と大きな……」

女「これは桜の木なのです」

青年「!そうか、もうすっかり葉桜になってしまったんだね…」

女「えぇ…ですが」





女「──この桜、とても綺麗でした」





青年「……想像できるよ。これだけ立派な木なんだ。さぞ荘厳な眺めだったろう」

女「咲く姿も、散る姿も、全てが幻想的で不思議な世界に誘われたような、そんな気持ちになるのです」

女「……思わずずっと見ていたくなるほどに」

青年「………」

女「………」

青年「…来年、共に見に来よう」

女「………」

女(………)





女「……是非」ニコッ





ーーー高等学校卒業日ーーー

男「………」テクテク

男「………」テクテク

男(終わったんだな)

男(長いようで短かった)

男(この帰り道も、もう歩くことはないんだろう)

男「………」テクテク



ーーーーー

青年「──や、久しぶり」

男「青年……わざわざこの教室に寄ったのか?」

青年「だって今日が学生最後の日だろう?君に会っていかないと僕の学生生活は締められないからね」

男「俺のことなんて忘れてると思ってたよ」

青年「忘れるわけないさ!君の方こそ最終学年になって教室が変わったらめっきり顔を合わせてくれなくなったじゃないか」

男「……別に会う理由もないからな」

青年「薄情だなぁ。理由なんかなくても会いに来てくれよ。親友っていうんだぞ、僕ら」

男「お前……なんか変わったな。もっと落ち着いた奴じゃなかったか?」

青年「変に取り繕うのをやめただけさ。疲れるしね。それにこっちの方が皆の受けがいい」

青年「勿論、大人の前では猫を被るさ」

男「……ふっ。あぁ確かにその方が似合ってるな」

青年「だろ?」ククッ



青年「………」

青年「…君にはね、心の底から感謝しているんだ」

男「……」

青年「あのとき君の言った言葉」

青年「──好きに生きればいい」

青年「それがあったからこそ、僕はありのままをぶつけて……」

青年「……彼女を迎えることが出来た」

青年「今こうしていられるのだってそうさ。僕がしたいように生きているんだ」

男「一人の人生を変えてしまったわけだ」

青年「そうそうその通り!誇張でも何でもないよ!」ニッ

青年「それはそうと、今日は一旦の別れを言いに来たんだよ」

男「別れ?」

青年「あぁ。父上の経営する会社の一つがここより遠い北にあってね。そこの補佐として働きながらノウハウを学ぶことになったんだ」

男「社長補佐……だよな?いきなり重役とは、さすが旧家の青年は違うなぁ」

青年「今更そんなからかい方はやめてくれよ」フッ



青年「……向こうに越すのは明日なんだ」

男「おいおい、また急だな」

青年「急じゃないんだよ?結構前から決まってたことなんだけど、君に伝える機会がなかったから」

男「あー……そいつは悪かったな」

青年「いいさ。こうして今日君と話せただけで満足だ」

青年「金輪際会えなくなるわけでもないんだしさ」

男「……次会うときは、俺はお前を顎で使う身分になってるだろうな」

青年「ほう…そいつは楽しみだね」

男「………」

男「お前ひとりで行くのか?」

青年「……いや」

青年「女も一緒だよ。ご両親の許しももらっている」

男「そうか」

男(………)

男「……幸せにしてやれよ」

青年「!」

青年「…言われずとも!」ニカッ

ーーーーー



男(……ふ、本当変わったな、あいつは)

男(あんなに楽しそうな顔して毎日過ごしてるのか)

男(……少し安心した)

男「……」テクテク



ガラガラ



男「ただいま」

男父「おぉ、おかえり、男」

男父「卒業おめでとう。一高を首席で卒業したんだろう?私は鼻が高いよ」

男「特別枠で入れてもらったんだから、それくらいしないとな」

男父「はっはっは。そんな簡単に出来るようなら、誰も苦労はしないだろうなぁ」

男父「それと、お前宛てに手紙が届いたぞ」

男「手紙?」

男父「しかも二通もだ」

男父「……いつの間に側室まで作っていたんだ?」ニヤリ

男「全く身に覚えがないんだけど」

男父「ほら、早く返事を書いてやりなさい。お前の部屋に置いておいたから」

男「いや多分知らない人からだと……」

男父「お前に一目惚れした子からの熱いメッセージかもしれないだろう?」

男「あー分かった分かった……読んでくればいいんだろ」



トッ、トッ、トッ





ーーー男の部屋ーーー

男「……これか」

男(封筒が違う……)

男(こっちは新品のようだけど、こっちはちょっと古ぼけてる……?)

