絵里「例え偽物だとしても」 (969)
「助けてください!」
絵里(街中に響く一人の少女の叫び声。しかしその叫び声は虚しく人々の耳を左から右へと突き抜けていき皆揃いも揃って見て見ぬふりをする)
絵里(今日の降水確率は100パーセントで外は当然ながら酷い雨だった、風も酷く吹き荒れていてとても外出出来たものではなかったと思う)
絵里「……あぅ、あ」
絵里(…そして、大都会の大きな横断歩道から成る歩行者天国で倒れる私はどうして倒れているのだろう)
絵里(倒れる私の周りにはこんなにも人がいるというのに、通る人全ては私を心配することもない)
「どうして助けないんですか!?」
絵里(…ただ“珍しい人”もいるみたい)
絵里(誰一人として倒れた私を助けようとしないのに、この人はだけは私を助けようとしていた)
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絵里「あなた…っ」
「大丈夫ですか!?今私の家に…!」
絵里(なんで、私を助ける人がいないんだろう)
絵里(そんなの答えは簡単だった)
「F-613…もしかしてあなたは……」
絵里「………」
絵里(私の首元についた数字が今私の前にいるこの人との決定的な違いだった)
絵里「…そうよ」
絵里(じゃあ答え合わせをしましょうか)
絵里(なんで私を助けてくれる人がいないのか、今も数百といる人が皆私を無視する理由、それは……)
絵里(私がアンドロイド――いわば造られた命を宿すロボットだからよ)
~次の日
絵里「…はぁ」
「どうしたの?絵里さん」
絵里「ん…あぁ千歌、いや昨日ちょっとあったのよ」
千歌「何かあったんですか?」
絵里「ちょっとトラブルで体が動かなくなっちゃって…」
千歌「えっ!?大丈夫だったんですか!?」
絵里「ええ、少ししたら動けるようにはなったけどこういうことがあると正直移動が不安なのよね」
絵里(次の日、私は何事もなくオシャレなカフェテリアで溜め息をつく)
絵里(あの後、すぐに私はあそこから去った。助けてくれるのは嬉しかったけど、無様に助けてもらうのはなんだか私のプライドが許せなかった)
『——です!私…——って言うんです!だからもし…助けが必要だったら絶対に助けますから!』
絵里「……変な人」
千歌「ん?何がですか?」
絵里「いえ、なんでもないわ」
絵里(それでこの子は千歌、高海千歌という子)
絵里(彼女は私と同じ造られた命を宿すアンドロイドだ、だから彼女の首にもF-083という識別番号が刻まれている)
絵里「あ、またその歌聞いてる」
千歌「えへへ、かよちゃんの歌はすごいんですよ?」
絵里「かよちゃん?」
千歌「知らないんですか?今人気ナンバーワンといっても過言じゃないアイドルですよ!」
絵里「へー」
千歌「もうまさに私の推しアイドル! 絵里さんも直で見たら絶対に心奪われますよ!」
絵里(携帯から流れる“かよちゃん”と呼ばれる人の歌、聞いてると癒される優しい声と元気が出るような明るい曲調になんとなく千歌がはまってしまう理由もわかる気がした)
千歌「あ、そういえばその…」
絵里「ん?何かしら?」
千歌「倒れた場所って…」
絵里「あぁ、アキバのど真ん中よ、歩行者天国に埋もれてたわ」
千歌「え、じゃあそれってつまり…」
絵里「……ええ」
絵里(誰も助けてくれなかったのか、千歌はそう言いたいのよね)
絵里(この世界はそうよ、アンドロイドという存在が栄えるとたちまち不思議なカーストが生まれた)
絵里(アンドロイドは人間より下の存在で、しかもある意味でいえば家畜と同等の存在とも言えた)
絵里「…仕方ないのよ、私たちがアンドロイドとして生まれた以上は」
絵里(私たちはアンドロイド、それは造られた命。そしてつまりそれは生命が宿ってると認識されない“モノ”でしかない)
絵里(単なる造り物に思いやる気持ちなんてこの世にはなくて、救済の手を差し伸べるに値しない理不尽さがそこにはあって、例えアンドロイドがどれだけ可愛くても“所詮”アンドロイドである以上人間と同等の立場になることはない)
絵里(だから私はどこで倒れようとも放置されるだけだ)
絵里(そしてそれはこの街だからこその光景だった)
絵里(“アンドロイド隔離都市”であった東京ならではのね…)
千歌「私は……」
千歌「…私はそうは思いません」
絵里「……知ってるわ」
絵里(しかし私たちは人として分類される生き物であるのは確たる事実、涎や汗、かさぶたや流血など人間として体の機能は本物と瓜二つ)
絵里(だから外見も、ましてや深層部にいかない程度の内部でさえ人間と同じなのに、どうして私たちは差別されるのだろうか)
絵里(子供だって作れるし、リストカットをすればちゃんと死ぬ。機械としてのトラブルはもちろんあるけど痛みだって感じれるし、病気だってちゃんとある)
絵里(なのに…なのに…!)
絵里(どうして私たちはこんなにも低く見られるのかしら…)
「おまたせ」
千歌「ん?あ、真姫ちゃん!」
絵里「こんにちは真姫、随分と遅かったわね」
真姫「ごめんなさいね、授業が長引いたの」
千歌「ううん!全然大丈夫!」
絵里「そう、大変ね」
真姫「まぁね」
絵里(…しかしまぁ例外ももちろんある、この子は真姫。識別番号は――って真姫にはないんだったわ)
絵里(真姫は識別番号がない正真正銘の人間、人間にも私たちロボットを見下すことなく平等な立場で接してくれる人がいる。それが真姫なのよ)
真姫「二人は大丈夫?」
絵里「ええ、まあ」
千歌「えへへ、大丈夫だよ」
絵里(何が大丈夫かって?そんなのアンドロイドだからいじめられたりしてない?っていう隠語なのよ、不幸中の幸いというべきなのかしら、私の顔つきや体はほぼ完璧と言ってもいいほどに整ってた)
絵里(アンドロイドとはいえど顔や体の良し悪しはもちろん存在してて、その中でも私は大当たりを引いたのだと思う)
絵里(だからこそいじめはないし、むしろ学校じゃ憧れの存在だったりする)
真姫「そう、ならいいけど」チューチュー
絵里「随分とオシャレなもの持ってきてるじゃない」
真姫「あぁこれ?今話題のジュースショップで買ってきたのよ、オレンジジュース」
千歌「オレンジジュース!?うわー!私も飲みたい!」キラキラ
真姫「……飲む?」
千歌「飲むー!」チューチュー
絵里「あはは…全部飲まないようにね」
千歌「うんうん!」
真姫「ふふふっ」
絵里「ごめんなさいね、私の可愛い可愛い後輩が」
真姫「いいのよ、というか私も…その…絵里の可愛い可愛い後輩のはず…なんだけど?」
絵里「ふふっそうね」クスッ
真姫「笑わないで!」
真姫「…というか絵里の食べてるものも随分とオシャレね」
絵里「あぁなんか無性にタンパク質を摂取したくてね、つまりはお肉が食べたかったのよ」
真姫「それでステーキを選んだと」
絵里「そうそう、私このステーキを食べる時のナイフとフォークを使う上品な感じが好きなの」
千歌「えー私はばばっとすぐに食べたいなー」
真姫「千歌はそんな感じよね」クスッ
千歌「あー!今私の事バカにしたでしょー!」
絵里「ふふふっ」クスクス
絵里(学校という場所は外の世界とは違って意外にも快適なの、私を人間と並べて見てくれる人間はたくさんいるし居心地がすごくいい)
「あの子、ロボットと仲良くしちゃって…」クスクス
「ただのロボット相手に何を思ってるんだか」
真姫「!」
千歌「!」
絵里「………」
絵里(……ただ、正義がいるなら悪がいるのもまた当然。平等は不平等という言葉と一緒に生まれたのよね、この学校にも私をただのモノとしか見ていない人も少なくはない)
絵里(そして何故か、白羽の矢は私に立つのではなくアンドロイドと関わった真姫が標的になる。アンドロイドがモノという固定概念があるせいか、今度はそんなモノとおしゃべりしてる人間がおかしいと思われるみたい)
絵里(だからこそ、こんなアンドロイドとして生まれた私に腹が立つし、下等な存在だと見下されただけではなく真姫にまで被害が及ぶ理不尽さにも怒り心頭だった)
真姫「いいわよ、気にしないで」
千歌「ご、ごめん」
真姫「だからいいって」
「あら、ごめんなさい。もしかして可愛い可愛いロボットちゃんを傷つけちゃった?」クスクス
真姫「っ…」
絵里(世界にはいるのよ、心無い発言をする人間が)
絵里(そりゃあもちろんそういう人間にも慣性があって、考えがあるのは否定しない)
ダッ
千歌「絵里さん!?」
真姫「何やってるのよ!?」
「っ!どうなっても知らないからっ!」
絵里(…ただ、それを私が受け止められるかはまた別の話だ)
バァン!
絵里(響く銃声、銃弾は私たちの後ろのテーブルで火花を散らして床へ落ちてゆく。この世界なんてゴミ溜め同然、既に道徳的退廃を迎えてる世界に救いようなどなくて、つまり私も退廃を迎えてるのよ)
『射線確認。推測距離3メートル、目的へ無傷で到達出来る可能性…』
タッ
『100パーセント』
絵里(彼女の言葉を聞いてる最中にもう体は動き出してた、怒りは私を動かす理由へと変わっていく、ダメだと分かっていてもやはり機械の体は言うことを効かないものなの)
絵里(……ううん、別に、機械の体じゃなくて私は動くのだろうけど)
真姫「絵里!今すぐにでもいいから止まって!」
絵里(地面を蹴って素早い跳躍で相手に近づいていく。それに反応した相手は懐からM1911――――いわば拳銃と聞いて誰もが想像するような外見と性能をした標準的な拳銃を出して私に向けて発砲した)
絵里「ふっ!」
絵里(そして私は机を利用して回避する、ここの机は銃弾さえ弾くものだから机を遮蔽物として扱えば拳銃程度怖くもない)
絵里(世の中便利なモノが多いのよね、アンドロイドもそうだし今は科学の力でいくらでも魔法の応用ができる)
絵里(…ただ、ここみたいに拳銃が使いにくいフィールドなら拳銃は便利とは言えないの)
千歌「絵里さんっ!」
タッタッタッ!
「……っ!」
絵里(拳銃は弱点がありフィールドによって強弱が左右される、しかしさっきからずっと持っていたこのナイフはどこのフィールドでも同じ戦果を出し人間相手に私を裏切ることはない)
絵里(回避に専念し散々撃たせてリロードをさせたら後の祭り。机を飛び越え、床を強く蹴って相手との距離を一瞬にして詰めた)
絵里「今ここで死になさい」
絵里(そして姿勢を低くしナイフを片手に相手の喉元に――――)
「……ぁ」
絵里「…これに懲りたら見境も無く人をバカにすることはやめることね」
絵里(――突き付けて警告をした。いくら怒ってるとはいえ殺すなんてそこまで殺戮に飢えてるわけじゃない)
絵里(相手は拳銃を地面に落として戦意喪失しているのを見て私は静かに真姫と千歌のところへ戻った)
絵里「ふう」
真姫「絵里…別にそこまでしなくてもよかったのに…」
千歌「そ、そうですよ」
絵里「いいの、今咎めておくべきだと思ったから」
千歌「んあははは…にしてもやっぱり絵里さんはすごいや、あんな動き出来ないよ」
真姫「ホント、見てて惚れ惚れするわ」
絵里「んーあはは、自分でもなんであんな動きが出来るのかよく分からないのよね」
千歌「銃弾を回避する術とか距離を詰める業とかホントにすごい!私もあんなかっこいい動きしたいなぁ…」
真姫「千歌じゃ無理ね」クスッ
千歌「あ、酷い!」
絵里「……銃弾を回避する術か」
絵里(この世界では銃火器を持ってる人が普通にいる)
絵里(だからといって全員が持ってるわけではないの、護身用とかそんな軽い感覚で持てるものではなくてちゃんと訓練やらをして資格を持ってる人じゃないと持てないの)
絵里(まぁ警官とかいるじゃない?そういう類の人間なのよ、今みたいに銃を持ってる人間というのは)
絵里(…それと或いは……)
千歌「絵里さんは何かやってたんですか?武術とか」
絵里「んー特にそういうのは」
真姫「じゃあ生まれつきであんな動きが出来たってこと?」
絵里「そうねなのかしら……でも私は標準型のアンドロイドだから戦闘特化の機能は搭載されてないはずなのよね…」
真姫「まぁ確かに…」
絵里(アンドロイドというのは大きく分けて種類が三つある、一つは私や千歌みたいな標準型、つまりは人間として生まれたアンドロイド。これが造られた意図は少子化対策——並んで人口の増加だ、そしていざ戦争などの大きな戦いが起こった時に歩兵として使う貯金でもある)
絵里(二つ目は仕事などをする業務用アンドロイド、これに関して言えばこれはアンドロイドというよりかは単なるロボットでしかない。これは同じロボットの私からしてもそれ以上のない発展性の無いモノだ)
絵里(何故ならそのアンドロイドは人であるのは変わりないけど、頭の中にあることは全てその仕事に関することだから。自己学習機能は搭載されてはいるけど自立型ではない為に仕事だけをこなすちょっと可哀想なロボットね)
絵里(そして三つ目、それは――――)
「面白いことしてるね」
千歌「あ、果南ちゃん!」
果南「ふふふっ相変わらず絵里の動きは凄まじいね」
絵里「果南…見てたの?」
果南「そりゃあ戦いの匂いでやってくるのが私だから♪」
絵里「…そうだったわね」
絵里(三つ目、それは戦うことに特化した戦闘型アンドロイドで、今私の目の前にいる果南がそれに該当する)
絵里(このアンドロイドは運動神経や頭の良さなどの能力値が高く、またほとんどの戦闘型アンドロイドが親を必要としない自立型である為に学習能力が非常に高い。そして私たち標準型と比べて耳が良い為物音に敏感で、銃声や剣撃の音などに反応してやってくる平和を守るヒーロー兼バーサーカーのようなアンドロイドね)
真姫「それであんたは何しに来たの?」
果南「あんた呼ばわりは納得いかないけどまぁいっか、別に何かしに来たわけじゃないよ、銃声がしたからやってきたけどもう解決してたみたいだし」
絵里「ごめんなさいね、果南の大好きなバトルを奪っちゃって」
果南「あはは、全然いいよ」
千歌「今お昼食べてたんだけど果南ちゃんもどう?」
果南「うんっじゃあご一緒させてもらおうかな」
絵里(基本的に街にいるのは標準型のアンドロイドなんだけど、たまに混ざってるの、戦闘型アンドロイドがね)
絵里(戦闘型アンドロイドは元より戦闘をする為に生まれたアンドロイドだから、人生において必ず自己防衛について努める時期があるの、そこでほとんどの戦闘型アンドロイドは“自分だけの武器”を確立させるの)
絵里(だからこの都市で銃火器を持ってるのは警官の類だけではなく)
絵里(戦闘型アンドロイドも銃火器を持っているの)
千歌「んー!ここの料理はやっぱりおいしい!」
絵里「あ、それ私のお肉!」
千歌「えへへ、なんかもう見てたら手が動いてて…」
果南「ご飯くらい自分で頼もうよ」アハハ
真姫「ホントね…」
千歌「えへへっ」
絵里(…と、まぁいざこざあっても何事もなかったかのように時は動き出す。銃声が響けば悲鳴の一つ二つはもちろんあるけど、見慣れてる人もいるくらいには危ない場所でもある)
絵里(私は気性が荒いもので怒り任せに戦いを仕掛けることはよくあるけど、私は他のアンドロイドと比べてかなり性能が良かったみたいで思ったように動けてる)
絵里(それ故か、私は本当に学校じゃ有名なの。それはいい意味でも悪い意味でも)
果南「こうして絵里ファンクラブの一ページが刻まれたわけだね」
絵里「か、からかわないでっ」
千歌「そりゃああんな絵里さんみたいな美人があんなかっこいい動きしたらファンも出来ますって!」
真姫「まぁ…ね」
絵里「別にファンを作りたくてあんなことしてるわけじゃないんだけどね」アハハ
絵里(まぁ、こんなことしててファンが増える一方なのはある意味でいえば平和な証拠なのかもしれない)
絵里(しかし色んな意味で変わった世の中よね、何かある度に私はそう思うばかりだわ)
スタスタスタ
「絵里」
絵里「!」
絵里「善子…どうしたの?」
絵里(お昼休みが終わり教室へと戻る際、見知った顔から声をかけられた)
善子「見た?あいつのこと」
絵里「……ええ、見たわ」
善子「…どう思った?」
絵里「もう知らないわ、あんなやつ」
善子「それ、本気で言ってる?」
絵里「触らぬ神に祟りなしって言うでしょ?無視が一番なのよ」
善子「…私はそうは思わない」
絵里「……知ってる」
絵里(こんなやりとりをさっきもやった気がする、アンドロイド同士の話はどうもいつも暗くて重い)
善子「私は戦闘型アンドロイド、だけど戦う事に意味があるとは思えないの」
善子「戦いは戦った分の傷を生み、罪を作る。私はそれが嫌いなの」
絵里「………」
善子「でも、正直今は人々が戦う意味も理由も分かる気がする。戦って変わるものがあるのなら、傷も罪も増えようとも戦うことを厭わない私になれる気がする」
絵里「………」
絵里(この子が何を言ってるのか理解出来てない人がほとんどだろう、当然よ。だって理解出来るのはアンドロイドだけだもの)
絵里(人間にも個人的に嫌いだとかで出来る敵がいるけど、アンドロイドにも同じように敵がいるのよ)
絵里「…じゃあ何?善子は」
絵里「小原鞠莉と殺し合いでもするの?」
善子「………」
絵里「勝ち目なんてないわよ、それを一番分かってるのは戦闘型アンドロイドである善子のはずだけど」
絵里(小原鞠莉――――それは私たちアンドロイドを造った生みの親、つまり私たちの母と言ってもいい人)
絵里(…まぁ母とはいっても私と鞠莉は“ある意味”同年齢、しかも通ってる学校まで同じの案外身近な存在だったりする)
絵里(しかしそれは返ってマイナスな事でしかなかった、何故ならそれは……)
善子「…ならどうしろっていうの!?」
善子「あんなやつ生かしておけるわけないじゃない!?」
善子「私たちを作ったくせに私たちが低く見られる原因を作ったのがあいつだなんて、それだけでも憎いのに今でも低く見られる原因を作り続けてるのは何!?なんで私たちを生んだの!?」
絵里「……所詮造られた命なのよ、むしろ今こうやって自由の場を設けてもらってるだけでも感謝すべきなのかもしれないわ」
善子「…堕天使って何なのよ、私の頭にインプットされてるこの堕天使っていう記憶は何なのよ……」
絵里「………」
絵里(鞠莉は私たちを道具として造った、それ故か鞠莉は私たちの事を道具と公言し続ける一方で、それなら私たちに心を与えなければよかったのにわざわざ心を与える鞠莉の残忍さは多くのアンドロイドを敵に回す原因となっている)
絵里(しかし鞠莉は弱冠12歳にしてアンドロイドを作り上げた天才、そんな鞠莉を殺すには警備が厚く鞠莉自身も戦闘経験が豊富という噂から反旗を翻すアンドロイドはほとんどいない)
絵里(だから私たちはずっといじめに似た何かを受けながら生活していくのかもしれない)
絵里「仮に叛逆するにしても、今はまだ早いと思うの」
絵里「だからもうちょっと穏やかに行きましょう?」
善子「……怖いだけのくせに!」ダッ
絵里「あ、ちょっと!」
絵里(この事をあまり大事にはしたくない、だからなだらかに話を収めようしたけど善子は私に心に刺さる銃弾のようなものを放って走り去っていった)
絵里「…別に怖くなんかないもん」
絵里(怖くないっていったウソになるけど、私にだって覚悟や考えはある)
絵里(だけどそれが銃弾に変わるのはいつなのかしら)
~家
絵里「…はぁ」
絵里(今日も悪い意味で濃い一日だった)
絵里(私の周りで何か起きては毎日何かについて考えさせられる、今日考えたのは小原鞠莉の事とアンドロイドの存在意義)
絵里「……むー」
絵里(でも、そんなことを考えて気分がよくなるはずもなくベッドの枕に顔を埋めて頭を真っ白にさせた)
絵里(今日の事を振り返ればこの世界のことが分からない人でも多少は理解してもらえるんじゃないかしら、人間とアンドロイドが歪な形を成して共存する世界で、物騒な世界。ただそれだけの世界)
絵里(こんなどうしようもない世界で私は生きていく)
絵里(ここで必要なのは物理的強さなんじゃなくて、相手を理解する気持ちと非情を受け止める気持ち。心を広く持っていかないと多分精神はすぐに壊れちゃうから)
トントン
「お姉ちゃーん、ご飯だよー」
絵里「あ、はーい。今いくわね」
「はーい」
絵里(扉の外から聞こえる心地の良い声、その声の正体は紛れもない私の妹――――)
ガチャッ
絵里「あ、待って」
絵里「亜里沙」
亜里沙「ん?どうしたの?」
ギュッ
絵里「…やっぱり亜里沙は抱き心地最高ね、ハラショーよ」
絵里(亜里沙は私の妹として造られた識別番号A-0613の戦闘型アンドロイドで、この退廃的世界の癒しでもある)
亜里沙「お姉ちゃん…また何かあったの?」
絵里「ううん何もないわ、ちょっと亜里沙に抱き着きたくなっただけ」
絵里(ご飯を作ってくれたりお風呂を沸かしてくれたりですごく出来る自慢の妹なんだけど、中学三年生ということもあって純粋でまだまだ可愛いお年頃だから私が守っていかないといけない)
絵里(だから日々、理不尽なことが起こったとしても亜里沙がいるから生きていられるといっても過言じゃないの)
亜里沙「そっか、まぁとりあえずご飯出来てるからいこう?」
絵里「ええ、そうね」
絵里(亜里沙は可愛いし、千歌は元気をくれるし、真姫はいい相談相手になってくれたりで充実してるところはたくさんあるけどやっぱり明日という日は憂鬱で仕方がない)
絵里(もし武力で世界を変えられるというのなら、今頃はどういう世界になってたのかしら)
絵里(人間とアンドロイドが気持ち的な意味で上下が無くなったとしても、立場上アンドロイドは人間の手中にあることを否めない)
絵里(死は救済ってよく言うけど、今の私にはそれがよく分からない。例えこんなゴミ溜めの世界だとしてもそこは分からないままで、もし答えが見つかるというのなら今すぐにでも私の胸を撃ち抜いてほしい)
絵里(見つかるのなら、だけどね…)
ザワザワザワザワ
絵里「…何?」
絵里(憂鬱であった次の日、それは登校してる最中の時で特に意識せずとも人だかりが目に留まって私も通行人と同じよう足を止めた)
絵里「ちょっとすいません、すいませんどいてください」
絵里(みんなが注目するものが気になるのは心を持つ者の性よね、人混みをくぐりぬけてその中心部に辿り着けばすぐに人混みの答えは現れた)
「ふふふっ人間のクセに生意気だね♪あなた」
絵里「なにあれ…」
絵里(見えるのは私と同じ女子高校くらいの女の子がスーツを着た中年男性の顔を踏み潰してるところ、どういう経緯でああなったのかは分からないけど傍から見て普通ではなかった)
絵里(地面に血が浸蝕してるのを見て殴ったり蹴ったりしたんだなっていうのが容易に想像できる、しかし何故こういう事態になったかはよく分からない)
「ほらほらっ♪これが欲しかったんでしょ?」
絵里「っ!何をやってるの!やめなさい!」ダッ
絵里(顔を踏みつける足の力が強くなったのを確認してすぐ行動を起こした、若干人の影に隠れながら見てたけど“行かなきゃ”と思った瞬間には目の前の人なんか気にする暇もなく押しのけ今も顔を踏みつけている彼女の元へ向かった)
「ん?あ、はぁ…♪私に挑んでくる人がいるなんて…♪」
絵里(ただ、向かっただけじゃない。彼女の暴力的行為を止めるべく格闘術で止めようとした)
タッタッタッ!
絵里「はぁっ!」
絵里(接近するスピードはおそらく最速、姿勢を低くして彼女のお腹に掌底を打ち込もうとした)
「ふっ」
絵里「っ!」
絵里(だけどどういうわけか彼女はお腹に掌底が打ち込まれるギリギリで反応をし、私の手首を掴んで見事に止めてみせた)
「強くてごめんねっ!」
絵里「まずっ…!」
絵里(掴まれた私は一方的な展開を迎えることを強いられた。強く手首を引っ張られ仕返しと言わんばかりに私のお腹に彼女の跳び膝蹴りがヒット)
絵里「がっ…!」
「ふふふっ今のは加減間違えちゃったかも~ごめんね?」
絵里「っあ……くそ…っ」
「汚い言葉使っちゃダメだよ?女の子なんだから♪」
絵里「別に使ったつもりはないわ…っ、とにかくその男の人を踏みつけるのをやめなさい」
絵里(膝蹴りをされた私は後方へと吹っ飛び地面に叩きつけられる、この時の痛さといったらアンドロイド特有のもので吹き飛ばされた後すぐに起き上がることは出来たけど、常人の蹴りが人を吹っ飛ばせるわけもなく……)
絵里「…戦闘型アンドロイド」
「あれ?今更気付いたの?てっきり気付いて挑んできてくれたと思ったんだけど」
絵里「……ごめんなさいね、敵も把握できないようなバカで」
「あははっそんなこと言ってないよぉ」
「…それでどうする?まだやる?お腹痛かったら帰ってもいいよ?」
絵里「…いいや、やりましょうか」
絵里「負けたままじゃ終われないからね」
「…あはっ面白いこと言うんだね、あなた」
絵里「何か変なことでもいったかしら?」
「私に勝つなんて無理だよぉ、第一あなたは標準型だよ?標準型が戦闘型に勝つのは別にありえないことじゃないけど、標準型が私相手に勝つのは無理かなぁ」
絵里「…やってみなきゃわからないでしょ」
「うんうんっでもやっても結果は変わらないと思うけどね」
絵里「…どうかしらねっ!」ダッ
絵里(相手である彼女に向かって突っ走った、そうして蹴りが届く位置にまでいけばすかさず回し蹴りを頭狙いで炸裂させた)
「甘いかな」
絵里(そして彼女はそれを片腕でガード、威力はそこそこあったはずなんだけどそれを軽々しくガードしてるのを見るに余裕なんだなと思う)
絵里「ふっ、せやあッ!」
絵里(しかし受け止めるのは予想済み、受け止められたのを確認して私はすぐにもう片方の足を使って後ろ回し蹴りをした)
「うっ、くっ…!」
絵里(これに対して彼女は腕をクロスさせてガードしたけど、流石に私の蹴りもやわなものじゃないから余裕で受け止めるのは無理なようで、その証拠に顔は少し力んでた)
絵里(また、そんな私の攻撃を受けて流石に遊んでられないと感じたのか彼女は凄まじくキレのよい中国拳法のような肘打ちから体を逆さに横回転させてもう一回肘打ち、そして空中で回し蹴りと格闘ゲームのコンボのような連続攻撃をしてきて、それに対して私は受け流すことを選んだけど、素早い行動故にことりの連続攻撃から離れるのは無理だった)
「これでっ!」
絵里「っ!?」
絵里(そして今までのまだ序の口、彼女の着てるカーディガンの裏から出てきたのは不思議な形をした拳銃で、何はともあれあんなのを直で食らえば死んだも同然だった)
「しんじゃえっ!」
絵里「まだっ…!」
絵里(向けられた銃口の方向から外れる為回避をしようとしたけど、私の瞳があの銃口から放たれる弾を避けられる確率を3%と示していた)
絵里「なんで…!?」
絵里(拳銃を手に持って構えるまでの時間はおよそ二秒、その間で私は射線から外れたというのに何故私の瞳は死を悟ってるのだろう)
「ふっ…照準型には今見えてる光景の意味が分からないだろうねっ!」
果南「諦めるにはまだ早いんじゃないかな?」
「!」
絵里「!」
絵里(次の瞬間に聞こえてきたのは果南の声――――ではなくて銃声が先だった)
絵里(銃声がした瞬間、私の目の前では火花を散らせて相手の持っていた拳銃が吹っ飛んだ)
絵里(銃弾の飛んできた方向を見れば拳銃を片手で構える果南の姿があって、そこで初めて果南が相手の持つ拳銃を狙撃したことを理解した)
果南「戦いの音がするから来てみれば絵里がいるなんて」
果南「それに……」
果南「あの南ことりまでいるなんてね」
絵里「南ことり…?」
ことり「へー私の事知ってるんだね」
果南「そりゃあ戦闘型アンドロイドなら知らない方が珍しいくらいだからね」
ことり「ふーん…あなたも戦闘型アンドロイドなんだ」
果南「随分と殺意の高いモノを持ってるんだね、その拳銃」
ことり「私のお気に入り♪」
果南「趣味悪いね…」
絵里「果南、こいつは…」
果南「南ことり、識別番号はA-82のかなり初期に造られた戦闘型アンドロイドだね」
絵里「初期型…!」
ことり「多分設定上あなたたちより年下だけど、戦闘経験はあなたたちの倍はあるかなぁ」
果南「そうだね、ことりの持ってるその銃はタウルス・ジャッジっていう拳銃で、トリガーを引くと散弾が出るんだ。だから絵里は回避がほぼ不可能だった」
絵里「そういうこと…」
果南「後、さっき見た感じあなた中国拳法知ってるでしょ?それに指の形までそれぞれちゃんと決まっててほぼ完璧と言ってもいい身のこなし」
ことり「あはっよく見てるんだね」
果南「私、眼がいいって言われてるから」
ことり「そっかぁ、それであなたたちは私を――――んん、ことりをどうしたいの?」
絵里「…なんで一人称は変えたの?」
ことり「えへっだってそれはぁ…」
ことり「モードの切り替えの為だからだよっ!!」ドドドド
絵里「なっ…!」
果南「させるかっ!」
絵里(ことりが喋りだした瞬間、背中にかけてあったアサルトライフルで私たちに発砲してきた。アンドロイドだから可能であった反射神経で初弾と二発目を回避したところで果南がことりへ向かって発砲した)
ことり「はっ」
絵里(ことりはそれに対して地面を蹴り、右側へ跳躍して回避を行いながら再び発砲をして攻撃に転じた)
果南「遮蔽物を上手く使って!」
絵里「分かってる!」
絵里(その一瞬で私たちは木やらイスやらを使ってなんとか回避する、もう野次を飛ばしていた通行人も周りにはいない。私たち三人だけのフィールドになった)
ことり「ちっ…こんな時に…!」
果南「絵里!今のうちに逃げよう!」
絵里「言われなくても!」
ことり「させない!」ブンッ!
絵里(弾の切れ目が命の切れ目とはよく言ったもの、ことりがリロードをするタイミングで私たちはことりから見た死角へと走り出したけど、そんな逃げる私たちを逃さないとことりはナイフを投げつけてきた)
果南「はっ!」
カンッ!
絵里「や、やるわね…」
果南「ふふふ、私拳銃は使えないけどこの拳銃だけは扱えるんだよね」
絵里(そんな投げナイフに向かって果南は発砲し、見事にヒット。ナイフは別方向へ吹っ飛んでいった)
ことり「なにあの子…!」
絵里「とりあえず一安心ね…」
果南「そんなわけないじゃん、ことりは執念深いって聞くから追ってくるよ」
絵里「えっじゃあ逃げないと」
果南「はい、これ」
絵里「えっ…なにこれ」
果南「デザートイーグルだよ、私が唯一使える拳銃」
絵里「これを私に渡して何のつもり?」
ことり「そこに隠れてるのは分かってるよー」
果南「逃げるのは絵里だけだよ、私はことりと戦う」
果南「もしことりや他の誰かに襲われたらその拳銃を使ってよ、でも反動が大きいから連射すると肩外れるよ」
絵里「いや、果南が残るなら私も残るわ。あいつに恨みはないけど私だけ逃げるなんてそんなのやだわ」
果南「ダメ」
絵里「いや私もダ」
果南「絵里は逃げてッ!!」
絵里「!?」
果南「ことりは強い、私の眼がそう言ってる」
絵里「舐めないで、私だって戦闘に自信はあるわ」
果南「生半可な戦闘経験は死を生むだけだよ、とにかく逃げて」
絵里「イヤよ、このまま逃げてカッコ悪いままなんかより果敢に挑んでカッコよく死んだ方が私はマシ」
絵里(何回も逃げろと警告はされたけど私だけ逃げるなんてそんなのは私のプライドが許さない、元はといえば自分から売った喧嘩を人になんか任せたくない)
果南「そっか」
絵里「…?ええ」
絵里(しかし果南は突然何かを悟ったような態度をし始めて淡々と鞄に入ってた銃を取り出した)
果南「ふんっ!」
絵里「かっ…ぁ…!?」
絵里(そして次の瞬間、果南は長めの銃――おそらくアサルトライフルであろう銃を使って私のお腹を殴ってきた)
絵里「な…んで…!?」
果南「ことりと戦ったらどうせ傷は出来る、なら今私が代わりに傷を与えとくからここで寝ときなよ」
果南「絵里は今戦うべきじゃない」
絵里「ふざ…っけ…かはっ…な……い…でっ」
果南「じゃあね」
スタスタスタ
絵里「ま…て」
絵里(突然の裏切りと言ってもいいほどに唐突で、果南の銃を使った打撃は激痛を通り越して死に至る痛みでもあった。銃という名の鈍器を使ったからね、横になっても目を瞑っても痛みは消えなかった)
絵里「…ぁ…なん」
絵里(諦めきれない思いと、果南への怒りが痛みを超えて私の意識を覚醒させてくる)
絵里(だけどすぐに視界は真っ暗になった。次の瞬間には意識も無かったかしら、流石戦闘型アンドロイドはパワーが強すぎた)
絵里(私はことりと戦う前に、果南に敗北した)
「ねえ、起きてる?」
絵里「ん……」
絵里(私が倒れてどのくらいが経ったのかしら、今私がどこにいるのかも、どういう体勢を取ってるのかも、目を開けてるのか開けてないのかすら分からないけど声が聞こえた)
絵里「誰?」
絵里(生きてる心地さえしてないけど、声は出せた。今私の中の世界にあるのは声という音だけだった)
「気付いたら私もここにいたの」
絵里「…?どういうこと?」
「アンドロイドの異常なのかしら」
「私はあなたの心の中で生まれたもう一人のあなた…と言えばいいかしら?」
絵里「…は?」
「私もよく分からないのよ、でも私はあなた、あなたは私…それだけは分かるの」
絵里「………」
絵里(何なのかしらこれは、言ってることはとにかく意味不明、だけど聞こえてくる声は紛れもない私の声だった)
「今あなたは意識を失ってる状態にある、だからあなたは私と会話が出来るの」
絵里「ちょっと待って、なんで私の状態が分かるの?」
「それは私があなただからよ、システムの異常であなたのデータにいる私と考えて」
絵里「えぇ…」
えりち「…後、あなたも私もいっちゃえば絵里だし私はえりちってことでどう?」
絵里「え、えりち?」
えりち「ええ、可愛い名前でしょ?これで私とあなたの差別化が出来るじゃない」フフフッ
絵里「そ、そうね…」
絵里(もし仮にこの相手が私だとしたら、“えりち”ってネーミングセンスには絶望しそうになる。私ってこんな人なのかしら…)
絵里「それでそんな私が何の用?」
えりち「別に用はないわよ、というかさっき私という自分がいることに気付いたんだから用もへちまもないわよ」
絵里「…そうね」
えりち「とりあえずあなたの中に私がいるってこと、覚えておいてね。またあなたが意識を失った時は多分逢うと思う」
絵里「……気持ち悪い」
えりち「やめてよ、相手は私なのよ?」
絵里「相手が私だからこそよ…」
絵里(絵里、という私はこういう人物なのかと少し考えさせられた。しかし相手が私でも私ではない――何を言ってるのか分からないと思うけど言ってることは間違ってないはず)
絵里(まぁ、何はともあれこの相手の事が理解出来たとしても“えりち”っていうネーミングセンスだけは納得いかない)
絵里「…!なんか視界が段々明るくなってる…?」
えりち「意識が戻ってるのよ、絵里の状態も異常から正常に戻ってる。だからここで私とは一時のお別れね、次いつ逢うのかは分からないけど」
絵里「そう…よく分からないけどありがとう」
えりち「いいわよ、また逢った時はたくさんお話しましょう」
絵里「…余裕があったらね」
えりち「了解よ♪」
絵里「………」
絵里(機嫌が良さそうな私の声を聞くのは何とも複雑な気持ち、目の前が真っ白になった自覚を持つとようやく体の感覚が戻ってきた)
絵里「…ん、く…」
千歌「絵里さんっ!」ギューッ
絵里「わっ」
絵里(目がやっと半分開いた頃、突然として包容は私を弄ぶ)
絵里(目が覚めたらここはどこ?周りを見渡す限りそれは見慣れた保健室だった)
真姫「よかった…絵里が運ばれたなんて聞いてビックリしたわよ」
絵里「あぁ…いや…」
絵里(果南にやられた、と言おうとしたけどよくよく考えれば果南のことをいって面倒な事になっても困るし喉にまで上がった言葉をギリギリで止めた)
絵里「私はなんでここに?」
真姫「対アンドロイド特殊部隊の一人が近くにいたみたいで、その人が絵里をここまで運んできたのよ」
絵里「対アンドロイド特殊部隊?そんなのがあるの?」
真姫「ええ、あるらしいわ」
絵里「へえ…」
絵里「その人は今どこに?」
真姫「もう帰っちゃったわ、仕事があるとかで」
絵里「そ、そう」
絵里(そんな部隊があるのね、と不思議に思ったけどそりゃあアンドロイドに対抗する手段はいくつも必要よね、しかしどういう人がいるのかしら、対アンドロイド特殊部隊って)
絵里「…!果南は!?」
真姫「…病院に送られたわ」
絵里「どうして!?」
千歌「…撃たれた」
絵里「ど、どこを?」
真姫「肩を撃たれたらしいわ、死には至らなかったけどそれでもダメージは大きいと思う」
絵里「肩か…」
絵里(果南が負けるなんて私にとっては信じられなかった)
絵里(果南は私の周りにいる人物の中なら間違いなく最強だった、しかしそんな最強は私が思ってる以上に案外脆い最強だったのかもしれない)
真姫「…でも、果南はいい方よ」
絵里「どういうこと?」
真姫「問題は果南と戦ってた相手よ、相手は左肩、左足、右の横っ腹…」
真姫「そして胸を撃ち抜かれた」
絵里「…!それって…!」
真姫「…ええ、果南が撃ち抜いたんでしょうね」
真姫「胸を貫いても相手はアンドロイドらしいから死にはしないけど、損傷はかなりのものよ」
絵里「胸は私たちアンドロイドの心を保管する大切な場所だもの…それが欠けつつあるということは…」
真姫「果南の相手をしたアンドロイド…感情に乏しい部分が出てくるかもしれないわね」
絵里「………」
絵里(戦いで失うモノはたくさんある)
絵里(一番多く減るのは命――でも、大体それは人間が絡むことが多い)
絵里(人間同士が戦えば失われるものは命だけど、アンドロイド同士が戦えば話はまた変わってくる)
絵里(アンドロイドも人間と同じで、命はたった一つしかないの)
絵里(だけど、アンドロイドの命は人間の命より繊細なのよ)
絵里(人間みたいに命と心が同義ではないので胸を撃たれても死なない、心臓は存在してないから)
絵里(…いや、心臓はある。だけどそれは心臓とは言わないの、記憶保存領域である頭を撃ち抜けば私たちは死ぬ)
絵里(ただ待って、私たちはその死でさえ人間とは意味が違う)
絵里(死ぬのは私たちの記憶と意識、体は直せばまた動くでしょう。でも再度動いたところで私たちはそこにはいない、もう別の誰かが私たちの体に住み着いてるだろうから)
絵里(だから今回みたいに感情を保存する心が欠ければそれは修復不可能になる、今回の戦いで南ことりは確実に何かを失った)
絵里(それは何なのか、いずれにせよ人間なんかより失うモノはアンドロイドの方が断然多いの)
絵里(銃弾で物語を語るのなら、酸いも甘いも最後は惨劇でしかない)
絵里(何故なら戦って手に入れたものがあったとしても、失ったものの数に勝ることはないからよ)
千歌「…近々果南ちゃんのお見舞いにいこっか」
絵里「……行っても平気なの?」
真姫「大丈夫よ、私の病院だし」
絵里「そう…なら近々行きましょうか」
真姫「ええ」
絵里(保健室の空気は重かった、理由のない戦いに意味などない――今回の戦いで得たものがないというに果南は何の為に戦ったのだろう。あの状況なら逃げてもよかったのに、私にはよく分からない)
スタスタスタ
絵里「……はぁ」
絵里(私の傷は果南やことりと比べれば浅すぎるものだった、故に私は目が覚めてからは普通に授業を受けることにした。真姫や千歌には何度もやめろって言われたけど、別に問題ないしやるって言って押し通した)
「南ことりと戦ったそうね」
絵里「!」
絵里(そうして廊下は歩く最中、後ろから忌々しい声が聞こえた)
絵里「……ええ、そうよ」
「ことりは手強かったでしょうに、戦闘型アンドロイドの中でも特にActiveなやつだからね、ことりって」
絵里「…そんなことはどうでもいいわ、それよりあなたが何の用?」
絵里「小原鞠莉」
鞠莉「ふふふっことりとbattleしたのに随分と余裕そうね、傷が一つもない」
絵里「私は果南に気絶させられた、それだけの話よ」
鞠莉「そう」
絵里「………」
スタスタスタ
絵里(こんなやつとなんか話しても時間の無駄、声を聞くだけでも頭がおかしくなりそうだわ)
鞠莉「wait!もちろん用無しで来たわけじゃないわ」
絵里「…何?」
鞠莉「はい、これ」
絵里「…何、これ?」
絵里(突然近づいて懐から出したのは一つの拳銃、それを私に渡してきた)
鞠莉「PR-15って言うの、私なりにCustomizeしといたから是非使って」
絵里「…何のつもり?」
絵里(こんなやつから貰い物があるなんてそこだけでも疑う理由はあったけど、鞠莉の警戒の無さが一番ひっかかった)
絵里(鞠莉の心拍数は通常と全然変わってないし無理矢理渡されてから拳銃をまじまじと見れば弾が既に入ってる。それなのに鞠莉はニコニコとしてる)
鞠莉「あなたにも武器は必要でしょ?今回みたいにことりと戦うなんてことになった時、銃が無ければ負けはほぼ確実よ、それを一番分かってるのは今日ことりと戦ったあなたでしょう?」
絵里「………」
鞠莉「とりあえずそれは貰って。別に捨ててもいいわよ、あなたの為に作った物を今更返されてもどの道ゴミ箱行きだから」
鞠莉「それじゃあね」
スタスタスタ
絵里「………」
絵里(返す言葉が無かった、それは鞠莉の言うことが正論でもあって、今の鞠莉相手に何を言っていいのかがよく分からない)
絵里「PR-15…」
絵里(鞠莉なりにカスタマイズした、と言っていたが確かにみんなの持ってる拳銃とちょっと違うところがある。具体的どこが違うのかと言われれば言葉は詰まるけど、一つ私でも言えることがあるなら拳銃のくせにサイトがあることかしら)
絵里(みんなサイト無しの拳銃を使ってるせいかすごくカッコよく見えたのがとても悔しい)
絵里「……仕方ないわね」
絵里(捨てるにしてもとりあえず今は持っておくことにする、なんであんなやつが私に武器を渡したんだろう)
絵里(しかもご丁寧にカスタマイズまでして何が目的なのかしら…)
~放課後、図書室
真姫「ふーん…あの鞠莉がねぇ」
絵里「どう思う?」
真姫「どう考えても怪しいでしょ、第一なんで今になってそのハンドガンを渡すのよ」
絵里「それが分からないから聞いてるじゃない…」
真姫「私にだって分からないわよ、そんなの」
絵里(時刻は放課後、鞠莉のあの行動にもどかしさを感じる私はあまり人のいない図書室で真姫と話をしてた)
真姫「というかハンドガンってどんなものを貰ったの?」
絵里「これよ、PR-15って言うらしいわ」
真姫「へぇ…いい趣味してるのね、鞠莉って」
絵里「冗談でもあいつを褒めないでよ…」
真姫「ご、ごめんなさい。でも私もこういうスタイリッシュな銃が好きなの」
真姫「茶色を含まないシックな感じがたまらないわ」
絵里「ふーん…」
真姫「でも、性能は良さそうね。生意気にサイトまでつけちゃって」
「ずら~!?」
絵里「っ!?」ピクッ
真姫「!」
絵里(真姫に鞠莉から貰った拳銃を見てもらってたら突然真姫の手元から拳銃が消えた)
「この銃すごいずらー!」
絵里「ちょ、ちょっとそれ奪わないで」
「あ、ごめんなさい…ついこの拳銃が目に留まって…」
絵里「別に良いけど…」
真姫「あなたは…花丸さん?」
花丸「あ、はい!図書委員なのでいつも放課後はここにいるんです」
絵里「なるほど、図書委員なのね」
絵里(突然奪われたのはビックリしたけどあまり悪い子には見えなさそうだからとりあえず許すことにした、縦長のテーブルで真姫の隣にすとんっと座ってPR-15に目をキラキラさせてた)
絵里「ねえ花丸さん」
花丸「はい、なんでしょう?」
絵里「この銃、すごいとか言ってたけど具体的に何がすごいの?」
花丸「それはもうモデルずら!!」
真姫「も、モデル?」
花丸「PR-15――――それはもう弱点無しの高基準なハンドガンずら!反動がそこまで大きくないから連射も出来て装弾数は10発のところをこのPR-15はマガジンを拡張させて15発まで込められて、尚且つドットサイトをつけて狙いやすくした最高に使いやすいハンドガン!」
絵里「へぇ…そんなにすごいの…」
花丸「それにこのロゴはどう見てもオハラモデル…ずら!」
真姫「オハラモデル?」
花丸「あの小原社が作った銃はこのようなロゴがつくずら、これがつくだけでどんな銃も桁が一つ変わると言われるくらいに質感とか、後出来がいいんです!」
花丸「……あ、ごめんなさい。これお返しします」
真姫「ど、どうも」
絵里「なるほど、そんな代物なのね、これ」
真姫「みたいね」
真姫「…どうするの?それ」
絵里「使いやすいらしいし貰っておくわ、確かに相手だけ銃を持ってるのに私だけ銃がないのは分が悪いもの」
真姫「…そう」
花丸「お二人はこういうのをいっぱい持ってるんですか?」
絵里「いえ、私はないわ」
真姫「私も特に。銃はいっぱい持ってるけどオハラモデルとかこだわりはないわ」
花丸「あ、そうなんですか」
絵里「あなた、銃は詳しいの?」
花丸「はいっ!だけど怖くて撃てないずら…」アハハ
絵里「そうなの…それは残念ね」
花丸「はい、ただそれでも銃は大好きなので銃の知識は誰にも負けないつもりずら!」
真姫「へぇ…」
絵里(不本意だったけどこの鞠莉のくれた拳銃の事が知れてよかった、バランスの良い拳銃ならいい武器になってくれそうね)
絵里「今日はありがとう、また来るわね」
花丸「はいっ是非またずら」
絵里「ええ」
絵里(図書委員の子とはよく分からないけど仲良くなれたわ、銃のことなら相当な知識を持ってるみたいだから銃で困ったら図書室へいけばいいのかも)
スタスタスタ
真姫「マガジンは私に任せて、絵里のそのハンドガン用のマガジンを発注してあげるわ」
絵里「いいの?」
真姫「いいわよ、どうせお金なんて有り余ってるし」
絵里「なんか悪いわね…」
真姫「いいわよ別に、その代わり今度なんか奢りなさいよ?絵里イチオシの店でね」
絵里「ふふふっ分かったわ」
絵里(私の周りには優秀な人たちが集まってる、気性が荒くて不器用な私にとってこの奇跡のような集まりは本当に嬉しくて、一人舞い上がってしまいそうだった)
絵里「あ、帰り果南のお見舞い行ってもいい?」
真姫「いいわよ」
絵里「じゃあ千歌を連れていきましょうか」
真姫「いや、多分もう千歌は行ってるわよ。お見舞いに」
絵里「え、そうなの?」
真姫「ええ、図書室に行くとき突っ走ってるのを見たわ」
絵里「そうなの、じゃあ私たちも行きましょうか」
真姫「ええ」
絵里(銃の話が落ち着けば次は果南のお見舞いに行くことが決まった、あの南ことりと戦ったのよ、傷は相当なはず――――)
果南「あ、絵里と真姫、お見舞いにきてくれたの?嬉しいな~♪」
絵里(――だと思ってたんだけど…)
千歌「あ、絵里さんと真姫ちゃん!」
真姫「こんばんは、果南具合はどう?」
果南「うん、ばっちしだよ、特に痛むところもないしいつもと変わりないかな!」
絵里「えぇ…肩を撃たれたのでしょう?」
果南「撃たれたっていってもかすり傷みたいなものだよ、肩はちゃんと動くし痛くないし大丈夫!」
絵里「すごいわね…」
絵里(肩を撃たれたと聞いていたけど全然元気そうで安心した、ことりは相当な傷を負ったみたいだけど果南はこれほどに元気だと流石と思えてくる)
果南「へーあの鞠莉がハンドガンをかー」
絵里「そうなのよ」
千歌「かっこいいー!」
真姫「かっこいいわよね、私も好きだわ」
絵里(今日の朝はあんな大惨事だったというのに、今はこうやって会話に花を咲かせてるのが当たり前すぎて不思議に思わなかった、今は…ね)
絵里(ここにいるみんなはアットホームな関係でありたい人たちだから、常に笑いがあって退屈しないものだった)
絵里(だからこそ今みたいな状況から一転する時は、空気の違いがよく分かった)
ガララ
絵里「!」
千歌「!」
「こんばんは、ここが松浦果南さんのお部屋ですか?」
「ふーん、あんたが松浦果南ね」
絵里「あなたは…」
海未「こんばんは、私は対アンドロイド特殊部隊の指揮を務めています、園田海未と申します」
にこ「同じく矢澤にこよ」
果南「…対アンドロイド特殊部隊のお二人が私に何の用?」
海未「今日の朝の件で南ことりと一戦交えたそうですね」
果南「そうだよ」
海未「南ことりは私たち特殊部隊で危険度Aの上から二番目に危険なランクに該当するアンドロイドです」
海未「しかしそんなことりに四発の弾丸を撃ち込んで尚目立った損傷をきたさない松浦果南というアンドロイドは、あなたから見れば誠に不本意ながら相対的に危険度Sに該当されることとなりました」
真姫「危険度S…!?」
果南「…それで?」
にこ「危険度Aは私たちの監視下に置かれることになってること、知ってる?」
果南「…知らない」
にこ「そう、なら危険度Sってどうなると思う?」
果南「………」
海未「答えは見つかったようですね」
絵里「ちょ、ちょっと待って!果南は悪くないわ!」
千歌「そうだよ!悪くないよ!」
絵里(オシャレな服を着た二人組が突然来て何を言いだすかと思ったら果南が危険度Sに該当されたなんてそんなの横暴すぎるわ、しかも次第に二人が黒い手袋をつけてるのを見て私は察した)
絵里(危険度Sがどうなるかを)
海未「ごめんなさい果南さん、これは鞠莉からの命令なのです」
果南「鞠莉…」
絵里「鞠莉…ッ!」
絵里(今日は拳銃をくれたし、少しは感謝したけどやっぱりあいつはあいつのままだった)
絵里(自分から作り出したくせに、今度は自分から破滅を及ぼすなんて命の冒涜――いや、アンドロイドへの侮辱そのものよ)
海未「では……」
果南「…何?」
海未「さよならですねっ!」バァンッ!
果南「っ!?」
真姫「はやっ…!?」
絵里(まさに早業、そして不意の一手だった)
絵里(懐から拳銃を出した瞬間左へ跳躍、だから私たちアンドロイドは銃弾に反応して回避を行うのだけど、今ここにいたアンドロイドは全員同じように体が動かなかったでしょう)
絵里(それは何故か?答えは簡単で、私たちアンドロイドが反応したのは銃弾ではなく先に高速移動をした海未本人の方だった。だから銃弾への反応は遅れて回避が間に合わない)
絵里(いわばそれは詰みの状態だった)
ダッ
千歌「果南ちゃん! っあ……」
絵里「千歌!?」
絵里(そうして次の瞬間には何が起こったんだろう、海未が撃った銃弾は果南の頭を貫くことはなかった)
果南「っ…千歌…?」
絵里(海未の撃った銃弾から一番近くて、一番銃弾への反応が早かったのはおそらく千歌だった。だから千歌は咄嗟の判断で海未の射線上にわざと飛び出した)
真姫「なっ…あっ……え…?」
絵里(…結果、千歌は頭を射貫かれた。それは紛れもない――――)
絵里(――死、そのものだった)
千歌「……ぁ」
バタッ
果南「千歌!?ねえ千歌!」
海未「ちっ今度こそ!」
絵里「させないっ!」バンッ!
絵里(今こそ収束/終息の時――――次第に湧き出る怒りはアドレナリンを発生させ続けた)
絵里(だから私は)
絵里(始まりのトリガーを引いた)
海未「くっ…」スッ
真姫「…!何やってるの早く逃げて!」
果南「分かってる!くっ…いたたっ…」
絵里「…!」
絵里(果南は肩を押さえてる、なんとなくわかってた。やっぱり強がってたんだ、やはりあのことり相手にかすり傷じゃ済まされないのよ)
絵里「っ!いくわよっ!」ダッ
果南「うわっ!」
パリーン!
絵里(それを見て私は迷う事なく果南を連れて逃げる事を選んだ)
絵里(腕を引っ張って力強く跳躍、外へと続く窓ガラスを突き破って二階から飛び降りた)
絵里「逃げるわよ!」
果南「絵里…!なんでっ…!」
絵里「……いいのよ」
絵里(その行為は紛れもない対アンドロイド特殊部隊――そして鞠莉への宣戦布告だった)
絵里(私は今日からレジスタンスになる、今日から世界の人々は敵になったのよ)
ちょっと中断
複雑な世界観だけどこういうの好きだな
続き期待してます
にこ「まてっ!」
絵里「そこで止まってなさいっ!」バンッ!
にこ「ちっ…厄介ね、あれ」
絵里(追随を許さないよう窓から顔を出すにこへと数発発砲した、あぁ…マガジンに15発の弾があって尚且つ連射出来て良かった。この使いやすさのおかげで牽制はほぼ完璧、だから私は果南を連れて走り出した)
パリーン!
海未「どこを見てるんですか?」
絵里「何っ…!?」
絵里(その動きはまさに奇想天外で、果南のいた病室の隣の病室の窓から飛び出してきた海未。これには想定外すぎて足が止まってしまった)
パリーン!
善子「そっちがね!」バンッ!
海未「!」
海未「っあ…ッ」
絵里「善子!?」
絵里(そしてこれまた想定外で、海未の出てきた下の病室の窓から善子が飛び出し両手に持ってた拳銃で海未の右足を射貫いた)
海未「あぁ…くぅ……!」
善子「地面にキスでもしてなさい、この堕天使ヨハネの前では……ってまたやっちゃったぁ!」
果南「何やってるの善子!」
善子「!逃げるわよ!」
絵里「え、でも」
善子「いいからいくの!ほら!」ダッ
絵里「え、ええ!」
絵里(足を撃たれた海未は空中で体勢を崩しそのまま地面へと叩きつけられた。だから今のうちに逃げ出した)
タッタッタッ!
絵里「なんで善子がここに!?」
善子「…ルビィのお見舞いよ」
絵里「…!ごめんなさい」
善子「いいわよ、それよりも今はあの二人から逃げる事が先よ」
果南「どこへ逃げるつもり?」
ピコンッ♪ピコンッ♪
絵里「…!電話よ」
果南「私が出るの?」
絵里「私は果南をおんぶするのに必死だから」
果南「分かったよ…」
ピッ
果南「もしもし?」
真姫『もしもし』
果南「あれ、真姫じゃん、そっち大丈夫?」
真姫『それはこっちのセリフよ!そっちは大丈夫?』
果南「うん、大丈夫だよ」
真姫『そ、そう…これからどうするつもり?』
果南「分からないからとりあえず行き先も考えずに逃げてるところだよ」
真姫『なら私の別荘を使って、森の奥だからしばらくの間は身を隠せるはずだわ』
果南「え、ホント?でも場所が分からないよ」
真姫『私の家にいて、玄関からは鍵がかかって入れないけど、二階の私の部屋に通じる窓は鍵がかかってないから入れるはずだわ』
果南「えっ…それ防犯的に大丈夫なの?」
真姫『私の家庭は多大な権力を有しているのよ、そんなところで盗みを働かせる間抜けはいないし、アンドロイドは金銀財宝に興味がないと聞いてるから、それを信じての行為よ』
果南「あはは…なにそれ」
真姫『とりあえず私の家にいて、私も時機にいくわ』
果南「うん、分かった」
果南「…あ、後そんなべらべら喋ってもいいの?近くに対アンドロイドの人いるんでしょ?」
真姫『………』
にこ『海未!しっかりして!』
海未『やられました…まさか三人目が…ぐっ…!』
にこ『あいつら…!』
真姫『…あの様子じゃ絵里たちを追う余裕は今のとこないと思うわ』
果南「??? よく分からないけど大丈夫なんだよね?」
真姫『ええ』
果南「そっか、分かったよ。じゃあ真姫の家で落ち合おうか」
真姫『ええ、よろしくね』
ブツッ
果南「真姫の家に向かおう、真姫が別荘を貸してくれるって」
善子「別荘…!?真姫ってどんだけお金持ちなの…?」
絵里「一生遊んでいけるくらいのお金は持ってるでしょ、伊達に大きな病院の娘なだけあってお金の使い方はサバサバしてるし」
果南「…でも、お金に興味ないのが私たちアンドロイドなんだよね」アハハ
善子「……分かるのが悔しいわ」
絵里「ほんとにね」
絵里(なんだかんだ善子とは付き合いが長いし、果南は親友って言えるくらいに仲が良いからこんな状況でも話すことは案外軽かった)
絵里(しかしやってることは人生最大の過ちと言ってもいいだろう、私も果南も、そして善子も真姫も…もう立派なレジスタンスになってしまったのだから)
絵里(だから…これからどうやって生きていくか、考えるだけでも頭は痛かった)
~真姫家
果南「ふう…いたたた……」
絵里「…強がる必要なんてなかったのに」
果南「絵里はともかく千歌がいたんだもん、千歌にはかっこいいところを見せたかったんだよ」
絵里「……もういないけどね」
果南「………」
善子「…え?何どういうこと?」
絵里「…千歌は死んだ、海未に殺された」
善子「っ!?はぁ!?」
絵里「果南を庇って死んだの、頭を撃ち抜かれたからおそらく即死だったわ…」
善子「そんなっ…あの千歌が…!」
絵里(私に“始まり”をくれた千歌は終わりを迎えた。失ったものの代償は大きかった、心とか体とかそんなちんけなものじゃなくて千歌はあらゆるものを総じて命を失った)
絵里(銃弾で物語を語るのなら、死なんて些細なことに過ぎない)
絵里(でもそれはあまりにも突然で、理解も間に合わない死だった)
絵里「…なんでっ!」
絵里(床を思いっきり叩いた、何故今日になって死人が出ないといけないのか、きっとそれは誰にも分からない)
千歌『絵里さん!』
千歌『絵里さーん!』
千歌『絵里さーんっ!!』
絵里「千歌…!」
ポロポロ……
絵里(私はその日から神を信じるのをやめた)
絵里(千歌の事を考える度に毎日見せてくれた千歌の笑顔が瞼の裏で鮮明に映る)
絵里(例えこの先、高海千歌というアンドロイドが存在しようとも私たちの知ってる高海千歌はもういない)
善子「…あり得ない」
絵里(アンドロイドの命は美徳と語られることが多々ある)
絵里(何故ならアンドロイドの命は記憶と同義であるから、記憶が消えることこそアンドロイドの死を意味するから)
絵里(…だけどそこに美しさなんてどこにも存在しない、あるのは血まみれの死体と虚ろな瞳だけ)
絵里(そうして人は神様神様って奇跡を信じようとするの)
絵里(しかし私は断じて否、神様なんかに縋るから何かを失うのよ)
絵里(銃弾で物語を語るのならそれは私自身が放った銃弾で語るの、神様に代行してもらった運任せの銃弾なんて要らない)
絵里(私が…その心——心臓を撃ち抜くのよ)
果南「…やめよ、千歌のことは考えたくない」
絵里「…そうね」
善子「でも!」
果南「やめてッ!」
善子「っ…」
果南「…千歌のことはもういいよ、今は今で私たちが危ないんだから」
善子「……そうよね、ごめんなさい」
果南「………」
絵里「………」
絵里(当たり前だけど、空気は随分と重いものだった)
絵里(果南は物理的にも精神的にも強いけど小さい時から一緒だった千歌が死んだ喪失感は誰よりも大きいと思う、それに肩は痛いだろうしイライラは加速する一方だろう)
善子「…私、トイレ行ってくる」
ガチャンッ
絵里(空気の重さに耐えられなくなった善子はその場を抜け出した、トイレとか言ってるけどどうせトイレには行ってないでしょうね)
絵里「…果南はこれからどうするつもり?」
果南「仕返しに行く、千歌の命を奪った罪は重いよ」
絵里「その傷であの二人に勝てると思う?第一私たちは海未にやられてるといっても間違ってないのよ?」
絵里(対アンドロイドならではの動きだった、私たちはアンドロイド故に危険なものや動くものには即座に反応する、それを逆手に取り先に海未本人が目にも留まらぬ速さで跳躍し、私たちが海未に反応をしてから発砲する)
絵里(千歌がいなければ果南が死んでた、何がどうあったとしてもあそこで一人は死んでいた。それはもう間違いなく敗北の二文字だった)
果南「…そんなの関係ない」
絵里「……気持ちはわかるけどやめておきなさい、無理よ」
絵里(にこという人物は分からないけど海未という人物がかなりの手練れなのは事実、コンディションの整った果南なら分からないけど傷を負った状態じゃあいつに勝つのはほぼ無理、私の瞳も一桁代の確立を示してる)
果南「なんで……」
絵里「…何?」
果南「うるさいんだよッ!」スッ
絵里「っ!?」
絵里(突然気でも触れたかのように果南は立ち上がりと同時に私へと横蹴りをかましてきた)
果南「千歌を失った気持ちが絵里には分かる!?」
果南「勝てるとか勝てないとかそんなの気にしてられないんだよ!」
果南「勝てないなんて知ってるよ!勝てないのは眼がいい私自身が一番分かってるつもりだからッ!」
絵里(何の計算性もない左ストレートから左回りの後ろ回し蹴り、そしてそのままサマーソルトキックともう力任せな怒りの攻撃だった)
絵里「…動きが鈍いわ、やっぱり無理よ」
果南「舐めないでっ!肩が負傷してても私は戦える!ほらっ!これが証拠だよッ!!」
絵里「なら銃を使ってみなさいよ、今ここで」
絵里「私を殺してみなさいよ」
果南「っ!」
バンッ!
果南「っあ…痛ッ…!?」
絵里(…突然の結果だったわ、私の挑発に乗った果南は懐からすぐにデザートイーグルを出して発砲、だけど反動から来る肩の痛みで私は避けずとも果南から外してくれたし、強まる痛みに果南はすぐにデザートイーグルを手放した)
スタスタスタ
絵里「…ゲームセットね、私が敵ならここで果南は死んでるわ」カチャッ
絵里(地に落ちたデザートイーグルを拾って銃口を果南に向ける、アイアンサイトから見える果南の諦めきれない悔しそうな顔が、敗北の証拠だった)
果南「くそっ…!なんでっ…!なんでぇ…!!」ポロポロ
絵里「…諦めなさい」
絵里(果南はそのまま崩れ落ちて泣き出した。滅多に見せない果南の涙は実にブルーで、哀歌はとても力強かった)
~数時間後
真姫「…人の家で殺し合いとかやめてくれる?」
絵里「…ごめんなさい」
絵里(私たちが真姫の家に来て数時間後、ようやく真姫が家に帰ってきた。あの後すぐに帰ったら怪しまれると思ったんでしょうね、おそらく真姫の事だから迫真の演技とかを数時間してきたのでしょう)
真姫「別にいいけど…果南は大丈夫?」
果南「うぅううううぅう…あああぁ…!」
善子「…ダメでしょ、こういう時は気が済むまで泣かせとくのが一番よ」
絵里「善子…戻ってきてたの」
絵里(善子は部屋を出てから今に至るまでずっと戻ってこなかった、おそらく外には出てないでしょうけどこの真姫の家に一人でいるだけというのも随分と退屈なものよ)
善子「真姫が来たからね」
絵里(泣きじゃくる果南を前に廊下の壁に腕を組みながら背中を寄せる善子と片手を横っ腹において堂々と立つ真姫、そしてデザートイーグルを片手に持って立つ私が集まり、レジスタンス四人が揃った)
真姫「…あなたたちは良かったの?」
絵里「何が?」
真姫「別に私は何もしてないから普段通り過ごすけど、善子と絵里と果南は多分無理よ」
絵里「知ってるわ、もう戻れないなんて承知の上よ」
善子「私もやっちゃったからには戻れないわ、だからもう既に覚悟は決めてるつもり」
真姫「…そう、ならいいけど」
真姫「…さっきも言ったけど私は何もしてないから普段通り過ごす。けど支援はするわ、お金で解決できることは私に任せて、私は武力はないけど財力ならあるんだから」
絵里「…助かるわ」
真姫「このくらいとーぜんよ」
絵里(外もまともに歩けないであろう私たちにとって真姫の存在は大きすぎた、もうしばらくは妹の亜里沙にも会えない、学校で仲のいい友達にも会えない)
絵里(犯罪を犯した代償は重すぎた)
善子「ここが…」
絵里「相変わらず大きいわね…」
真姫「ええ、不便のない生活は出来ると思うわ」
絵里(それからして深夜の三時、私たちは夜道を高速で走り別荘へ辿り着いた)
果南「ここに私たち住むの?」
真姫「ええ」
果南「おー!私こういうところに住んでみたかったんだ!」
善子「ここが堕天使の住処…!」
絵里「また堕天使モード入ってるわよ…」
絵里(数時間泣きじゃくってた果南もとりあえず立ち直ったみたいで今では普通の状態、真姫の別荘を見てはしゃいでるのを見て私はなんとなく安心した)
真姫「とりあえず入って、色々と設備を紹介するわ」
絵里「ええ」
善子「分かったわ!」
絵里(それで真姫に案内されるがままに別荘へと入った、大きさは一般の一軒家の二倍程度で二階建て、リビングは相も変わらず広々としてて真姫の言う通り不便の生活が約束されてるような場所だった)
真姫「…と、まぁここの説明はこのくらいよ」
真姫「何か質問ある?」
絵里「ここの存在がばれた場合どうすればいい?」
善子「それは私も聞きたかった」
真姫「切り捨ててもらって結構よ、逃げることが第一だからね」
果南「分かったよ」
真姫「他はある?」
絵里「私は特に」
善子「私も」
果南「私もないよ」
真姫「分かったわ、じゃあ今日のところは帰るわね。流石に私が家にいないと親に怪しまれるから」
絵里「分かったわ、ホントにありがとう真姫」
真姫「いいわよ、それじゃあね。そこにあるの家の鍵だから」
善子「ええ」
果南「りょうかいっ」
真姫「じゃあね」
スタスタスタ
絵里(時刻は四時、真姫はレジスタンスだけどあくまでも一般人、だから私たちと違って怪しまれるような変な行動は出来ないし真姫は武術の心得がなく戦闘面に関して言えば無力に等しい、つまり何かあった時抵抗する手段がない)
絵里(だからここは安牌として家に帰ることを選んだ、だからここからは私たちだけだ)
果南「これからどうする?」
絵里「寝る場所を決めましょう、寝室が二つしかないらしいの」
果南「え?みんなで一緒に寝るんじゃないの?」
絵里「えっそうなの?」
善子「いや違うと思う」
果南「じゃあどうするの?」
善子「…私は一人で寝たい、少なくとも今日と明日は」
果南「…?よく分からないけど、分かった」
果南「絵里はどうする?」
絵里「私はどこでもいいわよ」
果南「じゃあ一緒に寝ようよ、一緒に寝た方がお泊り感あって好きなんだぁ」
絵里「遊びでここに来てるんじゃないのよ私たち…」
果南「知ってる知ってる」
スタスタスタ
絵里「善子、どこいくの?」
善子「私の家に一度行く、こうなった以上武器は持っておかないと安心なんて出来ない」
善子「…こんな拳銃一つじゃあの二人とは戦えない」
絵里「善子…」
絵里(片手に持つ拳銃を悲しそうに見ながら善子はそう言った、確かに拳銃一つじゃ手数も火力も出来ることの数も少ない)
絵里(拳銃の強みは軽いからどこにでも持ち運べて、小さいから運用が簡単なこと)
絵里(だけど、拳銃はそれ以外の強みがない。火力は人を殺すには充分すぎるものではあるけどそれでもまだ足りないものなのよ)
絵里「でも外は危険よ…?」
善子「分かってる、でも拳銃一つじゃ戦えない。ならまだ監視の目が酷くならないうちに危険を冒して家から武器を持ってくる方が賢いわ」
善子「堕天使ヨハネは常に一手先を考えてるの」
果南「…言ってることは正しいけど堕天使ヨハネいる?」
善子「あーもう!仕方ないの!これプログラムだから!」
絵里「ふふふっまぁいいわ、じゃあ行ってきていいわよ」
絵里「私も行きたいけど果南を一人にさせるわけにはいかないから、くれぐれも気を付けて」
善子「ええ、じゃあね」
タッタッタッ
果南「…行っちゃった」
絵里「やっぱり善子はすごいわね」
果南「ホントだよ、とても一年生とは思えない頭の良さだよね」
絵里「ええ」
果南「…二年前だよね、善子と私たちが出会ったのって」
絵里「ええ、善子がいじめられてたのを助けた時からだったわね」
果南「懐かしいなぁ絵里が単身っていじめっ子のグループに突っ込むもんだから見てられなくて私もついていった覚えがあるなぁ」
絵里「あ、あれは仕方なかったのよ!だって千歌とか他の友達巻き込みたくなかったし…果南に知られたらまためんどうなことになりそうだし…」
果南「あはは、酷い言われようだなぁ」
絵里「果南は解決の仕方が暴力的すぎるのよ」
果南「それ、絵里が言う?」
絵里「果南よりかはマシよ」
果南「…ふふっ」
絵里「ふふふっ」
かなえり「あはははははっ!」
絵里(前から一緒の私たちの絆は何よりも堅かった)
絵里(善子は中学二年生の時に善子をいじめていた子を私と果南でやっつけた事で知り合った、何事にも真摯な対応をする子だけど、生まれた時からインプットされていた堕天使ヨハネというプログラムが彼女の特徴でもある)
絵里(今思えば、善子も成長したけど悪い方向で成長したともいえる。しかしもちろん理由はあって、善子を変えた原因はおそらく二つあるの)
絵里(一つはいわずも鞠莉のせい、あいつがアンドロイドの品格を下げ続けてるから意図せずとも恨みや邪念など生まれてしまった)
絵里(そして二つ目は――――)
絵里「……善子、大丈夫かしら」
果南「…やっぱり心配?」
絵里「ええ、身の危険もそうだけどもう一つあるの」
果南「ん?何かあるの?」
絵里「…真姫の病院にね、ルビィって子がいるのよ」
果南「ルビィ?」
絵里「ええ、その子は」
グゥ~…
絵里「………」
果南「…あはははは…ごめんお腹空いてて…」
絵里「はぁ…仕方ないわね、何か食べる?私もお腹空いてるし」
果南「ホント!?じゃあ巷で噂の絢瀬絵里特製料理をもらおうかな~!」
絵里「なによそれ」フフフッ
絵里(…はぁ、なんか果南のお腹の音を聞いたら気が抜けちゃった。ごめんなさい、この話はまた今度になりそう)
絵里「えっと、冷蔵庫の中は…っと」
絵里(とりあえず私はキッチンにいって料理の準備をする、亜里沙ほど料理は上手くないけど私だってちょっとは出来るんだからっ)
果南「うはーすごい食材の量」
絵里「お金持ちって感じね…」
果南「何作るの?」
絵里「亜里沙に教えてもらったオムライスを作るわ」
果南「お、いいね」
絵里「果南はソファでも座ってなさい、邪魔だから」
果南「そんな直球に言わなくてもいいじゃん…」ブー
絵里「ふふふっごめんなさいね」
絵里(冷蔵庫やその周辺にある食材を見て、果南に何を作るか聞かれて出てきたのはオムライスだった)
絵里(なんでこの料理かは分からないけど、とりあえず作ってみた)
果南「あっはは!不出来~」クスクス
絵里「し、仕方ないじゃない!私は料理得意じゃないの!」
果南「亜里沙ちゃんはやっぱり出来る子だなぁ」
絵里「そうよ、亜里沙は自慢の妹なんだから!」フンスッ
果南「いやいや絵里が威張るところじゃないよ…」
絵里「……とりあえず食べる!ほら早く!」
果南「はいはい」パクパク
果南「ん、意外にもおいしい」
絵里「意外とは失礼な」
果南「んあはは、オムライスにレモンを盛り付けるなんてちょっと変わってて不安だったんだよ」
絵里「そ、そう?レモンのトッピングは私のアレンジなんだけど」
果南「あ、そうなの?でもこのレモンの酸っぱさが良い味出してるね」
絵里「あ、ありがとう」
果南「あ、もしかして照れてる?」クスッ
絵里「照れてない!」
果南「ふふふっそうだね、ごめんね」クスクス
絵里「腹のたつやつね…」
絵里(状況は最悪でも、果南との会話は千歌や善子とは違ってすごく明るかった)
絵里(果南は悪く言えば何事にもバッサリしてるけど、良く言えば楽観的で優しくてムードメーカーのような人)
絵里(だから果南は今の私たちにとってはすごく大切な存在だったと思う)
絵里(それで少しは…気が楽になった気がした)
ガチャッ
善子「ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ…」
果南「おかえり」
絵里「おかえりなさい、大丈夫だった?」
善子「私は大丈夫だけど街の方はやばいわ……」
果南「何?何かあったの?」
善子「監視の目が多くなってる、私が海未とかいうやつを撃ったせいで警戒レベルがMAXに近くなってるのだと思う…」
絵里「それはー……そう…」
果南「………」
善子「…でも武器は手に入れたわ、今行かなきゃもう一生取れないと思ったから」
善子「……後お母さんにもお別れを言っておいた」
絵里「お、お別れってまさか死ぬわけでもないのにそんな大げさな…」
善子「……今回ばかりは分からないわ、果南ならわかるでしょ?」
善子「私たちだけじゃあの二人に勝てないって」
絵里「…!なんで!?」
果南「…いや、絶対に勝てないってわけじゃないよ」
果南「私は怪我をしてるから戦力には入れないとして、善子と絵里があの二人と戦って勝てる確率は…」
果南「半分よりちょっと低いくらいの確立かな……」
絵里「………」
絵里(果南は他のアンドロイドと比べて眼が非常に良い、眼に見える確率は細かくより正確に割り出すことができ、それ以前に単純に視力だとかがよく敵の細かなの動きも見る事が出来る)
絵里(だからこそ果南の言う“半分よりちょっと低いくらいの確率”っていうのはだいぶオブラートに包んだけど、負けが濃いということになる。しかも果南が言うことでその線は更に濃くなる一方だった)
果南「…でも、敗北が確定したわけでもないのに負けを認めるなんて私はそんなこと絶対にしたくない」
果南「私は仮にも戦闘型アンドロイド」
果南「死ぬなら戦って死ぬよ」
果南「それが戦闘型アンドロイドの生き様であり、名誉ある死に方だろうからね」
絵里「………」
善子「……何が名誉よ、バカらしい」
果南「先入観に囚われて保身に走ってる臆病者には分からないだろうね」
善子「考える力もない脳筋バカの事が正しいとでもいうわけ?」
果南「へえ、じゃあ善子はいじめっ子を一人で倒せるんだ?考える力のある善子はこの状況で勝算を見出してくれるんだ?」
善子「怪我してる無力は黙っててくれる?関係ないことりとなんか戦って傷を負って口だけ達者なのは流石に弱く見えるわよ?」
善子「戦いたさだけでことりとおっぱじめて、余計な傷を負った上で事実上千歌まで殺してねえ何のために戦ったの?全部の果南のせいよね?」
善子「この人殺し」
善子「堕天使ヨハネの言う事に間違い、あるかしら?」
果南「っ!」
果南「…へえ、善子変わったね」
果南「可愛らしい堕天使から、憎たらしい堕天使へとね」
善子「ええ、そうよ」
果南「流石に頭に来たよ、ここは一つ私から提案なんだけど」
果南「…私と一戦交えない?」
絵里「ふざけないでっ!!」ドンッ!
善子「!」ピクッ
果南「!」
絵里「こんな状況で争ってる場合じゃないでしょう…?」
ポロポロ…
絵里(涙を我慢する力は私には無かった、今でさえ絶望的状況なのにこのまま内紛でも起こされたら私たちは自ら死に堕ちてゆく)
絵里「私たちは仲間なのよ…?仲間なのにお互い責め合ってたら私たち勝てないじゃない…」
絵里「私怖いの…!死ぬのが…誰かを失うのが怖いの…!!」
絵里「もう既に千歌を失った…それから果南や善子、真姫まで失ったら私…私っ…!!」
絵里「だから二人とも争わないでぇ…!」ポロポロ
絵里(その場に崩れて泣いて、和解を懇願した。他人の心配ばっかしてたけど、今度死ぬのは私かもしれない、それなのに今こんなことしてる場合じゃないって私の本能が警鐘を鳴らし続けてた)
果南「ご、ごめん……善子、絵里…」
善子「…私こそごめん」
絵里「うわああああぁ…!」
果南「あはは…泣かないの、絵里は強いんだから」
絵里「私は強くないわよぉ…!」
絵里(果南にはハグを、善子にはナデナデをされたけどそれでも涙は止まらなかった。だから気が済むまでずっと泣いてた)
絵里「あああぁあぁ…!!」
善子「だ、堕天使ヨハネ参上よ!そこのお嬢さん何かお困りですか?」キリッ
果南「いやそこで堕天使かい…しかもなりきれてないし…」
絵里(善い子と書いて善子――は、突然堕天使モードに入って私を笑わせようとしてくれて、果南も乗っかって色々してくれたけど、やっぱり涙は止まらない。けど、そう優しくしてくれるだけで私は両手から溢れ出るほどの幸せを感じた)
絵里「すぅ…すぅ…」
善子「…寝ちゃったわね」
果南「絵里、案外溜め込むタイプだから吐き出して疲れちゃったんだよ」
善子「ならいいけど…」
果南「ふふふっ可愛い寝顔」プニプニ
絵里「んん…」
善子「絵里に怒られても知らないわよ?」
果南「あはは、大丈夫だよ」
グゥ~
善子「…お腹空いたわね」
果南「あ、それなら絵里がオムライス作ってくれてるよ、ほらっあそこのラップに包まれてるやつ善子のだよ」
善子「ホント!?堕天使ヨハネの為に食事を用意してくれるとは流石はリトルデーモン…」
果南「…そういえば善子の武器って何なの?あんまり戦ってるところ見たことないから分からないんだけど」
善子「ん?あぁMX4 Stormって言うの」
果南「へーサブマシンガンか」
善子「そうよ、連射速度が早めだから火力が高いの、だけどその分弾持ちが悪いからちょっと運用が難しいのよね」
果南「なるほどね、でもいいじゃん。サブマシンガンだし小回り利くからだいぶ動きやすいでしょ」
善子「まぁそうね」
絵里(次の日、起きてみればテーブルにはMX4 Stormと大量のマガジンが散らかってた。サブマシンガンの強みはアサルトライフルなどと比べて重量がそこまで無く小回りが利き、尚且つ拳銃よりも火力が高いこと)
絵里(しかし銃にもよるけど大体は中距離辺りで精度――いわば弾の集弾率が悪くなるから近距離の向けの武器になるわ、その分近距離は比類なき強さを発揮する。動きやすいからね)
絵里(だから銃を知らない人もこれだけは覚えておいて)
絵里(サブマシンガンは近距離が強く遠距離に弱い銃、だということを)
絵里「おはよう…」
果南「おはよう」
善子「おはよう絵里」
絵里「二人とも早いのね…」
絵里「…あれ、朝ごはんは?」
善子「…私料理出来ない」
果南「同じく」
絵里「…はぁ、また不出来な料理になるわよ?」
果南「それでもいいよ♪」
善子「同じく」
絵里「何よその一体感は…」
絵里(朝、目覚めは良かったけど現実はまだ退廃的で絶望的。これからどうやって生きていくか、考えるだけでも憂鬱な気分になる)
善子「今日は何するの?」モグモグ
絵里「これからどうするか話し合いましょう、いつまでもここにいれるわけじゃない、いずれ見つかるのだから今のうちに次の行動を決めておきましょう」
果南「了解だよ」パクパク
善子「…じゃあ聞くけど、私たちこのまま逃亡生活するの?」
絵里「それしかない…と思うのだけれど」
果南「選択はもう一つあるよ、敵の基地に突っ込んで壊滅させるとか」
絵里「それは悪手だしまず勝ち目が薄すぎるわ…」
果南「誰も本拠地に行くなんて言ってないよ、外壁から壊していけば戦力も落とせると思う」
善子「外壁?」
果南「小隊が潜む基地だよ、どうせそこら辺に色々機器だってあるだろうしそれをぶっ壊していけば統率は取れなくなるし戦力も目に見えて落ちてくる」
絵里「なるほど…」
果南「それなら勝ち目は無くはないよ」
善子「……ふむ」
果南「このまま弱気になっててもいずれは見つかるんだからそれならこっちから向かった方が良いと私は思う」
絵里「…なるほどね、確かにそれはいいわね」
善子「だとしたらどこを攻める?さっきAAの事調べたけど少数精鋭の部隊らしいから基地は多分ないわよ?」
絵里「AA?」
善子「Anti AndroidでAA、つまりは海未ってやつがいる対アンドロイド特殊部隊のことよ」
絵里「なるほどね、まぁ確かに対アンドロイド特殊部隊って長いからAAでいいかもね」
果南「そうだね」
善子「それでどこを攻めるの?目標となる場所は多分本拠地以外に存在しない」
絵里「…困ったわね」
果南「うーん…」
ピコンッ♪ピコンッ♪
絵里「ん、真姫から電話だわ」
果南「出ていいよ」
絵里「ええ」
ピッ
絵里「もしもし?」
真姫『もしもし、絵里?』
絵里「ええ私よ、何か用かしら?」
真姫『ええ、あの病院の一件から対アンドロイド特殊部隊はあなたたちに首ったけよ、まだ警察全体を動かすことにはなってないけど特殊部隊の方が動いてるだけでも動きはかなり制限されるはず』
真姫『となるとおそらくだけどこれから色々していくうちに戦闘は避けられないわ』
真姫『だから武器が必要じゃない?』
絵里「武器?」
真姫『果南と善子は自分だけの武器を所持してるはずよ、分かるでしょ?』
絵里「武器…」チラッ
善子「…ん?何?」
果南「どうかした?」
絵里(確かに二人とも自分だけの武器を所持してる、善子は病院の時に持ってた拳銃や今そこの机に置かれてるサブマシンガンだって善子だけの武器、果南もデザートイーグルを常備してるしことりの件の時は鞄からアサルトライフルを出してた)
絵里(それに比べて私は格闘だけで戦ってる身で、この前貰ったPR-15で初めて自分だけの武器を手に入れた)
善子『…こんな拳銃一つじゃあの二人とは戦えない』
絵里(しかし、拳銃一つじゃ戦えないみたい)
絵里(…だから私にも必要になってくるのだろう)
絵里(私だけの武器が)
絵里「…ええ、そのようね」
真姫『でっしょー?だから私が武器を提供するわ、好きなのをあげる』
絵里「えっいいの?」
真姫『いいわよ、だけど一度私の家に行かないといけないの。だから迎えに行くわ』
絵里「迎え…」
善子『……後お母さんにもお別れを言っておいた』
絵里「……いや、一人で行く」
真姫『は?何言ってるのよ、確かに街はそこまで危険ではないけど見つかった時が厄介よ?』
絵里「…お願い、やりたいことがあるの」
真姫『やりたいこと…?』
絵里「……言わなきゃダメ?」
真姫『ダメよ、もしも何かあった時絵里がどこにいるか分からないじゃない』
絵里「…亜里沙に会いたい、多分もう会えないから」
真姫『……なるほどね』
絵里「…いいでしょ?」
真姫『…分かった、でも気を付けてよ?』
絵里「もちろんよ」
真姫『それじゃあね、いつでも待ってるわ。家にいなかったら私の部屋で待ってて』
絵里「分かったわ」
プツッ
絵里「……ふう」
絵里(善子の言葉に感化されたっていえば多分そうなんだと思う)
絵里(ここから先は死ぬかもしれないというのに、亜里沙にお別れも無しに死ぬのは悔いが残る。なら私も亜里沙にお別れを言って未来を生きることにする)
果南「何だった?」
絵里「武器が必要だろうから真姫が提供するっていう話よ」
善子「武器、か。堕天使ヨハネにはあまり関係のない話かしら」
果南「私も武器は持ってるから大丈夫かな」
絵里「ええ、だから私宛なのよ」
果南「なるほど、じゃあどうするの?」
絵里「真姫の家にいくわ、この足を使って」
善子「は?いや危ないでしょ、もっと他の移動手段あるでしょ?」
絵里「真姫からは迎えに来るって言ってたけど断った、私も亜里沙にお別れを言いにいきたいから」
果南「…そっか、なら私は何も言わないよ」
善子「……ならついていくわ」
絵里「ダメ、善子がついてきたら果南が危ない」
果南「いや、いいよ私は。別に動けないわけじゃないんだし」
絵里「それでもダメ」
善子「じゃあ絵里は…一人で戦場に突っ込むっていうの?」
絵里「戦場ってそんな大げさな…ちゃちゃっと私の家と真姫の家行って帰ってくるだけよ」
善子「……納得できない」
絵里「そこは腹をくくって」
善子「………」
果南「なんか…ごめん」
絵里「果南は謝る必要はないわ」
ガチャッ
絵里「とりあえず行ってくるわね」
善子「…絵里っ!」
絵里「ん?何かしら?」
善子「……困ったら堕天使ヨハネに連絡しなさいよ、終わりなきジハードはもう始まってるのよ」
絵里「…ええ、もちろんよ」ダッ
絵里(善子の言葉を聞いて安心した私はキッチンに置いてあったPR-15を取って玄関を抜け外へと飛び出した。いくら監視の目があろうとも私を見つけて誰かがそこに向かうまでにはタイムラグがある、だから素早く移動すればまず捕捉されることはない)
絵里(それに私はアンドロイド、普通の人間とは違うの)
絵里(あらゆる物事を数値化出来て、銃弾を避けれるポテンシャルがある)
絵里(人間にも銃弾を避ける技術がある、とは聞くけどアンドロイドという自分自身に身についたものは裏切らない)
タッタッタッ
絵里「…きっつ」
絵里(別荘がかなりの山奥なもので私の家兼真姫の家に行くには走りっぱなしじゃないと時間がかかる、アンドロイドとはいえ体力の概念はもちろんあるからただ単純にいって辛いモノがあった)
絵里「ふう」
絵里(別荘を出て数十分経った頃にようやく街へと辿り着いた。何もない緑の世界から人工物だらけの汚れた/穢れた世界を見れば心はやるせない気持ちでいっぱいになる)
絵里(ここはすごいところよホントに。今やジェットパックとかいって人が空を飛べたり宙に電子の板が出てきたりで科学の発展というのは昔と比べれば実に目覚ましいものよ)
絵里(でも、そんな加速する科学に後れを取らない銃火器というモノがどれだけ強力な武器なのかがこの街ではよく分かる。レイガンとかライトセーバーとかそんな未来な武器が存在していても、実際にはコスパや燃費が悪くて銃火器に劣るのよね)
絵里(だからこそこの世界の戦いは銃が中心なのよ)
バンッ!
絵里「!」ピクッ
絵里「銃声…?」
絵里(路地裏を利用して移動してる時、かなり近場で銃声が聞こえた)
絵里「………」
スタスタスタ
絵里(銃声の方へ行くか行かないか、少し迷ったけど行くことにした)
絵里(向かう最中も銃声は度々聞こえてくる、でも聞こえてくる銃声の種類は一つだけで銃撃戦をしてるわけではなさそうだった)
カンッ!
絵里「っ!?」
絵里(路地裏を抜けその一歩目を歩もうとした時、突然として私の目先に銃弾が通った)
絵里(通った銃弾は私のすぐ横にあった壁に当たり鋭い音を立てて地に落ちていく、少し怯んだ後銃弾の方向を見ると…)
タッタッタッ
にこ「待てっ!」
ことり「いやっ!」
絵里「ことり…?にこ…?」
絵里(公道なんてなんのその、車道のど真ん中でにこはことりを追い、ことりはにこから逃げる光景が私の瞳には映ってた)
ことり「ん…んん…いっ…」
絵里(この銃撃で出来たものなのか、ことりには大量の傷がある)
絵里(つまり私の見ている光景は)
絵里(にこがことりを殺そうとしてる光景だった)
絵里「…?何?」
絵里(ふと二人を観察していると、にこの拳銃からではなくどこからともなく飛んでくる弾丸が混ざっていて疑問符が浮かんだ。その弾丸は拳銃の弾丸とは比べ物にならないくらい速く、コンクリートを抉るほど威力の高い一発で、でもことりはアンドロイド故にその銃弾すらも回避する)
絵里「スナイパーか…!」
絵里(弾丸が飛んできた方向を見れば日光に反射するスコープの光が見えた、場所は数十メートル離れたビルの上でことりはにこに追われながらスナイパーに狙撃をされてるようだった)
にこ「今っ!」バンッ!
ことり「当たらないっ!」
ドォン!
ことり「かっ…ぁ!?」
絵里「っ!上手い…」
絵里(コンビネーションプレイというべきかしら、にこがことりに向かって発砲しもちろんことりはそれを避けるために右へ跳躍)
絵里(だけどそれを見越してスナイパーはそのことりの跳躍先を撃ち、結果的にことりは肩を射貫かれた)
絵里(流石はAAで、その技量と頭は舐められたものじゃない)
ことり「あ…ぁぁ…」
絵里「ことり…」
絵里(肩を射貫かれたことりは派手に体勢を崩し仰向けになって倒れた。足は動くけど、肩に痛みが渡ってはそれどころじゃないでしょう)
にこ「終わりね、ことり」
ことり「く…そッ…!」
にこ「今まで犯した罪の償いだと思いなさい、もはやあんたはアンドロイドじゃなくて」
にこ「ただの鉄くずよ」
ことり「っ!ふざけないでッ!」
ことり「私を生んだのはお前たち人間で、私をこうしたのは人間でしょ!?」
ことり「それを今になって悪行を犯したから殺すだなんて理不尽すぎるよ!」
ことり「アンドロイドなんかより人間の方がクズだよっ!」
にこ「うるさい」
絵里「っ!」
絵里(ことりの息の根を止めるべくにこは手に持ってる拳銃のトリガーを引こうとしたのが確認出来た、それを見て私は何を思ったのだろう)
絵里「………」
絵里(反射的に懐にあったPR-15を取り出して銃口をにこへと向けた)
絵里「……ぃ」
絵里(…でも、怖かった。何が怖いのか、そんなの拳銃を持つ人なら誰でも思うことだと思う)
絵里(人を殺すのが怖かった)
絵里(私はこの人生という名の戦場で幾度となく争いをしてきた。けどその全ては峰打ちで終わってるの、争いにおいて人を殺すことに意味があるんじゃなくて、自分の行いを見直すべく調べであると私は思っていた)
絵里(今ここで私が撃ったらにこは死ぬだろう、完全なる不意打ちで、胸でも頭でも射貫けば死は確定)
絵里(そうとまで分かっていたら、このトリガーを引くのが怖くて…唾を飲んだ)
ことり「っ!」
にこ「! ほう、タウルス・ジャッジなんて持ってるのね」
ことり「……そうだよ」
にこ「それを私に向けて何のつもり?」
ことり「…撃つ」
にこ「なら撃ってみなさいよ、壊れた肩でどう撃つ?前の果南との戦闘でもう片方の肩も今はあまり機能してないというのにどうやって私に撃つのかしら?」
ことり「…っ」
絵里「…!」
絵里(トリガーを引こうとしてるのは伝わってくるけどことりの手は震えていた、それはつまり上手いように力が入らないようでトリガーを引くにも引けないようだった)
絵里「私が…私が…!」
絵里(私が代わりにトリガーを引く、私の何もかも全てがその答えを示していた)
絵里(でも怖い、恐怖心はそう簡単には断ち切れない。でも、ここでことりを見殺しにしてしまったら私は一生後悔すると思う)
果南『諦めるにはまだ早いんじゃないかな?』
絵里「!」
絵里(そんな時、果南のあの時の言葉が脳裏を過った)
絵里(私も諦めたくなんかない、そんな時果南は何をしてくれた?)
絵里(私を助けてくれた、だけどそれはただ助けたんじゃない)
絵里(相手の持つ拳銃を撃って間接的に相手を無力化した)
絵里(…なら私も同じ事をするだけよ)
絵里「………」
ドクンッ
絵里(加速する鼓動が私の標準をずらす、だから一度目を瞑って息を整えてから目を見開く。時間はもうない、震える手と張り詰める精神に抗って私は――――)
絵里「いっけー!」
絵里(トリガーを勢いよく引いた)ダッ
にこ「わっ!?」
ことり「!」
タッタッタッ
絵里「ことりっ!」
絵里(その行為は一体何から起こったものなのかしら。アンドロイドという仲間意識からきたものなのか、殺されそうになってたから助けなきゃという正義感からなのか、それともただ個人的にことりを助けたかったっていう私の意志なのか)
絵里(それは今でも分からないけど、とにかくことりを助けたかった)
絵里(だから私はトリガーを引いた後すぐにことりのところへ向かって、ことりをおんぶして逃げた)
にこ「絢瀬絵里…!?待てっ!」
ことり「右へ避けて…」
絵里「え、ええ!」
絵里(突然ことりの口から出てきた指示を信じて私は右へ避ける、避けた直後左を見ればご丁寧にスナイパーの弾道が残っててここで私は初めてスナイパーに狙撃されたことを知った)
ことり「これでもくらえっ…!」
にこ「っ!」
絵里(ことりは穿いてるスカートの中から何かを二つ出してにこへと投げつけた)
絵里「うわっ!?」
ことり「ひるまないで、なんでもないからっ…」
絵里(そして次の瞬間には甲高い音が後ろから鳴って一瞬だけ後ろを振り返ると眩い閃光が街中を照らしてた)
絵里「何を投げたの?」
ことり「スタングレネード…あのツインテールの足を止めるために投げた」
ことり「そしてもう一つは…」
プシュー!
絵里「!」
ことり「…スモークグレネードを投げた、これで逃げれるはず……」
絵里「そんなものを…」
絵里(走りながら後ろを見れば緑色の煙幕が壁を作ってた、これなら狙撃の心配はないしスタングレネードで足止めされてるにこも追ってくる可能性は低い)
絵里(満身創痍とはいえことりのこの道具の捌き方は流石だと思った、というかこんなものを常備してることりに驚いた)
バチバチッ
絵里「!」
ことり「!」
絵里「なにこれ…」
絵里(そんな中で煙幕の中突然後ろから飛んできた投擲物に私は思わず足を止めた、飛んできたものは一般的に見る手榴弾やことりが投げたスタングレネードやスモークグレネードのようには見えないし微妙に電気を帯びてた)
ことり「っ!ダメッ!」ドカッ
絵里「っあ!?」
絵里(そして何かに気付いたのかことりはおんぶを無理矢理抜け私の背中に強烈なキックを浴びせてきた)
絵里「っく、あッ…!」
バチンッ!
