北条加蓮「藍子と」高森藍子「ちいさく気になるカフェで」 (32)

――おしゃれなカフェ――

北条加蓮「やっほー、藍子。お待たせ」

高森藍子「~~~♪ あっ、加蓮ちゃん♪ こんにちっ――」

藍子「……あっ」

藍子「……」

藍子「……加蓮ちゃん」

加蓮「え、なんか急に顔が険しく……? 急に何?」

藍子「私は、おこっています」

加蓮「はあ」

藍子「すごくおこっています」

加蓮「……はあ」

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レンアイカフェテラスシリーズ第112話です。

<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「春隣のカフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「ふきげんなホワイトデーのカフェで」
・高森藍子「す~……」北条加蓮「藍子の寝ているカフェテラスで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「3月の終わりで4月が始まる頃のカフェで」

前回のあらすじ:加蓮ちゃんは、ファンのみんなに「春なんだから何か新しいことを始めよう」と伝えたいって思ったみたいです。


藍子「ぷく~」

加蓮「……何に怒ってるのかはよく分かんないけど。でも、ここはカフェなんでしょ?」

加蓮「とりあえず怒ってばっかりいないで、何か暖かいものでも飲んで落ち着い――」

藍子「加蓮ちゃんっ。そうやって、違うお話でをして誤魔化そうとしないでください!」

加蓮「いやいっつもそうするといいよって言ってるのアンタでしょうが!」

藍子「む~」

加蓮「ああもう、そういう顔されるとまた――」

加蓮「あーほら、やってきた店員さんが私を睨んでくる!」

加蓮「今度は何したんですか、って顔されても……ホントに心当たりないんだよ? 思いっきり溜息吐きながらやれやれって顔すんなっ」

藍子「む~~」

加蓮「この前ここに来てから、藍子とオフの日に遊んだりしてないし――」

加蓮「せいぜい藍子を騙してちょっと露出度高めな夏用の衣装を試着させたり、」

加蓮「レッスン中に淀んだ空気を変えるためにわって驚かせたり、」

加蓮「お腹がすいてる藍子の前でポテトの最後の1本をこれみよがしに食べてみせたり、」

加蓮「それくらいのことしかしてないし、心当たりがないんだよね」

加蓮「……何してるんですかって顔で私のこと見るのやめよ? これくらいはいつものこと。いつものことだって」

藍子「む~~~」

加蓮「……いつものことだよね?」

加蓮「ごめんね店員さん、注文は藍子の機嫌が直ってからでいいかな? ……うん。私が原因みたいだし、私が責任を持って直すから」

加蓮「ん。その時はよろしくね。――さて」

藍子「加蓮ちゃん」

加蓮「藍子。ホントの話、心当たりがないの。だから、藍子の口から教えてほしいな? 藍子が、何を怒ってるのか」

