浅倉透「結婚の約束とか、定番じゃん」 (10)
透のプロデュースコミュのネタバレ含みます
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ある日の事務所
P「戻りましたー……あれ、もう誰もいないのか」
P「お、透の日誌が置いてある。今日もちゃんと書いてくれたんだな」
P「どれどれ」ペラッ
『今日はボーカルレッスンでトレーナーさんに褒められた。最初の頃に比べると随分声が伸びるようになったらしい。自分でも、ちょっとは成長したのかなと思う』
P「今日のトレーナーさんは確か厳しいって評判の人だったよな。そんな人から褒められるなんてすごいじゃないか」
『普段厳しい人に褒められると、なんだか達成感がある。小学校の頃、初めて担任の先生に褒められた時のことを思い出した』
P「わかるなぁ。俺も社長に褒められるとすごい嬉しいし」
『思い出すといえば、プロデューサーはそろそろ思い出した?』
P「? 思い出すって……何をだ?」
透「私と初めて会った日のことを」ヒョコ
P「うおっ!? 透、帰ったんじゃなかったのか」
透「うん。でも忘れ物したから、戻ってきた」
P「そうか……」
透「………」
P「ん? 俺の顔に何かついてるのか?」
透「プロデューサー、なんか読む時に独り言で感想言うんだなって」
P「あ……はは、なんだか指摘されると恥ずかしいな。ついつい声に出る癖があって」
透「別にいいんじゃない。それだけ、熱心に読んでくれてるってことにならない?」
P「そういう視点は持ったことなかったな。ありがとう、透」
透「どういたしまして」
透「それで、思い出した?」
P「昔、透と会ったことがあるってやつだろう? んー、確かに中学か高校の頃、男の子と一緒にジャングルジムにのぼった記憶はあるんだけどなぁ」
透「男の子じゃなくて、女の子」
P「いや、あれは男の子だったと思うんだけどなぁ。自分のこと『僕』って言ってた気がするし」
透「昔はそう言ってたの」
P「そうなのか? うーん、でもなぁ。あの子が透だとは……どうしても今の君と重ならなくてな」
透「……もしかして。他の子のことを思い出してる?」
P「え?」
透「まさか浮気……誰とでも一緒にジャングルジムにのぼる人だったんだ……」
P「ジャングルジムは普通いろんな友達と登るものじゃないか?」
透「そうかな」
P「そうだよ」
透「そうだね。ちなみに、今の浮気とかは冗談だから」
P「透は冗談言う時も普段と同じ調子だからたまに心臓に悪いな……」
透「ちなみに、年下の子とジャングルジムにのぼるとか、よくやってたの?」
P「いや、基本同い年くらいの子とが多かったなぁ。それに、中学に上がってからはのぼる回数自体が少なくなってたし」
透「じゃあ、やっぱプロデューサーが覚えてる子、私だよ」
P「そういうことになるんだろうな。でも……すまん、まだ詳細を思い出すには時間がかかりそうだ」
透「いいよ、結構昔のことだし。前にも言ったでしょ。ゆっくりでいいからって」
P「ごめんな。思い出せるように、頑張るから」
透「……そういう優しいところ、変わらないんだね」
P「なんだかむずがゆいな……ちなみに、昔会った時はどんな話をしてたんだ?」
透「私、プロデューサーには自分で思い出して欲しいんだけど」
P「いや、これは思い出すためのヒントというか、とっかかりが欲しいという気持ちでな」
透「んー……まあ、そういうことなら」
P「ありがとう。確か、ジャングルジムのてっぺんに座って何か話したと思うんだけどさ」
透「うん、した」
P「だよな! でもその中身が思い出せなくて」
透「――大人になったら結婚しようって約束したよ」
P「えっ――」
P「いや、流石にそれは嘘だろ」
透「うん、うそ」
P「だよな。そんな話したら流石に女の子だって気づくだろうし」
透「でも、結婚の約束とか定番じゃん」
P「漫画とかなら確かにそうだな。でもこれはリアルの話だ」
透「『お前、女だったのか……』も結構漫画っぽくない?」
P「それもそうだな……貴重な体験をしているのかもしれないな、俺」
透「どういたしまして」
P「まだお礼言ってないぞ」
透「先読みしてみた」
P「その読み、正解だ」
透「ふふっ、ありがと。通じ合ってきた気がするね、私達」
P「かもしれないな。ははっ」
透「じゃあ、調子出てきたところで、今プロデューサーが考えてること当ててみるね」
P「どうぞ」
透「んー……」
透「あっ」
P「わかったか?」
透「あー……喉まで来てたんだけど、なに言おうとしたか忘れた」
P「残念だ」
透「自分から言い出しといてなんだけど、これ難しくない?」
P「言葉にせずに通じ合うっていうこと自体が難しいからな」
透「プロデューサーには、そういう人、いる?」
P「いや、いないな……そこまで以心伝心になれるような人がいればなって思うことはあるけど」
透「きっとできるよ、そのうち」
P「そうかな」
透「そうだよ」
P「そうか」
