【SW】ジェダイ「私を…弟子に、してください…」【オリキャラ】 (250)



 遠い昔、遥か彼方の銀河系で……



 STARWARS
エピソード3.6 運命の向こうに


オーダー66を生き延びたジェダイの騎士、シンノ・カノス。

500年の時を経て復活したシスの暗黒卿、ダース・ネーア。

二人は対極の存在でありながら意気投合し、反乱同盟軍に加わり銀河帝国への逆襲を開始した。

ある時彼らは、帝国の傀儡政権であるヤマタイト王国の君主ミコア姫の遭難を察知する。

現地豪族ザイン・ザ・ハットとの戦闘の末に彼女を保護し、外交カード扱いを超えて仲間意識を育むシンノたち。

しかし彼の判断でミコア姫とともに保護した闇商人イシュメールが反乱軍基地の位置を漏らし、帝国軍の攻撃を招いてしまう。

司令官テダッフ・シカーグを含む多大な犠牲を出しながらも脱出に成功するが、今度は謎のシス卿ダース・テイティスが襲撃を仕掛けてミコア姫を誘拐してしまった。

失意の底のシンノはフォースと一体化した先達クワイ・ガン=ジンの導きを得て、惑星ダゴバへ向かう……


「お前に出来るのか?」


 暗闇の中から鏡像が浮かび上がり、問いかける。


鏡像「散々仇敵と慣れ合っておきながら今更騎士の道にすがって、それで彼女を救えると……本当にそう思うのか?」

シンノ「……思うとも。そう信じる」


 シンノ・カノスは胸の内に痛みを感じつつも、努めて堂々と応える。


シンノ「形になった力が、結果が、証明が必要なんだ。俺の間違いを清算し、二度と間違わないために!」

鏡像「それがジェダイ・マスターとして正しい在り方だと思うか?」

シンノ「より多くのものを守ることは、人としてもジェダイとしても正しいことだ!」

鏡像「……フン、いいだろう……しかし、お前が本当に純粋なジェダイならそう焦ることもないだろうにな」


 鏡像は思いがけず簡単に引き下がったが、今度は皮肉るような口調で謎めいたことを言う。


シンノ「……どういう意味だ?」

鏡像「お前は知っているんだ。絶望が、諦観が、後悔が、自分の中にあることを。だからこそそれを否定しようとやっきになっている」

シンノ「否定するのは間違いだとでも?」

鏡像「いいや。最強のジェダイマスターとしての自負をもって臨めば、この状況を打破するチャンスがあるのは事実だ」


 鏡像が、自分そのものが、自分の顔を覗き込む。


鏡像「しかしもし失敗すれば、お前は暗黒面に沈む。体と心を蝕むヘドロの中で永遠に苦しみ続けることになる」

鏡像「その時手を差し伸べてくれる者はいない。がむしゃらな戦いの中で、人間性とともに振り捨ててしまっているからだ」


 その言葉は呪いの釘のごとく胸に突き刺さった。
シンノは僅かに気圧されつつも、応える。


シンノ「……上等だ、俺はやり遂げてみせる。ジェダイとして」


 一方、遠く離れたQC宙域の惑星クマモッテ……その首都、ヒュガー。
しとしとと降り続く雨の向こうから、その街並みを見下すものがある。
QC宙域における分離主義者残党の本拠地、キャッスル・クマモッテ。
その黒々とした建造物のサイズ感は城というより山に近く、うずくまった怪獣のような威圧感をもって城下を睥睨していた。


マクシャリス「失礼します、マクシャリスです」スタスタ

スターバル「スターバルもおりますぞ。姫殿下はいらっしゃるかな?」ズカズカ


 その一室に、白い軍服を着た青年とカリーシュの男が入室する。
窓の傍で椅子に座っていた少女は眉を顰め、嫌味に返す。


ミコア「いらっしゃるに決まっているでしょう、閉じ込められているのですから。愚鈍をアピールしないでくださる?」


 その胸元で緑色のホロクロンがきらりと光った。
ミコア・ロト・ヤマタイト――銀河帝国の庇護を得てQC宙域を支配するヤマタイト王国の最高指導者、執政官である。
惑星クイナワ上空での遭難以来公には行方不明となっていた彼女は、心通わせた反乱同盟軍の面々と引き離され護送される途上で分離主義者に捕らわれ、軟禁の憂き目に遭っていた。
スターバルは露骨に機嫌を損ねる。


スターバル「チッ……お元気か、かともお聞きしようとしたが不要らしいですな。憎たらしいほど元気でいらっしゃる!いや、呑気かな。敵中でよくもまあ――」

マクシャリス「スターバル、お前の本分は接待ではないだろう。無理に喋らずともよい……不自由を強いていることは心から申し訳なく思います、ミコア姫」


 マクシャリスは部下を黙らせたあとミコアに謝罪し、テーブルを挟んだ向かいの椅子に腰かけた。
慇懃で物腰柔らかな態度を取っているが、この青年こそが彼女を捕えている悪の親玉。
ドゥークー伯爵の甥にして残党の取りまとめ役、マクシャリス・セレノーラント・ドゥークーである。


ミコア「ふん、本当に申し訳なく思うなら私を解放するがよい」

マクシャリス「それが、そういうわけにはいかないのです。こちらにも事情がありまして。本当に申し訳ない」


 マクシャリスは薄っぺらな謝罪を重ね、手で窓を示す。

 
マクシャリス「今の私に出来ることと言えば、この眺望のあるスイートルームを提供することくらいです」

ミコア「眺望?よくおっしゃること、雨やら何やらでほとんど見えませんよ」


 王女は相手の言葉を鼻で笑う。
実際窓の外は酸性雨とスモッグで霞み、ほとんど真っ白だった。


マクシャリス「いえ、これがこの星で最高の眺めですよ。年に何度か晴れますが、見えるのはスラムばかりですからね」

ミコア「見えないほうがマシだとでも?」

マクシャリス「ええ。鉄屑をぶちまけたような風景が雑然と、漠然と、地平線まで続く――すでにお察しかもしれませんが、この星はすでに『死んで』います」

マクシャリス「風は毒、雨も毒。そんな中に住む人はと言えば、狂った流れ者と、ねじ曲がった原住民だけ」

ミコア「だがそんな汚れた場所だからこそ、お前たちも帝国から隠れることができるのだろう?猫から逃げ回るネズミのように」

スターバル「!?貴様ッ!我々をネズミなどと――」

マクシャリス「これは痛いところを突かれましたな。その通りです」


 マクシャリスはミコアの言葉をあっさりと肯定した。
鼻白むスターバルをよそに、ですが、と話を続ける。


マクシャリス「このような死んだ星に長く留まっては、分離主義運動そのものが遅滞する。ましてやその支配の利権に胡坐をかいて進歩を拒絶するような輩は――」


 その時コムリンクがコール音を鳴らし、彼の話を遮った。
マクシャリスは発信者名を確認して笑みを漏らす。


マクシャリス「おや、噂をすればなんとやら……」


「『乗り越えた』ようじゃのう」


 緑色の肌をした小柄なエイリアンの老人がシンノを迎えた。
彼こそ、かつてのジェダイ評議会唯一のグランドマスター。
オーダー66に始まる虐殺を生き延びた唯一のジェダイマスターでもある。


シンノ「マスター・ヨーダ……」


 シンノは師の言葉に違和感か疑念のような感覚を覚えたが、口に出すのは止めた。
一つ間違えれば弱音になってしまいそうだった。


ヨーダ「……では約束通り、お前を『ジェダイマスター』と認めよう」


 シンノはその言葉に途方もなく長い歴史の重みを感じ、息を呑んだ。
ヨーダは懐を探り、筒状のものを取り出してシンノのほうへ差し出す。


シンノ「これは……ライトセーバー?マスター・ヨーダの……」

ヨーダ「お前にやろう」

シンノ「えっ!?とんでもない、いただけません!畏れ多い!」

ヨーダ「畏れる必要などない。ここにいる爺は政治家一人満足に見透かせず、さりとてねじ伏せることもできなかった、どうしようもない軟弱者よ」

ヨーダ「そのライトセーバーも、オーガナ議員が気を利かせて取り戻してくれたはいいが……もはや儂には、それを満足に振るう力など残ってはおらん」


 ヨーダは陰のある笑みを零す。
……長寿種族である彼は、どれほどの同胞の死を看取ってきたのだろうか。
彼らにジェダイの誇りを託されながら、皇帝の所業を黙って見ているしかない現状はどれほど辛いだろう。


ヨーダ「ゆえに、もしも……もしも誰かが今度こそ暗闇を切り開いてくれるのなら、儂は喜んでこの刃を譲り渡そう」

シンノ「……!……」


 シンノは差し出されたライトセーバーの中に、幾重にも重なり合う無数のジェダイの顔を幻視した。
自分に背負えるのか……背負うしかない。
そう決めたから。


シンノ「……おっ……お、お預かり、します……!」


 シンノは震える手で金属筒を受け取り、爆発寸前の爆弾か何かのように恐々と懐に収める。


『ポポピーポ』

シンノ「ヒイッ!?」ビクッ


 その時背後から唐突に電子音が響き、シンノは飛び上がった。
泡を食って振り返ると、そこには見慣れた赤い頭のアストロメク・ドロイドがいる。


シンノ「なんだ、驚かさないでくれよR3……」

R3-C3『ポポピーポ プウウー』

シンノ「基地からWウィングに通信?何て言ってきてるんだ」

R3-C3『ピポポ ピポポ』

シンノ「――何!?あの賞金稼ぎが基地に!?」


 事態の急転に仰天するシンノを見て、ヨーダは厳かに目を細める。


ヨーダ(……来おったか。こやつがこの星を出発すべき時が)

続き来てるやん!
期待

ようやく続きが来たか・・・!


ナインス「ぐあっ!」ドタッ


 尋問官ナインス・ブラザーは非殺傷出力のライトセーバーで強かに打ちのめされ、無様に転倒した。
右手の義手からライトセーバーが零れ落ち、ただの金属筒になってトレーニング・フロアに転がる。


マーズ「……尋問官殿、やはりまだ義手が馴染んでおられないのでは」


 対するジヒス・マーズはさして疲れた様子もなく、粛々とジット・セーバーを収める。
相変わらず無感動な口調がナインスの癪に障った。
セーバーを拾いつつ立ち上がり、膝を払う。


ナインス「……黙れ。余計なお世話だ」

マーズ「……私は両手ともに義手ですので、少しでしたらアドバイスを――」

ナインス「黙れと言ったのが聞こえなかったか?ワイマッグの妾ごときが生意気な口を利くな!」

「おやおや、尋問官殿オ!そう聞き苦しいことをおっしゃるものじゃありませんよオ!」


 入口の自動扉が開き、慇懃無礼な文句とともに新たな人影が現れた。
ひょろりとした長身の体を帝国保安局の黒い制服に包んだ男だ。


ナインス「チッ……エージェント・サギ……」

サギ「申し上げたくはありませんが、クイナワでの失敗でお立場が芳しくないのでしょう?敵を作るような発言はお控えにならないとオ……」ニヤニヤ


 サギは人格的にも能力的にも最低の男だが、ナインスに比べれば皇帝にかなり近い立場にいた。
ナインスは歯を食いしばって罵倒したい衝動をこらえたが、思わぬところから援護射撃が飛んでくる。


マーズ「エージェント・サギ。言いたくはないが、私の上司はターキン総督にコネがあってな」

サギ「!?マーズ管理官……」

マーズ「今は艦隊司令官付補佐官だ。QC宙域方面第二艦隊司令官付補佐官」

サギ「マーズQC宙域方面第二艦隊司令官付補佐官……」

マーズ「クイナワではお前も失敗しただろう、それもウォーカー一個大隊全損ときている。あらためて総督に報告すべき事項かもしれんな」

サギ「そ、それはア……ど……どうか、ご容赦を」

マーズ「お前の態度次第だな。それで、何をしにきた?嫌味を言いに来たのか」

サギ「えっとオ……シカーグ総督が、ナインス・ブラザー殿をお呼びで……」

ナインス「初めから言え、無能が!」


 ナインスはそう吐き捨てて、憤然とトレーニング・ルームを後にする。
サギの慇懃無礼も、マーズにかばわれたことも、あらゆることが気に入らなかった。


ナインス(シンノ・カノス……何もかも、シンノ・カノスに敗れてからだ。全て奴のせいだ!)


 右手の機械義手がその情動を馬鹿正直に反映し、ライトセーバーを軋むほど強く握りしめた。


ヨーダ(……すまんのう、シンノ)


 Wウィングは林冠の隙間をすり抜け、徐々に高度を上げていく。
ヨーダは小さな隠れ家の窓からそれを見上げ、密かに詫びた。


ヨーダ(儂はお前に押し付けすぎたかもしれん。オーダー66を少年の時分に迎え、特別な運命の下にあるわけでもないお前に……)

ヨーダ(しかしもしお前が皇帝を倒し、いずれ来るべき「選ばれし者」が平穏で純粋な環境でフォースのバランスを築いたならば、その時こそ数多のジェダイの犠牲が完全な形で報われるのだ)


 いかにもジェダイらしい善性絶対主義思想。
後進を茨の道に追いやることになるとしても、そのメソッドを選ぶことに迷いはない。
しかしヨーダは同時に、胸の内に侘しい風を感じてもいた。
遺跡の中を吹き抜けるような、すえた臭いのする風を。


ヨーダ(……儂は……古きジェダイは、世界を新しい世代に譲り渡すべき時を迎えておったのかもしれん……それも、とうの昔に)


 机上の小さな引き出しを開ける。
こまごましたガラクタを退けて、奥底から色褪せた写真を取り出す。
顔いっぱいに笑みを浮かべたヒューマノイドの少女がピースを決め、ヨーダ自身と並んで映っている。


ヨーダ(……ベルネアよ。儂はまた、導き方を間違ってしまったのか?)


 目を上げるが、銀翼はもう見えない。
今頃は大気圏を脱し、ハイパースペース・ジャンプに突入している頃だろうか。
老人は淡い望みとともに託した言伝が達成されることを祈り、フォースの加護を祈った。


アジアス『参上シマシタゾ、がすたー殿』

バスタ「ああ、アーチ公!」


 ジオノージアンのアジアス・ジ・アーチと、ニモーディアンのバスタ・ガスター……
独立星系連合残党の指導者のうち二名が、キャッスル・クマモッテの一室にて、ごく少数の側近とともに密会していた。


バスタ「念のためお聞きしますが、マクシャリスの手の者につけられてはいませんか?」

アジアス『私ヲ誰ダトオ思イカ。尾行者ハイナイ、安心メサレヨ』


 アジアスは昆虫種族特有の耳障りな声を電子翻訳機で同時翻訳して答える。
バスタは心中で胸をなでおろした。


バスタ「そうですか、それはよかった……何せ奴の耳に入ったら大変なことですから」

アジアス『……マサカ、反乱計画カ?まくしゃりすトすたーばるハ、今ヤ残存勢力ノ九割ヲ掌握シテイル。無謀ダ』

バスタ「奴への攻撃ではありますが、武力によるものではありません。情報によるものです……アーチ公は、西塔の最上階に留置されている捕虜についてご存知ですか?」

アジアス『……みこあ・るま・やまたいと。惑星くいなわデ遭難シテ帝国ノ手ヲ離レタ、やまたいと公国ノ執政官……』

バスタ「さすが、お耳が早い。では帝国軍が奴を血眼になって探している、というのは?」

アジアス『血眼……ソレホドマデニカ?』

バスタ「姫個人の利用価値はともかく、誘拐されたことで帝国軍はメンツが丸潰れなんですよ……つまり、つまりですよ」


 バスタは興奮を抑えきれないといった様子で顔を近づけ、言う。


バスタ「姫の身柄か……それが無理ならば居場所だけでも、帝国に渡すことができれば……」

アジアス『馬鹿ナ!ソレハ裏切リダゾ、がすたー殿!正気カ――ゲホゲホッ!』ザザッガリガリ


 アジアスは激昂のあまりむせ返り、翻訳機にノイズを混じらせた。
バスタは泡を食って弁解する。


バスタ「裏切りなどではありません!現実的な妥協です……いいですか、姫との交換条件ならば、この惑星クマモッテの支配権は安堵させることができるはずです」

アジアス『ヒューッ、ヒューッ……コンナ錆ビツイタ星一ツ、確保シタトコロデ何ニナル?』

バスタ「少なくとも我々の指導の下、ドゥークー伯爵が志した分離主義の精神の命脈を保つことができます」

アジアス『まくしゃりすノ下デハ、ソレガ出来テイナイト?』

バスタ「奴の専横ぶりは度が過ぎます!あの闇雲な権利集約で、我々がこの星に確保していた利権をどれだけ削り取られたか……!」

アジアス『ソレハソウダガ……シカシ、話ガズレテイルヨウナ……』

バスタ「よくお考え下さい。姫の保護に貢献したという実績があれば、帝国は我々を受け入れざるを得ない。我々の種族もクローン戦争以来の冷遇をはねのけることができるのですよ!」

アジアス『……ソウカ、種族……』


 アジアスは腕を組んで考え込んだ。
この話を密告されれば処刑を免れないバスタはハラハラした表情でそれを見守る。
やがてジオノージアンの老人は、厳かに口を開く。


アジアス『……いんたーぎゃらくてぃっく銀行ニ知リ合イガ居ル。彼ヲ通シテ帝国ト交渉シテミヨウ』

バスタ「……!はい!私も少し情報収集をしてみます、くれぐれもマクシャリスには露見しないようにお気をつけて……!」

アジアス『当然ダ』


 話は決まった。
反乱者たちは側近たちを引き連れ部屋を出て、いまだ残るコネクションを通じて陰謀を練り始める。
……空っぽになった部屋では、天井の隅にある通気口の蓋の奥で、小さく赤いランプが瞬いていた。

あらー
更新完全に止まっちゃったかー


 一方その頃、シンノとR3C3はとうにQC宙域に到着していた。
二人を乗せたWウィングはカグマシャ星系にある惑星タンガシムへと降下する。
この辺境の惑星は寒冷かつ乾燥した厳しい気候をもち、その分帝国の監視も甘いことから反乱軍のアジトとなっていた。


ユスカ「おかえりシンノ!」

リズマ「マスター!お疲れ様です!」

シンノ「ああ、わざわざ出迎えありがとう二人とも……」


 反乱軍基地入口にて、シンノは姉妹の歓迎に疲れ切ったような笑顔で応じた。
ユスカとリズマがそれを察して顔を見合わせたとき、シンノに横合いから黒い何かが飛びかかった。


ネーア「シンノーーっ!」ピョーンッ

シンノ「ぐわっ!?」ガシッ


 ダース・ネーアだ!
シス卿はシンノの肩に飛びつき、無遠慮に頬擦りする。


ネーア「妾が居ないんで寂しかったじゃろう?え?よいよい!言わずともわかっておるぞよ~」グリグリ

シンノ「ちょ……離……」モゴモゴ

ネーア「おっこの紀章!ジェダイ・マスターになったんじゃな!妾からもおめでとうと言っておこうかの、皮肉込みで!」グリグリ

シンノ「待……やめ……」モゴモゴ

ネーア「まったくそこまでいくのにどれだけの苦行を課されたことやら!だからシスの修行にしておけと言ったろうに……」グリグリ

シンノ「――ふざけるな、離せ!」ブンッ

ネーア「ぎゃあ!?」ドタッ


シンノ「――!だ……」


 シンノはそれを力任せに振り払ってから、ハッとした。
ネーアは尻餅をついた姿勢のままぽかんとしている。


シンノ「……リズマ、例の捕虜のところに案内してくれ」

リズマ「えっ?あ……はい」


 結局、シンノはネーアにそれ以上触れないままその場を後にした。


ユスカ「え?何あれ、感じ悪っ……ネーアちゃん大丈夫?」

ネーア「あ、ああ、大丈夫じゃ……厳しい修行で気が立っとったんじゃろ。妾もちょっと調子に乗ってしまったぞよ」

ユスカ「そう?それにしてもシンノらしくないな……修行先で何があったのやら……」


 ユスカは首をかしげながら二人のあとを追う。
ネーアが黒ローブを払っていると、赤いアストロメク・ドロイドが姿を現した。


R3C3『ポポピーポ』

ネーア「おうR3、そなたも久しぶりじゃの」

R3C3『ポポピーポ プウウー』

ネーア「……ははあ、ダゴバでそんなことが」


 シスは苦笑し、複雑な感情を言葉の裏に滲ませた。


ネーア「変わらんのう、マスター・ヨーダは……」


クネー「だから、ジェダイを呼べばすぐにでも喋ってやると言っているだろうが」


 QC反乱軍基地の捕虜取調室にて、女賞金稼ぎクネーはつねに横柄な態度だった。


バヤット「なぜ俺が相手では喋らんのだ!」


 それがQC反乱軍司令官バヤットの癪に障った。
モン・カラマリの魚面のこめかみに青筋が浮かんでいる。


クネー「あたしの持つ情報を有効活用できるのはジェダイだけだからだ。そこに確実に伝えられる保証なしに喋ってアドバンテージを失うのは下策とみた」

バヤット「ケッ、何がアドバンテージだ……いいか、お前はジェダイを過大評価している」

クネー「何かやらかしたことでもあるのか?」

バヤット「ああ。あいつが連れ込んだイシュメールとかいう闇商人が基地の位置を帝国にバラしてくれてな。我々はあやうく全滅のところだった」

クネー「イシュメールが?バカな、それはあり得ない」

バヤット「ッ……何故貴様にわかる?」

クネー「奴は悪人ではあるが下衆ではない。恩のある相手を、それもよりによって奴の仇である帝国に売るなど……」

バヤット「状況からしてそうとしか考えられんのだ!」

クネー「そもそもジェダイなら人柄くらいある程度見抜けるだろう、本当に危険人物なら連れてこないはずだ。仲間を信じられないのか?」

バヤット「……」

クネー「……QC宙域の反乱軍は優秀な指揮官に率いられると聞いていたが、代替わりでもしたか?」

バヤット「……今は……今は俺が、指揮官だ」


シンノ「失礼する」

リズマ「失礼します……司令官、マスターをお連れしました」


 そのとき、取り調べ室にジェダイたちが入ってきた。


クネー「おう、やっと来たか」

バヤット「……ふん、俺は邪魔者のようだな」


 バヤットは不貞腐れたように言い捨てて部屋を出る。
リズマがその背中を心配そうに見送る一方、シンノは彼に代わって着席する。


シンノ「クネー、といったか……何の真似だ。自分で襲った場所にぬけぬけと戻ってくるとは」

クネー「そのセリフは聞き飽きたぞ、シンノ・カノス。ぬけぬけと戻れるような手土産のほうが重要だと思わないのか?」

シンノ「手土産だと?」

クネー「ミコア姫の居場所だ」


 賞金稼ぎはそう言って、相手を見透かしたようにニヤリと笑った。

/間が空いてしまい大変申し訳ないです。改善します

やったー
更新きたー(歓喜

乙やで

>ぬけぬけと戻れるような手土産のほうが重要だと思わないのか?

いい台詞、好きだ。


ナインス「『惑星クマモッテ』……」


 惑星ハクカ上空に浮かぶ帝国軍衛星基地「ダン・ザ・フロー」……その作戦室。
ナインス・ブラザーは怪訝そうな顔で惑星の立体映像を眺め、コメントする。


ナインス「典型的な辺境の星ですね。地上の模様を見る限り文明はあるようですが、インナーリムのように繁栄しているわけでもなさそうですし」

タクージン「だからこそ、アナクロニストどもには絶好の隠れ家なわけだ」


 QC宙域総督であるタクージン・シカーグは戦略テーブルにつき、顔の前で手を組んでいる。
分離主義者残党のアジトの位置が密告されてから一日。
ハイパースペース越しに送り込んだ探査ドロイドによって裏は取れた。
そしてこの件に関するパルパティーン皇帝からの指示は、たった一つだった――「反乱分子は完全に殲滅せよ」。


タクージン「まあ何にせよ、我々は奴らを『完全に殲滅』するだけだ」

ナインス「この情報を寄越した密告者の処遇は?」

タクージン「何か交換条件を出していたようだが知ったことではない、『完全に殲滅』する……シンプルでいいことじゃないか、戦争に集中できるものな!」


 タクージンはそう言ってくつくつ笑う。
マンダロリアン・アーマーを着込んでいるあたり、今回も自ら戦場に出るつもりでいるらしい。


ナインス(そうだ、俺も今度の働きで証明してみせる……シンノ・カノスやジヒス・マーズよりも優秀であることを!)


シンノ(『惑星クマモッテ』……)


 夜の帳の下りた反乱軍秘密基地。
シンノは停泊する宇宙船の上部に寝転んで空を見上げていた。
この惑星タンガシムは寒冷だが、それだけに空気が澄んでいるので星がよく見える。
頭上の無数のきらめきの中には、クネーがミコア姫の居場所として挙げた惑星もあるはずだった。


シンノ(クネーは丸ごと分離主義者の勢力圏になっていると言っていたが……奴らにまだそんな余力があったとは信じがたいな)


 吐き出した白い息が夜空に消えていく。
クネーは惑星ヤクシムでミコア姫を捕縛した帰途、分離主義者のインターディクター・クルーザーに拿捕された。
それ以来昨日まで惑星クマモッテにある彼らの基地に囚われていたが、ダース・テイティスに救出され、この反乱軍基地に逃げ込むよう指示されたというのだ。
またもあの謎のシスにこちらの居場所が露見している。


シンノ(それにしても、テイティスはどうやってこちらの位置を特定しているんだ?考えられるのは発信機だが、ヤクシムでの奴はそんなものを取り付ける時間はなかったはず……しかし……)


 一番気がかりなのは、テイティスの意図が丸っきり読めないことだ。
クイナワではわざと手加減してシンノにミコアを引き渡し、一転してヤクシムでは全力で奪いに来て、今度はまたシンノをミコアのところに誘導している。


シンノ(あのシスは一体何の目的でこんなことを……なんにせよ奴がシスである以上、今の俺には排除する以外の選択肢など存在しないわけだが)

「マスター?」

シンノ「うおっ!?」ビクッ


 シンノは背後から声をかけられ、慌てて身を起こし振り返る。
ジェダイの衣装の上からコートを着込んだリズマ・ショーニンが立っていた。


リズマ「あっすみません、驚かせるつもりはなかったんです……」

シンノ「……いや、気づかなかった俺の未熟だ」


 シンノは口ではそう言ったが、本当は別の原因があることに気づいていた。
クイナワでシカーグ将軍の死を招き、ヤクシムでミコア姫を攫われ、ダゴバでマスターに任じられヨーダからセーバーを託された。
そのすべてが今の自分には負担となり、精神的な余裕を奪っているのだ。


リズマ「星を見ていらっしゃったんですか?」

シンノ「ああ、寝付かれなくてな……リズマもか?」

リズマ「私はマスターと少しお話ししたくて。ここにいらっしゃるかなと思ったので」

シンノ「よくわかったもんだ。フォースか?」

リズマ「いえ、ただの女の勘です。フフフ」

シンノ「ククク、なんだそりゃ」


 リズマはシンノに肩を並べる形で腰を下ろす。
視線を地上に下ろすと、反乱軍の艦船や戦闘機がツンドラの大地で羽根を休めているさまが一望できる。
隅の方には、クネーが乗ってきたというテイティス所有の宇宙船「クラウソラス号」も見えた。


シンノ「で?何だ、話したいことって」

リズマ「それは……ええと」


 リズマは口ごもったが、やがて意を決したように言う。


リズマ「……マスター。私はまだ『弱い』でしょうか?」

シンノ「……どういう意味だ?」

リズマ「少し、不安なんです。自分がジェダイ・ナイトとして十分な力量だとか、心構えだとか……そういったものを持てているのかどうか」

シンノ「なんだ、そんなことか。お前のことはマスター・ヨーダにも話したが、あの方もナイトの叙任に――」

リズマ「マスターにお聞きしたいんです」

シンノ「俺に?……俺だって、お前は一人前だと思っている。ハクカからこっち、お前の協力なしじゃ厳しい戦いばかりだった」

リズマ「……それなら、もう少し私を信頼していただけませんか」

シンノ「もう最大限信頼しているさ」

リズマ「じゃあなぜ、独りで苦しんでいらっしゃるんですか?」


 シンノは心臓を鷲掴みにされたような衝撃を覚えた。


リズマ「ダゴバから帰ってきてからのマスターは変です。まるで大きな荷物を背負い込んで悶え苦しんでいるみたい」


シンノ「……荷物なんかじゃないさ、とんでもない」


 リズマのほうを見られないまま懐を探り、ダゴバで手に入れたライトセーバーを取り出す。


シンノ「見ろよこれ、マスター・ヨーダの武器だぜ。俺はグランドマスターからシスを倒す使命を受けたんだ。ジェダイの騎士としてこれ以上名誉なことは――」

リズマ「これは私が預かっておきます」ヒョイッ

シンノ「ああっ!?おい!」


 リズマはさっとそれを奪い、自分の胸の内ポケットに収めてしまった。


シンノ「お前なあ!それを授かったのはジェダイ・マスターの俺であって……!」

リズマ「私を最大限信頼してくださってるんですよね。マスター・ヨーダも認めてくださっていると、たしかに聞きましたよ」

シンノ「……」

リズマ「……マスター」


 そしてシンノが取り返そうと伸ばした手に触れ、自分の手で包み込む。


ユスカ(あー!艦内でも暖房止まると寒いわねこのド田舎星ィ!クッソクッソ)カンカン


 ユスカは心中で悪態を吐きながら宇宙船内の階段を登っていた。
彼女はシンノとリズマが居ないのに気が付き、二人だけで作戦会議をしているのだろうと推測していた。


ユスカ(取調室で何の算段をつけたのか知らないけど、次のアクションには当然私も参加するべきよね!あんな危なっかしい状態のシンノを放っておけないし!)


 主だった部屋はあらかた探し終え、残るは船体上部……屋上くらいのものだ。
階段の果てにそこへ通じる扉を見つけ、押し開け――


リズマ「……マスター」


 開きかけた扉の向こうから聞こえたのは、聞き慣れた妹の声。
しかし何か底の知れない響きを感じて、ユスカは立ち竦んだ。
図らずも盗聴のような形で、リズマとシンノの会話が漏れ聞こえる。


リズマ「私、頑張って鍛錬しました。旅の途中も、クイナワでも……マスターがダゴバに行っている間は、マスター・ガン=ジンから教えを受けていました」

シンノ「マスター・クワイ・ガン=ジンから……!?」

リズマ「だって、いつまでも守られるばかりじゃ嫌だから。私だって、マスターの力になりたいから」

リズマ「だからマスター。あなたの『荷物』、私にも背負わせてください!」


シンノ「……リズマ……俺は……俺はっ」


 間が空く。


ユスカ(……えっ、何よ、何の話よ、これ)


 吹き込む外気の冷たさも感じない。
早鐘のような心臓の鼓動がひどくうるさい。


シンノ「俺はキツかった!クイナワからこっち、全部全部だ!」

シンノ「何で将軍死んじゃってんだよ!何でミコア攫われてんだよ!ジェダイマスターってなんだよ、どうすりゃいいんだよあのセーバー!」

シンノ「何で……何でこんなことになっちまってんだ。俺はただカッコよく、守りたかっただけで……今はもう、本当全部、キツいんだ……」


 最後のほうはすっかり消え入りそうな声だ。
ユスカはその弱弱しさに驚いた。


ユスカ(……ああ、シンノ、辛かったんだ。そりゃ、そうだよね……ジェダイだって人間なんだし)


 そして彼の弱弱しさを知ろうともしなかった自分に呆れた。


ユスカ(……私、全然気づかなかったや……)


リズマ「……そうですよね、キツいですよね」

リズマ「でもマスター、その『荷物』、私も背負いますから」


 星明かりの下、リズマは柔らかく微笑みかける。
冷たい夜の大気の中で、包み込まれた手だけが温かかった。


シンノ「……そうか」

シンノ「ありがとうな」


 やっとそれだけ言って、顔を背ける。


シンノ「畜生、雨が降ってきたかな」

リズマ「……ふふ、そうかもしれませんね。中に戻りましょうか」


 リズマはそっと手を離して、目元を拭いつつ立ち上がった。
シンノもそれに続き、艦内に通じる扉へ向かう。


シンノ「グスッ、とにかく明日は朝一でクマモッテに向かうからな。今夜はもう寝ておけ!」

リズマ「はい、マスター!……あれ、ドア半開きになっちゃってたな……」


 リズマが訝しげにドアの閉まりを確認する一方で、シンノはもう一度星空を見やる。
いくらかぼやけてはいるが、さっきまでよりずっと奇麗にきらめいている。
悲しいほど奇麗に。


「しかしもし失敗すれば、お前は暗黒面に沈む」


 胸の奥に打ち込まれた言葉が疼いた。


 ――翌日。
宇宙から見た惑星ハンカッタは灰色と錆色のまだら模様である。
その上に群がる蟻のように見えるのは、衛星軌道上に浮かぶ無数のデブリだ。
そして今、蟻の群れの上に、機影が一つ姿を現す。
シンノのWウィングだ。


R3-C3『ポポピーポ プウウー』

シンノ「ジャンプ終了。周囲に機影は……無いな」

リズマ「レーダー衛星の類も見当たりませんね」

クネー「デブリの中に少しは混じってるだろうが、大半はクローン戦争時代のロートルだ」

ネーア「しかし、この船もそうじゃなかったかの?ステルス性とか大丈夫なのか、シンノ?」

シンノ「……」ムッツリ


 機内にいるのはシンノ、リズマ、クネー、ネーアの四人。
これがミコア姫救出作戦の総戦力だ。
リズマはユスカにも誘いをかけたが、どういうわけか断られてしまったという。


ネーア「おいシンノ?返事をせんか」グイッ ガクガク

シンノ「シスとは口を利かん」ムスーッ

リズマ「マ、マスター……昨日あれほど……」

ネーア「昨日?昨日シンノと何かしたのか?」

リズマ「いや、それは、その……ちょっとお話――」

ネーア「言えないようなことか!カアーッ、スケベじゃのう!スケベスケベ!」

シンノ「スケベじゃあないっ!好き勝手言ってると放り出すぞ!」

ネーア「あっれええーっ口を利かないんじゃなかったかのー!?」

クネー(何だこいつら……)


 ガゴオンッ!


