――おしゃれなカフェテラス――
『今日も、私とあなたとの時間を』
みなさん、こんにちは。
アイドルの高森藍子です。
今回は、私のある1日のことを、できるだけそのまま、自然体で書こうかなって思います。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1589102001
レンアイカフェテラスシリーズ第118話です。
<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「再認識するカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「時計の音が聞こえたカフェテラスで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「アイドルのいるカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「言葉を探すカフェで」
※いつもの3倍ほどの量があります。よろしければお時間ございます時に、ゆっくり読んでくださいませ。
高森藍子「……なんだか、緊張しちゃいますね」
北条加蓮「こら。自然体って話はどこに行ったの。肩に力が入ってたら意味ないでしょ?」
藍子「そ、そうでした」
加蓮「はい。深呼吸」
藍子「すぅ~、はぁ~……」
加蓮「どう?」
藍子「……朝の森の側って、やっぱりいい空気……。テラスの木の匂いが、春の風に乗って、かすかに届いて……」
藍子「今日は快晴なのに、ほんのちょっぴり湿った匂いもしますね。今年の梅雨は、早く来るのかな……?」
加蓮「今から傘を用意しとかないとね。予定もちょっとでいいから空けといてよ?」
藍子「くすっ♪ そうですね。今のうちに確保しておかなきゃ」
藍子「……うんっ。大丈夫!」
加蓮「じゃ、書こっか」
藍子「はいっ」
今日は1日お休みです♪
朝からお日さまが照らしてくれる、ぽかぽか陽気。
家にいるばかりでは、たいくつですよねっ。
お気に入りのカメラと、お気に入りの靴を履いて、外へお出かけしに行きましょう!
午後からは予定があるから、今日は、遠出はなしで。
私は、いつもの公園にお散歩に行くことにしました。
加蓮「そういえば、これって実際あった日のこと?」
藍子「そうですよ。この前のお休みの――」
加蓮「午後から予定、ってことは……。もしかしてそれって」
藍子「はい。加蓮ちゃんと、カフェで待ち合わせです♪」
加蓮「じゃあこの前のかぁ。……この前のかぁ……」
藍子「加蓮ちゃん?」
加蓮「……書くって分かってたらあんな話しなかったわよ。もう。先に言っといてよ」
藍子「それでは、つくられた加蓮ちゃんってことになってしまいますよ?」
加蓮「そうだけどさぁ」
藍子「今日の加蓮ちゃんは、どんなお話をしてくれるのでしょうか。楽しみですね♪」
加蓮「……あははっ。書いてる側なのか読んでる側なのか分からなくなっちゃいそう」
雨の日に、傘をさして歩く道も、冬の日に、手をこすり合わせながら雪をふみしめる道も、私は好きです。
ある時にだけ見られる光景が、たくさん広がっていたり、たまにはみなさんの顔が見えにくくなって、それはちょっぴり寂しくて……。
けれど、また晴れた日に、なんて思うと、それだけで明日が楽しみになってしまいますから!
でも、やっぱりお散歩日和って感じのこの天気が、私はいちばん好きですっ。
道を歩いていたら、1匹の猫さんと出会いました。
茶色のふちが、なんだかカフェラテを思い出す猫さんです。目つきが少し鋭くて、私の顔を見るとすぐに、にゃー、にゃー、と鳴くんです。
でも、カメラを向けると、すぐに鳴きやんで。撮ってほしいな、撮ってほしいな、ってせがむように、右足をすりすりと動かします。
誰かさんを思い出しちゃうなぁ。ふふっ。
加蓮「誰よ」
藍子「加蓮ちゃんですよ?」
加蓮「……ほー」
藍子「きゃっ。痛いです痛いですっ。ぐりぐりしないで~っ」
猫さんが満足するまで、シャッターを切ってからは、また公園への道を歩いていきます。
いつも歩く道ですけれど、いろんな景色がちょっとずつ違います。
洗濯物を干している家と、干していない家があったり。
通りすがる子どもたちが、すぐに走って行っちゃったり、私の顔を見て、あいさつしてくれたり。
昨日まで咲いていなかったお花が、顔を出しているのを見つけると、私まで笑顔になっちゃいますっ。
ときどき、この前まであったものがなくなっちゃったりもして……。それは、少しだけ寂しいかも。
でも、それだって変化の1つ。
寂しいからって、探さなくなって、何も見つけられなくなっちゃう方が、もっと寂しいですよね。
加蓮「ね、これって私も書いちゃダメ? 前のカフェコラムだって、私に一言を入れさせてくれたじゃん」
藍子「う~ん。どうなんでしょうか……。ちなみに何を書くつもりですか?」
加蓮「それはねー。お散歩してる藍子はいつもきょろきょろしてばかりで歩くのは遅いし危なっかしいので――」
藍子「それなら駄目です」
加蓮「えー。加蓮ちゃんが手を繋いであげたエピソードとかは?」
藍子「それは……ええと、では、どこかで書けるようにはしますね」
加蓮「その前フリとして藍子はのろまでたまーに電柱に頭をぶつけそうになってその度に慌てて、」
藍子「やっぱり駄目っ」
公園には、誰もいませんでした。いつもは子どもたちが、ブランコや砂場で遊んでいて、それをお母さんやお父さんたちが見守っていたりするのに……。
今だけは、私がひとりじめ♪ ベンチに座って、空を見上げて……。
とてもあたたかくて、つい、私はベンチに寝転がってしまいました。
ちょっとだけ、はしたなかったかも。でも、全身で受け止めた太陽の光って、とっても気持ちいいんですよ。
今度、お休みの日に晴れることがあったら、みなさんもぜひやってみてくださいねっ。
藍子「……ちらっ」
加蓮「まずは私がやれってこと? もー、しょうがないなぁ」
加蓮「……店員さんが――まぁ藍子がコラム書き終わるまでは来ないと思うけどさ、一応、こっち来ないか見といてよ?」
藍子「は~いっ」
加蓮「…………見ても言わないでおいてやろーとか思ってないでしょうね?」
藍子「ぎくっ」
加蓮「…………」ジトー
藍子「ええっとぉ……続き、続きっ」
それから、少しの間だけ、なにがあったのか覚えていなくて……。
10分くらいかな、それとも20分くらい? ベンチに寝転がったまま、眠っちゃってたみたい。
次に目がさめた時、ボールを持った男の子が私のことをのぞきこんでいました。
「お姉ちゃん、なにしてるの?」
ひなたぼっこだよ、って返事をすると、ふーん、ってあまり興味がなさそうにあっちへ行ってしまいます。
公園には、いつの間にかちいさな子どもたちが集まってきていました。
楽しそうにかけまわっているのを見て、つい、カバンからカメラを取り出した時、さっきとは別の男の子が私のことに気がつきます。
「写しん、とるの? とってとって!」
1人がこっちにやってくるのを見て、他の男の子たちもいっせいにやってきました。
さっき、興味がないって風にしていた子も、最後尾にまざっていて……ふふっ。ちょっぴりおかしくなっちゃいました♪
いつも、意地っ張りな子の側にいるからでしょうか。
素直じゃない子が、なんだか可愛く見えちゃうんです♪
加蓮「…………」グリグリ
藍子「痛い痛い、痛いですっ! 無言でぐりぐりしないで~っ」
加蓮「あのね……。そーいう時に私のことばっかり書くのやめなさいよ! 私がそういう子だって誤解されちゃうでしょ?」
藍子「誤解も何も、みなさん知っていること――わあっ。ごめんなさい、ごめんなさいっ。手をグーにしないでっ」
加蓮「もうっ」
藍子「だって、このコラムは日記と同じで、その時に私が思ったことをそのまま書いているだけなんですよ?」
加蓮「って言ってもさ――ん? じゃあ何。藍子は休みの日のお散歩の時でも、猫とか男の子とか見て私を思い浮かべたりしてるの?」
藍子「はい、そうですよ?」
加蓮「……そ」
藍子「もしかしたら、午後から加蓮ちゃんに会う予定があったからかもしれませんね」
加蓮「…………じゃあさ、例えば昼から未央とか茜とのお仕事があったら、あの2人を思い浮かべたりする訳?」
藍子「う~ん、どうでしょうか。ときどきは、そうかも?」
加蓮「ふぅん……。ま……それも藍子らしくていっか」
写真を撮ってあげた後は、大きく背伸びをして……もうそろそろ、お昼の時間。
約束までは、あと1時間くらいありますけれど、どうしようかな……。
うん。もうちょっと、歩いてみましょう。何かいいお店が見つかったり、面白いものが見つけられたりするかもっ。
そういえば、路地の向こうに新しいお店が何軒かできたって、クラスのみんなが言っていました。
ふっふっふ。これでも、私はアイドルですから。流行の話題には、敏感のつもりなんですよ?
……でも、詳しい場所までは聞くのを忘れてしまっていました。
調べてみるのもいいですけれど、あえて詳しくは調べないで、ゆっくり歩くのって楽しいですよね。
寄り道したり、一緒にいる人といろんなお話をしたりして。
それなら、お店を探すのはまた今度。
次のオフの日の予定が、できちゃいました♪
加蓮「んっ……。寝転がって空を見ると……あははっ。不思議ー。空しか見えないや。空の青一色しか見えなーい」
藍子「そうでしょっ?」
加蓮「たまにはこういうのもいいかもね。あったかいし……あぁでも、梅雨に入ったらできなくなっちゃうかな。その後は夏で、さすがに暑すぎるし。熱中症とかあるしなー……」
藍子「だからこそ、今を楽しむんです。先のことではなくて、今を、ねっ」
加蓮「今を、かぁ。……日光を浴びながら梅雨の予定の話をするのは?」
藍子「う~ん。それも、いいかもしれませんっ」
加蓮「春風に吹かれながら、梅雨用の傘を探しに行くとか!」
藍子「ふふっ。それって、お散歩のお誘いですか?」
加蓮「違うって言ったらー?」
藍子「その時は……残念ですけれど、加蓮ちゃんが違うって言うのなら、私1人で探しに行きますね」
加蓮「……へぇー? どんなダサいの買ってくるか楽しみにしてやろ」
藍子「私1人では、選ぶのに苦労してしまうかもしれませんから……加蓮ちゃん、付き合ってくれますか?」
加蓮「あははっ。そう来るんだ」
表通りには、いっぱいの人で溢れています。さすが、都会のお休みです。
ここからいつものカフェまでは、歩いて10分くらい。
……私がアイドルだってこと、バレちゃわないかな?
