雷属性の池袋晶葉 (12)
あぁ、あっちいな。まだ五月だぞ。このまま夏に突入したら今年こそは脳が茹って死んでしまうかもしれない。
戻ったらまずパピコ食べよう、まだストックは十分にあったはず。贅沢に二本食いだ。
炎天下の中では動くのもだるくなるが、その先にある極楽を目指して歩を進める。
「ただ今戻りましたー」
事務所の扉を開いた俺は信じられない光景を見た。
あ、晶葉が激怒してる。あれ絶対激怒してるって。だって髪の毛が逆立ってるじゃん、怒髪天を衝くをそのまま表してるよ。
天に伸びるトレードマークのツインテールが角に見えてきた。鬼がいるぞ、この事務所の鬼はちっひだけで十分だってのに。
なにだ、何が原因なんだ。暑さであまり回らない頭でよく考えろ。
あれも違うだろ……、これも違うだろ……。ま、まさかこの前のロケでやったことがばれたか……。
いや、あれは晶葉のためを思ってやったことなんだよ。俺の親心のようなものだ。
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思い出される俺の悪行、ロケ弁に入ってた俺のプチトマトをこっそりと晶葉の弁当に紛れ込ませた。
だって俺も苦手なんだもん。晶葉には好き嫌いせずに食べないと大きくなれないぞと言った。そうしたら涙目になりながらも二つ食べてもらった。えらい。
俺? 俺はいいんだよ。だって大人だから、もう成長止まってるから。
それに最近トマトが嫌い系アイドルを辻野あかりちゃんに奪われている気がして……、うちの晶葉もプチトマトが嫌いなんだぞ!
それかー、それがばれてこんな怒っているのか。納得だ、素直に謝ろう。
「ごめん、晶葉のロケ弁にプチトマトを入れたのは悪かった」
「ん、なんのことだ? それよりもP、いいところに帰ってきたな。見てくれ、ついに完成したぞ!」
想像より遙かに機嫌のいい返答に驚く。あれ、もしかしてしなくてもいい罪の自白をした? 全く、自爆をするのは菜々と晶葉のロボだけで間に合っているというのに。
晶葉は金属で出来た球体に手を触れている。その球体を支えるの棒。……これどこかで見たことがあるぞ。
「バンデグラフ起電機だ!」
「でん○ろう先生とかがよく使ってるやつじゃん! あれだろ、蛍光灯とか光るやつだろ。にしてもどうしてそんなものを作ろうと思ったんだ?」
「どうやら私はたぶん雷属性と思われているらしくてな。どうせなら本当に雷属性になってやろうと」
「ということは……、その髪の毛が逆立っているのは静電気か?」
「そうだぞ! どうだ、今私は帯電している。本当の雷属性というわけだ」
よかったよかった。怒っているわけじゃないんだな。……いや、よくない。非常によろしくない。
晶葉がこちらに一歩近づいてくる。俺は一歩後ろに下がる。晶葉が一歩近づいてくる。
「こっちに来るなぁ!」
俺は情けなくも大きな声で、ゾンビ映画で無残に殺されそうな役のような声で晶葉を牽制した。
だって静電気怖いんだもん。俺静電気大嫌い。冬場は常に怖がってるし、静電気を抑える柔軟剤使ってるし。
晶葉は俺が怖がってることを当然知っているわけで。これは嫌がらせ、もうちょいかわいい言い方をすれば悪戯だ。晶葉の顔めっちゃニヤニヤしてるじゃん。
晶葉がバンデグラフ起電機から手を離さないまま近づいてきている。それを可能としているのが台座についているキャタピラだ。
普通ならつける意味無いじゃん。絶対につけたのはこのためだよ。
こんな悪戯好きに育っちゃって、いったい誰の影響を受けたのか……。何故だか頭の中の頼子に冷たい目で見られた気がした。
「助手や」「O・ブライエン」
「……いや、なんでもない。続けてくれ」
「……あんなに私の実験に付き合ってくれた助手はどこに行ってしまった。……あの日誓った情熱はどこに行ってしまった」
「晶葉……、俺は晶葉の作ったロボが大好きだ。実験には付き合う。暴走も止めてやるし、爆発も甘んじて受け入れる」