シンノ「ぐうっ!?」
リズマ「きゃあっ!?」
ネーア「ぬあっ!?」
クネー「うおっ!?」


 突如ブラスターキャノン光弾が後方から飛来し、すぐ横にあった人工衛星の残骸を爆砕した。
飛散した破片がWウィングを激しく揺さぶる。


クネー「まさか、分離主義者か!?」

ネーア「言わんこっちゃないぞよ!」

シンノ「くっ……!」グインッ


 シンノはすぐさまデブリの濃い空間に機体を逃げ込ませた。
ガゴンッ!ガンッ!ゴゴンッ!
避けきれないデブリが機体を乱打する。
ズドンッ!
さっき回避したリング型宇宙ステーションの廃墟が光弾を受けて爆散した。


シンノ(追ってきている……!しかしこの撃たれ方なら、敵は単機!)


 最後にミサイル衛星の残骸を潜ると、ぱっと視界が開けた。
デブリ地帯を抜けたのだ。
リズマはすでに機体尾部の銃座に着席し、後方を警戒していた。
その視界に追跡者が飛び込んでくる。


リズマ「敵機補足!あれは――Xウィング!?」

シンノ「Xウィングだと!?」


 シンノも後方モニターでその特徴的な四枚の主翼を確認した。
しかし反乱軍のものとは違い、宇宙の闇に溶けるような黒に塗り上げられている。
ヤクシムで反乱軍からXウィングを奪って逃げた敵を連想する。
フォースの気配がその直感を裏付ける!


シンノ「……ダース・テイティス……!」

クネー「テイティスだと!?バカな!私がいることは察しが付くだろうにッ!」


 クネーが驚愕の声を上げた。
彼女はテイティスの指図で動いていたのに、他ならぬテイティスに殺されそうになっているのだ!


テイティス「……試させてもらうぞ、シンノ・カノス」


 黒いXウィングのコックピットには、まさしくダース・テイティスが居た。
四つの黄色い目を細め、汚れた惑星の上に浮かぶWウィングの機影を見据える。


テイティス「この先に行く資格があるかどうか……!」


シンノ「うおおおお……!」グインッ

テイティス「ぬうん……!」グインッ


 戦いは始まった。
ハンカッタへ降下を図るWウィングと、そのたびに大気圏突入コースを塞ぎにかかるXウィング。
大小の機影はデブリ地帯のすぐ下でもつれ合い、絡み合うようにして軌跡を紡いでいく。


ネーア「おのれっあの傍流があ!リズマ銃座変われっ!」

リズマ「馬鹿言わないでください!――ああもう、ミコア姫はあんなに当ててたのに……!」バシュバシュバシュ

クネー「おいジェダイ、あまりここで場外乱闘していると分離主義者に気づかれるぞ!」

シンノ「そんなことわかってるッ!」グインッ


 ズドオンッ!
下から掬い上げる軌道で放たれた光弾がミサイル衛星を直撃し、派手に爆発する。
しかしシンノはその炎を避けて降下することなく、逆に機首を上げた。


R3-C3『プアアーン!』


 機体上部に顔を出しているR3は燃える破片を浴びて悶絶!
しかしWウィングは宙返りする形で、直進するXウィングの上方に占位した!


シンノ「取った!落ちろお!」バシュバシュバシュ

テイティス「!」グインッ


 交錯!
Wウィングは勢い余って危険な角度で大気圏に突入しそうになり、慌てて機首を起こす。
Xウィングは右の主翼に空いた穴から白煙を上げつつも姿勢を回復し、それに相対した。


テイティス(ヤクシムの時よりはるかに成長している……稽古でもつけたか。あるいは何か精神的な成長……)

シンノ(仕留めきれなかった……!長引かせられないってのに!)


 二羽の猛禽はつかず離れずの距離感を保ちつつ相手の出方を伺った。
しかし思いがけない形でその均衡は崩れる。
TIEファイターがデブリ帯を突き抜けて戦場に乱入してきたのだ!
それは一機ではない!二機!三機!四機!五機!
猛禽の縄張り争いに介入するカラスの群れのごとく、双方に攻撃を浴びせる!


シンノ「何!?」

テイティス「!?バカな、これは!」


 二機はそれをかわし、あるいは反撃するが、敵は際限なく増え続けた。
両者はみるみるうちにハンカッタ側へ押しやられ、降下を強いられて、遥か彼方雲の下に消えていった。
やがてデブリ帯の奥にスター・デストロイヤーが四隻、姿を現す。
……帝国軍の到着だ。

>>35-39
「ハンカッタ」は「クマモッテ」の誤りです。
申し訳ありません

命名の由来は「博多」「熊本」なのかな?

いつ分離主義者に見つかるかわからない状況なのに帝国軍がスターデストロイヤー4隻もの数で乗り付けてくるとか混沌の予感しかしない。


 ゴウッ!
機体側面のスライドドアを開くと、外気が突風となって吹き込んだ。
地平線まで広がる雑多なスラムの景色が猛烈な速度で通過していく。


ナインス(ウップ、汚らしい空気!街並みも汚らしい)


 ナインス・ブラザーが心中でそう毒づくと、呼応するかのようにTIEボマーの編隊が飛来。
まず巨大な檻のような形の古い変電所が、続いてその周辺のスラムが丸ごと爆砕された。
連なった鈍い響きがゾディアックの機体を微振動させる。
ワンテンポ遅れて熱気が吹き付け、若き尋問官は眉をしかめる。


タクージン「クッフフフ、いい幕開けだ!この鉄の焼ける臭いを感じないことには始まらん!」


 対してタクージン総督は至極上機嫌にそう言い放ち、兵員室壁面のホロモニターを起動した。
青白い3Dグラフィックで惑星クマモッテが映し出され、ついで首都ヒュガーの立体地図にまでズームインする。


タクージン「最終確認!我々のミッションはシンプルだ。ミコア・ルマ・ヤマタイトを捜索し、身柄を確保、脱出!」

タクージン「しかるのち衛星軌道上に待機する艦隊から艦砲射撃を行い、クローン戦争の亡霊どもを完全に絶滅する。ターミネート・セパレーティスト(分離主義者を抹殺せよ)!」

「「「「ターミネート・セパレーティスト!」」」」


 タクージンお抱えの四人のマンダロア兵がクローン戦争時代の合言葉を唱和する。
いずれも共和国時代から彼の下で戦場を巡ってきた精強たちである。


タクージン「ジルコ!セラ!貴様らはナインス・ブラザーの隊だ」


 タクージンはその内二人と尋問官を呼び、立体地図の一地点を指し示す。


タクージン「貴様らはここのドロイド工場に降下し、搬入用地下通路から分離主義者の本拠地キャッスル・クマモッテに突入せよ!」

ジルコ「イエッサー!」
セラ「イエッサー!」

ナインス「イエッサー……」

タクージン「マイヤー!デクタポルカ!貴様らは俺と一緒だ。奴らが逃亡を図る恐れがある故、発着場に降下して先回りする!」

マイヤー「イエッサー!」
デクタポルカ「イエッサー!」

タクージン「OK!質問は無いな!?」

ナインス「総督。分離主義者の頭目を発見した場合、その排除とミコア姫の確保、どちらを優先すべきですか?」

タクージン「無論ミコアだ。しかしどちらか一方しかできないような無能は俺の軍団に必要ない!両方完全に遂行せよ!」

ナインス「イエッサー……!」


 尋問官は胸中で鬱屈した闘志を燃え上がらせた。
彼には予感があった。
この戦いから繋がる因縁、あるいはこの戦いそのものが、クイナワの雪辱となるという強烈な予感が!


リズマ「一体何故今ここに帝国軍が!?」ダダダ

ネーア「そんなこと妾が知るかっ!」ダダダ

シンノ「喋ってねえで走れーっ!」ダダダ


 ドドドドドドキュンッ!
空からの機銃掃射が襲い来る!
シンノ・リズマ・ネーアの三人は死に物狂いで走り、鉄屑を満載したスピーダー・トラックの陰に飛び込んで難を逃れた。
口惜し気に飛び去るTIEファイターを目で追うと、ヒュガー中心街が赤々と燃えているのが見えた。


シンノ(一体何人が犠牲に……銀河、帝国……!)ギリッ

リズマ「あれっ、クネーさんは!?」

ネーア「カタナを置き忘れたからWウィングに戻ると言っておったが……」

『すまない、あれは嘘だ』


 クネーの声は空から降ってきた。
三人がぎょっとして見上げると、Wウィングがホバリングしている。
キャノピー越しに見えるのは操縦席に座るクネーと、その背後でスマキにされて転がっているR3の姿!


シンノ「クネー!?どういうことだ、何の真似だそれは!」

クネー『悪いが私はここで降りさせてもらう。もうあのシスに義理立てすることもないんでね』

ネーア「何をいまさら!トチ狂ったか!?」

リズマ「それを持っていかれたら私たちどうやって帰れば!?」

クネー『船を奪えばいいだろう。あいにく私はあんたたちジェダイほど頑健じゃないんで安全第一なんだ、恨むなよ』

R3-C3『プアアーン!』ガタガタ


 R3の叫びも虚しく、Wウィングは高度を上げる。
そして襲いかかってくるTIEファイターをひょいひょいとかわしつつ、酸性雨の雲の上へと姿を消した。


リズマ「な……なんという……」ポカーン

ネーア「ぬうあああーっ!女狐!薄汚い女狐!絶対に許さん!地の果てまで追いかけてシス式で落とし前をつけさせてやるのじゃあああふしゅああーっ!」ガンガン

シンノ「……リズマ!ネーア!」

リズマ「はっはい!?」ビシッ
ネーア「何じゃあ!?」ジロリ

シンノ「もう起きたことは仕方ない。ミコアは俺たち三人だけで救い出す」


 その語調は冷静かつ自信に満ちていた。
クネーへの恨み事を言うどころか、むしろ不敵に笑って言ってのける。


シンノ「思えばラグナロクで大勝ちした時と同じメンツじゃないか。このほうがよっぽどいいぜ」

リズマ「……!はい、私たちならできますよ、マスター!」

ネーア「……ふん、大勝ちってほど大勝ちでもなかった気がするぞよ。一人くらいどてっぱらに風穴が空いてた気がするのう」

リズマ「ネ、ネーアさん……!」

ネーア「……しかしまあ、シンノ」チョイチョイ

シンノ「何だ?」


 ネーアはシンノを屈ませ、その肩を叩いて言う。


ネーア「ようやくジェダイ・マスターらしい面構えになってきたものじゃ。姉弟子として誇らしいぞよ」ポンポン

シンノ「シスとしてじゃなく、か?そりゃどうも、先輩」

リズマ「……姉弟子?シス?あの、すみません、話がよく見えないのですが……」

ネーア「ふむ……ではあらためて自己紹介させてもらおうかの」


 そして黒ローブをはためかせ、赤いライトセーバーを振りかざし、高らかに名乗りを上げた。


ネーア「妾は名はダース・ネーア。マスター・ヨーダの教えを拒否し暗黒面の道を選んだ、極悪非道の暗黒卿よ!」

/>>42正解です。他の固有名詞も九州の地名や歴史のもじりが多いです

自分で極悪非道って言うといい子にみえる

この話が終わったら番外編か何かで
シンノに連れられてダゴバへ行きヨーダと再会するネーアちゃんとか見てみたい

ネーア「500年の眠りから目覚めたらロクにフォースも使えない小娘になってしまいました」
みたいな再会をしたりとか

ヨーダ「シンノを頼むぞ」
ネーア「シスの暗黒卿に頼むのですか?」
ヨーダ「ほほほ。……頼んだぞ、ベルネア」

力の衰えたジェダイマスターと力を失ったシスの暗黒卿が
余所余所しくも再会を喜んでいる様な、悲しんでる様な
ソフトな感じの元師弟の話みたいな


スターバル「ミコア姫!緊急事態ですぞ、一刻も早く地下のシェルターに……」ズカズカ


 スターバルは数体のマグナガードを従えてキャッスル・クマモッテ西塔最上階の部屋に入室した。
窓の外でドロイド・スターファイターがTIEファイターに撃墜され、遥か眼下のスラムに落ちて爆発する。
カリーシュの将軍はスイートルームをせわしなく歩き回ったが、あるはずの人影がない!


スターバル「居ない!?奴め、どこへ行った!?」キョロキョロ

マグナガードA『ばするーむニモ居マセン』ガチャッ

マグナガードB『くろーぜっとノ中モ空デス』ガチャッ

マグナガードC『冷蔵庫ニモ見当タリマセン』パカッ

スターバル「グウウウウ……!一体どこから逃げた、あの小娘があ!」ズバアッ


 スターバルは苛立ちまぎれにライトセーバーでテーブルを破壊したあと、おそろしい剣幕でマグナガードたちに命じる。


スターバル「城内全域に緊急放送だ!あのメスガキを草の根分けても探し出せーッ!」


 同時刻、城下正門前では、ストームトルーパーの集団が警備のドロイド部隊と戦闘に突入していた。
敵の目をミコア姫救出部隊から逸らすための陽動作戦である。


トルーパーA「死ね!鉄屑どもが!」バシュバシュ

トルーパーB「ガラクタの体に風穴空けてやる!」バシュバシュ

トルーパーC「てめえらのクローン戦争はここで終了だ!」ピンッ ポーイ


 ズドオン!
グレネードがバトル・ドロイドの集団に飛び込み、炸裂!


バトルドロイドA『ウワー!』ガシャン
バトルドロイドB『ギャアーッ!』ガシャン

バトルドロイドC『ウワワ、チクショー!』バシュバシュ

スーパーバトルドロイド『――!』バシュバシュ

スーパータクティカルドロイド『断固死守セヨ!連合ノ荒廃コノ一戦ニアリ!』バシュバシュ


 しかしドロイド部隊も果敢に反撃し、門の上に設けられたブラスター砲座までが火を噴いた。
ストームトルーパーたちは慌てて遮蔽に逃げ込み、銃のエネルギーパックを交換する。


トルーパーA「畜生、今まで退治してきたようなショボい残党どもよりちと手強いな……!」ガチャガチャ

トルーパーB「この分じゃワイヤーで壁を越えた第三分隊に手柄を取られるぞ、急がなけりゃあ!」ジャキッ


 しかし彼らは気づかなかった。
第三勢力たるジェダイが背後からまっしぐらに走ってくることに!


シンノ「邪魔だああああああっ!」ゴウッ

トルーパーA「うおお!?」ポーン
トルーパーB「ぎゃああ!?」ポーン
トルーパーC「うごわーっ!?」ポーン


 フォース・プッシュ!
ストームトルーパー部隊はバラバラに吹き飛ばされ、各々壁や路面に激突して壊乱!


バトルドロイドC『ナ、ナンダア!?味方!?』

スーパータクティカルドロイド『じぇだいダト!?ヨクワカランガアイツモ敵ダ、撃テ!』バシュバシュ

スーパーバトルドロイド『――!』バシュバシュ

シンノ「久しいな、ブリキ野郎ども……!」シュタタタタ


 シンノは走る速度を緩めず、そのまま戦場を縦断!
フォースの予知と身体能力ブーストを頼りにドロイドたちの弾幕をも潜り抜ける!


シンノ「フンッ!」ズバアッ

スーパータクティカルドロイド『ナ、ガ――!?』ガシャンッ

シンノ「ハアッ!」ズバアッ

スーパーバトルドロイド『!?』ガシャンッ


 そしてすれ違いざまライトセーバーを振るい、たちまち二体をスクラップに変えた!


バトルドロイドC『ウワーッ!ドウスリャイインダーッ!』

リズマ「せやあっ!」ズバアッ

バトルドロイドC『ドウニモナラニャーッ!』ガシャン


 少し遅れてリズマが到着し、残る一体を破壊!


ネーア「はあーっ!」バリバリーッ


 ドカーンッ!
ネーアがフォース・ライトニングで門の上のレーザー銃座を爆砕!


ネーア「周りは妾が見張る、速く門を開けい!」

シンノ「よし、リズマ!合わせろ!」

リズマ「はいマスター!」


 二人のジェダイはシスに背中を預けておいて、正門の重厚な門扉に手を差し伸べた。
目を閉じて精神を集中すると、たちまち市街の戦闘音が遠ざかる。
その静寂の中に、自然のフォースの流れを感じ取る。


シンノ(フォースが「わかる」ぞ、以前よりもはっきりと……マスター・ヨーダの修行だけじゃない、リズマと一緒なら……!)

リズマ(マスターと二人なら、道を開ける!)


 二人が示し合わせたごとく同時に目を見開き、手をぐっと引く。
フォースの力場が働き、門扉を振動させた。
その振動はたちまち明確なベクトルを持ち、重い金属を動かし、押し開く!


シンノ「開いた!行くぞリズマ、ネーア!」

リズマ「お供します、マスター!」

ネーア「ヒャッハー!お次はどこじゃーっ!」


 三人はキャッスル・クマモッテ1Fに突入し、立ちふさがるドロイド部隊を撫で斬りにしながら前進!
バイタル区画への道を見出し、「KUMAMOTTE-BIG4」と書かれた扉を蹴り開ける!


 中は体育館のように広い空間で、その中央には背丈10メートルほどの巨大な影があった。
蜘蛛じみた四本の脚をもつボディの上から人の上半身が生えたような異形のマシーンである!


ネーア「げえっ、何じゃあれは!?」

リズマ「巨大な、ドロイド……?」

シンノ「いや、あれは……!」

『ムーン?また現れおったか、帝国軍の雑魚どもめら!』


 それが今、ガシガシと耳障りな音を立ててシンノたちのほうへ向き直る……周囲に散乱するストームトルーパーたちの死体を踏みつぶしながら。


『ン?ライトセーバー……?まあ何者でもよいわ!この部屋を押し通ろうというのなら誰であれ磨り潰すのみ』

メク『ニモーディアン最高の頭脳にしてクマモッテ四天王の先鋒たるこのメク・マーケン様の手にかかって死ぬことを誇りに思うがよいわ!』


 頭部のキャノピー越しに、醜悪なエイリアンの操縦者がジェダイたちを見据える。
しかし三人は少しも怯むことなく、挑戦的にライトセーバーを振りかざす!


シンノ「ふん、そんな誇りは御免だね」ブオンッ

リズマ「意地でも押し通らせてもらいます!」ブオンッ

ネーア「カカカカカ!さあ、ドゥークーとグリーヴァスの後を追う心の準備はよいか!?」ビシューンッ

あら、ネーアちゃん徐々に力が強くなって来てる感じなのかな?
『この体フォースの加護カッスカッス』とか言ってたのが懐かしい
あれだな!チョコ・バーだな!
チョコ・バー食ってフォース貯めて来たんだなww


メク『ほざけ、気狂いジェダイ・ワナビーどもが!消し炭にしてくれるわ!』カチッ


 ジャコン!ゴウッ!
マシーンの下部から火炎放射器が展開し、ジェダイとシスめがけ業火を噴出した!


シンノ「散れっ!」ダッ


 三人はシンノの号令の下散開し、これを回避!


リズマ「はあっ!」サッ ブンッ


 リズマはストームトルーパーの死体からイオングレネードを拾い、マシーンめがけ投擲する!
ドオンッ!
機械類を犯すプラズマエネルギーが爆ぜ、電光が閃く!


ネーア「やったか!?」

メク『ムッフッフッフッフ!効かんなあ!』


 しかし白煙の向こうから姿を現した敵機は、損傷軽微!
対イオン兵器防御が施されているのだ!


メク『貴様から地獄に送ってやるぞ、女ァ!』カチッ


 ジャキジャキ!ドドドドドドドドドドキュン!
マシーン両腕部のブラスターガトリング砲がリズマめがけ火を噴く!


リズマ「くうっ……!」チュインチュインチュインチュイン!


 リズマは秒間数十発のペースで降り注ぐ弾雨をかろうじて防ぐ!
シンノやクワイ・ガン=ジンによるトレーニングがなければたちまちハチの巣にされていたような苛烈な攻撃である!


シンノ「そこまでだあっ!」バッ ブオンッ!

メク『むおおっ!?』


 そのとき横合いからシンノが飛び込み、マシーンの右腕を切断!
体勢を崩させ、射撃を中断させる!


ネーア「間抜けめ、背中ががら空きじゃあっ!」バッ ガシッ!


 さらにネーアが敵の背中に飛びついた!


ネーア「おらっ!おらあ!」ドジュッ!バズンッ!


 そのままライトセーバーで装甲を滅多刺しにする!
メクが座するコックピットに警報音とアラート表示の赤い光が満ちる!


メク『チイーッ!クソガキがあ!』カチッ


 ギュ、グイイイインッ!
メクはマシーンの上半身を高速回転させて反撃した!


ネーア「ぬわわわわわわわわわーっ!?ぐへっ!」グルングルングルン ズデーッ


 ネーアは遠心分離機のように振り回された挙句地面に放り出される!
クラクラしながらも顔を上げると、脚を高く振り上げる敵機の姿!


メク『踏み……ウップ、オエ……踏み潰してやる!』

ネーア「げえーっ!?」

リズマ「ネーアさん!危ない!」バッ


 ズシンッ!
間一髪、リズマがネーアを抱え上げて退避!


メク『ハエどもがちょこまかと!死ねーっ!』カチッ


 ドドドドドドキュンッ!
左腕ブラスターガトリング砲の火箭が追う!


リズマ「そんな野蛮な武器ではジェダイの騎士を捉えることなどできませんよ……!」シュタタタタタ


 しかしリズマ、ネーアを抱えたまま巧みな回避機動を繰り出してこれをすり抜ける!


ネーア「わーいよいぞよいぞー!やーいでくのぼうここまでおいでー!」キャッキャ

メク『むがあああっ!貴様らも共和国と同じか!この俺を、メク・マーケン様を愚弄するのかーッ!』ドドドドド

シンノ「俺を忘れてもらっちゃこまるな……!喰らえ!」グオッ


 さらにシンノが切断した右腕をフォースで持ち上げ、横合いから投げつけた!


メク『おごあっ!』ガシャーンッ


 腕は頭部のコックピットに直撃!
キャノピーが弾け飛び、メクは激しい衝撃に晒されて悶絶!


ネーア「今じゃリズマ!妾をあそこまで投げい!」

リズマ「投げ……!?はい!せいやあっ!」ブンッ


 シス卿テイクオフ!


メク「ムウウーンッ……何っ!?」


 どうにか意識を取り戻したメクが見たのは、宙を舞う黒ローブの少女の姿だった。


ネーア「今度こそ終わりじゃ!たあああああーっ!」ブウンッ!


 ライトセーバー、唐竹割り一閃!


メク(バ、バカな……こいつら、本当は、本当に、本当の、ジェダ――)


 赤い刃はメク・マーケンの体を正中線上で断ち切ったばかりか、巨大マシーンの胸板、腹、下腹部までも掻っ捌く。
ネーアが着地して飛び退いた直後、マシーンは尻餅をついて擱座し爆発した。


ネーア「ふう……」パンパン クルッ


 ネーアはローブについた煤を払ったあと、ジェダイ二人の方を振り返って言う。


ネーア「楽勝じゃったな」

リズマ「えっ、あ、はい」

シンノ「ああ、踏み潰されそうになってた奴なんていなかったな……」

ネーア「しかしリズマ、よくシスの暗黒卿を助けてくれたのう?」

リズマ「えへへ、マスターの妹ですし……私にとってもハクカ以来の仲間ですから」

ネーア「リ、リズマ……そなた……」ジーン

『ガガッ……緊急放送!緊急放送!』


 三人が一息吐いたとき、天井のスピーカーが喚き始めた。


ネーア「おっ、何ぞよ何ぞよ」

リズマ「これは……分離主義者の連絡放送!」

シンノ(しかしこの声、どこかで……)

放送『……独立星系連合の全兵士に告ぐ!こちらはバランタスカ・シブ・スターバルである!』

シンノ「!」


 その名前を聞いた時、シンノの記憶が連鎖的にフラッシュバックした。
クローン戦争時代……カンター宙域、惑星イバラックの戦い……そこで相対したカリーシュの将軍!


シンノ「まさか、あのスターバル将軍が……この惑星クマモッテに!?」

ネーア「知っているのかシンノ!?」

リズマ「お二人とも、今は静かに!」シーッ

放送『現在我々は帝国軍の卑劣なる奇襲を受けつつあり、諸君におかれてはその正当なる迎撃に全力を注いでいることとは思うが……もう一つ、注意を払うべきインシデントが生じた!』

シンノ(注意を払うべきインシデントだと……?)

放送『それは――ミコア・ルマ・ヤマタイトである!』

シンノ「ミコア!?」
リズマ「ミコアですって!?」
ネーア「ミコアじゃと!?」

放送『銀河帝国の最上級重要人物であるこの女は我々の捕虜となっていたが、つい数時間前、この騒ぎに生じて脱走し行方をくらませたのだ!』

シンノ「脱走!?」
リズマ「脱走ですって!?」
ネーア「脱走じゃと!?」

放送『緑色のネックレスを下げたヤマタイティアンの少女であるから、兵士諸君にも容易に判別はできるはずである。発見次第司令部に通報すべし!以上放送終わり!ガガッ』

ネーア「聞いたか、脱走じゃと!やるのうあいつも!クイナワでもちょこちょこいいとこ見せてはおったが――」

シンノ「大変だ……!二人とも、先を急ぐぞ!」ダッ

リズマ「あっ、マスター!?」


 三人は入口の向かい側にエレベーターを発見し、飛び乗った。
次の「四天王」がいると思しきフロアまで直通である。
ズズウン……
低い振動が上昇中のエレベーターを震わせる。
城内のどこかに帝国軍機が投下した爆弾が落ちたのだろう。


シンノ「ミコア姫は分離主義者にとっても貴重な人質のはずだ。下手に脱走して戦場に迷い込むくらいなら、厳重に警護されていたほうが安全だったのに……!」

リズマ「うう……きっと、彼女も必死でやったことなんでしょうけれど……」

ネーア「まあ警護してる分離主義者を狙って爆弾が落ちるかもしれんし、一概に悪手ともいえんがのう」

シンノ「それだけじゃない。帝国軍が衛星軌道上からの艦砲射撃というもっとも手っ取り早い殲滅手段を取らないのは、ミコア姫が巻き添えになるのを恐れているからだ……」

リズマ「帝国軍はいったいどこからミコア姫の居場所を知ったのでしょう?」

ネーア「どうせまたテイティスじゃろ。あいつやることなすこと意味不明じゃし」

シンノ「それはわからないが、とにかく帝国軍はミコア姫の身柄を狙っている。それさえ確保してしまえば、残りを艦砲射撃で焼き払いにかかるのは想像に難くない」

ネーア「……それは何かまずいのか?なんだかんだ人質扱いの分離主義者よりは、帝国軍に渡る方がミコアの身柄はまだ安全ぞよ」

リズマ「私たちもまとめて焼き払われることになるんですよ」ヒソッ

ネーア「ぎゃあああああ!大変じゃ!大変じゃ!」ワタワタ

シンノ「それにさっきのスターバル将軍は、小グリーヴァスとも呼ばれた冷酷無比の男……この混乱のこともある、分離主義者の手に渡れば今度はミコア姫本人が危険だ!」

ネーア「なんじゃそれ、どっちにしろバッドエンドぞよ!どうするんじゃ!」

シンノ「俺たちがミコア姫を確保するしかない……分離主義者よりも帝国軍よりも早く、だ!」


 エレベーターが停止し、扉が開く。
三人は直線の廊下を進み、突き当りにあった「KUMAMOTTE-BIG4」と書かれた扉を押し開けた。
中はまたも大部屋で、壁の一面がトランスパチスチール張りの大窓になっている。


「……マーケンがやられたか。しかし奴は我々の中では最弱……クマモッテ四天王の面汚しよ」


 窓を背にして胡坐をかいていた人物がすっくと立ちあがり、手にした長柄の武器で地面をガンと突いた。
元々はトカゲ人間ともいうべき容貌のエイリアンだったようだが、全身を銀色の装甲に覆っているあたりあからさまにサイボーグである。


シュバルゴン「俺はテクノ・ユニオン最強の戦士、シュバルゴン!」

シンノ「貴様が二人目の四天王だな」ブオンッ

シュバルゴン「いかにも。その手の武器、ここまで辿り着いた腕前、どうやら本物のジェダイらしいが……このフロアは断じて通さん!」ガシャッ ゴウッ!


 そのサイボーグは背中からウィング型のジェットパックを展開し、垂直上昇!


ネーア「飛んだあ!?」

シンノ「ミコア姫はまだ城の深部に――この先にいるはずなんだ!突破するぞ!」

リズマ「イエス、マスター!」

シュバルゴン「一千年続いた貴様らの伝統も、テクノロジーの鎧は貫けぬものと知るがいい!」ガシャッ ズドドドドドドドドッ!


 シュバルゴンが胸部装甲を展開し、その内側から数十発のマイクロミサイルをばらまくように発射した!

>>64
>リズマ「えへへ、マスターの妹ですし

「妹」扱いなの?
姉弟子だから「姉」かと思ったけど、
ちっこい子=「妹」枠扱いって事?

まさかの四天王最弱ネタww

/多忙につき次回の更新は27日以降となります
/不規則になってしまい申し訳ありません


管制ドロイドA『34区画、トランスポートステーション南方に敵部隊の進入を確認。第5、6中隊迎撃せよ』

管制ドロイドB『東方の荒野地帯に敵ウォーカー部隊の降下を確認。イオンカノン砲台、制圧射撃開始』

管制ドロイドC『北北東から敵戦爆連合、およそ50機が接近しつつあり。各対空砲弾幕展張!』


 一方キャッスル・クマモッテ内のドロイド軍司令室は、帝国軍の攻撃への対応に忙しかった。
壁面の大型モニターにはヒュガーの地図が大写しになり、自他の部隊の動向が表示されている。
管制ドロイドたちは各々のコンソールでその情報を確認しつつ、各部隊に指示を飛ばしていた。


アガメムノン『せれのーらんと公、コノ分デハ半日ガ限界デス』

マクシャリス「ふん、やはりな……こんな旧態然とした城に籠って戦えるほど、奴らは甘くないということだ」


 その中央でスーパータクティカルドロイドのアガメムノンとマクシャリスが言葉を交わす。
マクシャリスはこの危機的状況にあっても動揺を露わにしないばかりか、微笑さえ浮かべている。
手元のコンソールを操作し、スターバル将軍への通信回線を開く。


マクシャリス「スターバル。応答せよスターバル、こちらはマクシャリス・セレノーラント・ドゥークー」

スターバル『ザザッ、ガリガリ……公、セレノーラント公!申し訳ありません、帝国軍の通信妨害が城内にも……ガリガリガリ』

マクシャリス「構わん。ミコア姫の捜索状況はどうだ?」

スターバル『はっ、目下全力で捜索中ですが……ザザザ……いまだ発見できておらず……ガリガリガリ』

マクシャリス「ほどほどにして引き上げろ、時間は有限だ。ミコア姫はあくまで帝国軍を引き付けるエサでしかないんだからな」


 それだけ伝えて通信を切り、椅子を立つ。


マクシャリス「私はそろそろヴェンジェンスに移る。後のことは任せたぞ……アーチ公とガスター殿のこともな」

アガメムノン『承知シマシタ』


 そしていつもの白マントを羽織り、颯爽と司令室を後にした。
ドロイドたちが忙しく行き交う廊下を、マグナガードを引き連れて悠々と進む。


マクシャリス(計画通り。すべて俺の計画通りだ)


 懐から手のひら大のスパイダー・ドロイドを出して弄ぶ。
ドロイドは赤いランプをチカチカさせながらマクシャリスの腕を登り、肩に乗った。


マクシャリス(もはや「スター・サクリファイス作戦」は誰にも止められん……!)