今日は帽子をかぶっているだけで、これといった変装はしていません。
もしバレてしまって、声をかけられたりしたら……加蓮ちゃんとの約束の時間には、遅れてしまうかも。
なんだか、少しだけドキドキです。できるだけ、目立たないように、ゆっくり歩いて……。
なんてしていたら、横断歩道が目の前で赤信号になってしまいました! ちょっとだけ、がっかりです。
藍子「う~ん……」
加蓮「あ、詰まった。どしたのー?」
藍子「この後、どうしたかなって……。カフェに行くまでのことを、あんまり覚えていないんですよね。何もなかったとは思うんですけれど……」
加蓮「スキップしちゃう?」
藍子「スキップ? 私、普通に歩いていましたよ。周りにバレたらいけないって思っていたから」
加蓮「えっ」
藍子「あれっ」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……えーと、じゃあこっそり別の日のことを混ぜてみるのはどう?」
藍子「それだと、嘘をついているってことに――」
加蓮「違う違う。謎解きっぽくするの。あとから、実はこのコラムには1ヶ所だけ別の日のことが混ざってました! それはどこでしょう? みたいなっ」
藍子「あ、それ面白そうっ。それに、最後にそう書いたら、どこにあるんだろ? って、もう1回読んでくれるかもしれませんよね♪」
加蓮「謎解きのカフェのおじいさんも満足するくらい、うまいことしなきゃ」
藍子「ええっ。それは難しそう……。あっ、じゃあ加蓮ちゃんも一緒に考えてくださいよ~。ほら、あの時のコラムだって、加蓮ちゃんが謎解きを作って載せてくれましたよね?」
加蓮「加蓮ちゃんはただいまお日さまを浴びることに忙しいので無理です。またおかけ直しください」
藍子「さっきまで相談に乗ってくれていたのに!?」
加蓮「すやー」
藍子「ぜったい寝たフリですよねそれ!」
――それから、私はいつものカフェに到着しました。
加蓮「謎解きはー?」
藍子「ちょっと考えたんですけれど、……面白そうだけれど、それはまた今度ってことでっ」
加蓮「オッケー。そうだよね、フェアじゃないもん。今は、そのまま書き進めよっか」
ドアを開けると、涼しいベルの音に混じって焼きたてのご飯の香りがします。
カウンターの奥から店員さんが、ぱあっと笑顔になってやってきました。
私も、自然と頬が緩んで……ちょっとだけお話したんですけれど、店員さんは、すぐにぱたぱたと厨房の方へ。
どうやら、他のお客さんの注文をとっていたみたいですね。
今日は、何に食べようかな?
いつもの席に座って――
藍子「あっ。いつもの席、って言っても分からないのかも……。じゃあ、ここは消しゴムで消してから……」
今日は、何を食べようかな?
入り口から向かって右側の、一番奥の席。そこが、私たちがいつも使う席なんです。
今日はまだ、加蓮ちゃんは来ていないみたい。
席に座ってメニューを開くと、最初に目に飛び込んできたのはお昼の定食セットでした。
ここのカフェは、ときどき内装が変わったり、季節限定のメニューが登場したり、来るたびに何かが変わっているくらいなんです。
同じメニューでも、写真や紹介の文章が違っていたりしていることもあったりしてっ。
今日は、定食の写真が前とは変わっていました。
こっちの方が、もっとおいしそうな写真……。
ご飯から立ち上がる湯気がほんのり映り込んでいて、お味噌汁のお豆腐もぴょっこり顔を出していて。
卵焼きなんて、これ、ぜったい写真を撮るほんの少し前に焼いたばかりに決まっています! トマトのみずみずしい断面もばっちり収めていて、見ているだけでお腹が空いてきます。
加蓮「…………」
藍子「『加蓮ちゃんが来るまでは、あと10分くらいかな? 私は――』……? 加蓮ちゃん?」
加蓮「……ねぇ、藍子?」
藍子「は、はい。何でしょうか……?」
加蓮「このコラムは、藍子が感じたものとか見たものとか、それにやったことまで全部素直に書くべきだって、最初に話し合ったよね」
藍子「そうですね。日記のように……でも、できるだけ分かりやすく。そうしているつもりですけれど……何か、足りませんでしたか?」
加蓮「お腹は鳴ったの?」
藍子「……はい?」
加蓮「お腹は鳴ったの? 涎を垂らしたりはした? 唾を飲み込んだりしてない?」
藍子「ちょっ」
加蓮「藍子1人に任せてずんずん書いてるとそーいう都合の悪い所をすぐ飛ばすんだから! で、どうなの。ほら、素直に言いなさい?」
藍子「そんなの覚えていませんよ! ちょっとくらいお腹は鳴ったかもしれませんけど……」
加蓮「じゃあお腹を鳴らしましたってちゃんと書きなさいよっ」
藍子「……な、鳴ってないかもしれません」
加蓮「いいからお腹が鳴りましたって書きなさい! この食いしん坊っ」
藍子「そんなに食べてないもんっ! 私、そんなにいやしんぼじゃないっ」
加蓮「はー?」
藍子「も~っ!」
加蓮ちゃんが来るまでは、あと10分くらいかな?
スマートフォンを確認してみたら、ちょうど、加蓮ちゃんからのメッセージが来ていました。
『少しおくれる』だそうです。急いで打ったのかな。スタンプやデコ文字もありません。
大丈夫。ゆっくり来ていいですよ。
そう送るとすぐに既読がついて、『ごめんね』って返事が来ました。
……加蓮ちゃんって、普段は自信まんまんって感じなのに、こういう時にはすぐに謝っちゃうんです。
私はぜんぜん気にしていないのに。大丈夫だよ、って言っても、ぜんぜん聞いてくれないんですよ。
加蓮「だってさ……」
藍子「だって?」
加蓮「……私、なんかまだ、こう……そういう所があるっていうのかな……」
加蓮「悪い所とか、ワガママとか。言っていいんだって分かってるし、隠す方がよくないって知ってるけどさ」
加蓮「それとこれとは別じゃない? ちゃんと言うべきところは言わないと、って感じで――」
藍子「……、」
加蓮「っと……なんか暗くなる話をしちゃったかも。ごめんね? 手を止めてまで聞いてもらっちゃって」
藍子「それはいいんですけれど……。加蓮ちゃん。また謝ってる」
加蓮「あ……」
藍子「もう」
加蓮「……」
藍子「……じゃあ、加蓮ちゃん。そうですね……おわびに、何か注文をしてきてください。ずっと書き続けてて、ちょっとだけ疲れちゃいましたから、元気の出るもので♪」
加蓮「……ふふっ。気を遣っちゃって。ちょっと行ってくるね?」
藍子「は~いっ。……ようしっ。今のうちに!」
そうそう。加蓮ちゃんって、ああ見えてすっごく真面目さんなんです。
周りの人にはなかなか見せませんけれど、レッスンの時は、誰よりもいっぱい頑張っていて。
いつもは周りの人をちょっと困らせたりもしますけれど、本当に困っている人がいたら、すぐに手を差し伸べてあげるんです。
あとは……他のアイドルのみなさんに聞いても、見習いたい、お手本にしたい、という声が、いっぱいあって♪
もしかして、普段ちょっとふざけているのは、本心を隠すためなのかも――
……くすっ♪ もしかして、知っていましたか?