絵里「!」
絵里(その影響で私は数メートル吹っ飛ばされ俯けに倒れる、それで次の瞬間には後ろから激しい電撃の音が聞こえてくるからすぐに立ち上がって後ろを見れば膝をつくことりがいて、私が走り出した瞬間にはことりは力なく倒れた)
絵里「ことり!?」
絵里(すぐさまことりのところへ向かえば倒れることりには電流が流れてておんぶをしたら私も感電しそうでとてもおんぶ出来る状況じゃなかった)
にこ「捕まえなさい!あいつらを逃がなさいで!」
絵里「どうすれば…」
絵里(万事休すだった、私が助かるには私だけで逃げるしかない。でもこのままことりだけを置いて逃げるなんてそんなことしたくない)
絵里(私がそうするべきと思ったからそうしたいだけ)
絵里(それに従えば、ことりを置いて逃げるなんて選択肢は何万回、何億回と同じことを繰り返してもないと私は思う)
絵里「………」
絵里(…でもどうすればいいのかしら)
「こっちですっ!」
絵里「!」
絵里(もはや選択の余地なんかなくて、このままことりをおんぶして運ぼうとした時、それはまた突然に声が聞こえた)
絵里(ことりでもなければにこでもない、ましてやスナイパーの人の声でもないだろう。だからそうと分かって声のなる右へ顔を向ければ路地裏の陰で手を振る誰かがいて、その人が私を呼んだのだと認識した)
絵里「…はっ!」ダッ
絵里(もう考えてる暇なんてない、私は電流の流れることりのスカートの内側にくっついてるスモークグレネードを真下に投げてすぐことりをおんぶしてそこへと突っ込んだ)
絵里「ぐあぁあっ…!」
絵里(痛かった、痛みで足や手の感覚が麻痺してしまいそうなほどに)
「後少しです!頑張ってください!」
タッタッタッ
絵里「…っええ!」
絵里(それでも私は走る、手を振る誰かの元へ向かって)
絵里「…ぅはぁ…はぁ…」
「こっちです、ついてきてください」
絵里「あなたは…」
「えへへ、覚えてますか?」
絵里「…!もしかして…!」
『——です!私…——って言うんです!だからもし…助けが必要だったら絶対に助けますから!』
絵里「——花陽、さん?」
花陽「えへへ、正解です」
絵里「どうしてあなたが…」
花陽「話は後です、ついてきてください」
絵里「え、ええ…」
スタスタスタ
絵里(感動の再開……?なのかしら。あの時は救済を拒んだけど、今は拒む理由もない。だから花陽さんについていった)
絵里「………」
花陽「そんな後ろをちらちらと見なくても大丈夫ですよ、追手はいません」
絵里「ど、どうしてわかるの?」
花陽「ここの路地裏は普段はただの壁で、みんなここに路地裏があることに気付いてませんから」
絵里「え?どういうこと?」
花陽「上を見てもらえれば分かると思います」
絵里「上…?」
絵里(上を見ると建物と建物の間から見える青い空が見えたのけどよく見ると空が歪んでた)
絵里「なにこれ…!?」
花陽「光学迷彩って言うんです、ここは安らぎをくれる私だけの秘密の隠れ場所でよく仕事をほったらかしてここで休んでるんです♪」
絵里「光学迷彩…」
絵里(光学迷彩――――それは分かりやすく言えばカメレオンのようなものかしら。カモフラージュの為に対象の物体を同化させるもの、それは相対的に対象の物体を透明に出来ていわば透明になる技術とでもいえば大体は伝わるかしら)
スタスタスタ
絵里「…! ここは…」
花陽「私だけの秘密基地です、私はいつもここを」
花陽「部室って呼んでます♪」
絵里「部室?部活動の?」
花陽「はい、アイドル部です♪」
絵里「アイドル部…?」
絵里(部室、という割には全然部屋とかじゃなくてビルの立ち並ぶ間に出来た真四角の空間で一際違う雰囲気を漂わせている木々と幻想的に映る日光に目を奪われる)
絵里(地面は草が生い茂っててここだけまるで森の中のようだった)
花陽「そこ、座ってください。そこの方はそこのベンチで寝かせてあげてください」
絵里「あ、すいません…」
絵里(真四角の森の中心には白色の丸いテーブルと白色の木のイスが二つ置かれていて、私が座ったイスの後ろには長いベンチがあった)
絵里「ここって…」
花陽「私が作ったんです、ここの自然も、何もかも」
絵里「す、すごい…」
花陽「えへへ、ありがとうございます。ここならあの人たちにばれる心配もありません、だから気が済むまでゆっくりしてってください」
花陽「あ、お茶とかいります?用意しますよ」
絵里「い、いえお気遣いなく」
花陽「いえいえ、多分まだあの人たちはここら辺をどかないと思うので用意しますね」
絵里「あ、はい…」
絵里(角にある食材置き場みたいなところからオシャレなティーカップと紅茶のパックを出して紅茶を作り出す花陽さん、何やら鼻歌を歌っててちょっと話しかけづらくて周りを見てるとハンガーにかかったアイドルの衣装のようなものが目に留まった)
絵里「衣装?」
花陽「ん?あ、はい!私が始めてステージに立った時に使った衣装です」
絵里「ステージに立った?」
花陽「えへへ、恥ずかしい話ですけど私、実はアイドルをしてるんです。かよって聞いたことありませんか?」
『えへへ、かよちゃんの歌はすごいんですよ?』
絵里「かよ…聞いたことある、千歌が言ってた」
絵里「でも確かかよって人気ナンバーワンといっても過言じゃないスーパーアイドルって…」
花陽「はい、当たりです。人気ナンバーワンかは分からないですけど、最近はたくさんの人に応援してもらってます」
絵里「そんなすごいの…」
花陽「はい!えへへ…」
絵里「…でも、なんでそんなあなたが私を?」
花陽「私、絵里さんのファンなんです!音ノ木坂高校のビューティフルスター!」
絵里「え、なにそれ…」
花陽「ファンの間で通ってる絵里さんの二つ名の一つですよ」
絵里「ビューティフルスター…」
絵里(なんだそれ、と思ったけどとりあえずこの二つ名は置いておきましょう)
花陽「えへへ、そんなファンである私が絵里さんの力になりたいのは当然というか…それ以前に困ってる人を見捨てておけないんです」
絵里「…そ、そう」テレッ
花陽「ふふふっ照れてる絵里さんも可愛いですね」クスッ
絵里「か、からかわないで!」
絵里(花陽さんがクスクスと笑ってると鳥の可愛らしいさえずりが聞こえて花陽さんが人差し指を空を掲げると飛んでる鳥は花陽さんの人差し指に留まって羽休めをしてた)
絵里(木漏れ日に鳥と笑う花陽さんはまさに幻想そのものだったと思う)
花陽「どうして絵里さんはあの方たちにそんな目の敵にされてるんですか?」
絵里「私は……」
絵里「………」
絵里(言ってもいいのかと不安になった。いくら助けてもらったとはいえ相手は他人だ、それなのにべらべらと自分の事を言っていいことにはならない)
花陽「大丈夫ですっ私は誰にもいいません」
絵里「………」
絵里(どうだろうか、この可愛い笑顔には裏があるのかしら。でも、この人にそんなものがあるとは思えない)
絵里「…私はね」
絵里(……だから、信じてみることにした)
絵里「犯罪者なの」
花陽「……ふふふっ知ってますよ」
絵里「え?」
花陽「対アンドロイド特殊部隊ってところに喧嘩を売ってしまったんですよね?」
絵里「え、ええ」
花陽「だから私は絵里さんを助けたんですよ、あそこの部隊は限りなく強いですから」
絵里「知ってるの?」
花陽「はい、私、鞠莉さんに気に入られてるみたいで、鞠莉さん直属の対アンドロイド特殊部隊っていうのは対アンドロイドの前に特殊部隊であるので、SPみたいなボディーガードをすることもあるんですよ」
花陽「少数精鋭ですけど、それでも完璧な作戦を立てて私を守ってくれる時があります」
絵里「そんなことが…」
花陽「これからどうするんですか?あそこの部隊は遅かれ早かれ確実に絵里さんたちを見つけて殺しに来ますよ」
花陽「対アンドロイド特殊部隊に敗北の文字はありませんから」
絵里「…そうなのね」
絵里(やはりとんでもない集団ね、あそこは)
ことり「………」
絵里(私より戦闘は優れていたであろうことりがあんなになってるようじゃ私に勝ち目があるわけもなく、善子や真姫の力を借りても勝てるかどうかが危ういところ)
花陽「ことりさん、EMPグレネードを食らったんですね」
絵里「EMPグレネード?」
花陽「最近開発されたオーバーテクノロジーの産物です、爆発すると辺りの電子全てを一定時間機能を停止させることが出来るんです」
絵里「それは……あっ」
花陽「気付きました?アンドロイドは電子から出来てるものなのでEMPグレネードを食らうと少しの間は死と同義の状態になります」
花陽「だから今のことりさんは仮死の状態にあります」
絵里「仮死…」
花陽「だからEMPグレネードというのはアンドロイドに対して絶大な効果を発揮するんです」
絵里「なるほど…」
ことり『っ!ダメッ!』ドカッ
絵里『っあ!?』
絵里「だからあの時…」
絵里(あの時ことりが私の背中を全力で蹴った理由が分かった)
絵里(私を助けるために蹴ったんだ)
絵里(ことりの反応を見るにことりはあれが何なのか知ってたのでしょう、だから自分を犠牲にしてまで私を助けた)
絵里(…これが考えすぎじゃなければいいけどね)
花陽「…これ、ことりさんに使ってあげてください」
絵里「あ、ありがとう」
絵里(花陽さんかた包帯を貰ったからことりの肩にそれを巻いた、ことりも果南と一緒で当分は戦えないだろう)
花陽「これからどうするんですか?」
絵里「……分からない、けど逃げるよりかは攻める、その方針だけは固まってると思う」
花陽「逃げるより攻める…なるほど、でしたらY.O.L.Oに行ってみてはいかがですか?」
絵里「よーろ?」
花陽「はい、You Only Live Onceの略らしくて人生は一度きりという意味らしいですが、戦いの中だとY.O.L.Oというのは最前線へ突っ込むことを意味するらしいです、だから一部に兵士や偉人は攻める時に“Y.O.L.O!”と叫びながら敵の本陣へ走ったと聞きます」
絵里「へぇ…」
花陽「…あ、すいません。Y.O.L.Oというのは対アンドロイド特殊部隊兼それ以外の部隊などに武器や道具を作っている研究所みたいなところです」
花陽「つまりは武器庫です」
絵里「なるほど…武器庫…もしそこを落とせれば…」
花陽「はい!根本的な戦力の低下を強いることが出来ると思います」
絵里「…いいわね、そうしようかしら」
花陽「爆破でもなんでもしちゃえばいいと思いますっ私は戦闘には参加できませんけど、情報くらいなら提供できますのでどうぞ気になることがあったら聞いてください」
絵里「ありがとう、助かるわ」
絵里(いい情報を手に入れた、よく分からないけど花陽さんは私の力になってくれるらしい)
『花陽です!私…花陽って言うんです!だからもし…助けが必要だったら絶対に助けますから!』
絵里「………」
絵里(あの時から思ったけど、こうやって話して犯罪者である私に協力するなんて改めて変な人だと思った)
絵里(見た目や話的に単純そうに見えたけど、笑顔から零れる宝石のような瞳は何か深いモノを持っているような気がしてならなかった)
花陽「え?もう行っちゃうんですか?」
絵里「とりあえず戻るわ」
花陽「でも外は…」
絵里「分かってる、でもここでうかうかなんかしてられない」
絵里「私には仲間がいる、その仲間に心配をかけられないわ」
花陽「…分かりました」
絵里(紅茶を半分飲み終えた頃、私はことりをおんぶして出口へと向かった)
絵里「今日はありがとう、この恩は忘れないわ」
花陽「いえ、恩とかそんなのは気にしなくて大丈夫です」
絵里「…ごめんなさい」
絵里(私の言いたいことを全部まとめた上で出てきた言葉は“ごめんなさい”だった)
絵里(今は花陽さんにお返しする余裕がない、自分のことだけで精一杯だった)
スタスタスタ
花陽「…あ、あの!」
絵里「ん、何?」
花陽「…ホントに絵里さんがY.O.L.Oへ向かうというのなら、きっと死もつきまとう戦いが始まると思います」
花陽「明日には死んでるかもしれない、些細な出来事で全てが崩れてしまうかもしれない」
花陽「もしかしたら私が裏切り者かもしれない」
花陽「…それでも、絵里さんは戦いにいくのですか?」
絵里「……ええ、もちろんよ」
絵里「もうトリガーを引いたからには戻れないの、これは生半可な覚悟でやってる遊びじゃない」
絵里「殺し合いを今――――私たちはしてるの」
絵里「…そこにルールなんてない、勝った者が正義と言われ、負けた者が悪と言われるそんな理不尽極まりないクソまみれの世界で私たちは戦っているの」
絵里「もはやあなたが裏切り者だろうと関係無い」
絵里「相手が人間だろうとアンドロイドだろうと、銃弾で貫けば終わりなんだから」
花陽「…そうですか、流石絵里さんです。聞いた私がバカでした」
花陽「…次いつ会えるかは分かりません。でも、“また今度”はあると思います」
花陽「だからまた今度、お会いした時はもっといっぱいお話しましょう♪」
絵里「…ええ、もちろんよ」
絵里(どこか意味深では儚げな顔をして花陽さんは私を見送ってくれた、出口を抜けた私は真姫にメールで今日はいけないとメッセージを送り私たちの家である別荘へ向かった。武器はまた今度になりそうね)
タッタッタッ
絵里(路地裏を使って監視の目をやり過ごす、クソみたいな街のクソみたいな警備なんてちょろいもんよ)
絵里(街を抜ければ後は別荘へ戻るだけ、森の奥だから誰もいないし後は歩きながら帰った)
スタスタスタ
絵里「…ふぅ」
絵里(今日のことを見て、やっぱり一筋縄ではいかないなと実感する。にことあのスナイパーは脅威、直線状のフィールドで目をつけられたらひとたまりもないでしょう)
絵里(だからこそ今は戦力が欲しい。現状戦えるのは私と善子しかいないし、まさかこの期に及んで果南を戦力にいれるなんて世迷言をいうはずもない)
ことり「………」
絵里「………」
絵里(ことりだって無理だろう、そもそも仲間ですらないし)
絵里「どうしたものかしら…」
絵里(後一人いるだけでもだいぶ違う、でも私の知り合いに戦ってくれそうな人はいない)
花陽『…ホントに絵里さんがY.O.L.Oへ向かうというのなら、きっと死もつきまとう戦いが始まると思います』
絵里(Y.O.L.Oへ向かうかもとは言ったけど、今戦える私と善子の二人だけで向かうのもまた無茶のある話。こんな閉鎖的な状況だけど負け戦上等なわけじゃない、何か…何か状況を変えてくれるトリガーが欲しかった)
ちょっと中断
ことり「ん……」
絵里「!」
ことり「……あれ、ここは」
絵里「目が覚めた?」
ことり「あなたは…っていったた……」
絵里「肩を撃たれたんだから痛いに決まってるわよ」
ことり「………」
絵里『ことりっ!』
ことり「…助けてくれてありがとう」
絵里「……いいのよ」
ことり「なんで私を助けたの?」
絵里「…なんでかしら」
絵里(自分でもよく分からなかった、なんでだろう、なんでなんだろう。考えれば考えるほど、疑問は深みに落ちてゆく)
絵里「…助けるのに、理由なんてあるのかしら」
ことり「え?」
絵里「…ごめんなさい、私もよく分からないの」
絵里「殺されそうになったことりを見たら、この前のこととかどうでもよくなってとにかく助けなきゃって思ったの」
ことり「…そっか」
ことり「……でも、良かったの?あなたはますますあそこの部隊に目をつけられることになったんだよ?」
絵里「いいの、結果でどうであろうとあそこでことりを見殺しにしたら私は一生後悔すると思うから」
ことり「…変な人だね」
絵里「…ええ、そうかもしれないわ」
ことり「これからどうするつもり?」
絵里「家に帰るわ」
ことり「家?」
絵里「私の知り合いの別荘を借りてるの、もういつも住んでた場所にも住めないもの」
ことり「…そうだね」
絵里「ことりもしばらくは私たちの住んでる別荘にいなさい、経緯でどうであり同じ状況にいるんだから」
ことり「…私たち?」
絵里「…果南って覚えてる?」
ことり「…!うん」
絵里「その子と、善子って子と私の三人で住んでるの」
ことり「………」
絵里「…大丈夫よ、果南も善子も優しいから」
ことり「……うん」
絵里(果南と殺し合いをしたことりの気持ちはよく分かる、それにことりは…)
絵里「…そういえばさ」
ことり「何?」
絵里「…私の知り合いから胸を撃たれたって聞いたの、大丈夫?」
ことり「……大丈夫なわけないじゃん」
ことり「大丈夫なわけないじゃん!?」
絵里「わっ…!」
絵里(逆鱗にしまったのかもしれない、ことりは怒号を私に散らした)
ことり「私ね…笑えなくなったの…!」
絵里「笑えなくなった?」
ことり「感情の欠如だよ、果南って人に胸を撃たれて私の心から喜びという感情が消えた」
ことり「だから私は笑えない、怒るとか泣くとか悲しむとかは出来ても喜ぶことは出来ないの…」
絵里「それは…ごめんなさい」
ことり「…いいよ、もう」
絵里(失ったモノはイヤでも現実を見せてくる、銃弾は命だけでなく心を溶かし、視界を赤で染める)
絵里(力強く引かれたトリガーを始まりとして放たれた銃弾は運命を変える、それはいい意味でも悪い意味でも)
絵里「…果南とは居づらいと思う、なるべく私がいるようにする。だからことりもそこは我慢して」
絵里「ことりに死んでほしくないの」
ことり「…分かってる、私だって死にたくない」
絵里「ありがとう」
ことり「…それ私のセリフ」
絵里「ふふふっごめんなさい」
絵里(道徳的に優れてるとは言えないけど、ことりはしっかりしてる人だ。だから理解はちゃんとあるしこういう時わがままを言う性格ではない)
絵里(これからどうなるのか不安になる半面、またあそこが賑わうかもしれないと思い嬉しいところもあった。仲間はいっぱいいてくれた方が安心できるしね)
ガチャッ
絵里「ただいま~」
善子「おかえ……」
ことり「…おじゃまします」
善子「…り?」
果南「おーおかえー…ってあれ?南ことり?」
ことり「………」
絵里「…あはは、ごめんなさい。向こうでちょっとあってことりも一緒に住むことになったの」
善子「はぁ!?」
果南「あははっ!いいじゃん面白そう」
善子「別に住むのはいいけど大丈夫なの?果南とやり合ったって聞いてたけど…」
絵里「むしろ果南とやり合ってこうして生きてるんだから大丈夫に決まってるじゃない」
善子「いやそういう問題じゃなくてね…」
果南「別に大丈夫だよ、善子も見ればわかるでしょ?ことりは私と同じで大きな傷を負ってる、つまり戦えないんだよ」
善子「あ、そっか。やっぱり堕天使ヨハネには敵わないのね…」
ことり「…?」
絵里「あはは…気にしないで、善子のプログラムちょっとバグってるから…」
善子「バグってなんかない!後ヨハネ!」
果南「まぁお荷物同士仲良くやってこうよ、私も生憎戦えない体だから」
ことり「お、お荷物……」
善子「…あれ?そういえば武器は?」
絵里「ことりを運ぶのを優先したわ、だから今日はいけないって真姫に連絡しといたわ」
果南「そっか、まぁ仕方ないね」
絵里「ええ」
絵里(果南も善子も正直受け入れてくれるか心配だったけど思いのほか納得が早くて助かった。話が終われば二人はリビングの方に行くから私とことりもリビングに向かった)
絵里「あ、ごめんなさいお茶いれるわね」
ことり「…ごめん」
絵里「謝らなくたっていいわよ、普段通り過ごしてて」
果南「何があったの?」
絵里「にこに殺されそうになってることりを助けたのよ」
善子「…は?にこに殺されそうになってるってどういうこと?」
ことり「…私は処分対象になったらしい、だから殺すって」
果南「なにそれ…」
善子「…果南と同じね」
絵里「…もしかしたらアンドロイドの大量殺戮は始まってるかもしれないわね」
善子「大量殺戮ってそんなまさか…」
果南「少なくともここにいる四人は殺戮対象だね」
ことり「………」
善子「…どうする?ますます私たちじっとしていられないわよ」
絵里「そのことなんだけど、Y.O.L.Oってところを攻めたいの」
果南「Y.O.L.O?」
ことり「…!知ってる、政府の武器庫でしょ」
絵里「ええ、AAの武器や道具を作ってるところよ」
善子「政府の武器庫…確かにそこを落とせれば大きいけど戦力があまりにも少なすぎない?果南とことりは戦えないじゃない」
絵里「…そこなのよ、だからどうしようか悩んでるのよ」
ことり「…ごめん」
果南「あはは…ちょっと笑えないかも」
絵里「二人はそんな気負う必要はないわ、仕方のないことよ」
善子「…ダメ、私と絵里じゃ多分落とせないわ、政府の武器庫なんて言われてるようじゃそこに武力を割いてるに決まってる。一般的に訓練された兵ならともかく超一流が三人でもこられたら私たちどうすることも出来ないじゃない、絶対に攻める場所を変えるべきだわ」
絵里「…ふむ」
ことり「…なら私から提案がある」
果南「何?」
ことり「……渡辺曜を殺すべきだよ」
善子「渡辺曜?」
絵里「誰それ」
ことり「絢瀬絵里ならわかるでしょ?さっきのスナイパーだよ」
絵里「! あいつが…」
ことり「渡辺曜は対アンドロイド特殊部隊の主力だよ、攻めあぐねてるなら今すぐにでも渡辺曜を殺すべきだよ」
果南「ちょっと待って、主力って具体的に何を意味して主力って言ってるの?」
ことり「…あいつは化け物だよ、一回だけ戦ったことがある」
善子「渡辺曜ってやつと?」
ことり「うん、生意気にも人間のクセに私に挑んできたからね」
絵里「それで何がすごいの?その渡辺曜って人は」
ことり「…渡辺曜はほぼ全ての武器が使える」
果南「わお」
善子「なるほどね」
絵里「そういうこと…」
ことり「私は近距離ならこのタウルス・ジャッジと格闘術を使うけど、中距離以上ならアサルトライフルで対応する。そうやって人それぞれ戦術があるの、あなたたちもそうでしょ?」
善子「まぁ確かに…」
果南「あはは、私はそういうの考えたことないや。火力があれば何でもいいって感じだったから」
善子「やっぱり脳筋じゃない…」
ことり「…私たちにはそういう不向きとかがあっても渡辺曜は違う、あいつはなんでも使えるからその距離にあった最適な武器を使うし使えるものはなんでも使うやつだから戦場に渡辺曜がいるかいないかだけでも相当な戦力差が生まれると思う」
絵里「そんななの…」
ことり「しかも渡辺曜が化け物なのはそれだけじゃない」
果南「何?まだなんかあるの?」
ことり「…あいつがEMPグレネードを作った」
絵里「EMPグレネードを!?」
ことり「うん…渡辺曜は私と同じで投擲物大好きな人だからそこで閃いた…んだと思う」
絵里「閃いたって…閃いたとしてもそれを可能とする技術が」
ことり「ある」
絵里「!」
ことり「渡辺曜にはあった、元々渡辺曜は対アンドロイド特殊部隊に入る前は戦闘員じゃなくて銃火器を設計したりアタッチメントを開発したりしてた、だから何かを創ることに対しては長けてる」
ことり「渡辺曜の口癖はヨーソロー…うん、ようそろ」
ことり「そんなようそろという言葉からうそを抜けば“よろ”という言葉が残る、それをローマ字に変換してYOLOで、YOLOっていう言葉には“人生は一度きり”という意味がある」
ことり「…ここまで言えばわかるよね?」
善子「…さっき言った政府の武器庫のこと?」
ことり「そうだよ、渡辺曜は私に言ったよ」
ことり「ヨーソローという言葉が私に答えをくれる、と」
果南「…深いんだね」
ことり「うん、つまりY.O.L.Oというのは渡辺曜が創った基地、EMPグレネードを作るし戦闘面でも相当だしそんな人を生かしておいたらどんどん不利になっていくと思う」
絵里「…なるほど、それはまずいわね」
善子「相手が一人だけなら私たち二人でも戦える…うん、それがいいわ」
善子「渡辺曜ってやつを殺しに行きましょう」
絵里「…了解、いいわよ」
ことり「……油断しちゃダメだからね」
果南「なんか不安だね…」
絵里「大丈夫よ、こっちは二人なのよ、有利は取れるはず」
ことり「…それを油断って言うんだよ」
果南「確かに」
絵里「………」
善子「…とりあえず作戦の決行はいつ?」
絵里「どう考えても夜中ね、というか家とか分かるの?」
ことり「任せて、渡辺曜、矢澤にこ、園田海未の家ならわかる」
絵里「おお、流石ね」
果南「なんで知ってるの?」
ことり「……寝てる時に殺そうと思ってつけたことがある」
善子「うわー執念深っ…」
ことり「あそこの部隊は一生私の敵だろうから」
絵里(この思い切った作戦にことりがいてくれてよかった、ことりの過去に幾度となく戦ってきたであろうそこから得た知識は計り知れない価値があって利益を求めてたわけじゃないけど、ことりを助けてよかったって思った)
善子「絵里は武器どうするの?」
果南「攻めるなら早いうちに攻めた方がいいよね、膠着状態にならないように」
絵里「…明日真姫の家に行って武器貰って決行?」
ことり「いや、いい」
絵里「え?」
ことり「私の銃を使って、決行は今日。図られないうちに行こう」
絵里「え、でもいきなり渡されてもブレとかレートとかよく分からないし…」
ことり「…そこはなんとかして」
善子「なんとかしてって…」
絵里「ちなみにどんなの持ってるの?」
ことり「これ」
善子「アサルトライフルよね?」
ことり「そうだよ、QBZ-03っていうの」
果南「へー…タウルス・ジャッジなんて持ってるんだからもっと特徴的なの持ってるのかと思ったら意外にもスタンダードなんだね」
ことり「タウルス・ジャッジは近距離を強くするために使ってるだけだもん、アサルトライフルは使いやすいやつを選ぶに決まってるよ」
果南「まぁそうだね」
ことり「マガジンはあるよっ」
善子「どっから出してんのよ…」
ことり「スカートの裏側につけてるの、マガジンポケットの為に武装なんてしてたら目立つし仕方ないの」
善子「でもプライバシーってものがあるでしょ?パンツとか見られても大丈夫なわけ?」
ことり「…えっ確かに私パンツ見られてるのかな…?そう考えたら急に恥ずかしくなってきた…」
善子「はぁ?」
果南「あはは、なにそれ」
絵里「あははは…」
ことり「むーとにかく私の銃を使って、クセとかないから多分使えると思うから」
絵里「うーむ…」
果南「…まぁいいんじゃない?QBZ-03はことりの言う通りクセが無くて使いやすい銃だから初めて使う絵里でも問題なく使えると思う」
善子「…ノーコメントで」
絵里(迷いに迷った結果ことりの銃で戦う事が決まった、そうと決まれば色々準備が必要だった)
絵里「もしここに攻めて来たら全力で逃げて、追手をまけそうだったら真姫の家に向かって。状況を説明すれば匿ってくれるはずだから」
果南「了解だよ」
カチャッ
善子「…私は準備いいわよ」
果南「わお、様になってるね」
絵里「善子似合いすぎでしょ…」
絵里(私たちが通ってる制服の上に防弾チョッキを着て、そこから更に紺色のマガジンポーチをつけて腰に拳銃をかけて両手でサブマシンガンを持つ、そしてカチューシャのように頭につけるマイク付き通信機をはめて、まさに善子の姿は戦闘員だった)
果南「そういう絵里も似合ってるけどね」クスッ
絵里「そうかしら?」
絵里(私も善子同様制服の上に防弾チョッキとマガジンポーチをつけてるのだけど、頭につけてるものは違う。私はカチューシャのようなものではなくてヘッドホンタイプの通信機をつけて、更にリュックを背負っている)
絵里(このリュックは普通のリュックとは違って肩にかけるだけじゃなくてかけた後に腰にベルトを巻くリュックで、こうすることで激しい動きをしてもリュックが体から離れることはない)
絵里(そしてそのリュックには通信機のアンテナと投擲物や怪我の応急処置が出来る物などとりあえず持っておいて損はないであろうものが入ってる)
果南「大丈夫?忘れ物はない?」
絵里「ええ、大丈夫よ」
善子「私も」
ことり「…気を付けてね、渡辺曜は強いから」
絵里「ええもちろんよ」
絵里(ここから先は遊びじゃない、私たちの命を賭けた最初で最後になるかもしれない戦い)
絵里(必要な情報は出揃ってる、後は実行に移すだけ)
ことり「…いってらっしゃい」
果南「死なないでよね」
絵里「ええ」
善子「もちろんよ!堕天使ヨハネに敗北の二文字は」
絵里「じゃあいくわね」
善子「最後まで言わせなさいよぉ!」
絵里(真姫に連絡をした、今日でお別れかもしれないってただその一言だけを送った)
タッタッタッ
絵里「………」
善子「…緊張してる?」
絵里「…当然よ」
善子「どうする?ここで私たち死んじゃったら」
絵里「…アンドロイドは一生モノであり続けるでしょうね」
絵里「アンドロイドは頭の良い生物よ、頭の良い生物なら負け戦なんてしようとは思わないでしょ?」
絵里「死ぬリスクを背負うより、差別を受けながらも生きれる道を選びたいものなのよ」
善子「……じゃあ私たちはバカなのかしら?」
絵里「…バカなのかもしれない」
絵里「けど、正義がどうであるべきか分からない臆病なアンドロイドにはなりたくない」
絵里「私は変わらないこれまでよりも変わってくこれからがみたいの」
絵里「…それがバカな私なりの考え」
善子「……間違ってないと思うわよ、それ」
善子「…この前言ったわよね、戦う事に意味があるとは思えないって」
善子『私は戦闘型アンドロイド、だけど戦う事に意味があるとは思えないの』
絵里「ええ」
善子「もう、そうは思わない」
善子「…ねえ、なんで私が戦いをしたくないか知ってるでしょ?」
絵里「…ルビィよね」
善子「正解、ルビィよ」
タッタッタッ
善子「……懐かしいわね、もう数年喋ってないわ」
絵里「…ええ、喋ってないわね」
善子「“あの時”からもう戦わないって心に誓った、戦闘型アンドロイドは戦闘をするアンドロイド、だけどそんな戦闘型アンドロイドの私が戦闘をしないっていうイレギュラーを発生させたのは――」
善子「――――どうにもこうにも、ルビィのせいなのよ…」
絵里「…やめましょう?あなたの過去は美しいものじゃないはずよ」
善子「…ええ、でもこれだけは言わせて」
善子「……私はルビィとの約束を守れない」
絵里「…良いと思うわ、ルビィもきっと許してくれる」
善子「…そうだといいんだけどね」
絵里(暗い話をしながら夜の街を駆ける私たちに街灯の淡い光は眩さを描いてた、曜の家は住宅街にある一軒家らしくて真っ暗な夜道の闇に紛れ着々と曜の家との距離を縮めていった)
絵里(私は毎時賑わう大都会のマンションに住んでたからよく分からなかったんだけど、こういう住宅街っていうのは夜中だと私たちを照らしてくれる光があまりなく視界があまりよくなかった)
絵里(…それ故か、いや関係無いかしら。次の瞬間には闇に映るたった一つの光が状況を変えた)
キランッ
絵里「っ!」
善子「スナイパーよ!隠れて!」
プスッ
絵里「…!スナイパーってこんな銃声だっけ?」
善子「…いや違う、多分サプレッサーをつけてる」
絵里「サプレッサー?」
善子「銃声を抑えるアタッチメントよ、これで銃声による位置の捕捉がされにくくなるの。ただその分弾の威力を減らすからリスクもあるわ」
善子「…もちろん人を殺す威力であるのは変わらないけど」
絵里「…なるほど、厄介ね」
絵里(向かい右側にある屋根から見えた煌く白の光に私たちはすぐ反応してすぐそばにあった曲がり角を曲がって死角へと逃げた)
善子「めんどくさいわね、どうする?」
絵里「どうしましょう…か、難しい選択ね」
絵里(相手がスナイパーじゃ容易に顔を出すことが出来なくて視界も悪いし無防備に前へ出れるはずもなく中々動ける状態じゃなかった、これはゲームじゃない、死んでも復活しないし銃弾を受けてもすぐに回復なんかできない)
絵里(だからこの選択は非常に重要なものだった、一つ間違えただけで死が待ってる。脳死な行動は出来ないしよく考える必要があると私は思った)
「悩んでる暇なんてあるん?」
絵里(深く考えてる時、声がした。それは不意によく反響して)
絵里「!」
絵里「っ!どこっ!?何!?」
絵里(反響のせいか、声の発生した場所が分からなかった。左なような右なような曖昧な感覚だけが私を引っ張ってパニックになった)
絵里(けど、電柱にくっつく防犯灯の光が答えをくれて揺れだした気持ちはすぐに収まった)
絵里「…!上…!」
絵里(私の影に誰かの影が重なったのを見て気付いた。そしてそれは一目見て善子じゃないことが分かった、何故ならそいつは宙に浮いていたから)
「悪く思わんといてねっ!」
絵里「そんなっ!」
絵里(上を見て私が思わず叫んだ、善子は今どうしようとしてるのかしら。それを確認することすら出来ないくらいに刹那の出来事で、私たちはどこを向いてようとどんなスピードだろうとアンドロイドだけが見える銃口から放たれる射線さえ確認すれば回避行動に移れるけど今回はその射線が確認出来なかった)
絵里「そんなのあり…?」
絵里(そして上を見て今更ながら相手の銃口の向きを見て射線を確認出来ない理由を知った)
絵里(相手の持っていた銃はショットガン二丁で、それをそれぞれ片手で持ち腕をクロスさせた状態で私の頭上に来た、それはつまり銃口は空を向いてるのだから私が射線を確認出来るわけがない)
絵里「…っ」
絵里(上を見た瞬間横向きに高速回転をしながら落ちてきたもので面食らって怯んでしまった。こんな動きが出来るやつがこの世にはいるんだ、世界の広さと私の知ってる世界の狭さを知った気がした)
絵里(二つのトリガーを引くことで数えきれない散弾が私に向かって飛んでくる、一つの跳躍じゃ完全に回避しきるのも無理がある)
絵里(なんで世界は私を嫌うのだろう、なんで世界は私を殺したがるんだろう。なんで神様は私を生んだんだろう)
絵里(死を悟った瞬間、目が光を通さなくなった。戦いってこんなあっけなく終わってしまうものなのね、理解した私は今までの人生がバカらしく思えた)
絵里(千歌との出会いも、亜里沙との出会いも、果南との出会いも、全て全て無駄だったって思うと私の全てが石になってしまうような気がした)
善子「絵里!もうなんでもいいからとにかく避けて!避けなさいよっ!」
絵里「!」
絵里(後ろから声が聞こえる、善子の声…今の善子はどんな顔をしてるんだろう)
絵里(分からないけど必死だった、きっと善子にも見えてるのだろう、私があのショットガン二丁の散弾を避けれる確率が。だからこそ必死だ)
絵里(でも私だって必死よ。アンドロイドとして誇らしく行きたくて、人間と並んで行きたくて、いつか夢見てたいつだって笑顔になれる日々を目指して引いたトリガーはこんなにも浅かったのかしら)
絵里「…違う」
絵里(それは断じて否、命を賭けてまで果南を助けて、原因も分からずに湧き上がる心の何かに感化されことりまでを助けてここまで来てやっと引導を渡すって時に)
絵里(散弾を体に埋め込まれて死亡なんてそんな最悪な終わり方は……ごめんでしょ!?)
絵里「まだ終わってないッ!」
『回避行動分析、射線を計18本確認、存在する回避ルートは一つ』
絵里(ありふれたハッピーエンドでもいいの、ただ私はバッドエンドじゃなきゃよかったの)
絵里(諦めきれない気持ちは私に再び光を宿した)
絵里(このまま終わるだなんて、そんな最低な終わり方を迎えたくない)
絵里(神にはもう頼らない、私自身が…私の引いたトリガーで――)
絵里(――――運命を変えるの)
『回避率99.9パーセント』
絵里「はっ!」ドドドド
「えぇっ!?なんやそれ!?」
絵里(覚悟を決めた私は素早く後ろへと飛び退け、その瞬間に前へアサルトライフルを発砲した。するとどうだろう、微量とはいえ発砲した勢いから作られる慣性が私の跳躍を勢いづけた)
絵里(ある程度宙に浮いてることに自覚が持てた頃には地面に叩きつけられるよう落ちる複数の銃弾が光に反射して良く見えた、まるでそれは雨のようだった)
絵里(また、その光景を見て尚体が動くのならきっと私は生き延びたのでしょう)
絵里「…くっ!」
絵里(そして私は吹き飛ばされたかのように背中から地面へと不時着する)
善子「絵里、大丈夫?」
絵里「なんとかね」
絵里(善子は駆けよって私を起こしてくれた、ただ安心してる暇などない)
「あなた面白いやんねっ!」ブンブンッ!
絵里(空からやってきた謎の相手は私たちに超接近して、姿勢を低くし舞うように二丁のショットガンを振り回しながらショットガンを撃ってた)
絵里「っ!」
善子「なによそれ!?」
絵里(するとどうだろう、放たれた銃弾は壁や地面に穴を開けるものもあれば跳弾して様々な方向へ飛び散るものもあり、そんな跳弾は右から左へ、左から右へと舞ってた)
善子「絵里!」
絵里「分かってる!」
絵里(平面で回避するのは無理があるというのはアンドロイドなら誰しもが分かること、だから私たちは近くにあった一軒家の塀を上ってそのまま屋根へと飛び移った)
善子「何なのあいつ…」
絵里「果南以上に攻撃的なやつね…」
絵里(黒色のショットガンを二丁下げてマネキンのような顔をした真っ黒の仮面をかぶって私たちを見てた、相手の周りに出来た無残な穴を見ると寒気がする)
「ウチのあの攻撃を初めてみてあの避け方は流石アンドロイドやね」
絵里「…あなたは誰?」
「んー?ウチかー死神かなぁ」
善子「死神?随分と厨二なのね」
絵里「いやそれ善子が言えたことじゃないでしょ…」
善子「これはプログラムなのよ!」
「ふふふっ仲がいいんやね」
善子「っ…仮面をしてるのは何故?」
「生きとし生ける者、顔は大事なんやで?戦うモノとして顔を相手に教えて戦うなんて意識が低いもいいところ、日常で狙われたらどうするん?」
絵里「…なるほどね」
「…それに、生憎ウチは殺し屋をやってるもんでね。尚更顔は見せられないんよ」
善子「ふーん殺し屋ね…殺害対象は私たち?」
「ご名答やね」
絵里「そう、でも生憎私たちは殺されるつもりはないわ」
「知ってる知ってる、でもそういう意思を持ってる人を殺すのが」
「殺し屋の流儀ってもんやない?」クスッ
善子「…狂ってるわ」
「ふふふっありがとな」
善子「ちっ…何なのこいつ…」
絵里「………」
絵里(私たちは今とんでもない相手と対峙してるのでしょう、あの舞うような動きは訓練しても尚そう簡単には出来ない動き、それにショットガンを片手に持って何発も撃つのよ、どう考えても普通じゃないわよ)
絵里「…あなたアンドロイド?」
「…どっちだと思う?」
絵里「……アンドロイドかしら」
「ふふふっ答えはね…」
絵里「………」
「…ウチを殺して首を見れば分かるよっ!」ポイッ
善子「っ!」
絵里(そう言った瞬間ピンを抜いた手榴弾が飛んできた、すぐに反応した私はPR-15でその手榴弾に向かって発砲、私たちに届く前に弾が命中して空中で大爆発を起こした)
絵里「くっ…」
善子「絵里、反応早かったわね…」
絵里「負けたくないからね…んん…」
絵里(爆風は近場だったから相当なもので、風圧がとにかくすごかった。気を抜いたら吹き飛ばされてしまいそうなほどに)
絵里「…!おっと」
絵里(そして次に襲ってきたのはどこからか飛んできたスナイパーの弾、銃声は爆風とかも相まってほとんどしなかったけど何故か回避出来た…いや、そもそも私は避けたのかしら?)
絵里(ともかく、この時点で敵は二人いることになる。ショットガンの相手は紺色の武装はしてたけどスナイパーは持ってなかった、つまりどこかに二人目がいる)
「よっと、あれを打ち落とすとはますますあなたが気になるやん!?」ドカッ!
絵里(爆風で怯んである間に相手も屋根の上に上ってきて今度はショットガンを鈍器として扱ってきた、それはまるで二つの剣を持っているようなガンソード二刀流だった)
絵里「っ…」
絵里(私はその二つのショットガンの打撃をアサルトライフルのグリップと銃口を掴んで、アサルトライフルを盾代わりにして受け止めた、爆風が無くなった頃に突然来たから避けるという選択肢は無くて銃が壊れてしまうのではないかと不安になる猛攻に思わず冷や汗が流れた)
絵里「はぁっ!」
「ぐあっ」
絵里(しかし私も受け手に回ったままではない、攻撃に集中してたせいか下半身ががら空きだったからすかさず足払いをして相手を宙に浮かせた)
善子「はっ!」ドカッ
絵里(そして相手の後ろを取っていた善子は宙に浮いた相手の背中に飛び膝蹴りをかまして相手は声も出せなかったのか勢いよく吹っ飛び屋根から落ちていった)
善子「…流石に死んだでしょ」
絵里「す、すごいわね今の」
カランッ
絵里「!」
絵里(そんな時足元で嫌な音がした、すぐさま下を見れば月のアイコンが刻まれたピン抜きの手榴弾が転がっててすぐに察した)
絵里「逃げてッ!」
善子「嘘でしょ!?」
ドカーンッ!
絵里(大爆発――もはやあの時点でダメージを受けるのは確定的で、その受けるダメージを減らす為に私と善子はすぐさま後ろへ飛び退けた、そしてそれでどうなったのかしら)
絵里「ぐ…けっ…ええ…」
善子「きっ……ぐぅううう……!あの紫髪のやつ…!けほっ…!」
絵里(私も善子も爆発で屋根から突き落とされ固い地面へと叩き落された。善子は胸から叩きつけられたもので肺に衝撃が渡って呼吸がとても不規則な状態に陥り、私は地面に叩きつけられた後塀にぶつかったもので口からは赤が出てきた)
「あれーあんまりダメージ食らってないやん」
善子「あんたこそなんでそんなけろっとしてるのよ…」
「元々ウチは受け手やから」クスッ
絵里「…くっあれのどこが受け手よ」
絵里(なんとか立ち上がって相手を睨む、確かにあの時ダメージを与えたはずなのに今の様子を見る限りあんまり効いてる感じがしない。やはり一筋縄ではいかないようね)
「どこ見てるのかな!」
絵里「!」
絵里(アサルトライフルのマガジンはあるものの、リロードするタイミングがない。だからアサルトライフルは背中にかけて拳銃を片手に持った時、それはまた今見えてる相手とは別の声が聞こえた)
絵里「後ろ!?」
絵里(先に後ろを向いたのは私だった、そしてらすぐそばまで近づいてる相手の姿があって次の瞬間には私のお腹目掛けて右ストレートが飛んできた)
絵里「させないっ」
「受け止めるよねっ!知ってるよっ!」ガツッ
絵里「うあっ…!?」
絵里(もちろん私はそれに反応してお腹に当たる直前で受け止めるけど、相手が次に取った行動はその受け止められた右腕を使ってそのまま肘打ちに変更、結果私は胸に肘打ちを受けて後ろへとよろめいた)
「はいはい今度はウチの番だよねっ!」
絵里(そして後ろから聞こえる紫髪の声)
『射線確認、回避出来る可能性は――』
絵里(射線を確認した時点でショットガン二丁が私に向けられてることが理解出来た)
絵里(…でも、今の状況はどうしようもなかった。肘打ちを食らって怯んでる状況ですぐに回避に移せるわけがない、アンドロイドは平均より優れてるだけであって万能でも無敵でもない。だからこの状況で突然超スピード回避とかそんな空想上の事が出来るわけない)
善子「はいはい、相手は私よ紫髪」ドドドド
「うおっと、サブマシンガンなんて持ってたんやね」
善子「久々に使うから練習相手になってくれない?」
「…いいよ、最初で最後の練習試合にしようか」
善子「ええ、あなたを殺して次から本番ね」
「ふふふっそうなるといいね」
善子「……絵里」
絵里「な、何?」
絵里(お互い背中を寄せて銃を構える、私の構える先にいるのはスナイパーを使っていたであろう相手、善子の構える先にいるのは超攻撃的な紫髪の相手。どちらもおそらくは最強レベルでしょう)
善子「ここから先は一対一でやりましょう、下手にごちゃごちゃするより邪魔が入らない一対一の方が勝てるでしょ?」
絵里「…ええ、そうね」
善子「……信じてるから」
絵里「…勝って会いましょうね」
善子「もちろんよっ!堕天使ヨハネ任せなさい」
善子「…では、堕天っ!」ダッ
絵里「ええっ!」ダッ
絵里(反撃の狼煙はここから上がる、お互い相手へと走り出して発砲する)
絵里「せやぁっ!」
「あまり勝てるとは思わないほうがいいよっ!」スッ
絵里(相手は私と同じよう銃弾を避けるもので、近づいて格闘術で攻める。拳銃のグリップの部分を使って喉元を叩こうとするが簡単に手首を掴まれてしまう――けどそれは知ってる、ことりと戦った時も同じ事を思ったはず)
絵里「そっちがねっ!」
絵里(この戦いにおいては攻めた方が勝ち、なら無理やりにでも攻撃を通すのがいいと判断した私はそのまま前方宙返りをしてかかと落としをした)
「ふふふっ分かってるよ、あなたがそれをやるのだって」
絵里「っ!?」
絵里(しかし次の瞬間には相手が私の作った回転の慣性を利用して私の手首を掴んだまま宙返り、その結果私は地面へと強く叩きつけられた)
絵里「いぎっ…」
「これでフィニッシュ!」バンッ
絵里「…!ふっ」
絵里(休む暇なんてない、叩きつけられうつ伏せで倒れる私に放たれた拳銃の銃弾に対して左に転がり回避してすぐに起き上がり銃を構える。相手は笑ってるけど私は至って真剣な表情、これが今の実力の差を表していた)
「それを回避するなんて、やるね」
絵里「それはどうも」
「私知ってるよ、あなた絵里さんでしょ?」
絵里「…じゃああなたは渡辺曜?」
曜「そうだよ、私は渡辺曜だよ」
絵里「あなたが…」
曜「私の事は多分ことりちゃんから聞いてるんじゃない?」
絵里「…ことりちゃん?」
曜「気にしないで、私がそう呼んでるだけだから」
絵里「ふーん…」
曜「…にしてもやっぱり絵里さんは頭がいいね」
曜「作戦実行のタイミングと、その作戦内容。そうだよね、EMPグレネードを作ってる私を殺すのが一番頭のいい行動だと思う」
曜「…でも、だからこそその作戦は読めてたよ」
絵里「なるほどね、だから先手を打たれたわけね」
絵里「…でも、おかしくない?それならにこや海未…その他の特殊部隊の人を呼んでくればよかったじゃない、穏便に済ませたいっていうならあの紫髪みたいに手榴弾なんて使わないでしょ?」
曜「あはは、流石にどこから来るかは読めないからそこまで高度な事は出来ないし、みんながみんな毎時に動けるわけじゃないよ」
曜「…っていうのは建前、私ね、この特殊部隊に入ってると同時に飛び込みもやってるんだ」
絵里「…それで?」
曜「私にもスポーツマンシップっていうものがあるんだよ、飛び込みは反則なんてほとんどないけどね。だから私は罠とかそんな姑息な手を使って殺すより面と面を向き合う真剣勝負で勝ちたいんだよ」
絵里「スナイパーの狙撃が真剣勝負って言えるのかしら?」
曜「アンドロイドは音が無くても銃口が向いてるだけ射線を確認するからあれは元から当たらないと思っての狙撃、そもそも対アンドロイドの狙撃っていうのは当てる事を目的とするんじゃなくて動きを制限させるために存在するんだよ」
絵里「へぇ、そんなこと私に教えてもいいの?」
曜「別に教えたところで関係無いと思ったからね、というか本来スナイパーはああいう戦い方をするんだからね?あれで真剣なんだから真剣勝負だよ」
曜「そして、最低限フェアでありたいのが渡辺曜でありますっ!」
絵里「…変わった人」
曜「あははっよく言われるよ、でもそう言った人は全員死んでったけどね」
曜「私に殺されて」
絵里「さぞ悔しいでしょうね、こんなのにやられては」
曜「生憎私は弱くないんでね、この街で一番必要なのは強さだって絵里さんなら分かるでしょ?」
カチャッ
絵里「…どうかしらね」
絵里(相手の武装はおそらく防弾チョッキの上にマガジンポーチをつけて、私と同じでリュックを背負ってる。頭も私と同じヘッドホン型の通信機をつけてて、青色の不思議なゴーグルをかけてた、多分フラッシュに備えたものだと思う)
絵里「随分と武装が厚いのね」
曜「使えるものは使う主義なんでね」
ことり『あいつはなんでも使えるからその距離にあった最適な武器を使うし使えるものはなんでも使うやつだから戦場に渡辺曜がいるかいないかだけでも相当な戦力差が生まれると思う』
絵里「………」
絵里(曜が片手に下げてるのは大きさ的におそらくサブマシンガン、そしてそのサブマシンガンにはレーザーサイトやホロサイトがついていて、よくよく見ると銃のフレームの部分には“YOU”とロイヤリティ溢れるフォントが刻まれていた)
絵里「…スナイパーはどこにやった?」
曜「置いてきたよ、近距離スナイパーなんて出来るはずないしどう考えても弱いからね」
絵里「ふーん…」
曜「…さて、希ちゃんがグレネード使っちゃったからあまり長期戦はしたくないから始めよっか!」
絵里「ええそうねっ!」バンバンッ!
絵里(希ちゃん…?よく分からないけど、私は曜へ向かって二発発砲した)
曜「ほ、よっと。ふふふっやっぱり銃弾って遅いね」
絵里「…何?あなたもしかしてアンドロイド?」
絵里(しかし華麗に躱して本人は至って余裕の表情、銃弾を回避するなんてアンドロイドでしか無理なはず)
曜「人間だよ、純度100パーセントの」
絵里「説明になってないわね、ならなぜ銃弾を回避出来た?」
曜「あのさぁアンドロイドっていうのは人間が作ったんだよ?アンドロイドが出来ることは人間も出来るに決まってるじゃん、私たちのしてることは魔法じゃないんだからさ」
絵里「じゃあ何?曜には射線が見えている、とでも言いたいの?」
曜「ふふっ正解だよ、絵里さんと同じような光景が私も見えるんだから」
曜「だから…」
曜「絵里さんも私と同じように避けてよねっ!」ドドドドッ
絵里「!」
絵里(突然放たれる無数の銃弾、それに反応してすぐに私は左へ跳躍、この時点で四発は避けた。そして直地際曜のいる前方向へスライディングをしてすれすれで次来る五発を避ける)
絵里「いけっ!」バンッ
絵里(そして一瞬の間も空けずにPR-15を使って三発発砲した、これに対して曜は私に近づくように前転回避を繰り返す)
曜「せやっ!」
絵里(そしてパンチやキックが届く距離まで届けばたちまち起こる接近戦、この場合では銃火器よりも自分の拳の方が信頼できるパートナーとなる。それを分かってる私はもちろん応戦する)
絵里「甘いっ!」
絵里(曜の走りながらの裏拳を体を仰け反らせて回避し、体を後ろに流した勢いをつかってそのままサマーソルトキックを曜の顎にぶつけた)
曜「っ…よっと、流石に浅すぎたかな!」ドドドド
絵里(私のサマーソルトキックを受けた曜は体を仰け反らせて吹っ飛んだけど、すぐに体勢を立て直し着地は両手から入り、そのまま素早く後ろへ飛び退け片手で持ってたサブマシンガンを撃つ)
絵里(私はそれに対し右方向へ移動しながら家の塀を蹴ってバク転をし、計9発の弾を回避した)
曜「そんな避け方ある!?」
絵里「あまりアンドロイドを舐めないで」バンッ
曜「くっ…」スッ
絵里(そしてバク転をしてすぐさま曜の方向を向き発砲、曜は体を少し捻らせて回避をしたけど少しの焦りからか足がよろめいてた)
タッタッタッ
絵里(だから私はその一瞬のよろめきを逃しはしない)
絵里「はァッ!」
絵里(わずかながらよろめいて何も出来ない曜に近づいて拳銃のグリップの部分を使って顔目掛けて殴ろうとした。殴る前の動作である勢い付けで拳銃を片手に持ち逆側の肩の後ろ辺りにまで上げてから殴るのだけど、その時見えた曜の顔は力んでいて私は確信した)
絵里(少なくともダメージは入ってるんだってね)
曜「ふぐぅっ…!いっ……き…」
絵里「! 痛くないの?」
曜「痛いよ…!でもこんなの慣れっこだから…ッ!」
絵里(動けない状況だったから限られた選択だったとはいえ曜は片腕で受け止める選択をした。そのせいで受け止めた曜の腕は真っ赤になり、私のダメ押しの力と曜の力が相殺しその中で曜は苦し紛れに笑っていた)
曜「…一つ聞いていい?」
絵里「何?」
曜「どうして絵里さんは戦うの?」
絵里「…自分がそうするべきと思ったからかしら」
曜「…答えになってないかな」
絵里「このクソみたいな都市で生きていくには、戦う事も必要なのよ」
曜「あはは、それは私もそう思う」
曜「酷いところだよね」
曜「隔離都市東京――――どうしてこんなに酷いんだろうって今でも時々思うよ」
絵里「………」
曜「ここは過激で、野蛮で、色んなモノに対して冒涜的だよね。治安は悪くないけどぶっちゃけ銃刀法違反とかあんまり機能してない無法地帯だし、正義の味方である警察も独裁的で私から見ても終わってるって思う」
曜「それに、毎日駅前やコンビニで人が銃によって死んでるって思うと滑稽じゃない?可哀想だなって、誰がこの都市のルールを決めたんだろうってそう思わない?」
曜「私毎回思うんだけど、ここは殺戮の美形だよ」
絵里「……意味が分からないわ、そう思うならなぜあなたは戦うの?その考え方はどちらかというと私たち寄りだと思うんだけど」
曜「私は別に戦いたくて戦ってるわけじゃない、この都市だって来たくて来たわけじゃない。元は静岡の内浦ってところでのどかな暮らしを送ってたからね」
絵里「…ならどうしてここにきたの?」
曜「…お金が欲しかったんだよ」
絵里「お金?」
曜「この都市は人間とアンドロイドという混沌が存在してた、だからこそここは常に何かで盛り上がってる、最近話題のアイドルってやつもステージはほとんどがここ東京だよ」
曜「そして何より技術が他のところと比べて先行してた。何に対しても盛んな場所により優れた人物が集まるのは世の理とでも言っておこうかな、銃や機器も静岡と比べたら月とスッポンだった」
曜「…でもここは戦闘のプロもたくさんいたよ、人間っていう戦闘のプロとアンドロイドっていう戦闘のプロがね」
絵里「…そうね」
曜「私は小さい頃から銃が好きで、そして何かを作るのが好きだった。だからよく動物を銃で殺してたし爆薬を作ったりして空き地で爆破させてた、ただ勝手に殺すと犯罪になるからなんちゃらハンターとかいってわざわざ資格まで取ったし、何か作るっていう点では機器に興味を持ってそこら辺を学んだ」
曜「そのおかげで私はハンドガンだけじゃなくてスナイパーやライフルも使えるようになった、アタッチメントや装備品なんかにも詳しくなったよ。なんでかって言ったら殺す動物によって使うものが違ったから」
絵里「…なるほど、じゃあ攻撃を受けてもすぐに体勢を立て直して攻撃に転じたり、銃弾を避けたりする運動神経はそのハンターと飛び込みで培ったわけ?」
曜「ふふふっ正解。その頭の回転速度は流石だね、対アンドロイド特殊部隊にも絵里さんみたいな人がいればもっと強かったんだろうなって思うよ」
絵里「…無理ね」
曜「知ってる知ってる。それで私は戦闘においてのその腕と技術を買われて対アンドロイド特殊部隊に入ったよ。それと同時に東京へと引っ越した」
曜「そのおかげでお金は使いきれないほどあるし、そのお金で最近はEMPグレネードを作った」
絵里「………」
曜「私はやりたいことを可能にするためのお金が欲しかった、対アンドロイド特殊部隊という命を賭けた戦いをしなきゃならない仕事なだけあってお金は即座に満たされたよ」
曜「生憎私は機器に詳しかったから対アンドロイドにも自信があった、色んな動物の行動パターンを見たりしてそして最後は殺したからある程度それを当てはめてみればなんとかなるものだよ」
絵里「…なるほどね」
曜「でもね、違うだろとかふざけるなとか思うかもだけど、これだけは言わせてよ」
曜「私は銃が好きなだけで、人を殺すのは好きじゃないよ」
曜「…まぁ、対アンドロイド特殊部隊に入って慣れちゃったけどね」
曜「でも人を殺す仕事をしてる私からすればアンドロイドも人間も同じだよ、どっちを殺しても同じように心は痛むし同じような結果を迎える」
曜「こんな事を言っちゃあ台無しだけど私にとってこの都市は踏み台でしかない、アンドロイドが市民権を得てるというのならそれは人と同等に扱われるべきと思ってるしこんなゴミを寄せ集めただけの警察なんか早く滅びてしまうべきだよ」
絵里「………」
曜「でも、人間もアンドロイドも全員が正義なわけじゃない。私たちはそいつらを殺すことが仕事、松浦果南は別に悪くないと思うよ、私個人としてはね」
絵里「…なら」
曜「でも私一人の意見で全てが動くわけじゃない、言っとくけど対アンドロイド特殊部隊の中で一番まともなのはどう考えても私だからね、それ以外はみんな狂ってる。だからこそ私の意見なんぞ雀の涙にすらならないよ」
絵里「……ならなんでやめないのよ、お金はもうたっぷりあるんでしょ?ならやめなさいよ……」
曜「そう簡単にはやめれないんだよ、だから今日も私は戦う」
曜「絵里さんにも譲れないものがあるのは知ってる、だからこそここで決着をつけようよ」
曜「死ぬなら、正々堂々戦って死にたいから」
絵里「…つくづく変わった人ね」
絵里(相手がこんな考えを持ってるんじゃやりづらい一方だった。ここまでルール無用の戦いで律儀に戦おうとする人がいるのだろうか)
絵里(正直に言えば仲間にしたかった、いや出来ると思った。考え方は私たちと全く同じだったし今は戦力が恋しい、曜が来てくれれば戦力の増加は計り知れないものだと思った)
曜「…じゃあ、始めようか」
絵里(ただ、彼女にその気はないらしい)
絵里(曜がそう言った瞬間には曜から放たれるスタングレネードに目がいった)
絵里「…!っは!」
絵里(私にぶつけるよう飛んで来たらキックで跳ね返した、そうして青白い光が辺りを包み私は両腕で顔を隠しながら後ろへ飛び退く)
絵里「っぶな…」
絵里(着地した頃に眩い光から突き抜けてくる銃弾を体をねじってその勢いのままに近くの壁を蹴って再びバク転で躱し、それでも飛んでくる銃弾はしゃがんで避けて消えゆく閃光へと突っ走り反撃を図った)
タッタッタッ
絵里(走りながらQBZ-03をリロードし、微妙に見える人影に向かって数発発砲した。そしたら予想通りそれを回避してきて、ますます曜は何なのか分からなくなってきた)
絵里「はっ!」
絵里(腰にかけてた拳銃で一発撃ち、曜に回避を強要させ隙を作る――その間に曜との距離を詰めてお腹目掛けてパンチをした)
曜「そんなものっ!」
絵里(しかし曜はそのパンチを手のひらで受け止めそのまま私を引っ張り怒涛の膝蹴りを数回放った)
曜「ほらほらっ!」
絵里「ぎゃ…はっ…」
曜「おい…しょっとっ!」
絵里(そしてフィニッシュに飛び膝蹴りで私は宙に浮く)
曜「はいこれで終わりっ!」ドドドド
絵里(吹き飛ぶ私にサブマシンガンを構えて発砲――――もはや奇跡も願えない絶望的状況だった)
絵里「……まだ」
絵里「アンドロイドを舐めないでっ!」ドドドドッ!
絵里(もうダメージを食らうのは確定的、なら死ぬのだけを避けるしかない)
絵里(そう考えを固めた私はアサルトライフルを、私に歯向かう射線に向かって発砲した)
曜「っ!?」
絵里(するとどうだろう、向かってくる銃弾は私の銃弾とぶつかって上へ下へと跳弾していく)
絵里「んぐっ…!」
絵里(しかしそれで全て避けられれば最初からそうしてる、銃弾と銃弾がぶつかってわずかに飛ぶ位置は変えただけで私を掠める銃弾もあり、掠めて出来た傷口からは一周回って気持ち悪いほどに潤った綺麗で赤い密が出ていた)
絵里(射線はまだ見えるけど死に至らしめる銃弾は回避したはず、そう思った時にはQBZ-03も弾切れでそのまま私は地面に背中から落ちていった――――)
曜「っ!」バンッ!
絵里(――はずだったの。角度の問題か、いや曜は焦っていたのか曜の拳銃から放たれたダメ押しの一撃は私の心臓部にあったQBZ-03に当たった)
絵里「っ!?」
絵里(私はビックリして半分閉じていた目を見開いた、この銃が無ければ死んでたかもしれない。防弾チョッキという存在もあったけど、そんなもの忘れてたしあまり信用にすらならなかった)
絵里(今ので警戒付いた私は背中から着地した途端すぐさま後転してPR-15で発砲をした)
曜「なんで!」バンッ
絵里「くらえっ!」バンッ
絵里(曜の拳銃の発砲と私の拳銃の発砲はほぼ同時だった、刹那には静まり返る戦場に私も曜も息を飲んだでしょう)
絵里(そしてその結末は――――)
~同時刻、別荘
グゥ~
果南「あはは、お腹空いたね」
ことり「絢瀬絵里や津島善子が頑張ってるというのに呑気だね…」
果南「仕方ないじゃん、どうせ私が戦場に行っても今はお荷物なんだから」
ことり「確かにそうだけど…」
果南「なんか食べようよ、確かポテトチップスあったよね」
ことり「えっ…なんかカロリー高そう…」
果南「アンドロイドなのにそんなの気にするの?」
ことり「アンドロイドも人間と同じなのっ食べた分太るんだから気にするに決まってるでしょっ」
果南「私太らない体質だから気にしたことないなー」
ことり「…死ねばいいのに」
果南「そこまでいう?」
果南「…まぁいいや、ポテトたーべよっと」
ことり「えぇ…絶対太るよぉ」
果南「私は運動してるから太らない太らない」
果南「別腹形態へと変形!」
ことり「なにそれ…」
果南「んー、あ、そういえばさ、ことりってモード変更みたいなやつあったよね?」
ことり『モードの切り替えの為だからだよっ!!』ドドドド
ことり「これまた唐突だね…」
果南「別にいいでしょ?」
ことり「まぁいいけど…それでモード切替だよね、あるよ」
果南「やっぱりあるんだ、でも私にはそんなのないよ?」
ことり「だって私特別だもん」
果南「なんかその言い方は腹が立つね…」
ことり「まあまあ。モード切替って言っても大それたものじゃないよ?私の思考に補助を入れるだけだから」
果南「補助?なにそれ?」
ことり「単純に言ってしまえば攻撃モードか防御モードかみたいなそんな感じ、でも切り替えたことで攻撃力が上がるわけでもないし装甲が固くなるわけでもない。私の考え方が変わるだけ」
果南「へー」
ことり「それを自由化させたのが今の戦闘型アンドロイドだよ?そんなモード切替とかめんどくさいことしなくて羨ましいよぉ」
果南「ふーん不便なんだ、じゃあそれ」
ことり「まぁブレーキは今のアンドロイドより利くだろうけど、自由度は劣るかな」
果南「初期型って複雑なんだね」
ことり「まぁね、でも早く生まれたおかげで色々経験出来たし初期型がイヤとは思ってないよ」
果南「ごもっともだね」
ことり「松浦果南はどうして戦ってるの?」
果南「ん、どうしてかぁ」
果南「んー…戦うのが好きだからかな」
ことり「えー…面白くない」
果南「でもでも戦いたくなるのは戦闘型アンドロイドなら仕方ないでしょ?そういうように出来てるんだから」
ことり「……違うかなぁ」
果南「何が違うのさ」
ことり「って言いながらポテトチップス開けないでよ」
果南「ごめんごめん」
ペリッ
果南「ってうわっ入ってるの弾薬じゃん…」
ことり「おぉ、画期的な隠し方だね」
果南「いやそこ関心するところじゃないでしょ…」
果南「生憎鉄を食べて分解する機能は私には無いからなぁ、これは要らないや」
ことり「サブマシンガン用の弾かな、つまりは津島善子用だね」
果南「そっか、善子の持ってるMX4 Stormはサブマシンガンだもんね」
果南「…今頃どうしてるのかな、二人とも」
ことり「…殺されてるかもしれないね」
果南「そうだったら私たちが死ぬのも時間の問題かな」
ことり「…いや、助かる方法はあるにはあるよ」
果南「え?」
ことり「………」
『あなた……誰?』
ことり「松浦果南は殺し屋って本当にいると思う?」
果南「どうしたのさ急に」
ことり「いいからっ」
果南「…まぁいるんじゃない?アンドロイドとかいるんだし何いてもおかしくないでしょ」
ことり「……そっか、理由が適当なのがちょっと気に入らないかもだけど、結論から言えばいるよ。殺し屋は」
果南「へーやっぱりいるんだ、強いの?」
ことり「……あんなの生き物じゃない」
果南「え?」
ことり「ごめん、絢瀬絵里や津島善子の前でこれを言うのはナンセンスだと思ったから松浦果南に言うね」
果南「え、うん」
ことり「殺し屋っていうのは具体的に言えば二人、或いは三人の組織なの。一人は人間、一人はアンドロイド…そして後もう一人いるって聞いたことあるけど、その子は知らない」
果南「へぇ小規模なんだ」
ことり「そうだよ、でもどちらとも戦闘面での技術は多分誰よりも強い、対アンドロイド特殊部隊よりも」
果南「…ふーん、それで?」
ことり「私はアンドロイドの方と親友だった」
果南「……だった?」
ことり「…お察しの通りだよ」
果南「何があったの?」
ことり「ただ単純に言ってしまえば私の親友は殺されちゃった、そして新しい記憶を埋め込まれた。その成れの果てが殺し屋だった、それだけのお話」
果南「……それで?」
ことり「私の親友の最大の特徴は業務用アンドロイドだったこと」
果南「業務用アンドロイド…よくそんなアンドロイドと親友になれたね」
ことり「業務とはいっても軍人として生まれたアンドロイドだったからね、私は戦闘型アンドロイドで生まれてこの方戦って生きてきた身だから触れ合う機会は結構あったよ」
ことり「軍人のくせに誰よりも優しくて、誰よりも勇気があって、誰よりも決意が強く、何物にも恐れないそんな人だった」
ことり「だけど軍人故に死はホントにあっけなかったかな、仲間の裏切りであっという間に死んじゃった」
果南「裏切り…」
ことり「意志が強い人は周りを見ることが出来ないの」
ことり「私はそれをあの時学んだ、警戒すれば気付きそうなものだけど色々考えこんでて分からなかったのかな」
ことり「それからしばらくして親友が生き返ったと聞いて向かったけど、案の定記憶は消滅してた」
ことり「そして代わりに埋め込まれた残酷なまでに変わり果てたその姿を見て、私は何を想像したんだろう…?」
ことり「悪魔でも見てるのかなって錯覚しちゃった、もう二度と見たくないかな…」
果南「…ことりがそこまで言うんじゃ相当なんだろうね」
ことり「…それでここから本題だよ」
ことり「私ね、それを見てその親友を殺そうって思った。アンドロイド相手で悪いけど、あんなのを生き物としては分類しちゃいけないから」
果南「…なるほど、だから私に言ったんだね。善子とかに言えば……」
ことり「そう、差別が脳裏を過るだろうから」
果南「あはは、それは賢明な判断だよ」
ことり「…それで戦ったけど…結果はボロボロだった。ありとあらゆるところに銃弾が突き通って目の前が真っ暗になった時には血だまりが出来てたと思う」
ことり「…ただ、近くにいてくれた人がなんとか助けてくれて助かったけど」
ことり「あいつには二度と近づかないほうがいいって警告された」
ことり「…正直肯定しちゃった、あんな殺戮マシーンとなんかいたくないって本能が叫んでて…それ以来会ってない」
果南「………」
ことり「業務用アンドロイドだからね、軍人として生まれたならざっくり言って人を殺すことをまず最初に考えるアンドロイドだから余計に親友だったアンドロイドの状況は悪化してったよ。思い出したくもないよ」
ことり「…けど、どこで何をやってるかは知ってる。だからホントにピンチって時に助けを求めてみるのも手だよ。助けてくれるかは分からないけどね」
果南「…私はあまり賛成できないかな」
ことり「それは私もだよ」
果南「大体殺し屋って何なのさ?お金稼ぎが目的なの?」
ことり「…人間の方は人を探してるって言ってた」
果南「人?」
ことり「昔、この都市で大規模な銃撃戦が起こったの覚えてる?」
果南「あぁ覚えてるよ、私も参加したし」
ことり「そっか、隔離都市東京が大きく変わる原因を作った出来事だったね」
果南「そうだね、あれで極悪な政府が滅んだからね。東京も一気に住みやすくなったものだよ、まだ酷いけど」
果南「それでそれと何の関係が?」
ことり「うん、あの銃撃戦で民間人側として参加した」
ことり「殺し屋っていう異名がついた人、知らない?」
果南「あ、聞いたことある。確かスナイパーを使ってたって聞いたよ」
ことり「そうだよ、狙った獲物は逃がさない――計算高い狙撃が特徴で偏差撃ちが得意なんだって」
果南「へぇ偏差撃ちか、相手にされちゃあ厄介だね」
ことり「うん、ただ民間人側についてたってだけで誰とも話してないらしいんだ」
果南「謎多き人物なんだね」
ことり「そうそう、だから同じ殺し屋として会ってお話がしたいんだって」
果南「…ん?今思ったけどなんでそんなこと知ってるの?」
ことり「戦ったことがあるから直接聞いた」
果南「あははは……流石ことりだね…」
ことり「…私の親友だったアンドロイドも人探しで活動してるんだって、だから方向性の一致で協力してるんだとか」
果南「ふーん、その人間ってどんな人なの?」
ことり「……複数の顔を持つ人かな」
~同時刻、住宅街
絵里「………」
曜「………」
絵里「…くっ」
絵里(私は腕を撃たれた、手で出血を止めようとしてもぽたぽたと血が重力に沿って落ちていく)
曜「……かはっ」
バタッ
絵里「……勝負ありね」
絵里(そして私は曜の横っ腹を撃った、私は膝を地面につける程度だけど曜は拳銃を手放してその場で倒れた。出血の量は明らかな差があって逆流したのか曜の口からは少量ながら血が出ていた)
曜「く…そ…っ!」
絵里「私の勝ちね、曜」
曜「…ま、けた」
曜「いい…よ…殺してっ…よ、けほっ」
絵里「………」
絵里(仰向けで倒れてるというのに口から漏れ出す血はきっと敗北の味がするだろう、死を目の前としてるのに清々しいほどに笑顔でいる曜はただ単純に言って殺しにくかった)
絵里「………」
絵里(…いや、きっとどんな状況でも殺しにくいだろう。人を殺すことに対しての恐怖心を未だに拭えていないのだから)
絵里(きっと殺し合いっていう体でなら殺せるんだと思う、流れってものがあるから。だけどいざ改まって一方的に殺せる状況になったら再び脳は恐怖心で覆われた)
絵里(拳銃を曜に向けるとたちまちトリガーを引く指が動かなくなる、鳴らすの銃声ではなくて私の鼓動――刻まれたビートはきっと私を罵る音でしょう。今も苦しそうに顔を歪ませては笑顔に変える曜を見ると自然と歯に力が入ってしまう)
絵里「……っ!」
絵里(このご時世で人一人殺せない私が情けなくて、殺し合いという本気の戦いをしてるというのに情けみたいなものをかけてしまう私の甘さが許せなくて…いや、どうすればいいのか分からなくて瞳が潤んだ)
曜「どうした……さ、はや…く、ころ、して…よ」
絵里「っ……」
絵里(曜に声をかけられると余計にトリガーを引くのが怖くなる、この恐怖心は一体来てるのかしら)
絵里(ただ単に私が臆病なだけなの?それとも拳銃を持つ者の性なの?)
絵里(誰か教えてほしい、私が普通だってことを誰か証明してほしい)
絵里(……あくせくしたっても今ここで曜を殺すことが出来ない)
絵里「……なんで」
絵里(…導をくれる光はないけど、私は拳銃を構えて答えを待つだけだった)
ドカーン!
絵里「!」
曜「…!?」
絵里(そんな時後ろで大爆発が起こった、手榴弾なんか目じゃないほどの赤い煙が立つ凄まじい爆裂だった)
絵里「何!?」
善子「絵里!」
絵里「善子!?」
「うわー!あれはやばいでー!」
絵里「紫髪!?」カチャッ
善子「待って!今はそいつを撃たないで!」
絵里「何、どういうこと!?」
善子「対アンドロイド特殊部隊が来た!逃げるわよ!」
絵里「逃げる!?どうして!?」
善子「決まってるじゃない!数で負けるからよ!」
絵里「何人いるの?」
善子「三人!曜含めないで三人よ!」
絵里「三人…!」
絵里(それはおそらく勝てないでしょう、善子の逃げの選択は賢明と言える)
絵里「というかなんで紫髪のやつが…」
曜「あはは…希ちゃ…んは対アンドロイド特殊部隊と仲良く…ないから」
希「ちょ、ちょっとウチの名前呼ばないでや…」
曜「ご、めんごめん」
善子「絵里、曜は…」
絵里「…私が撃った」
ドカーン!
絵里「!」
希「!」
善子「あーもう曜の事は後!曜を連れて逃げるわよ!いざとなれば捕虜として使えるんだから!」
絵里「え、ええ!」
希「おー曜ちゃんは捕虜か」
曜「ぜん…そくせんし、んよーそろー…」
希「た、達者でな…」
希「…あ、そうそう。曜ちゃんから出てる血とあなたから出てる血、ちゃんと止めてから逃げた方がいいよ。走ってる時に垂れて地面にでも落ちたら特定されるから」
希「それじゃあね」
タッタッタッ
絵里(希と呼ばれる人物はそう言って私たちとは別の方向へ逃げていった)
絵里「この爆発は何?」
善子「グレネードランチャーを連射してるのよ、にこが持ってきたと思う」
絵里「また随分と派手なものを…」
絵里「というかあの紫髪とはなんで和解してるのよ?」
曜「のぞ…み、ちゃんだよ」
善子「お互い対アンドロイド特殊部隊と戦うのはイヤだから利害の一致で戦いをやめて逃げることにしたのよ」
絵里「そ、そう…」
善子「…そんなことより逃げるわよ!堕天っ!」ダッ
絵里「ええ!」ダッ
絵里(爆発に急かされて私たちもその場から逃げ出した、曜はどういうわけか抵抗する気はないようでずっと私におんぶされるがまま。むしろ私の背中で気持ちよさそうに眠ってる…これ死んでないわよね…?)
絵里「スタン!スモーク!」
善子「お、いいわね!」
絵里(ことりから学んだスタングレネードとスモークグレネードを使った隠伏術、眩い光は時に壁となるのをこの前知ったからそれをそっくりそのまま使わせてもらうことにした)
タッタッタッ
絵里「はぁ…はぁ…はぁ…」
善子「まいたわね…」
絵里「ええ…」
絵里「いったた…」
善子「絵里大丈夫?私が曜をおんぶしようか?」
絵里「頼んでもいいかしら…」
善子「任せなさいっ」
絵里「はぁ…とりあえず別荘へ戻りましょう」
善子「ええそうね」
絵里(そうして走り続ければ既に私たちの足は森の中、希って人の助言のおかげで曜の横っ腹には私の背負っているリュックに入ってる包帯を巻いて、私は袖を上手く使ってなんとか血を落とさずに済んだ)
絵里(流石に行動が早かったから追ってこれるはずもなく、私たちは傷を負いながらもなんとか帰還することが出来そうだった)
絵里「希ってやつはどうだった?」
善子「すぐにAAが来たからそこまで戦ってないけど、まぁあれはやばいわね。武器もさることながら身体能力や頭の回転速度も侮れない、一瞬アンドロイドを疑ったけど首元は何も無かった」
絵里「見たの?」
善子「見たというよりかは見えたの、数字は何も無かったから人間ね」
絵里「あれで人間…」
『悪く思わんといてねっ!』
絵里「……嘘でしょ」
絵里(人間であそこまでの動きが出来るとなるとAAの人間も警戒を強める必要がありそうだった、精鋭とは何を意味して精鋭と呼ぶのか、それを人それぞれだろうけどAAという組織に存在してる精鋭は常識外れの定義が存在してるでしょう)
善子「…今回の戦いで、得たモノってあったのかしら」
絵里「渡辺曜でしょ」
善子「……どうするこいつ?」
絵里「…正直に言うとね、殺したくない」
絵里「……うん、殺せないって言っても正しいけど」
善子「殺せない?どうして?」
絵里「曜はね、限りなく私たちに近い思想を抱いてるの」
絵里「アンドロイド差別はなくなるべきだし、果南は別に悪くないって言ってたし、警察の事が大嫌いって言ってた」
善子「そんなことを…」
絵里「…仲間に出来ないかな」
善子「それはぁ…そうね…なってくれるならそうしてほしいけど」
絵里「………」
絵里(…人を殺すという行為が怖くて殺せなかったとは言えなかった。もし善子や果南があの状況にいたら迷わず殺してたと思う、あの二人は優しいけど甘くはないから)
絵里(私はきっとそういうのに弱いのよね、戦う事は厭わないけど誰よりも平和的な解決を望んでるはずだから)
曜『絵里さんにも譲れないものがあるのは知ってる、だからこそここで決着をつけようよ』
絵里(戦ってる時に笑うなんて私には出来ない、だからそれだけ曜が強くて曜が優しい証拠だった)
絵里(そんな綺麗な笑顔を見せられては殺すなんて出来ない、死ねば誰もが無の表情になるのだから)
絵里(そんなものを見てしまっては私の心が壊れてしまいそうよ)
善子「私たちがクーデターを起こせるのはいつかしら」
絵里「…当分先かもね、まだ近づいてもいない気がするわ」
善子「アンドロイドの人生っていうのは険しいものね」
絵里「…アンドロイドだからね」
善子「………」
絵里(戦いは終わった、けど帰り道に会話をすることはほとんどなかった。負けた――とも言えないけど勝ったとも言えない結果で言葉を話すためにある口も今は言葉が生み出せなかった)
ガチャッ
絵里「ただいまー」
善子「堕天使降臨…!」
タッタッタッ!
果南「おかえりっ!」
ことり「…生きてたんだ」
絵里「ええ、当たり前よ」
ことり「…それでその津島善子がおんぶってる渡辺曜は何?」
絵里「私が殺す直前でトラブルがあって一応まだ生きてるから連れてきたの」
ことり「えぇ…それで位置とかばれたらどうするの…」
絵里「そ、そうだけどAAに回収されて再度戦うことになるよりかはマシでしょ!」
果南「まぁまぁ、絵里もなんかあったから曜を連れてきたんでしょ?だって曜を殺すなら殺すで帰り道で殺せばよかったんだから」
ことり「あ、確かに…」
絵里「ええ、もしかしたら仲間に出来ないかなって…」
ことり「仲間!?」
果南「なにそれ」
絵里(そのまま言っても理解できるはずがないのでことりと果南にも曜のことを話した、そしたら果南は何も考えずに肯定してくれて、ことりはちょっと警戒しながら“まぁ、良いと思う”と言ってくれた)
絵里「とりあえず曜は武器をとりあげてそこのソファで横にさせといて」
善子「ええ」
ことり「待って、手当しないとまずいから私がするよ」
ことり「絢瀬絵里も後で腕貸してよ?その傷を放置しとくと戦えなくなっちゃうから」
果南「おお、流石女子力が高いね」
ことり「…このくらいしなきゃ助けてもらった恩返せないでしょっ」
絵里「ふふふっ分かったわ、ありがとうことり」
絵里「…あ、そういえばごめんなさいことり」
ことり「ん?何が?」
絵里「あなたのアサルトライフル…ボロボロになっちゃったわ」
果南「うわ、なにこれところどころ欠けてるし」
絵里「曜ともう一人、敵がいたの。そいつがあまりに攻撃的で…」
善子「ショットガン二丁持ちで、そのショットガンを鈍器みたいに扱うから銃でガードすると必然的にこうなるのよ」
果南「ショットガン二丁持ちってそれはやばいね…」
ことり「…!ショットガン二丁持ちってもしかして紫色の髪してない?」
絵里「ええそうよ、確か希っていう名前だったわ」
ことり「やっぱり…あいつだ」
果南「あいつ?さっき言ってた殺し屋の?」
ことり「そうだよ、人間の方の殺し屋」
絵里「知ってるの?」
ことり「うん、知ってる。昔戦ったことがあるから」
絵里「へぇ…流石ことりね」
ことり「…うん、でもまぁいいや。この話はまた今度」
ことり「アサルトライフルの件は別にいいよ、東條希と戦ったなら仕方ないよ」
絵里「そう…ごめんなさいね」
絵里(この戦いで色々あったけど、とりあえずこうしてまたことりと果南に会えるのが嬉しかった。元より今日は死ぬつもりで戦ってたからね、お腹も空いたし目もしょぼしょぼするし私も曜と同じようにソファで横になった)
ことり「はい、手当終わったよ」
絵里「ありがとうことり」
果南「おーこれがEMPグレネードかぁ」
ことり「それ、スイッチを入れてから数秒後に爆発するから間違ってでもスイッチをONにしないでね?」
果南「了解了解」
善子「絵里の怪我は大丈夫そう?」
ことり「うん大丈夫だよ、撃たれたとはいっても腕だからそこまで酷くはないしすぐに戦えるようになるよ」
果南「いやー私もことりも肩を撃たれなければ今頃戦場にいるんだけどなー」アハハ
ことり「…私を撃ったのは松浦果南だよね」
果南「それはごめんって…」
ことり「…別にいいよ。どうせ怒ったところで戦えないから」
ことり「…でもまぁ絢瀬絵里も無理はしないでね?」
絵里「ええもちろんよ」
絵里(ことりに手当をしてもらって再び体を動かせば、まぁだいぶ楽に腕も動かすが出来た)
グゥ~
ことり「………」
善子「………」
絵里「………」
果南「…ん?今のことりのだよね?」
ことり「言わないでよっ!」
絵里「果南、そこは空気を読みましょう」
果南「え?私が悪いの?」
ことり「悪いのっ!」
善子「まったく…」
果南「えー…なんか納得いかないな…」
絵里「…まぁいいわ、お腹空いてるのなら私が何か作りましょうか?」
善子「腕は大丈夫なの?」
絵里「ええ平気よ、任せなさい!」
ことり「…料理出来たんだ」
絵里「そこまでできるわけじゃないけど、ここで料理出来るのが私以外いないからね」クスッ
善子「堕天使に食事など要らないのよ…」
果南「私はおいしく食べれればなんでもいいからなー」
絵里「はぁ…」
ことり「心中お察しします…」
絵里(食に関心のない二人はまぁ困ったものよ、溜め息を吐いた私はとりあえずキッチンに向かって料理を作る。今日作るのはつい最近亜里沙に教えてもらったハンバーグで、時間はかかるけど丁寧にやることにした)
善子「あー!今攻撃したやつ誰よ!」
果南「ふふふっ私だよー残念だったね善子」
ことり「うぇええちょっとこのゲーム難しくない!?」
絵里「三人は一体何をやってるのよ…」
絵里(私が料理をしてる間、テレビの前ではゲームではしゃぐ三人がいた)
善子「マリカーに決まってるでしょマリカーよ!」
善子「パーティープレイにうってつけでしょ!堕天使も愛するゲームよ!」
果南「やっぱり真姫もゲームは好きなんだね、テレビの横にゲーム機があったらやるしかないでしょ」
善子「ちっあーもう!果南のせいで六位じゃない!」
果南「堕天使ヨハネは先の事を考えてるんじゃなかったの?一位になるというリスクを考えてプレイするべきだったね」クスクス
善子「はー腹立つ!」
ことり「ここを右に曲がってえっと…」
絵里「ことりはなんで体まで動かしてるのよ…」
ことり「仕方ないのっ!ゲーム初めてやるんだから!」
絵里「戦闘はあんなに強いのに…」
ことり「うぅなんで抜かせないの…」
絵里「というかそんな体動かしても大丈夫なの?」
果南「激しく動くわけじゃないし、動かすの指だけだし大丈夫だよ」
ことり「私も別に…」
絵里「ことりは体動いてるけどね」
ことり「動いちゃうの!」
絵里「ええそうね…」
絵里(ことりは戦闘は鬼の如く強いのにゲームに関しては動きが初心者のソレ。ただ学習能力は高いからやり方を模索して色々頑張ってるのがちょっと可愛かった)
ことり「食らえっサンダーだっ!」
善子「はー…落ちたー…」
果南「ふふふっ私はことりの画面を見てたから安全なところで待ってたよ」
善子「はぁ?ただの反則じゃない!」
果南「私たちは常にルールなんてない戦いをしてるんだからこれにもルールはないんだよ善子」
善子「納得いかない」
ことり「やった!五位まで来た!」
絵里「ふふふふっ」
絵里(そして三人がゲームでバトルするのを見るのはとても楽しかった、こんな日常が毎日続いたらな…千歌はいないしこの世は相変わらず退廃的だし悪いことだらけだけどそんなダメダメな世界でこんな幸せを味わえるというのなら是非この幸せが永遠に続くことを願いたい)
絵里(…ただその願いがどれだけ儚くて寂しくて無謀な願いなのか知ってる私は、どうにもこうにも夢を見ることは出来なかった)
曜「ん…んん…」
絵里「!」
善子「!」
果南「!」
ことり「!」
絵里(ゲームに盛り上がる最中で、ゆっくりと意識を覚醒させる曜に注目がいくのはもはや当然だった。全員が同じ顔をして同じ場所を見ていた)
曜「ん……って、え?」
ことり「とうとう起きた…」
果南「あはは、どうも」
善子「死にかけからその目覚めは随分と気持ちのいいものだったでしょうに」
絵里「目が覚めた?」
曜「…あれ?私死んだの?」
善子「死んでないわよ」
曜「じゃあなんで絵里さんたちが…」
絵里「あの後のこと覚えてないの?」
曜「絵里さんに横っ腹撃たれてその辺りからもう何にも…」
絵里「そうなの…」
善子「その横っ腹撃たれた後すぐにAAのやつらが来てあんたを連れてここまで逃げたのよ」
曜「そ、そうなんだ」
曜「…なんで私こんな手当された上に身が自由なの?普通捕虜として扱うよね?手錠なりなんなりして」
果南「…そういえばなんで?」
ことり「えっ…私に聞かれても…」
善子「あんたらの頭がゆるゆるだからよ」
果南「いや分かってるならそれを指摘しない善子もゆるゆるでしょ?」
絵里「はいはいストップ、私は曜に仲間になってほしいの」
曜「仲間?私が?」
絵里「ええ、限りなく私たちに近い思想を抱いてるのなら是非協力してほしくて」
絵里「だから今曜は自由、その自由こそ私たちを信頼する理由になるでしょ?こっちはリスクを伴ってあなたを自由にさせてるの」
曜「…なるほどね」
曜「でも、その行動は感心できないかな。いくらなんでもリスクが大きすぎるからね」
絵里「…ええ知ってる、だけど曜なら大丈夫と判断したのよ」
曜「私なら…か」
絵里「ええ」
曜「私もそこまで優しい人じゃないんだけどね」
絵里「…つまり?」
曜「………いいよ、一緒に警察滅ぼそうか」
果南「おお、発言が物騒だね」
絵里「…こんなこと聞いたらおかしいかもだけど、なんで私たちに協力してくれるの?」
曜「絵里さんには言ったよね、もうお金は充分あるって。だからあそこにつく理由はないし、別にあそこに執着する必要もないってわけ」
曜「元はない命だったからね、助けてもらったならこの命は絵里さんたちに捧げるさ」
絵里「……そう、ありがとう」
曜「私の発言が嘘だとは思わないんだ?」
絵里「ええ、信じてるから」
曜「へー…なんか分かる気がするな…あの戦闘の鬼と言われたことりちゃんがこうやって仲間のようにみんなと暮らしてるのも」
ことり「…!何?」
曜「ふふふっなんでもないよ」
曜「まぁこれからよろしくね、精一杯頑張るよ」
善子「え、ええ」
果南「うんっよろしくね」
ことり「…なんかあまりに上手く行き過ぎてて怪しんだけど」
曜「うーん…じゃあどうやったら潔白の証明が出来るのかな」
絵里「いやいいわよそんなことしなくても」
絵里(確かにことりの言う通り仲間になるのもすんなりすぎて正直怪しいところはある、だけど戦いであんな律儀に振舞う人がこの期に及んで裏切るというのも考えづらくてめんどくさいことはとりあえず避けることにした)
絵里(…まぁ、小さい頃から色々学んで経験してる猛者なら演技ってやつも上手いのかもしれないけどね)
ピコンッ♪ピコンッ♪
絵里「ん…あ、真姫から電話ね」
善子「…絶対怒ってるわよ」
絵里「いや…まぁ……そうね」
絵里(今日でお別れかもしれないっていうメッセージだけ送って戦いに言ったわけだから、電話に出て開口一番のセリフは容易に想像できる)
真姫『何やってるのよ!?』
絵里「…ごめんなさい」
真姫『心配したんだから!いみわかんないメッセージ送ってこないでよね!』
絵里「……?真姫、泣いてるの?」
真姫『!! な、泣いてないわよ!…ぐすっ」
絵里(真姫は我慢の出来る人、だけど涙ぐんだ声は我慢できないようだった。我が子を叱るような必死な声と、嬉しさ含んだ安堵の声が混ざって真姫の声はとにかくおかしなものだった)
絵里「ごめんなさい真姫」
真姫『…許さないわよ』
絵里「……どうしたら許してくれる?」
真姫『…私だって物分かりが悪いわけじゃない。絵里が戦うのは仕方ないのは分かってる、だから戦うなら…絶対に勝って戻ってくるなら許してあげる…』
絵里「…ええ、もちろんよ」
絵里(真姫は我慢の出来る子だけどとっても寂しがり屋な子だ。だからきっと今の言葉も本心ではないのだと思う)
絵里(出来ることならみんなが笑いあえる日常で、幸せに過ごしたい。けどそうは問屋が卸さないのよね、それを分かってる真姫は、実に大人だ)
絵里(その後真姫はもう寝るだとか言ってすぐに電話を切った。電話を切った途端世界が変わったみたいに後ろから喧騒が聞こえてくるから後ろを見ればゲームをしてる人数が三人から四人になってて私は色んな意味を込めた溜め息を吐いた)
キリのいいところまで行ったので一度中断。
スクスタ来るまでに終わらせたいですけど、無理みたいです。再開はまた今日にでも。
とても引き込まれますここまで乙
千歌ちゃんが生きてたらみんなで逃げる道もあったんだろうか…
えりちはこういうメランコリーな雰囲気も似合うな
~同時刻、???
「…面白くないね」
希「んー?何が?その本が?」
「確かにこれは面白くないよ、字がいっぱいなんだもん」
希「小説本やもん、字がいっぱいなのは当たり前やろ?」
「希ちゃんが面白いって言うから私は読んだんだよ?」
希「面白いやん、スクールアイドルっていう限られた時間の中で輝こうとする少女の物語やで?」
「……半分くらいまで読んだけど、私はこんなことしたいとは思わない」
希「そりゃあ業務用アンドロイドやからねぇ…」
「…確かに私は戦うこと以外に興味がないからこの本は面白くない、けど私が言いたいのはこの本が面白いかどうかじゃないよ」
「…いつになったら見つかるの?」
「私の探してる人は」
希「それはウチが聞きたいよ、ウチだってあの殺し屋と呼ばれたスナイパー使いに会いたいっていうのにどこにもいないんやもーん…というか情報すらないし」
「……面白くない」
希「ふふふっまぁ確かに事が上手くいかなさすぎなのは分かる、だからウチが退屈を解消する情報をもってきたよ」
「なにそれ」
希「最近な、ちょ~っと厄介な集団が一ついるんよ」
「厄介な集団…対アンドロイド特殊部隊じゃないの?」
希「いや、違う」
「じゃあ今日戦ってた人たちでしょ、ニュース見てたけど相当派手にやったよね」
希「あれは大体途中から入ってきたにこっちのせいかなぁ」
希「でも確かにあそこも厄介やね、知ってる限りだと堕天使がいたしことりちゃんもいるらしいしウチらと対峙することになったら無傷じゃ済まされないやろうね」
「堕天使…なんか聞いたことある、ものすごい強いんだよね、それだけは知ってる」
希「そうだよ、昔ここ東京のデパートに十数人の海外系の武装集団が乗り込んできた時があって、そいつらを一人で壊滅させたのが堕天使と呼ばれるアンドロイドだった」
希「当時堕天使は13歳という若さで普通じゃ考えられない事を起こしてしまったが故にアンドロイドという存在がとても危険なモノであるということが世に知れ渡った根本的な原因とも言えよう」
「ふーん…とにかく強いんだね」
希「まぁね」
絵里『まだ終わってないッ!』
希「…ただ、今はあの金髪の子が一番気になるんよなぁ」ボソッ
「…?何か言った?」
希「ううん、なんでもない。それよりさっきの話やけど」
希「厄介なのは他にいるんよ」
~同時刻、別荘
曜「ほー!流石絵里さんは料理の腕もいいなー!」
果南「でしょ?絵里の料理はおいしいんだよ」
善子「いやなんで果南が威張ってるのよ…」
ことり「…まぁまぁかな」
絵里「あのねぇ…」
絵里(料理が出来ればゲームを強制終了させて五人で食卓を囲んだ)
絵里(始まりのトリガーを引いた時には予想も出来なかったこのメンツに、ちょっとだけ…そして勝手に運命を感じちゃった)
ことり「…それで、渡辺曜もお荷物なの?」
果南「お荷物の会へようこそ!」
曜「お荷物の会…?」
善子「怪我をしてて戦えない人のことよ、家でお留守番してるニートね」
曜「いや、私は戦えるよ。もちろん受けた弾丸の大きさにも寄るけど、横っ腹は戦闘に関してはそこまで支障をきたさない部分なんだよ、撃たれて問題なのは肩と足」
絵里「そうなの?」
曜「ちゃんと包帯とか巻いてくれてるから平気平気!」
曜「……まぁ痛いのは変わりないけど」
絵里「そ、そう……」
曜「人を殺すんだったら.308弾が使える銃とかで肉を抉らないと仕留めきれないかもね」
善子「うわえげつな……」
ことり「でもそれだと銃が重いのを使わないといけないから機動力を犠牲にしないといけないね」
曜「うん、だから大体の場合人間相手にそういうのを使うのはあんまり意味がないんだよね、使うべき相手はアンドロイドだよ」
果南「あー分かった、“再生能力”でしょ」
曜「そうそう、アンドロイドは人間を模して造られただけであって完璧な人間ではないんだよね。人間の不便なところもなるべく改善して出来上がったのがアンドロイド、つまり人間の進化形みたいなものなんだ」
絵里「……」
絵里(全ては曜の言う通りだ。これは私たちアンドロイドが人間と並びたいという反旗を翻すにあたって弁えなきゃいけないことだ。アンドロイドは人間ではない、人間と瓜二つなだけだ、その理由は様々あるがそのうちの一つ——再生能力はアンドロイドと人間を差別化させるくらいの大きな特徴だった)
ことり「再生能力が高い私たちアンドロイドは……」
善子「肉でも抉られない限り、例え致命傷でも数か月で完治する」
曜「そう、その通り、銃弾で貫かれる程度じゃ痛いくらいにしか感じないんだよね、まぁ貫かれる場所が横っ腹とか腕とかだったら人間も同じだけど、アンドロイドは頭以外だったら死なないから仕留めるなら確実な武器じゃないといけないね」
果南「ふむ……」
絵里「………」
絵里(再生能力——いえば来した傷がどれだけ早いスピードで完治するかの能力だ)
絵里(人間もアンドロイドも腕を切断されたら当然ながら再生することはない、ただしアンドロイドは腕を切断されない場合のみどんなに深い切り傷を入れられても半年くらいで何事もなかったかのように完治するのだ)
絵里(アンドロイドには皮膚の元である角化細胞より始まる四つの層と人間にはない“複素層”という五つ目の層を有していて、これは皮下組織の働きを増幅させる他角化細胞が分裂し、それが外側へ放出され皮膚になる際に角化細胞を増やし再生を早める効果がある)
絵里(つまり人間にはない体の働きをアンドロイドは有していて、それ故に再生が早いのだ)
曜「……っていうのはアンドロイドと戦う時の話!卓越した再生能力を持ってるとはいえ命は有限だ!だからみんな命は大事にね、さくせんはいのちをだいじに、だ!」
善子「だそうよ、現在お荷物のお二人さん」
ことり「うぅ~!私だってあと少しで戦えるもん!」
果南「私はガンガンいこうぜが好きなんだけどな~」
善子「いや誰もそんなこと聞いてないわよ……」
絵里「あはは…」
絵里(アンドロイドの再生能力について復習するような形になったが、これから色々していくうちにアンドロイドと戦う可能性もなくはない。その時は確実に仕留められるよう頭を打ち抜くか経口の大きい銃を使わなければならなそうだ)
絵里(…そしてそれは自分にも言い聞かせておかなければならない。憧れた人間とかけ離れているのは少し耐え難いモノだけど、頭以外を撃ち抜かれなければ即死は回避できるアドバンテージは活かさなければならない)
絵里(だから人間より色んな意味で優れていると自覚している以上、“それ”を多用する以上、私たちアンドロイドは人間とは別であることを弁えないといけないのだ)
曜「そういえばみんな私の事知ってるんだね、私もアンドロイド界では有名人なのかな?」
善子「いや、少なくとも私は知らなかったわ。ことりから聞いて初めて知ったくらいよ」
曜「へーことりちゃんは何話したの?」
ことり「…何も話してないよ」
曜「え…なにそれ」
絵里「んーと、曜は武器が何でも使えるとかEMPグレネードを作ったとかそういうことを聞いたの」
曜「あ、そういうこと」
ことり「……なんでEMPグレネードなんて作ったの?」
曜「いうまでもなくアンドロイドの無力化のためだよ、EMPグレネードがオーバーテクノロジーって言われるの、正直私からすれば意味不明なんだよね」
果南「どういうこと?」
曜「アンドロイドという存在はイレギュラーすぎたんだよ、人間よりも高い戦闘力を有したことでアンドロイドは武力で解決しようとする」
曜「…ただ、別にそこまではよかったんだよ。でもね、アンドロイドは限りなく人間に似せて造ってある、だからこそちゃんと個人差があって得意不得意があるんだよ」
善子「…?」
曜「つまり、アンドロイドにもどうやったっても殺せないような天才がいるんだよ」
曜「そういうのを無力化する有効な術が何故か今まで無かった、だからEMPグレネードを作ったんだよ」
絵里「天才…例えば?」
曜「……希ちゃんのところにいる業務用アンドロイド二人かな」
ことり「…!一人は知ってる」
曜「だろうね、有名だもん」
ことり「うん…」
善子「…業務用アンドロイドなんかが天才なの?」
曜「戦闘に特化した業務用アンドロイドだからね、戦う事を生業にしてるアンドロイドはそりゃあ強いよ」
果南「ふーん…」
曜「まぁEMPグレネードはそんなところだよ」
ことり「…そっか、わざわざ答えてくれてありがとう」
曜「いえいえ」
絵里「………」
絵里(あの希という人の周りにどんな人がいるのかは知らないけど、もし戦う事になれば無傷は無理でしょうね、もはや一方的に殺される可能性だってある)
善子「…これからどうする?戦える人が三人に増えたとはいえまさかY.O.L.Oに行くわけにもいかないし攻める場所が分からないわ」
曜「Y.O.L.Oはやめた方がいいよ、下手したらそこで全滅なんてこともあり得るからね」
善子「分かってる、だからどこを攻めるべきか聞いてるじゃない」
曜「…焦る必要はないんじゃないかな」
果南「というと?」
曜「様子を見るっていう選択もあるよ、無理して攻めるより果南さんやことりちゃんの傷が癒えるのを待ったり武器の補充をしたりで準備の時間があるといいと思う」
曜「平和を求めるなら、戦いに備えよ」
曜「…これは希ちゃんの言ってたことだけどね、案外間違ってないと思う」
絵里「なるほど」
果南「確かに」
善子「…そうね、少しは休む時間があるといいかもしれないわ」
ことり「そうだね」
果南「…ふふふっじゃあお泊り会と行こうか!」
ことり「遊びじゃないんだけどなぁ…」
絵里(大きな事はしてないけど、とりあえず私たちは羽休めをすることにした。これから何が起こっていくのか正直想像が出来ない)
絵里(トリガーを初めて引いたあの日から、明日ある未来なんて捨ててしまった)
絵里(…そして、その代わりに掴み取った私の望む未来を創るためのチケット)
絵里(人生は一度切り、だからこのチケットは無駄にはしない)
善子「…は?誰がどこで寝るか?」
果南「ことりと曜がどこで寝るか決まってないでしょ?」
絵里「寝室が二つしかないのよね」
ことり「…私は一人がいい」
曜「私はどこでもいいよ」
果南「じゃあ私と絵里と曜は一緒だね♪」
絵里「ええ、曜はいい?」
曜「うん、いいよ」
ことり「津島善子はどうするの?」
善子「私もおそらくことりと同じ考えをしてるもんでね、堕天使ヨハネの睡眠は誰にも見せてはいけない決まりなのよ…」
ことり「…?」
果南「ようするに、寝顔を見られたくないってやつ」
善子「堕天使ヨハネにそんな不毛な理由はない!」
ことり「…まぁそれはどうでもいいかな」
曜「いいんだ…」
善子「よくない!」
ことり「とりあえず私はこのリビングで寝るよ、津島善子はもう一つの寝室使って」
善子「え?ええ」
果南「決まりだね」
絵里「ええ」
曜「みんな何時ごろ寝るの?」
曜「なんだかんだ夜中の四時だしもう空が少し明るいよ?」
果南「私はもう寝るよ」
ことり「同じく」
絵里「私はお風呂入ってから寝るわ」
善子「私はまだ寝ない」
曜「んーそっか」
スタスタスタ
絵里「とりあえず私はお風呂に入るわね、あなたたちも寝るなら早く寝なさい」
ことり「言われなくても分かってるよっ」
果南「絵里はお母さんかな…」
絵里(とりあえずあの戦いで汗水流したのだから体はベトベト、傷は痛むかもしれないけどまさか入らないなんて選択は無いしとりあえずお風呂に入った)
絵里「相変わらず広いわね…」
絵里(お風呂は一般的に言えばまず考えられないであろう広さで、まさか大浴場とまではいかないけど広く四角い空間の三辺にはなぜかシャワーと鏡がついてるし、ご丁寧にシャンプーリンスボディソープも配置してあってあるべきものはしっかりある模様)
絵里「ふー…」
絵里「疲れた……」
絵里(とりあえず何かする前に湯船に浸かった、傷は染みて痛いけど耐えられないほどじゃない)
曜「お邪魔しまーす」
絵里「!」
バシャーン!
曜「うわっ!?急に酷いよー!」
絵里「びっくりした…勝手に入らないでよ!」
絵里(突然バスタオルを巻いた曜が入ってきて驚いてお湯をかけてしまった、突然というタイミングで入ったのにも驚いたけど何よりお風呂というプライベートを曝け出す時に勝手に入られたのが一番の驚きだった)
曜「勝手にってここのお風呂は一人用じゃないじゃん…」
絵里「例え相手が女でも見られて恥ずかしいモノは恥ずかしいのよ!」バシャバシャ!
曜「じゃ、じゃあ見ないから!お湯かけるのやめて!熱い!」
絵里「はぁ…はぁ…」
絵里(…まぁここは我慢するしかない、そう思い妥協した。そしたら曜は私から見て向かいのシャワーの場所に座った)
曜「ふー…いってて……」
絵里「横っ腹?」
曜「そうだよ、水は染みるね…」
絵里「…そうね」
曜「おーすごい、このシャンプー高級なやつでしょ」
絵里「多分そうよ、真姫の家だし」
曜「私もこんな贅沢出来るお金があったら対アンドロイド特殊部隊なんてところには入ってなかったんだけどなー」
絵里「でもいいじゃない、そこに入れたおかげで強くなれたんだから」
曜「別に私は強くなりたかったわけじゃないから何とも言えないかな…」
絵里「…そう」
曜「…絵里さんはさ」
絵里「…何?」
曜「私が裏切って、次確実に仕留められる状況になったら私を殺す?」
絵里「もちろん殺すわよ」
曜「…うん、それは知ってる」
曜「……一応さ、ありがとうって言っておくよ」
絵里「…?意味が分からないんだけど」
曜「絵里さんはね、優しすぎるんだよ」
絵里「…そんなことはないわよ」
曜「なら、なんであの時私を殺さなかった?」
絵里「!」
曜「……殺せなかったんでしょ?」
曜「人を殺すのが怖いんでしょ」
絵里「…どうしてそう思うの?」
曜「…瞳、かな」
絵里「瞳?」
曜「私に銃口を向けてから絵里さんの瞳は揺れるばかりだったじゃん、明確な殺意があったならあそこで殺すのを躊躇う理由なんて何一つないし」
絵里「………」
曜「それにね、ことりちゃんを助けようとしてた時だってにこさんを殺せてたじゃん」
絵里「あ、あれはたまたま拳銃に当たっただけで――」
曜「それは違うね、なら連射をすればよかった。違う?」
絵里「………」
曜「いくら相手が超一流とはいえにこさんはアンドロイドじゃないからね、完全なる不意打ちで初弾が当たらなかったとはいえ二発目が避けられるかといえばそれはNOだよ」
曜「…きっと殺す覚悟はあるんだと思う、流れとかに任せちゃえばきっと殺せるんだと思う。けど致命的に絵里さんは相手を痛めつけることは出来ても殺すことのできない情がある」
曜「……正直言って、戦場に立つには向いてないかな」
絵里「…なら」
曜「いや別にいいんだよ、絵里さんは強いから。戦場に立ったって」
曜「でも不安なんだよ」
曜「あの時みたいに確実に仕留められる状況で、いつまでも殺すことを躊躇っていたら相手が何かしてきて絵里さんを殺してしまうかもしれない、助けが来て絵里さんが殺されてしまうかもしれない」
曜「優しすぎる故に、不安なんだよ」
絵里「………」
曜「…いや、まぁだからさ…そのさ……」
絵里「…?」
曜「…私が代わりに殺してあげようって思ったの、相手を」
絵里「…なにそれ」
曜「絵里さんの戦闘は不安だらけなの!だからいざという時は私が殺してあげるって言ってるの!」
絵里「………」
絵里(どうしてなんだろう。曜は…曜はどうしてそこまでしてくれるんだろう、数時間前までは敵だったのに、今ではこんなこと言ってくれるなんて意味が分からないわよ)
絵里「…どうしてそこまでしてくれるの?」
曜「…正直言うとね、お金はたっぷりあるんだけど引き下ろせないんだ」
絵里「なんで?」
曜「絵里さんに協力しちゃったからね」
絵里「!」
曜「協力したのは私の意志だよ、まぁ協力せざるを得ない状況にいたのも否めないけど」
曜「だからどの道私は絵里さんの背中を追うことしかできないんだよ、お金が欲しいなら絵里さんに協力して平和に暮らせるまで戦わないといけないんだよ。それなら本気で、出来ること全てをこなして生きなきゃって思ったの」
曜「私渡辺曜は、絵里さんの背中に全速前進ヨーソロー!ってね」
絵里「曜…」
曜「…まぁ、だから少しは私のこと信用してもらえると嬉しいかな」
曜「ことりちゃんにはものすごい警戒されてたし、善子さんにもかなり鋭い目で見られてたから…」
絵里「…そう、でも安心して」
絵里「私は曜の事信じてるから」
曜「…ふふっありがとう」
絵里「……あははっ」
絵里(頬を赤らめて嬉しそうに微笑む曜を見てたら、私も喜びの表れで照れ笑いをしてしまった)
絵里(まぁ、この事を曜に言われなくても私は曜のことを信じてたけど、こう改めて言うとなんか小恥ずかしいものがあるわね…)
曜「そろそろ戦うのはやめたいなって思ってたけど、まだまだ私は現役かな」
絵里「ええそうね」
絵里「当分は……」
~???