加蓮「もし私の気付かないところで藍子にひどいことをしてるなら、私だってそのままにはしたくないから」

加蓮「ねっ? ほら、話してみて。藍子は何を気にしているの?」

藍子「……加蓮ちゃん」

加蓮「うん。何?」

藍子「どうして――」


藍子「アイドルのみなさんをゲストに呼んでいろんなことに挑戦したり教えてもらったりする新企画に、どうして私を呼んでくれないんですかっ!」


加蓮「……」

藍子「む~!」

加蓮「…………すみませーん。店員さーん。注文お願いー」

藍子「あ、待ってください! まだお話は終わっていませんっ」

加蓮「いやだって、深刻そうな顔してるから何が来るかと思ったら……」

藍子「私にとっては重大な問題なんです!」

加蓮「そ……」

加蓮「でもさ、前にみんながやってた――私のパートナーを決める勝負? で、アンタ1回戦で負けてたでしょ」

藍子「うぐ」グサッ

加蓮「しかも僅差で負けたとか運負けならともかく、みんなの前でパフォーマンスを披露して、ほぼ全会一致で相手に投票が入ってたじゃん」

藍子「うぐっ」グサグサッ

加蓮「……まぁ、対戦相手が心さんだったし、インパクトで負けたことには同情するけど」

藍子「ううん、負けは負けですから……それは、仕方がないですよ」

藍子「…………負けは負けですから…………」

加蓮「なんか変なオーラ出てるよ?」

藍子「で、でも、結局加蓮ちゃんは、あの時の勝ち負けに関係なく、色々なアイドルを呼んで番組をやることになったんですよね?」

加蓮「そうだねー。これが丸いって思ったし。私も、勝った人とだけコンビを組んでー、みたいなのより、色んな子と色んなことに挑戦してみたいし?」

加蓮「ま、勝負の後に提案しちゃったから、未央とか奏に白い目で見られちゃったけど。それ先言えよ、みたいな」

藍子「そうですね……。加蓮ちゃんが言った時には、みなさん拍子抜けしちゃっていました」

藍子「あっ、でも、それで順番が回ってくるならと喜んでいた子も多かったみたいですよ」

藍子「そういえば、勝負しあっていたみなさん同士でもペアを組んで、新しい企画を続々と打ち出すみたいなんです」

加蓮「それ私もモバP(以下「P」)さんから聞いたよ。なんか、いい刺激にできたみたいだね」

藍子「はい。ファンのみなさんも、斬新なコンビだって興味を持ってくれていたみたいです」

加蓮「奏と愛梨が組んだんだよね」

藍子「おふたりとも、楽しそうでしたっ」

加蓮「奏が対抗心を燃やしてたところとか面白かったなー。普段は済ましてるけど、やっぱり女の子として張り合いたくなっちゃうとこもあるんだろうね」

藍子「そうなんですか?」

加蓮「うん。なんか、お仕事の後も愛梨と話し込んでたみたい」

藍子「何をお話していたんでしょう……」

加蓮「愛梨は色々教えてたって言ってたけど、具体的なことは言ってくれなかったの。想像つかないよねー」

藍子「気になっちゃいますねっ」

加蓮「ネタバラシになっちゃうかもしれないけど、そのうち藍子もゲストで呼ぶ予定だよ。何を教えてもらうことになるか、それとも藍子と一緒にチャレンジするかは、さすがにまだ未定だけど」