加蓮「ただいまー。はい、店員さんからの差し入れ。ミルクココア、もらってきたよ」
藍子「おかえりなさい、加蓮ちゃん。差し入れなんて……。ちゃんとした注文でよかったのに」
加蓮「ま、1杯くらいはいいんじゃない? 次からは注文ってことで」
藍子「……そうですねっ。あとで、お礼を言っておきます」
加蓮「残念。私が先に言っちゃった」
藍子「ふふ♪ やっぱり加蓮ちゃん、すっごく真面目さんです!」
加蓮「……やっぱり?」
藍子「あっ」
加蓮「やっぱりって、そんな話してたっけ? ……ちょっと。もしかして私がいない間にコラム書き進めてた? 何書いたのよ、見せなさい!」
藍子「そ、それは出来上がりをお楽しみにということで――あっ、待って。やっぱり出来上がりを読むのも駄目~っ!」
加蓮「どうせ後で苦しむか今苦しむかでしょ! 両手で隠そうとしないで、観念して見せなさい!」
藍子「く、苦しまないっていう選択肢をくださいっ」
定食を注文しようと思ったんですけれど、加蓮ちゃんが急いで来るって言うなら、もしかして、走って疲れちゃうかも? って思ったので――
注文は、食べやすいサンドイッチで♪
店員さんを呼んでみたんですけれど、ちょうど手が離せない時だったみたいで。来るのを待っている間に、ふと、窓際の小物が気になりました。
だるまの置物が、少しだけ傾いてる……。起こしてあげたいな。でも、勝手に触ったら駄目だよね。
悩んでいる間に、店員さんが注文を聞きに来てくれて。私はすぐに気が付くことはできませんでした。
後ろから、「何か気になるものでもありましたか?」と聞かれて、私は思わず飛び上がってしまって――
膝を、ちょっとだけテーブルにぶつけてしまいました。お恥ずかしい……。
藍子「……やっぱり、こういうのってぜんぶ書かないといけませんか?」
加蓮「ん? うん、もちろん」
藍子「うぅ。当たり前、って顔~」
加蓮「ま、ほら。人に話して恥ずかしくなくなることとか、自分の中で終わらせれることってあるでしょ?」
藍子「人に話すことで――」
加蓮「すっごく深刻な悩みでも、実は大したことないって気付いたり。重大なことでも、誰かに話すだけで気分が軽くなったりするよね。それと同じ感じかな」
加蓮「……ま、藍子の場合は話してるうちに1時間とか2時間とかなって、ふわって終わるタイプだろーけど」
藍子「あはは……。いつも付き合ってくれてありがとうございます、加蓮ちゃん」
加蓮「どう致しまして」
店員さんは、なんだかお話したくてうずうずしている感じでした。でも、右足の後ろ側がせわしなく動いていて、やっぱり忙しいのかな? って思っちゃいます。
サンドイッチを注文してから、「私でよければ、あとで聞きますよ」って言ってみました。
すると店員さんはすごく嬉しそうにして、でも、すぐにいつもの、きりっ、とした顔に戻って伝票に注文を書き込んでから、キッチンの方へと帰っていきました。
置いてくれたお水を少しだけ飲んで、窓から外を見上げます。
空模様は、かわらず快晴♪
でも……今の私にとっては、ちょっぴり悩みのたねです。
だって……このままカフェでのんびりするか、外をお散歩するか、どっちにすればいいだろうって、悩んでしまいますから♪
加蓮「……にしても、それって才能だと思うんだよね」
藍子「才能ですか?」
加蓮「いや、才能って言うとムカつくから藍子の能力――能力って言うとなんかファンタジーっぽい気がするなぁ。ほら、特殊能力的な?」
加蓮「って、なんで普通に生きてるのに特殊能力がって話が前提になるんだろ……。アイドルって不思議だねー」
藍子「えっと、加蓮ちゃん……? 結局、何のお話ですか?」
加蓮「あ、ごめんごめん。1人で完結しちゃってた。ほら、そのなんでもない話っていうかさ、身の回りのこと、1時間も2時間も話せたり、こうしてコラムにできるのって、改めて考えたら1つの能力だなって」
藍子「も~っ。そんな大したものじゃありませんよ~」
加蓮「十分凄いと思うんだけどなぁ……。なんかこう、それを活かしたお仕事! とか考えてみたくなっちゃうよ」
藍子「ふんふん。ちなみに……それはどんなお仕事ですか? 教えてください、加蓮ちゃんプロデューサーさんっ」
加蓮「言い辛!」
藍子「では、加蓮さんでっ」
加蓮「略すとこそこ? せめて加蓮プロデューサーにしようよ」
ずうっと悩んでいるうちに、加蓮ちゃんがやってきました。髪をひとまとめにして、ふりふりって揺らしながら♪
私と目があって、「やっほー」って片手を挙げてくれます。
他のお客さんが、ちらり、と加蓮ちゃんのことを見ました。ひょっとして、気付かれた? でも声をかけられていないからセーフですよねっ。
荷物を席の隅に置いて座った加蓮ちゃんに、私は言いました。
藍子「う~ん……。さすがに、あの時言ったことをそのままに書くのはちょっと難しいかも……」
加蓮「あー……まぁ一言一句合わせろって言われるとね。録音とか当然してない訳だし」
藍子「加蓮ちゃんの言葉なら、頑張れば思い出せますけれど――」
加蓮「いやそれもおかしいからね? そろそろ気付いて? ……じゃあ、今から再現しながら書いてみるっていうのはどう?」
藍子「なるほどっ。そうしましょうか。では、加蓮ちゃん。あの時と同じように……あの時は、私がまず提案したんですよね」
「今日はどうしますか? カフェでのんびりしますか、それともお散歩に行きますか?」
加蓮ちゃんは、少しだけ呆れたように返事します。
「あのね。今来たばっかりでしょ? なんでもう、どこかに行く話になるのよ」
確かにその通りですっ。
加蓮ちゃんがやってきたのを見て、加蓮ちゃんの分のお水を持ってきてくれた店員さんが……少しだけ、がっかりした顔になっていました。
「藍子が、今日はどこ行く? なんて言うからー」
ああっ。そういえば、さっき後でお話を聞くって言ったのに……!
店員さんにごめんなさいって言うと、店員さんの方が逆に慌ててしまって、手をぶんぶんと振りながら大丈夫って答えてくれました。
加蓮「あの時やけにあたふたしてるって思ったら、そーいうことだったんだね」
藍子「うぅ……。悪いことをしちゃいました」
加蓮「ホント。期待させるだけさせといてさー。突き放されるのって、結構しんどい物なんだよ?」
藍子「あっ……」
加蓮「なんてっ。ごめんごめん。そういう話じゃないよね。……ね。そんなに俯かないで?」
藍子「……うんっ。大丈夫。でも、……もうっ。加蓮ちゃん。冗談にしては、冗談になってませんっ」
加蓮「あはは……。自分でも言ってから、やっちゃった、って思ったよ」
藍子「くすっ。……それ、他の人にやっちゃ、駄目ですからね? なんてっ」
加蓮「……あははっ」
藍子「な、なんてっ……」
加蓮「言ってからじわじわ顔を赤くするのやめてよ……。こっちまで意識しちゃうじゃんっ」
少したってから、店員さんはサンドイッチを持ってきてくれました。
藍子「……、」
藍子「……」
藍子「……加蓮ちゃん」
加蓮「いいよ、注文してきてあげる。ちょっと待っててね」
藍子「ありがとうっ♪」
……。
…………。
加蓮「注文、ちょっとかかるってさ。中の方に結構人がいるみたいだし」
藍子「では、休憩にしましょうか。……わっ。もう、お昼すぎなんですね。いつの間にっ」
加蓮「そゆこと。ずっと書いてたもんね。どう? 今日1日で書けそう?」
藍子「それは大丈夫だと思いますけれど……書いているうちに、あれも書きたいな、これも書きたいな、ってなっちゃうのを我慢するのが、ちょっとだけ大変です」
加蓮「そして今日はここまでって決めて、次に書く時までに書きたいことが10倍になって」
藍子「ああああ~~~っ!」
加蓮「その時はその時だよ。モバP(以下「P」)さんに改めて相談でも何でもすればいいし。完成するまでいくらでも付き合ってあげる」
藍子「……ありがとう、加蓮ちゃん♪ ……えへ」
加蓮「……ちょおっと優しくするだけで、すーぐ笑顔になるんだから。藍子ってばちょろいんだー」
サンドイッチにはあふれるくらいの卵が挟んであります。ほんの少しだけ見える黒いつぶつぶは、ピリッと辛い黒胡椒。
同じ胡椒でも、私が家で使っているのとはちょっと違う味付けです。どうやら珍しい調味料みたいで。
どこのものを使っているのか、そのうち突き止めようと思ってますっ。
一緒に入っているレタスは、小さくいるのにぱりっとしていて、味と食感のアクセントになるんです。
サンドイッチと言えば朝食って感じですけれど、お昼に食べても夕方に食べても、すっごく美味しいですよ! もちろん、夜でもっ。
藍子「いただきます。……ん~♪ おいしいっ」
加蓮「私も、いただきまーす。……うんっ。おいしいね。いつ食べてもおいしい、か……」
藍子「もぐもぐ……うんっ。いつ食べてもおいしいんですよ」
加蓮「……ふふっ」
お腹がいっぱいになって、それからは、のんびりする時間。
加蓮ちゃんが、私にたずねました。
「この前の私のLIVE、見てくれた?」
最前列で応援していたよ、って答えると、少し目を丸くします。
周りにバレないようにしていたとはいえ、加蓮ちゃん、気付いてくれなかったみたいです。
ほんのちょっぴり、ほっぺたを膨らませてみたら、加蓮ちゃんはすぐに気が付いて苦笑い。
それから、「トップアイドルは足元ばっかり見てる訳にはいかないからね」なんて言い始めたんですっ。
もう。どういう誤魔化しかたなんですか~。
だけど加蓮ちゃんも、私が気付いていることに気付いてるって感じの言い方だったから、私もそのお話に乗ることにしました。
「じゃあ、加蓮ちゃんがうつむいているのを見かけたら、ぐいっ、って顔を上げてあげますね」
加蓮ちゃんは、両手で自分のほっぺたを掴んで、ぐに、ぐに、と顔の位置を確かめるようにします。
その時の顔がなんだかおかしくて、写真に撮りたかったけれど、スマートフォンに手を伸ばす前にバレちゃいました。
ほっぺたを、ぐに~、ってへこませたまま、「何してるのよ」……って言いたかったのでしょうか。
「ふぁにしふぇるのよ」、みたいな言い方になって、私、思わず笑っちゃって……!
加蓮「ふぁにしふぇるのよー」
藍子「もっ……加蓮ちゃんっ、もうそこ書き終わりましたから! 実践してくれてありがとうございますっ。だから、元に戻っていいんですよ?」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……ふぁにしふぇるのよ」
藍子「あははっ、も……もうっ! 加蓮ちゃん~っ!」
加蓮「今度テレビでこの顔見せてみよっかな」
藍子「やめてあげて~っ! 加蓮ちゃんのファンが、みんな笑い転げちゃう……っ!」
ちょうどよかったので(それと、お話を変えないと私がずっと笑っちゃいそうだったので)、写真の話をしてみることにしました。
「加蓮ちゃん。ここ、知っていますか? 事務所の側の駅から、少し行ったところの自然公園です」
写真を覗き込んだ加蓮ちゃんは、少しびっくりします。
「都会にこんなところがあったんだ。いつかの田舎っぽいカフェじゃないけど、なんかびっくりだね」
田舎っぽいカフェっていうのは、前に私がコラムを書かせてもらった場所のことです。読んでくださいましたか?