カランカランッ
にこ「…!随分と珍しい面がいるじゃない」
「あ、こんばんはにこさん」
にこ「このバーの場所が分かるってことはたまたまここへ来たわけじゃないのでしょう?」
「そうですね、この時間ににこさんがここへ来るというのを知ったいたのでここへ来ました」
にこ「…やっぱりあんた気持ち悪いわね」
「えへへ、殺し屋ですから」
にこ「それで何の用?私はここのイチゴジュースを飲んですぐに帰りたいのだけど」
「ふむ…では簡潔にまとめて言いますと」
「にこさんたちの敵はあの金髪ポニーテールの人たちだけじゃありませんよ?」
にこ「…それは絢瀬絵里率いる集団とは別にあんたらが敵だと言いたいわけ?」
「いえいえ違いますってば!例えあなたたちに敵愾心がなけれどいずれ戦う事になるだろう相手のことです」
にこ「それを私に教えて何のつもり?」
「気を付けてほしい、という私個人からの忠告ですよ」
にこ「ふーん…やっぱりあんたら殺し屋って考えてることがまったくもって理解出来ないわね」
「でも、にこさんは対アンドロイド特殊部隊の中ではかなり理解のある人ですよね」
にこ「…ええそうかもね、もしかして私のところにきたのもそう思ったから?」
「当たり前じゃないですか、対アンドロイド特殊部隊でまともなのといえばにこさんか曜さんしかいませんから」
「でも、曜さんには先客がいたみたいなのでにこさんのところに来ました」
「あ、後にこさんは数少ない私たち殺し屋と友好な関係にある人じゃないですか」
にこ「友好ねぇ…」
「間違ってませんよね?」
にこ「…どうかしらね」
にこ「……でもまぁありがとうと言っておくわ」
「えへへ…」
カランカランッ
海未「はぁ……ってあなたは…!」
「あ、海未さんこんばんは」
海未「…何の用ですか?」キッ
「あ、えーっと…海未さんが来たなら私はおいとまさせてもらいます」
「それじゃあ!」
タッタッタッ
「…あ、でも一つ、海未さんにもにこさんにも言っておきますね」
にこ「何?」
「今日からあなたたちが敵にする相手は全員、最強レベルですよ」
「例え化け物染みた海未さんや頭のおかしいあの人たちをもってしてもそれは変わりません」
海未「…つまりは希たちということですか?」
「…もしかしたらそうかもしれません、でも他にも敵がいることを忘れないでくださいね」
「ではっ」
カランカランッ
海未「…何なんですかあれは」
にこ「さぁね、でも間違ったことを言ってるわけじゃ無さそうよ」
海未「曜が行方不明という時に不安を募らせないでほしいですね」
にこ「………」
『でも、曜さんには先客がいたみたいなのでにこさんのところに来ました』
にこ「先客がいた、とか言ってたわね」
海未「え?」
にこ「…いや、なんでもないわ」
にこ「これからどうしましょうかね」
海未「とりあえずは曜の捜索でしょう、それ以外にあるとは思えません」
にこ「まぁそうよね」
にこ(だけど手がかりもないのにどうやって見つけるのかしら…それに私たちだって暇じゃないから曜だけに焦点を当てられるわけじゃないし、私としては曜よりも絢瀬絵里の行方の方が気になるわね……)
海未「…なんですか、にこ?」
にこ「ちょっと考え事」
海未「そうですか」
にこ「ええ」
にこ「………」
にこ(…希に会ってみるか)
~別荘、寝室
曜(しばらくは海未さんたちは私を探しに色々まわるはず…ならやっぱり動かないのがいいかな)
果南「何考えてるの?」
曜「うーんちょっとこれからをね」
果南「そっか」
曜「絵里さんは?」
果南「武器について色々調べてる」
曜「武器?」
果南「知り合いに真姫っていうお金持ちの子がいて、その子が絵里に好きな武器をくれるらしいから絵里もどの武器がいいか色々見てるんだと思うよ」
曜「へー武器か」
果南「絵里の戦法にあった銃を使わないとね」
曜「うん、その通りだね」
果南「確か曜はほとんどの武器が使えるんだっけ?」
曜「そうだよ、ライトマシンガン以外は使えるよ」
果南「へーどうやって武器選んだの?色々使えるならやっぱり迷うでしょ」
曜「やっぱり実際使ってみていいと思ったやつを使ってるかな、子供の頃から動物とバトってたから試し打ちはいくらでも出来たし」
果南「なるほどね」
曜「…でもまぁ、今はそういうことできないだろうね」
果南「難しいかもね」
曜「となると絵里さんは迷うと思うよ、同じ武器種でも性能は大きく違うわけだし」
果南「まぁね」
曜「…ん?でも絵里さん確かアサルトライフル持ってたよね?」
果南「あぁあれはことりのだよ」
曜「そっか、じゃあ借りたんだね」
果南「そうそう、ちゃんと使えてた?」
曜「うーん絵里さん自身が攻撃的じゃないってのもあるけどあんまり撃ってなかったかな」
果南「そっか、やっぱりいきなりは無理だったのかも」
曜「どうだろうね」
曜「…あ、でもそういうわけじゃないと私は思う」
果南「ん、なんで?」
曜「絵里さんはどっちかっていうと近距離で戦う方がいけるって思ってるんじゃないかな、だから近距離に対してことりちゃんの持ってるあのアサルトライフルは弱いんだよ、連射速度はそこまで高くないしアサルトライフルってそもそも重いし」
曜「それを理解した上での行動なんじゃないかな」
果南「なるほどね、じゃあ絵里は善子と同じでサブマシンガンがいいわけだ」
曜「そうだね、私はそう思う。連射速度が早くて瞬時火力が高い銃を使うべき」
果南「となるとどういう銃?」
曜「……お金があれば今すぐにでも私が最適な銃を作るんだけどね」
果南「んー…お金ならあるよ」
曜「え?」
果南「真姫に頼めばお金はくれるよ、絵里が生きている以上はね」
曜「…その真姫さんっていう人は絵里さんとどういう関係?」
果南「うーん…」
果南「パートナー、のような関係かな」
曜「パートナー?」
果南「まぁ昔色々あったんだよ、でも私はよく知らないんだよね」
曜「そ、そっか」
果南「まぁお金の件、絵里に行ってみようか?」
ガチャッ
絵里「ふぁ~…」
果南「ほら丁度来たみたいだし」
絵里「ん?どうしたの?」
果南「実はさ――」
絵里(突然持ち掛けられた話、聞けば曜が私に最適な銃を作ってくれるとのことで、どんなものかは教えてくれなかったけど、戦闘経験豊富な曜が私に最適な銃を作ってくれるなら是非ともそうしてもらいたい)
絵里(調べてネットで得た知識なんかより曜の持ってる知識を使った方が何十倍もいいだろうからね)
果南「はー!このベットはやっぱり広いなー三人一緒でもまだ広いや」
絵里「随分と楽しそうね」
果南「そりゃあ楽しいよ」
曜「…私も分かるかも、このドキドキ感と謎の高揚感がいいよね」
果南「いいねぇ曜は分かってるよ」
絵里「私は分からないわ…」
果南「ふふふっーぎゅー!」
絵里「むぐっ…苦しいわよ」
曜「同じく…」
果南「いいじゃーん、せっかく一緒に寝てるんだし」
絵里「子供か…」
曜「ふふふっ果南さんって面白いね」
果南「毎日を精一杯楽しみたい人だからさ」
曜「…そっか、すごくいい人だね」
絵里「…ふふふっ」
絵里(やっぱり果南には敵わない、人を笑わせてくれるその明るさはホントに感謝すべきで見習うべきモノだ)
絵里(それでいて強いというのだから果南は卑怯、もっとも今は戦えないけどね)
~夕方
真姫「訳の分からない話を聞いて色々来てみたけど…」
ことり「おはよう♪」
曜「おはよう!」
真姫「…なんか増えてない?私の錯覚?」
絵里「ん?錯覚?」
善子「残念ながらそれは錯覚じゃないのよ…そう、堕天使ヨハネが作り出したげんえ」
果南「本物だよ」
善子「私が喋ってる時に割り込むな!」
真姫「絵里からメールが来てなんか銃の部品をめちゃめちゃ発注してくるから急いで揃えたけど…渡す前に状況を説明してくれる?」
絵里「ええ、もちろんよ」
絵里(その日の夕方、真姫がこの別荘へ来た)
絵里(来た理由はもちろん朝起きてすぐに送った曜の作りたい銃の部品を持ってきてもらうためよ)
真姫「えぇ…仲間にしたって…」
絵里「いいじゃない、それで今がこうやって平和なんだから」
真姫「まぁ別に絵里がいいなら私はいいけど…でも大丈夫なんでしょうね?」
真姫「特に元対アンドロイド特殊部隊に入ってたと言われるあなた」ジロッ
曜「あはは…大丈夫だよ…」
真姫「というかあなたは退院してすぐに戦ったのね…」
ことり「戦ったんじゃなくて戦わされただけだもんっ!」
真姫「そう…」
真姫「…まぁいいわ、はい部品」
絵里「ありがとう」
真姫「大切にしてよね」
絵里「ええ」
真姫「…それでみんなはこれからどうするの?」
果南「とりあえず様子見ってことでみんなここでくつろいでる状態だよ」
真姫「そ、そう…」
絵里「真姫の方は大丈夫?」
真姫「ええ、おそらく私は警戒されてないはず」
絵里「ならいいけど」
絵里「…あ、はい。曜、これ部品ね」
曜「はい、預かったよーじゃあ後は私にお任せ!あ、後ここにある機械色々借りるね!」
タッタッタッ
善子「…行っちゃった」
ことり「流石行動が早いね」
果南「どんな銃が出来るんだろう?」
絵里「…分からないわ」
真姫「サブマシンガンでしょうね、部品的に」
果南「それは私も分かるよ、ただどんなサブマシンガンかが分からないんだよ」
真姫「…それは私もよく」
ことり「同じサブマシンガンでも性能は大きく違うからね、武器種を聞いたところで一概にどんなものか想像は出来ないね」
善子「そうね」
絵里「…まぁその話はいいわ、それより真姫はどうする?もう帰る?」
真姫「ええ、本当はもっといたいけど流石に長居は危険だからね、帰らせてもらうわ」
果南「はーい、気を付けて帰ってよ?」
真姫「言われなくてもそのつもりよ」
絵里「じゃあね」
真姫「ええ、また」
スタスタスタ ガチャンッ
絵里「…お金は全額真姫負担な上にわざわざ部品を持ってきてもらうなんてなんか申し訳ないわね……」
ことり「西木野真姫の性格を見るにイヤなら断ってるから大丈夫だと思うよ」
果南「私もそれは同意見かな」
善子「同じく」
絵里「…戦闘型アンドロイドと標準型アンドロイドは感受性が違うのかしら」
絵里(夕方のわずかな時間で話は一気に進んだ、部品が届き曜は私の銃を作ってくれるということで家の機械やら何やらを使って一室にこもってるし真姫はすぐに帰ってしまった)
ことり「あ、ずるいよ!」
善子「ふふふっ…これは早いもの勝ちなのよ…」
果南「いっけー!これでもくらえっ!」
絵里「ふふふっ」
絵里(それで残された私たちはそれぞれ自由な時間が出来るわけだけど、私を除いた三人はゲーム三昧の様子)
一旦中断
曜ちゃん一見まともそうだけどかなりサイコパスだな
果南「絵里はゲームしないの?」
絵里「お皿洗ってお風呂沸かしたらね」
善子「あ、ごめん…」
絵里「いいわよ別に、三人は遊んでて」
絵里(私も遊びたいけど、色々やることあるしそれを先にやってから)
絵里(だからキッチンで皿洗いをしながら三人の姿を見てるけど、この時間は不思議と私の人生が充実してるなって思ってしまう。間違ってはないのだろうけど、でもどこかが違うそんな充実は実に甘味で……)
絵里(銃弾一つで壊れてしまうような、硝子で出来た秘密の楽園。そんな場所なのかもしれない、ここって)
善子「そういえばことり」
ことり「何?」
善子「ことりって人の名前を呼ぶ時って必ずフルネームで言うわよね、なんで?」
ことり「その呼び方が一番しっくりくるからだよ」
果南「えー私たちのことちゃん付けしてよー果南ちゃん♪って」
ことり「…絵里ちゃん」
絵里「! え、ええ?」
ことり「……善子ちゃん」
善子「ええ!後ヨハネちゃんでもいいわよ!」
ことり「………」
ことり「松浦果南」
果南「なんで!?」
ことり「松浦果南は松浦果南の方がしっくりくる」
善子「ぷっ…くすくす…」
果南「えぇ…なんか納得いかない」
果南「後そこの堕天使野郎笑うな」
善子「ヨハネよ!」
ことり「松浦果南にちゃん付けは似合わないよ」
果南「納得いかない…」
絵里「あははは…」
~同時刻、某カフェ
にこ「…遅かったわね」
希「ごめんごめんって、色々あって遅れちゃった」
にこ「そう」
希「よいしょっと、にこっちがウチに連絡なんて珍しいやん?明日は槍でも降るんやない?」
にこ「降るなら銃弾ね」
希「うーんまぁあり得なくもない」
希「…そういえばあの住宅街のやつはよくもやってくれたね」
にこ「希がグレネードを使った時点で被害は大きかったからあの状況は何を使っても許されたでしょうに」
希「それでグレネードランチャーを使っていいなんてことにはならないやん?第一にこっちは正義の味方やん」
にこ「はっ私は正義の味方なんてやってるつもりはないわよ、勝つための常套手段を使っただけ。爆破で人が死ぬとか知ったこっちゃないわよ」
希「……よくそんなんで対アンドロイド特殊部隊で一番か二番目に常識人なんて言われたものやね」
にこ「他が頭おかしすぎるのよ、そのせいで対アンドロイド特殊部隊のメンツも仲がいいわけじゃないし」
希「…確かにウチもあそこの子たちとはあまり関わりたくないかなぁ」
にこ「ええそうね、でもそんなことより私は聞きたいことがあるのだけど」
希「あ、そうやったね。じゃあ改めてウチに何の用?」
にこ「曜の行方とあんたの連れであるあのお茶目なアンドロイドが言う絢瀬絵里率いる集団でもあんたら殺し屋でもない敵というのを知りたい」
希「うーん、なるほどね」
希「まぁ結論から言うと曜ちゃんの行方は言えないかな」
にこ「…どうしてよ?」
希「ウチとにこっちは友達という関係ではあるけど仲間ではない、いくらウチが無関係とはいえにこっちだけ有利に進む情報はあげれないかな。にこっちが不利っていうならあげてもいいけど、にこっちの周りは海未ちゃんを始めとした頭おかしい人が集まってるから有利になる情報をべらべら言っても面白くないんよね」
希(…というか、今の状況はあの金髪の子の方が圧倒的に不利だし尚更教えるわけにもいかないやんね)
にこ「…あんたってホント意味不明ね」
希「ウチは殺し屋だけど、これでも常識人で相手の立場を尊重してるから♪」
にこ「…それで常識人なら世界のほとんどの人間が常識人ね」
希「実力行使で聞きにこないんだ?」
にこ「あんたら殺し屋に喧嘩を売るととんでもなくめんどうなことになるからね、しかも今はあまり戦力を削れない状況だし」
希「んーまぁそうやね」
にこ「それでどうなの?曜の事はさておきもう一つの方は」
希「いいよ、そっちは教えたげる」
希「でも謎なところもかなり多いからあまり期待しないでね」
にこ「ええ」
希「――ちゃん曰く相手の人数はおそらく三人、それでウチらと同じように殺し屋をやってるらしいよ」
にこ「また殺し屋か…」
希「戦闘は一回もしてないから使用武器とかは分からないけど、まぁ手練れやろうね。動いてるのをわざとちらつかせてるから何かを企んでると考えた方がいいかもしれん」
にこ「…希はそいつらをどうするつもり?」
希「正直邪魔だけど、変に手は出せんからなぁ」
希「しばらくは様子見かなぁ」
にこ「…そう」
希「はぁ…何個も何個も問題を持ってこないでほしいね」
にこ「それはこっちのセリフよ、敵は一つだけ充分よ」
希「全くやね」
希「…まぁいいや、ねえにこっち」
にこ「何?」
希「ウチはにこっちに情報を提供したんだからにこっちもウチに情報を提供すべきだよね?」
にこ「…何が欲しいの?」
希「あの金髪の子のこと……いや欲張り言うならあの金髪の子そのものが欲しいかな」
にこ「金髪?絢瀬絵里のこと?」
希「そう、多分その子」
にこ「…絢瀬絵里が欲しいっていうのは何?部下にでもしたいの?」
希「そうそう!あの子はウチにとって魅力そのものでしかないね、アンドロイドに詳しいウチなら分かる、あの子は“未知の力”を有している」
にこ「未知の力?」
希「なんというか…潜在的っていうんかな?一回戦うだけじゃいまいち力が把握出来ないんよね」
にこ「ふむ…」
希「…まぁいいや、ウチが聞きたいのはそういうことじゃないんよ」
にこ「…何?」
希「その絢瀬絵里って子は何型のアンドロイド?」
にこ「標準型アンドロイドよ」
希「…なるほどね、ありがとうにこっち。ウチが戦ったのは金髪の子じゃなかったから分からなかったんよね」
にこ「…どうするつもり?」
希「……ノーコメントやね」
にこ「殺しに行くなら手伝うわよ、私たちも殺すことを目標としてるし」
希「残念だけどにこっちたちと組むつもりはない、それにウチはその絵里って子を殺したいとは思ってないし。さっきも言ったやん?部下にしたいって」
にこ「…そう、残念だわ」
希「さて、用件は済んだみたいだしウチはここらでおいとまさせてもらうよ、あまり長居はしたくないんでね」
にこ「ええ、じゃあね」
希「ほい、じゃあ」
スタスタスタ
にこ「………」
にこ(絢瀬絵里と希が組んだら……まずいわね)
にこ(その場合は……どうするかしら)
にこ(お互いの総力を費やして戦う総力戦か、それとも私も希の方へ寝返った方がいいのかしら)
にこ「…はぁ、殺し屋は一人だけで充分よ……」
~数時間後、別荘
善子「そのアサルトライフルがどうしたの?」
ことり「ん、あぁこれどうしようかなって」
果南「絵里が使った時にボロボロになっちゃったから流石に使えないよね」
ことり「うん、でも長いこと使ってたしあまり捨てたくないなって」
善子「あ、分かるわ、捨てるに思い出とかが邪魔して捨てられないのよね」
果南「そういうものなの?あまり気にしたことがないんだけど」
善子「そういうものよ」
絵里「…曜に修理してもらったら?」
ことり「あ、絵里ちゃんいたんだ」
絵里「今お風呂から出たところ、曜なら直せるんじゃない?銃が作れるんだし」
果南「確かに」
ことり「……あんまりあいつに頼りたくない」
善子「…まぁ気持ちは分からなくもないわ」
~数時間後、別荘
善子「そのアサルトライフルがどうしたの?」
ことり「ん、あぁこれどうしようかなって」
果南「絵里が使った時にボロボロになっちゃったから流石に使えないよね」
ことり「うん、でも長いこと使ってたしあまり捨てたくないなって」
善子「あ、分かるわ、捨てるに思い出とかが邪魔して捨てられないのよね」
果南「そういうものなの?あまり気にしたことがないんだけど」
善子「そういうものよ」
絵里「…曜に修理してもらったら?」
ことり「あ、絵里ちゃんいたんだ」
絵里「今お風呂から出たところ、曜なら直せるんじゃない?銃が作れるんだし」
果南「確かに」
ことり「……あんまりあいつに頼りたくない」
善子「…まぁ気持ちは分からなくもないわ」
ことり「だから対アンドロイド特殊部隊にいる人もそうだしあの殺し屋の集団もそうだけど今使ってる武器が最適な事が多いんだよ」
絵里「じゃあスナイパーを使ってる人はスナイパーが一番いいのね」
ことり「うん、そうだよ。でも私にはよく分からないかな、スナイパーをメインにしてる人の気持ちが」
果南「色々あるんだと思うよ、性格とかもそうだしスナイパーって大して動かなくていいからそういうのも関係してると思う」
絵里「あぁなるほど」
善子「人それぞれよね、使う武器にもちゃんと理由があるしその武器の中で更に種類があってそれにも理由があるんだから」
果南「アサルトライフルにサブマシンガン、ショットガンやスナイパー、そしてライトマシンガンやマークスマンライフルなんてものもあるんだからそりゃあみんな使う武器も違うよ」
絵里「みんな色々考えてるのね…」
絵里(銃なんてとりあえず持っておけばいいって考えてたけど、そんなことは全然ないみたい)
善子『…こんな拳銃一つじゃあの二人とは戦えない』
絵里(何度も頭の中で響くこの言葉、善子も果南も、そしてことりも自分の最適な銃を使ってると聞くけど私にとって最適な銃っていうのはどういうものなのかしら)
絵里(希って人のショットガン二丁もそうだし、曜の使える武器の多さもそうだし、きっとそこに個性だって求められるのだと私は思う。こういう時に銃を使った戦闘経験の浅さが滲み出るのが悔しかった)
絵里『私が…私が…!』
絵里『……なんで』
曜『人を殺すのが怖いんでしょ』
絵里「………」
絵里(人を殺すのに躊躇いがあるのも、それが関係してるのかしら…)
善子「それで結局どうするの?その銃は」
ことり「…考える。どうせまだ戦えないんだし」
絵里「傷酷いしね…」
ことり「そうそう、いざという時は別の銃を使うし」
果南「ことりって他の銃使えるの?」
ことり「サブマシンガンなら使えるよ、アサルトライフルならバースト銃じゃなければほぼ使えるはず。ブレが酷い銃はちょっと厳しいけど…」
絵里「バースト銃?」
善子「多分三点バーストの事を言ってるんじゃない?」
絵里「あぁなるほど」
絵里「…ん?三点バーストってトリガーを引くと弾が三発出る銃よね」
善子「そうよ、こういうバースト銃の利点はブレを抑制しやすく弾の消費を抑え銃の部品へのダメージを少なくできること、フルオートじゃない分トリガーを引いた時照準がぐんと上がることはないし、リロードの頻度も落ちる、トリガーを引くことでの銃への負担も少ないから長く使える、これに限るわ」
善子「だけど単純な手数で言えばフルオートに劣るわ、フルオートはトリガーを引きっぱなしでいいけどバースト銃は一回一回引き直さないといけないから絶対に手数負けする」
絵里「ふむ…難しいわね。でもバースト銃はブレを抑制しやすいんでしょ?ブレが酷い銃が使えないっていうならことり向けじゃない」
ことり「そういう問題じゃないよ、私は昔から立ち回りが丁寧だって言われてあまり決定打が無くて、だから今の私に必要なのは火力なの、だけど火力が高い銃ってどうしてもブレが酷い銃しかなくて、私どうしても扱えなくて…」
ことり「だけどやっぱり火力は欲しいからだからバースト銃っていう小回りが利く銃を使うよりかはこのQBZ-03のようなちゃんと手数があるフルオートでブレもそこまでない素直な性能をした武器が私にとって一番の銃なのっ」
絵里「へ、へぇ…」
絵里(やはりにわかが口を出すものではないと思った、私の武器については曜に任せようそうしよう…)
絵里「銃って奥が深いのね…」
果南「あはは、ホントにね」
善子「こんな話してたら曜がどんな銃を作ってくるのか気になってきたわ…」
ことり「ねっ」
絵里「ええ」
絵里(これからを生き抜くためには銃の知識も少なからずは必要になるでしょう、だからその時のために、今色々準備する必要がありそうね)
~二日後夜、公園
海未「希」
希「……ん?」
海未「ようやく見つけましたよ、希」
希「何か用?ウチの少ない休み時間を邪魔しないでほしいんやけど」
海未「にこから聞きました、曜の居場所を知ってるそうですね」
希「さあね」
希「というか、今日はフードまで被ってどうしたん?夏真っ只中だって言ってるのに暑くないん?」
海未「心頭滅却すれば火もまた涼し、またその逆も然りです」
希「ひゅーすごいねぇ、剣術を歩む者ってのは」
カチャッ
希「…なんでウチに銃口を向けるん?」
海未「曜の居場所を言ってください」
希「イヤだね」
海未「…では、死がお望みで?」
希「……海未ちゃんさ、足を撃たれたって聞いてたけどなんで平然と動いてるん?」
海未「あなたなら知っているでしょう?」
希「…海未ちゃんって本当に人間なんだよね?実はアンドロイドでしたってオチあるよね?」
希「その再生能力、即時回復とは言わないけど数日経てば治っちゃうソレは軽蔑もんだね」
海未「ありがとうございます、私の体を褒めていただいて」
希「…気持ち悪いね」
海未「ええ、それで教えていただけるのですか?」
希「………」
希(向けられた銃口はほぼウチの真横にあった、下手な抵抗をすればウチは死ぬだろう)
希「……それは無理な出来事やねっ!」
海未「っ!?」
バァンッ!
希(…ただ、上手に抵抗すればどうってことない)
希(ジャングルジムに寄りかかりながらコーヒーを飲んでたウチはしゃがみと同時に海未ちゃんに向かって足払いをした、結果海未ちゃんの持つ拳銃から放たれた銃弾は空へと向かいウチは見事に銃弾を回避することに成功、そしてそのまま浮いた海未ちゃんの背中をキックし、ジャングルジムに叩きつけ攻撃に転じた)
海未「がッ…あっ!」
希「今ここで死ぬのは海未ちゃんだよ」
海未「…っ!」ブンッ!
希「おっと」
希(叩きつけられた海未ちゃんはすぐさまジャングルジムの棒を掴んで体勢を立て直してそのまま突き蹴りをしてきたもんで、ウチは顔を少し横に逸らして回避した)
海未「あまり私を怒らせない方がいいですよ、死にたくないなら早めに曜の居場所を言った方が希の為でもあると思うのですが」
希「心配してくれるのはありがたいけど生憎曜ちゃんの居場所を言うつもりはないかなぁ」
海未「ならやはり死んでもらわないとダメなようですね」シュッ
希「そんなのお断りやねっ!」
希(海未ちゃん特有の超スピードの跳躍は人間の反応速度じゃほぼ回避不可能、だから受け止めるしかないんやけどウチはこの跳躍を何回も見てきたものでね)
希「知ってるよ!海未ちゃんが跳躍をするタイミングなんてっ!」
希(ある程度タイミングさえ読めば返り討ちだってできるんよ。海未ちゃんと距離を置いて、その距離を詰めるべく跳躍をした海未ちゃんに対しウチは蹴り上げをした、結果海未ちゃんのお腹に蹴りがヒットして跳躍の勢いは止まり海未ちゃんは背中から地に落ちていった)
希「まだまだいくよっ!」
希(倒れる海未ちゃんの心臓目掛けてショットガンを一丁突き刺しに行ったけど、海未ちゃんは横に転がり回避――そしてそこからウチは地面に突き刺さったショットガンを抜いて海未ちゃんに向かって片手で発砲、だけど案の定海未ちゃんは超スピードの跳躍でウチが撃つ前に射線から外れてた)
海未「後ろですよっ」
希「はいはい」
希(一瞬でウチの後ろを取るのは流石に人間とは思えないけど、これが海未ちゃんなんだろうね)
希(後ろから声がした時はウチも避けることも受け止めることも諦めて食らうことを選んだよ)
希(戦闘経験が浅い人ならここで発砲をする為に銃を構えて反撃の隙を作ってくれるんやけど、海未ちゃんはそうしてこなかった)
海未「はぁッ!」ドカッ!
希「ぐ…ぎっ…!」
希(お返しと言いたげな背中への強烈な飛び横蹴り、この威力ときたらやっぱり人間とは思えない威力だよ)
希(蹴りを食らったウチは前方へと吹っ飛んだ)
希「はぁ…いったた……」
海未「随分と余裕そうですね」
希「ウチは常に受け手なもんでね」
海未「あの蹴りを食らってもそこまでダメージが通ってないのはもはやアンドロイドと疑ってしまいますね」
希「それはお互い様やん?」
カランッ
海未「!?」
希「あ、気付いちゃった?」
海未「なっ…」
ドカーン!
希「…まぁもう遅いけど」
希「……海未ちゃん相手にはもっと別の場所で使いたかったんだけどね」
希(ウチの十八番と言っても過言じゃない技…なんかな?)
希(ウチは小さい時は占いや手品が好きだった、神秘学が好きでただそれに似たモノで尚且つウチでも出来た手品にハマると人を騙す行為に詳しくなった)
希(相手が一番油断するのは勝利を確信する時じゃなくて勝利を確信するキッカケが出来た時、ウチに蹴りを浴びせた海未ちゃんはウチの事しか考えてなくて、ウチの手元にあったピンの抜かれた手榴弾には目もいかなかっただろうね)
希(ウチ自身の体を犠牲にしてピン抜きグレネードを足元に転がすこの技は様々な人を葬ったよ)
希(だからウチは常に受け手なんよ)
海未「…その程度ですか?」
希「…!」
海未「私はその辺の有象無象とは違いますよ、グレネードと手品一つでくだばってたら対アンドロイド特殊部隊にはもういませんからね」
希「あはは…やっぱり海未ちゃんとは関わるべきじゃないね」
海未「ふふふっ降参しますか?」
希「いいや、生憎ウチはまだ死ねないんでね」
希「降参はやめとくよ」
海未「そうですか」
希「じゃあ第二ラウンド開始といこうやん?」
海未「ええ、そうですね」
希「ふう」
希(ウチ深い息を吐きながら二丁のショットガンを下げた)
キランッ
希「…相変わらずやね、その武器」
海未「私の相棒ですから」
希「……そっか」
希(街灯の光に照らされ黒光りする刃物――それを見れば人間だろうとアンドロイドだろうと海未ちゃんの明確な殺意を感じ取ることは可能だった)
希「…にしてもやっぱり珍しいね、銃剣なんて」
海未「私からすればむしろなんでみんなつけないのか不思議ですね」
希「銃が頂点に立ってるというのにわざわざ剣術を嗜む異端者なんているはずないやん?」
海未「そうですか、ですがそれは私にとっては好都合ですね」
海未「誰も使わない分、対策が出来ませんから」
海未「希も素晴らしいと思いません?このロンズデーライトで出来た剣は」
希「……そうやね」
希(ロンズデーライトというダイヤモンドより硬い鉱物で出来たその剣はデュランダルの如く壊れない剣と化している)
希(海未ちゃんは銃を学ぶと同時に剣術も嗜んでいた為にこのようなガンソードスタイルが出来上がった)
希(ここで問題なのは――)
希(ウチの戦闘スタイルとほとんど同じということ)
希(ただウチの持つショットガンの銃口には刃物がなく鈍器として扱う型だから根本的には一緒なだけ)
希(…ただ、そこだけでも一緒というのなら……)
海未「先手必勝!」
希「させんよ!」ポイッ
希(銃口がウチに向いてきたもんですぐにスタングレネードを投げた、ウチは人間だし曜ちゃんのような銃弾を回避するための補助装置を持ってるわけじゃないし、海未ちゃんのような人間らしからぬ運動神経を持ってるわけじゃないから銃弾は避けれない)
希(だからまず前提として弾を撃たせないという立ち回りをしないといけないんよ)
海未「くっ…」
希「はっ!」ダッ
タッタッタッ
希(海未ちゃんが後ろへ跳躍するのを見てウチは眩い閃光の中に突っ込んだ、ウチは投擲物が大好きなもんでフラッシュに備えたゴーグルをいつもおでこにつけてる、だからこういう時関係無く行動できるのがウチの強みだ)
希「ウチのダンスを見てね海未ちゃん!」
海未「出ましたね…!」
希(ショットガン二丁を乱射しながらバレエのように舞った、近距離でウチのショットガン二丁と平面でやり合うのは誰であろうと無理に等しい、それでいてウチは乱射しながら相手に近づくんだからスナイパーでもいない限りはこの戦法が崩されることはない)
希(もちろんリロード時は止めないといけないけどね)
海未「ホントに頭の悪い武器ですね」タッ
希「ウチの相棒の悪口は言わんといてほしいねっ!」バンバンッ
希(飛び退く海未ちゃんを追うようにウチも跳躍を繰り返しながら発砲する、ウチのショットガンはどちらもAA-12と呼ばれるフルオート式のショットガンで尚且つドラムマガジンだから一つの弾倉に31発の弾が入ってるんよ)
希(だから弾切れも頻繁には起こさないし手数はどのショットガンよりもどのサブマシンガンより強く近距離最強ともいえる、そんな力強いこのAA-12二丁がウチの相棒や)
海未「まぁこちらも逃げてるだけじゃないですけどね!」ドドドド
希「はいはい知ってるよ!」ポイッ
希(横っ腹についてるスモークグレネードを辺りにばらまいた、次の瞬間には公園の半分が煙に覆われてお互いにお互いの居場所を分からなくさせた)
希(だから今のウチにリロードをして、よく耳を澄ませた。目を瞑り、音にだけ集中すれば微かに足音が聞こえてくる)
海未「そこですねっ!」スッ
希「うおっと…」
希(足音に気付き目を見開く頃にはもうそこまで海未ちゃんは近づいてた、目で確認出来ない情報は音で確認するのが基本中の基本、それを知ってるウチらは互いに同じ事をして、海未ちゃんはウチを捕捉することが出来たしウチは海未ちゃんの銃剣の一閃を回避することが出来た)
海未「逃がしません!」ドドドド
希「きっ…」
希(一閃を跳躍で回避した後、無理矢理体を左へとねじりその勢いを利用してスライディングをして海未ちゃんが放つ銃弾を回避した)
希「いつっ…!」
希(だけど如何せん、アンドロイドみたく射線が見えてるわけでもないし運動神経も劣るために銃弾がウチの頬を掠めた。でも、ここは当たらなかっただけマシやろうね)
ちょっと中断、再開できなかったらまた明日。でもキリのいいところまでやりたいので多分寝るまでにやります
希「仕方ないからウチと一緒におみくじやろかっ!」ポイッ
希(そういいながらグレネード、スタングレネード、スモークグレネードを周りにばらまいた)
希(煙で前が見えない状況でなら転がる物体も何かは確認できない、だから必ず避けることを強いることが出来る。そして煙でどこに何が転がってるか分からないからどこに避けていいのかも分からない、それでいてウチは動かないでいいから安全におみくじの行方を見守ることができる)
希(海未ちゃんが引くのは大吉であるスモークグレネードか、吉であるスタングレネードか、凶であるグレネードか)
希(結果は全て海未ちゃん次第やね)
ドカーン!
海未「ぐああぁっ!」
希「ヒット♪今迎えにいくで海未ちゃん!」ダッ
希(そして海未ちゃんが引いたのは凶であるグレネードだった、大きな爆発と共に海未ちゃんの苦しそうな叫び声が聞こえて声の成る方へショットガンを下げて突っ走った)
海未「こんなんでくたばれませんよッ!」ブンッ!
希「あっと」
カンッ!
希「…相変わらずやね」
海未「死ねませんから」
希(突っ走った先、頭から血を流す海未ちゃんはすかさずウチに銃剣を振り下ろすもんでウチは二丁のショットガンをクロスさせて受け止めた)
海未「このっ!」カンカンッ
希「ん…いっ…!」
希(左から右から上から下から――――ショットガンを撃つ暇も与えない無数の斬撃を苦し紛れに受け止めた、流石剣術を嗜む者はチャンバラごっこのようにただ振り回すだけじゃないのが厭らしい)
希(そして十数回に及ぶ斬撃の後、強烈な飛び回し蹴りをウチに浴びせ、ウチが後退した隙を狙ってアサルトライフルを発砲)
希「…っ!」
希(流石に死を悟った)
希「はっ!」
希(だけどそのまま死を受け入れるはずもなく、ウチは体を無理矢理動かし右へと跳躍した)
希「っぎ、ああぁっ!」
希(死ぬのは避けた、だけどそれでも死に至る痛みだった)
希(海未ちゃんのアサルトライフルから放たれた二発目の銃弾がウチの横っ腹にヒット、ただここで立ち止まってたらウチは死ぬ。経験がウチに語り掛けた)
希(だからそのまま跳躍途中で片方のショットガンを使って海未ちゃんに向かって発砲した)
海未「はっ」ダッ
希「……ぁ」
希(そして次の瞬間には人間とは思えない素早い跳躍を二回繰り返してウチの目の前にやってきた)
希(あぁ…だから海未ちゃんとは関わりたくないんよ。海未ちゃんみたいな常識外れの動きをする人と一対一で本気で戦えば)
希(死ぬに決まってるやん)
海未「ばいばいですね希ッ!」
ザクッ!
希「っか……」
希(超一流相手なら、銃を構えて発砲する時間でさえ隙になる)
希(焦っちゃったのかなぁ、ぶっちゃけあの状況は撃っても撃たなくても同じだったかな…)
希(…でも、あえて何もせずに相手が攻めてくるのを待った方が助かる可能性も増えたかもしれない)
希(……ほら、ウチ常に受け手やし)
希「………ぁ」
海未「無様ですね、希」
希「ぁ…ぁァ……」
海未「今ここで曜の居場所を吐いてくれるのなら、助けてあげますよ」
海未「…まぁ、その状態で言うのは無理でしょうけどね」フフフッ
海未「にしても、希にしては珍しいですね」
希「……ぁ?」
海未「…いや、曜の技術が上回っただけなのでしょうか」
海未「いくら私の跳躍が並外れていても、近距離でショットガンの弾を躱せるはずがないでしょう?」
希(そういいながら不気味に笑って踵を上げながら靴を指さす海未ちゃんを見て、ウチは察したよ)
海未「流石曜の跳躍アシストは希相手には効果絶大だったようですね」
海未「それを見落とすなんて、希もまだまだですね」
希(靴の裏が仄かに光ってるもんで、仕組みは分からないけど何かからくりがあるんやろうね)
希(やられたなぁ、鬼に金棒…今更知ったところで何の意味もないけどね)
海未「…では、そろそろお別れの時間と行きましょうか」
カチャッ
希「………」
希(死を受け入れたウチはゆっくりと瞼を閉じた)
カランッ
海未「ッ!?グレネード!?」
希「ぃ……しょに……しの…か」
希(最後にウチは海未ちゃんの足を掴んで、海未ちゃんに笑顔を見せた)
ドカーン!
「希ちゃーん!!?」
希(声が聞こえた、ウチの優秀な部下の声。太陽のように明るく、でも時に月を宿す暗き闇を持つ声の持ち主)
希(その声が聞こえた瞬間、ウチは安心して力を抜くことが出来た)
海未「か…ぁ……」
「希ちゃん!?ねぇ希ちゃん!?」
「ほ、穂乃果ちゃんおちつ」
穂乃果「落ち着けないよ!間に合わなかった…!花丸ちゃん!希ちゃんを持って帰るよ!」
花丸「は、はいずら!」
穂乃果「…後、こいつは私が止めを刺す」
海未「…ぃ…いぃ…!」
穂乃果「…よくも希ちゃんを」カチャッ
「はいストップー!」バァン!
穂乃果「っ!」シュッ
「やっぱり流石だね、その身のこなし。バイオレットムーンの右腕と呼ばれながら、軍神という異名を持つ穂乃果ちゃんは」
穂乃果「……誰?」
梨子「桜内梨子、対アンドロイド特殊部隊所属だよ」
穂乃果「…そっか、だから何?」
梨子「海未さんを回収にしに来たんです、ここで殺されては困るので」
穂乃果「…あっそ」バンッ
梨子「……どこを撃ってるんですか?海未さんに当たってませんよ?」
穂乃果「!?」
花丸「あれ!?海未さんは!?」
海未「はぁ…はぁ…ここですよ!」
穂乃果「なんで…」
梨子「…ふっ…ふふふっあははははっ!」
花丸「…ずら!?」
梨子「あははははっはははははーあ…」
梨子「ねえせっかくあなたたちのリーダーが命を犠牲にしてまで与えたダメージが無意味だったって知った今の気持ちはどう?」フフフッ
梨子「悔しいよねぇ辛いよねぇあなたたちのリーダーの命、無駄だったね…んふふふ…あはははははっ!」
梨子「あっはっはっはっは!あーすごい気持ちいいなぁ、人が死んだ後にこういうことが出来るから対アンドロイド特殊部隊ってやめられないよね」
梨子「んふふふ、まぁそんな私をよろしくね、穂乃果さん」ニコー
穂乃果「……へぇ、死にたいんだ。よく分かったよ」
梨子「そんな、今穂乃果さんたちと戦うつもりはないですよっ」アセアセ
花丸(さっきまで狂ったように笑ってたのに急に控えめになって気持ち悪いずら…)
梨子「にこ先輩!」
にこ「あいよ」ポンポンッ
穂乃果「グレネードランチャー…!花丸ちゃん逃げるよ!」ダッ
花丸「あ、うん!」ダッ
タッタッタッ
花丸「あの、穂乃果ちゃ…」
穂乃果「………」
花丸「………」
花丸(今話しかけるのはやめておくずら…)
穂乃果「…貸して」
花丸「え?」
穂乃果「希ちゃんのショットガン持ちながら希ちゃんをおんぶするのは辛いでしょ」
花丸「あ、うん…」
穂乃果「……仕方ないけどあの夢追い人を呼ぶよ」
花丸「…そうだね、流石に来てくれるよ」
花丸「希ちゃんの左腕だもん」
穂乃果「……海未、とか言ったっけ」
花丸「あの青い髪の人?」
穂乃果「それ、希ちゃんからはやばいやばいとは言われてたけどあいつは何?なんでグレネードの爆破を間近で受けても生きてるの?」
花丸「マルの情報が確かなら海未という人は他の人間と比べて魔法でも使ってるかのような再生能力と生命力があるらしいずら、だから銃弾一発貫かれたくらいじゃ死にはしないっぽくて、それ同様グレネードも耐えたんだと思う」
穂乃果「……化け物じゃん」
花丸「………」
花丸(…穂乃果ちゃんも充分化け物だけどね……)
穂乃果「……なんでこんな時にあいつはいないの?」
花丸「あの人はさすらい人だから…」
穂乃果「…いくら散歩が好きとはいっても、その間に飼い主が死んじゃったら何の意味もないじゃん」
花丸「それは……そうだね」
花丸(……今あの人は何をしてるんだろう)
花丸「……ごめんね、穂乃果ちゃん」
穂乃果「…なんで花丸ちゃんが謝るの?」
花丸「マルが銃を扱えたらきっと、戦力差はそこまで生まれなかっただろうから」
穂乃果「…いいよ、花丸ちゃんの過去は知ってる。無理に銃を使う必要なんかないよ」
花丸「……今日の穂乃果ちゃんは優しいんだね」
穂乃果「………」
穂乃果「…こうなった以上、死ぬまで引き下がれないよ」
花丸「…もちろんずら!」
~同時刻、別荘
コンコンッ
絵里「曜、いる?」
曜「いるよー」
絵里「入ってもいいかしら?」
曜「うん、いいよ」
ガチャッ
絵里「失礼しま…ってうわ…すごい隈じゃない…」
曜「あはは…かれこれ徹夜続きだからね…」
絵里「あなたねぇ…」
絵里(二日間ずっと部屋にこもりっぱなしでちょっと心配になって見に行ったら酷い有様、そこら中に部品や紙切れが転がってて髪はぼさぼさ、別に急いでるわけじゃないんだから休めばいいのにと一目見て思った)
曜「…なんかさ、寝ぼけてるだけかもなんだけど…変な予感がするんだ」
絵里「変な予感?」
曜「戦況が大きく変わりそうな予感がする」
絵里「…何を根拠に言ってるの?」
曜「…ただの勘だよ、悪寒がしただけ」
絵里「そ、そう…」
絵里「…そういえば曜は戦えるのよね?」
曜「うん、戦えるよ」
絵里「今でも銃弾は避けれるの?」
曜「もちろん避けれるよ」
絵里「どうやって?」
曜「アンドロイドの原理とはまた違うけど、私の靴には重力を利用したブースト機能があるんだ。だから跳躍すれば銃弾を避けれるようになるそれ相応の勢いがプラスされる、それで避けるんだ」
絵里「へぇ…」
曜「このゴーグルはアンドロイドと同じで射線が見えるようになる、この二つのアイテムで銃弾を避けるんだ」
絵里「なるほどね…人間相手はそこまで警戒する必要ないと思ってたけどやっぱり侮れないわね…」
曜「当たり前だよ、特に希ちゃんとか対アンドロイド特殊部隊の人は舐めてかかったら死ぬよ」
曜「海未さんとかと関わったりでもしたらほぼ死は確定だよ」
絵里「…そこまですごいの?」
曜「…まぁね」
曜「……あ、出来た」
絵里「え?」
曜「はい、絵里さんの武器」
絵里「え、これが?」
曜「そうだよ、どうかな?」
絵里(突然渡された一つの銃、どんな銃かは分からないけどとりあえずコメントするならグリップの部分にYOUというロゴが入ってた)
曜「スコーピオンEVO A1————それがその銃の名前だよ」
絵里「すこーぴおんえぼえいわん…」
曜「発射レートはかなり早めの銃で、善子さんの持ってる銃よりも早いよ。装弾数は52発のサブマシンガン」
曜「他のと比べてとびぬけた連射速度を持ってるから瞬時火力は並外れたものになってるよ、その分ブレも結構酷いけど、一応コンペンセイターとかアタッチメントをつけてブレを軽減させてるから最適の状態ではあると思う」
絵里「へ、へえ…」
曜「それが今の絵里さんにとって最適の武器だと私は思うよ」
絵里「これが……」
絵里(これが将来私の相棒になるのだろうか、曜の話を聞けばすごく攻撃的な銃らしい)
絵里(クセは強いけど、使いこなせれば人間だろうとアンドロイドだろうと瞬殺で、例え射線が見える相手だろうとそう簡単に銃弾を避けさせない銃でもあるから対人でも対アンドロイドでも非常に有効と豪語してた)
善子「これが……」
果南「絵里の武器…」
ことり「趣味悪っ……」
果南「…それことりが言うことじゃないよね」
絵里「どうかしら…?」
ことり「スコーピオンEVO A1ってあの瞬時火力がすごい銃でしょ?初めて見たよ」
善子「私も…これレアな銃よね…」
絵里「え、そうなの?」
ことり「名前だけは結構広まってるんだけど、肝心の実物が出回ってないの。危険な銃だからね」
果南「撃ってみれば分かるよ、トリガーを一瞬引くだけで何発の弾が出ることか…」
絵里「そんなにすごい銃なの?これって…」
曜「戦い慣れしてない人には到底扱うことは無理であろう代物だよ、銃社会においてもこういう危険な銃が増えると作る側としても使う側としても厄介だから誰も作ろうとはしないんだよ」
絵里「どうして?」
ことり「スコーピオンEVO A1を一から作った人間は貴重な人材として狙われるからだよ、こんなもの作れる人早々いないからね。それにその銃は連射速度が速すぎて射線が見えても避けれないことがあるんだよ、だからアンドロイドにとってそれは勝負においての懸念材料だし、ましてやアンドロイドが避けれない銃弾を人間が避けれるはずもなく、みんなそれを忌み嫌ってるんだよ」
果南「私もその銃にいい思い出はないかな…」
絵里「そこまでなのね…」
曜「そうだよ、まぁそれで頑張ってよ」
絵里「え、ええ」
絵里(この後家の地下にある射撃場で試し撃ちをしたけど、曜の言う通りブレがあまりにも強くて確かに戦闘慣れしてない人には無理がある銃だと感じたわ)
絵里(それにこの銃の何がすごいってトリガーを引くとすぐに一マガジンが無くなる上に、その後私の目先数mにある的を見れば蜂の巣の如く数えきれない黒い穴が無残にも残っていて、こんなのを人に向かって撃ったらすぐに死ぬに決まってるわよ…)
果南「どうだった?絵里の相棒になる予定の銃は」
絵里「あれはすごいわね…いくらなんでも火力が高すぎるわ」
ことり「その分クセも強いから上手く扱わなきゃだね」
絵里「ええ」
曜「ふー…じゃあ私は寝るよ、おやすみ…zzz」
善子「寝るのはやっ…」
絵里「徹夜だったらしいからね…」
果南「あはは、お疲れ様だよ」
ことり「…絵里ちゃんの武器が出来たわけだけど、それでどうするの?これから」
絵里「とりあえず様子見だけど、動けるようならもちろん動くわよ」
善子「でも相手が何かしてこない限りは動けないわね」
果南「そうだね、こうやって今会話してるうちも何か動いてるかもよ?」
ことり「…それはそうだね、対アンドロイド特殊部隊は今も渡辺曜を探してるだろうし」
絵里「…ええ」
絵里(いくら私の銃が強いとはいえ、それが勝敗に直接的に繋がるかと言われたらNOだ)
絵里(今AAの総戦力が私たちのところに来たりでもしたら勝ちはまずないでしょう、果南とことりが戦えるならまだしも戦えないというのだから現在も戦況は超劣勢のまま)
絵里(何回も言うけど、負け戦上等ではないからね。劣勢の状態で攻めるのは悪手であり自殺行為、おとなしく傷が癒えるのを待つのが最善の択なのよ)
絵里(……でも、私たちがこうやって何かをしている間に、誰かが廻した歯車が狂い始めてた)
絵里(それは私たちにとって、良い意味でも悪い意味でも転機であった)
~次の日
穂乃果「……なにこれ」
「本です!漫画ですよ!」
穂乃果「…なんで女の人と女の人が付き合ってるの?」
「そういう漫画だからですよ!」
花丸「はわぁ…えっちずら…」
穂乃果「……まぁいいよ、そんなことよりね、なんで今日ここに呼んだか分かる?」
「いえ、全く」
「でも珍しいですよね、穂乃果さんが私を呼ぶなんて。いつもは花丸さんが呼んでくれるのに明日は槍でも降るんじゃないんでしょうか?」
穂乃果「…緊急事態なんだよ」
花丸「………」
「…緊急事態?」
花丸(穂乃果ちゃんや私の顔を見て、何かを察したのか——ちゃんの顔も引き締まったものになった)
穂乃果「…希ちゃんが死んだ」
「…え?」
「……嘘…ですよね?」
穂乃果「…ホントだよ、——ちゃんが業務用アンドロイドというのなら私が嘘を言ってないって分かるでしょ?」
穂乃果「あなたも私と同じ、軍人として生まれたアンドロイドなんだから」
「………」
「…分かりました。では希さんを殺したのはどこのどいつですか?」
花丸「対アンドロイド特殊部隊、園田海未さんだよ」
「……そうですか」
「悲しいです、あそことは戦いたくなかったんですけどね」
カチャッ
穂乃果「…やる気なんだね」
「当たり前ですよ、業務用アンドロイドは主がいないとやっていけない生き物ですからね」
「主が殺された今、主を殺した人物を殺しに行くのが部下ってもので、システムってやつで、本能っていうでしょう?」
穂乃果「…もちろんだよ」
「花丸さんはいつも通り情報収集をお願いします、穂乃果さんは私と共に行きましょう」
花丸「わ、分かったずら!」
穂乃果「…二人じゃ勝てないよ、数で負ける」
「知ってます、だから準備をしましょう。せっかくこの希さんの住んでたマンションという拠点もあることですし」
穂乃果「準備?」
「助っ人を探しに行くんですよ」
穂乃果「…誰か候補はいるの?」
「もちろんです、二人います」
穂乃果「…助っ人に出来る確率は?」
「…80%といったところですね」
穂乃果「ふーん……」
「……この銃、久々に持ちました」
穂乃果「私も、——ちゃんがその銃持ってるの久々に見た」
「私は戦いがあまり好きじゃありませんからね、普段はハンドガンしか持ちません」
花丸「…それ使えるずら?壊れてない?」
「はい、使えますよ」
花丸「……ハニーバジャー、やっぱりいつ見てもかっこいいずら」
穂乃果「…相手にしたくないね」
「希さんの言葉を使わせてもらうなら、ウチの相棒ってやつですから」
「…まぁそんなことより早速行きましょうか」
穂乃果「…うん、ついてくよ」
花丸「マルも!」
せつ菜「私、優木せつ菜は本気ですよ。希さん」
せつ菜「あなたの仇は絶対にとります」
せつ菜「……絶対に」グッ
一度中断します。
再開は多分今日の夕方か夜、まだまだ続くと思うのでよろしくお願いします。
スクスタやりながら待っとります
CoDとデトロイト混ぜたような感じ
すいません、ちょっと今日はスクスタの方に集中させてください。
次キリのいいところまで行くのにかなり長くなると思うので、ちょびっとだけ更新だとどうあがいても変なところで終わるので一気にキリのいいところまでいけるようちゃんとした時間作ってから更新します。
「じゃあ、その前に私たちと遊びましょうか?」
せつ菜「!?」
穂乃果「っ!?」
花丸「ずらっ?」
パリーン!
せつ菜(ベランダからガラスを突き破って飛び出てきたのは見知らぬ誰か、でも相手の顔を見て明らかな“敵意”と“殺意”を感じた私はテーブルに置いてあったアーミーナイフを逆手持ちで振った)
「はっ!」
カンッ!
せつ菜「きっ…」
穂乃果「このっ…!」バンッ!
「!」シュッ
せつ菜(だけど案の定、相手もナイフを取り出して相殺。そして次の瞬間には穂乃果さんが手に持ってた拳銃を撃ったから刃が軋むことなく相手との距離が空いた)
穂乃果「…誰?」
せつ菜「…!もしかしてあなたは最近この辺をちょろちょろしてる…あの…!」
「ちょろちょろしてるなんて失礼ね」
ツバサ「私は綺羅ツバサ、あなたたちと同じ殺し屋よ。よろしくね」
せつ菜「殺し屋が私たちに何の用ですか?殺しの依頼を受けて私たちを殺しに来たんですか?」
ツバサ「違うわね」
穂乃果「ならなんで?私たち今暇じゃないんだけど」
ツバサ「それは私も同じ、だからこうやってあなたたちを殺しに来てるじゃない」
穂乃果「……だからそれをどうしてってさっきから聞いてるんだけど」
ツバサ「殺し屋は一つでいいの、そこまで言えば分かるでしょ?」
せつ菜「…理不尽極まりないですね、希さんが死んだ今が攻め時ってことですか」
ツバサ「ええ、その通りよ」
穂乃果「…あなたがどれだけ強いのかは知らないけど、私とせつ菜ちゃんに勝てるとは思わないほうがいいよ」
穂乃果「侮るつもりはないけど、仮にもこちらは殺すことに全てを置いたアンドロイドだからね」
ツバサ「ええ、でもこちらも一人で来てるわけじゃないのよ?」
穂乃果「…!」
せつ菜「スナイパーです!避けてくださいっ!」
せつ菜(風で靡くカーテンが大きく揺れ始め外を映した時に見えた一つの煌き——それを見た瞬間体が動いた。穂乃果さんもそれ同様、花丸さんだって戦えないとはいえ戦闘経験はあるから私が声をかける頃には死角へと逃げてた)
シュンッ
せつ菜「くっ…」
せつ菜(私がスナイパーの弾丸を躱すと、ご丁寧に白い軌跡と鋭い射撃音まで残して私の後ろにあった花瓶を貫いていった)
ツバサ「休んでる暇はないわよ!」
せつ菜「ええですよねっ!」
せつ菜(相手も私と同じCQCを得意とする人のようで、銃を持ってるのにも関わらずキックやパンチを使って攻めてきた)
せつ菜(だから私へと伸びる相手の腕を掴んだけどすぐに弾かれてしまい、そう簡単には反撃をさせてくれなさそうだった)
花丸「あ、あんまり深追いはいけないずら!」
せつ菜「分かってます!」
せつ菜(スナイパーに見られていると分かっているなら深追いは絶対にダメです、スナイパーの弾丸はアサルトライフルやハンドガンの弾丸と違って弾速が比べ物にならないので弾道予測線が発生した直後に行動を移さないと避けきれず致命傷か或いはそこで死亡してしまいます、なので弾かれた直後は飛び退き様子を窺おうと思ったのですが……)
穂乃果「くらえ!」
せつ菜(その直後には穂乃果さんが私にカバーをするように足元に転がってたショットガンを連射しだした)
ツバサ「ひゅーAA-12は相変わらず派手ねぇ」
せつ菜(室内で、しかも平面でショットガンと対峙するのは誰であろうと不可能、だから相手はベランダへと逃げ出してそのまま飛び降りた)
せつ菜(しかしここは高層マンションの上階、そうと分かっていて自分から飛び降りるということは助かることが分かっての投身だったのでしょう)
せつ菜「穂乃果さんッ!」
せつ菜(私は考える間もなくベランダから飛び降りて相手を追った。だけどこのままだとスナイパーの的になってしまう、だから私はテレパシーを信じてあのスナイパーをどうにかして、と穂乃果さんの名前を呼んで以心伝心を願った)
穂乃果「分かったよっ!」
花丸「マルも手伝うずら!」
せつ菜(流石穂乃果さんは天才です、私の言いたいことを理解した穂乃果さんは私に続くようベランダから飛び降りスナイパーの方向に向かってアサルトライフルを使いちゃんとした殺意を込めて発砲した)
穂乃果「花丸ちゃん!」
花丸「はいっ!」スッ
ボンッ!
せつ菜(そして連なる銃撃音の間を縫うように入り込む低い音はスナイパーの弾道を捻じ曲げた)
せつ菜(大都会の大きな公道の上空で“煙る”白い壁——その平和に入り込む違和感ですら気にせず下へ落ちる私たちには驚く暇も喜ぶ暇もない
せつ菜(花丸さんが投げたスモークグレネードは上空に厚い煙の壁を残して穂乃果さんと私へと歯向かう射線を遮った。これでスナイパーは私たちの居場所が分からず撃つことが出来ない、言葉無しでここまでの連携が出来るのは私たちの心が通っている証拠だった)
せつ菜「待てーっ!」
ツバサ「よっ…せいやっと!」ポイッ
せつ菜(空中に浮いた状態じゃろくに体を動かすことが出来ない、だからそれを利用してピン抜きグレネードをある程度溜めてから放すことで私たちは確実にグレネードの爆発に飲まれてしまう)
穂乃果「甘い」バンッ
ドカーン!
ツバサ「ぐあっ!?」
せつ菜(でも、穂乃果さんがいるから安心出来る私がいた。放たれたグレネードは穂乃果さんのたった一発の発砲ですぐに爆発し、その爆発で相手は重力場であるこの空中で、更に重力を加速させ勢いよく落ちていった)
せつ菜「穂乃果さん!」
穂乃果「了解だよっ!」
せつ菜(以心伝心——穂乃果さんの名前を呼ぶだけで私のやりたいことを理解してくれて、次第に穂乃果さんは空に足を向けた私の上にやってきて、足の裏を合わせ、私を地に落とすように、また私を踏み台にするように私の足の裏を踏みしめた)
せつ菜(するとどうなるでしょう、地に落ちる私はメテオの如く凄まじい速度で落下していき、次の瞬間には丁度下にある店から飛び出ているシートのような屋根に落ちて落下の衝撃をやわらげ、トランポリンのように一度跳ね上がってから地面へと着地し、何故かピンピンしてる相手に向かって発砲した)
ツバサ「はっ」シュッ
せつ菜「やはり銃弾は避けますか…」
せつ菜(しかし案の定というべきか、車が通る公道で大きく半円を描くように走り銃弾を躱すその姿はやはりアンドロイドです。仕方ないので私も大きく半円を描くよう走って発砲をしてはリロードを繰り返しました)
せつ菜「ほっと」シュッ
せつ菜(もちろん相手も私と同じ事をしてきました)
穂乃果「…っと」
せつ菜(そうして半円を描いてるうちに穂乃果さんも背中に希さんのショットガン二丁という二つの翼と、その間にあるアサルトライフルを背負って、この地に堕天使の如く落ちてきました)
ドドドドッ!
せつ菜「! 穂乃果さんっ!」
穂乃果「私の事は心配しないでっ!」
せつ菜(私と相手が対向する中で、その相手の後ろの路地裏から飛んできた無数の銃弾。自身がアンドロイドであるならその銃弾が私ではなく穂乃果さんに向かって飛んでいるというのは一目瞭然だった)
せつ菜(だから穂乃果さんに声をかけたけど、流石にこの程度で死ぬほど穂乃果さんも弱くはない。少しの危なっかしさも見せない華麗な回避で銃弾を全て避けきった)
せつ菜「大丈夫ですか?穂乃果さん」
穂乃果「当たり前だよ、こんなんでやられてなんかいられない」
「大丈夫か?ツバサ」
ツバサ「ええ、でも別に助けなんかいらなかったのに」
「バカをいえ、失敗は誰にでもあるものだ。如何なる時も最善であることが重要だ」
ツバサ「…そうね、ありがとう」
ツバサ「英玲奈」
英玲奈「礼はいい、それよりあの二人だ」
ツバサ「ええ、やっぱり一筋縄じゃ行かなそうね」
英玲奈「どちらも生産中止になった軍人生まれの業務用アンドロイドの残骸と聞く、つまりは殺すことに関しては超一流だ。どのアンドロイド、どの人間よりも強い、簡単には殺させてくれないだろう」
穂乃果「…簡単には殺させてくれない?勝つ前提なんだね」
ツバサ「わお、聞こえてるみたいよ」
英玲奈「耳が良いのだろう」
せつ菜「勝つ気でいるのはいいですけど、足元掬われないように気を付けてくださいね」
ツバサ「ふふふっどうも忠告ありがとう、でも勝つ前提でいるのはあなたたちも同じよね?」
穂乃果「当たり前だよ、私たちは常にこの姿勢で戦ってきたからね、“いつも”を変えるつもりはないし、常に殺すことだけを考えてるのが殺し屋の矜持ってものだと思うんだけど」
ツバサ「ふふふっこれは失礼、一本取られたわ」
英玲奈「業務用アンドロイドのくせに口が達者なんだな」
穂乃果「私やせつ菜ちゃんは他のとは違うから」
英玲奈「…そうか」
穂乃果「…じゃあ、そろそろ始めようか」カチャッ
ツバサ「ええ、そうね」
せつ菜(穂乃果さんが銃のチャージハンドルを引くと同時に高まる緊張感——お話は終わりです)
せつ菜(そしてここから始まるのは殺し合い——私たち殺し屋が幾度なく経験してきた過ちであり運命)
せつ菜「………」
せつ菜(互いが睨み合い沈黙に返る公道、周りには銃を持った警官もいるでしょうが、生憎三流が私たちのフィールドに踏み込めるほど、ここは生半可な場所じゃない)
せつ菜(死にたがりな人だけ、ここに来ればいい)
パーンッ!
せつ菜「はっ!」
ツバサ「今ね!」ダッ
英玲奈「戦闘開始」
穂乃果「負けないっ」ダッ
せつ菜(私に向かってきたスナイパーの銃弾が始まりの合図だった。私がそれを避けたと同時に緊張で止まった時が動き出し、銃を構えたり走り出したりで、とうとう戦いは火蓋を切って落とされた)
ドカーン!
せつ菜「!」
英玲奈「余所見してていいのか?」
せつ菜「しまっ…!」
せつ菜(始まったですぐに聞こえる爆発音、体感ではそう遠くない場所で発生した爆発だと思うのでもしかしたら私たち関係なのではと思った)
せつ菜(しかし兎にも角にも爆発が起こりほぼ反射的に上を見てしまった私は相手の超接近に気付けなくて、そのまま飛び横蹴りを食らってしまった)
せつ菜「ぐあっ!」
せつ菜(そして吹っ飛ぶ私、相手の首を見てアンドロイドとは分かっていていましたが、この相手の蹴りは一味違った)
せつ菜(通常のアンドロイド——ましてや戦闘型のアンドロイド以上の威力に、私は後ろにあったデパートの入り口のガラスを突き破ってその奥の壁に叩きつけられた)
ドカーン!
せつ菜「ふう…」
せつ菜(そして相手がいるであろう、そして私が蹴りを受けた辺りで飛び散るコンクリート、それを見て私はわずかに肩やスカートに積もった瓦礫を払いながらゆっくりと体を起こした)
英玲奈「随分と小癪な真似をしてくれるな」
せつ菜「…私は受け手の方が得意ですから」
せつ菜(希さんの十八番——近接攻撃をわざと食らってピン抜きグレネードを地面に落とす)
せつ菜(伊達に希さんの奥義の一つであったが故にその効果は絶大で、相手にダメージはそこまで通ってないものの、腕から流れる少量の血を見て私は少し微笑んだ)
せつ菜(私や希さんのような意表を突くトリッキーなタイプじゃないと出来ない技で、ポーカーフェイスと演技は必須アイテムです)
英玲奈「受け手が得意、というがその頭から流してる血はなんだ?」
せつ菜「頭から血を流す程度じゃダメージの範疇に入りませんよ、損傷してても動くんですから」
英玲奈「…恐ろしいな、その損傷を厭わない覚悟が」
せつ菜「ここで負けてなんかいられませんから」
英玲奈「…そうか、だがどうだろうな」
せつ菜「…ええ、どうでしょうねッ!」パサパサパサ
せつ菜(私の相棒——ハニーバジャーというアサルトライフルには“サプレッサー”という銃声を抑えるアタッチメントがついています。だから、他の銃と比べて銃声が小さく、何より音が特殊なんです)
英玲奈「ほっ!」シュッ
せつ菜「まだまだぁ!」
せつ菜(トリガーを引きながら銃弾を躱す相手に近づいて後ちょっとの距離を一回の跳躍で詰めて、ハニーバジャーを背中にやって、腰にかけてある刃渡り12cmのスペツナズナイフで素早い横斬りを行った)
英玲奈「ほっと、危ないな」
せつ菜(後ろに大きく体を反って回避する相手、そして次に相手の取った行動は右フックで、それを私は片腕で受け止め流れるように後ろ回し蹴り、これに対して相手は片手で手にしていたアサルトライフルで受け止めたけど、本命はこれじゃない)
バンッ!
英玲奈「何っ!?」
せつ菜「はぁっ!」
せつ菜(向こう側から飛んでくる一つの銃弾と銃声がデパート内で残響した、それを確認した私はダメ押しに回し蹴りをして銃弾と挟み撃ちをした)
英玲奈「くっ…」シュッ
せつ菜「遅いっ!」
せつ菜(どこまでも穂乃果さんは私の相棒であり親友です、穂乃果さんも戦ってるというのに私の方を見てハンドガンで一発、ベストなタイミングで撃ってくれて私も攻撃のタイミングを作れました)
せつ菜(そうしてその結果として、回し蹴りと銃弾を避けた相手に私は追撃の肘打ちで怯ませ、トドメの飛び膝蹴りで相手を吹っ飛ばした)
せつ菜「よしっ!」グッ
タッタッタッ!
穂乃果「死んじゃえっ!」
せつ菜(そうして突然こっちへやってきた穂乃果さんが倒れる相手の胸に向かってナイフを一突き、しかしもちろん相手は横に転がり避けると同時にすぐに起き上がり、ブレイクダンスのように低姿勢で回転しつつ全方向に対して連続で蹴りを繰り出し、近づく私と近づいた穂乃果さんを退けさせた)
タッタッタッ
ツバサ「どこ行ってるのよ!」ドドドド
穂乃果「ふっ」シュッ
せつ菜「よっと」シュッ
せつ菜(私と穂乃果さんに飛んでくる銃弾を避けて相手の持つ銃が弾切れを起こすであろうタイミングに私と穂乃果さんは手の届く距離にまで近づいて固まった、そしてそれは相手も同様)
ツバサ「大丈夫?英玲奈」
英玲奈「ああ、だがやはり強いな」
英玲奈「お前らほどの実力を持ったアンドロイドが何故手品師の下につくのか不思議で仕方ないな」
穂乃果「強さが全てじゃないってことだよ」
英玲奈「…一つのことしか考えられない業務用アンドロイドがその言葉を発するとは実に興味深いな」
せつ菜「ならそれは希さんがすごかったのでしょう、私たちを変えてくれたお方ですから」
英玲奈「……よく分からないがやけに希というやつを上げたがるな、何故だ?」
穂乃果「分からなくていいよ、分かる必要性も意味もないから」
「お話のところ、ちょっといいですか?」
ツバサ「!」
せつ菜「!」
英玲奈「誰だ?」
穂乃果「…何か用?」
せつ菜(それぞれがそれぞれを睨み合う中で突然混ざった声、その声に反応して全員が同じ方向を向いた)
「お初にお目にかかりますわ、殺し屋さんの皆さん」
ダイヤ「わたくしは黒澤ダイヤ、あなたたちを殺しにわたくしも馳せ参じましたわ」
穂乃果「…面白いこというね」
ツバサ「死にに来たの間違いじゃない?」
せつ菜「…いや、そうでもないみたいですよ」
英玲奈「あぁ、少なくとも仲間が二人いるらしい」
ダイヤ「あら、どうしてお気づきに?」
せつ菜「射線が二つ、現在もこちらへ向かってますね」
英玲奈「あぁ、私も射線を感じる」
ダイヤ「ふふふっ流石アンドロイドですわね」
スタスタスタ
せつ菜「…!」
せつ菜(ダイヤ、と名乗る人物が薄気味悪く笑うと後ろから二丁のハンドガンを腰にかけた何気なく誰かが近づいてきた)
スタスタスタ
ダイヤ「この子はわたくしの部下、そして妹のような存在」ポンッ
ダイヤ「ほらっご挨拶を」
「………」
凛「凛は星空凛!よろしくにゃんっ♪」ニコッ
ツバサ「うわっ…」
穂乃果「あざとい…」
せつ菜「なるほど…そういうことですか」
英玲奈「対アンドロイド特殊部隊のやつらか、めんどくさいな」
せつ菜(凛という子の胸元についてるバッジを見て察した相手の情報、この戦い…死ぬと思ってやらないと勝てなさそうです)
ダイヤ「わたくし、実は殺し屋という二つ名がありますの」
ダイヤ「ここはわたくし達殺し屋で、殺し屋頂上決戦をやりませんか?」
穂乃果「やだね」
ツバサ「無理なことね」
せつ菜(食い気味に拒否して、私に“行こう”と耳打ちをして立ち去ろうとする穂乃果さんについていけば後ろから飛んでくる弾丸。それを避けて後ろを向けば凛さんがもうすぐそこまで迫ってきてるもので咄嗟に姿勢を低くしてすぐに戦える構えを取れば、次に相手のしてきた行動は私に向けての右ストレートだった)
凛「と、思うじゃん?」
せつ菜「っ!?フェイント…!?」
せつ菜(飛んできた右ストレートは私の顔の前を横切り、左手で腰にかけてたハンドガンを一つ取り、そのまま右ストレートの勢いを利用して横回転し背面からの変則撃ちで私の胸を狙って発砲してみせた)
せつ菜「当たりませんっ!」
凛「だよね、でも後ろの人はどうかな?」
穂乃果「…っ!?」シュッ
せつ菜「穂乃果さん!?」
せつ菜(迂闊でした。私の胸に向かった射線は、凛さんが発砲したと同時に、そして私が避けたせいで突然として射線は私の後ろにいた穂乃果さんの胸へと移る、すると穂乃果さんが射線を感じ取るに相当な遅れが生じて穂乃果さんが避けれなくなってしまう。それを見込んでたであろう相手の策に見事はまってしまいました)
穂乃果「きっ…あぶなっ…」
せつ菜「だ、大丈夫ですか穂乃果さん」
穂乃果「なんとかね…」
せつ菜「すいません…」
穂乃果「いいよ、この場合は…」
凛「ん?ふふふっ凛の強さ分かった?」
穂乃果「あいつのせいだから」
せつ菜(頬から赤い涙を流す穂乃果さんを見てこの状況がいかにまずいものであるかを分からせてくれる、横を見ればダイヤと言う人も先ほどまで私と戦っていたアンドロイドの人と戦っていて、突然の超一流の襲来に焦りは加速していく一方だった)
英玲奈「はぁっ!」
ダイヤ「おっと危ないですわね、銃を鈍器にして扱うとはナンセンスですわ」
英玲奈「別に何を思われようが構わないがこれが私のやり方なものでな、しかしながらそちらこそ銃を背中につけてるというのにナイフだけで戦おうなんてナンセンスではないのか?」
ダイヤ「あら気付きませんの?あなたほどの相手ならナイフで充分という意思表示ですよ」
英玲奈「…舐められたものだな、いくら人を殺すことに特化した集団とはいえ銃無しで私たちを殺そうなんてお前は夢追い人か何かか?」
ダイヤ「別に冗談を言ってるつもりはありませんのに」
英玲奈「…なら、尚更タチが悪い」
せつ菜「………」
凛「分かったかにゃ?あなたたちは逃げられないよ、少なくとも凛が生きている以上は」
せつ菜(相手の後ろからスタスタと歩いてくる新しい二人を見てそう簡単には逃げさせてくれないことを分からせてくれる、この場合二対三で私たちが不利になる上に相手はおそらく超一流、それは幾度となく戦場を駆けた私たちでも負けは充分にあり得た)
穂乃果「…腹が立つね、その余裕そうな態度」
凛「余裕だからね」
穂乃果「なんで私たちの邪魔をするの?」
凛「それは凛たちが平和を守る対アンドロイド特殊部隊だからだよ」
穂乃果「平和を守るヒーローがこんなぶっきらぼうなやり方をして市民の信用を得られるの?」
凛「平和を守るヒーローは性格が良いなんて決まりはどこにもないし、凛は市民を守る為にここにいるわけじゃないにゃ」
凛「市民が死のうが死なないが凛にとってはどうでもいいことだよ、大体死ぬのなんて弱い自分が悪いんだし」
穂乃果「……ホントにつまらない回答をするね、あなた」
凛「期待してた答えでしょ?」
穂乃果「………」
せつ菜「……こんな時に…」
せつ菜(きっと、私も穂乃果さんも考えてたことは同じだった)
せつ菜(こんな時に希さんがいてくれたら解決なのに)
せつ菜(対アンドロイド特殊部隊の化け物にやられてしまったけど、私たちの主の力は偉大だった。自らを殺し屋と名乗ってはいるけど、大層優しい人で、この人といればどんな窮地も乗り越えられそうな安心感があった)
せつ菜(私と同じトリッキーで、追いかけててすごく楽しかったし、一般人と比べてネジが少し外れてるから普通じゃ思いつかないようなことをしてきてホントに追いかけ甲斐があった)
せつ菜(ここに希さんがいれば、きっと私や穂乃果さんじゃ思いつかないことをして乗り越えらせてくれたんだろう、このまま戦うのは分が悪いし、ここで消耗したくない)
せつ菜(反撃の狼煙はまだ上がってない、こんなところでつまずきたくなんかなかった。この相手は強い、動きが素早いし何より対アンドロイドに慣れ過ぎている、こんなのを相手にしたらノーダメージは無理がある)
せつ菜(だから希さんがいてくれたら……そんな叶わぬ希望は光を見せることもなく心の中で潰えた)
せつ菜「…穂乃果さん」
穂乃果「何?」
せつ菜「……やるしかないようですね」
穂乃果「…そうだね」
スタスタスタ
海未「…昨日ぶりですね、穂乃果さん」
穂乃果「…昨日の傷はどこにいったの?」
海未「治りましたよ、全部」
穂乃果「…化け物だね」
海未「ふふふっありがとうございます」
梨子「私も一日ぶりだね、穂乃果さん」
穂乃果「………」
梨子「なんか返事してよ!」
穂乃果「二重人格?」
梨子「ううん、私の心は一つだけ」
穂乃果「…なら本当に狂ってるんだね、あなた」
梨子「梨子って名前で呼んでよ?私は桜内梨子だよ?」
梨子「…あ、そういえばあの死んだ紫髪の人の部下は全員プライドが高いって聞いたなぁ」
梨子「……ふふふふっあぁ楽しみだなぁ、あなたたちの絶望に満ちた顔を見るのが」ウットリ
梨子「ふふふひひっ…泣き顔でもいいよ?生け捕りにして拷問でもしたら見せてくれるよね?」フフフッ
せつ菜「…っ」ジタッ
穂乃果「……希ちゃんがあなたたちを避ける理由がよく分かったよ」
せつ菜(狂気の権化…と形容しておきましょう、殺すことに全てを置いた私たちでさえたじろいでしまうほど、そして人間とは思えないほど穢れた/汚れた考えに冷や汗が出た)
せつ菜(こんなのがいる部隊に近寄ろうなんて思わないし、こんなのがいる部隊がまともな部隊とは到底言えない)
せつ菜(視界に移る最奥を見れば殺し屋と名乗るアンドロイドの人たちと対峙するダイヤさんと誰か。わざわざ私たちを殺しに五人掛かりでやってきたのですね)
せつ菜「…私たちだけ三人なんですね」
海未「軍神とトリックスターですよ?持ってこれる戦力を使うのは当然じゃないですか」
せつ菜「高く評価してもらえるのがこんなに憎らしいなんて思いたくなかったですね」
梨子「ふふふっあなたたちの飼い主に褒めてもらえたらよかったね?」
せつ菜「…つくづくイラつきますね、それ」
凛「お話はいいからとっとと始めない?凛長話は嫌いだからさー」
海未「そうですね、じゃあ」カチャッ
せつ菜「…!」
穂乃果「…勝つよ、せつ菜ちゃん」
せつ菜「…もちろんです」
せつ菜(一斉に銃を構えだす相手に、私たちも同じように銃を構え穂乃果さんは私に耳打ちをした)
せつ菜(こんなところで負けて拷問なんてされたくない、もし負けそうになったなら自害を選ぶまである)
せつ菜(こんなに戦いの記憶を研ぎ澄ましたのはいつぶりだろう、ここまで本気で戦うということをする日は今まででも数回しかなかったはず)
せつ菜「…行きますか」
穂乃果「うん…」
せつ菜(肌がひりつく緊張感、この戦いは絶対に負けられない)
せつ菜「………」
穂乃果「………」
凛「…出ないなら凛から行くよっ!」ダッ
海未「梨子!カバー頼みます!」ダッ
梨子「もちろんです!」ドドドド
穂乃果「あの二人は私に任せてせつ菜ちゃんはあの猫女をやって!」ダッ
せつ菜「え、でも!」
穂乃果「私が負けると思う?」
せつ菜「…!」
せつ菜(穂乃果さんは強い、それは限りなく最強に近い強さ)
せつ菜(軍神と謳われたその才能は、頼り甲斐があるってそんなレベルじゃないでしょう)
せつ菜「…思いません、あの二人はお願いします」
穂乃果「もちろんだよ」ドドドド!
せつ菜「はっ」タッ
せつ菜(穂乃果さんは相手の方に跳躍しながらトリガーを引くに対し私は一度後ろへ飛び退き受けの態勢に回った)
凛「あなたは軍神さんと違って逃げるんだねっ!いいよ受けて立つにゃ!」ダッ
せつ菜(凛さんも私のところに来てくれたのでそのままエスカレーターをジャンプで上って戦うフィールドを変えた)
せつ菜「ここで戦いましょうか!」パサパサパサ
凛「うんいいよっ!」ズサー
せつ菜(二階にあがって最初の跳躍と同時に発砲、私に引っ付くように二階へ走って上がってきた相手も私の跳躍に反応して、よく出来た笑顔を歪ませることなくスライディングをして私に近づきながら二丁のハンドガンで私に向かって発砲を行った)
せつ菜(ただ、もちろん銃弾は私にも相手にも当たることはなく、私は跳躍の着地直後すぐにスライディングをして私の体全体に残るこの慣性を残しながら再び横方向へ跳躍し凛さんの放つ銃弾を躱し、相手はすぐさまブレーキをかけ照準を前方向から私が避けた方向である横方向へ向け発砲の対応をして休む暇も与えない展開を作り出した)
凛「はい、せーのっ!」カーンッ
せつ菜(身軽に、でも固く染め上げられた紺色のその姿。私服の上に防弾チョッキを着て、腰からマントをかけ、その上にベルト型のマガジンポーチをつけて、その姿でどこからともなく出てきて宙に浮いたピン抜きグレネードグレネードを私に向かって蹴ってきた)
せつ菜「っ!?」バンッ
ドカーン!
せつ菜(相手の突飛な行動に驚いた私は案の定即座に反応して発砲、そうすればその後は大爆発————天井や床には穴が開き、広い範囲で砂煙が立ち込め始めた)
せつ菜「なんて手荒な真似を…」
タッタッタッ!
凛「よーしっ!いっくにゃー!」
せつ菜「…! そこですか!」
せつ菜(近づく足音を頼りに相手の位置を見破った私は腕を使って受け止める体勢に入った)
海未「ええ、ですが相手が違いますね」
せつ菜「えっ…!?」
せつ菜(気付いた頃には遅かった、濃い砂煙の中でも見える銃剣の一閃に目が眩んだ)
ザクッ
せつ菜「きっ…あああああぁッ!?」
タッタッタッ!
穂乃果「せつ菜ちゃん!?」
せつ菜「あぁ…ああああ……!」
せつ菜(痛い、いたい。イタイ……)
せつ菜(一閃で目が眩んだその直後には私の左腕に鋭い斬撃が飛び込んできて大量の血液が噴出した)
せつ菜(この退廃的で厭世的な痛みが懐かしい。痛みを我慢しようとしても声が——体が痛みを我慢出来ず切羽詰まって息が出来なくなり、斬られたその左腕はとうに機能を失っていた)
穂乃果「せつ菜ちゃん大丈夫!?」
せつ菜「ア…あぁ…穂乃果さん…っ!」
穂乃果「ちっ…なんて厄介な…」
タッタッタッ!
凛「仲間の心配もいいけど自分の心配もした方がいいよー?」
穂乃果「ああそうだよ————」
せつ菜(声の成る方へ銃と顔を向けたであろう穂乃果さんは、何故か言葉を止めた)
せつ菜(私は手の痛みを我慢するのに必死で、それどころじゃなくて何が起ころうとしてるのか全く分からなかった)
穂乃果「——ね…?」
せつ菜(砂煙が濃い中で声も足音もしたんだから、銃を向けるのは当然だ)
せつ菜(だけど銃を向けて見えるのはピンが抜かれたグレネードだった)
穂乃果「…ぁ!」
せつ菜(……そして、それが即座に爆発するものであるというのはアンドロイドで尚且ついくつもの戦場を駆けた穂乃果さんならすぐに分かったでしょう)
せつ菜(だからこそ穂乃果さんは感じ取ってしまった。このどうしようもない状況の絶望感を)
ドカーン!
せつ菜(私も穂乃果さんも避けれるはずがなかった、相手の煙と足音と声の使い方が上手すぎた。あんなの分かるわけありませんよ…!)
せつ菜「けっ…はっ…!」
穂乃果「……うぅ」
せつ菜(吹っ飛ばされた私たちはどちらもひどい傷だった。穂乃果さんはすぐに立ち上がってたからまだ死なずとも、まず強烈な蹴りで壁に叩きつけられ、次に剣で腕を斬られ、最後に爆発を直で受け体の至る所から血を流す私は失血死が近かった)
せつ菜(久々に感じた、これが死の味なんですね)
せつ菜(こんなにも死の味が絶望感に満ちてるなんて、もう忘れてた。そして思い出したくなかった)
穂乃果「せつ菜ちゃん…だい、じょうぶ…?」
せつ菜「こんな…ところで…ッ!」
せつ菜(…でも、まだ死んでない)
せつ菜(こんなところで負けてなんかいられない、死ねない理由が私には合って、死にたくない心が私にはまだある)
せつ菜(だから私はその心で無限に輝きを放つ希望を抱いてゆっくりと立ち上がった)
梨子「あ、いましたよ」
凛「爆発で肉片もなく吹き飛んだのかと思ったよ」
海未「この場合肉片ではなく部品でしょう」
穂乃果「…どうする」
せつ菜「……あの二人はどうでしたか」
穂乃果「一対一なら負けない、けど二対一でやってる以上不利だし上手く攻めれない」
せつ菜「…私でも戦えそうですか?」
穂乃果「……今のせつ菜ちゃんには無理かな」
せつ菜「…そうですか」
せつ菜「…でしたら穂乃果さん」
穂乃果「何?」
せつ菜「お願いがあります」
穂乃果「…言ってみてよ」
せつ菜「時間を稼いでほしいんです、私に…私に時間をください」
穂乃果「…任せて」
せつ菜「…そしてもう一つ、あるんです」
穂乃果「…何?」
せつ菜「………」
せつ菜「私を信じてほしいんです、今から何が起こったとしても」
穂乃果「…もちろんだよ、せつ菜ちゃんは私にとって——」
穂乃果「——家族みたいなものなんだから」
せつ菜「…ありがとうございますっ」ニコッ
せつ菜(穂乃果さんにとびっきりの笑顔を見せた後、穂乃果さんはすぐに三人に向かって発砲しだした)
せつ菜(その時の穂乃果さんの目といえば本気だった、手慣れたリロードや全く隙の無い身のこなし、相手の弱点を探るような多彩な攻め方をしてて、そんな穂乃果さんを見れば私も出し惜しみをしている場合じゃないと奮いを立ててすぐさま行動へ移した)
せつ菜(これが最終兵器になるかといえば、それは違うけど、でも今の私たちにはこれしか方法がなかった)
せつ菜(私は懐にあった携帯を耳に当て、この戦場から背を向けて逃げだした)
プルルルルルルルルル ピッ
「もしもし?」
せつ菜「…にこさんですか」
にこ「何?珍しいわね、あんたが私に電話なんて」
せつ菜「……助けてください」
にこ「…え?何?もう一回言って?聞き間違いだと思うから」
せつ菜「…助けてください」
にこ「……何?あんたがその言葉を言うってことはとうとう狂った?」
にこ「まぁあんたは生まれてこの方殺し合いしかしてなかったからね、希も死んだし精神がやられてるとは思ってたけど正直ここまでとは思わなかったわ」
せつ菜「………なんかいませんよ」
にこ「ん?何?」
せつ菜「狂ってなんかいませんよッ!助けてほしいんですよッ!!!」
にこ「っ!?」
せつ菜「今の私たちじゃ勝てないんです…!お願いです…!お願いですから…っ!!」
せつ菜「助けてくださいよぉ…!!」ポロポロ
にこ「……相手は誰?」
せつ菜「凛さんと梨子さんと海未さんです……」
にこ「……そう、分かった。でも、あんたらを助けられる保証はないし、もし私が行くまでに死んでたら助けることは出来ないからね」
せつ菜「…いいんですか?私から言っといて難ですけど」
にこ「私は対アンドロイド特殊部隊では海未と曜以外のやつらが大っ嫌いなんでね、特にダイヤと凛が嫌いだから、そいつらを殺せるかもというのなら行くわ」
せつ菜「…分かりました、お願いします」
にこ「……あんたらも生きてなさいよ、ここで死んだら希も悲しむわよ」
せつ菜「…もちろんですよ!」
にこ「……じゃあね」
せつ菜「はい…」
プツッ
せつ菜「………」
せつ菜(私と穂乃果さんは、ご存じの通り軍人として生まれた業務用アンドロイドでした)
せつ菜(それはつまり殺すことだけを考えた殺戮マシーンだったんです)
せつ菜(…しかし変わりました——いや、変えてくれたんです)
せつ菜(希さんが。希さんが私たちを変えてくれたんです)
希『んー君たちー』
せつ菜『…何か用ですか?』キッ
穂乃果『…近づくと殺すよ?』
希『んあはは…まだ何も言ってへんのに』
せつ菜『じゃあ何の用ですか?もしくだらないことだったら殺しますね』
希『んーそうやねー』
希『ウチのところで就いてみる気はない?』
せつ菜(…それが始まりでした、もちろん当時の私たちは拒否しましたよ、ふざけるなって)
せつ菜(そしたら希さん、ウチとバトルしてウチが勝ったらついてきてよっていうもんですから、なんかその勝つ気でいるような態度がムカついて衝動的に体が動いてたんです。当時の私と穂乃果さんとの連携は現在と比べてもそこまで劣っていなかったので穂乃果さんと二人がかりで希さんを負かすのではなく殺しにいったんです)
希『がっ…!』
せつ菜『…愚かなものですね、人間風情が生意気にもアンドロイドにバトルなんて挑むから』
穂乃果『遺言は何かある?』
希『…ふふふっそっちがね」
カランッ
せつ菜『っ!?』
穂乃果『グレネードっ…!?』
ドカーン!
せつ菜(…あぁ、懐かしいですね)
せつ菜(それで私たち二人は一緒に吹き飛ばされて意識を失ってしまいました、目覚めれば手当をされベッドで横になってて、私たちが目覚めるまでずっと近くにいてくれた花丸さんが動いちゃダメずらって可愛げに言ってきたのを今でも覚えています)
希『ふふふっ別に逃げたいなら逃げてもいいよ、でも今は逃げない方がいいよ。君たち二人を処分しようとしてる連中がいっぱいいるから』
せつ菜『! どうしてそれを…!』
穂乃果『………』
希『ウチは二人を守りたいんよ、ウチはアンドロイドの味方やもん。それに、こんな可愛い子が殺されるのを見たりなんかしたら、ウチ一生後悔しそうだからね』
せつ菜(…それから希さんの背中を少しずつ追いかけた)
せつ菜(最初は反抗ばっかだったけど、次第に心を開いて、そして優しい私へ————)
せつ菜(業務用アンドロイドではない、自分だけの心を持ったアンドロイドへと変われた)
せつ菜(その自我を持った私が心の底から救済を求めてた。これを落ちぶれたというのなら、それを私は退化と呼ぶでしょう)
せつ菜(私は成長した、誰かに頼ることのできる私になった。だから希さんには本当に感謝しなければいけません)
ピッ プルルルルルルル
せつ菜(…そして私は、再び携帯を耳に当てた)
せつ菜「もしもし、——さんですか?」
~
ドドドドドド!
穂乃果「ちっ…」
梨子「穂乃果さんの相棒さん、逃げちゃったけど?」タッ
穂乃果「逃げたんじゃないよ、これも作戦の内だよ」
海未「見苦しい嘘はやめてください、私は共感性羞恥なのでそういうことを聞くのが辛いんですよ」スッ
凛「というか一人で凛たち三人を相手にしようなんて凛たちも舐められたものだね、生け捕りじゃなくてそのまま殺さないかにゃ?」バンバンッ
梨子「いいや、生け捕りで拷問して楽しむ方がいいよ」
梨子「その方が絶対に気持ちいいから」ウフフ
凛「…別に凛はそういうの興味ないんだけどなー」
海未「どっちでもいいですから戦いに集中してください、三対一とはいえ相手は軍神で、希の入れ知恵まで授かってる相手です。侮ることは許されません」
梨子「あはっ…もしかして海未ちゃん、あの紫髪の置き土産グレネードがトラウマになってる?」クスクス
梨子「怖かったよね~あんなのやられたら私死んじゃうな~」
海未「…遠まわしに私への煽りですか」
凛「いや遠まわしも何も直球にゃ…」
海未「あなたの頭を治してくれる病院を教えてあげましょうか?」
梨子「あはははっそれはお互い様だね」
穂乃果「…あなたたち全員狂ってるけどね」ドドドド
梨子「何百人もの人を殺してるデスマシーンには言われたくないかな」シュッ
凛「自覚症状ないパターンが一番タチ悪いにゃー」
海未「私たちの話に参加する余裕があるとは驚きましたね」
海未「…というか、さっきから引いてばっかですね。戦う気あります?」
凛「時間稼がれてるにゃー」
梨子「何か企んでるね」
海未「そうですか、なら即行で方を付けましょうか!」ダッ
穂乃果「させないっ!」
バンバンバンバンッ!
海未「っ!希のショットガンですか…!」
梨子「あれはまともに相手したら死んじゃうね」
海未「ええ、なら離れて集中砲火と行きましょうか!」ドドドド!
梨子「凛ちゃん投げ物よろしくねっ!」ドドドド
凛「了解にゃ!」
穂乃果「ちっ…」
穂乃果(このまま逃げ続けても状況は変わらない…!どうすればいいんだろう…)
タッタッタッ!
花丸「させるかーっ!」
穂乃果「…!花丸ちゃん!」
花丸「助けに来たずら!」
海未「ちっ…希のところの部下ですか」
花丸「これでも食らえーっ!」ポイポイッ
凛「っ!?グレネードにゃ!」
梨子「あんなに持ってきて…!」
ドカーン!
花丸「穂乃果ちゃん今のうちに逃げるずら!」
穂乃果「う、うん!」ダッ
梨子「逃がさないッ!」ダッ
せつ菜「逃がしますっ!」ドドドドッ
梨子「ちっ…」
海未「帰ってきましたか…」
せつ菜(電話を終え戦場に戻った私はトリガー引いて発砲、穂乃果さんが逃げるタイミングをなんとか作った)
穂乃果「ありがとうせつ菜ちゃん、花丸ちゃん!」
花丸「このくらいお安い御用ずら!」
せつ菜「私もです!」
海未「…感動の再開で盛り上がるのはいいですがその三人で私たちにどう勝ちますか?」
海未「二人は死にかけ、それにあなたは銃が撃てないらしいですね」
花丸「………」
梨子「んふっ…じゃあ銃が撃てないっていうなら殺しやすいあなたから殺すのが最善よねっ!」ダッ
花丸「ふっ」シュッ
梨子「あれ…戦えないんじゃなかったの…」
せつ菜(跳躍使って一瞬で距離を詰め、逆手持ちでナイフを突き刺そうとする梨子さんに対して花丸さんは飛び退け回避をした)
花丸「…マルだって最低限は動けるよ、非戦闘員だったらここに来るはずがないよね」
梨子「あはは、そうだね」
海未「…しかし最低限戦闘が出来るとしても状況は変わらない」
凛「八方塞がりだね、どうするにゃ?」
せつ菜「…戦うのみです」カチャッ
穂乃果「そうだね」
穂乃果「…花丸ちゃんは逃げて、もうこの戦いに参加しちゃダメだからね」
花丸「…! で、でも!」
穂乃果「“穂乃果たち”を信じて」
花丸「その一人称…!」
穂乃果「ここで死んでも悔いのない戦いをするよ」
花丸「…そっか、でも負けないでね」
穂乃果「もちろん、だから花丸ちゃんは今すぐ逃げて」
花丸「…はいずらっ!」ダッ
凛「あーあの子逃げちゃったけどいいの?」
海未「別にいいです、むしろここで逃げる選択は賢明と言えるでしょう。戦えばどうせ死ぬんですから」
凛「そんなことは分かってるにゃーあの子はほぼ戦えないんだからあの子を集中的に狙ってあの子を弱点にすればいいじゃんって話だよ」
梨子「はぁ…これだから戦闘狂のおこちゃまは困るね」
凛「は?」
梨子「もしあそこにいる二人が万全の状態だったらみんなそうするけど、今は死にかけなんだからほとんど戦えない子を相手するより大怪我を追ってる大きな駒を取った方が旨味も大きいでしょ?」
凛「旨味って…」
海未「使う言葉がちょっと違いますが大体はあっています、つまり逃げだした子を狙うよりあの二人を狙った方がいいでしょう」
穂乃果「…そうしてくれるならこっちも好都合だよ」
せつ菜「ええ」
梨子「その強気な発言がいつ崩れるか見物だね」
凛「いいからとっとと————」
凛「——やるにゃあ!」ダッ
せつ菜(やはり先陣を切るのは相手の凛さんでした、一回の跳躍で私との距離を縮めて右手を大きく後ろに構えて右ストレートかと見せかけてのローキックを繰り出してきた)
せつ菜「あぶなっ…」
せつ菜(何も考えず力任せに動いてそうな割には希さんみたいな手品の類を使ってくる相手でした、人もアンドロイドも何か構えを取れば先入観で何が来るかを読んで先にそれに対応しようとします、だからそれを逆手に取り後ろにまでやった右手に注目させて、その間にローキックを仕込むというちょっと高度な技ですが、それを今の相手がやってるとなるとこれからも何をしてくるか分かりません)
凛「その体じゃ躱しながら撃てないよね!だって片方の肩が壊れててグリップの部分が持てないから!」バンバンッ
せつ菜「ちっ…」
凛「なら攻撃を続けてればいいだけの話!」
海未「今日ここで刀の錆びにしてあげますよ!」ダッ
穂乃果「せつ菜ちゃ——」
ドドドドド!
穂乃果「!」シュツ
梨子「穂乃果さんの相手は私だよ?」
穂乃果「ちっ…」
せつ菜「きゃっ……」
海未「ほらほらいつもの威勢はどこに行きましたか!?」ブンブンッ
海未「銃が撃てないんじゃか弱い女の子同然ですねっ!」
凛「トリックスターだけどね」
せつ菜「これでっ!」ポイッ
海未「っと…」ピタッ
凛「はっそんなものっ!」ドカッ
せつ菜「っ!?」
せつ菜(足止めくらいと考えてグレネードをぽいっと落としたのですが、何を思ったのか強引にもピンの抜かれたグレネードをサッカーボールを蹴るみたいに私の方向へと飛ばしてきた)
カンッ!
ドカーン!
穂乃果「っあぶない……」
せつ菜「穂乃果さん…!」
せつ菜(穂乃果さんは飛んでるグレネードにナイフを投げて見事に命中、結果グレネードの軌道を変えたことにより私はほぼ無傷だった)
せつ菜(穂乃果さんが助けずとも多分死にはしてなかったと思いますけど、流石穂乃果さんは如何なる状況でも凄い人でした)
タッタッタッ!
海未「本当に軍神は厄介ですね!」ドドドド!
穂乃果「よしっ…」
せつ菜「…!」
せつ菜(穂乃果さんのその一言を聞いて私は察した、梨子さんと戦いながら苦し紛れに放ったリスクと織りなす投げナイフ、それは私を助けると同時に凛さんか海未さんが私につけてるマークを穂乃果さんに移す為での投げナイフでもあった)
せつ菜(結果海未さんは穂乃果さんへ一直線、左手が壊れててまともに銃が撃てない私に二人相手はもはや死ぬしか残された道はなく、それを解消するために穂乃果さんは動いた)
穂乃果「なら私と勝負しようか!」ドドドド!
海未「ええそうしましょう!梨子!ついてきてください!」
梨子「もちろん!」ダッ
凛「じゃあ凛はあなたとだね!」ダッ
にこ「はい、ストップ」ドドドッ
凛「っ!?」シュッ
海未「…! にこ…?」ピタッ
梨子「にこさん…?」ピタッ
穂乃果「なんであいつが…」
せつ菜(凛さんの猛攻を再び躱そうと体を動かそうとした時、救済の手はとうとう私たちへと差し伸べられた)
せつ菜(小さな体だけど、その人の背中は誰よりも大きかった)
せつ菜「にこさんっ!」キラキラ
にこ「はぁ…はぁ…間に合った…」
凛「…凛に発砲って何のつもり?」
にこ「悪いわね、海未」
海未「…何故私に謝るのですか?」
にこ「私にも戦う理由があるの、海未とは仲良くしたかったけど、生憎私はここの部隊じゃ海未と曜以外とは仲良く出来ない人間なんでね」
にこ「私ムカつくのよね、凛とダイヤが」
凛「…それはつまり?」
にこ「あんたらを殺しに来たのよ」
梨子「…はははっもしかしてにこさんも頭おかしくなっちゃった?」
にこ「ええ、元からおかしいわ」
にこ「でもあんたらはもっとおかしいわ、狂った私が軽蔑するほどに狂ってる」
梨子「…あーあっそっかそっか、じゃあ結局にこさんも所詮愚者であったってことなんだね」
海未「…にこ、もし今その考えを取り下げるというのならあなたには何もしません、ですからやめましょう?そんなこと」
にこ「お断りね」
にこ「だから謝ったのよ、海未」
にこ「私も海未とは戦いたくないけど、それ以上にこいつらがムカつくからね」
海未「…そうですか、残念ですね」
にこ「……あんたら」
せつ菜「はい」
穂乃果「…何?」
にこ「適当に戦って隙を窺って逃げるわよ、今の状況じゃ勝つことは無理だから」
凛「…耳打ちのつもりかもしれないけど聞こえてるよ?」
梨子「逃げるっていうなら尚更逃がすわけにはいかないかな」カチャッ
「そうだね、逃げる必要はないかな」バンッ!
梨子「きゃっ!?」
凛「今度は何ー!?」
海未「曜…!」
にこ「曜…!?なんで曜が…!」
曜「ふふふっせつ菜ちゃんに呼ばれたんだよ」
にこ「せつ菜が…!?」
せつ菜「曜さんっ!」キラキラ
梨子「なんで曜ちゃんがこいつらと…」
曜「ごめんね梨子ちゃん、希ちゃんが殺されちゃったっていうなら私もせつ菜ちゃんたちの味方をしないといけないからさ」
海未「曜もですか…ですが曜、あなたは何も分かっていませんね」
曜「何が?」
海未「曜は無謀を何かと履き違えていませんか?死にかけの二人とにこ一人、そしてほぼ無傷の私たち三人というこの状況を打開できる何かを持っているのですか?」
曜「当たり前だよ」
凛「へー何?教えてにゃー」
「こんにちは、AAの皆さん」
善子「堕天使ヨハネ——こうり」
絵里「曜の助っ人として、あなたたちを潰しに来たわ」
善子「最後まで言わせなさいよぉ!」
海未「絢瀬絵里と津島善子…!?」
梨子「げっ…堕天使だ…」
凛「なにそれ?」
海未「………」
曜「これでタイ…いや、こちらが有利だね」
海未「…あの二人を呼んできてください、向こうの殺し屋は無視してもらって結構です」
梨子「あ、うん!」ダッ
にこ「…驚いたわね、せつ菜。そして曜もね、まさか絢瀬絵里と津島善子とつるんでたなんて」
曜「あははっもう私が対アンドロイド特殊部隊にいる理由がなくなっちゃってね」
にこ「…そう」
曜「そういうにこさんこそ良かったの?対アンドロイド特殊部隊の人たちを敵にして」
にこ「いいの、確かに私は強くなる為にここに来たけど、あいつらとつるんで強くなりたいとは思わないわ、海未には申し訳ないけどね」
にこ「海未、あんたにはお世話になったわ。丁寧に色々教えてくれて、戦う時以外に可愛く笑う姿を見ればあんたもやっぱり普通の女なのねって幾度となく思った」
にこ「海未、あんたは常識人よ」
にこ「ただ海未は、“死ねないだけ”の常識人よ」
海未「…そうですか、にこにそう言ってもらえるならとても嬉しいです」
海未「ですがやはり疑問です、ダイヤや凛がおかしいというのは私にでも分かります、ですがこの頭おかしい人たちを敵にするとまずいと一番分かってるのはにこなのでは?」
海未「今回の行動はあまり賢いとは言えませんよ」
にこ「それは私と海未が何を重要とするか、そこに違いがあっただけの話よ」
にこ「私は道徳性を重要としたいの」
にこ「もっとも、人の汚さとかじゃなくて、私は一人の姉としてダイヤを軽蔑してるだけ」
海未「…分かりませんね」
にこ「そりゃそうよ、姉という立場でしか分からないことだからね」
凛「はっ所詮にこちゃんはにこちゃんだね」
凛「雑魚は雑魚のままだったよ」
曜「対アンドロイド特殊部隊同士じゃ戦わないから分からないと思うけど、にこさんは強いよ」
凛「へぇ曜ちゃんがそう言うのなら強いのかもだけど、やっぱり曜ちゃんも曜ちゃんだよ」
凛「今回のこの行動、ホントにバカだね。自分の強さに過信しすぎじゃないかにゃ?」
曜「…それはお互い様だよね」
善子「私たちもいるの忘れてない?この状況、人数だけでいうなら有利だからね」
凛「死にかけの二人がいるから不利だと凛は思うんだけどねー」
穂乃果「なら死にかけの私たち二人を一人としてカウントすればいいだけ」
せつ菜「私たちは二人で一人です」
海未「………」
「戻ってきてみれば…」
ダイヤ「また随分と騒がしいことになっていますわね」
にこ「…ダイヤ、久しぶりね」
ダイヤ「にこさんですか、梨子さんから話は聞いていますが無茶なことをしますわね」
にこ「チャレンジャーなものでね」
「ふふふっあの軍神とトリックスターが死にかけなんて眼福ね」クスクス
穂乃果「…腹が立つね」
せつ菜「私もです」
絵里「…誰?」
「あら、分からなかった?ごめんなさいね」
果林「私は朝香果林、よろしくね」
果林「…あ、あなたは別に自己紹介はいいわよ?絢瀬絵里、うん知ってるから」
絵里「…別にするつもりなんてなかったわよ」
果林「あらそう?ごめんなさいね」フフフッ
絵里「………」
曜『行かなきゃ!これは行かなきゃ絶対にダメだよ!』
絵里(曜が突然そう言いだすもので急いで準備して来てみた場所、それはまさに戦場と言ってもいい場所だった)
絵里(この状況、五対六————もしくは五対五の大規模な撃ち合いが始まる前であった)
絵里(相手も、味方も、全員が超一流)
絵里(曜はせつ菜という子と穂乃果という子を守りたいという理由が大きくて絶対に負けられないと言ってたけど、私たちからしてもこの状況は絶対に負けられない)
絵里(この勝負で雌雄を決するでしょう、ここで私たちの主力を全員投じるのだから、全て…全てを賭けた戦いが今、始まる)
ダイヤ「ではこうして向かい合ってても難ですし始めましょうか、私たちが来るのを待ってくれたのは感謝します」
曜「あはは、待ってたわけじゃないけどね」
凛「えーこれ流れ的に五対六でやるのー?なんかごちゃごちゃしてて凛イヤにゃー」
にこ「…穂乃果、せつ菜」
穂乃果「何?」
せつ菜「何ですか?」
にこ「あんたら希に色々教わってる身でしょ?」
せつ菜「はい」
にこ「なら私と一緒に戦いなさい」
穂乃果「…なんで?連携取れないんじゃごちゃごちゃしててマイナスにしかならないよ」
にこ「あら知らないの?」
穂乃果「何が?」
にこ「私、昔は希と一緒に殺し屋してたのよ?」
穂乃果「…え?」
にこ「だから希と連携することは慣れてるの、あんたらも希に動き教わってるっていうなら多少は取れるでしょ?」
にこ「だから死にかけ二人のカバーを私がしてやるって言ってるのよ」
穂乃果「………」
曜「私は海未さんをやるよ、希ちゃんの仇は絶対に取る」
せつ菜「待ってください、海未さんは私たちにやらせてください」
曜「え、でもその体じゃ…」
せつ菜「いいんです、希さんの仇を取るのは私たちの役目です」
果林「あははっ可愛いわね、飼い犬らしい行動だわ」
穂乃果「飼い犬だからね」
梨子「そこ弁えてるところがもっと可愛いね」クスクス
善子「うわー…あの二人相手にすると相当やばいタイプよ…」
絵里「人間関係的な意味で関わりたくないわね」
にこ「大丈夫よ、曜。私がいるから」
曜「うーん…まぁにこさんがいるなら…」
曜「…じゃあ私はダイヤさんをやるよ」
絵里「なら私たちと善子はあのオレンジ色の髪の子とぶどう色の髪したやばい子ね」
凛「凛には凛って名前があるにゃー!」
梨子「私も梨子って名前がありますしやばい子じゃないです!」
善子「いややばいでしょ…」
ダイヤ「…戦う相手は決まりましたか?」
曜「うん、決まったよ」
ダイヤ「なら開始いたしましょうか」
果林「まぁ、そちらが決めた相手と戦えるとは限らないけどね」
にこ「知ってる知ってる、でも銃を使った乱戦が運任せの戦いになるのはあんたらも知ってるはずよ」
にこ「結局は、ここで二対二か一対一に持ってこれればどうでもいいわ」
凛「確かに」
梨子「私は死にかけの二人がいいかなぁ」
曜「いいからとっとと始めようよ!」ドドドドッ!
ダイヤ「おっと」シュッ
曜「あははっ!やっぱり戦うっていいね!胸が躍るよ!」ダッ
曜「ターゲットが変わらないうちに動いた方がいいよ」ボソッ
絵里「!」
絵里(走った直後私に耳打ちをした曜、それを聞いてすぐに私も動いた)
絵里「いくわよ善子!」
善子「ええ!」
凛「えへっ凛の相手はあなたたちだね!」ダッ
梨子「すぐに片付けるよ!」ドドドドッ!
絵里(曜が動き出したと同時にみんなが一斉に動きだした、そうすればさっき決めた通りに対峙し始めて至る所で銃声が鳴り始めた)
タッタッタッ!
凛「にゃにゃにゃにゃー!」
絵里「はやっ…!」
絵里(凄まじい移動速度に驚きたかったけど、そんな驚く暇も与えてくれないほどに相手は速かった。そうしてそれに反応すればたちまち飛んでくる銃弾を躱し、こちらも仕返しに発砲をしようと思ったのだけど、別方向から銃弾が飛んできて反撃が出来なかった)
絵里「くっ…」シュッ
梨子「凛ちゃん!あの金髪が持ってる銃はスコーピオンEVOだよ!あんなのと真正面から対峙したら全弾は避けれないから撃たせない立ち回りをして!」
凛「了解にゃ!」
絵里「ばれてる…」
絵里(流石戦いのプロはスコーピオンEVOの存在を知ってた、だけど持ってるだけで威圧になるというのならこちらとしても好都合、相手が当たらない立ち回りをするというのならこちらは何としてでも発砲して銃弾を当てるだけの話よ)
梨子「いけっ!」ドドドド
絵里「ふっ」シュッ
凛「せいやっと!」
絵里(梨子が私に向かって発砲したからもちろん私は回避を行った、けど行った直後に凛がすぐそこまで近づいてきてここは発砲ではなく格闘での接近戦を強いられた)
善子「私も忘れないでもらえる?」ドドドド!
凛「ちっ…」シュッ
善子「絵里!今よ!」
絵里「ええ!」バリバリバリ!
梨子「きったない銃声…」
善子「いつ聞いても恐ろしいわね…その銃声…」
凛「きっ…かぁっ…!」
梨子「! 凛ちゃん!」
凛「大丈夫!掠っただけ!」
梨子「ほっ…」
絵里(ブレがすごすぎて狙った位置に行かないのがスコーピオンEVO A1で、三発目辺りで既にサイトのレティクルがあらぶっていた)
絵里(その結果爆音を鳴らして飛び出た銃弾は凛の頬と首をそれぞれ二発ずつ掠めた後に、腰にかけてるマントに数えきれない穴が空けた)
凛「そんなことより——」
凛「————お返しにゃ!」ドカッ!
絵里「くっ…」
絵里(仕返しがしたい凛は無数の銃弾を避けた後私へと近づき飛び横蹴りをしてきて、私は反動と銃を構えてたことで回避をすることが出来ず、両腕を使って受け止めた)
善子「はぁっ!」
凛「ほっと!凛も接近戦は得意だよー!」
絵里(私がガードした瞬間すぐに善子が突き蹴りでカバーしてくれたおかげで、凛は私への攻撃をやめて、別方向から飛んできた梨子の放った銃弾も危なげなく躱すことが出来た。もし善子が来てくれなかったら今頃どうなっていたか少し怖くなったわ)
善子「これでも食らっときなさい!」ババババッ!
梨子「こっちも見てね堕天使さん!」ドドド!
善子「! よっと、危ないわね」
タッタッタッ!
凛「はいはいこっちも見てね!」パンパンッ!
絵里「二対一にはさせない!」
梨子「だからと言ってその銃は撃たせないよ!」ドドド!
絵里「くっ…」シュッ
絵里(相手の二人の目線が善子に行く中で、私がスコーピオンEVOを凛に構えれば今度は梨子が私に向かって発砲してきた。それを避けながら再び構えれば今度は凛も私に向かって発砲してるし相当私に撃たせたくないのでしょう)
善子「どこを見てるの?」
凛「! しまっ…」
絵里(そんな中で善子が凛の後ろを取り銃のストックの部分で頭を殴ろうと両手で振りおろせば豪快ににぶい音がして、銃声が一気にシーンと静まり返った)
凛「かっ……」
善子「らしくないミスね、後ろを取られるなんて」
絵里(善子の打撃は凛の頭にヒットし、凛の頭からは血が出てた。そして当の凛は殴られてからフリーズしたままで、死後硬直とはいってもちょっと不自然だし何か違和感があった)
凛「————ちょっと甘いかなっ!」
善子「何っ!?」
絵里「善子!!」
絵里(時が止まったみたいにフリーズした凛は突然動き出し、振り向くと同時に足払いをして善子を宙に浮かせた)
凛「お返しにゃッ!!」ドカッ!
善子「かはっ…!」
梨子「堕天使さんさよなら!」ドドドドッ
絵里「間に合って!」バリバリバリ!
絵里(そしてそのまま肘打ちを食らって向こうへ吹っ飛ぶ善子へ追撃の発砲を梨子が行った。梨子が銃を構えた時点で私は発砲を察してすぐに梨子に向かって発砲した)
凛「梨子ちゃん危ない!」
梨子「分かってるよ!」シュッ
梨子「ぐぎぅ…!!」
タッタッタッ!
絵里「善子!」
善子「くぅ…痛い…」
絵里「大丈夫!?」
善子「あいつ…頭を銃で殴ったっていうのになんで生きてんのよ…」
絵里「………」
絵里(善子は横っ腹を二発貫かれた。当たり所が横っ腹だったから死にはしなかったけどそれでも戦闘には大きく関わってくるものよ)
絵里「動ける?」
善子「……なんとかね、でも激しい動きは無理ね」
絵里「そう…」
絵里(善子を助けるために放った銃弾は梨子の上腕を貫いた、連射速度が速すぎる故に一つの跳躍が絶対に回避出来ないものと化してるからダメージは安易に与えられるものの、やはり狙った場所に銃弾が飛んでくれないのが難点だ)
凛「梨子ちゃん大丈夫?」
梨子「うん、平気。でも帰ったら私少し休む…すごい痛いから」
凛「う、うん」
梨子「そんなことよりあの堕天使をやれなかったのがきついかな…凛ちゃんもわざと敵の打撃を食らったんだからあそこは殺らないと…」
凛「ご、ごめん凛があの金髪に撃ってれば…」
梨子「もういいよ、とりあえず今はやるべきことをやるしかないよ」
絵里「…善子、私が前線に行くわ」
善子「ええ、頼んだわ」
絵里(本当なら前衛後衛を臨機応変に変えてくのがいいけど、善子が怪我をしたのなら私が前線を張るしかない。凛に与えた後頭部への打撃や私が放った銃弾で作った梨子の上腕へのダメージなど確かなダメージは与えたものの、善子が横っ腹を撃たれたんじゃあまりいい状況を迎えてるとは言えなかった)
絵里「………」
スタスタスタ
絵里(ほんの数秒目を閉じ覚悟を決め、目を見開く頃には足は前へ動いていた)
絵里(一歩一歩を進めば進むほど、段々と足は速くなり気付けば走っていて、銃を構えればすぐにトリガーを引く力が私に宿った)
絵里「はぁっ!」バリバリバリ!
凛「よっとぉ!」シュッ
梨子「ほっと!」シュッ
絵里(お互い両サイド別々の方向へ回避の意味を込め跳躍し、その瞬間に発砲。結果相手の二人は扇状に回避をした為に私へ歯向かう正面からのクロスファイアは危険を伴いながらも前へ突っ走るか強引に横へ跳躍してクロスファイアから逃れるかの二択を生むので、私は迷うことなく強引に横へ跳躍して生き延びることを選んだ)
善子「任せてっ!」バババッ!
絵里(そしてその後も絶え間なく来る追撃は善子にカバーしてもらった)
絵里「………」
スタスタスタ
絵里(ほんの数秒目を閉じ覚悟を決め、目を見開く頃には足は前へ動いていた)
絵里(一歩一歩を進めば進むほど、段々と足は速くなり気付けば走っていて、銃を構えればすぐにトリガーを引く力が私に宿った)
絵里「はぁっ!」バリバリバリ!
凛「よっとぉ!」シュッ
梨子「ほっと!」シュッ
絵里(お互い両サイド別々の方向へ回避の意味を込め跳躍し、その瞬間に発砲。結果相手の二人は扇状に回避をした為に私へ歯向かう正面からのクロスファイアは危険を伴いながらも前へ突っ走るか強引に横へ跳躍してクロスファイアから逃れるかの二択を生むので、私は迷うことなく強引に横へ跳躍して生き延びることを選んだ)
善子「任せてっ!」バババッ!
絵里(そしてその後も絶え間なく来る追撃は善子にカバーしてもらった)
凛「いった…」
絵里「悪いわね、接近戦は私も得意なの」
凛「ふーん…そっか」
凛「でも、凛はその上をいってるかな!」ダッ
絵里「はっ!」
絵里(私も凛も真正面から走りだせば私の回し蹴りと凛のチョップが交差するようぶつかり合った)
凛「はぁーっ!」
絵里(次に私のお腹へと歯向かう掌底打ち、即座に反応出来た私は凛の手首を右手で掴み、そして引っ張って左手で腰にかけてたマチェットを逆手で引き抜いて横っ腹を斬ろうとした)
凛「いやっ!」ドカッ
絵里「くっ…おとなしくしなさいっ!」
ザクッ
凛「っぁ!?あぁあああッ!!」
絵里(暴れた為に、狙った横っ腹とは別に腿に深い斬撃を入れる形となった。その結果腿から飛び出る綺麗な赤が私の服に染みついた)
タッタッタッ!
梨子「よくも凛ちゃんをっ!」
絵里(その頃に梨子がそそくさとやってきて、薙ぎ払うようマチェットを横にふればしゃがみで避け、姿勢の低いままタックルをしてきて私は回避することが出来ず後ろへ吹き飛ばされた)
絵里「いってて…」
善子「危ないっ!」ババババッ
梨子「ちっ……」シュッ
絵里(追撃を許さないと善子のカバーが入り梨子は後ろへ飛び退き銃弾を躱す、この状況——私だけがほぼ無傷で事が進んでいた)
凛「うぅううぅううう…いだい…痛いよぉ…!」
梨子「だ、大丈夫?」
凛「うぅ…」
善子「あいつ…多分戦うのは無理かしらね…」
絵里「感触的に相当奥にまで刃が届いたからね、刃の長さ的に骨にまで届いてもおかしくないわ」
絵里(凛は斬られた腿を必死に押さえて痛みに耐えてた、ただそれを苦しそうと傍観してる私たちはどこにもいない)
絵里(これは正真正銘、殺し合いなんだから)
絵里「まぁ今から心臓を撃ち抜くんだけどね!」バリバリバリ!
梨子「凛ちゃん引っ張るよ!」ダッ
凛「…っ……うんッ…」
絵里(私の放った銃弾は凛のお腹に当たったけど、防弾チョッキが働いたようで何ともないようだった)
絵里(ただ、それでも横っ腹や腕を貫く弾丸は凛の中にある赤を噴射させる一方だった)
凛「ああぁあああっ……!!」
梨子「ちっ…このまま逃げてても!」ダッ
絵里「!」
絵里(そして梨子は逃げに徹したのではなく、凛の手を離して攻撃することを選んだ)
凛「っ……梨子ちゃんゴーグルつけて!」ポイッ
梨子「ええ!」
善子「っ!?絵里!スタングレネードよ!」
絵里「なっ…」
絵里(マチェットを再び引き抜いて対峙しようとした間際で上から飛んできたスタングレネード、相手である梨子はこの戦いが始まる前から曜の言ってたつけてた光を抑えて尚且つ射線を見えるようにするゴーグルをつけてて、その結果対峙する直前眩い光が私と梨子の間で爆発した)
絵里「…っあぁ!?」
梨子「よくもっ…!」
絵里(両の腕で光を遮ると突然私の左手を両手で掴む梨子————)
梨子「せいやああああっ!」
絵里「あぁっ…!」
絵里(——そして、次の瞬間には私の左腕を引っ張り後ろへ投げつけるように手を放し、私の後頭部目掛けて協力な蹴りを炸裂させた)
絵里「ぐぅ…!」
絵里(鋭い後頭部への痛みと衝撃、そして今もまだ残る眩い光から私のバランス感覚は決壊し、お腹から地面へと倒れた)
絵里「まだ…!」
絵里(だけどいつまでも倒れたままでいられない、意識がある以上は戦うのみ。だから私はすぐに起き上がろうとした)
凛「これは凛の全てを込めたお返しだよッ!!!」
絵里「!!」
絵里(だけど、まだ這いつくばった状態で頭上を見ればボウイナイフを両手に宙を舞う凛の姿)
ドスッ
絵里「…いっ…あっ……」
絵里(そうして私はどうなったんだろう)
絵里(背中を始めとした悪感に絶望を感じた。鋭利で、久々で、声も出ない終末を感じるこの痛み——背中から入った一つの刃は心を掠めて私のお腹を貫いた)
絵里「か…は……」
善子「絵里!?絵里!!?」
凛「う…くっ……」
梨子「休んでる暇はないよ!」ドドドド!
