魔王「勇者殺人事件」 (116)
魔法使い「嘘……こんなの嘘だよねぇ!」
おさげ髪の魔法使いが嘆く。
震えながら立ち竦む彼女の足元には、黒髪の少年がうつ伏せに横たわっていた。
こちらとは反対側に顔を向けているので表情までは分からない。
しかし首元や頬は遠目からでも分かるほど青白く、生気がない。
神官「なんでや、なんで死んでもうたん……勇者」
動かない少年の頭側で膝をついていた、白い衣の神官が呟いた。
そして少年の上半身を守るように覆いかぶさり、静かに泣き始める。
形の良い目からこぼれた雫が、勇者の衣服を濡らした。
騎士「……」
甲冑に身を包んだ短髪の少女騎士が膝をつき、勇者の左手首をとった。
騎士「手首の脈が……ない」
弓兵「呼吸もしていまセン。残念デスが、勇者サンは……もう」
反対側で勇者の口に手を当てていた背の高い弓兵が、ゆっくりと首を振る。
魔法使い「嫌だ……こんなの、嫌だああああっ!」
魔法使いの少女が絶叫する。悲痛な叫びは魔王城の広間にこだましたあと、吸い込まれるように消えた。
闇を具現化したごとき玉座の前で、我……魔王は呟く。
魔王「勇者が、死んだ……?」
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─五分前─
~魔王城 地下控室~
ゴゴゴゴゴ……
魔王「ふははは! よくぞここまで辿り着いたな勇者よ。我こそは魔王である。
どうだ、世界の半分をくれてやるから、我の陣営に……──違うな」
ゴゴゴゴゴ……
魔王「ふははは! 待ちくたびれたぞ。どれ、顔をよく見せるが良い。物言わぬ死体となる前にな!
ふははは……──うーむ」
魔王(どうも違う。もっと我の強さ、恐ろしさを口上で表現できればいいのだが……。
こんなことなら副将軍をアドバイザーとして残しておけばよかった。奴はこういうのが得意だったはず)
ポンッ
?『勇者一行が到着しました』
魔王「むう、時間切れか。仕方あるまい」
バサアッ
~魔王城最奥・謁見の間~
ズゴゴゴゴゴ……!
魔王「ふはははは! よくぞ我の眼前まで辿り着いたな人の子らよ。
喜ぶが良い。儚い命を散らすのが、他でもない我の手によるものであることを……む?」
勇者「」
魔法使い「嘘……こんなの嘘だよねぇ!」
神官「なんでや、なんで死んでもうたん……勇者」ギュッ
騎士「……」
スッ
騎士「手首の脈が……ない」
弓兵「呼吸もしていまセン。残念デスが、勇者サンは……もう」
魔法使い「嫌だ……こんなの、嫌だああああっ!」ポロポロ
魔王「勇者が、死んだ……?」
弓兵「! 皆サンあそこを、魔王デス!」バッ
騎士「貴様、よくも勇者を!」スラッ
魔王「いや違うぞ、我では」
弓兵「魔王とはいえナンテ卑怯ナ!」キリリッ
魔王「だから我ではないと」
ゆらり
魔法使い「許さない、よくも僕の勇者様を!
『ランク3、雷刃』」パリッ
バリバリッ!
神官「あかん、その程度の攻撃じゃ──」
シュオッ
神官「くそ、やっぱり傷一つつかへんか」
魔王「話を聞かぬか。我は」
神官「魔法使い、弓兵! 魔力を結集して「聖なる光」を連発するんや。それで足止めくらいは……っ」
魔王「いい加減にせよ! 我が殺したのではない!」ダン
『闇のオーラ・ランク10』
ゴオオオオッ
勇者一行「……っ」フウッ
ドサドサッ
魔王「! む、むう……」
魔王(オーラを暴走させてしまうとは……我もまだまだ未熟者よ)
──
─
神官「っは!」ガバッ
魔王「気がついたか。お主が一番闇耐性が低かったのでな。目覚めぬのではないかと思ったぞ」スッ
神官「さ、触らんといて!」
バシンッ
神官(! 魔力を感じない。ただ起こそうとしただけ……?)
魔王「ふむ、それほどの元気があれば大丈夫だろう」
弓兵「神官サン!」タタッ
神官「皆、無事なんか」
魔法使い「うん。なんでか、分かんないけど」グスッ
魔王(勇者以外全員女性か。珍しいパーティだな)
騎士「神官が目覚める前にも聞いたが、魔王。本当に貴様が勇者を殺したのではないのか?」
魔王「我の手によるものではない。
もし仮に我が何らかの方法で命を奪ったのであれば、知らぬふりをする理由はない。
敵の首領を討ち取ったのだ、盛大に高笑いしつつお主らを全滅させる追撃を加えるのが普通であろう」
騎士「確かに……」
神官「だけど、魔族は信用できん。油断させて不意打ちするつもりかもしれん」
ダンッ
皆「!」
魔王「我をそこらの雑魚と一緒にするな。
少なくとも勇者の死の理由が明らかになるまで、お主らに危害を加えるつもりはない。
大切な容疑者だからな」
神官「容疑者?」
魔王「そうだ。名付けて、「勇者殺人事件」」キラキラ
騎士(この魔王……楽しんでいる)
神官(さてはミステリファンやな?)
ズゴゴゴ……
魔法使い「げほ、ごほ……ごめん、このスモーク止めてもらえない?」
魔王「おお、我の登場からずっと煙が出ていたようだ、すまない」
魔法使い(謝った……魔王なのに)
魔王「あー……『コレクサ、スモーク止めて』」
コレクサ『はい、了解しました』
フシュゥウウ……
魔法使い「……えっ? い、今のは?」
魔王「なんだ知らぬのか。コレクサといってな。学習機能がついた音声認識AIだ」
弓兵「科学技術、デスネ。西方で発達した魔法の一種で、雷を動力にスル」
神官「大きな街では割と科学はメジャーやな。普通の魔法と半々ぐらいで使われてる場所もある……けど、ここまでの技術は聞いたことあらへん」
騎士「というか、なぜ口調が変わる? 『スモークを止めよ』とか、もっと重々しい言い方があるだろう」
魔王「……標準語でないとコレクサに音声認識してもらえぬのだ……」
騎士(魔王の威厳はどこへ……?)
魔王「さて、まずは真に勇者が死んでいるかを確かめるとしよう」
神官「どうするんや?」
魔王「治癒魔法を試みて、効かなければ死体ということだ。治癒は生者にしか作用せぬからな。
ランク3『治癒』」コオッ
シン……
魔王「ふむ。ランク7『上位治癒』」コオオッ
シン……
魔王「ランク12『最上位治癒』」カッ
シン……
魔法使い(すごい、ランク12なんて初めて見た)ゴクリ
魔王「確認した。確かに勇者は死んでいるな」
神官「そんなん見たら分かるやろ。顔色は真っ白やし、脈も呼吸もなかったんやから」
魔王「過信は禁物だ。
我は疑り深い質でな。一つ一つ丁寧に確認せねば前に進めぬのだ」
弓兵「うーん……死因が分かる魔法があれバ、すぐに解決するんデスけどネ」
魔法使い「そんな都合のいい魔法あるわけ」
魔王「あるが」
皆「!?」
魔王「ランク13の魔法、「真相究明」がそれだ」
魔法使い「ランク13? 魔法はランク12までじゃ……」
魔王「いや、13が一番上だ。人間界では知られていないらしいが」
騎士「なら、その魔法を使おう。勇者を殺した犯人が分かるんだろう?」
魔王「……」
神官「ん? どしたん魔王」
魔王「……そんなことをしたら、すぐ真相が分かってつまらんではないか」
神官「わがままか!」
魔王「むう……理由はそれだけではないぞ。ランク13の魔法は大量の生贄を必要とするのだ。
とはいえ、「真相究明」はその中でも対価が安く済む方だがな。
規模はそうさな……ざっと45万人いれば足りるか。お主ら、いくつか手頃な国に心当たりはあるか?」
アカシックレコードにでも接続するんか
神官「う……やっぱいいわ」
騎士「生贄など論外だ……しかし、このまま何も分からないままにはしたくない。
勇者は大切な幼馴染だ。あいつの無念を晴らしてやりたい。
だから魔王、今だけあなたの力を貸してほしい」
魔王「いいだろう。我も仲間は大切にする方だからな、気持ちは痛いほど分かるぞ。
……まあ、ここに来るまでに全員お主らに倒されたわけだが……」
騎士(う……)
魔王「ではまず、死体の様子を見てみるとしよう。
ランク3『究明』」キィン
コオッ
魔王「ふむ、さすが勇者。その名に恥じないステータスを──」
ポウ……
弓兵「エッ!? ちょっと皆サン見て下サイ、死体が!」
スウッ
魔王「! 死体が消えた、だと……!?」
騎士「な、なんで」
神官「魔王、アンタ何かしたんか!?」
魔法使い「違うよ、魔力は感じなかった。魔王はなにもしていない……」
神官「ほな一体何があったんや」
魔王「まさか……なるほど……そうか!」
弓兵「何か分かったんデスカ?」
魔王「ダンジョンでは一定時間が過ぎると、倒したモンスターの死体が消えるのは知っているな?」
騎士「そうなのか?」
弓兵「騎士サン……冒険者の常識デスヨ」
魔王「この城もダンジョンの一種だ。ゆえに、勇者の死体はダンジョンのルールにより消されたのだろう」
魔法使い「ちょっと待って、それおかしくない?
