――おしゃれなカフェ――
高森藍子「お待たせしましたっ。ごめんなさい、遅れちゃいました」
北条加蓮「やっほー。メロンソーダ、飲む? 飲みかけだけど」
藍子「いただきますね。……ん~っ♪」
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レンアイカフェテラスシリーズ第130話です。
<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・高森藍子「加蓮ちゃんの」北条加蓮「膝の上に 4回目」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「2人でお祝いするカフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「癒やされるカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「目先と足元を確かめ直すカフェで」
加蓮「なんとなくなんだけどさ」
藍子「なんとなく」
加蓮「藍子がなかなか来なかったから――」
藍子「う。……すみません」
加蓮「違うわよ。っていうか、とりあえず座ったら?」
藍子「は~い。よいしょ……」スッ
藍子「……、」
加蓮「?」
藍子「……ただいま。加蓮ちゃんっ」
加蓮「おかえりなさい、藍子」
藍子「えへ……」
加蓮「……なんで?」
藍子「なんとなくっ」
加蓮「ふうん。いいけど。……あれ、制服なんだ」
藍子「はい。夏休みですけれど、学校に行っていましたから。1学期の後半にあまり出席できなかったのと、2学期からの出席の相談を」
加蓮「アイドルだ」
藍子「アイドルです!」
加蓮「気合の入った声だねぇ」
藍子「ただ……」
加蓮「ん、問題?」
藍子「先生と相談しているうちに、つい、なんでもないお話で盛り上がってしまいまして」
加蓮「…………」
藍子「途中で時計を見たら、もう加蓮ちゃんとの待ち合わせの時間! ってなっちゃって。慌てて、教室を飛び出しちゃいました」
藍子「一応、待ち合わせがあるので……って伝えましたけれど。でも、撮影の予定とか、お仕事の予定ではないので、なんだか先生をダマしちゃったのかもしれません」
藍子「私、すごく慌てちゃってたから。また今度、謝ったほうがいいのかな……?」
加蓮「まずは私に謝ってくれないかな??」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「…………えへ」
加蓮「半笑いで視線を逸らすなっ」
藍子「違うんです……。あの、これは違うんです。……違うんですけれど、メロンソーダ、もうちょっとだけもらってもいいですか?」
加蓮「なんかすっごい図々しいこと言ってるね! いいけど。はい、後全部あげる」
藍子「ありがとう。~~♪」
加蓮「あははは……。いいや。なんか後ろ向きなことを言い続けるのも馬鹿馬鹿しいし」
藍子「ふふっ。そうですよ~」
加蓮「……」ジトー
藍子「……すみません」
加蓮「いいんだけどね。こう……あはは。うん。いいや」
加蓮「藍子、学校に行ってたんだねー」
藍子「そうですよ。アイドルでも、高校生ですから。どちらも大切にしなきゃ」
加蓮「……それ一昔前の私に刺さるからやめて」
藍子「ささる?」
加蓮「アイドルばっかりやってて出席日数がヤバくなってた頃の私」
藍子「あ~……」
加蓮「刺さるー」
藍子「……ごめんなさいっ。刺せるものは、持っていません」
加蓮「言葉以上に人を刺せる物なんてそうそうないから、探すこともないんじゃない?」
藍子「そうかもしれませんね」
加蓮「藍子が学校に行ってたせいなんだ。うんうん。きっとそうだ」
藍子「……えっと、何が?」
加蓮「先にここに到着して、藍子がなかなか来なくて――いちいち謝らなくていいからね? で、ぼーっとしてて……店員さんを呼んでみたけど、喋るネタがなくて気まずくなっちゃって」
藍子「だから店員さん、さっきから加蓮ちゃんのことを、ちらちらって見ているんですね」
加蓮「バレないと思ってるのかなぁ、あれ。……あ、引っ込んだ」
藍子「まあまあ。店員さんが、お客さんを気にするのは普通のことですよ。常連さんなら、なおさらです」
加蓮「今度バレない見方でも教えてあげとこっか」
藍子「そんなのがあるんですか?」
加蓮「うん。直接知ってる訳じゃないけど、ほら、探偵っているじゃん」
藍子「はい。いますね。それとも、都ちゃんのこと?」
加蓮「どっちでもいいよー。で、気になって調べてみたんだけど……探偵って、ガチでいるんだよね」
藍子「……いますね?」
加蓮「ドラマとかマンガとか、キャラクターにしかいないイメージだった」
藍子「あ~」
加蓮「あとは何年も前に消えた職業とか、そんなイメージ」
藍子「ふんふん」
どうなる?