善子「ちっ……」シュッ
絵里(口から、お腹から、背中から血を流す私を置いて、戦線は変化を遂げていく。体が動かない…体が冷えていくのを感じる、今まで何回も感じたこの味は本当に不味くて、絶望の味だった)
絵里「まだ……死ね…ない…」
絵里(ずりずり這いずれば、今も刺さってるこの刃物が私の体内で微かに動いて痛みを与えた)
絵里(死っていうのは本当に一瞬で、こうして力なく地面と一緒になる私はもう無力なんだと痛感した。まだやりたいことが出来てないのに、まだ生きていたいという思う気持ちは私のお腹を中心に発生し続ける痛みで相殺されていく)
絵里「千歌…真姫…善子…果南…ことり…曜……」
絵里「……ごめんっ」
絵里(その言葉を最後に、私の意識は闇へと消えた)
「ねえ待って」
絵里「!」
絵里(意識は闇に沈んだ、手も足も何もかもの感覚が消えた。それなのに私に問う声は聞こえた)
絵里「誰?」
絵里(声は出せた、だから私も相手に問う)
「忘れたの?私よ?」
えりち「え・り・ち♪」
絵里「………」
えりち「そんな反応しないでよ!」
絵里「はぁ…こんな時に何の用?私は死んだのよ?」
えりち「いやまだ死んでない、生きてるわ」
絵里「…でも、体は動かない」
えりち「……あなたはどうしたいの?」
絵里「…勝ちたい」
絵里「鞠莉のところへ直接行って、あんたの作ったアンドロイドはあんた直属の部隊を潰すことも出来るんだよって言って泣き顔を拝んでやりたい…」
えりち「………」
えりち「…無理ね」
絵里「…知ってるわ、でも反旗は翻す為にあるの」
絵里「私たちが差別されない為には、悔しいけど鞠莉にどうにかしてもらうしかないの」
絵里「でもアンドロイドは人間とは違ってランダム性がない、みんながみんな誇り高き何かを持ってる。差別元となってる鞠莉に差別をどうにかしてくださいなんてプライドを捨てる行為するはずがないの、だから実力行使でやるしかないの」
えりち「………」
えりち「…この隔離都市を抜け出すって方法もあると私は思うんだけど」
絵里「ええ、それも考えた。けど違うの、私が求めるそれは根本的な解決にはならない」
絵里「謎のカーストがあるのはこの隔離都市だけ、でも私はこの隔離都市が好きなんだと思う」
絵里「ここにはたくさんの仲間がいるんだから」
えりち「……なら、提案があるわ」
絵里「提案?」
えりち「………」
えりち「この戦いだけ、私に体を貸してくれない?」
絵里「…は?」
えりち「どうせこのままでいてもあなたは死ぬ、なら最後の足掻きとして私に体を貸してくれない?私があの戦場に立つわ」
絵里「で、でも体はもう」
えりち「動く」
絵里「!」
えりち「動かすの、動かすしかないの」
えりち「…だから私に、あなたの全てを一度委ねてほしいの」
えりち「それがパーフェクトな選択だから」
絵里「……分かった」
絵里「…じゃあ私はどうすればいいの?」
えりち「私が戦場に立ったらあなたは眠りにつく、私とあなたが入れ替わるまでは」
絵里「……そう」
絵里「じゃあおやすみ」
えりち「…ええ、おやすみ」
絵里「すぅ…」
絵里(こんなことしてよかったのかしら)
絵里(でも、これをする以上に私の出来ることはなかったと思う。意識はあっても、感覚は消えて視界は闇に飲まれた、なら何か起こせるもう一人の私に頼るしかなかった、縋るしかなかった)
絵里(でも、この選択が正しいかと言われればどうも開いているはずの口も開かないままでいてしまう。そもそも“もう一人の私”っていう得体の知れないイレギュラーな存在に、私の体を託してもよかったのかしら)
絵里(後から考えればもう私の体は私の元へは帰ってこないのかもしれない、このまま心も体も乗っ取られて私は一生眠りにつくのかも)
絵里「……すぅ」
絵里(そう考えてると段々眠くなってきた。これが最後の眠りにならなければいいけど。そう願って眠る今はちょっと心地が悪かった)
一旦中断、もしかしたら今日はこれで終わりかも。
>>331の凛「その体じゃ躱しながら撃てないよね!だって片方の肩が壊れててグリップの部分が持てないから!」っていうセリフ、片方の肩じゃなくて片手ですね。すいません
覚醒えりちくるー?
~
絵里「ん……」
絵里「ん…くっ…いってて……」
絵里(どのくらいの時間が経ったんだろう、目覚めと共にやってきたのは頭の奥に針を刺すような激痛と酷い渇感だった)
絵里(起き上がって頭を押さえながら開こうとしない目を擦って目を開けば、ぼやけた視界が段々と形を表していった)
絵里「ここは……家?」
絵里(見覚えのある寝室、外は真っ暗でほんのり光るランプをつけて小さな鏡で自分を映せば頬には無数の切り傷が、手には包帯がグルグル巻き、改めて自分の体を見れば至る所に包帯が巻いてあって戦いの後であることが確認出来た)
絵里「んん…うおっと…」
絵里(ベッドから降りて歩こうとすれば方向感覚が上手いように掴めなくて、足も力が入らない。よれよれでドアノブに手をかければ目眩がして、どうにもこうにもあの戦いの怪我の影響が出ているようだった)
スタスタスタ
果南「……あ、絵里!」
善子「! 絵里!?」ガタッ
ことり「よかった…起きたんだね」
絵里「あはは…おかげ様で…」
曜「絵里さん…よかった……壊れたんじゃないかと思ったよ…」
絵里「壊れたってそんな大げさな…」
善子「…いや、曜の言う通りよ」
果南「まぁまぁこうして絵里が目覚めたんだからいいじゃん」
絵里「…!あの戦い、どうなったの?」
善子「えっ…覚えてないの?」
絵里「ええ」
曜「…やっぱり壊れてるんじゃ」
絵里「…?何の話?」
善子「…どこまで覚えてるの?」
絵里「凛に背中からナイフで刺されて、それから……」
絵里「………」
絵里(もう一人の私の事は覚えてたけど、それを口にすることはなかった。なんか言い出しにくかったし)
絵里「…そこまでしか覚えてない」
善子「……曜」
曜「…うん」
絵里「…何?」
善子「…あの後絵里は突然立ち上がってさも無傷かのように戦線に復帰した」
絵里「………」
善子「その後の絵里といえば楽しそうな笑みを浮かべながらトリガーを引いて、ナイフを振って、相手を殴ったり蹴ったりする——それだけのアンドロイドだった」
善子「それに動きは殺意そのものだった。いつもの絵里なんかとは比べ物にならない俊敏さだったわ、私はそれで絵里が壊れたんだと思ったの…戦ってたのは絵里だけど、その姿は絵里とは似て非なるものだったから」
曜「…それでね、凛ちゃんを殺したその後絵里さんは私やせつ菜ちゃんたちのところにまで行ったんだ、突然スコーピオンEVOの弾が飛んできた時は驚いたよ」
絵里「………」
絵里(私とは似て非なる姿——それはまさしくもう一人の私という存在を形容するに最高の言葉だったと思う)
絵里「…じゃあ結果どうなったの?」
曜「結論から言うとね、私たちは勝ったよ」
絵里「…それで?」
曜「こちらの死人は0人、向こうの死人は……」
曜「一人…かな」
絵里「…!もしかして今言ってた凛…?」
曜「うん…死んだ」
穂乃果「あの猫女が死んだのはいい気味だよ」
絵里「!」
せつ菜「お、お邪魔してます!」
絵里「あなたたちは…」
善子「あの二人の主は死んだからね、とりあえず曜がここへ連れてきたのよ」
絵里「そ、そう…」
絵里「…そう、そうよ凛は私が殺したって……」
曜「あ、うん…絵里さんが殺したね…」
絵里「………」
善子「…そうよ、さっきも言ったわよね、俊敏だったって。あの時凛は腿を斬られてあまり動けない状況だった、だからダメ押しで攻めてスコーピオンEVOの弾を食らって死んだ」
絵里「………」
曜「…正直、無惨だったかな」
曜「自分が作った武器だけど、連射速度が高い銃はやっぱり殺した時如何に恐ろしいかが分かるよ」
善子「腹を数十発に渡って貫かれて死んだわ、多分一発か二発は脳天や心臓をぶち抜いてるんじゃないかしらね、スコーピオンはブレが酷いから狙わずとも当たるもんだわ」
絵里「…ッ」ゾクッ
絵里(想像しただけで寒気がした、確かに銃とは人を殺す為にあるもの。だけどオーバーキルにも程がある)
絵里(腹を貫ぬかれて死亡ならまだしも、何十発も貫かれて死亡なんてまともに死体が見れたものじゃないでしょう…もう一人の私は…一体何を考えて凛を殺したのかしらね)
曜「…それでまぁ、こうやって今はみんなで羽を休めてるんだ」
絵里「…そう」
果南「絵里は二週間も眠ってたんだよ?」
絵里「…え?二週間?」
ことり「そうだよ、あの戦いからずっと起きる気配が全く無かったんだよ?」
絵里「…嘘でしょ」
絵里(横長の棚の上にある時計はあの日から約二週間の月日が経っていることを示していた。今でも感じるこの不自由な体は一体何が起こって不自由になったというのだろうか)
果南「これでみんなお荷物だね」クスクス
穂乃果「だからその呼び名はっ!」
曜「穂乃果ちゃんはそんなに怒らないの、実際今はみんな戦えないんだしここでゆっくりしてようよ」ゴクゴク
ことり「…渡辺曜はくつろぎ過ぎだと思うけど」
せつ菜「私も何か飲みます!」
善子「…まぁそんなところよ、しばらくの間はみんなこの体が癒えるまで動けないわ。それは相手も同じよ」
絵里「…凛以外のやつらはどうなったの?」
善子「みんな私たちと同じくらい怪我を追って退却って感じ、今回のこの戦いは痛み分けだったわ」
絵里「…そうなのね」
絵里(戦いの結果はどうにもコメントに困るものだった、一応戦いには勝ったっぽいけどもやもやは全然消えない。もう一人の私の事も気になるし、死んだ凛の事も気になる、それに相手の事も気になる)
絵里(……だから顔は晴れないままだったと思う)
果南「はーいポテチ持ってきたよー」
曜「お、いいね!みんなも食べよー!」
せつ菜「穂乃果さんも食べましょうよ!」
穂乃果「う、うん」
果南「ことりも食べよ?」
ことり「私カロリー高いやつはちょっと…」
果南「普段から全然食べてないんだしポテチ食べた程度じゃ太らないよほらほらっ!」
ことり「分かったからポテチ押し付けないで!自分で食べるから!」
善子「果南は何をしてるのよ…」
絵里「……ふふっ」
絵里(でも、心なしかみんな楽しそうだった。あの戦場とその結果は散々なものだったけど、またここが賑やかになったのを見て少し安心した)
絵里(穂乃果って子とせつ菜って子も曜からは話を聞いてたけどすごくいい子そうでよかったわ。果南のおかげでこの空間にも馴染めてるし、私もそれで少しは心が楽になった)
にこ「絢瀬絵里、ちょっといい?」
絵里「! あなたは…」
にこ「もう敵対するつもりはないわ、あいつらを殺すつもりもない。だからちょっと来て、話があるの」
絵里「…ええ」
絵里(廊下の方から小さな声で私を呼ぶ相手、それは対アンドロイド特殊部隊のにこだった)
スタスタスタ
にこ「ここでいいかしら」
絵里「…外まで来て何を話すの」
にこ「あぁいや…」
絵里「…?」
にこ「その…ごめんなさいね」
絵里「…何の話?」
にこ「あんたらを狙って悪かったって話よ、私も目が覚めたわ、あいつらとはいたくないもんでね。海未には悪いけど」
絵里「…そう、そんなことならいいわよ」
にこ「…ありがとうって言っておくわ」
絵里「ええ」
にこ「……でもね、絢瀬絵里——いや、絵里」
絵里「…何?」
にこ「松浦果南は本当に危険よ」
にこ「これだけは譲れない、戯れ言と聞き入れても良い、でも頭のどこかで私の言葉を覚えておいてほしい」
絵里「分からないわね、どうしてそこまで果南を危険視するの?」
にこ「それは————」
ガチャッ
絵里「!」
にこ「あんたら…」
絵里(外にでてにこと話してれば、今度はそこに穂乃果とせつ菜がきた)
穂乃果「…帰る」
にこ「帰る?あんたらの家はどこにあるのよ」
穂乃果「私たちは軍人だよ、野宿くらい慣れてるよ」
絵里「え、ならこの家で」
せつ菜「そうはいきません」
絵里「…どうして?」
せつ菜「業務用アンドロイドはあなた方標準型や戦闘型と違って自分の思考通りに体が動きません」
絵里「…どういうこと?」
せつ菜「私たちはとにもかくにも業務用アンドロイド——希さんは私たちを自立出来るアンドロイドへと変えてくれた」
せつ菜「だけどどうにもこうにも業務用アンドロイドの域から抜け出せないんです。また私たちを引っ張ってくれる主が見つからないことには私たちの生きる意味も価値も、そして術もありません」
絵里「…なら私が」
穂乃果「なら私が主をやる、とは言わないよね?」
絵里「っ……」
穂乃果「私はあなたが気に入らない」
絵里「…どうして?」
穂乃果「………」
せつ菜「とにかく私たちはここから離れます。次会う時は敵かもしれませんね」
にこ「待って、その傷のまま戦闘でもしたら間違いなくあんたらは死ぬわよ。特に海未のやつは二週間も経ってるんだからもう動けるはずよ」
穂乃果「私たちは戦闘のプロ、体だけじゃなくて頭もちゃんと使えるから心配ないよ」
にこ「…無理ね、死ぬわ。百パーセント」
せつ菜「…何を根拠に言ってるんですか?」
にこ「あんたらは強いわ、二対二じゃ絶対に負けないと言ってもいいくらいに強い、そしてある程度人数に差が開いてても戦えるポテンシャルがある。だからEMPグレネードは元々あんたらを殺す為に作られたモノだった」
にこ「万全の状態なら海未にだって勝つことは可能でしょうけど、今の状態じゃ海未一人にすら勝てない。それは海未と一緒にいた私がよく知ってる」
にこ「元はといえば今回は私や曜、そして絵里と善子が助けに来てくれたから助かったけどあんたらは言えば死んでる存在なのよ?お高いプライドも大概にして、自分の出来ることを弁えてから行動に移すことね」
穂乃果「それでも私たちはいくよ、何故なら勝てるから」
にこ「あーあそうかいそうかい、ならとっとと海未のところに行って死んでくれば?そうすれば天国にいる希もあんたらに会えて嬉しいことね」
絵里「ちょ、ちょっと喧嘩は…」
穂乃果「…どんだけ私たちを殺したいの?不愉快なんだけど」
にこ「現実を見ろっていってんのよ、穂乃果の隣にいる夢追い人のせいで穂乃果にも夢追い人が感染しちゃった?」
せつ菜「私は夢追い人じゃありません!」
穂乃果「…いこっせつ菜ちゃん、こんなところにいても無駄な体力使うだけだよ」
せつ菜「は、はい」
スタスタスタ
絵里「………」
絵里(いい子なのは分かる、だけどあの二人はプライドが高い、高すぎる。だから見えるあの背中はとても冷たいものだった)
穂乃果『私はあなたが気に入らない』
絵里(…あの凍てついた顔はどうしたら綻びるのかしら)
せつ菜『とにかく私たちはここから離れます。次会う時は敵かもしれませんね』
絵里(あの固い態度を緩めるにはどうしたらいいのかしら)
絵里(さっきはあんな楽しそうな笑顔をしてたのに、それが嘘であったかのような、それがまるで本当のあなたであるような今は一体何なのかしら)
絵里(この外にいる全員の怪訝そうな顔は今も解けることはない)
絵里「あぅ…あ……」
絵里(その中で私は、この状況で何を言えばいいのか分からなかった)
絵里(軍神と謳われた相手に威圧されて弥立って言葉が上手く出せなくて、一歩進んだ足と一つ伸びた手は二人に届くことは無かった)
にこ「ったく、希が死んだせいで拠り所がないせいか昔のあいつらを見てる気分だわ」
絵里「…知ってるの?昔のあの二人を」
にこ「当たり前でしょ、希と私は元仲間だったからね、敵対関係にあっても殺し合いをすることは無かった。だから増えていくのはあいつらとの交流関係だったわ」
絵里「…そうなの」
にこ「ええ、昔なんて殺すことしか考えてなかったのに、数か月経てば何かめんどうなことがあっても穂乃果が“希ちゃんのところへ帰るよ”ってせつ菜を引率しておとなしく帰ってくもんだから驚いたわよ」
にこ「それからあいつらも常識を覚えてきたから今ではかなりまともなアンドロイドだけど、心の支えの主軸であった希が死んだからね、あいつらの道徳が決壊し始めてるんだわ」
絵里「…それはまずくない?」
にこ「…あいつらの道徳性は別に心配ないけど命は今もすり減ってる状態だわ、次第に海未とかに遭遇して死ぬのはもはや確定的」
絵里「………」
にこ「せつ菜はちゃんと自覚してたけど、結局あいつらは業務用アンドロイドなのよ」
にこ「主の導がないとあいつらは自然と死の道を選んでしまうし猜疑心はまた増えてく一方、特に穂乃果は……ね」
絵里「…何?」
にこ「昔よりもっと前、一昔前の穂乃果はよく笑ってたわ。それはせつ菜も同様」
にこ「それが今はこうなんだから、主の重要性が分かるわ」
絵里「…ならにこがやれば」
にこ「無理ね、あいつらの主が私なんかに務まるわけがない」
絵里「どうして?」
にこ「私は希ほど心は広くないし、優しくもない。希は基本的に放任主義だから穂乃果とせつ菜をたっぷり可愛がるだけで後は何もしないいわば拘束を一切しないやつなのよ」
にこ「でも私は違う、希の放任主義はある意味でいえば正解だけどある意味でいえば不正解。あんな危ないやつに好き勝手やっていいよなんて言うやつがまともなんて到底言えたものじゃないわ」
絵里「…確かに」
にこ「だからきっと私が主になった暁にはあいつらに不自由な生活を強いてしまうでしょうね、だから私はやらないわ。プライド高きアンドロイドは拘束を嫌うだろうから」
絵里「…ちゃんと弁えてるのね」
にこ「当然よ」
絵里「………」
にこ「…じゃあ私も帰るわ」
絵里「え?」
にこ「絵里が生きてるのを確認出来たならもうここにいる必要はない、あいつらもきっと絵里が目覚めたからここを出たんだわ」
絵里「…どうして?このままいればいいじゃない」
にこ「私には妹たちがいるの、例えあの部隊を裏切ろうとも戻らなきゃいけないのよ。ママはいるけどね、姉として誇りを持って生きてるの」
絵里「…姉として」
絵里(私にも亜里沙という妹がいる、だからその言葉は少し…少しばかり痛かった)
にこ「その点ダイヤは姉として最低だったわ」
絵里「…!そういえばそう、なんでダイヤを嫌ってるの?」
にこ「…あいつにはルビィっていう妹がいるの」
絵里「!!」
にこ「…でもその妹は昔あったデパートに乗り込んできた武装集団によって足を撃たれて意識は闇へと誘われた、きっと熟成した今の体なら意識はあったと思うけど、まだ幼い頃だったから痛みは体についていけてなかったんだわ」
絵里「…それ、知ってるわ」
にこ「…そう、それでダイヤはショックが大きすぎたんだわ。悲しみは次第に怒りへと変わっていき、二度と大事なモノを無くさないと対アンドロイド特殊部隊に入った。あそこの部隊は人間の中でも指折りの強者しかいないからね、あそこに入ることこそ自分が強くなる最短ルートだと思ったんでしょうよ」
にこ「そうしてそこで出会った凛に慰められて、次第に凛を本当の妹のように見るようになってしまった」
絵里「……なるほどね、でもおかしいわ。なら凛は何なの?」
にこ「あいつはぁ…そうね…ただのバカかしら」
絵里「ただのバカ?」
にこ「人っていうのは変わるものなのね」
絵里「え?」
にこ「私はそれを凛で知ったわ」
絵里「どういうこと?」
にこ「アンドロイドでも人間でも、とにかく人語を喋れる者はみんな同じ事を言うわ」
にこ「昔の方がよかったって」
にこ「昔のあなたの方が優しかった、昔のゲームの方が面白かった、昔の公園はもっと楽しかった」
にこ「当たり前よね、だってよく考えてみて、今が在った時昔の自分を見るとその時には当たり前だと思ってたものが今にはないの」
絵里「…?意味が分からないんだけど」
にこ「例えば初めて恋人が出来たっていうならそれは相手を大切にしなきゃって思う気持ちが強い時なの、だから相手に優しくするし何があっても守らなきゃって思う、つまりそこに初々しさがあるの」
にこ「でも時間ってものは残酷だわ、数か月…いや短いかしら、数年が経てばそこに当たり前のように相手がいることに気が付かなくて扱いも段々と雑になってくる、大切にしていく必要性がなくなるの、どう接すればいいか分からない泡沫の存在から元からいるような当たり前の存在に変わってしまうから」
にこ「ゲームだってそうよ、今はインターネットが盛んだから昔みたいに友達で集まってゲームをやらないの、友達がいることが当たり前だと思ってたから昔の方がいいだなんていって懐かしむの、失ったモノに気付かないままね」
絵里「………」
にこ「だから?って顔してるわね、分かるわよ」
絵里「えっ!いや…」
にこ「…回りくどくてごめんなさいね、本題を言うと凛はいじめっ子だったのよ」
絵里「いじめっ子…」
にこ「ええ、凛はここ東京出身で幼い頃から周りにまともな人間が少なくて育ちが悪かったの」
にこ「動物は遊び半分で殺すし、人の気持ちを理解しようとしない薄情者、そのおかげで凛の周りにいたのは凛と同じよう狂ったやつだけ」
にこ「好戦的なくせに反則級に強いのが凛、百戦錬磨のその姿は戦闘型アンドロイドなら必ず知ってるくらいよ」
絵里「………」
にこ「そんな中で狂ったやつらの集まりである対アンドロイド特殊部隊が入った時、凛は初めて思いやりという言葉を知ったわ」
絵里「思いやり?」
にこ「さっき言った通りよ、凛はダイヤで初めて人を労わる気持ちを覚えた。凛はそれから変わった、いい方にも悪い方にも」
にこ「人に関心のない薄情な心が初々しい交感をした、凛は初めて人の気持ちを理解した。だから凛は分からないの、他人が笑顔でくれる言葉は全て良いモノとして受け取ってしまう」
にこ「例えそれが狂った感情だとしてもね」
絵里「……そういうこと」
にこ「ダイヤは凛を本当の妹として見て、凛はダイヤの操り人形、人の気持ちを理解しようと凛は偉かったわ。でもそれ以降の凛はただのバカだった」
にこ「…だから私はバカな凛が嫌い、そしてルビィという本当の妹がいながらも凛を妹に仕立て上げたダイヤが大嫌い」
絵里「………」
にこ「だからね、今回凛を殺してくれたのはある意味言えば救済になったと思う。ダイヤは目が覚めたでしょう、凛は天国で反省してると私は嬉しいわね」
絵里「……私は」
絵里(私は凛を殺した覚えはない、死体も見てない。私がもう一人の私に全てを委ねた時から記憶は闇の中だった)
絵里(それなのにどうしてだろう、凛が死んだ——そこまでならきっとよかった。でも私が殺したっていう事実があることに、どうしても私は痛みを感じてしまっていた)
にこ「…まぁ帰るわ、私も何かない限りはここへ帰ることはないわ」
絵里「……気を付けてね」
にこ「はいよ、でも人の心配より自分の心配をしなさい。私はまだ戦える体だからいいけど絵里は違うんだから」
絵里「…ええ」
にこ「じゃあね」
スタスタスタ
絵里「………」
絵里(…どうして、みんなはそんなに一人へ…孤独へなろうとするのかしら)
絵里(協力関係は結んだならきっとそれは仲間って言っても良いと思うのに、穂乃果もせつ菜もにこも、みんなここから離れたがる)
絵里(……そんなにここの居心地が悪かったのかしら)
絵里「…いや」
絵里(そんなことはない、ムードメーカーの果南だっているしツッコミとボケ両刀の善子だっている、割かし自由人な曜や比較的まともなことりもいて、どういう性格をしててもきっとそこは馴染みやすい場所だったと私は思う)
絵里(みんな怪我してて、死ぬ危険性もあるというのに…)
絵里(どうしてみんな、そこまで死にたがりなのかしら……)
絵里「はぁ」
ことり「おかえりなさい、大丈夫だった?」
絵里「ええ、特に何も」
ことり「…あれ?矢澤にこや穂乃果ちゃんは?」
絵里「みんな帰っていったわ」
ことり「えぇ!?大丈夫かな…」
絵里「…にこは多分大丈夫だけど、せつ菜と穂乃果はやばいってにこも言ってたわ」
ことり「……どうするの?」
絵里「……正直分からない、何かあったら助けに行きたいけど、この体じゃまともには……」
ことり「………」
果南「その時は私とことりに任せてよ」
絵里「! 果南…でも二人は体が…」
果南「大丈夫だよ、もう私は戦える。もちろん万全じゃないけど、それでも充分なほどには戦えるから今度は私が絵里の代わりをやるよ」
ことり「…そうだね、私も万全じゃないけど戦えるよ。肩も動くし、足もさほど痛みはない」
絵里「…そう、でも無理はしないでね」
果南「あははっそう言ってくるのが何とも絵里らしいよ」
ことり「…分かるかも」
絵里「そ、そう?」
果南「うんうん、絵里は絵里だね」クスクス
絵里(果南はやっぱりすごい人よ、人を元気づけるのがとても上手くて尊敬しちゃうわ)
絵里(果南に腕を引っ張られてリビングに向かえば善子と曜が楽しそうにゲームをしてて、“絵里も一緒にやろうよ”って笑顔で言ってくるもんだからこれは参加せずにはいられないわよね)
スタスタスタ
絵里「………」
絵里(ただゲームの前に、テーブルに所狭しと置かれている武器が戦いの爪痕を残していた)
果南「改めて見るとすごい武器の数だよね」
曜「不良みたいだよね」
善子「いやこんな物騒な武器持ってる不良どこにもいないわよ…」
絵里「…あ、これことりの……」
ことり「あ、うん。曜ちゃんに直してもらったんだ」
絵里「ええ、よかったわね」
ことり「うんっ」
花丸「あ、あの…」
絵里「…あれ?」
ことり「…あれ?穂乃果ちゃんと優木せつ菜は帰ったんだよね?」
絵里「え、ええ」
絵里「どうして花丸さんがここに?」
花丸「マルは寝てたらなんか二人に置いてけぼりにされちゃったみたいで…あ、でもこの手紙が私のところに置かれてて…」スッ
絵里「…読んでもいい?」
花丸「…はい」
絵里「………」ペラペラ
絵里(そこに書いてあったのはせつ菜から花丸へ向けてここの家に残れというメッセージだった)
絵里「ふむ…私たちといるよりかここにいる方が何十倍も安全だから戦闘が出来ない花丸さんはここにいるべきです…か」
善子「…無責任ね、要は足手纏いって言いたいんでしょ?」
花丸「ずら……」
絵里「ちょっとその言い方は…」
曜「強ち間違ってないよ」
絵里「!」
曜「死にかけの二人が実質非戦闘員である花丸さんと一緒にいて、誰かと戦闘が始まった暁には少し荷が重いように感じると私は思うよ」
曜「だって助ける余裕がないんだもん、そんな状態で死なれてもどうしようもないし、そんな状況になるくらいなら最初から戦闘に参加しないよう心掛けるべき」
曜「だから二人の判断は正しいと私は思う」
花丸「…知ってる、マルがお荷物だなんてことは。足手纏いってことも遠回しに言ってくれるのはきっとせつ菜ちゃんなりの優しさなんだと思ってる…ううん思いたいずら……」
曜「…大丈夫だよ、せつ菜ちゃんも穂乃果ちゃんも仲間は大切にする人だから。花丸ちゃんを捨てたわけじゃないよ」
花丸「…うん」
絵里「………」
果南「…あぁもういいじゃん!ならあの軍神とトリックスターを引っ張ってくればいいじゃん!」
曜「うん、それが一番良いと思う。あの二人は今はまだここにいるべき」
曜「…だけど、私、絵里さん、善子ちゃんは戦えないね」
善子「…ええ」
絵里「この傷じゃ…足を引っ張るだけね」
曜「あの二人は絶対に抵抗してくるよ、プライドが高いからね」
果南「なら二対二になるってことか」
ことり「…私は戦いたくない」
果南「え?なんで?」
ことり「……穂乃果ちゃんとは二重の意味で戦えない」
果南「…あの時の話?」
ことり「…うん、そうだよ」
絵里「あの時の話?」
果南「絵里と善子が曜とかと戦ってる時、私たちは色々話をしてたんだよ」
ことり「そんな時にあがったのが希ちゃんのところにいたアンドロイドの話だった」
果南「そこでその高坂穂乃果っていうアンドロイドの事を聞いた、結論からいればことりは穂乃果の元親友で、でも穂乃果に殺されかけたんだって」
善子「なんで?喧嘩でもしたの?」
曜「違うね、穂乃果ちゃんは過去に一回死んだことのあるアンドロイドだよ、だからその時に埋め込まれた記憶で性格が一変した」
ことり「その通りだよ、だから私はその変わり果てた穂乃果ちゃんを殺そうとした」
絵里「…それで結果はボロ負けだったと」
ことり「…うん」
善子「なるほどね、つまり戦いたくないっていうのは腐っても元は親友であった相手で、しかも一回殺されかけたくらいに実力を知っている相手とはやりあえないってわけ」
ことり「…その通りだよ」
曜「…こればっかりは仕方ないんじゃないかな、私はことりちゃんに同情するよ」
絵里「ええ、あくせくしたって何も始まらないわ」
果南「…まぁね、でもそれじゃああの二人の助けようがないよ?」
花丸「大丈夫だと思う…ずら」
花丸「例え負け戦を強いられたとしても、そう簡単には死なないと思うから」
果南「…ならいいけど」
「………」
絵里’(この状況で、それは流石の果南もこの重い空気の中で何かを話そうとはしなかった)
絵里(私は考える、あの戦いは勝利であったのだろうか)
絵里(それは否、私はそう思う)
絵里(私としては敗北で、今でもピリピリ残ってるトリガーを引く感覚は人を殺めた感覚とほぼ同義なんでしょう)
絵里(私があの時——千歌が死んだ時にトリガーを引いた時から一本道であったのは確かだけど、それは今に戦えば戦うほど目標までの距離が遠く見えてくる)
絵里(それは届きそうで届かない錯覚の距離ではないし、ただ単純に目に見えて分かるほど遠い距離でもない)
絵里(私が見てるのは、どこがゴールかもわからない道のない道)
絵里(きっと発砲しても誰にも当たらないしどこかの壁に当たることもない無限の彼方で私は黄昏てるだけ)
絵里(私のいるこの道は、一体何があるというのかしら)
花丸「大丈夫…ですか?」
絵里「…心配してくれるの?」
花丸「…一応友達だから」
絵里「…ええ、そうね。私たちは友達だものね」
絵里(花丸さんと話すのは、まだ千歌が死ぬ以前の図書室に真姫といた時以来だった。その時はPR-15の事を丁寧に教えてもらって、私も花丸さんも真姫もよく分からずに親しくなってた)
絵里「……あの希って人のところの人だったのね、あなた」
花丸「希ちゃんに、マルの才能を買ってもらったずら」
絵里「あなたの才能?」
花丸「……銃にとっても詳しいっていう点で、相手を解析する役目と情報を集める情報屋として拾ってもらったずら」
絵里「拾ってもらったって言っても花丸さん人間でしょ?親はいるんでしょ?」
花丸「…ううん、一人ずら」
絵里「え?なんで?」
花丸「…ごめんなさい、その話はあんまりしたくないずら」
絵里「…そう、ごめんなさい」
絵里(人は過去を振り返りたがらない、特にこの隔離都市に住む人間はそう、みんながみんな過去を良いモノとしては見ていない)
絵里(実際そうだったでしょ?善子も、ことりも、にこも、全ては銃弾によって撃ち抜かれた運命を体験してる)
絵里(だからきっとこの花丸さんもそうなんでしょう、“そういう過去”があるんでしょう)
花丸「…まぁ一人のマルを拾ってもらって、希ちゃんの家で居候をしてたずら」
絵里「…そうなのね」
花丸「だからいつまでの話になるか分かりませんが、しばらくの間ここでよろしくお願いします」ペコリ
絵里「え、ええ…よろしくね。でもそんなかしこまらなくてもいいのよ?」
花丸「ううん、最初はいつもこうだから…希ちゃんの時も全く同じだったから…」
絵里「そ、そう…」
絵里(まだ関りが薄いっていうのもあったし、今が今なだけに私も花丸さんも口は中々開かなかった)
絵里(月明かりに照らされるだけの真っ暗な寝室で二人、どこか妖しくて丸いお月様に黄昏ていた)
「………」
絵里「ね、ねえ花丸さん」
花丸「はい、なんですか?」
絵里「これからしばらくの間休み傷が癒えたとして、それから私たちはどうすればいいのかしら?」
花丸「……あの戦いはマルたちと対アンドロイド特殊部隊だけが動く事件にはならなかった、次第に普通の警察も動きだす。だからもう派手な事は出来ないずら」
絵里「………」
花丸「だから…もう、対アンドロイド特殊部隊は無視でもいいと思うずら。絵里さんの行き先——そう鞠莉さんのところに行くべきだとマルは思う」
曜「いや、違うかな」
絵里「!」
花丸「!」
曜「それは無理だよ、鞠莉ちゃんの家は大きな豪華ホテルの最上階なんだけど、警備が分厚い上に対犯罪集団に努めシステムが厳重すぎて侵入が難しい上に侵入が出来たとしてもって感じ」
絵里「なら外にいる時に殺せば」
曜「その時に鞠莉ちゃんの近くにいるのが対アンドロイド特殊部隊とかの一流警察の集まりなんだよ、だからアンドロイド特殊部隊を壊滅させることにはちゃんと意味があるし、政府の武器庫であるY.O.L.Oを潰すことにも将来性が見える時なんだよ、今は」
花丸「…なるほど、確かにその通りずら」
曜「確か絵里さんと戦ってたぶどう色の髪をした子——梨子ちゃんっていうんだけどね、梨子ちゃんは中学一年生の時にアンドロイドに親を殺されててそれ以来ずっとアンドロイドの復讐の事しか考えてないし、後から戦場にやってきた果林ちゃんなんかは元々アンドロイドを肯定してる人なんだけどちょっと狂った美学を持ってて殺すことに美しさを感じちゃってて、だから誰かを殺しても犯罪にならない対アンドロイド特殊部隊に入ってるしで対アンドロイド特殊部隊っていうのは特別なことでもない限り一生敵でい続けると思う」
絵里「……」
花丸「…難しい話ずら」
曜「…まぁ今考えるべきことはそこじゃないけどね」アハハ
花丸「…?」
曜「今考えるべきことは…それはー?」
曜「今日の夜ご飯をどうするか!だよ!」
絵里「…?」
曜「いやいや何も難しいこと言ってないじゃん!もう十時だよ!?十時なのに何も食べてないからお腹空いたんだよ!」
グゥ~…
花丸「ずらっ…」
曜「ぷっくすくすくす……」
花丸「わ、笑わないでほしいずら!!」
絵里「よ、曜って料理作れるんじゃなかったの?」
曜「作れるよ、でもあの状況で作るのもなんか違うじゃん?」
絵里「まぁ確かに…」
曜「ほらっだから絵里さんも花丸ちゃんもダイニングとリビングに行こ?腹が減っては戦は出来ぬだ!」
スタスタスタ
絵里「…曜は強いのね」
花丸「あんな状況でも笑っていられるのは…少し羨ましいずら」
絵里(そう花丸さんと交感をして曜の後ろをついていった、ダイニングとリビングに行けば果南とことりは一つの漫画を一緒に見て変な感興の声をあげてて、善子はことりが好きそうなうさぎさんの可愛いクッションを抱いてソファで寝てた)
曜「二人ともご飯食べよー!あ、善子ちゃんはご飯出来たら起こそう」タッタッタッ
絵里「…ふふふっ」
絵里(曜も、果南もことりも、そして寝てる善子も笑ってて私はなんとなく安心した。また、いつもの雰囲気が戻ってきたような気がする)
果南「絵里たちの傷、いつ頃治るかなぁ」モグモグ
曜「アンドロイドは人間より回復が早いから絵里さんと善子ちゃんは後数週間で治るんじゃないかな」
絵里「後数週間は長いわね…」
善子「それまでに何も無いといいんだけど」
曜「そうだね、それを祈って今はくつろぐのみだ!」ワッハッハ
ことり「それはどうかと思うけど…」
花丸「ずらっ」
果南「いやいやどうせ何も無ければやることないんだし漫画とか見てるのが一番だよ」
絵里「まぁ休み方は人それぞれにせよとにかく休むことは必要よ、曜もさっき言ってた通り腹が減っては戦は出来ぬ、よ。しっかり食べなさい?」
曜「あははっなんか絵里さんお母さんみたい」クスクス
善子「なら果南は迷惑な長女ね」
果南「あ?じゃあ善子は生意気でガキな末っ子ね」
ことり「じゃあって…」
絵里「二人ともなんですぐにそういう発想になるのよ…」
曜「あはははっ」
絵里(なんだかんだ騒がしいようなこの食卓で食べる夕飯はなんとなくだけど幸せの味がした)
絵里(だから如何なる退廃的状況、そして状態でもここはまだ幸せの在り処でいてくれてるのかもしれない)
果南「ふうごちそうさま、ちょっと地下の射撃場行ってくるよ、そろそろなまった体を正さないといけないみたいだからね」
ことり「私も行く、お荷物から戦力へ成り上がったならサボることは出来ないから」
絵里「い、いいけど大丈夫?二人とも肩を撃たれたわけだし」
果南「大丈夫だよ、心配しないで」
ことり「私も」
絵里「そ、そう…」
果南「じゃっ行ってくるよ」
スタスタスタ
果南「すぅ…ふぅ…」
ことり「久々の発砲に緊張してるの?」カチャッ
果南「まさかっ深呼吸をして落ち着いて狙いがずれないようにしてるだけだよ」カチャッ
ことり「そっか」
果南「はー久々にチャージングハンドルを引いたよ」
ことり「私もだよ、これを引くだけでちょっと戦いの感覚を思い出すね」
果南「うん、そうだね」
ドドドドド!
果南「へぇやるじゃん、全部的の真ん中なんてね」
ことり「そっちも全部的の真ん中じゃん」
果南「私にとっては当たり前だよ、何年戦ってきたと思ってるのさ」
ことり「それは私だって同じだよ、言っとくけど戦歴は私の方が長いんだからね?」
果南「知ってる知ってる」ドドドド
ことり「…というかその銃は……」
ことり「スカー?」
果南「そうだよ、SCAR-H。銃を持ち始めてからずっとこれとデザートイーグルしか使ってないんだ」
ことり「へぇ…でも松浦果南は戦闘経験が豊富っていうならそれこそスコーピオンEVOを使えばよかったんじゃないの?」
果南「…それはことりにも同じことが言えるよね」
ことり「まさかっ私は前に言ったよね、ブレが酷い銃はどうしても扱えないって」
果南「あぁそうだったね…うん、そうだね、確かにスコーピオンはブレが酷いから扱うのはかなり難しい銃だよ」
果南「みんな勘違いしがちだけど、スコーピオンは強いけど最強ではない。連射速度が速すぎる分マガジンはすぐに切れるし、銃口が小さい分一発一発の威力が低い」
果南「もちろんアンドロイドだろうと完璧に避けるのが難しいと言われる連射速度のアドバンテージは魅力的だけど、案外スコーピオンは不完全なところがあるんだよね。ブレが酷いから思った通りに弾が飛ばないせいで事故も結構多いし」
果南「その点このSCAR-Hは一発の威力が大きいし壁もよく抜けるから遮蔽物をあんまり気にせずに済むし一発敵に撃ちこむだけでも致命傷になる火力の武器、防弾チョッキなんてなんのそのそんなもの貫通するよ」
ことり「…なるほどね、あくまで求めるのは”そういうところ”なんだ」
果南「そうそう、スコーピオンみたいな器用さはいらないよっと!」ドドドド
ことり「そっか」ドドドド
ことり「…ねえ松浦果南」
果南「何?」
ことり「もし絵里ちゃんたちの傷が癒えてない時に戦いが始まったら、戦いの主軸は私たちになる」
果南「…うん、そうだね」
ことり「だからその時は…絶対に負けないようにしよう。このままお荷物ではいられないよ」
果南「そんなの当たり前だよ、千歌を殺した分はしっかり償ってもらわないとね」
ことり「…私も、助けてもらった命をふいにはしたくない」
果南「……でも、絵里は乱暴な命の使い方をしたら怒ると思うよ」
ことり「…そうだね、怒るね」
果南「あははっ本人も命の使い方は結構乱暴だっていうのに、人の事になると急に厳しくなるのがホント絵里って感じ」
果南「…でもさ…今回、ことりは何のために戦うの?」
ことり「何の為?」
果南「絵里や善子はこのアンドロイド差別を無くす為に戦ってるけど、私は違う」
果南「言ったよね、私は戦うの好きだから戦うって。だから私は戦争を起こす気でいる絵里についていったと同時に、千歌の仇討ちをしようとしてるだけ」
果南「ことりは何の為に戦うの?命を助けてもらったといってもそこで恩を返す義務はないよ」
ことり「……そうだね、なんで私は戦うんだろう」
果南「…どういうこと?」
ことり「私自身もよく分からない、でも理由はなんとなく松浦果南と同じかも」
ことり「絵里ちゃんについていこうかなって、そう思っただけかもしれない」
果南「…そっか、じゃあ私が絵里についていってるのは別に珍しいことじゃないんだね」
ことり「…うん、危なっかしいところあるしほっとけない存在なんだと思う」
果南「……そうなのかな」
ことり「そうだよ」
果南「…そっか」
絵里「花丸さん、それ何?」
花丸「これですか?」
絵里「そうそう」
花丸「これはかよさんのライブのチケットずら!ようやくチケットが取れたから是非この日は行きたいって思ってて…」
曜「あぁ知ってる、今話題のアイドルだよね!可愛らしい歌声は私もとっても好き!」
善子「かよさんってあの千歌が言ってた人のこと?」
絵里「かよ……はなよ…」
花陽『だからまた今度、お会いした時はもっといっぱいお話しましょう♪』
絵里(あの人もすごい人なんだなって思う、こんな退廃的都市を彩る歌声とその煌きは威力そのものは無いけれど心を揺さぶる波状攻撃として今も広がり続けている)
絵里(今、花陽さんは何をしているのだろうか。あの時会ってから今に至るまで、花陽さんは立ち位置があやふやでイマイチ考えてることがよく分からない不思議な人だった)
絵里(ただ分かるのは、アイドルってだけ。なのになんであの人は私を助けたんだろうか)
曜「じゃあ行けるといいね、かよちゃんのライブに」
花丸「はいずら!」
~???
「おーい、おーいってばー!」
絵里「…ん、誰?」
凛「凛だよー星空凛」
絵里「…!?なんであなたがいるの!?」
凛「ん?なんでってどういうこと?」
絵里「だって死んだんじゃ…!」
凛「あははっ勝手に殺さないでよ」
絵里「え、え…?」
絵里(目が覚めれば外は暗く周りを見ればそこは真姫の別荘の寝室だった、そして隣を見れば死んだはずの凛がニッコリ笑顔で座ってた)
絵里「…なんであなたはここにいるの?」
凛「んー?なんでだろう、凛もよく分からないや」
絵里「…私とあなたは敵でしょう?」
凛「んーどうしてだろう、もう敵じゃない気がするんだよね」
絵里「…意味が分からないんだけど」
凛「こう…気持ちの問題なのかな!しかもほらっ今の凛は武器も何も持ってないし」
絵里「…じゃああなたは何でここに来たの?」
凛「だから言ってるじゃん、よく分からないって」
絵里「はぁ?」
絵里(戦う気はないみたいだけど、その分返す答えも理解させてくれないくらいに適当なものだった)
絵里(それに今思えば曜や果南はどこに行ったんだろう、曜と果南は私と一緒に寝てたはずなのに何故か今は姿が見えなかった)
絵里「果南と曜はどこ?」
凛「知らないよ、凛はここにいるだけだもん」
絵里「いや意味分からないわよ…」
絵里「…とりあえず来て、リビングに行くわよ」
ギュッ
凛「…ダメ」
絵里「え?どうして?」
凛「…いや、よく分からないけどその扉は開けちゃダメな気がして」
絵里「何よそれ、とりあえず開けるわね?」
凛「…っだめ、やっぱりダメ」
絵里「どうしてよ、ここは安全よ?」
凛「そういう問題じゃない、凛もこう…なんて説明すればいいか分からないけどとにかくダメ!」
絵里「じゃあどうしろっていうのよ?このまま疑問を残して寝室にいるのは私いやだわ」
凛「…で、でも」
絵里「大丈夫だから、みんな優しいから仲良くしてくれるわ」
ガチャッ
バリバリバリ!
絵里「っ!?」
絵里(暗い部屋の暗い扉を開ければその先から飛んでくる聞きなれた銃声と数えきれないほどの弾丸に心臓が止まりそうなほどに驚いた)
絵里「くっ…!」シュッ
絵里(幸いにも横へ跳躍すれば廊下から見て死角へと移れる、だからダメージは無かったけど安心したのも束の間、私は死を悟った)
絵里「…凛?」
絵里(…直立不動の凛に呼びかけた、けど何も返事は無かった)
凛「…ぁ」
バタッ
絵里「! 凛!」タッ
絵里(……そう、凛の死を悟った。膝から倒れる凛を抱きかかえると私のお腹に伝ってくる大量の血は焼けてしまいそうなほどに熱かった)
絵里「ッ!? わぁあああっ!?」
絵里(そうして凛から離れて凛のお腹を見れば、服越しだろうとすぐ分かるほど無惨に貫かれたお腹の穴が私の恐怖を煽った)
絵里(お腹の穴からぽろっと出てくるほっそい弾丸は吐き気を催し、このお腹に空いた無数の穴とその死体はとてもじゃないけど見てたものじゃなかった)
絵里「うっ…ぷっ……」
スクッ
絵里「!」
絵里(お腹から沸き上がってくるものを抑えようとしてると後ろから聞こえる服と銃が擦れる音)
絵里「あなた…あッ!?」
絵里(振り返ればもうすぐそばにまで近づいたマチェットを持ったもう一人の私がいた)
絵里(この距離からして避けるのはほぼ不可能で、私は死あるのみだった)
絵里「ぁ…!」
絵里(振り返ってそして死に際に、目に光を通していないであろう濁った瞳に理解などとうに無さそうな気味の悪い無表情、私だけど私じゃないそんな姿をしたこのもう一人を見たら出る言葉も凍ってしまうでしょう?)
絵里(私の最期は、あまりにもホラーで最悪な最期だった)
絵里「わああああああぁぁぁぁあぁあぁああ!?」バサッ
曜「うわぁ!?何々!?」バサッ
果南「何っ!?敵!?」シュッ
絵里「はぁ…はぁ…はぁ……」
果南「ど、どうしたのさ絵里…」
絵里「ご、ごめん起こしちゃったかしら…」
曜「う、うん…それよりどうしたの?」
絵里「…夢…?を見たのかしら…?」
果南「なんで疑問形?」
絵里「いや…ごめんなさい。多分夢現なんだと思うわ、ちょっと冷静になれないかも…」
絵里(叫べばそこはあの時と同じ寝室、横には果南も曜もいるし多分ここが現実であの凛のいた世界が夢なんだと思う)
曜「それで何を見たの?」
絵里「それは……」
絵里「………」
絵里(喋ることに何が邪魔をしたのかしら、意識することもない頭のどこかでくだらないことって思ってしまったのかしら)
絵里(いくら内容が奇妙とはいえたかが夢、現実とはかけ離れた空想の世界の話をさも現実かのように語るのは確かにくだらないしバカバカしい)
絵里(だからこの口から、その夢が出ることは無かった)
果南「…?何?何を見たの?」
絵里「……いや、なんでもない」
曜「えぇ…あんな叫び声まで出してそれはないよ絵里さん…」
果南「そうだよ!」
絵里「…でもたかが夢でしょ?別になんでもない話じゃない」
果南「そういう問題じゃないよ、私はただ単純に絵里の夢の話が聞きたいだけ」
曜「そうそう、私も同じ」
絵里「………」
絵里(それを言うのをくだらないと私は思っているのに……しかもあの夢をどう説明すればいい?)
絵里(短い時間だったけど話せばきっと長くなる、あんな僅かな時間でどれだけの情報が交差としたというのかしら。あの夢に追及をしても何も無いと私は思う)
絵里(だから私はただの悪夢で終わらせることにした)
果南「ぶー……」
曜「んー……」
善子「…何?あれは」
ことり「いや、私は何も…」
花丸「何かあったんですか?」
絵里「あはは…私が原因かしら…」
善子「何やったの?」
絵里「いや…ちょっとね…」
善子「…?」
果南「あー!モヤモヤする!絵里!いい加減教えてよ!」
絵里「いやだから何でもないって…」
曜「その一点張りが私たちのモヤモヤを加速させるの!」
ことり「え、え?意味が分からないんだけど…」
善子「誰か堕天使ヨハネに説明をよこしたまえ…!」
果南「絵里が昨日見た夢を教えてくれないんだよ」
ことり「昨日見た夢?どうして急にそんな」
曜「絵里さん、悲鳴をあげて起き上がったんだよ。それで私も果南ちゃんも起きちゃって」
果南「そうそう、なのに夢の内容を教えてくれないんだよ!?」
善子「…くだらな」
果南「くない!夜中に突然悲鳴をあげて起き上がるなんてどんな夢を見たか気になるでしょ!?」
曜「そうだ!心を持つ者の性だよこれは!」
ことり「そこまで大げさに言う?」
花丸「でも確かに気になるところもあるずら」
曜「もちろんだよ!」
ことり「絵里ちゃんはどうしてそこまで口を割らないの?ここまで引っ張るんだったら言ってあげればいいじゃん」
絵里「いや…別に……」
ことり「んー…?」
善子「言いたくない理由があるのよ、察しさない」
果南「知らないモノがあるのなら知りたくなるのは普通でしょ?つまりはそういうことなんだよ」
善子「だからそこは相手の気持ちを尊重しなさいよ…」
曜「んー…どっちもどっちだね」
ことり「…まぁ絵里ちゃんも訳ありみたいだし我慢した方がいいんじゃない?」
果南「むー……」
曜「…まぁいいよ、そうだね。相手の気持ちも尊重しないとだよね」
絵里「え、ええごめんなさいね」
曜「いいよ、でも言ってくれる時があったら言ってね!」
絵里「ええもちろんよ」
果南「……仕方ないね、言うことは曜と同じ。言ってくれる時があったら言ってね?」
絵里「ええ」
絵里(次の日の朝、機嫌を悪くして起きる二人だったけどなんとか腹をくくってくれたみたいで助かったわ)
絵里(その後は朝ごはんを作って食べるのだけど、ことりも果南もだいぶ動けるようになったみたいでことりは自ら料理に参加するし果南は皿を運んでくれたりで戦線の復帰も見込めそうだった)
ことかな「おぉ~!」
善子「…何してんの?」
果南「漫画を見てるんだよ、善子も見る?」
善子「いや…なんか表紙からして絶対私に合ってないやつだからいい」
曜「表紙?あぁあれは恋愛モノだね」
花丸「恋愛モノならいいと思いますけど…」
絵里「善子はバトルモノが好きなのよ」
花丸「そうなんですか」
ことり「この漫画ヒロインが複数いるからドキドキしちゃって…」
果南「ことりも戦いじゃ鬼みたいな顔してるけどなんだかんだ乙女だよね」クスクス
ことり「あ?」
果南「鬼だ…」
曜「あははは……にしてもここの書物はすごいよね、私もちらっと覗いたけど図書館じゃんあれ」
花丸「あれは学校の図書室より大きかったずら…」
絵里「ここの別荘は山奥だから山奥でも楽しめるようにって真姫が本を蓄えた場所なの、その分家の面積も増えたしある意味で言えば真姫の図書館、或いは図書室かもね」
曜「へぇ…真姫さんってすごいんだね…」
花丸「真姫さんってそんなすごい人だったんですか…」
絵里「ええ、超お金持ちよ」
善子「そして絵里のパートナーよ」
絵里「あはは…どうかしらね…」
曜「ん?どっち?」
絵里「私も真姫もそのつもりはないけど、そう呼ばれてるだけなのよ」
善子「授業と短い休み時間以外はほぼ全部の時間一緒にいるからね」
ことり「なんで?」
絵里「んー…まぁ昔色々あってね」
果南「はい始まったよ、絵里の適当誤魔化し芸」
絵里「何よそれ…」
果南「絵里は人に言えないことがありすぎるんだよ、抱えないで言ってよ?私たち親友でしょ?」
絵里「んーまぁ確かに否定は出来ないけど…いいの、これは胸の内にしまっておきたいから」
果南「えー…」
ことり「…なんか思ってた以上に複雑そうだね、絵里ちゃんの過去って」
絵里「まぁ色々あるのよ」
花丸「ずらっ」
果南「んあー!もう!なんか隠してることがあるって分かるとモヤモヤが止まらない!ちょっと射撃場で乱射してくる!」タッタッタッ
曜「あ、ちょっと弾撃ち過ぎないでね?いくらここに貯蓄されてるとはいえ有限なんだから」
果南「分かってるー!」
ことり「じゃあ私外でちょっと体を動かしてくるよ」
善子「体を動かす?」
ことり「私は中国武術の心得があるから、型通りに技を繰り出したりで体を慣らすんだよ」
曜「そうだよね、初めて見た時からキレッキレの身のこなしに惚れ惚れしちゃったけどやっぱり中国武術だよねあれは」
ことり「そうだよ」
花丸「ことりさんの近接戦法は希ちゃんもマークしてて、あそこまで丁寧で綺麗な動きが出来るアンドロイド、ましてや人間でさえ見たことがないってすごい嬉しそうに言ってたのを覚えてるずら」
花丸「でも不思議ずら、どうして中国武術なの?」
絵里「そういえばそうね」
善子「確かにね、近接といえば私や絵里みたいな特に特化したものがなくて、ナイフでも持たない限り近接だけじゃ相手を殺めることのないCQCが基本なんだけどことりのそれは少し違うわね」
ことり「私、力がないから柔道みたいな投げたり固めたりみたいな近接は全然扱えなくてましてや絵里ちゃんや善子ちゃんみたいなシンプルなのも私には厳しかった」
絵里「えっ……」
絵里(ことりの飛び膝蹴りをもろに受けた私には力がないとか厳しいとか言われても正直困惑した)
ことり「だから中国武術っていう工夫されたモノを心得たんだよ、特定の構えをすることで力が手に集中して、仮にそれが胸にでも当たれば心臓を止めることも出来る殺人拳法へと変わるの」
曜「へー…恐ろしいねそれは」
絵里「ええ…そんな食らわなくてよかったわ…」
ことり「…まぁそんなところだよ」
花丸「そっか、理解したずら」
ことり「じゃあ私は行くね」
曜「あ、じゃあ私もことりちゃんのところ行ってもいいかな?ことりちゃんの公式の型が見れるのなら見に行かないわけがないからね!」
ことり「いいけど邪魔しないでね?」
曜「了解であります!」ビシッ
スタスタスタ
絵里「…行っちゃった」
善子「まぁ動けるようになった果南とことりは動きたいでしょうに」
花丸「あ、じゃあマルはあの本がいっぱいの部屋に行ってきてもいいですか?もしかしたら面白い本が見つかるかもしれないので…」
絵里「ええ、行ってらっしゃい」
花丸「はいずらっ!」
スタスタスタ
善子「……みんなやりたいことがあるのね」
絵里「…善子はないの?」
善子「驚くほどにないわね」
絵里「ゲームは?」
善子「一人でやっても面白くないわ」
絵里「漫画は?」
善子「見たいのがない」
絵里「リハビリは?」
善子「横っ腹撃たれただけの私にリハビリもクソもないわよ」
絵里「………」
善子「はぁ…暇ね」
絵里「私たちがレジスタンスである以上は娯楽にも行けないしね」
善子「堕天使になって空を飛びたいわ…」
絵里「堕天使は飛べないんじゃないの?」
善子「そんな決まりはどこにもないわ」
絵里「…そうね」
絵里(蒸し暑い夏の朝、クーラーのかかった部屋で二人ソファでだらけるだけだった)
善子「……羨ましいわ」
絵里「何がよ?」
善子「あの鳥よ」
絵里「青いわね、あの鳥」
善子「幸せを運んでくれてるのかしら」
絵里「そうだといいけど」
善子「…あの鳥のように自由に未来を羽ばたきたいわ」
絵里「……それは誰しも望むことよ、そして誰しもが諦める届かない存在」
絵里「前を向いた者は現実に押しつぶされて、後ろを向いた者は潔く夢を捨て去るのよ。そうやってこの都市のアンドロイドたちは記憶を失ってきた」
絵里「それはもはや理想郷ですらない、残された選択がNOかいいえかの違いなだけ」
絵里「…そうと分かってる私たちは一秒でも早くそこにはいかYESの選択を創らなきゃいけないのよ」
善子「…ええ、その通りね」
絵里「………」
善子「………」
ミンミンミンミンミン ジリジリジリジリ
絵里(蝉が沈黙を嫌って辺りを漂う何とも言えない空気に唄を混ぜ始めた。元はといえば始める気の無かったこの戦争も、何故か今では自分から始めた気になってしまっているくらいに心が戦いで沁み渡っていた)
絵里(造られた命は果たして命であったのか)
絵里(きっと世の中がもっと平等であったら私もこんなこと思わずに済んだのに、どうして私はこんなことを考えてるのかしら)
絵里「………」
絵里(鞠莉————どうしてあなたは私たちを生んだの?私という心を持った存在を創れたというのならあなたにも私たちを見下す意味があるのでしょう?)
絵里(…分からないわね、鞠莉の考えてることが)
絵里(…いや、鞠莉の全てが分からない)
善子「…まだ気にしてるの?」
絵里「何の話?」
善子「とぼけないでよ、真姫のことよ」
絵里「…お互い様でしょ」
善子「ルビィは……仕方ないじゃない、真姫とは訳が違うんだから」
絵里「…そうね、真姫がルビィと同じであったらきっと私も善子と同じだったと思う」
絵里(ルビィと真姫は違って、私と善子もまた違う存在だった。そしてそれはAかBかの平等的な違いではなくて1か10かの優劣のある違いだった)
善子「…絵里は真姫に何をした?」
絵里「命を助けたわ」
善子「…そう、だけど真姫にとってはそれ以上の事がいくつもあった」
善子「絵里が気にしてるのは、五年前のことでしょ?」
絵里「…ええ」
善子「……アンドロイドには理解出来ない心よね」
善子「恋心って」
絵里「…ちょっと違うかしら、理解出来ないんじゃないわ、私たちはそもそも恋愛というモノを知らないの」
絵里「恋愛をしたことがないから恋愛がどういうモノか学習が出来ない、恋愛が見て学べるモノであるなら私たちは恋愛を知ってるはずだし、恋愛っていうのはきっと複雑なモノなんだと思う」
絵里「……だからこそ、あの時はこう返すしかなかったでしょ?」
絵里「私は真姫に興味がない、と」
善子「……うん、間違ってない。けど、言い方は間違ってる」
絵里「…それは今なら私でも思う、だから気にしてるのよ」
善子「気負う必要はないと思うわ、私たちは恋愛というモノを知らないんだもの。真姫に対して好きという感情が無ければ興味も沸くはずがない」
絵里「……昔、小説で読んだわ。恋愛とは異なる性を持った者がし合う愛情表現の連なりと」
絵里「私と真姫は異なる性を持ってたのかしら?」
善子「……残念だけど同じ性ね、だって絵里は女なんだから」
絵里「…そうよね、私もそう思う」
善子「だからそういう視点から見ても絵里のその言葉は正しかった、女が女を好きになるのはもしかしたらあり得ないことではないのかもしれない」
善子「けど少なくとも男女がやるべき行為であるのは確かなはず、それはバトル漫画を見てる時に学んだから」
絵里「…ことりや果南が見てた恋愛モノも表紙は確か男女だったしね」
善子「ええ」
絵里「それから真姫、だいぶ控えめになったなって感じるの」
絵里「滅多に感情的にならないしいつも冷静でクールになったわ、それは劇的に変わったって程でもないけど変わったことを違和として感じることが出来るくらいには変わった」
絵里「だからもしかしたら…いやもしかしたらでもなく今でもあの時の事気にしてるんじゃないかしらって真姫と私の過去を問われると思うの」
絵里「私としては封印したい記憶だけど、それを封印したら真姫に失礼な気がしてね」
善子「…多分今でも気にしてると思うわ、だって過去は絶対に消えないモノなんだから」
絵里「…ええ、そうよね」
絵里「………」
善子「………」
カタッ
絵里「!」
花丸「ずらっ…ごめんなさい、なんか重い話で入りづらくてどうしようって思って…」
絵里「そ、そう…ごめんなさいね、こんな話をしてて」
花丸「い、いえ…」
絵里「どうしてここ?真姫の図書室に行ったんじゃないの?」
花丸「あ、はい。行ったんですけどあそこで本を読むには少し暑すぎて…だからここで読もうかと思って…」
絵里「あぁなるほど…クーラーあるから勝手につけてもよかったのに」
花丸「い、いえマルにもちゃんと礼儀ってモノがありますから」
絵里「そ、そう」
善子「…聞いたのよね?」
花丸「え?」
善子「絵里と真姫の過去のこと、聞いたのよね?」
花丸「えっ…あ、は、はい……」
絵里「…気にしないでね?でも、誰にも言わないであげて?」
花丸「も、もちろんずら!」
善子「いや、この際聞かれたことに関してはどうでもいいわ。私が花丸さんに言いたいのはただ一つ」
善子「同性に告白をする真姫をどう思うか、それよ」
善子「私たちはアンドロイド、でも花丸さんは人間よ」
善子「だから人間としての意見が聞きたい」
絵里「ちょ、ちょっと善子…」
花丸「い、いえ絵里さん、答えさせてください」
絵里「え、いいの?」
花丸「はいっ」
善子「………」
花丸「マルは…別に良いと思う……ずら」
花丸「せつ菜ちゃんもこういう漫画は大好きだったし、真姫さんは間違ったことをしてるわけではないと思います」
花丸「だけど、珍しくて一般的に受け入れ難いモノであるのもまた事実」
花丸「女が女を好きになるというイレギュラーを弁えて絵里さんに告白した真姫さんは、振られたことで今までにないダメージを負った」
花丸「人間もアンドロイドと同じで学習する生き物だからその時の真姫さんはきっと初めて失恋を体験した」
花丸「だからどうやったってもその時の記憶を消すのは無理…だけど、絵里さんのしてることは間違ってはないずら」
花丸「好きでもない人に好きっていう行為こそ恋愛への冒涜だし、きっと絵里さんはそこで恋愛を知ることで狂うモノがいくつもあったと思うから…」
花丸「マルは…絵里さんのファンクラブの存在も知ってたからそのままの絵里さんでいてほしいずら」
花丸「あの希ちゃんでさえ…絵里さんの事を色々気にかけてたくらいなんだからそのカッコよさは維持するべきモノだと思う」
絵里「…そう、ありがとう」
花丸「このくらい全然ずら!」
絵里「……やっぱり真姫は気にしてるのね」
花丸「…はい、それはもう確実に」
絵里「…そう」
善子「……何かしようと思ってる?」
絵里「いや、そういうことは考えてない」
絵里「ただ…曜と戦って帰ってきた時に電話で泣いてくれた時は嬉しかったなって……」
善子「嬉しい?」
絵里「さっきもいったけど、真姫は滅多に感情的にならないからそんな真姫が私の為に涙まで流してくれて嬉しくて…」
花丸「…素敵なことだと思う、真姫さんは昔の事を気にしながらも今の絵里さんの事を真摯に受け止めて真っ直ぐに立ち向かおうとしてる証拠ずら」
絵里「…なら、いいんだけどね」
花丸「きっと…ううん、もう確実にそうずら!」
絵里「……ふふふっありがとう」
花丸「えへへ…」
絵里(私と真姫の過去は複雑なモノだった)
絵里(五年前に突然告白をされて、私は少し考えてからあのような発言をして真姫を振った)
絵里(当時から今に至るまで恋愛というモノがよく分からなかったけど、私の稚拙な知識と考えでも同性である相手から告白をされるというのは何かがおかしいというのは分かっていた)
絵里(それにきっと告白っていうのはデリケートな問題なんだと思う、もしそうでないのならわざわざ人気のない帰り道なんて貧相でつまらない場所を告白の場所にするはずがない)
絵里(だからこれは真姫と私の問題だと思って胸の内に秘めておいた。最も善子には知られちゃったけどね)
絵里(でも、そんな過去を解き放てば花丸さんが答えに等しいモノをくれた。それを聞いて今まで頭にあったモヤモヤが消えた、そして気が楽になった)
絵里(だからもっと真姫の事を大切にしなきゃ、そう思うばかりだった)
~???
鞠莉「……とうとう動き出しちゃったのね、政府が」
海未「この際私たちは他のアンドロイドには目もくれずに絢瀬絵里たちを全力で殺しに行きます、いいですか?」
鞠莉「別に構わないわ」
鞠莉「いつかこうして大きな力を持ったアンドロイドたちが結託して反乱を起こすとは思ってたけど、案外早いものね」
海未「AIというものは常に人間の理解の範囲を超えている未知の存在です、人工的とはいえ心というモノを創れたのならそれはもはや天然と瓜二つの人の心なのです」
海未「アンドロイドがあなたの事を不服に思うのなら反乱を起こしても不思議ではないでしょう」
鞠莉「…ええ、そうね」
鞠莉「ねえ、海未に聞きたいことがあるの」
海未「なんですか?」
鞠莉「希が死んだらしいけど、希の下にいた穂乃果とせつ菜を知らない?」
海未「知りませんけどおそらくは絢瀬絵里のところにいるでしょう」
海未「というか希をご存じで?」
鞠莉「ええ、だって希はアンドロイド制作においてアンドロイドの心を創った人なのよ?そりゃあ知ってるわよ」
海未「こ、心!?そんな人だったのですか!?」
鞠莉「希は心が広くて寛容だったわ、だからほぼ全てのアンドロイドの性格を優しく作った。だけどそこで勝手に生まれたのが猜疑心と敵愾心だった」
鞠莉「元々ね、私や希が当初作ったアンドロイドは平和を望むアンドロイドだったのよ。戦いは好きじゃないし運動神経もほとんどない臆病なアンドロイド、だけど優しくて人一倍感受性に長けた寛容なアンドロイド」
鞠莉「でも、結果は違った」
鞠莉「私から見てアンドロイドは人間と全く同じだけど、されどアンドロイドは造られた命。機械仕掛けのその体と心は勝手に進化を遂げて新たな感情を作り出した」
鞠莉「AIというアンドロイドなら誰しもが持ってるその心で自ら運動神経を作り上げて、気に入らない相手に対抗する手段を作り上げた」
鞠莉「ねぇ、なんで対アンドロイド特殊部隊が女しかいないか分かる?」
海未「…分かりませんね」
鞠莉「アンドロイドは頭が良すぎるのよ、何を見て学んだのかは知らないけどもう処分されてる初期型の獰猛なアンドロイドはハニートラップってやつで戦闘慣れした男共を何百人と殺害してったの」
海未「…!なるほどだから…!」
鞠莉「そう、だから対アンドロイド特殊部隊は女しかいないの」
鞠莉「…それからアンドロイドは私の意図しなかった方向へ発展していった」
海未「………」
鞠莉「ごめんなさい、話が逸れたわね」
海未「い、いえ」
鞠莉「話を戻すけど、穂乃果とせつ菜はいくら戦闘の鬼とはいえ腐っても業務用アンドロイドよ、それは主がいないと生きていけないアンドロイド」
鞠莉「しかしあの二人は全アンドロイドの中でもかなりプライドが高いアンドロイドよ、主が死んで、そう易々と主をとっかえるほどあの二人は薄情じゃないわ」
鞠莉「……だからあの二人は今フリーである可能性が高い」
鞠莉「私から提案するなら、今はそっちをspotした方が後々有利に立ち回れるかもしれないわ」
海未「ふむ…なるほど、分かりました。少し検討してみます」
鞠莉「ええ、よろしくね」
海未「はい、では私はこれで」
ガチャッ
ドンッ!
鞠莉「……Fuck you」
鞠莉「…私はこんな結末を望んでアンドロイドを作ったわけじゃないのに」
鞠莉「………なんで死んだのよ」
鞠莉「希……」
~???
ツバサ「はーあっ疲れちゃった、あの殺し屋三人を殺そうかと思ったのにとんだ邪魔が入っちゃったわよ」
英玲奈「まったくだ、おまけに傷まで負わされて最悪だな」
ツバサ「あなたはいいわよねぇスナイパーだから遠くでチクチクやってるだけでいいんだから」
「いやいやそんな言い方はないと思うけどぉ」
英玲奈「よせっツバサ、あんじゅ、スナイパーの強みはアサルトライフルやマークスマンライフルでも対応の難しい距離から一方的に撃てることだ、むしろ傷を受けてないのは当然だ」
ツバサ「そんなの知ってるわよ、ただムカつくのよね」
あんじゅ「私が?」
ツバサ「違う、あの黒髪と青髪の女よ」
英玲奈「確か一人はダイヤ、と言っていたな」
あんじゅ「あぁあの清楚っぽい人?動きが特徴的よねー動くっていうよりかは舞ってると言った方がいいのかも」
あんじゅ「…ってその二人がムカついてなんで私に当たるの?」
ツバサ「……ムカつくから」
あんじゅ「答えになってない…」
英玲奈「あのまま戦ってたら共倒れだったかもな、幸いにももう一つの戦場で大きな変化があったようで私たちはフリーになったから逃げさせてもらったが…」
ツバサ「私たちもあの殺し屋と結託して黒髪と青髪を殺した方がよかったかしら」
英玲奈「…合理的に考えるのでいえばそうかもしれないが、後々の事を考えるとそれは悪手だな」
あんじゅ「まぁ今更何言ったって変わるわけじゃないんだし次の事でも考えたら?」
ツバサ「……ええそうね、あの殺し屋はいずれ殺すとして他にも目的があるのよね。忘れてたわ」
英玲奈「おいおい…」
ツバサ「いいわ、この際私たちのやるべきことにあの黒髪と青髪へのお返しも兼ねましょうか」
バンッ!
英玲奈「…おい、その銃で花瓶を割るな。水も垂れてるし花が可哀想だろう」
ツバサ「はっむしり取られた花に可哀想もクソもないわよ、地から離れた時点で死んだも同然なんだから」
英玲奈「………」
ツバサ「次会った時があなたの最期よ」
ツバサ「……待ってなさい」ニタァ…
~深夜、別荘
ピコンッ♪ピコンッ♪
絵里「……ん」
絵里「誰…?」
絵里(深夜、それは突然として誰かからメールが送られてきた)
絵里「……! 亜里沙…!」
絵里(そしてそのメールの送り主は私の妹である亜里沙だった)
『お姉ちゃん、元気ですか?
お姉ちゃんの事情は分かっています、亜里沙は一人でも大丈夫だから余裕が出来た時に連絡ください。
何かお姉ちゃんの力になれることがあると思います』
絵里「亜里沙……」
絵里(流石は私の妹と言いたい)
絵里(あんな純粋無垢な子がこんな真面目な事を言ってくるのだから世の中怖いモノが減らないのよ、ここまで頼りになる妹を持って私が誇りに思う)
絵里「………」
ピッ
絵里(ただ、頼り甲斐があっても頼るとは言っていない)
絵里(亜里沙を危険な目にあわせるわけにはいかない、亜里沙は平和に暮らすべきなの。まだ戦いの味も知らない純白のままでいてほしいの)
絵里(だから私は静かにデバイスの電源を落とした)
果南「メール、返さないの?」
絵里「っ!?って果南か…脅かさないでよ…」
果南「ごめんごめん、ガサガサ音が聞こえたもので」
絵里「どんだけ音に敏感なのよ…」
果南「あははっ寝込みに襲われるっていうのは王道パターンだからなんか警戒が解けなくて」
絵里「何よそれ…」
果南「そんなことより返信しないの?」
絵里「え、ええ亜里沙には心配かけれないわ」
果南「メールを送らないことでもっと心配するかもよ?」
絵里「危険な目にあわせるよりかはマシよ、言っとくけど亜里沙は戦闘型アンドロイドなのに一回も戦ったことがないんだからね」
果南「あははっ珍しいよね、戦闘型アンドロイドなのに」
絵里「ええホントよ、血の味も知らない子なんだからずっとこのまま純粋な子でいてほしいの」
果南「んーまぁ綺麗なら綺麗のままでいてほしいのは分かるよ」
絵里「でしょう?」
果南「まぁね」
ドカッ
果南「痛っ…」
善子「んー…だからヨハネだって……zzz」
果南「善子か…酷い寝相だね…」
絵里「今日は珍しくみんな一緒に寝てるからやっぱり狭いわね…」
果南「まぁね、親睦を深めるとかどうのだけど私はいっつもこうでいいんだけどなー」
絵里「それは流石に狭くて寝苦しいんじゃない?」
果南「くっつけば大丈夫!」
絵里「…夏なのに?」
果南「大丈夫!」ピース
絵里「…そういえば善子がみんなと寝たがらないのって……」
果南「…寝相が悪いから、なのかもね」クスクス
絵里「ふふふっ可愛らしいわね」クスッ
曜「くかー…zzz」
ことり「すぅ……zzz」
絵里「曜はこう…場所を取る寝方をしてるわよね」
果南「大体大の字で寝てるからね、起きる時はいつも私のお腹か背中に曜の手が乗ってるよ」
絵里「ふふふっいいじゃない」
果南「まぁね」
絵里「ことりは見た目通り寝てる時もキュートよね」
果南「あははっ枕なんて抱いちゃってこのこのっ」ツンツン
ことり「んんー…殺してやるー……zzz」
果南「……あはは…ことりらしい寝言だね」
絵里「いやいやどんな寝言よ……」
花丸「ずらー…zzz」
絵里「花丸さんはすごいらしさがあるわよね、こじんまりとしてて」
果南「んーどうなんだろう、私はこの子のことよく知らないから何とも言えないかな」
絵里「そっか、そうよね。花丸さんと果南はほぼ初対面みたいなものだもんね」
果南「そうそう。あ、でも銃が撃てないってのは知ってるよ、それは前に聞いた」
絵里「ええ、花丸さんは銃が撃てないらしいの」
果南「へーなんでだろ?」
絵里「うーん…過去に何かあったんじゃない?」
果南「んーまぁそんなところか」
絵里「でも、過去の詮索はやめてあげて?ここの人たちの過去は語り継ぐものではないから」
果南「分かってるよ、それ私は興味がある人しかそういうことしないし」
絵里「…興味のある人って例えば誰よ?」
果南「絵里に決まってるじゃん、むしろ絵里しかいないよ」
絵里「…なんで私?」
果南「あははっ昔っからいるのに謎なところが多いし、どこからともなく発生する自信や強さの源が知りたくてね」
絵里「そんなの私でも知らないわよ?」
果南「だからこそ第三者である私が客観的に見る必要があるんだよ」ジロジロ
絵里「…やっなんか恥ずかしいから見ないで」
果南「なんで!?」
絵里「ぷっふふふ…ごめんなさいね」
絵里(今もどこかで何かが動いてるかもしれない、そんな変わりゆく戦場で私たちは真姫の別荘で平和に今を過ごしていた)
絵里(戦争は終わりなき季節、その中で私は暑い夏を過ごしている。外の世界で何が起ころうともまずは羽休めをするしかなかった)
絵里(今、亜里沙はどうしてるのだろう。今、私が殺めてしまった天国にいる凛はどうしているのだろう)
絵里「……今、何をしているのかしら」
絵里(…みんなは)
~三日後、夜
にこ「はぁ?私を主にしたい?」
せつ菜「はい、私たちはにこさんを主にしたいんです」
穂乃果「………」
にこ「はっ無理ね、私は希とは違ってあんたらを部下に迎え入れるほどの余裕と器がないの」
せつ菜「それでもいいんです!何もしなくても私たちの主っていう権利とにこさんからの導があればいいんです!」
にこ「冗談言わないで、私には妹のちびたちだけでも精一杯よ」
せつ菜「そんな……」
穂乃果「………」
カチャッ
にこ「…なんで私に銃を向ける?」
穂乃果「やっぱり人間は愚かだね、希ちゃんとせつ菜ちゃんと花丸ちゃん以外は信用するに値しないよ」
穂乃果「私は最初からあなたを主にしたいとは思ってなかった、だから変な期待しないでよかったよ」
にこ「なら私は変な期待されなくてよかったわ」
せつ菜「ちょ、ちょっと待ってください、にこさんは良い人じゃないですか!」
穂乃果「良い人なのは分かるよ、でもそれで?」
せつ菜「そ、それでって…」
穂乃果「確かに業務用アンドロイドは主がいないとやっていけない、けど主をすぐに入れ替えるほど私たちは薄情じゃないし見ず知らず他人を主にするほど能無しじゃない」
穂乃果「例え昔希ちゃんと一緒に戦ってたと言われる仲間だとしても理由がないんじゃ私は受け入れられない」
せつ菜「……でも」
にこ「やめときなさい、あんたらは二人で一人なんでしょ?私が原因で仲違いするならおとなしく引き下がって新しい主を見つけなさい」
せつ菜「で、でも新しい主なんて……」
にこ「…思ったんだけど絢瀬絵里じゃダメなの?絵里は曜やことりを扱う寛容なアンドロイドよ?それにあんたらも知ってるあの凶暴な松浦果南や昔問題を起こした堕天使と親友の仲よ、今主にするなら間違いなく絵里にするべきだと私は思うけど」
穂乃果「…あいつはイヤだ」
にこ「なんで?」
穂乃果「……とにかくイヤ」
にこ「…何?何かあるの?」
穂乃果「………」
せつ菜「…とにかくにこさんが無理なら分かりました、私たちは新たな主を探しに行きます」
にこ「……でも」
海未「なら、私があなたたちの主になってさしあげましょうか?」
にこ「!」
穂乃果「っ!?」
せつ菜「あなたですか…」
海未「お久しぶりですね、にこ。そしてあなたたちも」
にこ「海未…」
穂乃果「……目的は何?」
海未「そんなの言わなくても分かるでしょう?軍神とトリックスターを殺しに来たんですよ」
せつ菜「…どこまでもしつこいお方なんですね」
にこ「やめときなさい、海未。いくらあんたが再生能力お化けとはいえこいつらもアンドロイドよ、再生能力は人間より上の存在だからある程度は戦える。ある程度戦える軍神とトリックスター相手じゃ流石の海未でも分が悪いでしょう?」
海未「確かにその通りですが、私は即死でもない限りは死にませんからね、勝つ勝たないというところに観点を置くより戦うか戦わないかが私にとっては重要なんですよ」
穂乃果「…消耗戦がしたいんだね」
海未「ご名答」
にこ「なるほどね、でもそれは消耗戦じゃなくてただの八百長ね。海未相手に消耗戦で勝てるわけないじゃない」
海未「ええその通りですよ、そんなの私と戦えばすぐに分かるでしょう?私の意図が、消耗戦がしたいっていう私の目的が」
穂乃果「…なら尚更戦うわけにはいかないよね」
せつ菜「周りを見る限り今日は仲間の方もいないようですし逃げようと思えばすぐに逃げれますよ」
海未「ええ、ですが戦ってもらいます。逃げられるとしても、ダメージはちゃんとダメージとして残りますからね」
にこ「…呆れたわ、海未」
海未「はい?」
にこ「穂乃果、せつ菜、あんたらは絵里のところへ行きなさい」
せつ菜「え?」
穂乃果「なんで?」
にこ「一度海未とは本気で殺し合いをしてみたかったの。最強相手にどこまで私の実力が通用するのかやってみたかったの」
海未「………」
にこ「だからあんたらは絵里のところで傷を癒すべきよ、そして絵里を主にしなさい」
穂乃果「……あいつはイヤだ」
にこ「なら今ここで死になさい!穂乃果っ!」ドドドド!
穂乃果「っ!?」シュッ
にこ(我が儘をいう穂乃果に向かって私の愛銃——MP5で発砲した)
穂乃果「っあ……!」
にこ(そして見事私の放った銃弾は穂乃果の横っ腹を貫き、穂乃果は力なく倒れた)
穂乃果「んくっ…!」
せつ菜「穂乃果さん大丈夫ですか!?」アセアセ
せつ菜「にこさんは何をやってるのですか!?」
にこ「それで反抗する余裕はなくなったでしょ?出血を止める術なく今ここで死ぬか、絵里のところへ行って無様に助けてもらうかどちらかにしなさい」
せつ菜「にこさん…!流石の私でも怒りますよ…?」
海未「……正直、敵である私からしてもにこの行動は理解出来ないのですが」
海未「裏切ったっていうなら話は早いですが、にこから私に向けられているのは殺意と敵意、一体何がしたいのですか?」
にこ「穂乃果とせつ菜は一度底辺まで落ちるべきよ、プライドが高すぎるからね」
にこ「それでどうする?せつ菜」
せつ菜「…何がですか?」
穂乃果「く…そっ……!」
にこ「血を流すアンドロイドを助けてくれる人がいたらいいわね、まぁこんなクソみたいな都市で助けてくれる人なんていないと思うけど」
せつ菜「………」
にこ「もし助かりたいんだったら絵里のところに行くことね、あそこなら助けてくれるわよ」
にこ「それとも、今ここでせつ菜も死ぬ?せつ菜が死にたいのなら今だけは海未と手を組んで殺してあげるわ」
せつ菜「…いえ、それならそうさせてもらいます」
穂乃果「せつ菜ちゃ……」
せつ菜「穂乃果さんは喋らないでください、私にとって穂乃果さんは家族なんですから死なれては困るんです」
穂乃果「………」
せつ菜「……感謝します、にこさん」
にこ「感謝される義理はないわよ」
タッタッタッ
にこ(穂乃果はともかく、せつ菜は気付けたのかしら)
にこ(私の不器用なやり方に)
海未「…驚きましたね、まさか軍神を撃つなんて。流石の私でも呆気に取られてトリガーを引くことが出来ませんでしたよ」
にこ「そうね、私もきっと狂ってるんだわ」
海未「私も、ですか」
にこ「ええ、所詮海未も鞠莉の犬なのね」
海未「鞠莉の犬ですか…そうなのかもしれませんね。それは強ち否めないかもしれません」
にこ「ええ、海未には事情があるのだもの。知ってるわ」
海未「ええ、ですから残念ですよ。私に理解のある人と殺し合いをしないといけないなんて」
にこ「私も残念ね、もっと海未のこと知りたかったわ」
海未「…それは遺言ですか?」
にこ「どうかしらね」カチャッ
海未「…いつもより軽装なんですね」
にこ「私、基本的に小さい銃しか持たないの」
にこ「グレネードランチャーを背中にかけるための幅が無くなっちゃうからね」
海未「知ってますよ、いつも持ってますよね。そのグレネードランチャーは」
にこ「サブマシンガンとハンドガンだけじゃ火力と射程がないからね、それをグレネードランチャーでカバーするのよ」
海未「トレードオフの破棄ですか、ですがまぁ確かにグレネードランチャーなら狙いが外れても遠方へと広がる爆発でなんとかなりますしね」
にこ「そんなところよ、それじゃあやりましょうか。お互い曜の作ったガジェットを使う者同士アンドロイドをも驚かせる戦いをしようじゃない」
海未「望むところですよ、にこ相手なら正々堂々と殺してあげますよ」カチャッ
にこ「……そっちこそ変わった銃を持ってるのよね」
海未「私はこの銃声が好きなんですよ」
にこ「…そう」
にこ(海未は対アンドロイドに長けすぎた人間だった、人間離れした運動神経と人間離れした再生能力、もちろん不死身じゃないしアニメでよくある即時回復でもなければただの道から屋根へ飛び移るなんて漫画みたいなことは出来ないけどそれでも普通の域はとっくに超えてた)
にこ(私が対アンドロイド特殊部隊に入った時、一番最初に仲良くなったのは海未だった)
にこ(銃を持たない海未は一般人より可愛いだけのただそれだけの女の子だった、でも銃を持つことで海未は全てを変える、性格も何もかも)
にこ「最後に聞きたいわ」
海未「なんですか?」
にこ「…海未は鞠莉を恨んでないの?」
海未「…恨んでないって言ったら嘘になるかもしれません、ですが私に鞠莉は恨めません」
海未「助けてもらった身ですし、鞠莉は優しいお方です」
にこ「…そう」
にこ(…海未は孤児だった。親を産まれて間もない時に亡くしたせいで、奴隷のような生活を送っていた。しかし海未は産まれた瞬間そうなる運命にあった)
にこ(何故なら海未は人間とは思えない生命力を有していたから。本当ならその親と一緒に死ぬはずであった海未はその自らの生命力で命を繋ぎ止めた、だから海未は孤児として生きることが決まっていた)
にこ(そしてそんな苦しい生活を送り、海未が十歳辺りになった頃に鞠莉が海未を引き取った)
にこ(そこからかしら、海未の始まりは)
にこ(海未的には助けてもらったことに感謝してるけど、鞠莉から見ればきっと海未も駒に過ぎなかった。私はそう考える)
にこ(対アンドロイド特殊部隊には少数ながら様々な理由でこの部隊に入っている、その中でも海未は実に単純な理由だったわ)
にこ(命の恩人であった鞠莉直属の部隊だったから入っただけ、そこに曜やダイヤのような何かを求めて入った理由は無くて、凛や果林のような実力を買われたわけでもない)
にこ「……残念ね」
にこ(この残念の意味はきっと私にしか分からない)
海未「…何がですか?」
にこ「いや、なんでもない」
にこ「じゃあ始めましょうか」
海未「……ええ」
にこ(戦いの意識を研ぎ澄まして、MP5を下げて姿勢を低く構えた)
にこ(私の戦闘スタイルは身軽さに重点を置き、柔道のような投げと至近距離での射撃を主体にしたスパイのようなもの、サブマシンガンであるMP5とハンドガンで対応出来ない距離は背中にかけてあるこのグレネードランチャーで対処する、それが私のやり方よ)
海未「………」
にこ「………」
にこ(それに比べ海未は実にバランスのいい戦術を用いている、海未の使ってるアサルトライフル——AN-94は初弾と二発目の発射レートだけが非常に速く…ううんもっと簡単に言えば初弾を撃ってから二発目を撃つまでの間隔が非常に短いから初弾を避けても二発目で命中してしまうなんていうのを海未と仲間として戦場に立った時はよく見てた)
にこ(この性質は連射速度が速いスコーピオンとよく似ているけど、海未の持つ銃の連射速度が速いのは初段と二発目だけで、スコーピオンみたいに暴れ馬のような性能ではない。初段と二発目という瞬時火力を備えながらもアサルトライフルとして相応しい高い命中精度を誇る火力寄りのバランス型——これが海未の持つ銃の特徴だ)
にこ(また、アサルトライフルは遠距離を主体とした武器でなければ大体対応出来る射程を持ってるから間合いで悩むことはほとんどない)
海未「はぁっ!」ダッ
にこ「おっと」シュッ
にこ(そして、今私が躱したこの一閃が海未の最大の特徴だ)
にこ(こんな銃社会において剣を嗜む珍しいやつだからね、海未は。銃剣ってやつでサブマシンガンにもショットガンにも劣らない近距離の強さを発揮してるわ)
にこ「相変わらずの音ねっ!」
海未「この風切り音が聞こえるんですね!ならお分かりでしょうが食らえば死にますよ!」
にこ(正直、海未相手に近距離は分が悪すぎる。素早いステップとちょっと不快な風切り音と白い軌跡を残す海未の一振り一振りは避けるのに必死になっちゃってトリガーを引く余裕を与えてくれない)
にこ(…でも、私も近距離は得意なんでね。この近距離戦が不利になるのかと言われたらそれはNOかしら)
にこ「もらいっ!」
にこ(海未の横斬りをちょっと姿勢を低くすることで躱し、海未の腹部に向けて肘打ちをした。ここで海未の横切りが躱せたのは背の低さがあったからね、だから今だけはこの背の低さに感謝しないといけない)
にこ(今だけは…ね)
海未「ぐっ…」
にこ(そうして怯んだ海未の左手を掴んでそのまま強く引っ張って離し後ろに流す——そして私はよろめく海未の後頭部に向かって旋風脚を放った)
にこ「休んでる暇はないわよ!」
にこ(私の蹴りを受け倒れる海未に向かってMP5で発砲、そうすれば海未は機械みたいに銃弾へ反応して横へと半回転した後、足の裏と手のひらを地につけてブリッチのような体勢から後方へと跳躍した)
にこ「でたっ…」
にこ(やはり海未の運動神経には目を配るモノがある、跳躍した海未は空中で一回転した後に綺麗に着地して息を切らした)
海未「はぁ…はぁ…はぁ……」
にこ「曜のガジェットの恩恵は大きいわね、海未」
海未「ええ…曜は偉大ですよ……」
にこ(曜のガジェットが無ければ海未はここで弾を避けきれずに死んでいた。私や海未が履いてる靴は跳躍をすることで曲がる足首を察知することで、足元の重力の働きをほぼ一瞬だけ改変させ跳躍にブーストをかける機能がある。私たち人間の技術じゃ重力を変えることは出来ないけど、一瞬無敵というように一瞬だけならそれも可能なの)
にこ(だからそれを使って普通じゃ出来ない動きを可能にしてる)
にこ「今まで何回も海未は実はアンドロイドなんじゃないかって思ったけど、やっぱり海未も人間ね」
海未「私は元から人間って言ってましたけどね」
にこ「ええ、でも口は信用出来ないから」
海未「…そうですね」
海未「ですが……」
にこ「…?」
海未「できれば私もアンドロイドとして生まれたかったですよ!!」ドドドド!
にこ「っと…!」シュッ
にこ(息を切らす海未が突然放つ無数の弾丸、この後の展開を先に説明するなら私はその銃弾を避けるのだけど、人間対人間っていうのはアンドロイドとはちょっと違う)
にこ(きっとアンドロイドなら横方向へ大きく跳躍して反撃をしてた、けどそれはアンドロイドが射線を見ることのできる生き物だから)
にこ(相手が人間だと分かっている私たちはアンドロイドと同じ動きをすると偏差撃ちによって死ぬ、人間である以上はそれが定め)
にこ(だから人間である私が取った行動は————)
にこ「ほっ!たぁっ!」
ズサー
にこ(前方向へギザギザを作るよう左斜め前へ跳躍して次に私の胸へと向かう銃弾を右斜め前へスライディングして躱す、そしてそれと同時にMP5で発砲…うん、完璧)
にこ(人間は横幅ではなくて高低差を生かして銃弾を避けるの、死角もないフィールドなら戦いはそう長くはならない)
海未「ああああああぁああ!?がぁあ…ッ!!」
にこ(そう、人間相手ならすぐに決着がつく。跳躍しながら発砲は出来るけど発砲しながら跳躍は出来ない、それは人間もアンドロイドも同じ)
にこ(棒立ちで発砲は死亡フラグが立つわ、それを見事に回収した海未は胸と腹、そして腕に数発ぶち込まれて俯けに倒れた)
にこ(ゲームセット、私の勝ちね)
にこ「……あっけなかったわね、海未」
海未「ぁ……」
にこ「海未、あなたは強いわ。でもあなたが強いのは多人数戦と対特殊部隊アンドロイド以外の人物よ、海未がどれだけ頑張っても果林やダイヤにはおそらく勝てないわ」
海未「…ぁ……?」
にこ「何故?という顔をしてるわね、いいわよ答えてあげる」
にこ「言っとくけどね海未、対アンドロイド特殊部隊に入ってるやつは狂ってるけどそれ相応の強さがあるの、あんたみたいに孤児として生まれ才能を持つ故に、そして鞠莉の犬だから入ったとかそんな軽い気持ちで入ったやつはいないのよ」
にこ「小さい頃から戦闘の経験があって、その様々な経験で培った技術や知識がある。みんな海未と同じスタートラインを切ってるわけじゃない、銃声が好きとか適当な理由抜かして武器を手に取ってるわけじゃないのよ」
にこ「それだけの話、そう…それが海未と私の————」
ドスッ!
にこ「……ぇ?」
にこ(それは一瞬の出来事だった、銃を下げ人差し指を立てて海未に説明をして最後の一言を言おうと思ったその時、私の心臓に深く入り込む一つの刃)
にこ(するとどうなる?私の胸から、そして口から出てくるこの赤が私には何なのか分からなかった)
にこ(それが分からないまま私は———————)
海未「……私とにこの…なんですか?」
にこ「………」
海未「……きっ、けほっ………」
スタ…スタ…スタ……
海未「はや…く戻って……休まない…と………」
スタ…スタ…スタ…
タッ……タッタッタッタッ……!
海未「…っ!?」
「ふんっ!」
海未「ぐあッ!?」
海未(両手でお腹を押さえながら歩いていれば、後ろから聞こえる足音。そうして振り返った瞬間には襟を掴まれてフルパワーで地面に叩きつけられた)
海未「な——————」
カチャッ
「ごめんね刑事さん」
ルビィ「ルビィ、悪い子だから」
ドオン!
ここで一旦中断。
再開は明日か明後日にします
一気に犠牲者増えたな……
ルビィ「…うぅ……ホントならあんな至近距離でスナイパーなんて使いたくなかったんだけどな…」
ルビィ(青い髪の刑事さんを殺すべくしてルビィはその刑事さんの脳天に向かってゼロ距離でスナイパーをぶっ放した)
ルビィ(流石の人間とは思えない生命力でも脳をスナイパーの弾丸で撃ち抜けば死に至ると思う…そう考えた私ちゃんと息と脈を確認したけどしっかり死亡していた)
ルビィ「いたた……」
ルビィ(病院を抜け出してまだ数日しか経ってなくて、ルビィの怪我も完治してない。だから時々足が痛むし、ルビィの頭を————ううん、記憶を蝕むような痛みが発生する)
ルビィ(数年の歳月を経て動き出す体はリハビリでもしないとまともに動いてくれない、けど私は無理矢理体を動かした)
ルビィ(そして、ルビィはスナイパーを両手で下げて闇へと消える)
ルビィ(ルビィが戦える以上は、戦って生きていく)
ルビィ(————それが、ルビィが信じた未来だから)
~別荘
穂乃果「すぅ…すぅ……」
善子「…まさか帰ってくるなんてね」
せつ菜「…私だってここへ帰りたくて帰ってきたわけじゃありません」
善子「なら今から帰ったら?その矢澤にこのところへ」
絵里「ちょ、ちょっと善子それは流石に酷いわよ…」
善子「私、色んな人を見てきたけどあなたたちみたいなプライドの塊とはどうも仲良く出来ないのよね。普通にしてれば可愛いのに、命が関わる時にまで意地張ってるんじゃさっさと死ねって私は思う」
曜「うわー…強烈……」
善子「その不本意ながらっていう態度、私ものすごい気にくわない。申し訳ないけど信じられないなら救えない、信仰心がなきゃ加護を与えてくれる神なんていないわよ、業務用アンドロイドにはそれが分からないの?」
花丸「………」
絵里「あちゃー……」
絵里(夜、この別荘に死にかけの穂乃果を連れたせつ菜がやってきた)
絵里(横っ腹を撃たれたみたいで、それを見たことりがすぐに手当てをした)
絵里(けど如何せんこの二人はプライドが高いもので穂乃果も眠りにつく最後の最後まで反抗的だしせつ菜も相変わらず否定しかしない)
絵里(その二人の様に怒りを覚えてしまった善子はとうとう口から爆弾を吐き出した)
せつ菜「………」ウルウル
せつ菜「……だって」
善子「…だって?」
せつ菜「だってムカつくじゃないですか!希さんが気に入ってた相手なんですよ!?」
果南「気に入ってた相手?なにそれ?」
せつ菜「希さんは基本的に他人に無関心なんですよ、それ以上もそれ以下もない一定の接し方で誰とでも仲良く出来る人でしたから私たちは我が子を可愛がるようなそんな態度でした」
果南「え?それって良くない?というか絵里と何の関係が?」
せつ菜「違うんですよ…絵里さん、あなたは希さんの興味を引いてしまったんですよ」
絵里「興味?」
せつ菜「言いましたよね、他人に無関心って。私や穂乃果さんにも見せなかった感情を絵里さん相手に示して、挙句の果てにはウチの部下にしたいっておかしくありません?なんで初めて会うはずの絵里さんに?私には分かりません」
ことり「……それってさ」
曜「…あ、待って私も同じ事思ったかも」
ことよう「……嫉妬だよね?」
せつ菜「……そうですよ」
せつ菜「だって…ムカつくじゃないですか…」
善子「…それはさっきも聞いた」
花丸「…確かに希ちゃんが他人に興味を示すのはすごく珍しいことずら、いつも何考えてるか分からないような人だったからどうして急にウチの部下にしたいなんて言ったのかマルにも分からないずら」
果南「それは絵里が心の広い持ち主で尚且つ強いからだよ、そうとしか私は考えられない」
善子「………」
曜「う、うーん…よく分からないけど希ちゃんが興味を示すならもっとちゃんとした理由があると思うよ」
ことり「ちゃんとした理由って?」
曜「それは私にも…」
せつ菜「私たちは業務用アンドロイドなんですよ、穂乃果さんはこんなこと言いませんけどね、業務用アンドロイドっていうのは所詮主に好かれたいだけの生き物なんですよ。主が与えてくれる導に沿っていって主に褒めてもらうことが業務用アンドロイドとしての生き甲斐なんです」
せつ菜「きっと私たちの気持ちは戦闘型にも標準型にも分からないでしょう、ましてや人間にも。でも、私たちに見せてくれなかった感情をまだ関りの薄い人に見せるっていうのは私たちに興味がないっていう死刑宣告みたいなものなんですよ…」
絵里「………」
絵里(せつ菜の言う通り、きっと私には業務用アンドロイドの気持ちは分からない。だって私には主がいないし、褒めてもらうっていう以外にも生き甲斐はちゃんとある)
絵里(しかし、せつ菜の気持ちは分からなくてもせつ菜の感じてる感情はきっと分かる。悲しいとか怒りとかそんな簡単で些細なモノだけど、きっとそれなら私にも分かる)
絵里(だから私は————)
絵里「そう…ごめんなさい」ギュッ
絵里(私も成長したのね、知らない内に小難しい話を乗り越えられる強さを手にしてた)
絵里(きっとこんな生易しい解決の仕方じゃいつか綻びしてしまうのだと私は思う、けど戦いをこの先で語るのはきっと違うでしょう)
絵里(ただ、今は“熱さ”に対する表現として、せつ菜を力いっぱい抱きしめた)
絵里「…きっと私にあなたの気持ちは理解出来ないわ。でも私はあなたと仲良くしたいの、だからこの際言っちゃうけど」
絵里「私じゃ主は務まらないのかしら?」
せつ菜「…!」
絵里「あの時、穂乃果に威圧された時は言葉も出せなかったけど今ならちゃんと返せるわ」
絵里「知ってる命を失うことの意味と怖さ、私はそれを知ってる」
絵里「誰も死なせたくない、私は誰にも死んでほしくないの」
絵里(…私は千歌を失った、その死はホントに些細な出来事からで、いつ振り返ってみても儚くて呆気ないものだった感じるの)
絵里(きっと銃を持つということは人を殺す意思表示なんだと思う、けれど私はそう思いながら銃を持つのではない)
絵里(目指すところはもっと別にあって、もっともっと近くにある)
絵里(平和を夢見るのなら、戦いが避けれないのならせめて命を失わないようにしてほしい)
絵里(だから他人とはいえ、他人な気がしないせつ菜と穂乃果には死んでほしくなかった)
絵里(二人が業務用アンドロイドというのなら、私が主になって私が生きる為の導を与えたかったのよ)
ことり「……ずるい」
曜「あはは、ずるいね」
果南「やっぱり絵里はこうでなくっちゃ!」
せつ菜「………」ウルウル
せつ菜「…そうですね、なんか希さんが言ってたこと分かる気がします」
曜「希ちゃんの言ってたこと?」
せつ菜「はい、あの金髪の子の事が信用出来なくてもついていけばいつか絶対に信頼出来る時が来るって」
せつ菜「もしウチが死んだらあの金髪の子を主にしな、と」
絵里「私!?」
せつ菜「はい、だから穂乃果さんは絵里さんに気に入らないって言ったんです」
穂乃果『私はあなたが気に入らない』
せつ菜「理由は私と同じ嫉妬です、希さんに絶対に信用出来るなんて言われたら私たちにはない何らかの感情や関係があるに違いありません、そう思って穂乃果さんは絵里さんを毛嫌いしたんです」
絵里「何らかの感情については知らないけど、私その希って人と関係はないわよ?」
せつ菜「ですが絶対に信用出来るって希さんは言ってましたよ?」
絵里「えっ…なんでかしら…」
善子「戦ってて強いって思ったからじゃないの?曜を殺しに行く時に戦った絵里には確かに驚かされることが多かったわ」
花丸「…希ちゃんの事だから何か理由があったと思うずら、感覚とかじゃなくてちゃんとした理由が」
曜「理由か…分からないな…希ちゃん死んじゃったし」
せつ菜「…私がいれば」
花丸「そ、そんなせつ菜ちゃんのせいじゃないよ」
せつ菜「……例えそうだとしても私があの時いればもしかしたら希さんは助かったんじゃないかって思えるんです」
ことり「…確かにそうだけど、そう思っても仕方ないでしょ?」
果南「ことりの言う通りだよ、過去を悔やむならそれを今に繋げなきゃ」
せつ菜「……はい」
善子「…とにかくあんたら二人は絵里を主にするの?」
せつ菜「…そうさせてもらいます」
ことり「主っていうけど主にするために何かするの?」
せつ菜「特にしませんよ、システム的に業務用アンドロイドが主と認めた人がこれからの主になります」
果南「システム的?」
せつ菜「本能みたいなモノです、基本的には主の入れ替えはないんですけど主がその人を主って思えばなんとなーく思考に補正がかかるんです、この人が主だと。でも業務用アンドロイドはそんなこと滅多にしませんよ、一番最初の主に思い入れがあるのは当たり前ですから」
善子「へぇ…なんか特殊ね…」
せつ菜「所詮業務用アンドロイドはペットみたいなモノですからね、誰かの支えがないと正しく生きていけません」
曜「業務用アンドロイドは自立出来ない生き物とは言われてたけど本当なんだね、てっきりバカにされてるだけかと思ってたよ」
果南「戦闘型は完全自立、標準型は自立的、業務用は自立不可って聞くよね」
花丸「…それがそれぞれアンドロイドのコンセプトだからずら」
絵里「知ってるの?」
花丸「希ちゃんから貰ったアンドロイドの本で学んだずら、最初に作られたのは型が決められていない何型でもないアンドロイドで、そのアンドロイドは揃いも揃って危険思想を抱いてたみたいで、アンドロイドはやることがないと今目の前にある物を破壊しようとする危険なシステムが勝手に生まれてしまうみたいずら」
花丸「だから人間を模して造られたと言われる標準型アンドロイドだけではなくて、標準型アンドロイドの上位互換である戦闘型アンドロイドっていう標準型が万が一破壊衝動を抱いても自由に戦闘を起こさないようにする抑制の存在と、標準型アンドロイドの下位互換である業務用アンドロイドっていう助けるべく存在を生んで破壊衝動の消化に努めたと記されていたずら」
善子「上位互換ねぇ…」
せつ菜「下位互換ですか…」
ことり「そんな作られ方してたんだ…」
絵里「なんか複雑ね…」
せつ菜「……とにかくよろしくお願いしますね、絵里さん」
絵里「え、ええ。よろしくね」
ギュッ
絵里(いまいち実感はないけど、とりあえず私はせつ菜と穂乃果の主となった)
絵里(あの時は勢いとかで私が主になるって言ったけど、私に主が務まるのかしら?)
