――おしゃれなカフェ――
<ザーーーーー
北条加蓮「ふぅ……。もー、ジメジメしてやだ……。あ、こんにちは店員さん。藍子は来てる?」
加蓮「……外?」
……。
…………。
高森藍子「~~~♪」
加蓮「いた。……何してんの、藍子? テラス席との出入り口で」
藍子「わ、加蓮ちゃんっ?」
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レンアイカフェテラスシリーズ第122話です。
<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「今日も、私とあなたとの時間を」
・高森藍子「加蓮ちゃんの」北条加蓮「膝の上に 3回目」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「南風のカフェテラスで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェでの離席と天気雨」
加蓮「びっくりさせてごめん……? こんにちは、藍子」
藍子「こんにちは、加蓮ちゃんっ。撮影、お疲れ様」
加蓮「お疲れ様でした」ペコ
藍子「いえいえ、こちらこそっ」ペコ
加蓮「……って。アンタは1日オフでしょうが」
藍子「加蓮ちゃんに乗せられちゃいましたっ」
加蓮「つられちゃった?」
藍子「それに……こうやって一緒に「お疲れ様でした」って挨拶をすると、無事に終わりました! って感じがしませんか?」
加蓮「そういうのはあるかもね」
藍子「加蓮ちゃん」
加蓮「んー?」
藍子「こんにちはっ♪」
加蓮「……こんにちは?」
藍子「また言いたくなっちゃって」
加蓮「ふふっ。挨拶?」
藍子「あいさつ」
加蓮「変なのー」
加蓮「何か面白いものでもあったの? 傘までさして、こんなところで。ジメジメしてるし、濡れるよ?」
藍子「大丈夫。傘をさしているのは店員さんに勧められたからなんです」
藍子「屋根の下にいればきっと濡れることはありませんけれど、風が吹いたら冷たくなっちゃうからって」
藍子「それに――」ミアゲル
藍子「カフェの中で聞く雨の音も、なんだか落ち着く感じがして私は好きですけれど……」
藍子「こうして外で傘をさしている方が、もっと雨を感じられるかなって♪」
加蓮「じゃあそのままどっか歩き回ってなさい」
藍子「加蓮ちゃん、冷たいっ」
加蓮「……別に。たまーに、本当にたまになんだけど。どうやったら藍子みたいに、そんなに嫌いな物を好きになれるのかなって思って、イラつくことさえあって――」
加蓮「って、別に藍子は雨が嫌いじゃなかったよね」
藍子「そうですね。……嫌いなものは、嫌いなままでも……無理に好きになろうとするよりは、自分を認めちゃうのもいいかもしれません」
加蓮「私みたいに、嫌いな物ばっかりな人生はねー」
藍子「でもその考え方は、嫌いっ」
加蓮「あぁ、そうやって素直に口に出すんだ?」
藍子「そうですよ~。って、そうじゃなくて」
藍子「……、」
藍子「……もう。今の加蓮ちゃん、絶対、そんなことありませんよね?」
加蓮「うん。知ってる」
藍子「堂々と言うんですから。ほんの少しだけ、不安になってしまいました」
加蓮「そう? ま……雨かぁ」
<トントントントン
<トントントントン
加蓮「傘と雨の音……」
藍子「……ね。こうやって、傘の下でゆっくり聞くのもいいでしょ?」
加蓮「うーん……。誰かさんに影響されたからかな。やっぱり私は、晴れてる方が好きだよ。けど――たまには、藍子と一緒に聞いてあげよっか」
藍子「はい♪」
加蓮「今年も梅雨だねー」
藍子「梅雨ですね~」
加蓮「はぁ。嫌な時期。……あーもう、分かってるってば。分かってるけど、憂鬱な物は憂鬱なの」