加蓮「尾行とか見張りとか、そういうのもガチでやってるんだって。浮気調査とかで」
藍子「浮気調査……」
加蓮「……なんでそこでモバP(以下「P」)さんの顔を思い浮かべたの?」
藍子「なんでバレちゃうんですか……!」
加蓮「加蓮ちゃんと藍子ちゃんですから。ま……分かるけどねー」
藍子「そ、そんなことありませんよ。確かにPさんはいろんな人と親しくされていますけどっ、そんな軽薄なことはしない人ですから!」
加蓮「……たはは。ムキにならないの。ほら、落ち着いて?」
藍子「ぜ~っ、ぜ~っ……。ふふ、そうですね。……加蓮ちゃんが煽るようなことを言うから、つい、カッとなっちゃいました」
加蓮「さりげなく私を悪者にしたな? 尾行ってさ、相手にバレないようにしないといけないじゃん。相手が、誰かが見てる……って思うのもダメでしょ」
藍子「そうなんです……か? なんだか、ピンと来ませんね……」
加蓮「で、相手にバレないように相手を見る方法っていうコツが書いてあったの。例えばスマフォを見る振りして、とか、視界の端のこの角度で見る、とか」
藍子「なるほど~」
加蓮「藍子も勉強しといたら? その方が盗撮も捗るかもよー?」
藍子「しませんし、してませんっ。盗撮じゃなくて、普通に撮ってます!」
加蓮「どーだか」
藍子「もう……。それよりも、店員さんとお話した後は、どうしたんですか?」
加蓮「ん? あ、そうだったね。ヒマだーってなって、ぼけっとして」
藍子「ふふ。退屈にさせちゃって、ごめんなさいっ」
加蓮「次からは私も、約束から1時間遅れるように行くようにしちゃおっかなー」
藍子「え~。そうしたら、加蓮ちゃんと一緒にいる時間が、その分減っちゃうじゃないですか。そんなの、イヤですよ」
加蓮「……真顔で、そういうこと言うかー」
藍子「はい。言っちゃいます。……じ~」
加蓮「はいはい、そういうのいいから。ちょっとずつこっちへにじり寄ってくんなっ」グイ
藍子「わっ」
加蓮「って、熱……。藍子の顔、だいぶ熱いね。大丈夫?」
藍子「外を歩いてきたからでしょうか。暑いですけれど、大丈夫ですよ。メロンソーダも飲みましたもん♪」
加蓮「加蓮ちゃんの粋な計らいに感謝したまえー」
加蓮「はぁー」
藍子「えっ。なんでためいき……」
加蓮「自分のゆるふわ力をメロンソーダの、それも飲みかけ程度としか思ってない訳? そんなんだから次々と人の時間を奪っていくんだよ。私だけじゃなくて、私以外の人のもさ」
藍子「えっと……」
加蓮「私以外の人のもさ」
藍子「……加蓮ちゃん、圧がすごい」
加蓮「べっつにー。なーんか最近、カフェ以外で藍子と会ったことないなー、なんて思ってないけどー?」
藍子「どう見ても思ってる……。ええと、ほらっ。事務所では、会っているじゃないですか」
加蓮「それとこれとは別でしょ」
加蓮「別に? SNSで見たポジパのバーベキュー&キャンプ実況のことなんて、全然気にしてないけど? 定例行事みたいなものだし?」
藍子「そうですね。私もですけれど、みんな忙しくて……でも、頑張ってオフの日を合わせたんですっ」
加蓮「1時間経ってもキャンプ建てが全然進んでないのを見て、これはゆるふわに呑まれてるね、なんて思ってないけど?」
藍子「……だってあれは、未央ちゃんが遊ぼうって言い始めたから~」
加蓮「あれ、そう? 意外。てっきり藍子がまた泥棒になったのかと」
藍子「思ってたんじゃないですか! あと言い方っ。もうちょっと言い方がありますよね!」