加蓮「読んでない人は、この号に乗ってるよー、っと」
郊外にある、辺りを自然に囲まれたロッジのようなカフェなんです。店内には、子どもが書いたような絵があって……窓から外には庭が広がっていて、まるで自分の家にいるような気分に――
加蓮「はい、ここまで。続きは特集してる回を読んでね」
藍子「加蓮ちゃんっ。売り切れている時はどうしたらいいですか?」
加蓮「……どしたらいいだろ?」
藍子「あれっ」
加蓮「前に書いたコラムを1冊の本にまとめて、みたいなのってやってないの?」
藍子「やっていませんね……。今度、お話してみようかな?」
加蓮「生殺しじゃ可哀想だもん。そうしてあげて」
>>48 下から2行目の藍子のセリフを一部修正させてください。
誤:藍子「やっていませんね……。今度、お話してみようかな?」
正:藍子「やっていませんね……。今度、相談してみようかな?」
……と、こんな風に、都会にも意外な自然スポットがいっぱいあるんですよ。
たまには電車に乗って、普段行かないところまで足を運んで……ゆっくり、歩いてみましょう♪
もしかしたら、意外な発見もあるかも……?
私が知らなさそうなことや、私が好きになれそうなものを見つけた方は、ぜひ、教えてくださいねっ。
<こんにちは!
加蓮「おっ?」
「ふわぁ……。久しぶりの藍子さんだ……!」
「いやいや、天使じゃないんだか……、……天使かもしれないけどさ」
藍子「お2人とも、こんにちはっ」
「ンッ」
「――危なあっ。私までトぶとこだった……。おい? 死ぬの早いよ? あ……こんにちは。お邪魔します」
藍子「お邪魔だなんて。私と加蓮ちゃんも、お邪魔している立場ですから」
加蓮「で、そっちは……久しぶりに見た藍子ちゃんに興奮してぶっ倒れた的な?」
「」
「です。なんかスミマセン。……書き物ですか?」
加蓮「うん。ちょっとね。藍子の過ごす時間っていうテーマの――ん、そういえばさ。この日も確か、ちょうどこの頃に2人が来たんじゃなかった?」
藍子「はい。だから、すごくいいタイミングなんですっ」
「」
「……?」
……。
…………。
「エッ」
「なるほど……。藍子さんの過ごした時間を、そのまま書くですか。そういうのって、なんだかすてきですね」
「マッテ、ソレッテワタシモハイッテ」
「そうみたいだね。よかったじゃん! ……おーい、死ぬなー?」
「ワタシナンカガメッソウモナイ」
「あとその異星人みたいな喋り方はやめな……」
加蓮「ま、そーいう感じ」
藍子「嫌なら、書くのはやめておきますけれど……」
加蓮「ざんねーん。拒否権はありません」
藍子「こらっ。加蓮ちゃん」
加蓮「だって、あなた達も既に藍子の世界の一部なんだよ。カフェによく来る、藍子のファンで、藍子の友達」
加蓮「書く書かないに関係なく、それを否定するのは……私はちょっと嫌だな? 藍子だってそうでしょ」
藍子「それは、そうですけれど……でも」チラ
「えうえうえう」
「……大丈夫ですので、遠慮なく書いちゃってください。たぶん、喜ぶと思いますし……」
加蓮「だってさ」
藍子「……それならっ、遠慮なく書いちゃいますね♪」
「はっ。あれっ? ね、ねえ。私今藍子さんに世界の向こうから見られてる夢見た」
「どういう夢……? ある意味で現実かもしれないけど」
「???」
加蓮「……もう1回説明してあげるね?」
自然公園のお話から、その近所にあるアクセサリーショップのお話になった時、加蓮ちゃんが身を乗り出しました。
「そこって髪飾りとかある? ちょうど新しいのを探しててさー」
残念ながらお店には入っていません、って言うと、ちょっとだけ不機嫌になります。
「何それー。アイドルなんだから、そーいうのはチェックしなさいよ」
「ごめんなさいっ。私も行ったことがないから、加蓮ちゃん、今度一緒に行きませんか?」
「デートのお誘い? 困るなー。事務所を通してもらわなきゃ♪」
「では今度、プロデューサーさんにお願いしてみますねっ」
「いやマジで言われてもなんだけど……」
おかしなところに着地したお話に、私たちはお互い苦笑いしました。
その時、カフェの入口のベルが、ちりん♪ と鳴ります。
ちょうど入口側を見ている私は、やってきたお客さんが、知っている――
藍子「ううんっ」
やってきたお客さんが、友だちであることに気がつきました。
向こうも、私に気がついてくれたみたいです。小走りで駆け寄ってくれて、もう1人の子が後からついてきます。
加蓮「ちょっと喉が乾いてきちゃったかも……。何か注文してこよ。藍子は?」
藍子「私は、紅茶でお願いしますっ」
加蓮「オッケー。ついでにあの2人にも――おーいっ。私注文してくるけど、2人はどうする?」
「えっと」
「注文……? 店員さんを呼ぶんじゃ?」
加蓮「まー色々あってね。今日だけはドリンクバー的な?」
「な、なるほど? じゃあ……」
「私っ、私も行きます! いいですか?」
「おぉ……!? よく言った!」
加蓮「ふふっ。もちろん。じゃ、行こっか」
「あ、私もっ……? え、あっと、あ、はい! ととっ」
「うふふっ。加蓮さんに誘われて、焦ってる」
「それ言う!? それ藍子さんの前で毎度死んでるおまえが言う!?!?」
「最近、よく一緒に加蓮さんの歌とか聞いているんです!」
加蓮「そうなの? 嬉しいなぁ」
<バタン
藍子(……い、今のうちっ)パラパラ
>そうそう。加蓮ちゃんって、ああ見えてすっごく真面目さんなんですよ。
>周りの人にはなかなか見せませんけれど、レッスンの時は、誰よりもいっぱい頑張って。
>いつもは周りの人をちょっと困らせたりもしますけれど、本当に困っている人がいたら、すぐに手を差し伸べてあげるんです。
>あとは……他のアイドルのみなさんに聞いても、見習いたい、お手本にしたい、という声が、いっぱいあって♪
>もしかして、普段ちょっとふざけているのは、本心を隠すためなのかも――
>……くすっ♪ もしかして、知っていましたか?
でも、加蓮ちゃんが真面目さんであることで、1つ、悩んでいることがあるんです。
加蓮ちゃん……好き、っていう言葉を、なかなか言ってくれないんです。
ステージの上ではよく、ファンのみなさんに言いますよね。でもオフの時には、本当にぜんぜん言ってくれないんですよ!
きっと、加蓮ちゃんにとっては言葉の重みがあるんです。
軽々しく言って、約束を破る人のことを、大嫌いだって、よく言っていますから……。そして加蓮ちゃんは、嫌いな人のようにはなりたくない、っていつも言っていますから。
そうですよね。好き、という言葉って、大事なものだと思います。
でも、たくさん言ってもいいと思いませんか?
いつもせがんでも、全然――
加蓮「ただいまー」
「お、お邪魔しま~す」
「……さっきまでイキイキしてたのはどこに行ったの。あ、……お邪魔します」
藍子「わ、もう?」
「お、同じこと言ってるじゃん!」
「うっさいな!」
加蓮「はい。紅茶。それから、クッキーをミニサイズで注文したの」
藍子「ありがとう。美味しそう……♪ ちょっと疲れちゃった時には、やっぱりこの味ですよねっ」
「ん~♪」
「……ふふ。幸せそうな顔で食べるなぁ。うんっ。私も美味しい!」
加蓮「ね」
藍子「――ようしっ。お陰さまでリラックスできました! 続き、頑張って書きますね」
加蓮「頑張れ。……あれ? なんかページが違わない?」
藍子「ぎくっ」
加蓮「どっか見直してたとか?」
藍子「そ、そうなんですよ~。ええと、今書いていたのは……」パラパラ
「こんにちは、藍子さん!」「お邪魔します」
「こんにちはっ。今日も一緒になりましたね♪」
その子は私の友だちで、同時に……
加蓮「いいんじゃないの? ……それで藍子のことをどうこう言う人がいたら、私とPさんがどうにかしてあげるから」
藍子「……、」チラ
藍子「うんっ」
その子は私の友だちで、同時に、私のことを応援してくれる子でもあるんです。
大人って感じの落ち着いた子と、しっかりものだけれど時々熱くなる子。
ときどき、このカフェでご一緒して、お話したり、お話を聞いたりして。
私の影響を受けて、お出かけしたり、写真を撮ったりするのにハマってくれているみたいですっ。
「やっほー。ふふっ、よかったね。藍子に会えて。顔に出てるよ?」
なんて加蓮ちゃんが、ちょっぴりからかい気味に言ったりして。そうそう。お2人は、加蓮ちゃんのことも応援してくれているんです。
だから……加蓮ちゃんこそ、出会えて嬉しいって気持ちが、顔に出ています♪
加蓮「……私のことはともかく、あの2人の……特にこっち。こんな冷静じゃないでしょ」
藍子「一応、私なりに忠実に書いているつもりですけれど……。だって今も、ほらっ。眼鏡をかけてきりっとした感じがなんだか大人っぽくて、落ち着いていて……今も、クールな女の子って感じに見えますよ?」
「」
「……えーっと」
加蓮「それクールっていうより、藍子に褒められて気絶寸前なだけだと思うけど……」
藍子「……も、ものは言いようですから」
加蓮「えぇ……。まぁ、藍子からはそう映ってるってことにしていいけどさ」
「ウヘヘ...アイコサンガホメテクレタ。ウヘ、ウヘヘ」
「そんな顔してたら、女子がやっちゃ駄目な顔してますって藍子さんに書いてもらうよ」
「うえぇ!?」
「……いや、なまはげじゃないんだから」
「違うよ! 藍子さんはそんなのじゃなくてもっとこう、秘境の奥にひっそり住んでるけどたまに人の世界の楽しみに来る天使のような――」
「…………藍子さんにずっと会ってなかったせいで悪化してない?」
お2人は違う席に座って、私は手を振って、それからまた加蓮ちゃんとお話します。
今度は、アクセサリーショップのそのまた近くにある、ジャンクフードのお店のことです。
加蓮ちゃんはポテトが大好きで、キャンペーンのことや期間限定のことも詳しくて、よく私に教えてくれるんです。
私も、ときどき加蓮ちゃんに付き合っているんですよ。
体によくないのかもしれませんけれど、たまにはいいですよねっ。
「加蓮ちゃんが、行きたいって言うと思って、その場所もちゃんとチェック済みですっ」
「さっすが藍子。加蓮ちゃんのことをよく分かってるね」
こうして、次のお出かけの予定がどんどん埋まっていきます。1日で、ぜんぶ行くことができるかな?