藍子「そんなこと言うなら、加蓮ちゃん。モバP(以下「P」)さんにお願いして、加蓮ちゃんの1日オフの日を合わせてもらって、その日またずっと連れ回しちゃいますよ? 連れ回して、今度は事務所の屋上以外で、虹が綺麗に見える場所、一緒に探してもらいますから!」
加蓮「あらら、藍子にスイッチが入っちゃった……」アハハ
加蓮「そのオフの日に虹が見えなかったらどーすんの、っていうか虹なんてそうそう見え――」
藍子「見つかるまで、帰しませんっ」
加蓮「……それはさすがにPさんに迷惑じゃない?」
藍子「確かに……。では、虹が見えるまで加蓮ちゃんにくっついていますね」
加蓮「えー。それは私に迷惑……でもないけど……」
藍子「くすっ♪ ……冗談ですよ。冗談っ」
加蓮「今の間は冗談って感じじゃなかったよね?」
藍子「簡単にバレちゃいました」
加蓮「ふふっ」
>>6 下から5行目、加蓮のセリフを一部修正させてください。申し訳ございません。
誤:加蓮「今年も梅雨だねー」
正:加蓮「今年も、本格的に梅雨だねー」
<トントントントン
<トントントントン
藍子「~~~♪」
加蓮「……♪」
藍子「加蓮ちゃんも、一緒に唄う?」
加蓮「じゃあ……。~~~♪」
藍子「~~~♪ ふふっ。……? 加蓮ちゃん、何かミントの香り……?」
加蓮「あぁ。お仕事でけっこう汗かいたしジメジメしてるから鬱陶しいし、汗臭いままここに入る訳にはいかないでしょ? ちょっとだけね」
藍子「そうだったんですね。私、この匂い好きだなぁ……もうちょっとだけ、そっちに寄ってもいいですか?」
加蓮「……いいけどもうちょっと言い方考えなさい?」
藍子「?」
加蓮「はぁ。……変なことを言う藍子には、私から近づいてやるっ」
藍子「わ。もう~、傘が倒れちゃうじゃないですか」
加蓮「そういえば藍子はここで何してたの? しゃがみこんで」
藍子「私ですか? 加蓮ちゃん、こっちこっち。こっちから、ここっ。カフェの外壁にそった場所を見てみて?」
加蓮「んー?」(身を乗り出す)
加蓮「あ、綺麗な紫陽花だっ」
藍子「綺麗でしょ?」
加蓮「綺麗だね……」
藍子「カフェに入る前に、外からテラス席を見たら偶然見つけて。雨の中でも、この紫色は目立って見えますよね。まるで、自分を見つけてほしい、って言っているみたい♪」
加蓮「目立ちたがり屋さん。でも、こんなに綺麗な花を咲かせてるんだもん。自分を見て、なんて言いたくなっちゃうよね」
藍子「……まるで、アイドルみたい?」
加蓮「よくできました」ナデナデ
藍子「♪」
加蓮「植木鉢とお花、店員さんが用意したのかな」
藍子「そうみたいですよ。カフェに入った時に、店員さんに言ったんです。テラス席に綺麗な紫陽花が咲いていますね♪ って」
加蓮「ふぅん?」
藍子「そうしたら、なんだか自分を褒めてもらったみたいに、店員さん、すごく嬉しそうにしていたんですっ」
藍子「雨の日はやっぱりお客さんが減ってしまいますし、景観も暗くなってしまうから、ちょっとだけでも明るくなってもらえれば……って言っていました」
加蓮「へぇー……」
藍子「店員さんの、優しい気遣いですよね」
加蓮「それもあるけど……。ひょっとして店員さん、藍子の顔を見て嬉しくなったんじゃないの?」
藍子「えっ?」
加蓮「ちょっとでも明るくなってほしい、って思って置いた紫陽花の花。やってきた藍子が、楽しそうにしていたから……あ、もしかして効果アリかな? なんて思って、店員さんも嬉しがったのかな……って」
藍子「そうなのかな……」
加蓮「まるで、アイドルみたい」
藍子「?」
加蓮「笑顔で人を笑顔にするなんて、アイドルみたいでしょ?」
藍子「じゃあ、私は……。……そっか。えへへ……♪」
加蓮「まー藍子はいっつもどこでもニコニコニコニコしてるから微妙なところだけどねー」