男(新品の方は名前が書いてないな……もう一つの方は……)

男「…!?」

男「男母……!」

男(母さんの名前…!)

男(父さんが悪ふざけでもしたのか…?)

男(いやこんな悪趣味なことはしないか)

男「………」



ガサガサ ペラ...



『私の最愛の子 男へ

まだ顔も知らないあなたに、万が一を考えてこの手紙を残します。

いかがお過ごしですか?あなたは幾つになって、どこで何をしていますか?こうして筆を走らせてる今、あなたはまだ私のお腹の中なのにどんな風に成長していくのか楽しみで、想像が止まりません。

この手紙をあなたが読むということは、私はもういないのでしょうね。

ですが、絶対に自分を責めないで下さい。あなたを産めたことは私にとってかけがえのない幸せなのです。ですから、そのことでうじうじしているようならむしろ怒ります。

あなたに言っておきたいこと、教えたいことはたくさんあるのですが、その全部をここに書くのは控えます。生まれてきたあなたと直接話したいので!なので一個だけ、伝えておきます。

好きに生きなさい。

自分がしたいように生きるの。
楽しければ笑って。
悲しければ泣いて。
欲しければ手に入れて。
要らなければ手離して。
そうやって悔いのないように選択していくのが、人生のコツ。おかげで私の辞書に後悔なんていう言葉はないもの。勿論、人様に迷惑をかけてはダメよ?

私はいつまでも、男の幸せを願っています。
ちゃんと見てますからね。

……早く産まれてくるあなたの顔が見たいわ!

あなたの母より』



男「……母さん……」

男(これ……本当に母さんが書いたのかな……)

男「………」

男「……こっちは誰からなんだろう」



ガサゴソ...



『拝啓 男様

女です。とても久しぶりですね』



男(っ……)



『この度この手紙をしたためたのは、あなたのお母様が生前残したあなたへの便りを送るためです。

もう読まれましたでしょうか?あなたが以前、大丈夫と話してくれていた通り、お母様はちゃんとあなたのことを想ってくれていたのですよ。

この手紙を見つけ出すのに1年程かかってしまいましたが、あなたに届けることが出来て良かった。

もう、あの悲しい目をしないで下さい。あなたはこんなにも望まれて生まれてきたのですから。

そういえば、第一高等学校を首席で出られたそうですね。本当に素晴らしいことだと思います。それを聞いたとき、私は交流会で見せてくれたあの間の抜けた音を思い出して一人笑ってしまいそうになりましたけど。

私は今、素敵な人たちに囲まれて暮らしています。きっとこれが幸せというのでしょう。あなたにも是非知ってほしい。

私とあなたの道はもう交わることはないでしょうけれど……末筆ながら私もあなたのお母様同様、願っています。

どうかお幸せに。

                  敬具

女』



男「………」

男「………」

男「……………」

男(……………)

男「………ん?」

男(この手紙……よく見ると、小さな皺がそこら中に……?)

男「……」ジッ...

男(違う、皺というよりこれは……)

男(………筆跡)





男「──っ!」





ーーーーー

女「……」カキカキ

女「………」

グシャ

女「……」カキカキ

女「……」カキカキ

女「…………」

グシャ...

ーーーーー



男(……どれだけ……)

男(どれだけ……書き直しをしたのだろう)

男(たった一枚の手紙を書くのに、どれだけの時間を費やしたのだろう)

男(………)

男「……女さん……」

男(……母さん……)





男父「──熱いメッセージだったろう?」





男「……」

男父「昼頃にな、若い女性が訪ねてきたんだ」

男父「その人は二通の手紙をお前に渡すよう言うと、名前も言わずに去っていったよ」

男父「そうだな……例えるなら……」

男父「──大和撫子という表現が似合う、そんな女性だった」

男(─!)