絵里(私は人の道を決めるほど偉くないし強くない、むしろ私は頼ってばっかの生き物だ)
果南「いやートリックスターと軍神が一緒に戦ってくれるんじゃ心強いね!さっそくY.O.L.Oってところに行く?」
絵里「いやそれはいきすぎじゃ…」
曜「…いや、そうでもないかもしれない」
絵里「えっ?」
曜「もし行くのなら流石にみんなの傷が癒えてからだけど、この戦力なら充分勝てるよ」
ことり「…確かに勝てる、対アンドロイド特殊部隊は今四人、そこに誰かが入ったとしてもこっちは八人、矢澤にこを入れれば九人になるよ」
曜「Y.O.L.Oには三人超一流の腕を持ったのがいるけどそれをプラスしても六人だから数で勝てる」
善子「確かに…」
花丸「でもそれは超一流の数で勝ってるだけだよ?あそこには訓練された人が何十人もいるよ?」
果南「そんなザコは数に含まれないよ」
善子「同じこと言おうとした」
絵里「えぇ…」
曜「…でも実際そのくらいなら私たちの敵じゃないよ、私たちだって真正面からやり合うつもりは更々ないからね」
せつ菜「アンドロイドを人一人と加算するのが間違ってますね」
花丸「…確かにそれはそうずら」
果南「よしっなら次の作戦はY.O.L.Oに強襲だね、そこを潰せば政府の勢いも少しは落ちるでしょ」
ことり「そうだね、私は絵里ちゃんのやることについていこうって思ったけどなんかいよいよ終わりも見えてきたような気がするよ」
善子「確かにね、そこを落とせばいよいよ鞠莉のところだもの」
絵里「…鞠莉か」
絵里(鞠莉に会えばきっと何かが変わる、アンドロイドが蔑まれる根源を潰せば何かが変わるはず)
絵里(そう願って、そう思って戦ってきたけどその頂への道は長いようで短かった)
絵里(最初は私と善子と果南と真姫だけのレジスタンスだったのに、今じゃ曜やことり、そしてせつ菜や穂乃果まで仲間について勢力も大きくなったものよ)
曜「確かに近いかもだけど、決してすぐそばにあるとは言えないよ。油断は出来ない、これだけは忘れないで」
せつ菜「その通りですよ!人数の差なんてひっくり返そうと思えばすぐにひっくり返るんですから油断はできません」
絵里「そうね、その通りだわ」
ピコンッ♪ピコンッ♪
絵里「ん、真姫から電話だわ」
果南「どうしたんだろう?」
絵里「さぁ…?」
ピッ
絵里「もしもし?」
真姫『絵里!ルビィが消えたの!』
絵里「は…は?どういうこと?」
真姫『そのままの意味よ!ルビィが病室からいなくなってる!ルビィの病室は一番下の階だったからご丁寧に窓から逃げたよと言わんばかりに窓が全開になって空いてたわよ!』
絵里「そ、それってルビィが意識を取り戻したってこと?」
善子「えっ…ルビィが起きたの…?」
真姫『…分からない、そうとも言えるしもしかしたら誰かが攫って行ったのかもしれない…』
真姫『いずれにせよルビィの姿が消えたわ』
真姫『今監視カメラを見てもらって調べ————って、え!?やっぱりルビィ一人で逃げたの!?』
絵里「…善子、どうやらルビィは起きたらしいわよ」
善子「っ!今すぐ病院に行くわ!」ダッ
絵里「待って!でもルビィはもう病院にはいないって、病院から逃げたらしいわ」
善子「に、逃げたって数年も寝てたのにそんなすぐに動けるわけないじゃない!」
曜「確かに…」
善子「アンドロイドならともかくルビィは人間よ?特別な力もないのにどう動くのよ」
絵里「…真姫聞いてた?」
真姫『ええ、でもごめんなさい。私にもそれは分からないわ』
真姫『可能性を考えるなら、何か薬品を使ったか、それともルビィの体は常人と比べて強かったか、この二つかしら』
絵里「…どっちも可能性は低いと思うけど」
真姫『…ええ、私もそう思う』
絵里「………」
絵里(果たしてそれは朗報であったのか悲報であったのか)
絵里(数年眠りについていた眠り姫ことルビィがついに目覚めた——けど、姿はとうに闇の中だった)
絵里(それを聞いた上で私たちはどうすればよかったんだろう)
絵里(…迷ってる私の傍らで答えはとうに出かけていた)
善子「…いい、ならルビィを探しにいくわ」
花丸「む、無茶だよ!だって今は政府も動き出してるんだよ?死にに行くようなものずら!」
善子「さっき言ったわよね、訓練された人間のようなザコは数に含まないって」
善子「別に恐怖でもないわ」
ことり「でもその傷じゃ辛いよ…」
善子「へっちゃらよ、ルビィの為だもの」
曜「…無理だよ、やめた方がいい」
善子「…ならどうしろと?」
曜「諦めるんだよ、私たちが出るより向こうにいる真姫さんや病院の人が探しに行った方が安全で効率がいい」
曜「監視の目を避けつつルビィちゃんを探すなんて無理だよ…隔離都市東京を舐めちゃいけない」
ことり「…ごめん善子ちゃん、それは私も同意したい」
ことり「むしろここでのこのこ作戦会議をしてる私たちがいるのが異常なくらいだよ、日本で一番賑やかな都市がちんけな警備を施してるはずがないんだよ」
花丸「…その通りずら、あなたがアンドロイドなら分かるはずだよ、なんせアンドロイドは人間と違って自分の状況を数値化出来るんだから」
善子「………」
絵里「…善子……」
絵里(みんなから諦めの圧をかけられていた)
絵里(けど、それもそうでしょう。だって相手は政府なのよ?勝てる勝てないじゃなくてこの行為は今まで積み上げたものを崩すものとなる、監視の目が濃くなった以上もう迂闊に外出は出来ない。次誰かに見つかった時がこの別荘の捨て時かもしれない)
絵里(それをルビィ一人の為だけに私たち全員の運命を善子に託すことは到底不可能だ、こういっちゃなんだけどルビィの命と私たちの命じゃ重さが何百倍にも違うのだから)
絵里(…だから、ここは私も諦めろというしかなかった)
絵里(それが善子の為の選択でもあったのだから)
善子「…ちっ……私寝る」
スタスタスタ
ことり「…行っちゃったね」
果南「善子の気持ちは分からなくもないよ、けど今が今だから仕方ないよ」
せつ菜「…ですね、こういう時当事者だったらって考えるんですけど、善子さんの気持ちもよく分かります」
絵里「……ごめんなさい、真姫。ちょっと大きな仕事になりそうだわ」
真姫『いいわよこのくらい、見つけたらまた連絡するわ』
絵里「ええ、お願い」
真姫『それじゃあね、そっちも気を付けて。いざという時は私も力になるわ』
絵里「ええ、それじゃあ」
真姫『ばいばい』
ピッ
絵里「…後は真姫に任せましょう、今の私たちに善子の気持ちを尊重する余裕はないわ」
ことり「…そうだね」
果南「流石にルビィって子一人の為だけに私たちも動けないしね…」
絵里「……本当に申し訳ないけど我慢してもらいましょう」
絵里(次の目標はY.O.L.Oであってルビィじゃない、この傷が癒えるまで私たちは動くことを許されない)
絵里(だから本当にごめんなさい善子……ルビィに会えるのはまだ先みたい…)
絵里「…みんなはこれからどうする?」
せつ菜「私は穂乃果さんが目覚めるまで穂乃果さんの近くでじっとしてます」
果南「暇だし漫画でも読もうかなー」
ことり「あ、私も」
曜「んー私はY.O.L.Oに向けて色々準備するよ、傷は癒えてないけどね」
花丸「マルは……」
曜「花丸ちゃんも本でも読んでれば?」
花丸「んーじゃあそうするずら」
果南「じゃあ私たちはあの本の部屋にいくよ、何か面白そうなの見つけたら戻ってくるね」
ことり「同じく」
スタスタスタ
花丸「…あ、マルも!」
タッタッタッ
曜「じゃあ私もここの武器保管庫に行って何か面白い物がないか探してくるよ」
絵里「え、ええ」
曜「それじゃっ!」
スタスタスタ
絵里「…行っちゃった」
せつ菜「みんなやることがあるんですね」
絵里「ことりと果南はやることないと思うけど…」アハハ
せつ菜「でも、楽しめるものがあるのはいいことです」
絵里「せつ菜は本好きじゃないの?」
せつ菜「大好きですよ、でも穂乃果さんの方が好きですから」
絵里「…なるほど、なら一緒にいないとね」
せつ菜「はいっ」
穂乃果「すぅ…すぅ……」
絵里「これからどうなっちゃうのかしら」
せつ菜「…毎日生きるか死ぬか、ですよ」
せつ菜「今はこれで良くても明日はきっとダメになるんです、自分の持つ強さが。そして考えが」
絵里「…そうね、その通りだわ」
せつ菜「…戦えないっていうのは分かってるんですけど、今もこうしてる間に何かが動いてるって思うとじっとしてられないんです」
絵里「……そんな強く穂乃果の手を握ったら穂乃果も苦しいわよ?」
せつ菜「あ、ご、ごめんなさい…」
絵里「…確かにもどかしいかもだけど今はここでゆっくりするのが一番だわ」
せつ菜「それは分かってます…」
絵里「ならいいじゃない、ここは果南や曜とか一緒に遊んでくれる人もいるんだし」
せつ菜「そんなゆるゆるなんですかここは…」
絵里「戦いの時以外はね」
せつ菜「そうですか…しかしここに籠るのなら外の情報が欲しいところですね」
穂乃果「……花丸ちゃんに任せたら?」
絵里「うわぁ!?」
せつ菜「お、起きてたんですか!?」
穂乃果「今起きたの、いってて……」
せつ菜「そ、そうですか…でもよかったです。無事目覚めてくれて」ギュッ
穂乃果「うん、なんとか命を繋ぎ留められたよ」エヘヘ
穂乃果「…それでこれはどういう状況なの?」
せつ菜「…私たちは絵里さんを主にして生きていくことにしました」
穂乃果「…それでいいの?せつ菜ちゃんは」
せつ菜「私は構いません、それに絵里さんならなんとなく信用出来そうなんです」
穂乃果「……なら私も何も言わない。いくら気に入らなくてもこの状況で自らみんなと離れることはしたくない…にこちゃんに教えられたよ、今は余裕がない」
せつ菜「…そうですか、納得してもらえるならよかったです」
せつ菜「ですが穂乃果さん、案外絵里さんも悪くないかもしれません」ボソボソ
穂乃果「なんで?」ボソボソ
せつ菜「ちゃんと思いやりがあるからですよ、私たちをモノとして見ないその様は信用出来るものがあります」
穂乃果「…そっか」
せつ菜「はいっ」
果南「ただいー…ってあれ?穂乃果がいるじゃん!」
穂乃果「か、果南ちゃ」
果南「丁度よかった!今暇してたんだよ!穂乃果も一緒に本探してよ!こう…バトルモノでがががっとしたもの!」グイッ
穂乃果「えっちょ、ちょっと待ってよ!」
果南「待たない!よしいこうすぐ行こう!穂乃果イチオシのバトルを教えてよ!」
タッタッタッ
穂乃果「せつ菜ちゃん!」アセアセ
せつ菜「果南さんといるのも意外に楽しいものですよっ」
果南「よーし相方のせつ菜から許可が下りたことだから行こう!」グイッ
穂乃果「せつ菜ちゃーん!!!?」
タッタッタッ
絵里「…相変わらず嵐のようなやつね、果南は」
せつ菜「穂乃果さん、すごくクールそうですけど実はそうでもないんでああやって無理矢理引っ張った方が本当の穂乃果さんが見れて楽しいんですよ」
絵里「へえせつ菜も悪い子ね」
せつ菜「私は怖い穂乃果さんより可愛い穂乃果さんが見たいんですからっ」
絵里「ふふふっそうね」
絵里「…そういえば穂乃果の言ってた花丸ちゃんを使ったら?っていうのは何なの?」
せつ菜「花丸さんは戦えないんですけど情報を集める情報屋として非常に優秀な方なんですよ」
絵里「え?でも花丸さんは銃が撃てないんでしょ?いざ戦いが起こった時どうやって戦うのよ?逃げてるだけじゃこの都市は生きることはほぼ不可能よ?」
せつ菜「銃を使わなきゃいいんですよ、ああ見えても花丸さんはナイフを用いた接近戦ならそこらの有象無象より全然強いんですよ」
絵里「へぇ…でもなんか戦法がアナログね…」
せつ菜「銃が使えない花丸さんにとっては本で蓄えた知識とそのナイフ裁きだけが武器ですからね、花丸さんは人間ですし運動神経もそこまでよくありません。だからそれで戦ってくしか花丸さんは出来ないのですよ」
絵里「難しいものね…」
せつ菜「でも、花丸さんは弱い人じゃありません。頭は誰よりもいいですから殺し屋の私たちにとって花丸さんの持ってくる情報はすごく役立ちました」
せつ菜「だから今回も花丸さんに任せるのがいいかもしれませんね」
絵里「うーん…でもなんか危なくない?」
せつ菜「大丈夫なはずです、花丸さんだって素人じゃありませんから」
絵里「そう?でもうーん…」
せつ菜「…絵里さんは優しいんですね、希さんはそこは“任せた”って言って笑顔で見送ってました」
絵里「…きっと花丸さんの強さを見たことないっていうのが原因なんだと思う」
絵里「それに知ってる人の命を失いたくないの」
絵里「ここで私が花丸さんに任せたって言って花丸さんが戦いで死んでしまったらきっと後悔すると思うの、行かせなきゃよかったって」
絵里「…それに今は政府も動いてるわ、いくら花丸さんが対象外とはいえ対アンドロイド特殊部隊には目をつけられている。それだけでも充分危険だわ」
せつ菜「……そうですね、その通りです」
絵里「……時が来るまではみんなでゆっくりしてましょう?私はみんなと一緒にいたいの」
せつ菜「…分かりました、絵里さんが主である以上はそれに従います」
絵里「…それは構わないけど、イヤならイヤって言ってほしいわ。無理に従う必要はないし…」
せつ菜「分かりました、でも今回は私も賛成したいです。花丸さんに死んでほしくないのは私も同じですから」
絵里「…そう、ならよかったわ」
せつ菜「はいっえへへ」
絵里「ふふふっ」
絵里(私が標準型である故に、なのかしら)
絵里(私が望むのはリスクと対になるリターンではなくて、みんなが安心していられる安寧の場所だった)
絵里(ここに緊張感は欲しくない、だから穂乃果が私が主になるっていうのに納得してくれて正直心底安心した)
絵里(この硝子みたいにすぐに壊れてしまいそうな安心感をずっと心に秘めたままにしておきたくて、その上で穂乃果とせつ菜のプライドは実にひやひやさせてくれるものだった)
絵里(…だから今となってはその脱力感が体を巡ってる気がした)
~
タッタッタッ
果南「ほらほらこっち!」
穂乃果「わぁああぁわあ!」
ガチャッ!
果南「ふーとうちゃーく」
穂乃果「急に引っ張って走らないでよー!」
果南「あははっいいじゃん」
穂乃果「私は怪我してるの!」
果南「元気そうじゃん」
穂乃果「うぬぬ…」
ことり「あ、果南ちゃん」
ことり「…!ほ、穂乃果ちゃん……」
穂乃果「…ことりちゃん」
果南「ことり……」
果南(私には分かる、ことりが穂乃果に対して控えめになる理由が)
果南(一度は殺されかけた相手、旧友でもあった穂乃果に初対面のような初々しさはことりにはないだろう)
穂乃果「…前にも思ったけど、やっぱりあなたと会うのは初めてじゃない気がする」
ことり「!!」
穂乃果「あなたの雰囲気、私の探してる人にすごく似てる。同じ人なんじゃないかって思えるくらいにそっくり」
スタスタスタ
穂乃果「ちょっと手貸して」
ことり「え、うん」
ギュッ
穂乃果「…やっぱりあなたの温もりは私の探してる人にそっくりだね」
ことり「…そうなんだ」
果南「………」
ことり『…私の親友だったアンドロイドも人探しで活動してるんだって、だから方向性の一致で協力してるんだとか』
果南(ことり本人から聞いた、穂乃果のことを。穂乃果の探してる人————今の穂乃果の発言を聞けばすぐにでも分かるよ)
果南(穂乃果の探してる人はことりなんだって)
果南(記憶を失っても微かに残ってたのかな。雰囲気とか温もりとかそんなものが体に焼き付いてるのかもしれない)
ことり「…見つかるといいね、その探してる人」
果南「ことり…?」
ことり「………」フルフル
果南(…だけどことりは首を横に振って、その話題を膨らませずに流した)
果南(不器用で見知らぬ感情を機械の心に宿した私からすればことりの行為には理解が出来なかった、そしてことりの考えてることが分からなかった)
穂乃果「…うん、ありがとう」
ことり「………うん、頑張ってね」
果南「ことり……」
果南(そして、穂乃果に対しての返事に間が空く理由も私は分かる)
果南(ことりは私があの時に胸を撃ち抜いたことで感情の欠如が発生して笑えなくなった。きっと今の場面はことりが笑う場面だった、けど異常を来した機械の体は笑うことを許さなかった)
穂乃果「そういえばなんで私の事知ってるの?」
ことり「あぁいや…私も戦闘型アンドロイドだから軍神の事は分かるよ」
穂乃果「……そっか」
ことり「うん、そうそう」
花丸「あれ!?穂乃果ちゃん目覚めたんだ」
穂乃果「うん、ついさっき」
花丸「どうしてここに?」
穂乃果「この人に連れてこられたんだよ」
果南「えーこの人呼ばわりは納得いかないなー」
花丸「なんで穂乃果ちゃんをここに?」
果南「ん?いやー向こうでせつ菜と絵里と穂乃果が変な話始めそうだったから無理矢理こっちに穂乃果を引っ張って強制終了させたんだよ」
穂乃果「変な話…?そんなことの為に止めたの?」
果南「そんなことって言うけど絵里にとってはとっても大事な話なんだよ、絵里と一番長くいる私はよく分かる」
果南(穂乃果に本を選んでもらうっていう体で進めた話だけど、そんな気はない)
果南(花丸単身で監視の目と銃弾が飛び交う街へ向かわせるのはきっと絵里にとって不安で胸が張り裂けてしまうほどの出来事だろう)
果南(戦闘型アンドロイドは耳がいいもので、本の部屋の扉を開けてると絵里とせつ菜の声が自然と聞こえてくる)
果南(だから話が大きくならないうちに楔を打っておいた)
ことり「…?何の話?」
花丸「同じく…」
果南「なんでもないさ、もう終わった話だから」
穂乃果「…そうなの?」
果南「そうそう」
ことり「…?」
花丸「気になるずら…」
ことり「……そういえば、絵里ちゃんと一番付き合い長いんだね」
果南「そうそう、だから絵里の事は私にお任せ!」
穂乃果「絵里さんってどんな人?」
果南「うーん聡明で、頭が良くて、強い人かなぁ」
ことり「果南ちゃんより強いの?」
果南「うーんどうだろうね~」
花丸「気になるの?絵里さんが主なのが」
穂乃果「…うん、だってあの人のこと全然知らないし」
ことり「絵里ちゃんは命の使い方がバカな人だよ」
花丸「…?どういうことですか?」
ことり「絵里ちゃんはバカだよ、殺し合いという命を賭けた戦いをしてるのに、相手の命を尊重するバカだよ」
穂乃果「なにそれ…」
ことり「…でも、そのバカのおかげで私は救われた。私を助けても戦力にはならないし、むしろ自分の命を危険に晒すだけだったのに私を助けてくれた」
ことり「戦いに損得を求めないその姿勢は、何より最もな信頼になるの」
ことり「穂乃果ちゃんの主だって、そういう人でしょ?」
穂乃果「…うん、私とせつ菜ちゃんも善意だけで助けてもらった」
ことり「…そういう人だよ、絵里ちゃんは」
果南「…ことりにしては珍しい発言だけど、間違ってはいないかな」
曜「そうだね、間違ってないよ」
穂乃果「!」
果南「あれ、曜じゃん。どうしたの?」
曜「ん、いやーY.O.L.Oに備えて敵の情報をおさらいしてこうと思ったんだけどここにもしかしたらアンドロイドの本があるかもって思ってさ」
ことり「アンドロイドの本?」
曜「希ちゃんから聞いたことあるんだ、実在するアンドロイドをまとめた図鑑のようなものがあるって」
花丸「あ、マルも持ってるよ。ただマルが持ってるのはデジタルデータだけどね。希ちゃんから貰ったずら」
曜「ホント!?よかったらそれ貸してほしいな」
果南「ず、図鑑ってそんなものがあるの…?」
ことり「なんか気持ち悪い…」
花丸「図鑑は言い方が悪いけど、戦闘型アンドロイドをまとめたデータならあるずら」
花丸「希ちゃんの話によると開発者用にまとめられたものらしくて、世には出回ってないらしいずら」
穂乃果「…なんでそんなものを希ちゃんが持ってるの?」
花丸「それはマルにも…」
果南「その希って人がアンドロイドの開発者だったりして」
ことり「まさかそれはないよ」
花丸「その通りずら」
穂乃果「………」
曜「…まぁとりあえず借りてもいい?」
花丸「分かりました、ちょっと待っててください」
スタスタスタ
曜「…にしても、絵里さんの話をしてたんだね」
果南「うん、穂乃果が絵里の事がよく分からないからって」
曜「んーそっか、そうだねぇ~絵里さんは優しい人だよ、でもちょっと優しすぎる人なんだよ」
曜「お人好しで、ことりちゃんの言う通り相手の命まで尊重しちゃうくらいに優しい人、だから放っておけないんだよ」
曜「希ちゃんもそうだったでしょ?毎回危なっかしい行動ばっかで、最初のうちは放っておけなくてついていったんでしょ?」
穂乃果「…!どうしてそれを…」
曜「あはは、分かるよ。私も希ちゃんに初めて会った時はそんな感じだったもん」
曜「まぁ私は希ちゃんとは立場上敵だったから共同戦線をすることは少なかったけど、でも放っておけなかったかな」
曜「…だから、絵里さんは希ちゃんに似てるんだよ」
曜「行動に損得をつけず相手の命を尊重する、だから放っておけない人なんだよ。穂乃果ちゃんもせつ菜ちゃんも絵里さんの下に就けば、とりあえずは安心だよ?」
曜「私——曜やことりちゃんが言うんだもん、少しは絵里さんの事、分かってもらえたかな?」
果南「曜…」
曜「えへへ、今は私も絵里さんの部下だからね」
穂乃果「……そっか、曜ちゃんがそこまで言うならそうなんだね」
曜「うんっ!」
果南「…ん?曜と穂乃果を知り合いなの?」
曜「んーとそうだね、元々希ちゃんと私が知り合いだったから穂乃果ちゃんとは意図せずともよく会ってたよ」
曜「希ちゃんと会う時は大体後ろに穂乃果ちゃんがいたからね、希ちゃんが離れると寂しそうな顔して私が慰めるとちょっと気を遣って笑ってたのを覚えてるよ」
穂乃果「あ、それは言わないで!」
果南「へー可愛いところあるじゃん」クスクス
ことり「可愛いねっ」
穂乃果「もーっ!」
果南(穂乃果はプライドがお高いとは聞いてたけど可愛いところもあってなんかちょっと気が抜けた)
果南(これならこの先も心配はなさそうだね)
花丸「曜さーん、はいっどうぞ」
曜「お、ありがとう花丸ちゃん」
ことり「…そういえばそれアンドロイドのデータなんだよね?」
曜「そうだよ」
ことり「なんでアンドロイドのデータなんか見るの?私たちの敵は対アンドロイド特殊部隊でしょ?」
曜「んーまぁそうなんだけど実はY.O.L.Oには戦闘型アンドロイドが三人いるみたいなんだ」
果南「へー強いの?」
曜「それが分からないから調べるんだよ」
果南「え?だってY.O.L.Oって曜の施設でしょ?」
曜「そうなんだけど私はあそこにたまに通うだけの人だったからあそこのことはよく知らないんだ、私のしてることといったら何かの設計図をあそこに渡して帰るだけだし」
果南「そ、そうなんだ…」
穂乃果「…でも敵の事何も分からないんじゃ探しようがないんじゃないの?」
曜「まぁそうなんだけど一人だけ分かってるんだ、型番はA-083って」
果南「ふーん…A-083ってことは初期型?」
曜「いや、これがA-83だったら初期型だけどA-083は違うんだよ」
果南「へーそうなんだ」
曜「んーとA-083はっと……」
曜「あ、あった」
ことり「A-083…」
果南「可愛いじゃん」
果南(型番と一緒におそらくイメージと思われるイラストが描いてあった。髪は肩くらいまで届くくらいのセミロングで右の耳元に善子みたいなお団子を作っててちょっと特徴的な髪型、それ以外はごく普通の女の子だけど、これが戦闘型アンドロイドなのかと思うとやっぱりか弱そうにも見える)
花丸「この子がY.O.L.Oに?」
曜「みたいだよ」
穂乃果「…!この子…!」
ことり「どうしたの?」
穂乃果「P-83の次世代モデル、または戦闘型アンドロイドへと変形させた後継機って私の後継機じゃん……」
曜「えっ…ってホントだ…穂乃果ちゃんってP-83じゃん…」
ことり「穂乃果ちゃんの後継機…」
穂乃果「後継機なんてあるの…?」
花丸「マル……聞いたことがあるずら、型番は基本的にAとFとPの三種類があって戦闘型アンドロイドはA、標準型はF、業務用アンドロイドはPとアンドロイドの種類によって最初につくアルファベットが違うずら」
ことり「それはなんとなく分かってたよ、今まで戦ってきたアンドロイドは揃いも揃ってAの人ばっかだったから」
穂乃果「そうだね、少し戦えばある程度法則性が見えてくるね」
花丸「そう、そこまでならほとんどの人が気付くことが出来る」
花丸「ただここからが問題で、英語の次の数字が0のアンドロイドは何かの後継機と希ちゃんから聞いたことがあるずら」
果南「私はA-822だから誰の後継機でもないなぁ」
ことり「…あれ?そういえば果南ちゃんってそんな型番の数字が大きいんだ」
曜「型番の数字は作られた順じゃないよ、最もことりちゃんや穂乃果ちゃんみたいな初期型の時代は作られた順だったけどね」
ことり「そうなんだ…初めて知ったよ」
果南「絵里はF-613だし善子はA-710だし絵里も善子も違うね」
穂乃果「せつ菜ちゃんはP-101だし案外いないね、後継機って」
曜「きっとレアな存在なんだよ」
曜「…というかやっぱりアンドロイドによってわざと性能分けてるんだね、分かってはいたけど再確認して納得したよ」
果南「…ホントだ、得意武器とか書いてあるじゃん。特徴…P-83の後継機に相応しい射撃テクニックと近接戦闘…か」
穂乃果「……なんかイラつくね」
ことり「穂乃果ちゃんの後継機だもんね…」
穂乃果「…この子の相手は私がしたい、次世代モデルとかいうんならこの手で殺して次世代を上回るよ」
果南「いいじゃん、私は応援するよ」
曜「え、でも単純に考えてこのA-083は穂乃果ちゃんより性能がいいよ?正直穂乃果ちゃんが戦うのは分が悪い気がする…」
穂乃果「…それでも戦うよ、後継機がいる以上負けた気がしてならないから」
曜「うーん…」
果南「いいじゃん、曜だって自分の上位互換がいるとか言われたらいやでしょ?」
曜「まぁそれはそうだけど……」
穂乃果「……そういえばそのデータって戦闘型アンドロイドが載ってるんだよね?」
花丸「そうだよ」
穂乃果「なら果南ちゃんとかもいるんでしょ?」
果南「えっ……」
曜「あ、いいね!面白そう!」
ことり「私も気になる!」
果南「ちょ、ちょっとやめようよ、私のなんて見ても面白くないよ?」
曜「へー果南ちゃんがそう言うんなら尚更見たくなったよ」ペラペラ
果南「こいつ…」
曜「あ、あった。A-822…ってあれ?これ果南ちゃんだよね?」
ことり「果南ちゃん、最初は髪下ろしてたんだね」
果南「まぁね」
穂乃果「どうして変えたの?」
果南「髪が長いと戦いづらいんだよ、だから私からすればせつ菜やことりはよくそんな髪伸ばして戦えるなって思うよ」
ことり「んー私髪の事は気になったことないなぁ」
曜「同じく」
穂乃果「そうだね」
果南「へー羨ましいよ」
曜「まぁいいやA-083の情報を把握出来たから私はまた準備に戻るよ!花丸ちゃんありがとね!」
花丸「あ、はい!」
曜「それじゃあ!みんなもばいばいっ!」
ことり「う、うんばいばい」
穂乃果「ばいばい」
タッタッタッ
果南「よーし、それじゃあそろそろ本題に移ろうか」
穂乃果「本題?」
果南「え?何?忘れたの?穂乃果に本を選んでもらうって言ったじゃん」
穂乃果「えぇ…私本読まないよ…」
果南「そこはもう感覚で選ぶんだよ!ほらっ!さっさと選ぶ!」
穂乃果「んもー」
花丸「ふふふっ」クスッ
ことり「私も見つからないから穂乃果ちゃんに選んでもらおっ」
スタスタスタ
~???
梨子「えっ…海未さんが死んだ…?」
鞠莉「ええ、にこと共倒れらしいわ」
梨子「にこさんと共倒れって…」
鞠莉「……ねぇ梨子」
梨子「なんですか?」
鞠莉「なんで私はアンドロイドを作ったんだと思う?」
梨子「えっ…」
鞠莉「だって、おかしいと思わない?私が作ったのよ?なのに私がそれを壊すの?」
梨子「別におかしいことじゃないと思いますけど…だって神話にもいましたよね、破壊と創造両方を司る神が」
鞠莉「…そう言われては返す言葉がないわね」
梨子「………」
鞠莉「アンドロイド————それは今思えば私の失敗作でしかなかった」
梨子「どうしてですか?」
鞠莉「………語るに及ばないわ。それに話せば長くなる」
梨子「…いえ、対アンドロイド特殊部隊所属である私にはそれを知る義務と権利がある。そう思っています」
鞠莉「……ならそこに座りなさい、立ってると疲れるわよ」
梨子「…分かりました」
スタスタスタ ストンッ
鞠莉「……アンドロイドはそうね、それはいい意味でも悪い意味でもつまらない運命を変えた存在だった」
鞠莉「私は恵まれた環境で育ち、恵まれた才能を持っていた」
鞠莉「それは12歳にしてアンドロイドのシステムを作り上げた頭脳と常識に囚われない無限の世界を述べる想像力、またの名はクリエイターとしての素質…それはまさに天が私に二物を与えたと言っても過言じゃなかった、私の才能は多くの人間を虜にして世界の人々の目を惹かせた」
鞠莉「人間そのものとしか思えないロボットを作るなんてすごすぎるって、そういう言葉を初めてとして私の技術とアンドロイドの性能は高く評価された」
鞠莉「……今振り返ってみれば、そういう単純なことだけ私に来てればよかったのにって思うの」
梨子「…何の話ですか?」
鞠莉「…みんな……いや具体的には悪知恵が働く、あるいは合理主義者であった人間というのはアンドロイドは戦争で使えるだとか、少子化問題の解消に繋がるんじゃないかとか本来私の意図せぬ方向でアンドロイドの興味を引いた」
梨子「………」
鞠莉「…まぁね、いいのよ別に。アンドロイドには心があるから好きな人が出来たら結婚でも性行為でもなんでもしていいし、戦いたいだとか強くなりたいだとか自分の志すものに通じているのなら自衛隊にでもなればいい」
鞠莉「だけど、アンドロイドを瞳に映し関心を覚える人々は不思議なことに、本来考えるべきである“一つの焦点
”にfocusを当てないの」
鞠莉「何故私がアンドロイドを作ったのかを」
梨子「……!」
鞠莉「…何故だと思う?」
梨子「…護衛の為だと思います、もし私が鞠莉さん本人の立場であったなら自分の才能を狙う人物が絶対に出てくると思います。だったら自分を守ってくれる優秀なボディーガードを作ったと思います」
鞠莉「なら——」
梨子「そうです、私たちの存在がおかしいですよね。もし私の言ったことが正解ならなんでわざわざ人間なんか雇ってボディーガードをさせるんだって話になります」
梨子「だからこれは違います、なので私には分かりません」
鞠莉「…そう、でもごめんなさい。答えを言う気は最初から無いわ。あくまで梨子がどう思ってるか、それを聞きたかっただけだから」
梨子「…そうですか」
鞠莉「ええ、ごめんなさいね?」
梨子「……大丈夫ですよ」
鞠莉「んん…話を戻すけど、そもそもアンドロイドというのはアンドロイドを動かす全体的、そして根本的なシステムは私が作り、アンドロイドの性格である心は小さい頃からの友人であった希が作った。私なんかより感受性に富んだ希は優しさの塊だったわ、お節介の鬼、損得の感情の消失、表裏一体女なんて色々言ってた記憶がある」
梨子「希って人物は分かりますけど、そんな人だったんですね」
鞠莉「…そうね」
鞠莉「…それで、アンドロイド第一号が完成した時はとにかく嬉しかったわ、達成感や爽快感、そして自分らで創った人間が動き喋って私を私として認識するのよ、興奮しないわけないじゃない」
梨子「………」
鞠莉「けどその後の結末は随分と酷いものだった」
鞠莉「ねえ、梨子は何にもやることがない時何をしたいと思う?」
梨子「何もやることがない時?」
鞠莉「周りに遊べるものが無くて、話しかけられる友人、ましてや人もいない」
鞠莉「やるべきことも目標もなくただ人生を真っ白に染めて生きてるだけ。そこで梨子は何を見出す?」
梨子「……今の私がそんな状況になったら、タイムマシンを作りたい」
鞠莉「タイムマシン?」
梨子「…“こんなこと”になる前の過去に行って未来を変えたい」
鞠莉「…梨子って意外にも引きずるのね、いつもアンドロイドを痛めつけるようなことしか考えてないと思っていたわ」
梨子「あはは、笑えない冗談ですね」
鞠莉「………」
梨子「………」
梨子「…私がアンドロイドを信用できる日は一生来ないと思います」
梨子「もし、そんなことさえ取り払ってくれるアンドロイドがいたんならきっと私も幸せだったんでしょうね」
鞠莉「…さぁ?どうかしらね」
鞠莉「……また話が逸れたわね、話を戻すと梨子がタイムマシンを作りたいといったように人間の心は何も無ければ何かが生まれるの、無は在を生む、それはアンドロイドも同じだった」
梨子「…というと?」
鞠莉「私がアンドロイドに課せた最初の目標は簡単すぎるものだった、その目標は作って一日で達成した。だから目標の延長線上は在っても目標を達成したことに変わりはなく、それは無に等しい有様だった」
鞠莉「だからこそアンドロイドは見出した」
鞠莉「何も無いと、破壊を生み出すということに」
梨子「…!」
鞠莉「アンドロイドの心は自分たちで作っておきながら実にイレギュラーな存在だったわ、だって何も無いと破壊を生むなんてそんなのをシステムに埋め込んだ覚えはないわ、ちゃんと確認もした。けどアンドロイドはどうも目の前にあるものをdeleteしたくなるらしいの」
鞠莉「そしてそれは今も直せてない、どれだけ修正してもどれだけ時間をかけても数万という数字が勝手に列と法則に沿った文字を並べて新たなシステムを確立させる」
鞠莉「だから次第に希はこう言ったの」
鞠莉「破壊衝動を生み出すのはアンドロイドとしての本能なのではないかと」
鞠莉「何も無いから破壊を生み出す、そういう結論に辿り着いた私たちはこじつけでもいいからアンドロイドに何か目標を与えようと思った」
鞠莉「その結果が今よ、戦闘型アンドロイドは破壊衝動を逆手に取ったタイプだったわ。戦うことを目的としたアンドロイドなんて言われてるけど、決して戦わせる為に作ったわけじゃない」
鞠莉「業務用アンドロイドは極端なシステムを割り振った、業務用アンドロイドっていうのは他のアンドロイドと比べて頭があまりよくないの、けどその分前向きで何に対しても熱心な性格をしたタイプがほとんどだった」
鞠莉「だからひたむきに今やるべきことに立ち向かえる、それが業務用アンドロイドだった」
鞠莉「そして最後に標準型アンドロイド。このアンドロイドこそ私たちにとって最大の脅威となりえるものだった、何故なら人間にClosestなのがこのアンドロイドだからね」
鞠莉「標準型アンドロイドは言ってしまえば人間と何一つ変わらない生き物、もちろん成長する速度とかある程度の身体能力に違いはあるけど人の心をちゃんと持ってるの、だからこそバグが起きやすい」
鞠莉「標準型という感受性に富んだアンドロイドは見知らぬ感情を本能的に作り出してしまうの」
鞠莉「結果、この道徳的退廃を迎えている東京に住むアンドロイドは防衛本能として銃を持とうとする心と人を殺す、或いは物を壊すという破壊衝動が勝手に生まれる。私はそう考えてるわ」
梨子「…じゃあもうアンドロイドって」
鞠莉「そう、手遅れなの」
鞠莉「他国や他県で暮らすアンドロイドがここほど問題を起こさないのはそういうことなの、周りに影響されて人格を作り上げる性質から平和なところで生まれ育ったアンドロイドっていうのは東京にたくさんいるアンドロイドとは違って武術の心得が一切ないの」
鞠莉「だからどうしたものかと考えはしたけど、アンドロイドの心を大事にするなら自己学習AIを搭載しないといけない。だけどそれを搭載すると周りの環境に影響されて結局は二の舞で破壊の限りを尽くすだけ」
鞠莉「だからといってそれを搭載せずアンドロイドの心を疎かにすると、そもそもそれがアンドロイドでなくなるの。Heartを持たないアンドロイドは私たちの作りたかったものじゃなかったから破壊衝動が出ると分かっていてもこの選択は絶対になかった」
梨子「………」
鞠莉「だから少なくともここにいるアンドロイドはもう手遅れなの」
鞠莉「…ただ、そんな中でも救いだったのが銃を持っていたり武術の心得がある自己防衛に努めたアンドロイドたちは他のアンドロイドや人間と関係を深めてそのほとんどのアンドロイドがここ東京に身を置く形となった」
鞠莉「アンドロイド一人がここに残ればそのアンドロイドと関係を持ったアンドロイドもここに残る、一人のアンドロイドが二人のアンドロイドに、二人のアンドロイドが四人のアンドロイドにというようにこの東京に滞在する理由を感染症のように広めていった」
鞠莉「だから過激な色に染め上げられたアンドロイドが他のところに行って暴れるという事例はほとんどないわ」
梨子「…そうなんですね」
鞠莉「ええ」
梨子「……でも、正直私には分かりません」
梨子「アンドロイドが危険だと、手遅れだと分かってるのなら今すぐにでも排除するべきものではないのですか?」
梨子「それに、私たちは何のためにいるのですか?」
鞠莉「……梨子、あなたには分からないかもしれない」
鞠莉「きっと私の抱えるこの気持ちは複雑すぎて私にしか…いや、希は分かると思うけど、いずれにせよ普通じゃ分からないことなの」
梨子「…つまり?」
鞠莉「私はこの東京が大好きよ、常にchaosで満ち溢れてて毎日誰かがドンパチやってるここはとにかく刺激的で退屈しない、だから私はここが好きなの」
鞠莉「でも、アンドロイドに好き放題やらせたら破滅はもはや秒読みよ、だからある程度歯止めを利かせる為にこの都市には対アンドロイド特殊部隊っていう“必要悪”がいなきゃいけないのよ」
鞠莉「つまり対アンドロイド特殊部隊はアンドロイドの殺害よりかは抑制を目的としたものなの」
鞠莉「危険度の高いアンドロイド——いえば破壊衝動を作ってしまったアンドロイドだけ排除しとけば後はアンドロイドと人間が勝手に街を盛り上げてくれる、そんな造られたvoltageが私は好きなの。優しさは常に一人じゃ生まれないものよ、だから二人で優しさを生んで盛り上げるの」
梨子「………」
鞠莉「ごめんなさいね、こんなくだらない理由で」
梨子「いえ、むしろ安心しました。ここで鞠莉さんがどう答えようと私がアンドロイドを殺すことには変わりないですが、胸糞悪いものは胸糞悪いですから」
鞠莉「そう、ならよかったわ」
梨子「…ですが今の状況はあまりよくないと思いますけど」
梨子「堕天使と松浦果南、軍人とトリックスター、曜ちゃんや南ことりまでもが主格である絢瀬絵里の下についているかもしれないのですよ」
鞠莉「……そうね、下手したらその七人だけで一つの国くらいなら亡ぼせそうなくらいだわ」
鞠莉「………」
梨子「…鞠莉さん?」
鞠莉「梨子は……どうしたい?」
梨子「どうしたい?」
鞠莉「次絵里が狙ってくるのはおそらくY.O.L.Oよ、梨子はそこでどうする?」
梨子「それならもちろん迎撃するのみです、叩き潰してそして……ふひひっ…」
梨子「じっくり味わいたいなぁ……」
鞠莉「…それは別に構わないけど、それは何かしら特別なactionが無いと無理ね」
梨子「…どうしてですか?」
鞠莉「確かに梨子は強いわ、でも相手が悪すぎる」
鞠莉「梨子が戦えるのはあの中では一番性能が低いとされていることりか、同じ人間である曜しか無理よ」
梨子「でもこれはゲームじゃない、数値化出来ない物事に確定勝利も確定敗北もないはずです」
鞠莉「その通りね、でも果南だけはやめなさい。死ぬわよ」
梨子「どうしてですか?」
鞠莉「果南は戦闘型とはいわず全アンドロイドの中でも特に優れた性能よ、戦闘型だから耳が良くておまけに果南は他のアンドロイドと比べて目が非常に良い。だから観察眼が凄まじくて頭の回転も速いわ」
鞠莉「とにかく攻撃的で運動神経はもちろん最上級、でもあいつの一番怖いところは何も考えて無さそうで実は誰よりも数十倍と頭の中で考えが浮かんでるところよ」
鞠莉「希は果南のことを必要以上に避けていたわ、アンドロイドなのに、そしてアンドロイド故に何を考えてるのか全く分からないのよ」
梨子「………」
鞠莉「あのアンドロイドに寛容な希でさえ避けるくらいなんだから果南と戦っていいことはないわよ。あいつは大人しく果林に任せることね」
梨子「…そうですか、分かりました」
鞠莉「話は以上、傷はまだまだ癒えないでしょうけど次はY.O.L.Oに来ると思ってなさい」
梨子「分かりました、では」
スタスタスタ ガチャッ
鞠莉「…銃は人を変えてしまうものだわ」
希『アンドロイドが笑えるのはありがとうを言う為、アンドロイドが泣くのは————』
鞠莉「……さよならを言う為」
鞠莉「…でも、さよならなんてなかったわね」
鞠莉「…アンドロイドはあなたの為に作ったのに」
鞠莉「海未……」
~約一ヶ月後
絵里「今回の作戦をまとめましょう」
善子「ええ」
ことり「りょうかいっ」
穂乃果「分かったよ」
絵里(あれから一ヶ月と一週間半後、傷もほぼ完治した私たちはリハビリを終えとうとうY.O.L.Oへ向かおうとしていた)
真姫「…ええ」
絵里(そしてこの場所にはレジスタンス全員が集まった)
絵里(それぞれがそれぞれで一番適した格好をしてリビングで緊張感を募らせた)
せつ菜「いよいよ始まるのですね…」
絵里(せつ菜は防弾チョッキを着た上に赤いネクタイと派手なスカートが特徴的な服…?衣装のようなものを着てその戦場には似つかわしくない姿を披露していた)
穂乃果「絶対に負けないよ」
絵里(それに対して穂乃果は実に軽装だった、防弾チョッキと腰にベルトを巻くだけの簡単なマガジンポーチ、そしてヘッドホンタイプの通信機をつけて最低限必要な物をつけて後は紺の戦闘服を着て動きやすさに全てを置いたような姿だった)
ことり「うんっ勝とうね」
絵里(ことりは随分と分かりやすい装備だったわ、相変わらずスカートの裏には投擲物がついていて一応固定されてはいるものの時たまスカートの中でカランッと投擲物から不穏な音が鳴る)
絵里(そしてことりは予想以上に重装で、真っ黒いダークな戦闘服の上に防弾チョッキ。ここまでなら普通なんだけど驚くべきはマガジンポーチの数——それはまず胸に四つ、そして腰に六つ、右の腿に二つ。ちなみこの中に入ってるのは胸の二つ以外全部投擲物らしい)
絵里(それでいて平然と動いてるんだから怖いものだわ…重くないのかしら…?)
果南「油断はしないようにね」
絵里(そして果南は実に普通だ、戦闘服の上に防弾チョッキを着て、ベスト型のマガジンポーチを着て特に尖った部分はなく、邪魔な物は持たずに必要最低限の装備で行くらしい)
曜「もちろんっ!困ったら私に通信入れてね」
絵里(曜も普通かしら、着ているものはほぼ私と同じで、違うところがあるなら予備の通信機が腰にかけられていて射線が見えるのとフラッシュに備えたゴーグルをつけてることだった)
善子「ええ、了解よ」
絵里(善子はこの前と全く同じ、不便さは感じてなかったようね)
絵里「じゃあ、話すわね」
絵里(そして私も同じ)
花丸「はいっ」
真姫「質問あるならみんな言うようにね」
絵里(この二人は戦えないからお留守番。花丸さんは一応戦えるみたいだけど真姫を一人にするのはあまりにも危険すぎるから残ってもらった)
絵里「今からY.O.L.Oへ強襲を行うわ」
絵里「それにあたって私たちはそれぞれグループに分かれて戦うことになる」
絵里「グループAは私と善子、グループBはせつ菜と穂乃果、グループCはことりと曜」
花丸「…あれ?果南さんは?」
絵里「果南には一人で動いてもらおうと思ってね、私たちが気を引いてる間に裏から内部を抉ってく暗躍者として動いてもらいたくて」
果南「んーちょっと考えたんだけど絵里と善子のところについていっていい?」
曜「えっ暗躍者がいた方がいいんじゃない?果南ちゃんは強いんだし」
果南「うん、確かにそっちでもいいんだけどある程度は絵里と善子と一緒にいようと思ってさ。もしY.O.L.Oのアンドロイドと戦うことになった時、私個人としては数で勝ちたいと思ってるんだ。相手の情報が何一つ分かってないから色々試すためにカバーが欲しいんだよね」
絵里「なるほど…」
ことり「…まぁいいんじゃない?フォーメーションの変更はきっと向こうに行った後でも出来るし臨機応変にやってこうよ」
曜「まぁそれもそうだね」
果南「ふふふっありがとことり」
ことり「別に…」
絵里「ちょっと変更があったけどいいわ、それで穂乃果とせつ菜のグループは正面でプッシュしてほしいの」
穂乃果「了解だよっ」
せつ菜「分かりました」
絵里「その間に私たちは横や後ろから内部に侵入、中にいるであろう敵と対峙しながら機械を破壊していきましょう。今回は爆弾も持ってきたから最後は派手に爆破して撤退よ」
曜「いいね、文句無し!」
ことり「私も良いと思う」
絵里「何らかの戦えない状況に陥ってしまったら一言連絡を入れて引いて、勝つのも大事だけど死んでしまったら意味が無いわ」
絵里「戦うのなら生きて勝ちましょう」
善子「ええ、もちろんよ」
絵里「質問ある?」
真姫「戦えない私如きが口を出すことじゃないと思うんだけど、穂乃果とせつ菜ってこの中でも特に強いんでしょ?それをデコイ扱いにしていいの?」
絵里「デコイのつもりはないわ、第一三人いると言われてる戦闘型アンドロイドの一人は正面にいると思ってる、だからそれと対峙してもらうのが二人の役目。そして敵はもちろんそれだけじゃない。一番ヘイトが溜まるのは正面だからそこは真姫も言う通りでこの中で特に強い二人に任せるわ」
真姫「そ、そう。分かったわ」
絵里「他は質問ある?」
曜「私は大丈夫」
穂乃果「私も」
果南「準備はとっくに出来てるよ」
善子「同じく」
絵里「ええ、なら行きましょうか」
絵里(人の波が酷い街中から少し外れて、長くて細くていれくんでる道に囲まれた大きな建物であるY.O.L.Oはまず侵入さえ難しい要塞だった。つまり今から私たちは迷路に飛び込むのよ)
果南「真姫と花丸には感謝しないといけないね」
絵里「ええ、あの二人の力無しでは侵入さえできなかったと思うわ」
絵里(全員持ってるデバイスの中に記録されたマップデータは全部真姫と花丸さんが作り出してくれたもので、花丸さんはマップの作製を、そして真姫はそのマップをデジタルデータに変換した。そのおかげで迷路のような道も迷わずに目的地であるY.O.L.Oへ向かうことができる)
絵里「じゃあ私たちは正面から見て左側から攻めるわ」
曜「了解、なら私とことりちゃんは右側だね」
ことり「うんっ」
せつ菜「正面は任せてください」
絵里「ええ、任せたわ」
真姫「…絶対に死なないでよね」
花丸「いい知らせを待ってるずら」
果南「あははっ首を長くして待っててよ、すぐに終わらせるからさ」
真姫「ええ、頼んだわよ」
果南「任されたよ」エヘンッ
絵里(それぞれがそれぞれの誓いや約束、決意などをして自らを奮い立たせて戦場へと駆けだした)
タッタッタッ!
絵里「!」ピタッ
果南「お、ついに来たね」
善子「ここからね」
絵里(そうして走って歩いてを繰り返してたどり着いた路地裏、しかし路地裏という割には道幅は結構広いのだけど道に明かりがほとんどないので人が全くいなく、時折ある防犯灯の明かり周辺を飛び交う虫がよく目に映って実に不快だった)
絵里「監視カメラは壊さずになるべく避けて通りましょう」
善子「ええ」
絵里(そして善子の言う“ここから”というのは監視カメラを警戒してのことよ、ここを抜ければY.O.L.Oへ行ける。だけどその前に通らなければいけないここは監視カメラの多さが目立つ)
絵里(雑に攻略するならば監視カメラを撃って壊して進んでいけばいいだけだけど、なるべく隠密行動で行きたい私たちは回り道をしたり上手く死角を作ったりして見つからずに着々と前へ進んでいった)
スタスタスタ
絵里「…!監視カメラがあるわ」
善子「…ホントだ、でもどうする?あそこの監視カメラ…向こうに行くまで別れ道も何もないわよ。回り道していくのもいいけどここからだと時間がかかる…」
絵里「…どうしたものかしら」
果南「上を通っていけばいいんだよ」
絵里「上を通る?」
果南「ここの路地裏、ご丁寧に足場が作られてるじゃん。屋根や突起物を利用すれば屋上に行けると私は思うんだけどね」
果南「こうやってね!」シュツ
タッタッタッ!
絵里「ウソでしょ…」
善子「ホントに行ったわあいつ…」
絵里(ダクトやパイプ、小さな屋根や換気扇を足場にして颯爽と屋上へ上っていった果南に私たちは唖然、そうしてしばらくしてるとすぐそこの角を曲がった先の監視カメラの奥から“ほっと”なんていう果南の声が聞こえてきた)
絵里「…私たちも行くしかないようね」
善子「ええ」
絵里「じゃあ行きましょう!よっとっ!」シュッ
絵里(だから私も果南と同じように足場を使って屋上へと上る。果南ほど早くはないものの思いの外上手く上れていて屋上まで上がったら今度は果南のところに下りた)
絵里「ふう」
果南「よしっ行けたね」
絵里「ええ、でも驚いたわ。いくらなんでも無理矢理すぎよ…」
果南「あははっここの壁を見てたら行けるかなって思って」
絵里「流石果南ね…」
善子「今いくわねー」
絵里「ええ、待ってるわ」
絵里(次第に善子も屋上へと上ってきて、ここまで下りてきた。しかしその下り方と言えば誰よりも丁寧で私も、そしてきっと果南も善子らしいなって思ってたはず)
善子「よっと」
絵里(そうしてジャングルジムの一番上くらいの高さからここへジャンプで下りた時、それは起こった)
絵里(私の人生を変える最大の選択————私の運命を変える最悪の選択)
絵里(その選択はあまりにも突然で、一寸先の闇は何かを待っていたように姿を現した。運命は再び銃弾で、そして火薬でその先の未来を照らし出した)
ドォンッ!
善子「…ぁっ!?」
絵里「っ!?善子!?」
絵里(重々しい銃声と共に放たれた銃弾は善子を貫いた。銃声の方向からするにその銃弾が地上から放たれたものであるのはすぐに確認出来た)
絵里(…だけど、そんなことに意識を向けてる場合じゃなかった)
絵里「ねぇ善子っ!善子ってば!!」
絵里(跳躍する善子を貫いた銃弾、防犯灯の光によりスポットライトのように照らされたその善子の貫かれた部分を見ればこの一件の答えはすぐに出てきた)
絵里「善子ぉ…!善子ってばぁ…!!ねえ善子ぉ!!!」
絵里(綺麗な直線で貫かれた善子の頭部。そうすればたちまち真っ赤なサンシャインが噴射して辺りは一時的な雨が降り、当の善子は地面に叩きつけられ後の祭り)
絵里「善子…ねえ善子…!!起きてよッ…!」
絵里(イヤだ。分かりたくない。頭の中で考えるよりまず視認して勝手に出てくる答えが私の心を痛めつけた)
絵里(目を開けたまま動かない善子の顔は実に不気味で恐怖そのものだった。地面を、私の手を、服を真っ赤に染め上げ今もとめどなく出てくるこの赤はアンドロイドとして…そして生き物としての終わりの証拠でしかなかった)
絵里「うあああああ…!ね、ねえ果南私たちどうすれ……ッ!?」
絵里(情けない顔で果南の方を振り向く私。だけど振り向いた先はそんな情けない顔も一瞬にして固まるほどの絶望と混乱の世界だった)
果南「……最高の殺し方」
果南「最高の死に様」
果南「最高のシチュエーション」
果南「…そして、さいっこうの舞台《ステージ》だね…絵里…」
今日はここで中断。
再開は明日か明後日にします
果南さんマジかよ・・・
混沌めいてきたな
絵里「何を……言ってるの…?」
絵里(絶望のその先に見えたのはデザートイーグルを片手に持ち気味悪く恍惚に佇む果南の姿、果南から私へと伝うその明確な狂気を感じればすぐにでも善子を殺した犯人が果南だと分かってしまう)
果南「絵里、やっとなんだね」
果南「やっと絵里と本気で戦えるんだね」
絵里「何を、言ってるのよ…何を言ってるのよ!?」
果南「私はずっとこの時を待ってた、私と絵里とで殺し合いをするその日を。どちらかが死ぬまで戦い続けて、邪魔者も誰一人入らない二人だけの空間で戦いたかった」
絵里「果南あなた自分が何をしたか分かってるの!?」
果南「分かってるさ、私が善子を殺した。それが何?」
絵里「善子は大切な仲間なのよ!?それが何って…それが何って何ッ!?」
果南「ごめんね絵里、でも善子は私にとって他人でしかない。私は絵里にしか興味がないんだよ、絵里以外は信用出来ない、絵里以外はいらない」
絵里「果南……!」
果南「私ね、小さい頃からずっと絵里に憧れてたんだ。本当は出会っちゃいけない私たちだったけど、絵里の強すぎる正義感は私との出会いを作った」
果南「当時は凶暴だった私の前に突然やってきて“暴れるのはやめて”なんていうからビックリしたよ、当時私も人殺しってことでそこそこ有名だったからさ、強さには自信があってその凛々しい顔を泣き顔に変えて命乞いをさせてやろうって思ったよ」
果南「だから行動はすぐに出た、絵里にパンチやキックをお見舞いして最初こそ私の方が優勢だったのに段々と躱されるようになって、その後も怯むことなく次の行動へ移せばすぐに対応されて、最終的には足払いをされてそのまま馬乗り、そうして首を絞められたのを今でも覚えてる」
絵里「………」
果南「……ただ、そこでみねうちをされて私気付いたよ、強さってこうであるべきなんだって」
果南「絵里は言ったよね。“あなたはもっと考えて行動するべき”って」
果南「だからその時からずっと絵里に憧れを感じてずっと考えながら生きてきたよ、脳筋で凶暴だった私を常識人に変えてくれてたくさんの仲間を作ってくれた。その憧れとこの胸に宿る輝きは今になっても未来になっても消えることはないと私は思う」
果南「ねえ知ってる?私の髪型がポニーテールなのは絵里に憧れてたからなんだよ?」
果南「ファンクラブを作ったのも私。絵里の事が気に入らないと思ってるやつを潰しまわってたのも私、そのおかげで比較的絵里は平和に日常生活を送れたんだよ?」
果南「私は絵里のこと、大好きだよ」
絵里「……私も果南の事、好きだったわ」
果南「ふふふ、ねぇ絵里」
果南「私ってさ、目がいいって言ったよね」
絵里「………」
果南「だからすぐに分かっちゃうんだよ、相手の強さが」
果南「絵里と一緒にいるようになってから絵里より強い人を見たことがなかった」
果南「最近だと穂乃果やせつ菜、あと曜や果林ってやつには驚かされたけどそれでも絵里は最強のまま」
果南「殺意も無ければ覇気もなくて、むしろのほほんとしたオーラをまとってる絵里が一番強いのは、いつまで経っても私には理解できなかったね」
果南「でも…こう……なんていうのかな。正義感とか性格とか、理屈じゃ説明できない気がするんだよね」
絵里「………そう」
絵里(失望、絶望、退廃、虚無、そのネガティブ全てを同時に感じた私にもはや流れる涙は無かった)
絵里(怒ることも泣くことも出来なくて。感じた感情が凍ってしまって考えを巡らせてはすぐさま真っ白になり、私という本能がこの現実を拒絶しようとしていた)
果南「まぁいいよ、結果がどうであり私と絵里が戦うのは変わらないからね」
絵里「…逃げればいいだけよ」
果南「いいの?監視カメラに発見されてみんなに迷惑かけちゃうよ?」
絵里「連絡を取ればいいだけ、言っておくけど私はアンドロイドよ、果南に勝てなくても果南の攻撃を躱すことは出来る」
果南「…ふふふっじゃあ連絡を取ってみればいいじゃん?待っててあげるよ」
絵里「ええそうさせてもらうわ」
ザーザーザー……
絵里「…なにこれ」
絵里(連絡を入れれば聞こえてくるのは砂嵐。私たちが持ってるのは携帯じゃなくて戦闘の為だけに用意されたデバイスと通信機、そのいずれもが使えないモノとなっていた)
果南「ごめんね絵里。絵里のデバイスはインターネットが使えないよう通信手段を全て遮断したよ、通信機は内部を破壊した」
果南「これで連絡取れないね」
絵里「っ! お前……!」
果南「あはははっ!絵里、本気なんだね。いいよ、私に本気を見せてよ!」
果南「私は絵里を超えたいからさぁ!」ダッ
絵里「ちっ…!」シュッ
絵里(避けては通れぬ道なのね)
絵里(果南は私に向かって跳躍しながら背中にかけてたSCAR-Hを構え発砲、反応した私は後ろへ飛び退けすぐに曲がり角へ逃げ込んだ)
タッタッタッ!
果南「そっちは監視カメラの方向だよ!いいの?」ドドドドッ!
絵里「そんなの気にしてたらこっちが死んじゃいそうなんでね!」タッタッタッ!
絵里(連なり木霊する足音をかき消すが如く鳴り響く低い銃声。銃という武器の特性上直線で対になると流石のアンドロイドでも避けれない。いくら横幅があるからとはいえ結局は狭い道であることを否めない)
絵里(つまりこの状況で真正面からやり合うのはどう考えても悪手、果南は撃たれることも覚悟しての勝負だろうけど私にとってはこのY.O.L.Oを破壊してから次のフェイズへ移らないといけない為に果南とは訳が違ってダメージ覚悟ではない)
絵里(だからとにかく角を利用として何かを見出そうとした)
タッ
果南「角を使って逃げてても私はついていくよ!」
絵里「知ってるわ」カチャッ
果南「っ!」
絵里(角という相手の目だけじゃ把握出来ない場所で待ち伏せて果南が曲がり角に来たと同時に発砲。実にシンプルだけど分かっていなきゃ対処法もそこまでないいつまで経っても廃れない強さを持ってるわ)
果南「と思うじゃん?分かってるよそんなの!」
絵里(ピンチであるはずの果南はニヤリと笑って、壁を蹴り壁に引っ付く何かの足場を上手く利用して縦横無尽に、そしてアグレッシブに動いてすぐさま発砲したスコーピオンEVOの弾丸全てを翻弄し避けきった)
絵里「……!」
絵里(その間に一体私の何が機能したというのかしら、私の頭上から落ちてくるグレネードに私は気付いた。それは本当にわずかな音だった、落下で風を切る音が私の耳に伝った時、これはグレネードだと分かった)
果南『と思うじゃん?分かってるよそんなの!』
絵里(…流石果南としか言いようがない)
絵里(私の行動を読んでいただけでなく次の一手まで既に用意していたその手際の良さと戦闘センスはやはり脅威でしかない)
絵里(…ただ、そこまで戦況を把握し攻撃に転じる術と深い読みがあるというのなら、私が次起こす行動も読めてるのかしら?)
絵里(…やってみる価値はありそうね)
絵里「私も行くわよ!果南っ!」
果南「!? なんで!?」
絵里(私も果南と同じように階段や換気扇などの足場を使って縦横無尽に宙を駆け巡り、同じく宙を舞う果南の元へと向かった)
絵里(もちろん発砲はしてくるんだけど如何せんアンドロイドなもので射線が見えてるから次避けるための最適ルートが即座に頭に浮かんできて当たるはずがなかった)
果南「これならどうっ!銃が全てじゃないよ!」
絵里「もちろん知ってるわよ!」
絵里(腰にかかっていたアーミーナイフを逆手に持ち空中で応戦を試みる果南に対し私も腰にかかっているマチェットを取り出し果南に向かって飛びついた)
ドカーン!
絵里「っ!?」
絵里(私の向けた刃と果南の向けた刃が交わるという時、私の上空を飛んでたグレネードが地面に着弾して爆発した。その結果私は爆風により背中に激しい圧力がかかった為に大きく体を仰け反り、下から上へと飛ぶ慣性が強まった為に下へ落ちるのではなくて上へと落ちていき予期せぬ作戦の変更を強いられた)
絵里「…いや、いい」
絵里(ただ、これでよかったのかもしれない)
絵里(すぐさま私はハンドガンを取り出して爆風と仰け反った勢いを利用してそのまま縦に半回転、そうして果南に向かってトリガーを引いた)
果南「…っ!このっ!」バンッ!
絵里(私がハンドガンを構えて察したのか果南もすぐに対応し、デザートイーグルを片手で構え発砲した)
絵里「ひっ!?」
絵里(私の放った弾丸は果南の放ったデザートイーグルの弾丸とぶつかった。その結果、二つの弾丸は弾道を変える事もなければ擦れることもなく、私の放った弾丸だけが墜ちていきデザートイーグルの弾丸は私の股の下を通って後ろの電線を切っていった)
絵里「くっ」
果南「ん…」
絵里(そうしてお互いなんとか怪我の無い着地をして睨み合う。今まで笑ってた果南も流石に今は笑ってなかった)
果南「…やっぱり絵里はすごいよ、多分絵里と穂乃果…そうだね…もしかしたら曜もだけどそれ以外はあのグレネードに気付かずに死んでたよ」
絵里「…果南のことは私が一番よく知っているつもりよ、だけど私には二つ疑問がある」
絵里「仮にここで私と穂乃果、そして曜以外が果南と対峙して、それで今さっきのグレネードで葬れたとしましょう、つまり結果は果南の勝利、果南はダメージを受けることなく相手に勝利した…それだけの戦果をあげられるというのに何故ことりとの戦いでダメージを負ったの?」
絵里「今のところ果南がダメージを負う必要性が無いと感じているんだけど」
果南「ことりは強いよ、この世界はRPGじゃないし魔法も使えない、銃の世界に圧倒的な差は出来ないんだよ」
果南「だからことりと戦った際は肩を撃たれて終わった。その分は私はことりの胸や腿を貫いたけど、やっぱりことりも手練れだからね、無傷は無理だったさ」
果南「——でもね、この場所は違うよ」
果南「この薄暗くて狭い場所、宙に浮くグレネードも全く見えないし壁のあちらこちらに跳ぶための足場がある」
果南「曲がり角も多くて直線を作りやすい。ホントに素敵な場所だよ」
果南「私が生まれた頃からいた場所だもん、私が有利になるのは当然だよね?」
絵里「……そういうこと」
絵里「…じゃあ千歌はどうしたの?仇を取るんじゃなかったの?」
果南「あっはは、もういいよそんなの」
絵里「…!」
果南「確かに最初は千歌の仇の為に私は絵里と共に戦うことを選んだよ、でも絵里が穂乃果や曜を仲間にしていった時点で別に私が動かなくても千歌の仇は果たされることに気が付いた、それに気づいた瞬間私がやるべきである本来のことに焦点を当てたんだよ」
果南「絵里と本気で殺し合いをする、私の夢」
果南「でも、絵里と戦ってみて思うのはやっぱり絵里は最強だね。こういう場所には頭のおかしい人たちが溜まる、私は昔っからそんなやつらをこの地形を利用して殺害を繰り返してた」
果南「だから私がこのステージでの動き方を熟知してるのは当たり前、それなのに絵里はなんでグレネードを回避出来た?なんで私みたいに縦横無尽に動けた?」
果南「あれ?おかしいよね?」
絵里「……何が言いたいの?」
果南「絵里はいつもそうだよね、そういう人なんだよね。いつも自分の事じゃなくて相手の事を考えちゃう、そんな優しい絵里が私は好きだよ」
果南「…でも、優しいってホントに邪魔なステータスだよね」
果南「戦いの中で温情?同情?慈悲?なんてバカらしくない?そういうモノが戦いの中で恐怖に変わっていくんだよ、人を殺す恐怖、自分が殺される恐怖、平和が崩れていく恐怖…戦いには慣れってものが必要なんだよ、だから私たちは今すぐにでも殺すことに慣れてなきゃいけない」
果南「だけど、私から見て絵里にはそれが欠落しているように見えるんだよね」
絵里「………」
果南「ねぇ絵里、私と組まない?私と絵里だけ――――そう、二人だけで」
絵里「…組むって?」
果南「絵里が人を殺すことに恐怖を抱いているのは知ってるよ、だから私が代わりに殺してあげるから一緒に手を組もうよ、絵里と私の二人だけでね。それ以外はみんな敵だよ」
果南「そして鞠利を殺すんじゃなくて、東京を私と絵里のモノにしちゃおうよ」
絵里「それ、本気で出来ると思ってる?」
果南「ふふふっそんなこといったら絵里もそうじゃない?対アンドロイド特殊部隊を壊滅させて鞠利に勝とうなんて無謀すぎると私は思うんだけど」
絵里「そう?もうすぐそこまで来てると思うんだけど」
果南「そうなんだよねぇ」
果南「…まぁそれもこれも全部絵里がいたからここまでいったんだろうけど」
絵里「……私を神格化させたいの?」
果南「絵里は色んな面を含めて最強なんだよ?絵里もよく考えてみてよ」
果南「自分が誰なのかを」
絵里「自分が誰なのか……?」
果南「…まぁ、それが分からないから絵里は絵里のままなんだけどね!」ダッ
絵里「っ!」
絵里(凄まじい速度で前へ跳躍しながらトリガーを引いた果南——跳躍から着地へと移ればまたすぐさま跳躍をし壁を蹴って再び縦横無尽に宙を舞う)
果南「ホントに絵里はバカだね!ことりの言ってた通りだよ!」
果南「意志が強い人は周りを見ることが出来ないってね!」ドドドド!
絵里「何の話よ!?」タッタッタッ!
絵里(状況はまさに蟻地獄に放り込まれた蟻のようなもの。果南の祭壇の上でどう踊ればいいか分からない私はとにかく逃げ続けた)
絵里(時折ハンドガンを使って威嚇射撃程度に撃つけど如何せん当たるはずもなくて、銃弾の雨は止まることを知らないようだった)
果南「逃げてても状況は変わらないよ絵里!」
絵里「そんなのやってみないと分からないじゃない!」
果南「なら分からせてあげるよ!」
絵里(そう言って何が起こるのか確認する為に振り向けば赤い線が視界いっぱいに現れた)
絵里(赤い線の出現先はもちろん果南の持ってる銃口————だけど、銃口の位置がおかしかった)
絵里「なに…それっ…!」
絵里(…でも考えてる場合じゃない、今はとにかくこの数えきれないほど見える射線を避けきるのが先。そう答えを出した私はすぐ横にあった木のドアを突き破って室内へと入った、Y.O.L.Oの周りの建物は廃れていて基本的にここら辺に住んでる人はいない、だから突き破っても案の定人はいなくてピンチながらもちょっと安心した)
果南「やっぱりこれも避けるんだね絵里は!流石だよ!」ドンッドンッ!
絵里「何よそれは!」
絵里(ドアを突き破ればついてくるのは当たり前。だけど果南はどこからか取り出したショットガンのようなもので壁に穴を開けて私を追ってきた)
果南「アンダーバレルショットガンって知ってる?」
果南「本来の銃口の位置の下をアンダーバレルっていうのは絵里も知ってると思うんだけど、そこにもう一つ銃を取り付けられるんだよ、だから私のSCARにはアンダーバレルにショットガンがついてるんだよ、こんな風なショットガンがっ!」バンッ!
絵里「ちっ…」
絵里(ガラスを突き破って外へと出ればたちまち後ろから低い銃声が聞こえてきて私の頭上を掠めていく)
絵里(果南の言うアンダーバレルについたショットガンで撃つだけ撃ったら今度は本来引くべきであるアサルトライフルのトリガーを引いて私の狙ってくる)
絵里(使い方にもよるけどそれは単純な話、手数が増やせて相対的に装弾数が増える。そして遠近共に対応できる万能な存在になり火力だけを追い求めながらも完璧な構成が作られている…)
絵里(…一体果南はこのプライマリーを完成させる為に何人の人を…そしてアンドロイドを殺したのだろう)
絵里「このっ!」ポイッ
絵里(しかし私も逃げてばっかりじゃない、窓を突き破った後はグレネードを転がして牽制をした)
果南「ピンが抜かれたばっかのグレネードは怖くないね!」タッタッタッ!
絵里(しかしまるで意味を成してない様子。例え直撃のレベルにはならなくても爆風で吹っ飛ばされるというのだからここは大人しく引くのが賢明だとは思うんだけど果南には他の考えがあるらしい)
ドカーン!
絵里(そして案の定果南の背中にはgがかかる、しかしそれでも見えてくる無数の赤い線————それと真正面からやり合ったら負けるのは間違いなく私。いくらレートの高いスコーピオンとはいえショットガンの瞬時火力には勝てない)
絵里(だから爆風に吹き飛ばされて…いや、爆風を利用して私の元へ高速で向かってくる果南には付き合わないことにした)
果南「そうだよね!射線が見えるなら絶対に撃ち合わないよね!知ってるよ!だって幼馴染だもん!ずっと昔から絵里の事知ってるから!」
果南「でも私相手じゃ“いつも通り”は通用しない!絵里には絶対に戦ってもらうよ!」ブンッ!
絵里「っ!?っぶな…!」
絵里(暗闇から突然姿を現す無数のナイフ。ナイフは銃弾とは違って射線は見えないから機械の反応速度で対応するしかない、けど夜な上に常に闇が彷徨うここだと視界の悪さが目立つ為に果南がナイフを投げてから私が反応するまでにタイムラグがある、だからこそ避けれるかも危ういところだった)
果南「私は他のアンドロイドや人間とは違うよ!ずっと絵里と一緒にいて、ずっと絵里のこと見てきたんだから絵里を逃すわけないじゃん!」
絵里「あなたねっ…ッ!」
果南「何かを待って逃げるよりさっさと覚悟を決めて私と戦った方が絵里的にもいいと私は思うんだけどね!」ドドドドッ
絵里(そこら中で火花を散らす銃弾を潜り抜け角を曲がって逃げ続けるけど横移動を満遍なく使うことのできない細道では真正面からの撃ち合いを強いられる、けどどう考えてもそれじゃあ良くて相打ちの結果に終わる。脱出ゲームのようにいれくんだこの迷路ではまだまだ広いところに出れるような気配はしないしどこかで果南と対面する必要があるのを既に私の考えが示していた)
絵里「ならここでっ!!」バリバリバリバリッ!
絵里(私のプライマリーであるスコーピオンのトリガーを引けばたちまち路地裏の壁に穴が空く。みんなの持つ銃と一際銃声が違うのが恐ろしさの体現であったと思う)
果南「スコーピオンなんて怖くないね!」タッタッタッ
絵里「っ!?」
絵里(だけどどういうことなのかしら、果南はこの数えきれない銃弾に対し動きを止める素振りもなくましてや何かに隠れようとする様子さえない。果南もアンドロイドであるはずなんだから射線は見えてるはず、ならこの銃弾を全て躱しきるなんてそんなの無理って分かってるはずなのに)
絵里(死ぬことを選んだ…?いや、果南から向けられる殺意はまだ残ってる。何かがあるはずよ…)
果南「ほっと、やっと!」
絵里(ジグザグ走行で避けれる弾は躱すけど、果南と私の距離が近づけば近づくほど果南が不利になる。装弾数が52発であるスコーピオンのマガジンならこの対面で弾切れはまずない、そうと分かっているのにどうして果南は私の元へ来るのか理解出来なかった)
果南「完璧主義者の絵里には到底理解出来ないだろうねっ!」ズサー
絵里(そして一気に距離をつめるようにスライディングをするけど、果南も分かってるはず。スライディングをしたところで弾を全て避けきるのは不可能、そう、“完全”には……)
絵里「…! まさかっ!?」
果南「そうだよ!この弾だけ受ければ絵里と接近出来るからねっ!」
絵里(私の放った銃弾は果南の左上腕を貫いた。だけど果南はそれでも足を止めず顔を歪ませることなくスライディングで私へと近づいた)
果南「もらったっ!」
ドスッ
絵里「ぃ…かっ…………」
絵里(トリガーを引き続けていた私が高速で近づく果南に対して回避行動を出来るはずもなく、果南は私のお腹にナイフを突き刺した)
絵里(……負けた。私の口やお腹から血が飛び出てくる以上はそれ以外なかった)
絵里(でも、不思議とまだ息が絶えることはなかった。諦めたくなかった、死にたくなかった)
絵里「はぁ…あ……」
絵里(仰向けに倒れると星々が連なる広い宇宙が瞳に映る。そんな景色に一瞬の黄昏を支げるとその星空を遮る果南の姿が私の視界に入り込んだ)
果南「……ねえ絵里、考えたことある?」
絵里「なに…を…よ」
果南「このナイフについた血、そしてその絵里の口から出る血————誰のモノだと思う?」
絵里「誰の…モノ?」
果南「そうでしょ?まさか絵里は自分の血が赤い絵具やトマトジュースなんて思ってるわけじゃないでしょ?私のこの腕から出る血だって、本物の血だよ。でも本物の血ってどういうことなんだろう」
絵里「………」
絵里(果南にしては珍しい真面目な話は自然と私の脳を働かせた。しかしあまり力が入らないのでアホっぽく口をあけて死体のような姿を自分自身で作っていたと思う)
絵里「…人…でしょ…?」
果南「そうだよ、人だよ」
果南「人の血が私たちには流れてるんだよ」
果南「絵里は言ったよね、アンドロイドの差別を無くしたいって」
果南「だから安心してよ、アンドロイドは決して特別な生き物じゃないよ。人の血が流れてる以上何を言おう人でしかないんだよ」
絵里「………」
果南「……ごめんね、絵里。もし私がここで邪魔をしてなければ87パーセントの確率でY.O.L.Oを破壊できた」
果南「でもね、ここで奇襲を成功させたら絵里と私が戦う機会はもう一生来ないと思うんだよね」
果南「だから今やった」
絵里「ふざけっ…ないで…!」
果南「……ふふふっ絵里の死体は私がずっと保管しておくからね」
絵里「なに……笑ってんのよ…!!」
果南「あはは、絵里に勝った証と同時に絵里の全ての所有権を私が手にするんだよ?そんな顔がにやけちゃうに決まってるじゃん」
絵里「さい…ってい……」
果南「…もういいよ、無理しなくて」カチャッ
果南「絵里のその意志は私が全て受け継ぐよ、ちゃんと鞠利は殺すしアンドロイド差別が無くなるよう励むとするよ」
果南「私なりのやり方で」
果南「そして今日から私が絢瀬絵里として生きていくよ、この名前…大切にするから」
絵里「かなぁ…ん!!」
果南「それじゃあね、愛してるよ絵里」
バァンッ!!!
絵里(明日もあるか分からない毎日を過ごしてた私だったけど、死ぬ時は本当にあっさり死ぬものなのね)
絵里(響く銃声は耳の奥に何重にも木霊して突き抜けた)
絵里(ずっと真っ暗闇な世界は黒以外の色を付ける気配はなかった。銃で語られた黒は実に固くて重くて絶望によく似た色だった)
絵里(…“声”が聞こえるまでは)
果南「あ…れっ……?」
バタッ
絵里「……えっ?」
絵里(声が聞こえて開かないはずだった目を見開いた)
絵里(そうすれば倒れる果南が私の体にかぶさりそれからそれ以上のことはなくて辺りは沈黙状態だった)
絵里「はぁ…ああ…ッ…はぁはぁ…!」
絵里(声を出してから微動だにしない果南と、さっきより明らかに大きくなった血だまりを見ればすぐに果南が死んだのが分かる。でも、そうと分かってもどうすることも出来ず今も止まることを知らなそうに出る荒い息と血を止めようと私は私の身体に抗うだけだった)
スタスタスタ
絵里(足音がする。果南じゃない、そして私でもない第三者の足音)
絵里(…ここで私は殺されるのかしら、それとももっと最悪な捕虜とか奴隷として扱われるのかしら。この“機械的”な息も止まりそうにないし、今の私に助けを求める心と頭は無かった)
絵里「はぁ…はぁ……ッ!?」
「…絵里さん」
絵里(そうして足音の正体を瞳に映せばどうかしら、血のように真っ赤に染め上げられた赤い髪と可愛く、そしてそれはあざとく仕上がったツインテール、そして宝石のようなコバルトブルーの瞳を潤わせて私を見るその相手)
絵里(…そう、その相手はずっと病院で寝たまんまだった善子の親友——————)
絵里(————ルビィだった)
ルビィ「……危なかったね」
絵里「なん…で…?」
絵里(赤色に染まったスナイパーライフルを両手に持ったルビィ————私のところに来るや否や果南の生死を確認するのを見て果南を殺したのはルビィだと気付いた)
ルビィ「……たまたまだよ、でも絵里さんを助けられたのは必然だったかも」
絵里「……んぅ?」
ルビィ「あ、ご、ごめんなさい。今の状態じゃ喋れないよね…」
ギューッ
絵里「……ぇ?」
ルビィ「………今は何も言わないから、今は何もしなくていいから絵里さんはゆっくり休んでて」
ルビィ「ルビィもちょっと休みたい…なんか疲れちゃった…」
絵里(私を震わせる強く、弱い包容は不思議な香りと気分がした。まるで自分が若返ってしまったような、昔の意志も体も技術も拙い自分に戻ってしまったようなそんな感覚に陥ってた)
絵里(病院の臭いが染みついたルビィの匂いにノスタルジックが襲ってきて、自然と涙を流してた。千歌も善子も果南も死んだ。昔馴染みはもうルビィと真姫しかいない、そんな残されたルビィに抱きしめられた私は心の底から安心出来たような気がした)
ルビィ「……っ」
絵里(背中だけで感じれるルビィの震えた手や緩急な力の入り具合を見るに、ルビィは味方だとすぐにわかる。小さい頃からずっと臆病だったルビィにはきっと果南の死体は耐えきれないんでしょう)
絵里(……だから私もルビィを強く抱きしめて、そのまま深い闇に堕ちていった)
~同時刻
ザーザーザー……
プープープー……
曜「…ダメ、繋がらない」
ことり「……もしかしてなんかあったんじゃ」
曜「……否定したいけど正直その可能性の方が高いんだよね」
ことり「殺されたりは……してないよね」
曜「まさかそんなことあるはずないよ、だってあの三人だよ?裏路地から入ってるのにそんな三人を殺すほどの戦力がそこにあるとは思えないよ」
ことり「私もそう思う、ならなんで繋がらないの?」
ことり(現在私と曜ちゃんは将来的に芳しくない状況にあった。絵里ちゃん善子ちゃん松浦果南とほぼ同時刻に違う方向から同じ裏路地に入りそれぞれの侵入口で一斉に入る予定で、私と曜ちゃんは無事に辿り着いたけど他の三人全員と連絡がつかない状況だった)
ことり「…引き返す?」
曜「……そうするしかないんじゃないかな」
ことり「………」
ことり(こんな時にあの三人は何をしてるんだろう、流石に意図的に連絡を遮断しているわけではないと思うし何かあったと考える他ないんだけど、そう考えて私はどうすればいいんだろう)
ことり「…!…ッ!」ダッ
曜「えっちょ、ちょっとどこに行くの!?」
ことり「絵里ちゃんのところだよ!ここでじっとなんかしてられないよ!!」
曜「絵里さんのところっていってもどこか分かるの!?」
ことり「戦闘型アンドロイドは耳がいいの!だから音で見つける!」タッタッタッ
ことり(曜ちゃんを気にすることなく私は再び裏路地へと入り階段を使って屋上へと上り屋根伝いに進んでいった)
ことり(アンドロイド特有の進み方だったから曜ちゃんはついてこれるはずもなく、ある程度進んだら目を瞑り音にだけ意識を集中させた)
ことり「すぅ…はぁ……」
コツ…コツ…コツ…
ことり「! 見えたっ!」ダッ
ことり(誰かの足音が聞こえた。誰かは分からないけどとりあえずその足音の方向へ進む)
ことり(闇に紛れて風を切って進む私はまさに神風だ。久々にこんな本気で移動した気がする……こんな心と体が熱くなれるのは全部絵里ちゃんのせいだよ…)
ことり(命まで助けてもらったら絵里ちゃんを見捨てることなんて出来ないよ…だからこれからの絵里ちゃんには絶対に勝ってもらいたかった)
ことり(だけどそんな絵里ちゃんと連絡が取れないっていうなら焦るのも当然だと思わない?私だけじゃなくて、あの冷酷だった穂乃果ちゃんや対アンドロイド特殊部隊のエースである曜ちゃんまでもが絵里ちゃんに従うのを見れば絵里ちゃんの強さと優しさがホンモノであるっていうのは明白だよ)
ことり(ならその事実を、そのホンモノを信じるなら)
ことり(今瞳に映った赤髪の子を殺したって誰も文句は言わないでしょ?)
ことり「ハァッ!!」ドドドドッ!
ことり(壁に背中を寄せて座り込んで気を失ってる絵里ちゃんの肩に、左手を置いて何かを考えてる赤髪の相手にアサルトライフルで発砲した)
ルビィ「ぴぎっ!?」シュッ
ことり「ちっ…やり逃した…」
ことり(屋上からの完全な奇襲だったというのに避けられた。なんでかは分からないけど可能性があるなら相手がアンドロイドだったか、ここに来る前に大胆に地面を蹴る音が響いてたからそれで気付かれたんだと思う)
ことり「もう要らないっ!」ポイッ
ルビィ「ライフルを捨てた…!?」
ことり(リロードに時間がかかるアサルトライフルはもう要らない、視界に映る絵里ちゃんからは血が出てるし出血死の可能性を感じる今は一秒でも時間が惜しい。開けたところならともかくこの狭い道なら近接でも充分勝負は決められる、銃撃戦より接近戦の方が得意な私からしたらそうした方が勝率は高いはず)
ことり「絵里ちゃんを返せッ!」ブンッ!
ことり(地面に着地するや否や跳躍で超接近し、お腹目掛けて掌底を繰り出した——けど相手は体を捻り難なく避け、捻った勢いをそのままに後ろ回し蹴りを繰り出してきた)
ことり「きっ…」ガッ
ルビィ「っ!」
ことり(相手の蹴りは私の顔にヒット寸前という時に片手上腕でガードした。相手もまさか受け止めると思っていなかったのか驚きの顔を隠せていなくて瞳が揺れているのが確認できた。だから動揺している今がチャンスと思い腰にかけてあったタウルス・ジャッジを相手の顔に向けた。この拳銃は他の拳銃とは違って銃口から散弾が飛ぶ————なら例え相手がアンドロイドであったとしてもこれを避けるのは不可能なはず…)
ルビィ「お姉ちゃんに比べたらそんな銃なんてっ!」スッ
ドカッ!
ことり(何…この子…!?)
ことり(それは一瞬の出来事だった、私が銃口を向けて相手が取った行動は受け止められながらももう片方の足を使って再び後ろ回し蹴りだった。拳銃を手を持った瞬間、その速すぎる判断と行動に私のトリガーを引くスピードが追い付けてなくて、仮に追いついたとしても相手の角度の取り方が上手くて撃てても銃口の先は相手のあざといツインテールを貫く程度だった)
ことり(ねえ分かってる?アンドロイドの私でさえ反応出来ない速度を相手は持っているんだよ?おかしいじゃん、そんなの)
ことり「ッ…!!!」クラッ
ことり(そして後ろ回し蹴りで私の拳銃を弾いた後は驚く暇さえ与えずに上段蹴りが飛んできて私の顔にクリーンヒット。倒れはしないものの一瞬だけ上下左右がよく分からなくなって、気付いた頃には絵里ちゃんの隣にまで後ずさりをしていた)
カチャッ
ことり(そうして私の足元では絵里ちゃんの相棒が雄たけびをあげる、アサルトライフルは捨て、射程のないタウルス・ジャッジしか持ってない私にはミッドレンジどころかこの路地裏の壁と壁の距離ですら戦えない。なら今こそと私の足に当たったことで雄たけびを上げた絵里ちゃんの相棒を使うべきだと私の本能が訴えていた)
ことり「……っ!」
ことり(心の中で“借りるね”と絵里ちゃんに向かって一言添えて絵里ちゃんの相棒であるスコーピオンEVOの銃口を相手に向けた————と、同時に私の頭目掛けて飛んでくる一つの赤い射線に私は思わず目を見開いた)
ルビィ「………」
ことり「………」
ことり(お互い照準を頭に向けた状態で睨み合った。誰かの血がついたスコーピオンEVOを持った私に対し赤く装飾されたハンドガンを持つ相手——その可愛らしくあざとい姿に銃器は似合わないものの、明らかに手慣れているであろう持ち方は年季を感じた)
ことり「……!」
ことり(相手の目線を見て気付いたけどこの相手……銃口を私の頭に向けてるだけで目線は多分別のところを見てる…何か隠し玉はないか、この状況でどう避けれるのか左右の障害物を見たり、一つ一つ懸念材料を潰して可能性を増やしてる…)
ことり(それを見て思った)
ことり(この相手、相当強い…とね)
ことり(…多分、穂乃果ちゃんや曜ちゃんとも全然戦える子だと思う)
ルビィ「………」
ことり「……っ」
ことり(私が銃口を相手に向けてる間は永遠に緊張感が木霊して相手に意識を向ければ向けるほど鼓動の音が大きく聞こえて汗が止まらなかった)
ことり「………」
ルビィ「…そこっ!」バンッ!
ことり「!」
ことり(いい加減睨み合うだけの膠着状態に痺れを切らした相手は戦いのトリガーを引いた、弾を左に躱せば相手も私に引っ付いてくるよう拳銃を下げ左へ突っ走って私へ寄ってくる。それをスコーピオンEVOを使ってしっぺ返しを狙えばどんな反応速度と運動神経をしてるのか前方向へ強く走っているのにも関わらず突然後ろへ1、2、3回と素早く飛び退き換気扇の小蔭に隠れてスコーピオンの弾全てを避けきった)
ことり「この子……」
ことり(スコーピオンの弾を全弾避けきるのはあの星空凛ですら無理だったのに一体何が起こってるというのだろう、確かにこの相手なら絵里ちゃんだって屠ることももしかしたら……!)
ことり「ちっ…そんなことあるはずないっ!」バリバリバリッ!
ことり(自然と頭の中に浮かんだ一つの可能性を否定するよう必死にトリガーを引いた。この銃はブレが強すぎるからとてもじゃないけどことりじゃブレ制御が出来ない)
ことり(だからこういう時には銃のグリップの上の辺りにあるセレクターレバーをフルオートからバーストに切り替えてトリガーを引く。そうすると本来フルオートであったスコーピオンが三点バーストに切り替わる)
ことり(これなら肩とサイトの上昇をある程度抑えられて、どんな銃でもそこそこに安定したリコイルを可能に出来る)
ことり(もちろん火力は下がるけど…)
ルビィ「狙いがでたらめだよ…」スッ
バンッ!
ことり(小蔭から突然と飛び出し私の足元に拳銃を向け次の瞬間には発砲、もちろんそれには当たらないんだけど避けた瞬間私のおでこに赤い射線が飛んできた)
ことり「偏差撃ち…!?」
ルビィ「終わりだよ」
ことり(ハンドガンやライフルのような単発式の銃はフルオートと違ってトリガーを引いた際発砲で生じるブレに一定時間拘束されることがない、ハンドガンというのは撃って肩が跳ね上がって終わりの順序良き武器だ)
ことり「そんなっ…!!」
ことり(だから私はこのどうしようもない展開を強いられた。“ハンドガン”で私の足を目掛けて発砲して、その瞬間から私のおでこに照準を向け完全なる偏差撃ちを可能にさせた。この場合私は跳躍途中だから偏差撃ちの弾丸を回避する術を持っていない、これがマシンガンだったらこうはいかなかっただろう)
ことり(マシンガンは撃ちながら高速で照準を動かすことはできない、ハンドガンだからできた芸当——この子は間違いなく————)
ことり(————私より強い)
ルビィ「……はぁ、やめにしませんか?」ストンッ
ことり「————えっ?」
ことり(私の死を直前にして突然相手は今まで私に向けていた敵意殺意を消してその場にへたり込んでしまった)
ルビィ「はぁああ……多分あなたって絵里さんの知り合いです…よね?ルビィもそうだから…そうだから戦いはいいよ…」
ことり「…それホント?」
ルビィ「ホントだからもういいよね…?ルビィ疲れたよ…」
ことり「…!そういえばルビィって…!」
絵里『そ、それってルビィが意識を取り戻したってこと?』
ことり「絵里ちゃんや善子ちゃんが言ってた病院から抜け出した子……」
ルビィ「えへへ…やっぱり絵里さんや善子ちゃん、ルビィの事気にしてたんだ」
ことり「当たり前だよ、数年寝たきりだったのにいきなり外へ出たら体もまともに動かせないだろうし一方的に殺される可能性もあるって…」
ルビィ「……確かにこの都市はそうなのかも」
ことり「…でもおかしいよね、なんで動けてるの?」
ルビィ「それは………」
ルビィ「………」
ことり「……何か隠したいことでもあるの?」
ルビィ「…黒澤家はお金持ちだよ」
ことり「え?どういうこと?」
ルビィ「ルビィは人間だもん、アンドロイドみたいに特殊なチカラはなくて、絵里さんの言う通り数年動かさなかった体で戦うなんて無理。だからその特殊なチカラを“投与”するしかないんだよ」
ことり「投与…?ってまさか……」
ルビィ「………」
ことり「なんでそんな…」
ことり(私の考えてることが正解なのかは分からない、けど投与という言葉を使うには状況が限定されすぎてしまう)
ルビィ「……だってそうじゃん、今ルビィが動くにはそれしかないんだもん。昔はよくお世話になったモノだし全然怖…くないよ」
ことり「………」
ことり(ウソばっかり。なんでそんなモノに手をつけるんだろう。人体に影響が出るかもしれないっていうのに、目覚めてからに無理に動く必要なんかなかったのに)
ことり「だからって……」
ことり(お金持ちっていうのはつまりそう言う事なんだと思う。お金持ちだからつまり“薬”も入手出来てこの通り動けてる、こんな臆病そうな子が薬を使うなんて人は本当に見た目だけじゃ判断出来ないね)
ルビィ「うっ…ぎ…ッ!」
ことり「!? どうしたの!?」
ルビィ「頭がいだい…!!」
ルビィ「うぎゃぁああ…あッああああああああああっ!!!!!」
ことり「うっ…」
ことり(その叫びはもはや人間じゃなかったよ、甲高いを通り越した奇声をあげたからすぐさま私は耳を塞いだ。それでも突き抜けてくる声は耳の奥だけじゃなくて頭まで痛くなる声だった)
ルビィ「ぴぎいいいいいいいいいいいいッ!」
絵里「ん……」
ことり「うるさいっ!」ドカッ!
ルビィ「ぎゃっ……」バタッ
ことり「死ぬかと思った…声だけで…」
ルビィ「………」
ことり「…薬の影響なのかな」
ことり(塞いでも突き抜けてくる声は私の命までをも破壊できると思う、そんな中で無抵抗に耳を塞いだままにするわけもなく急いで頭を押さえるルビィって子のお腹を蹴って気絶させた)
ことり(しかし耳から手を離してもさっき放たれた頭の押さえてしまうほどの奇声が頭の中を蝕んでくる)
ことり「RED GEM WINK……」
ことり(髪型や瞳の色は派手な割に闇を纏うような黒いコート姿をしたこの子のポケットから出てきたRED GEM WINKと書かれた何かの袋。まぁ“何か”って言っても薬だろうけど…)
ことり(薬だろうとなんだろうと詳しいことは袋の裏に載ってるからとりあえず袋の裏を見てみたけど案の定日本語じゃないし、ましてや英語でもないどこか別の国の言葉で読めなかった)
ことり(…でもアンドロイドの私でも反応出来ない速度で攻撃出来るんだから代償や副作用もそう易しいものじゃないはず、しかしあそこまでの悲鳴をあげるとなるときっと私の想像を遥かに超える痛みなのかも)
ことり「よかった生きてる…」
ことり(あの赤髪の子と出会った時からお腹から血を流して倒れてる絵里ちゃんを見て出血死してるんじゃないかって思ってた、けどホント僅かに声を出してくれたからまだ生きてるのは確認出来て安心した)
ことり(…でも、このまま放置してたら絶対に死んじゃう……)
ことり「…ごめん!」
ことり(申し訳なさを抱えながら赤髪の子が来ていたコートを脱がせて絵里ちゃんのお腹に巻いた。私は戦闘服だし絵里ちゃんは制服だから服を破るという概念がない。だからこれは仕方なかった…)
ことり「……どうしよう」
ことり(赤髪の子は気絶してて、絵里ちゃんは起こすにも起こせない。そんな状況一人取り残された私はどうすればいいんだろう、私は考える)
ことり「………」
ことり(…だけど、答えは出てこない。おんぶするにも二人もおんぶできるほど私は大きくないし力もない、だからといって一人を見捨てるわけにもいかないしどちらかは目覚めるまで待つかしないのかな…)
ことり「…いや………」
ことり(でもそれだと絵里ちゃんが死んじゃう…出血部分にコートを巻くだけで死を回避出来るはずがない、それはあくまでも応急手当、安心出来ることをしたわけじゃないんだよ)
ことり「…仕方ないよね」
ズルズルズルズル…
ことり「…ごめんね」
ことり(断腸の思い…とはちょっと違うけど倒れる二人の手を握って引きずりながら出口へと向かった。昔の私ならきっと自分だけ助かればいいやって思ってたはずなのに“誰かさん”のせいで私まで誰かを助けなきゃっていう思考なっちゃった…)
ことり(……一体誰のせいなんだろうね)
~同時刻
曜「もーことりちゃんどこ行ったんだろう…」
曜「勝手にどっか行っちゃうしそれで何か起こされたらたまったものじゃないのに…」
曜(……まぁ単独行動しかしてなかったことりちゃんに集団行動は酷な話かな…絵里さんや善子ちゃんの命が関わってるんだし)
曜「……にしてもどうしよう…」
「もし暇なら、私と少し遊ばない?」
曜「!」
曜(ことりちゃんがそそくさとどこかへ行っちゃったからこれからどうするか悩めばすぐに聞こえる誰かの声、小さい時の戦闘で培った勘…みたいなモノが働いたのかな、聞こえる声はどこか不快で明らかな敵意を感じた)
曜「…誰?」
「そんな警戒することかな?ただ話しかけただけなのに…」
曜「…! A-083…」
曜『まぁそうなんだけど一人だけ分かってるんだ、型番はA-083って』
穂乃果『P-83の次世代モデル、または戦闘型アンドロイドへと変形させた後継機って私の後継機じゃん……』
曜「…穂乃果ちゃんの後継機」
「穂乃果ちゃん?もしかして私のオリジナルの人?」
曜「そうだよ、でもそっか。あなたが穂乃果ちゃんの後継機なんだ」
「うん、軍神と呼ばれた人の後継機だよ」
曜「へぇー名前は?」
歩夢「歩夢————上原歩夢だよ」
曜「歩夢ちゃんか、覚えておくよ」
歩夢「…覚えていられるかな?」
曜「…それはどういう意味?」
歩夢「だって……」
カチャッ
歩夢「今日ここであなたは死ぬんだから」
曜「…面白いこと言うね、控えめそうな見た目してるのに随分と強気なんだね」
歩夢「あなたこそ人間だというのに軍神の上位互換に勝とうなんて無謀にも程があるよ?」
曜「私ね、一度戦ってみたかったんだよね。軍神————ううん、穂乃果ちゃんとは」
曜「軍神が戦場に立てばたちまち火の海が広がって血だまりで溢れかえるとまで言われたいわば兵器の存在。アンドロイドもそこまでいなかった初期型の時代じゃ穂乃果ちゃんの力は圧倒的すぎて将来はアンドロイドに地球を征服されてしまうのではないかと懸念された時もあったね」
歩夢「…それで?」
曜「うん、でも今じゃ時代も進化して穂乃果ちゃんに対抗出来るアンドロイド——そして人間も増えてるんだよ」
曜「——そしてその一人がこの私」
曜「穂乃果ちゃんとは前から面識があったけど敵ではなかった。それに穂乃果ちゃんの主である希ちゃんとは友好な関係にあったし、穂乃果ちゃんと戦うことはなくてもどこまで通用するのかずっと確かめたかったんだ。穂乃果ちゃんと戦わずして穂乃果ちゃんと同じかそれ以上のあなたと戦えるのならいい経験になりそうだよ!」カチャッ!
歩夢「…それが最後にならなきゃいいね」
曜「当然だよ、話すことは話したからさっさと始めようか」
曜「私今、すごくドキドキしてるから」
歩夢「変わった人なんだね」
曜「強い相手ほど燃えるタイプなんでね!」ダッ
歩夢「っ!行くよ!」
曜(私はライトマシンガン以外なら何でも使える——けど、今回は動きやすいようにサブマシンガンとハンドガンを選んだ。だから私の手持ちはMSMCとデザートイーグルだ)
曜(MSMCはサブマシンガンにしては発射レートが遅く、近距離の火力がそこまで高くない分発砲した際に肩があまり跳ね上がらないから照準がぐらぐらになることがなく他のサブマシンガンと比べてミッドレンジも対応できるバランスの取れた武器で私が初めて使ったサブマシンガンでもあるんだ)
歩夢「MSMC…だいぶ古い銃を使うんだね!」ドドドド!
曜「そっちはだいぶ新しい銃を使うんだね!」ドドド!
曜(あの子の持ってる武器……見たことある。確か名前はAK-15だった気がする…穂乃果ちゃんの持ってる武器の二世代か三世代先の銃…だけど私が知ってるのはそれくらい…)
曜(銃に詳しい花丸ちゃんなら知ってるかもだけど、いずれにせよ私の知らない未知の銃だ)
歩夢「人間なのに銃弾を躱す…!?」
曜「あれ?そんなことも知らないの?」
曜「世代は新しいみたいだけど知識は全然昔のままだね!」
曜(私の靴には跳躍にブーストをかける機能があり、私のつけるゴーグルには弾道予測線が見える。この二つのおかげで銃弾だってアンドロイドのように躱せる)
曜(これは自画自賛だけど、私の発明は穂乃果ちゃんみたいな強すぎるアンドロイドに対抗する大きなキッカケになった思う。もしこれが無ければ人間というのはアンドロイド相手に真正面で戦うのは不可能だったからね)
曜(…でもね、例えアンドロイドと真正面でやりあえても私は真正面から戦う以外の心も忘れたわけじゃないよ。小さい時から色んな人と戦ってきたんだもん、例え最強と謳われた軍神の上を往く存在なら運動神経に関わるポテンシャルだけじゃなくて経験と作戦があってこそ勝利は掴めるものだ、だから私は負けるつもりはない)
曜(そう強く心に誓った私はまず初めに銃弾を避けながら相手に近づき接近戦を誘った)
曜「せやぁ!」
曜(相手の首を貫くことも可能であろう刃渡り数センチのナイフで一閃————相手の瞳に充分な脅威を与えれば即座に後ろへ飛び退き発砲しだした。弾道予測線が私の胸を貫く頃には私もすぐに横へ短い跳躍を繰り返して回避行動をとる)
曜「うわぁ…」
曜(私の通った場所に軌跡を残す白い弾道を見ていると、飛んでくる弾は上下へ一寸のブレもなく射撃精度はまさに完璧の一言で、まだ分からないことだらけだけどこれに関して言えば確実に穂乃果ちゃんより上だった)
曜「でも、想定済みかな!」バンッバンッ!
曜(予め穂乃果ちゃんの上位互換なんていう情報があったんだからどんな行動をしても別に驚くつもりはない。だから私は銃弾を避けた後はシンプルな対応として腰にかけてたハンドガンを殺意を込めて二発発砲した)
歩夢「はっ!よっと!」
曜「そうそう避けるよね!それも知ってる!」
曜(私の使うハンドガン—―いやマグナムであるデザートイーグルは装弾数六発で威力高めの手数が少ない分火力を高めた一発重視型)
曜(絵里さんや善子ちゃんが持つハンドガンは一発の威力は低いものの装弾数が多く手数で攻めるタイプに対して私のハンドガンは全く違うタイプだ)
曜(しかしそれ以前に、時と状況にもよるけどこの場合私のハンドガンは本来のハンドガンとしての用途が違う)
曜(一発が大きいんだからそれを確実に回避させて隙を作る)
曜(銃で人を殺すのに対して一発の大きさなんてほとんど関係無いけどアンドロイドは撃たれても普通に動けるものでね、このハンドガンの殺意は当たらなくても充分な効果を発揮するといえる)
曜(そして私は歩夢ちゃんに接近戦を仕掛けた)
曜「穂乃果ちゃんの上位互換の力、みせてもらうよ!」
歩夢「望むところ!」
曜(銃弾を避けた直後の相手に対し走り込みで距離を詰めハンドガンのグリップ部分を使い首目掛けて打撃を放った)
歩夢「首は欲張りすぎだねっ!」
曜「そうだねっ!でも穂乃果ちゃんみたいな相手だったら長期戦にはしたくないんでね!」
曜(アンドロイドは機械、それは言わずもほぼ全てのステータスが人間より上だ。だから学習能力や対応力も私以上で穂乃果ちゃんほどの戦闘力を有した相手と長期戦をすればほぼ詰みに近い状態になる、なら私の持ってるカードを今すぐにでも使って短期決着を目指すのみだよ)
曜(そう思った私は、ハンドガンでの打撃の後に右フックをするけどもちろんそれも飛び退き回避される。だけどそれでも攻撃はやめずに、右フックの勢いを消さず体を捻り相手に背を向けながら相手方向に跳躍——そして後ろ回し蹴りを左足で行った後に右足で蹴り上げと、鋭い蹴り二連撃を繰り出した)
歩夢「くっ…」
曜(私の蹴りの一発目を腕でガードした時点で相手の拘束は出来てた、だから二発目は相手の持つアサルトライフル目掛けて蹴りを入れた)
歩夢「あっ…!」
曜(そうして私の二発目の蹴りが当たり、相手の持つアサルトライフルが手元を離れて宙を舞えば次に起こる運命はもはや決まってた)
曜「チェックメイト、さよならだね」
バァンッ!
歩夢「ぁ…!!」
曜「……ふう、呆気ないね」
曜(銃を弾かれて怯む相手の脳天に一発ハンドガンの銃弾を撃ち込むだけ————それだけ相手は死んだ)
曜(穂乃果ちゃんの上位互換とはいえど経験に勝るステータスはない、次世代モデルと言われるくらい最近出来たアンドロイドなら戦闘経験も少ないし、銃を弾かれただけで回避行動にも移れないのはまだ稚拙なメンタルを持っている証拠で、まだまだ未熟としか言いようがない。小さい頃から色んなのと戦ってきた私に性能だけで勝とうなんて思わないでほしいね)
曜「………」
曜(固いコンクリートの上に染み込む赤色は久々の感覚だった。何かを…生き物を殺す感覚————これほどまでに爽快で、不快で、中毒的で、忌々しい感覚は早々ない)
曜(アンドロイド隔離都市東京では今日も人が死ぬ)
曜(その犠牲者を私は作り上げたんだ。この手で。この銃弾で)
曜「…まぁいいや、みんなと合流しないと」
曜(戦いは終わった、なら私のするべきことは仲間の誰かと合流すること。だからすぐさま止めた足を動かした)
バンッ!
曜「っ!?」シュッ
曜(…そう、“誰か”の放った銃弾のせいでね)
曜「っぶな…!」
歩夢「これも効きないんだね」
曜「な、なんで!?今頭を撃ったよね!?」
歩夢「私は新型だよ?未踏の地っていうのは踏むためにあるんだよ」
曜「くっ、厄介だね…新型ってやつは」
曜(どういう仕組みなんだろう…頭を撃っても死なない……何が起こってるんだろう…)
歩夢「うんそうだよ!だから私が死ぬまでちゃんと付き合ってね!」カチャッ!
曜(空気を切り裂く銃弾は絶望への一手だった。頭を撃っても死なないとなると有効な対処法が見つからない)
曜「仕方ないね!でもすぐ片付けるよ!」シュッ
曜(…とは言ったけど、アンドロイド相手にがむしゃらに撃っても当たるはずがなく、だからといって弱点が見当たらないんじゃ撃つ意味もない。ほんの一瞬だけこいつは死なないのでは?と考えたけどそんな馬鹿な話あるはずがない)
曜(ここは一旦引くか…いやでも逃がしてくれるかな……思い付く作戦は懸念と不安が瞬時にかき消してくる)
曜「…いや」
曜(やるしかないか…未知との戦闘なんて今まで何回もあった、何も初めてではないんだから臆する必要なんてないよね)
曜「…そうだね!そうこなくっちゃ!」
曜「やろうよ!バトル!」
曜「殺しあいをさ!!」ドドド!
曜(サブマシンガンで数発撃って回避をさせてから相手に近付いた。相手は回避と同時にこちらへ発砲してきたけど射線が見える私には足止めにもならない)
歩夢「またCQCって相当近接戦闘が好きなんだね!」
曜「銃で戦うよりよっぽと安定性があるからね!」
曜(お互いが同じ状態――――いわば、射線が見えて並外れた運動神経を有すアンドロイド同士の戦いを仮定した時に一番有効なのは近接攻撃だ)
曜(私はアンドロイドではないけど、恵まれた運動神経と靴に施されているブーストはアンドロイドの身体能力に対して引けを取らないと自負してる、だから結局ここでは近接攻撃が要になるはずだ)
曜(幸いにも相手は経験が浅いせいなのか自分自身の有効手段に気付いていない、なら悟られる前に一気に方をつけるだけ)
曜「ふんっ!」
曜(颯爽と相手の顔目掛けて右ストレートを打ちこめば相手は軽く顔を横に動かし回避してみせた、そうしてやってくる相手は裏拳を使い大きく半円を描きながら私の顔目掛けて打撃をいれてきたので私はしゃがんで回避し、そのまま足払いをし相手を宙に浮かせた)
曜「これでどう!」バンッ!
曜(宙に浮いた相手の心臓部——胸に向かってハンドガンで発砲し、見事命中。貫いた場所からは血が噴出してて死亡確認も出来た)
曜(……はずだった)
歩夢「それで勝ったつもり?」
曜「なんでっ!?」
曜(死に際に絶望を悟ったような無表情な顔から一変、薄気味悪い笑いを浮かべて喋った相手。笑うや否や両手から着地し次の一瞬でひざをつき四つん這いのような状態から、膝を上げ立ちながら後ろ回転をし、先私の方へ来る左足で後ろ回りにローキックを繰り出してきた)
曜「ぎっ…」
曜(もちろん一発銃弾を撃ち込んだ直後の出来事だったから、私にそれを回避する術はなかった。結果私はさっきの相手と同じよう宙に浮いた)
歩夢「さっきのお返しだよっ!」
曜(そう言って飛んでくる飛び膝蹴りは私のお腹にヒット。ここで顔を狙うのではなくてお腹を狙うのが何とも厭らしいかった)
曜「けっ…かはっ……ああぁあああっ!!」
歩夢「痛いよね、私も分かるよ?でもあなたと私じゃ決定的な違いがある」
曜「ああああぁ…!うああああああっ!!」
歩夢「そりゃあアンドロイドの一撃だもん、人間の一撃なんかより数倍痛いに決まってるよね」
曜「うっ…おえええぇ……」
歩夢「ぷっふふふっ…汚いなぁ」
曜「ああああぁ…ッ!」
曜(数メートル吹っ飛ばされた私に反撃する力はなかった)
曜(悶絶して、のたうち回って、苦しみの絶頂に達して……今まで味わったこともない激痛は口から様々なモノを噴射させた)
曜「あぁあああっ…ッ…!!」
歩夢「何?そろそろ痛いのが辛いから死にたい?」
曜(血、吐瀉物、悲痛な叫び、空気、もう私の口は何が何だか分からなくなってた)
曜「あああああああ…あぁ…あああ……」
曜(……ダメだ、頭がぼーっとしてきた。視界がぼやけてきて、不意にたくさんの白を描く夜空へ手を伸ばすと次の瞬間には力が入らなくなって手がそのまま地面に力なく落ちてきて、ついに私も死ぬんだ——なんて自覚が出てきた)
歩夢「……潮時だね、ありがとう。誰だか分からないけどあなたは強かったよ、きっと私が最新型じゃなければ負けてたね」
歩夢「それじゃあね」カチャッ
曜「……ぁ」
曜(死を悟って目を瞑った、さっきの攻撃では咄嗟に取り出せなかったハンドガンの銃口を私の頭に向けて終わりへのトリガーを引こうとしてた)
曜(……そう、引こうとしてた)
曜「…っ!!」カチャッ!
歩夢「っ!あっ!?」
曜「はあああああっ!」ダッ
曜(一瞬は諦めた、けどまだ諦めきれない。そんな思いは私の手を動かした)
タッタッタッタッ
曜「はぁはぁはぁ…!」
曜(私の銃にはレーザーサイトという銃口が向いてる先を人には無害な光のレーザーによって可視化するアタッチメントがついてる。これをつけることで狙っている先が分かり相対的な射撃の精度上昇が見込める)
曜(しかしそんなサポートに徹したようなアタッチメントだけどこのアタッチメント、強力な光を使ってレーザーを発してるわけで、それを人の目に向ければスタングレネードにも負けない強力な閃光になる)
曜(それを知ってた私は悪あがきにハンドガンについたレーザーサイトの光を相手の目に向けた)
曜「よしっ…なんとか…ッ!」
曜(そうして結果は大成功、最後の力とも言っていいその力を振り絞って全力で逃げた。もちろんは相手は追ってくるだろう)
ドカーン!