ダンジョンで消えるのはモンスターだけで、人間は消えないはずじゃ?」
魔王「ふむ……コレクサ、先程スキャンした情報を表示して」
ヴゥン
魔法使い「す、すごい。空中に文字が……!」
魔王「うむ。コレクサと映写魔法陣を接続することで可能になるのだ。便利だぞ。
この前開催した『ドキッ! 魔族だらけのしりとり大会・魔王様のポロリもあるよ』でもこの機能は大活躍であった」
神官「仲ええな魔族! うらやましいわ!」
魔王「まあ、そのときの参加者は我以外全員倒された訳だが……」
皆「うっ」
弓兵(ちょくちょく罪悪感刺激してきますネ……)
魔王「さて。ランク3「究明」で分かるのは簡単なステータスのみだが、我の予想が正しければ……」
『勇者のステータス』
──
「勇者(死亡)」Lv63 種族・人間(光の民) 18歳
名前 コウキ・ミツヅリ
職業 魔法剣士、剣聖、竜騎士、遊び人、ギャンブラー
HP 540
MP 400
攻撃力 500
魔法攻撃力 500
防御力 300
特殊スキル 魔を祓う者、光の王、ドラゴンスレイヤー
──
スッ
魔王「ここだ」
騎士「え?」
魔王「『竜騎士』は一定数のドラゴンを倒すことで追加されるが、同時に体が徐々に竜化していく呪いの職でもある。
ダンジョンのルールはモンスターの死体を消す、というものだ。竜と人が混ざった死体を、モンスターだと誤認した可能性が高い」
騎士「体が、ドラゴンに……」
魔王(竜騎士、か。ふーむ、何か引っかかるが……思い出せんな。あとで文献をあたるか)
魔法使い「そんな……それじゃもう、勇者様に会えないの?」
弓兵「気持ちは分かりますガ魔法使いサン。勇者サンは亡くなったんデスヨ。
それに死体があったからといっテ、生き返るわけじゃありまセン」
神官「死者復活の魔法は存在せえへんからな」
魔王「あるが」
神官「ぅあるんかい!」
魔王「あることはあるが、例によって大量の生贄が必要になる」
魔法使い「どれくらい……?」ユラッ
騎士「おい、魔法使い!」
魔法使い「この際国の1つや2つ消してもいいじゃない。
勇者様が生き返るなら、きっとみんな許してくれるよ……」フフ…
魔王「1つの命を蘇らせるには、対象の種族すべての命を捧げることが必要となる」
皆「え?」
魔王「勇者の種族は「人間」だったな。
コレクサ、人間の世界人口は?」
コレクサ『約35億人です』
魔王「ほう、やはり他種族とは比べ物にならないほど多いな。
さて……全人類の命を捧げれば生き返るが、どうする」
魔法使い「やります」
騎士「おい早まるな魔法使い!」
弓兵「すみまセン、この人ちょっと今おかしいんデス」
魔法使い「うっ……勇者、勇者ーっ!」ポロポロ
──
魔王「落ち着いたか?」
魔法使い「……うん。ご迷惑おかけしました。もう大丈夫」スン
魔王「うむ……魔法使いよ。辛いとは思うが、勇者の死の真相を突き止めることが彼の供養にもなろう。協力してくれるか」
魔法使い「もちろん。もう取り乱したりしないよ」
魔王「さて。勇者の死体が失われた今、頼りになるのはお主らの情報だけだ。
まず、全員のステータスを知りたい。何かの参考になるかもしれんからな。
「究明」を使用したいのだが、同意してもらえるか?」
皆「……」
魔王「抵抗があるのは分かる。そこで、まずは我自らステータスを開示しようと思う」
神官「! 魔王が、自分のステータスを……?」
魔王「神官の言いたいことは理解できる。敵に情報を知られるのは自殺行為に等しいからな。
しかし、我はあえて危険を犯そうと思う。それがお主らへの誠意だと信じるからだ。
ランク3『究明』」
キィイン
魔王「コレクサ、究明の結果を表示して」
コレクサ「了解しました」
ヴゥン
『魔王のステータス』
──
「魔王」Lv99 種族・最上位悪魔 478歳
名前 バエストロス・ゾル・(発音不可)ラ・ジェ(発音不可)・フェニグーダ ─中略─ パツィーゾ・ペルトリスク・ドム・カルカロドス・バスタ・ケイ
職業 黒魔術師、死霊遣い、毒の王、闇の主、他多数
HP 999
MP 999
攻撃力 890
魔法攻撃力 999
防御力 950
特殊スキル 闇のオーラ、死の眼、夢遣い、原初の王、悪虐のカリスマ、他多数
──
神官(うっ……なんやこれ。こんな化物を相手にしようとしてたんか、ウチらは)
魔王「さて、我は胸襟を開いた。お主らも応えてくれることを願う。
もちろん、強制はしないが」ジッ
騎士「……仕方ない、勇者のためだ」
神官「騎士! 本気なんか」
騎士「ああ。魔王がここまでしてくれたんだ、誠意に応えなければ」
魔王「感謝する。では──」
『騎士のステータス』
──
「騎士」Lv52 種族・人間 19歳
名前 カサンドラ
職業 剣聖、槍使い、盾使い、拳闘士
HP 750
MP 8
攻撃力 650
魔法攻撃力 5
防御力 550
特殊スキル 誠実の誓い
──
魔王「この「誠実の誓い」というスキルは?」
騎士「ああ、「嘘をつけない代わりに体力と防御力が上昇する」というものだ。
基本的に解除は不可能、私は死ぬまで嘘がつけない。スキルというよりは呪いに近いかもな」
魔王「そうか、理解した」
魔王(どうやら騎士の証言は信用できそうだ。
何か抜け道がある可能性もあるが、今は置いておこう)
弓兵「じゃ、次は私の番デスネ」
神官「弓兵、あんたまで……!」
弓兵「神官サン、私は勇者サンが亡くなった理由を知りたイ。
事件が迷宮入りのままジャ、気になってエルフの森に帰れまセーン」
魔王「感謝する」
『弓兵のステータス』
──
「弓兵」Lv54 種族 エルフ 年齢 125
名前 アグラリエン・ルィン
職業 射手、狩人、シーフ
HP 650
MP 500
攻撃力 400
魔法攻撃力 450
防御力 300
特殊スキル 鷹の眼、古代魔法詠唱者
──
魔法使い「へえ、結構年いってたんだね」
弓兵「失礼ナ! エルフの中ではまだまだ若輩デスヨ」
魔王「さて、残るは二人か……どうする?」
魔法使い「……しょうがないね。いいよ、僕もステータスを見せてあげる」
神官「……」
『魔法使いのステータス』
──
「魔法使い」Lv48 種族 人間 年齢 16
名前 ブレンダ・ツインパイル
職業 白魔道士、黒魔道士、次元魔道士、天候魔道士
HP 400
MP 840
攻撃力 55
魔法攻撃力 700
防御力 18
特殊スキル 飛び級
──
魔王「ほう。その若さでこれほどの職を修めているとは」
魔法使い「……嫌味? あなたと比べたらマンティコアとケットシーくらいの差があるよ」
魔王「だが、これは紛れもなくお主の努力によるものだろう?
多少才能の分があるとはいえ、人の身でよくここまで頑張ったな」
魔法使い「……!」ポロッ
ゴシゴシ
魔法使い「ほ、褒めても何も出ないから」
魔法使い(初めてだ……こんな風に言われたの)
神官「……魔王、ウチもステータスを開示する」
魔王「ほう、お主だけは断ると思っておった」
神官「皆が開示してるのにウチだけしないなんてアンフェアやろ?
それにウチだって、あの時なにが起こったのか知りたいんよ」
魔王「了解した」
『神官のステータス』
──
「神官」Lv60 種族 人間(光の民) 年齢 17
名前 レイ・ハヤサカ
職業 ヒーラー、白魔道士、巫女
HP 800
MP 450
攻撃力 850
魔法攻撃力 300
防御力 15
特殊スキル 完全浄化
──
弓兵「攻撃力850……!? 見かけによらず力持ちなんデスネ」
神官「う、うっさい。そこは触れんといて」カアッ
魔王(ふむ。注目すべきは、全員が勇者を殺せるだけの戦闘能力を備えている、という点だな)
魔王「では次に、勇者が死ぬ前後の状況を知りたい。証言してくれるか」
騎士「だったらいいものがある」ゴソ
魔王「それは?」
騎士「録音の魔法陣を刻んだレコーダーだ。
有効範囲は私を中心に半径10メートル。旅の音声は全て録音されている」
魔王「ふむ。好都合だが、なぜそのようなことを?」
騎士「勇者に頼まれたんだ。魔王を倒すまでの活躍をあとで記事にしてもらうから、記録しておけと」
魔王「ほう……」
魔王(だいぶ虚栄心の強い人物だったようだな)
魔王「聞かせてもらおう。
途中何度か質問を挟むことがあると思う。その時は一時停止してもらえるか」
騎士「了解した」
カチッ ジー
──
勇者『もう録れてるのか?』
騎士『ああ』
勇者『よし。ではこれより、魔王討伐の旅に出発する。
足引っ張るんじゃねえぞ、お前ら』
──
カチッ
騎士「これは始めの方だったな、失礼した。
えっと、この場所の名前は?」
魔王「謁見の間だ」
騎士「なら、謁見の間に入る直前まで飛ばしても?」
魔王「ああ。そうしてもらえると助かる」
キュルルルル……カチッ
──
ギャハハハ!