加蓮「ま、藍子が楽しそうならいいんだけどね? ただ最近、ポジパの件に限らず色んな藍子をよく見るようになったっていうか……発信が増えた? って気がして」
藍子「そうなんです。じつは、今までよりもうちょっとだけ、色々な私をお見せしてみようって思って♪」
加蓮「あ、そうだったんだ」
藍子「Pさんに相談してみて、試しにやってみることを一緒に考えて……そのうちの1つなんです。これなら、今からでもすぐに始められるかな、って」
加蓮「確かに、写真を撮るなりムービーを回すなりすればいいし、カメラを持ってる藍子ならではだよね」
藍子「これで、もっと多くの方に知ってもらえればなぁ……って。ふふっ。あんまり、アイドルらしくはないかもしれませんけれどね」
加蓮「そんなことないよー。確かに、藍子のアイドルオーラ的なのは薄いかもしれないけど」
藍子「う゛……」
加蓮「……まあまあ。動画でなら大丈夫だから、きっと」
藍子「では、写真の私は、ぜんぜんアイドルらしくないってことですか……」
加蓮「なんでそうネガティブになるのよアンタは……。ポジティブパッションはどこに行ったのよ。ポジティブは」
藍子「そうでした。私は、ポジティブパッションの、藍子ですっ」
加蓮「……違います」
藍子「あれっ!?」
加蓮「やだね。ポジパなんかに渡すもんかっ」
藍子「あはは……。未央ちゃんと、同じことを言ってる」
加蓮「かれんになんか渡すもんかー、って?」
藍子「今の、似てましたっ」
加蓮「最近バトってないなー。たまには藍子をダシにして、思いっきりLIVEバトルしてみよっかな?」
藍子「だしにしないでください、せめて景品って言ってください……」
加蓮「たくさんファンが増えるといいね、藍子」
藍子「はいっ。頑張って、たくさんの方に知ってもらうんですから!」
加蓮「こうしてゆるふわの犠牲者がまた増えるのでした」
藍子「……加蓮ちゃん」ジトー
加蓮「なんか今日って、あんまり真面目な話をする気になれなくて。つい……ね?」
藍子「もう……。でも、なんとなく分かりますよ」
加蓮「お」
藍子「なんだか、今日はあまり真面目なお話や、最後まで聞いてもらうお話をするよりは……ちょっとしたお話で、ちいさく盛り上がりたい気分ですっ」
加蓮「なんでだろーね。暑いから? 夏バテ?」
藍子「そうでしょうか……。加蓮ちゃん、体力がない時には――」
藍子「体力がない時には、私の家に来るといいですよ♪」
加蓮「……なんで?」
藍子「最近、お母さんが元気になれる料理をたくさん作ってくれるんです。これを食べて、アイドルを頑張りなさい、って♪」
加蓮「へ~……ふふっ。いいね、そういうの」
藍子「はいっ」
加蓮「いいねっ」
藍子「ふふ♪ 加蓮ちゃんも、いつでも来てくださいね」
加蓮「えーでも、私って一応藍子のライバルなんだよ? 歓迎してくれるかなぁ」
藍子「そうかもしれませんけれど、今は待ってくれる人ですから。それに、ライバル同士だって、時には一緒にご飯を食べてもいいと思います」
加蓮「っていうか今食べてる」
藍子「あっ……。ホントですよ~」
加蓮「食べてはないか。でもメロンソーダ、半分あげちゃったし」
藍子「これで加蓮ちゃんは、いつ私の家に来ても大丈夫になりましたね♪」
加蓮「そんなに来てほしいの?」
藍子「ふっふっふ~」
加蓮「あ、これ何か企んでる顔だ。……んー……あぁそうか! アンタさては、何か写真を撮ってSNSにアップしようとしてるね!」
藍子「ぎくっ」
加蓮「しかも今ならアイドルとしてのやるべきことだとか、Pさんと相談した結果だとか建前が作れるからいっかー、それで加蓮ちゃんを丸め込んじゃおう、とか考えてるでしょ!」