もしかしたら、最初の自然公園でずっとひなたぼっこをして、そのまま1日が終わってしまうかもしれませんね。
加蓮「って言いながら、あの日藍子は加蓮ちゃんを色んな場所に振り回したのでしたっと」
藍子「あ、それはっ……秘密にしておいてください!」
加蓮「えー、なにそれ。表ではゆるふわアイドルなんて言ってる藍子ちゃんは実は休日に病弱な子を振り回しまくる子だってみんなに教えてあげなきゃいけないでしょー」
藍子「嘘を教えようとしないでくださいよ~。それに、お出かけした時は、……私もはしゃいじゃったかもしれませんけれど加蓮ちゃんだって、次はそこに行こう、あそこにも行こう、って手を引っ張ってくれたじゃないですか」
加蓮「あははっ。そうなんだけどね。その日の話は……また別の機会にしよっか」
藍子「はい♪」
ずっとお話していると、喉が乾いてきましたね。
ここのカフェの店員さんは、加蓮ちゃんのことをよく知ってくれていて――
加蓮「はい。そこ修正。私のことをじゃなくて、藍子と私のことを、でしょ?」
藍子「う……。自分のことを書いていると、つい。私と加蓮ちゃんのことを、っと……」
私と加蓮ちゃんのことを、よく知ってくれていて、コーヒーって言うだけで、今の気分にピッタリな種類や味のコーヒーを淹れてくださるんです♪
「常連の特権だね」
顔を少しだけ近付けた加蓮ちゃんが、くすりと笑います。私も同じように、ちょっぴり顔を近付けて。これで、秘密のお話をしている気分。
私たちは、コーヒーを淹れてくださった店員さんにお礼を言って、同時に、いただきます、って言いました。
口にしたコーヒーは、ほんのり柔らかくて、だけど後味がじんわりと引いていくような、余韻に浸っていたくなるような味でした。
しばらく目をつぶって、体の中からコーヒーの感じが消えるまで、ゆっくりと待ちます。
ちいさく息を吐いてから、目を開けたら、加蓮ちゃんの分のコーヒーがもうなくなっていました。
もったいない、って言ったら、加蓮ちゃんは「すごく飲みやすかったから、つい」って。
よく考えてみると、私の分と加蓮ちゃんの分の味付けが違っていたんですね。そういえば、持ってきてくださった時の香りも微妙に違ったような……?
もしそうなら、加蓮ちゃんの分をひとくちもらえばよかった……っていうのは、よくばりでしょうか?
加蓮ちゃんの為に、店員さんが淹れてくださったコーヒーですもん。最後の一滴まで、加蓮ちゃんが飲むべきですよね。
……でも、ちょっぴり気になるな。どんな味だったんだろう。次は、さっきの加蓮ちゃんのコーヒーで、って注文しちゃおうかな?
「藍子さん、なんか格好いい……!」
「いいですよね。いつもの! で通じるのって」
「わ、私も試してみよっかな。いつものコーヒーで! って。常連っぽく……。まだ早い?」
「うーん……。……よし、じゃあ私もやる。恥をかく時は2人でだよ!」
加蓮「私もやるー」
藍子「じゃあ、私も一緒にっ」
「ンッ」
「……いやもう今のはコイツが悪いです。スミマセン。おふたりは、やらなくても結果分かるような?」
加蓮「わかんないよ? 私たち4人で言ってさ。店員さんがポカンってなったらどうする?」
藍子「その時は……みんなでいっせいに、ごめんなさいっ、って言っちゃいますか?」
「イッショニ!?」
「いや、分かった。もういっそ思い切って言うんだ。さっき加蓮さんに言ったみたいに、一緒にやろうって言うんだ! それで駄目になるのを克服しろ!」
「ムリ!」
「……あっちょ、どこ行くの!? すみません加蓮さん藍子さん、ちょっと追っかけてきます!」
<バタン
加蓮「……たまに、ツッコミ役なのか熱血なのかどっちかにしてほしいって思うんだけど。シンパシー感じたりついていけなくなったりで、感覚が変になりそう」
藍子「? 最近の加蓮ちゃんも、クールだったり、熱血だったりしませんか?」
加蓮「あれほどじゃないって」
コーヒーを飲んだ後は、なんだかぜんぜん違うお話をする雰囲気になります。
加蓮ちゃんも同じことを考えていたみたい。この間、一緒に遊んだ――
この間、一緒に遊んだ未央ちゃん(アイドルの本田未央ちゃんのことです)とのお話を聞かせてくれました。
「遊んだんじゃなくて、あくまで準備なんだけどさ。今度のイベント用の」
って、加蓮ちゃんはすました顔で言うんですけれどね。
「その時は、イベントで栄えるアイテムは何っていう議論になったの」
「議論?」
「小さい物とか細かい物だと伝えきれないでしょ? 何をやってるかさえ分からないことがあるじゃん」
「ふんふん」
「でも、それを紹介しなきゃいけないってこともあって……そういう時って難しいね、って話になった感じ?」
加蓮ちゃんと未央ちゃんがやっていたらしい相談は、なんだか高度な内容みたいです。
もし、その場に私がいたら、私はついていけていたかな?
って、ときどき思っちゃいます。
「藍子がいたら、そこに藍子がいる時の話し合いになるだけだよ?」
思ったことを素直に口にすると、加蓮ちゃんはそう言いました。
「区別とか差とかじゃなくて、そういうものなの。藍子といる時の私と、凛や奈緒といる時の私が少し違うのと同じこと……かな? 分かる?」
(アイドルの渋谷凛ちゃんと神谷奈緒ちゃんのことです)
>>69 ~ >>70 の間に1つ文章を入れ忘れました。大変申し訳ございません。
>>69→これ→>>70とさせてください。
藍子「……ふふ。私、本当に、わがままになっちゃったな……」
加蓮「藍子?」
藍子「ううんっ」
加蓮「気持ちは分かるけど、いちいち注釈入れるの読みにくくならない?」
藍子「やっぱりそうですよね。でも、私や加蓮ちゃんのことを知らない方にも、読んで頂きたいなぁって。どうしたらいいでしょう……?」
加蓮「んー……米印を置いておいて、下の方でちょこっと紹介するのは?」
藍子「あっ、それいいかもっ」
加蓮「ついでに未央とか凛と奈緒の紹介もしとこっか。分かんない人がいるかもしれないからね。私が書いといてあげるー♪」
藍子「……その文章、あとでチェックしますからね?」
加蓮「えー」
「う~ん……なんとなくは、分かったつもりです」
「気にしなくていいってことだけ覚えてくれたらいいよ」
「はいっ」
返事をすると、あいまいな部分がなんだか分かってきました。霧が晴れるように、って、今のような心境を表しているのでしょうか。
加蓮ちゃんは、そのことも解説してくれました。
「分かったフリをするのって、案外効果があるから。ま、分からないってことを認めないと逆効果なんだけど」
私は……分かったフリのまま、終わっていないかな?
「不安に思ったら、答え合わせをしていこ? もしかしたら、私と藍子で全然違う答えになっていたりして」
答え合わせ。なんだか学校の宿題みたいっ。……って言ったら加蓮ちゃん、ちょっぴり嫌な顔になっちゃいましたけれど。宿題って聞いて、思い出してしまったのかも?
あっ。ちょうど今が、答え合わせをする時かもしれませんね♪
「学校の宿題、終わっていないんですか?」
「……提出日までは終わらせるし」
どうしても間に合わないなら手伝いますよ、加蓮ちゃん。
加蓮「……今何時? 2時半……。あれ、さっき紅茶を注文したばっかりな気がするけど、もう結構経ってる」
藍子「加蓮ちゃん、お疲れですか?」
加蓮「ちょっとね。なんか体を動かしたくなってきちゃった。ちょっとその辺歩いてこよっかなー……。藍子は?」
藍子「私は、まだまだ大丈夫。いいですよ。そういう時は、少し歩くだけでもけっこう違うみたいです。モバPさんもそう言ってましたっ」
加蓮「あの人デスクワークしてる時はとことんしてるもんね。気付いたらコーヒーの飲んだ跡がたくさんあってさー」
藍子「そうそう。お休みしてください、って言ってもなかなか聞いてくれませんよね」
加蓮「私にはすっごくうっさく言うのにね!」
藍子「あははっ。今度、干したてのブランケットをかぶせてみようって思っているんです。おひさまをいっぱいに浴びたブランケットに勝てる人は、いませんからっ」
加蓮「えー、そういうことする? Pさんきっと1時間、いや10時間は寝ちゃうよ」
藍子「10時間も寝てしまったら、お仕事が遅れてしまうかも……」
加蓮「起こしてあげる?」
藍子「そうしますね。私も、つられて眠らないようにしなきゃ」
加蓮「じゃ私は藍子を見張る係かな」
藍子「くすっ。それ、Pさんを見張る係でもありませんか?」
加蓮「2人とも大人びてるのに、子供っぽいとこあるからなー。私が見てあげなきゃ!」
藍子「加蓮ちゃんこそっ」
「小さな物をみなさんの前で紹介する、ということだと、何か工夫が必要そうですね」
「拡大できるカメラを準備物に加えよう、って結論になって」
「ふんふん」
「カメラを持つ係ということで藍子を召還することになりました。よろしくー」
「……え? いつの間にっ。あ、プロデューサーさんから連絡が来てます。も~。手伝うのはいいですけれど、ひとこと相談してくださいよ~」
「だから今した」
加蓮ちゃん、また急なことをっ。それも言うだけではなくて、ちゃんとしっかりプロデューサーさんに根回し(と言うのでしょうか?)をしているのが、加蓮ちゃんらしいところです。
「あ、あのぉー……」
加蓮「あ、お帰り。……あれ、1人?」
藍子「追いかけて行ったんじゃ……?」
「ええ、はい。追いかけてったんですけど……えーと、あの、ですね」
「なんだろ。……お互い違うって分かってるんですけど、あいつ、店から飛び出そうとして……その、食い逃げ、みたいな形になりかけてて……」
藍子「大変っ」
加蓮「じゃあ今、店員さんか店長さんと揉めてる感じ?」
「いやっ! 店員さんもすぐ違うって分かってくれて……ほらあいつ店員さんとも仲良いし、私と2人で来たことも思い出してくれましたから。ただ、ちょっと気まずい感じなんです……」
「……ほんっっっっとにごめんなさい! 加蓮さん、藍子さん、助けてください!」
加蓮「大丈夫。藍子、ちょっと行ってくるね」
藍子「はい。行ってらっしゃい。……ね、焦らないで? こういう時は、加蓮ちゃんに任せておけば、絶対に大丈夫ですから」
「はわぁ……じゃない! は、はいっ! ……すみません。こっちですっ」
<バタン
藍子「……」チラ
藍子「……あはは。急に静かになっちゃった」
藍子「加蓮ちゃんやお2人が戻って来るまで、待ってみようかな?」
藍子「ううんっ。かえって気を遣わせてしまうかもしれないから……書くのを、再開しましょう!」
藍子「……」
藍子「……何ページか前に戻って……あった。ここ、ここっ♪」
>そうそう。加蓮ちゃんって、ああ見えてすっごく真面目さんなんですよ。
>周りの人にはなかなか見せませんけれど、レッスンの時は、誰よりもいっぱい頑張って。
>いつもは周りの人をちょっと困らせたりもしますけれど、本当に困っている人がいたら、すぐに手を差し伸べてあげるんです。
>あとは……他のアイドルのみなさんに聞いても、見習いたい、お手本にしたい、という声が、いっぱいあって♪
>もしかして、普段ちょっとふざけているのは、本心を隠すためなのかも――
>……くすっ♪ もしかして、知っていましたか?