藍子「……、」

加蓮「今すぐ呼んでほしい、って思ってる?」

藍子「……そ、そこまで極端には」

加蓮「藍子ー? 私の前で嘘をついちゃ駄目だよー?」

藍子「うぅ。……ううん。でも、あんまりよくばりすぎることは言いたくないので……言わないですっ」

加蓮「そっか」

藍子「いつか私を呼んでくれるのなら、加蓮ちゃんに呼んでもらえる時までに、色々なテーマを探してみますね」

藍子「1回呼んでもらった、その次の時に、加蓮ちゃんの方から、もう1回! って言わせてみせますからっ」

加蓮「えー。誰か1人だけを特別扱いするのはちょっと……」

藍子「う」

加蓮「ふふっ。なんてね。Pさんからも、チャレンジ企画の中で何か見つけたら別の企画に活かしたり、新しいアイディアとして使っていいって言われてるし」

加蓮「楽しみにしておくね。藍子のやる気を、受け止める時を」

藍子「はいっ!」

加蓮「あとさー……」

藍子「……?」

加蓮「……早速届いてるんだよね。例の企画で、藍子ちゃんをゲストに呼んでほしいです! ってファンレターとか、メッセージとか……」

藍子「……あ~」

加蓮「あれは……。あれさ、嬉しかったし、ちょっと悔しくもあったの」

藍子「嬉しくて、悔しかったんですか?」

加蓮「うん。嬉しかったのは、私と藍子が一緒っていうのをみんなが当たり前のように思ってくれてるってこと」

加蓮「今までもらってたファンレターとか、SNSの声とかでも分かってたけど、なんだろ。改めて的な?」

藍子「ふむふむ」

加蓮「今までに言ってもらえたことも、何回だって言ってもらえると嬉しいよね」

藍子「そうですねっ」

加蓮「ねー」

藍子「応援しているよ、とか、がんばってね、とか……。言ってもらえるたびに、自然と笑顔になってしまいます」

加蓮「うんうんっ」

藍子「いい言葉は、何度もらっても嬉しいですから。……ねっ、加蓮ちゃん?」

加蓮「……なんか言わせようとしてる?」

藍子「ふっふっふ~」

加蓮「それで、悔しかったことはね――」

藍子「も~っ。わかっているくせに~っ」

加蓮「はいはい。好きだよー」

加蓮「悔しかったのは……なによ、私1人じゃ物足りないの!? みたいな?」

藍子「あ~……」

加蓮「パートナーがいてこその企画って分かってるけどね……。誰かと一緒にいるのが当たり前って、逆に言えば、その人と一緒じゃない私は私じゃないって思われたり、物足りないって思われたりするのかな……って」

藍子「……それは、私もときどき言われてしまいます」

加蓮「藍子はよく誰かと一緒にステージに立つもんね」

藍子「その方に、悪気がないのは分かっていますけれど……。少し、考え込んでしまいますよね」

加蓮「まっ。そういう声を跳ね除けるのが楽しいんだけど?」

藍子「ふふっ。加蓮ちゃん、強いですっ」

藍子「チャレンジ企画だけではありませんけれど、最近、みなさんすごくやる気に満ち溢れていますよね。めらめら燃えてるって感じですっ」

加蓮「あちこちでLIVEバトルをするって声とか、私に負けないくらいのチャレンジ企画を! って声があがってるみたいだよね」

藍子「はい。……私、ちょっぴりついていけていないかもしれません」

加蓮「うんそうだねー」

藍子「う……。やっぱり、そう見えますか?」

加蓮「藍子は藍子でいいと思うよ? 無理に気合を入れたり、から回ったりするくらいなら、いつも通りの方がいいよ。藍子は特にそう」

加蓮「でも、ま……他のみんなと比べちゃうと、なんだか物足りないって思っちゃうよねー?」

藍子「うう」

加蓮「ほら、藍子ならもっとできると思ったのに……なんてっ」

藍子「ううっ」

加蓮「この前は私のためにあれこれ考えてくれたのに、いざ自分のことになるとこうだもん。自分より周りに目が行っちゃうなんて、すっごく藍子らしいけど……アイドルがそれだけじゃあ、ね?」