 心中でそう独り言ちて、マントを翻しつつ発着場へ向かう。
彼にとってクマモッテ四天王は忌むべき旧体制の一部であり、捨て駒でしかなかった。
そのため彼らの戦闘に特別の関心を払うことはなく、その相手がジェダイであることばかりか、その戦場に一人の少女が迷い込んだことにも気づくことはできなかったのである。


シュバルゴン「ゼヤアッ!」ブンッ

ネーア「くうっ……!」バチバチッ


 シュバルゴンのエレクトロ・ハルバード攻撃!
ネーアはかろうじてライトセーバーで受け止めるも、その重さに体勢を崩す!


シュバルゴン「隙ありァ!」ブウンッ

ネーア「おごっ!?」ドガッ


 そこを狙って尻尾の打撃が叩きこまれた!
地面をバウンドしながら吹き飛ぶシス卿!


シュバルゴン「トドメだ!」ジャキッ

リズマ「ネーアさん!危ない!」ブウンッ

シュバルゴン「ぬおおっ!?」シュゴーッ


 シュバルゴンは前腕部に仕込んだブラスターで追撃を図るが、背後からリズマに斬りかかられて中断!
背中に浅い傷を残しながらもジェットパックで空中へ退避!


リズマ「くっ、また空中に……!」

シュバルゴン「フハハハハ!貴様らのサイコキネシスもこの高さまでは届くまいて!」シュゴーッ


 シュバルゴンが高笑いしつつ地上のリズマに反撃を加えようとした、その時!


「おおおおおお……!」ダダダ

シュバルゴン「ハハハ、ハ?」クルッ


 背後から聞こえてきたのは、気合の声と連なった足音。
振り返る。


シンノ「うおおおおおおーっ!」ダダダ


 ジェダイマスターが壁を斜めに駆け上ってくる!


シュバルゴン「何ーっ!?貴様、バカな!そんなことが!」

シンノ「落ちろ!鉄トカゲーっ!」ブンッ

シュバルゴン「ぐおああーっ!?」ドガッ


 シンノの飛び蹴りがガードに先んじて敵の鳩尾に突き刺さる!
シュバルゴンは青い血液と金属片を撒き散らしながら吹き飛び、背中から壁の大窓に激突!
破砕音とともに大窓に蜘蛛の巣状の亀裂が生じる!


シュバルゴン「ぐっは、貴様ら……こんなことで、俺を……!」モガモガ

ネーア「ハアーッ……無限のパワーを!食らえーっ!」ズババーッ

シュバルゴン「ぐわあああああ!?」バリバリバリ


 そこへネーアが追い打ちとばかりにフォース・ライトニングを浴びせる!
窓全体が粉砕!
シュバルゴンも空中へ放り出されるが、かろうじて窓の縁にしがみつく。


シュバルゴン「ゴボッ、貴様、その技……まさか、シス、の……」

ネーア「しつこい!」ゲシッ


 ネーアはその手を蹴り飛ばし、二人目の四天王をフロアから放逐した。


ネーア「ハアーッ、ハアーッ……前座のくせに生意気なんじゃ……」

シンノ「ネーア!大丈夫か、さっきのダメージは!」タタタ

ネーア「なに、大事な――ゲフッ!ゴホッ!――大事ない、ぞよ」

リズマ「絶対大丈夫じゃないじゃないですかあ!」


シンノ「ミコア姫のことは気になるが、少し休んでいくか?俺もちょっとキツくなってきたところだ」


 ジェダイマスターの顔にも疲労の色が現れ始めている。
衛星軌道上におけるテイティスとのドッグファイト。
地上での帝国軍・ドロイド軍との戦闘。
そしてクマモッテ四天王……メク・マーケンはともかく、シュバルゴンは並みのジェダイナイトよりよっぽど強い難敵だった。
クローン戦争中でもこれほどの過酷な連戦はなかっただろう。


ネーア「そりゃありがたいのう、妾はそろそろチョコ切れで……」

リズマ「あっ、こっちに冷蔵庫がありますよ。シュバルゴンのものでしょうか」ガチャッ

シンノ「飲み物はないか?火事場泥棒みたいで気が引けるが、いただいていこう」


 しかしその小休止はすぐに遮られることとなる。
足元から重い振動が伝わってきたのだ。
それは爆撃のものと違って体の芯を揺すぶるような響きを伴い、十秒近く持続した。


リズマ「……今のは……地震?」

ネーア「モグモグ、このタイミングでか?なんじゃろな……なんか怪しいぞよ」

シンノ「……何かあるな。二人とも、悪いが休憩は終わりだ。先を急ごう」


 シンノとリズマはスポーツドリンクを飲み干し、ネーアはチョコレート・バーの残りを口を放り込んで、シュバルゴンのフロアを出る。
三人目の部屋へ通じるエレーベーターの中、シンノは呼吸を整えつつ思考を巡らせた。


シンノ(大がかりな仕掛けができるとしたら、ホームグラウンドである分離主義者だが……ドゥークーの亡霊どもめ、いったい何を企んでいる?)

/>>68ネーアはハクカ以来シンノの妹を詐称していたので、それを引き合いに出した形です
/次回の更新は2日以降になります

>>77
そう言えばシンノが自分の妹と紹介していましたね
すっかり忘れてました
申し訳ない

次回の更新までにもう一度1作目から読み返して来よう


 同時刻、惑星タンガシムは昼時だった。
反乱軍基地は相変わらず曇り空の下で寒風に晒されている。


バヤット(今回の補給はかなり充実していたな。これでひとまず艦隊行動がとれるようになった)ガチャッ


 その司令官であるバヤットは補給物資の確認を終え、施設内に戻った。
コートを脱いで従兵に任せ、一人廊下を進みつつ思考を巡らせる。


バヤット(しかし本隊も余裕はないだろうに、これだけQC方面軍にリソースを割いてくれるというのは……)スタスタ


 QC宙域の反乱軍には、惑星ハクカで帝国軍の衛星砲台ラグナロクを破壊した実績がある。
他の宙域での戦績が鳴かず飛ばずな現状、反帝国勢力全体から期待を集めるのは自然な成り行きだ。
しかしそれは今は亡きシカーグ将軍とジェダイたちに支えられたものであり、バヤットからすれば諸手を上げて受け入れることは難しい。


C7-BDB『ナアゆすか、モウワカッタカラ機嫌ナオセヨオ……』


 廊下に面した半開きの扉から、ドロイドの呆れたような声が漏れ聞こえる。
バヤットは何気なく立ち止まり、中の様子を窺った。
C7-BDBとユスカがこちらに背を向ける形でソファに腰かけている。


ユスカ「簡単に言わないでよ……ああ、私、本当バカみたい。今まで散々馴れ馴れしく理解者面してさ……まるっきりピエロよね……」ズーン

C7-BDB『チョットバカシ鈍感ダッタッテダケデ落チ込ミスギダロオ……テイウカ悪カッタト思ウナラ、しんのタチニツイテ行ケバヨカッタジャネエカ。腕ップシデ挽回シロヨ』

ユスカ「そんなことできるわけないじゃない、どんなツラして会えっていうのよ!」ガーッ

C7-BDB『イキナリキレンナヨ、情緒不安定カ!テイウカオ前、しんのノコトニ限ッテ動揺シスギダロ。恋シテンノカ?エ?』

ユスカ「ああ、恋……そうだったのかもしれないわね……」

C7-BDB『ウッソダロオ前』

ユスカ「でももう何もかも手遅れよ。そもそもジェダイでもないくせに一丁前に仲間になった気になってたのが間違いなのよ……リズマの一人勝ちよね……ふふふ……」スック

C7-BDB『オ、オイ……ドコ行クンダ』

ユスカ「ちょっと手首でも切ろうかなって」

C7-BDB『落チ着ケェ!』

バヤット「……」


 ……盗み聞きのような真似をしてしまった。
取っ組み合う二人の背中を後目に、扉の前を離れる。


バヤット(……俺はあんな風に仲間を想ったことがあっただろうか)


 「仲間を信じられないのか?」――女賞金稼ぎの言葉が脳内で反響する。
部下は信用できるが、仲間は信用できない。
兵士は信用できるが、ジェダイは信用できない。
不確かだからだ。
それがバヤットという男だった。


バヤット(……いや、今更こんなことを考えても仕方がない。シンノたちを身一つで送り出してしまった以上、俺が彼らにしてやれることはもう何もない)

バヤット(そう、何もかも手遅れなんだ)


シンノ「はあっ!」ブウンッ

スサンノ「ぬああっ!」ボウッ


 バチッ!バチチ!
シンノのライトセーバーと敵の炎の剣が衝突し、鍔迫り合いとともに火花を散らす!


リズマ「せいやあっ!」ブウンッ

スサンノ「なんの!」バチッ


 敵は二刀流!
横合いからのリズマの攻撃はもう一方の炎剣に弾かれる!
さらに敵はその勢いのままに体をひねり、シンノめがけ回し蹴りを繰り出す!


スサンノ「喰らえい!」ブンッ

シンノ「ぐはあっ!?」ドガッ


 シンノはこの巧みな攻撃を受け損ね、吹き飛ばされる!
背中から壁に叩きつけられ、その手からライトセーバーが弾け飛ぶ!
シンノは泡を食ってセーバーに手を伸ばすが、敵はその隙を見逃さない!


スサンノ「もらった!」ビュビュンッ


 両手の炎剣をシンノめがけ投擲!


ネーア「させぬぞ!はあっ!」シュバッ ブウンッ


 しかしその軌道にネーアが割り込み、ライトセーバーで炎剣を撃墜!


シンノ「ネーア!助かった!」パッ


 シンノはその隙に体勢を回復し、ライトセーバーを拾って構えなおす。


スサンノ「ふむ、その動き……そこの小娘、やはりシスか」


 敵は落ち着き払って分析する。
その風貌は、緑色の甲冑に身を包んだ鎧武者。
スサンノ・リ・ヤマタイト……「三人目」であるこの男はそう名乗った。


ネーア「ハア、ハア……そうとも。よくわかったのう?」

スサンノ「ヤマタイト王族は元来シスの血よ。ゆえにこのような技が伝わっておるのだ」ヒュパパ


 スサンノが両手で印を組むと、空中に二振りの青白い炎の剣が生じた。
それを掴み取り、再び二刀流となる。


シンノ(あの炎、フォース・ファイアーの……!)ゴクリ


ネーア「カカカカカ!そんな大層な印まで組んで、剣の一本二本を作るだけとはな……そこまで劣化した技を使える程度でシスの末裔を気取るとは片腹痛いわ!」

シンノ「……俺たちは何も分離主義者を潰しに来たわけじゃない、お前の同族……ミコア・ルマ・ヤマタイトを助けに来ただけだ。それでもあくまで立ちふさがるのか?」

スサンノ「応。リ家とルマ家は三代前より王位を争い、先の大戦においても独立星系連合と共和国に分かれて相対した間柄ゆえ……ハアッ!」シュバ ブウンッ


 スサンノは鎧の重量を感じさせない俊敏な動きで踏み込み、斬りつける!


シンノ「くうっ!」バチバチッ


 シンノはかろうじて受け止め、再度鍔迫り合いに入った。
敵が兜の下から鋭い眼光を覗かせる。


スサンノ「奇異なのは我輩より貴様らよな。なぜジェダイがヤマタイトの姫君を求める?」バチバチ

シンノ「ミコアは俺たちの仲間だ。それがお前たち危険なテロリストに囚われている……助けに行くのは奇異でもなんでも、ないだろう!」ブウンッ


 シンノはセーバーを強引に振り抜く!
スサンノの右手の炎剣が切り裂かれ、爆散!


スサンノ「仲間だと!ヤマタイト王国の傀儡君主が、帝国の手先が、仲間だと言うか!」ブンッ シュバッ


 スサンノは残る左の剣でシンノを牽制しつつ飛び下がる。
そこへ横合いからリズマが斬りかかった!


リズマ「やああっ!」ブウンッ

スサンノ「くっ、貴様もジェダイか……!」

リズマ「ミコアさんの仲間でもあります……!道を!開けなさい!」ブウンッ

スサンノ「ええい、鬱陶しい!ヤマタイトの教え、曰く!」バチバチ ヒュパパ


 スサンノはリズマの攻撃をあしらいつつ、空いた手で印を組む。
手の前に火球が生じる!


ネーア「リズマ!それは防げん、避けろ!」

リズマ「っく――!」サッ

スサンノ「カアッ!」ボウッ


 火球はたちまち一抱えもあるサイズに膨れ上がって射出される!
リズマは地面スレスレまで体を沈めて回避し、バク転で距離を取った。
火球は彼女の背後の壁を焼くに留まり、三人と一人は再び一定の距離を置いて対峙する。


リズマ(くっ、攻めきれない……!)

シンノ(また仕切り直しか!時間がないってのに!)

ネーア(ハアハア、いい加減体がキツくなってきたぞよ……!)


スサンノ「ハアーッ……ヤマタイトの教え曰く、大いなるフォースの意思はあらゆる運命を決定づける。人の生死も然り」


 スサンノは左手の炎剣の腹を手でなぞった。
青白い炎は粘土細工のように引き延ばされ、剣から槍へと形を変える。


スサンノ「ミコアの運命にしても然りだ。死ぬべき運命ならば誰にも生かすことはできないし、生きるべき運命ならば誰にも殺すことはできまい」

シンノ「だから放っておけと?ゴメンだね。大切な仲間が、それも小さな女の子が死ぬ運命なんて、意地でも変えてやるさ」

スサンノ「運命は変えるものではない。フォースを知り、その因果を知ることによって、納得し、受け入れるものだ」

シンノ「じゃあお前はその暗黒面の力をなんのために使うんだ?」

スサンノ「運命をあるがままに執行するためだ。執着が過ぎるな、ジェダイ!」シュザッ


 スサンノが槍を抱えて踏み込む!


シンノ「言ってろ!」ブウンッ

スサンノ「ぬるいな!ハアッ!」バチッ ブウンッ

シンノ「くがっ……!」ガッ ズザザ


 シンノは先制攻撃を捌かれ、逆に遠心力を乗せた長柄の打撃に押しやられる!


リズマ「マスター!」ブウンッ

ネーア「おのれ!前座三号ーッ!」ブウンッ


 リズマとネーアが左右から斬りつける!


スサンノ「甘い!」パッ


 スサンノ、槍を床について棒高跳びのごとく跳躍!
リズマとネーアの刃は虚しく柄を打つ!


リズマ「な!?」
ネーア「に!?」


スサンノ「喰らえい!」ギュルンッ


 そのまま荒っぽいポールダンスのごとく体を回転させ、二者に蹴りを見舞う!


リズマ「きゃあっ!」ドガッ
ネーア「ぎゃああ!?」ドガッ


シンノ「くそっ……!だが!」ズザザッ


 シンノは姿勢を立て直し、スサンノの着地を狙ってフォース・プッシュを浴びせる!


シンノ「そこだああーっ!」ドウンッ

スサンノ「浅はかだな!」キュインッ


 しかしスサンノの鎧はこの攻撃を無効化した!
おそるべきはヤマタイト王朝のロストテクノロジー!


シンノ「何!?バカな、その鎧!」

スサンノ「運命をはき違え、自分の力を過信する。だから墓穴を掘る!」ヒュパパ

ネーア「がはっ……いかん!シンノ!」

スサンノ「カアーッ!」ボウッ


 先ほどより一回り大きい特大の火球が放たれる。
シンノは渾身の攻撃を空振りした直後、隙だらけの姿勢のまま、死の輝きが迫ってくるのを見た。


シンノ(……俺、死ぬのか?こんなところで……?)

リズマ「――マスターッ!」


 ドオンッ!
……火球が炸裂し、ジェダイマスターの影を呑み込んだ。

マスターッ!
火球が炸裂し、ジェダイマスターの影を呑み込んだ。

シンノ「あっぶねー、俺の影死んだわ」

んなわけあるか!
と言う所で乙でした


トルーパーA「オラオラ!道を開けやがれ!」バシュバシュ

バトルドロイドA『ギャー!』ガシャンッ

トルーパーB「ガラクタどもがーっ!」バシュバシュ

スーパーバトルドロイドA『!?』ガシャンッ


 一方クマモッテ・キャッスルに隣接したドロイド工場では、帝国軍が防衛部隊と交戦中だった。
ストームトルーパーたちは製造設備の陰から次々に出現するドロイドたちを排除しつつ、城内に通じる地下通路を目指す。


トクティカルドロイド『全力ニテ阻止セヨ!ココガ最終防衛線ナリ!』

バトルドロイドB『ウワー!来ルナ、ばけつ頭ドモー!』バシュバシュ

バトルドロイドC『来タラ撃ツゾ!撃ツゾーッ!』バシュバシュ

トルーパーA「畜生め!もう撃ってるじゃねえか!」サッ

トルーパーB「ええい、なんだって工場なんかにこんな大部隊がいやがる!?」サッ

トルーパーA「ほんとだぜ、まさかこっちの動きを――」

『キュイイイイイイイイ』ガシンガシン


 掩体に隠れるトルーパーたちに、横合いから接近する影あり!
四本の脚で爬行する異形のスパイダー・ドロイドである!


トルーパーA「!危ねえ、どけっ!」ドンッ

トルーパーB「何!?」

スパイダードロイド『キュイイイイ』バシュバシュバシュ

トルーパーA「ぐわあああーっ!」ドバ

トルーパーB「バカな!オスカーッ!」

スパイダードロイド『キュイイイイイ……』チキキ


 スパイダードロイドが一人目を仕留め、二人目に照準を合わせたその時。


ナインス「ハアアーッ!」ブウンッ


 隣のプレス機の上に尋問官が姿を現し、飛び降りざまライトセーバーを振り下ろした!


スパイダードロイド『キュガガガーッ!?』ズバ ガシャンッ


 スパイダードロイドは真っ二つに切り裂かれ、擱座する。
ついでナインス・ブラザーは地下フロアへの入口に陣取るドロイド集団を睨み、左手でライトセーバーを投擲!


ナインス「邪魔だーッ!」ビュウンッ

トクティカルドロイド『グワーッ!?』ズバッ

バトルドロイドB『ギャアーッ!』ズバッ

バトルドロイドC『ウワーッ!』ズバッ


 密集していたドロイドたちはまとめて胴体を両断され、大破!


トルーパーB「じ、尋問官殿……!」

ナインス「貴様らは弾避けなど考えず突っ立ってブラスターを撃っていればいいんだ。できないならトルーパーなどやめてしまえ」


 ナインス・ブラザーはトルーパーにそう言い捨て、走った。
フォースでセーバーを引き寄せ、掴み取る。
地下フロアへ通じる扉を四角形に切り抜き、蹴破って、突入。
それだけの動作の中でも、尋問官は焦燥を覚えずにはいられなかった。


ナインス(まさか敵がこちらの動きを読んで待ち構えているとは……想定外のタイムロスだ。本来ならとうに城内へ突入し、ミコア姫の身柄を確保できていたものを!)タタタ


 数階層分が吹き抜けになったコンベアー・フロアに出るとすぐ、ジェットパックを背負った味方が合流する。
別ルートで侵入したマンダロア兵たちである。


ジルコ「ナインス・ブラザー殿!」シュゴー スタッ

セラ「遅れて申し訳ありません。敵の待伏せを受けまして」シュゴー スタッ

ナインス「どこも同じだ。総督の隊はどうした!」タタタ

セラ「向こうも事情は同じのようですが、間もなく発着場に突入できるとのことです」タタタ

ナインス(いよいよ急がねば……タクージン総督にも、シンノ・カノスにも、遅れるわけにはいかん!)


 そう考えてから、ハッとする。


ナインス(――今のは、フォースの予感か?シンノ・カノスが、ここに!?)


スサンノ「――な」

シンノ「はあああああーーーっ!」ブウンッ


 ザンッ!


スサンノ「に」


 スサンノの右腕が槍ごと断ち切られ、宙を舞った。
シンノ・カノスは装束の端が少し焦げてはいたが、無傷だった。
それが今、スサンノの正面、足元の床に「着地」する。


スサンノ(どうやって――どうやってあの一撃をかわした)


 スサンノの思考は混乱の極みにあった。
それでも左手では反撃の印を結ぶ。
しかしその作業は、この状況にあってあまりにも「遅すぎた」。


リズマ「やあああーっ!」ブウンッ


 背後からリズマが踏み込み、追い抜きざま、敵の背中めがけ横一閃。
火花が散る。
スサンノはのけぞり、一歩、二歩後ずさって――そのまま、仰向けに倒れ込んだ。


シンノ「ハアーッ、ハアーッ……やった、のか」ガクリ


 シンノは立ち上がろうとしたが果たせず、膝をついた。


リズマ「はあ、はあ……最後のは少し、危なかったですね」ガクリ


 リズマも座り込んで肩で息をする。


シンノ「ああ、ありがとうリズマ。お前の助けがなければ――」

スサンノ「ゴボッ、なるほど……そうか」


 スサンノが口を利いた。
シンノとリズマは緊張の面持ちで視線を向ける。
すわ復活かつ思われたが、敵は立ち上がることもできず、一言喋るたび血を吐いている有様だ。


スサンノ「女、貴様が……貴様があの瞬間、サイコキネシスで空中へ跳ね上げて……避けたのだな」

リズマ「……ええ、そうです。私がいる限り、マスターを殺すなんて絶対にさせませんから」

シンノ「リズマ……」


ネーア「あたた……しかし、解せんのう。スサンノとやら」


 ネーアが打撲傷をさすりながら進み出て、末期の鎧武者を見下ろす。


ネーア「いやしくもヤマタイトの王族とあろうものが、門番なんぞに甘んじるとは」

スサンノ「カッ、ハハハ……我輩は、クマモッテ四天王にあらず。この部屋は本来、スターバルが守護すべき空間……」

シンノ(スターバルが、三人目の四天王……)

ネーア「ならばなぜ妾たちの前に立ちふさがった」

スサンノ「死地を、得んがためよ……帝国の僕に成り下がったヤマタイトにも、勝ち馬に乗ること一つできなんだ我輩にも、未来はない」

スサンノ「だが我がリ家の歴史はすなわち、臣下たち、政敵たちの歴史。マクシャリスのような愚物に、骸まで、利用は……ならばいっそ、それこそ、この城を上り詰めるような勇士に……カハッ!ヒューッ、ヒューッ」


 スサンノはいよいよ今際の時を迎えながらも、絞り出すように言葉を続ける。


スサンノ「行け、勇士たちよ、ゴボッ!四人目は、ドゥークーの、秘密の、アプレンティス……奴は、我輩よりも、なお……ゲホ、ゴボッ」

スサンノ「……我輩、は……貴様らを、見て……いる……」

スサンノ「……」


 やがてその言葉も止まり、緑の鎧武者は動かなくなった。
フロアを静寂が支配し、城外の戦闘音が遠く響く。


シンノ「……ドゥークーの弟子だと……」

リズマ「またシスですか……まさか、テイティスみたいな……」

ネーア「あー、冗談じゃない……あんなのが何人もいたらたまんないぞよ」

シンノ「ハアーッ、とにかく行こう……下手に休むと疲れが一気に来そうだ」


 三人は気丈に歩を進め、次の部屋へ続くエレベーターへ乗り込んだ。
すでに全員が疲労の極致にあり、会話はない。
モーターの微振動、外の戦闘の低い響きが、シンノの眠気を誘う。


シンノ(クッ……いかん、いかん)ブンブン


 彼がかぶりを振ったところで、さらなる振動が襲った。
上下左右に揺すぶるような強烈な振動である。


ネーア「わたた!?」フラフラ

リズマ「マ、マスター!これは!」

シンノ「また地震か……!」


 一体この城に……惑星クマモッテに、何が起こっているのか。
エレベーターは停止せずに上昇を続け、目的のフロアへ到着した。
三人はもはや決まりきった作業とばかりに廊下を進み、「KUMAMOTTE-BIG4」と刻まれた扉を押し開く。


ネーア「オラオラーッ!次はどいつじゃあ!ボロボロのクタクタじゃが相手になったるぞよーっ!」バアンッ

「あっ、ネーア様!?」


 三人は目を剥いた。
そこにいたのはまさしく、彼らが求めるミコア姫だった!


シンノ「ミコア姫!?」
リズマ「ミコア姫!」
ネーア「ミコア!?」キョロキョロ

ミコア「リズマ様も――ああっ、シンノ様!」タタタ


 ミコアはシンノの顔を見るといよいよ喜色満面になり、ぱっと彼に駆け寄って抱き着いた。


ミコア「私を、助けに来てくださったのですね……!嬉しいです、なんとお礼していいか……!」ギュー

シンノ「ははっ、ははは!礼なんていいんだ、姫が無事なら……!」

ネーア「……なんか怪しいのう、幻術とかじゃないじゃろうか……そもそも、なんでこんなところにいるんじゃ?リズマも変じゃと思わんか」クルッ

リズマ「……ミコア姫とはいえ、マスターに抱き着くなんて……ジェダイの戒律が……」ブツブツ

ネーア「うわあそなたそんなキャラじゃったか」

シンノ「怪しいったって……ああ、そういえば、この部屋の四天王はどこにいるんだろう?」

ミコア「四天王……?もしかして、あの方でしょうか」


 ミコアは片手でシンノの足にしがみついたまま、部屋の奥の方を指し示した。
そこは床が広範囲に渡って焦げていて――その中央に、黒焦げの焼死体が一体あった。


シンノ「な、何だあれは!?誰だあれは!」

ミコア「わかりません、何か黒い服を着た、怖い顔の方でしたが……」


 ミコアは死体から顔を反らし、胸元のホロクロンの鎖をぎゅっと握りしめる。


ミコア「私、閉じ込められていた部屋から抜け出してこの部屋に逃げ込んだのですが、あの方に捕まりそうになって……でも、そうしたらテイティスがやってきて、このように……」

シンノ「テイティスがここに!?」

リズマ「奴が、こちらの先回りを……?抜け道か何かが……」

ネーア「あんな四天王なんてふざけたシステムを作っておいて抜け道がありますなんて、そりゃないじゃろ……!」

シンノ「しかしスサンノより強かったらしい四人目を殺すなんて、奴以外にはそうそうできるものじゃないのはたしかだが……」


 四人が休憩がてら状況を分析していた、その時。
奥の扉が二本のライトセーバーに貫かれ、切り抜かれて、破壊された!


スターバル「――グハ!グッハハハ!ついに見つけましたぞミコア姫ェ~!」ブウンッ

マグナガードA『!』ジャキッ
マグナガードB『!』ジャキッ
マグナガードC『!』ジャキッ
マグナガードD『!』ジャキッ


 踏み込んできたのはスターバル将軍と四体のマグナガード!
一人一人の技量はともかく、総合的な戦力はさっきのスサンノより数段上だ!


シンノ「に……逃げろォ――ッ!」ダッ

ネーア「賛成ーッ!」ダッ

ミコア「ええっ、た、戦わないのですか!?」

リズマ「ミコアさんも早く!」ダッ

スターバル「侵入者とはジェダイだったか!構わん、全員なます切りにしてくれるわーッ!」ダッ


 管制施設を出たとたん、頬に熱風が吹き付けた。
マクシャリスは宇宙船格納庫の屋根越しににヒュガー市街を見やる。
砲声と爆音が連なり、燃える街並みを繰り返し紅蓮に染め上げた。


マクシャリス(よく燃えるものだ。油汚れに塗れていればそれも道理か)


 マクシャリスは純白のマントに付着した煤を煩わし気に払う。
帝国軍はとうに少数精鋭での電撃作戦に失敗し、力押しに切り替えてストームトルーパーの大部隊を送り込んできている。
しかしその手はいまだこの発着場には及んでおらず、むしろスターデストロイヤーからの艦砲射撃に対する人質となっている。
分離主義の首魁はそれを織り込み済みで、悠々と戦艦ヴェンジェンスへ向かう。
そこへ横合いからロケット弾が飛来し、彼を警護していたマグナガードの一体を吹き飛ばした。


マクシャリス「……これは」


 飛散した破片が頬を掠め、血が一筋流れる。
残るドロイドたちが銃を向ける先に、視線を寄越す。


「よう若造、いかしたマントじゃねえか。よっぽど偉いんだろうな」シュゴー スタッ


 金属製のコンテナの上に、ジェットパックを背負った男が降り立つ。
ブラスターピストルを手の中で回しつつ、T字のスリットが入ったヘルメット越しにマクシャリスを睥睨する。


マクシャリス「……マンダロリアン・アーマーとは……もしや、タクージン・シカーグ総督ですか」

タクージン「おうよ。そういうお前はマクシャリス・セレノーラント・ドゥークー」

マクシャリス「ほう、私をご存知でしたか。しかし総督御自ら敵陣の只中に突入するとは、リスクマネジメントの観点から言えばいささか問題があるのでは?」

タクージン「俺は現場主義なんだよ、文句を言う奴は全員ブラスターで黙らせてきた。だから俺は誰かに撃ち殺されずに今ここにいる」


マクシャリス「なるほど、戦争屋民族らしい合理的思考ですな」

タクージン「そうとも。どうだ、アナクロニストの非合理的思考で破れそうか?」

マクシャリス「それだけでは、なんとも。しかしもう一つ」


 マクシャリスがマントの内から手を差し伸べる。
タクージンはその掌中に金属製らしき円柱型の武器を見とめた。


タクージン「貴様、それは……」

マクシャリス「フォースの教えも加えれば、あるいは打ち破れるかもしれませんな」


 円柱の先端から白い光の刃が生じて、ライトセーバーとなる。


タクージン「……ククッ、ククク……面白い」


 タクージンはヘルメットの内から笑みを漏らし、自らも左手でセイント・セーバーを抜いた。
金色の刃が鞘走り、マクシャリスに突きつけられる。


タクージン「採点してやろう。伯父上の猿真似がどの程度のものか!」


 ――ズズ、ズズン!
何度目かの地震が戦闘の口火を切った。
管制施設と宇宙船の陰から二人のマンダロア兵が飛び出し、ドロイド部隊に銃撃する。
マクシャリスとタクージンは互いに踏み込み、白と金が交錯する!


 ジェダイとシスと姫君はクマモッテ城内を下へ下へと逃げ続け、その果ての扉を押し開いた。
あたりは薄暗く広い空間で、彼らは作業用と思しき空中回廊の只中に出たらしい。
天井からはいくつもクレーンが下がり、遥かな眼下の下層フロアには無数のコンテナが山を成している。
シンノは回廊の先にある輸送用レールウェイに目をつけた。


シンノ「ハアハア、これに乗るぞ!」

リズマ「ど、どこに通じてるんですかこれ!?」

ネーア「そんなこと気にしてる場合じゃないぞよ、ゲホゲホッ!」ドタドタ

ミコア「このレバーでスタートするんでしょうか!?」グイッ


 ガコン!
レールウェイが急発進し、四人は暗闇の中に飛び込む。
一瞬遅れて先ほどの扉からスターバルらが踏み込み、彼らの背中が遠ざかっていくのを目にする。


スターバル「カアーッ!ジェ、ジェダイどもーッ!」ダンダン

マグナガードA『将軍、逃ゲラレマシタ』

スターバル「見ればわかるわ、間抜けが!あれに合流するレールウェイを探せーッ!」


ネーア「ハッハー!おさらばじゃ!ぜえぜえ、ゲホッゲホッ!」ガクリ

ミコア「ネ、ネーアさん!?お体が……!」


 風を切って暗闇の中を進むリフトの上で、ミコアは狼狽した表情で他の三人を見回す。
彼らは揃って床に座り込み、肩で息をしていた。


シンノ「ハアハア、いい加減ヤバいかもな……!」

リズマ「私は、まだ――ゲホッゲホ!まだやれます……!」

ネーア「妾はもう嫌じゃ、限界ぞよ!囚われのお姫様助けたんだからもう終わりでいいじゃろお……!」

ミコア「み、皆さん……私のために、これほど――」


 ミコアはその責任を感じてか深刻そうな面持ちだったが、ふと顔を上げた。


ミコア「今の音は……?」

シンノ「音?」


 やがてその響きは残る三人の耳にも入った。
地下の大空間に轟くいくつもの銃声と爆音!
遅れて眼下に見えてくる、ストームトルーパーたちとドロイドたちの戦闘の光景!