>でも、加蓮ちゃんが真面目さんであることで、1つ、悩んでいることがあるんです。
>加蓮ちゃん……好き、っていう言葉を、なかなか言ってくれないんです。
>ステージの上ではよく、ファンのみなさんに言いますよね。でもオフの時には、本当にぜんぜん言ってくれないんですよ!
>きっと、加蓮ちゃんにとっては言葉の重みがあるんです。
>軽々しく言って、約束を破る人のことを、大嫌いだって、よく言っていますから……。そして加蓮ちゃんは、嫌いな人のようにはなりたくない、っていつも言っていますから。
>そうですよね。好き、という言葉って、大事なものだと思います。
>でも、たくさん言ってもいいと思いませんか?
いつもせがんでも、全然言ってくれないんです。
それだけは、ファンのみなさんがちょっぴりうらやましい……なんて?
私も、みなさんと一緒に、加蓮ちゃんのステージを観客席から見たら、好き、って言ってもらえるかな?
……ううんっ。
そんなことしたら、絶対加蓮ちゃんに怒られちゃう。
加蓮ちゃんはきっと、アイドルをちゃんとやっている私のことが、好きでいてくれるハズだから――
藍子「……さ、さすがに、ちょっといろいろと書きすぎちゃったかも」
藍子「ええと……まずは、せがんでもっていうのはやめておきましょう。そこまで……そ、そこまでよくばりにはなっていない、ハズっ」
藍子「なっていないよね……?」ウーン
加蓮「ただいまー」
藍子「わひゃあ!?」
加蓮「……は?」
「ううぅ……すみません、ホントすみませんっ!」
「もう。心配したんだよ。……加蓮さん、ありがとうございます!」
「あ、ありがとうございます! 一生の恩だと思います!」
加蓮「一生の恩って……もう。ちょっと話題を振ってあげただけでしょ? っていうか、私が行った時にはだいぶ緩い感じだったし」
藍子「び、びっくりしたぁ……。ええと、加蓮ちゃん、それに2人とも。おかえりなさいっ。無事に解決しましたか?」
加蓮「うん。きっかけが欲しかっただけだったみたい。お互い死ぬほど謝ってたし」
藍子「それならよかったっ」
加蓮「私が話題を振ったら、店員さんとこの子で盛り上がっちゃって。私達、蚊帳の外だったよねー」
「あー……あはは。ほら、私達も私達で話していましたから」
「えっ、加蓮さんと何話してたの!? 教えて!」
「うわっ、ちょ! あんた反省してるんでしょうね!? 店員さんが優しかったからよかったものの……」
「う……。それは……反省しています。ごめんなさい……」
加蓮「こら。それはさっき何回も言ったでしょ? やっちゃったことは、もうおしまい。ねっ?」
「……はいっ!」
「……本当に、ありがとうございます。加蓮さん!」
藍子「ふふ♪」
藍子(……加蓮ちゃんがお2人と話している間に、ページを一番最後のところまで戻して……)パラパラ
加蓮ちゃんの出ている番組をご覧になっている方は、ご存知かもしれませんね。
最近は、加蓮ちゃんが企画を作ったり、アイディアを出したりしているんですよ。
だから、ただ面白いことや斬新なことを言うだけではなくて、こうして連絡をとったり、スケジューリングをしたり、しっかりしているんです。
なんだかそのうち、アイドル&マネージャー、みたいなことになりそう?
加蓮「どうだろうね?」
藍子「私が加蓮ちゃんを見ていて、思っていることですよ?」
加蓮「事実とは関係ありませーんって?」
藍子「言ってしまえば、そうなっちゃいますっ」
加蓮「でもそーやって外堀を埋めて来てる可能性もあるんだよねー。藍子、侮れないから」
藍子「ふっふっふ。どうでしょうか~」
加蓮「あ、これ考えてなかった時の顔だ」
藍子「……むぅ。ちょっとくらい悩んでくださいよ」
加蓮「あははっ。……でもま、私って自分勝手で冷たい人間だし。自分の為のマネージメントはいくらでもやるけど、人の為に尽くすっていうのは……ちょっとできないかもね」
藍子「そうですか。……残念。加蓮ちゃん、優しくて賢いからうまくできるかもって思っちゃっていました」
加蓮「能力と適性は違うからね」
藍子「それは……言い換えたら、才能とか、先天的? って言いますよね。そういう言葉、嫌いなんじゃないですか?」
加蓮「あはははっ!」
藍子「?」
加蓮「いや、……ホント、藍子ってさ。……ほんっと言ってくれるよねっ」
藍子「え、えっ?」
加蓮「違う違う。怒ってるんじゃなくて。むしろ受け止めきれないくらいに嬉しいかも」
加蓮「そこまで的確に、私の中に踏み込んでくれて。しかも堂々と正面から言ってくれて? もうさ、そういうのって……」
加蓮「藍子。さっきの藍子のセリフじゃないけど、これ他の人にやっちゃダメだよ。好かれる通り越して依存までされるヤツだから」
藍子「はい。でも、加蓮ちゃんにだから言ったことですけれど……」
加蓮「ならよし。ほら、続き続きっ」
(後日、加蓮ちゃんに実際に言ってみたら、やらないって言われてしまいました。ちょっぴり残念です)
ふと、加蓮ちゃんが喋るのを止めて後ろの席をちらりと見ました。
そこにいるのは、さっきカフェにやってきた2人組です。
加蓮ちゃん、何やら聞き耳を立てているもよう。私もつられて、できるだけ物音を立てないようにします。
しばらくして、加蓮ちゃんはくすくすと笑います。「気のせいだったみたい」、だって。
「名前を呼ばれた気がしてさー。違ってた」
「そうなんですか?」
「うん。私の話じゃなくて、藍子の話をしてたもん」
「え、私のお話っ?」
つい語尾が上がってしまって、そうしたら向こうの席の2人にも気が付かれてしまったみたいです。
マナー違反ですよね。ごめんなさいって言いに行ったら、大丈夫、って答えてくれました。
それから、2人は本当に私のお話をしていたみたいで……。
「藍子さんのことばっかり話すんですよ。あのテレビに出てた藍子さんが、このラジオに出てた藍子さんが、って。私まで詳しくなっちゃいました。あーっと……私も、はい。応援してます!」
「ふふ、ありがとうございます。あなたも、いつも見てくれてありがとう♪」
藍子「…………あ~」
加蓮「私もこの時のことは覚えてるけど……。白目剥いて魂吐き出したことって、どう書けばいいんだろうね……」
藍子「それなら、ちょっとだけお話を飛ばしてしまって――」
席に戻ると、加蓮ちゃんがからかうようにして言います。
「今日もサービス精神豊富だねぇ?」
だって、私のことを応援してくださる方には、できるだけ応えたいですもん。
「加蓮ちゃんだってそうでしょ? この前の小さなLIVEで歌い終わった後、しばらくステージの上でみなさんを見渡していて、進行の方にマイクを渡されてた時……あの時、ファンのみなさん1人1人の顔を、じっくり見ていたでしょ? 目を見れば、わかりましたよ」
ほっぺたをつねられました。
>>87 申し訳ございません。2行目を訂正させてください。
誤:「今日もサービス精神豊富だねぇ?」
正:「今日もサービス精神が旺盛だね」
加蓮「藍子?」
藍子「はい。何ですか?」
加蓮「……次のラジオのフリートーク、覚えておきなさいよ?」
藍子「へっ? ……待って、加蓮ちゃんっ。何のお話をするつもりですか? 加蓮ちゃん!?」
時計の音が、3時だって教えてくれました。ぼーん、ぼーん、ぼーん……聞いていると、少しだけ眠たくなってきちゃう。
ふわ、と小さくあくびをすると、加蓮ちゃんが座っている隣をぽんぽんってしてくれて。
「ちょっとだけ寝とく?」
それはとっても魅力的な提案ですけれど、今は、もう少しお話していたい気分かも?