藍子「うううっ」

加蓮「ふふっ。でも繰り返すけど、藍子は藍子でいいと思――」

藍子「私も何かやらなきゃ……! ううん、やってみたい……。加蓮ちゃんみたいに、なにか……!」

加蓮「……スイッチ入れちゃったかぁ」

加蓮「さてっ。藍子ちゃんの機嫌が直ったことだし。店員さんを呼ぼうっと」

藍子「何を注文しようかな~……」パラパラ

加蓮「……?」チラ

藍子「加蓮ちゃん?」

加蓮「あ、ううん。すみませーんっ」

加蓮「――っと。店員さん。うん、喧嘩は終わったよ。……はいはい。私が悪かったでーす。もうっ」

藍子「加蓮ちゃんは、何か食べますか?」

加蓮「そうだねー。パフェの桜は、もう咲いた? ……ふふっ。8分咲きかぁ。どうしよっか、藍子?」

藍子「せっかくですから、満開になるまで待ちたいな」

加蓮「じゃ、私はいつものコーヒーで」

藍子「私も、それでお願いしますね」

……。

…………。

加蓮「……♪」ズズ

藍子「~♪」ズズ

加蓮「ふうっ」コトン

藍子「ふう……♪」コトン

加蓮「店員さんさ」

藍子「店員さんが、どうかしましたか?」

加蓮「私が呼んだ時にカウンターの向こうにいたんだけど、雑誌を読んでなかった?」

藍子「読んでいましたね」

加蓮「藍子も気付いてたんだ」

藍子「何か新しいレシピを研究されているのかな、とか、インテリアの特集を読んでいるのかな、って……。あんまり、じろじろ見ると失礼ですから」

藍子「もし、新しいレシピやインテリアっていうことなら、ここに来る楽しみがまた1つ増えちゃいますね♪」

加蓮「わかんないよー。ああ見えて、実は藍子が書いたコラムを読んでたりして?」

藍子「えっ」

加蓮「今でもたまに、お散歩の話とかカフェの紹介とか不定期に書いてるんでしょ?」

藍子「そ、それは確かに書いていますけれど……」

加蓮「ファンとしては、そういうのは全部チェックしたいじゃん?」

藍子「う~……。読んでくださるのはもちろん嬉しいですけれど、そう言われると、ちょっぴり恥ずかしい気も――」

加蓮「どうする藍子? 次の握手会であの店員さんが来て、コラムぜんぶ読んでます! 先月の紹介のところは3回も読みました! なんて言われたら」

藍子「わ~~~~っ!?」

加蓮「あはははっ」

藍子「も、もうっ。その時は、その……ちゃんと、ありがとうございます、って言います!」

加蓮「さっすが一流アイドル」ズズ

加蓮「……そういえば、実際のところあの店員さんが握手会に来たことってあるの?」コトン

藍子「ごく、ごく……ふうっ……♪ ううん、ありませんよ。LIVEなら、見に来てくださったことはありますけれど――」

加蓮「そっか。残念。見知った人がやってきた時の藍子のリアクションとか見てみたかったのに」

藍子「加蓮ちゃん」ジトー

加蓮「あははっ」

加蓮「店員さんのこと外で見かけることもないよね。私も見たことがないや」

藍子「そうですね……?」

加蓮「ま、そんな偶然そんなにないっか」

藍子「人が多い都会では、偶然もなかなか起きてくれませんから。それに、気がついていないだけかもしれませんよ」

加蓮「握手会に来ないっていうのも、別に藍子のファンがみんな握手会に来るって訳でもないんだし? 店員さんは店員さんなりに、何か流儀みたいなものがあるのかも」

藍子「握手会に来ていただけることは、すごく嬉しいですけれど、私は、応援してもらえるだけでも十分ですからっ」

加蓮「そうそう。ひっそり藍子のコラムを読んでくれるくらいには応援してくれてるみたいだもんね?」

藍子「も、もうっ。だからそういうことを言われると恥ずかしく……って、だから、私のコラムを読んでいると決まった訳ではありませんっ」

加蓮「じゃあ直接聞いてみる? 何読んでたの、って」

藍子「それは……う、ううん。店員さんが何を読んでいるかは、店員さんの自由です。それを聞くのは、失礼になってしまうかもしれません」

加蓮「まあね?」

藍子「それに、もし、本当に私のコラムを読んでいたとしたら……」

藍子「その……どう受け答えしていいか、私も分からなくなっちゃいますから」

藍子「ほらっ。加蓮ちゃんだって、前に私の家に来て、私のお母さんが加蓮ちゃんの出ている番組を見たよって言った時に、少し困った顔をしていましたよね。あれと同じです!」

加蓮「あー……。じゃ、謎は謎のままということで」

藍子「そうですね――」

藍子「そういえば……。私はちらっとしか見えませんでしたが、店員さんが持っていた雑誌って、加蓮ちゃんがファッションモデルとして掲載されていたものだったような……?」

