高森藍子「加蓮ちゃんの」北条加蓮「膝の上に 4回目」 (38)

――おしゃれなカフェ――


高森藍子「作戦会議をしましょうっ」


北条加蓮「……作戦会議。何の?」

藍子「でも、その前に、作戦会議と言うとなんだか堅い感じがしてしまいますね」

加蓮「はあ。で、何の作戦会議?」

藍子「難しいお話や、真剣にならなければならないお話の時だって、少しでも、気持ちが軽くなったり、何かを言いやすい空気にしたり……そういうのって、大切だなって思います」

加蓮「だから何の作戦……いいや。うん、そうだね?」

藍子「ですので、加蓮ちゃん」


藍子「作戦会議のための、作戦会議をしましょうっ」

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レンアイカフェテラスシリーズ第127話です。

<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「梅雨の晴れ間のカフェテラスで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「30分だけのカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「時間がたくさんあるカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「線香花火のカフェテラスで」

藍子「……!」ドヤッ

加蓮「……」

加蓮「…………まあ、最近急に暑くなってきたし、仕方ないよ。熱中症にだけはくれぐれも気を付けてね?」

藍子「どういう意味ですか~っ」

加蓮「モバP(以下「P」)さんも、時々机にへばりついてるのを見るし」

藍子「机に、べちょりってなってるPさん? あっ、それ私も見ました!」

藍子「声をかけたら、起き上がった時の顔がちょっぴり恐くて……悲鳴を我慢するのが、ちょっぴり大変でした」

加蓮「いっそ思いっきり叫んであげたら? それをきっかけとしたゾンビごっこが始まるかもよ」

藍子「そんなの始まらなくていいです……」

加蓮「クーラー効いてるのにね。夏バテしたんだって」

藍子「前に事務所で、みんなでそうめんを食べようって提案したのも、Pさんでしたよね」

加蓮「そうそう。結局、流しそうめん大会になって、夏バテを忘れて盛り上がってたみたい」

藍子「次の日のPさんは――」

加蓮「本人のためにも、思い出さないであげようね……」

藍子「あはは……」

加蓮「で? 作戦会議の作戦会議……いやホントに何言ってんの。どゆこと」

藍子「ですから、作戦会議の作戦会議ですっ」

加蓮「……」

藍子「作戦会議って言うと、なんだか堅く聞こえちゃいますよね。だから、そんな作戦会議を穏やかな雰囲気でやるためには、どうすればいいか。それを考えるための、作戦会議ですっ」