勇者『魔王様バンザーイ、だってよ。
どいつもこいつも死ぬ直前に叫びやがって。だっせ』
神官『どうやら魔王はずいぶん慕われてるみたいやな。
もっと恐怖政治を敷いてるのかと思ってた』
勇者『どうでもいいさ。どうせ俺には敵わねえんだから。そうだろ?』スリスリ
神官『ちょっと、触らんといてくれる』バシ
勇者『気ぃ強えなあ。ケツくらい触らせろよ、減るもんじゃねえし。お前の妹の方がよっぽど大人しいぜ』
神官『悪かったな気ぃ強くて』
魔法使い『……』
勇者『あーん? なんだよ魔法使い、なんか文句あんの』
魔法使い『別に、ないけど』フイ
勇者『……ハッ』
ドンッ
魔法使い『きゃっ』ドサッ
神官『ちょっとあんた、なにしてんの!』
騎士『大丈夫か? 魔法使い』サッ
勇者『一度寝たぐらいで彼女づらとかマジでうぜぇ。調子乗ってんなよ。
お前程度、パーティから抜けたってなんも困らねえんだからな?』
魔法使い『……っ』
タッタッタッ
弓兵『ヘイ皆サン、この先に広い空間があるみたいデスヨ。
いよいよ魔王と……オヤ? 何かあったのデスか?』
勇者『なんでもない。行こう』ニコッ
スタスタ……
──
カチッ
魔王「……」
ゴゴゴ……
騎士「あの……魔王」
魔王「……なにかね」
ゴゴゴゴゴ……
騎士「その……黒いオーラが出ていて、皆おびえている」
魔王「! おっと」
フシュウゥ……
魔王「これは失礼した」
魔王(しかし、勇者がこれほど虫唾の走る男だったとはな。奴との戦いを楽しみにしていた我が馬鹿みたいではないか。
何よりも許せないのは、仲間に対する敬意の無さだ。
これほどの人材が揃っているにもかかわらずあの不遜な態度……。自分以外はおまけ程度にしか考えていないのだろう)
フウ……
魔王(我が奴の立場なら、あらゆる手を尽くして人材の流出を防ぐだろう。あのような態度は全く理解できぬ)
魔王「すまなかったな。続けてくれるか」
騎士「分かった」
カチッ ジー
──
カツーン カツーン
神官『でっかい広間やな。先が全く見えへん』
弓兵『照明がたくさんあるのが救いデスネ。これで真っ暗闇だったらと思うと、ゾッとシマース』
カツーン カツーン
魔法使い『……っ』
騎士『どうした魔法使い。具合でも悪いのか』
魔法使い『う……実は……』
勇者『放っとけよ。どーせいつもの仮病だろ。
いいか。お前のせいで遅れをとったら承知しねえし、お前のために休んだりもしねえからな』
騎士『おい勇者、そんな言い方』
魔法使い『いいよ。僕は……大丈夫、だから』
グイッ
勇者『いいか? お前はもう喋るな。黙ってついてこい。
立ち止まりやがったら、今度こそ本当に殺すからな』ヒソヒソ
魔法使い『……っ』
スタスタ
勇者『ちっ、無駄に広い空間作りやがって』
神官『すごい数の電灯やな。普通、魔王の城って松明とか使うもんちゃうんか?
……もう大分来たはずやけど、まだなにも見えな──』
ブツンッ
勇者『!? なんだ、明かりが消えたぞ!』
神官『突然暗くなるなんて罠かもしれん。皆、動いたらあかんで』
騎士『魔法で明るくするのは?』
神官『光に興奮するタイプのモンスターが召喚された可能性もある。少し様子を見た方がええ』
騎士『了解した。周囲の警戒を続ける』
…………
……
…
キャアアアア!
ドサッ
神官『! 弓兵の悲鳴……?』
騎士『こっちだ!』
タタッ
騎士『弓兵、どうした!』
弓兵『わ……分かりまセン、でも近くに敵がいマス!』
騎士『神官!』
神官『もう限界やな、今明かりを点けるわ。「聖なる──」』
パッ
神官『!? 明かりが戻った……なんやったんや……』
弓兵『! あ、アア……っ』ガクガク
神官『? ……! ゆ、勇者!?』バッ
騎士『一体何が……!』
魔法使い『いや、勇者さま……勇者さまああああああ!』
ズゴゴゴゴゴ
魔王『ふはははは! よくぞ我の眼前まで辿り着いたな人の子らよ。
喜ぶが良い。儚い命を散らすのが、他でもない我の手によるものであることを……む?』
──
カチッ
騎士「以上が城の中で起きたことだ」
魔王「……」カアッ
騎士「魔王? どうした、顔が赤いようだが」
乙
面白いけど虫酸が走るww
魔王「う、うむ……なんでもない」
魔王「今の録音を聞いて、いくつか新たな謎が生まれた」
神官「聞かせてほしい。うちらの視点からは見えへんものが、あんたには見えるかも」
魔王「……」
神官「魔王?」
魔王「その前に1つ聞きたい。
お主らにとって勇者とはどういう存在だったのだ?」
皆「……」
魔王「先程の録音を聞いただけでも、唾棄すべき男であることは明白だ。
正直、たとえお主らの中に殺人者がいたとしてもなんの不思議もない。
しかし、お主らは勇者の死の真相を知りたいという。その思いはどこから来ているのだ?
仲間意識か? 友情か? あるいは恋愛感情か?」
……アハ、
アハハハハハハ!
魔法使い「仲間? 恋愛感情? そんなわけないじゃないか!」
神官「魔法使い……あんた」
ポタ……ポタ
魔法使い「知ってたよ。勇者が、僕のことを道端に生えてる薬草程度にしか見てくれてないって。
それでもいつか変わると思ってた。僕が優しさを教えてあげられたらって、そう……思ってたのに……っ」ポロポロ
神官「……」ギュッ
魔法使い「……う、うう……っ」グスッ
騎士「確かに勇者はクズだった。しかしそれでも、幼い頃から共に修行した同志だった。
あるいはこの旅が、奴のねじ曲がった性格を変えてくれるのではないかと……淡い期待をしていた」
弓兵「私は単純に、弓術と遠距離魔法の腕を買われて、一番最後に参加しまシタ。
でも……勇者サンがあんな人だったなんて知らなかった。
自信過剰な面は多々ありましたけれど、私の前ではある程度ちゃんとしてるように見えましたカラ。
さっきの録音を聞いて本当に驚きまシタ。本性を知っていたら勇者の誘いは断っていたでしょう」
魔王(なるほど。勇者には皆それぞれ、思うところがあったのだな)
魔王「理解した。では、我の考えを聞かせよう。
現状、謎は大きく分けて三つある。
1、停電の原因
2、弓兵を襲った者の正体
3、勇者に何が起こったか」
『1、停電の謎』
魔王「まず1つ目、停電について検証してみよう。コレクサ、先程の停電の原因は?」
ポン
コレクサ『停電は起きていません』
魔王「む?」
神官「電気が来てなかったんやろ? コレクサの電源自体入っていなかったんと違う?」
魔王「いや、それはあり得ぬ」
弓兵「何故デス?」
魔王「コレクサは魔力と電気両方を動力源としているからだ。仮に電力の供給が止まっても、魔力の元である我が生きている限り停止することはない。
コレクサが無かったと断言する以上、本当に停電は無かったのだろう」
騎士「しかし、確かにあのとき……」
魔法使い「……」
弓兵「どうしたんデス魔法使いサン。さっきから黙りこくって」
魔法使い「えっ……ううん、大丈夫」
神官「なあ、ずっと考えてたんやけど、『暗闇のワナ』」が仕掛けられてたんと違うかな」
魔王「うむ。我もその可能性は考えていた」
騎士「暗闇のワナ、というのは」
魔法使い「……魔法陣に何者かが足を触れると発動するワナで、周囲から数分間光を奪い、暗がりにする魔法だよ」
騎士「おお! ぴったりじゃないか」
魔王「だが一つ問題がある。誰がそのワナを仕掛けたのか、ということだ」
神官「つまり魔王、アンタは仕掛けて──」
魔王「無い。そもそも、この魔王城にワナは一つも仕掛けられておらぬ」
神官「一つも? それって不用心ちゃうか。普通は大量に仕掛けて侵入者を撃退するやろ」
魔王「魔王という至高の存在の根城に、余計な小細工など不要だ。
というより、そもそもここは我の居城。そこかしこにワナが仕掛けてあっては住みにくくて仕方なかろう?」
騎士「た……確かに」
魔法使い「トイレしようとしたら槍が降ってくるとか、考えただけで面倒くさい」
神官「魔王本人は仕掛けてないとしても、部下が仕掛けた可能性は?」
魔王「それもない。この城の守護を担っていたのは副将軍のジアスだが、奴は重度の暗闇恐怖症で就寝時も明かりをつけっぱなしにするほどだ。
そんな男が敵の侵入を防ぐためとはいえ、暗闇のワナを仕掛けるなどあり得ない」
弓兵「……もしかして、この城がやたらと明るいのハ……」
魔王「副官の趣味だ。我としてはもう少し薄暗いほうが好みなのだが、奴が怖がるとあっては仕方がない。
部下が働きやすい環境を作るのも上司の努めだからな」
神官(経営者の鑑……!)