曜(……今の爆発で傷を負っていなければだけどね)
曜(希ちゃんみたいなことをしちゃったよ、やっぱりグレネードって不意打ちに使う道具なんだね、よく分かった)
曜(相手が怯んだその隙にグレネードを転がして私は逃げる)
曜(経験と知識があってよかった、その時は心底そう思った)
タッタッタッタッ
曜「はぁはぁ…!まだっ…止まれない…!」
曜(無我夢中で走った、生き延びる為————この大きな戦争に勝つ為に)
曜「んうう…!んぇ…」
曜(死んでしまうほどの激痛も今は我慢するしかない…逃げ切ったことが今は奇跡なんだから一切合切死んだって仕方ない。仕方ないから今は痛みを堪えて逃げるだけ)
曜(そうして私が向かった先は————————)
~同時刻
ドカーン!
穂乃果「くっ…」
せつ菜「右から来ますよ穂乃果さん!」
穂乃果「分かってる!」シュッ
「行って姉様!」
「もちろんです!」ドドドドッ!
穂乃果「きゃっ…!」
せつ菜「スモーク!」ポイッ!
穂乃果「ありがとうせつ菜ちゃん!」
せつ菜「一度合流しましょう!」
穂乃果「うんっ!」
穂乃果(現在私たちは敵本拠地Y.O.L.O直前ですらない暗い森の中だった)
穂乃果(作戦通り私たちはY.O.L.Oを前から押していくつもりだった、だけどそんなところにいく暇もなく敵は現れた)
穂乃果「あれがY.O.L.Oを防衛するアンドロイドの二人か…」
穂乃果(向かう途中それは突然戦いの幕が切って落とされる。不意の銃撃をギリギリで躱して次に飛んでくるのはスタングレネードで、それをせつ菜ちゃんが狙撃すれば相手と私たちの間で眩い光が発生し、戦いはたちまち目まぐるしいものへと変化を遂げた)
スタスタスタ ピタッ
穂乃果「……どうする?」
せつ菜「まさかここまでやれるアンドロイドがいるなんて驚きですよ…」
穂乃果「…そうだね」
穂乃果(せつ菜ちゃんが投げたスモークグレネードにより一時的に相手と私たちの間に壁が出来たから、その間にお互いゆっくりと背中を合わせ僅かな時間で次の行動を話し合う。フィールドが森だから視界が悪く時折足元がいれくんでいるところもある、だからこの戦いでは如何に私たちのアドリブ力があるかが試される)
せつ菜「…相手のコンビネーションプレイはもはや私たち以上です、あれは絶対に機械的に意思疎通をしてていわば知覚共有をしてるとしか考えられません……」
穂乃果「…ならどうする?一旦引く?それとも何か攻略法を見つけに戦う?」
せつ菜「……分かりません」
穂乃果「………」
穂乃果(相手の人数は二人、こちらの人数も二人————その中で重要視されるのは一人がアクションを起こした後の相方のカバーだよ。どれだけ息の合った戦いが出来るか、それだけで何もかもが違う)
穂乃果(私とせつ菜ちゃんはずっと前から二人で戦ってきた)
穂乃果(それはつまりタッグバトルのプロ、阿吽の呼吸でもありその言葉要らずに通じる私たちだからこそ最強と謳われてきた)
穂乃果「…なんて言ったっけ、あの人たち」
せつ菜「理亞さんと聖良さんですよ」
穂乃果「……姉妹なんだよね」
せつ菜「設定上はそうらしいですね」
穂乃果「………」
穂乃果(…それなのに、あの姉妹は私たちをも驚かせるコンビネーションプレイを見せてきた。それは今までにないくらいの強敵で、対アンドロイド特殊部隊を壊滅に近づけられるほどの強さだと思う)
聖良「そこにいるのは分かってますよ」
理亞「逃げてもいいけど、それじゃあ軍神とトリックスターの名が廃ると思うんだけど?」
穂乃果「…お姉ちゃんの方を狙おう。妹の方は持ってる武器が厄介だから妹を追うよりお姉ちゃんを狙った方が戦いやすいはずだよ」
せつ菜「分かりました、カバーをしますけど何が起こるか分からないので気を付けてください」
穂乃果「もちろんだよ」
穂乃果「…じゃあ行こうか」
せつ菜「はいっ!」
ダッ!
穂乃果(二人同時にそれぞれ別方向へ大きく放物線を描き相手を挟むように走った、視界が悪い上に木という壁がある為に私たちが向かっているということを把握していてもどこからくるのかはわからないはずだよ、それに二人相手だっていうならこっちも二人で制す他ない)
せつ菜「はっ!」穂乃果「はっ!」
穂乃果(相手もさっきの私たちと同じように二人固まってた為にせつ菜ちゃんと同じタイミングで跳躍し二人を挟んで発砲した)
聖良「そのくらいの攻撃なら既に予想済みです」
穂乃果(だけど流石にこれじゃあ死にはしないよね。相手はお姉ちゃんが前方向へ走り、妹が後ろ方向へ走り出した)
穂乃果(もちろんそうなれば私もせつ菜ちゃんもお姉ちゃんである聖良って人を狙う。けど、妹のカバーの早さは尋常じゃない、自分が狙われてないと分かった途端私へ発砲しながら全力疾走で私へ近づいてきた)
理亞「姉様!」
聖良「分かってますよ!」
穂乃果「何っ!?」
穂乃果(妹の方の持ってる武器はとにかく軽く、それ故に動きが俊敏だった。だから私が姉の方に意識を向け発砲してる間に妹は私のすぐそばまで来てて、手に持つサブマシンガンを鈍器のように扱い私に向かって殴ってきたのでそれを後方へと跳躍し回避すると感じる死の感覚)
穂乃果(射線が私の頭を貫いてる、そうと分かった次の展開はもう目に見えてる)
穂乃果「またッ…!」
ドドドドッ!
せつ菜「穂乃果さんっ!?」
穂乃果「っあ…!まだッ!」
穂乃果(咄嗟に空中での体をねじって頭部への命中は避けた、だけどそれでも肩へと命中し後の祭り感は否めない)
穂乃果「いだぃ…!!」
理亞「ここで死ねば楽になるよ軍神!」ババババッ!
穂乃果「それは絶対にいやあっ!」シュツ
穂乃果(痛みに耐えながら着地しても私へ歯向かう射線は消えない)
せつ菜「跳躍で回避しちゃダメです穂乃果さん!」
穂乃果「!」
穂乃果(不意にせつ菜ちゃんの叫びが私に耳に届いた。確かにそうかもしれない、一つの行動で早く長い距離を移動できる跳躍は回避する方向が一定な上にした後の行動がだいぶ限られる。さっきはそれを利用されて私はダメージを受けた)
穂乃果(なら走って逃げるだけ、幸いにもここは木が多いからそんなに早く走らなくても木を使って銃弾を回避出来る)
ドドドド!
穂乃果「はっ!」シュッ
聖良「ちっ…木が多い場所である森をフィールドにしたのは間違いだったかもしれませんね。後少しのところで隠れられるともどかしいです」
理亞「姉様、そんなことはないと思うよ」ポイッ!
穂乃果「! グレネード!」
穂乃果(木で隠れられるのはいい、けどその後に展開を見据えてみると木に隠れるというのは悪手だ)
理亞「相手が隠れるというのなら、炙り出せばいいだけの話」
穂乃果(木なんていう縦に伸びただけのオブジェクトは投げもの一つで簡単に移動を強いることは出来る。それじゃあ隠れる意味がまるでない)
穂乃果(グレネードが飛んできたのを察知した私は木から飛び出すと同時に肩を押さえながら妹に向かって発砲した、肩を射貫かれたせいで狙いはでだらめではあるけど発砲はまだ出来る。だから威嚇射撃程度にトリガーを引き続けた)
せつ菜「手伝いますっ!」パサパサパサッ
穂乃果「うんっ!」
穂乃果(私が木から飛び出し発砲したと同時に相手の後ろに回ってたせつ菜ちゃんも発砲。ちょっと唐突だったけど綺麗なクロスファイアが組まれもちろん相手も回避に移るけどこれで終わる私たちじゃない)
穂乃果「カバーはさせないよっ!」バンッ!
聖良「なっ!?」
穂乃果(妹に向かってはアサルトライフルで、お姉ちゃんに向かっては腰にかけてあったハンドガンで応戦する。アサルトライフルを持つ片方の肩はあまり使い物にならないけど、それでも使えないわけじゃない。だからここは無理矢理にでも発砲して二つの武器を同時に発砲する荒業で戦況をいい方向へ加速させた)
理亞「うわっ!?」
穂乃果(相手二人が同じ方向に逃げたもので妹に撃った銃弾は下手すりゃお姉ちゃんにも当たる。相手から見て射線はどんな感じに見えてるのだろう、想像しただけでも怖いものだよ)
理亞「ぎっ…いったっ……!!」
聖良「大丈夫ですか!?」
理亞「大丈夫…まだ…まだ大丈夫…!」
穂乃果「後少しだったのに…!」
穂乃果(相手の首元を少し抉った。後一センチでも中心に近かったら相手を殺せてた、でもここで悔しがってちゃいけない。弾はまだ10発残ってる、リロードをする前に仕留めたい)
聖良「こちらも避けてるだけじゃないですよ!」ドドドド!
穂乃果「ちぃ…っ!」タッ
穂乃果(ここで攻撃に転じるのが手練れの証なのかな。妹は逃げに徹して姉は私に向かって発砲してきた)
穂乃果(もちろんそれを走り込みで回避すれば今度は別の方向から飛んでくる銃弾、せつ菜ちゃんも弾を使い切った今はカバーもないからここは自分でなんとかするしかない)
タッタッタッタッ
理亞「旧型のクセに随分と性能がいいんだね!」
穂乃果「そっちこそ新型のクセに旧型と対になってしまうくらい性能が悪いんだね!」
聖良「安い挑発に乗るつもりはありませんよ」ドドドド!
穂乃果(私が走れば妹もお姉ちゃんも走ってくる。風を切る音が三つ…いや四つあって二人の銃弾を躱していればようやくカバーが回ってきた)
穂乃果「いち…にい…さん…」
穂乃果「今っ!」
せつ菜「せいっ!」ポイッ!
聖良「何っ!」
理亞「ピン抜きグレネード…!?」
穂乃果「ハァッ!」ドドドドッ!
穂乃果(せつ菜ちゃんはさっき弾切れを起こした時からリロードなんてするつもりはなかった、私が走り出した瞬間グレネードを二つ用意して二人を追いかけた。そうして私が手を下げてさりげなく三本指を立ててカウントダウンをした)
穂乃果(それに気付いたせつ菜ちゃんはカウントダウンを開始した直後にグレネードのピンを抜いた。結果せつ菜ちゃんがグレネードを投げると同時に私が二人に向かって発砲する…完璧なコンビネーションプレイだよね)
穂乃果(前門の私、後門のせつ菜ちゃんだよ)
穂乃果(前門の私、後門のせつ菜ちゃんだよ)
ドカーン!
せつ菜「……終わった」
穂乃果「………」
穂乃果(私の目の前で大きな爆発が広がった。木の葉を吹き飛ばし木々を燃やし地形を崩すそんな爆発が大きな赤と共に弾けた)
シュッ
聖良「残念ですね」
穂乃果「っ!?」
理亞「終わったのはあなただよ」
ザシュッ!
穂乃果(何が起こったんだろう、爆発の赤からものすごいスピードで飛び出してきた二人——そして次の瞬間に感じるバカみたいな痛み)
穂乃果(力が抜けていくのを感じる。視界が歪んでいくのを感じる。手元から銃が放れていくのを感じる——そう色々なモノを感じた上で、不意に私の体は急激な退廃を迎え始めた)
穂乃果「ぁ……」
バタッ
せつ菜「穂乃果さんっ!?」ダッ
穂乃果「………」
せつ菜(……まだ生きてる…!)
せつ菜「…でも……ッ!」
ドドドドッ!
せつ菜「!」シュッ
聖良「悲しむ時間を作ってあげるほど私たちは優しくありませんよ」
理亞「あなたも今ここで死ぬのだから」
せつ菜「くっ……」
せつ菜(穂乃果さんの脈を確認したけどほんの微かに動いている、けど両の肩をナイフで斬られた穂乃果さんの寿命はもうない。すぐにでも手当てをして延命しないと…でもこんな状況じゃ助けられない…!!)
タッタッタッタッ
聖良「やはりあなた方は所詮旧型ですね、カウントダウンのやり方がアナログすぎます」
理亞「指で合図は流石に分かりやすすぎるね」
聖良「ええ、おかげで爆風を利用して軍神を仕留めることが出来ました」
理亞「……正直ちょっと痛かったけど」
聖良「痛かったですね」
せつ菜「ふざけないでください…!」
理亞「悔やむなら旧型として生まれた自分を恨むことだね、さっきの行動は新型であったならきっとこうはならなかったから」
せつ菜(近づく死の音————遠ざかる穂乃果さん。このもどかしさは今までに感じたことのない感情だった)
せつ菜(私の相棒…ううん家族が今死のうとしてるのに私は逃げることしかできないなんてそんな最悪の一言以外何も無かった)
せつ菜「どうすればっ…」
せつ菜(でも、今ここで二人に挑んでも勝てる未来が見えない。新型旧型以前に数で劣る私に勝てる道があるなら誰か教えてくださいよ…!)
ザーザーザー……
せつ菜「!」
せつ菜(そんな時私のつけてたカチューシャ型の通信機に一つの応答が入った)
穂乃果『せつ菜…ちゃ……』
せつ菜「穂乃果さん!?」
穂乃果『わた…し…の…こと、は…もう……いい』
穂乃果『だから……にげ……てぇ…』
せつ菜「いやです!絶対に逃げません!穂乃果さんと一緒に帰ります!」
理亜「帰らせないけどね」ドドド!
せつ菜「邪魔しないでください!」パサパサパサッ
穂乃果『もう……ダ、め…し、べる………の……も、つ、らいぃ…』
せつ菜「そんな!ダメです!死なないでください!」
せつ菜(穂乃果さんの声は今まで聞いたことないモノだった。精気が感じられない覇気ゼロの死の声だった)
曜『はぁ…はぁ…はぁ…お話中悪いけど穂乃果ちゃん今どこ?』
せつ菜「!」
穂乃果『も…り……』
曜『分かったよ、GPSを頼りにして私が助けにいくからせつ菜ちゃんは逃げて』
せつ菜「ま————」
曜『ダメ、声にすると相手に情報がばれる。一度撤退しよう、緊急事態が発生して何も作戦が実行出来てない』
せつ菜「………」
曜『…私も正直今立ってるのが辛いけど、穂乃果ちゃんの為にいく。だからせつ菜ちゃんも全力でその相手から撒いて』
せつ菜「……分かりました」
曜『じゃあね、そこまで冷静になると怪しまれるから演技しといた方がいいよ』
曜『穂乃果ちゃんはもうちょっと耐えてて』
穂乃果『ぅ……ん…』
ザーザーザー…
せつ菜「………」
せつ菜(逃げる。私のやるべきことは決まった)
タッタッタッタッ
せつ菜(…ここは希さんから教わった秘儀を使うしかないようですね)
せつ菜「っ!」カチャッ
理亜「!」ピタッ
聖良「やる気ですか」カチャッ
せつ菜「はっ!」
せつ菜(ずっと走ってた私だけど突然振り向き、相手に向かって片手で銃を持ち銃口を向けた——けど、戦うつもりは更々ない)
カランカランッ
聖良「っ!」
理亞「グレネード!?どこに持ってた!?」
せつ菜(この戦い、ましてや作戦実行の前の準備の時から私の着ている衣装の裏に隠してたグレネード三種。それを背中につけることで不意に、そしてすぐに使えるようにしておいたのです)
せつ菜(私が相手に銃口を向けることで注目は銃口と私の顔に行きます。となるともう片方……つまり背中に置いてた手には目も行きません。だから相手は気付けなかった)
せつ菜(私の————希さんの秘儀が)
ドカーン!
タッタッタッタッ
せつ菜「………」
せつ菜(今回はさっきとは違って成功した)
せつ菜(相手が追ってくる様子はなく、足音も聞こえないし爆発の中から飛び出してくることもなかった)
せつ菜(やはり希さんはすごい方です、今着てるこの衣装のような服だって今では私のアイデンティティとなってますが元々はグレネードとかを隠すカモフラージュとして希さんから提案されたものでした)
せつ菜(才能には努力ではなく知恵で勝つしかない)
せつ菜(それが希さんの教えでした)
せつ菜(当時はよく分かりませんでしたけど、今の状況なら痛いほど分かります)
せつ菜(…きっとスポーツなら知恵以外にもあるんでしょうけど、銃社会においては違うんですよね)
せつ菜(深く理解したつもりでいる私はその場から颯爽と逃げ出した)
~その後、別荘付近
曜「あ、来た来た」
ことり「お待たせ…」
せつ菜「ふー……」
曜「二人ともお疲れ様…」
ことり「助かったよせつ菜ちゃん、赤髪の子をおんぶしてくれて」
せつ菜「いえいえ、なんてことないです」
ことようせつ「………」
せつ菜「…そういえば善子さんと果南さんはどちらへ?」
ことり「…それが分からないんだ」
せつ菜「分からない?」
曜「連絡がつかなくてね、撤退しようってことになって絵里さんだけ見つけたけどその二人が行方不明で…」
せつ菜「その見つけた絵里さんも倒れていた…と」
ことり「…うん、絵里ちゃんを見つけた時にこの赤髪の子——ルビィちゃんっていうらしいんだけどこの子が寄り添ってたんだ」
曜「え?ルビィちゃんってこの前話してた子?」
ことり「うん、そうみたい。それであの時の私はものすごく焦ってて…この子と戦ったんだ」
曜「戦った!?この子病み上がりだよ!?」
ことり「そう…なんだけど、正直…後五秒戦いを続けてたら私負けてたと思う…」
せつ菜「…それはどういうことですか?」
ことり「この子…ものすごい強いんだよ、あり得ない反応速度と身体能力、そして射撃技術——特に偏差撃ちに関して相当熟知してるんじゃないかな…」
曜「偏差撃ちって…というかルビィちゃんって戦えるの?」
ことり「…戦えるね」
ことり「…ただね、薬を使ってるらしいんだ」
曜「薬?」
ことり「病み上がりの体じゃまともに動かせないからって薬を利用していつも通りを保ってたらしい、だからその薬の副作用で…」
せつ菜「……倒れたと」
ことり「そうそう」
せつ菜「こんなか弱さそうな子が薬に手を染めているんですね……」
ことり「…東京の悪しき姿の体現だね」
曜「……ことりちゃんをも葬れる相手ということは絵里さんはルビィちゃんにやられたの?」
ことり「…そんなことはないと思う、だって最初見た時は絵里ちゃんの肩に手を置いて寄り添ってたんだよ?」
曜「んー……」
せつ菜「…状況は最悪ですね」
曜「…そうだね、善子ちゃんと果南ちゃんは行方不明だし、絵里さんと穂乃果ちゃんは致命傷だし、ルビィちゃんに関してもよく分からないし」
ことり「……一旦帰ろうか」
せつ菜「…そうですね」
~別荘
ガチャッ
曜「ただいま~…」
真姫「おかえりな……さい?」
ことり「…あはは、ごめん。負けちゃった」
真姫「ま、負けた…?なんでよ…?」
曜「…単純に相手が強かったのと、色々事故があったんだ。それで負けた」
スタスタスタ
花丸「…でも、よかった。みんな無事で」
せつ菜「花丸さん…ごめんなさい…」
花丸「…問題ないずら」
真姫「ぶ、無事って三人が抱えてるその三人は生きてるの…?」
曜「首の皮が一枚繋がってるくらいだから早く手当しないと多分まずいね…」
真姫「じゃ、じゃあ早く手当しないと!」
ことり「手当は私に任せて」
花丸「マルも手伝うずら!」
タッタッタッタッ
せつ菜「…ごめんなさい、あなたの大好きな人をこんなにさせちゃって」
真姫「うぇぇええええ!?だ、大好きってそんな!」
真姫「……でも、仕方ないわ。絵里も最強じゃないもの、むしろ絵里を助けてくれてありがとう」
せつ菜「そう言ってもらえると私も助かります」
曜「…でもまさかこんなにボロボロになるなんてね」
真姫「…そんなに強かったの?」
曜「私は穂乃果ちゃんの次世代機と呼ばれるアンドロイドと戦ったよ」
せつ菜「…!穂乃果さんの次世代機と戦ったんですか!?」
曜「うん、でもね技量は明らかに私の方が上だった」
真姫「……でも負けたんでしょ?」
曜「うん…なんかおかしいんだ」
せつ菜「おかしい?」
曜「確かに私はあのアンドロイドの頭と胸を銃弾で貫いたはずなのに生きてるんだ。普通に、何事もなく…」
真姫「気のせいとかじゃなくて?」
曜「いや、それはない、だってちゃんと血も出てた。そして血も出てたのにも関わらず普通に動いてた」
歩夢『私は新型だよ?未踏の地っていうのは踏むためにあるんだよ』
曜「……新型の機能なのかな」
せつ菜「そ、そんなおかしいです!だってそれじゃあ…だってそれじゃあ人間の域を超えてるじゃないですか!」
せつ菜「人間じゃないですよ!!!」
真姫「…確かに」
せつ菜「頭を撃たれても記憶を失わない、胸を撃たれても心が欠如しない。それってもはやアンドロイドでもないですよ……」
曜「……生まれ変わろうとしてるのかも」
真姫「生まれ変わる?」
曜「アンドロイドという概念が生まれ変わろうとしてるのかもしれない。だってアンドロイドの母である鞠莉ちゃんは今現在ではアンドロイドの制作に関与していない、だから鞠莉ちゃんの意図してないアンドロイドが生まれても何も不思議じゃないんだよ」
せつ菜「…それじゃあ私たちは一体何なんですか」
曜「…分からない、けど新型の命がどこにあるかが分からない限り旧型に勝ち目はないね」
せつ菜「………」
真姫「ならその情報系は私に任せて」
曜「…それは頼もしいけどアンドロイドの情報っていうのはかなり固くて漏洩もほとんどしない、つまり情報の発信源がないんだ。それなのにどう探すの?」
真姫「……それは今の段階じゃ何も言えない、けど絶対に見つけてみせるわ」
せつ菜「…頑張ってください」
真姫「ええ」
真姫「……そういえば善子と果南は?」
曜「…行方不明」
真姫「はぁ!?」
曜「応答がないんだ、試しにかけてみてよ」
ツー………
真姫「……ホントだ、なにこれ」
曜「それが分からないんだよ」
真姫「……状況は思ったより深刻そうね」
せつ菜「現在戦えるのが私とことりさんと曜さんしかいません。絵里さんと穂乃果さんは当分戦えませんし善子さんと果南さんは今だ行方知らずの状態…これではY.O.L.Oに攻めるどころか対アンドロイド特殊部隊にも勝てません」
曜「……この後私たちはどうするべきなんだろうね、ちょっと詰まりすぎて私も分からないや…」
せつ菜「…そこまで絶望を感じているのですか?」
曜「当たり前だよ…だって心臓を撃っても頭を撃っても死なない生き物なんて初めてなんだからさ…それに絵里さんも穂乃果ちゃんもやられちゃったっていうのに」
せつ菜「……正直言うと、私も酷く絶望してます」
せつ菜「私たちも戦いました、Y.O.L.Oを守ってると言われてるアンドロイド二人と」
曜「穂乃果ちゃんがあんなになる相手なんだから相当強かったんだろうね」
せつ菜「ええ、おそらく最新型故に秘匿通信のようなものが使えるようで通信機を使わずとも心の中の声だけでやりとりができるようです」
真姫「なにそれ…ズルじゃない…」
せつ菜「ええ、二対二というコンビネーションプレイが大事な対面で声も発することなくコンビネーションプレイが出来るその秘匿通信はもはやチートです」
せつ菜「……もし次戦うというのならこれをどうにかしないといけませんね」
真姫「EMPグレネードはどうなのよ?曜は作れるんでしょ?」
曜「もちろんそれは有効な手段だけどせつ菜ちゃんが使うのは難しいかな、何故ならせつ菜ちゃんもアンドロイドだから自分にも食らうよ。EMPグレネードは他のグレネードと違って爆発しても痛みを受けるようなものは一切飛ばなくて、爆発して飛ぶモノといったら電子機器を狂わせる特殊な粒子かな」
曜「人間にとってはただの風でしかないけど、アンドロイドにとっちゃグレネード以上の危険物だから人間以外は扱えないものだね」
曜「まぁだからといって人間がぽいぽい使ってアンドロイドを簡単に無力化出来るようなら最初からそうしてるよって話だけどね」
真姫「どういうことよ?」
曜「今さっき言ったけどEMPグレネードはグレネードみたいに爆発でダメージを与えるものではなくて小さな粒子を大量に体内へ流し込んで攻撃するバイオテクノロジーにも関与してる特殊なグレネード、言葉だけでこのEMPグレネードを推し量るなら間違いなく最強だけど、EMPグレネードは案外不便なところもあるんだよ」
せつ菜「不便なところ…ですか、想像もつきませんね」
曜「まぁまぁ聞いてよ、粒子っていうのはそこまで早く動くものじゃなくて空気の流れによって移動するものだから基本的に粒子は鈍足なんだ」
せつ菜「ふむ…」
曜「まぁだからね?EMPグレネードが爆発した際に出てくる風っていうのは粒子を高速で飛ばす為の流れを作る為で、その爆風範囲外にいられると簡単に避けることが出来ちゃうんだ。つまり外なんかの広いフィールドだとEMPグレネードもそこまで脅威にはならないってことだよ」
真姫「む、難しいのね…」
曜「うん、だから結局のところグレネードと同じで工夫した使い方をしないと意味がないんだよね」
せつ菜「…まぁ仕方ありませんね、曜さんも今言っていましたが使って解決するなら最初から使ってますよ」
真姫「………」
曜「やっぱり戦いって、奥が深いなぁ」
曜「希望という光も、絶望という闇も感じれるのは一瞬だけなんだから…」
~???
鞠莉「…新型アンドロイド、なんて不快な響きなのかしら」
鞠莉「まさか堂々と人間の域から外れたアンドロイドを作るなんて……」
鞠莉「私の知らないアンドロイド…もはや要らない子ね」
果林「…急にどうしたの?私を呼び出して」
鞠莉「…Y.O.L.Oの防衛に対アンドロイド特殊部隊は参加しないわ」
果林「どうして?絢瀬絵里たちを殺せるチャンスでしょ?」
鞠莉「私は新型アンドロイドの存在が気に入らない、私はあくまでアンドロイドを人間に模して作ったのよ。それなのに新型ってやつはあからさまに人間の域を超えてきた。そんなの第一アンドロイド開発者として認めない、不届き千万もいいところよ」
果林「…じゃあ、Y.O.L.Oにいる新型アンドロイドを潰しちゃう?」
鞠莉「…それはいい案かもしれないわ」
果林「私から提案しといて難だけど、そんなことして大丈夫なの?政府が黙ってないと思うけど」
鞠莉「私からしたら私の技術を悪用されて怒り心頭なんだから誰にも文句は言わせないわ」キッ
果林「あら怖い怖い」クスクス
鞠莉「新型アンドロイド…今すぐにデストロイすべきだわ…」
鞠莉「…でも、その前に準備が必要そうね……」
~??日後
絵里「ん……」
絵里「あれ…私……」
絵里「……生きてる?」
絵里(目覚めの感覚が伝っても尚私には伝わらない生の意識。それから両手を閉じて開いてを繰り返してようやく自分が生きてることに気が付いた)
「すぅ…すぅ…」
絵里「真姫…曜…」
絵里(私の寝ていたベッドには私を挟むよう両サイドに曜と真姫が寝てた、傍から見れば微笑ましい光景だけど、私は無意識的にあることに気付いた)
ポロポロ…
絵里「…あれ、私なんで……」
絵里(涙が出てきた、無意識に)
絵里(隣に真姫がいることにとてつもない罪悪感と敗北感を感じた。いや、真姫が悪いわけじゃないけど“真姫の位置”に何かが欠落してた)
絵里「…っ!果南!善子!?」
曜「わぁ!?」バサッ!
真姫「何っ!?」バサッ!
絵里「私…そうだ…!私…ッ!」
真姫「え、絵里目覚めたの!?」
絵里「真姫…!私どうしたら…!」ポロポロ…
真姫「ど、どうしたのよ急に…」オロオロ
絵里「善子が…!果南が死んじゃったぁ…!!」
曜「!!」
真姫「ど、どういうことよそれ…」
絵里(言葉が上手く出せなかった、けど私は必死に真姫と曜に説明した。涙が私の言葉をかき消して、儚さが私の涙を加速させる。未だに拭えない絶望は混乱を招き、善子と果南の死体がまだ鮮明に私の瞳に映ってくる)
絵里「うわあぁああああああ……!!」ポロポロ
曜「………」
真姫「………」
曜「…やっぱりね」
真姫「やっぱり?」
曜「前に花丸ちゃんから借りたアンドロイド名鑑に載ってたんだ、果南ちゃんの項目……」
曜「全アンドロイド中トップの性能を誇る最強に近いアンドロイドの一人。何も考えてないようで実は誰よりも深い考え持つテロリズムとアンビバレンスの持ち主————いわば危険思想の塊」
曜「…と書いてあった。それを見てなんとなく察してた、初めてこの家で夜を明かした時からずっと何か変な事を考えてたんだろうと」
曜「……でもまさかこんな形になるなんて思ってなかった。まさか仲間を殺して…そして憧れであった絵里さんと一対一になるフィールドを作って殺し合いをするなんて」
真姫「………」
曜「…にしても、もし絵里さんたちのところが通常通り作戦を実行したら成功率87パーセントか…」
真姫「何かあるの?」
曜「何か引っかかるんだよね、だって穂乃果ちゃんやせつ菜ちゃんのグループは穂乃果ちゃんが負傷したことでシンプルに撤退せざるを得ない状況になるし、そんなんで87パーセントも成功率あるのかな…」
真姫「言われてみれば確かに…」
曜「…果南ちゃんの数値化が間違ってた……?でも全アンドロイドの中で特に性能がいい果南ちゃんが間違うのかな」
曜「分からないな…死人に口なしとはよく言ったものだよ。今じゃ果南ちゃんの見えてたものが何も分からないよ……」
絵里「うわあああああ……」
真姫「…絵里は泣かないの!まだ私がいるんだから!」ギューッ
絵里「うぅ…だってぇ…!!」
曜「……問題は山積みだね、著しく戦力の低下が起こってる。次の作戦は考えこまなきゃ負けちゃうね」
真姫「…そうね」
絵里(目覚めた世界はいつもに増して退廃的だった。大切な仲間を二人失い、当の私はまた当分戦えなくなるくらいの傷を負った)
果南『そして今日から私が絢瀬絵里として生きていくよ、この名前…大切にするから』
絵里(戦いが終わった今でも果南のあの行動は理解出来ない、憧れが曲がるとああなるのかしら)
果南『絵里と一緒にいるようになってから絵里より強い人を見たことがなかった』
絵里(一体何を見て、一体何を思って私が最強と視えたのかしら)
絵里(第一あの時の果南の戦いはルビィがいなきゃ死んでたし、凛と梨子と対峙した時はそもそも一回死んだようなものだし、曜と戦った時はだいぶ運がよかったとしか言いようがない)
絵里(私が最強である要素がまるで見当たらない、私が最強であるなら少し分かりやすいステータスとアドバンテージがあってもいいはず、耳がいいとか目がいいとかそんな強化五感の一つだけでもいいのにそれすらも見当たらない)
絵里(果南はどこを見た?何を見た?)
絵里(……考えても、分からないままだ)
絵里「うぅ…といれぇ…」メソメソ
真姫「行ってきなさいよ…」
絵里「うん……」
スタスタスタ
絵里(激しい戦いを乗り越えてから歩く家の廊下は数年の歳月を感じるくらいに懐かしかった。それだけ眠りの世界は一日千秋なもので、手にしたこの平和はやはり温かいものね)
スタスタスタ
曜「絵里さん」
絵里「!」
絵里「よ、曜?」
曜「ごめんね、止めちゃって。でもちょっと聞いてほしいんだ」
絵里「な、何…?」
曜「…こんな時に言うべきじゃないのは分かる、けど言わせてほしい」
曜「絵里さんは何者?」
絵里「わたし…?」
果南『絵里は色んな面を含めて最強なんだよ?絵里もよく考えてみてよ』
果南『自分が誰なのかを』
絵里「!」
絵里(そういえば果南も同じようなこと言ってた、私は誰なのか、そんな意味深なことを言ってた)
絵里「私は…アンドロイドよ、コードF-613。誕生日は10月21日、名前は絢瀬絵里。年齢17の高校三年生」
曜「…知ってる、でもおかしいじゃん。それ」
絵里「おかしい?どこが?」
絵里(曜の引き締まった表情に私の涙と弱い心はとっくに引っ込んだ。次第に頭が回り始めて消えないはずの痛みが今だけは消えてくような気がした)
曜「………」
絵里「…曜?」
曜「なんで…なんで絵里さんはさ……」
曜「標準型アンドロイドなのに、どうして戦闘型アンドロイドや高い戦闘力を有した人間と戦えるの?」
絵里「…!!」
曜「絵里さんの言う標準型が嘘であるっていうのも考えたけど、ちゃんと首元にはFと書いてある。別に標準型でも戦える子はたくさんいるけど絵里さんに関しては頭一つ抜けてるんだよね」
曜「…というかね、標準型っていうのは人間を元にして作られたアンドロイドなんだよ、だから絵里さんが標準型であるというのなら、その標準型にしては高すぎる能力値を鑑みるに」
曜「絵里さんは人間を模して造られたわけではない気がする」
絵里「私が…?じゃあ私は…何者なの…?」
曜「…希ちゃんから聞いたことがあるんだよね」
希『実は探してる人がウチには二人いるんよ』
曜「…てね」
絵里「探してる人?」
曜「一人は東京で大規模な銃撃戦が発生した時に民間人側として参加してた殺し屋の異名を持つスナイパー」
曜「そしてもう一人は————」
曜「——鞠莉ちゃんだけしか正体を知らない標準型アンドロイドXと称されたアンドロイド」
絵里「!!」
曜「そのアンドロイドはまだ全然情報が無かった、だから希ちゃんもある程度情報が揃うまでは希ちゃんと花丸ちゃんだけの秘密にしておいたらしい」
曜「だけど如何せん何も手がかりがないもんで、私にまで希ちゃんのその話が来たわけだけど」
曜「一つそのアンドロイドで確実に言える事があるならね」
曜「そのアンドロイド、金髪なんだよね」
絵里「えっ……」
曜「デバイスを開いて」
絵里「え、うん…」
ピコンッ♪
絵里「…?これは?」
絵里(曜から送られてきたのは何らかの画像のデータだった)
曜「花丸ちゃんと希ちゃんが一ヶ月鞠莉ちゃんのPCとサイバー戦争をして手に入れたって言ってた画像データだよ、あまりにも複雑なプログラムとセキュリティを通り越してきたデータだからノイズ化しちゃってるんだけど、それでもその左上のところ、髪の色だけ分かるんだよ」
絵里「…!ホントだ、金髪ね」
絵里(いつかに花丸さんから見せてもらったアンドロイドのデータと同じようにそこには“誰か”が描かれてた。体系もどんな顔をしてるかも分からないけど金髪だ。横にある説明文らしきところには“標貅門梛繧「繝ン繝峨ΟイドX”と名前欄と思わしきところに書かれていて、その下の説明文は読めたものじゃなかった)
曜「そういう文字化けってやつは解読ができるんだけど、どういうわけかその文字化けは特殊なプログラムが張り巡らされてて解読出来ないんだ」
曜「こう…画像を開くたびに文字が違って、それを解読しても支離滅裂な言葉しか出てこない」
曜「だからすごく厳重に保管されてるんだろうね…」
絵里「………」
曜「…でもまぁその標準型アンドロイドXと呼ばれるアンドロイドが金髪だと分かっても金髪の標準型アンドロイドなんて世の中たくさんいる、それをしらみつぶしに探し回ってたらキリがないって希ちゃんも半分諦めかけてた」
曜「でもよくよく考えて思ったよ、多分希ちゃんも同じこと思ってたと思う」
絵里「………」
絵里(次曜の口から出てくる言葉はなんとなく分かってた。私もきっと曜やその希って人と同じことを想ってるはずだから)
曜「標準型アンドロイドXっていうのは絵里さんのことなんじゃないか、と」
絵里「…そうよね、そうなるわよね」
曜「元々標準型アンドロイドXっていうのは鞠莉さんしか正体を知らない特別なアンドロイドということしか知らない、だから希ちゃんも会ってみたかったんだと思う」
曜「…絵里さんには何か特別なモノがあるの?」
絵里「私に……」
絵里(どうだろう、少し考える。だけど考えて出てくる特別なモノはこれといってなかった。確かに標準型なのに凛や果南とまともにやり合える私はおかしい、けどそれしかない。それ以外、他にない)
絵里「…!」
絵里(いやまって…これを特別と言っていいのかは分からないけどあった)
絵里「…えりち」
曜「ん?」
絵里(私より強いもう一人の私。私の心の中に住み着く謎の————ある意味特別な存在が私には宿ってた)
絵里(…でも、それを言葉にするのはどうだろうか。別に言いたくないわけじゃないけど、言うのを躊躇ってしまう。何かが私の口を開かなくさせていた)
絵里「…ごめんなさい、やっぱり私には分からないわ」
曜「…そっか、でもやっぱり標準型アンドロイドは絵里さんなのかな…」
絵里「…多分ね、よくよく考えればおかしいものね。私標準型なのに」
曜「ううん、聞きたかっただけだから気にしないで」
曜「それじゃあ私寝室戻るね!」
絵里「え、ええ」
スタスタスタ
絵里「………」
絵里(もし、本当に私が標準型アンドロイドXだとしたら私の正体ってやつは一体なんなのかしら)
絵里(鞠莉の人形なのかしら、それとも新型なのかしら)
絵里(……当たり前だけど、考えて分かる問題ではなかった)
今日はここで中断。
再開は明日か明後日やります
いよいよえりちの正体に近づいてくる?
展開が目まぐるしくて飽きないな
~次の日
絵里「ふぁー……っていったっ!?」
絵里(眩しい光を受け瞼を閉じて、それに負けじと無理矢理瞼を開けて背伸びをした直後、私に激痛が走る)
絵里(お腹を中心とした痛みが体の中で広がっていく。すぐさまお腹を見れば包帯越しでも赤く染まっているのが分かる)
絵里「…果南か」
絵里(果南の遺した傷は随分と痛い。それは直接的でもあって精神的でもあった)
絵里(今頃果南と善子が生きてれば戦況はどうなってたのかしら、在りもしない希望を掲げた絶望がイマジネーションを発生させた。鞠莉という一人の人物を殺すのになんでこんな想いをしないといけないんだろう、世界は常に理不尽で謎しかない)
絵里「……変な顔」
絵里(誰もいない寝室のテーブル、さりげなく置かれた誰かの鏡を見ると私の瞳とその周りは赤かった)
絵里(泣いたのかしら、でもいつ泣いたのかしら?)
絵里(果南と善子が死んで冷静でいる自分が少しおかしく感じてはいたけど、やっぱり無意識の中の私はとてもつもなく悲しいのよね、分かるわよ)
絵里(こんな退廃的世界で次は何をしてけばいいのかしら)
絵里(エンドロールに向かっていくはずの私は、足を動かすことも憂鬱だった)
絵里(エンドロールに向かっていくはずの私は、足を動かすことも憂鬱だった)
スタ…スタ…スタ…
ことり「! 絵里ちゃん!」
花丸「絵里さん!?」
せつ菜「絵里さん!」
絵里(二足歩行で歩くのが辛くて、壁に寄り添いながら少しずつ歩いてリビングへ向かった。昨日の深夜とは違って痛みは鮮明に感じる、だから今の身体はものすごく不自由だった)
スタスタスタ
絵里「ありがとうことり、せつ菜」
ことり「いいよっ絵里ちゃんは無理しないで」
せつ菜「その通りです!」
絵里(二人の肩を借りて一緒に歩いてもらった。そうすればだいぶ楽に歩けるようになった)
絵里「よいしょっいたたっ…」ストンッ
真姫「あんまり無理しないようにしなさいよ?」
絵里「え、ええ…」
ことり「…曜ちゃんから聞いてたけど、やっと起きたんだね」
曜「今回は二週間で起きれたね」
絵里「に、二週間!?」
せつ菜「穂乃果さんはまだ目覚めません…」
絵里「そ、そんな経ってたの…」
ルビィ「おはようございま…ってぴぎっ!?」
絵里「ルビィ!」
ルビィ「絵里さん!」
ギューッ
絵里「…あの時はありがとう」
ルビィ「…いいんです」
ことり「…どういう状況?」
絵里「ルビィは私を助けてくれたの」
ことり「…じゃあやっぱりあの時は助けた後だったんだ」
ルビィ「あ、はい…」
ことり「そっか…ごめん」
ルビィ「大丈夫です、焦る気持ちはルビィも分かるので!」
絵里「…そういえば果南と善子の事は話したの?」
曜「いや…まだ…」
花丸「…?果南さんと善子さんがどうなったかを知ってるんですか?」
絵里「あぁ…うん……」
絵里(私の口からはあまり言いたくない事実だった。でも、当然よね。過去は消せないけど、あんな忌々しい記憶はそうと分かっていても消したくなるものよ)
曜「あ、えっとね…私の口から言うと善子ちゃんと果南ちゃんは…死んじゃったんだ」
ことり「っ!?」
せつ菜「ど、どうしてですか!?」
曜「それは————」
絵里(それ以降は昨日の深夜私が話したのと同じだった、初めて聞くせつ菜とことりは昨日の真姫と曜と同じ反応をしてた)
ことり「……やっぱり」
曜「やっぱり?」
ことり「連絡がつかなくなった時、何かやらかすなら絶対に松浦果南だと思った。だから私は急いで絵里ちゃんを探しに行ったんだよ」
曜「…今見返せばもっと気にするべきだったのかな」
ことり「……いや、気にするのは多分無理だよ、だって仲間だもん」
せつ菜「…そうやって、穂乃果さんも一度死にましたからね」
ことり「うん……」
絵里「………」
曜「これは最近知ったことなんだけど、対アンドロイド特殊部隊も今著しい戦力の低下が起こってるらしいんだ」
絵里「どういうこと?」
曜「海未さんとにこさんが死んだらしいんだ」
せつ菜「………」
絵里「えっ…」
ことり「…内紛を起こして共倒れしたんだって」
絵里「そんなことが…」
せつ菜「にこさん…海未さんを倒せるほど強かったんですね…」
曜「…それは私も思った、確かににこさんは強いけどまさかあの生命力お化けの海未さんを殺すなんて……」
ルビィ「…殺してないよ」
花丸「え?」
ルビィ「にこさんは確かに海未さんに勝ってた、けど最後に油断したせいで海未さんに殺された。だから結果的に海未さんの勝利だった」
せつ菜「ど、どうしてそんなことが分かるんですか?」
ルビィ「…だってルビィいたもん、その時そこに」
曜「えっ…じゃあ海未さんって……」
ルビィ「ルビィが殺した」
ことり「……やっぱりあなた只者じゃないよね、あの時の戦闘といい何かの戦闘員でしょ」
ことり「あの時のハンドガンだって随分と持ち慣れてた、少なくとも私は穂乃果ちゃんや曜ちゃんとも対等に戦える強さだと思った」
曜「最初はずっと泣いてたからあまり気に留めてなかったけど…」
せつ菜「あなたは一体…?」
絵里「…それは私から話すわ」ガタッ
絵里「ルビィはね……」
スタ…スタ…
絵里「昔東京で起こった大規模な銃撃戦で民間人として参加した————」
スタ…スタ…
絵里「——殺し屋という異名を持つ子なの」ポンッ
曜「っ!?」
せつ菜「殺し屋って…!」
花丸「希ちゃんが探してた人ずら!!」
ことり「殺し屋ってこんな人だったんだ…」
真姫「…名前は聞いてたけどこんな身近にいたなんてね」
絵里「元々ルビィは善子とタッグを組んで日々悪と戦うまさに正義の味方だった」
絵里「善子は持前の接近戦の強さを活かして突っ込んで、ルビィはそのカバーをスナイパーでするのと同時に善子の後に続く。たった二人だけというのに恐ろしく強かったわ」
絵里「ルビィは恐ろしく才能に恵まれた子よ、モノの動きを完璧に捉えることが出来る目の良さで相手を必ず射貫くわ」
花丸「…!それがいわゆる偏差撃ちの所以…?」
絵里「ええ、百発百中のその腕は敵に回したら死はほぼ間違いないものよ」
絵里「だけどルビィの強さはそこだけじゃない。ルビィは姉の才能をも受け継いでるの」
真姫「姉の才能?」
曜「…分かった、ダイヤさんでしょ」
絵里「正解、ダイヤの才能を受け継いでるの」
せつ菜「ダイヤさんの才能ってなんですか?」
絵里「ダイヤはね、近接戦闘がものすごく得意なの。元々ダイヤは小さい頃から薙刀とか刀を嗜んでいた身だったから体術に関しては指折りで、でもそういうの関係無く黒澤の血を引く者としてダイヤはその刀や体術の才能に恵まれた」
絵里「…そして、ルビィもそれ同様に」
ことり「…なるほど、ようやく分かったよ。アンドロイドの私を超える反応速度の原因が」
ことり「薬だけじゃどう考えてもあんな動き出来ないからね」
ルビィ「…近接戦闘は奥の手だからあまり使いたくなかったんだけどね」
曜「ダイヤさんはナイフの使い方がものすごい上手い人だったよ、梨子ちゃんや私がヘイト集めてダイヤさんがそそくさに近づいて近接戦闘持ち込んではい終わりっていうムーブを何十回とやったことか」
花丸「はぇ~…」
絵里「…とりあえずそういうことよ、以後ルビィとも仲良くしてあげて、普段は大人しい子だから」
ルビィ「改めてよろしくお願いします」ペコリッ
曜「うんっ!頼もしい仲間が来てくれて嬉しいよ!」
せつ菜「はいっ!私も考えは同じです!」
真姫「ええ、困ったことがあったらちゃんと言うのよ」
ことり「あの戦いでは驚かされるばかりだったよ、よろしくね」
花丸「ルビィちゃん!よろしくずら!」
ルビィ「!」パアアア
ルビィ「うんっ!」
絵里「…ふふふっ」
絵里(ルビィは大人しい子よ、そして故に大人しいから姉であるダイヤにも自分の強さがばれなかった)
絵里(大人しいから人と話すのが苦手だった、だからあの大規模な銃撃戦の時は誰とも話さなかった)
絵里(…でも、今はこうしてみんなが優しくしてくれてるのを見るとなんだか安心した。真姫に出逢う前は善子と私とルビィと果南と千歌の五人がいつものメンバーだったんだから……その中でも妹のように可愛がったルビィが幸せだと私も何故か幸せな気持ちになれた)
ことり「はいっことり特製朝ごはんですっ」
曜「あれ?今は思考が攻撃寄りなの?」
ことり「そんな伝わるか伝わらないか微妙なこと言わなくていいから早く食べて!」
曜「はーい」
花丸「チーズケーキ……」
ことり「どうしたの?」
花丸「いや…朝なのにデザートが出てくるなんてちょっと驚きずら…」
ことり「そうなの?ことりは普通だと思うんだけどなぁ」
せつ菜「花丸さんはいつも希さんに頼んでちゃんとした朝食を食べてますもんね、それに比べて希さんなんて夜以外大体菓子パンですし」
真姫「それは甘いわね…」
絵里「…うん、おいしいじゃない」
ことり「当然だよ、ことりはデザート作りが好きなんだからっ」
絵里「えっ…」
ことり「…何その顔!?ことりだって女の子だよ!?」
曜「あはは…ことりちゃんってすごく可愛いけど戦闘になると鬼になるし……」
せつ菜「…間違ってないです」
花丸「異論無しずら」
ルビィ「?」
ことり「えぇ…じゃあもうちょっと女の子らしくしなきゃっ」
絵里(いつもは私が朝ごはんを作ってるのだけど、まともに動けない今はことりが朝ごはんを作ってくれた)
絵里(…ただ朝ごはんと呼ぶにケーキは少し重い気がするけど味は一級品なので文句は言わないでおく)
絵里(まぁそんなおいしいチーズケーキを口に運ぶ中で、話は進む)
絵里「あれから何か変わった?」
真姫「特に変わってないわ、Y.O.L.Oも対アンドロイド特殊部隊も何も起こしてない」
ことり「それどころか政府すら何も変わった動きを見せてないんだよね、やる気あるのかな?」
花丸「…何かありそうずら」
せつ菜「私もそう思います」
曜「……でも何かって何だろう」
曜「政府の武器庫と呼ばれるY.O.L.Oが攻撃を受けそうになったというのに追撃が来ない、政府は本当に何をしてるんだろう?本当なら今頃私たちは政府に追われててもおかしくないはずなのに」
絵里「行動を起こさないことで起こる相手側のメリットは何?」
曜「ないよ、だってどう考えたって私たちと、対アンドロイド特殊部隊と結託してる政府じゃ相手側に軍配があがるじゃん。なのに攻めてこないなんて私たちに復活のチャンスを与えてるだけだよ?」
絵里「…ということは向こうで何かが起きてるんじゃない?」
真姫「例えば?」
絵里「例えば…?えーっと…」
絵里「内紛とか」
~四十分後
曜「そういえばルビィちゃんは何のスナイパーを使ってるの?」
ルビィ「L115A3っていうスナイパーだよ」
ことり「…うわっ」
花丸「おお、なるほど」
真姫「趣味がいいのね」
絵里「…え?何?私全然分からないんだけど……」
曜「L115A3っていうのは超簡単に言うと命中精度がものすごく高いボルトアクション式のスナイパーライフルだよ」
曜「スナイパーだから重いのは変わりないんだけど、その中でもこのスナイパーは軽くて他のスナイパーと比べて理論的にコッキングにかかる時間が短いとされてるんだ」
絵里「コッキング?」
花丸「とっても簡単に言うとチャージハンドルを引くことを意味していて、ボルトアクション式のスナイパーは一発弾を撃つたび絶対にコッキングをしないといけない特徴があるずら」
花丸「また、ボルトアクション式のスナイパーっていうのは他の武器と比べてたった一つの弾を撃つに手間がかかるものの、威力はやはり最高級の一言で、相手を一撃で仕留めるのに適した武器種ずら」
花丸「その中でルビィちゃんという偏差撃ちが得意で目がいい人がこのL115A3を持つことは鬼に金棒ともいえるずら!」
曜「その通り」ウンウン
絵里「へ、へぇ…」
絵里(毎回この銃の説明になると面食らって返答が引け気味になってしまう、銃のことはこれからの為にもっと知りたいとは思うけどこういう銃一つの知識というか…専門的な知識を目の当たりにすると銃の世界が広いことを思い知らされる)
せつ菜「これからの戦いでスナイパーがいてくれるのはとても頼もしいですね」
曜「そうだね、相手がアンドロイドだろうと人間だろうと効果は絶大だからね」
絵里「…というか勝手にルビィは戦いに参戦することなってるけどルビィはいいの?」
ルビィ「もちろん任せて、善子ちゃんの意志はルビィが受け継ぐよ」
絵里「…そう、ルビィがそう言うなら私は何も言わないわ」
絵里(果南と善子が消えて、新たなに加わったルビィという最強の矛)
絵里(それは即戦力どころか一種のモンスターであり、何か異常がない限り百発百中を保つルビィの腕は頼もしいってレベルじゃない)
曜「…しっかしこうしてみると私たち色んな武器持ってるんだねぇ」
絵里「人が増えた証拠ね」
絵里(ダイニングのテーブルやその辺に床に転がってる武器の数々を見てこの家の住居者もふえたことを実感できる。ホントなら後三人ここにいるはずだったのに、どうしてその三人はいないのかしら。分かっていながら疑問に思う)
絵里(エンドロールへ歩く私たちのそのエンドロールも、悪い意味だとしても良い意味だとしても終わりが近いように思える)
絵里(その中で最初は四人だったのに、次第に増えていって今じゃ八人もいるなんて感慨深いにも程がある)
絵里(この八人で、どう乗り越えていくのか)
絵里(果たして革命は起こせるのかしら)
絵里「…あれ?ルビィはもう動けるの?リハビリとか必要じゃないの?」
ルビィ「うん、必要だよ。まだ歩けるってだけで全然動けない」
ルビィ「でもスナイパーは撃てるよ!」
絵里「なるほど、でもそれじゃあ戦線の復帰は無理ね」
ことり「人の事いえたことじゃないけどね」
絵里「わ、私はなんとかするわよ!アンドロイドだし…」
曜「…だけど傷が治ってもちゃんと対策も考えないとね」
せつ菜「その通りです、新型アンドロイドはただのズルです。私たちに出来ないことを平然とやってのける疑似的な魔法を持っています」
せつ菜「その魔法にどう立ち向かっていくか検討していく必要があります」
曜「私が戦ったアンドロイドは命が複数ある…或いは記憶保存領域が別の場所にある。もしかしたら痛みを感じないなんてこともあるよ」
せつ菜「私と穂乃果さんが戦ったアンドロイド二人は喋らずに会話が出来る、或いは意思疎通がとれるはずです」
せつ菜「近づいて作戦を取ることも必要とせず思い立った瞬間すぐに二人共理想の行動に移せるのは驚異的です」
真姫「そうね…」
曜「まず前提条件として数で勝っていこう、こっちは戦える人が六人いる。でも向こうは三人、こっちには三人のアドバンテージがあるんだからそれをどう使うにせよこの三人のアドバンテージは活かしていこう」
絵里「もちろんよ」
曜「次に」
花丸「待ってほしいずら」
曜「ん?どうしたの?」
花丸「…次Y.O.L.Oに行くときはマルも連れていってほしいずら」
せつ菜「だ、ダメです!あそこはとっても危険な場所なんですよ?花丸さんが行っていいところではありません!」
花丸「それでもマルは行きたい、真姫さんには失礼かもしれないけどこのまま家で待ってるだけの人間にはなりたくない」
花丸「それにマルも戦えるよ」
花丸「銃は撃てなくても、投げ物は扱えるしナイフでなら人を殺せる。マルだって一応は希ちゃんの部下だもん」
花丸「希ちゃんに評価されたのは情報だけじゃないずら」
曜「…んまぁその辺はまた考えよう」
曜「それで————」
絵里(その日は来る次の戦いに向けてずっと話し合いだった。そんな戦いなんてまだ遠い話————)
絵里(——そう思っていたけど、あの別荘で何かしてる度に時は加速していき最初は人の手を借りないと歩けない私も気付いたら自分で歩けるようになっていて、みんな囲む食卓には穂乃果もいた)
絵里(その長い期間…そうね、一ヶ月半くらいかしら。それだけ長い期間が空いてるというのに政府も対アンドロイド特殊部隊も何もしてこない。一体なぜ?)
絵里(疑問だらけの世界は今日も謎を置いていく、しかしそんな謎に振り回されずにこの家は動いていく。地下の射撃場では今日も銃弾が飛ぶし、図書室の本は今日も複数抜かれ複数戻ってくる)
絵里(こんなのうのうと暮らしてていいのかしら、流石の私も平和ボケしてるわけじゃない、危機感は充分なほどにある。だけどそんな危機感も空回りしてしまうほどその時は何もなくて、逆に心配になってる私がいた)
絵里(テレビをつけても大したニュースはやってないし私たちの事も何も載ってない、真姫や花丸さんが情報を集めに行ってもそれらしい情報は一切なし)
絵里(戦いの合間に平和があるのか、平和の合間に戦争があるのか)
絵里(…違う、どちらもそうだとも肯定できなくはないけどこの一ヶ月半の沈黙は何を言おう戦争の真っ最中よ)
絵里(決して平和などではなく“何か”が動き出してた、だから来る日はみんなが動けるようになってすぐに来た)
~夜、リビング
せつ菜「………」
ことり「………」
曜「………」
絵里「…それじゃあこれからY.O.L.O強襲作戦を実行するわ」
花丸「…了解ずら」
絵里「今回も前回同様グループ三つに別れて行動するわ、一つは姉妹のアンドロイドと対峙、一つは命が複数あるといわれるアンドロイドと対峙、そして最後の一つはY.O.L.Oの破壊を担当する」
絵里「それで姉妹のアンドロイドを担当するのは穂乃果、せつ菜」
絵里「そして花丸よ」
花丸「…はい!」
せつ菜「ホントに大丈夫なんですか?」
穂乃果「…助けれる保証はないよ」
花丸「もちろん、任せてほしいずら」
穂乃果「………」
絵里「そして命が複数あるアンドロイドを担当するのが私とルビィよ」
ルビィ「よろしくね、絵里さん」
絵里「ええ、よろしくね」
絵里「最後にY.O.L.Oの破壊を行うのが曜とことりよ、じゃんじゃん破壊しちゃって」
曜「もちろんっ!任せといて!」
絵里「…正直、今回はアンドロイドを殺すことが目標じゃない。Y.O.L.Oの破壊が出来た場合は撤退した方がいいわ、だから殺さずとも耐えるだけでもいいわ」
せつ菜「分かりました、ですが」
穂乃果「そんなつまらないことはしたくない」
穂乃果「…お返ししないとね」
せつ菜「その通りです」
絵里「…ほどほどにね」
絵里(大都会の街も少しだけ賑わいが落ち着く深夜、また再び私たちは戦闘服へと着替えて銃を持つ。今度こそとリベンジの思いを胸に秘めてみんな銃のチャージハンドルを引いた)
絵里(もう銃のセーフティーは要らない)
穂乃果「じゃあ私たちは行くね」
絵里「ええ、死なないようにね」
穂乃果「大丈夫、もう負けない」
絵里(また銃弾で物語を語るのね、私は私自身に呆れた。けどこれも必要なストーリーだ、既に銃についてる弾倉の確認と持ち物の確認をして大丈夫なグループから好きなルートを使って動き出した)
絵里「じゃあ私たちも行きましょうか」
ルビィ「はいっ!」
絵里(準備が出来た私とルビィも動き出す。後は曜とことりだけで、真姫はここには呼ばずに家で待機してもらった)
タッタッタッタッ
ルビィ「……絵里さん」
絵里「何?」
ルビィ「…ルビィ、負けないよ」
ルビィ「……だから善子ちゃんとの約束は多分守れないや」
絵里「………」
善子『……私はルビィとの約束を守れない』
絵里「…許してくれるわよ、あの善子よ?」
ルビィ「…うん、そうだよね」
絵里(やはり善子とルビィは同じ気持ちを通わせてるのね。やはりあなたたちは二人であるべきだった)
絵里(善子とルビィが交わした約束——それはもう絶対に戦わないということだった)
絵里(善子から聞いた、数年前ルビィが数年眠ることの原因となったデパートの事件でルビィは倒れる前に善子と約束したらしい)
絵里(もうルビィみたいにならないように戦うのをやめて平和に生きて、と)
絵里(善子はそれを数年守った、そう…数年ね)
絵里(だけどこのアンドロイド隔離都市でその約束をずっと守るのは無理にも程がある、そんなルビィと善子の平和条約は今日完全に破綻した)
絵里「…もうすぐなの、もうすぐで鞠莉のところまで届くと思うの」
絵里(最初こそ月を目指す地上の兎というくらいに遠かったのに、今では手を伸ばせば届きそうなほど近くなった。ここを乗り越えればきっとそこに目指していた場所がある)
絵里(果たしてそこは天国か地獄か)
絵里(…行ってみるまで分からないけど、おそらくそこは地獄だろう)
絵里(でも、その先にユートピアが待っていることを私は知ってる。だからそこへ向かうの)
絵里(その為にも…)
絵里「……ここが正念場よ、頑張っていきましょう」
ルビィ「うんっ!」
~路地裏
絵里「…また来ちゃったわね」
ルビィ「………」
絵里(私にとって最悪の場所。今も果南と善子の死体は転がってるのかしら、それとももう回収されたのかしら。分からないけどあの時通ったルートを通るのはやめよう、そう私の中で答えが出た)
絵里「…監視カメラは壊して行きましょう、もう隠密である必要は全くないわ」
ルビィ「分かったよ」
絵里(あの時とは違って今回は時間との勝負、いくらY.O.L.Oのアンドロイドが魔法のようなものが使えても人数は増やせない。銃の世界において数に勝てるステータスは無くて、それなら私たちは数で勝つしかない)
絵里(その為にも命が複数あるといわれるアンドロイドには負けてもらわないとね)
タッタッタッタッ
絵里「…!」ピタッ
ルビィ「!!」ピタッ
絵里(目に映る監視カメラはハンドガンで撃ち抜いて颯爽と路地裏を駆け抜ける私たちに待ち受ける一つの影。消えかけている防犯灯がその相手にスポットライトを当てていた)
絵里「…わざわざ待ってくれてたの?」
歩夢「うん、戦闘型アンドロイドは耳がいいからね」
絵里「…そう」
ルビィ「………」カチャッ
歩夢「前回のMSMC使いと戦えないのは残念だけど、あなたたちもあなたたちで侮れなさそうだね」
絵里「私たちを高く評価してくれてありがとう、その期待に応えるべくあなたを殺してあげるわ」
歩夢「…殺せたらいいね」
絵里「ええ、そっちは生きれたらいいわね」
歩夢「…あまり標準型が大きな口叩かないほうがいいよ、弱く見えるから」
ルビィ「じゃあルビィから言ってあげるよ」
ルビィ「せいぜい死なないように頑張ってね」
歩夢「…人間?またあのMSMC使いと同じパターン?」
ルビィ「別に曜さんより強いというつもりはないけど、あまりルビィを舐めないほうがいいよ」
歩夢「舐めてるつもりなんてないよ、あのMSMC使いは強かったからね。きっと私が新型じゃなければ瞬殺だったもん」
歩夢「…だからこそ私はそこの標準型アンドロイドよりあなたを警戒してるんだよ?」
ルビィ「…そっか」
歩夢「…そんなことより始めよっか、時間稼ぎとかされたらたまったものじゃないし」
絵里「そうね、じゃあ————」
「——始めましょうか?」
絵里「っ!?」
ルビィ「!」
歩夢「何っ!?」
ドドドド!
歩夢「ちっ…」シュッ
絵里「あれは…梨子…!?果林!?」
果林「可愛い可愛いY.O.L.Oの新型アンドロイドちゃんは私たちと遊びましょう?」
絵里「何…!?なんで…?」
絵里(どこからともなく聞こえた声と共に飛ぶ銃弾は歩夢に一直線で、梨子と果林が私の前に現れてもその殺意はずっと歩夢に向けられたままだった)
果林「は~いごめんなさいね、絵里と可愛い赤髪ちゃん、この子の相手は私たちがするから」
絵里「…何が目的?」
歩夢「…それは私も知りたいです」
果林「鞠莉が人を模して作ってないアンドロイドは要らないっていってるの、その結果私たちの殺害対象は絵里やことりよりダントツであなたが上ってわけ」
梨子「私も人の形を投げだしたアンドロイドに興味はないかなぁ」
絵里「…それで信用出来ると思う?」
果林「別にいいわよ、信用しなくて。でもあなたたちにとってこの子と私たちを相手するなら信用出来ない私たちにこの子を相手してもらった方が嬉しいでしょ?」
果林「それに今回のこの戦いには鞠莉も一枚噛んでるのよ?今までの一ヶ月半何も無かったのなんでか知ってる?」
絵里「…知らないわ」
梨子「鞠莉さんがずっと政府にサイバー攻撃仕掛けてたからですよ、政府が持ってるデータのほとんどが今ノイズ化してるからてんてこ舞い状態で今もまともに機能してないんですよ」
絵里「…! そんなことが…」
果林「…だからね、本当簡単に言っちゃえば」
果林「今の私たちは相対的にあなたたちの味方になってるの」
絵里「………」
ルビィ「…信じて良いと思いますよ、絵里さん。その青い髪が出してる人の殺意は本物だしそこの紫色の髪の人が出してる気だるい感じも本物、人間は完璧には感情を偽れないんだよ、ルビィがそうだから」
果林「あはは、全然気にしてなかったけどもしかして赤髪ちゃんものすごい強い感じ?その観察眼は目を配りたいわね」
梨子「将来的に戦う事になったらまずはあの子狙いたいね」
ルビィ「………」
果林「…まぁいいわ、それより絵里」
絵里「何よ?」
果林「これは鞠莉からの伝言だと思って聞いて」
絵里「…?」
果林「どうやらY.O.L.Oを守ってるアンドロイドは三人じゃなくて五人いるらしいわ」
絵里「…それホント?」
果林「ええ、だからここで一人殺してあげるからその四人目五人目を殺してきなさい。私たちと絵里たちの目標は利害の一致で同じよ、後々私たちと戦うとしても今は私たちに任せて先に向かうのが頭の良い選択だと私は思うんだけど?」
絵里「……ええ、そうね。そうしてくれるならそうさせてもらうわ」
果林「ありがとう」ニコッ
絵里「…行きましょう」
絵里(あまり納得は出来ないけど、ルビィもあまり警戒はしてなさそうだったから静かにルビィに耳打ちをして私たちはY.O.L.Oへ向かった)
果林「…はーあ、対アンドロイド特殊部隊も人数減っちゃったわねぇ」
梨子「ダイヤさんはいつまでもしょげてるから実質二人ですよ今」
果林「ここに凛ちゃんとにこがいてくれたらもっと楽になるんだけどねぇ…」
梨子「はぁ……」
果林「ちょっと私の溜め息吐かないでよ、先に私が吐きたかったのに」
梨子「私が初めて対アンドロイド特殊部隊の人たちと会った時は負ける気がしないなんて思ってましたけど、二人しか残ってない現状を見ればそりゃあ溜め息の一つや二つも出ますよ」
果林「海未は強かったわねぇ、あんなのと戦ったら絶対に死ぬわよ、だから実は一番戦いたくなかった相手だったり」
梨子「私も凛ちゃんとは戦いたくなかったですよ、あの本能的に動く姿は対処のしようがないですから」
果林「うんうん、行動の読みにくさで言えば凛ちゃんが圧倒的だもの。戦いにくいに決まってるわ」
梨子「単純に強い曜ちゃんとも戦いたくないし対アンドロイド特殊部隊一の戦闘のセンスを持ったダイヤさんとも戦いたくないですね…ってもう全員ですね」
果林「にこを忘れてない?」
梨子「にこさんは…まだマシかなって思いますよ」
果林「そう?私はにこと戦うのもイヤだけどね、確かに対アンドロイド特殊部隊ではそこまでだけど、それはあくまでも対アンドロイドだからであって」
果林「にこは対人間でなら一番強いと思うわよ」
梨子「…それが本当ならにこさんと敵ではなくてよかったです」
果林「にこの相手をした海未は可哀想ね、また逆も然りで海未の相手をしたにこも可哀想だわ」
梨子「こうもドミノみたいに対アンドロイド特殊部隊が崩壊してくとアンドロイドって一生厄介のままなんだなって思いますよ、同時に私たちみたいな殺しの過激集団も同じように」
梨子「いずれ私たちも死ぬのかな…」
果林「…まっいずれは死ぬでしょうね」
果林「でも、死ぬ前に最新型のアンドロイド一人くらいは殺しておきたいかしら」
梨子「その通りですね」カチャッ
歩夢「…お話は終わった?」
果林「待たせてごめんなさいね」
果林「鞠莉というアンドロイドの母があなたは要らないって言ってるの、これは罪でもなければ罰でもなくて理なのよ」
歩夢「そのバッチ…あなたたちはY.O.L.Oとも友好な関係であった小原社直属の部隊と認識したよ、そんなところが私を傷つけていいの?」
梨子「残念だけどその友好な関係にある小原社の社長が命令したことなの、鞠莉さんにとってアンドロイドというのは子供みたいな存在と聞いてるので、そんな中で異形の子供が生まれたら殺したくなると私は思うな」
果林「回りくどい言い方をするつもりはないわ、単純に新型アンドロイドっていう人の域から外れたアンドロイドがムカつくから殺したいだけよ。そこに友好も敵対も関係無く、それで関係が悪くなるならそこまでの関係ってことよ」
果林「鞠莉は本気よ」
梨子「私もそろそろあの金髪美人のアンドロイドの下につく準備はしておいた方がいいのかな」
果林「冗談は死んでからにしなさい」
梨子「残念ですけど死ぬつもりはありませんよ」
歩夢「……そっか、ならやることは一つだね」
果林「ええそうね」
カチャッ
果林「……梨子」
梨子「分かってます、心配しないでください」
歩夢「………」
果林「…今!」
バァンッ!
梨子「はっ!」ダッ
梨子(果林さんの持つハンドガンの銃声を皮切りに私の足は動き出す。果林さんは後衛をやって私は近接で攻める前衛をやる——それが私と果林さんの攻めパターンだ)
歩夢「1と1の動きだね!何回も見たことあるよ!」
梨子「果たしてその何回がどこまで通じるかな!」
歩夢「経験だけが全てじゃないよ!」
梨子(私が右ストレートの体勢を走りながらとれば相手はたちまち受け止めるか回避のどちらかの準備をした、本当だったらここで私はこの体勢通りに右ストレートを打つのだけど、二対一なら話は違う)
梨子「よっと」ピョーン
歩夢「なにっ!?なんで人間がそんな高く…!」
果南「驚いてる暇はないわよ?」
歩夢「!!」
梨子(曜ちゃんが作った靴の恩恵は大きかったよ、凛ちゃんのような勢いだけのフェイントはアンドロイド相手でも効果的で、パンチを振る直前まで気迫を出し相手をその気にさせて回避に専念して空回りさせる、そうして出来た隙を他の人がカバーする。それが今回の動きの目的)
梨子(まさか私がアンドロイドの上を跳ぶようなジャンプをするなんて思ってなかっただろうし、ましてやこれがフェイントとすら思ってなかったと私は思う。そうして大きな大きな空回りをした相手にもう余裕はない)
歩夢「くっ…」シュッ
梨子「こっちも見てね人間やめたアンドロイドさん!」ババババッ!
歩夢「あッ……!」
梨子「ヒット♪」
梨子(果林さんの放った銃弾をだいぶ反応が遅れた状態で回避した上で私の放つ銃弾を回避出来るはずがない。それに私の持つ銃はサブマシンガンな上に連射速度も速い、そんな近距離特化ともいえる銃の弾丸を回避するのはいくら最新型でも無理みたいだった)
歩夢「また……」
バタッ
果林「…呆気ないわね」
梨子「機械は単純な動きに対しては強いですけど特殊な動きに対応できませんからね」
果林「にしてもこれが最新型なんて片腹痛いわね、まだ旧型の方が強いわよ」
梨子「私もそう思います、穂乃果ちゃんの次世代機とか言ってますけど全然穂乃果ちゃんの方が強いですよ」
歩夢「………期待外れなのは否定しないけど、私にもプライドがある」
果林「あら?」
梨子「これが鞠莉さんの言ってたやつかな?」
歩夢「不死身は死なないことだけが取り柄じゃない」
歩夢「やられ役はもう飽き飽きだよ」
歩夢「私だってこんな人の道外したアンドロイドに生まれたくて生まれたわけじゃない。でも私のこの力があなたたちを亡ぼせるというのなら私は喜んでこの力を肯定するよ」
歩夢「始めよう?夢への一歩はもう歩んでる」
歩夢「私、最強のアンドロイドになりたいから」
果林「…皮肉なものね、最強になりたいのは私も分かるけど射撃の腕前でもなければ身体能力の高さでもなくて」
果林「複数ある命で強さを誇るなんて」
果林「…これには海未も失笑でしょうね」
梨子「………」
歩夢「これが私のチカラなので」
果林「ええ、とっても素敵なチカラだと思うわ。でも最強のアンドロイドになる為には穂乃果やことりを殺さないとなれないでしょうね」
歩夢「…私の下位互換のアンドロイドが私より強いの?」
果林「総合的な腕前はどう考えても穂乃果ね、あなたは相対的に他のアンドロイドより強いとしか言いようがない、頂点に立ちたいその心意気は私すっごく好きだけど弱い子は私好きじゃないの」
歩夢「…そっか、ならあなたの持つ強さを教えてよ」
歩夢「それで世界の広さを推し量るから」
果林「…そう、ならせいぜいがっかりさせないように頑張るとするわ」
果林「…梨子」
梨子「準備は出来てますよ、命が複数あるのは知ってます。焦る必要はありません」
果林「もちろんよ」
梨子(穂乃果ちゃんの次世代機と呼ばれるアンドロイドに命が複数あるのは鞠莉さんから聞いてた)
梨子(それを聞いた時から私は思った、鞠莉さんから言われるまでもなくね)
梨子(…命が複数あるとは言っても爆発物で殺せば体をもぎ取れるって)
ジャランッ
梨子(私と果林さんの腰回りにぶら下がる投擲物が威嚇をしだした。今回の戦いに備えて投擲物をたくさん用意した、このアンドロイドを殺すには万全すぎるくらい)
梨子(それに今回の戦いには絶対に負けられない理由がある)
梨子(新型アンドロイドとはいえど私たちは対アンドロイド特殊部隊————そんなところがアンドロイドに完全敗北なんてしたら名が廃るでしょ?)
梨子(あのアンドロイドにもプライドがあるというのなら私にだってそれ相応のプライドがある。だからこれは正義対悪なんかじゃない)
梨子(一方的な正義 vs 一方的な正義の戦いなんだ)
梨子(…正直、そんな戦いではまだどちらが勝つかなんて分からない)
梨子(だからこそ私たちは勝つよ、勝たなきゃいけない)
スタッ
梨子(静かに果林さんはその一歩を踏み出す。第二ラウンドの合図はもう鳴った、だから後の私たちは————)
梨子(————勝利を持ち帰るだけ)タッ
~
ドドドドド!
聖良「何度戦っても結果は変わりませんよ二人とも!」
せつ菜「あなたたちの仕組みは理解したつもりです、今日という日は少し展開が違うかもしれませんよ?」シュッ
理亞「でも、防戦一方なのはどうして?」ドドドドッ
穂乃果「理解する必要はないと思うよ」
せつ菜(現在私と穂乃果さんは前回戦った森ではなく既にY.O.L.Oの中にありました。射線や物音には気を遣ったのですが敵の様子はなくそのまま進めば内部で待ち構えてるあの二人)
せつ菜(ここは拳銃を並大抵使える研究員とY.O.L.Oを守るアンドロイドしかいません。内部とはいえどそのアンドロイドと私たちが戦ってる中では野次から飛ぶ銃弾はどちらの立場からしても邪魔でしかありません)
せつ菜(ですから敵の本拠地とはいえど結局は私たちとあの姉妹アンドロイドだけのフィールド。誰も邪魔は出来ません)
せつ菜「ほっと」タッ
聖良「物陰に隠れても無駄ですよ」シュッ
せつ菜「果たしてそうでしょうか?」ニヤリッ
聖良「っ!?またっ!?」
ドカーン!
せつ菜(コンテナが多いこの場所ではとにかく銃弾が貫通しない遮蔽物が多い、そんな中でとにかく引いて引いて誘い受けのような戦法で戦う私たちの牙が今光った)
せつ菜(コンテナに隠れればそれはもう相手から見たら死角——私がその死角へと移れば相手は決め撃ちのような形で跳躍と共にやってくる)
せつ菜(そうと分かれば私はそこにグレネードを転がすだけ、そうすれば必ず避けなきゃいけない状況が出来て————)
穂乃果「今っ!」ドドドド!
せつ菜「これで終わりです!」パサパサパサッ
聖良「きゃっ…」
理亞「姉様!」
せつ菜(グレネードが転がったタイミングで穂乃果さんが私の相手をしている聖良さんに発砲、そして私はその聖良さんの逃げ場を無くすように発砲。これには妹の理亞さんも焦ってるのを見て手応えが感じた)
聖良「いあっ…!」
穂乃果「ちっ…腿だ…」
せつ菜「腿ですね…」
せつ菜(命中したのは胸でも頭でもなくて腿。もちろん致命的なダメージではあるのですがここは仕留めたかった)
せつ菜「でも、今度こそ終わりです!」ダッ
せつ菜(アサルトライフルの弾は切れた、だからハンドガンを持って聖良さんに突っ走った)
理亞「させない!」ババババッ!
穂乃果「私の方も見てほしいな!」ドドドドッ
理亞「このっ…こんな時に…!」シュッ
タッタッタッタッ
せつ菜「さあどうしますか!」バンッ!バンッ!
聖良「くっ…」シュッ
せつ菜(苦し紛れに回避をするけどもう遅い)
穂乃果「はっ!」バンッ!
聖良「ぐああああっ…!」
せつ菜(穂乃果さんが左肩を貫いた時点でもう勝負は決まってた、膝をついて左肩を抑える相手に容赦などしない。私はすぐそばまで近づいてナイフを首元に————)
ガキンッ!
せつ菜「っ!?!?」
聖良「……くっ」
理亞「姉様に近寄らないで!」ババババッ!
せつ菜「きゃっ!あっ…」
穂乃果「せつ菜ちゃん!?」
せつ菜(ナイフを首元に振った直後に当たる固い何か。フルスイングで振っただけに“それ”に当たれば私のナイフを持った手は反動で飛び跳ねて無防備な状態になり、その状態のまま別方向から飛んでくる銃弾は————)
せつ菜「いやあああああああああああああああああああっ!?」
せつ菜(——私の胸を貫いた)
せつ菜(なんだろうこの感覚。私の胸から明らかに何かが離れていった、激痛で辺り全ての人間とアンドロイドの耳を塞げそうな甲高い悲鳴を上げれば、波を感じることが出来る電波のようなモノが私の身体中を駆け巡った)
せつ菜(…あ、そうだ。私死ぬんだ)
せつ菜(力が抜けて、膝をつき、口も手も動かせなくなって倒れるその最後の一秒まで痛いのかすらも分からないような強烈な電撃が私には走って、頭がずっと真っ白のままだった)
『感情保管領域で深刻な損傷が発生————記憶保存領域の稼働が出来ません。システムオールダウン、機能を停止します』
せつ菜(私の頭に直接響いた何かのアナウンス。それすらも分からない私は目を開けたまま仰向けになって倒れた)
バタッ
穂乃果「せつ菜…ちゃん?」
せつ菜「………」
穂乃果「せつ菜ちゃん!!」ダッ
ババババッ!
穂乃果「!」シュッ
理亞「…絶対に許さない」
理亞「姉様を傷つけた罪は重いよ」カチャッ
穂乃果「…これほどまでに頭がおかしくなりそうな感情はないね」
穂乃果「希ちゃんが死んだ時もそうだったよ、無限に湧き上がる怒りが抑えられずにイライラしてた」
穂乃果「そして今もそうだよ、せつ菜ちゃんを傷つけたあなたが憎い。痛めつけたい、泣かせたい」
穂乃果「殺したい」
穂乃果「だからもうブレーキは要らないね」
穂乃果「“穂乃果”も許さないから」
理亞「…初期型ってやつは一人称を変えると行動パターンが変わるんだっけ、分かりやすいね」
穂乃果「…そっちは随分と分かりにくい特徴があるんだね」
聖良「……あまり使いたくなかったんですけどね」
穂乃果「ナイフを弾く腕って何?アンドロイドの域から外れてるよね?」
穂乃果(もしせつ菜ちゃんが振ったナイフの先が普通のアンドロイドか人間であったら勝負はついてた、けどこの相手は違う)
穂乃果(最新型のアンドロイド——最先端の技術がコーティングされたアンドロイドは何故かせつ菜ちゃんのナイフを腕だけで弾いた)
穂乃果(……それはつまり腕が硬かったからナイフを弾いたんだ)
穂乃果「…気持ち悪いね」
ババババッ!
穂乃果「!」シュッツ
理亞「御託はいいよ」
穂乃果「…そうだね」
穂乃果「じゃあやろうか!」ドドドドッ
穂乃果(確かに相手の言う通りだ、御託はいい、さっさとけりをつけてしまいたいのはどちらも同じ)
穂乃果(せつ菜ちゃんは胸を貫かれただけでまだ死んではいない、相手のお姉ちゃんも動けないだけで生きてはいる。ならどっちも早くけりをつけて早く相方を安静な状態にさせたいに決まってる)
穂乃果(だから穂乃果も相手も長期決戦は望んでなかっただろう、相手は武器の軽さを活かして突貫してきてるしこの戦いはすぐに決着がつくと思った)
タッタッタッタッ
穂乃果(相手がこちらへ突っ走ってくるならこっちはしっぺ返しを狙うのみ、こちらへ飛んでくる銃弾は横へ跳躍して躱しそれでも近づいてくる相手に私はナイフを逆手で横に振って応戦した)
穂乃果「はっ!」ブンッ
理亞「分かりやすいね」シュッ
穂乃果(だけど相手はしゃがんで軽々しく避けてくる、でもそれは予想済み。第二の攻撃はもう用意してた)
穂乃果「いつも上から目線なのがむかつくね」
穂乃果(ナイフを振った後は飛び膝蹴りで相手の顎を狙った)
理亞「だって上だからね」シュッ
穂乃果(だけどそれすらも横への跳躍で避けてきた、可能性の一つとしてこの攻撃を避けるっていうのはちゃんと予想してたけどいざ避けられると少しこの戦いがイヤになる)
穂乃果(…だけどイヤになってても仕方ない、避けられた後飛んでくる蹴りは飛び膝蹴りの隙で避けることが出来ない。だから腕でガードすることを選んだ)
穂乃果「ぎっあああああっ!?」
穂乃果(…ガードはした…けど、骨にまで届くような打撃は声に出してしまうほどの激痛だった。今まで受けた蹴りとは比べ物にならない痛み——痛すぎて腕が動かなかった)
理亞「勝負あったね」ドカッ!
穂乃果「がっ……」
理亞「軍神とはいえ初期型が最新型に勝とうなんて片腹痛いね」
穂乃果(痛みで怯む私に止めの蹴りが私のお腹に当たった。そうすればどうなったんだろう。まるで魔法でも使われたみたいに体が宙に浮いて十数メートル離れたコンテナに叩きつけられ、たちまち口からは悲劇的な血が噴射される、最新型の近接威力は桁外れでそれを熟知してなかった私はこのインフレの波に呑まれてしまった)
スタスタスタ
理亞「色々言いたいことはあるけど、今は時間惜しい。だからさよなら」カチャッ
穂乃果(穂乃果に向けられた銃口————感じる射線はどうすることも出来ずただ見守って死を待つだけだった。また負けるんだ、なんて不甲斐ない終わり方なんだろう)
穂乃果(後十秒でもあれば痛みが引いてまた動けるようにはなるはずだけど、そんなたったの十秒が長くて長くて生き延びるのは絶望的。せめて道連れにでもしていきたいけど、していける手段がない)
穂乃果(……ごめん、絵里ちゃん。せつ菜ちゃん。希ちゃん。)
穂乃果(穂乃果……勝てなかった………)
「待つずらっ!」バンバンバンッ!
理亞「!」シュッ
穂乃果「はな…まる…ちゃん……!?」
穂乃果(信じられない光景だった。穂乃果の一番身近なところにいた人で、この人の事はよく知ってるつもりだったから尚更目を疑ったんだ)
穂乃果(銃を発砲出来ないはずの花丸ちゃんがショットガンを連射してたんだ)
理亞「何…!?」
花丸「あなたの相手はマルずら!」
穂乃果「は、花丸ちゃんっ…はダメだよ…!」
穂乃果(あの姉妹と戦闘を起こす前、このコンテナが多い場所に来た時明らかに罠だと確信し、花丸ちゃんを待機させた。その行動は今振り返ってみれば正解だったと思う、この姉妹との戦いに花丸ちゃんがいたらきっと花丸ちゃんは死んでしまうから)
花丸「食らえっ!」ポイッ
穂乃果(だけど、花丸ちゃんは命を失う恐怖に臆することなく果敢にも攻めた)
穂乃果(近距離特化である希ちゃんのショットガン——AA-12は至近距離でやり合えば相手に反撃の隙も与えない超高火力だ、だから相手を一度引かせて追撃に花丸ちゃんはグレネードを投げた)
穂乃果(そして花丸ちゃんはAA-12を二丁下げて希ちゃんの面影を感じさせてくれる背中を穂乃果に見せた)
花丸「穂乃果ちゃん、マル分かってたよ」
穂乃果「な、何が…?」
花丸「穂乃果ちゃんとせつ菜ちゃんじゃあの二人には勝てないって」
穂乃果「ど、どうして!?だって…うぅ…けほっ…」
花丸「無理しないで黙って聞いてほしいずら、時間も無いし」
穂乃果「………」
花丸「確かに穂乃果ちゃんやせつ菜ちゃんはアンドロイドという枠の中ならトップレベルで性能が良くて強いアンドロイド…だけど最新型アンドロイドは人の子をやめたアンドロイドずら」
花丸「常識に囚われない強さを持っていて、その常識に囚われない強さが何なのかも分からない状態で逃げ道のない殺し合いをしたら死ぬに決まってるずら」
花丸「穂乃果ちゃんたちとあの二人じゃ持ってるカードの枚数が違いすぎるんだよ」
穂乃果「………」
花丸「…だけどマルはそれを言わなかった、だってそれを言ってもプライドが高い穂乃果ちゃんには逆効果だったからね。むきになって冷静に立ち回れなくなっちゃうと思ったずら」
花丸「だから少しは穂乃果ちゃんたちが勝てるかもって期待したけどやっぱり無理だよね、ただ安心して?今回のこの負けは負けには加算されないよ、だって相手が異常すぎるから…」
花丸「————それに、今ここでマルが勝つからね」
穂乃果「…!けほっ…それってどういう————」
花丸「喋らなくていいずら、だけど“最後に”言わせてほしいずら」
花丸「マル、希ちゃんの下に就けたり穂乃果ちゃんやせつ菜ちゃんと戦線を共にする仲間になれて幸せだったずら!」ニコッ
穂乃果「……ぇ?」
花丸「じゃあね、マルいってくるよ」ダッ
穂乃果「え、ま、まっ…ぐっ…けはっ……!」
穂乃果(意味深な事を言って花丸ちゃんはさっきのグレネードで発生した煙の中に突っ込んでいった。動転した気と切羽詰まったこの感情と再発しだす痛みは私の口から汚れたモノを出して花丸ちゃんを追うのを許してくれなかった)
タッタッタッタッ
花丸「………」
花丸(…マルは銃が使えなかった)
花丸(まず第一にトリガーを引くのが怖かった)
花丸(これを引いたら人が死ぬ、そう考えるだけで銃の何もかもが怖くなる)
花丸(でも、銃は好きだった。小さい頃はモデルガンをよく買ってもらったりして遊んでた。だけどマルの家はお寺だったからお寺外で尚且つお寺のイメージを崩さないよう人にばれないよう静かに遊べという決まりはあった)
花丸(…そして第二に、トリガーを引いた後鳴る甲高い銃声と跳ね上がる肩の感覚が嫌いだった)
花丸(銃はカッコいい、けど所詮それは人を殺める道具に過ぎない。普通の人間じゃ回避不可能な弾速で飛び殺されたことに気が付けないまま人が死んでいく、その一瞬で起こる悲劇を見てしまったからマルはトリガーを引くのが怖かった)
花丸(……そしてその悲劇のトリガーを引いたのはマルだった)
花丸(最後…第三に、マルは拳銃で親を殺したことがあるから銃が怖かった)
花丸(…ある日お母さんの買い物ついでに銀行に寄った時だったよ、架空の作品でもよく見る絵に描いたような銀行強盗がやってきて場は騒然で、マルもその騒ぐ一人だった)
花丸(その後は色々あったけど、簡単に言ってしまえば立てこもりみたいな膠着状態になってそこで動いたのがマルだった)
花丸(強盗の数は全員で五人、その五人全員がマルを視界から外した瞬間を狙って一人の男の拳銃を奪った。強盗が持ってた銃はM45 MEUで装弾数は八発、手に持った瞬間それが分かった)
花丸(だからこれで充分と思った、次の瞬間には一秒で二人殺す流れで強盗を全員殺した。モデルガンやエアガンで射撃は飽きるほどした、だから拳銃もエアガンなんかのそれらと感覚は全く同じで放った弾丸は面白いように相手の胸を突き抜けた)
花丸(その時はトリガーを引く感覚が快感でたまらなかったけど、またその次の瞬間にはそれが吐き気になった)
花丸(一人の強盗を貫いた先にマルのお母さんがいた)
花丸(…結果としてその事件の死人は六人だった。強盗五人と————)
花丸(——マルのお母さんが死んだ)
花丸(…マルがまだ子供だったってこともあってその時は正当防衛で認められたけど、その後のマルの生活は酷いものだった。大量の記者が押し掛けるし、学校ではいじめが発生するし、近くの住民からは恐れられるし、とても精神を正常にして生きていくには困難な環境下に陥った)
花丸(だからマルはある日決意したよ、ここを出ようって。小さい頃の弱い頭を使いお小遣いを全部持ってどこか遠くへ行ってしまおう、そうすれば何か変わる。そう思ったずら)
花丸(…だけど現実はそう甘くない、マルの行った先はここ東京。マルの地元静岡から丁度よく離れたところだったからここでいいやって思った。けど如何せんここは危ないところで水準物価もバラバラ、街中には怪しげな人がズラズラ。とても弱いマルが生きていけるところじゃなかった)
花丸「………」カチャッ
花丸(だから次第に残り少ないお小遣いは尽き無一文になって生きるための力を失った、もう静岡へ帰るお金も無くなってしまったから)
『帰るところに困ってるなら、ウチの下に就かない?』
花丸「…ありがとう、希ちゃん」
花丸(そこでマルは運命の人に出逢った。希ちゃんが死にかけのマルを助けてくれた)
『困ったことがあったらこの私にお任せです!』
『花丸ちゃんは情報収集をして、私は花丸ちゃんと希ちゃんの為に殺害をするから』
花丸「…ありがとう、穂乃果ちゃん、せつ菜ちゃん」
花丸(そして希ちゃんとマルのところに来た二人のアンドロイドはとても優しくて強かった。夏は海に行って楽しんだ、冬はこたつにくるまってみかんを食べてた。そんな普通の生活の中でみんなといるのが幸せで幸せで仕方がなかった)
花丸「さて……」スタスタ
花丸(…だけどそれも今日で終わり。これでマルのお話はおしまい)
花丸(続きはもうないからさっさと終わらせるずら)
花丸(エンドロールをね)
タッタッタッタッ
理亞「あなたよくも…ッ!?」
花丸「最悪ずら、せっかく明日かよちゃんのライブに行こうと思ってたのにこんなことしなきゃなんて」バンッ!
花丸(煙が無くなる頃にはもうマルと相手との距離はほぼゼロに等しかった。その中で希ちゃんのショットガンを二丁使って連射する。アンドロイドとはいえ魔法は使えない、だからこのマルと相手にある距離を伸ばすことは出来ない)
花丸「あなたの使ってる銃はミニ UZIずら、軽い分機動力が上がるけど銃から放たれる弾丸の威力の期待値はそこまで無くて人を殺すには充分だけど脅威として認識させるには不充分ずら」
花丸「今ここでそれを撃ってみるずら、弾切れが起こったら今度はマルのショットガンを避け続けるだけのゲームになるね」バンバンバンッ!
理亞「なにこいつ…!」シュッ
理亞「…でもいい、そこまで言うなら撃ってあげるよ」
理亞「人間風情があまり調子にのらないで!」ババババッ!
花丸「はっ!」シュッ
穂乃果「!」
理亜「その靴…!」
花丸「曜ちゃんに貸してもらったずら!」バンッ!
花丸(マルだってそこまでバカじゃない、ちゃんと対策くらいはしてる。けど、これはある意味賭けだった)
花丸(銃弾は避けれても銃弾の射線は見えない、だからどこに避けるかはマルのセンス次第だった)
花丸「後はマルのゲームだね!」バンバンバンッ!
花丸(…そしてその賭けに勝った今、マルのしたいことがようやく出来るずら)
花丸「はっ!」
花丸(マルの本来の戦い方であるナイフを使って相手に吐息が感じれる距離まで顔を詰めた。反撃も何もかもを恐れずにナイフを振れば、それに恐怖を覚える顔を相手はした)
ガキンッ!
花丸「!」
花丸(だけどそんなフルスイングのナイフもたった一つの腕で弾かれる)
理亞「勢いだけは今までで一番すごかったけど、それが私に通るかと言われたら無理だね」
花丸「…知ってる」
理亞「あ?」
花丸「きっと単純な銃の撃ち合いや近接のやりとりじゃどうやってもマルはあなたに勝てない、なら単純なことをしなければいいだけの話ずら」
ガシッ
理亞「っ!?何っ!?」
花丸「はっ!」
花丸(弾かれたマルはすぐに体勢を立て直し相手の腕を掴んで姉の方向へ流した、マル自身あんまり力が強くないからそこまで距離は伸びなかったけど姉の近くにやれただけでも充分)
タッタッタッタッ
花丸「ずらっ!」
花丸(そうして流した妹の方へ突っ走った、相手はすぐに体勢を立て直し“近接”で応戦する準備をしてる。きっとここで相手に弾があったらマルの負け。だけど相手には弾がない————サブとしてハンドガンを持ってない相手には近接でマルの攻撃を対応するしかないんだ)
花丸「これで終わりずらっ!」タッタッタッタッ
理亞「近接なら負けない!」
ギューッ
理亞「…え?」
花丸(近づいた瞬間飛んでくる右ストレートを避けてマルは相手に抱き着いた)
花丸(きっとここにいる誰もがマルの行動の意味を理解してなかったと思う、例え最新型の知能でも、経験を積み過ぎた穂乃果ちゃんでも誰もマルのしたかったことが分からなかったはず)
理亞「…っ!?グレネード!?」
花丸「…これでおしまいずら」
ドカーン!!
花丸(マルが抱き着き相手と密着する中で擦れる丸い物体——それに気付いた時にはもう遅い)
花丸(きっとこのアンドロイドも命が複数ある、なら話は早い)
花丸(爆発物で一気に命を削ればいいだけ)
花丸(でも最新型とは言わずアンドロイドという相手に爆発物を当てるのは至難の業。一対一じゃまず無理、だけどマルはみんなとの戦いにはついていけない、だからこうするしかなかった)
花丸(穂乃果ちゃんでもせつ菜ちゃんでも勝てない相手に勝つ唯一の方法。抱き着くことで私と相手の位置を固定してその間にピンを抜いたグレネード挟む、そうなった時にはどんな抵抗をしてももう遅い。暴れてもマルを殺してももう遅い、遅すぎるずら)
花丸(マルと相手の間で起きた爆発はすぐに私と相手とその近くにいた姉を呑んだ。ただそれだけでこの戦いは終わった)
穂乃果「うそ………」
穂乃果「ウソ…だよね…?嘘だよね…!?」
穂乃果「ねえ!嘘だよね!嘘って言ってよ!ねえ花丸ちゃんッ!!」
穂乃果「………」
穂乃果「そんなっ……!」
穂乃果(目の前で起こった爆発が消えれば無惨な死体が三つ出来上がってた。敵であったアンドロイド二人は中身である部品が出てきててとても見れたものじゃない)
穂乃果「花丸…ちゃん…!」
穂乃果(…だけどこの花丸ちゃんの死体はもっと見るに堪えないモノだった。全身のほとんどが黒く変色して、片腕がもげてもう花丸ちゃんとして原形をとどめていなかった)
穂乃果「…こんなのって」
ポロポロ……
穂乃果(思わずひざをついた。これが勝利?そんなのあり得ない)
穂乃果(これじゃあ何もかもが希ちゃんの時と同じ)
穂乃果(穂乃果はまた大切な人を守れなかったの?)
穂乃果(そう思うと、自分の軍神という異名がイヤになる。なんだ、穂乃果全然強くないじゃん…)
穂乃果「!」
穂乃果(悲しんでれば飛んでくる射線、名前も顔も知らないここの研究員が穂乃果に拳銃を向けてた)
穂乃果「………」
穂乃果(それを見て我に返った。悲しむのは後、今はこのせつ菜ちゃんを持ち帰るのみ。だから穂乃果はすぐに行動に移した)
穂乃果「…こちら穂乃果、聞こえる?」
曜『聞こえるよーどうしたの?』
ことり『聞こえてるよ』
穂乃果「新型アンドロイドの二人はやった、けど……」
曜『けど?』
穂乃果「…花丸ちゃんが死んだ、せつ菜ちゃんは生きてるか死んでるかも分からない重傷だから穂乃果とせつ菜ちゃんは戦線を離脱するよ」
ことり『え、う、うん…』
曜『…そっか、でも悲しむのは後だね。とりあえず了解だよ』
穂乃果「今無線拒否してる絵里ちゃんにも伝えといて」
曜『了解、帰るまでが遠足だよ、最後の最後まで死なないようにね』
ことり『遠足じゃないけどね…』
穂乃果「分かってるよ、それじゃあ」
ピッ
穂乃果「………」
ダッ
~一方その頃、十分前
スタスタスタ
絵里「…Y.O.L.Oってこんな迷路みたいな場所なのね」
ルビィ「迷子になっちゃいそうだね…」
果林『どうやらY.O.L.Oを守ってるアンドロイドは三人じゃなくて五人いるらしいわ』
絵里「四人目と五人目のアンドロイド…本当にいるのかしら」
ルビィ「あまりウソを言ってるようには見えなかったけど…」
絵里「でも入ってアンドロイドどころか人すらいないのよね…」
ルビィ「…曜さんや穂乃果さんたちが荒らしてるからかもね」
絵里「…そういえば他のみんなは何してるのかしら」
絵里「無事だといいけど…」
ルビィ「………」
絵里(あれからして私とルビィは何事もなくY.O.L.Oへ入った。曜とことりには連絡したけど曜とことりはどうやらその四人目と五人目のアンドロイドには会ってないらしくてますます謎は深まるばかり)
絵里(それに私たちのいるところにはアンドロイドどころか人すらいない、意味不明な機械が並ぶだけのこの空間で人一人いない静まり返った雰囲気は実に不気味だった)
ルビィ「…こういう機械も破壊しておいた方がいいんじゃないかな……」
絵里「確かに……」
絵里「じゃあ破壊しときましょうか」
ルビィ「うん、そうしよっか」
絵里(私は曜やことりとは違って爆発物を用意してない。もちろんグレネードはあるんだけどこれは用途がまた違う)
絵里(それにこの辺の機械だけ壊すって言うなら爆発物に頼らなくてもハンドガン一丁で充分。そう考えた私は謎多き機械にハンドガンの銃口を向けた)
「お姉ちゃん?」
絵里「!!」
ルビィ「!」
絵里(そんな時声がした。後ろ——すぐ後ろから聞こえるこの声はどこかで聞いたことがある、随分と久しぶりで心地の良い声。この場所で声が聞こえるっていうのは不気味かもだけど、私にとっては心地の良い声だった)
絵里(その声の人物は————)
絵里「亜里沙!?」
亜里沙「お姉ちゃん!!」
絵里(そこには私の妹である亜里沙がいた。数か月ぶりに見た私の妹は相変わらず可愛くて、家でもよく見る私服姿だった)
亜里沙「お姉ちゃーん!」ダッ
絵里「亜里沙ー!」ダッ
絵里(感動的ではないけど、この再開を嬉しくないと思う私と亜里沙はいない。お互いがお互いの方向へ走り出し、私は一秒でも早く亜里沙の肌に触れたかった)
ルビィ「…!」ダッ
亜里沙「お姉ちゃん会いたかったよー!」
絵里「私もよ亜里沙っ!」
ルビィ「させないっ!」
ガキンッ!
絵里「っ!?」
絵里(私と亜里沙が抱き合う直前、それは当然横から来たルビィが私たちの間に入り亜里沙とルビィの間で甲高い音が鳴った)
ギギギギ……
ルビィ「…その刃物は何?」
亜里沙「………」
絵里「えっ…え?ど、どういうこと…?」
絵里(突然の状況に頭がついていけてなくて混乱を起こす一方で、少し経つとルビィの持つ刃物と亜里沙が持ってる刃物が軋んでるのが確認出来た)
ルビィ「…ルビィの目が正しいならその刃物は明らかに絵里さんに対しての殺意が込められてたと思うんだけど」
亜里沙「………」
絵里「亜里沙…?一体どういうことなの…?」
絵里「! ルビィ後ろへ跳躍して!」
ルビィ「っ! うんっ!」シュツ
バァン!
「あちゃー外しちゃったかー」
絵里(目の前の出来事が私の頭の中で段々と整理されていき、その答えが見えると私の心臓が大きく悲鳴を上げだした。そんな中で見えた射線はルビィの頭を貫いてた)
ルビィ「くっ……」
絵里(私の警告が後少しでも遅かったらルビィは死んでただろう、逃げ遅れたルビィの可愛らしいツインテールの一つが銃弾によってほどけた)
絵里「…亜里沙、説明しなさい。これはどういうこと?」
亜里沙「………」
亜里沙「はーあっこれでお姉ちゃんはやれると思ったんだけどなー」
絵里「…!」
絵里(私の妹である亜里沙から出る言葉は絶望への一言だった。無邪気な亜里沙が今とんでもないことを口にした、それを聞くだけで全身が震えて吐き気がする)
ルビィ「…やっぱりあなたたちなんだ」
ルビィ「ここの四人目と五人目のアンドロイドって」
亜里沙「そう、でも普段はこんなところこないよ、来たくないもん」
亜里沙「でも最近は色々ありすぎて私たちはいつもここで寝泊まりだったよ」
絵里「………」
ルビィ「絵里さんしっかりして…」
絵里「え、ええ……」
亜里沙「安心してお姉ちゃん、亜里沙とお姉ちゃんは姉妹————殺すことはしないよ」
亜里沙「半殺しで済むから」
絵里「………」クラッ
ルビィ「絵里さんしっかり!」
絵里(これは夢よ、夢なのよ)
絵里(そう信じたくて目を瞑っても世界は変わらない。戦いが辛いことばかりなのは知ってる、けどこんなの聞いてない)
絵里(私が最も信頼してる存在から裏切れた)
絵里(その真実が——事実が辛すぎて目眩が止まらない。私の本能がこの現実から逃げようとしてる)
「…私、あまり一方的な戦いは好きじゃないんだけど」
亜里沙「いいよ、お姉ちゃんは亜里沙がやるからあの人をやってよ——」
亜里沙「————雪穂」
雪穂「分かってるって、すぐに片付け…られればいいんだけどね」
ルビィ「…あなたは相手を舐めてかからないんだね」
雪穂「真剣勝負が好きだからね、下に見るなんてダーティーなことはしないよ」
絵里「……ルビィ」
ルビィ「! 絵里さん大丈夫?」
絵里「…ええ、なんとか。ルビィは亜里沙じゃないほうをやって。私は亜里沙をなんとかするから」
ルビィ「分かったよ、でもみねうちとか考えてるんだったらそれはやめたほうがいいよ…そんな余裕は絶対にないよ」
絵里「……覚悟してるつもりだわ」
絵里(現実はイヤでも変わらない)
絵里(私がレジスタンスとなってから今に至るまでいっぱい現実から逃げたくなる出来事があった、それと比較すればこの一件もその一つに過ぎない。いくら現実がイヤになってもそのまま一方的に殺される運命を辿る私はどこにもいない)
絵里(このアンドロイド隔離都市東京を変えたくて私は動いてるのよ、何があったって死ぬまでは挫けちゃいけない)
絵里(…峰打ちなんて甘いことを考えてるわけじゃない、けど亜里沙と戦うのにまだ覚悟は足りてない。だけどここまで来て絶望には負けたくない)
亜里沙「…行くよ、お姉ちゃん」
絵里「……ええそうよね、行かなくちゃよね」
絵里(…結局私と亜里沙の関係も銃弾で語るのね。いくら私の敵とはいえ亜里沙は私の妹、そんな亜里沙も私と戦う事には覚悟と躊躇があるように見えた)
絵里(でも、お互い譲れない思いがある。それに従って今ここで最悪の戦いが始まるのでしょう)
絵里「………」
カチャッ
絵里(覚悟を決めた私はスコーピオンEVOを手に持った)
絵里(横を見れば既にルビィと雪穂って子が戦っててこちらも数秒後には戦いが始まるらしい)
千歌『果南ちゃん! っあ……』
善子『…ぁっ!?』
果南『あ…れっ……?』
絵里(…私の始めた戦争でもう三人死んだ。だからその死を無駄にはしたくない)
絵里(元はといえば私は亜里沙の姉————姉である私が妹に負けるわけにはいかない)
絵里(可愛い姿だけど、強さはきっと並外れたモノだ。だからそう——)
絵里「————お手並み拝見と行きましょうか」
絵里(そう言い鳴らす始まりの合図。スコーピオンのトリガーを引けば亜里沙は跳躍をするんだけど穂乃果や果南ほど跳躍は鋭くないしその時の亜里沙の顔は苦しそうで他の新型ほど余裕が感じられなかった)
絵里「リロード! ルビィ!」
ルビィ「任せてっ!」ドオーン!
亜里沙「くっ…」シュツ
絵里(ルビィに宿った才能は全部で四つあった)
絵里(一つは射撃術、一つは空間認識能力、一つは近接戦闘センス)
雪穂「私と戦ってる合間に…!しかもスナイパーで…」
ルビィ「出し惜しみなんて器用なことルビィ出来ないから」
絵里(そして最後が親譲りの判断力よ)
絵里(黒澤家は銃が主流の現代でも剣術を嗜むところよ、私は武道をよく知らないから何とも言えないのだけど武士は迷わないらしい)
絵里(それは死ぬことも厭わぬ覚悟を持った行動を常に行うという意味であり、ルビィは私の声を聞き多少の無理をしてでも亜里沙へスナイパーの発砲を行った。ルビィの百発百中の腕前とこの肯定まっしらぐらな判断力は相性が良すぎる)
絵里(…正直、私たちレジスタンスの中で一番強いのは穂乃果でもなければ曜でもなく)
絵里(ルビィなんだと思う)
絵里(…少なくとも私はルビィを敵に回したら勝てる自信がないわ)
絵里「はっ!」バリバリバリバリ!
亜里沙「んっ!きつっ…!」
雪穂「亜里沙!」
亜里沙「きっ…」シュッ
絵里(物陰やアンドロイド特有の瞬発力でスコーピオンの弾を回避するけど、それでも私の放つ銃弾は亜里沙の皮膚を剥いでいく。腿、腕、横っ腹、頬と様々なところから赤い涙が出てきているのが確認出来た)
亜里沙「亜里沙だって負けてないよお姉ちゃん!」ドドドド!
絵里「ええっ!でも曜や凛と比べたらまだまだね亜里沙っ!」ダッ
絵里(向かう射線は随分と分かりやすいもので、私の頭に一直線だった。亜里沙がトリガーを引けば私に銃弾が飛んでくるんだけどそれも変則撃ちでもなければ偏差撃ちでもないただ動く私へ向けての射撃)
絵里「…?」
絵里(…あれ?私今Y.O.L.Oを守るアンドロイドと戦ってるのよね?)
絵里(なんだろう…亜里沙の行動があまりにも普通すぎて何かおかしく感じてしまう)
絵里「接近戦はどう?亜里沙!」ブンッ!
亜里沙「全然いけるよ!」シュッ
絵里(腰にかけてたマチェットを横に振れば亜里沙は姿勢を低くして回避する、そして次に亜里沙がやるのは私のお腹に向かっての掌底だった)
絵里「!!」
絵里(…なんだろう、この既視感。どこかで見たことある気がする)
絵里(なんでか分からないけど、でもこれは気のせいじゃない。絶対にどこかで見たことある)
絵里「ふっ」
絵里(…まぁ何はともあれ私はその掌底をヒット直前に、両手で手首を掴むことで止めた)
絵里「随分と分かりやすいのね!」ドカッ!