加蓮「……色々と突っ込みたいけど、それ結局、作戦会議の作戦会議っていうのもおカタいままになってない?」

藍子「あれ? それなら、」

加蓮「だからって作戦会議の作戦会議の作戦会議とか言い出したら、今日食べた分全部奢らせるからね」

藍子「ぎくっ」

加蓮「えー……」

加蓮「ま、藍子はなんか真面目な顔してるみたいだし、1つ1つ解いてこっか。なんか謎解きみたいだね」

藍子「謎解きといえば、ときどき都ちゃんやむつみちゃんがやっている番組ですよねっ」

加蓮「謎解きアドベンチャーって、結構思いつきがちだけど盲点っていうか、ウケてるよねー」

藍子「問題も、面白いけれどいつも難しくて。テレビの前で、う~ん……と悩んでしまいます」

加蓮「私も。あれって2人で作ってんのかな」

藍子「以前、事務所で何人かで集まっているところを見ましたよ。ああでもない、こうでもない、って。難しい顔をしていましたけれど、とっても楽しそうでした」

加蓮「ふぅん……。バラエティ豊富だもんねー。そしてただクイズだけじゃなくて」

藍子「バンジージャンプや、ターザンをする場面も……。この前番組に出ていた響子ちゃん、すっごく楽しそうに叫んでたなぁ……」

加蓮「あの黒幕ちゃん、スリルとか絶叫系とか大好きみたいだし」

藍子「まだ黒幕ちゃんって言い続けるんですね……」

加蓮「黒幕ちゃんプレゼンツ、新作アトラクション! とかあったら藍子を引っ張って行ってやろーっと」

藍子「……あの、できれば私は、コーヒーカップや、観覧車のような穏やかな乗り物で」

加蓮「触ってもないのに加速し続けるコーヒーカップ?」

藍子「違います」

加蓮「洗濯機のように高速回転し続ける観覧車」

藍子「それはもうホラーですっ」

加蓮「小梅ちゃんwith彼女が連れてきた方々により、どこにもない演出をあなたに!」

藍子「遊園地全体で怪奇現象が起きるような場所なんて、確かに他のどこにもありませんよ」

加蓮「こうして考えると、手段を見つけるのって大事なんだよね」

藍子「手段?」

加蓮「絶叫系アトラクションの為に心霊マスターの小梅に手伝ってもらったり、謎解きを体感的に楽しむためにむつみちゃんを呼んだり」

加蓮「あとは、それを実際に楽しむ役もいるのかな? 見てて、みんなが行きたいとか、自分もやりたいって思うような」

藍子「ふんふん」

加蓮「簡単にクリアするんじゃなくて、あたふたしたり苦戦してたりするとなおよし」

藍子「ふふっ。意地悪なんですね」

加蓮「ま、一筋縄で行くことばっかりやってたらどうにもなりませんから」

藍子「それなんです!」

加蓮「……はい?」

藍子「私、そのことを加蓮ちゃんからもっと勉強したいなって思ってて……。それと、頑張ろうって思い続けられる気持ちと、見ている人にあっと言わせる方法と、あとやっぱり歌の――」

