【安価】安価ファンタジー冒険者で地の文多めのマジメなやつ (154)

スレタイ通りのものやるよー


【作風】
ライト風味のファンタジー
大体マジメ
ギャグは苦手なので少なめ
少し気を抜くとダークファンタジーになる(ならないように気をつけはする)
血は流れるけどグロくはしない
恋愛は話の流れ次第では書くけど苦手で筆が遅くなる
NTRは絶対無理、書かない

【舞台】
魔物とかそういうのが居る中世風ファンタジー世界
魔法は処理が面倒なので使えない(存在はするけど一般的ではない)
種族は処理が面倒なので人間のみ(存在はするけど一般的ではない)
情勢は荒れてはいないけど完全な平和でもない

【安価】
キャラメイクは主人公のみある
選択肢方式
完全自由安価は無いか有っても稀
コンマは多分無い


大体こんな感じ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1567581848

キャラ作ってくよー

【主人公の性別】

↓1

【性別】 女


【主人公の年齢】

14歳 ~ 40歳

高いと初期能力+ 成長性-

低いと初期能力- 成長性+

↓1

18

【性別】 女
【年齢】 18


【冒険者になる前の職業】

初期能力に影響

例として農民だと筋力や体力に+
修道女だと精神力に大きく+
無職や家事手伝いなどの場合は満遍なく少量ずつ+

ファンタジー世界にありそうなら大体OK
ただし魔法が一般的じゃないので「魔術師」指定だと「占い師」程度にされます

↓1

修道女

【性別】 女
【年齢】 18
【前職】 修道女


【主人公の来歴】

どこで生まれ、どうやって育ったか
簡単な一文でもいいし張り切って数行でもいい
ただし長すぎるとこちらで勝手に省略や要約する

初期能力に影響

↓1

国境沿いの辺境にある小さな町で生まれ育った
性格は気弱で大人しいが心優しい性格であり、誰かの為に働いてきた

【性別】 女
【年齢】 18
【前職】 修道女
【来歴】 国境沿いの辺境にある小さな町で生まれ育ち、誰かの為に働いてきた


性格は別安価なので削り


【主人公の性格】

そのまま性格
ストーリー全体と初期能力に影響

↓1

気弱で引っ込み思案

【性別】 女
【年齢】 18
【前職】 修道女
【来歴】 国境沿いの辺境にある小さな町で生まれ育ち、誰かの為に働いてきた
【性格】 気弱で引っ込み思案


【主人公の目的】

なぜ前職を離れ冒険者を志したか
ストーリー全体と初期能力に影響(来歴や性格と一致しているほど効果大)

↓1

町に死にかけの冒険者が辿り着いた。懸命に看病したが救うことができず、平和な街で祈るだけの自分が許せず冒険者になることを決めた。

攫われた妹を助ける為

【性別】 女
【年齢】 18
【前職】 修道女
【来歴】 国境沿いの辺境にある小さな町で生まれ育ち、誰かの為に働いてきた
【性格】 気弱で引っ込み思案
【目的】 平和な街で祈るだけの自分が許せず冒険者になることを決めた


以上から初期能力決定

★ = ☆x2

筋力 ★☆
敏捷 ★
耐久 ★★
感覚 ★★
精神 ★★★☆
幸運 ★★

情熱 ★★★★★(最高値)


筋力=力の強さ
敏捷=素早さ
耐久=体の丈夫さ
感覚=五感の鋭さ
精神=意志の強さ
幸運=運の良さ

情熱=冒険者という職に対する熱意 無くなるとゲームオーバー

【性別】 女
【年齢】 18
【前職】 修道女
【来歴】 国境沿いの辺境にある小さな町で生まれ育ち、誰かの為に働いてきた
【性格】 気弱で引っ込み思案
【目的】 平和な街で祈るだけの自分が許せず冒険者になることを決めた

【能力】

筋力 ★☆
敏捷 ★
耐久 ★★
感覚 ★★
精神 ★★★☆
幸運 ★★

情熱 ★★★★★


【主人公の名前】

この子に名前をつけてあげてください
明らかにアレな場合は下ズレ
出来れば西洋風

↓1

ミア

諸々自動決定して、こんな感じの主人公


【名前】 ミア
【性別】 女
【年齢】 18
【前職】 修道女
【来歴】 国境沿いの辺境にある小さな町で生まれ育ち、誰かの為に働いてきた
【性格】 気弱で引っ込み思案
【目的】 平和な街で祈るだけの自分が許せず冒険者になることを決めた

【能力】

筋力 ★☆
敏捷 ★
耐久 ★★
感覚 ★★
精神 ★★★☆
幸運 ★★

情熱 ★★★★★

【装備】

主 メイス
副 ウォーピック
防 修道女の服
他 聖印

【技能】

手当 Lv1 自分や他者の負傷を回復
祈念 Lv1 一時的に幸運をブースト
栽培 Lv1 一部の草花系アイテムを一定期間毎に自動獲得
料理 Lv1 食べ物系アイテムの効果を自動的にブースト
信仰 Lv2 異教徒以外の人物の初期好感度にボーナス

キャラメイク終わり
ストーリーやらNPCやら整えてそのうち開始します
お疲れ様ー

乙。

乙です 期待してます

おつ
期待

おつ

期待してる!

とある国のとある土地。
隣国との境も近い小さな町にその女性はいた。

名前はミア。

町娘として何の変哲も無い響きの名前通り、彼女に取り立てて特別な所はない。
平均的な両親の下に生まれ、ごく普通に愛されて育ってきた女だ。
困った隣人が居れば手を差し伸べる優しさが取り柄と言えたが、いつも人の顔色を伺うような生来の気弱さとハッキリと主張の出来ない引っ込み思案が足を引き、人の目に留まるほどでもない。

つまりは平凡な人間だった。
輝かしさや華やかさといった言葉とは無縁で、町を探せば似たような人物は幾らでも見つかるに違いない。



ミアは町外れの修道院で暮らしていた。
これもまた、特別な理由がある訳でもない。

端的に言えば婚期を逃し他に道が無かっただけである。
要領の良い同年代の女達が手頃な男を捕まえる中、気弱なミアはそれに失敗した。
より正確に表現すると挑戦にさえ怖気づいてしまった。
明日こそは、次こそは。
先延ばしにし続けて……気付けば適齢期とされる14歳からの2年間が終わっていたという話。

諦めずに相手を探す者、開き直って独り身を貫く者。
そういった者も多いが、人の目を気にしやすいミアには出来ず、清廉と純潔を求められるために相手がいなくとも許される修道院に入ったのだ。

とはいえ、ミアに不満は無い。
修道院の生活は彼女の性に合っていた。

厳しい規律に従う生活は、つまり何をすべきかが全て決まっているという事。
物事をすっぱり決められない性質のミアには逆に喜ばしいだけだった。

日の出とともに起き、信仰を捧げる神へ祈り、ささやかな食事を皆と作り、食べ、麦と果実を育てる畑を耕し、日が暮れれば眠る。

この繰り返しばかりの日々はミアにとって心地良いものだったのだ。
定期的に行う町での奉仕活動も含めて。
他者の助けになれる事を喜ぶ性分も十分に満たされる日々だ。



なのでその日もミアは穏やかな心地で働いていた。
ただし、心地は穏やかであっても苦労がないとは限らないが。


「へへっ、もーらい!」


快活な少女の声とともに黒いウィンプル(修道女が被るヴェール状の頭巾)がバサリと宙に舞った。

ここは修道院のうち、孤児の少女が暮らす区画。
町中にある孤児院を出る年齢になっても職や里親が見つからなかった者のうち、希望する者はここに入る事も出来る。
まだ修道女として道を定めるには早い彼女たちは労働の大半が免除され、その世話は修道女が持ち回りで行っている。

そして今日はミアの当番であり、その度に何かしらの悪戯をされるのは毎度のお決まりだ。

「あっ、こ、こらヴィルマ! それはだめ、返して!」


などとミアにしては大きな声で言うもまるで効果が無い。


「ちょっとヴィルマ! アンタいい加減にしなさいよ!」

「うっせー! 欲しかったら取り返してみろよ!」


ミアに味方した数人の少女が同調してもお構いなし。
少女たちの中でも最も悪戯好きな少年じみた少女は笑い声を上げ、ウィンプルを自分の頭に被せて逃げ回る。

ヴィルマにとってミアは良い標的なのだ。
強く叱れず、怒ってもまるで怖くなく、世話役で一番年若いとなれば当然ではある。
勿論ミアにとってはたまったものではないが。

ただ幸いにしてこれが深刻な事態に発展することはない。
辺境ではあるが隣国との交易が盛んである影響から町は比較的に裕福で、孤児院への寄付も多い。
孤児と言っても飢える事もなく心身共に健やかに育ってきた者達だ。