藍子「ええっ。いいお話だったハズなのに!」
加蓮「紫陽花効果とかじゃなくて、ホントは加蓮ちゃんのことでも思い浮かべててにへにへしてたんじゃない?」
藍子「その言い方はなんだか嫌ですっ」
加蓮「あ、そうやって素直に口に出すんだ?」
藍子「それはさっきも聞きました!」
加蓮「あはははっ」
藍子「……もうっ」
加蓮「店員さんのアイディアを借りて、事務所にも持ち込んでみる? 紫陽花の植木鉢」
藍子「いいですねっ。最近、雨続きで、事務所全体がちょっとどんよりしているみたいだから……。お布団も、干せませんし」
加蓮「……雨に対する悩み事が女子高生っていうよりお母さん臭くない?」
藍子「ふぇ?」
加蓮「なんでも。あー、でも紫陽花……お花か。絶対、凛とか夕美がやってそう」
藍子「確かに、そのお2人なら思いつきそう」
加蓮「もう持っていってる頃かな?」
藍子「次に事務所に行った時に、色や形の違う紫陽花がそれぞれ置いてあったら、素敵ですねっ」
加蓮「そこにもう2種類足しとく?」
藍子「はい♪」
加蓮「……凛の花屋に買いに行ってもいいんだけど、それでやろうとしてることがバレたら恥ずかしいし、他の花屋にしようよ」
藍子「いいですけれど……事務所に行った時に加蓮ちゃんが紫陽花を持っていたら、その時にバレてしまうんじゃ?」
加蓮「あー……」
藍子「凛ちゃんではない誰かが見ても、その人が凛ちゃんや奈緒ちゃんに教えてしまうかもしれませんよ」
加蓮「藍子ー。私の分も持ってって」
藍子「駄目です」
加蓮「えー」
藍子「こういうのは、ちゃんと自分の手でやらなきゃ」
加蓮「でも私が持っていくと、私が用意したってことがバレるんでしょ?」
藍子「バレてしまうかもしれませんね」
加蓮「……藍子が持ってってよ」
藍子「駄目ですっ」
藍子「加蓮ちゃん。照れくさくても恥ずかしくても、そういうのはちゃんと、加蓮ちゃんがやりましょう?」
加蓮「……それはそうかもしれないけど……あれ?」
藍子「?」
加蓮「いや、……こうして言い争いになった時って、どこかで頭が急に冷静になったりするよね。で、改めて自分達が言い合ってたこととか考えたりするんだけど」
藍子「ふんふん」
加蓮「……別に紫陽花の植木鉢を持って行くのって照れるほどのことでもなくない?」
藍子「……………………」ジトー
加蓮「うっ。……今度一緒に持って行こっか」
藍子「はぁい。変な加蓮ちゃん」
加蓮「今のは認めるー……」
<トントントントン
<トントントントン
藍子「~~♪」
加蓮「藍子。髪の先のところ。ちょっとだけ濡れてるよ」
藍子「え?」
加蓮「ほら」ワシワシ
藍子「きゃ。……ありがとうございます、加蓮ちゃんっ」
加蓮「山ほどもらったタオルも役に立つものだねー」
藍子「山ほどタオルを?」
加蓮「うん。……冬になったらカイロを押し付けられるのと同じ」
藍子「……あぁ」
加蓮「不用品処分担当加蓮ちゃん」
藍子「あの、加蓮ちゃん。とても言いづらいことなんですけれど……」
加蓮「んー?」
藍子「……実は私も、加蓮ちゃんが濡れるといけないと思って、加蓮ちゃんの分のタオル、持ってきちゃいました」
加蓮「藍子もか! なんなのよどいつもこいつも! 私をタオル業者にでもさせるつもりなの!?」ウガー
藍子「きゃっ」
加蓮「見てよこのカバン! 半分以上タオル! まず事務所に行ったらPさんが押し付けてくるでしょ? 現場についたらいつも話してるスタッフさんが3人分くらい持ってくるでしょ? みなさん北条さんのことが心配なんですよーとか言いながら!」
藍子「だ、代表で持っていったんですね~」
加蓮「監督さんのとこ挨拶に行ったら「プロデューサー君がね、いつも北条ちゃんのことをね」とかやったらゆっくり話して、なんかちょっと高級そうなタオルを渡してきて!」