男「………」



男「…父さん、この手紙は……?」

男父「あぁ、その女性から聞いた時は驚いた」

男父「まさか私も知らない間に母さんがお前に宛てた手紙を書き残していたなんてな」

男父「その筆跡は間違いなく母さんのものだ。よく見てきたから分かる」

男「………」

男「……母さんもさ、俺と同じで抜けてるんだな……」

男父「ん?」

男「だって……もしものときのために残した手紙なのに……俺と直接話すとか、俺の顔を見たいとか書いてるんだ……」

男「そんなの……無理じゃないか……!」

男父「……いいや」

男父「男、お前は知らないだけだ」

男父「そこに書いてある母さんの願望はな、実は叶っているんだよ。一つだけだがな」

男「え…?」



男父「母さんはお前を産んだすぐ後に亡くなったと話したな?」

男父「……なにも産んだと同時に召したわけじゃない。お前の顔を見る時間くらいはあった」

男父「大声で泣き叫ぶ小さなお前を見て──満足そうに、眠っていったんだ」

男「──」

男「………」

男父「………」

男(………)



『あなたを産めたことは私にとってかけがえのない幸せなのです』



ーーーーー

女「──きっと伝わっていますよ、あなたのその想いは」

ーーーーー



男(そうか)

男(分かっていたんだ)

男(気付かないフリをしていた)

男(俺にとっての、君は………)

男「……」

男「………」グッ...





コンコン!



男「!」

男父「む?」フリムキ

男父「誰か来たみたいだな…?」

男(……まさか……)

男「」ダッ

男父「おい!男!」



タッタッタッ



男(ありえない)



タッタッ



男(……けど、その戸の向こうに居るのは……!)



──ガラッ!





「あ……!」





男「……君は」

男「女友さん、だよね?」

女友「はい…!覚えててくれたんですね!」

男「……まあ、ね」

男「印象深いお見合いの場だったから」フフッ

女友「う……その節はお父様が、すみません……」

男「はは、無遠慮かもしれないけど、あのとき少し女友さんの素が見れて楽しかったよ」

女友「男さん、その口調……」

男「え?……あ」

男「失礼…不快にさせてしまったかな」

女友「そんなことありません!」

女友「……その方が、男性らしくて素敵です……」ボソッ

男「…ところで、どうしたの?ここまで来るなんて」

女友「そうでした」

女友「その………」モジモジ

男「?」

女友「………男さんの、第二ボタンを頂けませんかっ!」

男「…!」

女友「……」ソワソワ

男「……」

女友「……//」

男「……」

男(……フッ)







男「──喜んで」





ー叶うもの叶わないもの 終わりー

以上で正規編は終了となります。

参考にしたのは「夢桜」という歌です。
なんでしたらスレタイは歌詞の一部です。

ですが完結ではありません。
そこはハッピーエンド至上主義。
別の結末を、後日投下致します。


2 ーーーーーーー



──ガシッ



女「…!!」

男「………」

女「男、さん……」

男「」グイッ

女「きゃ…!」



──ギュ



男「……」

女「……お、起きてらし──」





男「俺も、あなたが好きだ」





女「──!」

男「知人なんかじゃない」

男「今俺が抱き締めている女性は、失くしたくない、大切な存在だ」

女「ぁ………」



女「……」ツー...

男「……また泣いてる」

女「だって、あなたが……」ポロ..ポロ..

男「……」

男「……女さん」

女「はい…」

男「俺のために、全てを捨て去ってくれと言ったら、どうする?」

女「そのようなこと……」

女「出来ます……出来るに決まっています……!」

男(……)

男(その返事が聞ければ)

男(──俺はもう迷わない)

女「…ですが」

女「許されないのですよね……それは」

女「大丈夫です……分かっておりますから……」

男「………」

女「……ですから……」



...ギュー



女「もう少しだけ……このままで……」

男「……」ギュー...



.........





ーーー朝 男家ーーー

男「少し眠いな……」

男(………)



ーーーーー

女「──離れたくないよぉ……」

ーーーーー



男(……あの時俺の腕に落ちた涙は、熱かった)

男「……」



トントントン



男「父さん、起きてる?」

「……んー?なんだ?男、今日はやけに早く起きたな」

男「入るよ」

「あぁ」

ガチャ

男父「…少し寝不足か?疲れた顔してるように見えるぞ」

男「父さん」

男父「なんだ?」

男「……」





男「頼みがあるんだ」





ーーー翌週 女家ーーー

女父「……」カキカキ

女父「……」インカンペタッ

女父(………)

女父(…いよいよ明日か)

女父(女のあの精神状態で無事婚儀を迎えられるか不安だったが……)



ーー数日前ーー

女「──お父様、心配をおかけしました」

女「ようやく私のすべきことを思い出しました」

女「……次の週が、とても楽しみです」ニコッ

ーーーーー



女父(……うむ、これで良かったのだ)

女父(これが、お前の幸せだ)



コンコンッ!