「あのぉ~」
「書いているところにすみません。私たち、そろそろ帰ります」
加蓮「そっか。2人も、またね」
藍子「今日はあまりお話できなくてごめんなさい。また、ここでお話しましょうね」
「アヒッ」
「…………」
加蓮「……頑張って?」
藍子「あ、あははは……」
「えぇ……まぁ。おかげ様で体力までついてきた始末ですから……。よしっ。じゃ、失礼します!」
<くそぅ……! 分かってはいたけどやっぱりキツイ……! しかも最近また太ったでしょコイツ! ぐんぬぬぬ……!
<
加蓮「目が覚めるまで待てばいいのに……」
藍子「何か用事があったのでしょうか。今は……わ、もう5時半っ」
加蓮「道理でちょっと寒くなってきちゃったんだ……。コラム、あとどれくらい書く予定?」
藍子「だ、大丈夫です。今日中には、今日中には絶対に……!」
加蓮「……なんか前奈緒が手伝ってた比奈さんがこんな感じだったって言ってたような……。別にそれは大丈夫なんだけど、そろそろ中に入らない?」
藍子「あっ……そういうことだったんですね。そうしましょうかっ」
加蓮「んじゃ先に行って店員さんに伝えてくる」
藍子「ありがとうっ」
加蓮「もう少しの辛抱だよー、って。あっ。どうせなら今日の藍子のことを少し話しちゃおっかな? 店員さんうらやましがるかなー」
藍子「……あの、優しくしてくれるのはすごく嬉しいんですけれど、普通に中に入りますよとだけ伝えてあげてください」
加蓮「ふふっ。しょうがないなぁ。そうするね」
――おしゃれなカフェ――
加蓮「はい。コーヒー。それから店員さんからのメッセージ。頑張ってください、だってさ」
藍子「ありがとう、加蓮ちゃん。店員さんも……。これが終わったら、いっぱいお礼を言いたいな……」
加蓮「ふふっ。藍子がお礼を言われる側なのに」
こころなしか、カフェ全体が静かな雰囲気になりました。
キッチンの方からも、皿や水の音、調理の音が聞こえなくなってきて……。
店員さんが、カウンターの向こうでゆっくりしています。
なんとなく、何もしない時間をみんなで共有しているみたい。
けれど、加蓮ちゃんを見るとまた違った感じがして……ここに、私と加蓮ちゃんしかいないような気分になります。
最初は、落ち着きませんでした。でも、今はそういうものだって……そういう世界なんだって思ったら、ちょっとずつ、心地よさの方が上回って……。
加蓮ちゃんのことを、じ~っ、と見ると、加蓮ちゃんは小首を傾げて、それから私のことも、じ~っ、と見てくれます。
今、加蓮ちゃんは、何を考えているのかな……?
藍子「……」
加蓮「藍子?」
藍子「……こうして、1日のことを思い出しながら書いていくと……私の周りには、色んな人がいるんだなぁって、改めて思ったんです」
藍子「ここだって、加蓮ちゃんがいて、店員さんがいて。普段はあまり姿を見せませんけれど、店長さんがいて」
藍子「ときどき、あのお2人がいらっしゃって。他のお客さんもいて。たまに、見たことのある方もいらっしゃったりします」
藍子「私の周りには……私の過ごしている時間には、色んな人がいるんだ、って。……ふふ、今さらかもしれませんね」
加蓮「あははっ。今更」
藍子「や、やっぱり?」
加蓮ちゃんが、メニューに手を伸ばそうとして、途中で引っ込めてしまいます。
「何か、飲みますか?」
「ううん、いい。そういう気分じゃない」
それからはずっと、机の真ん中の辺りを、ずっと見つめてばかり。
ちょっとだけ、悩みました。顔を上げて? って言うか、それともこのまま待つか。
悩んでから、私は待つことにします。その代わりに、できるだけ笑っていられるようにして……加蓮ちゃんがいつ、私の顔を見てくれてもいいように。
加蓮「でも、いいんじゃない? 今更の話を何度したって。そこにある大事な物を、意地を張って見落としたり、捨てちゃったりするよりは、ずっと」
藍子「……加蓮ちゃん」
加蓮「私が聞いてあげる。……ほら、答え合わせ。何回やったっていいんだよ」
加蓮「自分の周りには誰がいるんだろう、って。何度確かめても、聞いてもいいんだよ」
加蓮「ま、加蓮ちゃんのことだけは、せめて覚えててほしいけどね?」
藍子「忘れませんよ。加蓮ちゃんのこと……言葉だって、顔だって。忘れる訳、ないじゃないですか」
加蓮「そっか……」
藍子「……」
加蓮「……ほら、続き。その続きって――私が、あの話をした時のことでしょ?」
藍子「……はい。そうですね」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……加蓮ちゃん」
加蓮「ん」
藍子「少しの間だけ、何も言わないで。でも――ずっと、そこにいてください。そうしたらきっと、私は……私を見失わないで、向かい合うことができるから……」
加蓮「……いいよ。でも、さっきの言葉は忘れないで――あははっ。忘れる訳ないって言ったばっかりか」
藍子「そうですよ~。加蓮ちゃんの方こそ、忘れないでくださいっ」
加蓮「ごめんごめん。じゃ……頑張れ、藍子」
藍子「……はいっ」
「何が不安なんだろうね、私」
加蓮ちゃんが、ぽつりと呟きました。
「アイドルとしてこんなに輝けて……夢だって叶って。ううん、やりたいことがどんどんできてさ。みんなも私のこと、見てくれて……それなのに、なんで不安なんだろうね」
「それは……何かあったから、ですか?」
「本当に何もないの。全部が順調。うまくいっていないこともない。……だからなのかな」
やっと顔を上げてくれた加蓮ちゃん。けれど――
藍子「……」
藍子「…………」
藍子「…………………………」
けれどその顔は、私が見たい顔ではありませんでした。
「ときどき、現実がぜんぶ嘘になってしまうような……そんな予感がして、ずっと拭えないの。ある時一瞬にして全部が終わっちゃうんじゃないかって」
ちいさな女の子が、お母さんとはぐれてしまって、探しているような顔。
「その時はきっと、藍子も隣にはいてくれないの。プロデューサーさんも、凛も奈緒も、他のみんなだって。……そんな未来なんて訪れる訳がないって、思えば思う程に、世界が真っ白になる想像がもっとリアルになるの」
なんの音もしなくなってしまったカフェを見渡して、掠れた声で。
「なんなんだろう」
と最後に言って、また俯いてしまいました。
得体の知れない不安を、どうすればいいのか分からないで、私にまで伝わってしまいます。
思わず、胸の前でぎゅっと手を握りました。そのまま、どこかへ消えてしまいそうな気持ちになって……。
でも、何も言わないでいると、加蓮ちゃんがいなくなってしまうような、そんな気すらしたんです。
答えは分からなくても、何かを言うことはできます。
だって加蓮ちゃん、何かを言ってほしそうにしているから。
「加蓮ちゃん」
時計の音さえも静まり返る中、私が名前を呼ぶと、加蓮ちゃんはぴくりと肩を震わせました。
「大丈夫ですっ。……そうやって不安に思うことは、私にもありますから」
思っていたのとは、違う言葉だったからでしょうか。ゆっくりと、顔を上げます。
それが……なんだか睨まれているように思えて、正直に言って、ちょっぴり怖かった。
でも、怖がっていたら、今加蓮ちゃんのことを分かってあげられる人はきっといなくなっちゃう。
……大丈夫。
覚悟は決めました。傷ついてでも、ちゃんと話そうっていう、覚悟を。
「うまくいっているからこそ、ですよね。失敗している時は……落ち込んだりするけれど、目標があるから、不思議と足を止めずに済むんです。でも、うまくいっている時は、そういうのもないから――」
「違うっ! ……だって……藍子は独りぼっちになったことがないから! こういう感覚なんて知らないでしょ!」
「……」
「分からない癖に分かるのをやめなさいよ! 知らない癖に、私のことに気付くの、やめてよ……!」
……私、ときどき、加蓮ちゃんのことが分かってしまって……普段は冗談で、その見抜くのをやめて、って言われたりするんですけれど。
分からない癖に分かるのを、知らない癖に気付くのを……。
そうですよね。
私と加蓮ちゃんとでは、そこがあまりにも違うんです。
だって私の側には、いつも誰かがいてくれるから。
加蓮ちゃんは……きっと、そうじゃない時間の方が長かったから。
それは今埋めているものだとしても、まだ埋めきったものではありません。
「あ……」
加蓮ちゃんが、歯をぎゅっと食いしばります。謝ろうとするその口の動きを、手で制しました。
「……加蓮ちゃん。私は、加蓮ちゃんのことを知らなくて、分からなくて、加蓮ちゃんも、私のことを知らなくて、分からなくて……最初は、そうでしたよね」
「でもっ」
「うん。たくさんの時間を一緒に過ごして、分かることや知っていることが増えてきました。でも……それはきっと、全部じゃありません」
「っ……」
「そしてきっと、これからも、全部にはなりません。……もしも全部になった時は、その時はきっと、一緒にいたくなくなっちゃいますから」
私と加蓮ちゃんはよく同じことを考えたりします。メニューを選ぶ時に、同じものを指さすことだってよくあります。
同じところがあって、違うところもある。
だからこうして、喧嘩をして、ぶつかって……傷ついて。
傷つきたいとは思いません。けれど、傷つくことを拒んではいけないんだって思います。
だって、そうしたら。
「でも、違うからって、知らないからって気付くなって言うのなら、誰が加蓮ちゃんの本音に気付いてあげられるんですかっ!!」
私でなくてもいい。……ううん、それは嘘。私でいたい。
心が寂しがっているのなら私が包み込んであげたい。優しくしてあげたい。
お返しなんていらない。……ううん、それも嘘。同じだけ優しくしてほしい。
誰かに助けてもらったことを、覚えていてほしい。加蓮ちゃんがいつか、優しくしてあげられることになるから。
「……」
「……」
「……」
「……藍子」
「はい。何ですか?」
「1回だけ言わせて」
「どうぞ」
「ごめん」
「いいえ。私の方こそ、ごめんなさい」
「……ねえ、教えて。この不安は、どうすればなくなるの?」
「そうですよね。そのお話でしたっ」
「……もう。忘れちゃってたの?」
「ふふ。つい」
いつの間にか、カフェに音が戻ってきていました。他のお客さんの話し声や、お皿の音。遠くから、じゅう、って音がして……いい匂いは、うぅ。お腹が鳴っちゃいそう。
あ……さっき、私が大声を出した時にみなさんがびっくりしてしまったようで、それについては謝り回りました。
いつもごめんなさい……。
「加蓮ちゃん」
「うん」
「いつも努力を続けている加蓮ちゃんに、これ以上頑張れ、なんて言ったら、プロデューサーさんやファンのみなさんに怒られてしまうかもしれませんけれど」
「みんなサボってても過保護でうるさいから大丈夫だよ」
「えぇ……。……どこに行けばいいか分からなくなった時。なんとなくで、不安になった時は、道を見つけましょ?」
「道――」
「新しいことをやってみたり、これまでのことを振り返ってみてもいいかもしれませんね。その中に、今度はこれをやってみたい、って思うことがあるかもしれませんよ」
「見落としてるもの、ってことかな……」
「はいっ」
加蓮ちゃんは、額に手を置いて何やらぶつぶつ言い始めました。これまで立ったステージや頑張ったレッスンのことを思い出しているのかな?