藍子「そこまでは、考えていませんでしたっ」
加蓮「あれっ。なーんだ。藍子もまだまだ甘いなぁ」
藍子「そういう……戦略? と言うのでしょうか。加蓮ちゃんには、まだまだ敵いません」
加蓮「やりたいことをやりたいようにやってれば、そのうちできるようになるんじゃない? こういうのって、全部手段なんだから」
藍子「手段……」
加蓮「お散歩に行きたいからマイボトルを買うのと同じような物」
藍子「なるほど。必要な道具が、必要な方法に変わっただけなんですね」
加蓮「そうそう」
藍子「それならできるかも? ……あっ、それより、加蓮ちゃんが買ったマイボトルのお話が気になります」
加蓮「今そんな話してないんだけど?」
藍子「マイボトルって、柄のアレンジやデコレーションもできるんですよ。じつは最近、お散歩業界でのブームなんです!」
加蓮「まずお散歩業界ってなに?」
藍子「お散歩がしたい人たちで集まった、業界ですね。加蓮ちゃんも、参加メンバーですよ~」
加蓮「勝手に入れられてるっ」
藍子「お散歩のためにマイボトルを買うくらいするんですよね?」
加蓮「……確かに、これは私もお散歩業界のメンバーだ」
□ ■ □ ■ □
加蓮「藍子が制服で、学校に行ってたから思いつかなかったの」
藍子「何がですか?」
加蓮「店員さんと喋った後にね。ぼーっとして……こう、ぼー、って感じで」
藍子「ぼ~、っとしてますねっ」
加蓮「カフェの天井って見てると落ち着くよねー……。なんでなんだろ」
藍子「ふふ。気の往くままに、じっくり見ていってください」
加蓮「ぼー……違う違う。話の続き」
藍子「そうでした」
加蓮「藍子に何か注文してあげとこっかな、って思ったの」
藍子「なんだか懐かしいですね。最初の頃は、先に来ていた方が注文をしていて――」
加蓮「あったね、そういうのも。あれってひょっとして、私のことを分かってもらいたかった、とかなのかなぁ」
藍子「加蓮ちゃんのことを……」
加蓮「何を食べるんだろう、って想像って、相手のことを知ろうとすることじゃん」
加蓮「手段や目的は何でもよくて、私のことを知ってほしくて、だらだら押し付けて……続けてたのかな? って。ふと思っただけ」
藍子「…………」
加蓮「まっ、昔のことなんて――あ、待って。これたぶん違うよ。だって藍子、昔からずっと私のことをズバズバ当ててたもん」
藍子「そうでしたっけ?」
加蓮「なんで知ってんのそんなこと、って思ったのも1回や2回じゃないし」
藍子「加蓮ちゃんのことを、少し遠くから見ていたから」
加蓮「ね。それでも、それ以上に知ってほしいって思ってたとしたら」
藍子「……よくばりさん?」
加蓮「そーゆーことー」
藍子「でも、加蓮ちゃんならおかしくないような……」
加蓮「どういう意味よ。ねぇ」
藍子「誰かと仲良くなりたかったり、自分のことをたくさん見て、知ってほしかったり……昔の加蓮ちゃんって、そうでしたよね?」
加蓮「……否定できないし」
藍子「ふふっ。ね、加蓮ちゃん」
加蓮「何よ……」
藍子「……」
藍子「……。なんでもないですっ」
加蓮「はあぁ??」
藍子「あははっ……。だって今日って、私だけ制服なんですよ? 加蓮ちゃんは、いつものオシャレな女の子。それでお話を続けるのって、なんだか違うなぁって……」
藍子「例えるなら、そうですね~」
藍子「夏に、ゆっくりおそうめんを食べているところに、今から外に遊びに行こうっ、って言われた時みたいな感じです!」
加蓮「…………何から何まで訳分かんないんだけど」
藍子「あれ?」