加蓮「待って。待って待って。急に何の話?」

藍子「あっ。ごめんなさい、つい熱くなっちゃいました」

加蓮「それは別にいいけどさ……。はい、深呼吸して?」

藍子「すぅ~」

加蓮「吐いてー」

藍子「はぁ~」

加蓮「はい、今日もいつもの高森藍子ちゃん」

藍子「今日も、いつも通りに。ゆるふわでやっていきますよ~っ」

加蓮「よろしい。で、それってさっき言った作戦会議と関係してる?」

藍子「はい。この前の……線香花火の時のこと、覚えていますか?」

加蓮「……忘れられる訳ないでしょ。あの時の藍子の顔」

藍子「ふふ。私も」

藍子「あれから、いろいろ考えてみたんです。ううん、ただ考えるだけではなくて、私には、何が必要なんだろう? って……」

藍子「でも、今すぐにこっちへ進めばいいっていうのは、どんなに考えても分かりませんでした。だから、まずは色々なことをやってみようっ」

藍子「そう思って、浮かんだのは加蓮ちゃんの顔で……。私の知っている、一番すごいアイドルで、一番アイドルらしい女の子って言えば、やっぱり加蓮ちゃんですから」

加蓮「たはは……。おだてても甘くはしないよ?」

藍子「甘くされたいなんて、思ってませんもんっ」

加蓮「……へぇ? 意外と根深く燃えてるね」

藍子「今日は、そのための作戦会議をしたいんです。私がどうしたらいいか。加蓮ちゃんから見た私は、何が足りていなくて、どうしたらいいと思うか。でも――」

加蓮「でも?」

藍子「ずっと肩に力を入れていたら、疲れてしまいます。何か穏やかに、作戦会議をする方法ってないかなぁって……」

藍子「ということで、作戦会議の作戦会議から始めましょうっ」

加蓮「あー……」

加蓮「……、」

加蓮「うん。ま、藍子らしいか」

藍子「?」

加蓮「そんなノロノロやってたら日が暮れるよー、って言おうとしたけど――」

藍子「う゛っ。やっぱり、もうちょっと駆け足になった方がいいでしょうか……?」

加蓮「ううん。いいんじゃない? ゆっくり歩いても。まずは歩く先を見つけたり、できるだけ足に負担がかからない歩き方を見つけるのも」

加蓮「好きなことも、好きな道も、ずっと歩き続けてたらいつか嫌になるかもしれないよね……。好きな物を嫌いになんてなりたくないでしょ?」

藍子「……うんっ。そういうところから、じっくり考えていきたいの。わかってくれてありがとう、加蓮ちゃんっ」

加蓮「どう致しまして。まー、私も忙しい身ですけど? 真面目に頑張ろうって思ってる子には、いくらでも手を貸したいもんね」

藍子「今日も、時間を作ってくれてありがとうございます」フカブカ

加蓮「いえいえこちらこそ」フカブカ

加蓮「って、違うっ」ペシ

藍子「いたいっ」

加蓮「そこはまず、何よコイツ偉そうに……! 今に追い抜いてやるんだから! ……とか思う場面でしょ?」

藍子「加蓮ちゃんが堂々としているのは、いつものことのような……?」

加蓮「誰がプライドだけの女よっ」

藍子「そんなこと言ってませんっ」

藍子「……まだ、勝負したり、誰かに勝つっていうことは、あんまりピンと来ていなくて」

加蓮「そんなのでトップアイドルになれると思ってんの!? 上を目指すっていうならもっと本気を出しなさいよ!」

藍子「ひゃっ」

加蓮「……ごめん、ちょっと言い過ぎた」

藍子「い、いえ。加蓮ちゃんの言っていることも、正しいと思いますよ。分かってはいるんですけれど――」

加蓮「正しければそれでいいってものでもないでしょ。藍子だって、私から教えておしいとは思ってるけど、私みたいになりたいって思ってる訳ではないんでしょ?」

藍子「はいっ。そこは、ちゃんと分かっています」

藍子「私と加蓮ちゃんは……どんなにお話しても、一緒の時間をすごしても、やっぱり、違う人なんです」

加蓮「……あはは。なんか、寂しいよね」

藍子「でも、同じアイドルですから。同じ目線の私たち……だから私、加蓮ちゃんに教えてほしいなって思っているんですよ?」

加蓮「あー……」

藍子「私の歩く先に、きっと加蓮ちゃんは待ってくれているけれど……それは、あなたになるためって意味じゃない」

藍子「私は私、高森藍子として、ゆっくりと歩き続けるんですから。大丈夫。それは、ちゃんと分かってます!」

加蓮「そっか。……うん。そっか。ならよかった」

藍子「はいっ」

加蓮「ま、そんなに心配してた訳でもないけど。藍子なら大丈夫なんだろうなって」

藍子「それで、1つ1つ考えていきたいので……まずは、作戦会議の作戦会議からっ」

加蓮「カフェで話してる時点でそこはもう終わってる気がするんだけどね?」

藍子「ううん。もうちょっとだけ……もう1つだけっ。これでも、ちょっと緊張しているんですよ?」

加蓮「あんまりそうは見えないけどね?」

加蓮「なんかリラックスする方法がほしいんだよね。……紅茶とかでも注文してみる?」

藍子「すみませ~んっ」

……。

…………。

「「ずず……。」」

藍子「ふうっ」

加蓮「どう?」

藍子「ん~……。大人の気分にはなれました。今なら、Pさんと加蓮ちゃんがやっているみたいなお話はできるかも……?」

加蓮「いつでもおいでー」

藍子「でも、たりないかも」

加蓮「欲張りだ」

藍子「やっぱり、まだちょっとこわばっちゃう感じが残ってるような……」サスサス

