【あくる日の283プロ】
三峰「もうPたんってば三峰がいないとほんっとダメなんだから~」
P「うっかりしてたよ。いつもありがとうな結華」
円香「……」
□□□□□□□□
凛世「プロデューサー様……お茶を用意致しました……」
P「おっ、ありがとう。あぁ……凛世の淹れてくれるお茶は美味いなぁ。毎日飲みたいくらいだよ」
円香「…………」
□□□□□□□□
恋鐘「プロデューサー!今日はうちの自慢の料理を振る舞うけん、みんなと一緒に食べよ~」
P「うん、美味いっ!ははっ、恋鐘の旦那さんになる人は幸せだな。こんなに美味しいご飯をいつも食べられるんだからさ」
円香「…………はぁ」
□□□□□□□□
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【283プロ 事務所】
ミーンミンミンミンミン
P「セミの鳴き声が耳につく……
いかん、集中力切れてるな。ちょっと休憩するか」
ゴクゴク
P「あ~……コーヒーが身体に染み渡っていく……」
ガチャ
円香「お疲れ様です」
P「ああ、円香お疲れ。レッスンはどうだった?」
円香「まぁ、それなりに良かったんじゃないですか」
P「それは良かった。
昼はもう食べたか?もしまだなら、美味しい蕎麦屋さんがあるから出前でも頼もうかと思ってるんだけど」
円香「もう食べたので結構です」
P「そうか。なら自分の分だけ頼むかな……」
円香「……ところで、今事務所にはあなた一人だけ?」
P「そうだよ。はづきさんは果穂たちのダンスレッスンの指導に行ってるし」
円香「そう……
でしたら、丁度いい機会なので相談したい事があるのですが」
P「相談……!?
……ああ、もちろん聞かせてもらうよ。
立ち話もなんだから座って話そうか」ストン
円香「そうですね」スッ
P「えーと……円香?」
円香「はい」
P「向かい側にも座れるのに、なんで隣に座るんだ?」
円香「隣が空いていたので」
P「そ、そうか……円香が話しやすいならそれでもいいんだが……」
円香「本題に入っても?」
P「お、おう」
円香「最近になって気付いたんですが」
P「……」
円香「好きな人が出来ました」
P「…………?!?!
えっ、ちょっ……えぇっ!!!??」ガタッ
円香「ふふっ……驚きすぎ。
そこまで滑稽に反応できるのも、ある種の才能ですね。ピエロに転職した方が才能を有効活用できそう」
P「ま、円香。冗談……じゃないんだよな?」
円香「私がそんな下らない冗談を言うと思いますか?」
P「いや、言わないとは思うけど……まさか円香が……」
円香「さっきから異常にオーバーリアクションしてますけど、私は『恋人が出来た』とは言ってませんが」
P「あ、あぁ、そうか!驚きすぎて自分を見失ってたな……
……うん、まだそういう関係じゃないんだよな。少しだけホッとしたよ」
円香「私に好きな相手が出来るのがそんなに意外ですか?」
P「はは、そんな事は……ないんだけどさ」
円香「今の沈黙はどうーー」
P「と、とにかくだな!
まだ付き合っていないのなら円香次第で対応の選択肢は幾らでもある。
早い段階で相談してくれて助かったよ。さすが円香だ」
円香「何かはぐらかされたような……」
P「ゴホン!