亜里沙「がっ…!」
絵里(そしてお返しとして間髪入れずにお腹に向かって飛び膝蹴りで亜里沙を後方へ吹っ飛ばした)
亜里沙「うっ…げほっ…」
絵里「………」
絵里(跳ね飛ばされ機械に叩きつけられだらしなく涎を垂らす亜里沙を見ると心が痛くなる。愛すべき妹を痛めつけてるというのだからとてもそこで普通にしてはいられない)
絵里「…亜里沙?もうやめにしない?きっと他の道があるはずよ、私と亜里沙は戦うべきじゃないでしょ?」
亜里沙「おね…げほっ……お姉ちゃんが降伏してくれるならそうだね、戦うべきじゃない」
絵里「……それは無理ね」
亜里沙「ならこの話は無しだね、亜里沙がY.O.L.Oを守るアンドロイドで、お姉ちゃんがそれを倒すべく動いてるなら亜里沙とお姉ちゃんは一生敵のままだよ」
絵里「………」
亜里沙「にしてもお姉ちゃんは強いね、亜里沙びっくりしちゃったよ」
亜里沙「亜里沙一応戦闘型アンドロイドなのに押され気味でどうしようって今必死に考えてるんだよ?」ウーン
絵里「…!」
絵里(…そうだ、亜里沙は戦闘型アンドロイド。なのにどうして動きがこんなにも鈍いの?)
絵里(確かに戦闘型アンドロイドは強さに個体差がある、けどそれ以前にこれじゃあY.O.L.Oを守るどころか自分を守ることすらできない)
絵里(それに亜里沙は私より後に生まれた私より性能の良いアンドロイド、なのになんでこうも私が一方的に勝ってるの?)
絵里「…いいわ、なら再開しましょう。待たせてたら向こうでやってるルビィに申し訳ないからね!」ダッ
絵里(こうして会話をして亜里沙の体力が回復するのはよくない、決めるなら即行——これに限る。だってその方が亜里沙が苦しむ姿を見ずに済む)
タッタッタッタッ
絵里(走りながら弾倉に約20発残ったスコーピオンの銃弾を放つ、連射するとすぐに弾がきれるけどその短い時間で近づければ何の問題もない。私の中で攻めるなら近接と亜里沙への戦い方が決まってるからね)
絵里「はっ!」
絵里(亜里沙へ近づいた私は上段回し蹴りで一気にノックアウトを狙った)
亜里沙「それくらいなら亜里沙も躱せるよ!」
絵里「ええ、そうよね」
絵里「だからこそそれは読めてたわ」
絵里(私の上段蹴りに対して亜里沙はしゃがみの一手、だけどそんなよく見る回避の仕方をするんならこっちにだって対処法がある)
絵里「こっちは躱せるかしらッ!!」
絵里(躱された直後に後ろ回し蹴り——亜里沙がしゃがんだ直後だったから狙わずとも私の蹴りは亜里沙の頭に当たる)
亜里沙「ッ…!」クラッ
絵里(多少の躊躇はあったけどそれでも強烈だった私の蹴りは亜里沙に脳震盪を与えた。戦闘型アンドロイドの戦闘センスとも言われるモノは頭に蹴りを食らっても切り返しの早さと絶妙なバランス感覚で倒れないけど、脳震盪による怯みは避けれない)
絵里(片手で頭を押さえる亜里沙を見れば勝利はほぼ確実だった、次に私はマチェットを取り出して心臓目掛けてマチェットを突き出した)
亜里沙「んくっ…!」シュッ
絵里「!」
絵里(でも亜里沙は苦し紛れに横方向への跳躍を行い私の突き刺しを躱し、頭を押さえながらもう片方の手に持ってたサブマシンガンのトリガーを引いた)
絵里「浅いわね…」
絵里(しかし思わず言葉に出してしまうほど亜里沙の射撃は拙かった、脳震盪で麻痺してるのは分かる。けどいくらなんでも動かなくて大丈夫っていうのは少しまずい気がする)
絵里「…もういいわ」
絵里(これ以上亜里沙の苦しむ姿を見たくない。だからもう楽にしてあげようと思った…いや、峰打ちで済ませようと思った。これくらいの相手なら峰打ちだって可能なはず、だからスコーピオンのリロードをして亜里沙に向かって走ればばらつく射線が飛んでくるけどほとんどが回避する必要のない射線でその射線をかいくぐりながらスコーピオンで亜里沙の足元に向かって発砲した)
亜里沙「んっ…」シュツ
絵里「! また……」
絵里(そろそろ脳震盪の影響も軽くはなると思うんだけど、それでもまだ目眩とか起こるはず、それなのにスコーピオンの弾をなんとか回避して機械の物陰に隠れてみせた。やけに粘るわね…)
絵里「隠れても無駄よ!」
亜里沙「そんなの分かってる!」
絵里(でも隠れて場が膠着するほど緊張感はない、あるのはむしろ緊張感を切り裂く戦いへのボルテージだ。その熱に巻かれた私は隠れた亜里沙の元へ突っ走って跳躍と同時に決め撃ちをした)
亜里沙「えいっ!」ポイッ!
絵里「甘いっ!」
ピカーン!
絵里「くっ…」
絵里(私と亜里沙が目が合う頃に飛んできたスタングレネードは私のスコーピオンで跳ね飛ばした、けど着弾と同時に強い閃光を辺りにばらまき一時的に私と亜里沙の動きを止めた)
タッタッタッタッ
亜里沙「そこだ!」
絵里「っ!?亜里沙っ!?」
亜里沙「亜里沙だってやれば出来るんだからねッ!」
絵里(だけど閃光の中で私の元へ突っ走ってくる亜里沙に焦らずにはいられない、足を止めるほど眩い閃光の中でどうやってここまで来たのか確かめるために腕と腕の隙間から前を見れば亜里沙は目を瞑ってた。だから音だけでここまで来たんだろう)
亜里沙「まずは一撃っ!」ドカッ!
絵里「っ……けはっ…」
絵里(ゼロ距離で姿を現した亜里沙を前に回避の術はなくて、未だに私の視界を奪う閃光に腕を奪われ無防備な私のお腹に入る強烈なパンチはとても可愛い亜里沙からは想像できない威力だった)
絵里(しかしそれで倒れてなんかいられない、痛いなんて感じていれば次の瞬間には上段回し蹴りが飛んできてそれを回避するためにしゃがめば追撃に後ろ回し蹴りが飛んできた)
絵里「ッ…!!」
亜里沙「今度は亜里沙のターンだね!」
絵里(…なんだろう、この違和感。亜里沙の蹴りは私の頬にヒットし頭にダメージが入りさっきの亜里沙と同じように脳震盪を起こした。けどそんな中で感じるこの何とも言い難い感覚は何?)
絵里(ここまで戦って亜里沙はそこまで強くないと思った、けど後一歩——殺すまでがなぜか遠く感じる。それは殺すことへの躊躇いとかではなく後一歩のところで亜里沙が謎の粘りを見せてくるから中々仕留められない)
絵里(それに違和感はそれだけじゃない……でも、その違和感が何なのかが全く分からない。亜里沙と戦ってると何かがおかしいと感じる、でもその正体がずっと掴めないままでいる)
亜里沙「亜里沙は耐えたんだもん!お姉ちゃんも耐えてよね!」
亜里沙「雪穂!手伝って!」
雪穂「はいはいっ」バンッ!
絵里「くっ…!」シュッ
絵里(亜里沙とは別に雪穂から飛んでくる銃弾を苦し紛れに躱した、けどここで私はイヤな感覚を覚える)
絵里「あっ…」ズコッ
絵里(跳躍の着地際で酷い目眩が起こり私のバランス感覚が決壊した。その結果目眩と相まって立ってるのが困難になり這いつくばるような状態で私は倒れた)
亜里沙「チャンス!亜里沙のヒッサツの一撃をお見舞いしてあげる!」ダッ
絵里(すぐに起き上がろうとしながら後ろを振り返れば刃渡り十数センチのナイフを両手で持った亜里沙が宙に浮いていて死のタイミングが近いと察した)
絵里「…!!」
絵里(まただ、この違和感。なんなのかしら……)
凛『これは凛の全てを込めたお返しだよッ!!!』
絵里「…見たことある」
絵里「その攻撃は見たことあるッ!!」バンッ!
亜里沙「っ!?」
絵里(酷い既視感だった。記憶を辿った時に見える凛のあの時の姿と今の亜里沙の姿は酷似してる)
絵里(それ故に、私は一方的にはやられなかった。一回見たことがあったから対処法が分かった、ほとばしる違和感からの解放感が私の脳震盪を一瞬でかき消した。目眩が消えた瞬間定まる亜里沙への心臓のフォーカスに私は銃弾を放った)
亜里沙「っ!でもこれならっ!」ブンッ!
絵里「!!!」
果南『でも私相手じゃ“いつも通り”は通用しない!絵里には絶対に戦ってもらうよ!』ブンッ!
絵里「またっ…!」
絵里(まただ。宙に浮く亜里沙は咄嗟に体を捻り横方向へ高速回転し、空中で体が横方向へ動く慣性を作り銃弾を回避した、そしてその慣性を利用して横方向にもう一回転し、振り向きざまに既に持ってたナイフと回転途中腰にかけてた二本のナイフの計三本を指と指の間に挟んで投げてきた)
絵里(そうして感じるのは回避の意識ではなくて激しい既視感。ナイフを投げるまでの行動は違えど投げる時の姿は果南そのものでそんな姿を見れば飛んでくるナイフを見ずともナイフの場所が分かってしまう)
絵里「ならこうすればよかったのね果南!」
絵里(あの時は暗かったのもあって超すれすれで避けた、けど一度見た後だとこの時の対処法が自然と浮かんでくる、分かっている)
絵里(飛んでくる三本のナイフに対してする行動はこうよ)
絵里「銃に比べたら弾速が遅すぎるわね!」ズサー
亜里沙「なんでっ!?なんでそれを避けれるの!?」
絵里(スライディングで躱す、きっとあの時もこれで対処して発砲していれば私は勝っていただろう)
絵里(そしてそうと分かってるこの状況ではこのフィールドは私のモノ。スライディングと同時に残弾数10発のスコーピオンを発砲、そうすればどうなったかしら、その銃弾は亜里沙の胸を————)
亜里沙「まだ終わってない!」
絵里「それはっ…!」
絵里『まだ終わってないッ!』
絵里「………」
絵里(あの時の私と全く同じだった。丁度左手がハンドガンがかけてある左腰にあったのを良いことに、着地際で右へ跳躍し左方向へハンドガンを発砲。そうすれば“あの時”と同じように跳躍にブーストがかかりその後の着地は困難なものにはなるものの銃弾は避けれるモノへと変わる)
亜里沙「ぐっ…」
絵里(跳躍した後の展開も私と全く同じだ、力んだ顔が固まって背中から地面へと不時着した)
絵里「亜里沙…!」
亜里沙「はぁ…はぁ…はぁ…」
絵里「…一つ聞いてもいいかしら?」
絵里(しかし私は追撃にいかなかった、亜里沙が起き上がる時間にスコーピオンをリロードして亜里沙の息が落ち着くのを待った)
絵里(…それが舐めた行動だったとか慈悲だったとかそういうのではなかった)
絵里(死人に口なし————ここで知っておきたいことを知る為に私は今亜里沙に問う)
亜里沙「はぁ…はぁ………何?」
絵里「…今のハンドガンで跳躍にブーストをかける技術、どこかで学んだの?」
亜里沙「まさか、亜里沙のアドリブだよ。いくら相手が亜里沙より強いお姉ちゃんとはいえこんなすぐには終わりたくないもん、だから例え無理だとしても強引にやらなきゃお姉ちゃんには勝てないよ」
絵里「………」
亜里沙「それに諦めたくないんだよ、最後の最後まで抗ってカッコいいままでいたい」
亜里沙「一人の妹として、お姉ちゃんに負けたくない」
絵里「…そう」
絵里(…ダメ、何も分からない。何か掴めそうだったにも関わらず掴めたのは疑問符だけ、こんなことなら追撃すればよかった————なんて言うわけじゃないけどリターンが無さすぎるのは何とももったいない気持ちになる)
絵里「…ふぅ」
絵里(しかし切り替えは大事、こんな相手にチャンスを与えるような甘いことをしてるけどこれは遊びなんかじゃない、正真正銘の殺し合いなんだから次に放つのは私の言葉じゃなくて殺意のこもった銃弾でしょう)
ルビィ「隙ありっ!」バァン!
絵里(小休止する亜里沙に飛んでくるのはルビィのスナイパー弾、スナイパーにとって——いや、銃火器を持つ者にとって動かない相手はただの的。不意をつけばそれに反応してすぐさま対応しないといけなくなるので余分な体力を使わせることが出来るから当たっても当たらなくても出し得だったでしょうに)
絵里(…でも、次の瞬間は何かがおかしかった)
亜里沙「それはさっき見た!」シュッ
バンッ!
ルビィ「っ!?」シュッ
絵里「ルビィ!」
雪穂「ナイス亜里沙!私も負けてられないね!」ババババッ!
ルビィ「この子……!」ダッ
絵里(アンドロイドは射線が見えるとはいえ完全な不意打ちだった。それなのに亜里沙は回避と同時に射撃という完璧な対応をしてみせた)
絵里(これにはルビィもビックリしてた上に、回避もかなりギリギリだった。これは曜の跳躍ブーストの靴がなければおそらくルビィは死んでたでしょう)
絵里「…いや」
絵里(…違う、そんなことを言いたいわけじゃない)
絵里(今一番焦点を当てるべき点はどう考えても————)
亜里沙『それはさっき見た!』
絵里(——亜里沙のその驚異的な対応力だろう)
絵里(見たかも怪しいくらいの攻撃を一回で回避し、攻撃に転じるまでした。最初こそ予想を大きく下回る実力に浅い考えが出てきてたけどこの潜在的な力には少し目を配る必要がありそうね…)
絵里『その攻撃は見たことあるッ!!』
絵里「……あれ?」
絵里(待って、違う。見たことある、その亜里沙の様さえも見たことがある)
絵里(一度見た行動を次見た時には完璧な対応で対処するその様……)
亜里沙『今度は亜里沙のターンだね!』
絵里(それにあの亜里沙の上段回し蹴りからの後ろ回し蹴りは私が最初にやった攻撃……)
絵里『こっちは躱せるかしらッ!!』
絵里(さっき私がやった攻撃パターンにそっくり……)
絵里「…!!」
亜里沙「…?」
絵里「A-0613…!!」
絵里(いや分かってた、亜里沙の識別コードくらいはね。でもそうよ、識別コードの英語の次の数字が0だとそれは誰かの後継機とされていて、その後継機のオリジナルは0の後のコードと花丸は言っていた)
絵里(それに従えばもちろん亜里沙は私の後継機になる、私のコードはF-613——亜里沙のコードはA-0613…それが何を意味するのかといえば)
絵里(私と亜里沙は同じなんだ、やることや特徴、そして性能が)
絵里「!!!」
亜里沙「…お姉ちゃん?」
絵里(あぁ…まずい…気付けば気付くほど新たな真実が見えてくる)
千歌『絵里さんは何かやってたんですか?武術とか』
絵里『んー特にそういうのは』
真姫『じゃあ生まれつきであんな動きが出来たってこと?』
絵里(…そうよ、そうじゃない。私は標準型アンドロイド、なのに戦闘型アンドロイドや対アンドロイド特殊部隊の人間と戦える。それは何故?何故なのか?)
曜『標準型アンドロイドなのに、どうして戦闘型アンドロイドや高い戦闘力を有した人間と戦えるの?』
絵里(…その答えは)
絵里(私が今まで色んな人の戦いを見てきたから色んな人の戦法や武術が使えるんだ)
絵里(…それは銃を持つことになったこのレジスタンスの一件で私の強さは一気に加速したのよ)
ことり『強くてごめんねっ!』
絵里(ことりの中国拳法やアサルトライフルの射撃術)
希『あなた面白いやんねっ!』
絵里(希のショットガン裁きや手品のような技術)
曜『ふふふっ分かってるよ、あなたがそれをやるのだって』
絵里(曜の体術や先読みの意識)
凛『躱さないでちゃんと受け止めてよ!』
絵里(凛の本能的な動きやアクロバティックな身のこなし)
果南『スコーピオンなんて怖くないね!』
絵里(…果南のクライミング術や強引なその姿勢)
絵里(…なんで私気付かなかったんだろう、真似してみたら出来たとかそんな人が持ってる技術を簡単に真似出来るわけないじゃない………)
絵里(ことりの中国拳法も曜の先読みの意識も、凛のアクロバティックな身のこなし希のショットガン裁きも試したことないけどきっと使えるんだろう)
絵里(…だって見たことあるもの)
果南『絵里は色んな面を含めて最強なんだよ?絵里もよく考えてみてよ』
絵里(…あの時、果南はそう言った。そうよね、悔しいけど、認めたくないけど今なら肯定できるわ)
絵里(だって…だって……)
絵里(例えば私に、一度見た動きをコピー出来る機能なんかが搭載されてたら最強の他なんでもないでしょ?)
絵里(…私がアンドロイドである故に銃弾を回避し、窮地に立たされてもそれをなんとか出来る術がある。物事を数値化出来る、ピンチ脱却ルートを知ることが出来る)
絵里(だから格上でも粘れる、そうして粘った間に見た動きをコピーする)
絵里(そしてそれをすぐに自分のモノにする)
絵里(…つまり私、人間じゃない)
絵里(人間を元に造られたアンドロイドだ、でも人間じゃない……)
絵里(私は人を模して造られたアンドロイドじゃない!)
絵里「あ、え、あ……え…?えっ……?」
亜里沙「お、お姉ちゃんどうしたの…?」
絵里「あぅ…あ…うっ…」
絵里(上手く言葉が話せなかった。自分が何者なのか、それを知った途端私という存在が怖くなった)
絵里(市民権を得るために、人間と平等でありたいと願って色々起こしたというのに私が人間として設計されてないんじゃ千歌も善子も果南も、そしてにこも凛も海未も希って人も全て全て死んだ意味がない)
絵里(私が引いた始まりのトリガーは相対的にも直接的にも様々な人を殺した、その中で私自身がクロとなるの?)
絵里(私、何の為に戦ってるの?)
ポロポロ…
亜里沙「な、なんでお姉ちゃんが泣くの?ねえなんで?」
絵里(アンドロイドであり、多少人間より優れた点があるというのを考慮した上で私は人間であることにこだわりを持っていた。例えばそれは日常的に人間らしい——高校生らしい会話をして過ごしたり、一緒にお昼を食べたり)
絵里(例えばそれは、誰かと恋愛をしたり。例えばそれは、誰かとゲームで遊んだり)
絵里(例えばそれは、色んな面で優れた私が悪い行いを正す非人道的行為を無くす正義でありたかった)
絵里(標準型アンドロイドという人間に最も近いアンドロイドだったけど私は戦えた、だから戦った。でも、そうなのね、その正義感溢れる戦いすら私は八百長をしてたのね)
絵里(そう気づいた瞬間、冷めた。生きる?戦う?ううん、全てに対する熱を失った)
カチャッ
亜里沙「っ!?お姉ちゃん何してるの!?」
雪穂「!」
ルビィ「絵里さん…!?」
絵里(恐怖が混乱を招き、混乱が絶望を招く。絶望が退廃を招き、退廃が死を招く)
絵里(その場にいる全員が戦うことをやめて私に注目を集めた)
絵里「……ごめんなさい、ルビィ。そして亜里沙」
絵里(スコーピオンを手放して、腰にかけてたハンドガンの銃口に私の頭に当てた)
絵里(目を瞑るとより鮮明に感じる射線にはもう何の恐怖もない。今まであんなに必死に当たらないようにと避けてたのに、こんなにも潔く射線を貫かれる私がいるんだ。正直驚いた)
絵里「…こんな弱い私を許して」
絵里(そこからは時が止まった、世界が動かなくなった。真空に包まれたみたいに音が聞こえなくなって、まるで私が絵本の一ページであったかのように動かなくなった)
絵里(その中で微かな動きを見せる赤く染め上げられたその記憶は一体どれだけ禍々しかったんだろう、今となってはもう分からない)
絵里(…次にその世界はどんな動きを見せるのかしら、それももう分からない)
絵里(…ただ、きっと次この世界で最初に鳴る音はこんな音でしょう————)
バンッ!
絵里(——終わりのトリガーの音)
今日はここで中断。
再開は明日か明後日にします
~
梨子「…はぁ」
果林「ちょっとまた私の溜め息吐かないでよ」
梨子「……そりゃあ吐きたくなりますよ」
果林「ええそうね、吐きたくなるわね」
歩夢「次はどういう手で来る?」
果林「死なないわねこの子」
梨子「死にませんね」
果林「どうする?」
梨子「私にどうするって言われましても……」
果林「完璧に開き直ってるわね、撃たれても死なないことを良いことにグレネードにだけ当たらないようにしてる」
梨子「銃が銃として機能してないですね」
果林「ええ、というか一つ聞いてもいいかしら?」
梨子「なんですか?」
果林「なんでさっきからそんな冷静なの?もっと“どうすればいいんですか!?”とか“これじゃあ私たち負けちゃうじゃない!”とか言わないの?」
梨子「私にそう言ってほしいんですか?」
果林「そりゃあ言ってほしいわよ、年中不敵な笑み浮かべて変な事考えてる梨子が切羽詰まったセリフ言ってたら面白いじゃない」
梨子「…果林さんも充分冷静ですよね、無感情」
果林「えぇ酷い、私も一応人間なのよ?」
梨子「一応って何ですか…」
果林「人殺すのに慣れちゃうとその刺激を上回る出来事が無くなって大して驚くことがなくなっちゃうのよね、最近の悩みだわ」
梨子「銃で撃たれても死なないってすごい驚くところだと思うんですけど…」
果林「死なない生き物自体は既にいるしそれがようやくアンドロイドにも行き渡ったって考えると案外すぐに受け入れられたわよ、鞠莉から初めて聞いた時は驚いたけど…あ、これ内緒ね♪」
梨子「あ、はい……」
曜「…何してるの?」
歩夢「!」
果林「あら、曜じゃない」
梨子「曜ちゃん!!」キラキラ
曜「誰かがべらべら何か言ってるなーって思って来たらまさか梨子ちゃんと果林さんがいるなんて…」
ことり「………」カチャッ
曜「いいよことりちゃん、銃を下げて」
ことり「えっ…でも…」
曜「いいよ、なんか状況的に今は敵じゃないっぽいから」
梨子「…誰その女」
曜「…あ、やっぱり敵かも」
果林「こんなところで会うなんて奇遇ね、そっちの調子はどう?」
曜「バッチリ…と言いたいところだけど絵里さんとルビィちゃんの連絡が取れなくて困ってるところだよ」
ことり「………」
果林「絵里?絵里なら四人目と五人目のアンドロイドを倒しに行ったわよ」
曜「四人目と五人目のアンドロイド…」
果林「Y.O.L.Oには三人のアンドロイドがいるのは知ってるでしょ?それとは別に実は四人目と五人目がいるらしいの、元々絵里とルビィって子は今そこにいる不死身のアンドロイドと戦う予定だったんだけど私と梨子が役を変わってその四人目と五人目のアンドロイドを倒しに行ってもらったわけ」
ことり「……最低」
果林「え?なんで?」
ことり「もしその話が本当なら絵里ちゃんたちは今頃あなたの実験体にされてるわけじゃん、何の情報も出てないアンドロイドを相手するより不死身って分かってるこのアンドロイドを相手にする方が勝率はいいでしょ?しかも人数の有利を取れるし」
果林「…別にそんなつもりはなかったのだけどね。鞠莉が一番危険視してたのはこのアンドロイドだったからこいつをやれって言われただけなんだけど」
梨子「…一つ言っていい?」
曜「ん?何?」
梨子「曜ちゃんには悪いんだけど…その絵里さんとルビィちゃんって子、連絡取れないんだよね?」
曜「えっうん」
梨子「それって————」
梨子「——死んでるんじゃないの?」
ことり「黙って」カチャッ
曜「…そうだね、ごめん。今はそれを言わないでほしい」
梨子「……ごめんなさい」
果林「………」
果林(あの梨子がナチュラルに謝った…)
果林「…私ことりのこともよく知ってるわ、やけにプライドが高い一匹狼だったからね。対アンドロイド特殊部隊に所属してからはイヤというほどことりという名前を聞いたわ」
果林「そんなことりが背中を追いかけ、曜までを従わせるその絵里ってやつは何者なの?」
曜「…希ちゃんの寛容さと鞠莉さんに似た意志を持った人かな」
果林「うわなにそれ最強じゃない」
曜「そう思うでしょ?」
果林「なるほど、絵里というアンドロイドがよく分かったわ」
ことり「分かったんだ……」
果林「…なら曜とことりがやるべきことは一つでしょ?」
曜「…うん」
曜「絵里さんのところへ行く」果林「絵里のところへ行く」
梨子「………」
果林「答えが出てるなら早く行ったら?しんで……おっとごめんなさい、なんでもないわ」
曜「あははっ果林さんが気遣ってくれるなんて珍しいね」
果林「私も人間だからね」エッヘン
梨子「一応をつけろ一応を」
果林「先輩に向かってその口の利き方は何かしら?」
梨子「はいっ!ごめんなさい!」
ことり「……漫才?」
歩夢「というか私を置いて話を進めないで…」
果林「あららごめんなさい、じゃあやりましょうか」
カチャッ
果林「最終ラウンド————そろそろいたちごっこも飽き飽きだわ」
曜「…じゃあ私たちは行くね」
果林「ええ、行ってらっしゃい」
曜「…勝ってね」
果林「えっ?う、うんもちろんよ!」
梨子「何戸惑ってるんですか…」
曜「じゃあ行こう、ことりちゃん」ダッ
ことり「うんっ」ダッ
梨子「はぁ…最悪」
果林「何がよ?」
梨子「曜ちゃんに距離置かれた…」
果林「自業自得じゃない」
梨子「…それは素直に認めます、だからこの怒りはあなたにぶつけるよ」
歩夢「…そんなとばっちりなんだけど」
梨子「…それについてはごめんと思う、だけど私とあなたは敵同士、戦って勝負を決めよっか」
果林「なんかやけにやらかくなってない?気のせい?」
梨子「気のせいですよ、やりましょうよ」カチャッ
果林「…気のせいじゃない気がするけどまぁいいわ、やりましょうか」
歩夢「望むところ!」
果林「……梨子、仕方ないけど対絢瀬絵里用にとっておいたEMPグレネードを使いましょう」
梨子「え、いいんですか?」
果林「さっきの曜とことりを見て絢瀬絵里は私たちの敵ではないことを確信した、もちろん私たちが絵里とその愉快な仲間たちを殺しに行けば敵になってしまうんでしょうけど、攻めない限りは敵じゃない」
梨子「……分かりました、でも本当にいいんですか?曜ちゃんが味方じゃないからEMPグレネードは量産できないので数が限られてくる。果林さんが敵じゃないとはいえ、未来なんて予想できるものじゃないですし、万が一あの金髪美人のアンドロイドや穂乃果ちゃんと戦うことになった時、有効手段が無くなって厳しい戦いを迫られると思うんですけど」
果林「…その時はその時よ!」
梨子「何も考えてないんですね……」
果林「いいじゃない!絵里だって穂乃果だって死ぬのよ?それに対してこのアンドロイドは死なない、つまりEMPグレネードはこのアンドロイドを殺す為にあるの、つまりはそういうことよ」
梨子「…はぁ、分かりましたよ」
梨子「じゃあ————」
梨子「——私は先に行かせてもらいますね!」
果林「ええ!私も続くわ!」
果林(サブマシンガンを持ち果敢に突っ込む梨子の背中を追った、曜に距離を置かれたせいか、それとも何かが梨子の奮いを立たせたのかいつにも増して梨子の踏み込みは強くやる気に満ち溢れているようだった)
梨子「はぁっ!」バババッ!
歩夢「ほっと」シュッ
果林(工夫も何も施していない銃弾はアンドロイド相手には利かない、でもいいの。EMPグレネードを使うと決めたなら銃弾なんか当たらなくていい、避けさせることに意味があるのだから)
タッタッタッ!
果林「梨子!カバーよろしくっ!」
梨子「任せてください!」
果林(そうして梨子の背中から飛び出して避けた直後の相手に接近戦を仕掛けた、EMPグレネードは貴重よ、だから使うなら絶対にEMPグレネードが当たる状況に使わなきゃいけない、その為に準備を今からしようじゃないの)
果林「せいっ!」
歩夢「よっと、まだあのぶどう色の髪した人の方が鋭い近接攻撃持ってたよ!」
果林「生憎私は近接戦闘を得意としていないのよっ!」
果林(私はダイヤや梨子と比べて近接戦闘に対する理解が乏しい為に、とりあえず適当に回し蹴りをして何かアクションを待つことにした。この相手がアンドロイドだろうと人間だろうと、流石にこんな浅い私の蹴りは当たらなかっただろうけど、基本的に私の攻撃は当たらなくていいのよね)
梨子「もらったぁー!」
歩夢「何っ!?」
果林(————だって、私より優れた仲間がいるんだもの)
果林(梨子はアンドロイドに親を殺されてからアンドロイドを殺すことしか考えてないような狂ったやつよ、そのせいで名誉も称号も何もかもを必要とせず、ただ貪欲に強さだけを求めてきた)
果林(だからこそ梨子はまだ気づけていない、梨子は私よりも強いということに)
果林(梨子は狂ったところがよく目立つけど、案外優しいところもある。それは戦いの中で仲間を心配出来る思いやりがあったり、アンドロイドに親を殺された故に仲間を失うことの恐怖からカバーは必ずする必死さがある)
果林(対アンドロイド特殊部隊に入ってからは曜に優しくされたり曜に誕生日プレゼントを貰ったり曜にお手製の武器を授かったり曜に命を助けてもらったりでそれ以来ずっと曜にゾッコンだけど、そんなところから梨子との関わりが増えたりして曜も分かってるんじゃないのかしら)
果林(本当は梨子って優しい子なんだって)
果林(だからそう、結局梨子も)
果林(自分の——そして誰かの命を守るために、命を奪っているだけに過ぎないというわけよ)
果林(アンドロイドへの復讐とかよく言われてるけど、ただ単に梨子は自分と知り合いの命を失うのが怖いだけなのよ)
果林(それに免じて私は死んじゃいけないし、梨子を守らないといけない)
果林(表には一切出さないけど、凛やにこを失い、精神をすり減らす梨子はきっと私が死ぬことでその弱弱しい心が決壊してしまう。だからこそこの戦いは勝たなきゃいけないのよ)
歩夢「っ!」
梨子「くっ…!」
果林(横からやってきた梨子は歩夢の腕を掴もうとしたけど、歩夢は掴まれそうになった腕を素早く曲げ肘を前に突き出し梨子の手を弾いて攻撃にまで転じて見せた。その驚くべき対応力はやはり能力値の高いアンドロイドならではの行動よね)
果林「隙ありっ!」
果林(けど、梨子がカバーに来てくれたおかげで歩夢は梨子へヘイトを向けた、するとどうなるのかしら?私へ向いていたヘイトが消えて歩夢は梨子への対応を迫られる)
果林(至近距離で二体一をしてる以上有利なのは私たち、だから私は梨子の対応に追われる歩夢のお腹に向かって蹴りをいれた)
歩夢「ぁっ!?」
果林「一気に行くわよ梨子ッ!」
梨子「っ!はいっ!」
果林(歩夢と梨子の間に入り追撃に右肘でもう一度歩夢のお腹に打ち、打つ為に肘を動かしたその慣性をそのままに左回転し左肘で歩夢の胸に向かって鋭い打撃を与え、その後すぐに歩夢の真正面から離れた)
歩夢「かはっ…!?」
梨子「これで終わりッ!」
果林(そうして私の後ろからやってきた梨子の牙がようやく光った)
果林「決めて!」
梨子「いけーっ!」
果林(梨子はEMPグレネードの起動スイッチを押して怯む歩夢のお腹に押し付けた)
ビリビリッ!
梨子「うっ…!」
果林「くっ…」
果林(歩夢のお腹にEMPグレネードを押し込んだ瞬間その辺りには強力な電撃と風が弾けて歩夢を飲んだ、この時の風ときたらかなりの強風で、ついでに飛ぶ閃光も相まって梨子も私も思わず腕で顔を隠し少しの間その場から動くことが出来なかった)
歩夢「ぁ………」
バタッ
果林(そうしてEMPグレネードから飛び散った粒子をゼロ距離で吸い込んだ歩夢は電撃に巻かれながら俯けになって倒れた)
梨子「……終わった」ホッ
果林「…終わったわね」
果林(緊張感と謎に包まれた戦いにようやく終止符が打てたことをキッカケに梨子はその場にへたり込んだ、だから私はそっと梨子の傍に行き、梨子の隣に座った)
果林「お疲れ様」
梨子「お疲れ様でした…」
果林「…よく頑張ったわね」
梨子「……帰ったらゆっくり休みたいな」
果林「…今日くらいは私が奢ってあげるわよ」
梨子「どうしたんですか?急に優しくなって気持ち悪いですよ?」
果林「えぇ酷い、私はいつも優しいわよ?」フフンッ
梨子「……そうかもしれません、だから今は甘えておきます」
果林「…ええ、それがいいわ」
果林(梨子も疲れたんでしょう、もうそれは色んな意味で)
果林(普段は弱いところなんて見せない子だけど、そっと抱きしめてあげたら強く抱き返してくれてやっぱり仲間の死が精神に来てるんだろうな、なんてちょっと思った。やっぱり今の梨子は少しまいってるみたい)
果林「…絵里の下につくつもりはないの?」
梨子「あの金髪美人はアンドロイドですよ?私がアンドロイドと共同戦線すると思いますか?」
果林「……まぁ、それが出来るんだったら今頃梨子はこんなとち狂った部隊になんか入ってないわよね」
梨子「そうですよ」
梨子「……でも、狂った部隊なんだとしても…やっぱり私はここが恋しいな……」
果林「…そうね、なんだかんだみんな面白い人だったもの」
果林(今やその全てが過去形になってしまった)
果林(海未も、凛も、にこも死んで、ダイヤは精神的にまいってしまって、曜は敵であった絵里の元へ行ってしまった。でも、部隊っていうのはいえば一つのチームなのよ、仲が良くて楽しいことがあって笑える環境下であるからこそこの部隊は消滅することがなかった)
果林(だけどもうそんな面白い部隊も、ないのよ)
梨子「…もう、何が何だか分からなくなってきました」
果林「どうしたの?急に」
梨子「曜ちゃんがアンドロイドと仲良くやってるのを見てると、きっと私のお母さんとお父さんと……後私の犬を殺したアンドロイドが悪かっただけなんだろうなって思うんです。私はアンドロイドの事が今でも憎いけど……盲目的じゃない」
梨子「だからきっとアンドロイドには私の事気遣ってくれたり仲良くしてくれる子もいるんだろうなって思うんです。でも、そんなことを考えると私が今までしてきたことの意味が分からなく…なるんです」
果林「……難しく考える必要はないと思うわよ」
果林「アンドロイドは結局人間と同じなのよ、人間にも悪はいるしもちろんアンドロイドにも悪はいる。だから梨子の親を殺したのが人間だったとしても別に不思議な話じゃない」
果林「…私は梨子本人じゃないわ。梨子がこれからも復習に努めるんだったらそれはそれでいいし私は喜んで肯定するわ」
果林「……だけど、もし梨子がアンドロイドの事、信じてみようって思うならそれも私は喜んで肯定する」
果林「…元々、私はアンドロイドの事好きなのよ?ただそれ以上に殺すことが好きだからこの部隊に入ってるだけ、だから私としてはアンドロイドを信じてみるのも選択の内に全然入ってくるかなって思うの」
果林(もしこれから梨子がアンドロイドの事を信じて仲良くやってくれるんだったら、私も幸せだ。そこからアンドロイドへの復讐以外の生きがいを見つけてほしい、私は梨子の親じゃないけど、抱いている気持ちは梨子の親と変わりないんだと思う)
果林(私は殺すのが好きだけど、逆に言えば殺すのが好きなだけでそれ以外は普通の女だと思ってる。だから私の心の中で迸るこの優しさだって本物だし、梨子を救いたいと思うこの気持ちももちろん本物だ)
梨子「ぅ…うあああああああぁああぁ……!」
ポロポロ…
果林「………」ギュッ
果林(梨子は答えを出すことなく、私の服に顔を埋めて泣き出した)
果林(今、梨子の心の中ではアンドロイドを肯定したい気持ちと否定したい気持ちの両方が存在している、だからこそ梨子の心はぐちゃぐちゃなのだ)
果林「……鞠莉?聞こえる?」
鞠莉『ええ、聞こえるわよ』
果林「とりあえず不死身のアンドロイドはEMPグレネードで無力化したわ、これからどうすればいい?」
鞠莉『そいつは放置してもらって結構よ、それよりも今は向かってほしいところがあるの』
果林「向かってほしいところ?」
鞠莉『ええ、それは————』
果林「…分かったわ。その代わりこの戦いが終わったら私も梨子も休暇を貰うとするわ」
鞠莉『…そう、分かったわ。じゃあラストワーキングを頑張ってちょうだい』
果林「了解、それじゃあね」
ブツッ
果林「……本当、東京って騒がしいわね」
果林(鞠莉から受けた新たな仕事を胸に秘めて、私は梨子の手を取った)
果林(どんな時も弱音は吐かないつもりだったけど、正直私も梨子と同じで疲れちゃったわ。殺すことに全てを置きすぎて辛いという感情も嬉しいという感情も悲しいという感情も全てを置き去りにしてここまで来ちゃったみたいだから、今感じてるこの胸が痛まれるこの感情は何とも懐かしくて、なんだかイヤが気分だ)
梨子「うぅうう……ひっく……」
果林「………」
果林(…梨子が泣き止むまで動くはやめましょうか)
果林(仕事も大事だけど、今は何より……)
果林(梨子の命が大切だと感じているから)
~
タッタッタッタッ
ことり「…結局敵になっても仲いいんだね」
曜「まぁ希ちゃんと私みたいなものだよ、お互いちょっかいかけていいことないって分かってるから」
ことり「そっか…」
曜「……どう思う?」
ことり「…絵里ちゃんのこと?」
曜「うん……」
曜(果林さんが指さしてくれた方向にことりちゃんと一緒に走る、その中で想像する絵里さんとルビィちゃんの現状はあまりいいモノではなかった)
ことり「………」
曜「…言いたくないならいいよ」
ことり「うん…」
曜(きっとことりちゃんも分かってるんだろう、まさか絵里さんが死ぬとは思ってないだろうけど死んでるんじゃないかって可能性が頭の中で出てきてしまうのはすごく分かる)
曜(ことりちゃんは絵里さんに命を助けてもらった身だから絵里さんのことを大切にしたい気持ちは分かる、だからこそ苛立ってた。何回連絡をいれても繋がらない事態は初めてじゃないし二回目という今度はどんな危険性があるか分からない)
曜(だから私もことりちゃんも絵里さんが生存してる事を願ってた、Y.O.L.Oに戻ってくれば扉が少しだけ開いてるところがあってなんとなく絵里さんたちがここから入ったんだなって言うのが分かった)
曜「……なにこれ」
曜(…だけど、その先で待っていたのは私たちの考えていた“最悪”を超越してた)
ことり「あ……ぁ……」クラッ
曜「ちょ、ちょっとことりちゃん!」ギュッ
曜(これが現実なんだ、目の前にある光景を見てそう思う)
曜(その光景は実にここ東京らしいモノで、赤だけだというのに極彩色に見えてしまうトラジック。そんな極彩色の姿を見てかことりちゃんは涙を流しながら膝をついて何も喋らなくなった)
曜「………」
スタスタスタ
曜(だからことりちゃんはその場に置いといて私はその先——その奥へ向かった。ことりちゃんに背を向けながら歩けばことりちゃんの嗚咽が聞こえてきて、なんで私はこんな冷静なんだろうと少し疑問に思った)
曜(こんな状況なのにまだ私は現実を理解出来てないのかも、いや…理解したくないのかも。目に見えてても頭と心で理解しなきゃ何も始まらない)
曜(…じゃあ整理しよう、したくないけど)
スタスタスタ
曜(…私の前で倒れてる人が四人、それぞれがそれぞれの血溜まりを形成して倒れていた)
曜「………ことりちゃん」
ことり「うっ…ひっく…おえっ……な、な…に……?」
曜「………死んでる」
ことり「…あ、あはっ……うわあああああああああああぁ……!」
曜(すすり泣くことりちゃんに現実をつきつけた)
曜(倒れる絵里さんの脈と心臓を触っても聞こえない鼓動は紛れもない死の証拠で、少し振り返ってことりちゃんを見れば赤子のように大きな声を出して泣く姿が瞳に映る。ことりちゃんがこうも泣くなんて誰が想像したんだろう、ことりちゃんを前から知る私からしたらあり得ない話だ)
曜「………」
曜(…それだけ絵里さんの存在はみんなにとって大きかった。私やことりちゃんだけじゃなくて穂乃果ちゃんやせつ菜ちゃんまで引率していった寛大でとても強い人だった)
曜(これからどうすればいいんだろう、絵里さんを失った私たちがやるべきことはなんだろう。少し考えたけど、出てきそうにない)
曜(あぁ…お先が真っ暗すぎてこの現実がイヤになる。自国の大将を討ち取られた武士の気持ちっていうのはきっとこういう気分なんだろう、自分だけじゃどうすればいいのか、どう生きていけばいいのかも分からないまま時間が経とうとしてるんだ)
ルビィ「ん…ん……」
曜「!」
ことり「!!!」
曜(ことりちゃんが大声で泣く中で絵里さんの隣で倒れていたルビィちゃんが微かな声をあげた、次の瞬間にはむずむずと動いて目をゆっくり開けて起き上がった)
ことり「…まただ」
ルビィ「………」
曜「…また?」
曜(起き上がって周りを一回見渡すルビィちゃんと目が合ったことりちゃんはよく分からないことを言った。それに対してルビィちゃんは顔を下げて何も言わなかった)
ことり「…また、あなただけが生き残ったんだね」
ルビィ「………」
ことり「あの時もそう、善子ちゃんが死に、絵里ちゃんは重傷。松浦果南は首謀者だったから死んで当然だったけどあなたは無傷だった」
ルビィ「…それは」
ことり「知ってる、後から来たからギリギリ絵里ちゃんを助けられたんでしょ?」
ことり「…でもあなたが生きて、絵里ちゃんが死ぬなんて納得できない」
ルビィ「………」
ことり「………のせいだ」
曜「…?」
ことり「お前のせいだッ!!!」バンッ!
ルビィ「っ!」シュッ
曜「ちょ、ことりちゃん!?」
ことり「なんで絵里ちゃんを守らなかったの!?なんで絵里ちゃんを死なせたの!?」
ことり「絵里ちゃんが死んだら私たち何も出来ないって分かってたはずだよ!?これからどうする気!?私たちだけで小原鞠莉を倒しに行くの!?」
ルビィ「………」
ことり「そんなの…そんなの……!!」
ことり「そんなのやだよぉ……!」ポロポロ
曜「ことりちゃん……」
曜(常識外れだけど、当然の行為だと思う。絵里さんの近くにいたルビィちゃんに当たりたくなるのは絵里さんの背中を追う者の性だよ、ここにいるのが穂乃果ちゃんやせつ菜ちゃんだとしてもことりちゃんと同じ反応を見せたと思う)
ルビィ「…………じゃあ」
曜「ん……」
ルビィ「じゃあことりさんなら絵里さんを守れたの!!?!?!」バンッ!
ことり「!」シュッ
ルビィ「あんなの守れるわけないじゃん!“あれ”をどう止めろっていうの!?」
ルビィ「なんで…なんでルビィが絵里さんにごめんなんて言葉を言われなきゃいけないのぉ…!」ポロポロ…
ルビィ「うぇええええええええええええぇぇ……!」
ことり「うっ…うぅ…うあああああああああぁ…」
曜「ふ、二人とも……」
曜(幼稚園児のように涙は伝染していった。手を目にあて口を大きく開けて泣く二人を前に、私はどうすることも出来なくて、こんな自分が悔しかった。泣かない私でいるなら何かしてあげたかった、でも二人にかける言葉がなかった)
曜「絵里さん…!」
曜「……うぅ」
曜「うぅうううう……うわあああぁ…あああああああああああああ…!!」
曜(私って弱い人間なんだなぁ)
曜(泣く二人を見てたら色んな感情が巡りに巡ってきた。さっきここを出る前に爆薬は仕込んだから後はこのボタンを押せば爆発してY.O.L.Oは終わりなのに、このボタンが押せないや)
曜(…これから私たち、どうすればいいんだろうなぁ……)
~???
絵里「ん……」
絵里「こ、こは…」
絵里「…どこ?」
絵里(目が覚めて見える景色、それは辺り一面真っ暗な世界。建物もなければ地面も空も真っ黒。それは到底現世とは呼べなかった)
絵里「私…死んだの…?」
絵里(両手を開いて、閉じて自分の状態を確認した。体は動く、目も正常なはず、頭も回ってる。確認すればするほど異常なところはこの景色だけだと分かってくる)
「…そう、あなたは死んだの」
絵里「!!」
絵里(不意に聞こえる声はどこかで聞いたことのある声で、声の成る後ろへ向けばそこには“私”が立ってた)
絵里「私…!?」
「…私を見ても分からない?」
絵里「…! まさか…!!」
えりち「そう、えりちよ」
絵里「やっぱり…!どうしてここに…」
えりち「…やっぱりあなたは自殺で生涯を終わらせたのね」
絵里「やっぱり?」
えりち「あなたは最強に最も近いアンドロイド、敵の技術を全て吸収する兵器————そして強い正義感を持っていることで様々な者を引っ張っていく守られ愛されるリーダーのような存在を自分に確立させる人との生き方が分かっているアンドロイド」
えりち「あなたには死ぬ要素がない、亜里沙の動きを見て思ったでしょ?これを野放しにさせとくとまずいって」
絵里「………」
えりち「自分のした動きを吸収してリベンジしてくるんだもの、早めに決めたいって思うでしょ?でもあなたは諦めが悪い人、それは亜里沙も同じで粘ってくるのよ。だからみんなあなたと戦うと負けてしまうの」
絵里「…果南には負けたけど?」
えりち「果南は対策を積んできたのよ、あなたの最強は少し特殊だもの。一度見た動きをコピーするのだから初めてだらけで勝負した果南にその最強は通じないの」
えりち「…でも、ああやって生き延びてしまったあなたは更に強くなってしまった」
絵里「………」
えりち「そんなあなたが死ぬのなら、自殺しかないと思ったの。あなたを殺す為に一番有効な手が精神攻撃なんだから」
絵里「精神攻撃…」
えりち「そう、正義感が強いあなたは人一倍感受性に優れたアンドロイド。一つのテーマで複数の感情を抱くのも案外普通なアンドロイド」
えりち「あなたは自分の正体に気付いた途端、自殺した。それは何故かしら?」
絵里「…私が人間を模したアンドロイドではないからよ、人間じゃないアンドロイドがアンドロイドと人間を平等にしろなんて言うのはおかしいでしょ?」
えりち「…どうかしらね、それは返答し兼ねる問いかしら」
絵里「そう、とにかく私に生きる意味はもうなかったのよ」
えりち「……違うかしら」
絵里「…どうして?」
えりち「あなたは大きな勘違いをしているわ」
絵里「勘違い?」
えりち「ええ、あなたはそれを知る権利がある」
絵里「…つまりそれは何?」
えりち「もし死ぬのであればあなたには真実を知ってから死んでほしい、その真実こそがあなたにとって存在証明にもなるし、自殺のトリガーにもなる」
絵里「ねえ話聞いてた?その勘違いって言うのは何?」
えりち「…知りたいの?」
絵里「知りたいわ」
えりち「無理ね、あなたはもう死んだのよ」
絵里「…生きてれば分かったの?」
えりち「分かったと私は思うわよ、でもあなたは死んだ」
絵里「…じゃあこれからはあなたが私として生きるの?」
えりち「いやそれはないかしら、まだ」
絵里「まだ?」
えりち「いずれはそうなるかもしれない、けど今の私にはあなたの身体を乗っ取ることは出来ない」
絵里「それは技術的な意味で?」
えりち「ノーね、感情的な意味で、よ」
えりち「乗っ取ることが出来ないというよりかは乗っ取りたくないが正しいわ」
絵里「どうして?私は死んだんでしょ?あなたが今度から絢瀬絵里として生きればいいじゃない」
えりち「…本当にそう思ってる?」
絵里「………」
えりち「いくら自分が常識外れの何かを持ってたとしてもそれで死んでいい理由にはならないと私は思うんだけど?」
絵里「…そうね、でも今更悔しがったって何もならないじゃない」
えりち「…園田海未は分かるかしら?」
絵里「園田海未?あぁあの青い髪の…」
えりち「そう、あの子はとても真面目で何事にも真摯で、とっても可愛い子だったわ」
絵里「…なんであなたがそんなことを知ってるの?」
えりち「いいから聞いて、そんな可愛い海未だったけど、海未は人間に存在する生命力を否定するようなモンスターのような生命力を有していた。銃弾を腹に貫かれても死なないくらいにね」
絵里「…聞いたことあるわ」
えりち「ええ、海未は人間だった、けど人間染みたモノではなかった。故に蔑まれた存在だった」
えりち「だけど海未が青色のシャツを着て、灰色のスカートを穿いて街中を歩き、時に無邪気に笑う姿を見れば彼女もやっぱり人間なんだって思ったの」
絵里「………」
えりち「人間じゃないっていうのはね、あからさまなの」
えりち「人の心を持っていて、ちゃんと笑うこと怒ること泣くことが出来て、そして中身も含めて人の形をしてることが人間なの」
えりち「それに従えばあなたは人間でしょ?あなたは人のために自分を犠牲にすることが出来る心優しき人間でしょ?」
えりち「というかむしろ、誰かを守れる力があなたにはあるのだからそれを誇りに思うべきだと私は思うの」
絵里「………」
えりち「…あなたは生きるべきだったのよ」
絵里「…そんなこと言われたら死んだ私がバカみたいじゃない……」
えりち「……ええ、あなたはバカよ。大馬鹿者よ」
絵里「…うぅ……!」
えりち「…やっぱりあなたは私なのね」
絵里「ううう…どういうこと…?」メソメソ
えりち「……ねえ」
えりち「私とバトルしない?」
絵里「ば、バトル…?」
えりち「文字通りよ、今は銃が無いから格闘だけだけどね」
絵里「バトルなんかして何になるの…?」
えりち「最後に確かめたいの、あなたの意志を」
えりち「この東京に住んでたのなら戦いの意味は分かるでしょ?」
絵里「…生きたいと思う意思の表れ」
えりち「そう、例え力不足でも必死に抗って変わる未来もある。だからあなたの意志を確かめたいの」
絵里「……わかったわ、いいわよやりましょう。私も最後くらいは本気で殴り合いをしたいわ」
えりち「…あなたも生粋のアンドロイドなのね」
絵里「溜まった感情を吐き出すにはこういうことをしないと出ないのよ」
えりち「そうね…その通りだわ」
絵里(そう言った直後に高まる緊張感を感じないわけない、張り詰めた空気が鼓動を早くしてうるさい、うるさすぎる)
絵里(始まりの合図はきっともう鳴ってるのでしょう、相手のその一言が始まりで、だけど始まってるというのに私も相手も動こうとはしなかった)
絵里「………」
えりち「…来ないの?なら私から行くわね!!」ダッ
絵里「!」
絵里(そう言って始まった戦いは銃が無いというのに銃撃戦のように凄まじい勢いを秘めたものだった)
タッタッタッタッ
えりち「先手必勝!攻撃が最大の防御よ!」ブンッ!
絵里「おっと」シュッ
絵里(走り込みで私に近づき最大火力と言ってもいいくらいの右ストレートが飛んできたから私は素早く左へ回避して、私の横を通り抜ける相手に対して回し蹴りで後頭部へ狙いを定め脳震盪を与えようとした)
えりち「それは見たことある」ガッ
絵里「!!」
えりち「そしてこれは見たことある?」
絵里(左上腕で私の蹴りをガードし、右ストレートで伸ばした右腕を戻しそのまま私の喉元に向かって肘打ちをしてきた、だけどそのくらいなら見えるし反応速度だけでなんとかなる)
絵里「はっ!」ガシッ
絵里(私は咄嗟に右手で肘打ちを受け止める————けど攻撃は止むことはなかった)
えりち「そう、あなたはそれを受け止めるのよね、だからわざわざ受け止められる選択を取ったの…よっ!」ドカッ!
絵里(相手はどれだけ計算高かったのかしら。回し蹴りにより右足を高く上げたまま、右手で肘打ちを受け止める私に、次来る突き蹴りを躱す術はない)
絵里「くっ…!」
えりち「よい、しょっとっ!」ドカッ!
絵里「ッ…!!」
絵里(少し弱めに調整された控えめな突き蹴りは私を倒すことなくよろめかせるだけにとどまった、しかしそれがいけなかった。次、よろめく私に歯向かうのは鋭い上段蹴りで、これには死を悟った)
えりち「…やはりあなたは強くなりすぎてる、私の計算なら今の三連撃で勝負はついてたはず」
えりち「そして驚いたわ、今の一瞬で顔じゃなくて首に命中するよう角度を変えるなんて」
絵里「亜里沙の蹴りをもろに食らったものでね、あの時も回避は出来ない状況だったしせめての対処法をしたまでよ」
えりち「…私の蹴りも見たことがあったってことね」
絵里「……そうなるわね」
絵里(これが私なんだ、ただそう思った)
絵里(見たことあるから対応されて、自分のやった攻撃でやり返される…そんな相手が弱いはずがない。実際今の私は強い、蹴りを首に当たるようにしたその一瞬の判断はきっと今までの戦いがなきゃ出来なかった)
絵里(だから今となっては私は戦いの道を選ばないほうが幸せだったのかもしれない)
えりち「そうなのね、でも私が有利なのは変わらないことよ!」ダッ
絵里(さきほどの走り込みとは違い、両手を下げて私の元へと来る相手——それを見るに戦法を変えてきたみたいね)
えりち「ほらほらっ!私の舞は躱せるかしらっ?」
絵里「っ!その動き…!!」
絵里(チョップや掌底、後ろ回し蹴りや跳び膝蹴り、ローキック、肘打ち、スライディングなど技の種類問わずとにかく鋭い一撃が私に歯向かう、それを避けようと飛び退くと相手も引っ付いてくるように跳躍で私との距離を開かせず逃げる隙を与えてくれなかった)
絵里「…っ!それって!?」
絵里(よくよく見れば分かることだった。その速度や打ち方だけでなく指先まで整っているキレのいい掌底や肘打ちはどう見てもことりのモノよ、だけどその身軽で、本能的で、戦闘を楽しむような姿は凛そのものだ。しかもこの何度も何度も鋭い一撃を繰り返して相手を寄せ付けない上に死を全く恐れてなさそうな勢いで相手との距離を放さないその戦法————それはまさしく希のショットガンの舞だった)
えりち「気付いた?そうよ、こうやって応用だって出来るのよ!」
絵里「くっ…そんな反則でしょ!」シュッ
えりち「あなたにも使えるのよ?文句は言えないはずよ」
絵里「だからってそんな…!」
絵里(やっぱり私にも使えるのね、今も希のショットガンの舞を格闘だけで疑似的に再現してる相手を見てるとこの力がどれだけとんでもないものかを痛いほど感じさせてくれる)
絵里「………」
絵里(ここで私は一つ思う、このまま戦いを続けててもそれぞれが見たものを返し合ういたちごっこになる。それは不毛であり意味のない戦いに過ぎない、なら短期決着が望ましい)
絵里「……よしっ」
絵里(その時私は一つの道を見つけた、この相手に————私に勝つ方法を)
絵里(私一人じゃ勝てなくても、“みんなの力”を使えば勝てるのよね、私にだって)
絵里「…じゃあラストスパートと行きましょうか」
絵里(私個人の始まりのトリガーは今引かれた、ショットガンの舞をしながら近づく相手に私は姿勢を低くして近づいた)
えりち「っ!この舞に近づくの?」
絵里「ええ、私はそれが良いと思ったから」
絵里(あの時の希の動きは双方にショットガンを持つことで片方でトリガーを引いてももう片方を撃つことで反動を相殺する仕組みで、銃があってこそのよく出来た戦術だ)
絵里(ただしそれは力業でもなければ希だけが出来る業でもなく、工夫を何重にも施し、メリットとデメリットを計算しつくした希の有する力でも出来るようにした業であったと思う)
絵里(この動きのメリットは相手を寄せ付けない、相手を無理矢理動かすことが出来る、手数で勝つことが出来たりと火力面では強い)
絵里(だけどその動きは————)
絵里「片方の足を上げないと成立しないのよね!!」
えりち「!!」
絵里「もらったぁ!」ズサー
絵里(あの動きは重心をどちらかの足に置いてバレエのような舞を射撃と共にするまさにダンスそのもの、片足を上げることで次へのステップをすぐに行えるように、そしてそれを連鎖的に行えるようにした最大の特徴であり最大の弱点)
絵里(銃が無い今は近づくことも不可能ではない、あの片足を————重心を弾くことが勝利への第一歩なのよ)
えりち「あっ……」
絵里「これがことりの力よ!」ドカッ
絵里(バランスの要であった片足をスライディングで崩して宙に浮かせ、その後すぐにスライディングを解除して飛び膝蹴りをした)
ことり『強くてごめんねっ!』
絵里(あの時ことりが見せてくれた飛び膝蹴りを真似た、右足から天を統べる鳳凰のよう凛々しく飛んで、左膝で“打撃”を行うのではなくこの左膝を相手の背中に“めり込ませて”相手を吹き飛ばす。中国拳法で鍛えられたキレの良さは他の人の飛び膝蹴りとはまた違う強さがあった)
えりち「っあぁ…!がっ………」
絵里「えっ…ちょっと……」
絵里(背中から私の蹴りを受けた相手は派手に宙を舞い横へ吹っ飛ぶのではなくて上へと吹っ飛び胸から地面へと叩きつけられ、大量の血を口から吐き出して動かなくなった)
絵里(…これは相手がアンドロイドだから分かるけど、私の蹴りは確実に背中辺りにある何か重要なシステムを担う何かを壊した。その結果機能が一時停止してる可能性が高くみんなの力を使わずともことりの力だけでKOさせてしまった)
絵里「……やっぱり私…」
絵里(目を開けたまま、口を開けたまま動かない相手…ううん私を見て思うのはやはりこの力は使うべきものではないというのが分かる)
絵里(拳銃も持ってなかった私が今では格闘だけでこんなことができるなんて思いもしなかった)
絵里「………」
絵里(確かに相手が言う通り、誰かを守る為の力があるのは誇らしいことだと思うけどこの力はいくらなんでも人間離れしすぎてるし、ましてやアンドロイドの括りにも到底嵌められたモノじゃない)
絵里(この力を持って私は何を全うするのだろう、この力の存在を知っていながら私はどういう生き方をするのだろう)
絵里(分からないけど…分からないけど私という化け物が死んで私は心底安心した)
『…やっぱりあなたは自殺で生涯を終わらせたのね』
絵里(…そう、そうなってしまうのよ。今ならよく分かるわ)
絵里(だって私は死にたくないもの、死にそうになったら必死に抗って逃げたり戦ったりして生き延びたい生き物なんだもの)
絵里(だけど生き延びた分強くなっていく私はあのまま生き続ければきっと軍神と謳われた穂乃果以上にアンドロイドという歴史に名を深く刻むことになるのでしょう。だからそんな物語がここで止まってよかった、正義感という私が、私という正義感が私の死を心から喜んでいた)
えりち「…ぷはっ」
絵里「!」
えりち「はー…負けたわ」
絵里「…私の勝ちね」
えりち「ええ」
えりち「…さっきも言ったけどあなたは強くなりすぎてる」
絵里「ええそうよ、だから私は平和を崩さない為に死ぬ運命にあるのよ?よく分かったでしょ?」
えりち「いいや、あなたは生きる運命にある。何故ならあなたには守るべき人がいて、知るべき真実があるから」
絵里「…あなたは一体何を知っているの?」
えりち「……少なくとも、あなたよりかは遥かに知っていることが多いはずよ」
絵里「…じゃあ聞くわ」
絵里「私の知るべき真実っていうのはどこにあるの?」
えりち「ええ、答えてあげる。それは————」
えりち「——小原鞠莉がいるあのホテルの最上階よ」
絵里「………」
えりち「そこにあなたが一番知りたい真実があるわ、あなたはそこでこれまでとこれから全部を含めたとしても最大となる選択に迫られる」
えりち「あなたは死ぬ前にターニングポイントを作りなさい、死を語るのはそれからよ」
絵里「…まるで私が生きていてそこに行けって言ってるような口振りね」
えりち「ええ、生きてるもの」
えりち「…いや、具体的には死んでるけどね」
絵里「…何を言ってるの?」
えりち「あなたは死んだわ、人間の脳に当たる記憶保存領域に鉛玉を撃ち込んだからね、記憶保存領域の内部を破壊したことによりあなたの記憶は機械的に保持が出来なくなる。壊れた記憶保存領域からしちゃあなたの記憶は存在不明、解析不能なモノになってしまうからまさにTHE ENDって感じ」
えりち「でもおかしいと思わない?記憶保存領域が壊れてるのになんであなたの記憶は今もこうして保持されてるの?」
絵里「それは…」
絵里「………」
えりち「…分からないでしょ?当然よ、だって知るはずがないもの」
絵里「…どういうこと?」
えりち「あなたは私————私はあなた」
えりち「ここまで言えば分かる?」
絵里「………分かりたくない」
えりち「正直ね、でもごめんなさい。分かってもらうわ」
えりち「私という存在が生きてるからあなたはまだ記憶を保持していられるのよ」
えりち「あなたには真実を知る権利があるの、だからその真実を知ってもらうまで私はあなたを殺さない」
絵里「…じゃあ私があなたを今ここで殺せば私は死ぬの?」
えりち「ええ、死ぬわ」
絵里「………」
えりち「さっき戦って分かったわ、まだあなたには戦う気力がある。生きる力を完全に失ったわけじゃない」
えりち「勝ちたいって思えるならもうそれでいいわ、小原鞠莉のところに往って小原鞠莉に勝ってきなさい」
絵里「…無茶言うわね」
えりち「でも、その無茶をやろうとしてたのはあなたでしょう?」
絵里「………」
えりち「…残念だけど今ここで私を殺そうとは思わないほうがいいわよ、私とあなたは平行線の存在。今という状態じゃあ何をしたって変わらないわ」
えりち「だって同じ存在なんだもの」
絵里「………」
えりち「元々私はあなたが死んだ時に埋め込まれる新しい記憶だった、けどいいわ。私の命をあなたにあげる」
えりち「この命こそが最後の命。私とあなたは一心同体なの」
えりち「だからこの私が託した命で退廃した世界を変えなさい、あなた自身の力で」
絵里「………」
えりち「返事は?」
絵里「…何故私にそこまでするの?」
えりち「あなたは私だけど、私はあなたではないからよ」
絵里「……意味が分からないしさっきと言ってることが違うんだけど」
えりち「同じ存在でも、違う私たち————でも今の本当のあなたっていうのは生まれた時から記憶を保持してるあなたでしょう?あなたが生きている以上私はあなたを応援するわ」
えりち「これは“私”としてのけじめなの」
えりち「私、命に盲目じゃないから」
絵里「……そう、分かったわ」
絵里「なら初代絢瀬絵里に免じてここはあなたの命を貰うわ」
えりち「ええ、ありがとう」
絵里「…お礼を言うのは私なんだけど?」
えりち「あなたは私、私はあなた。だから嬉しいのよ」
絵里「………」
絵里(私という人物はこういう人なのかしら…少し考える)
絵里(確かに私は正義感の強いアンドロイドよ、決して自分の持つ強さを曲がらせることのない自分を強く持った人格が備わってる)
絵里(でも、自分の命をあげる?私が?当事者でもなんでもないしこれに関しては考えたくもないから一概には何とも言えないけど私はそんな人が良いアンドロイドだとは思わない)
絵里(……これが“次の私”なのかしら)
えりち「とにかくあなたは後数分後には現実へとトリップする、記憶保存領域は壊れてるしおそらく頭には穴が空いたまま、だけどあなたはそれでも正常よ」
絵里「…なんなのそれ」
えりち「私のおかげよ、だからあなたは諦めるまでは最後まで強く生きていきなさい」
絵里「……ええ、分かったわよ」
えりち「素直でよろしい、じゃあね」
えりち「私は常に私でありなさい」
絵里「……なにそれ」
えりち「偽物の命なんて、この世にはないんだから————!」
絵里(その言葉はよく木霊した、この何もない世界で、この穴の開いた私の頭の中で、何重にもなって木霊した)
絵里(————視界が真っ白になった、そう感じた一瞬を最後に私の感覚全てが消えた)
絵里(それは現実へ向かう為の動作であり、臨死体験とでも言っておきましょうか、ある意味仮死を体験した瞬間でもあった)
絵里「ん……んん……」
絵里(次に意識が戻ってきた時は目を開ける前から自覚した)
絵里(私、生きてるって)
絵里「…はっ」
絵里(だから強く目を見開いた)
絵里「……ここって」
絵里(匂いだけでも分かるこの懐かしい感じ、レジスタンスであったみんなと生活を共にして、時には刃物にもなり兼ねない言葉が飛び交った小さな戦場でもあり、みんなの笑いが集う楽園でもあったこの場所…)
絵里「…家だ」
絵里(明かりが何一つついてない真っ暗なリビング、いつも回ってるはずの天井扇も回ってなくて、横になっていたイスから降りて真っ暗な地面を歩けば当たる金属の感覚)
絵里「これ……」
絵里(せつ菜の武器だ、リビングのテーブルには曜のハンドガンがあり、このリビング・ダイニングに無造作にみんなの武器が散らばってた)
絵里「………」
絵里(…荒れたんだ、なんとなく想像がつく)
絵里(私がリーダーなんだから、その私が死んだら統率が取れなくなって何をすればいいのか分からなくなるのよね、もし私がことりや曜の立場だったら私だって荒れるもの、ずっと泣くもの)
絵里(…でも、そんなみんなが今ここにいない)
絵里「…みんなっ!」
絵里「………」
絵里(返事は無かった。寂しさを誤魔化す為に完全に閉じられたカーテンを少し開ければ月明かりが私の視界を奪う。だから眩い月明かりから外れればここら辺に転がってる武器が照らされてこのリビングにみんなの持つ武器全てがあることが分かった)
絵里「……っ」ダッ
絵里(家中を駆け回った、私や曜がいつも寝てる寝室、お風呂、図書室、ことりや善子が寝てた寝室、トイレ、この家全てを回ったけど誰もいなかった)
絵里「………」ジワッ
絵里(みんないなくなっちゃった)
絵里(私がいなくなってみんな戦う意味がなくなったのかしら…そう思うと私の物語ももう、終わってしまったのかも)
絵里「うううぅううううっ………」
絵里(ただ単純に悲しかった、今まで戦線を共にした仲間全員が消えた。それに私は実質ルビィを殺した、私の無駄な死が人数不利を作ってルビィを死へ一気に近づけた)
絵里(二代目の私からエールを貰ったのはすごい励みになったけど、現実がこうじゃ見えるのは絶望だけ)
絵里(……いや、自業自得なのは分かってるんだけどまさか自殺してから現実へ戻ってくるなんて考えてるわけないでしょ?)
絵里(それにあの時の私は本当に死を望んでいた、あの時ほど自分がイヤになったことはない)
絵里(…事実、今でも私は人間離れを起こしているわけだし)
絵里「うぅ…うぇえええあああああああ…!!」ポロポロ
絵里(戻ってきた現実は相変わらず退廃的で、死にたくなるほど絶望的でどうすればいいか分からなくてただ泣いた。涙を我慢する必要なんてなくて募りに募った悲しみ全てが赤子のように泣く私の口から出てた)
絵里(これからどうすればいいんだろう、私一人で鞠莉のところへ行けるのかしら?)
絵里(…否、無理があるわ)
絵里(ならどうすればいいの?私は私に問う)
絵里(……ダメね、他の方法も見つかるはずがない)
絵里(こんなお先真っ暗じゃ涙も枯れることを知らないままでいるようで、今はただ…ただただ泣き続けるだけだった)
「絵里…ちゃん…!?」
絵里「!!」
絵里(それは突然声が聞こえた。昨日聞いた…いや今日聞いたばっかなのに数年ぶりくらいの懐かしさを感じるこの声————その声に私は目を丸くした)
絵里「こ、ことり…?」
ことり「絵里ちゃんなの…?絵里ちゃんなの!?」
絵里「ええ!ことりなのよね…!?」
ことり「うんっ!ことりだよ!絵里ちゃんに助けてもらったことりだよ!」
絵里「うぅ…うわああああああああああん!」
ギューッ
ことり「わぁ!?ど、どうして絵里ちゃんが…?」
絵里「帰ってきちゃったのよぉ…!」
曜「ことりちゃんどうし————って絵里さん!?」
絵里「曜!曜よね!?」
曜「な、なんで絵里さんが……」
タッタッタッタッ
穂乃果「絵里ちゃん!?」
絵里「みんな…!」
絵里(ことりの存在に気が付けば玄関の方の扉が開いててそこから曜や穂乃果がやってきた。それを見て安心した、仲違いを起こしたり分裂したりしたわけじゃないんだって)
ルビィ「…絵里さん」
絵里「ルビィ…ごめんなさい……」
ルビィ「…どうして、あんなことしたんですか?」
絵里「…そうよね、言わなきゃダメよね」
穂乃果「…何があったの?」
曜「私も気になる、そして絵里さんがこうして今ここにいる理由も」
ことり「私も」
絵里「ええ、話すわ。全てを」
絵里(私は私自身の機能について、自殺してから今に至るまでの事、そしてこれから行うべきことの三つを話した。どれもこの世界では初めて話すことで聞いてる誰もが驚きを隠せないようでいた)
曜「それじゃあ希ちゃんの探してた標準型アンドロイドXっていうのは……」
絵里「…ええ、多分私の事」
ことり「私の中国拳法が使えるって…」
絵里「実際使ったけどよく真似出来てたわ」
ルビィ「…絵里さんは人間だよ、ちゃんとした人なんだから」
絵里「…ありがとう、ルビィ」
絵里(しかしみんなのその後の反応といえば驚きもあったけど何より温かった。こんな大罪を犯した私でも許してくれるみんなの優しさが逆に痛かった)
えりち『あなたは最強に最も近いアンドロイド、敵の技術を全て吸収する兵器————そして強い正義感を持っていることで様々な者を引っ張っていく守られ愛されるリーダーのような存在を自分に確立させる人との生き方が分かっているアンドロイド』
絵里「………」
絵里(分かる気がする)
絵里(……いや、自分を優しいとかそういう風に思うつもりはないけど、私ってちゃんとリーダーをしてて引っ張っていってるんだなって自覚はある)
絵里(人間関係に恵まれてるんじゃなくて、人間関係を上手いように操ってるのが私なんだ)
絵里(そしてそれが本能的に、感情的に行ってるから私は私を憎めない。私が心から思うことがその人にとって最高の選択になるんだから改めて私の存在が強く見えた)
絵里「…あれ?花丸とせつ菜は?」
ことり「え、それはぁ……」
ルビィ「………」
絵里「…何?」
絵里(…だけど現実が良いことばかりじゃないのはもう知ってる、今まで笑顔やら安堵の息をついてたみんなが急に顔を曇らせた時には何かを察した)
穂乃果「…花丸ちゃんは死んだ、せつ菜ちゃんは意識不明の重体」
絵里「えっ……」
穂乃果「…花丸ちゃん、自爆特攻をしたんだ。私とせつ菜ちゃんだけじゃあの二人に勝てないからって」
絵里「……そんなことが」
曜「…だから、そんな花丸ちゃんの死や絵里さんの今まで繋いでくれた道を無駄にしない為にも最後まで頑張ろうって私たち決めたんだよ」
ことり「…多分、私たちの銃はもう敵に割れてる。街中で銃声がしたならそれは私たちだってすぐにばれちゃうからまだ知られていない武器でせつ菜ちゃんを真姫ちゃんのところへ連れてくために外へ行こうって言って武器を整えたんだ」
絵里「…あ、じゃあこの武器は……」
曜「そうだよ、とりあえずここの武器庫にあった武器をいっぱい持ってきて自分に合う武器を取っていったんだ」
絵里「なるほど……」
絵里「…花丸が死んでせつ菜が目覚めない……」
絵里「…となると残り戦えるのは私たちだけになるのかしら?」
ルビィ「…そうだね」
ことり「…うん」
穂乃果「随分と減ったね……」
曜「五人か……」
絵里「…こうなっては仕方ないわ、この五人で鞠莉のいるホテルの最上階を目指しましょう」
絵里(戦いは増えるモノと減るモノが一緒な出来事だ)
絵里(生きてる人が減り、死人が増えるこの出来事では時間によってもたらされる変化がとてもよく分かった)
絵里(最初こそたくさんいた、敵も味方もね)
絵里(でも今は敵も味方もほとんどいない、千歌も善子も果南も…凛も海未もにこもいない)
絵里(やはりこの東京では——ううん、東京のせいにはしない)
絵里(この戦いという出来事には死と正面から向き合わないといけないらしい)
絵里(…そんなこと分かってたけどね。でも気付くと周りは死んだ人たちばっかりだったから少し過去が淡く見えた)
穂乃果「……小原鞠莉のいるホテルの最上階に行くならどう考えても実行は今日の夜だよ、Y.O.L.Oまで破壊したんだ、流石に政府も黙っちゃいないよもう」
曜「その通りだよ、政府が戦いに絡むとなると逃げることは可能だけど挑むのはかなり難しい」
曜「だからおそらく今日が最初で最後のチャンスだよ」
ルビィ「…うん、ルビィもそう思う。ホントなら今すぐにでも行きたいけどそれだと準備不足だからね、明日ならまだ政府も対応に追われる頃だからまだ間に合うと思う」
ことり「…じゃあいよいよなんだね」
絵里「……ええ、果林と梨子がY.O.L.Oのアンドロイドを殺しに動いてたのも一枚鞠莉が噛んでるらしいわ、だから今この混沌の時に行くべきよ」
穂乃果「…うん」
絵里「……ってあれ?そういえば果林と梨子はどうなったの?」
曜「それならY.O.L.OのアンドロイドにEMPグレネードを当てて終わったよ」
絵里「え?」
曜「一番最初に戦った時私が銃弾を避けることに驚いてたからEMPグレネードの知識も無いんだろうなぁって思ってたけど案の定やっぱりなかったよ」
ことり「…死んだ絵里ちゃんを連れて帰る時に会ったけど“私たち必要なくない?”みたいなこと言いあってて人生楽しそうだなって思ったよ」
曜「…まぁ私たちに対して敵意が無いのはすごくいいことなんだけどね」
絵里「やっぱりEMPグレネードって強いのね……」
曜「まぁね、でもアンドロイド相手に投擲物は基本当たらないからそれを当てることが出来た二人の腕は本当にすごいよ」
曜「絵里さんにも勘違いしてほしくないんだけど、EMPグレネードは万能武器じゃないからね」
曜「コストが高くて量産も出来ないからちゃんと使い時を見極めないといけないよ」
絵里「難しいのね…」
ルビィ「…亜里沙ちゃんと雪穂ちゃんは私が殺した」
絵里「!!!」
ルビィ「……ごめんなさい」
絵里「…そう、いいわ。気にしないで、元々私が殺す相手だったんだから」
絵里「……それにしてもよく亜里沙を殺せたわね?」
ルビィ「…ルビィもあの時は狂ってたよ、絵里さんが死んで泣いてた亜里沙ちゃんを狂った衝動で殺してその後雪穂ちゃんとタイマンをして勝った」
穂乃果「狂ってたって何?」
曜「それは同じ事思ったかな」
ルビィ「…絵里さんが死んだショックみたいなものだよ、自然と笑いが出てきて目の前にいる生き物を殺したくなっちゃって……」
絵里「……ダイヤもそうだったわ、ダイヤという名前に恥じない壊れない精神を持っていたものけど、ルビィの件で一度壊れてしまうと心の修復が利かなくなって性格がどんどん曲がっていった」
絵里「…私はそこまでダイヤとは関わりがなかったけど、ルビィが目覚めなくなってからのダイヤは一目見て変わってしまったというのが分かった」
絵里「だから遺伝…なんだと思うの」
穂乃果「……そっか」
曜「そうなんだ……」
絵里「……ええ」
絵里(…まぁ覚悟はしてたけどやはりきついものがあった)
絵里(あんな純粋無垢な妹の死に様を見なくて済んだのが不幸中の幸いと言っておきましょう、戦闘型アンドロイドなのに一度も戦闘をしたことがないというのは嘘偽りもなく、それ故に亜里沙は戦いのリスクをもろに受けて死んだ)
絵里(…もし、次の亜里沙が私の元へつくとしたら今度はどんな亜里沙なのかしら)
絵里(そしてそれを愛せるのか————今の私には新しい亜里沙を愛することが出来る自信がない)
絵里(……やっぱり、東京は道徳が廃れた場所だ)
絵里(東京のせいにはしたくないけど、東京じゃなかったらきっとこうじゃなかったのよ)
ことり「……とにかく準備しようよ、今こんな話してても誰も得しないよ?」
絵里「…その通りね、準備しましょう?またあの時みたいに楽しく生きていかなきゃ!」
曜「うんっ!よしっ!準備しよう!もう出し惜しみは無しだよ!使える物は全部使っていこう!」
穂乃果「…分かったよ、やるよ!勝利を取るよ!」
ルビィ「…うんっ!」
絵里(あぁ良かった、自分が使う武器を整え始めるみんなを見て私は強く思った)
絵里(————この五人で戦っていく)
絵里(…いや、正確には六人よね。真姫も入れなきゃいけないもの)
絵里(最後の戦いで歴史を変える人物として選ばれた私たちはどこまで往けるのかしら)
ガチャッ
絵里「!」
真姫「…!絵里…!?」
絵里「真姫!」
真姫「し、死んだって聞いてたのにどうして…?」
絵里「まだ死んでなかったの!だから…今日——今日の夜に決めにいくわ」
絵里(準備が始まると同時に、選ばれし人物の六人目がやってきた)
真姫「…よかった、私絵里が死んだ時私も死のうって思った、私も絵里の仲間として生きていくと決めた以上、絵里が死んでもうやれることはなかったから」
真姫「……でも死ねなかった、怖くて、怖くて…」
真姫「…絵里、あなたが生きているのなら私もまだ生きれるわ」
真姫「…本当に良かった」ギューッ
絵里「……私も真姫に会えてよかったわ」ギュッ
絵里(私と真姫はお互い強く抱き合って、気が済むまで相手の温もりを感じたところでようやくツッコミが入った)
ことり「…重くない?真姫ちゃんの愛」
穂乃果「私も同じ事思った」
曜「うーんアリだと思うけどなー真姫ちゃんは絵里さんに尽くしてるし」
ルビィ「うんうん、ルビィも良いと思う」
真姫「ちょっ…尽くしてるってなによ!」
曜「違うの?」
真姫「ちが…うと思うわ」
ことり「そこ迷うんだ…」
絵里「…まぁいいわ、とにかく各自準備をしましょう、今回の戦いでは爆発物は最低限でいいわ、ホテルの最上階を目指すからグレネードは正直使えない、今回の作戦では屋内戦を強いるから動きやすい軽装でいいわ」
ことり「了解だよ」
絵里(ことりがお風呂へと向かうのを見てそれぞれ自分のやることをやり始めるのを見て私も動き出す、真姫も機材をたくさん持ってきたらしく最後の戦いではオペレーターになるらしい)
絵里(曜とルビィは銃器のチェックをし、穂乃果は目的地の情報を集めてた)
絵里(そんな私は夏真っ只中の夜に戦いをすれば汗はべとべと、だからそれを洗い流す為にことりと一緒でお風呂に入ったのだけど、そんな時思った)
絵里「……本当に穴が空いてる」
絵里(9mmの弾が私の頭を突き抜けたことによって空いた穴が気になった、この様子じゃ記憶保存領域が壊れてるっていうのもウソではなさそうだしますます私の存在が意味不明になってくる)
絵里(あの新型アンドロイドも複数命があるとは言ってたけど、じゃあその複数の命はどのような意味があって複数の命とされてるのかしら…)
絵里(…頭と胸を撃っても死なないとなると、後はお腹と足と肩を撃てば死ぬのかしら?いや、そんな単純じゃないのかしら…?)
絵里(考えれば考えるほど深みにハマっていって謎が解けそうにないわね…)
絵里「…いや、分かるのよね」
絵里(そう、それが知りたきゃ鞠莉のいるホテルの最上階へ向かえばいいのよね)
絵里(そこに全ての真実が眠ってる、私はそれを知りたいからこの現実へ戻ってきた)
絵里「……待ってなさい、鞠莉」
絵里(これは私からあなたへの————宣戦布告よ)
ことり「……あのー」
絵里「ひゃああ!?!?」
ことり「いやなんで驚くの!?最初から私いたよ!?」
絵里「い、いや全然気付かなかったわ…」
ことり「えぇ…気配隠してたわけじゃないのに……」
絵里「ご、ごめんなさいね、ちょっと今日の夜のことで集中してて……」
ことり「……まさか絵里ちゃんとこんなことするなんて思いもしなかったよ」
絵里「私もよ、最初は敵だったのにね」
ことり「…今も分からないの?」
絵里「えっ?」
ことり「…私を助けた理由だよ、あの時絵里ちゃんは自分でも分からないって答えたじゃん」
ことり「私を助けても意味なんてなかったはずだよ、曜ちゃんや矢澤にこには見つかるし死ぬ危険性も充分にあった、それなのになんで?」
絵里「……私が助けるべきだと思ったから助けたのよ」
絵里「例え敵だろうと、目の前でことりが殺されそうになってたなら助けるべきだと私は思ったの」
絵里「あそこで見殺しにしたら私は一生後悔する、必死に逃げることりの姿を見てられなくて、私が助けなくて誰がことりを助けるんだって自分を奮い立たせたの」
絵里「…今ならよく分かるの」
絵里「私、人が殺せないんだって」
ことり「………」
絵里「人が殺せないから、ことりを見殺しになんか出来ないの」
絵里「またことりが死にそうになった時はきっと…いや絶対に助けるわ」
ことり「…うぅ……!」ジワッ
絵里「えっちょっとことり!?」
ことり「うぅうううう…!ぅ絵里ちゃん優しすぎるよぉ…!」
絵里「そ、そうかしら……」
ことり「…よかった、私絵里ちゃんの背中を追いかけることが出来て」
ことり「苦しいことはたくさんあったけど、それと同じくらい嬉しいことや楽しいこともあった」
ことり「私、この戦いが成功に終わったら絵里ちゃんの学校に通ってみたい!」ニコッ
絵里「…!」
ことり「…なんて、無理かなぁ?」エヘヘ
絵里「…ううん、無理じゃないわ。あそこはアンドロイドを平たく見てくれる人がいっぱいいるからきっと楽しいわよ」
ことり「うんっ!」
絵里(…今、この上ないくらいに幸せを感じた)
絵里(…なんでかって?)
絵里(考えれば分かるでしょ?ことりが笑ったのよ?)
絵里(感情保管領域に欠如が見られることりが、笑ったのよ?)
ことり『感情の欠如だよ、果南って人に胸を撃たれて私の心から喜びという感情が消えた』
ことり『だから私は笑えない、怒るとか泣くとか悲しむとかは出来ても喜ぶことは出来ないの…』
絵里(…奇跡だ、奇跡としか言いようがないわよ)
絵里(ことりが喜びの感情を取り戻した、それが嬉しくて嬉しくて…嬉しすぎて何故か涙が出てきた)
絵里「うぅぅううことりぃ…!」ギューッ
ことり「わっちょ、ちょっとどうしたの絵里ちゃん!?」
絵里「死ぬんじゃないわよことりぃ…!」
絵里(困り顔して笑うことりを見ればたちまち心は大空へと舞い上がった、もうすぐゴールなんだから…私の目指したエンドロールならもうすぐなんだからここで後ろを向いてなんかいられない)
絵里「よしっ!じゃあ私準備してくるわね!」
ことり「え、えぇ!?お風呂は!?」
絵里「シャワーだけで充分よ!今の時点からスパートかけてやるんだからっ!」ダッ
ことり「えぇ…もっとゆっくりしてればいいのに…」
絵里(やる気に満ちた私は装備の支度をしにいった)
絵里「…あなたたちは相変わらずこだわりが強いのね……」
曜「ん?あ、絵里さんおかえり~」
ルビィ「ルビィのスナイパーはこれしかないから!」エッヘン
絵里「あははは…」
絵里(リビングに戻れば武器の手入れをしてる二人がいて、アタッチメントや外見の汚れなど至らないところがないか入念に確認してて、曜に関しては終わったと思えば私や穂乃果の武器までチェックしてるからすごい情熱が伝わってきた)
曜「スコーピオンEVO…いつ見ても恐ろしい武器だなぁ」
絵里「…強いのは分かるんだけど、大して強みを発揮できてないような気がするのは私だけ?」
曜「そんなことないよ、絵里さんが強みを実感できないのはスコーピオンを相手にしたことがないからなんだよ、相手にするとその凄まじい発射レートに驚くことになると私は思う」
絵里「そういうものなの?」
曜「うん、そうだよ。ただ今回はホテル内とその周辺での戦闘を想定した際にはスコーピオンの弱みと強みがハッキリするよ」
絵里「どうして?」
曜「スコーピオンの強みは連射速度が速いから例えアンドロイドだろうとも避けるのが辛い手数の多さと一瞬で狙ったところに蜂の巣を作るその火力かな」
曜「逆にスコーピオンの弱みは手数に集中してる分一発が小さいから壁を貫通する威力が無くて、アンドロイド相手ならそこまで致命傷を与えられないこと、また反動が強すぎるから狙ったところにあまりいってくれないところも弱みかな」
曜「ホテル内はエントラスト以外ならとにかく角が多いと思う、その場合は近距離から中距離を想定した銃を持つべきだけどスコーピオンは中距離が対応出来ない銃だから数十メートル空いた距離を一直線で戦うとなるとスコーピオンはあまり機能しないものとなる」
曜「でもその逆は比類なき強さを発揮する、サブマシンガンという身軽さを重視したにも関わらず恐ろしい火力を持つスコーピオンは近距離でなら兵器と化すよ、あの路地裏以上に狭い道でスコーピオンなんて対になった状態じゃ避けれるはずがないからね」
曜「だからもし絵里さんがホテル内で戦ったならなるべく近づいて戦うようにしよう、それがベストな戦い方だよ」
絵里「…分かったわ、そこまで教えてくれてありがとね、曜」
曜「お安い御用であります!」ビシッ
ルビィ「…ルビィずっと思ってたんだけど、スナイパー主体のルビィに今回の作戦で輝ける場所あるのかなぁ…?」
絵里「………」
曜「…確かに」
曜「屋内でスナイパーは荒業すぎるし武器を変えるとかしないとルビィちゃんは戦えないかも…」
穂乃果「…いや、正直武器はそこまで関係無いと思う」
絵里「え?」
絵里(武器について三人悩んでいたらダイニングの方でパソコンとにらめっこする穂乃果が口を開けた)
穂乃果「鞠莉ちゃんのいるホテルには特にこれといった名高いアンドロイドや人間がいないんだよ、もちろん警備隊とかその辺はいるだろうけどそれより問題なのはセキュリティだよ」
曜「…確かに、鞠莉ちゃんのその技術は希ちゃんと花丸ちゃん、そして私を合わせた三人の力でさえ敵わなかった、その堅すぎるセキュリティをどう崩していくかも課題になってくると思う」
ルビィ「…でもルビィパソコンとか分からないよ…?」
絵里「…正直私もそこまで……」
曜「うーん…穂乃果ちゃんってどのくらい機械に詳しい?」
穂乃果「いや、私もあんまり詳しくはないよ。希ちゃんにパソコンの使い方を一通り教えてもらっただけだもん」
曜「そっか~うーん厳しいね、こういう時希ちゃんとかがいてくれたらすっごく楽なんだけど…」
穂乃果「………」
絵里「…困ったわね」
真姫「…機械なら私に任せてくれない?」
ルビィ「!」
絵里「真姫…大丈夫なの?」
真姫「とーぜんよ、そりゃあ鞠莉って人に敵うかは分からないけど私、機械には相当な自信があるわ」
真姫「そうでなきゃ機材なんて持ってこないわよ」
絵里「そ、そうよね」
曜「…でも機械に強いのと機械に詳しいはまた別だよ、鞠莉ちゃんのホテルにあるパスワードやカードキー型の扉みたいなロックシステムをハッキング出来る?それが出来なきゃ意味がないよ」
真姫「舐めないで、何年絵里と一緒にやってきたと思ってるのよ?喧嘩っ早い絵里をアシストする為にずっと機械を触ってきたんだからハッキング程度なら余裕よ」フフンッ
穂乃果「…でもあんまり無理はしないほうがいいよ、鞠莉ちゃんのシステムだもん、希ちゃんが無理だったんだから出来なくても誰も責めないよ」
真姫「…分かってるわよ、でもやってみなきゃ分からないじゃない!」
穂乃果「…それはそうだね」
真姫「見てなさい!今にぎゃふんといわせてやるんだから!」ダッ
絵里「あ、真姫…」
ルビィ「行っちゃったね……」
絵里「あれは真姫本気ね…」
穂乃果「実際どうなの?真姫ちゃんって」
絵里「少なくとも昔馴染みであった私、千歌、善子、果南、ルビィ、真姫の中ならダントツで機械が強かったわ」
絵里「元々私や果南が誰かと喧嘩ばっかしてたのもあって、真姫自身自分が戦闘的に無力だって分かってたみたいだったから、そういう技術面で自分を伸ばしていったの」
絵里「…だから私は真姫を信じるわ、無理な時はまた新しい入り方や上り方を考えましょう」
曜「そうだね、できることをしてる真姫ちゃんは立派だよ、だから私たちもそれに応えよう?真姫ちゃんがハッキング出来ても私たちがちゃんとしなきゃ意味ないんだから」
穂乃果「うん、その通りだよ」
ルビィ「…じゃあルビィもう寝るね、来る時まで後は寝て備えるよ」
ルビィ「絵里さんの寝室借りるね、おやすみ」
絵里「え、ええ分かったわ、おやすみ」
穂乃果「おやすみルビィちゃん」
曜「おやすみ!」
絵里(ルビィはもうほとんどの準備が終わったらしく、最後の準備である睡眠をしに寝室へ行ってしまった)
絵里(ルビィにおやすみの挨拶をして見送った後ルビィがいたところを見れば、いつも持ってる赤色のスナイパーと赤色のハンドガンがあり、私がそれを瞳に映すと不意に部屋の明かりに反射してルビィの武器が煌きだした)
曜「…なんというか歳と見た目に似合わぬ強さだよね、ルビィちゃんって」
絵里「それがルビィの武器だからね」
絵里「姉であるダイヤにも弱いという自分だけを見せて生活してきたし、強者の所以ってきっと自分を弱者にみせるところから始まると思うの」
絵里「小さい体で大きな敵の喉を喰いちぎるようなその姿がルビィには合いすぎてる」
穂乃果「…確かにね」
穂乃果「……希ちゃんが生きてればきっと喜んだんだろうね、ずっと探してた殺し屋と会えてあの時の
強さを今でも維持してるんだもん」
絵里「そうね…でもきっと無理だったわ、ルビィは最近まで眠っていたもの、死ぬ運命にあったなら会えるはずもないわ」
穂乃果「…その通りだよ」
曜「……穂乃果ちゃんの探してる人は見つかった?」
穂乃果「…ううん、見つかってない」
曜「心当たりはないの?」
穂乃果「………無いと思う」
絵里「どんな人を探してるの?」
穂乃果「…それが私もよく分からないんだ」
絵里「分からない?どういうこと?」
穂乃果「……私が知ってるのはその探してる人が私にとってとても大切な人だっていうことだけ、後は全部曖昧なんだ」
穂乃果「私は一回死んで記憶保存領域のリセットがかかった、だけどそれでも私は感じてるの」
穂乃果「この胸に宿る輝き……その正体を知りたいの」
絵里「輝き……」
曜「…絵里さん、穂乃果ちゃんが探してる人はね、穂乃果ちゃんが死ぬ前の親友とか家族なんじゃないかって希ちゃんが言ってた。でもその人は一向に現れないんだよ」
絵里「そ、そうなの……」
穂乃果「でもいいんだ、これを悲観する気は全く無いし」
絵里「どうして?」
穂乃果「この戦いに勝ったら、私は私の探してる人を探すよ」
穂乃果「もちろん、絵里ちゃんの背中を追いながらね」
穂乃果「だからこの戦いは絶対に生きて勝つよ、誰も死なずにね」
絵里「…そうね、全力を尽くしましょう」
絵里(穂乃果もことりと同じでやることを見つけたようだった、だから尚更負けられない)
穂乃果「私も寝るよ、正直今日はもう疲れたよ…作戦実行までの時間で気が済むまで寝てるよ」ガタッ
スタスタスタ
穂乃果「…あ、絵里ちゃんの寝室で寝るね」
絵里「ええ、分かったわ」
穂乃果「おやすみっ!」
絵里「おやすみなさい」
曜「おやすみー!」
絵里(そうして穂乃果も眠りについてしまった、流石戦闘慣れしてる人はこの辺の準備は早く、ダイニングのテーブルには穂乃果の武器と投げ物と紫色のシュシュが一つ置かれていた)
曜「…やっぱり穂乃果ちゃんは真面目だなぁ」
絵里「どうしたのよ急に」
曜「あのシュシュは希ちゃんのだよ、せつ菜ちゃんも穂乃果ちゃんも髪を片方だけ結ぶサイドテールみたいな髪型をしてるから二つあるシュシュを一つずつ使って希ちゃんの形見を離さないつもりでいるんだよ」
絵里「へえ…」
曜「…きっと絵里さんも後少ししたら希ちゃんと同じくらい慕ってくれると思うよ」
絵里「そうなの?あまり自信はないのだけれど…」
曜「大丈夫、絵里さんはもう充分に主としての役目をこなしてる」
絵里「…そう、曜にそう言ってもらえるならよかったわ」
曜「えへへっ」
絵里(曜のとびっきりの笑顔も何故か今は哀愁漂う笑顔に変わっていて、一度舞い上がった心もそろそろ今目の前にある恐怖に目を向け始めてるのかもしれない)
絵里「…曜はこの戦いに勝ったら、何をするの?」
曜「そうだなーうーん…分からないな…」
絵里「えー…何よそれ」
曜「だって私お金が欲しくて対アンドロイド特殊部隊に入ってたけど、お金はもういらなくなったし、なんか作るって言っても今は作るモノないしなー」
曜「んー……あ、そうだ!」
絵里「ん?」
曜「私はこの戦いに勝ったら」
曜「私がやることを探しにいこうかな!」
絵里「…ふふふっ曜らしいわね」
曜「曜らしいって何さー!」
絵里「んふふふふっなんでもないわ」
曜「もー何さー……」
絵里(曜ってこういう人よね、強いんだけどまずその前に曜は面白くて元気な人だ)
絵里(戦いの後もこういうやりとりができるように努めないといけないわね、メーターを振り切ったやる気は更に限界を超えていた)
曜「じゃあ私も寝るよ、絵里さんの部屋でね」
絵里「あはは…私ではないんだけどね…」
曜「絵里さんの寝室であることは間違ってないからね、じゃあおやすみ!」
絵里「ええ、おやすみ」
絵里(姿が見えなくなる最後の最後まで曜は笑顔で寝室へ向かっていった)
絵里「……最後か」
絵里(これでリビング・ダイニングにいるのは私一人だけ、ことりは未だにお風呂だし真姫は現在進行形で機械と戦ってるしそれ以外はみんな寝た)
絵里「……終わりなのね」
絵里(ラストバトルの前夜は、今まで以上に感慨深いモノになっていた。何度も言うけど、もうすぐ終わりなのよ。ゴールなのよ。答えの在り処なのよ)
絵里(願わくばその終わりが良い意味であることを私は願うだけ)
絵里「……よしっ」
絵里(その場に立って通常より弾薬が多く入った拡張マガジンのついたスコーピオンを片手に下げ、目を瞑り戦いの意識を研ぎ澄ました。覚悟が決まれば目を見開き銃にセーフティーがかかっているかを確認して私も寝室へと向かった)
絵里「……ふふふっ可愛い寝顔ね」
絵里(そうして静かに寝室の扉を開ければ可愛い寝顔をした三人が私をお出迎えしてくれてた)
絵里(相変わらず曜は面積を取ってるしルビィはダンゴ虫のように丸く縮こまってるし、穂乃果は予想以上に寝相が悪い)
絵里(そんな中でわざとらしく空いているベッドの中央で横になった、目覚めた時が決戦の時間。だけどそれまではこの幸せな気持ちをみんなと共有していたい)
絵里「…おやすみなさい、みんな」
絵里(ある意味でこの寝室で起こる“最後の眠り”はどこまでも心地の良い今までに感じたことのない幸せの香りがした)
今日はここで中断。
再開は明日か明後日にします
亜里沙に関してはもっとショック受けると思ってた・・・
いよいよ最終決戦って感じ出てるなあ
ちょっと緊急事態なので報告させてください。
自分はいつもPCの方からこちらへ書き込みを行っていますが、現在何故かPCから書き込みが出来なくて、スマホならどうだと思いこれを書き込んでいます。
とはいえ、正直言えばスマホで書き込みが出来たところで解決になるわけでもなく、自分の持つ携帯の機種が古いのか、ただ単にここが重いのかは分かりませんが、このサイトを開くのにえらい時間がかかるので正直スマホで投下はあまり良くないなと思っています。
して、解決法としましてはこのまま8時まで待ってみてそれでも(PCの方で)書き込みが出来ないようだったら、ここまで見てくれた方には大変申し訳ないのですが、他の板で最初から書かせていただこうかなと思っております。
ホントのこといって、SS速報はあまり人がいないと思っていましたが、その中でもこんな長い作品にわざわざ応援を書き込んでくれる方、見てくれている方にイヤな思いをさせるのはこちらとしてもいいモノではありませんが、だからといって完結させずに終わらせるのはもっとイヤなのでそこはご了承願えたらなと思います。本当にすいません。
スマホからは書き込み出来るんですね…。
結論の方は追って報告します。
いずれにせよ最後まで読みたいから待ってます
解決策が見つかるといいね
容量不足とかでは?
part2立ててみたらいいかも
テスト
昨日の八時にまで書き込みできなかったら他の板で立てるとはいいましたが、昨日だけで判断するには不十分だと思い一日待ってみましたがなんか今日はPCの方からでも書き込めました。
昨日書き込めなくなった、今日書き込めるようになった原因は不明ですが、昨日の寝る時にPCの更新をしたので、それが解決の要因になったのかな、と現時点では考えています。
そして、現在こうしてPCの方から書き込みが行えてる以上、別の板で立てる必要性はもう無くなったのでこのままここでえりちの物語を書こうかと思います。お騒がせしてすいませんでした。
~数時間後
絵里「………」
ルビィ「あれが……」
曜「オハラホテル…だね」
ことり「たかーい……」
穂乃果「あのホテルの最上階に……」
絵里「…待ってるのよ、鞠莉が」
絵里(夜景という名の人口宇宙の中で聳え立つホテルをビルの上から見つめる私たち)
絵里(あのホテルが瞳に映るだけで緊張が段々と漂い始めた)
曜「…風が強いね」
穂乃果「でも雨が降る様子はないよ」
絵里(その風は歓迎であったのかしら、警告であったのかしら。そしてその風は追い風だったのかしら、それとも向かい風だったのかしら)
絵里(どちらにせよ、髪を常に靡かせる強い風は緊迫感を煽り黄昏を作りだした)
真姫『こちら真姫、こっちはいつでもおっけーよ』
絵里「ええ、了解」
曜「いよいよだね…」
ルビィ「緊張してきた…」
ことり「私も……」
絵里「…私も超緊張してるけどとりあえず作戦のおさらいをするわよ」
穂乃果「うん、了解だよ」
絵里(これがラストバトル)
絵里(強風に煽られれば煽られるほどそういう意識が出てくる。今私が背にしてるあの建物で終止符が打たれるのよね)
絵里「すう…はぁ……」
絵里(緊張を抑えるために一度大きく深呼吸をした。覚悟を決めてゆっくり目を見開けば自然と戦いの意識は研ぎ澄まされ、みんなの顔も引き締まったものになってた)
絵里「まず前提条件として、無駄な殺傷は避けること」
絵里「鞠莉がいるここで事を大きくしてしまっては元も子もないわ、Y.O.L.Oは跡形なく消し飛ばしたから私たちの痕跡も消えてるけどここでは絶対に痕跡が残る。だから戦闘をしても殺すのは少し考えて」
曜「前から聞いてたけどすごいハードなミッションだよねー今回」
穂乃果「そうだねー」
絵里「ええ、それで今回は2と3の動きでいくわ、先行する二人と後衛、或いは追手の殲滅をする三人よ」
絵里「ルビィと私は2、それ以外が3ね。私たちは突貫するから3は注意を引いたりして」
曜「了解でありますっ!」
絵里「侵入に関しては真姫が用意してくれたこのカードキーでなんとかして」
絵里「…真姫、ありがとう」
真姫『いいわよ別に』
絵里「真姫がハッキングして大体のシステムはこのカードキーを認証場所にかざすだけでいけるはず、もしいけないようだったら……壊して進みましょう」
ことり「そんなんで大丈夫かなぁ…」
絵里「大丈夫よ、というかプラン通りに事が進むわけないんだからそこは臨機応変に、そして柔軟に対応していきましょう」
穂乃果「そうだね、もう何やったってもいいんだから出来ることに全力を尽くそう」
絵里「…よしっじゃあ行きましょう」
「うんっ!」
絵里(もう後戻りはできない)
絵里(待つのは死か————それとも生か)
絵里(…それを決めるのは誰でもない私で、その未来を照らすのは他でもない私の銃)
絵里(————それじゃあ、銃弾で物語を語りましょうか?)
~
曜「うわー…分かってたけど人いっぱいだなぁ……」
穂乃果「…殺傷は極力避ける、か」
ことり「難しいね……」
ことり「私たちは揺動でしょ?どうすればいいのかなぁ?」
曜「簡単だよ、殺さずに揺動なんて“これ”を使えばいいんだよ」
穂乃果「これ?」
曜「スタンとスモークグレネード、これだけで視界と聴覚の情報が消える。後は様子見すればいいよ」
曜「せーのっと!!」ポイッ
ピカーン!
曜「よしっ大成功、ちょっと様子見する位置を変えよう。ここにいたらさっきのグレネードの飛んでくる方角を見てばれると思うから」ダッ
穂乃果「了解」
ピッ
曜「こちら曜、とりあえず下はてんてこ舞いって感じだよ、そっちはどう?」
~
絵里「絵里よ、曜の見立て通り二階に窓が空いてる部屋を発見したからそこから侵入したわ」
ルビィ「怖かった……」
絵里「…このラペリングってやつは意外にもスリリングね……ルビィは恐怖のあまり顔面蒼白よ」
曜『あはは………とりあえず侵入出来たなら何よりだよ。こっちはこっちでやってるからそっちも頑張ってね』
絵里「ええ、もちろんよ」
絵里「それじゃあね」
曜『うん!それじゃあ』
ピッ
絵里「…よしっじゃあ行きましょうか」
ルビィ「うん、分かった」
絵里(侵入した部屋から出て周りを確認する、ここから先は見つかってはいけない、隠密行動を心掛けて用心深く歩みを進めていく)
絵里(…のだけど、下で陽動を行ってくれたおかげで上は筒抜け状態。流石一流ホテルの警備は報告が早いけど、早いせいで警備隊や宿泊客の移動も早くて私たちも早く行動できた)
スタスタスタ
絵里「……待って」
ルビィ「!」ピタッ
絵里「………この角の先に足音がする」
絵里「人数は……おそらく一人ね、こっちへ来るわ」
絵里「…待ち伏せして気絶させましょう、この先に階段があるから迂回もできないわ」
ルビィ「………」コクコク
絵里(万が一のことを考えてゆっくり進む中で段々と聞こえるこの静寂をかき消し残響を伝わせる足音に私たちは一度足を止めた)
絵里(あくまで私たちは隠密行動をしてる、だからルビィも言葉を使わずに身振りや手振りで返事をしてて私もかなり声を抑えて喋ってたけど、足音が近づけば近づくほど緊張感が加速してたちまち口は開かずの扉になってしまった)
スタスタスタ
絵里「………」
ルビィ「………」
スタスタスタ
絵里「…今!」ダッ
ルビィ「うん!」ダッ
「!」
絵里(足音の人物が角を挟んですぐそこまで来ただろうという時ルビィと一緒に飛び出した。まず私が相手のお腹に向けて肘打ちをし、そしてそれを食らい怯んだ相手の頭にルビィが跳び蹴りをかました)
絵里(————はずだった)
「はっ!」
絵里「何っ…!?」
絵里(私の右肘で出した肘打ちを左回りに体を捻ることで攻撃を躱し、次に来るルビィの蹴りはしゃがんでよけた。そして更には蹴りの後隙で無防備なルビィの背中に入る肘打ち、続けざまに私の頭に飛んでくる回し蹴りと相手は回避からすぐさま攻撃に転じ私たちの進行は突然止まった)
ルビィ「ぐぇっ!?」
絵里「くっ…」
絵里(ルビィは背中に強く肘を打たれたことで近くの壁に叩きつけられ、私は私の頭に歯向かう蹴りを右上腕を使いヒット直前で受け止めた)
「私に近接で勝とうなんて片腹痛いですわ」
ルビィ「!!!」
絵里「あなたは……」
ルビィ「……お姉ちゃん」
絵里「ダイヤ……」
ダイヤ「ルビィ…病院で聞きましたがやはり生きていたのですね……」
ルビィ「………」
ダイヤ「…しかしどうしてですか?この絵里という方の下でつく意味を考えなかったのですか?」
ルビィ「…それはどういうこと?」
ダイヤ「この方は言ってしまえば反社会的勢力なのですよ?自分らの目的のために破壊の限りを尽くして人々に迷惑をかけたのですよ?」
絵里「………」
絵里(確かにその通りかもしれない、現状アンドロイドでテロリズムを心に宿すのはマイノリティであり反旗を翻す為に銃を持って行動を起こすのは確かに常識的じゃないし過激だ)
絵里(…だから正直ダイヤには返す言葉がなかった)
ルビィ「お姉ちゃん、それは違うよ」
ダイヤ「!」
絵里「ルビィ……」
絵里(だけど、ルビィは考える素振りもなく即答だった)
ルビィ「私は小さい頃から善子ちゃんや絵里さん、そして千歌さんや果南さんとかアンドロイドと一緒に大きくなってきたからアンドロイドの気持ちはよく分かる」
ルビィ「だけどお姉ちゃんはアンドロイドの生活を知らない、だから好き勝手言えるんだよ」
ルビィ「アンドロイドだからっていう理由だけでいじめをうけた」
ルビィ「……そんなのをルビィの眼で見てきたらアンドロイドが何か行動を起こしたくなるのも分かるよ、だって理不尽なんだもん、納得できないもん、意味分からないもん」
ルビィ「それを何も知らないお姉ちゃんの口からあーだこーだ言ったらアンドロイドの心には更に火はつくの分からない?」
ダイヤ「…!」
ルビィ「…お姉ちゃんは認めてくれなかったよね、ルビィがアンドロイドと関わるのを」
絵里「………」
ダイヤ「………」
ルビィ「お姉ちゃんみたいな人がいるからアンドロイド差別は収まらないんだよ」
ルビィ「……でも、ルビィはお姉ちゃんのことが大好きだよ」
ルビィ「ただね」
ルビィ「アンドロイド差別をする人を好きになるなんて無理にも程があるよ」カチャッ
絵里「る、ルビィ……」
絵里(殺意と敵意丸出しでダイヤの顔に銃口を向けたルビィに思わず私は唾をのんだ)
ダイヤ「……ルビィ」
絵里(そして言うまでもなくそのルビィの言葉はダイヤにとって死刑宣告のようなものだった。何かを抑えるような力が拳に宿ると手がぷるぷると震え始めて不意に出たダイヤの“ルビィ”という呼び声は実に弱々しくてすぐに消えていった)
ルビィ「絵里さん、お姉ちゃんはルビィに任せて先へ行って」
絵里「え、でも……」
ルビィ「いいの、黒澤家の問題は黒澤家の人だけで解決するよ」
ルビィ「…それに見て」
絵里「え?」
ルビィ「あそこ、監視カメラがあるのに誰一人ここへ来ない」
ルビィ「ルビィたちは今見られてるのに誰もこないんだから、きっと鞠莉さんは来るのを待ってるんだと思うよ」
ルビィ「だから絵里さんは往って、ルビィが思うに今最上階に上る資格があるのは絵里さんだけだと思うから」
絵里「……分かったわ、でも無理はしないようにね」
ルビィ「…うんっ!」ニコッ
絵里「…それじゃあね」ダッ
タッタッタッタッ
絵里「………」
絵里(本当にこれでよかったのかしら、エレベーターに乗り、ドアが閉まってから思う)
絵里(…私がダイヤとルビィの話にどうこう言える話じゃないけど、もっと穏便に済ませられたんじゃないかって……)
絵里「……いや、無理ね」
絵里(…そう思ったけど無理そうね、私がダイヤの妹でルビィが善子のようにいじめられてるのを見たらルビィと同じ事をするでしょう)
絵里(アンドロイドを大切にしたい自分の一番近くにいるのがアンドロイドに差別意識を持ってる姉だなんて言ったらイヤになるし、嫌いになる)
絵里(それなのに好意で向こうからずりずり寄ってきてきちゃあルビィも銃口を向けたくなるわよ)
絵里(ダイヤに悪気がないのは分かってる、だけどルビィの意志とは対極の位置にあるダイヤの意志は残念だけど平行線で双方が永遠に理解出来ない交感になるでしょう)
絵里(…だからきっとここでも始まるんでしょうね、一方的な正義と一方的な正義の戦いが)
絵里(……いや、もし私の考えが外れていたならきっとルビィも違う行動を起こすのでしょうけど)
絵里(もし、ルビィと私の考えが同じだったらルビィは————)
~
ダイヤ「……さっきの跳び蹴り、驚きましたわ」
ダイヤ「鞠莉さんや果林さんなどから聞きました、ルビィは戦える子だというのを」
ダイヤ「…しかしですね、正直言うとルビィが力を隠しているのは知っていましたわ」
ルビィ「…!?」
ダイヤ「理由の方はお答えできませんが、やはりルビィの力は私の考えをいつも超越してくる」
ダイヤ「その力が……羨ましくて……憎いですわ」
ルビィ「………」
ダイヤ「…アンドロイドの件については謝罪しますわ、ごめんなさい」
ダイヤ「……しかし」
ダイヤ「今更考えを曲げたところでもう遅いでしょう?ルビィ、あなたから向けられたその銃口と殺意——それは殺し合いをお望みですか?」
ルビィ「…そうだよ、ルビィが絵里さんの下で就く以上、ルビィが善子ちゃんを忘れない以上、ルビィがアンドロイドの事を好きでいる以上はお姉ちゃんとは敵同士、ルビィだって今更お姉ちゃんに考えを改めてほしいなんて思ってないよ」
ダイヤ「…そうですか」
ダイヤ「……私はルビィの事が大好きです、今も昔もずっと…」
ダイヤ「ルビィが長い眠りについた時に私は強くなろうと決心したのです、いつまでも刀に囚われてないで、現代を生き抜く為に銃を学ばないとと思い必死に勉強をして今では対アンドロイド特殊部隊という強さは指折りの人間しか入れないところに所属しました」
ダイヤ「…ですが、そうですよね。そういう問題じゃないではないのですよね」
ダイヤ「私が育むべきだったのは生き物を殺める為の物理的な強さではなくて、広い心を創る精神的な強さだったのですね…」
ルビィ「………」
ダイヤ「ただ、ここ数年で手にしたこの力が無駄だったとは思いません」
ダイヤ「……何故なら、今ここでルビィと対等に戦うことが出来るのですから」カチャッ
ルビィ「…!」
ダイヤ「侮るつもりはありませんわ」
ダイヤ「いくら大好きな妹だからとはいえそう易々と殺されるわけにはいきません、ここは東京————ルビィもここで育ったというのならその言葉の意味は当然分かるでしょう?」
ルビィ「……戦いで勝負をつける」
ダイヤ「その通り、だから容赦は致しませんわ」
ルビィ「…ルビィもだよ」
ダイヤ「………ふぅ」
ルビィ「………」
ルビィ(お姉ちゃんの深い息を吐く姿はお姉ちゃんの近くにいた人なら誰だって知ってる、あれは武士としての精神統一みたいなものでもあって人を殺めることを全てに置いた証拠でもある)
ルビィ「……っ」
ルビィ(深い息を吐いたと同時に飛んでくる鋭い眼差しに思わず後ずさりした。長いこと眠ってたしお姉ちゃんのことはよく知らないけど、対アンドロイド特殊部隊に入れるのならきっと相当強く、それ以前に黒澤家として、武術を学んだ身としてその一つのハンドガンを両手で下げた時のスレンダーな姿はまるで刀を持っているかのような錯覚さえ感じてしまう)
ルビィ「……はぁ」
ルビィ(だけど、ルビィも黒澤家の人間だよ)
ルビィ(小さい頃からスナイパーを使っていたルビィの集中力を舐めないでほしい、ただ一点だけを————殺すことだけを考えて撃つまでの緊張感、ルビィはそれさえも振り払ってトリガーを引いてきた)
ルビィ(スナイパーで人を殺めるのに比べたらこの緊張だって可愛いものだよ、そう考えるルビィに宿るのは勝利への強い意志、この意志を持ってお姉ちゃんを————)
ルビィ(————殺すよ)
ダッ
ルビィ「決めるっ!」バンッ!