加蓮「じゃ次いこっか。何か食べてみるのは?」

藍子「落ち着くためには、いつも食べているものを♪」

加蓮「ホットケーキとかかな。すみませーんっ」

……。

…………。

「「もぐもぐ……。」」

藍子「ごちそうさまでした」

加蓮「ごちそうさま」

藍子「ホットケーキ、今日もおいしかったです♪ 焼き立てで、ほんのりとバターの香りがして……。食べごたえがあるのに、すぐ口の中でとろけてしまいましたよね」

加蓮「ちょっと歯を立てただけで、じゅわっ、っていっちゃうから、なんかもったいないなって思っちゃうんだよね」

藍子「ふふ♪ だから、加蓮ちゃん、あんな変な顔してたんだっ」

加蓮「それを言うなら藍子だって、ふわーって顔してたじゃん」

藍子「ふわ~っていう顔?」

加蓮「ふわーっていう顔。お風呂にでも入ってそうな顔だったよ」

藍子「どんな顔ですか~」

加蓮「ふわーっていう顔」

藍子「ふわ~……あふ。お腹いっぱいになると、なんだか眠たく――」

藍子「はっ。違います! 今日は、作戦会議をするために来たんです」

加蓮「えー? 最近撮影に取材にLIVEにと、相変わらず超忙しい私を癒やしてくれる為じゃなくてー?」

藍子「えっ。でも確かに、加蓮ちゃんは最近ずっと忙しくて、お疲れなら……今日は、ゆっくりした方がいいのかも?」

加蓮「……ごめん。ちょっとからかっただけ。別に私のことはいいよ」

藍子「そ、そうですか? では、お言葉に甘えて……。う~ん」

加蓮「なんか無駄に悩んじゃってる気はするけどさー。……あ、そうだ。藍子ー」

藍子「何か、いい方法を思いつきましたか?」

加蓮「ん」ポンポン

藍子「?」

加蓮「膝、貸したげる。おいで?」

藍子「……、」

加蓮「……そこでぽかんとされると、どんどん恥ずかしくなるんだけど」

藍子「ごめんなさいっ。ちょっと考えが止まっちゃいました……では、お邪魔しますね」タチアガル

加蓮「どーぞ」

藍子「ごろん……」

藍子「……」

藍子「だめです」

加蓮「え」

藍子「これは、リラックスできすぎてしまいます。今からやるのは、真剣な作戦会議なんです」

藍子「このままでは、頭がふわふわになって……いろいろなことを考えるよりも、のんびりしたくなっちゃう……」

藍子「……すぅ」zzz

加蓮「え? ……藍子、寝ちゃったんだけど。えっ?」

藍子「す~……」zzz

加蓮「マジで……? 私の膝枕って、そんな気持ちいいものなのかな……」ペチペチ

加蓮「それに、癒やしの塊みたいな藍子を一発で眠りに落とすとか……。私まで魔女になっちゃった?」

藍子「すや……。むにゃ……へへっ……」zzz

加蓮「ま、いっか。起きるまで待ってよっと」



□ ■ □ ■ □


藍子「……」ブスー

加蓮「1時間ほど寝てから、ずっと膨れ続ける藍子ちゃんなのでした」

藍子「……違うんですもん。私は、真剣なんですっ」

加蓮「分かってるよー」

藍子「う~っ……。今すぐ起き上がってから、しゃっきりと座って、今後のことを、真剣に話し合うんです」

藍子「今すぐ起き上がってから……」

藍子「……起き上がれません」

藍子「起き上がるなって、手も足も命令してくるんです……!」

加蓮「私、何もしてないよ?」

藍子「わかってるもんっ! 悪いのは起き上がれない私です!」

加蓮「そんな目一杯力を込めて自分を責めなくても」

藍子「はぁ……。でも、こういう時に、無理をするのってよくないですよね。無理をしても、あとからそわそわしたり、集中できなくなってしまったり……」

藍子「学校の宿題や勉強と、似ているって思うんです。眠たいのに無理するより、1度寝てからの方がいいって、お父さんがいつも教えてくれて」

藍子「お父さんも、家でお仕事をする時は、よくお昼寝をしたり、体を動かしたりしているんですよ」

加蓮「藍子のリラックス法の1つは、お父さんから教えてもらったものなんだね」

藍子「ふふ、そうかも。なので、あと2時間――2時間はさすがによくばりすぎですっ」

加蓮「自分で言って自分で突っ込んでる」

藍子「せめて1時間……ううん、だめ。甘えないって決めたの……! だから10分――」

藍子「じ、10分なんてあっという間に経っちゃう……! もうちょっと、せめてもうちょっとだけ……!」

加蓮「あははっ。見てて面白いなぁ」

藍子「……30分! 決めました。30分です。30分したら、起き上がりますからっ」

加蓮「がんばれー」

藍子「加蓮ちゃんが冷たい……」

加蓮「だってアホやってるようにしか見えないし。っていうかさ、何もこの後レッスンとかお仕事とか……要は身体を動かすって訳じゃないんでしょ? 藍子のやりたいことって、作戦会議なんだよね」

藍子「はい、そうですよ」

加蓮「このままやれば? 作戦会議」

藍子「……」

加蓮「リラックスできすぎるって言うけど、さっき軽く寝た後なんだし。そこそこ頭も冴えてるんじゃない?」

藍子「……たしかに?」

加蓮「うん」

藍子「では……。作戦会議の時間です!」

加蓮「わー」ナデナデ

藍子「……?」キョトン

加蓮「あ、ごめん。拍手しようとしたらなんか藍子の頭を撫でてた」

藍子「あはは……。あ、あの、ええっと……。加蓮ちゃんっ。それは、きっと悪いことではないと思います。なので……その……む、無理にやめなくても、いいんじゃないかな~って……」