魔王「まあその副官が死んだ今となっては、もう少し暗くしても文句は言われんだろう。
我としては明るいままでも良かったのだが、な……」シュン
皆「うっ」ズキン
騎士「せ、整理するぞ。魔王サイドは突然の暗闇について何もしてない、ということでいいのか?」
魔王「うむ」
弓兵「ウーン、振り出しに戻っちゃいまシタネ。魔法使いサン、何か思いつきませんカ?」
魔法使い「え、僕?」
弓兵「ハイ。アナタはパーティで一番の、魔法のスペシャリストですカラ」
騎士「確かに! 停電に関して何か心当たりはないか?」
魔法使い「そうだな……光を奪う魔法はいくつかある。
まずさっき出た『暗闇のワナ』。
それから『光避け』。生活魔法で、主に太陽光を遮断するときに使う。
あとは『視野交換』。文字通り、対象二人の見ている景色を入れ替える魔法」
騎士「視野交換?」
魔法使い「今回の場合でいえば、片方が目をつぶっている、もしくは暗い部屋にいた場合、まるで停電したように錯覚させられる。
……それくらいかな」
魔王「……」ピクッ
神官「へえ、『視野交換』なんて初めて聞いたわ」
魔法使い「超マイナーだからね。僕も実際使ったことはないんだ」
騎士「私なんて、今聞いた魔法全部知らなかったぞ」フフン
弓兵「それ全然自慢になってないデスヨ……」
魔王「……。
……魔法使いよ」
魔法使い「……!」ビクン
魔王「少し話がある。お主が望むなら、我とお主、二人きりで話すことも可能だが」
魔法使い「……」
騎士「え……なんだ二人共、なんの話だ?」
魔法使い「……はあ……。やっぱり魔王には敵わないなあ。
ここで大丈夫。皆にも聞いてほしいから」
神官「どういうことや」
魔王「光を奪ったのは魔法使い、お主だな」
皆「!?」
魔王「先程魔法使いが挙げた魔法は三つ。だが、実際はもう一つ存在する。
『暗がりの眼』。対象の目に魔法をかけ、一定時間光を感じなくさせる。
しかも先に挙げた三つと違い、術者の力量次第で何人にでもかけられる危険な魔法だ」
神官「そんな魔法があったなんて、全く知らんかった……」
魔王「それは仕方がない。この魔法は人道に反するということで数十年前に禁止されているからな。
知っているのは一握りの魔法研究家くらいのものだ」
騎士「なら、魔法使いが知らなくても無理ないだろう? 別にわざと言わなかったわけじゃ」
魔王「いや、彼女はわざと言わなかったのだ」
騎士「どうして言い切れる?」
魔王「先程、我々は停電の原因について議論していたな。そのとき、それぞれ異なった言い方で闇を表現していた。
停電、暗闇、光を奪うなど、ありきたりな言葉を我らが使う中、魔法使いだけが『暗がり』と表現した」
──
魔法使い『……魔法陣に何者かが足を触れると発動するワナで、周囲から数分間光を奪い、「暗がり」にする魔法だよ』
──
魔王「その時我は、彼女が『暗がりの眼』を知っているのだと思った。あまり他で使う言葉でもないからな。
だが、彼女が挙げた魔法の中にそれはなかった。そのときに仮説を立てたのだ。
どうやら魔法使いは『暗がりの眼』の存在を隠そうとしている。なぜか。
考えられる最もありそうな理由は、彼女自身が『暗がりの眼』を使い、光を奪った張本人だから、ということだろう。むろん、単なる推測に過ぎないがな」
騎士「……本当なのか、魔法使い」
魔法使い「……」
こくり
騎士「! なら、お前が勇者を殺したのか。あんなに慕ってたのに、どうして……」
魔法使い「違う! 僕は殺してない。光を奪ったのは、別の理由があったからだよ」
神官「別の理由?」
魔法使い「……暗くなる前、僕の様子がおかしかったの覚えてる?」
騎士「ああ。私は具合でも悪いのかと聞いて……お前はなにか答えようとしたが、勇者に遮られたのだったな」
魔法使い「実は僕、あのとき……──かったんだ」ゴニョ
弓兵「……!」ピクッ
騎士「ん? なんだって?」
神官「声が小さくて全然聞こえへん」
魔王「すまぬが魔法使い、もう少し大きな声で頼む」
弓兵「あ、あの皆サン、あんまり追い詰めたら……」
魔法使い「……っ。
だから、僕はあのとき、トイレに行きたかったんだ!」
シーン
神官「……トイレ?」
魔法使い「そうだよ! ずっと我慢してたんだから」
騎士「そんなの、その辺にある柱の影とかですればいいじゃないか」
魔王(一応我の家なのだが……)
魔法使い「そんなはしたないことできないよ! だって勇者様がいたんだよ!?
それに、あのときはトイレしたいなんて言える空気じゃなかったし」
神官「だから光を奪ったんか? 隠れてトイレするために」
魔法使い「うん……『暗がりの眼』を使って皆の視界を奪っている間、離れた場所でトイレしてたんだ。
……戻ってみたら、勇者様が倒れてて……」
魔王「なるほど。では、勇者に何が起こったかは見ておらぬのだな?」
魔法使い「うん、柱の影にいたから……。こんな話信じてもらえないかもしれないけど……。
でも、僕は勇者様を殺してなんかない。それだけは信じて」ギュッ
ポン
騎士「信じるよ。よく考えたら、お前が勇者を殺すわけない。この中で一番、まっすぐにあいつを愛してたもんな」
弓兵「ま、あの状況なら仕方ありまセンネ。……それにしても、勇者があれホド酷い男たとハ……」
神官「そういうときは、今度からうちに相談してな。溜め込んだらアカン。ええか?」
魔法使い「うん。……あの魔王……さん」
魔王「うむ?」
魔法使い「城を汚してしまってごめんなさい。僕の話、信じてもらえないかもしれないけど……」
魔王「いや信じるぞ。先程確認もとれたしな」
魔法使い「えっ」
神官「確認?」
魔王「この城の汚れやゴミは、5分が経過すると消失するのだ。モンスターの死体と同様にな」
弓兵「そういえば、確かにチリ一つ落ちてまセンネ」
魔王「消えたゴミはリスト化されてコレクサが保管している。
先程確認したところ、確かに……まあ、あれだ……うん。
というわけで、魔法使いの証言は信用に値する」
魔法使い「……っ」カアアッ
魔王(まあ、トイレをしたのが事実とはいえ、勇者を殺していないとは言い切れぬが……な)
……ザワッ
魔王(む? なにか、我は大切なことを見落としている気がする……なんだ?)
騎士「魔王、どうしたんだ? 難しい顔で考え込んで」
神官「アホ、何か大事な考え事かもしれんやんか。邪魔してごめんな、魔王」ペシッ
騎士「いたっ。ご、ごめん」
魔王「ああ……いや、気にする必要はない」
魔王(ふむ……今思い至らぬということは、時が来るまで待て、ということだろうな)
魔王「……それにしても分からないのは、何故事前にトイレを済ませなかったかだ。
謁見の間に入る前、休憩ポイントがあったであろう? あそこにトイレを設置していたのだが」
神官「もしかして噴水の所? トイレなんてなかったで」
魔王「いや、噴水の前で『コレクサ、トイレ行きたい』と言えば、地下トイレへ向かう階段が──」
神官「んなもん分かるか!」
魔法使い「普通にトイレ設置すればいいじゃん!」
魔王「む、むう……すまない……?」
乙
胸糞悪いww
『2、弓兵を襲ったのは何者か?』
神官「ま、とにかくこれで停電の謎は解けたな」
魔王「うむ。次なる謎は、弓兵を襲った者の正体だが」
騎士「この部分だな」キュルル…
カチッ
──
キャアアアア!
ドサッ
神官『! 弓兵の悲鳴……?』
騎士『こっちだ!』
タタッ
騎士『弓兵、どうした!』
弓兵『わ……分かりまセン、でも近くに敵がいマス!』
──
魔法使い「それなら簡単に分かるんじゃない?」
魔王「ほう、何故だ」
魔法使い「だってここは魔王の城だよ? 固定魔法陣から召喚された雑魚モンスターとかじゃないの」
神官「確かにな」
弓兵「私もそう思いマス。あの感触は、明らかに人ではない何かでシタ」
騎士「じゃあ襲ったのはモンスターということでいいな。もしかすると勇者を殺したのもそいつかも」
弓兵「勇者ともあろうものが雑魚モンスターに遅れをとるでしょうカ?」
騎士「いくらあいつでも、視界を奪われた状態で不意打ちを食らったらどうだろうな」
魔法使い「……っ」シュン
騎士「あ……いや、違うぞ魔法使い。お前を責めてるわけじゃ──」
魔王「あー、盛り上がってる所悪いが、雑魚モンスターの可能性は皆無だ」
皆「えっ」
魔王「何故なら、この城内に雑魚モンスターは出現しない設定になっているからだ。
思い出してほしい。小ボス、中ボス以外で、モンスターは出現したか?」
騎士「い、いわれてみれば」
魔法使い「でもそれって変じゃない?