ルビィ(狙いは心臓、頭という小さな的を狙おうとすると目線でばれる、ならそれよりお姉ちゃんと顔を合わせながら的が大きい胸を狙うのが得策。人間と人間の戦いはほぼ一瞬で決まる、アンドロイドなら話は違うけど、人間相手なら攻めたもん勝ち!)
ダイヤ「はっ!」シュッ
ルビィ(だけどそれを避けるお姉ちゃんにはもう驚かない、お姉ちゃんの靴にも曜さんの作ったアシストが施されてるんだよね、分かってるつもりだよ)
ルビィ(だから回避と同時に放たれたお姉ちゃんの銃弾の存在もなんとなく分かってた)
ルビィ「やあっ!」ズサー!
ルビィ(射線は見えてないけど銃口の向いてる位置が上向きだったのを確認してルビィはスライディングをして銃弾を避けた)
ダイヤ「お覚悟ですわ!」
ルビィ「望むところだよお姉ちゃん!」
ルビィ(お互いトリガーを一回引けば縮まるルビィとお姉ちゃんの物理的距離は近接戦闘の始まりの証。ここの戦いを制した人が勝ちだよ、だからこの一瞬の戦いにルビィの全てを注ぐ)
ルビィ「せいのッ!」
ルビィ(近づいたのはルビィ、だから攻撃を仕掛けるのはルビィからで、そんなルビィの一発目は絵里さんもよく使ってる後ろ回し蹴り)
ダイヤ「くっ…」
ルビィ(苦しそうな顔はするけど普通に片腕で受け止めてくる様子を見るにやっぱり生半可な技じゃ攻撃は通らないし倒せないなと思う)
ルビィ「もう一回!」
ルビィ(だからこそルビィは用意してたよ、次の一手をね)
ルビィ(後ろ回し蹴りをガードされた後は逆さ回りでもう一回後ろ回し蹴り、そしてその後がガードされてようがされなかろうがそのまま回し蹴り、と反撃の隙も与えない連続攻撃をお姉ちゃんにお見舞いした)
ルビィ『お姉ちゃんに比べたらっ!』
ルビィ(ことりさんと戦った時にも似たようなことをした。後ろ回し蹴りからの後ろ回し蹴り————それは常識では考えられない動きだ)
ルビィ(それ相応の運動神経が必要で、その動きを完璧にこなすための勇気と瞬発力がいる。後バランス感覚とか色々)
ルビィ(でもそれ以前にルビィはそれを可能にするポテンシャルがあった)
ダイヤ「ッ…!!」
ルビィ(体が小さいこと)
ルビィ(ルビィはお姉ちゃんのようにスレンダーな体には育たなくて、だからルビィに刀は似合わなかった。体が小さいと走る時もお姉ちゃんより大股にしないと追いつけないし、精神的に強気に生きていけない————つまりそれはマイナスだらけの体だった)
ルビィ(……だけど少なくともルビィのこの小さな体がプラスに働くこともあった。それが運動神経に関わることだったんだ)
ルビィ(ルビィは絵里さんやお姉ちゃん、ましてや穂乃果さんや曜さんと比べても手は小さいし足の長さが短い、だけどそれは蹴りや殴りを行う時の空気抵抗に関わってくる)
ルビィ(足が短ければ短いほど空気抵抗による重さのようなものを受けにくくなるし、例えそれがほんのごくわずかな差でもバカには出来ない。実際その影響でルビィはこの動きが可能だし、ことりさんはこの動きに驚いてた)
ルビィ(だからことりさんほどの体格だとあの動きは難しいのだと思う…多分……)
ルビィ(…まぁね、この動きはとにかく常識外れな動きでお姉ちゃんも流石に予想出来ないからこれに対して対策が出来るはずもなく、ましてや初めて見る動きだというのに)
ルビィ(避けれるはずないよね)
ルビィ「これで終わりッ!!」
ルビィ(これもあの時と同じ、二回目の後ろ回し蹴りが頭にヒットしてここからずっとルビィのターン)
ルビィ(今回は二つ目に続き三つ目の蹴りもおまけとして入ったから結果的に、お姉ちゃんは頭に強力な蹴りを受けてその直後にお腹に同じように強力な蹴りを押し込まれた。そうすればお姉ちゃんは仰向けに倒れてそこで戦いは実質終わりを迎えた)
バァン!
ルビィ(ルビィが二回目のトリガーを引いたのが最後、大きな銃声が鳴った直後にその世界から音が消えた)
ルビィ(倒れたお姉ちゃんは目を開けたまま動かない、立ってる私も目を開けたまま動かない)
ルビィ「………」
ルビィ(ルビィはただお姉ちゃんから広がる赤を無感情で見つめてた)
ルビィ(結局ルビィがお姉ちゃんの気持ちを理解することはなかった。ルビィだって薄情じゃない、お姉ちゃんがルビィの為に強くなってくれたのはとても嬉しいし、こうして終わりを迎えてはお姉ちゃんは一生報われない存在だ)
ルビィ(だからそこに同情は出来るし、今となっては一緒に生きる道も存在してたのかもしれない)
ルビィ(でも、時間は巻き戻せない)
ルビィ「………」
スタスタスタ
ルビィ「……終わったんだね」
ルビィ(お姉ちゃんに近づいて脈を確認して放った言葉はすぐに消えた。止まった鼓動はいうまでもなく死の証拠、今も広がり続けるこの血だまりは終わりの証拠)
ルビィ「…これでよかったのかな」
ルビィ(ふと呟いたその言葉。これでよかったっていったらウソになるけど、これが当然の結果といっても納得はできる)
ルビィ(……ただ、ルビィの足元を飲む血だまりに落ちる涙はどうにもこうにもルビィが後悔を感じてる証拠だった。昨日涙は枯れたはずだったのに、また無限に溢れ出るのはどうしてだろう)
ルビィ(あぁ…これなんだね…あの時の亜里沙ちゃんの気持ちって……)
ルビィ(殺すまでは出来るけど、殺した後がどうしようもないんだ。どちらかというとそれは“自分が殺されるから抵抗するしかない”というところから始まる殺意なわけで、決して相手を殺したくて殺したわけじゃない)
ルビィ(…ルビィ、この気持ちを抱いてる亜里沙ちゃんを殺したんだ)
ルビィ(……最低だなぁ)
ルビィ「……んん」
ルビィ(…でも、こんなとこで泣きじゃくってるだけの弱いルビィにはなりたくない。お姉ちゃんに勝った今、お姉ちゃんより強く生きていかないといけないのがルビィの務め)
ルビィ(絵里さんが死んだ時も残りのメンバーだけでなんとか頑張っていこうって決めて自分を強くもったんだ、だからルビィは涙を拭って手に持ってたハンドガンを強く握った)
ルビィ「……あれ?」
ルビィ(ふとしてお姉ちゃんの死体を見つめると、お姉ちゃんの持ってるハンドガンに目がいった)
ルビィ「これ……?」
ルビィ(そのハンドガンは普通の人からすれば何もおかしくないただのハンドガン、だけどルビィから見ると何かがおかしい)
ルビィ「ぶろーにんぐはいぱわー…?」
ルビィ(お姉ちゃんの銃に刻まれたこのハンドガンの名前らしきもの。手にもってモデルを確認すれば更に疑問符は増えていった)
ルビィ「……こんなハンドガンあったっけ」
ルビィ(ルビィが持ってるのはブローニングというハンドガンで、このお姉ちゃんが持ってるのは次世代モデルにあたるのかな。でもこんなハンドガンあったっけ……銃にはすごく詳しいけど、こんなハンドガン知らなくてちょっと違和感を覚えた)
ルビィ「…あるよね」
ルビィ(それは今気にすることじゃない、そう判断したルビィはお姉ちゃんの形見としてこのブローニング・ハイパワーを持ってそこを後にした)
ルビィ「……絵里さん」
ルビィ(流石高級ホテルといえるような近未来エレベーターの前につくと、現在エレベーターがある位置は最上階を示していた)
ルビィ(きっと絵里さんはもう鞠莉さんと会ってる、そこでは絵里さんは何を知るのだろう。予想も出来ないや)
ルビィ「……よしっ」
ルビィ(深呼吸をして、エレベーターを押した。けどエレベーターが動かなかった)
ルビィ(疑問に思いながら数回エレベーターで上がるためのボタンを押してるけど反応しない。だから気付いた)
ルビィ(上で何か起こってる、これは————罠だということに)
ルビィ「ッ!!!」ダッ
ルビィ(そう思ったルビィはエレベーターのすぐ近くにあった階段へ突っ走った、短い脚じゃ階段も一つ飛ばしでしか登れないし絵里さんや曜さんと比べちゃそもそも速度が遅い)
ルビィ(だけど走らなきゃ。今本気で走らないでいつ本気で走るんだ、何十階とあるこの階段は本気で走らなきゃ間に合わない!)
ルビィ(そう自分自身の戒めや、昂る感情が奮いを立てて汗も一瞬で過ぎ去ってしまうほどルビィは焦ってた。足音の残響すら置いていかれて、時々つまずきそうになっても無理矢理足をねじって前へ進む)
ルビィ(待つのは生か死、それを確かめる為に今は真実への階段を上る)
ルビィ(そうしてルビィは————)
~
曜「穂乃果ちゃん後ろ!」
穂乃果「なっ…!」
ことり「せやぁっ!」ドカッ!
ことり(スタンとスモークを投げてから約二十五分後くらい経った今、下は大騒乱だった)
ことり(スタンとスモークは時間が経てば効果も薄くなるしそれは有限、だから私たちが見つかるのも時間の問題で見つかれば見つかったで今度は組手のようなものが始まった)
穂乃果「た、助かったよ」
ことり「いいよ、気にしないで」
ことり(十数人、それも全員拳銃を持ってる相手に近接だけでやり合うのは辛くて、いくら私たちが上手く立ち回れるからとはいえ数の暴力もあるし、武器の性能差を経験だけで埋めるのは無理に近かった)
バンッ!
穂乃果「! はぁっ!」シュッ
ことり「ほっと!」シュッ
ことり(三人全員殴りと蹴りだけを駆使して相手に近づいて一人ずつ無力化していく、だけど伊達に最上級ホテルの警備をしてるだけあって統率はかなり取れてて全員が射撃に集中するのではなくてそれぞれ近接か射撃かの役目を持って行動してる)
ことり(そんな相手に三人だけで挑むのは正直荷が重い、戦いながら何度もそう感じた)
穂乃果「よい…しょっと!」ドカ!
ことり「後は任せて!」ダッ
タッタッタッタッ!
ことり「ふんっ!とりゃー!」ドカッ!
ことり(いつも穂乃果ちゃんは最前線にいる人で、どんな相手でも恐れずに立ち向かう勇敢な人だ)
ことり(だからこの戦いでもまず穂乃果ちゃんが先行する、だから私はその穂乃果ちゃんのカバーをする。穂乃果ちゃんが相手のお腹に肘打ちを入れた後は、私が大きな踏み込みと一緒に掌底をかまして相手を吹っ飛ばした)
曜「スタン投げるよー!」
ことり「! うんっ!」
穂乃果「了解だよ!」
ことり(そうして後ろから飛んでくるスタングレネードはここ周辺全ての人間の視界を奪う。私と穂乃果ちゃんで殲滅を行って曜ちゃんは追撃がこないように辺りをかき乱す役目をやってもらってる)
タッタッタッタッ
穂乃果「悪いね!私たちも本気でやってるから!」
ことり「痛いと思うけどごめんねっ!」
曜「二人とも殺さないようにね…」
ことり(フラッシュに備えた特殊なゴーグルをつけてる私たちには曜ちゃんの投げたスタングレネードは効かない、だから相手の視界を奪ってる間に近づいて殴り、或いは蹴り飛ばす)
ことり「よしっ」
穂乃果「ふう」
ことり(穂乃果ちゃんと連携して数人を殴って蹴って吹っ飛ばしたら、背中を寄せ合って周りを見渡した)
ことり「…囲まれたね」
穂乃果「どうしようか…」
曜「はいはーい!そんな時は渡辺曜にお任せ!」バンッ!
ことり(そういいながら曜ちゃんは天上に向かって銃を発砲、そうすると銃声に反応した数人が曜ちゃんの方を向いたので、私たちはその間を使って曜ちゃんの方向にいる警備員一人に、穂乃果ちゃんはスライディングで相手を宙に浮かせて私はその宙に浮いた相手に飛び膝蹴りをしてそこからどかした)
曜「ぃよしっ!いいね二人とも!残りの人もだいぶ少なくなってきたよ!」
穂乃果「このくらい余裕だよ」
ことり「ねっ」
曜「よーし!後の人たちをちゃちゃっと片付け——————」
ドカーン!
ことり「……え?」穂乃果「え?」
ことり(一歩、二歩、三歩と進んだ曜ちゃんが眩い赤い爆発と共に突然消えた。もう少し近かったら肌が焼けていたかもしれないし、そうでなくても火傷をしてしまいそうな熱が私に伝わってきて、私と穂乃果ちゃんを吹き飛ばす爆風は困惑の声を出してからやってきた)
ことり「ぐっ……」
穂乃果「急に何…!?」
ことり(後ろに数m吹き飛ばれたけど空中で体勢を立て直して着地は怪我無く出来た。だけどそのすぐに飛んでくるモノに私は顔を青くした)
ことり「ッ!?!!!?」
穂乃果「よう……っ!」
曜「……っぁ」
ことり(私たちの前まで飛んできて見せたその姿————頭から血を流して顔の一部が黒く変色してる。ころころと転がって仰向けの状態で止まると見える曜ちゃんのその顔はあまりにも絶望に満ちていて、口が空いたままであまりにも厭世的でトラウマになりそうだった)
曜「…あっ………」
ことり(倒れる曜ちゃんの場所からはじわりじわりと血が広がっていって、首の皮一枚繋がってる状態で生きてはいるみたいだけど、ほぼ死んでるようなものだった)
ことり「曜ちゃん!!!?」
ドカーン!
穂乃果「くっ……一度逃げよう!!」
ことり(曜ちゃんをおんぶした穂乃果ちゃんはそう言った。驚く暇も与えてくれない爆撃がことりたちを襲うもので事態は一気に形勢逆転を迎えた)
タッタッタッタッ
ピッ
ことり「真姫ちゃん!」
真姫『こちら真姫、どうかした?』
ことり「曜ちゃんが死んじゃう!!!」
真姫『どういうこと?落ち着いて状況を説明して」
ことり「爆発を受けて曜ちゃんがっ!」
真姫『出血は?』
ことり「もう酷いよ…このままじゃ死んじゃう!というかなんで生きてるのかが分からないくらいだよ!」
真姫『ならいい?まず頭の出血を止めなさい、そうしてすぐにこの位置へ向かって』
ことり「…!ここは……」
ことり(フラッシュに備えたゴーグルに浮かび上がる電子地図に目を丸くした、どこだろうこれ……)
真姫『私の今いる位置よ、黒い車の中にいるからすぐに来て』
ことり「ち、近くない?なんでこんなところに……」
真姫『私の提案よ、あの家からじゃ電波も届きにくいからね、それに私にだって出来ることはあるし』
真姫『そう、例えば治療とか』
ドカーン! ドカーン!
ことり「この爆撃は何!?」
穂乃果「グレネードランチャーだよ!多分後二発か三発は来るよ!」
ことり「そんなここはホテルの立地でしょ!?なんでそんな…!」
穂乃果「私たちが危険な存在として認識されたのかもね…」
ことり「…矢澤にこでももっと考えて撃つと思うけどなぁ」
穂乃果「にこちゃんは堅実だもんね」
穂乃果「…それで真姫ちゃん、話は聞いてたけど今すぐ向かうのは無理だよ、追手が来るんだもん。このまま真姫ちゃんのところへいったら真姫ちゃんも一緒に巻き込まれちゃう」
真姫『それは……そうね』
穂乃果「仮に今から戦って20分で決着がついたとしたら曜ちゃんは助けられる?それとも死んじゃう?」
真姫『…それは曜を見てないから何とも言えないけど、曜がどれだけ耐えられるのかにもよるわ』
穂乃果「…曜ちゃん」
曜「……ぁ」
穂乃果「20分耐えられる?」
曜「………」フルフル
ことり「…!」
ことり(ごくわずかだけど、死にかけの曜ちゃんは首を横に振った)
穂乃果「…じゃあ十分は?」
曜「………」フルフル
穂乃果「五分」
曜「………」フルフル
穂乃果「……三分」
曜「………」フルフル
穂乃果「……二分、二分もつ?」
曜「………」コクコク
穂乃果「…そっか、なら制限時間は二分だよ」
真姫『…えっ二分…?』
ことり「……分かった」
穂乃果「二分後にそっちに行くね、真姫ちゃん」
真姫『えっちょっと待っ————』
プツンッ
穂乃果「……ねえことりちゃん」
ことり「何?」
穂乃果「どうして制限時間は二分って私が言ったのに、驚かないの?」
穂乃果「普通そこは無理でしょって驚く場面じゃない?それなのにことりちゃんはあたかも当然のように受け入れてくれた」
ことり「………」
穂乃果「…ラブライブ」
ことり「…!!」
穂乃果「記憶を失っても、何故かこの言葉だけは覚えてた。この言葉だけは記憶を失う前の言葉だってことが分かった、そしてそれが忘れちゃいけない言葉だって強く自覚が持てた。その名の通り業務用アンドロイドである私が生きることを愛す、私が変化を望もうとした証拠なんだって思ってる、ラブライブっていうのは」
穂乃果「だからそれだけ記憶を失う前の私はその言葉に強い想いを抱いてるんだって思った、記憶を失っても失われない私に沁み付いた何かが私の心にはあったんだ」
穂乃果「ことりちゃん、手を貸してよ」
ことり「えっ」
ギュッ
穂乃果「……ほら、やっぱりことりちゃんは私の知ってる温もりとそっくりなんだもん。機械的に判断して、純度100%の温もり」
ことり「………」
穂乃果「最初に会った時からおかしいって思ったんだ、私はことりちゃんの事知らないのにことりちゃんは何故か私の事をよく知ってた」
穂乃果「絵里ちゃんと話す時は鼓動のスピードが遅いのに、私と話した途端鼓動のスピードが加速する、なんで私と話すことに緊張してるんだろうって」
穂乃果「他にも色々あるよ、初めて会ってからあの家の図書室で話をした時、ことりちゃんは儚そうな淡い笑顔をしてた。それが儚いって分かったのは花丸ちゃんも同じ笑顔をよくしてたからね、そしてそれは間接的に過去に何かを抱えてる人なんだって私は確信したよ」
ことり「………それで?」
穂乃果「あの時手を握った時には明らかな手応えがあった、ここまで私の探してる人の温もりと合致する人…いやもう本人なんじゃないかって思うほどの人は初めてだったよ」
穂乃果「希ちゃんの合致率は63パーセント、花丸ちゃんの合致率は41パーセント、せつ菜ちゃんの合致率は18パーセント、念のためと思って握ったにこちゃんに関しては3パーセントだったよ」
穂乃果「だけどことりちゃん自身が否定をするからきっと違うんだって思ってたよ」
穂乃果「…だけど、今確信したよ」
穂乃果「ことりちゃん、あなたは私が記憶を失う前にずっと一緒にいた人でしょ?」
ことり「……!」
穂乃果「私のペアでもないのにことりちゃんはせつ菜ちゃんと同じくらい…いやそれ以上に息のあった動きが出来てる、私の行動癖を知ってて、私がやるであろう行動をもう知ってての動きをしてる」
穂乃果「それはつまり私が記憶失うずっと前から戦線を共にしてきた人なんだよね?ことりちゃんは初期型、私も初期型、昔から一緒でも何もおかしな話じゃないんだよ」
ドカーン!
ことり「……気付いちゃったんだね、穂乃果ちゃん」
ことり(爆発が近くで起きても動じない私たちがそこにはいた)
ことり(例え記憶を失っても、私の事をどこかで覚えていてくれるのは何とも穂乃果ちゃんらしかった)
ことり(別にばれたくないって思ってたわけじゃない、だけど秘密にしておいた方が悲しまずに済むと思ってずっと逃げてた。前の穂乃果ちゃんとは別人だって思ってても、ニッコリとした笑顔や最前線を突っ走るあの姿は何も変わらなくてもどうしても昔の穂乃果ちゃんと重なってしまう)
ことり(穂乃果ちゃんと喋ると緊張する、心があたふたする。昔の穂乃果ちゃんより真面目で笑顔の数も減った穂乃果ちゃんといると心が苦しくなる)
ことり(だけどやっぱり穂乃果ちゃんは穂乃果ちゃんのまま。記憶を失ってもどこか冷静だし戦う時に見せる背中はとても大きく感じる、笑ってなくてもなんだかんだ優しいし、軍神としての強さも失ってない)
ことり(だからそっと傍で穂乃果ちゃんを見てるのがことりにとって幸せだった。もう悲しくなりたくないから、もう何も起こってほしくないから私は進展よりも停滞を望んだんだ)
ことり(それなのに穂乃果ちゃんは私のことに気付いちゃったんだね……)
ことり(別にイヤなわけじゃないよ、でも…ことりの心が揺れだすのはもはや避けられないことだよ)
ことり「…当たり前じゃん、穂乃果ちゃん動きを知ってるんだから連携が取れないわけないじゃん」
穂乃果「……やっぱり」
ことり「だって…ずっと昔からいた人のこと忘れられるわけないじゃん!どんなに辛い思い出抱えてたってことりにとっては大切な思い出なんだもん!」
穂乃果「…穂乃果だってそうだよ!今は記憶を失って何もわかんないけどことりちゃんの事大切にしてたっていうのは覚えてる!この体で感じてる!!」
穂乃果「穂乃果にとってことりちゃんは運命の人だったもん!!!」
ことり「!!」
穂乃果「……会いたかった」
ギューッ
ことり「………ことりもだよぉ!!」ポロポロ
ことり(穂乃果ちゃんに“運命の人”って呼んでもらえるだけでもうこの上ないくらいに幸せだった)
ことり(気付いたら笑えるようにもなってて、それもこれも全て絵里ちゃんのおかげだよ。幸せを運んでくれることりたちのリーダーに、穂乃果ちゃんの主に)
ことり(東京を変える人物として相応しい人だよ)
穂乃果「…さて、ことりちゃん」
ことり「んん…」ゴシゴシ
ことり「何?」
穂乃果「真姫ちゃんから無線を切ってからもうすぐ一分半だけどどうする?」
ことり「……三十秒もあれば充分だよ」
ことり「倒す必要なんてないんだから」
穂乃果「うん!そうだね!」ダッ
ことり「行こう!」ダッ
ことり(そう言って穂乃果ちゃんは曜ちゃんを背負いながら走り出し、後に続くことりは残った全てのスモークとスタンを一定の間隔をあけて投げた)
ことり(するとどうだろう、後ろで大きな煙幕が上がった途端に飛んでくるグレネードランチャーの弾二発に対しては、私たちがほぼ同じタイミングで後ろを向きそれぞれ別々の弾を撃って空中爆破させた)
穂乃果「えへへっやっぱり分かってるね」
ことり「元相棒だからね♪」
ことり(穂乃果ちゃんが右にいるにも関わらず撃ち落とすのは左のグレネード弾っていうのは知ってる、こういう局面に陥った時、穂乃果ちゃんは自分の方向とは逆の方を撃ち落としてクロスファイアを作りたがる、その方がかっこいいからって言ってたのを覚えてる)
ことり(そうして前を向いて走り出せばすぐに左へ大きく曲がって相手の視界から外れた。ここで左に行くのはずっと昔から困ったら左に行こうって根拠も無しに胸張って言ってたから)
ことり「はっ」ピョーン
穂乃果「ほっと!」ピョーン
ことり(横に橋があっても飛び越えられる川ならジャンプで飛び越えるのも知ってる、その方が風が当たって気持ちいいからって言ってるのも覚えてる)
タッタッタッタッ
ことり「真姫ちゃん!」
真姫「二人共!大丈夫?」
穂乃果「追手は撒いた、後は曜ちゃんをよろしくね」
真姫「ええ、任せない」
曜「……ぅ」
真姫「あなたたちは今からどうするの?」
穂乃果「絵里ちゃんがどうなってるか知ってる?」
真姫「絵里からはとうとう最上階に上るっていう連絡が最後、ルビィはそもそも連絡がないわ」
ことり「絵里ちゃん最上階に行ったんだ……」
真姫「……無事だといいわね」
穂乃果「………」
真姫「どうする?行くのもよし、ここに残るのもよしだと私は思うわよ」
ことり「……二人に応答を入れられない?」
真姫「………無理ね、電波の届かないところにいるみたいだわ」
ことり「うーん………」
穂乃果「……待とう、絵里ちゃんが生きてるのを祈って私たちは待とう」
穂乃果「今ここで出てもまた見つかって辺りが騒然とするだけだよ、確かに私たちが最上階に行くことで変わることもあるだろうけどハイリスクすぎる、そしてそこにリターンがあるのかすら分からない。今鞠莉ちゃんと一対一の状態の絵里ちゃんを邪魔するわけにはいかない」
穂乃果「だからここは待とう」
ことり「……分かった」
真姫「…そうね、賢明な判断だと思うわ」
穂乃果「………」
ことり「………」
真姫「………」
「何もないといいけど……」
~
絵里「……うん、お願いね、うん、それじゃあ」
真姫『ええ、それじゃあね』
絵里「……はぁ」
絵里(もしかしたらこれが最後の応答になるかもしれない、そう感じながら真姫に最上階に行くと連絡をした)
絵里(果たして何が待ってるんだろう、考えたくないような気がして思考を停止させ興味のままで終わらせたけど、もうすぐしたらイヤでも見ることになる)
絵里「十二…十三…十四…」
絵里(現在の階を示す数字が増えるにつれ増していく緊張感)
絵里(これが最上階まで来たらとうとう私の目標地点にまで到達する)
絵里「………三十」
絵里(長かった。このエレベーターに乗るのにどれだけ苦労したんだろう、様々な死線を超えて、たくさんの感情が巡って、絶望をイヤと味わって、自殺までした)
絵里(だけど、こうして私は真実を知る者としてこのエレベーターに乗っている)
絵里(————ここからが本番)
絵里(ゴールが終わりじゃない、ゴールに何があるかが重要だ)
絵里「……四十六」
ピコンッ♪
絵里「………」
絵里(最上階である四十六階につくと鳴る軽快な効果音。しかし扉は開かない)
絵里「…ここに当てるのね」
絵里(エレベーターの階を入力するところの上に、カードを読み取るっぽい場所があった。だからここに真姫が用意してくれたカードをかざした)
『————コード613、機密ID認証をしました。ウイルス、スパイウェアの確認無し』
『ロックを解除、扉が開きます』
ウィーン
絵里「………」
絵里(セキュリティによる何重にもかけられたロックの解除が終わると、扉が開いた)
スタスタスタ
絵里「………」
絵里(その先はとても広く、奥は全面ガラス張りの社長室。床はロイヤリティ溢れる絨毯が敷かれていて、入って斜め左にあるテーブルには分厚い本の束がいくつもあって、右の壁には様々な資料が貼り付けられている)
絵里「……ようやくなのね」
絵里(私の目線の先にあるイスに座る誰か。私が声を発することで外を向いていたイスがゆっくりとこちらを向き始めた)
絵里(あぁ、ようやくなのね)
絵里(やっとこそで私は————)
今日はここで中断。
昨日は色々ありましたが今日はこうして何事もなく投下できていて安心しています。
再開は明日か明後日、おそらく次が最終回になります。
いよいよラストかー
あの子が序盤以来出てきてないのが気になるな・・・
なんというかFPSの知識で書いてるんだなって感じ
すいません、台風の影響もあってちょっと今日は投下厳しいので明日か明後日にやります。
すいません、台風の影響もあってちょっと今日は投下厳しいので明日か明後日にやります。
なんか連投しちゃいましたけど気にしないでください
名残惜しいけどもう終わっちゃうのか…
ことりが穂乃果に対してそっけないと感じてたけどこういう理由があったんだな。
鞠莉「…待っていたわ」
絵里「鞠莉……」
鞠莉「海未とにこに銃弾を放った時からあなたは絶対にここに来ると思ってた」
鞠莉「アンドロイドの生みの親にしてアンドロイドの差別を作り上げた私のところに来るのはもはや分かっていたこと」
絵里「………」
鞠莉「…でも、ここに来るまでのあなたは様々なDifficultyに遭遇してきた」
鞠莉「対アンドロイド特殊部隊との衝突、仲間の突然の裏切り、大切な仲間の死、自殺、愛すべき妹との殺し合い」
鞠莉「それを全て乗り越えてここまで来たのよ、まずは私からおめでとうを言いたいわ」
絵里「…ふざけないで、私の今までのしてきたことはおめでとうなんて綺麗な言葉で収められるものじゃないし収めていいものでもない」
絵里「そもそもなんで鞠莉が果南が裏切ったことや私が亜里沙と戦ったことを知ってるの?ましてや自殺まで知ってるのはおかしいんじゃない?」
鞠莉「私は常に私でありなさい」
絵里「……!」
鞠莉「聞き覚えない?」
えりち『私は常に私でありなさい』
絵里「まさかあなた…!!」
鞠莉「そうよ?」フフフッ
鞠莉「私がえりち、あなたの二代目になる予定だった記憶よ?」
絵里「…どういうことよ、あなたは死んで終わりの人間じゃない。仮にアンドロイドが機械的に記憶の移動が出来たとしてもあなたは機械仕掛けの記憶を有していないから記憶の移動が出来ないわ」
鞠莉「ええ、人間の脳を有してる私だけじゃ出来ない。けどそれを補助する機械を使えば記憶の移動も可能になるっていったら信じてくれるかしら?」
絵里「そんなこと出来るの…!?」
鞠莉「——ええ、私はそれをソウルボックスと名付けた。それは脳に存在する意識という概念の発生源を見つけた時に私は考えた」
鞠莉「テキストやワードにはコピー&ペーストなんて便利な機能があるじゃない、それと同じ原理よ、意識の源が分かったのならその意識の源をスキャニングして、解析する。そして解析して得たデータを元に、私の脳にあるニューロンをアンドロイドを作ったのと同じ方法で人工的に再現して、機械的に私の記憶をコピーした」
鞠莉「するとどうなる?機械化された私の記憶がそこには出来て、ソウルボックスを埋め込んだアンドロイドの機械化された記憶が私の今この胸に刻まれているソウルボックスへやってくる、それを他のアンドロイドと連携させれば私はそのアンドロイドを乗っ取ることが出来る。そうして私はもはや半永久的な不死身になったのよ」
絵里「そんな馬鹿げた話が————」
鞠莉「あるのよ」
絵里「!!」
鞠莉「これを使えばクローンだって作れる、もちろんそんなことはしないけどね」
鞠莉「元々アンドロイドは私が作ったのではなくて私と希で作ったのよ、その中で私たちは相手が特定の行動をすることでそれを読み取りこちらも特定の行動をする、という人間とロボットが差別化されるようなものにはしたくなかった」
鞠莉「希には強いこだわりがあった、まるで人間みたいなんじゃなくて、人間そのものとして機能させたいという強い思いがあった」
鞠莉「だから私たちはここのホテルのスタッフに脳のスキャンを協力してもらってをニューロンの可視化をして、意識の源を発見した。アンドロイドの脳は機械仕掛けよ、意識はあるけど記憶の保存は全て機械で行ってる。だから私たち人間の脳に存在する細胞や神経は別に要らなくて、記憶の移動に関しては記憶の機械化が出来た時点で十分に可能だった」
鞠莉「そうして長い年月を経てソウルボックスという機械があるのだけれど、実際の成功例をあなたはもう知っているでしょう?凛を殺したのは誰?」
絵里「……!!!」
鞠莉「そう、私よ?」
鞠莉「あなたの身体を借りて私があの戦場に立ったわ、あの時は死ぬかと思ったわ。だって目覚めたら背中にナイフが突き刺さってるんだもの」
絵里「な、なんで…凛は対アンドロイド特殊部隊でしょ?仲間じゃない……」
鞠莉「凛という人物とあなたという人物を天秤にかけた結果よ?私にとってあなたの方が重要だったの」
絵里「…それはどうして?」
鞠莉「————標準型アンドロイドX、聞いたことある?」
絵里「!!!」
鞠莉「その様子だと聞いたことあるのね、どこから漏れたかは知らないけどアンドロイドを作っていく中で私はとあるアンドロイドにそういう特殊な呼称をつけた」
鞠莉「標準型アンドロイドXという特別性を持たせるためにね」
鞠莉「第一に、それは人間でなきゃいけなかった」
鞠莉「目に見えて強い戦闘型でもなければ、目に見えて人間とはまた違う業務型でもない。人間に最も近い標準型でなきゃいけなかったの」
鞠莉「そして第二に、それは識別コードが私の誕生日でなきゃいけなかった」
絵里「!」
鞠莉「あなたの識別コードを今のうちに確認しておきなさい?」
鞠莉「第三に、それは私が死んだ時に自動で記憶が飛ぶ対象でなきゃいけなかった」
鞠莉「ソウルボックスは近年に開発された代物よ、そんなものを有象無象のアンドロイドが有してるわけもなく、標準型アンドロイドXという呼称をつけるにあたってはそのアンドロイドの胸にソウルボックスを埋め込んで、私が死んだ時自動で私の胸のソウルボックスに入っている私の記憶がその標準型アンドロイドXに転移するように作った」
絵里「……!」
鞠莉「最後第四に、それは私とそっくりなアンドロイドでなきゃいけなかった」
鞠莉「私の分身であるような、そしてそれが作られる頃には私がソウルボックスを利用してそちらの身体に移動しても違和感のないようなアンドロイドでなきゃいけなかった」
絵里「……それが私?」
鞠莉「そうよ、識別コードF-613、名前は絢瀬絵里、高校三年生」
絵里「………」
鞠莉「あ、そうそう、なんであなたに絵里って名前がついたか知ってる?」
絵里「…知らないわ」
鞠莉「あなたは私————私の分身、そしてもう一人の私。そういうコンセプトで作られたアンドロイドなのよ」
鞠莉「Electric Loot Identity」
鞠莉「その頭文字を取ってELI、そう…だからあなたは絵里なのよ」
絵里「…意味が分からないわ、その単語に込められてる意味がまるで分からないんだけど?」
鞠莉「さっき言ったわよね、あなたは私だと」
鞠莉「あなたの特徴は何?」
絵里「特徴…?」
絵里「………」
鞠莉「…そうね、あなたはちゃんと言われるまで自覚しない人だもの。私とそっくりだわ」
鞠莉「あなたは一度見た動きを即座にコピーする」
絵里「!」
鞠莉「……私がそうだったの」
鞠莉「テレビで見たプロレスの技や時代劇の剣捌き、サスペンスでやってた犯行の手口、実際に見たプロのタイピング、他にも色々見てきたわ」
鞠莉「そうしてく中で私は歳をとればとるほどやれることが多くなってることに気付いた、それも全てが職人レベルでね」
鞠莉「だから私は七年前というまだ中学生でもない時にアンドロイドの開発に成功した」
絵里「………」
鞠莉「私もね、希に言われるまでは気付かなかったわ。自分のこの才能に」
鞠莉「私はこの才能を誇りに思った、けどね、私のやってることがいくらすごくてもそれって率直に言ってしまえば」
鞠莉「他人の個性を盗んでるだけに過ぎないのよ」
絵里「…!!」
鞠莉「気付いた?Electric Loot Identity、それぞれを直訳して電子、盗む、独自性————その三つの単語のうち、後ろの二つから形成される人物が私なのよ」
鞠莉「この才能が人を傷つけるっていうのを知ったのは運動会の時、クラスで一番速い子のフォームを見て覚えてそれを真似て学年一位の座についた」
鞠莉「そのクラスで一番速い子、泣いてたわ。それはもう大泣き」
鞠莉「他にも中学の美術はプロのを見て先に覚えてたからダントツで上手かった、私が上手すぎたせいでクラスで絵がとっても好きだった子の熱意を殺してしまった、差を見せつけすぎて現実を直視させてしまった」
鞠莉「料理番組を意図せずとも数百と目にしてきたから私は料理がものすごく上手かった、調理実習は私の料理が上手く出来過ぎて逆に上手く出来なかった子がバカにされてた」
鞠莉「私のこの才能は色々な人を傷つけすぎた、だからこの才能はプラスではなくてマイナスのニュアンスとして扱われるべきだと思って私はElectric Loot IdentityのLの部分をLootにした」
鞠莉「…これで分かったでしょう?ELIという名前の意味が」
絵里「……ええ、よく分かったわ。この力はあまりにも人間離れしすぎてる、それは鞠莉と戦ってる時によく分かった」
鞠莉「…そうよ、この才能は恐ろしすぎるの」
鞠莉「希はこの才能を才能とは呼ばなかった、多分希の優しさかしら」
鞠莉「行動記憶体質って、希はそう言ってた」
絵里「行動記憶体質……」
鞠莉「そう、あなたもその体質なのよ」
絵里「……じゃあ私が頭を撃ち抜かれても生きてるのは何故?記憶保存領域が壊れてるはずでしょ?」
鞠莉「あなたの死は私の死と同義だからよ、事実あなたの命はもう消えた。だけど私の命が残ってる」
鞠莉「私の胸に埋め込まれたソウルボックスが私の心臓の鼓動を検知しなくなったら自動的に機能を停止してあなたも死ぬわ」
絵里「…じゃあ今の私はゾンビなの?」
鞠莉「いや死に至る痛みを感じたらあなたのシステムが自動でシャットダウンするから死ぬわよ、今は死を誤魔化してる状態にすぎないの」
絵里「……今ここで鞠莉を殺せば私も死ぬのかしら?」
鞠莉「ええ、その通りよ」
カチャッ
鞠莉「……私を殺すつもり?」
絵里「ええ、あなたを殺すわ」
鞠莉「私を殺したらあなたも死ぬのよ、それでもいいの?」
絵里「いいわ、元々はない命だもの、もうどう使ったって後悔なんてないわよ」
鞠莉「……やっぱりあなたは私と同じね、その頑固な感じは私を見てるみたいだわ」
絵里「…それは嬉しくないわね」
鞠莉「素直に喜んでもいいのよ?」フフフッ
絵里(最上階に上ってから様々な情報が私の脳へ伝達した。えりち————いや、鞠莉が言ってたその“真実”ってやつはパンドラの箱だった)
絵里(アンドロイドの抱える過去のその全貌が見えたような気がして、私というアンドロイドと、鞠莉という人間の関係がよく分かった)
絵里(…そして、それが分かった上で取った行動は鞠莉を殺すこと)
絵里(今ここで鞠莉を殺して、私も死ぬ)
絵里「……!その武器は…!」
鞠莉「ええ、あなたと同じ武器よ、スコーピオンEVO A1とPR-15、さいっこうにcoolな武器構成だと思うわ」
鞠莉「私も生きとし生ける東京を知ってる人間だからね、抵抗空しく殺される気はないわよ」
絵里「…そう」
絵里(…きっと鞠莉の立場に私がいたらきっと私は鞠莉と同じ事を言っていた、そのことに少し驚いてしまった)
絵里(東京が好きでここにいる私、どんな相手でも抵抗をする私、どんな相手でも勝てないとは思わない私がいる。そんな私がいう言葉はきっとその鞠莉の言葉なんでしょう)
鞠莉「last battleに相応しいわね、あなたと私」
鞠莉「最強対最強の戦いよ?」
絵里(そういいながら鞠莉は曜がいつも使ってる射線が見えるゴーグルをかけ、スコーピオンを下げて戦闘態勢に入った。これがラストバトル、これが天下の分け目)
絵里(泣いても笑ってもこれで最後)
絵里「すぅ…はぁ…」
絵里(鞠莉から目を離さず呼吸を整える為に息を吸って吐いた。私の人生の集大成——秘められた私の想いと宿る強き思いを乗せて私は————)
絵里(————ラストバトルへのトリガーを引いた)
絵里「はっ!」ダッ
絵里(発砲と同時に鞠莉に近づいた、願わくばこれで終わってほしいけどやっぱり鞠莉はスコーピオンのトリガーを引いた分すべての弾を回避してきて、跳躍の際に靴の裏がほんのり光ってるのを見て鞠莉も曜と同じで跳躍アシストを使ってるのを確認出来た)
鞠莉「あなたはこれを避けられるかしら?」
バリバリバリバリ!
絵里「っ!?」シュッ
絵里(とんでもない数の射線が私の瞳に映る。果南のアンダーバレルショットガンや希のショットガン二丁の射線に劣らないその手数の多さに目を丸くした)
曜『そんなことないよ、絵里さんが強みを実感できないのはスコーピオンを相手にしたことがないからなんだよ、相手にするとその凄まじい発射レートに驚くことになると私は思う』
絵里「ちっ……」
絵里(曜の言う通りだ、トリガーを引くことで鳴る恐ろしい銃声は恐怖の権化で、それと共に飛んでくる数えきれない銃弾は一発自体は小さいもののトリガーを引きっぱなしなら弾の全てが連なった状態で飛んでくる、そんなのを受けたらひとたまりもない)
絵里(スコーピオンの弾丸を初めて見た私は左へ大きく跳躍、動き自体はよかったものの驚きで少し反応が遅れて結果的に上腕に銃弾一発が掠った)
タッタッタッタッ
鞠莉「あの時の再戦といきましょう!」
絵里「ええ、そうねっ!」
絵里(私が走り出せばまるで鏡のように同じスピード、同じ体勢、同じタイミングで鞠莉も走り出し、結果的な距離の縮まりは近接戦闘の始まりの証だった)
鞠莉「ふっ!」
絵里(しかし攻め方は少し特殊で大体ここで飛んでくるのはストレートやフックなんかの殴りなんだけど、鞠莉が行ったのは私の前で止まって上段蹴りで、どうやら鞠莉は私が一度見たものをコピーするという特性を知っている以上みんながしてるような行動では攻めてこなさそうだった)
絵里「はっ!」ガシッ
絵里(でも、上段蹴り自体は見たことある。それをしゃがんでよければ第二の蹴りが飛んでくるのでしょう?それは知ってる、だから私は避ける選択をしたのではなくて鞠莉の足首を掴んで受け止める選択をした)
絵里(そうして私は掴んだ足首を引っ張って鞠莉のお腹に膝蹴りをして、そのまま怯んだ鞠莉の足首をもう一度強く引っ張り後ろに流し鞠莉の後頭部目掛けて蹴りを————)
鞠莉「はい、残念」ドカッ
絵里「ッ…!?」
絵里(——入れることが出来なかった)
鞠莉「受け止められるのは想定済み、この場合希みたいに反撃するためのコラテラルダメージを受けるのがいいのよね、私は希の動きを何十回と見てきたからこれには自信があるの」
鞠莉「私、受け手なものでね」フフフッ
絵里「ぐっ…うぅううう…!!」
鞠莉「ごめんなさいね絵里、私はあなたより戦闘経験豊富だから」
絵里(鞠莉は後ろに流され私の視界から外れた瞬間にバランスを元に戻しもう片方の足で私の横っ腹に蹴りを入れてきた)
絵里(アンドロイドにも劣らない蹴りの威力はおそらく後二発でも受ければ体がおかしくなる、だからもう食らえない、食らっても一発…だから次攻撃する時はちゃんと行動を選んでやらないといけない)
鞠莉「そんなゆっくり起き上がってたら死ぬわよ?」バリバリバリバリ!
絵里「!」
絵里(鞠莉の蹴りの痛みが全然消えなくて起き上がるのが辛かった、でもそんなゆっくりしてたら死ぬのは確かに間違ってない)
絵里(しかし幸いにも片足はもう既に立ってる状態だったからなんとかすぐ回避行動に移れた。ただ、これじゃあ跳躍の勢いが足りなくて銃弾をもろに受ける、だからとりあえず右に跳躍をした後すぐに左へスライディングして、あの時の果南のようなジグザクの形で避けた)
絵里「今度こそ行くわっ!」タッ
鞠莉「ええかかってきなさい!!」
絵里(そうして回避すれば自然と痛みは消えていく、そうなればたちまち起こる近接戦闘は今まで戦ったどの相手よりもハイレベルなものだった)
絵里(右ストレートを繰り出せば体を捻って避けられすぐに反撃の後ろ回し蹴りが飛んでくる、それを少し姿勢を低くして回避し私も負けじと振り返り鞠莉の顎にアッパーカットを入れる、けどそれも体を少し反って回避され、それはもう回避をしたら反撃をして、反撃されたら回避をするの繰り返しだった)
絵里「はぁ…はぁ…本当に人間なの…?」
鞠莉「ん、んん……私はあなただからね…」
絵里(一進一退の攻防を続けて汗も出始め息も切れ始める、しかしアンドロイドの体力についていける鞠莉という人間は一体何者なんだ、どれだけすごい人間なんだと不思議になってくる)
鞠莉「そんなことより…早く決着をつけましょうか…長期戦にでもなったら私が負けちゃうからね!」ダッ
絵里(私の問いに答えてすぐに鞠莉は動き出す、いくらアンドロイドの体力についていけてるとは言ってもやはり人間であるのは変わりなく、長期戦に持ち込まれて不利になるのは既に分かっているみたいだった)
絵里「…ええそうね!」ダッ
絵里(だけど、それが分かったところで私の戦法は変わらない。逃げに徹するわけでもないし攻めることをやめるわけでもない)
絵里(私だってすぐに決めたい、だって正直私だってこのまま持久戦をしてたら動けなくなって負ける未来しか見えない。なら鞠莉が望むように、私が望むように私も鞠莉と同じように突っ走った)
絵里「はっ!」
鞠莉「食らって!」
絵里(お互いスコーピオンの弾をリロードする暇なんてなく、この期に及んでは考えることが一緒。前へ走りながらスコーピオンの残弾を相手に向かって発砲、そしてその後する行動も全く同じで、お互い射線で心臓を狙ってるのが確認出来てるからそこはスライディングで一気に距離を詰めながら回避)
絵里「…!!」
絵里(蹴りが届く位置まで来て鞠莉が次にする行動はさっきと同じ上段蹴り、それが分かったのはさっきのフォームを見てたから)
絵里「………」
絵里(上段蹴りを初めて見た時はしゃがんでよけた、けどそれだと追撃が来てしまう)
絵里(だからさっきは足首を掴んで反撃に転じた、けどそれでも鞠莉には通用しない)
絵里(ならこの攻撃はどうする?安定択で攻撃に付き合わない?それともまた受け止める振りをしてフェイント?)
絵里(……いや、違う)
絵里「っ!」タッ
絵里(ここで弱気になっても勝負はつかない、鞠莉は私、なら私は鞠莉だ。如何なる状況においてもコンディションはほとんどが同じ)
絵里(鞠莉が体力切れなら私も体力切れだし、鞠莉の限界が私の限界だ)
絵里(…でも違う)
絵里(私と鞠莉の決定的な違いで私は勝負にいかなきゃいけないみたいだ)
絵里(確かに私は鞠莉で、鞠莉は私。そこは素直に認めよう)
絵里「だけど違う!!!」
鞠莉「!」
絵里「鞠莉!これが私と鞠莉の違いよ!!!」
絵里(ここが勝敗の分かれ目だった)
絵里(鞠莉の上段蹴りと私の上段蹴りが交わった直後に発生する小さな衝撃波を感じた瞬間、鞠莉の蹴りは私の蹴りの威力に負け体勢を崩した)
絵里(そうして私は追撃にフルパワーの飛び後ろ回し蹴りを鞠莉のお腹にヒットさせ、吹き飛ばし壁に叩きつけた)
鞠莉「がっ…けはっ…!うっぷっ……」
絵里「はぁ…はぁ…はぁ……」
絵里(————私と鞠莉の違い、それはアンドロイドか人間であるかの違い)
絵里(アンドロイドは人間より運動神経がよくて、力は強い、例え戦いで人間がアンドロイドと並べてたとしてもそれは表面上に過ぎなくて、武器という小細工がない戦いで交えれば力の差はすぐに出てくる)
絵里(鞠莉、あなたはきっと見たことがないのでしょう?)
絵里(色んな人の動きを見て最強を積み上げてきたけど、鞠莉と同じ立場にいる私の力を見たことがないでしょう?)
絵里(文字通り鞠莉は最強だ、だけどその最強のコピーであり、戦闘的な意味で人間の上位互換種族であるアンドロイドの私の力は、見るだけじゃ分からないでしょう?)
絵里「………」
スタスタスタ
鞠莉「あ…ぅ……」
絵里(口からよだれを垂らす鞠莉にハンドガンの銃口を近づけた)
絵里(このトリガーを引けば全てが終わる。そう、何もかも全てが終わるのよ)
絵里(始まればいつかは終わる、それが今日なんだとしたら随分と長いようで短い日々だった)
絵里(様々なモノを失った、鞠莉を殺して得るものがあったとしてもきっと失ったモノの数に勝ることはない)
絵里(この戦いで数多くの命が失われた、果たしてその全てが失う必要のある命だったのかしら。今となってはもう分からない)
絵里(振り返ってみればあのままずっと多少の差別を受けながらも平和な暮らしをしていればよかったのかもって思う、だけどレジスタンスになってから得たものには値段とか価値とかそんなものじゃ推し量れない最高のモノだってあったはず)
絵里(ことりや穂乃果、曜やせつ菜————出会いだってたくさんあった)
絵里(だけど、そのレジスタンス生活も今日でおしまいね)
絵里(目を見開いた私はゆっくりとトリガーに指をかけた)
プルプルプル
絵里「……!」
鞠莉「……ぅ?」
絵里(……まただ)
絵里(鞠莉に銃口を向け、トリガーに指をかけた瞬間に手が震えだした)
絵里『私が…私が…!』
絵里『……なんで』
絵里(何回目だろう、この手の震えは)
絵里(震えた手に力を込める為にもう片方の手を絡めて、無理矢理トリガーを引こうとした)
絵里「くっ……なんで…なのっ…!!」
絵里(トリガーが引けない、怖い、怖い、怖い)
絵里(これを引いたら人が死ぬ、私は人を殺すことになる。鞠莉という忌々しい相手を前にしても、今までずっと殺すつもりでいた相手を前にしても、殺すことへの恐怖心が拭えてなかった)
絵里(どうして私は人が殺せないのかしら、どうして私は殺すことが怖いのかしら)
絵里(……それはいつまで経っても分からない永遠の謎みたいだった)
鞠莉「……ふんっ!」
絵里「あっ!?」
鞠莉「はぁッ!」
絵里「ぐふっ…!?」
絵里(あの時のように堂々巡りをしてれば下る甘々な覚悟を持ってた私への天罰)
絵里(尻もちをつき壁に寄り添っていた鞠莉は突然私の足に突き蹴りをいれてきて、トリガーに対して戸惑っていた私は避ける術なく命中するけど、アンドロイド特有のバランス感覚はこれだけじゃ決壊せず怯むだけに留まる)
絵里(だけど間髪入れずに飛んでくる追撃の更なる突き蹴りに対してはどうなるのかしら?)
絵里(……答えはとっても簡単、それに対応できずお腹に強烈な蹴りがめり込んで私はさっきの鞠莉と同じように吹き飛ばされた)
絵里「かっ……なんで…ッ!」
鞠莉「殺さないなら私が殺してあげる、私を殺す時間はたくさんあったのよ、それなのにあなたは殺さなかった」
鞠莉「だから恨むのなら私を殺すことが出来なかった自分を恨むことね」
絵里「……くっ」
絵里(仰向けに倒れる私に向けられた鞠莉のハンドガンの銃口。私自身動けなくはないけどここで動いたら撃たれて死ぬでしょう)
絵里(鞠莉の瞳にはちゃんとした殺意がある、数秒前に私もその瞳の影を宿してれば鞠莉を殺せたのかしら)
鞠莉「じゃあね、絵里」
絵里(トリガーにかけた指に力が加わるのを感じた私は力強く目を瞑った)
絵里(こんな最後は不甲斐ないけど、ある意味私らしい最後だ)
絵里(東京で人一人殺せないんじゃきっとこうであるべきだったのよ、甘い考えを求めているなら東京から離れるべきだったのよ)
絵里(私の人生を起動修正できるポイントはいくつもあった、そこで私は東京を選んだ)
絵里(殺される直前になって、今更鞠莉を恨むなんてことはしない)
絵里(……もう、悪いのは私なんだから)
スカッ
絵里「………?」
鞠莉「………」
絵里(だけどどうしてかしら、鳴り響くのは弾が込められていない空の発砲音だけ)
絵里「…ん、ま、鞠莉……?」
絵里(ゆっくり目を見開けば、既にハンドガンを下げてる鞠莉がそこにはいて、瞳を大きく揺らしながら私を見ていた)
鞠莉「………わけないじゃない」
絵里「…え?」
鞠莉「殺せるわけないじゃない!!」
絵里「!!」
鞠莉「あなたは私とかそれ以前にあなたは私の作ったアンドロイドなのよ…?そんな私のアンドロイドを私が殺せるわけないじゃない……」
鞠莉「だから殺しは対アンドロイド特殊部隊の人に任せてたのよ……」
絵里「鞠莉……」
鞠莉「やっぱりあなたは私よ、誰かの為って時にしか人を殺せなくて、だけどいざ殺せる状況になっても相手を殺せないの、殺すことが出来ないの」
鞠莉「絵里、あなたはここに来るまで人を一回でも殺した?凛は私が殺したのよ、それ以外であなたは人を殺せたの?」
絵里「……殺せてない、殺せなかった」
鞠莉「…知ってるわ、だってあなたは私なんだもん」
絵里「………」
絵里(私はゆっくりと立ち上がった)
絵里(鞠莉のハンドガンは最初から弾が入ってなかった。そして鞠莉も私と同じで理由も無しに人を殺せない人だった)
絵里「…あなたは一体何者なの?仲間なの?敵なの?」
鞠莉「……仲間よ」
鞠莉「私も希も気持ちは同じだった、アンドロイドと仲良くしたい。アンドロイドを人間として扱ってほしい。私たちはアンドロイドの味方なのよ」
絵里「なら————」
鞠莉「待って、一つ昔話をさせてくれない?」
絵里「昔話…?」
鞠莉「ええ、一番初めに作られた識別コード1のアンドロイドのお話よ」
絵里「…いいわよ、聞いてあげる」
鞠莉「ありがとう」
鞠莉「そうね…どこから話しましょうか」
鞠莉「じゃあアンドロイドを作った理由から話しましょう」
絵里「アンドロイドを作った理由…」
鞠莉「ええ、実は梨子にはちょこっとだけ話したことがあるの、その時にはアンドロイドを作った理由は言わなかったんだけどね」
鞠莉「アンドロイドを作った理由、それは————」
鞠莉「————海未の為だった」
絵里「…海未?あの青い髪の…」
鞠莉「ええ、海未は産まれてすぐに事故で家族全員を失った孤児だったのよ。きっと親の顔も覚えてないでしょうね」
鞠莉「元々私と海未が出逢ったのは海未が十歳の時———いえば私がアンドロイドを作った年だった)
鞠莉「海未はとっても臆病で人見知りが激しくて知らない人じゃ会話もまともに出来ないくらいに弱い子だった、元々孤児ということもあって小原家が海未を引き取ったのだけど、それでも会話が出来たのは私だけだった」
鞠莉「なんでかって?それは私の親はとても厳しい人だったからよ」
鞠莉「臆病な海未が厳しい私の親とまともに会話が出来るはずがなかったのよ」
絵里「………」
鞠莉「だから私は海未を強くしてあげたかった、私以外とも喋れるようになってほしかった」
鞠莉「だから私はアンドロイドを作ったのよ」
鞠莉「人間と瓜二つ、ちゃんと意識があって自我がある。一番最初に作ったアンドロイドの名前はしずくという名前だったわ、海未のように礼儀正しく優しい子だった。けどね、アンドロイドは何もないと破壊を生み出すことに気付いたの」
絵里「破壊?」
鞠莉「ええ、当時のアンドロイドっていうのは標準型だとか戦闘型だとかそういうタイプにわけられてたわけじゃなくて普通に人間として造っただけのアンドロイドだった」
鞠莉「結果しずくは一日で海未と友達になったの、ここまでならよかったねって言えるでしょ?」
絵里「…何かあるの?」
鞠莉「…そうよ、タイプもわけられてなかった初期型のアンドロイドには課した目標があまりにも簡単すぎたのよ」
絵里「課した目標?」
鞠莉「戦闘型には戦うっていう目標がある、業務型には業務をこなすっていう目標がある、標準型には人間らしく生きるっていう目標がある」
鞠莉「この三つは死ぬまで達成できない目標なのよ、争いは無限に発生するし、業務だって減ることはない。人間らしく生きるなら死ぬまで人間らしく生きなきゃ達成できない。そういう永久的な目標があるの」
鞠莉「でも初期型にはそれがなかった、海未と友達になるっていう目標を課しただけで、それを一日で達成してしまったしずくは後に破壊的衝動を自発的に生み出した」
鞠莉「それから何度と試行錯誤してもその破壊的衝動を抑えることが出来なかった、何故か人を殺すし身の危険を感じると何らかの過激な対抗手段を持って反撃してくる」
鞠莉「いえばアンドロイドはイレギュラーな存在なの、私が作ったにも関わらずまだ謎の多いミステリーな存在なの」
絵里「………」
鞠莉「…そう、それでなんで私がアンドロイドの味方なのにアンドロイドを差別するような発言するのか、それはね—————」
ルビィ「絵里さん!!!」
絵里「!」
鞠莉「!」
絵里(鞠莉の話を聞いていたら突然階段へ続く扉があいてルビィが大きな声で私を呼んだ)
絵里(その声に私も鞠莉も反応して首をかしげた?)
ルビィ「あ、う…えっと……邪魔しちゃった…かな…?」
絵里「いえ、いいわ。それより来てくれたの?」
ルビィ「もちろんだよ!絵里さんを助ける為だもん!」
絵里「…そう、だけどその必要はないらしいわ」
ルビィ「えっ……」チラッ
絵里「…今の鞠莉は大丈夫よ」
ルビィ「そ、そうなの?」
絵里「ええ」
絵里(警戒するルビィをなだめる私だけど、こんなにも鞠莉を受け入れるのが早いんだなって我ながら不思議に思ってしまった)
絵里(こんな平和的な私がいるんじゃ、今まで戦ってきた私がバカみたいじゃない……)
ルビィ「あ、だ、だったらえっと、聞いてほしいことがあるの!」
絵里「ん?どうしたの?」
ルビィ「かよさんが!かよさんが狙撃されちゃうよ!!」
鞠莉「花陽が?どうして?」
ルビィ「えっと…かよさんのライブ、今日やっててここの階段からライブ会場が見えてたんだけどその数百m離れたビルの屋上にスナイパーのスコープに反射してる光っぽいものがあったの!」
鞠莉「Really?勘違いじゃない?」
絵里「……いや、ルビィはスナイパーで戦線を潜り抜けた猛者よ、スナイパーのことなら私や鞠莉より詳しいはずよ」
鞠莉「…ならいいわ、今花陽の防衛任務についてる果林と梨子に連絡するまでだわ」
鞠莉「果林、梨子、応答して」
ザー…ザー…ザー……
ルビィ「……応答しないね」
絵里「………」
鞠莉「果林、梨子、緊急事態よ、今がどんな状況でもいいから応答しなさい」
ザー…ザー…ザー…
鞠莉「…ウソでしょ」
ルビィ「やっぱり向こうで何かあったんじゃ……」
絵里「…!スナイパーに狙撃されるかもしれないんでしょ!?なら今すぐにでも向かわないと助けられないじゃない!」
鞠莉「!!!」
ルビィ「う、うん…」
鞠莉「なら今すぐにGoingでしょ!?そうよね絵里!?」
絵里「え?ええ!」
鞠莉「花陽は守らないといけないわ、あの子を死なせることは————」
絵里「…?」
絵里(鞠莉って花陽の事知ってたのね、どうでもいいかもだけどそう思った)
花陽『はい、私、鞠莉さんに気に入られてるみたいで、鞠莉さん直属の対アンドロイド特殊部隊っていうのは対アンドロイドの前に特殊部隊であるので、SPみたいなボディーガードをすることもあるんですよ』
絵里「……!」
絵里(…いや、既に布石はあった。だからつまりはそういうことなんでしょう)
絵里(私も花陽の事は助けたい、その気持ちは鞠莉と一緒。人が死ぬのを分かっててそれを見捨てるなんてことは)
えりまり「絶対にしたくない!!」
鞠莉「行きましょう!!」
絵里「ええ!ルビィも行くわよ!」ダッ
ルビィ「う、うん!」ダッ
鞠莉「どこ行ってるのよ!」
絵里「え?だってエレベーターで下に降りるんでしょ?」
鞠莉「何言ってるのよ!それじゃあ時間がかかるじゃない!」
絵里「…まさか」
絵里(喋りながら何かを手に持って私を招く鞠莉を見て私は何かを察した)
鞠莉「そうよ!このパラシュート一つでここから飛び降りましょう!」
ルビィ「え、ええ!?」
鞠莉「時間がないの!」
絵里「……んあぁもうどうなっても知らないわよ!?」
鞠莉「come on!」
絵里「ルビィ、怖いかもだけど耐えなさいよ」ダッ
ルビィ「えっ……」
ダッ
絵里(急いでパラシュートバッグを背負い、ルビィを抱っこして、そして強く鞠莉の手を握って私は走り出した)
絵里「鞠莉!あの硝子撃って!」
鞠莉「了解よ!」バンッ!
パリーン!
絵里「行くわよー!!!」ピョーン
ルビィ「ぴぎぃいいいいいいいいいいいいい!?」
鞠莉「シャイニー!!」
絵里(摩天楼に響くルビィの悲鳴と鞠莉の楽しそうな一声。銃弾で散る硝子と共にこの重力場へ飛び出した)
絵里(ルビィは抱っこしてるからいいけど、鞠莉とは手を繋いだ状態ってだけで、パラシュート無しのスカイダイビングをしてるようなもの、だからこの手は離してはならない)
鞠莉「…私が離さないわ」
絵里「!!」
絵里(以心伝心とはまさにこの事なのかしら、それとも鞠莉と繋いだ手が力んでしまって悟られたのかしら)
絵里(風の音で声も一瞬でかき消されてしまう中で鞠莉の声は風に邪魔されることなく透き通って聞こえた)
絵里「着地するわよ!鞠莉はルビィに掴まって!」
鞠莉「ええ!」ギュッ
ルビィ「ぴぎっ…」
絵里「よっと」
絵里(そうして風に揺られながら着地。パラシュートを開いた為にもうこのバッグやパラシュートは邪魔でしかないので急いで外してすぐに花陽のライブ会場に向かう体勢を整えた)
絵里「る、ルビィ大丈夫?」
ルビィ「あ、足が震えて動かない……」
絵里「じゃあ私がおんぶするわ…」
ルビィ「ご、ごめんなさい……」
絵里「よしっ行くわよま————」
鞠莉「これに乗りなさい!二人とも!」
絵里「——って、え?」
ルビィ「なにあれ……」
鞠莉「車に決まってるじゃない、これで向かう他ないでしょ?」
絵里「車って鞠莉、運転免許証持ってるの?」
鞠莉「当たり前じゃない!ゴールド免許よ!」
絵里「…なら大丈夫か」
絵里(車なんて聞いて悪寒しかしなかったのだけど、ゴールド免許って胸張って言ってるから安心した)
絵里「ひゃああああああああああ!?」
ルビィ「ぴぎいいいいいいいいいいいいい!!」
鞠莉「かっ飛ばすわよおおお!!!」
絵里(……そう錯覚してたみたいだったわ)
絵里(さっきまでのシリアスはどこにいったのか、天井のない超高級車に乗った矢先、ゴールド免許なのかと疑う荒すぎるドライビングに私もルビィも絶叫だった)
絵里「ゴールド免許っていくら運転が酷くても一度も運転しなきゃゴールド免許じゃない!!」
鞠莉「教習所の時は超真面目に普通の上位免許を取りに行ったんだからゴールド免許なのよ?」
絵里「というか鞠莉の年齢じゃゴールド免許取れなくない!?」
鞠莉「それは気のせいデース!」
絵里「何なのよそれはぁ!!!」
絵里(一応信号は守ってはいるけどあまりにも荒い。こんな破天荒なことに付き合わされてると今まで鞠莉を殺すために色々してきた自分が本当に馬鹿みたいに思えてくる)
絵里(ルビィはルビィでおそらく鞠莉に対して本来とは違う意味で恐怖を植え付けられたでしょうね……)
絵里「真姫!聞こえる!?」
ブウゥウウゥウン
絵里「鞠莉うるさいわよ!」
鞠莉「エンジン音は消せないのよ!」
真姫『…どういう状況?』
絵里「話は後!とにかく花陽のライブ会場に来て!」
鞠莉「その無線私にも繋げない?」
絵里「え、でも鞠莉って…っ!?」
絵里(赤信号で止まってるのをいいことにイヤホンをかけパソコンを用意してる鞠莉を見て言葉を失った、事故を起こせば終わりなのにどんだけリスキーなことをしてるのよ…)
鞠莉「それで繋げない?」
絵里「わ、分かったわ。この携帯の電波に入ってきて」
鞠莉「了解よ」カタカタカタカタ
絵里(ふざけながら真面目にパソコンをタイピングしてるのを見てると鞠莉という人物がよく分からなくなる。最上階に行ってから鞠莉に引っ張られっぱなしだ)
絵里(……でも、不思議と悪い気はしなかった。一緒に行動しててこの何も企んでなさそうな純粋な感じはむしろ心地いい感じがして、鞠莉は私で私は鞠莉————同じ存在だからこそ裏に何もないことが分かってしまって鞠莉への信頼はこの短い時間でとても厚くなったような気がした)
鞠莉「hello!」
真姫『は、はろー……』
鞠莉「私たちは今花陽というアイドルのライブ会場に向かってるの」
絵里「花陽がスナイパーに狙われてるかもしれないの、だから急遽だけど花陽を助けにいくわよ」
ことり『花陽?アイドル?それってあの高校一年生の?』
絵里「ええ、昔助けてもらったことがあるの。だから今度は私が花陽の事を助けてあげたいの」
穂乃果『…それはいいけど、鞠莉ちゃんは信用出来るの?私にとって鞠莉ちゃんと戦線を共にするっていうのはにわかにも信じ難いことなんだけど』
真姫『…ええ、それは正直私も思う』
真姫『今まで敵だったのに急に味方になるのはなんかおかしいんじゃない?』
鞠莉「それは………」
絵里「…いや……」
真姫『え?何?』
絵里「今は鞠莉を信じていいわよ」
鞠莉「絵里……」
絵里(私は鞠莉の事を知ってる、もし鞠莉が私であるなら私と戦線を共にした時点で裏がない。それは私がそうだから、私が鞠莉であるなら鞠莉は私と同じ気持ちを抱いてるはずだから)
絵里(……今の鞠莉は信じていいでしょう)
穂乃果『…分かった、じゃあその花陽ちゃんって子のライブ会場に向かえばいいんだね?」
鞠莉「いや、待って」
鞠莉「向かうならこっちね」
絵里「そこは……」
絵里(鞠莉がパソコンを使って真姫のパソコンにどこかの位置情報を送ってた、鞠莉のパソコンを確認すればライブ会場周辺のいくつかのビルに赤点がついてた)
真姫『これは…?』
鞠莉「その殺し屋がいると思わしきビルよ、あなたは分からない?」
ルビィ「う、うーんと……階段から見たのが西で、飛び降りて向かった方も西だから……」
ルビィ(思い出して…!)
ルビィ(階段を上ってる時に見えた光…近くに大きなアンテナがあって…かなり高いビルで…でも距離はそこそこあって…だけど丁度ライブ会場が見えるようにビルが並んでて……)
ルビィ「………」
ルビィ(ライブ会場があっち、ならそのスナイパーがいるビルはどう考えても向こう……)
ルビィ「……!」
ルビィ「あれ!あれだよあれ!!」
鞠莉「あれ…ってあれね!」
絵里「じゃあこのマップでいうと…ここよね!」
鞠莉「ええ!聞いて!このマップだとライブ会場が中央辺りにある緑色の建物なの、その緑色の建物から西一直線にあるビルの赤点!そこに向かって!」
真姫『わ、分かったわ』
穂乃果『行ってどうする?そのスナイパーを止めればいいの?』
鞠莉「止めたいけど止めれるかしら…」
真姫『この距離ならすぐにつくわ、とりあえずいくしかないわよ』
ことり『そうだね』
ルビィ「任せて、ルビィが時間を稼ぐよ」
カチャッ
絵里「…!」
絵里(オープンカーで、しかも高速で走ってるというのにルビィはトランクフードに片足を乗っけてそのスナイパーがいると思わしき屋上に向かってスナイパーを構えた)
絵里(さっきまで絶叫してたのにスナイパーを持つと急に変わるのは何ともルビィらしくて、ルビィのスナイパーの射線を確認をしてても射線がぐらぐらと揺れることなくレーザービームのようにただ一点を貫いていた)
鞠莉「こ、ここから撃つつもり!?」
絵里(そして流石に鞠莉もルビィ以上のスナイパーテクニックを見たことがなかったのでしょう、目を丸くして驚いてた)
ルビィ「すぅ……」
ドォンッ!
ルビィ「はぁ………」
ルビィ「ちょっと屋上から飛び出してたスナイパーの銃口にヒットさせたよ、でも当たりが浅いから多分壊すことは出来てないと思う…」
鞠莉「い、今のを当てたの…」
絵里「さ、流石ルビィね…」
ルビィ「これで少しは下へ意識を向けることが出来たはず」
ルビィ「後はお願い!」
真姫『ええ、分かったわ』
ことり『もちろんだよっ』
穂乃果『任せて!』
絵里「…あれ?そういえば曜は?」
ことり『あ、えっとね……』
絵里「…?」
真姫『ちょっと大怪我をしたの、今喋るのもおそらく辛いだろうけど死んではいないわ、安心して』
絵里「そ、そうなの…」
ルビィ「曜さん……」
絵里「…まぁ、とりあえずお願いね」
真姫『ええ、了解よ』
ピッ
絵里「…とんでもないことになってるわね」
絵里(無線がきれると悟りだす私の心)
絵里(私鞠莉と仲良くなるためにあそこに行ったわけではないんだけど…なんて思っちゃって、しかもその後にみんなして花陽を助けにいくんだから想像も出来ないわよ、曜も喋るのも辛くなるくらいに大怪我したって言ってるし)
ルビィ「…花陽さんを助けた後、ルビィたちと鞠莉さんは……どうなるの?」
絵里「……まだ、決まってないかしら」
絵里(…正直言って、この結果は私の予想していなかった未来だ)
絵里(もし、世界がいくつもあって同じ世界の同じ私がいたとしたらこの未来はきっと…そう多くはないはずよ)
絵里(鞠莉を殺す為に動いてきたのに、鞠莉が仲間のような存在になってしまっては私は不完全燃焼だし、心が晴れたとは言えない)
絵里(だけど、鞠莉を殺して私の心が晴れるわけじゃない)
絵里(ここから色々あったとしても、また平和に暮らすのが一番なのかしら)
絵里(……いや…ここで色々してきたから平和には暮らせないのかも…ってそれはどうか知らないけど、とにかく私たちの未来は何も分からない状態だった)
鞠莉「花陽を助けることが最優先事項よ、その他の話は全部後」
絵里「……ええ、そうね」
ルビィ「…うん、分かった」
鞠莉「花陽は東京のみならず日本のトップレベルのアイドルよ、だからファンの数は尋常じゃないし、今回のライブに参加してるファンの数もおそらく数えられたものじゃない、今丁度ライブ中だからライブ会場の外にわんさか人がいるわけじゃないとは思うけど移動には充分気をつけなさい、はぐれる可能性もあるわ」
絵里「なるほど…分かったわ…」
鞠莉「今回花陽の使ってる会場はドームみたいな全方位から見渡せるような感じじゃなくて一つの方向をみんなで見る舞台型の会場よ、だから最悪ステージへの侵入も出来る…いや、最悪じゃなくてもステージへ上がって直接花陽を助ける可能性の方が高い」
ルビィ「アナウンスで避難しろーっていうのはダメなの?」
鞠莉「それだとまるで意味が無いわ、だって花陽は人間なんだから避難しろって言われても避難してる最中に撃たれて死ぬわ」
ルビィ「あ、そっか…」
鞠莉「私たちがあのビルに行くっていう考えもあったけどそれもダメ、あそこにいって屋上に上るまでの時間とライブ会場にいって花陽を直接助けるまでの時間はどう考えても花陽を直接助ける方が早いわ」
絵里「…なるほど、じゃあ私たちがやることは」
絵里「一早くライブ会場に入って、ステージに上がり、花陽を助けることね」
鞠莉「その通りよ、私は花陽の事務所のスポンサーやってるからステージ裏には上がらせてくれるはず、だから早く行きましょう」
絵里「ってうわぁ!?」
ルビィ「ぴぎっ!」
絵里(そういい突然アクセル全開にしてくるもので心だけが置いていかれてまた声を出してしまった、真面目だろうと不真面目だろうとどんな鞠莉でも運転は相変わらず荒かった)
絵里(…が、しかしそんな荒い運転に気を取られてるだけじゃない。突然私たちに歯向かう射線に目を丸くして戦いの意識を急激に研ぎ澄ました)
絵里「射線!あの屋上から!」
絵里「…!ルビィに向いてる!ねえ鞠莉もっとスピードあげて!」
鞠莉「了解よ!!」ブウウン
絵里「んくっ……」
カチャッ
ルビィ「…ホントだ、こっち向いてる」
絵里「撃てる?」
ルビィ「…!!身を引いたよ…?」
鞠莉「…!そいつアンドロイドよ!ルビィの射線が見えてる!」
絵里「アンドロイド…!?」
鞠莉「当たらなくてもいいわ!射線で威嚇して!さっきルビィが一発当てたから射線だけでも充分脅威になるわ!」
鞠莉「絵里もやって!!」
絵里「え、ええ!!」カチャッ!
絵里(そういいあの屋上が見える限りハンドガンの銃口を当て続けた)
絵里「……今って花陽のライブ中でしょ?」
鞠莉「ええ、そうよ」
絵里「なんで相手は撃たないの?花陽はもうステージに上がってるはずよ、殺すのが目的ならさっさと撃てばいいじゃない」
ルビィ「確かに……」
鞠莉「……何か他にあるのかも」
ピッ!
絵里「!」
真姫『ねえ絵里聞こえる!?』
絵里「え、ええどうしたの?」
真姫『スナイパーの件だけど絵里はおかしいって思わない?』
絵里「おかしい?何が?」
真姫『殺すのが目的なら今ライブしてる花陽を撃てばもう終わるじゃない』
絵里「!」
真姫『それなのに何故か花陽は死んでない、おかしいでしょ?』
絵里「ええ、それを今私たちも話してたところだったの」
真姫『そ、そうだったの?』
絵里「ええ」
真姫『…まぁとにかく私たちも絵里との無線を切った時におかしいって思ったの、だから穂乃果と私でネットを駆け巡って見つけたの!』
絵里「何を?」
真姫『花陽が死ぬタイミングを!!』
絵里「!!」
鞠莉「oh what!?どういうこと!?」
穂乃果『殺し屋っていうのは依頼人がいないと成立しない、だから多くは殺し屋サイトみたいなのを所有してることが多くて、またその殺し屋サイトっていうのは大体表面上は普通のサイトなんだけど例えばサイトの一番上にあるロゴの一部分だとかサイトの端っこに透明なリンクが貼ってあるとか何らかの方法で本来の殺し屋サイトにいけるんだよ』
絵里「へぇ…」
穂乃果『だから花陽ちゃんを狙ってる殺し屋を希ちゃんや花丸ちゃんが残してくれた情報網で片っ端から調べた、そしたらヒットしたよ!しかも実行日が今日!』
絵里「!!」
穂乃果『その殺し屋サイト、本当かどうかは知らないけどアンドロイドがいるみたいなんだ!だからスナイパーの精度は相当いいよ!絶対に撃たせちゃいけない!』
ルビィ「アンドロイド…!?」
絵里「それってさっきの…!!」
鞠莉「…もはや確定ね」
絵里「それで花陽が死ぬタイミングっていうのは?」
穂乃果『それは————』
穂乃果『孤独なheavenを歌い終わり次第殺害を実行するらしいんだ!!』
絵里「孤独なheaven?」
鞠莉「花陽の代表曲よ、花陽といったらまずこれというくらいに、そして花陽を知らなくても孤独なheavenは知ってるという人がいるくらいに有名で、花陽を飾る曲なの」
ルビィ「ルビィも花丸ちゃんからたくさん聞かせてもらったけどものすごくよかったよ、まず開幕のウィンドチャイムから感じるボルテージがすごくて!」
鞠莉「ええ!そして片思いの子の気持ちを綴った切ない歌詞もまた魅力の一つ……」
ルビィ「いつもはワイワイとした盛り上がる曲を歌ってるのにも関わらず孤独なheavenは真面目で切なくて、いつもの花陽さんとのギャップも楽しめる一曲だよね!」
鞠莉「そう!そうなのよ!ウィンドチャイムに続くどこまでも奥ゆかさを感じてしまうダークトーンなピアノ!そしてサビ前ではドラムが最前線を仕切ってボルテージを上げてくれたりCメロではギターが織りなすノスタルジーのようなものが良い味出してて後ろの演奏の良さはまさにexcellent!」
ルビィ「Cメロ後の“言えないよ…”は感情移入しちゃって本当に鳥肌が立つよ!」
鞠莉「Yes!あれは花陽の良さが詰まってるのよぉ!そして花陽も当事者になり切ってるようなあの必死な顔も必見!そう、まさにあれは——」
ルビまり「奇跡の歌!!」
絵里「そんな曲が…」
ルビィ「まだその孤独なheavenは歌われてないの?」
ことり『今ライブ中継見てるけどまだ歌われてないよ』
真姫『…とまぁそんな感じなの、あなたたちも花陽のライブ中継開いて孤独なheavenが流れたらもうすぐだと思って』
キラキラキラ
絵里「!」
絵里(そんな時ある音が流れた。最初はどこからともなくというようなどこから鳴ってるのかもわからなかったけど、よく耳を澄ませばそれは無線から聞こえてるものだということに気付いた)
『すぅ…あなたへのHeartbeat…熱く…熱く——————♪』
絵里「!!」
絵里(そして次に流れるメロディと共に乗せられた声に鳥肌が立った)
絵里(この透き通った声、高校一年生とは思えない大人びた雰囲気、声から感じられる本気度のようなもの)
絵里(ルビィの言う最初のウィンドチャイムが鳴った瞬間聞こえるファンの歓声を聞くとまるで別の世界へ誘われたかのような錯覚と高揚の気分になっていた)
絵里「これ……!」
絵里(私の心も乗せられて…いやその花陽さんの声に心を奪われてしまって、無線から聞こえるその花陽さんの言葉一つ一つがとても恋しく感じてしまう)
絵里(確かにこれは、奇跡の歌だ)
ルビィ「!!!」
鞠莉「この曲は……!」
ことり『わぁ!?始まっちゃったよぉ!』
穂乃果『えぇ!?』
真姫『ついた!ついたから行って!』
ことり『う、うん!』ダッ
穂乃果『任せて!』
真姫『絵里!孤独なheavenが始まった!』
真姫『時間がもうないわ!!』
絵里「なら急がなきゃ!!鞠莉!」
鞠莉「言われなくてもアクセルぜんっかいよッ!!」
絵里「孤独なheavenが終わるまでどのくらいかかる!?」
鞠莉「約四分半よ!孤独なheavenが終わるまで後四分くらい!」
絵里「四分って…!」
真姫『そんな無茶な————』
鞠莉「無茶じゃないわ!」
真姫『!』
鞠莉「私たちなら出来る!後四分もあれば充分よ!」
鞠莉「今は一秒たりともバカには出来ないわ!」
『——————眠たげなのね。後ろからそっと語り掛けるの』
鞠莉「…っ!ついた!こっちもついたから行きましょう!」
絵里「ええ!」
ルビィ「うんっ!」
絵里「真姫!行ってくるわ!」
真姫『え、ええ!』
ダッ
タッタッタッタッ
絵里「間に合って…!!」
絵里(オープンカーを駐車場の適当な場所に留めて会場へ突っ走った、ルビィは携帯で花陽のライブ中継を開いてて、今ここに、今ここで————)
絵里(————ロストソングがクレッシェンドを含み始めた)
ピッ
鞠莉「!」
果林『こちら果林よ』
鞠莉「果林!?どこに行ってたの!?」
果林『説明は後、それより今から』
果林『防衛対象に殺意を抱くアンドロイド三体と交戦するわ』
梨子『同じく私もです』
鞠莉「…!それってあの屋上の?」
果林『あの屋上かは知らないけど、屋上で、殺害方法はスナイパーよ』
鞠莉「…分かった、気をつけなさい」
果林『了解』
梨子『了解です!』
ピッ
鞠莉「……だけど時間を遅らせることは無理そうね」
~
果林「初めて会ってから一回も姿を見なくなったから何をしてるのかと思えばこんなことを企んでたなんてね」
果林「綺羅ツバサ」
ツバサ「別に企んでたわけじゃないのよ?これも殺し屋としてお仕事の一環だから」
梨子「それでもあの花陽ちゃんを殺すなんてアンドロイドとして道を踏み外してます!」
英玲奈「別に我々はアンドロイドの道を往こうとはしていない、殺し屋として生きていくと決めた以上殺すことを重点的に置いた道を往くだろう」
果林「…何故人を殺すの?」
ツバサ「平和な世界っていうのは案外つまらないものなのよ、知ってる顔と毎日笑いあって、時に苦難を乗り越えて過ごしていく日々…最初はそれで充分だと思っていたけど、つまらないって感じた途端急に生きることに対してやる気が失せた」
ツバサ「当時目標だった成績学年一位も何やってるんだろうなーんて悟っちゃってイヤになったわ」
ツバサ「だからこそ私たちは殺しという新たな境地へ辿り着いた」
梨子「…!」
鞠莉『何も無いと、破壊を生み出すということに』
梨子「これ……」
梨子(鞠莉さんの言ってたことだ、もしかしたらこのアンドロイドもその類のアンドロイドなのかもしれない)
ツバサ「元々私たちは全員戦闘型アンドロイド、だから戦う事に特化してたし、ちゃんと殺害目標を立てて行う殺害っていうのは面白いほどに心が満たされるというか…やり遂げた気分になれるのよ」
梨子「………」
梨子(全ては鞠莉さんの言うことに沿っていた。アンドロイドという生き物は目標を失うと破壊を生む、それは本当だったんだ)
梨子(このアンドロイドの場合、殺しを目標としてしまった以上は人という生物が消えるまで永遠に殺しを目標にするのだと思う)
梨子(…やっぱりアンドロイドはまだまだ危険な存在だ)
果林「…そう、それは分かったけど、そろそろ二人の後ろにいるスナイパーの子にも喋ってもらえないかしら?」
あんじゅ「えー私?」
果林「あなたがそのスナイパーを下げてくれれば私たちとしてはミッション完了なんだけどね」
あんじゅ「それは無理かしら」
果林「…そう、なら話はもう終わりね」
カチャッ
果林「これよりミッションを開始するわ」
果林「梨子」ダッ
梨子「はいっ!」ダッ
梨子(あのスナイパーがさっさと花陽ちゃんを撃たないのが引っかかるけどいずれにせよ撃たないのであればこちらとしても好都合だ)
梨子(だから決めるなら即行、私たちが動き出すと同時に動き出す射線をかいくぐって近づく刹那に高まる緊張感は全て銃弾が切り裂いた)
梨子「はぁッ!」ババババッ
梨子(射線が見えてる者同士銃弾が当たらないのは基本、相手から飛んでくる銃弾を避けたら今度は私たちのターンで、私が発砲をする)
英玲奈「おっと」シュッ
梨子(だけど相手もそれを避けるのは当然、するとたちまち発生する接近戦。ナイフを首元目掛けて横に振れば体を反って回避され、相手の後ろから飛んでくるカバーの銃弾は右に飛び退き回避した)
梨子「はっ…ふッ…!」
梨子(だけど避けても尚まだ飛んでくる銃弾は全てのあの後ろのスナイパーからの攻撃。銃弾を避けること自体はそこまでの事だけど追撃に来る英玲奈というアンドロイドの攻撃が鬱陶しかった)
英玲奈「人数の有利はやはり偉大だなっ!」ブンッ
梨子「ちっ……」
梨子(私がなんとか銃弾を避ける中で右ストレートが私の顔に向かってくるもので、それを姿勢を低くして片手を地につけた状態で回避)
梨子「そっちも見えてる!」シュッ
梨子(何故片手を地につけたのかといえば、それは次に来る銃弾を前転回避する為で、地についた手を使って勢いをつけた)
ツバサ「じゃあ、こっちの銃弾は見えてた?」
梨子「!」
果林「梨子っ…!」
梨子(果林さんは負けてない、けど戦ってる合間に撃たれたその銃弾に、果林さんは焦ってた)
梨子「そんなっ…!!」
梨子(そんな果林さんの顔を見て悟った)
梨子(私、死ぬんだって)
梨子(偏差撃ちに偏差撃ちを重ねた人数の有利をもろに受けた戦いだった、放たれた銃弾は果林さんの手じゃ止めることも出来なくて、前転回避を終えた直後にはもう迫ってた銃弾だったから私も回避が出来ない)
梨子(見える射線は私の頭を射貫いてる)
梨子(流石に急ぎすぎたかな…最後になって自分の行動に対して反省をした)
梨子(だけど、これでよかったんだと私は思う。元々私の人生なんて腐ってたものだ、アンドロイドを殺す為だけに生きている私は元々死ぬべき存在なのだ)
梨子(…それに花陽ちゃんを守る為に、鞠莉さんからの任務な為に、私が出来ることを尽くして死ぬのなら戦人冥利に尽きるまでだ)
梨子「…はぁ」
梨子(死を受け入れた私は小さな溜め息と共に目を閉じた)
穂乃果「させないっ!」バンッ
カンッ!
梨子「!!」
梨子(一つの銃声と同時に私の目の前で飛び散る火花と甲高い音に目を見開いた)
梨子(そして見開いて尚意識があって、自分の手を開いて閉じてを繰り返しててようやく自分が生きてることに気が付いた)
梨子「あなたは……」
穂乃果「…助けたわけじゃないよ、ただ目の前で人が殺されてるのを見ていい気分になる人はいないから」
梨子「……ありがとう、穂乃果ちゃん」
梨子(突然現れた穂乃果ちゃんは私に飛んでくる銃弾を穂乃果ちゃんの放った銃弾で跳ね飛ばした)
梨子(アンドロイドだから射撃の精度はもちろんその弾速を機械的に見て自分がどこにどのように撃てば目的が銃弾と接触するかが分かる。だから穂乃果ちゃんはそれを実行して私を助けてくれた)
梨子(その時の穂乃果ちゃんのクールな眼差しといったら痺れてきちゃって、これが軍神たる所以なんだなって思った)
梨子(強いだけが全てじゃないって)
ことり「こっから逆転だよっ」
穂乃果「絶対に勝つ」カチャッ
英玲奈「…軍神と南ことりが来たことは正直驚いたが、そろそろ時間のようだ」
穂乃果「…!」
ことり「この声…」
果林「何?どういうこと…?」
ツバサ「聞こえる?この歓声」
ツバサ「東京ドーム以上に人を動かしたこのライブの歓声はかなり離れたここまで聞こえてくる凄まじいものよ」
ツバサ「そしてその歓声の元である歌、そして人物————」
ツバサ「——————孤独なheaven、小泉花陽」
ツバサ「…あんじゅ!」
あんじゅ「了解よ」カチャッ
ことり「! 待って!」ダッ
梨子「それはダメ!」ダッ
果林「撃つ気!?させないわ!!」
あんじゅ「ほいっと」ポイッ
ことり「っ!グレネード!?」シュッ
果林「ちっ…」シュッ
梨子「わっ…」
梨子(スナイパーのアンドロイドはスナイパーを構えるのではなくて腰にかけてあったグレネードを投げて私たちを注意と視界を奪った)
梨子(そのせいであのアンドロイドを止めるべくして動く足も止まり、トリガーを引くためにある手もグレネードの爆破範囲から外れるのに精一杯で手を動かすことが出来ず、突然の不意打ちグレネードにみんな怯んでしまった)
穂乃果「そんなの希ちゃんに比べたら手品にも届かないよ!!」ダッ
英玲奈「無駄だ」バンッ
穂乃果「舐めないで!」シュッ
梨子(だけど、穂乃果ちゃんだけは足も手も止まらずにあのスナイパーのアンドロイドに牙を向けた)
梨子(もうすぐ爆発するというのにそれすらも恐れずに、転がるグレネードを蹴ってグレネードを相手に返却した)
梨子(これが軍神たる所以……その勇ましくグレネード如きで怯まない姿は私たちとの格の違いを知らしめている気がした)
もう今日の更新は無さそうだな
ツバサ「流石軍神だけど、それも無駄よ」
穂乃果「偽物…!?」
ツバサ「惜しかったわね、もしこれが本物のグレネードだったら私たちは死んでいた。けど生憎そんな危険性を秘めたグレネードを投げるほど私たちはバカじゃないの」
穂乃果「ッ……!」
梨子(穂乃果ちゃんが決死の判断で蹴り返したグレネードは着弾しても地面に転がるだけだった、ピンはちゃんと抜かれてるのに、でもそれはただのおもちゃで——私たちはまんまと嵌められた)
あんじゅ「さよなら東京の歌姫!!」ドォンッ!
ことり「あ………」
梨子「そんなっ…」
穂乃果「間に合わなかった…!!」
果林「……くそっ」
梨子(凄まじく低い銃声がビルからこの摩天楼へ響くと聞こえる絶望感)
梨子(ファンの人が騒いでる。穂乃果ちゃんは強く握った拳を下げて悔しさが隠しきれてない、果林さんも下を向いて喋らないまま、ことりちゃんに関しては崩れ落ちてる)
梨子「…鞠莉さん」
梨子(一人虚しく呟いた)
梨子(鞠莉さんは今どういう反応をしてるんだろう、気になるけど考えたくない)
梨子(私自身、鞠莉さんの命令だからっていう理由以上に花陽ちゃんを守りたかった)
梨子(それなのに守れなかった)
梨子「……鞠莉さん」
梨子(……この場に残るスナイパーの銃声は、私の心にいつまでも悔しさという残響を発生させていた)
~四分前
タッタッタッタッ
絵里「どうやってステージまでいくの!?私この会場全然知らないわよ?」
鞠莉「もう時間がないわ!とりあえず入って関係者用のところからステージ裏まで突っ走りましょう!」
ルビィ「そんな許可も無しにいって大丈夫なの?」
鞠莉「そんなこと気にしてる場合じゃないわ!」
『————見つめることも、迷惑ですかと…』
絵里「なんか会場外なのに人いっぱいじゃない!?」ピタッ
鞠莉「会場内にいなくても花陽の声は聞こえるからそのおこぼれを狙ってこうして集まるのよ!」
ルビィ「どうやっていくの…?」
鞠莉「正面突破しかないでしょ!」ダッ
絵里「仕方ない…ルビィ行くわよ!」
ルビィ「え、うんっ!」
絵里(会場を前にして分厚い人混みと遭遇した私たちは一斉に足を止めた。迂回は多分出来るけどそんなことしてたら曲が終わる、ここは正面から行くしかなくて考える暇もなく鞠莉は止めた足を再び人混みの方向へ動かし始めた)
絵里「ルビィ、少し私の元へ来て」
ルビィ「う、うん」
絵里(鞠莉は人混みの中へ突っ込んでいった、けど私はルビィをおんぶして会場に行くためにかかっている橋の手すりを走った)
ルビィ「え、絵里さんそれ大丈夫!?」
絵里「心配しないで!いくわよっ!」
絵里(手すりが無くなれば私はそこから大ジャンプ————人混みを一気に跳び越えてここで聞いてるファンを抑えていた警備員の列さえも跳び超えた)
鞠莉「絵里!」
絵里「ええ!」
絵里(そうして着地した頃に後ろから声が聞こえて振り替えれば警備員の抑制をスルーしてやってくる鞠莉がいて鞠莉がある程度近くにきたら再び私とルビィは走り出した)
『————放課後のバス停の前で』
タッタッタッタッ
絵里「ここからどう行くの!?」
鞠莉「ステージ前にはちょっと深い水があるから正面から花陽を助けるのは不可能よ!だからステージ裏から行くしかない!その為には入ってすぐ左にある関係者用の通路を通ってそこから花陽に近づく必要があるわ!!」
絵里「了解よ!」
「————同じクラス?隣のクラス?」
絵里(入口を超えるとライブの中継じゃなくても聞こえてくる)
絵里(心臓の鼓動と共鳴しだすこの音と声、今も上がり続ける会場のボルテージを肌で感じることができる)
鞠莉「……やはりすごいわね、花陽は」
絵里「ええ…これは心が奪われてしまうわ」
絵里(関係者用の通路を走る際に交わしたそんな言葉はすぐに花陽の歌にかき消された)
絵里(無限に広がっていく波状攻撃のような強い音色と印象を与えていくこの歌————この歌を聞けば聞くほど花陽を守らなきゃという気持ちが強くなっていく)
絵里「!!!」
鞠莉「!!」
ルビィ「ど、どうしたの?」
絵里「花陽に射線が向かってる…」
鞠莉「まずいわね…」
ルビィ「…!ならルビィが威嚇するから二人は先に行って!」カチャッ
絵里「え、でも」
ルビィ「いいから行って!花陽さんを助けるんでしょ!」
絵里「!!」
絵里(ルビィの必死の声でさえ花陽の歌声やファンの歓声にかき消されてしまう、けどルビィの思いは充分なほどに伝わった)
絵里(スナイパーのトリガーに加わる強い力はルビィの本気の表れ。普段は見せない強気な表情を私に見せることでルビィの真剣さはより分かりやすいものになっていた)
絵里「…分かった、頼んだわよ」
ルビィ「任せてっ!」
絵里(ルビィはその場で片膝を立てて向こうの屋上に向かってスナイパーの銃口を向けた。そこの角度から果たして見えるものなのか疑問なところだけど動かないということはきっと見えてるのでしょう)
絵里「行きましょう」
鞠莉「ええ!」
絵里(そうして私たちも花陽のところに向かって走る。ルビィの事や私たちの事を気にするスタッフはいっぱいいたけどそんなのに構ってられない。今はとにかく分け目もふらずに走って走って走り続けるだけだった)
『————抱きしめたい…』
絵里(悲愴感が広がるピアノの音色と哀愁漂うギターの音色が合わさり、歌もそろそろクライマックスへ入ろうとしてて、私の身体もクライマックスな汗を流してた)
絵里(そろそろ雌雄を決するでしょう)
絵里(音で切羽詰まる私の心の行方は————)
「言えないよ……」
絵里「はああああッ!」
鞠莉「もうすぐよ!!」
絵里(花陽の声にエフェクトがかかりだした。会場のボルテージもこの上ない最高潮なのが分かる、だからそのボルテージに乗せられて私たちの足もより加速していく)
「————私だけの、孤独なheaven」
絵里「…っ!!!」
鞠莉「まずい!射線がっ!!」
絵里(はっきりと見えるその射線。真っ赤な線が花陽さんの頭を貫くその様はこの瞳に焼き付いて見える)
絵里「花陽ッ!!」
絵里(クライマックスなメロディは私の限界を限界でなくしてくる。充分に加速した足は更なる加速を遂げてやっとステージ裏まで来た)
絵里(心臓に響くビート、心に刻まれたその金声、熱が迸るボルテージ、感情さえ司るメロディ)
絵里(私を本気にさせる花陽の心)
絵里(全てが合わさったカオスなフィールド————その階段を私たちは上って——)
「——————熱いねheaven……♪」
ドォンッ!
花陽「わっ!?」
絵里(広大な人口宇宙の中で響くひっくい銃声が鳴る刹那——直後、この世界で流れる時間は何もかもがスローになり、この世界からほとんどの音が消えた)
『花陽です!私…花陽って言うんです!だからもし…助けが必要だったら絶対に助けますから!』
絵里(すると、突然花陽さんの声がどこからともなくこの世界で木霊し始めた)
花陽『ふふふっ照れてる絵里さんも可愛いですね』クスッ
絵里(そして次に、いたずらっ子みたいに笑う花陽さんの顔が浮かんできた。結局、今になっても私を助けてくれた理由はよく分からない)
花陽『私、絵里さんのファンなんです!音ノ木坂高校のビューティフルスター!』
絵里(理由らしい理由も、なんだかふにゃふにゃしてて変な感じだし、やっぱり花陽さんは不思議な人だ)
花陽『だからまた今度、お会いした時はもっといっぱいお話しましょう♪』
絵里(でも…そしてだからこそ私は花陽さんを助けたいのよ)
絵里(命を助けてもらった恩があり、次を作りたい私がいる)
絵里(助けたい————抱く思いは当然鞠莉と同じ、だから鞠莉と一緒にこのステージで翔ぶの)
絵里(勢いをつけて、足にこれまでの全てを賭す。これまでの苦難を乗り越え、死を直視して、それでいてようやく手にしたこの翼の耀きで私は————)
えりまり「いっけえええええええええ!!!」
絵里(このクソみたいな東京《ミライ》を変えるのッ!!!)
絵里「はぁ…はぁ…はぁ…」
鞠莉「たす…けれた…?」
花陽「え、絵里さん…?鞠莉さん…?」
絵里「…うぅううううううう…!はなよぉ…!!」ギューッ
鞠莉「よかった…!ぐすん…よかったわ…!!」
花陽「わわわっ…ど、どうしたんですか!?」
絵里(花陽の歌声が無くなり後奏が鳴り始めた同時に飛んでくる銃弾————それを私と鞠莉で花陽に向かって飛び込み抱き着くことで回避させた)
絵里(花陽に当たらなかった銃弾はステージ後ろのモニターを割り、会場は大パニック。だけど、今も後奏として響くこのメロディは紛れもない勝利のメロディであり、今も溢れでる涙の源でもあった)
ピッ
真姫『絵里!大丈夫!?どうなった!?』
絵里「…勝ったわ、勝ったわ……」
絵里「花陽を助けれたわぁ…!!!」
穂乃果『そ、それホント!?』
絵里「ええ!やったわ!!」
ことり『よ、よかったぁ…』
ルビィ『ルビィもよかったよぉ…』
穂乃果『ごめん…止めれなくて……』
鞠莉「いやいいわ、多分あの状況じゃ私たちが行っても止めることは出来なかった。だから仕方ないことよ」
曜『おめで…とう……』
絵里「曜!?大丈夫なの?」
曜『なん…とか……ね』
絵里「そう…よかったわ……」
花陽「もしかして花陽を助ける為に……」
絵里「当たり前じゃない」
鞠莉「その為に私たちここまで本気で走ってきたんだから」
花陽「あ、ありがとうございます!」ペコリッ
花陽「花陽狙われてるなんて気付かなくて…お二人にはなんてお礼したらいいのか…」
絵里「お礼なんていいわ、それよりもこれは私と鞠莉だけの力じゃない」
真姫『…ふふふっ』
穂乃果『あははっ』
ことり『えへへへ……』
ルビィ『んふふふっ』
曜『よーそろー……』
絵里「寛容で強く、絶望にも負けなかった私の仲間や」
善子『ヨハネよ!』
果南『絵里は人に言えないことがありすぎるんだよ、抱えないで言ってよ?私たち親友でしょ?』
花丸『だからいつまでの話になるか分かりませんが、しばらくの間ここでよろしくお願いします』
にこ『あんたらを狙って悪かったって話よ、私も目が覚めたわ、あいつらとはいたくないもんでね。海未には悪いけど』
せつ菜『……とにかくよろしくお願いしますね、絵里さん』
絵里「……今、ここにはいないけど、彼女たちも寛容で強くて、私を信じてついてきてくれた大切な仲間」
絵里「そのみんなの力が合わさって花陽を助けることが出来たの」
花陽「…そうだったんですね」
花陽「あれから…また色々あって…それでも絵里さんが生きていてくれてて、花陽はすごく嬉しいです」
花陽「Y.O.L.Oが爆破されたと聞いた時は、少し不謹慎ですけど花陽嬉しかったんです。絵里さんがまだ生きてるって思って…」
花陽「だからまた…こうして会えたこと…そして助けてくれたこと…すごく嬉しい!」ニコッ
絵里(勝利のBGMがまだ響いてる。この胸に宿した勝利があまりにも大きすぎる)
絵里(後ろのモニターは黒く染まってしまったけど、それでもステージはまだキラキラしてる)
絵里(…これなのかもしれない、このキラキラ輝いた場所。この心躍る素敵な場所)
絵里(この“輝き”を私はずっと待ってたのかもしれない)
絵里(ここにいる時はアンドロイドとか人間とかどうでもよくなる気がする…いやそれは根本的にはいけないことだけど、今は…この勝利を胸に宿してる今はそれでいいのよ)
絵里(この余韻はいつまで、続くのかしら…?)
~
ツバサ「あーあ、やり逃しちゃったわね」
英玲奈「やはりあの金髪二人は厄介そのものでしかないな」
あんじゅ「あらら、やっぱり殺し屋って難しいものね」
穂乃果「よくもやってくれたね」
果林「…正直、あなたたちの殺しに対する考え方には興味あるけど花陽を殺そうしてた以上は私たちの敵にしかなりえない、悪いけどここで死んでもらうわ」
梨子「その通りです!」
ツバサ「あぁごめんなさい、もう戦う気なんてないから」ピョーン
ことり「っ!?飛び降りた!?」
英玲奈「悪いな、だが消化不良なのはお互い様だ。ここは痛み分けといこうじゃないか」ピョーン
あんじゅ「ばいば~い」ピョーン
穂乃果「っ!逃がさない!」ダッ
ことり「ダメ!穂乃果ちゃん追っちゃダメ!」ギュッ
穂乃果「どうして!?あの三人はここで殺さないとまた何かするよ!?」
ことり「穂乃果ちゃんにはここから飛び降りて確実に助かる術があるの!?ここで死んじゃったらまたみんなとの出会いが消えちゃうよ!」
穂乃果「っ……」
果林「…やっぱりあの三人、謎ね」
梨子「鞠莉さんの言ってた通りのアンドロイドとして典型的な破壊衝動を抱いてますね」
果林「ええ、まぁいずれまた会うことになるでしょう」
果林「だって、彼女らもこの東京が好きなアンドロイドだから」
終わりがすぐそばまで来ていてこんなこと言うのも難ですが、ちょっと三十分くらい席外します。
また戻ってきます。
戻りました。
終わりはもうすぐなんですけど、このスレだけで完結出来るかは微妙で、中途半端なところで区切ってスレを立てないといけない状況にはしたくないので、この時点で次のスレを立てようと思います。
絵里「例え偽物だとしても」 part2
絵里「例え偽物だとしても」 part2 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1571061365/)
立てました。
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