加蓮「…………」

藍子「……ないかなぁって……」

加蓮「……じゃあまず、そのズタズタな演技力をどうにかするところから始めようね」

藍子「ずたずた!?」

加蓮「オンボロ」

藍子「ううぅ……。でも、だってそれは、加蓮ちゃんに嘘なんてつけないから――」

加蓮「演技と嘘は違うし、それくらい平気でこなさなきゃ。私を蹴落としてでも、上を目指すんでしょー?」

藍子「蹴落とすなんて言ってない……」

藍子「じ、じゃあ……ひとまずは、それを目標にしてみます」

加蓮「おっ」

藍子「加蓮ちゃんが相手でも、ちゃんと演技ができるようになることっ」

加蓮「ま、いいんじゃない? 私が言うのもだけど、私相手に堂々と演じて、それで騙せたなら大抵の相手はいけるだろうし」

藍子「他の目標は……もっと、みんなに笑顔になってもらうこと!」

加蓮「そのためにはファンを増やさなきゃね。"たくさん応援してもらう"ことより"応援してくれる人を増やす"ことが目的なら、何か新しいことでもやってみる?」

藍子「加蓮ちゃんが、今までたくさんやってきたことですよね♪」

加蓮「藍子もでしょー。ほら、前だと盗賊の役とか、おもちゃの国とか」

藍子「そうでした。ふふ、懐かしいな……」

加蓮「あの後、けっこうファンとか増えたんじゃない?」

藍子「う~ん……。いえ、応援していますってお手紙やメッセージが増えたのは、間違いありません」

藍子「でも、あの後は……加蓮ちゃんの言葉をお借りするなら、"たくさん応援してくださる"方が増えたような……?」

加蓮「あぁ、ギャップ」

藍子「ギャップ……」

加蓮「今までになかった新しい魅力って、今までの藍子を知ってる人に伝わるものだもん。じゃあ、そういう結果になるよね」

藍子「なるほど~」

加蓮「ただ、やっぱり今までやったことのない何かに挑戦するのって大事だと思うよ? 何か、多くの人に見てもらえることとか」

藍子「多くの人に見て頂けること……」

加蓮「何がいいだろうね」

藍子「う~ん?」

加蓮「んー……」ナデナデ

藍子「……♪」

加蓮「……考えてたら、また藍子の頭を撫でちゃってた」パッ

藍子「あっ……。か、加蓮ちゃんっ」

加蓮「おっ?」

藍子「いきますよ……?」ジー

加蓮「おいでおいでー」

藍子「じ~っ」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「…………」

藍子「……か、加蓮ちゃんに演技の力を試すのは、もっと先の目標です」

加蓮「はい。」

加蓮「古典的だけど、バスローブでシャム猫を撫でる気分ってこういう感じなのかなぁ……」ナデナデ

藍子「……♪」

加蓮「あとは悪のボスとか。片手にワインとか……。私は飲めないから、代わりにすごく色の濃いアップルジュースにするとか……」

加蓮「真っ黒なスパンコールドレス……上品すぎてもあれだから、ちょっとダークな感じの……あ、つい自分のこと……。今は、藍子の話だよね」

藍子「え~っ。私、今のお話はもうちょっと聞いてみたかったのに」

加蓮「やだ。藍子の話がしたいし」

藍子「加蓮ちゃんがやりたいのなら、仕方ありませんね」

加蓮「ツンデレかっ!」

藍子「え?」

加蓮「……ごめん、今のナシ」

藍子「結局、地道にこつこつやっていくのが一番ですよね」

加蓮「それはもちろんだけど、もうちょっと何かやってみようよ。せっかく、やろうって気になったんだからさ」

藍子「……はいっ。ふふ、ごめんなさい。つい、引っ込みそうになっちゃいました」

加蓮「あの日の燃え滾った藍子ー、でてきなさーい」グイグイ

藍子「きゃ。いたいですよ~っ」

加蓮「新しいこと。藍子と言えば――」

藍子「私には、何がありますか? 教えてください、加蓮プロデューサーさんっ♪」

加蓮「……よかろう。だが、私は前任とは違う。厳しくいくので、そのつもりで」