ここは魔族の総本山、もっとたくさんのモンスターで固めるのが普通じゃないの?」
魔王「先程も触れたが、ここは我の居城だ。
想像してみよ。もし雑魚モンスターがいたら、食事や所要で移動するたび大量のモンスターとぶつかってしまうではないか。
我は仕事とプライベートは分けるタイプなのだ。
それに、数で攻めるという戦力は強力だが、面白みに欠ける。我の好みは少数精鋭、一騎当千。
もちろん状況が切迫すれば数に頼るのもありだとは思うがな」
神官「うーん……あくまでモンスターはいなかった、って主張するんやな」
魔王「断言する。あの時点で、魔王城に我以外のモンスターは存在していなかった、と」
弓兵「でも、あの感触は確かに人外のものでシタ。モンスターじゃないとしたら、一体……」
神官「うーん、可能性は低いと思うけど一応聞いとくわ。魔王、アンタが何かしたってことはないか?」
魔王「我が?」
神官「これまでの言動から考えて、アンタが意図的に弓兵を攻撃したってことはないと思う。
けど例えば無意識のうちに何かしたってことは? うっかり魔法でモンスターを生み出したとか──」
バッ
魔法使い「ごめんなさい! 神官に悪気はないんです、許してあげて!」
神官「え?」
クルッ
魔法使い「このバカっ! 無意識下で魔法を垂れ流すっていうのは、魔法を習い始めた新人だけがやるミスなんだよ。
ある程度修練を積んだ魔法使いなら絶対ありえないことなんだ」
魔王「!」
魔法使い「つまり君は、魔王にこう言ったのと同じなんだ……『あなたは魔法初心者ですか?』ってね!」
神官「!」
バッ
神官「ご、ごめんなさい魔王。仮にも魔法を極めた者に対して言うことやなかった。
言い訳にしかならんけど、神殿魔法はそもそもの成り立ちが違うから、ベテランでも魔法を制御できないことはたまにあるんよ。
神は気まぐれで、その時々で与えてくれる恩寵の強さも違うし……。
ホンマにごめん、許してください!」
魔王「……新人だけが……やるミス……」
神官「え?」
魔王「い……いや、なんでもない。うむ、許そう。間違いは誰にでもあることだ」
神官「魔王……」ホッ
魔王(どうしよう……我、ちょくちょく無意識下で魔法を行使してしまうのだが)
ごほん。
魔王「せ、整理するぞ。弓兵を襲ったのは我でも、我の手による者でもない。
しかし弓兵が嘘をついているとも思えぬ。
可能性を列挙するなら次の四つだ。
A、弓兵が嘘をついている
B、魔王が嘘をついている
C、どちらも真実を語っている
D、どちらも嘘をついている」
弓兵「私、嘘ついてまセン!」
魔王「我もだ。だがずっと仲間として旅してきた弓兵はともかく、今日初めて会った上に最強の敵でもある我を無条件に信じろとは、さすがに言えぬ」
神官「何か考えがあるんやな?」
魔王「うむ。相手の嘘を見抜く魔法、『真実の口』を魔法使い、お主に使ってもらいたい」
魔法使い「……えっ」
魔王「我も使えるが、これは他人にしか作用せぬからな。誰かにかけてもらう必要があるのだ」
弓兵「なるほど、それはいい考えデスネ。魔法使いサン、よろしくお願いしマス」
魔法使い「無理……」
魔王「ああ、『真実の口』を習得しておらぬのだな。心配するな、我が教えて──」
魔法使い「そうじゃなくて、無理なんだよ! 僕が扱える魔法ランクは4まで。『真実の口』はランク5の魔法なんだ。
どれだけ修練しても、僕はランク5の魔法は使えない……使えないんだよ……っ」グスッ
神官「魔法使い……」
弓兵「ランク4が使えるだけデモ十分すごいんデスけどネ……」
騎士「魔法のレベルを一瞬で上げる方法があればいいんだがな……」
魔王「あるが」
神官「あるんかい! まあ半分予想はしてましたけども!」
騎士「あれだろう? どうせ、レベルを上げるには大量の生贄が──とか言うんだろ」
魔王「いや、今回の対価はかなり軽いぞ。少なくとも誰一人犠牲にすることはない」
魔法使い「本当? なら是非僕に教えて」
魔王「もちろんだ。向上心は人が持つなによりの宝だからな、好ましいぞ。
ランク12『魔導の極意』。魔法レベルを一瞬で引き上げる魔法だ。対価はそれほどでもない。
対象の寿命70年分、それだけだ」
神官「ななっ……!」
魔法使い「是非お願いし──」
騎士「やめろ早まるな!」ガシッ
弓兵「考え直して下サイ! 70年なんて、長命のエルフですら即却下案件デスヨ!」ガシッ
魔法使い「極意を……僕に魔法の力を──っ!」
数時間後
テッテレーン
コレクサ『魔法使いのレベルが63に、扱える魔法ランクが5に上がりました。
「真実の口」を習得しました』
魔王「よくやった魔法使い。全てを出し切ったいい勝負であった」
魔法使い「ぜーっ、ぜーっ」ポタポタ
神官「結局単純な力押しでレベルを上げるとはな……」
弓兵「デモ考えてみればこれが一番の方法でしたネ。最強の魔法使いである魔王と何度も戦えバ、嫌でも経験値は稼げるわけですカラ」
騎士「……」ウズウズ
神官「ん? どしたんソワソワして」
騎士「いや、次は私の番かと思うと、武者震いが止まらなくてな」
神官「……うん?」
魔王「これをゆっくり飲むといい……落ち着いたか?」
魔法使い「はい、もう大丈夫です……これは? すごく美味しい」コクン
魔王「琥珀花のはちみつ入りアイスティーだ。今の修行で大分カロリーを消費したからな」
魔法使い(染み渡る……!)ゴクゴク
騎士「魔王! 次は私の修行を──」
魔王「いや、勇者の死の真相を突き止めるのが先だ」
騎士「あ……そう、だな」シュン
神官(そらそーやろ)
ポン
魔王「そんな顔をするな。全てが終わったあと、思う存分相手をしてやろう」
騎士「本当か!?」
魔王「魔王に二言はない。……さて魔法使いよ。準備はいいな?」
魔法使い「うん。ランク5「真実の口」」キンッ
魔王「我は弓兵が襲われた件に関与していない。モンスターを生み出してもいないし、我が動いたということもない……念の為確認しておこう。コレクサ、我にかかっている魔法を述べよ」
シーン
魔王「おっと……『コレクサ、魔王にかかっている魔法を教えて』」
コレクサ『了解しました』
神官(融通きかへんなーコレクサ)
これ草
コレクサーww
コレクサ『「防御最大」「魔法攻撃力最大」「真実の口」、以上です』
魔法使い「確かにかかってるね」
騎士「てことは弓兵が嘘を?」
弓兵「そ、ソンナ!」
神官「あほ、弓兵が嘘つく理由がどこにあんねん」
魔法使い「分かんないよ。実は犯人で、アリバイ工作の為に嘘ついたのかも」
弓兵「そんなコト! しまセン!」
魔王「弓兵よ。暗闇の中、本当にモンスターのような存在に襲われたのだな?」キンッ
弓兵「確かデス。あの感触は確かにモンスターでシタ。信じてくだサイ!」
魔王「うむ、信じるぞ」
神官「ん? えらいあっさりやな」
魔王「『真実の口』を弓兵にもかけた。彼女は真実を語っている」
弓兵「い、いつの間ニ」
魔法使い(む、無詠唱でランク5を使えるなんて……!)クラッ
ぐううう……
魔王「む。なんだ、今の怪鳥の鳴き声のごとき音は」
魔法使い「多分お腹の音だよね……騎士?」
騎士「イメージで言ってないかイメージで」
スッ
神官「ご、ごめん。ウチや」カアッ
弓兵「魔王城に入ってカラ何も口にしていまセンものネ。仕方ありまセン」
魔王「ここから先は食事をとってからにするか」
神官「魔族の食事、かあ……」
魔王「はは、生の人肉などは出て来ぬし、毒も入っておらぬから安心せよ。人間界の食事処とワームホールで直結している。好きなものを頼むがいい」
弓兵「そういえば以前、出てきた料理に毒が入っていたコトがありましたネ」
神官「あれは大変だったわ。皆に三日三晩回復魔法かけまくってクタクタになってな。
どんな毒でも消せる無敵の秘薬があればって、何度も思ったわ。そんな都合のいいもんあるわけないのに」
魔王「あるが」
神官「ぅあるんかい!」
魔法使い「世界は広いよね……」
~魔王城・食堂~
ずずずっ
騎士「うまい! このシチューは絶品だな」
神官「コラ、スープは音をたてたらアカンっていつも言ってるやろ」
弓兵「ステーキ美味しイ! こんないい肉は久しぶりデス!」ガブッ
魔王「良いのか? エルフは肉を食べないと聞いたが」
弓兵「私はエルフ族でも変わり者で有名なんデス。肉も魚もバンバン食べますヨー!」
魔王(ふむ。世の中は予想外のことばかりだ。面白い)
魔法使い「ダメ元で頼んだのに本当にあるなんて……フルーツパンケーキ6段生クリーム鬼盛り」キラキラ
神官「たこ焼き、うまっ」ハフハフ
魔王「人間界で評判の食事処を複数直結させているからな。基本的にどんな料理でも取り寄せが可能だ。
ただし、夜11時以降は一部の酒場に限られるが」
弓兵「何故デス?」
魔王「食事処の営業時間があるからな」
神官「そんなん、魔王やったらいくらでも融通きかせられるやろ」
魔王「閉店時に無理やり作らせるのは我の主義に反する。
美味な料理を作るには相応の修行が必要であろう。ならば、その努力に敬意を払うのが筋というものだ」
弓兵(優シイ……)
神官「う、ウチが間違ってたわ……」
カチャッ……
騎士「ふう、食べた。……もし勇者がこの場にいたら、真っ先にお菓子を注文するだろうな」
魔王「菓子?」
騎士「ああ。あいつの大好物だ」
魔法使い「そうだったね。プリン、ゼリー、ソフトクリーム……いつも大量に頼んでたっけ」
弓兵「勇者サンのお墓参りのときハ、マカロンをお供えしてあげましょうネ。よくつまんでいましたカラ……」
~魔王城・謁見の間~
魔王「腹が満ちたところで続きといこう。弓兵よ、お主が襲われたときのことを詳しく聞かせてほしい。辛いとは思うが……」
弓兵「平気デス。真相を明らかにスル為ですものネ」
カタカタ
魔王「……弓兵。無理をする必要はない」
弓兵「何がデス? 私は大丈夫で──」
ポン
神官「弓兵、あんた震えてんで」
弓兵「えっ」
ポン
騎士「心配するな、私達がついてる」
ポン
魔法使い「辛いなら辛いって言ったほうがいいよ。僕らがついてるから」
弓兵「……ごめん、なさい。
本当は私、とっても……怖かったんデス……」ポロッ
わあああん……
──
魔王「本当に平気か?」
弓兵「もう本当に大丈夫デス。私には仲間がいてくれますカラ」
魔王「承知した。では聞かせてもらおう。
あのとき何があったのかを。……ゆっくりでよいぞ」
弓兵「周囲が暗くなったとき、私は皆より少し先に進んでいまシタ。
暗闇のときいつもスルように、立ち止まって嗅覚と聴覚に意識を集中させていたんデス。
すると背後から足音が聞こえてくるのに気が付きまシタ」
魔法使い「足音?」
弓兵「ええ。ブーツの靴音だったので、はじめは仲間の誰かが追いかけてきたんだと思いまシタ。
でも、振り返って『誰ですカ?』と聞いても応答が無くて……なんだか怖くなって、逃げようと踵を返したんデス。その時私のお尻を掴んだ手の感触を、鮮明に覚えていマス。
鋭い爪が生えた指が四本。手の表面は硬い鱗で覆われているようでシタ」
騎士「その特徴は……明らかに人間じゃないな」
弓兵「ええ。でも、本当に怖かったのはその先なんデス。
私、相手を突き飛ばそうと両手を前に出しました。そしたら、右腕がぬるぬるした穴にずるり、と引きずり込まれたんデス。
モンスターに食べられたと思った私はパニック。ありったけの古代魔法をモンスターの体内に打ち込みましタ」
魔法使い「そっか、君は『古代魔法詠唱者』のスキル持ちだもんね」
騎士「古代魔法ってなんだ? 普通の魔法とは違うのか?」
魔法使い「古代魔法の呪文は、使用者の体内に刻まれているんだ。
呪文を唱えないと基本的には使えない現代魔法と違って、一瞬で行使できるのがメリットだね」
騎士「すごいな。ほとんど無敵じゃないか」
魔法使い「その代わり強い魔法は使えない。せいぜいランク1か、最大でもランク2まで……だったよね」
弓兵「その通りデス。私の使える古代魔法は三つ。全てランク1の基本的な魔法だけデス」
魔王「どんな古代魔法が使えるのだ?」
弓兵「『麻痺』、『電撃』、『弱毒』の三つデス。主に弓矢にかけて使いマス」
魔王「ふむ」
弓兵「ただ、本来遠距離で使う魔法を直接叩き込んだので、多少は威力が上がっていたかもしれまセン。
その後モンスターは離れていったので、どこかへ逃げたんだろうと思ってまシタ」
魔王「……」
魔王(まさか……)
騎士「うーん弓兵の話を聞くと、やはりモンスターがいたとしか思えないな」
神官「召喚獣の可能性はないか?」
騎士「……そういえば、唯一召喚魔法を使えたのが勇者だったな」
神官「せやな。他の魔法はからっきしやったけど、召喚魔法だけは得意でよく使ってたわ。
普通召喚獣は気性が荒くて手懐けるのに苦労するんやけど、勇者が一撫でしただけですっと大人しくなってたな」
魔法使い「でも録音では、召喚魔法を詠唱してる声は聞こえなかったよね? いくら勇者でも無詠唱でランク4の召喚魔法は扱えないはずだよ」
魔王「……」
騎士「ん? どうした魔王。さっきから黙りこくって」
乙
コレクサ欲しいww
作者はミチクサしてないで続きを大量投稿するんだ待ってる
魔王「……2つ、質問したい。
1つ目。勇者は生前、毎晩歯を磨いていたか?」
神官「え? なんでそんなこと聞くん」
魔王「馬鹿げた質問に聞こえるかもしれぬが、大事なことなのだ。答えてほしい」
魔法使い「……そう言われてみると、歯を磨いてるところは一度も見たことないかも」
弓兵「私も見たことないデスネ…。騎士サンはどうデス? 幼馴染ですよネ」
騎士「うーんと……確か子供のころは一緒に磨いてたな。嫌々ではあったけど」
魔王「最近はどうだ」
騎士「……そういえば見てないな」
神官「魔法使いや騎士、弓兵とは夜によく洗面所で顔を合わせとったけど、勇者は……そういや一度も」
魔王「理解した。では、2つ目の質問に移ろう。
この中に、勇者の手のひらを見たことがあるものはいるか」
弓兵「手のひら、ですカ?」
神官「そんなの、ずっと一緒に旅してきたんやからあるに決まって……あれ?