悪戯者のヴィルマも子供らしく構ってほしいだけ。
しばらく皆で追いかけっこをすれば満足して謝りながら返すだろう。

仕方ない子だと、ミアは苦笑を浮かべて立ち上がる。

だが、今日はどうやら走り回る必要はないらしい。


「ミア。ミアは居ますか?」

「はっ、はい、院長」


孤児院の扉が突然開き、一人の老婆がやってきた。
途端、ウィンプルを抱えたままのヴィルマは「ゲッ」と声を上げる。

名前を呼ばれたミアが応えた通り、老婆は修道院の院長だった。

僅かな歪みも無く伸びた背筋。
不機嫌そうに結ばれた口。
老いを感じさせない厳格な光を宿す目。
眉間に深く刻まれたシワ。
どれを取っても彼女の人格を読み取るには十分だ。


「ヴィルマ、またあなたですか。
 人の物を許可無く奪ってはならないと何度言えば分かるのです。
 先程の言葉遣いも……」

「うげっ、わ、分かりました!
 ごめんなさい!
 すぐ返します!」


印象通り低い声音にヴィルマは慌てに慌てた。
説教が始まってしまえば長いのだ。
声を荒げはしないものの威圧感のあるそれは悪戯っ子に的確に効く。
だからこそヴィルマはすぐさま謝り、押し付けるようにミアにウィンプルを手渡した。


「謝り、返す。
 それさえすれば何度繰り返しても許されるなどとは思わないことです。
 後でゆっくりとお話をしましょう」


彼女にとっては残念なことに、僅かな減刑にしかならなかったようだが。

「あ、あの、院長……。
 この子もそこまで悪気があったわけでは……」

「黙りなさい。
 あなたもあなたです。
 悪童の一人も叱りつけられず何としますか。
 甘やかすばかりでは子は育ちませんよ」

「はい……申し訳ありません」


そして余計な助け舟を出したミアもまたジロリと睨みつけられる。

返す言葉もなく俯いた彼女の横で、女の子たちがこっそり目を合わせて肩をすくめた。
一緒に怒られるに決まってるんだから庇わなきゃいいのにね、と言わんばかり。
全くその通りだったとミアも同意する所ではある。

「全く……まぁ、今はそちらは置いておきましょう。
 ミア、少し町まで行ってもらえますか」

「あ、はい、何をすれば……?」

「エルマーの店に発注をお願いします。
 またネズミが出て豆をいくらか齧られました。
 罠を、そうですね、五つほど」


院長の用件はどうやらお使いのようだ。
ミアもあぁと納得する。
同室のおしゃべりな修道女がそのような愚痴をこぼしていたのは記憶に新しい。


「分かりました、すぐに」

「えぇ、助かります。
 ここは私が代わりましょう」


断る理由は無く快諾し、そうしてミアは町へ向かった。
残念そうな子供たちの声に、出来るだけ早く戻るからと返して、いつも通りの気軽さで。

閉まった扉から視線を外し、院長が子供たちに向き合う。
幼い顔はどれもが不満そうだった。
それを見ればミアがどれだけ子供たちに好かれているかはだれの目にも明らかだ。


「ミアは随分と慕われているようですね?」


院長が確認するように口に出すとすぐに返る肯定の声も多い。

中でも利発そうな少女がなぜだかしたり顔で声を上げる。
ヴィルマの悪戯に怒りを見せ、ミアの擁護に呆れていた子の一人だ。


「そりゃそうですよ!
 ミア姉、いっちばん優しいんですから」

「えぇ、そうでしょうね。
 そこは間違いなくあの子の美点です」


院長も頷き、日々の営みを思い返した。

任された仕事への懸命さは多く居る修道女の中でも指折り。
自分の仕事が終われば人手の足りない所を積極的に探し率先して手伝い、不満の一つも漏らさずに良く働く。
ミアの勤勉さと細やかさは院でも随一だった。

規律破りも一度も無く、祈りの時間にも院長に次ぐ真摯さを見せる。
理想的な修道女だと院長も太鼓判を押すところである。

「後は、あの弱気が治ればなお良いのですが」


だからこそ院長は小さく溜め息を吐く。
他が完璧なだけに、そこだけが気がかりだと。

それに異を唱えたのは先程と同じ少女だ。
やっぱり同じくしたり顔で、笑みを深めて言う。


「違いますよ先生。
 ミア姉はそこがいいんです」

「……そうですか?」

「そうです。
 先生もきっとそのうちわかると思いますよ」


フフンと鼻息を強めて少女は得意げ。
なんと小憎らしい顔かと、院長は片眉をぴくりと震わせた。

孤児たちはその境遇にも歪まず、小生意気ながらも健やかに育っている。

ミアが愛し、院長も良しと見守る日常の象徴のような光景だった。

慣れ親しんだ営み。
僅かに予定外の仕事が入るのもいつもの事。
修道院の生活は何一つ変わらずに続いていく。
誰もがそう思っていた日々はしかし、その日だけは違ったらしい。


明らかな非日常は、扉を乱暴に開く大きな音とともに現れた。

余りに耳障りな轟音に眉をしかめ、院長は扉に振り向いた。
大きく開け放たれたその先には息を荒げるミアの姿。

無作法を叱りつけようという院長の考えは一瞬で消える。
大人しく規律に従順なミアがこうもなるなど明らかにおかしい。


「ミア、一体何が……」

「院長っ! ひと、人が……!」


尋ねる言葉さえ言い切らせず、ミアは必死に声を上げる。
顔を蒼白に染めて、震える体を扉に縋るように押し付けて。


「人が、血まみれで倒れています!
 皆を集めて下さい! 助けないと!」


―――――
―――



その冒険者らしい男は、誰がどう見ても手遅れだった。

町外れの修道院からさらに外郭、森の中に踏み入ってそこで何かに襲われたに違いない。
そう断言できるのは「道」が出来ているためだ。


生い茂った緑の草の中でもハッキリと分かるほどに、真っ赤な鮮血の道が伸びている。


ここまで逃げてこられた事さえ奇跡と呼べる重傷だった。
人体としての正しい形は欠け、意識は朦朧としてうわ言を繰り返すばかり。
彼に対して出来る事があるはずもなく、急ぎ連れ出した修道女たちも立ち尽くすほかにない。


「大丈夫、大丈夫です!
 きっと助けます!」


叫び、深すぎる傷に布を巻くミアの声も虚しく空回る。
止血のためだろうその行動が何の意味もなしていない事に気付き、院長はそっと目を伏せた。

血は既に止まっていた。
もはや流れ出るものが無いためにだ。

「…………ミア。離れなさい」

「っ!
 院長!」


助けなければ。
助かるはずだ。
そう訴えて見上げる瞳にも力は無かった。


「ミア、もう一度言います。
 離れなさい」


ミアと同じく男の横に院長が跪き、震える細い肩に手を添えれば、それでミアは引き下がった。
力尽きるように崩れ落ちて、間に合わなかった事に謝罪の言葉を呟いて涙を零す。

それを横目に、院長は男の顔に耳を寄せた。

彼はもう助からない。
ならばせめて最期の言葉を聞くべきだ。
そしてそれは若く感受性に富むミアではなく、老いた自分の役割だと老婆は知っている。

血泡が混じり酷く不明瞭であったが、幾らかの単語は聞き取れた。

一つの場所と、一つの人名。
男は繰り返しその二つを呟き続けている。


「……」


院長は男の手に固く握られた物を見て、耐えるように一度だけ目を瞑る。

だがそれもほんの一瞬の事。
すぐに顔を上げ、静かに、けれど明瞭に告げる。


「えぇ、必ず届けましょう」


言葉はどうやら届いたか。
男はそこでうわ言を止めた。
緩やかに目蓋が閉ざされ、手が力無くほどける。


「あなたの献身を主はきっと見ておられます。
 神の園にて、どうかゆっくりとお眠りなさい」

何日かの後に男の葬送は恙なく終えられる。

最も心の負荷が大きかったであろうミアに与えられた休養が明けたのはさらに数日後。

それまでの期間をミアは、一度の例外を除いて自室を出ることなく過ごした。

―――――
―――




そして今、早朝の院長室にてミアは院長に対面していた。


「来ましたか、ミア。
 調子は戻りましたか?」

「はい、ご迷惑をおかけしました……申し訳ありません」

「迷惑などではありません。
 あなたの心労は当たり前の情動であり、休養もまた当然の道理です。
 頭を下げるのはおやめなさい」


院長はそう促すもののミアは顔を上げようとしない。

これはもう幾日か休ませるべきかと院長は口元に手を当てる。
その考えが形をまとめ声になる前に、ミアが答えた。


「いいえ、上げられません。
 もうひとつご迷惑をおかけしてしまうのですから。
 ……私は、修道院を出ようと思います」

「あなたは……。
 ……いえ。
 えぇ、そういう事もあるかとは思っていました」


口元に当てられていた手は、そのまま目元を覆い隠した。
院長は疲れたように細く息を吐く。
言葉の通り、院長の想像のうちにその考えはあった。

ミアは人一倍に優しく勤勉で、信仰にも篤い娘である。
それが瀕死の人間を第一に発見し、そして何もできずに助けられなかったとなればどうなるか。

修道院を出て医師や薬師の道を志す可能性はあるかも知れないと院長も考えはしていた。


「ならば一つ聞いておかなければなりません。
 それは贖罪のつもりですか?」

院長は老いに霞む目をしかと開きミアを見つめた。

事前に考えに至っていたのだから、当然どうすべきかも考えていた。
これがもし罪の意識から、義務感に追いやられての決断ならば止めなければならない。
負の決意はいずれ心を壊すに違いないと。


