【デレマスss 】P「彼女の恋人」 (14)

槇原敬之の楽曲『彼女の恋人』が元になったssです。
また、Spin-offを踏まえた表現がいくつかあります。ネタバレにはならないと思いますが、一応まだ観てない方は注意をお願いします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1577323723


勇気だけじゃ出来ないことがある。彼女の恋人は僕の友達。でも、もし??

>>2 修正

勇気だけじゃ出来ないことがある。彼女の恋人は僕の友達。でも、もしーー


 溜息をつく。急な仕事で都合がつかないとはいえ、撮影終わりの担当アイドルをよりにもよって僕に迎えに行かせるなんて、あいつも良い趣味をしている。まあそれが僕の仕事だから仕方ないのだけど。

 ここはアイドル事務所、シンデレラプロダクションのプロモーションフィルムを撮影しているロケ地。『Spin-off!』と題されたそれは、5人の少女が閉じた世界に抗うというストーリーだ。おっと、少女と言うには少し語弊がある。なぜなら??

「オイ☆ 誰がBBAだ?」

「......まだ何も言ってないんだが」

「まだってことはこれから言うつもりなんでしょ?」

「それは......まあ......」

「否定しろ☆ 食らわすぞ?」

 彼女は佐藤心。『Spin-off』の主要な役を勝ち取ったアイドルな訳だが、いかんせんうるさい。26歳のくせに。

「あいつにはそろそろコレを迎えに行かせられる俺の気持ちにもなって欲しいよな」

「プロデューサーなら愛するはぁとを迎えに行けるなんて幸せ☆って思うんじゃない? いやーんはぁとってばお上手♪」

「あー、はいはい。ようござんした。仲良きことは素晴らしいですなぁ」

「そんなことよりさーむーいー! 早く事務所戻ろ!」

 彼女が車に走り込んでいく。今回は社用車が出払っていたから僕の私用のだ。

 そんな風に簡単に乗りやがって。信頼されてるってことだろうし、確かにちゃんと事務所まで送るつもりだけど。でも。

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ーーーー

 僕とあいつが出会ったのはシンデレラプロダクションの入社式。たまたま近くにいて何となく話しかけてみたらこれが意気投合。

 お互いプロデューサー志望で、上司には珍しがられたものだった。何でもプロデューサーっていうのは、労働基準法も泣いて逃げ出すほどのブラック職で、それが響いているのか、新卒で2人も入ってくるのは異例中の異例だそうだ。毎年適性を見て他部署から引き抜いて人数を維持しているらしいが、転職してしまう者も少なくないらしい。

 そんなこんなで歳の近い先輩も少なく、唯一の同期と親交が深まるのは不思議なことじゃないだろう。

 入社して数年経った頃、僕たちに転機が訪れる。彼女が現れたんだ。あいつのスカウトだった。自らを「シュガーハート」と名乗る26歳。年齢とキャラクターを加味すると少々リスクが大きい。

 会社内でも意見が割れたらしい。みてくれはいい。意識も高い。ただ、イタい。

 結局、全プロデューサーの多数決で採用の可否を決めることになった。僕は可に入れた。というのも、純粋に興味があったからだ。しっちゃかめっちゃかに暴れ回る26歳、他人事だとしたら面白そうじゃないか。全く他人事じゃないんだけど。

 結果としては僅差で可が上回り採用が決まった。これで名実ともに「崖っぷちアイドル」になったわけだ。

 担当アイドルを持ったあいつはかなり忙しくなった。まだ特定の担当を持ってない俺は、あいつの簡単な仕事をサポートをすることが多くなった。そうなればもちろん彼女との親交も深くなる。

 過激なことを言っているようで、超えてはいけないラインは決して超えず、汚い言葉もおちゃらけて言うもんだからむしろ爽快感すらある。やけに近い距離感も慣れてしまえば心地よい。

 結論を言えば、僕は佐藤心に恋をしてしまった。

 そこで終わっていれば単なる僕の片恋の話で済むはずだった。

 つい先日だが、あいつと彼女は交際し始めた。あいつにも彼女にも恋愛相談されたことはあったが、まさか本当に付き合い始めるなんて思いもしなかった。

 あいつが担当アイドルに手を出すようなやつだったなんて、と勝手に失望して、身勝手な言い分だと気が付いて傷ついて、何がなんだか分からなかった。

 今でも、彼女を最初に好きになったのは僕だ、ということを2人は知らない。結局僕は自分の想いを閉じ込めることにしたのだから。

ーーーー

 車を走らせること10数分、夕焼け空はすっかり暗くなってしまった。

「にしても、今日は晴れて良かったな。最近冬にしては珍しく雨続きだったから心配してたんだけど」

「そこは晴れ女のしゅがーはぁとがいるから♪」

「......この時間にそのテンションはキツい」

「うるさいぞ☆ あっ、すっごい綺麗な星! ねえ、見て見て♪」

「運転中だ。見れるかよ」

 なんて言いながら赤信号で止まった隙に横目でチラリ。晴天に冬の寒さも相まっておよそ都会とは思えない星空が広がっている。

「あっ、今チラッと見た! ね? 綺麗でしょ?」

 俺にはニコニコしながら言ってくるけれど、あいつの前でならどんな顔で綺麗と言うのだろう? もう少しロマンチックな感じになるのだろうか?