藍子「たくさんのタオルの中に紛れちゃっているみたいだから、どれかそれなのか分からなくなっちゃってます」ガサゴソ
加蓮「休憩時間になったらまたスタッフが渡してきて、帰り際にPさんがコンビニ寄りたいって言うから寄って車から出る時にほんのちょっと腕が濡れるだけで大慌てで追加を買おうとして!」
藍子「いっぱいもらった分を使えばいいのに、Pさん、慌て過ぎちゃって思いつかなかったのでしょうか」
加蓮「ぜー、ぜーっ……はぁ……。疲れた」ゲンナリ
藍子「お疲れ様……」アハハ
加蓮「で、ここに来て藍子からの分が1枚増えました……」
藍子「ご、ごめんね? ……あっ。それならこのもう1枚のタオルは、今度、加蓮ちゃんが困った時まで取っておきますね。もちろん、濡れたり困ったりしないのが1番でしょうけれど……」
加蓮「レッスンの後に汗を拭く時だって使えるもんね。じゃあ、そうしてくれる?」
藍子「はいっ」
加蓮「ま……タオルの山はムカつくし、それなら代わりにお菓子でも持ってきてほしいって言いたくなっちゃったし」
加蓮「それに……やっぱり、あぁこいつは私の心配じゃなくて自分がいいカッコしたいだけだなっていう奴がいるのは、分かっちゃうし――」
藍子「加蓮ちゃん……」
加蓮「でも、タオルが余ったから藍子の髪を拭くことができたって考えれば……」
加蓮「こういうのも、役に立たないこともないかもね」
藍子「……うんっ」
<トントントントン
<トントントントン
藍子「~~♪」
加蓮「……♪」
「~~~♪ ……? ちらっ……アッ」
「店員さんだ。お邪魔しまー――おい? なんで急に死んで……いやまぁ原因は分かるけどさぁ」
「メガミサマタチガ オタワムレニ……」
「はいはい、女神様じゃなくて藍子さん――あ、ホントだ。女神様がいる。しかも2人も」
藍子「?」チラ
加蓮「お。いつもの2人だ。やっほー」フリフリ
藍子「こんにちはっ。今日も一緒になりましたね」
「」
「はわー……っとと。ど、どうも。こんにちは……あとこいつがスミマセン……」
藍子「……あれ?」
加蓮「おおかた傘の下にいる藍子を見て、なんか女神様でも見た気分になって死んだんでしょ」
「あはは、仰る通りで……。でも、加蓮さんのことも、すごく綺麗に見えましたよ」
加蓮「はぁ?」
藍子「まあまあ。それよりも加蓮ちゃん。ちょっぴり名残惜しいですけれど、そろそろいつもの席に戻りませんか?」
加蓮「……なんか納得いかないけどそうしよっか」
藍子「濡れちゃったところは拭かなきゃ。店員さんにも、後でお礼を言って……」
加蓮「そういえば注文もしてなかったよね」
藍子「うんうっ――」グゥー
加蓮「……今、お腹鳴らした? 鳴らしたでしょ! そんなにお腹減ってたんだっ。そっかそっか、それなら言ってくれればよかったのにー♪」
藍子「待ってっ、違います! 今のは違っ……ち、ちがうもん!」
□ ■ □ ■ □
加蓮「やっぱり私はこっちの方が落ち着くなー」
藍子「ふふ。まだ言ってる」
加蓮「よいしょっと――」クシャ
加蓮「……ん?」ガサゴソ
藍子「今日は、何を食べようかな――」パラパラ
藍子「じゃなかった。な、何を、飲もうかな~?」チラ
加蓮「いやいや。今更誤魔化しても遅いから」
藍子「うぅ。違うんですもん……」
加蓮「まだ言うんだー。そういうこと言うから、藍子ってからかわれるんだよ?」
藍子「だって」
加蓮「"じゃあ藍子ちゃんはお腹が空いてないんだから注文しなくていいよね。目の前で加蓮ちゃんが美味しそうに食べてあげるけど、へっちゃらだよねー?"とか言われたいの?」
加蓮「……ね? 今日は藍子が雨の音を教えてくれたから、言わないでおいてあげる」
藍子「ほとんど言ったようなものです、それ……」
加蓮「何食べる?」
藍子「じゃあ――あれ? 限定メニューがまた増えてる……?」