「……いいえ。
 私はただ、助けたいと思ったのです」


しかし、どうやら杞憂だったと院長は悟る。

ようやく顔を上げたミアに負の感情は見えない。
気持ちにどう区切りを付けたかは本人にしか知り得ないが、あの凄惨な出来事はミアに正の決意を与えたらしい。



ならば院長に止める理由は無い。
安堵に小さく頷き、出来うる限りの便宜を図ろうと決めた。


「結構。
 では紹介状を書きましょう。
 エッカルトか、それともアガーテの所にしますか?
 どちらも腕と人格は私が保証しましょう」


院長は町に暮らす知人の名を挙げる。
前者はやや酒癖が悪いものの腕の良い医師であり、後者は声が大きすぎる以外に欠点の無い薬師だ。
二人ともにミアも面識がある上に十分に信頼もできる。
どちらに弟子入りしたとしても良き学びを得られるはずだと院長は確信している。

……だが、ミアはそのどちらも選ばなかった。

その返答に、院長は思わずしばし放心した。
余りにも想定外が過ぎたためだ。
まさかよりにもよってとさえ思えない。

ミアがその道を選ぶなど一度たりとも考えた事などありえない。
およそ彼女とは最も遠い職のはずだと頭を振る。


「……もう一度、言ってごらんなさい」


出来うる限りの圧と怒りを籠め、院長は再度尋ねる。
気の弱いミアが折れて答えを変える事を期待して。


「……っ」


気圧されたミアは怯えたように口をつぐんだ。
足はミアが意識しないままに半歩下がり、体の正面で重ねられた手は酷く震えている。

「あなた、剣を握った事は?」

「……あり、ません」


そうだろうと頷く。
睨みつける形に目を細め、追い打つように続ける。


「町を出て、いつ獣が現れるとも知れない道を歩いた事は」

「……ありません」

「力の限りに走って、力尽きても倒れる事を許されなかった事は」

「ありません」

「他者から殺意を向けられて、生き延びるために抗った経験は」

「……それも、ありません」


ミアにそのような経験がある訳がない。

平和な町に生まれ、平凡に育ち、流れるままに修道院に入った。
そこに荒事が差し挟まれる余地は存在しない。

ミアは正真正銘にただの娘だった。

「ならば分かるでしょう。
 あなたに何が出来るというのですか。
 その決意はただの気の迷いです。
 冷静に――」

「私は!」


しかし、院長の説得は遮られる。

足は下がったまま。
手は震えたまま。
恐怖を克服などできないままに、それでもミアは言い切った。


「わ、私は、冒険者になります!」

「何ができるとも思っていません。
 大それた事はきっと、一つも出来ないと思います。
 ろくに結果が出せなくて、ただ迷惑をかけるだけになるかもしれません」


でも、とミアは言う。


「それでも、絶対に何もできないとは、決まっていません」

ミアは気弱で引っ込み思案で、そして人一倍優しい娘だ。
困った隣人が居れば手を差し伸べずにはいられず、いつも誰かを助けて生きてきた。

だから修道院での暮らしは彼女にとって満ち足りたものだった。

天上の神に人々の安寧を祈る事。
生活の合間に孤児の面倒を見る事。
時折町に入り人々への奉仕活動に勤しむ事。

この三つで十分に、人の助けとなっている自分を誇る事ができていた。

けれど、もうそんな日々には戻れない。
ミアは知ってしまったのだから。



死に際の男が握り、届けてくれと託した物。

それは森に潜む猛獣の臓器だった。
ある死病に対する薬の、その原材料の一つである。

もし臓器を諦め獣の解体をせず、戦闘後にすぐに引き返していれば。
危地に陥る前に逃げ帰っていれば。
いや、そもそも危険な依頼を受けていなかったならば。
彼は死なずに済んだかも知れないのに。

それでも森に踏み入って勇敢に戦い、最期まで人を救おうと足掻いたのだろう。


そんな人の、あるいはそんな人々の存在を、ミアはもう知ってしまった。

「だから……私はもう、祈るだけの日々に耐えられません。
 ……お許しください」


語るミアに、院長は唇を噛んだ。

ミアの心は既に定まってしまっている。
どんな言葉も力を持たないに違いなく、たとえ力尽くで留めおいたとしても今度はいずれ心を病みかねない。


「申し訳ありません。
 きっと多くのご心配とご迷惑をおかけします。
 これまでの恩を仇で返す事になると思います」


憧れも希望も抱かず、これより踏み込む世界に怯え、死にたくないと震えながら。


「それでも私は……冒険者になります」


鋼の決意を吐く娘を止める術を、院長は何一つ持っていなかった。

プロローグ終わり
次から冒険者始まります

乙です、これは期待。


スレタイに偽りなし


これは期待

おつ
きたい

やるよー


【冒険者の宿/喉笛破りの白犬亭】



院長、立場を同じくする修道女、自身を慕う孤児たち、そして両親。
皆の説得を終え荷物をまとめ旅立ったミアは今、生まれ故郷から遠く離れたとある都市の「冒険者の宿」に居た。


冒険者とはこの冒険者の宿に所属する者を指す。
その役割は、大小様々な困難……主に荒事を伴う可能性の高い困り事の解決だ。

例えば、凶暴な害獣の駆除。
危険な地域に棲息する動植物の確保。
開拓のための事前調査、そのさらに前段階としての探索。
また、大概の冒険者がある程度の戦闘技能を有するため商隊の護衛などを行う事もある。


素人では難しく、しかし国や領主が兵を動かすほどでもない。
そんな物事に当たる者たちの事である。
日常の中に居る傭兵、と言っても良いかもしれない。


そして冒険者たちを管理するのが冒険者の宿だ。

宿の主は冒険者に代わり様々な依頼を集め、安価な寝床と食事を提供し、代価として依頼報酬の一部を得る。
冒険者は報酬は減るものの、依頼探しや交渉などの雑事から解放される。

他にも幾らかの利点はあるが代表的なのはこの辺り。
百年ほど昔ならばともかく、現代では冒険者といえば宿に所属するのが当然とされる。
中には例外も居るが、それらの大半は賊と大差のないならず者だった。

「……なるほどねぇ」


カウンター越しに座る老爺はポツリとこぼす。
彼はこの宿の主であった。

隻眼にして隻腕。
恐らく元冒険者なのだろう。
歴戦を物語る多くの傷跡が残る肉体は老いてなお巌の風格を保っている。

ただ、それが無用な威圧にはなっていない。

好々爺然とした柔和な表情と声色のためだ。
どこかから小さな菓子でも取り出して「食べるかい?」と孫を甘やかす様がきっと似合う。
そんな想像を、ミアが思わず脳裏に描くほど。

老齢らしく真っ白な頭髪も併せて、宿の屋号にある白犬を思わせるような人物だ。

老爺……オスヴァルトと名乗った宿の主は手元には数枚の便せんを確かめるように読み返し、何度かミアと見比べていた。

それらは紹介状である。
院長はあの後、苦虫を噛み潰したような顔で紹介状をしたためてくれた。
どことも知れない、質の悪い宿に入られるよりはマシ。
そう言って半ば叩き付けるように渡されたのだ。


「うん、では幾つか。
 荒事の経験は無し。
 町の外にも殆ど出た事がなく、修道院でずっと暮らしてきた。
 間違いはないかな?」

「は、はい。
 それで間違いありません」

「ふぅむ……そうかそうか」


オスヴァルトは頷き、椅子の背にゆっくりともたれた。
古ぼけた印象の背もたれが大袈裟に音を立てる。
行儀よく体の正面で重ねられたミアの手に、不安から力がこもる。

「あの……やはり、無理でしょうか?」

「うん?
 いやいや、そんな事はないさ。
 君より悪い条件の者もよほど多い」


思わず問うたミアにオスヴァルトはからからと笑って返す。


「身一つ、着の身着のままで武器の一つも持たない。
 そんな様でやってきた子はもう何十人と見たとも。
 そこから懸命に這い上がって一人前の冒険者になった者も」


オスヴァルトは便せんを手に取り、シワだらけの顔に苦笑を浮かべて続ける。


「君はまだ若いしこれまでの経歴は然程重要じゃない。
 君がいかに勤勉かはここに書き連ねられている事だしね」

「……! で、では!」

オスヴァルトの肯定的な言葉に思わずミアは身を乗り出した。

冒険者になる。
そう啖呵を切ったミアであったが、冷静に考えて敷居は高いのだ。

一切経験が無く素養もまるで見えない。
いくら紹介があるとはいえ、そんな人物を本当に所属させてくれるのか。
乗合馬車に揺られこの都市を目指す間、不安は時と共に増大するばかり。