リズマ「何てこと、これは……!」

ネーア「こんなことにまで帝国軍が来て――な!シンノッ!」

シンノ「!?」


 シンノはネーアの警告に反応し、転がるようにして退避する。
次の瞬間、一つの影が頭上の空中から飛び込んできた!
直前までシンノが居た場所を赤い刃が掠める!


シンノ「貴様はッ!?」

「シンノ・カノスゥ……!」


 膝をついてリフト上に着地した影が体を起こす。
黒い装甲服、マンダロア風のジェットパック、赤いライトセーバー、薄暗闇の中で憎悪にぎらつく双眸!


リズマ「ナ……ナインス・ブラザー!?」

ミコア「帝国の尋問官ですか!?」

ナインス「戻ってきたぞ……戻ってきたぞ、シンノ・カノス。取り戻すために。奪い返すために!」

シンノ「俺が貴様の何を奪ったというんだ!?」ビシューンッ

ナインス「何もかもだッ!」ブウンッ


 ナインスは狂気の刃を振るい、憎悪に塗れた斬撃を浴びせかける。
シンノもライトセーバーを振るって応戦するが、たちまち守勢に追い込まれた。
敵の脅威はクイナワ戦のときに比べれば数段増している。
しかし本来は、ヨーダから教えを受けた正統なジェダイマスターであるシンノをこれほど圧倒できるものではない。


シンノ(問題は……!)


 問題は、疲労!
今やシンノの肉体は常人であれば即座に昏倒するほどの負荷を溜め込んでいる。
痛む肉と軋む骨を精神力とフォースで無理矢理に動かして、どこまで戦える!?


リズマ「マスターッ!」ビシューンッ

ネーア「おのれ、逆切れヤンホモストーカー男が……!」ビシューンッ


 リズマとネーアも同様の苦境にありながら果敢にもライトセーバーを抜いて加勢を図る。
しかし彼らの前に二人のマンダロア兵が降り立ち、行く手を塞ぐ!


ジルコ「おっと、お嬢さん方の相手は俺たちさ!」ジャキッ

セラ「手短に済ませましょう」ジャキッ


 二丁のブラスターピストルが火を噴き、リフト上の暗闇を蛍光グリーンに照らす!

/原作のコミックにナインス・シスターが登場したらしいです
/そうなるとこのナインスを名乗るヤンホモは誰なんでしょう


タクージン「フンッ!」ブウンッ

マクシャリス「フッ……!」バチュンッ

タクージン「ハアッ!」ブオンッ

マクシャリス「シッ……!」バチュンッ


 一方発着場ではタクージンとマクシャリスの戦いが続いていた。
金色の刃が煌めき、閃くのを、白い刃が抑え捌いていく。
タクージンがジェットパックを噴射して斜め後方に飛び上がり、空中からブラスターの連射を浴びせた。
マクシャリスはマントをはためかせてライトセーバーを横に一閃させ、ひといきに弾き飛ばす。
給油車両が流れ弾を受けて爆発炎上するのを背景に、マンダロリアンが降り立ってセーバーとブラスターを構え直す。


タクージン「フウーッ……守ってばかりじゃ勝てねえぜ、公爵さんよ?」

マクシャリス「いやはやお手厳しい、防戦が精一杯なのですよ。よもや総督閣下がこれほどの剣客であったとは、この青二才には露とも……」

タクージン「ほざけ。時間稼ぎだろう……!」クルッ


 タクージンは素早く転回し、背後から襲いかかってきたマグナガードにブラスターの連射を浴びせて破壊する。
マクシャリスが踏み込み斬りつける。
マンダロリアンの総督は振り返りざまセイントセーバーを繰り出し、弾き飛ばす。
切り返しての二の太刀が、交差。
二者は鍔迫り合いの中で睨み合った。


マクシャリス「見抜いておられましたか。食えないお方だ」バチバチ

タクージン「しかし解せねえな。それで今のお前らに何の得がある?」バチバチ


 地鳴りと共に二者の足元が激しく振動する。
何度目かも知れぬ地震は、繰り返す度規模を増しつつあった。
タクージンはヘルメットの下で眉を顰める。


タクージン「まさか、貴様……!」

マクシャリス「おや……我が『作戦』に、お気づきか」ブウンッ

タクージン「くっ!?」タッ


 マクシャリスが力任せに剣を払った。
タクージンはバックステップで間合いを離し、右手のブラスターを向ける。
白い刃が閃き、その手首を断ち切った。


タクージン「何……!」


 一瞬遅れて発射された光弾は狙いを外し、敵の白マントに穴を穿つ。


マクシャリス「ならば、ギリギリの時間を待つわけにもいきませんな……!」ブウンッ

タクージン「くっ、貴様の――」シュゴオッ


 ジェットパックを噴射し、追い打ちの斬撃を回避する。
マクシャリスはそれを見上げ、徒手の左手を突き出す。


タクージン「貴様の目的は、この星を――!」

マクシャリス「『フォース・フラッシュ』……!」


 その掌から空中のタクージンへと一直線に閃光が迸る。
次の瞬間、彼の体は爆発に呑まれた。


ナインス「カアッ!」ブウンッ

シンノ「くっ……!」バチバチ


 シンノはナインス・ブラザーの渾身の一撃を受け止め、力を溜めると、一気に押し返す。


シンノ「はあーっ!」ブウンッ

ナインス「ぐおっ!?」バチインッ


 その一太刀は尋問官の円環状ライトセーバーを弾き飛ばし、その手から叩き落す。
シンノは追撃を加えるべく再度セーバーを振りかぶるが、疲労がその動作を遅らせた。
尋問官の目がぎらりと光る。


ナインス「シャアッ!」ブンッ

シンノ「ぐあっ!?」ドガッ


 シンノは右手を強かに蹴りつけられ、セーバーを取り落とした。
ナインス・ブラザーは続けざまに右手でシンノの首を掴んだ。
機械の義手がジェダイマスターの喉を容赦なく締め上げる。


シンノ「ぐぐっ……く……!」メキメキ

ナインス「ヒヒヒッ……!死ね……死ね、シンノ・カノス……!」ウィーンッ


 シンノは両手でそれを押しのけようとしていたが、やがて左手を敵の腰に伸ばした。
尋問官のブラスターピストルがひとりでにホルスターからまろび出て、その手に収まる。


ナインス「!?貴様!」パッ

シンノ「死ねるかよ……こんな、ところで!」バシュバシュバシュ


 ナインス・ブラザーはとっさに飛び退いたが、シンノは狙いを違えなかった。
連なって飛んだ光弾が尋問官の体を捉え、いくつも風穴を空ける。


ナインス「ぐがっ……シンノ!シンノ・カノスゥーッ!」バッ


 しかし暗黒の騎士は倒れるどころか、一層憎悪を昂らせて飛びかかってきた。
シンノは霞む目で最大限狙いを澄まし、その眉間に銃口を定める。
ナインス・ブラザーが肉薄し、シンノが引き金を引く直前。
斜め後方から無数の光弾が飛来し、尋問官の体をハチの巣にした。


ナインス「ゲフッ……!?」

シンノ「何……!?」


 ナインス・ブラザーは血を吐き、もんどりうって倒れ込む。
シンノはさっとレールウェイ操作盤の陰に隠れ、攻撃が飛んできた方を覗き込んだ。


マグナガードA『申シ訳アリマセン、外レマシタ』

スターバル「ええい、帝国の犬めが!射線を塞ぎおって……!」


 いつの間にか新たなリフトが並行して走っており、そこにはスターバルとマグナガードたちの姿があった。


シンノ「バカな、あいつら……!」

スターバル「グハハ、我々のホームで逃げ切れるとでも思ったのか!?もはや時間に一刻の猶予もない、こうなれば帝国軍もジェダイもミコア姫も全員皆殺しだ!」ビシューンッ

マグナガードA『!』ジャキッ
マグナガードB『!』ジャキッ
マグナガードC『!』ジャキッ
マグナガードD『!』ジャキッ


 スターバルは赤と青のライトセーバーを抜き、ドロイドたちは銃をエレクトロ・スタッフに持ち替える。
飛び移ってくる気だ。


シンノ「リズマ!ネーア!分離主義者だ、ドロイドどもが乗り移ってくる!」ビシューンッ


 シンノはライトセーバーを拾い上げてスターバルを引きつけつつ、叫ぶ。

もう2ヶ月か
パッタリ途絶えたな


ジルコ「何!?分離主義者だと!?」

ネーア「悪いのはこの手かあ!」ガブッ

ジルコ「ぐわああ!?」


 ネーアはマンダロア兵に拘束されていたが、シンノの叫びで注意が逸れた隙をついて反撃!
装甲のない指先に噛みつき、敵の手から逃れる!


セラ「ジルコ!」ジャキッ

マグナガードA『新たなエネミーを発見。排除』ブウンッ

セラ「くっ、鉄屑が!」バシュバシュ


 もう一人のマンダロア兵がフォローに入ろうとするが、マグナガードの乱入により果たせない!


ジルコ「メスガキ!そんなに躾が欲しいか!」ジャキッ

リズマ「ネーアさんから離れろッ!」ブンッ

ジルコ「ぐおお!?」ドガッ


 立て続けにリズマの飛び蹴りを受け、後方に吹っ飛ぶマンダロア兵!


マグナガードB『障害を排除』ブンッ

ジルコ「ぐわあああああああ!」バチバチバチバチ


 マグナガードがその背中にエレクトロ・スタッフを食らわせる!
マンダロリアン・アーマーも電流攻撃までは防御できず、ジルコはあえなく感電死!


セラ「地獄に落ちろ!」バシュバシュ

マグナガードA『ピガーッ!?』ガシャンッ

セラ「フーッ、手こずらせて……!ナインス・ブラザー!?ジルコ!?」


 残るマンダロア兵はマグナガードを始末するも、戦況の不利を悟り、舌打ちとともに撤退を決意した。
ジェットパックを噴射し、テイクオフ!


ナインス「ゴボッ……!」


 ナインス・ブラザーが突っ伏したまま右手を掲げた。
セラはウィップコードを投げてそれを絡め取り、もろともに上昇!
尋問官は暗闇の中に飛び去りつつ、憎悪の叫びを上げる!


ナインス「シンノ!何もかも!何もかも貴様のせいだ!俺は戻ってくるぞ、必ずーッ!」

スターバル「グハハハハ!」ブンッ

シンノ「ぐわあっ!」ガシャーンッ


 その一方でシンノはスターバルの強烈な蹴りを受け、背中から手すりに激突!


シンノ(カハッ……今のは、まずい……!立ち上がれない……!)

スターバル「満身創痍のようだな?苦しかろう!今楽にしてやる!」


 スターバルが二本のライトセーバーを振りかぶる!


リズマ「はあああーっ!」ドウンッ

マグナガードB『ピガーッ!?』ビュンッ


 その時、リズマ渾身のフォース攻撃が炸裂!
吹き飛ばされたマグナガードはシンノを囲んでいた同族に激突する!


マグナガードC『ピガーッ!?』ガシャーンッ


 二機は手すりを越え、まとめてリングアウト!


スターバル「何!?」

ミコア「私だって黙っていません!ええーいっ!」バシュッ

マグナガードD『ピガーッ!?』ボカーンッ


 ミコアがジルコの死体から拝借したロケットランチャーで最後の一体を破壊!


スターバル「ええい、こいつら、この男の金魚の糞かと思えば――」クルッ

ネーア「そなたも一緒に行けい!」ブウンッ

スターバル「ぬうう!?」バチュン ズザザッ


 ネーアの飛びかかりざまの一撃を受け止めるも、勢いで押しやられるスターバル!
しかし手すりを背にして踏みとどまる!


ネーア「ああもう、しつっこいのじゃあ!」グイグイ

スターバル「グハハ!なんの、土俵際!」


 一度静止してしまえば体格差は歴然。
ネーアの企みは失敗したかに思われたが、その時!
ズズン、ズ、ズズズズ!
またも地震!
激しく揺れるリフト!


スターバル「ぐわーーーっ!?」ヒューッ
ネーア「のじゃあーーー!?」ヒューッ


 土俵際の二人は当然バランスを崩し、落下!


シンノ「ネ、ネーア……!」ヨロヨロ

ミコア「なんてこと!」


 残る三人は手すり越しに下を覗き込むが、ネーアとスターバルはとうに遥か彼方。
まして地上はストームトルーパーとドロイドたちが入り乱れる戦場だ。


リズマ「なんとか、フォースで軟着陸できているといいのですが……」

シンノ「しかし、後で探しに行かなけりゃあ――ゲホッ!ゴホッ!」

ミコア「シンノ!怪我をなさったんですか!?」

シンノ「大丈夫だ、刀傷はもらってない……ああそういえば、またお前に助けられたな。リズマ」

リズマ「えへへ……私がみんな、無事に連れて帰りますからね」


 リズマはそう言って気丈に笑う。
シンノは弟子を心強く、愛おしく思ったが、同時に別種の予感を覚えていた。


シンノ(――もう二度と、ネーアに会えないのではないか?)


 地震は今も微かに続き、世界を不穏に揺すぶっていた。


 その頃、惑星クマモッテ衛星軌道上の宇宙空間でも戦闘が展開していた。
分離主義者が迎撃の艦隊を繰り出し、帝国軍のスター・デストロイヤー艦隊に攻撃を仕掛けていたのである。


ホイゼル「総督!タクージン総督!どうか応答してください!」


 その戦火の只中、帝国軍艦隊旗艦「インフェルノ」の艦橋。
艦隊司令官のホイゼルは、必死にタクージン総督への通信を続けていた。
しかしもはや二度と応答が戻らないと悟ると、真っ青な顔で椅子に座りこむ。


ホイゼル「くそっ!なんということだ……指揮官以上に兵士、この世で最高の戦士であるあのお方が敗れるなどと!」

艦長「ホイゼル司令官、敵の大型艦が大気圏を離脱します!」


 ホイゼルは部下の呼びかけにハッとして顔を上げた。
モニターに敵艦の拡大映像が表示される。


ホイゼル「あれは……サブジュゲーター級か!?まだあんなものが残っていたとは……!」

艦長「あんな大物を逃してはならん、攻撃しろ!」

士官A「ダメです、前方の敵邀撃艦隊がターボレーザー・ジャマーを展開中!砲撃が通りません!」

ホイゼル「バ、バカな……!」


 ホイゼルは心臓を鷲掴みにされたような猛烈な不安にうめいた。
敵は完全にこちらの手を読み、一つ一つ潰してきている。


ホイゼル(もしや我々が……スター・デストロイヤー四隻がここに足止めされていることも、分離主義者の予定通りなのでは……?)


士官B「!?何だこれは……!?司令官!惑星内部に高エネルギー反応!」

ホイゼル「内部だと!?」


 ホイゼルは泡を食って立ち上がり、展望窓越しに眼下の惑星クマモッテを睨んだ。


ホイゼル「――」


 星が、震えて、割れる。
雲の奥に覗く地表に、光の亀裂が生じる。
巨大な地割れから惑星内部のエネルギーが噴出しているのだ。


士官B「エネルギーが惑星外部に……惑星全体に、拡散していきます……!」

艦長「こんなことは初めてだ……一体何が起こっている!?」


 ホイゼルは大柄な体をわなわなと震えさせたかと思うと、叫んだ。


ホイゼル「退避!退避だっ!ハイパースペース・ジャンプでヤマタイティア宙域まで離脱!」

艦長「バカな!地上部隊を見捨てる気ですか!?」

ホイゼル「敵はそれも狙いなんだ、我々をここにくぎ付けにして一気に葬るための!」

艦長「そんな大がかりな攻撃、トルーパーたちだけでは対応できません!援護が必要です、留まるべきだ!」

ホイゼル「黙れ!早く計算を始めるんだ!敵は我々の想像よりもはるかに、はるかに――」

/度々更新が途切れて大変申し訳ありません
/当初予定していたペースよりかなり遅くなってしまっていますが、完結までもっていきます
/クマモッテ編は次の戦いが最後です


 キャッスル・クマモッテ外縁部、ドロイド工場に隣接する倉庫街。
遠く銃声と爆音が響き、トルーパーの死体とドロイドの残骸が散乱する中を、コソコソと移動する小集団があった。
バスタ・ガスターとアジアス・ジ・アーチ、およびその側近たちである。


バスタ「なんてことだ、帝国の外道どもが……!情報を提供した私たちごと殺しにかかるとは!商売の常識も知らん奴らだ!」

アジアス『何ガ商売ダ、コノ事態ハオ前ノ楽観主義ノセイダゾ!ドウ責任ヲ取ルツモリダ!?』

バスタ「何をいまさら!貴方だって乗り気だったではありませんか!」


 内輪揉めが始まったその時、バスタとアジアスの眼前に唐突に三つの人影が出現した。


バスタ「うおっ!?」

アジアス『何ダ、何者ダ貴様!』

『バスタ・ガスター殿ト、アジアス・ジ・アーチ殿デスネ?』


 それはよく見れば、分離主義勢力のコマンドー・ドロイド――
ニンジャ・コマンドーと呼ばれる、光学迷彩装備を備えたタイプである。


ニンジャコマンドーA『あがめむのん司令ヨリ、特命ヲ仰セツカッテ参リマシタ』

バスタ「何だ、味方じゃないか……驚かせるんじゃない!」

アジアス『我々ノ護衛ヲシニキタンダナ、ヨロシイ!ツイテコイ!』

ニンジャコマンドーA『……』ジャキッ バシュバシュバシュ
ニンジャコマンドーB『……』ジャキッ バシュバシュバシュ
ニンジャコマンドーC『……』ジャキッ バシュバシュバシュ


側近A「ぐわっ!?」バスッ

側近B「ぎゃあっ!」バスッ

バスタ「ひいい!?」
アジアス『何イ!?』


 なんたることか!
ニンジャコマンドーたちは味方であるはずのバスタたちに銃を向け、その側近を一人残らず射殺!


アジアス『貴様ラ、コレハドウイウ――ソウカ、まくしゃりすノ差シ金ダナ!?アノ若造メガ、口封ジノツモリカ!』

バスタ「やめろ、やめてくれ!金なら払う!なんでもするから命だけは!」

ニンジャコマンドーA『我々ノ精強ハ、無駄ナ情ケヲモタヌガユエ』ジャキッ

バスタ「うわあああ死にたくないいい!」

「――はあああっ!」ドウンッ

ニンジャコマンドーA『ピガーッ!?』ガシャンッ


 しかし引き金が引かれる直前、シャウトとともに飛来した衝撃波がニンジャコマンドーを吹き飛ばした。
一同の視線が飛来した方向、攻撃の主に集まる。


シンノ「チッ、我ながらいらん手出しをした……!」

ミコア「いいのですよシンノ様!放っておけません」

リズマ「戦いましょう!」ブオンッ


アジアス『ばかナ、アレハ……じぇだい!?』

バスタ「何でもいいから助けてくれえええっ!」


 バスタが情けない叫びを上げる!
残る二体のニンジャコマンドーがバイブロ・ブレードを構え、ジェダイたちに迫る!


ニンジャコマンドーB『シイッ!』ブンッ

シンノ「くっ!」チュインッ

ニンジャコマンドーB『シャアッ!』ブンッ

シンノ「ふっ!さすがに普通のドロイドよりはやるな……だが!」チュインッ


 シンノは敵の剣を弾くと同時に体を一回転させ、流麗に反撃!


シンノ「はあっ!」ブウンッ

ニンジャコマンドーB『ピガーッ!?』ズバッ


 ニンジャコマンドーの右腕が飛ぶ!
敵は残る左腕でブラスターを抜こうとするが、さらにもう一回転!


シンノ「せいやあっ!」ブオンッ!

ニンジャコマンドーB『ピガガーッ!』ズバッ


 ニンジャコマンドーの首が飛ぶ!
金属のボディは傾いで倒れ伏し、執念のブラスター攻撃は頭上の虚空を撃った。


ニンジャコマンドーC『シイイッ……!』グググ

リズマ「くうっ……!」ジリジリ

ミコア「そこまでです!」バシュッ

ニンジャコマンドーC『ピガーッ!?』バスッ

リズマ「今だ!ええいっ!」グイッ ブウンッ!

ニンジャコマンドーC『ピガガーッ!』ガシャンッ


 もう一体の敵はミコアに背中を撃たれ、リズマに一刀両断されて大破!


ニンジャコマンドーA『グググ……』スック

シンノ「まだ動くか……!」クルッ

ニンジャコマンドーA『……』


 一体目のニンジャコマンドーは体勢を立て直したが、戦況を不利と判断。
光学迷彩で透明化し、姿を消した。


シンノ「……逃げたか……しかし、あんなタイプのドロイドは見たことがない」

リズマ「戦後に開発されたものでしょうか?」


 シンノとリズマはスターバルを撃退したあと、少しの休憩時間を得ていた。
彼らはいくらか余裕を取り戻した表情でバスタらを見やる。


バスタ「ああ……ジェダイ、何だか知らないが助かっ――って、そこにいるのはまさか、ミコア姫!?」

ミコア「いかにも!そなたら、分離主義勢力の要人と見ました。ヤマタイトの旗の下に投降なさい!」ビシッ

アジアス『やまたいと?トスルト貴様ラ、帝国ノ尋問官カ?』

バスタ「帝国軍!?」ビクッ

シンノ「……あんなのと一緒にするな、俺は同盟軍だ。共和国再建のための同盟軍」

アジアス『反乱軍カ……ナゼ我々ヲ助ケタ?捕虜ニデモスルツモリカ?』

シンノ「別に、目的があってやったわけじゃ……いや、待てよ。貴様ら、シャトルを持っているか?この惑星から脱出するためのシャトルだ」

バスタ「シャトルだと!?……も、持ってな」

アジアス『持ッテイル。近クノ倉庫ノ中ニ隠シテアルンダ。まくしゃりすガ造反シタトキノタメニナ』

バスタ「アジアス公!」

リズマ「で、では!」

アジアス『アア、貴様ラヲ乗セテヤッテモイイ。ダガ倉庫マデハ私タチヲ護衛シロ……ソシテ脱出ノ後ハ、私タチヲ安全地帯マデ送リ届ケルノダ。捕虜ニハナラン』

ミコア「取引……ですわね」

シンノ「……チッ、いいだろう。だが惑星を脱出する前にドロイド工場に寄って、仲間を探させてもらうぞ」

バスタ「何だと!?ふざけるな、その間に帝国軍の攻撃を受けたらどうする!」

アジアス『ヨカロウ』

バスタ「アジアス公!あんたなあ!」

アジアス『ゴネテイラレル場合デハナイ、黙ッテオレ!』

リズマ「じゃあ取引成立です!」

シンノ「そうと決まれば早く行くぞ、案内しろ……!」


 シンノはそう急かしつつ、倉庫の屋根越しに空を睨む。
燃える街の炎の向こうに、何か別種の光が立ち昇っている。
その明滅の波長は、いまだに続く地震と同調しているように感じられた。


シンノ(星が……軋んでいる……?)


スターバル「ハア、ハア……失礼します!スターバル、参上いたしました!」ポタポタ


 スターバル将軍は全身濡れネズミのまま、戦艦ヴェンジェンスの艦橋に足を踏み入れた。
そこはちょっとした体育館ほどもある広大な空間。
薄暗闇の中で数十体の管制ドロイドたちがコンソールに向かって作業にいそしんでいる。
その中央にそびえたつ指揮台の上で椅子が回転し、深く腰掛けたマクシャリスが姿を現す。


マクシャリス「ずいぶん遅かったな。ほどほどにしておけと言っておいたはずだが」

スターバル「ハアハア、申し訳ありません……」ポタポタ

マクシャリス「……何故濡れているんだ?」

スターバル「ドロイド工場の冷却水タンクの中に落ちまして……」ポタポタ

マクシャリス「一体何があった」

スターバル「はっ、ジェダイがミコア姫を連れまわしていたので、それを追跡しました。結局息の根を止めることはできませんでしたが……」

マクシャリス「ジェダイだと?帝国の尋問官ではないのか」

スターバル「いえ、あれは真っ当なジェダイです。そこそこのやり手が、二人……マスターとアプレンティスですかな、あれは」

マクシャリス「……帝国ではなく、分離主義に盾突く存在で、組織立った……反乱軍か?ミコア姫の身柄を狙ってきたか」

スターバル「ああ、それと赤いライトセーバーを振り回すガキがおりました。手から電気を出したりして……」

マクシャリス「何?」


 分離主義の大ボスは微かに表情を硬くする。


マクシャリス「シスだぞ、それは」


スターバル「あれがテイティスのマスターなのですか!?とてもそうは思えません、奴は私と同等かそれ以下の使い手でした!」

マクシャリス「そうだろうな。お前が無事に帰ってきているところからして……ヴェイダーの秘密の弟子か何かか?あるいはまったく別の……」

管制ドロイド『せれのーらんと公、あがめむのん司令官カラ通信デス』

マクシャリス「地上からか。モニターに出せ」


 マクシャリスは一旦思考を中断し、指揮台正面の巨大なモニターに向き直った。
やがてそこにはハイパータクティカル・ドロイドの無機質な顔が大写しになる。


アガメムノン『せれのーらんと公。くまもって・きゃっする防衛部隊司令官、あがめむのんデス』

マクシャリス「こちらは戦艦ヴェンジェンス、マクシャリス・セレノーラント・ドゥークーだ。状況を報告せよ」

アガメムノン『ハッ。防衛施設ハ帝国軍ノ攻撃ニヨリ、戦闘能力の9割を喪失。全戦線ガ崩壊、敵地上部隊ノ侵攻ハ司令部ニモ及ンデイマス』

マクシャリス「限界か、まあいい。最後の一兵まで抵抗し、敵を引きつけろ」

アガメムノン『ハッ……ソレト、ばすた・がすたーオヨビ、あじあす・じ・あーちノ件デスガ……』

マクシャリス「取り逃がしたのか?」

アガメムノン『にんじゃ・こまんどー部隊ヲ送リ込ンダノデスガ、じぇだいニ撃退サレマシタ。最後ノ一体ガ触接中デスガ、任務完遂ハ困難カト……』

マクシャリス「またしてもジェダイか。よくよく私の計画を荒らしてくれるものだ……しかしまあ、私の手の平から出るものではない」


 マクシャリスは無感動にそう言って、金属の円筒を手で弄ぶ。
タクージン・シカーグから奪ったセイント・セーバーだ。


マクシャリス「星ごと吹き飛ばして、全てに片を付けることにしよう」


 その後、戦艦ヴェンジェンスは事前に計算した軌道でのハイパースペース・ジャンプによって宙域を離脱した。
特殊な工作によって惑星核のエネルギーを暴走させることで、急激に超新星化を進める――
それが『星の生贄(スター・サクリファイス)』作戦の真相。
惑星クマモッテは今や、直径1万キロ超の超巨大時限爆弾と化していた!
惑星爆発まで、あと二十分!

はたしてまた地球滅亡シリーズと化してしまうのか

> なんたることか!
>ニンジャコマンドーたちは味方であるはずのバスタたちに銃を向け、その側近を一人残らず射殺!
なんか忍殺感ある


 ――キャッスル・クマモッテ城下、倉庫街。


シンノ「フンッ!」ブンッ

ストームトルーパーA「ぐわあっ!?」ズバッ

リズマ「やあっ!」ブウンッ

ストームトルーパーB「ぎゃあ!?」ズバッ


 シンノの振るう青い刃が輝き、リズマの持つ緑色の刃が閃く。
立ち塞がった帝国軍のトルーパーたちは次々と斬り伏せられ、残る者は怖気を成して逃げていく。


ミコア「バスタ!結局シャトルはどこにあるのです!?」

バスタ「はいミコア様!あそこに見えるマスドライバーの下の倉庫でございます!」

アジアス『コノ短イ時間デ飼イ慣ラサレオッテ……』

シンノ「マスドライバーの下だな、急ぐぞ!」


 一行は慌ただしく倉庫街を駆け抜ける。
地震は一層強まり、彼らの足元を揺さぶり続けた。


シンノ(大丈夫だ、まだ大丈夫……)ダダダ


 シンノは焦燥に駆られつつも、心中で自分に言い聞かせる。


シンノ(シャトルを発進させてドロイド工場に戻る。ドロイド工場でネーアを探す……)


 目当ての倉庫に到着する。
大きな金属の引き戸が入口を塞いでいる。


シンノ(いや、ネーアなら向こうからこちらの居場所を探知できるはずだ。あいつを拾って、すぐにこの星を出る)


 ミコアが指図する。
バスタが脇のコンソールに走り寄り、電子ロックを解錠する。


シンノ(残る難関は帝国軍の包囲網くらいのものだ。尋問官が戦線離脱した今、そのくらいならなんとでも……!)


 金属扉が振動し、酸性雨で錆びついた巨体を振るわせつつ、ゆっくりとスライドする。
その奥、倉庫内に広がる暗闇に、光が差し込む。


シンノ(――)


 息が止まる。
倉庫の中に、見知った人影があった。
黒いローブ。
銀色の仮面。
その奥に覗く、四つの黄色の瞳。


テイティス「……」


 ダース・テイティス。
ねめつける視線に、殺意が滲む。


 ミコアが何か指示した。
バスタとアジアスが退き、二人のジェダイが残される。
シンノは敵から視線を逸らせぬまま、呻くように言う。


シンノ「……バカな……なぜ、ここで……今になって、奴が!」


 心の中で組み立てた都合のいいスケジュールが、ガラガラと音を立てて崩れていく。


リズマ「――戦いましょう、マスター」


 暗闇に吸い込まれそうなシンノの心を、リズマの言葉が辛うじて繋ぎとめる。
鞘走るは緑の光刃、堅牢なる第三の構えも勇ましく!


リズマ「もとより、いずれは決着を付けなければいけない相手!」

シンノ「……畜生……畜生!そうだ!諦めやしないぞ、畜生!」


 道標を得て、ジェダイ・マスターの意地が燃焼!
ライトセーバーが蒼の輝きを取り戻す!


シンノ「全部救ってやるぞ、俺たちが!全部だ!」

テイティス「……もはや策謀は無用。よって手心も無用」


 シス卿は冷然とそう言い放ち、懐から金属筒を取り出す。
その一端から赤い刃が発し……残る一端からも、同じ光が生じた。
ダブルブレード・ライトセーバー。
これまでの戦いでは温存されていた真の武器!


テイティス「貴様らジェダイが全てを救うなら、シスたる私は全てを闇に堕とそう」


 自動扉が開き切って停止すると同時に、倉庫内の照明が点灯。
タングステン灯の青白い光が空間を支配する。
青と緑、赤の光はその中で霞み……赤が、閃く!


テイティス「――シイッ!」ブウンッ

シンノ「くおっ……!?」チュインッ


 次の瞬間、テイティスはすでにシンノの眼前にいて、ライトセーバーを振り抜いていた。
遅れて火花が散る。


シンノ(ガードが一瞬遅れたら死んでいた……!)

リズマ「ヤアッ!」ブウンッ

テイティス「フンッ!」チュインッ


 横合いからのリズマの斜め太刀!
テイティスは最小限の動きで防御し、セーバーを回転させてもう一方の刃で斬りに行く!


テイティス「ハアッ!」ブオンッ

リズマ「くうっ!」チュインッ


 リズマはかろうじて自分の武器を合わせる!


シンノ「タアッ!」ブウンッ

テイティス「!」ザッ チュインッ


 シンノが素早く姿勢を回復し、致命的な軌道の反撃を繰り出す!
テイティスは一歩下がり、逆手側の刃で防御!


シンノ「逃がさんッ!」ブウンッ


 剣を斬り返し、追撃!
神速の水平斬撃!


リズマ「セイヤアッ!」


 同時にリズマが鋭い斬り上げで逃げ道を塞ぎに行く!


テイティス「ッ!」ダンッ


 テイティスは地を蹴り、後方へジャンプして回避!
ジェダイたちから五メートル離れたところで、靴の裏を床に擦り、煙を上げつつ静止する。
彼の黒ローブの裾は切り裂かれ、ブスブスと煙を上げていた。


シンノ(退かせた……刃が届いた。戦える。俺たちは、成長している)


 シンノの脳裏に惑星ヤクシムでの敗北の記憶が浮かび、消えていく。


リズマ「勝てますよ、マスター」


 リズマが敵から目を離さぬまま言う。


シンノ「ああ。一人では無理でも、二人なら!」


 シンノもまた、たしかに前を見据えたまま答える。


テイティス「ほざくがいい!」


 テイティスが右手を前に突き出す!
シンノとリズマは跳躍して空中へ退避!
コンマ一秒後、シスの手の平から噴出した火炎がフロアを薙ぎ払う!