加蓮「この前はライチのブレンドジュースだっけ?」
藍子「そうですよ。それと――ああっ」
加蓮「今度は何ー?」
藍子「思い出しましたっ。この前来た時、ライチのブレンドジュースに入っている他の果物って何かなって思って、それを加蓮ちゃんと一緒に考えたいって思っていたんです」
加蓮「他の果物……? どんな味だったっけ。あんまり覚えてないんだけど……そもそもライチもあまり食べたことってないし」
藍子「そうなんですか? 学校の給食――あ、」
加蓮「……にやっ」
藍子「あの、待ってください。加蓮ちゃん。その顔になるのはおかしくありませんか……?」
加蓮「んー? 様々な出来事を経た加蓮ちゃんにとっては、過去のことなんてもうからかいネタでしかないんだよ?」
藍子「前半だけ聞くとなんだか格好いいのに後半で台無しになってますっ。それに、その……からかいネタ? は、周りの方が困っちゃうと思いますよ」
加蓮「……やっぱり?」
藍子「はい」
加蓮「しょうがないなー。じゃあ藍子にだけ言うようにする」
藍子「はい――って、私も困ります!」
加蓮「あはははっ! あぁ、ちなみに給食の思い出なんてほぼゼロだからライチの味も知りませーん。今度お母さんに買ってもらおっと」
藍子「それでもいいですけれど、ライチが食べたいなら、今ちょうど私の家にありますよ。もう少しだけ残っていたハズ」
加蓮「へー? 珍しいね――あ、そういうこと?」
藍子「うん、そういうこと。ここで頂いたブレンドジュースが美味しかったから、自分でも作ってみたいなって思って。でも、やっぱり難しいですね」
加蓮「カフェマスターにも再現できない味なんだ」
藍子「やっぱり、私にはマスターなんて早かったみたい。これからは……カフェ見習い、くらいにしようかな?」
加蓮「藍子が見習いなら私は何になるのよ」
藍子「し…………入学生?」
加蓮「わーい、新品の制服ー。あと、今なんか別のこと言い描けなかった?」
藍子「き、気のせいです。気のせい。それよりっ、今は注文――」
加蓮「し。しかぁ。しから始まる、見習いより低い立場の人……何があるかなぁ」
藍子「真面目に追求しようとしないでください……」
加蓮「……死体?」
藍子「ええぇ……」
加蓮「私、死体の役ってちょっと憧れてるんだよねー」
藍子「はい!?」
加蓮「ほら、サスペンスドラマの被害者役ってあるじゃん。あれってすぐ直前まで生きてる人だったり……あ、殺されてから何日か経ったってパターンもあるっけ」
加蓮「死んだことはないから分からないけど、もしかしたら人って死んだ直後には意識があるかもしれないでしょ?」
加蓮「こう、あと何秒かくらいに思考能力だけ残ってて……そういうのがあるから、未練が残って、悪霊になって……的な?」
藍子「……びっくりしちゃいましたけれど、ずいぶんと、真面目なお話なんですね」
加蓮「まぁ、それなりには……?」
藍子「もう。そこで、どうして今喋ってるんだろう? って悩まれたら、続きが気になっちゃうじゃないですか」
加蓮「だってマジでそう思って……もー。話す話す。ええとね――」
加蓮「死んだばっかりの人は、どんなことを思うのかなって。前に幽霊役はやったことあるけど、あれは死んだ後に時間が経ったって設定だし……」
加蓮「それはそれで考えれることが色々あったけど、死んだばっかりの、それもほんの少しの時間」
加蓮「人って、何を思うのかな――って」
藍子「…………、」
加蓮「あははっ。らしくないっか」
藍子「……らしくないかそうでないかって聞かれたら、加蓮ちゃんらしいお話で、加蓮ちゃんにしかできないお話だとは思いますよ」
加蓮「うん、そう?」
藍子「私には、難しいお話だなって――自分はどうだろう、って想像してみても、なかなかうまく思い浮かびませんでした」