その果てにかけられたのがこの言葉であれば食いつくのも無理はない。


「いやいやまぁまぁ。
 気持ちは分かるけれども、まずは落ち着いてくれるかな?」

「あっ、し、失礼しました……」


だが、流石に無作法である。
オスヴァルトは笑みを深めて止め、ミアは恥じらいに俯いて引き下がる。

「うん。
 君の雇用を検討しても良いとは思っている。
 が、今はまだ判断の材料が足りていないんだ。
 紹介だけではなく、実際に見てみない事にはね」


そう置いてオスヴァルトは説明した。

宿に舞い込む依頼は前述の通り誰かが困っている何事かである。
解決に失敗したとなれば宿の評判を落とし迷惑をかけるだけでは済まされない。
依頼人に経済的な損失を与える事態に陥るケースも多く、失敗が命に直結する事さえある。

今現在の実力はともかく、才や熱意が全く無い者に任せられる依頼は存在しない。


「だからまずはそこを見よう。
 試験という事になるね」

「試験の内容だけれど……。
 今は誰の手が空いていたかな。
 全く、この年になると記憶が曖昧で困るよ」


オスヴァルトはおどけるように言って立ち上がり、宿の片隅にあるボードに向かう。
そこには幾人かの名の横に色付きのピンが刺してある。
どうやらそれで所属する冒険者の予定を管理しているようだ。

しかし、ミアはそれどころではない。
試験と聞いてからこちら、緊張に身を固くするばかり。

本当にやれるのか。
いや、大丈夫、やれるはずだ。
やらなければ。

内心ではこの三文がひっきりなしに飛び回っている。

と、その時。
宿の扉が開いて軋む音を立て、誰かの足音がそれに続く。

その音につられミアが振り返ると……。



1/むくつけきヒゲ面の大男が立っていた。

2/誠実そうな雰囲気の青年が立っていた。

3/軽薄な笑みを浮かべる女性が立っていた。

4/表情に乏しい少女が立っていた。



↓1

1

そこには、むくつけきヒゲ面の大男が立っていた。


「おーう帰ったぞー。
 爺さん、なんかすぐ食えるもんあるか?」


宿の中に野太く張りのある声が響く。
その声の出元を見るために、ミアは大きく見上げなければならなかった。

まるで岩の怪物かなにかだ。
それほどに大男は巨大で、しかも分厚い。
体のありとあらゆる部位が重厚な筋肉で覆われているのだ。
見るからに頑強な肉の鎧は明確に野性的な脅威そのもの。


振るわれた腕に小突かれただけで吹き飛ばされる自分を空想し、ミアは息を呑む。

知らずのうちにカウンターに縋るよう、数歩も後ずさってしまっていた。

「あぁ、ヴォルフか、いい所に帰ってきた。
 ちょうどたった今頼みたい事ができたんだ」

「あん?」


その男にオスヴァルトが声をかける。
大男はどうやらヴォルフというらしい。
口ぶりからすると宿の一員……冒険者に違いない。

ヴォルフは途端にニヤリと顔を歪めた。
巨体に見合った大きな手でヒゲまみれの顎をゴリゴリと掻き、ちらりとミアを見やってから口を開く。


「新しい依頼か?
 確かにちょうどいいやな。
 腰も軽くなったとこで、一働きといくかい」

「うんうん、毎度頼もしいことだ。
 ただ、悪いが君が満足するような仕事じゃないよ。
 その子の試しをお願いしたくてね」


意気揚々。
そんな雰囲気だったヴォルフは虚を突かれたように目を見開いた。

その子というのはこいつか、とばかりにミアを指さし。


「依頼人じゃねぇのか?」

「うん、志望者だよ」

「……おいおい、冗談だろう」


そしてのしのしと大股で近付く。
まるで壁が迫ってくるかのような威圧感に、ミアは逃げる事さえできない。

離れていても見上げる程だった巨体である。
眼前ではその迫力も段違いだった。

当然の事ながら修道院には女性しかいない。
そのために数年を男とろくに接していなかったミアにとってはハッキリと異物だ。
漂う強い酒気もあいまって感じる恐怖はただただ高まっていく。

そんなミアを上方から、ヴォルフは面倒そうに見下ろしている。


「なぁおい、あんた本気か?
 ただ金が欲しいってだけならやめといた方がいいぞ?
 悪いがとても務まるようには見えねぇ」


ヴォルフの言葉は明らかにミアを侮り見下したもの。

しかし、残念ながら正当な評価だった。
人によってはミアが冒険者志望というだけで職自体を舐められたと怒り狂う者もいるかも知れない。
それを考えればヴォルフはまだしも有情と言えた。

「わ、私は本気です。
 軽い気持ちで、来ているわけでは……」

「お、おぉ……そうかぁ?」


懸命に返すミアの言葉にも説得力が足りていない。
間近にある男性らしすぎる肉体に気圧され端々が震えているのだ。
向けられたヴォルフも困惑するほかない。


「いや、いやいや、しかしよぉ……」


その困惑に任せるまま、ヴォルフがさらに動いた。
丸太のような腕が無造作にミアへと伸ばされる。

「この腕でか?」

「……っ!」


むんずとばかりに大きな掌がミアの細腕をつかみ取った。

遠慮など少なくともミアには僅かも感じられない。
好き勝手に撫で回し、確かめるように指が埋められる。

父親以外の男性に触れられた経験などろくにないミアにとってそれは酷く精神を圧迫する体験だった。
虫に這われたに等しい嫌悪感が急激に肌を粟立たせる。


「いや、マジでほっせぇな。
 おい爺さん、流石に無理があるだろうよ」


だがヴォルフはそんな様子に気付いた節もない。
顔だけをオスヴァルトに振り向かせ、呆れを多分に含んだ声を上げるだけ。


そんなヴォルフに対し、ミアは……。



1/何もできなかった。

2/力の限り抵抗した。

3/手を離すよう声をあげた。



↓1

3

「……っ、は」


ヴォルフはミアの嫌悪に気付いた様子もない。
何も抵抗しなければ解放は当分先になるだろう。
それどころか悪化の可能性もある。
ならば声を上げなければならないのは当然だ。

しかし震える喉は上手く声を作ってくれない。
初めて経験する異性の脅威であり、しかも見上げる程の大男。
生来気弱なミアに奮い立てというのも酷な話だ。

形作ろうとした言葉はか細く抜けるばかり。
どうして私はこうなのかとミアは僅かに自己嫌悪にかられた。

「はなして、くださいっ」


それでも幾度かの挑戦の後に抗議は成功した。
ミアは欠片ほどの勇気を必死にかき集め、なんとかその一言を発する。

そうしてしまえば、顔を上げて睨みつける事も意外と簡単だった。


「あー……。
 おう、悪かったよ」


無作法を責める言葉を続ける事は出来なかったものの、十分に意思は伝わったのだろう。
……たとえそれが子犬か子猫のようなか弱さであったとしても。

ともあれ、ヴォルフはバツの悪そうな顔でミアを腕を開放した。

別の選択肢が正解だったか


――――――

精神経験点+

――――――

リロードしてなかった
失礼しました

「はぁ、まぁしゃーねぇか。
 んで爺さん、俺は何すりゃいいんだ?」


それで何となく勢いを失ったらしい。
ヴォルフはミアの志望を取り下げさせる事を諦めた様子で尋ねた。
つまらなそうに肩を落とした姿は明らかにやる気が無さそうで、面倒ごとをさっさと処理しようという内心が窺える。

ミアとてその態度に反感を覚えはしたが、今は試される立場だ。
多少の不満は静かに飲み込んだ。
手が離れても未だ嫌悪感は強くこびりつき、出来るだけ関わり合いになりたくなかった……というのもある。

「うん、それなんだけれど、やっぱり実地で見るのが一番だ。
 南の廃村近くで小鬼を見たという話があってね。
 新しい話だからそう数が居る事も無いと思うし、多少想定外があっても君なら相手にもならないだろう?
 ミア君を連れて探ってきてくれるかな」