医務トルーパーA「どけどけ!救急だ救急だ救急だ!」ガラガラガラ


 惑星クマモッテ上空、帝国軍旗艦インフェルノ艦内。
大勢の医務トルーパーたちが一つのストレッチャーを囲み、通路を慌ただしく移動する。
ストレッチャーの上に寝かされているのは――尋問官、ナインス・ブラザーである!


ナインス「シンノ……シンノ……シンノ・カノス……!」


 凶悪な尋問官も今は満身創痍。
血みどろの装甲服も痛々しく、酸素マスク越しにうわ言を繰り返す。


医務トルーパーB「尋問官殿!ここがどこかわかりますか?」ガラガラガラ

医務トルーパーC「この指は何本かわかりますか?」ガラガラガラ

ナインス「黙れ……!俺は、殺す……!殺さねば……セラ!セラはどこだ!」

医務トルーパーC「セラ?」

セラ「チッ……」


 彼らに大きく遅れて通路を歩いていたマンダロア兵が、しぶしぶ駆け足になって彼のもとに近寄る。


セラ「何ですか、尋問官殿」

ナインス「シンノは……シンノ・カノスはどうした!死んだか!?いや死んじゃいない、まだ俺が殺していないから……」

セラ「今は治療に専念なさることですな。内臓がズタボロですから、大がかりな機械化手術も考慮すべきかと。さもないと、死にますよ」

ナインス「死ぬ!?シンノがか!?俺がか!?俺が死ぬのは……ゴホッ!ゲホッ!俺は、死ねない!殺せないじゃないかっ!ゲホーッ!」

医務トルーパーA「セラ殿、申し訳ないがこれ以上患者に喋らせるのは危険だ!」

セラ「こちらももううんざりだ」


 ストレッチャーはセラを残して走り去る。
おそらくバイタル区画にある集中治療室に搬送されるのだろう。
一介の兵士では受けられないとうてい受けられない手厚い処置だ。


セラ(ヴェイダーの使い走りとはいえ、元ジェダイのフォース感応者……特殊技能者というわけか)

「彼はもう死なせた方が帝国のためかと思うのですがねェ……精神異常が度を越していらっしゃるゥ」


 セラは横からヌルリと現れた人物を見やる。
ひょろ長い体躯を帝国保安局の黒い制服に包んだ男。


セラ「……今のは問題発言ではありませんか、エージェント・サギ」

サギ「おや、録音していらっしゃったんですかァ?」

セラ「そういうわけではありませんが」

サギ「そうでしょうねェ。まあ録音していたところで、貴方の報告が皇帝陛下のお耳に入るとも思えませんが。ついさっき後ろ盾も失ったようですしねェ?」

セラ「貴様ァ!」グイッ

サギ「ヒヒィ!?」


 セラは激昂し、サギの胸倉を掴み上げる!


セラ「シカーグ総督を!シカーグ総督の死を、愚弄するか!」

サギ「ヒィィ、よっぽど問題行動ですよこれは!早く離しなさい!」


 ガゴオン!ゴゴオン!


セラ「きゃあ!?」
サギ「ヒィ!?」


 突如、艦全体を揺さぶる振動!
巨大にして堅牢を誇るスター・デストロイヤーは、ミサイルの直撃を受けてもこれほど揺れはしないはずだった。
セラは冷静を取り戻し、近くの窓から外を見やる。
眼下に広がる惑星クマモッテ。
その表面を覆う灰色の雲の向こうからごく小さな影が飛び出したかと思うと、たちまち接近し、大きくなる!
激突!
再びの激震!


サギ「ヒィィ!?分離主義者の秘密兵器ですかァー!?」ブルブル

セラ「いや、あれはミサイルじゃないし……ましてや砲弾でもない」


 セラは豊富な実戦経験、その中で得た様々な惑星の自然環境の知識から、飛来物に関して一つの推論を得る。


セラ(……まさか、火山弾か?)


 あれほど巨大な火山弾が、相次いでこの高度まで飛来する……


セラ(惑星クマモッテの地下に、何が起こっている?)

サギ「わ、私はバイタル区画に避難します!帝国保安局の権限です!」ダダッ

セラ「ま、待て貴様!一人だけ逃げる気か!?」タタッ


 惑星爆発まで、あと十五分!

>>128
/ご明察、>>1がヘッズなので時々忍殺が顔を出してしまっています
/できるだけ平易な文章を心がけておりますので、苦手な方はご容赦下さい


テイティス「ぐおお……!」ガラガラガシャンッ


 テイティスはフォース・プッシュに吹き飛ばされ、倉庫の床をゴロゴロと転がった。
近くにあった金属缶の山が滅茶苦茶に崩れ、粉塵が舞う。
幽鬼はその中からゆらりと身を起こし、土埃に塗れた自らの服を見やる。


テイティス「この私に……土を、付けるとは……」

シンノ「ハーッ……悪いが、一敗地に塗れるだけじゃ済まさないぜ」


 シンノは光剣を油断なく構えつつ、ジリジリと間合いを詰める。


シンノ「あのホロクロンは、真性のシスが持つには危険すぎる……貴様の探索の旅は、ここで終わりだ……」

リズマ「惑星ヤクシムでの蛮行も、償ってもらいます……!」

テイティス「ホロクロン……ああ。そういえば、そういう話になっていたな……もはやどうでもいい口実だが」

シンノ「何?」

テイティス「フンッ!」ブウンッ


 テイティスが手を振るう。
その掌中に炎が生じて撚り合わさり、長大な炎の鎖を形成!
鎖はシンノの横を掠めて飛び、リズマの全身を絡め取る!


リズマ「ぐうっ!?」ビシイッ


シンノ「リズマ!?」

テイティス「カアッ!」ジャラランッ


 テイティスは鎖を引き絞り、リズマの体を振り回して投げ放つ!
行く先は、床に空いた大きな廃棄孔!


リズマ「うわあああっ、あ!」ガシッ


 リズマはかろうじて縁にしがみつき、ぶら下がる。
しかしその手からライトセーバーが零れ落ち、眼下の暗闇の中に消えていく。


リズマ「し、しまった……!」

シンノ「ハアッ!」ブンッ

テイティス「フッ……!」バチュンッ


 一方シンノはテイティスに攻撃を仕掛けていた。
さらなる時間を稼ぐべく、鍔迫り合いの姿勢で口を利く。


シンノ「ホロクロンが、どうでもいいだと?わざわざキャッスル・クマモッテに来て、四天王を焼き殺したくせにか?」

テイティス「妄言も大概にするがいい。私は貴様らがここに来ることを初めから予知していた……なぜあのガラクタの山に出向く必要がある?」


リズマ「やああああっ!」


 直後、リズマがフォースの力で高く跳躍してテイティスに襲いかかった!
その手には、マスター・ヨーダのライトセーバー!


テイティス「何!?」


 テイティスは泡を食ってシンノを押しのけ、ガード姿勢!
しかし軌道を見切り損ね、ダブル・ライトセーバーを真っ二つに切断される!


シンノ「はあっ!」ブンッ

テイティス「ぐおおっ!?」ドガッ


 立て続けに、シンノの前蹴りがクリーンヒット!
テイティスは吹き飛ばされ、廃棄孔の横に駐機されていたシャトルに背中から激突!


テイティス「ハアーッ……!」


 しかしシス卿、さしたる隙を見せず!
左手をジェダイたちのほうへかざす!


シンノ「!リズマ!」

リズマ「マスター!」

テイティス「消えろ……!」ボボボウッ!


 フォース・ファイアー、最大出力!
超常の炎の奔流、破壊エネルギーの青白い輝きが倉庫を満たし、天井を破壊して空へ立ち昇る!


テイティス「ッハ、ハハハ……!少しは鍛えたようだが、結果は変わらない……!」


 シス卿は自らも熱風を浴びつつも、仮面の裏で笑う。


テイティス「私は貴様よりも優れている。私だけがあのお方の、後継者に――」


 炎が上方へ抜け、煙が晴れる。
ジェダイたちが居たところに、畳大のコンクリートの壁が出現していた。


テイティス「――これは」


 その裏から今、人影が跳び出す。


シンノ「はあああーッ!」ブウンッ


 ジェダイの刃が、シスの刃を潜り抜け――その向こうに、届く!


テイティス「――!」ズバッ


 テイティスの左腕が肩口で切断され、ライトセーバーごと宙を舞った!


シンノ(今だ)


 シンノの時間感覚が鈍化し、視界がスローモーションに変化する。
テイティスがフードの陰、仮面の奥で四つの目を驚愕に見開いている。
しかし同時に地を蹴り、側方への退避を始めている。
対応が早い。
片腕を削いだことは、決定打になっていない。


シンノ(奴を倒すのは、今)


 シンノは一歩、踏み込む。
ジェダイたちは、フォースで床材を剥がして防御壁を作ることでフォース・ファイアーを攻略した。
二度通じる手ではない。
テイティスがリズマの奇襲で苛立ち、大ぶりな一撃を選択したからこそ間に合った対応策だ。


シンノ(この機を逃がさず)


 二歩、踏み込む。
すでに片腕とはいえ、敵は無類の戦闘巧者。
次に隙を突けるのはいつかわからない。
それまでに分離主義者の何らかの企みがが発動してしまえば、自分たちはおそらく無事ではいられない。
ネーアを救い出し、ミコアとともに無事でこの星を去るためには――


シンノ(奴の息の根を、完全に――!)


 三歩。
見開かれていたテイティスの目が、細まった。
敵の右手が何かを手繰る。
シンノは自分の右手に――ついで他の四肢に、高熱を帯びた何かが絡みつくのを感じた。


テイティス「――その焦りが!」ジャラランッ


 テイティスは右手で炎の鎖を四本まとめて手繰る!


テイティス「命取り!」ブウンッ

シンノ「ぐわあああ!?」バアンッ


 シンノの体は大きく振り回され、背中から壁に叩きつけられる!
鎖はテイティスの手を離れて壁に食い込み、ジェダイを磔の形で拘束する!


リズマ「マスターッ!」

テイティス「ハハ、ハハハ……!」


 テイティスはフォースでライトセーバーをキャッチし、残るリズマに斬りかかる!
腕を一本失っていながら、その攻撃はなおも苛烈!


シンノ「くそっ、くそ……!」ガチャガチャ


 シンノは全力でもがくが、凝縮した炎の鎖は彼を強固に固定して放そうとしない。


テイティス「ハハハ……これは、避けられるか!」ブウンッ


 テイティスがライトセーバーを投擲した。
その狙いはリズマではなく、背後のシャトル。
シンノたちの持つ唯一の脱出手段。


リズマ「ッ!」ダッ


 リズマは渾身の力で跳躍。
ギリギリのところでライトセーバーとシャトルのあいだに割り込み、上へ弾き飛ばす。
しかし着地に伴い、姿勢が大きく乱れた。


シンノ「――や」


 テイティスが踏み込む。
徒手、マーシャルアーツ。
リズマは顎を殴りつけられ、後頭部を背後のシャトルの装甲に打ちつけた。
四肢が一瞬、脱力する。
その一瞬に、テイティスのライトセーバーが落ちてくる。


シンノ「やめろ」


 シスはそれを右手でキャッチし、起動。
リズマが目を見開く。
その瞳に、赤い閃光が反射した。


シンノ「――やめろおおおおおおおおおおーッ!」


「……」


 ぴくりと眉を動かし、振り返る。
顧みるは、シャトルが隠匿された倉庫。
その中でライトサイドのフォースの気配が一つ、消滅した。


(……そろそろ見物しに行くとするか)


 ライトセーバーを懐に収め、歩き出す。
後にはニモーディアンとジオノージアンの斬殺死体が残される。


(まったく、マクシャリスの小僧のせいで散々だ……期待通りの結果に終わるといいんだが)


 その背後で地割れから光芒が溢れ、宇宙へ立ち昇る。
倉庫街が、ヒュガーが、否、惑星全体が綻び、崩れていく。
惑星爆発まで、あと十分。

【決講】可奈「飛べ飛べ神鳥~♪る~ぐ~ちゃん~♪」
【決講】可奈「飛べ飛べ神鳥~♪る~ぐ~ちゃん~♪」 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1574466531/)

リズマ逝ったああ


シンノ「あああああッ!」ブウンッ

テイティス「ぬうん!」バチバチバチ


 シンノは光刃を振るい、猛然と逆襲を仕掛ける。
彼を拘束していた鎖は、直前にリズマが投擲したライトセーバーによって断ち切られていた。
しかし今は、彼女は地に伏して動かない。


シンノ「貴様は……貴様は、何だ!?何がしたくて俺たちを!リズマを!」バチバチバチ

テイティス「ジェダイが義憤に駆られて女の敵討ちか。ドラマチックだな。だがナンセンスだ」バチバチバチ


 テイティスは仮面の奥で四つの目をギョロリと動かし、競り合う光刃越しにシンノをねめつける。


テイティス「シディアスの流派ならいざ知らず、我らがヤマタイト・シスの教えは少し腹を立てたくらいでは到底破れん。腕一本のハンデなど問題にならんぞッ!」ブウンッ

シンノ「ぐうっ!?」バチュンッ


 テイティスは右手一本でおそるべき怪力を発揮し、シンノを弾き飛ばした。
ライトセーバーを握る手を上向け、そこに浮かんだ拳大の火の玉に息を吹きかける。


テイティス「フウッ!」ボボボボボ


 火の玉は震えて、無数に分裂。
青白い火炎弾の弾幕と化してシンノに襲いかかった。


シンノ「くうっ!」ダッ


 シンノは逸る殺意を抑えて回避に転じた。
彼が跳躍し、三角跳びする軌跡を、一瞬遅れて炎が焼き尽くしていく。
床を転がって着地、パッと身を起こしたところに、かわし損ねた最後の火炎弾が脇腹を捉える。


シンノ「ぐあっ!?」ボンッ

テイティス「のろい!」ブンッ


 テイティスが躍りかかり、空中回し蹴りを仕掛ける。
シンノはカッと目を見開き、姿勢を転回。
蹴り足を脇腹と腕で捉える。


テイティス「何!?」ガシッ

シンノ「なめるなあッ!」ブウンッ


 シンノはそのまま敵の体を振り回し、投げ飛ばす。
シスはまたしても金属缶の山に頭から突っ込み、派手に金属音と粉塵をまき散らした。


シンノ「リズマ、リズマ……!」ガシッ


 シンノはリズマのもとに屈み込み、地面から抱き起こした。
まだかろうじて息はある。
しかしその表情と呼吸は弱弱しく、いつもの気丈さは見る影もない。


リズマ「……マス、ター……申し訳、ありません……不覚を……」

シンノ「ああ、いいんだ、いいんだ、そんなこと……ああ……」


 ジェダイマスターは弟子を抱えたまま無様に狼狽した。
彼の戦士としての経験は、テイティスの一撃がどうしようもなく致命傷だと宣告していた。


シンノ「何でだ、どうして……嫌だ、ダメだリズマ。俺を置いていかないでくれ……」


 視界がぼやける。
情けない言葉が勝手に口から流れ出す。
思考は一向にまとまらず、リズマとともに過ごした記憶が走馬灯のように流れていく。
惑星ハクカ、衛星砲台ラグナロク、惑星ハンカッタ、惑星デジム、スノークの暗礁宙域。
惑星ヤクシム、惑星タンガシム、そして惑星クマモッテ。


シンノ「俺の荷物を背負ってくれると……守ってくれると、言ったじゃないか……」


 シンノ・カノスは、物心ついたときにはすでにジェダイだった。
その人生は、プライドは、オーダー66とクイナワ戦によって二度にわたり粉微塵に打ち砕かれていた。
たった一つの支えは今、死の闇の中に永遠に失われようとしている。


シンノ「俺を、俺を……一人にしないでくれ……」


リズマ「……一人には、しません……私は、フォースと……一体になります」

シンノ「何だよ、それ……分からないぞ……行かないでくれ、頼む、頼むから……!」

リズマ「……わからなくっても……見えなくっても、いつも……一緒です」


 リズマが震える手を伸ばし、師の頬を撫でる。


リズマ「だから……泣か、な、いで……」


 言葉が途切れる。
項垂れる面影。
指先は思い人を離れ、地に落ちた。


シンノ「……」


 シンノは底の見えない暗闇に突き落とされたかのような感覚を味わった。
体の内側から急速に温度が抜けていく感覚。
なぜ彼女は目を覚まさないのか?
なぜ彼女は話さないのか?
その目元に、口元に、生の痕跡を見出そうとするが、叶わない。


テイティス「死んだか。見たところ、ただのアプレンティスではなかったらしいな」


 その言葉は鮮明に聞き取れた。
一本きりの腕にライトセーバーをぶら下げ、悠然と歩いてくるテイティスの声。
リズマの仇。
こいつさえいなければ。
胸の内の闇に蝋燭のような小さな火が灯り、たちまち溶鉱炉のごとく燃え上がった。


テイティス「自分たちの定めたルールすら守れないとは。破戒僧は地獄行きだぞ」

シンノ「――れ」

テイティス「何?」

シンノ「黙れ」


 地震が轟音と共に倉庫を揺さぶる。
シンノはリズマの遺体を静かに横たえ、立ち上がった。
天井の照明ユニットの一つが傾ぎ、火花を散らしながら彼の背後に落下。
男の輪郭が逆光の中で影絵となって映し出される。


シンノ「貴様は殺す。今ここで」


 光と闇のコントラストの中で、ライトセーバーの青い刃が冷たい輝きを放つ。


テイティス「……」


 テイティスは仮面の奥で不快そうに眉をしかめた。
敵はジェダイとしては手練れだが、ダークサイドの技術は素人。
感情をぶつけ合う土俵の下でなら、自分が一歩先を行く。
先を行くはずだ。
ならばこのプレッシャーは何だ?


テイティス「……無理だな、手負いの貴様一人では……だが安心するがいい、その女にはすぐに会える」


 テイティスは微かな疑念を振り払い、隻腕でライトセーバーを構えた。


テイティス「同じ者に同じ武器で殺されれば、同じ地獄に落ちようからなッ!」ブウンッ

シンノ「ダアッ!」ブウンッ


 チュインッ!
赤と青の光が火花と共に交錯し、飛び離れる。


テイティス「ぬうんっ!」ジャララランッ

シンノ「ハアーッ……!」ダダダッ


 テイティスが振り返りざま放った幾筋もの炎の鎖。
シンノは床を走り、壁を走ってその追跡を免れる。
ムーンサルトで廃棄孔を飛び越え、空中から敵に襲いかかる。


シンノ「ガアアッ!」ブウンッ

テイティス「フンッ!」ブウンッ


 シスはこのアクロバット攻撃に反応し、自らのライトセーバーで受け止めた。
シンノは着地と同時に、左手で腰のブラスター・ピストルを抜く。
ナインス・ブラザーから奪ったものだ。


テイティス「小賢しいわ!」ブンッ

シンノ「ぐうっ!?」ドガッ


 テイティスは射撃に先んじてブラスターを持つ手に蹴りを浴びせた。
銃は持ち主の手を逃れて床を滑り、廃棄孔の中に落下。
交錯するライトセーバー越しに両者の視線が交錯する。
テイティスの目はサディスティックな優越感に満ちる。
シンノの目は、一層殺意を燃え上がらせていた。
テイティスは一瞬、怯んだ。


シンノ「ダアッ!」ブンッ

テイティス「がッ!?」ドガッ


 その刹那、シンノの頭突きが命中した。
姿勢が崩れた隙に左手で敵の襟首をつかみ、引き寄せる。


シンノ「ヌウアッ!」ブンッ

テイティス「ごッ!?」ドガッ


 再び命中。
テイティスの顔面へ、金属の仮面越しに衝撃が通る。
シンノはライトセーバーを切り返し、振り上げる。


シンノ「ゼアッ!」ブウンッ

テイティス「ぐわあッ!?」バチュンッ


 斬り上げがシス卿の顔面を捉えた。
苦悶の声、火花が散る。


テイティス「貴様ああッ!」ボウッ

シンノ「チッ……!」ダッ


 テイティスは怒りに震え、フォース・ファイアーを滅茶苦茶にまき散らした。
シンノは舌打ちしつつ火炎放射の射程外に飛び退く。
やがてガス欠のように炎が途切れ、仇が再び姿を現した。


テイティス「ハアーッ……ハアーッ……!」


 真っ二つに斬れた仮面がその顔からずれて、落下する。
その奥にあったのは、醜いエイリアンの顔。
目は四つあったようだが、左の二つは仮面もろとも焼き切られて潰れていた。


テイティス「おのれ……おのれ、貴様……貴様ァーッ!」ダッ

シンノ「ガアアアアーッ!」ダッ


 シンノとテイティスは再び交錯する。
赤い光が輝き、青い光が閃く。


テイティス「……」

シンノ「……」


 両者はライトセーバーを振り抜いた姿勢で着地した。
一瞬の静寂。
テイティスが身を起こし、振り返る。


テイティス「……ありえん……こんな、ことは」


 その上半身がずるり、と横にずれる。
シス卿の肢体は腰のところで水平に両断されていた。


テイティス「ありえん。私だけが、あのお方の……ダース・グレイヴスの……」


 下半身がふらつき、膝からくずおれて、横合いに倒れ込む。
上半身は廃棄孔の縁に落下し、傾いで、そのまま闇の中へ落下していった。

闇堕ちクルー?


 地震の揺れは極限に達しつつあった。
倉庫内に積み上げられた資材の山が次々に崩れ、衝撃が走るたび壁の亀裂が大きくなっていく。
しかしたった一人残ったジェダイは、もはや脱出する精神力すら失っていた。
リズマのもとに座り込み、その亡骸をかき抱く。


シンノ「頼む、頼むよ、目を開けてくれ……もう嫌なんだ、こんなのは……もう二度と!」


 彼の意識にいくつもの記憶がフラッシュバックする。
シカーグ将軍の遺体を抱くユスカ。
自らのマスターとの永遠の別れ。
それに、ずっと昔、遠ざかる誰かの背中。
彼の繊細な精神は、あらゆる別離の記憶を鮮明に刻みつけていた。


シンノ「意味ないんだよ、こんなんじゃ……いくら殺せたって、守れないんじゃ……!」


 最後の照明ユニットが落下し、タングステン灯の光が完全に途絶える。
残ったのは、フォース・ファイヤーが穿った穴から落ちる、スポットライトのような一筋の光。
今、そこに小柄な人影が姿を現す。


「――そうだ、その感情だ。私はこの時を待っていた」


 その声は幼いが、口調には老獪なものが覗く。
胸元のホロクロンが、緑色にきらめく。


ミコア「否、全てを仕組み、招き寄せた。私が。このダース・グレイヴスが!」


シンノ「ミコア……姫……」


 シンノは彼女にうつろな目を向け、静かに絶望した。
あれが自分を苛んでいる全ての元凶だ。
本人の言葉だけでなく、フォースの波動からも明らかなことだった。
それを必死になって守り、あまつさえ敵の手から救い出そうとしていたとは。
俺はなんて愚かだったのか。
これは俺の愚かさへの罰なのか。


グレイヴス「リズマに会いたいだろう。もう一度手を触れたいだろう、言葉を交わしたいだろう?」


 これまで、ミコアの言動には幼くも厳格な王族の気風があった。
しかしそれは全て偽物に過ぎなかった。
今、シスの暗黒卿ダース・グレイヴスは鳥の雛を前にした蛇のようにサディスティックな笑みを浮かべ、狡猾な言葉を投げかける。


シンノ「……どういう意味だ、それは……」

グレイヴス「言ったはずだぞ。ヤマタイトの教えには、死者を蘇らせるものもあると」

シンノ「……リズマを、蘇らせることができるというのか」

グレイヴス「お前が私を受け入れれてくれるならば、な」


 降り注ぐのはきっと、遠くで燃える戦火の光。
シス卿はその中から、暗闇の中にいるシンノのほうへ手を差し伸べる。


グレイヴス「シンノ・カノス、私の弟子になれ。リズマも加えて三人で、暗黒面の道を往こうじゃないか」


シンノ「……ふざけたことを、ほざくな!」


 シンノの胸の中に残る最後の感情のひとかけらが爆発した。
亡骸を抱えたままライトセーバーを振りかざし、伸ばされた手を拒絶する。


シンノ「お前のせいじゃないか。全部全部、お前の嘘のせいじゃないか!この上また俺を騙すつもりか!」


 シンノは反駁しながらも、目から涙が溢れだすのを止められなかった。
こうして意地を張ったところで、シカーグ将軍も、リズマも帰ってきはしない。
今の彼にとって道理と正義はあまりにも虚しかった。


シンノ「これ以上そのくそったれの口が誰かを傷つける前に、俺がお前を、この手で……!」

グレイヴス「……シンノ、それ以上自分を傷つけるのはやめろ。見ていられん」


 グレイヴスは呆れたような、哀れむような微笑を浮かべ、悠然と歩み寄った。
シンノの震える手からライトセーバーをもぎとり、刃を収める。


グレイヴス「嘘はもう打ち止めだ、今の私は丸裸だよ……それに、今までもすべて嘘というわけでもない」


 シスは白魚のような手でシンノの頬に触れる。
その肌は柔く、ひんやりと冷えて心地良かった。


グレイヴス「クイナワで、そしてこのクマモッテで、私はお前の精神と才能を信じた。必ず助けに来ると。そしてお前はそれに応えてみせた」


 グレイヴスが目を細め、表情を優しげに綻ばせる。


ミコア「――だから、シンノ様。私は、あなたの仲間になれてよかった。あなたはとってもすごいお方です」


 シンノは自分の中で何かが砕け散る音を聞いた。
理解者を自ら遠ざけ、あるいは死によって別れ、報われない疲労を極限まで積み重ねた今の彼にとって、グレイヴスの言葉はまさに麻薬だった。


「――だから、他の誰でも」

「自分自身さえお前を信じられなくとも」

「私だけは信じよう」

「私だけは、お前を愛そう」


 ジェダイは、屈した。
抱いた亡骸を地面に横たえ、伏してこいねがったのだ。


シンノ「ダース・グレイヴス……グレイヴス卿」

シンノ「私を……弟子に、してください……」

/エピソード9公開まであと2週間です!

堕ちたか…


ネーア「ぶっはあああ!死ぬかと思ったのじゃ……!」


 ネーアはマンホールから暗い部屋の中へ這い出し、そのまま床に突っ伏した。


ネーア(いやしくもシスの暗黒卿である妾が……水の中に落ち、かませ四号に追い回され、ドロイドに襲われ、こんな無様な……おのれ分離主義者どもめ、奴らも妾の敵じゃ!)


 憎しみをエネルギーにしてどうにか動き出し、壁に手をついて立ち上がる。
手さぐりでスイッチを入れると、青白い金属灯が室内を照らした。
眩む目であたりを見回す。
今は使われていない倉庫のようで、だだっ広い空間にゴミやガラクタが散らばっている。


ネーア「……ん?あれは……」


 そんな中、壁面のシャッターのそばにあるものがシス卿の注意を引いた。
黒く塗り上げられたXウィング。
テイティスが乗っていたものだ。


ネーア「……」


 テイティスがここに降りたならば、キャッスル・クマモッテに来れたはずはない。
ならばなぜ、ミコアは彼が四人目の四天王を殺したと言ったのか。
本当にやったのは誰か。


ネーア「……ミコア……ミコアか!おのれ!あのメスガキめ!一杯食わせよった!」ガンガン


 シス卿は憤懣やるかたなく、Xウィングの装甲を繰り返し蹴りつけた。
しかし地震に急かされ、方向指示器をへし折って怒りを収める。


ネーア(シンノはどこじゃ?一刻も早くこのことを……待て、近い!)


 ネーアはフォースを通じてシンノの居場所を探り、倉庫を出て廊下を移動した。
息を殺し、開け放しの扉から別の部屋を覗く。


グレイヴス「ついでに言えば、クイナワの反乱軍基地の場所を帝国軍に通報したのも私だ」

シンノ「……一体、何のため……ですか」


 そこには新たなシスの師弟の姿があった。
弟子の腕の中ではリズマが力なく抱かれ、二度と目を開けそうにない。
ネーアは自分の帰還が遅すぎたことを直感した。


グレイヴス「当然、お前に試練を課すためだ。本来あそこで帝国軍に攫われてやる予定だったが、もう一押しが足りないと思って残ったんだ。そのせいで後でテイティスに出張ってこさせる羽目になったが」

シンノ「……全部マスター・グレイヴスの手の内、か……」

ネーア(グレイヴス?ダース・グレイヴスか!)

シンノ「この星にいるのも……」

グレイヴス「……いや、これは分離主義者のせいだ。マクシャリスの仕業よ」


 グレイヴスは壁面のスイッチを操作し、シャッターを解放する。
外から熱風が吹き込み、ネーアの頬にまで届いた。
二人はそばに駐機されていたシャトルの中に乗り込む。


グレイヴス「奴には思い知らせねばならん。シスを裏切り、あまつさえ帝国軍を釣る餌にした報いをな……」


 グレイヴスは操縦席につき、慣れた手つきでコンソールを操作した。
機体後部のタラップが格納され、ジェネレーターが唸りを上げる。
シンノは浮遊感を覚え、窓越しに遠ざかる景色を見て、不意に目を剥いた。


シンノ「降りろ……降りろ!船を降ろせ!」ダッ

グレイヴス「うっ、何をする?放せ!」バッ

シンノ「ぐわっ!」ドタッ


 疲れ果てた体を強いてグレイヴスに組み付くが、容易く振り払われて尻餅をつく。
恐るべき黒幕はパイロットシートの上に立ち上がり、威厳に満ちた仕草でシンノを睥睨した。


グレイヴス「少し甘くしすぎたか?反抗は許さんぞ。マスターである私と、後ろに転がっているあれがこれからのお前の全てだ。よく覚えておくがいい」

シンノ「ネーアが……ネーアがまだ、あの星に……」

グレイヴス「ネーア?……ああ、なんだ、あのガキのことか。今更迎えに戻ることなどできんぞ。後ろで見てみろ」


 グレイヴスは席に戻り、キャビンの後方を指し示す。
シンノは底知れない悪寒を覚えてそれに従い、機体後部の窓に取り付いた。
シャトルは急速に高度を上げており、彼はそこから惑星クマモッテの全貌を見ることができた。


グレイヴス「古代シスの兵器と同じだ、何が起こるか察しはつく」


 薄汚れた星は急速にひび割れ、空気の抜けたボールのように歪んでいく。
そしてぶるぶると震え、その周波が極限まで高まったとき――
惑星クマモッテは内側から火を噴き、木っ端みじんに爆発した。


シンノ「……あ……ああ」


 シンノは膝から崩れ落ちた。
微かに蘇った感情を絶望が打ち砕く。
飛び散る星のほうから何か、形のないものが押し寄せてくる。
シンノはその冷たさに怯み、恐れて、嘔吐した。


グレイヴス「断末魔だな。星の爆発で死んだ奴らの」


 頭に冷たい手が触れるのを感じる。
撫でてくれている。
シンノは震えながらも少し冷静さを取り戻して、速度の感覚が消えたのに気づいた。
ハイパースペースに突入したのだ。

 
グレイヴス「ネーアとかいうのも死んだだろうが……まあ、すぐに気にならなくなるとも」


ネーア(妾が星の爆発くらいで死ぬと思っているのか。お生憎様ぞよ!)