藍子「前任……。あの、Pさんはどこへ行っちゃったんですか?」

加蓮「今ごろ農園にでもいるんじゃない?」

藍子「確かに、似合いそう……?」

加蓮「晴れの日にタオルを首に巻いてせっせと畑を耕して、ときどき様子を見に来てくれたり、おすそ分けをしてくれたり」

藍子「うんうんっ」

加蓮「重たいものを運んでくれたり?」

藍子「うんうんっ」

加蓮「あと絶対お酒飲んでそう」

藍子「きっと、すっごく美味しそうに飲んでいるんですよね♪」

加蓮「いつもは優しい人だけど、お酒が入った時にはすっごい豪快に笑い飛ばしてくるの。で、私がウザいって言ったら急に泣き出して……」

藍子「テンションがすごいことに……。お酒って、恐い飲み物なんですね」

加蓮「藍子はいくら飲んでもそのままでいそうだけどねー」

藍子「そうですか?」

加蓮「気が付いたら平気でそこにある分を全部飲んじゃってそう」

藍子「そ、そこまでは飲めないと思いますよ……。たぶん。加蓮ちゃんは……」

加蓮「すぐ寝る」

藍子「お酒の強さって、意外と強かったり、意外と弱かったりするってお父さんが言ってたから……。ひょっとしたら、加蓮ちゃんも成人したらいっぱい飲めるかもっ」

加蓮「ふぅん……。……試してみよっかなぁ」

藍子「ダメですっ!」

加蓮「たはは。冗談冗談」

藍子「とか言って、今こっそりスマートフォンを取り出して、菜々さんに連絡しようとしていましたよね~?」

加蓮「そんなことないわよー」

藍子「すっごく棒読みっ」

加蓮「何言ってんのー菜々さんは17歳だからお酒なんて飲めないわよー」

藍子「違いますよ、菜々さんはもうお酒が飲める歳ですっ」

加蓮「……やめてあげて?」

藍子「あっ……」

加蓮「で。Pさんが農家になる話も、菜々さんがお酒を飲んでスクープ写真を撮られる話も別にいいんだけどさ」

藍子「……そんなお話でしたっけ?」

加蓮「今は藍子の話だっての。それに、Pさんはやっぱりプロデューサーさんじゃないとね。菜々さんは……まぁ菜々さんだからいいや。……あーもう、藍子が起きてからさらに1時間経ってる!」

藍子「えっ、もう? ……う~、ここからだと、テーブルで隠れて時計が見えません」

加蓮「何も話が進んでないじゃんっ。あと、30分したら起き上がるって言ってたよね?」

藍子「そ、それは……このまま作戦会議を進めるってお話になったので、その、ノーカンです」

加蓮「もう……」ナデナデ

藍子「……♪」

加蓮「なんだったっけ。新しいことをやる話……」

藍子「急に言われても、すぐには思いつきませんよね。あれっ? でも、加蓮ちゃんはよく、色々な企画を思いついて、Pさんとお話して……。あれって、どうやって思いついているんですか?」

加蓮「んー? どうやってって言われても……パッと閃いて?」

藍子「な、なるほど」

加蓮「あとは、これがやりたいなーって思ってから……それに必要な条件って言うのかな」

藍子「条件――」

加蓮「さっきのアトラクションや謎解きの話っぽくなるけどさ。これをやるためにはこれがいるかな、とか、この子に協力をお願いしたらうまくいきそうかな、とか」

加蓮「で、そういう具体的なところまで作ってPさんに持ってったら大抵通る」

藍子「おお~っ」

加蓮「やっぱり1から考えるより楽なんだろうし、"こういうの思いついたけど、これってできる?"って言われた方が考えるのが楽なんだって」

加蓮「……できない、って言われることも何回もあったりするんだけどね」

藍子「頑張って考えたのに、無理って言われたら落ち込んじゃいそう……」

加蓮「その時はPさんに八つ当たりでもすればいいよ」

藍子「しませんよ。だって、Pさんは悪くないんでしょ? Pさんだって、加蓮ちゃんがやりたいって言っていることなら、きっとやらせてあげたいって思うハズだから……。それでも無理って言うのなら、何かできない理由があるんですよね?」