「あー、わかったわかった、いつものな。
 ……ったく、これだから爺さんは」


しかし、どうやらここに嫌悪感に対する特効薬があったらしい。

オスヴァルトの語る言葉に、ミアは途端に顔を青くした。
性的な嫌悪などあっという間に吹き飛んでいる。


「素人の女子供にやらせることじゃねぇだろ。
 いかにもお人よしって面しといて」

「ははは、何を言ってるんだか。
 こんなに優しい事もなかろうに」


ミアの様子を横目で見ながらヴォルフが言い、オスヴァルトが笑って流す。
これ見よがしに巨体から吐き出された溜め息も老爺にはまるで効果が無いようだ。

小鬼とは、一般にゴブリンとも呼ばれる者たちだ。

人の子供に近い体躯。
人とさほどに変わらぬ力。
野生の動物としては脅威の度合いが低く見える彼らはしかし、その気性と性質をもって評価が裏返る。

人を襲い、奪う事を彼らは何より好むのだ。
衣服、道具、住居、家畜。
全てを奪い去り我がものとした後に、尊厳までを奪うように長く長く人間を甚振り、殺す。

そこに容赦や呵責の類は僅かにも存在しない。
小鬼に捕えられたなら自由があるうちに舌を噛め。
古くから伝えられている言葉に誇張は含まれていない。


そんな彼らは人間を妬む事を本能に定められているかのような振る舞いから、魔物と呼ばれる生物のうちで最も人間に身近な種であり。


「最初に飛び切り怖い思いをしておけば、後々が楽になるだろう?」


そして人類の外敵の中で、最も多くの人命を奪っている脅威でもあるのだ。


―――――――――――――――

Quest 1 村落跡のゴブリン退治

―――――――――――――――

寝るー
筆はもうちょっと早くしたいけど慣れるまで我慢してください
出来るだけ頑張る

あつおつ
好きな文体、焦らず自分のペースで頑張って

おつ
好きよ

乙です

都市から見て南方には、豊かな草原が広がっている。

周囲を山に囲まれた盆地だ。
山々から流れる三本の川の合流点であるそこは、水の浸食により段丘と緩やかな台地が形作られていた。
険しさとは殆ど無縁。
牧歌的と言って良いのどかな風景が延々と続いている。

しかし、一見平和にも見えるこの土地には一つの町も存在しない。
付近一帯を治める領主の一族は過去に幾度か手を伸ばしはしたというが、全てが失敗に終わったらしい。


「っつーのも、川と山が曲者でな。
 少し雨が続けばすぐ溢れる上に、山は鉄が多すぎるときた」

「はっ、はぁ……そう、なん、っんぐ、ですか……」

「おう、ほれ、あっちの山見てみろ。
 山肌が真っ赤だろ?
 あんだけ赤いと鉄虫が湧き放題だ。
 ……連中は鬱陶しい癖に旨味がねぇんだよなぁ」


鉄虫とやらを思い出しているのか、ヴォルフはくしゃりと顔をしかめる。
だが、ミアにそれを確認する余裕は無かった。

ゴブリン退治と聞いて顔を青くしたミアだったが、実際はそれ以前の問題だった。

村落跡とはつまりそのまま村落の跡であり、当然そこにはもう誰も暮らしていない。
当然の事として道の整備など行われていないのだ。
かつては道だったのだろうと思われる窪みは伸び放題の植物に覆われ、全く歩行を助けてくれない。
むしろ境目を見落とせば段差に足を取られるだけの余計な地形でさえある。

町中と修道院のみで暮らしてきたミアが簡単に踏破できる道程ではなかった。
体力はあっという間に底を付き、息もまともに整わない。
途中で痛み始めた足は麻痺してきたのか鈍い熱を感じるだけになってはきたが、それも良い事ではないだろう。


「ま、それを差し引いても美味しい場所でな。
 鍋回しの連中なんかにはここらの素材は高く売れる。
 依頼の少ない時期にはちょうどいい稼ぎになんだよ」

「はっ、はっ、ぅ、げほ」

「…………あー。
 そろそろ休憩するか」

「……っ、っ!」


ミアは声も出せずに頷く。
ヴォルフの話に耳を傾けて辛さを紛らわせるのもそろそろ限界だった。

「ほれ、水だ。
 一気に飲むんじゃねぇぞ。
 少しだけ口に入れて、じっくり湿らせるようにしろ」


ヴォルフがざっくりと安全を確認した木陰に、ミアは倒れるように座り込んだ。
ずい、と差し出された革製の水筒は今の彼女にとって救世主に等しい。
礼の言葉を痛む喉からなんとか絞り出して受け取り含んだ水はどこまでも染み入るようであった。


「……マジで体力ねぇなあんた。
 まだ半分もいってねぇが、村までもつか?」


返す言葉も無くミアは俯いた。

擁護するならばミアが貧弱というわけではない。
町娘としては平均程度。
それが冒険者としては全く通用しない水準だったというだけだ。

「おい、無理はすんな。
 どんな事情があるかは知らんし聞きもしねぇけどよ、生きてくだけならこんな稼業じゃなくてもいいだろ。
 なんなら俺が口利いてやってもいい」

「……」

「なぁ、引き返そうぜ。
 帰りは俺が運んでやるから」

「……あり、がとうございます」


巨体を縮めて視線を合わせるヴォルフにミアは頭を下げた。

初対面こそ悪かったものの、既にミアの中から悪印象は払拭されている。
彼が気遣いの人だというのはここまでの道中で知れていたのだ。
岩のような厳つい顔は表情を読み取りにくいが、今も真摯にミアを案じてくれているのが良く分かる。

だが、ミアもそれに甘えるわけにはいかない。

絶対に人を助けると決意して修道院を飛び出したのだ。
まだ何も為していないうちに諦めるなど出来るわけがない。

むしろ逆効果だ。
萎えかけていた心に再度芯が入る。


「でも、大丈夫です。
 まだ、やれます」

「……あー、そうかい」


今度はヴォルフの頭が下がる番だった。
どうしようもねぇ、と言いたげにガックリと首が折れる。
盛大に吐き出された溜め息にミアは身を震わせた。


「……申し訳ありません。
 ご迷惑をおかけします」

「おう、気にしとけ。
 戻ったら取り立てる」

「ただなぁ、流石に予定を変えた方がいいかもしれん」


ゴリゴリと頭を掻いたヴォルフは視線を合わせたまま今後の道程を語った。

今回の目的はゴブリンの発見と徹底的な駆除である。
それ自体は難しくない。
人の道具や住居を奪い利用する性質から、ゴブリンはほぼ間違いなく村落跡に潜んでいる。
その上に人間に対する常軌を逸した攻撃性を考えれば逃走の可能性はゼロに等しい。


「ぶっちゃけ、正面から突っ込んで向こうに発見させりゃ達成だ。
 小鬼相手なら百匹居ても俺は殺せる」


しかし問題はそこにミアを連れていかなければならない点だ。

ヴォルフいわく、彼の得意分野は単独突撃からの皆殺しだという。
護衛の類は殆ど経験が無いらしい。

万全を期すためには事前の偵察は欠かせない。
そのためには途中から山に分け入って村落跡に近付き、高所から見下ろすのが最も確実だ。
ゴブリンは人間と同じく平地の生き物であり、山中で彼らと遭遇する危険も少ない。


「っつー予定だったんだが。
 当然山に入るなら道は今よりずっときつい。
 やれそうにないならこのまま進むって手もある」


その場合は背の高い草に隠れて周囲を探る事になるようだ。
村落跡に居を構えているのなら獣道を始め諸々の生活痕が存在する。
そこから数を推測する形だ。


考えを伝え終え、ヴォルフはミアの考えがまとまるのをじっくりと待っている。



1/山に入る。

2/このまま進む。



↓1

1

始まるの遅かったので短めだけど寝るー

おつおつ

乙でした
次の更新も楽しみにしてます

「いえ……大丈夫、です。やります。
 予定通りでお願いします」


しばし考えた後にミアが出した結論はそういうもの。

冒険者になる。
それは当然、容易い道ではない。
無理や無茶はミアも覚悟の上だった。
山中からの偵察が確実というならやらねばならないと顔を上げる。

それに対しヴォルフは半ば睨むように目を細めた。


「よし、わかった。
 そっちの方が確実ではあるしな。
 ……やるつったんだから、しっかりやれよ」

―――――
―――



しかし、意気込みだけで何とかなりはしなかった。
ミアの足腰は山を登り始めてすぐに限界を迎えていた。

ミアとて山登りを甘く見ていたつもりはない。
だが想像が足りていなかった事は確かだろう。

足元が傾斜している。
その一点がこうも苦しいのかと震える足を抑えてミアは唸った。

一歩一歩に必要な力がここまでとは段違い。
道が無いのは同じだが、転ぶだけで済んだ平地と違い滑落の恐れもある。

その上。


「……っ!?」


ほう、ほう、と何かが鳴いた。
思いの外近かった音にミアは慌てて周囲を見渡すが、何も見つからない。

山中は生命の気配に溢れている。
自身の数倍はある針葉樹に囲まれ見通しの利かない視界には何も捕えられないが、時折こうして何者かが存在を示していた。
声はすれど姿は見えず。
本当に危険なものはヴォルフが対処すると分かっていても恐怖は抑えきれない。