「旦那様、急ぎの用件につき、失礼致します…!」

女父「召使か?構わん、入れ」

ガチャッ

召使「お仕事中申し訳ございません…」

女父「急ぎとは何事だ?」

召使「それが……」





召使「──例の、男という者とその父君が訪ねてきまして、お話がしたい…と」





女父「なんだと…!?」

女父「おい、私達に関わるなときつく言ってきたのだろうな!」

召使「は、はい!」

女父「すぐに帰ってもらいなさい!もう二度と顔を見せるなと念を押してな!」

召使「ですが旦那様、彼らは直接謝罪がしたいとおっしゃっておりまして…」

女父「謝罪だと?」

召使「はい。お嬢様と旦那様の両名にと」

女父「ふざけたことを…」

女父「そんなもの不要だ。とにかく早く去って──」

女父(……いや、待て。なぜ父親が出てくる?)

女父(単に謝罪に来たというだけなら男とやらの独断で来てもおかしくはないが……)

女父(彼らも第一高等学校に通う貴族の端くれ)

女父(このタイミングで、父親を連れ直にここへ来るなど……ただの謝罪ではない……か?)

女父(まさか私達を揺する気か……?)

女父(……無下にするわけにもいかないか)

女父「……分かった、通せ」

召使「!…承知しました」

女父「それと」





女父「……女を呼んできなさい」




忘れてました。>>152>>131の続きからです。


ーーー客間ーーー

男「………」

男父「………」

女「………」

女父「………」

女(これは、一体何なのでしょう…?)

女(謝罪……男さんが……?何に対して謝るというのですか…?)

女(それに男さんのお父様まで……)

女父「……ようこそいらっしゃいました、と言いたいところなのですが」

女父「以前、忠告したはずですね?我々に近づかぬよう……」

男父「はい。心得ております。今のあなた方にとって私達がどれほど忌むべき存在なのか」

男父「ですが承知の上で尚、こうして伝えたいことがあったのです。この愚息の言葉を聞いて頂きたい」

男父「私も、これの父としてお詫び申し上げます。今回の件、誠に申し訳ございません」ペコリ

女「……」

女父「ふむ……」

女父(他意はないように見えるが…)

女父(本当に謝罪しに来ただけだというのか?)

女父(……だが)



男「……」



女父(こやつが男か……不思議な目をしている)

女父(強い意志を宿した目……穏やかな雰囲気と相反する)

男父「男」

男「あぁ」

男「……」ジッ...

女父「………」

女「……っ」





ーーー女家 門前ーーー

女友「──あ」バッタリ

青年「──お」バッタリ

女友「……………」

青年「……………」



コクリ(二人頷き合う)



女友「……」ミアゲル

青年「……」オナジクミアゲル





(静かな女家の屋敷)





ーーー客間ーーー

男「──まずは、この度の非礼、申し訳ありませんでした」

男「お相手が既にいると知ってからも度々秘密裏に会っていたこと、一貴族として非常に愚劣な行為でありました」

女父「度々、な…」

女「!そ、それは──」

女父「口を閉じなさい、女。言われずとも分かっていたことだ」

女「………」

男「そして、事前の申し出もなく突然来訪してしまったこと……」

男「……これから重ねるさらなる非礼についても、謝罪致します」

女父「…なんだと?」

男「女父様は、そちらに座っている女さんがどれだけ優しく、強い心を持っているかご存知ですか?」

女父「……んん?」

男「他人を慮り過ぎる故、相手の気持ちを考えただけで涙を流してしまうような……そんな優しさ」

女(男さん、なにを……?)