加蓮「藍子はそれでいいよ。こんなことを考えるのは私だけで――ううん。こういうことは、藍子の分まで私が考えてあげる」
加蓮「……いつか死ぬ時が来ても、ちゃんと私が考え続けてあげるね」
藍子「……なんだか、お礼を言いづらいお話ですね」クスッ
加蓮「ねー」アハハ
藍子「それから私が言おうとした言葉は、"死体"ではありませんっ」
加蓮「じゃあ何だったの?」
藍子「…………今事務所で流行っている漫画と、それに影響された未央ちゃんが小さな子たちとごっこ遊びをしているのを見たのを、覚えていただけなんです」
加蓮「うん?」
藍子「……………………したっぱ」
加蓮「え? したっ……ぷっ……あははっ、あははははははっ!」
藍子「も、も~っ! 絶対笑われると思いましたけど! 笑わないで~っ」
加蓮「私が藍子の下っ端……下っ……うくっ、あは、あははははっ……! え、何? 藍子は私のこと下っ端にさせたいの? そういうことなの?」
藍子「違いますっ。違いますから!」
加蓮「えーでも藍子の下っ端ならやってあげてもいいよ。悪の幹部が集まるカフェみたいなお話! 今度Pさんに相談してみよーっと♪」
藍子「やめて~っ!?」
加蓮「あはははっ……おっかし。あーもう、笑ってお腹痛い……!」
藍子「……笑えてよかったですねー加蓮ちゃん。じめじめした気分がこれで吹き飛ばせましたよー」
加蓮「あははっ、すっごい棒読みになってる! ごめんごめん、笑ってごめんってば――」
藍子「……したっぱ」
加蓮「ぶぐっ!? んんんんっ……ちょっ、あははははははっ……!」
藍子「いじわるを言う加蓮ちゃんなんて、思いっきり笑っちゃえばいいんですっ」
<なんか楽しそう……!
<……うん、楽しそうだけど、なんか……すごいアホっぽいことしてる気がする……
>>27 度々申し訳ございません。下から2行目のセリフを修正させてください。
誤:<なんか楽しそう……!
正:<なんだか楽しそう……!
――10分後――
加蓮「笑ったら私までお腹ぺこぺこになっちゃった」
藍子「私も。お腹、ぺこぺこです」
加蓮「またお腹を鳴らしちゃうくらいに?」
藍子「…………し、」
加蓮「ごめん。ごめんなさい。もう言いません」
藍子「……。限定メニューが増えているみたいですよ、加蓮ちゃん」
加蓮「どれどれ? ……ゼリー?」
藍子「ゼリーみたいです」
加蓮「っていうかこれ……。ただのお皿の写真……? いや流石に、じゃないよね?」
藍子「どうやら、すごく透明色をしたゼリーみたいですね」
加蓮「雨を食べて、嫌な物も呑み込んで、梅雨を乗り越えよう――か。雨を食べるって、なんだかオシャレ」
藍子「注文してみましょう。すみませ~んっ」
……。
…………。
加蓮「おっ。来た来たっ」
藍子「これは……ゼリーですね」
加蓮「いやそれさっきも聞いた……。四角形のゼリーだね。店員さんが置いた時、ぷるって揺れたもん」
藍子「透き通った中に、ほんの少しだけ水色が入っているのかな……? ここ、こっち。この角度から見ると、上の方についている水色が、光の反射で……」
加蓮「ホントだー。雨を食べる、だもんね」
藍子「見ていると綺麗で食べるのがもったいないって思っちゃいますけれど……でも、よく見たら、ゼリーなんです」
加蓮「ね。普通にお店で売ってそうな……あ、いい意味でだよ?」
藍子「分かっています。だから、食べやすいってことですよね」
加蓮「ライチのジュースも、その気になれば自分で作れるのと同じようにね」
藍子「いただきます♪」
加蓮「いただきます」
藍子「もぐもぐ……」
加蓮「……うん、ゼリーだ」
藍子「ゼリーですっ」
加蓮「ちょっと水っぽさが気になるけど……。あぁそっか、雨を食べる、か」