加蓮「でも、そっか。藍子だけ制服だし、今日する話じゃないってことだよね」
藍子「そうそう、そうですっ」
加蓮「不思議。それだけならすぐ分かる」
藍子「服って、思ったより強いイメージを持つみたい。心理学のお話で見たことが……加蓮ちゃんの方が、こういうのは詳しいかな?」
加蓮「服装1つで人間関係が変わる程度には、イメージが強いよね」
藍子「そんなに……」
加蓮「藍子だって、明日事務所に来たら私が急にふわっふわの姫系コーデとかしてたらまず熱を測るでしょ?」
藍子「熱は測りませんよ~。加蓮ちゃん、今はそういう気分なのかな? って思います。……ふふっ。お姫様の加蓮ちゃん、見てみたいなぁ」
加蓮「話を振る相手を間違えた」
藍子「どうしてですか~っ」
加蓮「茶化される前提のネタを真面目に受け止められるとキツイんだって。でも藍子はいっつもそうだし……。話す相手を間違えた!」
藍子「まあまあ」
加蓮「っていうか、また話逸れてるし!」
藍子「そういえば……。結局、加蓮ちゃんがここに来て、店員さんとお話して、私を待っていた……っていうところから、全然進んでいませんよね」
加蓮「これがキャンプ作りを遅れさせるゆるふわの力……!」
藍子「だから、あれは未央ちゃんが遊ぼうって言い始めたからですよ~」
加蓮「そうだった」
藍子「なにもかも、私のせいにしようとしていませんか?」
加蓮「全部藍子のせいかー。例えば、外が暑くてどうしようもないのは?」
藍子「ゆるふわの力ですっ」
加蓮「Pさんが最近忙しそうにしててしょうがないのも」
藍子「ゆるふわの力ですっ」
加蓮「私が最近、あんまり藍子と遊んでないなー、カフェ以外でも遊びに行きたいなー、って思っちゃうのは!」
藍子「それは、加蓮ちゃんの気持ちですね♪」
加蓮「……………………」グリグリ
藍子「痛いです、痛いです! ぐりぐりしないでっ!」
加蓮「だいたい、藍子の方からノリノリになってるじゃん」
藍子「ふっふっふ。ぜんぶ、ゆるふわにしちゃいますよ~。そうすれば、みんな笑顔で、穏やかに過ごせますよねっ」
加蓮「……おかしい。藍子のせいにする話が、藍子のおかげって話になっちゃう」
藍子「私のおかげ――って、私が言うのも変なお話です……」
加蓮「加蓮ちゃんのおかげー。はい、復唱」
藍子「……? 加蓮ちゃんのおかげ?」
加蓮「違う。自分のおかげって言い慣れる話。藍子は確かに、藍子の――自分のおかげで生み出せたり、変えられたりすることがあるんだから。さすがにそれくらいは分析できるでしょ?」
藍子「…………」コクン
加蓮「なんでもかんでも自尊ばかりしてたら嫌われるけど、アイドルだから。特に藍子は、そういうところが足りなさすぎ」
藍子「さっきも、メロンソーダ半分だけの価値じゃない、って言われちゃいましたね」
加蓮「そうそう。はい復唱! 藍子ちゃんのおかげっ」
藍子「あれっ? ……それなら、加蓮ちゃんのおかげ?」
加蓮「なんでよ!」
藍子「ひゃ~っ」
藍子「だって、加蓮ちゃんは今、あい――私のおかげって言ってくれましたよね。っていうことは、お互いに相手のおかげって言う流れだったんじゃ……?」
加蓮「なんで今の会話でそうなる……!」
藍子「あはは……。また、どこかでお話が変わったのかなって思いました」
加蓮「復唱! 藍子のおかげ!」
藍子「わ、わたしのおかげですっ」
加蓮「……」
藍子「……い、言いましたよ?」
加蓮「……なんか、普通に可愛いだけっていうか……可愛いって言っても、小さい子供が背伸びして頑張ってる的なヤツ」
藍子「加蓮ちゃんと比べたら、どうせまだまだ未熟ですもん……」