男「常に利他を優先し、ブレることのない心の強さ」

女父「…男君、君が何を見て来たのかは分からないが、それしきのことを父である私が知らないとでも思っているのね?」

女父「所詮は赤の他人の付け焼き刃。よく私の前でそのような口がきけたものだ」

女父「まさかそれも謝罪の一貫と言うのではあるまいな?」



男「……」

男「……では」

男「女さんの本心についてはどうでしょう」

女父「……」

男「父親のあなたは、彼女を生まれてから今日まで絶えず見守ってきたはずです」

男「おっしゃる通り、私などより遥かに彼女のことを分かっていますよね」

女父「………」

男「……女さんは、わがままを言ったことがありましたか?」

女父「っ」

男「拗ねて、あなたを困らせたことがありましたか?」

女父「……」



ーーーーー

女「──私は、装飾品ですか」

ーーーーー



女父(……っ)

男「誰しもあれをしたいこれがしたいという願望は持っているものです。女さんとて例外ではないでしょう」

男「──なぜ見て見ぬフリをしてしまうのですか」

男「抑圧され折れそうになっている彼女の心を、誰が救おうとしていたのですか」

男「そうして何もかもをお膳立てした道を一人で歩かせるのが、彼女が望んだことだったのでしょうか?」

女「──」

女父「……………」



女父「……黙って聞いておれば知ったようなことをつらつらと……」

女父「よいか男君、この子の幸せは、この家の幸せだ」

女父「女は我が家の大切な娘。その価値を高めるためにどれだけの心血を注いでこの子を育ててきたか、君に分かるか?」

女父「元々素直なところもあり、この子は本当に素晴らしい娘に成長してくれた。もうどこに出しても恥ずかしくない自慢の娘だ」

女父「……この子は青年殿と結婚し、この家に安寧をもたらす。青年殿もこれ以上なく出来た方だ。必ずこの子を幸せにしてくれるだろう」

男「お言葉ですが、彼女の意思はどこにございますか?」

女父「それが愚問なのだよ」

女父「女性とはかくあるべきなのだ」

女父「これは世の常。我々貴族の間では当然のこと。女性はな、一人では何も出来ないほどに弱い存在だ。だからこそ私達が幸せへの道を敷いてやらねばならぬ。世間に認められるよう、その値打ちを高めてやらねばならないのだ」

女父「君のような者には分からぬかもしれないがな」

男「……女性と男性、同じ人間であるのに、どうしてここまで差があるのでしょう」

女父「哲学か?…すまないが、私はもう君達の問答に付き合うつもりはない」

女父「謝罪はしかと聞き届けた。男君が私に向けた言葉の数々も、不問にする」

女父「……二度と私達の邪魔をせぬと誓ってから──」

男「──直接、訊いてみては如何でしょうか」

女父「む?」



男「女さんが今、本当に幸せと感じているか、問うてみればよいのです。あなたのおっしゃる通りなら、彼女は淀みなく肯定できるはず」

男「…違いますか?」

女父「………」

女父(………)

女父「……女」

女「………はい」

女父「お前は、幸せか?」

女(……っ)

男「……」

女(………)

女「……………はい、勿論です」ウツムキ

男(……)

女父「………」

女父「……そういうことだ」

女父「お引き取り願おう」

男「………」

男父「………」



スッ(二人立ち上がる)



サッ、サッ、サッ



ガチャ



男父「失礼致しました」



パタン



女「……男さん?」

女父「…おい、なぜ君は出ていかぬ」

男「……」

女(どうして私の前に立って……)

男「……私は女性ではありません」

男「ですから、自分の幸せは自分で決めても構わないのですよね」

女父「何を言っているんだ……?」

男「……」

男「……走れるかい?」ボソッ

女「え…?」



...クイ



女(腕、掴まれて…!?)

女(──あの朝と同じ)

女父「さすがに悪ふざけが過ぎるぞ!それ以上娘に手出しすればこちらとて──」ガタッ

男「──誓います!!」

女父「!?」





男「俺がこの人を幸せにする!例え全てを捨てることになろうとも!」





女(ぁ──)

女父「な……にを……?」

男「女、走って!」ダッ!

女「え、えっ!?」ダッ

女父「な…」

女父「待たぬか!」ダッ



タッタッタッ...



.........







タッタッタッ



女(不思議)

女(全く疲れる気がしない)

男「」タッタッタッ!

女(あなたに引かれてる腕が、こんなにも熱いから…?)