色々と確認したい事があるんだけど、まずアイドルを続ける気はあると考えて良いんだな……?」
円香「はい」
P「ありがとう。それを聞けて安心したよ。
それから……もし嫌じゃなかったら相手が誰なのか聞いてもいいか?出来れば相手の情報を把握しておきたいんだ」
円香「まぁ、構いませんが」
P「助かるよ。同じ学校の男子か?」
円香「違います」
P「仕事で一緒になった俳優かアイドル?」
円香「そんなに見た目は良くないですね」
P「そうなのか?うーん……それならーー」
円香「あなたにはどうせ当てられないと思うので言ってしまいますが」
P「…………」ゴクリ
円香「あなたです」
P「………………?」クルッ
円香「後ろには誰もいません」
P「俺が……何だって?」
円香「私の好きな相手」
P「……今日はエイプリルフールだったか?」
円香「あなたの住んでいる世界では4月にセミの鳴き声が聞こえるんですか?」
P「……すると、8月には嘘を吐いてもいい日があるのか?」
円香「私の知る限りではそんな日は設けられていません」
P「それなら……他にどんな理由があって嘘を吐いてるんだ?」
円香「現実を認めた方が早いと思いますけど」
P「そうか……」
円香「あまり驚かないんですね。さっきのような滑稽なリアクションを期待したのに」
P「いや、驚きすぎて放心してるというか……まるで現実感が無いんだ」
円香「現実に引き戻してあげましょうか?」ズイッ
P「え?ーーうわっ!円香、近い近い!」
円香「このまま近付いていくとどうなります?」
P「顔が……ぶつかる!」
円香「ふふっ、なんなのその幼稚な表現。もっと言い方があるでしょ。
女性と付き合った経験が無いんですか?」
P「それはーー」
円香「あぁ、答えなくていいです。聞きたくもありませんから、あなたの女性遍歴なんて」
P「っ!これ以上は本当にダメだ円香……!一線を越えてしまう」ガシッ
円香「……ようやく、止められた」
P「円香がなんで俺を好きになってくれたのかわからないけど、たぶん一時の勘違いだよ。これから色々な経験をしてたくさんの人と関わっていけば、もっと素敵な人が見つかるはずだ。
それに、円香と俺はアイドルとプロデューサーの関係だしーー」
円香「はぁ……
ーー0点」
P「……へ?」
円香「もう検証は終わったのでこれ以上話さなくて結構です。
……いつまで腕を掴んでるの?離して」
P「あ、あぁ……
……え?いったい何が起こってるんだ?」
円香「脳天気なあなたのことだからどうせ、“円香は俺の事が好きじゃなかったのか?”とでも考えているんでしょうね」
P「違う……のか?」
円香「今までしていたのは……例えるなら防災訓練の一環です」
P「???」
円香「アイドルとプロデューサーの恋愛スキャンダルのニュース……あなたも見ていますよね?」
P「あぁ……最近発覚して騒がれてるやつか。勿論知ってるよ」
円香「バカらしいと思いませんか?一時の感情に身を任せたせいで積み上げてきたもの全てが崩れてしまうなんて」
P「言い方が過激だけど、円香の意見には大旨賛成だ。
……なんとなくわかってきたよ。俺はテストされていたのか?」
円香「そうですね。
“恋愛スキャンダル”はアイドルの商品価値を一瞬にして失わせてしまう。アイドル事務所にとっては災害のようなものですから。
緊急時にあなたがどう対処するのかを見ていました」
P「283プロのみんなは俺とそういう関係になろうとは思っていないだろうけど……
たしかに、万が一誰かから告白された場合は俺が最後の防波堤だもんな。責任は重大だ」
円香「何を寝ぼけた事を……あなたが災害そのものでしょ」
P「俺が災害!?
いやいや……いくら円香でもそれは言い過ぎだろう。俺は邪な考えなんてちっとも抱いてないし……」
円香「“自分の危険性に気付いていない”。マイナス20点」
P「えぇ……」
円香「はぁ……ため息しか出ないこっちの身にもなってくれますか?
でしたら、あなたの災害度チェックのために今から言う質問に答えて下さい」
P「……」ゴクッ
円香「問1、283プロにはあなたに好意を抱いているアイドルは何人いるか?」
P「…………ゼロ、じゃないのか?
というか、そんな子がいるかもしれないなんて想像した事もなかったな……」
円香「呆れた。その程度の意識でアイドルと接してて、よく監督者面できますね」
P「うっ……
な、なぁ円香、さっきの問い方だと1人以上はそういう子がいるのか?信じられないんだが……」
円香「は?知りません。
たまには眠りっぱなしの脳みそを働かせて考えてみたらどうなの?葦未満の存在だと自覚してるなら別ですが」
P「うぅ……
なんだか今日の円香はいつにも増して当たりが強くないか……?
優しくとは言わないから、せめて少しだけお手柔らかに頼む。心がノックアウトされそうだ」
寝るので一旦抜けます
円香「自業自得でしょ。今日のあなたの対応には評価できるところが一つもありませんから」
P「そんなに酷かったのか?
どう良くなかったのか教えてもらいたいくらいだけど……」
円香「言ってもいいなら言いますが。あなたの精神衛生にまでは気を遣ってられないですけど」
P「そ……うだな、後学のために教えてもらえないか?俺も間違ってばかりはいられないからさ」
円香「そうですか。それなら私も暇ではないので簡潔に伝えます。
まず、反応を見るために私が迫る振りをした時、あなたは自分でなんて言ってたか覚えてる?」
P「え、えーと……『顔がぶつかる』だっけ?」
円香「そのバカ丸出しの台詞の後です」
P「……すまん、あの時は焦っててあまり覚えてない」
円香「はぁ……
『俺を好きになったのは何かの勘違いだ』、
『俺よりもっと素敵な人が見つかるはずだ』、
『アイドルとプロデューサーだからダメだ』……
まぁこんな内容のことを言ってましたね」
P「そういえば言ってたような……改めて思い出すと死ぬほど恥ずかしいなコレ……」
円香「あなたが羞恥心で死のうがどうでもいいですが、振り方が下手すぎ。
どこかで聞いたようなワードの羅列。誰にでも当てはまるようなテンプレートの振り方をされて納得する人がいますか?