「じゃ、じゃあ……」
「だけど静電気だけは無理」
「……」
「…………」
じりじりと睨みあう俺と晶葉。決闘する剣豪のよう、あるいはガンマンのよう。
ただならぬ緊張感が二人の間に張り詰める。
先に動いたのは晶葉だった。
「言葉は不要か……」
「なんだその無駄にいい声! 言葉は必要だ、コミュニケーションとろうぜ! ……やめろ、近づくな!」
やばい、壁際に追い詰められた! もう逃げられない。
無言で手を伸ばす晶葉、逃げられない俺。二人の距離は徐々になくなり……。
「「い゛っ゛た゛い゛!」」
バチッという不快な音と共に大きな悲鳴が二つ事務所に響いた。
ソファーに肩を並べて二人で座っている。仲直りと言う名目でパピコを二人で分け合った。いや、俺が二本食べたかったのに。
そもそも俺は一方的な被害者ではないだろうか? 痛がっている晶葉を見てついつい渡してしまったが自業自得では。
今更返せとも言えないし、いいんだけどさ。俺は大人だ。
「……静電気って怖いものなんだな」
「知らなかったのかよ」
「静電気対策は常に万全にしているからな。そうじゃないと最悪基盤が吹っ飛ぶ」
「ロボに静電気は天敵だもんな」
「Pはいつも大げさだなぐらいにしか思ってなかったのに……」
「おい、そんなこと思ってたのかよ」
実際オーバーリアクションかもしれないけどさ。でも、痛いものは痛いし。
心なしか晶葉が落ち込んでいるように見える。仕方がないだろう、望んでいた雷属性になれなかったのだから。
「実験は失敗したか?」
「いや、実験は成功したがあれは実用的ではないな。飛鳥は実はこんな激痛に耐えていたのか……」
「あれはCGか何かだと思うよ」
男の子だったら一回は憧れるあれ。かっこいいよね、手からビリビリ。
「しかし、次の案がある!」
「おお、それでこそ晶葉だ!」
すぐに前を向く晶葉。それこそが晶葉のいいところだ。全ての経験は晶葉の糧となるだろう。
ポケットから取り出したのはそんなに大きくないメカ、大体スマホぐらい。
晶葉らしいカラフルな色合いをしたそれ。でもおかしい。ファンシーな見た目からはしてはいけない音が聞こえる。
バチバチバチ。よく見たら先端から青い火花のようなものが見えないか?
「……晶葉、それはなんだ?」
「しびれる君ロボだ!」
「スタンガンだよな」
「……しびれる君ロボだ」
「おい、洒落にならないものはやめろ!」
「大丈夫だ、人体に害のない程度に調整してある。時にP、ちょっといいか?」
晶葉の声で急に部屋の温度が下がった気がする。あれ、おかしいな? 今日は暑いくらいなはずだぞ。
声だけじゃない、目線を一気に冷たくなったような。例えるなら殺し屋が標的に向けて引き金を引くような。殺し屋見たことないけど。
「この前、私の弁当にプチトマトを入れたのは、Pか?」
「はい……、そうです……」
「他の人が一つなのに私だけ二つでおかしいと思ったんだ。そしたらPは大当たりだ、喜べって言ってたよな」
「はい……、言いました……。いや、違うんだよ。あれは俺なりの親心でね、晶葉のためを思っての行動だったんだ」
「もういい、言葉など既に意味をなさない」
「あ、無駄にいい声。待って、晶葉ちょっと待って! それはダメだよ。いや、よくないと思うよ!」
俺の静止など全く意に介さないようで、じりじりと迫ってくる。
「恐れるな、死ぬ時間が来ただけだ」
「それは違う人だろ! いや、いや、いや、いや!」
「い゛っ゛っ゛っ゛た゛い゛!!!」
先ほどよりも大きな悲鳴が一つだけ事務所に響いた。
俺は好き嫌いをなくそうと大人だけど思いました。
以上で短いけれど終わりです。
雷属性ガシャで晶葉を引けたので書きました。ありがとう!
最終日ですが池袋晶葉に清き一票をお願いします!
おつおつー
昔話をしてあげる。ロケ弁にトマトが2つ入っていた日のことよ
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