そういやあいつ、ずっと手袋はめとったな」
魔法使い「今思い返してみると、勇者様は片時も手袋を外さなかったよね。騎士はどう?」
騎士「もちろんあるさ。……しかし、そう言われてみると、ある時から勇者は手袋をつけ続けるようになったな。
食事時は失礼だから外せと神官が何度言っても、頑として外そうとしなかった」
魔王「そのある時とはいつのことだ」
騎士「大体三年前くらいだな。……あれ? そういや勇者が武者修行から帰ってきたのも三年前だったな」
魔王「武者修行?」
騎士「ああ。勇者は二年ほど村を出て修行したことがあるんだ。帰ってきたらまるで別人みたいになってた。
眼光は鋭く、性格も厳しくなって……そのころから私や村人を遠ざけるようになった」
神官「よっぽど辛い修行やってんな」
騎士「ああ。数え切れない程のドラゴンを倒したって言ってたな」
魔王「! ……なるほどな。
少し調べたいことがある。30分ほどこの場を離れるが、よいか」
神官「えっ……そりゃもちろん、ええけど」
魔王「すまぬな。待っている間退屈であろう。音楽でも聴いているといい。『コレクサ、音楽かけて』」
スタスタ
コレクサ『了解しました。プレイリスト「魔王様のおすすめ」を再生します』
魔法使い(プレイリスト作ってるんだ……)
~♪
弓兵「あれ? これ聴いたことありマス」
騎士「城下町で人気の曲だな」
神官「どんだけミーハーやねん。人類滅ぼす気ないやろあの人……」
騎士「ららら夢の中を駆け抜けてー♪」
神官「って歌うんかい! ごっつ上手いやんけ!」
──
スタスタ
魔王「待たせたな」
神官「あーおかえり。どこ行ってたん?」
魔王「図書室で調べ物をな。おかげで分かったぞ、弓兵を襲った何者かの正体が」
弓兵「えっ」
騎士「本当か!?」
魔王「ああ、分かった。……残念ながら、な」
神官「……まさか……」
魔王「コレクサ、勇者のステータスを表示して」
ヴウン
魔王「さて。これは先刻『究明』でスキャンしたものだが……ここを見てほしい」スッ
特殊スキル 魔を祓う者、光の王、『ドラゴンスレイヤー』
魔法使い「ドラゴンスレイヤーって、竜殺し……だよね。竜騎士とはどう違うの」
魔王「勇者の死体が消えた件でも説明したな。竜騎士は一定数のドラゴンを倒した者に与えられる、呪いの職だと。
竜を倒すごとに自身の体が少しずつ竜化していく。体表の半分まで竜化が進んだときに追加されるのが、この『ドラゴンスレイヤー』という特殊スキルだ。
正の効果としては主に筋力向上、五感の発達、動物やモンスターが無条件に従う、などが挙げられる」
騎士「それだけ聞くといいこと尽くめだな」
魔王「確かに戦闘能力は大幅に向上するだろう。しかし負の側面も強い。
魔力・知力の低下、凶暴化など。最も辛いと思われるのが肉体面での変化だ」
魔法使い「竜騎士のときも言ってたよね、体が竜化していくって」
魔王「うむ。『竜騎士』による肉体の変化は、あくまで体表。しかし『ドラゴンスレイヤー』のスキルがつくとさらに竜化が進む。
例えば手の爪が鉤爪に変化する、などだな」
弓兵「……ちょっと待って下サイ。まさか」
魔王「そう。弓兵を襲ったモンスターの正体は、勇者だ」
魔法使い「そんな!」
神官「……」
騎士「勇者が弓兵を襲ったモンスター、か。強く否定できないのが悲しいところだな」
弓兵「ちょ、ちょっと待って下サイ。確かに私のお尻を触った手の鱗と鉤爪はそれで説明がつきマス。
でも、あのヌルヌルとした穴はどうですカ? あの感触、明らかにモンスターでしタ!」
魔王「それも説明がつく。神官よ、勇者が好んだという菓子の名を挙げてはもらえぬか」
神官「え? えっと……プリン、ゼリー、ソフトクリーム、マカロン」
魔王「これらの共通点は、柔らかいということだ。歯が一本もなくても食べられるほどに」
神官「! じゃあ勇者は」
魔王「歯がなかった、もしくはそれに近い状態だったと考えるのが妥当だろう」
騎士「歯を失くした原因はたぶん、虫歯だろうな。昔から甘いもの好きな割に歯磨き嫌いだったからなあ……」
弓兵「えっ……ナラ、私が腕を突っ込んだのっテ……」
魔王「うむ。勇者の口内である可能性が高い」
弓兵「……」フラリ
ドサッ
騎士「きゅ、弓兵!」
サッ
神官「大丈夫、脈はある。すぐ回復させたるからな」キンッ
魔王「……!」
弓兵「……はっ!」パチッ
騎士「おお……いつもながらさすがだな」
魔法使い「無詠唱で回復魔法使わせたら、神官の右に出る者はいないね」
神官「おだてすぎやって。ウチはこれくらいしか取り柄ないからな。
……大丈夫か、弓兵」
弓兵「……は、はい……ありがとう、ございマス……」
魔王「弓兵よ。まっすぐ行った突き当りに休憩所がある。一人になりたいであろう? しばらく休んでくるがいい」
弓兵「ハイ……」
ふら……ふら
騎士「……結果的に、勇者を殺したのは弓兵、ってことか。
何度も麻痺や毒を打ち込まれたら、ひとたまりもないよな……」
魔法使い「……」
騎士「怒らないのか?」
ふう……
魔法使い「怒んないよ。誰が見ても、悪いのは勇者様──勇者の方だもの。
弓兵は痴漢野郎を撃退しただけだ。
君こそどうなの? 幼馴染だったんでしょう」
騎士「うーん。勇者が死んだことは悲しい、それは確かだ。
でもまさか暗闇に乗じて性犯罪に手を染めるなんて……そんな卑怯な方法で性欲を満たそうとした男に、同情する気はない」
魔法使い「厳しいね。ま、分かるけど」
神官「なんでこんなことになったんやろな……昔の勇者は、あんなにいい奴だったのに」
騎士「そうだな。数年前、竜に襲われていたお前の村を救ったときが懐かしい。
あのときの勇者は本当にカッコよかった」
魔王「……『ドラゴンスレイヤー』の負の効果として、性欲の増大がある。
凶暴化・知力低下と組み合わさると、性的衝動を抑えるのは非常に困難だったろう。
仮に竜化が大幅に進んでいたとすれば、よく耐えたほうかもしれぬ」
神官「魔王……」
魔王「しかし、だからといって勇者の行為が許されるとは思わぬ。
勇者の死体は手袋をしていた。わざわざ手袋を外し竜化した手で犯行に及び、またすぐにつけ直したということは、罪を免れようとした可能性を示している。
さらに、例え完全に我を忘れていたのだとしても、弓兵が感じた恐怖や不快感を無くすことは不可能だ。
……願わくば、生きた状態で裁きを下したかったのだがな」
騎士「そうだな」
魔法使い「……」
──
魔王「さて、真相をまとめると次のようになる。
暗闇に乗じて痴漢をしてきた勇者に驚いた弓兵。抵抗するが、その際彼の口内に手を突っ込んでしまう。
モンスターの体内のごとき感触にパニックを起こした彼女は、ありったけの古代魔法を勇者の体内に打ち込んだ。
そのショックで心肺が停止、勇者は死に至った。
……なにか付け足すことはあるか」
魔法使い「ううん」
騎士「ないな」
魔王「神官、お主はどう思……どうした」
ぽた、ぽた
騎士「神官、お前……」
神官「なんで、やろな……ウチら勇者一行はただ、世界を救いたかっただけやのに」ポロポロ
騎士「そうだな。魔王を勇者の隠し奥義『星間爆殺』で倒して、世界を救うつもりだったもんな」グスッ
魔法使い「『星間爆殺』は魔王にしか効かない技で、相手の能力が高いほど威力を発揮するんだったよね。これなら絶対行けるって、皆で盛り上がった夜が懐かしいな」スン