 ......よそう。あんまり気持ちのいい想像じゃ無さそうだ。

 どんなに足掻いたって僕は彼女の友達でしかない。諦めるしかないし、高望みしてはいけないんだ。

 でも。

 でも、もしこの車にロケットが付いてたら、もしあのラストシーンのように天高く飛ぶことが出来たなら、あの星空へ連れ去りたい。

 日頃は僕の方がモテる方らしい。他部署の女性に交際を申し込まれたこともある。断ったけど。合コンしてもあいつは何の収穫も無しに帰ることの方が多かった。

 でも、ここぞという時にはあいつがさらっていってしまった。

 もちろんあいつはいい奴だ。親友だから間違いない。だからといって、許せはしない。俺がなけなしの職業倫理で二の足を踏んでいるうちに躊躇いなく彼女を自分のものにしてしまったのだから。

 なんて言いながら、本気で憎んだりは出来ない。友達で始まった3人だから、この関係を壊すわけにはいかない。2人に僕の気持ちを知られてないのだから尚更だ。僕が我慢すれば今まで通りの3人のままでいられる。

「信号、青だぞ☆」

 いけない。いつのまにか考え込んでしまっていたらしい。急いでアクセルを踏む。

「まずいな、煽られてる」

 焦っているからか、発進に失敗してしまった。

「格好悪いぞ☆ 撮影のはぁとの運転見てなかったのか☆」

 そういえば教習所に通っていた時、出足が良くないと言われたっけ。

 にしても、彼女に言われると心が痛い。僕には心のアクセルを踏み込むことが出来なかったから。運転には性格が出るというのはどうやら本当らしい。

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 さらに車を走らせること数分、ようやく事務所に到着した。扉の前にはあいつが立っている。待っていたらしい。車を止めた途端に彼女が飛び出す。

「いやーん、会いたかった~☆」

「ちょっと、外なんだからやめてくれよ。撮られたらどうするんだ? P、ありがとうな。お前が代わってくれたおかげで面倒事は全部片付いたよ」

「......まあ、いつものことだからな」

「じゃあ悪いけど、駐車場に車戻してきてくれないか? ちょっと心に2人だけで話があるんだ」

「いや、今日は社用車が無かったから自分の車で行ったんだ。邪魔だったら他のとこ手伝ってるよ」

「そうだったのか。すまん、ちひろさんには伝えておくからそうしててくれ。それにしてもP、まさか心を変なとこに連れて行ったりしてないよな? なんてな。Pがそんなことするはずないか」

「当たり前だろ? 友達なんだから」

 自分の言葉に悲しくなりつつ先輩プロデューサーのデスクに向かう。背後には2人の楽しげな話し声。

「会いたかったぞ☆ 朝から会ってないとプロデューサーの顔思い出せなくなりそうだったんだからな♪」

「そんなチトセみたいなことあるかよ......」

「そんなことよりプロデューサー♪ 話ってなぁに? 結婚? 結婚か?」

「会社でそんな話するわけないだろ? 仕事の話だよ」

 ここまで来て実感させられてしまった。あいつを見つけた途端、彼女の表情は分かりやすく変わった。あいつにしか見せない顔に。

 声のトーンも上がった。離れたところでもバッチリ聞こえそうなくらい。たった半日会ってないだけなのに。

 僕は彼女をあそこまで笑顔にしてあげることは出来ない。彼女とあそこまで楽しげに会話出来たことなんて一度もない。

 全く笑えてきた。僕1人が友達だのなんだのって言葉出して悔しがって、でも、2人が似合うのがもっと悔しいんだ。

 信頼出来る友達で居続ければ、彼女があいつにしか見せない顔をいつまでも見ることが出来る。

 その顔を見ただけで、彼女と出会ったのは嘘じゃないと、そう思えてしまうのだから僕は単純だ。

 彼女とあいつを引き離すだけなら僕はいつだって出来た。今日だって高速道路に乗ってどこか遠くにいってしまえば彼女は僕と一緒にいるしかなくなる。でも、それは、彼女の幸せを奪うことなんだ。

 だから僕の車にロケットが付いててもどこへも連れ去らない。あいつと出会ってせっかく広がった彼女の世界を閉ざすなんて、僕の都合で彼女を操るなんて、僕には出来ない。

 君がやっぱり、好きだから。

以上です。投稿ミス多く、失礼致しました。

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