 ネーアはその床下で邪悪にほくそ笑んだ。
彼女はシャトルが離陸する直前、その着陸脚にしがみつき、キャビンのすぐ下の領域に潜り込んでいたのだった。


ネーア(シンノの奴は妾と何年も付き合っててどうしてああも鈍いのじゃ。鈍いと言えばミコア、もといグレイヴスの奴も――)

グレイヴス「ふむ、ネズミが潜り込んだようだな」

ネーア「……」


 頭上でライトセーバーが鞘走る音がした。
永遠にも思える数秒。
着陸脚にしがみつくネーアのすぐ横に、赤い光が降ってくる。
赤い光が虚空で火花を散らした。


ニンジャコマンドーA『ピガーッ!』ガシャンッ


 そこの壁面にしがみついていたニンジャ・コマンドーが、急所を貫かれた状態で出現した。
たちまち機能を失い、着陸脚格納ハッチの上に落下する。
ネーアは思わぬ同居人がスクラップと化して足元に転がるのを恐々と見下ろした。


ネーア(……セ、セーフぞよ)


 そして気が抜けると、手が着陸脚に張り付いたまま動かせないのに気づいた。
凍りついている。
ここは極寒の宇宙と金属板一枚を隔てただけで、暖房もない極限の空間なのだ。


ネーア(セーフじゃないのじゃ……!まずい、寝たらダメじゃ、寝た……ら……)


 冷気はシス卿の全身を包み、疲労と合わさって、その意識を闇の中へ引きずり込む。
シャトルは白く輝くハイパースペースを抜け、暗黒の宇宙へと消えていった。


ユスカ「はあっ!」ガバッ


 ユスカは布団をはねのけて身を起こした。
ひどい頭痛がする。
それに全身汗だくだ。


ユスカ「はあ、はあ……何これ……」


 扉が開き、暗い部屋に明かりが差し込む。
ユスカは弾かれたように枕元のブラスターを取った。


C7-BDB『オ、オイ待テ!撃ツナ、俺ダ!』
 
ユスカ「……はあーっ、あんたか。驚かせないでよ」ガチャッ


 しかし入室者の正体は見知った料理人ドロイドだ。
ユスカは武器を置き、汗を拭った。


C7-BDB『何ダッテ何ダヨ、水持ッテキテヤッタノニヨ』

ユスカ「水?何でよ」

C7-BDB『スゲーウナサレテタゼ、部屋ノ外カラデモ聞コエルクライニナ。何ノ夢ミテタンダ?』

ユスカ「……夢……」


 たしかに何か、ひどい悪夢を見ていた。
暗闇。
地響き。
赤い光。
聞き覚えのある誰かの声と、涙。
その先を思い出そうとしたとき、腹に焼けつくような痛みが走った。


ユスカ「……リズマ?」

いきてたかーのじゃ


 ――数日後。
QC宙域はセンターリムから遠く離れた辺境だが、惑星オイタットはその中でも最果ての領域に位置する。
そして今、その衛星軌道上に、惑星クマモッテを離脱した分離主義勢力の主力艦隊が集結していた。


マクシャリス「貴様らには失望したぞ」


 その中心、旗艦ヴェンジェンス。
マクシャリスは艦内の私室に座し、コムリンク通信機に向かっていた。


マクシャリス「よもや、まだ人形どもと遊んでいたとは……」

『申し訳ないっス、ボス!――ザザザ――とおっ!はあっ!』


 ノイズ混じりの立体映像が、ライトセーバーを振るうエイリアンの女性を映し出す。
その周囲にはチラチラと奇妙なドロイドたちが映り込み、主役に襲いかかっては返り討ちにあっていた。


『このベップーのザザッ、思った以上に下に広くて!今地下65、いや66階っス!墓守どもも増えていく一方で――ザザザ』

マクシャリス「思った以上にだと?貴様が土地勘があるというから寄越したんだぞ」

『適当なこと言いました、申し訳ないっス!――寄るなって!はあっ!――こう深いとスキャナーも役に立たないし、通信も超長波ですらこの通りザザザザザ』


 マクシャリスが顔をしかめていると、机のコンソールが赤いランプを点滅させた。
来客のサインだ。


マクシャリス「もういい、ノイズ混じりの言い訳は聞くに堪えん。とにかく一日でも早くベップー遺跡を制圧しろ、今の我々にはそこの設備が不可欠だ」

『ラジャラジャっス!ASAPでやります!ザザザッ』


 舌打ちしてから通信を切り、コンソールを操作して入口の扉を開ける。
来客は金属の脚で照明の下に進み出て、金属の手で敬礼した。


カラーニ『先遣艦隊司令官、からーに。参上シマシタ』


 緑と金に彩られたボディをもつスーパータクティカル・ドロイドだ。
マクシャリスはさっきまでの苛立ちを完璧に覆い隠し、最高指導者にふさわしい余裕に満ちた微笑で応対した。


マクシャリス「呼びつけて申し訳ありません。それと、役不足な露払いを強いてしまったことも謝罪しなければなりますまい」


 カラーニは元々別の残党グループを率いていたが、比較的最近になってQC宙域の分離主義勢力に合流した経歴を持つ。
マクシャリスはこのドロイドの存在をバスタ・ガスターやアジアス・ジ・アーチに対して隠蔽し、彼らを謀殺した後の準備を整える隠し玉として扱っていたのだった。


カラーニ『衛星軌道上ニオケル土着文明ノ自律兵器トでぶりノ排除、オヨビ補給すてーしょんノ設置。イズレモ重要ナみっしょんデス、役不足ニハアタリマセン』

マクシャリス「そう言っていただけると安心します。スター・サクリファイス作戦で本拠を失った今、我々にとって新天地の整備は何より優先すべき課題です」

カラーニ『……現時点デ、すたー・さくりふぁいす作戦ノ戦果ハドノ程度確認デキテイルノデショウカ』

マクシャリス「確実なのはQC宙域総督タクージン・シカーグの戦死のみです。作戦完了直前にスター・デストロイヤー四隻が被害半径内に留まっているのはわかっているのですが」

カラーニ『イズレモ帝国ニハ十分補填可能ナ損害デス』

マクシャリス「惑星クマモッテを犠牲にしたことに疑問を感じていらっしゃるのですか?」

カラーニ『損失ヲ有意義ナモノトスルタメ、今後一層しびあナ戦略ガ必要トナリマス』


 マクシャリスを三つのアイセンサーが見据える。
カラーニの眼差しには、他の戦術ドロイドにない高い知性が見えるようだった。


マクシャリス「ちょうどよかった。犠牲を払ってもスター・サクリファイス作戦を決行する意義……今日説明申し上げて、ご理解いただきたいと思っていたところです」

カラーニ『どろいどノ私ニ、デスカ』

マクシャリス「伯父上が重用していたドロイドのあなたに、です」


 マクシャリスは席を立ち、背後の大窓を顧みた。
ジャングルに覆われた惑星オイタットの緑を背景に、分離主義の艦隊がシルエットとなって浮かぶ。


マクシャリス「……ずいぶん数が減りました。クローン戦争が始まったとき、惑星セレノーで見た観艦式に比べれば」


 若き最高指導者は端正な顔立ちを物憂げに歪める。
彼の並外れた才能をもってしても、時代の主流から追いやられた軍団を維持することは容易ではなかった。


マクシャリス「あの時の私は子供でした。しかし今の私は違う。指導者としてすべきことを理解しています」

カラーニ『共和国ヲ倒スタメニ、デスカ』

マクシャリス「共和国との戦いは終わりました。惑星ムスタファーで……そしてそこで、新たな戦いが始まったのです」

カラーニ『何ノ勢力ト敵対スルモノデショウカ』

マクシャリス「シスの暗黒卿です」


 マクシャリスの語調が余裕を失して、無表情なものとなる。


マクシャリス「私は電子的記録とフォースの両面からクローン戦争を分析しました。その真実は、シスが伯父上と分離主義の全てを使い捨てたということだった」

カラーニ『シカシ、アナタノ伯父上……どぅーくー伯爵モしすデシタ』

マクシャリス「その通りです。よくご存じだ」


 しかしそれはごく短い間だけのことだ。
振り返った彼は物腰柔らかな態度を取り戻し、穏やかな微笑を浮かべている。


マクシャリス「しかし矛盾はしますまい。私はダース・ティラナスの後継者ではなく、ドゥークー伯爵の後継者なのです」

カラーニ『……じぇだいますたートシテノ伯爵ノ後継者、トイウコトデショウカ』

マクシャリス「どちらかといえばそうです。もっとも、私はジェダイになる心算はありませんが」


 マクシャリスはマントの裏から金属筒を取り出し、側面のスイッチを操作する。
筒の一端から金色のプラズマが噴出し、光の刃を形成した。
その輝きの向こうにかつての持主、ひいてはその主君の影を見る。


マクシャリス「今、ダース・シディアスは帝国というシステムを通して銀河に圧政を敷いています。それは分離主義という思想そのものへの挑戦です」

カラーニ『デハ、くまもってヲ爆破シタノモ』

マクシャリス「我々の唯一にして真実の敵を相手取った開戦の狼煙……あるいは宣戦布告です。犠牲をいとわず成功させる必要がありました」


 マクシャリスはセイント・セーバーを一振りして、虚空を割く。
伯父の後を継ぎ、星を爆破した男の本願。


マクシャリス「……シスは絶滅しなければなりません。いかなる手段を使ってでも」


ネーア「絶滅ぅ!?」ガバッ


 ネーアは布団をはねのけて身を起こした。


ネーア(な、何か突拍子もない夢見た気がするぞよ……しかし、ここは……)


 腕に刺さった点滴を引っこ抜きつつ、あたりを見回す。
自分のベッドをハイテクな治療器具と医療ドロイドが取り囲んでいる。
正面の壁には無菌室のような窓があり、外の廊下が見える。
今、白い装甲服を着た一団がそこをどやどやと横切った。
大いに見覚えのある装甲服だ。


ネーア(……まさか)

「――おや、ちょうどお目覚めのようだな」


 ネーアはぎょっとして声のする方を見る。
その主は入口のドアを背に、数名のストーム・トルーパーを従えて立っていた。
 

ワイマッグ「久しぶり、というべきかな……シスの暗黒卿、ダース・ネーア」

ネーア「そ、そなたは……!」


 セード・ワイマッグ。
かつて衛星砲台ラグナロクを巡る戦いで、シンノやネーアと相対した帝国軍将校だ。


ネーア「……えーっと、誰じゃったっけ?」

ワイマッグ「よし、ハクカ基地の監獄に移送しろ」

ネーア「ま、待て!顔はわかるんじゃ、名前が出てこないだけで!」

/後半はスーパーネーア卿タイムです
/エピソード9はよくまとまっていると感じました

やったー


グレイヴス「七百年前、私は弟子のダース・メドーに殺された……しかし滅びはしなかった。何故かわかるか?」

シンノ「……わかりません、マスター」

グレイヴス「暗黒面の力だ。シスの秘術によってここ、惑星ヤマタイティアの王族の血筋に、魂を焼きつけていたのだ」


 ヤマタイト王国の宮殿は、惑星ヤマタイティアの首都に存在する。
グレイヴスとシンノはその最深部、秘匿された領域にある巨大なエレベーターで下降中だった。
それは古代文明の産物と思しく、壁を持たず床だけが上下する奇妙な構造だ。


グレイヴス「私はシスの嫡流を離れ、独り研究を続けた。その成果をもってヤマタイトに隆盛をもたらし、それによって新たな研究材料を収集してきた」


 四方の壁面にはエキゾチックな壁画がびっしりと描き込まれている。
炎の剣を持った男と、それに導かれる人々。
稲妻を噴いて飛ぶ船団。
侵略。
征服。
収奪。
かつて銀河全域にその名を轟かせたヤマタイトの歴史が、下方から現れては上方へ消えていく。


グレイヴス「だが血統は時間と共に汚れ、薄まる……私はかつて自分が編み出した技を使うことができなくなっていった。一つ、また一つ。要する素質が高いものから順にな」


 壁画は平穏や文化の興隆をアピールするものへ変わり、やがて途切れた。
あとはまっさらな石の壁が流れていくばかりだ。
グレイヴスは首から提げたホロクロンを固く握りしめる。


グレイヴス「私は弟子を取ることにした……ヤマタイト・シスの教えを今一度完全なものとするために。なぜそれが必要かわかるか」

シンノ「……わかりません、マスター」

グレイヴス「支配するためだ。古代の強大なシスでさえ成し得なかった銀河全域の支配……それを伝統の技術でなく自分自身の力でなすため、いくつもの肉の義体を使い捨てて生きてきたのだ」


 やがてエレベーターは減速し、停止する。
二人の目の前には重厚な両開きの扉が出現していた。
グレイヴスが手をひらりと動かすと、それはひとりでに動き始め、石の擦れる音とともに道を開く。
やがて四角形の暗闇がぽっかりと口を空けた。


シンノ「……」


 シンノは魂が抜けたようになっていたが、ここに及んで危機感を覚えた。
惑星キイでシスの遺跡を前にした時よりなおひどい悪寒に身震いする。
この奥に踏み込んで、戻ってくることはできるのか?


グレイヴス「どうした。暗いところは怖いか?」


 シス卿はその恐れを見通す。
シンノは彼女の眼差しの冷たさに怯み、唾を呑んだ。


シンノ「……マスター。この奥に……何があるんですか?」

グレイヴス「さっき説明しただろう。私の七百年の研究成果だ」


 シス卿は溜め息をついたあと、表情をがらりと変えた。
クイナワで、ヤクシムで、彼とともに笑い、戦い、ときに彼を諭した幼くも聡明な仲間が、束の間だけ帰ってくる。


ミコア「それがリズマさんを死の闇から救うのです。もう少しだけ頑張りましょう、私が一緒です」


 シンノにもそれが欺瞞だとすぐにわかった。
しかし今の彼は、彼女の表情に、声に、どうしようもなく安らぎを感じてしまっていた。
シンノは進む。
亡骸を収めたチルド・カプセルを押して、師となるべき人物に誘われ、底知れぬ闇の中へ……


ワイマッグ『一両日中にも、ヴェイダー卿がハクカ基地にいらっしゃるらしい』

マーズ「ダース・ヴェイダーがここに!?何故です!?」

ワイマッグ『むろん、昨日そちらに移送した捕虜を尋問するためだ』


 ネーア覚醒の翌日。
惑星ハクカにある帝国軍基地の司令室にて、マーズはホロネット通信機に向かっていた。
青白い立体映像のワイマッグ司令官は、悩ましげな表情で言を続ける。


ワイマッグ『卿が自分たち以外のフォース使いに多大な関心をお持ちなのはお前も承知のはずだ。特にQC宙域のジェダイは反乱軍と連携していることが明らかだからな……』

マーズ「しかし閣下、あれはジェダイではありません。シスです」

ワイマッグ『どちらでも同じことだ。いやむしろ、シスのほうが敏感になるのではないか?』

サギ「ヒヒィ、仰る通りですゥ」


 横からエージェント・サギが合いの手を入れる。
彼は惑星クマモッテの爆発を無傷で生き延び、早々とハクカに引き上げてきていた。


サギ「私の記憶が正しければ、ダース・ベインが定めた掟により、シスの暗黒卿はつねに師と弟子の二人のみ……三人目がいるとなれば、沽券にかけても殺しにくることでしょォ」

ワイマッグ『もちろん拷問で四人目がいないことを確かめてから、だろうがな』


 マーズはサギの横槍を咎めようとしたとき、恐ろしいことに気づいた。


マーズ(私があれに弟子入りしようとしたのは、皇帝とヴェイダー卿に成り代わろうとする行為だったのか……とすると、もしもヴェイダー卿がそれを知ったら……!)


 以前かの暗黒卿に首を締めあげられた感覚が蘇った。
全身から血の気が引き、眩暈が襲う。


ワイマッグ『私はしばらくクマモッテ星系から離れられん。第一艦隊が壊滅した原因を突き止めるまではな……だからお前はヴェイダー卿が到着するまで、くれぐれも例の捕虜が脱走なぞしないよう……』

マーズ「――します」

ワイマッグ『ん?今なんと言った?』

マーズ「殺します!ダース・ネーアを!」ビシューンッ


 マーズは突然ライトセーバーを起動した。
エージェント・サギと司令室内の一般兵たちが慌てて飛び退る。


サギ「ヒィィ殿中!殿中ですよマーズ第二艦隊司令官付補佐官殿!」

ワイマッグ『落ち着けマーズ、何故そうなる!その物騒なものをしまえ!』

マーズ「フウーッ、フウーッ……!」

ワイマッグ『いいか、深呼吸しろ……ゆっくりとだ……そしてライトセーバーのスイッチを切り……元あったように腰に提げる。よし』
 

 ダーク・ジェダイは主人になだめられて平静を取り戻した。
凶悪な武器はジット・セーバーは鞘に戻ると、司令部要員たちは囁きを交わしながら自分の職務に戻る。


マーズ「……申し訳ありません、取り乱しました」

ワイマッグ『……ヴェイダー卿と顔を合わせづらい気持ちはわかる。しかしあの重要な捕虜を独断で殺したりしてみろ、私もいい加減かばいきれんぞ』

サギ「ヒィィ、まったくですゥ……奴は反乱軍とも繋がりがあるのでしょォ、反乱軍の基地の在処も聞き出せるかもしれないのですよォ。値千金ですゥ」

マーズ「反乱軍の……基地……」


 マーズの頭の中で化学反応が生じた。
唐突に踵を返して司令室から出ていこうとする。


ワイマッグ『おい待て、どこへ行く!?』

マーズ「ダース・ネーアを尋問します」

サギ「ヒィィ、やっぱり殺すつもりだァ!」

マーズ「黙れ……!」バッ


 マーズが振り返り、サギのほうへ手をかざす。
見えざる力が彼の首を締め上げる。


サギ「ぐぐっ、く……!?」

マーズ「さっきからぎゃあぎゃあうるさいぞ、帝国保安局のチクり屋風情が……!」グググ

ワイマッグ『ジヒス・マーズ!貴様、いい加減にしろ!』


 チクられるまでもなく見ていた上官がそれを遮った。
マーズはびくりと肩を震わせ、サギはフォース・チョークから解放される。


サギ「ぐがっは、げほっげほっ……!ヒィィ、なんたるDV……!」

ワイマッグ『いいか、そこは貴様の遊び場じゃない!銀河帝国の軍事基地だ!いかな特殊技能者とはいえ、これ以上軍規を乱すようなら今すぐ処罰するぞ!』

マーズ「……あ……ああ……!」


 その叱責は、マーズの動揺した精神に深々と突き刺さった。
ダーク・ジェダイはがくりと膝をついたかと思うと、ワイマッグへ向けて土下座した。


マーズ「申し訳ありません!申し訳ありません!私が間違っていました、私が愚かでした……!」


 ワイマッグとサギ、他の司令部要員たちは揃って肝を潰し、その異様なさまを眺めた。
マーズは何かしらの過去の記憶のフラッシュバックに襲われ、頭を床に擦り付けたままとめどなく涙を流した。


マーズ「悪いところは直します、改めますから、私を捨てないでください……お願いします、お願いします……!」

ワイマッグ『お、おい……お前……どうしたんだ?』

サギ「……あ、あのう、ワイマッグ司令官……実は私、今の、そんなに苦しくはなかったかな、なんてェ……?」

ワイマッグ『あ、そうなのか……?じゃあまあ、ほら、マーズ。そんなに謝ることでもないだろう……』

マーズ「許していただけるんですか……?」

ワイマッグ『ええと……まあ、とりあえず、保留とする』

マーズ「……あ、ありがとうございます……寛大な処分、ありがとうございます!」


 マーズは急に立ち上がり、軍服の袖で涙を拭って、泣き腫らした顔で笑ってみせた。


マーズ「この分は必ずお役に立って見せます。捕虜に反乱軍基地の在処を吐かせることによって!今度こそ!」


 そして高らかにそう宣言し、呆然とする一同を残して速足で司令室を出ていった。
しばしの静寂の後、エージェント・サギがおずおずと口を開く。


サギ「ワ、ワイマッグ司令官殿ォ……彼女が、その、ああなるのは、初めてのことで?」

ワイマッグ『……いや、思えばラグナロクでも……最近は落ち着いていたが、ヴェイダー卿のことがトリガーになって再発したということか……』

なんか何かにつけてミコアモードを強請ってバブるシンノを想像してわらた


 ヤマタイト王宮、最奥の間。
青白い炎の燭台だけが照らす薄暗闇の中、ダース・グレイヴスは円形の祭壇に向かい、その縁に筆で呪文を書き込んでいく。
シンノは傍で見守っていたが、不意に生物質な悪臭を感じる。
シス卿は何かの血液をインク代わりにしているようだった。


グレイヴス「……よし、魔方陣はこんなものでいいだろう」


 グレイヴスは筆と墨壺を傍に置き、あらためて祭壇を眺めた。
中央にはリズマの亡骸が仰向けに横たわり、血で描かれた幾何学模様と呪文がそれを取り囲む。
不気味な黒衣の従者がグレイヴスに近づき、手のひら大の瓶を差し出した。
シンノはその瓶に、何か忌まわしいような感覚を覚える。


シンノ「……マスター、何ですか……その」

グレイヴス「これか?これは『ネガ・クロリアン』だ。伝説のシス卿、ダース・ヴォロスの遺産。フォースの暗黒面の力を、大いに引き出す……」


 シス卿はそう説明しつつ、瓶の中身を少し手に取った。
どす黒い液状のそれを、一息に飲み込む。


グレイヴス「――ウグッ、ガハッ!ゲホゲホッ!」


 とたんに目を剥き、猛烈に咳き込み始めた。


シンノ「!?ミ……マ、マスター!大丈夫ですか!?」

グレイヴス「ゴホッ、ガッハ!ペッ!」


 グレイヴスはシンノや従者が駆け寄るのを待たず、黒い液体を吐き出した。
苦渋の表情で口元を拭う。


グレイヴス「チッ、もう体が受け付けんか……シンノ。見ての通り、この薬の過剰なパワーはほとんどの生者には毒となる。しかしそうでない者の体には、ちょうどいいカンフル剤だ」


 シス卿は祭壇に登り、勺のようなもので亡骸の口をこじ開け、その中にネガ・クロリアンを注いだ。
シンノは気が気ではなかったが、彼の師は涼しい顔だ。


グレイヴス「これで準備は完了だ。儀式を始めるぞ」

シンノ「は……はい」


 従者は幽霊のように音もなく退室し、残る二人は並んで祭壇に向かった。
グレイヴスは繊細な装飾が施された黒ローブを纏い、ホロクロンを手にする。


グレイヴス「――『マラコアの星』」


 ホロクロンがぎらりと輝き、魔方陣の一部が青白く燃え上がる。
同時にシンノは何かおぞましい気配を覚えた。


グレイヴス「『鉄の果実』。『嗤う骸骨』。『ダソミアの雲』。『聖者の血』。『エグザ・キューンの影』……」


 呪文の一節ごとに火は広がり、やがて魔方陣が炎の軌跡となって亡骸を取り囲んだ。
気配は急速に鮮明になっていく。
地の底から何かがこちらを睨みつけ、向かってくるようなイメージが浮かび上がる。


グレイヴス「開け。世界と生命の狭間。大いなる力の連環の間隙。我は霞み、溶けるものを呼び、引き戻す者」


 超自然の炎はいよいよ激しく燃え上がり、生贄を焼くような冒涜的な光景が展開する。
この段階になって、シンノは気づいた。
彼が恐れている気配が、幼いころから親しんできたものであることに。
マスターから教えられ、自分の道を拓いてきた力が今、反転して顕現しつつある。


シンノ(これが……フォースの、暗黒面……!)

グレイヴス「エクセゴルの匣のもとにあらゆる理はなし。今再び自らを明らかならしめ、呼び覚ませ、フォースの外表を往く者よーー!」


 祭壇から一際猛烈な火炎が噴き上がり、天井を炙った。
唐突に暗闇が訪れる。
シンノはその中で、さっきまで接近していた気配が消失するのを感じた。
やがて目が慣れて、燭台と祭壇の残火だけが照らす薄暗闇が戻る。


シンノ「……マスター、何が……何が起こったんですか?」

グレイヴス「ハアーッ……自分の目で、確かめるがいい……」


 グレイヴスはやや大儀そうにそう言い、ホロクロンを懐に収めた。
シンノは祭壇に近づき、弟子の亡骸を注意深く観察する。
何も変化はない……いや違う。
指先が痙攣し、瞼が微動する。
顔の前に手をかざすと、空気が通っているのが感じられる。
呼吸している。


シンノ「……なんということだ、これは……これは!」


 シンノが呻くように言って後ずさったとき、死体が目を開けた。
手をつき、身を起こす。


リズマ「……」

シンノ「……リズマ……リズマなのか」

リズマ「……マ、スター」


 目はうつろで、声色は淡い。
しかしリズマだ。
二度と会うことができないと思っていた彼女が、今、目の前にいる。


シンノ「ああ、リズマ……リズマ!」バッ


 シンノは彼女の膝に取りすがった。
肌越しに、さっきの気配を感じた。
亡骸の中には、それしかなかった。


リズマ「マスター」

シンノ「二度と……もう二度と、いなくならないでくれ……」


 彼女の手が触れるのを感じる。
それはひどく冷たいが、今はそれだけで十分だ。
その他のことは、何も考えたくない。


シンノ「俺は……俺は、弱い。独りは、怖いんだ……」


 どうせ誰も、自分のところに戻ってきはしないのだ。


グレイヴス「さあ、シンノ・カノス……私は務めを果たしたぞ。次はお前の番だ」 


 背後からシス卿が進み出る。


リズマ「マスター」

シンノ「ああ、リズマ……わかっている。わかっているとも」


 リズマがぎこちない動作で促す。
シンノは名残惜し気に彼女の下を離れ、グレイヴスに向き直り、跪いた。


シンノ「……マスター……マスター・グレイヴス。私はあなたに、忠誠を誓います」

グレイヴス「うむ、よろしい……暗黒面の神髄には今なお謎が多い。しかし二人で探求すれば、そこの者により鮮やかな命を吹き込む術も見つかろうぞ」


 グレイヴスは自らのライトセーバーを抜き放ち、騎士叙勲式のごとくシンノに差し伸べた。
その刃は血よりなお赤い、闇夜の到来を告げる落陽の色だ。


グレイヴス「お前をヤマタイト・シスの座に迎えよう、我が弟子よ……今この時より軟弱なジェダイの名を捨て、ダース・カイウスと名乗るがいい!」

カイウス「イエス……マイ、マスター……」


ネーア「へえーっくしょん!」


 物語は同じヤマタイティア星系内、惑星ハクカの帝国軍基地に戻る。
ダース・ネーアは独房に閉じ込められたうえ、磔刑のようなポーズで厳重に拘束を受けていた。


ネーア「ウー、何だか嫌な予感がするぞよ……まるでこの宙域を丸ごと揺るがすレベルの軟弱者が爆誕したような……」

セントリードロイドA『オイ、騒グナ』


 監視役のドロイドがネーアの独白を遮る。
生身のトルーパーでないのはフォースによる精神攻撃への対策と思われた。


セントリードロイドA『捕虜ハ捕虜ラシク従順ニ振ル舞ウノガ賢明ダゾ』

セントリードロイドB『ソウダ。帝国軍ハ反逆者ニ慈悲ナド持タナイ』

ネーア「へえっ、人形風情が一丁前な口利きおって!お前らみたいなブリキ野郎の相手はクマモッテでもう十分ぞよ!」


 その時、突如独房の扉が開いた。
姿を現したのは、ネーアが見知ったダーク・ジェダイだ。


マーズ「……ダース・ネーア……ずいぶん威厳のある姿だな」

ネーア「チェッ、誰かと思えばヴェイダーの飼い犬の土下座女か」


 たちまちマーズのこめかみに青筋が浮く。
しかしこのとき彼女は感情を抑え、尋問する立場にふさわしい態度を保った。


マーズ「……フン、ラグナロクの時とは立場が逆だぞ。懇願するのはお前の方だ」

ネーア「そんなことより、なんで妾はそなたらに捕まっとるんじゃ?ダース・グレ……もとい、ミコア姫のシャトルに乗ってたはずなんじゃが」

マーズ「フフッ、クックック……そんなこと、私がわざわざ教えてやるとでも……」

セントリードロイドA『第一艦隊ノ壊滅ニ際シテ非常線ヲ展開シタトコロ、みこあ姫ノしゃとるガ引ッカカッタノダ。検問自体ハ問題ナカッタガ、離艦ニアタッテオ前ヲ――』

マーズ「あああああ!貴様!」ビシューンッ ズバッ

セントリードロイドA『ピガーッ!?』ガシャンッ


 失言を犯したドロイドはジット・セーバーで切り裂かれ、スクラップになって床に転がった。
ネーアはマーズが以前にもまして精神的に不安定になっていることを感じ取りつつ、冷静に状況を分析する。
どうやら自分は、ミコア姫のシャトルが帝国軍の艦艇に収容されて検問を受けた際、着陸脚から振り落とされたらしい。
しかしその際トドメを刺されなかったところを見ると、グレイヴスは自分のことに気づいていないようだ。


ネーア「へっへっへ……まあ何にせよミコア姫が無事でよかったのう。あれが今後もそなたらにとって無害な傀儡かどうかは保証しかねるが」

マーズ「口の減らない奴め……!」


 ダーク・ジェダイは自分のセーバーを収め、別のものを取り出した。
ネーアのライトセーバーである。
赤い刃を出力し、シス卿の喉元に突きつける。


マーズ「見ろ、これを。二度とお前の手の内には戻らんぞ……ヴェイダー卿に縊り殺されるまでな!」

ネーア「……ふ、ふん、そんなものはただの道具じゃ……ジェダイでもあるまいし特別な感慨なぞ抱かんわ。何ならそなたにやろうか?誰もが羨むファンアイテムじゃぞ」

マーズ「ぐぐ……!ええい、お喋りはもう沢山だ!」


 マーズはライトセーバーを投げ捨て、空の手をネーアの眼前にかざした。
たちまちダークサイドのフォースの力場が生じ、シス卿の脳を締め上げる。


ネーア「ぐがっ……そ、そなた……!」

マーズ「見せろ……見せろ、私に……仲間の居場所を。反乱軍の基地の在処を……!」

ネーア「ぐ、ぎぎぎ……!言うわけ、なかろうが……!」

マーズ「ククク……辛いだろう、苦しいだろう。だが誰も助けに来はしないぞ、お前は独りだ……絶望し、屈服しろ……!」


 ネーアは苦しみながらも、シスの技術で思考を読み取られることを防いだ。
さらには反撃に転じる。
フォースの流れを遡り、ダーク・ジェダイの精神を見通しにかかったのだ。


ネーア「……見える、見えるぞよ……そなたこそ、独りぼっちじゃ」

マーズ「!?何を言っている、貴様……!」


 マーズは動揺しつつも、フォースをより強く行使してネーアを痛めつけた。
シス卿はそれに抗い、ダーク・ジェダイの目を見返す。
二人が汗さえ流して得体の知れない戦いを繰り広げるさまを、残る一体のセントリー・ドロイドは怪訝そうに眺めた。


ネーア「フフッ、クックック……そうか、今度はワイマッグに服従したか……だがまあ、利用されているだけじゃろうな……」

マーズ「バカな、何を根拠に……!ふざけた妄言を!」

ネーア「妄言なものか、今までもそうだったじゃろうが……そなたに愛を説いたものは、いざもろとも危機に陥れば、ことごとくそなたを見捨てた」

マーズ「違う、母さんは、父さんは……マスターは、私のことを思って……!」

ネーア「そなたもちゃんとわかっておる。だから妾から基地の在処を聞き出して手柄を立て、ヴェイダーの罰から逃れようとしている」

マーズ「違う、違う……私は……!」

ネーア「いいや違わん、そなたは独りじゃ。どれだけ暗闇の中に迷おうと、誰も!そなたを!助けない!」

マーズ「ああ、うう……うああああ!」


 フォース比べは暗黒卿に軍配が上がった。
ダーク・ジェダイはすっかり恐慌に陥り、わけのわからないことを喚きながら独房から逃げ出していった。


ネーア「ふーう、久々に悪いことをしたぞよ。暗黒卿冥利に尽きるが、ちと疲れたな……」


 残されたネーアは満足げに一息吐いたあと、足元の床にあるものを見た。
マーズが投げ捨ていった、自分のライトセーバーだ。


セントリードロイドB『……?』


 ドロイドはネーアの視線を追って落とし物を発見し、拾い上げる。
その瞬間、シス卿はフォースでライトセーバーのスイッチを入れた。
光の刃がドロイドの中枢部を貫く。


ネーア「しかし、もうひと仕事じゃ」

ざる警備
またやらかしてるという


サギ「決まっています、分離主義者の新兵器ですゥ!自分の惑星を爆破して第一艦隊を巻き込んだのですよォ!」

ワイマッグ『しかし、今の奴らが自分から本拠地を犠牲にする意味合いは薄いんじゃないか?』


 司令室ではサギとワイマッグが通信機越しに議論を重ねていた。
ワイマッグの艦隊はいまだに第一艦隊壊滅の真相を掴みかねているらしい。


サギ「カルトなりに何か目的があったのでしょォ。とにかく、惑星クマモッテの爆発は自然災害などでは断じてありません!」

ワイマッグ『それは明らかだが……私は第三勢力の介入を疑っているんだ』

サギ「帝国でも分離主義者でもない何者かが、一網打尽を狙って惑星クマモッテを爆発させたとォ……?」

ワイマッグ『ああ。あくまで可能性の話だが――』

マーズ「ワイマッグ司令官……!」ダダッ


 そこへダーク・ジェダイが戻ってきた。
司令室に緊張が走る。


ワイマッグ『ど……どうしたマーズ。もう反乱軍基地の場所を聞き出したのか?』

マーズ「いいえ……いいえ司令官。奴のフォースは強大です。私などではとても……その思考を読むことはできない……」

ワイマッグ『それほどまでにか!?』

マーズ「やはり下手なことをせずヴェイダー卿に任せるのが一番……」

サギ「……?あのォ、マーズ補佐官殿……」

マーズ「何だ」

サギ「さっきは、ライトセーバーを二本お持ちではありませんでしたかァ……?」


 サギはひょろっとした手でマーズの腰を指差した。
今、ベルトのストラップには、ジット・セーバーだけが吊り下げられている。
マーズは目を見開く。
そしてパッと踵を返し、走り出した。