魔王(盛大なネタバレを食らった気分だ)
魔王「……そういえばずっと気になっていたのだが、世界を救う、とはなんのことだ」
神官「えっ」
魔王「前回現れた勇者も、その前の勇者も似たようなことを言っていた。
魔族に村を滅ぼされた、とか、人間を奴隷にしているとか。
ずっと不思議だったのだ。何故なら、そのような事はありえないのだから」
神官「ありえないってどういうことや。現にウチの村はドラゴンに──」
魔王「それだ」
神官「?」
魔王「ドラゴンは魔族ではない。
『竜族』という別の種族で、魔族とは敵対関係にある」
騎士「!」
魔法使い「そ、そうなの!?」
魔王「うむ。闇の瘴気から生まれたのが我ら魔族、大地の気から生まれたのが竜族だ。
尊大で傲慢な種族でな。世界には自分たちドラゴンのみが君臨すべきだと考えている。
我のダイバーシティ(民族多様性)構想とは全くもって相容れぬ」
騎士「で、でも、知り合いの村がゴブリンの大群に襲われたって」
魔王「ゴブリンやオーガは亜人種であろう? 魔族ではないし、関わりもないぞ」
皆「……」
魔王「そもそも魔族は魔界でしか存在できぬ。一歩人間界との境界をまたいだ瞬間消滅してしまうのだ。
それは強大な力を持った魔王も例外ではない。
逆に言うと、我を倒す最も簡単な方法は、遠距離テレポーテーションで人間界に移動させることだ。
そうすれば自動的に消滅するからな」
神官「なんで……なんでそんな大事なこと教えるんや。ウチらはアンタを倒す為に来たんよ!」ポロポロ
魔王「お主らなら信頼できると、この数時間で確信したからだ。
きちんと説明し誤解が解ければ、必ず分かりあえると思った。
どうだ、まだ我を倒したいか?」
騎士「決まってる。もう私たちには戦う理由なんてない」
魔法使い「勇者の死の真相も明らかになったし、魔族の真実も理解できた。
もう僕らに敵対する理由はない。そうだよね?」
ごしごし
神官「……最初はアンタのこと、誤解してた。
人の命なんてなんとも思ってない、悪の化身やって……でも、アンタすごく優しい魔王なんやね。
勘違いしてた。ほんまにごめんなさい」
魔王「……優しい、か」ボソ
神官「え?」
魔王「いや、誤解が解けたなら何よりだ。
騎士、魔法使いよ。すまぬが弓兵を迎えに行ってはもらえぬか。
その間に、我と神官はお茶会の準備をしておこう」
騎士「お茶会?」
魔王「うむ。そろそろティータイムだからな……」
『真相』
魔王城裏庭 アトルムの庭園
スタスタ
魔王「古来よりお茶会では様々な話が交わされてきた。下世話な噂、高尚な議論。そして時には重大事件の真相が語られることもあった。
お茶会は不思議な場だ。思ってもいないことを言ってしまったり、胸のうちに秘めていた思いがポロリとこぼれ落ちたりする」
神官「……」
ピタリ
魔王「お主は先刻、我を優しいと言ったな。それは間違いだ。
なぜなら、我は今から事件の真相を暴くつもりだからな。それが例え、誰かの不利益になるとしても」
ポウ……
神官「! ガーデンテーブルの上に、ひとりでに紅茶セットが」
魔王「テーブルに転移魔法陣が刻まれておってな。
ちなみにこの場所は完全防音、我とお主の二人しかおらぬ。
一足先にお茶会を始めるとしよう」
ピチチチ……
神官「小鳥が鳴いてる。それに、たくさん可愛い花が咲いてるんやな。魔界では毒々しい花しかないと思ってたわ」
魔王「他の場所はそうだ。だが、ここの空気は人間界に似せているからな」
神官「それで息がしやすいんやな。久しぶりや、こんなに清々しいのは」
魔王「勇者を殺したのはお主だな、神官」
乙
衝撃の展開!!
ピチチチ……
神官「うん。でも、なんで分かったん? 自分では上手いことやったつもりやってんけど」
魔王「実際、我も途中まで騙されていた。疑惑が確信に変わったのは、お主が弓兵に回復魔法を使ったときだ。
気づいたのだ。無詠唱で回復を行えるのであれば、本当に回復したのかどうか、傍目からは判断がつかない。
我は先入観に囚われていたのだと」カチャリ
コポコポ……
神官「いい香り」
魔王「最高級の茶葉を使っているからな」
カチャ コクリ
神官「! 濃い紅色やから苦味が出てるのかと思ったら……すごく飲みやすいな」
魔王「高地の涼しい場所で取れた葉には、芳醇な香りとすっきりとした甘みが備わる。見た目とは裏腹であろう。
……思えば我は最初から、お主の見た目に騙されていたのかもしれぬ」
神官「なんや人聞き悪いな。うちは騙したつもりちゃうけど」
魔王「分かっておる。全ては我が思い込んだだけのこと。神官は回復役に徹するものだ、とな」
神官「……」
魔王「まさか勇者が倒れてから『一度も回復魔法を使っていない』など、あの場にいた誰もが気づかなかった。仲間はおろか、我ですらも」
──
パッ
神官『!? 明かりが戻った……なんやったんや……』
弓兵『! あ、アア……っ』ガクガク
神官『? ……! ゆ、勇者!?』バッ
騎士『一体何が……!』
魔法使い『いや、勇者さま……勇者さまああああああ!』
ズゴゴゴゴゴ
魔王『ふはははは! よくぞ我の眼前まで辿り着いたな人の子らよ。
喜ぶが良い。儚い命を散らすのが、他でもない我の手によるものであることを……む?』
勇者『』
魔法使い『嘘……こんなの嘘だよねぇ!』
神官『なんでや、なんで死んでもうたん……勇者』ギュッ
──
神官「なんで回復魔法を使ってないって言い切れるん?」
魔王「計算が合わないからだ。先程コレクサに確認したところ、お主らがこの城に侵入してから使用された通常魔法の数は24。だが、もしお主が勇者に回復魔法を使ったとすれば、これより3、4回多くなるはずだ」
神官「……もう諦めてたって可能性もあるやんか。
どう見ても死んでる勇者を見て、ショックで体が動かなかったのかもしれんし。
それに、『誠実の誓い』で嘘がつけない騎士の証言もある」
──
騎士『……』
スッ
騎士『手首の脈が……ない』
弓兵『呼吸もしていまセン。残念デスが、勇者サンは……もう』
──
魔王「……コレクサ、神官のプロフィールを表示して」
コレクサ「了解しました」
ヴヴン
神官「いまさらこんなん出して、一体何を」
魔王「見るべきは、ここだ」トン
攻撃力 850
神官「!」
魔王「魔法攻撃力の数値は、その者の魔法ランクによって決まる。
対して攻撃力を決めるのは筋力だ」
神官「……」
魔王「攻撃力が高いということは、すなわち腕力が強い、ということ。
騎士が勇者の左手の脈を計ったとき、お主は勇者の左側の上半身に覆いかぶさっていたな。
人間種の脇の下を強く圧迫すると、一時的に脈を止められる、と以前読んだ推理小説に書かれておった」
神官(このミステリマニアめ……)
魔王「つまりあのとき、勇者は生きていた。窒息と麻痺に苦しみながらも、持ち前の生命力で耐えていたのではないか。
だが我々は勇者が死んだものと思い込み、彼をそのままにしてしまった。
勇者が本当に事切れたのは、恐らく我が回復魔法を使う数分前であろうな」
神官「なんでわかるん」
魔王「勇者の死体がダンジョンのルールに従って消えたとすれば、死亡してから5分後に消失が始まる。逆算すると、ちょうどその頃だろう」
魔王(あのとき……)
──
……ザワッ
魔王(む? なにか、我は大切なことを見落としている気がする……なんだ?)