透「ところで、結局考えてたことの答えは?」
P「僕っ娘アイドルっていうのも結構ありだなって考えてた」
透「仕事男」ツンツン
P「ははは」
透「コーヒー、淹れてあげようか」
P「いいのか? ちょうど飲みたいと思ってたところだけど」
透「ほら、アレ。女の子アピールみたいな」
P「心配しなくても、今の透は誰が見ても女の子だよ」
透「口説いてる?」
P「口説いてはないな」
透「ふふっ、だよね」
透「はい、コーヒー」コト
P「ありがとう。いただきます」
透「砂糖、いらなかったよね」
P「よく知ってるな」
透「昔言ってたから」
P「……本当か? その頃俺、コーヒー飲んでなかったんだけど」
透「うそ」
P「今日は冗談が多いな」
透「そういう気分なのかな」
P「そういう日があるの、わからなくはないな。軽い冗談なら、コミュニケーションの一環だし」ズズ
透「………」
P「ふう、コーヒー飲むと生き返った気がするな……」
透「………」
P「……透? どうしたんだ、急に黙って」
透「あ、うん。なんか、顔見てたくて。プロデューサーの」
P「俺の? どうして」
透「………」
透「私、プロデューサーのこと、好きなのかも」
P「ぶっ!? ごほっごほっ」
透「大丈夫?」
P「あ、ああ……すまん、かからなかったか?」
透「こっちは平気」
P「そうか、よかった」
透「プロデューサーに汚されずにすんだね」
P「その表現は誤解を招くから……じゃなくて! さっきの好きなのかもって……それは、どういう意味の」
透「さあ」
P「さあって……まさか、それも冗談だったりするのか?」
透「ところによって一時うそ」
P「そんな曖昧な天気予報みたいな」
透「本当に曖昧だから。でも……曖昧でも、ちゃんと気持ちは伝えなきゃ、でしょ」
P「透……」
透「顔、赤くなってるけど」
P「いや、なんだかな。ここまで純粋に透明な気持ちをぶつけられると、こそばゆくて」
透「かわいいね」
P「くっ、なんだこの敗北感は」
透「今日の日誌に書き足しとく。プロデューサーのかわいい顔が見れたって」
P「それは後で読み返したときに恥ずかしいからやめてくれ」
透「じゃあ、プロデューサーが書く?」
P「え?」
透「前から思ってたんだよね。なんか、不公平だって。私だけ今日の出来事を書いて、プロデューサーは感想言うだけで自分のこと書いてくれないし」
P「それは、まあ……確かに」
透「だから、今日からはプロデューサーも日誌書いてよ。ほら」
P「わかった。書くよ」
透「………」
P「………」
透「………」ジーー
P「……見られてるとめちゃくちゃ書きにくいな、これ」
透「簡単でいいんだよ。今日もはづきさんは綺麗だった、とか」
P「それは思ってたけど、ここに書きたくはないなぁ」
透「じゃあ、今のことを書けば? 夕方に透と話した。コーヒーを淹れてもらった」
P「なるほど」カキカキ
透「そのままの流れで一緒に帰った。コーヒーのお礼においしいお店に連れて行ってあげた」
P「……これ、未来ノートなのか?」
透「さあ」
P「そう言うと思った」
透「で、どう? 連れて行ってくれる?」
P「………」
P「………」カキカキ
P「行くか」
透「うん、行く」
帰り道
透「なんか、アレだね。下校デートみたい」
P「片方はスーツだけどな」
透「昔みたいに制服着てよ」
P「実家に置いてきちゃったし、今頃捨てられちゃってるんじゃないか」
透「残念」
P「それで、お店に連れて行くのはいいんだけど。何か食べたいもののリクエストとかあるか?」
透「焼肉」
P「デートみたいって言いだした割にはムードを感じられないチョイスだな……」
透「あ、そっか」
透「じゃあ高級ホテル最上階のフレンチ。てっぺんのぼろう」
P「焼肉いいよな、行こうか」
透「ムードもへったくれもないね」
P「そんなところに行けるほどお金持ちじゃないんだ、俺」
透「なら私と一緒にてっぺんにのぼって、お金持ちになろう」
P「透の言うてっぺんって、そういう俗物なものだったのか?」
透「ところによってそういうアレも含むかも」
P「俺がそこまで稼げるようになるの、時間かかりそうだな」
透「ふふっ。まあ、ゆっくりでいいからさ」
P「ゆっくりでもたどり着ければいいな」
透「そうだね……私も、いろいろ時間かかりそうだし」
P「いろいろって?」
透「いろいろは、いろいろ」
P「はは、なんだそれ」
透「だから、まあ。それまで、末永くよろしく」
P「ああ。こちらこそ、よろしく」
透「ふふっ……ありがと、プロデューサー」
P「じゃあ、今日はおいしいラーメン屋に連れて行ってやるからな!」
透「どさくさ紛れで焼肉からさらに値段を下げてない?」
P「うっ」
おしまい
おわりです。お付き合いいただきありがとうございます
透の距離感がすき
乙
あんなにぐいぐい来るとはね
でも、まだ化けの皮を剥いだってまでも行ってないかな
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