そして、恐怖に竦んだ体というものは平時よりも遥かに消耗が早い。
途中で拾った杖……程良い太さと長さの枝が無ければミアはとうに倒れていただろう。

……それもどうやらここまでだ。
荒れる呼吸、意思に反して震える体。
視界は徐々に霞み異常な発汗も止まらない。

ついに杖が体を支えきれずに滑る。
預けていた体重が地面へ向けて崩れ、そして立て直す力などどこにも残っていない。

あっ、と思った瞬間には完全な手遅れ。

受け身の心得も無いミアに出来る事は、衝撃と滑落の予感に固く目をつぶる事だけだった。

「よっと。
 ま、ここまでだな」


だが予感に反してミアを痛みが襲う事はなかった。

全体重を支えながらこゆるぎもしない強靭な何かがミアの腹部を支えている。
恐る恐ると目を開けば、そこにあったのは巨大な腕だ。
言うまでも無くヴォルフのものである。

そしてそのまま、ミアはぐわんと持ち上げられる。
急激に流れる景色に悲鳴を上げて困惑し、行き付いた先は肩の上。
気付けばミアはまるで荷物のように担がれていた。


「悪いがこれ以上は無理だな。
 日が暮れると困る。
 このまま運んでくぞ」

いや、事実今の自分はただの荷物だとミアは実感する。
今意地を張って降ろされたところで、もう一歩も動けるとは思えない。

やれると言って志願したものの結果はこの様。
足手まといは当然とはいえ、己の情けなさにミアは俯いた。


「……申し訳、ありません」

「あー、いや、なんだ。
 ぶっ倒れるまで弱音も吐かないってのは、なかなか根性あるんじゃねぇか?」


フォローするヴォルフの言も、今のミアにはただ恥じらいを生むだけだった。



―――――――――

能力判定/耐久

耐久 ★★

不可

―――――――――

耐久経験点++

感覚経験点+

―――――――――

ともあれ、ミア達は村落跡を見下ろす位置に到着した。
ヴォルフはミアをそっと降ろし、村の方向を示す。


「ほれ、見えるか?
 開拓村跡だ。
 いるなら間違いなくあそこだろうよ。
 人の建てた家は連中の大好物だ」

「は、はい、なんとか。
 あそこに、ゴブリンが……」


太い指が伸ばされた先、木々の密度が薄く幾分か見通しの良いそこからは確かに家々が見えた。
僅か二十軒ほどのほんの小さな集落がそこにある。

とはいえ規模の割には作りは堅牢だった。
道が消え去るほどの年月を経たとは思えないほどに家屋に綻びは少ない。
朽ち始めてはいるものの未だ原型をしっかり留めている。
周囲を囲う獣除けの柵も壊されたような部分はあるが自重で倒れたりはしていないようだ。

「普通は跡に棲み付かれねぇように壊すはずなんだがなぁ……。
 いやま、今は関係ねぇか」


ヴォルフはそう言って木に寄りかかり、この場での偵察を兼ねた休憩を告げた。

村内が見下ろした状態で一刻ほど待機し、おおよその数を把握。
問題がなければ山を一直線に下って殴り込むという。
それまでにしっかり息を整えておけと指示がされた。

ミアは了解の返事を返し、ヴォルフのすぐ隣に腰を下ろす。
山中の危険はすでに十分に把握している。
そばを離れる事は子供でも分かる程に無謀だった。
これまで感じていた巨体の頑健さから離された事が不安を生んでいたというのもある。


と、そこでミアは一つ気付いた。
地面に伸ばした足、靴の中にじりじりとした痛みがある。

もしやと思い靴を脱げば、そこには血がにじむ傷があった。

慣れない長時間の歩行に山歩き。
それが足に過度の負担をかけ皮膚を破ったのだろう。

今までは気が張り詰めて気付かなかったようだが、体を休ませようと気を緩めた途端に痛みが主張を始めたのだ。
目で見てしまった今、それは更に声を大きくする。


だが幸いな事に、ミアには簡単な治療の心得がある。
痛みに顔を歪めはしたものの慌てる事なく荷から道具を取り出し、傷で動きが鈍らないように手早く応急手当を行った。


――――――――

技能判定/手当

手当 Lv1



――――――――

「ほー、慣れたもんじゃねぇか」


感心したような声が頭上から降る。
腕を組んだヴォルフはミアの手際をじっくり確認していたようだ。


「は、はい。
 修道院では時々、医院に近い事もしていましたので。
 その、私はまだ真似事のようなものですが……」


見られていた事に気付いていなかったミアはおどおどと答えた。
それに対しヴォルフは、いやいやと続ける。


「そう卑下したもんでもねぇだろ。
 良い手際だったぜ」

「あ、ありがとうございます」


ヴォルフはにかりと歯を見せて笑っている。
どうやら本心からの称賛のようだった。

ミアの心に僅かだけ余裕が生まれた。
ここに来てようやく、小さくとも長所を見せられた事に安堵する。

人心地ついたミアだったが、少しすればどうしたものかと思考が回り始めた。

この場で村落跡を監視して一刻。
短くはない時間だ。
それまでをただ休むばかりで良いのだろうか。
何か他に出来る事はないだろうかと。



1/何もせずじっと休む。

2/ヴォルフと同じように村の様子を探る。

3/周囲の山中を警戒する。

4/ヴォルフに話しかける。



↓1

1

3

いや、とミアは思い直した。

余計な事はするべきではない。
指示に従って大人しく息を整えようと、ミアは自身の膝を抱え込む。
心を落ち着かせるように目を閉じて深く呼吸した。

山への恐怖は未だあるが道中ほどではない。
このままじっとしていれば回復も早いはずだ。


―――――
―――



「よし、そろそろ行くか。
 数も大体見て取れた」


ヴォルフの声にミアは顔を上げた。
促されるままに立ち上がり、荷を背負って杖を持つ。

疲労は完全に抜けたわけではない。
それでも「一歩も動けない」という状況からは随分と遠くなっていた。
これならば村落跡までの行程も大きな問題無く歩みきれるだろう。

山中、往路の最後をヴォルフに先導されミアは進む。

視界に移る村落跡は徐々に大きくなっていく。
屋外で行動している子供ほどの何かも捉えられるようになった。
ゴブリンだと、ミアも確信を抱く。

ミアの肌が粟立ち始める。
自分はこれから人食いの獣の前に立つのだと今更に実感が沸きだす。
疲労からではなく、今度は恐怖から脚が震えた。

ゴブリンは人を憎悪する。

囚われた者がどれ程凄惨な目に遭い、惨たらしい骸にされるか。
数多の逸話が世には残っており、それはミアとて良く知るところだ。


ミアは歩みながら手を祈りの形に組んだ。
簡易的な聖句を呟き、己を鼓舞する。
冒険の無事を信仰を捧げる主へと願わずにはいられなかったのだ。


―――――――――――

技能判定/祈念

祈念 Lv1

幸運 ★★ → ★★★

―――――――――――

そうして、やがて村落跡の至近に達する。

既に山は抜けた。
村と山の合間にある平地、その草むらに隠れ進んできたがここが接近の限界だった。
あと数歩も踏み出せば身を隠せるだけの高い草は無くなっている。
当然、村のゴブリン達にも気取られて襲撃を受けるだろう。

ヴォルフはここを戦場に選んだようだ。
周囲に障害物が無い開けた地形は奇襲の危険が少ない。
戦闘が始まってもミアに凶刃が届く可能性は限りなく低かった。


「……始めるぞ。
 まずは俺が適当に間引く。
 お前の出番はその後だ。
 絶対に先走るな」


ヴォルフはミアに伝える。
それは小声で静かな声音だったが、含まれる色はこれまでで最も強い。
自然、ミアも真剣に耳を傾ける。


「それと、下手に走り回るような事だけはするな。
 ダメだと思ったら首と頭だけ守ってうずくまれ。
 そうすりゃこっちでなんとでもしてやる」

「……っ」


ミアの心臓はいよいよもって鼓動を激しくしている。
体が強張り発声さえ難しく、ただコクコクと頭を上下させた。

「よし……いくぞ」


言葉と共に縮こまっていた巨体が立ち上がる。
そのまま大股で数歩進めば、ヴォルフはもう村からもハッキリと見て取れただろう。

その証左に、村は少しばかり騒がしくなったとミアにも分かった。
見張りに発見されたのは恐らく間違いない。
情報はきっとすぐに伝達される。
小鬼の集団が打って出るまではあっという間だと予想された。