トルーパーA「おい聞いたかよ、第一艦隊のこと。惑星の爆発に巻き込まれて全滅したらしいぜ」スタスタ

トルーパーB「ああ、スターデストロイヤー四隻が修復不能の被害ときた。とんだスキャンダルだぜ」スタスタ


 ハクカ基地の倉庫区画にて、二人のストームトルーパーが巡回しつつ噂話に興じる。
近くの建物の陰から、その様子を伺う人影がある。


ネーア「……」コソッ


 ダース・ネーアだ。
トルーパーたちはヘルメットの視界の悪さもあって彼女に気づくことなく通り過ぎていく。


トルーパーA「この宙域の任務は気楽だが、こういうケースではさすがに緘口令が厳しい」スタスタ

トルーパーB「ラグナロクの時以来か。まあ総督が殺され、尋問官も重傷を負ったからな」スタスタ

トルーパーA「またワイマッグ体制に戻るのかどうか……」スタスタ

ネーア(クマモッテが爆発か……帝国も分離主義者に一杯食わされたようじゃのう)コソコソ


 シス卿はメイルーラン・フルーツのコンテナの陰を伝い、人目と監視カメラを避けて移動する。
倉庫区画を抜け、隣にある巨大な建物に裏口から潜り込む。


ネーア(……さて、ここに来るのは二度目じゃ。勝手はわかっておるぞ……)


 そこに収納されているのは、TIEファイターや輸送シャトルといった航空機。
格納庫である。


マーズ「――ダメだ」


 独房はもぬけの空だった。
見張りのドロイドは二体ともスクラップになっている。
拘束器具も、ドアロックも、ライトセーバーで破壊されていた。


マーズ「ダメだ、ダメだ、ダメだ……!」


 自分が置き忘れたライトセーバーでだ。
自分の失敗だ。
彼女の頭の中を最悪の想定が支配し、精神ストレスが極限に達する。


トルーパーA「おい大変だ、監房区画の監視係が殺されてる!」ドタドタ

トルーパーB「何だと!?また反乱軍が入り込んだのか!?」


 二人のストームトルーパーが廊下を通りかかった、その時。
独房の中から何かを猛烈に叩きつけるような音が響いた。
一度ではなく二度、三度と続き、それに伴って叫び声。


マーズ「衛兵!衛兵――ッ!」ブオンブオン ガチャンガチャン


 ダーク・ジェダイはジット・セーバーを抜き、独房の設備や壁を滅茶苦茶に破壊していた。
トルーパーたちが竦み、引き返そうとしたとき、基地内全域に警報が鳴り響いた。


『現在、何者かが発着場からTIEファイターを強奪し北北西へ逃走中!防空部隊スクランブル!』


 そのとたん、マーズはぴたりと破壊を止め、独房を飛び出した。


マーズ「どけえっ!」ドカッ

トルーパーA「うわっ!?」ズデッ

トルーパーB「だあっ!」ズデッ


 そしてトルーパーたちを押しのけて疾走する。
自らも発着場を目指して。


サギ「ヒィィーッ!まさか、よりによってあの重要な捕虜が……!」


 視点は再び司令室に戻る。
サギはヴェイダーがネーア脱走に激怒するさまを想像し、身震いして、レーダー士官の背中につかみかかった。


サギ「取り逃がしたら私の首も危ういぞォ!奴のファイターの追跡はできてるんだろうなァ!」

士官A「大丈夫です!トラッキング装置は破壊されましたが、対空レーダーで捕捉できています!」

サギ「航空管制!追跡部隊はまだかァ!」

士官B「今準備中です!それと、マーズ補佐官殿が出撃なさるらしく……」

サギ「何だとォ!?」


 サギが驚愕して大窓から飛行場を見やると、狙いすましたようなタイミングで一機のTIEファイターが離陸。
猛然たる勢いで強奪された機体の後を追った。


士官B「今出撃なさいました!」

サギ「見りゃわかるわァ!――ワイマッグ司令官、私も航空機で追跡を……!」

ワイマッグ『いや、待て。何か臭う』


 立体映像のワイマッグは、顎に手を当てて考え込む。


ワイマッグ『これほど何の工夫も無く逃げたところで、すぐに撃ち落とされるのは敵もわかっているはず……あれは自動操縦の囮の可能性がある』

サギ「囮!?バカな、ではダース・ネーアは本当はどこから脱出を……」

ワイマッグ『エージェント・サギ、君は捕虜が地上、もしくは地下から逃走したと仮定して捜索してくれ。私もすぐそちらへ戻る』

サギ「ヒヒィ、承知いたしましたァ!」

ワイマッグ『いいか、敵はフォース使いだ。もし奴を発見したらマーズを呼び戻し、協力して事に当たれ。こうなれば最悪の場合殺害してもかまわん、逃げられるよりよほどましだ!』


ネーア「ぶっはあああ!」


 ネーアはマンホールから暗い路地の中へ這い出し、そのまま地面に突っ伏した。
彼女はTIEファイターを自動操縦で飛ばして囮とし、自分は下水道からハクカ基地を脱出したのだった。


ネーア(ああもう、最近こんなのばっかりじゃ。一生分下水道歩いたぞよ……ええい、なにくそ!)


 自分を強いて立ち上がり、路地の外を見回す。
外は夜空の下、ネオンのきらめく繁華街だ。
ヒューマノイドとエイリアンの入り混じった雑多な人ごみの向こうに、二人のストームトルーパーの姿がある。
ネーアの姿を映した3D映像を手に、通行人に聞き込みを行っているようだ。


ネーア(地上にも追手が……囮の効きがいまいちよくないのう。反乱軍に迎えに来てもらう猶予はなさそうじゃ)


 シス卿は自力での脱出を決意し、路地伝いに移動を開始した。
どこかで宇宙船を調達せねばならない……それも帝国軍の追手を振り切れるような、高性能なものだ。
ネーアはそういった船を所有している人々を知っている。
シンノがそうだったからだ。


ネーア(密輸業者……どういうところにいるかは、察しがつくぞよ)


 彼らを雇う金はない。
後をつけて船を見つけたら、ライトセーバーで奪うのみだ。


クネー「邪魔する」ギイッ

店主「おお、クネー!久しぶりだな!」


 女賞金稼ぎは店内を見回した。
バカ騒ぎするチンピラ。
それにまけじと金管を噴き散らすブラスバンド。
隅のブース席で後ろめたい商談に励む密輸業者。
ここはハクカでもっともいかがわしい酒場だ。


クネー「相変わらずだな、この店は」

店主「それがウリだからな。ケッセルでいいか?」

クネー「ロックでな」

ナイン「×××××」ギイッ

店主「ようナイン・ナン!トルーパーから逃げてきたか、ええ?」

ナイン「××××?」

店主「基地の監獄から脱走者があったらしいんだ。女のガキを探してるみてえだぜ」

クネー「女のガキ……」


 クネーの脳裏にネーアの姿が浮かぶ。
彼女ならば反乱軍の情報も持っているかもしれない。
帝国軍が捕虜にする価値がある女児といえばあれくらいではないのか。


クネー「おいマスター、そのガキ、惑星クマモッテで捕まったとかじゃないだろうな」

店主「あ?知らねえよ。ていうかクマモッテは吹っ飛んだって話だろ?分離主義者と帝国軍もろとも」

クネー「吹っ飛んだ!?何でだ!?」

店主「う、噂だと、地殻変動か何かで内側からボカンと……どうしてそんなに気にする?」

クネー「いや……つい最近まであそこにいたものだからな」

店主「へえーっ、あそこは相当な鉄火場だったって話だろ?大したもんだな!」

ナイン「×××?××××?」ズイッ

クネー「な、何だ?サラスタン語はわからん」

店主「ハハハ、おいナン!反乱軍の情報収集ならヨソでやれよ」

ナイン「××××!」

店主「あーあー、そうだったな!お前は大した一匹狼だよ!」

クネー(クマモッテが、爆発……とすると、あいつらは……)

「クネー?お前クネーじゃねえか!?」


 クネーは肩を震わせた。
聞き覚えのある声だ。
その主が今、人ごみをかき分けて姿を現す。


イシュメール「クイナワ以来だなあ!」

クネー「イシュ、メール……」


 クネーの神経が、その男にくぎ付けにされた瞬間。
彼の声を聴きつけたと思しき第三者が走ってきて、ジャンプし、クネーの顔に飛びついた!


ネーア「クネェェェ!この裏切り者があああああ!」ガシッ

クネー「うおおおお!?」ドタッ

イシュメール「何だこいつ!?――あっ、ネーアじゃねえか!」

店主「知り合いかよ!?早くはがしてやれ!」


 同時刻、首都郊外。
市街地の一角が瓦礫の山と化して煙を上げている。
その中心には、TIEファイターの残骸があった。


マーズ「どこだ……どこに隠れた……!」ガシャガシャ


 ジヒス・マーズは素手で瓦礫をかき分け、撃墜した敵機の搭乗員を探す。
早くも野次馬が集まり、その鬼気迫った行動を遠巻きに眺めていた。
一人のジャワがその中から飛び出して、近くに駐機されていたマーズのTIEファイターから方向指示器をむしり取ろうと試みる。
マーズの懐でコムリンク通信機が鳴った。


マーズ「!はい、マーズです!」ピッ

ワイマッグ『私だ』


 ダーク・ジェダイが応答スイッチを押すと、青白い立体映像で彼女の上司の姿が映し出された。


マーズ「ワイマッグ司令官……!私はすでに脱走者のTIEを撃墜しました。ネーアは生きて脱出したか、死体が機外に放り出されたと思われ……」

ワイマッグ『いや、そこに奴はいない。エージェント・サギが下水道で奴の痕跡を発見した』

マーズ「下水道!?では奴は!」

ワイマッグ『繁華街へ向かったようだ。正確な位置は間もなくサギが突き止めるはずだ、お前も繁華街に飛べ!』

マーズ「承知しました!」


 マーズは通信を切ると、もはや墜落後にはなんの関心も払わず踵を返した。
ジャワをフォースで縊り殺し、さっと遠のく野次馬を無視してTIEファイターに乗り込み、離陸する。
ダークジェダイは己の罪を雪ぐため夜空を駆けた。


イシュメール「するってーと、何か?」


 イシュメールとクネー、ネーアは、酒場のテラスに移動していた。
密輸業者はグラスをくるくる回しつつ、怪訝そうな顔で確認する。


イシュメール「ネーアちゃんは500年の眠りから覚めた悪の魔法使いで」

ネーア「うむ」

イシュメール「ミコア姫も実は同じ悪の魔法使いで、クイナワの反乱軍基地の位置を帝国にチクったのも彼女」

ネーア「うむ」

イシュメール「そのうえシンノのやつをたぶらかして弟子にしたから、連れ戻しに行かないといけないって?」

ネーア「そうじゃ」

イシュメール「なんだそりゃ!?この時代にそんなオカルトな茶番をマジでやってんのかよ!?」

クネー「……しかも、そのせいでクイナワやクマモッテで大勢人死にが出てるってことになるが」

ネーア「シスは一子相伝。優秀な弟子はそのくらいの骨折りに値するぞよ」

イシュメール「自分が敵に捕まって助けられるのを待ったり、戦闘に巻き込まれたりする骨折りにもか!?」

クネー「……あー、イシュメール」

イシュメール「しかもそのために今まで育ててきた先代の弟子も犠牲にするって?そいつをもっと訓練するほうが早いだろうが!」

クネー「イシュメール、その辺にしておけ。何か変な方向に流れ弾が行ってる」


ネーア「ええい、理解が難しいならしなくても構わん!そなたらはただ妾を反乱軍の基地まで連れていけばよい」

イシュメール「俺は船を持ってない」

ネーア「チュクチャク木材のアガリはどうしたんじゃ?」

イシュメール「サバックですった」

ネーア「無能か貴様」

クネー「私も船は持ってない」

ネーア「嘘をつけ!WウィングをR3もろとも分捕っていったじゃろうが!」

クネー「チッ、いいだろう。いくらだ?」

ネーア「慰謝料でプラマイゼロじゃ!もちろん船も返してもらうぞよ」

クネー「はあ?そんなのが通るならな、私だってテイティスから慰謝料をガッポリせしめてるところだ!」

ネーア「そんなの知ったこっちゃないぞよ!」

クネー「おチビちゃんよ、お前は知らないかもしれないが、私たちの間じゃ交渉のときの暗黙のルールってのが……」

ネーア「何が暗黙のルールじゃ、その前に筋を通せ筋を!」

イシュメール「なあネーアちゃん、向こうのナイン・ナンに頼んだらどうだ?あいつは反乱軍とズブズブって噂で……」

ネーア「そなたは黙っておれ!」
クネー「あんたは黙ってて!」

イシュメール「な、なんだよ……」


 三人は会話に夢中になるあまり、気づかなかった。
酒場の周囲にストームトルーパーたちが展開していることに。
帝国軍はすでにネーアの居場所を突き止めていたのだ。


肩当トルーパー「エージェント・サギ、各分隊配置につきました。酒場の包囲、完了です」

サギ「ご苦労ォ」


 二人は酒場の向かいの建物、その屋上にいた。
サギは双眼鏡でテラス席の三人の姿を視認する。


サギ「奴がここに逃げ込んだということは、あそこは反乱軍の巣窟だァ……私がネーアを始末し次第酒場に突入し、残りの連中を全員逮捕しろォ」

肩当トルーパー「承知しました……あの、お言葉ですが、やはりマーズ補佐官の到着を待ったほうがいいのでは?」

サギ「中尉、お前はあんなサイコ女に手柄をくれてやる気かァ?あれは正気じゃないぞォ」

肩当トルーパー「しかし、ワイマッグ司令官は……」

サギ「司令官は『殺しても構わん』と仰った。捕まえるのは手こずるかもしれないが、殺すだけなら私でも十分可能だァ」


 サギは双眼鏡をしまい、代わりにブラスターライフルを取り出した。
狙撃モードにセットし、手すりから身を乗り出して、スコープ越しにネーアたちのいるテラスを覗き込む。


サギ(ちょろいもんだぜェ)


 サギはイシュメールとクネーを無視し、ネーアに照準を定める。
標的は小柄なので手すりが少し邪魔ではあるが、隙間から頭を狙える位置だ。


サギ(死ね、ダース・ネーア……その小ぎれいな顔を吹き飛ばしてやるゥ!)


 おそるべきISBのエージェントは精神を殺意で研ぎ澄まし、ついに引き金を引く。


ネーア「へーっくしょん!」


 その瞬間、シス卿は盛大にくしゃみをした。
光弾は狙いを逸れる。


クネー「ぐおっ!?」チュインッ


 そしてクネーの脚を掠め、背後の窓を破壊して店内に飛び込んだ。
たちまちフロアは恐慌に陥る。


ネーア「うおっ、何じゃ何じゃ!?」

イシュメール「おのれ、誰だ!よくもクネーを!」ジャキッ バシュバシュバシュ


 密輸業者は激昂し、凶弾が飛来した方向に自分のブラスターピストルを連射した。
夜闇の向こうでひきつったような叫びが聞こえて、ついで何かが地面に落下する音が響いた。
その直後、店内にストームトルーパーが乱入する。


トルーパーA「帝国軍だ!全員壁に手を付け!」ジャキッ

トルーパーB「第二分隊、俺に続け!テラスを制圧する!」ドカドカ


 酒場の中はカオスの極限に達した。
裏口や窓から逃走する人々、トルーパーに組み敷かれる人々、スタンレーザーに撃たれて倒れる人々。
それをかき分けて一隊のストームトルーパーが三人のほうに向かってくる。


ネーア「うおお、もう妾の居場所が!?」

クネー「痛つつ、ネーア!やっぱり脱走者はお前だったか、よくも巻き込みやがって!」

ネーア「そなたがあそこで逃げなければシンノもリズマも無事だったかもしれんのじゃ、お互い様ぞよ!」

イシュメール「ええい、どっちにしろもう俺たちだけ言い逃れは利かねえ!二人とも飛び降りろ!」


 三人は相次いでテラスから飛び降り、転がるように走った。
そして裏庭を抜けた先の路上に、のたうち回る黒服の男を発見する。


サギ「ぐああああ!痛い!痛い!これがシスの技か!おのれダース・ネーアめェ!」ゴロゴロ

ネーア「さっき撃ってきたやつじゃ!」

クネー「あの服、帝国保安局のエージェントだぞ!」

イシュメール「ちょうどいい、捕まえろ!」バッ


 ほんの数秒後、向かいの建物から数人のトルーパーが走り出てきて銃を構えた。
イシュメールがサギを後ろ手に捕まえて盾にする。


サギ「ぐわああ、やめろ、撃つなァ……」

肩当トルーパー「貴様、人質とは……!」

イシュメール「これは皇帝の手先、貴様らの上司だろうが。撃てるもんなら撃ってみやがれ!」


ネーア「今じゃ、食らえい!」ブオンッ


 その隙にネーアはフォースを使い、近くにあったゴミ箱をトルーパーたちに投げつけた。


トルーパー「「「ぐわあああ!?」」」ガシャーンッ


 金属塊の直撃を受けて吹っ飛ぶトルーパーたち。


イシュメール「ヒャッホーいいぜネーアちゃん!」

クネー「二人とも、こっちに来い!スピーダーがある!」


 三人は帝国のスピーダーを奪い、サギをトランクに放り込んで、いっさんに逃げ出した。
繁華街のネオンと喧騒が猛スピードで通り過ぎていく。
クネーは生ぬるい風を浴びつつ、今日あの酒場を訪れたことを深く後悔した。


クネー「ああくそ、どうしてこんなことに……!」

イシュメール「なあ、人質作戦がどこまで通用するかな!?」

ネーア「もう無理そうじゃ、あれを見ろ!」


 ネーアが摩天楼の向こうの夜空を指差す。
TIEファイターが一機、暗闇を切り裂くようにして高速で接近してくる。


イシュメール「ああ、まったく今日は俺の人生で最高の一日になりそうだぜ!」


 イシュメールは半ば自暴自棄に言い放ち、スピーダーをハイウェイのほうへ走らせた。

銃の構え方が酷そうなエージェント


マーズ「逃がさんぞ……!」


 ダークジェダイは両手の操縦桿を引き絞り、地上を睨んだ。
帝国のスピーダーが一台、行き交う車両をかわしつつ街道を駆け抜けていく。
そこにダース・ネーアの気配を感じる。


マーズ(こうなったら殺すしかない……あいつの首をヴェイダー卿への手土産にしてくれる!)


 マーズはロックオンを待たずに引き金を引いた。
TIEファイターの機関砲から無数の光弾が連なって飛び出す。
イシュメールはバックミラーを見て目を剥いた。
弾着の土煙が猛然と追ってくる。


イシュメール「うわわわわ……!ヤバいぞ、おい!」

クネー「くそっ、対空ミサイルとか積んでないのか!?」ガチャガチャ

ネーア「ええい、どけい!」ダッ


 ネーアはクネーを押しのけてトランクの上に立ち上がった。
マーズとネーアの視線がキャノピー越しに交錯する。
光弾が、届く。


ネーア「ぬうあああーっ!」バッ


 シス卿は両手を掲げ、自分の正面にフォースを放射した。
弾着がスピーダーを越え、前方へ通り過ぎる。


イシュメール「ああ、神様仏様ウィルズ様……あ?」


 密輸業者は自分がまだ生きていることに気づき、再びバックミラーを見た。


ネーア「ぬうう……ぬうっふっふっふ……!」グググ


 シス卿はこめかみに青筋を浮かべ、脂汗を垂らしながらも、笑っていた。
スピーダーに命中するコースで降り注いだ光弾は、そのすべてが、彼女の目の前の空中で静止している――
否、彼女から見て相対的に同じ位置に固定されているのだ。
ネーアが見えない腕で掴んでいるかのように。


マーズ「バカな、何だあれは……!?」


 ダークジェダイはTIEファイターを旋回させつつ地上を見下ろし、驚愕した。
機銃掃射を食らわせたのに、敵車両が無事なまま装甲し、光弾の群れがそれにくっついていく。


ネーア「返して、やるぞよ……!」グググ


 ネーアは側面上方の敵機を睨み、掲げた手のひらをゆっくりと捻る。
空中の光弾がゼンマイ仕掛けのように緩慢な動きで回転し、TIEファイターのほうに向き直る。


マーズ「!?まさかッ!」グイッ

ネーア「今じゃあ!」パッ


 ネーアはフォースの放射を止めた。
光弾は本来の速度を取り戻し、ハクカの夜空を切って飛んだ。
その輝きがダークジェダイの機体を貫通し、破壊する。


マーズ「お、おのれ……おのれーっ!」


 マーズはとっさの回避で機関部への被弾と爆発を避けていた。
しかしそもそもTIEファイターは防御の薄い機体。
機関部以外への被弾だけでもその機能を奪うのに十分だった。
ダークジェダイの機体はコントロールを失い、黒煙を引きながら、ビル街に墜落していく。


イシュメール「ワオ!マジかよお前、信じられねえ!念力でブラスターを弾き返しやがった!アメージングだ!」

クネー「……ま、まさかお前……本当にシスの暗黒卿、なのか?」

ネーア「ぜえ、ぜえ……だから言ったじゃろうが……さっきのあいつみたいなシスもどきじゃない、本物ぞよ……」


 シス卿は強気なことを言いながらも、顔色は真っ青で、手はぶるぶる震えていた。
よろめきながらどうにか座席に戻る。


ネーア「で、でも今のは、ちょっと疲れた……ガス、欠」ガクッ

イシュメール「……おい、ネーアちゃん?ネーアちゃん!?死んだ!?今の、命を賭けた大技的なアレだったのか!?」

クネー「いや、気絶してるだけのようだ……イシュメール!横合いから来るぞ!」


 密輸業者がその声に応えてパッと横を振り向くと、追い越し車線から三つの影が飛び出した。
スピーダーバイクに跨ったスカウト・トルーパーだ。


トルーパーA「こちら第3パトロール、ポイント66で脱獄囚を発見。これより攻撃します」ブオンブオン

トルーパーB「囲め囲め!」ブオンブオン

トルーパーC「逃げられるとでも思うのか!」ブオンブオン

イシュメール「うおおお!一難去ってまた一難か!」


 トルーパーたちは肉食獣のようにイシュメールたちに追いすがり、バイクの機銃で集中砲火を浴びせた。
火花が飛び散る中、密輸業者は半泣きで喚く。


イシュメール「うおおおお!ネーアちゃん起きてくれ、無敵のシスマジックでなんとかしてくださいよーッ!」

クネー「あいにくさっきので打ち止めらしいな……頭を低くしていろ!」ガシャコン


 今度は女賞金稼ぎの見せ場だ。
スピーダーに載っていたブラスター・ショットガンをコッキングし、手近なトルーパーにぶっぱなす。


クネー「ふんっ!」ドウンッ

トルーパーA「ぐわっ!?」ガシャーンッ


 スカウトトルーパーの一人が胸を撃たれて転落し、バイクもろともあっという間に後方へ消える。


クネー「さすがは帝国、いいマスターキーだ」ガシャコン

トルーパーB「おのれ!」ブオンブオン

クネー「近づくな!」ドウンッ

トルーパーB「ぎゃあっ!」ガシャーンッ

トルーパーC「やってくれたなあ!」ブオンッ


 さらに一人を仕留めるも、最後の一人がコッキングの隙を突いて急加速。
自分のバイクをスピーダーの後部に激突させる。


イシュメール「うおっ!?」

クネー「ぐうっ!?」

サギ『アアーッ!?何が起こってんだァ!?』


 エージェントがトランクの中で喚く。
クネーがショットガンを取り落とす。
三人目のトルーパーが乗り込んできて、それを路面へ蹴り落とした。


クネー「貴様……!」

トルーパーC「来い、ゴロツキ女!ファックされるのはスピーダーだけじゃ済まねえぞ!」


 スカウトトルーパーは電気トンファーを構えて挑発した。


クネー「ほざけ――はあっ!」ブウンッ


 女賞金稼ぎはエレクトロ・カタナを抜き、横殴りに斬りつけた。


トルーパーC「ぬうん!」ガキン ブオンッ


 敵は自分の得物で防ぎ、垂直に振り下ろしてくる。


クネー「かあっ!」バチッ ブンッ


 それを弾き、斜めに切り返す。


トルーパーC「ぐおっ!?」バチュンッ


 肩に入った。
クネーは敵の体勢が崩れるのを見て、追い打ちをかけるべく踏み込む。


クネー(ぐっ!?)ズキッ


 サギに撃たれた足が痛み、その動作を鈍らせた。


トルーパーC「オラアッ!」ブウンッ

クネー「ぐあっ!?」ドガッ


 次の瞬間、電気トンファーが彼女の胸を打ち据えた。
敵の起死回生の一撃だ。
クネーはよろめき、膝をつく。


クネー(し、しまっ……!)

トルーパーC「俺様に歯向かったのが間違いだ!」


 スカウトトルーパーが武器を大きく振りかぶる。


イシュメール「野郎!」ジャキ バシュッ

トルーパーC「ぐうっ!?」バスッ


 しかし密輸業者がハンドルから向き直り、ブラスターを発砲した。
光弾がトルーパーの脇腹を撃ち抜く。


クネー「だあっ!」ガバッ

トルーパーC「おわっ!?」ドガッ


 立て続けにクネーのタックルが命中し、敵をスピーダーから叩き落す。


トルーパーC「あああああ!貴様ら!覚えていろーッ!」ズダッ ゴロゴロ


 手練れのトルーパーはあえなく路上に投げ出され、捨て台詞を残して、時速数百キロで遠ざかっていった。


クネー「……フーッ」


 女賞金稼ぎは業物を鞘に納め、シートに戻る。
吹き付ける風、対向車のヘッドライトの輝き、都市の喧騒と微かなサイレン音。
イシュメールが前を向いたまま口を利く。


イシュメール「なあ、クネー!」

クネー「何だ」

イシュメール「このゴタゴタが片付いたら、また一緒に――」

クネー「……待て。何か聞こえないか」

イシュメール「何ぃ?」


 密輸業者は耳を澄まし、奇妙な響きが接近してくるのに気づいた。
リパルサーリフトの浮遊音だ。
そう理解した直後、ビルの陰から航空機が低空で姿を現す。


イシュメール「げえっ、ガンシップ!」

クネー「かわせ!脇道に飛び込めーっ!」


 ミサイルが着弾し、街道は爆炎の赤に染まった。


 帝国軍は首都キタクシーに戒厳令を発した。
市外へ通じるすべての街道が封鎖され、その包囲の内側をストームトルーパー部隊が走り回る。
彼らの手元にはネーアとイシュメール、クネーの3d映像があった。


トルーパーD「おい、こっちだ!」ブオンブオン

トルーパーE「こりゃあひどい」ブオンブオン

トルーパーF「重機が要るんじゃないか?」ブオンブオン


 そんな中、三人のスカウトトルーパーがスピーダーバイクに跨り、ある区画に到着した。
ビルが崩壊して炎上し、その中心にはTIEファイターの残骸が微かに覗いている。
本日二機目の墜落現場だ。


トルーパーD「なんにせよ、この様子ではマーズ補佐官の命はなさそうだ……」

トルーパーE「いや待て、あれを見ろ!」


 瓦礫の一つが微動したかと思うと、勢いよく吹き飛んだ。
その陰から、黒い人影がのっそりと姿を現す。


マーズ「ハアーッ、ハアーッ……!」


 ジヒス・マーズだ。
軍服は焼け焦げ、髪は乱れ、頭から血を流しながらも、確かな足取りで瓦礫の山を下りる。


トルーパーD「マーズ補佐官!?お体の方は――」

マーズ「どけっ!」ドカッ


 ダークジェダイはトルーパーの一人からバイクを奪って走り出した。
今や彼女のフォース感覚は極限まで研ぎ澄まされ、何の情報もなくともダース・ネーアの居場所を探知することができたのだ。
三人のトルーパーは何の迷いもなく疾走していく上官の姿を呆然と見送った。


 クネーの隠れ家は中庭に離着床パッドを備えた、ありふれたドーナツ型の施設だった。
逃亡者たちのスピーダーは無残に傷つき、黒煙を吹きつつ、どうにかそこへ辿り着いたのだった。


イシュメール「あー、ひどい目に遭った!」


 密輸業者はネーアを背負ってきてソファに寝かせ、疲れ切った様子でぼやく。


イシュメール「あんな大立ち回りは二度と御免だぜ、映画の主役じゃあるまいし!俺みたいな脇役にあんな鉄火場は荷が重すぎる!」

クネー「何一仕事終わったような口を利いてるんだ。まだ安心できないぞ……おい、もっときりきり歩け!」

サギ「ヒィィ、こんなこと許されないぞ!絶対にィ!」


 クネーは遅れてやってきた。
手錠で後ろ手に拘束したエージェント・サギを追い立てている。


クネー「イシュメール、私は船を準備する。お前はそこのアストロメクを起動して、そっちのコンピュータと一緒に持ってきてくれ」

イシュメール「わかった……あれ?このドロイド、どっかで見たことあるような」

クネー「最近手に入れた戦利品だ。そら、歩け!向こうの船に乗るんだ!」

サギ「おのれ、後で吠え面かくなよォ……」


 クネーとサギが中庭に向かう一方、イシュメールは彼女が指し示したアストロメク・ドロイドの電源を入れる。
赤い頭のR3タイプだ。


R3-C3『――ピポ?プパピポポ』

イシュメール「おう、お目覚めか。さっそくだが敵に追われてる、船を飛ばすのを手伝――」

R3-C3『プアアアア!ピポポプパパピポ』バンバン

イシュメール「うおお、何だ何だ!?痛ってえな、やめろ!」

R3-C3『ピコピコプパパピポプウウー』バチバチ

イシュメール「反乱軍?基地?密告?裏切り者?何のこと――ああっそうか、てめえシンノのドロイドだな!どうしてここにいる!?」

R3-C3『ピポピポプピポ』バチバチ

イシュメール「だからやめろ、俺じゃねえよ!何があったかしらねえが、俺のせいじゃねえ!何もしてねえって!」

R3-C3『プウウー…ピポポ?プアアア!』


 ドロイドは唐突にイシュメールの下を離れ、ソファの方に向かった。
アームを伸ばし、そこに寝かされている少女の頬をペチペチと叩く。


ネーア「うむ……何じゃあ……」

R3-C3『プパパピポポプウウ』

ネーア「むう?そなた、R3か!?おお、おお!よくぞ無事で!」ナデナデ

R3-C3『ピポピポプパパ』ガタガタ

ネーア「いや、密告者はミコア姫じゃった。奴の正体は妾の師のそのまた師のシス卿、ダース・グレイヴスだったのじゃ」

イシュメール「その話本当にマジなんだな……ていうか、俺のこと密告者だと思ってたのか?謝れよ」

ネーア「嫌じゃ」

イシュメール「謝れ」

ネーア「いーやーじゃ!」


クネー「おい、遅いぞ!一体何やって――」タタッ

イシュメール「てめえ、このクソガキ!今すぐ帝国軍に突き出してやったほうがいいみてえだな!」ギリギリ

ネーア「いてててて、やってみるがいいぞよ!そっちだってただじゃ帰れんじゃろ!」ゲシッゲシッ

R3-C3『ピポピポピポ』バチバチ

イシュメール「叩けば埃の出る身の上だあ!?てめえら、それが命の恩人に対する口の利き方か!?」ドタバタ

ネーア「ほざけ、それを言うならクイナワでは――」ジタバタ

R3-C3『プアアアー!』ギュルンギュルン

クネー「貴様ら!!モメてる場合か!!」


 女賞金稼ぎは二人と一機の尻を蹴飛ばしつつ、中庭へ戻った。
そこに駐機されているのは当然、シンノのWウィング。
クネーが惑星クマモッテで持ち逃げしたものだ。


ネーア「フン、まだ壊さずに済んどるようじゃのう。見た限りでは」

クネー「その嫌味は今じゃないとダメか?」

イシュメール「まったく大した暗黒卿だぜ」


 次の瞬間、外に面したドアが吹き飛んだ。
無人のスピーダー・バイクが室内に突っ込んできて、壁に激突して爆発。
今まで居たダイニングに黒煙が渦巻く。


サギ「ヒヒヒヒヒ、もうお迎えが来たようだなァ!」


 機内でエージェント・サギが勝ち誇って喚く。


クネー「ええい、言わんことじゃない!早く船に乗れ!」

イシュメール「なに、また露払いのトルーパーだろうが。相手してやる!」ジャキッ

ネーア「いや、この気配は……!」

R3-C3『ピポポ!ピポポ!』ウィーン


 R3-C3はあわてふためいて機内に入り、ドロイド用ソケットに収まると、すぐさま行動に出た。
Wウィングの尾翼に据え付けられたブラスター砲を制御し、ダイニングの煙の中へ光弾を連射する。
ほとんど盲撃ちだが、密集隊形のストームトルーパーであれば薙ぎ倒せる攻撃だ。