タッタッタッ



女父「止まれ!止まらんか!!」タッタッ

女「!」フリムキ

女父「こんなことをしてどうなるか分からぬか!?」

女父「女!お前の人生が壊れていくんだぞ!!」

女「……」

女(……ごめんなさいお父様)

女(それでも私はこの方と)

女「」タッタッタッ!

女父「!」

女父「…この分からず屋が!」







召使「旦那様、何の騒ぎで……お、お嬢様!?」





召使(こっちに走って来る!?)

女父「召使!その二人を止めろ!絶対に行かせるな!!」

召使「は……え…?」



男「」タッタッタッ!

女「……っ」タッタッタッ!



召使(…!)

召使(お嬢様………)



タッタッタッ!



──スッ(召使を通り過ぎる)



タッタッタッ...



女父「何をしておる!棒立ちなぞ案山子の方がまだましではないか!!」

召使「……」

召使(……無理だ)



召使(あんな瞳を見せられたら……)



.........







タッタッタッ



女父「く……」タッタッ

女父(追いつけぬ…)



男「」タッタッタッ!

女「」タッタッタッ!



女父(だがよい。この先には門がある)

女父(いくら走ったところで逃げ場などない)

女父「……」タッタッ

女父(……ん!?)

女父「バカな…」

女父「──なぜ門が開いている!?」





ーーー門の開閉室ーーー

女友「……おーおー、愛の逃避行しちゃってるわねぇ」

女友「まったく、感謝しなさいよー?」

女友「たまにここへ遊びに来てる私だから、こんな手助けが出来るんだってことに」

女友「……」



ーー数日前ーー

女友「はーぁ…」テクテク

女友(女、最近元の調子が戻ってきたみたいだけど)

女友(…どうも、笑みに生気がないように見えるのよね…)

女友(……気のせいかしら)

女友「……」テクテク

女友(私もまた、お父様の選んできた相手とお見合いだし)

女友「……世の中パッとしないわね」





「女友さん」





女友「ひゃいっ!?」バッ

女友「……男、さん?」

男「……」

女友「ごめんなさい!人がいると思ってなかったものですから、驚いてしまって……」

女友(あれ、男さん顔に傷がある…?)



女友「…えーと、どうしたのですか、男さん?」

男「あなたを捜していました」

女友「え…!」

女友(それって……!)

男「女さんの無二の友人と見込んで、是非とも協力して頂きたいことがあるのです」

女友「協力、ですか?」

男「えぇ」

男「実は──」



.........





女友「──なるほど」

女友「そうしたら私が女の家の門を開けて、外へ出られるようにしておけばいいってことですよね?」

男「はい。お願いできますか…?」

女友「確かにあのお屋敷の門をどこで操作しているのかは知っています」

女友「……お返事の前に、尋ねたいことがあります」

男「…いくらでも」



女友「男さん、そのようなことを行えば、あなたもあの子もただでは済みません。それは百も承知ですよね」

女友「それでも、あの子を幸せにするために何もかもを失う覚悟があるのですね?」

男「当然です」

女友「生涯、女を愛し続けると誓えますか」

男「はい」

女友「絶対に泣かせたりしないと言えますか?」

男「……それは難しいかもしれません」

男「何せ、彼女は泣き虫なものですから…」クスッ

女友「………」

女友「幸せ者ね、女は」フッ

女友「こんなに強く想ってくれる人がいるなんて」

女友「男さん」

女友「実は私、あなたのこととても好きだったんですよ」

男「……」

女友「お父様はあんなに反対していたけれど、いつかあなたの元を訪ねてこの想いを打ち明けてしまおうかと思うほどには、惚れていました」

男「女友さん…」

女友「でも決めました!」

女友「私、男さんのように生涯愛し合える方と出会うまで絶対結婚は致しません!」

女友「お相手は私の意志で決めさせてもらうのです。お父様の言いなりはもうごめんですから!」

男「…!」

女友「──そういうことで」

女友「いいですよ。私で良ければ全力で力を貸します」ニコッ

男「……ありがとう」



女友(……女)



ーーーーー

女「──そしたらちゃんといつもの私に戻るから……安心して、女友」

ーーーーー



女友(嘘を吐いた代償は大きいわよ)

女友(あなたの未来が変わっちゃうくらい、ね)

女友「……けれど男さん」

女友「その……青年さんのことは、どうするおつもりなんです?」

男「あぁ、それは」

男「……彼にも話はつけてあります」ホオサスリ

女友「……!」

女友(その頬の傷は……)

女友(そういうこと)フッ...