加蓮「そだった? 私そこまで見えなかったんだよねー」

藍子「表紙は、ほんの少ししか見えませんでしたが……でも、もしかしたら?」

加蓮「えー。カフェの店員さんだよ? 私の出てる雑誌より、藍子の書いたコラムの方が気になるって」

藍子「そんなの、わからないじゃないですか~」

加蓮「いやいやいや」

藍子「試しに、何を読んでいたか聞いてみますか?」

加蓮「それでもし藍子の書いたコラムを読んでたって答えられたら」

藍子「やっぱりやめておきましょう。詮索しすぎるのはよくありません!」

加蓮「アホ」ペシ

藍子「いたいっ」



□ ■ □ ■ □


藍子「握手会の時に、カフェの店員さんですっ、って方は、出会ったことがありませんけれど――」

藍子「ときどき、カフェの方から応援の言葉をいただくことがあるんですよ」

加蓮「へぇ?」

藍子「前にコラムを書かせてもらった頃から、応援してますっ、頑張ってくださいっ、って声を、いっぱい頂いて!」

藍子「ラジオで、コーヒーの淹れ方のお話をした後や、お散歩中に飲む飲み物のことをお話した後には、オススメの淹れ方やドリンクのことを教えて頂いたり」

藍子「あと、こっそり、秘蔵のレシピを教えてもらったりもして――」

加蓮「え、何それズルいっ」

藍子「あい――私はカフェ界の希望の星だ、なんて言われちゃったこともあります」

加蓮「ほう。藍子ちゃんはカフェの希望の星」

藍子「……加蓮ちゃん。いい言葉を見つけた、って思っていますか?」

加蓮「え? うん」

藍子「だからせめてちょっとくらい悪びれるとかしてくださいっ」

加蓮「でもさ、真面目な話。そういうのって、何かの代表って感じがして格好いいと思う」

藍子「そうですね。そうやって期待されることは、嫌いじゃないです。……でも、ちょっぴりプレッシャーに感じちゃうかも?」

加蓮「期待に応えなきゃ、とか思っちゃう感じ?」

藍子「はい。肩の力を入れすぎないことが大事だって、それは分かっているつもりですけれど……」

加蓮「ふふっ。そーいうのはしょうがないよ。期待されても困る、なんてこと、藍子は言わないよね?」

藍子「もちろん言いませんっ」

加蓮「よろしい」

加蓮「そのうち藍子にも、カフェの人から何か依頼が来たりするんじゃない?」

藍子「依頼……。病院からサンタさんになってほしいって依頼された、加蓮ちゃんみたいに?」

加蓮「そうそう。うちのカフェのことも紹介してくれー、とか、1日店員をやってほしい、みたいなの」

藍子「あ、はい。それはときどき来ていますよ」

加蓮「そうなの?」

藍子「1日店員さんの方は、やったことがありませんけれど」アハハ

加蓮「ひょっとして、ちょっと前からたまに藍子が穴場とか隠れ家的なカフェを選んで紹介してるのって……」

藍子「半分は、紹介してほしいって言われて、実際に行ってみたカフェなんですっ」

加蓮「そっか」

藍子「番組で紹介した後に、お客さんが増えました、っていうお礼のお便りをもらうこともあって――」

藍子「私、アイドルとして何かいいものを紹介する時に、ちょっとだけ緊張してしまうんです。……緊張っていうより、肩の力が入っちゃうのかな?」