加蓮「またすぐネガティブになる。藍子はポジパじゃないけど、ポジティブでしょ?」
藍子「はっ。そうでした。……って、ポジティブパッションの藍子でもあります!」
加蓮「えー」
藍子「未央ちゃんには今度、加蓮ちゃんがLIVEバトルをしたがっていたって伝えておきますね」
加蓮「お願いねー。別に1対1でも1対2でもいいよ」
藍子「……ひょっとしたら、それ、私も巻き込まれて1対3になっちゃったりするかも?」
加蓮「たははっ。それはそれで面白そうだね」
藍子「いいんですか?」
加蓮「まとめてかかってきなさい。そんな逆境上等よ。私が今までどういう生き方をしてきたと、思ってんの――」
加蓮「…………」
加蓮「……ごめん。藍子の格好を見てたら急にしぼんできた」
藍子「え? あ、制服……」
加蓮「服って恐いねー……」
藍子「こわいですね……」
……。
…………。
加蓮「でさ……」ゲッソリ
藍子「加蓮ちゃん、なんだかおつかれ?」
加蓮「さっきから何度も脱線してるから……」
藍子「あっ」
加蓮「いつになったら最後まで話せるのよ。しかも、ホントにどーでもいい話なのに」
藍子「今度は邪魔しませんからっ。確か、先に来た方が注文するっていうお話で止まっていましたよね?」
加蓮「そうだったね。藍子は今日何がいいかなーって思い浮かべてみたの」
藍子「ふんふん」
加蓮「なーんにも思いつかなかった」
藍子「あらら……」
加蓮「こう、顔をぼーっと天井に……」
加蓮「……」
藍子「……やらないんですか?」
加蓮「やってる時の顔、たぶん間抜けだもん……。だからやらない」
藍子「そうかな……? それに、今は他に誰もいませんから。店員さんも、今はこちらを見ていないようです」
加蓮「一番見せると色々起きそうなのが目の前にいるんだけどね??」
藍子「ぎくっ」
加蓮「音を立てずにスマフォを取り出す技術を身に着けてんじゃないわよ! もっと他にやることあるでしょうがアイドル!!」
藍子「ひゃあっ。でもっ、私にとっては、スマートフォンをすばやく取り出せるようになることは、すっごく大事なことですから!」
加蓮「そんなものポケットにでも入れておくかゆるふわを引っ込めててきぱき動くかすればいいでしょ!!」
藍子「それができたら、悩んだりしませんよ~っ」
加蓮「悩むって。……え、そんなくだらないことで悩んでたの?」
藍子「くだらないなんてひどいっ。悩んではいませんけれど、もっとてきぱき動くことができたら、もっとたくさんの写真を撮れるのかな……って、思うことはありますよ」
加蓮「それは増えるんじゃなくて変わるの。代わりに今藍子が撮ってる写真が撮れなくなるだけ。どっちがいい?」
藍子「それなら、今は今のままで」
加蓮「私もそれがいいと思うよ。ってことでー、藍子はこれからも、私からノロマって言われ続けてなさい♪」
藍子「加蓮ちゃん……。今日1番の笑顔ですね」
加蓮「そう?」
藍子「ふふっ。からかわないでくださいって、言いにくくなっちゃう」
加蓮「たははっ。私の方こそ、藍子のリアクションが薄いと、からかいにくくなっちゃうなぁ」
藍子「できるだけ、動揺しないようにしなきゃ……!」
加蓮「無理無理。諦めなさい」
藍子「冷たい……」
加蓮「……で」
藍子「?」
加蓮「いや。相変わらず話が逸れるから」
藍子「あっ……」
加蓮「もーなんかどうでもよくなってきたー。そもそもいつものことだし」
藍子「えっ。せめて最後までお話はしてください! 気になっちゃいます」
加蓮「いやホントにどーでもいい、くだらないことなんだけど?」