ーーーーー



女友「……いいなぁ」ボソッ

女友(恋、か)

女友(それに捕まれたら、私もあんな風に変わるのかな)



バタン!



女友「!」フリムキ

従者「はぁ、はぁ……勝手に門を開けた不届きものめ、観念し──」

従者「あなたは……女友様…?」

女友「あー……」

女友「どうも、お邪魔しておりますわ」テフリフリ





ーーー玄関先ーーー



男「」タッタッタッ!

女「」タッタッタッ!



女父「ぐぅ……はぁ……」タッタッ...

女父(無理だ……私の身では……)ゼーゼー

女父「……誰か!誰かおらぬか!」

女父「誰でもよい!娘を奪おうとするあの輩を捕まえてくれ!」





「行かせてあげましょうよ、女父さん」





女父「!!」

女父「せ、青年殿…!」

青年「……」テクテク

女父「青年殿…これは、違うのです…っ。あの二人はその……」

青年「はは、落ち着いてくださいよ」

青年「僕は彼らの門出を見に来ただけですから」



ーー数日前ーー

青年「は…?」

青年「…なぁおい、君にしてはよく出来た物語じゃないか」

男「……」

青年「ここ数週間で女さんと密会を重ね?彼女をずっと愛していくために駆け落ちして?その協力を婚約者である僕に頼み込んで?」

青年「何とも皮肉のきいた冗談だね」

男「…冗談で言ってるわけないだろう。これは俺なりのけじめなんだ」

男「青年、お前の愛した女性に、俺は恋をした」

男「頼む。彼女のこと、俺に任せてくれないか」

青年「……………」

青年「………ふっ」

青年「はっはっはっは!」

青年「そうかそうか!ようやく合点がいったよ!」

青年「あの日交流会で見た彼女の陰り」

青年「彼女は葛藤していたんだな……君という存在のせいで」



男「……」

青年「……」

男「………」

青年「………」

青年「……いいよ」

青年「分かりたくないけど、分かった」

青年「女さんは君と居る方が望ましいだろうからね」

男「青年…!」

青年「……その代わりなんだけど、さ……」

男「…?」

青年「──少し、歯食い縛れ」



ゴスッ!



男「がっ…」ドサッ

青年「」ハァ..ハァ..

青年「おい男!」

青年「お前の命に誓え!」

青年「絶対に彼女を幸せにすると!!」

男「…!」

青年「……」グッ...

男「…あぁ」

男「誓ってやるさ!」

ーーーーー



青年(その言葉、嘘にしたら地獄の果てまで追い詰めてやる)

女父「門出…?青年殿、あなたは一体何をおっしゃって……」

青年「女父さん、あなたも見ましたでしょう?」

青年「──男に手を引かれる、女さんの表情」

女父「!」

青年「どんな顔に見えましたか?」

青年「少なくとも僕には……」





青年「これまで見てきた中でも、最も輝いていたように思えました」





青年「幸せな表情というのは、きっとああいうのを指すのでしょうね」

女父「………」

女父「……女……」





ーーーーーーー



タッタッタッ



タッタッ...



男「」ハァ..ハァ..

女「」ゼェ..ゼェ..

男「ここまで……来れば……ひとまず大丈夫だろう……」ハァ..ハァ..

女「ここは……どこなのです……?」ゼェ..ゼェ..

男「いや、適当に走ってきただけだから、なんとも……」

女「えぇ…?」

女(………)

女「……男さん、あなたは大馬鹿者です」

女「何をなさっているのですか…!これでもう、あなたもあなたの家も無事では済まされなくなってしまったのですよ!」

男「はは、そうだな……父さんにはもっと謝っておけばよかったかもしれない」

男「けど、言ったろう?」

男「俺は全てを捨てることになっても、あなたを幸せにするって」

男「……同じことを、あなたも言ってくれた」

女「──!」



男「……それに、この一件、女友さんと青年にも手を貸してもらっているんだ」

女「え…二人が……?」

男「その時に散々言われてしまったよ」

男「女さんを幸せにするようにとね」

女「あ……」

男「当然、そんなこと念を押されるまでもないんだけど」

男「──愛する人を幸せにすることなんて、当たり前だ」

女「………」

女「……私は……」

女「私は…あなたを好きでいていいのですか…?」

女「あなたの傍にいていいのですか?」

男「勿論」

男「そのためにあなたを攫ったんだから」

女「……」

女「──っ」



ダキッ!