加蓮「ふふ。さっき言ってたね?」

藍子「それに、ついつい長くお話してしまって……。うぅ。Pさんにも、何度も注意されてしまうんです」

加蓮「あははっ」

藍子「でも、お礼を言ってもらえた時には……頑張ってよかったって、あたたかい気持ちになれますっ」

加蓮「ね。お礼を言われるのって、嬉しいよね」

藍子「はいっ」

加蓮「半分は紹介してほしいって言われたってことは、もう半分は」

藍子「私がたまたま行って、よかったな、って思ったカフェなんです。あっ、もちろん、紹介する前に許可はもらっていますよ」

藍子「……、」

加蓮「?」

藍子「いえ。そういえば……。けっこう前に、紹介してほしいって言われたのではなくて、私が教えたいなってカフェを、教えた時のことなんです」

加蓮「うん」

藍子「その後で別のカフェの方から、ずるい、って言われちゃいました」

加蓮「ずるい?」

藍子「自分だって、そのめぐり合わせがほしかった、って……。あれって、何だったのかなって」

加蓮「うーん……。あぁ、偶然の楽しさっていうヤツじゃない?」

藍子「偶然の楽しさ?」

加蓮「例えば……。藍子がお散歩用のポーチがほしいって思って、雑貨屋に行ったとするね」

藍子「ふむふむ」

加蓮「あっ。行く前にネットで調べて、これいいな、って思ったのを決めてたって前提で」

藍子「しっかり下調べをして行った、ということでしょうか」

加蓮「そんな感じ。そして藍子ちゃんは、無事に雑貨屋でお目当てのポーチを見つけました!」

藍子「やりました♪」

加蓮「じゃあ、次は別の例えだよ。藍子はオフの日に、なんとなくぶらっと歩いていました」

藍子「ふんふん。ちなみに、加蓮ちゃん。その時、隣に加蓮ちゃんはいてくれますか?」

加蓮「えっ?」

藍子「じ~」

加蓮「……まあ……じゃあ、隣に加蓮ちゃんがいて、藍子は一緒にお散歩をしています」

藍子「♪」

加蓮「例え話でそんなに喜ばれるのって逆に複雑なんだけど……。オフの日にぶらっとするくらいなら、言ってくれたらいくらでも付き合うよ?」

藍子「……いいんでしょうか?」

加蓮「そりゃ私がいいって言ってるんだし……。今更何に遠慮してるんだか」

藍子「最近、加蓮ちゃんと遊びたいってお話や、加蓮ちゃんとお出かけしたってお話をよく聞くから……。私が言ってもいいのかな、なんて――」

加蓮「ハァ? あのね、駄目なら私はここに来てないでしょ?」

藍子「それもそうですけれど……」

加蓮「はい。余計な心配ばっかりしないの。あと、それは昔の私が通った道だからね」

藍子「えっ――」

加蓮「……人の見ちゃいけないものを見たって顔にならなくてもいいから。昔って、そんなに昔のことじゃなくて。藍子と出会った後の話」

加蓮「私だってさ。藍子が色んな子達と仲良くしてるのを見て、私が藍子と一緒にていいのかなとか、私は藍子の輪の一部でしかないんだなとか色々考えたことがあって――」

加蓮「……って、そんな話はいいからっ」

藍子「加蓮ちゃん、」

加蓮「無駄に詮索しようとしないの! とにかく、無駄にグチグチ悩むなんて藍子らしくもないんだからっ。目の前で後ろ向きになられたら、私までネガティブになっちゃうでしょ?」