──
魔王(あのときに気づくべきだったのだ。
勇者の消えたタイミングが通常よりも遅かったのは、モンスターと人が混ざっているからだと誤解していた。
ダンジョンは正常に処理していたのだ、勇者をモンスターだと認識して)
神官「……」
魔王「どうだ。ここまでで何か間違っているところはあるか」
神官「合ってんで。うちが勇者を見殺しにした。直接手を下したんと違うけど、似たようなもんやな。
……紅茶のおかわりもらってもええ?」
魔王「もちろんだ」カチャン
コポコポ
神官「おおきに。おっと」
ポトッ
神官「ごめん、スプーン草の上に落としてしもた」
魔王「よい、我が拾おう」スッ
神官「……」ゴソッ
ポチャン
魔王「『洗浄』」コオッ
神官「そんな生活魔法も使えるんやな」
魔王「我は魔法のエキスパートゆえな。攻撃魔法も生活魔法もそれぞれの良さがある。……使うがいい」スッ
神官「ありがと」
カチャッ クルクル
魔王「……一つ分からないことがある」
神官「ん?」
魔王「勇者が倒れたとき。彼の左手側に騎士が、右手側に弓兵がいた。お主は勇者の左肩に覆いかぶさっていたな。勇者の脈を止めるために」
神官「うん」
魔王「だが、お主の位置からでは左手の脈は止められても右手の脈はそのままになる。
結果として、右手側にいた弓兵は脈ではなく呼吸を確かめた為に、問題はなかった訳だが」
神官「なんで騎士が脈を、弓兵が呼吸を確かめるって事前に分かったのかって話か」
魔王「うむ」
神官「分かってなかったで」
魔王「なに?」
神官「単純に、もし脈をとるとしたら騎士しかあり得なかったんよ。弓兵が脈をとることは絶対にないって知ってたし」
魔王「それは何故だ」
神官「あんた、ホンマに人間界の種族に詳しくないんやな」
魔王「む……」シュン
神官「ううん、責めてるんとちゃうよ。魔界のことに知識が偏ってるのは、魔族の将来を真剣に考えてるからやろ。
あんたのそういうとこ尊敬してる」
魔王「そ、そうか」カアッ
神官「……弓兵はエルフや。エルフは長命な種族やから、脈もすごくゆっくりなんよ。
エルフが他者の生死を確かめるときは、呼吸を確認するのが伝統なんや。呼吸もゆっくりやけど、脈よりは分かりやすいから」
魔王「なるほど! それで右手の脈は無視できたのだな」
神官「そういうこと」カチャッ
コクリ
魔王「もう一つ聞いてもよいか」
神官「ええよ。でも、あと一つだけやで」
神官(それ以上は時間がもたへんやろからな)
金田一シリーズにも、脇を圧迫して脈を止めるトリックがあったな~
魔王「推理小説において、読者に提示されうる謎は大きく分けて3つある。
1、誰が殺したのか(犯人)
2、どうやって殺したのか(方法)
3、何故殺したのか(動機)
1と2は判明した。残るは3つめ、何故勇者は殺されたのか?」
神官「動機、か……。わがままな話やけど、魔王だけの胸にとどめてもらえへんか。そしたら話すわ」
魔王「それは……」
神官「分かってる。そんなん内容によるもんな。聞いてから判断してくれてええよ」
フウ……
神官「勇者を殺そうと決めたんは、光が戻ったときや。
倒れてる勇者を見て、すぐ麻痺状態で息ができないんやって分かった。
このまま何も処置を施さなければ、数分で死に至るってことも」
魔王「やはり衝動的な犯行だったのだな」
神官「うん。弓兵はもちろん、騎士も魔法使いも関係あらへん。
偶然が重なって、奇跡みたいな状況が生み出されたんや。うちが何もしなければ、勇者が死ぬっていう」
魔王「よく勇者の状態を正確に診断できたな」
神官「神官は医師の役割も担ってるからな。患者の状態を診るのは慣れてるんよ」
魔王(ヒーラーである神官の言葉を信じ、勇者は死んだものと決めつけてしまうとは。我もまだまだ修行が足りぬ)
神官「……でもな。勇者にこの世から消えてほしいと思い始めたんは、魔王討伐の旅が始まる直前やったよ」
魔王「聞こう」
神官「神官てのは、代々勇者に仕えてきた家系でな。うちはもちろん、母も祖母もそうやった。
人生のすべてを勇者に捧げることが、神官の義務なんや。……身も心も、な」
魔王「……」
神官「もちろん死ぬほど嫌やった。好きでもない相手と、なんて拷問と同じや。でもこれも神官の務めやと我慢してた……あの日までは」
──
ライカ村 宿屋
勇者「ふう……おいなんだよ、もう行くのか」
神官「夜の祈りの時間やからな」シュル
勇者「ふうん、仕事熱心なことで。……なあ、そういえば何歳になったんだっけ」
神官「知ってるやろ一個違いなんやから。もう行くわ」ギシッ
勇者「ちげーよ、妹の方」
ピタッ
神官「……14やけど、何」
勇者「へえ、もうそんなになるか。子供の成長は早いねえ」
クルッ
神官「あんた、まさか……」
勇者「ん? ああ、心配すんな。別に今すぐってわけじゃねえよ。たださ、お前ら神官は俺の所有物みたいなもんだろ。どうせそのうち食うんだし、ちょっと味見するのも悪くねえかなって」ヘヘッ
神官「……」
勇者「遅れるぜ、お祈り」
──
魔王「……」ピキッ
ズゴゴゴゴ……
神官「魔王、小鳥たちが怯えてる」
魔王「おっと」
シュウウ……
魔王「なるほど、妹のために」
神官「……そうやったんかな。自分でもわからん。ほんまはただ、勇者を独り占めしたかっただけなんかも。
今となっては、もう……」ギュッ
魔王「そうか」
神官「きっと皆、うちのこと許さへんやろな。特に弓兵には謝っても謝っても足りん。
うちが勇者を治療していれば、一生消えない心の傷を負うこともなかった」
魔王「それは──」
弓兵「それは違いマス!」バッ
神官「弓兵!?」ガタッ
魔王「なっ……お主、どうやってこの庭園に入ったのだ。ここは隔離魔法で遮断していたはず」
魔法使い「ごめん魔王様。レベルがあがったおかげで魔法解除技術が飛躍的に伸びたみたいで……つい」テヘッ
魔王「抜かった……もっと高レベルの隔離をしておくべきだった。すまぬ神官」
弓兵「神官サン!」
ギュッ
神官「! なんで」
弓兵「許しマス。許しマスから……死なないで下サイ!」
魔王「死ぬ? 一体なんのことだ」
弓兵「前に話してくれましたよネ。神官は異教徒に捕まったとき用に、自害するための毒を隠し持ってるっテ」
神官「……」
弓兵「責任感の強い神官サンなら、もしかして使ってしまうのではないかと思ったんデス。
私が傷ついてると思ってるなら、それは誤解デス。勇者の言動を聞いて、マジ消えて良かったとすら思ってマス」
魔王(辛辣だな……)
神官「でも、うちは……皆を利用したんや。弓兵はもちろん、騎士も」
騎士「それはそうだな。勇者殺しの片棒を担がされたといっても過言じゃない」
弓兵「騎士サン!」
騎士「そういう訳だから、エール一杯奢ってくれ。それで勘弁してやる」
弓兵「騎士サン……」
魔王(勇者の命の軽さよ……まあ、仕方のないことか。それだけ奴の言動が最低だったということだろう)
神官「皆……おおきに」フラッ
ドサリ
弓兵「神官サン!」
騎士「お前まさか……!」
神官「さっき紅茶に入れて……飲んだんや。神に仕える神官が、人を殺すなんて……これがうちの、報いやな」
弓兵「……っ魔法使いサン!」
魔法使い「ごめん、無理だ。神官が持ってたのは白サソリの猛毒。どんな魔法でも助けられない……っ」
騎士「くそ、どんな毒でも一瞬で消える方法があれば!」
魔王「あるが」
神官「ぅあんのかぁい! ……っげほ、あかん、つい癖で……」ガクッ
弓兵「神官サーン!」
魔王「前に話したであろう、無敵の秘薬だ。
魔界の高地にしか生えない「アスクレピオスの髭」という薬草は、この世にある全ての毒を消すことができる」
騎士「くそ、今から取りに行ったんじゃ間に合わない」
魔王「いや、間に合っている」
皆「え?」
スッ
魔王「アスクレピオスの髭は2つの意味で有名なのだ。
一つは全ての毒を消す無敵の薬草として。そしてもう一つは、世にも美味な紅茶として。
神官は紅茶に毒を入れたのだろう。なら、完全に中和されているはずだ」
神官「そ、そういえば……もうとっくに死んでる時間なのに、うち……生きてる」
弓兵「神官サーン!」ギュッ
魔法使い「このバカっ!」ギュッ
騎士「良かった……良かった」ギュッ
神官「ふぐう」
弓兵「いいんデスよ」
神官「え」
弓兵「生きてても、いいんデス」
神官「……っ」
うわあぁああん……
──
魔王「さて。お主らに提案があるのだが……」
『エピローグ』
数年後
女勇者「もうすぐ魔王城最深部だ。気合を入れていこう」
剣士「おう、俺の剣技を魅せてやるぞ」
盗賊「おーおー、血気盛んだこと」ケラケラ
僧侶「怖いのは、未だ幹部クラスのモンスターが現れていない点ですね。
出てくるのは低級ばかり。罠かもしれません」
踊り子「アラ。相変わらず心配性ね、坊やは」クスッ
僧侶「そ、その呼び方はしないでって、何度も言ってるじゃ──」
フッ
皆「!」
女勇者「皆止まれ! 明かりが消えたということは、仕掛けてくる可能性が高い。
基本陣営をとれ。いつでも対応できるようにしろ!」
皆「了解!」
ゴゴゴゴ……
女勇者「なんだこの音。それにこの煙は一体」
僧侶「害はないようですが」
ズズズ……
女勇者「! 奴らは……!」
黒騎士Lv89「ほう、剣士がいるのか。久しぶりに楽しめそうだ」
闇の射手Lv90「後衛は任せて下サイ。今日もバンバン仕留めマスヨ!」
魔神官Lv91「ひいふうみい……ふうん、いいバランスのパーティやな」
暗黒魔道士Lv93「ここは魔王様が出るまでもない、僕たちだけでやるよ」
バサアッ
魔王「そういうわけにもいくまい。部下に全て任せたとあっては魔王の名が廃る」
ゴゴゴゴ……
僧侶「し、四天王と魔王が一気に!」
剣士「む、むう」
女勇者「狼狽えるな! 戦いは、ゴホ、臆したほうが負け、ゴホッ」
ズゴゴゴゴ……
魔神官「おっ? アカン、スモークが強すぎるみたいや」
魔王「おっと、それは失礼した。あーごほん。
『コレクサ、スモーク止めて』」
コレクサ『了解しました』
女勇者「!?」
end
ありがとうございました!
乙
こちらこそ、ありがとうございました
乙
面白かった
乙
面白かったよ~
おつ
よかった、ハッピーエンドや!
久々に面白かったな~
いい読後感でした
乙乙
面白かったまた頼む!
おつー
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