……が、それよりも早く。


「オオオォォォォァァアアアア!!!」


咆哮が轟いた。

大気を揺らす大音声がヴォルフの喉から放たれる。
背後に立っていたというのにビリビリと肌を叩く感覚に襲われ、ミアは息を呑んで立ち竦んだ。



―――――――――――――――――――――――――

技能判定/咆哮

咆哮 Lv5

筋力 ★★★★★★★★ → ★★★★★★★★★★★



―――――――――――――――――――――――――

音の波が去って数瞬。
反動のように静寂が広がる中に返答が返る。

金属同士を擦り合わせるような不快な音色。
それが十ほども重なって村から響く。
経験の無いミアにも含まれた憤怒が読み取れるそれはゴブリン達の鬨の声だった。

村落内のゴブリン達は全個体がヴォルフの声を聴いただろう。
最早彼らに情報の共有は必要ない。

殺すべき敵を知ったゴブリンは本能に駆り立てられるままに村を飛び出した。
その目が睨みつけるのは当然、咆哮の主であるヴォルフだ。
ミアになど目をくれている個体は存在しない。

不遜な大男を地に引きずり倒しその肉の全てを削ぎ落す事。
それこそが我らの悦びだと、憎悪に淀んだ醜悪な顔が明確に物語っている。


「はっ、綺麗に釣れたもんだ。
 おい、さっきも言った通りだ。
 こっちが終わるまで動くんじゃねぇぞ!」


対するヴォルフも獰猛に吼え、ギチリと音がするほどに武器を握りしめ吶喊する。

咆哮と、それに続くゴブリンの憤怒。
当てられて竦み震えるミアを一人置いて、戦闘は開始された。

今日はこの辺で

おつでした

うーっすおつ

乙です

迫りくるゴブリンの群れにミアは声にならない悲鳴を上げた。
ギィィギィと耳障りな怨声を放つそれらが余りに醜悪だったためだ。

まず目につくのは濁った黄土色の眼球だろう。
まるで反吐か何かのような強膜の中央を黒い瞳孔が縦に裂き、青黒い血管が周囲を這う。
全身の皮膚もまたそのおぞましさは変わりない。
汚泥を思わせる斑な暗褐色の肌はどこもかしこも引き攣り歪んでいる。

人間と同じくするのは大まかな形だけ。
だというのにどこからか奪ったらしいボロの衣服を纏っているのも不快感を掻き立てた。


異形の群れは総身に憎しみをみなぎらせ汚らしい乱杭歯を剥き出しに吼え立て、走る。

体格は小柄で人の子供程度とはいえ、それは明確な人類の外敵だった。
この世の悪意というものを煮詰めた何かのようだとさえ思えた。
囚われたなら自死すべきとの教えは確かだったとミアは改めて思い知る。
確かに彼らであれば、どのような悪逆を犯したとて何の不思議もないと。

ミアの歯がガチガチと鳴る。
持参した武器……冒険者の宿にて貸与されたメイスに縋る手は力が入りすぎ色を失った。
怖い、という一言だけがミアの頭を支配し、他の思考は一切差し挟まれない。

それは戦場に立つ人間として余りに不適格な無様さだった。

これでは抵抗さえできない。
ゴブリンがミアに到達した瞬間に全てが終わるに違いない。
一瞬の間もなく地に引き倒され、あらゆる苦痛と恥辱の果てに無惨な骸を晒す事になるだろう。


「オォォラァ!!」


……勿論それは、ヴォルフが居なければの話だが。

大気を弾く叫びと同時に先頭のゴブリン二体が宙を舞った。
矮躯は上下に寸断され、体液をバラまきながら遥か遠方に消え失せる。
それを認識してからようやくミアは、ヴォルフが握る斧槍が振るわれたのだと理解した。

「ッシャァ!」


右から左へ。
振り切られた直後にあるはずの硬直さえ無く返った刃が更に二体を吹き飛ばす。

同時に踏み出された豪脚はただ間合いを詰めるだけに終わらない。
ミシリと音を立てて膨れ上がった脚は大地を砕きながら巨体を弾けさせた。
人体が出したとは信じがたい速度でヴォルフは跳び、長大なハルバードが天を指す。

踏み込みが超人的ならば、振り下ろしの一撃もまた同じく。
不運にもその標的とされた一体は頭から股までを割断された挙句に地にぶちまけられた。


僅か一瞬の間にゴブリンはその数を半分に減じた。

その余りの蹂躙劇にミアは一時恐怖も忘れた。
ヴォルフが動く度にゴブリンの体が砕けていく。
これは果たして現実なのだろうかと、固く閉ざされていた口がパカリと開いた。

困惑の最中にも殺戮は続く。
ゴブリンの数はミアがろくに認識もできない内に更に減った。
今や残り僅か二体。

そのうち一体がようやく、初めての反撃に飛び掛かった。

別の一体が断ち割られた瞬間を狙っての攻撃だ。
振り切られたばかりのハルバードはまだ遠い。
いかに硬直が確認できないほどに戻りが早いといってもゼロ秒では返らない。

だから届くはずだとゴブリンはハルバードの間合いの内側、懐に飛び込んで……。


「ッカァ!!」


ゼロ秒に限りなく近い速度で振るわれた拳に打ち払われた。

まるきり岩と変わらないそれが叩きつけられた顔面は骨が砕け、勢い余って首がぐるりと捻じれ回る。
恐らくは頸椎も折られているだろう。
無論の事、即死だったに違いない。

「っし。
 んー、まぁこんなもんか」


そうして、ゴブリンは何も出来ずに敗北した。

残った最後の一体もヴォルフに一切の痛痒を与えられず倒れた。
他と違い生きてはいるが、無様に地に転がって背を踏みつけられろくに身動きもできない。
それを殺すのに刃を振るう必要さえない。
ヴォルフが少し力を入れて足を踏み抜けばそれだけで骨が砕けて終わるだろう。

だが、そうはならない。


「じゃあ次はお前の番だ。
 今からこいつを離すが、覚悟はいいか?」


その言葉にミアは慌てて、再び気を引き締めた。

冒険者とは荒事稼業である。
当たり前の道理として武器を振るい敵を殺せなければ務まらない。
試験と聞いて、ミアもそこを試される事を理解はしていた。

ミアの呼吸がまた乱れだす。

ゴブリンの悪意を見た。
ヴォルフに向けられたものの余波でさえ身を竦ませるのを確かに感じた。

命を奪う暴力を見た。
一瞬前まで動いていたものがただの残骸に変じる様を目に焼き付けた。


(……あれを、これから)


向けあうのだと理解が進む度にミアの心が凍えていく。

本当にできるのか。
やらねばならないのか。
何か別の方法は無いのか。

意識しないままにミアの意識は逃避の先を探し始める。

「どうする、本当にやるか?
 やれないってんならそれでもいい。
 仕方ねぇよ。
 誰にも向き不向きってもんがある」


ヴォルフは気遣う声色で訊いた。
誰から見ても怖気づいていると分かるミアに出来るとは思わなかったのだろう。
自分でも出来るとは思えないのだから当然だと、ミアは場違いにも自嘲する。

武器を握るのは初めて。
殺意に晒されるのも初めて。
戦闘と言う行為の果てに命を奪うのも初めて。
これだけの未知が重なって、可能と思う方が間違いだ。

自身の心に出来るのかと何度問うても、一かけらの自信も見当たらない。


―――――――――

能力判定

精神 ★★★☆



―――――――――



「……やり、ます。
 やらせてください……!」


それでも、ミアはメイスを手放さなかった。
縋るようにとはいえ武器を握りしめ、恐怖に目を潤ませながら一歩を踏み出す。

怖い、怖い、怖い、と。
やりたくない、逃げ出したいと震えながら前を向いた。


それは単純な理屈。
ミアにとって、殺し合いよりもなお怖いものがあったというだけ。

今この場で立ち向かう事を諦めれば冒険者にはなれないだろう。
そうなれば何も為せずに修道院に戻る以外に道は無い。

救うべき人を救う方法を知りながら、ただ祈るだけの日々を繰り返す。
それだけは、ミアにはどうしても許せなかった。

「……ックソ!
 いいな! ダメだと思ったら首と頭だけ守れ!
 俺がどうにかしてやる!」


苦虫をまとめて噛み潰したような顔でヴォルフは叫ぶ。
それは先程も聞いた、最低限命を守るための方法だ。
決して命を落とす事のないようにと。

いよいよもって明白な、ヴォルフの威容に見合わぬ人の良さにミアは僅かだけ笑った。
怯えていた心に僅かに光が差す。
力の入り過ぎた体が、ほんの少しだけ余裕を取り戻した気がした。