藍子「……くすっ。そうですね、加蓮ちゃんっ」

加蓮「例え話に戻るよ?」

藍子「はい。例え話ですね」

加蓮「藍子が……えーと、藍子と私が? テキトーにブラブラしてて、なんとなく見つけた雑貨屋に、なんとなく入ってみました」

藍子「なんだか、思いがけない幸せを見つけたみたいなお話ですね。あっ。偶然の楽しさって、もしかして……?」

加蓮「そういうこと。しかもそれだけじゃないの」

加蓮「偶然見つけた雑貨屋で、藍子は偶然、ものすっごく、それはもう一目惚れしちゃったくらいに気に入ったポーチを見つけました」

藍子「わあっ♪」

加蓮「はい。そーいうこと。見つけようとして見つけた出来事と、偶然見つけた出来事。これって似てるけど、違うもの」

加蓮「藍子に――っていうより、藍子が偶然見つけたカフェの人にズルいって言ったのも、そういうことじゃないの?」

藍子「なるほど~。そうだったんですね」

加蓮「藍子、そういう偶然の楽しさとかを見つけるのが得意だよね」

藍子「えへへ……。でも、面白いものを探しに行って見つけるのも、楽しいですよ?」

加蓮「はいはい、知ってる知ってる」

藍子「……む。なんだか適当な返事です」

加蓮「どうせ次にアンタは"一緒に幸せを探しに行きましょう"って言うでしょ?」

藍子「え、えへへへ……」

加蓮「……」ジトー

藍子「加蓮ちゃんだってっ。さっきは、誘ってくれたらいくらでも付き合うってっ」

加蓮「自分で言うのと人に言われるのとでは違うの。藍子が私に解説されるまで、カフェの人がなんでズルいって言ったのか気付かないのと同じようにね」

藍子「なるほど……?」

藍子「でも、ちょっぴり気になってたことが分かってすっきりしました。ありがとう、加蓮ちゃん――」

藍子「……、」

藍子「勉強になりました、加蓮ちゃん先生♪」

加蓮「……それ、わざわざ"言っていいのかな?"って考え込んででも言うべきことなの?」

藍子「ふふ。だって、今の加蓮ちゃん、色々なことを教えてくれる優しい先生みたいで」

加蓮「だからって、そうまでして言う?」

藍子「……やっぱり、まだ、抵抗がありますか?」

加蓮「ううん。ただ、慣れてないだけだよ」

……。

…………。

加蓮「そろそろ出る?」

藍子「は~い」

加蓮「4時……。あれ、意外と経ってないや。藍子、今日はゆるふわ空間の調子が悪いの?」

藍子「どういう意味ですかっ」

加蓮「いつもの藍子なら今ごろ、あれっ、もう7時!? ってなったりする場面じゃん」

藍子「もう。からかわないでください!」

加蓮「何か悩んでるのなら相談に乗るよ? まだ時間あるし」

藍子「いま加蓮ちゃんが私をからかってくることが最大の悩みですっ」

加蓮「そのお悩み相談は受け付けてませーん。Pさんにどうぞー」

加蓮「店員さーん、レジ――あれ、また店員さん、何か読んでる。すっごい真剣な顔……?」

藍子「加蓮ちゃん。あんまり、じ~っと見たら悪いですよ」

加蓮「それもそっか。でも――(小声)表紙。やっぱり藍子がコラムを載せてる雑誌のみたいだよ?」

藍子「(小声)こら、加蓮ちゃんっ。もう……」

加蓮「ふふっ」

加蓮「邪魔してごめんね、店員さん。レジ……店員さん、どうかした? 藍子の顔をじっと見て」

藍子「私に、何か用でしょうか?」

加蓮「何かを言いたそうに……って、なんでそこで私を睨むのよ。仲直りならとっくの昔にしたわよ!」

藍子「あはは……」

加蓮「癖みたいなもの? その癖は今すぐ直して」

加蓮「もう。なんだったのよ……」

藍子「よくわかりませんけれど、今日もお世話になりましたっ。また、加蓮ちゃんと一緒に来ますね。加蓮ちゃんと一緒に♪」

加蓮「そこ強調するー?」

藍子「加蓮ちゃんと一緒に、また来ますねっ」

加蓮「全く。じゃあまたね、店員さん」

<からんころーん

――カフェの外――

加蓮「……?」チラ

藍子「ん~~~っ。夕方なのに、まだ暖かいっ。もうすっかり春ですよね――」

藍子「……加蓮ちゃん? カフェの方を向いて……もしかして、何か忘れ物をしてしまいましたか?」

加蓮「ううん、そういう訳じゃなくて。私達のレジを済ませてから、店員さん、また何か読んでるなーって……」

藍子「……、」

加蓮「ごめんごめん。帰ろっか。時間まだあるし、事務所にでも寄ってく?」

藍子「……加蓮ちゃん。店員さんのことが、そんなに気になるんですね。今日の加蓮ちゃん、ずっと店員さんを見てばっかりでした」

加蓮「気になるっていうか、いつもとちょっと様子が違うなって――」

藍子「ふ~んだっ」スタスタ

加蓮「……え、ちょっと。待って待って、なんでそんなに早く歩くの。待ってってばっ」


【おしまい】

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