藍子「いいからっ!」
加蓮「……迫力すごいなぁ。もう。ぼーっとしてて、藍子は何がほしがるかなーって思ったんだけど、全然思いつかなくて」
藍子「ふんふん」
加蓮「不調かー、そういう日なのかなぁ、って他人ごとみたいに思ったりして」
藍子「何も思いつかなかったり、やりたくないなって思う気分?」
加蓮「そこまでは。藍子には無縁そうだね?」
藍子「そう……かも。やりたいこと、いっぱい思いついちゃうから。アイドルだけじゃなくて、家にいる時も、アルバムの整理や、料理とか、裁縫――」
藍子「あっ、またお話が逸れかけています。それで、それで?」
加蓮「答えは藍子が制服だったから、でした」
藍子「……えっと?」
加蓮「さらに言えば、藍子が学校に行ってたからでした」
藍子「…………??」
加蓮「最近の藍子って言えば、ホントにアイドルのことばっかりだったから。完全オフモードの、しかもアイドルとは無縁の格好。それならイメージがズレたり、浮かばなくなるのも当然だよね」
藍子「は、はあ。でも、ここにいた加蓮ちゃんは、私の格好を見ていたわけじゃないですよね……?」
加蓮「あれじゃない? 離れてても分かる的な。双子のシンパシーじゃないけど、なんか違うなー……って思った時には、実際に違ってた的なヤツ」
藍子「離れていても、相手のことが分かる……。ふふ。なんだか素敵っ」
加蓮「……なんかちょっと夢見がちなこと言っちゃった?」
藍子「ちょっとだけ、ロマンティックなお話でしたっ」
加蓮「じゃあ今の無し。忘れて」
藍子「そこまできっぱり言わなくても……。それなら、もしも今度、離れているところにいる加蓮ちゃんを思い浮かべて――」
藍子「イメージが、ぴたっ、とできあがったら、私の思い描いている加蓮ちゃんがどこかにいるってことですよね♪」
藍子「逆に、イメージがふわふわとしていたら……」
藍子「ふふ♪ その時には、加蓮ちゃんを探しに行っちゃおうかな? だって、私の思い浮かべられなかった……私の知らない加蓮ちゃんが、どこかにいるってことですから」
加蓮「……藍子さ」
藍子「なんですか~?」
加蓮「その訳分かんないポジティブ、そろそろ自分に回そう?」
藍子「これでも頑張ってるつもりですもんっ」
加蓮「もー。やっぱり最後まで話すんじゃなかった。テキトーに話を逸して終わらせるんだったー」
藍子「そんなこと言わないでっ。面白いお話でしたよ?」
加蓮「私にとっては弱みを握られただけなんですけどー」
藍子「まあまあ。では、加蓮ちゃんのお話が終わったところで、何か注文でも――あれっ? もう7時?」
加蓮「……1つの話が終わるまで何時間かかったの、これ」
藍子「さ、さあ……?」
加蓮「制服姿でも何でも、結局ゆるふわかぁ。イメージの変わらない物だってあるよねー。ご飯、どうしよっか」
藍子「晩ご飯――せっかくなら私の家に来て、元気になる料理を食べてほしいな……。でも、ここで一緒に食べるのもいいかも。どうしようかな……?」
加蓮「なんか話したのに話し足りない気分だし。藍子の家に行っていい?」
藍子「はいっ。いいですよ~。加蓮ちゃんのお話、いっぱい聞きますね♪」
加蓮「さーて、一晩の間に何個話せることやら。ま、別にトーク番組って訳じゃないし、テキトーに喋ろっか」
藍子「台本のない、いつものお喋りも、ときにはいいですよね♪」
加蓮「ね。完全オフモードでいっちゃおー」
藍子「お~っ」
【おしまい】
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