そうして、ミアの初めての殺し合いはヴォルフの蹴撃から始まった。

「ギィッ!?」


脇腹を強かに蹴り上げられたゴブリンが半ば飛ぶように地を転がる。
草をなぎ倒し土を巻き上げ、酷く無様に長く長く。

だがそれは致命傷には至らない。
殺傷力を抑え、ただ飛ぶように蹴ったのだろう。
転がり続けたゴブリンはしかし、勢いが減じると共に身軽に起き上がった。

跳ねるように持ち上げられた黄土色の視線には怯えも竦みも無い。
圧倒的なヴォルフとの力の差は理解しているだろうに、逃走は選択肢にさえないらしい。
呪いじみた憎悪と殺戮への飢餓が本能に刻まれているかのようだ。

寸毫の内に殺されると理解しながらもなお、ただ殺すと狂奔する。
それがゴブリンという生物だ。


そしてその本能はヴォルフを探し……その線上にあるミアの姿を捉えた。

ギィィ、と怖気の走る笑みを零してゴブリンは鋭い爪を構えた。
ヴォルフを殺せるならば最善。
しかし獲物は別に手頃な距離にいるミアでも良い。

そう判断されたのだというのは、至近で向けられた殺意からミアにも理解できる事だった。


どうか今だけはと、震えが収まるようにミアは力を籠めた。

腕が竦めば敵を倒せず、足が竦めば殺される。
せめてどちらかだけでもどうか意のままになってほしいと、祈りとともに。



1/先制してメイスを振るう。

2/防御に専念して隙をうかがう。

3/大きく距離を取り心を落ち着ける。



↓1

3

しかし、ミアの体は満足に言う事を聞かなかった。

手も足も震えるばかり。
心臓は僅かにも鼓動を緩めず、視界は溢れる涙で霞み続ける。

このままでは戦闘にならない。
ミアはそう判断し、メイスを抱えたまま距離を取ろうと試みた。
視線だけはゴブリンから外さず、後方へと走り始める。



――――――――

敏捷経験点++

――――――――

―――――――――

能力判定

敏捷 ★

不可

―――――――――



……しかし、それはハッキリと悪手だった。

逃げるミアに対し、ゴブリンも走った。
体を大きく前傾に腕も用いた四足走行。
その俊敏性は比べるべくもなくミアを上回っている。


(っは、速!?)


ミアの視界に映るゴブリンは瞬く間にその姿を大きくした。

その事実に更に怯え竦むミアと、歪んだ歓喜に猛るゴブリン。
二者の差は余りに大きく、そして無慈悲だった。


迫るゴブリンに向けて苦し紛れに振るったメイスは的外れに空を切り。
伸びきった腕の半ばを、薄汚い爪が引き裂いた。

素直に能力値が高い選択肢を選べばいいのかな(今回は耐久の2?)

全体的に能力を底上げしていきたい

「――――いやあぁぁぁぁあ!?」


鮮血が舞い、悲鳴が上がる。
深く大きく裂けた傷は鋭すぎる激痛を伴っていた。
未だかつて経験したことの無い痛みに、ミアの思考は千切れ飛んだ。


(痛い! 痛い! 痛い!)


ミアの頭に残ったのはその三音のみ。
最早何も考えられない。
防御も、反撃も、逃走も。
あらゆる行動がただ痛みによって阻害される。

しかし、悪夢はそれで終わらない。

衝撃に白熱するミアの視界に、自身に飛び掛かる汚泥色の塊が映った。

初めに胴に。
次に臀部、背中、最後に後頭部。
続いた衝撃に眩んだ意識が戻るとミアの眼前には、空とゴブリンの体があった。


「……ぁ、あぁ、いや、いやぁ……!」


地に押し倒されて跨られ、反抗の自由を奪われた。
事実を認識できず……いや、理解したくなく。
ミアは幼い子供のように頭を振り何の意味も持たない言葉を上げる。

そこからの回復を、ゴブリンが待ってくれるはずもない。


「ギ、ヒ、ギィッ!」

「あぐっ、ぎっ、うぁっ!」


怯え切ったミアの顔へと、握られた拳が振るわれた。
一撃、二撃、三撃。
その度にゴブリンは喜悦に身を震わせる。
裂けるように開かれた口からは汚らしく唾液がこぼれ、組み敷いたミアの体へと滴った。


今やミアはただ嬲られるだけとなった。
次々に拳が振り下ろされ、その度に口内に血の味が広がっていく。



1/首と頭を守り、防御に徹する。

2/なんとか反撃の糸口を探す。



↓1

要求される能力は1は耐久で2は感覚かな?
とりあえず安価下

2

現実は非常である
1

1

それは、ミアが初めて直面する死の危険であった。

しかもただの死ではない。
囚われたのなら舌を噛め。
古くからそう伝え続けられるほどの過程を経ての死だと、ミアは思い出してしまった。

心の底、心の臓の奥の奥。
ミアの最も原始的な部分が軋み、あらゆる知性はこの瞬間失われた。


「あああぁぁぁあ!! うああぁあぁ!!」


ただ叫ぶための叫びがミアの口から迸り、がむしゃらに腕が振るわれる。

一刻も早く、自分を殺すであろうゴブリンを排除するために。
偶然でもまぐれでも良い。
運良く一撃でも当たって怯んでくれれば反撃の糸口もあるはずだと。

……しかし、それは事態の悪化を招くだけだった。

ミアには技術も力も備わっていない。
何の変哲も無い町娘の細腕ごときで、野の獣を下せる道理は無いのだ。


「ギィ、ヒヒ、ヒッ、ヒヒヒ!」


渾身の拳は容易く受け止められた。

当然、それだけでは終わらない。
捕まれた左の拳はゴブリンの手が添えられ。
固く固く、力の限りに握ったはずのそれはじりじりと開かれていく。

それはミアの手が開かれきっても止まらなかった。
細く白い指に、褐色のひきつった指が絡み、反るように力が加えられ……。



底知れぬ憎悪が満たされる瞬間を予感して、ゴブリンが黄土の眼を三日月に歪めると同時に。

ペキリ。

と、乾いた音が草原に響いた。

「―――――――ァァァ!!!」


新しい絶叫は言葉でさえなかった。

ミアの指はゴブリンの手の中で、歪に折れ曲がっていた。
可動域を超えて反りかえった小指と薬指は手の甲に沿って力無く垂れさがっている。

それで終わりだった。
あらゆる反撃の目は失われた。
左の手が使えない、というだけではない。

ミアの心も同時に折れたのだ。


戦闘は終わった。
これから続くのはただの蹂躙である。
あらゆる痛苦、あらゆる凌辱の後に命を落とすだけの獲物であると、既にミアは決定されたのだ。



勿論、この場に居るのがミアとゴブリンだけだったなら、という仮定における話だが。

「っこの馬鹿野郎が!!」


怒声と共にミアの上からゴブリンが消えた。

代わりに現れたのは丸太のような豪脚だ。
革の防具に守られたそれはヴォルフのもの。
勝負がついたと判断した瞬間に接近し、蹴り剥がしたのだろう。

その一撃で脅威は容易く取り払われた。
先のものと違い、今度は飛ばす蹴りではなく殺す蹴りだったのだろう。
肋骨を砕き折られたゴブリンは転がりながら血泡を吐き、勢いが消えた頃には既に命を亡くしていた。


「首と頭を守って動くなと、言っただろうが!!」


青筋と、そして焦燥を浮かべたヴォルフが怒りを吐く。

ミアはそれでようやく、自分が助かったのだと理解した。

なんか選択肢悪手ばっかり選んでるな…考えたくないけどわざと間違った選択肢選んでる?


「……っあぁ、クソ!」


ヴォルフは悪態とともにミアの上半身を抱き起した。
痙攣するようにガクガクと震える体を支え、焦点を失ったミアの瞳を覗き込む。

ミアの状態は酷いものだった。
涙、鼻水、涎、血。
顔から流せるものを全て垂れ流し、ひっ、ひっ、としゃくりあげている。

その弱い心にどれだけの圧がかかったかは余りに瞭然としていた。


「うっ、うぁ、ひ、ぐ。
 あぁぁうあ、ぁうぅぅぅぅ」

「よし、よし、もう終わった。
 いいな。
 もう終わったんだ。
 もう大丈夫だ」


ミアはヴォルフに縋りついた。
赤子が母を求めるように体を押し付け、本能に任せるままに言葉にならない声を上げる。

それをヴォルフは静かに受け止め、僅かでも心が安らぐようにとその背をさするのだった。


――――――――

耐久経験点+++

精神経験点+++

――――――――

今日はここまで

>>147
ぶっちゃけほぼ負けイベントなんで気にしないで良いです
一般町娘が一念発起した程度でどうにかなるはずもないやつ

おつおつ

乙でした

更新再開待ってます

ローラとヒカリのマホリオメンバーと協力してヒカリの悩みについて調べてみる

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