振ることを前提とするなら、相手の精神のアフターケアまで考えて発言するのがあなたの務めじゃないの?」
P「たしかにそれが理想だな……すまん、女性を振った経験なんて無いから勝手がわからなくて」
円香「まぁあなたは振る側より振られる側でしょうね、間違いなく」
P「グサっとくるな……」
円香「それと、『自分を好きになる子がいるかもしれないなんて、想像した事もない』なんてよく恥ずかしげもなく言えたものですね。無能を曝すのが好きなんですか?」
P「それは……普通考えたりしないだろう。誰かが俺を好きかもなんて考える方が自意識過剰というか」
円香「“普通”って何?
あなたは普段アイドルに嫌われるように接してるの?」
P「いや、もちろん信頼関係を築けるように接してるつもりだよ。ただ、それは仕事上のパートナーとしての話で……」
円香「あなたがどう思ってるかは関係ないですよね。仕事の上での好意が恋愛面の好意にすり替わる可能性もあると、“想像してすらいない”のが極め付けに最悪だってわかってます?
問題を把握して敢えてスルーしているよりも、問題の存在自体に気付いてない方がはるかに危険性が高い。
つまり、あなたの想像力の欠如が災害を誘発してるんです」
P「良かれと思って考えていなかったのが間違いだったのか……」
円香「そうですね。
あなたを見ていると思い出すことわざがあります」
P「この流れだと間違いなく良い意味ではなさそうだな……」
円香「“地獄への道は善意で敷き詰められている”」
P「……良かれと思ってした事が、意図していなかった結果を招いてしまう……そんな意味の言葉だったか?」
円香「はい。あなたにお似合いの言葉ですね」
P「……円香、ありがとう」
円香「……は?突然なに?気味が悪いんですが」
P「円香が本気で俺を注意してくれるからさ。それが嬉しくてな」
円香「……もしかして罵られて喜ぶ趣味でもあるの?もしそうなら正直に言って下さい。金輪際喋りかけませんので」
P「いや、そうじゃなくてだな!
……大人になると、『あなたのここがダメだ』なんて叱ってくれる親切な人はどんどん少なくなっていくんだよ。
みんな優しいし、他人との摩擦を極力避けるようになるからな」
円香「……あなたがテレビ局の人から注意されてるところ、何回か見た事ありますけど」
P「はは……恥ずかしいところ見られてるな。
そういう仕事上での注意じゃなくて、生き方とか考え方の面での指摘というか……
身近にいる人だと普段は社長くらいなんだよ、俺にそういうアドバイスをくれる人って。大人になると自分のダメなところは自分で気付いて直さなきゃいけないんだ」
円香「わたしは別にアドバイスのつもりで言った訳じゃありません。あなたの考えなしの行動が純粋に不愉快だっただけ」
P「うん、わかってる。それでもありがとう。
円香の指摘を聞いていて正直凹んだ部分もあるけど、知らないままだったらもっと多くのアイドルの心まで傷付けてしまっていたかもしれない。
だから、ありがとうって言いたいんだ」
円香「なんで嬉しそうなの……そういうところが本当に腹立つ……
私の話、真剣に聞いてました?」
P「あぁ、もちろん。円香の心配事が現実にならないように細心の注意を払うよ」
円香「ふーん……」
P「あ、そういえば……いや、別にコレは聞かなくていいか……」
円香「歯切れが悪いと気持ち悪いので言ってもらえます?」
P「う……あー、“防災訓練”の最後の方で俺と円香の顔がすごく近付いた時があっただろ?