藍子「味はすごく薄くて、口の中に水たまりができたみたい。……ふふ。加蓮ちゃんが何度も言うから、本当に水を食べている気分になっちゃいました」
加蓮「小さい頃さ、……はいはい身構えないの。小さい頃に、雨が降った時に空を見上げて口を大きく開けたりしなかった?」
藍子「加蓮ちゃんも? 私もやったことがありますっ。でも、雨は美味しくないし、ずっと見上げていたら目に入って泣きそうになっちゃって――」
加蓮「まぁ私じゃなくて窓から見えた小学生がやってたんだけど」
藍子「えっ」
加蓮「ばかだなー、って思いながら見てたよ。さすがにあれは羨ましいとは思わなかったなー」
藍子「……なんなんですか、それ~。私だけが、恥ずかしいお話をしたことになっちゃったじゃないですか」
加蓮「たはは。入院時代の加蓮ちゃんは雨の日の外出許可なんてもらえたことありませーん。……病院の奴ら全員今すぐ雨に打たれて風邪を引けばいいのに」
藍子「なんだか黒いものがにじみ出てる……」モグモグ
藍子「加蓮ちゃんがお世話になっていた看護師さんにも、風邪を引いてほしいんですか?」
加蓮「……」ピタ
加蓮「……、」
加蓮「……できればもっと重い病気になっちゃえ」モグモグ!
藍子「もうっ。あんなに加蓮ちゃんのことを大切にしてくれてるのにっ」
……。
…………。
「「ごちそうさまでした。」」
藍子「ライチのブレンドジュース、楽しみです♪ 他に入っている果物、今日こそは分かるかな……?」
加蓮「自信がなかったら今度家で試してみたら? そしたら正解が分かるかもね」
藍子「それもいいですねっ。加蓮ちゃん、今日この後は空いていますか?」
加蓮「ナチュラルに私を巻き込むんだね……。まぁ空いてるけどさ。じゃあお母さんにさっさと連絡、」カサ
加蓮「ん?」チラ
藍子「加蓮ちゃん?」
加蓮「いや……そういえばさっきも――あ、これ、入れっぱなしにしてたんだ」
藍子「それって……。紫陽花の花びら? ううん、折り紙でしょうか。加蓮ちゃんが折ったんですか?」
加蓮「あはは……。うん、一応ね? 今日さ、事務所に行ってからPさんに送ってもらったんだけど、その時にちょっとだけ時間があったの」
加蓮「で、事務所にちびっこ組がいて……折り紙で遊んでたから、私もちょっとだけ混ぜてもらって」
加蓮「でもさー、折り紙のやり方なんて全然覚えてなくて。みんなに教えてもらっちゃった」
藍子「ふふ。いつもとは逆だったんですか」
加蓮「……途中で、あー、年下の子に教えてもらっちゃったなぁ、って……落ち込んだってほどじゃないんだけど、こう……あるでしょ?」
藍子「なんとなく、分かりますよ」
加蓮「そしたらまたこずえちゃんが頭撫でてくれてさー」
藍子「いつかの神社と同じみたいに?」
加蓮「ふふっ。してやられちゃった」
藍子「でも、この紫陽花はくしゃっと潰れてしまっています……」
加蓮「ずっとポケットに入れたままだったの、忘れちゃった」
藍子「みなさんと一緒に作った、ちいさなお守りだったのかも?」
加蓮「お守りは、役目を終えたら処分するのが決まりだって前に歌鈴が言ってたけど――」
加蓮「……うん。折り直そっか。それで今度は、みんなが撮影に行く時に渡してあげよっと」
藍子「ぜひ、そうしてあげてください♪」
加蓮「藍子ー。折り紙ってある?」
藍子「あっ。今度は、私が自然に巻き込まれる番なんですね。今は持っていませんけれど、私の部屋の机の中にあったかな……。帰ったら、一緒に探してみましょう」
加蓮「ん。……雨の日も、愉しもうって思って見方を変えれば色々あるんだね。紫陽花も、ゼリーも」
藍子「でしょ?」
加蓮「……でも、そのドヤ顔はムカつくっ」ペシ
藍子「きゃ。……も~♪」
【おしまい】
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