加蓮「よく知ってるねー」

藍子「Pさんの優しさは、いっぱい知っていますから♪」

藍子「え~っと。やりたいことを考えて、具体的にいろいろ考えて……?」

加蓮「パーティーを開く時に料理を準備したりパーティーグッズを買いに行ったりするでしょ? あれと同じ感じ」

藍子「それなら分かりやすいかもっ。なにがいるかな、とか、なにを持っていったら盛り上がるかな、って考えるんですよねっ」

加蓮「分かってるじゃんっ」

藍子「でも……。そのやりたいことがなかなか思いつかない時には、どうしたらいいでしょう」

加蓮「んー。それは――」

藍子「それは?」

加蓮「……ゴメン、正直分かんない」

加蓮「えっとね。……私の話になるんだけど、いい?」

藍子「はい、どうぞ?」

加蓮「私って、小さい頃にできなかったことが多すぎて、色々拗らせちゃってるじゃん」

藍子「こじらせる……」アハハ

加蓮「アイドルになって、世界って広いんだなーって思って……Pさんと色んなお仕事をやってきて、私からも言っていいんだなって分かって」

加蓮「そしたらこう、何見てもやりたいことが思いつくっていうか、ううん、何も見なくても思いつくっていうか……」

加蓮「そういうのって昔の私に原因があると思うの。だから……どうやったらやりたいことを見つけれるかは分かんないし、多分、説明しても藍子の役には立たないかもね」



作者です。大変申し訳ございません、少しだけ注釈を入れさせてください。

このお話は、膝の上、と銘打っていますが、
「(途中から)加蓮の膝の上に、藍子が頭を乗せている=膝枕状態で話が進んでいる」
という内容のものです。体ごと膝の上に乗っている状態ではありません。

一応「膝枕」という単語を出してはいますが、少々描写不足により勘違いさせてしまった可能性に至りました。
以後は注釈を入れなくても大丈夫なよう、文章を書くことに努めます。
今回のことはご理解くださいませ。そして重ねて申し訳ございませんでした。

それでは、続きをどうぞ。

藍子「加蓮ちゃんならではの理由ってことですよね。……でも、よかった♪」

加蓮「?」

藍子「ちいさい頃の加蓮ちゃんが、いろいろなことをやりたいって気持ちを、ぜんぶ消さないまま持っていて、よかったなって……」

藍子「……加蓮ちゃんにとっては、あまりいい思い出じゃないってことは、分かっていますよ。でも……」

加蓮「あはは……。藍子、いっつも言うもんね。昔の加蓮ちゃんのことを切り捨てるなって」

藍子「はいっ」

加蓮「切り捨ててなかったから、今の私がいるのかも……」

藍子「きっとそうですよ。いつだって、自分の中にあるまごころは大事ですから!」

加蓮「うん……」

藍子「……」

加蓮「……って! 私の話じゃなくて! 藍子の話!」

藍子「あっ、そうでした!」

加蓮「あーもう、さらに1時間経ってる!」

藍子「えっ、もう?」

加蓮「私の膝の上にいる時くらい、そのゆるふわ空間をどうにかしなさいよ!」

藍子「ど、どうにかしようと思ってできるものじゃありませんよ~」

加蓮「もうっ。外もけっこう暗くなってるし……。作戦会議、全然進まないじゃん!」

藍子「ううん。ちょっとだけ進みましたっ。新しいことをみつけて、私のことを応援してくださる方を増やすんですよね」

加蓮「具体的な方法とか、藍子がやることとか何にもじゃん……。はぁ、もう」

藍子「焦らずに、ゆっくりいきましょ? 駆け足になっちゃうと、転んでしまうかもしれませんよ」

加蓮「歩くのはアンタでしょ……。ま、でも藍子ならすぐ見つけれるでしょ。やりたいことなら、なんだって」

藍子「そうでしょうか……?」

加蓮「もしも見つけれなかったらお散歩にでも付き合ってあげる。ただ……おほんっ。前任の者と違って、私は厳しく指導する。そのつもりでいたまえ」

藍子「はいっ。厳しいご指導、よろしくお願いします! ……ところで、前任のPさんは今度はどこへ行ったんですか?」

加蓮「漁師でもやりながら藍子と私のプロデューサーさんをやってるんじゃない?」

藍子「あはは……。それも似合いそうっ」


【おしまい】

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