あの時俺が止めなかったらどうなっていたのかと思ってさ」
円香「あぁ、あの時……
そうですね、もし、あと5センチ近づいていたら……」
P「いたら……?」
円香「私は社長のところへ行き、あなたの机は無くなっていたでしょうね」
P「はは……ギリギリだったんだな」
円香「それと、今の話で思い出しました。
自分の口臭、意識してるの?」
P「え……もしかして臭かったか?」
円香「どうせまたいつものコーヒーを飲んでたんでしょうけど、飲んだ後の臭いが不快だからブレスケアくらいして」
P「営業に行く時は気を遣ってるんだけどな……今日は一人だったから油断してたよ。普段はあんなに人と近づく事もないし」
円香「……まぁ、注意してるならいいです」
P「ともあれ、円香の“好き”が嘘で安心したよ。人生で一番と言ってもいいくらい驚いたからなあの時は」
円香「……安心しているあなたに残念なお知らせがあります」
P「ん?」
円香「『好きが嘘』というのは嘘です」
P「……え?好きなのは本当だってことか?」
円香「はい」
P「じゃあ、“防災訓練”は?」
円香「嘘」
P「……円香、それも嘘だよな……?」
円香「ええ、嘘です」
P「頭がこんがらがってきたぞ……どこからどこまでが嘘なんだ?」
円香「『好きが嘘というのは嘘』が嘘です」
P「……俺をからかってるのか?」
円香「さあ。
あなたは嘘と本当、どちらだと思いますか?」
P「意見をコロコロと変える人の言葉には信憑性なんて無くなるよ。
だから、最初の『俺のことが好き』から嘘だと思う」
円香「さすが考えが浅いですね。あなたがそう考えると予想して言っているとは思わないの?」
P「しかし、それを言い出したら……」
円香「そうですね。それでは次の質問です。
問2、樋口円香はあなたに好意を抱いているか?」
P「それは……」
円香「わかりますか?あなたに」
P「…………いや、わからないよ」
円香「はぁ……やっと、まともな答えが出た」
P「円香……」
円香「私が“好き”と言えばそれを信じて、『“好き”は嘘』と言えばそれを信じる。
言葉の表面しか見ていないのに、私のことを理解した気になっていましたよね」
P「うん……俺もそう思って、わからなくなった」
円香「最初からわかってなんていないだけです。他人を理解出来たと思うのが、そもそも大きな間違い」
P「ああ、その考えは俺も共感できるよ。
でも、わからないから“わかりたい”と思うんだ。それは間違いじゃないだろう?」
円香「……相手をどれだけ知っても“わかった”と思わないなら、いいんじゃないですか」
P「そうか……そうだな。
俺は簡単に他人を信じすぎなのかな」
円香「“信じる”を“相手を知る努力を放棄する”と混同して使ってないか、自分の胸に尋ねてみたら?」
P「ははっ、円香には敵わないな。
……俺も、円香に一つ質問していいか?」
円香「嫌です」
P「そう言わずにさ」
円香「はぁ……どうせ言うつもりならさっさと言って」
P「プロデューサーは樋口円香に好意を抱いている。YesかNoか」
円香「意趣返しのつもりですか?」
P「いや、ほんの好奇心だよ。円香ならなんて答えるのかと思ってさ」
円香「答えはYes」
P「お、正解だけど……意外な答えだな。
円香の話だと“わからない”が正解なんじゃないのか?」
円香「もちろん知りません、あなたの胸の内なんて。
あなたは283プロの人間は全員“好き”でしょう?」
P「そうだな」
円香「だと思った。あなたの言う“好意”なんてその程度のものだと予想して答えて、あなたは正解だと言った。私は賭けに勝った。それだけの話です」
円香「そもそも……」
P「?」
円香「あなたに僅かでも好意が無ければ、私の面倒くさい話なんて最後まで聞くはずがないですから」
P「ええ……円香がそれを言っちゃうのか」
円香「まぁ、最後まで聞いたのはあなたの判断ですからね。私だったら途中で帰ってます。
フラストレーションをぶつけたかっただけなので」
P「そうだな、モヤモヤを抱え続けるよりは適度に吐き出してくれた方がずっといいよ」
円香「その、人の行動に何かしら良い部分を見出そうとするのやめてもらえます?」
P「ははっ、悪い悪い」
円香「……あぁ、思ったより長く話してしまいましたね。
最後に一つだけ質問をして終わりにします」
P「うん、何でも聞いてくれ」
円香「問3、あなたは問2に答えられますか?」
P「円香の好意についての質問か……」
円香「…………」
P「……さっき俺は『わからない』って答えたよな。たしかに今は無理かもしれない。だけどこの先円香を知っていって、必ず答えられるようになるよ。
だから答えはYesだ」
円香「いやに自信満々ですね。さっきまであんなに動揺してたのに」
P「ああ、俺は円香のプロデューサーだからな」
円香「ふーん……まぁ、あなたには一生かけてもわからないと思いますが。
ひとまずお手並拝見としましょうか、ミスター・プロデューサー?」
〈fin〉
最後まで読んでくれた方、ありがとうございます。
【カラカラカラ】円香を最近読んでラブコメを書きたくなって、自分なりに書いたらこうなりました。
おつ
今までに書いたノクチルSSは下記の2作です。よかったら読んでみて下さい。
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乙
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