女「」ギュー!

男「…ちょっと力入り過ぎてないかな?」

女「」ギュー!

女「……好きです……」

女「愛してます…!」

女「もうずっとずっと、一緒ですからね…!」

男「…俺も好きだ。ずっと、一緒にいよう」

女「……」





ポロ..ポロ..



女「……」ポロポロ

男「……よく泣くお姫様だね」

女「うるさいです……」ポロポロ

女「これは初めての涙なんです…!」ポロポロ

男「?」

女「だって生まれて初めて……」

女「──嬉しくて泣いてるんですもの」

男「!」

女「……ねぇ男さん」





女「幸せになりましょうね」ニコッ





ーーー二年後 のどかな農村ーーー



ガチャ



男「ふぅ、ただいま帰ったよ」

女「おかえりなさい、あなた」

女「また青年さんと女友から手紙が来てますよ」

男「今回はやけに早いな」

男「すごい嬉しいんだが、青年がなぁ……毎度毎度愚痴のような一文を挟んでくるから少し身構えてしまうんだよな。この間は、女のことを思ってまた酒の席で泣く女父さんを宥めてた…とか書いてあったし」

女「ふふっ、いつまで経っても子離れが出来ないんですよね」

男「それだけ女がかわいいんだよ」

女「かわいい……//」

男「」クスッ

女「今笑いましたね…?」

男「気のせいだろう」

女「むー……好きな人に褒められて喜ぶのは可笑しいですかっ」

男「そんなこと思ってはいないって」

男(それに今のは褒めたのとは少し違ったような)

男「……お望みなら好きなだけ言ってあげるから、手紙読ませてくれないかな?」

女「………どうぞ」スッ





ガサガサ ペラ...



男「………」

男「……………」

男「………そうか、向こうは卒業式だったのか」

女「はい。青年さん、首席で卒業されたみたいですよ。すごい方です」

男「あいつ、いつも俺がいなければ頂点を取れるとか言ってたけど……本当だったんだな」

男「……ん、女友さん、やっといい人に巡り合えたそうだよ」

女「あの女友のお眼鏡に適う方……やっぱり気になります」

男「また俺に似た人なのかな。それとも、ここへ来る気だったりしてな」フフッ

女「……男さんは私のものです。誰にもあげません」

男「分かってるよ。俺もあなた以外のものになる気はさらさらない」

男「しかし、青年たちが卒業したとなると……ここに来てもう二年になるのか」

女「そんなに経つのですね」

男「ここの人たちが皆優しい人で良かったよ」

女「本当に。何も持たず現れた私たちのことを深く詮索せずに受け入れてくれて……感謝しかありません」



女「……あなた」

男「ん?」

女「実は今日の手紙、それだけじゃないのです。私からもあなたに……」スッ

男「ほぉ……これは、恋文というやつかな」スッ

女「恋文ではありません。私の気持ちはいつも言葉で伝えてるじゃないですか」

男「ならどんなことを書いて……!」ガサゴソ

男「……こ、れは……」

女「……そうです」

女「正真正銘、あなたのお母様が残したあなたへの手紙です」

女「この村へ来る前から男さんのお母様について調べていて……やっと見つけることが出来ました」

男「………」



ペラ...



男「………」

男「………」

男「母さん……」

女「お母様は、やはりずっとあなたのことを大切に想ってくれていたのですね」

男「うん……」

男「……母さん、俺……」

男「俺のしてきたことって、間違ってなかったかな…?」

女「……」

女「男さん男さん」チョイチョイ

男「…?」







女「──好きに生きればいいんですよ」





ー夢じゃない幸せ 終わりー

以上で完結となります。

昔、大正時代などでは女性はその家の贈り物としてどれだけ賞賛されるかが価値であり、顔も知らない男と結婚させられることも珍しくなかったようです。
その時代の女性は何を自らの幸せと感じていたのでしょう。

ここまで読んで下さった方、ありがとうございました。

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