イシュメール「やったか!?」

ネーア「まだじゃ――伏せろ!」


 煙の向こうから赤い光が飛来した。
一秒前までイシュメールの頭があった場所を横切り、尾部機銃に突き刺さる。
密輸業者は肝をつぶして飛び退き、その凶器が再び宙を舞うのを目にした。


「――思えば初めから、他の選択肢などなかった」


 黒煙の向こうから、軍服の女が姿を現す。


サギ「今の武器は……!マーズ第二艦隊司令官付補佐官殿ォ!」


 赤い刃のライトセーバーは回転しながら来た道を戻り、彼女の手に収まった。


マーズ「死ね、ダース・ネーア。私の弱さとともに」


ネーア「――一人でやっとれ!」ズバアッ


 シス卿は両手からマーズに向けて稲妻をほとばしらせた。
しかしその輝きは細く、か弱い。
直前の戦闘での消耗が回復していないのだ。


マーズ「フンッ……!」バチバチ


 ダークジェダイはライトセーバーを斜めに構え、電光をたやすく受け止めた。


ネーア「こ、小癪な……!」ズバババ

イシュメール「このクソアマァ!」ジャキッ


 シス卿が放電を続ける一方、密輸業者が燃料缶の陰からブラスターを構えた。
マーズは目をぎらりと輝かせ、左手をそちらに向ける。


イシュメール「ぐがっ……!?」ギリッ


 フォースがイシュメールの首を締め上げ、空中に吊り上げる。
ブラスターはあらぬ方向を撃った後、主の手から零れ落ちた。


マーズ「フウーッ……!」グググ


 マーズの目が血走り、額に汗が浮く。
さらに集中を深め、右手の光剣で受け止めている電撃を収束し、偏光して、シス卿に反射する。
ジヒス・マーズは今、精神的・肉体的な苦境の中で、フォース使いとして最高のポテンシャルを発揮していた。


ネーア「な、あばばばば!?」ビリビリ

イシュメール「や、やべ――」ギリギリ


サギ「補佐官殿!危ないィ!」


 Wウィングの中からエージェント・サギが警告する。


マーズ「!」サッ

クネー「喰らえ!」ジャキッ バシュッ


 マーズが二人を解放して飛び退き、ライトセーバーを構えて防御姿勢を取った。
直後、クネーが機内から姿を現し、ブラスター・ピストルを発射する。
その狙いはダークジェダイではなく、その傍にある燃料缶だ。
爆発が巻き起こり、炎と煙が着床パッドを荒れ狂う。


イシュメール「ゲホゲホ――この爆発なら!今度こそやっただろう!」

ネーア「その流れはもう十分ぞよ!」

クネー「早く乗れバカども!この惑星からおさらばする!」


 三人が機内に転がり込むと、R3-C3がWウィングを離陸させた。
間一髪、隠れ家に踏み込んできたトルーパーたちが黒煙を抜けて姿を現す。
こちらを見上げて銃撃してくるが、重戦闘機の装甲の前には何の脅威にもならない。


サギ「マーズ補佐官殿!?まさか、そんな!貴様ら本気かァ!」ジタバタ

イシュメール「捕虜は捕虜らしくしてろい!」ゲシゲシ

ネーア「やーい、バケツ頭ども!ここまでおいで、なのじゃ!」ヤンヤヤンヤ

クネー「待て、下から何か……」


 燃料缶の黒煙の中から何かが飛び出した。
人だ。
中庭に面した壁を蹴ってWウィングに飛びつき、風防にしがみつく。


マーズ「逃がさんぞ……!」


 ジヒス・マーズだ。
いくらか火傷を負っているようだが、その目に宿る殺意は少しも衰えない。


ネーア「げええっ!貴様!」

イシュメール「女にしてもしつこすぎだ!」

サギ「ヒハハハハ、帝国からは逃れられんぞォ!ヒハハハハ!」

クネー「!?こ、こいつ、操縦桿を……!」グググ


 マーズはトランスパリスチール越しにフォースを行使して、クネーの握る操縦桿を操っている。
Wウィングは失速し、右に旋回しながら降下していく。
地上ではストームトルーパーたちが手ぐすね引いて待っている。

 
マーズ「墜ちろ……!」グググ

クネー「ま、まずい……!二人とも、墜落に備え――」

R3-C3『ポポピーポ!プアアー!』


 R3-C3が電子言語の絶叫とともに、無理矢理ロケットブースターを噴射した。
三人はシートに押し付けられ、サギは機体後方へ転がる。
機体は炎を噴いて前方へ急加速し、中庭に面した壁へ向かって突進する。


マーズ「何!?」

イシュメール「うおあああ!クネー何してるっ!?」

クネー「違う、ドロイド野郎が!」

ネーア「R3!キレたか!」

サギ「ヒイイイイ!これは狂気の沙汰――」


 衝突。
三人は勢いよく前につんのめり、そろって一瞬気絶した。
サギもスマキのまま前方へ吹っ飛び、シートの背面に激突する。


クネー「――っづ、おのれ……」フラッ

ネーア「ぐぐぐ、ムチウチになっちゃうのじゃあ……」

イシュメール「いてて、だがチャンスだ!上昇しろ、この隙に!」


 ダークジェダイの姿は消えていた。
壁に空いた大穴の向こう、降り積もった瓦礫の下敷きになったのかもしれない。
Wウィングは急速に上昇し、隠れ家から完全に脱して、大空へ舞い上がる。


クネー「近くにTIEファイターはいないようだな……」

イシュメール「外縁部の警戒に駆り出されてるんだろうぜ」

ネーア「とにかく最速で宇宙に出ろ、速攻でハイパースペースに逃げ込むんじゃ!」


 三人は風防越しに上方、ほの暗い宇宙を見上げる。
そこに突如、楔型のスター・デストロイヤーが出現した。


クネー「何!?」
イシュメール「んなバカな!」
ネーア「ぎゃああああああああ!」


艦長「提督、スキャナーが復旧しました。キシュー上空から急速に上昇してくる船を補足」

ワイマッグ「間一髪、間に合ったようだな……」


 それはセード・ワイマッグの座乗艦、ヴェネター級スタ・デストロイヤーの「ヘファイストス」であった。
若き司令官は立体映像越しにWウィングを見やってほくそ笑む。


艦長「このタイミングで一隻だけ戒厳令を破り、脱出を図るとは……」

ワイマッグ「ああ。まず間違いなく、あの中にネーアが乗っている」

艦長「TIEファイターをスタンバイさせておいて正解でした。ただちに全中隊を出撃させます」

ワイマッグ「パターン66の包囲隊形を取らせろ。本艦のトラクター・ビームの射程内に追い込むんだ」

艦長「はっ!」


 艦長は手元のコンソールを操作して命令を伝達しつつ、司令官の様子を窺う。
表情も口調もごく平静ではあるが、額には微かに汗が浮いているのが見て取れた。
ダース・ネーア……多少特別な力があるとはいえ、たかが小娘一人。
それを取り逃がしただけでなく再び捕まえることにも失敗したのは、マーズやサギが無能だったからなのか。
あるいは何かイレギュラーの介入があったのか。
それともその両方か?


艦長(何にせよ、ここで取り逃したら……我々は、ヴェイダー卿に処罰されずにはいられまい)


 艦長は唾を呑む。
こんなときコマンダー・コーチがいてくれたら、という儚い願望が脳裏をよぎった。


クネー「おのれっ!」グンッ


 TIEファイターの編隊が猛禽の群れのごとく襲い来る。
女賞金稼ぎは毒づきながら操縦桿を捻り、Wウィングの機体をローリングさせた。
緑色のブラスター弾が雨霰のごとく降り注ぎ、偏向シールドを削り取っていく。


ネーア「こ、これはヤバいのじゃ!」

イシュメール「そっちから来るぞ、9時から!わかってるのか!?」

クネー「ああ見えてる!」カチカチ

R3-C3『プアアアアー!』

クネー「ドロイド!貴様は騒いでいないでジャンプの計算をしろ!」グインッ


 振盪ミサイルの雨をかわし、敵艦の間合いギリギリを掠めるようにして飛ぶ。
先走って距離を詰めてきた敵機が勢い余ってその内側に入り込んだかと思うと、急制動して母艦の方へ吹っ飛んでいった。


イシュメール「うおおっ、もうトラクター・ビームで狙ってきてやがるぞ!」

ネーア「ターボレーザーじゃないだけマシぞよ!突っ込め!」

クネー「言われなくても!」グイッ


 Wウィングは横合いから飛来する弾幕をすり抜けて旋回。
トラクター・ビームの再照準に先んじてスター・デストロイヤーのそばをすり抜けようとする。
敵艦はそれを阻むべく、青く光る電光を発射し始めた。


ネーア「ぎゃああ!イオン砲が!イオン砲が!」

イシュメール「当たったら回路を焼かれるぞ、わかってるのか!?」

クネー「ああもう、黙っていろ貴様ら!助かりたいのか邪魔したいのかどっちだあ!」グインッ


 シンノがカスタムを重ねたWウィングの全速力は、旧式戦艦の照準をコンマ数秒上回っていた。
電磁パルスのつるべ打ちを紙一重で避け、敵艦の懐に飛び込む。
スター・デストロイヤーの死角は至近距離だ。
クネーは機体をトップスピードのまま敵艦スレスレの位置にまで沈み込ませ、艦橋のすぐ横をすり抜ける。


クネー「――!」

ワイマッグ「……!」


 その一瞬、女用心棒と若き司令官の視線が交錯する。
Wウィングは一気に封鎖線の外側へと駆け抜けた。
視界が一気に開ける。


R3-C3『ポポピーポ!ピポポ!』


 R3が電子言語で喚き、急き立てる。
ハイパースペース・ジャンプの軌道計算が終了したのだ。


クネー「行くぞ!」


 女用心棒がジャンプ開始のレバーに手を伸ばす。


サギ「させるかァ!」ブンッ

イシュメール「ぐおっ!?」ドガッ


 そのとき、エージェント・サギが機内の後方座席から躍り出た。
隠れ家の壁に激突したとき拘束具が外れたものと見えて、両手が自由になっている。
整備用レンチを振るい、イシュメールを殴り倒す。


サギ「貴様らごとき!」ゲシッ

ネーア「ぎゃふ!?」ドガッ

サギ「逃がさいでかァ!」ブンッ

クネー「ぐおおっ、貴様……!」ガシッ


 サギはネーアを蹴飛ばし、クネーにもレンチを振るって襲いかかった。
女用心棒は身を捻ってこれを掴み取るが、この体勢では力比べにはあまりにも不利だ。


サギ「小癪なァ!」グググ

クネー「くっ……!R3、ジャンプだ!お前がハイパースペース・ドライブを起動しろっ!」グググ

R3-C3『ポポピーポ!』


 彼女の指図でアストロメク・ドロイドが操作の代行を図る。
しかしその瞬間、背後の敵艦が発射したイオン砲が機体上部を掠めた。


R3-C3『プアア、ア!』バチバチ


 R3は主要回路がショートし、光速航行への切り替えを果たせない。
スター・デストロイヤーがゆっくりとこちらに向き直る。
TIEファイター部隊もその後ろから追いすがってくる。


クネー「R3!?どうした!?」グググ

サギ「ヒハハハハ!万事休すといったところかァ!」グイッ

クネー「うおっ!?」パッ


 エージェント・サギがついにレンチをもぎ取り、大きく振りかぶる。
クネーの頭蓋を一撃で砕くための予備動作だ。


サギ「死ねい!」グワッ

ネーア「イシュメール!掴まれい!」


 その攻撃の直前、シス卿は警告の叫びとともに、近くにあったボタンを叩くようにして押した。
機体後部のランプドアが開く。
真空の宇宙空間が、機内の空気を猛烈な勢いで吸い出す。


クネー「何!?」

イシュメール「うおおっ!?」ガシッ


 クネーは操縦席にシートベルトで固定されている。
ネーアとイシュメールも近くのシートに掴まった。
しかしサギは凶器を握っていたばかりに、適切な手がかりを得られなかった。


サギ「ヒハァーッ!?」ゴオオッ


 ISBのエージェントは機内を吹っ飛び、転がって、後方の宇宙空間へ放逐された。


クネー「行けーッ!」グイッ


 女賞金稼ぎは今度こそレバーを引く。
風防の外で星が線に変わり、Wウィングは超空間へと突入した。


 ……「ヘファイストス」艦底部、ドッキングベイ。


ワイマッグ「……」

艦長「……」


 提督と艦長はエレベーターでそのフロアに到着するなり、揃って上を見上げた。
天井に設けられたトラクター・ビーム放射器が、すぐ下の空中に獲物を吊り下げている。
Wウィングではない。


サギ「……ヒ、ヒヒヒ……お久しぶりですゥ」

ワイマッグ「……」

艦長「……」

ワイマッグ「艦長」

艦長「はい」

ワイマッグ「あれを宇宙に戻せ」

サギ「ヒィィ!?」

宇宙に投げ出されてもピンピン


カイウス「ぶはあっ!」ダッ


 ダース・カイウスはガス室から飛び出すなりくずおれて、床に四つん這いになった。
頭痛がする……動悸もだ。
目がチカチカして視界が定まらない。
ひたすら症状に耐えていると、誰かの手が肩に触れるのを感じた。
かろうじて顔を上げる。


リズマ「……」

カイウス「……リ、リズマ……」


 その手は冷たく、表情も凍りついているかのようだ。
俺は暗黒面に墜ちてでも彼女と一緒にいることを選んだ。
しかしその時思い描いた景色は、理想は、果たしてこんなものだったか。


グレイヴス「軟弱者めが。モラバンド苔の実験はヴァッタ・ガスの中でしかできんのだぞ」スタスタ


 ダース・グレイヴスがガス室から姿を現す。
さっきまで弟子と同じ環境に置かれていたはずだが、顔色一つ変えず平然としていた。


カイウス「も、申し訳ありません、マスター……しかしあれは、毒ガスでは……?」

グレイヴス「呆れ果てた不覚悟ぶりだな……こうなれば学科は後回しだ。基礎だけでもと思っていたが」


 マスター・シスは大儀そうに溜息を吐き、方針の転換を告げる。


グレイヴス「明日から戦闘訓練を始める。教義のために手を汚せば覚悟も決まろう」

カイウス「一体……何をせよと、仰るのです?」

グレイヴス「殺すのだ。マクシャリス・セレノーラント・ドゥークーを」


 王女の美貌が怒りに醜く歪む。


グレイヴス「奴は下郎の分際でこの私を謀り、帝国を釣る餌に利用した。ヤマタイト・シスへの大逆だ!」


 一方、惑星タンガシム……
反乱軍基地司令部では。


ネーア「全軍出動ぞよ!」バンッ


 シス卿は踏み台に登り、戦略テーブルを両手で叩いた。
惑星ヤマタイティアの立体地図を睨み、その一点を指し示す。


ネーア「ここじゃ!ここにシンノが囚われておる。一刻も早く救出すべし!」

中隊長1「救出ったってなあ、ネーアちゃん……」

中隊長2「ヤマタイティアは帝国軍の本拠地だぜ?」


 反乱軍の士官たちが怪訝そうな顔で口を出す。


中隊長1「しかもちょうど指差してるそこはど真ん中もど真ん中、王宮の最深部だ」

中隊長2「今の俺たちの十倍の戦力があっても辿り着けるたあ思えないね」

ネーア「何を弱気な!ハクカからこっち、あいつがどれだけ反乱軍に貢献したと!」

中隊長1「そりゃあ俺たちだって、助けたい気持ちはやまやまだけどよ……船も兵隊も足りねえし」

中隊長2「これじゃまるっきり死にに行くようなもんだ。ジェダイ様もそれは望まねえだろう」


 ネーアは歯噛みした。
弟子の居場所はフォースで感知できるものの、救出はあまりにも困難だ。


中隊長1「それよりネーアちゃん、なんでシンノがヤマアイティアにいるってわかるんだよ?」

ネーア「うるさいな!フォースじゃ!」

中隊長1「おっと、そうか。ネーアちゃんはフォースを感じられるんだったな」

中隊長2「しかし帝国にもフォース使いはいるだろう。奴らがニセ情報を撒いてるセンはねえのか?」

中隊長1「どうやって撒くんだ?」

中隊長2「そりゃお前……念力とか、謎めいた儀式とかだよ」

ネーア「ええい、適当なこと言いおって!」

イシュメール「その情報は信頼してもらっていいぜ」


 密輸業者が司令室の隅から口を挟む。
隣のクネーともども、包帯が目立つ痛々しい姿だ。


イシュメール「俺たちの筋の情報で裏が取れたからな。ネーアの感覚は正確さ」

中隊長1「フン、密輸業者のコネか?」

イシュメール「あんたたちの組織より歴史は長い界隈だぜ」


 そう言って、ネーアのほうへウィンクして寄越す。
そんな情報収集をする時間はなかったはずだから、ハッタリであろう。
彼女がシスの暗黒卿だという秘密を守りつつ、その感覚の信頼性をフォローした形だ。


バヤット「……その情報が真実だとしても、現時点で部隊を動員することはできない」


 今までむっつり黙り込んでいた司令官が口を開く。
何やら渋い表情をしているようだが、それ以上モン・カラマリの感情の機微を見て取ることは難しかった。


ネーア「ぐむっ……バ、バヤット……!」

中隊長1「……そういえば、ベース1に援軍を頼むってのはできないのか?」

中隊長2「ロザルの失敗の後だからな。モン・モスマを説き伏せるのは無理だろうよ」

ネーア「この腰抜けどもが!無理だの不可能だの、そればっかりか!」

クネー「その辺にしておけ」


 今度は賞金稼ぎが口を出した。


クネー「そいつらも腰抜けなりに思うところはあるだろうよ。苦渋の決断をほじくり返してやるな」

ネーア「しかし、シンノは……!」

クネー「皆が皆ジェダイやシスのように強いわけじゃない。時には大を生かすために小を殺すことも必要になる」

ネーア「それは帝国軍の理屈ぞよ!」


 司令室を重苦しい沈黙が支配する。
ネーアは舌打ちして、ローブをひらめかせて部屋を走り出た。


イシュメール「……まあ、あいつもいっぱいいっぱいなんだろうよ。ミコア姫の本性に気づけなかった負い目があるからな」

クネー「フォースは使えても、指揮官としての能力は乏しいらしい」

バヤット「……賞金稼ぎ、貴様が非情な切り捨てを支持するとは意外だな」


 バヤットは半ば皮肉めいた形でクネーに水を向ける。
以前尋問室で面会したときの言動を示唆していることは明らかだ。


クネー「ケース・バイ・ケースだ。今は指揮のセンスを発揮すべきときじゃない。無難に行動して準備を整えるべき状況とみた」

バヤット「何の準備だ?ヤマタイティアの堅陣に強行突入する準備か」

クネー「グレイヴスは単身でこの反乱軍に潜入していた。肝心なところでは部下を信用しない、古臭い現場主義者だ」

イシュメール「……」


 イシュメールはザイン・ザ・ハットの軍団からの逃避行、ミコアの言動を回顧する。
シンノの勧誘は、テイティスのような手駒にやらせても構わない仕事ではなかったか。
自ら危険を冒して単身で潜入してきたのは、シスの神秘的な教義か何かに強制されてのことなのだろうか?


クネー「奴は必ず動く。クマモッテの誤算を清算するため、自分からヤマタイティアを出てくる」

バヤット「……それを叩くための準備か。そんな都合のいいチャンスが……」

クネー「グレイヴスは私もろともマクシャリスに捕まって以来、計画を修正するのに多大な労力を払った。分離主義者を放置するとは思えん」

イシュメール「……?おい、待て。グレイヴスを倒すのはいいが、シンノはどうなる?」

クネー「知るか!私はクマモッテでテイティスに裏切られた借りを返せればそれでいい。ヤマタイトのシスを根絶やしにしてやる」

イシュメール「ええっ!?おいおい、あいつは一応俺の恩人なんだぜ!?」
 

 クネーはイシュメールを無視して踵を返した。
バヤットを一瞥し、


クネー「貴様の指揮官としての能力も、その時に問われるのかもしれんな」


 それだけ言い残して司令室を出た。


バヤット「……」


 新司令官は部下たちの視線を感じつつ、一人沈思黙考する。
こんな時、シカーグ将軍ならどうしたのだろうか。


ネーア「……」


 シスの暗黒卿は一人、暗い部屋でベッドに座り込んでいた。
布団を掻き合わせ、窓を見やると、外ではすでに日が沈んでいる。
青灰色の空に、雲の影が恐ろし気に浮かぶ。
ネーアは外気の寒さを感じ取ったかのように身震いした。


ネーア(どうして……どうしてこんなことになったのじゃ)


 彼女がシスとなったこと、五百年を過ごしたこと。
シンノと出会ったこと。
グレイヴスはその全てをまんまと利用した。
ネーアの行動と、敵の正体に気づくことのできなかった不注意が、リズマの死とシンノの堕落を招いた。
贖罪の可能性も、ついさっき完全に潰えたところだ。


ネーア(マスター・ヨーダ、妾は……私は……今まで何のために……)


 扉が開き、光がさっと差し込んだ。
ネーアは目を細めてそちらを見やる。
ユスカ・ショーニンが立っていた。


ユスカ「……ネーアちゃん」

ネーア「……ユ、ユスカ」

ユスカ「……よくここまで帰ってきたね。よく頑張った……だからこそ、さ」


 女パイロットはネーアの横に腰かけ、その肩を抱いた。


ユスカ「ここで諦めたら、勿体ないでしょ」

ネーア「……しかし、そなたの妹も……リズマも死んだのじゃぞ」

ユスカ「知ってる」

ネーア「……バヤットは動かぬ。妾たちだけでは」

ユスカ「私たちしかいないなら、私たちだけでやればいいんだよ」


 ユスカの目は底知れぬ悲しみを含みながらも、ブレることなく確かな意思をたたえている。
ネーアはその奥に彼女の妹の面影を見た。


ユスカ「シンノを助けに行こう」


 ――2週間後。
惑星ベップーの上空には、依然として分離主義艦隊が陣取っていた。
その旗艦、ヴェンジェンスの艦橋。


マクシャリス「構わん。『収容よろしい』と返答しろ」


 マクシャリスはひときわ高い位置の指揮官席に座り、フロアで計器に向かう部下たちを見渡していた。


スターバル「本当によろしいのですか?あれはまず間違いなく、バスタ・ガスターかアジアス・ジ・アーチですぞ」


 カリーシュの将軍は怪訝そうな顔でそれを見上げた。
彼のコンソールと壁面の大モニターには、シーシピード級シャトルの姿が大写しになっている。
この船は彼らの艦隊に接近し、旧独立星系連合の高官の識別信号を発信。
戦艦ヴェンジェンスへの収容を求めていた。


スターバル「クマモッテを脱出していたのは計算外ですが、再集結地点を嗅ぎつけてノコノコとやってきたのは好都合です。この際艦砲で……」

マクシャリス「いくら奴らが愚かでも、いい加減切り捨てられたのではないかと疑っていそうなものだ。本人が乗っているかどうか怪しいぞ」

スターバル「では通信で問いただせば……」

マクシャリス「バカな。こちらが警戒していると教えてやるようなものだ」


 スターバルは唸った。
ガスターやアーチがこちらの裏切りを確信し、帝国軍のもとに駆け込めば、多くの機密情報が帝国の手に渡る。
彼ら本人を確実に捕らえ、始末せねばならない。


マクシャリス「シャトルを収容し、乗員を拘束しろ。本人が乗っておらずとも手がかりは掴めよう……三度は言わせるなよ?」ジロッ

スターバル「……!はっ!私自身の手で、確実に遂行して参ります!」


 スターバルは速足で司令室を出て、ドッキングベイへ向かう。
主君の眼光の冷たさを思い出し、ぶるりと身震いした。


 壁面の機密窓から光が差し込む。
戦艦ヴェンジェンスの艦内照明だ。
シスたちの船は無事、標的の懐に入り込んだのだ。


グレイヴス「マクシャリスめ、とことん浅はかだな。なまじ人を謀ろうとするのが実に救いがたい」


 マスター・シスはソファに体を預けつつ、目論見の成功を悟ってほくそ笑んだ。
手元のグラスを窓にかざし、薄明かりの溶けた果実酒を一息に飲み干す。


グレイヴス「おとなしく傀儡に甘んじていればあと十年は使ってやったものを……なあ、カイウス」

カイウス「……はっ」


 アプレンティスはその後ろに跪いていた。
黒色のローブとプロテクターに身を包み、のっぺりした仮面で相貌を隠している。
そして、その横にもう一人。
リズマ・ショーニンが簡素な白装束を着せられ、うっそりと立っていた。


リズマ「……」

グレイヴス「こいつも奴のところに連れていくぞ。その方が貴様も張り合いがあろう?」

カイウス「はっ」

グレイヴス「……まあ、見ての通り、今のこいつに戦闘力はまったくない。せいぜいお前が体を張って守ってやることだ」

カイウス「はっ」

グレイヴス「……」


 グレイヴスが眉を上げるのと同時に、キャビンが一際大きく振動した。
シャトルが戦艦内のドッキングベイに着床したのだ。


カイウス「……先に行って、雑魚を血祭りに挙げて参ります」

グレイヴス「……フン。行け」


 カイウスは静かに立ち上がり、キャビンを出た。
やがてランプドアの解放音が響き、それに続いて船外で猛烈な戦闘音が巻き起こる。


グレイヴス「少しシゴきすぎたかな。人形は二つもいらんのだが」


 マスター・シスは無関心気に鼻を鳴らし、リズマを見やった。


グレイヴス「まあ、この仕事が終わればお前は用済みだ。それまでせいぜいマスターの活躍を見てやるといい」

リズマ「……」


 グレイヴスは冷笑とともに腰を上げ、キャビンを出る。
ジェダイ・アプレンティスの亡骸は、微かな間のあとそれに続く。
船外はすでに静かになっていた。

おつ


カイウス「フンッ!」ブンッ

シュバルゴン「グワーッ!」ガシャンッ


 シュバルゴンは鳩尾に強烈な蹴りを受け、レールジェットの上に吹き飛ばされる。
カイウスがそれを追って飛び乗り、コンソールを操作した。
ガコン!
レールジェットが勢いよく発進する。
戦艦ヴェンジェンスの艦内、巨大な輸送トンネルの景色が高速で流れていく。


シュバルゴン「おのれ、シスの暗黒卿……時代錯誤のウィッチどもが!」ガチャッ


 分離主義のサイボーグ戦士は素早く姿勢を立て直し、エレクトロ・ハルバードを構えた。


シュバルゴン「我々はもはや貴様らの奴隷ではないぞ。今度は貴様らが地面に這いつくばり、マクシャリス様の秩序を畏れるがいい!」

カイウス「……」ブウンッ

シュバルゴン「ウオオッ!?」バチッ


 対するシスは無言のまま、赤い刃のライトセーバーを振るって斬りかかる。
数合打ち合うものの、実力差は歴然だった。
シュバルゴンはたちまち車両の隅、鉄柵の際まで追い詰められる。
背後は巨大な虚空、その下はベルトサンダーじみた速度で行き過ぎる金属の床である。
しかしダース・カイウスが放とうとしたトドメの一撃は、斜め上方からのブラスター弾によって阻まれた。


カイウス「!」サッ


 立て続けに降り注ぐ光弾のシャワー。
シスは飛び退き、ムーンサルトを繰り出してこれを回避した。
見上げると、五機のスーパーバトルドロイド・ロケットトルーパーが上空に追従してきている。
白いボディに青い星の識別塗装がギラリと輝いた。


シュバルゴン「フハ、ハハハ!バカめ、一対一で戦わえるとでも思ったか!」ゴオッ


 シュバルゴンは不屈の闘志とともにジェットパックを噴射し、僚機に合流。
胸部のミサイルポッドを展開した。
ロケットトルーパーたちも両腕の三連装ブラスターを照準し、最終攻撃をスタンバイする。


シュバルゴン「我々の本拠に乗り込んだ報いよ!なぶり殺しにしてやーー」

カイウス「ハアッ!」ボボウッ!


 シスは両手に青白い炎の塊を作り出し、頭上の敵にめがけ投じた。
炎は炸裂し、分離主義の戦士たちを焼き尽くす。


シュバルゴン「ぐわあああ!?」

ロケットトルーパー『『『『『ピガーッ!?』』』』』


 サイボーグとドロイドは飛行機能に支障をきたし、もがきながら落下していった。
数秒の後、はるか後方から爆発音と破砕音が連なって聞こえた。


カイウス「……」


 カイウスの表情は仮面に隠されて見えなかった。
やがてレールジェットは艦橋基部のステーションに到着する。
シスが車両から飛び降りると、四機のドロイデカが物陰から転がり出てそれを包囲した。
カイウスは再び光刃を構えて警戒する。
しかし敵はブラスターも発射しないまま、ことごとく内側から炎を噴き出して大破した。


グレイヴス「ずいぶん遠回りしたようだな?」


 残骸の向こうから、マスター・シスが冷笑を浮かべつつ姿を現した。
いまだ体に攻撃的なフォースの残滓を漂わせている。
背後には、リズマも無事な姿で付き従っていた。


カイウス「マスター……」

グレイヴス「急ぐぞ。マクシャリスの奴も待ちかねていることだろう」


b1ドロイドA『第三警備中隊、全滅!』

b1ドロイドB『X-9通路、突破サレマシタ!』

b1ドロイドC『隣接区画ニべーくらいとヲ注入シロ!』


 戦艦ヴェンジェンスの艦橋は修羅場となっていた。
ドッキングベイから侵入した敵は、たった二人で艦内の警備を突破しつつある。


戦術ドロイド『……敵ハ明ラカニ、コノ艦橋ヲ目指シテイル』


 艦長を務める戦術ドロイドは敵の狙いを正確に見抜いた。
背後の主君を顧みる。


戦術ドロイド『畏レナガラ、閣下……』

マクシャリス「この艦の戦力では奴らを止めることができないというのか」

戦術ドロイド『ハイ。他艦ヘ陸戦隊ノ増援要請ヲ出シテハイカガデショウ』

マクシャリス「バカな。クマモッテを捨てたこのタイミングで、部下に弱みを見せるなど」

戦術ドロイド『デハ、艦橋ノ脱出機構ヲ使ッテ……』

マクシャリス「同じことだ。第一、間に合わん」


 マクシャリスは屈辱と憎悪に塗れた笑みを浮かべる。
それと同時に、彼の背後、入口の扉の向こうで一際大きな破砕音が響いた。
警備のドロイドたちが司令室を走り、入口に銃を向ける。
青白い炎が炸裂し、それをブラストドアもろともに吹き飛ばした。


グレイヴス「マァークシャリィース……!」


 陽炎の向こうから、三つの人影が姿を現す。
仮面のカイウス、マネキンじみたリズマ、そしてもう一人。
少女の顔立ちを凶悪に歪めたダース・グレイヴスが、ドロイドの残骸を踏みにじった。


グレイヴス「今度はこちらから出向いてきてやったぞ……前は、迎えに来てもらったからなあ……!」

戦術ドロイド『……閣下、警備しすてむカラノ情報ニヨレバ、みこあ王女ハふぉーす感応力ヲ有シ……』

マクシャリス「今となってはわかりきったことだ。ただの王女があのクマモッテの爆発から生き延び、我々の戦艦に潜入するものか」


 マクシャリスはそう言い捨て、立ち上がった。
マントが翻り、ライトセーバーが白い刃を輝かせる。


マクシャリス「テイティスのマスター。お名前を伺ってもよろしいかな」ブオンッ

グレイヴス「我が名はダース・グレイヴス……よくも私をこの船に迎え入れてくれたな、ダース・ティラナスの影よ。大儀である」

マクシャリス「下手な皮肉はよせ。貴様は我々を従順な下僕だと考えていたようだが、こちらははなから殺す算段よ。貴様の寿命が縮んだだけのことだ」


 グレイヴスは舌打ちし、敵を指し示してカイウスに命じる。


グレイヴス「やれ。あの減らず口を黙らせろ」

カイウス「……はっ」


 仮面のシスは幽鬼のように進み出て、マクシャリスと相対した。
黒と白のコントラストの中に、今、赤い差し色が現れる。

作者逝った??

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