「それから、加蓮ちゃん?」
「うん。……え、なんか怒ってる?」
「はい。勢いで言ってしまうのはわかりますけれど、いきなり「違う」って叫んだら、びっくりしちゃいますっ」
「……ぁー」
「加蓮ちゃんは……加蓮ちゃんのことを知らない人が、分かったようなことを言ったら、腹が立ってしまうかもしれませんね」
「いや、待って。あれホントに勢いっていうか藍子は知らない人じゃな、」
「加蓮ちゃん」
「ハイ」
「その時は、叫ぶ前に1度だけ落ち着きましょう。もし、それでも違うって思ったら、怒鳴るのではなくて、落ち着いて言いましょ? ほら、加蓮ちゃん。クールで、ミステリアスさんになるんですよね」
「あ……ははっ。そうだった。うん、そうそう。ミステリアスガール、まだ諦めてないんだっ」
こんな感じ? って言いながら、加蓮ちゃんは不敵に笑います。でもそれはちょっと違う気がして、じゃあ真似してみてよって言われました。
真似……クールな人の真似。ええと、凛ちゃんや蘭子ちゃんを真似すればいいのかな?
思い浮かべて試しにやってみたら、加蓮ちゃんから大笑いされちゃいました。そして、それはただの中二病だって言われちゃいました。
(さすがに何をやったのかは許してください! 凛ちゃんや蘭子ちゃんがやったら格好いいのにっ)
私と加蓮ちゃん、一緒に深呼吸して落ち着いた頃には、もう夜の8時。
外はいつの間にか真っ暗で、カフェには他のお客さんがいなくなっていました。
店員さんも、閉店時間は9時ですけれど、そろそろお店じまいムードです。
藍子「…………っ。う、ぁ~っ!」
加蓮「お疲れ様。……本当にありがとう、藍子」
藍子「なんだか疲れちゃいました……」
加蓮「あとは最後のところだけでしょ? ほら、パッと書いちゃお?」
藍子「うん……。でも、ちょっとだけ。……10分だけっ」
加蓮「はいはい。……にしても、……冷静になって考えると酷いなぁ、私」
藍子「こらっ」ペチ
加蓮「あたっ」
藍子「それは言わないお約束です♪ 不安になってしまうことなんて、自然なことです。それで怒ってしまうのも……」
加蓮「でもさ、……いや。ううん」
加蓮「あのさ。もっかいだけ言っていい?」
加蓮「……ありがとう、藍子。いつも話を聞いてくれて、想いを受け止めてくれて」
藍子「どういたしまして。そして、私もっ。加蓮ちゃん、ありがとう。いつも一緒にいてくれて。お話を聞いてくれて♪」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……たははっ」
藍子「ふふっ」
加蓮「だからさ、そーいうのこっ恥ずかしいからやめよ?」
藍子「本当。加蓮ちゃん、顔が真っ赤ですよ」
加蓮「はー? ほら、さっさと続きを書けっ。持ち帰って夜遅くまでとか絶対ヤダだからね!」
藍子「きゃ~っ。完成まで付き合ってくれるって言ってくれたのに~っ」
晩ご飯をここで食べようかな、とも思いましたけれど、今日はやめにします。
スマートフォンで、お母さんに連絡を……開いたら、たくさんのメールが来ています!
お母さん、ものすっごく怒ってるっ。
思わず助けを求めようとすると、加蓮ちゃんもげんなりとした顔をしていました。どうやら、お互い同じことが起きちゃってるみたい。
「今日は藍子の家に泊めてっ」
「加蓮ちゃん。今日お邪魔してもいいですか?」
私たちは同時に言いました。このままではキリがないので、お互いにお母さんからのメールを見せあって……。
まだ、あまり怒っていなさそうな加蓮ちゃんの家に私がお邪魔することにしました。
加蓮「……ちなみに今も同じことが起きてたりするんだよね」
藍子「えっ? わ、7時! 外は、まだ明るいのに……」
加蓮「この時よりは夏に近付いたからかな。まっ、今日は遅くなるってあらかじめ言ってるからお母さんもうるさくは……」
加蓮「……」
藍子「メールが届いていたんですね……」
加蓮「何なの……。藍子ちゃんに迷惑かけてない? って。1時間おきに送ってくるとか何がしたいの……??」
藍子「あははは……。あっ、私の方にも届いてます。そろそろ迎えに行った方がいい? だそうですよ」
加蓮「藍子のお母さんが優しくてうらやましいよ……」
連絡をすると、もうなんだか今日が終わってしまったように、そして、さっきまでお話していたのが別の日の出来事のように、私も加蓮ちゃんも、ほとんど話さなくなりました。
加蓮ちゃんのお母さんが迎えに来た時も、静かすぎて、「加蓮が何かしちゃったの?」と言われてしまうくらい。
でも、加蓮ちゃんの顔を見て、それは違うんだって分かってくれたみたい。
加蓮ちゃんの家にお邪魔して、晩ご飯をいただいて、お風呂をお借りして……その間も、何もお話することはありませんでした。
それは、カフェの中であった無音の世界とはぜんぜん違う、一緒にいるんだってことが分かる時間で、心地よかったですっ。
11時を回った頃、一緒にお布団に入って。
今日は、これにておしまい……。またカフェに行った時は、いっぱいお話しましょうね。加蓮ちゃん。
藍子「お母さん、そろそろ迎えに来て。加蓮ちゃんが泊まりたいって言っているけれど、いい? ……はい、送信っ♪」
藍子「あとは、最後のあいさつを書いたら完成です!」
加蓮「ふふっ。……たった1日しか使ってないのに、なんだかすごく時間をかけた気分」
藍子「加蓮ちゃんも? 私もっ。……どうでしょうか。私の見ている世界、みなさんに伝わるかな?」
加蓮「えー、そこで不安になる?」
藍子「つい……」
加蓮「伝わるよ。絶対に。だって藍子のファンだもん。きっとみんな優しくて、藍子の言葉を受け止めようって思ってくれるよ」
藍子「……加蓮ちゃん」
加蓮「んー?」
藍子「今日は、ありがとうっ。あとは……胸を張って、みなさんのもとにお届けします!」
加蓮「どう致しまして。……あははっ。もうっ。お礼を言うの、今日で何回目?」
藍子「何度だって確かめていいって言ったの、加蓮ちゃんじゃないですかっ」
加蓮「まぁね? ほら、藍子。締めの挨拶を書かなきゃ。藍子のお母さんを待たせることになっちゃうでしょ?」
藍子「ああっ、そうでした。え~っと――」
――これが、私のある1日のことです。
もちろん、別の日には違うことがありました。
1人でお散歩する日もあれば、みなさんと一緒にお仕事に行ったり、未央ちゃんや茜ちゃんと遊んだり、学校でクラスメイトとお話したり。
もしかしたらその時のことも、いつかこうしてみなさんにお話する時が来るかもしれません。
色々な出来事が起こる日々の中で、一番印象に残っている時間は……カフェで、加蓮ちゃんと過ごす時間。
これまで、たくさんの時間を過ごしてきました。この時みたいに、回りでのできごとに笑い合ったり、時には、大喧嘩もしてしまいます。
加蓮ちゃんに、やってほしいなって思ったり、なってほしいなって思うことは、今でもたくさんあります。
好きってたくさん言ってほしかったり、自分のことを悪く言う癖を直してほしいなって思ったり。
色んなことがあって、色々なことを考えますけれど……。
それを一言で表すなら、きっとこの言葉になると思います。
『今日も、私とあなたとの時間を』
【おしまい】
【あとがき】
4年ほど前、第28.5話『北条加蓮と高森藍子が、静かなカフェテラスで』のあとがきで、
私は「加蓮と藍子が一緒にいるところを、ちょっとだけでも想像してほしいなって思います」と書きました。
あの時に比べて今、
加蓮と藍子の2人のことを好きだと言ってくださる方が、いっぱい増えました。
「蓮藍」という呼び方が主流にもなりました。
2人の映るスクリーンショットを見る機会が増えました。
ここが好きだというお話もたくさん見るようになりました。
すごく、嬉しいです。
この2人のことを好きになってくださったこと、心から感謝します。
ありがとう。
普段から拝見しています
元々藍子Pでしたが、このシリーズをきっかけに加蓮Pにもなりました
加蓮に出会えたこと、本当に感謝致します
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